以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある)は、コンピュータを用いて、タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するための方法である。
図1は、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。従って、コンピュータ1は、タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するシミュレーション装置として構成される。
図2は、本実施形態のシミュレーション方法で、摩耗量が予測されるタイヤの一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とを具えている。
トレッド部2aには、タイヤ周方向に連続してのびる主溝9が設けられる。これにより、トレッド部2aは、主溝9で区分された複数の陸部10が設けられる。
本実施形態の主溝9は、タイヤ赤道Cのタイヤ軸方向の両外側に配置される一対のセンター主溝9A、9A、及び、センター主溝9Aとトレッド接地端2tとの間に配置される一対のショルダー主溝9B、9Bを含んでいる。陸部10は、一対のセンター主溝9A、9A間で区分されるセンター陸部10A、センター主溝9Aとショルダー主溝9Bとで区分される一対のミドル陸部10B、10B、及び、ショルダー主溝9Bとトレッド接地端2tとで区分される一対のショルダー陸部10C、10Cを含んでいる。
本明細書において、「トレッド接地端2t」とは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤ2に、正規荷重を負荷してキャンバー角0度にて平坦面に接地させたときのトレッド接地面のタイヤ軸方向の最外端とする。
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成される。このカーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が配される。また、カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75〜90度の角度で配列されたカーカスコードを有している。
ベルト層7は、ベルトコードを、タイヤ周方向に対して例えば10〜35度の角度で傾けて配列した内、外2枚のベルトプライ7A、7Bを含んで構成されている。これらのベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。
図3は、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、図2に示したタイヤ2をモデル化したタイヤモデルが入力される(工程S1)。図4は、本実施形態のタイヤモデルの一例を示す断面図である。
工程S1では、タイヤ2(図2に示す)に関する情報に基づいて、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、タイヤ2がモデル化されたタイヤモデル21が設定される。タイヤモデル21は、コンピュータ1に入力される。なお、数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。
要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素F(i)は、複数個の節点25と、節点25、25間をつなぐ直線状の辺29とが設けられる。このような各要素F(i)には、要素番号、節点25の番号、節点25の座標値及び材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
タイヤモデル21のトレッド部21aには、主溝9(図2に示す)が再現された主溝モデル22と、陸部10が再現された陸部モデル23とが設定されている。
主溝モデル22は、センター主溝9Aが再現されたセンター主溝モデル22A、及び、ショルダー主溝9Bが再現されたショルダー主溝モデル22Bが含まれている。また、各主溝モデル22A、22Bには、溝底22bと、溝底22bからトレッド接地面21sにのびる溝壁22sとが設けられている。
陸部モデル23は、センター陸部10A(図2に示す)が再現されたセンター陸部モデル23A、ミドル陸部10B(図2に示す)が再現されたミドル陸部モデル23B、及び、ショルダー陸部10C(図2に示す)が再現されたショルダー陸部モデル23Cが含まれている。
