JP2021035896A - 無鉛低融点ガラス組成物、低融点ガラス複合材料、ガラスペースト及び応用製品 - Google Patents

無鉛低融点ガラス組成物、低融点ガラス複合材料、ガラスペースト及び応用製品 Download PDF

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Abstract

【課題】接着性が改善され、応用製品の歩留まりを向上させることができるとともに、酸化銀の使用量が低減され、かつ、軟化点の低く、低温度で軟化流動する、無鉛低融点ガラス組成物を提供する。【解決手段】酸化バナジウム、酸化テルル、酸化銀及び酸化リチウムを含み、かつ、追加成分としてBaO、WO3、ZnO、K2O、Fe2O3、Al2O3、La2O3、MgO、CeO2、ZrO2及びNa2Oからなる群から選択された一種類以上を含む無鉛低融点ガラス組成物であって、酸化物換算で、次の関係式(1)を満たす。2[V2O5]≧[Ag2O]+[R2O] …(1)(式中、[X]は成分Xの含有量を表し、その単位は「モル%」である。[R2O]=[Li2O]+[K2O]+[Na2O]である。)【選択図】図1

Description

本発明は、無鉛低融点ガラス組成物、低融点ガラス複合材料及び応用製品に関する。
窓ガラス等に適用されている真空断熱複層ガラスパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイパネル、蛍光表示管等のディスプレイパネル、及び水晶振動子、ICセラミックパッケージ、半導体センサー等の電気電子部品等では、低融点ガラス組成物と低熱膨張フィラー粒子とを含む低融点ガラス複合材料によって封止や接着等が行われている。この低融点ガラス複合材料は、低融点ガラスペーストの形態で適用されることが多い。低融点ガラスペーストは、スクリーン印刷法やディスペンサー法等によって基材に塗布し、乾燥後に焼成して、封止や接着等へ適用される。封止や接着等の際には、低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストに含まれる低融点ガラス組成物が軟化流動することによって被封止部材や被接着部材等へ密着させる。
また、太陽電池セル、画像表示デバイス、積層コンデンサー、水晶振動子、LED(発光ダイオード)、及び多層回路基板等の多くの電気電子部品では、低融点ガラス組成物と金属粒子を含む低融点ガラス複合材料によって電極や配線が形成される。また、この低融点ガラス複合材料は、導通を取るための導電性接合部や熱伝導させるための放熱性接合部としても使用される。電極、配線、放熱性接合部等の形成の際においても、低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストに含まれる低融点ガラス組成物が軟化流動することによって、金属粒子の焼結や、基板への密着を行う。
上記の低融点ガラス複合材料やその低融点ガラスペーストに含まれる低融点ガラス組成物としては、かつては酸化鉛を非常に多く含むPbO‐B系低融点ガラス組成物が幅広く適用されていた。このPbO‐B系低融点ガラス組成物は、軟化点が350〜400℃と低く、400〜450℃で良好な軟化流動性を示し、しかも比較的に高い化学的安定性を有している。
しかし、近年、世界的にグリーン調達・グリーン設計の流れが強まり、より安全な材料が要求されるようになった。例えば、欧州においては、電子・電気機器における特定有害物質の使用制限についての欧州連合(EU)による指令(RoHS指令)が2006年7月1日に施行された。RoHS指令では、鉛、水銀、カドミウム及び六価クロムが禁止物質として指定された。このため、上記のPbO‐B系低融点ガラス組成物は、事実上使用が難しい。
そこで、鉛を含まない新規な低融点ガラス組成物の開発が進められている。
特許文献1には、V:52.5〜57.5重量%、TeO:40〜45重量%、LiO:2.5〜7.5重量%からなる混合粉末100重量部に、AgO:8〜12重量部が配合された出発原料粉末から、結晶性を有する感湿性ガラスを製造する方法が開示されている。特許文献1には、上記の出発原料粉末にKO:5重量部以下が配合されてもよいことが開示されている。
特許文献2には、主要成分としてAgOとVとTeOとを含有し、合計含有量が75質量%以上であり、残部がP、BaO、KO、WO、Fe、MnO、Sb、及びZnOの内の1種以上を含有する無鉛ガラス組成物が開示されている。特許文献2から、この無鉛ガラス組成物は、示差熱分析(DTA)の第二吸熱ピーク温度から求められる軟化点が320℃以下であり、実施例として望ましい結果が得られる試料は、軟化点が268℃以上であることを読み取ることができる。また、特許文献2には、この無鉛ガラス組成物を含むガラスフリット、封着用ガラスペースト、導電性ガラスペースト及びこれらを利用した電気電子部品が開示されている。
特開昭61−242927号公報 特許第5726698号公報
特許文献1に開示されたAgO‐V‐TeO‐LiO系無鉛ガラス組成物は、加熱焼成により得られたガラスは、結晶化するものである。
特許文献2に開示されたAgO‐V‐TeO系無鉛ガラス組成物は、従来のPbO‐B系低融点ガラス組成物より軟化点が低い。しかし、歩留まり向上のため、接着性については改善の余地がある。また、低温化のために酸化銀(AgO)を多く使用するため、原料の単価が非常に高くなることが製品適用上の課題となっている。
本発明の目的は、接着性が改善され、応用製品の歩留まりを向上させることができるとともに、酸化銀の使用量が低減され、かつ、軟化点の低く、低温度で軟化流動する、無鉛低融点ガラス組成物を提供することにある。
本発明の無鉛低融点ガラス組成物は、酸化バナジウム、酸化テルル、酸化銀及び酸化リチウムを含み、かつ、追加成分としてBaO、WO、ZnO、KO、Fe、Al、La、MgO、CeO、ZrO及びNaOからなる群から選択された一種類以上を含み、酸化物換算で、次の関係式(1)を満たす。
2[V2O5]≧[Ag2O]+[R2O] …(1)
(式中、[X]は成分Xの含有量を表し、その単位は「モル%」であり、[R2O]=[Li2O]+[K2O]+[Na2O]である。)
本発明によれば、接着性が改善され、応用製品の歩留まりを向上させることができるとともに、酸化銀の使用量が低減され、かつ、軟化点の低く、低温度で軟化流動する、無鉛低融点ガラス組成物を提供することができる。
