図1は、本発明の第1の実施形態によるブラシモータ100の外観図である。
ブラシモータ100は、一方向の回転力を発生させる(一方向に回転する)磁極が4極以上の多極のモータである。第1の実施形態において、ブラシモータ100は、例えば、車両のフロントワイパー装置の動力となる回転力を発生させるための多極、例えば磁極が4極の直流モータであるものとする。しかしながら、ブラシモータ100は、多極の直流モータであれば任意であり、その用途も車両のフロントワイパー装置に限らず、任意の装置の動力を発生させるために使用可能である。
図1において、ブラシモータ100は、モータ部Mと減速機構部Gとから構成されている。モータ部Mには、一方向の回転力を発生させるモータ本体部110が内蔵されている。モータ部Mのハウジング部MHには、モータ本体部110として、ハウジング部MHに固定された界磁部(図示なし)と、整流子を備えた回転電機子(図示なし)と、上記整流子と接触するように配置されたブラシ(図示なし)とが収容されている。第1の実施形態では、モータ本体部110の回転電機子は、いわゆる均圧線を有しており、これにより、回転電機子の整流子と接触するブラシの数が削減されている。回転電機子に均圧線を備えたことによりブラシを削減し、削減したブラシが配置されていた(ブラシが配置され得る)空き領域には、モータ本体部110の回転電機子の回転を制御するための制御基板120(図2参照)が配置される。その詳細については後述する。
減速機構部Gは、モータ本体部110の回転電機子の回転数を所望の回転数に減速するためのものである。減速機構部Gのハウジング部GHには、モータ本体部110の回転軸(回転電機子のシャフト)と結合されたウォームギアや、このウォームギアと連結されたウォームホイールギア等が収容されている。減速機構部Gにより減速された回転は、減速機構部Gから延出した出力軸Qから取り出される。なお、図1では示されていないが、出力軸Qには、モータ本体部110が発生させた一方向の回転を、ワイパー(ワイパーブレードと示す場合もある)がウインドシールドを払拭するための往復運動に対応した正方向(例えば、時計回り方向)と逆方向(例えば、反時計回り方向)の二方向の回転に変換するためのリンク機構等が取り付けられる。
本発明の第1の実施形態によるブラシモータ100の内部構造において(後述する図17)、モータ部Mのハウジング部MHの内部に組み込まれた円環状のブラシホルダ110Hには、その穴の内方に位置するモータ本体部110の回転電機子の整流子と接触するブラシとして、二つのブラシ111A,111Bが配置されている。これら二つのブラシ111A,111Bは、4極の場合には機械角にして90度だけ異なる位置に配置されている。この機械角はブラシモータ100の極数に応じて任意に設定される。
図2は、本発明の第1の実施形態によるブラシモータ100の構成例を示すブロック図であり、モータ本体部110の回転電機子の回転制御に関与する要素を示している。
ブラシモータ100は、モータ本体部110の回転電機子の回転を制御するための要素として、制御基板120、電流検出素子130、ダイオード141、ダイオード143、リレープレート150を備えている。
制御基板120は、後述する図17に示すブラシ111Aとブラシ111Bとの間に印加される電圧を発生させるための要素であり、モータ本体部110の回転電機子の回転を制御するための主要な要素である。制御基板120は、モータ部Mのハウジング部MHの内部に、後述するPWM制御を行うことにより省かれた高速用ブラシ、及び均圧線を回転電機子に備えたことにより省かれたブラシが設けられていた領域に位置するように配置される。その詳細については後述する。
制御基板120は、ワイパー装置の作動速度に応じてブラシモータ100の回転速度を切り替えるための後述のPWM(Pulse Width Modulation)制御で用いられるPWM信号のデューティ制御に関する処理(以下、「デューティ制御処理」と称す。)を実施する。デューティ制御処理では、制御基板120は、ワイパー装置の作動速度が低速である場合、PWM信号のデューティを減少させることにより、モータ本体部110に印加される電圧を低下させる。逆に、制御基板120は、ワイパー装置の作動速度が高速である場合、PWM信号のデューティを増加させることにより、モータ本体部110に印加される電圧を上昇させる。
また、制御基板120は、ブラシモータ100を駆動する電流の過電流に起因した過熱を防止するための制御に関する処理(以下、過熱防止処理とする)を実施する。この過熱防止処理では、制御基板120は、電流検出素子130によって検出された電流値が過電流を示す設定電流値を超え、予め設定された設定時間を超えた場合、ブラシ111Aとブラシ111Bとの間に印加される電圧を供給するPWM信号(後述)のデューティを0とする。これにより、制御基板120は、モータ本体部110の回転電機子に流れる電流の電流値を0とし、ブラシモータ100の過電流に起因する過熱を防止する。上記設定電流値は、ブラシモータ100に接続される負荷(図示なし)の許容電流の上限である限界負荷電流、または、ブラシモータ100(モータ本体部110)の拘束電流である。ただし、この例に限定されず、上記所定電流値は任意に設定し得る。例えば、ブラシモータに過電流となる電流値の電流をブラシモータに対して継続的に供給して、ブラシモータの仕様における最大温度を超える時間を測定し、この時間に余裕を持たせた時間を上記設定時間として設定する。
また、制御基板120は、ブラシモータ100のトルクリップルを低減させるための制御に関する処理(以下、「トルクリップル低減処理」と称す。)を実施する。トルクリップル低減処理では、制御基板120は、電流検出素子130によって検出された電流を、この電流に重畳するトルクリップル(ブラシモータ100固有の次数に基づくトルクリップルを含む)の平均値を求める。そして、制御基板120は、この求めた平均値によって与えられる目標電流値に収束させるように、ブラシ111Aとブラシ111Bとの間を流れる励磁電流、すなわちモータ本体部110に流れるモータ電流を変化させる。ブラシモータ100固有の次数は、例えばブラシモータ100の極数等の構造に応じて物理的に決定される要素である。
上記のデューティ制御処理、過熱防止処理及びトルクリップル低減処理の各々の処理の詳細については後述する。
電流検出素子130は、ブラシモータ100のモータ本体部110を流れる電流の電流値(すなわち後述する駆動トランジスタ1204に流れる電流の電流値)を検出するための要素であり、具体的にはモータ本体部110の回転電機子に流れる電流を検出する。後述する図10の例では、モータ本体部110と、低速作動電圧信号VLの配線及びダイオード143のカソードの接続点との間の電流経路上に配置されている。ただし、この例に限定されず、電流検出素子130は、モータ本体部110の回転電機子に供給される電流の経路上に設けられていればよい。電流検出素子130は、例えば、抵抗体の電圧降下を利用した電流センサ、ホール効果を利用した電流センサ等、任意の電流センサであり得る。電流検出素子130の検出信号は過電流検出部1205(後述)に入力される。
ダイオード141は、モータ本体部110の回転を停止させる際に発生するエネルギーを消費させることにより、モータ本体部110を保護するための要素である。低速作動電圧信号VLの配線,ダイオード143は、フロントワイパー装置の操作スイッチに連動して供給される低速作動電圧信号VLと高速作動電圧信号VHとを合成してモータ本体部110の電源を供給するための要素である。ここで、高速作動電圧信号VHは、フロントワイパー装置のワイパーを高速作動させることを示す電圧信号である。低速作動電圧信号VLは、フロントワイパー装置のワイパーを低速作動させることを示す電圧信号である。高速作動電圧信号VHと低速作動電圧信号VLとの各々は、フロントワイパー装置における操作スイッチの外部回路から、操作スイッチの状態に対応して、後述する制御基板102のデューティ制御部1201に対して供給される。
リレープレート150は、フロントワイパー装置のワイパーブレードの往復運動の始点と終点のタイミングを得るための要素である。リレープレート150は、減速機構部Gのハウジング部GHの内部に備えられ、モータ本体部110の作動に連動して回転する。ここで、ブレーキ接点Bは、フロントワイパー装置を制動するためのタイミングを発生させる接点である。また、スタート接点Sは、フロントワイパー装置を作動させるためのタイミングを発生させる接点である。ブレーキ接点Bおよびスタート接点Sは、モータ本体部110の回転角に応じてグランドEと電気的に接続される。従って、各接点がグランド電位になるタイミングから、フロントワイパー装置の制動のタイミングと作動のタイミングを把握することができる。なお、リレープレート150は、公知の技術を利用して実現することができる要素である。
制御基板120を詳細に説明する。制御基板120は、デューティ制御部1201、PWM(Pulse Width Modulation)信号生成部1202、駆動部1203、駆動トランジスタ(FET)1204、過電流検出部1205を備えている。このうち、デューティ制御部1201、PWM信号生成部1202、駆動部1203、過電流検出部1205は、駆動トランジスタ1204をPWM制御するPWM制御部(符号なし)を構成する。ここで、制御基板120において、デューティ制御部1201、PWM信号生成部1202及び過電流検出部1205の各々を、マイクロコンピュータ1208を用いて、プログラムでブラシモータ100を駆動するPWM信号の生成の要素として構成する。