図5は、図4のタイヤモデル21のトレッド部21aの拡大図である。本実施形態のトレッド部21aの節点25は、タイヤモデル21のトレッド接地面21sを構成する第1節点31と、第1節点31のタイヤ半径方向内側に位置する第2節点32とが定義されている。第1節点31と第2節点32とは、辺29で接続されている。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、路面をモデル化した路面モデルが入力される(工程S2)。図6は、本実施形態のタイヤモデル21及び路面モデル24の斜視図である。なお、図6では、タイヤモデル21の主溝モデル22(図4に示す)、及び、メッシュ(即ち、要素F(i))を省略して表示している。
工程S2では、路面に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化する。これにより、工程S2では、路面モデル24が設定される。
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素からなる。この要素G(i)には、複数の節点28と、節点28、28間をつなぐ直線状の辺29とが設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点28の座標値等の数値データが定義される。路面モデル24は、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態では、路面モデル24として、平滑な表面を有するものが例示されたが、必要に応じて、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられても良い。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、タイヤモデル21のトレッド部21aの摩耗状態を計算する(摩耗計算工程S3)。本実施形態の摩耗計算工程S3では、路面モデル24上を転動するタイヤモデル21を計算して、タイヤモデル21のトレッド部21aの摩耗状態が計算される。図7は、本実施形態の摩耗計算工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の摩耗計算工程S3では、先ず、図6に示されるように、タイヤモデル21に路面モデル24に転動させるための境界条件を定義する(工程S31)。境界条件としては、例えば、タイヤモデル21の内圧条件、負荷荷重条件Tw、キャンバー角、及び、タイヤモデル21と路面モデル24との摩擦係数等が設定される。さらに、境界条件としては、走行速度Vに対応する角速度V1、並進速度V2、及び、旋回角度(図示省略)が設定される。なお、並進速度V2は、タイヤモデル21の接地面での速度である。
次に、摩耗計算工程S3では、タイヤモデル21(図4に示す)の内圧充填後の形状を計算する(工程S32)。工程S32では、先ず、図4に示されるように、タイヤ2のリム26(図2に示す)がモデル化されたリムモデル27によって、タイヤモデル21のビード部21c、21cが拘束される。さらに、タイヤモデル21は、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて変形計算される。これにより、内圧充填後のタイヤモデル21が計算される。内圧は、例えば、タイヤ2(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定されるのが望ましい。
タイヤモデル21の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを微小時間(単位時間T(x)(x=0、1、…))ごとにタイヤモデル21の変形計算を行う。このようなタイヤモデル21の変形計算(後述する転動計算を含む)は、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間T(x)については、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
次に、摩耗計算工程S3では、荷重負荷後のタイヤモデル21を計算する(工程S33)。工程S33では、図6に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル21と、路面モデル24との接触が計算される。次に、工程S33では、負荷荷重条件Tw、キャンバー角(図示省略)、及び、摩擦係数に基づいて、タイヤモデル21の変形が計算される。これにより、工程S33では、路面モデル24に接地した荷重負荷後のタイヤモデル21が計算される。
次に、摩耗計算工程S3では、図4に示されるように、タイヤモデル21の節点25のうち、トレッド接地面21sを構成する第1節点31について、摩耗に関する物理量を計算する(物理量計算工程S34)。本実施形態で計算される物理量は、第1節点31での摩耗エネルギーである。また、本実施形態の物理量計算工程S34では、図6に示されるように、タイヤモデル21を路面モデル24に転動させて、タイヤモデル21のトレッド接地面21sを構成する各第1節点31について、単位時間T(x)あたりの摩耗エネルギーEwが計算される。