ガラス特有の代表的な示差熱分析(DTA)の結果を示すグラフである。 実施例の真空断熱複層ガラスパネルを示す概略平面図である。 図2AのA−A断面図である。 図2Aの真空断熱複層ガラスパネルの作製工程の一部を示す概略平面図である。 図3AのA−A断面図である。 図2Aの真空断熱複層ガラスパネルの作製工程の一部を示す概略平面図である。 図4AのA−A断面図である。 図2Aの真空断熱複層ガラスパネルの作製工程の一部を示す概略断面図である。 図5に示す真空断熱複層ガラスパネルの作製工程における封止温度プロファイルである。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
(ガラス組成物)
いわゆる低融点ガラス組成物において、一般には、転移点、屈伏点、軟化点等の特性温度が低いガラスほど、低温度での軟化流動性が良好である。一方で、その特性温度を下げすぎると、結晶化傾向が大きくなり、加熱焼成の際に結晶化しやすくなる。この結晶化は、低温度での軟化流動性を低下させる要因となる。また、特性温度が低いガラスほど、耐湿性、耐酸性等の化学的安定性が劣る。さらに、環境負荷への影響が大きくなる傾向がある。たとえば、従来のPbO‐B系低融点ガラス組成物では、有害なPbO含有量が多いほど、特性温度を低くできるが、結晶化傾向が大きく、しかも化学的安定性が低下し、さらに環境負荷への影響も大きくなる。
本発明者は、実質的に鉛を含まないガラス組成物でありながら、従来のPbO‐B系低融点ガラス組成物より低温度で良好な軟化流動性を有し、しかも接着性が良好で、さらに化学的安定性が良好なガラス組成について鋭意検討した。その結果、本発明者は、新規な無鉛ガラス組成物において、上記の要求が同時に満たされることを見出し、本発明を完成した。特に、従来のPbO‐B系低融点ガラス組成物に比べ十分に低い温度(300℃未満)で軟化流動するものが得られた。
具体的には、本発明に係る無鉛低融点ガラス組成物は、酸化バナジウム、酸化テルル、酸化銀及び酸化リチウムを主成分として含み、これらの主成分の含有量は、酸化物換算で、次の関係式(1)を満たす。
2[V2O5]≧[Ag2O]+[R2O] …(1)
ここで、[R2O]=[Li2O]+[K2O]+[Na2O]である。また、酸化物Xの含有量を[X]と表している(以下同じ。)。また、その単位は「モル%」である(以下同じ。)。「モル%」は、ガラス組成物に含まれるそれぞれの成分の含有量を、ガラス組成物全体に占める割合として、酸化物換算で算出したものである。なお、2[V2O5]は、2×[V2O5]すなわち[V2O5]の2倍を意味する。
さらに、追加成分としてBaO、WO、ZnO、KO、Fe、Al、La、MgO、CeO、ZrO及びNaOのうち少なくともいずれか一種類を含む。
ここで、本発明における「無鉛」とは、鉛(Pb)含有量がRoHS指令における許容範囲である1000ppm以下であることをいう。
追加成分を加えることにより、結晶化傾向を低減することができる。
言い換えると、本発明に係る無鉛低融点ガラス組成物は、主成分として銀(Ag)、テルル(Te)、バナジウム(V)及びリチウム(Li)の酸化物を含み、追加成分としてバリウム(Ba)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、カリウム(K)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)及びナトリウム(Na)、エルビウム(Er)、プラセオジム(Pr)、イットリビウム(Yb)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)及びモリブデン(Mo)のうち少なくともいずれか一種類の酸化物を含むものである。
また、本発明に係る無鉛低融点ガラス組成物は、上記関係式(1)を満たし、かつ、次の関係式(2)及び(3)を満たすことが望ましい。
[TeO2]>[V2O5]>[Ag2O] …(2)
30≦[TeO2]≦50 …(3)
上記の組成範囲とすることにより、ガラスの軟化点を300℃以下にまで低温化することができる。
さらに、本発明の無鉛低融点ガラス組成物は、軟化点が低くなっているにもかかわらず、耐湿性、耐酸性等の化学的安定性が高く、しかもRoHS指令に対応している。
なお、後段の図1の説明において詳述するが、本発明者は、ガラスの転移点、屈伏点及び軟化点について、示差熱分析(DTA)の結果と粘度による定義に基づく温度とを対比して、DTAによる第二吸熱ピーク温度が、粘度に対応する温度として測定される軟化点とほぼ等しいことを確認した。そこで、本明細書においては、DTAによる第二吸熱ピーク温度を「軟化点T」と定義した。
本発明の無鉛低融点ガラス組成物において、主成分であるV、TeO、AgO及びLiOの働きについて、次に説明する。
本発明のV‐TeO‐AgO‐LiO系無鉛低融点ガラス組成物のガラス構造は、VとTeOとからなる層状構造を有し、その層間にAgOがAg、LiOがLiの形態で存在している。AgOは、転移点、屈伏点、軟化点等の特性温度の低温化と化学的安定性の向上のために混合する。特性温度の低温化は、VとTeOとからなる層状構造の層間にAgが入り、その層間力が弱まるためと考えられる。また、化学的安定性の向上は、その層間にAgが入り、水分子等の浸入が阻止されるためと考えられる。このため、層間に存在するAgが多いほど、特性温度の低温化と化学的安定性の向上を図ることができる。
しかし、AgOの含有量が大き過ぎると、ガラス作製時に金属銀(Ag)が析出する問題や、作製したガラスの結晶化傾向が増大する問題が発生する。また、Agとともに層間に存在するLiは、結晶化の抑制や防止、さらには接着性や密着性の向上や改善に大きな効果を及ぼす。イオン半径の小さい一価の陽イオンであるLiは、加熱時に層間内を動き安く、封止や接着の際に被封止材料や被接着材料へ拡散することによって、高い接着性と密着性を得ることができると考えられる。
しかし、LiOの含有量が大きすぎると、耐湿性、耐酸性等の化学的安定性の低下を招くため、その含有量には注意が必要である。
層間に存在するAgとLiは、層状構造を形成しているVに結合していることが考えられる。5価のバナジウムイオン(V5+)1個に対してAgやLiを2個までガラス構造中の層間にイオンの状態で入れることができる。これを超えると、ガラス作製時に金属銀(Ag)が析出する問題が発生する。
