詳細な説明
以下に、開示A、B、またはCの非限定的な実施態様を説明する。後述する本実施例に記載されるあらゆる実施態様は、本特許出願の特許権利化を意図する国における、本実施例に記載の内容を限定的に解釈しようとし得るいかなる特許実務、慣習、法令等の制限に縛られることなく、「詳細な説明」の項においても記載されていると当然にみなされることを意図して記載される。
開示Aまたは開示B
いくつかの実施態様において、開示Aは、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗体であって、前記抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されていることで等電点(pI)が上昇した抗体(開示Aの範囲において、「pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体」とも称し、また、当該抗体における抗原結合ドメインを、「pIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメイン」とも称する。)に関する。かかる発明は、イオン濃度依存的抗体において、当該抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されて等電点(pI)が上昇していると、(例えば、抗体をインビボ投与した場合に、)血漿中からの抗原の消失を促進できる;さらに、pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体が、抗体の細胞外マトリックスへの結合性を増大できる、という本発明者らの驚くべき発見に、部分的に基づく。かかる発明は、イオン濃度依存的抗原結合ドメイン又はイオン濃度依存的抗体というコンセプトと、表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されていることでpIが上昇した抗体(開示Aの範囲において、「pIを上昇させた抗体」ともいう;なお、開示Aの範囲において、逆に、表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されていることでpIが低下した抗体は、「pIを低下させた抗体」という)というコンセプトとの全く異なる2つのコンセプトを組み合わせたことが、この有利な効果をもたらすという本発明者らの驚くべき発見にもまた部分的に基づくものである。したがって、かかる発明は、開示Aが属する分野(例えば医療分野)において顕著な技術的革新をもたらし得る、パイオニア発明の一類型に分類される。
例えば、抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されていることでpIが上昇した、抗原結合ドメインを含む抗体であって、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化するように当該抗原結合ドメインがさらに改変されている抗体も、当然に本明細書中の開示Aを記載している範囲に含まれる(かかる抗体も、当明細書中の開示Aを記載している範囲において、同様に、「pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体」とも称される。)。
例えば、抗体表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基において、改変前の抗体(天然型抗体(例えば天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体)又は参照抗体もしくは親抗体(例えば改変を加える前の抗体、又は、ライブラリ化する前もしくはライブラリ化の過程にある抗体等))における対応する位置の少なくとも1つのアミノ酸残基が有する電荷とは異なる電荷を有し、抗体全体としてpIが上昇している、イオン濃度依存的抗原結合ドメインを含む抗体も、当然に本明細書に記載の開示Aに含まれる(かかる抗体も、当明細書中の開示Aを記載している範囲において、同様に、「pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体」とも称される。)。
例えば、イオン濃度依存的抗原結合ドメインを含む、改変前の抗体(天然型の抗体(例えば天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体)又は参照抗体もしくは親抗体(例えば改変を加える前の抗体、又は、ライブラリ化する前もしくはライブラリ化の過程にある抗体等))において、前記抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されていることでpIが上昇した抗体もまた、当然に本明細書に記載の開示Aに含まれる(かかる抗体も、当明細書中の開示Aを記載している範囲において、同様に、「pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体」とも称される。)。
例えば、抗体のpIを上昇させることを目的として、抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されたイオン濃度依存的抗原結合ドメインを含む抗体も、当然に本明細書に記載の開示Aに含まれる(かかる抗体も、当明細書中の開示Aを記載している範囲において、同様に、「pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体」とも称される。)。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「アミノ酸」とは、天然アミノ酸のみならず非天然アミノ酸を含む。当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、アミノ酸又はアミノ酸残基は、1文字コード(例えば、A)又は3文字コード(例えば、Ala)、あるいはそれらを併記して(例えば、Ala (A))記載されてもよい。
開示AおよびBの文脈において、「アミノ酸の改変」、「アミノ酸残基の改変」、又はそれと同等の文言が使用される場合、それらは、限定はされないが、抗体のアミノ酸配列中の特定の1又は複数の(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10を超える)アミノ酸(残基)に対して化学的に分子で修飾したり、1又は複数の(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10を超える)アミノ酸の付加、欠失、置換、又は挿入を加えるものと理解されてよい。アミノ酸の付加、欠失、置換、又は挿入は、アミノ酸配列をコードする核酸に対して、例えば部位特異的変異誘発法(Kunkel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82, 488-492(1985))やOverlap extension PCRを行ったり、あるいは、抗体の親和性成熟や抗体の重鎖もしくは軽鎖の鎖シャッフリングを利用したり、あるいはファージディスプレイライブラリを用いて抗原に対してパンニング操作を行って選択することによって(Smith et al., Methods Enzymol. 217, 228-257(1993))、行うことができる。これらを適宜、単独でまたは組み合わせて行ってもよい。そのようなアミノ酸の改変としては、限定はされないが、抗体のアミノ酸配列中の1又は複数のアミノ酸残基を別のアミノ酸で(それぞれ)置換することが好ましい。アミノ酸の付加、欠失、置換、又は挿入、並びにヒト化またはキメラ化によるアミノ酸配列の改変は、当分野で公知の方法により行うことが可能である。同様に、開示AまたはBの抗体を組換え抗体として作製する際に利用する抗体の可変領域または抗体の定常領域に対しても、アミノ酸の付加、欠失、置換、又は挿入等のアミノ酸(残基)の変更または改変を施してよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲の一実施態様において、アミノ酸(残基)の置換とは、別のアミノ酸(残基)に置換することであり、例えば次の(a)〜(c)のような点について改変するために設計してよい。
(a)シート構造、もしくは、らせん構造の領域におけるポリペプチドの背骨構造;
(b)標的部位における電荷もしくは疎水性、または
(c)側鎖の大きさ。
アミノ酸残基はその構造に含まれる側鎖の特性に基づいて、例えば、以下のグループに分類される:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性、親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の配向に影響する残基:Gly、Pro;及び
(6)芳香族性:Trp、Tyr、Phe。
これらの各グループ内でのアミノ酸残基の置換は保存的置換と呼ばれ、一方、他グループ間同士でのアミノ酸残基の置換は非保存的置換と呼ばれる。アミノ酸残基の置換は、保存的置換、非保存的置換、又は、それらの組合せであってもよい。天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するために、複数の公知の方法を適宜採用してよい(Wang et al., Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 35, 225-249 (2006);Forster et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100 (11), 6353-6357 (2003))。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)に相補的なアンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系(Clover Direct(Protein Express))等を用いてもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「抗原」の構造とは、該抗原が抗体と結合するエピトープを含む限り、特定の構造に限定されないことが理解される。抗原は、無機物であっても有機物であってもよい。抗原としては、例えば、インターロイキン、ケモカイン、細胞増殖因子等の様々なサイトカインを含む、任意のリガンドであってもよいし、あるいは、例えば、血漿等の生体液中に可溶型で存在するか可溶型に改変された受容体も、当然に抗原として利用できる。そのような可溶型受容体の非限定な例としては、例えば、Mullberg et al., J. Immunol. 152 (10), 4958-4968 (1994)に記載される可溶型IL-6受容体が例示され得る。また、抗原は一価(例えば、可溶型IL-6受容体)であっても多価(例えばIgE)であってもよい。
一実施態様において、開示AおよびBの抗体が結合し得る抗原は、対象(当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、抗体の投与(適用)が意図される対象であり、事実上、任意の動物、例えばヒト、マウス等であり得る)の生体液(例えば、WO2013/125667に挙げられる生体液、好ましくは、血漿、組織間液、リンパ液、腹水、又は、胸水等)中に存在する可溶型抗原であるのが好ましいが、膜型抗原であってもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、対象分子(抗原であっても抗体であってもよい)の「血漿中半減期の延長」もしくは「血漿中半減期の短縮」又はこれらの同義の文言は、血漿中半減期(t1/2)というパラメーターの他に、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス(CL)、および濃度曲線下面積(AUC)等の任意の他のパラメーターによってもより具体的に表され得る(「ファーマコキネティクス 演習による理解」(南山堂))。例えば、インビボ動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)に付属する手順書に従ってNoncompartmental解析が実施されることによって、これらのパラメーターを具体的に評価し得る。これらのパラメーターは通常互いに相関していることが当業者には公知である。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「エピトープ」とは、抗原中に存在する抗原決定基を指し、抗体における抗原結合ドメインが結合する、抗原上の部位を意味する。よって、例えば、エピトープは、その構造に基づいて定義され得る。また、当該エピトープを認識する抗体の、抗原に対する結合活性によっても、当該エピトープは定義され得る。抗原がペプチド又はポリペプチドである場合には、エピトープを構成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。また、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造に基づいてエピトープを特定することも可能である。開示AおよびBにおける抗原結合ドメインは、抗原中の同一の又は異なるエピトープに結合してもよい。
直線状エピトープは、アミノ酸一次配列であってよい。そのような直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、そして通常は少なくとも5つ、例えば8〜10個、あるいは6〜20個のアミノ酸を、固有の配列として含む。
立体構造エピトープでは、典型的に、エピトープを構成するアミノ酸は一次配列として連続的に存在していない。抗体は、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造における立体構造エピトープを認識することができる。エピトープの立体構造を決定する方法には、X線結晶学、二次元核磁気共鳴分光学、部位特異的なスピン標識および電子常磁性共鳴分光学が含まれるが、これらには限定されない(Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996)、第66巻、Morris(編))。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「抗体」は、標的抗原に結合できるものであれば特に限定されず、最も広い意味で使用される。当該抗体の非限定的な例としては、通常広く知られている抗体(例えば天然型免疫グロブリン(「Ig」と略される))又はそれに由来する分子もしくは改変体、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、ダイアボディ、ScFv(Holliger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993);EP404,097;WO93/11161; Peer et al., Nature Nanotechnology 2: 751-760 (2007))、低分子化抗体(ミニボディ)(Orita et al., Blood 105: 562-566 (2005))、骨格タンパク質、片腕抗体(WO2005/063816に記載される片腕抗体のあらゆる実施態様を含む)、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体:2種類の異なるエピトープに対して特異性を有する抗体であり、異なる抗原を認識する抗体および同一の抗原上の異なるエピトープを認識する抗体を含む)も含まれる。当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「二重特異性抗体」は、限定はされないが、例えば、WO2005/035756に記載される、共通L鎖を有する抗体分子として作製されてもよいし、あるいはWO2008/119353に記載される、IgG4様の定常領域を有する2種類の通常型抗体を混ぜ合わせそれらの2種類のそのような抗体の間で交換反応を起こす方法(当業者には「Fabアーム交換」法として知られる)によって作製されてもよい。代替的な実施態様として、重鎖可変領域および軽鎖可変領域が1本鎖として連結した構造の抗体(例えば、sc(Fv)2)であってもよい。あるいは重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)が連結したscFv(あるいはsc(Fv)2)をFc領域(CH1ドメインを欠いた定常領域)と連結させた抗体様分子(例えば、scFv-Fc)であってもよい。scFv-Fcからなる多重特異性抗体は、第1のポリペプチドがVH1-リンカー-VL1-Fcであり第2のポリペプチドがVH2-リンカー-VL2-Fcである(scFv)2-Fc型の構造を持つ。あるいは、単一ドメイン抗体をFc領域と連結させた抗体様分子(Marvin et al., Curr. Opin. Drug Discov. Devel., 9(2): 184-193 (2006))、Fc融合タンパク質(例えばイムノアドヘシン)(US2013/0171138)、これらの機能的な断片、これらの機能的な均等物、およびこれらの糖鎖修飾改変体であってもよい。当明細書中、天然型IgG(例えば天然型IgG1)とは、天然に見出されるIgG(例えば天然型IgG1)と同一のアミノ酸配列を包含し、免疫グロブリンガンマ遺伝子により実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。天然型IgGは、それから自然に生じる変異体等であってもよい。
典型的には、抗体が天然型IgGと実質的に同一又は類似の構造を有する場合、Y字型の4本鎖構造(2本の重鎖ポリペプチドと2本の軽鎖ポリペプチド)を基本構造としてよい。典型的には、重鎖と軽鎖はジスルフィド結合(SS結合)を介して共に結合しヘテロダイマーを形成することができる。このようなヘテロダイマーがジスルフィド結合を介して共に結合してY字型のヘテロテトラマーを形成してよい。なお、2本の重鎖同士もしくは軽鎖同士は、同一であっても異なっていてもよい。
例えば、IgG抗体をパパイン消化することで、重鎖のFab領域がFc領域に連結しているヒンジ領域(当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「ヒンジ」ともいう)を切断して、2つのFab(領域)と1つのFc(領域)を得ることができる。典型的には、Fab領域は抗原結合ドメインを有する。白血球やマクロファージ等の食細胞はこのFc領域と結合できる受容体(Fc受容体)を有し、このFc受容体を介して、抗原と結合した抗体を認識して抗原を貪食できる(オプソニン作用)。また、Fc領域は、ADCCまたはCDC等の免疫反応の媒介に関与し、抗体が抗原に結合した後の反応を惹起するエフェクター機能を有する。抗体のエフェクター機能は、免疫グロブリンの種類(アイソタイプ)によって異なることが知られている。IgGクラスのFc領域は、例えば、(EUナンバリングで表される)226位のシステインからあるいは230位のプロリンからC末端までの領域を示し得るが、これらに限定されない。また、Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4モノクローナル抗体等をペプシン等のタンパク質分解酵素にて部分消化した後に、プロテインAまたはプロテインGカラムに吸着された画分を溶出することによって好適に取得され得る。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲では、抗体の可変領域(CDR及び/又はFR)に存在するアミノ酸残基の位置はKabatにしたがって表され、定常領域又はFc領域に存在するアミノ酸残基の位置は、Kabatのアミノ酸位置に基づくEUナンバリングにしたがって表される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987年および1991年)。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において「ライブラリ」とは、WO2013/125667(例えば段落0121〜0125)等に詳しく記載されているような、個々の配列が互いに同一でも異なってもよい、配列多様性を有する複数の抗体、抗体を含む複数の融合ポリペプチド、又は、これらのアミノ酸配列をコードする核酸もしくはポリヌクレオチド等の、分子(集団)を指してよい。例えば、当該ライブラリは、抗体を、少なくとも104分子、より好ましくは少なくとも105分子、さらに好ましくは、少なくとも106分子、特に好ましくは、少なくとも107分子以上含み得る。ライブラリはファージライブラリであってもよい。用語「から主としてなる」は、ライブラリ中の異なる配列を有する多数の独立クローンのうちの一定割合を、抗原に対する結合活性が異なり得る抗体が占めることを意味する。一実施態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者、ワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、または、癌もしくは自己免疫疾患の患者のリンパ球由来の抗体遺伝子に基づいて構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。代替的な実施態様では、健常者のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列を含むナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る(Gejima et al., Human Antibodies 11: 121-129 (2002);Cardoso et al., Scand. J. Immunol. 51: 337-344(2000))。ナイーブ配列を含むアミノ酸配列とは、このようなナイーブライブラリから取得されたものをいうことができる。代替的な実施態様では、ゲノムDNAにおけるV遺伝子や再構築された機能的V遺伝子のCDR配列が適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、CDR3遺伝子の配列多様性が観察されることから、重鎖CDR3配列のみを置換することもまた可能である。抗体の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す標準的な方法は、抗体の表面に露出し得る位置のアミノ酸残基のバリエーションを増やすことであってよい。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体が、例えば天然型Ig抗体と実質的に同一又は類似の構造を有する場合には、当該抗体は、典型的には、可変領域(「V領域」)[重鎖可変領域(「VH領域」)及び軽鎖可変領域(「VL領域」)]と、定常領域(「C領域」)[重鎖定常領域(「CH領域」)及び軽鎖定常領域(「CL領域」)]とを有する。CH領域はさらにCH1〜CH3の3つに分けられる。典型的には、重鎖のFab領域はVH領域とCH1を含み、典型的には、重鎖のFc領域はCH2とCH3を含む。典型的には、ヒンジ領域がCH1とCH2の間に位置する。さらに、典型的には、可変領域は相補性決定領域(「CDR」)及びフレームワーク領域(「FR」)を有する。典型的には、VH領域とVL領域に、それぞれ、3つのCDR (CDR1、CDR2、CDR3)と4つのFR (FR1、FR2、FR3、FR4)が存在する。典型的には、重鎖及び軽鎖の可変領域中に存在する全部で6つのCDRが相互作用し、抗体の抗原結合ドメインを形成している。これに対して、1つのCDRのみしかない場合、6つのCDRが存在する場合よりも抗原に対する結合親和性が低いことが知られているものの、なおも抗原を認識し、結合する能力がある。
Ig抗体は定常領域の構造の違いに基づいて、いくつかのクラス(アイソタイプ)に分けられる。多くの哺乳類では、定常領域の構造の違いに基づいてIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類のクラスの免疫グロブリンに分類される。さらにヒトの場合、IgGはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の4つのサブクラス、IgAはIgA1とIgA2の2つのサブクラスを有する。重鎖は定常領域の違いにより、γ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖、ε鎖に分けられ、この違いに基づいて、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類のクラス(アイソタイプ)の免疫グロブリンが存在する。一方、軽鎖にはλ鎖とκ鎖の2種類があり、すべての免疫グロブリンはこのどちらかを有する。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体が重鎖を有する場合には、当該重鎖は、例えばγ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖、およびε鎖のいずれかであるか、それらのいずれかに由来してもよく、開示AまたはBの抗体が軽鎖を有する場合には、当該軽鎖は、例えばκ鎖かλ鎖のどちらかであるか、どちらかに由来してもよい。また、当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、抗体は、限定はされないが、いかなるアイソタイプ(例えばIgG、IgM、IgA、IgD、またはIgE)、及び、いかなるサブクラス(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2、マウスIgG1、IgG2a、IgG2b、およびIgG3)でもよく、それらのいずれかに由来してもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「抗原結合ドメイン」は、目的とする抗原に結合する限り、どのような構造を有してもよい。そのようなドメインの例として、例えば、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域(例えば、1〜6個のCDR);体内に存在する細胞膜タンパクであるAvimerに含まれる、Aドメインと呼ばれる35アミノ酸程度のモジュール(WO2004/044011およびWO2005/040229);細胞膜に発現する糖タンパク質であるフィブロネクチン中のタンパク質に結合する10Fn3ドメインを含むアドネクチン(WO2002/032925);プロテインAの58アミノ酸からなる3つのヘリックスの束(bundle)を構成するIgG結合ドメインを骨格として有するアフィボディ(WO1995/001937);33アミノ酸残基を含む1つのターンと2つの逆並行ヘリックスと1つのループとのサブユニットが繰り返し積み重なった構造を有するアンキリン反復(ankyrin repeat:AR)の分子表面に露出した領域であるDARPin(Designed Ankyrin Repeat Protein)(WO2002/020565);好中球ゲラチナーゼ結合リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL))等のリポカリン分子において高度に保存された8つの逆並行鎖が中央方向にねじれたバレル構造の片側を支える4つのループ領域であるアンチカリン等(WO2003/029462);ならびに、免疫グロブリン構造を有さずヤツメウナギやヌタウナギなど無顎類の獲得免疫システムとして使用される可変性リンパ球受容体(variable lymphocyte receptor(VLR))のロイシン残基に富んだリピート(leucine-rich-repeat(LRR))モジュールが繰り返し積み重なった馬てい形構造の内部の並行型シート構造により形成されたくぼんだ領域(WO2008/016854)が挙げられてもよい。開示AまたはBにおける好適な抗原結合ドメインとして、IgG抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域を含む抗原結合ドメインが挙げられてもよく、より具体的には、ScFv、単鎖抗体、Fv、scFv2(単鎖Fv2)、Fab、およびF(ab')2等が挙げられてもよい。
開示Aの一実施態様において、「イオン濃度」とは、特に限定はされないが、水素イオン濃度(pH)又は金属イオン濃度を意味する。ここで、「金属イオン」とは、水素を除くアルカリ金属および銅族元素等の第I族元素、アルカリ土類金属および亜鉛族元素等の第II族元素、ホウ素を除く第III族元素、炭素とケイ素を除く第IV族元素、鉄族および白金族元素等の第VIII族元素、V、VIおよびVII族の各A亜族に属する元素ならびに、アンチモン、ビスマス、およびポロニウム等の金属元素のイオンの任意の一つであり得る。金属原子は原子価電子を放出して陽イオンになる性質を有しており、これをイオン化傾向という。イオン化傾向の大きい金属は、化学的に活性であるとされる。
開示Aの一実施態様において、好適な金属イオンは、WO2012/073992やWO2013/125667に詳細に記載されるように、カルシウムイオンであり得る。
開示Aの一実施態様において、「イオン濃度の条件」とは、低イオン濃度と高イオン濃度での、イオン濃度依存的抗体の生物学的挙動の違いに着目した条件であってよい。また、「イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する」とは、開示AまたはBにおけるイオン濃度依存的抗原結合ドメイン又はイオン濃度依存的抗体の抗原に対する結合活性が、低イオン濃度下と高イオン濃度下で変化することを意味しうる。例えば、低イオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも高イオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高い(強い)、又は、低い(弱い)場合が挙げられるがこれらに限定されない。
開示Aの一実施態様において、イオン濃度は、水素イオン濃度(pH)又はカルシウムイオン濃度であり得る。イオン濃度が水素イオン濃度(pH)である場合には、イオン濃度依存的抗原結合ドメインは、「pH依存的抗原結合ドメイン」とも言い換えられ、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、「カルシウムイオン濃度依存的抗原結合ドメイン」とも言い換えられる。
開示Aの文脈における一実施態様において、イオン濃度依存的抗原結合ドメイン、イオン濃度依存的抗体、pIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメイン、および、pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメイン又は抗体の結合活性を変化させる少なくとも1つのアミノ酸残基が抗原結合ドメインに含まれている、配列の異なる(多様性を有する)抗体から主としてなるライブラリから取得されてもよい。当該抗原結合ドメインとしては、軽鎖可変領域(改変されていてもよい)及び/又は重鎖可変領域(改変されていてもよい)中に存在するのが好ましい場合がある。また、このような軽鎖可変領域又は重鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域又は軽鎖可変領域とを組み合わせることによってライブラリを作製してもよい。ライブラリの非限定的な例としては、イオン濃度が水素イオン濃度又はカルシウムイオン濃度である場合、例えば、軽鎖可変領域としては、配列番号:1(Vk1)、配列番号:2(Vk2)、配列番号:3(Vk3)、又は、配列番号:4(Vk4)等の生殖細胞系列の配列のアミノ酸残基がイオン濃度依存的に抗原に対する結合活性を変化させ得る少なくとも1つのアミノ酸残基で置換された軽鎖可変領域配列と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが挙げられる。さらに、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:5(6RL#9-IgG1)または配列番号:6(6KC4-1#85-IgG1)の重鎖可変領域配列と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域もしくは生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが挙げられる。
一実施態様において、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、高カルシウムイオン濃度は、特定の数値に特に限定されるわけではないが、100μMから10mMの間、200μMから5mMの間、400μMから3mMの間、200μMから2mMの間、または400μMから1mMの間で選択される濃度であり得る。インビボの血漿中(血中)でのカルシウムイオン濃度に近い500μMから2.5mMの間で選択される濃度もまた好適に挙げられ得る。低カルシウムイオン濃度とは、特定の数値に特に限定されるわけではないが、0.1μMから30μMの間、0.2μMから20μMの間、0.5μMから10μMの間、または1μMから5μMの間、または2μMから4μMの間で選択される濃度でもあり得る。インビボの早期エンドソーム内でのカルシウムイオン濃度に近い1μMから5μMの間で選択される濃度もまた好適に挙げられ得る。
金属イオン濃度(例えば、カルシウムイオン濃度)の条件によって抗原に対する抗原結合ドメイン又は該ドメインを含む抗体の結合活性が変化しているか否かは、例えば、当明細書中の開示Aの文脈で記載されたかまたはWO2012/073992に記載される方法等の公知の方法を使用して容易に決定できる。例えば、低カルシウムイオン濃度下と高カルシウムイオン濃度下における、抗原に対する抗原結合ドメイン又は該ドメインを含む抗体の結合活性を測定して、比較することができる。この際、カルシウムイオン濃度以外の条件は同一とすることが好ましい。また、抗原に対する結合活性を測定する際の、カルシウムイオン濃度以外の条件は、当業者が適宜選択でき、例えば、HEPES緩衝液、37℃の条件において測定してもよいし、あるいは、BIACORE(GE Healthcare)などを用いて測定してもよい。
開示Aの文脈における一実施態様において、イオン濃度依存的抗原結合ドメイン、イオン濃度依存的抗体、pIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメイン、又は、pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体は、抗原に対して、低カルシウムイオン濃度の条件下よりも高カルシウムイオン濃度の条件下において、結合活性が高いことが好ましい。かかる場合、低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性と高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性の比は、限定はされないが、抗原に対する低カルシウムイオン濃度の条件下でのKD(解離定数)と高カルシウムイオン濃度の条件下でのKDの比である値すなわちKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2mM)が好ましくは2以上であり、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは40以上であってよい。KD (Ca 3μM)/KD (Ca 2mM)の値の上限は限定されず、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
抗原に対する結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合には、解離定数(KD)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合には、見かけの解離定数(KD)を用いることが可能である。KD、及び、見かけのKDは、公知の方法、例えばBIACORE(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等で測定することが可能である。
また、前記結合活性の比を示す他の指標としては、例えば、解離速度定数(kd)を用いてもよい。抗原結合活性の比を示す指標として、解離定数(KD)の代わりに解離速度定数(kd)を用いる場合には、抗原に対する低カルシウムイオン濃度の条件下での解離速度定数(kd)と高カルシウムイオン濃度の条件下での解離速度定数(kd)の比すなわちkd(低カルシウムイオン濃度の条件)/kd(高カルシウムイオン濃度の条件)の値は、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、さらにより好ましくは30以上であってよい。kd(低カルシウムイオン濃度の条件)/kd(高カルシウムイオン濃度の条件)の値の上限は限定されず、50、100、200等のいかなる値でもよい。
抗原が可溶型抗原の場合には、解離速度定数(kd)を抗原に対する結合活性の値として用いることが可能である。抗原が膜型抗原の場合には、見かけの解離速度定数(kd)を用いることが可能である。解離速度定数(kd)、及び、見かけの解離速度定数(kd)は、公知の方法、例えばBIACORE(GE healthcare)やフローサイトメーターによって、測定することが可能である。
一実施態様において、低カルシウムイオン濃度の条件下よりも高カルシウムイオン濃度の条件下において抗原に対する結合活性が高い、カルシウムイオン濃度依存的抗原結合ドメインもしくはカルシウムイオン濃度依存的抗体又はそれらのライブラリの製造方法又はスクリーニング方法は限定されないが、例えば、WO2012/073992(例えば段落0200〜0213)に記載された方法が例示され得る。
そのような方法としては、例えば、
(a)低カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原に対する結合活性を決定する工程、
(b)高カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原に対する結合活性を決定する工程、及び、
(c)低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体を選択する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)高カルシウムイオン濃度の条件で抗原結合ドメインもしくは抗体又はそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b)工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗体を低カルシウムイオン濃度の条件下においてインキュベートする工程、及び、
(c)工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)低カルシウムイオン濃度の条件で抗原結合ドメインもしくは抗体またはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b)工程(a)で抗原に結合しないかまたは抗原への結合能が低い抗原結合ドメインまたは抗体を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗体を高カルシウムイオン濃度の条件で抗原に結合させる工程、及び、
(d)工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)抗原を固定したカラムに高カルシウムイオン濃度の条件で抗原結合ドメインもしくは抗体またはそれらのライブラリを接触させる工程、
(b)工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗体を低カルシウムイオン濃度の条件でカラムから溶出させる工程、及び、
(c)工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)抗原を固定したカラムに低カルシウムイオン濃度の条件で抗原結合ドメインもしくは抗体またはそれらのライブラリを通過させて、当該カラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗体を回収する工程、
(b)工程(a)で回収された抗原結合ドメイン又は抗体を高カルシウムイオン濃度の条件で抗原に結合させる工程、及び、
(c)工程(b)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)高カルシウムイオン濃度の条件で抗原結合ドメインもしくは抗体またはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b)工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を取得する工程、
(c)工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗体を低カルシウムイオン濃度でインキュベートする工程、及び、
(d)工程(c)の抗原に対する結合活性が工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
これらの各種スクリーニング方法における各工程は複数回繰り返してもよいし、適宜、最適の分子を得るために組み合わせてもよい。低カルシウムイオン濃度及び高カルシウムイオン濃度の条件としては、それぞれ、前述の条件を適宜選択してよい。これにより、所望のカルシウムイオン濃度依存的抗原結合ドメイン又はカルシウムイオン濃度依存的抗体を得ることができる。
開示Aの文脈において、一実施態様において、出発材料としての抗原結合ドメインまたは抗体は、例えば、その表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変されていることで上昇したpIを有する、改変された抗原結合ドメインまたは抗体であってもよい。代替的な実施態様において、イオン濃度依存的抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸が配列中に導入されている場合に、pIを上昇させるような、抗原結合ドメイン又は抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷の改変に併せて、改変が導入されてもよい。
あるいは、本開示Aの文脈において、例えば、既存の抗原結合ドメイン又は抗体、既存のライブラリ(ファージライブラリ等)、動物を免疫することにより得られたハイブリドーマ又は免疫した動物由来のB細胞から作製された抗体又はそのライブラリを利用してもよいし、あるいは、これらに、カルシウムをキレート化できる天然または非天然のアミノ酸変異(後述)を導入して得られた抗原結合ドメイン、抗体またはライブラリ(例えば、カルシウムをキレート化できるアミノ酸の含有率を高めたライブラリ、あるいは、特定部位にカルシウムをキレート化できるアミノ酸を導入したライブラリ等)を利用してもよい。
開示Aの文脈における一実施態様において、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合に、イオン濃度依存的抗原結合ドメイン、又は、pIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸は、カルシウム結合モチーフを形成できるアミノ酸であればその種類は限定されない。例えば、カルシウム結合モチーフは、当業者に周知である(例えばSpringer et al.(Cell 102: 275-277 (2000));Kawasaki et al.(Protein Prof. 2: 305-490 (1995));Moncrief et al.(J. Mol. Evol. 30: 522-562 (1990));Chauvaux et al.(Biochem. J. 265: 261-265 (1990));Bairoch et al.(FEBS Lett. 269: 454-456 (1990));Davis(New Biol. 2: 410-419 (1990));Schaefer et al.(Genomics 25: 638-643 (1995));Economou et al.(EMBO J. 9: 349-354 (1990));Wurzburg et al.(Structure. 14(6): 1049-1058 (2006))。したがって、C型レクチン、例えばASGPR、CD23、MBR、またはDC-SIGNの任意のカルシウム結合モチーフを抗原結合ドメインが有する場合、当該ドメインの抗原に対する結合活性は、カルシウムイオン濃度の条件によって変化できる。このようなカルシウム結合モチーフの例として、上述に加えて、抗原結合ドメインに含まれる配列番号:7に記載されるカルシウム結合モチーフ(「Vk5-2」に対応)が挙げられ得る。
開示Aの文脈における一実施態様において、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合に、イオン濃度依存的抗原結合ドメイン、又は、pIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸として、金属キレート化活性を有するアミノ酸が用いられ得る。金属キレート化活性を有するアミノ酸の例としては、カルシウム結合モチーフを形成する限り、いずれのアミノ酸も好適に使用され得るが、具体的には、電子供与性を有するアミノ酸が挙げられる。限定はされないが、該アミノ酸として、Ser(S)、Thr(T)、Asn(N)、Gln(Q)、Asp(D)、およびGlu(E)等が好適に挙げられる。
抗原結合ドメインにおける、このような金属キレート化活性を有するアミノ酸の位置は特定の位置に限定されない。一実施態様においては、当該アミノ酸は、抗原結合ドメインを形成してもよい重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域中のいずれの位置にあってもよい。例えば、カルシウムイオン濃度依存的に抗原に対する抗体の結合活性を変化させる少なくとも1つのアミノ酸残基は、重鎖及び/又は軽鎖のCDR(CDR1、CDR2及びCDR3のうち1つ以上)及び/又はFR(FR1、FR2、FR3及びFR4のうち1つ以上)に含まれていてもよい。該アミノ酸残基は、例えば、重鎖のCDR3における、Kabatナンバリングで表される95位、96位、100a位、および101位のうち1つ以上に位置してもよいし、軽鎖のCDR1における、Kabatナンバリングで表される30位、31位、および32位のうち1つ以上に位置してもよいし、軽鎖のCDR2における、Kabatナンバリングで表される50位に位置してもよいし、並びに/又は、軽鎖のCDR3における、Kabatナンバリングで表される92位に位置してもよい。これらのアミノ酸残基は単独で又は組み合わされて配置されうる。
トロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等は、複数のカルシウム結合部位を有することが知られ、かつ分子進化上共通の起源に由来すると考えられており、一実施態様において、その結合モチーフが含まれるように軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3のうち1つ以上を設計することが可能である。例えば、上記の目的で、カドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、プロテインキナーゼCに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質因子IXに含まれるGlaドメイン、アシアログリコプロテイン受容体やマンノース結合受容体に含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメイン、およびEGF様ドメインが適宜使用され得る。
一実施態様において、イオン濃度が水素イオン濃度(pH)である場合には、プロトンすなわち水素原子の原子核の濃度の条件は、水素指数(pH)の条件と同義に取り扱われる。水溶液中の水素イオンの活動量をaH+で表すと、pHは-log10aH+と定義される。水溶液中のイオン強度が(例えば10-3より)低ければ、aH+は水素イオン強度にほぼ等しい。例えば25℃、1気圧における水のイオン積はKw=aH+*aOH=10-14であるため、純水ではaH+=aOH=10-7である。この場合のpH=7が中性であり、pHが7より小さい水溶液は酸性、pHが7より大きい水溶液はアルカリ性である。したがって、水素イオン濃度条件とは、水素イオン濃度の条件又はpHの条件として、高水素イオン濃度(pH酸性域)と、低水素イオン濃度(pH中性域)での、pH依存的抗体の生物学的挙動の違いに着目した条件であってよい。例えば、開示Aの文脈において、「高水素イオン濃度(pH酸性域)の条件下での抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度(pH中性域)の条件下での抗原に対する結合活性より低い」とは、イオン濃度依存的抗原結合ドメイン、イオン濃度依存的抗体、pIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメイン、又はpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体の抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH10.0まで、好ましくはpH6.7からpH9.5まで、より好ましくはpH7.0からpH9.0まで、さらに好ましくはpH7.0からpH8.0までで選択されるpHにおいてよりも、pH4.0からpH6.5まで、好ましくはpH4.5からpH6.5まで、より好ましくはpH5.0からpH6.5まで、さらに好ましくはpH5.5からpH6.5までで選択されるpHにおいて弱いことを意味し得る。好ましくは、上記表現は、インビボの早期エンドソーム内のpHにおける抗原に対する結合活性が、インビボの血漿中のpHにおける抗原に対する結合活性より弱いことを意味し得、具体的には、抗体の、例えばpH5.8での抗原に対する結合活性が、例えばpH7.4での抗原に対する結合活性より弱いことを意味し得る。
水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメイン又は該ドメインを含む抗体の結合活性が変化するか否かは、例えば、開示Aの文脈において当明細書に記載されるかWO2009/125825に記載されるアッセイ方法等の公知の方法を使用して容易に決定できる。例えば、低水素イオン濃度下と高水素イオン濃度下における、目的の抗原に対する抗原結合ドメイン又は該ドメインを含む抗体の抗原に対する結合活性を測定して、比較してもよい。この際、水素イオン濃度以外の条件は同一とすることが好ましい。また、抗原に対する結合活性を測定する際の、水素イオン濃度以外の条件は、当業者が適宜選択でき、例えば、HEPES緩衝液、37℃の条件において測定してもよいし、あるいは、BIACORE(GE Healthcare)などを用いて測定してもよい。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、文脈から特に指定されない限りは、「pH中性域」(「低水素イオン濃度」、「高pH」、「中性pH条件」又は「中性pH」ともいう)は、特定の数値に特に限定されるわけではないが、好適にはpH6.7からpH10.0まで、pH6.7からpH9.5まで、pH7.0からpH9.0まで、またはpH7.0からpH8.0までで選択され得る。好適にはpH中性域は、インビボの血漿中(血中)のpHに近いpH7.4であり得るが、測定の便宜上、例えばpH7.0が使われてもよい。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、文脈から特に指定されない限りは、「pH酸性域」(「高水素イオン濃度」、「低pH」、「酸性pH条件」又は「酸性pH」ともいう)は、特定の数値に特に限定されるわけではないが、好適にはpH4.0からpH6.5まで、pH4.5からpH6.5まで、pH5.0からpH6.5まで、またはpH5.5からpH6.5までで選択され得る。好適にはpH酸性域は、インビボの早期エンドソーム内での水素イオン濃度に近いpH5.8であり得るが、測定の便宜上、例えばpH6.0が使われてもよい。
開示Aの文脈における一実施態様において、イオン濃度が水素イオン濃度である場合には、イオン濃度依存的抗原結合ドメイン、イオン濃度依存的抗体、pIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメイン、又はpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体の抗原に対する結合活性は、酸性pH条件下よりも中性pH条件下において高いことが好ましい。かかる場合、中性pH条件下における抗原に対する結合活性と酸性pH条件下における抗原に対する結合活性の比は、限定はされないが、好ましくは、抗原に対する酸性pH条件での解離定数(KD)と中性pH条件でのKDの比すなわちKD (pH酸性域)/KD (pH中性域)(例えば、KD (pH5.8)/KD (pH7.4))の値は、2以上、10以上、または40以上であってよい。KD (pH酸性域)/KD (pH中性域)の値の上限は限定されず、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
代替的な実施態様において、前記結合活性の比を示す他の指標としては、例えば、解離速度定数(kd)を用いてもよい。結合活性の比を示す指標として、解離定数(KD)の代わりに解離速度定数(kd)を用いる場合には、抗原に対する高水素イオン濃度の条件での解離速度定数(kd)と低水素イオン濃度の条件での解離速度定数(kd)の比すなわちkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値は、2以上、5以上、10以上、または30以上であってよい。kd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値の上限は限定されず、50、100、200等、いかなる値でもよい。
抗原に対する結合活性の値は、抗原が可溶型抗原の場合には、解離速度定数(kd)で表すことが可能であり、一方、そのような値は、抗原が膜型抗原の場合には、見かけの解離速度定数(見かけのkd)で表すことが可能である。解離速度定数(kd)、及び、見かけの解離速度定数(見かけのkd)は、公知の方法、例えばBIACORE(GE healthcare)やフローサイトメーター等を用いることによって、測定することが可能である。
一実施態様において、酸性pH条件下よりも中性pH条件下において抗原に対する結合活性が高いpH依存的抗原結合ドメインもしくはpH依存的抗体又はそれらのライブラリの製造方法又はスクリーニング方法は、限定されないが、例えば、WO2009/125825(例えば段落0158〜0190)等に記載された方法を含み得る。
当該方法は、例えば、
(a)酸性pH条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原に対する結合活性を決定する工程、
(b)中性pH条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原に対する結合活性を決定する工程、及び、
(c)酸性pH条件における抗原に対する結合活性が中性pH条件における抗原に対する結合活性よりも低い抗原結合ドメインまたは抗体を選択する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)中性pH条件で抗原結合ドメインもしくは抗体又はそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b)工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗体を酸性pH条件でインキュベートする工程、及び、
(c)工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)酸性pH条件で抗原結合ドメインもしくは抗体またはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b)工程(a)で抗原に結合しないかもしくは抗原への結合能が低い抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程、
(c)工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗体を中性pH条件で抗原に結合させる工程、及び、
(d)工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)抗原を固定したカラムに中性pH条件で抗原結合ドメインもしくは抗体またはそれらのライブラリを接触させる工程、
(b)工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗体を酸性pH条件でカラムから溶出させる工程、及び、
(c)工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)抗原を固定したカラムに酸性pH条件で抗原結合ドメインもしくは抗体またはそれらのライブラリを通過させて、当該カラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗体を回収する工程、
(b)工程(a)で回収された抗原結合ドメイン又は抗体を中性pH条件で抗原に結合させる工程、及び、
(c)工程(b)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a)中性pH条件で抗原結合ドメインもしくは抗体またはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b)工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を取得する工程、
(c)工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗体を酸性pH条件でインキュベートする工程、及び、
(d)工程(c)の抗原に対する結合活性が工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程
を含む方法であってもよい。
これらの各種スクリーニング方法における各工程は複数回繰り返してもよいし、組み合わせてもよい。酸性pH条件及び中性pH条件としては、前述の条件を適宜選択してよい。これにより、所望のpH依存的抗原結合ドメイン又はpH依存的抗体を得ることができる。
開示Aの文脈において、一実施態様において、出発材料としての抗原結合ドメインまたは抗体は、例えば、その表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変されていることで上昇したpIを有する、改変された抗原結合ドメインまたは抗体であってもよい。代替的な実施態様において、イオン濃度依存的抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸が配列中に導入されている場合に、pIを上昇させるような、抗原結合ドメイン又は抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷の改変に併せて、改変が導入されてもよい。
あるいは、本開示Aの文脈において、例えば、既存の抗原結合ドメイン又は抗体、既存のライブラリ(ファージライブラリ等)、動物を免疫することにより得られたハイブリドーマ又は免疫した動物由来のB細胞から作製された抗体又はそのライブラリを利用してもよい。あるいは、これらに、例えば、側鎖のpKaが4.0〜8.0である天然又は非天然のアミノ酸の変異(後述)を導入して得られた抗原結合ドメイン、抗体又はライブラリ(例えば、側鎖のpKaが4.0〜8.0である天然又は非天然のアミノ酸の変異の含有率を高めたライブラリ、あるいは、側鎖のpKaが4.0〜8.0である天然又は非天然のアミノ酸の変異を特定部位に導入したライブラリ)を利用してもよい。そのような好ましい抗原結合ドメインは、例えば、WO2009/125825に記載されるように、少なくとも1つのアミノ酸残基が、側鎖のpKaが4.0〜8.0であるアミノ酸による置換及び/又は挿入を伴う、抗原結合ドメイン中のアミノ酸配列を有し得る。
本開示Aの文脈における一実施態様において、側鎖のpKaが4.0〜8.0であるアミノ酸の変異が導入される部位は限定されず、変異は、置換または挿入前と比較して、pH中性域よりもpH酸性域における抗原に対する結合活性が弱くなる(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなる、又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなる)限り、如何なる部位に導入されてもよい。当該部位は、抗体が可変領域又はCDRを有する場合には、当該可変領域又はCDR内の部位であってもよい。置換又は挿入される当該アミノ酸の数は当業者が適宜決定することができ、1又は複数であってよい。さらに、上記の置換又は挿入に加えて、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換、あるいは改変を行ってよい。側鎖のpKaが4.0〜8.0であるアミノ酸による置換又は挿入は、当業者に公知のアラニンスキャニング法においてアラニンの代わりにヒスチジンを用いるヒスチジンスキャニング法等のスキャニング法によってランダムに行ってもよく、及び/又は、当該アミノ酸によるランダム置換または挿入変異により得られた抗原結合ドメインもしくは抗体又はそれらのライブラリの中から、変異前と比較してKD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなった抗体を選択してもよい。
また、これらの変異の前後において、抗原に対するpH中性域での結合活性が大幅に減少していないか、実質的に減少していないか、実質的に同等であるか、または増大されている抗原結合ドメイン又は抗体、言い換えれば、活性が少なくとも10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またはそれよりも高く維持されている、抗原結合ドメイン又は抗体が好ましい場合がある。pKaが4.0〜8.0であるアミノ酸の置換又は挿入によって抗原結合ドメイン又は抗体の結合活性が減弱した場合、例えば、当該置換又は挿入部位以外の部位での1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等によって、結合活性が回復又は増大されてもよい。
代替的な実施態様において、側鎖のpKaが4.0〜8.0であるアミノ酸は、抗原結合ドメインを形成してもよい重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域中のいずれの位置にあってもよい。例えば、側鎖のpKaが4.0〜8.0である少なくとも1つのアミノ酸残基は、重鎖及び/又は軽鎖のCDR(CDR1、CDR2及びCDR3のうち1つ以上)及び/又はFR(FR1、FR2、FR3及びFR4のうち1つ以上)内に配置されてもよい。そのようなアミノ酸残基には、限定はされないが、軽鎖可変領域のCDR1中のKabatナンバリングで表される24位、27位、28位、31位、32位、および34位のうち1つ以上の位置のアミノ酸残基;軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位、51位、52位、53位、54位、55位、および56位のうち1つ以上の位置のアミノ酸残基;並びに/又は、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される89位、90位、91位、92位、93位、94位、および95A位のうち1つ以上の位置のアミノ酸残基が含まれる。水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗体の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基は単独で又は組み合わされて含まれ得る。
本開示Aの範囲における一実施態様において、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは抗体の結合活性を変化させるアミノ酸残基としては、いずれのアミノ酸残基も好適に使用され得る。そのようなアミノ酸残基としては、具体的には、側鎖のpKaが4.0〜8.0であるアミノ酸が挙げられてよい。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、His(H)およびGlu(E)等の天然アミノ酸の他、ヒスチジンアナログ(US2009/0035836)、m-NO2-Tyr(pKa 7.45)、3,5-Br2-Tyr(pKa 7.21)、および3,5-I2-Tyr(pKa 7.38)等の非天然アミノ酸(Heyl et al., Bioorg. Med. Chem. 11 (17): 3761-3768 (2003))が例示される。また、当該アミノ酸残基の好適な例としては、側鎖のpKaが6.0〜7.0であるアミノ酸、特にHis(H)が挙げられる。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、明示的に記載しない場合であって、かつ、文脈に反しない限りにおいて、等電点(pI)とは、理論等電点、又は、実験的に測定した等電点のいずれであってもよいことが理解され、「pI」とも称される。
例えば、pI値は、等電点電気泳動により実験的に測定することが可能である。一方、理論pI値は、遺伝子およびアミノ酸配列解析ソフトウェア(Genetyx等)を用いて計算することができる。
一実施態様において、pIを上昇させた抗体又は開示Aの抗体のpIが、改変前の抗体(天然型抗体(例えば天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体)又は参照抗体(例えば改変を加える前の抗体、又は、ライブラリ化する前もしくはライブラリ化の過程にある抗体))と比較して上昇しているか否かは、上記の方法に加えて、又は、上記の方法に替えて、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル、またはヒトの血漿を用いた抗体の薬物動態試験を、BIACORE、細胞増殖アッセイ、ELISA、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)又は蛍光免疫法等の方法と組み合わせて実施することで判定可能である。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、「表面に露出し得るアミノ酸残基」とは、通常、抗体を構成するポリペプチドの表面に位置するアミノ酸残基を指し得る。「ポリペプチドの表面に位置するアミノ酸残基」とは、その側鎖が溶媒分子(通常は水分子であることが多い)に接し得るアミノ酸残基を指す。しかし、必ずしもその側鎖の全てが溶媒分子に接する必要はなく、その側鎖の一部でも溶媒分子に接する場合には、そのアミノ酸残基は「表面に位置するアミノ酸」と規定され得る。また、ポリペプチドの表面に位置するアミノ酸残基には、抗体の表面に近接して位置することで、その側鎖が一部でも溶媒分子に接している他のアミノ酸残基と互いに電荷的に影響し得るアミノ酸残基も含まれ得る。例えば、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリングにより、当業者はポリペプチドや抗体のホモロジーモデルを作製することができる。あるいは、X線結晶構造解析などの方法を用いてもよい。例えば、表面に露出し得るアミノ酸残基を、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗体の3次元モデルからの座標を使って決定することができる。表面に露出した部位は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、Lee and Richards(J.Mol.Biol. 55: 379-400 (1971));Connolly(J.Appl.Cryst. 16: 548-558(1983))を使用して決定され得る。表面に露出し得る部位の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が例えば挙げられる。アルゴリズムがユーザーによるサイズパラメーター入力を必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」を例えば、半径約1.4Å以下に設定してもよい。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用する、表面に露出した領域および面積の決定法は、Pacios(Pacios, Comput.Chem. 18 (4): 377-386 (1994)およびJ.Mol.Model. 1: 46-53 (1995))に記載されている。上記の情報に基づいて、抗体を構成するポリペプチドの表面に位置する適切なアミノ酸残基が選択され得る。
タンパク質のpIを上昇させる方法としては、例えば、中性pHの条件下で側鎖に負電荷を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸)の数を減らすこと、及び/又は、側鎖に正電荷を有するアミノ酸(例えば、アルギニン、リジン、およびヒスチジン)の数を増やすことが挙げられる。当業者に公知の理論であるが、側鎖に負電荷を有するアミノ酸残基は、側鎖のpKaよりも十分に高いpH条件下において、-1として表される負電荷を有する。例えば、アスパラギン酸側鎖の理論pKaは3.9であり、中性pHの条件下(例えばpH7.0の溶液中)においては、側鎖は-1として表される負電荷を有する。逆に、側鎖に正電荷を有するアミノ酸残基は、側鎖のpKaよりも十分に低いpH条件下において、+1として表される正電荷を有する。例えば、アルギニン側鎖の理論pKaは12.5であり、中性pHの条件下(例えばpH7.0の溶液中)においては、側鎖は+1として表される正電荷を有する。中性pHの条件下(例えばpH7.0の溶液中)において、側鎖に電荷を有さないアミノ酸残基は、15種類の天然アミノ酸すなわちアラニン、システイン、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン、トリプトファン、およびチロシンを含むことが知られている。pIを変化させるアミノ酸としては、非天然アミノ酸であってもよいことが当然に理解される。
上記のことから、中性pHの条件下(例えばpH7.0の溶液中)においてタンパク質のpIを上昇させる方法としては、例えば、目的とするタンパク質のアミノ酸配列中に存在するアスパラギン酸(残基)またはグルタミン酸(残基)(側鎖に−1の負電荷を有する)を、側鎖に電荷を有さないアミノ酸(残基)に置換することで、+1の電荷変化を当該タンパク質に付与することができる。さらに、例えば、側鎖に電荷を有さないアミノ酸(残基)をアルギニンまたはリジン(側鎖に+1の正電荷を有する)に置換することで、+1の電荷変化を当該タンパク質に付与することができる。また、アスパラギン酸またはグルタミン酸(側鎖に−1の負電荷を有する)を、アルギニンまたはリジン(側鎖に+1の正電荷を有する)に置換することで、一度に+2の電荷変化を付与することができる。あるいは、側鎖に電荷を有さないアミノ酸、及び/又は、側鎖に正電荷を有するアミノ酸を、タンパク質のアミノ酸配列中に付加または挿入したり、あるいは、タンパク質のアミノ酸配列中に存在する、側鎖に電荷を有さないアミノ酸、及び/又は、側鎖に負電荷を有するアミノ酸を欠失させて、タンパク質のpIを上昇させることができる。タンパク質の例えばN末端やC末端に位置するアミノ酸残基は、側鎖由来の電荷に加えて、主鎖由来の電荷(N末端ではアミノ基のNH3+、C末端ではカルボニル基のCOO-)を有することが理解される。そのため、これらの主鎖由来の官能基に対して、何らかの付加、欠失、置換もしくは挿入を行うことによっても、タンパク質のpIを上昇させ得る。
アミノ酸配列中の1又は複数のアミノ酸(残基)を、当該アミノ酸(残基)が有する電荷の有無や程度に着目して改変することによって得られる、タンパク質の正味の電荷またはpIを変化させる効果は、抗体を構成するアミノ酸配列自体や標的抗原の種類に限って(または実質的に)依存するのではなく、付加、欠失、置換または挿入されるアミノ酸残基の種類や数に依存することが、当業者には理解されるであろう。
抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の改変によって上昇したpIを有するように改変されている抗体(「pIを上昇させた抗体」または「pI上昇抗体」)は、例えば、WO2007/114319、WO2009/041643、WO2014/145159又はWO2012/016227に記載または示唆されるように、より迅速に細胞内に取り込まれ得、あるいは、血漿中からの抗原の消失を促進し得る。
複数ある抗体のアイソタイプのうち、例えばIgG抗体はその分子量が十分大きいため、その主要な代謝経路は腎排泄によるものではない。Fc領域を分子の一部分として有するIgG抗体はFcRnを介するサルベージ経路によりリサイクルされることが知られており、よって、長いインビボ半減期を有する。IgG抗体は主に内皮細胞における代謝経路により代謝されるものと考えられている(He et al., J. Immunol. 160(2): 1029-1035 (1998))。すなわち、内皮細胞に非特異的に取り込まれたIgG抗体が、FcRnに結合することによってリサイクルされる一方で、結合できなかったIgG抗体は代謝されると考えられている。FcRnへの結合活性が低下するようにそのFc領域が改変されると、IgG抗体の血漿中半減期は短くなり得る。一方で、pI上昇抗体の血漿中半減期は、例えばWO2007/114319およびWO2009/041643等に記述されるように、高い相関をもってpIに依存することが明らかとなっている。すなわち、免疫原性の獲得をもたらす可能性があるFcを構成するアミノ酸配列を改変することなく、上記文献に記載のpIを上昇させた抗体の血漿中半減期が短縮されたことから、scFv、Fab、またはFc融合タンパク質のように腎排泄が主要な代謝経路である抗体分子のいずれのタイプに対してさえも、pI上昇に関する技術を広く適用可能であることが示唆されている。
生体液(例えば、血漿)中のpH濃度はpH中性域にある。特定の理論に拘束されるわけではないが、生体液中でpI上昇抗体は、pI上昇により正味の正電荷が高まり、その結果、pIが上昇していない抗体と比較して、正味の負電荷を帯びている内皮細胞表面へ物理化学的なクーロン相互作用によってより強く引き寄せられ;該抗体が非特異的な結合を介してそれらに結合し細胞内へ取り込まれた結果、抗体の血漿中半減期が短縮され、あるいは、血漿中からの抗原の消失が増大されると考えられる。さらに、抗体のpIを上昇させることにより、抗体(又は抗原と抗体との複合体)の細胞内への取り込み、及び/又は細胞内透過率が増大し、これは結果として抗体の血漿中の濃度を低下させ、抗体の生物学的利用率を低下させ、及び/又は抗体の血漿中半減期を短縮させると考えられ;これらの現象は、細胞型、組織型、臓器の種類などを問わずに、インビボで広く起こり得ると考えられている。また、抗体が抗原と複合体を形成して細胞内に取り込まれる場合、抗体のpIに加えて抗原のpIも、細胞内への取り込みの増減に影響し得る。
一実施態様において、pIを上昇させた抗体の製造方法又はスクリーニング方法として、例えば、WO2007/114319(例えば段落0060〜0087)、WO2009/041643(例えば段落0115〜)、WO2014/145159、およびWO2012/016227に記載された方法が例示され得る。当該方法としては、例えば、
(a)抗体のpIが上昇するように、当該抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変されるように、当該アミノ酸残基を含む抗体をコードする核酸を改変する工程、
(b)宿主細胞を当該核酸が発現するように培養する工程、及び、
(c)宿主細胞培養物から抗体を回収する工程
を含む、方法であってもよい。
あるいは、例えば、
(a')抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変されるように、当該アミノ酸残基を含む抗体をコードする核酸を改変する工程、
(b')宿主細胞を当該核酸が発現するように培養する工程、
(c')宿主細胞培養物から抗体を回収する工程、及び、
(d')改変前の抗体と比較してpIを上昇させた抗体を(任意で、確認してまたは測定して)選択する工程
を含む、方法であってもよい。ここで、出発材料としての抗体又は改変前の抗体又は参照抗体は、例えば、イオン濃度依存的抗体であってもよい。あるいは、アミノ酸残基の改変時に、イオン濃度依存的抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸を配列中に含めてもよい。
あるいは、単に、工程(b)又は(b')で得られた宿主細胞を培養する工程および細胞培養物から抗体を回収する工程を含む方法であってもよい。
代替的な実施態様において、例えば、
第1のポリペプチド及び第2のポリペプチド、並びに、任意で、第3のポリペプチド及び第4のポリペプチドを含む多重特異性抗体の製造方法であって、
(A)第1のポリペプチド及び/又は第2のポリペプチド、並びに、任意で、第3のポリペプチド及び/又は第4のポリペプチドをコードする核酸を改変する工程であって、当該ポリペプチドのいずれか一つまたは複数が、抗体のpIが上昇するように、当該ポリペプチドの表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変されるように、当該アミノ酸残基を含む、工程;
(B)宿主細胞を当該核酸が発現するように培養する工程;及び、
(C)宿主細胞培養物から多重特異性抗体を回収する工程
を含む、方法であってもよい。
あるいは、当該方法は、例えば、
(A')第1のポリペプチド及び/又は第2のポリペプチド、並びに、任意で、第3のポリペプチド及び/又は第4のポリペプチドをコードする核酸を改変する工程であって、当該ポリペプチドのいずれか一つまたは複数が、ポリペプチドの表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変されるように、当該アミノ酸残基を含む、工程;
(B')宿主細胞を当該核酸が発現するように培養する工程
(C')宿主細胞培養物から多重特異性抗体を回収する工程;及び、
(D')改変前の抗体と比較してpIが上昇した抗体を(任意で、確認して)選択する工程
を含んでもよい。
ここで、例えば、出発材料としての抗体、又は改変前の抗体、又は参照抗体は、イオン濃度依存的抗体であってもよい。あるいは、アミノ酸残基の改変時に、イオン濃度依存的抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸が配列中に含まれてもよい。
あるいは、単に、工程(B)又は(B')で得られた宿主細胞を培養する工程および細胞培養物から抗体を回収する工程を含む方法であってもよい。かかる場合、核酸が改変されるポリペプチドは、第1のポリペプチドのホモ多量体、第2のポリペプチドのホモ多量体、又は、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドのヘテロ多量体(及び、任意で、第3のポリペプチドのホモ多量体、第4のポリペプチドのホモ多量体、又は、第3のポリペプチドと第4のポリペプチドのヘテロ多量体)であるのが好ましい場合がある。
代替的な実施態様において、例えば、
血漿中半減期が短縮されたヒト化抗体またはヒト抗体の製造方法であって、
ヒト由来のCDR、ヒト以外の動物由来のCDR、及び合成CDRからなる群より選択されるCDR;ヒト由来のFR;ならびにヒト定常領域を含む抗体において、
(I)抗体のpIが上昇するように、当該CDR、当該FR及び当該定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基を、改変前の対応する位置に存在するアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基に改変する工程
を含む、方法であってもよい。
あるいは、例えば、ヒト由来のCDR、ヒト以外の動物由来のCDR、及び合成CDRからなる群より選択されるCDR;ヒト由来のFR;および、ヒト定常領域を含む抗体において、
(I')当該CDR、当該FR及び当該定常領域からなる群より選択される少なくとも1つの領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基を、改変前の対応する位置に存在するアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基に改変する工程;及び、
(II')改変前の抗体と比較してpIが上昇した抗体を(任意で、確認して)選択する工程
を含む、方法であってもよい。
ここで、例えば、出発材料としての抗体、又は改変前の抗体、又は参照抗体は、イオン濃度依存的抗体であってもよい。あるいは、アミノ酸残基の改変時に、イオン濃度依存的抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸が配列中に含まれてもよい。
あるいは、例えば、既存の抗原結合ドメイン又は抗体、既存のライブラリ(ファージライブラリ等);動物を免疫することにより得られたハイブリドーマ又は免疫した動物由来のB細胞から調製された抗体又はそのライブラリ;あるいは、上記の抗原結合ドメイン、抗体又はそのライブラリにおいて、例えば、上述した実施態様のいずれかに基づいて、表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基を改変することで調製された、pIを上昇させた抗原結合ドメインもしくは抗体又はこれらのライブラリを利用してもよい。
開示Aの抗体の一実施態様において、改変前または変更前の抗体(天然型抗体(例えば天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体)、又は参照抗体もしくは親抗体(例えば改変を加える前の抗体、又は、ライブラリ化する前もしくはライブラリ化の過程にある抗体等))と比較してpIの値が、好ましくは、例えば少なくとも0.01、0.03、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、又は0.5以上、あるいは、少なくとも0.6、0.7、0.8、又は0.9以上上昇していてよく、抗体の血漿中半減期の大幅な短縮のために、pIの値が、例えば少なくとも1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、又は1.5以上、あるいは、少なくとも1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、又は2.5以上、あるいは3.0以上上昇していてもよい。当業者は、適宜、薬理学的効果と毒性のバランス、および、例えば、所与の目的に応じた、抗体の抗原結合ドメインの数や抗原のpIを鑑みながら、開示Aの抗体の最適pI値を日常的に決定できる。特定の理論に拘束されるわけではないが、一実施態様において、開示Aの抗体は、イオン濃度依存的抗原結合ドメインを有することで血漿と細胞のエンドソームとを行き来して1つの抗体分子による複数の抗原への結合を繰り返す特性に加えて、pI上昇の結果抗体の正味の正電荷が高まり、それによって抗体が細胞内へより迅速に取り込まれるので有利である。これらの特性は、抗体の血漿中半減期を短縮し得るか、抗体の細胞外マトリックスへの結合活性を増大させ得るか、あるいは、血漿中からの抗原の消失を促進し得るこのような特性を生かせるのに最適なpI値を決定してもよい。
開示Aの文脈における一実施態様において、開示AのpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体は、pIを上昇させるために少なくとも1つのアミノ酸残基を改変または変更する前の抗体(天然型抗体(例えば天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体)、又は参照抗体もしくは親抗体(例えば改変を加える前の抗体、又は、ライブラリ化する前もしくはライブラリ化の過程にある抗体等)、これらはイオン濃度依存的抗体であり得る)と比較して、好ましくは、(抗体をインビボ投与した場合に)血漿からの抗原の消失を、例えば少なくとも1.1、1.25、1.5、1.75、2、2.25、2.5、2.75、3、3.25、3.5、3.75、4、4.25、4.5、4.75、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は、10倍以上促進してもよく、あるいは、細胞外マトリックスへの結合活性が、好ましくは、例えば、少なくとも1.1、1.25、1.5、1.75、2、2.25、2.5、2.75、3、3.25、3.5、3.75、4、4.25、4.5、4.75、5倍以上増大されてもよい。
開示Aの文脈における一実施態様において、開示AのpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体は、イオン濃度依存的抗原結合ドメインを導入する前の抗体(天然型抗体(例えば天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体)、又は参照抗体もしくは親抗体(例えば改変を加える前の抗体、又は、ライブラリ化する前もしくはライブラリ化の過程にある抗体等)、これらはpIを上昇させた抗体であり得る)と比較して、好ましくは、(抗体をインビボ投与した場合に)血漿からの抗原の消失を、例えば、少なくとも1.1、1.25、1.5、1.75、2、2.25、2.5、2.75、3、3.25、3.5、3.75、4、4.25、4.5、4.75、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は、10倍以上促進してもよく、あるいは、細胞外マトリックスへの結合活性が、好ましくは、例えば、少なくとも1.1、1.25、1.5、1.75、2、2.25、2.5、2.75、3、3.25、3.5、3.75、4、4.25、4.5、4.75、5倍以上増大されてもよい。
一実施態様において、改変前または変更前の抗体(天然型抗体(例えば天然型Ig抗体、これは天然型IgG抗体であり得る)、又は参照抗体もしくは親抗体(例えば改変を加える前の抗体、又は、ライブラリ化する前もしくはライブラリ化の過程にある抗体等)、これらはイオン濃度依存的抗体もしくはpIを上昇させた抗体であり得る)と比較して、細胞外マトリックスへの開示Aの抗体の結合活性が増大されているか否かを判断するためのアッセイ方法は、限定されない。例えば、抗体と細胞外マトリックスの結合を検出するELISA系を用いてアッセイを行うことができ、ここで、細胞外マトリックスが固相化されたプレートに抗体を添加し、その抗体に対する標識抗体を添加する。あるいは、当明細書の実施例1〜4やWO2012/093704等に記載されるように、細胞外マトリックス結合能をより高感度に検出することが可能な電気化学発光法(ECL)を用いてもよい。当該方法では、例えば、細胞外マトリックスを固相化したプレートに抗体とルテニウム抗体の混合物を添加し、抗体と細胞外マトリックスとの結合をルテニウムの電気化学発光に基づいて測定するECL系を用いて、実施することができる。抗体の添加濃度は任意に設定することが可能であり、細胞外マトリックスへの結合の検出感度を高めるために添加濃度を高めることができる。このような細胞外マトリックスは、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン、フィブリン、およびパールカン等の糖タンパク質を含むものであれば、動物由来でも植物由来でもよく、動物由来が好ましい場合がある。例えばヒト、マウス、ラット、サル、ウサギ、又はイヌ等の動物由来の細胞外マトリックスを用いることができる。例えば、ヒトにおける抗体の血漿中薬物動態の指標として、ヒト由来の天然型細胞外マトリックスを用いてもよい。抗体の細胞外マトリックスへの結合を評価する条件としては、生理条件下であるpH 7.4付近のpH中性域が好ましいが、必ずしも中性域である必要はなく、pH酸性域(例えばpH6.0付近)において結合を評価してもよい。または、抗体の細胞外マトリックスへの結合を評価する際に、抗体が結合する抗原分子と共存させて、かつ細胞外マトリックスへの抗原-抗体複合体の結合活性を評価することによって、アッセイを実施してもよい。
