ACGカバーには、合わせ面から所定の高さを有し、クランクケースにACGカバーを締結するボルトの軸体を受け入れる取り付け用ボスが一体に形成される。ACGカバーの外周では個々の取り付け用ボスごとにボルトの頭は車幅方向外側に出っ張る。ここで、車両の重心を下げて車両の安定性を高めるためにエンジンはできるだけ下方に搭載されることが望まれる。地面に近い位置でボルトが出っ張ると、バンク角の縮小に繋がることから、ボルトの出っ張りは車両に対するエンジンの低位置化を妨げてしまう。
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、自動二輪車に搭載された際に車幅方向に出っ張りを抑制し車両に対してできるだけ低位置に配置されることができるエンジンを提供することを目的とする。
本発明の第1側面によれば、クランクケースと、前記クランクケースに回転自在に支持されて、前記クランクケースから外側に突出する突出端を有する回転軸と、車体への搭載時に下方にいくにつれて車幅方向内側に傾斜する合わせ面で前記クランクケースに結合されて、前記回転軸の突出端を覆うカバーと、前記カバーに一体に形成されて、前記合わせ面から所定の高さを有し、前記クランクケースに前記カバーを締結する締結部材を受け入れる取り付け用ボスとを備え、前記締結部材の結合力の向きが前記合わせ面に直交する垂直線に対して傾斜する際に、前記ノックピンのうち、車幅方向外側に位置するノックピンの少なくとも1つは他のノックピンより前記カバに対して大きい埋没量を有し、前記締結部材は、車体の左右中心面に直交する軸心を有するボルトであるエンジンが提供される。
第2側面によれば、第1側面の構成に加えて、前記複数のノックピンは同じ長さを有する。
第3側面によれば、第1または第2側面の構成に加えて、前記回転軸はクランク軸であって、前記カバーは、前記クランクケースの外側で前記クランク軸に固定されて前記クランク軸からカムシャフトに動力を伝達する動力伝達機構を覆う動力伝達機構カバーである。
第4側面によれば、第1または第2側面の構成に加えて、前記回転軸はクランク軸であって、前記カバーは、前記クランクケースの外側で前記クランク軸に接続される発電機を覆う発電機カバーである。
第5側面によれば、第4側面の構成に加えて、前記クランク軸には、前記発電機と前記クランクケースとの間で、クランク軸に同軸に環状に配置されパルサーセンサーによって検出されるリラクターを有する被検出体が固定され、前記合わせ面の下端は前記リラクターよりも車幅方向内側に位置する。
第6側面によれば、第5側面の構成に加えて、前記パルサーセンサーは、前記クランク軸の回転軸線に直交する軸心を有して前記クランクケースに取り付けられる。
第7側面によれば、第6側面の構成に加えて、前記クランクケースには、前記発電機を囲んで外端で前記カバーの合わせ面を受け止める合わせ面を規定するケーシング壁が形成される。
第8側面によれば、第7側面の構成に加えて、前記合わせ面の上端は前記リラクターよりも車幅方向外側に位置する。
第9側面によれば、第8側面の構成に加えて、前記パルサーセンサーは、前記クランク軸の回転軸線を含む水平面より上方に取り付けられる。
第10側面によれば、クランクケースと、前記クランクケースに回転自在に支持されて、前記クランクケースから外側に突出する突出端を有するクランク軸と、車体への搭載時に下方にいくにつれて車幅方向内側に傾斜する合わせ面で前記クランクケースに結合されて、前記クランクケースの外側で前記クランク軸の前記突出端に接続される発電機を覆う発電機カバーと、前記発電機カバーに一体に形成されて、前記合わせ面から所定の高さを有し、前記クランクケースに前記発電機カバーを締結する締結部材を受け入れる取り付け用ボスとを備え、前記クランク軸には、前記発電機と前記クランクケースとの間で、クランク軸に同軸に環状に配置されるリラクターを有する被検出体が固定され、前記クランクケースには、前記発電機を囲んで外端で前記発電機カバーの合わせ面を受け止めるための、連続した面状の合わせ面を規定するケーシング壁が形成され、そのケーシング壁の側面に該ケーシング壁を貫通するセンサー孔が穿たれて、そのセンサー孔に前記リラクターを検出するパルサーセンサーが外方から差し込まれるエンジンが提供される。
