以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1,2には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が、本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、主たる振動入力方向である図1中の上下方向を言う。
より詳細には、第一の取付部材12は、鉄やアルミニウム合金などで形成された円形ブロック形状乃至は逆向きの略円錐台形状を有する部材であって、中心軸上で上方に向かって突出する固定ボルト18が設けられている。
第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材であって、全体として薄肉大径の略円筒形状を有しており、上端部分が内周側へ凸の縦断面で全周に亘って延びる溝形状とされていると共に、下端部分が下方に向かって次第に小径となっている。
そして、第一の取付部材12が第二の取付部材14に対して同一中心軸上で上方に離隔配置されており、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、小径側の端部が第一の取付部材12に加硫接着されていると共に、大径側の端部が第二の取付部材14の上端部分に加硫接着されている。これにより、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備える一体加硫成形品として形成されている。
さらに、本体ゴム弾性体16には、大径凹所20が形成されている。大径凹所20は、逆向きの略すり鉢形状を呈する凹所であって、本体ゴム弾性体16の大径側端面に開口している。これにより、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間で、下方に向かって拡開するように傾斜して延びる縦断面形状を有している。
更にまた、本体ゴム弾性体16には、シールゴム層22が一体形成されている。シールゴム層22は、薄肉大径の略円筒形状を呈するゴム膜であって、大径凹所20の開口部よりも外周側から下方に向かって突出していると共に、第二の取付部材14の内周面を覆うように固着されている。
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品には、可撓性膜24が取り付けられている。可撓性膜24は、逆向きの略円形ドーム形状を有する薄肉大径のゴム膜であって、上下に十分な緩みを有して容易に変形可能とされている。更に、可撓性膜24には、固定部材26が加硫接着されている。固定部材26は、大径の略円筒形状を有する高剛性の金具であって、可撓性膜24の外周面に加硫接着されている。そして、可撓性膜24は、第二の取付部材14の下端開口部分に差し入れられて、固定部材26が第二の取付部材14の縮径加工によって第二の取付部材14の下端部に嵌着固定される。なお、本実施形態では、第二の取付部材14の下端部が、固定部材26の第二の取付部材14への挿入後に下方に向かって小径となるテーパ形状に加工されており、固定部材26の第二の取付部材14から下方への抜けが回避されている。
このように可撓性膜24が本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に取り付けられることによって、第二の取付部材14の上側開口部が本体ゴム弾性体16によって閉塞されていると共に、第二の取付部材14の下側開口部が可撓性膜24によって閉塞されている。これにより、本体ゴム弾性体16と可撓性膜24の対向面間には、外部空間から隔てられた流体室28が画成されており、流体室28には非圧縮性流体が封入されている。流体室28に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などが採用され、より好適には、0.1Pa・s以下の低粘性流体が採用される。
この流体室28には、図3〜5に示す仕切部材30が配設されている。仕切部材30は、仕切部材本体32と蓋板部材34が組み合わされた構造を有していると共に、閉塞ゴム弾性板としての可動ゴム膜36が組み付けられている。
仕切部材本体32は、合成樹脂や金属などで形成された硬質の部材であって、厚肉大径の略円板形状を有している。また、仕切部材本体32の外周端部には、上面および外周面に開口して周方向に所定の長さ(本実施形態では半周弱)で連続して延びる周溝38が形成されており、周溝38の周方向一方の端部は下壁部上面が長さ方向外側に行くに従って次第に上傾するスロープ状とされていると共に、周溝38の周方向他方の端部には、下壁部を貫通する下開口部40が形成されて、仕切部材本体32の下面に開口している。
