本発明を実施する際に用いるX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの一実施形態の構成について図1乃至図3を用いて説明する。なお、少なくとも回折環を形成する機能を備えれば本発明は実施できるので、X線回折測定装置を回折環形成装置とよぶこともある。このX線回折測定システムは、測定対象物OBの残留応力を測定及び評価するために、X線を測定対象物OBに照射するとともに、X線の照射によって測定対象物OBからの出射される回折X線により形成される回折環の形状を検出する。なお、本実施形態では、測定対象物OBは鉄製の板状部材である。
X線回折測定装置は、X線を出射するX線出射器10、回折X線による回折環が形成されるイメージングプレート15を取り付けるためのテーブル16と、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20と、イメージングプレート15に形成された回折環の形状を測定するためのレーザ検出装置30と、これらのX線出射器10、イメージングプレート15、テーブル16、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30を収容するケース50とを備えている。そして、X線回折測定システムは、前記X線回折測定装置とともに、測定対象物OBがセットされる対象物セット装置60、コンピュータ装置90及び高電圧電源95を備えている。また、ケース50内には、X線出射器10、テーブル16、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1においてケース50外に示された2点鎖線で示された各種回路は、ケース50内の2点鎖線内に納められている。なお
、図1及び図2においては、回路基板、電線、固定具、空冷ファンなどは省略されている。
ケース50は、略直方体状に形成されるとともに、底面壁50aと側面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cを有するように形成されている。ケース50の上面壁50dには、ケース50を持ち運ぶための取っ手51が設けられている。このケース50の図示裏側の側面壁には、支持ロッド52(図1では省略)に固定される固定具が設けられており、ケース50は、切欠き部壁50cが対象物セット装置60の上面に対向するように、図示傾斜状態で支持ロッド52に固定される。支持ロッド52は、設置面上に載置された平板状に形成された設置プレート53上に立設固定されている。
対象物セット装置60は、いわゆるゴニオメータで構成されており、測定対象物OBが載置されるステージ61を、図示X,Y,Z軸方向にそれぞれ移動させるとともに、図示X軸及びY軸周りに回動(傾斜)させるものである。設置面上に載置された平板状に形成された設置プレート62上に、高さ調整機構63、第1乃至第5プレート64〜68及びステージ61がそれぞれ下から上に順に載置されている。高さ調整機構63は、操作子63aを有し、操作子63aの回動操作により第1プレート64を設置プレート62に対して上下動(すなわちZ軸方向に移動)させて、設置プレート62と第1プレート64間の垂直距離を変更することにより第1プレート64の高さすなわちステージ61の高さを変更する。
第2プレート65には操作子65aが組み付けられており、操作子65aの回動操作により、図示しない機構を介して第3プレート66が第2プレート65に対してY軸周りに回動されて、第3プレート66の第2プレート65に対するY軸周りの傾斜角すなわちステージ61のY軸周りの傾斜角が変更される。第3プレート66には操作子66aが組み付けられており、操作子66aの回動操作により、図示しない機構を介して第4プレート67が第3プレート66に対してX軸周りに回動されて、第4プレート67の第3プレート66に対するX軸周りの傾斜角すなわちステージ61のX軸周りの傾斜角が変更される。第4プレート67には操作子67aが組み付けられており、操作子67aの回動操作により、図示しない機構を介して第5プレート68が第4プレート67に対してX軸方向に移動されて、第5プレート68の第4プレート67に対するX軸方向の位置すなわちステージ61のX軸方向の位置が変更される。第5プレート68には操作子68aが組み付けられており、操作子68aの回動操作により、図示しない機構を介してステージ61が第5プレート68に対してY軸方向に移動されて、ステージ61の第5プレート68に対するY軸方向の位置すなわちステージ61のY軸方向の位置が変更される。
X線出射器10は、長尺状に形成され、ケース50内の上部にて図示左右方向に延設されてケース50に固定されており、高電圧電源95からの高電圧の供給を受け、X線制御回路71により制御されて、X線を下方(図示左下方向)に向けて出射する。X線出射器10から出射されたX線の光軸のステージ61上面の垂直方向に対する角度(厚さ一定の平板に対するX線の入射角度φ)が所定角度φoとなるように、ケース50が支持ロッド52に対して組み付けられるとともに、X線出射器10の出射口11の向きが設定されている。この所定角度φoは、例えば30度乃至45度の範囲内の所定角度である。
X線制御回路71は、後述するコンピュータ装置90を構成するコントローラ91によって制御され、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源95から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。これにより、X線出射器10の温度が一定に保たれる。
テーブル駆動機構20は、X線出射器10の下方にて、移動ステージ21を備えている。移動ステージ21は、フィードモータ22及びスクリューロッド23により、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に垂直な方向に移動可能となっている。フィードモータ22は、テーブル駆動機構20内に固定されていてケース50に対して移動不能となっている。スクリューロッド23は、X線出射器10から出射されたX線の光軸に垂直な方向に延設されていて、その一端部がフィードモータ22の出力軸に連結されている。スクリューロッド23の他端部は、テーブル駆動機構20内に設けた軸受部24に回転可能に支持されている。また、移動ステージ21は、それぞれテーブル駆動機構20内にて固定された、対向する1対の板状のガイド25,25により挟まれていて、スクリューロッド23の軸線方向に沿って移動可能となっている。すなわち、フィードモータ22を正転又は逆転駆動すると、フィードモータ22の回転運動が移動ステージ21の直線運動に変換される。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれている。エンコーダ22aは、フィードモータ22が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動開始する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路73は、フィードモータ22を駆動して移動ステージ21をフィードモータ22側へ移動させる。位置検出回路72は、エンコーダ22aから出力されるパルス列信号が入力されなくなると、移動ステージ21が移動限界位置に達したことを表す信号をフィードモータ制御回路73に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72から移動限界位置に達したことを表す信号を入力すると、フィードモータ22への駆動信号の出力を停止する。上記の移動限界位置を移動ステージ21の原点位置とする。したがって、位置検出回路72は、移動ステージ21が図1及び図2にて左上方向に移動して移動限界位置に達したとき「0」を表す位置信号を出力し、移動ステージ21が移動限界位置から右下方向へ移動すると、エンコーダ22aからのパルス列信号をカウントし、移動限界位置からの移動距離xを表す信号を位置信号として出力する。
フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動先の位置を表す設定値を入力すると、その設定値に応じてフィードモータ22を正転又は逆転駆動する。位置検出回路72は、エンコーダ22aが出力するパルス信号のパルス数をカウントする。そして、位置検出回路72は、カウントしたパルス数を用いて移動ステージ21の現在の位置(移動限界位置からの移動距離x)を計算し、コントローラ91及びフィードモータ制御回路73に出力する。フィードモータ制御回路73は、位置検出回路72から入力した移動ステージ21の現在の位置が、コントローラ91から入力した移動先の位置と一致するまでフィードモータ22を駆動する。
また、フィードモータ制御回路73は、移動ステージ21の移動速度を表す設定値をコントローラ91から入力する。そして、エンコーダ22aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ21の移動速度を計算し、前記計算した移動ステージ21の移動速度がコントローラ91から入力した移動速度になるようにフィードモータ22を駆動する。
一対のガイド25,25の上端は、板状の上壁26によって連結されている。上壁26には、貫通孔26aが設けられていて、貫通孔26aの中心位置はX線出射器10の出射口11の中心位置に対向しており、X線出射器10から出射されたX線は、出射口11及び貫通孔26aを介してテーブル駆動機構20内に入射する。
