ところで、炭化ケイ素基板から半導体を製造する際は、基板の表面にエッチング加工を施して溝や穴など(以下、「凹部」という)を形成し、この凹部に金属を充填して回路を形成させているが、この際、凹部に金属が密に充填されないと、回路に欠陥が生じ、導通不良などの問題が引き起こされる。したがって、凹部の形状は、金属を密に充填し易い形状、例えば、開口部から底部に向けて縮径したテーパ形状であることが好ましい。
しかしながら、上記従来のプラズマエッチング方法によって、炭化ケイ素基板にエッチング加工を施した場合、凹部はテーパ形状ではなく、側壁の中央部分が円弧状に抉られたボウイング形状となる。このように、凹部がボウイング形状となるのは、以下の理由によるものと考えられる。
即ち、上記従来のプラズマエッチング方法においては、上述したように、炭化ケイ素基板を予めエッチング処理温度にまで加熱し、このエッチング処理温度を維持した状態でエッチングするようにしているため、各原子間の結合が切断され易くなっている。したがって、ラジカルなどのエッチング種との化学反応による等方的なエッチングが進行し、炭化ケイ素基板に形成される凹部の形状は、上述した所謂ボウイング形状になる。
このように、凹部の形状がボウイング形状である場合には、半導体製造工程における上記問題が生じるだけでなく、この他にも、化学気相蒸着法(CVD法)によって基板に成膜処理を施す際に、凹部の側壁に薄膜が形成し難くなるという問題も生じる。
更に、近年、半導体素子の微細化に伴い、凹部の形状をテーパ形状にするだけではなく、そのテーパ角度の制御などといったより緻密にエッチング構造を制御することが要求されている。また、半導体製造工程における金属充填の容易化を図る上でもテーパ角度を制御することの重要性が増している。
そこで、本願発明者らは、所定のテーパ角度を有するテーパ形状の凹部を形成させることができるプラズマエッチング方法について、鋭意研究を重ねた結果、シリコン系ガス及び酸素ガスを含む保護膜形成用原料ガスとエッチングガスとを所定の流量比で処理チャンバ内に同時に供給し、炭化ケイ素基板にエッチング加工を施すことによって、流量比に応じて定まる種々のテーパ角度を有する凹部を形成させることができることを知見するに至った。
本発明は、本願発明者らが、鋭意研究を重ねた結果なされたものであり、炭化ケイ素基板に所望のテーパ角度を有するテーパ形状の凹部を形成させることができるプラズマエッチング方法の提供を、その目的とする。
上記目的を達成するための方法は、
少なくともシリコン系ガス及び酸素ガスを含む保護膜形成用原料ガスと、反応性エッチングガスとを同時に処理チャンバ内に供給してプラズマ化し、処理チャンバ内に配置された基台上に載置される炭化ケイ素基板をプラズマエッチングして、該炭化ケイ素基板にテーパ形状のエッチング構造を形成する方法であって、
前記炭化ケイ素基板の表面に開口部を有するマスクを形成するマスク形成工程と、
前記保護膜形成用原料ガスの流量及び前記反応性エッチングガスの流量によって定まる比であって、形成すべきエッチング構造側壁面と底面とがなす角度に応じて定められる流量比を設定する流量比設定工程と、
前記炭化ケイ素基板を前記処理チャンバ内の基台上に載置して、該炭化ケイ素基板を加熱し、前記反応性エッチングガス及び保護膜形成用原料ガスを前記設定した流量比になるように、所定の流量で前記処理チャンバ内に供給してプラズマ化するとともに、前記炭化ケイ素基板が載置された基台にバイアス電力を印加して、前記炭化ケイ素基板に保護膜を形成しつつ、該炭化ケイ素基板をエッチングするエッチング工程とを行うようにしたプラズマエッチング方法に係る。
このプラズマエッチング方法によれば、まず、炭化ケイ素基板をプラズマエッチングするに当たり、当該炭化ケイ素基板の表面に開口部を有するマスクを形成する。
ついで、炭化ケイ素基板に形成すべきエッチング構造における側壁面の底面に対する角度に応じて、保護膜形成用原料ガスの流量及び反応性エッチングガスの流量によって定まる比を設定する、即ち、エッチング構造が所定のテーパ角度を有するテーパ形状となるように、流量比を設定する。尚、前記流量比の値は、テーパ角度と流量比との相関を実験的に求めた値であって、テーパ角度と流量比との相関を求めるにあたっては、例えば、反応性エッチングガス、シリコン系ガス及び酸素ガスのうち、1つのガスの流量を固定した状態で、残りのガスの流量を変化させて相関を求めるようにしても良いし、2つのガスの流量を固定した状態で、残りのガスの流量を変化させて求めるようにしても良い。また、1つのガスの流量を固定した状態で、残りのガスが同量となるように各ガスの流量を変化させて、テーパ角度と流量比との相関を求めるようにしても良い。
次に、表面にマスクが形成された炭化ケイ素基板を基台上に載置して加熱する。尚、炭化ケイ素基板の加熱温度は、サブトレンチの発生を効果的に抑制し、精度良くエッチング構造を形成するために190℃以上であることが好ましく、200℃〜1000℃であることがより好ましい。
その後、前記反応性エッチングガス及び保護膜形成用原料ガスを、前記設定した流量比となるように、その供給流量を調整した状態で処理チャンバ内に同時に供給し、当該反応性エッチングガス及び保護膜形成用原料ガスをプラズマ化する。しかる後、炭化ケイ素基板が載置された基台にバイアス電力を印加し、プラズマ化された保護膜形成用原料ガスによって炭化ケイ素基板上に保護膜(二酸化ケイ素)を形成しつつ、プラズマ化されたエッチングガスによって炭化ケイ素基板をエッチングする。
