本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図5を用いて説明する。なお、このX線回折測定システムが、先行技術文献の特許文献1に示されているX線回折測定システムと異なっている点は、LED光源44が取り付けられたユニットの配置、X線出射器10のX線が発生する箇所の領域を大きくしている点、出射されたX線が通過する貫通孔の端にある通路部材の孔の径を大きくしている点、及び固定具18の中心にパイプ部51を取り付け、出射されたX線が貫通孔を通過した後パイプ部51内部を通過して、パイプ部51先端にあるX線出射孔51aから出射される点である。よって、特許文献1に示されているX線回折測定システムで既に説明されている箇所は、簡略的に説明するにとどめる。
このX線回折測定システムは、残留応力を測定する測定対象物OBがある場所まで運搬されてセットされるものである。X線回折測定装置はアーム式移動装置により位置と姿勢を調整することができ、測定対象物OBに対するX線回折測定装置の位置と姿勢を変更して、測定対象物OBに対するX線の照射方向及びX線照射点から回折環の撮像面までの距離を、意図した方向と距離に設定することができる。測定対象物OBはX線回折測定が可能であればどのような材質のものでもよいが、本実施形態では鉄製のものとする。なお、測定対象物OBは結晶粒が大きい等の理由により、先行技術文献の特許文献1に示されるX線回折測定装置では明瞭な回折環が撮像されないものである。
図1及び図2に示すように、X線回折測定装置は筐体50内に、X線出射器10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30等を備えている。そして、X線回折測定システムは、このX線回折測定装置とともに、アーム式移動装置(図示しない)、コンピュータ装置90及び高電圧電源95を備える。筐体50内には、上述した装置に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。
筐体50は、略直方体状に形成されるとともに、底面壁50a、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、及び底面壁50aと前面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cと繋ぎ壁50dを有するように形成されている。切欠き部壁50cは底面壁50aに垂直な平板と平行な平板とからなり、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり底面壁50aと所定の角度を有している。この所定の角度は、例えば30〜45度である。切欠き部壁50cには円形孔50c1があり、回折環撮像時にはこの円形孔50c1の中心を貫いてパイプ部51が切欠き部壁50cと垂直に筐体50の外側に出ている。パイプ部51はX線が出射された際、X線が内部を通過して先端にあるX線出射孔51aから出射するためのものであるが、これについては後ほど詳細に説明する。側面壁の1つには、支持アーム52に接続される接続部(図示せず)が設けられており、接続部は図1及び図2の紙面の垂直周りに回転可能になっている。支持アーム52はアーム式移動装置の先端であり、アーム式移動装置を操作することにより、筐体50(X線回折測定装置)を任意の位置と姿勢にすることができる。
X線出射器10は、筐体50内の上部にて図示左右方向に延設されて筐体50に固定されており、高電圧電源95からの高電圧の供給を受けると、X線を図示下方向に出射する。X線出射器10は、電子線を加速させてターゲットに当てることでX線を発生させるX線管であるが、先行技術文献で示されているX線回折測定装置に使用されるX線出射器より電子線の断面径が大きく、X線が発生する箇所(以下、X線発生点という)の領域が、該X線出射器より大きくなっている。この点は後ほど詳細に説明する。X線制御回路71は、コントローラ91から指令が入力すると、X線出射器10から一定強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源95から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。
テーブル駆動機構20は、筐体50に固定され、X線出射器10の下方にて移動ステージ21を備えている。移動ステージ21は、テーブル駆動機構20における対向する1対の板状のガイド25,25により挟まれていて、テーブル駆動機構20に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及び軸受部24により、出射X線の光軸が含まれる筐体50の側面壁に平行な平面内であって、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動する。X線回折測定装置への電源投入直後において、フィードモータ制御回路73は、移動ステージ21をフィードモータ22側へ移動させるようフィードモータ22に駆動信号を出力し、位置検出回路72は、移動ステージ21が移動限界位置に達して、エンコーダ22aからパルス列信号が入力されなくなると、駆動信号停止を意味する信号をフィードモータ制御回路73に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路73は、これにより駆動信号の出力を停止する。この移動限界位置が移動ステージ21の原点位置となり、位置検出回路72は、以後、移動ステージ21が移動するごとにエンコーダ22aからのパルス列信号をカウントし、移動方向によりカウント値を加算または減算して移動限界位置からの移動距離xを位置信号として出力する。フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動先位置を入力すると、位置検出回路72から入力する位置信号が入力した移動先位置に等しくなるまで、フィードモータ22を正転又は逆転駆動する。なお、移動ステージ21の移動限界位置は、移動ステージ21がフィードモータ22側へ移動したとき、円形孔50c1から筐体50の外側に出ているパイプ部51が円形孔50c1の一部と繋がっている長尺孔50c2の縁に当たる寸前で停止するよう、ストッパ等で設定されている。この点は後ほど詳細に説明する。また、フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動速度を入力すると、エンコーダ22aから入力したパルス列信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ21の移動速度を計算し、計算した移動速度が入力した移動速度になるようにフィードモータ22を駆動する。
