(第1実施形態)
本発明の一実施形態に係るX線回折測定システムの構成について図1乃至図3を用いて説明する。図1に示されるようにこのX線回折測定システムは、アーム式移動装置をアーム型ロボット1にし、アーム型ロボット1の先端にX線回折測定装置2を取り付けたものである。アーム型ロボット1はそれぞれの関節部分の回転角度を変化させることで先端の位置及び姿勢を変化させることができ、これによりX線回折測定装置2は様々な位置及び姿勢をとることができる。また、このX線回折測定システムは、図2に示すように、測定対象物OBの3次元形状を測定する3次元形状測定装置85と、アーム型ロボット1、X線回折測定装置及び3次元形状測定装置85の作動を制御するコンピュータ装置90と、X線回折測定装置2がX線を出射するための高電圧を供給する高電圧電源95を備える。X線回折測定装置2は先行技術文献の特許文献1に示されるX線回折測定装置と構成は同じものであり、高電圧電源95も同じものである。すなわち、このX線回折測定システムは、特許文献1に示されるX線回折測定システムの複数の関節を有する移動装置をアーム型ロボット1に替え、3次元形状測定装置85と測定対象物OBを載置するためのステージ5を追加し、コンピュータ装置90にアーム型ロボット1及び3次元形状測定装置85を制御するシステムと、記憶されているデータ及び検出したデータを用いて照射点―撮像面間距離及びX線の入射方向に関する値等をリアルタイムで検出して表示するシステムとを加えたものである。よって、特許文献1に示されているX線回折測定システムで既に説明されている箇所は、簡略的に説明するにとどめる。
このX線回折測定システムにより測定される測定対象物OBは、テーブル6の上に載置されたステージ5上に載置される。ステージ5は基準物体SBを配置した円形状のもので、回転可能になっており、3次元形状測定装置85により測定対象物OBをあらゆる方向から3次元形状測定し、得られた3次元形状データを1つの座標系のデータに変換することができるようになっている。この点は後程詳細に説明する。図2ではステージ5はテーブル6の上に載置されるようになっているが、これは配置の仕方の1例であり、測定対象物OBが3次元形状測定装置85とX線回折測定装置により測定可能となる位置にステージ5が配置されるならば、配置のされ方はどのようなものであってもよい。また、測定対象物OBはX線回折測定が可能なものであれば材質、形状はどのようなものであってもよいが、本実施形態では鉄製のギヤとして説明する。
図2及び図3に示すように、X線回折測定装置2は筐体50内に、X線出射器10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30等を備える。筐体50内には、上述した装置に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図2において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。
X線出射器10は、筐体50内の上部にて筐体50に固定されており、高電圧電源95からの高電圧の供給を受けると、X線を図示下方向に出射する。X線制御回路80は、コントローラ91から指令が入力すると、一定強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源95から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。
テーブル駆動機構20は、筐体50に固定され、フィードモータ制御回路70から駆動信号がフィードモータ22に出力されることで移動ステージ21を図3の左右方向に移動させる。移動ステージ21にはスピンドルモータ27が取り付けられ、スピンドルモータ27の回転軸にはイメージングプレート15がセットされたテーブル16が固定されており、テーブル駆動機構20はイメージングプレート15を図3の左右方向に移動させる。フィードモータ制御回路70には移動ステージ21の移動位置を検出する機能と、入力した移動位置と実際の移動位置が等しくなるまでフィードモータ22に駆動信号を出力する機能があり、コントローラ91からの適切な移動位置が入力することで、テーブル駆動機構20はイメージングプレート15を、X線が出射され回折X線による像(回折環)が撮像されるときと、撮像された回折環を読み取るときとにおいて、適切な位置に移動させることができる。また、フィードモータ制御回路70にはコントローラ91から移動方向と移動速度が入力すると、入力した移動方向に入力した移動速度で移動する機能もある。
テーブル駆動機構20の上壁において、X線出射器10の出射口に対向する位置には貫通孔が形成されており、X線出射器10の出射口から出射されたX線は、該貫通孔を介してテーブル駆動機構20内に入射する。スピンドルモータ27の回転軸及び該回転軸の中心がスピンドルモータ27の底面と交差する箇所にも貫通孔が形成されており、該回転軸の中心がテーブル16と交差する箇所、及び該回転軸の中心がテーブル16にイメージングプレート15を固定するための固定具と交差する箇所にも貫通孔が形成されている。また、該回転軸の中心が移動ステージ21と交差する箇所にも貫通孔が形成されている。よって、移動ステージ21が図3の右方向に移動し、テーブル駆動機構20の上壁に形成された貫通孔と移動ステージ21に形成された貫通孔が対向した状態になると、X線出射器10の出射口から出射されたX線は、これらの貫通孔を通過し、テーブル16上にある固定具の貫通孔から出射する。これが、イメージングプレート15に回折環を撮像する位置であり、コントローラ91から適切な移動位置がフィードモータ制御回路70に入力することで、テーブル駆動機構20は移動ステージ21をこの位置にすることができる。以下、この位置を回折環撮像位置という。
X線出射器10から出射されるX線は広がりながら進むX線であるが、スピンドルモータ27に形成された貫通孔およびこの貫通孔と中心軸が一致している移動ステージ21、テーブル16及び固定具の貫通孔を通過して出射することで、これらの貫通孔の軸線に平行な平行光となる。そして、筐体50に形成された円形孔50cを通過して測定対象物OBに照射される。よって、コントローラ91からフィードモータ制御回路70へ回折環撮像位置への移動指令、X線制御回路80へ出射指令が出力し、設定された時間後、X線制御回路80へ停止指令が出力するとイメージングプレート15には回折環が撮像される。
スピンドルモータ27は、スピンドルモータ制御回路76から駆動信号が入力することで回転する。スピンドルモータ制御回路76にはスピンドルモータ27内のエンコーダから入力するパルス列信号により回転速度を設定された回転速度にする機能があり、コントローラ91が回転の指令を出力すると、スピンドルモータ27と一体になっているイメージングプレート15は設定された回転速度で回転する。また、スピンドルモータ制御回路76には回転角度を検出する機能と、入力した回転角度と実際の回転角度が等しくなるまでスピンドルモータ27に低速回転を行うための駆動信号を出力する機能があり、コントローラ91から回転角度が入力すると、スピンドルモータ27と一体になっているイメージングプレート15は入力した回転角度になる。イメージングプレート15に回折環が撮像されるときは、コントローラ91からスピンドルモータ制御回路76に回転角度0の出力がされ、イメージングプレート15は回転角度が0になる。
イメージングプレート15の回転角度0の位置とは、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に形成された回折環を読み取る際、回転角度が0となった時点でレーザ光が照射されている位置である。この位置はイメージングプレート15の各半径位置においてあるためラインである。このイメージングプレート15の回転角度0のラインとX線出射器10から出射されるX線の光軸(スピンドルモータ27に形成された貫通孔の軸線と等しい)とが含まれる平面を、以後、基準平面という。
コントローラ91から適切な移動位置をフィードモータ制御回路70に入力することで、テーブル駆動機構20は移動ステージ21を、イメージングプレート15にレーザ検出装置30が対向する位置まで移動させることができる。以後、この位置を回折環読取り位置という。レーザ検出装置30は、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15で輝尽発光した光の強度を検出する。イメージングプレート15で輝尽発光した光の強度は撮像における回折X線の強度に比例するため、イメージングプレート15にレーザ光を走査させるとともに走査位置を検出し、走査位置と発光した光の強度とを同じタイミングで検出することでイメージングプレート15に撮像された回折環の形状(回折X線の強度分布)を検出することができる。レーザ検出装置30は、検出装置制御回路72により制御され、検出装置制御回路72はコントローラ91から読取り開始の指令を入力すると、レーザ検出装置30がレーザ光を出射する駆動信号を出力し、レーザ検出装置30が検出した光の強度のデジタルデータをコントローラ91に出力する。
イメージングプレート15にレーザ光を走査させるには、スピンドルモータ27の回転と移動ステージ21の移動を同時に行い、イメージングプレート15上をレーザ光が螺旋状に移動するようにする。また、レーザ光の走査位置は、スピンドルモータ制御回路76の回転角度を検出する機能と、フィードモータ制御回路70の移動位置を検出する機能を用いる。そして、コントローラ91に、発光した光の強度、回転角度及び移動位置のデジタルデータが同じタイミングで入力するようにすれば、コントローラ91のメモリには回折環の形状(回折X線の強度分布)データが記憶される。すなわち、コントローラ91は、検出装置制御回路72へ読取り開始の指令、フィードモータ制御回路70へ移動方向、移動速度、及び移動位置検出指令、及びスピンドルモータ制御回路76へ回転指令と回転角度検出指令を出力すると、回折環の形状データがメモリに記憶される。
また、レーザ検出装置30にはLED光源が設けられ、検出装置制御回路72から電力が供給されるとイメージングプレート15に撮像された回折環を消去する可視光を出射する。よって、レーザ光のイメージングプレート15への走査が終了した後、レーザ光の出射を停止してLED光源から可視光を照射し、可視光をレーザ光と同様にイメージングプレート15上を走査させれば、イメージングプレート15に撮像された回折環は消去される。
また、移動ステージ21とテーブル駆動機構20の上壁の下面との間には、プレート45に固定されたLED光源がスピンドルモータ27の下面と対向するように配置されている。プレート45は、近傍に配置されたモータの出力軸に固着されており、近傍に固定されたストッパ部材により2つの回転位置で回転が停止するようになっている。この2つの回転位置はスピンドルモータ27の下面の貫通孔にLED光源が対向する位置(以下、A位置という)と、プレート45がテーブル駆動機構20の上壁の貫通孔を通過するX線を遮断しない位置(以下、B位置という)である。LED光源及びモータは、発光制御回路78により制御され、発光制御回路78はコントローラ91から発光開始の指令が入力するとLED光源に発光させる駆動信号を出力し、モータにA位置までプレート45が回転する駆動信号を出力する。また、コントローラ91から発光停止の指令が入力すると、発光のための駆動信号を停止し、モータにB位置までプレート45が回転する駆動信号を出力する。
LED光源から出射されるLED光はX線出射器10から出射されるX線と同じ光路を通って、筐体50の円形孔50cから出射するが、出射X線と同様に平行光で出射されるので、LED光の照射点は出射X線の照射点と同一になる。よって、LED光の照射点が残留応力の測定点になるようにすることで、X線の照射点を残留応力の測定点にすることができる。