後述するイメージングプレート15が回折環撮像位置にある状態(図1乃至図3の状態)において、移動ステージ21の貫通孔26aと対向する位置には、図3に拡大して示すように、貫通孔21aが形成されている。移動ステージ21には、出射口11及び貫通孔26a,21aの中心軸線位置を回転中心とする出力軸27aを有するスピンドルモータ27が組み付けられている。出力軸27aは、円筒状に形成され、回転中心を中心軸とする断面円形の貫通孔27a1を有する。スピンドルモータ27の出力軸27aと反対側には、貫通孔27a1の中心位置を中心軸線とする貫通孔27bが設けられている。貫通孔27bの内周面上には、貫通孔27bの一部の内径を小さくするための円筒状の通路部材28が固定されている。
また、スピンドルモータ27内には、エンコーダ22aと同様のエンコーダ27cが組み込まれている。エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ91及び回転角度検出回路75に出力する。
スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75は、コントローラ91からの指令により作動開始する。スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から、スピンドルモータ27の回転速度を表す設定値を入力する。そして、エンコーダ27cから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いてスピンドルモータ27の回転速度を計算し、計算した回転速度がコントローラ91から入力した回転速度(設定値)になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に供給する。回転角度検出回路75は、エンコーダ27cから出力されたパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値を用いてスピンドルモータ27の回転角度すなわちイメージングプレート15の回転角度θpを計算して、コントローラ91に出力する。そして、回転角度検出回路75は、エンコーダ27cから出力されたインデックス信号を入力すると、カウント値を「0」に設定する。すなわち、インデックス信号を入力した位置が回転角度0度の基準位置である。なお、イメージングプレート15の回転基準位置(回転角度0度の位置)とは、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に形成された回折環を読み取る際、インデックス信号を入力した時点でレーザ光が照射されている位置である。この位置は各半径位置においてあるためラインである。
テーブル16は、円形状に形成され、スピンドルモータ27の出力軸27aの先端部に固定されている。テーブル16の中心軸と、スピンドルモータ27の出力軸の中心軸とは一致している。テーブル16は、一体的に設けられて下面中央部から下方へ突出した突出部17を有していて、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。突出部17の中心軸は、スピンドルモータ27の出力軸27aの中心軸と一致している。テーブル16の下面には、イメージングプレート15が取付けられる。イメージングプレート15は、表面に蛍光体が塗布された円形のプラスチックフィルムである。イメージングプレート15の中心部には、貫通孔15aが設けられていて、この貫通孔15aに突出部17を通し、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15が、固定具18とテーブル16の間に挟まれて固定される。固定具18は、円筒状の部材で、内周面に、突出部17のねじ山に対応するねじ山が形成されている。
テーブル16、突出部17及び固定具18にも貫通孔16a,17a,18aがそれぞれ設けられており、貫通孔16a,17a,18aの中心軸はテーブル16の中心軸と同じであり、貫通孔18aの内径は貫通孔16a,17aに比べて小さく、前述した通路部材28の内径と同じである。したがって、スピンドルモータ27の出力軸27aから出射されたX線は、貫通孔16a,17a,18aを介するとともに、切欠き部壁50cに設けた円形孔50c1を介して外部下方に位置する測定対象物OBに向かって出射される。この場合、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、通路部材28を介して貫通孔27b,27a1,16a,17a内に入射したX線はやや拡散しているが、貫通孔18aから出射されるX線は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、円形孔50c1から出射される。また、この円形孔50c1の内径は、測定対象物OBからの回折光をイメージングプレート15に導くために大きい。
イメージングプレート15は、フィードモータ22によって駆動されて、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、原点位置から回折環を撮像する回折環撮像位置へ移動する。前述のように、この回折環撮像位置において、X線出射器10から出射されたX線がステージ61上の測定対象物OBに照射されるようになっている。また、イメージングプレート15は、スピンドルモータ27によって駆動されて回転しながら、フィードモータ22によって駆動されて、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域内、及び回折環を消去する回折環消去領域内を移動する。なお、この場合のイメージングプレート15の移動においては、イメージングプレート15の中心軸が、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内に保たれた状態で、前記X線の光軸に垂直な方向に移動する。
レーザ検出装置30は、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射して、イメージングプレート15から入射した光の強度を検出する。レーザ検出装置30は、測定対象物OB及び回折環撮像位置にあるイメージングプレート15からフィードモータ22側に充分離れている。すなわち、イメージングプレート15が回折環撮像位置にあるとき、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置30によって遮られないようになっている。レーザ検出装置30は、レーザ光源31と、コリメートレンズ32、反射鏡33、ダイクロイックミラー34、及び対物レンズ36を備えている。
レーザ光源31は、レーザ駆動回路77によって制御されて、イメージングプレート15に照射するレーザ光を出射する。レーザ駆動回路77は、コントローラ91によって制御され、レーザ光源31から所定の強度のレーザ光が出射されるように、駆動信号を制御して供給する。レーザ駆動回路77は、後述するフォトディテクタ42から出力された受光信号を入力して、受光信号の強度が所定の強度になるようにレーザ光源31に出力する駆動信号を制御する。これにより、イメージングプレート15に照射されるレーザ光の強度が一定に維持される。
コリメートレンズ32は、レーザ光源31から出射されたレーザ光を平行光に変換する。反射鏡33は、コリメートレンズ32にて平行光に変換されたレーザ光を、ダイクロイックミラー34に向けて反射する。ダイクロイックミラー34は、反射鏡33から入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。対物レンズ36は、1/4波長板35から入射したレーザ光をイメージングプレート15の表面に集光させる。この対物レンズ36から出射されるレーザ光の光軸は、X線出射器10から出射されたX線の光軸と後述する結像レンズ48の光軸とを含む平面(見方を変えると、X線の光軸と位置及び姿勢が調整された測定対象物OBのX線照射点における法線とを含む平面)内であって、前記X線の光軸に平行な方向、すなわち移動ステージ21の移動方向に対して垂直な方向である。
対物レンズ36には、フォーカスアクチュエータ37が組み付けられている。フォーカスアクチュエータ37は、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に移動させるアクチュエータである。なお、対物レンズ36は、フォーカスアクチュエータ37が通電されていないときに、その可動範囲の中心に位置する。
対物レンズ36によって集光されたレーザ光を、イメージングプレート15の表面であって、回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じる。すなわち、回折環を撮像した後、イメージングプレート15にレーザ光を照射すると、イメージングプレート15の蛍光体が回折X線の強度に応じた光であって、レーザ光の波長よりも波長が短い光を発する。イメージングプレート15に照射されて反射したレーザ光の反射光及び蛍光体から発せられた光は、対物レンズ36を通過して、ダイクロイックミラー34にて蛍光体から発せられた光の大部分は反射し、レーザ光の反射光の大部分は透過する。ダイクロイックミラー34の反射方向には、集光レンズ38、シリンドリカルレンズ39及びフォトディテクタ40が設けられている。集光レンズ38は、ダイクロイックミラー34から入射した光を、シリンドリカルレンズ39に集光する。シリンドリカルレンズ39は、透過した光に非点収差を生じさせる。フォトディテクタ40は、分割線で区切られた4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子によって構成されており、時計回りに配置された受光領域A,B,C,Dに入射した光の強度に比例した大きさの検出信号を受光信号(a,b,c,d)として、増幅回路78に出力する。