一対のガイド25,25の上端は、板状の上壁26によって連結されており、上壁26には貫通孔26aが設けられていて、貫通孔26aの中心位置はX線出射器10の出射口11の中心位置に対向しており、出射X線は、出射口11及び貫通孔26aを介してテーブル駆動機構20内に入射する。後述するイメージングプレート15が回折環撮像位置にある状態(図1乃至図3の状態)において、移動ステージ21の貫通孔26aと対向する位置には、図3に拡大して示すように、貫通孔21aが形成されている。移動ステージ21には、出射口11及び貫通孔26a,21aの中心軸線位置を回転中心とするスピンドルモータ27が組み付けられており、スピンドルモータ27の出力軸27aは円筒状で断面円形の貫通孔27a1を有する。スピンドルモータ27の出力軸27aの反対側には、貫通孔27bが設けられ、貫通孔27bの内周面上には、貫通孔27bの一部の内径を小さくするための円筒状の通路部材28が固定されている。
また、スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ91及び回転角度検出回路75に出力する。
スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から回転速度を入力すると、エンコーダ27cから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数から計算される回転速度が、入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に出力する。回転角度検出回路75は、エンコーダ27cから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値から回転角度θpを計算してコントローラ91に出力する。また、回転角度検出回路75は、エンコーダ27cからインデックス信号を入力すると、カウント値をリセットして「0」にする。これが回転角度0°の位置である。なお、イメージングプレート15の回転角度0°の位置とは、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に形成された回折環を読み取る際、インデックス信号を入力した時点でレーザ光が照射されている位置である。この位置はイメージングプレート15の各半径位置においてあるためラインである。
テーブル16は、円形状であり、スピンドルモータ27の出力軸27aの先端部に固定されている。テーブル16は、下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面にはイメージングプレート15が取付けられる。イメージングプレート15の中心部には貫通孔15aが設けられていて、この貫通孔15aに突出部17を通し、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15が、固定具18とテーブル16の間に挟まれて固定される。固定具18は、円筒状の部材で、内周面に、突出部17のねじ山に対応するねじ山が形成されており、中心にパイプ部51が固定されている。突出部17に固定具18をねじ込んだとき、パイプ部51の先端部分は突出部17の貫通孔17aの中に入り、パイプ部51の先端51bはテーブル16の貫通孔16aの近傍になる。
X線出射器10の出射口11から出射されたX線は貫通孔26a,21a、通路部材28の孔、貫通孔27b,27a1,16a,17aを通過した後、パイプ部51の先端51bからパイプ部51の内部に入射し、パイプ部51の逆側の先端にあるX線出射孔51aから出射する。なお、パイプ部51の内径は通路部材28の孔の内径と同程度となっており、パイプ部51の先端51bが通路部材28の位置に存在した場合と同じと見なすことができる。出射口11から出射されたX線は広がりながら進むX線であるが、パイプ部51の内部を通過し、微小径であるX線出射孔51aから出射することで、パイプ部51の軸線に平行な平行光となる。
後述するように測定対象物OBのX線照射点からイメージングプレート15までの距離が設定距離になるようにしたとき、図2に示すようにX線出射孔51aが測定対象物OBのX線照射点の近傍になるよう、パイプ部51の長さは設定されている。図4は円形孔50c1の付近を出射X線の光軸方向から見た図であるが、X線照射点で発生した回折X線は円形孔50c1から筐体50内に入射し、イメージングプレート15で受光されてイメージングプレート15には回折環が撮像される。また、図4に示されるように、円形孔50c1の一部は長尺孔50c2と繋がっており、移動ステージ21がフィードモータ22側へ移動するとき、パイプ部51は円形孔50c1を通り過ぎた後、長尺孔50c2を移動する。そして、パイプ部51が長尺孔50c2の端の近傍になると、移動ステージ21は移動限界位置に達して停止する。
イメージングプレート15はフィードモータ22の駆動により、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、図1乃至図3に示す回折環撮像位置へ移動し、また、後述する撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域、及び回折環を消去する回折環消去領域へ移動する。この移動において、イメージングプレート15の中心軸は、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°の位置(ライン)とが成す平面内に保たれた状態で、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。なお、以下、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°の位置(ライン)とが成す平面を基準平面という。
レーザ検出装置30は、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15が発光した光の強度を検出する。レーザ検出装置30は、回折環撮像位置にあるイメージングプレート15からフィードモータ22側に離れており、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置30によって遮られないようになっている。レーザ検出装置30は、レーザ光源31、コリメートレンズ32、反射鏡33、ダイクロイックミラー34、及び対物レンズ36等を備えた光ヘッドであり、光ディスクの記録再生に用いられるものと同様な構成である。 レーザ駆動回路77は、コントローラ91から指令が入力すると、フォトディテクタ42から入力する信号の強度が所定の強度になるようレーザ光源31に駆動信号を出力し。レーザ光源31からは一定強度のレーザ光が出射される。フォトディテクタ42は後述するダイクロイックミラー34で微量が反射し、集光レンズ41を介して受光したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力するが、ダイクロイックミラー34での反射の割合は一定であるので、出射したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力すると見なせる。コリメートレンズ32はレーザ光を平行光にし、反射鏡33はレーザ光を、ダイクロイックミラー34に向けて反射し、ダイクロイックミラー34は、入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。対物レンズ36は、レーザ光をイメージングプレート15の表面に集光させる。対物レンズ36には、フォーカスアクチュエータ37が組み付けられており。後述するフォーカスサーボにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