物理量計算工程S34では、先ず、角速度V1がタイヤモデル21に設定される。また、路面モデル24には、並進速度V2が設定される。これにより、路面モデル24の上を転動(自由転動)しているタイヤモデル21を計算することができる。そして、物理量計算工程S34では、路面モデル24に接地する第1節点31(図5に示す)において、せん断力P及びすべり量Qが計算される。
せん断力Pは、タイヤ軸方向xのせん断力Px、及び、タイヤ周方向yのせん断力Pyを含んでいる。すべり量Qは、せん断力Pxに対応するタイヤ軸方向xのすべり量Qx、及び、せん断力Pyに対応するタイヤ周方向yのすべり量Qyが含まれる。これらの各第1節点31のせん断力Px、Py及びすべり量Qx、Qyは、シミュレーションの単位時間T(x)毎に計算される。そして、各第1節点のせん断力Px(i)、Py(i)と、該せん断力Px(i)、Py(i)に対応するすべり量Qx(i)、Qy(i)とが乗じられることにより、各第1節点31での単位時間T(x)あたりの摩耗エネルギーEwが計算される。このような各第1節点31の摩耗エネルギーEwは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の摩耗計算工程S3では、物理量に基づいて、第1節点31を第2節点32側に移動させる(節点移動工程S35)。節点移動工程S35では、図5に示されるように、第1節点31と第2節点32とを結ぶ辺29に沿って、各第1節点31を第2節点32側に移動させている。図8は、本実施形態の節点移動工程S35の処理手順の一例を示すフローチャートである。図9は、本実施形態の節点移動工程に関し、(a)は、他の実施形態の第1節点31が移動する前の状態を説明する図、(b)は、第1節点31が移動した後の状態を説明する図である。
本実施形態の節点移動工程S35は、先ず、摩耗エネルギーEwに基づいて、各第1節点31の移動量Mを計算する(工程S351)。図9(a)に示されるように、移動量Mは、第1節点31と第2節点32とを結ぶ辺29に沿った移動量である。各第1節点31の移動量Mは、第1節点31の摩耗エネルギーEwが、摩耗係数Kで乗じられることにより計算される。摩耗係数Kは、図2に示したタイヤ2のトレッドゴム2gの単位摩耗エネルギー当たりの摩耗量を示す係数である。摩耗係数Kは、実車試験等に基づき、予め設定されるものとする。従って、移動量Mは、第1節点31に対応するタイヤ2のトレッド部2a(図2に示す)の各位置での摩耗量として計算される。
次に、節点移動工程S35は、移動量Mに基づいて、各第1節点31を第2節点32側に移動させる(工程S352)。工程S352では、先ず、第1節点31と第2節点32とを結ぶ辺29に沿って、移動量M分、第1節点31を第2節点32側に移動させたときの座標値が計算される。そして、図9(b)に示されるように、第1節点31の座標値が、移動後の座標値に更新される。これにより、工程S352では、移動量Mに基づいて、辺29に沿って、第1節点31を第2節点32側に移動させることができる。移動後の第1節点31は、コンピュータ1に記憶される。
このように、工程S352では、摩耗に関する物理量(第1節点31の単位時間T(x)あたりの摩耗ネルギー)に基づいて、第1節点31を第2節点32側に移動させて、トレッド接地面21sを構成する(即ち、第1節点31を含む)各要素F(i)の大きさを小さくすることができる。従って、節点移動工程S35では、トレッド部21aの摩耗状態を計算することができる。
しかも、節点移動工程S35では、第1節点31と第2節点32とを結ぶ辺29について、タイヤ半径方向に対する傾斜を維持することができるため、例えば、トレッド部21aに設けられた溝壁35を含むタイヤモデル21の輪郭が維持される。また、第1節点31の移動により、要素F(i)の形状が大きく歪むのを防ぐことができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル21の摩耗状態として、実際のタイヤ2(図2に示す)の摩耗形状に近似した計算結果を得ることができる。
タイヤモデル21の摩耗状態として、実際のタイヤ2(図2に示す)の摩耗形状にさらに近似させるために、図5に示されるように、タイヤモデル21のトレッド部21aにおいて、トレッド接地面21s側の要素F(i)が、タイヤ半径方向内側の要素F(i)よりも小に設定されるのが望ましい。これにより、タイヤモデル21は、トレッド接地面21s側のトレッド部21aの輪郭が精度良く設定されるため、実際のタイヤ2(図2に示す)の摩耗形状に、さらに近似させることができる。
このような作用を効果的に発揮させるために、図5に示されるように、トレッド接地面21s側において、主溝モデル22の溝深さの10%〜20%の長さを有する領域33に、トレッド接地面21s側の要素F(i)が設定されるのが望ましい。また、トレッド接地面21s側の要素F(i)のタイヤ半径方向の最大長さL3aは、例えば、タイヤ半径方向内側の要素F(i)のタイヤ半径方向の最大長さL3bの30%〜40%に設定されるのが望ましい。なお、このような範囲に限定されるわけではなく、シミュレーションに応じて適宜設定することができる。
