JP2019045218A - 余寿命評価方法及び保守管理方法 - Google Patents
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Abstract
Description
また、本発明の少なくとも一実施形態は、前広に保守管理を実施できる保守管理方法を提供することを目的とする。
評価対象物の探傷により得られる探傷信号を亀裂判別用閾値と対比することで、前記評価対象物における亀裂の大きさ及び位置を求めるステップと、
前記亀裂の前記大きさ及び前記位置を余寿命評価モデルに入力し、前記評価対象物の余寿命を求めるステップと、を備え、
前記亀裂判別用閾値は、少なくとも、局部的なクリープ寿命消費率がX%以上90%以下(但し、50<X<90を満たす。)の疑似亀裂状態の亀裂を判別可能に設定された
ことを特徴とする。
本明細書においては、巨視亀裂のように断面目視観察により観察可能な明確な亀裂だけではなく、クリープボイドの集合(クリープボイドの密集領域)のように、亀裂成長過程上、亀裂とみなせる領域(疑似亀裂状態の亀裂)を含めて亀裂と呼ぶこととする。
なお、上記(1)の方法では、評価対象物の探傷結果から求められた亀裂の大きさ及び位置を余寿命評価モデルに入力することで評価対象物の余寿命が求められるので、迅速に余寿命を評価できる。
前記亀裂判別用閾値は、
第1時点でのサンプル材の探傷結果から前記亀裂判別用閾値を用いて求めた前記疑似亀裂状態の亀裂の大きさ及び位置を前記余寿命評価モデルに入力することで予測される亀裂サイズの経時変化曲線において、前記局部的なクリープ寿命消費率が100%に到達した後の亀裂サイズZ2に対応する予測時点t2CALと、前記亀裂サイズZ2の亀裂が前記サンプル材において実際に測定される第2時点t2ACTとの時間の比(t2ACT/t2CAL)が所定範囲を満たすことが検証された閾値である
ことを特徴とする。
前記基準条件を設定した時に用いた探傷装置と、前記評価対象物の探傷に用いる探傷装置が異なる場合、測定感度を前記増幅条件に設定した上で、両方の探傷装置による前記疑似亀裂状態の亀裂の探傷結果を対比するステップをさらに備える
ことを特徴とする。
前記探傷は、少なくとも前記評価対象物の内部に生じる前記疑似亀裂状態の亀裂を検出可能な内部探傷であることを特徴とする。
前記亀裂判別用閾値は、
試験片を第3時点までクリープ変形させ、
前記第3時点よりも前の第4時点における前記試験片に対して前記探傷を実施し、前記第4時点における探傷信号を取得し、
前記第3時点から前記第4時点へと亀裂成長過程を遡ることで得られる前記第4時点における亀裂の推定サイズと、該第4時点における前記探傷信号とを対比する
ことで予め設定されたことを特徴とする。
前記亀裂の大きさ及び位置を求めるステップでは、
前記評価対象物のうち、該評価対象物について取得した前記探傷信号の信号レベルが前記亀裂判別用閾値以上である領域を前記亀裂として特定することを特徴とする。
この点、上記(19)では、少なくとも、局部的なクリープ寿命消費率がX%以上90%以下(但し、50<X<90を満たす。)の疑似亀裂状態の亀裂を判別可能に設定された亀裂判別用閾値を用いて評価対象物における亀裂の大きさ及び位置を求め、求めた亀裂の大きさ及び位置を余寿命評価モデルに入力して評価対象物の余寿命を求める。したがって、上記(19)の方法は、高強度フェライト鋼からなる部材の余寿命の評価に適している。
上記(1)乃至(19)の何れかの方法により、前記評価対象物の余寿命を評価するステップと、
前記評価対象物の前記余寿命の評価結果に基づいて、前記評価対象物の保守管理を行うステップと、を備えることを特徴とする。
また、本発明の少なくとも一実施形態によれば、前広に保守管理を実施できる。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
まず、図1を参照して、幾つかの実施形態に係る保守管理方法の概要について説明する。
図1は、幾つかの実施形態に係る保守管理方法における各工程を示す図である。幾つかの実施形態に係る保守管理方法は、検査/評価要否判定工程S1と、対象部位選定工程S2と、検査手段選定工程S3と、検査工程S4と、余寿命評価工程S5と、余寿命基準値再設定工程S6と、対策判定工程S7と、監視判定工程S8と、メンテナンス計画立案工程S9と、対策・監視実施工程S10と、亀裂評価基準策定工程S100とを含む。
幾つかの実施形態に係る保守管理方法は、高温で大きな負荷が掛かる環境下で長時間使用される金属製の部材の保守管理に適用される保守管理方法であり、例えば、火力発電設備におけるボイラと蒸気タービンとの間を接続する蒸気配管等の溶接部分の保守管理に適用される。
検査/評価要否判定工程S1は、幾つかの実施形態に係る保守管理方法が適用される複数の対象物のうち、何れの対象物について探傷検査や余寿命の評価を行うのかを判定する工程である。検査/評価要否判定工程S1では、検査対象となり得る対象物が、例えば火力発電設備におけるボイラと蒸気タービンとの間を接続する複数系統の蒸気配管等であれば、複数系統存在する蒸気配管のうち、何れの系統の配管について検査や余寿命の評価を行うのかを判定する。
例えば、検査対象となり得る対象物が上述した複数系統の蒸気配管であれば、複数系統存在する蒸気配管のうち、詳細な検査や余寿命の評価の必要性を判定する配管系統を選択する。この場合、全ての配管系統を選択してもよく、一部の配管系統だけを選択してもよい。そして、選択された配管系統のそれぞれに対して、配管系統の中で最も余寿命が短いと経験上推定される部分に対して簡易的に余寿命の評価を行う。
検査/評価要否判定工程S1において行われる簡易的に余寿命の評価では、後述する余寿命の評価方法を用いてもよい。
対象部位選定工程S2は、検査/評価要否判定工程S1で探傷検査や余寿命の評価を行うと判定された対象物において、どの部分に対して探傷検査や余寿命の評価を行うのかを選定する工程である。