ガラス成分としてのAgOは、ガラス構造中の層間にAgの状態で存在しないと、所望の低温化の効果が得られない。このため、層間に導入するAgやLiの数を増加させる際には、AgOやLiOの含有量を増やすことに加えて、Vの含有量も適切に増やす必要がある。
このように、ガラス構造へのAgやLiの導入に当たっては、層状構造を形成するVは、重要な役割を果たすガラス成分である。
TeOは、ガラス化させるためのガラス化成分であり、TeOを含有しないと、ガラスを形成することができない。また、TeOの含有量が小さいと、結晶化傾向を低減することが難しい。一方、その含有量が大きいと、結晶化傾向を低減できるが、特性温度を低温化することが難しい。さらに、TeOの含有量が大きくなると、ガラス構造は、Ag及びLiを導入するための層状構造でなくなってしまう。
結晶化傾向の低減と特性温度の低温化との両方を考慮すると、4価のテルルイオン(Te4+)1個に対してV5+を1個から2個までを含有することが好ましい。具体的なTeOの含有量としては、30モル%以上50モル%以下が有効である。
さらに、AgOの含有量は、5モル%以上30モル%未満が好ましい。すなわち、5≦[Ag2O]<30であることが好ましい。
また、Vの含有量は、10モル%以上30モル%未満であることが好ましい。すなわち、10≦[V2O5]<30であることが好ましい。
LiOは、接合時に被接合材に拡散しやすく、接着性を向上する効果がある。ただし入れすぎると耐水性が低下する場合があるため、Li量は3モル%以上20モル%以下であることが望ましい。
また、Liの拡散を制御するためには、他のアルカリ金属や追加成分が有用である。拡散制御のために添加する他のアルカリ金属としては、KやNaが望ましい。これらを添加する場合は、[Li2O]>[K2O]+[Na2O]を満たすことが望ましい。また、Liを含むアルカリ金属の合計[Li2O]+[K2O]+[Na2O]は、3モル%以上20モル%以下であることが望ましい。
追加成分の含有量は、酸化物換算で3.0モル%以上16モル%以下であることが好ましい。追加成分の含有量を3.0モル%以上とすることにより、結晶化傾向の低減効果を充分に得ることができる。また、追加成分の含有量を16モル%以下とすることにより、特性温度の上昇及び結晶化を抑制することができる。
さらに、本発明の無鉛低融点ガラス組成物は、軟化点を低くしたにもかかわらず、耐湿性、耐酸性等の化学的安定性が高く、しかもRoHS指令に対応する。
無鉛低融点ガラス組成物と、低熱膨張フィラー粒子、金属粒子及び樹脂のうちのいずれか1種以上と、を含む低融点ガラス複合材料やその低融点ガラス複合材料をペースト化した低融点ガラスペーストを封止構造体、電気電子部品、塗装部品等に適用するには、結晶化傾向が小さく、軟化点がより低いガラス組成物を用いることが好ましい。すなわち、結晶化傾向が小さく、軟化点がより低いガラス組成物を用いることにより、ガラス複合材料又はガラスペーストの低温度での軟化流動性が向上する。しかし、従来の低融点ガラス組成物では、軟化点の低温化は、結晶化開始温度の低温化を伴う場合が多い。
なお、本明細書においては、封止構造体、電気電子部品、塗装部品等、低融点ガラス複合材料を用いて作製されたものをまとめて「応用製品」と呼ぶ。
(密度の測定)
作製した無鉛低融点ガラスをそれぞれ、スタンプミルで粗く砕いた後に、ジェットミルにて45μmアンダーにまで粉砕した。そのガラス粉末を用い、ヘリウムガス中でのピクノメーター法によって各無鉛低融点ガラスの密度を測定した。
(特性温度の測定)
密度測定に用いたものと同じガラス粉末を用いて、大気中5℃/分の昇温速度で示差熱分析(DTA)を行うことによって、各無鉛低融点ガラスの特性温度を求めた。ここでは、ガラス特有のDTAカーブの特性点が明確に検出されるように、マクロセルタイプのDTA装置を使用し、標準試料に高純度のアルミナ(α−Al)粉末を用いた。
図1は、ガラス特有の代表的なDTAカーブの一例である。横軸に標準試料の温度、縦軸に測定対象のガラス試料と標準試料との温度差(電位差)をとっている。
本図において、上記の昇温速度でガラスを加熱すると、転移点Tから吸熱を開始し、第一吸熱ピーク温度に対応する屈伏点Mに達する。そして、一旦、温度差が小さくなり、その後、再び温度差が大きくなり、第二吸熱ピーク温度に対応する軟化点Tに至る。
更に加熱すると、結晶化温度Tcryから発熱を開始し、発熱ピークに達する。この発熱ピークは、結晶化によるものであり、発熱を開始する温度を結晶化温度Tcryと呼ぶ。図示していないが、発熱ピークに対応する温度は、結晶化ピーク温度Tcry−pと呼ぶ。転移点Tは、第一吸熱ピークの開始温度であり、屈伏点Mは、第一吸熱ピーク温度である。なお、それぞれの特性温度は、通常、接線法によって求められる。
厳密には、転移点T、屈伏点M及び軟化点Tは、ガラスの粘度によって定義される。Tは1013.3poise、Mは1011.0poise、Tは107.65poiseに相当する温度である。
結晶化傾向は、軟化点Tと結晶化温度Tcryとの差(絶対値)と、結晶化による発熱ピークの高さすなわちその発熱量とから判定される。
まず、軟化点Tと結晶化温度Tcryとの差(絶対値)が大きければ、ガラスが軟化点Tを超える温度に達しても、Tcryに達しない温度範囲でガラスを軟化流動させることが容易となる。また、結晶化の際の発熱量が小さければ、一定の昇温速度で加熱してTcryに達した場合に、発熱による制御不能な温度上昇が生じてしまうことが少ないため、結晶化の進行を抑制することができる。
よって、Tcryの高温化すなわちTcry−Tの増加と、結晶化発熱量の減少とが結晶化しにくいガラスを示すものと言える。すなわち、結晶化傾向が小さいと判定されるガラスを用いれば、所望の封止部等を形成することが容易となる。
従来の低融点ガラス組成物を用いて、各種部品の封止や接着及び電極/配線や導電性/放熱性接合部の形成を行うときの焼成温度は、含有する低熱膨張フィラー粒子や金属粒子の種類、含有量及び粒径、並びに昇温速度、雰囲気、圧力等の焼成条件等にも影響されるが、通常では軟化点Tより30〜50℃程度高く設定されることが多い。この焼成温度で、低融点ガラス組成物は、結晶化することなく、良好な軟化流動性を有する。
