JP2016046231A - 電池正極用バインダー組成物、およびそれを用いた電極ならびに電池 - Google Patents

電池正極用バインダー組成物、およびそれを用いた電極ならびに電池 Download PDF

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雅人 田渕
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Abstract

【課題】従来のリチウム二次電池等の二次電池において課題となっていた耐熱性を向上させることにより、電池のサイクル特性が改善された電極およびそれを用いた二次電池を提供することにある。
【解決手段】(I)水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)から誘導される構成単位と、(II)多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)から誘導される構成単位を含む重合体と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むことを特徴とする電池正極用バインダー組成物を使用することで、二次電池において課題となっていた高温での電池特性を向上させる。
【選択図】なし

Description

本発明は電池の電極に用いられるバインダー組成物、該バインダー組成物を用いて製造される電極、および該電極を用いて製造される電池に関する。本明細書において、電池とは、電気化学キャパシタを包含しており、一次電池または二次電池である。電池の具体例は、リチウムイオン二次電池である。
電池の電極において、バインダーを用いることが知られている。バインダーを用いた電極を有する電池の代表例として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。
リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高く、高電圧であるため、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器に用いられている。最近では環境保護への意識の高まりや関連法の整備により、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池としての応用も進んできている。
リチウムイオン二次電池の電極に関して、負極はリチウムイオンの挿入脱離が可能なグラファイトやハードカーボンなどの負極活物質と導電助剤、バインダー、溶媒からなる塗工液を銅箔に代表される集電体上に塗布、乾燥して得られる。現在一般的には、バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴム( 以下、「SBR」と略す)を水に分散させたものが用いられている。
一方、正極は層状のコバルト酸リチウムやスピネル型マンガン酸リチウム等の正極活物質とカーボンブラック等の導電助剤、ポリフッ化ビニリデンやポリ四フッ化エチレン等のバインダーを混合し、N-メチルピロリドンのような極性溶媒に分散させた塗工液をアルミニウム箔に代表される集電体箔上に負極と同様に塗布、乾燥して製造されている。
しかしながら、このようなバインダーを正極に用いた場合、高温条件下において、充放電サイクルの低下が起こる。特に、高電圧条件下で耐酸化性に問題があり、電池特性が悪くなることが懸念される。
そのため、フッ化ビニリデンとカルボン酸基を有するモノマーとの共重合体が提案されたが、通常、フッ素系モノマーとカルボン酸基を有する他のモノマーとの共重合は容易でなく、量産化が困難で実用的とは言えない。
特開平6−172452号公報
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、結着性が高くかつ高温での充放電サイクル特性に優れた電池を提供する電池正極用バインダー組成物およびそれを用いた電極および電池を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、電池正極用バインダー組成物が、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーと多官能(メタ)アクリレートモノマーを含む重合体およびポリフッ化ビニリデン系樹脂とを含むことを特徴とする正極およびそれを用いた二次電池に関する。
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、水酸基を有するモノマーから誘導される構成単位と多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位とを含むアクリル系重合体およびポリフッ化ビニリデンバインダーを用いることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明をなすに至った。すなわち本発明は以下に関する。
[1]
(I)水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)から誘導される構成単位と、多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)から誘導される構成単位を含むアクリル系共重合体と、
(II)ポリフッ化ビニリデン系樹脂と
を含むことを特徴する電池正極用バインダー組成物。
[2]
水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)の分子量が100〜1200である[1]に記載の電池正極用バインダー組成物。
[3]
多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)が3〜5官能の(メタ)アクリレートである[1]または[2]に記載の電池正極用バインダー組成物。
[4]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂がフッ化ビニリデンの単独重合体または共重合体である[1]〜[3]のいずれかに記載の電池正極用バインダー組成物。
[5]
