以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る変速機の制御装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図1は、本発明の一実施形態に係る変速機を示す模式的な構成図である。
車両に備えられる変速機1は、駆動源の一例であるエンジン10の出力軸11に接続されている。
変速機1は、トルクコンバータ(トルコン)12と、第1クラッチ21と第2クラッチ22とを有する変速クラッチ装置20と、変速機構30と、制御装置2と、トルコン用作動油調整部85と、クラッチ用作動油調整部86と、変速調整部87と、エンジン回転数センサ92と、タービン回転数センサ93と、第1インプットシャフト回転数センサ94と、第2インプットシャフト回転数センサ95と、車速センサ96(出力回転数センサともいう)と、アクセル開度センサ97と、シフトポジションセンサ98とを備えている。制御装置2は、エンジン電子制御装置(エンジンECU)70と、変速機電子制御装置(変速機ECU)80とを備えている。
ここで、変速機1の詳細を説明する前に、変速機1に相当するモデルと、変速機1の各部の状態値を表す記号を説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る変速機に相当するモデル及び変速機の各部の状態値を表す記号を示す図である。
図1に示す変速機1の制御に関わる部分については、図2に示すモデルのように表すことができる。本明細書においては、変速機1の各部の状態を示す状態値については、図2に示すように記号又は添字付き記号で表すこととする。
ここで、記号について説明すると、Tは、トルクを表し、ωは、回転数を表し、Iは、慣性モーメントを表し、i1は、変速機構の駆動力の伝達に利用されているクラッチ(利用側クラッチ)に接続されている変速段のギヤ比を表し、i2は、変速機構の駆動力の伝達に利用されているクラッチとは別のクラッチ(待機側クラッチ)に接続されている変速段のギヤ比を表している。一方、記号に付けられる添字について説明すると、eは、エンジンを表し、lckは、ロックアップクラッチを表し、iはインペラを表し、tは、タービンのシャフトを表し、c1は、変速機構の利用側クラッチを表し、c2は、変速機構の待機側クラッチを表し、oは、変速機構のアウトプットシャフトを表し、lは、駆動輪側の負荷を表している。
図1の説明に戻り、トルクコンバータ12は、エンジン10の出力軸11に接続されたインペラ13と、インペラ13と対向するように配置され、変速クラッチ装置20の入力軸19と接続されるタービン14と、出力軸11と入力軸19(タービンのシャフト)との間を機械的に断接可能なロックアップクラッチ15とを有する。ロックアップクラッチ15は、ロックアップクラッチ15を押圧して移動させるピストン15Aを有する。ピストン15Aは、トルクコンバータ12内において、トルコン用作動油調整部85から作動油が供給される第1油圧室16と、第2油圧室17とを画成している。ロックアップクラッチ15は、トルコン用作動油調整部85から第1油圧室16に供給される作動油の油圧と、第2油圧室17に供給される作動油の油圧との差圧に応じて、締結力を調整可能となっている。
ここで、本実施形態では、ロックアップクラッチ15と出力軸11側の部材とが接触して同一の回転数で回転しつつ、出力軸11からのトルクがロックアップクラッチ15を介して入力軸19に伝達される状態を完全締結状態と称し、ロックアップクラッチ15と出力軸11側の部材とが接触して異なる回転数で回転しつつ、出力軸11からのトルクがロックアップクラッチ15を介して入力軸19に伝達される状態をロックアップクラッチ15のスリップ状態(半クラッチ状態)と称し、ロックアップクラッチ15が入力軸11側の部材と接触していない状態をロックアップクラッチ15の断状態と称する。
変速クラッチ装置20の第1クラッチ21は、例えば、湿式多板クラッチであって、トルクコンバータ12の出力軸19と一体回転するクラッチハブ23と、変速機構30の第1インプットシャフト31と一体回転する第1クラッチドラム24と、複数枚の第1クラッチプレート25と、複数枚の第1クラッチプレート25の周囲の第1空間21Aと、第1クラッチプレート25を圧接する第1ピストン26と、第1クラッチ油圧室26Aとを備えている。
第1クラッチ21は、第1クラッチ油圧室26Aに供給される作動油の圧力(作動油圧)によって第1ピストン26が出力側(図1の右方向)にストローク移動すると、第1クラッチプレート25が圧接されて、トルクを伝達する接続状態となる。一方、第1クラッチ油圧室26Aの作動油圧が解放されると、第1ピストン26が図示しないスプリングの付勢力によって入力側(図1の左方向)にストローク移動されて、第1クラッチ21は動力伝達を遮断する切断状態となる。第1クラッチ21の締結力は、クラッチ用作動油調整部86から供給される作動油の圧力により調整できるようになっている。なお、以下の説明では、クラッチハブ23と第1クラッチドラム24とが同一の回転で回転しつつ、第1クラッチプレート25を介してトルクが伝達される状態を第1クラッチ21の完全締結状態と称し、クラッチハブ23と第1クラッチドラム24とが異なる回転数で回転しつつ、第1クラッチプレート25を介してトルクが伝達される状態を第1クラッチ21のスリップ状態(半クラッチ状態)と称し、第1クラッチプレート25が機械的に接触していない状態を第1クラッチ21の断状態と称する。第1空間21Aには、クラッチ用作動油調整部86により、第1クラッチプレート25に発生する摩擦熱等を排出するために作動油が供給される。本実施形態では、第1クラッチ21を締結させるために作動油が供給される第1クラッチ油圧室26Aの容積が、トルクコンバータ12の第1油圧室16及び第2油圧室17の容積よりも小さく、ロックアップクラッチ15の締結力を調整する際に必要な作動油の量よりも、第1クラッチ21の締結力を調整する際に必要な作動油の量の方が少なくなっているので、第1クラッチ21の締結力を、ロックアップクラッチ15の締結力よりも迅速かつ高精度に制御することができる。