上記PWM信号生成部1202は、駆動トランジスタ1204をPWM制御するためのPWM信号のデューティ(デューティ比、パルス周期におけるHレベルの比率)を変化させることにより、モータ本体部110の回転電機子の回転速度を変化させ、これによりフロントワイパー装置の作動速度を変化させる。
本実施形態においては、フロントワイパー装置のワイパーの作動速度が高速作動び低速作動の2段階の場合について説明する。
上記PWM制御部を構成するデューティ制御部1201は、高速作動電圧信号VHが入力された場合、駆動トランジスタ1204のゲートに供給されるPWM信号のデューティを高速作動のデューティとする制御信号を、PWM信号生成部1202に対して出力する。一方、デューティ制御部1201は、低速作動電圧信号VLが入力された場合、駆動トランジスタ1204のゲートに供給されるPWM信号のデューティを低速作動のデューティとする制御信号を、PWM信号生成部1202に対して出力する。
PWM制御部を構成するPWM信号生成部1202は、高速作動のデューティとする制御信号が供給されると、予め設定されている高速作動のデューティのパルスのパルス列であるPWM信号を生成して、駆動部1203に対して出力する。また、PWM信号生成部1202は、低速作動のデューティとする制御信号が供給されると、予め設定されている低速作動のデューティのPWM信号を生成して、駆動部1203に対して出力する。
PWM制御部を構成する駆動部1203は、PWM信号生成部1202から供給されるPWM信号におけるパルスの電力増幅を行い、駆動トランジスタ1204に対して出力する。第1の実施形態では、上記PWM信号におけるパルスのハイレベルの区間において、駆動トランジスタ1204がオン状態に駆動され、上記PWM信号におけるパルスのローレベルの区間において、駆動トランジスタ1204がオフ状態に駆動される。
上記PWM信号のデューティは、モータ本体部110の特性要件に応じて設定される。第1の実施形態では、説明の便宜上、モータ本体部110を高速で作動させる場合、上記PWM信号のデューティは100パーセントに設定され、モータ本体部110を低速で作動させる場合、上記PWM信号のデューティは70パーセントに設定されるものとするが、この例に限定されず、上記PWM信号のデューティは任意に設定し得る。すなわち、本実施形態においては、高速作動及び低速作動のいずれかの作動速度とするための電流を、モータ本体部110に対して印加するようにデューティを、それぞれのモータ本体部110の特性に対応して予め設定しておく。
駆動トランジスタ1204は、モータ本体部110の回転電機子の整流子に対し、ブラシを介して印加される電圧を発生させ、上記回転電機子の巻線を通電するための要素である。第1の実施形態では、駆動トランジスタ1204は、nチャネル型パワーFET(Field Effective Transistor)である。また、駆動トランジスタ1204として、nチャネル型パワーFETではなく、バイポーラトランジスタを用いても良い。駆動トランジスタ1204は、モータ本体部110に備えられたブラシ111AとグランドEとの間に接続されている。具体的には、駆動トランジスタ1204のソースは、車体等のグランドEに接続され、そのドレインは、電流検出素子130を通じてモータ本体部110のブラシ111Aに接続されている。駆動トランジスタ1204は、ゲートに対して、駆動部1203を通じてPWM信号生成部1202からPWM信号が印加される。駆動トランジスタ1204には、いわゆるボディダイオード1204aが備えられている。
なお、駆動トランジスタ1204は、モータ本体部110のもう一つのブラシ111Bと、低速作動電圧信号VLの配線及びダイオード143のカソードの接続点との間に直列に接続されていてもよい。また、駆動トランジスタ1204は、ドレインがダイオード141のアノードに接続されている。ダイオード141は、カソードがモータ本体部110のブラシ111Bに接続されている。また、モータ本体部110は、ブラシ111Bが低速作動電圧信号VLの配線及びダイオード143のカソード(の接続点)に接続されている。低速作動電圧信号VLの配線には、アノードに対して低速作動電圧信号VLが供給される。ダイオード143には、アノードに高速作動電圧信号VHが供給される。また、本実施形態においては、ワイパーの往復動作をリンク機構により行うため、ブラシモータ100が一方向のみの回転力を発生させる(一方向にのみ回転する)仕様となり、回転数の制御のために一つの駆動トランジスタ1204を備えればよく、ブラシモータ100を回転駆動させる駆動トランジスタの個数を最小限に抑えている。
制御基板120を構成する過電流検出部1205は、電流検出素子130が検出した電流値に基づいて、モータ本体部110に流れる電流の電流値が過電流の電流値であるか否かを検出するための要素である。ここで、過電流とは、モータ本体部110の限界負荷電流(モータ本体部110の負荷として最大負荷が加わったときに回転電機子に流れる電流)を超える電流、または、モータ本体部110の拘束電流(モータ本体部110の回転を拘束したときに回転電機子に流れる電流)以上の電流値の電流である。ただし、この例に限定されず、過電流の定義は任意になし得る。過電流検出部1205は、電流検出素子130によって検出された電流の電流値が過電流を示す設定電流値を超えた場合、モータ本体部110に流れる過電流を検出し、または、上記過電流の発生の有無を判定する。
デューティ制御部1201は、過電流検出部1205によって過電流が検出された時点から、上記所定電流値に対応して設定された所定時間が経過した場合、ブラシ111Aとブラシ111Bとの間に印加される電圧を制御するPWM信号のデューティを0とする。換言すれば、デューティ制御部1201は、電流検出素子130によって検出された電流が上記所定電流値を超え、且つ、上記所定時間が経過した場合、ブラシモータ100が仕様の最大温度を超える前に、ブラシ111Aとブラシ111Bとの間に印加される電圧を制御するPWM信号のデューティを0とし、ブラシモータ100の作動を停止させ、過電流によるブラシモータ100の加熱を抑制する。
ここで、デューティ制御部1201は、モータ本体部110に過電流が流れた状態が継続する時間(以下、過電流通電時間と称す。)を計測するための通電時間計測カウンタ1201aを備える。デューティ制御部1201は、通電時間計測カウンタ1201aのカウンタ値によって計時される過電流通電時間が上記設定時間を超えた場合、ブラシ111Aとブラシ111Bとの間に印加される電圧を制御するPWM信号のデューティを0とし、ブラシモータ100の作動を停止させる。このとき、デューティは0でなくとも、ブラシモータ100の作動が停止するデューティであっても良い。
図3は、本発明の第1実施形態におけるデューティ制御部1201の構成例を示すブロック図である。
なお、図3は、デューティ制御部1201の構成要素のうち、トルクリップル低減処理に関連する要素のみを示し、デューティ制御処理および過熱防止処理に関連する要素(例えば、通電時間計測カウンタ1201a)は省略されている。図3におけるデューティ制御部1201は、目標電流設定部12011、減算器12012、電流制御部12013を備えている。
目標電流設定部12011は、トルクリップル低減処理において用いられる目標電流値ITを設定するためのものである。目標電流設定部12011は、所定の一定期間にわたって電流検出素子130によって検出されたモータ電流IMの平均値である平均電流値を、目標電流値ITとして設定する。このモータ電流IMの平均値は、電流検出素子130によって検出されるブラシモータ100に流れるトルクリップルが重畳したモータ電流(モータ本体部110の励磁電流となる電流)の平均値に対応する量である。
トルクリップル低減処理では、電流制御部12013によるPI制御の下、電流検出素子130によって検出されるブラシモータ100を流れるモータ電流を、ブラシモータ100固有の次数を有するトルクリップルを含むトルクリップルが重畳したモータ電流の平均値に対応する目標電流値ITに収束するようにフィードバック制御する。目標電流設定部12011は、例えばモータ本体部110の定格電流(例えば、約2.0A)を目標電流値ITとして設定、または上記フィードバック制御の各サイクルにおいて、例えば直前の1または2以上の所定数の制御サイクルに相当する一定期間にわたって電流検出素子130によって検出されるモータ電流IMを積算し、そのモータ電流IMの平均値を目標電流値ITとして設定する(後述する変形例1)。モータ電流IMの平均値を目標電流値ITとして設定する場合、この目標電流値ITは、上記フィードバック制御の制御サイクルごとに更新されるものとするが、ブラシモータ100の起動時のみに更新してもよく、目標電流値ITの更新のタイミングは任意に設定し得る。