このように、上記プラズマエッチング方法において、形成すべきエッチング構造のテーパ角度に応じた所定の流量比となるように、反応性エッチングガスと保護膜形成用原料ガスとを所定の流量で処理チャンバ内に同時に供給しプラズマ化して、炭化ケイ素基板に対して保護膜しつつエッチング加工を行うようにすることで、所定のテーパ角度を有するテーパ形状の凹部(エッチング構造)を形成することができる。
これは、凹部側壁へ保護膜が形成される量(時間当たりの量)と、イオン及びエッチング種による異方性エッチング速度との相関関係(例えば、比率)によるものだと考えられる。以下、図1を参照しつつ、炭化ケイ素基板に所定のテーパ角度を有するテーパ形状の凹部が形成する過程について説明する。尚、図1において、炭化ケイ素基板にはK、マスクにはM、保護膜にはHの符号を付した。
まず、図1(a)に示すように、炭化ケイ素基板KにおけるマスクM開口部下に位置する部分が、反応性エッチングガスをプラズマ化することによって生成したイオンによるスパッタリングやラジカルなどの反応性を有するエッチング種(以下、単に「エッチング種」という)との化学反応によってエッチングされるとともに、シリコン系ガス由来のSiなどの、反応性を有する保護膜形成種(Si)(以下、単に「保護膜形成種」という)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応、スパッタリングによって炭化ケイ素基板Kから物理的に解離した保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応、及び炭化ケイ素基板のエッチングによって生成したシリコン原子を含む反応生成物由来の保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応によって凹部の側壁に保護膜Hが形成される。斯くして、炭化ケイ素基板Kが異方性エッチングされる。尚、保護膜Hも、イオンによるスパッタリングによって少なからずエッチングされる。
図1(b)に示すように、その後も同様に、側壁が保護膜Hによって保護された状態で凹部の深さ方向へのエッチングが更に進行すると、イオンによるスパッタリングによってエッチングが行われる凹部の底部との距離が離れた部分は、炭化ケイ素基板から物理的に解離した保護膜形成種(Si)が供給され難くなるが、保護膜形成用原料ガスにシリコン系ガスが含まれていることで、このシリコン系ガス由来の保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応によって更に保護膜Hが形成されるため、当該保護膜Hは、エッチングされつつもその厚みが増していく。また、凹部の底部は、上記と同様に、シリコン系ガス由来の保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応、炭化ケイ素基板Kから物理的に解離した保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応、又はエッチングによって生成したシリコン原子を含む反応生成物由来の保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応によって底部近傍の側壁に保護膜Hが形成されつつ、イオンによるスパッタリングやエッチング種との化学反応によるエッチングが進行する。この際、上述したように、エッチングが進むにつれて、側壁に形成された保護膜Hの厚みが増していくことで、エッチングに関与するイオンやエッチング種の進入口である凹部の開口部が徐々に狭くなっていくため、凹部底部の幅が徐々に狭くなり、形成される凹部の幅が、開口部側から底部側に向けて徐々に狭くなる。
そして、凹部の側壁に形成された保護膜Hの厚みが増しつつ、炭化ケイ素基板の深さ方向へのエッチングが進行し、最終的に、図1(c)に示すように所定のテーパ角度を有するテーパ形状の凹部が形成される。尚、後工程で不要となる保護膜Hは、適宜処理工程を経て除去される。
また、上記プラズマエッチング方法においては、上述したように、シリコン系ガス由来の保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応によっても凹部の側壁に保護膜Hが形成されるようになっている。したがって、スパッタリングによって解離する保護膜形成種(Si)の量を増やすことなく、凹部の側壁に十分な量の保護膜Hが形成されるため、電界が集中し易い側壁の下の部分がスパッタリングによって物理的にエッチングされることで生じるサブトレンチの発生を抑えることができる。
尚、本願でいう「テーパ形状」とは、凹部における、底部幅よりも開口幅の方が広く、側壁全体が略直線であるものをいうものとする。また、本願では、図1(c)に示すように、凹部の底面と側壁とがなす角度(補角θ)を「テーパ角度」と定義し、この「テーパ角度θ」は、凹部の開口部の幅をW1、底部の幅をW2、開口部から底部までの深さをDとすると、以下の式から算出することができる。
(数式1)
θ(°)=tan−1〔D/{(W1−W2)/2}〕
また、本願でいうサブトレンチが発生している状態とは、図2に示すように、側壁における直線部分の下端を通る基準線SLとエッチング構造底面TBとの差Δdをラウンド度とし、基準線SLよりもエッチング構造底面TBが下方にある場合(図2左図参照)のラウンド度を「+」、上方にある場合(図2右図参照)のラウンド度を「−」と定義した場合に、ラウンド度が「−」である場合をいうものとし、サブトレンチが発生していない状態とは、ラウンド度が0以上である場合をいうものとする。