また、仕切部材本体32の径方向中央部分には、図4に示すように、上面に開口する収容凹所42が形成されている。収容凹所42は、略一定の円形横断面で上下に所定の深さを有する凹所であって、径方向中央には底壁部から上方へ立ち上がる小径円柱形状の中央突部44が形成されている。更に、中央突部44と収容凹所42の周壁部の複数箇所には、上方に突出する係止突起46がそれぞれ形成されている。
さらに、収容凹所42の底壁部には、図5に示すように、連通口としての下透孔48が貫通形成されて、複数(本実施形態では6つ)が周方向に並んで配置されている。この下透孔48は、収容凹所42側である上部が、略一定の孔断面形状で上下に延びていると共に、後述する平衡室74側となる下部が、下方に向かって外周側へ拡開して上下に延びており、下方に行くに従って孔断面積が大きくなっている。
更にまた、周方向で隣り合う下透孔48,48の間には、収容凹所42の底壁部の上面に開口して周方向に延びる浅底の連通溝50が形成されている。連通溝50は、周方向端部が下透孔48に連通されており、本実施形態では、連通溝50で周方向に相互に接続された下透孔48,48の3組が周上で等間隔に配置されている。
蓋板部材34は、仕切部材本体32と同様に硬質の部材とされており、薄肉大径の略円板形状を有している。更に、図3に示すように、蓋板部材34の径方向内周部分には、厚さ方向に貫通する複数(本実施形態では6つ)の上透孔52が貫通形成されている。更に、蓋板部材34における径方向中央部分を上透孔52よりも外周側には、仕切部材本体32における係止突起46と対応する位置に、それぞれ係止孔54が厚さ方向に貫通して形成されている。更にまた、蓋板部材34の外周端部には、周上の一部を厚さ方向に貫通する上開口部56が形成されている。
そして、蓋板部材34が仕切部材本体32に対して上方から重ね合わされて、仕切部材本体32の係止突起46が、蓋板部材34の対応する係止孔54にそれぞれ挿通された後、係止突起46の先端部分が潰されて拡径されることで、係止孔54の開口周縁部に上下方向に係止されて、仕切部材本体32と蓋板部材34が分離不能に固定されている。なお、収容凹所42の周壁部に形成された3つの係止突起46,46,46とそれに対応する係止孔54,54,54を周上で不均等に配置することや、係止突起46および係止孔54の複数組において形状を相互に異ならせることなどによって、仕切部材本体32と蓋板部材34が周方向で相対的に位置決めされるようになっていても良い。
さらに、仕切部材本体32と蓋板部材34が相互に固定されることにより、周溝38の上側開口が蓋板部材34で覆われていると共に、収容凹所42の開口部が蓋板部材34によって覆われている。なお、蓋板部材34の上透孔52は、収容凹所42の開口部を覆う部分に形成されて、収容凹所42に連通されている。
仕切部材本体32の収容凹所42には、図4に示すように、閉塞ゴム弾性板としての可動ゴム膜36が配設されている。可動ゴム膜36は、図6〜8に示すように、全体として略円板形状を有しており、例えばゴム弾性体や樹脂エラストマなどによって形成されている。また、可動ゴム膜36の径方向中央部分には、上方に向かって突出する略円筒形状の中央取付部58が一体形成されている。
さらに、可動ゴム膜36には、3つのスポーク状保持部60,60,60が設けられている。スポーク状保持部60は、上方に向かって突出して中央取付部58から外周側に向かって放射状に延びる突条であって、本実施形態では3つのスポーク状保持部60,60,60が周方向に等間隔で形成されている。更にまた、可動ゴム膜36には、3つの当接保持部62,62,62が一体形成されている。当接保持部62は、上方に突出して可動ゴム膜36の外周端部を周方向に延びる突条であって、周方向に所定の間隔ずつ離隔して3つが設けられている。また、当接保持部62の周方向中央部分には、各一つのスポーク状保持部60の外周端部が一体的に接続されている。換言すれば、各スポーク状保持部60の外周端部から周方向両側に向かって延びるように当接保持部62がそれぞれ一体形成されている。
そして、可動ゴム膜36における周上で隣り合うスポーク状保持部60,60の周方向間が、スポーク状保持部60,60と当接保持部62,62とによって囲まれた薄肉の弾性膜部64とされている。更に、各弾性膜部64の外周端部は、弾性変形領域としてのリリーフ膜部66とされている。リリーフ膜部66は、薄肉膜状とされて厚さ方向で容易に弾性変形可能とされており、周方向で隣り合う当接保持部62,62の周方向間に形成されて、可動ゴム膜36の周上の3箇所に設けられている。