また、図2及び図3に示すように筐体50には結像レンズ48が設けられ、結像レンズ48により画像が形成される箇所には、撮像器49が設けられている。撮像器49は、CCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路74に出力する。結像レンズ48及び撮像器49は、イメージングプレート15に対して基準位置にある測定対象物OBにおけるLED光の照射点を中心とした領域の画像を撮像するデジタルカメラとして機能する。イメージングプレート15に対して基準位置とは、LED光の照射点からイメージングプレート15までの距離である照射点−撮像面間距離が、基準距離Lsとなる位置である。この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、前記照射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路74は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共にコントローラ91に出力する。
また、結像レンズ48の光軸は、基準平面(X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転角度0のラインを含む平面)に含まれるとともに、この光軸と測定対象物OBに照射されるX線及びLED光の光軸が交わる点は、イメージングプレート15から基準距離LsにあるX線及びLED光の照射点であるように調整されている。さらに、X線及びLED光の照射点箇所の測定対象物OBの法線が基準平面に含まれ、X線及びLED光の測定対象物OBに対する入射角度が基準入射角度Ψsであるとき、結像レンズ48の光軸と測定対象物OBのX線及びLED光の照射点における法線方向とが成す角度は基準入射角度Ψsに等しい角度であるようにされている。したがって、照射点−撮像面間距離が基準距離Lsであり、X線及びLED光の照射点箇所の測定対象物OBの法線が基準平面に含まれ、LED光が測定対象物OBに基準入射角度Ψsで照射された場合には、結像レンズ48に入射する散乱光の光軸と反射光の光軸はいずれも結像レンズ48の光軸と一致するため、撮像器49におけるLED光の照射点と測定対象物OBで反射したLED光が焦点を結ぶ点(以下、受光点という)は同じ位置に生じる。詳細に説明すると、測定対象物OBに照射されるLED光は平行光であるので、照射点において、LED光は散乱光と、略平行光のまま反射する反射光を発生させるが、散乱光のうち結像レンズ48に入射した光は撮像器49の位置で結像して照射点となり、結像レンズ48に入射した反射光は結像レンズ48により集光されて撮像器49で受光され受光点なる。そして、この状態で撮像器49が出力する信号強度データから作成される撮影画像においても、照射点の画像と受光点の画像は同じ位置になる。
コンピュータ装置90は、コントローラ91、キーボード、タッチパネル等の入力装置92及びディスプレイ等の表示装置93からなる。コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された各種プログラムを実行して上述した回路への指令の出力と、上述した回路からのデータ取り込みを行い、各種の演算を行ってその結果を表示装置93に表示する。
また、表示装置93には、表示画面上にセンサ信号取出回路74から入力する信号強度データにより作成された撮影画像を表示するとともに、結像レンズ48の光軸が撮像器49と交差する箇所に相当する箇所に十字のマークを表示する。この十字マークのクロス点は、照射点−撮像面間距離が基準距離Lsであり、LED光(出射X線)が測定対象物OBに基準入射角度Ψsで照射され、かつ照射点の箇所の法線が基準平面に含まれるとき、照射点の画像および受光点の画像が生じる位置である。また、十字マークの縦方向ラインは、基準平面が撮像器49と交差するラインであり、このラインを測定対象物OBの表面に投影させた方向が、撮像された回折環から計算される残留垂直応力の測定方向である。よって、十字マークの縦方向ラインは測定方向ラインである。なお、表示装置93は撮影画像を表示するときは、後述するよう照射点―撮像面間距離及びX線の入射方向に関する値や、X線照射点と残留垂直応力の測定方向を示した測定対象物OBの3次元画像等も表示するので、撮影画像は表示装置93の表示面の一部である。
コントローラ91のメモリには、撮影画像における照射点の十字マークの縦方向ラインにおける位置(以下、照射点縦方向位置という)と照射点−撮像面間距離との関係が、テーブル換算表または関係式により記憶されている。上述したように、撮影画像における照射点は、照射点−撮像面間距離が基準距離Lsにあるとき十字マークのクロス点と合致するが、照射点−撮像面間距離が基準距離Lsから変化するに伴い、十字マークの縦方向ライン上に位置を変化する。コントローラ91のメモリには、この関係が記憶されている。よって、撮影画像における照射点縦方向位置を検出すれば、照射点−撮像面間距離を即座に算出することができる。
撮影画像における照射点縦方向位置と照射点−撮像面間距離との関係は、以下のようにすれば得ることができる。まず、金属粉(例えば鉄粉)を糊塗した測定対象物OBにて撮影画像における照射点縦方向位置を取得する。次に、該測定対象物OBにX線を照射してイメージングプレート15に回折環を撮像し、上述した回折環読み取り機能により回折環の形状を読み取る。金属粉を糊塗した測定対象物OBは残留応力0であり、読み取った回折環は真円に近い。そして、標準の回折角を2Θ(Θはブラッグ角)とすると、この回折環の半径Rは照射点−撮像面間距離LとR=L・tan(2Θ)の関係があり、標準の回折角2Θは金属粉の金属において定数であるので、読み取った回折環の半径値Rを算出すれば、上記計算式から照射点−撮像面間距離Lを求めることができる。よって、金属粉を糊塗した測定対象物OBにおいて撮影画像における照射点縦方向位置を異ならせて取得するごとに、該測定対象物OBにX線を照射して回折環を撮像し、この回折環の形状を読み取って半径値を算出すれば、撮影画像における照射点縦方向位置と照射点−撮像面間距離との関係を得ることができる。
3次元形状測定装置85は、図2に示すよう、ステージ5に載置された測定対象物OBの3次元形状を測定できる位置に配置されている。3次元形状測定装置85は精度よく測定対象物OBの3次元形状を測定することができるならば、測定原理はどのようなものであってもよく、レーザ光やライン光を照射して反射光を受光し、3角測量法の測定原理で各点の3次元座標群を得る装置や、格子状のパターン光を照射してカメラ撮影を行い位相シフト法の測定原理で各点の3次元座標群を得る装置等が用いられる。3次元形状測定装置85による測定対象物OBの3次元形状測定は、X線回折測定装置2の位置及び姿勢の調整が行われる前に行われ、その際、3次元形状測定装置85の測定領域に余計なものがないよう、後述するようアーム型ロボット1を操作することでX線回折測定装置2を図2で示す位置より上方に移動する。3次元形状測定装置85は、入力装置92から測定指令を入力することで、コントローラ91から測定指令が入力すると3次元測定を行い、得られたデータをコントローラ91に出力する。3次元形状データは、レーザ光の照射方向データやカメラの撮影画像データ等、元データとなるものから演算処理により作成されるデータであるが、この演算処理は3次元形状測定装置85に内蔵されているマイクロコンピュータで行っても、コントローラ91で行ってもよい。作成される3次元形状データは、3次元形状測定装置85に定められた座標軸により(x,y,z)で表される座標データの群であり、3次元形状測定装置の座標系によるデータである。なお、作成される3次元形状データは、3次元形状測定装置85の測定領域にあるものすべてであり、測定対象物OB以外に、ステージ5、及びテーブル6の上面の3次元形状データも含まれる。ただし、後述するようにコントローラ91での演算処理により、作成された3次元形状データから測定対象物OBの以外の3次元形状データは除去されるので、測定対象物OBの3次元形状データのみが得られる。
測定対象物OBが載置されるステージ5は図4に示すよう、基準物体として球体SBを縁付近に配置した円形形状のもので、回転可能になっている。このステージ5は中央部分に載置された測定対象物OBの3次元形状をあらゆる方向から測定した際、それぞれの測定方向の3次元形状データを1つの座標系によるデータにすることが可能なもので、詳細は特許第4291178号で説明されている。ステージ5を上方から見て基準物体である球体SBの配置の仕方を示したものが図5である。図5に示すように球体SBは円形に配置され、隣同士の球体SBの中心と円の中心を結んだラインが成す角度はすべて異なっており、3つの球体SBの中心座標がわかれば、それがどの球体SBのものであるか識別できるようになっている。
コントローラ91には、図5に示す、隣同士の球体SBの中心と円の中心を結んだラインが成す角度が球体SBに識別番号が付されて記憶されている。また、ステージ5が、X線回折測定装置2の位置及び姿勢調整とX線回折測定装置2による測定がされる回転角度であるときの、3次元形状測定装置の座標系による球体SBの中心座標が記憶されている。この中心座標は、測定対象物OBを載置せず3次元形状測定装置85によりステージ5の3次元形状測定を行い、得られた3次元形状データからそれぞれの球体SBの3次元形状データを抽出し、球の式に当てはめて最小2乗法により計算すればよい。この演算方法の詳細は、特許第3952467号で説明されている。以下、ステージ5の、X線回折測定装置2の位置及び姿勢調整とX線回折測定装置2による測定がされるときの回転角度を、基準回転角度という。
3次元形状測定装置85により測定対象物OBの3次元形状測定を行うときは、ステージ5の回転角度を変えるごとに測定を行う。これは、1回の測定では測定対象物OBの3次元形状測定装置85側の面しか3次元形状データが得られないためであり、ステージ5の回転角度を変えるごとに測定を行うことで、測定対象物OBの全面の3次元形状データを得るようにするためである。そして、得られた3次元形状データはステージ5の回転角度が異なるごとに測定方向が異なり、座標系が異なるので、得られたデータをステージ5が基準回転角度のときの3次元形状データに変換する。これは、ステージ5の回転角度が異なるごとの3次元形状データから球体SBの3次元形状データを抽出して球体SBの中心座標を計算し、予め記憶しているステージ5が基準回転角度のときの球体SBの中心座標を用いて座標変換係数を計算し、この座標変換係数により3次元形状データを変換すればよい。ステージ5に測定対象物OBが載置されると、すべての球体SBの3次元形状データは得られないが、最低でも3つの球体SBの中心座標が得られれば座標変換係数は計算することができる。また、球体SBの3次元形状データがどの球体SBのものであるか識別するには、隣同士の球体SBの中心と円の中心を結んだラインが成す角度を計算して、球体SBの識別番号とともに記憶してある該角度と対比させればよい。この演算方法の詳細も、特許第4291178号で説明されている。
座標変換された3次元形状データには、測定対象物OB以外にステージ5及びテーブル6のデータも含まれているため、コントローラ91は次いで測定対象物OB以外のデータを除外する処理を行う。これは、次のような演算処理である。まず、球体SBの3次元形状データに座標値が近い球体SB以外の3次元形状データを抽出し、これを平面の式に当てはめて最小2乗法により平面の式の係数を求め、この平面から設定範囲内の距離にある3次元形状データを抽出し、再度最小2乗法により平面の式の係数を求める。得られた平面の式から設定範囲内の距離にある3次元形状データを抽出すれば、これはステージ5の平面部分の3次元形状データである。次に、平面の式の係数は法線ベクトルの成分であるので、ステージ5の平面の下向き方向の法線ベクトルの成分を求め、この法線ベクトルと抽出した3次元形状データの中の1つの座標からステージ5の平面以外の1つ1つの3次元形状データ(座標値)に向かう方向のベクトルとの角度を内積の式から計算し、角度が90度未満になる3次元形状データを抽出する。これは、ステージ5の平面より下側にある箇所の3次元形状データである。全体の3次元形状データから抽出した3次元データと球体SBの3次元形状データを除けば、残った3次元形状データは測定対象物OBの3次元形状データである。
