JP2021035655A - 重金属含有灰の処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】灰に含まれるカチオン系の重金属とアニオン系の重金属とを同時に処理できるようにするとともに、必要以上の還元剤を添加することなくアニオン系の重金属を処理できるようにする。【解決手段】水溶液中でカチオンとして安定な重金属と水溶液中でアニオンとして安定な六価クロムとを含む灰の薬剤処理に際し、還元剤とキレート薬剤とを含む混合薬剤を使用する。混合薬剤で処理した薬剤処理灰の溶出液の安定化後の酸化還元電位が六価クロムを三価クロムに還元することができる酸化還元電位となるように、混合薬剤の添加量を決定する。【選択図】なし

Description

本発明は、重金属含有灰、たとえば、ごみ焼却場から排出される焼却灰や飛灰などに含まれる鉛、カドミウム、水銀、ヒ素、セレン、六価クロム等の有害な重金属を固定化する処理方法に関するものである。
最終処分場の埋立て延命の観点から、廃棄物焼却炉の主灰や飛灰の溶融処理、また、廃棄物の直接ガス化溶融などが行われるようになってきている。灰溶融炉やガス化溶融炉では、高クロムの高温用耐火材が用いられることから、処理施設から排出される飛灰の重金属処理において、特に六価クロムの溶出超過が懸念されている。
飛灰中には、一般に、Hg、Pb、Cd、六価Cr、As、Seなどの有害重金属が含まれている。これら有害重金属の処理法としては、1)薬剤処理法、2)溶融固化法、3)セメント固化法、4)酸やその他の溶媒抽出による方法が義務つけられている。これらの処理方法の中で、薬剤処理法は、比較的簡単な設備で、しかも低コストで行えることから、採用されることが多い。薬剤としては、有機系のキレート薬剤が用いられたり、燐酸や硫化物などの無機系の薬剤が用いられたりしている。このうち、無機系の薬剤を用いる方法は、酸腐食や臭気があって取り扱いに注意を要することから、近年はジチオカルバミン酸基を有するキレート薬剤を用いる方法が主流になっている。
キレート薬剤は、Hg、Pb、Cd等のカチオン系の重金属(水溶液中でカチオンとして安定な重金属)と強固な錯体を形成してこれらを固定化することが可能である。しかし、六価Cr、As、Seなど、溶出液中でクロム酸、ヒ酸(あるいは亜ヒ酸)、セレン酸(あるいは亜セレン酸)などのアニオンとして安定な重金属を固定することは出来ない。
このような重金属汚染物質を安全に処理するための重金属処理剤として、特許文献1に開示される、還元剤を添加したキレート薬剤(以下、混合薬剤ともいう)が市販されており、溶融飛灰やガス化溶融飛灰の重金属処理に用いられている。
このとき、六価クロム(六価Cr、Cr6+)の固定化に必要な還元剤の量として、六価クロムと当量の添加量では不足で、実際上はこれでは固定化ができない。このため従来は、必要な添加量が実験により決められて、通常は組成変動を考慮して必要以上の還元剤が添加されている。
六価クロムの固定化は、六価クロムを還元剤により水に不溶な三価クロムに還元することで行われる。理論的には、還元剤とキレート薬剤とを含む混合薬剤による処理物の重金属溶出試験(以下、溶出試験という)において、平衡状態に達したときのクロムの形態は、溶出液のpHと、標準水素電極での酸化還元電位(以下、Ehともいう)によって決まる。溶出液のpHが12の場合は、Ehが−30mV以下のときに三価クロムの安定領域に入り、六価クロムの溶出が抑制される。
通常、Ehは、比較電極として塩化銀電極やカロメル電極を用いたORP計で測定した電位(以下、ORPともいう)に、比較電極と標準水素電極との電位差を加えることにより求められる。そして、溶出液の温度、pHおよびEhから、クロムの形態が三価クロムの領域に入っていると判断されれば、六価クロムが三価クロムになっていることになり、六価クロムの固定化がなされることになる。