増幅回路78は、フォトディテクタ40から出力された受光信号(a,b,c,d)をそれぞれ同じ増幅率で増幅して受光信号(a’,b’,c’,d’)を生成し、フォーカスエラー信号生成回路79及びSUM信号生成回路80へ出力する。本実施形態においては、非点収差法によるフォーカスサーボ制御を用いる。フォーカスエラー信号生成回路79は、増幅された受光信号(a’,b’,c’,d’)を用いて、演算によりフォーカスエラー信号を生成する。すなわち、フォーカスエラー信号生成回路79は、(a’+c’)−(b’+d’)の演算を行い、この演算結果をフォーカスエラー信号としてフォーカスサーボ回路81へ出力する。フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)は、レーザ光の焦点位置のイメージングプレート15の表面からのずれ量を表している。
フォーカスサーボ回路81は、コントローラ91により制御され、フォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路82に出力する。ドライブ回路82は、このフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ37を駆動して、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に変位させる。この場合、フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)となるようにフォーカスサーボ信号を生成することにより、イメージングプレート15の表面にレーザ光を集光させ続けることができる。
SUM信号生成回路80は、受光信号(a’,b’,c’,d’)を合算してSUM信号(a’+b’+c’+d’)を生成し、A/D変換回路83に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート15にて反射したレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート15にて反射したレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、イメージングプレート15に入射した回折X線の強度に相当する。A/D変換回路83は、コントローラ91によって制御され、SUM信号生成回路80からSUM信号を入力し、入力したSUM信号の瞬時値をディジタルデータに変換してコントローラ91に出力する。
また、レーザ検出装置30は、集光レンズ41及びフォトディテクタ42を備えている。集光レンズ41は、レーザ光源31から出射されたレーザ光の一部であって、ダイクロイックミラー34を透過せずに反射したレーザ光をフォトディテクタ42の受光面に集光する。フォトディテクタ42は、受光面に集光された光の強度に応じた受光信号を出力する受光素子である。従って、フォトディテクタ42は、レーザ光源31が出射したレーザ光の強度に対応した受光信号をレーザ駆動回路77へ出力する。
また、対物レンズ36に隣接して、LED光源43が設けられている。LED光源43は、LED駆動回路84によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路84は、コントローラ91によって制御され、LED光源43に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
また、X線回折測定装置は、LED光源44を有する。LED光源44は、図2乃至図4に示すように、X線出射器10とテーブル駆動機構20の上壁26との間に配置されたプレート45の一端部下面に固定されている。プレート45は、その他端部上面にて、ケース50内に固定されたモータ46の出力軸46aに固着されており、モータ46の回転により、テーブル駆動機構20の上壁26に平行な面内を回転する。テーブル駆動機構20の上壁26にはストッパ部材47a,47bが設けられており、ストッパ部材47aは、プレート45を図4のD1方向に回転させたとき、LED光源44がX線出射器10の出射口11及びテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aに対向する位置(A位置)に静止するように、プレート45の回転を規制する。一方、ストッパ部材47bは、プレート45を図4のD2方向に回転させたとき、プレート45がX線出射器10の出射口11とテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aとの間を遮断しない位置(B位置)に静止するように、プレート45の回転を規制する。言い換えれば、A位置は、プレート45が図2及び図3に示す状態にある位置であり、LED光源44から出射されるLED光がスピンドルモータ27の貫通孔27a1に設けた通路部材28の通路に入射する位置である。B位置は、X線出射器10から出射されるX線がプレート45によって遮られない位置である。
LED光源44は、コントローラ91によって作動制御されるLED駆動回路85からの駆動信号によりLED光を出射する。LED光は拡散する可視光であり、プレート45がA位置にあるとき、その一部は、貫通孔26a,21a、通路部材28の通路及び貫通孔27bを介して、スピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1に入射し、貫通孔16a,17a,18a及び切欠き部壁50cの円形孔50c1から出射される。このLED光の場合も、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、通路部材28を介して貫通孔27b,27a1,16a,17a内に入射したX線はやや拡散しているが、貫通孔18aから出射されるLED光は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、円形孔50c1から出射される。したがって、LED光源44、通路部材28、貫通孔18aなどが、可視光である平行光を測定対象物OBに出射する本発明の可視光出射器を構成する。
モータ46はエンコーダ22a,27aと同様なエンコーダ46bを備えており、エンコーダ46bはモータ46が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を回転制御回路86に出力する。回転制御回路86は、コントローラ91から回転方向と回転開始の指示が入力されると、モータ46に駆動信号を出力して、モータ46を指示方向に回転させる。そして、エンコーダ46bからのパルス列信号の入力が停止すると、駆動信号の出力を停止する。これにより、プレート45を、上述したA位置及びB位置までそれぞれ回転させることができる。
ケース50の切欠き部壁50cには結像レンズ48が設けられているとともに、ケース50内部には撮像器49が設けられている。撮像器49は、多数の撮像素子をマトリクス状に配置したCCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子で受光した光の強度に応じた大きさの受光信号(撮像信号)を撮像素子ごとにセンサ信号取出回路87にそれぞれ出力する。これらの結像レンズ48及び撮像器49は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるLED光の出射点を中心とした領域の画像を撮像する。すなわち、結像レンズ48及び撮像器49は、測定対象物OBを撮像するディジタルカメラとして機能する。このイメージングプレート15に対して設定された位置とは、前記測定対象物OBにおけるX線及びLED光の出射点(照射点)からイメージングプレート15までの垂直距離Lが、予め決められた所定距離Loとなる位置である。なお、この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、前記出射点
を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路87は、撮像器49の各撮像素子からの受光信号(撮像信号)を、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共にコントローラ91に出力する。したがって、コントローラ91には、測定対象物OBにおけるLED光の照射点P1(図10〜図13参照)を含む、照射点P1近傍の画像を表す画像データが出力されることになる。
また、結像レンズ48の光軸は、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面に含まれるように調整されている。そして、この平面は、対象物セット装置60の設置プレート62の上面と平行な面(すなわち傾き角度が「0」であるときのステージ61の上面)に垂直になっている。また、結像レンズ48の光軸と、測定対象物OBに照射されるX線及びLED光の光軸が交わる点は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるX線及びLED光の出射点(照射点)である。さらに、設定された位置にある測定対象物OBにおけるX線及びLED光の出射点を通り、かつ対象物セット装置60の設置プレート62の上面と平行な面(すなわち傾き角度が「0」であるときのステージ61の上面)の法線に対して、結像レンズ48の光軸がなす角度は、X線出射器10から出射されるX線及びLED光源44から出射されるLED光の光軸が前記法線に対してなす角度(X線及びLED光の入射角度φ)に等しい。