しかし、本発明に係る無鉛低融点ガラス組成物は、従来の低融点ガラス組成物より転移点T、屈伏点M及び軟化点Tの特性温度が著しく低く、しかもそれぞれの温度差が小さい。このため、この温度領域における粘度勾配が大きい。よって、軟化点T付近の焼成温度であっても、その温度を保持すれば良好な軟化流動性が得られる。また、その保持時間が短くても、Tより20〜30℃程度高い温度であれば、十分な軟化流動性を生じる。
(低融点ガラス複合材料及び低融点ガラスペースト)
低融点ガラス複合材料は、本発明に係る無鉛低融点ガラス組成物と、低熱膨張フィラー粒子、金属粒子及び樹脂のうちのいずれか一種以上と、を含む。
以下、低熱膨張フィラー粒子、金属粒子又は樹脂を含む低融点ガラス複合材料について説明する。
低熱膨張フィラー粒子を含む低融点ガラス複合材料は、無鉛低融点ガラス組成物を35体積%以上100体積%未満、低熱膨張フィラー粒子を0体積%超65体積%以下含むことが好ましい。無鉛低融点ガラス組成物を35体積%以上、或いは低熱膨張フィラー粒子を65体積%以下とすることにより、良好な軟化流動性と、被封止材料や被接着材料への良好な接着性や密着性が得られる。
低融点ガラス複合材料の低熱膨張化を図るために混合する低熱膨張フィラー粒子としては、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr(WO)(PO)、β‐ユークリプタイト(LiO・Al・2SiO)、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)、石英ガラス(SiO)、酸化ニオブ(Nb)及びシリコン(Si)のうちのいずれかであることが好ましい。低融点ガラス複合材料を低熱膨張化するのに特に有効な低熱膨張フィラー粒子は、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr(WO)(PO)又はリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr(WO)(PO)を含み、その好ましい含有量は30体積%以上60体積%以下である。
金属粒子を含む低融点ガラス複合材料は、無鉛低融点ガラス組成物を10体積%以上80体積%以下、金属粒子を20体積%以上90体積%以下含むことが好ましい。無鉛低融点ガラス組成物を10体積%以上、或いは金属粒子を90体積%以下とすることにより、金属粒子間の焼結や基材への接着性や密着性が向上する。
導電性や放熱性向上の観点から、金属粒子しては、銀(Ag)、銀合金、銅(Cu)、銅合金、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、スズ(Sn)、及びスズ合金のうちのいずれかが好ましい。特に本発明の低融点ガラス複合材料の導電性や放熱性を向上するのに有効な金属粒子は、銀(Ag)或いはアルミニウム(Al)であり、その好ましい含有量は10〜90体積%である。本発明の無鉛低融点ガラス組成物は、銀(Ag)粒子の焼結を促進でき、またアルミニウム(Al)粒子の表面酸化膜を除去できるためである。
樹脂を含む低融点ガラス複合材料は、無鉛低融点ガラス組成物を5体積%以上100体積%未満含み、樹脂を0体積%超95体積%以下含むものである。本発明の無鉛低融点ガラス組成物を5体積%以上、或いは樹脂を95体積%以下とすることにより、無鉛ガラス組成と樹脂とを効果的に複合化できる。
樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びフッ素樹脂のうちのいずれかであることが好ましい。これらの樹脂を用いることにより、無鉛低融点ガラス組成物の樹脂中で軟化流動性が良好となる。
低融点ガラスペーストは、本発明に係る無鉛低融点ガラス組成物を含む低融点ガラス複合材料と、溶剤と、を含むものである。溶剤としては、ジヒドロターピネオール、α‐テルピネオールまたはカルビトールアセテートを用いることが好ましい。これらの溶剤は、本発明の無鉛低融点ガラス組成物にとって結晶化しにくい溶剤であるためである。また、必要に応じて粘度調整剤や湿潤剤等を添加し、低融点ガラスペーストの安定性や塗布性を調整することができる。
低熱膨張フィラー粒子を含む低融点ガラス複合材料やその低融点ガラスペーストを用いて、封止構造体における封止や接着を行う場合、被封止物の封止箇所や被接着物の接着箇所に低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストを配置や塗布し、含まれる無鉛低融点ガラス組成物の軟化点T付近からそのTより20℃程度高い温度範囲で焼成することが好ましい。
本発明のガラス複合材料やガラスペーストは、結晶化傾向が低減され、軟化点が低温化した無鉛低融点ガラス組成物を用いているため、低温度での軟化流動性を向上し、焼成温度を低温化することができる。これによって、環境負荷への影響を低減した上で、封止構造体の熱的ダメージ低減(高機能化)や生産性向上(タクト低減)を図ることができる。また、本発明の無鉛低融点ガラス組成物は、接着性や密着性及び化学的安定性も良好であるため、封止構造体の信頼性も確保できる。
また、金属粒子を含む低融点ガラス複合材料やその低融点ガラスペーストを用いて、電気電子部品における電極/配線や導電性/放熱性接合部を形成する場合、基材等の所定の箇所に低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストの配置又は塗布をし、これらに含まれる無鉛低融点ガラス組成物の軟化点T付近からそのTより20℃程度高い温度範囲で焼成することが好ましい。なお、使用する金属粒子が酸化しやすい金属の場合は、金属粒子の酸化を防止するため、焼成雰囲気を不活性ガスや真空にすることが望ましい。
本発明の低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストは、結晶化傾向が低減され、軟化点が低温化した無鉛低融点ガラス組成物を用いているため、低温度での軟化流動性を向上し、焼成温度を低温化することができる。その結果、電極/配線や導電性/放熱性接合部の形成温度、すなわち焼成温度を低温化することができる。これによって、環境負荷への影響を低減した上で、電気電子部品の熱的ダメージ低減(高機能化)や生産性向上(タクト低減)を図ることができる。また、本発明の無鉛低融点ガラス組成物は、接着性や密着性及び化学的安定性も良好であるため、電気電子部品の信頼性も確保できる。