特許第5493788号明細書
本発明は、灰に含まれるカチオン系の重金属とアニオン系の重金属とを同時に処理できるようにするとともに、必要以上の還元剤を添加することなくアニオン系の重金属を処理できるようにすることを目的とする。
上記目的を達成するため本発明は、下記の項目(1)〜(6)をその技術的特徴とする。
(1)水溶液中でカチオンとして安定な重金属類と水溶液中でアニオンとして安定な六価クロムを含む灰の薬剤処理に際し、
還元剤とキレート薬剤とを含む混合薬剤を使用し、
前記混合薬剤で処理した薬剤処理灰の溶出液の安定化後の酸化還元電位が六価クロムを三価クロムに還元することができる酸化還元電位となるように、前記混合薬剤の添加量を決定することを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
(2)あらかじめ採取した灰について、前記混合薬剤の添加量を変化させた溶出試験を行って、溶出液の酸化還元電位の経時変化から、同溶出液の安定化後の酸化還元電位を六価クロムを三価クロムに還元するための安定な電位とするために必要な混合薬剤の添加量と、溶出試験終了後の溶出液の酸化還元電位との相関関係を求めておき、
前記相関関係にもとづき、実際に処理した薬剤処理灰の溶出試験終了後の溶出液の酸化還元電位から、六価クロム溶出防止の合否を判断することを特徴とする上記(1)の重金属含有灰の処理方法。
六価クロム溶出防止の合否を早期に判断するため、上記の溶出試験終了後の溶出液の酸化還元電位は、溶出試験終了後1日を経過しないできるだけ短い時間内に測定するのが好ましく、たとえば6時間以内のような初期に測定するのがより好ましく、また1時間以内のような直後に測定するのがさらに好ましい。ただし、後述するように溶出液の酸化還元電位は、溶出試験終了後7〜10日後に安定するまで経時変化するので、溶出試験が終了してから酸化還元電位を測定するまでの時間は途中で変えないことが大切である。
(3)前記薬剤処理灰の溶出試験終了後の溶出液の酸化還元電位が、前記相関関係にもとづき得られる溶出試験終了後の溶出液の酸化還元電位の+15%以下の数値になったときに、六価クロムの溶出防止が適正であると判断することを特徴とする上記(2)の重金属含有灰の処理方法。
(4)あらかじめ採取した灰中の銅含有量(Cu(質量%))と鉛含有量(Pb(質量%))の測定結果と、この灰に添加する前記混合薬剤の量を変化させたときに鉛の溶出量を0.3mg/L以下にすることができる同混合薬剤の添加量とから、鉛の溶出防止に必要な同混合薬剤の添加量に関する下記の実験式(a)における係数k1、k2を求め、
前記灰と同じ種類の灰を用いて、実験式(a)から算出した鉛溶出防止に必要な混合薬剤の添加量(F)と、この灰に前記混合薬剤と加湿水とを加えて混練したうえで溶出試験を行う場合において、同混合薬剤の添加量を変化させたときに鉛の溶出量を溶出基準値以下にすることができる同混合薬剤の添加量(B)と、六価クロムの溶出量を溶出基準値以下にすることができる同混合薬剤の添加量(D)と、安定化後の標準水素電極での酸化還元電位を0mV以下にするために必要な同混合薬剤の添加量(E)とを求めるとともに、
処理しようとする灰について実験式(a)から求めた鉛溶出防止に必要な前記混合薬剤の添加量に、{(B/F)の平均値}×{(D/B)の平均値}×{(E/D)の平均値}を乗じて得られた値を、添加すべき同混合薬剤の添加量とすることを特徴とする上記(1)の重金属含有灰の処理方法。
鉛溶出防止に必要な混合薬剤の添加量(質量%)
=k1×Cu(質量%)+k2×Pb(質量%)・・・・(a)
