以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)では、コンピュータを用いて、タイヤのトレッド部の摩耗状態が計算される。
図1は、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。したがって、コンピュータ1は、タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するシミュレーション装置として構成される。
図2は、本実施形態のシミュレーション方法で、トレッド部の摩耗状態が予測されるタイヤの一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とを具えている。
トレッド部2aには、タイヤ周方向に連続してのびる主溝9が設けられている。これにより、トレッド部2aは、主溝9で区分された複数の陸部10が設けられている。また、各陸部10には、主溝9、9の間、又は、主溝9とトレッド接地端2tとの間をタイヤ軸方向にのびる横溝(図示省略)が設けられている。
本明細書において、「トレッド接地端2t」とは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤ2に、正規荷重を負荷してキャンバー角0度にて平坦面に接地させたときのトレッド接地面のタイヤ軸方向の最外端とする。
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成される。このカーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が配される。また、カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75〜90度の角度で配列されたカーカスコードを有している。
ベルト層7は、ベルトコードを、タイヤ周方向に対して例えば10〜35度の角度で傾けて配列した内、外2枚のベルトプライ7A、7Bを含んで構成されている。これらのベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。
図3は、タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、タイヤ2をモデル化したタイヤモデルが、コンピュータ1に入力される(工程S1)。図4は、タイヤモデル11及び路面モデル21の一例を示す斜視図である。図5は、タイヤモデル11の一例を示す断面図である。なお、図4では、タイヤモデル11の主溝モデル12(図5に示す)、横溝モデル(図示省略)、及び、メッシュ(即ち、要素F(i))を省略して表示している。
図5に示されるように、工程S1では、タイヤ2(図2に示す)に関する情報に基づいて、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、タイヤ2がモデル化されたタイヤモデル11が設定される。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素F(i)は、複数個の節点15を有している。
本実施形態の要素F(i)は、隣接する節点15、15間を連結する辺16が設けられている。辺16は、直線状にのびている。このような各要素F(i)には、要素番号、節点15の番号、節点15の座標値及び材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
タイヤモデル11のトレッド部11aには、主溝9(図2に示す)が再現された主溝モデル12と、陸部10(図2に示す)が再現された陸部モデル13と、横溝(図示省略)が再現された横溝モデル(図示省略)が設定されている。主溝モデル12及び横溝モデルには、溝底12bと、溝底12bからトレッド接地面11sにのびる溝壁12sとが設けられている。本実施形態のタイヤモデル11は、横溝モデルが設定されているが、省略されてもよい。
要素F(i)の節点15には、タイヤモデル11のトレッド部11aの外面14を構成する第1節点17を含んでいる。この外面14には、後述の路面モデル21に接地するトレッド接地面11s、及び、溝底が隆起したタイバー11b(図9(b)に示す)を含んでいる。なお、外面14には、トレッド接地端11tからタイヤ半径方向の内方にのびるバットレス面11u、溝底12b及び溝壁12sが含まれてもよい。タイヤモデル11は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、路面(図示省略)をモデル化した路面モデル21(図4に示す)が入力される(工程S2)。