また、上記プラズマエッチング方法において、形成される凹部のテーパ角度は、保護膜形成用原料ガスの流量及び反応性エッチングガスの流量によって定まる比に依存する。したがって、流量比設定工程において、エッチング工程で形成すべき凹部のテーパ角度に応じて前記流量比を設定することで、エッチング工程で形成される凹部のテーパ角度を所望の角度とすることができる。
尚、上述したように、保護膜Hは、スパッタリングによって炭化ケイ素基板Kから物理的に解離した保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応によっても形成されるため、これら2つの保護膜形成種の量をコントロールし、保護膜Hが形成される速度を調整して、上記のように、凹部のテーパ角度を所望の角度とすることも可能であると考えられる。しかしながら、炭化ケイ素基板から物理的に解離する保護膜形成種(Si)の量及びエッチングによって生成した反応生成物由来の保護膜形成種(Si)の量は、基台に印加するバイアス電力の大きさや、処理チャンバ内の圧力、ガスの流量などの複数の諸要因に依存する。したがって、前記炭化ケイ素基板から解離した保護膜形成種(Si)及び反応生成物由来の保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応によって保護膜Hが形成される場合、所望のテーパ角度の凹部を形成させるためには、上記エッチングガスの流量、バイアス電力の大きさや処理チャンバ内の圧力を適宜設定して炭化ケイ素基板から解離する保護膜形成種(Si)の量及び反応生成物由来の保護膜形成種(Si)の量を厳密にコントロールしなければならず、その制御が極めて複雑で容易ではない。
これに対して、上記プラズマエッチング方法においては、上述したように、シリコン系ガス由来の保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応によっても保護膜Hが形成するようになっており、前記流量比を設定するだけで、容易且つ精度良く所望のテーパ角度を有する凹部を形成させることができる。
また、従来は、炭化ケイ素基板由来の保護膜形成種(Si)の単位面積当たりの量は、基板周縁部に比べて中央部の方が多いため、基板周縁部より中央部の方が形成される保護膜の量が多く、結果的に基板に形成されるエッチング形状にばらつきが生じていた。これに対して、上記プラズマエッチング方法においては、上述したように、シリコン系ガスを供給することによって、当該シリコン系ガス由来の保護膜形成種(Si)が基板全体に均一に行き渡る。これにより、炭化ケイ素基板由来の保護膜形成種(Si)に加え、エッチング量に依存しない保護膜形成種(Si)も保護膜の形成に関与するようになるため、炭化ケイ素基板由来の保護膜形成種(Si)の単位面積当たりにおける量のウェハ面内差の影響を受け難くなる。したがって、エッチング構造の角度を精度よく調整でき、また、形状の均一性を保つことができる。
尚、前記保護膜形成用原料ガスは、ハロゲンを含むシリコン系ガスと、酸素(O2)ガスとの混合ガスであり、ハロゲンを含むシリコン系ガスは、四フッ化ケイ素(SiF4)ガス又は四塩化ケイ素(SiCl4)ガスのいずれか一方のガスである。
この場合、ハロゲンを含むシリコン系ガスがプラズマ化されることによって、ハロゲンイオンやハロゲンラジカルなどのエッチング種が生成し、ハロゲンイオンによるスパッタリングやエッチング種との化学反応によって炭化ケイ素基板がエッチングされる。このように、シリコン系ガスが保護膜の形成に関与するだけでなく、炭化ケイ素基板のエッチングにも関与するため、保護膜によって凹部の側壁を保護しつつ、炭化ケイ素基板のエッチング速度を上げることができる。
また、前記反応性エッチングガスは、六フッ化硫黄(SF6)ガスであることが好ましく、前記保護膜形成用原料ガスは、四フッ化ケイ素(SiF4)ガスと酸素ガスとの混合ガスであることが好ましい。
また、前記角度に応じて定められる流量比を、前記保護膜形成用原料ガスの流量に対する、前記反応性エッチングガスの流量の比(第1流量比)とする場合、この第1流量比は、0.140以上0.35以下に設定するようにしても良い。このようにすれば、所謂サブトレンチの発生を比較的抑えた上で、所望のテーパ角度を有する凹部を形成することができる。
更に、前記第1流量比は、0.140以上0.30以下に設定するようにしても良い。このようにすれば、サブトレンチの発生をより確実に抑えた上で、所望のテーパ角度を有する凹部を形成することができる。
上記プラズマエッチング方法のエッチング工程においては、前記角度に応じて定められる流量比を、前記保護膜形成用原料ガスの流量と前記反応性エッチングガスの流量との和に対する、前記シリコン系ガスの流量の比(第2流量比)としており、この第2流量比は、0.40より大きく、0.632以下に設定することでサブトレンチの発生を比較的抑えることができ、0.4より大きく、0.6以下に設定することによってより効果的にサブトレンチの発生を抑制することができる。
尚、反応性エッチングガスとしてSF6ガスを用い、保護膜形成用原料ガスとして、SiF4ガスと酸素ガスとの混合ガスを用い、これらのガスのうち2種の流量を固定し、残りのガスの流量を変えて前記第1流量比の値を変えるようにした場合、本願発明者らの実験結果によると、前記第1流量比の値を0.140〜0.186の範囲内に設定することで、85.2°〜87.5°の範囲内の所望のテーパ角度を有するテーパ形状の凹部を形成させることができる。
