本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図5を用いて説明する。図1は、X線回折測定システムの全体概略図であり、図2はX線回折測定システムにおけるX線回折測定装置と揺動機構の拡大図であり、図3はX線回折測定システムをX線回折測定装置の正面から見た時の外観図である。また、図4と図5はX線回折測定装置の一部の拡大図である。なお、このX線回折測定システムが、先行技術文献の特許文献1に示されているX線回折測定システムと異なっている点は、X線回折測定装置の筐体50が揺動機構110に連結され、揺動機構110が回転機構120に連結されている点、X線回折測定装置の筐体50の側面壁が上側面壁、中側面壁、下側面壁の3つの平面壁から形成されている点、X線回折測定装置の筐体50の前面壁、後面壁を測定対象物OBの表面と垂直にし、中側面壁を測定対象物OBの表面と所定の角度を成すようにしてX線を出射する点、及びX線を出射して回折環を撮像する際、揺動機構110によりX線回折測定装置の筐体50を揺動させる点である。よって、特許文献1に示されているX線回折測定システムで既に説明されている箇所は、簡略的に説明するにとどめる。
図1及び図2に示すように、このX線回折測定システムは、対象物セット装置60に測定対象物OBをセットし、揺動機構110によりX線回折測定装置の筐体50を揺動させながらX線を照射してX線回折測定を行うものである。対象物セット装置60は、3軸方向の移動機構、及び2軸周りの傾斜機構を備え、X線回折測定装置の筐体50に対して測定対象物OBの位置と姿勢を調整するものである。揺動機構110はX線回折測定装置の筐体50を異なる2方向に揺動させ、測定対象物OBに対してX線を照射する間、X線の照射方向を変化させるものである。なお、図1及び図2においては、揺動機構110とX線回折測定装置の筐体50の位置は連結状態のみを示しており、本来の配置関係は図3に示すようになっている。X線回折測定は様々な金属において行うことができるが、本実施形態では、測定対象物OBは鉄製の部材とする。
図1乃至図3に示すように、X線回折測定装置は、筐体50内に、X線出射器10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30等を備える。そして、X線回折測定システムは、このX線回折測定装置とともに、揺動機構110、回転機構120、固定台130、対象物セット装置60、コンピュータ装置100及び高電圧電源105を備える。筐体50内には、上述した装置および機構に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体50外に示された2点鎖線で示された各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。
X線回折測定装置の筐体50は、図2の断面で見ると直方体の前方の一部を切り取ったような形状であるが、図3の正面から見た外観図が示すように上面と下面の間に3つの側面が存在し、八角柱を横にし、前方の一部を切り取ったような形状である。以後、筐体50の上面を上面壁50f、下面を底面壁50a、図3の正面側を向く面を前面壁50b、前面壁50bの反対側の面を後面壁50eという。また、上面壁50fと底面壁50aの間にある3つの側面を上側面壁50g3、中側面壁50g2、下側面壁50g1という。そして、X線回折測定装置の筐体50には、正面から見て右側と左側の中側面壁50g2、下側面壁50g1が交差するライン2つに合わせて、前面壁50bから切り取ったときに形成される面があり、この面を切欠き部壁50cという。切欠き部壁50cは底面壁50aに平行な上面と垂直な横面とがある。また、筐体50には、切欠き部壁50c0の上面の途中から中側面壁50g2に垂直で底面壁50aと所定の角度を成すように前面壁50b側に向けて切り取ったときに形成される面があり、この面を繋ぎ壁50dという。繋ぎ壁50dが底面壁50aと成す角度は例えば30〜45度であり、本実施形態では30度にされている。中側面壁50g2と下側面壁50g1が成す角度および中側面壁50g2と上側面壁50g3が成す角度も例えば30〜45度であり、本実施形態では中側面壁50g2と下側面壁50g1が成す角度は45度、中側面壁50g2と上側面壁50g3が成す角度は30度にされている。中側面壁50g2と下側面壁50g1が所定の角度を有することにより、大きいL字状物体の2つの面が交差する箇所をX線回折測定する際、後述する対象物セット装置60によりL字状物体の2つの面に対する2つの下側面壁50g1の角度をほぼ平行にすることで、筐体50にL字状物体が当たらないようにすることができる。また、中側面壁50g2と上側面壁50g3が所定の角度を成すことにより、後述するX軸周り駆動ステージ115と連結板118に対し上面壁50fが所定の角度を成すように、筐体50を揺動機構110に連結させることができる。
以降の説明において、上面壁50f、底面壁50a、上側面壁50g3、中側面壁50g2及び下側面壁50g1に平行な方向をY軸方向、固定台130及び対象物セット装置60が置かれる面においてY軸方向に垂直な方向をX軸方向、及びX軸方向、Y軸方向に垂直な方向をZ軸方向とする。この方向は図2及び図3に座標軸で示されている方向である。
揺動機構110は,2つのゴニオステージを重ね上面を下側に向けたステージ機構部とステージ機構部の上面とX線回折測定装置の筐体50を連結させる連結体部からなる。ステージ機構部の上側のゴニオステージは固定ステージ111とY軸周り駆動ステージ112とモータ113から構成され、モータ113が回転駆動することにより固定ステージ111に対しY軸周り駆動ステージ112が成す角度が変化する。すなわち、Y軸周り駆動ステージ112はY軸方向に平行な回転軸を中心に設定された範囲だけ回転することができる。そして、モータ113の正回転と逆回転を交互に行うことにより、X線回折測定装置の筐体50はY軸方向に平行な回転軸周りに揺動する。以後、この揺動をY軸周り揺動という。ステージ機構部の下側のゴニオステージは固定ステージ114とX軸周り駆動ステージ115とモータ116から構成され、モータ116が回転駆動することにより固定ステージ114に対しX軸周り駆動ステージ115が成す角度が変化する。すなわち、X軸周り駆動ステージ115はXZ平面に平行でX軸方向と所定の角度を成す回転軸を中心に設定された範囲だけ回転することができる。そして、モータ115の正回転と逆回転を交互に行うことにより、X線回折測定装置の筐体50はXZ平面に平行でX軸方向と所定の角度を成す回転軸周りに揺動する。以後、この揺動をX軸周り揺動という。なお、X軸周り駆動ステージ115の回転軸は、Y軸周り駆動ステージ112が駆動するとY軸方向周りに変化するが、Y軸周り駆動ステージ112が駆動していないとき(固定ステージ111に対する回転角度0度のとき)、X軸周り駆動ステージ115の回転軸がX軸方向と成す角度は例えば10〜20度であり、本実施形態では15度にされている。言い換えれば、Y軸周り駆動ステージ112が駆動していないとき、X軸周り駆動ステージ115の上面がXY平面(固定台130を水平な面に置けば水平面)と成す角度は例えば10〜20度であり、本実施形態では15度にされている。また、Y軸周り駆動ステージ112の回転軸とX軸周り駆動ステージ115の回転軸は1点で交差するようになっている。この点が上述した揺動回転軸交差点であり、揺動回転軸交差点がX線回折測定装置から出射するX線の光軸上になるようX軸周り駆動ステージ115の上面とX線回折測定装置の筐体50が連結体部により連結されている。なお、X軸周り駆動ステージ115の回転軸はX軸と平行ではなく、X軸方向と例えば10〜20度、本実施形態では15度の角度を成しているが、X軸方向に近い回転軸であるためX軸周り、としている。
揺動機構110の連結体部は、平板連結体118、角度付連結体117及び側面壁連結体119から構成されている。平板連結体118は長方形状の平板であり、X線回折測定装置の正面側から見ると左側がX軸周り駆動ステージ115の上面にネジ止めにより固定され、右側が角度付連結体117をネジ止めにより固定している。角度付連結体117はX線回折測定装置の正面側から見ると右側が直角で左側が所定の角度にされた台形状の2枚の平板であり、左側の側面が平板連結体118にネジ止めにより固定され、左側の側面が側面壁連結体119をネジ止めにより固定している。正面側から見て角度付連結体117の左側の角度は例えば40〜60度であり、本実施形態では45度になっている。なお、2つの角度付連結体117は同じ大きさであり、図3では奥側の角度付連結体117は前側の角度付連結体117に隠れて見えなくなっている。側面壁連結体119は長方形状の平板であり、X線回折測定装置の正面側から見ると上側が角度付連結体117にネジ止めにより固定され、下側がX線回折測定装置の筐体50の中側面壁50g2をネジ止めにより固定している。この連結により、X線回折測定装置の筐体50の中側面壁50g2がXY平面と交差するラインはY軸方向と平行で、中側面壁50g2がXY平面と成す角度は上述した各角度から40〜70度になる。なお、本実施形態では中側面壁50g2がXY平面と成す角度は上述した各角度から60度になる。また、この連結により、揺動機構110のステージ機構部のX軸周り揺動とY軸周り揺動が、X線回折測定装置の筐体50のX軸周り揺動とY軸周り揺動になる。そして、対象物セット装置60により測定対象物OBの位置と姿勢を調整して、揺動回転軸交差点を測定対象物OBにX線が照射される点にすれば、このX軸周り揺動とY軸周り揺動により測定対象物OBの測定点を変動させず、測定対象物OBに対するX線の照射方向を変化させることができる。