アクリル系共重合体が水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)から誘導される構成単位、多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)から誘導される構成単位に、更に(メタ)アクリル酸エステルモノマー(C)および/または(メタ)アクリル酸モノマー(D)から誘導される構成単位が含まれることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の電池正極用バインダー組成物。
[6]
[1]〜[5]のいずれかに記載の電池正極用バインダー組成物を用いることを特徴とする電池用正極。
[7]
[6]記載の正極を有することを特徴とする電池。
本発明の電池正極用バインダー組成物は活物質や導電助剤を強く結着させ、電極は集電体との結着性に優れる。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂のバインダーと比べて、アクリル系共重合体の微粒子が含まれることで優れた結着性(強い結着性)と良好な高温での充放電サイクル特性は、溶媒に分散した重合体の微粒子の表面積が大きいこと、および水酸基を有するモノマーから誘導される構成単位を用いていることが原因だと考えられる。
本発明の電池正極用バインダー組成物は、電解液への溶解が抑制されており、実質的に電解液に溶解しない。この非溶解性は、架橋剤成分に多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位を用いることにより高度に架橋した構造であるためと考えられる。
本発明は、高容量を有し、電池寿命が長い電池、特に二次電池を提供することができる。二次電池は充放電サイクル特性に優れている。特に、二次電池は、長期サイクル寿命と高温(例えば、60℃)でのサイクル充放電特性に優れている。
本発明の二次電池は、高電圧で使用でき、かつ優れた耐熱性を有する。
本発明の電池正極用バインダー組成物は
(I)水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)から誘導される構成単位と、
(II)多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)から誘導される構成単位、
を含むアクリル系共重合体と、
(III)ポリフッ化ビニリデン系樹脂と
を含むことを特徴する電池正極用バインダー組成物である。
以下に、本発明のアクリル系共重合体の構成単位について詳細に説明する。
水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)の分子量が100〜1200が好ましく、更に好ましくは150〜1000である。
水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)はアルキレンオキシド単位を有するモノ(メタ)アクリレート、トリメチレンオキシド単位を有するモノ(メタ)アクリレート、テトラメチレンオキシド単位を有するモノ(メタ)アクリレートが好ましい。アルキレンオキシド単位を有するモノ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
アルキレンオキシド単位を有するモノ(メタ)アクリレートは一般式(1)で表わされる。
Figure 2016046231
一般式(1)において、Rは水素又は炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、RおよびRはそれぞれ水素、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基から選ばれる。Rは、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよびイソブチル基などが挙げられる。好ましくは水素またはメチル基である。すなわち、水酸基を有するモノマー(A)は、(Rが水素又はメチル基である)(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。RおよびRは、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよびイソブチル基などが挙げられる。好ましくは水素またはメチル基である。nは1〜30の整数である。好ましくはnが3〜25、より好ましくは4〜20の整数である。
アルキレンオキシド単位を有するモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。これらの中でも、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)は、架橋剤として働く。多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)としては2官能〜5官能(特に、3官能〜5官能)(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)は、好ましくは3官能または4官能(メタ)アクリレートである。(メタ)アクリレートが6官能以上になると、架橋剤そのものの粘度が高くなり、乳化重合で分散が上手くできなくなり、加えて、バインダーとしての物性(屈曲性、結着性)が悪くなる。
2官能(メタ)アクリレートの具体例としてはトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェートなどが挙げられる。
3官能(メタ)アクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2,2,2−トリス(メタ)アクリロイロキシメチルエチルコハク酸、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセリンEO付加トリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO付加トリ(メタ)アクリレートおよびトリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェートなどが挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが好ましい。
