JP7476731B2 - エナメル線 - Google Patents

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Description

本発明は、エナメル線に関する。
従来、部分放電の発生を抑制するため、空孔を有するポリイミドからなる絶縁被膜を導体上に備えた絶縁電線が知られている(例えば、特許文献1参照)。空気はポリイミドよりも比誘電率が低いため、空孔を有する絶縁被膜は、空孔を有しない絶縁被膜と比較して比誘電率が低くなり、絶縁電線の部分放電を効果的に抑制することができる。特許文献1に記載の絶縁電線においては、絶縁被膜の空孔率は、例えば5体積%以上80体積%以下という広い範囲で設定される。
特開2018-170261号公報
特許文献1に記載されているようなエナメル線では、絶縁被膜に複数の空孔部をより多く設けることによって誘電率を低くすることができるため、部分放電開始電圧を高くすることが可能となる。一方、エナメル線は、曲げ、捩じり、伸長などの加工が施されることによってコイルに成形される。エナメル線は、コイルに成形されるときや成形されたコイルが組み込まれたモータが使用されるときに、エナメル線の絶縁性能を維持させるために、絶縁被膜が導体の表面から剥離しにくいことが望まれる。
しかしながら、エナメル線の絶縁被膜として、ポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂からなる樹脂部に複数の空孔部を設けたものを用いた場合、導体の表面に空孔部が設けられることによって絶縁被膜が導体の表面から剥離しやすくなる。絶縁被膜が導体の表面から剥離した部分は、コイルに成形するときやモータ内に組み込まれたコイルとしてエナメル線を使用したときに、導体の表面から浮いた状態となることがある。導体の表面から浮いた状態の絶縁被膜は、モータの振動等によって擦れが生じ、摩耗してしまう。これに対して、導体の表面に直接接するように、空孔部が設けられていない第1絶縁被膜を形成し、この第1絶縁被膜の表面に空孔部を有する第2絶縁被膜を形成したエナメル線とすることが考えられる。しかしながら、第1絶縁被膜に空孔部が設けられていないため、部分放電開始電圧(PDIV:Partial Discharge Inception Voltage)が低くなってしまう。
したがって、本発明の目的は、複数の空孔部を有する絶縁被膜が導体の表面から剥離しにくいエナメル線を提供することにある。
本発明は、上記課題を解決することを目的として、導体と、前記導体の周囲に、前記導体の表面と接して設けられた絶縁被膜と、を備え、前記絶縁被膜は、伸び率が90%以上の熱硬化性樹脂で構成される樹脂部と、複数の空孔部と、からなる、エナメル線を提供する。
本発明によれば、複数の空孔部を有する絶縁被膜が導体の表面から剥離しにくいエナメル線を提供することができる。
図1(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係るエナメル線の長手方向に垂直な断面図である。
[実施の形態]
図1(a)は、本発明の実施の形態に係るエナメル線1の長手方向に垂直な断面図である。エナメル線1は、導体10と、導体10の周囲に設けられた絶縁被膜11と、を備える。絶縁被膜11は、導体10の表面(外面)に接して設けられており、熱硬化性樹脂からなる樹脂部111と、複数の空孔部112と、からなる。樹脂部111は、伸び率が90%以上である熱硬化性樹脂で構成される。
導体10は、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金などの導電性材料からなる線状の金属線であり、例えば、無酸素銅や低酸素銅からなる銅線である。また、導体10の構成はこれに限定されるものではなく、例えば、金属線の外周にニッケル等の金属めっきを施したものを導体10として用いてもよい。図1に示す導体10の長手方向に垂直な断面の形状は、円形であるが、これに限定されず、例えば、四角形等の非円形であってもよい。
絶縁被膜11は、ジアミンからなるジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物からなる酸二無水物成分と溶媒とを含むポリアミック酸塗料を前駆体とするポリイミドからなる熱硬化性樹脂で樹脂部111が構成される。例えば、発泡剤を含むポリアミック酸塗料を導体10の表面に塗布し、これを350℃から500℃の炉内で1分から2分加熱する。これを複数回(例えば、10回~20回)繰り返して、ポリイミドからなる樹脂部111と複数の空孔部112とを有する絶縁被膜11を得る。なお、絶縁被膜11の厚さは、例えば、30μm以上200μm以下である。
