定義
本明細書において使用される場合、「疾患のモデル化」という用語は、障害の結果としてヒトにおいて観察される特定の兆候又は症状を模倣する、実験生物又はインビトロ細胞培養物を用いる方法を指す。1つの実施形態では、神経障害、例えばパーキンソン病(PD)を引き起こす遺伝的変異を有する動物モデルから得られた万能性幹細胞を培養し、PDに関連するニューロンの新しい特徴を特定するために神経細胞に分化させることができる。1つの実施形態では、神経障害、例えばパーキンソン病(PD)を引き起こす遺伝的変異を有する個人から得られたヒト万能性幹細胞を培養し、その個人に観察されたのと同様の欠損を保持する神経細胞に分化させることができる。
本明細書において使用される場合、「パーキンソン症候群」という用語は、運動を制御する脳の部分である基底核におけるドーパミンの不足に全て関連する一群の疾患を指す。症状には身震い、運動緩慢(過度に遅い動作)、屈曲姿勢、姿勢動揺、及び強直が含まれる。パーキンソン症候群の診断はこれらの症状のうちの少なくとも2つの存在を必要とし、それらのうちの1つは身震い又は運動緩慢でなくてはならない。パーキンソン症候群の最も一般的な形態は特発性、又は古典的パーキンソン病(PD)であるが、かなり少数の診断、総数の約15パーセントにパーキンソン・プラス症候群(PPS)のうちの1つが存在し得る。これらの症候群は非典型的パーキンソン症候群としても知られ、皮質基底核変性症、レビー小体型認知症、多系統萎縮症、及び進行性核上性麻痺を含む。一般に、パーキンソン病は脳内の、主に黒質と呼ばれる脳の領域にある生神経細胞の機能不全と死を伴う。これらの生神経細胞の多くがドーパミンを産生し、これらのニューロンが死に絶えると脳内での分化により生じるドーパミンの量が減少し、ヒトが正常に運動を制御できないようにする。腸もパーキンソン病患者において変性するドーパミン細胞を有し、これがその疾患の一部である胃腸症状における重要な原因因子であり得る。個体が経験する一群の症状は人によって異なる。パーキンソン病の主要な運動上の兆候には次のものが含まれる:手、腕、脚、顎及び顔面の震え、運動緩慢又は動作緩慢、四肢及び胴体の強直又はこわばり、並びに姿勢動揺又はバランスと運動感覚の障害。
本明細書において使用される場合、「対象」という用語は、あらゆる種類の制御を含む特定の処置の受容者である哺乳類動物(ヒト及び動物、すなわち、非ヒト動物)を指す。典型的には、「対象」及び「患者」という用語はヒト対象に関して本明細書において互換的に使用される。
本明細書において使用される場合、「非ヒト動物」という用語は、げっ歯類動物、非ヒト霊長類動物、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、鳥類等を含むが、これらに限定されないあらゆる非ヒト動物を指す。
本明細書において使用される場合、「ドーパミン」という用語は、運動と協調運動を制御するニューロンを含有する脳の部分にメッセージを送るドーパミンニューロンによって作製される化学物質を指す。
本明細書において使用される場合、「LSB」という用語は、細胞においてトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン‐ノーダルシグナル伝達及びスモールマザーズ・アゲインスト・デカペンタプレジック(SMAD)シグナル伝達からなるシグナル伝達を低下又は阻止することができる2つの化合物LDN‐193189及びSB431542の組合せを指す。
本明細書において使用される場合、「SB431542」という用語は、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン‐ノーダルシグナル伝達を低下又は阻止することができ、CAS番号301836‐41‐9、C22H18N4O3の分子式、及び4‐[4‐(1,3‐ベンゾジオキシオル‐5‐イル)‐5‐(2‐ピリジニル)‐1H‐イミダゾール‐2‐イル]‐ベンズアミドの名称を有する分子を指す。例えば、下記の構造:
を参照のこと。一例では、SB431542は米国マサチューセッツ州、ケンブリッジのステムジェント(Stemgent)社のStemolecule(商標)SB431542である。
本明細書において使用される場合、「LDN‐193189」という用語はIUPAC名4‐(6‐(4‐(ピペラジン‐1‐イル)フェニル)ピラゾロ[1,5‐a]ピリミジン‐3‐イル)キノリン、C25H22N6の化学式を有する小分子DM‐3189:
を指す。LDN‐193189はSMADシグナル伝達阻害剤として機能することができる。LDN‐193189はALK2、ALK3、及びALK6タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)の非常に強力な小分子阻害剤でもあり、I型TGFβ受容体のALK1ファミリー及びALK3ファミリーのメンバーのシグナル伝達を阻害し、骨形成タンパク質(BMP)BMP2、BMP4、BMP6、BMP7、及びアクチビンサイトカインのシグナルを含む複数の生物学的シグナルの伝達を阻害し、その後にSmad1、Smad5、及びSmad8のSMADリン酸化を阻害することになる(Yu et al. (2008) Nat Med 14:1363〜1369; Cuny et al. (2008) Bioorg. Med. Chem. Lett. 18:4388〜4392、参照により本明細書中に援用)。一例となる実施形態では、LDN‐193189は米国マサチューセッツ州、ケンブリッジのステムジェント社のStemolecule(商標)LDN‐193189である。
本明細書において使用される場合、「グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β阻害剤」又は「GSK3β阻害剤」という用語はグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β酵素を阻害する化合物を指す。例えば、Doble, et al., J Cell Sci. 2003;116:1175〜1186(参照により本明細書中に援用)を参照のこと。本発明の目的にとって、GSK3β阻害剤はWNTシグナル伝達経路を活性化することができる。例えば、Cadigan, et al., J Cell Sci. 2006;119:395〜402、Kikuchi, et al., Cell Signaling. 2007;19:659〜671(参照により本明細書中に援用)を参照のこと。
本明細書において使用される場合、「CHIR99021」又は「CHIR」又は「アミノピリミジン」又は「3−[3−(2−カルボキシエチル)−4−メチルピロール−2−メチリデニル]−2−インドリノン」という用語はIUPAC名6−(2−(4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−2‐イル)ピリミジン−2−イルアミノ)エチルアミノ)ニコチノニトリル:
を指す。CHIR99021はWNTシグナル伝達経路を活性化するグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)の小分子化学阻害剤の一例であり、非常に選択的であり、一団の関連及び非関連キナーゼに対してほぼ千倍の選択性を示し、ヒトGSK3βに対して6.7nMのIC50を有し、げっ歯類GSK3βホモログに対してナノモルレベルのIC50値を有する。一例となる実施形態では、CHIR99021は米国マサチューセッツ州、ケンブリッジのステムジェント社のStemolecule(商標)CHIR99021である。
本明細書において使用される場合、「パルモルファミン」という用語は、例えば、スムーズンドを標的とすることによってヘッジホッグ経路を活性化する、CAS番号第483367−10−8号などのプリン誘導体を指す。一例として、下記の構造を参照のこと:
。一例となる実施形態では、パルモルファミンは米国マサチューセッツ州、ケンブリッジのステムジェント社のStemolecule(商標)パルモルファミンである。
本明細書において使用される場合、「シグナル伝達タンパク質」との関連において「シグナル伝達」という用語は、膜受容体タンパク質へのリガンド結合又は他の何らかの刺激によって活性化されるか、影響を受けるタンパク質を指す。シグナル伝達タンパク質の例にはSMAD、WNT複合体タンパク質が含まれ、別の実施形態では、β‐カテニン、ソニックヘッジホッグ(SHH)、ノッチ、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ、アクチビン、ノーダル、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)タンパク質、及び同種のものを含むWNT複合体タンパク質が含まれる。多数の細胞表面受容体又は内部受容体タンパク質にとって、リガンド受容体相互作用は細胞の応答には直接関係しない。リガンド活性化受容体は、細胞の挙動に対するそのリガンドの最終的な生理的効果が生じる前にまず細胞の内部の他のタンパク質と相互作用するに違いない。多くの場合、受容体の活性化又は阻害に続いて一連のいくつかの相互作用細胞タンパク質の挙動が変化する。受容体の活性化によって誘導される細胞の変化全体がシグナル伝達機構又はシグナル伝達経路と呼ばれる。
本明細書において使用される場合、「LSB/S/F8/CHIR」又は「LSB/SHH/FGF8/CHIR」という用語は、本発明のS、ソニックヘッジホッグ活性化剤、F8、FGF8、及びCHIRに加えてLDN‐193189及びSB431542(すなわち、LSB)と細胞を接触させることを指す。対照的に、「LSB/S/F8」又は「SHH/FGF8」又は「SHH/FGF」は、以前に公開された方法において見られるように、CHIRを除き、S、ソニックヘッジホッグ活性化剤、F8、FGF8に加えてLDN‐193189及びSB431542(すなわち、LSB)と細胞を接触させることを指す。類似の略記法において、「LDN/SB」はLDN‐193189及びSB431542と細胞を接触させることを指す。
本明細書において使用される場合、「阻害する」又は「阻止する」という用語は、化合物(すなわち、阻害剤)で処理されたときの細胞の特定のシグナル伝達経路の活性レベルの、そのような化合物で処理されずにいるか、対照で処理された細胞の前記シグナル伝達経路の活性と比べた低下を意味する。
本明細書において使用される場合、「活性化する」という用語は、化合物(すなわち、阻害剤)で処理されたときの細胞の特定のシグナル伝達経路の活性レベルの、そのような化合物で処理されずにいるか、対照で処理された細胞の前記シグナル伝達経路の活性と比べた上昇を意味する。特定のシグナル伝達経路のあらゆるレベルの阻害又は活性化は、そのような阻害又は活性化が幹細胞の制御分化を引き起こす場合、本発明の実施形態と見なされる。
本明細書において使用される場合、「Smaマザーズ・アゲインスト・デカペンタプレジック」又は「スモールマザーズ・アゲインスト・デカペンタプレジック」又は「SMAD」という用語はシグナル伝達分子を指す。
本明細書において使用される場合、リガンドとの関連において「WNT」又は「ウィングレス」という用語は、WNT受容体、例えばFrizzled及びLRPDerailed/RYK受容体ファミリー内の受容体と相互作用することができる一群の分泌タンパク質(すなわち、ヒトのInt1(インテグレーション1))を指す。
本明細書において使用される場合、シグナル伝達経路との関連において「WNT」又は「ウィングレス」という用語は、β‐カテニンが介在する、又は介在しない、Wntファミリーリガンド及びWntファミリー受容体、例えばFrizzled及びLRPDerailed/RYK受容体から構成されるシグナル経路を指す。本明細書に記載される目的にとって、好ましいWNTシグナル伝達経路はβ‐カテニンによる仲介、すなわち、WNT/β‐カテニンを含む。
本明細書において使用される場合、WNTとの関連において「正準経路」又は「古典的活性化」は複数のWnt下流シグナル経路のうちの1つを指し、例えば、正準経路においてWntリガンドの受容体へのそのWntリガンドの結合の主要な効果はβ‐カテニン分解複合体の阻害による細胞質性β‐カテニンの安定化である。他のWnt経路は非正準である。
一例として、小分子CHIRは正準Wntシグナル伝達下流経路に影響する。
本明細書において使用される場合、「ソニックヘッジホッグ(SHH又はShh)」という用語は、ヘッジホッグと呼ばれ、別のものはデザート・ヘッジホッグ(DHH)であり、3つ目のものがインディアン・ヘッジホッグ(IHH)である哺乳類シグナル伝達経路ファミリーの少なくとも3つのタンパク質のうちの1つであるタンパク質を指す。Shhは経膜分子パッチト(PTC)及びスムーズンド(SMO)と相互作用することにより、少なくとも2つの経膜タンパク質と相互作用する。Shhは通常PCTに結合し、それにより次にシグナル伝達因子としてSMOを活性化させる。SHHが存在しない場合、PTCは通常SMOを阻害し、それにより次に転写抑制因子を活性化し、それで特定の遺伝子の転写が起こらない。Shhが存在し、PTCに結合すると、PTCはSMOの機能に干渉することができない。SMOが阻害されていないと、ある特定のタンパク質が細胞核に進入し、ある特定の遺伝子を活性化させる転写因子として作用することができる(Gilbert、2000年、Developmental Biology(マサチューセッツ州、サンダーランド:シナウアー・アソシエーツ(Sinauer Associates)社刊)を参照のこと)。
本明細書において使用される場合、「活性化剤」又は「活性化物」という用語は本発明の細胞の制御分化を引き起こす活性化分子である小分子、ペプチド、タンパク質及び化合物を指す。例となる活性化剤にはCHIR、ソニックヘッジホッグ(SHH)C25II、小分子スムーズンドアゴニストパルモルファミン、線維芽細胞増殖因子(FGF)等が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書において使用される場合、「ソニックヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達活性化剤」という用語は、PCT又はスムーズンドアゴニスト及び同種のものに結合する分子又は化合物を含む、SHHシグナル伝達経路を活性化するあらゆる分子又は化合物を指す。そのような化合物の例はタンパク質ソニックヘッジホッグ(SHH)C25II及び小分子スムーズンドアゴニストパルモルファミンである。
本明細書において使用される場合、「ソニックヘッジホッグ(SHH)C25II」という用語は、SHHを活性化するためにSHH受容体に結合することができる全長型マウスソニックヘッジホッグタンパク質の組換えN末端断片を指し、一例はR&Dシステムズ社のカタログ番号464−SH−025/CFである。
本明細書において使用される場合、「シグナル」という用語は細胞の構造と機能の変化を制御する内部因子及び外部因子を指す。それらの因子の性状は化学的又は物理的である。
本明細書において使用される場合、「リガンド」という用語は受容体(R)に結合する分子及びタンパク質を指し、例にはトランスフォーミング増殖因子β、アクチビン、ノーダル、骨形成タンパク質(BMP)等が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書において使用される場合、「阻害剤」又は「シグナル伝達阻害剤」という用語はシグナル伝達分子又はシグナル伝達分子の経路の阻害、例えばSMADシグナル伝達の阻害剤、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)の阻害剤に関連しており、その分子又は経路のシグナル伝達機能に干渉する(すなわち、低下、又は抑制、又は排除、又は阻止する)化合物又は分子(例えば、小分子、ペプチド、ペプチドミメティック、天然化合物、タンパク質、siRNA、アンチセンス核酸、アプタマー、又は抗体)を指す。言い換えると、阻害剤は、一例では、SMADシグナル伝達と直接的に接触することにより、SMAD mRNAと接触することにより、SMADの立体構造の変化を引き起こすことにより、SMADタンパク質レベルを減少させることにより、又はSMADのシグナル伝達パートナー(例えば、本明細書に記載されるものを含む)との相互作用に干渉することにより、及びSMAD標的遺伝子(例えば、本明細書に記載されるものを含む)の発現に影響することにより、指名されたタンパク質(シグナル伝達分子、指名されたシグナル伝達分子に関与するあらゆる分子、指名された関連分子、例えばグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK30))(例えば、本明細書に記載されるシグナル伝達分子を含むが、これらに限定されない)のあらゆる活性を変えるあらゆる化合物又は分子である。阻害剤は上流シグナル伝達分子を横取りすることによってSMAD生物活性を間接的に調節する分子も含む。従って、1つの実施形態では、本発明の阻害剤は既定細胞種から非既定細胞種への分化を誘導する(変える)、又は変更し、例えば、本発明の方法のうちの1つがLDN/SB、CHIR及び(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βを阻害し得る)SHH活性化剤で非既定神経始原細胞に分化した始原細胞を備える。好ましい実施形態では、本発明の阻害剤は、例えば、底板中脳始原細胞の分化と本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンについて本明細書に記載されるように、非既定細胞種への細胞分化を制御するために既定のシグナル伝達を「変更する」又は「低下させる」又は「阻止する」。従って、本発明の阻害剤は、出発細胞集団の底板中脳始原細胞への分化(第0日)に寄与するようにシグナル分子活性を変更する天然化合物又は小分子である。始原細胞が阻害剤と接触すると、これらの小分子は本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンへのさらなる分化に寄与し得る。阻害剤は、次に指名された分子の阻害を引き起こす、指名されたシグナル伝達分子の上流に位置する分子に結合し、影響を与えることにより誘発された阻害に加えて、(活性部位に結合して別の既知の結合化合物の結合を排除又は低減する)競合的阻害と(タンパク質に結合してそのタンパク質の立体構造を変更し、そのタンパク質の活性部位への化合物の結合に干渉する)アロステリック阻害の見地から記載されている。いくつかの事例では、阻害剤は、実際にシグナル伝達標的に接触することによりシグナル伝達標的又はシグナル伝達標的経路を阻害することを指す、「直接阻害剤」と呼ばれる。例えば、γセクレターゼの直接阻害剤は、γセクレターゼタンパク質に結合するDAPT分子である。
本明細書において使用される場合、「誘導体」という用語は類似の中核構造を有する化学化合物を指す。
本明細書において使用される場合、中脳ニューロンの胚発生期のものを含む、中脳に位置するインビボ細胞との関連において「底板中脳始原細胞」という用語はドーパミン産生細胞に分化し得る細胞を指す。いくつかの実施形態では、「底板中脳始原細胞」は、インビボで細胞が発現するマーカーと比べると、重複する、又は同一のマーカーセットを発現する、すなわち、例えば本明細書に記載される制御分化の開始後第11日の辺りで本発明の培養細胞における底板マーカーFOXA2と蓋板マーカーLMX1A、OTX2、NGN2、及びDDCの共発現するインビトロの培養細胞を人工的に作製するために使用される培養中の細胞を指す。底板中脳始原細胞は「FOXA2+LMX1A+」又は「FOXA2/LMX1A+」であることが好ましい。いくつかの実施形態では、分化始原集団中の少数の細胞がFOXA2/LMX1A/TH+である。
本明細書において使用される場合、「底板由来DAニューロン」又は「真正中脳DAニューロン」又は「中脳運命FOXA2+LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロン」又は「底板中脳ドーパミン(DA)ニューロン」又は「移植可能中脳DAニューロン」又は「mDAニューロン」又は「FOXA2+LMX1A+TH+」又は「FOXA2/LMX1A/TH」又は「FOXA2+LMX1A+NURR1+TH+」又は「FOXA2/LMX1A/NURR1/TH」という用語は、通常制御分化の開始後第25日の辺り、又はそれまでに本明細書に記載される方法によって得られた移植可能中脳DAニューロン集団を指す。好ましい実施形態では、「真正中脳DAニューロン」はFOXA2+/LMX1A+/NURR1+/TH+である。これらのニューロンは、神経過形成及びテラトーマ形成にあまり干渉されることなくパーキンソン様神経学的症状を回復させるこれらのニューロンの能力を示したマウス及び霊長類における移植実験の後に「移植可能」と分類された。本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンは移植能力を保持しつつインビトロで数か月間維持された。
本明細書において使用される場合、底板中脳始原細胞及び中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンを得るために使用される細胞は、胚性供給源及び非胚性供給源、例えば、hESC及び非胚性hiPSC、体性幹細胞、疾患幹細胞、すなわち、パーキンソン病患者から単離された単離万能性細胞及び遺伝子操作由来幹細胞、癌幹細胞、ヒト万能性細胞又は哺乳類万能性細胞等を含む様々な供給源から得られる。
本明細書において使用される場合、「幹細胞」という用語は、培養状態で無期限の期間に細胞分裂し、そして、特殊化した細胞を生じさせる能力を有する細胞を指す。ヒトを含む動物及び患者から幹細胞を得ることができ、例えば、ヒト幹細胞はヒト性である幹細胞を指す。胚性供給源及び非胚性供給源を含む様々な供給源、例えば臍帯細胞、小児の細胞及び成人の細胞から幹細胞を得ることができる。本発明の目的にとって、成人幹細胞は概して元々胎児から得られなかった細胞、言い換えると、乳児由来の細胞、放棄臍帯、放棄胎盤細胞、小児由来の細胞、成人由来の細胞等を指す。
本明細書において使用される場合、「臍帯血幹細胞」という用語は、体内の血液細胞の全てを少なくとも作製する能力を有する(造血性の)生誕時に臍帯から回収された幹細胞を指す。
本明細書において使用される場合、「体性(成体)幹細胞」という用語は、(実験室における)自己新生と分化の両方の限定的な能力を有する、多くの器官及び分化組織において見出される比較的にまれな未分化細胞を指す。そのような細胞はそれらの細胞の分化能の点で異なるが、その分化能は通常、起源となった器官中の細胞種に限定される。
本明細書において使用される場合、「体細胞」という用語は配偶子(卵又は精子)以外の体内のあらゆる細胞を指し、時には「成体」細胞と呼ばれる。
本明細書において使用される場合、「神経系譜細胞」という用語は、発生期又は成体において神経系(中枢と末梢の両方)又は神経堤細胞運命に寄与する細胞を指す。神経系は脳、脊髄、及び末梢神経系を含む。神経堤細胞運命は頭蓋性、胴体性、迷走神経性、仙髄性、及び心臓性を含み、外胚葉系中胚葉、頭蓋軟骨、頭蓋骨、胸腺、歯、メラニン形成細胞、虹彩色素細胞、脳神経節、後根神経節、交感神経節/副交感神経節、内分泌細胞、腸神経系、及び心臓の部分を生じさせる。
本明細書において使用される場合、「成体幹細胞」という用語は体性幹細胞を指し、一例では、全ての赤血球と白血球と血小板を生じさせる乳児、小児、及び成体の幹細胞を指す「造血性幹細胞」を指す。
本明細書において使用される場合、「胚性幹細胞」という用語は、限定されないが、培養状態で長期間にわたり分化することなく細胞分裂することができ、3種の一次胚葉性の、すなわち、外肺葉性、中胚葉性、及び内胚葉性の細胞及び/又は組織に発生する能力を有することが知られている、未着床期の胚、人工的に作製された、すなわち、インビトロ受精による胚等を含むいくつかの供給源のうちの1つから得られる初生(未分化)細胞を指す。
本明細書において使用される場合、「内胚葉」という用語は胚盤胞の内部細胞塊に由来する細胞からなる層を指し、内胚葉は肺、他の呼吸構造、及び消化器官、又は一般的に「腸」を「インビボ」で生じさせ、そして、様々な細胞種をインビトロで生じさせる能力を有する。
本明細書において使用される場合、「胚性幹細胞株」という用語は、例えば、ヒトWA‐09細胞株の細胞を分化させることなく最大で数日、数か月から数年まで増殖させるインビトロ条件下で培養された胚性幹細胞の集団を指す。
本明細書において使用される場合、「ヒト胚性幹細胞」又は「hESC」という用語は、培養状態で長期間にわたり分化することなく細胞分裂することができ、3種の一次胚葉性の、すなわち、外肺葉性、中胚葉性、及び内胚葉性の細胞及び組織に発生することが知られている、胚盤胞期までを含むヒト初期胚から得られる種類の万能性幹細胞を指す。
本明細書において使用される場合、「人工万能性幹細胞」又は「iPSC」という用語は、胚性幹細胞に類似した種類の万能性幹細胞を指し、それによって胚性幹細胞(ESC)の「幹細胞性」の維持に重要な因子を強制的に発現させることにより体性(成体)細胞が再プログラム化されて胚性幹細胞様状態に進入する。マウスiPSCは2006年に報告され(Takahashi and Yamanaka)、そして、ヒトiPSCは2007年後半に報告された(Takahashi et al. and Yu et al.)。マウスiPSCは、幹細胞マーカーの発現、3種全ての胚葉に由来する細胞を含有する腫瘍の形成、及び発生の非常に初期にマウス胚に注入されると多数の異なる組織に寄与する能力を含む、万能性幹細胞の重要な特徴を示す。ヒトiPSCも幹細胞マーカーを発現し、3種全ての胚葉に特徴的な細胞を形成することができる。胚性幹細胞と異なり、iPSCはある特定の胚性遺伝子(例えば、OCT4、SOX2、及びKLF4導入遺伝子)(例えば、Takahashi and Yamanaka Cell 126, 663〜676 (2006)を参照のこと。参照により本明細書中に援用)を、例えば、導入される細胞であるC14、C72、及び同種のものに由来する細胞株の体細胞に導入することによって人工的に形成される。iPSCの別の例は、プラスミドにクローン化された遺伝子(OCT4、SOX2、NANOG、LIN28、及びKLF4)を用いて形質転換された成体ヒト皮膚細胞、又は線維芽細胞である。例えば、Yu, et al., Science DOI: 10.1126/science.1172482(参照により本明細書中に援用)を参照のこと。
本明細書において使用される場合、「全能性」という用語は身体の全ての細胞種、及び胎盤などの胚外組織を構成する細胞種の全てを生じさせる能力を指す。
本明細書において使用される場合、「多能性」という用語は1種より多くの身体の細胞種に発生する能力を指す。
本明細書において使用される場合、「万能性」という用語は少なくとも2つの身体の細胞種を生じさせるが、多くの場合、多数の異なる身体の細胞種を生じさせる能力を有する細胞を指す。万能性細胞は多くの場合免疫抑制マウスに注入された後にテラトーマを形成する。
本明細書において使用される場合、「万能性幹細胞」という用語は、環境要因、すなわち、すなわち、モルフォゲン、成長因子、シグナル伝達分子、活性化剤か阻害剤のどちらか等に応じて少なくとも2つの異なる細胞種に発生するこの細胞の能力を指す。いくつかの実施形態では、万能性幹細胞は、内胚葉、中胚葉、及び外肺葉を含む3種の発生起源層のうちのいずれか1つに発生する細胞の能力を指す。
本明細書において使用される場合、「特殊化した細胞」という用語は多細胞生物において特定の機能を実行するある種類の細胞を指す。例えば、特殊化した細胞、例えばニューロンの群は一緒に作用してある系、例えば神経系を形成する。
本明細書において使用される場合、「神経外胚葉」という用語は、神経系譜の細胞を生じさせることができる、発生初期又は万能性幹細胞の分化中に見出される細胞又は細胞運命を指す。
本明細書において使用される場合、「細胞増殖マーカー」という用語は、急速に細胞周期を回す細胞に関連する分子であって、成熟したゆっくりと細胞周期を回す細胞、又は細胞周期を回さない細胞では通常存在しない分子、すなわち、細胞周期時間が長期化した細胞、又は細胞周期を回さない細胞に対して活動性分裂細胞に関連する分子の発現を指す。そのようなマーカーの例には細胞増殖のKi67マーカー(Gerdes, et al., Int J Cancer 31:13〜20 (1983)、参照により本明細書中に援用)及び体細胞分裂のG2/M期のリン酸化ヒストンH3マーカー(Hendzel, et al., Chromosoma 106:348〜360 (1997)、参照により本明細書中に援用)が含まれる。
本明細書において使用される場合、「増殖」という用語は細胞数の増加を指す。
本明細書において使用される場合、「分化」という用語は、特殊化していない胚性細胞が特定の種類のニューロン、脳細胞、心臓細胞、肝臓細胞、又は筋肉細胞などの特殊化した細胞の特徴を獲得する過程を指す。分化は、通常、細胞表面に埋め込まれているタンパク質を伴うシグナル伝達経路を介して細胞の外部の物理的条件及び化学的条件と細胞の遺伝子の相互作用によって制御されている。
本明細書において使用される場合、「分化」という用語は、細胞分化系の細胞に関して使用される場合、ある細胞種(例えば、多能性分化可能細胞、全能性分化可能細胞又は万能性分化可能細胞)から目標とする分化細胞などの別の細胞種に分化する過程を指す。
本明細書において使用される場合、「細胞分化」という用語は、あまり特殊化していない細胞(すなわち、幹細胞)が発達又は成熟してより明瞭な形態と機能を有するようになる(例えば、iPSCが神経堤始原細胞から神経系譜の細胞へ、そして、底板中脳始原細胞へ、そして、本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンに発達する)経路を指す。
本明細書において使用される場合、「未分化」という用語は特殊化した細胞種に未だ発達していない細胞を指す。
本明細書において使用される場合、細胞分化経路との関連において「既定」又は「受動的」という用語は、あまり特殊化していない細胞がある特定の化合物で処理されていないときに、すなわち、少なくとも1つのモルフォゲンと接触することも無い通常の細胞培養条件のときに培養状態においてある特定の分化細胞種になる経路を指す。言い換えると、既定細胞は、細胞が分化細胞種を変化させることができる分子(すなわち、モルフォゲン)と接触していないときに生じ、例えば、LSBのみで処理され、本発明のフォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)+細胞を作製するためのSHHの活性化剤又はWntの活性化剤で処理されていない培養物は代わりにマーカーHESS、PAX6、LHX2、及びEMX2を発現する。対照的に、細胞との関連において「非既定」は、既定細胞とは異なる細胞種を生じる分化細胞種を指す。すなわち、非既定細胞は、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)+神経細胞、底板中脳始原細胞及び本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロン等を含む本発明の細胞など、非既定条件により生じる分化細胞である。既定細胞は、CHIRなどのモルフォゲンとの接触が無いために中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンではない、後で既定細胞になる非既定底板中脳始原細胞のような、細胞が非既定細胞になるためにモルフォゲンと接触した後の既定細胞であって、その後にモルフォゲン化合物と接触していない既定細胞でもあり得る。
本明細書において使用される場合、「モルフォゲン」という用語は細胞の分化に影響する、すなわち、少なくとも部分的に細胞運命を決定する化合物を指す。モルフォゲンは細胞に影響して非既定細胞種に分化させることもできる。
本明細書において使用される場合、「制御分化」という用語は、底板中脳始原細胞及び本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンのような特定の(例えば、所望の)細胞種への分化を誘導する幹細胞培養条件の操作を指す。1つの実施形態では、細胞との関連において「制御分化」という用語は、万能性状態からより成熟した、又は特殊化した細胞運命(例えば、中枢神経系細胞、神経細胞、底板中脳始原細胞及び本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロン等)への細胞の移行を促進する小分子、成長因子タンパク質、及び他の培養条件の使用を指す。1つの好ましい実施形態では、制御分化の開始は第0日における細胞のLDN/SBとの接触である。本明細書に記載される制御分化を受ける細胞は底板中脳始原細胞及び本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンという非基底細胞種を形成する。
本明細書において使用される場合、細胞との関連において「分化誘導」という用語は既定細胞種(遺伝子型及び/又は表現型)を非既定細胞種(遺伝子型及び/又は表現型)に変更することを指す。従って、「幹細胞における分化誘導」は、細胞を分裂させて、遺伝子型(すなわち、マイクロアレイなどの遺伝解析によって決定される遺伝子発現の変化)及び/又は表現型(すなわち、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)及びLIMホメオボックス転写因子1α(LMX1A)について陽性(+)であり、PAX6については陰性(−)であるといった、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)又は一連のタンパク質などのタンパク質の発現の変化)などの、幹細胞と異なる特徴を有する子孫細胞になるように誘導することを指す。
本明細書において使用される場合、「細胞運命決定」など、細胞との関連において「運命」という用語は概して遺伝的に決定された系譜を有する細胞であって、インビボ又はインビトロの培養条件に応じて様々な細胞種又は少数の特定の細胞種になることができる子孫細胞を有する細胞を指す。言い換えると、細胞の予め定められた運命はその細胞の環境によって特定の分化経路に向かうように決定され、細胞がある細胞種の代わりに別の細胞種、例えば、筋肉細胞又は皮膚細胞の代わりに神経細胞になる「神経運命」を有する幹細胞の子孫細胞になる。
本明細書において使用される場合、「神経突起伸長」又は「神経伸長」という用語は細胞から伸長した、膜に包まれた細胞質の突出部の観察を指す。
対照的に、「神経過形成」は望ましくない無制限の神経増殖、すなわち、ニューロンの無制御増殖、移植部位における移植細胞の無制御増殖を指す。本明細書において使用される場合、「テラトーマ」という用語は移植細胞から増殖する、あらゆる組織種に由来する非癌性腫瘍を指す。
本明細書において使用される場合、「テラトーマ形成」という用語は移植細胞の増殖による様々な組織種の非癌性腫瘍への望ましくない増殖を指す。
本明細書において使用される場合、「ドーパミンニューロン」又は「ドーパミン系ニューロン」という用語は概してドーパミンを発現することができる細胞を指す。「中脳ドーパミンニューロン」又は「mDA」は前脳構造における予定運命上のドーパミン発現細胞、及び前脳構造におけるドーパミン発現細胞を指す。
本明細書において使用される場合、「神経幹細胞」という用語はニューロン及びグリア(支持)細胞を生じさせることができる、成体神経組織中に見出される幹細胞を指す。グリア細胞の例には星細胞及び乏突起膠細胞が含まれる。
本明細書において使用される場合、「底板」又は「FP」又は「fp」という用語は、神経管の非対合腹側長軸方向ゾーンとも記載される、又は神経管のシグナル伝達センターとも呼ばれる、腹側正中全体に沿って伸長するインビボでの神経管の領域を指す。言い換えると、神経管は様々な領域に分割され、正中に最も近い腹側細胞が底板を構成した。さらなる細胞の特定化の一例として、ニワトリの中脳FPは遺伝子発現、誘導形式及び機能に基づいて内側(MFP)領域と外側(LFP)領域に分割され得る。底板細胞は発生中の胚のいくつかの領域においてインビボで見出され、例えば底板細胞は中脳、後脳等において見出される。インビボでは中脳領域における底板細胞は、他の領域における底板細胞から分化した細胞と異なる細胞を生じさせると考えられている。中脳領域における1つの主要な底板マーカーはFOXA2である。
本明細書において使用される場合、「蓋板」という用語は正中に最も近い背側細胞を指す。1つの蓋板マーカーはLMX1Aである。胚発生中に、底板細胞と蓋板細胞は、それらの細胞の誘導について正反対のパターン形成の要求によってCNS中の別個の位置(腹側対背側)に位置する。
本明細書において使用される場合、「中脳」という用語は発生中の脊椎動物の脳の前脳(前方)と後脳(後方)の間の領域を指す。中脳領域は、運動機能に影響する脳幹の領域である被蓋の部分である網様体、大脳半球を小脳に連結する神経線維から構成される大脳脚、及び黒質と呼ばれる大きい色素性沈着した核を含むが、これらに限定されない脳の多くの領域を生じさせる。発生中の中脳に特有の特徴は底板マーカーであるFOXA2と蓋板マーカーであるLMX1Aの共発現である。
本明細書において使用される場合、「ニューロン」という用語は神経系の主要な機能単位である神経細胞を指す。ニューロンは細胞体とその細胞体の突起である軸索、及び1つ以上の樹状突起からなる。ニューロンはシナプスにおいて神経伝達物質を放出することにより情報を他のニューロン又は細胞に伝達する。
本明細書において使用される場合、「細胞培養」という用語は研究又は医療処置用の人工培地内のインビトロでの細胞の培養を指す。
本明細書において使用される場合、「培地」という用語は、ペトリプレート、マルチウェルプレート、及び同種のものなどの培養容器中において細胞を覆い、それらの細胞を育て、支援するための栄養を含む液体を指す。培地は細胞において所望の変化を誘導するために添加される成長因子を含むこともあり得る。
本明細書において使用される場合、「神経細胞成熟培地」又は「BAGCT」培地という用語は、N2培地を含み、中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンに分化させるために脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸(AA)、グリア細胞株由来神経栄養因子、ジブチリルcAMP及びトランスフォーミング増殖因子タイプβ3をさらに含む培地を指す。
本明細書において使用される場合、「フィーダー細胞層」という用語は万能性幹細胞を維持するための共培養において使用される細胞を指す。ヒト胚性幹細胞培養にとって、典型的なフィーダー細胞層には、培養中に細胞分裂しないように処理されたマウス胚性線維芽細胞(MEF)又はヒト胚性線維芽細胞が含まれる。
本明細書において使用される場合、細胞培養物との関連において「継代」という用語は、一周の細胞成長と増殖の後に細胞を分離させて、洗浄し、そして、新しい培養容器に蒔く処理を指す。ある系統の培養細胞が経た継代の数はその培養細胞の歳と予想される安定性の指標である。
本明細書において使用される場合、遺伝子又はタンパク質に関連して「発現する」という用語は、マイクロアレイアッセイ、抗体染色アッセイ、及び同種のものなどの測定法を用いて観察され得るmRNA又はタンパク質の作製を指す。
本明細書において使用される場合、「ペアード(paired)ボックス遺伝子6」又は「PAX6」という用語は非既定神経始原細胞のマーカーを指す。
本明細書において使用される場合、本発明の分化細胞との関連において「TUJ1」又は「ニューロン特異的III型β‐チューブリン」という用語は初期神経ヒト細胞分化、例えば神経始原細胞のマーカーを指し、そして、PNS及びCNSのニューロンにおいて発現して見出される。
本明細書において使用される場合、SMAD分子との関連において「ホモ二量体」という用語は、例えば、ジスルフィド結合によって互いに結合した少なくとも2分子のSMADを指す。
本明細書において使用される場合、細胞を本発明の化合物と「接触させること」という用語は、「接触した」細胞を生じさせる(得る)ためにその化合物を細胞に触れさせるほどの位置にその化合物を配置することを指す。接触はあらゆる適切な方法を用いて達成され得る。例えば、1つの実施形態では、接触は、細胞を含むチューブに化合物を添加することによる。接触は細胞の培養物に化合物を添加することによっても達成され得る。
本明細書において使用される場合、「付着細胞」という用語はインビトロで増殖している細胞であって、細胞が培養容器の底又は側面に接着している状態の細胞であり、細胞外マトリックス分子及び同種のものを介してその容器と接触することができ、そして、培養皿/培養器からこの細胞を剥がすための酵素、すなわち、トリプシン、ディスパーゼ等の使用を必要とする付着細胞を指す。「付着細胞」は、付着しておらず、培養容器から細胞を剥がすための酵素の使用を必要としない懸濁培養物中の細胞の反対である。
本明細書において使用される場合、「マーカー」又は「細胞マーカー」という用語は特定の細胞又は細胞種を識別する遺伝子又はタンパク質を指す。細胞に対するマーカーは1つのマーカーに限定されることはあり得ず、マーカーはマーカーの「パターン」を指すことがあり得、指定されたマーカー群が細胞又は細胞種を別の細胞又は細胞種から見分けることができる。例えば、本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンは、前駆細胞である、あまり分化していない細胞から底板中脳始原細胞を区別する、すなわち、例えば図1e及び1fにおける例となる遺伝子発現パターンによって示されるように、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)陽性及びLIMホメオボックス転写因子1α(LMX1A)陽性細胞とHESS+及びPAX6+細胞を区別する1つ以上のマーカーを発現する。