また、樹脂を含む低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストを用いて、塗装部品における塗膜を形成する場合、基材としては金属、セラミックス或いはガラスが有効である。その基材の所定の箇所に低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストの配置又は塗布をし、これらに含まれる無鉛低融点ガラス組成物の軟化点T付近からそのTより20℃程度高い温度範囲で焼成する。
本発明の低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストは、結晶化傾向が低減され、軟化点が低温化した無鉛低融点ガラス組成物を用いることにより、低温度での軟化流動性を向上し、焼成温度を低温化することができる。これによって、環境負荷への影響を低減した上で、塗装部品の塗膜密着性、耐熱性、化学的安定性等の信頼性を向上することができる。
(封止構造体)
本発明に係る低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストは、窓ガラス等に適用されている真空断熱複層ガラスパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELディスプレイパネル、蛍光表示管等のディスプレイパネル、及び水晶振動子、ICパッケージ、MEMS等のパッケージデバイス等の封止に好適に用いられる。
本発明に係る封止構造体は、ガラス板や回路基板等と、低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストと、を用いる。
封止構造体は、外部から隔てられた内部空間を有するものであってもよい。この場合、内部空間と外部との境界は、低融点ガラス複合材料を含む封止部で形成したものであってもよい。封止部を形成する低融点ガラス複合材料に含まれる無鉛低融点ガラス組成物の含有量は、40体積%以上100体積%未満であることが好ましい。また、低融点ガラス複合材料に低熱膨張フィラー粒子を混合することは有効である。また、低熱膨張フィラー粒子の代わりに、軟らかい金属粒子を混合して、封止部の残留応力を緩和してもよい。
(電気電子部品)
本発明に係る低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストは、太陽電池、画像表示デバイス、積層コンデンサー、インダクター、水晶振動子、発光ダイオード(LED)、多層回路基板、半導体モジュール等の電気電子部品の電極、配線、導電性接合部及び放熱性接合部の形成に好適に用いられる。この場合に、低融点ガラス複合材料に含まれる金属粒子の含有量は、50体積%以上であることが好ましい。
(塗装部品)
本発明に係る低融点ガラス複合材料や低融点ガラスペーストを塗料として用いることもできる。
本発明に係る塗装部品は、部材と、部材の表面などに塗料を塗布することにより形成された塗膜と、を備えている。部材は、金属、セラミックス、ガラス等である。塗膜は、本発明に係る低融点ガラス複合材料を含む。
塗膜を形成する低融点ガラス複合材料には、樹脂を混合してもよい。その樹脂の含有量は、50体積%以上であることが有効である。塗装部品として、好適な事例としては、電線、車体、機体、洗濯機槽、便器、浴槽タイル等が挙げられる。
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施例に限定されることはなく、そのバリエーションを含むものである。
[実施例1]
本実施例では、V‐TeO‐AgO‐LiO系無鉛ガラス組成物を作製し、ガラス組成がガラス特性に与える影響について検討した。なお、ガラス特性としては、作製した無鉛ガラス組成物のガラス化状態、特性温度、熱膨張特性、接着性、耐塩水性及び軟化流動性を評価した。
(無鉛ガラス組成物の作製)
表1及び表2は、実施例の無鉛ガラス組成物S−01〜S−17及び比較例の無鉛ガラス組成物C1〜C2の組成、並びにそれぞれの無鉛ガラス組成物の特性を示したものである。実施例の無鉛ガラス組成物S−01〜S−17は、V、TeO、AgO及びLiOを主成分かつ必須成分とする無鉛ガラス組成物である。
Figure 2021035896
Figure 2021035896
主成分の出発原料としては、新興化学工業(株)製のVとTeO、田中貴金属工業(株)製のAgO、及び(株)高純度化学研究所製のLiCOの粉末を用いた。
また、追加成分の出発原料としては、BaCO、WO、ZnO、KCO、Fe、Al、La、MgO、CeO、ZrO及びNaCOの粉末を用いた。これらはすべて、(株)高純度化学研究所製である。
各出発原料粉末が全体で200g程度になるように、秤量し、配合し、混合し、石英ガラスるつぼに投入した。原料混合粉末を投入した石英ガラスるつぼをガラス溶融炉内に設置し、約10℃/分の昇温速度で700〜750℃まで加熱し、石英ガラスるつぼ内の融液の組成均一化を図るためにアルミナ棒で撹拌しながら1時間保持した。その後、石英ガラスるつぼをガラス溶融炉から取り出し、ステンレス鋳型へ融液を流し込み、実施例のS−01〜S−17及び比較例のC1〜C2をそれぞれ作製した。次に、作製した無鉛ガラス組成物を45μmアンダーにまで粉砕した。
(ガラス化状態の評価)
作製した無鉛ガラス組成物S−01〜S−17及びC1〜C2のガラス化状態は、そのガラス粉末を用い、X線回折によって結晶が析出しているどうかによって評価した。比較例も含め、結晶の析出が認められず、ガラス化状態は良好であった。
(特性温度の評価)
作製した無鉛ガラス組成物S−01〜S−17及びC1〜C2の特性温度は、そのガラス粉末を用い、DTAによって評価した。DTAには、マクロセルタイプを使用した。マクロセルに約500mgのガラス粉末を入れ、大気中5℃/分の昇温速度で室温から320℃まで加熱し、図1に示すようなDTAカーブを得た。得られたDTAカーブより転移点T、屈伏点M、軟化点T、結晶化温度Tcry及び結晶化ピーク温度Tcry−pを測定した。また、結晶化ピークの発熱量(μV)も測定した。測定結果から、TcryとTとの温度差(以下「Tcry−T」ともいう。)を算出した。なお、結晶化ピークの発熱量は、「Tcry−p発熱量」とも呼ぶ。
(熱膨張係数の測定)