第11側面によれば、第10側面の構成に加えて、シリンダー軸線が車体前後方向に延びる前記クランクケースの割り面に対して前方上向きに傾斜しており、前記センサー孔が前記シリンダー軸線と略直交する方向に開口する。
第1側面によれば、カバーの取り付け用ボスには、締結部材の締結力に耐えうる剛性を確保するために合わせ面から少なくとも所定の高さが要求される。クランクケースとカバーとの合わせ面が下方にいくにつれて車幅方向内側に傾斜することで、合わせ面の下方にいくにつれて取り付け用ボスの位置は車幅方向内側に変位する。したがって、車体に搭載された際に、地面に近づくにつれて車幅方向に取り付け用ボスの出っ張りは抑制される。エンジンは自動二輪車に搭載された際に車両に対してできるだけ低位置に配置されることができる。
また、クランクケースに向かってカバーに結合力が作用すると、締結部材の結合力の向きが合わせ面に直交する垂直線に対して傾斜することから、カバーには合わせ面に平行にずれる力が働く。ずれる力は車幅方向外側に位置するノックピンで積極的に支持される。その結果、ノックピンの作用で局所的にカバーに生じる応力の集中は低減されることができる。ノックピンの埋没量が調整されるだけでカバーの強度は向上することができる。しかも、ボルトは車体の左右中心面に直交する軸心を有することから、車体への搭載時に車両の意匠性は良好に維持されることができる。
第2側面によれば、複数のノックピンは共通の長さを有するので、製造管理は簡素化されることができる。
第3側面によれば、クランク軸はできる限り低位置に配置されることができ、したがって、エンジンは車両に対してできる限り低位置に配置されることができる。
第4側面によれば、発電機カバーは比較的に大型であるものの、クランク軸はできる限り低位置に配置されることができ、したがって、車両に対してエンジンの低位置化に寄与することができる。
第5側面によれば、発電機カバーの張り出しは抑制され、その結果、エンジンは車両に対してできる限り低位置に配置されることができる。
第6側面によれば、クランクケースとカバーとの合わせ面は傾斜することから、クランク軸の回転軸線に直交する姿勢で被検出体のリラクターにパルサーセンサーが向き合わせられても、パルサーセンサーはクランクケースに支持されることができる。
第7側面によれば、カバーよりも高い剛性を有するケーシング壁にパルサーセンサーは支持されることができ、エンジンの振動に対して検出精度の低下は抑制されることができる。
第8側面によれば、パルサーセンサーは被検出体の外周でリラクターに向き合わせられることから、カバーよりも高い剛性を有するケーシング壁にパルサーセンサーは支持されることができる。
第9側面によれば、クランクケースではクランク軸の回転軸線を含む水平面よりも上方でケーシング壁の張り出し量が大きいことから、当該水平面よりも上方にパルサーセンサーが取り付けられることで、カバーよりも高い剛性を有するケーシング壁にパルサーセンサーは支持されることができ、エンジンの振動に対して検出精度の低下は抑制されることができる。
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。ここで、車体の上下前後左右は自動二輪車に乗車した乗員の目線に基づき規定されるものとする。
図1は本発明の一実施形態に係る鞍乗り型車両である自動二輪車の全体像を概略的に示す。自動二輪車11は、車体フレーム12と、車体フレーム12に装着された車体カバー13とを備える。車体カバー13は、前方から車体フレーム12を覆うフロントカウル14と、燃料タンク15の外面から前方に連続し、燃料タンク15の後方の乗員シート16に接続されるタンクカバー17とを有する。燃料タンク15に燃料は貯留される。自動二輪車11の運転にあたって乗員は乗員シート16を跨ぐ。