次に、節点移動工程S35は、図9(b)に示されるように、移動後の第1節点31と第2節点32との距離L1が、予め定められた値以下であるか否かを判断する(工程S353)。距離L1とは、移動後の第1節点31と第2節点32とを結ぶ辺29に沿った距離である。本実施形態の工程S353では、移動後の距離L1が、予め定められた値以下である場合(工程S353で、「Y」)、第1節点31を削除して、第2節点32を新たな第1節点31として定義する削除工程S354が実施される。他方、移動後の距離L1が、予め定められた値よりも大である場合(工程S353で、「N」)、次の工程S355が実施される。
距離L1の予め定められた値については、適宜設定することができる。本実施形態の値は、例えば、1mmに設定されているが、このような値に限定されるわけではない。また、距離L1の予め定められた値は、距離L1と、第2節点32を含む初期の要素F(i)(即ち、工程S1で入力された初期のタイヤモデル21の要素)の辺29の長さL2との割合L1/L2に基づいて定められてもよい。
上述したように、削除工程S354では、第1節点31を削除して、第2節点32を新たな第1節点31として定義する。さらに、削除工程S354では、新たな第1節点31のタイヤ半径方向内側に位置する節点25を、新たな第2節点32として定義する。これにより、削除工程S354では、新たに設定された第1節点31について、第2節点32側に移動させることができるため、トレッド部21aの摩耗状態をさらに進展させることができる。また、本実施形態では、第1節点31と第2節点32とを結ぶ辺29に沿って、第1節点31が第2節点32に向かって移動するため、工程S353での判断(即ち、移動後の第1節点31と第2節点32との距離L1に基づいた判断)に基づいて、第1節点31を確実に削除することができる。従って、本実施形態では、トレッド部の摩耗状態を確実に計算することができる。
次に、節点移動工程S35では、移動後の第1節点31、及び、新たに設定された第1節点31を含む要素F(i)に基づいて、摩耗したタイヤモデル21を構築する(工程S355)。工程S355では、移動後の第1節点31、及び、新たに設定された第1節点31に基づいて、要素F(i)の辺29が再設定される。これにより、工程S355では、摩耗したタイヤモデル21が設定される。摩耗したタイヤモデル21は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の摩耗計算工程S3は、予め定められた終了時間が経過したか否かが判断される(工程S36)。終了時間は、評価される摩耗性能に応じて、適宜定められる。工程S36では、終了時間が経過したと判断された場合(工程S36で、「Y」)、摩耗計算工程S3の一連の処理が終了し、次の工程S4が実施される。他方、終了時間が経過していないと判断された場合(工程S36で、「N」)、単位時間T(x)を一つ進めて(工程S37)、摩耗したタイヤモデル21に基づいて、工程S34〜工程S36が再度実施される。これにより、摩耗計算工程S3では、終了時間まで転動したタイヤモデル21のトレッド部21aの摩耗状態を計算することができる。
本実施形態の工程S36では、予め定められた終了時間に基づいて、終了条件が設定されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、トレッド部21aの摩耗量の最大値(即ち、各第1節点31について、初期のトレッド部21aの各第1節点31と、摩耗後のトレッド部21aの第1節点31との間の距離の最大値)に基づいて、終了条件が設定されてもよい。このような終了条件は、所望の摩耗量まで摩耗したタイヤモデル21を計算することができるため、タイヤ2の摩耗性能を、適切に評価することができる。なお、トレッド部21aの摩耗量の最大値については、評価される摩耗性能に応じて、適宜定められる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、タイヤモデル21の摩耗状態が、良好か否かが判断する(工程S4)。工程S4では、例えば、タイヤモデル21のトレッド部21aの偏摩耗状態や、トレッド部21aの摩耗量の最大値等に基づいて、タイヤモデル21の摩耗状態が評価される。
工程S4において、タイヤモデル21の摩耗状態が良好であると判断された場合(工程S4において、「Y」)、図2に示したタイヤ2の設計図(CADデータ)に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S5)。他方、タイヤモデル21の摩耗状態が良好でないと判断された場合(工程S4において、「N」)、タイヤ2が再設計され(工程S6)、工程S1〜工程S4が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、摩耗状態が良好なタイヤ2を確実に設計することができる。