変速クラッチ装置20の第2クラッチ22は、例えば、湿式多板クラッチであって、トルクコンバータ12の出力軸19と一体回転するクラッチハブ23と、変速機構30の第2インプットシャフト32と一体回転する第2クラッチドラム27と、複数枚の第2クラッチプレート28と、複数枚の第2クラッチプレート28の周囲の第2空間22Aと、第2クラッチプレート28を圧接する第2ピストン29と、第2クラッチ油圧室29Aとを備えている。
第2クラッチ22は、第2クラッチ油圧室29Aに供給される作動油の圧力(作動油圧)によって第2ピストン29が出力側(図1の右方向)にストローク移動すると、第2クラッチプレート28が圧接されて、トルクを伝達する接続状態となる。一方、第2クラッチ油圧室29Aの作動油圧が解放されると、第2ピストン29が図示しないスプリングの付勢力によって入力側(図1の左方向)にストローク移動されて、第2クラッチ22は動力伝達を遮断する切断状態となる。第2クラッチ22の締結力は、クラッチ用作動油調整部86から供給される作動油の圧力により調整できるようになっている。なお、以下の説明では、クラッチハブ23と第2クラッチドラム27とが同一の回転で回転しつつ、第2クラッチプレート28を介してトルクが伝達される状態を第2クラッチ22の完全締結状態と称し、クラッチハブ23と第2クラッチドラム27とが異なる回転数で回転しつつ、第2クラッチプレート28を介してトルクが伝達される状態を第2クラッチ21のスリップ状態(半クラッチ状態)と称し、第2クラッチプレート28が機械的に接触していない状態を第2クラッチ22の断状態と称する。第2空間22Aには、クラッチ用作動油調整部86により、第2クラッチプレート28に発生する摩擦熱等を排出するために作動油が供給される。本実施形態では、第2クラッチ22を締結させるために作動油が供給される第2クラッチ油圧室29Aの容積が、ロックアップクラッチ15の第1油圧室16及び第2油圧室17の容積よりも小さく、トルクコンバータ12の締結力を調整する際に必要な作動油の量よりも、第2クラッチ22の締結力を調整する際に必要な作動油の量の方が少なくなっているので、第2クラッチ22の締結力を、ロックアップクラッチ15の締結力よりも迅速かつ高精度に制御することができる。
変速機構30は、第1インプットシャフト31及び第2インプットシャフト32と、アウトプットシャフト33と、これらの軸31〜33と平行に配置された第1副軸34及び第2副軸35とを備えている。第1インプットシャフト31は、第2インプットシャフト32を軸方向に貫通する中空軸内に相対回転自在に挿入されている。アウトプットシャフト33の出力端には、何れも図示しない車両の駆動輪に差動装置等を介して連結されたプロペラシャフト(車両駆動系)が接続されている。
第1インプットシャフト31には、入力側から順に、1速入力ギヤ41、3速入力ギヤ43、5速入力ギヤ45が固定されている。第2インプットシャフト32には、入力側から順に、2速入力ギヤ42、4速入力ギヤ44、6速入力ギヤ46が固定されている。アウトプットシャフト33には、出力主ギヤ59が固定されている。
第1副軸34には、入力側から順に、1速入力ギヤ41と常時歯噛する1速主ギヤ51、3速入力ギヤ43と常時歯噛する3速主ギヤ53、5速入力ギヤ45と常時歯噛する5速主ギヤ55、出力主ギヤ59と常時歯噛する第1出力副ギヤ57が設けられている。1速主ギヤ51、3速主ギヤ53、及び5速主ギヤ55は、第1副軸34に相対回転可能に設けられ、第1出力副ギヤ57は、第1副軸34に一体回転可能に設けられている。
第2副軸35には、入力側から順に、2速入力ギヤ42と常時歯噛する2速主ギヤ52、4速入力ギヤ44と常時歯噛する4速主ギヤ54、6速入力ギヤ46と常時歯噛する6速主ギヤ56、出力主ギヤ59と常時歯噛する第2出力副ギヤ58が設けられている。2速主ギヤ52、4速主ギヤ54、及び6速主ギヤ56は、第2副軸35に相対回転可能に設けられ、第2出力副ギヤ58は、第2副軸35に一体回転可能に設けられている。
第1シンクロ機構61、第2シンクロ機構62、第3シンクロ機構63、第4シンクロ機構64は、公知の構造であって、何れも図示しないドグクラッチ等を備えている。
第1シンクロ機構61は、第1副軸34と1速主ギヤ51とを係合状態(ギヤイン)にすることができる。第1副軸34と1速主ギヤ51とを係合状態にすると、第1副軸34にエンジン10の駆動力が伝達されている場合(第1クラッチ21が接の場合)には、アウトプットシャフト33は、1速相当で回転する。
第2シンクロ機構62は、第2副軸35と2速主ギヤ52とを係合状態にすることができ、また、第2副軸35と4速主ギヤ54とを係合状態にすることができる。第2副軸35と2速主ギヤ52とを係合状態にすると、第2副軸35にエンジン10の駆動力が伝達されている場合(第2クラッチ22が接の場合)には、アウトプットシャフト33は、2速相当で回転し、第2副軸35と4速主ギヤ54とを係合状態にすると、第2副軸35にエンジン10の駆動力が伝達されている場合には、アウトプットシャフト33は、4速相当で回転する。
第3シンクロ機構63は、第1副軸34と3速主ギヤ53とを係合状態にすることができ、また、第1副軸34と5速主ギヤ55とを係合状態にすることができる。第1副軸34と3速主ギヤ53とを係合状態にすると、第1副軸34にエンジン10の駆動力が伝達されている場合には、アウトプットシャフト33は、3速相当で回転し、第1副軸34と5速主ギヤ55とを係合状態にすると、第1副軸34にエンジン10の駆動力が伝達されている場合には、アウトプットシャフト33は、5速相当で回転する。
第4シンクロ機構64は、第2副軸35と6速主ギヤ56とを係合状態にすることができる。第2副軸35と6速主ギヤ56とを係合状態にすると、第2副軸35にエンジン10の駆動力が伝達されている場合には、アウトプットシャフト33は、6速相当で回転する。