例えば火力発電設備におけるボイラと蒸気タービンとの間を接続する複数系統の蒸気配管を例に説明すると、対象部位選定工程S2では、検査/評価要否判定工程S1で探傷検査や余寿命の評価を行うと判定された配管系統において、どの部分に対して探傷検査や余寿命の評価を行うのかを選定する。具体的には、例えば、配管系統における複数個所の溶接部のうち、どの溶接部について探傷検査や余寿命の評価を行うのかを選定する。
検査手段選定工程S3は、対象部位選定工程S2で探傷検査や余寿命の評価を行うこととして選定した部位をどのような方法で探傷検査や余寿命の評価を行うのかを選定する工程である。幾つかの実施形態では、まず、余寿命の評価方法を選定し、選定した余寿命の評価方法に適した探傷検査方法を選定する。
余寿命の評価には、例えば亀裂進展計算、FEM、損傷力学的評価、ボイドシミュレーション法又は組織シミュレーション法等を用いることができる。
また、探傷検査には、フェーズドアレイ法、UT法、開口合成法、高周波UT法、又は、超音波ノイズ法を用いることができる。なお、ここで高周波UT法とは、20MHz以上の周波数の超音波を用いた探傷検査を指す。
検査工程S4は、対象部位選定工程S2で選定した部分に対して検査手段選定工程S3で選定した検査方法で探傷検査を行い、亀裂の評価を行う工程である。以下の説明では、探傷検査及び亀裂の評価を行う部分のことを検査対象部又は評価対象部とも呼ぶ。また、評価対象部を含む対象物を評価対象物とも呼ぶ。
検査工程S4では、亀裂評価基準策定工程S100で決定された亀裂の評価基準に基づいて亀裂の評価を行う。
検査工程S4及び亀裂評価基準策定工程S100の詳細については、後で説明する。
余寿命評価工程S5は、検査工程S4で探傷検査及び亀裂の評価を行った評価対象部について、検査手段選定工程S3で選定した余寿命の評価方法で余寿命の推定(評価)を行う工程である。
余寿命評価工程S5の詳細については、後で説明する。
余寿命基準値再設定工程S6は、余寿命評価工程S5で余寿命の評価を行った結果、余寿命評価における因子の値の見直し等を行う必要性が生じた場合等に、因子の値等を再設定する工程である。具体的には、例えば余寿命評価工程S5で余寿命の評価を行った際に、温度条件として用いた値が評価対象部の設計値であり、この設計値が十分な安全率を見込んだ値であった場合、余寿命評価工程S5で推定される余寿命が必要以上に短くなるおそれがある。例えば、このような場合に、温度条件として実測値を用いて余寿命を推定することで妥当な結果が得られることも考えられる。そこで、必要に応じて、余寿命基準値再設定工程S6において余寿命評価における因子の値の見直し等を行う。
なお、余寿命基準値再設定工程S6で因子の値の見直し等を行った場合、見直し後の因子の値に基づいて、余寿命評価工程S5で再度余寿命の評価を行う。また、余寿命評価工程S5で余寿命の評価を行った結果、余寿命評価における因子の値の見直し等を行う必要がないと判断された場合には、余寿命基準値再設定工程S6は実施されない。
対策判定工程S7は、例えば余寿命評価工程S5での余寿命の評価結果に基づいて、評価対象部に対して交換や補修、延命措置等の対策を行うか否かを判断し、対策が必要と判断されれば、どのような対策を行うのかを決定する工程である。
具体的には、余寿命評価工程S5での余寿命の評価結果から、例えば予定されている今回の修繕時期から次回の修繕時期までの間の期間に評価対象部が寿命に達することが判明したときには、対策判定工程S7において、当該評価対象部についての交換や補修、延命措置等の対策を決定する。対策判定工程S7では、当該評価対象部を交換するのか、補修をするのか、補修であればどのような補修を行うのか、延命措置を講ずるのか、延命措置を講ずるのであればどのような措置を講ずるのか等が決定される。
監視判定工程S8は、今後の機器の運転において監視を行う必要がある部分の有無や監視方法を判定する工程である。監視判定工程S8では、例えば対策判定工程S7で補修等の対策を行うと判定された評価対象部について監視が必要であるか否か、監視する場合にはどのような方法で監視するのかを判定する。また、監視判定工程S8では、例えば余寿命評価工程S5における余寿命の評価結果から対策判定工程S7で交換や補修等の必要がないと判定されている評価対象部について、念のため監視をした方がよいか否か、監視する場合にはどのような方法で監視するのかを判定する。
なお、例えば検査/評価要否判定工程S1で、より詳細な検査や余寿命の評価を行う必要がないと判定された部分であっても、監視判定工程S8において、今後の機器の運転において念のため監視すると判定する場合のように、対策判定工程S7を経ずに監視判定工程S8を実施することもある。
メンテナンス計画立案工程S9は、各対象物について、いつの時点でどのような対策を行うのかを検討する工程である。なお、例えば対策判定工程S7で交換を行うと判定され、交換によって十分な余寿命が確保される部分のように、当面メンテナンス計画が必要ない場合には、メンテナンス計画立案工程S9は実施されない場合がある。
対策・監視実施工程S10では、対策判定工程S7で必要と判定された交換や補修等を実施したり、監視判定工程S8で監視が必要であると判定された部分に対する監視を行う工程である。
なお、上述した対策判定工程S7から対策・監視実施工程S10までの工程を保守管理工程S11と呼ぶ。
このように、幾つかの実施形態では、余寿命評価工程S5と、評価対象物の余寿命の評価結果に基づいて、評価対象物の保守管理を行う保守管理工程S11と、を備える。
これにより、評価対象物の損傷状態が巨視亀裂のように目視観察により観察可能な亀裂が発生する前の段階であっても評価対象物の余寿命を評価できるので、前広に評価対象物の保守管理を行うことができる。
また、幾つかの実施形態では、評価対象部に対する措置には、評価対象物の交換、補修又は延命措置の少なくとも一つを含む。
これにより、評価対象物の損傷状態が巨視亀裂のように目視観察により観察可能な亀裂が発生する前の段階であっても評価対象物の余寿命を評価できるので、評価対象物の交換、補修又は延命措置を前広に実施できる。