工程S2では、図4に示されるように、路面(図示省略)に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、工程S2では、路面モデル21が設定される。
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素からなる。この要素G(i)には、複数の節点22と、節点22、22間を連結する辺23とが設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点22の座標値等の数値データが定義される。
本実施形態では、路面モデル21として、平滑な表面を有するものが例示されたが、必要に応じて、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられても良い。路面モデル21は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、路面モデル21を転動するタイヤモデル11を計算する(前処理工程S3)。図6は、前処理工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の前処理工程S3では、先ず、図4及び図5に示されるように、タイヤモデル11を路面モデル21に接地させるための境界条件が定義される(工程S31)。境界条件としては、例えば、タイヤモデル11の内圧条件、負荷荷重条件L、キャンバー角、及び、タイヤモデル11と路面モデル21との摩擦係数等が設定される。さらに、境界条件としては、走行速度Vに対応する角速度V1、並進速度V2、及び、旋回角度(図示省略)が設定される。なお、並進速度V2は、タイヤモデル11が路面モデル21に接地している面での速度である。これらの条件は、コンピュータ1(図1に示す)に入力される。
次に、本実施形態の前処理工程S3では、図5に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル11が計算される(工程S32)。工程S32では、先ず、タイヤ2のリム26(図2に示す)がモデル化されたリムモデル27によって、タイヤモデル11のビード部11c、11cが拘束される。さらに、タイヤモデル11は、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて変形計算される。これにより、内圧充填後のタイヤモデル11が計算される。内圧は、例えば、タイヤ2(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定されるのが望ましい。
タイヤモデル11の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを微小時間(単位時間T(x)(x=0、1、…))毎にタイヤモデル11の変形計算を行う。このようなタイヤモデル11の変形計算(後述するタイヤモデル11の転動計算を含む)は、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間T(x)については、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
次に、本実施形態の前処理工程S3では、荷重負荷後のタイヤモデル11が計算される(工程S33)。工程S33では、図4に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル11と、路面モデル21との接触が計算される。次に、工程S33では、負荷荷重条件L、キャンバー角(図示省略)、及び、摩擦係数に基づいて、タイヤモデル11の変形が計算される。これにより、工程S33では、路面モデル21に接地した荷重負荷後のタイヤモデル11が計算される。
次に、本実施形態の前処理工程S3では、路面モデル21を転動するタイヤモデル11が計算される(工程S34)。工程S34では、先ず、図4に示されるように、角速度V1がタイヤモデル11に設定される。さらに、路面モデル21には、並進速度V2が設定される。これにより、工程S34では、路面モデル21の上を転動しているタイヤモデル11を計算することができる。
タイヤモデル11の転動条件としては、例えば、タイヤ2(図2に示す)の走行状態に応じて、自由転動、制動、駆動、及び、旋回など適宜設定することができる。これらの転動条件は、タイヤモデル11に角速度V1及びスリップ角(図示省略)が適宜定義されることで、容易に設定することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、トレッド部11aの外面14の摩耗に関連付けられた物理量を計算する(工程S4)。工程S4では、タイヤモデル11の節点15のうち、トレッド部11aの外面14を構成する第1節点17(図5に示す)について、摩耗に関連付けられた物理量(以下、単に「物理量」ということがある。)が計算される。