(5)処理しようとする灰について上記(4)の重金属含有灰の処理方法における実験式(a)から求められる、鉛溶出防止に必要な前記混合薬剤の添加量と、上記(4)の重金属含有灰の処理方法において求められる、添加すべき同混合薬剤の添加量とのうち、どちらか多い方の量の混合薬剤を添加することを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
(6)前記混合薬剤として、還元剤を含有したキレート薬剤と、還元剤を含有しないキレート薬剤に同キレート薬剤との相溶性を有する還元剤を混合させた薬剤とのいずれかを用いることを特徴とする上記(1)から(5)までのいずれかの重金属含有灰の処理方法。
本発明によれば、還元剤とキレート薬剤との混合薬剤で処理した薬剤処理灰の溶出試験終了後の溶出液のEhから安定後のEhを予測することによって、六価クロム固定化の合否を直ぐに判断することができて、薬剤処理灰の搬出を迅速に行えると共に、適正な混合薬剤量の把握とコントロールとを行うことが可能になる。また、カチオン系重金属の溶出防止に必要なキレート薬剤添加量を求める従来の技術を組み合わせることによって、カチオン系の重金属とアニオン系重金属の両方の溶出防止が可能になる。
混合薬剤添加量と、Pb、Cr6+の溶出量および溶出液のEhとの関係を示す図である。 混合薬剤添加量と、Pb、Cr6+の溶出量および溶出液のEhとの関係を示す別の図である。 安定後のEhを0mV以下にするのに必要な混合薬剤添加量(E)と、溶出試験終了直後のEhとの関係を示す図である。 飛灰中の重金属濃度の自動計測装置にて得られた重金属濃度より求めた必要混合薬剤添加量と、混合薬剤添加試験により求めた、Pb溶出量を0.3mg/L以下にするのに必要な混合薬剤添加量との相関性を示す図である。
本発明は、実験的手法を用いて完成されたものである。以下、同手法にもとづいて説明する。
以下に説明する実験や試験は、複数の飛灰を用いて実行された。表1は、用いた8種類の飛灰についての重金属含有量と重金属溶出量とを示す。水銀の溶出量は、用いた8種類全ての飛灰について溶出基準値以下(0.005mg/L以下)であった。なお、表1において、「T−Cr」は、六価クロムを含む全クロム濃度を意味する。
Figure 2021035655
[検討例1]
表1に記載された飛灰1と飛灰2とを使用して、飛灰100質量部に混合薬剤(東ソー社製の品番:TS−400、キレート薬剤の種類:ピペラジンのカルボジチオ酸カリウム塩系薬剤、含有される還元剤の種類:(メーカによる開示が行われていない)、還元剤の含有量:2〜5質量%)を0〜12質量部、加湿水を28〜40質量部(混合薬剤+加湿水で40質量部)を加えてよく混練し、日本国環境庁告示13号により6時間をかけて溶出試験を行った。孔径1μmのガラスクロスフィルターでろ過した溶出液について、温度、pH、ORPおよび重金属濃度(Pb、Cr6+)を測定した。ORPは、溶出試験終了直後から10日後まで測定した。なお、「溶出試験終了」の時点とは、溶出試験が終了したと客観的に判断される時点を意味する。また、溶出試験終了後1時間以内に測定したデータを「溶出試験終了直後」のデータとした。表2にその結果を示す。
Figure 2021035655
図1および図2に、表2のデータを用いて得られた、混合薬剤添加量と、Pb、Cr6+の溶出量および溶出液のEhとの関係を示す。図1は飛灰1に関するものであり、図2は飛灰2に関するものである。Ehは、上述のように、ORPの測定結果に、公知文献1(MS Today、Vol.10、No.4、p.14(2001年4月号))によって予め知られている比較電極と標準水素電極との電位差を加えることにより求めた。
その結果、溶出液のpHが12.2〜12.5である場合において、公知文献2(恒岡信幸ほか;セメント改良土から溶出する六価クロムに土壌の吸着・還元作用が及ぼす影響、土木学会論文集、No.764/III−67、133―145、2004.6)によって紹介された理論的なEh域(−30〜−50mV)で、六価クロムの溶出量を定量下限の0.05mg/L程度まで低減できることが確認された。また、六価クロムの溶出量を溶出基準値の1.5mg/L以下にするためにはEhが0mV程度でも良いことが確認された。