幾つかの実施形態に係る保守管理方法が適用される対象物は、例えば上述したように、火力発電設備におけるボイラと蒸気タービンとの間を接続する蒸気配管等である。このような蒸気配管には、複数の種類の溶接個所が存在する。例えば、蒸気配管には、配管同士を接続する円周溶接部や、配管と分岐管とを接続する管台溶接部が存在する。また、配管が板状部材から製造されている場合には、板の端部同士を接続するために管軸方向に延在する長手溶接部が存在する。
例えば溶接部のクリープ損傷の進行形態(亀裂成長過程)は次のとおりである。経年使用に伴い、まず溶接による熱影響部(HAZ部)の粒界にクリープボイドが発生する。次に、そのクリープボイドの数が増加するとクリープボイドが合体して最終的には巨視亀裂となり、その巨視亀裂が伝播して最終的に貫通に至る。
本明細書においては、巨視亀裂のように断面目視観察により観察可能な亀裂だけではなく、クリープボイドの集合(クリープボイドの密集領域)のように、亀裂成長過程上、亀裂とみなせる領域(疑似亀裂状態の亀裂)を含めて亀裂と呼ぶこととする。
そこで、幾つかの実施形態では、検査工程S4及び余寿命評価工程S5を以下に述べるようにして実施する。
以下、検査工程S4について詳細に説明する。
以下で説明する幾つかの実施形態では、検査工程S4における評価対象部が例えば上述した蒸気配管の溶接部であるものとする。また、以下で説明する幾つかの実施形態では、検査工程S4における内部探傷検査は、例えば超音波を利用したフェーズドアレイ法による内部探傷検査であるものとする。なお、フェーズドアレイ法以外であっても、開口合成法、高周波UT法、又は、超音波ノイズ法によって内部探傷検査を行ってもよい。なお、以下の説明では、探傷検査で得られる結果について、探傷信号、信号レベル、反射波、反射エコー、もしくは単にエコーと呼ぶ。
図2は、検査工程S4で実施されるステップを示したフローチャートである。
検査工程S4は、探傷装置の測定感度を設定又は確認する感度設定/確認工程S41と、評価対象物の評価対象部に対して内部探傷検査を実施し、探傷信号を取得する本探傷工程S42と、後述する亀裂評価基準策定工程S100で決定された亀裂の評価基準に従って、評価対象部について取得した探傷信号に基づいて評価対象部の亀裂の有無を評価する亀裂評価工程S43とを備える。
当該基準条件は、JIS等で一意に定められた局在する所定の欠陥を検出するために設定された探傷装置の感度である。この設定により、例えば、数mm程度に成長したクリープ性の亀裂の探傷が可能となる。当該基準条件における探傷装置の感度調整は、具体的には、JIS Z 3060:2015「鋼溶接部の超音波探傷試験方法」に記載された対比試験片を用いて行う。
図示はしないが、対比試験片には標準穴が設置されており、その標準穴からの反射波の最大エコーが80%になるように探傷装置の感度(測定感度)を調整する。その結果得られた感度を基準感度(基準条件の感度)とする。なお、80%とは、探傷装置の最大測定限界のエコーを100%としたときに、80%のエコーが観測されることをいう。
よって、幾つかの実施形態では基準感度よりも感度を10dB〜30dB上げたうえで、次に述べる本探傷工程S42における探傷に際しての判読性を考慮して、信号レベル閾値thとなるエコー高さが20〜80%となるように感度を調節してもよい。
ここで、10dB感度を上げることは、信号を約3.2倍に増幅することを意味する。10dB感度を上げた条件で、信号レベル閾値thとなるエコー高さを仮に20%と設定した場合、基準感度の条件において約6.3%(≒20%/3.2)に対応するエコー高さを判定用として用いることになる。
なお、本探傷工程S42を繰り返し実施する場合、感度設定/確認工程S41がすでに実施されていれば、本探傷工程S42を実施するたびに事前に感度設定/確認工程S41を繰り返し実施する必要はない。
本探傷工程S42では、図3に示したように、フェーズドアレイ超音波探傷装置2によって、評価対象部である溶接部4aの内部に超音波を走査しながら照射し、超音波の反射波(エコー)を受信する。なお、図3は、本探傷工程S42にて評価対象物の溶接部4aから得られる、超音波の反射波の強度(エコー高さ)分布を説明するための図である。
評価対象部である溶接部4aとは、ボイラ等、実際に使用されている機器(実機)の配管等の溶接部4aである。
なお、反射波の強度は、照射する超音波の強度によっても変化するので、本明細書において反射波の強度とは、照射する超音波の強度に対する反射波の強度の比であってもよい。
このように、幾つかの実施形態では、探傷は、少なくとも評価対象物の内部に生じる疑似亀裂状態の亀裂を検出可能な内部探傷であるので、評価対象物の内部に発生した疑似亀裂状態の亀裂の大きさ及び位置に基づいて評価対象物の余寿命を評価できる。
図4に示すように、亀裂評価工程S43は、亀裂判別用閾値取得工程S431と、比較工程S432と、亀裂特定工程S434と、閾値到達寿命推定工程S435とを含む。
これにより、評価対象物における疑似亀裂状態の亀裂のサイズを特定できる。
なお、本明細書において、亀裂の長さとは、特に断らない限り、溶接部の厚さ方向、例えば配管の肉厚方向、での亀裂の長さを意味するものとする。
本探傷工程S42で内部探傷を行った評価対象部の全てについて亀裂特定工程S434又は閾値到達寿命推定工程S435が実施されていれば、ステップS436が肯定判断されて、亀裂評価工程S43における処理を終了する。
本探傷工程S42で内部探傷を行った評価対象部のうち、亀裂特定工程S434又は閾値到達寿命推定工程S435が未実施の評価対象部があれば、ステップS436が否定判断されて比較工程S432へ戻る。
なお、亀裂特定工程S434では、評価対象部において信号レベルSが信号レベル閾値th以上となる領域の大きさ及び位置を特定し、特定した領域の大きさ及び位置を評価対象部における亀裂の大きさ及び位置としている。
このように、信号レベル閾値thは、疑似亀裂状態の亀裂を検出するための判定基準としているが、この判定基準が妥当であるかの検証を行うことが望ましい。
図5では、クリープ試験によって供試材にクリープ損傷を付与して内部探傷検査を行った時点(第1時点)を横軸の起点とし、第1時点で検出された疑似亀裂状態の亀裂Caがその後のクリープ試験により、どのように進展するかを評価した結果を示している。