減算器12012は、目標電流設定部12011によって設定された目標電流値ITから、電流検出素子130によって検出されたモータ電流IMを減算するための要素である。減算器12012は、目標電流値ITから検出されたモータ電流IMを減算し、目標電流値ITとモータ電流IMとの差分(IT−IM)を出力する。なお、電流検出素子130から出力される電流を示す信号の極性が予め反転されているものとすれば、減算器12012に代えて加算器が用いられる。すなわち、目標電流値ITとモータ電流IMとの差分を得ることができることを限度に、減算器12012として、例えば差動増幅器等、任意の手段を用いることができる。
電流制御部12013は、モータ本体部110の励磁電流であるモータ電流IMが、目標電流値ITに収束するように、PI制御に基づくフィードバック制御を実施するための要素である。電流制御部12013は、駆動トランジスタ1204をPWM制御するため、PWM信号SPのデューティを変化させることにより、ブラシモータ100を流れるモータ電流IMを変化させ目標電流値ITに収束させる。
すなわち、電流制御部12013は、目標電流値ITとモータ電流IMとの差分(IT−IM)に基づいて、モータ電流IMを目標電流値ITに向けて変化させるために必要なPWM信号のデューティの値を示すデューティ信号SDをPWM信号生成部1202に出力する。すなわち、電流制御部12013は、目標電流値ITとモータ電流IMとの差分(IT−IM)である、目標電流値ITを基準としたトルクリップルの電流の振幅値を低減するように、PWM信号のデューティの値を制御する。そして、PWM信号生成部1202は、デューティ信号SDによって示されるデューティを有するPWM信号SPを生成し、図2に示す駆動部1203を通じて駆動トランジスタ1204のゲートに出力する。
次に、本発明の第1の実施形態によるブラシモータ100の動作を説明する。
ブラシモータ100の動作は、次の三つの処理による動作に大別される。
・ブラシモータ100の回転をPWM制御するためのデューティ制御処理
・ブラシモータ100の過電流に起因した過熱を防止するための過熱防止処理
・ブラシモータ100の振動および騒音を低減するためのトルクリップル低減処理
上記の各処理は、デューティ制御部1201、PWM信号生成部1202、過電流検出部1205の各々の構成要素により実施される。上記の各処理は、デューティ制御部1201、PWM信号生成部1202、過電流検出部1205を構成するマイクロコンピュータ1208により実施される。例えば、上記所定電流値および上記所定時間は、デューティ制御部1201の機能を実現するための処理手順が記述されたプログラム上で規定されている。
(1)デューティ制御処理
図4は、本発明の第1の実施形態によるブラシモータ100の動作例を説明するためのフローチャートであり、デューティ制御部1201およびPWM信号生成部1202および過電流検出部1205を構成するマイクロコンピュータ1208によるデューティ制御処理の一例を説明するための図である。
車両の使用者がフロントワイパー装置の操作スイッチを、停止状態から高速作動あるいは低速作動のいずれかの作動モードに設定すると、作動モードに対応する電圧信号(高速作動電圧信号または低速作動電圧信号)が操作スイッチに接続された外部回路からデューティ制御部1201に入力される。
そして、デューティ制御部1201は、供給された電圧信号が高速作動電圧信号VHであるか否かの判定を行う(ステップS1)。
このとき、デューティ制御部1201は、供給された電圧信号が高速作動電圧信号VHである場合、処理をステップS2へ進める。一方、デューティ制御部1201は、供給された電圧信号が高速作動電圧信号VHで無い場合、すなわち供給された電圧信号が低速作動電圧信号VLである場合、処理をステップS3へ進める。
デューティ制御部1201は、供給された電圧信号が高速作動電圧信号VHである場合、PWM信号のパルスのデューティを高速動作のデューティとする制御信号を、PWM信号生成部1202に対して出力する。
これにより、PWM信号生成部1202は、予め設定されている、例えばパルスのデューティが100パーセントの高速作動に対応したPWM信号を生成する。そして、PWM信号生成部1202は、生成したデューティが100パーセントのPWM信号を駆動部1203に対して出力する(ステップS2)。
一方、デューティ制御部1201は、供給された電圧信号が低速作動電圧信号VLである場合、PWM信号のパルスのデューティを低速動作のデューティとする制御信号を、PWM信号生成部1202に対して出力する。
これにより、PWM信号生成部1202は、予め設定されている、例えばパルスのデューティが60パーセントの低速作動に対応したPWM信号を生成する。そして、PWM信号生成部1202は、生成したデューティが70パーセントのPWM信号を駆動部1203に対して出力する(ステップS3)。
駆動トランジスタ1204は、駆動部1203を介して入力されるPWM信号のパルスによりオンオフ制御される。これにより、駆動トランジスタ1204は、PWM信号におけるパルスのデューティに対応した電流をモータ本体部110に対して供給して印加する(ステップS4)。
これにより、デューティ制御部1201の制御の下において、ブラシモータであるモータ本体部110は、PWM信号のパルスのデューティに対応して、高速作動あるいは低速作動に対応した回転数で一方向に回転し、リンク機構を介してフロントまたはリヤワイパー装置のワイパーによるフロントまたはリヤのウィンドシールドに対する払拭が実施される。
上述したように、第1の実施形態によれば、PWM制御によるブラシモータの作動速度の制御(ブラシモータの回転速度の制御)を行うので、従来のように高速用と低速用の各々のブラシを設け、作動速度によりこれら高速用及び低速用の各々のブラシの切り替えを行う必要がない。このため、作動速度に応じた複数のブラシの個数を備える必要がなくなる。このため、第1の実施形態によれば、例えば、高速用のブラシを省くことが可能となり、高速用のブラシを備えることによる騒音の増加、整流子の寿命低下、効率低下等の不都合を解消することができる。
また、上述した第1の実施形態によれば、ブラシモータにおける磁極を4極以上に多極化しても、PWM制御によるブラシモータの作動速度の制御を行うことにより、高速用のブラシを備える必要がない。このため、第1の実施形態によれば、ブラシの組み付け精度に関する制約を回避することができ、多極化および小型軽量化を促進することができる。特に、ワイパー装置に用いるブラシモータの場合、法規により、低速作動/高速作動の切り替え機能や、低速と高速との速度差等について規定されているため、モータ回転数のばらつきが大きくなると、法規を満たすことができなくなる場合が想定される。しかしながら、上述した第1の実施形態によれば、PWM制御によりブラシモータの回転速度を調整するので、デューティを調整することにより、法規に合わせてワイパーの作動速度を柔軟に設定することができる。
また、第1の実施形態によれば、ブラシモータの電源電圧が高電圧化(例えば、12Vから42V、48V等への高電圧化)されたとしても、PWM制御におけるPWM信号のデューティを調整することにより、ブラシモータに印加される実質的な電源電圧を従来の電圧(例えば、12V)に維持することができる。このため、第1の実施形態によれば、任意の電源電圧に柔軟に対応することができ、電源電圧が高電圧化されても、従来のフロントまたはリヤワイパー装置のブラシモータとして継続して使用することが可能になる。従って、モータの高電圧化のための対策が不要になる。
また、第1の実施形態によれば、車両側の設計変更を要することなく、フロントまたはリヤワイパー装置に必要とされる所望の特性要件を有するブラシモータを実現することができる。
また、第1の実施形態によれば、モータ停止時(駆動モータ1204がオフ状態)においては、ダイオード141とモータ本体部110とにより閉回路が形成されるため、電磁ブレーキ作用に基づくオートストップ機能を実現することができる。
また、第1の実施形態によれば、外力によってワイパーが強制的に動かされる状況において、例えば、外力がモータの回転方向に対応した外力である場合、モータ本体部110に接続されたダイオード141により閉回路効果(電磁ブレーキ効果)が得られ、モータ逆回転方向に対応した外力である場合には、駆動トランジスタ1204のボディダイオード1204aにより閉回路効果が得られる。
また、第1の実施形態によれば、一方向の回転力を発生させるブラシモータにおいて、一つの駆動トランジスタ1204を備えればよく、駆動トランジスタの個数を最小限に抑えることができる。これにより、装置コストの低減を図ることができる。
また、第1の実施形態によれば、一般的な仕様を想定する範囲において、回転センサ(センサーマグ、モールIC等)やリレーをブラシモータに搭載する必要がない。従って、更なる低コスト化を図ることができる。
(2)過熱防止処理
図5から図7の各々は、本発明の第1の実施形態によるブラシモータ100の動作例における過熱防止処理を説明するための図である。ここで、図5は過熱防止処理の全体フローチャートであり、図6は図5の過熱防止処理における加熱保護処理の詳細フローチャートであり、図7は図5の加熱防止処理における復帰処理の詳細フローチャートである。