車体フレーム12は、ヘッドパイプ18と、ヘッドパイプ18から後ろ下がりに延びて、後下端にピボットフレーム19を有する左右1対のメインフレーム21と、メインフレーム21の下方の位置でヘッドパイプ18から下方に延び、メインフレーム21に一体化されるダウンフレーム22と、メインフレーム21の湾曲域21aから後上がりに延びトラス構造を構成する左右のシートフレーム23とを有する。シートフレーム23に乗員シート16は支持される。
ヘッドパイプ18には操向自在にフロントフォーク24が支持される。フロントフォーク24には車軸25回りで回転自在に前輪WFが支持される。フロントフォーク24の上端には操向ハンドル26が結合される。運転者は自動二輪車11の運転にあたって操向ハンドル26の左右端のグリップを握る。
車両の後方で車体フレーム12にはピボット27回りで上下に揺動自在にスイングアーム28が連結される。スイングアーム28の後端に車軸29回りで回転自在に後輪WRが支持される。前輪WFと後輪WRとの間で車体フレーム12には後輪WRに伝達される駆動力を生成するエンジン31が搭載される。エンジン31の動力は伝動装置を経て後輪WRに伝達される。
エンジン31は、ダウンフレーム22およびメインフレーム21の間に配置されて、ダウンフレーム22およびメインフレーム21にそれぞれ連結されて支持され、回転軸線Rx回りで動力を出力するクランクケース32と、クランクケース32に結合されて、回転軸線Rxに直交する鉛直面内に位置して水平面に対して起立するシリンダー軸線Cを有するシリンダーブロック33と、シリンダーブロック33の上端に結合されて、動弁機構を支持するシリンダーヘッド34と、シリンダーヘッド34の上端に結合されて、シリンダーヘッド34上の動弁機構を覆うヘッドカバー35とを備える。
自動二輪車11は、燃料タンク15の下方であってクランクケース32の上方でシリンダーブロック33の背後に配置され、燃料タンク15に接続されて燃料タンク15から発生する燃料揮発ガスを蓄えるキャニスター36を備える。キャニスター36は、回転軸線Rxに平行に車幅方向に中心軸線を有し、活性炭を収容する空間を区画する筒体を有する。したがって、キャニスター36の外形は円柱形状に形成される。
図2に示されるように、シリンダーブロック33にはシリンダー軸線Cに沿ってピストン37の線形往復運動を案内するシリンダー38が形成される。ここでは、シリンダーブロック33には回転軸線Rxに沿って4つのシリンダー38が並び、エンジン31はいわゆる直列4気筒に構成される。ピストン37とシリンダーヘッド34との間に燃焼室39が区画される。カムシャフトの回転に応じて開閉する吸気弁41aおよび排気弁41bの働きで燃焼室39に混合気が導入され燃焼後の排ガスは燃焼室39から排気される。
図3に示されるように、クランクケース32には回転軸線Rx回りで回転自在にクランク軸43が支持される。クランク軸43は、滑り軸受に連結されるジャーナル44と、隣接するジャーナル44の間に配置されて、回転軸線Rxに平行に延びクランクウエブを相互に結合するクランクピン45を有するクランク46とを備える。クランクピン45には、ピストン37から延びるコネクティングロッド47の大端部が回転自在に連結される。コネクティングロッド47はピストン37の線形往復運動をクランク軸43の回転運動に変換する。
クランク軸43の一端はクランクケース32の左側面から外側に突出する。クランク軸43の一端にはACG(交流発電機)48が接続される。クランクケース32の左側面にはクランクケース32との間にACG48を収容するACGカバー49が結合される。ACG48は、ACGカバー49に固定されるステーター51と、クランクケース32から突き出るクランク軸43の一端に相対回転不能に結合されるローター52とを備える。ステーター51は、クランク軸43周りで周方向に配列されて、ステーターコアに巻き付けられる複数のコイル51aを有する。ローター52は、ステーター51を囲む環状の軌道に沿って周方向に配列される複数の磁石52aを有する。クランク軸43が回転すると、コイル51aに対して磁石52aが相対変位し、ACG48は発電する。