図5において、実線のグラフは、余寿命評価工程S5において余寿命を評価するために用いる余寿命評価モデルと同じ余寿命評価モデルにより求められる亀裂の成長過程を示し、破線のグラフは、実線で示した亀裂の成長過程を示す上記グラフの1/2倍及び2倍の範囲を示すものである。
図5において、点Ca1は、第1時点で実施した内部探傷検査の結果と信号レベル閾値thとに基づいて得られる疑似亀裂状態の亀裂Caの大きさを示すプロットであり、点Ca2は、第1時点から所定時間経過後の第2時点において切断調査によって測定した亀裂Caの大きさを示すプロットである。
疑似亀裂状態の亀裂は、上述の通りクリープボイドの集合(クリープボイドの密集領域)を指し、健全部との境界は不明確である。そのため、信号レベル閾値thはクリープボイドの密集状況等の観察結果からは一概には決めることが難しい。
一方、余寿命評価において最も重要なことは、局部的なクリープ寿命消費率が100%に到達した後の亀裂の進展を精度よく予測することである。ここで、余寿命評価モデルによる亀裂進展の予測精度は、初期入力値の亀裂長さ、位置(深さ)が大きく影響する。
そこで、本発明者らは、信号レベル閾値thを定めた供試材とは異なる供試材において、信号レベル閾値thを用いて求めた疑似亀裂状態の亀裂の大きさ及び位置に対して、余寿命評価モデルの初期入力値としての妥当性を検証すればよいと考えた。この考え方に基づき、疑似亀裂状態の亀裂の大きさ、位置を余寿命評価モデルに入力して、亀裂進展の予測精度が所定範囲内であれば、初期入力値として妥当、換言すれば信号レベル閾値thは妥当と評価する。ここで所定範囲は、任意に設定されるが、0.5以上かつ2.0以下と設定するのが実用的に好ましい。
なお、余寿命評価モデルが変化すると、対応して信号レベル閾値thも変化する可能性がある。よって、検証に用いる余寿命評価モデルは、余寿命評価工程S5において余寿命を評価するために用いる余寿命評価モデルと同一とすることが重要となる。
なお、信号レベル閾値thの妥当性が予め検証されていれば、検査工程S4の実施前に再び信号レベル閾値thの妥当性を検証する必要はなく、信号レベル閾値thの妥当性を示す検証結果を確認すればよい。
また、例えば、評価対象物の所有者等、評価対象物についての余寿命の評価結果を提示する相手に対して、信号レベル閾値thの妥当性や余寿命の評価結果の妥当性の説明のために、上述した検証結果を相手に対して説明してもよい。
以下、亀裂評価基準策定工程S100及び亀裂の評価基準について説明する。
亀裂の評価基準は、本探傷工程S42において評価対象部の亀裂の有無を評価する際に用いる基準値であり、上述したように、幾つかの実施形態では上記の信号レベル閾値th(亀裂判別用閾値)である。この信号レベル閾値thは、以下に述べる亀裂評価基準策定工程S100によって予め決定される。
図6は、亀裂評価基準策定工程S100における手順を示したフローチャートである。亀裂評価基準策定工程S100は、評価基準策定用データ収集工程S110と、評価基準決定工程S120とを含む。図7は、評価基準策定用データ収集工程S110における手順を示したフローチャートである。図8は、評価基準決定工程S120における手順を示したフローチャートである。
以下、図6乃至図8のフローチャートに基づいて、亀裂評価基準策定工程S100について説明する。
亀裂評価基準策定工程S100では、まず、評価基準策定用データ収集工程S110を実施する。
図7に示すように、評価基準策定用データ収集工程S110は、試験片を第3時点までクリープ変形させるクリープ変形工程S111と、第3時点よりも前の第4時点における試験片に対して内部探傷検査を実施し、第4時点における探傷信号を取得する探傷信号取得工程S112とを含む。
図9は、試験片12の内部探傷検査によって得られた反射波の強度分布のコンター図の一例であり、参考のために試験片12の溶接部4bの断面形状を反射波の強度分布に重ね合わせて示している。試験片12は、検査工程S4における評価対象物と同じ材質の金属片であり、溶接部4bを有する。なお、溶接部4bも、溶着部10b及び溶着部10bの周囲に位置する熱影響部8bを含んでいる。
探傷信号取得工程S112における内部探傷検査は、検査工程S4における内部探傷検査と同じ方法によるものであり、例えば超音波を利用したフェーズドアレイ法による内部探傷検査であるものとする。
なお、探傷信号取得工程S112では、探傷装置の測定感度を、局部的なクリープ寿命消費率が100%に到達した後の亀裂を検出するための上述した基準条件に比べて、10dB〜30dB高くした増幅条件に設定する。
具体的には、例えば探傷信号取得工程S112において取得した探傷信号に基づいて、試験片12の内部の亀裂の成長が不十分であると判断される場合には、探傷信号取得工程S112の実施の後、ステップS101が否定判断されてクリープ変形工程S111に戻り、加温しながら負荷を掛けて試験片12を所定時間クリープ変形させる。
また、例えば探傷信号取得工程S112において取得した探傷信号に基づいて、試験片12の内部の亀裂が例えば所定の大きさ以上の大きさを有する巨視亀裂に成長していると判断される場合には、探傷信号取得工程S112の実施の後、ステップS101が肯定判断されて評価基準策定用データ収集工程S110を終了する。なお、試験片12の内部の亀裂が試験片12の表面に到達していると判断される場合に、評価基準策定用データ収集工程S110を終了することとしてもよい。
また、探傷信号取得工程S112の実施時点を上述したように第4時点と呼ぶ。第4時点は、第3時点よりも前の時点であり、少なくとも1つの第4時点が存在する。すなわち、第4時点は、探傷信号取得工程S112の実施回数と同数存在する。
その後、クリープボイドの数が増加するとクリープボイドが合体して巨視亀裂となり、その巨視亀裂が伝播して貫通に至る。
図6に示すように、亀裂評価基準策定工程S100において評価基準策定用データ収集工程S110を実行した後、評価基準決定工程S120を実施する。図8に示すように評価基準決定工程S120は、サイズ計測工程S121と、モデル構築工程S123と、推定サイズ取得工程S125と、閾値取得工程S127とを含む。