本実施形態の工程S4で計算される物理量は、第1節点17での摩耗エネルギーである。本実施形態の工程S4では、図4に示されるように、路面モデル21を転動するタイヤ2に基づいて、第1節点17(図5に示す)の摩耗エネルギーEが計算される。
工程S4では、第1節点17(図5に示す)の摩耗エネルギーEを計算するために、路面モデル21に接地する第1節点17(図5に示す)において、せん断力P及びすべり量Qが計算される。せん断力Pは、タイヤ軸方向xのせん断力Px、及び、タイヤ周方向yのせん断力Pyを含んでいる。すべり量Qは、せん断力Pxに対応するタイヤ軸方向xのすべり量Qx、及び、せん断力Pyに対応するタイヤ周方向yのすべり量Qyが含まれる。これらの各第1節点17のせん断力Px、Py及びすべり量Qx、Qyは、シミュレーションの単位時間T(x)毎に計算される。
そして、各第1節点17のせん断力Px(i)、Py(i)と、該せん断力Px(i)、Py(i)に対応するすべり量Qx(i)、Qy(i)とが乗じられ、その乗じた値が各第1節点17の接地入から接地出まで積算される。これにより、各第1節点17での摩耗エネルギーEが計算される。各第1節点17の摩耗エネルギーEは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、トレッド部11aの摩耗状態を計算する(摩耗計算工程S5)。本実施形態の摩耗計算工程S5では、タイヤモデル11の節点15のうち、第1節点17をタイヤ半径方向内側に移動させて、トレッド部11aの摩耗状態を計算している。図7は、本実施形態の摩耗計算工程に関し、(a)は、第1節点17が移動する前の状態を説明する図、(b)は、第1節点17が移動した後の状態を説明する図である。なお、図7(b)では、(a)に示した第1節点17を含む全ての第1節点17を移動した後の状態を示している。
本実施形態の摩耗計算工程S5では、予め定められた第1ルール又は第2ルールに基づいて、第1節点17の移動先(以下、単に「移動先」ということがある。)20が探索される。本実施形態の第1ルール及び第2ルールは、第1節点17と辺16を介して隣接する節点である複数の隣接節点18のうち、予め定められた条件に適合する一つの隣接節点18と、第1節点17とを連結する一つの辺16の上の位置を、移動先20として決定するものである。第1ルール及び第2ルールの詳細については、後述する。また、隣接節点18には、第1節点17と隣接する他の第1節点17が含まれる。図8は、摩耗計算工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の摩耗計算工程S5では、先ず、各第1節点17の摩耗エネルギー(摩耗に関連付けられた物理量)Eに基づいて、各第1節点17の移動量Mが計算される(工程S51)。本実施形態の移動量Mは、第1節点17と隣接節点18とを連結する辺16に沿った移動量として定義される。
各第1節点17の移動量Mは、第1節点17の摩耗エネルギーEが、摩耗係数Kで乗じられることによって計算される。摩耗係数Kは、図2に示したタイヤ2のトレッドゴム2gの単位摩耗エネルギー当たりの摩耗量を示す係数である。摩耗係数Kは、例えば、タイヤ2を用いた実車試験等に基づき、予め設定される。したがって、移動量Mは、第1節点17に対応するタイヤ2のトレッド部2a(図2に示す)の各位置での摩耗量として計算することができる。移動量Mは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の摩耗計算工程S5では、第1ルールに基づいて、第1節点17の移動先20が探索される(第1工程S52)。上述したように、第1ルールは、予め定められた条件に適合する一つの隣接節点18と第1節点17とを連結する一つの辺16の上の位置を、移動先20として決定するものである。第1ルールの条件としては、適宜設定することができる。本実施形態の第1ルールの条件は、隣接節点18が、トレッド部11aの外面14を構成しないというものである。図9(a)は、第1ルールに基づいて移動先が決定された第1節点17の一例を示す図である。図9(b)は、第2ルールに基づいて移動先20が決定された第1節点17の一例を示す図である。
図9(a)に示した第1節点17には、第1節点17と辺16を介して隣接する隣接節点18が三つ存在する。これらの隣接節点18のうち、第1ルールの条件(即ち、トレッド部11aの外面14を構成しないというもの)に適合する隣接節点18は、一つのみ存在している。このような場合、第1工程S52では、第1ルールの条件に適合する一つの隣接節点18と第1節点17とを連結する一つの辺16の上の位置に、第1節点17の移動先20が決定される。