ポリアミック酸塗料に含まれるジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル等が用いられる。一方、テトラカルボン酸二無水物としては、3,3’4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等が用いられる。
樹脂部111を構成するポリイミドは、分子末端にキャッピングを施してもよい。キャッピングに用いる材料としては、例えば、無水酸を含む化合物、またはアミノ基を含む化合物を用いることができる。無水酸を含む化合物としては、フタル酸無水物、4-メチルフタル酸無水物、3-メチルフタル酸無水物、1,2-ナフタル酸無水物マレイン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、各種フッ素化フタル酸無水物、各種ブロム化フタル酸無水物、各種クロル化フタル酸無水物、2,3-アントラセンジカルボン酸無水物、4-エチニルフタル酸無水物、4-フェニルエチニルフタル酸無水物などを用いてもよい。なお、アミノ基を含む化合物としては、アミノ基をひとつ含む化合物を用いることがよい。
ポリアミック酸塗料に含まれる溶媒として、N-メチル-2-ピロリドンや、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、炭化水素系などの溶媒を、ポリアミック酸塗料の特性を損ねない程度に単独または併用して用いることができる。
ポリアミック酸塗料に含まれる発泡剤としては、例えば、沸点230℃以上の高沸点溶媒や、熱分解性のポリマ微粒子を用いることができる。添加量は空孔形成量に応じて適宜変更可能である。高沸点溶媒としては、例えば、テトラグライムなどからなる高沸点溶媒を用いることができる。また、熱分解性のポリマ微粒子としては、例えば、ポリメタクリル酸メチルなどからなるポリマ微粒子などを用いることができる。なお、高沸点溶媒あるいは熱分解性のポリマ微粒子からなる発泡剤としては、上述したものに限らず、ポリアミック酸塗料を加熱したときに揮散又は熱分解することにより、絶縁被膜11に空孔部112を形成することができるものを用いることができる。また、高沸点溶媒や熱分解性のポリマ微粒子の代わりに、熱膨張性マイクロカプセルをポリアミック酸塗料に混合することで空孔部112を形成してもよい。この場合では、導体10の外周に塗布されたポリアミック酸塗料が炉内で加熱されたときに、ポリアミック酸塗料に含まれる熱膨張性マイクロカプセルが膨張又は発泡することにより、空孔部112を含む絶縁被膜11が形成される。また、空孔部112は、中空フィラーをポリアミック酸塗料に混合することによって形成されてもよい。この場合では、中空フィラーの内部の空洞部分が絶縁被膜11に含まれる空孔部112となる。なお、絶縁被膜11の樹脂部111を構成するポリイミドとして伸び率が90%以上(150%以下)であるポリイミドを用いたときに、当該ポリイミドに複数の空孔部112を形成しやすいという観点からは、高沸点溶媒からなる発泡剤を用いることが好ましい。
ここで、ポリアミック酸塗料が加熱されると、溶媒が除去され、ポリアミック酸のイミド化反応が進む。このイミド化反応とともに、発泡剤の沸点や分解開始温度よりも高い温度で加熱された発泡剤が揮散(例えば、テトラグライムからなる発泡剤の場合は、沸点275℃以上の温度で揮散)又は熱分解(例えば、ポリメタクリル酸メチルポリマ微粒子からなる発泡剤の場合は、分解開始温度230℃以上の温度で熱分解)されることにより、複数の空孔部112とポリイミドからなる樹脂部111とを有する絶縁被膜11が形成される。なお、発泡剤は、例えば、ポリアミック酸塗料に含まれる樹脂分に対して1phr以上300phr以下の範囲の添加量でポリアミック酸塗料に添加される。このような添加量で発泡剤が添加された場合には、絶縁被膜11に形成される空孔部112の空孔率を適宜調整するのに有効である。
ポリアミック酸塗料は、絶縁被膜11の可とう性を損ねない程度に酸二無水物成分とジアミン成分の配合モル比を変更することができる。酸二無水物成分とジアミン成分の配合モル比は、例えば、酸二無水物成分:ジアミン成分=100:100.1~105.0の範囲でジアミン成分を過剰に配合し、分子量を小さく制御してもよい。また、酸二無水物成分とジアミン成分の配合モル比は、例えば、酸二無水物成分:ジアミン成分=100.1~105.0:100の範囲で酸二無水成分をジアミン成分に対して過剰に配合してもよい。ジアミン成分または酸二無水物成分を上記の範囲で配合し、分子量を小さくすることにより、ポリアミック酸塗料の粘度を小さくすることができる。ポリアミック酸塗料の粘度を小さくすると、ポリアミック酸塗料の塗装作業性を良くすることができる。