そして、サイズ計測工程S121では、例えば切断された溶接部4cにおける亀裂6cの長さa1を測定する。サイズ計測工程S121での亀裂6cの長さa1の測定は、目視による直接的なものであり、定規やノギス等を用いて行うことができるが、亀裂6cの大きさによっては顕微鏡を使用してもよい。
幾つかの実施形態では、モデル構築工程S123において用いるモデルは、余寿命評価工程S5において余寿命を評価するために用いる余寿命評価モデルと同じモデルである。
以下の説明では、モデル構築工程S123において用いるモデルが亀裂進展計算によるものであるとして説明する。
図12に示すように、モデル構築工程S123で得られたマスターカーブ14において、サイズ計測工程S121で計測した亀裂6cの長さa1に対応する時刻を時刻t3とする。時刻t3は、上述した第3時点に対応する。
そして、時刻t3を起点として、複数の第4時点に対応する、図12のグラフの横軸の時刻をそれぞれ求める。
閾値取得工程S127では、図13に示すように、時刻t4に対応する第4時点における探傷信号(反射波)の強度分布(信号レベル分布)から、サイズ計測工程S121でサイズを計測した亀裂の位置に対応する位置において亀裂の推定長さa2に対応する反射波の強度を求める。図13は、時刻t4に対応する第4時点における探傷信号すなわち反射波について、溶接部の厚さ方向に沿う一次元的な強度分布を示すグラフである。図13に示すように、図13の強度分布すなわちエコー高さのグラフから、亀裂の推定長さa2に対応する反射波の強度を求めることができる。これにより、亀裂の推定長さa2が得られる反射波の強度が分かるので、この反射波の強度を亀裂の評価基準、すなわち信号レベル閾値thとする。
例えばサイズ計測工程S121で観察される巨視亀裂の数が1である場合について説明する。時刻t4の候補となる時点における信号レベル分布に関し、仮の信号レベル閾値th´以上となる領域の数が1であり、且つ、該領域の位置がサイズ計測工程S121で観察される巨視亀裂の位置に対応する場合には、仮の信号レベル閾値th´以上となる領域の位置や領域の数と、サイズ計測工程S121で観察される巨視亀裂の位置や巨視亀裂の数とが整合する。すなわち、この場合には、時刻t4の候補となる時点において仮の信号レベル閾値th´以上となる領域が、モデル構築工程S123で構築したモデル通りに、第3時点において例えば長さa1の亀裂6cとなったこととなるため、矛盾が生じていない。
この場合、仮の信号レベル閾値th´が亀裂の評価基準として適切であると判定できるので、当該仮の信号レベル閾値th´を信号レベル閾値thとする。
また、仮の信号レベル閾値th´以上となる領域の数と、サイズ計測工程S121で観察される巨視亀裂の数の両方が1で整合していたとしても、両者の位置が異なっている場合は、仮の信号レベル閾値th´が信号レベル閾値thとして不適切であると判定する。
新たな仮の信号レベル閾値th´が亀裂の評価基準として不適切であると判定されれば、再び推定サイズ取得工程S125に戻り、上述した処理を繰り返す。
この方法では、第3時点から亀裂成長過程を遡ることで第4時点における亀裂の推定サイズを得る。すなわち、第4時点では疑似亀裂状態の亀裂であるような領域の大きさを亀裂の推定サイズとして得ることができる。そして第4時点における亀裂の推定サイズと第4時点における探傷信号とを対比することで、疑似亀裂状態の亀裂を検出可能な亀裂判別用閾値を決定できる。これにより、該亀裂判別用閾値を用いることで評価対象物における疑似亀裂状態の亀裂の大きさ及び位置を求めることができるので、疑似亀裂状態の亀裂が発生した時点であっても、評価対象物の余寿命を評価できる。
なお、以下で説明する亀裂進展計算では、時間的に遡って亀裂の長さを算出するので、以下で説明する亀裂進展計算のことを亀裂進展逆解析とも呼ぶ。
次いで、工程S202で変数aに長さa1を代入し、工程S204で変数nに1を代入する。そして、C*演算工程S206にて、取得したデータに基づいて、C*パラメータ(修正J積分J’)を演算する。
あるいは、材質毎に、亀裂進展速度(da/dt)とC*パラメータとの関係を予め求めておき、該関係に基づいて、演算されたC*パラメータから亀裂進展速度(da/dt)を求めてもよい。
亀裂寸法更新工程S212では、変数aから亀裂減少分Δaを引き算することによって、変数aを更新する。
一方、時刻判定工程S214の判定結果が肯定的なものである場合、すなわち時刻t4まで遡った場合、そのときの変数aが、求めるべき亀裂6bの長さa2である。
これにより、探傷の方法と余寿命評価モデルの組み合わせに対して亀裂判別用閾値が適した値となる。そして、当該亀裂判別用閾値を用いて求めた亀裂の大きさ及び位置を余寿命評価モデルに入力することで評価対象物の余寿命を求めるので、評価対象物の余寿命の評価精度が向上する。
幾つかの実施形態では、本探傷工程S42における探傷の方法と、余寿命評価工程S5における余寿命評価モデルとの組み合わせ毎に信号レベル閾値th(亀裂判別用閾値)が設定される。
これにより、探傷信号を得るために用いられる探傷法と余寿命評価工程S5で採用する余寿命評価モデルとの組み合わせに適した亀裂判別用閾値を取得できるので、評価対象物における亀裂の大きさ及び位置を精度良く求めることができ、評価対象物の余寿命の精度が高まる。
図15における局部的なクリープ寿命消費率は次の手順により行った。
まず、複数の小型試験片(Φ6mm程度)について、試験時間を変更してクリープ試験を行い、各々の小型試験片についてボイド個数密度を求めた。小型試験片が破断した時間を基準として各々の試験時間との比からクリープ寿命消費率を算定し、先に求めたボイド個数密度との関係を取得した(図示無)。
次に、別に用意した供試材にクリープ損傷を与え、上述のようにして求めた信号レベル閾値thに基づいて、信号レベル閾値th以上の値となる領域を特定した。そして、当該領域を切断して当該領域における局部的なクリープ寿命消費率を求めた。具体的には、当該領域の切断面におけるボイド個数密度を計測し、上述の通り予め取得していたボイド個数密度とクリープ寿命消費率との関係から、当該領域の局部的なクリープ寿命消費率を求めた。