第1〜第4シンクロ機構61〜64の動作は、後述する変速制御部84によって制御されており、アクセル開度センサ97により検出されるアクセル開度、車速センサ96により検出される速度等に応じて、副軸(第1副軸34、第2副軸35)と変速主ギヤ(51〜56)とを選択的に係合状態(ギヤイン)又は非係合状態(ニュートラル状態)に切替るようになっている。なお、変速段の数(変速入力ギヤ(41〜46)及び変速主ギヤ(51〜56)の組の数)やシンクロ機構(61〜64)の個数、配列パターン等は図示例に限定されものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
変速機構30では、エンジン10の出力軸11に第1クラッチ21を介して接続可能な第1インプットシャフト31から、第1副軸34を経由してアウトプットシャフト33に駆動力を伝達する第1系統と、エンジン10の出力軸11に第2クラッチ22を介して接続可能な第2インプットシャフト32から、第2副軸35を経由してアウトプットシャフト33に駆動力を伝達する第2系統とがある。第1系統では、奇数段(1速、3速、5速)における駆動力を伝達する。また、第2系統では、偶数段(2速、4速、6速)における駆動力を伝達する。
変速機1では、奇数段と偶数段との間で変速を行う場合には、現在駆動力を伝達している系統による駆動力の伝達を維持した状態、すなわち、その系統を伝達するクラッチ(利用側クラッチ)を接にした状態において、他方の系統において、変速先の変速ギヤをその系統の副軸と係合させる。なお、他方の系統において、既に変速先の変速ギヤが副軸と係合した状態となっている場合には、この動作は行わない。次いで、利用側クラッチを断にするとともに、他方の系統を伝達するクラッチ(待機側クラッチ)を接にすることにより、駆動力を伝達するクラッチの切替を行う。
トルコン用作動油調整部85は、変速機ECU80の制御指示に従って、トルクコンバータ12の第1油圧室16に供給する作動油の圧力と、第2油圧室17に供給する作動油の圧力とのそれぞれを調整する。
クラッチ用作動油調整部86は、変速機ECU80の制御指示に従って、変速クラッチ装置20の締結力を調整するために変速クラッチ装置20の第1クラッチ油圧室26A,及び/又は第2クラッチ油圧室29Aに供給する作動油の圧力を調整する。
変速調整部87は、変速機ECU80の制御指示に従って、変速機構30の変速段の変更を行う。具体的には、変速調整部87は、第1〜第4シンクロ機構61〜64を作動させて、副軸(第1副軸34、第2副軸35)と、変速主ギヤ(51〜56)との係合状態を解放(ギヤアウト)したり、副軸(第1副軸34、第2副軸35)と変速主ギヤ(51〜56)とを係合(ギヤイン)したりする。
エンジン回転数センサ92は、エンジン10の出力軸11の回転数(エンジン回転数ωe)を検出し、エンジンECU70に出力する。タービン回転数センサ93は、入力軸19の回転数(タービン14の回転数(タービン回転数ωt)と対応)を検出し、変速機ECU80に出力する。第1インプットシャフト回転数センサ94は、第1インプットシャフト31の回転数を検出し、変速機ECU80に出力する。第2インプットシャフト回転数センサ95は、第2インプットシャフト32の回転数を検出し、変速機ECU80に出力する。車速センサ96は、アウトプットシャフト33の回転数(アウトプットシャフト回転数ωo)を検出し、変速機ECU80に出力する。アウトプットシャフト回転数ωoからは、車速を特定することができる。アクセル開度センサ97は、アクセル開度を検出し、エンジンECU70に出力する。シフトポジションセンサ98は、操作レバーにより指定(選択)された位置(シフトポジション)を検出し、変速機ECU80に出力する。操作レバーでは、例えば、車両の停車中に使用するP(パーキング)レンジ、車両の変速機をニュートラルにする際に選択するN(ニュートラル)レンジ、自動変速を行う際に選択するD(ドライブ)レンジ、変速を運転者の操作で行う際に選択するM(マニュアル)レンジ、Mレンジでのシフトアップを指定するためのプラス(+)、Mレンジでのシフトダウンを指定するためのマイナス(−)等を選択することができる。
エンジンECU70は、主にエンジン10の各種制御を行うもので、公知のCPU、ROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。これら各種制御を行うために、エンジンECU70には、各種センサ類(92,97)のセンサ値が入力される。なお、エンジンECU70は、変速機ECU80と通信ネットワークを介して接続されており、相互に各種情報を交換することができるようになっている。
エンジンECU70は、駆動源制御手段の一例としてのエンジン制御部71を一部の機能要素として有する。
エンジン制御部71は、エンジン10における燃料噴射量等を制御してエンジン10のトルクを制御する。例えば、エンジン制御部71は、アクセル開度センサ97からのアクセル開度や、車速(例えば、変速機ECU80から取得)に基づいて、エンジン10に対してドライバが要求していると想定されるドライバ要求エンジントルクTed(ドライバ要求トルク)を決定し、変速機ECU80に出力する。また、エンジン制御部71は、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われた後において、エンジン10のトルク(エンジントルクTe)をドライバ要求エンジントルクTedよりも一時的に減少させ、その後、エンジントルクTeをドライバ要求エンジントルクTedに変化させて、タービン回転数ωtと、利用側クラッチに接続されたインプットシャフト(利用側インプットシャフト)の回転数(利用側インプットシャフト回転数)ωc1とを同期させるように制御する。
変速機ECU80は、主にトルクコンバータ12、変速クラッチ装置20、変速機構30の各種制御を行うもので、公知のCPU、ROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。これら各種制御を行うために、変速機ECU80には、各種センサ類(93〜96、98)のセンサ値が入力される。