本明細書において使用される場合、細胞に関連して「陽性細胞」を含む「陽性」という用語は、マーカー、一例として、抗体染色(検出)系を用いたときのそのマーカーに対する抗体による「染色」、又は二本鎖核酸配列に結合したレポーター分子、すなわち、蛍光分子によって測定される、マーカー核酸配列にハイブリダイズする核酸配列を対照細胞又は比較細胞よりも上の検出可能な定量的量及び/又は定性的量で発現する細胞を指す。例えば、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)等のようなマーカーについて陽性である細胞は、遺伝子アレイ又は抗体などの測定法で検出されるとそれぞれFOXA2mRNA及び/又はタンパク質を発現する細胞を指す。そのような陽性細胞がFOXA2+と言及され得る。細胞が1つより多くのマーカーについて陽性であるとき、例えばFOXA2/LMX1A+という表記法を用いるとき、その細胞又はその細胞集団の大半はFOXA2とLMX1Aの両方について陽性である。
本明細書において使用される場合、細胞又は細胞集団に関連して「陰性細胞」を含む「陰性」という用語は、マーカーについて検出可能なシグナルが存在しない、又は対照集団のレベルのシグナルが存在しない細胞又は集団を指す。例えば、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)抗体検出法、又はFOXA2 mRNAの検出を含む遺伝子アレイ等との接触後の染色に失敗した細胞はFOXA2−又はFOXA2について陰性である。
本明細書において使用される場合、「レポーター遺伝子」又は「レポーターコンストラクト」という用語は、着色タンパク質、GFPなどの蛍光タンパク質、又はβ‐ガラクトシダーゼ(lacZ遺伝子)などの酵素のような、容易に検出可能な、又は容易に測定可能なタンパク質をコードする核酸を備える遺伝的構築物を指す。
本明細書において使用される場合、「GFP」という用語は、通常、標的遺伝子の発現の指示マーカーとして使用される、細胞内で発現すると蛍光タンパク質を産生することができるあらゆる緑色蛍光タンパク質DNA配列を指す。GFPの例には、オワンクラゲ(Aequoria victoria)などの腔腸動物から単離されたGFP配列、及び「eGFP」などのそれらの合成配列派生物が含まれる。
「試料」という用語はその用語の広い意味で使用される。ある意味では、その用語は細胞又は組織を指すことができる。別の意味では、その用語はあらゆる供給源から得られた標本又は培養物を含むものとされ、そしれ、液体、固体、及び組織を包含する。環境試料は、表面物質、土、水、及び産業試料などの環境材料を含む。これらの例は本発明に適用可能な試料の種類を限定するものと解釈されてはならない。
「精製された」、「精製すること」、「精製」、「単離された」、「単離すること」、「単離」という用語、及びそれらの用語の文法的同等語は、本明細書において使用される場合、試料から少なくとも1つの汚染混入物質の量を減少させることを指す。例えば、所望の細胞種は、望ましくない細胞種の対応する量の減少によって少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも75%、そして最も好ましくは少なくとも90%精製される。例えば、本発明の制御分化の結果、分化底板中脳始原細胞又は本発明の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンの純度の所望の増加が生じる。言い換えると、「精製する」及びその同等語は、フローサイトメーター細胞選別によるなど機械的に、又は制御分化を介して試料からある特定の細胞(例えば、望ましくない細胞)を除去することを指す。例えば、本発明のフォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)+LIMホメオボックス転写因子1α(LMX1A)+始原細胞の精製集団の分化について、始原細胞は、フローサイトメトリーによって混合細胞集団からフォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)+LIMホメオボックス転写因子1α(LMX1A)+二重陽性細胞を選別して、混入しているPAX6神経細胞を除去することにより精製される。中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンも、本発明の組成物と方法を備える細胞培養の特定の方法を用いることにより非ドーパミン(DA)(既定細胞)から精製又は「選択」される。非中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)神経細胞の除去又は選択により、試料中の所望の中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンのパーセントが増加する。従って、細胞種の精製により、試料中の所望の細胞、すなわち、中脳運命FOXA2/LMX1A+ドーパミン(DA)ニューロンの「濃縮」、すなわち、そのニューロンの量の増加が生じる。
本明細書において使用される場合、「天然の」という用語は、物(例えば、細胞、組織等)及び/又は化学物質(例えば、タンパク質、アミノ酸配列、核酸配列、コドン等)に適用されるとき、その物及び/又は化合物が自然界に見出される/見出されたことを意味する。例えば、天然の細胞は、自然界の供給源から単離され得る、生物に存在する細胞であって、実験室において人によって意図的に改変されていない細胞、例えば、胚性細胞を指す。
本明細書において使用される場合、「インビトロ」という用語は人工的な環境、及び人工的な環境内で起こる過程又は反応を指す。インビトロ環境は、限定されないが、試験管及び細胞培養物を例として示す。
本明細書において使用される場合、「インビボ」という用語は自然の環境(例えば、動物又は細胞)、及び自然の環境内で起こる過程又は反応、例えば、胚発生、細胞分化、神経管形成等を指す。
本明細書において開示されるあらゆる細胞との関連において使用されるとき、「から得られた」又は「から構築された」又は「から分化した」という用語は、細胞株、組織(例えば、限定されないが、単一細胞単離、インビボで培養された、処理及び/又は突然変異形成などのあらゆる操作を用いた解離胚又は体液)の中の親細胞から得られた(例えば、単離された、精製された、など)細胞を指す。例えば化学処理、放射線照射、例えば、ウイルスの感染、DNA配列の形質移入、モルフォゲンとの接触(処理)等による新規タンパク質発現の誘導、及び培養親細胞中に含まれるあらゆる細胞種の(例えば、連続培養による)選択を用いて細胞を別の細胞から得ることができる。得られた細胞は、成長因子、サイトカインに対する反応、選択されたサイトカイン処理の進行、接着性、接着性の欠如、選別方法、及び同種のものの力によって混合集団から選択され得る。
本明細書において使用される場合、「細胞」という用語は単一細胞並びに細胞の集団(すなわち、1個より多くの細胞)を指す。その集団は1つの細胞種を含む純粋な集団、例えば神経細胞の集団又は未分化胚性細胞の集団であり得る。あるいは、その集団は1つより多くの細胞種、例えば混合細胞集団を含み得る。集団内の細胞の数は限定されないものとする。例えば、1つの実施形態では、細胞の混合集団は少なくとも1個の分化細胞を含み得る。本発明では、細胞集団が含み得る細胞種の数に制限はない。
本明細書において使用される場合、「非常に濃縮された集団」という用語は、培養皿中の細胞の集団など、比較集団よりも高いパーセンテージ又は量でマーカーを発現する細胞の集団を指し、例えば、LSB接触細胞培養物を第1日にパルモルファミンで処理し、第3日にCHIRで処理することにより、LSBのみでの処理と比べて非常に濃縮された底板中脳始原細胞の集団が生じる。他の例では、濃縮された集団は、CD142濃縮集団、A9濃縮集団、及び同種のものなど、1つ以上のマーカーを発現する細胞を、所望のマーカーを発現しない細胞から選別又は分離することにより生じた集団である。
「細胞生物学(cell biology)」又は「細胞生物学(cellular biology)」という用語は、細胞の解剖学的形態と機能、例えば、a細胞の生理的特質、構造、オルガネラ、及び細胞の環境との相互作用、細胞の生活環、細胞分裂、及び死のような生細胞の研究を指す。
「目的のヌクレオチド配列」という用語は、当業者があらゆる理由(例えば、疾患の治療、改善された特質の付与、宿主細胞における目的のタンパク質の発現、リボザイムの発現、等)でその操作を好ましいと見なし得る、あらゆるヌクレオチド配列(例えば、RNA又はDNA)を指す。そのようなヌクレオチド配列には構造遺伝子(例えば、レポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子、癌遺伝子、薬剤耐性遺伝子、成長因子等)のコード配列、及びmRNA又はタンパク質産物をコードしない非コード調節性配列(例えば、プロモーター配列、ポリアデニル化配列、終止配列、エンハンサー配列等)が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書において使用される場合、「目的のタンパク質」という用語は目的の核酸によってコードされるタンパク質を指す。
「遺伝子」という用語はポリペプチド又は前駆体(例えば、プロインスリン)の産生に必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNA又はRNA)配列を指す。ポリペプチドは全長コード配列によって、又は全長又は断片の所望の活性又は機能特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達等)が保持されている限り、コード配列のあらゆる部分によってコードされ得る。その用語は構造遺伝子のコード領域も包含し、そして、その遺伝子が全長型mRNAの長さに対応するように5’末端側と3’末端側の両方でコード領域に隣接して位置する、どちらかの末端について約1kb以上の長さの配列を含む。コード領域の5’側に位置し、そして、mRNA上に存在する配列は5’非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3’側又は下流に位置し、そして、mRNA上に存在する配列は3’非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語はcDNA型とゲノム型の遺伝子の両方を包含する。ゲノム型の遺伝子又は遺伝子のクローンは「イントロン」又は「介在領域」又は「介在配列」と呼ばれる非コード配列によって中断されるコード領域を含有する。イントロンは核内RNA(hnRNA)に転写される遺伝子の断片であり、イントロンはエンハンサーなどの調節性配列を含有することもあり得る。イントロンは核内転写物又は一次転写物から除去又は「スプライスアウト」され、それ故イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物に存在しない。mRNAは、新生ポリペプチドにおけるアミノ酸の配列又は順序を指定するように翻訳中に機能する。
本明細書において使用される場合、「遺伝子発現」という用語は、遺伝子の「転写」により(すなわち、RNAポリメラーゼの酵素作用により)その遺伝子にコードされる遺伝情報をRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、又はsnRNA)に変換する過程を指し、そして、タンパク質をコードする遺伝子については、mRNAの「翻訳」によりタンパク質に変換する過程を指す。遺伝子発現はその過程の多くの段階において調節され得る。「上方制御」又は「活性化」は遺伝子発現産物(すなわち、RNA又はタンパク質)の産生を上昇させる調節を指し、一方、「下方制御」又は「抑制」は産生を低下させる調節を指す。上方制御又は下方制御に関与する分子(例えば、転写因子)は多くの場合、それぞれ「活性化因子」及び「抑制因子」と呼ばれる。
本明細書において使用される場合、「をコードする核酸分子」、「をコードするDNA配列」、「をコードするDNA」、「をコードするRNA配列」、及び「をコードするRNA」という用語はデオキシリボ核酸又はリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドの順序又は配列を指す。これらのデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドの順序がポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の順序を決定する。DNA配列又はRNA配列はこうしてアミノ酸配列をコードする。
「単離オリゴヌクレオチド」又は「単離ポリヌクレオチド」におけるように、核酸に関して使用されるとき、「単離された」という用語は、核酸配列がその自然の供給源では通常結合している少なくとも1つの成分又は汚染混入物質から同定及び単離されているその核酸配列を指す。単離核酸は自然界で見出される形状又は状態と異なる形状又は状態で存在する。対照的に、DNA及びRNAなどの核酸のような非単離核酸はそれらが自然界で存在する状態で見出される。例えば、所与のDNA配列(例えば、遺伝子)は宿主細胞の染色体上で隣接する遺伝子の近傍に見出され、特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列などのRNA配列は多数のタンパク質をコードする多数の他のmRNAとの混合物として細胞中に見出される。しかしながら、所与のタンパク質をコードする単離核酸には、例として、その所与のタンパク質を通常発現する細胞内のそのような核酸であって、自然の細胞の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在する、又は他の場合では、自然界で見出されるものとは異なる核酸配列によって隣接されるそのような核酸が含まれる。単離核酸、オリゴヌクレオチド、又はポリヌクレオチドは一本鎖形状又は二本鎖形状で存在し得る。単離核酸、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドがタンパク質を発現するために利用される予定でいるとき、そのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは少なくともセンス鎖又はコード鎖を含有する(すなわち、そのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは一本鎖であり得る)が、センス鎖とアンチセンス鎖の両方を含有してもよい(すなわち、そのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは二本鎖であり得る)。
本明細書において使用される場合、「キット」という用語は物質を送達するためのあらゆる送達系を指す。細胞分化との関連では、キットは幹細胞と接触するための材料からなる組合せ物を指すことがあり得、そのような送達系は、適切な容器(例えば、チューブ類等)内のある場所から別の場所への反応試薬の貯蔵、移動、又は送達を可能にする系、及び/又は補助材料(例えば、緩衝液、細胞分化を実施するための指示書等)(例えば、化合物、タンパク質、検出剤(例えば、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、フォークヘッドボックスタンパク質A2(FOXA2)、LIMホメオボックス転写因子1α(LMX1A)等に結合する抗体)等を含む。例えば、キットは、シグナル伝達経路を阻害するための適切な反応試薬、例えば、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン‐ノーダルシグナル伝達を低下させるための阻害剤、例えばSB431542(又はSB431542置換物)及び同種のもの、SMADシグナル伝達を低下させるための阻害剤、LDN‐193189(又はLDN‐193189置換物)及び同種のもの、一例ではウィングレス(Wnt又はWnts)シグナル伝達の活性化のための、他の場合ではWNTシグナル伝達活性化剤(WNTアゴニスト)として知られるグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)を低下させるための阻害剤、例えばCHIR99021(又はCHIR99021置換物)等)及び同種のもの、ソニックヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達活性化剤(例えば、スムーズンド(SMO)受容体小分子アゴニスト)、例えば、ソニックヘッジホッグ(SHH)C25II分子、パルモルファミン及び同種のもの、線維芽細胞増殖因子8(FGF8)活性を有する分子、例えば線維芽細胞増殖因子8(FGF8)等、及びニューロン成熟分子、例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸(AA)、グリア細胞株由来神経栄養因子、ジブチリルcAMP及びトランスフォーミング増殖因子タイプβ3、これらの成分に置き換わることができる分子を含む、及び/又は補助材料を含有する1つ以上の容器(例えば、箱、又は袋、試験管、エッペンドルフチューブ、毛細管、マルチウェルプレート、及び同種のもの)を含む。1つの実施形態では、キット中の試薬は溶液状であり得、凍結されていてよく、又は凍結乾燥されていてよい。1つの実施形態では、キット中の試薬は個々の容器の中に存在し得る、又は、LSB(LDN‐193189とSB431542)、ソニックヘッジホッグ(SHH)C25II分子とパルモルファミン、ソニックヘッジホッグ(SHH)C25II分子とパルモルファミンとCHIR99021、又はパルモルファミンとCHIR99021、ニューロン成熟分子及び同種のものからなる組合せ物など、特定の組合せ物として提供され得る。
本発明の説明
本発明は幹細胞生物学の分野、とりわけ万能性幹細胞又は多能性幹細胞の系譜特異的分化に関連し、それらの幹細胞には非胚性ヒト人工万能性幹細胞(hiPSC)に加えてヒト胚性幹細胞(hESC)、体性幹細胞、疾患を有する患者に由来する幹細胞、又は系譜特異的分化が可能である他のあらゆる細胞が含まれ得るが、これらに限定されない。新規の培養条件を用いて底板中脳始原細胞への、その後さらに、大集団の中脳運命FOXA2+LMX1A+TH+ドーパミン(DA)ニューロンへのhESC及び/又はhiPSCの系譜特異的分化を制御する方法が具体的に記載される。本発明の方法を用いて作製された中脳運命FOXA2+LMX1A+TH+ドーパミン(DA)ニューロンには、インビトロ創薬アッセイにおける使用、神経生物学研究における使用、及び患者におけるドーパミンニューロンの喪失による疾患又は障害を回復させる治療薬としての使用を含むが、これらに限定されない様々な使用法がさらに企図される。さらに、疾患、特にパーキンソン病のモデル化に使用するため、ヒト万能性幹細胞から中脳運命FOXA2+LMX1A+TH+ドーパミン(DA)ニューロンを分化させるための組成物と方法が提供される。
本発明は、患者の脳における中脳ドーパミン(mDA)ニューロンの選択的変性を含むパーキンソン病(PD)の特徴に関連する。PDの症状は主に腹側中脳の黒質におけるDAニューロンの選択的喪失に起因するので、PDは、治療に細胞置換治療戦略が最も適切である疾患のうちの1つと考えられる。従って、中脳ドーパミン(mDA)ニューロンの機能喪失を置換するために患者の脳へ細胞を移植する多くの試みがなされた。しかしながら、これらの実験は成功せず、現在では患者に対して用いられている対症療法が多種多様な好結果を有している。従って、神経機能の喪失を遅らせるために新しい治療がPDの患者に必要とされる。
ヒト万能性幹細胞(hPSC)は再生医療において適用される細胞の供給源である。本発明の方法以外の方法による分化により生じる脊髄運動ニューロン(Li, et al. Nat. Biotechnol. 23, 215〜221 (2005)、参照により本明細書中に援用)又は中脳ドーパミン(DA)様ニューロンなどの特殊化した細胞へのhPSCの制御分化。本発明者らは本明細書に記載されるように、本明細書においてドーパミン(DA)様ニューロンと呼ばれるこれまでのドーパミン(DA)ニューロン(すなわち、Perrier, et al Proc Natl Acad Sci USA 101, 12543〜8 (2004)内、参照により本明細書中に援用)は本発明の真正中脳ドーパミン(DA)ニューロンではないことを発見した(図3、10、13及び16を参照のこと)。従って、本発明者らは、公開された方法によって作製されたドーパミン産生ニューロンと異なり、本発明の「真正」ドーパミン産生ニューロンがげっ歯類動物及び霊長類動物に移植されると、それらのニューロンが神経過形成及びテラトーマ形成の干渉をあまり受けることなくパーキンソン病様神経学的症状を回復させるので、本明細書に記載される方法によって作製される底板由来ドーパミン産生ニューロン、すなわち、本発明のドーパミン産生ニューロンを「真正」と呼ぶ。また、ドーパミン産生ニューロンを作製するこれまでの方法と異なり、本発明の「真正」ドーパミン産生ニューロンは出発集団からより高いパーセンテージで作製され、そして、培養状態で数か月間移植能を保持する。
従って、真正中脳DAニューロンを作製するための方法が本明細書に記載される分化方法を用いることによって発見された。しかしながら、細胞療法のためのhPSCの効果的な使用は細胞培養の進歩よりもかなり遅れている。マウスPSC由来DAニューロンはパーキンソン病(PD)モデルにおいて効力を示したが(Tabar, et al. Nature Med. 14, 379〜381 (2008); Wernig, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 105, 5856〜5861 (2008)、それらの全てを参照により本明細書中に援用)、ヒトPSCに由来するDAニューロンは全般的に低いインビボ性能を示す(Lindvall and Kokaia, J. Clin. Invest 120, 29〜40 (2010)、参照により本明細書中に援用)。内在的な神経機能喪失を補わないことに加えて、hPSC由来ニューロンが移植に使用され、それらのニューロンのテラトーマ形成能又は神経過形成能(Roy, et al. Nature Med. 12, 1259〜1268 (2006); Elkabetz, et al. Genes Dev. 22, 152〜165 (2008)、参照により本明細書中に援用)に関連するとき、重大な安全性への懸念が存在する。
移植用の細胞の別の可能な供給源はヒトESC由来のDAニューロンである。これらの細胞を出発細胞集団として使用する、げっ歯類PDモデルに移植されるヒト胚性幹細胞(hESC)由来DA様中脳ニューロンに見える分化細胞を作製するこれまでの試みは、移植後の移植物の低いインビボ生存という結果に終わった。この失敗は、中脳DAニューロンに見えるが、失われたニューロン機能を置換するために移植可能ではない細胞を生じさせることになるインビトロでの不完全な中脳DAニューロン分化が原因である可能性が最も高いと考えられた。実際、本発明者らは本明細書において、本発明者らの研究室において以前に作製され、刊行物において記載されたDA様ニューロンは本発明の底板中脳DA神経細胞と同一の細胞種でもなければ、同様の機能又は移植能も有しなかったことを示す。例えば、図16及び17を参照のこと。従って、本発明者らはまた、細胞が研究室において多数の適切に機能するニューロンを含有する細胞集団を作製するための制御分化を受けるため、細胞が細胞系置換療法に適切な置換細胞集団になるために特定の発生ステージを通過する必要があったことも発見した。本発明者らはまた、少なくとも本発明の移植可能DAニューロンを得るために、FOX2A/LIM1A+第11日中間体のようなある特定の発生ステージが存在しなければならないことも発見した。そのような発生ステージが存在しない場合、生じるDA様ニューロンはFOX2A/LIM1A+第11日中間体から得られた本発明の中脳DAニューロンと同じ機能的能力を有しないことを本発明者らは発見した。
以前の観察と対照的に、インビボで効率的に生着するヒトDAニューロンの誘導のための底板細胞誘導系先着に関連する新規培養技術が本明細書において記載される。従って、本発明の運命決定されたDAニューロン(すなわち、効率的な生着が可能なFOXA2+及びLMX1A+DAニューロン)を主に含む細胞集団の獲得における過去の失敗は、DA様ニューロンの移植の失敗、すなわち、DA様細胞の不完全な特定化が原因で失敗したことが理由であると考えられた。移植の失敗は細胞の特定的な脆弱性が原因であった、すなわち、DA様培養ニューロンは移植ストレスを乗り越えて生存することができなかったというのが以前の仮説であった。本明細書に記載されるように、中脳FOXA2+/LMX1A+底板前駆細胞はソニックヘッジホッグ(SHH)及び正準WNTシグナル伝達という小分子活性化剤への曝露から11日後のhPSCから得られた。FOXA2+及びLMX1A+について二重陽性であるこれらの第11日細胞をさらなる小分子と接触させて第25日までにTH+FOXA2+及びLMX1A+について陽性である移植可能中脳DAニューロンへのさらなる分化を誘導する。これらの成熟した底板中脳DAニューロンをインビトロで数か月間維持することができる。詳細なインビトロ分子プロファイリング、生化学的データ及び電気生理学的データが発生進行を明らかにし、そして、hPSC由来中脳DAニューロンの同一性を確認した。インビボ生存及び機能が3種の宿主種のPD動物モデルにおいて示された。6‐OHDA傷害マウス及びラットにおける長期移植は中脳DAニューロンの堅固な生存、アンフェタミン誘導性回転行動の完全な回復、及び前肢の使用と無動の改善を示す。そして、パーキンソン病のサルへの移植によって規模拡大性が示される。試験された3種の動物モデルにおける良好なDAニューロン生存、機能及び神経過形成の欠如が本発明の組成物と方法に基づくPDの細胞ベース治療法の開発の有望性を表す。
従って、本発明者らは前臨床治療適用及び臨床治療適用に適切な完全に機能的な底板由来中脳DAニューロンを無限に供給する能力として本発明者らの発見の主な使用を企図する。具体的には、本発明者らはげっ歯類動物及びヒト(ヒト胚性幹細胞(hESC)及びヒト人工万能性幹細胞(hiPSC))から単離した少なくとも万能性の細胞集団からのmDAニューロンの効率的な分化のための新規プロトコルを発見した。それらの試験は遺伝性のパーキンソン病を患うヒト患者から得られたPINK1変異体iPS細胞株(Seibler, et al., The Journal of Neuroscience, 2011, 31(16):5970〜5976、参照により本明細書中に援用)を含んだ。ヒト幹細胞集団(hESC又はhiPSC)を中脳表現型に分化させ、それらはニューロン成熟分子との接触の後により真正の移植可能DAニューロンになった。このプロトコルは、重要な転写因子、例えばTH、FoxA2及びLMX1Aの発現を含み、さらに分化すると、さらなる重要なタンパク質、例えばTHを産出する中脳DA(mDA)ニューロン表現型への制御分化の第11日までに高収量のhESC子孫を実証するために使用された。免疫無防備状態のげっ歯類宿主及び霊長類宿主へのこれらのhESC由来mDAニューロンの移植は、以前のインビトロ獲得DAニューロンと異なり、移植された細胞の良好なインビボ生存を示し、行動欠陥の機能回復を有した。
DA神経細胞の作製のために本発明の方法を用いる他の方法に対する利点は、部分的には次の情報から明らかである。インビボで効率的に生着する真正中脳DAニューロンを作製することを目標とする他の方法では体性幹細胞及び神経幹細胞の使用は成功していない(概説についてKriks & Studer, Protocols for generating ES cell−derived dopamine neurons in Development and engineering of dopamine neurons (Pasterkampら編)(Landes Biosciences, 2008を参照、 参照により本明細書中に援用)。その後、ES細胞などの多能性幹細胞が移植可能細胞を作製するための供給源として使用された。1990年代のマウスES細胞を使用する初期の試験は万能性細胞からインビトロでニューロンを含む特定の系譜を誘導する可能性を示した(Okabe, et al., Mech. Dev. 59:89〜102 (1996); Bain, et al., Dev. Biol. 168v342〜357 (1995)、それらの全てを参照により本明細書中に援用)。実際、中脳DAニューロンは初期体外移植試験(Ye, et al., Cell 93:755〜766 (1998)、参照により本明細書中に援用)に由来する発生上の見識に基づく制御分化戦略(Lee, et al., Nat. Biotechnol. 18v675〜679 (2000)、参照により本明細書中に援用)を用いて作製された。他の制御分化戦略は体性運動ニューロン(Wichterle, et al., Cell 110, 385〜397 (2002)、参照により本明細書中に援用)などの他のニューロン種を作製するために用いられた。しかしながら、これらの努力はインビボで神経機能を回復させることができる高パーセンテージの中脳DAニューロン又は細胞を含有する細胞集団を生じさせなかった。実際、結果生じた集団は中脳DAニューロンに加えて(複数の)細胞種の混合物を含有した。本発明者らでさえ中脳DAニューロンを作製する他の方法を開発したが(部分的には下記を参照のこと)しかしながら、これらの細胞集団は(複数の)細胞種の混合物でもあり、神経機能を回復させることができなかった。特に、ヒトES細胞は神経ロゼットと呼ばれる初期神経上皮細胞に分化し、続いてロゼット期細胞が中脳DAニューロン前駆細胞マーカー及び分化マーカーを発現する細胞に誘導される。それらの細胞はさらに進んで電気生理学による機能性ニューロンの特徴、インビトロDA放出、及びTH免疫金陽性シナプス連絡の形成を示した(Perrier, et al. 表紙より: Derivation of midbrain dopamine neurons from human embryonic stem cells. Proc Natl Acad Sci U S A 101, 12543〜8 (2004)、 参照により本明細書中に援用)。しかしながら、これらの有望なインビトロデータにもかかわらず、6OHDA傷害マウス宿主における細胞の移植では非常に少数の生存ドーパミン系ニューロンが生じた。マウスES由来DAニューロンのインビボ機能性の強力な証拠(Barberi, et al., Nat. Biotechnol. 21:1200〜1207 (2003); Tabar, et al. Nature Med. 14:379〜381 (2008); Bjorklund, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S A. 99:2344〜2349 (2002); Kim, et al. Nature 418:50〜56 (2002)、それらの全てを参照により本明細書中に援用)、ヒトES由来DAニューロンの堅固なインビトロ機能特徴(Perrier, et al., 表紙より: Derivation of midbrain dopamine neurons from human embryonic stem cells. Proc Natl Acad Sci U S A 101:12543〜8 (2004)、参照により本明細書中に援用)及びヒト胎児DAニューロンが線条体の異種移植片として生存することができることの明らかな証拠(Brundin, et al. Exp. Brain Res. 70:192〜208 (1988); Bjorklund, et al., Neuronal replacement by intracerebral neural implants in animal domdels of neurodegenerative disease. Raven. Press., New. York. 455〜492 (1988)、それらの全てを参照により本明細書中に援用)を考えると、これは驚くべき負の結果であった。ヒトES細胞由来DAニューロンの移植の最初の失敗した試みからほぼ8年間にこの分野にはほとんど進展がなかった。FGF20又はWnt5Aで前処理された細胞である霊長類万能性幹細胞供給源(Sanchez−Pernaute, et al. Long−term survival of dopamine neurons derived from parthenogenetic primate embryonic stem cells (Cyno1) in rat and primate striatum. Stem Cells 23:914〜922 (2005)、 参照により本明細書中に援用)、又は不死化中脳星細胞から分泌される因子の存在下で分化したヒトES細胞(Roy, et al., Nature Med. 12:1259〜1268 (2006)、 参照により本明細書中に援用)を用いていくらかの限定的な改善が観察された。 しかしながら、これまでの戦略の中で、インビボで神経機能を回復させるための移植方法に使用する本発明のDAニューロンの濃縮集団の作製に成功するものはなかった。
I. ニューロン前駆(系譜)細胞を誘導するための細胞培養法:S13431542及びLDN‐193189とのヒト多能性幹細胞の接触により分化神経系譜細胞が生じた。
次の実施例は本発明の開発中に使用された神経系譜細胞を提供する例となる方法を説明する。
hPSCから神経系譜細胞のうちの1種を誘導するための短時間で行われ、非常に有効な方法として二重SMAD阻害がこれまで用いられた(Chambers, et al., Nat Biotechnol 27,(2009)、参照により本明細書中に援用)。ノギンを含む分子により誘導されるこれらの神経系譜細胞は、中枢神経系細胞への発生を可能にする既定経路,すなわち、神経細胞運命を有した。ノギンの代わりに小分子ドルソモルフィン(DM)を使用することによって、培養物の一貫性についての大きな違いと共に類似しているが同一ではない分化細胞が少なくとも部分的に生じることが追跡試験によって報告された(Kim, et al., Robust enhancement of neural differentiation from human ES and iPS cells regardless of their innate difference in differentiation propensity. Stem Cell Rev 6, 270〜281,(2010); Zhou, et al., High−Efficiency Induction of Neural Conversion in hESC and hiPSC with a Single Chemical Inhibitor of TGF−beta Superfamily Receptors. Stem Cells, 504,(2010)、参照により本明細書中に援用)。
本発明者らは、ノギンを使用して作製された細胞は、LDN処理細胞と同一の発生ステージを示すにもかかわらず、同じマーカーの大半を発現し、様々な神経系譜を作製する類似の発生能力を有するが、LDNを使用して誘導された神経細胞と比べて前後軸についてより前方に配向する(すなわち、より多くの前脳、より多くの細胞がFOXG1を発現する、など)のといった差異も示すことを観察した。従って、他のシグナル伝達経路の中でもBMPを阻害するためにノギンの代わりにLDNを使用したが、ノギン及びLDNはBMPの阻害とは異なる他の種類の活性を有する可能性がある。
部分的には高額のノギンの使用支出のため、本発明者らは、BMP阻害剤の使用が神経細胞運命性の細胞の分化においてノギンの代わりになり得るのではと考えた。従って、小分子BMP阻害剤であるLDN‐193189(Yu, et al., Nat Med 14, 1363〜1369、(2008)、参照により本明細書中に援用)が本発明の開発中に使用され、hPSCから神経細胞運命を有する細胞,すなわち、CNS細胞である始原神経外胚葉を作製するためにSB431542と組み合わせてノギンと置き換わることが分かった(図2A)。この併用処理は、これらの2つの阻害剤LDN‐193189とSB431542の組合せを表してLSBと名付けられた。
概して、細胞分化はSMADシグナル伝達の二重阻害による高集密単層hES又はhiPSの処理によって開始された。好ましい実施形態は50%〜100%のパーセンテージ集密を利用し、最も好ましい実施形態は70%〜80%集密を利用する。本発明の好ましい集密を達成するために必要とされる初期播種密度は細胞種、サイズ、播種効率、生存、接着及び他のパラメーターに左右され、当業者側では過度の実験を行うことなく経験的に決定することができることは当業者にとって明白である。SMADの二重阻害は、ノギン、SB431542、LDN‐193189、ドルソモルフィン、又はTGFβ、BMP及びアクチビン/ノーダルのシグナル伝達を阻止する他の分子を含む様々な化合物によって達成され得る。好ましい実施形態は、SB431542とLDN‐193189(まとめてLSB)を0.1μM〜250μM、又はより好ましくは1〜25μM、又は最も好ましくは10μMのSB431542、及び10〜5000nM、又は最も好ましくは100〜500nMのLDN‐193189の濃度で含む組成物を利用する。
II. hESCからのロゼット細胞中間体を介したDAニューロンの誘導とこれらのDA様ニューロンを使用した移植試験の結果
本発明者らは、DA様ニューロンを含有する細胞集団を生じることになるいくつかの他の制御分化方法をこれまでに使用した。これらのDA様ニューロンを移植試験において使用し、治療用途にこれらの細胞をさらに使用することに対する懸念が生じた。例えば、MS5神経誘導を含む、Perrier et al., 2004及び Fasano et al., 2010に記載される方法がロゼット細胞形成を引き起こし、そして、それらの方法が第11日の前駆細胞(例えば、図2、16及び17を参照のこと)を作製するために用いられ、DA様ニューロンを得るためにさらに用いられた。これらのニューロンは、生じた第11日の細胞集団中の低パーセンテージの前駆細胞より生じた。これらのニューロンを使用した移植試験は、テラトーマの発生を引き起こす増殖制御の喪失と共に不適切な神経種の移植後発生が観察されたことに加えて、低い移植後生存率とDA様ニューロンの表現型の喪失を示した。図16及び17を参照のこと。
具体的には、P0においてMS5フィーダー細胞(Perrier et al., 2004)を使用してOct4+細胞のロゼット細胞への神経誘導を開始するための分子とhESCを接触させた。P1期において、細胞をP2期の細胞であって、Pax2+/En1+DA始原細胞を含む、特異的発現パターンを有する細胞に分化させるためのさらなる分子と細胞を接触させることによってロゼット細胞を増大させ、そして、TH+/En1+DAニューロンにさらに分化させた。これらの細胞が6OHDA傷害ラットにおける移植のために使用され、シクロスポリンA処理により免疫抑制された。それらの移植試験は低いインビボ生存性、TH+表現型の喪失、患者へのさらなる医療上の問題を引き起こすだろう望ましくない、おそらくは致死性の細胞、すなわち、テラトーマのさらなる増殖及び不適切な神経種への細胞の成長への懸念を示した。
ロゼット由来DAニューロン前駆細胞の移植片に移植後4.5か月において非常に少数の生存TH+ニューロン(50未満TH+細胞/動物)が存在した(図16A)。しかしながら、TH+細胞と対照的に、GFP標識細胞(GFPは広範に存在するプロモーターによって誘導された)は移植後では極めて生存性が高かった。このことは、移植後の大半の生存細胞は非DAニューロン同一性を有する神経細胞であったことを示唆する(16B)。TH(赤)を共発現する移植片由来細胞(hNA+(緑))はほとんど無く、これは大半の移植されたヒト細胞が非DAニューロン表現型を装うことを再度示唆する(図16C)。パネル16D〜Eは、D〜E、非常に低いインビボ生存にもかかわらず、アンフェタミン誘導性回転(D)、円筒試験及び突発性回転(E)などの少数の行動試験においていくらかの(わずかで、非常に変わりやすい)改善が存在したことを示す。無フィーダー細胞神経誘導が前に記載されたように(Chambers et al., 2009、参照により本明細書中に援用)実施されたが、底板細胞を産出するようにさらに改変された(Fasano et al., 2010、参照により本明細書中に援用)。
万能性細胞を底板細胞に分化させるための改変二重SMAD阻害方法では、本発明者らは、高濃度のSHHが第11日までのFP誘導に必要とされることを以前に発見している。例えば、いくつかの実施形態では、ソニックC25IIは200ng/mlで添加された。いくつかの実験では、DKK‐1(R&D社;100ng/ml)、FGF8(R&D社;50ng/ml)、Wnt‐1(ペプロテック社;50ng/ml)及びレチノイン酸(R&D社;1mM)を添加した。図17を参照のこと。しかしながら、これまでの方法を用いて第11日においてもたらされた細胞集団の中には、本発明の方法を用いるFOXA2+/LMX1A+中脳底板始原細胞の高いパーセンテージを含むものは無かった。