揺動機構110のステージ機構部のモータ113は、Y軸周り揺動モータ制御回路90から入力する駆動信号により回転駆動する。Y軸周り揺動モータ制御回路90は、コンピュータ装置100を構成するコントローラ101から回転角度の上限値と下限値及び回転速度が入力すると、入力した回転角度の上限値と下限値及び回転速度を記憶する。そして、コントローラ101から揺動開始の指令が入力すると、記憶されている回転角度の上限値と下限値の間を記憶されている回転速度でモータ113が正回転と逆回転を繰り返し行うよう、駆動信号を出力する。Y軸周り揺動モータ制御回路90がモータ113に出力する駆動信号を正回転から逆回転又はこの反対に切り替えるのは、Y軸周り回転角度検出回路91から設定された短い時間間隔で回転角度のデジタルデータを入力し続け、入力した回転角度が記憶された回転角度の上限値または下限値に達したタイミングで行う。また、モータ113が記憶されている回転速度で回転するよう行う制御は、モータ113内に組み込まれたエンコーダ113aが出力するパルス信号の所定時間当たりのパルス数が記憶されている回転速度に相当するパルス数になるよう駆動信号の強度を制御することで行う。エンコーダ113aはモータ113が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を出力する。このパルス列信号は位相がπ/2ずれた2つの信号があり、どちらの信号の位相が進んでいるかにより回転方向を判別することができる。
また、Y軸周り揺動モータ制御回路90は、コントローラ101から回転角度の設定値が入力すると、Y軸周り回転角度検出回路91から入力する回転角度がコントローラ101から入力した回転回転角度になるまで、モータ113に駆動信号を出力する。コントローラ101からY軸周り揺動モータ制御回路90への出力は、作業者が入力装置102から入力した値および、入力した指令に基づいて行われる。この点は後程詳細に説明する。
Y軸周り回転角度検出回路91は、エンコーダ113aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、モータ113の回転方向に応じてカウントアップまたはカウントダウンさせて積算カウント値とし、積算カウント値から回転角度を計算してモータ制御回路88とコントローラ101に出力する。回転角度が0となる位置は、X線回折測定装置の正面側から見て固定ステージ111とY軸周り駆動ステージ112の左右の側面が1つの平面内にある位置であり、言い換えるとY軸周り駆動ステージ112が正側と負側の駆動限界位置の中間にある位置である。Y軸周り回転角度検出回路91が回転角度0の位置で積算カウント値を0に設定するのは、X線回折測定装置に電源を投入したときコントローラ101からの指令により次の作動がされることにより行われる。電源の投入時において、コントローラ101はY軸周り揺動モータ制御回路90とY軸周り回転角度検出回路91に回転角度0の設定を指令する信号を出力し、この指令が入力すると、Y軸周り揺動モータ制御回路90はY軸周り駆動ステージ112が図3において左周りに回転する駆動信号を出力し、Y軸周り回転角度検出回路91は、エンコーダ113aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントする。そして、Y軸周り回転角度検出回路91は、パルス列信号のパルス数がカウントされなくなると、積算カウント値をリセットして0にし、駆動限界位置を意味する信号をY軸周り揺動モータ制御回路90に出力する。Y軸周り揺動モータ制御回路90は駆動限界位置を意味する信号が入力すると、モータ113の回転方向を逆にする駆動信号を出力し、Y軸周り回転角度検出回路91から入力する回転角度が予め記憶されている回転角度になったとき駆動信号の出力を停止する。そして、Y軸周り回転角度検出回路91はパルス列信号のパルス数がカウントされなくなると、再び積算カウント値をリセットして0にする。
揺動機構110のステージ機構部のモータ116のX軸周り揺動モータ制御回路88及びX軸周り回転角度検出回路89による制御は、上述したモータ113のY軸周り揺動モータ制御回路90及びY軸周り回転角度検出回路91による制御と同一である。すなわち、モータ116は設定された回転角度の上限値と下限値の間を設定された回転速度で正回転と逆回転を繰り返し行う制御と、コントローラ101から入力した回転角度になるまで回転する制御が行われる。また、X軸周りの回転角度が0となる位置は、X線回折測定装置の正面側から見て固定ステージ114とX軸周り駆動ステージ115の前後の側面が1つの平面内にある位置であり、X軸周り駆動ステージ115が正側と負側の駆動限界位置の中間にある位置である。そして、X軸周り回転角度検出回路89が回転角度0の位置で積算カウント値を0に設定するのは、上述したY軸周り回転角度検出回路91の場合と同様、X線回折測定装置に電源を投入したときコントローラ101からの指令により行われる。
揺動機構110のステージ機構部の固定ステージ111は、Y軸周り駆動ステージ112と迎合する側の反対側が三角状連結体123の下面にネジ止めにより固定されており、三角状連結体123の上面は回転機構120の回転ステージ121の表面にネジ止めにより固定されている。三角状連結体123は、直角三角形の上面と下面を有する角柱であり、X線回折測定装置の正面側から見て、直角三角形が逆さになるよう回転ステージ121に固定されており、回転ステージ121に接している面と固定ステージ111に接している面とが成す角度は10〜20度であり、本実施形態では15度になっている。回転機構120は、操作子122を手動で回すことにより回転ステージ121が回転する構造になっており、回転ステージ121の回転軸は揺動回転軸交差点を通るように三角状連結体123を介して固定ステージ111と回転ステージ121が連結されている。よって、対象物セット装置60により、測定対象物OBのX線照射点を揺動回転軸交差点に合致するよう測定対象物OBの位置と姿勢を調整すれば、回転ステージ121を回転させることで測定対象物OBにおけるX線の入射方向を、X線照射点を動かすことなく調整することができる。
回転機構120は、固定台130の平板131に回転ステージ121がXY平面(固定台130を置く箇所の平面)と平行になるようにネジ止めにより固定されている。固定台130は4つの支柱132と平板131を有するテーブル状の構造のものであり、手で持って運搬することができるものであり、揺動機構110と回転機構120に連結されたX線回折測定装置を希望する場所に運搬することができる。
対象物セット装置60は、いわゆるゴニオメータで構成されており、ステージ61を、図3のX,Y,Z軸方向にそれぞれ移動させるとともに、図示X軸及びY軸周りに回動(傾斜)させるものである。対象物セット装置60は、設置面上に載置された平板状に形成された設置プレート62上に、高さ調整機構63、第1乃至第5プレート64〜68及びステージ61がそれぞれ下から上に順に載置されている。高さ調整機構63は、操作子63aを有し、操作子63aの回動操作により第1プレート64を設置プレート62に対して上下動(すなわちZ軸方向に移動)させて、設置プレート62と第1プレート64間の垂直距離を変更することにより第1プレート64の高さすなわちステージ61の高さを変更する。
第2プレート65には操作子65aが組み付けられており、操作子65aの回動操作により、図示しない機構を介して第3プレート66が第2プレート65に対してX軸周りに回動されて、第3プレート66の第2プレート65に対するX軸周りの傾斜角すなわちステージ61のX軸周りの傾斜角が変更される。第3プレート66には操作子66aが組み付けられており、操作子66aの回動操作により、図示しない機構を介して第4プレート67が第3プレート66に対してY軸周りに回動されて、第4プレート67の第3プレート66に対するY軸周りの傾斜角すなわちステージ61のY軸周りの傾斜角が変更される。第4プレート67には操作子67aが組み付けられており、操作子67aの回動操作により、図示しない機構を介して第5プレート68が第4プレート67に対してX軸方向に移動されて、第5プレート68の第4プレート67に対するX軸方向の位置すなわちステージ61のX軸方向の位置が変更される。第5プレート68には操作子68aが組み付けられており、操作子68aの回動操作により、図示しない機構を介してステージ61が第5プレート68に対してY軸方向に移動されて、ステージ61の第5プレート68に対するY軸方向の位置すなわちステージ61のY軸方向の位置が変更される。なお、対象物セット装置60は、ステージ61がXY平面(固定台130を置く箇所の平面)と平行な2軸方向に移動し、XY平面に平行な2軸周りに回転することができれば、測定対象物OBの位置と姿勢を調整することは可能であるので、図3に示すように移動方向と回転軸がX、Y軸に平行になるように置かれていなくてもよい。