図2及び図3に示すよう、アーム型ロボット1は、先端がX線回折測定装置2の筐体50の上面に固定された連結板51にねじ止め等により固定されることで、X線回折測定装置2と一体になっている。アーム型ロボット1は複数の関節を有し、それぞれの関節は1つの回転軸周りに回転可能になっていて任意の回転角度で停止することができるようになっている。そして、アーム型ロボット1のそれぞれの関節の回転角度を様々に設定することでアーム型ロボット1の先端、すなわちX線回折測定装置2は様々な位置及び姿勢をとることができるようになっている。
アーム型ロボット1のそれぞれの関節の回転角度の設定は、コントローラ91から関節モータ制御回路60−1〜60−6への回転角度の出力により行われる。関節モータ制御回路60−1〜60−6は、コントローラ91から回転角度が入力するとアーム型ロボット1のそれぞれの関節にあるモータに駆動信号を出力するとともに、該モータのエンコーダから入力するパルス列信号のパルス数をカウントすることで回転角度を算出し、算出した回転角度がコントローラ91から入力した回転角度と等しくなると駆動信号の出力を停止する。よって、コントローラ91がそれぞれの関節の回転角度を出力することで、アーム型ロボット1の先端、すなわちX線回折測定装置2は様々な位置及び姿勢をとる。なお、図2においては、関節モータ制御回路60−1〜60−6は、アーム型ロボット1の外部に描かれているが、実際は2点鎖線で囲まれた回路は、アーム型ロボット1に2点鎖線で囲まれた箇所に内蔵されている。
コントローラ91のメモリには、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢とアーム型ロボット1のそれぞれの関節の回転角度との関係が記憶されており、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢が設定されれば、それぞれの関節の回転角度は定まる。よって、コントローラ91にてアーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢が設定されると、コントローラ91はそれぞれの関節の回転角度を出力し、アーム型ロボット1の先端は即座に設定された位置及び姿勢になる。コントローラ91でのアーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢の設定は、作業者が入力装置92から位置として(x,y,z)の座標を入力することと、姿勢として(Θx,Θy,Θz)の回転角度を入力することで行われる。この座標と回転角度は、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の原点における基準座標系による座標と、該座標軸の基準座標系の座標軸周りの回転角度である。基準座標系はアーム型ロボット1が固定された基台3の付近に定めた座標軸であり、X,Y,Z軸の方向が縦方向、横方向、高さ方向にされていて、アーム型ロボット1の先端の移動方向や姿勢変更方向が容易に判断できるものである。なお、入力装置92からの(x,y,z)の座標及び(Θx,Θy,Θz)の回転角度の入力は、数値の入力の他、既に入力されている数値の1つを正方向又は負方向に連続して変化させる入力の仕方もでき、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を連続的に変化させることができる。
コントローラ91のメモリに入力される、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢とアーム型ロボット1のそれぞれの関節の回転角度との関係は、以下のようにして求めることができる。なお、これは既存技術における1つの方法であり、この関係を精度よく求めることができるならば、これ以外の方法を用いてもよい。まず、アーム型ロボット1の先端からX線回折測定装置2を取り外し、図6に示すようにアーム型ロボット1の先端の固定用ブロック52の下面(取り付け時に連結板51と迎合する面)に3つの点S0〜S2を定める。1つは固定用ブロック52の下面の中心点S0にし、1つは点S0からX線回折測定装置2を取り付けたとき基準平面と固定用ブロック52の面が交差するラインの方向にある点S1とし、もう1つは点S0から点S0と点S1を結ぶラインの垂直方向にある点S2とする。ここで点S0はアーム型ロボット1の先端の位置を表すものであり、点S0と点S1を結ぶラインの方向と、点S0と点S2を結ぶラインの方向はアーム型ロボット1の先端の姿勢を表すものである。また、別の言い方をすると、点S0がアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の原点であり、2つのラインが座標軸におけるX軸とY軸である。次に、アーム型ロボット1が固定された基台3の付近に基準座標系の原点とX,Y軸を定め、原点をF0とし、X軸上に点F1を定め、Y軸上に点F2を定める。なお、Z軸はX軸及びY軸に垂直な軸であるので、原点とX,Y軸が定まれば自ずと定まる。また、図5では3つの座標軸を明確にするためY軸を描いているが、実際はY軸は紙面垂直方向にあり、点S2及び点F2は点S0及び点F0と重なっている。これは、座標軸を示しているこれ以降の図でも同じである。
次に、高精度でリフレクター(SMR)までの距離と方向を測定することができるレーザトラッカー8を用意する。距離と方向を測定することができるとは、レーザトラッカー8に定めた座標系でリフレクター(SMR)中心位置を(x,y,z)の座標で測定することができるということであり、このレーザトラッカー8により点F0〜F2にリフレクター(SMR)を置いたときの座標値(xf0,yf0,zf0),(xf1,yf1,zf1),(xf2,yf2,zf2)を測定する。これらの座標値はリフレクター(SMR)の半径分、点F0〜F2からずれているため、得られた3つの座標値から3つの座標を含む平面の式を計算し、測定した座標値からこの平面の法線方向にリフレクター(SMR)の半径分、移動した座標値を計算し、正規の点F0〜F2の座標値(xf0,yf0,zf0),(xf1,yf1,zf1),(xf2,yf2,zf2)とする。なお、リフレクター(SMR)の半径は小さいので、基準座標系の原点とX,Y軸は、定めたものからZ軸方向にリフレクター(SMR)の半径分移動したものとして、測定した3つの座標値をそのまま点F0〜F2の座標値としてもよい。
次に、レーザトラッカー8で得られた座標値を基準座標系の座標値に変換するための座標変換の式を計算する。この座標変換の式は以下の数1に示す座標変換の式におけるg11〜g13及びa,b,cを求めることで得ることができる。
g11〜g13は、a,b,cを0にして、数1の(x’,y’,z’)に(1,0,0)を代入し、(x,y,z)に、{α・(xf1−xf0),α・(yf1−yf0),α・(zf1−zf0)}を代入したときの式、(x’,y’,z’)に(0,1,0)を代入し、(x,y,z)に、{β・(xf2−xf0),β・(yf2−yf0),β・(zf2−zf0)}を代入したときの式、(x’,y’,z’)に(0,0,1)を代入し、(x,y,z)に、{α・(xf1−xf0),α・(yf1−yf0),α・(zf1−zf0)}と{β・(xf2−xf0),β・(yf2−yf0),β・(zf2−zf0)}の外積によるベクトル成分を代入したときの式から得られる、9つの式から成り立つ連立方程式を解くことで求めることができる。なお、αは、〔1/{(xf1−xf0)
2+(yf1−yf0)
2+(zf1−zf0)
2}
1/2〕であり、βは、〔1/{(xf2−xf0)
2+(yf2−yf0)
2+(zf2−zf0)
2}
1/2〕であって、点F0からF1へ向かうベクトルの成分、及び点F0からF2へ向かうベクトルの成分を単位ベクトルの成分にするための係数である。また、a,b,cは、g11〜g13が得られた後、数1の(x’,y’,z’)に(0,0,0)を代入し、数1の(x,y,z)に(xf0,yf0,zf0)を代入したときに得られる3つの式を解くことで求めることができる。
次に、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を変更するごとに、アーム型ロボット1のそれぞれの関節の回転角度を関節モータ制御回路60−1〜60−6からコントローラ91に出力させ、レーザトラッカー8で点S0〜S2にリフレクター(SMR)を置いたときの座標値(xs0,ys0,zs0),(xs1,ys1,zs1),(xs2,ys2,zs2)を測定する。これらの座標値も、点F0〜F2と同様リフレクター(SMR)の半径分、点S0〜S2からずれているため、点F0〜F2のときと同様に補正するか、リフレクター(SMR)の半径は小さいので、点S0〜S2は固定用ブロック52の下面の法線方向にリフレクター(SMR)の半径分移動したものとして、測定した座標値をそのまま用いる。そして、得られた座標値を数1の(x,y,z)に代入することで基準座標系による座標値にする。得られた座標値を(xs0’,ys0’,zs0’),(xs1’,ys1’,zs1’),(xs2’,ys2’,zs2’)とすると、(xs0’,ys0’,zs0’)はアーム型ロボット1の先端の位置を表す基準座標系による座標値である。そして、{α・(xs1’−xs0’),α・(ys1’−ys0’),α・(zs1’−zs0’)}と{β・(xs2’−xs0’),β・(ys2’−ys0’),β・(zs2’−zs0’)}の単位ベクトルの成分はアーム型ロボット1の先端の姿勢を表す基準座標系によるベクトル成分である。なお、αは、〔1/{(xs1’−xs0’)2+(ys1’−ys0’)2+(zs1’−zs0’)2}1/2〕であり、βは、〔1/{(xs2’−xf0’)2+(ys2’−ys0’)2+(zs2’−zs0’)2}1/2〕であって、点S0からS1へ向かうベクトルの成分、点S0からS2へ向かうベクトルの成分を単位ベクトルの成分にするための係数である。なお、別の言い方をすると、(xs0’,ys0’,zs0’)はアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の原点における基準座標系による座標であり、{α・(xs1’−xs0’),α・(ys1’−ys0’),α・(zs1’−zs0’)}はX軸方向の基準座標系による単位ベクトルであり、{β・(xs2’−xs0’),β・(ys2’−ys0’),β・(zs2’−zs0’)}はY軸方向の基準座標系による単位ベクトルである。
そして、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を僅かづつ変更するごとに、上記のようにして得られた、アーム型ロボット1の各関節の回転角度、点S0の座標値、点S0から点S1方向へ向かう単位ベクトルの成分、点S0から点S2方向へ向かう単位ベクトルの成分を、コントローラ91のメモリに順に記憶させていけば、アーム型ロボット1の各関節の回転角度と先端の位置及び姿勢の関係を取得することができ、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を設定すれば、記憶しているこの関係を用いて各関節の回転角度が定まり、関節モータ制御回路60−1〜60−6に回転角度を出力することで、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢は設定した通りになる。