したがって、測定対象物OBがイメージングプレート15に対して設定された位置にあり、表面がステージ61の上面と平行である状態で、LED光源44からのLED光を測定対象物OBに照射した場合には、照射点P1を含む測定対象物OBの画像が撮像器49で撮像されることに加えて、測定対象物OBにて反射したLED光の受光点P2(図12,13参照)も撮像器49で照射点P1と同じ位置に撮像されることになる。すなわち、測定対象物OBに照射されるLED光は平行光であり、測定対象物OBにおけるLED光の照射点において、LED光は散乱光と、略平行光のまま反射する反射光を発生させる。そして、散乱光のうち結像レンズ48に入射した光は撮像器49の位置で結像して照射点P1の画像となり、結像レンズ48に入射した反射光は結像レンズ48により集光されて撮像器49で受光され、受光点P2の画像となる。測定対象物OBが設定された位置にあるとき、結像レンズ48に入射する散乱光の光軸と反射光の光軸は、いずれも結像レンズ48の光軸と一致するため、照射点P1の画像と受光点P2の画像は同じ位置になる。なお、撮像器49は測定対象物OBを撮像するもので、撮像器49は結像レンズ48の焦点位置よりも若干量だけ後方に位置するので、厳密には、撮像器49によって受光される反射光は集光した後にやや拡散したものである。
コンピュータ装置90は、コントローラ91、入力装置92及び表示装置93からなる。コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された各種プログラムを実行してX線回折測定装置の作動を制御する。入力装置92は、コントローラ91に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作業指示などの入力のために利用される。表示装置93は、表示画面上に撮像器49によって撮像された照射点P1及び受光点P2を含む画像に加えて、ステージ61上に測定対象物OBの高さ及び傾斜角を適正に設定するためのマークも表示される。このマークに関しては、詳しく後述する。さらに、表示装置93は、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果なども視覚的に知らせる。高電圧電源95は、X線出射器10にX線出射のための高電圧及び電流を供給する。
以下に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBである平板状の鉄材の微小部分における回折環を測定して残留応力を求める具体的方法について説明する。まず、図6に示すように測定対象物OBの微小部分の測定箇所がスリット内に含まれるようにスリットSLを形成する。スリットSLは、スリットでない部分がX線の透過率が低い材料であり、測定対象物OBから発生した回折X線が妨害されない厚さであれば、2つのシールを貼り付けて形成してもよいし、スリットSLが形成されたフィルムを貼り付けるか置いて形成してもよい。X線の透過率が低い材料としては塩化ビニル等がある。また、測定対象物OBが平板であればスリットSLの方向は、残留圧縮応力を求める方向にし、測定対象物OBが円柱状または円筒状の物体であれば、スリットSLの方向は、物体の中心軸方向とする。次に電源を投入することによりX線回折測定システムの作動を開始させ、測定対象物OBをステージ61に載置し、図5に示すようなステージ調整工程S1、回折環撮像工程S2、回折環読取り工程S3,回折環消去工程S4及び残留応力計算工程S5を実行する。ステージ調整工程S1は、測定対象物OBに形成したスリットSL内の測定箇所にX線出射器10から出射されるX線が照射され、スリットSLの中心線が、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面内に略含まれ、さらにスリットSL部分の測定対象物の表面が平面Pと垂直になると共に、X線照射点の高さおよびX線入射角が設定値通りになるように、測定対象物OBの位置および姿勢を調整する工程である。この工程においては、対象物セット装置60の操作子63a,65a,66a,67a,68aを操作してステージ61の位置および姿勢を調整すると共に、手で測定対象物OBを動かし、測定対象物OBのZ軸周りの回転位置を調整する。このステージ調整工程S1を具体的に説明する前に、スリットSLを形成したうえで前述のように測定対象物OBの位置および姿勢を調整すると、X線を測定対象物OBに照射してイメージングプレート15に作成した回折環から残留応力を計算したとき、微小部分の残留応力を精度よく求めることができる理由を説明する。
図7A〜図7Eは紙面をイメージングプレート15に平行とし、紙面に垂直な上方向からX線が照射された場合、紙面の上方向にあるイメージングプレート15に形成される回折環をX線の光軸方向に平行移動させ、紙面内に描いた図である。図においてX線の照射点の径を誇張して実際より大きく示してある。また、測定対象物OBの残留応力は0で真円の回折環が形成されるとしてある。測定対象物OBに照射されるX線はある大きさの断面径を有するため、X線の照射点を複数の微小な照射点の集合とみなすと、図7Aに示すように、これらの微小な照射点のそれぞれから回折X線が発生し、複数の回折環aが形成されるとすることができる。しかし、複数の回折環aを重ね合わせると、図7Aにドット模様の円で示すようにある大きさの幅を持った回折環a’となり、図の矢印方向に回折X線の強度分布を求めると、図8に示すようにピークをもった強度曲線になるため、ピーク点をつなぐことである大きさの幅を持った回折環a’は、点線で示すように1つの回折環Aとなる。ただし、この場合の回折環の形状は、測定対象物OBのX線が照射された箇所全体における特性によるものであり、微小部分によるものとはならない。
図7Bに示すように、測定対象物OBのX線の照射点に微小な穴を開けたマスクをし、X線の照射点の一部から回折X線を発生するようにした場合、図に実線Bで示すように微小部分による回折環bが形成される。しかし、この回折環bは、回折X線の発生箇所をX線の照射点の中心にしない限り、回折環Aから位置がずれる。このため、回折環Aを残留応力0の回折環として、回折環Bから残留応力を計算した場合、たとえ実際の残留応力が0であっても、ある大きさの残留応力が計算される。すなわち、この場合は微小部分による回折環が形成できても、残留応力を精度よく求めることができない。
図7Cに示すように、測定対象物OBのX線の照射点にスリットが形成されたマスクをし、X線の照射点のスリットの箇所の微小な照射点から回折X線を発生するようにした場合、図に細線で示すように複数の回折環cが形成される。しかし、これらの回折環を重ね合わせた回折環の半径方向のピーク点を結ぶと、回折環Aと同じ回折環になる。すなわち、この場合は、回折環Aを残留応力0の回折環として、複数の回折環cを重ね合わせて形成される回折環のピーク点を結んだ回折環から残留応力を計算すると、精度のよい残留応力を求めることができる。しかし、これはスリットの中心線がX線の照射点の中心を通るようにした場合であり、実際にそのようになるようスリットに対するX線の照射位置を調整するのは困難である。
図7Dに示すように、測定対象物のX線の照射点におけるスリットの位置がX線の照射点の中心を通らないが、スリットの方向が、X線の光軸とイメージングプレートの回転基準位置のラインを含む平面と平行になるようにした場合、すなわち、イメージングプレートの回転基準位置のラインが図の縦方向であるとして、スリットの方向を図の縦方向にした場合、図に細線で示すように複数の回折環dが形成される。これらの回折環dを重ね合わせた回折環の半径方向のピーク点を結ぶと、図に太線で示す回折環Dになり、回折環Dの位置は、回折環Aからイメージングプレートの回転基準位置のラインの垂直方向に移動する。この場合、回折環Aを残留応力0の回折環として回折環Dから残留応力を計算すると、残留せん断応力はある大きさの値になるが、残留圧縮応力は0になる。すなわち、残留せん断応力は精度よく計算することはできないが、残留圧縮応力は精度よく計算することができる。その理由を以下に説明する。
回折環から残留圧縮応力を計算する際の計算方法は既存技術であり、例えば特開2005−241308に詳細に書かれている。この公報に記載された計算式を同じ番号で以下に示す。
数1の計算式は回折環の回転位置αの半径値Rαから回折角2θαを計算する際の式であり、数2の計算式はひずみεαを回折角2θαから計算する際の式である。ひずみεαから数7の計算式を用いてa1を計算し、cosαに対するa1の傾きを求めれば数9の計算式を用いて残留圧縮応力σS 11を求めることができる。数7の計算式による計算を回折環Aと回折環Dにおいて視覚的に示したものが図9である。回折環Aでは数2の計算式においてθ0=θαであるため、εα,ε−α,επ+α,επ−αはすべて0である。よって、a1は0であり、残留圧縮応力σS 11も0になる。これに対し、回折環Dでは、数2の計算式においてθ0≠θαであるため、εα,ε−α,επ+α,επ−αは値を有する。しかし、図9を見るとわかるように、回転位置αとπ−αにおける基準位置からのずれ、および回転位置−αとπ+αにおける基準位置からのずれは等しい。すなわち、εα=επ−α,ε−α=επ+αとなる。よって、εα,ε−α,επ+α,επ−αは値を有しても、数7の計算式により計算するとa1は0となり、残留圧縮応力σS 11も0になる。これより、回折環が回転基準位置のラインの垂直方向に移動するのみであれば、その影響による残留圧縮応力の値の増加は0であり、測定対象物OBが有する残留圧縮応力を精度よく計算することができることがわかる。