X線出射器10は、図1乃至図2に示すように筐体50内の上部にて図示左右方向、すなわちY軸方向に延設されて筐体50に固定されており、高電圧電源95からの高電圧の供給を受け、X線を図示下方向に出射する。正確には図3に示すように、XZ平面に平行で、Z軸と例えば20〜50度、本実施形態では30度の角度を成す方向に出射する。言い換えると、X線はX線回折測定装置の筐体50の上面壁50f、底面壁50a及び切欠き部壁50cの上面に垂直で、中側面壁50g2、前面壁50b、前面壁50b及び切欠き部壁50cの横面に平行な方向に出射される。X線制御回路71は、コントローラ91から指令が入力すると、X線出射器10から一定強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源95から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。
テーブル駆動機構20は、筐体50に固定され、X線出射器10の下方にて移動ステージ21を備えている。移動ステージ21は、テーブル駆動機構20における対向する1対の板状のガイド25,25により挟まれていて、テーブル駆動機構20に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及び軸受部24により、出射X線の光軸が含まれる筐体50の側面壁に平行な平面内であって、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路73は、移動ステージ21をフィードモータ22側へ移動させるようフィードモータ22に駆動信号を出力し、位置検出回路72は、移動ステージ21が移動限界位置に達して、エンコーダ22aからパルス列信号が入力されなくなると、駆動信号停止を意味する信号をフィードモータ制御回路73に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路73は、これにより駆動信号の出力を停止する。この移動限界位置が移動ステージ21の原点位置となり、位置検出回路72は、以後、移動ステージ21が移動するごとにエンコーダ22aからのパルス列信号をカウントし、移動方向によりカウント値を加算または減算して移動限界位置からの移動距離xを位置信号として出力する。フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動先位置を入力すると、位置検出回路72から入力する位置信号が入力した移動先位置に等しくなるまで、フィードモータ22を正転又は逆転駆動する。 また、フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動速度を入力すると、エンコーダ22aから入力したパルス列信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ21の移動速度を計算し、計算した移動速度が入力した移動速度になるようにフィードモータ22を駆動する。
一対のガイド25,25の上端は、板状の上壁26によって連結されており、上壁26には貫通孔26aが設けられていて、貫通孔26aの中心位置はX線出射器10の出射口11の中心位置に対向しており、出射X線は、出射口11及び貫通孔26aを介してテーブル駆動機構20内に入射する。後述するイメージングプレート15が回折環撮像位置にある状態(図1、図2及び図4の状態)において、移動ステージ21の貫通孔26aと対向する位置には、図4に拡大して示すように、貫通孔21aが形成されている。移動ステージ21には、出射口11及び貫通孔26a,21aの中心軸線位置を回転中心とするスピンドルモータ27が組み付けられており、スピンドルモータ27の出力軸27aは円筒状で断面円形の貫通孔27a1を有する。スピンドルモータ27の出力軸27aの反対側には、貫通孔27bが設けられ、貫通孔27bの内周面上には、貫通孔27bの一部の内径を小さくするための円筒状の通路部材28が固定されている。
また、スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ91及び回転角度検出回路75に出力する。
スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から回転速度を入力すると、エンコーダ27cから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数から計算される回転速度が、入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に出力する。回転角度検出回路75は、エンコーダ27cから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値から回転角度θpを計算してコントローラ91に出力する。また、回転角度検出回路75は、エンコーダ27cからインデックス信号を入力すると、カウント値をリセットして「0」にする。これが回転角度0°の位置である。なお、イメージングプレート15の回転角度0°の位置とは、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に形成された回折環を読み取る際、インデックス信号を入力した時点でレーザ光が照射されている位置である。この位置はイメージングプレート15の各半径位置ごとにあるためラインであり、以後このラインを回転基準位置のラインという。
テーブル16は、円形状であり、スピンドルモータ27の出力軸27aの先端部に固定されている。テーブル16は、下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面にはイメージングプレート15が取付けられる。イメージングプレート15の中心部には貫通孔15aが設けられていて、この貫通孔15aに突出部17を通し、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15が、固定具18とテーブル16の間に挟まれて固定される。固定具18は、円筒状の部材で、内周面に、突出部17のねじ山に対応するねじ山が形成されている。
テーブル16、突出部17及び固定具18にも貫通孔16a,17a,18aがそれぞれ設けられており、貫通孔18aの内径は通路部材28の内径と同じである。すなわち、出射X線は、貫通孔26a,21a,通路部材28,貫通孔27b,27a1,16a,17a,18aを介して出射され、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、貫通孔18aから出射されるX線は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、筐体50の円形孔50c1から出射される。
イメージングプレート15は、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、回折環撮像位置へ移動し、また、後述する撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域、及び回折環を消去する回折環消去領域へ移動する。この移動において、イメージングプレート15の中心軸は、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転基準位置のラインとが含まれる平面内に保たれた状態で、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。
レーザ検出装置30は、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15が発光した光の強度を検出する。レーザ検出装置30は、回折環撮像位置にあるイメージングプレート15からフィードモータ22側に充分離れており、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置30によって遮られないようになっている。レーザ検出装置30は、レーザ光源31、コリメートレンズ32、反射鏡33、ダイクロイックミラー34、及び対物レンズ36等を備えた光ヘッドであり、光ディスクの記録再生に用いられるものと同様な構成である。 レーザ駆動回路77は、コントローラ91から指令が入力すると、フォトディテクタ42から入力する信号の強度が所定の強度になるようレーザ光源31に駆動信号を出力し。レーザ光源31からは一定強度のレーザ光が出射される。フォトディテクタ42は後述するダイクロイックミラー34で微量が反射し、集光レンズ41を介して受光したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力するが、ダイクロイックミラー34での反射の割合は一定であるので、出射したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力すると見なせる。コリメートレンズ32はレーザ光を平行光にし、反射鏡33はレーザ光を、ダイクロイックミラー34に向けて反射し、ダイクロイックミラー34は、入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。対物レンズ36は、レーザ光をイメージングプレート15の表面に集光させる。対物レンズ36には、フォーカスアクチュエータ37が組み付けられており。後述するフォーカスサーボにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