一実施態様において、開示Aの抗体は、pIを上昇させるために少なくとも1つのアミノ酸残基を改変又は変更する前の抗体(天然型抗体(例えば天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体)又は参照抗体(例えば抗体改変前の抗体、又は、ライブラリ構築前もしくはライブラリ構築中の抗体等))と比較して、抗原に対する結合活性を(実質的に)維持することができる。かかる場合、「抗原に対する結合活性を(実質的に)維持する」とは、改変前または変更前の抗体の結合活性と比較して、少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%もしくは75%以上、さらにより好ましくは80%、85%、90%、又は95%以上の活性を有することを意味し得る。あるいは、開示Aの抗体は、抗原に結合する際にその機能が維持できる程度の結合活性を維持していればよく、したがって、例えば、生理条件下、37℃において測定される親和性が100 nM以下、好ましくは50 nM以下、より好ましくは10 nM以下、さらに好ましくは1 nM以下であってもよい。
開示Aの一実施態様において、「抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の改変」又はこれと同義の表現は、抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基に対して、付加、欠失、置換、および挿入の1つ以上が行われていることを意味し得る。当該改変には、好ましくは、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換が含まれていてもよい。
例えば、当該アミノ酸残基の置換としては、目的となる抗体のアミノ酸配列において、側鎖に負の電荷を有するアミノ酸残基から側鎖に電荷を有さないアミノ酸残基への置換、側鎖に電荷を有さないアミノ酸残基から側鎖に正の電荷を有するアミノ酸残基への置換、および側鎖に負の電荷を有するアミノ酸残基から側鎖に正の電荷を有するアミノ酸残基への置換が挙げられ得、これらは、単独又は適宜組み合わせて実施できること。例えば、当該アミノ酸残基の挿入又は付加としては、目的となる抗体のアミノ酸配列において、側鎖に電荷を有さないアミノ酸の挿入もしくは付加、及び/又は、側鎖に正の電荷を有するアミノ酸の挿入もしくは付加が挙げられ得、これらは、単独又は適宜組み合わせて実施できる。例えば、当該アミノ酸残基の欠失としては、目的となる抗体のアミノ酸配列において、側鎖に電荷を有さないアミノ酸残基の欠失、及び/又は、側鎖に負の電荷を有するアミノ酸残基の欠失が挙げられ得、これらは、単独又は適宜組み合わせて実施できる。
当業者であれば、目的となる抗体のアミノ酸配列において、これらの付加、欠失、置換、および挿入の1つ以上を適宜組み合わせることができる。開示Aの抗体の正味のpIが上昇すればよいので、アミノ酸残基の局所的な電荷の低下をもたらす改変が行われてもよい。例えば、所望により、pIが上昇し(過ぎ)ている抗体のpIを(若干)低下させる改変を行ってもよい。その他の目的(例えば、抗体の安定性の増大や免疫原性の低下)のために少なくとも1つのアミノ酸残基の改変を同時又は異時に行った結果、アミノ酸残基の局所的な電荷が下がっていてもよい。このような抗体としては、特定の目的により作製したライブラリの抗体であってもよい。
一実施態様において、抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の改変に利用されるアミノ酸(残基)のうち、天然アミノ酸は以下である:
側鎖に負の電荷を有するアミノ酸が、Glu (E)又はAsp (D)であり、
側鎖に電荷を有さないアミノ酸が、Ala (A)、Asn (N)、Cys (C)、Gln (Q)、Gly (G)、His (H)、Ile (I)、Leu (L)、Met (M)、Phe (F)、Pro (P)、Ser (S)、Thr (T)、Trp (W)、Tyr (Y)、又はVal (V)であり、
側鎖に正の電荷を有するアミノ酸が、His (H)、Lys (K)又はArg (R)である。
当明細書の実施例1〜4で詳述されるように、中性pH(例えばpH 7.0)の溶液中において、抗体中の残基として存在する場合のリジンおよびアルギニンは、ほぼ100%が正電荷を有する一方で、抗体中の残基として存在する場合のヒスチジンはわずか約9%が正電荷を有し、残りの大部分は電荷を有さないと考えられる。したがって、側鎖に正の電荷を有するアミノ酸としては、Lys (K)又はArg (R)を選択することが好ましい。
一実施態様において、開示Aの抗体は、可変領域及び/又は定常領域を有するのが好ましい。さらに、当該可変領域は、重鎖可変領域及び/もしくは軽鎖可変領域を有するのが好ましい場合があり、かつ/又は、CDR(例えば、CDR1、CDR2及びCDR3の1つ以上)及び/もしくは、FR(例えば、FR1、FR2、FR3及びFR4の1つ以上)を有することが好ましい場合がある。当該定常領域は、重鎖定常領域及び/又は軽鎖定常領域を有するのが好ましい場合があり、その配列及び種類としては、例えば、IgGタイプの定常領域(好ましくは、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3もしくはヒトIgG4タイプの定常領域、ヒトκ鎖定常領域、およびヒトλ鎖定常領域)等を利用してよい。これらの定常領域の改変された改変体を用いてもよい。
一実施態様において、抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の改変は、単独のアミノ酸の改変と複数のアミノ酸の改変の組み合わせのいずれであってもよい。好ましくは、抗体表面にアミノ酸が露出し得る部位に複数のアミノ酸置換を組み合わせて導入する方法を挙げることができる。さらに、限定はされないが、そのような複数のアミノ酸置換は、互いに立体構造的に近接した位置に導入されることが好ましい。例えば、抗体分子の表面に露出し得るアミノ酸(限定はされないが、好ましくは、側鎖に負電荷を有するアミノ酸(例えば、Glu (E)、またはAsp (D))を、側鎖に正電荷を有するアミノ酸(例えば、Lys (K)、またはArg (R))へ置換した場合や、既存の正電荷を有するアミノ酸(例えば、Lys (K)、またはArg (R))を利用した場合に、そのアミノ酸に立体構造的に近接した1又は複数のアミノ酸(場合により、抗体分子内に埋もれているアミノ酸を含んでもよい)についても正電荷を有するアミノ酸へ置換し、結果的に、立体構造的に近接した位置に局所的な正電荷の密集状態を作製してもよい。ここで、「立体構造的に近接した位置」の定義としては、特に限定はされないが、例えば20Å以内、好ましくは15Å以内、更に好ましくは10Å以内に、一つまたは複数のアミノ酸置換が導入されている状態を意味してよい。目的のアミノ酸置換部位が抗体分子の表面に露出するかどうか、あるいはあるアミノ酸置換部位が他のアミノ酸置換部位または上記の既存のアミノ酸に近接しているかどうかは、X線結晶構造解析など、公知の方法により決定可能である。
立体構造的に互いに近接した部位に複数の正電荷を持たせる方法としては、上記の方法に加えて、天然型IgG定常領域において元々正電荷を有しているアミノ酸を利用する方法でもよい。このようなアミノ酸としては、例えば、
EUナンバリングで表される255、292、301、344、355、および416番のアルギニン、ならびに
EUナンバリングで表される121、133、147、205、210、213、214、218、222、246、248、274、288、290、317、320、322、326、334、338、340、360、370、392、409、414、および439番のリジン
が挙げられる。これらの正電荷を有するアミノ酸に立体構造的に近接した位置で、正電荷を有するアミノ酸を用いた置換を行うことにより、立体構造的に近接した部位に複数の正電荷を持たせることが可能である。
また、開示Aの抗体が可変領域(改変されていてもよい)を有する場合には、抗原結合でマスクされない(すなわち、まだ表面に露出できる)アミノ酸残基を改変してもよく、かつ/又は、抗原結合でマスクされる部位ではアミノ酸の改変を導入しなくてもよく、又は、抗原結合を(実質的に)阻害しないアミノ酸改変を行ってもよい。また、イオン濃度依存的結合ドメイン内に存在する、抗体分子の表面に露出し得るアミノ酸残基を改変する場合には、抗原結合ドメインに対してイオン濃度の条件によって抗原に対する抗体の結合活性を変化させることが可能なアミノ酸残基(例えば、カルシウム結合モチーフ内のもの、又はヒスチジン挿入部位、及び/もしくは、ヒスチジン置換部位)の結合活性を改変によって(実質的に)減弱させないように、抗原結合ドメインのアミノ酸を改変してもよく、あるいは、当該イオン濃度の条件によって抗原に対する抗体の結合活性を変化させることが可能なアミノ酸残基以外の部位においてアミノ酸残基を改変してもよい。一方、イオン濃度結合ドメイン内に存在する、抗体分子の表面に露出し得るアミノ酸残基が既に改変されている場合には、抗体のpIが許容可能レベルよりも低下しないように、当該イオン濃度の条件によって抗原に対する抗体の結合活性を変化させることが可能なアミノ酸残基の位置や種類が選択されてよい。抗体のpIが許容可能レベルよりも低下した場合には、抗体分子の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基を改変させることで、抗体全体のpIを上昇させてもよい。
限定はされないが、好ましくは、ヒトの生殖細胞系FR配列又はそれと等価の領域の配列からpIの高いFR配列を選択してもよく、そのアミノ酸は場合により改変されていてもよい。
開示Aの抗体がFcγR結合ドメイン(後述するようなFcγRのいかなるアイソフォームやアロタイプに対する結合ドメインであってもよい)及び/又はFcRn結合ドメインを有する定常領域(改変されていてもよい)を有する場合には、所望により、当該定常領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の改変部位としては、当該FcγR結合ドメイン及び/又は当該FcRn結合ドメイン中のアミノ酸残基を除くアミノ酸残基であり得る。あるいは、当該FcγR結合ドメイン及び/又は当該FcRn結合ドメイン中のアミノ酸残基を改変部位として選択する場合には、FcγR及び/もしくはFcRnへの結合活性もしくは結合親和性には(実質的に)影響しない部位、または影響するとしても生物学的もしくは薬理学的に許容される部位を選択するのが好ましい場合がある。
一実施態様において、可変領域(改変されていてもよい)の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されることでpIが上昇した開示Aの抗体を作製するための、少なくとも1つのアミノ酸残基の改変部位は、限定はされないが、Kabatナンバリングで表される、
(a)重鎖可変領域のFRにおいて1位、3位、5位、8位、10位、12位、13位、15位、16位、18位、19位、23位、25位、26位、39位、41位、42位、43位、44位、46位、68位、71位、72位、73位、75位、76位、77位、81位、82位、82a位、82b位、83位、84位、85位、86位、105位、108位、110位、および112位;
(b)重鎖可変領域のCDRにおいて31位、61位、62位、63位、64位、65位、および97位;
(c)軽鎖可変領域のFRにおいて1位、3位、7位、8位、9位、11位、12位、16位、17位、18位、20位、22位、37位、38位、39位、41位、42位、43位、45位、46位、49位、57位、60位、63位、65位、66位、68位、69位、70位、74位、76位、77位、79位、80位、81位、85位、100位、103位、105位、106位、107位、および108位;ならびに、
(d)軽鎖可変領域のCDRにおいて24位、25位、26位、27位、52位、53位、54位、55位、および56位
からなる群から選択され得、改変後の各位置でのアミノ酸は、限定されないが、Lys (K)、Arg (R)、Gln (Q)、Gly (G)、Ser (S)、またはAsn (N)などの、側鎖の電荷の観点から上述したアミノ酸の任意のものより選択することができる。いくつかの実施態様において、上述のアミノ酸位置のうち、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10箇所、または10を超える箇所が改変される。いくつかの実施態様において、上述のアミノ酸位置のうち、1〜20箇所、1〜15箇所、1〜10箇所、または1〜5箇所が改変される。
一実施態様において、改変される位置の中で以下の位置を、それ自体が抗体のpIを上昇させるのに充分な効果を有し得る他の位置と組み合わせて、開示Aの抗体のpIを上昇させるのを補助するために使用することができる。pIを上昇させるのを補助するためのそのような位置は、例えば、軽鎖可変領域に関して、Kabatナンバリングで表される27位、52位、56位、65位、および69位からなる群より選択され得る。
さらに、当該CDR及び/又はFRにおける少なくとも1つのアミノ酸残基の改変部位は、限定はされないが、
(a)重鎖可変領域のFRにおいて8位、10位、12位、13位、15位、16位、18位、23位、39位、41位、43位、44位、77位、82位、82a位、82b位、83位、84位、85位、および105位;
(b)重鎖可変領域のCDRにおいて31位、61位、62位、63位、64位、65位、および97位;
(c)軽鎖可変領域のFRにおいて16位、18位、37位、41位、42位、45位、65位、69位、74位、76位、77位、79位、および107位;ならびに、
(d)軽鎖可変領域のCDRにおいて24位、25位、26位、27位、52位、53位、54位、55位、および56位
からなる群から選択され得る。いくつかの実施態様において、上述のアミノ酸位置のうち、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10箇所、または10を超える箇所が改変される。いくつかの実施態様において、上述のアミノ酸位置のうち、1〜20箇所、1〜15箇所、1〜10箇所、および1〜5箇所が改変される。
例えば、少なくとも1つのアミノ酸残基の改変部位が、上述の群を含む群から選択される場合、重鎖可変領域における改変後のアミノ酸の種類は、例えば、
(a)8位では、8K、8R、8Q、8G、8S、又は8N;
(b)13位では、13K、13R、13Q、13G、13S、又は13N;
(c)15位では、15K、15R、15Q、15G、15S、又は15N;
(d)16位では、16K、16R、16Q、16G、16S、又は16N;
(e)18位では、18K、18R、18Q、18G、18S、又は18N;
(f)39位では、39K、39R、39Q、39G、39S、又は39N;
(g)41位では、41K、41R、41Q、41G、41S、又は41N;
(h)43位では、43K、43R、43Q、43G、43S、又は43N;
(i)44位では、44K、44R、44Q、44G、44S、又は44N;
(j)63位では、63K、63R、63Q、63G、63S、又は63N;
(k)64位では、64K、64R、64Q、64G、64S、又は64N;
(l)77位では、77K、77R、77Q、77G、77S、又は77N;
(m)82位では、82K、82R、82Q、82G、82S、又は82N;
(n)82a位では、82aK、82aR、82aQ、82aG、82aS、又は82aN;
(o)82b位では、82bK、82bR、82bQ、82bG、82bS、又は82bN;
(p)83位では、83K、83R、83Q、83G、83S、又は83N;
(q)84位では、84K、84R、84Q、84G、84S、又は84N;
(r)85位では、85K、85R、85Q、85G、85S、又は85N;あるいは
(s)105位では、105K、105R、105Q、105G、105S、又は105N
である。いくつかの実施態様において、上述のアミノ酸位置のうち少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10箇所、または10を超える箇所の任意の組み合わせが改変される。いくつかの実施態様において、上述のアミノ酸位置のうち、1〜20箇所、1〜15箇所、1〜10箇所、又は1〜5箇所の任意の組み合わせが改変される。
重鎖可変領域における改変アミノ酸位置の組み合わせの非限定的な例は、例えば、Kabatナンバリングで表される、
16位、43位、64位、及び105位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
77位、82a位、及び82b位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
77位及び85位;
41位及び44位;
82a位及び82b位;
82位及び82b位;
82b位及び83位;または
63位及び64位
であり、改変後の各位置でのアミノ酸は、限定はされないが、側鎖の電荷の観点から、上述したアミノ酸の任意のもの、例えばLys (K)、Arg (R)、Gln (Q)、Gly (G)、Ser (S)、またはAsn (N)から選択することができる。
具体的な組み合わせは、例えば、16Q/43R/64K/105Q; 77R/82aN/82bR; 77R/82aG/82bR; 77R/82aS/82bR; 77R/85G; 41R/44R; 82aN/82bR; 82aG/82bR; 82aS/82bR; 82K/82bR; 82bR/83R; 77R/85R; または63R/64Kであり得る。
同様に、軽鎖可変領域における改変後のアミノ酸の種類は、例えば、
(a)16位では、16K、16R、16Q、16G、16S、又は16N;
(b)18位では、18K、18R、18Q、18G、18S、又は18N;
(c)24位では、24K、24R、24Q、24G、24S、又は24N;
(d)25位では、25K、25R、25Q、25G、25S、又は25N;
(e)26位では、26K、26R、26Q、26G、26S、又は26N;
(f)27位では、27K、27R、27Q、27G、27S、又は27N;
(g)37位では、37K、37R、37Q、37G、37S、又は37N;
(h)41位では、41K、41R、41Q、41G、41S、又は41N;
(i)42位では、42K、42R、42Q、42G、42S、又は42N;
(j)45位では、45K、45R、45Q、45G、45S、又は45N;
(k)52位では、52K、52R、52Q、52G、52S、又は52N;
(l)53位では、53K、53R、53Q、53G、53S、又は53N;
(m)54位では、54K、54R、54Q、54G、54S、又は54N;
(n)55位では、55K、55R、55Q、55G、55S、又は55N;
(o)56位では、56K、56R、56Q、56G、56S、又は56N;
(p)65位では、65K、65R、65Q、65G、65S、又は65N;
(q)69位では、69K、69R、69Q、69G、69S、又は69N;
(r)74位では、74K、74R、74Q、74G、74S、又は74N;
(s)76位では、76K、76R、76Q、76G、76S、又は76N;
(t)77位では、77K、77R、77Q、77G、77S、又は77N;
(u)79位では、79K、79R、79Q、79G、79S、又は79N;および
(v)107位では、107K、107R、107Q、107G、107S、又は107N
である。いくつかの実施態様において、上述のアミノ酸位置のうち、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10箇所、または10を超える箇所の任意の組み合わせが改変される。いくつかの実施態様において、上述のアミノ酸位置の組み合わせのうち、1〜20箇所、1〜15箇所、1〜10箇所、又は1〜5箇所の任意の組み合わせが改変される。
軽鎖可変領域における改変したアミノ酸位置の組み合わせの非限定的な例は、例えば、Kabatナンバリングで表される、
24位及び27位;
25位及び26位;
41位及び42位;
42位及び76位;
52位及び56位;
65位及び79位;
74位及び77位;
76位及び79位;
16位、24位、及び27位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、及び37位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
25位、26位、及び37位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
27位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
41位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
41位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、41位、及び42位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、52位、及び56位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、65位、及び69位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
25位、26位、52位、及び56位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
25位、26位、65位、及び69位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
25位、26位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
27位、41位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
27位、41位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
52位、56位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
52位、56位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
65位、69位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
65位、69位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
18位、24位、45位、79位、及び107位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
27位、52位、56位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
27位、52位、56位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
27位、65位、69位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
27位、65位、69位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
41位、52位、56位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
41位、52位、56位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
41位、65位、69位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
41位、65位、69位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、41位、42位、65位、及び69位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、52位、56位、65位、及び69位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、65位、69位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、65位、69位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、41位、42位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、52位、56位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、41位、42位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、52位、56位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
24位、27位、74位、76位、77位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上;
52位、56位、65位、69位、74位、及び77位からなる群より選択される任意の2箇所以上;または
52位、56位、65位、69位、76位、及び79位からなる群より選択される任意の2箇所以上
であり、改変後の各位置でのアミノ酸は、限定はされないが、側鎖の電荷の観点から、上述したアミノ酸の任意のもの、例えばLys (K)、Arg (R)、Gln (Q)、Gly (G)、Ser (S)、またはAsn (N)から選択することができる。
具体的な組み合わせは、例えば、24R/27Q; 24R/27R; 24K/27K; 25R/26R; 25K/26K; 41R/42K; 42K/76R; 52R/56R; 65R/79K; 74K/77R; 76R/79K; 16K/24R/27R; 24R/27R/37R; 25R/26R/37R; 27R/76R/79K; 41R/74K/77R; 41R/76R/79K; 24R/27R/41R/42K; 24R/27R/52R/56R; 24R/27R/52K/56K; 24R/27R/65R/69R; 24R/27R/74K/77R; 24R/27R/76R/79K; 25R/26R/52R/56R; 25R/26R/52K/56K; 25R/26R/65R/69R; 25R/26R/76R/79K; 27R/41R/74K/77R; 27R/41R/76R/79K; 52R/56R/74K/77R; 52R/56R/76R/79K; 65R/69R/76R/79K; 65R/69R/74K/77R; 18R/24R/45K/79Q/107K; 27R/52R/56R/74K/77R; 27R/52R/56R/76R/79K; 27R/65R/69R/74K/77R; 27R/65R/69R/76R/79K; 41R/52R/56R/74K/77R; 41R/52R/56R/76R/79K; 41R/65R/69R/74K/77R; 41R/65R/69R/76R/79K; 24R/27R/41R/42K/65R/69R; 24R/27R/52R/56R/65R/69R; 24R/27R/65R/69R/74K/77R; 24R/27R/65R/69R/76R/79K; 24R/27R/41R/42K/74K/77R; 24R/27R/52R/56R/74K/77R; 24R/27R/41R/42K/76R/79K; 24R/27R/52R/56R/76R/79K; 24R/27R/74K/76R/77R/79K; 52R/56R/65R/69R/74K/77R; または52R/56R/65R/69R/76R/79Kであり得る。
可変領域におけるいくつかのアミノ酸残基の改変によりpIを上昇させる効果が、抗体を構成するアミノ酸配列自体や標的抗原の種類に限って(または実質的に)依存するのではなく、置換されるアミノ酸残基の種類や数に依存することは、WO2007/114319又はWO2009/041643において理論的根拠、ホモロジーモデリング、又は実験的手法に基づいて既に説明又は実証されている。また、いくつかのアミノ酸を改変した後であっても、複数種の抗原に対する抗原の結合活性が(実質的に)維持されるか、少なくとも高い蓋然性をもって保持されると当業者に期待され得ることが、実証されている。
例えば、WO2009/041643には、具体的に、配列番号:8で表されるヒト化グリピカン3抗体の重鎖FRにおいて、表面に露出し得るアミノ酸残基の改変部位としては、Kabatナンバリングで表される、1、3、5、8、10、12、13、15、16、19、23、25、26、39、42、43、44、46、69、72、73、74、76、77、82、85、87、89、90、107、110、112、および114位が好ましいことが示されている。また、Kabatナンバリングで表される97位のアミノ酸残基が、ほぼ全ての抗体で表面に露出されていることから好ましいと報告されている。またWO2009/041643には、当該抗体の重鎖CDRにおいて、52、54、62、63、65、および66位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。また、配列番号:9で表されるヒト化グリピカン3抗体の軽鎖FRにおいて、Kabatナンバリングで表される1、3、7、8、9、11、12、16、17、18、20、22、43、44、45、46、48、49、50、54、62、65、68、70、71、73、74、75、79、81、82、84、85、86、90、105、108、110、111、および112位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。また、当該抗体の軽鎖CDRにおいて、24、27、33、55、および59位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。さらに、WO2009/041643には、抗原に対する結合活性を維持しつつ表面に露出し得るアミノ酸残基を改変できる部位として、具体的に、配列番号:10で表される抗ヒトIL-6受容体抗体の重鎖CDRにおいて、Kabatナンバリングで表される、31、64、および65位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。また、配列番号:11で表される抗ヒトIL-6受容体抗体の軽鎖CDRにおいて、Kabatナンバリングで表される、24、27、53、および55位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。また、抗原に対する結合活性を維持しつつ表面に露出し得るアミノ酸残基を改変できる部位として、具体的に、配列番号:12で表される抗ヒトIL-6受容体抗体の重鎖CDRにおいて、Kabatナンバリングで表される、31位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。また、配列番号:13で表される抗ヒトIL-6受容体抗体の軽鎖CDRにおいて、Kabatナンバリングで表される、24、53、54、および55位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。またWO2009/041643には、抗原に対する結合活性を維持しつつ表面に露出し得るアミノ酸残基を改変できる部位として、配列番号:14で表される抗ヒトグリピカン3抗体の重鎖CDRにおいて、Kabatナンバリングで表される、61、62、64、および65位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。また、配列番号:15で表される抗ヒトグリピカン3抗体の軽鎖CDRにおいて、Kabatナンバリングで表される、24および27位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。また、抗原に対する結合活性を維持しつつ表面に露出し得るアミノ酸残基を改変できる部位として、配列番号:16で表される抗ヒトIL-31受容体抗体の重鎖CDRにおいて、Kabatナンバリングで表される、61、62、64、および65位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。またWO2009/041643には、配列番号:17で表される抗ヒトIL-31受容体抗体の軽鎖CDRにおいて、Kabatナンバリングで表される、24および54位のアミノ酸残基が好ましいことも示されている。同様に、WO2007/114319には、表面に露出し得る1又は複数のアミノ酸残基の電荷を改変することにより作製した抗体hA69-PF、hA69-p18、hA69-N97R、hB26-F123e4、hB26-p15、およびhB26-PFについて、等電点電気泳動によってpIの変化が実証されたこと、および、これらの抗原である第IXa因子又は第X因子に対する結合活性が改変前または変更前の抗体と比較して同等であったことが報告されている。また、マウスにこれらの抗体を投与することで、各抗体のpIと各抗体の血漿中クリアランス(CL)、血漿中滞留時間、血漿中半減期(T1/2)が高い相関関係を示したことも報告された。またWO2007/114319は、表面に露出し得るアミノ酸残基の改変部位として、可変領域の10、12、23、39、43、97、および105位のアミノ酸残基が好ましいことを実証している。
代替的な実施態様又はさらなる実施態様において、例えば、X線結晶構造解析、または抗体定常領域(限定はされないが、好ましくはヒト定常領域であり、ヒトIg型の定常領域であることがより好ましく、ヒトIgG型の定常領域であることがいっそう好ましい)からのホモロジーモデリングにより構築されたホモロジーモデルなどの公知の方法を用いて、抗体定常領域の表面に露出し得るアミノ酸残基を同定し、pIが上昇している開示Aの抗体を作製するための少なくとも1つのアミノ酸残基の改変部位を決定してもよい。限定はされないが、定常領域の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基の改変部位としては、好ましくは、EUナンバリングで表される、196位、253位、254位、256位、257位、258位、278位、280位、281位、282位、285位、286位、306位、307位、308位、309位、311位、315位、327位、330位、342位、343位、345位、356位、358位、359位、361位、362位、373位、382位、384位、385位、386位、387位、388位、389位、399位、400位、401位、402位、413位、415位、418位、419位、421位、424位、430位、433位、434位、及び443位からなる群より選択されることができ、好ましくは、254位、258位、281位、282位、285位、309位、311位、315位、327位、330位、342位、343位、345位、356位、358位、359位、361位、362位、384位、385位、386位、387位、389位、399位、400位、401位、402位、413位、418位、419位、421位、433位、434位、及び、443位からなる群より選択されてもよく、また好ましくは、282位、309位、311位、315位、342位、343位、384位、399位、401位、402位、及び413位からなる群より選択されてもよく、改変後の各部位のアミノ酸としては、限定はされないが、側鎖の電荷の観点から、Lys (K)、Arg (R)、Gln(Q)、又はAsn(N)などの上述したアミノ酸から選択することができる。したがって、例えば、少なくとも1つのアミノ酸残基の改変部位が上述の群を含む群から選択される場合、各部位での改変後のアミノ酸の種類は、例えば、以下:
254位では、254K、254R、254Q、又は254N;
258位では、258K、258R、258Q、又は258N;
281位では、281K、281R、281Q、又は281N;
282位では、282K、282R、282Q、又は282N;
285位では、285K、285R、285Q、又は285N;
309位では、309K、309R、309Q、又は309N;
311位では、311K、311R、311Q、又は311N;
315位では、315K、315R、315Q、又は315N;
327位では、327K、327R、327Q、又は327N;
330位では、330K、330R、330Q、又は330N;
342位では、342K、342R、342Q、又は342N;
311位では、343K、343R、343Q、又は343N;
345位では、345K、345R、345Q、又は345N;
356位では、356K、356R、356Q、又は356N;
358位では、358K、358R、358Q、又は358N;
359位では、359K、359R、359Q、又は359N;
361位では、361K、361R、361Q、又は361N;
362位では、362K、362R、362Q、又は362N;
384位では、384K、384R、384Q、又は384N;
385位では、385K、385R、385Q、又は385N;
386位では、386K、386R、386Q、又は386N;
387位では、387K、387R、387Q、又は387N;
389位では、389K、389R、389Q、又は389N;
399位では、399K、399R、399Q、又は399N;
400位では、400K、400R、400Q、又は400N;
401位では、401K、401R、401Q、又は401N;
402位では、402K、402R、402Q、又は402N;
413位では、413K、413R、413Q、又は413N;
418位では、418K、418R、418Q、又は418N;
419位では、419K、419R、419Q、又は419N;
421位では、421K、421R、421Q、又は421N;
433位では、433K、433R、433Q、又は433N;
434位では、434K、434R、434Q、又は434N;および
443位では、443K、443R、443Q、又は443N
であり得る。
また、代替的な実施態様において、少なくとも1つのアミノ酸残基の改変部位及び改変後のアミノ酸の種類としては、EUナンバリングで表される、345Rもしくは345K、及び/又は、430R、430K、430Gもしくは435Tが含まれていてもよい。
開示Aの抗体の一実施態様において、可変領域(改変されていてもよい)の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が上述のように改変され、かつ、定常領域(改変されていてもよい)の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が上述のように改変されることにより、抗体の正味のpIが上昇していてもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、開示AまたはBの抗体がIgG型抗体又はそれに由来する分子の場合には、抗体の重鎖定常領域にはIgG1、IgG2、IgG3、又は、IgG4タイプの定常領域が含まれうる。開示AまたはBにおいては、限定はされないが、重鎖定常領域はヒト重鎖定常領域であってもよい。ヒトIgGには、いくつかのアロタイプが存在することが知られている。つまり、ヒトIgG定常領域のアミノ酸配列には、個人間で若干の違いが存在することが報告されている(Methods Mol. Biol. 882:635-80 (2012);Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242)。その一例として、それぞれ、ヒトIgG1定常領域(配列番号:18)、ヒトIgG2定常領域(配列番号:19)、ヒトIgG3定常領域(配列番号:20)、およびヒトIgG4定常領域(配列番号:21)が挙げられる。
これらのうち、例えばヒトIgG1としては、G1m1,17やG1m3と呼ばれるアロタイプが知られている。これらのアロタイプはアミノ酸配列上の違いを有している。すなわち、G1m1,17はEUナンバリングで表される356位にアスパラギン酸、358位にロイシンを有するのに対して、G1m3は356位にグルタミン酸、358位にメチオニンを有する。しかしながら、報告されているアロタイプについて、本質的な抗体の機能や性質に重大な差異があることを示唆する報告はなされていない。そのため、特定のアロタイプを用いて各種の検討が行われたこと、および、その結果は、これらの実施例を取得するために使用されたアロタイプのみに限定されるものではなく、いずれのアロタイプにおいても同様の効果が期待されることが、当業者には容易に推測されることであろう。以上のことから、当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「ヒトIgG1」、「ヒトIgG2」、「ヒトIgG3」、または「ヒトIgG4」と表記された場合には、当該アロタイプは特定のアロタイプのみに限定されることなく、報告されている全てのアロタイプを含むことができるものとする。
開示AまたはBの代替的な又はさらなる実施態様において、抗体の軽鎖定常領域は、κ鎖(IgK)又はλ鎖(IgL1、IgL2、IgL3、IgL6、またはIgL7)タイプの任意の定常領域を含むことができる。限定はされないが、軽鎖定常領域はヒト軽鎖定常領域であるのが好ましい。ヒトκ鎖定常領域とヒトλ鎖定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242等から報告されている。そのようなアロタイプの一例として、ヒトκ鎖定常領域(配列番号:22)およびヒトλ鎖定常領域(配列番号:23)が挙げられる。しかしながら、報告されているアロタイプについて、本質的な抗体の機能や性質に重大な差異があることを示唆する報告はなされていない。そのため、当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において特定のアロタイプに言及されている場合、全てのアロタイプ(以下、これらを総称して天然型(ヒト)IgG(タイプ)定常領域ともいう。)において同様の効果が期待されることが、当業者には容易に推測できる。
また、天然型IgG抗体のFc領域は、天然型IgG抗体の定常領域の一部を構成することから、開示A又はBの抗体が、例えばIgG型抗体又はそれに由来する分子である場合には、該抗体は天然型IgG(IgG1、IgG2、IgG3、又は、IgG4タイプ)の定常領域に含まれるFc領域を有してよい(以下、これらを総称して、天然型(ヒト)IgG(タイプ)Fc領域ともいう。)。天然型IgGのFc領域とは、天然に見出されるIgGを起源とするFc領域と同一のアミノ酸配列からなるFc領域を意味することができる。天然型ヒトIgGのFc領域の具体例としては、上述した、ヒトIgG1定常領域(配列番号:18)、ヒトIgG2定常領域(配列番号:19)、ヒトIgG3定常領域(配列番号:20)、又はヒトIgG4定常領域(配列番号:21)に含まれるFc領域(IgGクラスのFc領域とは例えば、EUナンバリングで表される226位のシステインからC末端まで、あるいはEUナンバリングで表される230位のプロリンからC末端までを意味することができる)を含むことができる。
一実施態様において、開示AおよびBの抗体は、天然型(好ましくは、ヒト)IgGの定常領域(重鎖定常領域及び/又は軽鎖定常領域)、あるいは、天然型(好ましくは、ヒト)IgGのFc領域において、アミノ酸の置換、付加、欠失、又は挿入より選択される1つ以上の改変が行われた改変体を含み得る。
本明細書中の開示Aを記載している範囲において、WO2013/081143は、例えば、多量体抗原と多価の免疫複合体(抗原と抗体との多価の複合体)を形成できるイオン濃度依存的抗体、および、単量体抗原に存在する2つ以上のエピトープを認識することで多価の免疫複合体(抗原と抗体との多価の複合体)を形成できる多重特異性(multispecific)イオン濃度依存的抗体または多重パラトピックな(multiparatopic)イオン濃度依存的抗体が、これらの抗体分子に含まれる少なくとも2つ以上の多価の定常領域(改変されていてもよい)またはFc領域(改変されていてもよい)を介する結合力(複数のエピトープと複数のパラトープの間の結合の強さの総和)によって、FcγR、FcRn、補体受容体に対してより強固に結合可能であること;ならびにその結果、抗体が細胞内により迅速に取り込まれることを報告している。したがって、抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基を改変することで上昇したpIを有するよう改変された場合、多量体抗原または単量体抗原と多価の免疫複合体を形成できる上記のイオン濃度依存的抗体も、開示Aの抗体(pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体)として使用し得る。多量体抗原または単量体抗原と多価の免疫複合体を形成できるpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体は、多価の免疫複合体を形成できないpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体と比較して、より迅速に細胞内に取り込まれ得ることを当業者は認識するであろう。また、開示Aの抗体は、一実施態様において、中性pHの条件下においてFcRnおよび/またはFcγRに対する結合活性が増大されていてもよく、かかる場合、多量体抗原または単量体抗原と多価の免疫複合体を形成できるpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体は、さらにより迅速に細胞内に取り込まれ得ることも当業者は理解できる。
一実施態様において、開示Aの抗体は、片腕抗体(WO2005/063816に記載される片腕抗体のあらゆる実施態様を含む)であってもよい。典型的には、片腕抗体は、通常のIgG抗体が有する2つのFab領域のうち一方を欠損している抗体であり、限定されないが、例えばWO2005/063816に記載の方法で作製可能である。限定はされないが、例えば、重鎖がVH-CH1-Hinge-CH2-CH3の構造を有するIgG型抗体において、HingeよりもN末側の部位(例えば、VH又はCH1)で
Fab領域の一方を切断すると、余分な配列を含む形で抗体が発現することとなり、また、HingeよりもC末側の部位(例えばCH2)でFab領域の一方を切断すると、Fc領域が不完全な形になる。したがって、限定はされないが、抗体分子の安定性の観点から、IgG型抗体の2つのFab領域のうちの一方が有するヒンジ領域(Hinge)で切断して片腕抗体を作製するのが好ましい。切断後の重鎖が、切断されていない重鎖と分子内ジスルフィド結合を介して連結されていることがより好ましい。このような片腕抗体は、Fab分子と比較して安定性が増大していることがWO2005/063816で報告されている。このような片腕抗体を作製することで、pIが上昇又は低下した抗体を作製することもできる。さらに、片腕抗体であるpIを上昇させた抗体にイオン濃度依存的抗原結合ドメインを組み入れた場合は、イオン濃度依存的抗原結合ドメインを有さないpIを上昇させた抗体と比較して、抗体の血漿中半減期をさらに短縮させることができ、あるいは、抗体の細胞内への取り込みをさらに促進させることができ、あるいは、血漿中からの抗原の消失をさらに促進させることができ、あるいは、抗体の細胞外マトリックスへの親和性をさらに増大させることができる。
特定の理論に拘束されないが、特に限定されないが、片腕抗体による細胞内取り込みの加速効果が期待される実施態様として、可溶型抗原のpIが抗体よりも低い場合が想定され得る。抗体と抗原からなる複合体の正味のpIは、複合体を一つの分子とみなすことにより公知の方法で計算することが可能である。この場合、可溶型抗原のpIが低いほど、複合体の正味のpIも低くなり、可溶型抗原のpIが高いほど、複合体の正味のpIも高くなる。また、通常型のIgG抗体分子(2つのFabを持つ)に対して、pIが低い可溶型抗原が1つ結合した場合と、pIが低い可溶型抗原が2つ結合した場合とでは、後者の方が複合体の正味のpIは低くなる。このような通常型抗体を片腕抗体に変換すると、1つの抗体分子には1つの抗原しか結合できないが、それにより、2つ目の抗原が結合することによる複合体のpI低下を抑制することが可能となる。言いかえれば、可溶型抗原のpIが抗体のpIよりも低い場合は、片腕抗体への変換により、通常抗体と比較して複合体のpIを上昇させ、それにより細胞内への取り込みが加速すると考えられる。
さらに、限定はされないが、通常のIgG型抗体分子(2つのFabを持つ)において、FcのpIに比べてFabのpIが低い場合には、片腕抗体への変換により、片腕抗体と抗原からなる複合体の正味のpIは高くなる。さらに、片腕抗体へのそのような変換を行う際には、片腕抗体の安定性の観点から、FabとFcの境界に位置するヒンジ領域において一方のFabを切断するのが好ましい。この際には片腕抗体のpIが所望の程度まで上昇するような部位を選択することにより、pIが効果的に上昇することが期待される。
したがって、抗体の理論pI(Fcの理論pI、Fabの理論pI)、並びに可溶型抗原の理論pIを算出してそれらの理論pI値の差異についての関係を予測することにより抗体を片腕抗体に変換することによって、抗体のアミノ酸配列自体及び可溶型抗原の種類に限って(または実質的に)依拠することなく、抗体のpIを上昇させることができかつそれに伴う細胞内への抗原の取り込みを加速させ得ることが当業者には理解される。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体は多重特異性抗体であってよく、限定はされないが、当該多重特異性抗体は二重特異性抗体であってもよい。当該多重特異性抗体は、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性抗体である。ここで、「第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む多重特異性抗体」とは、少なくとも2種以上の異なる抗原もしくは同一抗原内の少なくとも2種以上の異なるエピトープに結合する抗体を意味する。第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、重鎖可変領域を含み得ることが好ましく、当該可変領域には、CDR及び/又はFRが含まれていることがより好ましい。別の実施態様においては、当該第1のポリペプチドおよび当該第2のポリペプチドは、それぞれ、重鎖定常領域を含み得ることが好ましい。さらに別の実施態様において、当該多重特異性抗体は、軽鎖可変領域及び好ましくはさらに軽鎖定常領域をそれぞれ含む、第3のポリペプチド及び第4のポリペプチドを含んでよい。かかる場合、第1〜第4のポリペプチドが一緒に会合して多重特異性抗体を形成してよい。
一実施態様において、開示Aの抗体が多重特異性抗体であり、当該多重特異性抗体が重鎖定常領域を含む場合に、そのpIを低下させるためには、例えば、137位でIgG2またはIgG4の配列、196位でIgG1またはIgG2またはIgG4の配列、203位でIgG2またはIgG4の配列、214位でIgG2の配列、217位でIgG1またはIgG3またはIgG4の配列、233位でIgG1またはIgG3またはIgG4の配列、268位でIgG4の配列、274位でIgG2またはIgG3またはIgG4の配列、276位でIgG1またはIgG2またはIgG4の配列、355位でIgG4の配列、392位でIgG3の配列、419位でIgG4の配列、あるいは、435位でIgG1またはIgG2またはIgG4の配列を使用してもよい。一方、pIを上昇させるためには、例えば、137位でIgG1またはIgG3の配列、196位でIgG3の配列、203位でIgG1またはIgG3の配列、214位でIgG1またはIgG3またはIgG4の配列、217位でIgG2の配列、233位でIgG2の配列、268位でIgG1またはIgG2またはIgG3の配列、274位でIgG1の配列、276位でIgG3の配列、355位でIgG1またはIgG2またはIgG3の配列、392位でIgG1またはIgG2またはIgG4の配列、419位でIgG1またはIgG2またはIgG3の配列、あるいは、435位でIgG3の配列を使用してもよい。
一実施態様において、開示Aの抗体が2つの重鎖定常領域を有する場合、2つの重鎖定常領域のpIは互いに同一でも異なっていてもよい。そのような重鎖定常領域としては、元々pIの異なるIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4の重鎖定常領域を利用してもよい。あるいは、2つの重鎖定常領域間にpI差を導入してもよい。定常領域にpI差を導入するための少なくとも1つのアミノ酸残基の改変部位は、上述した位置であってもよいし、あるいは、例えば、WO2009/041643に記載された重鎖定常領域のEUナンバリングで表される137位、196位、203位、214位、217位、233位、268位、274位、276位、297位、355位、392位、419位、および435位からなる群から選択される部位であってもよい。あるいは、重鎖定常領域から糖鎖を除去することによりpI差が生じることから、糖鎖付加位置である297位のアミノ酸残基を改変して糖鎖を除去してもよい。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であってよく、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。モノクローナル抗体には、ハイブリドーマにより産生されるもの、又は、遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞によって産生されるもの等が含まれる。開示AまたはBの抗体は、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、もしくは親和性成熟により作製された抗体などの抗体またはそれに由来する分子であってもよい。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体は、限定しないが、いかなる動物種(例えば、ヒト;あるいは、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ウシ、又はラクダなどの非ヒト動物)あるいはいかなる鳥類等に由来してもよく、該抗体はヒト、サル又はマウスに由来するのが好ましい。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体はIg型抗体であってよく、好ましくはIgG型抗体であってもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、Fc受容体(「FcR」ともいう)とは、免疫グロブリン(抗体)又はそれに由来する分子が有するFc領域又はFc領域改変体に結合し得る受容体タンパク質を指す。当明細書中の開示Aを記載している範囲において、例えば、IgG、IgA、IgE、およびIgMに対するFc受容体は、それぞれ、FcγR、FcαR、FcεR、およびFcμRとして知られている。当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、Fc受容体は、例えば、FcRn(「新生児型Fc受容体」ともいう)であってもよい。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、「FcγR」とは、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4抗体又はそれに由来する分子が有するFc領域又はFc領域改変体に結合し得る受容体タンパク質を指してよく、実質的にFcγR遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーの任意の一つ以上、あるいは全てのメンバーを包含する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131(H型)およびR131(R型)を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);ならびに、アイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにあらゆる未発見のヒトFcγR類とFcγRアイソフォームおよびアロタイプとが含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに、ヒトFcγRIIb(hFcγRIIb)のスプライシング改変体としてFcγRIIb1とFcγRIIb2とが報告されている。また、それ以外にもFcγRIIb3というスプライシング改変体も報告されている(Brooks et al., J. Exp. Med, 170: 1369-1385 (1989))。hFcγRIIbには、これらに加えて、NP_001002273.1、NP_001002274.1、NP_001002275.1、NP_001177757.1、およびNP_003992.3としてNCBIに登録されているあらゆるスプライシング改変体が含まれる。また、hFcγRIIbには既存の報告されたあらゆる遺伝子多型も含まれ、例えば、FcγRIIb(Arthritis Rheum, 48: 3242-3252 (2003), Kono et al., Hum. Mol. Genet, 14: 2881-2892 (2005)、Kyogoku et al., Arthritis Rheum. 46(5):1242-1254 (2002))も含まれるのみならず、今後報告されるあらゆる遺伝子多型も含まれる。
FcγRはいかなる生物由来でもよく、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、またはサル由来のものを含み得るが、これらに限定されない。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)及びFcγRIII-2(CD16-2)、並びにあらゆる未発見のマウスFcγR類とFcγRアイソフォームおよびアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。このようなFcγRの好適な例としては、ヒトFcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16)、またはFcγRIIIB(CD16)が挙げられる。なお、FcγRはインビボで膜型として存在するため、適宜、可溶型へ人工的に変換した後に実験系で用いてもよい。
一例として、WO2014/163101に挙げられるように、
FcγRIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれNM_000566.3及びNP_000557.1に記載の配列であってもよく、
FcγRIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれBC020823.1及びAAH20823.1に記載の配列であってもよく、
FcγRIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれBC146678.1及びAAI46679.1に記載の配列であってもよく、
FcγRIIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれBC033678.1及びAAH33678.1に記載の配列であってもよく、
FcγRIIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれBC128562.1及びAAI28563.1に記載の配列であってもよい(RefSeqアクセッション番号を示す。)。
FcγRIIaには、FcγRIIaの131位のアミノ酸がヒスチジン(H型)あるいはアルギニン(R型)に置換された2種類の遺伝子多型が存在する(J. Exp. Med. 172: 19-25, 1990)。
FcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)、並びに、FcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)を含むFcγRIII(CD16)では、IgGのFc領域に結合するα鎖が、細胞内に活性化シグナルを伝達するITAMを有する共通γ鎖に連結されている。FcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)はGPIアンカータンパク質である。一方、アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)及びFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)の細胞質ドメインにはITAMが含まれている。これらの受容体は、マクロファージ、マスト細胞、および抗原提示細胞等の多くの免疫細胞で発現している。これらの受容体がIgGのFc領域に結合することで伝達される活性化シグナルによって、マクロファージの貪食能、炎症性サイトカインの産生、マスト細胞の脱顆粒、および抗原提示細胞の機能亢進が促進される。このように活性化シグナルを伝達する能力を有するFcγRは、当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲においても活性型FcγRと呼ばれる。
一方、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)の細胞質内ドメインには抑制型シグナルを伝達するITIMが含まれている。B細胞ではFcγRIIbとB細胞受容体(BCR)との架橋によってBCRからの活性化シグナルが抑制された結果、BCRの抗体産生が抑制される。マクロファージでは、FcγRIIIとFcγRIIbとの架橋によって貪食能や炎症性サイトカインの産生能が抑制される。このように抑制シグナルを伝達する能力を有するFcγRは、当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲においても抑制型Fcγ受容体とも呼ばれる。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、抗体又はFc領域(改変体)の各種FcγRに対する結合活性が改変前の抗体又はFc領域(改変体)と比較して増大したか、(実質的に)維持されているか、又は減少したかどうかを、当業者に公知の方法によって評価することができる。そのような方法は特に限定されず、本実施例に記載のものを用いてもよく、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103 (11), 4005-4010)を用いてもよい。あるいは、例えば、ELISAや蛍光活性化細胞分類(FACS)の他、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)を利用してもよい。これらのアッセイにはヒトFcγRの細胞外ドメインが可溶性抗原として用いられてよい(例えばWO2013/047752)。
抗体又はFc領域(改変体)に含まれるFcγR結合ドメインとFcγRとの結合活性を測定するためのpHの条件として、酸性または中性のpH条件が好適に使用され得る。測定条件に使用される温度として、FcγR結合ドメインとFcγRとの結合活性(結合親和性)は、例えば10℃〜50℃の任意の温度で評価され得る。ヒトFcγR結合ドメインとFcγRとの結合活性(結合親和性)を決定するための好ましい温度は、例えば15℃〜40℃である。より好ましくは、例えば20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、FcγR結合ドメインとFcγRとの結合活性(結合親和性)を決定するために使用される。25℃という温度は非限定的な一例である。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体が定常領域(改変されていてもよい)を有する場合には、当該定常領域はFc領域又はFc領域改変体(好ましくは、ヒトFc領域又はヒトFc領域改変体)を有してよく、開示Aの範囲においてFcγR結合ドメイン、及び当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲においてFcRn結合ドメインを有するのが好ましい。
一実施態様において、開示Aの抗体がFcγRに対する結合活性を有する場合には、これはFcγR結合ドメイン、好ましくはヒトFcγR結合ドメインを有してよい。FcγR結合ドメインは、抗体が酸性pHおよび/または中性pHにおいてFcγRに対して結合活性もしくは親和性を有している限り特に限定されず、あるいは、直接または間接的にFcγRに対して結合する活性を有するドメインであってもよい。
一実施態様において、開示Aの抗体がFcγRに対する結合活性を有する場合、当該抗体は、天然型IgGの定常領域を含む参照抗体と比較して、中性pHの条件下でFcγRに対する結合活性が増大されていることが好ましい。ここで、限定はされないが、開示Aの抗体と天然型IgGの定常領域を含む参照抗体とは、好ましくは1つ以上のアミノ酸残基が改変されている開示Aの抗体中の定常領域を除いたその他の領域(例えば可変領域)において同一のアミノ酸配列を有することが、両者のFcγRに対する結合活性を比較する観点から好ましい。
一実施態様において、開示Aの抗体がFcγRに対する結合活性を有するか、もしくは、中性pH条件下(例えばpH7.4)でFcγRに対する結合活性が増大されている場合、理論に拘束されるわけではないが、当該抗体は、イオン濃度依存的抗原結合ドメインを有することで、血漿と細胞中のエンドソームとを行き来して1つの抗体分子で複数の抗原に繰り返し結合される特性;抗体全体としてpIが上昇しかつ正電荷が増加することにより細胞内へ迅速に取り込まれる特性;ならびに、中性pHの条件下でFcγRに対する結合活性が増大することにより細胞内へ迅速に取り込まれる特性を併せ持つと考えられる。その結果、抗体の血漿中半減期をいっそう短縮でき、あるいは、抗体の細胞外マトリックスへの結合活性をいっそう増大でき、あるいは、血漿中からの抗原の消失をいっそう促進できるので開示Aの抗体は有利であると考えられる。これらの特性を生かすために最適な抗体pI値を当業者は慣用的に決定できる。
一実施態様において、EUナンバリングで表される297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域または定常領域のFcγRに対する結合活性よりもFcγRに対する結合活性が高いFcγR結合ドメインは、天然型ヒトIgGのFc領域または定常領域のアミノ酸残基を改変することによって作製され得る(WO2013/047752を参照)。また、FcγR結合ドメインとしては、FcγRに結合するあらゆる構造のドメインが使用され得る。この場合FcγR結合ドメインは、アミノ酸改変の導入を必要とせずに作製され得、あるいは追加の改変を導入することでFcγRへの親和性を高めてもよい。そのようなFcγR結合ドメインとしては、Schlapschly et al.(Protein Eng. Des. Sel. 22(3):175-188 (2009))、Behar et al.(Protein Eng. Des. Sel. 21(1):1-10 (2008))およびKipriyanov et al.(J. Immunol. 169(1):137-144 (2002))に記載されたFcγRIIIaに結合するFab断片抗体、ラクダ由来単ドメイン抗体および単鎖 Fv抗体、ならびに、Bonetto et al., FASEB J. 23(2):575-585(2009)に記載されたFcγRI結合環状ペプチド等を挙げることができる。FcγR結合ドメインのFcγRに対する結合活性が、EUナンバリングで表される297位に結合した糖鎖がフコース含有糖鎖である天然型ヒトIgGのFc領域または定常領域のFcγRに対する結合活性より高いか否かは、上述の方法を用いて適宜評価され得る。
開示Aの一実施態様において、出発FcγR結合ドメインの例としては、(ヒト)IgGのFc領域または(ヒト)IgGの定常領域が好適に挙げられる。出発Fc領域または出発定常領域の改変体がpH中性域においてヒトFcγRに結合することができる限り、いずれのFc領域または定常領域も、出発Fc領域または出発定常領域として使用され得る。また、Fc領域または定常領域に既にアミノ酸残基の改変が加えられている出発Fc領域または出発定常領域にさらなる改変を加えて得られたFc領域または定常領域も、開示AにおけるFc領域または定常領域として好適に使用され得る。出発Fc領域または出発定常領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域または出発定常領域を含む組成物、あるいは、出発Fc領域または出発定常領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域または出発定常領域には、組換え技術によって作製された公知のFc領域または公知の定常領域が含まれ得る。出発Fc領域または出発定常領域の起源は、限定されないが、非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。また、出発FcγR結合ドメインは、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域または出発定常領域は、ヒトIgG1から取得されてもよいが、IgGの特定のクラスに限定されるものでもない。これは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域を出発FcγR結合ドメインとして適宜用いることができることを意味する。同様に、当明細書中の開示Aを記載している範囲において、任意の生物からのIgGのクラスまたはサブクラス等のFc領域または定常領域を、好ましくは出発Fc領域または出発定常領域として用いることができることを意味する。天然型IgG改変体または改変型の例は、公知の文献(例えばStrohl, Curr. Opin. Biotechnol. 20 (6): 685-691 (2009)、Presta, Curr. Opin. Immunol. 20 (4): 460-470 (2008)、Davis et al., Protein Eng. Des. Sel. 23 (4): 195-202 (2010)、WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されているがそれらに限定されない。
一実施態様において、出発FcγR結合ドメインまたは出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸残基の例としては、1つ以上の変異、例えば、出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基の置換、あるいは出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸残基に対して1つ以上のアミノ酸残基の挿入、あるいは出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸残基からの1つ以上のアミノ酸残基の欠失等が含まれてよい。好ましくは、改変後のFc領域または定常領域のアミノ酸配列は、天然に生じ得ないFc領域または定常領域の少なくとも一部分を含むアミノ酸配列であり得る。そのような改変体は必然的に出発Fc領域または出発定常領域に対して100%未満の配列同一性または類似性を有する。例えば、当該改変体は、出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸配列に対して約75%〜100%未満、より好ましくは約80%〜100%未満、さらにより好ましくは約85%〜100%未満、さらにより好ましくは約90%〜100%未満、最も好ましくは約95%〜100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性を有する。非限定的な例において、出発Fc領域または出発定常領域と開示Aの改変されたFc領域または定常領域との間で、少なくとも1アミノ酸が異なる。
一実施態様において、開示Aの抗体に含まれてもよい、pH酸性域及び/またはpH中性域におけるFcγRに対する結合活性を有するFc領域または定常領域は、いかなる方法によっても取得され得る。具体的には、出発Fc領域または出発定常領域として用いられ得るヒトIgG抗体のアミノ酸の改変によって、pH中性域におけるFcγRに対する結合活性を有するFc領域または定常領域の改変体が取得され得る。改変に適したIgG抗体のFc領域またはIgG型抗体の定常領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4、またはそれらの改変体)のFc領域または定常領域およびそこから自然に生じる変異体を挙げることができる。ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、またはヒトIgG4抗体のFc領域または定常領域に関して、遺伝子多型によるいくつかのアロタイプ配列が「Sequences of proteins of immunological interest」, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、開示Aにおいてはそのいずれを使用しても良い。特にヒトIgG1の配列に関して、EUナンバリングで表される356〜358位のアミノ酸配列がDELであってもEEMであってもよい。
開示Aの範囲におけるさらなる実施態様において、他のアミノ酸への改変は、改変体がpH中性域におけるFcγRに対する結合活性を有する限り、限定されない。そのようなアミノ酸改変位置は、例えば、WO2007/024249、WO2007/021841、WO2006/031370、WO2000/042072、WO2004/029207、WO2004/099249、WO2006/105338、WO2007/041635、WO2008/092117、WO2005/070963、WO2006/020114、WO2006/116260、WO2006/023403、WO2013/047752、WO2006/019447、WO2012/115241、WO2013/125667、WO2014/030728、WO2014/163101、WO2013/118858、およびWO2014/030750において報告されている。
pH中性域におけるFcγRに対する結合活性を増大するための、定常領域またはFc領域におけるアミノ酸改変部位としては、例えば、WO2013/047752に記載される、ヒトIgG抗体のFc領域または定常領域の、EUナンバリングで表される、221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位および440位からなる群から選択される1つ以上の位置を挙げることができる。そのようなアミノ酸残基の改変によって、IgG抗体のFc領域または定常領域の中性pHの条件下でのFcγRに対する結合が増大され得る。WO2013/047752には、IgGタイプの定常領域またはFc領域における好ましい改変として、例えば、EUナンバリングで表される、
221位のアミノ酸をLysまたはTyrのいずれかに;
222位のアミノ酸をPhe、Trp、Glu、およびTyrのいずれかに;
223位のアミノ酸をPhe、Trp、Glu、およびLysのいずれかに;
224位のアミノ酸をPhe、Trp、Glu、およびTyrのいずれかに;
225位のアミノ酸をGlu、Lys、およびTrpのいずれかに;
227位のアミノ酸をGlu、Gly、Lys、およびTyrのいずれかに;
228位のアミノ酸をGlu、Gly、Lys、およびTyrのいずれかに;
230位のアミノ酸をAla、Glu、Gly、およびTyrのいずれかに;
231位のアミノ酸をGlu、Gly、Lys、Pro、およびTyrのいずれかに;
232位のアミノ酸をGlu、Gly、Lys、およびTyrのいずれかに;
233位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
234位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
235位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
236位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
237位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
238位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
239位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
240位のアミノ酸をAla、Ile、Met、およびThrのいずれかに;
241位のアミノ酸をAsp、Glu、Leu、Arg、Trp、およびTyrのいずれかに;
243位のアミノ酸をGlu、Leu、Gln、Arg、Trp、およびTyrのいずれかに;
244位のアミノ酸をHisに;
245位のアミノ酸をAlaに;
246位のアミノ酸をAsp、Glu、His、およびTyrのいずれかに;
247位のアミノ酸をAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、Val、およびTyrのいずれかに;
249位のアミノ酸をGlu、His、Gln、およびTyrのいずれかに;
250位のアミノ酸をGluまたはGlnのいずれかに;
251位のアミノ酸をPheに;
254位のアミノ酸をPhe、Met、およびTyrのいずれかに;
255位のアミノ酸をGlu、Leu、およびTyrのいずれかに;
256位のアミノ酸をAla、Met、およびProのいずれかに;
258位のアミノ酸をAsp、Glu、His、Ser、およびTyrのいずれかに;
260位のアミノ酸をAsp、Glu、His、およびTyrのいずれかに;
262位のアミノ酸をAla、Glu、Phe、Ile、およびThrのいずれかに;
263位のアミノ酸をAla、Ile、Met、およびThrのいずれかに;
264位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、およびTyrのいずれかに;
265位のアミノ酸をAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
266位のアミノ酸をAla、Ile、Met、およびThrのいずれかに;
267位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
268位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、およびTrpのいずれかに;
269位のアミノ酸をPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
270位のアミノ酸をGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、およびTyrのいずれかに;
271位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
272位のアミノ酸をAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
273位のアミノ酸をPheまたはIleのいずれかに;
274位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
275位のアミノ酸をLeuまたはTrpのいずれかに;
276位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
278位のアミノ酸をAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、およびTrpのいずれかに;
279位のアミノ酸をAlaに;
280位のアミノ酸をAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、Trp、およびTyrのいずれかに;
281位のアミノ酸をAsp、Lys、Pro、およびTyrのいずれかに;
282位のアミノ酸をGlu、Gly、Lys、Pro、およびTyrのいずれかに;
283位のアミノ酸をAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、およびTyrのいずれかに;
284位のアミノ酸をAsp、Glu、Leu、Asn、Thr、およびTyrのいずれかに;
285位のアミノ酸をAsp、Glu、Lys、Gln、Trp、およびTyrのいずれかに;
286位のアミノ酸をGlu、Gly、Pro、およびTyrのいずれかに;
288位のアミノ酸をAsn、Asp、Glu、およびTyrのいずれかに;
290位のアミノ酸をAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、Trp、およびTyrのいずれかに;
291位のアミノ酸をAsp、Glu、Gly、His、Ile、Gln、およびThrのいずれかに;
292位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Pro、Thr、およびTyrのいずれかに;
293位のアミノ酸をPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
294位のアミノ酸をPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
295位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
296位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、およびValのいずれかに;
297位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
298位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
299位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
300位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、およびTrpのいずれかに;
301位のアミノ酸をAsp、Glu、His、およびTyrのいずれかに;
302位のアミノ酸をIleに;
303位のアミノ酸をAsp、Gly、およびTyrのいずれかに;
304位のアミノ酸をAsp、His、Leu、Asn、およびThrのいずれかに;
305位のアミノ酸をGlu、Ile、Thr、およびTyrのいずれかに;
311位のアミノ酸をAla、Asp、Asn、Thr、Val、およびTyrのいずれかに;
313位のアミノ酸をPheに;
315位のアミノ酸をLeuに;
317位のアミノ酸をGluまたはGlnのいずれかに;
318位のアミノ酸をHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、およびTyrのいずれかに;
320位のアミノ酸をAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
322位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
323位のアミノ酸をIleに;
324位のアミノ酸をAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
325位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
326位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
327位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
328位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
329位のアミノ酸をAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
330位のアミノ酸をCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
331位のアミノ酸をAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
332位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
333位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、Val、およびTyrのいずれかに;
334位のアミノ酸をAla、Glu、Phe、Ile、Leu、Pro、およびThrのいずれかに;
335位のアミノ酸をAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
336位のアミノ酸をGlu、Lys、およびTyrのいずれかに;
337位のアミノ酸をGlu、His、およびAsnのいずれかに;
339位のアミノ酸をAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、およびThrのいずれかに;
376位のアミノ酸をAlaまたはValのいずれかに;
377位のアミノ酸をGlyまたはLysのいずれかに;
378位のアミノ酸をAspに;
379位のアミノ酸をAsnに;
380位のアミノ酸をAla、Asn、およびSerのいずれかに;
382位のアミノ酸をAlaまたはIleのいずれかに;
385位のアミノ酸をGluに;
392位のアミノ酸をThrに;
396位のアミノ酸をLeuに;
421位のアミノ酸をLysに;
427位のアミノ酸をAsnに;
428位のアミノ酸をPheまたはLeuのいずれかに;
429位のアミノ酸をMetに;
434位のアミノ酸をTrpに;
436位のアミノ酸をIleに;ならびに
440位のアミノ酸をGly、His、Ile、Leu、およびTyrのいずれかに
からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基の改変が挙げられている。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、WO2013/047752の表5に記載されている。開示Aの抗体においても、適宜、これらのアミノ酸残基の改変を組み入れてもよい。
一実施態様において、(ヒト)FcγR、例えばFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、およびFcγRIIIbのいずれか1つ以上に対する開示Aの抗体(のFcγR結合ドメイン)の結合活性は、天然型IgG(のFc領域または定常領域)、あるいは、出発Fc領域または出発定常領域を含む参照抗体のFcγRに対する結合活性よりも高い場合もある。例えば、開示Aの抗体(におけるFcγR結合ドメイン)のFcγRに対する結合活性は、当該参照抗体のFcγRに対する結合活性と比較して、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、100%以上、105%以上、好ましくは110%以上、115%以上、120%以上、125%以上、特に好ましくは130%以上、135%以上、140%以上、145%以上、150%以上、155%以上、160%以上、165%以上、170%以上、175%以上、180%以上、185%以上、190%以上、または195%以上であり得、あるいは、当該参照抗体のFcγRに対する結合活性と比較して、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、4.5倍以上、5倍以上、7.5倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上、または100倍以上であり得る。