図7Eに示すように、測定対象物のX線の照射点におけるスリットの位置がX線の照射点の中心を通らず、スリットの方向が、X線の光軸とイメージングプレートの回転基準位置のラインを含む平面と平行でもないとした場合、すなわち、イメージングプレートの回転基準位置のラインが図の縦方向であるとして、スリットの方向が図の縦方向でないとした場合、図に細線で示すように複数の回折環eが形成される。これらの回折環eを重ね合わせた回折環の半径方向のピーク点を結ぶと回折環Eになる。この回折環Eは、図7Bに示す回折環bと同様、回折環Aから不確定の方向にずれる。よって、回折環Aを残留応力0の回折環として、回折環Eから残留応力を計算した場合、たとえ実際の残留応力が0であっても、ある大きさの残留応力になり、残留応力を精度よく計算することができない。
上記の説明から、図7Dに示すように、スリットの中心線がX線の光軸とイメージングプレートの回転基準位置のラインを含む平面の近傍でこの平面に平行になる、という条件を満たせば、微小部分による回折環を形成することができるとともに、少なくとも残留圧縮応力は精度よく計算することができることがわかる。なお、図7A〜Eを用いた上記の説明は、X線の光軸とイメージングプレートの回転基準位置のラインを含む平面と測定対象物OBの平面とは垂直(すなわち、X線の光軸を測定対象物OBに投影したラインがスリットの中心線方向)であり、イメージングプレートからX線照射点までの距離L、および測定対象物OBに対するX線の入射角度φが精度よく得られるか、精度よく設定値に設定されることを前提としている。よって、この条件を加味すると、イメージングプレートからX線照射点までの距離L、および測定対象物OBに対するX線の入射角度φが精度よく得られるか精度よく設定値に設定されたうえで、スリットの中心線が、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面内に略含まれ(すなわち、この平面の近傍でこの平面に略平行になり)、スリット部分の測定対象物の表面がこの平面と垂直になる、という条件が残留応力を精度よく求める条件である。
ステージ調整工程S1は、前述のように、スリットSL内の測定箇所にX線が照射され、スリットSLの中心線がX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面内に略含まれ、さらにスリットSL部分の測定対象物OBの表面がこの平面と垂直になると共に、X線照射点の高さおよびX線入射角が設定値通りになるように測定対象物OBの位置および姿勢を調整する工程であるが、その目的は、微小部分の残留応力を精度よく求めるためである。以下、具体的に、ステージ調整工程S1について説明する。このステージ調整工程S1においては、作業者は、残留応力の測定位置であるスリットSL内の測定箇所にX線及びLED光が照射されるとともに、残留応力の測定方向であるスリットSLの方向がY軸方向(図2参照)に近くなるように測定対象物OBを置いた後、入力装置92を操作して、ステージ調整工程S1の開始をコントローラ91に指示する。この指示に応答して、コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15を回折環撮像位置(図1及び図2の状態)に移動させる。また、コントローラ91は、回転制御回路86を制御し、モータ46をストッパ部材47aによりプレート45の回転が停止するまで図4のD1方向に回転させて、プレート45をA位置まで回転させる。この状態では、LED光源44がテーブル駆動機構20の上壁26に設けた貫通孔26aに対向して位置する。
その後、コントローラ91は、LED駆動回路85を制御して、LED光源44を点灯させる。このLED光源44の点灯により、LED光源44から出射されて拡散された可視光であるLED光の一部は、貫通孔26a、通路部材28、貫通孔27b,27a1,16a,17a,18aを介して固定具18から出射される。この場合、通路部材28及び貫通孔18aの内径は小さく、貫通孔18aから出射されるX線は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光である。この平行光であるLED光は、ケース50の切欠き部壁50cに設けた円形孔50c1から外部へ出射され、測定対象物OBに照射される。
次に、コントローラ91は、センサ信号取出回路87に撮像器49からの撮像信号の入力を指示して、撮像器49による撮像信号をセンサ信号取出回路87からコントローラ91に出力させる。コントローラ91は、この撮像信号を表示装置93に出力して、撮像器49によって撮像されたLED光の照射位置近傍の画像を表示装置93に表示させる。この場合、表示装置93に表示される画像には、前記LED光の照射位置近傍の画像の中に、測定対象物OBにおけるLED光の照射点P1の画像がある。また、測定対象物OBのLED光の照射点で反射した反射光が結像レンズ48により集光されて、撮像器49が受光した受光点P2も画像として表示される。さらに、コントローラ91は、撮像器49によって撮像された照射点P1及び受光された受光点P2を含む、撮像器49からの撮像信号によって表示される画像とは独立して、結像レンズ48の光軸が撮像器49と交差する位置に相当する撮影画像上の位置に十字マークを表示する。この十字マークは、図10乃至図13の(B)に破線で示すものであり、図2のX軸方向及びY軸方向にそれぞれ対応している。
この場合、十字マークのクロス点は表示装置93の画面の中心に位置し、十字マークのX軸方向は画面の横方向に対応し、十字マークのY軸方向は画面の縦方向に対応する。そして、十字マークのY軸位置がLED光及びX線の光軸とイメージングプレート15(テーブル16)の回転基準位置のラインを含む平面が撮像器49の受光面と交差するラインであり、十字マークのクロス点は、測定対象物OBにおけるLED光の照射点からイメージングプレート15までの距離Lが所定距離Loであるときに、照射点P1が撮像器49に撮像される位置であると同時に、距離Lが所定距離Loであり、測定対象物OBにおける照射点を通る測定対象物OBの表面に対して、測定対象物OBに照射されるLED光の光軸の角度φ(入射角度φ)が所定角度φoであるとき、測定対象物OBでの反射光が結像レンズ48により集光されて、撮像器49に受光点P2として受光される位置である。すなわち、スリットSL内の測定箇所にX線が照射され、スリットSLの中心線がX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面内に略含まれ、さらにスリットSL部分の測定対象物OBの表面がこの平面と垂直になると共に、X線照射点の高さおよびX線入射角が設定値通りになるようにする調整は、表示装置93の表示画面上で、十字マークのクロス点にスリットSL内の測定箇所を合わせると共に、撮像器49によって撮像されたLED光の照射点P1及び撮像器49にて受光された受光点P2を合わせ、十字マークのY軸位置とスリットSLの中心線の位置を一致させる調整である。
すなわち、作業者は、表示装置93に表示される画像を見ながら、測定対象物OBをZ軸周りの回転させ、スリットSLの中心線の位置が十字マークのY軸位置と平行になるようにし、対象物セット装置60の操作子67a,68aを操作してステージ61すなわち測定対象物OBをX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動させて、画面上における照射点すなわちLED光の照射位置を測定対象物OBのスリットSL内の測定箇所に設定する。また、操作子63aを操作して、ステージ61すなわち測定対象物OBをZ軸方向(すなわち高さ方向)に移動させて、照射点P1が十字マークのクロス点と一致するようにして、測定対象物OBにおける照射点からイメージングプレート15までの垂直距離Lを所定距離Loに設定する。さらに、操作子68a、65aを操作して、ステージ61すなわち測定対象物OBを回転させて(傾斜を変更して)、受光点P2が十字マークのクロス点と一致するようにして、測定対象物OBにおける照射点を通る測定対象物OBの表面の法線に対する測定対象物OBに照射されるLED光の角度(入射角度φ)を所定角度φoに設定する。
この表示装置93の画像を見ながらの測定対象物OBのZ軸周りの回転位置の調整、ステージ61(測定対象物OB)のX軸方向位置、Y軸方向位置、Z軸方向位置(高さ)、X軸周りの傾斜角及びY軸周りの傾斜角の調整について、図10乃至図13を用いて説明すると、前記調整は以下の手順(1)〜(4)のように行われる。なお、図10(B)、図11(B)、図12(B)及び図13(B)は表示装置93に表示される画像を示しており、この場合、測定対象物OBが明確に分かるように、測定対象物OBの輪郭が画像上に現れるようにしているが、測定対象物OBにおける測定箇所及びLED光の照射位置が視認できれば、測定対象物OBにおける残留応力の測定箇所部分のみが画像上に現れるようにしてもよい。また、図10乃至図13では測定対象物OBは平板状の物体としているが、円筒状又は円柱状の物体をスリットSLが形成された面を上に向けてステージ61に載置した場合でも、調整方法は同じである。
(1)まず、図10(A)(B)に示すように、操作子67a,68aを操作してステージ61をX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動させて、測定対象物OBのスリットSL部分が十字マークのクロス点付近になるようにし、手作業で測定対象物OBをステージ61上で回転させ、スリットSLの中心軸と十字マークのY軸位置とを平行にする。