変速機ECU80は、開始判定手段の一例としての統括制御部81と、ロックアップクラッチ制御手段の一例としてのトルコン制御部82と、第1クラッチ制御手段及び第2クラッチ制御手段の一例としてのクラッチ制御部83と、変速制御部84とを一部の機能要素として有する。
なお、本実施形態では、エンジンECU70と、変速機ECU80とは、別のハードウエアとして構成した例を示しているが、エンジンECU70と、変速機ECU80とを一体のハードウエアで構成してもよく、また、エンジンECU70の機能要素と、変速機ECU80の機能要素とを、2つ以上のハードウエアに分散させて設けるようにしてもよい。
統括制御部81は、ロックアップクラッチ15を締結させてエンジン10から駆動輪までの駆動力の伝達経路を確立する処理(ロックアップクラッチ締結処理)を統括して制御する。統括制御部81は、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15を締結する所定の条件を満たすか否かを判定し、所定の条件を満たす場合には、その旨をクラッチ制御部83に通知する。ロックアップクラッチ15を締結する所定の条件としては、例えば、エンジン回転数ωeが、ロックアップクラッチ15を締結するとトルクコンバータ12の図示しないダンパが共振してしまう回転数よりも高い所定の回転数となったこととしてもよい。なお、統括制御部81が実行する他の処理については、後述する。
トルコン制御部82は、利用側クラッチ許容トルクTc1がタービントルクTtに一致した場合(クラッチ制御部83から利用側クラッチ許容トルクTc1がタービントルクTtに一致した旨の通知を受け取った場合)に、ロックアップクラッチ15を締結するように、トルコン用作動油調整部85の図示しないバルブをオンにすることにより、第1油圧室16と第2油圧室17との作動油の油圧の制御を開始する。ここで、ロックアップクラッチ15を締結するように、トルコン用作動油調整部85により、第1油圧室16と第2油圧室17との作動油の油圧の制御を開始した時を、ロックアップ油圧制御開始時ということとする。なお、トルコン制御部82が実行する他の処理については、後述する。
クラッチ制御部83は、統括制御部81からトルクコンバータ12のロックアップクラッチ15を締結する所定の条件を満たす旨の通知を受けた場合に、変速クラッチ装置20の2つのクラッチの内の駆動輪への駆動力伝達に用いられているクラッチ(利用側クラッチ)をスリップ状態として、利用側クラッチの許容トルク(利用側クラッチ許容トルク)Tc1が、タービントルクTtに一致するように制御する。ここで、利用側クラッチ許容トルクTc1については、予め実験的に把握されている、変速クラッチ装置20の利用側クラッチ(第1クラッチ21又は第2クラッチ22)における、クラッチ用作動油調整部86により供給されている作動油の油圧と、利用側クラッチ許容トルクTc1との関係に基づいて、クラッチ用作動油調整部86から供給される作動油の油圧を特定可能な情報(作動油の油圧そのもの、又は、作動油圧を調整するバルブを制御する電流量等)から特定することができる。また、タービントルクTtについては、予め把握されている、トルクコンバータ12における、エンジン回転数ωeとタービン回転数ωtとの速度比に対応するトルク比trと、トルクコンバータ12の設計により決まるポンプ容量係数Cと、センサから検出されたエンジン回転数ωeとを用いて特定することができる。より具体的には、タービントルクTtは、Tt=tr×C×ωe 2により特定することができる。
また、クラッチ制御部83は、利用側クラッチ許容トルクTc1がタービントルクTtに一致したか否か判定し、利用側クラッチ許容トルクTc1がタービントルクTtに一致した場合には、その旨をトルコン制御部82に通知する。
また、クラッチ制御部83は、ロックアップ油圧制御開始時後、待機側クラッチが利用側クラッチよりも低速段の状態で変速機構30のアウトプットシャフト33に接続されている場合(待機側クラッチが低速段側クラッチである場合)には、待機側クラッチをスリップ状態とすると共に、待機側クラッチをスリップ状態にすることにより減少したアウトプットシャフト33へのトルクを補うために利用側クラッチ許容トルクTc1を増加させるように、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ装置20の第1クラッチ21及び第2クラッチ22に供給する作動油の油圧を調整する。
本実施形態では、上記制御を行ってもドライバに対して制御をしていない状態と同等の感覚を与えるために、クラッチ制御部83は、アウトプットシャフト33のトルクの値が変化しないようにしている。本実施形態では、クラッチ制御部83は、式(1)を満たすように、すなわち、待機側クラッチを介してのアウトプットシャフト33のトルク(待機側経由トルク)と、利用側クラッチを介してのアウトプットシャフト33のトルク(待機側経由トルク)との合計が、利用側クラッチのみが接続され、利用側クラッチのトルクがロックアップ油圧制御開始時のタービントルクTt(目標クラッチトルクTFLU)である場合におけるアウトプットシャフト33のトルクと一致するように制御を行う。具体的には、クラッチ制御部83は、待機側クラッチ許容トルクTc2を式(2)に示すように制御し、利用側クラッチ許容トルクTc1を式(3)に示すように制御する。ここで、Tc2cは、待機側クラッチ許容トルクとして予め設定しているトルク(待機側クラッチ指示トルク)であり、本実施形態では、Tc2cは、アウトプットシャフト33へのトルクを減ずる方向に作用するトルク(利用側クラッチ許容トルクTc1とは、逆の向きに作用するトルク)となっている。
また、クラッチ制御部83は、タービン回転数ω
tが低速段側クラッチである待機側クラッチのインプットシャフト(待機側インプットシャフト)の回転数(待機側インプットシャフト回転数)ω
c2を超えた場合には、待機側クラッチ許容トルクT
c2をゼロにし、利用側クラッチ許容トルクT
c1を、ロックアップ油圧制御開始時のタービントルクT
t(目標クラッチトルクT