ポリアミック酸塗料の合成条件としては、例えば、温度は0℃以上100℃以下が好ましい。この合成条件でポリアミック酸塗料を合成することにより、ポリイミドからなる樹脂部111の機械的特性(例えば、可とう性など)を損ねないで合成することができる。また、合成した後に改めて50℃以上100℃以下で加温・撹拌することで塗料粘度を調整してもよい。
図1(b)は、本発明の実施の形態に係るエナメル線2の長手方向に垂直な断面図である。エナメル線2は、導体10と、導体10の周囲に設けられた絶縁被膜21と、を有する。絶縁被膜21は、伸び率が90%以上の熱硬化性樹脂で構成される樹脂部213と、複数の空孔部214と、からなる第1の層211、および第2の層212とを有する。伸び率が90%以上の熱硬化性樹脂としては、上述したポリアミック酸塗料をイミド化反応させて得られるポリイミドを用いることができる。
絶縁被膜21は、導体10に接触する第1の層211と、第1の層211の外側に設けられた第2の層212を有する。絶縁被膜21は、第1の層211と第2の層212とが、伸び率が90%以上150%以下(より好ましくは90%以上120%以下)であるポリイミドで構成される。このとき、第1の層211の方が第2の層212よりも伸び率が大きいポリイミドで構成されることであってもよい。このようにすることにより、導体10から絶縁被膜21が浮きにくくなると共に、絶縁被膜21の耐熱性や可とう性を低下しにくくすることができる。また、絶縁被膜21は、第1の層211と第2の層212とが異なるイミド基濃度を有するポリイミドで構成されることであってもよい。例えば、第1の層211と第2の層212とを構成するポリイミドは、イミド基濃度が33.5%以下である範囲内において、第1の層211の方が第2の層212よりもイミド基濃度が低いことがよい。これにより、導体10から絶縁被膜21が浮きにくくなると共に、部分放電開始電圧を高くすることができる。
また、第2の層212が第1の層211よりもイミド基濃度が高いポリアミック酸塗料で形成されたポリイミドで構成される場合、第1の層211と比較して、発泡剤による空孔部214の形成が容易であり、空孔率を高くし易い。また、コストが低い絶縁被膜21とすることができるという優位点もある。このため、第1の層211の周囲に第2の層212を設けることにより、絶縁被膜21の導体10からの剥離を抑えつつ空孔部214の形成を容易にし、かつ比誘電率やコストを所望の範囲に調整することができる。なお、図1(b)に示す絶縁被膜21では、第1の層211および第2の層212の両方に空孔部214を有するが、少なくとも第1の層211に空孔部214を有していればよい。第2の層212に空孔部214が無い場合では、樹脂部213のみから構成されることになる。このときの第2の層212は、伸び率が90%以上であるポリイミドから樹脂部213が構成される。
第1の層211と第2の層212は、例えば、上記ポリアミック酸塗料を用いて形成することができる。なお、絶縁被膜21の全体の厚さは、例えば、30μm以上200μm以下である。なお、第1の層211は、第2の層212よりも厚さが小さいことがよい。
上述のように、エナメル線1の絶縁被膜11、エナメル線2の絶縁被膜21はそれぞれ空孔部112、空孔部214を有している。空孔部112、214の部分は、ポリイミドよりも比誘電率が低い。そのため、絶縁被膜11、21の空孔部112、214は、絶縁被膜11、21の比誘電率を低減し、それによってエナメル線1、2の部分放電開始電圧が高くなる。
なお、導体10に対して絶縁被膜11、21を剥離しにくくするために、絶縁被膜11、21の樹脂部111、211は、伸び率が90%以上150%以下(より好ましくは、90%以上120%以下)の熱硬化性樹脂で構成されることが好ましい。
ポリイミドからなる熱硬化性樹脂で構成される樹脂部と空孔部とを有する絶縁被膜を導体の直上に設けた場合、導体と絶縁被膜との密着性が大きく低下することがあった。本発明者等は、この点に着目して鋭意検討した結果、導体と絶縁被膜との界面において、空孔部によって導体と絶縁被膜との接触面積が減少すること、エナメル線が引張や曲げ加工を受けた際に、導体から絶縁被膜を剥離しにくくするためには、隣り合う空孔部同士の間に存在する樹脂部の伸び率が関係することを見出した。すなわち、エナメル線が引張や曲げ加工を受けた際に、絶縁被膜の導体との剥離を抑制するためには、絶縁被膜の樹脂部が張力や曲げ加工に追従して伸びることが好ましい。これに対して、エナメル線1、2では、伸び率が90%以上である熱硬化性樹脂によって樹脂部111、213が構成されていることにより、隣り合う空孔部112、214同士の間に存在する隔壁が、エナメル線に対する引張や曲げ加工に追従して伸びることができる。これにより、導体10から受ける引張荷重を樹脂部111、213によって緩和することができ、絶縁被膜11、21が導体10から剥離することを抑制することができる。特に、樹脂部111、213を構成する熱硬化性樹脂がポリイミドからなる場合、上述した作用および効果が得られやすい。