III. 制御分化に使用される化合物:本発明のニューロン系譜細胞を使用する小分子のスクリーニングにより培養第11日までに細胞をFOX2A+及びLIMX1A+神経細胞に分化させる化合物が見つかった。
次の実施例は、小分子候補化合物をスクリーニングするための節Iの例となる細胞の使用、及び、それらの化合物の使用が二重SMAD阻害剤との最初の接触から第11日までに高パーセンテージの中脳底板ニューロンを含有する細胞集団の制御分化を引き起こすかの判定を説明する。このスクリーンの結果は、SHH活性化分子FGF8及びWntの活性化と共に分化第11日までにhESCからFOXA2+/LMX1A+陽性中脳底板細胞の効率的な誘導を引き起こすことを最初に示した。本発明者らは、第11日において所望のFOXA2+/LMX1A+陽性細胞集団を誘導するために必要である分子、及び最適接触時間を明らかにする例となる実験の結果を本明細書において示す。
近年のマウス遺伝学研究により中脳DAニューロンの発生と生存における転写因子FOXA2の重要な役割が示された。発生中の中脳の独特の特徴は底板マーカーFOXA2と蓋板マーカーLMX1Aの共発現である。通常、底板細胞と蓋板細胞は、それらの細胞の誘導について正反対のパターン形成の要求によってCNS中の別個の位置(腹側対背側)に位置する。改変二重SMAD阻害プロトコルを用いるhESCからの領域特異的底板前駆細胞の誘導が近年記載された。正準Wntシグナル伝達は蓋板機能と中脳DAニューロン発生の両方にとって重要であった。
A. CHIR99021(CHIR)が培養第11日までに高収量の中脳DAニューロン前駆細胞運命を誘導した。本明細書に記載されるように、WNTシグナル伝達を強力に活性化することが知られている強力なGSK3β阻害剤であるCHIR99021(CHIR)への曝露によって、FOXA2+底板前駆細胞においてLMX1Aが誘導された(図1a)。CHIRはLMX1A発現の誘導において組換えWnt3A又はWnt1よりも強力であった。LMX1A誘導の効率はCHIR曝露のタイミングに左右され、最大の効果は第3日〜第11日にあった(図5)。CHIRはFOXA2/LMX1Aの共発現を誘導し、一方、FGF8などの他の因子はわずかな効果を有するのみであった(図6)。FOXA2/LMX1A共発現の誘導は小分子アゴニストであるパルモルファミンのみを使用する、又は組換えSHHを併用するSHHシグナル伝達の強力な活性化を必要とした(図7)。
CHIR99021が存在しない状態でのSHHアゴニスト(パルモルファミン+SHH)及びFGF8(S/F8)による処理によって、第11日までのFOXA2の有意に低い発現とLMX1A発現の完全な喪失が示された(図1a、b)。二重SMAD阻害(LDN‐193189+SB431542=「LSB」への曝露)はFOXA2発現性細胞を産出しなかったが、LMX1A+細胞のサブセットを産出した(図1a、b)。The前方マーカーであるOTX2がLSB処理培養物及びLSB/S/F8/CHIR処理培養物において堅固に誘導されたが、LSB/S/F8条件では誘導されなかった(図1a、c)。包括的時間的遺伝子発現プロファイリングを用いて3つの培養条件の系統的な比較(図1d)が実施された。差次的発現した遺伝子の階層的クラスター分析が分化第11日までの3つの処理条件を分離した(図8a)。FOXA1、FOXA2、及びPTCH1を含むいくつかの他のSHH下流標的がLSB/S/F8/CHIR処理セットとLSB処理セットの間において最も差次的に調節された転写物の中にあった(図1e)。LMX1A、NGN2、及びDDCの発現は早くも第11日までの中脳DAニューロン前駆細胞運命の確立を示した(図1e、f)。対照的に、LSB培養物はHESS、PAX6、LHX2、及びEMX2などの背側前脳前駆細胞マーカーを濃縮した。LSB/S/F8/CHIR処理とLSB/S/F8処理の直接比較(図1f)によりLSB/S/F8/CHIR群における中脳DA前駆細胞マーカーの選択的濃縮が確認され、RAX1、SIX3、及びSIX6の差次的発現に基づいてLSB/S/F8処理培養物における視床下部前駆細胞同一性が示唆された(下の図2dにおけるPOMC発現、OTP発現も参照のこと)。差次的に発現した転写物の完全なリスト(表1、2)、及び遺伝子オントロジー分析(図8b)(DAVID;http://david.abcc.ncifcrf.gov)がCHIR処理による正準WNTシグナル伝達の強化を確認した。生データは未だGEO(worldwideweb.ncbi.nlm.nih.gov/geo/accession#:[TBD])において利用可能ではない。中脳DA前駆細胞マーカー(図1g)と前方腹側非DAニューロン運命のマーカー(図1h)の遺伝子発現の時間的比較分析により3つの誘導条件が:i)LSB:背側前脳同一性;ii)LSB/S/F8:腹側/視床下部同一性及びiii)LSB/S/F8/CHIR:中脳DA前駆細胞同一性に配分された。
本発明の開発中に得られたプロトコルから生じる細胞を以前の方法により得られる細胞と比較した。本発明のSHH/FGF8+CHIR処理細胞に対する例となる視覚的比較として図2及び18を参照のこと。図19AはLSB/S/F8/CHIR処理後のFOXA2/Tuj1二重標識細胞の例(上段のパネル)並びにTH、Nurr1及びLMX1AとのFOXA2の共標識(下段のパネル)を示す。それらのマーカーの組合せは初期ステージ中脳DAニューロン前駆細胞の診断に役立つ。図19Bは重要なドーパミンニューロン前駆細胞マーカーについての遺伝子発現データ(図2Eとの比較のため)を示す。
概して、本明細書において使用される材料と方法が次に説明される。ヒトESC(H9、H1)及びiPSC株(2C6及びSeV6)を改変二重SMAD阻害(Chambers, et al. Nat. Biotechnol. 27:275〜280 (2009)、参照により本明細書中に援用)ベース底板誘導(Fasano, et al., Cell Stein Cell 6:336〜347 (2010)、参照により本明細書中に援用)プロトコルの対象とした。中脳底板のため、及びDAニューロンの新規集団の産出のためにSHH C25II、パルモルファミン、FGF8及びCHIR99021への曝露を最適化した(図1dを参照のこと)。底板誘導後、AA、BDNF、GDNF、TGFβ3及びdbcAMPなどのDAニューロン生存及び成熟因子(Perrier, et al. Proc Nati Acad Sci U S A101:12543〜8 (2004)、参照により本明細書中に援用)の存在下でNeurobasal/B27系の分化培地でさらなる成熟(第11〜25日、又は25日より長く培養状態であり、最大で少なくとも100日培養状態である)を実施した(詳細について方法全体を参照のこと)。結果生じるDAニューロン集団を免疫細胞化学、qRT‐PCR、包括的遺伝子発現プロファイリング、ドーパミンの検出のためのHPLC分析及びインビトロ電気生理学的レコーディングによる詳細な表現型特徴解析の対象とした。半身パーキンソン症げっ歯類動物(動物の脳の一方の側に6OHDA毒素を注入したマウス又はラット)でインビボ試験を実施した。6‐ヒドロキシドーパミン傷害を前に記載されたようにその毒素の定位的注入により受けた成体NOD‐SCID IL2Rgcマウス(ジャクソン・ラブズ(Jackson labs)社)及び成体スプレイグ・ダウリー・ラット(タコニック・ファームス(Taconic Farms)社)、並びにMPTPの片側のみの頸動脈注射により処置された2匹の成体アカゲザルにおいてそれらの試験を実施した。
DAニューロンはそれらの動物の線条体中に定位的に注入され(マウスでは150×103細胞、ラットでは250×103細胞)、そして、サルでは総計7.5×106細胞(6路に供給;脳の各側に3路)。アンフェタミン介在性回転分析並びに焦点性無動症及び四肢使用についての試験(「ステッピング試験」及び「円筒試験」)を含む行動アッセイを移植後に月単位の間隔で実施した。ラットとマウスを移植後の18〜20週間で、及びそれらの霊長類動物を移植後の1か月で殺処理した。それらの移植片の特徴解析を細胞数と移植片体積の立体解析学的分析により、並びに表現型の包括的特徴解析を免疫組織化学により実施した。未分化ヒトES細胞の培養.hESC株H9(WA‐09、XX、2009年10月の時点より27〜55継代)、H1(WA‐01、XY、2010年6月の時点より30〜40継代)並びにiPS細胞株2C6(Kim、etal.Cell Stem Cell 8:695〜706 (2011)、参照により本明細書中に援用)(XY、20〜30継代)及びSeV6(XY、20〜30継代;非挿入性4因子センダイ・ベクター・システム(Ban, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A (2011) 108(34):14234〜14239:10.1073/pnas.1103509108、 参照により本明細書中に援用)を使用するMRC‐5胚性線維芽細胞由来)を、ヒトES細胞に基づいてcm2当たり0.5×103個からcm2当たり100×103個までの範囲に推定される播種濃度で、至適20%ノックアウト血清代替物(KSR、インビトロジェン社、カリフォルニア州、カールスバッド)含有ヒトES細胞培地(前に記載された(Kim, et al. Cell Stem Cell 8:695〜706 (2011)、参照により本明細書中に援用)において細胞をクラスター化する傾向があるマウス胚性線維芽細胞(MEF、グローバル・ステム社、メリーランド州、ロックビル)上に維持した。ノックアウト血清代替物の使用は0%から40%までの範囲にあり得る。
神経誘導.底板系中脳ドーパミンニューロン誘導のため、改変型の二重SMAD阻害(Chambers, et al. Nat. Biotechnol. 27:275〜280 (2009)、参照により本明細書中に援用)及び底板誘導(Fasano, et al. Cell Stem Cell 6:336〜347 (2010)、参照により本明細書中に援用)プロトコルが、LDN‐193189(100nM(0.5〜50μMまでの濃度範囲、ステムジェント社、マサチューセッツ州、ケンブリッジ)、SB431542(10μM(0.5〜50μMまでの濃度範囲、トクリス(Tocris)社、ミシガン州、エリスビル)、SHH C25II(100ng/ml(10〜2000ng/mlまでの濃度範囲、R&D社、ミネソタ州、ミネアポリス)、パルモルファミン(2μM(10〜500ng/mlまでの濃度範囲、ステムジェント社)、FGF8(100ng/ml(10〜500ng/mlまでの濃度範囲、R&D社)及びCHIR99021(CHIR;3μM(0.1〜10uMまでの濃度範囲、ステムジェント社)への指定時刻に作動する曝露に基づいて用いられた。
底板誘導プロトコルについて、「SHH」処理は100ng/mlのSHH C25II+パルモルファミン(2μM)の組合せへの細胞の曝露、すなわち接触を指す。細胞を播種し(35〜40×103細胞/cm2)、DMEM含有ノックアウト血清代替物培地(KSR)(15%ノックアウト血清代替物、2mM L‐グルタミン及び10μM(1〜25μMまでの濃度範囲)β‐メルカプトエタノール)中のマトリゲル又はゲルトレックス(購入して使用)(BD社、ニュージャージー州、フランクリン・レイクス)上で11日間培養した。前に記載された(Chambers, et al. Nat. Biotechnol. 27:275〜280 (2009)、参照により本明細書中に援用)ように、分化第5日から開始して、第5〜6日に75%(KSR):25%(N2)の比率で、第7〜8日に50%(KSR):50%(N2)の比率で、そして、第9〜10日に25%(KSR):75%(N2)の比率で混合することによってKSR培地を徐々にN2培地に転じていった。CHIRを添加され(第13日まで)、且つ、BDNF(脳由来神経栄養因子、5〜100までの範囲の20ng/ml;R&D社)、アスコルビン酸(AA;0.2mM(0.01〜1mMまでの濃度範囲)、シグマ(Sigma)社、ミシガン州、セントルイス)、GDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子、20ng/ml(1〜200ng/mlまでの濃度範囲);R&D社)、TGFβ3(トランスフォーミング増殖因子タイプβ3、1ng/ml(0.1〜25ng/mlまでの濃度範囲);R&D社)、ジブチリルcAMP(0.5mM(0.05〜2mMまでの濃度範囲);シグマ社)、及びDAPT(10nM(0.5〜50nMまでの濃度範囲);トクリス社)を添加されたNeurobasal培地/B27培地(1:50希釈)/L‐グルタミン(0.2〜2mMの有効範囲))含有培地(NB/B27;インビトロジェン社)に培地を第11日から9日間変更した。第20日にアキュラーゼ(登録商標)(イノベーティブ・セル・テクノロジー社、カリフォルニア州、サンディエゴ)を使用して細胞を解離させ、そして、所与の実験にとって所望の成熟段階まで分化培地(NB/B27+BDNF、AA、GDNF、(本明細書に記載される濃度範囲の)dbcAMP、TGFβ3及び(本明細書に記載される濃度範囲の)DAPT)中において、15μg/ml(1〜50μg/mlまでの濃度範囲)のポリオルニチン(PO)/ラミニン(1μg/ml)(0.1〜10μg/mlまでの濃度範囲)/フィブロネクチン(2μg/ml(0.1〜20μg/mlまでの濃度範囲)で事前に被覆されたディッシュに高細胞密度条件(例えば、300から400k細胞/cm2)で再播種した。
ロゼット系DAニューロン誘導について、最初の神経誘導ステップを促進するために二重SMAD阻害を用いたことを少なくとも1つの例外として、以前に記載されたプロトコル(Perrier, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 101:12543〜8 (2004)、参照により本明細書に援用)に部分的に従った。簡単に説明すると、分化第2〜8日までSB431542とノギン(250ng/ml(10〜1000ng/mlまでの濃度範囲);R&D社)、及び第6〜11日までSHH+FGF8を添加したKSR中において放射線照射MS5細胞と共培養することによって、hESCを神経運命に向かって誘導した。11日後にKSR中で神経ロゼットを手作業で単離し、そして、SHH、FGF8、BDNF及びAAを添加されたN2培地中で、前に記載された(Perrier, et al. Proc Natl Acad Sci U SA 101:12543〜8 (2004)、参照により本明細書中に援用)ように培養した(P1期)。P1期の5〜7日後、ロゼットを機械的に再度回収し、そして、1時間の無Ca2/Mg2ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中でのインキュベーション後に研和し、そして、ポリオルニチン(PO)/ラミニン/フィブロネクチン被覆プレート上に再播種した。SHH/FGF8を使用するパターン形成をP2期において7日間継続し、所与の実験にとって所望の成熟段階まで(通常、移植試験には5〜7日又はインビトロ機能試験には32日)上に記載されたようにBDNF、AA、GDNF、TGFb3及びdbcAMPの存在下での最終分化が続いた。
遺伝子発現分析.対照LSB、LSB/SHH/FGF8及びLSB/SHH/FGF8/CHIRの各条件からRNeasyキット(キアジェン(Qiagen)社、カリフォルニア州、バレンシア)を使用して分化中の第0日、第1日、第3日、第5日、第7日、第9日、第11日、第13日、及び第25日に全RNAを抽出した。マイクロアレイ分析について、MSKCCゲノム・コア施設が全RNAを処理し、イルミナ・ヒト参照12ビーズアレイに製造業者の明細書に従ってハイブリダイズさせた。Bioconductor(worldwideweb.bioconductor.org)のLIMMAパッケージを使用して各日及び各条件の間で比較を実施した。0.05未満の調整済みP値と2よりも大きい変化倍率を有することが分かった遺伝子が有意であると見なされた。市販のソフトウェアパッケージ(Partek Genomics Suite(第6.10.0915版))を使用して説明的なマイクロアレイデータ分析と提示のいくつかを実施した。qRT‐PCR分析について、各条件の第25日における全RNAを逆転写し(Quantitech、キアジェン社)、そして、市販のTaqman遺伝子発現アッセイ(アプライド・バイオシステムズ社、カリフォルニア州、カールスバッド)を使用して増幅された物質を検出し、HPRTに対してそのデータを正規化した。各データポイントは3つの独立した生物試料からの9回の技術複製を表す。マイクロアレイ試験の生データは未だGEO(worldwideweb.ncbi.nlm.nih.gov/geo)において利用可能ではない。
動物の外科手術.げっ歯類動物及びサルに対する手技はNIHのガイドラインに従って実施されており、そして、地域の動物実験委員会(IACUC)、バイオセイフティ委員会(IBC)、並びに胚性幹細胞研究委員会(ESCRO)により承認された。
マウス.NOD‐SCID IL2Rgcヌルマウス(20〜35gの体重;ジャクソン・ラボラトリー社、メーン州、バーハーバー)をケタミン(90mg/kg;アコーン(Akorn)社、イリノイ州、ディケーター)とキシラジン(4mg/kg、アイオワ州、フォート・ドッジ)で麻酔した。6‐ヒドロキシドーパミン(10μg(0.1〜20μgまでの濃度範囲)6‐OHDA(シグマ・アルドリッチ社)を次の座標(ミリメートル単位)で線条体に定位的に注入した:AP、0.5(定位的外科手術の基準として用いられる頭蓋縫合、すなわち、ブレグマより);ML、−2.0;DV、−3.0(基準として用いられる脳を包み込む膜である硬膜より)。上出来な病変を有するマウス(平均で6回転超/分)を移植用に選択した。総計で150×103細胞を1.5μlの体積で、次の座標(mm単位)で線条体に注入した:AP、0.5;ML、−1.8;DV、3.2。マウスを移植後18週間で殺処理した。
ラット.成体雌スプレイグ・ダウリー(タコニック社、ニューヨーク州、ハドソン)ラット(180〜230g)をケタミン(90mg/kg)とキシラジン(4mg/kg)で麻酔した。片側のみの内側前脳束の黒質線条体経路の病変を、2か所(Studer, et al. Nature Neurosci. 1:290〜295 (1998)、参照により本明細書中に援用)での6‐OHDA(0.2%アスコルビン酸及び0.9%生理食塩水(シグマ社)中の3.6mg/ml)の定位的注入により確立した。注入後6〜8週間までにアンフェタミン誘導性回転が6回転/分を超えた場合、移植用にラットを選択した。250×103細胞を各動物の線条体に移植した(座標:AP+1.0mm、ML−2.5mm及びV−4.7mm;−2.5のこぎ歯セット)。対照ラットは代わりにPBSを受容した。外科的手技は前に記載された(Studer, et al. Nature Neurosci. 1:290〜295 (1998)、参照により本明細書中に援用)。毎日の15mg/kgのシクロスポリン(ベッドフォード・ラブズ(Bedford Labs)社、オハイオ州、ベッドフォード)の腹腔内注射を細胞移植の24時間前に開始し、そして、細胞移植から20週間後の殺処理まで継続した。霊長類動物.両側性のパーキンソン症候群をもたらす頸動脈MPTP投与とそれに続く毎週の静脈内MPTP投与(Kordower, et al. Science 290:767〜773 (2000)、参照により本明細書中に援用)により2匹の成体(17〜18歳;10〜12kg;雌)アカゲザルを半身性パーキンソン症にした。両方の動物が、猫背、跛行及び硬直性症状(運動の硬直性)、空間無視(片側への刺激に対する運動的アウェアネス)及び運動緩慢(動作緩慢の開始)を含む行動分析に基づいて適度に重症な病変に適合するパーキンソン病の症状を示した。改変パーキンソン病臨床評価尺度(CRS)を用いてこれらのパラメーターをサルにおいて評価することができる。移植手術の日に動物をケタミン(3.0mg/kg、筋肉内)とデクスドミター(0.02〜0.04mg/kg筋肉内)で鎮静化し、安定した気道を維持するために挿管し、そして、イソフルランで麻酔した。次に外科手術のためにそれらの動物を定位枠に設置した。両方のアカゲザルが定位的座標(Paxinos, et al. The Rhesus Monkey Brain in Stereotaxic Coordinates (Academic Press, 2000)、参照により本明細書中に援用)に基づくヒト底板由来DA培養物の3回の頭蓋内注入による単回の外科手術を受けた。細胞の両側性注入(10ul/注入;125,000細胞/ul)を総計で半球当たり30μlの体積になるように3つの部位(1つは後方尾状核、2つは交連前被殻と覆っている白質)に実施した。定位的顕微操作装置に取り付けられた点滴ポンプを利用して1μl/分の速度で28Gの針を付けた50μlのハミルトン注射筒から細胞を送達した。注入の完了後、その針をさらに2〜5分間その場所に留めて点滴物を針の先端から拡散させた後に注射筒をゆっくりと引き抜いた。外科手術直後から術後72時間まで動物は鎮痛薬(ブプレネックス(buprenex)、0.01mg/kg筋肉内、術後72時間の間に1日2回;メロキシカム、0.1mg/kg皮下、術後72時間の間に1日1回)並びに抗生物質(セファゾリン(cephazolin)、25mg/kg筋肉内、1日2回)を受容した。それらの動物はシクロスポリンA(ネオラール、サンディミュン)を外科手術の48時間前に開始して移植から1か月後の殺処理まで経口的に(30mg/kgから15mg/kgまで徐々に減量して)受容した。
行動アッセイ.アンフェタミン誘導性回転(マウス及びラット)とステッピング試験(ラット)を移植前と移植後4週間、8週間、12週間、18週間に実施した。マウスにおける回転行動はd‐アンフェタミン(10mg/kg、シグマ社)の腹腔内注射から10分後に記録され、30分間記録された。ラットにおける回転行動はd‐アンフェタミン(5mg/kg)の腹腔内注射から40分後に記録され、そして、TSE VideoMot2システム(ドイツ)により自動的に評価された。データが分当たりの平均回転数として提示された。ステッピング試験は、Blume, et al. Exp. Neurol. 219:208〜211 (2009)及びCrawley, et al. What’s Wrong With My Mouse: Behavioral Phenotyping of Transgenic and Knockout Mice (Wiley−Liss, 2000)(それらの全てを参照により本明細書中に援用)から改変された。簡単に説明すると、各ラットを平面に配置し、尾をそっと持ち上げることによってそのラットの後肢を引き上げて前足だけをテーブルに接触させた。実験者が一定の速度でラットを後方に1メートル引きずった。対側性と同側性の前足の両方の順応性のステップの数を計数した。データは、対側性の順応ステップ/(対側性+同側性の順応ステップ)のパーセンテージとして提示された。円筒試験は、前に記載されたように(Tabar, et al. Nature Med. 14:379〜381 (2008)、参照により本明細書中に援用)各動物をガラスの円筒中に配置し、その円筒の壁への(20回の接触のうちの)同側性と対側性の足の接触の回数を計数することによって実施された。げっ歯類動物及び霊長類動物の組織処理が下に記載される。
マウス及びラット:動物(マウス及びラット)は深麻酔の誘導のために過剰用量のペントバルビタール(50mg/kg)を腹腔内に受容し、そして、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で潅流された。脳を摘出し、4%のPFA中で後固定し、その後、30%のショ糖溶液中に2〜5日間浸漬した。O.C.T.化合物(サクラ・ファインテック社、カリフォルニア州、トーランス)中に包埋した後、それらの脳をクライオスタットで切片にした。
霊長類動物:動物を、ケタミン(10mg/kg、筋肉内(IM))とペントバルビタール(25mg/kg、静脈内(IV))による深麻酔下でヘパリン処置0.9%生理食塩水とそれに続く冷4%PFA固定液(pH7.4)を用いる頸動脈潅流により殺処理した。一次固定の直後に脳を頭骨から取り出し、4%PFA中に浮かせて24〜36時間後固定した。次にそれらの脳を濯ぎ、4℃で低速振盪器上の10%ショ糖中に再浮遊させ、そして、「沈めて」おいた。その後、その処理を20%ショ糖、続いて30%ショ糖で反復した。脳全体を凍結滑走式ミクロトーム上で40umの連続切片に冠状に切断し、そして、−20℃の凍結保存媒体中に浮かせて貯蔵した。
免疫組織化学:細胞を4%PFA中で固定し、0.3%トリトンを含む1%ウシ血清アルブミン(BSA)を用いてブロックした。脳組織切片を冷PBS中で洗浄し、そして、同様に処理した。一次抗体を1〜5%のBSA又は通常ヤギ血清に希釈し、そして、製造業者の推奨に従ってインキュベートした。抗体と供給業者の包括的なリストが表6として提供されている。適切なAlexa488複合体化、Alexa555複合体化及びAlexa647複合体化二次抗体(モレキュラー・プローブス(Molecular Probes)社、カリフォルニア州、カールスバッド)を4’、6‐ジアミジノ‐2‐フェニルインドール(DAN)細胞核対比染色液(サーモ・フィッシャー(Thermo Fisher)社、イリノイ州、ロックフォード)と共に使用した。いくつかの分析について、ビオチン化二次抗体を使用し、続いてDAB(3,3’‐ジアミノベンジジン)色素原による視覚化を行った。
HPLC分析.ドーパミン、ホモバニリン酸(HVA)及びDOPAC(3,4‐ジヒドロキシ‐フェニル酢酸)のレベルを測定するための電気化学的検出を用いる逆相HPLCを前に記載されたように(Roy, et al. Nature Med. 12:1259〜1268 (2006); Studer, et al. Brain Res. Bull. 41:143〜150 (1996)、それらの全てを参照により本明細書中に援用)実施した。培養試料を分化第65日に過塩素酸中に収集した。いくつかの実験について、同じ検出系を用いて、しかし、前に記載されたような(Studer, et al. Brain Res. Bull. 41:143〜150 (1996)、参照により本明細書中に援用)市販のキットを用いるドーパミンとその代謝物のアルミニウム抽出の後にDAを媒体中で直接測定した。
電気生理学的レコーディング:40倍の水浸対物レンズを装着した正立顕微鏡(Eclipse E600FN;ニコン)上のレコーディング・チャンバーに培養物を移し、mM単位で次のものを含有する生理食塩水で培養物を潅流した:125NaCl、2.5KCl、25NaHCO3、1.25NaH2PO4、2CaCl、1MgCl2、及び25グルコース(34℃;95%O2・5%CO2で飽和;pH7.4;298mOsm/L)。生理食塩水の流速は2〜3ml/分であり、インライン・ヒーター(TC‐324B制御器付きのSH‐27B;ワーナー・インスツルメンツ社)を通過した。冷却CCDデジタルカメラ(フォトメトリクス社のCoolSNAP ES2、ローパー・サイエンティフィック社、アリゾナ州、ツーソン)を取り付けたビデオ顕微鏡法によりニューロンを視覚化した。電気生理学的レコーディングのために選択した細胞は細かい分岐した神経突起を有するニューロン様形態を有した。MultiClamp700B増幅器(モレキュラー・デバイス社)を用いて電流固定設定の体細胞ホールセル・パッチクランプ・レコーディングを実施した。シグナルを1〜4kHzについてフィルターにかけ、そして、5〜20kHzについてDigidata1440A(モレキュラー・デバイス社)を使用してデジタル化した。レコーディングパッチ電極はフレイミング・ブラウン・ガラス電極作製器(P‐97、サッター・インスツルメンツ社)上で引っ張られてフィラメント化ボロケイ酸ガラス(サッター・インスツルメンツ社)から作製され、そして、槽中で4〜6MΩの抵抗を有した。電極はmM単位で次のものを含有する内部溶液で満たされた:135K‐MeSO4、5KCl、5HEPES、0.25EGTA、10ホスホクレアチン(phosphocroeatine)‐ジ(トリス)、2ATP‐Mg、及び0.5GTP‐Na(pH7.3、浸透圧を290〜300mOsm/Lに調節)。電極の抵抗を補正するために増幅器ブリッジ回路を調節し、そして、モニターした。電極の静電容量が補正された。レコーディング中に直列抵抗が20%超増加したときは、増加した抵抗がレコーディング中の部分的な技術的故障を示唆したので、そのデータを廃棄した。
細胞計数と立体解析学的解析.底板期(第11日)図1、中脳ドーパミンニューロン前駆細胞期(第25日)、図2及び成熟DAニューロン期(第50日以降)図3及び11におけるマーカー陽性細胞のパーセンテージを少なくとも3回ずつの独立した実験から得られた試料において決定した。定量用の画像を画一的で無作為的な方法で選択し、そして、各画像にまずDAPI陽性細胞核の数について点数を付け、続いて目的のマーカーを発現する細胞の数を計数した。データは平均値±SEMとして提示されている。移植片内のヒト細胞(抗hNAで同定された)とTH+ニューロンの定量を、移植片が確認できる10枚ごとの切片について実施した。前にTabar, et al. Nat. Biotechnol. 23:601〜606 (2005)(参照により本明細書中に援用)において記載されたように、光学分画器のプローブとステレオ・インベスティゲーター・ソフトウェア(MBFバイオサイエンス社、バーモント州)を使用するカバリエリ(Cavalieri)推定量を使用して細胞数と移植片体積を決定した。データは推定された総細胞数と総移植片体積±標準誤差(SEM)として提示されている。
次の処方は本発明の実施形態の開発のために使用された例となる細胞培養培地を説明する。
維持用hESC培地(1リットル):800mLのDMEM/F12、200mLのノックアウト血清代替物、5mLの200mM L‐グルタミン、5mLのPen/Strep、10mLの10mM MEM最小非必須15アミノ酸溶液、55μMの13‐メルカプトエタノール、及びbFGF(最終濃度は4ng/mLである)。
hESC分化用KSR培地(1リットル):820mLのノックアウトDMEM、150mLのノックアウト血清代替物、10mLの200mM L‐グルタミン、10mLのPen/Strep、10mLの10mM MEM、及び55μMの13‐メルカプトエタノール。
hESC分化用N2培地(1リットル):DMEM/F12粉末と985mlの蒸留水、1.55gのグルコース(シグマ社、カタログ番号G7021)、2.00gの炭酸水素ナトリウム(シグマ社、カタログ番号S5761)、プトレシン(100mLの蒸留水に溶解した1.61gのうちの100uLのアリコット;シグマ社、カタログ番号P5780)、プロゲステロン(100mLの100%エタノールに溶解した0.032gのうちの20uLのアリコット;シグマ社、カタログ番号P8783)、亜セレン酸ナトリウム(蒸留水中の0.5mM溶液の60uLのアリコット;バイオショップ・カナダ社、カタログ番号SEL888)、及び100mgのトランスフェリン(セリアンス(Celliance)/ミリポア社、カタログ番号4452−01)、及び10mLの5mM NaOH中の25mgのインスリン(シグマ社、カタログ番号16634)。
PMEF((初代マウス胚線維芽細胞(PMEF))フィーダー細胞)調製用の10%FBS含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(1リットル):885mLのDMEM、100mLのFBS、10mLのPen/Strep、及び5mLのL‐グルタミン。
MS‐5フィーダー細胞媒体の調製用の10%FBS含有アルファ最小必須培地(MEM)(1リットル):890mLのアルファMEM、100mLのFBS、10mLのPen/Strepゼラチン溶液(500ml):0.5gのゼラチンを500mlの温Milli‐Q水(50〜60℃)に溶解。室温まで冷却。
次のものは、概して、移植に使用される成熟DAニューロンの産生をモニターする例となる方法の概略である(表7に示されている条件も参照のこと)。第13日はFOXA2/LMX1Aの共発現を特徴とする中脳底板ステージである。FOXA2とLMX1Aの発現に加えて、OCT4発現の喪失並びに前脳マーカーPAX6及びFOXG1の誘導の欠如が見出された。第25日は、FOXA2/LMX1Aの連続的発現及びニューロンマーカー(TUJ1)とDAマーカー(NURR1、TH)の発現を特徴とする中脳DAニューロン前駆細胞ステージである。増殖するKi67+細胞とPAX6及びFOXG1前脳神経前駆細胞の数が、これらのマーカーが望まれない場合、モニターされた。免疫蛍光データの不偏で短時間の定量のためにオペレッタ(パーキン・エルマー社)ハイコンテント顕微鏡を測定のために使用した。各マーカーについて免疫蛍光データの確認のためにqRT‐PCRアッセイも用いた。いくつかの実施形態では、これらの予備的なインビトロ試験を通過した細胞株(培養物)を移植用に用いる。表7を参照のこと。いくつかの実施形態では、成熟DAニューロンは第25日(第20日〜第25日の範囲)において7%のDMSO(3%〜12%の範囲)を含む培地中で血清を含まずに、移植に使用するため融解されるまで凍結保存された。いくつかの実施形態では、細胞試料は液体窒素中に貯蔵される。いくつかの実施形態では、細胞は低温冷蔵庫中に貯蔵される。他の実施形態では、ミオイノシトール、ポリビニルアルコール、血清代替物、カスパーゼ阻害化合物などの凍結保護物質をDMSOに加えて使用することを企図する。融解後、細胞を移植に使用する前に生存性、マーカー発現等について試験する。いくつかの実施形態では、凍結貯蔵条件をモニターするために長期インビトロアッセイ及びインビボアッセイにおいて融解細胞を機能の維持について試験する。
B. 機能性DAニューロンの作製用のさらなる因子を特定する試験。本発明の細胞の作製において組織培養成分のさらなる「除去」及び「添加」実験を用いることが企図される。例えば、FGF8の使用により本発明の細胞が生じるが、これらの細胞の作製にそれは必要とされないことが示された。本発明のDA神経細胞を生じる4種の「中核」分子、すなわち、i)Alk4/5/7(「TGFβ)阻害剤(SB431542)、ii)Alk2/3(「BMP」)阻害剤(LDN‐193189)、iii)スムーズンド(「SHH」)アゴニスト(パルモルファミン)、及びiv)GSK3β阻害剤(CHIR99021)と共に細胞培養物への添加物として表8に記載されるもののような追加的な試薬に対してこれらの実験が拡大される。
本明細書に記載されるように、SB431542及びLDN193189の使用は万能性幹細胞の効率的な神経変換を示したが、一方、パルモルファミン及びCHIR99021のこれらの細胞への添加は中脳底板誘導を示した。長期の栄養補助を提供するため、及び/又は分化を促進するために他の化学物質及び組換えタンパク質を使用した、又は使用することができる。これらの化合物のうちのいくつかを、本明細書に記載される細胞分化におけるそれらの役割を明らかにするためにさらなる試験で使用する。
これらの実験のために他の化合物の性能を4種の中核因子の使用(表8)に対してDAニューロン分化の例となる限度(表7)について比較する。
これらの種類の実験は本発明の真正DA神経細胞の作製に必要な最も少ない数の因子を明らかにすると考えられる。
C. 可能性がある増殖性混入細胞(万能性hESC、神経ロゼット)の用量反応曲線を確立するための実施形態。本発明の開発中にインビボで少なくとも5か月の生存までは移植片内にテラトーマ又は過剰な過形成は観察されなかった。ヒトにおいて考慮される移植片の寿命(longitivity)を反映するための長期試験のための安全性をモニターするため、テラトーマに発達し得る未分化hESC又はかなり増殖することができる始原神経外胚葉前駆細胞などの問題性がある細胞種の臨床的に適切な混入限度の決定に細胞数閾値を企図する。従って、いくつかの実施形態が移植に使用される細胞中のドーパミン系ニューロンのさらなる濃縮、すなわち、移植前の混入細胞種の枯渇のために企図される。例となる限度について表7を参照のこと。
以下は増強戦略の検証のためのアッセイにおいて例となる追加の規格化セットを説明する。hESCについて、hES由来DAニューロンと未分化(Oct4+/ナノグ+)細胞の既定の混合物を使用して動物実験における集団効果及び/又は動物の死を示唆する臨床症状をモニターする。10,000hESC由来DA細胞当たり1個のhES細胞、1/5000、1/1000及び1/100の用量反応を実施する。細胞を線条体内に注入し、そして、動物が免疫抑制を受容する。ラットを厳密にモニターし、そして、神経学的症状が現れたところで、又は最大6か月で殺処理する。脳を移植片体積及び本明細書に記載される組成物について分析する。テラトーマの出現について明確なインビボ閾値が確立されるまで細胞比率を調節する。始原神経外胚葉前駆細胞の混入レベルの決定について、類似の戦略に従う。初期神経前駆細胞の存在は増殖と中枢神経系運命並びに末梢神経系(PNS)運命への広範な分化へのかなりの可能性を有する。移植片分析はロゼット細胞(PLZF発現)、それらの細胞のCNS子孫(ネスチン/Sox2を発現する神経前駆細胞又はFoxG1を発現する前脳前駆細胞)に対するIHC並びに移植片体積及び増殖指数(総生存細胞のうちのKi67+の%)からなる。
IV. パーキンソン病
パーキンソン病(PD)は2番目に最も一般的な神経変性障害であり、世界中で410万〜460万人の患者を冒していると推定され、人数は2030年までに2倍を超えると予想されている。パーキンソン病はアルツハイマー病の後に2番目に最も一般的な神経変性障害であり、米国では約100万人の患者を冒しており、毎年60,000人の新しい患者がパーキンソン病と診断される。その疾患は著しい罹患率と死亡率をもたらすので大きい社会経済的影響を有し、そして、医療費と所得の損失を含むPDの直接的及び間接的損失の合計は米国だけで毎年約250億ドルと推定される。現在のところ加齢に関連し、進行性であり、そして、無力化する障害であるパーキンソン病(PD)の治療法は存在しない。PDは黒質における中脳DAニューロンの選択的喪失を病理学的な特徴とする。従って、PDの基礎的な特徴は、最終的には無力化する運動機能不全を引き起こす中脳ドーパミン(DA)ニューロンの進行性であり、重篤で不可逆的な喪失である。薬理学的療法、運動系療法、遺伝子療法及び外科的療法がPDに向けて開発されてきたが、それらのアプローチの中で適切なDAニューロン機能を回復させることができるものは未だ無い。患者における運動症状の長期制御は多くの場合最適以下で留まり、そして、進行性非ドーパミン応答性運動症状及び非運動症状の重要性を認識している一方で、長期ドーパミン応答性症状制御の基礎的問題は重大な治療必要性のある領域のままである。中枢と末梢の両方神経系を冒す広範囲に及ぶ病態がPDにおいて認識されており、PDの基本的特徴(部分的には運動緩慢、強直、及び身震い)は基本的にDA神経細胞の喪失に関連し、そして、ドーパミン応答性である。従って、PDには、その疾患の大半の運動症状の原因である中脳DAニューロンのどちらかと言えば選択的な喪失のため、神経細胞置換を用いる治療が企図される。健康なヒトの脳は約100万のDAニューロンを有する。従って、1つの実施形態では、CNSにおける大半の他の障害と比べて比較的に少数の生存細胞を必要とするDAニューロン置換が企図される。