また、前記保護膜形成用原料ガスは、同量のSiF4ガスとO2ガスとの混合ガスであっても良い。この場合、本願発明者らの実験結果によると、前記第1流量比の値を0.250〜0.333の範囲内に設定することで、81.0°〜88.8°の範囲内の所望のテーパ角度を有するテーパ形状の凹部を形成させることができ、また、この場合、第1流量比の値を大きくすることで、形成される凹部のテーパ角度を大きくすることができるため、所望のテーパ角度を有する凹部を容易に形成させることができる。
このようになるのは、第1流量比の値が増加する、言い換えれば、反応性エッチングガスの流量に対する保護膜形成用原料ガスの流量を減少させた状態でエッチング工程を行うと、深さ方向への異方性エッチング速度が、側壁に保護膜が形成される速度に対して相対的に速くなるため、最終的に形成される凹部のテーパ角度が大きくなる。また、逆に、第1流量比の値が減少した状態、すなわち、反応性エッチングガスの流量に対する保護膜形成用原料ガスの流量を増加させた状態でエッチング工程を行うと、深さ方向への異方性エッチング速度が、保護膜が形成される速度に対して相対的に遅くなるため、形成される凹部のテーパ角度が小さくなるためだと考えられる。
尚、この場合、第1流量比の値が0.250よりも小さいと、形成される保護膜の量が多くなり、凹部の深さ方向へのエッチングが進行し難くなる。また、第1流量比が0.333よりも多い場合も、保護膜が形成される量が多くなりすぎ、凹部の深さ方向へのエッチングが進行し難くなる。
尚、上記プラズマエッチング方法においては、炭化ケイ素基板のエッチングを適切に進行させるために、処理チャンバと炭化ケイ素基板との間のバイアス電位(Vpp)が430V以上となるように、基台に印加するバイアス電力の大きさを設定することが好ましい。
以上のように、上記プラズマエッチング方法によれば、炭化ケイ素基板に均一なテーパ形状の凹部を形成することができ、更に、そのテーパ角度を所望の角度とすることができ、また、サブトレンチの発生を抑えた上で、所望のテーパ角度の凹部を形成することができる。
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。
まず、プラズマエッチング方法を実施するためのエッチング装置1について説明する。このエッチング装置1は、閉塞空間を有する処理チャンバ11と、この処理チャンバ11内に昇降自在に配設され、炭化ケイ素基板Kが載置される基台15と、当該基台15を昇降させる昇降シリンダ18と、処理チャンバ11内にエッチングガス、保護膜形成用原料ガス及び不活性ガスを供給するガス供給装置20と、処理チャンバ11内に供給されたエッチングガス、保護膜形成用原料ガス及び不活性ガスをプラズマ化するプラズマ生成装置30と、基台15に高周波電力を供給する高周波電源35と、処理チャンバ11内の圧力を減圧する排気装置40とから構成される。
前記処理チャンバ11は、相互に連通した内部空間を有する上チャンバ12及び下チャンバ13から構成され、上チャンバ12は、下チャンバ13よりも小さく形成される。また、前記基台15は、炭化ケイ素基板Kが載置される上部材16と、昇降シリンダ18が接続される下部材17とから構成され、下チャンバ13内に配置されている。
前記ガス供給装置20は、エッチングガスとして、SF6ガスを供給するSF6ガス供給部21と、保護膜形成用原料ガスとして、SiF4ガス及びO2ガスをそれぞれ供給するSiF4ガス供給部22及びO2ガス供給部23と、不活性ガスとして、例えば、Arガスなどを供給する不活性ガス供給部24と、一端が上チャンバ12の上面に接続し、他端が分岐して前記SF6ガス供給部21、SiF4ガス供給部22、O2ガス供給部23及び不活性ガス供給部24にそれぞれ接続した供給管25とを備え、SF6ガス供給部21、SiF4ガス供給部22、O2ガス供給部23及び不活性ガス供給部24から供給管25を介して処理チャンバ11内にそれぞれSF6ガス、SiF4ガス、O2ガス及び不活性ガスを供給する。
前記プラズマ生成装置30は、所謂誘導結合プラズマ(ICP)を生成する装置であって、上チャンバ12に配設された環状のコイル31と、当該各コイル31に高周波電力を供給する高周波電源32とから構成され、高周波電源32によってコイル31に高周波電力を供給することで、上チャンバ12内に供給されたSF6ガス、SiF4ガス、O2ガス及び不活性ガスをプラズマ化する。
また、前記高周波電源35は、前記基台15に高周波電力を供給することで、基台15とプラズマとの間にバイアス電位を与え、SF6ガス、SiF4ガス、O2ガス及び不活性ガスのプラズマ化により生成されたイオンを、基台15上に載置された炭化ケイ素基板Kに入射させる。
前記排気装置40は、気体を排気する真空ポンプ41と、一端が前記真空ポンプ41に接続し、他端が下チャンバ13の側面に接続した排気管42とからなり、当該排気管42を介して真空ポンプ41が前記処理チャンバ11内の気体を排気し、処理チャンバ11内部を所定圧力に維持する。
次に、以上のように構成されたエッチング装置1を用いて炭化ケイ素基板Kをプラズマエッチングする方法について説明する。
まず、炭化ケイ素基板Kをプラズマエッチングするに当たり、炭化ケイ素基板Kにマスク形成処理を施す。
このマスク形成処理によって、炭化ケイ素基板Kの表面に、例えば、蒸着法(化学気相蒸着法(CVD)や物理気相蒸着法(PVD))などを用いてマスクを形成させた後、当該マスクに開口部を備えた所定のマスクパターンを形成する。尚、本実施形態においては、マスクはニッケル(Ni)から構成されるものとするが、これに限られるものではなく、例えば、他のメタルマスクや二酸化ケイ素から構成されていても良い。