絶縁被膜11、21は、樹脂部111、213がイミド基濃度33.5%以下である熱硬化性樹脂からなることが好ましい。ここでイミド基濃度とは、導体直上に形成される絶縁被膜11、21を構成する熱硬化性樹脂の繰り返し単位構造に含まれる分子量70のイミド基(-CO-N-CO-)が、上記繰り返し単位構造の総分子量に対して占める割合を百分率で表したものである。
樹脂部111、213をイミド基濃度が33.5%以下であるポリイミドで構成することは、樹脂部111、213を90%以上の伸び率とすることに有効である。例えば、イミド基濃度を低くする原料(モノマ)を用いたポリイミドとすることにより、樹脂部111、213の伸び率が90%以上になりやすく、絶縁被膜11、21が導体10から剥離しにくくなる。このことは、上記したイミド基が剛直な構造であり、他のポリイミド分子と相互作用することによって伸び率を変化させることに起因すると考えられる。そのため、伸び率が90%以上の樹脂部を得られやすくするためには、イミド基濃度を33.5%以下に低減することが好ましい。また、イミド基濃度を33.5%以下とすることにより、比誘電率を低くすることも可能となる。なお、イミド基濃度は、20%以上33.5%以下であることがより好ましい。イミド基濃度が20%以上である場合、絶縁被膜11、21の耐熱性を高くすることができる。
絶縁被膜11、21の空孔率が高すぎると加工時に絶縁被膜11、21が変形しやすくなる。このとき、絶縁被膜11、21の空孔部112、214が潰れて本来の品質(比誘電率)が発揮されないおそれがある。空孔部112、214の潰れを抑え、絶縁被膜11、21を導体10から剥離しにくくするためには、空孔率が25%未満であることが好ましい。より好ましくは、2%以上25%未満である。絶縁被膜11、21の空孔率は、次の式(1)により算出される。
Figure 0007476731000001
ここで、ρ1は空孔部112、214が存在しない場合の絶縁被膜11、21の比重であり、ρ2は空孔部112、214を含んだ絶縁被膜11、21の比重である。なお、絶縁被膜21の比重は、第1の層211と第2の層212を含む絶縁被膜21全体としての比重を指すものとする。
また、エナメル線1の絶縁被膜11、エナメル線2の絶縁被膜21を構成する樹脂部111、213に比誘電率の低い熱硬化性樹脂を用いることにより、空孔率を抑えつつ絶縁被膜11、21の比誘電率を低くすることが容易になる。すなわち、絶縁被膜11、21の機械的強度の低下を抑えつつ比誘電率を低減することが容易になる。例えば、絶縁被膜11、21の比誘電率は、例えば、1.9以上2.9以下であることが好ましい。なお、絶縁被膜21の比誘電率は、第1の層211と第2の層212を含む絶縁被膜21全体としての比誘電率を指すものとする。
次に、図1に示すエナメル線1が有する樹脂部11の伸び率と導体10からの剥離との関係を説明する。表1は、エナメル線1において、樹脂部11を構成するポリイミドからなる熱硬化性樹脂の伸び率とイミド基濃度とピール試験の結果を示す表である。
Figure 0007476731000002
導体10の直上に絶縁被膜11を形成するためのポリアミック酸塗料の合成は、下記の手順にて行った。ジアミンをN-メチル-2-ピロリドンに溶解させた後、テトラカルボン酸二無水物を溶解させ、室温で12時間撹拌し、ポリアミック酸塗料を得た。このポリアミック酸塗料は、塗装作業性のために希釈により粘度調整を行った。なお、ポリアミック酸塗料には、発泡剤としての高沸点溶剤を粘度調整前に添加し、溶解させた。このポリアミック酸塗料を導体10の直上に塗布し、加熱することにより、ポリイミドで構成される樹脂部111と複数の空孔部112とからなる絶縁被膜11を有するエナメル線1を作製した。
導体10の直上に形成される絶縁被膜11において、樹脂部111を構成するポリイミドのイミド基濃度は、原料となるジアミンとテトラカルボン酸二無水物との分子量により算出した。具体的には、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物それぞれ1mol分の重量(ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とが数種のモノマの混合であれば、ジアミン混合物またはテトラカルボン酸二無水物混合物の平均分子量より求めた1mol分の重量)の和を求め、さらにこの和よりイミド化後に抜ける水分2mol分の重量18gを差しい引いた重量を求め、この重量中にイミド基2mol分の重量(140g)が占める百分率をイミド基濃度とした。