さらなる一実施態様において、(pH中性域における)抑制型FcγR(FcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2)に対する結合活性の増大の程度が、活性型FcγR(FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、アロタイプV158を含むFcγRIIIa、アロタイプF158を含むFcγRIIIa、アロタイプFcγRIIIb-NA1を含むFcγRIIIb、アロタイプFcγRIIIb-NA2を含むFcγRIIIb、アロタイプH131を含むFcγRIIa、またはアロタイプR131を含むFcγRIIa)に対する結合活性の増大の程度より高くてもよい。
一実施態様において、開示Aの抗体は、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)に対して結合活性を有し得る。
一実施態様において、開示Aにおける好適なFcγR結合ドメインの例として、特定のFcγRに対する結合活性がその他のFcγRに対する結合活性よりも高いFcγR結合ドメイン(選択的なFcγR結合活性を有するFcγR結合ドメイン)も挙げられる。抗体が(またはFcγR結合ドメインとしてFc領域が)用いられる場合には、1つの抗体分子は1つのFcγR分子としか結合できない。そのため、抑制型FcγRに結合した状態の1つの抗体分子は他の活性型FcγRに結合することはできないし、活性型FcγRに結合した状態の1つの抗体分子は他の活性型FcγRや抑制型FcγRに結合することはできない。
前記したように、活性型FcγRの例としては、FcγRI(CD64)、例えばFcγRIa、FcγRIb、またはFcγRIc;ならびにFcγRIII(CD16)、例えばFcγRIIIa(例えばアロタイプV158またはF158)、あるいはFcγRIIIb(例えばアロタイプFcγRIIIb-NA1またはFcγRIIIb-NA2)が好適に挙げられる。一方、FcγRIIb(例えばFcγRIIb-1またはFcγRIIb-2)が抑制型FcγRの好適な例として挙げられる。
一実施態様において、開示Aの抗体に含まれる選択的FcγR結合ドメインとして、活性型FcγRよりも抑制型FcγRに対する結合活性が高いFcγR結合ドメインが使用され得る。例えば、当該選択的FcγR結合ドメインとして、FcγRIa、FcγRIbまたはFcγRIcなどのFcγRI(CD64);FcγRIIIa(例えばアロタイプV158またはF158)、あるいはFcγRIIIb(例えばFcγRIIIb-NA1またはFcγRIIIb-NA2)などのFcγRIII(CD16);ならびに(アロタイプH131またはR131を含む)FcγRIIa、およびFcγRIIcなどのFcγRII(CD32)からなる群から選択される活性型FcγRのいずれか1つ以上よりも(FcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2などの)FcγRIIbに対する結合活性が高い、FcγR結合ドメインを挙げることができる。
さらに、FcγR結合ドメインが選択的な結合活性を有するか否かは、上述した方法によって決定される各FcγRに対する結合活性を比較することによって、例えば、活性型FcγRに対するKD値を抑制型FcγRに対するKD値で除した値(比)を比較することによって、すなわち下記式1で表されるFcγR選択性指数を比較することによって判断することが可能である。
〔式1〕 FcγR選択性指数=活性型FcγRに対するKD値/抑制型FcγRに対するKD値
式1において、活性型FcγRに対するKD値とは、FcγRIa;FcγRIb;FcγRIc;アロタイプV158および/またはF158を含むFcγRIIIa;FcγRIIIb-NA1および/またはFcγRIIIb-NA2を含むFcγRIIIb;アロタイプH131および/またはR131を含むFcγRIIa;ならびに、FcγRIIcのうち1つ以上に対するKD値をいい、抑制型FcγRに対するKD値とはFcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2に対するKD値をいう。KD値の測定に用いられる活性型FcγRおよび抑制型FcγRはいずれの組合せから選択されてもよい。例えば、アロタイプH131を含むFcγRIIaに対するKD値をFcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2に対するKD値で除した値(比)が使用され得るがこれらに限定されない。
FcγR選択性指数は、例えば、1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、2以上、3以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、80以上、85以上、90以上、95以上、100以上、110以上、120以上、130以上、140以上、150以上、160以上、170以上、180以上、190以上、200以上、210以上、220以上、230以上、240以上、250以上、260以上、270以上、280以上、290以上、300以上、310以上、320以上、330以上、340以上、350以上、360以上、370以上、380以上、390以上、400以上、410以上、420以上、430以上、440以上、450以上、460以上、470以上、480以上、490以上、500以上、520以上、540以上、560以上、580以上、600以上、620以上、640以上、660以上、680以上、700以上、720以上、740以上、760以上、780以上、800以上、820以上、840以上、860以上、880以上、900以上、920以上、940以上、960以上、980以上、1000以上、1500以上、2000以上、2500以上、3000以上、3500以上、4000以上、4500以上、5000以上、5500以上、6000以上、6500以上、7000以上、7500以上、8000以上、8500以上、9000以上、9500以上、10000以上、又は、100000以上であり得るがこれらに限定されない。
一実施態様において、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)のEUナンバリングで表される238位または328位のアミノ酸がそれぞれAspまたはGluであるFc領域改変体または定常領域改変体(を含む抗体)は、特にWO2013/125667、WO2012/115241、およびWO2013/047752で説明されるように、FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、アロタイプV158を含むFcγRIIIa、アロタイプF158を含むFcγRIIIa、アロタイプFcγRIIIb-NA1を含むFcγRIIIb、アロタイプFcγRIIIb-NA2を含むFcγRIIIb、アロタイプH131を含むFcγRIIa、アロタイプR131を含むFcγRIIa、および/またはFcγRIIcよりも、FcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2に対する結合活性が高いことから、Fc領域改変体または定常領域改変体を含む開示Aの抗体として好適に用いられ得る。かかる実施態様における開示Aの抗体は、(当明細書中ではFcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、FcγRIIIa、FcγRIIIb、FcγRIIaからなる群より選択される)全ての活性型FcγR及びFcγRIIbに対する結合活性を有し、かつ、天然型IgGの定常領域または天然型IgGのFc領域を含む参照抗体と比較して、前記FcγRIIbに対するその結合活性が維持もしくは増大され、及び/又は、全ての活性型FcγRに対する結合活性が減少している。
Fc領域改変体または定常領域改変体を含む開示Aの抗体の一実施態様において、天然型IgGの定常領域またはFc領域を有する参照抗体の活性と比較して、それらのFcγRIIbに対する結合活性は維持または増大されてもよく、それらのFcγRIIa (H型)およびFcγRIIa (R型)に対する結合活性は減少してもよい。そのような抗体は、FcγRIIaよりもFcγRIIbに対して増大された選択性を有し得る。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、前記「全ての活性型FcγRに対する結合活性が減少している」程度は、限定はされないが、99%以下、98%以下、97%以下、96%以下、95%以下、94%以下、93%以下、92%以下、91%以下、90%以下、88%以下、86%以下、84%以下、82%以下、80%以下、78%以下、76%以下、74%以下、72%以下、70%以下、68%以下、66%以下、64%以下、62%以下、60%以下、58%以下、56%以下、54%以下、52%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.01%以下、又は、0.005%以下であり得る。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、前記「FcγRIIbに対する結合活性が維持または増大されている」程度、あるいは「FcγRIIbに対する維持または増大された結合活性」とは、限定はされないが、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、100%以上、101%以上、102%以上、103%以上、104%以上、105%以上、106%以上、107%以上、108%以上、109%以上、110%以上、112%以上、114%以上、116%以上、118%以上、120%以上、122%以上、124%以上、126%以上、128%以上、130%以上、132%以上、134%以上、136%以上、138%以上、140%以上、142%以上、144%以上、146%以上、148%以上、150%以上、155%以上、160%以上、165%以上、170%以上、175%以上、180%以上、185%以上、190%以上、195%以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上、100倍以上、200倍以上、300倍以上、400倍以上、500倍以上、600倍以上、700倍以上、800倍以上、900倍以上、1000倍以上、10000倍以上、又は、100000倍以上であり得る。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、前記「FcγRIIa(H型)およびFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少されている」程度、あるいは「FcγRIIa(H型)およびFcγRIIa(R型)に対する減少された結合活性」とは、限定はされないが、99%以下、98%以下、97%以下、96%以下、95%以下、94%以下、93%以下、92%以下、91%以下、90%以下、88%以下、86%以下、84%以下、82%以下、80%以下、78%以下、76%以下、74%以下、72%以下、70%以下、68%以下、66%以下、64%以下、62%以下、60%以下、58%以下、56%以下、54%以下、52%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.01%以下、又は、0.005%以下であり得る。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、FcγRIIa(R型)よりもFcγRIIbに対する結合選択性を増大させる改変が好ましい可能性があり、FcγRIIa(H型)よりもFcγRIIbに対する結合選択性を増大させる改変がより好ましい可能性があり、そのような改変のための好ましいアミノ酸置換は、WO2013/047752で報告されるとおり、例えば、EUナンバリングで表される
(a)237位のGlyをTrpに置換する改変;
(b)237位のGlyをPheに置換する改変;
(c)238位のProをPheに置換する改変;
(d)325位のAsnをMetに置換する改変;
(e)267位のSerをIleに置換する改変;
(f)328位のLeuをAspに置換する改変;
(g)267位のSerをValに置換する改変;
(h)328位のLeuをTrpに置換する改変;
(i)267位のSerをGlnに置換する改変;
(j)267位のSerをMetに置換する改変;
(k)236位のGlyをAspに置換する改変;
(l)327位のAlaをAsnに置換する改変;
(m)325位のAsnをSerに置換する改変;
(n)235位のLeuをTyrに置換する改変;
(o)266位のValをMetに置換する改変;
(p)328位のLeuをTyrに置換する改変;
(q)235位のLeuをTrpに置換する改変;
(r)235位のLeuをPheに置換する改変;
(s)239位のSerをGlyに置換する改変;
(t)327位のAlaをGluに置換する改変;
(u)327位のAlaをGlyに置換する改変;
(v)238位のProをLeuに置換する改変;
(w)239位のSerをLeuに置換する改変;
(x)328位のLeuをThrに置換する改変;
(y)328位のLeuをSerに置換する改変;
(z)328位のLeuをMetに置換する改変;
(aa)331位のProをTrpに置換する改変;
(ab)331位のProをTyrに置換する改変;
(ac)331位のProをPheに置換する改変;
(ad)327位のAlaをAspに置換する改変;
(ae)328位のLeuをPheに置換する改変;
(af)271位のProをLeuに置換する改変;
(ag)267位のSerをGluに置換する改変;
(ah)328位のLeuをAlaに置換する改変;
(ai)328位のLeuをIleに置換する改変;
(aj)328位のLeuをGlnに置換する改変;
(ak)328位のLeuをValに置換する改変;
(al)326位のLysをTrpに置換する改変;
(am)334位のLysをArgに置換する改変;
(an)268位のHisをGlyに置換する改変;
(ao)268位のHisをAsnに置換する改変;
(ap)324位のSerをValに置換する改変;
(aq)266位のValをLeuに置換する改変;
(ar)271位のProをGlyに置換する改変;
(as)332位のIleをPheに置換する改変;
(at)324位のSerをIleに置換する改変;
(au)333位のGluをProに置換する改変;
(av)300位のTyrをAspに置換する改変;
(aw)337位のSerをAspに置換する改変;
(ax)300位のTyrをGlnに置換する改変;
(ay)335位のThrをAspに置換する改変;
(az)239位のSerをAsnに置換する改変;
(ba)326位のLysをLeuに置換する改変;
(bb)326位のLysをIleに置換する改変;
(bc)239位のSerをGluに置換する改変;
(bd)326位のLysをPheに置換する改変;
(be)326位のLysをValに置換する改変;
(bf)326位のLysをTyrに置換する改変;
(bg)267位のSerをAspに置換する改変;
(bh)326位のLysをProに置換する改変;
(bi)326位のLysをHisに置換する改変;
(bj)334位のLysをAlaに置換する改変;
(bk)334位のLysをTrpに置換する改変;
(bl)268位のHisをGlnに置換する改変;
(bm)326位のLysをGlnに置換する改変;
(bn)326位のLysをGluに置換する改変;
(bo)326位のLysをMetに置換する改変;
(bp)266位のValをIleに置換する改変;
(bq)334位のLysをGluに置換する改変;
(br)300位のTyrをGluに置換する改変;
(bs)334位のLysをMetに置換する改変;
(bt)334位のLysをValに置換する改変;
(bu)334位のLysをThrに置換する改変;
(bv)334位のLysをSerに置換する改変;
(bw)334位のLysをHisに置換する改変;
(bx)334位のLysをPheに置換する改変;
(by)334位のLysをGlnに置換する改変;
(bz)334位のLysをProに置換する改変;
(ca)334位のLysをTyrに置換する改変;
(cb)334位のLysをIleに置換する改変;
(cc)295位のGlnをLeuに置換する改変;
(cd)334位のLysをLeuに置換する改変;
(ce)334位のLysをAsnに置換する改変;
(cf)268位のHisをAlaに置換する改変;
(cg)239位のSerをAspに置換する改変;
(ch)267位のSerをAlaに置換する改変;
(ci)234位のLeuをTrpに置換する改変;
(cj)234位のLeuをTyrに置換する改変;
(ck)237位のGlyをAlaに置換する改変;
(cl)237位のGlyをAspに置換する改変;
(cm)237位のGlyをGluに置換する改変;
(cn)237位のGlyをLeuに置換する改変;
(co)237位のGlyをMetに置換する改変;
(cp)237位のGlyをTyrに置換する改変;
(cq)330位のAlaをLysに置換する改変;
(cr)330位のAlaをArgに置換する改変;
(cs)233位のGluをAspに置換する改変;
(ct)268位のHisをAspに置換する改変;
(cu)268位のHisをGluに置換する改変;
(cv)326位のLysをAspに置換する改変;
(cw)326位のLysをSerに置換する改変;
(cx)326位のLysをThrに置換する改変;
(cy)323位のValをIleに置換する改変;
(cz)323位のValをLeuに置換する改変;
(da)323位のValをMetに置換する改変;
(db)296位のTyrをAspに置換する改変;
(dc)326位のLysをAlaに置換する改変;
(dd)326位のLysをAsnに置換する改変;
(de)330位のAlaをMetに置換する改変
であり得る。
上記の改変は一箇所のみであってもよいし、二箇所以上の組み合わせであってもよい。あるいは、そのような改変の好ましい例として、WO2013/047752の表14〜15、表17〜24、および表26〜28に記載のもの、例えば、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)においてEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、およびEUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGlyであるヒト定常領域もしくはヒトFc領域の改変体を挙げることができ、さらに、EUナンバリングで表される、233位、234位、237位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、272位、296位、326位、327位、330位、331位、332位、333位、および396位の1つ以上が置換されていてもよい。かかる場合、改変体としては、EUナンバリングで表される、
233位のAsp、
234位のTyr、
237位のAsp、
264位のIle、
265位のGlu、
266位のPhe、Met、またはLeuのいずれか、
267位のAla、Glu、Gly、またはGlnのいずれか、
268位のAsp、またはGluのいずれか、
269位のAsp、
272位の、Asp、Phe、Ile、Met、Asn、またはGlnのいずれか、
296位のAsp、
326位のAla、またはAspのいずれか、
327位のGly、
330位のLys、またはArgのいずれか、
331位のSer、
332位のThr、
333位のThr、Lys、またはArgのいずれか、および
396位のAsp、Glu、Phe、Ile、Lys、Leu、Met、Gln、Arg、またはTyrのいずれか
の1つ以上を含むヒト定常領域またはヒトFc領域の改変体が挙げられるがこれらに限定されない。
代替的な実施態様において、Fc領域改変体または定常領域改変体を含む開示Aの抗体は、天然型IgGの定常領域またはFc領域を含む参照抗体と比較して、FcγRIIbに対する結合活性が維持もしくは増大され、かつFcγRIIa(H型)およびFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少されていてよい。このような改変体に関して好ましいアミノ酸置換部位はWO2014/030728で報告されるとおり、例えば、EUナンバリングで表される238位のアミノ酸、並びに、EUナンバリングで表される233位、234位、235位、237位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、271位、272位、274位、296位、326位、327位、330位、331位、332位、333位、334位、355位、356位、358位、396位、409位及び419位からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸位置であってよい。
さらに好ましくは、改変体は、EUナンバリングで表される238位のAspを有し得、かつ、EUナンバリングで表される233位のAsp、234位のTyr、235位のPhe、237位のAsp、264位のIle、265位のGlu、266位のPhe、Leu又はMet、267位のAla、Glu、Gly又はGln、268位のAsp、Gln又はGlu、269位のAsp、271位のGly、272位のAsp、Phe、Ile、Met、Asn、Pro又はGln、274位のGln、296位のAsp又はPhe、326位のAla又はAsp、327位のGly、330位のLys、Arg又はSer、331位のSer、332位のLys、Arg、Ser又はThr、333位のLys、Arg、Ser又はThr、334位のArg、Ser又はThr、355位のAla又はGln、356位のGlu、358位のMet、396位のAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp又はTyr、409位のArg、及び419位のGluのアミノ酸群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を有し得る。
代替的な実施態様において、Fc領域改変体または定常領域改変体を含む開示Aの抗体は、天然型IgGの定常領域またはFc領域を含む参照抗体と比較して、FcγRIIbに対する結合活性が維持され、かつ、全ての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少され得る。このような改変体について好ましいアミノ酸置換部位はWO2014/163101で報告されるとおり、例えば、EUナンバリングで表される238位のアミノ酸に加えて、EUナンバリングで表される235位、237位、241位、268位、295位、296位、298位、323位、324位及び330位から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸位置であってよい。さらに好ましくは、改変体は、EUナンバリングで表される238位のAsp、並びに、235位のPhe、237位のGln又はAsp、241位のMet又はLeu、268位のPro、295位のMet又はVal、296位のGlu、His、Asn又はAsp、298位のAla又はMet、323位のIle、324位のAsn又はHis、および330位のHis又はTyrのアミノ酸群から選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を有してもよい。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、前記「FcγRIIbに対する結合活性が維持され」ている程度とは、限定はされないが、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、100%以上、101%以上、102%以上、103%以上、104%以上、105%以上、106%以上、107%以上、108%以上、109%以上、110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、175%以上、又は、2倍以上である。
当明細書中の開示Aを記載している範囲において、前記「全ての活性型FcγR、中でもFcγRIIa(R型)に対する結合活性が減少されている」程度とは、限定はされないが、74%以下、72%以下、70%以下、68%以下、66%以下、64%以下、62%以下、60%以下、58%以下、56%以下、54%以下、52%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.01%以下、又は、0.005%以下である。
また、WO2014/030750には、マウスにおける定常領域およびFc領域の改変体も報告されている。一実施態様において、開示AまたはBの抗体は、当該改変体を含んでもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFcγRと異なり、「FcRn」、特にヒトFcRnは構造的には主要組織適合性複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似し、MHCクラスI分子に対する22%〜29%の配列同一性を示す(Ghetie et al.,Immunol. Today 18 (12), 592-598 (1997))。FcRnは、可溶性β又は軽鎖(β2ミクログロブリン)と複合体化された膜貫通α又は重鎖からなるヘテロダイマーとして発現される。MHCのように、FcRnのα鎖は3つの細胞外ドメイン(α1、α2、およびα3)を含み、短い細胞質ドメインはタンパク質を細胞表面に繋留する。α1およびα2ドメインが抗体Fc領域のFcRn結合ドメインと相互作用する(Raghavan et al.,(Immunity 1: 303-315 (1994))。
FcRnは、哺乳動物の母性胎盤および卵黄嚢で発現され、母親から胎児へのIgGの移動に関与する。加えてFcRnが発現している新生仔げっ歯類小腸では、FcRnは摂取された初乳または乳からの母性IgGの刷子縁上皮を越えた移動に関与する。FcRnは多様な種の多様な他の組織および内皮細胞系において発現している。FcRnはヒト成人血管内皮、筋肉血管系、および肝臓洞様毛細血管でも発現される。FcRnは、IgGに結合し、IgGを血清にリサイクルすることによって、IgGの血漿中濃度を維持する役割を演じていると考えられている。典型的には、FcRnのIgG分子への結合は、厳格にpHに依存的である。最適結合は7.0未満のpH酸性域において認められる。
一例として、ヒトFcRnのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれNM_004107.4及びNP_004098.1(シグナル配列を含む)に記載の前駆体に由来してよい(カッコ内はRefSeq登録番号を示す。)。
当該前駆体は、インビボでヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体を形成する。したがって、様々な実験系における適切な使用のために、ヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体を形成可能である可溶型ヒトFcRnを公知の組換え発現手法を用いて製造してよい。このような可溶型ヒトFcRnを用いて、抗体又はFc領域改変体をFcRnに対する結合活性に関して評価してよい。開示AまたはBにおいて、FcRnは、FcRn結合ドメインに結合し得る形態であるものであれば特に限定されないが、ヒトFcRnが好ましいFcRnである。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、抗体又はFc領域改変体がFcRnに対する結合活性を有する場合には、それらは「FcRn結合ドメイン」、好ましくはヒトFcRn結合ドメインを有してよい。FcRn結合ドメインは、抗体が酸性pHおよび/または中性pHにおいてFcRnに対して結合活性もしくは親和性を有している限り特に限定されず、あるいは、直接または間接的にFcRnに結合する活性を有するドメインであってもよい。そのようなドメインとしては、直接的にFcRnに結合する活性を有するIgG型免疫グロブリンのFc領域、アルブミン、アルブミンドメイン3、抗FcRn抗体、抗FcRnペプチド、および抗FcRn骨格分子、ならびに間接的にFcRnに結合する活性を有するIgGやアルブミンに結合する分子等を挙げることができるがこれらに限定されない。開示AまたはBにおいては、pH酸性域及び/又はpH中性域においてFcRn結合活性を有するドメインを用いてもよい。当該ドメインは、元々pH酸性域及び/又はpH中性域においてFcRn結合活性を有している場合、さらなる改変なしに用いることもできる。当該ドメインのpH酸性域および/またはpH中性域におけるFcRn結合活性がない又は弱い場合には、抗体又はFc領域改変体中のFcRn結合ドメイン中のアミノ酸残基を改変して、pH酸性域および/またはpH中性域におけるFcRn結合活性を得てよい。あるいは、元々pH酸性域および/またはpH中性域においてFcRn結合活性を有しているドメインのアミノ酸を改変して、そのFcRn結合活性をさらに高めてもよい。アミノ酸改変前と改変後のpH酸性域および/またはpH中性域におけるFcRn結合活性を比較し、FcRn結合ドメインの目的のアミノ酸改変を見出すことができる。
FcRn結合ドメインは、直接FcRnと結合する領域であることが好ましい場合がある。FcRn結合ドメインの好ましい例として、抗体の定常領域およびFc領域を挙げることができる。しかしながら、アルブミンやIgGなどのFcRnに対する結合活性を有するポリペプチドに結合可能な領域は、アルブミンやIgGなどを介して間接的にFcRnと結合することが可能である。そのため、FcRn結合領域は、アルブミンやIgGに対する結合活性を有するポリペプチドに結合する領域であってもよい。限定はされないが、血漿中からの抗原の消失を促進するためには、FcRn結合ドメインは、中性pHにおけるFcRn結合活性が高いほうが好ましく、また、抗体の血漿中の滞留性を向上させるためには、FcRn結合ドメインは、酸性pHにおけるFcRn結合活性が高いほうが好ましい。例えば、中性pH又は酸性pHにおけるFcRn結合活性が元々高いFcRn結合ドメインを選択することができる。あるいは、抗体又はFc領域改変体中のアミノ酸を改変して中性pH又は酸性pHにおけるFcRn結合活性を付与してもよい。あるいは、中性pH又は酸性pHにおける既存のFcRn結合活性を増大させてもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、抗体又はFc領域(改変体)のFcRnに対する結合活性が改変前の抗体又はFc領域(改変体)と比較して増大している、(実質的に)維持されている、又は減少しているかどうかは、公知の方法、例えば当明細書中の実施例に記載の方法、ならびに例えば、BIACORE、スキャッチャードプロット、およびフローサイトメーター(WO2013/046722を参照)を用いて評価してもよい。これらのアッセイにはヒトFcRnの細胞外ドメインが可溶性抗原として用いられてよい。抗体又はFc領域(改変体)のFcRnへの結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能である。例えば、WO2009/125825に記載のようにMES緩衝液および37℃の条件下でアッセイを行うことが可能である。抗体またはFc領域(改変体)の、FcRnに対する結合活性の測定は、例えば、抗体を固定したチップへFcRnを分析物として流すこと等で評価してよい。
抗体又はFc領域(改変体)のFcRnに対する結合活性は、解離定数(KD)、見かけの解離定数(見かけのKD)、解離速度(kd)、見かけの解離速度(見かけのkd)に基づいて評価できる。
抗体又はFc領域(改変体)に含まれるFcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性を測定するためのpHの条件として、酸性pH条件または中性pH条件が適宜使用され得る。測定に使用される温度条件として、FcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性(結合親和性)は、10℃〜50℃の任意の温度で評価され得る。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性(結合親和性)を決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃〜35℃の任意の温度が使用されてもよい。25℃はそのような温度の非限定的な一例である。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体がFcRnに対する結合活性を有する場合には、それらはFcRn結合ドメイン、好ましくはヒトFcRn結合ドメインを有する可能性がある。FcRn結合ドメインは、抗体が酸性pHおよび/または中性pHにおいてFcRnに対して結合活性または親和性を有している限り特に限定されず、直接または間接的にFcRnに結合する活性を有するドメインであってもよい。具体的な一実施態様において、開示AまたはBの抗体は、例えば、天然型IgGの定常領域を含む参照抗体と比較して、中性pHの条件下でFcRnに対する結合活性が増大されていることが好ましい(WO2013/046722を参照)。限定はされないが、開示AまたはBの抗体と天然型IgGの定常領域を含む参照抗体は、1つ以上のアミノ酸残基が改変された開示AまたはBの抗体の好ましくは定常領域を除いてその他の領域(例えば可変領域)のアミノ酸配列が同一であることが、両者のFcRnに対する結合活性を比較する観点から好ましい場合がある。
当明細書中の開示Aを記載している範囲における一実施態様において、開示Aの抗体が中性pHの条件下でFcRnに対する増大された結合活性を有する場合、特定の理論に拘束されるわけではないが、開示Aの抗体は、イオン濃度依存的抗原結合ドメインを有することにより血漿と細胞中のエンドソームとを行き来して1つの抗体分子として複数の抗原に繰り返し結合される特性;pIが上昇し抗体全体としてより正電荷が高まることにより細胞内へ迅速に取り込まれる特性;および、中性pHの条件下でFcRnに対する結合活性が増大することにより細胞内へ迅速に取り込まれる特性のうち、任意の二つ以上を併せ持ってよい。その結果、抗体の血漿中半減期をいっそう短縮でき、あるいは、抗体の細胞外マトリックスへの結合性をいっそう増大でき、あるいは、血漿中からの抗原の消失をいっそう促進できる。これらの特性を生かすために開示Aの抗体に最適なpI値を当業者は決定してもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、Yeung et al. (J. Immunol. 182:7663-7671 (2009))によれば、天然型ヒトIgG1のヒトFcRn結合活性はpH酸性域(pH6.0)でKD 1.7μMであるが、pH中性域では活性をほとんど検出できない。したがって、pH中性域でのFcRn結合活性を増大させるために、例えば、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 20μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が天然型ヒトIgGと同等かそれより強い、抗体または定常領域改変体またはFc領域改変体;好ましくは、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 40μMまたはそれより強い、抗体または定常領域改変体またはFc領域改変体;より好ましくは、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 15μMまたはそれより強い、抗体または定常領域改変体またはFc領域改変体を、開示AまたはBの抗体として利用するのが好ましい。上記のKD値は、Yeung et al. (J. Immunol. 182: 7663-7671 (2009))に記載された(抗体をチップに固定し、分析物としてヒトFcRnを流すことによる)方法によって決定される。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、FcRnに結合する任意の構造のドメインを、FcRn結合ドメインとして使用できる。その場合には、アミノ酸改変の導入を必要とせずにFcRn結合ドメインが作製され得るし、またさらに改変を導入することでFcRnへの親和性を高めてもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、出発FcRn結合ドメインの例としては、(ヒト)IgGのFc領域または定常領域が挙げられ得る。出発Fc領域または出発定常領域の改変体が、pH酸性域及び/又はpH中性域においてFcRnに結合することができる限り、いずれのFc領域または定常領域も、出発Fc領域または出発定常領域として使用され得る。または、Fc領域または定常領域に既にアミノ酸残基の改変が加えられている出発Fc領域または出発定常領域にさらなる改変を加えて得られたFc領域または定常領域も、Fc領域または定常領域として好適に使用され得る。出発Fc領域または出発定常領域には、組換えによって産生された公知のFc領域が含まれ得る。文脈に応じて、出発Fc領域または出発定常領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域または出発定常領域を含む組成物、あるいは、出発Fc領域または出発定常領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域または出発定常領域の起源は限定されないが、非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。また、出発FcRn結合ドメインは、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、およびヒトから取得され得る。出発Fc領域または出発定常領域は、ヒトIgG1から取得されてもよいが、IgGのいかなる特定のクラスにも限定されない。これは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域を出発FcRn結合ドメインとして適宜用いることができることを意味し、かつ任意の生物からのIgGのクラスまたはサブクラスのFc領域または定常領域を、出発Fc領域または出発定常領域として用いることができることを意味する。天然型IgG改変体または改変型の例は、例えばStrohl(Curr. Opin. Biotechnol. 20 (6), 685-691 (2009))、Presta(Curr. Opin. Immunol. 20 (4), 460-470 (2008))、Davis et al.,(Protein Eng. Des. Sel. 23 (4), 195-202 (2010))、WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338に記載される。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、出発FcRn結合ドメインまたは出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸残基の例としては、1つ以上の変異、例えば、出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基への置換変異;あるいは出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸残基への1つ以上のアミノ酸残基の挿入;あるいは出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸残基からの1つ以上のアミノ酸残基の欠失が含まれてよい。好ましくは、改変後のFc領域または定常領域のアミノ酸配列は、天然に生じ得ないFc領域または定常領域の少なくとも一部分を含むアミノ酸配列である。そのような改変体は必然的に出発Fc領域または出発定常領域に対して100%未満の配列同一性または類似性を有する。例えば、当該改変体は、出発Fc領域または出発定常領域のアミノ酸配列に対して約75%〜100%未満、より好ましくは約80%〜100%未満、さらにより好ましくは約85%〜100%未満、さらにより好ましくは約90%〜100%未満、なおいっそう好ましくは約95%〜100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性を有する。非限定的な例において、出発Fc領域または出発定常領域と開示AまたはBの改変されたFc領域または定常領域との間で、少なくとも1アミノ酸が異なる。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、pH酸性域及び/またはpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFc領域または定常領域はいかなる方法によって取得されてもよい。具体的には、出発Fc領域または出発定常領域として用いられ得るヒトIgG型抗体のアミノ酸の改変によって、pH酸性域及び/またはpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有するFc領域または定常領域の改変体が取得され得る。改変に適したIgG型抗体のFc領域または定常領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、ならびにそれらの改変体)のFc領域または定常領域が挙げられ、それらから自然に生じる変異体も、IgGのFc領域または定常領域に含まれる。ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4抗体のFc領域または定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列が「Sequences of proteins of immunological interest」, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、開示AまたはBにおいてはそのいずれであっても良い。特にヒトIgG1の配列としては、EUナンバリングで表される356〜358位のアミノ酸配列がDELであってもEEMであってもよい。
開示AまたはBにおける一実施態様において、他のアミノ酸への改変は、得られた改変体がpH酸性域及び/又はpH中性域、好ましくはpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有する限り、特に限定されない。中性pHの条件下でのFcRnに対する結合活性を増大するためのアミノ酸改変部位としては、例えばWO2013/046722などに記載されている。そのような改変部位としては、例えば、WO2013/046722に記載の通り、ヒトIgG型抗体のFc領域または定常領域における、EUナンバリングで表される、221位〜225位、227位、228位、230位、232位、233〜241位、243〜252位、254〜260位、262〜272位、274位、276位、278〜289位、291〜312位、315〜320位、324位、325位、327〜339位、341位、343位、345位、360位、362位、370位、375〜378位、380位、382位、385〜387位、389位、396位、414位、416位、423位、424位、426〜438位、440位および442位からなる群から選択される1つ以上の位置が挙げられる。また、WO2013/046722には、定常領域またはFc領域における好ましい改変の一部として、例えば、EUナンバリングで表される、256位のアミノ酸をProに、280位のアミノ酸をLysに、339位のアミノ酸をThrに、385位のアミノ酸をHisに、428位のアミノ酸をLeuに、および434位のアミノ酸をTrp、Tyr、Phe、Ala又はHisに、からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸の改変も記載されている。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸位置が改変され得るし、二箇所以上の位置が改変され得る。これらのアミノ酸残基の改変によって、IgG型抗体のFc領域または定常領域の中性pHの条件下でのFcRnに対する結合が増大され得る。開示AまたはBの抗体にも、適宜、これらのアミノ酸残基の改変を組み入れてもよい。
さらなる実施態様又は代替的な実施態様において、酸性pHの条件下でのFcRnに対する結合活性を増大するためのアミノ酸改変部位も適宜、使用してよい。このような改変部位のうち、pH中性域においてもFcRnに対する結合を増大できる一又は複数の改変部位は、開示AまたはBに好適に使用可能である。そのような改変部位は、例えば、WO2011/122011、WO2013/046722、WO2013/046704、およびWO2013/046722において報告されている。ヒトIgG型抗体の定常領域またはFc領域におけるそのような改変を可能にするアミノ酸の部位及び改変後のアミノ酸の種類は、WO2013/046722の表1に報告されている。また、WO2013/046722には、定常領域またはFc領域における特に好ましい改変部位として、例えば、EUナンバリングで表される、237位、238位、239位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、270位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、325位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位および436位からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸位置が挙げられている。これらのアミノ酸残基位置での改変によっても、FcRn結合ドメインのpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が増大され得る。WO2013/046722には、また、IgGタイプの定常領域またはFc領域における好ましい改変の一部として、例えば、EUナンバリングで表される、
(a)237位のアミノ酸をMetに;
(b)238位のアミノ酸をAlaに;
(c)239位のアミノ酸をLysに;
(d)248位のアミノ酸をIleに;
(e)250位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
(f)252位のアミノ酸をPhe、Trp、およびTyrのいずれかに;
(g)254位のアミノ酸をThrに;
(h)255位のアミノ酸をGluに;
(i)256位のアミノ酸をAsp、Glu、およびGlnのいずれかに;
(j)257位のアミノ酸をAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、およびValのいずれかに;
(k)258位のアミノ酸をHisに;
(l)265位のアミノ酸をAlaに;
(m)270位のアミノ酸をPheに;
(n)286位のアミノ酸をAlaまたはGluのいずれかに;
(o)289位のアミノ酸をHisに;
(p)297位のアミノ酸をAlaに;
(q)298位のアミノ酸をGlyに;
(r)303位のアミノ酸をAlaに;
(s)305位のアミノ酸をAlaに;
(t)307位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
(u)308位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、およびThrのいずれかに;
(v)309位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Pro、およびArgのいずれかに;
(w)311位のアミノ酸をAla、His、およびIleのいずれかに;
(x)312位のアミノ酸をAlaまたはHisのいずれかに;
(y)314位のアミノ酸をLysまたはArgのいずれかに;
(z)315位のアミノ酸をAlaまたはHisのいずれかに;
(aa)317位のアミノ酸をAlaに;
(ab)325位のアミノ酸をGlyに;
(ac)332位のアミノ酸をValに;
(ad)334位のアミノ酸をLeuに;
(ae)360位のアミノ酸をHisに;
(af)376位のアミノ酸をAlaに;
(ag)380位のアミノ酸をAlaに;
(ah)382位のアミノ酸をAlaに;
(ai)384位のアミノ酸をAlaに;
(aj)385位のアミノ酸をAspまたはHisのいずれかに;
(ak)386位のアミノ酸をProに;
(al)387位のアミノ酸をGluに;
(am)389位のアミノ酸をAlaまたはSerのいずれかに;
(an)424位のアミノ酸をAlaに;
(ao)428位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、およびTyrのいずれかに;
(ap)433位のアミノ酸をLysに;
(aq)434位のアミノ酸をAla、Phe、His、Ser、Trp、およびTyrに;ならびに
(ar)436位のアミノ酸をHisに
からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基の改変が挙げられている。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみの位置が改変され得るし、二箇所以上の位置が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えばWO2013/046722の表2に記載されている。開示AおよびBの抗体に、適宜、これらのアミノ酸残基の改変を組み入れてもよい。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体のFcRn結合ドメインのFcRnに対する結合活性は、天然型IgGのFc領域または定常領域あるいは出発Fc領域または出発定常領域を含む参照抗体のFcRnに対する結合活性と比較して、増大されている。つまり開示AまたはBのFc領域改変体または定常領域改変体、あるいはそのような改変体を含む抗体の、FcRnに対する結合活性は、当該参照抗体のFcRnに対する結合活性よりも高い。これは、開示AまたはBの抗体のFcRnに対する結合活性が、当該参照抗体のFcRnに対する結合活性と比較して、例えば、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、100%以上、105%以上、好ましくは110%以上、115%以上、120%以上、125%以上、さらに好ましくは130%以上、135%以上、140%以上、145%以上、150%以上、155%以上、160%以上、165%以上、170%以上、175%以上、180%以上、185%以上、190%以上、195%以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、4.5倍以上、または5倍以上高い可能性があることを意味する。
一実施態様において、抗体がインビボ(好ましくは、ヒトの体内)に投与される際に抗体の免疫原性を上げないために、開示AまたはBの抗体において改変されるアミノ酸配列はヒト配列(ヒト由来の天然型抗体に見出される配列)を含み得ることが好ましい。あるいは、改変後に、一つ以上のFR(FR1、FR2、FR3、およびFR4)をヒト配列で置換するようなアミノ酸改変の位置以外の部位に変異を導入してもよい。FRをヒト配列に置き換える方法は、当技術分野で公知であり、Ono et al., Mol. Immunol. 36(6): 387-395 (1999)で報告されたものを含むが、これに限定されない。また、ヒト化方法は、当技術分野で公知であり、Methods 36(1): 43-60 (2005)で報告されたものを含むが、これに限定されない。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体の重鎖および/または軽鎖可変領域のフレームワーク領域の配列(「FR配列」ともいう)は、ヒトの生殖細胞系フレームワーク配列を含んでよい。フレームワーク配列が完全にヒト生殖細胞系列の配列であるならば、ヒトに(例えばある疾病の治療又は予防を目的として)投与される場合、抗体は、免疫原性反応を殆ど引き起こさないもしくは引き起こさないことが期待できる。
FR配列としては、例えば、V-Base(vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)に示されるもの等の、完全にヒト型のFR配列を含み得るのが好ましい。これらのFR配列が、開示AまたはBに適宜使用され得る。生殖細胞系列の配列はその類似性に基づいて分類され得る(Tomlinson et al.(J. Mol. Biol. 227: 776-798 (1992));Williams et al.(Eur. J. Immunol. 23: 1456-1461 (1993));およびCox et al.(Nat. Genetics 7: 162-168 (1994)))。さらに、7つのサブグループに分類されるVκ、10個のサブグループに分類されるVλ、および7つのサブグループに分類されるVHから好適な生殖細胞系列の配列が適宜選択され得る。
完全にヒト型のVH配列としては、例えばVH1サブグループ(例えば、VH1-2、VH1-3、VH1-8、VH1-18、VH1-24、VH1-45、VH1-46、VH1-58、およびVH1-69)、VH2サブグループ(例えば、VH2-5、VH2-26、およびVH2-70)、VH3サブグループ(VH3-7、VH3-9、VH3-11、VH3-13、VH3-15、VH3-16、VH3-20、VH3-21、VH3-23、VH3-30、VH3-33、VH3-35、VH3-38、VH3-43、VH3-48、VH3-49、VH3-53、VH3-64、VH3-66、VH3-72、VH3-73、およびVH3-74)、VH4サブグループ(VH4-4、VH4-28、VH4-31、VH4-34、VH4-39、VH4-59、およびVH4-61)、VH5サブグループ(VH5-51)、VH6サブグループ(VH6-1)、またはVH7サブグループ(VH7-4、およびVH7-81)のVH配列が好適に挙げられる。これらは例えば、Matsuda et al.(J. Exp. Med. 188: 1973-1975 (1998))にも記載されており、当業者はこれらの配列情報に基づいて抗体を適宜設計できる。他の完全にヒト型のFR配列又はそれと等価の領域の配列も好適に使用され得る。
完全にヒト型のVκ配列としては、例えばVk1サブグループに分類されるA20、A30、L1、L4、L5、L8、L9、L11、L12、L14、L15、L18、L19、L22、L23、L24、O2、O4、O8、O12、O14、またはO18、Vk2サブグループに分類されるA1、A2、A3、A5、A7、A17、A18、A19、A23、O1、およびO11、Vk3サブグループに分類されるA11、A27、L2、L6、L10、L16、L20、およびL25、Vk4サブグループに分類されるB3、Vk5サブグループに分類されるB2(「Vk5-2」とも称される)、あるいはVk6サブグループに分類されるA10、A14、およびA26(Kawasaki et al(Eur. J. Immunol. 31: 1017-1028 (2001)); Hoppe Seyler(Biol. Chem.374: 1001-1022 (1993));Brensing-Kuppers et al.(Gene 191: 173-181 (1997)))が好適に挙げられ得る。
完全にヒト型のVλ配列としては、例えばVL1サブグループに分類されるV1-2、V1-3、V1-4、V1-5、V1-7、V1-9、V1-11、V1-13、V1-16、V1-17、V1-18、V1-19、V1-20、およびV1-22、VL2サブグループに分類されるV2-1、V2-6、V2-7、V2-8、V2-11、V2-13、V2-14、V2-15、V2-17、およびV2-19、VL3サブグループに分類されるV3-2、V3-3、およびV3-4、VL4サブグループに分類されるV4-1、V4-2、V4-3、V4-4、およびV4-6、またはVL5サブグループに分類されるV5-1、V5-2、V5-4、およびV5-6等(Kawasaki et al.(Genome Res. 7:250-261 (1997)))が好適に挙げられ得る。
通常これらのFR配列は、1またはそれ以上のアミノ酸残基が互いに異なっている。これらのFR配列は、抗体のアミノ酸残基の改変において使用できる。さらに、改変に使用し得る完全にヒト型のFR配列の例としては、KOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY、およびPOM等が挙げられる(例えば、前記のKabat et al.(1991);Wu et al.(J. Exp. Med. 132, 211-250 (1970))を参照)。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「フレキシブル残基」とは、公知の及び/または天然型の抗体または抗原結合ドメインのアミノ酸配列を比較した場合に、いくつかの異なるアミノ酸を有する軽鎖可変領域または重鎖可変領域が高いアミノ酸多様性を示す位置における、アミノ酸残基のバリエーションをいうことができる。高いアミノ酸多様性を示す位置は一般的にCDR内に存在する。公知の及び/または天然型の抗体におけるこのような非常に多様な位置を決定する際には、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institute of Health Bethesda Md.)(1987年および1991年)が提供するデータが有効であり得る。また、インターネット上の複数のデータベース(vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/、bioinf.org.uk/abs/index.html)では、収集された多数のヒト軽鎖および重鎖の配列とその配置が提供されている。これらの配列と配置についての情報は、フレキシブル残基の位置の決定に有用である。限定はされないが、例えば、アミノ酸残基が、ある特定の位置で、好ましくは2から20、3から19、4から18、5から17、6から16、7から15、8から14、9から13、又は、10から12アミノ酸残基の変動を有する場合、その位置は(高い)多様性を示すと判断され得る。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体が軽鎖可変領域および/又は重鎖可変領域の全部又は一部を含む場合には、所望により、抗体は1又は複数のフレキシブル残基を、適宜、含んでもよいことが理解できる。例えば、イオン濃度(水素イオン濃度またはカルシウムイオン濃度)の条件によって抗原に対する抗体の結合活性を変化させるアミノ酸残基が元々含まれているFR配列として選択された重鎖及び/又は軽鎖可変領域の配列に、当該アミノ酸残基に加えて他のアミノ酸残基が含まれるように設計することも可能である。この場合、抗原に対する開示AまたはBの抗体の結合活性がイオン濃度の条件によって変化する限り、例えば、当該フレキシブル残基の数や位置は特定の実施態様に限定されずに決定することもできる。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に少なくとも1つのフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、軽鎖可変領域配列(上述したVk5-2)に導入可能なフレキシブル残基の非限定的な例としては、表1又は表2に記載された一つ以上のアミノ酸残基の位置が挙げられる。同様に、例えば、軽鎖可変領域および/又は重鎖可変領域の全部又は一部を含む、イオン濃度依存的抗体又は当該イオン濃度依存性を有さない抗体において、当該抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基をpIが上昇するように改変した場合等においても、適宜、フレキシブル残基を併せて導入できる。
一実施態様において、キメラ抗体をヒト化する際に、キメラ抗体の表面に露出し得る1つ以上のアミノ酸残基に改変を加えてキメラ抗体のpIを上昇させることで、そのような改変がないキメラ抗体と比較して血漿中半減期が短縮された、開示AまたはBのヒト化抗体が作製され得る。当該ヒト化抗体の表面に露出し得るアミノ酸残基の改変は、抗体のヒト化の前にまたはヒト化と同時に実施されてもよい。あるいは、ヒト化抗体を出発材料として用いて、その表面に露出し得るアミノ酸残基を改変することで、当該ヒト化抗体のpIをさらに改変してもよい。
Adams et al.(Cancer Immunol. Immunother. 55(6): 717-727 (2006))は、同じヒト抗体のFR配列を用いてヒト化を行ったヒト化抗体トラスツズマブ(抗原:HER2)、ベバシズマブ(抗原:VEGF)、およびペルツズマブ(抗原:HER2)の血漿中薬物動態がほぼ同等であったことを報告している。特に、同じFR配列を用いてヒト化を行った場合、血漿中薬物動態はほぼ同等と理解され得る。開示Aの一実施態様では、ヒト化の工程に加えて、抗体の表面に露出し得るアミノ酸残基の改変により抗体のpIを上昇させることによって、血漿中の抗原濃度を低下させる。開示AまたはBの代替的な実施態様では、ヒト抗体を使用することができる。ヒト抗体ライブラリ、ヒト抗体産生マウス、組換え細胞等から作製されたヒト抗体の表面に露出し得るアミノ酸残基に改変を加えて、ヒト抗体のpIを上昇させることにより、最初に作製されたヒト抗体の血漿中からの抗原消失能を増加させることが可能である。
一実施態様において、本開示Aの抗体は、改変された糖鎖を含んでもよい。糖鎖が改変された抗体の例としては、例えば、グリコシル化が改変された抗体(WO99/54342)、フコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140、WO2006/067847、WO2006/067913など)、およびバイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)などを挙げることができる。
一実施態様において、開示AまたはBの抗体は、例えば、がん細胞に対して増大した抗腫瘍活性を発揮する技術、あるいは、血漿中からの、生体に有害な抗原の消失を促進する技術に利用してもよい。
代替的な実施態様において、開示AまたはBは、上述のpIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメイン又はpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体のライブラリに関する。
代替的な実施態様において、開示AまたはBは、上述のpIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメイン又はpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体をコードする核酸(ポリヌクレオチド)に関する。具体的な実施態様において、核酸は、公知の方法を適宜用いて取得できる。具体的な実施態様としては、例えば、WO2009/125825、WO2012/073992、WO2011/122011、WO2013/046722、WO2013/046704、WO2000/042072、WO2006/019447、WO2012/115241、WO2013/047752、WO2013/125667、WO2014/030728、WO2014/163101、WO2013/081143、WO2007/114319、WO2009/041643、WO2014/145159、WO2012/016227、およびWO2012/093704を参照してもよく、それらのそれぞれの全てが参照により当明細書に組み入れられる。
一実施態様において、開示AまたはBの核酸は、単離または精製された核酸であることができる。開示AまたはBの抗体をコードする核酸はいかなる遺伝子でもよく、DNAもしくはRNA、またはその他核酸類似体などでもよい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、抗体中のアミノ酸を改変する場合、改変前の抗体のアミノ酸配列は既知の配列であってもよく、また、新しく取得した抗体のアミノ酸配列であってもよい。例えば、抗体は、抗体ライブラリから取得することも可能であるし、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマまたはB細胞から当該抗体をコードする核酸をクローニングして取得することも可能である。ハイブリドーマから抗体をコードする核酸を取得する方法は、以下の技術を使用することができる:目的となる抗原または目的となる抗原を発現する細胞を感作抗原として用いる通常の免疫方法によって免疫化を行う技術;得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させる技術;通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングする技術;得られたハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する技術;および、目的となる抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと当該cDNAを連結する技術。
以下の例示に限定されないが、上記の重鎖及び軽鎖をコードする核酸を得るために使用する感作抗原には、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を示さないハプテンを含む不完全抗原の両方が含まれる。例えば、目的となる全長タンパク質、又は当該タンパク質の部分ペプチドなどを用いることができる。加えて、多糖類、核酸、脂質、および他の組成物から構成される物質が抗原となり得ることが知られており、したがって、いくつかの実施態様において、開示AまたはBの抗体の抗原は特に限定されるものではない。抗原の調製は、例えば、バキュロウィルスを用いた方法(例えば、WO98/46777参照)などにより行うことができる。ハイブリドーマの作製は、例えば、G. Kohler and C. Milstein, Methods Enzymol. 73: 3-46(1981)の方法に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と抗原を連結することにより、免疫を行ってもよい。または、必要に応じ抗原を他の分子と連結することにより可溶型抗原を調製することもできる。膜型抗原(例えば、受容体など)のような膜貫通分子を抗原として用いる場合、膜型抗原の細胞外領域部分を断片として用いることが可能であり、膜貫通分子を表面上に発現する細胞を免疫原として使用してもよい。
いくつかの実施態様において、抗体産生細胞は、上述の適切な感作抗原を用いて動物を免疫することにより得ることができる。または、抗体を産生し得るリンパ球をインビトロで免疫して抗体産生細胞を調製することもできる。免疫および他の通常の抗体産生手法のために多様な哺乳動物を使用できる。げっ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的に用いられ得る。マウス、ラット、およびハムスター等のげっ歯目、ウサギ等のウサギ目、ならびにカニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、およびチンパンジー等のサルを含む霊長目の動物を例示することができる。加えて、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物も知られており、このような動物を使用することによりヒト抗体を得ることもできる(例えばWO96/34096;Mendez et al., Nat. Genet. 15: 146-156(1997);WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO96/34096、およびWO96/33735参照)。このようなトランスジェニック動物の使用に代えて、例えば、ヒトリンパ球をインビトロで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作した後、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させることにより、抗原に対する結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878号公報)。
動物の免疫は、例えば、感作抗原をリン酸緩衝食塩水(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈および懸濁し、必要に応じてアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与し得る。抗体の産生の確認は、例えば、動物の血清中の目的とする抗体力価を測定することにより行われ得る。
ハイブリドーマは、所望の抗原で免疫した動物またはリンパ球より得られた抗体産生細胞を、慣用の融合剤(例えば、ポリエチレングリコール)を使用してミエローマ細胞と融合して作製することができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, 1986, 59-103)。必要に応じハイブリドーマ細胞を培養および増殖させ、当該ハイブリドーマより産生された抗体の結合特異性を、例えば免疫沈降、放射免疫分析(RIA)、または酵素結合免疫吸着分析(ELISA)により測定する。その後、必要に応じ、目的とする特異性、親和性または活性が測定された抗体を産生するハイブリドーマを、限界希釈法等の手法によりサブクローニングすることもできる。
選択された抗体をコードする核酸を、ハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)から、抗体に特異的に結合し得るプローブ(例えば、抗体定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド)を用いてクローニングすることができる。または、当該核酸を、mRNAからRT-PCRによりクローニングすることも可能である。開示AまたはBの産生抗体の製造に使用する重鎖及び軽鎖は、例えばIg型抗体のいずれのクラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、IgGが好ましい場合がある。
一実施態様において、例えば、開示AまたはBの抗体の重鎖(の全部又は一部)及び/又は抗体の軽鎖(の全部又は一部)を構成するアミノ酸配列をコードする核酸は、遺伝子工学的手法により改変される。例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ハムスター抗体、ヒツジ抗体、またはラクダ抗体等の抗体の構成成分に関連するアミノ酸配列をコードする核酸残基を改変することによって、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的とする人為的配列改変を伴う遺伝子組換え抗体、例えば、キメラ抗体またはヒト化抗体を適宜作製してもよい。例えば、マウスに由来する抗体の可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、連結したDNAをコードする配列を発現ベクターに組み込み、その後得られた組換えベクターを宿主に導入して遺伝子を発現させることにより、キメラ抗体を得ることができる。ヒト化抗体は、再構成ヒト抗体とも称され、非ヒト哺乳動物、例えばマウス等から単離された抗体のCDRとヒト抗体のFRとがコード配列が形成されるようにインフレームで連結された抗体である。このようなヒト化抗体をコードするDNA配列は、複数個のオリゴヌクレオチドを鋳型として用いたオーバーラップ・エクステンションPCR反応により合成され得る。オーバーラップ・エクステンションPCRの材料および実験方法は、WO98/13388等に記載されている。例えば、開示AまたはBの抗体の可変領域のアミノ酸配列をコードするDNAは、オーバーラップするヌクレオチド配列を有するように設計された複数個のオリゴヌクレオチドを用いるオーバーラップ・エクステンションPCRによって得られ得る。オーバーラップするDNAを、その後、定常領域をコードするDNAとコード配列が形成されるようにインフレームで連結する。このように連結されたDNAは、次いで発現ベクターに当該DNAが発現する様に挿入されてもよく、得られたベクターは宿主または宿主細胞に導入されてよい。当該DNAによってコードされた抗体は、当該宿主を産生するまたは宿主細胞を培養することによって発現可能である。発現した抗体は、当該宿主の培養培地等から適宜、精製できる(EP239400; WO96/02576)。また、例えば、CDRを介して連結されるヒト化抗体のFRは、抗原に好適な抗原結合部位をCDRに形成させるように選択してよい。必要に応じ、例えば選択された抗体の可変領域のFRを構成するアミノ酸残基が適切な置換によって改変され得る。
一実施態様において、開示AもしくはBの抗体又はそれらの断片の発現のために、核酸カセットが適切なベクターにクローニングされ得る。こうした目的のために数種類のベクター、例えばファージミドベクターが利用可能である。ファージミドベクターには通常、プロモーター、またはシグナル配列等の制御配列、表現型選択遺伝子、複製起点および他の必要な構成成分を含む様々な構成成分が含まれ得る。
所望のアミノ酸改変を抗体に導入する方法は当技術分野で確立されている。例えば、開示AもしくはBの抗体の表面に露出し得る少なくとも1つの改変されたアミノ酸残基、及び/又は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗体の結合活性を変化させることが可能な少なくとも1つのアミノ酸を導入することによってライブラリが作製され得る。さらには、必要に応じ、Kunkel et al.(Methods Enzymol. 154: 367-382 (1987))の方法を使用し、フレキシブル残基を追加することができる。
代替的な実施態様において、開示Aは、上述のpIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメイン又は上述のpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体をコードする核酸を含むベクターに関する。具体的な実施態様としては、例えば、WO2009/125825、WO2012/073992、WO2011/122011、WO2013/046722、WO2013/046704、WO2000/042072、WO2006/019447、WO2012/115241、WO2013/047752、WO2013/125667、WO2014/030728、WO2014/163101、WO2013/081143、WO2007/114319、WO2009/041643、WO2014/145159、WO2012/016227、およびWO2012/093704に記載されるベクターによって、ベクターを得ることができ、それらの全てが参照により当明細書に組み入れられる。
一実施態様において、開示AまたはBの実施態様をコードする核酸は、適当なベクターに作動可能にクローニング(挿入)され、宿主細胞へ導入されてよい。例えば宿主として大腸菌を用いる場合、ベクターとしては、クローニングベクター、pBluescriptベクター(Stratagene社製)、または他の市販の種々のベクターの任意のものが挙げられる。
一実施態様において、開示AまたはBの核酸を含むベクターとしては、発現ベクターが有用である。インビトロ、大腸菌内、培養細胞内、またはインビボでポリペプチドを発現することを可能にする発現ベクターを使用することができる。例えば、インビトロ発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌内発現であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞内発現であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、およびインビボ発現であればpME18Sベクター(Takebe et al., Mol. Cell Biol. 8:466-472(1988))などを用いてよい。ベクターへのDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素部位を用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11を参照)。
代替的な実施態様において、開示Aは、上述のpIを上昇させたイオン濃度依存的抗原結合ドメイン又は上述のpIを上昇させたイオン濃度依存的抗体をコードする核酸を含むベクターを含む、宿主または宿主細胞に関する。具体的な実施態様において、当該宿主または宿主細胞は、例えば、WO2009/125825、WO2012/073992、WO2011/122011、WO2013/046722、WO2013/046704、WO2000/042072、WO2006/019447、WO2012/115241、WO2013/047752、WO2013/125667、WO2014/030728、WO2014/163101、WO2013/081143、WO2007/114319、WO2009/041643、WO2014/145159、WO2012/016227、またはWO2012/093704に記載の方法によって調製することができ、それらのそれぞれの全てが参照により当明細書に組み入れられると理解される。
開示AまたはBの宿主細胞の種類は特に制限されず、例えば宿主細胞として、大腸菌等の細菌細胞や種々の動物細胞等が挙げられる。当該宿主細胞は、抗体の製造や発現のための産生系として好適に使用され得る。真核細胞及び原核細胞の両方を用いることができる。
宿主細胞として使用される真核細胞として、例えば、動物細胞、植物細胞、および真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(Puck et al., J. Exp. Med. 108: 945-956 (1995))、COS、HEK293、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、およびVero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature 291:338-340 (1981))、ならびに昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、およびTn5が例示される。例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim)を用いた方法、エレクトロポレーション法、およびリポフェクションなどの方法を用いることによって、宿主細胞への組換えベクター等の導入が実施できる。
タンパク質生産系として役立つことが知られる植物細胞には、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞およびウキクサ(コウキクサ(Lemna minor))由来の細胞が含まれる。これらの細胞に由来するカルスの培養により開示AまたはBの抗体が産生され得る。真菌細胞由来のタンパク質産生系は、酵母細胞、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)およびサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞、ならびに糸状菌、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等のアスペルギルス(Aspergillus)属の細胞を用いるものを含む。原核細胞が使用される場合、細菌細胞ベースの産生系を使用することができる。細菌細胞ベースの産生系は、例えば、大腸菌(E. coli)に加えて、枯草菌(Bacillus subtilis)を用いるものを含む。
宿主細胞を用いて開示AまたはBの抗体を産生するために、開示AまたはBの抗体をコードする核酸を含む発現ベクターにより当該宿主細胞が形質転換され、培養されて、当該核酸を発現する。例えば、動物細胞が宿主として用いられた場合、培養培地として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、およびIMDMが使用され得、これらは、FBSまたは牛胎仔血清(FCS)等の血清補液と好適に併用され得る。また、無血清培養により細胞が培養され得る。
一方、開示AまたはBの抗体を産生するためのインビボ産生系としては、動物または植物を使用することができる。例えばこれらの動物又は植物に開示AまたはBの抗体をコードする核酸が導入され、動物又は植物のインビボで抗体が産生され、その後回収され得る。
宿主として動物が使用される場合には、哺乳類動物または昆虫を用いる産生系が利用可能である。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、およびウシが好適に用いられるがこれらに限定されない(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、トランスジェニック動物もまた用いることができる。
一例として、開示AまたはBの抗体をコードする核酸は、ヤギβカゼインのような、乳汁中に特異的に含まれるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製される。次いで、この融合遺伝子を含むポリヌクレオチド断片がヤギの胚へ注入され、当該胚が雌のヤギへ移植される。胚を移植されたヤギから生まれたトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の抗体が得られる。当該トランスジェニックヤギから産生される抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンが当該トランスジェニックヤギに投与される(Ebert et al., Bio/Technology 12:699-702 (1994))。
開示AまたはBの抗体を産生する昆虫としては、例えばカイコが用いられ得る。カイコが用いられる場合、目的となる抗体をコードするポリヌクレオチドをそのウイルスゲノム上に挿入したバキュロウィルスがカイコに対する感染において用いられる。当該感染されたカイコの体液から目的となる抗体が得られる(Susumu et al., Nature 315: 592-594(1985))。
植物が開示AまたはBの抗体の産生に使用される場合には、タバコが用いられ得る。タバコが用いられる場合には、目的とする抗体をコードするポリヌクレオチドを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入した結果得られる組換えベクターがアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のような細菌に導入され得る。得られた細菌をタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に対する感染に用いることができ(Ma et al., Eur. J. Immunol. 24: 131-8 (1994))、感染させたタバコの葉より所望の抗体が得られる。また、そのような改変された細菌はウキクサ(コウキクサ(Lemna minor))に対する感染にも用いることができ、クローン化された感染ウキクサ細胞から所望の抗体が得られる(Cox et al., Nat. Biotechnol. 24(12): 1591-1597 (2006))。
宿主細胞において発現した抗体を小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的となるポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは、目的の抗体に対して内因性であっても、当技術分野で公知の異種シグナルであってもよい。
このようにして得られた開示AまたはBの抗体は、宿主細胞または宿主の内部または外部(培地および乳汁など)から単離され、実質的に純粋で均一な抗体として精製され得る。例えば、クロマトグラフィーカラム、濾過、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、および再結晶が適宜選択され、組み合わされて抗体が好適に単離、および精製され得る。クロマトグラフィーとしては、例えば親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、および吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行われることが可能である。親和性クロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、またはプロテインGカラムが挙げられる。プロテインAカラムとして、例えば、Hyper D、POROS、Sepharose F. F.(Pharmacia製)等が挙げられる。
抗体の精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素で抗体を処理することにより、抗体を改変したり、部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質改変酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどを用いることができる。
代替的な実施態様において、開示Aは、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗体の製造方法であって、宿主細胞を培養するか、又は、前述の宿主を産生(raise)して、前記細胞の培養物又は前記宿主の分泌物等から、抗体を回収する工程を含み得、または当技術分野で公知の他の方法による、製造方法に関する。
一実施態様において、開示Aは、
参照抗体と比較して、
(a)血漿中からの抗原の消失を促進できる抗体を選択する工程;
(b)細胞外マトリックスへの結合活性が増大されている抗体を選択する工程;
(c)中性pHの条件下でFcγR結合活性が増大されている抗体を選択する工程;
(d)中性pHの条件下でFcγRIIb結合活性が増大されている抗体を選択する工程;
(e)FcγRIIb結合活性が維持もしくは増大されている一方で、FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、FcγRIIIa、FcγRIIIb、およびFcγRIIaからなる群より選択される一つ以上の活性型FcγRに対する結合活性が減少している抗体を選択する工程;
(f)中性pHの条件下でFcRn結合活性が増大されている抗体を選択する工程;
(g)pIを上昇させた抗体を選択する工程;
(h)回収した抗体のpIを確認後、pIを上昇させた抗体を選択する工程;及び、
(i)イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化もしくは増加している抗体を選択する工程
からなる群から選択されるいずれか1つ以上の工程を任意に含む、製造方法に関する。