なお、アーム型ロボット1の先端の姿勢を、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の方向における単位ベクトルの成分、すなわち点S0から点S1方向へ向かう単位ベクトルの成分と点S0から点S2方向へ向かう単位ベクトルの成分として表わすと、入力装置92から姿勢の入力を行う際にわかりにくいため(Θx,Θy,Θz)の回転角度の値にし、入力装置92からは姿勢として(Θx,Θy,Θz)の回転角度を入力するようにする。この回転角度は、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸をX’軸,Y’軸として、すなわち、点S0と点S1を通るラインをX’軸、点S0と点S2を通るラインをY’軸として、基準座標系のX軸,Y軸の方向をX’軸,Y’軸の方向に一致させる際、基準座標系のZ軸,Y軸,X軸をその軸周りに回転させる角度である。見方を換えると、このΘz,Θy,Θxは、基準座標系のZ軸,Y軸,X軸方向とX線回折測定装置2の筐体50の高さ方向、幅方向、長尺方向が合うようにした状態から、高さ方向の軸周りにΘz回転させ、幅方向の軸周りにΘy回転させ、長尺方向の軸周りにΘx回転させた状態の姿勢を表すものであるため、入力装置92から姿勢の入力を行う際にわかりやすい値である。そして、このΘz,Θy,Θxは、X’軸方向の単位ベクトル(点S0から点S1方向へ向かう単位ベクトル)の基準座標系による成分、Y’軸方向の単位ベクトル(点S0から点S2方向へ向かう単位ベクトル)の基準座標系による成分から、以下のようにして求めることができる。
まず、点S0から点S1へ向かう単位ベクトルの基準座標系による成分を(x1,y1,z1)とすると、Θzは以下の数2で求めることができる。
(数2)
Θz=tan
−1(y1/x1)
そして、Θyは、以下の数3で求めることができる。
(数3)
Θy=tan
−1{Z1/(x1
2+y1
2)
1/2}
また、Θxは、点S0から点S2へ向かう単位ベクトルの基準座標系による成分を(x2,y2,z2)とすると、以下の数4の座標変換の式により基準座標系のX軸の方向をX’軸の方向にしたときのベクトル成分(x2’,y2’,z2’)を求め、以下の数5で求めることができる。
(数5)
Θz=tan
−1(z2’/y2’)
このようにして計算した回転角度Θz,Θy,Θxを、アーム型ロボット1の各関節の回転角度に関連づけてコントローラ91のメモリに記憶しておくことで、作業者が入力装置92からアーム型ロボット1の先端の姿勢を表す値として回転角度Θz,Θy,Θxを入力すると、各関節の回転角度が定まり、アーム型ロボット1の先端の姿勢は入力装置92から入力した通りになる。なお、アーム型ロボット1の関節の回転角度と回転角度Θz,Θy,Θxとの関係は、換算テーブルの形であり値としては不連続である。よって、入力されたアーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢から各関節の回転角度を定めるときは、換算テーブルの中の最も近い値を選択し、補間法による計算を行う。また、回転角度Θz,Θy,Θxを、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の方向における単位ベクトルの成分にするときは、以下の数6の座標変換の式の(x,y,z)に(1,0,0)、(0,1,0)、(0,0,1)を入力して、それぞれ(x’,y’,z’)を求めればよい。
また、コントローラ91のメモリには、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸と、X線回折測定装置2に定めた座標軸との関係が記憶されている。上述したように、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸は、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を表すものであり、点S0を原点にし、点S0と点S1を通るラインをX’軸、点S0と点S2を通るラインをY’軸にし、X’軸とY’軸に直交する軸をZ’軸にしたものである。そして、X線回折測定装置2に定めた座標軸は、LED光(出射X線)の光軸とイメージングプレート15の位置及び姿勢を表すものであって、具体的にはLED光(出射X線)の光軸とイメージングプレート15の上面が交差する点を原点にし、LED光(出射X線)の光軸をZ軸にし、イメージングプレート15の回転角度0のラインをX軸にし、X軸とZ軸に直交する軸をY軸にしたものである。この座標軸の関係を視覚的に示したものが図7であり、図7ではX線回折測定装置2に定めた座標軸をXr軸、Yr軸、Zr軸としている。そして、コントローラ91のメモリに記憶される関係とは、基準座標系におけるアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の原点(点S0)からX線回折測定装置2に定めた座標軸の原点に向かうベクトルの成分と、基準座標系におけるアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の方向の単位ベクトルをX線回折測定装置2に定めた座標軸の方向の単位ベクトルにするときの回転の行列式である。別の見方をすると、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸をX線回折測定装置2に定めた座標軸に一致させるときの原点の移動方向と移動量、及び基準座標系の座標軸方向周りの回転角度である。コントローラ91のメモリにこの関係が記憶されていることで、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の位置と方向が設定されれば、X線回折測定装置2の座標軸の位置と方向が設定される。具体的には、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢が設定されれば、LED光(出射X線)の光軸とイメージングプレート15の上面が交差する点(イメージングプレート15の中心点)の位置、LED光(出射X線)の光軸方向、イメージングプレート15の回転角度0のラインの方向及び基準平面の法線方向を算出することができる。
コントローラ91のメモリに記憶される、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸と、X線回折測定装置2に定めた座標軸との関係は、以下のようにして求めることができる。なお、この関係を求めるのは、コントローラ91のメモリに、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢とアーム型ロボット1のそれぞれの関節の回転角度との関係が記憶された後である。まず、図8に示すように、X線回折測定装置2からLED光を照射し、カメラ機能を作動させたとき、LED光が照射され撮影画像に写る位置に直方体状のブロックBLが底面が下方から見えるようにセットする。直方体状のブロックBLは上面に十字マークが描かれ、その十字マークのクロス点は上面の中心点、すなわち上面の長方形の対角線が交差する点と合致している。図8では高さ方向位置を変化させることができる支持装置9によりセットするようにしているが、ブロックBLの底面が下方から見えるようにセットできればセットの方法はどのような方法でもよい。次に、前述した関係を求めたときと同様にレーザトラッカー8を用意し、基準座標系の座標軸に設定した点F0〜F2にリフレクター(SMR)をセットし、リフレクター(SMR)の中心座標を測定し、前述した関係を求めたときと同様に、レーザトラッカー8の座標系による座標を基準座標系による座標に変換する座標変換の式である数1を計算する。ただし、レーザトラッカー8を前述した関係を求めたときから移動していなければ、先に得られた座標変換の式をそのまま使用すればよいので、この作業は不要である。
次に、アーム型ロボット1のそれぞれの関節の回転角度から既にメモリに記憶されている関係を用いてアーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢、すなわち点S0の座標、X’軸方向及びY’軸方向の単位ベクトルの成分を取得する。そして、図8に示すようにブロックBLの位置を実線で示すように、X線回折測定装置2に近い位置にし、すなわち撮影画像の上方にLED光の照射点が写るようにし、ブロックBLの上面の十字マークの中心と照射点が合致するようブロックBLの位置を調整する。この状態で、撮影画像上のLED光の照射点の位置から照射点−撮像面間距離L1を取得する。次に、ブロックBLの底面の角である点B1〜B3にリフレクター(SMR)をセットし、レーザトラッカー8によりそれぞれのリフレクター(SMR)の中心座標を測定し、この座標を数1の座標変換の式により基準座標系による座標に変換する。そして、得られた3つの座標からブロックBLの上面の中心点B01の座標(xb1,yb1,zb1)を計算する。この計算は、ブロックBLの下面の長方形の対角線の中心点の座標を求め、下面の上面に向かう法線方向の単位ベクトルを求め、リフレクター(SMR)の半径とブロックBLの高さ方向の長さを加算した値をこの単位ベクトルに乗算して、対角線の中心点の座標に加算すればよい。なお、図8において点B1〜B3は1つのライン上にあるようになっているが、実際は点B3は点B1から紙面垂直方向にあり、点B1と重なっている。
次に、図9に示すようにブロックBLの位置を点線で示すように、X線回折測定装置2から離れた位置にし、すなわち撮影画像の下方にLED光の照射点が写るようにし、ブロックBLの十字マークの中心とLED光の照射点が合致するようブロックBLの位置を調整する。この状態で、撮影画像上のLED光の照射点の位置から照射点−撮像面間距離L2を取得する。そして、上述した作業と同じ作業を行って、ブロックBLの上面の中心点B02の座標(xb2,yb2,zb2)を取得する。次に、図9に示すようにブロックBLの位置を1点鎖線で示すように、LED光が照射されない結像レンズ48から離れた位置にし、ブロックBLの十字マークの中心が撮影画像における十字マークの縦方向ラインと重なるようブロックBLの位置を調整する。そして、上述した作業と同じ作業を行って、ブロックBLの上面の中心点B03の座標(xb3,yb3,zb3)を取得する。撮影画像において図9における3つのブロックBLを示したものが図10であり、(a)の撮影画像は図9の実線のブロックBL、(b)の撮影画像は図9の点線のブロックBL、(c)の撮影画像は図9の1点鎖線のブロックBLである。このようにして得られた、2つの照射点−撮像面間距離L1,L2と3つの中心点B01〜B03の座標から、X線回折測定装置2に定めた座標軸の原点と座標軸の方向の単位ベクトルの成分を計算する。なお、得られた3つの中心点B01〜B03の座標は基準座標系による値であるので、以後計算される座標及びベクトル成分は、すべて基準座標系による値である。
まず、Z軸方向の単位ベクトルの成分は、{α・(xb2−xb1),α・(yb2−yb1),α・(zb2−zb1)}で計算される。αは、〔1/{(xb2−xb1)2+(yb2−yb1)2+(zb2−zb1)2}1/2〕であり、点B01から点B02へ向かうベクトルの成分を単位ベクトルの成分にするための係数である。そして、座標軸の原点は、点B01の座標(xb1,yb1,zb1)に、上記のように得られたZ軸方向の単位ベクトルの成分に照射点−撮像面間距離L1を乗算して符号を逆にしたベクトルの成分を加算することで得ることができる。また、点B02の座標(xb2,yb2,zb2)に、上記のように得られたZ軸方向の単位ベクトルの成分に照射点−撮像面間距離L2を乗算して符号を逆にしたベクトルの成分を加算してもで得ることができるので、得られた2つの座標値を平均すればよい。次に、Y軸方向の単位ベクトルは、3つの点B01〜B03の座標から3つの点B01〜B03を含む平面(基準平面)の式を算出すれば、この平面の法線ベクトルが計算されるので、この法線ベクトルの単位ベクトルを計算することで得ることができる。さらに、X軸方向の単位ベクトルは、Y軸方向の単位ベクトルとZ軸方向の単位ベクトルの外積から得ることができる。