FLU)と一致させるように、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ装置20に供給する作動油の油圧を調整することにより、変速クラッチ装置20の利用側クラッチのスリップ状態を制御する。なお、本実施形態では、ロックアップ油圧制御開始時のタービントルクT
tである目標クラッチトルクT
FLUは、ドライバ要求エンジントルクT
edよりも低いトルクとなっている。
また、クラッチ制御部83は、変速制御部84からクラッチの切替の指示を受け取った場合には、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ装置20の第1クラッチ21及び第2クラッチ22に供給する作動油の油圧を調整することにより、第1クラッチ21と第2クラッチ22との間で、利用側クラッチと、待機側クラッチとを切替る。なお、クラッチ制御部83が実行する他の処理については、後述する。
変速制御部84は、シフトポジションセンサ98から送信される操作レバーの指定位置、アクセル開度(エンジンECU70から取得)、車速センサ96からの車速等の情報に基づいて、変速が必要であるかを判定する。また、変速制御部84は、変速が必要である場合には、第1クラッチ21と第2クラッチ22との間のクラッチの切替のみの変速か、変速ギヤ(本実施形態では、変速主ギヤ(51〜56))の変更(ギヤシフト)を伴う変速かを判定する。変速ギヤの変更を伴う変速か否かについては、第1〜第4シンクロ機構61〜64の状態から第1副軸34に係合している変速主ギヤと、第2副軸35に係合している変速主ギヤとを把握しておき、変速先の変速主ギヤが対応する副軸(34又は35)とすでに係合しているか否かにより把握することができる。
変速制御部84は、クラッチの切替のみの変速の場合には、クラッチ制御部83にクラッチの切替を行うように指示する。
また、変速制御部84は、変速ギヤの変更を伴う変速の場合には、変速調整部87に、変速ギヤの変更(現在の変速主ギヤからのギヤアウト及び変更先の変速主ギヤへのギヤイン)をさせるための制御指示を出力し、クラッチの切替が必要であれば、クラッチ制御部83にクラッチの切替を行うように指示する。
次に、変速機1におけるロックアップクラッチ締結処理について説明する。ロックアップクラッチ締結処理は、ロックアップクラッチ15をロックアップ(完全締結)させることを伴うエンジン10から駆動輪までの駆動力伝達経路を確立する処理である。
図3は、本発明の一実施形態に係るロックアップクラッチ締結処理のフローチャートである。図4(A)は、本発明の一実施形態に係るロックアップクラッチ締結処理の各フェーズにおける各部の回転数の時間変化を示す図である。図4(B)は、本発明の一実施形態に係るロックアップクラッチ締結処理の各フェーズにおける各部のトルクの時間変化を示す図である。なお、図4における時間軸の1、2、・・・は、制御フェーズ1、制御フェーズ2、・・・を示している。また、図4(B)では、待機側クラッチ許容トルクTc2については、利用側クラッチ許容トルクTc1と正方向が逆向きとなるように、すなわち、上側ほど負の値が大きくなるように表している。
ロックアップクラッチ締結処理は、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15が締結されていない場合、例えば、車両の発進直後や、車両の速度が低下した場合等に実行される。ロックアップクラッチ締結処理における初期の状態は、制御フェーズにおける制御開始前フェーズであり、制御開始前フェーズにおいては、変速クラッチ装置20の一方のクラッチ(利用側クラッチ)は、完全締結状態となっており、他方のクラッチ(待機側クラッチ)は、断状態となっている。なお、待機側クラッチは、利用側クラッチよりも低速段に接続されているものとする。
制御開始前フェーズは、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15が断状態であり、変速クラッチ装置20が完全に締結されている状態である。制御開始前フェーズにおいては、変速機1における運動方程式は、以下に示す式(4)、式(5)、式(6)で表すことができる。
ここで、制御開始前フェーズにおいて、ドライバによりアクセルが踏まれてアクセル開度が大きくなった場合を例にして、ロックアップクラッチ締結処理の各ステップを説明する。制御開始前フェーズにおいて、アクセル開度が大きくなると、図4(A)及び図(B)に示すように、ドライバ要求エンジントルクT
edが高くなり、エンジントルクT
eが高くなるように制御される。この結果、タービントルクT
tが上昇し、エンジン回転数ω
e、利用側インプットシャフト回転数ω
c1及び待機側インプットシャフトω
c2が上昇する。本実施形態では、待機側クラッチは、利用側クラッチよりも低速段に接続されているので、利用側インプットシャフト回転数ω
c1よりも待機側インプットシャフト回転数ω
c2の方が高くなっている。なお、本実施形態では、ドライバ要求エンジントルクT
edが高くなって所定の値で一定となるようにアクセル開度が維持されている場合を例に説明する。
統括制御部81は、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15を締結する所定の条件を満たすか否かとして、エンジン回転数ωeが、ロックアップクラッチ15のロックアップ時にロックアップクラッチ15の図示しないダンパにより共振が発生しない所定の回転数以上となったか否かを判定する(ステップS11)。この結果、所定の条件を満たさない場合(ステップS11:NO)には、制御開始前フェーズのままであるので、統括制御部81は、ステップS11を再び実行する。
一方、所定の条件を満たす場合(ステップS11:YES)には、制御フェーズは、制御開始前フェーズから制御フェーズ1に移り、統括制御部81は、所定の条件を満たす旨をクラッチ制御部83に通知する。