集光されたレーザ光が、イメージングプレート15の回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じ、回折環撮像時における回折X線の強度に応じた光が発生する。この輝尽発光により発生した光はレーザ光の波長よりも波長が短く、レーザ光の反射光と共に対物レンズ36を通過するが、ダイクロイックミラー34にて大部分が反射し、レーザ光の反射光は大部分が透過する。ダイクロイックミラー34で反射した光は、集光レンズ38、シリンドリカルレンズ39を介してフォトディテクタ40に入射する。フォトディテクタ40は、4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子からなり、4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅回路78に出力する。なお、シリンドリカルレンズ39は非点収差を生じさせるためにある。
増幅回路78は、入力した4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅してフォーカスエラー信号生成回路79及びSUM信号生成回路80へ出力する。フォーカスエラー信号生成回路79は、非点収差法におけるフォーカスエラー信号を生成してフォーカスサーボ回路81へ出力する。フォーカスサーボ回路81は、コントローラ91により指令が入力すると作動開始し、入力したフォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路82に出力する。ドライブ回路82は、入力したフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ37を駆動して、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に変位させ、これにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
SUM信号生成回路80は、入力した4つの受光信号を合算してSUM信号を生成し、A/D変換回路83に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート15にて反射し、ダイクロイックミラー34で反射した微量のレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート15にて反射するレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、撮像された回折環における回折X線の強度に相当する。A/D変換回路83は、コントローラ91から指令が入力すると、入力するSUM信号の瞬時値をデジタルデータに変換してコントローラ91に出力する。
また、対物レンズ36に隣接して、LED光源43が設けられている。LED光源43は、LED駆動回路84によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路84は、コントローラ91から指令を入力すると、LED光源43に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
また、X線回折測定装置は、LED光源44を有する。LED光源44は、図2、図3及び図5に示すように、移動ステージ21とテーブル駆動機構20の上壁26の下面との間に配置されたプレート45の一端部下面に固定されている。プレート45は、移動ステージ21内に固定されたモータ46の出力軸46aに固着されており、モータ46の回転により、上壁26の下面に平行な面内を回転する。移動ステージ21にはストッパ部材47a,47bが設けられており、ストッパ部材47aは、プレート45を図5のD1方向に回転させたとき、LED光源44が上壁26の貫通孔26a及び移動ステージ21の貫通孔21aに対向する位置(A位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。一方、ストッパ部材47bは、プレート45を図5のD2方向に回転させたとき、プレート45が上壁26の貫通孔26aと移動ステージ21の貫通孔21aとの間を遮断しない位置(B位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。言い換えれば、A位置は、プレート45が図2及び図3に示す状態にある位置であり、LED光源44から出射されるLED光がスピンドルモータ27の貫通孔27a1に設けた通路部材28の通路に入射する位置である。B位置は、X線出射器10から出射されるX線がプレート45によって遮られない位置である。LED光源44は、コントローラ91によって作動制御されるLED駆動回路85からの駆動信号によりLED光を出射する。LED光は拡散する可視光であるが、プレート45がA位置にあるとき、その一部は、出射X線と同様の経路でX線出射孔51aから出射するので、出射X線と同様、貫通孔27a1及びパイプ部51の軸線に平行な平行光になる。
モータ46はエンコーダ46bを備えており、エンコーダ46bはモータ46が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を回転制御回路86に出力する。回転制御回路86は、コントローラ91から回転方向と回転開始の指令が入力されると、モータ46に駆動信号を出力し、モータ46を指示方向に回転させる。そして、エンコーダ46bからパルス列信号の入力が停止すると、駆動信号の出力を停止する。これにより、プレート45を、上述したA位置及びB位置までそれぞれ回転させることができる。