本実施形態の第1工程S52では、決定された一つの辺16に沿って、第1節点17から隣接節点18側に、第1節点17の摩耗エネルギーEから計算された移動量Mを離間した位置を、第1節点17の移動先20として決定される。このような移動先20に第1節点17を移動させることにより、第1節点17をタイヤ半径方向内側に移動させることができるため、トレッド部11aの摩耗状態を計算することができる。決定された移動先20は、コンピュータ1に記憶される。
一方、図9(b)に示した第1節点17には、第1節点17と辺16を介して隣接する隣接節点18が2つ存在する。上述したように、タイヤモデル11の外面14には、トレッド接地面11s、及び、タイバー11bが含まれる。したがって、これらの隣接節点18のうち、第1ルールの条件(即ち、トレッド部11aの外面14を構成しないというもの)に適合する隣接節点18は、一つも存在しない。したがって、第1工程S52では、第1ルールに適合する第1節点17の移動先20を見つけることができない。このような場合、本実施形態の摩耗計算工程S5では、後述の第2工程S54において、第1節点17の移動先20が探索される。
次に、本実施形態の摩耗計算工程S5では、第1工程S52において、第1ルールに適合する第1節点17の移動先20が見つかったか否かが判断される(工程S53)。第1工程S52において、第1節点17の移動先20が見つかったと判断された場合(工程S53で、「Y」)、次の工程S55が実施される。他方、第1工程S52において、第1節点の移動先20が見つからないと判断された場合(工程S53において、「N」)、次の第2工程S54が実施される。
次に、本実施形態の摩耗計算工程S5では、第1ルールとは異なる第2ルールに基づいて、第1節点17の移動先20が探索される(第2工程S54)。本実施形態の第2ルールは、第1ルールと同様に、予め定められた条件に適合する一つの隣接節点18と第1節点17とを連結する一つの辺16の上の位置を、移動先20として決定するものである。
本実施形態の第2ルールの条件は、隣接節点18が、タイヤ半径方向の最も内側に位置するというものである。このような条件は、本実施形態の第1ルールの条件(隣接節点18が、トレッド部11aの外面14を構成しないというもの)を満たさない隣接節点18も、検索対象に含まれる。したがって、第2ルールは、第1ルールに比べて、第1節点17の移動先20をより確実に探索することができる。
図9(b)に示したように、第1節点17には、第1節点17と辺16を介して隣接する隣接節点18が2つ存在する(この例では、一方の隣接節点18a及び他方の隣接節点18b)。これらの二つ隣接節点18a、18bのうち、第2ルールの条件(即ち、タイヤ半径方向の最も内側に位置するというもの)に適合する隣接節点18は、一つのみ存在している(この例では、他方の隣接節点18b)。このような場合、第2工程S54では、第2ルールの条件に適合する一つの隣接節点18(この例では、他方の隣接節点18b)と第1節点17とを連結する一つの辺(この例では、他方の辺16b)の上の位置に、第1節点17の移動先20が決定される。
本実施形態の第2工程S54では、決定された一つの辺16(この例では、他方の辺16b)に沿って、第1節点17から隣接節点18(この例では、他方の隣接節点18b)側に、第1節点17の摩耗エネルギーEから計算された移動量Mを離間した位置を、第1節点17の移動先20として決定される。このような移動先20に第1節点17を移動させることで、第1節点17をタイヤ半径方向内側に移動させることができる。決定された移動先20は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の摩耗計算工程S5では、第1節点17を、探索された移動先20に移動させる(工程S55)。図7(a)に示されるように、移動先20は、第1節点17のタイヤ半径方向内側に位置している。このような移動先20に、第1節点17を移動させることで、図7(b)に示されるように、トレッド部11aの摩耗状態を計算することができる。移動させた第1節点17は、コンピュータ1に記憶される。
工程S55では、図7(b)に示されるように、移動後の第1節点17と隣接節点18との距離L1が、予め定められた閾値以下である場合、第1節点17を削除して、隣接節点18を新たな第1節点17として定義される。これにより、摩耗計算工程S5では、トレッド部11aの摩耗をさらに進展させることができる。なお、距離L1の閾値については、例えば、求められるシミュレーション精度に応じて、適宜設定することができる。