所定の条件を満たす旨の通知を受けたクラッチ制御部83は、変速クラッチ装置20の利用側クラッチ(第1クラッチ21又は第2クラッチ22の一方)をスリップ状態として、変速クラッチ装置20の利用側クラッチ許容トルクTc1が、タービントルクTtに一致するようにする制御を開始する(ステップS12)。
制御フェーズ1においては、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15が断状態であり、変速クラッチ装置20の利用側クラッチがスリップ状態であるので、変速機1における運動方程式は、式(4)、式(5)、式(6)で表すことができる。
制御フェーズ1においては、利用側クラッチ許容トルクTc1が、タービントルクTtに一致するように制御されているので、図4(B)に示すように、利用側クラッチ許容トルクTc1が、徐々に減少してタービントルクTtに近づくこととなる。
次いで、クラッチ制御部83は、利用側クラッチ許容トルクTc1がタービントルクTtに一致したか否か判定し(ステップS13)、利用側クラッチ許容トルクTc1がタービントルクTtに一致していない場合(ステップS13:NO)には、制御フェーズ1のままであるので、クラッチ制御部83は、ステップS13を再び実行する。
一方、利用側クラッチ許容トルクTc1がタービントルクTtに一致した場合(ステップS13:YES)には、制御フェーズは、制御フェーズ2に移り、クラッチ制御部83は、その旨をトルコン制御部82に通知する。
トルコン制御部82は、クラッチ制御部83から利用側クラッチ許容トルクTc1がタービントルクTtに一致した旨の通知を受け取った場合には、ロックアップクラッチ15のロックアップを開始する、すなわち、ロックアップクラッチ15を締結するように、トルコン用作動油調整部85の図示しないバルブをオンにすることにより、第1油圧室16と第2油圧室17との作動油の油圧の制御を開始する(ステップS14)。なお、この時点が、ロックアップ油圧制御開始時となり、この時点におけるタービントルクTtが目標クラッチトルクTFLUとなる。目標クラッチトルクTFLUは、ドライバ要求エンジントルクTedよりも低いトルクとなっている。これにより、ロックアップクラッチ15により伝達可能なトルク(ロックアップクラッチ許容トルクTlck)が徐々に上昇することとなる。なお、ロックアップクラッチ許容トルクTlckは、トルコン用作動油調整部85により、第1油圧室16と第2油圧室17との差圧を制御することにより得られるものであり、詳細な制御が困難であって、制御への応答が不明であるので、図4(B)に示すように変化しているとは限らない。
次いで、制御フェーズは、制御フェーズ3に移り、クラッチ制御部83は、アウトプットシャフト33のトルクの値が変化しないように、式(1)となるように制御を行う。具体的には、クラッチ制御部83は、利用側クラッチとは別の待機側クラッチの許容トルク(待機クラッチ許容トルク)Tc2を式(2)に示すように待機側クラッチ指示トルクTc2cとなるように制御し、利用側クラッチ許容トルクTc1を式(3)に示すように制御することにより、利用側クラッチと待機側クラッチとのスリップ状態を制御する(ステップS15)。このような制御により、アウトプットシャフト33のトルクの変動が抑えられ、車両におけるショックの発生が低減される。
制御フェーズ2及び制御フェーズ3においては、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15がスリップ状態であり、変速クラッチ装置20がスリップ状態であるので、変速機1における運動方程式は、式(7)、式(8)、式(6)で表すことができる。
次いで、統括制御部81は、タービン回転数ω
tが利用側インプットシャフト回転数ω
c1よりも高い回転数となったか否かを判定し(ステップS16)、タービン回転数ω
tが利用側インプットシャフト回転数ω
c1よりも高い回転数でない場合(ステップS16:NO)には、制御フェーズ3のままであるので、統括制御部81は、ステップS16を再び実行する。
一方、タービン回転数ωtが利用側インプットシャフト回転数ωc1よりも高い回転数となった場合(ステップS16:YES)には、制御フェーズは、制御フェーズ4に移り、統括制御部81は、タービン回転数ωtが利用側インプットシャフト回転数ωc1よりも高い回転数となった旨をエンジン制御部71に通知する。
タービン回転数ωtが利用側インプットシャフト回転数ωc1よりも高い回転数となった旨を受け取ったエンジン制御部71は、エンジントルクTeをインペラトルクTiと一致させるように制御する(ステップS17)。インペラトルクTiは、Ti=C×ωe 2により推定することができる。ここで、係数Cは、トルクコンバータ12のポンプ容量係数であり、トルクコンバータ12の設計により定まる値である。
なお、ステップS17の時点においては、クラッチ制御部83は、利用側クラッチと待機側クラッチとのスリップ状態を制御して、アウトプットシャフト33のトルクの値が変化しないようにする制御を継続して実行している。したがって、ロックアップクラッチ許容トルクTlckが上昇してもアウトプットシャフト33のトルクが変化することがなく、ショックの発生を低減することができる。また、回転数が高い待機側クラッチがスリップ状態となっているので、待機側クラッチの回転の影響を受けて、タービン回転数ωtの上昇が比較的早く行われることとなる。
次いで、統括制御部81は、タービン回転数ωtが待機側インプットシャフト回転数ωc2を超えたか否かを判定し(ステップS18)、タービン回転数ωtが待機側インプットシャフト回転数ωc2を超えていない場合(ステップS18:NO)には、統括制御部81は、ステップS18を再び実行する。この場合には、クラッチ制御部83は、利用側クラッチと待機側クラッチとのスリップ状態を制御して、アウトプットシャフト33のトルクの値が変化しないようにする制御を継続する。