PD向けの細胞ベースの治療法の開発における1つの課題は、ニューロン置換において使用される適切な細胞供給源の特定であった。この探索は30年を超えて継続されており、DAニューロン置換のための多くの潜在的な供給源が提案された(Kriks, Protocols for generating ES cell−derived dopamine neurons in Development and engineering of dopamine neurons (Pasterkamp,R.J., Smidt, & Burbach編)(Landes Biosciences, 2008; Fitzpatrick, et al., Antioxid. Redox. Signal. 11:2189〜2208 (2009))。副腎髄質に由来するカテコールアミン系細胞(Madrazo, et al., N. Engl. J. Med. 316, 831〜834 (1987))、頚動脈小体移植物(Arjona, et al., Neurosurgery 53:321〜328 (2003))、又はカプセル化網膜色素上皮細胞(Spheramine trial Bakay, et al., Front Biosci. 9, 592〜602 (2004)を含むそれらの供給源のうちのいくつかが過去に初期段階の臨床治験に進んだ。しかしながら、それらの治験はほとんど臨床的有効性を示すことに失敗し、そして、低い長期生存性と移植された細胞からの低いDA放出という結果に終わった。別のアプローチは、世界中で300人を超える患者に実施された胎児中脳DAニューロンの移植(Brundin, et al., Prog. Brain Res. 184, 265〜294 (2010); Lindvall, & Kokaia, J. Clin. Invest 120:29〜40 (2010))であった。これらの患者におけるヒト胎児組織を使用した治療法は幾人かの患者において移植から最大で10年又は20年のDAニューロン生存とインビボDA放出の証拠を示した。しかしながら、多くの患者では、胎児組織移植はDA神経機能を置換することに失敗している。さらに、胎児組織移植は、少量低品質のドナー組織、組織獲得にまつわる倫理的及び実際的問題、及び様々な臨床転帰に寄与する要因のうちのいくつかである、ほとんど明らかになっていない移植細胞の不均一性を含む複数の課題によって悩まされている。胎児移植の例はMendez, et al. Nature Med.(2008)); Kordower, et al. N. Engl. J. Med. 332:1118〜1124 (1995); Piccini, et al. Nature Neuroscience 2:1137〜1140 (1999)に記載されている。しかしながら、臨床結果は初期の非盲検試験における陽性データ(Lindvall, et al. Science 247:574〜577 (1990); Widner, et al. N. Engl. J. Med. 327:1556〜1563 (1992); Brundin, et al. Brain 123:1380〜1390 (2000); Freed, et al. N. Engl. J. Med. 327:1549〜1555 (1992); Freeman, et al. Bilateral fetal nigral transplantation into the postcommissural putamen in Parkinson’s disease. Ann Neurol 38:379〜388 (1995))と混合された。しかしながら、米国における2つのより大規模なNIH後援プラセボ対照臨床治験では適度な結果が見出された(Freed, et al. N. Engl. J. Med. 344, 710〜719 (2001); Olanow, et al. Ann. Neurol. 54:403〜414 (2003))。ヒト胎児移植試験において観察された限定的な有効性に対して、胎児移植は最適な治療効果に適した正確な発生ステージにおいて充分な数の細胞を提供することができないということを含む多くの仮説が存在する。さらに、胎児組織は細胞種によってほとんど区別されておらず、そして、各組織試料のステージと品質について変動がある(Bjorklund, et al. Lancet Neurol. 2, 437〜445 (2003))。別の要因は移植片に対する低レベルの炎症性宿主応答であり得る(Bjorklund, et al. Lancet Neurol. 2, 437〜445 (2003))。
対照的に、幹細胞由来細胞供給源又は移植用の細胞の供給における使用に矛盾の無い他の種類の細胞種が胎児組織移植に関係する課題のうちの多くを克服すると考えられており、そして、移植に最適なステージにおいてDAニューロンの無制限の供給源を提供することができるだろう。様々な可能性がある幹細胞供給源を使用するほぼ20年の試みの後、本発明者らはネズミ科動物及び霊長類動物における神経学的異常を回復させることができる万能性幹細胞由来の真正ヒト中脳DAニューロンを得ることに成功した。この新規分化戦略は非常に効率的であり、そして、それらの細胞の堅固なインビボ移植、PD疾患モデルにおける機能回復の誘導、及び臨床前データより裏付けられる不適切な細胞増殖などの有害事象の欠如を導いた。FDAは脊髄損傷(Strauss, Nat. Biotechnol. 28:989〜990 (2010))及び黄斑変性(Schwartz, et al. Lancet 379:713〜720 (2012))における他のヒトES細胞派生物の試験を認可したので、PD治療のためのヒトES細胞ベースの戦略に対するFDAの認可が企図される。
細胞純度を制御する「増強」戦略を含むさらなる実施形態が軸索線維伸長を促進し、そして、企図されている移植戦略に新規安全性/規制性特徴を含む。例えば、いくつかの実施形態では、目的の細胞種に対する単なる表面マーカースクリーン(例えば、CD142)から始まって特定のニューロン種についての意義ある濃縮戦略までの細胞精製の方法が示される。いくつかの実施形態では、ヒトにおいて使用される細胞の供給にこの方法を用いることが企図される。さらに、他の実施形態では、PSA‐NCAMの遺伝子操作発現がインビボでの神経修復に用いるための軸索伸長の強化に企図される。そのような適用には、運動ニューロン病、ハンチントン病又は主に投射ニューロンを冒す他の障害を治療するための長距離軸索伸長の促進が含まれる。さらなる実施形態がGMP適格万能性細胞供給源及び同種のもののために企図される。本明細書に記載される移植方法は少数のDAニューロンを必要とし、そして、DAニューロン誘導に開発された比較的に費用効果がある小分子方法に基づくので、DAニューロン置換療法は患者一人当たり妥当な費用であると考えられる。
PDにおける移植アプローチの1つの可能性がある生物学的制限は、PDにおけるニューロン変性が進行して、特にその疾患の後期ステージにおいて中脳ドーパミンニューロン以外の多くの細胞種を冒すという事実である。実際に長期試験では、非DA応答性症状が後期PDにおいて優勢であり、嚥下障害、転倒、認知症及び他の重要な罹病につながる。しかしながら、いくつかの非運動症状はドーパミン系機能の回復から利益を受けると考えられる。さらに、その疾患の初期ステージにおけるhESC由来DAニューロンの使用が線条体のドーパミン応答性集団の変性を含む二次的PD症状のいくつかを防止すると考えられる。しかしながら、その疾患の非DA応答性症状への影響が無い状態であっても、線条体の長期機能性ドーパミン系の回復はこの現在では不治の障害の治療に対する主要成果であろう。パーキンソン病の場合、薬物系戦略及び脳深部刺激療法などの外科的アプローチを含む、いくつかの利用可能な代替的療法が存在する。いくつかの実施形態では、回復の効力は代替的療法によって達成されるレベルと同等、又はそれを超えると考えられる。他の実施形態では、この成熟DAニューロン細胞移植療法の使用は特定のサブセットの患者に特に有益であると考えられる。他の実施形態では、この成熟DAニューロン細胞移植療法の使用は既存の薬物アプローチ及び外科的アプローチへの追加的使用のために考えられる。本発明の成熟DAニューロン細胞移植療法を使用することの1つの主要な利益は、移植後の独特の神経回復性、すなわち、薬物療法の段階的除去のために患者に使用することが考えられる神経機能の長期回復である。細胞移植は、薬物又は他の療法に対して反応するものと異なる範囲のDA関連症状に影響すると考えられる。従って、1つの実施形態では、成熟DAニューロン移植をDBSと使用することが考えられる。別の実施形態では、成熟DAニューロンを治療法との関連で使用することが考えられる。
A)パーキンソン病と現行の治療法。家族型のPDに寄与するまれな遺伝的変化の特定に大きな進歩がなされた。しかしながら、大部分のPDの事例にとって、どのような潜在的な遺伝的素質の寄与も不明のままである。PDにおける伝統的な治療戦略は、臨床的症状の発生時に黒質における全てのDAニューロンの30〜70%が不可逆的に変性したという事実によって制限される。1つの治療選択肢はDA前駆体L‐ドーパを使用するDAニューロン欠損の薬理学的置換である。しかしながら、L‐ドーパ療法に対する幾人かのPD患者の劇的な初期応答にもかかわらず、長期臨床転帰は不良のままであり、そして、運動変動及びジスキネジアを含むL‐ドーパ療法の重篤な副作用が後期ステージの疾患に頻繁に生じる。L‐ドーパの拍動性送達はこれらの後期ステージ運動合併症の発生に主要な役割を有するので、ドーパミンの「よりなめらかで」より生理的な送達、すなわち、例えば本発明の移植された細胞からの送達が従って非常に望ましいだろう。薬理学的戦略に加えていくつかの外科的治療選択肢が存在する。これらには淡蒼球切除術による基底核内の細胞の除去若しくは機能不活化、又は視床下核若しくは淡蒼球内節を標的とすることによる脳深部刺激が含まれる。これらの外科的選択肢幾人かの患者に対する代替法であるが、それらの選択肢は疾患の症状の軽減をもたらすが、正常なDA機能を取り戻すことはない。さらに、ハードウェア不良、感染症、卒中、出血及び同種のものを含む外科的及び非外科的副作用が報告されている。他の治療選択肢には直接的な実質内点滴又は遺伝子療法によるウイルス性発現を用いるGDNF又はニュールツリンなどの成長因子の送達が含まれる。PDにおける最初の非盲検試験はGDNFについて有望な結果を示したが、その後のより大きい組の患者での比較対象試験はどのような利益も確認することができず、そして、患者のサブセットにおいて抗GDNF抗体の産生に起因する可能性がある安全性の懸念を引き起こした。GDNF関連分子であるニュールツリンのAAVベースの送達も大規模なプラセボ対照多施設臨床試験においてどのような有意な臨床的利益も示すことができなかった。視床下核へのAAV担持グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)注射の第2相試験の初期のデータが細菌報告された(Lancet Neurology, 2011年4月)。しかしながら、臨床的利益はこの試験では最善でも控えめであった。神経栄養因子ベース又は代替的神経保護戦略に対する努力によって患者に一時的な軽減がもたらされ得るが、それらの戦略の中で細胞置換療法の主要目標である疾患のために既に失われたDAニューロンの回復/置換を行うことができるものはない。
B)PDにおける細胞療法。線条体ドーパミンニューロンの70〜80%及び黒質ドーパミンニューロンの約50%が失われた後に臨床的症状がPDにおいて明らかになる。しかしながら、中脳ドーパミンニューロンは妊娠から8.5週間後までに発生し、寿命の残りの時間を通してドーパミンニューロン置換の証拠はほとんどなかった。従って、疾患発症の時点までのドーパミンニューロンは、これらの細胞を置換する自然の機構が無いので数十歳であり、従ってPD患者の脳においてそれらの細胞を置換するために細胞移植が必要とされ得る。PDにおけるDAニューロン置換は副腎髄質由来クロム親和性細胞の使用に基づいて1980年代に行われた。それらのホルモン産生細胞はCNSへ異所的に配置されると神経伝達物質表現型をアドレナリンからDAに切り換えることが示された。このアプローチを用いて世界中で数百人のPD患者が移植されたが、移植された細胞の生存は非常に悪く、せいぜい一過性の効果を有するだけであることが時間と共に明らかになった。従って、このアプローチは臨床的使用については直ぐに放棄された。対照的に、胎児中脳組織移植は、堅固な長期移植と一群のDA関連行動アッセイにわたる機能改善を示すげっ歯類モデルにおけるより詳細な前臨床試験に基づいた。それらの前臨床データに勇気づけられて、胎児移植が1980年代後期及び1990年代初期に複数の医療施設で続行した。それらの試験は、フルオロドーパPET及び無関連の原因によって死亡した幾人かの患者におけるその後の組織学的試験によって測定される移植領域におけるDA放出の増加を有する機能性長期移植の明確な証拠を示した。しかしながら、胎児移植片の使用は細胞ベースの治療アプローチに関する2つの潜在的な問題を提起した。第一に、胎児移植片の予期せぬ問題は約15%の患者における移植片誘導性ジスキネジア(GID)の誘導であった。GIDの機構には議論の余地がのこっているが、近年の証拠によりセロトニン系ニューロンはDAの不適切な貯蔵と放出を行うことができることが示された。GIDを説明すると示唆された別の可能性がある機構はDAニューロンの不均一な分布、すなわち、DA放出のホットスポットの原因となる不均一な分布であった。対照的に、本発明の開発中に、GIDの発生率を低下させるだろうセロトニン系ニューロンを検出及び減少させるための方法が発見された。さらに、成熟DAニューロンの注射が、ドーパミン系線維末端の宿主線条体内での伸長を含む成熟したニューロンの均一な分布をもたらすだろう。胎児移植治療に関する別の問題は適切な発生ステージにおける胎児中脳組織の限られた利用可能性であった(及び、である)。胎児ブタ由来DAニューロンを使用することにより限定的な供給の問題に応える代替的戦略が臨床的に試みられた。しかしながら、それらの異種移植片におけるDAニューロン生存は悪く、そのアプローチ全体が放棄された。網膜色素上皮を使用する近年の試験もどのような利益も示すことができなかった。対照的に、移植細胞の供給源としてのヒトES細胞の使用が移植に使用されるドーパミンニューロンを作製するための細胞の無制限の供給源を提供すると考えられる。
V. 化合物及び培養方法が本発明の中脳DA(mDA)ニューロンへのFOXA2+及びLMX1A+陽性ニューロン前駆細胞の制御分化のために発見された。
本発明者らは、CHIR99021曝露のタイミングがFOXA2/LMX1A中脳底板前駆細胞の誘導を決定することを本発明の開発中に発見した。従って、本発明者らは、LSB/S/F8処理(すなわち、LSB、S、すなわちSHH、及びFGF8(F8)での細胞の処理)のみ又は様々な時点で開始するCHIRと組み合わせた、すなわち、第0日〜第11日、第1日〜第11日、第3日〜第11日、第5日〜第11日、第7日〜第11日の処理の後の分化第11日においてFOXA2/LMX1Aの免疫細胞化学分析について試験し、CHIR処理が無い細胞の2つ組の培養物と比較した。その後、FOXA2+細胞、LMX1A+細胞及び二重標識細胞のパーセンテージの定量を、免疫細胞化学分析において記載されるようにCHIR曝露の差次的開始後の分化第11日に行った。
A. CHIR99021(C)はヘッジホッグの活性化剤及びパルモルファミンと接触したLSB培養細胞から第11日までにFOXA2+/LMX1A+細胞を誘導するための因子である。次の実施例は、mDAニューロンのニューロン制御分化を誘導するための各化合物の効力を試験するための例となる方法の使用について説明する。
この実施例は、本発明のFOXA2+LMX1A+DAニューロンの制御分化をもたらすための小分子の発見と接触タイミングについて説明する。次のものは、本明細書に記載される実験上の発見のうちのいくつかの概要である:CHIR99021が存在しない状態でのSHHアゴニスト(パルモルファミン+SHH)及びFGF8(S/F8)による二重SMAD阻害細胞の処理によって、第11日までのFOXA2の有意に低い発現とLMX1A発現の完全な喪失が示された(図1a、b)。LSB処理培養物及びLSB/S/F8/CHIR処理培養物において前方マーカーであるOTX2が堅固に誘導されたが、LSB/S/F8条件下では誘導されなかった(図1a、c)。
万能性細胞を含有する細胞集団が出発集団用に本発明者らによって選択され、第0日に播種された。細胞は分化前に集密近く(60〜100%の間の集密)まで培養される。これらの細胞を第0日に二重SMAD阻害剤と接触させた(すなわち、LDN‐193189+SB431542=「LSB」への曝露)。本発明者らは、第11日まで新しいLSBを含有する栄養補給物を定期的に与えて細胞集団に注目し、そして、いくつかの残存細胞はLMX1A+であるが、FOXA2を発現しないことを発見した(図1a、b)。本発明者らは、出発細胞を2つ組で播種し、次にそれらの細胞を異なる曝露計画で接触させる、すなわち、細胞を第0日、又は第1日、又は第2日等に特定の時間、すなわち、24時間、48時間等の間接触させる、次のSHHアゴニスト(パルモルファミン+SHH)及びFGF8(S/F8)のうちのいずれかを含有する混合物との接触の後に、細胞種(すなわち、遺伝子発現パターン/タンパク質発現パターン)について試験した。試験された3つの主要な例となる培養条件は次のものである。1)細胞を第0日にLDN/SB(LSB)と接触させ、次に第5日まで新しいLSBと接触させ、第5日から細胞を第11日までSB抜きで新しいLDNと接触させた。2)細胞を第0日にLDN/SB(LSB)と接触させ、次に第5日まで新しいLSBと接触させ、第5日から細胞を第11日までSB抜きで新しいLDNと接触させ、一方、この期間に細胞を第7日まで新しいパルモルファミン、SHH及びFGF8とさらに接触させた。3)細胞を第0日にLDN/SB(LSB)と接触させ、次に第5日まで新しいLSBと接触させ、第5日から細胞を第11日までSB抜きで新しいLDNと接触させ、一方、この期間に細胞を第7日まで新しいパルモルファミン、SHH及びFGF8とさらに接触させ、一方、細胞種の最適収量を決定するためにこれらの主要な条件をいくつか変えて培養第3日に開始して第11日まで新しいCHIRとさらに接触させた。
B. 他の技術を用いて作製されたDA前駆細胞と比べた底板の中脳領域に由来するFOXA2+/LMX1A+細胞のインビトロ特徴解析。包括的時間的遺伝子発現プロファイリングを用いて3つの培養条件の系統的な比較(図1d)が実施された。差次的発現した遺伝子の階層的クラスター分析が分化第11日までの3つの処理条件を分離した(図8a)。FOXA1、FOXA2、及びPTCH1を含むいくつかの他のSHH下流標的がLSB/S/F8/CHIR処理セットとLSB処理セットの間において最も差次的に調節された転写物の中にあった(図1e)。LMX1A、NGN2、及びDDCの発現は早くも第11日までの中脳DAニューロン前駆細胞運命の確立を示した(図1e、f)。対照的に、LSB培養物はHESS、PAX6、LHX2、及びEMX2などの背側前脳前駆細胞マーカーを濃縮した。LSB/S/F8/CHIR処理とLSB/S/F8処理の直接比較(図1f)によりLSB/S/F8/CHIR群における中脳DA前駆細胞マーカーの選択的濃縮が確認され、RAX1、SIX3、及びSIX6の差次的発現に基づいてLSB/S/F8処理培養物における視床下部前駆細胞同一性が示唆された(下の図2dにおけるPOMC発現、OTP発現も参照のこと)。差次的に発現した転写物の例となるリスト、すなわち表1、2が示されており、そして、第11日の遺伝子オントロジー分析(図8b)(DAVID;http://david.abcc.ncifcrf.gov)がCHIR処理による正準WNTシグナル伝達の強化を確認した。生データは未だGEO(worldwideweb.ncbi.nlm.nih.gov/geo/accession#:[TBD])において利用可能ではない。中脳DA前駆細胞マーカー(図1g)と前方腹側非DAニューロン運命のマーカー(図1h)の遺伝子発現の時間的比較分析により3つの誘導条件が:i)LSB:背側前脳同一性;ii)LSB/S/F8:腹側/視床下部同一性及びiii)LSB/S/F8/CHIR:中脳DA前駆細胞同一性に配分された。
VI. 第25日までの中脳DAニューロンへのFOXA2+/LMX1A+第11日細胞のさらなる分化と最大で第65日まで維持された分化。
さらなる分化のためにニューロン成熟を促進する培地(BAGCT、実施例Iを参照のこと)中に前駆細胞FOXA2+/LMX1A+細胞を維持した。比較のために2つの他の技術を用いてDAニューロン前駆細胞を作製した。これまでの方法と本発明の方法から生じる分化細胞の集団の間で次の種類の比較を行った:A)分化第50日におけるLMX1A、FOXA2及びNURR1と組み合わせたTHについての免疫細胞化学分析、B)ロゼット由来培養物と底板由来(LSB/S/F8/CHIR)培養物を比較する総細胞の中のTH+細胞、FOXA2+細胞、LMX1+細胞、及びNURR1+細胞の定量。(C)底板DAニューロン培養物及びロゼット由来DAニューロン培養物における第50日でのセロトニン+(5‐HT)神経細胞サブタイプとGABA+神経細胞サブタイプ(非DAニューロン混入細胞)のパーセンテージの定量。そして、(D)ドーパミンと代謝物を測定するためのHPLC分析:底板由来培養物とロゼット由来培養物の間のDAレベル、DOPACレベル及びHVAレベルの比較。
第25日までに3つの前駆細胞集団がTuj1+ニューロン(図2a)、及びDAの合成における律速性酵素であるTHを発現する細胞を産出した。しかしながら、LSB/S/F8/CHIR処理により、LMX1A及びFOXA2を共発現するTH+細胞が生じ、そして、核受容体NURR1(NR4A2)の強力な誘導が示された(図2a、b)。第13日培養物と第25日培養物における遺伝子発現の比較によって、他の分裂終了後DAニューロンマーカーの堅固な誘導が確認された(図2c)。LSB処理培養物とLSB/S/F8処理培養物に対する比較において第25日におけるDAニューロン同一性の特徴解析によって、既知の中脳DAニューロン転写物の濃縮が確認され、そして、複数の新規候補マーカーが同定された(図2d、表3〜5、図8b)。例えば、LSB/S/F8/CHIR(中脳DA群)において最も濃縮された転写物は、もともと中脳DAニューロン発生と関係していないが、ヒト黒質において強力に発現している遺伝子であるTTF3であった(図8c;アレン・ブレイン・アトラス:http://human.brain−map.org)。
EBF‐1、EBF‐3(図8c)並びに肝臓におけるFOXA2の公知の転写標的であるTTRについて同様のデータが得られた。本発明の開発中に得られたデータは中脳DA前駆細胞におけるいくつかのPITX遺伝子の濃縮を示した。中脳DAニューロンの古典的なマーカーであるPITX3も分化第25日において強固に発現した(図2e)。そして、無関係のhESC株とhiPSC株が容易に中脳底板誘導とDAニューロン誘導の両方を再現することができた(図9)。本明細書において示されるデータによって、他の試験されたプロトコルと対照的にLSB/S/F8/CHIRプロトコルが中脳DAニューロン運命に合致するマーカープロファイルを発現する細胞を産出することが示された。
底板由来DAニューロンのインビトロ及びインビボの特質を神経ロゼット中間体から得られたDA様ニューロンと比較した(図10及び16)。神経ロゼットのパターン形成はhPSCからDAニューロンを得るための現在最も広く用いられている戦略を表す。底板系プロトコルとロゼット系プロトコルの両方が、長期インビトロ生存が可能であるTH+ニューロンの作製に優れていた(分化第50日;図3−1a)。しかしながら、TH+細胞のパーセンテージは底板由来培養物において有意に高かった(図3−1b)。両方のプロトコルのTH+細胞はNURR1の共発現を示したが、底板由来DAニューロンはFOXA2とLMX1Aを共発現した(図3−1a、b及び3−2)。
GABA及びセロトニン(5‐HT)陽性ニューロンはほとんど観察されなかった(図3−1c)。DAとその代謝物であるDOPAC及びHVAはどちらのプロトコルで作製された培養物にも存在したが、DAレベルは底板培養物で約8倍高かった(図3−1d、e)。中脳DAニューロンは広範囲にわたる線維伸長とシナプシン、ドーパミン・トランスポーター(DAT)、及びGタンパク質共役内向き整流性カリウムチャネルを含む成熟ニューロンマーカーの堅固な発現を示した(黒質緻密部(SNpc)DAニューロンにおいて発現する、GIRK2とも呼ばれるKir3.2)(図3−1f、図11)。SNpc DAニューロンは、脳においてそれらを他の大半のニューロンと識別する電気生理的表現型をインビボで示す。具体的には、それらのニューロンは低速で(1〜3Hz)突発的に電位上昇を示す。また、この低速の電位上昇は低速の閾値下振動電位を伴う。インビトロで2〜3週間の後、生後初期マウスから培養されたSNpc DAニューロンがこれらの同じ生理的特徴を示す。hESCから分化したDAニューロンが一貫して(4/4試験)この特徴的な生理的表現型を示した(図3−1g〜i)。
第65日におけるmDAニューロンのインビトロでの維持によって、TH陽性ニューロンがそれまでのようにFoxA2を発現しており、mDAニューロンに典型的な長い線維を伸長することが示された(図3−1j)。HPLCによるDA放出の測定によって、65日齢TH+ニューロンはインビトロで機能的であることが示された(図3−1k)。
まとめると、中脳底板前駆細胞の神経原性変換及び最適化底板中脳DAニューロン分化プロトコルの開発が本明細書に記載される。底板由来DAニューロンは初期分化ステージ中のSHH及び正準WNTシグナル伝達の小分子ベースの活性化の後にヒトES細胞から得られた(図3−2)。これらのhES細胞はFOXA2/LMX1A二重陽性中脳底板ステージからFOXA2/LMX1Aの共発現を有するTuj1+幼若ニューロンへ、その後堅固なDA放出、及び自律的ペースメーカー活性(図3−2c)を含む黒質緻密部(SNpc;A9型)中脳DAニューロンに特徴的な電気生理学的特質を有する成熟DAニューロンへ(図3−2a、b)発達した。驚くことに、これは非常に効率的な処理であり、培養皿中の半分以上の細胞が成熟中脳マーカープロファイルを採用した(図3−2bを参照のこと)。
VII. 移植されたニューロンとしての底板由来中脳ドーパミンニューロンのインビボでの特徴解析。
次の実施例は治療的細胞置換に使用するための本発明の例となる方法の使用について説明する。その分野における1つの主要な課題は、神経過形成又は非中脳ニューロンへの不適切な分化のリスクが無い状態で機能的にインビボにおいて生着するhPSC由来中脳DAニューロンを作製する、又はテラトーマを発生させる能力である。胎児組織移植試験に基づき、NURR1の発現によって示される細胞周期離脱の時が移植に適切な期間であり得ると本発明者らは考えた(およそ分化第25日、図2)。非傷害成体マウスの第25日細胞を使用する最初の試験によって、移植後6週間でhPSC由来FOXA2+/TH+ニューロンの堅固な生存が示された(図12)。パーキンソン病の宿主における、神経過形成を引き起こすことがない、FOXA2+/TH+細胞の長期生存が試験された。この目的のため、まれな腫瘍原性細胞の曝露に特定の感受性を有する、異種移植片の生存を効率的に支援する株(Quintana, et al. Efficient tumour formation by single human melanoma cells. Nature 456:593〜598 (2008)、参照により本明細書中に援用)であるNOD‐SCID IL2Rgcヌルマウスにおいて6‐ヒドロキシ‐ドーパミン(6‐OHDA)傷害(Tabar, et al. Nature Med. 14:379〜381 (2008)、参照により本明細書中に援用)を行った。高い増殖能を有する細胞の混入の可能性を示すために事前精製することなく底板由来DAニューロン培養物とロゼット由来DAニューロン培養物の両方を移植した(150×103細胞/動物)。移植から4.5か月の後に底板由来DAニューロン移植片がFOXA2共発現性TH+細胞から構成される輪郭のはっきりした移植中核とヒト特異的マーカーhNCAMを示した(図4a〜c)。機能分析によってアンフェタミン誘導性回転行動の完全な救出が示された。対照的に、ロゼット由来ニューロン移植片はTH+ニューロンをほとんど示さず、回転行動の有意な減少をもたらさず(図4d)、そして、大規模な神経過形成を示した(20mm3超の移植片体積;図13)。本明細書において報告される、移植に使用されたロゼット由来神経細胞の広範囲の過形成は本発明者らのグループ(Kim, et al. miR−371−3 Expression Predicts Neural Differentiation Propensity in Human Pluripotent Stem Cells. Cell Stem Cell 8:695〜706 (2011)、参照により本明細書中に援用)及び他のグループ(Hargus, et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 107:15921〜15926 (2010)、参照により本明細書中に援用)のロゼット由来DA移植片を用いるこれまでの研究に匹敵した。その過形成はより長い生存期間(4.5か月対6週間)、移植前のFACS精製の欠如、及びNOD‐SCID IL2Rgcヌル宿主の選択に起因する可能性があった。増殖性のKi67+細胞の数は底板由来移植片では最小であった(総細胞の1%未満)が、ロゼット由来移植片は増殖性神経前駆細胞からなるポケットを保持した。神経過形成は移植片内の初期前方神経外胚葉性細胞によって引き起こされると考えられている(Elkabetz, et al. Genes Dev. 22:152〜165 (2008); Aubry, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U. SA 105:16707〜16712 (2008)、参照により本明細書中に援用)。この仮説は底板由来移植片ではなくロゼット由来移植片での前脳マーカーFOXG1の発現によって裏付けられた。底板由来移植片とロゼット由来移植片の両方に小パーセンテージのアストログリア細胞が存在したが、大半のGFAP+細胞は宿主起源を示すヒトマーカーについて陰性であった(図13)。
本明細書に記載されるNOD‐SCID IL2Rgcヌルマウスにおける結果はFOXA2+/TH+ニューロンの堅固な長期生存、アンフェタミン誘導性回転行動の完全な回復、及び神経過形成のあらゆる兆候の喪失を示した。しかしながら、これらの結果のいくつかはNOD‐SCID IL2Rgcヌルマウスの特定的な使用に起因し得た。この仮説を検証するため、シクロスポリンAを使用して薬理的に免疫抑制した成体6‐OHDA傷害ラットに底板由来DAニューロン培養物(250×103細胞)を移植した。移植から5か月後で移植片の生存は堅固であり(図4e〜h)、FOXA2(図4g)とヒト核抗原(hNA)(図4e)を共発現するTH+細胞は平均で15,000個より多く、TH+/hNCAM+線維が移植中核から周囲の宿主線条体へ発出した(図4f)。TH+細胞はFOXA2に加えて中脳DAニューロンマーカーPITX3及びNURR1を発現した(図4h〜j)。行動分析によって、改善を示さなかった偽移植動物と対照的に、アンフェタミン誘導性回転非対称の完全な回復が示された(図4k)。移植された動物は、DA系の薬理的刺激に依存しないアッセイ法である前肢の無動を測定するステッピング試験(図4l)と円筒試験(図4m)にも改善を示した。遅発性(移植から約3〜4か月後)の回復がヒトDAニューロンについて予期され、そして、それはDAT発現(図4n)のレベルなどのインビボ成熟の速度に依存する。Kir3.2チャネル(GIRK2)又はカルビンジンを発現するTH+細胞の存在は、SNpc(A9)と腹側被蓋領域(A10)のDAニューロンが移植片に存在することを示す(図4o、p)。
マウス(図13)に見られるように、たいていは宿主由来のGFAP+グリア細胞がそうであったように(総細胞の7%;図14)、ラット細胞の中にセロトニン系細胞及びGABA系細胞はまれであった(総細胞の1%未満)。セロトニン+ニューロンは移植片中にほとんど検出されなかったが、宿主由来セロトニン系線維でありそうなhNCAM陰性細胞が観察された(図14)。
マウス、ラット、及びサルにおける底板由来DAニューロンの移植はげっ歯類及び霊長類の種における神経機能の驚くべき回復を示した。短期(6週間)生存アッセイは驚くほど長期の生存のために6OHDA傷害を受け免疫無防備状態の宿主マウスのマウス線条体に対して移植後から最大で5か月間まで延長された。実際、本明細書に記載される新規底板系DAニューロン分化プロトコルと比較されるDAニューロン作製の伝統的なロゼット系の方法(Perrier, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 101, 12543〜8 (2004))の直接比較は、底板由来DAニューロンは長期DAニューロン移植可能であるが、一方、ロゼット系ニューロンは移植可能ではないことを示した(図4a〜c)。
特に、底板(fp)由来(青色の線)ニューロン及びロゼット由来(赤色の線)DAニューロン(図4d)を移植された6‐OH傷害マウスにおけるアンフェタミン誘導性回転の行動回復の堅固な誘導により、fp由来ニューロンはより高い回復率を有することが示された。底板由来DAニューロンを移植されたマウスはアンフェタミンスコアのほとんど完全な回復を示した。ロゼット由来DAニューロンを移植された動物はより低い行動回復を示し、幾匹かは時間経過と共に最初の高い回転数に回復した。
健全な移植片の機能も6OHDA傷害ラットモデルにおいて見出された。そのラットはPDマウスと異なりより複雑な行動アッセイを許容し、そして、薬理学的免疫抑制後の異種移植片設定(ヒト移植プロトコルをより厳密に模倣する治療法)におけるDAニューロン生存を扱う。DA線維伸長と中脳特異的転写因子発現の維持の証拠である良好な移植片生存が真正中脳DAニューロンマーカーを発現する底板由来ニューロンの長期生存を確証した(図4e〜j)。一連の機能アッセイが薬物誘導性回転(アンフェタミン誘導性回転)と突発性行動試験(円筒試験及びステッピング試験)の両方の有意な改善を示した。
本明細書において示される結果によって、2つの独立したマウスモデルにおいて良好な移植片生存と行動分析結果が示された。しかしながら、マウス又はラットの脳において必要とされるDAニューロンの数は霊長類動物及びヒトにおける移植に必要とされるより大きな数の細胞の小さな部分を表す。このプロトコルの拡大可能性を試験するため、2匹の成体MPTP傷害アカゲザルにおいてパイロット移植試験を実施した。
加えて、本明細書に記載される方法と細胞が霊長類動物においても神経機能を回復させるかということは、ヒトにおけるこれらの方法と細胞の使用を可能にすることを支援するときに用いられ得る情報であるが、最初は知られていなかった。従って、霊長類の脳における短期(4〜6週間)インビボ生存と中脳DAニューロン表現型の維持を試験するために少なくとも2匹のサルで最初の一組の試験を実施した。本明細書に記載されるそれらの試験はTH/FOXA2陽性中脳DAニューロンの堅固な生存と宿主線条体の神経再支配の証拠を示した(図4q〜t)。将来のヒト移植試験に必要とされる範囲の数に推定されるものに類似したより大きな数の細胞の移植によって、堅固な中脳DAニューロン生存が引き起こされた。これらの短期のデータに加えて、アカゲザルにおける一組の長期試験を行って細胞の3か月の生存と(併用三重療法として用いられる)毎日のセルセプト、プログラフ、及びプレドニゾンの最適化免疫抑制投与計画を評価した。驚くことに、霊長類の脳におけるヒトES由来中脳DAニューロンの堅固な3か月の生存が、最初の移植試験において観察された強力な宿主ミクログリア応答と比べて大いに低下した移植片に対する炎症性宿主応答と共に発見された(図15を参照のこと)。
具体的には、サルの試験に関連する方法には、底板系プロトコルを用いて分化第25日までに50×106個もの多くの移植可能DAニューロン前駆細胞を得たことが含まれた。古典的な用量は頸動脈に注射された3mgのMPTP塩酸(0.5〜5mgの範囲)であった。これにMPTPの0.2mg/kg静脈内投与によるMPTPの全身性注射が続いた。細胞を脳の各側の3つの位置(後方尾状核及び交連前被殻)に注入し(総計6路、1.25×106細胞/路)、シクロスポリンAで動物を免疫抑制した。その脳の一方の側にH9のGFP発現性サブクローンに由来するDA前駆細胞を注入し、他方の側に非標識H9細胞に由来する細胞を移植した。継続的なFOX2A発現とTH産生を有する、アカゲザルにおけるニューロンの移植を示す結果が図4q〜tに示されている。移植から1か月後に中脳DAニューロンの堅固な生存がGFP(図15)及びヒト特異的細胞質性マーカー(SC‐121)(図4q)の発現に基づいて観察された。各移植中核は、宿主の中に最大で3mmまで伸長するTH+線維のハロによって囲まれた(図4r)。それらの移植中核はSC‐121(図4s)及びFOXA2(図4t)を共発現するTH+ニューロンから構成された。移植片内のSC‐121及びGFP陰性領域はIba1+宿主ミクログリアを含有し(図15)、不完全な免疫抑制を示した。
まとめると、霊長類動物、すなわち、重篤な95%超の内在性中脳DAニューロンの喪失を含む成体MPTP(3mgのMPTP塩酸(1‐メチル‐4‐フェニル‐1,2,3,6‐テトラヒドロピリジン;0.5〜5mgMPTP塩酸までの濃度範囲)傷害アカゲザルにおける新規DA神経細胞集団の移植。MPTP曝露はヒトにおけるパーキンソン病に類似した観察可能な変化と症状を引き起こした。
まとめると、中脳DAニューロン発生を忠実に再現する新規底板ベースのhPSC分化プロトコルが発見された。中脳DAニューロンの基本的特徴を有する細胞の利用が基本的発生研究、ハイスループット創薬、及びPD‐iPSCベースの疾患モデリングなどの広範囲の生物医学的応用を可能にする。重要なことに、この試験は、PDに対する細胞ベースの療法の検討に向かう路での大きな歩みである神経移植用のFOXA2+/TH+ニューロンの規模拡大可能な供給源を得る方法を最終的に確立した。
さらに、hESCからの真正中脳DAニューロンの誘導は移植の時点で優れたインビボ成績(図4を参照のこと)及びDAニューロン収率を示した(ヒト胎児腹側中脳組織の精査後に得られるパーセンテージ(通常約10%)(Sauer, et al., Reston. Neurol. Neurosci. 2:123〜135 (1991)を超える、分化第25日〜第30日の集団中の約40%の成熟したニューロン)。
次は移植後の2つの主要なパラメーターである生存期間と行動評価の程度を評価するときに使用される材料と方法の簡単な説明である。例えば、細胞生存又は表現型の構成を確認することを目的とする短期試験のために行動評価が企図され、そして、動物が生存について移植から約4〜8週間後に試験される。長期試験には移植後の行動評価及び移植から少なくとも5か月間の動物生存が含まれる。PSA‐NCAM修飾などの増強戦略を分析するとき、行動評価は熟練した前肢使用についての階段試験などのより複雑なパラメーターを含むことが考えられる。
インビボ成績を評価するための例となるプロトコルは少なくとも4種の主要な構成要素を有し、そして、次のものを含む:i−傷害誘導、ii−中核行動分析、iii 移植、及びiv−組織分析。これらの方法はラットに用いられたが、いくつかの実施形態では、これらの方法を他の種に用いることができる。
i−傷害誘導.内側前脳束(MFB)内の片側のみの6‐ヒドロキシドーパミン(6‐OHDA)の注射がラットにおいてパーキンソン病様症状を誘導するための1つの標準的アプローチである。6‐OHDAは、MFB内の黒質線条体経路を経由して黒質へ逆行して輸送され、それによってミトコンドリア呼吸酵素の損傷を介して神経細胞死を引き起こす神経毒素である。標的とされるニューロンには黒質緻密部(SNC)内のA9ドーパミン系ニューロン並びに腹側被蓋領域内のA10ニューロンが含まれる。この傷害モデルは尾状核被殻複合体(CPU)内のドーパミンの大規模な片側性除去を引き起こすので、進行したPDの神経化学的結果及び行動結果の試験のための優れた前臨床モデルとして広く試験され、受容されている。行動結果もよく説明されており、突発性回転及び薬物誘導性回転並びに四肢使用障害を含む(下記を参照のこと)。パーキンソン症の両側性モデルはヒトの疾患をよりよく模倣し得るが、それらはラットにおいて無飲症と嚥下不能を引き起こす。
その方法は内側前脳束に沿った2か所への定位的注射により麻酔した動物(ケタミン/キシラジン)において実施された。完全傷害誘導の効率は実験操作者の経験に非常に左右され、本発明の開発中では60〜80%の範囲であった。動物を回復させ、その後、外科手術から2週間後に開始する一連の行動試験の対象とした。
ii−中核行動分析.行動分析は外科手術から2週間後に開始され、移植後から動物が殺処理されるまで継続する。行動分析の目的は1)傷害が安定的であり、完全であること、及び動物が部分的に被傷害動物にみられる現象である症状の突発的な回復を示していないことを確証すること、2)確立された行動パラメーターに対するドーパミンニューロンの移植の影響を実証することである。
a−回転行動.ラットを突発性回転及びD‐アンフェタミン誘導性(同側性)回転(10mg/kg)について観察する。有意な傷害の指標として1分当たり6回転超の閾値が必要とされる。アポモルフィン誘導性回転を分析することもできるが、陽性結果は尾状核被殻におけるドーパミン神経支配の80〜90%超の除去を必要とすると考えられ、そして、CPU傷害と比べるとMFB傷害の場合はあまり一貫していない。三組のデータを2週間の間隔で得て、平均した。6未満の回転スコアを有するラットは試験に含まれない。
b−ステッピング試験.これは前肢の無動についての試験である。実験者が片手でラットを持ち上げ、後肢を動かないようにし(胴をわずかに上げる)、そして、他方の手でモニターすることがない前肢を固定する。こうして他方の前足は体重を支えなくてはならない。ラットをフォアハンド位置とバックハンド位置の両方で横にゆっくりと移動させる。両方の方向と両足について順応ステップ数を計数する。
c−円筒試験.これは前肢使用の非対称性についての試験である。ラットを透明な円筒に配置する。5分の時間の間にラットの立ち上がり行動を記録する。その行動を立ち上がりと着地の間に分析する。これらの運動中の足の同時使用及び非対称性使用のパーセンテージを決定する。これをコンピューター化ビデオモニタリングシステムにより実施することができる。これらの試験での陰性結果はドーパミンの枯渇と相関することがわかり、結果は本明細書に記載され回復性移植のあとに改善されることが示された。
iii−移植.動物がパーキンソン症誘導性傷害から3週間後の時点で線条体へのドーパミンニューロンの定位的注入を受け、そして、行動試験が充分な傷害を確証するか。注射のための座標が広く確立される。移植後に同じセットの行動試験を様々な期間の間(平均で5か月が安定的な行動回復を達成するために必要とされる)2か月毎に実施する。