作製した無鉛ガラス組成物S−01〜S−17及びC1〜C2をDTAによる転移点T〜屈伏点Mの温度範囲で加熱し、徐冷することによって残留熱歪を除去し、4×4×20mmの角柱に加工した。これを用い、大気中5℃/分の昇温速度で熱膨張計にて各無鉛ガラス組成物の熱膨張曲線を測定した。なお、標準試料にはφ5×20mmの円柱状石英ガラスを用いた。
熱膨張特性としては、150℃における熱膨張係数を採用した。
(接着性評価)
被接合材としてソーダライムガラス板2枚を使用した。ガラス板サイズは、20×50×t2.7mmである。作製した無鉛ガラス組成物S−01〜S−17及びC1〜C2それぞれを使用し、ガラス板の中心部分を十字に接着したのち、片側のガラスに荷重をかけてガラス板を剥離させた。2枚のガラス板が剥離するときの接着面積に対する荷重を測定した。接着時の焼成条件は、230℃−30分、300℃−30分、昇温6℃/分、降温2℃/分であった。接合強度は、N数10の平均値で評価した。
今回使用した無鉛ガラス組成物S−01〜S−17及びC1〜C2の接合強度は、0.25〜0.45MPaであった。接合に問題が生じない荷重の値から算出した接合強度は、0.3MPa以上であり、この範囲の接合強度の場合には接着性「○」とした。そして、接合強度が0.25〜0.3MPaの場合には接着性「△」、接合強度が0.25MPa未満の場合には接着性「×」と評価した。
いずれの成分も接着ガラスとしての性能を満たしていたが、実施例では比較例に比して高い接着性が確認された。したがって、実施例のガラスにおいては、比較例に比して接着性が高く、使用時の歩留まりが高くなる。
(耐塩水性評価(塩水噴霧試験及び塩水含浸試験))
ガラスに塩水を噴霧する塩水噴霧試験(日本工業規格JIS Z 2371:2015に準拠している。)では、いずれの組成のガラスも特に変化が見られず、各実施例間で差が生じなかった。
加速試験として、40℃、10%の塩水に各試験片を120時間含浸し、塩水含浸試験を行った。
ガラス内への析出物の有無で、全体に析出が観察されたものを「×」、数点の析出部があったものを「△」、析出物が発見できなかったものを「○」と評価した。
無鉛ガラス組成物S−16及びS−17では全く析出がなく、耐塩水性が高いことが確認された。したがって、Ce、Fe及びAlを追加成分として使用した場合、高い耐塩水性を示すことがわかった。
(軟化流動性の評価)
作製した無鉛ガラス組成物S−01〜S−17及びC1〜C2の軟化流動性は、そのガラス粉末を用いて作製した圧粉成形体のボタンフロー試験にて評価した。
圧粉成形体は、金型とハンドプレスを用い、500kg/cmの条件で直径12mm、高さ3mm程度の円柱形状となるように成形した。そして、圧粉成形体をソーダライムガラス基板上に設置し、圧粉成形体を電気炉内へ導入し、大気中10℃/分の昇温速度で室温から軟化点Tより20〜30℃高い温度まで加熱し30分間保持した。その後、炉冷し、軟化流動性及び結晶化状態を評価した。
軟化流動性に関しては、圧粉成形体の試料が、単に変形しただけでなく、液状になって流動し、その後、光沢がある状態で凝固したことが明瞭である場合に「合格」と判定した。一方、軟化流動しても失透(表面結晶化)している場合や結晶化により軟化流動が不十分な場合には「不合格」と判定した。
なお、転移点Tが313℃、屈伏点Mが332℃及び軟化点Tが386℃である従来の有鉛低融点ガラス組成物(84PbO−13B−2SiO−1Al質量%)を430℃において同様のボタンフロー試験を実施したところ、軟化流動性は「合格」であった。ただし、ソーダライムガラス基板との大きな熱膨張差によって、クラックの発生が認められた。このクラックの発生は、低熱膨張フィラー粒子を有鉛低融点ガラス組成物の粉末に混入させることによって対策できるものである。
(耐水性の評価)
耐水性は、HAST(High Accelerated Stress Test、高速加速寿命試験)で、120℃、湿度100%、2気圧の条件で48時間実施して、ボタンサンプルからの溶出の有無で判断した。「○」は、溶出が全くない状態である。「△」は、裏面に極わずかに溶出が見られる場合である。「×」は、溶出が見られる場合である。
以上より、有効なガラス組成物は、主成分としてAgO、TeO、V及びLiOを含有する。さらに、追加成分としてBaO、Y、La、CeO、Er、Yb、Al、Ga、In、Fe、WO及びMoOのうち少なくともいずれかを少量含有する。特に、主成分の含有量がモル%で、AgO>TeO≧V、2V≧AgO+RO、TeOの含有量は、30モル%以上50モル%以下が好ましい。
更に好ましくは、AgOの含有量が10モル%以上25モル%未満であり、Vの含有量が18モル%以上28モル%未満である。また、追加成分の含有量は、上記の酸化物換算で3.0モル%以上16.0モル%以下である。
なお、CeOの代わりにZrOを用いた無鉛ガラス組成物は、CeOを含む場合と同様の特性を有することを確認している。また、KOの代わりにNaOを用いた無鉛ガラス組成物は、KOを含む場合と同様の特性を有することを確認している。
以下の実施例では、本発明の無鉛ガラス組成物を含有した上記ガラス複合材料及びガラスペースト、並びにこれらのガラス複合材料やガラスペーストを適用した封止構造体、電気電子部品及び塗装部品について、それぞれ具体的に説明する。
[実施例2:ペースト]
以下、無鉛ガラス組成物の使用方法について具体的に説明する。
実施例2は、無鉛ガラス組成物と金属粒子とを含むガラス複合材料とし、同種及び異種の金属基材同士を接合する例である。金属粒子としては、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)及び錫(Sn)などを用いることができる。また、金属基材にはアルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)などを用いることができる。無鉛ガラス組成物の粒子と、金属粒子と、溶剤を含むガラスペーストを作製し、それをアルミニウム(Al)等の金属基材へ塗布、乾燥、仮焼成後に同種又は異種の金属基材を合わせ、抵抗溶接することによって接合できる。
金属基材間の導電性接合部や放熱性接合部の形成には、はんだが頻繁に使用されるが、はんだとの差別化を考慮すると、ガラス複合材料やそのガラスペーストに含有する金属粒子としてはAg粒子やAl粒子が有効である。また、はんだでは、Alのように表面に自然酸化被膜が形成された金属基材等には、良好な導電性接合や放熱性接合が難しいが、本発明に係るガラス複合材料やそのガラスペーストでは、それに含有する本発明の無鉛ガラス組成物の作用により、そう言った金属基材等であっても導電性接合や放熱性接合を可能とする。