筐体50の切欠き部壁50cには結像レンズ48が設けられ、筐体50内部には撮像器49が設けられている。撮像器49は、CCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路87に出力する。結像レンズ48及び撮像器49は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるLED光の照射点を中心とした領域の画像を撮像するデジタルカメラとして機能する。イメージングプレート15に対して設定された位置とは、測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点からイメージングプレート15までの垂直距離が、予め決められた設定距離となる位置である。この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、前記照射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路87は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共にコントローラ91に出力する。
また、結像レンズ48の光軸は、基準平面(X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面)に含まれるとともに、この光軸と測定対象物OBに照射されるX線及びLED光の光軸が交わる点は、イメージングプレート15から設定された距離にある測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点であるように調整されている。さらに、X線及びLED光の測定対象物OBに対する入射角度が設定値であるとき、結像レンズ48の光軸と測定対象物OBのX線及びLED光の照射点における法線方向とが成す角度は前記入射角度に等しい角度であるようにされている。したがって、測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点からイメージングプレート15までの距離が設定された距離にあり、X線及びLED光が測定対象物OBに設定された入射角度で照射された場合には、結像レンズ48に入射する散乱光の光軸と反射光の光軸はいずれも結像レンズ48の光軸と一致するため、撮像器49におけるLED光の照射点と測定対象物OBで反射したLED光の受光点は同じ位置に生じる。測定対象物OBに照射されるLED光は平行光であるので、照射点において、LED光は散乱光と、略平行光のまま反射する反射光を発生させるが、散乱光のうち結像レンズ48に入射した光は撮像器49の位置で結像して照射点となり、結像レンズ48に入射した反射光は結像レンズ48により集光されて撮像器49で受光され受光点なる。よって、LED光の照射点からイメージングプレート15までの距離が設定された距離であり、LED光が測定対象物OBに設定された入射角度で照射されたとき、撮像器49が出力する信号強度データから作成される撮影画像では、照射点の画像と受光点の画像は同じ位置になる。
コンピュータ装置90は、コントローラ91、入力装置92及び表示装置93からなる。コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された各種プログラムを実行してX線回折測定装置の作動を制御する。入力装置92は、コントローラ91に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作業指示などの入力のために利用される。表示装置93は、表示画面上に撮像器49から入力する信号強度データにより作成された撮影画像を表示するとともに、結像レンズ48の光軸が撮像器49と交差する箇所に相当する箇所に十字のマークを表示する。この十字マークのクロス点は、LED光(出射X線)の照射点からイメージングプレート15までの距離が設定された距離であり、LED光(出射X線)が測定対象物OBに設定された入射角度で照射されたとき、照射点の画像および受光点の画像が生じる位置である。また、十字マークの縦方向を測定対象物OBの表面に投影させた方向が、撮像された回折環から計算される残留垂直応力の測定方向である。さらに、表示装置93は、X線回折測定システムの各種の設定状況、作動状況及び測定結果などを表示する。高電圧電源95は、X線出射器10にX線出射のための高電圧及び電流を供給する。
上述したように、X線出射器10におけるX線発生点の領域は、先行技術文献に示されているX線回折測定装置のものより大きく、通路部材28の貫通孔の内径は、該X線回折測定装置のものより大きめであり、出射X線は貫通孔27b,27a1,16a,17aを通過した後、パイプ部51の内部を通過して微小径のX線出射孔51aより出射している。これにより、出射X線を微小断面の複数のX線の集合で見たとき、測定対象物OBのX線照射箇所におけるそれぞれの点に達するまでの複数のX線の光路は、可視の平行光が凸レンズにより集光したときと同様の光路になる。これを視覚的に示したものが図6である。
図6は、X線出射器10におけるX線発生点から測定対象物OBのX線照射箇所までを、X線の光軸方向を縮小し、この垂直方向を拡大して示すとともに、X線照射箇所の一部の点までのX線の光路を示した図である。(a)はX線照射箇所の左端の点におけるX線の光路、(b)はX線照射箇所の右端の点におけるX線の光路であるが、X線照射箇所の左端の点から右端の点までのすべての点において、X線の光路はこれらと同様の図になる。なお、図6は見やすくするため、貫通孔27b,27a1,16a,17aは同一径の円柱状とし、パイプ部51の先端51bはこの円柱状の貫通孔の端に固定された部材に固定されているようにしてある。X線出射器10は加速した電子線EがターゲットTaに当たることでX線が発生するが、電子線Eの径を大きくしてあるため、X線発生点の領域が大きい。このため、X線出射孔51aから出射されて測定対象物OBに照射されるX線は、X線照射箇所のそれぞれの点においてX線発生点におけるX線の発生箇所により入射角度が異なり、図6に示されたX線の光路のように、ある範囲の入射角度のX線が照射される。また、図6は平面図であり、X線発生点を出射X線の光軸方向から見ると円形であるので、図6を立体的に見ると、X線照射箇所におけるそれぞれの点に照射されるX線は、該それぞれの点を含む測定対象物の表面上のあらゆるラインに対して、図6に示されたX線の光路のようにある範囲の角度を有する。
図10は、先行技術文献におけるX線回折測定装置において、X線出射器10におけるX線発生点から測定対象物OBのX線照射箇所までを、X線の光軸方向を縮小し、この垂直方向を拡大して示すとともに、X線照射箇所の一部の点までのX線の光路を示した図である。先行技術文献におけるX線回折測定装置では装置と測定対象物OBが固定されていれば、測定対象物OBに照射されるX線の角度は一定である。そして、図6と図10を比較すると、本発明はターゲットTaにおけるX線発生点の領域を大きくし、X線出射孔51aを測定対象物OBの測定箇所の近傍に配置することにより、ある範囲の角度を有するX線を測定対象物OBに照射するようにしていることがわかる。