そして、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸と、X線回折測定装置2に定めた座標軸との関係である、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の原点からX線回折測定装置2に定めた座標軸の原点に向かうベクトルの成分と、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の方向の単位ベクトルをX線回折測定装置2に定めた座標軸の方向の単位ベクトルにするときの回転の行列式は以下のようにして計算する。まず、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の原点からX線回折測定装置2に定めた座標軸の原点に向かうベクトルの成分は、X線回折測定装置2に定めた座標軸の原点を(xr0,yr0,zr0),アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の原点を(xs0,ys0,zs0)とすると、(xr0−xs0,yr0−ys0,zr0−zs0)で得ることができる。そして、X線回折測定装置2に定めた座標軸の方向の単位ベクトルをアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の方向の単位ベクトルにするときの回転の行列式は、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸のX軸方向の単位ベクトルを(xs1,ys1,zs1)、Y軸方向の単位ベクトルを(xs2,ys2,zs2)、Z軸方向の単位ベクトルを(xs3,ys3,zs3)とし、X線回折測定装置2に定めた座標軸のX軸方向の単位ベクトルを(xr1,yr1,zr1)、Y軸方向の単位ベクトルを(xr2,yr2,zr2)、Z軸方向の単位ベクトルを(xr3,yr3,zr3)とすると、以下の数7の式の(x,y,z)に、(xs1,yrs,zs1)、(xs2,ys2,zs2)、(xs3,ys3,zs3)を代入し、(x’,y’,z’)に、(xr1,yr1,zr1)、(xr2,yr2,zr2)、(xr3,yr3,zr3)を代入したときに成立する9つの式からなる連立方程式を解いてg11〜g33を求めることで得ることができる。
これにより、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸と、X線回折測定装置2に定めた座標軸との関係を得ることができる。なお、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸と、X線回折測定装置2に定めた座標軸との関係は、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢によらず一定であるので、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を変えて上述した作業を行い、複数の(xs0−xr0,ys0−yr0,zs0−zr0)と行列式の係数g11〜g33を求め、平均することで精度のよい関係を求めることが好ましい。
そして、コントローラ91のメモリに上述したように求めた、ベクトル成分(xr0−xs0,yr0−ys0,zr0−zs0)と行列式の係数g11〜g33を記憶しておけば、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の原点の座標にベクトル成分(xs0−xr0,ys0−yr0,zs0−zr0)を加算し、アーム型ロボット1の先端に定めた3つの座標軸の方向の単位ベクトルを数7の行列で変換すれば、X線回折測定装置2に定めた座標軸の原点の座標と3つの座標軸の方向の単位ベクトルになる。
また、コントローラ91のメモリには、3次元形状測定装置の座標系と基準座標系との関係が記憶されている。これは、具体的には3次元形状測定装置の座標系による3次元形状データを基準座標系による3次元形状データに変換するための座標変換係数であり、数1の係数g11〜g33とa,b,cである。そして、コントローラ91は入力装置92から3次元形状測定完了の指令が入力すると、記憶されている座標変換係数により、3次元形状測定装置の座標系による3次元形状データを基準座標系の3次元形状データに変換する。この座標変換係数は、以下のようにして求めることができる。まず、図11に示すようにステージ5を取り除いてテーブル6上に半径を異ならせた球体TBを3つ載置する。球体TBの載置の仕方は球体TBの中心が直線にならなければ任意である。そして、3次元形状測定装置85により3次元形状測定を行い、コントローラ91で得られる3次元形状データから、球体TBの3次元形状データを抽出し、球体TBの中心座標を計算する。これは、ステージ5を使用した3次元形状測定において球体SBの3次元形状データを抽出し、中心座標を求める演算と演算方法は同じである。球体TBは半径を異ならせており、中心座標を計算する際に半径も計算するので、得られた球体TBの中心座標はどの球体TBのものであるか識別することができる。
次に、前述した関係を求めたときと同様にレーザトラッカー8を用意し、基準座標系の座標軸に設定した点F0〜F2にリフレクター(SMR)をセットし、リフレクター(SMR)の中心座標を測定し、前述した関係を求めたときと同様に、レーザトラッカー8の座標系による座標を基準座標系による座標に変換する座標変換係数である数1を計算する。ただし、図11ではレーザトラッカー8の位置はこれ以前の図の位置から移動させているが、レーザトラッカー8を前述した関係を求めたときから移動していなければ、先に得られた座標変換係数をそのまま使用すればよいので、この作業は不要である。
次に、図11に示すようにリフレクターSMRを球体TBの表面に接触させ、リフレクターSMRの中心座標をレーザトラッカー8で測定し、この座標を得られている座標変換係数で変換し基準座標系による座標にする。これを1つの球体TBにおいて接触させる表面の位置を異ならせて、4回以上行い、得られた座標を球の式に代入して成立する連立方程式を解くことで中心座標を求める。これにより、3つの球体TBの中心座標が基準座標系による値と3次元形状測定装置の座標系による値で得られるとともに、それぞれの球体TBの中心座標は球体TBが識別されているので、2つの座標系で対比させることができる。よって、座標変換の式である数1の(x,y,z)に3次元形状測定装置の座標系による座標値を代入し、(x’,y’,z’)に基準座標系による座標値を代入し、さらに、a,b,cを0にした数1の(x,y,z)と(x’,y’,z’)に3つの座標の2つを結ぶベクトルの外積によるベクトルの成分を代入することで12個の式からなる連立方程式を作成する。この連立方程式を解くことで係数g11〜g33とa,b,cを求めることができる。これは公知の計算方法であり、特許第4291178号等で説明されている。
このようにして構成されたX線回折測定システムにおいて、作業者は測定対象物OBのX線回折測定を行うときは、まずステージ5に測定対象物OBを載置し、ステージ5の複数の回転角度で入力装置92から3次元形状測定の指令を入力する。これにより、3次元形状測定装置85はコントローラ91の指令で測定を行い、コントローラ91にステージ5のそれぞれの回転角度での3次元形状データ又はその元データが入力する。コントローラ91はデータが入力するごとに上述した演算処理により、入力又は作成された3次元形状データをステージ5の基準回転角度での3次元形状データに変換し、さらに上述した演算処理によりテーブル6やステージ5等の余計な3次元形状データを除去して、測定対象物OBの3次元形状データのみにする。そして、作業者が入力装置92から3次元形状測定完了の指令を入力すると、コントローラ91は、3次元形状測定装置の座標系によるデータであるこの3次元形状データを記憶されている座標変換係数により座標変換して、基準座標系での3次元形状データにする。これによりコントローラ91に記憶されている座標やベクトル成分に関する値は、すべて基準座標系による値になる。
次に作業者はステージ5を基準回転角度にし、入力装置92から位置姿勢調整を入力する。これにより、コントローラ91は発光制御回路78とセンサ信号取出回路72に指令を出力し、X線回折測定装置2からは出射X線と同じ光軸の平行なLED光が出射され、撮像器49が出力した撮像信号から作成された撮影画像が表示装置93に表示される。そして、作業者は入力装置92からアーム型ロボット1の先端の位置と姿勢を入力して、X線回折測定装置2から出射されるLED光の照射点が、測定対象物OBの測定点近傍になるとともに、おおよそでLED光の照射方向を測定対象物OBの表面に投影した方向が残留垂直応力の測定方向になるようにする。
コントローラ91は撮影画像にLED光の照射点が生じると、LED光照射点の縦方向位置を検出することを繰り返し行う。そして、入力装置92からアーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢が入力するごとに、記憶されている3次元形状データ、記憶されているアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸とX線回折測定装置2に定めた座標軸との関係、及び記憶されている撮影画像における照射点縦方向位置と照射点−撮像面間距離との関係を用いて、X線照射点の座標、照射点―撮像面間距離、X線の入射角、基準平面傾き角及び残留垂直応力の測定方向を計算する。そして、表示装置93に照射点―撮像面間距離、X線の入射角、基準平面傾き角の値を表示するとともに、3次元形状データから作成した3次元画像上にX線照射点及び残留垂直応力の測定方向を表示する。
これらの値を計算する方法を視覚的に示したものが図12である。アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢が定まるということは、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の位置と方向が定まるということであり、これから記憶されているアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸とX線回折測定装置2に定めた座標軸との関係を用いれば、LED光(出射X線)の光軸とイメージングプレート15の上面が交差する点(図12の○で示される点)Gの座標値、LED光(出射X線)の光軸Rの方向(Zr軸方向)の単位ベクトルの成分、イメージングプレート15の回転角度0のラインの方向(Xr軸方向)の単位ベクトル成分及び基準平面の法線方向(Yr軸方向)の単位ベクトルの成分が計算される。
3次元形状データ(図12の●で示される点)で表される測定対象物OBの表面とLED光(出射X線)の光軸Rが交差する点(図12の◎で示される点)PがX線照射点であり、点Gの座標値とZr軸方向の単位ベクトルから定まるLED光(出射X線)の光軸Rの直線の式と3次元形状データを用いて演算処理することで計算することができる。しかし、3次元形状データの量は多く、光軸Rの直線の式に近い3次元形状データを抽出するだけでも、多くの演算を要する。よって、結果が出るまでの時間を短くするため(よりリアルタイムで表示装置93への表示を行うため)、X線照射点Pの座標計算は別の方法を用いる。コントローラ91は撮影画像におけるLED光照射点の縦方向位置を検出することを繰り返し行っており、検出されるLED光照射点の縦方向位置を、記憶されている撮影画像における照射点縦方向位置と照射点−撮像面間距離との関係に当てはめれば、照射点―撮像面間距離を求めることができる。得られた照射点―撮像面間距離をZr軸方向の単位ベクトルに乗算し、点Gの座標値に加算すれば、X線照射点Pの座標を求めることができる。