過熱防止処理は、上述した図4のフローチャートのデューティ制御処理(ステップS21〜S23)と並行して実施される。
図8は、デューティ制御部1201の内部の記憶部に記憶された過熱保護処理毎の設定電流値とこの設定電流値に対応する設定時間との関係を示す設定電流値テーブルの構成例を示す図である。図8において、設定電流値は過熱保護n処理の複数の異なる限界負荷電流(時間経過とともに過熱に至る電流)及び拘束電流(ブラシモータの回転が行えない過負荷における電流、すなわち最大電流)の各々の電流値である。復帰設定時間は、ブラシモータ100が停止させてから、ブラシモータ100を再作動させるまでの時間である。すなわち、復帰設定時間は、0の温度を低下させるために必要となる時間である。フェイルフラグは、過熱保護処理毎に設けられており、設定電流値を超える電流値の電流がこの設定電流値に対応する設定時間を超えて流れ、停止された際に立てられるフラグである。フェイルフラグの欄が1の場合フラグが立っているとし、フラグの欄が0の場合フラグが立っていないとする。また、設定電流値は、電流値の範囲を示す設定でも良い。
例えば、設定電流値をVTとし、限界負荷電流を後述する過熱保護1処理に対して10(A)≦VT<12(A)、過熱保護2処理に対して12(A)≦VT<14(A)、過熱保護3処理に対して14(A)≦VT<16(A)とし、過熱保護4処理に対して拘束電流を16(A)<VTとして設定電流値テーブルに予め書き込まれて記憶されている。また、過熱保護1処理、過熱保護2処理、過熱保護3処理及び過熱保護4処理それぞれの設定時間を、20(秒)、10(秒)、5(秒)、2(秒)としている。過熱保護1処理、過熱保護2処理、過熱保護3処理及び過熱保護4処理それぞれの復帰設定時間を、10(秒)、10(秒)、20(秒)、20(秒)としている。
以下、図4から図7の各々を用いて、本実施形態における過熱防止処理を説明する。
車両の使用者がワイパー装置の操作スイッチを操作してワイパー装置を作動させると、過電流検出部1205は、電流検出素子130の検出する電流値をモニタする。また、デューティ制御部1201は、過熱防止処理を起動させるための制御周期割込みが発生する度に、図5のフローチャートの処理を実行する。
デューティ制御部1201は、設定電流値テーブルにおける各設定電流値のフェイルフラグの欄を参照し、フラグが立っている(1となっている)フェイルフラグの欄の有無を確認する(ステップS11)。このとき、デューティ制御部1201は、フェイルフラグが立っている設定電流値がない場合、処理をステップS12へ進める。この場合、ブラシモータは作動している。一方、デューティ制御部1201は、フェイルフラグが立っている設定電流値がある場合、処理をステップS13へ進める。この場合ブラシモータは作動していない(停止している)。
デューティ制御部1201は、フェイルフラグが立っていない場合、図3のフローチャートにおけるPWM信号生成部1202にデューティのPWM信号(デューティ出力)を生成させる。そして、デューティ制御部1201は、駆動トランジスタ(FET)1204をオンオフ制御させ、ブラシモータ100を作動させ、処理をステップS14へ進める(ステップS12)。
一方、デューティ制御部1201は、フェイルフラグが立っている場合、ブラシモータを再作動させるための復帰処理を行う(ステップS13)。このとき、デューティ制御部1201は、復帰の条件(後述)を満たしている場合、図3のフローチャートに従う動作により、ブラシモータを再作動させる。また、デューティ制御部1201は、復帰の条件を満たしていない場合、この制御周期割込みにおける周期の処理を終了する。
デューティ制御部1201は、ブラシモータ100が作動状態の場合、過熱保護1処理(ステップS14)、過熱保護2処理(ステップS15)、過熱保護3処理(ステップS16)、過熱保護4処理(ステップS17)の処理を順次行う。デューティ制御部1201は、過熱保護4処理が終了すると、この制御周期割込みにおける周期の処理を終了する。
ここで、例えば、過熱保護1処理、過熱保護2処理及び過熱保護3処理の各々は、モータ本体部110に流れる電流の電流値がそれぞれの処理に対応した設定電流値としての限界負荷電流値を超えた場合の過電流に起因する過熱を防止するための処理である。また、第4過熱保護処理は、モータ本体部110に流れる電流の電流値が設定電流値としての拘束電流値を超えた場合の過電流に起因する過熱を防止するための処理である。過熱保護1処理、過熱保護2処理、過熱保護3処理、過熱保護4処理の順番に、設定電流値の示す電流値が徐々に高くなっている。限界負荷電流値は、必要に応じて4個以上設定しても良く、それぞれに対応した過熱保護n処理を設ける。
次に、図6を参照して過熱保護n処理について説明する。本実施形態において、過熱保護n処理は、過熱保護1処理、過熱保護2処理、過熱保護3処理及び過熱保護4処理の各々に対応しており、nが1≦n≦4である。すなわち、過熱保護1処理、過熱保護2処理、過熱保護3処理及び過熱保護4処理の各々は、設定電流値及び設定時間が異なるが処理自体は同様である。図7の設定電流値テーブルの設定電流値の各々は、過熱保護1処理、過熱保護2処理、過熱保護3処理及び過熱保護4処理それぞれで用いる設定電流値である。
過電流検出部1205は、過熱保護n処理に対応する設定時間nを、デューティ制御部1201の設定電流値テーブルから読み出す。そして、過電流検出部1205は、電流検出素子130が測定した電流であるモータ電流の電流値が設定電流値テーブルから読み出した設定電流値nを超えているか否かの判定を行う(ステップS21)。このとき、過電流検出部1205は、電流検出素子130が測定した電流の電流値が予め設定された設定電流値を超えている場合、電流検出素子130が測定した電流の電流値が予め設定された設定電流値を超えていることを示す通知をデューティ制御部1201に対して通知する。そして、過電流検出部1205は、処理をステップS22へ進める。一方、過電流検出部1205は、電流検出素子130が測定した電流の電流値が予め設定された設定電流値を超えていない場合、電流検出素子130が測定した電流の電流値が予め設定された設定電流値を超えていないことを示す通知を、デューティ制御部1201に対して通知する。そして、過電流検出部1205は、処理をステップS23へ進める。
デューティ制御部1201は、電流検出素子130が測定した電流の電流値が予め設定された設定電流値を超えている場合、通電時間計測カウンタ1201a_nのカウントアップ(経過時間の計時)を開始する(ステップS22)。そして、デューティ制御部1201は、処理をステップS24へ進める。
この通電時間計測カウンタ1201a_nは、過熱保護n処理毎にデューティ制御部1201内部に設けられた時間を計時する通電時間計測カウンタ1201aであり、過熱保護n処理に対応するカウンタである。
デューティ制御部1201は、電流検出素子130が測定した電流の電流値が予め設定された設定電流値を超えていない場合、通電時間計測カウンタ1201a_nのカウントアップを停止し、計時した経過時間を0とするカウンタ値のクリア処理を行う(ステップS23)。そして、デューティ制御部1201は、処理を図5のフローチャートの処理に戻す。
デューティ制御部1201は、過熱保護n処理に対応する設定時間nを、設定電流値テーブルから読み出す。そして、デューティ制御部1201は、通電時間計測カウンタ1201a_nが計時したカウンタn値(時間)が、設定電流値テーブルから読み出した設定時間nを超えているか否かの判定を行う(ステップS24)。このとき、デューティ制御部1201は、通電時間計測カウンタ1201a_nが計時したカウンタn値が設定時間nを超えている場合、処理をステップS25へ進める。一方、デューティ制御部1201は、通電時間計測カウンタ1201a_nが計時したカウンタn値が設定時間nを超えていない場合、処理を図5のフローチャートの処理に戻す。
デューティ制御部1201は、通電時間計測カウンタ1201a_nが計時したカウンタn値が設定時間nを超えている場合、PWM信号生成部1202に対し、PWM信号のパルスのデューティを0とする制御信号を出力する(ステップS25)。これにより、PWM信号生成部1202は、PWM信号のパルスのデューティ(DUTY)を0とする。すなわち、PWM信号生成部1202は、PWM信号の出力を停止する。このため、駆動トランジスタ1204(FET)が常にオフ状態となることで、ブラシモータ100に流れるモータ電流が0となり、ブラシモータ100は作動を停止する。そして、デューティ制御部1201は、処理をステップS26に進める。
デューティ制御部1201は、設定電流値テーブルにおける過熱保護n処理に対応するフェイルフラグを立てる(ステップS26)。そして、デューティ制御部1201は、処理を図5のフローチャートの処理に戻す。
また、上記設定時間について補足説明する。上述の過熱保護n処理の各々において、デューティ制御部1201は、予め設定された限界負荷電流の設定電流値の設定電流範囲に応じ、過電流が検出されてから駆動トランジスタ1204をオフ状態に制御するまでの上記設定時間を設定する。すなわち、所定時間は、過電流の大きさに応じて、過熱保護n処理毎に設定される。