本実施形態の節点移動工程S35は、図9(a)、(b)に示されるように、各第1節点31の摩耗エネルギーEwに、摩耗係数Kを乗じた移動量Mに基づいて、第1節点31を第2節点32側に直接移動させたが、このような態様に限定されるわけではない。図10は、本発明の他の実施形態の節点移動工程S35の処理手順の一例を示すフローチャートである。図11は、本発明の他の実施形態の節点移動工程に関し、(a)は、他の実施形態の第1節点が移動する前の状態を説明する図、(b)は、第1節点が移動した後の状態を説明する図である。なお、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の節点移動工程S35は、先ず、摩耗エネルギーEwに基づいて、各第1節点31の第1移動量Maを計算する(工程S356)。図11(a)に示されるように、第1移動量Maは、第1節点31のトレッド接地面21sの法線方向に沿った移動量である。各第1節点31の第1移動量Maは、第1節点31の摩耗エネルギーEwが、摩耗係数Kで乗じられることにより計算される。摩耗係数Kは、図2に示したタイヤ2のトレッドゴム2gの単位摩耗エネルギー当たりの摩耗量を示す係数である。摩耗係数Kは、実車試験等に基づき、予め設定されるものとする。従って、第1移動量Maは、第1節点31に対応するタイヤ2のトレッド部2a(図2に示す)の各位置での摩耗量として計算される。
次に、この実施形態の節点移動工程S35は、第1移動量Maを、第2移動量Mbに変換する(工程S357)。第2移動量Mbは、第1節点31と第2節点32とを結ぶ辺29に沿った移動量である。工程S357では、第1移動量Maの法線方向と、第1節点31と第2節点32とを結ぶ辺29との角度θに基づいて、第1移動量Maを第2移動量Mbに変換している。第1移動量Maの第2移動量Mbへの変換は、下記式に基づいて計算される。
Mb=Ma×(1/cosθ)
このように、この実施形態では、角度θに基づいて、第1移動量Maが第2移動量Mbに変換されるため、例えば、同一の第1移動量Maに対して、角度θが大きい辺29での第2移動量Mbを、角度θが小さい辺29での第2移動量Mbよりも大きくすることができる。これにより、辺29の角度θが異なる第1節点31、31間で、タイヤ半径方向の移動量(即ち、摩耗量)に、大きな差が生じるのを防ぐことができる。
次に、この実施形態の節点移動工程S35は、第2移動量Mbに基づいて、第1節点31を第2節点32側に移動させる(工程S358)。工程S358では、先ず、第1節点31と第2節点32とを結ぶ辺29に沿って、第2移動量Mb分、第1節点31を第2節点32側に移動させたときの座標値が計算される。そして、図11(b)に示されるように、第1節点31の座標値が、移動後の座標値に更新される。これにより、工程S358では、第2移動量Mbに基づいて、辺29に沿って、第1節点31を第2節点32側に移動させることができる。移動後の第1節点31は、コンピュータ1に記憶される。
この実施形態の節点移動工程S35では、辺29の角度θが異なる第1節点31、31間で、タイヤ半径方向の移動量(即ち、摩耗量)に、大きな差が生じるのを防ぐことができるため、より実際のタイヤの摩耗形状に近似した計算結果を得ることができる。
これまでの実施形態の物理量計算工程S34は、路面モデル24の上を転動(自由転動)しているタイヤモデル21に基づいて、摩耗に関する物理量が計算されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、自由転動、制動、駆動、又は、旋回から選択される少なくとも2つの転動条件で求められた摩耗に関する物理量を、加重平均した物理量が計算されてもよい。本実施形態では、4つの転動条件で求められた摩耗に関する物理量を、課長平均した物理量が計算されている。図12は、本発明の他の実施形態の物理量計算工程S34の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、前実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の物理量計算工程S34では、先ず、自由転動時のタイヤモデル21に基づいて、摩耗に関する物理量を計算する(工程S341)。工程S341では、先ず、図6に示されるように、自由転動時の角速度V1a(図示省略)がタイヤモデル21に設定され、かつ、自由転動時の並進速度V2a(図示省略)が路面モデル24に設定される。これにより、自由転動時のタイヤモデル21を計算することができる。なお、自由転動時の角速度V1a及び自由転動時の並進速度V2aは、工程S31で予め定義される。そして、工程S341では、路面モデル24に接地する第1節点31(図4に示す)において、単位時間T(x)あたりのせん断力P及びすべり量Qから、自由転動時の摩耗エネルギーEwaが計算される。自由転動時の摩耗エネルギーEwaは、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の物理量計算工程S34では、制動時のタイヤモデル21に基づいて、摩耗に関する物理量を計算する(工程S342)。工程S342で用いられるタイヤモデル21及び路面モデル24は、工程S342で用いられるタイヤモデル21及び路面モデル24とは独立して定義されている。