次にコントローラ91は得られたX線照射点Pの座標から基準座標系のX,Y,Z軸方向の距離が所定範囲内の3次元形状データを抽出する。これは視覚的には図12の立方体Cの内側に含まれる3次元形状データ(●で示される点)を抽出することである。そして、抽出した3次元形状データを平面の式に当てはめることで最小2乗法により平面Sの式の係数を計算し、得られた平面Sから抽出した3次元形状データまでの距離をそれぞれ計算し平均する。距離の平均値が予め設定した許容値より大きい場合は、抽出した3次元形状データが表す面は平面からの乖離が大きいとして、X線照射点Pの座標からの距離の範囲を狭くして(立方体Cの大きさを小さくして)再度同じ計算を行う。このようにして、抽出した3次元形状データが表す面が平面に近似できるまで同じ計算を行う。得られた平面Sの式の係数は法線ベクトルの成分であるが、符号を逆にした2つの法線ベクトルが考えられるので、Zr軸方向の単位ベクトルの反対方向ベクトルとの成す角度を内積の式から計算し、90°以下の方を平面Sの法線ベクトルVとする。このとき計算される角度が法線ベクトルVとX線照射点Pから点Gに向かうベクトルとが成す角度であり、X線の入射角である。次に、法線ベクトルVとYr軸方向の単位ベクトルとが成す角度を内積の式から計算し、90°から減算する。得られた角度が基準平面と法線ベクトルVが成す角度であり、基準平面傾き角である。さらに、法線ベクトルVとZr軸方向の単位ベクトルとの外積によるベクトルを計算し、得られたベクトルと法線ベクトルVの外積によるベクトルを計算する。得られたベクトルが 光軸RとX線照射点Pでの平面Sの法線を含む平面が平面Sと交差するラインに平行なベクトルであり、残留垂直応力の測定方向に平行なベクトルである。これにより、X線照射点の座標、照射点―撮像面間距離、X線の入射角、基準平面傾き角及び残留垂直応力の測定方向のすべてが計算されたことになる。
さらにコントローラ91は計算された照射点―撮像面間距離及びX線の入射角と予め設定されたそれぞれの許容範囲とを比較し、X線回折測定が可能か否かの判定結果も表示装置93に表示する。照射点―撮像面間距離が大きすぎると、回折環の径がイメージングプレート15の径よりも大きくなって回折環が撮像されず、小さすぎると、レーザ検出装置30による回折環の検出が不可能になる。また、X線の入射角が90°に近くなったり0°に近くなると、残留垂直応力の測定精度が悪くなる。よって、許容範囲はX線回折測定が精度よく行われる範囲により適宜決めればよい。
作業者は、入力装置92からアーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を入力するごとに、表示装置93に表示される、照射点―撮像面間距離、X線の入射角及び基準平面傾き角の値と、測定対象物OBの3次元画像上に示されるX線照射点及び残留垂直応力の測定方向と、X線回折測定が可能か否かの判定結果を見て、X線回折測定装置2の位置及び姿勢を調整する。そして、位置及び姿勢がこれでよいとなった時点で、入力装置92から位置姿勢調整完了を入力する。これにより、コントローラ91は最後に計算した照射点―撮像面間距離、X線の入射角、法線ベクトルVの成分、Zr軸方向方の単位ベクトルの成分及びYr軸方向の単位ベクトルの成分を記憶するとともに、発光制御回路78とセンサ信号取出回路72に指令を出力し、X線回折測定装置2はLED光照射とカメラ撮影を停止する。
この後、作業者は、入力装置92からX線回折測定の開始を入力する。X線回折測定はX線の照射により回折環をイメージングプレート15に撮像する撮像工程、撮像された回折環の形状を検出する読取り工程、該回折環を消去する消去工程、及び検出した回折環の形状から残留応力を計算する計算工程からなるが、このときのX線回折測定装置2及びコントローラ91の作動は、すべて先行技術文献である特許文献1で説明されている通りである。なお、残留応力の計算においては、最後に計算され記憶されている照射点−撮像面間距離及びX線の入射角が用いられる。また、基準平面傾き角が0より大きく離れていると、回折環において回転角度を0とするラインを変更しないと残留応力の測定精度は悪くなるので、回折環において回転角度を0とするラインと基準の回転角度0のラインとの成す角度を計算し、回折環の形状データの1つである回転角度のデータに加算又は減算することで正規の回転角度とする。該角度は、法線ベクトルVとZr軸方向方の単位ベクトルの外積によるベクトルを計算し、得られたベクトルとYr軸方向方の単位ベクトルとが成す角度を内積の式から計算することで求めることができる。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、X線を対象とする測定対象物OBに向けて出射するX線出射器10と、X線出射器10から測定対象物OBに向けてX線が出射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射器10から出射されるX線の光軸に対して略垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15に回折X線の像である回折環を形成する回折環形成手段と、X線出射器10及び回折環形成手段を内部に含む筐体50とを備えたX線回折測定装置2と、筐体50を先端に取り付け、筐体50の位置と姿勢を変化させるアーム型ロボット1とを備えたX線回折測定システムにおいて、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を基準座標系による値で検出するコントローラ91と、測定対象物OBの3次元形状を測定し、3次元形状データを作成するための元データを出力する3次元形状測定装置85と、3次元形状測定装置85が出力する元データを入力し、3次元形状測定装置の座標系による3次元形状データを作成する3次元形状データ作成プログラムと、予め記憶している3次元形状測定装置85の座標系と基準座標系との関係と、予め記憶しているアーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢とX線出射器10から出射されるX線の光軸及びイメージングプレート15の位置及び姿勢との関係と、3次元形状データ作成プログラムが作成した3次元形状データと、コントローラ91が検出した先端の位置及び姿勢とを用いて、X線出射器10から出射されるX線の照射点の座標と、X線の照射点からイメージングプレート15までの距離である照射点−撮像面間距離と、X線出射器10から出射されるX線の入射方向に関する値とを計算するコントローラ91内の演算プログラムとを備えている。
これによれば、3次元形状測定装置85により測定対象物OBの3次元形状を測定し、3次元形状データ作成プログラムにより3次元形状測定装置85の座標系による3次元形状データを作成しておき、X線回折測定装置2の筐体50の位置と姿勢を変化させるごとに、コントローラ91によりアーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を検出すれば、コントローラ91内の演算プログラムが、X線の照射点の座標と、照射点−撮像面間距離と、X線出射器10から出射されるX線の入射方向に関する値とを計算する。コントローラ91はコンピュータ装置であるので、この計算を短時間で行うことでき、X線回折測定装置2の位置及び姿勢を変化させるごとに、照射点―撮像面間距離及びX線の入射方向に関する値をリアルタイムで検出することができる。
また、上記実施形態においては、X線回折測定装置2は、X線出射器10からX線が出射されていない状態で、X線出射器10から出射されるX線と光軸を同一にした平行光であるLED光を出射するLED光出射器と、LED光出射器から出射されたLED光の照射点を含む領域の画像を結像する結像レンズ48、及び結像レンズ48によって結像された画像を撮像する撮像器49を有し、撮像器49が作成する撮影画像を表す撮像信号を出力するカメラとを備え、カメラが出力する撮像信号から作成された撮影画像におけるLED光の照射点の位置を検出するコントローラ91内のプログラムを備え、コントローラ91内の演算プログラムは、照射点位置を検出するプログラムが検出したLED光の照射点の位置、及び予め記憶している撮影画像におけるLED光の照射点の位置と照射点−撮像面間距離との関係をも用いて、X線の照射点の座標と、照射点−撮像面間距離と、X線の入射方向に関する値とを計算している。
これによれば、検出した撮影画像におけるLED光の照射点の位置、及び予め記憶している撮影画像におけるLED光の照射点の位置と照射点−撮像面間距離との関係を用いて、照射点−撮像面間距離が計算でき、照射点−撮像面間距離が得られたうえで出射されるX線の光軸及びイメージングプレート15の位置及び姿勢が計算できれば、X線照射点の座標を計算できる。すなわち、3次元形状データを使用しなくてもX線照射点の座標を計算できる。そして、X線照射点の座標が得られれば、その座標から設定された範囲の3次元形状データを抽出して、X線の入射方向に関する値を計算することができるので、X線回折測定装置2の位置及び姿勢を変化させるごとに、照射点―撮像面間距離及びX線の入射方向に関する値をよりリアルタイムで検出することができる。
また、上記実施形態においては、コントローラ91内の演算プログラムは、3次元形状データを用いて3次元画像を作成するとともに、X線出射器10から出射されるX線の光軸とX線の照射点における測定対象物OBの法線とを含む平面が測定対象物OBと交差するラインを、3次元画像に残留垂直応力の測定方向として表示している。これによれば、残留垂直応力の測定方向が意図した通りか確認することができる。
また、上記実施形態においては、コントローラ91内に演算プログラムが計算した照射点−撮像面間距離及びX線の入射方向に関する値が、予め設定された許容範囲内であるか否かにより、X線回折測定が可能か否かを判定する判定用プログラムを備えている。これによれば、演算プログラムが計算した値を確認せずともX線回折測定が可能か否か判断できるので、効率よくX線回折測定を行うことができる。
(第2実施形態)
上記実施形態におけるX線回折測定システムは、アーム式移動装置をアーム型ロボット1にし、アーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の位置及び方向をアーム型ロボット1を作動させるごとに検出して、予め記憶してあるアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸の位置及び方向とX線回折測定装置2に定めた座標軸の位置及び方向との関係から、X線回折測定装置2に定めた座標軸の位置及び方向を計算するようにした。これに対し、本発明の別の実施形態におけるX線回折測定システムは、アーム式移動装置をX線回折測定装置2の位置及び姿勢を調整することのみが可能なアーム式移動機構にし、3次元形状測定装置85の測定により得られる3次元形状データからX線回折測定装置2に定めた座標軸の位置及び方向を算出するようにしたものである。以下、この別の実施形態を第2実施形態といい、先の実施形態を第1実施形態という。この第2実施形態においても、題1実施形態と同様、アーム式移動機構の先端の位置及び姿勢を変化させるごとに、X線照射点の座標、照射点―撮像面間距離、X線の入射角、基準平面傾き角及び残留垂直応力の測定方向をリアルタイムで計算することができる。
本発明の第2実施形態に係るX線回折測定システムの構成について図13を用いて説明する。第2実施形態が第1実施形態と構成上で異なっている点は、アーム式移動装置をX線回折測定装置2の位置及び姿勢を調整することのみが可能なアーム式移動機構100にした点、X線回折測定装置2の筐体50に基準物体FBと取り付けた点、3次元形状測定装置85を高速で3次元形状測定が行えるものに限定した点及びコントローラ91が実行する演算の方法である。よって、第1実施形態と同じ箇所は説明を省略し、異なっている点のみを説明する。
アーム式移動機構100は、作業者がアーム式移動機構100の先端又はX線回折測定装置2を手で持って動かすと、それぞれの関節が回転し、X線回折測定装置2の位置及び姿勢を作業者が望むように変化させることができる。このアーム式移動機構100は、先行技術文献の特許文献1に示されるアーム式移動装置と同じものである。