ここで、参照抗体としては、限定はされないが、天然型抗体(例えば天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体)および改変を加える前の抗体(ライブラリ化する前もしくはライブラリ化の過程にある抗体、例えば、pIが上昇する前のイオン濃度依存的抗体、あるいはイオン濃度依存的抗原結合ドメインを付与する前の、pIを上昇させた抗体等)が挙げられる。
開示Aの抗体を作製した後に、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル、ヒト等の血漿を用いた、抗体の薬物動態アッセイを実施することで、当該抗体と参照抗体を比較して、血漿中からの抗原の消失が促進されている抗体を選択してもよい。
あるいは、開示Aの抗体を作製した後に、電気化学発光法等を利用して、当該抗体と参照抗体の細胞外マトリックス結合能を比較することで、細胞外マトリックスへの結合が増大されている抗体を選択してもよい。
あるいは、開示Aの抗体を作製した後に、BIACORE(登録商標)等を利用して、当該抗体と参照抗体の、中性pHの条件下での各種FcγRに対する結合活性を比較することで、中性pHの条件下で当該各種FcγRに対する結合活性が増大されている抗体を選択してもよい。かかる場合、各種FcγRは、目的とするタイプのFcγRであってもよく、例えば、FcγRIIbであってもよい。同様に、例えば、(中性pHの条件下で、)FcγRIIbに対する結合活性が維持もしくは増大される一方で、FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、FcγRIIIa、FcγRIIIb、およびFcγRIIa等からなる群より選択される活性型FcγRの一つ以上に対する結合活性が減少している抗体を選択してもよい。この場合、FcγRはヒトFcγRであり得る。
あるいは、開示Aの抗体を作製した後に、BIACOREまたは他の公知の技術等を利用して、当該抗体と参照抗体の、中性pHの条件下でのFcRnに対する結合活性を比較することで、中性pHの条件下で当該FcRnに対する結合活性が増大されている抗体を選択してもよい。かかる場合、FcRnはヒトFcRnであり得る。
あるいは、開示Aの抗体を作製した後に、等電点電気泳動等を利用して当該抗体のpIを評価した後に、参照抗体と比較してpIを上昇させた抗体を選択してもよい。この際、例えば、pIの値が、例えば少なくとも0.01、0.03、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4又は0.5以上、あるいは、少なくとも0.6、0.7、0.8又は0.9以上上昇している抗体を選択してもよいし、あるいは、少なくとも1.0、1.1、1.2、1.3、1.4又は1.5以上、あるいは、少なくとも1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4又は2.5以上、もしくは3.0以上上昇している抗体を選択してもよい。
あるいは、開示Aの抗体を作製した後に、BIACORE等を利用して、当該抗体と参照抗体の、低イオン濃度の条件下と高イオン濃度の条件下とにおける、所望の抗原に対する結合活性を比較することで、イオン濃度の条件によって当該抗原に対する結合活性が変化もしくは増加している抗体を選択してもよい。当該イオン濃度としては、例えば、水素イオン濃度又は金属イオン濃度であってよく、金属イオン濃度である場合には、例えばカルシウムイオン濃度であり得る。当該結合活性が変化もしくは増加しているかは、例えば、(a)抗原の細胞内への取り込みを変化もしくは促進させるか、(b)異なる抗原分子に複数回結合する能力が変化もしくは増大しているか、(c)血漿中の抗原濃度の減少を変化もしくは促進させているか、または(d)抗体の血漿中滞留性が変化しているか、に基づいて評価できる。あるいは、これらの選択方法の任意の二つ以上を所望により、適宜、組み合わせてもよい。
代替的な実施態様において、開示Aは、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗体であって、前記抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されていることでpIが上昇している、抗体(「pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体」)の製造方法又はスクリーニング方法に関する。当該製造方法は、例えば、当明細書中の開示Aを記載している範囲で説明される関連する実施態様、例えば、上記のpIを上昇させた抗体の製造方法又はスクリーニング方法の実施態様ならびに、上記の、低カルシウムイオン濃度の条件下よりも高カルシウムイオン濃度の条件下において抗原に対する結合活性が高い、カルシウムイオン濃度依存的抗原結合ドメインもしくはカルシウムイオン濃度依存的抗体又はそれらのライブラリの製造方法又はスクリーニング方法の実施態様、及び/あるいは、上記の、酸性pHの条件下よりも中性pHの条件下において抗原に対する結合活性が高い、pH依存的抗原結合ドメインもしくはpH依存的抗体又はそれらのライブラリの製造方法又はスクリーニング方法の実施態様を、所望により、適宜組み合わせることで、実施可能である。
代替的な実施態様において、開示Aは、細胞外マトリックスへの結合活性が増大されている、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗体であって、前記抗体の表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されていることでそのpIが上昇している抗体(「pIを上昇させたイオン濃度依存的抗体」)の製造方法又はスクリーニング方法を提供する。当該方法は、イオン濃度依存的抗体のpIを上昇させることを意図して行ってもよい。そのような方法は、例えば、当明細書中の開示Aを記載している範囲で説明される関連する実施態様、例えば、上記のpIを上昇させた抗体の製造方法又はスクリーニング方法の実施態様ならびに、上記の低カルシウムイオン濃度の条件下よりも高カルシウムイオン濃度の条件下において抗原に対する結合活性が高い、カルシウムイオン濃度依存的抗原結合ドメインもしくはカルシウムイオン濃度依存的抗体又はそれらのライブラリの製造方法又はスクリーニング方法の実施態様、及び/あるいは、酸性pHの条件下よりも中性pHの条件下において抗原に対する結合活性が高い、pH依存的抗原結合ドメインもしくはpH依存的抗体又はそれらのライブラリの製造方法又はスクリーニング方法の実施態様を、所望により、適宜組み合わせることで実施できる。例えば、電気化学発光法、または他の公知の技術を利用して、得られた抗体と参照抗体との細胞外マトリックス結合能を比較することで、細胞外マトリックスへの結合が増大されている抗体を選択してもよい。
ここで、参照抗体としては、限定はされないが、天然型抗体(例えば天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体)および改変を加える前の抗体(ライブラリ化する前もしくはライブラリ化の過程にある抗体、例えば、pIが上昇する前のイオン濃度依存的抗体、またはイオン濃度依存的抗原結合ドメインを付与する前の、pIを上昇させた抗体)であってもよい。
代替的な実施態様において、開示Aは、イオン濃度条件によってその抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗体の製造方法に関し、当該方法は、等電点(pI)を上昇させるために抗体の表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基を改変する工程を含む。いくつかの実施態様において、アミノ酸残基の改変は、以下:
(a)負電荷を有するアミノ酸残基を、電荷を有さないアミノ酸残基に置換;
(b)負電荷を有するアミノ酸残基を、正電荷を有するアミノ酸残基に置換;および
(c)電荷を有さないアミノ酸残基を、正電荷を有するアミノ酸残基に置換
からなる群より選択される改変を含む。いくつかの実施態様において、少なくとも一つの改変アミノ酸残基は、ヒスチジンで置換されている。さらなる実施態様において、抗体は可変領域、および/または定常領域を含み、アミノ酸残基は、この可変領域、および/または定常領域において改変される。さらなる実施態様において、前記方法によって改変された少なくとも一つのアミノ酸残基は、Kabatナンバリングで表される、以下:
(a)重鎖可変領域のFRにおける、1位、3位、5位、8位、10位、12位、13位、15位、16位、18位、19位、23位、25位、26位、39位、41位、42位、43位、44位、46位、68位、71位、72位、73位、75位、76位、77位、81位、82位、82a位、82b位、83位、84位、85位、86位、105位、108位、110位、および112位;
(b)重鎖可変領域のCDRにおける、31位、61位、62位、63位、64位、65位、および97;
(c)軽鎖可変領域のFRにおける、1位、3位、7位、8位、9位、11位、12位、16位、17位、18位、20位、22位、37位、38位、39位、41位、42位、43位、45位、46位、49位、57位、60位、63位、65位、66位、68位、69位、70位、74位、76位、77位、79位、80位、81位、85位、100位、103位、105位、106位、107位、および108位;ならびに
(d)軽鎖可変領域のCDRにおける、24位、25位、26位、27位、52位、53位、54位、55位、および56位
からなる群より選択される、CDRまたはFR内の位置にある。なおさらなる実施態様において、前記方法によって改変された少なくとも一つのアミノ酸残基は、Kabatナンバリングで表される、以下:
(a)重鎖可変領域のFRにおける、8位、10位、12位、13位、15位、16位、18位、23位、39位、41位、43位、44位、77位、82位、82a位、82b位、83位、84位、85位、および105位;
(b)重鎖可変領域のCDRにおける、31位、61位、62位、63位、64位、65位、および 97位;
(c)軽鎖可変領域のFRにおける、16位、18位、37位、41位、42位、45位、65位、69位、74位、76位、77位、79位、および107位;ならびに
(d)軽鎖可変領域のCDRにおける、24位、25位、26位、27位、52位、53位、54位、55位、および56位
からなる群より選択される、CDRまたはFR内の位置にある。いくつかの実施態様において、抗原は可溶性抗原である。いくつかの実施態様において、前記方法は、酸性pH(例えばpH5.8)および中性pH(例えばpH7.4)において、その対応する抗原と、前記方法によって産生された抗体のKDを比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、抗原に関するKD(pH酸性域(例えばpH5.8))/KD(pH中性域(例えばpH7.4))が2またはそれより高い抗体を選択する工程を含む。いくつかの実施態様において、前記方法は、高イオン濃度(例えば水素イオンまたはカルシウムイオン濃度)条件下および低イオン濃度条件下で前記方法によって産生された抗体の抗原結合活性を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、低イオン濃度下よりも高イオン濃度下でより高い(例えば2倍)抗原結合活性を有する抗体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様では、イオン濃度はカルシウムイオン濃度であり、高カルシウムイオン濃度は、100μM〜10mMの間、200μM〜5mMの間、400μM〜3mMの間、200μM〜2mMの間、または400μM〜1mMの間で選択され得る。インビボでの血漿(血液)中のカルシウムイオン濃度に近い、500μM〜2.5mMの間で選択された濃度がまた好ましい場合もある。いくつかの実施態様において、低カルシウムイオン濃度は、0.1μM〜30μMの間、0.2μM〜20μMの間、0.5μM〜10μMの間、または1μM〜5μMの間、または2μM〜4μMの間で選択され得る。インビボでの初期エンドソームのカルシウムイオン濃度に近い、1μM〜5μMの間で選択された濃度がまた好ましい場合もある。いくつかの実施態様では、KD(低カルシウムイオン濃度条件)/KD(高カルシウムイオン濃度条件)(例えば、KD(3μMのCa)/KD(2mMのCa))値の下限は、2以上、10以上、または40以上であり、その上限は、400以下、1000以下、または10000以下である。代替的ないくつかの実施態様において、kd(低カルシウムイオン濃度条件)/kd(高カルシウムイオン濃度条件)(例えば、kd(3μMのCa)/kd(2mMのCa))値の下限は、2以上、5以上、10以上、または30以上であり、その上限は、50以下、100以下、または200以下である。いくつかの実施態様において、イオン濃度は水素イオン濃度であり、低水素イオン濃度(pH中性域)は、pH6.7〜pH10.0、pH6.7〜pH9.5、pH7.0〜pH9.0、またはpH7.0〜pH8.0から選択され得る。低水素イオン濃度は、インビボでの血漿(血液)中のpHに近い、pH7.4が好ましい場合があるものの、測定の簡便さのために、例えば、pH7.0が使用されてもよい。いくつかの実施態様において、高水素イオン濃度(pH酸性域)が、pH4.0〜pH6.5、pH4.5〜pH6.5、pH5.0〜pH6.5、またはpH5.5〜pH6.5から選択されてもよい。pH酸性域は、インビボでの初期エンドソームの水素イオン濃度に近い、pH5.8が好ましい場合があるものの、測定の簡便さのために、例えばpH6.0が使用されてもよい。いくつかの実施態様において、KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)(例えば、KD(pH5.8)/KD(pH7.4))の下限は、2以上、10以上、または40以上であり、その上限は400以下、1000以下、または10000以下である。いくつかの実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まないという点のみが異なる参照抗体と比較した場合の、前記方法で産生した抗体の投与後の、血漿からの抗原の消失を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まない抗体と比較した場合の、前記方法で産生した、血漿からの抗原の消失を促進する(例えば2倍)抗体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まないという点のみが異なる抗体と比較した場合の、前記方法で産生した抗体の細胞外マトリックス結合を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まないという点のみが異なる抗体と比較した場合の、増加した細胞外マトリックス結合(例えば、抗原に結合した場合、2倍)を有する、前記方法で産生した抗体を選択する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、pIを上昇させるために少なくとも一つのアミノ酸残基を修飾または改変する前の抗体(天然型抗体(例えば、天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体))、または参照抗体(例えば、抗体改変前の抗体、またはライブラリ構築前もしくは構築中の抗体)と比較した場合に、前記方法で産生した抗体は、抗原に対する結合活性を(実質的に)維持している。この場合、「抗原に対する結合活性を(実質的に)維持している」とは、修飾または改変前の抗体の結合活性と比較して、50%以上、より好ましくは60%以上、より好ましくは70%もしくは75%以上、なおより好ましくは80%、85%、90%、もしくは95%以上の活性を有することを意味し得る。
追加の実施態様において、開示Aは、イオン濃度条件によってその抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインを含む抗体の製造方法に関し、当該方法は、等電点(pI)を上昇させるために抗体の定常領域の表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基を改変する工程を含む。いくつかの実施態様において、アミノ酸残基の改変は、以下:
(a)負電荷を有するアミノ酸残基を、電荷を有さないアミノ酸残基に置換;
(b)負電荷を有するアミノ酸残基を、正電荷を有するアミノ酸残基に置換;および
(c)電荷を有さないアミノ酸残基を、正電荷を有するアミノ酸残基に置換
からなる群より選択される改変を含む。いくつかの実施態様において、少なくとも一つの改変アミノ酸残基は、ヒスチジンで置換される。さらなる実施態様において、抗体は可変領域、および/または定常領域を含み、アミノ酸残基は、この可変領域、および/または定常領域において改変される。さらなる実施態様において、前記方法によって改変された少なくとも一つのアミノ酸残基は、EUナンバリングで表される、以下:
196位、253位、254位、256位、258位、278位、280位、281位、282位、285位、286位、307位、309位、311位、315位、327位、330位、342位、343位、345位、356位、358位、359位、361位、362位、373位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、399位、400位、401位、402位、413位、415位、418位、419位、421位、424位、430位、433位、434位、および443位からなる群より選択される定常領域中の位置にある。さらなる実施態様において、前記方法によって改変された少なくとも一つのアミノ酸残基は、EUナンバリングで表される、以下:
254位、258位、281位、282位、285位、309位、311位、315位、327位、330位、342位、343位、345位、356位、358位、359位、361位、362位、384位、385位、386位、387位、389位、399位、400位、401位、402位、413位、418位、419位、421位、433位、434位、および443位からなる群より選択される定常領域中の位置にある。なおさらなる実施態様において、前記方法によって改変された少なくとも一つのアミノ酸残基は、EUナンバリングで表される、以下:
282位、309位、311位、315位、342位、343位、384位、399位、401位、402位、および413位からなる群より選択される定常領域中の位置にある。いくつかの実施態様において、前記方法は、高イオン濃度(例えば水素イオンまたはカルシウムイオン濃度)条件下および低イオン濃度条件下で前記方法によって産生された抗体の抗原結合活性を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、低イオン濃度下よりも高イオン濃度下でより高い抗原結合活性を有する抗体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まないという点のみが異なる参照抗体と比較した場合の、前記方法で産生した抗体の投与後の、血漿からの抗原の消失を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まない抗体と比較した場合の、前記方法で産生した、血漿からの抗原の消失を促進する(例えば2倍)抗体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まないという点のみが異なる抗体と比較した場合の、前記方法で産生した抗体の細胞外マトリックス結合を比較する工程を含む。さらなる実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まないという点のみが異なる参照抗体と比較した場合の、増加した細胞外マトリックス結合(例えば、抗原に結合した場合、2倍)を有する、前記方法で産生した抗体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様において、前記方法は、前記方法で産生した抗体の、中性pH(例えば、pH7.4)下でのFcγ受容体(FcγR)結合活性を、天然型IgGの定常領域を含む参照抗体の結合活性と比較する工程を含む。さらなる実施態様において、前記方法は、天然型IgGの定常領域を含む参照抗体と比較した場合に、中性pH(例えばpH7.4)下で増加したFcγR結合活性を有する、前記方法で産生した抗体を選択する工程を含む。いくつかの実施態様において、前記方法で産生した、選択された抗体は、中性pH下で、増加したFcγRIIb結合活性を有する。いくつかの実施態様において、前記方法で産生した、選択された抗体は、定常領域が天然型IgGのものである点においてのみ異なる参照抗体と比較した場合に、好ましくはFcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、FcγRIIIa、FcγRIIIb、およびFcγRIIaからなる群より選択される一つ以上の活性型FcγRに対する、ならびにFcγRIIbに対する結合活性を有し、任意で、FcγRIIb結合活性が維持されるかまたは増加され、かつ活性型FcγRへの結合活性が低下している。いくつかの実施態様において、前記方法は、定常領域が天然型IgGのものである点においてのみ異なる参照抗体と比較した場合に、前記方法で産生した抗体の中性pH条件下でのFcRn結合活性を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、定常領域が天然型IgGのものである点においてのみ異なる参照抗体と比較した場合に、前記方法で産生した、中性pH条件下で増加したFcRn結合活性(例えば、2倍)を有する抗体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様において、pIを上昇させるために少なくとも一つのアミノ酸残基を修飾または改変する前の抗体(天然型抗体(例えば、天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体))、または参照抗体(例えば、抗体改変前の抗体、またはライブラリ構築前もしくは構築中の抗体)と比較した場合に、前記方法で産生した抗体は、抗原に対する結合活性を(実質的に)維持している。この場合、「抗原に対する結合活性を(実質的に)維持している」とは、修飾または改変前の抗体の結合活性と比較して、少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%もしくは75%以上、なおより好ましくは80%、85%、90%、もしくは95%以上の活性を有することを意味し得る。
さらなる実施態様において、前記方法は、等電点(pI)を上昇させるために抗体の可変領域および定常領域の表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基を改変する工程を含む。さらなる実施態様において、前記方法によって改変された少なくとも一つのアミノ酸残基は、上述の定常領域中の位置にある。さらなる実施態様において、前記方法によって改変された少なくとも一つのアミノ酸残基は、上述の可変領域中の位置にある。さらなる実施態様において、前記方法によって改変された少なくとも一つのアミノ酸残基は、上述の定常領域中の位置にあり、かつ、前記方法によって改変された少なくとも一つのアミノ酸残基は、上述の可変領域中の位置にある。いくつかの実施態様において、抗原は可溶性抗原である。いくつかの実施態様において、前記方法は、酸性pH(例えばpH5.8)および中性pH(例えばpH7.4)において、その対応する抗原と、前記方法によって産生された抗体のKDを比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、抗原に関するKD(pH酸性域)/KD(pH中性域)が2またはそれより高い抗体を選択する工程を含む。いくつかの実施態様において、前記方法は、高イオン濃度(例えば水素イオンまたはカルシウムイオン濃度)条件下および低イオン濃度条件下で前記方法によって産生された抗体の抗原結合活性を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、低イオン濃度下よりも高イオン濃度下でより高い抗原結合活性を有する抗体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様では、イオン濃度はカルシウムイオン濃度であり、高カルシウムイオン濃度は、100μM〜10mMの間、200μM〜5mMの間、400μM〜3mMの間、200μM〜2mMの間、または400μM〜1mMの間で選択され得る。500μM〜2.5mMの間で選択された濃度がまた好ましい場合もある。いくつかの実施態様において、低カルシウムイオン濃度は、0.1μM〜30μMの間、0.2μM〜20μMの間、0.5μM〜10μMの間、または1μM〜5μMの間、または2μM〜4μMの間で選択され得る。1μM〜5μMの間で選択された濃度がまた好ましい場合もある。いくつかの実施態様では、KD(低カルシウムイオン濃度条件)/KD(高カルシウムイオン濃度条件)(例えば、KD(3μMのCa)/KD(2mMのCa))値の下限は、2以上、10以上、または40以上であり、その上限は、400以下、1000以下、または10000以下である。代替的ないくつかの実施態様において、kd(低カルシウムイオン濃度条件)/kd(高カルシウムイオン濃度条件)(例えば、kd(3μMのCa)/kd(2mMのCa))値の下限は、2以上、5以上、10以上、または30以上であり、その上限は、50以下、100以下、または200以下である。いくつかの実施態様において、イオン濃度は水素イオン濃度であり、低水素イオン濃度(pH中性域)は、pH6.7〜pH10.0、pH6.7〜pH9.5、pH7.0〜pH9.0、またはpH7.0〜pH8.0から選択され得る。低水素イオン濃度は、インビボでの血漿(血液)のpHに近い、pH7.4が好ましい場合があるものの、測定の簡便さのために、例えば、pH7.0が使用されてもよい。いくつかの実施態様において、高水素イオン濃度(pH酸性域)が、pH4.0〜pH6.5、pH4.5〜pH6.5、pH5.0〜pH6.5、またはpH5.5〜pH6.5から選択されてもよい。pH酸性域は、例えばpH5.8またはpH6.0であり得る。いくつかの実施態様において、KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)(例えば、KD(pH5.8)/KD(pH7.4))の下限は、2以上、10以上、または40以上であり、その上限は400以下、1000以下、または10000以下である。
いくつかの実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まないという点のみが異なる参照抗体と比較した場合の、前記方法で産生した抗体の投与後の、血漿からの抗原の消失を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まない抗体と比較した場合の、前記方法で産生した、血漿からの抗原の消失を促進する(例えば2倍)抗体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まないという点のみが異なる抗体と比較した場合の、前記方法で産生した抗体の細胞外マトリックス結合を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、前記方法で導入された改変を含まないという点のみが異なる抗体と比較した場合の、前記方法で産生した、増加した細胞外マトリックス結合(例えば、抗原に結合した場合、5倍)を有する抗体を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施態様において、前記方法は、前記方法で産生した抗体の、中性pH(例えば、pH7.4)下でのFcγ受容体(FcγR)結合活性を、天然型IgGの定常領域を含む参照抗体の結合活性と比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、天然型IgGの定常領域を含む参照抗体のFcγ結合活性と比較した場合に、中性pH(例えばpH7.4)下で増加したFcγR結合活性を有する、前記方法で産生した抗体を選択する工程を含む。いくつかの実施態様において、前記方法で産生した、選択された抗体は、中性pH下で、増加したFcγRIIb結合活性を有する。いくつかの実施態様において、前記方法で産生した、選択された抗体は、定常領域が天然型IgGのものである点においてのみ異なる参照抗体と比較した場合に、好ましくはFcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、FcγRIIIa、FcγRIIIb、およびFcγRIIaからなる群より選択される一つ以上の活性型FcγRに対する、ならびにFcγRIIbに対する結合活性を有し、任意で、FcγRIIb結合活性が維持されるかまたは増加され、かつ活性型FcγRへの結合活性が低下している。いくつかの実施態様において、前記方法は、定常領域が天然型IgGのものである点においてのみ異なる参照抗体と比較した場合に、前記方法で産生した抗体の中性pH条件下でのFcRn結合活性を比較する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、前記方法は、定常領域が天然型IgGのものである点においてのみ異なる参照抗体と比較した場合に、前記方法で産生した、中性pH条件下で増加したFcRn結合活性(例えば、2倍)を有する抗体を選択する工程をさらに含む。さらなる実施態様において、pIを上昇させるために少なくとも一つのアミノ酸残基を修飾または改変する前の抗体(天然型抗体(例えば、天然型Ig抗体、好ましくは天然型IgG抗体))、または参照抗体(例えば、抗体改変前の抗体、またはライブラリ構築前もしくは構築中の抗体)と比較した場合に、前記方法で産生した抗体は、抗原に対する結合活性を(実質的に)維持している。この場合、「抗原に対する結合活性を(実質的に)維持している」とは、修飾または改変前の抗体の結合活性と比較して、少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%もしくは75%以上、なおより好ましくは80%、85%、90%、もしくは95%以上の活性を有することを意味し得る。
代替的な実施態様において、開示Aは、上述した開示Aの抗体の製造方法又はスクリーニング方法により得られる抗体に関する。
代替的な実施態様において、開示Aは、上述した開示Aの抗体を含む、組成物または医薬組成物に関する。一実施態様において、開示Aの医薬組成物は、(対象(好ましくはインビボ)に開示Aの抗体が投与(適用)された場合における、)当該対象中の生体液(好ましくは、血漿等)中からの、抗原の消失を促進するための、及び/又は、細胞外マトリックスへの結合を増大させるための医薬組成物であってよい。開示Aの医薬組成物は、任意で、薬学的に許容される担体を含んでよい。ここで、医薬組成物とは、通常、疾患の治療、予防、診断、又は検査のための薬剤を指してよい。
開示Aの組成物または医薬組成物は、好適に製剤化され得る。いくつかの実施態様において、これらは、例えば、水または任意のそれ以外の薬学的に許容し得る液体との無菌性溶液または懸濁液の注射剤の形として、非経口的に使用され得る。当該組成物は、薬学的に許容される担体または媒体と適宜組み合わされて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量で好適に製剤化され得る。そのような薬学的に許容される担体又は媒体は、これらに限定されるものではないが、滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、および結合剤を含む。当該組成物における有効成分量は、指定された範囲の適当な用量が得られるように調整されうる。
いくつかの実施態様において、開示Aの組成物または医薬組成物は、非経口投与により投与され得る。組成物または医薬組成物は、例えば、注射可能な、経鼻投与される、経肺投与される、又は、経皮投与される組成物として、適宜調製され得る。組成物または医薬組成物は、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、もしくは皮下注射などにより、全身または局部的に適宜投与され得る。
いくつかの実施態様において、当開示は、表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されていることでpIが上昇した抗体(pIを上昇させた抗体);当該抗体の製造方法;または、(当該抗体が対象にインビボ投与された場合の、)血漿中からの抗原の消失の促進における、当該抗体の使用を提供する。当明細書中の開示Aを記載している範囲及び本実施例中の対応する記載が、適宜、これらの実施態様に準用されることが理解され得る。他の実施態様において、当開示は、表面に露出し得る少なくとも1つのアミノ酸残基が改変されていることでpIが低下した抗体(「pIを低下させた抗体」);当該抗体の製造方法;または、(当該抗体が対象にインビボ投与された場合の、)血漿中滞留性の向上における、当該抗体の使用を提供する。発明者らは、定常領域のアミノ酸配列の特定の部位に特定のアミノ酸変異を導入することで、pIを上昇させて、抗体の細胞内への取り込みを促進できることを見出した。当業者であれば、当該部位に、側鎖の電荷の特性の異なるアミノ酸を導入することで、逆に、pIを低下させて、抗体の細胞内への取り込みを抑えることで、抗体の血漿中滞留性を延長できることが理解できる。当明細書中の開示Aを記載している範囲及び本実施例中の対応する記載が、適宜、これらの実施態様に準用されることが理解され得る。
一実施態様において、当開示は、抗体の改変前の半減期と比較して、血漿中の半減期が延長されているかまたは減少している改変抗体を産生するための方法を提供し、この方法は以下の工程を含む:
(a)EUナンバリングで表される、以下の位置:
196位、253位、254位、256位、257位、258位、278位、280位、281位、282位、285位、286位、306位、307位、308位、309位、311位、315位、327位、330位、342位、343位、345位、356位、358位、359位、361位、362位、373位、382位、384位、385位、386位、387位、388位、389位、399位、400位、401位、402位、413位、415位、418位、419位、421位、424位、430位、433位、434位、および443位
からなる群より選択される位置に位置する少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷を変化させるための改変を行う前の抗体をコードする核酸を、改変する工程;
(b)改変された核酸を発現させ、抗体を産生するために、宿主細胞を培養する工程;ならびに
(c)産生された抗体を、宿主細胞培養物から回収する工程。
追加の実施態様は、血漿中の抗体の半減期を延長させるかまたは減少させるための方法を提供し、この方法は、EUナンバリングで表される、以下の位置:
196位、253位、254位、256位、257位、258位、278位、280位、281位、282位、285位、286位、306位、307位、308位、309位、311位、315位、327位、330位、342位、343位、345位、356位、358位、359位、361位、362位、373位、382位、384位、385位、386位、387位、388位、389位、399位、400位、401位、402位、413位、415位、418位、419位、421位、424位、430位、433位、434位、および443位
からなる群より選択される位置に位置する少なくとも一つのアミノ酸残基を改変する工程を含む。
これらの方法は、抗体の改変前のものと比較して、回収した、および/または改変した抗体の、血漿中の半減期が延長したかまたは減少したかを決定する工程をさらに含み得る。
電荷変化は、アミノ酸置換によって達成され得る。いくつかの実施態様において、置換されたアミノ酸残基は、以下の群(a)および(b)のアミノ酸残基:
(a)Glu (E)およびAsp (D);ならびに
(b)Lys (K)、Arg (R)、およびHis (H)
からなる群より選択され得るが、これに限定されない。
いくつかの実施態様において、抗体は、Ig型抗体、例えばIgG抗体であってよい。いくつかの実施態様において、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であってよい。いくつかの実施態様において、抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。
開示B
非限定的な実施態様において、開示Bは、Fc領域改変体、それらの使用および製造方法等に関する。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、「Fc領域改変体」とは、例えば、天然型IgG抗体のFc領域の少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に改変されているFc領域を意味してよく、あるいは、このようなFc領域改変体の少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸にさらに改変されているFc領域を意味してよい。ここで、そのようなFc領域改変体には、当該アミノ酸改変が導入されたFc領域のみならず、当該Fc領域と同一のアミノ酸配列を有するFc領域が含まれる。
代替的な実施態様において、開示Bは、FcRn結合ドメインを含むFc領域改変体であって、前記FcRn結合ドメインが、434位にAla;438位にGlu、Arg、SerおよびLysのいずれか1つ;ならびに、440位にGlu、AspおよびGlnのいずれか1つを含む、Fc領域改変体に関する(当明細書中の開示Bを記載している範囲において、当該Fc領域改変体は、便宜上、「新規Fc領域改変体」とも称される。)。
実際には、開示BのFc領域改変体は、標的抗原のタイプにかかわらず、事実上任意の抗体(例えば、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体)に組み入れられる。例えば、抗第IXa因子/第X因子二重特異性抗体は、実施例20に示したような、そのようなFc領域改変体(例えば、
F8M-F1847mv [重鎖としてF8M-F1847mv1(配列番号:323)およびF8M-F1847mv2(配列番号:324)、ならびに軽鎖としてF8ML(配列番号:325)];
F8M-F1868mv [重鎖としてF8M-F1868mv1(配列番号:326)およびF8M-F1868mv2(配列番号:327)、ならびに軽鎖としてF8ML(配列番号:325)];および
F8M-F1927mv [重鎖としてF8M-F1927mv1(配列番号:328)およびF8M-F1927mv2(配列番号:329)および軽鎖としてF8ML(配列番号:325)])
を用いて産生することができる。
上述したように、WO2013/046704は、酸性条件下におけるFcRnに対する結合を増大させる変異とともに、特定の変異(代表的なものとして、EUナンバリングで表される、Q438R/S440Eという2残基変異)をも併せて導入したFc領域改変体が、リウマトイド因子への結合の有意な低下を示したことを報告している。しかしながら、WO2013/046704には、Q438R/S440Eの改変によりリウマトイド因子結合を低下させたFc領域改変体について、天然型Fc領域を有する抗体と比較して血漿中滞留性が優れていることまでは示されてはいなかった。そのため、既存のADAへの結合を示さず、血漿中滞留性をさらに向上させた、安全でより有利なFc領域改変体が望まれていた。本発明者らは、抗医薬品抗体(既存のADA等)への結合を示さず、血漿中滞留性をさらに向上させた、安全でより有利なFc領域改変体について本明細書に開示する。特に、抗体の血漿中滞留性の増大をもたらすとともに、リウマトイド因子への結合の有意な低下を維持するには、驚くべきことに、EUナンバリングで表される434位のアミノ酸のAla(A)への置換と、特定の2残基変異(代表的なものとして、Q438R/S440E)とをアミノ酸残基の変異の組み合わせとして含むFc領域改変体が好ましいことを、本明細書で初めて開示する。
したがって、本明細書に記載の開示Bの新規Fc領域改変体は、WO2013/046704に記載されるFc領域改変体を超える、有利かつ驚くべき改善を提供し、WO2013/046704に記載されるあらゆる態様が、当明細書において参照により援用される。
一実施態様において、開示Bは、pH酸性域およびpH中性域、特にはpH酸性域における抗体のFcRn結合活性を増大する、FcRn結合ドメインにおける新規なアミノ酸置換の組み合わせを提供する。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体は、EUナンバリングで表される、434位にAla;438位にGlu、Arg、Ser、およびLysのいずれか1つ;ならびに、440位にGlu、Asp、およびGlnのいずれか1つを含み;かつ、434位にAla;438位にArg又はLys;及び、440位にGlu又はAspを含むことがより好ましい。好ましくは、開示BのFc領域改変体は、EUナンバリングで表される、428位にIle又はLeu;及び/又は、436位にIle、Leu、Val、Thr、およびPheのいずれか1つをさらに含む。Fc領域改変体は、EUナンバリングで表される、428位にLeu;及び/又は、436位にValまたはThrを含むことがより好ましい。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体は、天然型Ig抗体のFc領域改変体であり得、天然型IgG(IgG1、IgG2、IgG3、又は、IgG4型)抗体のFc領域改変体であることがより好ましい。天然型Fc領域については、本明細書中の開示AおよびBを記載している範囲に部分的に含まれる。開示Bにおいては、より詳細には、天然型Fc領域は、改変されていないFc領域または天然に生じるFc領域を意味し得、Fc領域においてアミノ酸残基が改変されていない天然型Ig抗体の、改変されていないFc領域または天然に生じるFc領域であることがより好ましい。当該Fc領域の由来元である抗体はIg、例えばIgMまたはIgGであり得、例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4であり得る。一実施態様において、ヒトIgG1であってよい。また、天然型Fc領域を含む(参照)抗体は、改変されていないFc領域または天然に生じるFc領域を含む抗体であり得る。
428位、434位、438位、および440位は、ヒトの天然型IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4抗体すべてのFc領域で共通している。しかし、436位においては、ヒトの天然型IgG1、IgG2、およびIgG4タイプの抗体のFc領域ではいずれもTyr (Y)である一方で、ヒトの天然型IgG3タイプの抗体のFc領域では、Phe (F)である。一方、Stapleton et al., (Nature Comm.599(2011))は、EUナンバリングで表されるR435Hのアミノ酸置換を有するヒトIgG3アロタイプが、IgG1に匹敵する血漿中半減期をヒトで示したことを報告している。したがって、436位のアミノ酸置換に加えて、R435Hのアミノ酸置換を導入することで、酸性条件下におけるFcRnに対する結合を増大させて、血漿中滞留性を向上することが可能であることにも本発明者らは想到した。
また、WO2013/046704には、酸性条件下におけるFcRnに対する結合を増大させることが可能なアミノ酸の置換と組み合わせた場合にリウマトイド因子結合の有意な低下をもたらした2残基のアミノ酸の置換として、具体的に、EUナンバリングで表される、Q438R/S440E、Q438R/S440D、Q438K/S440E、およびQ438K/S440Dも報告している。
したがって、好ましい一実施態様において、開示BのFc領域改変体は、FcRn結合ドメインが、EUナンバリングで表される、
(a)N434A/Q438R/S440E;
(b)N434A/Q438R/S440D;
(c)N434A/Q438K/S440E;
(d)N434A/Q438K/S440D;
(e)N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(f)N434A/Y436T/Q438R/S440D;
(g)N434A/Y436T/Q438K/S440E;
(h)N434A/Y436T/Q438K/S440D;
(i)N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(j)N434A/Y436V/Q438R/S440D;
(k)N434A/Y436V/Q438K/S440E;
(l)N434A/Y436V/Q438K/S440D;
(m)N434A/R435H/F436T/Q438R/S440E;
(n)N434A/R435H/F436T/Q438R/S440D;
(o)N434A/R435H/F436T/Q438K/S440E;
(p)N434A/R435H/F436T/Q438K/S440D;
(q)N434A/R435H/F436V/Q438R/S440E;
(r)N434A/R435H/F436V/Q438R/S440D;
(s)N434A/R435H/F436V/Q438K/S440E;
(t)N434A/R435H/F436V/Q438K/S440D;
(u)M428L/N434A/Q438R/S440E;
(v)M428L/N434A/Q438R/S440D;
(w)M428L/N434A/Q438K/S440E;
(x)M428L/N434A/Q438K/S440D;
(y)M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(z)M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440D;
(aa)M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440E;
(ab)M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440D;
(ac)M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(ad)M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440D;
(ae)M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440E;
(af)M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440D;
(ag)L235R/G236R/S239K/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;および
(ah)L235R/G236R/A327G/A330S/P331S/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E
からなる群から選択される、置換されたアミノ酸位置の組み合わせを含んでよい。
また、さらなる好ましい一実施態様において、開示BのFc領域改変体は、FcRn結合ドメインが、EUナンバリングで表される、
(a)N434A/Q438R/S440E;
(b)N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(c)N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(d)M428L/N434A/Q438R/S440E;
(e)M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(f)M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(g)L235R/G236R/S239K/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;および
(h)L235R/G236R/A327G/A330S/P331S/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E
からなる群から選択される、置換されたアミノ酸の組み合わせを含んでよい。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体は、天然型IgGのFc領域と比較して、酸性pHの条件下でFcRnに対する結合活性が増大されていることが好ましい。
なお、あるpH域におけるFcRnに対するFcRn結合ドメインの結合活性(結合親和性)の増大は、天然型FcRn結合ドメインについて測定されたFcRn結合活性(結合親和性)と比較した、測定されたFcRn結合活性(結合親和性)の増大に相当してよい。かかる場合、結合活性(結合親和性)の差を表すKD(天然型Fc領域)/KD(開示BのFc領域改変体)は、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、50倍、70倍、80倍、100倍、500倍、または1000倍であってよい。そのような増大は、pH酸性域及び/又はpH中性域で起こりうるが、開示Bの作用機序に鑑みて、pH酸性域における増大が好ましい場合がある。
いくつかの実施態様において、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性が増大されている開示BのFc領域改変体は、天然型IgGのFc領域よりもFcRnに対する結合活性(例えば、pH 6.0および25℃において)が、例えば、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、50倍、75倍、100倍、200倍、500倍、または1000倍以上大きい。いくつかの実施態様において、pH酸性域におけるFc領域改変体の増大されたFcRn結合活性は、天然型IgGのFc領域のFcRn結合活性よりも少なくとも5倍大きくてもよく、あるいは、少なくとも10倍大きくてもよい。
アミノ酸置換の導入によりFcRn結合ドメインを操作することで、抗体の安定性が低下する場合がある(WO2007/092772)。安定性に乏しいタンパク質は貯蔵中に容易に凝集する傾向があるため、薬物タンパク質の安定性は医薬品の製造にとって極めて重要である。そのため、Fc領域における置換によって起こる安定性の低下のために、安定な抗体調製物の開発が困難になり得る(WO2007/092772)。
加えて、単量体種および高分子量種に関する薬物タンパク質の純度もまた、医薬品開発にとって重要である。プロテインA精製後の野生型IgG1は相当量の高分子量種を含まないが、置換の導入によってFcRn結合ドメインを操作すると、大量の高分子量種が生じ得る。この場合、このような高分子量種は精製工程によって原薬物質から除去される必要があり得る。
また、抗体におけるアミノ酸の置換は、例えば治療用抗体の免疫原性の上昇といった負の結果をもたらし得、これが次いでサイトカインストームおよび/または抗医薬品抗体(ADA)の産生を引き起こし得る。ADAは治療用抗体の効果および薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性と薬効は制限され得る。多くの要因が治療用抗体の免疫原性に影響を及ぼし、エフェクターT細胞エピトープの存在がその要因の1つである。同様に、治療用抗体に対する既存の抗体の存在もまた問題があると考えられる。そのような既存の抗体の例は、リウマトイド因子(RF)、抗体(すなわち、IgG)のFc部分に対する自己抗体(自己のタンパク質に対する抗体)である。リウマトイド因子は特に、全身性エリテマトーデス(SLE)患者または関節リウマチ患者において見られる。関節炎患者では、RFとIgGが連結して免疫複合体を形成し、これが疾患過程に寄与する。最近、Asn434His変異を有するヒト化抗CD4 IgG1抗体が顕著なリウマトイド因子結合を誘発することが報告された(Zheng et al., Clin. Pharmacol. Ther.89(2):283-290(2011))。詳細な研究により、ヒトIgG1におけるAsn434His変異が、親ヒトIgG1と比較して、抗体のFc領域に対するリウマトイド因子の結合を増大することが確認された。
RFはヒトIgGに対するポリクローナル自己抗体であり、ヒトIgGの配列中のRFのエピトープはクローンにより異なるが、RFエピトープは、CH2/CH3界面領域およびFcRn結合エピトープと重複し得るCH3ドメイン中に位置するようである。そのため、中性pHにおけるFcRnに対する結合活性を増大するための変異はまた、RFの特定クローンに対する結合活性を増大させ得る。
開示Bにおける「抗医薬品抗体」または「ADA」という用語は、治療用抗体上に位置するエピトープに対する結合活性を有し、よって当該治療用抗体と結合し得る内因性抗体を意味し得る。「既存の抗医薬品抗体」または「既存のADA」という用語は、治療用抗体を患者に投与する前に患者の血中に存在し、検出され得る抗医薬品抗体を意味し得る。いくつかの実施態様において、既存のADAはヒト抗体である。さらなる実施態様において、既存のADAは、リウマトイド因子である。
既存のADAに対する抗体のFc領域(改変体)の結合活性は、例えば、酸性pH及び/又は中性pHにおける電気化学発光(ECL)反応で示され得る。ECLアッセイは例えば、Moxness et al.(Clin. Chem. 51:1983-1985(2005))および実施例6に記載されている。アッセイは、例えば、MES緩衝液および37℃の条件下で行うことができる。抗体の抗原に対する結合活性は、例えば、BIACORE(登録商標)分析によって決定することができる。
既存のADAに対する結合活性は、10℃〜50℃の任意の温度で評価することができる。いくつかの実施態様において、ヒトFc領域とヒトの既存のADAとの間の結合活性(結合親和性)を決定するために、15℃〜40℃の温度、例えば、20℃〜25℃の間、または25℃が使用される。さらなる実施態様において、ヒトの既存のADAとヒトFc領域との間の相互作用は、pH 7.4(またはpH 7.0)および25℃で測定される。
当明細書中の開示Bを記載している範囲において、(既存の)ADAに対する結合活性が有意に増大されているまたはそれと同義の用語は、(既存の)ADAに対する開示BのFc領域改変体又はそれを含む抗体の測定された結合活性(結合親和性)(すなわち、KD)が、(既存の)ADAに対する参照Fc領域改変体又はそれを含む参照抗体の測定された結合活性(結合親和性)と比較して、例えば、0.55倍、0.6倍、0.7倍、0.8倍、0.9倍、1倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.1倍、2.2倍、又は2.3倍以上増大されていることを意味してよい。既存のADAに対する結合活性のこのような増大は、個々の患者または患者群で観察され得る。
一実施態様において、開示Bで用いられる「患者(patients)」および「患者(patient)」という用語は限定されず、これには、疾患に罹患しており、治療用抗体を投与する治療の過程にあるすべてのヒトが含まれ得る。患者は、関節炎疾患または全身性エリテマトーデス(SLE)等の自己免疫疾患に罹患しているヒトであり得る。関節炎疾患には、関節リウマチが含まれ得る。
開示Bの一実施態様において、個々の患者において既存のADAに対する結合活性が有意に増大されるとは、患者において測定された、Fc領域改変体を含む抗体(例えば、治療用抗体)の既存のADAに対する結合活性が、参照抗体の既存のADAに対する結合活性と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%以上増大されることを意味してよい。あるいは、これは、抗体に対するECL反応が、好ましくは250超、または少なくとも500、または少なくとも1000、またはなお少なくとも2000であることであり得る。好ましくは、当該増大は、500または250未満である参照抗体のECL反応と比較した増大であり得る。参照抗体の既存のADAに対する結合活性と、Fc領域改変体を有する抗体のそのような結合活性との間で、ECL反応は具体的には250未満〜少なくとも250、250未満〜少なくとも500、500未満〜500以上、500未満〜1000以上、又は、500未満〜少なくとも2000の範囲であることが好ましいがこれらに限定されない。
一実施態様において、既存のADAに対する結合活性が増大されるとは、患者集団における、(a) 酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性および(b) 中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が増大されたFc領域改変体を含む抗体についてのECL反応が少なくとも500(好ましくは少なくとも250)である患者の測定された割合が、参照抗体についてのECL反応が少なくとも500(好ましくは少なくとも250以上)である患者の割合と比較して上昇すること、例えば、参照抗体についてのECL反応を有する患者の割合と比較して少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%上昇することを意味し得る。
開示Bにおける一実施態様において、既存のADAに対する結合活性が低下するとは、Fc領域改変体を含む抗体の測定された結合活性(すなわち、KDまたはECL反応)が、参照抗体について測定された結合活性と比較して低下することを意味し得る。このような低下は、個々の患者または患者群で観察され得る。個々の患者において中性pHでの既存のADAに対するFc領域改変体を含む抗体の親和性が有意に低下するとは、患者において測定された中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が、参照抗体について測定された中性pHにおける既存のADAに対する結合活性と比較して、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%低下することを意味し得る。
あるいは、個々の患者において既存のADAに対するFc領域改変体を含む抗体の結合活性が有意に低下するとは、500以上(好ましくは1000以上、または2000以上)であるように使用された該抗体のECL反応が、参照抗体のECL反応と比較して、例えば500未満、好ましくは250未満であると測定されることを意味し得る。
好ましい一実施態様において、開示BのFc領域改変体及びそれを含む抗体は、中性pHにおける既存のADAに対する結合活性が低い。具体的には、中性pHにおける既存のADAに対する開示BのFc領域改変体を含む抗体の結合活性は、中性pH(例えばpH7.4)における既存のADAに対する天然型IgGのFc領域を含む参照抗体の結合活性と比較して、より低いか、または有意に増大されていないことが好ましい。既存のADAに対する結合活性(結合親和性)が低いまたは親和性がベースラインであるとは、これらに限定されるものではないが、個々の患者におけるECL反応が500未満、または250未満であることであり得る。ある患者集団において、既存のADAに対する結合活性が低いとは、これらに限定されるものではないが、例えば、当該患者集団における90%の患者、好ましくは95%の患者、より好ましくは98%の患者において、ECL反応が500未満のことであり得る。
開示BのFc領域改変体又はそれを含む抗体は、中性pHの血漿中での(既存の)ADAに対する結合活性は有意に増大せずに、中性pHおよび/または酸性pHにおけるFcRn結合活性が増大しているものを選択するのが好ましい場合がある。酸性pH(例えばpH5.8)におけるFcRn結合活性が増大しているのが好ましい。一実施態様において、Fc領域改変体は、天然型IgGのFc領域と比較して、中性pH(例えば、pH7.4)の条件下でADAに対する結合活性が有意に増大されていないことが好ましく、当該ADAは既存のADAであってよく、好ましくはリウマトイド因子(RF)である。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体は、天然型IgGのFc領域と比較して、酸性pHの条件下でFcRnに対する結合活性が増大されていることで、血漿中クリアランス(CL)が減少されているか、血漿中滞留時間が延長されているか、又は、血漿中半減期(t1/2)が延長されていることが好ましい場合がある。これらが互いに相関していることは当技術分野では公知である。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体は、天然型IgGのFc領域と比較して、酸性pHの条件下でFcRnに対する結合活性が増大されているが、中性pHの条件下でADAに対する結合活性が有意に増大されておらず、かつ、血漿中クリアランス(CL)が減少されているか、血漿中滞留時間が延長されているか、もしくは、血漿中半減期(t1/2)が延長されていることが好ましい場合がある。当該ADAが既存のADAであってよく、リウマトイド因子(RF)であることが好ましい
一実施態様において、開示BのFc領域改変体は、EUナンバリングで表される、N434Y/Y436V/Q438R/S440Eのアミノ酸置換の組み合わせを含む参照Fc領域改変体と比較して、血漿中滞留性が向上されていることから有利である。
本実施例5〜7では、WO2013/046704に記載のF1718というFc領域改変体(Fc領域にN434Y/Y436V/Q438R/S440Eという4か所の変異が導入されている。)と、新規Fc領域改変体F1848m(N434A/Y436V/Q438R/S440Eという4か所の変異が導入されている。)との2つのFc領域改変体の血漿中滞留性が比較されている。両者のFc領域改変体のアミノ酸変異の違いは、EUナンバリングで表される434位に導入されているアミノ酸変異が、F1718はY(チロシン)であり、F1848mはA(アラニン)であるという点のみであった。それにも関わらず、F1848mは天然型IgG1の場合に比べて血漿中滞留性の向上が認められた一方で、F1718は血漿中滞留性の向上が認められなかった(実施例(7−2)を参照)。したがって、開示BのFc領域改変体は、好ましくは、N434Y/Y436V/Q438R/S440Eの置換されたアミノ酸の組み合わせを含む参照Fc領域改変体と比較して、血漿中滞留性が向上されていることが好ましい場合がある。なお、本実施例(5−2)及び本実施例(7−3)の実験結果より、各種Fc領域改変体のうち、F1848mよりも、F1847m、F1886m、F1889m、およびF1927mの方が血漿中滞留時間がより延長されていることが認められている。したがって、F1848mのみならず、F1847m、F1886m、F1889m、またはF1927mを含む開示BのFc領域改変体は、N434Y/Y436V/Q438R/S440Eの置換を含む当該参照Fc領域改変体と比較して、血漿中滞留性が向上していることを当業者であれば理解できる。
FcγRまたは補体タンパク質への結合もまた、望ましくない影響(例えば、不適切な血小板活性化)を引き起こし得る。FcγRIIa受容体などのエフェクター受容体に結合しないFc領域改変体は、より安全であり、かつ/またはより有効であり得る。いくつかの実施態様において、開示BのFc領域改変体は、エフェクター受容体に対する結合活性が弱いかまたはエフェクター受容体に結合しない。エフェクター受容体の例には、活性化FcγR、特にFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIが含まれる。FcγRIには、FcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIc、ならびにこれらのサブタイプが含まれる。FcγRIIには、FcγRIIa(2つのアロタイプR131およびH131を有する)およびFcγRIIbが含まれる。FcγRIIIには、FcγRIIIa(2つのアロタイプV158およびF158を有する)およびFcγRIIIb(2つのアロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を有する)が含まれる。エフェクター受容体に対する結合活性が弱いかまたはそれらに結合しない抗体は、例えば、サイレントFc領域を含む抗体、およびFc領域を含まない抗体(例えば、Fab、F(ab)'2、scFv、sc(Fv)2、ダイアボディ)である。
エフェクター受容体に対する結合活性が弱いかまたは該結合活性をもたないFc領域の例は、例えば、Strohl et al.(Curr. Op. Biotech. 20(6):685-691(2009))に記載されている。具体的には、例えば、脱グリコシル化されたFc領域(N297AおよびN297Q)、およびエフェクター機能がサイレント化(または免疫抑制)されるよう操作されたFc領域であるサイレントFc領域の例(IgG1-L234A/L235A、IgG1-H268Q/A330S/P331S、IgG1-C226S/C229S、IgG1-C226S/C229S/E233P/L234V/L235A、IgG1-L234F/L235E/P331S、IgG2-V234A/G237A、IgG2-H268Q/V309L/A330S/A331S、IgG4-L235A/G237A/E318A、およびIgG4-L236E)が記載されている。WO2008/092117には、置換G236R/L328R、L235G/G236R、N325A/L328R、またはN325L/L328R(EUナンバリングシステムで表される)を含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。WO2000/042072には、EU233位(EUナンバリングシステムで表される233位)、EU234位、EU235位、およびEU237位のうちの1つまたは複数において置換を含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。WO2009/011941には、EU231〜EU238の残基の欠失を含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。Davis et al(J. Rheum.34(11): 2204-2210(2007))には、置換C220S/C226S/C229S/P238Sを含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。Shields et al(J. Biol. Chem.276 (9), 6591-6604(2001))には、置換D265Aを含むサイレントFc領域を含む抗体が開示されている。開示BのFc領域改変体においても、適宜、これらのアミノ酸残基の改変を組み入れてもよい。
「エフェクター受容体に対する弱い結合」という用語は、エフェクター受容体への結合活性が、天然型IgG、または天然型IgGのFc領域を含む抗体の結合活性の、例えば95%以下、好ましくは90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、より好ましくは70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下である結合活性を意味し得る。
「サイレントFc領域」は、天然型Fc領域と比較してエフェクター受容体への結合を低下させる1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、付加、欠失等を含むFc領域改変体である。エフェクター受容体に対する結合活性は大きく低下し得るため、そのようなサイレントFc領域はもはやエフェクター受容体と結合しないであろう。サイレントFc領域の例には、EU234、EU235、EU236、EU237、EU238、EU239、EU265、EU266、EU267、EU269、EU270、EU271、EU295、EU296、EU297、EU298、EU300、EU324、EU325、EU327、EU328、EU329、EU331、およびEU332からなる群より選択される1つまたは複数の位置においてアミノ酸置換を含むFc領域が含まれ得るが、これらに限定されない。開示BのFc領域改変体においても、適宜、これらのアミノ酸部位の改変を組み入れてもよい。
さらなる実施態様において、サイレントFc領域は、EU234、EU235、EU236、EU237、EU238、EU239、EU265、EU266、EU267、EU269、EU270、EU271、EU295、EU296、EU297、EU298、EU300、EU324、EU325、EU327、EU328、EU329、EU331、およびEU332からなる群より選択される1つまたは複数の位置に、好ましくは、EU235、EU237、EU238、EU239、EU270、EU298、EU325、およびEU329からなる群より選択される1つまたは複数の位置に、置換を有し、当該置換は、以下のリストより選択されるアミノ酸残基を伴うものである。
EU234位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、およびThrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU235位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU236位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU237位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、Tyr、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU238位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、Trp、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU239位のアミノ酸は、好ましくは、Gln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、Tyr、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU265位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU266位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU267位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、His、Lys、Phe、Pro、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU269位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU270位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU271位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、His、Phe、Ser、Thr、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU295位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU296位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Gly、Lys、およびProからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU297位のアミノ酸は、好ましくはAlaと置き換えられる。
EU298位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Gly、Lys、Pro、Trp、およびTyrからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU300位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Lys、およびProからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU324位のアミノ酸は、好ましくはLysまたはProと置き換えられる。
EU325位のアミノ酸は、好ましくは、Ala、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU327位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびValからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU328位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Asn、Gly、His、Lys、およびProからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU329位のアミノ酸は、好ましくは、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、Val、およびArgからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU330位のアミノ酸は、好ましくはProまたはSerと置き換えられる。
EU331位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Gly、およびLysからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
EU332位のアミノ酸は、好ましくは、Arg、Lys、およびProからなる群より選択されるアミノ酸のうちの1つと置き換えられる。
好ましくは、サイレントFc領域は、EU235位におけるLysもしくはArgとの置換、EU237位におけるLysもしくはArgとの置換、EU238位におけるLysもしくはArgとの置換、EU239位におけるLysもしくはArgとの置換、EU270位におけるPheとの置換、EU298位におけるGlyとの置換、EU325位におけるGlyとの置換、またはEU329位におけるLysもしくはArgとの置換を含み得る。より好ましくは、サイレントFc領域は、EU235位におけるアルギニンとの置換またはEU239位におけるリジンとの置換を含み得る。より好ましくは、サイレントFc領域は置換L235R/S239Kを含み得る。開示BのFc領域改変体においても、適宜、これらのアミノ酸残基の改変を組み入れてもよい。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体を含む抗体は、補体タンパク質に対して結合活性が弱いかまたは補体タンパク質に結合しない。いくつかの実施態様において、補体タンパク質はC1qである。いくつかの実施態様において、補体タンパク質に対する弱い結合活性とは、天然型IgGまたは天然型IgGのFc領域を含む抗体の補体タンパク質に対する結合活性と比較して1/10以下、1/50以下、1/100以下に低下した、補体タンパク質に対する結合活性である。補体タンパク質に対するFc領域の結合活性は、アミノ酸置換、挿入、付加、または欠失などのアミノ酸の改変によって低下させることができる。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体又はそれを含む抗体のpH中性域及び/又はpH酸性域における(ヒト)FcRnに対する結合活性の評価は、上述と同様に行ってもよい。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体を作製するための抗体定常領域の改変方法は、例えば、複数の定常領域アイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)を検討し、pH酸性域における抗原に対する結合活性が低下する、及び/又は、pH酸性域における解離速度が速くなるアイソタイプを選択することに基づいてよい。代替的な方法は、天然型IgGアイソタイプのアミノ酸配列にアミノ酸置換を導入し、pH酸性域(例えばpH5.8)における抗原に対する結合活性を低下させること、及び/又は、pH酸性域における解離速度を増大させることに基づいてよい。アイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)によって抗体定常領域のヒンジ領域の配列が大きく異なり、ヒンジ領域のアミノ酸配列の違いは抗原に対する結合活性に大きく影響を与え得るため、抗原やエピトープの種類によって適切なアイソタイプを選択することで、pH酸性域における抗原に対する結合活性が低下する、及び/又は、pH酸性域における解離速度が速くなるアイソタイプを選択することが可能である。また、ヒンジ領域のアミノ酸配列の違いは抗原に対する結合活性に大きく影響を与えることから、天然型アイソタイプのアミノ酸配列のアミノ酸置換箇所は、ヒンジ領域であり得る。
代替的な実施態様において、開示Bは、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた、上述の開示BのFc領域改変体を含む抗体の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進するための当該抗体の使用を提供する。ここで、「抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗体の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出」とは、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗体全てが抗原と結合していない状態で細胞外に放出されることを必ずしも意味するものではない。FcRn結合ドメインを改変する前(例えば、抗体のpH酸性域におけるFcRnへの結合活性を増大する前)と比較して、抗原と結合していない状態で細胞外に放出される抗体の割合が高くなっていればよい。細胞外に放出された抗体は、抗原に対する結合活性を維持していることが好ましい。
「血漿中抗原消失能」またはそれと同義の用語は、抗体がインビボ投与された、あるいは、抗体がインビボで分泌された際に、抗原を血漿中から消失させる能力のことをいう場合がある。従って、「抗体の血漿中抗原消失能が増大される」とは、抗体を投与した際に、例えば、FcRn結合ドメインを改変する前と比較して、血漿中から抗原が消失する速さが速くなることを意味し得る。抗体が血漿中から抗原を消失させる活性の増大は、例えば、可溶型抗原および抗体をインビボ投与し、投与後の可溶型抗原の血漿中濃度を測定することにより評価することが可能である。可溶型抗原は、抗体が結合している抗原であっても、または抗体が結合していない抗原であってもよく、その濃度はそれぞれ「血漿中抗体結合抗原濃度」および「血漿中抗体非結合抗原濃度」として決定することができる。後者は「血漿中遊離抗原濃度」と同義である。「血漿中総抗原濃度」とは、抗体結合抗原濃度と、抗体非結合抗原濃度とを合計した濃度を意味し得る。
代替的な実施態様において、開示Bは、上述の開示BのFc領域改変体を含む抗体の血漿中滞留時間を長くする方法を提供する。天然型ヒトIgGは、非ヒト動物由来のFcRnに結合することができる。例えば、天然型ヒトIgGはヒトFcRnよりもマウスFcRnに強く結合することができることから(Ober et al., Intl. Immunol. 13(12): 1551-1559(2001))、前記抗体の特性を確認するために、マウスに抗体の投与を行うことができる。別の例として、その本来のFcRn遺伝子が破壊されているが替わりにヒトFcRn遺伝子をトランスジーンとして有して発現するマウス(Roopenian et al., Meth. Mol. Biol. 602: 93-104(2010))もまた、抗体を評価するのに好ましい。
当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲において、抗体に結合していない遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合を決定することが可能である(例えば、Ng et al., Pharm. Res. 23(1):95-103(2006))。あるいは、抗原が何らかの機能をインビボで示す場合、抗原が抗原の機能を中和する抗体(アンタゴニスト分子)と結合しているかどうかは、その抗原の機能が中和されているかどうかを試験することで評価することも可能である。抗原の機能が中和されているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかのインビボマーカーを測定することで評価することが可能である。抗原が抗原の機能を活性化する抗体(アゴニスト分子)と結合しているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかのインビボマーカーを測定することで評価することが可能である。
遊離抗原の血漿中濃度の測定、血漿中の総抗原量に対する血漿中の遊離抗原量の割合の測定、およびインビボマーカーの測定などの測定は特に限定されないが、抗体が投与されてから一定時間が経過した後に測定を行うことが好ましい場合がある。開示Bの文脈において「抗体が投与されてから一定時間が経過した後」とは、特に限定されず、投与された抗体の性質等により当業者が適宜期間を決定することが可能であり、例えば抗体を投与してから1日経過後、3日経過後、7日経過後、14日経過後、または28日経過後などを挙げることができる。ここで、「血漿中抗原濃度」という用語は、抗体結合抗原濃度と抗体非結合抗原濃度の合計である「血漿中総抗原濃度」、または抗体非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」のいずれかを意味し得る。
抗原/抗体モル比は、式:C=A/Bによって算出することができ、ここで
A値は、各時点での抗原のモル濃度であり、
B値は、各時点での抗体のモル濃度であり、および
C値は、各時点での抗体のモル濃度あたりの抗原のモル濃度(抗原/抗体モル比)である。
C値がより小さいことは、抗体あたりの抗原消失効率がより高いことを示し、C値がより大きいことは、抗体あたりの抗原消失効率がより低いことを示す。
いくつかの態様において、開示Bが投与される場合、抗原/抗体モル比は、ヒトFcRn結合ドメインとして天然型ヒトIgGのFc領域を含む参照抗体を投与した場合と比較して、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減しうる。
血漿中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の低下は、当技術分野で公知の方法を用いて、例えばWO2011/122011の実施例6、8および13に記載の通りに評価することができる。より具体的には、開示Bにおいて目的となる抗体がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories, Methods Mol. Biol. 602: 93-104(2010))を用いる抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかに基づいて、評価することができる。抗体がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories)に抗体を単に注射することによって評価することができる。同時注射モデルでは、抗体と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の血漿中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗体をマウスに注射する。全ての試験抗体を同じ用量で投与する。血漿中総抗原濃度、血漿中遊離抗原濃度、および血漿中抗体濃度を、適切な時点で測定し得る。
投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度もしくは遊離抗原濃度または抗原/抗体モル比を測定して、開示Bの抗体の長期効果を評価することができる。言い換えれば、抗体の特性を評価するために、長期間の血漿中抗原濃度が、抗体の投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度または抗原/抗体モル比を測定することによって決定され得る。抗体によって血漿中抗原濃度または抗原/抗体モル比の低下が達成されるか否かは、先に記載した1つまたは複数の時点でその低下を評価することにより決定されうる。
投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に、血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度または抗原/抗体モル比を測定して、開示Bの抗体の短期効果を評価することができる。言い換えれば、抗体の特性を評価するために、短期間の血漿中抗原濃度が、抗体の投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度または抗原/抗体モル比を測定することによって決定され得る。ヒトでの血漿中滞留性を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、またはヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)またはサル(例えば、カニクイザルなど)での血漿中滞留性に基づいて、ヒトでの血漿中滞留性を予測してもよい。
代替的な実施態様において、開示Bは、上述の開示BのFc領域改変体を含む抗体に関する。当該抗体の諸々の実施態様は、当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲で説明され、当技術分野の技術常識に反することなく、かつ文脈において矛盾しない限り、準用され得る。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体を含む抗体は、WO2013/046704で説明されるように、自己免疫疾患、移植拒絶反応(移植片対宿主病)、他の炎症性疾患またはアレルギー疾患に罹患しているヒト患者を治療するための治療用抗体として有利である。
一実施態様において、開示BのFc領域改変体を含む抗体は、改変された糖鎖を有してもよい。糖鎖が改変された抗体の例としては、例えば、グリコシル化が改変された抗体(WO99/54342)、フコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140、WO2006/067847、WO2006/067913)、およびバイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255)などを挙げることができる。一実施態様において、抗体は脱グリコシル化されていてもよい。いくつかの実施態様において、当該抗体は、例えばWO2005/03175に記載されているような部位におけるグリコシル化を妨げるために、重鎖グリコシル化部位に変異を含む。そのようなグリコシル化されない抗体は、重鎖グリコシル化部位を改変し、すなわちEUナンバリングによって表される置換N297QまたはN297Aを導入し、このタンパク質を適切な宿主細胞で発現させることによって、調製され得る。
代替的な実施態様において、開示Bは、このようなFc領域改変体を含む抗体を含む、組成物または医薬組成物に関する。当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲での当該組成物または当該医薬組成物の諸々の実施態様が、当技術分野の通常の技術的知識に反することなく、かつ文脈において矛盾しない限り、準用されてよい。当該組成物は、(対象に開示Bの抗体が投与(適用)された場合における当該対象中の、)血漿中滞留性を向上させるために用いられ得る。