(2)次に、図11(A)(B)に示すように、操作子67a,68aを操作してステージ61をX軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動させて、LED光の照射点P1が測定対象物OBのスリットSL内の測定箇所になるようにしながら、操作子63aを操作してステージ61をZ軸方向(高さ方向)に移動させて、LED光の照射点P1が十字マークのクロス点になるように調整する。特に、ステージ61のX軸方向及びY軸方向の移動調整により、照射点P1を測定対象物OBのスリットSL内の測定位置に設定しても、その後に、照射点P1が十字マークのクロス点に位置するように、ステージ61のZ軸方向への移動調整を行うと、照射点P1は測定対象物OBのスリットSLの方向(Y軸方向)に多少ずれるので、これらの位置調整を繰り返し行う必要がある。なお、図6(B)においては、ステージ61の傾きが大きく、反射光の受光点P2(図12(B)参照)は画像上に現れていないものとしている。
(3)次に、図12(A)(B)に示すように、操作子66a,65aを操作してステージ61をX軸周り及びY軸周りにそれぞれ回動させて、平行光であるLED光の反射光の受光点P2が画像の中心(十字マークのクロス点)になるように調整する。
(4)さらに、図13(A)(B)に示すように、操作子67a,68a,63a,66a,65aを操作して、ステージ61のX軸方向、Y軸方向及びX軸方向の位置、並びにX軸周り及びY軸周りの傾斜角を微調整して、LED光の照射点P1(照射位置)が測定対象物OBの所定位置(測定箇所)に位置し、LED光の照射点P1及び反射光の受光点P2が十字マークのクロス点に完全に一致するようにする。また、測定対象物OBのスリットSL内の中心線位置と十字マークのY軸位置とがずれたときは、測定対象物OBのZ軸周りの回転位置(すなわち、測定対象物OBの置き方)を微調整する。このように調整することで、スリットSL内の微小な測定箇所の残留応力を精度よく求めるための調整が完了する。
次に作業者は、入力装置92を操作して、コントローラ91に調整終了を指示する。この指示に応答して、コントローラ91は、LED駆動回路85を制御してLED光源44を消灯させ、センサ信号取出回路87を制御して撮像器49から撮像信号の入力停止及び撮像信号のコントローラ91への出力を停止させ、かつ回転制御回路86を制御して、モータ46をストッパ部材47bによりプレート45の回転が停止するまで図4のD2方向に回転させて、プレート45をB位置まで回転させる。このプレート45の回転により、X線出射器10からのX線がテーブル駆動機構20の上壁26に設けた貫通孔26aに入射され得る状態となる。これによりステージ調整工程S1は終了する。
次の工程である回折環撮像工程S2においては、作業者は、入力装置92を用いて、測定対象物OBの材質(例えば、鉄)を入力し、残留応力の測定開始をコントローラ91に指示する。これにより、コントローラ91は、まずイメージングプレート15が撮像位置にある状態で、スピンドルモータ制御回路74を制御して、イメージングプレート15を低速回転させ、エンコーダ27cからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート15の回転を停止させる。これにより、後述する回折環読取り工程S3による回折環の読取り開始時における、イメージングプレート15の回転角度が0度に設定される。
次に、コントローラ91は、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を開始させ、所定時間の経過後に、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を停止させる。これにより、X線出射器10から出射されたX線は、貫通孔26a,21a、通路部材28、貫通孔27b,27a1,16a,17a,18a及び円形孔50c1を介して外部に出射され、測定対象物OBの測定箇所に所定時間だけ照射される。この測定対象物OBへのX線の所定時間の照射により、測定対象物OBの測定箇所から回折X線が発生し、イメージングプレート15には回折環が撮像される。なお、この場合におけるX線出射器10から測定対象物OBの表面に出射されるX線の光軸方向は前記LED光の場合と同じであり、X線の測定対象物OBに対する入射角度φは、上述したLED光の場合と同様な所定角度φoである。
このような回折環撮像工程S2の後、コントローラ91は、自動的に又は作業者による入力装置92を用いた指示により、図5の回折環読取り工程S3を実行する。コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させる。このイメージングプレート15の読取り開始位置とは、対物レンズ36の中心すなわちレーザ光の照射位置が回折環基準半径Roの円に対して若干だけ内側になるような位置である。この場合、位置検出回路72から出力される位置信号は、移動ステージ21が移動限界位置にある状態から移動ステージ21が移動した移動距離xを表しており、移動ステージ21すなわちテーブル16(イメージングプレート15)が移動限界位置にある状態で、テーブル16(イメージングプレート15)の中心から対物レンズ36の中心位置までの距離は予め決められた所定値である。したがって、イメージングプレート15の読取り開始位置への移動は、位置検出回路72からの位置信号を用いて行われる。
回折環基準半径Roとは、測定対象物OBの残留応力が「0」であるときに、測定対象物OBに対するX線の照射によりイメージングプレート15上に形成される回折環の半径であり、測定対象物OBにおけるX線の回折角度φx及びイメージングプレート15から測定対象物OBまでの距離Lに応じて決まる。そして、X線の回折角度φxは測定対象物OBの材質で決まり、前記距離Lは前記ステージ調整工程S1での調整で設定されて予め決められた所定距離Loである。したがって、測定対象物OBの材質ごとに予め回折角φxを記憶しておけば、前記入力した測定対象物OBの材質を用いることにより、コントローラ91は回折環基準半径RoをRo=L・tan(φx)の演算によって自動的に計算する。なお、同一の材質の測定対象物OBの残留応力を繰り返し測定する場合には、前記回折環基準半径Roを計算することなく、繰り返し利用できる。
次に、コントローラ91は、スピンドルモータ制御回路74に、イメージングプレート15が所定の一定回転速度で回転するように、スピンドルモータ27の回転を制御させる。また、レーザ駆動回路77を制御してレーザ光源31によるレーザ光のイメージングプレート15に対する照射を開始させる。その後、コントローラ91は、フォーカスサーボ回路81にフォーカスサーボ制御の開始を指示して、フォーカスサーボ回路81にフォーカスサーボ制御を開始させる。したがって、対物レンズ36が、レーザ光の焦点がイメージングプレート15の表面に合うように光軸方向に駆動制御される。
次に、コントローラ91は、回転角度検出回路75及びA/D変換回路83を作動させて、回転角度検出回路75からスピンドルモータ27(イメージングプレート15)の基準位置からの回転角度θpを入力させ始めるとともに、A/D変換回路83からSUM信号の瞬時値のディジタルデータをコントローラ91に出力させ始める。次に、コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ22を回転させて、イメージングプレート15を読取り開始位置から図1及び図2の右下方向へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置が、イメージングプレート15において、回折環基準半径Roの若干内側の位置から外側方向に一定速度で相対移動し始める。この若干内側の位置は、撮像した回折環の半径が回折環基準半径Roからずれる可能性のある位置よりもやや内側の位置である。これにより、レーザ光の照射位置は、相対的にイメージングプレート15上を螺旋状に回転し始める。
その後、コントローラ91は、イメージングプレート15が所定の小さな角度だけ回転するごとに、SUM信号の瞬時値のディジタルデータをA/D変換回路83を介して入力するとともに、回転角度検出回路75からの回転角度θp及び位置検出回路72からの移動距離xを入力して、SUM信号の瞬時値のディジタルデータを、基準位置からの回転角度θpと、移動距離xに基づくイメージングプレート15の中心からのレーザ光の照射位置の径方向距離r(半径値r)とに対応させて順次記憶する。この場合も、移動ステージ21すなわちテーブル16(イメージングプレート15)が移動限界位置にある状態で、テーブル16(イメージングプレート15)の中心から対物レンズ36の中心位置までの距離は予め決められた所定値であるので、前記半径値rは移動距離xを用いて計算される。これにより、螺旋状に回転するレーザ光の照射位置に関して、SUM信号の瞬時値、回転角度θp及び半径値rを表すデータが所定回転角度ごとに順次記憶されて蓄積されてい
く。
SUM信号の瞬時値、回転角度θp及び半径値rを表すデータの所定回転角度ごとの記憶動作と並行して、コントローラ91は、前記所定角度ごとに、SUM信号の瞬時値のピークに対応した半径値rを回折環の半径値とする。具体的には、回転角度θpが同一である複数のSUM信号の瞬時値が増加した後に減少している状態を検出することにより、前記複数のSUM信号の瞬時値のピークを検出し、このピークであるSUM信号の瞬時値に対応して記憶されている半径値rを取得する。そして、前記所定回転角度ごとの全ての半径値rを取得した時点で、SUM信号の瞬時値、回転角度θp及び半径値rを表すデータを所定回転角度ごとに検出し記憶する処理を終了する。これにより、回折環の形状が検出されたことになる。
その後、コントローラ91は、フォーカスサーボ回路81によるフォーカスサーボ制御を停止させ、レーザ駆動回路77によるレーザ光源31のレーザ光の照射を停止させる。また、コントローラ91は、A/D変換回路83及び回転角度検出回路75の作動を停止させるとともに、フィードモータ制御回路73によるフィードモータ22の作動も停止させる。これにより、回折環読取り工程S3が終了される。なお、この状態では、位置検出回路72の作動及びイメージングプレート15の回転は、以前と同様のまま継続されている。