ポリイミドで構成される樹脂部111の伸び率の評価は、銅板からなる基材上にフィルムを作製して実施した。具体的には、上述したポリアミック酸塗料(発泡剤の添加なし)をアプリケータやスピンコータにて基材に塗布し(塗布したときの厚さ:約0.1mm)、恒温槽中で加熱することで溶剤を揮散、イミド化を行い、基材より剥離して空孔のないフィルムを得た。得られたフィルムから打ち抜きや切り出しにて、ダンベル状または短冊状からなる試料を作製し、引張試験を行った。引張試験は、試料の幅を5mm、チャック間の距離を20mmとし、引張速度10mm/分で行い、破断時の伸び率を測定した。
導体10からの剥離に関する評価は、ピール試験によって実施した。ピール試験は、作製したエナメル線(丸線)を同軸上の250mm離れた2つのクランプに固定し、試料の長さ方向に平行な2辺の絶縁被膜を導体10に達するまで取り除く。その後、一方のクランプを回転させ、絶縁被膜11が浮いた時点の回転数(360°を1回とする)を測定した。
表1において、試料No.1~4および試料No.5~6を比較して判るように、樹脂部を構成する熱硬化性樹脂(ポリイミド)の伸び率が90%であれば、ピール試験の結果が良好になる。すなわち、伸び率が90%以上の熱硬化性樹脂で構成される樹脂部とすることにより、導体10から絶縁被膜11を剥離しにくくすることができる。
(実施の形態の効果)
以上説明した本発明の実施の形態によれば、エナメル線1、2は、導体10と、導体10の周囲に設けられた絶縁被膜11、21と、を備え、絶縁被膜11、21は、導体10の表面(外面)に接して設けられており、熱硬化性樹脂からなる樹脂部111、213と、複数の空孔部112、214と、からなり、樹脂部111、213は、伸び率が90%以上である熱硬化性樹脂で構成される。これによって、エナメル線1、2は、複数の空孔部112、214を有する絶縁被膜11、21が導体10の表面から剥離しにくくなる。
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
[1]導体(10)と、導体(10)の周囲に、導体(10)の表面と接して設けられた絶縁被膜(11、21)と、を備え、絶縁被膜(11、21)は、伸び率が90%以上の熱硬化性樹脂で構成される樹脂部(111、213)と、複数の空孔部(112、214)と、からなる、エナメル線(1、2)。
[2]前記絶縁被膜(21)は、前記導体(10)の表面に接して設けられた第1の層(211)と、前記第1の層(211)の表面に接して設けられた第2の層(212)と、を有する、上記[1]に記載のエナメル線(2)。
[3]樹脂部(111、213)は、イミド基濃度が33.5%以下のポリイミドからなる、上記[1]または[2]に記載のエナメル線(1,2)。
[4]絶縁被膜(11、21)は、比誘電率が1.9以上2.9以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のエナメル線(1、2)。
[5]絶縁被膜(11、21)は、空孔率が25%未満である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のエナメル線(1、2)。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変形して実施することが可能である。
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
1、2…エナメル線
10…導体
11、21…絶縁被膜
211…第1の層
212…第2の層

Claims (4)

  1. 導体と、前記導体の周囲に、前記導体の表面と接して設けられた絶縁被膜と、を備え、
    前記絶縁被膜は、伸び率が90%以上の熱硬化性樹脂で構成される樹脂部と、複数の空孔部と、からなり、
    前記樹脂部は、イミド基濃度が33.5%以下のポリイミドからなる、
    エナメル線。
  2. 前記絶縁被膜は、前記導体の表面に接して設けられた第1の層と、前記第1の層の表面に接して設けられた第2の層と、を有する、
    請求項1に記載のエナメル線。
  3. 前記絶縁被膜は、比誘電率が1.9以上2.9以下である、
    請求項1または2に記載のエナメル線。
  4. 前記絶縁被膜は、空孔率が25%未満である、
    請求項1~3のいずれか1項に記載のエナメル線。
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