さらに、リリーフ膜部66および弾性膜部64には、マス部としての厚肉部68が一体形成されている。厚肉部68は、リリーフ膜部66および弾性膜部64よりも厚肉とされて、それらリリーフ膜部66および弾性膜部64よりも上方へ突出しており、本実施形態では上面視において周方向に延びる略円弧形状乃至は略四角形状とされている。更に、厚肉部68は、各リリーフ膜部66の周方向中央部分に設けられて、リリーフ膜部66の周方向両側に配された当接保持部62,62に対して周方向で所定の距離だけ離隔しており、厚肉部68と当接保持部62,62がリリーフ膜部66によって弾性連結されている。更にまた、厚肉部68は、可動ゴム膜36の外周端部、換言すればリリーフ膜部66の外周端部に設けられていると共に、リリーフ膜部66よりも内周側にまで延び出しており、厚肉部68の内周部分が弾性膜部64上に位置している。更に、厚肉部68は中央取付部58の外周側に離隔配置されており、厚肉部68と中央取付部58が弾性膜部64によって弾性連結されている。
なお、厚肉部68は、中央取付部58とスポーク状保持部60と当接保持部62に比して上方への突出寸法が小さくされており、厚肉部68の上面がそれらの各上面に対して下方に位置している。本実施形態において、中央取付部58とスポーク状保持部60と当接保持部62との各上面は、略同一軸直平面上に位置している。また、本実施形態の厚肉部68は、リリーフ膜部66および弾性膜部64と同じゴム材料によってそれら膜部64,66と一体形成されているが、例えば、当該ゴム材料よりも比重の大きいゴム材料や樹脂エラストマなどによって二色成形で厚肉部68(マス部)を一体形成しても良いし、金属などの別部材を後固着して別体で形成しても良い。
このように厚肉部68がリリーフ膜部66および弾性膜部64で弾性支持されることにより、厚肉部68をマスとすると共に、リリーフ膜部66および弾性膜部64をばねとするマス−バネ系70が構成されている。このマス−バネ系70は、共振周波数が50Hz以上の高周波に設定され、好適には50〜200Hzに設定されており、本実施形態では自動車の走行こもり音に相当する50〜150Hzにチューニングされている。更に、本実施形態では、3つの当接保持部62,62,62の周方向間にそれぞれマス−バネ系70が設けられており、それら3つのマス−バネ系70,70,70が互いに略同一の形状および大きさとされて、それらマス−バネ系70,70,70の共振周波数が互いに略同じに設定されている。
また、可動ゴム膜36におけるマス−バネ系70の共振周波数は、防振すべき対象とされる振動の周波数域に応じて調節される。例えば、車両ごとに問題となっているトルク変動やロードノイズなどに起因する振動を考慮して、低速走行ノイズを対象として50〜100Hz程度にチューニングしたり、高速走行ノイズを対象として100〜200Hz程度にチューニングしたりすることが可能である。なお、マス−バネ系70の共振周波数とは、後述するように可動ゴム膜36が流体室28の非圧縮性流体中に配された状態での共振周波数であって、大気中における可動ゴム膜36単体での共振周波数ではない。
そして、可動ゴム膜36は、仕切部材本体32の収容凹所42に収容配置されて、仕切部材本体32の中央突部44が可動ゴム膜36における中央取付部58の内孔に嵌め入れられて固定状態で取り付けられることにより、可動ゴム膜36が収容凹所42内で弾性的に位置決めされる。更に、仕切部材本体32と蓋板部材34が上下に重ね合わされて固定されることにより、可動ゴム膜36の中央取付部58とスポーク状保持部60と当接保持部62とが、仕切部材本体32と蓋板部材34の間で上下に圧縮されて、仕切部材本体32と蓋板部材34によって弾性支持されている。上記の説明からも明らかなように、可動ゴム膜36の3つのスポーク状保持部60,60,60が、6つの下透孔48,48,・・・,48および3つの連通溝50,50,50と6つの上透孔52,52,・・・,52の周方向間に位置していると共に、中央取付部58と当接保持部62がそれら上下の透孔48,52に対して内周と外周に外れて位置している。
さらに、弾性膜部64とリリーフ膜部66は、下面が仕切部材本体32における収容凹所42の底壁部に接触状態で重ね合わされており、弾性膜部64が下透孔48および連通溝50の上開口を覆うことで下透孔48が閉塞されている。更にまた、周上で隣り合う下透孔48,48とそれら下透孔48,48を繋ぐ連通溝50とによって構成された各組が、各弾性膜部64で覆われており、各弾性膜部64の周方向中央部分が連通溝50の底壁部と上下に対向している。また、弾性膜部64とリリーフ膜部66の上面が蓋板部材34に対して下方に離れていると共に、厚肉部68の上面も蓋板部材34に対して下方に所定の距離を隔てて対向している。