なお、第2工程S54において、移動先20を決定することができなかった場合には、第1節点17を移動させることができない。この場合、摩耗状態の計算を中断して、タイヤモデルを入力する工程S1(図3に示す)から再度実施されてもよい。
次に、本実施形態の摩耗計算工程S5では、全ての第1節点17が移動先20に移動したか否かが判断される(工程S56)。工程S56において、全ての第1節点17が移動先20に移動したと判断された場合(工程S56において、「Y」)、次の工程S6(図3に示す)が実施される。他方、工程S56において、全ての第1節点17が移動先20に移動していないと判断された場合(工程S56において、「N」)、他の第1節点17を選択し(工程S58)、工程S51〜工程S56が再度実施される。これにより、摩耗計算工程S5では、全ての第1節点17を、探索された移動先20に移動させることができる。したがって、本実施形態の摩耗計算工程S5では、トレッド部11aの摩耗状態を計算することができる。
本実施形態の摩耗計算工程S5では、第1ルールに基づいて、第1節点17の移動先20が見つからなくても、第2ルールに基づいて、第1節点17の移動先20を探索することができる。したがって、本実施形態のシミュレーション方法では、第1節点17をタイヤ半径方向内側に確実に移動させることができるため、トレッド部11aの摩耗状態を安定して計算することができる。さらに、移動先20は、実際のタイヤ2の摩耗量として計算された移動量Mに基づいて決定されるため、実際のタイヤ2の摩耗形状にさらに近似した計算結果を得ることができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、予め定められた終了条件を満足したか否かが判断される(工程S6)。終了条件については、例えば、計算終了時間や、トレッド部11aの摩耗量など、適宜設定することができる。工程S6において、終了条件を満足したと判断された場合(工程S6で、「Y」)、次の工程S7が実施される。他方、工程S6において、終了条件を満たしていないと判断された場合(工程S6で、「N」)、摩耗したタイヤモデル11に基づいて、工程S4〜工程S6が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法(シミュレーション装置1A(図1に示す))では、終了条件を満たすまで継続して転動したトレッド部11aの摩耗状態を、擬似的に計算することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、トレッド部11aの摩耗状態が良好か否かを評価する(工程S7)。摩耗状態が良好か否かの評価基準については、例えば、トレッド部11aの摩耗量の大きさや、所定の摩耗量に達するまでの計算ステップ(摩耗の進展ステップ)数等に基づいて、適宜設定することができる。本実施形態の工程S7では、例えば、陸部モデル13(図5に示す)でタイヤ周方向に隔設されたブロックモデル(図示省略)の偏摩耗(ヒールアンドトゥ摩耗)等の大きさに基づいて、摩耗状態が、良好か否かが評価される。
本実施形態の工程S7では、先ず、摩耗後のタイヤモデル11について、ブロックモデル(図示省略)の先着側の外径と、後着側の外径との差(ヒールアンドトゥ摩耗)が計算される。工程S7では、先着側の外径と後着側の外径との差が、予め定められた範囲内である場合に、摩耗状態が良好であると判断している。
工程S7において、トレッド部11aの摩耗状態が良好であると判断された場合(工程S7において、「Y」)、図2に示したタイヤ2の設計図(CADデータ)に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S8)。他方、工程S7において、トレッド部11aの摩耗状態が良好でないと判断された場合(工程S7において、「N」)、タイヤ2(図2に示す)が再設計され(工程S9)、工程S1〜工程S7が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、トレッド部2aの摩耗状態が良好なタイヤ2を確実に設計することができる。
本実施形態の第2ルールの条件としては、隣接節点18が、タイヤ半径方向の最も内側に位置するというものが例示されたが、このような態様に限定されない。図10は、本発明の他の実施形態の第2ルールに基づいて移動先20が決定された第1節点17を示す図である。この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の第2ルールの条件は、隣接節点18が、隣接節点18と第1節点17とを連結する辺16と、第1節点17からタイヤ半径方向内側にのびる直線31とのなす角度α1が最小であるというものである。