次に、炭化ケイ素基板Kに形成される凹部(エッチング構造)を所望のテーパ角度を有するテーパ形状にするために、炭化ケイ素基板Kに形成すべき凹部における側壁面と底面とがなす角度(テーパ角度)に応じて定まる、SiF4ガス及びO2ガスの総流量に対するSF6ガスの流量の比(SF6ガス/(SiF4ガス+O2ガス))である第1流量比を設定する。尚、前記第1流量比の値は、テーパ角度と流量比との相関を予め実験的に求めた値であって、以下の説明においては、SF6ガスの流量を固定した状態で、SiF4ガスとO2ガスとが同量となるように各ガスの流量を変化させて求めた値であり、その数値範囲は、0.250〜0.333である。また、第1流量比の設定は、例えば、目的とするテーパ角度に対応した第1流量比となるように、各ガス供給部21,22,23ごとにガスの流量を調整するようにしても良いし、目的とするテーパ角度を指定することによって、各ガス供給部21,22,23から供給されるガスの流量が適宜制御装置により自動的に設定されるようにしても良い。各ガスの流量を自動で設定する場合には、所定のテーパ角度に応じて定められる第1流量比に対応した各ガスの供給流量を予め制御装置内に記憶させておくようにする。
次に、マスクを形成させた炭化ケイ素基板Kに対してプラズマエッチング処理を行う。
まず、炭化ケイ素基板Kをエッチング装置1内に搬入して基台15上に載置し、この炭化ケイ素基板Kの温度を200℃〜1000℃の温度範囲内の所定のエッチング処理温度にまで加熱する。具体的には、不活性ガス供給部24から処理チャンバ11内に不活性ガスを供給するとともに、高周波電源32,35によってコイル31及び基台15に高周波電力を印加する。これにより、処理チャンバ11内に供給した不活性ガスがプラズマ化され、このプラズマ化により生成したイオンが、基台15に高周波電力を印加することで生じたバイアス電位によって、基台15上に載置された炭化ケイ素基板Kに入射、衝突する。そして、炭化ケイ素基板Kに衝突したイオンのエネルギーを吸収して温度が上昇し、やがてエッチング処理温度で平衡状態に達する。尚、処理チャンバ11内の圧力は、前記排気装置40によって所定の圧力に維持される。
ついで、炭化ケイ素基板Kの温度がエッチング処理温度で平衡状態に達した炭化ケイ素基板Kをエッチングする。具体的には、前記各ガス供給部21,22,23から処理チャンバ11内にSF6ガス、SiF4ガス及びO2ガスをそれぞれ前記設定した第1流量比となるように供給し、高周波電源32,35によってコイル31及び基台15に高周波電力を印加する。これにより、処理チャンバ11内に供給したSF6ガス、SiF4ガス及びO2ガスがプラズマ化される。
そして、SF6ガス及びSiF4ガスのプラズマ化により生成したフッ素イオンやエッチング種(例えば、フッ素ラジカル)によって炭化ケイ素基板Kがエッチングされるとともに、O2ガスのプラズマ化により生成した保護膜形成種(O)が、炭化ケイ素基板Kがイオンによってスパッタリングされることで生じた保護膜形成種(Si)、炭化ケイ素基板Kのエッチングによって生成したシリコン原子を含む反応生成物(SiF4)由来の保護膜形成種(Si)及びSiF4ガス由来の保護膜形成種(Si)と反応して炭化ケイ素基板Kの表面に保護膜が形成される。このようにして、炭化ケイ素基板Kのエッチングと、保護膜の形成とが同時並行で行われ、保護膜によって保護されつつ、炭化ケイ素基板Kの異方性エッチングが進行し、炭化ケイ素基板Kに前記所定のテーパ角度を有するテーパ状凹部が形成する。
また、このプラズマエッチング方法においては、第1流量比によって形成される凹部のテーパ角度が決まるため、適宜第1流量比を設定することで、所望のテーパ角度を有する凹部を形成させることができる。
このように、凹部の形状がテーパ形状となり、そのテーパ角度が第1流量比によって変化するのは、以下の理由によるものだと考えられる。
即ち、このプラズマエッチング方法においては、SF6ガス、SiF4ガス及びO2ガスを同時に供給しプラズマ化するようにしており、これにより、炭化ケイ素基板Kから物理的に解離した保護膜形成種(Si)とO2ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応及び炭化ケイ素基板Kのエッチングによって生成したシリコン原子を含む反応生成物(SiF4)由来の保護膜形成種(Si)と酸素ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応だけでなく、SiF4ガス由来の保護膜形成種(Si)とO2ガス由来の保護膜形成種(O)との化学反応によっても保護膜が形成される。このため、エッチングが進行するにつれて、側壁に形成された保護膜の厚みが増し、凹部の開口部が徐々に狭くなっていき、エッチングされる部分、すなわち、凹部の底部の幅が徐々に狭くなる。したがって、最終的に形成される凹部の幅が開口部側から底部側に向けて縮径したテーパ形状となるのである。そして、設定する第1流量比を変えると、保護膜が形成される速度に対する深さ方向への異方性エッチング速度が相対的に変化するため、最終的に異なるテーパ角度を有する凹部が形成されるのである。