かくの如き構造とされた仕切部材30は、流体室28に収容配置されている。より具体的には、仕切部材30は、第二の取付部材14に対して上面の外周端部が本体ゴム弾性体16の大径側端面に当接するまで差し入れられて、第二の取付部材14が八方絞りなどによって縮径されることにより、第二の取付部材14によって支持されている。更に、仕切部材30は、外周端部が本体ゴム弾性体16と固定部材26の間で上下に挟まれて、上下方向で位置決めされている。
このように仕切部材30が流体室28内で軸直角方向に広がるように配設されることにより、流体室28が仕切部材30に対して上下に二分されている。即ち、仕切部材30に対して一方の側(上側)には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に圧力変動が惹起される受圧室72が形成されていると共に、仕切部材30に対して他方の側(下側)には、壁部の一部が可撓性膜24で構成されて、容積変化が容易に生ぜしめられる平衡室74が形成されている。要するに、流体室28が仕切部材30によって受圧室72と平衡室74に仕切られており、それら受圧室72と平衡室74には流体室28の非圧縮性流体が封入されている。
さらに、仕切部材30の外周面がシールゴム層22を介して第二の取付部材14で流体密に覆蓋されていることから、仕切部材30において仕切部材本体32の外周面に開口する周溝38が流体密に覆蓋されて、周方向に所定の長さで延びるトンネル状の流路が形成されている。そして、トンネル状流路の一方の端部が蓋板部材34の上開口部56によって受圧室72に連通されていると共に、他方の端部が仕切部材本体32の下開口部40によって平衡室74に連通されている。これにより、受圧室72と平衡室74を相互に連通するオリフィス通路76が、周溝38を利用して形成されている。オリフィス通路76は、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、マス−バネ系70の共振周波数よりも低周波に設定されており、好適には、マス−バネ系70の共振周波数よりも十分に低周波となるように、5〜15Hz程度に設定される。本実施形態のオリフィス通路76は、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を調節することで、エンジンシェイクに相当する10Hz程度にチューニングされている。尤も、オリフィス通路76のチューニング周波数は、マス−バネ系70の共振周波数よりも低い周波数に設定されていれば良く、例示のエンジンシェイク振動の他、エンジンアイドリング振動などの周波数域に設定することも可能である。
更にまた、仕切部材30における可動ゴム膜36には、上面に対して受圧室72の液圧が上透孔52を通じて及ぼされていると共に、下面に対して平衡室74の液圧が下透孔48を通じて及ぼされている。これにより、振動入力時に受圧室72と平衡室74の相対的な圧力差に基づいて、可動ゴム膜36の弾性膜部64およびリリーフ膜部66が弾性変形せしめられるようになっている。なお、本実施形態では、収容凹所42の底壁上面に下透孔48を繋ぐ連通溝50が形成されていることにより、平衡室74の液圧が可動ゴム膜36の下面により広い範囲で及ぼされるようになっている。
このような構造とされたエンジンマウント10は、第一の取付部材12が固定ボルト18によって図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられて、車両に装着される。そして、エンジンマウント10の車両装着状態において、パワーユニットがエンジンマウント10を介して車両ボデーに防振支持されるようになっている。
かかるエンジンマウント10の車両装着状態において、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間へエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室72と平衡室74の相対的な圧力変動によって、オリフィス通路76を通じた流体流動が生ぜしめられる。これにより、流体の共振作用などの流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