また、金属粒子を含むガラス複合材料やガラスペーストは、接合部や封止部に導電性が許される場合には、ガラス複合材料やそのガラスペーストとしても使用できる。その際には、含有する金属粒子のサイズや量によって応力緩和させて低温接合或いは低温封止することができる。
[実施例3:電極配線]
本実施例では、本発明の無鉛ガラス組成物と金属粒子とを含むガラス複合材料を用いて、各種の基板に電極/配線を形成する例について説明する。金属粒子としては、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)及び錫(Sn)などを用いることができる。また、基板にはアルミナ(Al)基板、ホウケイ酸ガラス基板、シリコン(Si)基板、フェライト基板及びポリイミド基板などを用いることができる。無鉛ガラス組成物の粒子と、金属粒子と、溶剤を含むガラスペーストを作製し、それを各種の基板へ塗布、乾燥、仮焼することによって電極/配線を形成できる。
所望の配線パターンでの電極や配線の形成には、種々の公知の方法を適用でき、例えば導電性ガラスペーストを用いて、基板上にスクリーン印刷法によりパターンを塗布し、乾燥させた後加熱することによって、基板配線や電極を形成できる。
[実施例4:封止構造体]
本実施例では、2枚のソーダライムガラス基板と、本発明のガラス複合材料とを用いて、本発明に係る封止構造体の代表例の一つとして真空断熱用複層ガラスパネルを作製する例を説明する。
図2Aは、作製した真空断熱用複層ガラスパネルの概略平面図である。また、図2Bは、その封止部近傍のA−A断面を拡大した図である。
図2Aに示すように、真空断熱用複層ガラスパネルは、ソーダライムガラス等のガラス基板15及びこれに隙間を設けた状態で重ねて配置された別のガラス基板(図2Bの符号16)の周縁部に封止部14を有する。これらの基板(15、16)の間には、複数のスペーサ18が等間隔に二次元的に配置されている。ガラス基板(16)には、排気穴20が形成され、この排気穴20より真空ポンプ(図示していない。)を用いて2枚の基板(15、16)の隙間の排気を行うようになっている。排気穴20には、キャップ21が取り付けてある。
図2Bに示すように、外周部(周縁部)に封止部14を有する一対のガラス基板15と16の間には、空間部17(上記の隙間)があり、その空間部17は真空状態にある。封止部14には、本発明のガラス複合材料を使用する。この真空断熱用複層ガラスパネルは、建材用窓ガラス、車両用窓ガラス、業務用冷蔵庫や冷凍庫の扉等に適用できるものである。
封止部14に使用した本発明のガラス複合材料は、本発明の無鉛ガラス組成物を含む他に、ガラス基板15と16との熱膨張係数の整合をとるために熱膨張係数が小さい低熱膨張フィラー粒子が混合される。ガラス基板15と16の耐熱性は、約500℃であるため、その温度以下で封止部14を形成する必要がある。また、ガラス基板15と16は、急熱や急冷により破損しやすいため、封止における加熱や冷却は徐々に行う必要があり、真空断熱用複層ガラスパネルの生産性を向上するには、極力、低温度での封止が要求されている。さらに、ガラス基板15と16には、防犯や安全のため、風冷強化されることが頻繁にある。この風冷強化は、ガラス基板15と16の表面に圧縮強化層を形成するもので、その強化層は300℃以上の加熱で徐々に減少し、400℃以上の加熱では消滅してしまう。このことからも、より低温度での封止が強く要求されている。
ガラス基板15と16の間には、真空状態にある空間部17を確保するために、その空間部17には、複数のスペーサ18が設置される。また、適切な厚みの空間部17を得るためには、スペーサ18や封止部14に粒径が整った球状ビーズ19等を導入することが有効である。さらに、スペーサ18の固定には、封止部14と同様に本発明のガラス複合材料を活用することが可能である。真空状態を有する空間部17を得るためには、事前にガラス基板16に排気穴20を形成しておき、その排気穴20より真空ポンプを用い空間部17の排気を行う。排気後にキャップ21を取り付け、空間部17の真空度を維持できるようにする。建材用窓ガラスや車両用窓ガラスとして適用する際には、ガラス基板15の内面に事前に熱線反射膜22を蒸着法等で形成してもよい。
(真空断熱複層ガラスパネルの作製)
本実施例の真空断熱複層ガラスパネルの作製方法について図3A〜5を用いて説明する。
図3Aは、図2A及び2Bに示す真空断熱複層ガラスパネルを構成する風冷強化ソーダライムガラス基板16に封止部14及びスペーサ18を形成した状態を示したものである。
図3Aに示すように、上記ガラスペーストを作製し、風冷強化ソーダライムガラス基板16の外周部(封止部14)及び内部(スペーサ18)にそれぞれディスペンサー法によって塗布し、大気中150℃で乾燥する。これを大気中5℃/分の昇温速度で220℃まで加熱し30分間保持し、封止部14及びスペーサ18を風冷強化ソーダライムガラス基板16に付着させる。
図3Bは、図3AのA−A断面を示したものである。
図3Bに示すように、封止部14及びスペーサ18には、球状ビーズ19が含まれる。
図4Aは、図2Bに示す真空断熱複層ガラスパネルを構成する風冷強化ソーダライムガラス基板15を示したものである。
図4Bは、図4AのA−A断面図である。
図4A及び4Bに示すとおり、風冷強化ソーダライムガラス基板15の片面には、熱線反射膜22を形成する。
図5は、図2A及び2Bに示す真空断熱複層ガラスパネルの作製方法の最後の工程を示したものである。
図5においては、2枚の風冷強化ソーダライムガラス基板15、16を対向させ、位置合わせをし、複数の耐熱性クリップで固定する。これを真空排気しながら熱処理をし、封止する。
図6は、図5の熱処理における封止温度プロファイルを示したものである。
図6に示すとおり、大気中5℃/分の昇温速度で無鉛ガラス組成物S−12の屈伏点M(221℃)より10〜20℃高い温度まで加熱し30分間保持した後に、パネル内部を排気穴20から真空ポンプで排気しながら、5℃/分の昇温速度で無鉛ガラス組成物S−12の軟化点T(267℃)より10〜20℃高い温度まで加熱し30分間保持し、封止を行う。
図5に示すように、熱処理の際、封止部14及びスペーサ18は、大気圧により押しつぶされ、2枚の風冷強化ソーダライムガラス基板15、16に密着する。その後、排気穴20にキャップ21を取り付け、真空断熱複層ガラスパネルを作製する。