因みに、本願発明者らは、このプラズマエッチング方法を適用して、SF6ガスを20sccm、SiF4ガス及びO2ガスを両者の流量が同量となるようにそれぞれ30〜40sccm内の所定の流量で同時に処理チャンバ内に供給し、コイル印加電力を2000W、バイアス電力を700W、処理チャンバ内の圧力を0.7Paとして、Niマスクが形成された炭化ケイ素基板にエッチング加工を施す実験を行った。尚、図4は、参考例1’〜3’における各エッチング条件及びその結果をまとめた表である。また、図5は、参考例1’〜3’における各エッチング条件で形成された凹部の形状を示した図であり、(a)は参考例1’、(b)は参考例2’、(c)は参考例3’で形成された凹部の形状を示している。尚、図5中の符号Kは炭化ケイ素基板、符号Mはマスク、符号Hは保護膜を示している。
図4及び図5に示すように、第1流量比の値を0.250とした参考例1’ではテーパ角度θ1が81.0°の凹部が形成され(図5(a)参照)、第1流量比の値を0.286とした参考例2’ではテーパ角度θ2が84.4°の凹部が形成され(図5(b)参照)、第1流量比の値を0.333とした参考例3’ではテーパ角度θ3が88.8°の凹部が形成された(図5(c)参照)。
以上のように、いずれの場合も側壁全体が直線的なテーパ形状の凹部が形成し、第1流量比の値が大きくなるにつれて、テーパ角度も大きくなっている。このように、第1流量比の値が大きくなるにつれて、テーパ角度が大きくなるのは、第1流量比の値が大きくなる、換言すれば、SiF4ガス及びO2ガスの総流量に対するSF6ガスの流量が多くなることによって、深さ方向への異方性エッチング速度が、保護膜Hが凹部の側壁に形成される速度に対して相対的に速くなるためだと考えられる。
また、本願発明者らは、保護膜形成用原料ガスとしてのSiF4ガスが形成されるエッチング形状に及ぼす影響について検討するために、SF6ガスを40sccm、O2ガスを0〜100sccm内の所定の流量で同時に処理チャンバ内に供給し、コイル印加電力を2500W、バイアス電力を700W、処理チャンバ内の圧力を3Paとして、Niマスクが形成された炭化ケイ素基板にエッチング加工を施す比較実験を行った。尚、図6は、比較例1〜6における各エッチング条件及びその結果をまとめた表である。また、同図中における「ラウンド度」とは、図2に示すように、エッチング構造の側壁における直線部分の下端を通る基準線SLとエッチング構造底面TBとの差Δdであり、エッチング構造底面TBが基準線SLよりも下方にある場合に「+」、上方にある場合を「−」と定義したものであって、当該ラウンド度が0未満である場合にはサブトレンチが発生しているものとし、ラウンド度が0以上である場合にはサブトレンチが発生していないものとする。
図6に示すように、比較例1〜3では、サブトレンチは発生しないものの、凹部の形状がボウイング形状となっており、一方、比較例4〜6では、凹部の形状はボウイング形状とはならないものの、サブトレンチが発生している。即ち、保護膜形成用原料ガスとしてO2ガスのみを用いた場合には、サブトレンチがなく、ボウイング形状でもない凹部を形成することができない。
これに対して、このプラズマエッチング方法においては、保護膜形成用原料ガスとしてSiF4ガスとO2ガスとを用いるようにしているため、サブトレンチの発生を最小限に抑えた上で、テーパ形状の凹部を形成することができる。
更に、このプラズマエッチング方法では、上述したように、SiF4ガスが保護膜の形成に関与するだけでなく、炭化ケイ素基板のエッチングにも関与するようになっているため、保護膜によって凹部の側壁を保護しつつ、炭化ケイ素基板のエッチング速度を上げることができる。尚、このように、保護膜形成用原料ガスに含まれるSiF4ガスが炭化ケイ素基板のエッチングにも関与するようになっている。したがって、単純に反応性エッチングガスと保護膜形成用原料ガスとの流量比を予測することができないため、上述したように、テーパ角度と流量比との相関を実験的に求める必要がある。
ところで、SiF4ガスなどのシリコン系ガスを用いないプラズマエッチング方法において、炭化ケイ素とSF6ガスなどのエッチングガス由来のエッチング種との化学反応によって、保護膜の形成に寄与するSiF4などが生成される(図7(a)参照)が、基板の中心部と周縁部とでは、中心部の方がエッチングされる量が多いため、基板の周縁部よりも中心部の方がSiF4などが多く生成される。そのため、基板中心部では、周縁部よりも保護膜の形成が促進され、当該基板中心部のエッチング速度と周縁部のエッチング速度との間に差が生じ、基板全体を均一にエッチングすることが困難であった。
これに対して、このプラズマエッチング方法においては、SiF4ガスを供給することによって、このSiF4ガス由来の十分な量の保護膜形成種(Si)が基板の周縁部にまで均一に行き渡る。これにより、図7(b)に示すように、炭化ケイ素とエッチング種との化学反応によって生成されるSiF4由来の保護膜形成種(Si)だけでなく、その量がエッチング量に依存しないSiF4由来の保護膜形成種(Si)も保護膜の形成に関与するようになるため、SiF4ガスを用いない場合と比較して形成される凹部の角度を精度よく調整でき、また、基板全体における凹部の形状を均一なものにすることができる。
以上、プラズマエッチング方法の一形態について説明したが、このプラズマエッチング方法の取り得る態様は何らこれに限定されるものではない。
上例においては、第1流量比の値を、SF6ガスの流量を固定した状態で、SiF4ガスとO2ガスとが同量となるように各ガスの流量を変化させて求めた値としたが、SiF4ガスの流量とO2ガスの流量とは必ずしも同量である必要はない。また、設定する第1流量比の値は、1つのガスの流量を固定した状態で、残りのガスの流量を変化させて求めた値に限られず、2つのガスの流量を固定した状態で、残りのガスの流量を変化させて求めた値であっても良い。