図4に示されるように、ACGカバー49は、下方にいくにつれて車幅方向内側に傾斜する合わせ面54でクランクケース32に結合される。ACGカバー49の外周には、水平方向に合わせ面54から予め決められた高さを有する取り付け用ボス55が一体に形成される。取り付け用ボス55には、締結部材としてのボルト56の軸部を受け入れる貫通孔が形成される。貫通孔の中心軸線Cxはクランク軸43の回転軸線Rxに平行に設定される。取り付け用ボス55の外端には、貫通孔の中心軸線Cxに直交してボルト56の頭部を受け止める座面57が形成される。取り付け用ボス55の高さは、合わせ面54と座面57との間で測定される中心軸線Cxの長さに相当する。クランクケース32には、取り付け用ボス55の貫通孔から連続してボルト56の軸部がねじ込まれるねじ穴が形成される。
図5に示されるように、クランク軸43には、ACG48のローター52とクランクケース32との間で、クランク軸43に同軸に環状に配置されるリラクター58を有するパルサーリング(被検出体)59が取り付けられる。パルサーリング59は例えばACG48のローター52に固定される(一体化される)。リラクター58はローター52の外周よりも径方向外側に突き出る。パルサーリング59は例えば磁性体から形成される。クランクケース32には、ACG48を囲んで外端にACGカバー49の合わせ面54を受け止める合わせ面61を規定するケーシング壁62が形成される。合わせ面54、61の下端はリラクター58よりも車幅方向内側に位置する。
図6に示されるように、クランクケース32のケーシング壁62には、検知端63aでリラクター58の軌道に向き合わせられてリラクター58の動きに応じてパルス信号を生成するパルサーセンサー63が取り付けられる。パルサーセンサー63は、クランク軸43の回転軸線Rxを含む水平面Hrよりも上方でケーシング壁62に穿たれるセンサー孔64に外側から差し込まれて、ケーシング壁62の内側の空間に臨む検知端63aを有するセンサー本体65と、センサー本体65に結合されて、センサー孔64の外側でケーシング壁62の外面に重ねられてケーシング壁62に締結される取り付け片66とを備える。
パルサーセンサー63の検知端63aは、クランク軸43の回転軸線Rxに直交する平面に沿って等間隔で配置されるリラクター58の軌道に向き合わせられる。パルサーセンサー63は、例えば磁気抵抗効果素子の働きで、リラクター58の軌道上で検出される磁性体の有無に応じて電気信号すなわちパルス信号を出力する。パルス信号でクランク軸43の角位置は特定される。パルス信号の情報に基づきクランク軸43の角速度は算出され、失火検知は判断されることができる。パルサーセンサー63では最も感度の高い検出軸線63bが回転軸線Rxに指向する。
図3に示されるように、クランク軸43の他端はクランクケース32の右側面から外側に突出する。クランク軸43の他端にはカムシャフトに動力を伝達する動弁機構(動力伝達機構)68が連結される。動弁機構68は、クランク軸43に同軸に固定される駆動カムギア68aと、カムシャフトに固定される従動カムギア(図示されず)と、駆動カムギア68aから従動カムギアまで順番に噛み合って駆動カムギア68aから従動カムギアまで動力を伝達する複数のギアで構成されるカムギア列68bとを備える。クランクケース32の右側面にはクランクケース32との間に駆動カムギア68aを収容する動弁機構カバー69が結合される。ACGカバー49および動弁機構カバー69はクランクケース32の外面に被さってクランク軸43を収容するクランク室71を区画する。動弁機構68は、駆動カムギア68a、従動カムギアおよびカムギア列68bに代えて、駆動スプロケット、従動スプロケットおよびカムチェーンを備えてもよい。