溶出液のEhは、徐々に低下して7日目以降で安定した。また、Cr6+の溶出防止に必要な混合薬剤添加量は、Pbの溶出防止に必要な混合薬剤添加量よりも若干多くなった。さらに、安定化後のEhが0mV以下になる混合薬剤添加量は、Cr6+の溶出防止に必要な混合薬剤添加量よりも多く、この混合薬剤添加量ではCr6+の溶出を0.2mg/L以下に抑制できるものであった。
以下においては、「添加量」を単に「量」とだけ記載することがある。表3に、図1および図2から求めた、PbとCr6+の溶出防止に必要な混合薬剤量、溶出試験から10日後のEhが0mV以下になる混合薬剤量、この混合薬剤量での溶出試験終了直後のEhなどを示す。
Figure 2021035655
表3における「Cu、Pb含有量と反応当量の混合薬剤量(A)」は、下記の式1で求められる。また、表3における「Cr6+含有量と反応当量の還元剤量相当の混合薬剤量(C)」は、下記の式2で求められる。キレート薬剤は、イオン化傾向の小さな金属Au<Pt<Ag<Hg<Cu,<(H)<Pb<Sn・・から優先的に反応するので、飛灰中に比較的多く存在するCu、Pbについて、その含有量と反応当量の混合薬剤量(A)は、Pb溶出防止に必要な混合薬剤量の目安になる。
混合薬剤量(A)[質量%]=(Cu含有量[g/kg]/Cu原子量 + Pb含有量[g/kg]/Pb原子量)×キレートのモル質量/(キレートの濃度/100)×(100/1000)・・・・・・(式1)
ここで、上述の東ソー社製の品番:TS−400に含まれるキレートすなわちピペラジンのカルボジチオ酸カリウム塩のモル質量は314.6[g/mol]であり、上記TS−400におけるキレートの濃度は35[質量%]である。
混合薬剤量(C)[質量%]=(Cr6+含有量[mg/kg]/Cr原子量)/1000×110×1.5/(3.5/100)×(100/1000)・・・(式2)
ここで、混合薬剤中に含まれる還元剤の濃度は3.5[質量%]である。また、1.5はCr6+をCr3+に還元するのに必要な還元剤の反応当量比である。
表3に示すように、Cr6+含有量と反応当量の還元剤量に相当する混合薬剤量(C)は、飛灰1で0.29質量%、飛灰2で0.52質量%と計算される。ところが、溶出液のpHが12.2〜12.5の領域でCr6+の溶出量を溶出基準値の1.5mg/L以下にするためには、10日後のEhを0mV以下にする必要がある。そのために必要な混合薬剤量(E)は、飛灰1で7.89質量%、飛灰2で9.41質量%となる。つまり、Cr6+含有量と当量の混合薬剤量(C)とは約18〜27倍の開きがある。この表3に示された結果から、必要な還元剤量に相当する混合薬剤量を、単なる当量計算からでは算出できないことが判る。溶出液のCr6+をCr3+に還元するのに必要な混合薬剤量は、上述のように10日後のEhを0mV以下にする分量が必要であり、この分量と同等の混合薬剤を添加することで、表2に示すようにCr6+の溶出量が1.5mg/L以下になることが判った。
[検討例2]
飛灰3〜飛灰8を使用して、飛灰100質量部に、混合薬剤(東ソー社製の品番:TS−400)を0〜10質量部と、加湿水を30〜40質量部(混合薬剤+加湿水で40質量部)とを加えてよく混練し、日本国環境庁告示13号により溶出試験を行った。孔径1μmのガラスクロスフィルターでろ過した溶出液について、温度、pH、ORPおよび重金属濃度(Pb、Cr6+)を測定した。ORPは、溶出試験終了直後から10日後まで測定した。その結果を表4に示す。
Figure 2021035655