例えば、限界負荷電流の設定電流値の設定電流範囲として、過熱保護1処理において10〜12A(アンペア)の設定電流範囲、過熱保護2処理において12〜14Aの設定電流範囲、過熱保護3処理において14〜20Aの設定電流範囲、過熱保護4処理において20A以上の設定電流範囲が予め設定される。デューティ制御部1201は、電流検出素子130により検出された電流が過熱保護1処理における設定電流範囲にある場合、過電流検出部1205により過電流が検出されてから駆動トランジスタ1204をオフ状態に制御するまでの上記所定時間を例えば20秒に設定する。この場合、過電流が発生してから、20秒後に駆動トランジスタ1204がオフ状態に制御され、過電流が遮断される。
また、電流検出素子130により検出された過電流が過熱保護2処理における設定電流範囲にある場合、デューティ制御部1201は、過電流が検出されてから駆動トランジスタ1204をオフ状態に制御する(PWM信号のデューティを0とする)までの上記所定時間を例えば10秒に設定する。この場合、過電流が発生してから、10秒後に駆動トランジスタ1204がオフ状態に制御される。このように、過電流検出部1205により検出される過電流の電流値が大きい程、過電流が発生してから過熱が発生するまでの時間が短くなるため、駆動トランジスタ1204をオフ状態に制御するまでの上記所定時間を短い時間に設定する。これにより、デューティ制御部1201は、ブラシモータ100において過熱が発生する前に、モータ本体部110に対する過電流を遮断することができる。
次に、図7を参照して復帰処理について説明する。以下の説明における復帰時間カウンタは、デューティ制御部1201内において過熱保護n処理毎に設けられている。
デューティ制御部1201は、フェイルフラグが立っているとした過熱保護n処理に対応する復帰設定時間を、設定電流値テーブルから読み出す。
デューティ制御部1201は、復帰時間カウンタの計時した時間が、設定電流値テーブルから読み出した復帰設定時間を超えたか否かの判定を行う(ステップS31)。このとき、デューティ制御部1201は、復帰時間カウンタの計時した時間が復帰設定時間を超えている場合、処理をステップS32へ進める。一方、デューティ制御部1201は、復帰時間カウンタの計時した時間が復帰設定時間を超えていない場合、処理をステップS33へ進める。
デューティ制御部1201は、復帰時間カウンタの計時した時間(カウント値)が復帰設定時間を超えている場合、復帰時間カウンタのカウンタ値を0とし、復帰時間カウンタをクリアする処理を行う(ステップS32)。そして、デューティ制御部1201は、処理をステップS33に進める。
デューティ制御部1201は、復帰時間カウンタの計時した時間が復帰設定時間を超えていない場合、復帰時間カウンタのカウント値のカウントアップを行う(ステップS33)。そして、デューティ制御部1201は、処理を図5のフローチャートの処理に戻す。
デューティ制御部1201は、設定電流値テーブルにおける全てのフェイルフラグをクリアする(フェイルフラグの欄を0とする)処理を行う(ステップS34)。そして、デューティ制御部1201は、処理をステップS33に進める。
デューティ制御部1201は、PWM信号生成部1202に対し、図3のフローチャートに対応したPWM信号のパルスのデューティとする制御信号を出力する(ステップS35)。これにより、PWM信号生成部1202は、PWM信号のパルスのデューティ(DUTY)を、高速作動あるいは低速作動に対応するデューティとしてPWM信号を生成する。すなわち、PWM信号生成部1202は、高速作動あるいは低速作動に対応するデューティのPWM信号を、駆動部1203に対して出力する。このため、駆動トランジスタ1204(FET)がPWM信号によりオンオフ制御されることで、ブラシモータ100に対し、高速作動あるいは低速作動に対応するモータ電流が流れ、ブラシモータ100は作動を再開する。そして、デューティ制御部1201は、処理を図5のフローチャートの処理に戻す。
次に、ブラシモータ100の動作例に関し、図9に示すフローに沿って、上述の図3に示すデューティ制御部1201によるトルクリップル低減処理を具体的に説明する。図9は、本発明の第1実施形態によるブラシモータ100の動作例におけるトルクリップル低減処理の動作例を示すフローチャートである。
また、図10は、本発明の第1実施形態によるブラシモータ100の動作例におけるトルクリップル低減処理を説明するための波形図である。図10(A)は、電流検出素子130により検出されるモータ電流IMの波形を示している。図10(B)は、トルクリップル低減処理におけるデューティ制御とモータ電流IMとの関係を説明するための図である。
図11は、本発明の第1実施形態によるブラシモータ100の動作例におけるトルクリップル低減処理の詳細を説明するための詳細波形図であり、モータ電流IMとPWM信号SPのデューティとの関係を説明するための図である。
トルクリップル低減処理は、上述した図4のフローチャートによるデューティ制御処理、及び図5から図7のフローチャートによる過熱防止処理と並行して実施される。
ワイパー装置の操作スイッチが操作され、その作動速度に応じた低速作動電圧信号VLまたは高速作動電圧信号VHがブラシモータ100に供給されると、これらの信号の何れかが電源として低速作動電圧信号VLの配線、ダイオード143(図2)を通じてモータ本体部110に供給され、電源がオン状態になる。
電源がオン状態になると、図6に示すデューティ制御部1201は、モータ本体部110が起動する際に起動電流が発生する期間(起動電流発生期間)をパスし、起動電流発生期間が経過するまでデューティ制御処理を実施せずに待機する(ステップS51)。
起動電流発生期間が経過すると、デューティ制御部1201の目標電流設定部12011は、目標電流値ITを設定する(ステップS52)。例えば、目標電流設定部12011は、ワイパー装置が低速または高速で作動するときのモータ本体部110の定格電流(例えば、約2.0A)を目標電流値ITとして設定する。
次に、デューティ制御部1201は、電流検出素子130によって検出されるモータ電流IMを読み込む(ステップS53)。
そして、減算器12012は、目標電流設定部12011によって設定された目標電流値ITから、電流検出素子130が読み込んだモータ電流IMを減算し、目標電流値ITとモータ電流IMとの差分(IT−IM)を算出して電流制御部12013に出力する。
電流制御部12013は、減算器12012から入力される上記差分(IT−IM)に基づいて、モータ電流IMを目標電流値ITに収束させるためのPI制御に基づくフィードバック制御を実施する。電流制御部12013は、上記PI制御の過程で、モータ電流IMを目標電流値ITに収束させるためのPWM信号のデューティを演算し(ステップS54)、その演算結果として得られたデューティを示すデューティ信号SDを出力する。すなわち、電流制御部12013は、目標電流値ITとモータ電流IMとの差分(IT−IM)である、目標電流値ITを基準としたトルクリップルの電流の振幅値を低減するPWM信号のデューティの値を生成し、デューティ信号SDとして出力する。この場合、電流制御部12013は、図10(B)及び図11に例示するように、モータ電流IM(実線)が目標電流値IT(点線)を上回る期間Taにおいて、PWM信号SPのデューティを現在のデューティよりも減少させ、逆に、モータ電流IMが目標電流値ITを下回る期間Tbにおいて、PWM信号SPのデューティを現在のデューティよりも増加させる。
PWM信号生成部1202は、デューティ制御部1201(電流制御部12013)ら入力されるデューティ信号SDによって示されるデューティを有するPWM信号SPを生成し、駆動部1203を通じてPWM信号SPにより駆動トランジスタ1204を駆動する(ステップS55)。駆動トランジスタ1204は、PWM信号SPのデューティに応じてオン・オフし、そのオンの期間においてモータ本体部110にモータ電流IMを流し、そのオフの期間においてモータ電流IMを遮断する。
上述したように、駆動トランジスタ1204を流れるモータ本体部110のモータ電流IM(平均化された電流)は、目標電流値ITに向かうように調整され、目標電流値IT付近に収束して安定化するようにフィードバック制御される。これにより、モータ電流IMの波形が概ね直線状になる。モータ電流IMの波形が直線状になると、モータ本体部110が発生させる回転トルクに含まれるトルクリップルの波形も直線状になり、トルクリップルが低減される。この結果、トルクリップルに起因するブラシモータ100の振動および騒音が低減される。
次に、本実施形態における上述したトルクリップル低減処理の変形例を説明する。
・第1変形例
図12は、本発明の第1実施形態によるブラシモータ100の動作例におけるトルクリップル低減処理の第1変形例を説明するための図であり、トルクリップル処理の第1変形例を実施するデューティ制御部1201Aの構成例を示すブロック図である。
第1変形例では、ブラシモータ100は、トルクリップル処理の変形例を実施するデューティ制御部として、図3に示すデューティ制御部1201に代えて、図12に示すデューティ制御部1201Aを備える。図12においても、トルクリップル低減処理の第1変形例に関連する要素のみが示され、上述したデューティ制御処理および過熱防止処理に関連する要素は省略されている。