図10に示されるように、第1節点17には、第1節点17と辺16を介して隣接する隣接節点18が2つ存在する。これらの隣接節点18のうち、第1ルールの条件(即ち、トレッド部11aの外面14を構成しないというもの)に適合する隣接節点18は、一つも存在しない。一方、二つ隣接節点18a、18bのうち、第2ルールの条件(即ち、隣接節点18が、隣接節点18と第1節点17とを連結する辺16と、第1節点17からタイヤ半径方向内側に垂直にのびる直線31とのなす角度α1が最小であるというもの)に適合する隣接節点18は、一つのみ存在している(この例では、他方の隣接節点18b)。このような場合、第2工程S54では、第2ルールの条件に適合する一つの隣接節点18(この例では、他方の隣接節点18b)と第1節点17とを連結する一つの辺(この例では、他方の辺16b)の上の位置に、第1節点17の移動先20が決定される。
図11(a)、(b)は、本発明のさらに他の実施形態のトレッド部11aの拡大図である。この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
図11(a)に示した第1節点17には、第1節点17と辺16を介して隣接する隣接節点18が四つ存在する。これらの隣接節点18のうち、第1ルールの条件(即ち、トレッド部11aの外面14を構成しないというもの)に適合する隣接節点18は、二つ存在する(この例では、一方の隣接節点18a及び他方の隣接節点18b)。このような場合、第1節点17の移動先20の候補としては、一方の隣接節点18aと第1節点17とを連結する一方の辺16aの上の位置、及び、他方の隣接節点18bと第1節点17とを連結する他方の辺16bの上の位置が含まれる。したがって、第1工程S52では、第1ルールに適合する第1節点17の移動先20を一つに絞り込む(即ち、一つの移動先20を見つける)ことができず、工程S55において、第1節点17を移動させることができない。
このような場合、第2工程S54では、第2ルールに基づいて、第1節点17の移動先20が一つに絞り込まれるのが望ましい。この実施形態の第2ルールの条件は、第1ルールで探索された複数の隣接節点18(一例として、図11(b)に示した一方の隣接節点18a及び他方の隣接節点18b)のうち、一つの隣接節点18を限定するためのものである。この実施形態の第2ルールの条件は、隣接節点18が、タイヤ半径方向の最も内側に位置するというものである。
図11(b)に示されるように、第2ルールの条件(即ち、タイヤ半径方向の最も内側に位置するというもの)に適合する隣接節点18は、一つのみ存在している(この例では、他方の隣接節点18b)。このような場合、第2工程S54では、第2ルールの条件に適合する一つの隣接節点18(この例では、他方の隣接節点18b)と第1節点17とを連結する一つの辺(この例では、他方の辺16b)の上の位置に、第1節点17の移動先20が決定される。
このように、この実施形態の第2工程S54では、第1ルールで複数の隣接節点18が探索されたとしても、一つの隣接節点18を限定することができる。したがって、この実施形態では、第1節点17をタイヤ半径方向内側に確実に移動させることができるため、トレッド部11aの摩耗状態を安定して計算することができる。
前実施形態の第2ルールの条件は、タイヤ半径方向の最も内側に位置するというものが例示されたが、このような態様に限定されない。図12は、本発明の他の実施形態の第2ルールに基づいて移動先20が決定された第1節点17を示す図である。この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の第2ルールの条件は、隣接節点18が、隣接節点18と第1節点17とを連結する辺16と、第1節点17からタイヤ半径方向内側にのびる直線31とのなす角度α1が最小であるというものである。
図12に示されるように、第1節点17には、第1節点17の四つの隣接節点18のうち、第1ルールの条件(即ち、トレッド部11aの外面14を構成しないというもの)に適合する隣接節点18が二つ存在している(この例では、一方の隣接節点18a及び他方の隣接節点18b)。これらの二つ隣接節点18a、18bのうち、第2ルールの条件(即ち、隣接節点18が、隣接節点18と第1節点17とを連結する辺16と、第1節点17からタイヤ半径方向内側に垂直にのびる直線31とのなす角度α1が最小であるというもの)に適合する隣接節点18は、一つのみ存在している(この例では、他方の隣接節点18b)。このような場合、第2工程S54では、第2ルールの条件に適合する一つの隣接節点18(この例では、他方の隣接節点18b)と第1節点17とを連結する一つの辺(この例では、他方の辺16b)の上の位置に、第1節点17の移動先20が決定される。