図4に示されるように、動弁機構カバー69は、下方にいくにつれて車幅方向内側に傾斜する合わせ面72でクランクケース32に結合される。動弁機構カバー69の外周には、水平方向に合わせ面72から予め決められた高さを有する取り付け用ボス73が一体に形成される。取り付け用ボス73には、締結部材としてのボルト74の軸部を受け入れる貫通孔が形成される。貫通孔の中心軸線Dxはクランク軸43の回転軸線Rxに平行に設定される。取り付け用ボス73の外端には、貫通孔の中心軸線Dxに直交してボルト74の頭部を受け止める座面75が形成される。取り付け用ボス73の高さは、合わせ面72と座面75との間で測定される中心軸線Dxの長さに相当する。クランクケース32には、部分的に駆動カムギア68aを囲んで外端に動弁機構カバー69の合わせ面72を受け止める合わせ面76を規定するケーシング壁77が形成される。ケーシング壁77には、取り付け用ボス73の貫通孔から連続してボルト74の軸部がねじ込まれるねじ穴が形成される。
図3に示されるように、エンジン31にはドグクラッチ式の多段変速機(以下「変速機」)81が組み込まれる。変速機81は、クランク室71から連続してクランクケース32に区画される変速機室82に収容される。変速機81はクランク軸43の軸心に平行な軸心を有するメイン軸83およびカウンター軸84を備える。メイン軸83およびカウンター軸84は転がり軸受85a、85b、86a、86bで回転自在にクランクケース32に支持される。
メイン軸83およびカウンター軸84には複数の変速ギア87が支持される。変速ギア87は軸受85a、85b;86a、86b同士の間に配置されて変速機室82に収容される。変速ギア87は、メイン軸83またはカウンター軸84に同軸に相対回転自在に支持される回転ギア87aと、メイン軸83に相対回転不能に固定されて、対応する回転ギア87aに噛み合う固定ギア87bと、メイン軸83またはカウンター軸84に相対回転不能かつ軸方向変位自在に支持されて、対応する回転ギア87aに噛み合うシフトギア87cとを含む。回転ギア87aおよび固定ギア87bの軸方向変位は規制される。軸方向変位を通じてシフトギア87cが回転ギア87aに連結されると、回転ギア87aとメイン軸83またはカウンター軸84との相対回転は規制される。シフトギア87cが他軸の固定ギア87bに噛み合うと、メイン軸83およびカウンター軸84の間で回転動力は伝達される。他軸の固定ギア87bに噛み合う回転ギア87aにシフトギア87cが連結されると、メイン軸83およびカウンター軸84の間で回転動力は伝達される。こうしてメイン軸83とカウンター軸84との間で特定の変速ギア87が噛み合うことで規定の減速比でメイン軸83からカウンター軸84に回転動力は伝達される。
メイン軸83の一端はクランクケース32の右側面から外側に突出する。メイン軸83の一端には、クランクケース32の外側で、クランク軸43のプライマリ駆動ギア88に噛み合うプライマリ従動ギア89と、プライマリ従動ギア89に連結されるワンウエイクラッチギア91とが相対回転自在に同軸に支持される。プライマリ駆動ギア88は例えばクランク軸43のクランク46に一体に形成される。ワンウエイクラッチギア91は、ギア歯から作用する外力に応じて一方向に回転する際にプライマリ従動ギア89に回転力を付加するとともに、クランク軸43からの駆動力に応じてプライマリ従動ギア89が回転する際にはプライマリ従動ギア89に対して相対回転しメイン軸83上で静止状態を維持する。
メイン軸83上でプライマリ従動ギア89には摩擦クラッチ92が連結される。クランクケース32の右側面には、クランクケース32との間に摩擦クラッチ92を収容するクラッチカバー93が結合される。摩擦クラッチ92はクラッチアウター92aおよびクラッチハブ92bを備える。クラッチアウター92aにプライマリ従動ギア89は連結される。クラッチレバーの操作に応じて摩擦クラッチ92ではクラッチアウター92aおよびクラッチハブ92bの間で連結および切断が切り替えられる。