一方、タービン回転数ωtが待機側インプットシャフト回転数ωc2を超えた場合(ステップS18:YES)には、待機側クラッチの回転数によりタービン回転数ωtの上昇を促進させることができないので、クラッチ制御部83は、待機側クラッチ許容トルクTc2をゼロにし、利用側クラッチ許容トルクTc1を、ロックアップ油圧制御開始時のタービントルクTt(目標クラッチトルクTFLU)と一致させるように、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ装置20に供給する作動油の油圧を調整することにより、変速クラッチ装置20の利用側クラッチのスリップ状態を制御する(ステップS19)。この際、タービントルクTtは、徐々に減少していき、タービン回転数ωtがエンジン回転数ωeに近づくように増加する。
制御フェーズ4のステップS19の時点においては、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15がスリップ状態であり、変速クラッチ装置20がスリップ状態であるので、変速機1における運動方程式は、式(7)、式(9)、式(10)で表すことができる。
次いで、統括制御部81は、タービン回転数ω
tがエンジン回転数ω
eと同じ回転数となったか否かを判定し(ステップS20)、タービン回転数ω
tがエンジン回転数ω
eと同じ回転数でない場合(ステップS20:NO)には、制御フェーズ4のままであるので、統括制御部81は、ステップS20を再び実行する。
一方、タービン回転数ωtがエンジン回転数ωeと同じ回転数となった場合(ステップS20:YES)には、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われたと考えられるので、制御フェーズは、制御フェーズ5に移り、統括制御部81は、タービン回転数ωtがエンジン回転数ωeと同じ回転数となった旨をエンジン制御部71とクラッチ制御部83に通知する。
エンジン制御部71は、エンジントルクTeをドライバ要求エンジントルクTedよりも一時的に減少させ、その後、エンジントルクTeをドライバ要求エンジントルクTedに変化させて、タービン回転数ωtと、インプットシャフト回転数ωcとを同期させるように制御する。本実施形態では、エンジン制御部71は、式(11)を満たすように制御する(ステップS21)。なお、ω・ ec(式(11)では、ωの上に1つのドット(・)、明細書では便宜的にこの様に表記する)は、予め設定されたエンジン回転角速度の目標値を示しており、図4(A)に示すエンジン回転数ωeの低下速度に相当する値となっている。このように、エンジントルクTeを一時的に低下させるので、タービン回転数ωtと、利用側インプットシャフト回転数ωc1とを迅速に同期させることができる。
また、クラッチ制御部83は、利用側クラッチ許容トルクT
c1を、ドライバ要求エンジントルクT
edと一致させるように上昇させる(ステップS21)。ここで、上記したように、エンジントルクT
eを一時的に低下させるので、利用側クラッチ許容トルクT
c1を、ドライバ要求エンジントルクT
edと一致させるように上昇させる際におけるショックの発生を抑えることができる。
制御フェーズ5においては、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15が完全に締結された状態であり、変速クラッチ装置20がスリップ状態であるので、変速機1における運動方程式は、式(12)、式(10)で表すことができる。
制御フェーズ5においては、エンジントルクT
eがドライバ要求エンジントルクT
edよりも一時的に減少し、その後、ドライバ要求エンジントルクT
edに一致する。また、利用側クラッチ許容トルクT
c1は、徐々に上昇していき、ドライバ要求エンジントルクT
edと一致する。また、エンジン回転数ω
e(タービン回転数ω
tと同じ)は、低下していき、利用側インプットシャフト回転数ω
c1に徐々に近づく。
次いで、統括制御部81は、エンジン回転数ωeと利用側インプットシャフト回転数ωc1との回転数差が所定値よりも小さくなったか否かを判定し(ステップS22)、エンジン回転数ωeと利用側インプットシャフト回転数ωc1との回転数差が所定値よりも小さくなっていない場合(ステップS22:NO)には、制御フェーズ5のままであるので、統括制御部81は、ステップS22を再び実行する。
一方、エンジン回転数ωeと利用側インプットシャフト回転数ωc1との回転数差が所定値よりも小さくなった場合(ステップS22:YES)には、利用側クラッチを完全に締結したとしても締結する際のショックが比較的少ないと考えられるので、制御フェーズは、制御フェーズ6に移り、統括制御部81は、エンジン回転数ωeと利用側インプットシャフト回転数ωc1との回転数差が所定値よりも小さくなった旨をクラッチ制御部83に通知する。
通知を受けたクラッチ制御部83は、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ装置20の利用側クラッチに供給する作動油の油圧を調整することにより、利用側クラッチ許容トルクTc1を、変速クラッチ装置20が完全に締結された際のトルク(完全締結時トルクTMAX)と一致させるようにする(ステップS23)。
次いで、統括制御部81は、利用側クラッチ許容トルクTc1が、完全締結時トルクTMAXと一致したか否かを判定し(ステップS24)、利用側クラッチ許容トルクTc1が、完全締結時トルクTMAXと一致していない場合(ステップS24:NO)には、利用側クラッチが完全に締結されておらず、制御フェーズ6のままであるので、統括制御部81は、ステップS24を再び実行する。
一方、利用側クラッチ許容トルクTc1が、完全締結時トルクTMAXと一致した場合(ステップS24:YES)には、利用側クラッチが完全に締結されたことを意味し、トルクコンバータ12のロックアップクラッチ15を介してのエンジン10から駆動輪までの駆動力伝達経路が完全に確立されたことを意味しているので、統括制御部81は、エンジン制御部71を通常の制御状態に戻し、ロックアップクラッチ締結処理を終了する。