表5に、検討例1の図1および図2と同様の図を作成することにより求めた、飛灰1〜8についての、PbとCr6+の溶出防止に必要な混合薬剤量、溶出試験から10日後のEhが0mV以下になる混合薬剤量、この混合薬剤量での溶出試験終了直後のEhを示す。10日後のEhを0mV以下にするのに必要な混合薬剤量(E)における溶出試験終了直後のEhは、検討例1と2の平均で78.35mV(ORPで−131.65mV)である。すなわち、混合薬剤で処理した薬剤処理灰の溶出試験終了直後のEhが78.35mV程度であれば、安定化後(7〜10日後)のEhが0mV程度になって、PbおよびCr6+の溶出量が溶出基準値以下に抑制されることになる。
Figure 2021035655
混合薬剤にて処理した飛灰の溶出試験終了直後の溶出液のEhからCr6+の固定化の合否の判断を行うには、溶出試験終了直後のEhから10日後のEhを予測する必要がある。
図3に、表5に示された安定後のEhを0mV以下にするのに必要な混合薬剤量(E)と、溶出試験終了直後のEhとの相関関係を示す。この図3にプロットされたデータから導かれた近似式である
y=−4.3114x + 110.59
より、たとえば、飛灰に5質量%の混合薬剤(東ソー社製の品番:TS−400)を添加混練処理した処理物の溶出試験終了直後における溶出液のEhが89.0mV(25℃でのORPで−117mV)よりも低ければ、Cr6+の溶出を溶出基準値以下に抑制できることになる。もちろん、Pbの溶出についても溶出基準値以下に抑制できていることになる。ただし、データのバラツキを考慮すると、図示のように、近似式で求められる電位の+15%以下、好ましくは±15%程度の範囲内での管理が適当と考えられる。
なお、上記においては、溶出試験終了直後のEhを用いて検討を行い、それによって最良の結果が得られたが、本発明はこれに限定されるものではない。溶出試験終了直後のEhに代えて、溶出液が安定化する以前の任意の時点におけるEhを用いても同様に本発明を実施することができる。たとえば、本発明では、溶出試験終了後3日以内の時点におけるEhや、溶出試験終了後1日以内の時点におけるEhなどを用いることを妨げるものではない。
また、上記においては、日本国環境庁告示13号の規定に従い、溶出時間を6時間として溶出試験を行ったが、溶出時間は6時間に限定されない。客観的に判断して重金属類の溶出が十分な場合はもっと短い時間で溶出試験を終了することができ、重金属類の溶出が不十分な場合はもっと長い時間をかけても良いが、溶出時間は途中で変えないことが大切である。
[検討例3]
飛灰3を使用して、同飛灰100質量部に、還元剤を含まないキレート薬剤(東ソー社製の品番:TS−300)を0〜10質量部、同キレート薬剤との相溶性を有する還元剤として硫化二カリウムをキレート薬剤10質量部に対して0.35質量部、加湿水を30〜40質量部(キレート薬剤+加湿水で40質量部)を加えてよく混練し、日本国環境庁告示13号により溶出試験を行った。孔径1μmのガラスクロスフィルターでろ過した溶出液について、温度、pH、ORPおよび重金属濃度(Pb、Cr6+)を測定した。ORPは、溶出試験終了直後から10日後まで測定した。その結果を用いて検討例1の図1および図2と同様のグラフを作成し、PbとCr6+の溶出防止に必要な混合薬剤量、溶出試験から10日後のEhが0mV以下になる混合薬剤量、この混合薬剤量での溶出試験終了直後のEhを求めた。その結果を表6に示す。
Figure 2021035655
PbとCr6+の溶出防止に必要な混合薬剤量、溶出試験から10日後のEhが0mV以下になる混合薬剤量、この混合薬剤量での溶出試験終了直後のEhなどは、検討例2の飛灰3を用いた場合と同様の試験結果が得られた。ピペラジンのカルボジチオ酸カリウム塩系のキレート薬剤の安定性を損なわないような還元剤を選択使用することにより、検討例2で使用した混合薬剤(東ソー社製の品番:TS−400)と同様のPbおよびCr6+の溶出防止効果が得られた。本検討例3で使用した還元剤は硫化二カリウムで、TS−300のカリウム塩にあわせた。