発明者は、実験した結果、このようにしてX線を測定対象物OBに照射して回折環を撮像すると、結晶粒が大きい等の理由で通常の方法では明瞭な回折環が検出されない場合でも、明瞭な回折環が撮像することができることを確認した。これは、このようにしてX線を測定対象物OBに照射することは、X線回折測定装置の筐体を測定対象物に対して揺動させて回折環を撮像するのと同様の効果があることを示すものであると考えることができる。なお、先行技術文献の特許文献2に示されるX線回折測定装置のように装置の筐体を1方向にのみ揺動させる場合は、X線の入射角度が変化するのみであるので、本実施形態のようにX線を測定対象物OBに照射することは、出射するX線の光軸の垂直方向である2方向に装置の筐体を揺動させた場合と同様と考えることができる。
次に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBをX線回折測定する方法について説明する。ただし、この方法は先行技術文献の特許文献1に示されている方法と同じであり、特許文献1で既に詳細に説明されているので、簡単に説明するにとどめる。作業者はX線回折測定システムを測定対象物OBの近傍にセットした後、アーム式移動装置を操作してX線回折測定装置(筐体50)を測定対象物OBの近くまで移動させ、電源を投入してX線回折測定システムを作動させる。この後、X線回折測定は位置姿勢調整工程、回折環撮像工程、回折環読取り工程、回折環消去工程及び計算工程の順に作業、操作又は処理が行われる。
位置姿勢調整工程は、測定対象物OBに対するX線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整する工程である。作業者は、まず、アーム式移動装置を操作してX線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整することで、おおよそでX線(LED光)の照射点が測定対象物OBの測定箇所になり、測定対象物OBの測定箇所の法線が基準平面と平行になるようにする。
次に作業者は、入力装置92から位置姿勢の調整を行うことを入力する。この入力により、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、イメージングプレート15を回折環撮像位置(図1乃至図3の状態)に移動させ、モータ46を駆動させてプレート45をA位置まで回転させ、LED光源44を点灯させる。これにより平行光であるLED光がX線出射孔51aから外部へ出射され、測定対象物OBの測定箇所付近に照射される。さらに、コントローラ91は、撮像器49による撮像信号をセンサ信号取出回路87からコントローラ91に出力させ、この撮像信号から作成した撮影画像を表示装置93に表示させる。
作業者は、表示装置93に表示される画像を見ながら、アーム式移動装置を操作して、X線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整し、LED光の照射点が測定対象物OBの測定箇所になり、十字マークの縦方向が残留垂直応力の測定方向になるとともに、LED光の照射点および受光点が画面上における十字マークのクロス点と合致するようにする。これにより、X線照射点からイメージングプレート15までの距離Lは設定値となり、X線が設定された入射角で入射する。このとき、パイプ部51の先端にあるX線出射孔51aは測定対象物OBの近傍になる。調整が完了すると、作業者は入力装置92から位置姿勢の調整終了を入力する。これにより、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、LED光源44を消灯させ、撮像信号の出力を停止させ、モータ46を駆動させてプレート45をB位置まで回転させる。これにより、X線出射器10から出射されるX線が、移動ステージ21の貫通孔21aに入射され得る状態となる。
次の回折環撮像工程において、作業者は入力装置92から測定対象物OBの材質(本実施形態では、鉄)を入力し、測定開始を入力する。これにより、コントローラ91は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、イメージングプレート15を低速回転させ、エンコーダ27cからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート15の回転を停止させる。これにより、回折環の読取り時において回転角度0°となる状態で、イメージングプレート15に回折環が撮像されるようになる。次に、コントローラ91は、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を開始させる。これにより、測定対象物OBのX線照射点で発生した回折X線により、イメージングプレート15に回折環が撮像されていく。そして、所定時間の経過後に、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を停止させる。
次にコントローラ91は、回折環読取り工程を実行する。コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させる。読取り開始位置とは、レーザ光の照射位置が回折環基準半径Roの円に対して若干だけ内側になるような位置である。回折環基準半径Roとは、測定対象物OBの残留応力が「0」であるときに、イメージングプレート15上に形成される回折環の半径であり、測定対象物OBの材質におけるX線の回折角2Θm(Θmはブラッグ角)及びX線照射点からイメージングプレート15までの距離LからRo=L・tan(2Θm)の計算式で計算される。そして、X線の回折角2Θmは測定対象物OBの材質で決まり、距離Lは設定値に調整されているので、測定対象物OBの材質ごとに予め回折角2Θmを記憶しておけば、測定対象物OBの材質を入力することで回折環基準半径Roは計算できる。なお、パイプ部51が長尺孔50c2の端の近傍になる位置が、移動ステージ21の移動限界位置であるため、レーザ光の照射位置はイメージングプレート15の最内周位置まで行くことはないが、測定対象物OBの材質がどのようなものであってもレーザ光の照射位置は回折環基準半径Roの円より内側の位置になるよう、レーザ検出装置30の位置は設定されている。