因みに、本願発明者らが、SF6ガスを6〜8sccm、SiF4ガスを24〜26sccm、O2ガスを16〜20sccm内の所定の流量でそれぞれ同時に処理チャンバ内に供給し、コイル印加電力を1750W、バイアス電力を700W、処理チャンバ内の圧力を0.7Paとして、SiO2マスクが形成された炭化ケイ素基板にエッチング加工を施す実験を行ったところ、いずれの場合も側壁全体が直線的なテーパ形状の凹部が形成した。図8は、実施例4〜10における各エッチング条件及びその結果をまとめた表である。
図8からわかるように、SF6ガス、SiF4ガス及びO2ガスの流量をそれぞれ変えて所定の第1流量比を設定するようにしても、第1流量比の値が0.140〜0.186の間で、テーパ角度が85.2°〜87.5°の範囲内の所定の角度を有したテーパ形状の凹部を形成させることができる。
尚、このプラズマエッチング方法においては、第1流量比の値を0.140以上0.35以下に設定することで、サブトレンチの発生を極力抑えることができ、0.140以上0.30以下に設定することで、サブトレンチの発生を更に抑えることができる。
因みに、本願発明者らは、第1流量比の値とサブトレンチの発生の有無との間の関連性について検討するために、SF6ガス、SiF4ガス及びO2ガスを、第1流量比の値が0.23〜0.39の範囲となるように、所定の流量でそれぞれ処理チャンバ内に供給し、コイル印加電力を1750W、バイアス電力を200〜400W、処理チャンバ内の圧力を0.8Paとして、SiO2マスクが形成された炭化ケイ素基板にエッチング加工を施す実験を行った。尚、図9は、実施例11〜13及び15〜18、並びに、参考例14’における各エッチング条件及びその結果をまとめた表である。
図9に示すように、第1流量比の値を0.26とした実施例11では、形成された凹部の形状がボウイング形状でもなく、サブトレンチの発生もなかった。一方、第1流量比を0.31、0.35とした実施例12、実施例13については、わずかなサブトレンチは形成されたものの、ボウイング形状でない凹部が形成され、また、第1流量比の値を0.39とした参考例14’では、実施例12,13よりも大きなサブトレンチが形成されたものの、同様に、ボウイング形状でない凹部が形成された。ここで、ラウンド度は−0.20よりも大きい方が好ましいため、上述したように、第1流量比の値は0.35以下とすることが好ましく、更にラウンド度を高めるためには、0.30以下とすることが好ましい。尚、実施例11〜13及び参考例14’における処理チャンバと炭化ケイ素基板との間のバイアス電位(Vpp)は、それぞれ544V、542V、544V、558Vであった。
ここで、実施例15〜18の結果に着目すると、第1流量比の値を0.30以下である0.23とした実施例15及び実施例16では、バイアス電力の大きさに依存することなく、形成された凹部の形状がボウイング形状でもなく、サブトレンチの発生もない。これに対して、第1流量比の値を0.30よりも大きい0.33とした実施例17及び実施例18では、興味深い結果が得られた。バイアス電力を250Wに設定した実施例18では、わずかなサブトレンチが形成されているのに対し、バイアス電力を200Wに設定した実施例17では、サブトレンチの発生が見られなかった。このことから、サブトレンチが発生し得る第1流量比の値の範囲であっても、バイアス電力を適切な大きさに設定することにより、サブトレンチの発生を抑えることができることがわかる。
また、本願発明者らは、処理チャンバと炭化ケイ素基板との間のバイアス電位(Vpp)がエッチングの進行に及ぼす影響について検討するために、SF6ガスを11sccm、SiF4ガスを30sccm、O2ガスを18sccmの流量で処理チャンバ内に供給し、SiO2マスクが形成された炭化ケイ素基板にVppの異なる条件でエッチング加工を施す実験を行ったところ、Vppが430Vのときはエッチングが正常に進行した。これに対して、Vppが400Vのときは、エッチングは進行したものの残渣の存在が確認され、240Vのときにはエッチングストップが起こった。このことから、Vppが430V以上となる条件で炭化ケイ素基板のエッチングを行うことで、エッチングが正常に進行することが分かった。
更に、上例においては、テーパ角度に応じて定められる流量比を、保護膜形成用原料ガス(SiF4ガス+O2ガス)の流量に対する反応性エッチングガス(SF6ガス)の流量の比である第1流量比としているが、本発明に係る一実施形態においては、保護膜形成用原料ガスの流量と反応性エッチングガスの流量との和に対する、シリコン系ガス(SiF4ガス)の流量の比(SiF4ガス/(SF6ガス+SiF4ガス+O2ガス))である第2流量比としている。
この場合、図9に示すように、第2流量比の値を0.40より大きく、0.632以下に設定することでラウンド度が−0.20よりも大きくなりサブトレンチの発生が極力抑えられ、第2流量比の値を0.4より大きく、0.6以下に設定することで、サブトレンチの発生を更に抑制することができる。