4官能(メタ)アクリレートの具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールEO付加テトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
5官能(メタ)アクリレートの具体例としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
多官能(メタ)アクリレートは1種であってよく又は2種以上を併用できる。
本発明のアクリル系共重合体は、
一般式(1)で表わされる水酸基を有するモノマー(A)から誘導される構成単位、
多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)から誘導される構成単位の他に、
(メタ)アクリル酸エステルモノマー(C)から誘導される構成単位および(メタ)アクリル酸モノマー(D)から誘導される構成単位の一方又は両方を有していてもよい。
すなわち、本発明のアクリル系共重合体は、次のような構成単位を有していてよい。
構成単位(A)+(B)
構成単位(A)+(B)+(C)
構成単位(A)+(B)+(D)
構成単位(A)+(B)+(C)+(D)
(メタ)アクリル酸エステルモノマー(C)は、式:
Figure 2016046231
(式中、R21は水素又はメチル基であり、R22は、炭素数1〜50の炭化水素基である。)で示される化合物であることが好ましい。
22は、一価の有機基であり、飽和または不飽和の脂肪族基(例えば、鎖状脂肪族基または環状脂肪族基)、芳香族基または芳香脂肪族基であってよい。R22は飽和の炭化水素基、特に飽和の脂肪族基であることが好ましい。R22基は、分岐または直鎖のアルキル基であることが特に好ましい。R22の炭素数は、1〜50、例えば1〜30、特に1〜20である。
(メタ)アクリル酸エステルモノマー(C)から誘導される構成単位の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピルである。これら(メタ)アクリル酸エステルモノマーは1種又は2種以上併用できる。
(メタ)アクリル酸モノマー(D)は、式:
Figure 2016046231
(式中、R31は水素又はメチル基である。)で示される化合物であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸モノマー(D)から誘導される構成単位の具体例としては、メタクリル酸、アクリル酸が挙げられ、1種又は2種併用できる。メタクリル酸とアクリル酸の2種の組み合わせを重量比1:99〜99:1、例えば5:95〜95:5、特に20:80〜80:20で使用してもよい。
モノマー(A)、(B)、(C)および(D)以外の他のモノマー、例えば、ニトリル基、アミド基、フッ素原子、スルホン酸基等を有する(メタ)アクリル系モノマーおよび/またはビニル系モノマーを使用してもよい。具体的には、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ビニルスルホン酸、トリフルオロメチルメタクリレート、トリフルオロアクリレート、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、塩化ビニル等が挙げられる。
本発明において、使用モノマー(即ち、モノマー(A)、(B)、(C)および(D)ならびに他のモノマー)は、(メタ)アクリル基に含まれるエチレン性不飽和二重結合以外に、芳香族の炭素−炭素二重結合を含む炭素−炭素二重結合(および炭素−炭素三重結合)を有しないことが好ましい。
アクリル系共重合体において、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)から誘導される構成単位、多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)から誘導される構成単位、(メタ)アクリル酸エステルモノマー(C)から誘導される構成単位、(メタ)アクリル酸モノマー(D)から誘導される構成単位の量は、
構成単位(A)100重量部に対して、
構成単位(B)0.5〜60重量部、例えば1〜40重量部、特に2〜15重量部、
構成単位(C)0〜200重量部、1〜150重量部、特に2〜120重量部、および
構成単位(D)0〜60重量部、例えば0.5〜40重量部、特に1〜15重量部
であってよい。
本発明のアクリル系共重合体を得る方法としては一般的な乳化重合法、分散重合、ソープフリー乳化重合法、シード重合法、シード粒子にモノマー等を膨潤させた後に重合する方法等を使用することができる。具体的には、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に室温でモノマー、界面活性剤、重合開始剤、溶媒、必要に応じて分散剤、連鎖移動剤、pH調整剤等を含んだ組成物を不活性ガス雰囲気下で攪拌することでモノマー等を溶媒に乳化もしくは溶媒に溶解させる。乳化の方法は撹拌、剪断、超音波等による方法等が適用でき、撹拌翼、ホモジナイザー等を使用することができる。次いで、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始させることで、重合体が溶媒に分散した球形の重合体のラテックスを得ることができる。
また、水系で生成した球形の重合体を別途単離した後に、分散剤等を用いてN-メチルピロリドン等の有機溶剤に分散させて使用してもよい。さらには、再度、モノマー、乳化剤や分散剤等を用いて溶媒中に分散させて、重合体のラテックスを得る方法もある。重合時のモノマーの添加方法は、一括仕込みの他に、モノマー滴下やプレエマルジョン滴下等でもよく、これらの方法を2種以上併用してもよい。
また本発明の電池正極用バインダー組成物中での重合体の粒子構造は特に限定されない。例えば、シード重合によって作製された、コア−シェル構造の複合重合体粒子を含む重合体のラテックスを用いることができる。シード重合法は、例えば、「分散・乳化系の化学」(発行元:工学図書(株))に記載された方法を用いることができる。具体的には、上記の方法で作製したシード粒子を分散した系にモノマー、重合開始剤、界面活性剤を添加し、核粒子を成長させる方法であり、上記方法を1回以上繰り返してもよい。