集光されたレーザ光が、イメージングプレート15の回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じ、回折環撮像時における回折X線の強度に応じた光が発生する。この輝尽発光により発生した光はレーザ光の波長よりも波長が短く、レーザ光の反射光と共に対物レンズ36を通過するが、ダイクロイックミラー34にて大部分が反射し、レーザ光の反射光は大部分が透過する。ダイクロイックミラー34で反射した光は、集光レンズ38、シリンドリカルレンズ39を介してフォトディテクタ40に入射する。フォトディテクタ40は、4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子からなり、4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅回路78に出力する。なお、シリンドリカルレンズ39は非点収差を生じさせるためにある。
増幅回路78は、入力した4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅してフォーカスエラー信号生成回路79及びSUM信号生成回路80へ出力する。フォーカスエラー信号生成回路79は、非点収差法におけるフォーカスエラー信号を生成してフォーカスサーボ回路81へ出力する。フォーカスサーボ回路81は、コントローラ91により指令が入力すると作動開始し、入力したフォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路82に出力する。ドライブ回路82は、入力したフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ37を駆動して、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に変位させ、これにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
SUM信号生成回路80は、入力した4つの受光信号を合算してSUM信号を生成し、A/D変換回路83に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート15にて反射し、ダイクロイックミラー34で反射した微量のレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート15にて反射するレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、撮像された回折環における回折X線の強度に相当する。A/D変換回路83は、コントローラ91から指令が入力すると、入力するSUM信号の瞬時値をデジタルデータに変換してコントローラ91に出力する。
また、対物レンズ36に隣接して、LED光源43が設けられている。LED光源43は、LED駆動回路84によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路84は、コントローラ91から指令を入力すると、LED光源43に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
また、X線回折測定装置は、LED光源44を有する。LED光源44は、図2、図4及び図5に示すように、移動ステージ21とテーブル駆動機構20の上壁26の下面との間に配置されたプレート45の一端部下面に固定されている。プレート45は、移動ステージ21内に固定されたモータ46の出力軸46aに固着されており、モータ46の回転により、上壁26の下面に平行な面内を回転する。移動ステージ21にはストッパ部材47a,47bが設けられており、ストッパ部材47aは、プレート45を図5のD1方向に回転させたとき、LED光源44が上壁26の貫通孔26a及び移動ステージ21の貫通孔21aに対向する位置(A位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。一方、ストッパ部材47bは、プレート45を図5のD2方向に回転させたとき、プレート45が上壁26の貫通孔26aと移動ステージ21の貫通孔21aとの間を遮断しない位置(B位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。言い換えれば、A位置は、プレート45が図2及び図4に示す状態にある位置であり、LED光源44から出射されるLED光がスピンドルモータ27の貫通孔27a1に設けた通路部材28の通路に入射する位置である。B位置は、X線出射器10から出射されるX線がプレート45によって遮られない位置である。LED光源44は、コントローラ91によって作動制御されるLED駆動回路85からの駆動信号によりLED光を出射する。LED光は拡散する可視光であるが、プレート45がA位置にあるとき、その一部は、出射X線と同様の経路で貫通孔18aから出射するので、出射X線と同様、貫通孔27a1の軸線に平行な平行光になる。
モータ46はエンコーダ46bを備えており、エンコーダ46bはモータ46が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を回転制御回路86に出力する。回転制御回路86は、コントローラ91から回転方向と回転開始の指令が入力されると、モータ46に駆動信号を出力し、モータ46を指示方向に回転させる。そして、エンコーダ46bからパルス列信号の入力が停止すると、駆動信号の出力を停止する。これにより、プレート45を、上述したA位置及びB位置までそれぞれ回転させることができる。
筐体50の切欠き部壁50cの横面には結像レンズ48が設けられ、筐体50内部には撮像器49が設けられている。撮像器49は、CCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路87に出力する。結像レンズ48及び撮像器49は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるLED光の照射点を中心とした領域の画像を撮像するデジタルカメラとして機能する。イメージングプレート15に対して設定された位置とは、測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点からイメージングプレート15までの垂直距離が、予め決められた設定値Lとなる位置である。この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、該照射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路87は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共にコントローラ91に出力する。
また、結像レンズ48の光軸は、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面に含まれるとともに、この光軸と測定対象物OBに照射されるX線及びLED光の光軸が交わる点は、揺動回転軸交差点であるように調整されている。揺動回転軸交差点は、イメージングプレート15からの垂直距離が予め決められた設定値LとなるX線及びLED光の光軸上の点と一致している。測定対象物OBに照射されるLED光は平行光であるので、照射点において、LED光は散乱光と、略平行光のまま反射する反射光を発生させるが、散乱光のうち結像レンズ48に入射した光は撮像器49の位置で結像して照射点の画像となる。LED光の照射点がイメージングプレート15に対して設定された位置にあるとき、結像レンズ48に入射する散乱光の光軸は結像レンズ48の光軸と一致するため、照射点の画像は結像レンズ48の光軸が撮臓器49と交差する所定の位置に生じる。よって、撮影画像におけるLED光の照射点が撮影画像上の所定の位置に生じるよう、対象物セット装置60により測定対象物OBの位置を調整すれば、X線及びLED光の照射点を揺動回転軸交差点と合致させ、また、X線及びLED光の照射点からイメージングプレート15までの距離を設定値Lにすることができる。
また、上述した連結板118は、その下面にX線及びLED光の照射点が揺動回転軸交差点と合致し、X線及びLED光の測定対象物OBに対する入射角度が設定値であり、X線及びLED光の照射点における測定対象物OBの法線がZ軸方向と平行であるとき、LED光照射点で発生した反射光が受光する位置が十字マークの交差点で描かれている。よって、撮影画像におけるLED光の照射点が撮影画像上の所定の位置に生じ、LED光の反射光の受光位置が連結板118の下面に描かれた十字マークの交差点に合致するよう、対象物セット装置60により測定対象物OBの位置と姿勢を調整することで、X線及びLED光の照射点を揺動回転軸交差点と合致させるとともに、測定対象物OBに対するX線及びLED光の入射角を設定値にすることができる。
コンピュータ装置100は、コントローラ101、入力装置102及び表示装置103からなる。コントローラ101は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された各種プログラムを実行してX線回折測定装置の作動を制御する。入力装置102は、コントローラ101に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作動指令などの入力のために利用される。表示装置103は、表示画面上に撮像器49によって撮像された照射点を含む画像に加えて、LED光の照射点を合致させるべき位置を示すマークも表示される。さらに、表示装置103は、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果なども視覚的に知らせる。高電圧電源105は、X線出射器10にX線出射のための高電圧及び電流を供給する。