図11及び図12に示した第2ルールの条件としては、隣接節点18が、タイヤ半径方向の最も内側に位置するというものや、隣接節点18が、隣接節点18と第1節点17とを連結する辺16と、第1節点17からタイヤ半径方向内側にのびる直線31とのなす角度α1が最小であるというものが例示されたが、このような態様に限定されない。図13は、本発明のさらに他の実施形態の第2ルールに基づいて移動先20が決定された第1節点17を示す図である。この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の第2ルールの条件は、隣接節点18が、その隣接節点18と第1節点17とを連結する辺16と、トレッド部11aの外面14を構成しかつ第1節点17につながる複数の辺16の法線方向33、34を平均した方向32とのなす角度α2が最小であるというものである。ここで、「平均した方向32」とは、第1節点17につながる一方の辺16の法線方向33のベクトルと、他方の辺16の法線方向34のベクトルとの内積である。
図13に示されるように、第1節点17には、第1節点17の四つの隣接節点18のうち、第1ルールの条件(即ち、トレッド部11aの外面14を構成しないというもの)に適合する隣接節点18が二つ存在している(この例では、一方の隣接節点18a及び他方の隣接節点18b)。これらの二つ隣接節点18a、18bのうち、第2ルールの条件(即ち、隣接節点18が、その隣接節点18と第1節点17とを連結する辺16と、トレッド部11aの外面14を構成しかつ第1節点17につながる複数の辺16の法線方向33、34を平均した方向32とのなす角度α2が最小であるというもの)に適合する隣接節点18は、一つのみ存在している(この例では、他方の隣接節点18b)。このような場合、第2工程S54では、第2ルールの条件に適合する一つの隣接節点18(この例では、他方の隣接節点18b)と第1節点17とを連結する一つの辺16(この例では、他方の辺16b)の上の位置に、第1節点17の移動先20が決定される。
このような第2ルールの条件は、例えば、乗用車用のタイヤモデルに比べて、トレッドラジアスが小さくかつ要素F(i)の形状が複雑になりやすい自動二輪車用のタイヤモデルにおいて、トレッド部11aのトレッド接地面11sよりも内方に位置する隣接節点18を、効果的に探索することができる。
第2ルールの他の条件としては、例えば、隣接節点18が、トレッド部11aの外面14を構成しないというものでもよいし、トレッド部11aの外面14を構成するというものでもよい。このような第2ルールの条件は、トレッド部11aの外面14を構成しない隣接節点18のみならず、トレッド部11aの外面14を構成する隣接節点18も検索対象として含まれるため、第1ルールに比べて、第1節点17の移動先20をより確実に探索することができる。
図14は、本発明のさらに他の実施形態の第2ルールに基づいて移動先が決定された第1節点17を示す斜視図である。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
図14に示した第1節点17には、第1節点17と辺16を介して隣接する隣接節点18が4つ存在する(隣接節点18a〜18d)。上述したように、タイヤモデル11の外面14は、トレッド接地面11s、及び、タイバー11bを含んでいる。したがって、これらの隣接節点18は、トレッド部11aの外面14を構成しているため、第1ルールの条件(即ち、隣接節点18が、トレッド部11aの外面14を構成しないというもの)に適合する隣接節点18は、一つも存在しない。
また、4つ隣接節点18a〜18dのうち、例えば、図9(b)に示した実施形態の第2ルールの条件(即ち、隣接節点18が、タイヤ半径方向の最も内側に位置するというもの)や、図10に示した実施形態の第2ルールの条件(即ち、隣接節点18が、隣接節点18と第1節点17とを連結する辺16と、第1節点17からタイヤ半径方向内側に垂直にのびる直線31とのなす角度α1が最小であるというもの)に適合する隣接節点18は、トレッド接地面11sを構成する隣接節点18aである。このような隣接節点18aと第1節点17とを連結する一つの辺16の上の位置に、第1節点17の移動先(図示省略)が決定されても、第1節点17をタイヤモデル11のトレッド部11aの内部に移動させることができない。このため、トレッド部11aの摩耗状態を適切に計算することができない。