代替的な実施態様において、開示Bは、上述したFc領域改変体又はそれを含む抗体をコードする核酸に関する。当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲で核酸について説明される諸々の実施態様が、当業者の技術常識に反することなく、かつ文脈において矛盾しない限り、準用され得る。あるいは、開示Bは、当該核酸を含むベクターに関する。当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲でのその諸々の実施態様が、当業者の技術常識に反することなく、かつ文脈において矛盾しない限り、準用され得る。あるいは、開示Bは、当該ベクターを含む宿主または宿主細胞に関する。当明細書中の開示AおよびBを記載している範囲でのその諸々の実施態様が、当業者の技術常識に反することなく、かつ文脈において矛盾しない限り、準用され得る。
代替的な実施態様において、開示Bは、FcRn結合ドメインを含むFc領域改変体、又はそれを含む抗体の製造方法であって、前述の宿主細胞を培養するか、もしくは、前述の宿主を育成して、前記細胞の培養物又は前記宿主の分泌物等から、当該Fc領域改変体又はそれを含む抗体を回収する工程を含む、製造方法に関する。かかる場合、開示Bは、
(a)天然型IgGのFc領域のものと比較して、酸性pHの条件下でFcRnに対する増大した結合活性を有するFc領域改変体を選択する工程;
(b)天然型IgGのFc領域と比較して、中性pHの条件下で(既存の)ADAに対する結合活性が有意に増大されていないFc領域改変体を選択する工程;
(c)天然型IgGのFc領域と比較して、向上した血漿中の滞留性を有するFc領域改変体を選択する工程;及び、
(d)天然型IgGのFc領域を含む参照抗体と比較して、血漿中からの抗原の消失を促進できるFc領域改変体を含む抗体を選択する工程
のうちいずれか1つ以上を任意にさらに含む、製造方法を含んでもよい。
ここで、限定はされないが、作製された開示BのFc領域改変体を含む抗体と、「天然型IgGのFc領域を含む参照抗体」とは、比較の対象となるFc領域部分以外は互いに同一であることが、開示BのFc領域改変体の血漿中の滞留性を評価する上で好ましい場合がある。また、FcRnはヒトFcRnであるのが好ましい場合がある。
例えば、開示BのFc領域改変体を含む抗体を作製した後に、BIACORE(登録商標)または他の既知技術を利用して、当該抗体と、天然型IgGのFc領域を含む参照抗体の、酸性pH(例えばpH5.8)の条件下でのFcRnに対する結合活性を比較することで、酸性pHの条件下で当該FcRnに対する結合活性が増大されている、Fc領域改変体又はそれを含む抗体を選択してもよい。
あるいは、例えば、開示BのFc領域改変体を含む抗体を作製した後に、電気化学発光(ECL)または既知技術を利用して、当該抗体と、天然型IgGのFc領域を含む参照抗体の、中性pHの条件下でのADAに対する結合活性を比較することで、中性pHの条件下で当該ADAに対する結合活性が有意に増大されていない、Fc領域改変体又はそれを含む抗体を選択してもよい。
あるいは、例えば、開示BのFc領域改変体を含む抗体を作製した後に、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル、またはヒトの血漿を用いた抗体の薬物動態試験を実施することで、当該抗体と、天然型IgGのFc領域を含む参照抗体を比較して、当該対象において、血漿中の滞留性が向上していることが確認された、Fc領域改変体又はそれを含む抗体を選択してもよい。
あるいは、例えば、開示BのFc領域改変体を含む抗体を作製した後に、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル、またはヒトの血漿を用いた、抗体の薬物動態試験を実施することで、当該抗体と、天然型IgGのFc領域を含む参照抗体を比較して、血漿中からの抗原の消失が促進されている、Fc領域改変体又はそれを含む抗体を選択してもよい。
あるいは、例えば、これらの選択方法を所望により、適宜、組み合わせてもよい。
一実施態様において、開示Bは、FcRn結合ドメインを含むFc領域改変体、または当該改変体を含む抗体を産生する方法に関し、ここで当該方法は、得られたFc領域改変体または当該改変体を含む抗体が、EUナンバリングで表される、434位のAla、438位のGlu、Arg、Ser、またはLys、および440位のGlu、Asp、またはGlnを含むように、アミノ酸を置換する工程を含む。追加の実施態様において、そのような方法は、得られたFc領域改変体または当該改変体を含む抗体が、EUナンバリングで表される、428位のIleもしくはLeu、及び/または436位のIle、Leu、Val、Thr、もしくはPheをさらに含むように、アミノ酸を置換する工程を含む。さらなる実施態様において、アミノ酸は、当該方法によって産生されて得られたFc領域改変体または当該改変体を含む抗体が、EUナンバリングで表される、428位のLeu、及び/または436位のValもしくはThrをさらに含むように置換される。
一実施態様において、開示Bは、FcRn結合ドメインを含むFc領域改変体、または当該改変体を含む抗体を産生する方法に関し、ここで当該方法は、得られたFc領域改変体または当該改変体を含む抗体が、EUナンバリングで表される、434位のAla、438位のArgまたはLys、および440位のGluまたはAspを含むように、アミノ酸を置換する工程を含む。追加の実施態様において、そのような方法は、得られたFc領域改変体または当該改変体を含む抗体が、EUナンバリングで表される、428位のIleもしくはLeu、及び/または436位のIle、Leu、Val、Thr、もしくはPheをさらに含むように、アミノ酸を置換する工程を含む。さらなる実施態様において、アミノ酸は、当該方法によって産生されて得られたFc領域改変体または当該改変体を含む抗体が、EUナンバリングで表される、428位のLeu、及び/または436位のValもしくはThrをさらに含むように置換される。
一実施態様において、そのような方法は、434位、438位、および440位の全てのアミノ酸を、それぞれ、Ala;Glu、Arg、Ser、またはLys;およびGlu、Asp、またはGlnに置換する工程を含む。追加の実施態様において、そのような方法は、得られたFc領域改変体または当該改変体を含む抗体が、EUナンバリングで表される、428位のIleもしくはLeu、及び/または436位のIle、Leu、Val、Thr、もしくはPheをさらに含むように、アミノ酸を置換する工程を含む。さらなる実施態様において、アミノ酸は、当該方法によって産生されて得られたFc領域改変体または当該改変体を含む抗体が、EUナンバリングで表される、428位のLeu、及び/または436位のValもしくはThrをさらに含むように置換される。
代替的な実施態様において、開示Bは、上述した開示Bの任意の製造方法により得られるFc領域改変体又は当該Fc領域改変体を含む抗体に関する。
代替的な実施態様において、開示Bは以下の工程を含む、酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増大されたFc領域改変体を含む抗体の、(既存の)ADAに対する結合活性を低下させる方法;および、酸性pH(例えばpH5.8)におけるFcRnに対する結合活性が増大され、かつ、既存のADAに対する結合活性が低下された、Fc領域改変体の製造方法を提供する:
(a)参照抗体と比較して、酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性が増大された、Fc領域(改変体)を含む抗体を提供する工程、ならびに
(b)当該Fc領域において、EUナンバリングで表される、
(i)434位のAlaによるアミノ酸置換;
(ii)438位のGlu、Arg、Ser又はLysによるアミノ酸置換;及び、
(iii)440位のGlu、Asp又はGlnによるアミノ酸置換、
(iv)場合により、428位のIle又はLeuによるアミノ酸置換;及び/又は、
(v)場合により、436位のIle、Leu、Val、Thr又はPheによるアミノ酸置換
を導入する工程。
いくつかの実施態様において、工程(a)における好ましいFcドメイン(改変体)はヒトIgGのFcドメイン(改変体)である。また、酸性pHにおけるFcRnに対する結合活性を増大させ、pH中性域(例えばpH7.4)における(既存の)ADAに対する結合活性を減少させるために、Fc領域(改変体)は、
(a)N434A/Q438R/S440E;
(b)N434A/Q438R/S440D;
(c)N434A/Q438K/S440E;
(d)N434A/Q438K/S440D;
(e)N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(f)N434A/Y436T/Q438R/S440D;
(g)N434A/Y436T/Q438K/S440E;
(h)N434A/Y436T/Q438K/S440D;
(i)N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(j)N434A/Y436V/Q438R/S440D;
(k)N434A/Y436V/Q438K/S440E;
(l)N434A/Y436V/Q438K/S440D;
(m)N434A/R435H/F436T/Q438R/S440E;
(n)N434A/R435H/F436T/Q438R/S440D;
(o)N434A/R435H/F436T/Q438K/S440E;
(p)N434A/R435H/F436T/Q438K/S440D;
(q)N434A/R435H/F436V/Q438R/S440E;
(r)N434A/R435H/F436V/Q438R/S440D;
(s)N434A/R435H/F436V/Q438K/S440E;
(t)N434A/R435H/F436V/Q438K/S440D;
(u)M428L/N434A/Q438R/S440E;
(v)M428L/N434A/Q438R/S440D;
(w)M428L/N434A/Q438K/S440E;
(x)M428L/N434A/Q438K/S440D;
(y)M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E;
(z)M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440D;
(aa)M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440E;
(ab)M428L/N434A/Y436T/Q438K/S440D;
(ac)M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440E;
(ad)M428L/N434A/Y436V/Q438R/S440D;
(ae)M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440E;
(af)M428L/N434A/Y436V/Q438K/S440D;
(ag)L235R/G236R/S239K/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E; および
(ah)L235R/G236R/A327G/A330S/P331S/M428L/N434A/Y436T/Q438R/S440E
からなる群から選択される、置換されたアミノ酸の組み合わせを含む。
任意で、当該方法は、
(c)作製されたFc領域改変体を含む抗体の(既存の)ADAに対する結合活性が、前記参照抗体の結合活性と比較して低下していることを確認する工程
をさらに含んでもよい。
または、当該方法は、中性pHにおける(既存の)ADAに対する抗体の結合活性を有意に増大させることなく、抗原と結合した状態で細胞内に取り込まれた抗体の、抗原と結合していない状態での細胞外への放出を促進する方法として用いてもよい。
開示C
開示Cは、以下に詳述する抗IL-8抗体、当該抗体をコードする核酸、当該抗体を含む医薬組成物、当該抗体の製造方法、及びIL-8が関連する疾患の治療における当該抗体の使用に関する。なお、以下に記載の用語の意味は、当業者公知の実施態様に加えて、当明細書中の開示Cについて説明される記載のすべてが、当業者の技術常識に反することなく準用されてよい。
I.開示Cの範囲における定義
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「酸性pH」とは、例えばpH4.0からpH6.5までで選択され得るpHを指す。一実施態様では、酸性pHは、pH4.0、pH4.1、pH4.2、pH4.3、pH4.4、pH4.5、pH4.6、pH4.7、pH4.8、pH4.9、pH5.0、pH5.1、pH5.2、pH5.3、pH5.4、pH5.5、pH5.6、pH5.7、pH5.8、pH5.9、pH6.0、pH6.1、pH6.2、pH6.3、pH6.4、又はpH6.5を指すがこれらに限定されない。特定の実施態様において、酸性pHとの用語は、pH5.8を指す。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「中性pH」とは、例えばpH6.7からpH10.0までで選択され得るpHを指す。一実施態様では、中性pHは、pH6.7、pH6.8、pH6.9、pH7.0、pH7.1、pH7.2、pH7.3、pH7.4、pH7.5、pH7.6、pH7.7、pH7.8、pH7.9、pH8.0、pH8.1、pH8.2、pH8.3、pH8.4、pH8.5、pH8.6、pH8.7、pH8.8、pH8.9、pH9.0、pH9.5、又はpH10.0を指すがこれらに限定されない。特定の実施態様において、中性pHとの用語は、pH7.4を指す。
開示Cにおける「IL-8」という用語は、特に示さない限り、あらゆる脊椎動物、霊長類(例えばヒト、カニクイザル、アカゲザル)、およびその他の哺乳類(例えば、イヌやウサギ)由来の任意の天然型IL-8を指す。この「IL-8」という用語は、全長のIL-8、プロセシングを受けていないIL-8、ならびに細胞中でのプロセシングに由来するあらゆる形のIL-8も含む。この「IL-8」という用語はまた、天然型IL-8の派生物、例えば、スプライス改変体やアレル改変体も含む。例示的なヒトIL-8のアミノ酸配列を、配列番号:66で示した。
「抗IL-8抗体」および「IL-8に結合する抗体」という用語は、抗体がIL-8を標的とすることにより診断剤および/または治療剤として有用であるような十分な親和性で、IL-8と結合し得る抗体を指す。
一実施態様において、無関係の非IL-8タンパク質に対する抗IL-8抗体の結合の程度は、例えば、IL-8に対する抗体の結合のうち約10%未満であってもよい。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「親和性」とは一般的に、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合的な相互作用の総合計の強度を意味する。別段示さない限り、当明細書中の開示Cを記載している範囲において「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば抗体と抗原)間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を意味する。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般的に、解離定数(KD)として表すことができる。結合親和性は、当明細書中の開示Cを記載している範囲に記載のものを含む当業者に公知の方法を用いて測定してもよい。
ある実施態様において、IL-8に結合する抗体は、例えば≦1000 nM、≦100 nM、≦10 nM、≦1 nM、≦0.1 nM、≦0.01 nM、または ≦0.001 nM(例えば、10-8 Mかそれ未満、10-8 M〜10-13 M、10-9 M〜10-13 M)の解離定数(KD)を有することができる。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「抗体」という用語は最も広い意味において使用され、これに限定されるものではないが、所望する、抗原に対する結合活性を示す限りは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)及び抗体断片を含む。
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」とは、参照抗体のその抗原への結合を例えば50%、60%、70%、もしくは80%またはそれ以上阻止する抗体を指し、逆に、参照抗体は、抗体のその抗原への結合を例えば50%、60%、70%、もしくは80%またはそれ以上阻止する。ここで、例示的な競合アッセイを用いることもできるがこれに限定されない。
「キメラ抗体」は、重鎖及び/または軽鎖の一部が特定の供給源又は種に由来し、残りの部分が異なる供給源又は種に由来する抗体を指す。
「ヒト化」抗体とは、非ヒトHVRに由来するアミノ酸残基と、ヒトFRに由来するアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を指す。ある実施態様では、ヒト化抗体は、実質的に少なくとも一つ、典型的には二つの可変領域を含んでもよく、当該可変領域では、すべての(あるいは実質的にすべての)HVR(例えばCDR)は、非ヒト抗体のHVRに相当し、すべての(あるいは実質的にすべての)FRは、ヒト抗体のFRに相当する。ヒト化抗体は、場合によっては、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味し、すなわち、例えば、天然に生じる変異を含むか又はモノクローナル抗体製剤の製造時に発生するものであって一般的に少量で存在しているものなどの潜在的な改変型抗体を除いては、集団を構成する個々の抗体は同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を一般的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。従って、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、開示Cに従って使用されるモノクローナル抗体は、限定されないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含む様々な技術によって作製され、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法及び他の例示的な方法は本明細書に記載されている。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「天然型抗体」は、天然に生じる様々な構造をとる免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然型IgG抗体の一実施態様は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖からなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であるが、これに限定されない。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有し、3つの定常ドメイン(CH1、CH2およびCH3)が続く。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有し、定常軽鎖(CL)ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプのいずれかに割り当てることができる。開示Cで用いられる定常ドメインとしては、報告されている如何なるアロタイプ(アレル)または如何なるサブクラス/アイソタイプのものが用いられてもよい。重鎖定常領域としては、限定はされないが天然型IgG抗体(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4)の定常領域を用いることができる。例えばIgG1のアレルとしては、IGHG1*01、IGHG1*02、IGHG1*03、IGHG1*04、およびIGHG1*05といったものが知られているが(imgt.orgを参照のこと)、これらのいずれもがヒト天然型IgG1配列として使用可能である。また、定常ドメインの配列は、単一のアレルあるいはサブクラス/アイソタイプに由来してもよいし、複数のアレルあるいはサブクラス/アイソタイプに由来してもよい。すなわち、そのような抗体には、これに限定はされないが、例えばそのCH1はIGHG1*01に由来し、CH2はIGHG1*02に由来し、CH3はIGHG1*01に由来する、といった抗体も含まれる。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域に帰する生物学的活性を意味し、抗体のアイソタイプによって変わり得る。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞障害;Fc受容体結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);貪食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)のダウンレギュレーション;及びB細胞活性化が含まれるがこれに限定されない。
当明細書中の開示Cを記載している範囲における「Fc領域」なる用語は、定常領域の少なくとも一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は天然型Fc領域と改変型Fc領域を含む。天然型Fc領域とは、天然型抗体のFc領域を示す。
一実施態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226又はPro230のアミノ酸残基からその重鎖のカルボキシル末端までにわたる。しかし、Fc領域のC末端のリジン(Lys447)、又はグリシン-リジン(残基446-447)は存在していてもしていなくてもよい。特に明記しない限り、当明細書中の開示Cを記載している範囲においてFc領域または定常領域のアミノ酸残基の番号付けは、以下の出典、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991によって述べられているように、EUインデックスとも呼ばれる、EUナンバリングシステムによる。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「フレームワーク」または「FR」は、高頻度可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基である。通常、可変ドメインのFRは4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。従って、HVRとFRの配列は、通常、次のような配列で、VH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選別において、最も共通して生じるアミノ酸残基を表すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列は、可変ドメイン配列のサブグループから選別される。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)によるサブグループである。
一実施態様では、VLについて、前記サブグループは上掲のKabat et al.によるサブグループκIである。一実施態様では、VHについて、前記サブグループは上掲のKabat et al.によるサブグループIIIである。
当明細書中の開示Cを記載している範囲における目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークから得られるVL又はVHフレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「から得られる」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含むか、又は既存のアミノ酸配列置換を含んでもよい。いくつかの実施態様では、既存のアミノ酸置換の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下又は2以下である。一実施態様では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と同一である。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「可変領域」又は「可変ドメイン」なる用語は、抗原への抗体の結合に関与する、抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の重鎖と軽鎖の可変領域(それぞれVHとVL)は、通常、類似の構造を持ち、各ドメインは4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの高頻度可変領域(HVR)を含む(Kindt et al., Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)を参照)。一つのVHもしくはVLドメインは抗原結合特異性を与えるに十分であるが、これに限定されない。更に、ある特定の抗原に結合する抗体は、VLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングするために当該抗原に結合する抗体からVHまたはVLドメインを使って単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993);Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991)を参照。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において使用される「高頻度可変領域」または「HVR」なる用語は、配列において高頻度可変であるか(「相補性決定領域」または「CDR」)、及び/又は構造的に定まったループ(「高度可変ループ」)を形成するか、及び/又は抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域を意味する。一般に、抗体は6つの高頻度可変領域を含み;VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)が存在する。
例示的なHVRはここでは以下のものを含むがこれらに限定されない:
(a)アミノ酸残基が26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、及び96-101 (H3)である高頻度可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b)アミノ酸残基が24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、及び95-102 (H3)であるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c)アミノ酸残基が27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、及び93-101 (H3)である抗原接触 (MacCallum et al., J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに
(d)HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、及び94-102 (H3) を含む、(a)、(b)、及び/または(c)との組合せ。
特に指示がない限り、可変領域(例えばFR残基など)におけるHVR及びその他の残基は、上掲のKabat et al.に示すように番号付けされる。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「個体」は哺乳類である。哺乳類は、これに限定されないが、飼いならされた動物(例えば牛、ヒツジ、猫、犬、および馬など)、霊長類(例えばヒト、およびサルのような非ヒト霊長類など)、ウサギ、およびげっ歯類(マウスやラットなど)を含む。ある実施態様では、「個体」はヒトである。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「単離された」抗体とは、その天然の環境の構成要素から分離されたものである。いくつかの実施態様では、抗体は例えばクロマトグラフィーにより(例えばイオン交換または逆相HPLC)、または電気泳動により(例えばSDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)、95%超または99%超の測定純度まで精製される。抗体の純度の測定法のレビューは例えばFlatman et al., J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007)を参照のこと。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「単離された」核酸とは、自然環境の要素から分けられた核酸分子のことを指す。単離された核酸は、核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、該核酸分子は、染色体外に存在するかその天然の染色体位置とは違う位置に存在している。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「抗IL-8抗体をコードする単離された核酸」とは、抗IL-8抗体の重鎖及び軽鎖(或はその断片)をコードする一つ以上の核酸分子を指し、そのような核酸は例えば一つのベクター内又は別個のベクター内にあるか、宿主細胞の中の一つ以上の位置に存在している。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」という用語は、互換的に用いられ、外来核酸を導入された細胞を指し、これはその子孫も含む。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換された細胞」を含み、これは、初代形質転換細胞も、継代回数に関係なくそれに由来する子孫も含む。子孫は、その親細胞と核酸の内容において完全に同一でないかもしれず、変異を含んでいるかもしれない。当初に形質転換した細胞で選択された或はスクリーニングされたものと同じ機能的または生物学的活性を持つ変異体子孫もここには含まれる。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において用いられる「ベクター」という用語は、それに連結された別の核酸を増幅させることができる核酸分子のことを指す。この用語は、宿主細胞に導入されてそのゲノムの中に取り込まれたベクター、および、自己複製核酸構造としてのベクターを含む。あるベクターは、それらが機能的に連結された核酸の発現を指示することができる。このようなベクターは当明細書において「発現ベクター」と示される。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において、用語「パッケージ挿入物」は、効能、用法、用量、投与、併用療法、禁忌についての情報、及び/又はそのような治療用製品の使用に関する警告を含む、治療用製品の商用パッケージに慣習的に含まれている説明書を指すために使用される。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において、参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」とは、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならばギャップを導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとして、配列アラインメント後に参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア、またはGENETYX(登録商標)(Genetyx Co., Ltd.)のような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列アラインメントのための適切なパラメーターを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性値は、例えば配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用することによって得られる。ALIGN-2はジェネンテック社によって作製され、ALIGN-2のソースコードは米国著作権庁, ワシントンD.C., 20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087で登録されている。ALIGN-2プログラムはジェネンテック社、サウス サン フランシスコ, カリフォルニアから公的に入手可能であるか、当該ソースコードよりコンパイルされる。ALIGN-2プログラムは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステム、例えばデジタルUNIX(登録商標)V4.0Dでの使用のためにコンパイルされる。全ての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され変動しない。
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bに対して特定の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される: 分率X/Yの100倍。ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によるA及びBのプログラムアラインメントによって完全一致としてスコアリングされたアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることが理解されるであろう。特に断らない限りは、ここでの全ての%アミノ酸配列同一性値は、当明細書中の開示Cを記載している範囲に示したようにALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られる。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において「医薬組成物」とは、通常、疾患の治療、予防、検査、または診断のための薬剤を言う。「薬学的に許容される担体」とは、医薬組成物中にある有効成分以外の構成要素を指し、対象(subject)に対して無害なものである。そのような薬学的に許容される担体は、これに限定されないが、緩衝液、賦形剤、安定剤、保存剤を含む。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において使用されるところの「治療(treatment)」(およびその文法的なバリエーション、例えば「治療(treat)」、または「治療(treating)」)は、治療されている個体の自然な経過を変更するための臨床的介入を意味し、これは、予防のため又は臨床的病理の過程中に実施することができる。治療の望ましい効果には、以下に限らないが、疾病の発生又は再発の防止、症状の寛解、疾病の任意の直接的又は間接的病理的結果の低減、転移の防止、疾病の進行速度の低減、疾病状態の回復又は緩和、及び寛解又は改善された予後が含まれる。一実施態様では、開示Cの抗体は疾患又は疾病の進行を遅らせるために用いられ得る。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において、抗体や、医薬組成物の、「有効量」とは、所望される治療的又は予防的結果を達成するのに必要な期間、必要な用量で使用された場合に有効な量を意味する。
II.組成物と方法
一実施態様において、開示Cは、IL-8に対するpH依存的な親和性を有する抗IL-8抗体が医薬組成物として利用可能であることに基づく。開示Cの抗体は、例えば、IL-8が過剰に存在する疾患の診断や治療に有益である。
A.例示的な抗IL-8抗体
一実施態様において、開示Cは、IL-8に対してpH依存的な親和性を有する抗IL-8抗体を提供する。
一実施態様において、開示Cは、以下(a)から(f)のアミノ酸配列において少なくとも一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、或は八つのアミノ酸の置換を含む配列を含み、IL-8に対してpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体を提供する:
(a)配列番号:67のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:69のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:70のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:71のアミノ酸配列を含むHVR-L2、
(f)配列番号:72のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
別の実施態様において、開示Cは、以下(a)から(f)のアミノ酸配列の少なくともいずれか一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含み、かつIL-8に対してpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体を提供する:
(a)配列番号:67のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:69のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:70のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:71のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および
(f)配列番号:72のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
アミノ酸は、特段の指定のない限り、他のいかなるアミノ酸に置換されてもよい。一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下からなる群から選ばれる位置での1つまたは複数のアミノ酸の置換を含む:
(a)配列番号:67の配列の1位のアスパラギン酸、
(b)配列番号:67の配列の2位のチロシン、
(c)配列番号:67の配列の3位のチロシン、
(d)配列番号:67の配列の4位のロイシン、
(e)配列番号:67の配列の5位のセリン、
(f)配列番号:68の配列の1位のロイシン、
(g)配列番号:68の配列の2位のイソロイシン、
(h)配列番号:68の配列の3位のアルギニン、
(i)配列番号:68の配列の4位のアスパラギン、
(j)配列番号:68の配列の5位のリジン、
(k)配列番号:68の配列の6位のアラニン、
(l)配列番号:68の配列の7位のアスパラギン、
(m)配列番号:68の配列の8位のグリシン、
(n)配列番号:68の配列の9位のチロシン、
(o)配列番号:68の配列の10位のスレオニン、
(p)配列番号:68の配列の11位のアルギニン、
(q)配列番号:68の配列の12位のグルタミン酸、
(r)配列番号:68の配列の13位のチロシン、
(s)配列番号:68の配列の14位のセリン、
(t)配列番号:68の配列の15位のアラニン、
(u)配列番号:68の配列の16位のセリン、
(v)配列番号:68の配列の17位のバリン、
(w)配列番号:68の配列の18位のリジン、
(x)配列番号:68の配列の19位のグリシン、
(y)配列番号:69の配列の1位のグルタミン酸、
(z)配列番号:69の配列の2位のアスパラギン、
(aa)配列番号:69の配列の3位のチロシン、
(ab)配列番号:69の配列の4位のアルギニン、
(ac)配列番号:69の配列の5位のチロシン、
(ad)配列番号:69の配列の6位のアスパラギン酸、
(ae)配列番号:69の配列の7位のバリン、
(af)配列番号:69の配列の8位のグルタミン酸、
(ag)配列番号:69の配列の9位のロイシン、
(ah)配列番号:69の配列の10位のアラニン、
(ai)配列番号:69の配列の11位のチロシン、
(aj)配列番号:70の配列の1位のアルギニン、
(ak)配列番号:70の配列の2位のアラニン、
(al)配列番号:70の配列の3位のセリン、
(am)配列番号:70の配列の4位のグルタミン酸、
(an)配列番号:70の配列の5位のイソロイシン、
(ao)配列番号:70の配列の6位のイソロイシン、
(ap)配列番号:70の配列の7位のチロシン、
(aq)配列番号:70の配列の8位のセリン、
(ar)配列番号:70の配列の9位のチロシン、
(as)配列番号:70の配列の10位のロイシン、
(at)配列番号:70の配列の11位のアラニン、
(au)配列番号:71の配列の1位のアスパラギン、
(av)配列番号:71の配列の2位のアラニン、
(aw)配列番号:71の配列の3位のリジン、
(ax)配列番号:71の配列の4位のスレオニン、
(ay)配列番号:71の配列の5位のロイシン、
(az)配列番号:71の配列の6位のアラニン、
(ba)配列番号:71の配列の7位のアスパラギン酸、
(bb)配列番号:72の配列の1位のグルタミン、
(bc)配列番号:72の配列の2位のヒスチジン、
(bd)配列番号:72の配列の3位のヒスチジン、
(be)配列番号:72の配列の4位のフェニルアラニン、
(bf)配列番号:72の配列の5位のグリシン、
(bg)配列番号:72の配列の6位のフェニルアラニン、
(bh)配列番号:72の配列の7位のプロリン、
(bi)配列番号:72の配列の8位のアルギニン、および
(bj)配列番号:72の配列の9位のスレオニン。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下からなる群から選ばれる位置での1つまたは複数のアミノ酸の置換を含む:
(a)配列番号:68の配列の6位のアラニン、
(b)配列番号:68の配列の8位のグリシン、
(c)配列番号:68の配列の9位のチロシン、
(d)配列番号:68の配列の11位のアルギニン、及び
(e)配列番号:69の配列の3位のチロシン。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下からなる群から選ばれる位置のアミノ酸の置換の組合せを含む:
(a)配列番号:68の配列の6位のアラニン、
(b)配列番号:68の配列の8位のグリシン、
(c)配列番号:68の配列の9位のチロシン、
(d)配列番号:68の配列の11位のアルギニン、及び、
(e)配列番号:69の配列の3位のチロシン。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:68の配列の9位のチロシン、
(b)配列番号:68の配列の11位のアルギニン、及び、
(c)配列番号:69の配列の3位のチロシン
の位置のアミノ酸の置換を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:68の配列の6位のアラニン、
(b)配列番号:68の配列の8位のグリシン、
(c)配列番号:68の配列の9位のチロシン、
(d)配列番号:68の配列の11位のアルギニン、及び、
(e)配列番号:69の配列の3位のチロシン
の位置のアミノ酸の置換を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:68の配列の6位のアラニンのアスパラギン酸への置換と、
(b)配列番号:68の配列の11位のアルギニンのプロリンへの置換と、
(c)配列番号:69の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換
を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:68の配列の8位のグリシンのチロシンへの置換と、
(b)配列番号:68の配列の9位のチロシンのヒスチジンへの置換
を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:68の配列の6位のアラニンのアスパラギン酸への置換と、
(b)配列番号:68の配列の8位のグリシンのチロシンへの置換と、
(c)配列番号:68の配列の9位のチロシンのヒスチジンへの置換と、
(d)配列番号:68の配列の11位のアルギニンのプロリンへの置換と、
(e)配列番号:69の配列の3位のチロシンのヒスチジンへの置換
を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:73のアミノ酸配列を含むHVR-H2を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:74のアミノ酸配列を含むHVR-H3を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:67のアミノ酸配列を含むHVR-H1、配列番号:73のアミノ酸配列を含むHVR-H2及び配列番号:74のアミノ酸配列を含むHVR-H3を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下からなる群から選ばれる位置での1つまたは複数のアミノ酸の置換を含む:
(a)配列番号:70の配列の8位のセリン、
(b)配列番号:71の配列の1位のアスパラギン、
(c)配列番号:71の配列の5位のロイシン、及び
(d)配列番号:72の配列の1位のグルタミン。さらなる実施態様では、抗IL-8抗体は、これらの置換のうち、任意の2つ、3つ、または4つ全ての組み合わせを含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下からなる群から選ばれる位置のアミノ酸の置換の組合せを含む:
(a)配列番号:70の配列の8位のセリン、
(b)配列番号:71の配列の1位のアスパラギン、
(c)配列番号:71の配列の5位のロイシン、及び
(d)配列番号:72の配列の1位のグルタミン。さらなる実施態様では、抗IL-8抗体は、これらの置換のうち、任意の2つ、3つ、または4つ全ての組み合わせを含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:71の配列の1位のアスパラギン、
(b)配列番号:71の配列の5位のロイシン、及び
(c)配列番号:72の配列の1位のグルタミン
の位置のアミノ酸の置換を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:70の配列の8位のセリン、
(b)配列番号:71の配列の1位のアスパラギン、
(c)配列番号:71の配列の5位のロイシン、及び
(d)配列番号:72の配列の1位のグルタミン
の位置のアミノ酸の置換を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:71の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と、
(b)配列番号:71の配列の5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び
(c)配列番号:72の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換
を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:70の配列の8位のセリンのグルタミン酸への置換と、
(b)配列番号:71の配列の1位のアスパラギンのリジンへの置換と、
(c)配列番号:71の配列の5位のロイシンのヒスチジンへの置換と、及び
(d)配列番号:72の配列の1位のグルタミンのリジンへの置換
を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L2を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:70のアミノ酸配列を含むHVR-L1、配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:77の配列の55位のアラニン、
(b)配列番号:77の配列の57位のグリシン、
(c)配列番号:77の配列の58位のチロシン、
(d)配列番号:77の配列の60位のアルギニン、
(e)配列番号:77の配列の84位のグルタミン、
(f)配列番号:77の配列の87位のセリン、及び
(g)配列番号:77の配列の103位のチロシン
の位置のアミノ酸の置換を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、
(a)配列番号:77の配列の55位のアラニンのアスパラギン酸への置換と、
(b)配列番号:77の配列の57位のグリシンのチロシンへの置換と、
(c)配列番号:77の配列の58位のチロシンのヒスチジンへの置換と、
(d)配列番号:77の配列の60位のアルギニンのプロリンへの置換と、
(e)配列番号:77の配列の84位のグルタミンのスレオニンへの置換と、
(f)配列番号:77の配列の87位のセリンのアスパラギン酸への置換と、及び
(g)配列番号:77の配列の103位のチロシンのヒスチジンへの置換
を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:78のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:79のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:78のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:79のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。前記配列番号:78のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:79のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗IL-8抗体は、pH依存的にIL-8に結合する抗IL-8抗体であってもよい。前記配列番号:78のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:79のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗IL-8抗体は、インビボ(例えば血漿中)でIL-8中和活性が安定に保たれる抗IL-8抗体であってもよい。前記配列番号:78のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号:79のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗IL-8抗体は、免疫原性が低い抗体であってもよい。
また、代替的な態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下の(a)から(f)のアミノ酸配列の少なくともいずれか一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含み、かつIL-8にpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体も含む:
(a)配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:103のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:104のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:105のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:106のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および
(f)配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
また、代替的な態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下の(a)から(f)のアミノ酸配列において、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含み、かつIL-8にpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体も含む:
(a)配列番号:108のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:109のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:110のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および
(f)配列番号:113のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
また、代替的な態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下の(a)から(f)のアミノ酸配列の少なくともいずれか一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含み、かつIL-8にpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体も含む:
(a)配列番号:114のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:116のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:118のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および
(f)配列番号:119のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
また、代替的な態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下の(a)から(f)のアミノ酸配列の少なくともいずれか一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含み、かつIL-8にpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体も含む:
(a)配列番号:120のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:121のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:123のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:124のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および
(f)配列番号:125のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
また、代替的な態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下の(a)から(f)のアミノ酸配列の少なくともいずれか一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含み、かつIL-8にpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体も含む:
(a)配列番号:126のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:127のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:130のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および
(f)配列番号:131のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
また、代替的な態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下の(a)から(f)のアミノ酸配列の少なくともいずれか一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含み、かつIL-8にpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体も含む:
(a)配列番号:132のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:134のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:135のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:136のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および
(f)配列番号:137のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
また、代替的な態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、以下の(a)から(f)のアミノ酸配列の少なくともいずれか一つにおいて、少なくとも一つのアミノ酸の置換を含み、かつIL-8にpH依存的な親和性を有する、抗IL-8抗体も含む:
(a)配列番号:138のアミノ酸配列を含むHVR-H1、
(b)配列番号:139のアミノ酸配列を含むHVR-H2、
(c)配列番号:140のアミノ酸配列を含むHVR-H3、
(d)配列番号:141のアミノ酸配列を含むHVR-L1、
(e)配列番号:142のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および
(f)配列番号:143のアミノ酸配列を含むHVR-L3。
一実施態様において、開示Cの抗IL-8抗体は、IL-8の中和活性を有する。IL-8の中和活性とは、IL-8が示す生物学的活性を阻害する活性のことである。或は、IL-8がその受容体に結合することを阻害する活性を指してもよい。
代替的な態様において、開示Cの抗IL-8抗体は、pH依存的にIL-8に結合する抗IL-8抗体である。開示Cの文脈において、pH依存的にIL-8に結合する抗IL-8抗体であるとは、中性pHでのIL-8への結合親和性に比べて、酸性pHでのIL-8への結合親和性が減少している抗体を指す。例えば、pH依存的な抗IL-8抗体には、酸性pHにおいてよりも中性pHにおいてのほうがIL-8に対して高い親和性を有する抗体が含まれる。一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、IL-8に対して酸性pHにおける親和性よりも中性pHにおける親和性のほうが、少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍、55倍、60倍、65倍、70倍、75倍、80倍、85倍、90倍、95倍、100倍、200倍、400倍、1000倍、10000倍、或はそれ以上高い。結合親和性を測定するためには、特に限定はされないが、表面プラズモン共鳴法(BIACORE(登録商標)など)が用いられ得る。結合速度定数(kon)と解離速度定数(koff)は、結合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることによる単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model)に基づきBIACORE(登録商標) T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて算出することができる。平衡解離定数(KD)は、koff/kon比として算出される。pHによって結合親和性が異なる抗体をスクリーニングするためには、特に限定はされないが、表面プラズモン共鳴法(BIACORE(登録商標)など)の他にも、ELISA法や結合平衡除外法(Kinetic Exclusion Assay;KinExA(商標))などを用いることもできる。pH依存的IL-8結合能とは、pH依存的にIL-8に結合するという性質を意味する。また、抗体がIL-8に複数回結合可能であるかどうかは、WO2009/125825に記載の方法によって、判断することが可能である。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、中性pHにおけるIL-8に対する解離定数(KD)が小さいことが好ましい。一実施態様では、開示Cの抗体は、中性pHにおけるIL-8に対する解離定数が例えば0.3 nM以下であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、中性pH におけるIL-8に対する解離定数が例えば0.1 nM以下であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、中性pH におけるIL-8に対する解離定数が例えば0.03 nM以下であるがこれに限定されない。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、pH7.4におけるIL-8に対する解離定数(KD)が小さいことが好ましい。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH7.4におけるIL-8に対する解離定数が例えば0.3 nM以下であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH7.4におけるIL-8に対する解離定数が例えば0.1 nM以下であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH7.4におけるIL-8に対する解離定数が例えば0.03 nM以下であるがこれに限定されない。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、酸性pHにおけるIL-8に対する解離定数(KD)が大きいことが好ましい。一実施態様では、開示Cの抗体は、酸性pHにおけるIL-8に対する解離定数が例えば3 nM以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、酸性pHにおけるIL-8に対する解離定数が例えば10 nM以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、酸性pHにおけるIL-8に対する解離定数が例えば30 nM以上であるがこれに限定されない。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、pH5.8におけるIL-8に対する解離定数(KD)が大きいことが好ましい。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH5.8におけるIL-8に対する解離定数が例えば3 nM以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH5.8におけるIL-8に対する解離定数が例えば10 nM以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH5.8におけるIL-8に対する解離定数が例えば30 nM以上であるがこれに限定されない。
一実施態様において、開示Cの抗IL-8抗体は、IL-8に対して、酸性pHにおける結合親和性よりも中性pHにおける結合親和性が高いことが好ましい。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、中性pHにおける解離定数に対する酸性pHにおける解離定数の比〔KD(酸性pH)/KD(中性pH)〕が例えば30以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、中性pHにおける解離定数に対する酸性pHにおける解離定数の比〔KD(酸性pH)/KD(中性pH)〕が例えば100以上、例えば、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、8500、9000、または9500であるがこれに限定されない。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、pH7.4における解離定数に対するpH5.8における解離定数の比〔KD(pH5.8)/KD(pH7.4)〕が30以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH7.4における解離定数に対するpH5.8における解離定数の比〔KD(pH5.8)/KD(pH7.4)〕が例えば100以上、例えば、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、8500、9000、または9500であるがこれに限定されない。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、酸性pHにおける解離速度定数(koff)が大きいことが好ましい。一実施態様では、開示Cの抗体は、酸性pHにおける解離速度定数が例えば0.003(1/s)以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、酸性pHにおける解離速度定数が例えば0.005(1/s)以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、酸性pHにおける解離速度定数が例えば0.01(1/s)以上であるがこれに限定されない。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、pH5.8における解離速度定数(koff)が大きいことが好ましい。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH5.8における解離速度定数が例えば0.003(1/s)以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH5.8における解離速度定数が例えば0.005(1/s)以上であるがこれに限定されない。一実施態様では、開示Cの抗体は、pH5.8における解離速度定数が例えば0.01(1/s)以上であるがこれに限定されない。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、溶液中(例えばPBS中)でIL-8中和活性が安定に保たれることが好ましい。溶液中で当該活性が安定に保たれるかどうかは、当該溶液に添加した開示Cの抗体のIL-8中和活性が、ある期間、ある温度で保管した前と後で変化するかどうかを測定することで確認可能である。一実施態様では、保管期間は、これらに限定されるものではないが、例えば1週間、2週間、3週間、または4週間である。一実施態様では、保管温度は、これらに限定されるものではないが、例えば25℃、30℃、35℃、40℃、または50℃である。一実施態様では、保管温度はこれに限定されるものではないが、例えば40℃であり、保管期間はこれに限定されるものではないが、例えば2週間である。一実施態様では、保管温度はこれに限定されるものではないが、例えば50℃であり、保管期間はこれに限定されるものではないが、例えば1週間である。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、インビボ(例えば血漿中)でIL-8中和活性が安定に保たれることが好ましい。当該活性がインビボで安定に保たれるかどうかは、動物(例えばマウス)あるいはヒトの血漿に添加した開示Cの抗体のIL-8中和活性が、ある期間、ある温度で保管した前と後で変化するかどうかを測定することで確認可能である。一実施態様では、保管期間はこれらに限定されるものではないが、例えば1週間、2週間、3週間、または4週間である。一実施態様では、保管温度は、これらに限定されるものではないが、例えば25℃、30℃、35℃、または40℃である。一実施態様では、保管温度はこれに限定されるものではないが、例えば40℃であり、保管期間はこれに限定されるものではないが、例えば2週間である。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体が細胞内へ取り込まれる速度は、抗体単独のときよりも、抗体がIL-8と複合体を形成したときのほうが大きい。開示CのIL-8抗体は、細胞外(例えば血漿中)において、IL-8と複合体を形成していないときよりもIL-8と複合体を形成しているときのほうが細胞内に取り込まれやすい。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、ヒト宿主において予測される予測免疫原性が低減されていることが好ましい。「免疫原性が低い」とは、これに限定されるものではないが、例えば治療効果を達成するのに十分な期間、十分な量の抗体が投与された個体の少なくとも過半数において、投与された抗IL-8抗体が、生体による免疫応答を惹起しないことを意味してもよい。免疫応答の惹起には抗医薬品抗体の産生が含まれ得る。「抗医薬品抗体の産生が少ない」とは「免疫原性が低い」と言い換えることも可能である。ヒトにおける免疫原性のレベルは、T細胞エピトープ予測プログラムで推定することも可能であり、このT細胞エピトープ予測プログラムにはEpibase(Lonza)、iTope/TCED(Antitope)、EpiMatrix(EpiVax)などが含まれる。EpiMatrixは、免疫原性を測定したいタンパク質のアミノ酸配列を9アミノ酸ごとに区切ったペプチド断片の配列を機械的に設計し、それらについて、8種類の主要なMHCクラスIIアレル(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、およびDRB1*1501)に対する結合能を予測し、目的となるタンパク質の免疫原性を予測するシステムである(De Groot et al., Clin. Immunol. May;131(2):189-201(2009))。抗IL-8抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸が改変された配列を、前記のT細胞エピトープ予測プログラムを用いて解析し、免疫原性が低減した配列を設計することができる。開示Cの抗IL-8抗体の免疫原性を低減させるための好ましいアミノ酸改変部位の非限定例として、配列番号:78で表される抗IL-8抗体の重鎖配列中のKabatナンバリングで表される81位、および/または82b位のアミノ酸が挙げられる。
一実施態様では、開示Cは、開示Cに記載の抗IL-8抗体を個体に投与する工程を含む、参照抗体を用いたときよりも当該個体からのIL-8の消失を促進する方法を提供する。一実施態様において、開示Cは、参照抗体を用いたときよりも個体からのIL-8の消失を促進させることにおける、開示Cに記載の抗IL-8抗体の使用に関する。一実施態様において、開示Cは、参照抗体を用いたときよりも個体からのIL-8の消失を促進させるのに使用するための、開示Cに記載の抗IL-8抗体に関する。一実施態様において、開示Cは、参照抗体を用いたときよりもインビボでのIL-8の消失を促進するための医薬組成物の製造における、開示Cに記載の抗IL-8抗体の使用に関する。一実施態様において、開示Cは、開示Cに記載の抗IL-8抗体を含む、参照抗体を用いたときよりもIL-8の消失を促進するための医薬組成物に関する。一実施態様において、開示Cは、開示Cに記載の抗IL-8抗体を対象に投与する工程を含む、参照抗体を用いたときよりもIL-8の消失を促進する方法に関する。開示Cの実施態様における参照抗体とは、開示Cの抗体を取得するために改変を行う前の抗IL-8抗体、または酸性pHおよび中性pHの両方でのIL-8結合親和性が強い抗体を指す。参照抗体は、配列番号:83および配列番号:84のアミノ酸配列を含む抗体や、配列番号:89および配列番号:87を含む抗体であってもよい。
一実施態様において、開示Cは、開示Cに記載の抗IL-8抗体がIL-8と結合した後に細胞外マトリックスに結合することを特徴とする、開示Cに記載の抗IL-8抗体を含む、医薬組成物を提供する。一実施態様において、開示Cは、開示Cに記載の抗IL-8抗体がIL-8と結合した後に細胞外マトリックスと結合することを特徴とする医薬組成物の製造における、開示Cに記載の抗IL-8抗体の使用に関する。
上記いずれの実施態様においても、抗IL-8抗体はヒト化されていてもよい。
一態様において、開示Cの抗体は、上記で提供された実施態様のいずれか一つの重鎖可変領域、および、上記で提供された実施態様のいずれか一つの軽鎖可変領域を含む。一実施態様では、開示Cの抗体は配列番号:78の重鎖可変領域と配列番号:79の軽鎖可変領域をそれぞれ含み、それらの配列の翻訳後修飾も含み得る。
さらなる態様において、いずれかの上記実施態様による抗IL-8抗体は、以下のセクション1から7に記載されるいかなる特徴も、一つであっても組合せであっても、組み入れることができる。
1.キメラ抗体及びヒト化抗体
ある実施態様では、開示Cで提供される抗体はキメラ抗体であってもよい。あるキメラ抗体は、例えば米国特許第4,816,567号や Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984)などに記載されている。ある例では、キメラ抗体は非ヒト可変領域(例えば、サルのような非ヒト霊長類、またはマウス、ラット、ハムスター、ウサギに由来する可変領域)とヒトの定常領域を含んでもよい。
ある実施態様では、キメラ抗体はヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、親の非ヒト抗体の特異性と親和性を維持しつつ、ヒトでの免疫原性を減少させるためにヒト化される。一般的には、ヒト化抗体は一つ以上の可変領域を含み、ここでHVR、例えばCDR(又はその一部)は非ヒト抗体に由来し、FR(又はその一部)はヒト抗体配列に由来する。ヒト化抗体は、任意に、ヒト定常領域の少なくとも一部を含むこともできる。いくつかの実施態様では、ヒト化抗体内のいくつかのFR残基は、例えば、抗体の特異性や親和性を維持または改善させるために、非ヒト抗体(例えばHVR残基の由来となった抗体)の対応する残基と置換されていてもよい。
ヒト化抗体及びその作製方法は、例えばAlmagro et al., Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)にレビューされており、更には、例えば以下に述べられている:Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); Queen et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 86:10029-10033 (1989) ;米国特許第5, 821,337号、同第7,527,791号、同第6,982,321号、および同第7,087,409号; Kashmiri et al., Methods 36:25-34 (2005) (特異性決定領域 (SDR) 移植について記載); Padlan, Mol. Immunol. 28:489-498 (1991) (「リサーフェシング(resurfacing)」について記載); Dall'Acqua et al., Methods 36:43-60 (2005) (「FRシャフリング」について記載); ならびにOsbourn et al., Methods 36:61-68 (2005) および Klimka et al., Br. J. Cancer 83:252-260 (2000) (FRシャフリングに至る「ガイド下選択」について記載)。
ヒト化に使われるであろうヒトフレームワーク領域は、これらに限らないが、「ベストフィット」法を用いて選択されたフレームワーク領域(例えばSims et al. J. Immunol. 151:2296 (1993)を参照のこと)、重鎖または軽鎖の可変領域のある特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えばCarter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992) とPresta et al., J. Immunol., 151:2623 (1993)を参照のこと)、およびFRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域を含む(例えばBaca et al., J. Biol. Chem. 272:10678-10684 (1997) とRosok et al., J. Biol. Chem. 271:22611-22618 (1996)を参照のこと)。
2.抗体断片
ある実施態様では、開示Cとして提供される抗体は抗体断片であってもよい。抗体断片は、これらに限定されるものではないが、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、Fv、およびscFv断片、そして以下に述べるその他の断片を含む。ある抗体断片のレビューについては Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003)を参照。scFv断片のレビューについては、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp. 269-315 (1994)や、WO 93/16185、米国特許第5,571,894号、米国特許第5,587,458号を参照のこと。
ダイアボディは、二価あるいは二重特異性であって、二つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、EP 404,097; WO 1993/01161; Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003); およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)などを参照のこと。トリアボディやテトラボディもHudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003)に記載されている。
シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべてもしくは一部、あるいは軽鎖可変ドメインのすべてもしくは一部を含む抗体断片である。ある実施態様では、シングルドメイン抗体はヒトシングルドメイン抗体であってもよい (Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば米国特許第6,248,516 B1号を参照)。抗体断片は、これに限らないが、当明細書中の開示Cを記載している範囲において述べられているような組換え宿主細胞(例えば大腸菌およびファージ)による産生に加え、未加工の抗体のタンパク質分解的消化などを含む、様々な方法で作製することができる。
3.ヒト抗体
ある実施態様では、開示Cで提供される抗体は、ヒト抗体であってもよい。ヒト抗体は、当技術分野で既知の様々な技術によって作製することができる。ヒト抗体は一般的に、van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-74 (2001) や Lonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450-459 (2008)に記載されている。ヒト抗体は、ヒト可変領域を有する未加工の抗体或は未加工のヒト抗体を抗原に応答して産生するように改変されたトランスジェニック動物へ免疫原を投与することで、調製され得る。このような動物は典型的には全部あるいは一部のヒト免疫グロブリン遺伝子座を含み、これは、動物(非ヒト)の免疫グロブリン遺伝子座と置き換わるか、染色体外に存在するか、あるいは動物の染色体内に無作為に取り込まれる。このようなトランスジェニックマウスにおいて、動物(非ヒト)の免疫グロブリン遺伝子座は、通常不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を取得する方法のレビューについては、以下を参照のこと:Lonberg, Nat. Biotech. 23:1117-1125 (2005)。XENOMOUSE(商標)技術については、米国特許第6,075,181号、同第6,150,584号を参照。HUMAB(商標)技術については、米国特許第5,770,429号を参照。K-M MOUSE(商標)技術については、米国特許第7,041,870号を参照。VELOCIMOUSE(商標)技術については、米国特許出願公開US 2007/0061900を参照。
このような動物から産生された未加工の抗体由来のヒト可変領域は、例えば異なったヒト定常領域と組み合わせるなどにより、更に改変されてもよい。ヒト抗体は、ハイブリドーマに基づいた方法でも作製することができる。ヒトモノクローナル抗体の産生のための、ヒトミエローマ細胞株及びマウス‐ヒトヘテロミエローマ細胞株は、以下に記載されている(例えば、Kozbor, J. Immunol., 133: 3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987); およびBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991))。ヒトB細胞ハイブリドーマにより作製されたヒト抗体は、Li et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)に述べられている。追加的な方法としては、例えば米国特許第7,189,826号に記載されたハイブリドーマ細胞株からモノクローナルヒトIgM抗体の作製方法、および、例えばヒト‐ヒトハイブリドーマについてNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)に記載された方法が挙げられる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はVollmers et al., Histol. and Histopath. 20(3):927-937 (2005) と、Vollmers et al., Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology 27(3):185-91 (2005)にも述べられている。ヒト抗体は、ヒト由来ファージディスプレイライブラリから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することでも産生できる。このような可変ドメイン配列は、望ましいヒト定常ドメインと組み合わせることができる。抗体ライブラリからヒト抗体を選択する技術は以下に述べられている。
4.ライブラリ由来抗体
開示Cの抗体は、一つ又は複数の望ましい活性を持つ抗体についてコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることで単離できる。例えば、ファージディスプレイライブラリを作製するためおよび、望ましい結合特性を保有する抗体についてそのようなライブラリをスクリーニングするための、いろいろな方法が知られている。このような方法は、Hoogenboom et al., Meth. Mol. Biol. 178:1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001)、更には例えばMcCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990); Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992); Marks and Bradbury, in Meth. Mol. Biol. 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003); Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004); Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004); Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34): 12467-12472 (2004);およびLee et al., J. Immunol. Meth. 284(1-2): 119-132(2004)などでレビューされている。
あるファージディスプレイ法において、VH及びVLをコードする配列のレパートリーはそれぞれ別々にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)でクローニングすることができ、無作為にファージライブラリ中で再結合される。得られたファージライブラリでは、Winter et al., Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994)で述べられているように、抗原結合ファージのスクリーニングが行われる。ファージは、典型的には、単鎖Fv(scFv)断片として、あるいはFab断片として、抗体断片を提示する。
別法としては、Griffiths et al., EMBO J, 12: 725-734 (1993)に述べられているように、ナイーブレパートリーを(例えばヒトから)クローニングして、いかなる免疫もなしで、広い範囲の非自己の抗原に対するおよびまた自己の抗原に対する単一供給源の抗体を提供することができる。
最後に、ナイーブライブラリは、幹細胞からの再構成されていないV遺伝子セグメントのクローニングをし、高度可変CDR3領域をコードする無作為配列を含むPCRプライマーを用いてインビトロで再構成することにより、合成的に構築することもできる(以下および、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992)を参照;ヒト抗体ファージライブラリについての公開公報は、例えば米国特許第5,750,373号や、米国出願公開2005/0079574、2005/0119455、2005/0266000、2007/0117126、2007/0160598、2007/0237764、2007/0292936、および2009/0002360など)。ヒト抗体ライブラリから単離された抗体または抗体断片は、ヒト抗体またはヒト抗体断片とみなす。
5.多重特異性抗体
ある実施態様では、開示Cにより提供される抗体は、例えば二重特異性抗体のような、多重特異性抗体であってもよい。多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なった部位に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。
ある実施態様では、結合特異性の一つは、IL-8に対するものであり、他はそれ以外の任意の抗原に対するものである。
ある実施態様では、二重特異性抗体はIL-8の異なった二つのエピトープに結合し得る。二重特異性抗体はIL-8を発現する細胞に細胞毒性のある薬剤を配置するためにも使用され得る。二重特異性抗体は、全長抗体としてまたは抗体フラグメントとして調製されてもよい。