次に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、X線回折測定装置の揺動条件を設定し、X線回折測定装置の位置と姿勢を調整したうえで、測定対象物OBの残留応力を測定するためのX線回折測定を行う具体的方法について説明する。まず、作業者はX線回折測定システムに電源を投入し、対象物セット装置60をX線回折測定装置の下の適切な位置設置する。次に対象物セット装置60のステージ61に残留応力の測定をする測定対象物OBを載置し、操作子67a,68aを操作して、おおよそでX線回折測定装置から出射されるX線が測定対象物OBの測定箇所に目的の方向から照射されるとともに、X線照射点からイメージングプレート15までの距離が設定値L付近になるようにする、すなわち、X線照射点が揺動回転軸交差点付近になるようにする。この後、X線回折測定は、図6に示されるように、位置姿勢調整工程S1、揺動条件設定工程S2、回折環撮像工程S3、回折環読取り工程S4、回折環消去工程S5及び残留応力計算工程S6が行われることで実施される。なお、各工程において、先行技術文献の特許文献1で既に詳細に説明されている箇所は、簡略的に説明するにとどめる。
位置姿勢調整工程S1は、X線回折測定装置(筐体50)に対する測定対象物OBの位置と姿勢を調整する工程である。作業者は、入力装置102から位置姿勢の調整を行うことを入力すると、コントローラ101は、各回路に指令を出力し、イメージングプレート15を回折環撮像位置(図1、図2及び図4の状態)に移動させ、モータ46を駆動させてプレート45をA位置まで回転させ、LED光源44を点灯させる。これにより平行光であるLED光が筐体50の円形孔50c1から外部へ出射され、測定対象物OBの測定箇所付近に照射される。さらに、コントローラ101は、撮像器49による撮像信号をセンサ信号取出回路87からコントローラ101に出力させ、この撮像信号から作成したLED光の照射位置近傍の画像を表示装置103に表示させる。このとき、表示される画像には、撮像信号によって表示される画像とは独立して、結像レンズ48の光軸が撮像器49と交差する位置に相当する撮影画像上の位置に、十字マークが表示される。
この場合、十字マークのクロス点は表示装置103の画面の中心に位置し、この位置はX線及びLED光の照射点が揺動回転軸交差点であるときに、照射点が撮像される位置である。また、十字マークの縦方向のラインは、出射X線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面が撮臓器49と交差するラインに相当し、言い換えると出射X線の光軸を撮臓器49に投影させたラインである。
また、このとき連結板118の下面には測定対象物OBで反射したLED光が受光され、受光点が生じる。作業者は、表示装置103に表示される画像を見るとともに、連結板118の下面を見ながら、対象物セット装置60の操作子63a,65a,66a,67a,68aを操作して測定対象物OBの位置と姿勢を調整し、画面上におけるLED光の照射点が測定対象物OBの目的とする測定箇所になるとともに十字マークのクロス点と合致し、連結板118の下面の受光点が連結板118の下面に描かれた十字マークのクロス点と合致するようにする。これにより、出射X線は測定対象物OBの目的とする測定箇所に照射され、X線照射点は揺動回転軸交差点に合致するとともにX線照射点からイメージングプレート15までの距離は設定値Lになり、測定対象物OBに対するX線の入射角は設定値になる。なお、連結板118の下面を見るのが困難であるときは、固定台130を置いた平面の適切な箇所にミラーを置き、ミラーを介して連結板118の下面を見ることができるようにすればよい。
次に、測定対象物OBに投影した出射X線の光軸の方向(残留垂直応力の測定方向)が希望する方向になっていないときは、回転機構120の操作子122を回転させ、回転テーブル121の回転軸周りにX線回折測定装置の筐体50及び揺動機構110を回転させて適切な位置にする。この回転にともない図3に示したX,Y,Z軸の座標軸、後述するX’,Y,Z’軸の座標軸も同様に回転し、座標軸とX線回折測定装置の筐体50及び揺動機構110の位置関係は変わらないとする。
作業者は、測定対象物OBの位置と姿勢の調整が完了すると、入力装置102から位置姿勢の調整終了を入力する。これにより、コントローラ101は、各回路に指令を出力し、LED光源44を消灯させ、撮像信号の出力を停止させ、モータ46を駆動させてプレート45をB位置まで回転させる。これにより、X線出射器10からのX線が移動ステージ21の貫通孔21aに入射され得る状態となる。なお、本実施形態では、この状態において出射X線の測定対象物OBへの入射角度は30度となるが、入射角度を別の角度Θiにしたいときは、作業者は入力装置102からY軸周りの回転角度として(Θi−30度)を入力する。これによりコントローラ101はY軸周り揺動モータ制御回路90に回転角度の設定値(Θi−30度)が出力され、Y軸周り揺動モータ制御回路90はY軸周り回転角度検出回路91から入力する回転角度が(Θi−30度)になるまで、モータ113に駆動信号を出力する。これにより、入射角度はΘiに設定される。
次の揺動条件設定工程S2において、作業者は入力装置102から揺動条件の設定を行うことを入力する。これにより、コントローラ101は、表示装置103にジグザグ移動の回数、X軸周りにおける揺動の回転角度範囲、Y軸周りの揺動における回転角度範囲を入力するよう表示するので、作業者は入力装置102からこれらの条件を入力する。以下に揺動条件について説明する。
揺動条件は、測定対象物OBに対してX線を照射している最中、揺動機構110を用いてX線回折測定装置の筐体50を揺動するときの条件である。言い換えると、X線照射中における測定対象物OBに対するX線の照射方向を変化させる条件である。ここで、図3に示すように出射X線の光軸に平行な方向をZ’軸、Y軸とZ’軸とに垂直な軸をX’軸とした、X’,Y,Z’軸からなる座標軸を考え、X線出射器10の出射口11の中心点をX’,Y平面に投影した点(以下、出射口投影点という)を考える。本実施形態における揺動機構110による揺動は、出射口投影点が図7に示すように揺動開始点Sからジグザグに移動して揺動開始点Sに戻るように移動する揺動であり、コントローラ101はX軸周り揺動モータ制御回路88及びY軸周り揺動モータ制御回路90に、そのような揺動が行われる設定する。すなわち、コントローラ101は、X軸周り揺動モータ制御回路88及びY軸周り揺動モータ制御回路90に、出射口投影点が図7に示すように移動するための回転角度の上限値と下限値および回転速度を設定する。そして、作業者が設定する揺動条件は、上述したように出射口投影点のジグザグ移動の回数、X軸周りにおけるの揺動の回転角度範囲、Y軸周りの揺動における回転角度範囲である。なお図7は、ジグザグ移動の回数が8回の場合であるが、この回数は作業者が希望する値を設定することができる。ただし、揺動開始点Sから揺動開始点Sに戻るジグザグ移動を行うには、X’軸方向の端部で出射口投影点はY軸方向の中心にある必要があり、このためにはジグザグ移動の回数は偶数(2の倍数)で設定する必要がある。
コントローラ101は、入力装置102から入力されたジグザグ移動の回数N、X軸周りにおけるの揺動の回転角度範囲±Θx、Y軸周りの揺動における回転角度範囲±Θyの揺動条件から、X軸周り揺動モータ制御回路88に設定する回転角度の上限値Θx1と下限値Θx2と回転速度Spx、及びY軸周り揺動モータ制御回路90に設定する回転角度の上限値Θy1と下限値Θy2と回転速度Spyを計算するが、これらの値は次の計算により行われる。なお、測定対象物OBに対するX線の照射時間Tは予め設定されているとする。X線の照射時間Tは出射口投影点が揺動開始点Sからジグザグに移動して揺動開始点Sに戻る時間Tでもある。
まず、回転角度の上限値Θx1と下限値Θx2は、X軸周りの回転角度が0以外の値にされていることはないので、Θx1=+Θx,Θx2=−Θxである。回転角度の上限値Θy1と下限値Θy2は、上述したように出射X線の入射角を30度以外の値にするとY軸周りの回転角度が0以外の値にされるので、現時点の回転角度をΘnとすると、Θy1=Θn+Θy,Θy2=Θn−Θyである。なお、現時点の回転角度Θnは、上述したようにΘn=(Θi−30度)である。
次に、回転速度Spx,SpyはSpx=4・Θx・N/T,Spy=4・Θy/Tで計算される。Spx,Spyは単位時間あたりの回転角度である。なお、X軸周り揺動の周期はT/Nであり、Y軸周り揺動の周期はTでとなるので、Y軸周り揺動の周期をX軸周り揺動の周期で除算するとNとなる。そして、上述したようにジグザグ移動の回数Nは偶数(2の倍数)で設定する必要があるので、Y軸周り揺動の周期をX軸周り揺動の周期で除算すると偶数(2の倍数)になる。
図3に示すように、Y軸周りの回転軸はY軸に平行であるが、X軸周りの回転軸はX’軸に平行ではなく、本実施形態ではX’軸に対して45度の角度を成している。よって、X軸周り揺動とY軸周り揺動により、出射口投影点をジグザグに移動させた場合、移動のラインは完全な直線にはならない。しかし、出射口投影点のジグザグ移動のラインは、ほぼ直線であるとみなしてよい。図8は、ジグザグ移動の回数を8回、X軸周りにおける揺動の回転角度範囲を±5度、Y軸周りの揺動における回転角度範囲を±3度とし、X軸周りに回転角度が0.1度変化するごとの出射口投影点の(X’,Y)座標を計算し、打点にしたものである。図8が示すようにジグザグ移動のラインは、直線からややずれているが、ほぼ直線と見なすことができる。