さらに、可動ゴム膜36における弾性膜部64およびリリーフ膜部66の自由長が、中央取付部58とスポーク状保持部60と当接保持部62とによって制限されていることから、それら弾性膜部64およびリリーフ膜部66の厚さ方向への弾性変形量が制限されている。それ故、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動の入力に対しては、弾性膜部64およびリリーフ膜部66の弾性変形が追従し得ず、液圧の逃げが低減されて受圧室72と平衡室74の相対的な圧力差が十分に大きく得られる。その結果、オリフィス通路76を通じて流動する流体の量が有利に確保されて、流体流動によって発揮される防振効果を効率的に得ることができる。
加えて、本実施形態では、弾性膜部64の周方向中央部分が連通溝50の底壁部と上下に対向しており、弾性膜部64の弾性変形量が連通溝50の底壁部への当接によっても制限されている。それ故、弾性膜部64の弾性変形による液圧吸収作用が制限されて、オリフィス通路76による防振効果がより効果的に発揮されるようになっている。
一方、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に走行こもり音などに相当する50Hz以上の高周波振動が入力されると、低周波にチューニングされたオリフィス通路76が反共振によって実質的に閉塞される。また、図9に示すように、可動ゴム膜36に設けられたマス−バネ系70の共振によって、厚肉部68が上下方向へ積極的に変位して、厚肉部68を支持するリリーフ膜部66および弾性膜部64が膜厚方向に弾性変形する。その結果、リリーフ膜部66と弾性膜部64が仕切部材30における連通溝50の上開口から離隔して、下透孔48が連通溝50を介して受圧室72側へ開口せしめられる。これにより、受圧室72と平衡室74が上下の透孔48,52と収容凹所42と連通溝50とを介して相互に連通されて、受圧室72の平衡室74に対する相対的な圧力変動が速やかに低減乃至は解消されることから、受圧室72の実質的な密閉による高動ばね化が回避されて、振動絶縁効果が有効に発揮される。
特に、可動ゴム膜36による下透孔48の閉塞が解除されて、受圧室72と平衡室74が直接的に連通されることから、低動ばね化がより効果的に実現されて、目的とする防振効果を効率的に得ることができる。
しかも、同一形状のマス−バネ系70が可動ゴム膜36の周上に3つ設けられており、同じ共振周波数を有するそれらマス−バネ系70,70,70がそれぞれ共振することにより、低動ばね化による振動絶縁効果が一層効果的に発揮される。
さらに、本実施形態では、マス−バネ系70のマス部が、リリーフ膜部66の周方向中間部分を部分的に厚肉化した厚肉部68によって、リリーフ膜部66と同じ材料によって一体形成されている。これにより、部品点数が少なくなると共に、マス部の成形も容易になり、更に、厚肉部68の形状や大きさを変更することで、マス−バネ系70のマス質量とばね特性を容易に調節可能となる。
加えて、高周波小振幅振動の入力に対して、下透孔48を覆う可動ゴム膜36の弾性膜部64が、受圧室72と平衡室74の相対的な内圧変動で厚さ方向へ弾性変形することによっても、受圧室72の液圧が吸収されて振動絶縁効果が発揮される。従って、本実施形態のエンジンマウント10では、高周波小振幅振動の入力に対して、弾性膜部64の微小変形と、マス−バネ系70の共振を利用した受圧室72と平衡室74の相互連通とによって、液圧吸収作用による振動絶縁効果が有利に発揮される。
また、マス−バネ系70の共振周波数が50Hz以上に設定されていると共に、オリフィス通路76のチューニング周波数がマス−バネ系70の共振周波数よりも低周波に設定されている。特に、本実施形態では、オリフィス通路76が5〜15Hzにチューニングされることで、マス−バネ系70の共振周波数とオリフィス通路76のチューニング周波数が十分に離れた周波数に設定されている。それ故、オリフィス通路76がチューニングされたエンジンシェイクに相当する低周波振動の入力時には、マス−バネ系70の共振による可動ゴム膜36の積極的な弾性変形は生じ得ず、下透孔48の開口による液圧の逃げが回避されることから、オリフィス通路76を通じての流体流動に起因する防振効果が有効に発揮される。