本発明のガラス複合材料やそのガラスペーストを適用した真空断熱複層ガラスパネルでは、接着性が高く、信頼性の高い封止部が得られる。さらに、本発明のガラス複合材料やそのガラス複合材料を使用することによって、封止温度を低温化でき、真空断熱複層ガラスパネルの生産性向上や風冷強化を施したソーダライムガラス基板の適用等にも大きく貢献することができる。
なお、上記真空断熱複層ガラスパネルと同様に、ディスプレイパネルや太陽電池等の電気電子部品など、真空断熱複層ガラスパネル以外の封止構造体にも有効に適用できる。
以上より、本発明の無鉛ガラス組成物と金属粒子、或いは低熱膨張フィラー粒子を含むガラス複合材料やそのガラスペーストを導電性接合部或いは封止部へ適用することによって、環境負荷への影響を配慮した上で、信頼性の高い水晶振動子パッケージが得られることが分った。本実施例では、本発明に係る電気電子部品及び封止構造体の代表例の一つとして、水晶振動子パッケージへの適用例を説明したが、本発明に係るガラス複合材料やそのガラスペーストは、水晶振動子パッケージに限らず、導電性接合部や封止部、さらには放熱性接合部を有する電気電子部品や封止構造体の多くに有効に適用できる。
実施例において、本発明に係る封止構造体及び電気電子部品として真空断熱複層ガラスパネルを代表例として説明したが、本発明はそれらに限定されるものではなく、OLEDディスプレイなどの各種のディスプレイパネル、太陽電池セル、水晶振動子パッケージなどのパッケージデバイス、画像表示デバイス、積層コンデンサー、インダクター、発光ダイオード、多層回路基板、半導体モジュール、半導体センサー、半導体センサー等の多くの封止構造体や電気電子部品に適用可能であることは自明である。
14:封止部、15、16:ソーダライムガラス基板、17:空間部、18:スペーサ、19:球状ビーズ、20:排気穴、21:キャップ、22:熱線反射膜。

Claims (16)

  1. 酸化バナジウム、酸化テルル、酸化銀及び酸化リチウムを含み、かつ、
    追加成分としてBaO、WO、ZnO、KO、Fe、Al、La、MgO、CeO、ZrO及びNaOからなる群から選択された一種類以上を含み、
    酸化物換算で、次の関係式(1)を満たす、無鉛低融点ガラス組成物。
    2[V2O5]≧[Ag2O]+[R2O] …(1)
    (式中、[X]は成分Xの含有量を表し、その単位は「モル%」である(以下同じ)。[R2O]=[Li2O]+[K2O]+[Na2O]である。)
  2. 次の関係式(2)及び(3)を満たす、請求項1記載の無鉛低融点ガラス組成物。
    [TeO2]>[V2O5]>[Ag2O] …(2)
    30≦[TeO2]≦50 …(3)
  3. 次の関係式(4)及び(5)を満たす、請求項1又は2に記載の無鉛低融点ガラス組成物。
    5≦[Ag2O]<30 …(4)
    10≦[V2O5]<30 …(5)
  4. 前記追加成分の含有量は、酸化物換算で3.0モル%以上16モル%以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の無鉛低融点ガラス組成物。
  5. 前記追加成分の各金属元素の含有量は、酸化物換算で6.0モル%以下である、請求項4記載の無鉛低融点ガラス組成物。
  6. 請求項1乃至5のいずれか一項に記載の無鉛低融点ガラス組成物と、
    低熱膨張フィラー粒子、金属粒子及び樹脂のうちのいずれか一種類と、を含む、低融点ガラス複合材料。
  7. 前記低熱膨張フィラー粒子を含み、
    前記低熱膨張フィラー粒子は、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr(WO)(PO)、石英ガラス(SiO)、ケイ酸ジルコニウム(ZrSiO)、アルミナ(Al)、ムライト(3Al・2SiO)及び酸化ニオブ(Nb)のうちのいずれか一種類を含む、請求項6記載の低融点ガラス複合材料。
  8. 前記無鉛低融点ガラス組成物の含有量は、40体積%以上100体積%未満であり、
    前記低熱膨張フィラー粒子の含有量は、0体積%超60体積%以下である、請求項7記載の低融点ガラス複合材料。
  9. 前記低熱膨張フィラー粒子は、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr(WO)(PO)又はリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr(WO)(PO)を含み、
    前記低熱膨張フィラー粒子の含有量は、30体積%以上60体積%以下である、請求項7記載の低融点ガラス複合材料。
  10. 前記金属粒子を含み、
    前記金属粒子は、Au、Ag、Cu、Al及びSnのうちのいずれか一種類を含む、請求項6記載の低融点ガラス複合材料。
  11. 前記無鉛低融点ガラス組成物の含有量は、10体積%以上80体積%以下であり、
    前記金属粒子の含有量は、20体積%以上90体積%以下である、請求項10記載の低融点ガラス複合材料。
  12. 前記金属粒子は、Ag又はAlを含み、
    前記金属粒子の含有量は、20体積%以上90体積%以下である、請求項10記載の低融点ガラス複合材料。
  13. 前記樹脂を含み、
    前記樹脂は、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びフッ素樹脂のうちのいずれか一種類を含む、請求項6記載の低融点ガラス複合材料。
  14. 前記無鉛低融点ガラス組成物の含有量は、5体積%以上100体積%未満であり、
    前記樹脂の含有量は、0体積%超95体積%以下である、請求項13記載の低融点ガラス複合材料。
  15. 請求項6乃至14のいずれか一項に記載の低融点ガラス複合材料と、溶剤と、を含むガラスペースト。
  16. 請求項6乃至14のいずれか一項に記載の低融点ガラス複合材料を用いて作製された、応用製品。
JP2019158074A 2019-08-30 2019-08-30 無鉛低融点ガラス組成物、低融点ガラス複合材料、ガラスペースト及び応用製品 Active JP7028226B2 (ja)

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