シード重合には本発明の重合体または公知のポリマーを用いた粒子を採用しても良い。公知のポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリレートおよびポリエーテルなどが例示できるが、限定されるものではなく、他の公知のポリマーを用いることができる。また、1種のホモポリマーまたは2種以上の共重合体またはブレンド体を用いても良い。
本発明の電池正極用バインダー組成物中での重合体の粒子形状としては球形以外に、板状、中空構造、複合構造、局在構造、だるま状構造、いいだこ状構造、ラズベリー状構造等があげられ、本発明を逸脱しない範囲で2種類以上の構造および組成の粒子を用いることができる。
本発明で用いられる界面活性剤、分散剤は特に限定されず、例えば、水系乳化重合法においては一般的に用いられるノニオン性乳化剤およびアニオン性乳化剤等を使用することができる。また、有機溶媒系の分散重合法においてはポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等を使用することができる。
本発明で用いられる乳化剤の使用量は乳化重合法や分散重合において一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量に対して、0.01〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.05〜5重量%、更に好ましくは0.05〜3重量%である。
本発明で用いられる重合開始剤は特に限定されず、乳化重合法や分散重合において一般的に用いられる重合開始剤を使用することができる。その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩に代表される水溶性の重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドに代表される油溶性の重合開始剤、ハイドロパーオキサイド、4−4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン、2−2’−アゾビス(プロパン−2−カルボアミジン)2−2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロパンアミド、2−2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}、2−2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)および2−2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロパンアミド}などのアゾ系開始剤、レドックス開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
本発明で用いられる重合開始剤の使用量は乳化重合法や分散重合において一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量に対して、0.01〜5重量%の範囲であり、好ましくは0.05〜3重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%である。
本発明においては、必要に応じてヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダおよびポリアクリル酸ソーダ等の分散剤を用いることができ、種類および使用量は特に限定されず、一般的に用いられる分散剤を任意の量で自由に使用することができる。
本発明においては、必要に応じてメルカプタン系化合物、チウラム系化合物等の連鎖移動剤を用いることができる。これらを1種または2種以上用いてもよい。これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、仕込モノマー量100重量部に対して0〜5重量部にて使用される。
重合時間および重合温度は特に限定されない。使用する重合開始剤の種類等から適宜選択できるが、一般的に、重合温度は20〜100℃であり、重合時間は0.5〜100時間である。
さらに上記の方法によって得られたアクリル系共重合体は、必要に応じてpH調整剤として塩基を用いることでpHを調整することができる。塩基の具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物、有機アミン化合物等が挙げられる。pHの範囲はpH1〜11、好ましくはpH2〜11、更に好ましくはpH2〜10、例えばpH3〜10、特にpH5〜9の範囲である。
本発明のバインダー組成物は、アクリル系共重合体、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に有機溶媒または水を含む。バインダー組成物中におけるアクリル系共重合体とポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量(固形分濃度)は、0.2〜80重量%、好ましくは0.5〜70重量%、より好ましくは0.5〜60重量%である。
本発明において、電池正極用バインダー組成物に用いられる有機溶媒は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルスルホルアミド、テトラメチル尿素、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらを単独で用いても、混合して用いてもよい。これらのうち、N−メチルピロリドンが特に好んで用いられる。
本発明の電池正極用バインダー組成物中における上記重合体の粒子径は、動的光散乱法、透過型電子顕微鏡法や光学顕微鏡法などによって計測できる。動的光散乱法を用いて得た散乱強度により算出した平均粒径は、0.001μm〜1μm、好ましくは0.001μm〜0.500μmである。具体的な測定装置としてはスペクトリス製のゼータサイザーナノ等が例示できる。