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置2によると、統括制御部81がロックアップクラッチ15を接続する条件を満たすか否かを判定し、条件を満たす場合に、クラッチ制御部83が駆動力伝達に用いられている利用側クラッチをスリップ状態として、利用側クラッチ許容トルクTc1がタービン14のトルクに一致するように制御し、一致した場合に、トルコン制御部82がロックアップクラッチ15を締結するように、油圧の制御を開始し、クラッチ制御部83が、油圧制御開始後、利用側クラッチよりも低速段の待機側クラッチをスリップ状態とすると共に、減少したアウトプットシャフト33へのトルクを補うように、利用側クラッチ許容トルクTc1を増加させる制御を行うようにしたので、ロックアップクラッチ15の接続時にアウトプットシャフト33のトルクが変動することを低減してショックの発生を低減することができ、また、タービン回転数ωtとエンジン回転数ωeとを早期に一致させてロックアップクラッチ15を早期に締結させることができ、ロックアップクラッチ15のロックアップを伴う駆動力の伝達経路の確立を早期に行うことができる。
次に、変形例に係る変速機1について説明する。なお、上記した実施形態に係る変速機と同様な部分には同様な符号を付し、異なる点を中心に説明する。
変形例に係る変速機1のクラッチ制御部83は、同期制御手段の一例であり、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われた後において、クラッチ用作動油調整部86により変速クラッチ装置20に供給する作動油の油圧を調整することにより、変速クラッチ装置20の利用側クラッチ許容トルクTc1を一時的に増加させ、その後、利用側クラッチ許容トルクTc1をドライバ要求エンジントルクTedに変化させて、タービン回転数ωtと、利用側インプットシャフト回転数ωcとを同期させるように制御する。
次に、変形例に係る変速機1におけるロックアップクラッチ締結処理について説明する。
図5は、本発明の変形例に係るロックアップクラッチ締結処理のフローチャートである。図6(A)は、本発明の変形例に係るロックアップクラッチ締結処理の各フェーズにおける各部の回転数の時間変化を示す図である。図6(B)は、本発明の変形例に係るロックアップクラッチ締結処理の各フェーズにおける各部のトルクの時間変化を示す図である。なお、図6における時間軸の1、2、・・・は、制御フェーズ1、制御フェーズ2、・・・を示している。
ステップS18において、タービン回転数ωtがエンジン回転数ωeと同じ回転数となった場合(ステップS20:YES)には、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われたと考えられるので、制御フェーズは、制御フェーズ5に移り、統括制御部81は、タービン回転数ωtがエンジン回転数ωeと同じ回転数となった旨をクラッチ制御部83に通知する。ここで、統括制御部81と、クラッチ制御部83とは、変速機ECU80に設けられているので、通信による遅延の影響なしに、その旨をクラッチ制御部83に迅速に通知することができる。
クラッチ制御部83は、変速クラッチ装置20の利用側クラッチ許容トルクTc1を一時的に増加させ、その後、利用側クラッチ許容トルクTc1をドライバ要求エンジントルクTedに変化させて、タービン回転数ωtと利用側インプットシャフト回転数ωc1とを同期させるように制御する。本実施形態では、クラッチ制御部83は、式(13)を満たすように制御する(ステップS25)。
なお、ω
・ ec(式(13)では、ωの上に1つのドット(・)、明細書では便宜的にこの様に表記する)は、予め設定されたエンジン回転角速度の目標値を示しており、図6(A)に示すエンジン回転数ω
eの低下速度に相当する値となっている。このように、利用側クラッチ許容トルクT
c1を一時的に増加させるので、タービン回転数ω
tと、利用側インプットシャフト回転数ω
c1とを迅速に同期させることができる。ここで、タービン回転数ω
tと、利用側インプットシャフト回転数ω
c1とを同期するためには、上記実施形態のように、エンジン10のトルクを制御することも考えられるが、本変形例では、エンジン10のトルク制御よりも応答遅れが少ない変速クラッチ装置20の利用側クラッチ許容トルクT
c1を制御するようにしているので、タービン回転数ω
tと、利用側インプットシャフト回転数ω
c1とをより早期に同期させることができるとともに、その際におけるショックの発生を効果的に低減することができる。
以上説明したように、変形例に係る制御装置2によると、クラッチ制御部83が、ロックアップクラッチ15の締結が完全に行われた後において、変速クラッチ装置20の利用側クラッチ許容トルクTc1を一時的に増加させ、その後、利用側クラッチ許容トルクTc1をドライバ要求エンジントルクTedに変化させて、タービン回転数ωtと変速機構30の利用側インプットシャフト回転数ωc1とを同期させるように制御するようにしたので、ロックアップクラッチ15のロックアップを伴う駆動力の伝達経路の確立を迅速に行うことができる。
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
例えば、上記実施形態では、目標クラッチトルクTFLUは、ドライバ要求エンジントルクTedよりも低いトルクとなっていたが、本発明はこれに限られず、ドライバ要求エンジントルクTedと同じトルクであってもよい。
また、上記実施形態では、ロックアップクラッチ締結処理の制御開始前フェーズにおいて、待機側クラッチが利用側クラッチよりも低速段に接続されているものとして説明していたが、本発明はこれに限られず、制御開始前フェーズにおいて待機側クラッチが高速段に接続されていてもよく、この場合には、制御フェーズ2の実行までに、変速制御部84が変速調整部87を制御することにより、待機側クラッチを低速段に接続するようにすればよい。
また、上記実施形態では、駆動源としてエンジン10を例にあげていたが、本発明はこれに限られず、例えば、駆動源を電気モータとしてもよく、また、駆動源をエンジンと電気モータとを組み合わせたものとしてもよい。