このような回折環読取り工程S3の後、コントローラ91は、自動的に又は作業者による入力装置92を用いた指示により、図5の回折環消去工程S4を実行する。この回折環消去工程においては、コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート15の消去開始位置とは、LED光源43から出力される可視光の中心が回折環基準半径Roの円に対して前記読取り開始位置の場合よりもさらに内側になるような位置である。この場合も、前記読取り開始位置の場合と同様に、イメージングプレート15の移動は、位置検出回路72からの位置信号を用いて行われる。
次に、コントローラ91は、LED駆動回路84を制御してLED光源43による可視光のイメージングプレート15に対する照射を開始させるとともに、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15を前記消去開始位置から消去終了位置まで図1及び図2の右下方向に一定速度で移動させるように、フィードモータ22を回転させる。消去終了位置とは、LED光源43によるLED光の中心が回折環基準半径Roよりも前記消去開始位置と同じ程度の距離だけ外側となる位置である。これにより、LED光源43による可視光が、消去開始位置から消去終了位置まで、イメージングプレート15上に螺旋状に照射され、前記回折X線によって形成された回折環が消去される。
次に、コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15の移動を停止させるとともに、LED駆動回路84を制御してLED光源43による可視光の照射を停止させる。また、コントローラ91は、位置検出回路72の作動を停止させるとともに、スピンドルモータ制御回路74を制御してスピンドルモータ27によるイメージングプレート15の回転も停止させる。これにより、回折環消去工程S4が終了する。
このような回折環消去工程S4の後、コントローラ91は、作業者による入力装置92を用いた指示により、図5の残留応力計算工程S5を実行する。
この残留応力計算工程S5においては、作業者による入力装置92を用いた指示により、前記取得した回折環の形状を表すデータすなわち回折環の半径値r、前記計算した回折環基準半径Ro、前記予め設定されたX線の入射角度φo、測定対象物OBからイメージングプレート15までの距離Lo、前記入力した測定対象物OBの材質などを用いて、測定対象物OBのスリットSL内の微小な測定箇所における残留圧縮応力、残留せん断応力を計算し、計算した結果を表示装置93に表示する。残留圧縮応力及び残留せん断応力は、従来からよく知られているcosαを用いて計算される。なお、前述したように、スリットSLの中心線とX線照射点の中心位置とが一致していれば残留圧縮応力、残留せん断応力とも精度のよい値であるが、表示装置93に表示されるLED照射点の画像は小さいため、スリットSLの中心線からX線照射点の中心位置は僅かにずれている可能性が高く、残留圧縮応力のみが精度のよい値である。作業者は表示された値から、測定対象物OBの疲労度の評価や、ショットピーニングなどによる加工結果の評価を行う。
なお、前記回折環消去工程S4の後、同一の測定対象物OBのスリットSL内の異なる測定位置に対して、前記ステージ調整工程S1、回折環撮像工程S2、回折環読取り工程S3及び回折環消去工程S4を繰返し行った後、残留応力計算工程S5を行うようにしてもよい。このようにすれば、スリットSLの中心線に沿った微小領域における残留応力の変化を測定することができる。また、測定を行うごとに残留応力計算工程S5までを行う、すなわち、同一の測定対象物OBのスリットSL内の異なる測定位置に対して、前記ステージ調整工程S1〜残留応力計算工程S5を繰り返し行うようにしても無論よい。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、測定対象物OBに向けてX線を出射するX線出射器10と、中央にX線を通過させる貫通孔が形成されたテーブル16と、テーブル16に取付けられて、中央部にてX線を通過させるとともに、測定対象物OBにて回折したX線の回折光を受光する受光面を有し、回折光の像である回折環を記録するイメージングプレート15とを備えたX線回折測定装置を用いて回折環を形成する際、測定対象物OBの表面に測定対象物OBに照射される位置におけるX線出射器10から出射されたX線の断面径より小さい幅のスリットSLを形成し、スリットSL内の測定箇所に、X線出射器10から出射されるX線が照射され、スリットSLの中心線が、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面内に略含まれ、さらにスリットSL部分の測定対象物の表面がこの平面と垂直になるよう、X線回折測定装置に対する測定対象物OBの位置および姿勢を調整した後、X線出射器10からX線を出射し、イメージングプレート15に回折環を形成している。したがって、上記実施形態によれば、X線出射器10から出射されるX線がX線の断面径より小さい幅のスリットSLに照射されるので、測定対象物の微小部分による回折環を形成することが可能であり、回折環から計算される残留応力を微小部分の値にできる。また、測定対象物が断面径が小さい円柱状または円筒状の物体でもスリットSLを円柱状または円筒状の中心軸方向と平行に形成すれば、物体に対するX線入射角を一定にすることができる。また、スリットSL内の測定箇所にX線出射器10から出射されるX線が照射され、スリットSLの中心線が、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面内に略含まれ、スリットSL部分の測定対象物の表面が平面と垂直になるよう、測定対象物OBの位置および姿勢を調整しているので、LED光の照射点からイメージングプレート15までの距離Lと測定対象物OBに対するX線の入射角度φを設定値通りにすれば、少なくとも回折環から計算される残留圧縮応力の値を精度のよい値にすることができる。
この場合、前述のようにX線回折測定装置に対する測定対象物OBの位置および姿勢を調整するには、X線回折測定装置は、X線出射器10からX線が出射されていない状態で、X線出射器10から出射されるX線と光軸を同一にした平行光であるLED光を測定対象物OBに出射するLED光源44と、LED光の照射点を含む領域の測定対象物OBの画像を結像するとともに測定対象物OBによるLED光の反射光を集光する結像レンズ48、及び結像レンズ48によって結像された画像と集光された反射光の受光点を撮像する撮像器49を有し、撮像された画像と受光点を表す撮像信号を出力するカメラと、カメラから出力される撮像信号を入力して、撮像器49によって撮像された画像を画面上に表示すると共に、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面と、撮像器49の受光面とが交差する基準ラインを十字マークのY軸として表示する表示装置93とを備えるようにし、LED光源44からLED光を出射したうえで、LED光の照射点がスリットSL内の測定箇所と略一致し、十字マークのY軸位置とスリットSLの中心線の位置が略一致し、さらに十字マークのY軸と受光点が略交差するようにX線回折測定装置に対する測定対象物の位置および姿勢を調整するようにすればよい。この上記実施形態によれば、表示装置93に表示されるカメラによる撮影画像と撮影画像にはよらない十字マークのY軸とを見ながら、可視光の照射点がスリットSL内の測定箇所と略一致し、十字マークのY軸の位置とスリットSLの中心線が略一致し、さらに十字マークのY軸の位置と受光点が略交差するように測定対象物の位置および姿勢を調整することで、容易に測定対象物OBの位置および姿勢を、前述した適切な位置と姿勢にすることができる。
また、上記実施形態においては、X線回折測定装置は、レーザ光を出射するレーザ光源31及びレーザ光を受光するフォトディテクタ40を有し、レーザ光をイメージングプレート15の受光面に照射するとともに、レーザ光の照射によってイメージングプレート15から出射された光を受光して受光強度に応じた受光信号を出力するレーザ検出装置30と、イメージングプレート15に形成された回折環を消去するLED光を出射するLED光源43と、テーブル16を貫通孔27b,27a1,16a,17aの中心軸回りに回転させるスピンドルモータ27と、X線出射器10からのX線をテーブル16及びイメージングプレート15を通過させるX線出射位置と、レーザ検出装置30からのレーザ光をイメージングプレート15に照射するレーザ光照射位置との間で、テーブル16を移動させるテーブル駆動機構20と、スピンドルモータ27を制御してテーブル16を回転させるとともに、テーブル駆動機構20を制御してテーブル16を移動させながら、レーザ検出装置30を制御してイメージングプレート15の受光面にレーザ光を照射位置を検出しながら照射するとともに、レーザ検出装置30からの受光信号を入力して、検出した照射位置と入力した受光信号を処理してイメージングプレート15に形成された回折環を読取るコントローラ91のプログラム処理と、スピンドルモータ27を制御してテーブル16を回転させるとともに、テーブル駆動機構20を制御してテーブル16を移動させながら、LED光源43を制御してイメージングプレート15の受光面に回折環を消去するLED光を照射するコントローラ91のプログラム処理とを備え、スリットSLを、測定対象物OBを連続して評価する直線ラインとスリットSLの中心線とを一致させて形成し、回折環形成を測定対象物OBをX線回折測定装置と相対的に移動させて、スリットSLの中心線方向にX線出射器10から出射されるX線の照射点を変えると共に、各照射点ごとに回折環の形成、回折環の読取り及び回折環の消去からなるルーチンを行うことができるようにしている。