ここでは、小型試験片の破断を基準(100%)としてクリープ寿命消費率を求めた上で、供試体(厚肉材)の局部的な損傷に当てはめて局部的なクリープ寿命消費率を評価している。これは、小型供試材はΦ6mm程度であるため、供試体のボイド個数密度の計測に係る切断面の状況と概ね均質であるとみなせるためである。換言すれば、局部的なクリープ寿命消費率の100%とは、局部的に目視観察可能な巨視亀裂が発生している状態(応力伝達が行われなくなった状態)とみなすことができる。
なお、上記の方法では、評価対象物の探傷結果から求められた亀裂の大きさ及び位置を余寿命評価モデルに入力することで評価対象物の余寿命が求められるので、迅速に余寿命を評価できる。
以下、余寿命評価工程S5について詳細に説明する。
幾つかの実施形態では、余寿命評価工程S5は、検査工程S4で特定された亀裂の大きさ及び位置を余寿命評価モデルに入力し、評価対象物の余寿命を求める工程である。
すなわち、余寿命評価工程S5では、検査工程S4にて求められた評価対象部の溶接部4aの内部の亀裂6aの長さax及びその位置から、以下のようにして評価対象部の溶接部4aの余寿命を評価する。
なお、図16は、余寿命と亀裂長さとの関係を示すグラフである。
すなわち、幾つかの実施形態では、余寿命評価工程S5において余寿命を評価するために用いる余寿命評価モデル(亀裂進展計算)は、亀裂評価基準策定工程S100のモデル構築工程S123において第4時点の亀裂の推定サイズを求めるために用いた亀裂成長過程を示すモデル(亀裂進展計算)と同一である。
なお、以下で説明する亀裂進展計算のことを亀裂進展解析とも呼ぶ。
次いで、工程S302で変数aに長さaxを代入し、工程S304で変数nに1を代入する。そして、C*演算工程S306にて、取得したデータに基づいて、C*パラメータ(修正J積分J’)を演算する。
あるいは、材質毎に、亀裂進展速度(da/dt)とC*パラメータとの関係を予め求めておき、該関係に基づいて、演算されたC*パラメータから亀裂進展速度(da/dt)を求めてもよい。
亀裂寸法更新工程S312では、変数aに亀裂増分Δaを足し算することによって、変数aを更新する。
一方、貫通判定工程S314の判定結果が肯定的なものである場合、すなわち亀裂6aの長さが、溶接部4aを貫通する貫通長さar以上になった場合、残存寿命演算工程S318が実行される。残存寿命演算工程S318では、残存寿命、すなわち余寿命(tr−tx)が、変数nと微小時間Δtの積として求められる。
ここで、図18は、クリープ損傷による亀裂進展の傾向を表すグラフであり、(a)は、時間と亀裂の長さとの関係を示し、(b)は、初期亀裂の長さと貫通時間との関係を示している。亀裂が溶接部を貫通するとは、亀裂が表面に到達することを意味する。図18(a)及び(b)において、横軸は対数軸である。図18(a)及び(b)より明らかなように、初期亀裂の長さが長いほど、亀裂の進展速度が急激に増加する時期が早まり、貫通時間が短くなる。
高強度フェライト鋼からなる部材の溶接部4aの場合、外表面のクリープ損傷度と内部のクリープ損傷度との間に相関がなく、溶接部4aの外表面のクリープ損傷度に関わらずに、溶接部4aの内部のクリープ損傷度を評価する必要がある。
この点、上述した幾つかの実施形態では、溶接部4aの内部の亀裂6aの長さaxの評価を正確に行うことができ、高強度フェライト鋼からなる部材の溶接部4aのクリープ損傷度の評価に適している。
低合金鋼とは、例えば、STBA12の同等材、STBA13の同等材、STPA20の同等材、火STPA21の同等材、STPA22の同等材、STPA23の同等材、又は、STPA24の同等材である。
ステンレス鋼とは、例えば、SUS304TPの同等材、SUS304LTPの同等材、SUS304HTPの同等材、火SUS304J1HTBの同等材、SUS321TPの同等材、SUS321HTPの同等材、SUS316HTPの同等材、SUS347HTPの同等材、又は、火SUS310J1TBの同等材である。
図20は、溶接部4aによって溶接される配管の外径Dと厚さtを説明するための図である。
上述の説明では、亀裂成長過程上、亀裂とみなせる領域、すなわち本明細書における亀裂6bを検出する技術及び、亀裂6bが存在する評価対象部の余寿命の評価について説明した。
これに対して、以下で説明する実施形態では、上述した亀裂とみなせる領域が発生する前の段階において、上述した亀裂とみなせる領域が発生する時期の予測について説明する。
事前準備工程では、溶接部を有する強度曲線取得用試料を用意し、図21に示すように、強度曲線取得用試料に関して超音波の反射波の強度の経時変化を示す反射波強度曲線16を予め作成する。事前準備工程の詳細については後で説明する。
事前準備工程は、上述した図6の亀裂評価基準策定工程S100において同時に実施してもよい。
図22において、まず、1個以上の強度曲線取得用試料を用意する(試料準備工程S400)。以下の説明では、強度曲線取得用試料は、上述した亀裂評価基準策定工程S100における試験片12であるものとする。
用意された試験片12に対して、経過時間が異なる2以上の時点のそれぞれにおいて超音波の反射波の強度を計測する(反射波強度取得工程S402)。次に、この計測結果に基づいて、試験片12に関する反射波強度曲線を同定する(同定工程S404)。
これによって、試験片12を用いた試験段階での計測により容易に反射波強度曲線を求めることができる。
一般式y=p・eqx (1)
但し、y;エコー高さ、x;経過時間、p、q;係数
次に、異なる経過時間で2回探傷を行い、これらの計測値を式(1)に代入することで、係数p、qを求める。こうして、2個の試験片12から、反射波強度曲線16a及び16bを求めることができる。
次に、時間Δt*を求める工程では、ラーソンミラーパラメータ法により、時間Δt* sampleを時間Δt*に換算する。
この実施形態によれば、試験片12を用いて求めた時間Δt* sampleから、ラーソンミラーパラメータ法を用いた演算により、評価対象部の溶接部4aの閾値到達時間Δt*を容易に求めることができる。すなわち、評価対象部について取得した反射波の強度H*が信号レベル閾値thに達しない場合、内部探傷検査の探傷信号の既知の経時変化の傾向に基づいて、評価対象部について取得した反射波から前記時間Δt*を求めることができる。