次の回折環撮像工程S3において、作業者は入力装置102から測定対象物OBの材質(本実施形態では、鉄)を入力し、測定開始を入力する。これにより、コントローラ101は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、イメージングプレート15を低速回転させ、エンコーダ27cからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート15の回転を停止させる。これにより、回折環の読取り時において回転角度0°となる状態で、イメージングプレート15に回折環が撮像されるようになる。次に、コントローラ101は、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を開始させ、X軸周り揺動モータ制御回路88とY軸周り揺動モータ制御回路90に揺動開始の指令を出力する。これにより、測定対象物OBにX線が照射されるとともに、筐体50の揺動により、出射口投影点がジグザグに移動するようにX線の照射方向が変化し、X線照射点で発生した回折X線により、イメージングプレート15に回折環が撮像されていく。そして、設定されている時間Tが経過した後に、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を停止させ、X軸周り揺動モータ制御回路88とY軸周り揺動モータ制御回路90に揺動停止の指令を出力する。この時点において、筐体50は揺動開始のときと同じ状態に戻っている。
次にコントローラ101は、自動または作業者の入力により回折環読取り工程S4を実行する。コントローラ101は、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させる。読取り開始位置とは、レーザ光の照射位置が回折環基準半径Roの円に対して若干だけ内側になるような位置である。回折環基準半径Roとは、測定対象物OBの残留応力が「0」であるときに、イメージングプレート15上に形成される回折環の半径であり、測定対象物OBにおけるX線の回折角度2Θ0(Θ0はブラッグ角)及び距離IP−OBの設定値LからRo=L・tan(2Θ0)の計算式で計算される。そして、X線の回折角度2Θ0は測定対象物OBの材質で決まり、距離Lは設定値に調整されているので、測定対象物OBの材質ごとに予め回折角2Θ0を記憶しておけば、測定対象物OBの材質を入力することで回折環基準半径Roは計算できる。
次に、コントローラ101は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、スピンドルモータ27を所定の回転速度で回転させ、レーザ駆動回路77を制御してレーザ検出装置30からレーザ光をイメージングプレート15に照射させ、フォーカスサーボ回路81を制御してフォーカスサーボを開始させる。さらに、回転角度検出回路75を制御して、スピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転角度θpの出力を開始させ、A/D変換回路83を制御して、SUM信号の瞬時値Iのデータ出力を開始させ、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ22を回転させ、イメージングプレート15を読取り開始位置から図1及び図2の右下方向へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置は、相対的にイメージングプレート15上を螺旋状に回転し始める。その後、コントローラ101は、イメージングプレート15が所定の小さな角度だけ回転するごとに、A/D変換回路83が出力するSUM信号の瞬時値Iのデータと、回転角度検出回路75が出力する回転角度θpのデータと位置検出回路72が出力する移動距離xのデータとを入力し、それぞれのデータを対応させて記憶する。なお、移動距離xはレーザ光照射位置の径方向距離r(半径値r)に変換したうえで記憶する。これにより、螺旋状に回転するレーザ光の照射位置に関して、SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータが所定回転角度ごとに順次記憶されていく。
SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータの所定回転角度ごとの記憶動作と並行して、コントローラ101は、回転角度θpごとに半径値rに対するSUM信号の瞬時値Iの曲線を作成し、曲線のピークに対応した半径値rαとSUM信号強度値Iαを記憶する。これは回折環の回転角度αごとに半径方向における回折X線の強度分布を求め、回折X線の強度がピークとなる箇所の半径値rαと回折X線の強度に相当する強度Iαを求める処理である。そして、すべての回転角度θp(回転角度α)において半径値rαと強度Iαを取得し、検出するSUM信号の瞬時値Iが強度Iαに対して充分小さくなった時点で、データの記憶を終了する。これにより、回折環における回折X線の強度に相当する強度の分布が瞬時値I、回転角度θp及び半径値rのデータ群で、および回折環の形状が回転角度αごとの半径値rαで検出されたことになる。その後、コントローラ101は、各回路に指令を出力し、フォーカスサーボを停止させ、レーザ光の照射を停止させ、A/D変換回路83と回転角度検出回路75の作動を停止させ、フィードモータ22の作動を停止させる。なおイメージングプレート15の回転は、継続されている。
次にコントローラ101は、自動または作業者の入力により回折環消去工程S5を実行する。コントローラ101は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート15の消去開始位置とは、LED光源43から出力されるLED光の中心が回折環基準半径Roの円に対して前記読取り開始位置の場合よりもさらに内側になる位置である。次に、コントローラ101は、LED駆動回路84を制御してLED光源43によるLED光をイメージングプレート15に対して照射させ、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15が前記消去開始位置から消去終了位置まで図1及び図2の右下方向に一定速度で移動するよう、フィードモータ22を回転させる。消去終了位置とは、LED光の中心が回折環基準半径Roよりも前記消去開始位置と同じ程度の距離だけ外側となる位置である。これにより、LED光がイメージングプレート15上に螺旋状に照射され、撮像された回折環が消去される。
イメージングプレート15が消去終了位置になると、コントローラ101は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15の移動を停止させ、LED駆動回路84を制御してLED光の照射を停止させ、位置検出回路72の作動を停止させ、スピンドルモータ制御回路74を制御してスピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転を停止させる。
次にコントローラ101は、自動または作業者の入力により残留応力計算工程S6を実行する。これは、回折環の形状である回転角度αごとの半径値rαのデータと、X線照射点からイメージングプレート15までの距離の設定値LおよびX線の入射角ψを用いて、cosα法を用いた演算により残留応力を計算する演算処理である。この演算は公知技術であり、例えば特開2005−241308号公報の〔0026〕〜〔0044〕に詳細に説明されている。ただし、本実施形態では、出射X線とX線照射点における測定対象物OBの法線とを含む平面がイメージングプレート15と交差する箇所の回転角度は90度と270度になっており、公知技術のように0度と180度ではない。よって、回転角度αから90度を減算した値を回転角度αとして公知技術で示されたように計算を行う。
コントローラ101は計算が終了すると、表示装置に103に残留応力の計算結果を表示する。なお、残留応力以外に、ジグザグ移動の回数、X軸周りとY軸周りの揺動の回転角度範囲、X線照射点からイメージングプレート15までの距離L、X線の入射角ψ等の測定条件を表示するようにしてもよい。また、回折環の形状曲線(回転角度αごとの半径値rαから得られる曲線)、回折環の強度分布画像(瞬時値Iαを明度に換算し、瞬時値Iαに対応する明度、回転角度θp及び半径値rのデータ群から作成される画像)等を表示するようにしてもよい。作業者は結果を見ることで、測定対象物OBの疲労度の評価や、ショットピーニングなどによる加工結果の評価等を行うことができる。