iv−組織分析.動物を安楽死させ、そして、潅流する。脳の切片を作製し、そして、免疫組織化学と立体解析学的分析のために処理した。抗体にはドーパミンニューロンの同一性と機能に対するTH、FoxA2、Pitx3、Nurr1、Lmx1a、Girk2、DAT:セロトニン系ニューロンを特定するための5‐HT;ヒト同一性に対するヒトNCAM又はヒト核抗原;神経前駆細胞に対するネスチン、Sox2;増殖に対するKi‐67;万能性マーカーに対するOct4、ナノグ;α‐フェトプロテイン;ミオシン;テラトーマ形成を除外するための複数系譜マーカーに対するサイトケラチンが含まれる。定量的パラメーターには移植片体積(カバリエリ推定量)、総細胞数とドーパミン系細胞数(TH/FoxA2二重標識ニューロンを使用)及び増殖指数(Ki67+の%)が含まれる。記載される抗体は市販されており、本発明の開発中に使用される。
いくつかの実施形態では、ヒトの状況をより良くモデル化するためにスプレイグ・ダウリー(SD)ラットの使用が企図される。SDラットは移植の前日に開始して殺処理まで毎日シクロスポリン(15mg/kg)の腹腔内注射を受ける。水性形状のシクロスポリン(ネオーラル、ヒトに使用される経口溶液)の長期の注射に関する罹患は無視できた。
いくつかの実施形態では、mDAニューロン培養物の規模を拡大するための例となる方法が提供される。表9を参照のこと。特定の実施形態では、臨床使用のためのGMPレベルの培養物の作製においてそのような方法の使用が企図される。
評価パラメーター.インビボ試験の使用が、移植片効力がある短期方法と長期方法において企図された。本発明の開発中に得られた結果は両方の事例で同一な組織特徴解析を示し、移植された前駆細胞の分化に起因する長期生存細胞中のTH+細胞の割合の上昇が予期された。
平均して250,000個の細胞当たり15,000個のTH+/FoxA2+ニューロンが移植されると動物は移植後5か月生存した。短時間の生存個体では著しく少ない二重標識細胞が生存し、数えられた。従って、表9に示されるインビボ収量は控えめな見積もりと考えられる。移植片組成物の結果について合格/不合格状態を評価するために用いられた例となるパラメーターが表10に示されている。
長期移植片では、行動評価はhES株産物の性能の必須の構成要素である。機能の喪失と回復を定義する指標が、健全な移植片が行動を正常化し、時にはDAの不均衡に起因する対側性運動を引き起こすはずであるアンフェタミン回転について最もよく記載された。表11に記載される限度は本発明の開発中に決定される例となる指標である。
いくつかの実施形態では、本発明の分化方法において使用するための細胞供給源にはWA09細胞株、ACT(M09)細胞株、バイオ‐タイム細胞株及びロスリン(Roslin)細胞株が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明の分化方法において使用するための細胞供給源にはGMPグレードの株が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明の分化方法において使用するための細胞供給源には短期移植生存分析において使用するための成熟DAニューロンの産生が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明の分化方法において使用するための細胞供給源には行動評価を含む移植実験において使用するための成熟DAニューロンの産生が含まれるが、これらに限定されない。対照は研究グレードのWA09と偽生理食塩水処置群からなる。統計分析はダネット・ポストホク・テスト付きのANOVAを用いる。
A. 神経再支配の程度を評価するための複雑な行動アッセイ.標準的な行動試験(本明細書に記載される)が移植片内の生存しているドーパミンニューロンの数との直接的な相関を示した。本発明の成熟DA神経細胞で処置されたラットでは、行動試験は最大の回復を示し、アンフェタミン誘導性回転を減少させるために必要とされる約30%のDAニューロンの回復が推定される。従って、一度宿主におけるDAニューロンの生存の閾値が達成されると(ラットモデルにおいて推定800〜1200DAニューロン)、増強戦略を反映する行動の違いを区別することが困難であり得る。大きな移植片と対照的に複数の小移植片を線条体全体に配置することになる微量移植アプローチが説明された。移植されるDA細胞の総数を調整しているが、2群を比較すると行動的治療成績に差異が観察された。複数の小移植片を有するラットは単一の大きい移植片及び同じ数のDAニューロン及び同じ量のドーパミン放出を有する動物と比べると薬物誘導性回転及びステッピング試験においてより早く、より広範な行動回復を示した。驚くことに、前肢の上手な使用に明確な差異が存在し、広範囲に分布する小移植片を有する動物が改善を示し、一方、標準的移植片を担持するラットは示さなかった。上手な前肢の使用は、DA放出の空間的及び時間的制御を必要とし、従って移植されたニューロンと宿主線条体の間の適切な連絡を必要とする作業と考えられる。従って、いくつかの実施形態では、移植方法における本発明の成熟DAニューロンの使用により前肢使用の回復がもたらされた。従って、いくつかの実施形態では、本発明の成熟DAニューロンは線条体の1か所に投与される。他の実施形態では、本発明の成熟DAニューロンは線条体内の少なくとも2か所以上に投与される。
B. 上手な前肢使用(又は階段)試験.前肢試験は前肢を伸ばし、ものをつかむことを分析する。前肢試験を傷害前後及び移植後に実施した。試験前に48時間動物を絶食させ、そして、傷害前の5日間に毎日試験し、次に傷害後に3週間の間隔で2回試験した。移植後にその試験を第3月及び第5月にさらに2回繰り返す。二重の階段を装備したプレキシガラスチャンバーに動物を配置した。移植前試験について5つの段の両側にペレット状の食物を配置し、移植後は片側(回転とは反対側の影響を受けた肢の側)に配置する。動物は設定された時間枠(例えば、10分)にわたって試験される。食された(到達に成功した)ペレットと取られたペレットの数と比率が計算され、個々の動物の傷害前の実績と比較された。試験の反復回数とタイミングに関するこの試験のいくつかの変法が存在した。
VIII. 本明細書に記載される方法を用いることによって分化した細胞はDA細胞と類似した電気生理的応答をその場で(In Situ)示した。
次の実施例は、本明細書に記載される方法による分化により生じる中脳DAニューロンの機能的能力を決定するための本発明の例となる方法の使用について説明する。黒質緻密部(SNpc)DAニューロンは脳における他の大半のニューロンからそれらを区別する電気生理学的表現型をインビボで示す。具体的には、それらのニューロンは低速で(1〜3Hz)突発的に電位上昇を示す。また、この低速の電位上昇は低速の閾値下振動電位を伴う。インビトロで2〜3週間の後、生後初期マウスから培養されたSNpc DAニューロンがこれらの同じ生理的特徴を示す。本発明のmDAニューロンが同等の電気生理学的表現型を示したか判定するため、本発明のmDAニューロンの電気的応答シグネチャについてそれらを試験した。培養第80日〜第100日の本発明の中脳DAニューロンを単一細胞レコーディングにより試験した。hESCから分化したこれらのmDAニューロンが、特定の自律的内部標準添加行動及び振動性膜電位変化を示すことによって一貫して(4/4試験)この特徴的な生理的表現型を示した(図3g〜i)。この挙動は自律的ペースメーカー活性として知られ、そして、中脳DAニューロン及び特にパーキンソン病に最も関係があるサブタイプの中脳ドーパミンニューロン(黒質型中脳DAニューロン)の特異的な特性である。
急性スライス調製物、すなわち、移植領域の生検試料からの調製物において電気生理学的測定法を用いることが企図される。1つの実施形態では、PDにおいて最も冒されるA9型ドーパミンニューロンに特異的な自律性ペースメーキング活性の試験に基づいてA9型移植片由来DAニューロンとA10型移植片由来DAニューロンがインビボで見分けられる。言い換えると、A10型ニューロンはペースメーキング活性を有しない。
条件が急性スライス調製物中のヒト万能性幹細胞由来DAニューロンのインビボレコーディングのために確立された。図26を参照のこと。具体的には、移植された万能性幹細胞由来ヒトDAニューロンをマウス黒質緻密部(SNpc)に見られる電気生理的特徴に典型的な特徴について測定し、それらの特徴を有することを発見した。図26Aの上の図は移植片領域におけるペースメーカー・ニューロンの再構成を示す。下の図は、9か月前にhES由来ニューロンを注入したラットから作製した脳の薄片の例となる顕微鏡写真を示す。移植片の輪郭が示されている。より高倍率の画像が底部にある挿入図に示されている。その薄片をチロシンヒドロキシラーゼについて処理した。その処理が白色として際立つ(図26B)。さらに、上の図は細胞移植片中の推定されるDAニューロンからの例となるセルアタッチ・パッチレコーディングを示す。下の図は同じ細胞からの例となるホールセル・レコーディングを示す。レコーディングは、シナプス入力を排除するためにグルタミン酸受容体アンタゴニストとGABA受容体アンタゴニスト(50μM AP5、10μM CNQX及び10μMガバジン)の存在下で行われた。これらのレコーディングは、PS由来ニューロンが通常の体細胞内電圧軌道を有する自律的なペースメーカーであることを示した。移植片試料で記録された別のニューロンが同様の特性を有した(図26C)。比較のため、成体マウスのSNpcにおけるドーパミン系ニューロンからのセルアタッチ・レコーディングとホールセル・レコーディングが示されている。略語(CTx=皮質、STr=線条体、SNpc=黒質緻密部、DA=ドーパミン系)。このデータは、移植から数か月後の移植されたラット線条体のインビボ機能試験を示す。従って、いくつかの実施形態では、移植された組織に対するインビボ機能試験は黒質緻密部(SNpc)の回復を示す。
IX. DAニューロンへのPINK1変異体遺伝的PD‐iPS細胞(PINK1変異)の制御分化が成熟DAニューロンにおけるパーキンソン病様異常を明らかにした。
この実施例は、大集団の中脳DAニューロンが、胚の破壊を引き起こさない方法で得られたPD患者の細胞株、すなわちPINK1変異体PD‐iPSC細胞が本発明のFOXA2/LIM1XA/TH+DAニューロンを得るための細胞集団として使用されたときにPD患者のニューロンの特徴を有して発生したという発見について説明した。
1つの実施形態では、1)神経学的症状を有しないヒトに由来する真正DAニューロンと比べた分化又は機能異常を観察し、次に2)観察された異常を回復させるための治療処置の開発にその異常を用い、そして、3)パーキンソン病の症状を軽減、すなわち回復させるためにその治療処置で患者を治療することについてのインビトロ試験における処置細胞の使用の潜在的利点のため、本発明者らは、真正DAニューロンをインビトロで作製する方法において使用するためにパーキンソン病(PD)の症状を有する患者から出発細胞集団を単離することを企図する。
1つの実施形態では、免疫学的拒絶、すなわち、移植拒絶の減少という潜剤的利点のため、本発明者らは、移植処理において使用するための真正DAニューロンを得るためにパーキンソン病(PD)の症状を有する同じ患者から出発細胞集団を単離することを企図する。他の実施形態では、その主要組織適合抗原(MHC)が適合するヒト(すなわち双子)又は移植に許容可能なMHC組織適合を有するヒト(例えば、患者の親類)又は重複するMHC分子を発現する無関係のヒトから単離された初期細胞供給源を使用することによって移植拒絶の減少が考えられた。
A. 制御分化により遺伝的PD‐iPS細胞PINK1細胞は中脳様DAニューロンに発達する能力を含有することが示された。図20〜25を参照のこと。本明細書に記載される新規底板ベース中脳DAニューロンプロトコル(方法)を用いてPINK1 Q456X変異体PD‐iPSC株を分化させ、新規底板ベース中脳DAニューロンプロトコルで分化したH9株から得られた分化プロファイルと同等のプロファイルを発現する中脳DAニューロンを産出した(図20)。この実施例は、大集団の中脳DAニューロンが、胚の破壊を引き起こさない方法で得られたPD患者の細胞株、すなわちPINK1変異体PD‐iPSC細胞が本発明のFOXA2/LIM1XA/TH+DAニューロンを得るための細胞集団として使用されたときにPD患者のニューロンの特徴を有して発生したという発見について説明した。
PINK1 Q456X変異体PD‐iPSC株は本発明の新規底板ベース中脳DAニューロンプロトコル(方法)を用いて分化させられ、iPSC H9株から得られる中脳分化プロファイルと同等のプロファイルを生じた。(A〜C)PINK1変異体PD‐iPSC株の分化第11日(中脳前駆細胞期)におけるFOXA2(赤)、LMX1A(緑)及びDAPI(青)(A)についての、分化第25日(初期分裂終了後DAニューロン期)におけるFOXA2(赤)とTH(緑)(B)についての、及び、NURR1(赤)とTH(緑)(C)についての免疫細胞化学分析。(D〜F)分化第11におけるFOXA2(赤)、LMX1A(緑)及びDAPI(青)(D)についての、分化第25日におけるFOXA2(赤)とTH(緑)(E)についての、及び、NURR1(赤)とTH(緑)(F)についての、H9由来細胞を使用して実施された同じセットの免疫細胞化学分析。
B. 遺伝的PD‐iPSCはタンパク質凝集というPD様表現型を発現した。図21〜24.本発明者らは、新規底板ベース中脳DAニューロン誘導プロトコルを用いる分化の第55日にPINK1変異体PD‐iPSCがTH+DAニューロンの細胞質においてα‐シヌクレイン(PD患者のレビー小体の主要成分)発現の証拠を示すことを発見した(図21a〜b)。(A、B)PINK1変異体PD‐iPSC株の分化第55日におけるα‐シヌクレイン(LB509、赤)、TH(緑)についての免疫細胞化学分析と統合画像(A)及びα‐シヌクレイン(赤)とユビキチン(緑)についての免疫細胞化学分析(B)。これらのα‐シヌクレイン陽性細胞はユビキチン(古典的なレビー小体マーカー)の高発現も示した。対照的に、対照iPS株に由来するDAニューロンは(細胞質性と対照的に)正常なシナプス性α‐シヌクレイン発現と非常に低レベルのユビキチンの発現を示した(図21c〜d)。(C、D)対照iPSC株の分化第55日におけるα‐シヌクレイン(赤)とTH(緑)(C)、及びα‐シヌクレイン(赤)とユビキチン(緑)(D)についての免疫細胞化学分析。
C. 凝集型のα‐シヌクレインの発現。PD患者の脳では、二量体化した不溶性形態のα‐シヌクレインがレビー小体において凝集を引き起こす。二量体型のα‐シヌクレインはα‐シヌクレイン上のセリン129のリン酸化を示す。分化の同じ日にPINK1変異体PD‐iPSC由来細胞はセリン129リン酸化α‐シヌクレインの強い発現を示し、対照iPSC由来細胞の非常に低レベルの発現と対照的であった(図22)。
PINK1変異体PD‐iPSC由来細胞はセリン129リン酸化α‐シヌクレインの強い発現を示し、対照iPSC由来細胞の非常に低レベルの発現と対照的であった。(A、B)分化第55日におけるPINK1変異体PD‐iPSC由来細胞(A)及び匹敵する対照iPSC由来細胞(B)におけるセリン129リン酸化α‐シヌクレイン(緑)及びDAPI(青)の免疫細胞化学分析。
D. α‐シヌクレイン発現パターンの差異が分化プロトコル中に観察される。本発明者らは、底板由来「真正」中脳DAニューロンがPD特異的脆弱性及び対応する特異的インビトロ表現型を示すと考えた。古典的なMS5間質性フィーダー細胞ベース分化プロトコル(Perrier et al., PNAS 2004、参照により本明細書中に援用)を用いて得られるDAニューロンは多数のTH+ニューロンを産出した。しかしながら、本発明の開発中に得られたデータに基づき、本発明者らは、MS5系TH+細胞が真正の底板由来中脳DAニューロンではないことを示した。MS5プロトコルにより分化する培養物には多数のα‐シヌクレイン陽性細胞が存在した。しかしながら、それらの細胞はTHを共発現しなかった。また、MS5分化戦略を用いるとき、PD‐iPSCと対照iPSCの間では発現パターンに差異は存在しなかった(図23a〜b)。これらのデータは、α‐シヌクレインが他の非DA細胞種においても発現すること、及びそのような非DA α‐シヌクレインは、特に標準的なMS5分化プロトコルを用いたときに、疾患由来細胞と対照iPSC由来細胞の間で変化しないことを示している。これらは刊行物(例えば、Perrier PNAS 2004)において報告されているDA様ロゼット由来ニューロンである。それらのMS5系TH+(=DA様)細胞は図3、10、13及び16における比較のために使用される。これらのデータは、α‐シヌクレインが他の非DA細胞種においても発現すること、及びそのような非DA α‐シヌクレインは、特に標準的なMS5分化プロトコルを用いたときに、疾患由来細胞と対照iPSC由来細胞の間で変化しないことを示している。そして、本明細書に記載される新しい底板系分化プロトコルによりα‐シヌクレインを共発現する多数のTH+細胞が生じる。それらのTH+細胞は細胞質性発現パターンでα‐シヌクレインを発現する。(図24A、B)MS5ベース分化の第60日におけるPINK1変異体PD‐iPSC株(A)、及び対照iPSC(B)のα‐シヌクレイン(LB509、赤)、TH(緑)についての免疫細胞化学分析。(C)底板ベース分化の第55日におけるPINK1変異体PD‐iPSC株のα‐シヌクレイン(赤)、TH(緑)についての免疫細胞化学分析。
E. 遺伝的PD‐iPS細胞に由来するDAニューロンは有害性刺激に対してより脆弱である(図24〜25)。底板系プロトコルから得られたPD‐iPSC由来TH+DAニューロンは対照iPSC由来細胞よりも毒素負荷に対して脆弱であった(バリノマイシン:ミトコンドリアイオノフォア、5uM(1〜10uMまでの濃度範囲)、48時間)。対照的に、古典的なMS5系プロトコルにより得られたTH+ニューロンはPD由来細胞と対照由来細胞の間で差次的脆弱性を示さなかった(図24)。バリノマイシン処理から48時間後のアラマーブルーを使用する全細胞生存性アッセイによっても、PD‐iPSC及び対照iPSCを比較すると毒素負荷(5及び10uM)について特定の範囲における差次的細胞生存が示された(図25)。MS5系プロトコルより得られたPD‐iPSC由来培養物と対照iPSC由来培養物の両方の正常状態(D、PD‐iPSC由来細胞が示される)、PD‐iPSCにおける毒素負荷後のTH+ニューロン(E)、及びMS5プロトコルより得られた対照iPSC由来培養物(F)。(G〜H)分化第60日における底板系プロトコルによるTuj1(赤)及びTH(緑)についての免疫細胞化学の低出力画像:正常状態(G)と毒素負荷状態(H)のPD‐iPSC及び正常状態(I)と毒素負荷状態(J)の対照iPSC。(K〜N)分化第60日におけるMS5系プロトコルによるTuj1(赤)とTH(緑)についての免疫細胞化学の低出力画像:正常状態(K)と毒素負荷状態(L)のPD‐iPSC及び正常状態(M)と毒素負荷状態(N)の対照iPSC。
F. 毒素負荷についての細胞生存性用量応答アッセイの例となる定量。バリノマイシン処理から48時間後のアラマーブルーを使用する細胞生存性アッセイによって、PD‐iPSCと対照iPSCを比較すると、毒素負荷(5及び10uM)について特定の用量範囲における差次的細胞生存が示された(底板ベース分化の第60日)。注記:このアッセイは全ての細胞死について試験するが、最も劇的な効果はDAニューロンにおいて特異的に観察された(図14を参照のこと)。従って、アラマーブルーに基づく定量はDAニューロン系譜で観察される差次的効果の程度を過小評価する可能性がある。
X. 例となるmDAニューロンを提供するために本発明の組成物と方法を使用する大規模培養の企図
本明細書における記載は、本明細書に記載される組成物と方法による分化により生じるmDA神経細胞の大規模生産のための例となる方法と使用を示す。規模拡大可能な作成法(すなわち、比較的少数の細胞を含有する培養物からのmDA神経細胞の作製に成功すると考えられている方法)が第25日において移植可能なmDAニューロンが可能である細胞集団を産出することが示された。とりわけ、PINK iPSC細胞について表9を参照のこと)。
XI. 中脳DAニューロンの濃縮方法
(複数の)問題を克服することによって、例えば、混入万能性幹細胞を含むが、これらに限定されない混入細胞集団を除去することによって中脳DAニューロン前駆細胞について細胞集団を濃縮することを目標に、本発明の開発前及び開発中にいくつかの方法を開発及び試験した。初代の胚性マウスニューロン集団、胚性ラットニューロン集団及びマウスESC由来集団を使用して最初の試験を実施した。DAニューロン濃縮に使用するための神経集団の増加という目標を有することに加えて、そのマウスESC試験は以前の方法で問題であったテラトーマの形成を防止する方法の開発を含んだ。これらの戦略には神経マーカー(NCAM)を発現する細胞の陽性選択と共に万能性細胞で発現される細胞表面マーカー(例えば、SSEA1)についての陰性選択が含まれた。マウス細胞を使用して、DAニューロン移植パラダイムにおける神経細胞の濃縮の特定(例えば、SOX1、コリン(Corin)/Lmx1a、Ngn2、TH、Pitx又はDATの発現を有する細胞の特定)において使用されるいくつかの遺伝的レポーター戦略が提唱された。機能試験がNgn2レポーターマウス由来の初代細胞(Thomposon et al., Exp Neurol. 198(1):183〜98 (2006))及びコリンについても選別されたLmx1Aレポーターマウス由来の初代細胞(Jonsson, Exp Neurol. 219(1):341〜54 (2009))において実施された。マウスESC由来集団についてはSOX1(Barraud et al., Eur J Neurosci. 2005 22(7):1555〜69)、TH(Kelly et al., Minerva Endocrinol. 1991 16(4):203〜6)、Pitx3(Hedlund et al., Stem Cells. 2008 26(6):1526〜36)及びDAT(Zhou et al., Stem Cells. 2009 27(12):2952〜61)マウスESCレポーター株を使用して試験が実施された。加えて、本発明者らは本発明の開発中にDAニューロン発生の連続するステージを代表する3種の精製されたマウスESC由来集団、すなわち、中脳前駆細胞(Hes5::GFP)、初期分裂終了後細胞(Nurr1::GFP)、及び成熟DAニューロン(Pitx3::YFP)のインビボ成績を直接比較する包括的な移植試験を実施した。それらの試験はNurr1発現性DA発生を移植に特に適切なものと特定し、そして、精製されたDAニューロンはインビボで効率的な生着が可能であることを示した。さらに、これらの結果は、PDのマウスモデル、ラットモデル及びアカゲザルモデルへのhESC‐DAニューロンの移植に使用するための分化第25日(Nurr1発現の開始日)における細胞の選択のために使用された。
本発明の開発中にhESCからの真正中脳DAニューロンの作製がshowed優れたインビボ成績(図4を参照のこと)を示し、本明細書に記載されるプロトコルの使用が移植の時点で約40%のDAニューロンの収率をもたらした。このパーセンテージはヒト胎児腹側中脳組織の精査後に得られるDAニューロンのパーセンテージ(通常約10%)を超えた。従って、細胞精製戦略を用いるとき、本明細書に記載されるDAニューロンのhESC系供給源の使用が純度を一層さらに改善するために企図される。加えて、マウス試験において使用されるレポーター株と類似したhESCと使用するためのNurr1::GFP株のようなヒト細胞株を含む遺伝的レポーター株が開発された。しかしながら、GFPはヒトにおいて免疫原性であり、したがって、ヒトでの使用に適切ではないため、遺伝的レポーターの使用はヒトにおける翻訳による使用にとって問題であり得る。さらに、高額な費用の可能性と貯蔵状態からの回復後のより低い細胞収量に加えて移植毎に必要とされる約109個もの規模の細胞を選別することに必要であろう時間の長さを考えると、FACS選別は臨床グレードのDAニューロンマスター細胞バンクの確立(すなわち、移植に使用するためのヒトDAニューロンの凍結貯蔵物の開発)にとって問題であり得る。
本発明者らは、遺伝的レポーター系とFACSベースの細胞単離と対照的に、PD患者での使用について考えられている細胞分離技術の代替的戦略を用いる表面マーカーの発現に基づくDAニューロンの単離を企図した。例えば、磁性ビーズ選別(例えば、CliniMACS(登録商標)システム)はFDAに認可された細胞ベースの用途において広く使用されており、GMP準拠条件、すなわち、ヒトで使用するための細胞の単離について承認された条件の下での最大1010個の細胞の迅速で費用効果がある単離を可能にした。従って、いくつかの実施形態では、移植において使用されるNurr1+ニューロンの濃縮のために、例えば、磁性ビーズに結合したCD142を使用する磁性ビーズ選別が成熟DAニューロンの濃縮のために企図される。
XII. 成熟DAニューロンを提供する方法において使用される細胞表面マーカーの特定
本発明の開発中に収集された細胞表面マーカー発現データは中脳DAニューロンで発現されるいくつかの新規細胞表面マーカーの特定を示した。具体的には、細胞、例えばDAニューロン、本発明の成熟DAニューロン及びA9細胞に成熟するだろう特定の細胞をさらに特定するためのマーカーが見出された。2つの主要な戦略がそのような表面マーカーを特定するために用いられた。第一に遺伝的レポーター株における無作為遺伝子発現スクリーン(図27a)がCD142、及び中脳DAニューロンで選択的に発現し、A9型DAニューロンを特異的に標識するように見えるDCSM1という名前のマーカー(図27b)を含むいくつかの候補マーカーを示した。第2の戦略は、96ウェル形式の242種の市販の抗体を試験するhESC由来DAニューロンにおけるCD細胞表面マーカースクリーンの使用であった(図27c、d)。そのような例となるスクリーンの結果(図27e)によって、CD63、CD99、及びDCSM1に加えてNurr1+DAニューロン期を選択的に標識したマーカー(図27f)であるCD142を含む、中脳DAニューロンにおいて濃縮される少なくとも5個の検証済みのマーカーが特定された。
具体的には、図27に示されるように、分化第25日におけるWA09由来DAニューロンについてCD表面マーカースクリーンが最大で242種の個々の抗体を試験した。これらの結果が広範囲の他のWA09由来神経細胞種(例えば、hESC由来HB9::GFP+運動ニューロン、hESC由来大脳皮質ニューロン、hESC由来Nkx2.1::GFP+腹側前脳前駆細胞、及びいくつかの他のhESC由来ニューロン種)の2つ組のスクリーンと比較された。次に、表面マーカー発現プロファイルについての結果生じるデータベースを使用して中脳DAニューロン(図27)などのあらゆる所与のサブタイプに関して選択的に濃縮された候補CDマーカーを選択した。hESC DAニューロン分化に関連して発見されたマーカーのうちの1つがCD142であった。細胞のCD142選別がNurr1+ステージにおいてhESC由来DAニューロンを特異的に濃縮したが、一方、他のニューロンサブタイプを除去した。いくつかの実施形態では、CD142はNurr1+の前に発現する。いくつかの実施形態では、CD142について選別された中脳DA神経細胞集団はNurr1+細胞及びNurr1−細胞を有する。いくつかの実施形態では、CD142について選別された中脳DA神経細胞集団はNurr1−細胞を有する。いくつかの実施形態では、Nurr1−CD142+選別済み培養中脳DA神経細胞集団は選別から最大で2日の間にNurr1を発現し始める(すなわち、Nurr1+になる)。
CD142に加えて、CD63及びCD99がhESC由来DAニューロンで濃縮されるマーカーであった。従って、いくつかの実施形態において、DAニューロン培養物は、CD142、CD63、CD99、DCSM1、Nurr1+等を含むが、これらに限定されないマーカーによる選別又は選択によってDAニューロンを濃縮される。CD142は通常分化第25日において総細胞集団の約30%を標識する(図28a)。Nurr1+DAニューロン期についてのCD142の選択性は複数の無関係のhESC株とhiPSC株で確認された(図28b)。重要なことに、DAニューロンの濃縮に加えて、CD142はGABA系ニューロンとセロトニン系ニューロンなどの他のニューロンサブタイプを選択的に枯渇させる(図28c〜f)。検出可能な混入GABA系ニューロン及びセロトニン系ニューロンが無い高純度のDAニューロン移植片を生じさせるCD142の能力を示すインビボ試験が実施された。セロトニン系ニューロンは、移植片誘導性ジスキネジアの潜在的な原因としてヒト胎児組織移植に関連付けられている細胞種である。精製されていない細胞を使用する本明細書に記載される移植方法によって早くも非常に少ないセロトニン系ニューロンが生じたが、CD142の使用がこの危険性をさらに低下させるはずである。
A. A9型成熟mDAニューロンを特定するためのマーカー.A9由来DAニューロンとA10由来DAニューロンはそれぞれ中脳線条体系機能と中脳辺縁系機能におけるそれらの役割に特異的な別個のインビトロ及びインビボ機能特性並びに神経支配パターンを有することが分かった。本発明の開発中に本発明者らは、本発明の方法によって作製された真正mDAニューロン(図4)がA10の特徴よりもA9の特徴を多く有するニューロンを生じることを発見した。特に、TH+である真正mDAニューロンは、A9型DAニューロンを定義するために使用されるマーカーであるGirk2を少なくとも部分的に発現した。加えて、多くの成熟DAニューロンがA9型DAニューロンには存在するが、A10型DAニューロンには存在しない機能特性である自律的ペースメーカー活性を示した。しかしながら、インビトロで作製されたTH+細胞にはA9同一性を有しないものもあった。従って、本発明者らは(A10)ニューロンに対して精製されたヒトA9型真正mDAニューロンの集団を提供するための本明細書に記載されるもののような濃縮方法を企図した。本明細書に記載されるように、本発明者らはA9型ニューロンに対して特有の少なくとも2つのマーカーと少なくともA10型ニューロンに対して特有の少なくとも2つのマーカーを発見した。従って、いくつかの実施形態では、A9型ニューロンは(Girk2、Aldh1)によってA10(カルビンジン、Otx2)マーカーから識別される。
B. A9サブタイプを有する中脳DAニューロンの収量を増大させたマーカーセットの明確化。A9特異的表面マーカーの明確化のために少なくとも2つの戦略が考えられた。候補マーカーは本明細書に記載されるもののような遺伝子発現スクリーンから得られ、そして、候補CD抗体は本明細書に記載されるような表面マーカースクリーンから得られた。集団。別の方法では、別個の分化ステージにあるマウスESC由来mDAニューロンの精製集団における包括的トランスクリプトーム分析(BAC遺伝子導入技術を用いる;図27a、bを参照のこと)。表面マーカーは次の例となる方法を用いてWA09RCBに由来するDAニューロンに対する表面マーカープロファイルにおいて発見された。分化第25日のRCB WA09由来DAニューロンを剥離させ、そして、96ウェルプレートに再播種し、続いて242種のCD抗体に曝露し、そして、オペレッタ・ハイコンテント・スキャナーを使用してデータ分析した。これらのスクリーンにおいて特定されたCDマーカー(例えば、CD142、CD63及びCD99)に結合するさらに少なくとも5種の抗体についてDA濃縮の量を試験した。候補CD陽性細胞とCD陰性細胞は、FOXA2/TH及びTH/Nurr1の発現を含めてDA QCアッセイを用いて評価された(表7を参照のこと)。いくつかの実施形態では、包括的遺伝子発現プロファイルがCD142+細胞に対する無選別の細胞の比較のために考えられる。いくつかの実施形態では、所望のマーカーの発現について選別/分離された細胞が本明細書に記載される短期及び長期のインビボ試験において使用された。中でもこれらの試験において特定されたDAニューロン特異的マーカーはDCSM1(DA細胞表面マーカー1)と呼ばれる表面マーカー遺伝子であった。インサイチュ(in situ)発現データに基づくと、発生中のマウスの脳と成体マウスの脳(図27)でもヒト成体脳でも発現は腹側中脳内であるが、より驚くことに、少なくともA9選択的であることが分かった。hESC由来DAニューロンにおいてDCSM1発現を発現する多数の細胞が観察された。A10同一性に対するA9同一性についてのインビトロアッセイにはマーカー+細胞の長期分化(分化第50日と第75日)及び(i)成熟ニューロンにおけるA10(カルビンジン、Otx2)マーカーに対するA9、(Girk2、Aldh1)マーカーの発現の分析、(ii)ネトリン‐1とSema3に対する差次的軸索ガイダンス応答の分析が含まれ、そして、(iii)濃縮A9ニューロンは電気生理学試験によって評価された。A9DAニューロンは、hESC由来A9ニューロンについて本明細書に記載される特異的な機能特性を示した。(i)A10マーカー(カルビンジン、Otx2)に対するA9マーカー(Girk2、Aldh1)の発現、(ii)移植片DA線維伸長及び(iii)薄片調製した移植細胞における電気生理学的A9特性(図26を参照のこと)を確証するためにDCSM1及び他のマーカーを発現する細胞に対してインビボ試験を実施した。
XIII. ポリシアル酸(PSA)とポリシアル酸トランスフェラーゼ(PST)酵素の使用
移植片の組み込みとDA線維伸長の程度はPD患者における胎児移植試験を含む移植方法における課題である。移植片組織及び細胞が出会う1つの問題は患者を治療するときのこれらの移植片からの線維伸長の制限である。この問題は、患者の回復が広範囲の線条体神経再支配を必要とするのでヒトにおいて特に重大である。以前の方法では、組織移植後の充分な神経再支配の達成には線条体のいたる所への細胞供託物の複数回の注入が必要とされた。注入毎に他の外科的リスクと共に線条体の損傷と炎症が引き起こされ得る。そのようなリスクには、患者において卒中又はけいれんを引き起こす可能性があるだろう細胞注入の間の血管の損傷が含まれる。PSAは、(ポリシアル酸化)神経細胞接着分子(NCAM)、NCAM(CD56)、及び同種のものなど、他の細胞表面分子の(ポリシアル酸トランスフェラーゼ(PST)酵素の作用による)翻訳後修飾として特定された天然細胞表面シアル酸ホモ重合体(すなわち、α2,8‐結合シアル酸)である。PSAは、細胞移動と軸索伸長を含む、細胞間相互作用の変化を必要とするいくつかの細胞行動の可塑性の調節に機能するようであった。PSAは、胚においてよく発現されるが、構造的及び生理的可塑性を維持するCNSの局所領域(例えば、海馬、視交叉上核、SVZ)を例外として成体の組織では下方制御された。従って、いくつかの実施形態では、移植された細胞の線維伸長の促進にポリシアル酸(PSA)を使用することが企図された。他の細胞種におけるPSAの使用の例は、全体の参照により本明細書中に援用される国際公開第2006/042105号に記載されている。いくつかの実施形態では、本発明者らは本明細書に記載されるPSAと組み合わせた真正DAニューロンの使用を企図する。
A. PD患者において使用するためのDAニューロンにおけるPSAの増加.小動物モデルの使用による以前の結果に基づく方法と細胞を提供するために、移植細胞の限定的な生存と宿主組織の貧弱な線維神経支配を含む、大きな課題が残っている。これらの制限の影響はより大きなヒト線条体でより重大であると考えられ、従って、生存と神経支配の強化がES由来DAニューロンの効果的な臨床的応用に必要である。少なくとも1回の注入、最大で数回の注入の使用を含む、動物モデルにおける線維伸長と移植片の組み込みの改善は、インビボでのDAニューロンの複数回の注入又は少ない分布に関連するリスクの低下を表すと考えられる。
ポリシアル酸(PSA)による細胞相互作用の調節は、脊椎動物の発生の間に細胞分布、軸索伸長及び標的神経支配を促進する要因のうちの1つである。例えば、Rutishauser, Polysialic acid in the plasticity of the developing and adult vertebrate nervous system. Nat Rev Neurosci 9, 26〜35 (2008)を参照のこと。PSAは、細胞間相互作用を弱め、それによって組織可塑性を促進する、神経細胞接着分子(NCAM)に結合した炭水化物重合体であった。グリア性瘢痕では、成体脳におけるPSAの発現強化が脳室下帯から大脳皮質へのニューロン前駆細胞の移動を促進し、軸索伸長を改善した(El et al. Use of polysialic acid in repair of central nervous system. Proc Natl Acad Sci U S A 103, 16989〜16994 (2006))。本明細書に記載されるように、精製されたマウスES由来DAニューロンでのPSA発現の遺伝子操作による増加が移植片細胞数の改善、宿主線条体への広範囲のDAニューロン線維伸長及び、驚くことに、パーキンソン病のマウスにおける行動回復の強化を引き起こした。さらに、細胞表面PSAレベルの上昇のためのESC由来DAニューロンの遺伝子操作がインビボ生存と宿主線条体への線維伸長を同時に増大させた。哺乳類、すなわち、マウス又はヒトのPST遺伝子を使用するための一例となる実施形態が図29に示されている。図29に示されている別の例となる実施形態は細菌性PST、すなわち、PSTnmの使用を示す。具体的には、本明細書に記載されるように、PDの治療において使用するために、成熟DAニューロンベースの細胞療法に使用される細胞でのPSAの増加が考えられる。
B. PSA発現を上昇させるためのマウスPSTの使用.インビボの結果はマウスPST細胞修飾移植片を受容した6‐OHDAマウスにおける神経突起伸長の増大とアンフェタミン誘導性回転の回復を示したが、PSTで修飾されていない同数の細胞は同じことを達成することができなかった(図33)。また、DA線維神経支配の改善は、PDマウスモデルにおける行動的治療成績の向上と相関することが観察され、例えば小(約50,000細胞の注入)PSA陽性細胞移植片が作製されたときにそれらは、より大きい(100,000以上の細胞)比較のための移植片の使用と比べて対象とされる約70%の領域である移植片の組み込みと線維伸長をもたらす。PSA増強ES由来DAニューロン移植片と対照処理ES由来DAニューロン移植片の並置比較は(移植片がそれぞれ55,000細胞の移植によるとき)対照細胞では観察されない行動回復をPSA群において示した。マウス脳における100,000個のES由来DAニューロンの移植はPSA処理ES由来DAニューロンと対照処理ES由来DAニューロンの両方で行動回復を示し、100,000細胞に由来する移植片はPSAの増強無しでマウス脳を神経再支配するのに充分であることを示唆した。従って、別の実施形態では、PDを有する患者の治療のための方法の中で真正DAニューロンの表面におけるPSA発現の遺伝子操作による発現を使用することが考えられる。PSAが本発明の神経細胞で誘導されたとき、それは脳細胞で自然に生じるPSA重合体と同一であり、従って、治療細胞種の遺伝子操作のために他の細胞表面分子を使用することと異なり、PSA発現について遺伝子操作された細胞は、ヒトにおける移植方法のための細胞に対して使用されると、インビボで抗原性をほとんど持たないと考えられる。また、神経前駆細胞(Battista et al., J Neurosci. 30(11):3995〜4003 (2010))であれ、シュワン細胞(Ghosh et al., Glia. 60(6):979〜92(2012))であれ、そして、本発明のES由来DAニューロンであれ、移植される細胞の高PSAレベルは、様々な成体げっ歯類モデルで使用されたときに検出可能な副作用を引き起こさなかった。遺伝子操作によるPSAの有効レベルまでの発現は、その唯一の産物がこの独特な糖重合体である単一のポリシアル酸トランスフェラーゼ(PST)酵素の作用を必要とした。驚くことに、発現したタンパク質の量と酵素産物の性質は非常に一定であり、胚組織において自然状態で見出されるPSAと非常に似ていた。
本明細書に記載されるように、移植方法において使用される神経細胞における遺伝子操作によるPSA発現が企図される。特に、他の種類の誘導された細胞表面マーカーの発現を用いるときに出会う問題を克服することによって、治療用途の細胞の調製にPSAを使用することが考えられる。さらに、PSAの受容体も種を越えて構造が均一であり、細胞表面の大部分で見出されるので、PSA発現の使用は(例えば、ヒト細胞で発現するマウスPST遺伝子を使用する)脊椎動物の種を横断するプロトコルにおいて再現性があった。DAニューロン上のPSAを増加させるためのhESCへのPST遺伝子の操作.ヒトポリシアル酸トランスフェラーゼ(hPST)をコードする遺伝子を、レンチウイルスベクター(pLenty、インビトロジェン社)を使用して、そして、本明細書に記載されるようにhESC株(WA01)に導入した。20種の選択されたクローンを増殖させ、そして、PST発現について分析した。PST発現性hESCクローンを分化させてDAニューロンでPSTが発現停止されていないことを確実にした。FACS分析と免疫蛍光(オペレッタ)を用いて異なる分化ステージ(第0日、第11日、第25日、及び第50日)におけるPSA‐NCAMの定量を行った。陽性クローンを表7に概説されている一揃いのDAニューロンの品質管理(QC)パラメーターの対象とした。分化中に均一で高レベルのPSA‐NCAMを保持し、QCパラメーターにおいてうまくいく(表7)少なくとも3クローンをPST過剰発現性のhESC由来DAニューロンにおける神経突起伸長の評価に進める。本明細書に記載される標準的なプロトコルを用いて選択された対照とPST過剰発現hESCクローンをDAニューロンに分化させ、続いて第25日と第50日に細胞を固定し、そして、分析した。そのような培養物におけるTH陽性線維の数と長さをオペレッタ・ハイコンテント顕微鏡で定量した。ハーモニー・ソフトウェア3.0の神経突起分析モジュールがPSTを有する、又は有しない神経突起の数と長さを定量し、そして、2元配置ANOVAを用いてデータを統計的に解析した。上のインビトロ試験から先に進むPST過剰発現性hESCクローンと対照hESCクローンを再度DAニューロンに分化させ、そして、PDのラットモデルに移植した。生存性、PSA‐NCAM発現及び神経突起伸長を判定するための短期移植(4〜6週間)を行った。インビボで短期間経過した各クローンについて、パラメーターを長期移植試験の対象とした。それらの試験について、動物は標準的用量(200×103個)の半分又は4分の1の細胞を受容した。これらの試験は、PSAの増加が移植後(5か月)の長期生存の増加につながるか、及び、より少ない数のDAニューロンが標準的な細胞用量で移植された非PST移植片の機能的能力に一致するか、又はそれより優れることができるか問うものであった(図27)。