次に、評価対象部の溶接部4aの運転条件(温度T2、負荷応力σ2)における全寿命tr2と、反射波の強度が信号レベル閾値thになるまでの時間Δt*から、式(3)で寿命消費率の変化量ΔD2を算出する。
ΔD1とΔD2とは等価と考えられるため、式(6)が成立し、従って、式(4)で求められる全寿命tr1と式(5)で求められる全寿命tr2との比から、式(7)で示すように、評価対象の溶接部4aの反射波の強度が信号レベル閾値thになるまでの時間Δt*を求めることができる。
なお、図21中、t* sampleは試験片12の反射波の強度がH*になる時間を示している。
この実施形態で時間Δt*を求める工程では、補正曲線18を用いて、時間Δt*を求める。
このように、幾つかの実施形態では、評価対象物の探傷領域内に探傷信号が信号レベル閾値th(亀裂判別用閾値)以上になる部位が存在しない場合、探傷信号の既知の経時変化特性に基づいて、探傷信号の信号レベルから探傷信号が前記亀裂判別用閾値に到達するまでに要する時間Δt*を予測する閾値到達寿命推定工程S435を備える。
これにより、評価対象物の探傷領域内に探傷信号が亀裂判別用閾値以上になる部位が存在しない場合であっても、探傷信号の既知の経時変化の傾向に基づいて評価対象物に疑似亀裂状態の亀裂が発生する時期を精度よく求めることができる。
なお、図21中、t*は評価対象の溶接部4aの反射波の強度がH*になる時間を示し、t5は亀裂発生時の時間を示している。
以下、亀裂評価基準策定工程S100の他の実施形態について説明する。他の実施形態に係る亀裂評価基準策定工程S100では、信号レベル閾値thの設定時に評価対象とした亀裂発生部位と、評価対象物における亀裂の発生部位とで条件が著しく異なり、既に設定されている信号レベル閾値thを用いることが適切でない場合、信号レベル閾値thの再設定を行う。
例えば、評価対象部に作用する応力の状態や温度履歴等が他とは異なる等の理由から、閾値データベースに記憶されている信号レベル閾値thに基づいて亀裂の大きさや位置を求めることが、余寿命評価の上で好ましくない場合、亀裂評価基準策定工程S100を実施して当該評価対象部に適した信号レベル閾値thを求める。なお、当該評価対象部に適した信号レベル閾値thの決定方法は、上述した亀裂評価基準策定工程S100における手順と同じであるが、評価基準策定用データ収集工程S110のクリープ変形工程S111における加温や負荷の条件を適宜変更する。
これにより、評価対象物における亀裂の発生部位における亀裂の大きさ及び位置を求めるのに適した亀裂判別用閾値が得られるので、当該亀裂の発生部位における亀裂の大きさ及び位置を精度良く求めることができ、当該評価対象物の余寿命の精度が高まる。
以下、亀裂評価基準策定工程S100のさらに他の実施形態について説明する。
例えば、ある探傷方法(以下第1探傷法と呼ぶ)についての信号レベル閾値thが得られていないが、第1探傷法とは異なる第2探傷法についての信号レベル閾値thが得られている場合が考えられる。このような場合に、亀裂評価基準策定工程S100のさらに他の実施形態では、第1探傷法の探傷信号および第2探傷法の探傷信号の相関に基づいて、第2探傷法についての信号レベル閾値thから第1探傷法についての信号レベル閾値thを得る。
これにより、信号レベル閾値thを取得するための事前の準備を簡略化できる。
本探傷工程S42で用いる探傷装置と信号レベル閾値thを算出した際に用いた探傷装置とが異なる場合、感度設定/確認工程S41において、次のようにして本探傷工程S42で用いる探傷装置の測定感度を設定してもよい。
ステップS411は、上述の基準感度の設定プロセスによって、信号レベル閾値thを算出した際に用いた探傷装置の測定感度を基準条件、すなわち基準感度に設定する工程である。
ステップS412は、信号レベル閾値thを算出した際に用いた探傷装置によって疑似亀裂状態の亀裂(単に疑似亀裂と称することがある)を有する試験片の最大エコーを測定する。
ステップS413は、本探傷工程S42で用いる探傷装置により、疑似亀裂を有する上記試験片の最大エコーを測定する。
ここで、同一に合わせる探傷条件には、感度だけでなく、波の種類(横波、縦波)、周波数、発信器の電圧、ビーム径が挙げられる(さらに詳細には探触子のサイズや素子の配置等も含まれる場合がある)。波の種類と周波数は分解能に、発信器の電圧とビーム径はパワーを規定することになる。なお、ビーム径は収束性をもたせた場合のみ有効で、高周波UT法や開口合成法では用いない場合もある。
例えば、上述した幾つかの実施形態では、評価対象部が火力発電設備におけるボイラと蒸気タービンとの間を接続する複数系統の蒸気配管における溶接部であったが、評価対象の溶接部は、ボイラの一部に限定されることはなく、本発明に係る余寿命評価方法及び保守管理方法は、高温高圧下に曝される種々の溶接部や溶接部以外の部位に適用可能である。
4a,4b,4c 溶接部
6a,6b,6c 亀裂
8a,8b,8c 熱影響部
10a,10b,10c 溶接部の溶着部
12 試験片
14 マスターカーブ
16 反射波強度曲線
18 補正曲線
Claims (21)
- 評価対象物の探傷により得られる探傷信号を亀裂判別用閾値と対比することで、前記評価対象物における亀裂の大きさ及び位置を求めるステップと、
前記亀裂の前記大きさ及び前記位置を余寿命評価モデルに入力し、前記評価対象物の余寿命を求めるステップと、を備え、
前記亀裂判別用閾値は、少なくとも、局部的なクリープ寿命消費率がX%以上90%以下(但し、50<X<90を満たす。)の疑似亀裂状態の亀裂を判別可能に設定された
ことを特徴とする余寿命評価方法。 - 前記亀裂判別用閾値は、