要するに、高周波数域の防振性能の向上に際して、共振現象を利用して可動ゴム膜36のリリーフ膜部66を大きく弾性変形させることで、下透孔48を連通状態とするようにした。これにより、リリーフ膜部66を含む可動ゴム膜36により大きなばね剛性を設定することで、低周波振動入力時やキャビテーションを生じるに至らない程度の衝撃的荷重の入力時などにまで、可動ゴム膜36が大きく変形して下透孔48が不必要に連通することで圧力が漏れてしまう現象が生じるのを、効果的に防止せしめ得た。その結果、低周波振動に対するオリフィス防振効果と、高周波振動に対する低動ばね化による防振効果と、衝撃的大荷重によるキャビテーション防止効果との全てを、より高度に実現可能となし得たのである。
また、衝撃荷重の入力や過大振幅の振動入力などによって受圧室72の内圧が大幅に低下すると、可動ゴム膜36の弾性膜部64およびリリーフ膜部66が受圧室72と平衡室74の圧力差に基づいて厚さ方向へ弾性変形する。そして、弾性膜部64およびリリーフ膜部66の外周部分が収容凹所42の底壁部から離隔して、下透孔48が連通状態に切り替えられる。これにより、受圧室72と平衡室74が上下の透孔48,52と収容凹所42と連通溝50とを通じて相互に連通されて、受圧室72の負圧が可及的速やかに低減乃至は解消されることから、キャビテーション気泡の発生が防止されて、キャビテーション気泡の消失時に生じる異音が防止される。
なお、低周波大振幅振動の入力時の高減衰性能と、高周波小振幅振動の入力時の低動ばね化とが、両立して実現されることは、図10,11に示す特性実測結果によっても確認されている。なお、図10,11において、実線で示した実施例は、本発明に係る流体封入式防振装置についての特性実測結果である一方、破線で示した比較例は、特許第5243863号公報に係る流体封入式防振装置についての特性実測結果である。
すなわち、図10には、低周波大振幅振動の入力に対する減衰特性のグラフが示されている。これによれば、5〜20Hzの低周波域において、実施例では比較例に対して略同じ乃至はより高い振動減衰性能を発揮することが確認された。なお、図10の実測結果において実施例の減衰が比較例よりも大きくなっている理由としては、リリーフ膜部66に厚肉部68が設けられていることによって、マス−バネ系70の共振周波数を外れた周波数域では、リリーフ膜部66の弾性変形による下透孔48の開口がより制限され易くなっていること等が考えられる。
また、図11には、高周波小振幅振動の入力に対する動ばね特性のグラフが示されている。これによれば、50〜180Hz程度の周波数域において、実施例では比較例に対してより低い動ばね特性が発揮されて、振動絶縁効果が有利に得られ得ることが確認された。
これらの特性実測結果から、本発明に係る流体封入式防振装置(実施例)では、従来構造の流体封入式防振装置(比較例)に比して、低周波大振幅の入力振動に対してオリフィス通路76による振動減衰効果が有効に発揮されると共に、高周波小振幅の入力振動に対して低動ばね化による振動絶縁効果がより効果的に発揮されることが、確認された。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、3つの当接保持部62,62,62間にそれぞれマス−バネ系70が設けられていたが、マス−バネ系70は、全ての当接保持部62,62間に設けられていなくても良く、例えば周上に一つのマス−バネ系70だけが設けられていても良い。
さらに、マス−バネ系70を複数設ける場合には、前記実施形態のように各マス−バネ系70の共振周波数を互いに略同じに設定することもできるが、例えば、各マス−バネ系70の共振周波数を互いに異ならせることにより、周波数の異なる複数種類の振動に対して、マス−バネ系70の共振によって下透孔48が連通されるようにしても良い。
また、マス部は弾性変形領域に対して厚肉である必要はなく、例えば、閉塞ゴム弾性板とは密度の違う金属などでマス部を形成すれば、弾性変形領域と同じ厚さでマス部の質量を調節することができる。なお、マス−バネ系70の共振周波数を適切に設定可能であれば、弾性変形領域の一部によって、材質や形状を異ならせることなくマス部を構成することもできる。
さらに、マス部は弾性変形領域に一体形成される他、別体の金属板などを固着して形成することもできる。また、1つの弾性変形領域に対して周上で離れた複数のマス部を設けても良い。
また、前記実施形態に示した可動ゴム膜36は、あくまでも閉塞ゴム弾性板の一例であって、具体的な構造は限定されるものではない。即ち、可動ゴム膜36の中央取付部58やスポーク状保持部60は必須ではなく、省略され得る。
加えて、前記実施形態では、本発明を自動車用エンジンマウントに適用したものの具体例について説明したが、本発明は、自動車用ボデーマウントやデフマウント、サスペンションメンバマウント、サスペンションブッシュ等の他、自動車以外の各種振動体を防振する流体封入式防振装置に対して、何れも、適用可能である。