この実施形態の第2ルールの条件は、トレッド部11aの外面14のうち、隣接節点18が、路面に接地しない外面14を構成するというものである。この条件において、4つ隣接節点18a〜18dのうち、第2ルールの条件(即ち、トレッド部11aの外面14のうち、隣接節点18が、路面に接地しない外面(本例では、タイバー11b)を構成するというもの)に適合する隣接節点18は、一つのみ存在している(この例では、タイバー11bに配される隣接節点18d)。このような場合、第2工程S54では、第2ルールの条件に適合する一つの隣接節点18dと第1節点17とを連結する一つの辺16の上の位置に、第1節点17の移動先20が決定される。
このように、全ての隣接節点18がトレッド部11aの外面14(トレッド接地面11s及びタイバー11b)を構成する場合において、他の実施形態の第2ルールの条件で、第1節点17をタイヤモデル11の内部に移動させうる移動先20を決定できなくても、この実施形態の第2ルールの条件は、第1節点17をタイヤモデル11のトレッド部11aの内部に移動させうる移動先20を決定することができる。したがって、トレッド部11aの摩耗状態を適切に計算することができる。
第2工程S54では、これまでに例示した複数の条件を組み合わせた第2ルールに基づいて、第1節点17の移動先20が探索されてもよい。これにより、第2工程S54では、第1節点17の移動先20をより確実に決定(探索)することができるため、トレッド部11aの摩耗状態を安定して計算することができる。
これまでの実施形態において、第1ルールとして説明した条件は、第2ルールの条件として定義されてもよいし、第2ルールとして説明した条件は、第1ルールの条件として定義されてもよい。これにより、タイヤモデル11の形状や要素F(i)の形状に合わせて、第1ルールの条件、及び、第2ルールの条件がそれぞれ定義されることにより、第1節点17の移動先20をより確実に探索することができる。
これまでの実施形態の第1ルール及び第2ルールは、隣接節点18と第1節点17とを連結する一つの辺16の上の位置を、移動先20として決定するものが例示されたが、このような態様に限定されない。例えば、第1ルール及び第2ルールは、一つの隣接節点18を移動先として決定されてもよい。このような実施形態の摩耗計算工程S5では、第1節点17を、隣接節点18に直接移動させることができるため(第1節点17を削除して、隣接節点18を新たな第1節点17として定義)、トレッド部11aの摩耗状態を短時間で計算することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示した処理手順に従って、タイヤモデルのトレッド部の摩耗状態が計算された(実施例1〜実施例4)。実施例1〜4では、図8に示した処理手順に従って、第1ルールに基づいて、第1節点の移動先を探索する第1工程と、第1工程において、第1ルールに適合する第1節点の移動先が見つからない場合に、第1ルールとは異なる第2ルールに基づいて、第1節点の移動先を探索する第2工程と、第1節点を、探索された移動先に移動させる工程とを含む摩耗計算工程が実施された。
比較のために、単一のルール(第1ルール)に基づいて、第1節点の移動先を探索する第1工程と、第1節点を探索された移動先に移動させる工程とを含む摩耗計算工程により、タイヤモデルのトレッド部の摩耗状態が計算された(比較例)。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:215/55R17
リムサイズ:17×7J
内圧:230kPa
荷重:3.51kN
第1ルールの条件:隣接節点が、トレッド部の外面を構成しないというもの
第2ルールの条件:
実施例1:隣接節点が、タイヤ半径方向の最も内側に位置するというもの
実施例2:隣接節点が、その隣接節点と第1節点とを連結する辺と、
第1節点からタイヤ半径方向内側にのびる直線とのなす角度が
最小であるというもの
実施例3:隣接節点が、その隣接節点と第1節点とを連結する辺と、
トレッド部の外面を構成しかつ第1節点につながる複数の辺の
法線方向を平均した方向とのなす角度が最小であるというもの
実施例4:トレッド部の外面のうち、隣接節点が、路面に接地しない外面を
構成するというもの
テストの結果、比較例は、第1ルールに基づいて、第1節点の移動先を見つけることができず、第1節点を移動できない状態が発生した。これにより、比較例では、摩耗状態の計算が中断されてしまい、摩耗状態を安定して計算することができなかった。
一方、実施例1〜4は、第1ルールに基づいて、第1節点の移動先が見つからなくても、第2ルールに基づいて、第1節点の移動先を探索することができた。このため、実施例1〜4は、第1節点をタイヤ半径方向内側に確実に移動させることができ、トレッド部の摩耗状態を安定して計算することができた。