発明者は、同一の測定対象物OBの同一の測定点をジグザグ移動の間隔、X軸周りとY軸周りの揺動の回転角度範囲を変化させて測定した結果、ジグザグ移動の間隔を小さくするほど、またX軸周りとY軸周りの揺動の回転角度範囲を大きくするほど、回折環の明瞭度合いは漸近的によくなり、やがて明瞭度合いは殆ど変わらないようになることを確認した。図9は揺動の回転角度範囲をΘx=±2度,Θy=±1.5度(打点●)、Θx=±3度,Θy=±2.3度(打点▲)、Θx=±4度,Θy=±3度(打点■)、Θx=±6度,Θy=±4.5度(打点○)にし、ジグザグ移動の間隔に対する回折環の明瞭度合いの関係を示したものである。回折環の明瞭度合いとして標準偏差の値を用いているが、この標準偏差は、回折環の形状からcosα法を用いて残留応力を計算する際に計算するcosαとa1の回帰線からのそれぞれのa1の値のずれを偏差として計算したものである。視覚的に示すと図10に示すように、cosαとa1の相関図を描いたとき、それぞれの打点の回帰線からのずれを偏差として計算した標準偏差である。回折環の明瞭度合いがよいほど、a1とcosαの相関はよくなり、それぞれの打点の回帰線からのずれは小さくなるため標準偏差は小さくなる。すなわち、標準偏差は小さいほど回折環の明瞭度合いはよい。図9に示すように、ジグザグ移動の間隔を小さくするほど回折環の明瞭度合いはよくなるが、やがて明瞭度合いはほとんど変わらないようになる。また、揺動の回転角度範囲を大きくするほど回折環の明瞭度合いはよくなるが、打点■と打点○のラインが大きくは変わっていないように、やがて明瞭度合いはほとんど変わらないようになる。よって、ジグザグ移動の間隔及び揺動の回転角度範囲は、これ以上変化させても回折環の明瞭度合いが緩やかにしか変化しない適切な値で設定すればよい。なお、揺動の回転角度範囲をジグザグ移動の間隔で除算したものがジグザグ移動の回数であるので、上述したようにジグザグ移動の回数と揺動の回転角度範囲を揺動条件として設定すればよい。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線出射器10と、X線出射器10から測定対象物OBに向けてX線が照射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射器10から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15に回折X線の像である回折環を形成するとともに回折環の形状を検出するレーザ検出装置30、テーブル駆動機構20及び各種回路からなる回折環形成検出機器と、X線出射器10と回折環形成検出機器とを内部に配置した筐体50と、筐体50を測定対象物OBに対して相対的に複数の回転軸で揺動させる揺動機構110および揺動機構110内のモータ113,116を駆動制御する回路からなる揺動手段であって、揺動機構110の複数の回転軸が1点で交差する揺動手段と、複数の回転軸が交差する点がX線出射器10から出射されるX線が測定対象物OBに照射される点になるよう、筐体50の測定対象物OBに対する相対的位置を設定する対象物セット装置60等の位置設定手段とを備えたX線回折測定装置を含むX線回折測定システムにおいて、揺動機構110による揺動がされないときのX線出射器10から出射されるX線の光軸を法線とする測定対象物OBのX線照射点を含む垂直平面を基準にし、揺動機構110による揺動がされたときのX線出射器10のX線出射点を垂直平面に投影して見たとき、X線出射点が規則的に移動するとともに移動領域を分割したそれぞれの領域におけるX線出射点の存在割合が均等になるよう揺動機構110内のモータ113,116を駆動制御する回路を制御するコントローラ101を備えている。
これによれば、対象物セット装置60等の位置設定手段により、X線出射器10から出射されるX線が測定対象物OBに照射される点が揺動回転軸交差点になるようにした後、X線出射器10からX線を出射して回折環形成検出機器により形成される回折環の形状を検出する。そして、X線出射器10からX線を出射する際、揺動機構110によりX線回折測定装置の筐体50を測定対象物OBに対して相対的に複数の回転軸で揺動させる。ここまでは先行技術と同じであるが、揺動機構110内のモータ113,116を駆動制御する回路をコントローラ101により制御し、揺動がされたときのX線出射器10のX線出射点を、揺動がされないときのX線出射器10から出射されるX線の光軸を法線とする測定対象物OBのX線照射点を含む面である垂直平面を基準にして垂直平面に投影して見たとき、規則的に移動するとともに移動領域を分割したそれぞれの領域におけるX線出射点の存在割合が均等になるようにする。このようにすると、先行技術のように単に複数の方向に揺動させながらX線を照射した場合に比べて回折環をより明瞭にすることができ、これまで明瞭な回折環を得ることができなかった測定対象物OBでも明瞭な回折環を得ることができるようになる。
また、上記実施形態においては、垂直平面に投影して見たX線出射点を規則的に移動するとともに、移動領域を分割したそれぞれの領域におけるX線出射点の存在割合が均等になるようにするため、揺動機構110は、回転軸が互いに略直交する、固定ステージ114及びX軸周り駆動ステージ115からなるX軸周り揺動機構と、固定ステージ111及びY軸周り駆動ステージ112からなるY軸周り揺動機構を有し、コントローラ101は、X線出射点を垂直平面に投影して見たときジグザグに規則的に移動するよう、X軸周り揺動機構の揺動の周期とY軸周り揺動機構の揺動の周期の一方をもう一方で除算した値が2の倍数になるようモータ113,116を駆動制御する回路を制御している。
これによれば、X軸周り揺動機構の揺動の周期とY軸周り揺動機構の揺動の周期との比を2の倍数になるようにし、X軸周り揺動機構とY軸周り揺動機構の揺動開始点を揺動の中心点にするのみであるので、制御が容易である。また、上述したように、X線出射点のジグザグ移動の回数は、該回数をこれ以上増やしても回折環の明瞭の度合が緩やかにしか変化しない値で決めるようにするとよい。
また、上記実施形態においては、揺動手段は筐体50に連結された揺動機構110により揺動を行う手段であって、位置設定手段は、測定対象物OBの筐体50に対する相対的位置を変化させる対象物セット装置60と、X線出射器10からX線が出射されていない状態で、X線出射器10から出射されるX線と光軸を同一にした平行光であるLED光を測定対象物OBに出射する、LED光源44、通路部材28等からなるLED光出射器と、LED光の照射点を含む領域の測定対象物OBの画像を結像する結像レンズ48、及び結像レンズ48によって結像された画像を撮像する撮像器49を有し、撮像された画像を表す撮像信号を出力するカメラと、カメラから出力される撮像信号を入力して、撮像器49によって撮像された画像を画面上に表示する表示装置103であって、測定対象物OBにおけるLED光の照射点が揺動機構110の複数の回転軸が交差する点と合致するとき、撮像器49によって撮像される照射点の画像上の位置を照射点基準位置として、撮像信号により表示される画像とは独立して画面上に表示する表示装置103とを備えている。
これによれば、LED光出射器からX線と光軸が同一の平行光であるLED光を出射させて、カメラによりLED光の照射点を含む領域の測定対象物OBを撮影させ、表示装置103にカメラの撮影画像を表示させた上で、対象物セット装置60により測定対象物の筐体に対する相対的位置を変化させ、表示装置103の照射点基準位置にLED光の照射点が合致する位置にすれば、測定対象物OBのX線照射点(測定箇所)と揺動機構110の複数の回転軸が交差する点(揺動回転軸交差点)とを一致させることができる。すなわち、従来よりも容易に、測定箇所と揺動回転軸交差点とを一致させることができ、測定前の調整時間を大幅に短縮することができる。
また、上記実施形態においては、筐体50はX線出射器10から出射されるX線の光軸に平行かつX線出射器10の長軸方向に平行な2つの中側面壁50g2を有し、揺動機構110は重ねられた2つのゴニオステージであり、2つのゴニオステージは、揺動がされないときの2つの回転軸を含む平面が筐体50の2つの中側面壁50g2と40〜60度の角度範囲で交差するとともに、X線出射器10から出射されるX線の光軸が、2つの回転軸を含む平面と筐体50の2つの中側面壁50g2とが交差するラインの方向に略垂直となるように、筐体50を連結している。
これによれば、X線回折測定装置の筐体50に対して出射X線の出射方向の反対方向側に揺動機構を設けた場合に比べ、X線回折測定システムをコンパクトにすることができるとともに揺動機構110を小型にしてX線回折測定システムのコストを抑制することができる。すなわち、X線回折測定装置の筐体50に対して出射X線の出射方向の反対方向側に揺動機構を設けると、測定対象物OBから揺動機構までの距離が長くなりX線回折測定システムが大型化する。また、揺動機構から揺動回転軸交差点までの距離が大きくなるので揺動機構を大型にする必要があり、X線回折測定システムのコストがアップする。しかし、本発明のようにすれば、測定対象物OBから揺動機構110までの距離を短くできるのでX線回折測定システムをコンパクトにすることができる。また、揺動機構110から揺動回転軸交差点までの距離を短くできるので揺動機構110を小型にすることができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態においては、回転機構120は、揺動機構110とこれに連結されたX線回折測定装置の筐体50を、揺動回転軸交差点を含む回転軸周りに回転させて、測定対象物OBに対するX線の入射方向を調整するために用いた。しかし、操作子122を電動式モータにし、該モータを駆動する制御回路と該モータの回転角度を検出する回路を設け、該制御回路に上記実施形態のX軸周り揺動モータ制御回路88とY軸周り揺動モータ制御回路90のように、コントローラ101により回転速度と回転角度範囲を設定できるようにし、該モータを設定された回転角度範囲で正回転と逆回転の駆動ができるようにしてもよい。そして、上記実施形態のようにX線の入射方向を調整することに加え、揺動機構110による揺動を行う際に回転機構120による揺動も行うようにしてもよい。この場合、回転機構120による揺動の周期をジグザグ移動の周期より十分小さくすれば、出射口投影点のジグザグ移動の1つ1つのラインがジグザグになり、X線出射点の移動領域において、X線出射点の存在割合が均等になるそれぞれの領域の面積はさらに小さくなる。図11は上記実施形態と同様、ジグザグ移動の回数を8回、X軸周りにおける揺動の回転角度範囲を±5度、及びY軸周りの揺動における回転角度範囲を±3度にし、さらに回転機構120の回転軸周りであるZ軸周りの揺動における回転角度範囲を±5度にし、Z軸周りの揺動の周期をX軸周りの揺動の周期の8分の1にした場合における、X軸周りの回転角度が0.1度変化するごとの出射口投影点の(X’,Y)座標を計算し、打点にしたものである。図11に示されるように、出射口投影点がジグザグに移動するのみのときより、X線出射点の存在割合が均等になるそれぞれの領域の面積はさらに小さくなり、これによりさらに明瞭な回折環を得ることができるようになる。