多重特異性抗体を作製する技術は、これに限らないが、異なった特異性を持つ二つの免疫グロブリン重鎖‐軽鎖ペアの組換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983))、WO 93/08829、およびTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991)を参照)や、「knob-in-hole」法(米国特許第5,731,168号参照)を含む。多重特異性抗体は、Fcヘテロ二重分子を作製するために electrostatic steering effectを用いること(WO 2009/089004A1)や、二つ以上の抗体やフラグメントのクロスリンクをすること(米国特許第4,676,980号とBrennan et al., Science, 229: 81 (1985))や、ロイシンジッパーを用いて二重特異性抗体を作製すること(Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992))や、「ダイアボディ」技術を用いて二重特異性抗体断片を作製すること(Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993))や、単鎖Fv(scFv)ダイマーを用いること(Gruber et al., J. Immunol. 152:5368 (1994))により、又は他の方法により作製できる。三重特異性抗体の調製は、例えばTutt et al., J. Immunol. 147: 60 (1991)に記載されている。
「オクトパス抗体」を含む、三つ以上の機能的抗原結合部位を有するように操作された抗体も、当明細書に含まれる(例えば、US 2006/0025576を参照のこと)。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において、抗体または抗体断片は、IL-8および他の異なる抗原とも結合する一つの抗原結合部位を含む「デュアルアクティングFab」または「DAF」も含む(例えば、US 2008/0069820を参照のこと)。
6.抗体改変体
抗体のアミノ酸配列改変体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な改変を導入することや、ペプチドを合成することで調製し得る。このような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列における残基の欠失及び/または挿入及び/または置換を含む。欠失、挿入、および置換のいかなる組合せも、最終構成物(final constract)が、開示Cの文脈に記載された望ましい特徴を有した抗体である限り、当該最終構成物に到達するために用いることができる。
一実施態様では、開示Cは、一つ以上のアミノ酸置換を有する抗体改変体を提供する。そのような置換部位は抗体のいずれの位置であってもよい。保存的置換のために用いられるアミノ酸は、表10の「保存的置換」の見出しの下に示される。より実質的な変化をもたらす典型的な置換のために用いられるアミノ酸は、表10の「典型的な置換」の見出しの下に示され、アミノ酸側鎖分類に関してさらに述べられている。
アミノ酸は共通の側鎖特性に基づいて群に分けることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;及び
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
非保存的置換は、これらの分類の中の一つにおけるあるメンバーを他の分類に交換することを意味している。
アミノ酸の挿入とは、配列中への一つ又は複数のアミノ酸残基の挿入、ならびに、N末端及び/またはC末端に、一つ、二つ、または三つから百またはそれ以上の残基を含むポリペプチドを融合させることを含む。そのような末端挿入の例としては、N末端のメチオニル化残基を有する抗体を含む。抗体分子のその他の挿入改変体は、酵素(例えばADEPT)や抗体の血漿中半減期を延長させるポリペプチドへの、抗体のN末端もしくはC末端での融合に起因するものを含む。
7.グリコシル化された改変体
一実施態様では、開示Cで提供される抗体は、グリコシル化されていてもよい。グリコシル化部位の抗体への追加或は抗体からの削除は、グリコシル化の部位を作製するか取り除くかするようにアミノ酸配列を変更することで達成可能である。
抗体がFc領域を含むとき、そこに付加されている糖鎖は変更され得る。動物細胞によって産生されるナイーブな抗体は、典型的には枝分かれした、二分枝のオリゴ糖を含み、当該オリゴ糖はFc領域のCH2ドメインのAsn297にN連結によって付加されている(Wright et al. TIBTECH 15:26-32 (1997)を参照のこと)。オリゴ糖は、二分枝のオリゴ糖構造の「幹」にあるGlcNAcに付加しているフコース、ならびに、例えばマンノース、Nアセチルグルコサミン(GlcNAc) 、ガラクトース、およびシアル酸を含む。一実施態様では、開示Cの抗体のオリゴ糖の改変は、ある改良された特性を有する抗体改変体を作製するためになされる。
8.Fc領域改変体
一実施態様では、一つ以上のアミノ酸改変が開示Cで提供される抗体のFc領域に導入され、その結果Fc領域改変体が生じる。Fc領域改変体は、一つ、二つ、または三つ以上のアミノ酸の改変(例えば置換)を含む天然型ヒトFc領域配列(例えばヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域)を有するものを含む。
開示Cの抗IL-8抗体は、これらに限定されるものではないが、以下の5つの性質のうち少なくとも一つを有するFc領域を含んでいてもよい:
(a)酸性pHでの、天然型Fc領域のFcRnに対する結合親和性よりも増大した、当該Fc領域のFcRnに対する結合親和性;
(b)天然型Fc領域の既存のADAに対する結合親和性よりも低下した、既存のADAに対する当該Fc領域の結合親和性;
(c)天然型Fc領域の血漿中半減期よりも延長された、当該Fc領域の血漿中半減期;
(d)天然型Fc領域の血漿中クリアランスよりも減少した、当該Fc領域の血漿中クリアランス;および
(e)天然型Fc領域のエフェクター受容体に対する結合親和性よりも低下した、エフェクター受容体に対する当該Fc領域の結合親和性。いくつかの実施態様では、Fc領域は上述の性質のうち2つ、3つまたは4つを有する。一実施態様では、Fc領域改変体は、酸性pHにおいて、FcRnに対する結合親和性が増大しているFc領域改変体を含む。FcRnに対する結合親和性が増大しているFc領域改変体とは、天然型IgGのFc領域を含む抗体と比較して、FcRnに対する結合親和性が最大で2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、50倍、または100倍に増大しているFc領域改変体を含むが、これらに限定されない。
一実施態様では、Fc領域改変体は、既存のADAへの結合を示さず、同時に血漿中滞留性が向上している、安全で有利なFc領域改変体を含む。開示Cの文脈における「ADA」という用語は、治療用抗体上に位置するエピトープに対する結合親和性を有する内因性抗体を意味する。開示Cの文脈における「既存のADA」という用語は、治療用抗体を患者に投与する以前から患者の血中に存在し、検出され得る抗医薬品抗体を意味する。既存のADAは、リウマトイド因子を含む。既存のADAに対する結合親和性が低いFc領域改変体とは、天然型IgGのFc領域を含む抗体と比較して、ADAに対する結合親和性が10分の1以下、50分の1以下、または100分の1以下に低下しているFc領域改変体を含むがこれに限定されない。
一実施態様では、Fc領域改変体は、補体タンパク質に対して結合親和性が低いかまたは補体タンパク質に結合しない、Fc領域改変体を含む。補体タンパク質はC1qを含む。補体タンパク質に対する結合親和性が低いFc領域改変体とは、天然型IgGのFc領域を含む抗体と比較して、補体タンパク質に対する結合親和性が10分の1以下、50分の1以下、または100分の1以下に低下しているFc領域改変体を含むがこれに限定されない。
一実施態様では、Fc領域改変体は、エフェクター受容体に対する結合親和性が低いかまたはエフェクター受容体に対する結合親和性をもたない、Fc領域改変体を含む。エフェクター受容体は、限定されないが、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを含む。FcγRIは、限定されないが、FcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIc、ならびにこれらのサブタイプを含む。FcγRIIは、限定されないが、FcγRIIa(2つのアロタイプR131およびH131を有する)およびFcγRIIbを含む。FcγRIIIは、限定されないが、FcγRIIIa(2つのアロタイプV158およびF158を有する)およびFcγRIIIb(2つのアロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を有する)を含む。エフェクター受容体に対する結合親和性が低いFc領域改変体とは、天然型IgGのFc領域を含む抗体の結合親和性と比較して、エフェクター受容体に対する結合親和性が少なくとも10分の1以下、50分の1以下、または100分に1以下に低下しているFc領域改変体を含むがこれらに限定されない。
一実施態様では、Fc領域改変体は、天然型Fc領域と比較してEUナンバリングで表される235位、236位、239位、327位、330位、331位、428位、434位、436位、438位、および440位からなる群の位置のいずれかに一つ以上のアミノ酸の置換を含む、Fc領域を含む。
一実施態様では、Fc領域改変体は、天然型Fc領域と比較してEUナンバリングで表される235位、236位、239位、428位、434位、436位、438位、および440位にアミノ酸の置換を含む、Fc領域を含む。
一実施態様では、Fc領域改変体は、天然型Fc領域と比較してEUナンバリングで表される235位、236位、327位、330位、331位、428位、434位、436位、438位、および440位にアミノ酸の置換を含む、Fc領域を含む。
一実施態様では、Fc領域改変体は、L235R、G236R、S239K、A327G、A330S、P331S、M428L、N434A、Y436T、Q438R、およびS440Eからなる群から選ばれるアミノ酸置換を一つ以上含むFc領域を含む。
一実施態様では、Fc領域改変体は、M428L、N434A、Y436T、Q438R、及びS440Eのアミノ酸置換を含むFc領域を含む。
一実施態様では、Fc領域改変体は、L235R、G236R、S239K、M428L、N434A、Y436T、Q438R、及びS440Eのアミノ酸置換を含むFc領域を含む。
一実施態様では、Fc領域改変体は、L235R、G236R、A327G、A330S、P331S、M428L、N434A、Y436T、Q438R、及びS440Eのアミノ酸置換を含むFc領域を含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:80のアミノ酸配列及び/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む。前記配列番号:80のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、pH依存的にIL-8に結合する抗IL-8抗体であってもよい。前記配列番号:80のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、インビボ(例えば血漿中)でIL-8中和活性が安定に保たれ得る。前記配列番号:80のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、免疫原性が低い抗体であってもよい。前記配列番号:80のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、酸性pH(例えばpH5.8)におけるFcRnに対する結合親和性が、酸性pHにおける天然型Fc領域のFcRnに対する結合親和性よりも増大しているFc領域を含み得る。前記配列番号:80のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、既存のADAに対する結合親和性が、天然型Fc領域の既存のADAに対する結合親和性よりも低下しているFc領域を含み得る。前記配列番号:80のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、血漿中半減期が天然型Fc領域の血漿中半減期よりも延長されているFc領域を含み得る。前記配列番号:80のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、エフェクター受容体に対する結合親和性が、天然型Fc領域のエフェクター受容体に対する結合親和性よりも低下しているFc領域を含み得る。さらなる実施態様において、抗IL-8抗体は、上述の特徴のうち、任意の2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または7つすべての組み合わせを含む。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体は、配列番号:81のアミノ酸配列及び/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む。前記配列番号:81のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、pH依存的にIL-8に結合する抗IL-8抗体であってもよい。前記配列番号:81のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、インビボ(例えば血漿中)でIL-8中和活性が安定に保たれ得る。前記配列番号:81のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、免疫原性が低い抗体であってもよい。前記配列番号:81のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、酸性pHにおけるFcRnに対する結合親和性が、天然型Fc領域のFcRnに対する結合親和性よりも増大しているFc領域を含み得る。前記配列番号:81のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、既存のADAに対する結合親和性が、天然型Fc領域の既存のADAに対する結合親和性よりも低下しているFc領域を含み得る。前記配列番号:81のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、血漿中半減期が天然型Fc領域の血漿中半減期よりも延長されているFc領域を含み得る。前記配列番号:81のアミノ酸配列および/又は配列番号:82のアミノ酸配列を含む抗IL-8抗体は、エフェクター受容体に対する結合親和性が、天然型Fc領域のエフェクター受容体に対する結合親和性よりも低下しているFc領域を含み得る。さらなる実施態様において、抗IL-8抗体は、上述の特徴のうち、任意の2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または7つすべての組み合わせを含む。
ある実施態様では、開示Cは、全てではないがいくつかのエフェクター機能を有する抗体改変体を包含する。当該抗体改変体は、(補体やADCCのような)あるエフェクター機能が必要ないかあるいは有害であるような場合に望ましい候補でありうる。当技術分野で既知のインビトロ及び/またはインビボでの細胞毒性アッセイは、CDC及び/またはADCC活性の減少/完全な欠損を確実にするために慣用的に行われる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイは、抗体がFcγR結合に欠ける(すなわちADCC活性に欠ける)ものの一方でFcRn結合能力は維持していることを確認するために行われ得る。
ADCCを仲介する初代培養細胞やNK細胞はFcγRIIIのみを発現しているが、一方で単核球はFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現している。造血細胞におけるFcRの発現は、Ravetch et al., Annu. Rev. Immunol. 9:457-492 (1991)の中の464ページの表3にまとめられている。興味のある分子のADCC活性の評価のためのインビトロアッセイの例は、限定するものではないが、米国特許第5,500,362号、Hellstrom, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986)、Hellstrom et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985)、米国特許第5,821,337号、およびBruggemann et al., J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987)に記載してある。あるいは、非放射性同位体アッセイが、エフェクター細胞機能の評価のために使用可能である(例えば、フローサイトメトリーについてはACTI(商標)非放射性細胞毒性アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA; およびCytoTox 96(商標)非放射性細胞毒性アッセイ(Promega, Madison, WI)を参照)。このようなアッセイに有益なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)やナチュラルキラー(NK)細胞を含む。
別法として、あるいは追加的に、目的となる抗体改変体のADCC活性はインビボで、例えばClynes et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:652-656 (1998)に記載されているように、動物モデルで、測定することができる。C1q結合アッセイは、抗体がC1qに結合できないこと、そしてCDC活性を欠くことを確認するためにも行われ得る。例えば、WO 2006/029879 と WO 2005/100402の中のC1q and C3c binding ELISA を参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行ってもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Meth. 202:163 (1996); Cragg et al., Blood 101:1045-1052 (2003); およびCragg et al., Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。FcRn結合とインビボでのクリアランス/半減期の決定は当技術分野で既知の方法で行われ得る。(例えばPetkova et al., Intl. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006)参照)。
減少したエフェクター機能を有する抗体は、Fc領域の238、265、269、270、297、327、または329位の残基のうち一つ以上での置換を有するものを含む(米国特許第6,737,056号)。このようなFc領域改変体は、265位と297位をアラニンに置換したいわゆる「DANA」Fc領域改変体(米国特許第7,332,581号)を含み、265、269、270、297、または327位の残基のうち二つ以上での置換を有するFc領域改変体を含む。
FcR群への結合が向上したあるいは減少した抗体改変体は以下に述べられている(例えば米国特許第6,737,056号; WO 2004/056312、Shields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001)を参照のこと)。
血中半減期が延長され、酸性pHでのFcRnへの結合が向上した抗体は、US2005/0014934に記載されている。これら記載の抗体は、Fc領域のFcRnへの結合を上昇させる一つ以上の置換を有するFc領域を含む。このようなFc領域改変体は、Fc領域の238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、または434位の中から選択される一つ以上での置換、例えばFc領域の434位での置換(米国特許第7,371,826号)を有するものを含む。
Fc領域改変体の他の例については、Duncan et al., Nature 322:738-40 (1988);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;およびWO 94/29351を参照のこと。
9.抗体派生物
ある実施態様では、開示Cにおいて提供される抗体は、先行技術として知られていて容易に利用可能な非タンパク質性部分を追加的に含めるために更に改変されていてもよい。抗体派生物を作製するのに適切な当該部分は、これに限らないが、水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーの例としては、これに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコールやプロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーおよびランダムコポリマー)、ポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモポリマー、プロリルプロピレンオキサイド/エチレンオキサイドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物がある。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドはその水中安定性のために工業化に有利である。
ポリマーは、いかなる分子量でもよく、枝分かれしていてもしていなくてもよい。抗体に付加されるポリマーの数は変化してもよく、もし2つ以上のポリマーが付加されている場合それらは同じであってもよいし、異なっていてもよい。一般的に、派生物作製に使用されるポリマーの、数及び/またはタイプは、これに限らないが、抗体の派生物が定義された治療で使用される場合に、向上されるべき抗体の特定の特性または機能を含んだ検討に基づいて決定することができる。
別の実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体と、放射線への暴露で選択的に熱せられ得る非タンパク質性部分とのコンジュゲートが提供されうる。一実施態様では、非タンパク質性部分は例えばカーボンナノチューブである(例えば、Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線はいかなる波長でもよく、またこれに限らないが、ヒトには通常無害であるが、抗体‐非タンパク質性部分の近くの細胞が死滅するような温度まで非タンパク質性部分を加熱できる波長を含む。
B.組換え方法と組成物
開示Cにおける抗IL-8抗体は、例えば米国特許第4,816,567号に記載された、組換え法や組成物を用いて作製することができる。一実施態様では、開示Cとして提示された抗IL-8抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/または抗体のVHを含むアミノ酸配列(例えば抗体の軽鎖及び/または重鎖)をコードしていてもよい。さらなる実施態様では、このような核酸を含む一つ以上のベクター(例えば発現ベクター)が提供される。一実施態様では、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。このような一実施態様では、宿主細胞は、(1)抗体のVL及び/またはVHをコードする核酸を含むベクター、あるいは(2)抗体のVLをコードする核酸を含む第一のベクターと抗体のVHをコードする核酸を含む第二のベクターを含む(例えば、これらベクターで形質転換されている)。
一実施態様では、宿主は真核生物(例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞やリンパ球細胞(例えばY0、NS0、SP20細胞))である。
一実施態様では、開示Cの抗IL-8抗体の製造方法が提供され、その製造方法は、上記で提示されたような抗IL-8抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体発現に適した条件で培養する工程、および、任意で(例えば、宿主細胞、或は宿主細胞培養培地から)当該抗体を回収する工程を含む。
抗IL-8抗体の組換え産生のために、例えば上記で記載されたような抗体をコードする核酸は単離され、宿主細胞内での更なるクローニング及び/または発現のために一つ以上のベクターに挿入される。このような核酸は、従来の手法を用いて(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする核酸に特異的に結合するオリゴ核酸プローブを用いることにより)容易に単離および配列決定され得る。
抗体をコードしているベクターの発現やクローニングに適切な宿主細胞は、当明細書中の開示Cを記載している範囲で述べられている原核細胞または真核細胞を含む。例えば、抗体は、特にグリコシル化とFcエフェクター機能を必要としないときには、細菌中で産生させてもよい。細菌における抗体フラグメントとポリペプチドの発現については、米国特許第5,648,237号、同第5,789,199号、及び同第5,840,523号を参照のこと(大腸菌での抗体フラグメントの発現については、Charlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 245-254 もまた参照のこと)。発現後、抗体は可溶性画分の細菌細胞ペーストから単離され、更に精製され得る。
原核生物に加えて、糸状菌や酵母などの真核生物の微生物は、抗体をコードしているベクターの発現またはクローニングのための宿主として適切であって、それらには、グリコシル化経路が「ヒト化」されている糸状菌や酵母の株が含まれており、部分的または完全なヒトのグリコシル化パターンを有する抗体の産生が可能である。Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)と Li et al., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006)を参照のこと。
グリコシル化した抗体の発現のために適切な宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物や脊椎動物)にも由来する。無脊椎動物細胞の例は、植物や昆虫の細胞である。特に限定されるものではないが、バキュロウィルスはヨトウガ(spodoptera frugiperda)の細胞の形質転換のために昆虫細胞と共に使われ、多くのバキュロウィルス株が同定されている。
植物細胞培養物も宿主として使用しうる。米国特許第5,959,177号、同第6,040,498号、同第6,420,548号、同第7,125,978号、および同第6,417,429号を参照のこと(トランスジェニック植物内で抗体を産生させるPLANTIBODIES(商標)技術について述べている)。
脊椎動物細胞も、宿主として使用できる。例えば、懸濁状態での生育に適合させた哺乳動物細胞株は有用である。有用な哺乳動物宿主細胞のその他の例は、SV40で形質転換されたサル腎CV1株(COS-7)、ヒト胎児性腎株(293細胞、Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977)に記載されている)、ベビーハムスター腎細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(TM4細胞、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980)に記載)、サル腎細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸部癌(HELA)、イヌ腎細胞(MDCK)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝細胞(Hep G2)、マウス乳房腫瘍(MMT060562)、TRI細胞(Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)に記載されている)、MRC5細胞、およびFS4細胞である。
他の有用な哺乳動物の宿主細胞株には、DHFR-CHO細胞(Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980))を含んだチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞や、Y0、NS0およびSp20などのミエローマ細胞株があるがこれらに限定されない。抗体産生に適したその他の哺乳動物の宿主細胞株のレビューについては、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003)を参照のこと。
上記で提示されたような抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体発現に適した条件で培養することで産生された開示Cの抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地、乳汁など)から単離され、実質的に純粋で均一な抗体として精製され得る。抗体の単離および精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている単離/精製方法が好適に使用され得るが、これらに限定されるものではない。例えば、カラムクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、および再結晶等が適宜選択、組み合わされて抗体が好適に分離、および精製され得るがこれらに限定されない。クロマトグラフィーとしては、親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、および吸着クロマトグラフィー等が挙げられるがこれらに限定されない。これらのクロマトグラフィーは、液体クロマトグラフィー、例えばHPLCおよびFPLCを用いて行われることが可能である。親和性クロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラムおよびプロテインGカラムが挙げられるがこれらに限定されない。プロテインAカラムとして、Hyper D、POROS、Sepharose F. F.(Pharmacia製)等が挙げられるがこれに限定されない。
細胞外マトリックスへの結合活性の増大や、前記複合体の細胞内への取り込みの増加といった抗IL-8抗体の性質に着目し、開示Cは、細胞外マトリックスへの結合が増大した抗体や細胞内取り込みが増加した抗体を選択する方法を提供する。一実施態様において、開示Cは、以下の工程を含む、IL-8への結合活性がpH依存的である可変領域を含む抗IL-8抗体の製造方法を提供する:(a)抗IL-8抗体と細胞外マトリックスとの結合を評価する工程、(b)細胞外マトリックスとの結合が強い抗IL-8抗体を選択する工程、(c)当該抗体をコードする核酸を含むベクターを含む宿主を培養する工程、および(d)培養培地から当該抗体を単離する工程。
細胞外マトリックスとの結合の評価は、当業者に公知の方法であれば特に限定はされずに任意の方法で行うことができる。例えば、抗体と細胞外マトリックスの結合を検出するELISA系を用いてアッセイを行うことができ、ここで、細胞外マトリックスが固相化されたプレートに抗体を添加し、その抗体に対する標識抗体を添加する。あるいは、例えば、細胞外マトリックスを固相化したプレートに、抗体とルテニウム抗体の混合物を添加し、抗体と細胞外マトリックスとの結合を、ルテニウムの電気化学発光に基づいて測定する電気化学発光法(ECL(Electrochemiluminescence)法)を用いてそのようなアッセイを行うことができる。
工程(a)において細胞外マトリックスとの結合が評価される抗IL-8抗体は、抗体単独であってもよいし、IL-8と接触させた状態であってもよい。工程(b)において「細胞外マトリックスとの結合が強い抗IL-8抗体を選択する」とは、細胞外マトリックスとの結合を評価する際に、抗IL-8抗体と細胞外マトリックスとの結合を表す数値が、対照として用いる抗体と細胞外マトリックスとの結合を表す数値よりも高く、例えば、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、50倍、100倍、或はそれ以上であってもよいという基準に基づいて抗IL-8抗体を選択することを指すが、当該比はこの例に特に限定されるものではない。抗IL-8抗体と細胞外マトリックスとの結合を評価する工程では、IL-8の有無以外の条件は同一であることが好ましい。改変を加えた複数の抗IL-8抗体に対する比較に用いる対照抗IL-8抗体は、改変前の抗IL-8抗体であってもよく、その場合はIL-8の有無以外の条件は同一であることが好ましい。具体的には、開示Cの一実施態様では、IL-8と接触していない複数の抗IL-8抗体のうち、細胞外マトリックスとの結合を表す数値が高い抗体を選択する工程が含まれる。また別の実施態様では、開示Cには、IL-8と接触させた複数の抗IL-8抗体のうち、細胞外マトリックスとの結合を表す数値が高い抗体を選択することが含まれる。また代替的な実施態様では、工程(b)において「細胞外マトリックスとの結合が強い抗IL-8抗体を選択する」とは、細胞外マトリックスとの結合を評価する際にIL-8の有無に応じて抗体と細胞外マトリックスへの結合が変化するという基準に基づいて抗体を選択することが可能であることを指す。例えば、IL-8と接触させた抗IL-8抗体の細胞外マトリックスへの結合を表す数値の、IL-8と接触させなかった抗IL-8抗体の細胞外マトリックスへの結合を表す数値に対する比が、2〜1000であってもよい。また、当該数値の比が、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、または1000であってもよい。
C.アッセイ
当明細書中の開示Cを記載している範囲で提供される抗IL-8抗体は、当技術分野で既知のいろいろな方法によって、物理的/化学的特性及び/または生物学的活性に関して同定され、スクリーニングされ、または特徴付けられる。
1.結合アッセイとそのほかのアッセイ
一態様では、開示Cの抗体は、例えば、ELISAやウェスタンブロット、結合平衡除外法(Kinetic Exclusion Assay;KinExA(商標))、およびBIACORE(GE Healthcare)などの装置を用いた表面プラズモン共鳴法のような既知の方法で、抗原に対する結合活性を調べることができる。
一実施態様では、結合親和性は、BIACORE T200(GE Healthcare)を用いて以下のように測定可能である。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法で捕捉用タンパク質(例えば、プロテインA/G(PIERCE))を適当量固定し、そこへ目的とする抗体を捕捉させる。次に、希釈された抗原液とランニングバッファー(参照溶液として:例えば0.05% tween20、20 mM ACES、150 mM NaCl、pH 7.4)とを注入し、センサーチップ上に捕捉された抗体と抗原分子とを相互作用させる。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl溶液(pH 1.5)が用いられ、測定は指定の温度(例えば37℃、25℃、または20℃)で実施される。どちらも測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 kon (1/Ms)、および解離速度定数 koff (1/s)に基づいて、各抗体の抗原に対する KD (M) が算出される。各パラメーターの算出にはBIACORE T200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられる。
一実施態様では、IL-8の定量は以下のように実施可能である。マウスIgG定常領域を含む抗ヒトIL-8抗体を固定したプレートを作製する。前記抗ヒトIL-8抗体とは競合しないヒト化IL-8抗体と結合しているIL-8を含む溶液を、前記固定化プレートへ分注し、撹拌する。その後、ビオチン化した抗ヒトIgκ軽鎖抗体を添加して一定時間反応させ、更にSULFO-Tagラベルされたストレプトアビジンを添加して一定時間反応させる。アッセイ用緩衝液を添加後、直ちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で計測する。
2.活性アッセイ
一態様では、アッセイは、生物学的活性を有する抗IL-8抗体を同定するために提供される。前記生物学的活性には、例えば、IL-8を中和する活性、およびIL-8のシグナルを遮断する活性が含まれる。開示Cにはまた、インビボ及び/またはエキソビボでそのような生物学的活性を有する抗体も提供される。
一実施態様では、IL-8の中和の程度を決定する方法は、特に限定されないが、以下の方法でも測定することが可能である。PathHunter(商標)CHO-K1 CXCR2 β-Arrestin Cell Line (DiscoveRx社、カタログ番号93-0202C2)は、ヒトIL-8受容体の一つとして知られているヒトCXCR2を発現し、ヒトIL-8によるシグナルを受け取ると化学発光を呈するように人工的に作製された細胞株である。当該細胞の培養培地にヒトIL-8を添加すると、添加したヒトIL-8の濃度に依存して、当該細胞は化学発光を呈する。ヒトIL-8と抗ヒトIL-8抗体を併せて培養培地中に添加した場合、抗ヒトIL-8抗体はIL-8によるシグナル伝達を遮断し得るため、当該細胞の化学発光は、抗体を添加していない場合に比べると弱いか、あるいは全く検出されない。即ち、抗体が有するヒトIL-8中和活性が強いほど化学発光の程度は弱まり、抗体が有するヒトIL-8中和活性が弱いほど化学発光の程度は強まる。したがって、この差を確認することにより、抗ヒトIL-8抗体が有するヒトIL-8に対する中和活性を評価することが可能である。
D.薬学的製剤
当明細書中の開示Cを記載している範囲において記載されている抗IL-8抗体を含む薬学的製剤は、望ましい程度の純度を有する抗IL-8抗体と、一つ以上の任意の薬学的に許容される担体(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)を参照)とを混合することにより、凍結乾燥製剤または水溶液製剤の形態で調製され得る。
薬学的に許容される担体は、一般的に、用いられる用量と濃度でレシピエントに非毒性であって、以下に限らないが、リン酸、クエン酸、ヒスチジン及び他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;保存料(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド;ベンズエトニウムクロリド;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の糖質;EDTA等のキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);ならびに/あるいはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
当明細書の薬学的に許容される担体の例は、さらに、可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)などの間質性薬物分散剤、例えばヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rHuPH20(HYLENEX(商標)、Baxter International, Inc.)を含む。rHuPH20を含んだsHASEGPとその使用方法の例は、米国特許出願公開2005/0260186 と 2006/0104968に記載されている。一態様において、sHASEGPはコンドロイチナーゼのような一つ以上のグリコサミノグリカナーゼと組み合わされる。
抗体の凍結乾燥製剤の例は、米国特許第6,267,958号に記載されている。抗体水溶液製剤は、米国特許第6,171,586号とWO2006/044908に記載されており、WO2006/044908の製剤にはヒスチジン‐酢酸緩衝液が含まれている。
当明細書中の開示Cを記載している範囲において、製剤は、治療される特定の適応症のために必要な程度の一つ以上の活性成分を含み得て、好ましくは、それらは相互に相補的に活性を持ち、副作用を及ぼさない。このような活性成分は意図する目的のために有効な量に組み合わせて好適に存在する。
活性成分は、例えばコアセルベーション技術あるいは界面重合により調製されたマイクロカプセルに、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メタクリル酸メチル)マイクロカプセルに、コロイド状ドラッグデリバリー系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ-粒子及びナノカプセル)に、あるいはマクロエマルションに捕捉されてもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に開示されている。
徐放性調製物も利用可能である。徐放性調製物の好適な例は、開示Cの抗IL-8抗体を含む疎水性固体ポリマーの半透性マトリックスを含み、該マトリックスは成形物、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。
インビボ投与に使用される製剤は一般的に無菌である。無菌性は、例えば滅菌濾過膜を通して濾過することにより、容易に達成される。
E.治療方法と治療用組成物
いくつかの実施態様において、開示Cで提供される抗IL-8抗体は治療方法に用いられる。
一態様において、医薬組成物としての使用のための抗IL-8抗体が提供される。代替的な態様において、IL-8が過剰に存在する疾患の治療に使用するための抗IL-8抗体が提供される。一実施態様において、IL-8が過剰に存在する疾患の治療方法における使用のための抗IL-8抗体が提供される。一実施態様において、開示Cは、有効量の抗IL-8抗体を個体に投与する工程を含む、IL-8が過剰に存在する疾患(例えばIL-8の過剰な存在に起因する疾患)を有する個体を治療する方法を提供する。別の実施態様において、開示Cは、そのような方法における使用のための抗IL-8抗体を提供する。一実施態様では、開示Cは、有効量の抗IL-8抗体を含む、IL-8が過剰に存在する疾患の治療用医薬組成物に関する。一実施態様において、開示Cは、IL-8が過剰に存在する疾患のための医薬組成物の製造における、抗IL-8抗体の使用に関する。一実施態様では、開示Cは、IL-8が過剰に存在する疾患の治療における有効量のIL-8抗体の使用に関する。IL-8が過剰に存在する疾患として、炎症性角化症(乾癬など)、アトピー性皮膚炎、および接触性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患;慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、およびベーチェット病を含む慢性炎症性疾患などの自己免疫疾患;クローン病、および潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患;B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝炎、および薬物によって誘導されるアレルギー性肝炎などの炎症性肝疾患;糸球体腎炎などの炎症性腎疾患;気管支炎、および喘息などの炎症性呼吸器疾患;アテローム性動脈硬化などの慢性炎症性血管疾患;多発性硬化症;口内炎;声帯炎;人工臓器/人工血管使用時に起こる炎症;卵巣がん、肺がん、前立腺がん、胃がん、乳がん、黒色腫、頭頚部癌、および腎臓がんなどの悪性腫瘍;感染による敗血症;嚢胞性線維症;肺線維症;ならびに急性肺損傷などが挙げられるが、これらに限定されない。
代替的な実施態様では、開示Cは、生物学的活性を有するIL-8の蓄積を抑制するのに使用するための抗IL-8抗体を提供する。「IL-8の蓄積を抑制する」とは、インビボの既存のIL-8の量を増加させないことによって、またはインビボの既存のIL-8の量を減少させることによって達成されてもよい。一実施態様では、開示Cは、生物学的活性を有するIL-8の蓄積を抑制するために個体においてIL-8の蓄積を抑制するための抗IL-8抗体を提供する。ここで、「インビボに存在するIL-8」とは、抗IL-8抗体との複合体を形成しているIL-8であってもよいし、複合体を形成していないIL-8であってもよい。または、それらの合計としての全てのIL-8のことであってもよい。ここでの「インビボに存在する」とは、「インビボで細胞外に分泌されている」という意味であってもよい。一実施態様では、開示Cは、有効量の抗IL-8抗体を個体に投与する工程を含む、生物学的活性を有するIL-8の蓄積を抑制する方法を提供する。一実施態様では、開示Cは、有効量の抗IL-8抗体を含む、生物学的活性を有するIL-8の蓄積を抑制するための医薬組成物に関する。一実施態様では、開示Cは、生物学的活性を有するIL-8の蓄積を抑制するための医薬組成物の製造における、抗IL-8抗体の使用に関する。一実施態様では、開示Cは、生物学的活性を有するIL-8の蓄積の抑制における、有効量のIL-8抗体の使用に関する。一実施態様において、開示Cの抗IL-8抗体は、pH依存的な結合活性を有さない抗IL-8 抗体に比べて、IL-8の蓄積を抑制する。上記実施態様において「個体」とは好適にはヒトである。
代替的な実施態様では、開示Cは、血管形成(例えば、血管新生)阻害における使用のための抗IL-8抗体を提供する。一実施態様では、開示Cは、有効量の抗IL-8抗体を個体に投与する工程を含む、個体における血管新生阻害方法、および当該方法における使用のための抗IL-8抗体を提供する。一実施態様では、開示Cは、有効量の抗IL-8抗体を含む、血管新生阻害のための医薬組成物に関する。一実施態様では、開示Cは、血管新生阻害のための医薬組成物の製造における、抗IL-8抗体の使用に関する。一実施態様では、開示Cは、血管新生阻害における有効量のIL-8抗体の使用に関する。上記実施態様においての「個体」は好適にはヒトである。
代替的な態様では、開示Cは、好中球遊走促進の阻害における使用のための抗IL-8抗体を提供する。一実施態様では、開示Cは、有効量の抗IL-8抗体を個体に投与する工程を含む個体における好中球遊走促進を阻害する方法、および当該方法における使用のための抗IL-8抗体を提供する。一実施態様では、開示Cは、有効量の抗IL-8抗体を含む、個体における好中球遊走促進を阻害するための医薬組成物に関する。一実施態様では、開示Cは、個体における好中球遊走促進を阻害するための医薬組成物の製造における、抗IL-8抗体の使用に関する。一実施態様では、開示Cは、個体における好中球遊走促進の阻害における有効量のIL-8抗体の使用に関する。上記実施態様においての「個体」は好適にはヒトである。
代替的な実施態様において、開示Cは、例えば上記に記載の治療方法のいずれかにおける使用のための、本明細書で提供される抗IL-8抗体を含む医薬組成物を提供する。一実施態様において、医薬組成物は、開示Cで提供された抗IL-8抗体と薬学的に許容される担体とを含む。
開示Cにおける抗体は、治療において、単独でも他の薬剤との組み合わせでも使用され得る。例えば、開示Cの抗体は、少なくとも一つの追加の治療剤と同時に投与されてもよい。
開示Cの抗体(及び任意の付加的な治療剤)は、非経口投与、肺内投与、および鼻腔内投与、ならびに局所処置が望ましい場合には病巣内投与など、任意の好適な手段で投与され得る。非経口注入として、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与または皮下投与が挙げられる。投与が短期かそれとも長期かなどにもよるが、例えば、静脈内注射または皮下注射のような注射など、任意の適切な経路によって投薬を行うことができる。これに限らないが、様々な時点にわたる単回または複数回投与、ボーラス投与、およびパルス注入などの様々な投薬スケジュールが行われ得る。
好ましくは、開示Cの抗体は、良好な医療行為に合わせた様式で、製剤化され、用量設定され、投与され得る。この文脈で考慮すべき因子は、治療される特定の疾患、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床上の状態、疾患の原因、医薬組成物の送達部位、投与方法、投与スケジュール、および医師に知られているその他因子である。必ずしも必要ではないが、場合によっては、抗体は、問題の疾患を予防又は治療するために現在使われている一つ以上の薬剤と製剤化され得る。
そのような他の薬剤の有効量は、製剤中の抗体の量、疾患や治療のタイプ、およびそのほか上記に記載の他の因子に依存する。これらは一般的に、当明細書中の開示Cを記載している範囲で述べられた同じ用量及び同じ投与経路で、又は当明細書中の開示Cを記載している範囲で述べられた用量の1〜99%で、または、経験的/臨床的に適切と決定された任意の経路と任意の用量で使用され得る。
疾患の予防または治療における、開示Cの抗体の適切な投与量は(単独で使用されるときも、一つ以上の追加の治療剤と組み合わせて使用されるときも)、治療対象の疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重症度および経過、抗体改変体の投与が予防目的かそれとも治療目的か、これまでの治療、患者の臨床歴および抗体に対する反応、ならびに担当医の裁量に依存する。抗体は、1回または複数回の処置で、患者に適切に投与される。疾患のタイプ及び重症度に応じて、抗体約1 μg/kgから15 mg/kg(例えば、0.1 mg/kg〜10 mg/kg)が、例えば、単回投与または複数回の別々の投与や、或は連続注入などにより、患者に対する初回候補投与量となり得る。典型的な1日の投与量は、上記の因子に応じて、約1 mg/kg〜100 mg/kgまたはそれ以上までの幅があってもよい。数日間またはそれ以上にわたる反復投与の場合、状況に応じて、疾患症状に所望の抑制効果が見られるまで処置を維持してもよい。抗体のある典型的な投与量は、例えば約0.05 mg/kgから約10 mg/kgの範囲に入るであろう。従って、1回以上の、例えば約 0.5 mg/kg、例えば2.0 mg/kg、例えば4.0 mg/kg 或は例えば 10 mg/kg(或はこれらのいかなる組合せ)の投与量が患者に投与されてもよい。このような投与は、間欠的に、例えば毎週や3週間ごとで、例えば、患者が約2用量から約20用量まで、或は約6用量の抗体を受けるように、行われてもよい。最初に単回の高い用量の投与が行われ、続いて1回以上の低い用量の投与が行われてもよい。しかし、他の投与レジメンも有用である。この治療の進行は通常の技術とアッセイで容易に追跡可能である。
F.製品
開示Cのもう一つの態様として、本開示では、上記に記載の疾患の治療、予防、及び/または診断に有用な物質を含む製品が提供される。そのような製品は、容器と、当該容器に付随するラベルまたは添付文書とを含む。適切な容器には、例えば、ビン、バイアル、および静脈注射用溶液バッグなどが含まれる。容器はガラスやプラスチックなど、種々の物質から形成されていてもよい。そのような容器は、状態を診断、予防、および治療するためにそれ自体が有効である組成物、或は状態を診断、予防、および治療するために有効な他の組成物と組み合わされた組成物を収容し、無菌のアクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は静脈注射用溶液バッグでもよいし、皮下注射針で突き刺せるストッパーを有するバイアルであってもよい)。組成物の中で、少なくとも一つの活性成分は、開示Cの抗体である。ラベルまたは添付文書は、組成物が、選択された状態を治療するのに使用されることを示している。
更に、製品は、(a)開示Cの抗体を含む組成物を含む第一の容器と、(b)別の細胞毒性剤または他の治療剤を含む組成物を含む第二の容器とを含んでいてもよい。開示Cの実施態様における製品は、組成物が特定の状態を治療するために使用され得ることを示している添付文書をさらに含んでいてもよい。代わりに、或は追加的に、製品は、例えば、注射用滅菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、およびデキストロース溶液などの薬学的に許容される緩衝液を含む第二の(又は第三の)容器をさらに含んでいてもよい。製品は、商業的観点または使用者の立場から所望される、他の緩衝液、希釈液、フィルター、針、およびシリンジなどの、他の物品をさらに含んでいてもよい。
本明細書に記載の1又は複数の実施態様全体の一部又は全部を任意に組み合わせたものも、技術的に矛盾しない限り開示Cに含まれることが、当業者の技術常識に基づいて当業者には理解される。
開示A、B、またはC
本明細書において引用された全ての技術背景文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
本明細書において、成句「及び/又は」は、成句「及び/又は」の前後の用語の組合せの意味を含み、これはこの成句に適宜連結される用語のあらゆる組合せを含むと理解される。
当明細書において、第1の、第2の、第3の、第4の、・・・などの用語と共に用いられる場合、これらの要素はそれらの用語によって限定されるべきではないことが理解される。これらの用語は1つの要素を他の要素と区別するためのみに用いられているのであり、例えば、第一の要素を第二の要素と記し、同様に、第二の要素を第一の要素と記すことは、開示A、B、及びCの範囲を逸脱することなく可能であると理解される。
別途明確に記載しない限り、或いは文脈に矛盾しない限り、本明細書に記載の単数形で表現される任意の用語は、複数形もまた含み、本明細書に記載の複数形で表現される任意の用語は、単数形もまた含む。
本明細書で用いられる用語は、特定の実施態様を説明するためだけに用いられ、本開示を限定することを意図するものではない。異なる定義が明示されていない限り、本明細書で用いられる用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、開示A、B、及びCが属する技術分野における当業者によって広く理解されるものと同じ意味を有するものとして解釈され、かつ、理想化された、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
本明細書で用いられる用語「含む」は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、工程、要素、数字等)の存在を規定することを意図するものであり、この用語はそれ以外の事項(部材、工程、要素、数字等)が存在することを排除しない。
開示A、B、及びCの実施態様は模式図を参照しつつ説明され、該図は説明のために誇張される場合がある。
本明細書に記載の数値は、文脈に反しない限り、当業者の技術常識に基づいて、一定の幅を有する値であると理解されてよい。例えば「1mg」という表現は、一定の変動量を伴う「約1mg」と記載されているものと理解される。例えば、「1〜5個」という表現は、文脈に反しない限り、「1個、2個、3個、4個、5個」と、それぞれの値が個別具体的に記載されているものと理解される。
以下、開示Aを実施例1〜4及び21〜23により、開示Bを実施例5〜7、19および20により、開示Cを実施例8〜19によりそれぞれ具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。上述の一般記載を考慮すれば諸々の他の実施態様が予想され得ることを理解されたい。
〔実施例1〕 pIを上昇させたpH依存的ヒトIL-6受容体結合ヒト抗体の作製
WO2009/125825に開示されているFv4-IgG1は、pH依存的にヒトIL-6受容体に結合する抗体であり、重鎖としてVH3-IgG1(配列番号:24)および軽鎖としてVL3-CK(配列番号:32)を含む。Fv4-IgG1のpIを上昇させるために、Fv4-IgG1の可変領域に対して、負電荷を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)の数を減らす一方で、正電荷を有するアミノ酸(例えば、アルギニン、リジン)を増やすためのアミノ酸置換の導入を行った。具体的には、重鎖であるVH3-IgG1のうち、Kabatナンバリングで表される、16位のグルタミン酸をグルタミンに、43位のグルタミン酸をアルギニンに、64位のグルタミンをリジンに、及び105位のグルタミン酸をグルタミンに置換することにより、pIを上昇させた重鎖としてVH3(High_pI)-IgG1(配列番号:25)を作製した。同様に、軽鎖であるVL3-CKのうち、Kabatナンバリングで表される、18位のセリンをアルギニンに、24位のグルタミンをアルギニンに、45位のグルタミン酸をリジンに、79位のグルタミン酸をグルタミンに、及び107位のグルタミン酸をリジンに置換することにより、pIを上昇させた軽鎖としてVL3(High_pI)-CK(配列番号:33)を作製した。なお、VL3-CKの79位の置換を導入する際に、pIを上昇する目的ではないが、80位のアラニンをプロリンに、83位のアラニンをイソロイシンに置換する改変が同時に導入された。
参考実施例2の方法により、以下に示す抗体を作製した:
(a)重鎖としてVH3-IgG1および軽鎖としてVL3-CKを含む、Low_pI-IgG1;
(b)重鎖としてVH3-IgG1および軽鎖としてVL3(High_pI)-CKを含む、Middle_pI-IgG1;及び
(c)重鎖としてVH3(High_pI)-IgG1および軽鎖としてVL3(High_pI)-CKを含む、High_pI-IgG1。
次に、作製した各抗体の理論pIの算出を、GENETYX-SV/RC Ver9.1.0 (GENETYX CORPORATION)を用い、当技術分野で公知の方法を用いて行った(例えば、Skoog et al., Trends Analyt. Chem. 5(4): 82-83 (1986)を参照されたい)。なお、抗体分子内において、全てのシステインの側鎖はジスルフィド結合を形成しているものとし、システイン側鎖のpKaへの寄与は除外して計算を実施した。
算出した理論pI値を表3に示す。Low_pI-IgG1の理論pIが6.39だったのに対し、Middle_pI-IgG1は8.70、High_pI-IgG1は9.30であり、理論pI値が段階的に上昇したことが示された。
Fv4-IgG1のFc領域にアミノ酸置換を導入することで、中性pH条件下におけるFcRnへの結合性を付与し、FcRnを介した細胞内への取り込みを促進させたFv4-IgG1-F11(以下、Low_pI-F11という)およびFv4-IgG1-F939(以下、Low_pI-F939という)がWO2011/122011に開示されている。さらに、Fv4-IgG1のFc領域にアミノ酸置換を導入することで、中性pH条件下におけるFcγRへの結合性を増大し、FcγRを介した細胞内への取り込みを促進させたFv4-IgG1-F1180(以下、Low_pI- F1180という)がWO2013/125667に開示されている。Fv4-IgG1-F1180には、同時に、エンドソーム内の酸性pH条件下におけるFcRn結合を増大することで、抗体の血漿中滞留性を増大させるためのアミノ酸改変が導入された。これらの新規Fc領域改変体を含む抗体のpIを上昇させ、以下に示す抗体を作製した。
具体的には、WO2011/122011に記載のVH3-IgG1-F11(配列番号:30)およびVH3-IgG1-F939(配列番号:26)、ならびにWO2013/125667に記載のVH3-IgG1-F1180(配列番号:28)それぞれに対して、Kabatナンバリングで表される、16位のグルタミン酸をグルタミンに、43位のグルタミン酸をアルギニンに、64位のグルタミンをリジンに、及び105位のグルタミン酸をグルタミンにそれぞれ置換することにより、pIを上昇させた重鎖としてVH3(High_pI)-F11(配列番号:31)、VH3(High_pI)-F939(配列番号:27)、およびVH3(High_pI)-F1180(配列番号:29)を作製した。
これらの重鎖を用いて、参考実施例2の方法により、以下の抗体を作製した。
(1)重鎖としてVH3-IgG1-F939および軽鎖としてVL3-CKを含むLow_pI-F939、
(2)重鎖としてVH3(High_pI)-F939および軽鎖としてVL3-CKを含むMiddle_pI-F939、
(3)重鎖としてVH3(High_pI)-F939および軽鎖としてVL3(High_pI)-CKを含むHigh_pI-F939、
(4)重鎖としてVH3-IgG1-F1180および軽鎖としてVL3-CKを含むLow_pI-F1180、
(5)重鎖としてVH3-IgG1-F1180および軽鎖としてVL3(High_pI)-CKを含むMiddle_pI-F1180、
(6)重鎖としてVH3(High_pI)-F1180および軽鎖としてVL3(High_pI)-CKを含むHigh_pI-F1180、
(7)重鎖としてVH3-IgG1-F11および軽鎖としてVL3-CKを含むLow_pI-F11、および
(8)重鎖としてVH3(High_pI)-F11および軽鎖としてVL3(High_pI)-CKを含むHigh_pI-F11。
次に、作製した各抗体の理論pIの算出を、GENETYX-SV/RC Ver9.1.0 (GENETYX CORPORATION)を用いて、先述の方法と同様に実施した。算出した理論pI値を表3に示す。全ての新規Fc領域改変体を含む抗体の場合において、Low_pI、Middle_pI、High_pIの順に、理論pI値が段階的に上昇した。
〔実施例2〕 pIを上昇させたpH依存的結合抗体の抗原消失効果
(2−1)pIを調節したpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体のインビボアッセイ
実施例1で作製された、各種のpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体であるLow_pI-IgG1、High_pI-IgG1、Low_pI-F939、Middle_pI-F939、High_pI-F939、Low_pI-F1180、Middle_pI-F1180およびHigh_pI-F1180を用いたインビボアッセイが、以下のように実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. 602:93-104 (2010))に、参考実施例3の方法で調製される可溶型ヒトIL-6受容体(「hsIL-6R」ともいう)と、抗ヒトIL-6受容体抗体と、ヒト免疫グロブリン製剤サングロポールとを同時に投与した後の可溶型ヒトIL-6受容体のインビボ動態を評価した。可溶型ヒトIL-6受容体、抗ヒトIL-6受容体抗体及びサングロポールの混合溶液を(それぞれ5μg/mL、0.1 mg/mL、100 mg/mLの濃度で)尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。可溶型ヒトIL-6受容体に対して抗ヒトIL-6受容体抗体は十分量過剰に存在することから、可溶型ヒトIL-6受容体はほぼ全て抗体に結合していると考えられた。投与15分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、及び7日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで、-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
(2−2)電気化学発光法による血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度測定
マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度は電気化学発光法にて測定された。250、125、62.5、31.25、15.61、7.81、または3.90 pg/mLの濃度に調製された可溶型ヒトIL-6受容体検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿アッセイ試料をそれぞれ、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)、Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)、およびヒトIL-6受容体結合抗体であるTocilizumab(CAS number:375823-41-9)と混合した後、37℃で1晩反応させた。Tocilizumabの終濃度は333μg/mLとなるように調製された。その後、反応液がStreptavidin Gold Multi-ARRAY Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに室温で1時間反応させた反応液を洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。その後ただちにSECTOR Imager 2400 (Meso Scale Discovery)で測定が行われた。可溶型ヒトIL-6受容体濃度は検量線のレスポンスに基づいて解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおいて認められた血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度推移を図1、図2、及び図3に示す。図1は、定常領域が天然型IgG1である場合において、可変領域のpIを上昇させた時の抗原消失の増大効果を示している。図2は、中性pH条件下におけるFcRnへの結合性を付与した抗体(F939)において、可変領域のpIを上昇させた時の抗原消失の増大効果を示している。図3は、中性pH条件下におけるFcγRへの結合性を増大した抗体(F1180)において、可変領域のpIを上昇させた時の抗原消失の増大効果を示している。
いずれの場合においても、抗体のpIを上昇させることにより、pH依存的結合抗体による抗原の消失速度を速めることが可能であることが示された。また、中性pH条件下におけるFcRnまたはFcγRへの結合性の増大をさらに付与することで、pH依存的結合抗体のpIのみを上昇させた場合と比較して、抗原の消失速度をいっそう速めることが可能であることが示された(図1と、図2及び3との比較)。
(2−3)pIを調節したpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体のインビボ infusionアッセイ
実施例1で作製された、各種のpH依存的ヒトIL-6受容体結合抗体であるLow_pI-IgG1、High_pI-IgG1、Low_pI-F11、およびHigh_pI-F11を用いたインビボアッセイが、以下のように実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. 602: 93-104 (2010))の背部皮下に可溶型ヒトIL-6受容体が充填されたinfusion pump(MINI-OSMOTIC PUMP MODEL2004、alzet)を埋め込むことで、血漿中可溶型ヒトIL-6受容体濃度が定常状態に維持されるモデル動物が作製された。そのモデル動物に対して投与された抗ヒトIL-6受容体抗体の投与後のインビボ動態が評価された。
具体的には、可溶型ヒトIL-6受容体に対して、マウス自身が産生できる可能性のある中和抗体の産生を抑制するため、当技術分野で公知の方法で取得されたmonoclonal anti-mouse CD4 antibodyが尾静脈に20mg/kgで単回投与された。その後、92.8μg/mLの可溶型ヒトIL-6受容体が充填されたinfusion pumpがマウス背部皮下へ埋め込まれた。Infusion pumpが埋め込まれた3日後に、抗ヒトIL-6受容体抗体が1 mg/kgで尾静脈に単回投与された。抗ヒトIL-6受容体抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日あるいは4日、6日あるいは7日、13日あるいは14日、20日あるいは21日、及び27日あるいは28日が経過した後に当該マウスから採血された。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離した血漿は、測定を実施するまで、-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
(2−4)電気化学発光法による血漿中hsIL-6R濃度の測定
マウスの血漿中hsIL-6R濃度は電気化学発光法にて測定された。250、125、62.5、31.25、15.61、7.81、または3.90 pg/mLに調製されたhsIL-6R検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿アッセイ試料を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)、Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびTocilizumabと混合した後、37℃で1晩反応させた。Tocilizumabの終濃度は333μg/mLとなるように調製された。その後、反応液がStreptavidin Gold Multi-ARRAY Plate (Meso Scale Discovery)に分注された。さらに室温で1時間反応させた反応液を洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)がプレートに分注された。その後ただちにSECTOR Imager 2400 (Meso Scale Discovery)で測定が行われた。hsIL-6R濃度は検量線のレスポンスに基づいて解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
測定されたヒトIL-6受容体濃度推移を図4に示す。天然型IgG1のFc領域であるFc領域を有する抗体(High_pI-IgG1)と、中性pH条件下におけるFcRnに対する結合が増大した新規Fc領域改変体を含む抗体(High_pI-F11)の両方に関して、低pI抗体(「Low_pI」ともいう)を投与した場合に比べ、高pI抗体(「High_pI」ともいう)を投与した場合に、血漿中の可溶型ヒトIL-6受容体濃度が低下した。
特定の理論に拘束されるわけではないが、これらの実験により得られた結果は、以下のように説明することも可能である。投与された抗体のFc領域が天然型IgG抗体のものである場合、細胞内への取り込みは主に非特異的な取り込み(ピノサイトーシス)によって起こるものと考えられる。ここで、細胞膜は負電荷を有することから、投与された抗体−抗原の複合体は、pIが高い(すなわち分子全体としての電荷が正電荷側に偏っている)方が、より細胞膜に近接しやすく、非特異的な取り込みが起こりやすいと考えられる。pIを上昇させた抗体は、抗原との複合体を形成した場合においても、元の抗体と抗原の複合体に比べて複合体全体としてのpIが上昇しており、それにより細胞内への取り込みが増加すると考えられる。そのため、pH依存的に抗原に結合する抗体に対して、そのpIを上昇させることによって、血漿中からの抗原の消失速度をより一層速めることが可能であり、血漿中の抗原濃度をより低く維持することが可能である。
なお、これらの実施例では、抗体の可変領域において、抗体分子表面に露出し得る、負電荷を有するアミノ酸の数を減らし、及び/または、正電荷を有するアミノ酸の数を増やすアミノ酸置換の導入を行うことで、抗体のpIの上昇を実現した。かかるpIの上昇により得られる効果は、抗体を構成するアミノ酸配列や標的抗原の種類に一義的に(または実質的に)依存せず、むしろ、これらのpIに依存することが期待できることが当業者には理解できるであろう。例えば、WO2007/114319やWO2009/041643には、概して、以下のことが記載されている。
IgG抗体は分子量が十分大きいため主代謝経路が腎排泄ではない。Fcを有するIgG抗体は血管の内皮細胞を含む細胞で発現しているFcRnのサルベージ経路によりリサイクルされることによって長い半減期を有することが知られており、IgGは主に内皮細胞において代謝されていると考えられている。すなわち、内皮細胞に非特異的に取り込まれたIgGがFcRnに結合することによってIgGはリサイクルされ、FcRnに結合できなかった分子は代謝されると考えられている。FcRnへの結合性を低下させたIgGは血中半減期が短くなり、逆にFcRnへの結合性を高めることで血中半減期を長くすることができる。このように、以前のIgGの血中動態の制御方法はFcを改変することでFcRnへの結合性を変化させることで行われてきたが、WO2007/114319(主としてFR領域におけるアミノ酸置換技術)やWO2009/041643(主としてCDR領域におけるアミノ酸置換技術)の実施例では、標的抗原の種類に関わらず、抗体の可変領域のpIを改変することで、Fcを改変することなく血中半減期を制御可能であることが示された。内皮細胞への非特異的なIgG抗体の取り込みの速度は、負電荷を有する細胞表面とIgG抗体の物理化学的なクーロン相互作用に依存すると考えられる。そのため、IgG抗体のpIを低下(上昇)させることでクーロン相互作用が低減(増大)することによって内皮細胞への非特異的な取り込みが減少(増大)する結果、内皮細胞における代謝を減少(増大)させることで血漿中薬物動態を制御することができたと考えられる。内皮細胞と細胞表面負電荷とのクーロン相互作用は物理化学的な相互作用であることから、この相互作用は抗体を構成するアミノ酸配列自体に一義的に依存しないと考えられる。そのため、当明細書に提供される血漿中薬物動態の制御方法は、特定の抗体にのみ適用されるものではなく、抗体の可変領域を含む任意のポリペプチドに広く適用可能である。なお、クーロン相互作用の低減(増大)とは、引力で表されるクーロン力の減少(増大)及び/または斥力で表されるクーロン力の増大(減少)を意味する。
これを実現するアミノ酸置換としては、単独のアミノ酸置換、あるいは複数のアミノ酸置換の組み合わせのいずれであってもよい。いくつかの実施態様において、抗体分子の表面に露出した位置に、単一アミノ酸置換または複数のアミノ酸置換の組み合わせを導入する方法が提供される。あるいは、導入される複数のアミノ酸置換は、互いに立体構造的に近接して配置されうる。例えば、抗体分子の表面に露出し得るアミノ酸を、正電荷を有するアミノ酸(好ましくはアルギニン、またはリジン)へ置換した場合や既存の正電荷を有するアミノ酸(好ましくはアルギニン、またはリジン)を利用した場合に、これらのアミノ酸に立体構造的に近接した1又は複数のアミノ酸(場合により、抗体分子内に埋もれている1又は複数のアミノ酸でさえも)を正電荷を有するアミノ酸へさらに置換することで、結果的に、立体構造的に近接した位置に局所的な正電荷の密集状態を作製することが好ましい可能性があることに本発明者は想到した。ここで、「立体構造的に近接した位置」の定義としては、特に限定はされないが、互いから例えば20Å以内、好ましくは15Å以内、またはより好ましくは10Å以内に、単一アミノ酸置換または複数のアミノ酸置換が導入されている状態が意味され得る。目的のアミノ酸置換が抗体分子表面に露出したある位置にあるかどうか、あるいはアミノ酸置換が近接した位置であるかどうかは、X線結晶構造解析など、公知の方法により決定可能である。
このように、本発明者は、pIは分子全体の電荷状態を表す1つの指標であって、抗体分子内に埋もれている電荷も、抗体分子表面にある電荷も区別せずに扱われることに着目した上で、pIのみならず、抗体分子の表面電荷や局所的な電荷の密集などの、電荷的な影響を幅広く総合的に考慮して抗体分子を作製することで、血漿中からの抗原の消失速度をさらに一層速めることが可能であり、血漿中の抗原濃度をさらに低く維持することが可能であることにも想到した。
FcRnやFcγRといった受容体は、細胞膜上に発現しており、中性pH条件下におけるFcRnあるいはFcγRに対する親和性を増大した抗体は、主にこれらのFc受容体を介して細胞内に取り込まれると考えられる。細胞膜は負電荷を有することから、投与された抗体−抗原の複合体は、pIが高い(分子全体としての電荷が正電荷側に偏っている)方が、より細胞膜に近接しやすく、Fc受容体を介した取り込みがより起こりやすいと考えられる。そのため、中性pH条件下におけるFcRnあるいはFcγRに対する親和性を増大し、更にpIを上昇させた抗体は、抗原との複合体を形成した場合においても、Fc受容体を介した細胞内への取り込みが増加している。そのため、中性pH条件下におけるFcRnあるいはFcγRに対する親和性を増大した、pH依存的に抗原に結合する抗体に対しても、そのpIを上昇させることによって、血漿中からの抗原の消失速度をより一層速めることが可能であり、血漿中の抗原濃度をより低く維持することが可能である。
〔実施例3〕 pIを上昇させたpH依存的結合抗体の、細胞外マトリックスへの結合性の評価
(3−1)細胞外マトリックスへの結合能の評価
抗体に対して、pH依存的に抗原に結合する性質を付与し、更にpIを変化させることにより、細胞外マトリックスへの結合能にどのような影響を与えるかを評価するために、以下のような実験を行った。
実施例1の方法と同様に、IL-6受容体に対してpH依存的な結合を示す抗体として、pIが異なる3種の抗体Low_pI-IgG1、Middle_pI-IgG1、およびHigh_pI-IgG1を作製した。IL-6受容体に対してpH依存的な結合を示さない通常の抗体として、WO2009125825に記載されるH54(配列番号:34)およびL28(配列番号:35)を含むLow_pI(NPH)-IgG1と、H(WT) (配列番号:36)およびL(WT) (配列番号:37)を含むHigh_pI(NPH)-IgG1を、それぞれ参考実施例2の方法により作製した。
これらの抗体について、実施例1の方法と同様に、理論pIを算出した。算出した理論pIを表4に示す。IL-6受容体に対してpH依存的な結合を示さない抗体についても、pH依存的な結合を示す抗体と同様に、上昇したpIを有することが示された。
(3−2)電気化学発光(ECL)法による細胞外マトリックスへの抗体結合の評価
TBS(Takara)を用いて、細胞外マトリックス(BDマトリゲル基底膜マトリックス/ BD社製)を2 mg/mLに希釈した。希釈した細胞外マトリックスをMULTI-ARRAY 96well Plate, High bind, Bare (Meso Scale Discovery: MSD社製) に1wellあたり5μL分注し、4℃で一晩固相化した。その後、150mM NaCl、0.05% Tween20、0.5% BSA、及び0.01% NaN3を含む20mM ACES buffer, pH7.4を分注し、ブロッキングした。評価に供する抗体は、150mM NaCl、0.05% Tween20、及び0.01% NaN3を含む20mM ACES buffer, pH7.4 (ACES-T buffer)を用いて30、10、3μg/mLに希釈した後、150mM NaCl、0.01% Tween20、0.1% BSA、0.01% NaN3を含む20mM ACES buffer, pH7.4(Dilution buffer)を用いてさらに希釈し、最終濃度をそれぞれ10、3.3、1μg/mLとした。ブロッキング溶液を除去したプレートに、希釈した抗体溶液を添加し、室温で1時間振盪した。抗体溶液を除去し、0.25% グルタルアルデヒドを含むACES-T bufferを添加して10分間静置した後、0.05% Tween20を含むDPBS (和光純薬工業社製) でプレートを洗浄した。ECL検出用の抗体は、Goat anti-human IgG (gamma) (Zymed Laboratories社製) をSulfo-Tag NHS Ester (MSD社製) を用いてSulfo-Tag化し調製した。検出用抗体を1μg/mLとなるようにDilution bufferで希釈してプレートに添加し、遮光下、室温で1時間振盪した。検出用抗体を除去し、MSD Read Buffer T(4x)(MSD社製)を超純水で2倍希釈した溶液を添加した後、SECTOR Imager 2400 (MSD社製)にて発光量を測定した。
結果を図5に示す。pH依存的な結合性を示す抗体、pH依存的な結合性を示さない抗体のいずれも、pIを上昇させることにより、細胞外マトリックスへの結合性が向上していることが示された。しかも、驚くべきことに、pIを上昇させることにより細胞外マトリックスへの結合性を向上させる効果は、pH依存的に抗原に結合する抗体において顕著であった。言いかえれば、pH依存的に抗原に結合し、なおかつ高いpIを有する抗体(High_pI-IgG1)は、細胞外マトリックスへの親和性が最も強く見られた。
特定の理論に拘束されるわけではないが、これらの実験により得られた結果は、以下のように説明することも可能である。pH依存的に抗原に結合する性質を抗体に付与するための一つの方法として、抗体の可変領域にヒスチジン改変を導入する方法が知られている(例えば、WO2009/125825を参照されたい)。ヒスチジンは側鎖にイミダゾイル基を有し、中性pHから塩基性pHの条件下においては電荷を持たないが、酸性pH条件下においては正電荷を有することが知られている。このヒスチジンの性質を利用して、抗体の可変領域、特に抗原との相互作用部位の近傍に位置するCDRにヒスチジンを導入することにより、中性pH条件と酸性pH条件との間で、抗原との相互作用部位における電荷的および立体構造的な環境を変化させることが可能である。このような抗体は、pH依存的に抗原への親和性が変化していることが期待できる。このようなヒスチジンの導入により得られる効果は、抗体を構成するアミノ酸配列や標的抗原の種類に一義的に(または実質的に)依存せず、ヒスチジンを導入する箇所または導入されたヒスチジン残基の数などに依存することが当業者には理解できるであろう。
WO2009/041643には、概して、以下が記載されている:タンパク質−タンパク質相互作用は疎水相互作用、静電相互作用、及び水素結合からなり、その結合の強さは一般的に結合定数(affinity)、あるいは見かけの結合定数(avidity)で表現され得る。中性pH条件下(例えば、pH7.4)と酸性pH条件下(例えば、pH5.5〜pH6.0)とで結合の強さが変化するpH依存的な結合は、天然に存在するタンパク質−タンパク質相互作用に依存する。例えば上述したIgG分子とIgG分子のサルベージ受容体として知られているFcRnの結合は、酸性pH条件下で強い結合を、中性pH条件下で極めて弱い結合を示す。これら多くのpH依存的に結合が変化するタンパク質−タンパク質相互作用においては、ヒスチジン残基が関与している。ヒスチジン残基のpKaは6.0〜6.5付近に存在するため、中性pH条件と酸性pH条件との間でヒスチジン残基のプロトンの解離状態が変化する。すなわち、ヒスチジン残基は中性pH条件下においては電荷を有さず中性で水素原子アクセプターとして機能し、酸性pH条件下においては正電荷を有し水素原子ドナーとして機能する。上述のIgG分子-FcRn相互作用においても、IgG分子に存在するヒスチジン残基がpH依存的結合に関与していることが報告されている(Martin et al., Mol. Cell. 7(4):867-877 (2001))。
そのためタンパク質−タンパク質相互作用に関与するアミノ酸残基をヒスチジン残基に置換する、あるいは、相互作用部位にヒスチジンを導入することによってタンパク質−タンパク質相互作用にpH依存性を付与することが可能となる。抗体−抗原間のタンパク質−タンパク質相互作用においてもそのような試みがされており、抗卵白リゾチウム抗体のCDR配列にヒスチジンを導入することによって、酸性pH条件下で抗原に対する親和性が低下した抗体変異体を取得することに成功している(Ito et al., FEBS Lett. 309(1): 85-88 (1992))。また、CDR配列にヒスチジンを導入することによって、対応する抗原に、ガン組織の低いpHでは特異的に抗原に結合し中性pH条件下では弱く結合する抗体が報告されている(WO2003/105757)。
一方、pIを上昇させるために導入されるアミノ酸残基は、好ましくは、正電荷を有する側鎖を有するリジン、アルギニン、またはヒスチジンである。これらのアミノ酸側鎖の標準的なpKaは、リジンが10.5、アルギニンが12.5、そしてヒスチジンが6.0である(Skoog et al., Trends Anal. Chem.5(4):82-83 (1986))。当技術分野において公知である酸塩基平衡に関する理論に基づくと、これらのpKa値が意味するところは、リジンの側鎖はpH 10.5の溶液中において50%が正電荷を有し、残りの50%は電荷を有さないということである。また、溶液のpHが上昇するにつれてリジンの側鎖が正電荷を有する割合は低下し、リジンのpKaよりもpHが1高いpH 11.5の溶液中においては正電荷を有する割合は約9%となる。逆に、溶液のpHが低下するにつれて正電荷を有する割合は増加し、リジンのpKaよりもpHが1低いpH 9.5の溶液中においては正電荷を有する割合は約91%となる。この理論は、アルギニンやヒスチジンにおいても同様に成立する。すなわち、リジンまたはアルギニンは、中性pH(例えばpH 7.0)の溶液中において、ほぼ100%が正電荷を有するが、ヒスチジンは約9%が正電荷を有する。そのため、ヒスチジンは、中性pH条件下において正電荷を有するものの、その程度はリジンまたはアルギニンに比べると少ないことから、pIを上昇させるために導入されるアミノ酸としては、リジンおよびアルギニンの方がより好ましいと考えられてきた。さらに、Holash et al. (Proc. Natl. Acad. Sci., 99(17): 11393-11398 (2002) によると、細胞外マトリックスへの結合を増大させるための改変としては、pIを上昇させる改変を導入することが効果的だと考えられたが、上記の理由によりヒスチジンを導入する置換よりもリジンまたはアルギニンを導入する置換がより好ましいアミノ酸改変であると考えられていた。
当明細書において初めて開示されるように、pIを上昇させる抗体改変と共にpH依存的抗原結合性を付与するためのヒスチジン導入を組み合わせることによって、細胞外マトリックスへの抗体の親和性を驚くほど相乗的に上昇させることが可能である。実際に、High_pI-IgG1のpIが9.30なのに対し、High_pI(NPH)-IgG1のpIは9.35と、High_pI-IgG1の値の方がやや低かった。それにも関わらず、実際の細胞外マトリックスへの親和性は、High_pI-IgG1の方が明らかに強くなっており、これは細胞外マトリックスへの親和性はpIの高低だけでは必ずしも説明できず、pIを上昇させる改変とヒスチジン改変を組み合わせて導入することの相乗効果を表していると言える。この結果は、驚くべき予想外の現象であった。
ただし、タンパク質中におけるアミノ酸側鎖のpKaは、周囲の環境による影響を大きく受けるため、必ずしも上記のpKa理論値とはなっていないことは注意が必要である。すなわち、上記の記述は一般的な科学的理論に基づいて当明細書において提示されているが、実際のタンパク質中においては多くの例外が存在しうることを容易に推測できるものである。例えば、Hayes et al., J. Biol. Chem. 250(18):7461-7472 (1975)においては、ミオグロビンに含まれるヒスチジンのpKaを実験的に決定したところ、その値は6.0付近を中心とはするものの、5.37から8.05までの変動があったことが報告された。当然、高いpKaを有するヒスチジンは、中性pH条件下において大部分が正電荷を有することになる。そのため、上記の理論は、ヒスチジン導入によるpI上昇の効果を否定するものではなく、実際のタンパク質の立体構造中においては、リジンまたはアルギニンの場合に見られるのと同様に、ヒスチジンを導入するアミノ酸改変によってもpI上昇の効果が発揮され得ることもまた、十分に起こり得ることである。