[検討例4]
灰中の重金属濃度の自動計測装置を、飛灰混練装置の入口シュート部に設置して、飛灰中のCuとPbの濃度すなわち含有量を自動計測した。この自動計測装置としては、特許第5361698号公報、同第5657112号公報に記載されたものを用いた。また、同じ飛灰について、混合薬剤添加試験により、混合薬剤で処理した薬剤処理灰からのPb溶出量を0.3mg/L以下にするのに必要な混合薬剤量を求めた。そして、20検体程度の試験結果より、PbとCuの分析結果に一定の定数k1、k2を乗じた数値と、Pb溶出量を0.3mg/L以下にするのに必要な混合薬剤量とが合致するように、上記の定数k1、k2の値を決めた。本検討例4に用いた飛灰において、Cu含有量(質量%)にk1として4.4を乗じ、またPb含有量(質量%)にk2として17.6を乗じることで、必要混合薬剤量を求めることができた。すなわち、次の式3を得ることができた。
Pb溶出量を0.3mg/L以下にするのに必要な混合薬剤量(質量%)
=4.4×Cu(質量%)+17.6×Pb(質量%)・・・(式3)
上記の定数は、使用する混合薬剤種、飛灰の種類、自動計測装置にて蛍光X線計測するときの試料の作製方法等により、数値が変化する。なお、飛灰混練装置の入口シュート部において灰中の重金属濃度を自動計測する手段については、上記した2つの特許公報に記載されたもののほかに、たとえば特開2005−118733号公報に記載された手段などを利用することもできる。
図4に、飛灰中の重金属濃度の自動計測装置にて得られた重金属濃度より求めた必要混合薬剤量と、混合薬剤添加試験により求めた、Pb溶出量を0.3mg/L以下にするのに必要な混合薬剤量との相関性を示す。この関係から、Pbの溶出量を確実に0.3mg/L以下にするためには、式3の右辺にプラス1質量%を加えれば良いことがわかった。なお、図4において、菱形の印は式3の定数の値を決めるためにあらかじめ採取した飛灰のデータを表し、丸印は同飛灰と同じ施設から採取した同じ種類の飛灰3〜飛灰8のデータを表す。
飛灰3〜飛灰8について、飛灰中の重金属濃度の自動計測装置にて求められたPb溶出防止に必要な混合薬剤量と、検討例2で求めたPb、Cr6+溶出量を溶出基準値以下にするのに必要な混合薬剤量と、混合薬剤で処理した薬剤処理灰の溶出液についての安定化後のEhが0mV以下になる混合薬剤量とを、表7に示す。
Figure 2021035655
表7において、安定化後のEhを0mV以下にするのに必要な混合薬剤量(E)は、Cr6+溶出量を1.5mg/L以下にするのに必要な混合薬剤量(D)を上回っている。また、上述の式3で求められる混合薬剤量(F)も、Pb溶出量を0.3mg/L以下にするのに必要な混合薬剤量(B)を上回っている。よって、対象とする重金属の固定化に必要な混合薬剤量を求めることができる。また、安定化後のEhが0mV以下になる混合薬剤量(E)と、式3にて求められる混合薬剤量(F)との多い方で飛灰処理することで、カチオン系の重金属とアニオン系の重金属との両方の溶出防止が可能になる。
実処理における混合薬剤添加量の管理の際には、表7に示されているところの、式3にて求められる混合薬剤量(F)に最大3質量%の上乗せを行えば、PbおよびCr6+の溶出量が溶出基準値を超えることは無い。ここでは、この上乗せ後の混合薬剤量を「管理混合薬剤量(1)」と称する。また、Ehが0mV以下になる混合薬剤量(E)がE>BかつE>Dであるならば、
F×{(B/F)の平均値}×{(D/B)の平均値}×{(E/D)の平均値}