次に、コントローラ91は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、スピンドルモータ27を所定の回転速度で回転させ、レーザ駆動回路77を制御してレーザ検出装置30からレーザ光をイメージングプレート15に照射させ、フォーカスサーボ回路81を制御してフォーカスサーボを開始させる。さらに、回転角度検出回路75を制御して、スピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転角度θpの出力を開始させ、A/D変換回路83を制御して、SUM信号の瞬時値Iのデータ出力を開始させ、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ22を回転させ、イメージングプレート15を読取り開始位置から図1及び図2の右下方向へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置は、相対的にイメージングプレート15上を螺旋状に回転し始める。その後、コントローラ91は、イメージングプレート15が所定の小さな角度だけ回転するごとに、A/D変換回路83が出力するSUM信号の瞬時値Iのデータと、回転角度検出回路75が出力する回転角度θpのデータと位置検出回路72が出力する移動距離xのデータとを入力し、それぞれのデータを対応させて記憶する。なお、移動距離xはレーザ光照射位置の径方向距離r(半径値r)に変換したうえで記憶する。これにより、螺旋状に回転するレーザ光の照射位置に対応して、SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータが所定回転角度ごとに順次記憶されていく。
SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータの所定回転角度ごとの記憶動作と並行して、コントローラ91は、回転角度θpごとに半径値rに対するSUM信号の瞬時値Iの曲線を作成し、曲線のピークに対応した半径値rαとSUM信号強度値Iαを記憶する。これは回折環の回転角度αごとに半径方向における回折X線の強度分布を求め、回折X線の強度がピークとなる箇所の半径値rαと回折X線の強度に相当する強度Iαを求める処理である。そして、すべての回転角度θp(回転角度α)において半径値rαと強度Iαを取得し、検出するSUM信号の瞬時値Iが強度Iαに対して充分小さくなった時点で、データの記憶を終了する。これにより、回折環における回折X線の強度に相当する強度の分布が瞬時値I、回転角度θp及び半径値rのデータ群で、および回折環の形状が回転角度αごとの半径値rαで検出されたことになる。その後、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、フォーカスサーボを停止させ、レーザ光の照射を停止させ、A/D変換回路83と回転角度検出回路75の作動を停止させ、フィードモータ22の作動を停止させる。なおイメージングプレート15の回転は、継続されている。
次にコントローラ91は、回折環消去工程を実行する。コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート15の消去開始位置とは、LED光源43から出力されるLED光の中心が回折環基準半径Roの円に対して前記読取り開始位置の場合よりもさらに内側になる位置である。次に、コントローラ91は、LED駆動回路84を制御してLED光源43によるLED光をイメージングプレート15に対して照射させ、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15が前記消去開始位置から消去終了位置まで図1及び図2の右下方向に一定速度で移動するよう、フィードモータ22を回転させる。消去終了位置とは、LED光の中心が回折環基準半径Roよりも前記消去開始位置と同じ程度の距離だけ外側となる位置である。これにより、LED光がイメージングプレート15上に螺旋状に照射され、撮像された回折環が消去される。
イメージングプレート15が消去終了位置になると、コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15の移動を停止させ、LED駆動回路84を制御してLED光の照射を停止させ、位置検出回路72の作動を停止させ、スピンドルモータ制御回路74を制御してスピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転を停止させる。
次にコントローラ91は計算工程を実行する。これは、回折環の形状である回転角度αごとの半径値rαのデータ、X線照射点からイメージングプレート15までの距離L、X線入射角ψの設定値及び測定対象物OBの材質(本実施形態では鉄)において既知の値である回折角、ヤング率、ポアソン比等の定数を用いて、cosα法を用いた演算により残留応力を計算する演算処理である。この計算は公知技術を用いたものであり、例えば特開2005−241308号公報の〔0026〕〜〔0044〕に詳細に説明されているので説明は省略する。計算が終了するとコントローラ91は残留応力の値を表示装置93に表示する。
なお、残留応力以外に、X線照射点からイメージングプレート15までの距離L、及びX線の入射角ψ等の測定条件を表示するようにしてもよい。また、回折環の形状曲線(回転角度αごとの半径値rαから得られる曲線)、回折環の強度分布画像(瞬時値Iを明度に換算し、瞬時値Iに対応する明度、回転角度θp及び半径値rのデータ群から作成される画像)等を表示するようにしてもよい。作業者は表示された結果を見ることで、測定対象物OBの疲労度等の特性を評価することができる。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線出射器10等からなるX線出射手段と、X線出射手段から測定対象物OBに向けてX線が照射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射手段から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15に回折X線の像である回折環を形成する回折環形成手段とを備えたX線回折測定装置において、X線出射手段は、出射するX線を微小断面の複数のX線の集合で見たとき、測定対象物OBのX線照射箇所におけるそれぞれの点に達するまでの複数のX線の光路が、可視の平行光が凸レンズにより集光したときと同様の光路になるようにX線を出射するようにしている。
これによれば、測定対象物のX線照射箇所におけるそれぞれの点に照射される複数のX線は、ある範囲のあらゆる入射角を有し、X線回折測定装置の筐体50を測定対象物OBに対して揺動させて、ある範囲のあらゆる入射角でX線を照射する場合と同様の効果を得ることができる。すなわち、これによれば、X線回折測定装置の筐体50を測定対象物OBに対して揺動させる機構を設けることなく、X線回折測定装置の筐体50を測定対象物OBに対して揺動させた場合と同様の効果を得ることができる。なお、X線照射箇所におけるそれぞれの点に照射される複数のX線は、断面が円形である可視の平行光が凸レンズにより集光したときと同様の光路になるので、X線照射箇所におけるそれぞれの点に照射される複数のX線は、該それぞれの点を含む測定対象物の表面上のあらゆるラインに対して、ある範囲のあらゆる角度を有する。これは、出射されるX線の光軸に垂直な2方向に対してX線回折測定装置の筐体50を揺動させる場合と同様とみなすことができ、X線回折測定装置の筐体を1方向に揺動させた場合よりも、明瞭な回折環を得ることができるという効果がある。