加えて、PST DAニューロン移植片と対照DAニューロン移植片の間の機能的能力をさらに識別するために線条体性再神経支配の程度に敏感である複雑な行動アッセイがモニターされた。行動アッセイの完了後に動物を殺処理し、NCAMとSC121のヒト特異的抗体及びTHに対する抗体を使用して線維伸長を定量した(図29も参照のこと)。hNCAM+、SC121+及びTH+の移植片の強度と広がり、並びにDAニューロンマーカー(TH、FOXA2)とPSAを共発現するヒト細胞のパーセンテージを測定した。移植片から発出する神経突起のNCAM/TH+ハロの密度を様々な距離で定量した。ボンフェローニ・ポストホク・テスト付きの2元配置ANOVAを用いてデータを群間で比較した。加えて、切片を定性的変化(例えば、分岐、厚み、移植片分布、及び形状)について調査した。加えて、A9表現型、宿主線条体とのシナプス形成、並びに内在性の求心神経による神経支配に関する薄片の電気生理学的評価(図26を参照のこと)のためにいくつかの移植片を処理する。
次の実施例はパーキンソン病のマウスにおけるES由来ドーパミンニューロン移植片の機能を改善するポリシアル酸発現の増強を示す。
Nurr1プロモーターの制御下にあるGFPを発現するES細胞(Nurr1::GFP ES細胞)にポリシアル酸トランスフェラーゼ(PST)を広範に発現するレンチウイルスベクターを安定的に形質導入した。形質導入された細胞は対照と比べてPST mRNAの劇的な増加を示した(図30A)。PSTの発現はNCAM上のPSA合成に充分であることが観察された。従って、PSA‐NCAM発現はDAニューロン分化の第14日にPST改変細胞において大いに上昇した(図30B〜E)。PSAの特有のα‐2,8結合シアル酸重合体を特異的に切断するファージ・エンドノイラミニダーゼ(endoN)によってES由来DAニューロン上の内在性細胞表面PSAと誘導性細胞表面PSAの両方を取り除くことができた(図30E)。驚くことに、PST形質導入がGFP精製DAニューロンにおいてニューロンマーカー又は中脳マーカーの発現に影響することは観察されなかった(図30F)。
6OHDA傷害性半身パーキンソン症マウスにおける他の試験が、約100,000個のES由来DAニューロン前駆細胞の移植がアンフェタミン促進性回転試験によって判定される堅固な機能回復をもたらすのに必要であることを示した。本試験では、PSA発現の増大を評価することができるように最適以下の数の細胞を移植することが求められた。混入万能性細胞が枯渇させられている非常に濃縮されたDAニューロン集団を移植するために、分化第14日の培養物はNurr1誘導性GFPの発現に対して、及びSSEA‐1発現の欠如に対してFACS精製された(図31)。PST過剰発現がないとき、半分までの最小有効移植サイズの減少(55,000Nurr1+DA細胞)により、検出可能な行動回復をもたらすことができなかった。対照的に、PSA発現の増加があるとき、同じ数のNurr1/PST DAニューロンによりPD性行動障害の有意な是正(p<0.01;2元配置ANOVA)がもたらされ、外科手術から約5週間後に完全な回復がもたらされた(図32A)。Nurr1/PSTを用いて得られた機能回復がendoN処理によって部分的に反転させられた(図32A)ということで、endoNとのインキュベーションによる移植前のPSAの除去がPSAの機能向上の特異性を示した。
移植される細胞の特徴を調査するために移植から2か月後に免疫組織化学のために動物を処理した。PST形質導入株を移植された動物は対照細胞を移植された動物の二倍の数のGFP+細胞を平均で有した(PST試料と対照試料の間で移植片当たり、それぞれ、9,300±1,400GFP+細胞対4,230±1010GFP+細胞;図32B、p<0.05、スチューデントのt検定)ということで、生存しているNurr1+ニューロンの数に差が存在した。さらに、Nurr1/PST移植片はより高レベルのPSA発現もインビボで示した(図32C、D)。しかしながら、移植中核内の中脳DAマーカーTHとFoxA2を発現する細胞の割合はNurr1細胞とNurr1/PST細胞について同等であった(それぞれ、TH:62.0%±8.0対51.3%±7.0、p=0.33;FoxA2:63.2%±8.6対55.4%±2.0、p=0.3;図32E)。
Nurr1細胞及びNurr1/PST細胞から出現する神経突起は同等レベルのTH、Girk2(Gタンパク質共役内向き整流性カリウムチャネル)及びシナプシンを示した(図33A)。移植されたシュワン細胞についての他の研究(Ghosh、 et al. Glia 60, 979〜992 (2012))と異なり、PSA発現の増強は移植部位からのDA細胞の移動にほとんど効果を持たなかった。しかしながら、神経突起伸長には明らかな変化が存在した。図33Bに示されるように、Nurr1+対照と比べてNurr1/PST細胞から出現するより多くのDA神経突起が存在した。GFP及びTHの免疫蛍光強度が移植物から5つの連続する100μmゾーンで定量されたとき、Nurr1/PST移植片はずっと高い突起の相対的密度を示した(図33C、D;GFPとTHの両方についてp<0.01、2元配置ANOVA)。この効果を定量するとき、突起の相対的密度が移植中核に最も直近のゾーンで観察された密度に対して正規化された。そのような正規化は、Nurr1/PST移植片内のより大きな数の生存細胞について補正し、神経突起伸長に対するPSAの特異的な効果を確認するために必要とされた。細胞表面のPSAが移植前にendoN処理によって取り除かれたときにも特異性が示された。従って、endoNを使用する前処理により遠位部の線維伸長が対照レベルまで低下させられた(図33E)。
これらの発見は、移植片機能に対するPSAの効果の少なくともいくつかが線条体の線維神経支配の増強により生じることを示した。従って、移植片機能と、例えばゾーンIVへのGFP陽性線維の相対的伸長程度の間に強力な相関が存在した(図33F;p<0.001、r2=0.65、n=17)。驚くことに、線維伸長と行動の関係は実験群(対照、PSA増加、及びendoN処理)について一貫しており、移植片宿主神経支配がパーキンソン病モデルマウスにおける行動回復のパラメーターであることを示した。移植中核を包み込む反応性グリアのゾーンの穿通性の増大、神経発芽能の上昇、周囲の宿主組織への伸長の向上(例えば、より容易な成長円錐の転移)、及び移植中核の近くにある宿主組織との成熟前連絡の防止などのいくつかの要因が線維伸長の増大に機構的に寄与した。その例となる機構は、正常な発生中の突起伸長の促進及び成体神経系におけるPSAの役割と一致する。
本明細書に記載される実験は、他の種類の細胞に由来する移植片と比べて優れた結果をもたらすDAニューロン移植における改変PSAの使用を実証した。PSAの増加によって、宿主線条体を神経支配し、PD性機能障害を低減させる移植されたDAニューロンの能力の著しい増大がもたらされることがデータから明確に示された。従って、本発明のDAニューロンを備える臨床上の転移術が移植前に細胞を提供することについて企図される。いくつかの実施形態では、それらの細胞はPSAの発現について遺伝的に操作される。いくつかの実施形態では、PSTは、その精製された酵素と基質へのインビトロでの曝露により移植前の細胞に直接送達されてもよい。いくつかの実施形態では、PD移植におけるヒト転移術のためのPSA戦略は複数回の注入の必要性を最小化し、それによってこれらの複数回の注入により生じる外科手術上のリスクを減少させると考えられている。
他の実施形態では、他の細胞種と種に対して、例えば、脊髄損傷部位での軸索の再伸長のための架橋(例えば、細胞間連絡)の作製において移植シュワン細胞の移動を増大させるためにこの技術を用いることが企図される。
次のものはこの実施例における例となる材料と方法である。動物:食物と水を自由に利用可能にして6週齢の129S3/SvImJマウス(ジャクソン・ラボラトリー社)を温度管理下で飼育した。実験技法はNIHと研究所の動物使用に関する指針に従って実施され、そして、地域の動物実験委員会(IACUC)とバイオセイフティ委員会(IBC)によって承認された。
6OHDA注射とアンフェタミン誘導性試験:動物をペントバルビタールナトリウム(10mg/kg)で麻酔し、そして、右線条体に2μlの6OHDA(生理食塩水、0.5%アスコルビン酸中に4μg/μl)を注射した。注射は次の座標にハミルトン注射筒を用いて実施した:ブレグマに対して0.5mm後方、1.8mm外側、及び脳表面に対して2.5mm腹側。外科手術の前に動物はデシプラミンの単回腹腔内注射(25mg/Kg、シグマ社)を受けた。外科手術から2週間後にアンフェタミン誘導性回転試験において動物に点数を付けた。それらの動物を30cmの直径の透明なプラスチック製円筒に30分間配置し、その後に動物はアンフェタミンの単回腹腔内注射(10mg/Kg、シグマ社)を受けた。20分後からさらに20分の間の同側性回転/対側性回転の回数を記録した。7週間の間に週に1回動物に点数を付け、その後、動物を深麻酔し、PBSと0.1Mリン酸緩衝液(PB、pH7.4)中の4%パラホルムアルデヒドで心臓を通過する潅流を行った。脳を摘出し、4℃の4%パラホルムアルデヒド中で一晩後固定し、その後ビブラトーム(Pelco‐101、テッド・ペラ(Ted Pella)社)で厚さ40μmの矢状面切片に薄片化した。
細胞分化と移植: Nurr1::GFP BAC遺伝子導入BACマウスESレポーター細胞株(すなわち、GFP発現がNurr1プロモーターによって誘導される)5にCMVプロモーターの制御下にあるマウスPST遺伝子を含有するレンチウイルス(pLenti、インビトロジェン社)を形質導入した。ES細胞を、1,400ユニット/mlのLIF(ESGRO;インビトロジェン社)、2mMのL‐グルタミン、1mMのβ‐メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン及び100ps/mlのストレプトマイシン(インビトロジェン社)を添加されたDMEM(インビトロジェン社)、10%FBS(ハイクローン社)中のマイトマイシンC処理済みMEF(ステムセル・テクノロジーズ社)上で培養した。DA分化をBarberi et al., Nat Biotechnol 21, 1200〜1207 (2003)に従って、変更を加えて誘導した。簡単に説明すると、ゼラチン被覆ディッシュ中のMS5フィーダー細胞上で細胞(10,000細胞/10cmディッシュ)を分化させ、そして、血清代替物培地(SRM)上で4日間培養した。第4日にソニックヘッジホッグ(SHH、200ng/ml)及びFGF8(100ng/ml)を添加した。分化第7日にSHH、FGF8及びbFGF(10ng/ml)を添加したN2に培地を交換した。第11日にSHH、FGF8及びbFGFの除去、及びアスコルビン酸(AA、200μM)とBDNF(20ng/ml)の添加により終末分化を誘導した。
細胞を第14〜15日に45分間のアキュターゼ処理により回収し、N2で1回洗浄し、そして、AlexaFluor‐647複合体化抗SSEA‐1抗体(BDファーミンゲン社)と25分間インキュベートした。細胞をN2で1回洗浄し、0.1%BSAを含むHEPES緩衝液に再懸濁した。生存度を評価するためにDAPIを添加した。MoFlo細胞選別機を使用してFACSを実施し、GFP蛍光(Nurr1)について目的の集団を選別した。AlexaFluor‐647(SSEA‐1)について陽性の集団をネガディブ選別した。GFP陰性対照については同じ分化ステージでナイーブJ1マウスES細胞を使用した。
Nurr1::GFP選別細胞を生存度について分析し、そして、BDNとAAを含むN2に55,000細胞/μlの終濃度まで再懸濁した。先端を50μmにした細いガラス毛細管を使用して次の座標で傷害マウス線条体に1μlを注入した:ブレグマより0.3mm後方、1.5mm外側、及び脳表面に対して2.2mm腹側。さらなる特徴解析のために細胞懸濁液のアリコットをマトリゲル被覆6mmディッシュに再播種した。
免疫蛍光分析のために細胞を4oCのパラホルムアルデヒドで10分間固定し、PBSで2回洗浄し、5%BSA(PBS中に0.1%のトリトンX‐100)でブロックし、そして、一次抗体と室温で2時間インキュベートした:ウサギ抗GFP(1:1000、インビトロジェン社)、マウスIgM抗PSA(1:2000、5A5)、マウス抗NeuN(1:800、ケミコン社)、マウス抗TH(1:1000、シグマ社)、ヤギ抗FoxA2(1:800、サンタクルーズ社)、ヤギ抗エングレイルド(1:800、サンタクルーズ社)。その後、細胞をCy複合体化二次抗体(1:1000、ジャクソン社)とインキュベートした。
EndoN処理:NCAMよりPSAを除去するために回収の前の晩に、PSA7‐9を特異的に取り除くファージの酵素であるendoNを20単位で用いて細胞を処理した。その後、細胞を回収し、前に記載したように注入したが、BDNFとAA及び5単位のendoNを含むN2に再懸濁した。我々は、傷害マウスへの同じ量のendoNのみの注射では動物の行動を改善しないと以前に評価した。
PST mRNAとPSA‐NCAMのインビトロ分析:ウエスタンブロット分析のために細胞をWB緩衝液(1%のNP40、150mMのNaCl、1mMのEDTA、及び抽出直前に添加される1×プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤を含むpH7.4のPBS)で処理し、5秒間の超音波処理を2回行い、遠心し、そして、ラエムリ緩衝液(LB)に再懸濁した。LBを含まないアリコットをタンパク質測定のために保存した。等量のタンパク質を6%ドデシル硫酸ナトリウム‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲル(バイオラド社)に負荷した。電気泳動によりタンパク質をポリビニリデン膜(ミリポア社)に転写した。その膜を、5%の脱脂粉乳を含む0.1%トリトンX‐100TBS(TBS‐T)中で1〜6時間ブロックし、そして、5%ミルクを含むTBS‐T中の抗NCAM抗体(1:10,000、サンタクルーズ社)と一晩インキュベートした。その後、ブロットをペルオキシダーゼ複合体化二次抗体(1:10,000、ジャクソン社)とインキュベートし、そして、ECL検出法(アマシャムファルマシア・バイオテック社)を用いて検出した。イメージJソフトウェアを用いてタンパク質レベルを定量した。
qRT‐PCR分析のためにトリゾール(シグマ社)を用いて全RNAを抽出し、逆転写し(キアジェン社)、そして、10μlの2×SYBR反応混合物と20μlの終体積に対して0.2μMのフォワードプライマーとリバースプライマーを用いて増幅した。PSA‐NCAM FACS分析のために細胞を45分間のアキュターゼ処理により回収し、1回洗浄し、そして、マウスIgM抗PSA(1:250、5A5)と25分間氷上でインキュベートし、N2培地で1回洗浄し、そして、Cy3複合体化抗マウスIgM(1:250、ジャクソン社)と氷上でさらに25分間インキュベートした。細胞をN2で1回洗浄し、7AADを含む0.1%BSAで再懸濁し、そして、FACSカリバー細胞選別機で分析した。対照として一次抗体を添加しなかった。
免疫組織学的方法及び立体解析学的方法:自由浮遊冠状切片をPBS中の0.1%トリトンX‐100、5%ロバ血清において室温で30分間ブロックし、そして、様々な抗体と4℃で48時間インキュベートした:ウサギ抗GFP(1:300)、ニワトリ抗GFP(1:200、ケミコン社)、マウス抗TH(1:200)、マウスIgM抗PSA(1:1000)、マウス抗NeuN(1:400)、ヤギ抗FoxA2(1:300)、ウサギ抗Girk2(1:300、アロモネ・ラブズ(Alomone Labs)社)、マウス抗シナプシン(1:200、BDトランスダクション・ラボラトリーズ社)。次に切片を洗浄し、そして、二次抗体:Cy2複合体化、Cy3複合体化、及びCy5複合体化ロバ抗体(1:400、ジャクソン社)とインキュベートした。PSAにはCy5複合体化ロバ抗IgM(1:500 ジャクソン社)を使用した。インキュベーションを室温で2時間実施した。切片をPBS中で2回洗浄し、そして、モウィオール(Mowiol)(カルビオケム社)中でスライドに固定した。脳の3枚の冠状切片のうちの1枚をそれぞれの免疫標識について分析した。3種のレーザー(アルゴン488、HeNe543及びHeNe633)を用い、c‐アポクロマット40倍対物レンズ(水浸)を装着したツァイスLSM510レーザー走査共焦点顕微鏡によりデジタル画像を収集した。脳全体を包含する3枚の切片のうちの1枚において、40倍の対物レンズ下でGFP+及びTH+の細胞数を計数し、移植片当たりの細胞の総数を推定した。二重に標識された細胞をz軸全体に渡って単一光学平面において分析した。
GFP/TH+標識細胞及びGFP/FoxA2+標識細胞のパーセンテージの分析のために100個のGFP+細胞を各マーカーについて分析した。突起伸長の分析のために40倍の対物レンズ下で1μmのピンホールを用いてz軸全体(20〜40μm)にわたって0.8μmの間隔で共焦点zスキャンを実施した。注入部位から外側に突起が観察されなくなるまで切片を走査した。全走査領域を包含する3D投影図を連続的に整合させた。GFP及びTH強度分析のために全走査領域を移植物から100μmずつ離れた5つの連続するゾーンに分割し、そして、イメージJソフトウェアを使用して強度を測定した。移植片サイズのあらゆる差異の可能性を考えて調整するために移植片に最も近いゾーン(ゾーンI)における強度に対してデータを正規化した。
統計分析:データは平均値±標準誤差(SEM)として提示されている。スチューデントのt検定又はボンフェローニ・ポストホク・テスト付き2元配置分散分析(ANOVA)を用いて比較を実施した。線形回帰分析を実施し、そして、ピアソン相関を用いて定量化した。
C. ヒトPST遺伝子(ポリシアル酸トランスフェラーゼ)の過剰発現
被傷害動物群は野生型細胞又はPSTを発現する細胞又はPST酵素で前処理された細胞からなる3つの用量のうちの1つを受容した。それらの動物群は表11で考察されるパラダイム(アンフェタミン回転、円筒試験、ステッピング試験)に従う行動試験のために処理された。結果生じるニューロンがマウスPST遺伝子について本明細書に記載される結果を示すように、選択された用量(例えば、200,000個、100,000個、50,000個の細胞)をマウスで使用することに成功した。
D. 細胞への精製PST酵素の直接投与.言い換えると、PSA誘導の非遺伝子導入方法.ポリシアル酸化と表面PSAの発現上昇を引き起こすPST酵素による細胞の前処理.哺乳類PSTはゴルジで働く低含量の膜タンパク質であるが、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)の精製された2,8‐ポリシアル酸トランスフェラーゼ(PSTnm)は、市販の非毒性基質(すなわち、CMP‐シアル酸)を使用すると、細胞外の環境で働き、そして、哺乳類PSAと化学的に同一である重合体を作製した。一例として、この酵素の活性断片は、インビボ薬物動態を増加させるためにインビトロで治療タンパク質にPSAを付加するのに有効であった。CMPシアル酸の存在下でPSAはインビトロでマウス及びヒトのESCを含む多種多様な細胞種の表面において直接的にPSTnmによって合成された(図35A〜E)。PSTnmと基質の直接注入が大脳皮質、線条体及び脊髄(図35GH)を含む成人の脳の領域内の細胞表面でのPSA蓄積の増加をインビボで引き起こす。PSTnmによって作製されたPSAは、発現誘導されたPSAを除去するendoN(図35B)によって分解され、PSTnm作製PSAは内在性PSAと同等の機能特性を有することを示した(図35A、C、D)。PSTnmによるPSA発現は1時間未満で起こり、遅いPST導入遺伝子誘導を克服した。発現はインビボで数週間持続し、その後でPSAマーカーが減少し、そうしてPST導入遺伝子の誘導の延長による副作用を克服した。従って、インビトロでの細胞のPSTnm+基質への曝露の使用は、移植方法において使用するためのhESC由来DAニューロン及び他の細胞種におけるPSAレベルの上昇を引き起こすための簡単な代替的戦略であると考えられる。部分的には、翻訳、すなわち、ヒト移植方法における使用のためのこの代替的アプローチは、非侵襲性であること、すなわち、遺伝子導入方法の使用を避けていることの利点を有し、GMPグレードの試薬が臨床使用プロトコルに適合するためにこれらの方法において使用され、そして、移植のために操作された細胞を使用することのいくつかの危険な副作用を避けるために必要な、DA線維が移植中核から出発し、宿主脳に進入する予想される時間枠に合う生化学的に作製されたPSAの発現の一過性の性質を有する。
次の実施例は精製した細菌性ポリシアル酸トランスフェラーゼであるPSTnmを使用する、移植効力を強化するためのhESC由来DAニューロンに対するPSAの酵素工学を示す。
有効ではあるが、PST遺伝子形質移入はポリシアル酸化の期間にわたって限定的な制御を有するhESCの遺伝的改変を必要とした。この実施例は、遺伝子送達の代わりに外来性PSTnmがPSAを誘導したという発見(図35を参照のこと)について説明する。図35AではPST処理されたシュワン細胞(SC)(緑色の真ん中の線)が接着時間を増加させていたが、一方、PSTnmにより産生されたPSAは接着を阻害した。特に、(A)PSTnmにより産生されたPSA(赤色の一番下の線)はPSTの強制発現により産生されたPSA(緑色の真ん中の線)よりもさらに効果的に懸濁状態のシュワン細胞のシュワン細胞単層への接着を阻害する。(B)ESC由来HB9運動ニューロンにおけるPSAのイムノブロッティングは、PSTnmだけで処理された対照試料が検出不可能なPSAレベルを有したことを示す。PSTnm+CMP‐シアル酸基質とのインキュベーションにより大きなPSAのバンドが生じ、そのバンドはendoN処理により除去される。(C,D)PST遺伝子を用いて得られる効果と同様に、分化中のPSTnmと基質によるこれらの細胞のポリシアル酸化が神経突起伸長と細胞移動(矢頭)を強化する。(E)第30日のhESC由来DAニューロンのPSA免疫染色。(F)この染色はPSTnmと基質を用いる処理の後で著しく増大する。(G)PSTnmのみのインビボ注射は何の効果も有しないが、(H)基質とのPSTnmの共投与はマウス線条体における大量のPSA発現を引き起こす。
従って、外部よりPSTnmで処理された成熟DAニューロンを移植のための細胞の作製に使用することが企図される。哺乳類PSTとPSTnmの両方が化学的に同一であるPSA鎖を作製した。hESC由来DAニューロンに対するPSAの増加(図35F)が、DA線維が移植中核から出るのに充分である数週間の間持続すべきである。PSTnmは移植前に除去されるので、この酵素を混入移植細胞に対する免疫原性が原因ではないはずである。
PSTnmは、強化された溶解性と活性の特徴を有する遺伝子操作断片から作製された(Willis et al., Characterization of the alpha−2,8−polysialyltransferase from Neisseria meningitidis with synthetic acceptors, and the development of a self−priming polysialyltransferase fusion enzyme. Glycobiology 18, 177〜186 (2008))。PSTnmへの曝露、基質への曝露、又は両方への曝露の前にhESCの培養物のDAニューロンへの分化誘導を行った。定量的免疫蛍光(オペレッタ)とウエスタンブロッティングによって、曝露の様々な時点(10分から6時間)で培養物を調査してポリシアル酸化の速度とレベルを決定した。このように本明細書に記載される条件を用いて第25日の分化したhESC由来DAニューロンを至適濃度のPSTnmと基質と共にインキュベートする。PSA+mDAニューロンは本明細書及び図29に記載される短期アッセイ及び長期アッセイにおいて移植される。
E. 脊髄損傷のための応用.ヒト患者及び本明細書に記載される戦略における究極的な使用を目標としたいくつかの試験は、軸索再生と内在性始原細胞の移動を促進するためのPSTを発現するレンチウイルスベクターを直接的にCNSに注入することによるPST遺伝子送達を含むこれらの方法の広範な可能性を示した。ヒト向けの方法において使用するための1つのそのような戦略は脊髄損傷を標的とする。ある型の脊髄再生方法では、シュワン細胞移植片がインビボ軸索再生において使用される細胞架橋の再構築のための治療法の一部として使用された。しかしながら、優れた筋肉制御を含む患者の運動機能の回復はどのような治療介入にも抵抗した。本明細書において示されるように、移植に使用されるシュワン細胞でのPSA発現の強化はシュワン細胞の移動と軸索伸長の増強を引き起こし、それが運動機能上昇に対する劇的な効果をさらに引き起こした(図30A〜D)。従って、いくつかの実施形態では、脊髄損傷を有するヒトにおける移植方法において、インビトロでのシュワン細胞におけるPSA発現の上昇を利用することが考えられる。操作されたPSAの発現の使用についての別の戦略であって、ヒト方法におけるPST遺伝子の発現上昇による戦略はHB9 ESC由来運動ニューロンを必要とし、その戦略ではレンチウイルスベクターベースの遺伝子発現を介したこれらのニューロンにおけるPST遺伝子の誘導が培養状態でも機械的に誘発された坐骨神経損傷の修復のためのマウスにおける移植後でも軸索の伸長の劇的な増大を引き起こした。後者は筋肉組織の改善された特異的な標的化を引き起こした(図30E〜H)。従って、別の実施形態では、坐骨神経の機能回復に使用されるESC由来運動ニューロンの表面でのPSA発現の遺伝子操作による発現。
IVX. DAニューロン移植片の安全性の上昇
本発明の細胞作製方法における使用のため、患者への健康上のリスクをさらに減少させるために考えられた実施形態が下に記載される。
本明細書に記載される方法によって作製される細胞は移植に使用されると患者への減少したリスクに関する特徴を示したが、移植細胞を受容する患者の健康に対するリスクの可能性をさらに低下させるため、さらなる実施形態が企図される。hESC−ベースの細胞療法方法へのいくつかの懸念のうちの1つは、移植後の条件により患者に対する危害の原因となる細胞に発達する、分化に抵抗した混入未分化細胞を導入する可能性である。万能性細胞の場合では、1つの有害な結果は、患者の生命を危険にさらすテラトーマ形成である。hESC由来細胞を使用するテラトーマ形成が突発性細胞分化に基づく短期神経分化プロトコルの後で報告された。しかしながら、本発明者らによるヒトES由来神経細胞種の使用は、それらのマウスESC由来同等物と異なり、本発明において記載される適切な神経分化戦略(すなわち、単層培養、二重SMAD阻害プロトコル及び増殖を促進しないサイトカインがあるなかでの増殖)の後にテラトーマ形成をほとんど引き起こさなかった。実際、過去10年にわたって様々な神経分化戦略を用い、ヒト細胞移植片を有する数百匹の動物を分析した後でテラトーマ形成は観察されなかった。さらに、テラトーマは、移植片にヒト細胞を使用する本発明のPD移植方法では観察されなかった。ヒトで用いられる移植方法のためにヒト細胞とマウス細胞を使用することの間の違いは、ヒトESCとマウスESCで獲得されている異なるステージの万能性に関連していると考えられ、ヒト細胞はEpi−SC(エピブラスト幹細胞)として記載される万能性ステージの特質に適合すると考えられており、マウスESCと異なり異なる発生ステージにある可能性がある。
しかしながら、以前の移植試験の細胞を使用する問題のうちの少なくとも1つは、成熟DAニューロンと本発明の移植方法を用いると驚くほどに存在しない、Perrier et al., PNAS 2004と類似のプロトコルにおいて実在する神経過形成の継続的なリスクであった。さらに、以前の研究における移植試験において見つかった別の問題はインビボで増殖し続けるhESC由来神経上皮構造物(すなわち、神経ロゼット型)の形成であった。移植された神経上皮細胞のこのインビボ増殖はげっ歯類動物のパーキンソン病モデル及びハンチントン病モデルにおけるhESC由来DAニューロン移植試験を含む様々な神経移植パラダイムにおいて観察された。それらの「神経ロゼット型」増殖細胞は、異所的な、ほとんど皮質型の組織から構成される大移植片を移植動物に生じさせる固有の高い増殖能を有する非形質転換初代細胞を表す。本明細書に記載されるように、いくつかの戦略が移植の時点で万能性細胞又は神経上皮細胞の混入を排除するために用いられた(例えば、SSEA‐4(万能性マーカー)又はForse‐1(神経上皮マーカー)の選択)。ロゼット系の分化戦略が用いられたときにこれらの戦略の成功は部分的であり、神経過形成はそれでもForse1について選別された移植片又はSSEA‐4について負に選別された移植片のサブセットで観察された。驚くことに、ロゼット系DAニューロン分化方法の発生よりもむしろこの底板系DAニューロン分化方法の発生を用いて神経上皮過形成の問題が克服された。機能性hESC底板由来DAニューロン移植片内では移植片由来の増殖細胞はほとんど観察されなかった。
他の移植方法の不利な結果に基づくと、ヒトへDAニューロン移植を用いることの別の安全性の懸念は、移植治験において胎児組織を受容する患者の約15%で観察される移植片誘導性ジスキネジア(GID)の発生などの、その治療法の副作用である。しかしながら、本明細書において考察されるように、望ましくない細胞種をさらに除去する可能性を有するより一貫した細胞供給源を使用することに加えて移植片由来セロトニン系細胞がほぼ完全に存在しないこと(図28に関連する本文を参照のこと)、及びインビボDA線維分布を制御する可能性があること(図29を参照のこと;すなわち、L‐ドーパ及び他の化合物を分泌するニューロンクラスターの「ホットスポット」を防止する)が、移植方法において使用される細胞を供給するために他の方法よりも本発明の方法を用いることの大きい利点である。従って、本発明の方法の使用が患者に対するリスクを最小化すると考えられる。
VX. 臨床的転移術のためのヒトESCの使用
好ましい実施形態では、ヒトにおける移植方法、言い換えると、PDの治療のための細胞療法のために細胞を作製し、使用するための方法にヒトESCを使用することが考えられる。特に、本発明の方法においてヒトESCはヒトiPSCの使用よりも多数の利点を有し、一例ではPD細胞療法として使用される移植可能中脳DAニューロンの供給に使用される。特に、DAニューロン誘導のための細胞供給源としての人工万能性幹細胞(iPSC)の使用は、各患者にとって遺伝的に適合した細胞供給源を供給することなど、いくつかの利点を有する。しかしながら、多数の近年の研究により、iPSCの安全性と完全な遺伝的適合性に関する不確実性が生み出された。再プログラム化細胞は、臨床的利用に望ましくない危険な可能性がある遺伝的異常及びエピジェネティックな異常を有することが示されている。さらに、マウスiPSCにおける研究は、iPSC由来細胞が、それらの細胞のヒト移植における使用を後押しする主要な言い分である、完全に免疫適合性であるわけではないことを示した。さらに、移植にiPSCを使用するFDAが認可した方法は存在しない。そして、それぞれ個々の患者のためにGMPに準拠し、QC管理された細胞バンクを作製することを考えることは実際的ではないし、桁違いの費用がかかるだろう。比較すると、hESCと比べたhiPSCの遺伝的安定性が集中的に研究された。hESCは培養状態で時間が経つにつれ変異を獲得することが観察されたが、そのような変異のタイミングと率はhiPSCとは異なるように見え、hESCは概してiPSCよりも遺伝的に安定していると考えられた。例えば、Hussein, et al., Nature 471, 58〜62 (2011); Mayshar, et al. Cell Stem Cell 7, 521〜531 (2010); Lister, et al. Nature 471, 68−73 (2011); Laurent, et al. Cell Stem Cell 8, 106〜118 (2011)を参照のこと。加えて、細胞療法製品及び遺伝子療法製品についてFDAによって要求される厳密な安全性試験を満足させるいくつかのhESC株について標準操作手順が考え出された。FDAはhESC−ベースの細胞療法を臨床使用に進めるように米国の2つのグループに認可した。例えば、ゲロン(Geron)社はhESC由来乏突起膠細胞前駆細胞(GRNOPC1)を用いる第I相試験に入っていた。アドバンスド・セル・テクノロジー(ACT)社はシュタルガルト黄斑ジストロフィー(治験番号NCT01345006)及び乾燥進行性加齢黄斑変性(治験番号NCT01344993)を治療するためにhESC由来網膜色素上皮細胞を使用する、現在行われている2つの第I相/II相試験を有する。
そして、それらのFDA認可hESCベースの臨床治験の両方が神経系障害を標的としているという事実が、神経系疾患と損傷を治療するための移植材料を提供するためにhESCベースの方法を用いることの利点を示す。神経系は、外来性組織(同種移植片)が末梢に配置された同じ移植片と比べられると弱い免疫応答を発するので、免疫特権部位と考えられている。実際、25年間の胎児細胞のヒト脳への移植の後、いくらかの異質遺伝子的ニューロンが一過性の免疫抑制によりヒトの脳の中で最大16年間生存することが分かった。従って、細胞供給源と移植片受容者の間の同一の抗原適合は必須ではないように見える。従って、hESCは他の神経系疾患、障害及び損傷に加えてPDを治療するためのDAニューロンの普遍的な異質遺伝子的供給源として考えられる。本発明の細胞を受容する患者はPDの臨床的診断を有すると考えられる。初期介入において、及び、レボドパなどの利用可能な薬物療法、補助的薬物療法等による症状制御が不充分である患者を含む中程度から重症のPDにおいて真正DAニューロン移植片を使用することが考えられる。いくつかの実施形態では、ニューロン移植片を受容すると考えられる患者は初期PDにおいてわずかな兆候を有する(例えば、ドーパミン系の欠陥を検出するための神経画像法、FDG‐PET、及びジスキネジアの兆候等の使用による)。統合ジスキネジア評価尺度(UDysRS)(Goetz, et al., Mov Disord. 23, 2398〜2403 (2008))によって評価されるジスキネジアを患者の移植前後のモニタリングにおいて使用することが考えられる。患者は「ドーパミン系欠陥の証拠が無い状態でのスキャン」(SWEDDS)を有することもあり得、それらのうちの何人かは筋緊張異常又は本態性振戦を有することがあり得る。パーキンソン症に対する他の(非ドーパ)寄与因子を有する患者を特定するために脳MRIが行われるだろう。いくつかの実施形態では、患者はレボドパに対して正の応答を有するだろう。移植前及び移植後のパラメーター、及び運動評価、非運動評価、生活の質などの対象モニタリングのエンドポイントの決定、並びにまた神経画像法及び他の生体マーカーの使用。運動機能:UPDRS及び新規に検証されたMDS‐UPDRS(Goetz, et al., Mov Disord. 23, 2129〜2170 (2008))はPDの運動症状を評価するために広く使用されている。しかしながら、10m歩行試験又は6分歩行試験、タイムドアップ・アンド・ゴー(timed up and go)テスト、機能的歩調評価、機能的リーチテスト、及び他のものを含む他の試験がより患者指向性の結果判定法に考えられる。患者は「オフ」状態並びに「オン」状態で試験され、そして、評価尺度は検証済みウェアリングオフ尺度(Antonini, et al. Mov Disord. 26, 2169〜2175 (2011))及びジスキネジア評価尺度(例えばUdysRS(Goetz, et al., Mov Disord. 23, 2398〜2403 (2008))の臨床測定特性に基づいて、(例えば運動障害疾患学会の勧告に従う)「オフ」時の間に含まれるだろう。「オン」状態と「オフ」状態の両方で標準化された患者の診察をビデオテープに撮ることが考えられる。非運動機能:処置は移植前後の認知、鬱、不安感、無気力、眠気、疲労感、精神病、及び他の非運動症状の対処に加えて認知機能の転帰、精神病理についての転帰及び自律神経障害を主に標的とする。生活の質:PD特異的質問集(PD‐QUALIF)及び/又はSF‐36などの検証済みの生活の質についての尺度が患者の転帰をモニターすると考えらえる。
神経画像法及び他の生体マーカー:機能画像法は外科的PD治験において広く用いられた。ドーパミンベースの画像法(例えば、FDOPA‐PET)を移植片維持の調査に使用することが考えられるが、予備的なデータ収集として画像法ベースのマーカー、例えば炎症標的化、及び非画像法全身性マーカーを含む他のリガンドを使用する神経画像法技術を使用することが考えられる。画像法は手術前計画,例えば、基底核内のDA除去の程度と位置の計画、及びそれぞれの患者の外科手術計画の調整におけるPETデータの援用において使用されるだろう。移植片配置の位置と細胞供託物の数。いくつかの実施形態では、被殻(Freed, et al. N. Engl. J. Med. 344, 710〜719 (2001); Lindvall, et al. Prog. Brain Res. 82, 729〜734 (1990))及び交連後被殻(Olanow, et al. Ann. Neurol. 54, 403〜414 (2003))が細胞移植(投与)部位である。いくつかの実施形態では、様々な手術痕を介した複数の配置が考えられる。リアルタイム画像法及び軌跡経路と標的化の正確性の画像化をもたらすクリアポイントシステム付きのMRIが移植された細胞のモニタリングのために考えられる。このシステムはPD患者において脳深部刺激用電極の配置に使用される。移植片の細胞数と構成。多数の細胞種を有する胎児移植片材料を使用したので基本的に不明の数のDAニューロンを用いて胎児治験が実施された。本明細書において提供されるデータによると、DA神経機能の回復のために推定100,000〜200,000個の生存TH+ニューロンが考えられる。
免疫抑制.いくつかの実施形態では、移植された患者の免疫抑制が少なくとも6か月で最大で患者の寿命まで考えられる。いくつかの実施形態では、患者は移植された組織を有するうえで免疫抑制を受けない。
実施例
以下の実施例は本発明のある特定の実施形態と態様の例示に役立ち、そして、本発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。以下の実験の開示では、次の略語を適用する:N(規定);M(モル濃度);mM(ミリモル濃度);μM(マイクロモル濃度);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);pmol(ピコモル);g(グラム);mg(ミリグラム);pg(マイクログラム);ng(ナノグラム);pg(picoグラム);Land(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);U(ユニット);min(分);s及びsec(秒);deg(度);pen(ペニシリン)、strep(ストレプトマイシン)及び℃(セルシウス度)。
材料と方法