図12の第1変形例によるデューティ制御部1201Aは、図3に示すデューティ制御部1201の構成に加えて、デューティリミット処理部12014を更に備えている。また、第1変形例においては、目標電流設定部12011は、目標電流値ITとして、一定期間にわたって電流検出素子130によって検出された電流の平均値である平均電流値IMaveを設定する。デューティリミット処理部12014は、平均電流値IMaveを基準とした一定範囲(後述する図14(B)の下限電流値IMLから上限電流値IMHまでの範囲)内に、ブラシモータ100を流れるモータ電流を制限する。その他は、図3に示すデューティ制御部1201と同様である。
次に、ブラシモータ100の動作例に関し、図13に示すフローに沿って、上述の図12に示すデューティ制御部1201Aによるトルクリップル低減処理の第1変形例を具体的に説明する。
第1変形例のトルクリップル低減処理も、上述した図4のフローチャートによるデューティ制御処理、及び図5から図7のフローチャートによる過熱防止処理と並行して実施される。
図13は、本発明の第1実施形態によるブラシモータ100の動作例におけるトルクリップル低減処理の第1変形例のフローチャートである。
図14は、本発明の第1実施形態によるブラシモータ100の動作例におけるトルクリップル低減処理の第1変形例を説明するための波形図である。ここで、図14(A)は、電流検出素子130により検出されるモータ電流の波形を示し、図14(B)は、第1変形例によるトルクリップル低減処理におけるデューティ制御とモータ電流との関係を説明するための図である。
ワイパー装置の操作スイッチが操作され、電源がオン状態になると、図12に示すデューティ制御部1201Aは、起動電流発生期間をパスし、起動電流発生期間が経過するまでデューティ制御処理を実施せずに待機する(ステップS61)。起動電流発生期間が経過すると、デューティ制御部1201Aの目標電流設定部12011は、電流検出素子130によって検出されるモータ電流IMを所定の一定期間にわたって積算し、その積算された電流からモータ電流IMの平均電流値IMave(破線)を算出する(ステップS62)。そして、目標電流設定部12011は、モータ電流IMの平均電流値IMaveを目標電流値ITとして設定する(ステップS63)。
ここで、モータ電流IMの平均電流値IMaveを目標電流値ITとして設定することの技術的意義を補足する。電流検出素子130によって検出されるモータ電流IMは、図14(A)に実線で例示するように、ブラシモータ100固有の次数のリップル電流成分を含んでおり、このリップル電流成分がブラシモータ100のトルクリップルをもたらす。このトルクリップルを平均化すれば、トルクリップルが低減され、トルクリップルに起因したブラシモータ100の振動および騒音を抑制することができる。そこで、目標電流設定部12011は、トルクリップルを平均化した場合のモータトルクに対応するモータ電流IMの平均電流値IMave(破線)を算出し、これを目標電流値ITとして設定する。これにより、ブラシモータ100の回転速度に影響を与えることなく、トルクリップルのみを低減させることができる。
続いて、デューティ制御部1201は、電流検出素子130によって検出されるモータ電流IMを読み込む(ステップS64)。減算器12012は、目標電流設定部12011によって設定された目標電流値ITから、電流検出素子130より読み込んだモータ電流IMを減算し、目標電流値ITとモータ電流IMとの差分(IT−IM)を算出して電流制御部12013に出力する。
電流制御部12013は、減算器12012から入力される上記差分(IT−IM)に基づいて、モータ電流IMを目標電流値IT(平均電流値IMave)に収束させるためのPI制御によるフィードバック制御を実施する。電流制御部12013は、上記PI制御の過程で、モータ電流IMを目標電流値ITに収束させるために必要なPWM信号のデューティを演算し(ステップS65)、そのデューティを示すデューティ信号SDを出力する。すなわち、電流制御部12013は、目標電流値ITとモータ電流IMとの差分(IT−IM)である、目標電流値ITを基準としたトルクリップルの電流の振幅値を低減するPWM信号のデューティの値を生成し、デューティ信号SDとして出力する。
ここで、電流制御部12013は、基本的には、上述の図10(B)に示す場合と同様に、図14(B)に実線で示されるモータ電流IMが目標電流値ITを上回る期間Taにおいて、PWM信号SPのデューティを現在のデューティよりも減少させ、逆に、モータ電流IMが目標電流値ITを下回る期間Tbにおいて、PWM信号SPのデューティを現在のデューティよりも増加させる。
そして、デューティリミット処理部12014は、上記ステップS65において演算されたPWM信号のデューティを制限するためのデューティリミット処理を実施する(ステップS66)。すなわち、デューティリミット処理部12014は、平均電流値IMaveによって与えられる目標電流値ITを基準とした一定範囲内に、ブラシモータ100を流れるモータ電流IMを制限する。
具体的には、デューティリミット処理部12014は、上述のステップS65で演算されたPWM信号のデューティをそのまま用いてPWM制御を実施した場合に想定される(求められる)モータ電流IMが所定の下限電流値IMLと上限電流値IMHとの範囲内にあれば、上述のステップS65で演算されたPWM信号のデューティを制限することなく、そのデューティを示すデューティ信号SDを出力する。
これに対し、上述のステップS65で演算されたPWM信号のデューティをそのまま用いてPWM制御を実施した場合に想定される(求められる)モータ電流IMが所定の下限電流値IMLを下回る場合、デューティリミット処理部12014は、PWM信号SPのデューティを下限電流値IMLに対応した値に制限する。これにより、図14(B)に示す期間Taにおけるフィードバック制御の過程でモータ電流IMの過剰な低下が抑制され、ブラシモータ100急激な回転速度の低下が抑制される。
逆に、上述のステップS65で演算されたPWM信号のデューティをそのまま用いてPWM制御を実施した場合に想定される(求められる)モータ電流IMが所定の上限電流値IMHを上回る場合、デューティリミット処理部12014は、PWM信号SPのデューティを上限電流値IMHに対応した所定のデューティに制限する。これにより、図14(B)に示す期間Tbにおけるフィードバック制御の過程でモータ電流IMの過剰な上昇が抑制され、ブラシモータ100の急激な回転速度の上昇が抑制される。
ここで、下限電流値IMLおよび上限電流値IMHについて補足する。下限電流値IMLおよび上限電流値IMHのそれぞれと平均電流値IMaveとの差を小さくすれば、フィードバック制御におけるブラシモータ100の回転速度の変動量を小さくすることができる反面、モータ電流IMが平均電流値IMaveに収束するまでに時間を要する。逆に、下限電流値IMLおよび上限電流値IMHのそれぞれと平均電流値IMaveとの差を大きくすれば、フィードバック制御におけるブラシモータ100の回転速度の変動量が大きくなる反面、モータ電流IMが平均電流値IMaveに収束するまでの時間を短縮することができる。このような特性を踏まえて、下限電流値IMLおよび上限電流値IMHは、許容されるブラシモータ100の回転速度の変動量に応じて任意に設定し得る。
続いて、上述のデューティリミット処理(ステップS66)の後、デューティ信号SDによって示されるデューティに基づくPWM制御が実施される(ステップS67)。すなわち、PWM信号生成部1202は、デューティ制御部1201Aのデューティリミット処理部12014から入力されるデューティ信号SDによって示されるデューティを有するPWM信号SPを生成し、駆動部1203を通じてPWM信号SPにより駆動トランジスタ1204を駆動する。駆動トランジスタ1204は、PWM信号SPのデューティに応じてオン・オフし、そのオンの期間においてモータ本体部110にモータ電流IMを流し、そのオフの期間においてモータ電流IMを遮断する。
PWM信号SPに基づき駆動トランジスタ1204がオン・オフされる結果、駆動トランジスタ1204を流れるモータ本体部110のモータ電流IMは、目標電流値IT(平均電流値IMave)に向かうように調整され、目標電流値IT付近に収束し安定化するようにフィードバック制御される。モータ本体部110のモータ電流IMが目標電流値IT付近に安定化すると、モータ本体部110が発生させる回転トルクに含まれるトルクリップルが低減される。この結果、トルクリップルに起因するブラシモータ100の振動および騒音が低減される。
上述した第1変形例によれば、デューティリミット処理部12014は、平均電流値IMaveを基準として設定された下限電流値IMLと上限電流値IMHとによって定まる一定の範囲内にモータ電流IMを制限するので、トルクリップルを平均化するためにモータ電流IMをフィードバック制御する過程で、ブラシモータ100のモータ電流IMの回転の変化が抑制される。従って、第1変形例によれば、ブラシモータ100の急激な回転速度の変動を抑制しつつ、振動および騒音を低減させることが可能になる。