カウンター軸84には、クランクケース32の外側に配置される伝動装置94の駆動スプロケット94aが結合される。駆動スプロケット94aには駆動チェーン94bが巻き掛けられる。駆動チェーン94bは駆動スプロケット94aの回転動力を後輪WRに伝達する。
次に本実施形態の動作を説明する。自動二輪車11の走行中、左右への旋回にあたって乗員は車両左右方向に体重を移動させ、これによって特定のバンク角で車両を傾かせ車両の姿勢を安定化させる。このとき、図4に示されるように、自動二輪車11のエンジン31では少なくともバンク角αは確保される。このバンク角αは、クランクケース32とACGカバー49との合わせ面54、61が鉛直面内に規定される際に確立されるバンク角βよりも大きい。
動弁機構カバー69の取り付け用ボス73には、ボルト74の締結力に耐えうる剛性を確保するために合わせ面72から少なくとも所定の高さが要求される。本実施形態のようにクランクケース32と動弁機構カバー69との合わせ面72、76が下方にいくにつれて車幅方向内側に傾斜することで、合わせ面72、76の下方にいくにつれて取り付け用ボス73の位置は車幅方向内側に変位する。したがって、自動二輪車11では、地面に近づくにつれて車幅方向に取り付け用ボス73の出っ張りは抑制される。こうしてクランク軸43はできる限り低位置に配置されることができる。エンジン31は車両に対してできる限り低位置に配置される。
同様に、ACGカバー49の取り付け用ボス55には、ボルト56の締結力に耐えうる剛性を確保するために合わせ面54から少なくとも所定の高さが要求される。クランクケース32とACGカバー49との合わせ面54、61が下方にいくにつれて車幅方向内側に傾斜することで、合わせ面54、61の下方にいくにつれて取り付け用ボス55の位置は車幅方向内側に変位する。したがって、自動二輪車11では、地面に近づくにつれて車幅方向に取り付け用ボス55の出っ張りは抑制される。こうしてクランク軸43はできる限り低位置に配置されることができる。エンジン31は車両に対してできる限り低位置に配置される。
本実施形態では、クランク軸43には、ACG48とクランクケース32との間でクランク軸43にパルサーリング59が固定される。パルサーリング59は、クランク軸43に同軸に環状に配置されるリラクター58を有する。ACGカバー49とクランクケース32との合わせ面54、61の下端はリラクター58よりも車幅方向内側に位置する。こうしてACGカバー49の張り出しは抑制され、その結果、エンジン31は車両に対してできる限り低位置に配置される。
パルサーセンサー63は、クランク軸43の回転軸線Rxに直交する軸心を有してクランクケース32のケーシング壁62に取り付けられる。クランクケース32とACGカバー49との合わせ面54、61は傾斜することから、クランク軸43の回転軸線Rxに直交する姿勢でパルサーリング59のリラクター58にパルサーセンサー63が向き合わせられても、パルサーセンサー63は、ACGカバー49ではなく、クランクケース32のケーシング壁62に支持される。
クランクケース32には、ACG48を囲んで外端でACGカバー49の合わせ面54を受け止める合わせ面61を規定するケーシング壁62が形成される。ACGカバー49よりも高い剛性を有するケーシング壁62にパルサーセンサー63は支持されることができ、エンジン31の振動に対して検出精度の低下は抑制される。このとき、合わせ面54、61の上端はリラクター58よりも車幅方向外側に位置する。パルサーセンサー63はパルサーリング59の外周でリラクター58に向き合わせられることから、ACGカバー49よりも高い剛性を有するケーシング壁62にパルサーセンサー63は支持されることができる。