3次元形状測定装置85は、測定対象物OBの3次元形状に加えてX線回折測定装置2の筐体50の基準物体である球体FBを取り付けた箇所の3次元形状も測定する。また、3次元形状測定装置85はX線回折測定装置2の位置及び姿勢を調整する間、繰り返して3次元形状測定を実施するので、高速で3次元形状測定が行えるものに限定される。高速で3次元形状測定が行える装置としては、例えば位相シフト法による3次元形状測定装置であるパルステック工業(株)製のFscanがある。この装置を用いれば、1秒の測定時間で測定領域にある物体の3次元形状を測定することができる。
第2実施形態においてはアーム式移動機構100の先端の位置及び姿勢を検出することに替えて、X線回折測定装置2の筐体50の位置及び姿勢を検出する。そのために、X線回折測定装置2の筐体50には半径を異ならせた3つの球体FBが取り付けられており、この3つの球体FBの中心座標を検出することが筐体50の位置及び姿勢を検出することになる。第2実施形態においては基準座標系はなく、すべて3次元形状測定装置の座標系であり、3つの球体FBの中心座標を検出するには3次元形状測定装置85によりX線回折測定装置2の筐体50の球体FBを取り付けた箇所を3次元形状測定する。得られた3次元形状データから球体FBの3次元形状データを抽出し、半径から球体FBを識別して中心座標を求める演算はコントローラ91にて行われるが、この演算方法は第1実施形態で3次元形状測定装置の座標系と基準座標系との関係(座標変換係数)を求める際に、3次元形状データから球体TBの中心座標を求めるときの演算方法と同一である。第2実施形態においては、X線回折測定装置2の位置及び姿勢を調整する間、3次元形状測定装置85により繰り返して3次元形状測定を実施し、測定ごとにコントローラ91内の演算により3つの球体FBの中心座標を求める。なお、得られる3つの球体FBの中心座標は3次元形状測定装置の座標系による値であるが、この座標系は、3次元形状測定装置85の設置位置を変えるごとに変化するので、以下、位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系といい、それ以外の座標系と区別する。
第2実施形態においては、第1実施形態がアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸と、X線回折測定装置2に定めた座標軸との関係がコントローラ91に記憶されていたのに対し、X線回折測定装置2の筐体50の位置及び姿勢とX線回折測定装置2に定めた座標軸との関係がコントローラ91内に記憶されている。具体的には図14に示すように、3つの球体FBの中心座標F1,F2,F3、LED光(出射X線)の光軸とイメージングプレート15の上面が交差する点の座標(座標軸原点)、LED光(出射X線)の光軸の方向(Zr軸方向)の単位ベクトルの成分、イメージングプレート15の回転角度0のラインの方向(Xr軸方向)の単位ベクトル成分及び基準平面の法線方向(Yr軸方向)の単位ベクトルの成分が同一の座標系による値で記憶されている。
そして、コントローラ91は上述したように3つの球体FBの中心座標を計算した後、計算された3つの球体FBの中心座標と記憶されている3つの球体FBの中心座標を用いて座標変換係数を計算し、得られた座標変換係数により、X線回折測定装置2に定めた座標軸の位置と方向の値である、原点座標、Xr軸方向、Yr軸方向、Zr軸方向の単位ベクトルの成分を変換する。座標変換係数の計算方法は、第1実施形態で3次元形状測定装置の座標系と基準座標系との関係(座標変換係数)を求める際の計算方法と同一である。これにより、3次元形状測定装置85により3次元形状測定が行われるごとに、X線回折測定装置2に定めた座標軸の値が位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系による値で得られる。
3つの球体FBの中心座標とX線回折測定装置2に定めた座標軸の位置と方向の値を、同一の座標系で得る方法は以下の通りである。まず、図15に示すように、ブロックBLを支持装置9にセットし、X線回折測定装置2からLED光の照射を行い、X線回折測定装置2にあるカメラ機能により撮影を行う。そして、LED光の照射点に、半径を異ならせた2つの球体CB1,CB2の中心を通るようにした指示針を刺し、3次元形状測定装置85により3次元形状測定を行う。得られた3次元形状データから上述した演算と同様の演算で3つの球体FBの中心座標、2つの球体CB1,CB2の中心座標を算出し、さらに、球体CB2と球体CB1の中心座標を結ぶベクトルの成分を球体CB1に加算した座標の近傍にある3次元形状データを抽出して、ブロックBLの上面の平面式を算出する。平面式の算出は第1実施形態で測定対象物OBの3次元形状データ以外のデータを除外するときに行った演算方法と同一である。次に、球体CB2と球体CB1の中心座標を結ぶ直線の式と算出された平面式とからなる連立方程式を解くことでLED光の照射点の座標を得る。また、X線回折測定装置2にあるカメラ機能による撮影画像からLED光の照射点位置を検出し、予め記憶されている撮影画像における照射点縦方向位置と照射点−撮像面間距離との関係から照射点−撮像面間距離を求める。これにより、3つの球体FBの中心座標、LED光の照射点の座標、照射点−撮像面間距離が得られる。
さらに、ブロックBLの位置を、第1実施形態でアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸とX線回折測定装置2に定めた座標軸との関係を求めた時と同様に(図9に示すように)変え、3次元形状測定して、上述したように3つの球体FBの中心座標、LED光の照射点の座標、及び照射点−撮像面間距離を求める。3つ目はLED光の照射点がない位置であるので、撮影画像の縦方向ラインに合致する箇所に2つの球体CB1,CB2を取り付けた指示針を刺し、LED光の照射点の座標の代わりに基準平面がブロックBLの表面と交差するライン上の点の座標を求める。これにより、3次元形状測定装置の座標系による3つの球体FBの中心座標、2つのLED光の照射点の座標、2つの照射点−撮像面間距離及び基準平面がブロックBLの表面と交差するライン上の点の座標が得られる。そして、2つのLED光の照射点の座標からZr軸方向の単位ベクトルを求め、得られたZr軸方向の単位ベクトル、2つのLED光の照射点の座標、及び2つの照射点−撮像面間距離から原点座標を求め、2つのLED光の照射点の座標と基準平面がブロックBLの表面と交差するライン上の点の座標からYr軸方向の単位ベクトルを求め、Zr軸方向とYr軸方向の単位ベクトルの外積からXr軸方向の単位ベクトルを求める。この計算は、第1実施形態でアーム型ロボット1の先端に定めた座標軸とX線回折測定装置2に定めた座標軸との関係を求めた時と同様である。なお、得られた値の座標系は3次元形状測定装置の座標系であるが、3次元形状測定装置85の位置はX線回折測定装置2の位置及び姿勢調整時とは異なっているので、区別するため、関係取得時の3次元形状測定装置の座標系という。
ステージ5に載置した測定対象物OBの3次元形状測定装置85による3次元形状測定と、コントローラ91での同一の座標系での測定対象物OBの3次元形状データの作成は上記実施形態と同様である。この後、3次元形状測定装置85の位置を変えることなく、X線回折測定装置2の位置及び姿勢の調整を行うならば、作成された3次元形状データは、位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系によるデータである。しかし、3次元形状測定装置85の位置を変えて、X線回折測定装置2の位置及び姿勢の調整を行うならば、作成された3次元形状データは異なる座標系によるデータであるので、座標変換により位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系によるデータにする必要がある。この座標変換を行うための座標変換係数は、3次元形状測定装置85をX線回折測定装置2の位置及び姿勢の調整を行うときの位置にした後、3次元形状測定を行い、得られた3次元形状データからステージ5の球体SBの3次元形状データを抽出して、球体SBを識別すると共に中心座標を求めれば計算することができる。すなわち、ステージ5の基準回転角度のときの球体SBの中心座標と上記のように得られた球体SBの中心座標とを数1に代入してそれぞれの係数を計算すればよい。これはステージ5の様々な回転角度での3次元形状データを基準回転角度での3次元形状データに変換するときの座標変換係数の計算と同様である。
このようにして、X線回折測定装置2の姿勢及び調整を行う段階では、位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系による測定対象物OBの3次元形状データと、関係取得時の3次元形状測定装置の座標系による3つの球体FBの中心座標とX線回折測定装置2に定めた座標軸の位置と方向の値とが、コントローラ91に記憶されている。そして、X線回折測定装置2の姿勢及び調整を開始した後、上述したように、繰り返し作成される3次元形状データを用いた演算により、関係取得時の3次元形状測定装置の座標系によるX線回折測定装置2に定めた座標軸の位置と方向の値が、位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系による値に変換されるので、同一の座標系で測定対象物OBの3次元形状データとX線回折測定装置2に定めた座標軸の位置と方向の値が得られる。また、撮影画像におけるLED光の照射点の位置は逐次得られている。よって、第1実施形態と同様の演算、(視覚的には図12に示される演算)を行うことで、X線照射点の座標、照射点―撮像面間距離、X線の入射角、基準平面傾き角及び残留垂直応力の測定方向が計算される。
このようにして構成された第2実施形態のX線回折測定システムにおいて、作業者は測定対象物OBのX線回折測定を行うときは、まずステージ5に測定対象物OBを載置し、ステージ5の複数の回転角度で入力装置92から3次元形状測定の指令を入力する。これは第1実施形態と同様でありこれにより、ステージ5の基準回転角度での測定対象物OBの3次元形状データが得られる。次に3次元形状測定装置85をX線回折測定装置2の位置調整用の位置に変更したときは、入力装置92から3次元形状データの座標変換の指令を入力する。これにより3次元形状測定装置85は3次元形状測定を行い、位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系による値で3次元形状データが作成されるので、コントローラ91は上述した演算により座標変換係数を計算し、得られている測定対象物OBの3次元形状データを、位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系によるデータに変換する。
この後作業者は、入力装置92から位置姿勢調整を入力する。これにより、X線回折測定装置2からLED光が出射され、撮影画像が表示装置93に表示される。そして、コントローラ91は3次元形状測定装置85に測定開始指令を出力し、3次元形状測定装置85は3次元形状測定を繰り返し行うことを開始し、コントローラ91には3次元形状測定装置85から測定データが入力する。コントローラ91は3次元形状データを作成するごとに、上述した演算によりX線回折測定装置2に定めた座標軸の位置と方向の値を位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系による値に変換することを開始する。作業者はアーム式移動機構100の先端又はX線回折測定装置2を手で持って位置及び姿勢を変化させ、X線回折測定装置2から出射されるLED光の照射点が、測定対象物OBの測定点近傍になるとともに、おおよそでLED光の照射方向を測定対象物OBの表面に投影した方向が残留垂直応力の測定方向になるようにする。