また、上記実施形態においては、X線出射手段は、測定対象物OBの近傍に配置させることができるX線出射孔51aと、X線出射孔51aの径より径の大きな円柱状の貫通孔を有するスピンドルモータ27及びパイプ部51と、加速した電子線EをターゲットTaに当てることでX線を発生させるX線出射器10であって、電子線Eの断面径を調整して、X線が発生する点の径をX線出射孔51aの径より大きくしたX線出射器10とから構成されているようにしている。
これによれば、X線出射手段を簡単な構成で測定対象物OBのX線照射箇所におけるそれぞれの点に達するまでの複数のX線の光路が、可視の平行光が凸レンズにより集光したときと同様の光路になるようにすることができ、装置のコストアップが殆どないようにすることができる。
(変形例)
上記実施形態においては、X線出射器10内においてターゲットTaに当てる加速した電子線Eの断面径を大きくすることで、X線発生点の径をX線出射孔51aの径より大きくしたが、ターゲットTaに当てる加速した電子線Eの位置を高速で変化させ、X線発生点の領域の径をX線出射孔51aの径より大きくしてもよい。この場合、電子線Eの位置を変化させるには、X線出射器10の中心軸の垂直方向に互いに方向が直角な2つの磁界を作用させ、この磁界の強度と磁極の方向を変化させるようにするとよい。図7はX線出射器10の内部とX線出射器10の周囲をX線出射器10の中心軸方向に見た図であるが、X線出射器10に2つの磁界を作用させるには、図7に示すように、永久磁石61,65を磁性体64,68と対向させ、磁界の強度と磁極の方向を変化させるには、永久磁石61,65をモータ63,67により回転させればよい。永久磁石61,65から磁性体64,68に向かう方向は互いに直角であるとともに、X線出射器10の中心軸に直交する方向である。また、電子線Eの光軸はX線出射器10の中心軸に略一致しているので、永久磁石61,65と磁性体64,68により発生する磁界の方向は、X線出射器10内の電子線Eの光軸に略垂直である。
永久磁石61,65は固定具62,66に取り付けられ、固定具62,66はモータ63,67の出力軸に連結されており、モータ63,67を回転させると永久磁石61,65の磁極の方向は変化する。これにより、永久磁石61,65と磁性体64,68により発生する磁界の強度と方向は変化するが、永久磁石61,65はX線出射器10に対して小さいのでモータ63,67を回転させても永久磁石61,65から磁性体64,68に向かう方向は大きく変化せず、永久磁石61,65の磁極の方向のみが変化すると見なすことができる。よって、モータ63,67を回転させると永久磁石61,65と磁性体64,68により発生する磁界の変化は、永久磁石61,65の中心と磁性体64,68の中心を結ぶラインの方向における、磁界の向きの変化と磁界強度の変化と見なすことができる。以下、永久磁石61,65、固定具62,66、モータ63,67及び磁性体64,68をX線発生点変化機構という。
永久磁石61と磁性体64による磁界を変化させたときに発生するローレンツ力は、図7の縦方向に発生するため、電子線Eは図7の縦方向に変化する。また、永久磁石65と磁性体68による磁界を変化させたときに発生するローレンツ力は、図7の横方向に発生するため、電子線Eは図7の横方向に変化する。そして、永久磁石61,65を一定速度で回転させると、磁界の強度は正弦波状に変化するため、電子線EがターゲットTaに当たる位置は時間軸で見ると縦方向、横方向とも正弦波状に変化する。電子線EがターゲットTaに当たる位置が縦方向、横方向とも同じ速さで正弦波状に変化し、位相が90度ずれるように変化させると、電子線EがターゲットTaに当たる位置は平面で見ると円周を描くように変化する。そして、永久磁石61,65の片方の回転速度を片方の整数倍にすると、電子線EがターゲットTaに当たる位置、すなわちX線発生点は図7に示すように正弦波状に、すなわちジグザグ状に変化する。図7は上方向にジグザグ状に変化するように描かれているが、上限位置に達した後は下方向にジグザグ状に変化する。図7は永久磁石65の回転速度を永久磁石61の回転速度の8倍にした場合であり、ジグザグの回数を増やしたい場合は、回転速度の倍数をさらに大きくすればよい。X線発生点をジグザグ状に変化させると、X線発生領域内のそれぞれの領域におけるX線発生点の存在割合は均等に近くなり、より明瞭な回折環を得ることができる。
上記変形例におけるX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの図1に相当する全体概略図は、図1にモータ63,67を設定した回転速度で回転させる回転制御回路を追加したものであり、これ以外は上記実施形態の説明をそのまま適用することができる。この変形例によれば、X線出射器10は先行技術文献に示される従来のものを変えることなく、X線発生点変化機構を新たに設けるのみで、X線が発生する点の径をX線出射孔51aの径より大きくした状態と同様の状態にすることができ、これによっても装置のコストアップが殆どないようにすることができる。
なお、上記変形例のX線発生点変化機構は永久磁石61,65と磁性体64,68を対向させ、永久磁石61,65を回転させる機構にしたが、磁界の強度と磁極の向きを変化させることができれば、X線発生点変化機構は別の機構にしてもよい。例えば2つの電磁石に供給する電流を交流にして交流の強度と周波数を適切なものにすれば、図7と同様にX線発生点をジグザグ状に変化させることができる。また、この場合、2つの電磁石に供給する交流の周波数を等しくするとともに位相を90度ずらし、交流の強度を変化させれば、X線発生点を螺旋状に変化させることができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態においては、イメージングプレート15をテーブル16に固定する固定具18にパイプ部51を取り付け、X線出射孔51aをパイプ部51の先端に設けることで、X線回折測定の際、測定対象物OBの近傍にX線出射孔51aが配置されるようにした。しかし、測定対象物OBの近傍または表面に径の小さな孔を配置することができればよいので、X線回折測定装置の固定具18にパイプ部51を取り付ける替わりに、作業者が測定対象物OBの測定箇所にX線照射孔を有するX線不透過シートを、該X線照射孔が合致するよう載置するようにしてもよい。すなわち、X線回折測定装置を、X線出射器10内においてターゲットTaに当てる電子線Eの断面径を大きくし、通路部材28と固定具18の貫通孔を大きくする以外は従来技術の特許文献1に示されるX線回折測定装置と同様のものにし、図8に示すように、測定対象物OBの測定箇所にX線照射孔Apを有するX線不透過シートShを載置して、上記実施形態のようにX線回折測定を行うようにしてもよい。この場合、X線照射孔Apが測定箇所と合致するようにX線不透過シートShを載置し、上記実施形態の位置姿勢調整工程では、X線照射孔ApとLED光照射点が合致するよう、X線回折測定装置の筐体50の位置と姿勢を調整するようにすればよい。これによれば、先行技術文献の特許文献1で示されるX線回折測定装置からの変更を極力少なくすることができる。