工程S342では、先ず、図6に示されるように、自由転動時の角速度V1a(図示省略)がタイヤモデル21に設定され、かつ、自由転動時の並進速度V2a(図示省略)が路面モデル24に設定される。これにより、路面モデル24上を自由転動しているタイヤモデル21を計算することができる。次に、工程S342では、制動時の角速度V1b(図示省略)がタイヤモデル21に設定され、かつ、制動時の並進速度V2b(図示省略)が路面モデル24に設定される。これにより、自由転動している状態から制動したタイヤモデル21を計算することができる。なお、制動時の角速度V1b及び制動時の角速度V1bは、工程S31で予め定義される。そして、工程S342では、路面モデル24に接地する第1節点31(図4に示す)において、単位時間T(x)あたりのせん断力P及びすべり量Qから、制動時の摩耗エネルギーEwbが計算される。制動時の摩耗エネルギーEwbは、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の物理量計算工程S34では、駆動時のタイヤモデル21に基づいて、摩耗に関する物理量を計算する(工程S343)。工程S343で用いられるタイヤモデル21及び路面モデル24は、工程S341及び工程S342で用いられるタイヤモデル21及び路面モデル24とは独立して定義されている。
工程S343では、先ず、図6に示されるように、自由転動時の角速度V1a(図示省略)がタイヤモデル21に設定され、かつ、自由転動時の並進速度V2a(図示省略)が路面モデル24に設定される。これにより、路面モデル24上を自由転動しているタイヤモデル21を計算することができる。次に、工程S343では、駆動時の角速度V1c(図示省略)がタイヤモデル21に設定され、駆動時の並進速度V2c(図示省略)が路面モデル24に設定される。なお、駆動時の角速度V1c及び駆動時の並進速度V2cは、工程S31で予め定義される。これにより、自由転動している状態から駆動したタイヤモデル21を計算することができる。そして、工程S343では、路面モデル24に接地する第1節点31(図4に示す)において、単位時間T(x)あたりのせん断力P及びすべり量Qから、駆動時の摩耗エネルギーEwcが計算される。駆動時の摩耗エネルギーEwcは、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の物理量計算工程S34では、旋回時のタイヤモデル21に基づいて、摩耗に関する物理量を計算する(工程S344)。工程S344で用いられるタイヤモデル21及び路面モデル24は、工程S341、工程S342及び工程S343で用いられるタイヤモデル21及び路面モデル24とは独立して定義されている。
工程S344では、先ず、図6に示されるように、自由転動時の角速度V1a(図示省略)がタイヤモデル21に設定され、かつ、自由転動時の並進速度V2a(図示省略)が路面モデル24に設定される。これにより、路面モデル24上を自由転動しているタイヤモデル21を計算することができる。次に、工程S344では、旋回時の角速度V1d(図示省略)及び旋回角度(図示省略)がタイヤモデル21に設定される。さらに、旋回時の並進速度V2dが路面モデル24に設定される。なお、旋回時の角速度V1d及び旋回角度及び旋回時の並進速度V2dは、工程S31で予め定義されている。これにより、自由転動している状態から旋回したタイヤモデルを計算することができる。そして、工程S344では、路面モデル24に接地する第1節点31(図4に示す)において、単位時間T(x)あたりのせん断力P及びすべり量Qから、旋回時の摩耗エネルギーEwdが計算される。旋回時の摩耗エネルギーEwdは、コンピュータ1に記憶される。
次に、この実施形態の物理量計算工程S34は、各転動条件で求められた摩耗に関する物理量を、加重平均した物理量を計算する(工程S345)。この工程S345では、自由転動、制動、駆動、及び旋回の発生頻度に基づいて、各第1節点31の自由転動時の摩耗エネルギーEwa、制動時の摩耗エネルギーEwb、駆動時の摩耗エネルギーEwc、及び、旋回時の摩耗エネルギーEwdが加重平均される。なお、自由転動、制動、駆動、及び旋回の発生頻度は、実車試験等に基づき、予め設定されるものとする。これにより、工程S345では、単位時間T(x)あたりの加重平均された摩耗エネルギーEwが計算される。加重平均された摩耗エネルギーEwは、コンピュータ1に記憶される。