で混合薬剤添加量を管理することにより、表8に示すように、混合薬剤使用量を1.6質量%程度削減することができる(8.435−6.837=1.598)。このように管理された混合薬剤量を「管理混合薬剤量(2)」と称し、添加すべき混合薬剤の添加量とする。表8に各混合薬剤量の比較を示す。管理混合薬剤量(2)は、安定化後のEhを0mV以下にするのに必要な混合薬剤量(E)に相当するから、式3にて求められる鉛溶出防止に必要な混合薬剤の添加量(F)と管理混合薬剤量(2)との多い方で飛灰処理することで、カチオン系の重金属とアニオン系の重金属との両方の溶出防止が可能になる。なお、Ehが0mV以下になる混合薬剤量(E)がE>BかつE>Dの条件を満たさない場合は、管理混合薬剤量(2)の代わりに管理混合薬剤量(1)を添加すべき混合薬剤の添加量とすれば良い。
Figure 2021035655
Hg、Pb、Cd等のカチオン系重金属の溶出防止に必要なキレート薬剤添加量については、公知の方法を用いて計測することができる。しかし、公知のカチオン系重金属の溶出防止に必要なキレート薬剤添加量の計測方法は、Cr6+、As、Seなどのアニオン系の有害重金属の固定に有効な方法ではない。
本発明は、特にガス化溶融や灰溶融などの溶融飛灰において溶出超過が懸念されるCr6+の溶出防止方法に関するものである。本発明の方法と、従来のカチオン系重金属の溶出防止に必要なキレート薬剤添加量を求める技術とを組み合わせることによって、カチオン系の重金属とアニオン系重金属の両方の溶出防止が可能になる。
詳細には、上記のように、還元剤とキレート薬剤との混合薬剤で処理した薬剤処理灰の溶出液の温度、pHおよびEhの関係から、六価クロムの溶出防止に関する理論的な原理が再現された。しかしながら、Ehが経時変化することが確認された。このEhが安定するのに7〜10日程度必要である。このため、混合薬剤で処理した薬剤処理灰の六価クロム固定化合否の判断を処理現場で迅速に出来ないと、薬剤処理灰の搬出までに7〜10日程度の保管期間が必要になってしまう。この点に関し、本発明によれば、混合薬剤を用いて実際に処理した薬剤処理灰の溶出試験終了後の溶出液のEhから安定後のEhを予測することによって、六価クロム固定化の合否を直ぐに判断することができる。これにより、薬剤処理灰の搬出を迅速に行えると共に、必要な混合薬剤量の適正な把握とコントロールとが可能になる。
[実施例1]
上述の特許第5361698号公報、同第5657112号公報に記載された灰中の重金属濃度の自動計測装置を、飛灰混練装置の入口シュート部に設置して、処理しようとする飛灰中のCuとPbとの濃度を自動計測した。また、同時に飛灰をサンプリングし、T−CrとCr6+との含有量を化学分析すると共に、混合薬剤添加前の重金属溶出量を日本国環境庁告示13号試験により測定した。それらの結果を表9に示す。
Figure 2021035655
重金属濃度の自動計測装置で分析したCuとPbとの含有量から、式3によりPb固定化に必要な混合薬剤添加量(F)を求めることができた。表9における飛灰9〜11については、混合薬剤添加量(F)+3質量%で求めた管理混合薬剤量(1)の混合薬剤(東ソー社製の品番:TS−400)と加湿水とを加えて混練処理を行った。また、飛灰12〜14については、表8に示された値にもとづき、「混合薬剤添加量(F)×{(B/F)の平均値}である0.829×{(D/B)の平均値}である1.098×{(E/D)の平均値}である1.382」により求めた管理混合薬剤量(2)の混合薬剤(東ソー社製の品番:TS−400)と、加湿水とを加えて混練処理を行った。添加した混合薬剤量と混練した薬剤処理灰の溶出試験結果とを表10に示す。表10に示すように、実際に処理した薬剤処理灰のPbとCr6+の溶出量は、いずれも溶出基準値(Pbは0.3mg/L以下、Cr6+は1.5mg/L以下)をクリアしていた。また、各薬剤処理灰の溶出液の溶出試験終了直後のEhについても、目標管理値(すなわち図3に示す溶出試験終了直後のEhの範囲)を満足しており、安定化後のEhは0mV付近に到達するものと想定された。
