以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。ここで、車体の上下前後左右は自動二輪車に乗車した乗員の目線に基づき規定されるものとする。
図1は本発明の一実施形態に係る自動二輪車の全体構成を概略的に示す。自動二輪車11は車体フレーム12を備える。車体フレーム12は、ヘッドパイプ13から後方に向かって下がりながら延びる左右1対のメインフレーム12aと、メインフレーム12aの下端から下方に延びるピボットフレーム12cと、メインフレーム12aの下方でヘッドパイプ13から下方に向かって延びるダウンフレーム12bと、ダウンフレーム12bの下端に結合されるエンジンハンガー12dとを有する。エンジンハンガー12dはダウンフレーム12bの下端から連続して一体化される。
ヘッドパイプ13にはフロントフォーク14が操向可能に支持される。フロントフォーク14には車軸15回りで回転自在に前輪WFが支持される。フロントフォーク14にはヘッドパイプ13の上側でハンドルバー16が結合される。車体フレーム12の後側でピボットフレーム12cにはスイングアーム18が車幅方向に水平に延びる支軸19回りで揺動自在に支持される。スイングアーム18の後端には車軸21回りで回転自在に後輪WRが支持される。
前輪WFおよび後輪WRの間で車体フレーム12には内燃機関23が搭載される。内燃機関23は、クランクケース24と、クランクケース24に結合されて、クランクケース24から上方に延びるシリンダーブロック25と、シリンダーブロック25に結合されるシリンダーヘッド26と、シリンダーヘッド26に結合されるヘッドカバー27とを備える。クランクケース24には、後輪WRの車軸21に平行に延びる回転軸線28回りで回転する(後述される)クランクシャフトが収容される。クランクシャフトの回転運動は伝動装置(図示されず)を経て後輪WRに伝達される。クランクケース24の前面には、前方に延出し、エンジンハンガー12dに連結される上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bが設けられる。クランクケース24の後面にはピボットフレーム12cに連結される上下1対のエンジンハンガーボス29c、29dが設けられる。クランクケース24はエンジンハンガーボス29a〜29dで車体フレーム12に連結され支持される。
内燃機関23の上方で車体フレーム12には燃料タンク31が搭載される。燃料タンク31の後方で車体フレーム12には乗員シート32が搭載される。燃料タンク31から内燃機関23の燃料噴射装置に燃料は供給される。自動二輪車11の運転にあたって乗員は乗員シート32を跨ぐ。
燃料タンク31の下方で車体フレーム12には制御装置33が支持される。クランクケース24の前面には上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bの間で回転センサー(パルサーセンサー)34が取り付けられる。後述のように、回転センサー34は有線で制御装置33に接続される。回転センサー34はクランクシャフトの角速度を検出する。制御装置33は角速度の変動に応じて内燃機関23の失火を検知する。
図2に示されるように、内燃機関23は、シリンダーブロック25に組み込まれるピストン36を備える。ピストン36は、前傾するシリンダー軸線を有してシリンダーブロック25内に区画されるシリンダー37に収容される。ここでは、シリンダーブロック25には単一のピストン36を受け入れる単一のシリンダー37が形成される。ピストン36とシリンダーヘッド26との間に燃焼室38が区画される。
ピストン36にはコンロッド39の一端が連結される。コンロッド39の他端はクランクケース24内のクランクシャフト41に連結される。ピストン36の軸方向の線形運動はコンロッド39の働きでクランクシャフト41の回転運動に変換される。
図3に示されるように、クランクシャフト41は、軸心回りで回転自在に軸受42、43に連結されるジャーナル41a、41bを備える。ジャーナル41a、41bの軸心は回転軸線28に一致する。軸受42、43の外輪はクランクケース24に嵌め込まれる。軸受42、43の内輪にジャーナル41a、41bはそれぞれ嵌め込まれる。外輪と内輪との間に複数の玉は配列される。
クランクシャフト41は、クランクケース24から外側に一方向に突出する第1駆動軸44と、クランクケース24から外側に他方向に突出する第2駆動軸45とを有する。第1駆動軸44にはACG(交流発電機)スターター47が接続される。ACGスターター47はローター48およびステーター49を備える。ローター48は、クランクケース24から突き出る第1駆動軸44に相対回転不能に結合される。ローター48は周方向に配列される複数の磁石51を有する。ローター48はステーター49の外周を囲む。ステーター49には周方向に配列される複数のコイル52が巻き付けられる。コイル52はローター48の回転時に磁石51の軌道に向き合う軌道を辿る。ACGモーター58は、内燃機関23の始動時にはクランクシャフト41を自動始動するスターターモーターとして機能し、内燃機関23の始動が確認されると、交流発電機として機能する。
クランクケース24の外面にはケースカバー53が結合される。ケースカバー53とクランクケース24との間には動弁機構を収容する空間が区画される。ステーター49はケースカバー53に支持される。ケースカバー53には発電機カバー54が結合される。ローター48およびステーター49は発電機カバー54およびケースカバー53で区画される空間に収容される。