この実施形態の摩耗計算工程S3では、節点移動工程S35(図8及び図10に示す)において、自由転動、制動、駆動、又は、旋回から選択される少なくとも2つ、本実施形態では、全ての転動条件で求められた摩耗に関する物理量が、自由転動、制動、駆動、及び旋回の発生頻度で加重平均された物理量に基づいて、図9及び図11に示されるように、第1節点31が第2節点32に移動される。これにより、この実施形態の摩耗計算工程S3では、実際のタイヤの摩耗形状にさらに近似した計算結果を得ることができる。
図7に示されるように、工程S36において、終了時間が経過していないと判断された場合(工程S33で、「N」)、単位時間T(x)を一つ進めて(工程S37)、摩耗したタイヤモデル21に基づいて、工程S341〜工程S345(図12に示す)を含む物理量計算工程S34、節点移動工程S35及び工程S36が再度実施される。これにより、節点移動工程S35では、自由転動、制動、駆動、及び旋回の発生頻度に基づいて、終了時間まで転動したタイヤモデル21のトレッド部21aの摩耗状態を計算することができる。
なお、自由転動時の摩耗に関する物理量を計算する工程S341では、自由転動時のタイヤモデル21について、一つ進められた単位時間T(x)の摩耗に関する物理量が計算される。制動時の摩耗に関する物理量を計算する工程S342では、制動時のタイヤモデル21について、一つ進められた単位時間T(x)の摩耗に関する物理量が計算される。駆動時の摩耗に関する物理量を計算する工程S343では、駆動時のタイヤモデル21について、一つ進められた単位時間T(x)の摩耗に関する物理量が計算される。旋回時の摩耗に関する物理量を計算する工程S344では、旋回時のタイヤモデル21について、一つ進められた単位時間T(x)の摩耗に関する物理量が計算される。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3及び図7に示した処理手順に従って、タイヤモデルのトレッド部の摩耗状態が計算された(実施例)。実施例では、図8に示した処理手順に従って、図9(a)、(b)に示されるように、第1節点の摩耗エネルギーEwに、摩耗係数Kを乗じた移動量Mに基づいて、第1節点が第2節点側に移動され、摩耗したタイヤモデルが設定された。さらに、実施例では、移動後の第1節点と、第2節点との距離が、予め定められた値(本例では、1mm)以下となった場合、第1節点を削除して、第2節点を新たな第1節点として定義する削除工程が実施された。
比較のために、図14(a)、(b)に示されるように、タイヤモデルのトレッド接地面を構成する第1節点について、摩耗に関する物理量が計算された。そして、これらの物理量に基づいて、第1節点が、タイヤ半径方向に沿って内側に移動され、摩耗したタイヤモデルが設定された(比較例1)。さらに、比較例1では、移動後の第1節点と、第2節点との距離が、予め定められた値(本例では、1mm)以下となった場合、第1節点を削除して、第2節点を新たな第1節点として定義する削除工程が実施された。
さらに、図13(a)、(b)に示されるように、タイヤモデルのトレッド接地面を構成する第1節点について、摩耗に関する物理量が計算された。上記特許文献2の手順に従って、タイヤモデルのトレッド接地面を構成する第1節点のうち、陸部の端部に位置する節点41を、節点41に隣接する(即ち、節点41を共有する)全ての要素の法線方向D1を平均した方向Daから、溝壁35に投影した方向Dbに移動させた。また、陸部の端部に位置しない節点42については、節点42に隣接する(即ち、節点42を共有する)全ての要素F(i)の法線方向D2を平均した方向Dcに移動させた(比較例2)。さらに、比較例2では、移動後の第1節点に基づいて、要素F(i)が再分割されることにより、摩耗が再現された。
そして、実施例の摩耗したタイヤモデル、比較例1の摩耗したタイヤモデル、及び、比較例2の摩耗したタイヤモデルが、実車走行にて摩耗させたタイヤの摩耗形状と比較された。共通仕様は次のとおりである。
タイヤサイズ:215/60 R16
リムサイズ:16×6.5
テストの結果、実施例及び比較例2の摩耗したタイヤモデルは、比較例1の摩耗したタイヤモデルに比べて、トレッド部に設けられた溝壁を含むタイヤモデルの輪郭が維持され、実際のタイヤの摩耗形状に近似した計算結果を得ることができた。
また、実施例では、第1節点を、第1節点と、そのタイヤ半径方向内側に位置する第2節点とを結ぶ前記辺に沿って、第2節点側に移動させているため、比較例2のように、各節点について、節点に隣接する全ての要素の法線方向を平均した方向を求める必要がない。さらに、実施例では、比較例2のように、要素を再分割する必要がない。従って、実施例は、比較例2に比べて、計算時間を大幅に短縮することができた。