第1時点でのサンプル材の探傷結果から前記亀裂判別用閾値を用いて求めた前記疑似亀裂状態の亀裂の大きさ及び位置を前記余寿命評価モデルに入力することで予測される亀裂サイズの経時変化曲線において、前記局部的なクリープ寿命消費率が100%に到達した後の亀裂サイズZ2に対応する予測時点t2CALと、前記亀裂サイズZ2の亀裂が前記サンプル材において実際に測定される第2時点t2ACTとの時間の比(t2ACT/t2CAL)が所定範囲を満たすことが検証された閾値である
ことを特徴とする請求項1に記載の余寿命評価方法。 - 前記所定範囲は、0.5以上かつ2.0以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の余寿命評価方法。 - 前記評価対象物における亀裂の大きさ及び位置を求めるステップの前に、前記亀裂判別用閾値が0.5×t2CAL≦t2ACT≦2.0×t2CALを満たすことを検証もしくは検証結果を確認するステップを備える
ことを特徴とする請求項3に記載の余寿命評価方法。 - 前記評価対象物における亀裂の大きさ及び位置を求めるステップの前に、前記探傷に用いる探傷装置の測定感度を、目視観察可能な亀裂を検出するための前記探傷装置の基準条件に比べて、10dB〜30dB高くした増幅条件に設定するステップを備える
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記基準条件を設定した時に用いた探傷装置と、前記評価対象物の探傷に用いる探傷装置が異なる場合、測定感度を前記増幅条件に設定した上で、両方の探傷装置による前記疑似亀裂状態の亀裂の探傷結果を対比するステップをさらに備える
ことを特徴とする請求項5に記載の余寿命評価方法。 - 前記局部的なクリープ寿命消費率は、局所的に目視観察可能な亀裂が発生した時点において100%となるように規定された
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記疑似亀裂状態の亀裂は、クリープボイドの集合である
ことを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記探傷は、少なくとも前記評価対象物の内部に生じる前記疑似亀裂状態の亀裂を検出可能な内部探傷である
ことを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記評価対象物の探傷領域内に前記探傷信号が前記亀裂判別用閾値以上になる部位が存在しない場合、前記探傷信号の既知の経時変化特性に基づいて、前記探傷信号の信号レベルから前記探傷信号が前記亀裂判別用閾値に到達するまでに要する時間Δt*を予測するステップを備える
ことを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記亀裂判別用閾値は、前記探傷の方法と前記余寿命評価モデルの組み合わせに対して個別に設定された閾値である
ことを特徴とする請求項1乃至10の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記探傷の方法と前記余寿命評価モデルの複数種の組み合わせにそれぞれ対応する複数の前記亀裂判別用閾値が記憶された閾値データベースから、前記探傷信号を得るために用いられる探傷法と、前記余寿命を求めるステップで採用する前記余寿命評価モデルと、の組み合わせに対応する前記亀裂判別用閾値を取得するステップを備える
ことを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記亀裂判別用閾値の設定時に評価対象とした亀裂発生部位と、前記評価対象物における亀裂の発生部位とで条件が異なる場合、前記亀裂判別用閾値の再設定を行うステップを備える
ことを特徴とする請求項1乃至12の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記亀裂判別用閾値は、前記探傷信号を得るために用いられる第1探傷法とは別の第2探傷法について予め設定された閾値と、前記第1探傷法の探傷信号および前記第2探傷法の探傷信号の相関と、に基づいて取得された
ことを特徴とする請求項1乃至13の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記亀裂判別用閾値は、
試験片を第3時点までクリープ変形させ、
前記第3時点よりも前の第4時点における前記試験片に対して前記探傷を実施し、前記第4時点における探傷信号を取得し、
前記第3時点から前記第4時点へと亀裂成長過程を遡ることで得られる前記第4時点における亀裂の推定サイズと、該第4時点における前記探傷信号とを対比する
ことで予め設定された
ことを特徴とする請求項1乃至14の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記余寿命評価モデルは、亀裂進展計算、FEM、損傷力学的評価、ボイドシミュレーション又は組織シミュレーション法の少なくとも一つに基づくモデルであることを特徴とする請求項1乃至15の何れか一項に記載の余寿命評価方法。
- 前記探傷は、フェーズドアレイ法、開口合成法、高周波UT法、または、超音波ノイズ法の少なくとも一つの探傷を含むことを特徴とする請求項1乃至16の何れか一項に記載の余寿命評価方法。
- 前記亀裂の大きさ及び位置を求めるステップでは、
前記評価対象物のうち、該評価対象物について取得した前記探傷信号の信号レベルが前記亀裂判別用閾値以上である領域を前記亀裂として特定する
ことを特徴とする請求項1乃至17の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 前記評価対象物は、溶接部を含む高強度フェライト鋼である
ことを特徴とする請求項1乃至18の何れか一項に記載の余寿命評価方法。 - 請求項1乃至19の何れか一項に記載の方法により、前記評価対象物の余寿命を評価するステップと、
前記評価対象物の前記余寿命の評価結果に基づいて、前記評価対象物の保守管理を行うステップと、
を備えることを特徴とする保守管理方法。 - 前記保守管理は、前記評価対象物の交換、補修又は延命措置の少なくとも一つを含む
ことを特徴とする請求項20に記載の保守管理方法。
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