方法の概要:ヒトESC(H9、H1)及びiPSC株(2C6及びSeV6)を改変二重SMAD阻害(Chambers, et al. Nat. Biotechnol. 27:275〜280 (2009)、参照により本明細書中に援用)ベース底板誘導(Fasano, et al., Cell Stem Cell 6:336〜347 (2010)、参照により本明細書中に援用)プロトコルの対象とした。中脳底板のため、及びDAニューロンの新規集団の産出のためにSHH C25II、パルモルファミン、FGF8及びCHIR99021への曝露を最適化した(図1dを参照のこと)。底板誘導後、AA、BDNF、GDNF、TGFβ3及びdbcAMPなどのDAニューロン生存及び成熟因子(Perrier, et al. Proc Natl Acad Sci USA 101:12543〜8 (2004)、参照により本明細書中に援用)の存在下でNeurobasal/B27系の分化培地でさらなる成熟(第11〜25日、又は25日より長く培養状態であり、最大で少なくとも100日培養状態である)を実施した(詳細について方法全体を参照のこと)。結果生じるDAニューロン集団を免疫細胞化学、qRT‐PCR、包括的遺伝子発現プロファイリング、ドーパミンの検出のためのHPLC分析及びインビトロ電気生理学的レコーディングによる詳細な表現型特徴解析の対象とした。半身パーキンソン症げっ歯類動物(動物の脳の一方の側に6OHDA毒素を注入したマウス又はラット)でインビボ試験を実施した。6‐ヒドロキシドーパミン傷害を前に記載されたようにその毒素の定位的注入により受けた成体NOD‐SCID IL2Rgcマウス(ジャクソン・ラブズ社)及び成体スプレイグ・ダウリー・ラット(タコニック・ファームス社)、並びにMPTPの片側のみの頸動脈注射により処置された2匹の成体アカゲザルにおいてそれらの試験を実施した。DAニューロンはそれらの動物の線条体中に定位的に注入され(マウスでは150×103細胞、ラットでは250×103細胞)、そして、サルでは総計7.5×106細胞(6路に供給;脳の各側に3路)。アンフェタミン介在性回転分析並びに焦点性無動症及び四肢使用についての試験(「ステッピング試験」及び「円筒試験」)を含む行動アッセイを移植後に月単位の間隔で実施した。ラットとマウスを移植後の18〜20週間で、及びそれらの霊長類動物を移植後の1か月で殺処理した。それらの移植片の特徴解析を細胞数と移植片体積の立体解析学的分析により、並びに表現型の包括的特徴解析を免疫組織化学により実施した。未分化ヒトES細胞の培養.hESC株H9(WA‐09、XX、2009年10月の時点より27〜55継代)、H1(WA‐01、XY、2010年6月の時点より30〜40継代)並びにiPS細胞株2C6(Kim, et al. Cell Stem Cell 8:695〜706(2011)、参照により本明細書中に援用)(XY、20〜30継代)及びSeV6(XY、20〜30継代;非挿入性4因子センダイ・ベクター・システム(Ban, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A(2011)108(34):14234〜14239:10.1073/pnas.1103509108、参照により本明細書中に援用)を使用するMRC‐5胚性線維芽細胞由来)を、ヒトES細胞に基づいてcm2当たり0.5×103個からcm2当たり100×103個までの範囲に推定される播種濃度で、至適20%ノックアウト血清代替物(KSR、インビトロジェン社、カリフォルニア州、カールスバッド)含有ヒトES細胞培地(前に記載された(Kim, et al. Cell Stem Cell 8:695〜706 (2011)、参照により本明細書中に援用)において細胞をクラスター化する傾向があるマウス胚性線維芽細胞(MEF、グローバル・ステム社、メリーランド州、ロックビル)上に維持した。ノックアウト血清代替物の使用は0%から40%までの範囲にあり得る。
神経誘導.底板系中脳ドーパミンニューロン誘導のため、改変型の二重SMAD阻害(Chambers, et al. Nat. Biotechnol. 27:275〜280 (2009)、参照により本明細書中に援用)及び底板誘導(Fasano, et al.Cell Stem Cell 6:336〜347 (2010)、参照により本明細書中に援用)プロトコルが、LDN‐193189(100nM(0.5〜50μMまでの濃度範囲、ステムジェント社、マサチューセッツ州、ケンブリッジ)、SB431542(10μM(0.5〜50μMまでの濃度範囲、トクリス社、ミシガン州、エリスビル)、SHH C25II(100ng/ml(10〜2000ng/mlまでの濃度範囲、R&D社、ミネソタ州、ミネアポリス)、パルモルファミン(2μM(10〜500ng/mlまでの濃度範囲、ステムジェント社)、FGF8(100ng/ml(10〜500ng/mlまでの濃度範囲、R&D社)及びCHIR99021(CHIR;3μM(0.1〜10uMまでの濃度範囲、ステムジェント社)への指定時刻に作動する曝露に基づいて用いられた。注記:底板誘導プロトコルについて、「SHH」処理は100ng/mlのSHH C25II+パルモルファミン(2μM)の組合せへの細胞の曝露、すなわち接触を指す。細胞を播種し(35〜40×103細胞/cm2)、DMEM含有ノックアウト血清代替物培地(KSR)(15%ノックアウト血清代替物、2mM L‐グルタミン及び10μM(1〜25μMまでの濃度範囲)β‐メルカプトエタノール)中のマトリゲル又はゲルトレックス(購入して使用)(BD社、ニュージャージー州、フランクリン・レイクス)上で11日間培養した。前に記載された(Chambers, et al. Nat. Biotechnol. 27:275〜280 (2009)、参照により本明細書中に援用)ように、分化第5日から開始して、第5〜6日に75%(KSR):25%(N2)の比率で、第7〜8日に50%(KSR):50%(N2)の比率で、そして、第9〜10日に25%(KSR):75%(N2)の比率で混合することによってKSR培地を徐々にN2培地に転じていった。CHIRを添加され(第13日まで)、且つ、BDNF(脳由来神経栄養因子、5〜100までの範囲の20ng/ml;R&D社)、アスコルビン酸(AA;0.2mM(0.01〜1mMまでの濃度範囲)、シグマ社、ミシガン州、セントルイス)、GDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子、20ng/ml(1〜200ng/mlまでの濃度範囲);R&D社)、TGFβ3(トランスフォーミング増殖因子タイプβ3、1ng/ml(0.1〜25ng/mlまでの濃度範囲);R&D社)、ジブチリルcAMP(0.5mM(0.05〜2mMまでの濃度範囲);シグマ社)、及びDAPT(10nM(0.5〜50nMまでの濃度範囲);トクリス社)を添加されたNeurobasal培地/B27培地(1:50希釈)/L‐グルタミン(0.2〜2mMの有効範囲))含有培地(NB/B27;インビトロジェン社)に培地を第11日から9日間変更した。第20日にアキュラーゼ(登録商標)(イノベーティブ・セル・テクノロジー社、カリフォルニア州、サンディエゴ)を使用して細胞を解離させ、そして、所与の実験にとって所望の成熟段階まで分化培地(NB/B27+BDNF、AA、GDNF、(本明細書に記載される濃度範囲の)dbcAMP、TGFβ3及び(本明細書に記載される濃度範囲の)DAPT)中において、15μg/ml(1〜50μg/mlまでの濃度範囲)のポリオルニチン(PO)/ラミニン(1μg/ml)(0.1〜10μg/mlまでの濃度範囲)/フィブロネクチン(2μg/ml(0.1〜20μg/mlまでの濃度範囲)で事前に被覆されたディッシュに高細胞密度条件(例えば、300から400k細胞/cm2)で再播種した。
ロゼット系DAニューロン誘導について、最初の神経誘導ステップを促進するために二重SMAD阻害を用いたことを少なくとも1つの例外として、以前に記載されたプロトコル(Perrier, et al. Proc Natl Acad Sci USA 101:12543〜8 (2004)、参照により本明細書に援用)に部分的に従った。簡単に説明すると、分化第2〜8日までSB431542とノギン(250ng/ml(10〜1000ng/mlまでの濃度範囲);R&D社)、及び第6〜11日までSHH+FGF8を添加したKSR中において放射線照射MS5細胞と共培養することによって、hESCを神経運命に向かって誘導した。11日後にKSR中で神経ロゼットを手作業で単離し、そして、SHH、FGF8、BDNF及びAAを添加されたN2培地中で、前に記載された(Perrier, et al. Proc Natl Acad Sci USA 101:12543〜8 (2004)、参照により本明細書中に援用)ように培養した(P1期)。P1期の5〜7日後、ロゼットを機械的に再度回収し、そして、1時間の無Ca2/Mg2ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中でのインキュベーション後に研和し、そして、ポリオルニチン(PO)/ラミニン/フィブロネクチン被覆プレート上に再播種した。SHH/FGF8を使用するパターン形成をP2期において7日間継続し、所与の実験にとって所望の成熟段階まで(通常、移植試験には5〜7日又はインビトロ機能試験には32日)上に記載されたようにBDNF、AA、GDNF、TGFb3及びdbcAMPの存在下での最終分化が続いた。
遺伝子発現分析.対照LSB、LSB/SHH/FGF8及びLSB/SHH/FGF8/CHIRの各条件からRNeasyキット(キアジェン社、カリフォルニア州、バレンシア)を使用して分化中の第0日、第1日、第3日、第5日、第7日、第9日、第11日、第13日、及び第25日に全RNAを抽出した。マイクロアレイ分析について、MSKCCゲノム・コア施設が全RNAを処理し、イルミナ・ヒト参照12ビーズアレイに製造業者の明細書に従ってハイブリダイズさせた。Bioconductor(worldwideweb.bioconductor.org)のLIMMAパッケージを使用して各日及び各条件の間で比較を実施した。0.05未満の調整済みP値と2よりも大きい変化倍率を有することが分かった遺伝子が有意であると見なされた。市販のソフトウェアパッケージ(Partek Genomics Suite(第6.10.0915版))を使用して説明的なマイクロアレイデータ分析と提示のいくつかを実施した。qRT‐PCR分析について、各条件の第25日における全RNAを逆転写し(Quantitech、キアジェン社)、そして、市販のTaqman遺伝子発現アッセイ(アプライド・バイオシステムズ社、カリフォルニア州、カールスバッド)を使用して増幅された物質を検出し、HPRTに対してそのデータを正規化した。各データポイントは3つの独立した生物試料からの9回の技術複製を表す。マイクロアレイ試験の生データは未だGEO(worldwideweb.ncbi.nlm.nih.gov/geo)において利用可能ではない。動物の外科手術.げっ歯類動物及びサルに対する手技はNIHのガイドラインに従って実施されており、そして、地域の動物実験委員会(IACUC)、バイオセイフティ委員会(IBC)、並びに胚性幹細胞研究委員会(ESCRO)により承認された。
マウス.NOD‐SCID IL2Rgcヌルマウス(20〜35gの体重;ジャクソン・ラボラトリー社、メーン州、バーハーバー)をケタミン(90mg/kg;アコーン社、イリノイ州、ディケーター)とキシラジン(4mg/kg、アイオワ州、フォート・ドッジ)で麻酔した。6‐ヒドロキシドーパミン(10μg(0.1〜20μgまでの濃度範囲)6‐OHDA(シグマ・アルドリッチ社)を次の座標(ミリメートル単位)で線条体に定位的に注入した:AP、0.5(定位的外科手術の基準として用いられる頭蓋縫合、すなわち、ブレグマより);ML、−2.0;DV、−3.0(基準として用いられる脳を包み込む膜である硬膜より)。上出来な病変を有するマウス(平均で6回転超/分)を移植用に選択した。総計で150×103細胞を1.5μlの体積で、次の座標(mm単位)で線条体に注入した:AP、0.5;ML、−1.8;DV、3.2。マウスを移植後18週間で殺処理した。
ラット.成体雌スプレイグ・ダウリー(タコニック社、ニューヨーク州、ハドソン)ラット(180〜230g)をケタミン(90mg/kg)とキシラジン(4mg/kg)で麻酔した。片側のみの内側前脳束の黒質線条体経路の病変を、2か所(Studer, et al. Nature Neurosci. 1:290〜295 (1998)、参照により本明細書中に援用)での6‐OHDA(0.2%アスコルビン酸及び0.9%生理食塩水(シグマ社)中の3.6mg/ml)の定位的注入により確立した。注入後6〜8週間までにアンフェタミン誘導性回転が6回転/分を超えた場合、移植用にラットを選択した。250×103細胞を各動物の線条体に移植した(座標:AP+1.0mm、ML−2.5mm及びV−4.7mm;−2.5のこぎ歯セット)。対照ラットは代わりにPBSを受容した。外科的手技は前に記載された(Studer, et al. Nature Neurosci. 1:290〜295 (1998)、参照により本明細書中に援用)。毎日の15mg/kgのシクロスポリン(ベッドフォード・ラブズ社、オハイオ州、ベッドフォード)の腹腔内注射を細胞移植の24時間前に開始し、そして、細胞移植から20週間後の殺処理まで継続した。
霊長類動物.両側性のパーキンソン症候群をもたらす頸動脈MPTP投与とそれに続く毎週の静脈内MPTP投与(Kordower, et al. Science 290:767〜773 (2000)、参照により本明細書中に援用)により2匹の成体(17〜18歳;10〜12kg;雌)アカゲザルを半身性パーキンソン症にした。両方の動物が、猫背、跛行及び硬直性症状(運動の硬直性)、空間無視(片側への刺激に対する運動的アウェアネス)及び運動緩慢(動作緩慢の開始)を含む行動分析に基づいて中程度から重症の病変に適合するパーキンソン病の症状を示した。改変パーキンソン病臨床評価尺度(CRS)を用いてこれらのパラメーターをサルにおいて評価することができる。移植手術の日に動物をケタミン(3.0mg/kg、筋肉内)とデクスドミター(0.02〜0.04mg/kg筋肉内)で鎮静化し、安定した気道を維持するために挿管し、そして、イソフルランで麻酔した。次に外科手術のためにそれらの動物を定位枠に設置した。両方のアカゲザルが定位的座標(Paxinos, et al. The Rhesus Monkey Brain in Stereotaxic Coordinates (Academic Press,2000)、参照により本明細書中に援用)に基づくヒト底板由来DA培養物の3回の頭蓋内注入による単回の外科手術を受けた。細胞の両側性注入(10ul/注入;125,000細胞/ul)を総計で半球当たり30μlの体積になるように3つの部位(1つは後方尾状核、2つは交連前被殻と覆っている白質)に実施した。定位的顕微操作装置に取り付けられた点滴ポンプを利用して1μl/分の速度で28Gの針を付けた50μlのハミルトン注射筒から細胞を送達した。注入の完了後、その針をさらに2〜5分間その場所に留めて点滴物を針の先端から拡散させた後に注射筒をゆっくりと引き抜いた。外科手術直後から術後72時間まで動物は鎮痛薬(ブプレネックス(buprenex)、0.01mg/kg筋肉内、術後72時間の間に1日2回;メロキシカム、0.1mg/kg皮下、術後72時間の間に1日1回)並びに抗生物質(セファゾリン(cephazolin)、25mg/kg筋肉内、1日2回)を受容した。それらの動物はシクロスポリンA(ネオラール、サンディミュン)を外科手術の48時間前に開始して移植から1か月後の殺処理まで経口的に(30mg/kgから15mg/kgまで徐々に減量して)受容した。
行動アッセイ.アンフェタミン誘導性回転(マウス及びラット)とステッピング試験(ラット)を移植前と移植後4週間、8週間、12週間、18週間に実施した。マウスにおける回転行動はd‐アンフェタミン(10mg/kg、シグマ社)の腹腔内注射から10分後に記録され、30分間記録された。ラットにおける回転行動はd‐アンフェタミン(5mg/kg)の腹腔内注射から40分後に記録され、そして、TSE VideoMot2システム(ドイツ)により自動的に評価された。データが分当たりの平均回転数として提示された。ステッピング試験は、Blume, et al. Exp. Neurol. 219:208〜211 (2009)及びCrawley, et al. What’s Wrong With My Mouse: Behavioral Phenotyping of Transgenic and Knockout Mice (Wiley−Liss, 2000)(それらの全てを参照により本明細書中に援用)から改変された。簡単に説明すると、各ラットを平面に配置し、尾をそっと持ち上げることによってそのラットの後肢を引き上げて前足だけをテーブルに接触させた。実験者が一定の速度でラットを後方に1メートル引きずった。対側性と同側性の前足の両方の順応性のステップの数を計数した。データは、対側性の順応ステップ/(対側性+同側性の順応ステップ)のパーセンテージとして提示された。円筒試験は、前に記載されたように(Tabar, et al. Nature Med. 14:379〜381 (2008)、参照により本明細書中に援用)各動物をガラスの円筒中に配置し、その円筒の壁への(20回の接触のうちの)同側性と対側性の足の接触の回数を計数することによって実施された。組織処理.マウス及びラット:動物(マウス及びラット)は深麻酔の誘導のために過剰用量のペントバルビタール(50mg/kg)を腹腔内に受容し、そして、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で潅流された。脳を摘出し、4%のPFA中で後固定し、その後、30%のショ糖溶液中に2〜5日間浸漬した。O.C.T.化合物(サクラ・ファインテック社、カリフォルニア州、トーランス)中に包埋した後、それらの脳をクライオスタットで切片にした。
霊長類動物:動物を、ケタミン(10mg/kg、筋肉内(IM))とペントバルビタール(25mg/kg、静脈内(IV))による深麻酔下でヘパリン処置0.9%生理食塩水とそれに続く冷4%PFA固定液(pH7.4)を用いる頸動脈潅流により殺処理した。一次固定の直後に脳を頭骨から取り出し、4%PFA中に浮かせて24〜36時間後固定した。次にそれらの脳を濯ぎ、4℃で低速振盪器上の10%ショ糖中に再浮遊させ、そして、「沈めて」おいた。その後、その処理を20%ショ糖、続いて30%ショ糖で反復した。脳全体を凍結滑走式ミクロトーム上で40umの連続切片に冠状に切断し、そして、−20℃の凍結保存媒体中に浮かせて貯蔵した。
免疫組織化学:細胞を4%PFA中で固定し、0.3%トリトンを含む1%ウシ血清アルブミン(BSA)を用いてブロックした。脳組織切片を冷PBS中で洗浄し、そして、同様に処理した。一次抗体を1〜5%のBSA又は通常ヤギ血清に希釈し、そして、製造業者の推奨に従ってインキュベートした。抗体と供給業者の包括的なリストが表6として提供されている。適切なAlexa488複合体化、Alexa555複合体化及びAlexa647複合体化二次抗体(モレキュラー・プローブス社、カリフォルニア州、カールスバッド)を4’、6‐ジアミジノ‐2‐フェニルインドール(DAN)細胞核対比染色液(サーモ・フィッシャー社、イリノイ州、ロックフォード)と共に使用した。いくつかの分析について、ビオチン化二次抗体を使用し、続いてDAB(3,3’‐ジアミノベンジジン)色素原による視覚化を行った。HPLC分析.ドーパミン、ホモバニリン酸(HVA)及びDOPAC(3,4‐ジヒドロキシ‐フェニル酢酸)のレベルを測定するための電気化学的検出を用いる逆相HPLCを前に記載されたように(Roy, et al. Nature Med. 12:1259〜1268 (2006); Studer, et al. Brain Res. Bull. 41:143〜150 (1996)、それらの全てを参照により本明細書中に援用)実施した。培養試料を分化第65日に過塩素酸中に収集した。いくつかの実験について、同じ検出系を用いて、しかし、前に記載されたような(Studer, et al. Brain Res. Bull. 41:143〜150 (1996)、参照により本明細書中に援用)市販のキットを用いるドーパミンとその代謝物のアルミニウム抽出の後にDAを媒体中で直接測定した。電気生理学的レコーディング:40倍の水浸対物レンズを装着した正立顕微鏡(Eclipse E600FN;ニコン)上のレコーディング・チャンバーに培養物を移し、mM単位で次のものを含有する生理食塩水で培養物を潅流した:125NaCl、2.5KCl、25NaHCO3、1.25NaH2PO4、2CaCl、1MgCl2、及び25グルコース(34℃;95%O2・5%CO2で飽和;pH7.4;298mOsm/L)。生理食塩水の流速は2〜3ml/分であり、インライン・ヒーター(TC‐324B制御器付きのSH‐27B;ワーナー・インスツルメンツ社)を通過した。冷却CCDデジタルカメラ(フォトメトリクス社のCoolSNAP ES2、ローパー・サイエンティフィック社、アリゾナ州、ツーソン)を取り付けたビデオ顕微鏡法によりニューロンを視覚化した。電気生理学的レコーディングのために選択した細胞は細かい分岐した神経突起を有するニューロン様形態を有した。MultiClamp700B増幅器(モレキュラー・デバイス社)を用いて電流固定設定の体細胞ホールセル・パッチクランプ・レコーディングを実施した。シグナルを1〜4kHzについてフィルターにかけ、そして、5〜20kHzについてDigidata1440A(モレキュラー・デバイス社)を使用してデジタル化した。レコーディングパッチ電極はフレイミング・ブラウン・ガラス電極作製器(P‐97、サッター・インスツルメンツ社)上で引っ張られてフィラメント化ボロケイ酸ガラス(サッター・インスツルメンツ社)から作製され、そして、槽中で4〜6MΩの抵抗を有した。電極はmM単位で次のものを含有する内部溶液で満たされた:135K‐MeSO4、5KCl、5HEPES、0.25EGTA、10ホスホクレアチン(phosphocroeatine)‐ジ(トリス)、2ATP‐Mg、及び0.5GTP‐Na(pH7.3、浸透圧を290〜300mOsm/Lに調節)。電極の抵抗を補正するために増幅器ブリッジ回路を調節し、そして、モニターした。電極の静電容量が補正された。レコーディング中に直列抵抗が20%超増加したときは、増加した抵抗がレコーディング中の部分的な技術的故障を示唆したので、そのデータを廃棄した。
細胞計数と立体解析学的解析.底板期(第11日)図1、中脳ドーパミンニューロン前駆細胞期(第25日)、図2及び成熟DAニューロン期(第50日以降)図3及び11におけるマーカー陽性細胞のパーセンテージを3回ずつの独立した実験から得られた試料において決定した。定量用の画像を画一的で無作為的な方法で選択し、そして、各画像にまずDAPI陽性細胞核の数について点数を付け、続いて目的のマーカーを発現する細胞の数を計数した。データは平均値±SEMとして提示されている。移植片内のヒト細胞(抗hNAで同定された)とTH+ニューロンの定量を、移植片が確認できる10枚ごとの切片について実施した。前にTabar, et al. Nat. Biotechnol. 23:601〜606 (2005)(参照により本明細書中に援用)において記載されたように、光学分画器のプローブとステレオ・インベスティゲーター・ソフトウェア(MBFバイオサイエンス社、バーモント州)を使用するカバリエリ推定量を使用して細胞数と移植片体積を決定した。データは推定された総細胞数と総移植片体積±標準誤差(SEM)として提示されている。
次の処方は本発明の実施形態の開発のために使用された例となる細胞培養培地を説明する。
維持用hESC培地(1リットル):800mLのDMEM/F12、200mLのノックアウト血清代替物、5mLの200mM L‐グルタミン、5mLのPen/Strep、10mLの10mM MEM最小非必須15アミノ酸溶液、55μMの13‐メルカプトエタノール、及びbFGF(最終濃度は4ng/mLである)。
hESC分化用KSR培地(1リットル):820mLのノックアウトDMEM、150mLのノックアウト血清代替物、10mLの200mM L‐グルタミン、10mLのPen/Strep、10mLの10mM MEM、及び55μMの13‐メルカプトエタノール。
hESC分化用N2培地(1リットル):DMEM/F12粉末と985mlの蒸留水、1.55gのグルコース(シグマ社、カタログ番号G7021)、2.00gの炭酸水素ナトリウム(シグマ社、カタログ番号S5761)、プトレシン(100mLの蒸留水に溶解した1.61gのうちの100uLのアリコット;シグマ社、カタログ番号P5780)、プロゲステロン(100mLの100%エタノールに溶解した0.032gのうちの20uLのアリコット;シグマ社、カタログ番号P8783)、亜セレン酸ナトリウム(蒸留水中の0.5mM溶液の60uLのアリコット;バイオショップ・カナダ社、カタログ番号SEL888)、及び100mgのトランスフェリン(セリアンス(Celliance)/ミリポア社、カタログ番号4452−01)、及び10mLの5mM NaOH中の25mgのインスリン(シグマ社、カタログ番号16634)。
PMEF((初代マウス胚線維芽細胞(PMEF))フィーダー細胞)調製用の10%FBS含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(1リットル):885mLのDMEM、100mLのFBS、10mLのPen/Strep、及び5mLのL‐グルタミン。
MS‐5フィーダー細胞媒体の調製用の10%FBS含有アルファ最小必須培地(MEM)(1リットル):890mLのアルファMEM、100mLのFBS、10mLのPen/Strepゼラチン溶液(500ml):0.5gのゼラチンを500mlの温Milli‐Q水(50〜60℃)に溶解。室温まで冷却。
この実施例は、本発明のFOXA2+LMX1A+DAニューロンの制御分化をもたらすための小分子の発見と接触タイミングについて説明する。
次のものは、本明細書に記載される実験上の発見のうちのいくつかの概要である:CHIR99021が存在しない状態でのSHHアゴニスト(パルモルファミン+SHH)及びFGF8(S/F8)による二重SMAD阻害細胞の処理によって、第11日までのFOXA2の有意に低い発現とLMX1A発現の完全な喪失が示された(図1a、b)。LSB処理培養物及びLSB/S/F8/CHIR処理培養物において前方マーカーであるOTX2が堅固に誘導されたが、LSB/S/F8条件下では誘導されなかった(図1a、c)。
本発明者らは、DA様ニューロンを含有する細胞集団を生じることになるいくつかの他の制御分化方法をこれまでに使用した。これらのDA様ニューロンを移植試験において使用し、治療用途にこれらの細胞をさらに使用することに対する懸念が生じた。例えば、MS5神経誘導を含む、Perrier et al., 2004及び Fasano et al., 2010に記載される方法がロゼット細胞形成を引き起こし、そして、それらの方法が第11日の前駆細胞(例えば、図2、16及び17を参照のこと)を作製するために用いられ、DA様ニューロンを得るためにさらに用いられた。これらのニューロンは、生じた第11日の細胞集団中の低パーセンテージの前駆細胞より生じた。これらのニューロンを使用した移植試験は、テラトーマの発生を引き起こす増殖制御の喪失と共に不適切な神経種の移植後発生が観察されたことに加えて、低い移植後生存率とDA様ニューロンの表現型の喪失を示した。
具体的には、P0においてMS5フィーダー細胞(Perrier et al., 2004)を使用してOct4+細胞のロゼット細胞への神経誘導を開始するための分子とhESCを接触させた。P1期において、細胞をP2期の細胞であって、Pax2+/En1+DA始原細胞を含む、特異的発現パターンを有する細胞に分化させるためのさらなる分子と細胞を接触させることによってロゼット細胞を増大させ、そして、TH+/En1+DAニューロンにさらに分化させた。これらの細胞が6OHDA傷害ラットにおける移植のために使用され、シクロスポリンA処理により免疫抑制された。それらの移植試験は低いインビボ生存性、TH+表現型の喪失、患者へのさらなる医療上の問題を引き起こすだろう望ましくない、おそらくは致死性の細胞、すなわち、テラトーマのさらなる増殖及び不適切な神経種への細胞の成長への懸念を示した。
ロゼット由来DAニューロン前駆細胞の移植片に移植後4.5か月において非常に少数の生存TH+ニューロン(50未満TH+細胞/動物)が存在した(図16A)。しかしながら、TH+細胞と対照的に、GFP標識細胞(GFPは広範に存在するプロモーターによって誘導された)は移植後では極めて生存性が高かった。このことは、移植後の大半の生存細胞は非DAニューロン同一性を有する神経細胞であったことを示唆する(16B)。TH(赤)を共発現する移植片由来細胞(hNA+(緑))はほとんど無く、これは大半の移植されたヒト細胞が非DAニューロン表現型を装うことを再度示唆する(図16C)。パネル16D〜Eは、D〜E、非常に低いインビボ生存にもかかわらず、アンフェタミン誘導性回転(D)、円筒試験及び突発性回転(E)などの少数の行動試験においていくらかの(わずかで、非常に変わりやすい)改善が存在したことを示す。無フィーダー細胞神経誘導が前に記載されたように(Chambers et al., 2009)実施されたが、底板細胞を産出するようにさらに改変された(Fasano et al., 2010)。万能性細胞を底板細胞に分化させるための改変二重SMAD阻害方法では、本発明者らは、高濃度のSHHが第11日までのFP誘導に必要とされることを以前に発見している。例えば、いくつかの実施形態では、ソニックC25IIは200ng/mlで添加された。いくつかの実験では、DKK‐1(R&D社;100ng/ml)、FGF8(R&D社;50ng/ml)、Wnt‐1(ペプロテック社;50ng/ml)及びレチノイン酸(R&D社;1mM)を添加した。図17を参照のこと。しかしながら、これまでの方法を用いて第11日においてもたらされた細胞集団の中には、本発明の方法を用いるFOXA2+/LMX1A+中脳底板始原細胞の高いパーセンテージを含むものは無かった。
本明細書において示されるように、万能性細胞を含有する細胞集団が出発集団用に本発明者らによって選択され、第0日に播種された。細胞は分化前に集密近く(60〜100%の間の集密)まで培養される。これらの細胞を第0日に二重SMAD阻害剤と接触させた(すなわち、LDN‐193189+SB431542=「LSB」への曝露)。本発明者らは、第11日まで新しいLSBを含有する栄養補給物を定期的に与えて細胞集団に注目し、そして、いくつかの残存細胞はLMX1A+であるが、FOXA2を発現しないことを発見した(図1a、b)。本発明者らは、出発細胞を2つ組で播種し、次にそれらの細胞を異なる曝露計画で接触させる、すなわち、細胞を第0日、又は第1日、又は第2日等に特定の時間、すなわち、24時間、48時間等の間接触させる、次のSHHアゴニスト(パルモルファミン+SHH)及びFGF8(S/F8)のうちのいずれかを含有する混合物との接触の後に、細胞種(すなわち、遺伝子発現パターン/タンパク質発現パターン)について試験した。試験された3つの主要な例となる培養条件は次のものである。1)細胞を第0日にLDN/SB(LSB)と接触させ、次に第5日まで新しいLSBと接触させ、第5日から細胞を第11日までSB抜きで新しいLDNと接触させた。2)細胞を第0日にLDN/SB(LSB)と接触させ、次に第5日まで新しいLSBと接触させ、第5日から細胞を第11日までSB抜きで新しいLDNと接触させ、一方、この期間に細胞を第7日まで新しいパルモルファミン、SHH及びFGF8とさらに接触させた。3)細胞を第0日にLDN/SB(LSB)と接触させ、次に第5日まで新しいLSBと接触させ、第5日から細胞を第11日までSB抜きで新しいLDNと接触させ、一方、この期間に細胞を第7日まで新しいパルモルファミン、SHH及びFGF8とさらに接触させ、一方、細胞種の最適収量を決定するためにこれらの主要な条件をいくつか変えて培養第3日に開始して第11日まで新しいCHIRとさらに接触させた。包括的時間的遺伝子発現プロファイリングを用いて3つの培養条件の系統的な比較(図1d)が実施された。例となる図8及び表1〜6を参照のこと。差次的発現した遺伝子の階層的クラスター分析が分化第11日までの3つの処理条件を分離した(図8a)。FOXA1、FOXA2、及びPTCH1を含むいくつかの他のSHH下流標的がLSB/S/F8/CHIR処理セットとLSB処理セットの間において最も差次的に調節された転写物の中にあった(図1e)。LMX1A、NGN2、及びDDCの発現は早くも第11日までの中脳DAニューロン前駆細胞運命の確立を示した(図1e、f)。対照的に、第11日までのLSB培養物はHESS、PAX6、LHX2、及びEMX2などの背側前脳前駆細胞マーカーを濃縮した。LSB/S/F8/CHIR処理とLSB/S/F8処理の直接比較(図1f)によりLSB/S/F8/CHIR群における中脳DA前駆細胞マーカーの選択的濃縮が確認され、RAX1、SIX3、及びSIX6の差次的発現に基づいてLSB/S/F8処理培養物における視床下部前駆細胞同一性が示唆された(図2dにおけるPOMC発現、OTP発現も参照のこと)。
表1、2に第11日についての、及び、表3〜5に第25日についての差次的に発現した転写物の例となるリストが示され、遺伝子オントロジー分析(図8b)(DAVID;http://david.abcc.ncifcrf.gov)がCHIR処理による正準WNTシグナル伝達の強化を確認した。生データは未だGEO(worldwideweb.ncbi.nlm.nih.gov/geo/accession#:[TBD])において利用可能ではない。中脳DA前駆細胞マーカー(図1g)と前方腹側非DAニューロン運命のマーカー(図1h)の遺伝子発現の時間的比較分析により3つの誘導条件が:i)LSB:背側前脳同一性;ii)LSB/S/F8:腹側/視床下部同一性及びiii)LSB/S/F8/CHIR:中脳DA前駆細胞同一性に配分された。
DAニューロンの分化.さらなる分化のため、ニューロン成熟を促進する培地(BAGCT、材料と方法を参照のこと)中に前駆細胞を維持した。これまでの方法と本発明の方法から生じる分化細胞の集団の間で次の種類の比較を行った:A)分化第50日におけるLMX1A、FOXA2及びNURR1と組み合わせたTHについての免疫細胞化学分析、B)ロゼット由来培養物と底板由来(LSB/S/F8/CHIR)培養物を比較する総細胞の中のTH+細胞、FOXA2+細胞、LMX1+細胞、及びNURR1+細胞の定量。(C)底板DAニューロン培養物及びロゼット由来DAニューロン培養物における第50日でのセロトニン+(5‐HT)神経細胞サブタイプとGABA+神経細胞サブタイプ(非DAニューロン混入細胞)のパーセンテージの定量。そして、(D)ドーパミンと代謝物を測定するためのHPLC分析:底板由来培養物とロゼット由来培養物の間のDAレベル、DOPACレベル及びHVAレベルの比較。第25日までに3つの前駆細胞集団がTuj1+ニューロン(図2a)、及びDAの合成における律速性酵素であるTHを発現する細胞を産出した。しかしながら、LSB/S/F8/CHIR処理により、LMX1A及びFOXA2を共発現するTH+細胞が生じ、そして、核受容体NURR1(NR4A2)の強力な誘導が示された(図2a、b)。第13日培養物と第25日培養物における遺伝子発現の比較によって、他の分裂終了後DAニューロンマーカーの堅固な誘導が確認された(図2c)。LSB処理培養物とLSB/S/F8処理培養物に対する比較において第25日におけるDAニューロン同一性の特徴解析によって、既知の中脳DAニューロン転写物の濃縮が確認され、そして、複数の新規候補マーカーが同定された(図2d、表3〜5、図8b)。例えば、LSB/S/F8/CHIR(中脳DA群)において最も濃縮された転写物は、もともと中脳DAニューロン発生と関係していないが、ヒト黒質において強力に発現している遺伝子であるTTF3であった(図8c;アレン・ブレイン・アトラス:http://human.brain−map.org)。
EBF‐1、EBF‐3(図8c)並びに肝臓におけるFOXA2の公知の転写標的であるTTRについて同様のデータが得られた。本発明の開発中に得られたデータは中脳DA前駆細胞におけるいくつかのPITX遺伝子の濃縮を示した。中脳DAニューロンの古典的なマーカーであるPITX3も分化第25日において強固に発現した(図2e)。そして、無関係のhESC株とhiPSC株が容易に中脳底板誘導とDAニューロン誘導の両方を再現することができた(図9)。本明細書において示されるデータによって、他の試験されたプロトコルと対照的にLSB/S/F8/CHIRプロトコルが中脳DAニューロン運命に合致するマーカープロファイルを発現する細胞を産出することが示された。
底板由来DAニューロンのインビトロ及びインビボの特質を神経ロゼット中間体から得られたDA様ニューロンと比較した(図10及び16)。神経ロゼットのパターン形成はhPSCからDAニューロンを得るための現在最も広く用いられている戦略を表す。底板系プロトコルとロゼット系プロトコルの両方が、長期インビトロ生存が可能であるTH+ニューロンの作製に優れていた(分化第50日;図3a)。しかしながら、TH+細胞のパーセンテージは底板由来培養物において有意に高かった(図3b)。両方のプロトコルのTH+細胞はNURR1の共発現を示したが、底板由来DAニューロンはFOXA2とLMX1Aを共発現した(図3a、b)。GABA及びセロトニン(5‐HT)陽性ニューロンはほとんど観察されなかった(図3c)。DAとその代謝物であるDOPAC及びHVAはどちらのプロトコルで作製された培養物にも存在したが、DAレベルは底板培養物で約8倍高かった(図3d、e)。中脳DAニューロンは広範囲にわたる線維伸長とシナプシン、ドーパミン・トランスポーター(DAT)、及びGタンパク質共役内向き整流性カリウムチャネルを含む成熟ニューロンマーカーの堅固な発現を示した(黒質緻密部(SNpc)DAニューロンにおいて発現する、GIRK2とも呼ばれるKir3.2)(図3f、図11)。SNpc DAニューロンは、脳においてそれらを他の大半のニューロンと識別する電気生理的表現型をインビボで示す。具体的には、それらのニューロンは低速で(1〜3Hz)突発的に電位上昇を示す。また、この低速の電位上昇は低速の閾値下振動電位を伴う。インビトロで2〜3週間の後、生後初期マウスから培養されたSNpc DAニューロンがこれらの同じ生理的特徴を示す。hESCから分化したDAニューロンが一貫して(4/4)この特徴的な生理的表現型を示した(図3g〜i)。
第65日におけるmDAニューロンのインビトロでの維持によって、TH陽性ニューロンがそれまでのようにFoxA2を発現しており、mDAニューロンに典型的な長い線維を伸長することが示された(図3A)。HPLCによるDA放出の測定によって、65日齢TH+ニューロンはインビトロで機能的であることが示された(図3B)。
損傷を受けたニューロンを含有するげっ歯類動物、すなわち、マウス及びラットにおける新規DA神経細胞集団の移植
本分野の課題のうちの1つは、神経過形成又は非中脳ニューロンへの不適切な分化のリスクが無い状態で機能的にインビボにおいて生着するhPSC由来中脳DAニューロンを作製する、又はテラトーマを発生させる能力である。胎児組織移植試験に基づき、NURR1の発現によって示される細胞周期離脱の時が移植に適切な期間であり得ると本発明者らは考えた(およそ分化第25日、図2)。非傷害成体マウスの第25日細胞を使用する最初の試験によって、移植後6週間でhPSC由来FOXA2+/TH+ニューロンの堅固な生存が示された(図12)。パーキンソン病の宿主における、神経過形成を引き起こすことがない、FOXA2+/TH+細胞の長期生存が試験された。この目的のため、まれな腫瘍原性細胞の曝露に特定の感受性を有する、異種移植片の生存を効率的に支援する株(Quintana, et al. Efficient tumour formation by single human melanoma cells. Nature 456:593〜598 (2008)、参照により本明細書中に援用)であるNOD‐SCID IL2Rgcヌルマウスにおいて6‐ヒドロキシ‐ドーパミン(6‐OHDA)傷害(Tabar, et al. Nature Med. 14:379〜381 (2008)、参照により本明細書中に援用)を行った。高い増殖能を有する細胞の混入の可能性を示すために事前精製することなく底板由来DAニューロン培養物とロゼット由来DAニューロン培養物の両方を移植した(150×103個/動物)。移植から4.5か月の後に底板由来DAニューロン移植片がFOXA2共発現性TH+細胞から構成される輪郭のはっきりした移植中核とヒト特異的マーカーhNCAMを示した(図4a〜c)。機能分析によってアンフェタミン誘導性回転行動の完全な救出が示された。対照的に、ロゼット由来ニューロン移植片はTH+ニューロンをほとんど示さず、回転行動の有意な減少をもたらさず(図4d)、そして、大規模な神経過形成を示した(20mm3超の移植片体積;図13)。本明細書において報告される、移植に使用されたロゼット由来神経細胞の広範囲の過形成は本発明者らのグループ(Kim, et al. miR−371−3 Expression Predicts Neural Differentiation Propensity in Human Pluripotent Stem Cells. Cell Stem Cell 8:695〜706 (2011)、参照により本明細書中に援用)及び他のグループ(Hargus, et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 107:15921〜15926 (2010)、参照により本明細書中に援用)のロゼット由来DA移植片を用いるこれまでの研究に匹敵した。その過形成はより長い生存期間(4.5か月対6週間)、移植前のFACS精製の欠如、及びNOD‐SCID IL2Rgcヌル宿主の選択に起因する可能性があった。増殖性のKi67+細胞の数は底板由来移植片では最小であった(総細胞の1%未満)が、ロゼット由来移植片は増殖性神経前駆細胞からなるポケットを保持した。神経過形成は移植片内の初期前方神経外胚葉性細胞によって引き起こされると考えられている(Elkabetz, et al. Genes Dev. 22:152〜165 (2008); Aubry, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S A 105:16707〜16712 (2008)、参照により本明細書中に援用)。この仮説は底板由来移植片ではなくロゼット由来移植片での前脳マーカーFOXG1の発現によって裏付けられた。底板由来移植片とロゼット由来移植片の両方に小パーセンテージのアストログリア細胞が存在したが、大半のGFAP+細胞は宿主起源を示すヒトマーカーについて陰性であった(図13)。