また、本願発明者らは、エッチング開始時の炭化ケイ素基板の温度がサブトレンチの発生に及ぼす影響について検討するために、炭化ケイ素基板の加熱時間を変えることにより炭化ケイ素基板表面の3種類の異なる温度に変化させた上で、炭化ケイ素基板に対してエッチング加工を施す実験を行った。尚、予備加熱工程は、Arガスを100sccmの流量で処理チャンバ内に供給し、コイル印加電力を2500W、バイアス電力を100W、処理チャンバ内の圧力を3Paとして、参考例19’では10秒間、参考例20’では25秒間、参考例21’では40秒間処理を行った。また、エッチング工程は、SF6ガスを9sccm、SiF4ガスを12sccm、O2ガスを20sccm、Arガスを150sccmの流量でそれぞれ同時に処理チャンバ内に供給し、コイル印加電力を2000W、バイアス電力を330W、処理チャンバ内の圧力を0.8Paとして、各参考例とも3秒間処理を行った。図10は、参考例19’〜21’についての結果をまとめた表であり、図11は、参考例19’〜21’における基板表面温度とラウンド度との関係を示したグラフである。
図10に示すように、予備加熱工程の処理時間が長い方が炭化ケイ素基板に入射、衝突するイオンの量が増加するため、基板の表面温度が高くなっている。また、基板の表面温度が130℃である参考例19’と180℃である参考例20’では、ラウンド度が0未満であり、エッチング構造にサブトレンチが発生しているのに対して、基板の表面温度が220℃である参考例21’においては、ラウンド度が0以上であり、サブトレンチが発生していない。このことから、エッチング条件が同じである場合には、エッチング開始時の基板表面温度を高くすることによって、サブトレンチの発生を抑えられることがわかった。
尚、図11に示すように、ラウンド度を0以上にする、言い換えれば、サブトレンチの発生を効果的に抑制するためには、炭化ケイ素基板の表面温度が190℃以上となるように予備加熱工程の処理時間を調整すれば良い。
また、上例においては、エッチングガスとしてSF6ガスを用いたが、例えば、NF3ガスやF2ガスを用いるようにしても良い。更に、シリコン系ガスとしてSiF4ガスを用いたが、例えば、ケイ素と、フッ素の同族元素である塩素との化合物である四塩化ケイ素(SiCl4)ガスを用いても良い。このようにしても、SiF4ガスを用いた場合と同様に、SiCl4ガスをプラズマ化することにより生成する塩化物イオンや塩素ラジカルが炭化ケイ素基板のエッチングに関与するため、相応の効果が得られる。
更に、上例では、SF6ガス、SiF4ガス及びO2ガスの流量の値について特に限定していないが、炭化ケイ素基板の周縁部は、中心部と比較して炭化ケイ素が少ない、即ち、エッチングされる量が少ないため、エッチングによって生成する反応生成物由来の保護膜形成種(Si)の量が少ない。したがって、周縁部と中心部とでは、供給される保護膜形成種(Si)の量に差があるため、少なくともこの差を無視できる程度のSiF4ガスを供給するようにして、炭化ケイ素基板全面に十分な量の保護膜形成種(Si)を行き渡らせるようにすることが好ましい。
また、上例において、プラズマ発生装置30は、コイル31が上チャンバ12に配設されているが、例えば、上チャンバ12の天板上方に配設した構成の誘導結合プラズマ(ICP)発生装置としても良い。
図9に示すように、第1流量比の値を0.26とした実施例11では、形成された凹部の形状がボウイング形状でもなく、サブトレンチの発生もなかった。一方、第1流量比を0.31、0.35とした実施例12、実施例13については、わずかなサブトレンチは形成されたものの、ボウイング形状でない凹部が形成され、また、第1流量比の値を0.39とした実施例14では、実施例12,13よりも大きなサブトレンチが形成されたものの、同様に、ボウイング形状でない凹部が形成された。ここで、ラウンド度は−0.20よりも大きい方が好ましいため、上述したように、第1流量比の値は0.35以下とすることが好ましく、更にラウンド度を高めるためには、0.30以下とすることが好ましい。尚、実施例11〜14における処理チャンバと炭化ケイ素基板との間のバイアス電位(Vpp)は、それぞれ544V、542V、544V、558Vであった。
また、本願発明者らは、エッチング開始時の炭化ケイ素基板の温度がサブトレンチの発生に及ぼす影響について検討するために、炭化ケイ素基板の加熱時間を変えることにより炭化ケイ素基板表面の3種類の異なる温度に変化させた上で、炭化ケイ素基板に対してエッチング加工を施す実験を行った。尚、予備加熱工程は、Arガスを100sccmの流量で処理チャンバ内に供給し、コイル印加電力を2500W、バイアス電力を100W、処理チャンバ内の圧力を3Paとして、実施例19では10秒間、実施例20では25秒間、実施例21では40秒間処理を行った。また、エッチング工程は、SF6ガスを9sccm、SiF4ガスを12sccm、O2ガスを20sccm、Arガスを150sccmの流量でそれぞれ同時に処理チャンバ内に供給し、コイル印加電力を2000W、バイアス電力を330W、処理チャンバ内の圧力を0.8Paとして、各参考例とも3秒間処理を行った。図10は、実施例19〜21についての結果をまとめた表であり、図11は、実施例19〜21における基板表面温度とラウンド度との関係を示したグラフである。
図10に示すように、予備加熱工程の処理時間が長い方が炭化ケイ素基板に入射、衝突するイオンの量が増加するため、基板の表面温度が高くなっている。また、基板の表面温度が130℃である実施例19と180℃である実施例20では、ラウンド度が0未満であり、エッチング構造にサブトレンチが発生しているのに対して、基板の表面温度が220℃である実施例21においては、ラウンド度が0以上であり、サブトレンチが発生していない。このことから、エッチング条件が同じである場合には、エッチング開始時の基板表面温度を高くすることによって、サブトレンチの発生を抑えられることがわかった。