参考例として、起動時のデューティを0.7とし、PWM信号SPのデューティの変動幅を±0.05とした場合のPWM制御の応答特性を述べる。上述のデューティリミット処理(ステップS66)を実施しない場合、ブラシモータ100の負荷(例えば、ワイパー装置の払拭抵抗)が上昇してモータ電流IMが上昇すると、フィードバック制御によりモータ電流IMを平均電流値IMaveに収束させる過程で、PWM信号SPのデューティが低下される。このときのデューティの低下量は、負荷が大きい程、大きくなる。この結果、モータ電流IMが過剰に低下すると、モータ本体部110のブラシ111Aとブラシ111Bとの間に印加される電圧が急激に低下し、ブラシモータ100の回転速度が大きく低下する。このため、ワイパー装置の作動が一時的に不安定になるおそれがある。
これに対し、上述のデューティリミット処理(ステップS66)を備えることにより、上述のフィードバック制御の過程で、モータ電流IMが、下限電流値IMLと上限電流値IMHとによって定まる一定の範囲を逸脱することがなくなる。このため、ブラシモータ100の回転速度が急激に変動することがなく、安定化される。
・第2変形例
上述した第1変形例のトルクリップル低減処理において、モータ電流IMの波形が直線状になるようにモータ電流IMをフィードバック制御する。一方、第2変形例においては、ブラシモータ100のトルクリップルに対応するモータ電流IMのリップル数が少なくなるように、すなわちモータ電流IMのリップル数がより少ないリップル数になるように、モータ電流IMをフィードバック制御する。その他の構成及び動作は上述した第1変形例と同様である。
すなわち、電流制御部12013は、図10(B)及び図11に例示するように、モータ電流IM(実線)が目標電流値IT(点線)を上回る期間Taにおいて、PWM信号SPのデューティを現在のデューティよりも減少させ、逆に、モータ電流IMが目標電流値ITを下回る期間Tbにおいて、PWM信号SPのデューティを現在のデューティよりも増加させる。そして、電流制御部12013は、モータ電流IMのリップル数が、制御無しの状態で発生するトルクリップルのリップル数に対して、より少ないリップル数になるように、PWM信号SPのデューティを調整することにより、モータ電流IMをフィードバック制御する。
第2変形例によれば、ブラシモータ100のトルクリップルがモータ電流IMの波形に連動して変化する結果、モータ電流IMのリップル数に応じてトルクリップルの次数が変化する。このため、モータ電流IMのリップル数を適切に低減させれば、ブラシモータ100の振動モードを変化させ、騒音の音色を改善することができる。例えば、ブラシモータ100の騒音に含まれる周波数成分のうち、人間の聴覚上、不快感を与え得る高周波音を低下させることが可能になる。
なお、上述したトルクリップル低減処理は、前述したデューティ制御処理と並行して実施されるが、この場合、デューティ制御処理により設定されたPWM信号のデューティを基準として、デューティの増加および減少が制御される。これにより、デューティ制御処理においてブラシモータの回転速度の制御が実施されつつ、トルクリップル低減処理においてトルクリップルを低減させるための制御が実施される。すなわち、デューティ制御処理とトルクリップル低減処理とが並行して実施される。
なお、上述の本実施形態においては、デューティ制御部1201(1201A)は、デューティ制御処理、過熱防止処理、トルクリップル低減処理の異なる3種類の処理を実施するものとしたが、過熱防止処理を行わずにデューティ制御処理及びトルクリップル低減処理の二つの処理を実施するものとしてもよい。
図15は、制御基板120におけるデューティ制御部1201及びPWM信号生成部1202の各々を、マイクロコンピュータを用いて構成した他の一例を示す図である。
図15の構成は、図2に示す回路と同様の機能を有し、同様の構成については同一の符号を付している。図15の構成においては、スノークラッチを有していない。また、モータ本体部110の出力軸のセンシングはマイクロコンピュータにより行っている。リレープレート150Aにおいて、スタート接点Sは、フロントまたはリヤワイパー装置を作動させるためのタイミングを発生させる接点である。
図16は、制御基板120におけるデューティ制御部1201及びPWM信号生成部1202の各々を、マイクロコンピュータを用いて構成した他の一例を示す図である。
図16の構成は、図2に示す回路と同様の機能を有し、同様の構成については同一の符号を付している。図16の構成においては、スノークラッチを有している。また、モータ本体部110の出力軸のセンシングはマイクロコンピュータにより行っている。リレープレート150Bにおいて、スタート接点Sは、フロントまたはリヤワイパー装置を作動させるためのタイミングを発生させる接点である。
図2のブラシモータ100、図15のブラシモータ100A及び図16のブラシモータ100Bの各々は、モータ本体部110のモータ回転軸のセンシングをマイクロコンピュータで行うか否か、スノークラッチの有無などの違いはあるが、これらの従来の構成を変更することなく、本実施形態の構成をいずれの従来の構成に対しても用いることができる。
次に、図17を参照して、制御基板120の配置について詳細に説明する。
図17は、本発明の第1の実施形態によるブラシモータ100に備えられた制御基板120の配置例を示す図である。なお、細部の配線等は省略されている。
ここで、図17(A)は、ブラシモータ100Aの磁極の極数を4極とした場合のブラシ111A,111Bの第1配置例(機械角90°)を示す。ブラシ111Aとブラシ111Bは、モータ部Mのハウジング部MHに組み込まれた円環状のブラシホルダ110H上に、機械角にして90°だけ相互に異なる位置に配置されている。
この図17(A)の第1配置例では、ブラシホルダ110H上には、回転電機子(図示なし)を挟んでブラシ111Aおよびブラシ111Bのそれぞれに対向する位置にブラシが配置されない領域が存在する。すなわち、図17(A)の例では、すでに述べたように、PWM制御により高速作動のための高速用のブラシが必要なくなったため、ブラシ111Bを基準にして、時計回り方向に概ね0°〜270°の領域にはブラシが存在していない。このブラシが存在していないブラシホルダ110H上の領域に、制御基板120(デューティ制御部1201、PWM信号生成部1202、駆動部1203)と、電流検出素子130とが配置されている。また、デューティ制御部1201及びPWM信号生成部1202の各々がディスクリート回路ではなく、マイクロコンピュータで構成されている場合、制御基板上にはマイクロコンピュータのチップと、駆動部1203とが配置されている。
ここで、制御基板120と電流検出素子130とが配置される領域には、上述したように、ブラシが存在しないため、これら制御基板120および電流検出素子130は、ブラシと干渉することなく、モータ部Mのハウジング部MHの内部に収容される。
図17(B)は、ブラシモータ100の磁極の極数を6極とした場合のブラシ111A,111Cの第2配置例(機械角180°)を示す。ブラシ111Aとブラシ111Cは、モータ部Mのハウジング部MHの一部をなす円環状のブラシホルダ110H上に、機械角にして180°だけ相互に異なる位置に配置されている。
ここで、図17(B)の例では、ブラシホルダ110H上には、ブラシ111Aおよびブラシ111Cのそれぞれに対し、機械角にして60°および120°だけ異なる位置にはブラシが配置されない領域が存在する。すなわち、図17(B)の例では、すでに述べたように、PWM制御により高速作動のための高速用のブラシが必要なくなったため、ブラシ111Aを基準にして、時計回り方向に概ね0°〜180°の第1領域と、ブラシ111Aを基準にして、反時計回り方向に概ね0°〜180°の第2領域にはブラシが存在していない。第1領域には電流検出素子130が配置され、第2領域には、制御基板120が配置される。また、デューティ制御部1201及びPWM信号生成部1202の各々がディスクリート回路ではなく、マイクロコンピュータで構成されている場合、制御基板上にはマイクロコンピュータのチップと、駆動部1203とが配置されている。
ここで、図17(A)と同様に、制御基板120と電流検出素子130とが配置される領域にはブラシが存在しないので、これら制御基板120および電流検出素子130は、ブラシと干渉することなく、モータ部Mのハウジング部MHの内部に収容される。
図17(C)は、ブラシモータ100の磁極の極数を6極とした場合のブラシ111A,111D,111E,111Fの第3配置例(機械角、各180°)を示す。機械角にして180°だけ相互に異なるブラシ111Aとブラシ111Eとのそれぞれが正、負極に対応し、同じく、機械角にして180°だけ相互に異なるブラシ111Dとブラシ111Fとがもう一対の正、負極に対応している。ブラシ111Aとブラシ111Dは、機械角にして60°だけ異なる位置に配置され、同じくブラシ111Eとブラシ111Fも機械角にして60°だけ異なる位置に配置されている。