本明細書に記載されるNOD‐SCID IL2Rgcヌルマウスにおける結果はFOXA2+/TH+ニューロンの堅固な長期生存、アンフェタミン誘導性回転行動の完全な回復、及び神経過形成のあらゆる兆候の喪失を示した。しかしながら、これらの結果のいくつかはNOD‐SCID IL2Rgcヌルマウスの特定的な使用に起因し得た。この仮説を検証するため、シクロスポリンAを使用して薬理的に免疫抑制した成体6‐OHDA傷害ラットに底板由来DAニューロン培養物(250×103細胞)を移植した。移植から5か月後で移植片の生存は堅固であり(図4e〜h)、FOXA2(図4g)とヒト核抗原(hNA)(図4e)を共発現するTH+細胞は平均で15,000個より多く、TH+/hNCAM+線維が移植中核から周囲の宿主線条体へ発出した(図4f)。TH+細胞はFOXA2に加えて中脳DAニューロンマーカーPITX3及びNURR1を発現した(図4h〜j)。行動分析によって、改善を示さなかった偽移植動物と対照的に、アンフェタミン誘導性回転非対称の完全な回復が示された(図4k)。移植された動物は、DA系の薬理的刺激に依存しないアッセイ法である前肢の無動を測定するステッピング試験(図4l)と円筒試験(図4m)にも改善を示した。遅発性(移植から約3〜4か月後)の回復がヒトDAニューロンについて予期され、そして、それはDAT発現(図4n)のレベルなどのインビボ成熟の速度に依存する。Kir3.2チャネル(GIRK2)又はカルビンジンを発現するTH+細胞の存在は、SNpc(A9)と腹側被蓋領域(A10)のDAニューロンが移植片に存在することを示す(図4o、p)。
マウス(図13)に見られるように、たいていは宿主由来のGFAP+グリア細胞がそうであったように(総細胞の7%;図14)、ラット細胞の中にセロトニン系細胞及びGABA系細胞はまれであった(総細胞の1%未満)。セロトニン+ニューロンは移植片中にほとんど検出されなかったが、宿主由来セロトニン系線維でありそうなhNCAM陰性細胞が観察された(図14)。
損傷を受けたニューロンを含有する霊長類動物における新規DA神経細胞集団の移植
本明細書において示される結果によって、2つの独立したマウスモデルにおいて良好な移植片生存と行動分析結果が示された。しかしながら、マウス又はラットの脳において必要とされるDAニューロンの数は霊長類動物及びヒトにおける移植に必要とされるより大きな数の細胞の小さな部分を表す。このプロトコルの拡大可能性を試験するため、2匹の成体MPTP傷害アカゲザルにおいてパイロット移植試験を実施した。
底板系プロトコルを用いて分化第25日までに50×106個もの多くの移植可能DAニューロン前駆細胞を得た。しかし、パーキンソン病様状態の誘導のための古典的な用量は頸動脈に注射された3mgのMPTP塩酸(0.5〜5mgの範囲)であった。これにMPTPの0.2mg/kg静脈内投与によるMPTPの全身性注射が続いた。細胞を脳の各側の3つの位置(後方尾状核及び交連前被殻)に注入し(総計6路、1.25×106細胞/路)、シクロスポリンAで動物を免疫抑制した。その脳の一方の側にH9のGFP発現性サブクローンに由来するDA前駆細胞を注入し、他方の側に非標識H9細胞に由来する細胞を移植した。継続的なFOX2A発現とTH産生を有する、アカゲザルにおけるニューロンの移植を示す結果が図4q〜tに示されている。移植から1か月後に中脳DAニューロンの堅固な生存がGFP(図15)及びヒト特異的細胞質性マーカー(SC‐121)(図4q)の発現に基づいて観察された。各移植中核は、宿主の中に最大で3mmまで伸長するTH+線維のハロによって囲まれた(図4r)。それらの移植中核はSC‐121(図4s)及びFOXA2(図4t)を共発現するTH+ニューロンから構成された。移植片内のSC‐121及びGFP陰性領域はIba1+宿主ミクログリアを含有し(図15)、不完全な免疫抑制を示した。まとめると、霊長類動物、すなわち、重篤な95%超の内在性中脳DAニューロンの喪失を含む成体MPTP(3mgのMPTP塩酸(1‐メチル‐4‐フェニル‐1,2,3,6‐テトラヒドロピリジン;0.5〜5mgMPTP塩酸までの濃度範囲)傷害アカゲザルにおける新規DA神経細胞集団の移植。MPTP曝露はヒトにおけるパーキンソン病に類似した観察可能な変化と症状を引き起こした。
PINK1変異体PD‐iPSC細胞と野生型hES(又はiPSC)細胞の中脳DAニューロン運命への同等の分化能
この実施例は、大集団の中脳DAニューロンが、胚の破壊を引き起こさない方法で得られたPD患者の細胞株、すなわちPINK1変異体PD‐iPSC細胞が本発明のFOXA2/LIM1XA/TH+DAニューロンを得るための細胞集団として使用されたときにPD患者のニューロンの特徴を有して発生したという発見について説明した。
PINK1 Q456X変異体PD‐iPSC株は本発明の新規底板ベース中脳DAニューロンプロトコル(方法)を用いて分化させられ、iPSC H9株から得られる中脳分化プロファイルと同等のプロファイルを生じた(図20)。(A〜C)PINK1変異体PD‐iPSC株の分化第11日(中脳前駆細胞期)におけるFOXA2(赤)、LMX1A(緑)及びDAPI(青)(A)についての、分化第25日(初期分裂終了後DAニューロン期)におけるFOXA2(赤)とTH(緑)(B)についての、及び、NURR1(赤)とTH(緑)(C)についての免疫細胞化学分析。(D〜F)分化第11におけるFOXA2(赤)、LMX1A(緑)及びDAPI(青)(D)についての、分化第25日におけるFOXA2(赤)とTH(緑)(E)についての、及び、NURR1(赤)とTH(緑)(F)についての、H9由来細胞を使用して実施された同じセットの免疫細胞化学分析。
PINK1変異体PD‐iPSCはインビトロでの長期の分化と成熟の後にタンパク質凝集というPD様表現型を示した。本発明者らは、新規底板ベース中脳DAニューロン誘導プロトコルを用いる分化の第55日にPINK1変異体PD‐iPSCがTH+DAニューロンの細胞質においてα‐シヌクレイン(PD患者のレビー小体の主要成分)発現の証拠を示すことを発見した(図21a〜b)。(A、B)PINK1変異体PD‐iPSC株の分化第55日におけるα‐シヌクレイン(LB509、赤)、TH(緑)についての免疫細胞化学分析と統合画像(A)及びα‐シヌクレイン(赤)とユビキチン(緑)についての免疫細胞化学分析(B)。これらのα‐シヌクレイン陽性細胞はユビキチン(古典的なレビー小体マーカー)の高発現も示した。対照的に、対照iPS株に由来するDAニューロンは(細胞質性と対照的に)正常なシナプス性α‐シヌクレイン発現と非常に低レベルのユビキチンの発現を示した(図21c〜d)。(C、D)対照iPSC株の分化第55日におけるα‐シヌクレイン(赤)とTH(緑)(C)、及びα‐シヌクレイン(赤)とユビキチン(緑)(D)についての免疫細胞化学分析。
凝集型のα‐シヌクレインの発現。PD患者の脳では、二量体化した不溶性形態のα‐シヌクレインがレビー小体において凝集を引き起こす。二量体型のα‐シヌクレインはα‐シヌクレイン上のセリン129のリン酸化を示す。
分化の同じ日にPINK1変異体PD‐iPSC由来細胞はセリン129リン酸化α‐シヌクレインの強い発現を示し、対照iPSC由来細胞の非常に低レベルの発現と対照的であった(図22)。PINK1変異体PD‐iPSC由来細胞はセリン129リン酸化α‐シヌクレインの強い発現を示し、対照iPSC由来細胞の非常に低レベルの発現と対照的であった。(A、B)分化第55日におけるPINK1変異体PD‐iPSC由来細胞(A)及び匹敵する対照iPSC由来細胞(B)におけるセリン129リン酸化α‐シヌクレイン(緑)及びDAPI(青)の免疫細胞化学分析。
α‐シヌクレイン発現パターンの差異が分化プロトコル中に観察される。本発明者らは、底板由来「真正」中脳DAニューロンがPD特異的脆弱性及び対応する特異的インビトロ表現型を示すと考えた。古典的なMS5間質性フィーダー細胞ベース分化プロトコル(Perrier et al., PNAS 2004、参照により本明細書中に援用)を用いて得られるDAニューロンは多数のTH+ニューロンを産出した。しかしながら、本発明の開発中に得られたデータに基づき、本発明者らは、MS5系TH+細胞が真正の底板由来中脳DAニューロンではないことを示した。MS5プロトコルにより分化する培養物には多数のα‐シヌクレイン陽性細胞が存在した。しかしながら、それらの細胞はTHを共発現しなかった。また、MS5分化戦略を用いるとき、PD‐iPSCと対照iPSCの間では発現パターンに差異は存在しなかった(図23a〜b)。これらのデータは、α‐シヌクレインが他の非DA細胞種においても発現すること、及びそのような非DA α‐シヌクレインは、特に標準的なMS5分化プロトコルを用いたときに、疾患由来細胞と対照iPSC由来細胞の間で変化しないことを示している。これらは刊行物(例えば、Perrier PNAS 2004)において報告されているDA様ロゼット由来ニューロンである。それらのMS5系TH+(=DA様)細胞は図3、10、13及び16における比較のために使用される。これらのデータは、α‐シヌクレインが他の非DA細胞種においても発現すること、及びそのような非DA α‐シヌクレインは、特に標準的なMS5分化プロトコルを用いたときに、疾患由来細胞と対照iPSC由来細胞の間で変化しないことを示している。そして、本明細書に記載される新しい底板系分化プロトコルによりα‐シヌクレインを共発現する多数のTH+細胞が生じる。それらのTH+細胞は細胞質性発現パターンでα‐シヌクレインを発現する。(図24A、B)MS5ベース分化の第60日におけるPINK1変異体PD‐iPSC株(A)、及び対照iPSC(B)のα‐シヌクレイン(LB509、赤)、TH(緑)についての免疫細胞化学分析。(C)底板ベース分化の第55日におけるPINK1変異体PD‐iPSC株のα‐シヌクレイン(赤)、TH(緑)についての免疫細胞化学分析。
PINK1変異体PD‐iPSCに由来する例となるDAニューロンは有害性刺激に対してより脆弱である。底板系プロトコルから得られたPD‐iPSC由来TH+DAニューロンは対照iPSC由来細胞よりも毒素負荷に対して脆弱であった(バリノマイシン:ミトコンドリアイオノフォア、5uM(1〜10uMまでの濃度範囲)、48時間)。対照的に、古典的なMS5系プロトコルにより得られたTH+ニューロンはPD由来細胞と対照由来細胞の間で差次的脆弱性を示さなかった(図24)。(A〜F)分化第60日における代表的なTH免疫細胞化学:底板系プロトコルにより得られたPD‐iPSC由来細胞と対照iPSC由来細胞の両方の正常状態(毒素処理無し)(A、PD‐iPSC由来細胞が示される)、毒素処理後のPD‐iPSCにおけるほぼ完全なTH+DAニューロンの分解(B)、部分的に分解された対照iPSCに由来するTH+DAニューロン(C)。バリノマイシン処理から48時間後のアラマーブルーを使用する全細胞生存性アッセイによっても、PD‐iPSC及び対照iPSCを比較すると毒素負荷(5及び10uM)について特定の範囲における差次的細胞生存が示された(図25)。
MS5系プロトコルより得られたPD‐iPSC由来培養物と対照iPSC由来培養物の両方の正常状態(D、PD‐iPSC由来細胞が示される)、PD‐iPSCにおける毒素負荷後のTH+ニューロン(E)、及びMS5プロトコルより得られた対照iPSC由来培養物(F)。(G〜H)分化第60日における底板系プロトコルによるTuj1(赤)及びTH(緑)についての免疫細胞化学の低出力画像:正常状態(G)と毒素負荷状態(H)のPD‐iPSC及び正常状態(I)と毒素負荷状態(J)の対照iPSC。(K〜N)分化第60日におけるMS5系プロトコルによるTuj1(赤)とTH(緑)についての免疫細胞化学の低出力画像:正常状態(K)と毒素負荷状態(L)のPD‐iPSC及び正常状態(M)と毒素負荷状態(N)の対照iPSC。
毒素負荷についての細胞生存性用量応答アッセイの例となる定量。バリノマイシン処理から48時間後のアラマーブルーを使用する細胞生存性アッセイによって、PD‐iPSCと対照iPSCを比較すると、毒素負荷(5及び10uM)について特定の用量範囲における差次的細胞生存が示された(底板ベース分化の第60日)。注記:このアッセイは全ての細胞死について試験するが、最も劇的な効果はDAニューロンにおいて特異的に観察された(図14を参照のこと)。従って、アラマーブルーに基づく定量はDAニューロン系譜で観察される差次的効果の程度を過小評価する可能性がある。
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例となる条件が急性スライス調製物中のヒト万能性幹細胞由来DAニューロンのインビボレコーディングのために確立された。図26に示されている例となる結果を参照のこと。
急性スライス調製物、すなわち、移植領域の生検試料からの調製物において電気生理学的測定法を用いることが企図される。1つの実施形態では、PDにおいて最も冒されるA9型ドーパミンニューロンに特異的な自律性ペースメーキング活性の試験に基づいてA9型移植片由来DAニューロンとA10型移植片由来DAニューロンがインビボで見分けられる。言い換えると、A10型ニューロンはペースメーキング活性を有しない。
条件が急性スライス調製物中のヒト万能性幹細胞由来DAニューロンのインビボレコーディングのために確立された。図26を参照のこと。具体的には、移植された万能性幹細胞由来ヒトDAニューロンをマウス黒質緻密部(SNpc)に見られる電気生理的特徴に典型的な特徴について測定し、それらの特徴を有することを発見した。図26Aの上の図は移植片領域におけるペースメーカー・ニューロンの再構成を示す。下の図は、9か月前にhES由来ニューロンを注入したラットから作製した脳の薄片の例となる顕微鏡写真を示す。移植片の輪郭が示されている。より高倍率の画像が底部にある挿入図に示されている。その薄片をチロシンヒドロキシラーゼについて処理した。その処理が白色として際立つ。(図26B)さらに、上の図は細胞移植片中の推定されるDAニューロンからの例となるセルアタッチ・パッチレコーディングを示す。下の図は同じ細胞からの例となるホールセル・レコーディングを示す。レコーディングは、シナプス入力を排除するためにグルタミン酸受容体アンタゴニストとGABA受容体アンタゴニスト(50μM AP5、10μM CNQX及び10μMガバジン)の存在下で行われた。これらのレコーディングは、PS由来ニューロンが通常の体細胞内電圧軌道を有する自律的なペースメーカーであることを示した。移植片試料で記録された別のニューロンが同様の特性を有した(図26C)。比較のため、成体マウスのSNpcにおけるドーパミン系ニューロンからのセルアタッチ・レコーディングとホールセル・レコーディングが示されている。略語(CTx=皮質、STr=線条体、SNpc=黒質緻密部、DA=ドーパミン系)。このデータは、移植から数か月後の移植されたラット線条体のインビボ機能試験を示す。従って、いくつかの実施形態では、移植された組織に対するインビボ機能試験は黒質緻密部(SNpc)の回復を示す。
本発明の方法おいて使用するための細胞表面マーカーを特定するための例となる方法。具体的には、CD142がこれらの方法で特定された。
候補表面マーカーを特定する2つの主要な戦略:中脳DAニューロンで選択的に発現し、A9型DAニューロン(図27b)を特に標識するように見えるDCSM1という名称のマーカーを含むいくつかの候補マーカーを見出した、遺伝的レポーター株における無作為遺伝子発現スクリーン(図27a)。第2の戦略は、96ウェル形式の242種の市販の抗体を試験するhESC由来DAニューロンにおけるCD細胞表面マーカースクリーンの使用である(図27c、d)。そのようなスクリーン(図27e)の結果によって、Nurr1+DAニューロン期を選択的に標識するマーカー(図27f)であるCD142を含む、中脳DAニューロンにおいて濃縮される少なくとも5個の検証済みのマーカーが特定された。本明細書に記載されるDA神経細胞法を用いるとCD142は通常分化第25日において総細胞集団の約30%を標識した(図28a)。Nurr1+DAニューロン期についてのCD142の選択性は複数の無関係のhESC株とhiPSC株で確認された(図28b)。DAニューロンの濃縮に加えて、CD142陽性細胞の濃縮がGABA系ニューロン及びセロトニン系ニューロンなどの好ましくないニューロンサブタイプを選択的に枯渇させることになる(図28c〜f)。インビボ試験によって、GABA系ニューロンとセロトニン系ニューロンの混入という問題を克服する高純度のDAニューロン移植片を生じさせるCD142陽性細胞集団の能力が確認された。精製されていない細胞を使用する移植方法によって早くも非常に少ないセロトニン系ニューロンが生じたが、望ましくない胎児組織移植片誘導性ジスキネジアの潜在的起源としてヒト胎児組織移植の失敗に関係づけられた混入細胞種であるセロトニン系ニューロンの導入の危険性をさらに減少させるためにCD142に基づく前駆細胞の選別を用いることが企図される。
この実施例はPSAの細胞表面発現を増加させるためのヒトPST遺伝子による細胞の形質転換法について説明する。この実施例はPSA細胞表面発現が上昇した細胞を使用する例となる方法も示す。
具体的には、この実施例はDAニューロン上でのPSA発現を増加させるためにhESCへ導入する改変PST遺伝子を示す。ヒトポリシアル酸トランスフェラーゼ(hPST)をコードする遺伝子を、レンチウイルスベクター(pLenty、インビトロジェン社)を使用してhESC株(WA01)に導入した。20種の選択されたクローンを増殖させ、そして、PST発現について分析した。PST発現性hESCクローンを分化させてDAニューロンでPSTが発現停止されていないことを確実にした。FACS分析と免疫蛍光(オペレッタ)を用いて異なる分化ステージ(第0日、第11日、第25日、及び第50日)におけるPSA‐NCAMの定量を行った。陽性クローンを表7に概説されている一揃いのDAニューロンの品質管理(QC)パラメーターの対象とした。分化中に均一で高レベルのPSA‐NCAMを保持し、QCパラメーターにおいてうまくいく(表7)少なくとも3クローンをPST過剰発現性のhESC由来DAニューロンにおける神経突起伸長の評価に進める。本明細書に記載される標準的なプロトコルを用いて選択された対照とPST過剰発現hESCクローンをDAニューロンに分化させ、続いて第25日と第50日に細胞を固定し、そして、分析した。そのような培養物におけるTH陽性線維の数と長さをオペレッタ・ハイコンテント顕微鏡で定量した。ハーモニー・ソフトウェア3.0の神経突起分析モジュールがPSTを有する、又は有しない神経突起の数と長さを定量し、そして、2元配置ANOVAを用いてデータを統計的に解析した。上のインビトロ試験から先に進むPST過剰発現性hESCクローンと対照hESCクローンを再度DAニューロンに分化させ、そして、PDのラットモデルに移植した。生存性、PSA‐NCAM発現及び神経突起伸長を判定するための短期移植(4〜6週間)を行った。インビボで短期間経過した各クローンについて、パラメーターを長期移植試験の対象とした。それらの試験について、動物は標準的用量(200×103個)の半分又は4分の1の細胞を受容した。これらの試験は、PSAの増加が移植後(5か月)の長期生存の増加につながるか、及び、より少ない数のDAニューロンが標準的な細胞用量で移植された非PST移植片の機能的能力に一致するか、又はそれより優れることができるか問うものであった(図27ではない)。加えて、PST DAニューロン移植片と対照DAニューロン移植片の間の機能的能力をさらに識別するために線条体性再神経支配の程度に敏感である複雑な行動アッセイがモニターされた。行動アッセイの完了後に動物を殺処理し、NCAMとSC121のヒト特異的抗体及びTHに対する抗体を使用して線維伸長を定量した(図29以外も参照のこと)。HNCAM+、SC121+及びTH+の移植片の強度と広がり、並びにDAニューロンマーカー(TH、FOXA2)とPSAを共発現するヒト細胞のパーセンテージを測定した。移植片から発出する神経突起のNCAM/TH+ハロの密度を様々な距離で定量した。ボンフェローニ・ポストホク・テスト付きの2元配置ANOVAを用いてデータを群間で比較した。加えて、切片を定性的変化(例えば、分岐、厚み、移植片分布、及び形状)について調査した。加えて、A9表現型、宿主線条体とのシナプス形成、並びに内在性の求心神経による神経支配に関する薄片の電気生理学的評価のためにいくつかの移植片を処理する。
次の実施例はパーキンソン病のマウスにおけるES由来ドーパミンニューロン移植片の機能を改善するポリシアル酸発現の増強を示す。
Nurr1プロモーターの制御下にあるGFPを発現するES細胞(Nurr1::GFP ES細胞)にポリシアル酸トランスフェラーゼ(PST)を広範に発現するレンチウイルスベクターを安定的に形質導入した。形質導入された細胞は対照と比べてPST mRNAの劇的な増加を示した(図30A)。PSTの発現はNCAM上のPSA合成に充分であることが観察された。従って、PSA‐NCAM発現はDAニューロン分化の第14日にPST改変細胞において大いに上昇した(図30B〜E)。PSAの特有のα‐2,8結合シアル酸重合体を特異的に切断するファージ・エンドノイラミニダーゼ(endoN)によってES由来DAニューロン上の内在性細胞表面PSAと誘導性細胞表面PSAの両方を取り除くことができた(図30E)。驚くことに、PST形質導入がGFP精製DAニューロンにおいてニューロンマーカー又は中脳マーカーの発現に影響することは観察されなかった(図30F)。
6OHDA傷害性半身パーキンソン症マウスにおける他の試験が、約100,000個のES由来DAニューロン前駆細胞の移植がアンフェタミン促進性回転試験によって判定される堅固な機能回復をもたらすのに必要であることを示した。本試験では、PSA発現の増大を評価することができるように最適以下の数の細胞を移植することが求められた。混入万能性細胞が枯渇させられている非常に濃縮されたDAニューロン集団を移植するために、分化第14日の培養物はNurr1誘導性GFPの発現に対して、及びSSEA‐1発現の欠如に対してFACS精製された(図31)。PST過剰発現がないとき、半分までの最小有効移植サイズの減少(55,000Nurr1+DA細胞)により、検出可能な行動回復をもたらすことができなかった。対照的に、PSA発現の増加があるとき、同じ数のNurr1/PST DAニューロンによりPD性行動障害の有意な是正(p<0.01;2元配置ANOVA)がもたらされ、外科手術から約5週間後に完全な回復がもたらされた(図32A)。Nurr1/PSTを用いて得られた機能回復がendoN処理によって部分的に反転させられた(図32A)ということで、endoNとのインキュベーションによる移植前のPSAの除去がPSAの機能向上の特異性を示した。
移植される細胞の特徴を調査するために移植から2か月後に免疫組織化学のために動物を処理した。PST形質導入株を移植された動物は対照細胞を移植された動物の二倍の数のGFP+細胞を平均で有した(PST試料と対照試料の間で移植片当たり、それぞれ、9,300±1,400GFP+細胞対4,230±1010GFP+細胞;図32B、p<0.05、スチューデントのt検定)ということで、生存しているNurr1+ニューロンの数に差が存在した。さらに、Nurr1/PST移植片はより高レベルのPSA発現もインビボで示した(図32C、D)。しかしながら、移植中核内の中脳DAマーカーTHとFoxA2を発現する細胞の割合はNurr1細胞とNurr1/PST細胞について同等であった(それぞれ、TH:62.0%±8.0対51.3%±7.0、p=0.33;FoxA2:63.2%±8.6対55.4%±2.0、p=0.3;図32E)。
Nurr1細胞及びNurr1/PST細胞から出現する神経突起は同等レベルのTH、Girk2(Gタンパク質共役内向き整流性カリウムチャネル)及びシナプシンを示した(図33A)。移植されたシュワン細胞についての他の研究(Ghosh、 M., et al. Extensive cell migration, axon regeneration, and improved cells after spinal cord injury. Glia 60, 979〜992 (2012))と異なり、PSA発現の増強は移植部位からのDA細胞の移動にほとんど効果を持たなかった。しかしながら、神経突起伸長には明らかな変化が存在した。図33Bに示されるように、Nurr1+対照と比べてNurr1/PST細胞から出現するより多くのDA神経突起が存在した。GFP及びTHの免疫蛍光強度が移植物から5つの連続する100μmゾーンで定量されたとき、Nurr1/PST移植片はずっと高い突起の相対的密度を示した(図33C、D;GFPとTHの両方についてp<0.01、2元配置ANOVA)。この効果を定量するとき、突起の相対的密度が移植中核に最も直近のゾーンで観察された密度に対して正規化された。そのような正規化は、Nurr1/PST移植片内のより大きな数の生存細胞について補正し、神経突起伸長に対するPSAの特異的な効果を確認するために必要とされた。細胞表面のPSAが移植前にendoN処理によって取り除かれたときにも特異性が示された。従って、endoNを使用する前処理により遠位部の線維伸長が対照レベルまで低下させられた(図33E)。
これらの発見は、移植片機能に対するPSAの効果の少なくともいくつかが線条体の線維神経支配の増強により生じることを示した。従って、移植片機能と、例えばゾーンIVへのGFP陽性線維の相対的伸長程度の間に強力な相関が存在した(図33F;p<0.001、r2=0.65、n=17)。驚くことに、線維伸長と行動の関係は実験群(対照、PSA増加、及びendoN処理)について一貫しており、移植片宿主神経支配がパーキンソン病モデルマウスにおける行動回復のパラメーターであることを示した。移植中核を包み込む反応性グリアのゾーンの穿通性の増大、神経発芽能の上昇、周囲の宿主組織への伸長の向上(例えば、より容易な成長円錐の転移)、及び移植中核の近くにある宿主組織との成熟前連絡の防止などのいくつかの要因が線維伸長の増大に機構的に寄与した。その例となる機構は、正常な発生中の突起伸長の促進及び成体神経系におけるPSAの役割と一致する。
本明細書に記載される実験は、他の種類の細胞に由来する移植片と比べて優れた結果をもたらすDAニューロン移植における改変PSAの使用を実証した。PSAの増加によって、宿主線条体を神経支配し、PD性機能障害を低減させる移植されたDAニューロンの能力の著しい増大がもたらされることがデータから明確に示された。従って、本発明のDAニューロンを備える臨床上の転移術が移植前に細胞を提供することについて企図される。いくつかの実施形態では、それらの細胞はPSAの発現について遺伝的に操作される。いくつかの実施形態では、PSTは、その精製された酵素と基質へのインビトロでの曝露により移植前の細胞に直接送達されてもよい。いくつかの実施形態では、PD移植におけるヒト転移術のためのPSA戦略は複数回の注入の必要性を最小化し、それによってこれらの複数回の注入により生じる外科手術上のリスクを減少させると考えられている。
他の実施形態では、他の細胞種と種に対して、例えば、脊髄損傷部位での軸索の再伸長のための架橋(例えば、細胞間連絡)の作製において移植シュワン細胞の移動を増大させるためにこの技術を用いることが企図される。
次のものはこの実施例における例となる材料と方法である。
動物:食物と水を自由に利用可能にして6週齢の129S3/SvImJマウス(ジャクソン・ラボラトリー社)を温度管理下で飼育した。実験技法はNIHと研究所の動物使用に関する指針に従って実施され、そして、地域の動物実験委員会(IACUC)とバイオセイフティ委員会(IBC)によって承認された。
6OHDA注射とアンフェタミン誘導性試験:動物をペントバルビタールナトリウム(10mg/kg)で麻酔し、そして、右線条体に2μlの6OHDA(生理食塩水、0.5%アスコルビン酸中に4μg/μl)を注射した。注射は次の座標にハミルトン注射筒を用いて実施した:ブレグマに対して0.5mm後方、1.8mm外側、及び脳表面に対して2.5mm腹側。外科手術の前に動物はデシプラミンの単回腹腔内注射(25mg/Kg、シグマ社)を受けた。外科手術から2週間後にアンフェタミン誘導性回転試験において動物に点数を付けた。それらの動物を30cmの直径の透明なプラスチック製円筒に30分間配置し、その後に動物はアンフェタミンの単回腹腔内注射(10mg/Kg、シグマ社)を受けた。20分後からさらに20分の間の同側性回転/対側性回転の回数を記録した。7週間の間に週に1回動物に点数を付け、その後、動物を深麻酔し、PBSと0.1Mリン酸緩衝液(PB、pH7.4)中の4%パラホルムアルデヒドで心臓を通過する潅流を行った。脳を摘出し、4℃の4%パラホルムアルデヒド中で一晩後固定し、その後ビブラトーム(Pelco‐101、テッド・ペラ(Ted Pella)社)で厚さ40μmの矢状面切片に薄片化した。
細胞分化と移植: Nurr1::GFP BAC遺伝子導入BACマウスESレポーター細胞株(すなわち、GFP発現がNurr1プロモーターによって誘導される)5にCMVプロモーターの制御下にあるマウスPST遺伝子を含有するレンチウイルス(pLenti、インビトロジェン社)を形質導入した。ES細胞を、1,400ユニット/mlのLIF(ESGRO;インビトロジェン社)、2mMのL‐グルタミン、1mMのβ‐メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン及び100ps/mlのストレプトマイシン(インビトロジェン社)を添加されたDMEM(インビトロジェン社)、10%FBS(ハイクローン社)中のマイトマイシンC処理済みMEF(ステムセル・テクノロジーズ社)上で培養した。DA分化をBarberi et al., Nat Biotechnol 21, 1200〜1207 (2003)に従って、変更を加えて誘導した。簡単に説明すると、ゼラチン被覆ディッシュ中のMS5フィーダー細胞上で細胞(10,000細胞/10cmディッシュ)を分化させ、そして、血清代替物培地(SRM)上で4日間培養した。第4日にソニックヘッジホッグ(SHH、200ng/ml)及びFGF8(100ng/ml)を添加した。分化第7日にSHH、FGF8及びbFGF(10ng/ml)を添加したN2に培地を交換した。第11日にSHH、FGF8及びbFGFの除去、及びアスコルビン酸(AA、200μM)とBDNF(20ng/ml)の添加により終末分化を誘導した。
細胞を第14〜15日に45分間のアキュターゼ処理により回収し、N2で1回洗浄し、そして、AlexaFluor‐647複合体化抗SSEA‐1抗体(BDファーミンゲン社)と25分間インキュベートした。細胞をN2で1回洗浄し、0.1%BSAを含むHEPES緩衝液に再懸濁した。生存度を評価するためにDAPIを添加した。MoFlo細胞選別機を使用してFACSを実施し、GFP蛍光(Nurr1)について目的の集団を選別した。AlexaFluor‐647(SSEA‐1)について陽性の集団をネガディブ選別した。GFP陰性対照については同じ分化ステージでナイーブJ1マウスES細胞を使用した。
Nurr1::GFP選別細胞を生存度について分析し、そして、BDNとAAを含むN2に55,000細胞/μlの終濃度まで再懸濁した。先端を50μmにした細いガラス毛細管を使用して次の座標で傷害マウス線条体に1μlを注入した:ブレグマより0.3mm後方、1.5mm外側、及び脳表面に対して2.2mm腹側。さらなる特徴解析のために細胞懸濁液のアリコットをマトリゲル被覆6mmディッシュに再播種した。
免疫蛍光分析のために細胞を4oCのパラホルムアルデヒドで10分間固定し、PBSで2回洗浄し、5%BSA(PBS中に0.1%のトリトンX‐100)でブロックし、そして、一次抗体と室温で2時間インキュベートした:ウサギ抗GFP(1:1000、インビトロジェン社)、マウスIgM抗PSA(1:2000、5A5)、マウス抗NeuN(1:800、ケミコン社)、マウス抗TH(1:1000、シグマ社)、ヤギ抗FoxA2(1:800、サンタクルーズ社)、ヤギ抗エングレイルド(1:800、サンタクルーズ社)。その後、細胞をCy複合体化二次抗体(1:1000、ジャクソン社)とインキュベートした。
EndoN処理:NCAMよりPSAを除去するために回収の前の晩に、PSA7‐9を特異的に取り除くファージの酵素であるendoNを20単位で用いて細胞を処理した。その後、細胞を回収し、前に記載したように注入したが、BDNFとAA及び5単位のendoNを含むN2に再懸濁した。我々は、傷害マウスへの同じ量のendoNのみの注射では動物の行動を改善しないと以前に評価した。
PST mRNAとPSA‐NCAMのインビトロ分析:ウエスタンブロット分析のために細胞をWB緩衝液(1%のNP40、150mMのNaCl、1mMのEDTA、及び抽出直前に添加される1×プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤を含むpH7.4のPBS)で処理し、5秒間の超音波処理を2回行い、遠心し、そして、ラエムリ緩衝液(LB)に再懸濁した。LBを含まないアリコットをタンパク質測定のために保存した。等量のタンパク質を6%ドデシル硫酸ナトリウム‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゲル(バイオラド社)に負荷した。電気泳動によりタンパク質をポリビニリデン膜(ミリポア社)に転写した。その膜を、5%の脱脂粉乳を含む0.1%トリトンX‐100TBS(TBS‐T)中で1〜6時間ブロックし、そして、5%ミルクを含むTBS‐T中の抗NCAM抗体(1:10,000、サンタクルーズ社)と一晩インキュベートした。その後、ブロットをペルオキシダーゼ複合体化二次抗体(1:10,000、ジャクソン社)とインキュベートし、そして、ECL検出法(アマシャムファルマシア・バイオテック社)を用いて検出した。イメージJソフトウェアを用いてタンパク質レベルを定量した。
qRT‐PCR分析のためにトリゾール(シグマ社)を用いて全RNAを抽出し、逆転写し(キアジェン社)、そして、10μlの2×SYBR反応混合物と20μlの終体積に対して0.2μMのフォワードプライマーとリバースプライマーを用いて増幅した。PSA‐NCAM FACS分析のために細胞を45分間のアキュターゼ処理により回収し、1回洗浄し、そして、マウスIgM抗PSA(1:250、5A5)と25分間氷上でインキュベートし、N2培地で1回洗浄し、そして、Cy3複合体化抗マウスIgM(1:250、ジャクソン社)と氷上でさらに25分間インキュベートした。細胞をN2で1回洗浄し、7AADを含む0.1%BSAで再懸濁し、そして、FACSカリバー細胞選別機で分析した。対照として一次抗体を添加しなかった。
免疫組織学的方法及び立体解析学的方法:自由浮遊冠状切片をPBS中の0.1%トリトンX‐100、5%ロバ血清において室温で30分間ブロックし、そして、様々な抗体と4℃で48時間インキュベートした:ウサギ抗GFP(1:300)、ニワトリ抗GFP(1:200、ケミコン社)、マウス抗TH(1:200)、マウスIgM抗PSA(1:1000)、マウス抗NeuN(1:400)、ヤギ抗FoxA2(1:300)、ウサギ抗Girk2(1:300、アロモネ・ラブズ社)、マウス抗シナプシン(1:200、BDトランスダクション・ラボラトリーズ社)。次に切片を洗浄し、そして、二次抗体:Cy2複合体化、Cy3複合体化、及びCy5複合体化ロバ抗体(1:400、ジャクソン社)とインキュベートした。PSAにはCy5複合体化ロバ抗IgM(1:500 ジャクソン社)を使用した。インキュベーションを室温で2時間実施した。切片をPBS中で2回洗浄し、そして、モウィオール(Mowiol)(カルビオケム社)中でスライドに固定した。脳の3枚の冠状切片のうちの1枚をそれぞれの免疫標識について分析した。3種のレーザー(アルゴン488、HeNe543及びHeNe633)を用い、c‐アポクロマット40倍対物レンズ(水浸)を装着したツァイスLSM510レーザー走査共焦点顕微鏡によりデジタル画像を収集した。脳全体を包含する3枚の切片のうちの1枚において、40倍の対物レンズ下でGFP+及びTH+の細胞数を計数し、移植片当たりの細胞の総数を推定した。二重に標識された細胞をz軸全体に渡って単一光学平面において分析した。
GFP/TH+標識細胞及びGFP/FoxA2+標識細胞のパーセンテージの分析のために100個のGFP+細胞を各マーカーについて分析した。突起伸長の分析のために40倍の対物レンズ下で1μmのピンホールを用いてz軸全体(20〜40μm)にわたって0.8μmの間隔で共焦点zスキャンを実施した。注入部位から外側に突起が観察されなくなるまで切片を走査した。全走査領域を包含する3D投影図を連続的に整合させた。GFP及びTH強度分析のために全走査領域を移植物から100μmずつ離れた5つの連続するゾーンに分割し、そして、イメージJソフトウェアを使用して強度を測定した。移植片サイズのあらゆる差異の可能性を考えて調整するために移植片に最も近いゾーン(ゾーンI)における強度に対してデータを正規化した。
統計分析:データは平均値±標準誤差(SEM)として提示されている。スチューデントのt検定又はボンフェローニ・ポストホク・テスト付き2元配置分散分析(ANOVA)を用いて比較を実施した。線形回帰分析を実施し、そして、ピアソン相関を用いて定量化した。
次の実施例は精製した細菌性ポリシアル酸トランスフェラーゼであるPSTnmを使用する、移植効力を強化するためのhESC由来DAニューロンに対するPSAの酵素工学を示す。
有効ではあるが、PST遺伝子形質移入はポリシアル酸化の期間にわたって限定的な制御を有するhESCの遺伝的改変を必要とした。この実施例は、遺伝子送達の代わりに外来性PSTnmがPSAを誘導したという発見(図35を参照のこと)について説明する。図35AではPST処理されたシュワン細胞(SC)(緑色の真ん中の線)が接着時間を増加させていたが、一方、PSTnmにより産生されたPSAは接着を阻害した。特に、(A)PSTnmにより産生されたPSA(赤色の一番下の線)はPSTの強制発現により産生されたPSA(緑色の真ん中の線)よりもさらに効果的に懸濁状態のシュワン細胞のシュワン細胞単層への接着を阻害する。(B)ESC由来HB9運動ニューロンにおけるPSAのイムノブロッティングは、PSTnmだけで処理された対照試料が検出不可能なPSAレベルを有したことを示す。PSTnm+CMP‐シアル酸基質とのインキュベーションにより大きなPSAのバンドが生じ、そのバンドはendoN処理により除去される。(C、D)PST遺伝子を用いて得られる効果と同様に、分化中のPSTnmと基質によるこれらの細胞のポリシアル酸化が神経突起伸長と細胞移動(矢頭)を強化する。(E)第30日のhESC由来DAニューロンのPSA免疫染色。(F)この染色はPSTnmと基質を用いる処理の後で著しく増大する。(G)PSTnmのみのインビボ注射は何の効果も有しないが、(H)基質とのPSTnmの共投与はマウス線条体における大量のPSA発現を引き起こす。
従って、外部よりPSTnmで処理された成熟DAニューロンを移植のための細胞の作製に使用することが企図される。哺乳類PSTとPSTnmの両方が化学的に同一であるPSA鎖を作製した。hESC由来DAニューロンに対するPSAの増加(図35F)が、DA線維が移植中核から出るのに充分である数週間の間持続すべきである。PSTnmは移植前に除去されるので、この酵素を混入移植細胞に対する免疫原性が原因ではないはずである。
PSTnmは、強化された溶解性と活性の特徴を有する遺伝子操作断片から作製された(Willis et al., Characterization of the alpha−2,8−polysialyltransferase from Neisseria meningitidis with synthetic acceptors, and the development of a self−priming polysialyltransferase fusion enzyme. Glycobiology 18, 177〜186 (2008))。PSTnmへの曝露、基質への曝露、又は両方への曝露の前にhESCの培養物のDAニューロンへの分化誘導を行った。定量的免疫蛍光(オペレッタ)とウエスタンブロッティングによって、曝露の様々な時点(10分から6時間)で培養物を調査してポリシアル酸化の速度とレベルを決定した。このように本明細書に記載される条件を用いて第25日の分化したhESC由来DAニューロンを至適濃度のPSTnmと基質と共にインキュベートする。PSA+mDAニューロンは本明細書及び図29に記載される短期アッセイ及び長期アッセイにおいて移植される。
上の明細書で言及された全ての刊行物と特許は参照により本明細書中に援用される。本発明の記載された方法と系の様々な改変と変更が本発明の範囲と精神から逸脱すること無く当業者に明らかであろう。本発明は特定の好ましい実施形態との関係で説明されたが、請求される本発明はそのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないと理解されるべきである。実際には、細胞生物学、神経生物学、癌細胞生物学、分子生物学、生化学、化学、有機合成、又は関連の分野の当業者にとっては明らかである記載された本発明の実施形式の様々な改変が次の特許請求の範囲の範囲内にあるものとされる。