内燃機関23にはドグクラッチ式の多段変速機56が組み込まれる。多段変速機56はクランクケース24内に収容される。多段変速機56はクランクシャフト41の軸心に平行な軸心を有する入力軸57および出力軸58を備える。入力軸57および出力軸58は軸受で回転自在にクランクケース24に支持される。入力軸57は一次減速機構59を通じてクランクシャフト41に接続される。一次減速機構59は、クランクシャフト41の第2駆動軸45に相対回転不能に結合される動力伝達ギア61と、出力軸58上に相対回転自在に支持される被動ギア62とを備える。被動ギア62は動力伝達ギア61に噛み合う。
出力軸58には伝動装置の駆動スプロケット63が結合される。駆動スプロケット63には駆動チェーン64が巻き掛けられる。駆動チェーン64は駆動スプロケット63の回転動力を後輪WRに伝達する。
入力軸57上には4つの駆動ギアが配置される。駆動ギアは順番にロー駆動ギア65、4速駆動ギア66、3速駆動ギア67、5速駆動ギア68および2速駆動ギア69を含む。同様に、出力軸58上には順番に4つの被動ギアが配置される。被動ギアはロー被動ギア71、4速被動ギア72、3速被動ギア73、5速被動ギア74および2速被動ギア75を含む。多段変速機56ではニュートラル状態、1速結合状態、2速結合状態、3速結合状態、4速結合状態および5速結合状態で結合状態が選択的に切り替えられる。
内燃機関23には摩擦クラッチ76が組み込まれる。摩擦クラッチ76はクラッチアウター76aおよびクラッチハブ76bを備える。クラッチアウター76aに一次減速機構59の被動ギア62は連結される。クラッチレバーの操作に応じて摩擦クラッチ76ではクラッチアウター76aおよびクラッチハブ76bの間で連結および切断が切り替えられる。
内燃機関23は、回転軸線28に同軸にクランクシャフト41に結合されて、クランクシャフト41と一体に回転する環状板形状のパルサーリング(被検知体)78を備える。パルサーリング78はクランクシャフト41のクランクウエブ41cと軸受42との間に配置される。パルサーリング78はクランクウエブ41cと軸受42の内輪との間に挟まれて固定される。こうしてパルサーリング78はクランクシャフト41の軸方向に固定される。
パルサーリング78は、環状板から部分的に切り起こされる起立片78aを備える。起立片78aは、クランクウエブ41cの側面に形成される窪み79に受け入れられる。起立片78aは窪み79に係り合ってパルサーリング78とクランクウエブ41cとの間で回転軸線28回りに相対回転を阻止する。
図2に示されるように、回転センサー34は上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bの間でクランクケース24の前面24bに設けられる貫通孔81内に配置される。回転センサー34は貫通孔81に外側から差し込まれる。回転センサー34は、磁性体を検知する先端でクランク室24aに臨む。回転センサー34の先端は、パルサーリング78の環状軌道に向き合わせられる。回転センサー34はパルサーリング78の動きに応じてパルス信号を生成する。
パルサーリング78は、回転軸線28周りに環状に等間隔に配列される複数のリラクター78bを備える。リラクター78bは例えば中心角10度ごとに配置される。リラクター78bは例えば磁性体から構成される。
回転センサー34では最も感度の高い検出軸線34aが回転軸線28を指向する。検出軸線34aは回転軸線28に直交する。回転センサー34は、パルサーリング78の軌道上で検出される磁性体の有無に応じて電気信号を出力する。回転センサー34は、クランクシャフト41の角位置を特定するパルス信号を出力する。
図4を併せて参照し、エンジンハンガー12dは、水平方向に上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bを挟む1対の側板82a、および、側板82a同士を接続して上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bの前方に配置される前板82bを含む。そして、エンジンハンガーボス29a、29bとエンジンハンガー12dとの間には保護部材83が挟まれる。保護部材83は上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bおよび側板82aの間に配置されて側板82aの内面に重ねられて固着される第1板83aと、第1板同士を接続して、上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bおよび前壁82bの間で上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bに向き合わせられる第2板83bとを含む。
エンジンハンガーボス29a、29bそれぞれには水平方向に貫通するボス孔84が形成される。ボス孔84の開口を含みボス孔84の軸線84aに直交する垂直面85に保護部材83の第1板83aが重ねられる。ボス孔84に挿入されるボルト86がナット87に結合されて、エンジンハンガーボス29a、29bにエンジンハンガー12dおよび保護部材83は固定される。
回転センサー34の貫通孔81はエンジンハンガーボス29a、29bの軸線方向に一方の側板82aに向かって偏って配置される。回転センサー34には、他方の側板82aに向かって開口するソケット88が設けられる。ソケット88にはセンサーコード89のカプラー91が結合される。カプラー91はエンジンハンガーボス29a、29bの軸線に平行にソケット88に差し込まれる。カプラー91から他方の側板82aに向かってセンサーコード89は延びる。クランクケース24の前面24bと他方の側板82aとの間にはセンサーコード89の通過を許容する間隙92が形成される
回転センサー34は、クランクケース24に形成される台座93に重ねられてクランクケース24にボルト94で締結されるフランジ部95を有する。ボルト94の頭部に側板82aの縁は向き合わせられる。