本実施形態では、パルサーセンサー63は、クランク軸43の回転軸線Rxを含む水平面Hrより上方に取り付けられる。クランクケース32ではクランク軸43の回転軸線を含む水平面Hrよりも上方でケーシング壁62の張り出し量が大きいことから、当該水平面Hrよりも上方にパルサーセンサー63が取り付けられることで、ACGカバー49よりも高い剛性を有するケーシング壁62にパルサーセンサー63は支持されることができ、エンジン31の振動に対して検出精度の低下は抑制される。
図7に示されるように、エンジン31は、合わせ面54を横切ってクランクケース32およびACGカバー49にそれぞれ埋没し、合わせ面54に沿ってクランクケース32に対してACGカバー49を位置決めする複数のノックピン95を備える。ノックピン95はクランク軸43の回転軸線Rxに平行な軸心を有する円柱体で形成される。ACGカバー49の外周にはノックピン95を収容する複数のノックピン用ボス96が一体に形成される。ノックピン用ボス96には、最上位置に配置される第1ノックピン用ボス96aと、第1ノックピン用ボス96aよりも下方に配置される第2ノックピン用ボス96bとが含まれる。第1ノックピン用ボス96aには合わせ面54で開口する第1受け穴97が形成される。第1受け穴97はノックピン95に同軸に同径の円柱空間を区画する。第1受け穴97には第1埋没量L1でノックピン95が嵌め込まれる。埋没量は受け穴に進入するノックピンの中心軸線の長さで特定される。
クランクケース32には、第1ノックピン用ボス96aの第1受け穴97から連続する第1差し込み穴98が形成される。第1差し込み穴98には第1差し込み量T1でノックピン95が差し込まれる。差し込み量は差し込み穴に進入するノックピン95の中心軸線の長さで特定される。第1埋没量L1および第1差し込み量T1の合計でノックピン95の長さは特定される。
第2ノックピン用ボス96bには第2受け穴99が形成される。第2受け孔99には第1埋没量L1よりも小さい第2埋没量L2でノックピン95が嵌め込まれる。ノックピン95はクランク軸43の回転軸線Rxに平行な軸心を有する円柱体で形成される。第2受け穴99はノックピン95に同軸に同径の円柱空間を区画する。
クランクケース32には第2ノックピン用ボス96bの第2受け穴99から連続する第2差し込み穴101が形成される。第2差し込み穴101には第1差し込み量T1より大きい第2差し込み量T2でノックピン95が差し込まれる。ノックピン95には共通の長さを有するノックピンが使用される(すなわち、L1+T1=L2+T2)。
ボルト56は、車体の左右中心面に直交する軸線Vxを有することから、車体の左右中心面に直交する方向にACGカバー49に作用する結合力を発揮する。ここで、車体の左右中心面は、後輪WRの回転軸線に直交し、ヘッドパイプ18の中心軸線を含む仮想平面に相当する。ボルト56がクランクケース32にねじ込まれると、ACGカバー49には合わせ面54に平行にずれる力が働く。ずれる力は車幅方向外側に位置するノックピン95で積極的に支持される。その結果、ノックピン95の作用で局所的にACGカバー49に生じる応力の集中は低減される。ノックピン95の埋没量が調整されるだけでACGカバー49の強度は向上する。このとき、ボルト56は車体の左右中心面に直交する軸線Vxを有することから、座面57は車体の左右中心面に平行に揃えられ、車両の意匠性は良好に維持される。複数のノックピン95は共通の長さを有するので、製造管理は簡素化されることができる。
図8は本発明の変形例に係るクラッチカバー93を含むエンジン31aの側面図を示す。クラッチカバー93は、クランクケース32から外側に突出するメイン軸83の突出端を覆う。クラッチカバー93の外周には、水平方向に予め決められた高さを有する取り付け用ボス102が一体に形成される。取り付け用ボス102には、締結部材としてのボルト103の軸部を受け入れる貫通孔が形成される。図9に示されるように、貫通孔の中心軸線Bxはメイン軸83の回転軸線に平行に設定される。取り付け用ボス102の外端には、貫通孔の中心軸線Bxに直交してボルト103の頭部を受け止める座面104が形成される。したがって、ボルト103は、車体の左右中心面に直交する軸線Vxを有し、クラッチカバー93を貫通してクランクケース32にねじ込まれる。ボルト103は、車体の左右中心面に直交する方向にクラッチカバー93に作用する結合力を発揮する。