また、上記実施形態および変形例では、X線出射器10は断面径の大きな電子線EをターゲットTaに当てるようにした、又はターゲットTaに当たる位置がジグザグ状に変化する電子線Eであるようにした。すなわち、X線発生点又はX線発生領域を出射X線の光軸方向から見ると円形又は正方形状であるようにした。しかし、測定対象物OBに照射されるX線の入射角がある範囲のあらゆる角度になっていれば、効果の度合は減るが上記実施形態と同等の効果を得ることができるので、効果の度合が減ってもよい場合は、ターゲットTaに当たる電子線Eを断面が図6の縦方向に長い直線状にし、X線発生点を出射X線の光軸方向から見ると図6の横方向に長い直線状であるようにしてもよい。また、上記変形例においては、X線発生点変化機構は永久磁石61、固定具62、モータ63及び磁性体64のみにし、X線発生点は図7の縦方向のみに変化するようにしてもよい。よって、特許請求の範囲における可視の平行光なる語句は、断面が円形のものから直線状のものまですべてのものを指す。
また、上記実施形態および変形例では、X線出射器10におけるX線発生点を大きくするかX線発生点の領域を大きくし、X線を通路部材28の貫通孔及び貫通孔27b,27a1,16a,17aを通過させた後、パイプ部51を介して通路部材28の貫通孔より径の小さなX線出射孔51aより出射させることで、測定対象物OBのX線照射箇所におけるそれぞれの点に達するまでの複数のX線の光路が、可視の平行光が凸レンズにより集光したときと同様の光路になるようにした。しかしながら、X線照射箇所におけるそれぞれの点に達するまでの複数のX線の光路を、可視の平行光が凸レンズにより集光したときと同様の光路にできるならば、X線照射手段をどのような構成にしてもよい。例えば、パイプ部51をなくし、X線集光レンズを固定具18の貫通孔に設けることで、X線照射箇所におけるそれぞれの点に達するまでの複数のX線の光路を上記のようにするようにしてもよい。ただし、この場合は上記実施形態のように、X線と光軸が同一のLED光を照射するとLED光は拡散するので、円形孔50c1にX線は透過するがLED光は大半を遮断するシートを貼り、出射X線の光軸と交わる箇所に微小な孔を開けるといった対応を行う必要がある。
また、上記実施形態および変形例では、X線回折測定装置はアーム式移動装置に取り付けられ、アーム式移動装置を操作することにより、測定対象物OBに対してX線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整するものとした。しかし、本発明は、X線回折測定装置がスタンド等に固定され、測定対象物OBを位置と姿勢が調整可能なステージに載置し、該ステージを操作することにより、X線回折測定装置(筐体50)に対して測定対象物OBの位置と姿勢をする場合であっても、適用することができる。この場合は、該ステージに揺動機構を設けることを不要にして、該ステージを揺動させた場合と同様の効果を得ることができるという効果が得られる。
また、上記実施形態および変形例では、X線回折測定装置をイメージングプレート15に回折環を撮像し、レーザ検出装置30からレーザ光照射しながら走査して照射位置と光の強度検出を行うことで回折環を読取る装置とした。しかし、回折環を撮像し回折環を読取ることができるならば、どのような方式の装置でも本発明は適用することができる。例えば、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDを備え、X線出射器10からのX線照射の際、X線CCDの各画素が出力する電気信号により回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDの代わりに、微小サイズのX線CCDを位置を検出しながら走査し、X線CCDの各画素が出力する電気信号とX線CCDの走査位置から、回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、X線CCDに替えてシンチレータから出た蛍光を、光電子増倍管(PMT)で検出するシンチレーションカウンタを用いる装置でもよい。
なお、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDを備える装置とした場合、上記実施形態のX線回折測定装置にあるテーブル駆動機構20は不要になるので、図9に示すように、テーブル16に取り付けたX線CCD54をX線出射器10の近くに配置することができる。これにより、X線出射器10の出射口11とパイプ部51のX線出射孔51aとの間の距離を短くすることができるので、X線出射器10のX線発生点の径を従来よりやや大きくする程度で本発明は実現することができる。なお、この場合はX線と光軸が同一のLED光を照射し、カメラ撮影する構造にすることは困難であるので、図9に示すようにレーザ光源55,56から出射されたレーザ光が同一箇所に照射されるようX線回折測定装置の位置を調整することで、X線照射点から回折環撮像面(X線CCD54)までの距離を設定値にするとよい。また、測定対象物OBに対するX線入射角は、読み取った回折環から特許5967491号公報に示された方法を用いて計算することで算出するとよい。
また、上記実施形態および変形例では、コントローラ91に残留垂直応力を演算して求めるプログラムがインストールされているとした。しかし、測定効率を重要視しなければ、X線回折測定装置はX線回折像を検出するまでにし、残留応力の計算は別の装置で行うようにしてもよい。この場合、別の装置にX線回折像のデータを入力する方法としては、記録媒体を介する方法、ネット回線等を使用して転送する方法等、様々な方法が考えられる。また、さらに時間がかかってもよければ演算プログラムを使用せず、残留応力の計算の一部またはすべてを手計算により行ってもよい。
また、上記実施形態および変形例では、X線回折測定装置を回折環を形成(撮像)し回折環を読取ることができる装置としたが、測定効率を重要視しなければ、X線回折測定装置は回折環の形成のみを行う装置にし、回折環が形成されたイメージングプレート15をテーブル16から取り外して別の装置にセットし、回折環の読取り、回折環の消去及び残留応力の計算を別の装置で行うようにしてもよい。なお、上述したようにX線CCDやシンチレーションカウンタを用いれば、回折環の形成と読取りを同時に行うことができるので、X線CCDやシンチレーションカウンタを用いた場合、特許請求の範囲における回折環の形成は、回折環の形成と読取りを指すものとする。