図5に示されるように、センサーコード89は側板82aおよびクランクケース24の間隙92から引き出されてクランクケース24の上面を伝う。センサーコード89はメインフレーム12aを伝って制御装置33に接続される。制御装置33は回転センサー34の出力信号を受信する。出力信号でクランクシャフト41の角速度は特定される。制御装置33は出力信号に応じて内燃機関23の失火を検知する。
次に本実施形態の作用を説明する。本実施形態に係る内燃機関は、クランクケース24に回転自在に支持されるクランクシャフト41と、クランクシャフト41と一体に回転する被検知体(パルサーリング78)と、クランクケース24の前面24bから前方に突出し、車体フレーム12に連結される1対のエンジンハンガーボス29a、29bと、エンジンハンガーボス29a、29bの間でクランクケース24に外側から取り付けられる回転センサー34とを備える。すなわち、クランクケース24の前部に、クランクケース24を車体フレーム12に支持させるエンジンハンガーボス29a、29bを上下1対として前方に延出させて設け、上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bの間に設けた貫通孔81に回転センサー34を配置した。クランクケース24の収納空間では多段変速機56の歯車軸(入力軸57および出力軸58)によって配置構造が制限される。回転センサー34はクランクケース24の外側から取り付けられることから、入力軸57および出力軸58に干渉せずに回転センサー34は配置される。クランクケース24やケースカバーの大型化は回避される。しかも、上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bを利用することで路面から跳ね上がる石などから回転センサー24は保護される。エンジンハンガーボス29a、29bには水平方向に貫通するボス孔84が形成される。エンジンハンガーボス29a、29bは水平方向に全長にわたってクランクケース24の外面に凸面を形成する。
ヘッドパイプ13から下方に延びるダウンフレーム12bの下端にはエンジンハンガー12dが設けられる。エンジンハンガー12dは、クランクケース24に連結され、水平方向に上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bを挟む1対の側板82a、および、側板82a同士を接続して上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bの前方に配置される前板82bを含む。上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bでは、ヘッドパイプ13から下方に延びるダウンフレーム12bの下端に設けられるエンジンハンガー12dの一部によって、左右両側および前方が覆われる。こうして回転センサー34はもともと存在する車体部品で保護される。専用の保護部品は割愛される。しあkも、エンジンハンガー12dはダウンフレーム12bに連続して一体化されることから、部品点数が削減され、生産性は向上する。
保護部材83は、上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bおよび側板82aの間に配置されて側板82aの内面に重ねられて固着される第1板83aと、第1板83a同士を接続して、上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bおよびクランクケース24の前面24bの間で上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bに向き合わせられる第2板83bとを含む。こうして上下1対のエンジンハンガーボス29a、29bには、ダウンフレーム12bの内側に配置されて回転センサー34を覆う保護部材83が結合される。ダウンフレーム12bの下端は保護部材83で補強される。しかも、回転センサー34はダウンフレーム12bと保護部材83とで二重に保護される。
内燃機関23では、貫通孔81はエンジンハンガーボス29a、29bの軸線方向に一方の側板82aに向かって偏って配置される。回転センサー34には、他方の側板82aに向かって開口するソケット88が設けられる。クランクケース24の前面24bと他方の側板82aとの間にはセンサーコード89の通過を許容する間隙92が形成される。ソケット88にセンサーコード89のカプラー91が嵌め込まれると、センサーコード89は、クランクケース24の前面24aと側板82aとの間に区画される間隙92から外部に引き出されることができる。したがって、回転センサー34にセンサーコード89が繋がったまま、エンジンハンガー12dは内燃機関23から分離されることができる。良好なメンテナンス性は確保される。
本実施形態では、回転センサー34は、クランクケース24に形成される台座93に重ねられてクランクケース24にボルト94で締結されるフランジ部95を有する。ボルト94の頭部に側板82aの縁部は対向配置される。クランクケース24およびエンジンハンガー12dの隙間92からボルトは視認される。こうしてボルト94の取り付けは確認されることができる。しかも、エンジンハンガー12dはボルト94の抜け止めとして機能することができる。
その他、図6に示されるように、センサーコード89は、間隙92から引き出されずに、ダウンフレーム12b内を上方へ導かれて制御装置33に接続されてもよい。この場合には、センサーコード89はダウンフレーム12bで保護される。ダウンフレーム12bはセンサーコード89の耐ノイズ性を向上する。