図8に示されるように、クラッチカバー93の外周には、後述するノックピンを収容する複数のノックピン用ボス105が一体に形成される。ノックピン用ボス105には、最上位置に配置される第3ノックピン用ボス105aと、最前位置に配置される第4ノックピン用ボス105bと、第4ノックピン用ボス105bよりも下方であって第3ノックピン用ボス105aよりも前方に配置される第5ノックピン用ボス105cと、第4ノックピン用ボス105bよりも下方であって、メイン軸83の中心軸線Mxを含む仮想鉛直面Vpよりも後方に配置される第6ノックピン用ボス105dとが含まれる。
図9に示されるように、クラッチカバー93は、車両後方にいくにつれて車幅方向内側に傾斜する合わせ面106でクランクケース32に重ねられる。第3ノックピン用ボス105aには合わせ面106で開口する第3受け穴107が形成される。第3受け穴107には第3埋没量L3でノックピン108が嵌め込まれる。ノックピン108はメイン軸83の回転軸線に平行な軸心を有する円柱体で形成される。第3受け穴107はノックピン108に同軸に同径の円柱空間を区画する。埋没量は受け穴に進入するノックピン108の中心軸線の長さで特定される。
クランクケース32には第3ノックピン用ボス105aの第3受け穴107から連続する第3差し込み穴109が形成される。第3差し込み穴109には第3差し込み量T3でノックピン108が差し込まれる。差し込み量は差し込み穴に進入するノックピン108の中心軸線の長さで特定される。第3埋没量L3および第3差し込み量T3の合計でノックピン108の長さは特定される。
第4ノックピン用ボス105bには第4受け穴111が形成される。第4受け孔111には第3埋没量L3よりも大きい第4埋没量L4でノックピン108が嵌め込まれる。ノックピン108はメイン軸83の回転軸線に平行な軸心を有する円柱体で形成される。第4受け穴111はノックピン108に同軸に同径の円柱空間を区画する。
クランクケース32には第4ノックピン用ボス105bの第4受け穴111から連続する第4差し込み穴112が形成される。第4差し込み穴112には第3差し込み量T3より小さい第4差し込み量T4でノックピン108が差し込まれる。ノックピン108には共通の長さを有するノックピンが使用される(すなわち、L3+T3=L4+T4)。ここでは、第5ノックピン用ボス105cには第4ノックピン用ボス105bと同様に第3埋没量L3でノックピン108が嵌め込まれる。同様に、第6ノックピン用ボス105dには第3ノックピン用ボス105aと同様に第4埋没量L4でノックピン108が嵌め込まれる。
ノックピン108は、合わせ面106を横切ってクランクケース32およびクラッチカバー93にそれぞれ埋没し、合わせ面106に沿ってクランクケース32に対してクラッチカバー93を位置決めする。ボルト102がクランクケース32にねじ込まれると、クラッチカバー93には合わせ面106に平行にずれる力が働く。ずれる力は車幅方向外側に位置するノックピン105b、105cで積極的に支持される。その結果、ノックピン108の作用で局所的にクラッチカバー93に生じる応力の集中は低減される。ノックピン108の埋没量が調整されるだけでクラッチカバー93の強度は向上する。このとき、ボルト102は車体の左右中心面に直交する軸線Vxを有することから、座面104は車体の左右中心面に平行に揃えられ、車両の意匠性は良好に維持される。複数のノックピン108は共通の長さを有するので、製造管理は簡素化されることができる。