図17(C)の例では、ブラシ111Dを基準にして、時計回り方向に概ね0°〜120°の第3領域と、ブラシ111Aを基準にして、反時計回り方向に概ね0°〜120°の第4領域にはブラシが存在しない。第3領域には電流検出素子130が配置され、第4領域には制御基板120が配置される。すなわち、図17(C)の例では、すでに述べたように、PWM制御により高速作動のためのブラシが必要なくなったため、上述したように、ブラシ111Aを基準にして、時計回り方向に概ね0°〜120°の第3領域と、ブラシ111Aを基準にして、反時計回り方向に概ね0°〜120°の第4領域にはブラシが存在していない。第3領域には電流検出素子130が配置され、第4領域には、制御基板120が配置される。また、デューティ制御部1201及びPWM信号生成部1202の各々がディスクリート回路ではなく、マイクロコンピュータで構成されている場合、制御基板上にはマイクロコンピュータのチップと、駆動部1203とが配置されている。
ここで、図17(A)と同様に、制御基板120と電流検出素子130とが配置される領域にはブラシが存在しないので、これら制御基板120および電流検出素子130は、ブラシと干渉することなく、モータ部Mのハウジング部MHの内部に収容される。
図17(D)は、ブラシモータ100の磁極の極数を6極とした場合のブラシ111A,111Dの第4配置例(機械角60°)を示す。機械角にして60°だけ相互に異なるブラシ111Aとブラシ111Dとが2極に対応している。また、図17(D)の例では、すでに述べたように、PWM制御により高速作動のためのブラシが必要なくなったため、ブラシ111Dを基準にして、時計回り方向に概ね0°〜300°の第5領域にはブラシが存在しない。第5領域には、電流検出素子130および制御基板120が配置される。また、デューティ制御部1201及びPWM信号生成部1202の各々がディスクリート回路ではなく、マイクロコンピュータで構成されている場合、制御基板上にはマイクロコンピュータのチップと、駆動部1203とが配置されている。
ここで、図17(A)と同様に、制御基板120と電流検出素子130とが配置される領域にはブラシが存在しないので、これら制御基板120および電流検出素子130は、ブラシと干渉することなく、モータ部Mのハウジング部MHの内部に収容される。
上述したように、本実施形態によれば、モータ本体部110に流れるモータ電流IMを測定し、測定したモータ電流IMに重畳するトルクリップルが低減されるように、PWM信号のデューティが調整される。この結果、本実施形態によれば、PWM信号のデューティの制御により、トルクリップルが低減するため、トルクリップルに起因するブラシモータ100の振動および騒音が低減される。
また、第1の実施形態によれば、上述した過電流防止処理により、過熱の原因となるモータ本体部110に流れる過電流を、複数の設定電流値毎に抑制することができる。従って、熱保護素子を用いることなく、過電流の電流値に対応して、モータ本体部110の過熱を防止することが可能になる。これにより、一般に、熱保護素子に比較して、小型かつ安価である電流検出素子を用いることができるため、本実施形態によれば、熱保護素子と同様に過熱から装置を保護することができることに加え、装置を小型化することができると共に製造コストを低減させることができる。
また、第1実施形態によれば、デューティ制御部1201および過電流検出部1205をマイクロコンピュータ1208で実現し、各機能をマイクロコンピュータ1208のプログラムで規定したので、プログラム上の上記所定電流値および上記所定時間を設定し直すことにより、回路構成を変更することなく、モータ本体部110の仕様が変更された場合であっても、その仕様に合わせて過熱防止対策を容易に施すことができる。
上述した第1実施形態によれば、電流検出素子130の検出信号に基づいて過電流防止処理を実施することにより、サーキットブレーカやPTC素子等の熱保護素子を用いることなく、モータ本体部110に流れる過電流に起因した過熱を防止することができる。従って、過熱防止対策が施された装置を安価かつ小型に実現することができる。
また、第1実施形態によれば、過熱防止対策のための熱保護素子を備える必要がないので、熱保護素子をブラシモータ100に取り付けるための煩雑な作業が不要となり、熱保護素子のチューニング工数を削減することができる。
また、第1実施形態によれば、過熱防止対策のための熱保護素子の特性のバラツキを考慮する必要がなくなるので、熱保護素子の特性のバラツキを吸収するためのマージンを設けた過剰な設計を行う必要がなくなる。
また、第1実施形態によれば、フロントワイパー装置およびリアワイパー装置の動力源としてブラシモータ100を用いた場合、制御基板120をフロントワイパー装置側のブラシモータとリアワイパー装置側のブラシモータとで共用することにより、ワイパー装置全体のコストを低減させることができる。
また、上述した第1実施形態によれば、モータ本体部110の回転電機子に均圧線を用いたことによりブラシの数が削減され、それにより生じたブラシホルダ110H上の空き領域に熱保護素子123および制御基板120を配置したので、ブラシモータ100を大型化することなく、制御基板120等をモータ部Mのハウジング部MHの内部に収容することができる。従って、第1実施形態によれば、多極化を図りつつ、装置を小型化することができる。また、PWM制御によりモータ本体部110の回転速度を制御するので、ブラシの切り替えによらずに回転速度を変化させることができる。
また、第1実施形態によれば、一方向の回転力を発生させるブラシモータにおいて、一つの駆動トランジスタ1204を備えればよく、駆動トランジスタの個数を最小限に抑えることができる。これにより、装置コストの低減を図ることができる。
また、第1実施形態によれば、一般的な仕様を想定する範囲において、回転センサ(センサーマグネット、ホールIC等)やリレーをブラシモータに搭載する必要がない。従って、更なる低コスト化を図ることができる。
また、第1実施形態によれば、PWM制御によるブラシモータの速度制御を行うので、速度に応じた複数のブラシの個数を備える必要がない。このため、例えば、高速用のブラシを備えることによる騒音の増加、整流子の寿命低下、効率低下等の不都合を解消することができる。
また、4極以上に多極化しても、ブラシの組み付け精度に関する制約を回避することができ、多極化および小型軽量化を促進することができる。特に、ワイパモータの場合、法規により、低速作動/高速作動の切り替え機能や、低速と高速との速度差等について規定されているため、モータ回転数のばらつきが大きくなると、法規を満たすことができなくなる場合が想定されるが、上述した第1実施形態によれば、PWM制御によりモータの回転速度を調整するので、法規に合わせて作動速度を柔軟に設定することができる。
次に、図18および図19を参照して、第1の実施形態の変形例を説明する。
図18は、本発明の第1の実施形態の変形例によるブラシモータ100Bに備えられた制御基板120の配置を示す側面図である。また、図19は、本発明の第1の実施形態の変形例によるブラシモータ100Bに備えられた制御基板120の配置の詳細図である。制御基板120の配置位置を除けば、第1の実施形態の変形例のブラシモータ100Bは、それぞれ、上述した第1の実施形態のブラシモータ100と同様に構成される。
また、第1実施形態によれば、モータの電源電圧が高電圧化(例えば、42V、48V等)されたとしても、PWM制御におけるPWM信号のデューティを調整することにより、モータに供給される実質的な電源電圧を従来の電圧(例えば、12V)に維持することができる。このため、任意の電源電圧に柔軟に対応することができ、電源電圧が高電圧化されても、従来のワイパモータを継続して使用することが可能になる。従って、モータの高電圧化のための対策が不要になる。
また、第1実施形態によれば、車両側の設計変更を要することなく、ワイパー装置に必要とされる所望の特性要件を有するブラシモータを実現することができる。
図18に示すように、本変形例では、制御基板120は、ブラシモータ100Bの減速機構部Gのハウジング部GHの内部に配置される。具体的には、図19に示すように、制御基板120は、ブラシモータ100Bのハウジング部GHを構成するボトムカバー(鉄製または樹脂製のカバー)の内面であって、ブラシモータ100Bの減速機構部Gのウォームホイールギア等の作動に干渉しない部位に配置される。すなわち、制御基板120は、回転電機子の回転軸が延出されて係合している減速機構部Gにおけるウォームホイールギア等に接触しないように、ウォームホイールギア等を覆うハウジング部GHのボトムカバーの内壁面に対し、当該内壁面と基板の面とが対向して取り付けられている。
本変形例によっても、ブラシモータの磁極の多極化を図りつつ、ブラシモータを小型化することができる。また、上述の第1の実施形態と同様にPWM制御によりモータ本体部110の回転速度を制御するので、ブラシの切り替えによらずに回転速度を変化させることができる。加えて、本変形例によれば、ブラシの配置とは無関係に制御基板120を配置することができるため、ブラシの配置位置による制約を受けることがない。
また、上記に説明した図2、図15から図16におけるマイクロコンピュータ1208の動作を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、実行処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。