〔実施例4〕 定常領域における一アミノ酸置換によるpIの上昇
pH依存的に抗原に結合する抗体に対して、該抗体の可変領域にアミノ酸置換を導入することにより該抗体のpIを上昇させる方法について記載してきた。さらに、抗体のpIを上昇させる方法は、抗体定常領域において、一アミノ酸程度の少なさの置換を行うことによっても実施可能である。
抗体定常領域に一アミノ酸置換を加えてpIを上昇させる方法としては、特に限定されないが、例えばWO2014/145159に記載の方法により実施可能である。定常領域に導入するアミノ酸置換としては、可変領域の場合と同様に、負電荷を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸)の数を減らす一方で、正電荷を有するアミノ酸(例えば、アルギニンまたはリジン)を増やすためのアミノ酸置換を導入することが好ましい。
限定されないが、定常領域におけるアミノ酸置換の導入位置としては、抗体分子の表面にアミノ酸側鎖が露出し得る位置が好ましい。好ましい例には、このような抗体分子表面に露出し得る箇所に、複数のアミノ酸置換を組み合わせて導入する方法が挙げられる。あるいは、導入される複数のアミノ酸置換は、互いに立体構造的に近接した位置であることが好ましい。また、限定されないが、導入される複数のアミノ酸置換は、立体構造的に近接した位置に複数の正電荷を有する状態が場合によってはもたらされるような、正電荷を有するアミノ酸への置換であることが好ましい。「立体構造的に近接した位置」の定義としては、特に限定はされないが、互いから例えば20Å以内、好ましくは15Å以内、またはより好ましくは10Å以内に、単一アミノ酸置換または複数のアミノ酸置換が導入されている状態が意味され得る。目的のアミノ酸置換が抗体分子表面に露出したある位置にあるかどうか、あるいは複数位置のアミノ酸置換が近接した位置にあるかどうかは、X線結晶構造解析など、公知の方法により決定可能である。
また、立体構造的に近接した位置に複数の正電荷を持たせる方法としては、上記の方法に加えて、IgG定常領域において、元々正電荷を有しているアミノ酸を利用する方法もある。このような正電荷を有しているアミノ酸位置としては、例えば、
(a)EUナンバリングで表される、255位、292位、301位、344位、355位、または416位のアルギニン、および
(b)EUナンバリングで表される、121位、133位、147位、205位、210位、213位、214位、218位、222位、246位、248位、274位、288位、290位、317位、320位、322位、326位、334位、338位、340位、360位、370位、392位、409位、414位、または439位のリジン
が挙げられる。これらの正電荷を有するアミノ酸に立体構造的に近接した位置において、正電荷を有するアミノ酸への置換を行うことにより、立体構造的に近接した位置に複数の正電荷を付与することが可能である。
(4−1)pH依存的抗IgE結合抗体の作製
pH依存的抗ヒトIgE抗体として、以下の3種類の抗体を、参考実施例2の方法により作製した。
(1)重鎖としてAb1H(配列番号:38)および軽鎖としてAb1L(配列番号:39)を含む、通常型の抗体であるAb1、
(2)重鎖としてAb2H(配列番号:40)および軽鎖としてAb2L(配列番号:41)を含む、通常型の抗体であるAb2、ならびに
(3)重鎖としてAb3H(配列番号:42)および軽鎖としてAb3L(配列番号:43)を含む、通常型の抗体であるAb3。
(4−2)ヒトIgEへの結合性におけるpH依存性の評価
Ab1のpH7.4およびpH5.8におけるヒトIgEに対する親和性を、以下のように評価した。BIACORE T100(GE Healthcare)を用いて、ヒトIgEとAb1との速度論的解析を行った。ランニングバッファーとして以下の2種を用いて測定を行った。
(1)1.2 mM CaCl2 /0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl, pH7.4;および
(2)1.2 mM CaCl2 /0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl, pH5.8。
センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインA/G(ACTIGEN)を適当量固定し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、IgE希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトIgEを相互作用させた。なお、ランニングバッファーは上記(1)および(2)のいずれかが用いられ、ヒトIgEの希釈にもそれぞれの緩衝液が使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである、結合速度定数 ka (1/Ms)および解離速度定数 kd (1/s)に基づいて、各抗体のヒトIgEに対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出にはBIACORE T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
Ab2およびAb3のpH7.4およびpH5.8におけるヒトIgEに対する親和性を、以下のように評価した。BIACORE T200(GE Healthcare)を用いて、抗hIgE抗体のhIgEに対する結合活性(解離定数KD (M))を評価した。ランニングバッファーとして以下の2種を用いて測定を行った。
(1)1.2 mM CaCl2 /0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl, pH7.4;および
(2)1.2 mM CaCl2 /0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl, pH5.8。
化学合成されたヒトグリピカン3(別名GPC3)タンパク質由来ペプチド(アミノ酸配列VDDAPGNSQQATPKDNEISTFHNLGNVHSPLK(配列番号:44)を有する)のC末端に存在するLysにビオチンを付加することにより作製したペプチド(「ビオチン化GPC3ペプチド」)を、センサーチップSA(GE Healthcare)に適当量添加し、ストレプトアビジンとビオチンの親和性を利用してチップ上に固定した。適当な濃度のhIgEをインジェクトし、ビオチン化GPC3ペプチドに捕捉させることでチップ上に固定した。アナライトとして適切な濃度の抗hIgE抗体をインジェクトし、センサーチップ上のhIgEと相互作用させた。その後、10 mM Glycine-HCl, pH1.5をインジェクトし、センサーチップを再生した。測定は全て37℃で行った。測定結果をBIACORE T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用い、カーブフィッティングによる解析により、結合速度定数ka (1/Ms)及び解離速度定数kd (1/s)を算出し、その値に基づいて解離定数KD (M)を算出した。
結果を表5に示す。Ab1、Ab2、およびAb3のいずれの抗体も、ヒトIgEに対する結合にはpH依存性があり、中性pH条件(pH7.4)における親和性に比べ、酸性pH条件(pH5.8)における親和性が、劇的に弱まっていることが示された。このことから、これらの抗体を生きた動物に投与した場合には、抗原であるヒトIgEの消失を早める効果を示すことが期待される。
Ab1〜Ab3について実施例1の方法と同様に算出された理論pI値(pI)が、表6に示されている。
(4−3)定常領域における単一アミノ酸改変によりpIを上昇させた抗体の作製
実施例(4−1)において作製されたAb1は、定常領域としてヒト天然型IgG1を有する抗体である。ここで、Ab1の重鎖であるAb1HのFc領域において、EUナンバリングで表される238位のプロリンをアスパラギン酸に置換し、EUナンバリングで表される298位のセリンをアラニンに置換することで、Ab1H-P600を作製した。さらに、Ab1H-P600のFc領域に表7−1および表7−2に示す各種の単一アミノ酸置換を導入することで、各種Fc改変体を、参考実施例2の方法でそれぞれ作製した。なお、いずれのFc改変体も、軽鎖としてはAb1L(配列番号:39)を使用した。hFcγRII2bに対するこれらの抗体の親和性は、P600改変体と同等であった(データ示さず)。
(4−4)新規Fc領域改変体を含む抗体を用いた、BIACOREによるヒトFcγRIIb結合アッセイ
BIACORE(登録商標) T200(GE Healthcare)を用いて、可溶型ヒトFcγRIIb(別名「hFcγRIIb」)と抗原-抗体複合体との、Fc領域改変体を含む抗体の結合アッセイを行った。可溶型hFcγRIIbは、当業者に公知の方法を用いてHisタグを付与した分子形として作製した。センサーチップCM5(GE Healthcare)上にHis capture kit(GE Healthcare)を用いてアミンカップリング法で抗His抗体を適当量固定し、そこへhFcγRIIbを捕捉させた。次に、抗体-抗原複合体とランニングバッファー(参照溶液として)をインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させたhFcγRIIbと相互作用させた。ランニングバッファーには20 mM N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸、150 mM NaCl、1.2 mM CaCl2, 0.05% (w/v) Tween20、pH7.4を用い、可溶型hFcγRIIbの希釈にもそれぞれの緩衝液が使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたbinding(RU)に基づいて解析を行い、P600での結合量を1.00とした際の相対値で表す。パラメーターの算出にはBIACORE(登録商標)T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。結果を表7−1および表7−2(表中、「BIACORE」の列を参照)および図6に示す。いくつかのFc改変体において、BIACORE(登録商標)のセンサーチップ上に固定されたhFcγRIIbに対する親和性が増大していることが示された。
特定の理論に拘束されるわけではないが、この結果を以下のように説明することも可能である。BIACORE(登録商標)のセンサーチップは負電荷を有することが知られており、その電荷的な状態は細胞膜表面にも類似していると考えることができる。より具体的には、負電荷を有するBIACOREのセンサーチップ上に固定されたhFcγRIIbに対する、抗原-抗体複合体の結合性は、負電荷を有する細胞膜表面に存在するhFcγRIIbに対して、抗原-抗体複合体が結合する様式と類似していることが推察される。
Fc領域に対してpIを上昇させる改変を導入することにより作製した抗体とは、改変を導入する前と比較して、Fc領域(定常領域)がより多くの正電荷を有している抗体である。そのため、Fc領域(正電荷)とセンサーチップ上(負電荷)のクーロン相互作用が、pIを上昇させるアミノ酸改変によって強まったと考えることが可能である。さらに、その効果は、負電荷を有する細胞膜表面においても同様に起こることが期待されることから、インビボでも細胞内への取り込み速度を加速する効果を示すことが期待される。
上記の結果から、Ab1H-P600のhFcγRIIbへの結合と比較した改変体のhFcγRIIbへの結合の比率が約1.2倍以上であれば、センサーチップ上のhFcγRIIbへの抗体の結合に対して強い荷電効果を有するとみなされた。したがって、荷電効果をもたらすことが期待される改変としては、例えば、EUナンバリングで表される196位、282位、285位、309位、311位、315位、345位、356位、358位、359位、361位、362位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、399位、415位、418位、419位、421位、424位、または443位への改変が挙げられる。282位、309位、311位、315位、345位、356位、359位、361位、362位、385位、386位、387位、389位、399位、418位、419位、または443位への改変が好ましい。また、そのような位置に導入されるアミノ酸置換は、アルギニンまたはリジンであることが好ましい。そのような荷電効果が期待できるアミノ酸変異位置の別の例として、EUナンバリングで表される430位のグルタミン酸が挙げられる。430位に導入される好ましいアミノ酸置換としては、正電荷を有するアルギニンまたはリジン、あるいは電荷を持たない残基のうち、グリシンまたはスレオニンに置換することが好ましい。
(4−5)Fc領域改変体を含む抗体のhFcγRIIb発現細胞による取り込み
作製された新規Fc領域改変体を含む抗体を用いて、hFcγRIIb発現細胞株への細胞内取り込み速度を評価するために、以下のようなアッセイを実施した。
公知の方法を用いて、hFcγRIIbを定常的に発現するMDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞株が作製された。この細胞を用いて、抗原‐抗体複合体の細胞内取り込みの評価を行った。具体的には、ヒトIgE(抗原)に対して、pHrodoRed (Life Technologies) を用いて既定のプロトコールに従いラベル化し、培養液中で抗体濃度10.8mg/mL、抗原濃度12.5mg/mLで抗原-抗体複合体を形成させた。上記のhFcγRIIb定常発現MDCK細胞の培養プレートに対して、抗原-抗体複合体を含む培養液を添加して1時間インキュベートした後、細胞内に取り込まれた抗原の蛍光強度をInCell Analyzer6000(GE healthcare)を用いて定量した。取り込まれた抗原量はP600での値を1.00とした際の相対値で表した。
結果を表7−1および表7−2(表中、「Imaging」の列を参照)および図7に示す。いくつかのFc改変体において、細胞内における抗原由来の蛍光が強く観察された。
特定の理論に拘束されるわけではないが、この結果は以下のように説明することが可能である。細胞培養液中に添加した抗原と抗体は、培養液中において抗原-抗体複合体を形成する。抗原-抗体複合体は、抗体のFc領域を介して細胞膜上に発現したhFcγRIIbに結合し、受容体依存的に細胞へと取り込まれる。この実験に使用されたAb1はpH依存的に抗原に結合する抗体であるので、該抗体は該抗原から解離することが可能である。解離された抗原は、先述の通りpHrodoRedでラベルされており、エンドソーム内において蛍光を発する。つまり、対照と比較して細胞内における蛍光強度がより強いということは、抗原‐抗体複合体の細胞内取り込みが、より速くまたはより高頻度で起こっていることを示していると考えられる。
ここで、Ab1H-P600の蛍光強度と比較した改変体の細胞へ取り込まれた抗原の蛍光強度の比率が約1.05倍以上であれば、細胞に取り込まれた抗原に対して荷電効果を有するとみなされた。Ab1H-P600の蛍光強度と比較した改変体の細胞へ取り込まれた抗原の蛍光強度の比率が約1.5倍以上であれば、細胞に取り込まれた抗原に対して強い荷電効果を有するとみなされた。したがって、上記の結果から、Fc領域の適切な位置にpIを上昇させる改変を導入することにより、改変を導入する前に比べて細胞内取り込みを加速させることが可能であることが示された。このような作用を示すアミノ酸改変位置は、例えば、EUナンバリングで表される253位、254位、256位、258位、281位、282位、285位、286位、307位、309位、311位、315位、327位、330位、358位、384位、385位、387位、399位、400位、421位、433位、または434位である。好ましくは、EUナンバリングで表される254位、258位、281位、282位、285位、309位、311位、315位、327位、330位、358位、384位、399位、400位、421位、433位、または434位への改変である。そのような位置に導入されるアミノ酸置換は、アルギニンまたはリジンであることが好ましい。限定はされないが、抗体のpIを上昇させることを目的として定常領域に導入されるアミノ酸置換の位置は、例えば、EUナンバリングで表される285位のアミノ酸残基であり得る。あるいは、他の例としては、EUナンバリングで表される399位のアミノ酸残基のアミノ酸置換が挙げられ得る。
〔実施例5〕 血漿中滞留性改善のために酸性pH条件におけるFcRn結合を増大したFc改変体の作製
細胞内に取り込まれたIgG抗体は、エンドソーム内の酸性pHの条件下において、FcRnに結合することにより血漿中に戻されることが知られている。そのため、IgG抗体は一般的に、FcRnに結合しないタンパク質に比べて、長い血漿中半減期を有している。その性質を利用し、抗体のFc領域にアミノ酸改変を導入することで、酸性pH条件におけるFcRnへの親和性を増大し、抗体の血漿中滞留性を増大させる方法は知られている。具体的には、M252Y/S254T/T256E (YTE) 改変 (Dall'Acqua et al., J. Biol. Chem. 281:23514-23524 (2006))や、M428L/N434S (LS) 改変 (Zalevsky et al., Nat. Biotechnol. 28:157-159 (2010))、およびN434H改変(Zheng et al., Clinical Pharmacology & Therapeutics 89(2):283-290 (2011))などのアミノ酸改変により、酸性pH条件におけるFcRnへの親和性を増大し、抗体の血漿中滞留性を向上させる方法が知られている。
一方で、上記のように、酸性pH条件におけるFcRn親和性を増大させたFc改変体は、リウマトイド因子(RF)への望ましくない親和性を示すことも知られている(WO2013/046704)。そこで、リウマトイド因子への結合性を低下させたかまたは実質的に有さない、血漿中滞留性を改善することが可能なFc改変体を作製する目的で、以下の検討を実施した。
(5−1)新規Fc領域改変体を含む抗体の作製
公知の改変であるYTE、LS、またはN434Hを含むものなどの酸性pH条件におけるFcRnへの親和性を増大させたFc改変体と、いくつかの新規Fc改変体(F1847m、F1848m、F1886m、F1889m、F1927m、F1168m)とを、以下に示すように作製した。
抗ヒトIL-6受容体抗体であるFv4-IgG1の重鎖(VH3-IgG1m)のFc領域に、アミノ酸改変を導入した重鎖をコードする配列を、参考実施例1の方法で作製した。これらの重鎖を用いて、参考実施例2の方法により、以下の抗体を作製した。
(a)重鎖としてVH3-IgG1m(配列番号:46)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-IgG1、
(b)重鎖としてVH3-YTE(配列番号:47)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-YTE、
(c)重鎖としてVH3-LS(配列番号:48)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-LS、
(d)重鎖としてVH3-N434H(配列番号:49)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-N434H、
(e)重鎖としてVH3-F1847m(配列番号:50)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-F1847m、
(f)重鎖としてVH3-F1848m(配列番号:51)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-F1848m、
(g)重鎖としてVH3-F1886m(配列番号:52)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-F1886m、
(h)重鎖としてVH3-F1889m(配列番号:53)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-F1889m、
(i)重鎖としてVH3-F1927m(配列番号:54)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-F1927m、および
(j)重鎖としてVH3-F1168m(配列番号:55)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-F1168m。
(5−2)ヒトFcRnに対する結合の速度論的解析
重鎖としてVH3-IgG1mあるいは上記の改変体を含み、かつ軽鎖としてL(WT)(配列番号:37)を含む抗体が参考実施例2に示した方法で作製され、下記のようにヒトFcRnに対する結合活性が評価された。
BIACORE T100(GE Healthcare)を用いて、ヒトFcRnと各抗体との速度論的解析を行った。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインL(ACTIGEN)を適当量固定し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、FcRn希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーには50 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH6.0を用い、FcRnの希釈にもそれぞれの緩衝液が使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka (1/Ms)、および解離速度定数 kd (1/s)に基づいて、各抗体の、ヒトFcRnに対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には BIACORE T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
その結果を表8に示す。
〔実施例6〕 酸性pH条件におけるFcRn結合性を増大したFc領域改変体を含む抗体のリウマトイド因子に対する親和性の評価
抗医薬品抗体(ADA)は治療用抗体の効果および薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性と薬効はADAの産生によって制限され得る。治療用抗体の免疫原性には、多くの要因が影響を及ぼすが、エフェクターT細胞エピトープの存在がその要因の1つである。加えて、治療用抗体の投与前から患者が有しているADA(「既存のADA」ともいう)の存在も、同様に問題があると考えられる。特に、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患の患者に対する治療用抗体の場合、ヒトIgGに対する自己抗体であるリウマトイド因子(RF)が「既存のADA」の問題を引き起こし得る。最近、N434H(Asn434His)変異を有するヒト化抗CD4 IgG1抗体が顕著なリウマトイド因子結合を誘発することが報告された(Zheng et al., Clinical Pharmacology & Therapeutics 89(2):283-290 (2011))。詳細な研究により、ヒトIgG1におけるN434H変異が、親ヒトIgG1のものと比較して抗体のFc領域に対するリウマトイド因子の結合を増大することが確認された。
リウマトイド因子はヒトIgGに対するポリクローナル自己抗体であり、ヒトIgG中のそれらのエピトープはクローンにより異なるが、それらのエピトープは、CH2/CH3界面領域中、およびFcRn結合エピトープと重複し得るCH3ドメイン中に位置するようである。そのため、FcRnに対する結合活性(結合親和性)を増大する変異は、リウマトイド因子の特定クローンに対する結合活性(結合親和性)を増大する可能性がある。
実際に、酸性pHあるいは中性pHにおけるFcRnに対する親和性が増大したFcでは、N434H改変だけでなく、それ以外の多くのアミノ酸改変によってもリウマトイド因子へのFcの結合が同様に増大することが知られている(WO2013/046704)。
一方で、WO2013/046704の中で、FcRnに対する親和性には影響せずにリウマトイド因子への親和性を選択的に抑制するいくつかのアミノ酸改変が例示され、その中に2アミノ酸変異の組み合わせであるQ438R/S440E、Q438R/S440D、Q438K/S440EおよびQ438K/S440Dが示されている。そこで、当明細書において初めて開示された、酸性pH条件における親和性が新たに増大されたFcに対して、Q438R/S440Eを導入することでリウマトイド因子に対する結合性を低下することが可能かどうかを検証した。
(6−1)Fc領域改変体を含む抗体のリウマトイド因子への結合アッセイ
リウマトイド因子に対する結合アッセイは、30名のRA患者の個々の血清(Proteogenex)を用いて、pH 7.4における電気化学発光(ECL)により行った。50倍希釈した血清試料、ビオチン標識した試験抗体(1μg/mL)、およびSULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)標識した試験抗体(1μg/mL)をそれぞれ混合し、室温で3時間インキュベートした。その後、混合物をStreptavidinでコーティングされたMULTI-ARRAY 96ウェルプレート(Meso Scale Discovery)に加え、プレートを室温で2時間インキュベートし、その後洗浄した。Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を各ウェルに加えた後、直ちにプレートをSECTOR imager 2400 Reader(Meso Scale Discovery)にセットし、化学発光を測定した。
このアッセイの結果を図8から図17に示す。天然型ヒトIgG1を有するFv4-IgG1(図8)は、弱いリウマトイド因子結合しか示さなかったのに対して、FcRnへの結合が増大した既存のFc改変体であるFv4-YTE(図9)、Fv4-LS(図10)、およびFv4-N434H(図11)はいずれも、複数のドナーにおいてリウマトイド因子結合が有意に増大していた。一方で、FcRnへの結合が増大した新規のFc領域改変体であるFv4-F1847m (図12)、Fv4-F1848m (図13)、Fv4-F1886m (図14)、Fv4-F1889m (図15)、Fv4-F1927m (図16)、およびFv4-F1168m (図17)については、いずれも弱いリウマトイド因子結合しか示さず、FcRnへの結合が増大した改変によるリウマトイド因子結合を顕著に抑制できていることが示された。
図18は、それぞれの改変体について、30名のRA患者の血清におけるリウマトイド因子への結合親和性の平均値を示したものである。6種類の新規の改変体はいずれも、3種の既存の改変体(YTE、LS、N434H)よりも低い親和性を示し、さらには天然型ヒトIgG1と比較しても、より低いリウマトイド因子への親和性を示した。以上のことから、関節リウマチなどの自己免疫疾患について、FcRnに対する親和性が改善された治療用抗体の臨床開発を考慮する場合に、既存のFc改変体において懸念されるリウマトイド因子に関連するリスクは、当明細書において初めて開示されたFc改変体においては抑制されており、したがって、既存の公知のFc改変体よりも安全に使用可能であることが考えられる。
〔実施例7〕 酸性pH条件におけるFcRn結合を増大したFc改変体の、カニクイザルにおけるPK評価
実施例7において、リウマトイド因子への結合が抑制されていることが確認された、当明細書で提供される新規Fc領域改変体を含む抗体を用いて、カニクイザルにおける血漿中滞留性の改善効果を以下の方法で評価した。
(7−1)新規Fc領域改変体を含む抗体の作製
以下の抗ヒトIgE抗体を作製した。
(a)重鎖としてOHBH-IgG1(配列番号:56)および軽鎖としてOHBL-CK(配列番号:57)を含むOHB-IgG1、
(b)重鎖としてOHBH-LS(配列番号:58)および軽鎖としてOHBL-CKを含むOHB-LS、
(c)重鎖としてOHBH-N434A(配列番号:59)および軽鎖としてOHBL-CKを含むOHB-N434A
(d)重鎖としてOHBH-F1847m(配列番号:60)および軽鎖としてOHBL-CKを含むOHB-F1847m、
(e)重鎖としてOHBH-F1848m(配列番号:61)および軽鎖としてOHBL-CKを含むOHB-F1848m、
(f)重鎖としてOHBH-F1886m(配列番号:62)および軽鎖としてOHBL-CKを含むOHB-F1886m、
(g)重鎖としてOHBH-F1889m(配列番号:63)および軽鎖としてOHBL-CKを含むOHB-F1889m、および
(h)重鎖としてOHBH-F1927m(配列番号:64)および軽鎖としてOHBL-CKを含むOHB-F1927m。
(7−2)新規Fc領域改変体を含む抗体のサルPKアッセイ
カニクイザルに抗ヒトIgE抗体を投与した後の、血漿中抗ヒトIgE抗体のインビボ動態を評価した。抗ヒトIgE抗体の溶液を2mg/kgで単回静脈内投与した。投与後5分、(2時間)、7時間、1日、2日、3日、(4日)、7日、14日、21日、28日、35日、42日、49日、および56日で採血を行った。採取した血液はただちに4℃、15,000 rpmで5分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで、-80℃以下に設定された冷凍庫に保存した。抗ヒトIgE抗体としては、OHB-IgG1、OHB-LS、OHB-N434A、OHB-F1847m、OHB-F1848m、OHB-F1886m、OHB-F1889m、およびOHB-F1927mの8種類を使用した。
(7−3)ELISAによる血漿中抗ヒトIgE抗体の濃度測定
カニクイザル血漿中の抗ヒトIgE抗体濃度はELISA法にて測定した。まず抗ヒトIgG κ鎖抗体(Antibody Solution)をNunc-Immuno Plate, MaxiSorp (Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置し抗ヒトIgG κ鎖抗体固定化プレートを作製した。血漿中濃度として640、320、160、80、40、20、または10 ng/mLの検量線試料と100倍以上希釈したカニクイザル血漿測定試料を調製した。これら検量線試料および血漿測定試料にはカニクイザルIgE (社内調製品)が1 μg/mlの濃度で添加されるように作製された。その後、抗ヒトIgG κ鎖抗体固定化プレートに試料を分注し室温で2時間静置した。その後HRP-抗ヒトIgG γ鎖抗体(Southern Biotech)を分注し室温で1時間静置した。その後、TMB Chromogen Solution (Life Technologies)を基質として用いて発色反応を行い、1N-Sulfuric acid(Wako)で反応停止後、マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。サル血漿中抗ヒトIgE抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。測定したサル血漿中抗ヒトIgE抗体の濃度推移を図19に示す。測定したサル血漿中抗ヒトIgE抗体の濃度推移から、Phoenix WinNonlin Ver.6.2(Pharsight Corporation)を用いてモーメント解析により消失クリアランスを算出した。算出した薬物動態学的パラメーターを表9に示す。血漿中の投与試料に対する抗体が陽性であった個体からの試料はサル血漿中の抗ヒトIgE抗体の濃度推移及びクリアランスの算出から除外した。
(7−4)電気化学発光法による血漿中の投与試料に対する抗体の測定
投与試料に対するサル血漿中抗体は電気化学発光法にて測定した。SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム標識した投与試料、EZ-Link Micro Sulfo-NHS-Biotinylation Kit(Pierce)でビオチン化した投与試料、及びカニクイザル血漿測定試料を等量混合し、4℃で1晩静置した。MULTI-ARRAY 96-well Streptavidin Gold Plate (Meso Scale Discovery)に試料を添加後に室温で2時間反応させ、洗浄した。その後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で測定を行った。
結果、新規Fc改変体はいずれも、天然型IgG1のFc領域と比較して、大幅な血漿中滞留性の改善を示すことが確認された。
(7−5)Fc改変体に対するマウスPKアッセイ
酸性pHにおけるFcRn結合増大のためのFc改変体として、WO2013/046704に記載のFc改変体であるF1718と、今回新規に見出されたFc改変体であるF1848mを比較するために、以下のような実験を実施した。
Fv4-IgG1(抗ヒトIL-6受容体抗体)の重鎖(VH3-IgG1)のFc領域にアミノ酸改変を導入した重鎖をコードする遺伝子を、参考実施例1の方法で作製した。これらの重鎖を用いて、参考実施例2の方法により、以下の抗体を作製した。
(a)重鎖としてVH3-IgG1および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-IgG1、
(b)重鎖としてVH3-F1718(配列番号:65)および軽鎖としてVL3-CKを含むFv4-F1718。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. 602:93-104 (2010))の尾静脈に、上記抗ヒトIL-6受容体抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6受容体抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、7日、14日、21日、および28日で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下で冷凍庫に保存された。
(7−6)ELISAによる血漿中抗ヒトIL-6受容体抗体の濃度測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6受容体抗体の濃度はELISAにて測定された。まず、Anti-Human IgG(gamma-chain specific)F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSorp (Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固定化プレートが作製された。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、または0.0125μg/mLの抗ヒトIL-6受容体抗体を含む検量線試料と、100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料がそれぞれ調製された。これらの検量線試料または血漿測定試料100μLに20 ng/mLの可溶型ヒトIL-6受容体が200μL加えられた混合液を、室温で1時間静置させた。その後、当該混合液が各ウェルに分注されたAnti-Human IgG固定化プレートを室温で1時間静置させた。その後、Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)を加えて室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を加えて室温で1時間反応させた反応液の発色反応が、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中の抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
結果を図20に示す。WO2013/046704に記載のある、酸性pHにおけるFcRn結合増大のためのFc改変体であるF1718は、抗体PKの延長効果を示さず、天然型IgG1の場合と同等の血漿中滞留性を示した。
F1718には、Fc領域にN434Y/Y436V/Q438R/S440Eという4か所の変異が導入されている。一方で、当明細書において初めて開示されたF1848mには、N434A/Y436V/Q438R/S440Eという4か所の変異が導入されている。これら二種類のFcに導入されているアミノ酸変異の違いは、EUナンバリングで表される434位に導入されているアミノ酸変異が、F1718はY(チロシン)であり、F1848mはA(アラニン)であるという点のみである。実施例(7−2)において、F1848mは天然型IgG1と比べて血漿中滞留性の向上を示したが、F1718は血漿中滞留性の向上を示さなかった。このことから、限定されるわけではないが、血漿中滞留性の向上のために434位に導入されるアミノ酸変異としては、A(アラニン)が好ましいことが示唆される。
(7−7)Fv改変体の免疫原性予測スコア
抗医薬品抗体(ADA)の産生は、治療用抗体の効果および薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性や薬効は、ADAの産生によって制限され得る。治療用抗体の免疫原性は、多くの要因に影響を受けることが知られているが、特に治療用抗体が有するエフェクターT細胞エピトープの重要性が特に多数報告されている。
T細胞エピトープを予測するためのin silicoツールとしては、Epibase(Lonza)、iTope/TCED(Antitope)、およびEpiMatrix(EpiVax)などが開発されている。これらのin silicoツールを用いて、各アミノ酸配列中のT細胞エピトープを予測することができ(Walle et al., Expert Opin. Biol. Ther. 7(3):405-418 (2007))、治療用抗体の潜在的な免疫原性評価が可能となる。
EpiMatrixを用いて、評価されるFc改変体の免疫原性スコアを算出した。EpiMatrixは、免疫原性を予測したいタンパク質のアミノ酸配列を9アミノ酸ごとに区切ったペプチド断片の配列を機械的に設計し、それらに対して、8種類の主要なMHC Class IIアレル(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、およびDRB1*1501)に対する結合能を計算し、目的タンパク質の免疫原性を予測するシステムである(Clin. Immunol. 131(2):189-201 (2009))。
WO2013/046704に記載のF1718およびF1756(N434Y/Y436T/Q438R/S440E)は、N434Y変異を含む。これに対して、新たに開示されたF1848mおよびF1847mは、N434A 変異を含む。
上記のように算出された、これら4種類の改変体、すなわちF1718、F1848m、F1756、およびF1847mの免疫原性スコアが、表31の「EpiMatrixスコア」の欄に示されている。更に、EpiMatrixスコアについて、Tregitopeの含有を考慮して補正された免疫原性スコアが、「tReg Adjusted Epxスコア」の欄に示されている。Tregitopeとは、主に天然型の抗体配列中に大量に存在するペプチド断片配列であり、制御性T細胞(Treg)を活性化することによって、免疫原性を抑制すると考えられている配列である。
この結果から、「EpiMatrixスコア」および「tReg Adjusted Epxスコア」のいずれを見ても、N434A改変体であるF1848mおよびF1847mの免疫原性スコアは、N434Y改変体と比較して低下していた。これにより、より低い免疫原性スコアのために434位に導入されるアミノ酸変異としてはA(アラニン)が好ましいことが示唆される。
〔実施例8〕 ヒト化抗ヒトIL-8抗体の作製
(8−1)ヒト化抗ヒトIL-8抗体hWS-4の作製
米国特許第6,245,894号の中で開示されているヒト化抗IL-8抗体は、ヒトIL-8(hIL-8)と結合することにより、その生理作用を遮断する。改変されたヒト化抗IL-8抗体は、米国特許第6,245,894号に開示されている重鎖および軽鎖の可変領域配列と、実質的に任意の様々な公知のヒト抗体の定常領域配列を組み合わせて作製可能である。したがって、これらの改変された抗体のヒト抗体定常領域配列としては、特に限定はされないが、重鎖定常領域として天然型ヒトIgG1配列または天然型ヒトIgG4配列を、軽鎖定常領域配列として天然型ヒトκ配列を用いることができる。
米国特許第6,245,894号の中で開示されているヒト化IL-8抗体のうち、重鎖可変領域RVHgと、重鎖定常領域として天然型ヒト抗IgG1配列を組み合わせたhWS4H-IgG1(配列番号:83)のコード配列を、参考実施例1の方法で作製した。更に、軽鎖可変領域RVLaと、軽鎖定常領域として天然型ヒトκ配列を組み合わせたhWS4L-k0MT(配列番号:84)のコード配列を、参考実施例1の方法で作製した。上記の重鎖及び軽鎖を組み合わせた抗体を作製し、ヒト化WS-4抗体(以下、hWS-4)とした。
(8−2)ヒト化抗ヒトIL-8抗体Hr9の作製
hWS-4で使用されているFRとは異なるヒトコンセンサスフレームワーク配列を用いて、新たなヒト化抗体を作製した。
具体的には、重鎖のFR1としてVH3-23とVH3-64のハイブリッド配列、FR2としてVH3-15やVH3-49などに見られる配列、FR3としてVH3-72に見られる配列(ただしKabatナンバリングで表される82aを除く)、およびFR4としてはJH1に見られる配列を用いた。これらの配列をhWS-4重鎖のCDR配列と連結し、新規のヒト化抗体の重鎖であるHr9-IgG1(配列番号:85)を作製した。
次に、重鎖としてhWS4H-IgG1および軽鎖としてhWS4L-k0MTを有するhWS-4と、重鎖としてHr9-IgG1および軽鎖としてhWS4L-k0MTを有するHr9の、2種類の抗体を作製した。なお、当明細書中の開示Cを記載している範囲において、特に軽鎖を明記したい場合においては、Hr9はHr9/hWS4Lとも表記される。抗体は、FreeStyle 293F細胞(Invitrogen)を用いて、製品に添付のプロトコールに従い発現させた。培養上清からの抗体の精製は参考実施例2の方法で行った。その結果、表11に示す量の抗体が取得された。驚くべきことに、Hr9の発現量は、hWS-4の発現量の約8倍であった。
(8−3)hWS-4およびHr9のヒトIL-8結合活性
hWS-4及びHr9のヒトIL-8への結合親和性を、BIACORE T200(GE Healthcare)を用いて以下の通り測定した。
ランニングバッファーは、0.05% tween20、20 mM ACES、および150 mM NaCl(pH 7.4)の組成のものを用いた。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインA/G(PEIRCE)を適当量固定して、目的の抗体を捕捉した。次に、ヒトIL-8希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトIL-8を相互作用させた。なお、ランニングバッファーは上記の組成の溶液が用いられ、ヒトIL-8の希釈にも当緩衝液が使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定は全て37℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 kon (1/Ms)、および解離速度定数 koff (1/s)に基づいて、各抗体のヒトIL-8に対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には BIACORE T200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
結果を表12に示す。hWS-4とHr9は、ヒトIL-8に対して同等の結合親和性を有することが確認された。
抗体医薬品の開発において、抗体分子の産生量は重要な因子であり、一般に高い産生量が望ましい。上記の検討により、hWS-4のHVR配列と組み合わせるべき、より適切なヒトコンセンサスフレームワーク由来の配列が選択され、ヒトIL-8に対する結合親和性を維持したままで産生量が改善されたHr9が得られたことは特筆すべき点である。
〔実施例9〕 pH依存的IL-8親和性を有する抗体の産生
(9−1)pH依存性付与のためのHr9改変抗体の作製
実施例8で得られたHr9抗体に対してpH依存的IL-8親和性を付与することを目的として、試験を行った。
特定の理論に拘束されるわけではないが、IL-8に対するpH依存的親和性を有する抗体は、インビボで次のような挙動を示し得る。生物体に投与された当該抗体は、中性pHに維持されている環境(例えば血漿中)において、IL-8に対して強く結合し、その機能を遮断することができる。このようなIL-8と抗体の複合体の一部は、細胞膜との非特異的な相互作用(ピノサイトーシス)によって細胞内へと取り込まれる(以下、非特異的な取り込みという)。エンドソーム内の酸性pHの条件下においては、前記抗体のIL-8に対する結合親和性が弱まるため、前記抗体はIL-8から解離する。その後、IL-8から解離した前記抗体は、FcRnを介して細胞外に戻ってくることができる。このように細胞外(血漿中)に戻ってきた前記抗体は、再度別のIL-8に結合し、その機能を遮断することが可能である。IL-8に対してpH依存的親和性を有する抗体は、上記のようなメカニズムによって、IL-8に対して複数回結合することが可能になると考え得る。
一方、前記抗体に保有されている性質を有さない抗体の場合、1分子の抗体は1度だけ抗原を中和することが可能であり、抗原を複数回中和することはできない。通常、IgG抗体は2つのFabを有するため、1つの抗体分子は2分子のIL-8を中和できる。一方、IL-8に複数回結合することができる抗体は、生体内に滞留している限り、何度でもIL-8に結合することができると考えられる。例えば、投与されてから消失するまでに細胞内に10回取り込まれたpH依存的IL-8結合抗体は、1分子でも最大で20分子のIL-8を中和することが可能である。そのため、複数回IL-8に結合できる抗体は、より少ない抗体量であっても、多くのIL-8分子を中和することができるという利点を有する。別の観点では、複数回IL-8に結合できる抗体は、前記保有されている性質を有さない同じ量の抗体を投与した場合よりも長期間にわたってIL-8を中和することが可能な状態を維持できるという利点を有する。また、さらに別の観点からは、複数回IL-8に結合できる抗体は、前記保有されている性質を有さない同じ量の抗体を投与した場合よりも、強くIL-8の生物学的活性を遮断することができるという利点を有する。
これらの利点を実現するために、複数回IL-8に結合できる抗体を創製することを目的として、Hr9-IgG1およびWS4L-k0MTの可変領域に対して、ヒスチジンを中心としたアミノ酸改変を導入した。具体的には、表13に示す改変体を、参考実施例1および2の方法で作製した。
なお、表13において示されている「Y97H」のような表記は、Kabatナンバリングにより定義される変異導入位置と、変異導入前のアミノ酸、および変異導入後のアミノ酸を表したものである。具体的には、「Y97H」と表記した場合、Kabatナンバリングで表される97位のアミノ酸残基を、Y(チロシン)からH(ヒスチジン)に置換したことを表している。更に、複数のアミノ酸置換を組み合わせて導入した場合には、「N50H/L54H」のように記載する。
(9−2)pH依存的IL-8親和性
実施例9−1で作製された抗体のヒトIL-8結合親和性を、BIACORE T200(GE Healthcare)を用いて以下の通り測定した。ランニングバッファーは以下の2種を用いた。
(1)0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl, pH 7.4;および
(2)0.05% tween20, 20 mM ACES, 150 mM NaCl, pH 5.8。
センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインA/G(PIERCE)を適当量固定して、目的の抗体を捕捉した。次に、ヒトIL-8希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトIL-8を相互作用させた。なお、ランニングバッファーは上記のいずれかが用いられ、ヒトIL-8の希釈にもそれぞれの緩衝液が使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定は全て37℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 kon (1/Ms)、および解離速度定数 koff (1/s)に基づいて各抗体のヒトIL-8に対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には BIACORE T200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
結果を表14−1に示す。まず、軽鎖にL54H改変を含むHr9/L16は、中性pH(pH7.4)におけるヒトIL-8結合親和性がHr9よりやや増強している一方で、酸性pH(pH5.8)におけるヒトIL-8結合親和性が低下していた。一方で、重鎖にY97H改変を含むH89と各種軽鎖とを組み合わせて作製した抗IL-8抗体(H89/WS4L、H89/L12、及びH89/L16)はいずれも、酸性pHにおけるヒトIL-8結合親和性は低下していると同時に、中性pHにおけるヒトIL-8結合親和性も低下を示していた。
(9−3)pH依存性付与のための改変抗体の作製と評価
9−2で見出された有望な改変の組み合わせと新たなアミノ酸変異の評価を行い、その結果、以下の組み合わせが見出された。
改変体を参考実施例1および2の方法で作製し、実施例9−2と同様の方法でヒトIL-8に対する結合親和性を評価した。
その結果を表14に併せて示す。重鎖としてH89-IgG1(配列番号:86)および軽鎖としてL63-k0MT(配列番号:87)を有するH89/L63は、中性pH(pH7.4)におけるヒトIL-8結合親和性がHr9と同等のまま、酸性pH(pH5.8)におけるヒトIL-8結合親和性の低下を示した。具体的には、H89/L63は、pH5.8におけるkoff(解離速度定数)およびKD(解離定数)の両方が、Hr9よりも大きくなっていた。このことは、エンドソーム内の酸性pH条件下において、H89/L63はヒトIL-8を解離しやすい性質を有していることを意味している。
驚くべきことに、重鎖としてH89-IgG1および軽鎖としてL118-k0MT(配列番号:88)を有するH89/L118は、中性pH条件におけるヒトIL-8結合親和性(KD)はHr9よりも増強しているのに対し、酸性pH条件におけるヒトIL-8結合親和性(KD)はHr9よりも減弱していることが見出された。特に限定はされないが、一般的に抗原に複数回結合できる抗体を医薬品として使用する際には、pH依存的抗原結合抗体は、中性pH条件下(例えば、血漿中)で抗原を強く中和することが可能なように、強い結合親和性を持つ(KDが小さい)ことが好ましい。一方で、酸性pH条件下(例えば、エンドソーム内)で、抗原を速やかに解離することが可能なように、抗体は、解離速度定数(koff)が大きいこと、および/または弱い結合親和性を持つ(KDが大きい)ことが好ましい。H89/L118は、これら中性pHと酸性pH条件のいずれにおいても、Hr9と比較して好ましい性質を獲得していた。
したがって、Hr9の重鎖に対してY97H、軽鎖に対してN50H/L54H/Q89Kといった有用なアミノ酸改変が見出された。特に限定されることはないが、これらの中から選ばれるアミノ酸改変を単独で、あるいは複数組み合わせて導入することによっても、医薬品として優れたpH依存的IL-8結合抗体が作製可能であることが示された。
特定の理論に拘束されることはないが、pH依存的抗原結合抗体を医薬品として利用する際に重要な要素は、生体内に投与された抗体が、エンドソーム内において抗原を解離することができるかどうかであると考えられる。そのためには酸性pH条件下において十分に結合が弱い(解離定数;KDが大きい)こと、または十分に解離速度が速い(解離速度定数;koffが大きい)こと、が重要であると考えられる。そこで、BIACOREにより得られたH89/L118のKDまたはkoffが、インビボのエンドソーム内において抗原を解離するために十分なものかどうかを、次に示す実験で検証した。
〔実施例10〕 マウスPKアッセイのための高親和性抗体の作製
抗体による、ヒトIL-8の消失速度への効果をマウスにおいて確認する方法としては、特に限定はされない。一例において、本方法は、抗体をヒトIL-8と混合した状態でマウスに投与すること、および続いて、マウス血漿中からのヒトIL-8の消失速度を比較することを含む。
ここで、マウスのPKアッセイに用いるための参照抗体は、中性pHおよび酸性pHの条件下において、いずれも十分に強い結合親和性を持つことが望ましい。そこで、Hr9に対して高親和性を付与する改変を探索した結果、重鎖としてH998-IgG1(配列番号:89)および軽鎖としてL63-k0MTを有するH998/L63が創製された。
H998/L63を用いて、ヒトIL-8の結合親和性を実施例9−2と同様の方法で評価した。結果として得られたセンサーグラムを図21に示す。
H998/L63は、驚くべきことに、中性pHと酸性pHのいずれの条件においても遅い解離速度を示し、かつ、Hr9よりも強いIL-8結合親和性を有することを示した。しかし、BIACOREの装置上の限界から、このように解離速度が遅いタンパク質−タンパク質間相互作用の場合、解離速度定数(koff)、解離定数(KD)などの解析値を正確に算出することができないことが知られている。H998/L63においても、正確な解析値を取得することができなかったため、ここでは解析値を示していない。しかしながら、当実験の結果から、H998/L63が中性と酸性のいずれのpHにおいても非常に強い結合親和性を有しており、マウスPKアッセイにおける比較対象として用いる抗体として適切であることが確認された。
〔実施例11〕 pH依存的IL-8結合抗体H89/L118を用いたマウスPKアッセイ
(11−1)H89/L118を用いたマウスPKアッセイ
実施例9で作製したH89/L118と、実施例10で作製したH998/L63を用いて、インビボでのヒトIL-8消失速度の評価を実施した。
マウス(C57BL/6J、Charles river)に、ヒトIL-8と、抗ヒトIL-8抗体を同時に投与した後のヒトIL-8の体内動態を評価した。ヒトIL-8と抗ヒトIL-8抗体の混合溶液(それぞれ10 μg/mL、200 μg/mL)を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、ヒトIL-8に対して抗ヒトIL-8抗体は十分量過剰に存在することから、ヒトIL-8はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与5分後、2時間後、4時間後、7時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、14日後、21日後、および28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
(11−2)血漿中のヒトIL-8濃度の測定
マウス血漿中のヒトIL-8濃度は電気化学発光法にて測定された。まず、マウスIgGの定常領域を含む抗ヒトIL-8抗体(社内調製品)を、MULTI-ARRAY 96-well Plate(Meso Scale Discovery)に分注し、室温で1時間静置した後に、5%BSA(w/v)を含むPBS-Tween溶液を用いて室温で2時間ブロッキングすることによって抗ヒトIL-8抗体固定化プレートが作製された。血漿中濃度として275、91.7、30.6、10.2、3.40、1.13、または0.377 ng/mLのヒトIL-8を含む検量線試料と、25倍以上に希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。試料をhWS-4と混合して37℃で1晩反応させた。その後、この混合液を抗ヒトIL-8抗体固定化プレートの各ウェルに50 μLずつ分注してから、室温で1時間撹拌させた。hWS-4の終濃度は25 μg/mLとなるよう調製された。その後、Biotin Mouse Anti-Human Igκ Light Chain (BD Pharmingen)を室温で1時間反応させ、さらにSULFO-TAG Labeled Streptavidin(Meso Scale Discovery)を室温で1時間反応させた後、Read Buffer T(×1)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で測定を行った。ヒトIL-8濃度は検量線のレスポンスに基づいて解析ソフトウェアSOFT Max PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。
結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを図22に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表15に示す。
図22から明らかなように、H998/L63と同時に投与されたヒトIL-8と比べて、H89/L118と同時に投与されたヒトIL-8は、マウス血漿中からの消失が驚くべき早さであることが示された。また、マウス血漿中からのヒトIL-8消失速度を定量的に表しているCLの数値は、H89/L118は、H998/L63と比較して、ヒトIL-8の消失速度を約19倍増加させたことを示している。
特定の理論に拘束されるわけではないが、今回得られたデータから、次のように考察することも可能である。抗体と同時に投与されたヒトIL-8は、血漿中において大部分が抗体と結合し、複合体状態で存在する。H998/L63と結合したヒトIL-8は、酸性pH条件下であるエンドソーム内においても、抗体の強い親和性により抗体と結合した状態で存在し得る。その後、H998/L63は、ヒトIL-8との複合体を形成したままの状態でFcRnを介して血漿中に戻され得るため、その際にヒトIL-8も同時に血漿中に戻されることになる。そのため、細胞内に取り込まれたヒトIL-8のうちの大部分は、再び血漿中へと戻ってくることになり得る。つまり、ヒトIL-8の血漿中からの消失速度は、H998/L63と同時に投与することにより、顕著に低下する。一方で、先述の通り、pH依存的IL-8結合抗体であるH89/L118と複合体を形成した状態で細胞内に取り込まれたヒトIL-8は、エンドソーム内の酸性pH条件下において、抗体から解離し得る。抗体から解離したヒトIL-8は、ライソソームに移行して分解されると考えられる。そのため、pH依存的IL-8結合抗体は、H998/L63のような、酸性pH及び中性pHで共に強い結合親和性を有するIL-8結合抗体と比較して、ヒトIL-8の消失を有意に早めることが可能である。
(11−3)H89/L118の投与量を増加させたマウスPKアッセイ
次に、H89/L118の投与量を変化させた場合の影響を検証する実験を、以下のように実施した。マウス(C57BL/6J、Charles river)に、ヒトIL-8と、H89/L118(2 mg/kgあるいは8 mg/kg)を同時に投与した後のヒトIL-8の体内動態を評価した。ヒトIL-8(2.5 μg/mL)と、抗ヒトIL-8抗体(200 μg/mLまたは800 μg/mL)の混合溶液を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、ヒトIL-8に対して抗ヒトIL-8抗体は十分量過剰に存在することから、ヒトIL-8はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与5分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、14日後、21日後、および28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
マウス血漿中のヒトIL-8濃度測定は、実施例11−2と同様の方法で実施した。結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを図23に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表16に示す。
結果として、H89/L118を2 mg/kgで投与した群と比べて、8 mg/kgの抗体を投与した群は、ヒトIL-8の消失速度が2倍程度に遅くなることが確認された。
以下、科学的背景に基づいて発明者らが前記の結果をもたらす可能性がある要因の一つを推察した内容を記述するが、開示Cの内容が以下の考察の内容に限定されるということはない。
エンドソーム内からFcRnを介して血漿中に戻される抗体のうち、ヒトIL-8が結合しているものの割合は低い方が好ましい。エンドソーム内に存在するヒトIL-8に着目すると、こちらは抗体と結合していない遊離型の割合が高いことが望ましい。pH依存的IL-8親和性を有さない抗体と一緒にヒトIL-8が投与された場合は、エンドソーム内において、大部分の(100%に近い)ヒトIL-8は抗体と複合体を形成した状態で存在すると考えられ、遊離型は少ない(0%に近い)と考えられる。一方で、pH依存的IL-8結合抗体(例えばH89/L118)と一緒に投与された場合は、エンドソーム内において、ある程度の割合のヒトIL-8は遊離型として存在しているはずである。この際の遊離型の割合は、仮想的にではあるが、以下のように理解することも可能である。
[エンドソーム内における遊離型ヒトIL-8の割合(%)]=[エンドソーム内の遊離型ヒトIL-8濃度]÷[エンドソーム内の全ヒトIL-8濃度]×100
上式のように理解される、エンドソーム内における遊離型ヒトIL-8の割合は、より高い方が望ましく、例えば0%よりは20%が好ましく、20%よりは40%が好ましく、40%よりは60%が好ましく、60%よりは80%が好ましく、80%よりは100%が好ましい。
したがって、上記のエンドソーム内における遊離型ヒトIL-8の割合と、酸性pHにおけるヒトIL-8に対する結合親和性(KD)および/または解離速度定数(koff)には、相関がある。つまり、酸性pHにおけるヒトIL-8への結合親和性が弱いほど、および/または解離速度が大きいほど、エンドソーム内において遊離型ヒトIL-8の割合は高い。しかしながら、エンドソーム内における遊離型ヒトIL-8の割合を100%近くにすることができるpH依存的IL-8結合抗体の場合、結合親和性をさらに弱めること、および/または酸性pHにおける解離速度を高めることは、必ずしも遊離型ヒトIL-8の割合を効果的に増加させることにはつながらない。例えば、遊離型ヒトIL-8の割合を、99.9%から99.99%に改善したとしても、その改善の度合いは有意ではないであろうことは容易に理解できる。
また、一般的な化学平衡の理論に則ると、抗IL-8抗体とヒトIL-8が共存し、それらの結合反応と解離反応が平衡状態に達している場合において、遊離型ヒトIL-8の割合は、抗体濃度、抗原濃度、および解離定数(KD)の3者によって一義的に決定される。ここで、抗体濃度が高い場合、抗原濃度が高い場合、または解離定数(KD)が小さい場合には、複合体が形成されやすくなり、遊離型ヒトIL-8の割合は低下する。一方で、抗体濃度が低い場合、抗原濃度が低い場合、または解離定数(KD)が大きい場合には、複合体が形成されにくくなり、遊離型ヒトIL-8の割合は増加する。
ここで、今回の試験において、H89/L118を8 mg/kg投与した場合のヒトIL-8の消失速度は、2 mg/kgの抗体を投与した場合に比べて遅くなっていた。これはつまり、エンドソーム内において、8 mg/kgの抗体を投与した場合の遊離型ヒトIL-8の割合が、2 mg/kgの抗体を投与した場合に比べ低下したことを示唆している。この低下の理由は、抗体の投与量を4倍に増加させたことにより、エンドソーム内の抗体濃度が増加し、エンドソーム内でのIL-8と抗体の複合体の形成がされやすくなったためだと推察される。つまり、抗体の投与量を増加させた投与群においては、エンドソーム内の遊離型ヒトIL-8の割合が低下したため、ヒトIL-8の消失速度が低下した。これはまた、8 mg/kgの抗体投与時には、H89/L118の酸性pH条件下における解離定数(KD)の大きさが、遊離型ヒトIL-8を100%近くにするためには不十分であることを示唆している。すなわち、酸性pH条件下において、より大きな解離定数(KD)を有する(より結合が弱い)抗体であれば、8 mg/kgの抗体を投与した場合においても、遊離型IL-8が100%に近い状態、および、2 mg/kgの抗体を投与した場合と同等のヒトIL-8消失速度を実現すると考えられる。
以上のことに基づくと目的のpH依存的IL-8結合抗体が、エンドソーム内において遊離型ヒトIL-8の割合を100%近くまで達成できているかどうかを確認するために、特に限定はされないが、インビボにおける抗原消失効果の程度を上昇させる余地があるかどうかを検証することが可能である。例えばある方法では、H89/L118よりも酸性pHにおける結合親和性を弱めた、および/または酸性pHにおける解離速度を速めた新たなpH依存的IL-8結合抗体を用いたときのヒトIL-8消失速度を、H89/L118を用いたときのIL-8消失速度と比較する。前記の新たなpH依存的IL-8結合抗体が、H89/L118と同等のヒトIL-8消失速度を示した場合、H89/L118の酸性pHにおける結合親和性および/または解離速度は、エンドソーム内において遊離型ヒトIL-8の割合を100%近くにするために既に十分なレベルにあることを示唆していると言える。一方で、前記の新たなpH依存的IL-8結合抗体の方が、より高いヒトIL-8消失速度を示した場合、H89/L118の酸性pHにおける結合親和性および/または解離速度は、改善の余地があることを示唆していると言える。
〔実施例12〕 pH依存的IL-8結合抗体H553/L118の作製と評価
(12−1)pH依存的IL-8結合能を有する抗体H553/L118の作製
そこで、本発明者らは、H89/L118よりもさらに、酸性pH条件下におけるヒトIL-8結合親和性を弱め、および/または解離速度を速めた抗体の作製を試みた。
H89/L118を基にして、ヒスチジンを中心としたアミノ酸改変を導入し、表17に示す改変抗体を実施例9と同様の方法で作製した。また、実施例9−2と同様の方法で、これらの抗体のヒトIL-8結合親和性を測定した。
結果の一部を表17に示す。重鎖としてH553-IgG1(配列番号:90)および軽鎖としてL118-k0MTを含む抗体H553/L118と、重鎖としてH496-IgG1(配列番号:101)および軽鎖としてL118-k0MTを含む抗体H496/L118が、H89/L118よりも更にpH依存性が増大していることが示された。
取得されたH553/L118には、H89/L118の重鎖に対してY55HとR57Pという2種類のアミノ酸改変が導入されている。一方、H89/L118の重鎖に対してR57Pのみが導入されているH496/L118は、H89/L118と比較すると中性pHにおけるヒトIL-8結合親和性は増強しているが、酸性pHにおけるヒトIL-8結合親和性はほとんど変化していない。つまり、H89/L118に導入されたR57P改変は、酸性pHにおけるヒトIL-8結合親和性は変化させずに、中性pHにおける結合親和性のみを増強する改変である。更に、H496/L118の重鎖に対してY55H改変が導入されたH553/L118は、H89/L118と比較すると、中性pHにおける結合親和性は維持あるいは若干増強している一方で、酸性pHにおける結合親和性は低下していた。即ち、Y55HとR57Pという2種類のアミノ酸改変を組み合わせてH89/L118へ導入することは、中性pHにおける結合親和性は維持あるいは若干増強しつつ、酸性pHにおける結合親和性は低下させる、という性質をより一層増強することを可能とした。
(12−2)H553/L118を用いたマウスPKアッセイ
H553/L118を用いて、マウスにおけるヒトIL-8消失速度の評価を、実施例11−2と同様の方法で実施した。結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを図24に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表18に示す。
結果として、2 mg/kgの抗体を投与したマウスのデータの比較においては、H553/L118とH89/L118の間で大きな差は見られなかったが、8 mg/kgの抗体を投与したマウスのデータの比較においては、H553/L118がH89/L118と比べて2.5倍程度にヒトIL-8の消失を早めていることが確認された。別の観点からは、H553/L118は、2 mg/kgと8 mg/kgの間でヒトIL-8消失速度の差が見られず、H89/L118のような抗体の投与量の増加による抗原消失速度の低下は見られなかった。
特に限定はされないが、このような結果が得られた理由の一つとして、次のように考察することも可能である。H553/L118は、2 mg/kgの抗体を投与した場合と8 mg/kgの抗体を投与した場合とで同等のヒトIL-8消失速度を示していた。これは、H553/L118は酸性pHにおけるIL-8結合が十分に弱いために、8 mg/kg投与の条件においても、エンドソーム内の遊離型IL-8の割合が100%に近いレベルに到達できることを示し得る。これはつまり、H89/L118は、2 mg/kgの用量においては、最大限のヒトIL-8消失効果を達成することが可能だが、8 mg/kg程度の高用量になると、その効果が減弱する可能性があることを示唆している。一方、H553/L118は、8 mg/kgの高用量においてもなお、最大限のヒトIL-8消失効果を達成することが可能である。
(12−3)H553/L118を用いた安定性評価
H553/L118は、マウスにおいて顕著にH89/L118よりもヒトIL-8の消失を早めることが可能な抗体であることが示された。一方で、この抗体がインビボで長期間にわたってヒトIL-8の阻害効果を持続するためには、投与された抗体がインビボ(例えば血漿中)に存在している期間中、IL-8中和活性が安定に保たれること(当該抗体のIL-8中和活性における安定性)もまた重要である。そこで、以下に示す方法で、これらの抗体のマウス血漿中における当該安定性を評価した。
マウス血漿は、C57BL/6J(Charles river)の血液から当技術分野で公知の方法で採取した。200μLの200 mM PBS(Sigma, P4417)をマウス血漿800 μLに添加して1 mLとした。また、防腐剤としてアジ化ナトリウムを終濃度0.1%となるように添加した。更に、各抗体(Hr9、H89/L118、およびH553/L118)を終濃度0.2 mg/mLとなるように、上記のマウス血漿に添加した。この時点で試料の一部を採取し、Initial試料とした。残りの試料は40℃で保管した。保管開始から1週間および2週間が経過した時点で、試料のそれぞれ一部を採取し、1週間保存試料および2週間保存試料とした。なお、全ての試料は各分析まで-80℃で凍結保管した。
次に、マウス血漿中に含まれる抗IL-8抗体の、ヒトIL-8に対する中和活性の評価を次のように行った: ヒトIL-8の受容体として、CXCR1およびCXCR2が知られている。PathHunter(登録商標) CHO-K1 CXCR2 β-Arrestin Cell Line (DiscoveRx社、Cat.# 93-0202C2)は、ヒトCXCR2を発現し、ヒトIL-8によるシグナルが伝達された際に化学発光を呈するように、人工的に作製された細胞株である。特に限定はされないが、この細胞を用いて、抗ヒトIL-8抗体が有するヒトIL-8に対する中和活性を評価することが可能である。当該細胞の培養液中に、ヒトIL-8を添加すると、添加したヒトIL-8の濃度に依存した様式で、ある量の化学発光を呈する。ヒトIL-8と抗ヒトIL-8抗体を併せて培養液中に添加した場合は、抗ヒトIL-8抗体はヒトIL-8と結合することにより、ヒトIL-8のシグナル伝達を遮断し得る。その結果として、ヒトIL-8の添加によって起こる化学発光は抗ヒトIL-8抗体により阻害され、抗体を添加していない場合に比べると弱い化学発光を示すか、あるいは全く化学発光を示さないことになる。そのため、抗体が有するヒトIL-8中和活性が強いほど化学発光の程度は弱まり、抗体が有するヒトIL-8中和活性が弱いほど化学発光の程度は強まることになる。
これは、マウス血漿中に添加して一定期間保存した抗体においても同様である。マウス血漿中で保存することによって、中和活性が変化しない抗体であれば、上記の化学発光の度合いは保存の前後で変化しないはずである。一方で、マウス血漿中で保存することによって、中和活性が低下する抗体の場合は、保存後の抗体を用いた場合の化学発光の度合いは、保存前に比べて増加することになる。
そこで、上記の細胞株を用いて、マウス血漿中に保存した抗体が、中和活性を維持しているかどうかを検証した。まず、細胞株をAssayComplete(tm) Cell Plating 0 Reagentに懸濁し、384well plateに5000 cells/wellずつ播種した。細胞の培養開始から1日後に、ヒトIL-8の添加濃度を決定するための試験を以下のように行った。最終ヒトIL-8濃度として45 nM(400 ng/mL)から0.098 nM(0.1 ng/mL)を含むように、ヒトIL-8溶液を段階希釈したものを細胞培養液に添加した。次に、製品プロトコールに従って検出試薬を添加し、化学発光検出装置を用いて相対化学発光量を検出した。その結果により、細胞のヒトIL-8に対する反応性を確認し、抗ヒトIL-8抗体の中和活性を確認するために適切なヒトIL-8濃度を決定した。ここでは、ヒトIL-8濃度は2 nMとした。
次に、先述の抗ヒトIL-8抗体を添加したマウス血漿を用いて、そこに含まれる抗体の中和活性の評価を行った。上記で決定した濃度のヒトIL-8と、先述の抗ヒトIL-8抗体を含むマウス血漿を細胞培養物に添加した。ここで、添加するマウス血漿の量は、抗ヒトIL-8抗体濃度として2 μg/mL(13.3 nM)から0.016 μg/mL (0.1 nM)の範囲で段階的に含まれるように決定された。次に、製品プロトコールに従って検出試薬を添加し、化学発光検出装置を用いて相対化学発光量を検出した。
ここで、ヒトIL-8および抗体を添加していないウェルの相対化学発光量平均を0%、ヒトIL-8のみを添加し、抗体を添加していないウェルの相対化学発光量平均を100%とした時の、各抗体濃度における相対化学発光量の相対値を算出した。
ヒトCXCR2発現細胞を用いたヒトIL-8阻害アッセイの結果を、Initial試料(マウス血漿中の保存処理なし)の結果を図25Aに、40℃で1週間保存した試料の結果を図25Bに、40℃で2週間保存した試料の結果を図25Cに、それぞれ示した。
その結果、Hr9およびH89/L118は、マウス血漿中で保存した前後でヒトIL-8中和活性に差は見られなかった。一方、H553/L118は2週間の保存により、ヒトIL-8中和活性の低下が見られた。このことから、H553/L118は、Hr9やH89/L118と比較して、マウス血漿中においてヒトIL-8中和活性が低下しやすく、IL-8中和活性の面で不安定な性質を有する抗体であることが示された。
〔実施例13〕 in silicoシステムを用いる免疫原性予測スコアを低減させた抗体の作製
(13−1)各種IL-8結合抗体の免疫原性予測スコア
抗医薬品抗体(ADA)の産生は、治療用抗体の効果および薬物動態に影響を及ぼし、時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、臨床における治療用抗体の有用性や薬効は、ADAの産生によって制限され得る。治療用抗体の免疫原性は、多くの要因に影響を受けることが知られているが、治療用抗体中のエフェクターT細胞エピトープの重要性を説明する多数の報告がある。
T細胞エピトープを予測するためのin silicoツールとしては、Epibase(Lonza)、iTope/TCED(Antitope)、およびEpiMatrix(EpiVax)などが開発されている。これらのin silicoツールを用いて、各アミノ酸配列中のT細胞エピトープを予測することができ(Walle et al., Expert Opin. Biol. Ther. 7(3):405-418 (2007))、治療用抗体の潜在的な免疫原性評価が可能となる。
ここで、EpiMatrixを用いて、各抗IL-8抗体の免疫原性スコアを算出した。EpiMatrixは、免疫原性を予測したいタンパク質のアミノ酸配列を9アミノ酸ごとに区切ったペプチド断片の配列を機械的に設計し、それらに関して、8種類の主要なMHC Class IIアレル(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、およびDRB1*1501)に対する結合能を計算し、目的タンパク質の免疫原性を予測するシステムである。(De Groot et al., Clin. Immunol. 131(2):189-201 (2009))
上記のように算出された、各抗IL-8抗体の重鎖および軽鎖の免疫原性スコアが、表19の「EpiMatrixスコア」の欄に示されている。更に、EpiMatrixスコアについて、Tregitopeの含有を考慮して補正された免疫原性スコアが、「tReg Adjusted Epxスコア」の欄に示されている。Tregitopeとは、主に天然型の抗体配列中に大量に存在するペプチド断片配列であり、制御性T細胞(Treg)を活性化することによって、免疫原性を抑制すると考えられている配列である。
また、これらのスコアについて、重鎖と軽鎖のスコアを合計したものが、「合計」欄に示されている。
この結果から、「EpiMatrixスコア」および「tReg Adjusted Epxスコア」のいずれを見ても、H89/L118、H496/L118、およびH553/L118の免疫原性スコアは、公知のヒト化抗ヒトIL-8抗体であるhWS-4と比較して低下していたことが示された。
更に、EpiMatrixでは、重鎖と軽鎖のスコアを考慮したうえで、抗体分子全体として予測されるADA発生頻度を、各種市販抗体の実際のADA発生頻度と比較することも可能である。そのような解析を実施した結果が、図26に示されている。なお、システムの関係上、図26においては、hWS-4は「WS4」、Hr9は「HR9」、H89/L118は「H89L118」、H496/L118は「H496L118」、H553/L118は「H553L118」とそれぞれ表記されている。
図26に示されているように、各種の市販抗体のヒトにおけるADAの発生頻度は、Campath (Alemtuzumab)は45%、Rituxan (Rituximab)は27%、Zenapax (Daclizumab)は14%であることが知られている。一方で、公知のヒト化抗ヒトIL-8抗体であるhWS-4のアミノ酸配列から予測されたADA発生頻度は10.42%であったが、当明細書において新たに見出されたH89/L118(5.52%)、H496/L118(4.67%)、またはH553/L118(3.45%)は、hWS-4と比較すると有意に低下していた。
(13−2)免疫原性予測スコアを低減させた改変抗体の作製
上記の通り、H89/L118、H496/L118、およびH553/L118の免疫原性スコアは、hWS-4と比較して低下していたが、表19から明らかなように、重鎖の免疫原性スコアは軽鎖に比べると高く、特に重鎖のアミノ酸配列は、免疫原性の観点でまだ改善の余地があることを示唆している。そこで、H496の重鎖可変領域から、免疫原性スコアを低下させることが可能なアミノ酸改変の探索を行った。鋭意探索を行った結果、Kabatナンバリングで表される52c位のアラニンをアスパラギン酸に置換されたH496v1、81位のグルタミンをスレオニンに置換されたH496v2、および82b位のセリンをアスパラギン酸に置換されたH496v3の3種類の改変体が見出された。また、これら3種の改変を全て含むH1004が作製された。
実施例13−1と同様の方法で、免疫原性スコアを算出した結果を表20に示す。
単独改変を含むH496v1、H496v2、およびH496v3の3種類の重鎖は、いずれもH496と比較して免疫原性スコアの低下を示した。更に、3種類の改変の組み合わせを含むH1004においては、顕著な免疫原性スコアの改善を達成していた。
ここで、H1004と組み合わせる適切な軽鎖としては、L118に加え、L395が見出された。そのため、免疫原性スコアの算出においては、L118およびL395の両者と組み合わせたものを算出した。表20に示されているように、重鎖と軽鎖を組み合わせたものであるH1004/L118およびH1004/L395もまた、非常に低い免疫原性スコアを示していた。
次に、これらの組み合わせについて、実施例13−1と同様の様式で、ADA発生頻度を予測した。その結果を図27に示す。なお、図27においては、H496v1/L118は「V1」、H496v2/L118は「V2」、H496v3/L118は「V3」、H1004/L118は「H1004L118」、H1004/L395は「H1004L395」とそれぞれ表記されている。
驚くべきことに、免疫原性スコアを顕著に低減させたH1004/L118およびH1004/L395は、ADA発生頻度の予測値についても改善しており、0%という予測値を示していた。
(13−3)H1004/L395のIL-8結合親和性の測定
重鎖としてH1004-IgG1m(配列番号:91)および軽鎖としてL395-k0MT(配列番号:82)を含む抗体であるH1004/L395を作製した。H1004/L395のヒトIL-8への結合親和性を、BIACORE T200(GE Healthcare)を用いて以下の通り測定した。
ランニングバッファーは、以下の2種を用い、それぞれの温度で測定を行った。
(1)0.05% tween20、40 mM ACES、150 mM NaCl、pH 7.4、40℃;および
(2)0.05% tween20、40 mM ACES、150 mM NaCl、pH 5.8、37℃。
センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインA/G(PIERCE)を適当量固定し、目的の抗体を捕捉した。次に、ヒトIL-8希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトIL-8を相互作用させた。なお、ランニングバッファーは上記のいずれか1つが用いられ、ヒトIL-8の希釈にもそれぞれの緩衝液が使用された。センサーチップの再生には25 mM NaOHおよび10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 kon (1/Ms)、および解離速度定数 koff (1/s)に基づいて各抗体のヒトIL-8に対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には BIACORE T200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
測定結果を表21に示す。免疫原性スコアを低減させたH1004/L395は、H89/L118と比較して、中性pHにおけるヒトIL-8へのKDは同等であったが、酸性pHにおけるKDおよびkoffは増加しており、エンドソーム内においてIL-8を解離しやすい性質を有していることが示された。
〔実施例14〕 pH依存的IL-8結合抗体H1009/L395の作製と評価
(14−1)各種pH依存的IL-8結合抗体の作製
実施例13に示した検討により、pH依存的IL-8結合能を有しかつ低減された免疫原性スコアも有するH1004/L395が取得された。次に、これらの好ましい性質と、マウス血漿中における安定性とを両立した改変体の創製を目指して、鋭意検討を行った。
H1004/L395を基に、各種の改変を導入し、以下の改変抗体を作製した。
上記の18種類の重鎖を2種の軽鎖を組み合わせて、合計36種類の抗体を作製した。これらの抗体について、以下に示すように各種の評価を実施した。
中性および酸性pH条件下におけるヒトIL-8結合親和性を、実施例13−3の方法と同様の様式で測定した。その結果のうち、pH7.4におけるKD、pH5.8におけるKDおよびkoffについて、表22に示す。
次に、以下に示す方法でPBS中で保存した場合のIL-8の結合における安定性評価を実施した。
それぞれの抗体をDPBS (Sigma-Aldrich)に対して一晩透析を行った後、各抗体の濃度を0.1 mg/mLとなるように調製した。この時点で抗体試料の一部を採取し、Initial試料とした。残りの試料は50℃で1週間保管した後、回収して熱加速試験用試料とした。
次に、Initial試料および熱加速試験用試料を用いて、BIACOREによるIL-8結合親和性の測定を以下のように実施した。
BIACORE T200(GE Healthcare)を用いて、改変抗体へのヒトIL-8の結合量解析を行った。ランニングバッファーとして0.05% tween20, 40 mM ACES, 150 mM NaCl, pH 7.4を用い、40℃にて測定を行った。
センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインA/G(PIERCE)を適当量固定し、目的の抗体を捕捉した。次に、ヒトIL-8希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にヒトIL-8を相互作用させた。ヒトIL-8の希釈にもランニングバッファーが使用された。センサーチップの再生には25 mM NaOHおよび10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定で得られたヒトIL-8の結合量とその結合量を得たときの抗体捕捉量をBIACORE T200 Evaluation Software(GE Healthcare)を用いて抽出した。
Initial試料および熱加速試験用試料に関して、抗体捕捉量1000 RU当たりのヒトIL-8の結合量を算出した。さらに、Initial試料のヒトIL-8の結合量に対する熱加速試験用試料のヒトIL-8の結合量の比を算出した。
結果として得られた、Initial試料と熱加速試験用試料のIL-8結合量の比を、表22に併せて示す。
上記検討により、重鎖としてH1009-IgG1m(配列番号:92)および軽鎖としてL395-k0MTを含む抗体である、H1009/L395が得られた。
表22に示されているように、H1009/L395では、H89/L118と比べて中性pHにおけるヒトIL-8結合親和性がやや増大した一方で、酸性pHにおける結合親和性が低下しており、すなわちpH依存性がより強められていた。また、PBS中で50℃という過酷な条件に曝した場合の、IL-8結合における安定性は、H1009/L395ではH89/L118よりも僅かに増大した。
これらのことから、H1009/L395は、pH依存的IL-8結合能を有しつつ、マウス血漿中での中和活性も安定に保たれる可能性がある抗体として選定された。
(14−2)H1009/L395の安定性評価
次に、実施例12−3の方法と同様に、H1009/L395のIL-8中和活性が、マウス血漿中において安定に保たれるかどうかを評価した。ここでは、後に実施例19において、その詳細が記述されるH1009/L395-F1886sを用いた。この抗体は、H1009/L395と同じ可変領域を有し、定常領域は、天然型ヒトIgG1に比べて、酸性pH条件下におけるFcRn結合を増強する改変と、FcγRに対する結合を低減するための改変を有する。H1009/L395のヒトIL-8に対する結合およびIL-8の中和活性は、この抗体の可変領域、とりわけHVRを中心とした領域が担っており、定常領域に導入された改変が影響を与えることはないと考えられる。