コントローラ91は撮影画像にLED光の照射点が生じると、LED光照射点の縦方向位置を検出することを繰り返し行う。そして、コントローラ91はX線回折測定装置2に定めた座標軸の位置と方向の値が位置姿勢調整時の3次元形状測定装置の座標系による値に変換されるごとに、第1実施形態と同様の演算を行って、X線照射点の座標、照射点―撮像面間距離、X線の入射角、基準平面傾き角及び残留垂直応力の測定方向を計算する。そして、表示装置93に照射点―撮像面間距離、X線の入射角、基準平面傾き角の値を表示するとともに、3次元形状データから作成した3次元画像上にX線照射点及び残留垂直応力の測定方向を表示し、X線回折測定が可能か否かの判定結果を表示する。作業者は、3次元形状測定が行われるごとに、表示されるこれらの値と画像と判定結果を見て、X線回折測定装置2の位置及び姿勢を調整し、位置及び姿勢がこれでよいとなった時点で、入力装置92から位置姿勢調整完了を入力する。このときのコントローラ91の作動は、3次元形状測定装置85に測定停止指令を出力する以外は上記第1実施形態と同様である。また、この後、作業者は、入力装置92からX線回折測定開始を入力するが、このときのコントローラ91及びX線回折測定装置2の作動も上記第1実施形態と同様である。
上記説明からも理解できるように、上記第2実施形態においては、X線を対象とする測定対象物OBに向けて出射するX線出射器10と、X線出射器10から測定対象物OBに向けてX線が出射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射器10から出射されるX線の光軸に対して略垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15に回折X線の像である回折環を形成する回折環形成手段と、X線出射器10及び回折環形成手段を内部に含む筐体50とを備えたX線回折測定装置2と、筐体50を先端に取り付け、筐体50の位置と姿勢を変化させるアーム式移動機構100とを備えたX線回折測定システムにおいて、X線回折測定装置2の筐体50は、筐体50の位置及び姿勢を特定可能な基準物体FBを取り付け、測定対象物OB及びX線回折測定装置2の筐体50の3次元形状を測定し、3次元形状データを作成するための元データを出力する3次元形状測定装置85と、3次元形状測定装置85が出力する元データを入力し、3次元形状測定装置85の座標系による3次元形状データを作成する3次元形状データ作成プログラムと、3次元形状データ作成プログラムが作成した3次元形状データから基準物体FBの3次元形状データを抽出し、筐体50の位置及び姿勢を計算するコントローラ91内の筐体位置姿勢計算プログラムと、予め記憶している筐体50の位置及び姿勢とX線出射器10から出射されるX線の光軸及びイメージングプレート15の位置及び姿勢との関係と、筐体位置姿勢計算プログラムが計算した筐体50の位置及び姿勢と、3次元形状データ作成プログラムが作成した3次元形状データとを用いて、X線出射器10から出射されるX線の照射点の座標と、X線の照射点からイメージングプレート15までの距離である照射点−撮像面間距離と、X線出射器10から出射されるX線の入射方向に関する値とを計算するコントローラ91内の演算プログラムとを備えている。
これによれば、3次元形状測定装置85により測定対象物OBの3次元形状を測定し、3次元形状データ作成プログラムにより3次元形状測定装置の座標系による3次元形状データを作成しておき、X線回折測定装置2の筐体50の位置と姿勢を変化させるごとに、3次元形状測定装置85によりX線回折測定装置2の筐体50の3次元形状を測定し、3次元形状データ作成プログラムにより3次元形状データを作成し、コントローラ91内の筐体位置姿勢計算プログラムにより筐体の位置及び姿勢を計算すれば、コントローラ91内の演算プログラムが作成された測定対象物OBの3次元形状データと、計算された筐体50の位置及び姿勢と、予め記憶している筐体50の位置及び姿勢とX線出射器10から出射されるX線の光軸及びイメージングプレート15の位置及び姿勢との関係とを用いて、X線の照射点の座標と、照射点−撮像面間距離と、X線出射器10から出射されるX線の入射方向に関する値とを計算する。コントローラ91はコンピュータ装置であるので、この計算を短時間で行うことでき、3次元形状測定装置85が高速で3次元形状測定することが可能な装置であれば、X線回折測定装置2の位置及び姿勢を変化させるごとに、照射点―撮像面間距離及びX線の入射方向に関する値をリアルタイムで検出することができる。
なお、本発明の実施にあたっては、上記2つの実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記第1実施形態では、アーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢は入力装置92から入力される値で設定されるようにしたが、アーム型ロボット1を別の操作方式で動かして先端の位置及び姿勢を変化させた場合でも、それぞれの関節の回転角度が検出されれば、記憶されている先端の位置及び姿勢とそれぞれの関節の回転角度との関係からアーム型ロボット1の先端の位置及び姿勢を検出することができるので、上記第1実施形態と同様のことを行うことができる。また、上記第2実施形態のように作業者が手でアーム式移動機構100の先端又はX線回折測定装置2を持って移動させる場合でも、それぞれの関節の回転角度が検出できれば、先端の位置及び姿勢を検出することができるので、上記第1実施形態と同様のことを行うことができる。
また、上記第1実施形態及び第2実施形態では、表示装置93に照射点―撮像面間距離、X線の入射角及び基準平面傾き角の値を表示するとともに、3次元形状データから作成した3次元画像上にX線照射点及び残留垂直応力の測定方向を表示するようにした。しかし、これ以外の値や画像で、3次元形状データおよびその他の値から計算できるものがあれば、表示するようにしてもよい。例えば、測定対象物OBが複雑な形状である場合、X線照射点の場所によっては回折X線が測定対象物OBで妨害される可能性があるので、撮像される回折環の形状を表示するようにしてもよい。これは、X線照射点を原点にし出射X線をZ軸にした座標軸を考え、この座標軸をZ軸周りに少しずつ回転させながら、XZ平面に含まれる3次元形状データと原点を結ぶラインとZ軸とが成す角度の最小値が(180°−標準の回折角2Θ)より小さいか大きいかにより妨害有、妨害無しを判定すればよい。この計算の仕方の詳細は、特許第5915943号の0073、0074及び図8に記載されているので、詳細はそちらを参照する。
また、上記第2実施形態では、X線回折測定装置2の筐体50に基準物体として球体FBを取り付けたが、基準物体は特定点を定義でき3次元形状データを処理して特定点の座標を算出することができるならば、どのような形状でもよく、直方体、角錐、円錐、円柱といった形状であってもよい。これは、ステージ5に取り付けた基準物体SB、第1実施形態で3次元形状測定装置の座標系と基準座標系の関係を求める際に使用した基準物体TBであっても同様である。
また、上記第1実施形態では、アーム型ロボット1の位置及び姿勢とX線回折測定装置2の出射X線の光軸及びイメージングプレート15の位置及び姿勢は、座標軸原点と座標軸方向の単位ベクトル、すなわち1つの座標点と2つのベクトルで表し、上記第2実施形態では、X線回折測定装置2の筐体50の位置及び姿勢は3つの座標点で表した。しかし、位置及び姿勢を表すことができれば、3つの座標点、2つの座標点と1つのベクトル、又は1つの座標点と2つのべクトルのいずれを用いてもよいし、これらの座標点又はベクトルの数を増やしてもよい。ただし、X線回折測定装置2の出射X線の光軸及びイメージングプレート15の位置及び姿勢を表すものは、X線照射点の座標、照射点−撮像面間距離、X線の入射角、基準平面傾き角及び残留垂直応力の測定方向を、より簡単に計算できるもので定めた方がよい。
また、上記第1実施形態及び第2実施形態では、撮影画像上のLED光の照射点位置と、予め記憶されている照射点―撮像面間距離と撮影画像上のLED光の照射点位置との関係から照射点―撮像面間距離を求め、X線回折測定装置2に定義した座標軸の原点の座標にZr軸方向の単位ベクトルに照射点―撮像面間距離を乗算したベクトルを加算することでX線の照射点の座標を求めることで、より簡単にX線照射点の座標、照射点―撮像面間距離、X線の入射角、基準平面傾き角及び残留垂直応力の測定方向を計算するようにした。しかし、コントローラ91に高速のコンピュータ装置を使用することができるならば、3次元形状データとX線回折測定装置2に定義した座標軸の原点の座標とZr軸方向の単位ベクトルから測定対象物OBの表面と出射X線の光軸の交点座標をX線照射点の座標として計算し、これ以外の値を計算するようにしてもよい。
また、上記第1実施形態及び第2実施形態では、X線回折測定装置2を、イメージングプレート15に回折環を撮像し、レーザ検出装置30からレーザ光照射しながら走査して照射位置と光の強度検出を行うことで回折環を読取る装置としたが、回折環を撮像するとともに回折環を読取ることができ、出射X線と同じ光軸を有するLED光を照射でき、LED光の照射点付近を撮像するカメラ機能を備えた装置であれば、どのような方式のX線回折測定装置でも本発明は適用することができる。例えば、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDを備え、X線出射器10からのX線照射の際、X線CCDの各画素が出力する電気信号により回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDの代わりに、微小サイズのX線CCDを位置を検出しながら走査し、X線CCDの各画素が出力する電気信号とX線CCDの走査位置から、回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、X線CCDに替えてシンチレータから出た蛍光を、光電子増倍管(PMT)で検出するシンチレーションカウンタを用いる装置でもよい。なお、請求項に記載された、撮像面に前記回折X線の像である回折環を形成する回折環形成手段とは、上記のように回折X線を受光して回折X線の強度を電気信号として出力する機器も含むものとする。
また、上記実施形態では、コントローラ91に残留応力を演算して求めるプログラムがインストールされているとした。しかし、測定効率を重要視しなければ、X線回折測定装置2は回折環の形状データを取得するまでにし、残留応力の計算は別の装置で行うようにしてもよい。この場合、別の装置に回折環の形状データを入力する方法としては、記録媒体を介する方法、ネット回線等を使用して転送する方法等、様々な方法が考えられる。また、さらに時間がかかってもよければ演算プログラムを使用せず、上記値の計算の一部またはすべてを手計算により行ってもよい。
また、上記実施形態及び変形例においては、プレート45に取り付けたLED光源を出射X線の光軸上に移動させて、LED光を測定対象物OBに照射する構造にした。しかし、出射X線と光軸を同一にした可視の平行光を照射することができれば、どのような構造にしてもよい。例えば、ビームスプリッタを出射X線の光軸上に配置し、LED光をビームスプリッタで反射させて出射X線と光軸を同一にして照射するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、LED光をスピンドルモータ27等に形成した貫通孔を通過させることで小さな断面径の平行光が得られるようにしたが、小さな断面径の可視の平行光が得られるならば、別の構造にしてもよい。例えば、可視光であるレーザ光を出射するレーザ光源の近くにコリメートレンズとエキスパンダーレンズを配置し、小さな断面径のレーザ光の光軸をスピンドルモータ27の貫通孔の中心軸線と一致させて出射するようにしてもよい。