Figure 2021035655

Claims (6)

  1. 水溶液中でカチオンとして安定な重金属類と水溶液中でアニオンとして安定な六価クロムを含む灰の薬剤処理に際し、
    還元剤とキレート薬剤とを含む混合薬剤を使用し、
    前記混合薬剤で処理した薬剤処理灰の溶出液の安定化後の酸化還元電位が六価クロムを三価クロムに還元することができる酸化還元電位となるように、前記混合薬剤の添加量を決定することを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
  2. あらかじめ採取した灰について、前記混合薬剤の添加量を変化させた溶出試験を行って、溶出液の酸化還元電位の経時変化から、同溶出液の安定化後の酸化還元電位を六価クロムを三価クロムに還元するための安定な電位とするために必要な混合薬剤の添加量と、溶出試験終了後の溶出液の酸化還元電位との相関関係を求めておき、
    前記相関関係にもとづき、実際に処理した薬剤処理灰の溶出試験終了後の溶出液の酸化還元電位から、六価クロム溶出防止の合否を判断することを特徴とする請求項1記載の重金属含有灰の処理方法。
  3. 前記薬剤処理灰の溶出試験終了後の溶出液の酸化還元電位が、前記相関関係にもとづき得られる溶出試験終了後の溶出液の酸化還元電位の+15%以下の数値になったときに、六価クロムの溶出防止が適正であると判断することを特徴とする請求項2記載の重金属含有灰の処理方法。
  4. あらかじめ採取した灰中の銅含有量(Cu(質量%))と鉛含有量(Pb(質量%))の測定結果と、この灰に添加する前記混合薬剤の量を変化させたときに鉛の溶出量を0.3mg/L以下にすることができる同混合薬剤の添加量とから、鉛の溶出防止に必要な同混合薬剤の添加量に関する下記の実験式(a)における係数k1、k2を求め、
    前記灰と同じ種類の灰を用いて、実験式(a)から算出した鉛溶出防止に必要な混合薬剤の添加量(F)と、この灰に前記混合薬剤と加湿水とを加えて混練したうえで溶出試験を行う場合において、同混合薬剤の添加量を変化させたときに鉛の溶出量を溶出基準値以下にすることができる同混合薬剤の添加量(B)と、六価クロムの溶出量を溶出基準値以下にすることができる同混合薬剤の添加量(D)と、安定化後の標準水素電極での酸化還元電位を0mV以下にするために必要な同混合薬剤の添加量(E)とを求めるとともに、
    処理しようとする灰について実験式(a)から求めた鉛溶出防止に必要な前記混合薬剤の添加量に、{(B/F)の平均値}×{(D/B)の平均値}×{(E/D)の平均値}を乗じて得られた値を、添加すべき同混合薬剤の添加量とすることを特徴とする請求項1記載の重金属含有灰の処理方法。
    鉛溶出防止に必要な混合薬剤の添加量(質量%)
    =k1×Cu(質量%)+k2×Pb(質量%)・・・・(a)
  5. 処理しようとする灰について請求項4に記載の重金属含有灰の処理方法における実験式(a)から求められる、鉛溶出防止に必要な前記混合薬剤の添加量と、請求項4に記載の重金属含有灰の処理方法において求められる、添加すべき同混合薬剤の添加量とのうち、どちらか多い方の量の混合薬剤を添加することを特徴とする重金属含有灰の処理方法。
  6. 前記混合薬剤として、還元剤を含有したキレート薬剤と、還元剤を含有しないキレート薬剤に同キレート薬剤との相溶性を有する還元剤を混合させた薬剤とのいずれかを用いることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の重金属含有灰の処理方法。
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