また、上記実施形態においては、対象物セット装置60の操作子63a,65a,66a,67a,68aはすべて手動にしたが、この内少なくとも操作子67a,68aを電動式モータにし、該モータを駆動する制御回路と該モータによる移動距離を検出する回路をそれぞれ設け、該それぞれの制御回路にコントローラ101により移動速度と移動範囲を設定できるようにし、該モータを設定された移動範囲で正回転と逆回転の駆動ができるようにしてもよい。そして、上記実施形態のようにX線の照射点の位置を調整することに加え、揺動機構110による揺動を行う際に該モータによるX軸方向の往復移動とY軸方向の往復移動も行うようにしてもよい。この場合、X軸方向の往復移動とY軸方向の往復移動の周期の一方をもう一方で除算した値が2の倍数になるようにして、X線の照射点が微少範囲内をジグザグに移動するようにし、これらの往復移動の周期を揺動機構110による揺動の周期より十分短くするとよい。すなわち、揺動機構110による揺動によりX線の照射方向は変化するが、そのX線照射方向の微小変化ごとに、X線の照射点が微少範囲内をジグザグに移動して元の点に戻るようにすればよい。発明者は明瞭な回折環が得られない場合、X線照射点を微小範囲内をジグザグに移動させながらX線を照射しても、明瞭な回折環を得ることができることを見出した。よって、揺動機構110による揺動を行うとともに揺動の周期よりも充分短い周期でX線の照射点の往復移動を行い、X線照射方向の微少変化ごとにX線の照射点が微小範囲内をジグザグ移動し終えるようにすれば、揺動のみを行ったときよりもさらに明瞭な回折環を得ることができるようになる。
また、上記実施形態においては、揺動機構110によりX線回折測定装置の筐体50を揺動させ、出射口投影点がジグザグに移動するようにしたが、測定対象物OBが決まった厚さのものであれば、対象物セット装置60の操作子65a,66aを電動式モータにし、該モータにより測定対象物OBを揺動させるようにしてもよい。この場合、ステージ61に載置したとき測定対象物OBの表面に、第2プレート65の回転軸と第3プレート66の回転軸の交差点である揺動回転軸交差点が含まれるよう、ステージ61の厚さを調整しておき、ステージ61の表面に記載した十字マーク等から揺動回転軸交差点がわかるようにすればよい。また、この場合、測定対象物OBを固定して見たとき、X線回折測定装置の筐体50が上記実施形態と同様に揺動するようにすればよい
また、上記実施形態においては、Y軸周り揺動の周期をX軸周り揺動の周期で除算したとき、2の倍数になるようにして、出射口投影点がジグザグに移動するようにしたが、反対にX軸周り揺動の周期をY軸周り揺動の周期で除算したとき、2の倍数になるようにして、出射口投影点がジグザグに移動するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、出射口投影点をジグザグに移動することにより、出射口投影点の移動領域を分割したそれぞれの領域における、出射口投影点の存在割合が均等になるようにしたが、揺動制御の困難さを重要視せず、出射口投影点の移動領域を分割したそれぞれの領域における、出射口投影点の存在割合が均等になれば、出射口投影点は別の移動のさせ方を行ってもよい。例えば、出射口投影点を螺旋を描くように移動させてもよいし、出射口投影点を四角形を描くように移動させ四角形の一辺の長さが次第に大きくなるように移動させてもよい。
また、上記実施形態においては、プレート45、モータ46及びストッパ部材47aによりLED光源44をX線の光軸上に移動させて、LED光を測定対象物OBに照射する構造にした。しかし、これに代えて、出射X線と光軸を同一にした可視の平行光を照射することができれば、どのような構造にしてもよい。例えば、ビームスプリッタを出射X線の光軸上に配置し、LED光をビームスプリッタで反射させて出射X線と光軸を同一にして照射するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、スピンドルモータ27の貫通孔27bに内径の小さな通路部材28を設けるとともに、固定具18の貫通孔18a,18bの内径を小さくして、LED光源44から出射されたLED光から小さな断面径の平行光が得られるようにしたが、小さな断面径の可視の平行光が得られるならば、別の構造にしてもよい。例えば、可視光であるレーザ光を出射するレーザ光源の近くにコリメートレンズとエキスパンダーレンズを配置し、小さな断面径のレーザ光の光軸をスピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1の中心軸線と一致させ、固定具18の貫通孔18a,18bに入射させるようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、結像レンズ48の光軸をLED光(出射X線)の光軸と揺動回転軸交差点で交差させ、撮像器49と結像レンズ48の光軸が交差する点の撮像画像上の位置に、撮像画像とは独立して十字マークが表示されるようにしたが、結像レンズ48の光軸を揺動回転軸交差点でLED光(出射X線)の光軸と交差させることは必須ではない。すなわち、LED光の照射点が揺動回転軸交差点と合致するときの、撮像画像上のLED光の照射点の位置に撮像画像とは独立して十字マークが表示されるようすればよい。
また、上記実施形態においては、結像レンズ48、撮像器49及びセンサ信号取出回路87から得られる撮影画像におけるLED光照射点の位置が、撮影画像とは独立して表示される十字マークのクロス点に合致するようにすることで、X線照射点を揺動回転軸交差点と合致させるようにした。しかし、X線照射点を揺動回転軸交差点と合致させることができれば、別の方法を用いてもよい。例えば、撮影機能は設けず、出射X線と光軸が同一のLED光の光軸と光軸が異なる可視の平行光が、LED光の光軸と揺動回転軸交差点で交差するようにし、2つの光の照射点が1つになるように測定対象物OBの位置を調整することで、X線照射点と揺動回転軸交差点を合致させるようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、X線回折測定装置を、イメージングプレート15に回折環を撮像し、レーザ検出装置30からのレーザ照射と光の強度検出により、回折環の形状を検出する装置としたが、回折環を撮像して形状を検出することができるならば、どのような方式の装置でもよい。例えば、イメージングプレート15の代わりにイメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDを備え、X線出射器10からのX線照射の際、X線CCDの各画素が出力する電気信号により回折環における回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDの代わりに、微小サイズのX線CCDを位置を検出しながら走査し、X線CCDの各画素が出力する電気信号とX線CCDの走査位置から、回折環における回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、X線CCDに替えてシンチレータから出た蛍光を、光電子増倍管(PMT)で検出するシンチレーションカウンタを用いる装置でもよい。
また、上記実施形態においては、コントローラ91に残留応力を計算する演算プログラムを備えた。しかし、X線回折測定に時間がかかってもよい場合は、X線回折測定システムは回折環の形状を得るまでにし、別のコンピュータ装置に回折環の形状データと2つの入射角を入力して、残留応力を計算するようにしてもよい。この場合、別のコンピュータ装置にデータを入力する方法としては、記録媒体を介する方法、ネット回線等を使用して転送する方法等、様々な方法が考えられる。また、計算の一部または全部を人為的に行ってもよい。
また、上記実施形態においては、固定台130に回転機構120を固定し、回転機構120に揺動機構110を固定し、揺動機構110にX線回折測定装置の筐体50を固定するようにしたが、X線回折測定装置の筐体50を少なくとも2つの回転軸周りに揺動させることができれば、揺動機構、回転機構の固定のさせ方は目的に合った様々な構造を採用してよい。また、回転機構を設けないようにしてもよい。例えば、アーム式移動装置のアーム先端に揺動機構110を連結させるようにしてもよい。