マウス血漿中における安定性評価は、次のように実施した。マウス血漿585 μLに対し、200 mM リン酸緩衝液(pH6.7)を150 μL添加した。次に、防腐剤としてアジ化ナトリウムを終濃度0.1%となるように添加した。各抗体(Hr9、H89/L118、またはH1009/L395-F1886s)について終濃度0.4 mg/mLとなるように、上記のマウス血漿に添加した。この時点で試料の一部を採取し、Initial試料とした。残りの試料は40℃で保管した。保管開始から1週間および2週間後に、それぞれの試料の一部を採取し、1週間保存試料および2週間保存試料とした。なお、全ての試料は各分析まで-80℃で凍結保管した。
ヒトCXCR2発現細胞を用いたヒトIL-8中和活性測定は、実施例12-3と同様の方法で実施した。ただし、抗ヒトIL-8抗体の中和活性を確認するために用いたヒトIL-8濃度は、今回は1.2 nMで実施した。
上記の抗体とヒトCXCR2発現細胞とを用いて得られたヒトIL-8阻害アッセイの結果は、図28AにInitial試料(マウス血漿中の保存処理なし)の結果を、図28Bに40℃で1週間保存した試料の結果を、図28Cに40℃で2週間保存した試料の結果を、それぞれ示す。
その結果、驚くべきことに、H1009/L395-F1886sは、マウス血漿中で40℃で2週間保存した場合においても、ヒトIL-8の中和活性が維持されており、H553/L118よりもIL-8中和活性が安定に保たれていた。
(14−3) H1009/L395を用いたマウスPKアッセイ
H1009/H395のマウスにおけるヒトIL-8消失速度を、次に示す方法で評価した。抗体としてはH1009/L395、H553/L118およびH998/L63を用いた。マウスへの投与及び採血、マウス血漿中のヒトIL-8濃度測定は実施例11に示した方法で実施した。
結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを図29に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表23に示す。
結果、H1009/L395を2 mg/kgで投与した時のマウスにおけるヒトIL-8消失速度は、H553/L118と同程度であり、H1009/L395は、エンドソーム内における遊離型IL-8を100%近くにまで達成していることが示された。また、マウス血漿中からのヒトIL-8消失速度を定量的に表すクリアランス(CL)の値は、H998/L63よりも30倍程度高いことが示された。
特に限定はされないが、ヒトIL-8の消失速度を増加させる効果については、次のように解釈することが可能である。一般に、抗原濃度がほぼ一定に保たれている生体内においては、抗原の産生速度と消失速度もまた、ほぼ一定に保たれていることになる。この状態に抗体を投与すると、抗原の産生速度が影響を受けない場合においても、抗原の消失速度は、抗原が抗体との複合体を形成することにより変化し得る。一般的には、抗原の消失速度は抗体の消失速度に比べて大きいため、そのような場合は、抗体と複合体を形成した抗原の消失速度は低下する。抗原の消失速度が低下すると、血漿中の抗原濃度が上昇するが、その際の上昇度合いは抗原単独時の消失速度と抗原の複合体形成時の消失速度の比によっても規定され得る。つまり、抗原単独時の消失速度に比べて、複合体形成時の消失速度が10分の1に低下した場合は、抗体が投与された生体の血漿中の抗原濃度は抗体投与前の約10倍にまで上昇し得る。ここで、これらの消失速度として、クリアランス(CL)を用いることも可能である。すなわち、生体に対して抗体を投与した後に起こる抗原濃度の上昇(抗原の蓄積)は、抗体投与前と抗体投与後それぞれの状態における抗原CLによって規定されると考え得る。
ここで、H998/L63とH1009/L395を投与した際のヒトIL-8のCLに約30倍の差があったということは、ヒトにこれらの抗体を投与した際に起こる、血漿中ヒトIL-8濃度の上昇度合いに、約30倍の差が生じうることを示唆している。更に、血漿中ヒトIL-8濃度に30倍の差が生じるということは、それぞれの状況においてヒトIL-8の生物学的活性を完全に遮断するために必要な抗体の量もまた、約30倍の差が生じうるということになる。つまり、H1009/L395は、H998/L63に比べて、30分の1程度の極めて少量の抗体で、血漿中IL-8の生物学的活性を遮断することが可能である。また、H1009/L395とH998/L63それぞれを同じ投与量でヒトに投与した場合には、H1009/L395の方がより強く、かつ、より長期間にわたりIL-8の生物学的活性を遮断することが可能になる。また、長期間にわたりIL-8の生物学的活性を遮断するためには、そのIL-8中和活性が安定に維持されることが必要である。実施例14において示されたように、H1009/L395はマウス血漿を用いた実験から、長期間にわたってそのヒトIL-8中和活性を維持できることが明らかとなっている。これらの特筆すべき性質を有するH1009/L395は、インビボでIL-8を中和する効果という観点から優れた効果を有する抗体であることも示された。
〔実施例15〕 pH依存的IL-8結合抗体H1009/L395を用いた細胞外マトリックスへの結合性の評価
実施例14で示された、H1009/L395の30倍もの優れたヒトIL-8消失効果は、驚くべき効果であった。pH依存的抗原結合抗体を投与した際の抗原消失速度は、抗体と抗原の複合体が細胞内に取り込まれる速度に依存することが知られている。つまり、抗原-抗体の複合体が形成されたときに、複合体が形成されないときと比較して細胞内にpH依存的抗原結合抗体が取り込まれる速度が増大すれば、pH依存的抗体による抗原消失効果が増加し得る。細胞内に抗体が取り込まれる速度を増強させる方法には、中性pH条件でのFcRn結合能を抗体に付与する方法(WO 2011/122011)や抗体のFcγRへの結合能を増強する方法(WO 2013/047752)、多価の抗体と多価の抗原を含む複合体の形成の促進を利用した方法(WO 2013/081143)が含まれる。
しかしながら、H1009/L395の定常領域において上記技術は用いられていない。また、IL-8はホモ二量体を形成することが知られているが、H1009/L395はヒトIL-8のホモ二量体の形成面を認識するため、H1009/L395が結合したヒトIL-8は単量体の状態になることが明らかになっている。そのため、この抗体は多価の複合体を形成することはない。
つまり、H1009/L395に対しては、上記技術が使用されていないが、H1009/L395は30倍ものヒトIL-8消失効果を示していた。
そこで発明者らは、H1009/L395に代表されるpH依存的IL-8結合抗体の前記特性をもたらす可能性のある要因の一つとして、次のような考察を行った。ただし、以下はあくまでも発明者らが技術的背景に基づいて推察した可能性の一つであり、開示Cの内容が以下の考察内容に限定されるものではない。
ヒトIL-8は、高い等電点(pI)を有するタンパク質であり、公知の方法で計算される理論等電点はおよそ10である。つまり、中性pHの条件下においては、ヒトIL-8は正電荷側に偏った電荷を有するタンパク質である。H1009/L395に代表されるpH依存的IL-8結合抗体もまた、正電荷側に偏った電荷を有するタンパク質であり、H1009/L395の理論等電点はおよそ9である。つまり、元々高い等電点を有し、正電荷に富むタンパク質であるH1009/L395が、高い等電点を有するヒトIL-8と結合して生じる複合体は、H1009/L395単独よりも等電点が上昇する。
実施例3で示した通り、抗体の正電荷の数を増加させること、および/または、負電荷の数を減少させることを含む、抗体の等電点の上昇は、抗体−抗原複合体の細胞内への非特異的な取り込みの増加と考えることも可能である。抗IL-8抗体と高い等電点を有するヒトIL-8との間で形成された複合体の等電点は、抗IL-8抗体単独の等電点よりも高く、この複合体はより容易に細胞内に取り込まれ得る。
先述の通り、細胞外マトリックスへの親和性もまた、細胞内取り込みに影響する可能性がある因子の一つである。そこで、細胞外マトリックスに対する抗体単独の結合性と、ヒトIL-8と抗体との複合体の結合性が異なるかどうかを検証した。
ECL(電気化学発光)法による細胞外マトリックスへの抗体結合量の評価
TBS(Takara, T903)を用いて、細胞外マトリックス(BDマトリゲル基底膜マトリックス/ BD社製)を2 mg/mLに希釈した。希釈した細胞外マトリックスをMULTI-ARRAY 96well Plate, High bind, Bare (Meso Scale Discovery: MSD社製) に1wellあたり5 μL分注し、4℃で一晩固相化した。その後、ブロッキングは、150 mM NaCl、0.05% Tween20、0.5% BSA、および0.01% NaN3を含む20 mM ACES buffer, pH7.4を用いて行った。
また、評価に供する抗体を次のように調整した。単独で添加される抗体試料は、各抗体をBuffer 1(150 mM NaCl、0.05% Tween20、および0.01% NaN3を含む20 mM ACES buffer, pH7.4)を用いて9 μg/mLにそれぞれ希釈した後、終濃度3 μg/mLまでBuffer 2(150 mM NaCl、0.05% Tween20、0.1% BSA、および0.01% NaN3を含む20 mM ACES buffer, pH7.4)を用いてさらに希釈することによって、調製した。
一方、ヒトIL-8との複合体として添加される抗体試料は、抗体の10倍のモル濃度のヒトIL-8を抗体試料に添加した上で、Buffer-1を用いて抗体濃度が9 μg/mLになるようにそれぞれ希釈された後、最終抗体濃度がそれぞれ3 μg/mLとなるように、Buffer-2によって更に希釈された。なお、この時ヒトIL-8濃度は約0.6 μg/mLであった。複合体を形成させるために、室温で1時間振盪した。
次に、ブロッキング溶液を除去したプレートに、抗体単独あるいは複合体としての抗体の溶液を添加し、室温で1時間振盪した。その後、抗体単独あるいは複合体の溶液を除去し、0.25% グルタルアルデヒドを含むBuffer-1を添加して10分間静置した後、0.05% Tween20を含むDPBS (和光純薬工業社製) で洗浄した。ECL検出用抗体は、Goat anti-human IgG (gamma) (Zymed Laboratories社製) をSulfo-Tag NHS Ester (MSD社製) を用いてSulfo-Tag化し調製した。ECL検出用抗体を1 μg/mLとなるようにBuffer-2で希釈してプレートに添加し、遮光下、室温で1時間振盪した。ECL検出用抗体を除去し、MSD Read Buffer T(4x)(MSD社製)を超純水で2倍希釈した溶液を添加した後、SECTOR Imager 2400 (MSD社製)を用いて発光量を測定した。
結果を図30に示す。興味深いことに、H1009/L395などの抗IL-8抗体はいずれも、抗体単独(-IL8)ではほとんど細胞外マトリックスへの結合が見られなかったが、ヒトIL-8(+hIL8)との複合体を形成して、細胞外マトリックスへ結合した。
抗IL-8抗体が、上記のようにヒトIL-8と結合することにより、細胞外マトリックスに対する親和性を獲得するという性質は、明らかになっていない。また、限定はされないが、このような性質をpH依存的IL-8結合抗体と組み合わせ、より効率的にIL-8の消失速度を増大させることも可能である。
〔実施例16〕 FcRn非結合抗体を用いたマウスPKアッセイ
マウスにおいて、pH依存的IL-8結合抗体がヒトIL-8との複合体を形成して、その複合体の細胞内への取り込みが増加するかどうかを、以下に示す方法を用いて確認した。
まず、H1009/L395の可変領域と、各種Fc受容体への結合親和性を欠損しているFc領域とを有する抗体改変体を作製した。具体的には、酸性pH条件下におけるヒトFcRnへの結合能を欠失させる改変として、重鎖であるH1009-IgG1に対して、EUナンバリングで表される253位のイソロイシンをアラニンに、254位のセリンをアスパラギン酸に、の置換に供した。また、マウスFcγRへの結合を欠失させる改変として、235位のロイシンをアルギニンに、236位のグリシンをアルギニンに、239位のセリンをリジンに置換した。これら4つの改変を含む重鎖として、H1009-F1942m(配列番号:93)を作製した。また、重鎖としてH1009-F1942mおよび軽鎖としてL395-k0MTを含む、H1009/L395-F1942mを作製した。
このFc領域を有する抗体は、酸性pH条件下におけるFcRn結合親和性を欠損しているため、エンドソーム内から血漿中への移行が起こらない。そのため、このような抗体は生体内において、天然型Fc領域を含む抗体に比べて、速やかに血漿中から消失する。このとき、天然型Fc領域を含む抗体は細胞内に取り込まれた後、FcRnによるサルベージを受けなかった一部の抗体のみがライソソームに移行して分解されるが、FcRnへの結合親和性を含まないFc領域を含む抗体の場合は、細胞内に取り込まれた抗体の全てがライソソームで分解を受ける。すなわち、このような改変Fc領域を含む抗体の場合は、投与した抗体の血漿中からの消失速度は、細胞内に取り込まれる速度と等しいと考えることもできる。つまり、FcRnへの結合親和性を欠損させた抗体の血漿中からの消失速度を測定することによっても、当該抗体の細胞内に取り込まれる速度を確認することが可能である。
そこで、このH1009/L395-F1942mとヒトIL-8が形成した複合体の細胞内への取り込みが、H1009/L395-F1942m単独の取り込みよりも増加するか否かを検証した。具体的には、当該抗体を単独で投与した場合と、ヒトIL-8との複合体を形成させて投与した場合とで、当該抗体の血漿中からの消失速度が変化するかどうかを検証した。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. 602:93-104 (2010))に、抗ヒトIL-8抗体のみを投与した場合と、ヒトIL-8と抗ヒトIL-8抗体を同時に投与した場合のそれぞれで、抗ヒトIL-8抗体の体内動態を評価した。抗ヒトIL-8抗体溶液(200 μg/mL)および、ヒトIL-8(10 μg/mL)と抗ヒトIL-8抗体(200 μg/mL)の混合溶液のそれぞれを、尾静脈に10mL/kgで単回投与した。このとき、ヒトIL-8に対して抗ヒトIL-8抗体は十分量過剰に存在することから、ヒトIL-8はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与5分後、2時間後、7時間後、1日後、および2日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
マウス血漿中の抗ヒトIL-8抗体濃度は電気化学発光法によって測定された。まず、5%BSA(w/v)を含むPBS-Tween溶液を用いて室温で1晩ブロッキングされたStreptavidin Gold Multi-ARRAY Plate(Meso Scale Discovery)に、Anti-Human Kappa Light Chain Goat IgG Biotin (IBL)を室温で1時間反応させることによって抗ヒト抗体固定プレートが作製された。血漿中濃度3.20、1.60、0.800、0.400、0.200、0.100、および0.0500 μg/mLの抗ヒトIL-8抗体を含む検量線用試料と100倍以上に希釈されたマウス血漿測定用試料が調製された。各試料は、ヒトIL-8と混合された後に抗ヒト抗体固定化プレートの各ウェルに50 μLで分注されて、室温で1時間撹拌された。ヒトIL-8の終濃度は333 ng/mLとなるよう調製された。
その後、前記プレートに、マウスIgGの定常領域を含む抗ヒトIL-8抗体(社内調製品)を加え、室温で1時間反応させた。さらにSULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したAnti-Mouse IgG(BECKMAN COULTER)を前記プレートに加えて1時間反応させた後、Read Buffer T(×1)(Meso Scale Discovery)を当該プレートに分注し、ただちにSECTOR Imager 2400 (Meso Scale Discovery)で測定を行った。抗ヒトIL-8抗体濃度は検量線のレスポンスに基づいて解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。
結果として得られた、マウス血漿中の抗体濃度を図31に、またそれぞれの条件における抗体のクリアランスを表24に示す。
H1009/L395-F1942mとヒトIL-8との複合体の細胞内への取り込み速度がH1009/L395-F1942mの取り込み速度よりも少なくとも2.2倍に上昇していることが示された。なお、ここで「少なくとも2.2倍」と表記したのは、実際には5倍、10倍、あるいは30倍といった数値である可能性の一つとして以下のような理由も挙げられるからである。マウス血漿中からのヒトIL-8の消失速度は、H1009/L395-F1942mの消失速度に比べて非常に早いため、血漿中においてヒトIL-8が結合したH1009/L395-F1942mの割合は、投与後速やかに低下してしまう。つまり、ヒトIL-8と同時に投与した場合においても、血漿中に存在するH1009/L395-F1942mの全てがヒトIL-8に結合した状態にあるわけではなく、むしろ、投与後7時間程度の時点で既に、大半は遊離型として存在することになる。そのような条件で取り込み速度の評価が実施されているために、H1009/L395-F1942mとヒトIL-8との複合体の細胞内取り込み速度がH1009/L395-F1942mの取り込み速度よりも、実際には5倍、10倍、あるいは30倍増大していたとしても、この実験系においてはその一部のみが結果に反映されるため、2.2倍程度の効果として示されてしまう可能性も生じ得る。つまり、ここで得られた結果から、H1009/L395とIL-8との複合体の細胞内への取り込み速度は、インビボでの実際のH1009/L395の細胞内への取り込み速度よりも増加することが示されたが、一方で、その効果が2.2倍といった数値に何ら限定されるものではない。
特に限定はされないが、これまで得られた知見から、次のような解釈を行うこともできる。pH依存的IL-8結合抗体であるH1009/L395は、ヒトIL-8と複合体を形成すると、その複合体は、抗体単独で存在する場合と比べて、より等電点が高く、正電荷に偏った状態となる。同時に、その複合体の細胞外マトリックスへの親和性が抗体単独の親和性よりも増大している。等電点の上昇や、細胞外マトリックスへの結合増強といった性質は、インビボで、細胞内への抗体の取り込みを促進させる因子として考えることができる。更に、マウスを用いた実験から、H1009/L395とヒトIL-8との複合体の細胞内への取り込み速度がH1009/L395の取り込み速度よりも2.2倍以上に増大することが示された。以上のことから、理論的な説明付けとインビトロでの性質、インビボでの現象とが一貫して、H1009/L395がヒトIL-8と複合体を形成して、細胞内への取り込みが促進され、ヒトIL-8の消失を顕著に増加させている仮説を支持している。
これまでにも、IL-8に対する抗体はいくつか報告があるが、IL-8との複合体を形成したときの細胞外マトリックスへの結合親和性の増大や、前記複合体の細胞内への取り込みの増加はこれまでに報告がない。
また、抗IL-8抗体の細胞内への取り込みの増加がIL-8との複合体を形成したときに見られるということに基づいて、血漿中においてIL-8と複合体を形成した抗IL-8抗体は速やかに細胞内に取り込まれる一方で、IL-8との複合体を形成していない遊離型の抗体は、細胞内には取り込まれずに滞留しやすいと考えることも可能である。この場合、抗IL-8抗体がpH依存性であるときは、一旦細胞内に取り込まれた抗IL-8抗体が細胞内でIL-8分子を解離後に再び細胞外に戻り、別なIL-8分子と結合することが可能となることから、複合体形成時の細胞内への取り込み増加は、IL-8をより強く除去するという更なる効果を有すると考えることも可能である。すなわち、細胞外マトリックスへの結合が増大した抗IL-8抗体や細胞内取り込みが増加した抗IL-8抗体を選択することも、開示Cの別の実施態様であると考えられる。
〔実施例17〕 pH依存的IL-8結合抗体H1009/L395のin silicoシステムを用いる免疫原性予測
次に、H1009/L395について、実施例13−1と同様の方法で、免疫原性スコアおよびADA発生頻度の予測を行った。その結果を表25および図32に示す。なお、図32において、H1009/L395は、「H1009L395」と表記されている。
表25の結果から、H1009/L395は、H1004/L395と同程度に、免疫原性スコアが低いことが示されている。また、図32の結果から、H1009/L395において予測されたADA発生頻度は0%であり、こちらもH1004/L395と同様であった。
以上のことから、H1009/L395において予測される免疫原性は、公知の抗ヒトIL-8抗体であるhWS-4と比較して、大幅に低下していた。このことから、H1009/L395はヒトにおける免疫原性が極めて低く、長期にわたって安定して、抗IL-8中和活性を持続することが可能であると考えられる。
〔実施例18〕 酸性pH条件下におけるFcRn結合能を増強させたH89/L118改変体を用いたカニクイザルPKアッセイ
これまでの実施例に記載の通り、pH依存的IL-8結合抗体H1009/L395は、天然型IgG1を定常領域として有する場合において、非常に優れた性質を有する抗体である。しかしながら、アミノ酸置換を定常領域に含む抗体、例えば実施例5で例示された、酸性pHにおけるFcRn結合を増強させたFc領域を含む抗体としても利用可能である。そこで、酸性pHにおけるFcRn結合を増強させたFc領域がpH依存的IL-8結合抗体においても機能することを、H89/L118を用いて確認した。
(18−1)酸性pHにおけるFcRn結合を増強させたH89/L118のFc領域改変抗体の作製
H89/L118のFc領域に対して、実施例5-1に記載の、各種FcRn結合増強改変を導入した。具体的には、H89-IgG1のFc領域に対して、F1847m、F1848m、F1886m、F1889m、F1927m、およびF1168mに用いられている改変を導入して、以下の改変体を作製した。
(a)重鎖としてH89-IgG1m(配列番号:94)および軽鎖としてL118-K0MTを含むH89/L118-IgG1、
(b)重鎖としてH89-F1168m(配列番号:95)および軽鎖としてL118-K0MTを含むH89/L118-F1168m、
(c)重鎖としてH89-F1847m(配列番号:96)および軽鎖としてL118-K0MTを含むH89/L118-F1847m、
(d)重鎖としてH89-F1848m(配列番号:97)および軽鎖としてL118-K0MTを含むH89/L118-F1848m、
(e)重鎖としてH89-F1886m(配列番号:98)および軽鎖としてL118-K0MTを含むH89/L118-F1886m、
(f)重鎖としてH89-F1889m(配列番号:99)および軽鎖としてL118-K0MTを含むH89/L118-F1889m、および
(g)重鎖としてH89-F1927m(配列番号:100)および軽鎖としてL118-K0MTを含むH89/L118-F1927m。
これらの抗体を用いたカニクイザルPKアッセイを、次に示す方法で実施した。
(18−2)新規Fc領域改変体を含む抗体のカニクイザルPKアッセイ
カニクイザルに、抗ヒトIL-8抗体を投与した後の抗ヒトIL-8抗体の体内動態を評価した。抗ヒトIL-8抗体溶液を2 mg/kgで単回静脈内投与した。投与5分後、4時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、10日後、14日後、21日後、28日後、35日後、42日後、49日後、および56日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで10分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-60℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
カニクイザル血漿中の抗ヒトIL-8抗体濃度は電気化学発光法によって測定された。まず、Anti-hKappa Capture Ab(Antibody Solutions)がMULTI-ARRAY 96-well Plate(Meso Scale Discovery)に分注され、室温で1時間撹拌された。その後、5% BSA(w/v)を含むPBS-Tween溶液を用いて室温で2時間ブロッキングすることで抗ヒト抗体固定化プレートが作製された。血漿中濃度40.0、13.3、4.44、1.48、0.494、0.165、および0.0549 μg/mLの抗ヒトIL-8抗体を含む検量線用試料と500倍以上に希釈されたカニクイザル血漿測定用試料が調製され、抗ヒト抗体固定化プレートの各ウェルに当該溶液50μLが分注されてから、室温で1時間撹拌された。その後、前記プレートに、Anti-hKappa Reporter Ab, Biotin conjugate(Antibody Solutions)を加え、室温で1時間反応させた。さらにSULFO-TAG Labeled Streptavidin(Meso Scale Discovery)を加えて室温で1時間反応させた後、Read Buffer T(×1)(Meso Scale Discovery)を当該プレートに分注し、ただちにSECTOR Imager 2400(Meso Scale Discovery)で測定を行った。抗ヒトIL-8抗体濃度は検量線のレスポンスに基づいて解析ソフトウェアSOFT Max PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。
結果として得られた各抗体の半減期(t1/2)およびクリアランス(CL)を表26に、カニクイザル血漿中抗体濃度推移を図33にそれぞれ示す。
以上の結果から、いずれのFc領域改変体も、天然型IgG1のFc領域を有する抗体に比べて長期間の血漿中滞留性が確認された。特に、H89/L118-F1886mが最も望ましい血中動態を示した。
〔実施例19〕 FcγRに対する結合能を低下させたFc領域
天然型ヒトIgG1は、そのFc領域が各種の免疫系細胞上のFcγ受容体(以下、FcγRと表記する)と結合して、対象とする細胞に対してADCCやADCPといったエフェクター機能を示すことが知られている。
一方、IL-8は可溶型サイトカインであり、医薬品として使用される抗IL-8抗体は、主に、IL-8が過剰に存在している部位においてその機能を中和して、薬理作用を示すことが期待される。このようなIL-8が過剰に存在している部位としては、特に限定はされないが、例えば炎症部位が想定され得る。一般的に、このような炎症部位においては、各種免疫細胞が集まり、なおかつ活性化されていることが知られている。これらの細胞にFc受容体を介して意図せぬ活性化シグナルを伝達することや、意図せぬ細胞に対してADCC、ADCPといった活性を誘導することは、必ずしも好ましくはない。そのため、特に限定はされないが、安全性の観点からは、インビボ投与される抗IL-8抗体は、FcγRに対して低い親和性を有することが好ましいと考えられ得る。
(19−1)FcγRに対する結合を低下させた改変抗体の作製
各種のヒトおよびカニクイザルFcγRに対する結合能を低下させることを目的として、H1009/L395-F1886mのFc領域に対して更にアミノ酸改変を導入した。具体的には、重鎖であるH1009-F1886mに対して、EUナンバリングで表される235位のLをRに、236位のGをRに、および239位のSをKに、それぞれ置換を行ってH1009-F1886s(配列番号:81)を作製した。同様に、H1009-F1886mに対して、EUナンバリングで表される235位のLをRに、および236位のGをRに置換し、さらにEUナンバリングで表される327位から331位までの領域をヒト天然型IgG4配列のものと置換して、H1009-F1974m(配列番号:80)を作製した。これらの重鎖と、軽鎖としてL395-k0MTを有する抗体として、H1009/L395-F1886sおよびH1009/L395-F1974mを作製した。
(19−2)各種ヒトFcγRに対する親和性の確認
次に、H1009/L395-F1886sまたはH1009/L395-F1974mの、ヒトまたはカニクイザルの可溶型FcγRIaまたはFcγRIIIaに対する親和性を、次に示す方法で確認した。
H1009/L395-F1886sまたはH1009/L395-F1974mの、BIACORE T200(GE Healthcare)を用いた、ヒトまたはカニクイザルの可溶型FcγRIaまたはFcγRIIIaの結合についてのアッセイを行った。ヒトおよびカニクイザルそれぞれの可溶型FcγRIaおよびFcγRIIIaは、当業者に公知の方法でHisタグを付与した分子形として作製した。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でrProtein L (BioVision)を適当量固定し、目的の抗体を捕捉した。次に、可溶型FcγRIaあるいはFcγRIIIaとランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体に相互作用させた。なお、ランニングバッファーはHBS-EP+(GE Healthcare)を用い、可溶型FcγRIaあるいはFcγRIIIaの希釈にもHBS-EP+が用いられた。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH 1.5が用いられた。測定は全て20℃で実施された。
結果を図34に示す。ここで、ヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIIa、カニクイザルFcγRIa、カニクイザルFcγRIIIaの順に、hFcγRIa、hFcγRIIIa、cynoFcγRIa、cynoFcγRIIIaと記載されている。H1009/L395-F1886mはいずれのFcγRに対しても結合することが示されたのに対して、H1009/L395-F1886sおよびH1009/L395-F1974mは、いずれのFcγRに対しても結合しないことが確認された。
(19−3)Fc改変体のマウスIL-8消失アッセイ
次に、H1009/L395-F1886sおよびH1009/L395-F1974mについて、マウスにおけるヒトIL-8消失速度および抗体の血漿中滞留性を、以下に示す実験で確認した。なお、ここでは、H1009/L395-F1886sの抗体投与量を増加させることによる影響も含めて評価するために、H1009/L395-F1886sに関しては投与量を2 mg/kg、5 mg/kg、および10 mg/kgの3点を用いて評価を行った。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. 602:93-104 (2010))に、ヒトIL-8と、抗ヒトIL-8抗体を同時に投与した後のヒトIL-8の体内動態を評価した。ヒトIL-8(10 μg/mL)と、抗ヒトIL-8抗体(200 μg/mL、500 μg/mLまたは1000 μg/mL)の混合溶液を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、ヒトIL-8に対して抗ヒトIL-8抗体は十分量過剰に存在することから、ヒトIL-8はほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与5分後、2時間後、4時間後、7時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、14日後、21日後、および28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
マウス血漿中のヒトIL-8濃度測定は、実施例11と同様の方法で実施した。結果として得られた、血漿中ヒトIL-8濃度のデータを図35に、またマウス血漿中からのヒトIL-8クリアランス(CL)の数値を表27に示す。
まず、2 mg/kgの投与群の比較において、天然型IgG1のFc領域を含むH1009/L395と、改変Fc領域を含むH1009/L395-F1886sは、同等のヒトIL-8消失効果を有することが示された。
次に、H1009/L395-F1886sの抗体投与量を変化させた場合は、投与後1日の時点での血漿中IL-8濃度には若干の差が見られたものの、ヒトIL-8クリアランスの値としては投与量2 mg/kgと10 mg/kgとで有意な差は見られなかった。このことは、H1009/L395の可変領域を含む抗体は、高用量で投与された場合でも十分なIL-8消失効果を示すことを強く示唆する。
(19−4)Fc改変体のカニクイザルPKアッセイ
次に、H1009/L395-F1886sまたはH1009/L395-F1974mを用いて、カニクイザルにおける抗体の血漿中滞留性を以下に示す方法で検証した。
カニクイザルに、抗ヒトIL-8抗体を単独で投与した場合、またはヒトIL-8および抗ヒトIL-8抗体を同時に投与した場合の、抗ヒトIL-8抗体の体内動態を評価した。抗ヒトIL-8抗体溶液(2 mg/mL)または、ヒトIL-8(100 μg/kg)および抗ヒトIL-8抗体(2 mg/kg)の混合溶液を1 mL/kgで単回静脈内投与した。投与5分後、4時間後、1日後、2日後、3日後、7日後、10日後、14日後、21日後、28日後35日後、42日後、49日後、および56日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで10分遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-60℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
カニクイザル血漿中の抗ヒトIL-8抗体濃度の測定は、実施例18の方法で実施した。結果として得られた、血漿中抗ヒトIL-8抗体濃度のデータを図36に、またカニクイザル血漿中からの抗ヒトIL-8抗体の半減期(t1/2)およびクリアランス(CL)の数値を表28に示す。
まず、天然型ヒトIgG1のFc領域を有するHr9およびH89/L118と比較して、機能が改良されたFc領域を有するH1009/L395-F1886sは、血漿中滞留性が有意に延長されていることが示された。
更に、H1009/L395-F1886sは、ヒトIL-8と同時に投与された場合においても、当該抗体が単独で投与された場合と同等の血漿中濃度推移を示した。特に限定されることはないが、このことから、次のように考察することも可能である。先述の通り、H1009/L395とヒトIL-8との複合体の細胞内への取り込みはH1009/L395単独の取り込みよりも増加していることが示されている。一般的に、高分子量のタンパク質は、非特異的あるいは受容体依存的に細胞内に取り込まれた後、ライソソームへと移行し、ライソソームに存在する各種の分解酵素によって分解されると考えられている。そのため、当該タンパク質の細胞内への取り込み速度が上昇すれば、その血漿中滞留性も悪化する方向に進むことが考えられる。しかしながら、抗体の場合は、エンドソーム内に存在するFcRnによって血漿中へと戻される性質を有するため、FcRnによるサルベージが十分に機能している限りにおいて、細胞内取り込み速度が増加した場合においても、血漿中滞留性には影響しないことが考えられる。ここで、H1009/L395-F1886sは、ヒトIL-8と同時にカニクイザルに投与された場合においても、血漿中滞留性への影響は見られなかった。このことは、H1009/L395-F1886sは、抗体の細胞内取り込み速度は増加しても、FcRnによって十分にサルベージされ、血漿中へと戻ってくることができている可能性を示している。
更に、もう一種類のFc改変体であるH1009/L395-F1974mも、H1009/L395-F1886sと同等の血漿中滞留性を示していた。先述の通り、これらのFc改変体は各種FcγRへの結合能を低下させるための改変として、異なるものが導入されているが、それらは抗体自身の血漿中滞留性に影響を与えることがないことを示している。以上のことから、H1009/L395-F1886sおよびH1009/L395-F1974mのいずれも、カニクイザルにおける血漿中滞留性は、天然型IgG1のFc領域を有する抗体と比較して顕著に改善し、極めて良好であることが示された。
以上の実施例から示されたように、H1009/L395は、pH依存的IL-8結合能と、またIL-8との複合体が細胞内に速やかに取り込まれるという特徴とを含むことにより、ヒトIL-8のインビボでの消失速度を顕著に上昇させる抗体として、初めて実現されたものである。更に、中性pH条件下におけるこの抗体のIL-8への結合親和性もまた公知のhWS-4抗体と比較すると上昇しており、この抗体は、血漿中などの中性pH条件下において、より強くヒトIL-8を中和することが可能である。加えて、血漿中の条件下において優れた安定性を有し、インビボ投与された後もIL-8中和活性が低下しない抗体である。また、hWS-4と比較すると産生量が大幅に改善したHr9に基づいて作製されたH1009/L395は、産生量の観点から製造に適した抗体となっている。更には、in silicoの免疫原性予測では、その免疫原性は非常に低いスコアを示しており、該スコアは公知のhWS-4抗体や既存の市販抗体のいくつかと比較しても大幅に低い。即ち、H1009/L395はヒトにおいてADAをほとんど生じさせず、長期にわたって安全に使用することが可能であることが期待される。したがって、H1009/L395は、公知の抗ヒトIL-8抗体と比較して、様々な観点からの改善が示された抗体であり、医薬品として非常に有用である。
天然型IgGのFc領域を有するH1009/L395は、上記の通りに十分に有用であるが、機能が改良されたFc領域を含むH1009/L395の改変体もまた、その有用性が高められた抗体として適宜使用することが可能である。具体的には、酸性pH条件下におけるFcRn結合を増大させ、血漿中滞留性を延長し、より長期間にわたり効果を持続することが可能である。また、FcγRへの結合能を低下させる改変が導入されたFc領域を含む改変体は、投与された生体内での意図せぬ免疫細胞活性化や細胞傷害活性の発生を回避するための、安全性の高い治療用抗体として使用することが可能である。このようなFc改変体としては、当明細書中で実施されたF1886sあるいはF1974mを用いることが特に好ましいが、これらのFc改変体に限定されるということはなく、Fc改変体が同様の機能を有している限り、他の改変Fc領域を含む治療用抗体も開示Cの一態様として使用される。
結果として、当該発明者らが鋭意研究を行って作製されたH1009/L395-F1886sおよびH1009/L395-F1974mを含む開示Cの抗体は、長期間にわたって、かつ安全に、ヒトIL-8の生物学的活性を強く阻害する状態を維持することが可能である。本明細書において、既存の抗IL-8抗体では達成し得ないレベルが実現され、開示Cのこれらの抗体は、極めて完成度の高い抗IL-8抗体医薬品として、その使用が期待される。
〔実施例20〕 抗第IXa/X因子二重特異性抗体
WO2012/067176に開示されたヒト化抗第IXa/X因子二重特異性抗体は、ヒト第IXa因子および第X因子に結合し、血液の共凝集活性を誘導する。本実施例においては、WO2012/067176に記載されたヒト化抗第IXa/X因子二重特異性抗体であるF8M(Q499-z121/J327-z119/L404-k: H鎖(配列番号:330)/H鎖(配列番号:331)共通のL鎖(配列番号:332))を利用し、F8Mは2本の異なるH鎖と2本の同一の共通するL鎖を含む。F8Mは、WO2012/067176の実施例に記載された方法によって作製した。
(20−1)抗第IXa/X因子二重特異性抗体の作製
F8Mに基づく抗第IXa/X因子二重特異性抗体として、以下の3種類の抗体を、参照実施例2の方法によって作製した。
(a)重鎖としてF8M-F1847mv1(配列番号:323)およびF8M-F1847mv2(配列番号:324)ならびに軽鎖としてF8ML(配列番号:325)を含む、通常型の抗体であるF8M-F1847mv;
(b)重鎖としてF8M-F1868mv1(配列番号:326)およびF8M-F1868mv2(配列番号:327)ならびに軽鎖としてF8ML(配列番号:325)を含む、通常型の抗体であるF8M-F1868mv;ならびに
(c)重鎖としてF8M-F1927mv1(配列番号:328)およびF8M-F1927mv2(配列番号:329)ならびに軽鎖としてF8ML(配列番号:325)を含む、通常型の抗体であるF8M-F1927mv。
重鎖配列は、FcRn 結合の増大およびリウマトイド因子結合の減少に関して上述の実施例5で言及されたのと同じFc改変体配列を以下のように含む。
(20−2)カニクイザルにおけるモノクローナル抗体F8M-F1847mv、F8M-F1868mv、およびF8M-F1927mvの薬物動態試験
雄のカニクイザルへの用量0.6 mg/kgの単回静脈内ボーラス投与を行った後、モノクローナル抗体F8M-F1847mv、F8M-F1868mv、およびF8M-F1927mvの薬物動態をそれぞれ評価した。F8M-F1847mv、F8M-F1868mv、およびF8M-F1927mvの血漿濃度を、サンドイッチELISAにより決定した。薬物動態パラメーターは、WinNonlin ver 6.4ソフトウェアを用いて算出した。表30に示されるように、F8M-F1847mv、F8M-F1868mv、およびF8M-F1927mvの半減期は、それぞれ29.3日、54.5日、および35.0日であった。別の日に、カニクイザルを用いて用量6 mg/kgでF8MのPK試験を行い、半減期が19.4日であることを見出した。F8M-F1847mv、F8M-F1868mv、およびF8M-F1927mvの半減期はF8Mよりも長いことが明らかになった。これにより、上述の実施例5で言及されたのと同じFc領域配列改変によって抗第IXa/X因子二重特異性抗体の半減期を延長できたことが示唆される。
〔実施例21〕pI上昇Fab改変体を用いた血漿からのIgEのクリアランスの評価
ヒトIgEのクリアランスを増大させるため、本実施例においては、pH依存的抗原結合抗体を用いて抗体のFab部分におけるpI上昇置換を評価した。抗体可変領域にアミノ酸置換を加えてpIを上昇させる方法は特に限定されないが、例えば、WO2007/114319またはWO2009/041643に記載の方法により実施可能である。可変領域に導入するアミノ酸置換としては、負電荷を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸)の数を減らす一方で、正電荷を有するアミノ酸(例えば、アルギニンおよびリジン)を増やすものが好ましい。また、アミノ酸置換は、抗体可変領域のいかなる位置に導入されてもよい。特に限定されないが、アミノ酸置換の導入部位としては、抗体分子の表面にアミノ酸側鎖が露出し得る位置が好ましい。
(21−1)可変領域のアミノ酸の改変によりpIを上昇させた抗体の作製
試験した抗体は、表32および33にまとめられている。
pIを上昇させる置換H32RをAb1H(配列番号:38)に導入することにより、重鎖Ab1H003(H003とも呼ばれる、配列番号:144)を調製した。表32に示した各置換を、参照実施例1に示す方法に従ってAb1Hに導入することにより、他の重鎖改変体も調製した。全ての重鎖改変体は、軽鎖としてAb1L(配列番号:39)と共に発現させた。この抗体のpH依存的結合プロフィールは、表5(Ab1)にまとめている。
同様に、本発明者らは軽鎖における、pIを上昇させる置換も評価した。
pIを上昇させる置換G16KをAb1Lに導入することにより、軽鎖Ab1L001T(L001とも呼ばれる、配列番号:164)を調製した。表33に示した各置換を、参照実施例1に示す方法に従ってAb1Lに導入することにより、他の軽鎖改変体も調製した。全ての軽鎖改変体は、重鎖としてAb1Hと共に発現させた。
(21−2)pI上昇改変体を用いた、BIACOREによるヒトFcγRIIb結合アッセイ
作製されたFc領域改変体を含む抗体に関して、BIACORE T200(GE Healthcare)を用いて、可溶型ヒトFcγRIIbと抗原-抗体複合体との結合アッセイを行った。可溶型ヒトFcγRIIb(NCBI accession NM_004001.3)は、当技術分野で公知の方法でHisタグを付与した分子形として作製した。センサーチップCM5(GE Healthcare)上にHis capture kit(GE Healthcare)を用いてアミンカップリング法で抗His抗体を適当量固定し、ヒトFcγRIIbを捕捉した。次に、抗体-抗原複合体とランニングバッファー(参照溶液として)をインジェクトし、センサーチップ上に捕捉されたヒトFcγRIIbと相互作用させた。ランニングバッファーには20 mM N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸、150 mM NaCl、1.2 mM CaCl2、および0.05% (w/v) Tween20、pH7.4を用い、可溶型ヒトFcγRIIbの希釈にもそれぞれの緩衝液が使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたbinding(RU)に基づいて解析を行い、Ab1H/Ab1L(元のAb1)の結合量を1.00とした場合の相対値で示す。パラメーターの算出には BIACORE T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
SPR解析の結果を表32および表33にまとめている。いくつかの改変体において、BIACOREのセンサーチップ上に固定されたヒトFcγRIIbに対する結合性が増大していることが示された。
可変領域にpIを上昇させる改変を導入することにより作製した抗体とは、改変を導入する前と比較して、可変領域がより多くの正電荷を有している抗体である。そのため、可変領域(正電荷)とセンサーチップ表面(負電荷)のクーロン相互作用が、pIを上昇させるアミノ酸改変によって強まっていると考えられる。さらに、そのような効果は、同じく負電荷を有する細胞膜表面においても同様に起こることが期待されることから、これらはインビボでの細胞内への取り込み速度を加速する効果を示すことも期待される。
ここで、元のAb1のhFcγRIIbへの結合と比較して改変体のhFcγRIIbへの結合が約1.2倍以上であれば、センサーチップ上のhFcγRIIbへの抗体の結合に対して強い荷電効果を有するとみなされた。
pI上昇重鎖改変体の中で、Q13K、G15R、S64K、T77R、D82aN、D82aG、D82aS、S82bR、E85G、またはQ105R置換(Kabatナンバリングで表される)を単独でまたは組み合わせて有する抗体は、hFcγRIIbへのより強い結合を示した。重鎖におけるこの単一アミノ酸置換またはこれらの置換の組み合わせは、センサーチップ上のhFcγRIIbへの結合に対して強い荷電効果を有すると推定される。したがって、抗体の重鎖可変領域にpIを上昇させる改変を導入することによってインビボでの細胞内への取り込み速度あるいは取り込み率を加速する効果を示すことが期待される1つまたは複数の位置には、例えば、Kabatナンバリングで表される13位、15位、64位、77位、82a位、82b位、85位、および105位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換はアスパラギン、グリシン、セリン、アルギニン、またはリジンであることができ、アルギニンまたはリジンであることが好ましい。
pI上昇軽鎖改変体の中で、G16K、Q24R、A25R、S26R、E27R、Q37R、G41R、Q42K、S52K、S52R、S56K、S56R、S65R、T69R、T74K、S76R、S77R、Q79K置換(Kabatナンバリングで表される)を単独でまたは組み合わせて有する抗体は、ヒトFcγRIIbへのより強い結合を示す。軽鎖におけるこの単一アミノ酸置換またはこれらの置換の組み合わせは、センサーチップ上のヒトFcγRIIbへの結合に対して強い荷電効果を有すると推定される。したがって、抗体の軽鎖可変領域にpIを上昇させる改変を導入することによってインビボでの細胞内への取り込み速度あるいは取り込み率を加速する効果を示すことが期待される1つまたは複数の位置には、例えば、Kabatナンバリングで表される16位、24位、25位、26位、27位、37位、41位、42位、52位、56位、65位、69位、74位、76位、77位、および79位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換は、アルギニンまたはリジンであることができる。
(21−3)pI上昇Fab領域改変体を含む抗体の細胞取り込み
作製されたFab領域改変体を含む抗体を用いて、hFcγRIIb発現細胞株への細胞内取り込み速度を評価するために、上記(4−5)と同様のアッセイを実施し、ただし、取り込まれた抗原量はAb1H/Ab1L(元のAb1)の値を1.00とした際の相対値で表した。
細胞取り込みの定量的結果を、表32および33にまとめる。いくつかのFc改変体において、細胞内における抗原由来の強い蛍光が観察された。ここで、元のAb1の蛍光強度と比較して改変体の細胞内に取り込まれた抗原の蛍光強度が約1.5倍以上であれば、細胞内に取り込まれた抗原に対して強い荷電効果を有するとみなされた。
pI上昇重鎖改変体の中で、P41R、G44R、T77R、D82aN、D82aG、D82aS、S82bR、またはE85G置換(Kabatナンバリングで表される)を単独でまたは組み合わせて有する抗体は、細胞内へのより強い抗原取り込みを示した。重鎖におけるこの単一アミノ酸置換またはこれらの置換の組み合わせは、細胞内への抗原-抗体複合体取り込みに対して強い荷電効果を有すると推定される。したがって、抗体の重鎖可変領域にpIを上昇させる改変を導入することによって細胞内への抗原-抗体複合体の取り込みをより早くまたはより高頻度で引き起こすことが期待される1つまたは複数の位置には、例えば、Kabatナンバリングで表される41位、44位、77位、82a位、82b位、または85位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換はアスパラギン、グリシン、セリン、アルギニン、またはリジンであることができ、アルギニンまたはリジンであることが好ましい。
pI上昇軽鎖改変体の中で、G16K、Q24R、A25R、A25K、S26R、S26K、E27R、E27Q、E27K、Q37R、G41R、Q42K、S52K、S52R、S56R、S65R、T69R、T74K、S76R、S77R、またはQ79K置換(Kabatナンバリングで表される)を単独でまたは組み合わせて有する抗体は、細胞内へのより強い抗原取り込みを示した。軽鎖におけるこの単一アミノ酸置換またはこれらの置換の組み合わせは、細胞内への抗原-抗体複合体取り込みに対して強い荷電効果を有すると推定される。4つ以上のアミノ酸置換を有する改変体は、それより少ないアミノ酸置換を有する改変体よりも強い荷電効果を示す傾向がある。抗体の軽鎖可変領域にpIを上昇させる改変を導入することによって細胞内への抗原−抗体複合体の取り込みをより早くまたはより高頻度で引き起こすことが期待される1つまたは複数の位置には、例えば、Kabatナンバリングで表される16位、24位、25位、26位、27位、37位、41位、42位、52位、56位、65位、69位、74位、76位、77位、または79位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換はグルタミン、アルギニン、またはリジンであることができ、アルギニンまたはリジンであることが好ましい。
特定の理論に拘束されるわけではないが、この結果は以下のように説明することが可能である。細胞培養液中に添加した抗原と抗体は、培養液中において抗原-抗体複合体を形成する。抗原-抗体複合体は、抗体のFc領域を介して細胞膜上に発現したヒトFcγRIIbに結合し、受容体依存的に細胞へと取り込まれる。この実験に使用された抗体はpH依存的に抗原に結合するので、細胞内のエンドソーム中(酸性pH条件)において、該抗体は該抗原から解離することが可能である。解離された抗原はライソソームに輸送されて蓄積するので、細胞内で蛍光を発する。従って、細胞内における蛍光強度が強いということは、抗原-抗体複合体の細胞内取り込みがより速くまたはより高頻度で起こっていることを示していると考えられる。
(21−4)マウス同時投与モデルにおけるヒトIgEのクリアランスの評価
いくつかのpH依存的抗原結合抗IgE抗体(元のAb1、Ab1H/Ab1L013、Ab1H/Ab1L014、Ab1H/Ab1L007)をマウス同時投与モデルにおいて試験し、それらが血漿からのIgEのクリアランスを早める能力を評価した。同時投与モデルにおいては、C57BL6Jマウス(Jackson Laboratories)に、抗IgE抗体と予め混合したIgEを単回静脈内投与によってそれぞれ投与した。全ての群に、1.0 mg/kg の抗IgE抗体を含む0.2 mg/kgのIgEを投与した。血漿中のIgE濃度の合計は、抗IgE ELISAによって決定した。まず、抗ヒトIgE(クローン107、MABTECH)をマイクロウェルプレート(Nalge nunc International)に分注し、室温で2時間または4℃で1晩静置して、抗ヒトIgE抗体固定化プレートが作製された。検量線試料および試料を過剰量の抗IgE抗体(社内で調製)と混合して、均一な構造の免疫複合体を形成させた。これらの試料を抗ヒトIgE抗体固定化プレートに添加し、4℃で1晩静置した。次に、これらの試料をヒトGPC3コアタンパク質(社内で調製)、ビオチン化抗GPC3抗体(社内で調製)、Streptavidin Poly HRP80 Conjugate(Stereospecific Detection Technologies)と、1時間にわたり順番に反応させた。その後、SuperSignal(登録商標)ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)を添加した。SpectraMax M2(Molecular Devices)を用いて化学発光を読み取った。ヒトIgEの濃度を、SOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出した。図37は、C57BL6Jマウスにおける血漿中IgE濃度の時間プロファイルを記載している。
pI上昇pH依存的抗原結合Fab改変体の投与後の、血漿中の総IgE濃度は、元のAb1よりも低かった。これらの結果は、pIが高いpH依存的抗原結合改変体の抗原-抗体免疫複合体がより強力にFcγRなどの細胞膜受容体に結合でき、それにより抗原-抗体免疫複合体の細胞性取り込みが増大することを示している。細胞に取り込まれた抗原は、エンドソーム内部で抗体から効果的に放れることができ、これにより、IgEの消失が早まる。インビトロ試験で弱い効果を示したAb1H/Ab1L007で処置されたマウスのIgE濃度は、他のpI上昇Fab改変体を含む抗体よりも高かった。これらの結果は、インビボでの血漿からの抗原のクリアランスの評価の推定に関して、InCell Analyzer 6000による蛍光強度を用いる上記のインビトロシステムの感度は、上記のインビトロBIACOREシステム よりも高い可能性があることも示唆している。
〔実施例22〕pI上昇Fab改変体を用いた血漿からのC5のクリアランスの評価
ヒトIgEのクリアランスを増大させるため、本実施例においては、pH依存的抗原結合抗体を用いて抗体のFab部分におけるpI上昇置換を評価した。
(22−1)C5の調製 [組換えヒトC5の発現および精製]
組換えヒトC5(NCBI GenBankアクセッション番号:NP_001726.2、配列番号:207)を、FreeStyle293-F細胞系(Thermo Fisher, Carlsbad, CA, USA)を用いて一過的に発現させた。ヒトC5を発現する馴化培地を等量のミリQ水で希釈した後、Q-sepharose FFまたはQ-sepharose HP陰イオン交換カラム(GE healthcare, Uppsala, Sweden)にアプライし、続いてNaCl勾配による溶出を行った。ヒトC5を含む画分をプールした後、塩濃度およびpHをそれぞれ80mM NaClおよびpH6.4に調整した。得られた試料を、SP-sepharose HP陽イオン交換カラム(GE healthcare, Uppsala, Sweden)に適用し、NaCl勾配により溶出させた。ヒトC5を含む画分をプールし、CHT ceramic Hydroxyapatiteカラム(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)に供した。次にヒトC5溶出液をSuperdex 200ゲル濾過カラム(GE healthcare, Uppsala, Sweden)にアプライした。ヒトC5を含む画分をプールし、-150℃で保存した。試験には、社内調製した組換えヒトC5または血漿由来のヒトC5(CALBIOCHEM, Cat#204888)のいずれかを用いた。
組換えカニクイザルC5(NCBI GenBankアクセッション番号:XP_005580972、配列番号:208)の発現および精製は、ヒト対応物と全く同じ方法で行った。
(22−2)合成カルシウムライブラリの調製
合成ヒト重鎖ライブラリとして使用した抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリは、10種の重鎖ライブラリからなるものであった。生殖細胞系フレームワークであるVH1-2、VH1-69、VH3-23、VH3-66、VH3-72、VH4-59、VH4-61、VH4-b、VH5-51、およびVH6-1が、このライブラリのために、ヒトB細胞のレパートリーにおける生殖細胞系列頻度およびV遺伝子ファミリーの生物物理学的特性に基づいて選択された。合成ヒト重鎖ライブラリはヒトB細胞の抗体レパートリーを模倣して抗体結合部位に多様性を持たせている。
抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリは、カルシウム結合モチーフを有するように設計され、かつ、ヒトB細胞の抗体レパートリーに倣って抗原認識に寄与しうる位置において多様化されている。抗原に対するカルシウム依存的結合性のための特徴を発揮する抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリの設計は、WO 2012/073992に記載されている。
(de Heard et al., Meth. Mol. Biol. 178:87-100 (2002))を参照して、重鎖可変領域ライブラリと軽鎖可変領域ライブラリの組み合わせをファージミドベクターに挿入し、ファージライブラリを構築した。ファージミドベクターのFabとpIIIタンパク質の間のリンカー領域に、トリプシン分解部位を導入した。Fabディスプレイファージの調製のため、gene IIIのN2とCTドメインの間にトリプシン分解部位を有する改変M13KO7ヘルパーファージを用いた。
(22−3)カルシウム依存的抗C5抗体の単離
BSAおよびCaCl2をそれぞれ終濃度4%および1.2 mM含むTBSで、ファージディスプレイライブラリを希釈した。パニング法として、一般的なプロトコールを参照し従来の磁気ビーズ選択を適用した(Junutula et al., J. Immunol. Methods 332(1-2):41-52 (2008)、D'Mello et al., J. Immunol. Methods 247 (1-2):191-203 (2001) 、Yeung et al., Biotechnol. Prog. 18(2):212-220 (2002) 、Jensen et al., Mol. Cell Proteomics 2(2):61-69 (2003))。磁気ビーズとしてはNeutrAvidinでコーティングされたビーズ(NeutrAvidinでコーティングされたSera-Mag SpeedBeads)またはStreptavidin でコーティングされたビーズ(Dynabeads M-280 Streptavidin)を適用した。ヒトC5(CALBIOCHEM, Cat#204888)を、EZ-Link NHS-PEG4-Biotin(PIERCE, Cat No. 21329)で標識した。
第一ラウンドのファージ選択で、ファージディスプレイライブラリをビオチン化ヒトC5(312.5 nM)と共に室温で60分間インキュベートした。その後、結合Fab改変体を提示したファージを磁気ビーズを用いて捕捉した。
ビーズと共に室温で15分間インキュベートした後、ビーズを、1.2 mM CaCl2および0.1% Tween20を含む1 mLのTBSを用いて3回洗浄し、1.2 mM CaCl2を含む1 mLのTBSを用いて2回洗浄した。15分間、1 mg/mLのトリプシンを含むTBSにビーズを再懸濁することによって、ファージを溶出させた。溶出させたファージをER2738に感染させ、ヘルパーファージを用いてレスキューした。レスキューされたファージをポリエチレングリコールで沈殿させ、BSAおよびCaCl2をそれぞれ終濃度4%および1.2 mM含むTBSに再懸濁し、次のラウンドのパニングに使用した。
第一ラウンドのパニングの後、カルシウムイオン存在下で抗体がより強くC5に結合するカルシウム依存性に関して、ファージを選抜した。第二および第三ラウンドでは、50 nM(第二ラウンド)または12.5 nM(第三ラウンド)のビオチン化抗原を使用した以外は第一ラウンドと同じ様式でパニングを実施し、0.1 mL の溶出緩衝液(50mM MES, 2mM EDTA, 150mM NaCl, pH5.5)を用いて最後の溶出を行い、1μLの100 mg/mLトリプシンに接触させてカルシウム依存性に関する選抜を行った。選抜後、選抜されたファージクローンをIgG形態に転換した。
転換したIgG抗体のヒトC5に対する結合能を、以下の2種類の異なる条件下で評価した:Octet RED384システム(Pall Life Sciences)を用いた、30℃における1.2 mM CaCl2-pH 7.4(20 mM MES、150 mM NaCl、1.2 mM CaCl2)での結合と解離、および、1.2 mM CaCl2-pH 7.4(20 mM MES、150 mM NaCl、1.2 mM CaCl2)での結合と3μM CaCl2-pH 5.8(20 mM MES、150 mM NaCl、3μM CaCl2)での解離。25個のpH-カルシウム依存的抗原結合クローンを単離した。これらの抗体のセンサーグラムを図38に示す。
(22−4)抗C5二重特異性抗体の同定
実施例B-3で単離されたクローンから、pHまたはカルシウム依存的抗C5抗体クローン9個をさらなる解析のために選抜した(CFP0008、0011、0015、0016、0017、0018、0019、0020、0021)。抗体の物理化学的特性などの性質を改善するために、当業者に周知の方法によって、CFP0016重鎖可変領域にいくつかのアミノ酸置換を導入した。CFP0016の代わりに、CFP0016のこの改変体CFP0016H019をさらなる解析に用いた。これら9個の抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列を、表34に示す。この表において、括弧内に記載された名称は略称を表す。
抗体重鎖および軽鎖をコードするヌクレオチド配列を有する全長遺伝子を当業者に周知の方法によって合成し、調製した。重鎖および軽鎖を発現するベクターは、得られたプラスミド断片を哺乳動物細胞内での発現用のベクターに挿入することによって、調製した。得られた発現ベクターを、当業者に周知の方法によって配列決定した。抗体の発現のために、調製したプラスミドをFreeStyle293-F細胞株(Thermo Fisher Scientific)に一過的にトランスフェクトした。発現抗体の馴化培地からの精製は、rProtein A Sepharose Fast Flow(GE Healthcare)を使用し、当業者に周知の方法によって行った。
(22−5)pH依存的抗C5二重特異性抗体の作製および特徴決定
C5の2種類の異なるエピトープを認識する二重特異性抗体は、CFP0020とCFP0018の組み合わせによって作製された。二重特異性抗体は、抗体の各結合部位にFabの異なる2種類のクローンを有するIgG形式として調製され、当業者に周知の方法を用いて調製される。この二重特異性IgG抗体において、2種類の重鎖は、該2種類の重鎖のヘテロ二量体が効率的に形成されるように、互いに異なる重鎖定常領域(G1dP1、配列番号:227およびG1dN1、配列番号:228)を含む。抗C5 MAb「X」と抗C5 MAb「Y」の結合部位を含む抗C5二重特異性抗体を、「X//Y」と表す。
当業者に周知の方法によりいくつかのアミノ酸置換を重鎖および軽鎖CDRに導入することによって、本発明者らは、20//18の軽鎖共有化改変体を得、これを「最適化20//18」(2つの重鎖CFP0020H0261-G1dP1、配列番号:229とCFP0018H0012-G1dN1、配列番号:230、および共通の軽鎖CFP0020L233-k0、配列番号:231からなる)と名付けた。
組換えヒトC5に対する最適化20//18の反応速度パラメーターを、BIACORE T200機器(GE Healthcare)を用いて、37℃で、2種類の異なる条件下で評価した(例えば(A)pH 7.4で結合および解離、ならびに(B)pH 7.4で結合、pH 5.8で解離)。Series S CM4 (GE Healthcare, カタログ番号BR-1005-34)上にアミンカップリング法で、プロテインA/G(Pierce、カタログ番号21186)または抗ヒトIgG(Fc)抗体(Human Antibody Capture Kitに含まれる; GE Healthcare、カタログ番号BR-1008-39)を固定した。固定化分子に抗C5抗体を捕捉させた後、ヒトC5をインジェクトした。 使用したランニングバッファーはACES pH 7.4およびpH 5.8(20 mM ACES、150 mM NaCl、1.2 mM CaCl2、0.05% Tween 20)であった。BIACORE T200 Evaluation software、バージョン2.0 (GE Healthcare)を用いて、1:1結合 -RI(バルク効果調整なし)モデルとセンサーグラムをフィットさせることにより、両方のpH条件での反応速度パラメーターを決定した。反応速度パラメーターである、pH 7.4での結合速度(ka)、解離速度(kd)、および結合親和性(KD)、ならびに、各pH条件の解離フェーズでの算出のみにより決定した解離速度(kd)を、表35に記載する。最適化20//18は、ヒトC5に対するpH 7.4での解離速度と比べて、pH 5.8でより迅速な解離を示した。
(22−6)可変領域のアミノ酸の改変によりpIを上昇させた抗体の作製
試験した抗体は、表36および37にまとめられている。
pIを上昇させる置換P41R/G44RをCFP0020H0261-G1dP1(配列番号:229)に導入することにより、重鎖CFP0020H0261-001-G1dP1(20H001とも呼ばれる、配列番号:232)を調製した。同様に、pIを上昇させる置換T77R/E85RをCFP0018H0012-G1dN1(配列番号:230)に導入することにより、重鎖CFP0018H0012-002-G1dN1(18H002とも呼ばれる、配列番号:251)を調製した。表36に示した各置換を、参照実施例1に示す方法に従ってCFP0020H0261-G1dP1およびCFP0018H0012-G1dN1にそれぞれ導入することにより、他の重鎖改変体も調製した。重鎖改変体のCFP0020H0261-G1dP1改変体およびCFP0018H0012-G1dN1改変体の両方は、軽鎖としてCFP0020L233-k0(配列番号:231)と共に発現させ、二重特異性抗体を得た。
同様に、本発明者らは軽鎖における、pIを上昇させる置換も評価した。 pIを上昇させる置換G16KをCFP0020L233-k0に導入することにより、軽鎖CFP0020L233-001-k0(20L233-001とも呼ばれる、配列番号:271)を調製した。表37に示した各置換を、参照実施例1に示す方法に従ってCFP0020L233-k0に導入することにより、他の軽鎖改変体も調製した。全ての軽鎖改変体は、重鎖としてCFP0020H0261-G1dP1およびCFP0018H0012-G1dN1と共に発現させ、二重特異性抗体を得た。
(22−7)pI上昇改変体を用いた、BIACOREによるヒトFcγRIIb結合アッセイ
作製されたFc領域改変体を含む抗体に関して、BIACORE T200(GE Healthcare)を用いて、可溶型hFcγRIIbと抗原-抗体複合体との結合アッセイを行った。可溶型hFcγRIIbは、当技術分野で公知の方法でHisタグを付与した分子形として作製した。センサーチップCM5(GE Healthcare)上にHis capture kit(GE Healthcare)を用いてアミンカップリング法で抗His抗体を適当量固定し、hFcγRIIbを捕捉した。次に、抗体-抗原複合体とランニングバッファー(参照溶液として)をインジェクトし、センサーチップ上に捕捉されたhFcγRIIbと相互作用させた。ランニングバッファーには20 mM N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸、150 mM NaCl、1.2 mM CaCl2、および0.05% (w/v) Tween20、pH7.4を用い、可溶型hFcγRIIbの希釈にもそれぞれの緩衝液が使用された。センサーチップの再生には10 mMグリシン-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたbinding(RU)に基づいて解析を行い、CFP0020H0261-G1dP1/CFP0018H0012-G1dN1/CFP0020L233-k0(元のAb2)の結合量を1.00とした場合の相対値で示す。パラメーターの算出には BIACORE T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
SPR解析の結果を表36および表37にまとめている。いくつかの改変体において、BIACOREのセンサーチップ上に固定されたhFcγRIIbに対する結合性が増大していることが示された。ここで、元のAb2のhFcγRIIbへの結合と比較して改変体のhFcγRIIbへの結合が約1.2倍以上であれば、センサーチップ上のhFcγRIIbへの抗体の結合に対して強い荷電効果を有するとみなされた。
pI上昇重鎖改変体の中で、L63R、F63R、L82K、またはS82bR置換(Kabatナンバリングで表される)を有する抗体は、hFcγRIIbへのより強い結合を示した。重鎖におけるこの単一アミノ酸置換またはこれらの置換の組み合わせは、センサーチップ上のhFcγRIIbへの結合に対して強い荷電効果を有すると推定される。したがって、抗体の重鎖可変領域にpIを上昇させる改変を導入することによってインビボでの細胞内への取り込み速度あるいは取り込み率を加速する効果を示すことが期待される1つまたは複数の位置には、例えば、Kabatナンバリングで表される63位、82位、または82b位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換はアルギニンまたはリジンであることができる。
pI上昇軽鎖改変体の中で、G16K、Q27R、G41R、S52R、S56R、S65R、T69R、T74K、S76R、S77R、またはQ79K置換(Kabatナンバリングで表される)を有する抗体は、hFcγRIIbへのより強い結合を示した。軽鎖におけるこの単一アミノ酸置換またはこれらの置換の組み合わせは、センサーチップ上のヒトFcγRIIbへの結合に対して強い荷電効果を有すると推定される。したがって、抗体の軽鎖可変領域にpIを上昇させる改変を導入することによってインビボでの細胞内への取り込み速度あるいは取り込み率を加速する効果を示すことが期待される1つまたは複数の位置には、例えば、Kabatナンバリングで表される16位、27位、41位、52位、56位、65位、69位、74位、76位、77位、または79位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換は、アルギニンまたはリジンであることができる。4つ以上のアミノ酸置換を有する改変体は、それより少ないアミノ酸置換を有する改変体よりも強い荷電効果を示す傾向がある。
(22−8)pI上昇Fab領域改変体を含む抗体の細胞取り込み
作製されたFab領域改変体を含む抗体を用いて、hFcγRIIb発現細胞株への細胞内取り込み速度を評価するために、以下のアッセイを実施した。
公知の方法を用いて、hFcγRIIbを定常的に発現するMDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞株が作製された。この細胞を用いて、抗原‐抗体複合体の細胞内取り込みの評価を行った。具体的には、ヒトC5に対して、Alexa555 (Life Technologies) を用いて既定のプロトコールに従いラベル化し、培養液中で抗体濃度10mg/mLおよび抗原濃度10mg/mLで抗原-抗体複合体を形成させた。上記のhFcγRIIb定常発現MDCK細胞の培養プレートに対して、抗原-抗体複合体を含む培養液を添加して1時間インキュベートした後、細胞内に取り込まれた抗原の蛍光強度をInCell Analyzer6000(GE healthcare)を用いて定量した。取り込まれた抗原量は元のAb2の値を1.00とした際の相対値で表した。
細胞取り込みの定量的結果を、表36および37にまとめた。いくつかの重鎖改変体および軽鎖改変体において、細胞内における抗原由来の強い蛍光が観察された。ここで、元のAb2の蛍光強度と比較して改変体の細胞内に取り込まれた抗原の蛍光強度が約1.5倍以上であれば、細胞内に取り込まれた抗原に対して強い荷電効果を有するとみなされた。
pI上昇重鎖改変体の中で、G8R、L18R、Q39K、P41R、G44R、L63R、F63R、Q64K、Q77R、T77R、L82K、S82aN、S82bR、T83R、A85R、またはE85G置換(Kabatナンバリングで表される)を有する抗体は、細胞内へのより強い抗原取り込みを示した。重鎖におけるこの単一アミノ酸置換またはこれらの置換の組み合わせは、細胞内への抗原-抗体複合体取り込みに対して強い荷電効果を有すると推定される。したがって、抗体の重鎖可変領域にpIを上昇させる改変を導入することによって細胞内への抗原-抗体複合体の取り込みをより早くまたはより高頻度で引き起こすことが期待される1つまたは複数の位置には、例えば、Kabatナンバリングで表される8位、18位、39位、41位、44位、63位、64位、77位、82位、82a位、82b位、83位、または85位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換はアスパラギン、グリシン、セリン、アルギニン、またはリジンであることができ、アルギニンまたはリジンであることが好ましい。
pI上昇軽鎖改変体の中で、G16K、Q27R、S27R、G41R、S52R、S56R、S65R、T69R、T74K、S76R、S77R、またはQ79K置換(Kabatナンバリングで表される)を有する抗体は、細胞内へのより強い抗原取り込みを示した。軽鎖におけるこの単一アミノ酸置換またはこれらの置換の組み合わせは、細胞内への抗原-抗体複合体取り込みに対して強い荷電効果を有すると推定される。4つ以上のアミノ酸置換を有する改変体は、それより少ないアミノ酸置換を有する改変体よりも強い荷電効果を示す傾向がある。実施例21(21−3)に示されているように、42K置換と76R置換の組み合わせはIgE抗体において効果的である。しかしながら、C5抗体の場合、Kabatナンバリング42位のアミノ酸は既にリジンであり、よって本発明者らは、76Rの単一置換によって42K/76Rの荷電効果を観察することができる。76R置換を有する改変体がC5抗体においても強い荷電効果を有していたという事実は、42K/76Rの組み合わせが抗原を問わずに強い荷電効果を有することを示している。したがって、抗体の軽鎖可変領域にpIを上昇させる改変を導入することによって細胞内への抗原-抗体複合体の取り込みをより早くまたはより高頻度で引き起こすことが期待される1つまたは複数の位置には、例えば、Kabatナンバリングで表される16位、27位、41位、52位、56位、65位、69位、74位、76位、77位、または79位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換はアルギニンまたはリジンであることができる。
(22−9)マウス同時投与モデルにおけるC5のクリアランスの評価
いくつかの抗C5二重特異性抗体(元のAb2、20L233-005、20L233-006、および20L233-009)をマウス同時投与モデルにおいて試験し、それらが血漿からのC5のクリアランスを早める能力を評価した。同時投与モデルにおいては、C57BL6Jマウス(Jackson Laboratories)に、抗C5二重特異性抗体と予め混合したC5を単回静脈内投与によってそれぞれ投与した。全ての群に、1.0 mg/kg の抗C5二重特異性抗体を伴う0.1 mg/kgのC5を投与した。血漿中のC5濃度の合計は、抗C5 ECLIAによって決定した。まず、抗ヒトC5マウスIgGをECLプレートに分注し、5℃で1晩静置して、抗ヒトC5マウスIgG固定化プレートが作製された。検量線試料および試料を抗ヒトC5ウサギIgGと混合した。これらの試料を抗ヒトC5マウスIgG固定化プレートに添加し、室温で1時間静置した。次に、これらの試料を、HRPをコンジュゲートさせた抗ウサギIgG(Jackson Immuno Research)と反応させた。プレートを室温で1時間インキュベートした後、スルホタグをコンジュゲートさせた抗HRP抗体を添加した。Sector Imager 2400(Meso Scale discovery)を用いてECLシグナルを読み取った。ヒトC5の濃度を、SOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて検量線におけるECLシグナルから算出した。図39は、C57BL6Jマウスにおける血漿中C5濃度の時間プロファイルを記載している。
本試験で調査された、pI上昇置換を有する全ての二重特異性抗体は、元のAb2と比較して、血漿からの迅速なC5クリアランスを示した。したがって、軽鎖のT74K/S77R、S76R/Q79K、およびQ37Rにおけるアミノ酸置換はインビボにおいてもC5抗体免疫複合体の消失を早めることが示唆される。さらに、20L233-005および20L233-006のC5消失は20L233-009のそれよりも早く、このことはインビトロイメージングおよびBIACORE分析と一致していた。これらの結果は、InCell Analyzer 6000による蛍光強度を用いるインビトロシステムまたは上記のインビトロBIACOREシステムのいずれかの下で試験され、インビボにおける血漿からの抗原のクリアランスには寄与しないであろうと思われる位置でさえ、より感度の高いインビボシステムの使用によって、それに寄与していることが見出され得ることを示唆している。これらの結果は、インビボでの血漿からの抗原のクリアランスの評価の推定に関して、InCell Analyzer 6000による蛍光強度を用いる上記のインビトロシステムの感度は、上記のインビトロBIACOREシステムよりも高い可能性があることも示唆している。
〔実施例23〕pI上昇Fc改変体を用いた血漿からのIgEのクリアランスの評価
ヒトIgEまたはヒトC5のクリアランスを増大させるため、pH依存的抗体を用いて抗体のFc部分におけるpI上昇置換を評価した。pIを上昇させるために抗体定常領域にアミノ酸置換を付加する方法は特に限定されないが、例えば、WO2014/145159に記載の方法によって実施することができる。
(23−1)定常領域の単一アミノ酸改変によりpIを上昇させた抗体の作製
試験した抗体は、表38にまとめられている。pIを上昇させる置換Q311KをAb1Hに導入することにより、重鎖Ab1H-P1394m(配列番号:307)を調製した。表38に示した各置換を、参照実施例1に示す方法に従ってAb1Hに導入することにより、他の重鎖改変体も調製した。全ての重鎖改変体は、軽鎖としてAb1Lと共に発現させた。
(23−2)pI上昇Fc領域改変体を含む抗体を用いた、BIACOREによるヒトFcγRIIb結合アッセイ
表38に記載した抗体の使用によって形成された抗原-抗体複合体のFcRγRIIb結合に対する荷電効果を評価するために、実施例21(21−2)に記載されたのと同様にFcRγRIIb結合アッセイを実施した。アッセイ結果を表38に示す。ここで、元のAb1のhFcγRIIbへの結合と比較して改変体のhFcγRIIbへの結合が約1.2倍以上であれば、センサーチップ上のhFcγRIIbへの抗体の結合に対して強い荷電効果を有するとみなされた。
元のAb1からの単一アミノ酸置換を有する、pI上昇改変体の中で、P1398m、P1466m、P1482m、P1512m、P1513m、およびP1514m等のいくつかの改変によって作製された抗原-抗体複合体は、hFcγRIIbへの最も強い結合を示した。D413K、Q311R、P343R、D401R、D401K、G402R、Q311K、N384R、N384K、またはG402Kにおけるこの単一アミノ酸置換は、センサーチップ上のhFcγRIIbへの結合に対して強い荷電効果を有すると推定される。したがって、抗体の定常領域またはFc領域にpIを上昇させる単一の改変を導入することによってインビボでの細胞内への取り込み速度あるいは率を加速する効果を示すことが期待される位置には、例えば、EUナンバリングで表される311位、343位、384位、401位、402位、または413位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換はアルギニンまたはリジンであることができる。
(23−3)pI上昇Fc領域改変体を含む抗体の細胞取り込み
表38に記載した抗体によって形成された抗原-抗体複合体の細胞内取り込みを評価するために、実施例21(21−3)に記載されたのと同様に細胞イメージングアッセイを実施した。アッセイ結果を表38に示す。ここで、元のAb1の蛍光強度と比較して改変体の細胞内に取り込まれた抗原の蛍光強度が約1.5倍以上であれば、細胞内に取り込まれた抗原に対して強い荷電効果を有するとみなされた。
元のAb1からの単一アミノ酸置換を有する、pI上昇改変体の中で、P1398m、P1466m、P1469m、P1470m、P1481m、P1482m、P1483m、P1512m、P1513m、およびP1653m等のいくつかの改変によって作製された抗原-抗体複合体は、細胞内へのより強い抗原取り込みを示した。D413K、Q311R、N315K、N384R、Q342K、P343R、P343K、D401R、D401K、またはD413Rにおけるこの単一アミノ酸置換は、細胞内への抗原-抗体複合体取り込みに対して強い荷電効果を有すると推定される。したがって、抗体の定常領域またはFc領域にpIを上昇させる単一の改変を導入することによって細胞内への抗原-抗体複合体の取り込みをより早くまたはより高頻度で引き起こすことが期待される位置には、例えば、EUナンバリングで表される311位、315位、342位、343位、384位、401位、または413位が含まれ得る。そのような位置に導入されるアミノ酸置換はアルギニンまたはリジンであることができる。
(23−4)マウス同時投与モデルにおけるヒトIgEのクリアランスの評価
いくつかのpH依存的抗原結合抗IgE抗体(元のAb1、P1466m、P1469m、P1470m、P1480m、P1482m、P1512m、P1653m)をマウス同時投与モデルにおいて試験し、それらが血漿からのIgEのクリアランスを早める能力を評価した。アッセイは、実施例21(21−4)に記載されたのと同様に実施した。図40は、C57BL6Jマウスにおける血漿中濃度の時間プロファイルを記載している。
P1480mを除くpI上昇pH依存的抗原結合改変体(単一アミノ酸置換のみ)の投与後の、血漿中の総IgE濃度は、元のAb1よりも低かった。どちらのインビトロ試験でも弱い効果を示したP1480mは、IgEの消失を早めなかった。さらに、pH依存的抗原結合を伴わない、pIが高い改変体で処理したマウスにおける血漿中の総IgE濃度は、pIが高いpH依存的抗原結合改変体よりも有意に高かった(データは示さず)。これらの結果は、pIを上昇させる改変の導入により、抗原-抗体免疫複合体の細胞性取り込みが増大することを示している。pH依存的抗原結合抗体との複合体の状態で細胞に取り込まれた抗原は、エンドソーム内部で抗体から効果的に放れることができ、これにより、IgEの消失が早まる。これらの結果は、上記のインビトロBIACOREシステムの下で試験され、インビボにおける血漿からの抗原のクリアランスには寄与しないであろうと思われる置換位置でさえ、より感度の高いインビボシステムの使用によって、それに寄与していることが見出され得ることを示唆している。これらの結果は、インビボでの血漿からの抗原のクリアランスの評価の推定に関して、InCell Analyzer 6000による蛍光強度を用いる上記のインビトロシステムの感度は、上記のインビトロBIACOREシステムよりも高い可能性があることも示唆している。
〔参考実施例1〕 アミノ酸が置換されたIgG抗体の発現ベクターの構築
QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法で作製された変異体を含むプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入することによって、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターが作製された。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者に公知の方法で決定された。
〔参考実施例2〕 IgG抗体の発現と精製
抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5〜6 × 105細胞/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔き、CO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをリポフェクション法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(登録商標)-GV(Millipore)を通して滅菌し、培養上清を得た。得られた培養上清から抗体をrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当技術分野で公知の方法で精製した。精製抗体の濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からPace et al., Protein Science 4 : 2411-2423 (1995) に記された方法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した。
〔参考実施例3〕 可溶型ヒトIL-6受容体の調製
抗原である組換え可溶性ヒトIL-6受容体は以下のように調製された。Mullberg et al., J. Immunol. 152: 4958-4968 (1994) で報告されているN末端側1番目から357番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6受容体を定常的に発現するCHO細胞株が当業者に公知の方法で構築された。当該CHO株を培養することによって、可溶型ヒトIL-6受容体を発現させた。得られた当該CHO株の培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーの二工程によって可溶型ヒトIL-6受容体が精製された。最終工程においてメインピークとして溶出された画分が最終精製品として用いられた。