したがって、上記実施形態によれば、1つのラインに沿って微小部分の残留応力を連続して測定することができ、1つのラインに沿った微小部分の残留応力の変化を求めることができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態においては、ステージ61の位置及び姿勢と測定対象物OBのステージ61上での向き(Z軸周りの回転位置)を調整するようにした。しかし、測定対象物OBが厚さ一定の平板に限定されていれば、すなわち測定対象物OBの上面がステージ61の上面と常に平行であれば、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面とステージ61の上面とが垂直になるよう設定しておけば、ステージ61の位置と測定対象物OBのステージ61上での向きを調整するのみでよい。すなわち、スリットSL内の測定箇所にX線が照射され、X線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面がスリットSLの中心線を含む(すなわち、スリットSLの中心線とX線の光軸を測定対象物OBに投影したラインが一致する)ように調整するのみでよい。この場合は、結像レンズ48、撮像器49により撮影されたLED光が照射された測定対象物OBの画像を見なくても、次のようにすれば調整を行うことができる。まず、ステージ61の上面にX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面とステージ61の上面とが交差するラインと平行な基準ラインを描いておく。そして、ステージ61に測定対象物OBを載置した後、LED光源43からLED光を出射したうえで、測定対象物OBを見ながらLED光の照射点がスリットSL内の測定箇所と略一致し、ステージ61に描かれた基準ラインの位置とスリットSLの中心線が略平行になるように測定対象物OBの位置および向きを調整する。これによれば、X線回折測定装置に結像レンズ48や撮像器49を用いた撮影機能を備えなくても、測定対象物OBの位置および姿勢を調整できるので、装置のコストを抑制することができる。
また、上記実施形態においては、表示装置93に表示される画像上のLED光の照射点P1及び反射光の受光点P2を同一位置(十字マークのクロス点)に合わせるようにしたが、これらの画像上のLED光の照射点P1及び反射光の受光点P2を異なる位置に合わせるようにしてもよい。この場合、結像レンズ48の光軸位置を上記実施形態とは異なる位置にして、測定対象物OBの上面が設定された位置にあるとき結像レンズ48に入射する散乱光の光軸と反射光の光軸が異なるようにし、撮像器49における反射光の受光点P2をLED光の照射点P1と異ならせるようにすればよい。
また、上記実施形態においては、LED光の照射点P1と反射光の受光点P2を十字マークのクロス点に一致させることで、LED光の照射点(X線の照射点)からイメージングプレート15までの距離Lと測定対象物OBに対するX線の入射角度φを設定値通りにしている。しかし、イメージングプレート15までの距離Lと測定対象物OBに対するX線の入射角度φは設定値にしなくても、精度よく値を得て、その値を回折環の形状から残留応力を計算する際に使用してもよいので、これに代えてLED光の照射点P1と反射光の受光点P2を十字マークのY軸と交差させ、LED光の照射点P1と反射光の受光点P2のY方向位置を読取り、この値からイメージングプレート15までの距離Lと測定対象物OBに対するX線の入射角度φを計算するようにしてもよい。すなわち、ステージ61の位置及び姿勢と測定対象物OBの向き(Z軸周りの回転位置)の調整は、LED光の照射点P1がスリットSL内の測定箇所と一致し、十字マークのY軸位置とスリットSLの中心線の位置が一致し、十字マークのY軸と反射光の受光点P2が交差するまでを行い、測定対象物OBの位置および姿勢を、前述した適切な位置と姿勢にする。そして、LED光の照射点P1のY方向位置からイメージングプレート15までの距離Lを算出し、反射光の受光点P2のY方向位置から測定対象物OBに対するX線の入射角度φを求めるようにしてもよい。なお、この場合は、予めLED光の照射点P1のY方向位置とイメージングプレート15までの距離Lとの関係および、Y方向の各照射点P1の位置ごとにおける反射光の受光点P2のY方向位置と測定対象物OBに対するX線の入射角度φとの関係を求めておき、コントローラ91のメモリに換算表として記憶しておく必要がある。
また、上記実施形態においては、スリットSLは測定対象物OBの表面にX線の透過率が低い材料である2つのシールを貼り付けて形成するか、同材料のスリットSLが形成されたフィルムを貼り付けるか置いて形成するとしたが、スリットSLが、スリットでない部分がX線の透過率が低い材料であり、測定対象物OBから発生した回折X線が妨害されない厚さであれば、どのような方法で作成してもよい。例えば、X線の透過率が低い2つの細長の薄板を置いて作成してもよい。
また、上記実施形態においては、対象物セット装置60の操作子67a,68a,63a,66a,65aを手動操作することにより、ステージ61及び測定対象物OBのX軸方向位置、Y軸方向位置、Z軸方向位置、X軸周りの傾斜角及びY軸周りの傾斜角を変更するようにした。しかし、これに加えて、ステージ61及び測定対象物OBをZ軸周りに回転させる機構を設けて、操作子の操作によりステージ61及び測定対象物OBをZ軸周りに回転させるようにしてもよい。また、操作子の操作によるステージ61及び測定対象物OBのX軸方向位置、Y軸方向位置、Z軸方向位置、X軸周りの傾斜角及びY軸周りの傾斜角の変更(又は、これらに加えてZ軸周りの回転位置の変更)を、対象物セット装置60内にモータを設けて、入力装置92による指示によりモータを回転させて、ステージ61及び測定対象物OBのX軸方向位置、Y軸方向位置、Z軸方向位置、X軸周りの傾斜角及びY軸周りの傾斜角(これらに加えてZ軸周りの回転位置)の一部又は全部を変更するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、プレート45、モータ46及びストッパ部材47aによりLED光源44をX線の光軸上に移動させて、LED光を測定対象物OBに照射する構造にした。しかし、これに代えて、出射X線と光軸を同一にした可視の平行光を照射することができれば、どのような構造にしてもよい。例えば、ビームスプリッタを出射X線の光軸上に配置し、LED光をビームスプリッタで反射させて出射X線と光軸を同一にして照射するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、スピンドルモータ27の貫通孔27bに内径の小さな通路部材28を設けるとともに、固定具18の貫通孔18aの内径を小さくして、LED光源44から出射されたLED光から小さな断面径の平行光が得られるようにしたが、小さな断面径の可視の平行光が得られるならば、別の構造にしてもよい。例えば、通路部材28の軸長を長くすることにより、LED光源44からのLED光から小さな断面径の平行光が得られるようにしてもよい。また、可視光であるレーザ光を出射するレーザ光源の近くにコリメートレンズとエキスパンダ―レンズを配置し、出射する小さな断面径のレーザ光の光軸をスピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1の中心軸線と一致させるようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、対象物セット装置60の操作子67a,68a,63a,66a,65aを手動操作することにより、ステージ61及び測定対象物OBのX軸方向位置、Y軸方向位置、Z軸方向位置、X軸周りの傾き及びY軸周りの傾きを調整するようにした。しかし、これに代えて、ケース50又はケース50内部の各種装置のX軸方向位置、Y軸方向位置、Z軸方向位置、X軸周りの傾斜角及びY軸周りの傾斜角の一部又は全てを調整できる構造にし、ケース50若しくはケース50内部の各種装置とステージ61との組み合わせ、又はケース50若しくはケース50内部の各種装置のみで、X線回折測定装置に対する測定対象物OBの前記位置及び傾きを調整するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、X線回折測定装置を、回折環がイメージングプレート15に形成された後に、レーザ検出装置30からのレーザ光の照射により回折環を読取る構造にした。しかし、X線回折測定装置に回折環を読取る機能がなく、回折環の読取りをX線回折測定装置からイメージングプレート15を取り外して別の装置で行う場合でも、X線回折測定装置がイメージングプレート15の中心にある貫通孔を通してX線を出射して、イメージングプレート15に回折環を形成する装置であれば、本発明は適用することができる。その場合のイメージングプレート15の回転基準位置は、結像レンズ48の光軸と、X線出射器10から出射されるX線の光軸が含まれる平面がイメージングプレート15と交差するラインである。また、測定対象物OBが厚さ一定の平板に限定されており、X線回折測定装置に結像レンズ48や撮像器49を用いた撮影機能を備えない場合は、イメージングプレート15の回転基準位置は、X線出射器10から出射されるX線の光軸とX線の光軸と交差するステージ61の法線とが含まれる平面がイメージングプレート15と交差するラインである。