本発明でいうポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデン単独重合体(ホモポリマー)に限定されずフッ化ビニリデンと共重合可能な他のモノマーとの共重合体も含み、共重合体中のフッ化ビニリデン成分比率が50重量%以上であればよく、さらに望ましくは、75重量%以上である。ここで共重合可能な他のモノマーとしては、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、フッ化ビニル等のフッ素系モノマーが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることが出来る。これらのポリフッ化ビニリデン系樹脂は、耐溶剤性と耐薬品性に優れているため、電極活物質の電池正極用バインダー組成物として用いた時、高性能で安定な電極が得られる。
これらのポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンおよび上述のフッ素系モノマーを懸濁重合法あるいは乳化重合法等で重合することにより得られ、230℃、2.16kg荷重下でのメルトフローレート(MFR)が0.01〜300g/10分のものが好んで用いられる。
本発明で使用される電池正極用バインダー組成物において、アクリル系共重合体の含有率は当該電池正極用バインダー組成物(アクリル系共重合体+ポリフッ化ビニリデン樹脂)の0.2〜50重量%の範囲であり、望ましくは0.5〜40重量%である。アクリル系重合体の添加量が少なすぎる場合、集電体とバインダーとの接着性が悪くなり、これが多すぎる場合、電池正極用バインダー組成物の耐薬品性が低下し、いずれの場合も、本発明の電極や二次電池の寿命に悪影響を及ぼす。
本発明において、電極集電体に塗布するスラリーを得るために用いられる溶媒は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルスルホルアミド、テトラメチル尿素、アセトン、メチルエチルケトン等の有機溶媒や水であればよく、これらを単独で用いても、混合して用いてもよい。これらのうち、N−メチルピロリドンが特に好んで用いられる。また、必要に応じて消泡剤を添加してもよい。
消泡剤としてはシリコーン系消泡剤、鉱油系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤などがある。シリコーン系および鉱油系消泡剤が好ましい。
シリコーン系消泡剤としてはジメチルシリコーン系、メチルフェニルシリコーン系、メチルビニルシリコーン系消泡剤があり、好ましくはジメチルシリコーン系である。また、消泡剤を界面活性剤と共に水中に分散してなるエマルジョン型消泡剤として用いることができる。これらの消泡剤は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して使用できる。
本発明において、電極活物質に添加する電池正極用バインダー組成物の量は、電極活物質100重量部に対して、1〜10重量部であることが望ましく、さらに望ましくは1〜7重量部である。この添加量が多すぎても少なすぎても高性能な電池を得ることができない。さらに、電極構成物質層には、必要に応じて、導電性付与剤やその他添加剤(酸化銅等)等を添加してもよい。
本発明においては、所定量の電極活物質、および電池正極用バインダー組成物を溶媒の存在下で混練して得られたスラリーを電極集電体に塗布した後、乾燥後、必要に応じてプレスして電極が得られる。この場合、スラリーを塗布後、必要に応じて、60〜250℃、さらに望ましくは80〜200℃で、1分間〜10時間、加熱処理することが望ましい。こうして得られる帯状電極を、帯状セパレータとともにロール状(渦巻状)に巻回し、巻回電極体としてもよい。
アクリル系共重合体とポリフッ化ビニリデン系樹脂への混合方法は、それぞれの有機溶媒の分散液は予め混合しておいてもよく、また以下の電極用スラリーにおいてそれぞれを加えていくのもよい。その際の活物質への混合の順番はいずれが先であっても構わない。
電池電極用スラリーの調整方法
本発明の電池正極用バインダー組成物を使用した電池電極用スラリーの調整方法としては特に限定されず、本発明の電池正極用バインダー組成物、活物質、導電助剤、有機溶媒、必要に応じて増粘剤等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。
電池用電極の作製方法
電池用の電極の作製方法は特に限定されず一般的な方法が用いられる。例えば、正極活物質あるいは負極活物質、導電助剤、バインダー、有機溶媒、必要に応じて増粘剤などからなるペースト(塗工液)をドクターブレード法やシルクスクリーン法などにより集電体表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
例えばドクターブレード法では、負極活物質粉末や正極活物質粉末、導電助剤、バインダー等を水に分散してスラリー状にし、金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は活物質塗布後、余分な水や有機溶剤を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材が製造される。プレス後に再度熱処理を施して有機溶媒、乳化剤等を除去してもよい。
正極材料は、例えば電極材料基板としての金属電極基板と、金属電極基板上に正極活物質、および電解質層と良好なイオンの授受を行い、かつ、導電助剤と正極活物質を金属基板に固定するための正極用バインダー組成物より構成されている。金属電極基板には、例えばアルミニウムが用いられるが、これに限るものではなく、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等であってもよい。
本発明で使用される正極活物質は、LiMO、LiM、LiMO、LiMEOのいずれかの組成からなるリチウム金属含有複合酸化物粉末である。ここで式中のMは主として遷移金属からなり、Co、Mn、Ni、Cr、Fe、Tiの少なくとも一種を含んでいる。Mは遷移金属からなるが、遷移金属以外にもAl、Ga、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P、Bなどが添加されていてもよい。EはP、Siの少なくとも1種を含んでいる。正極活物質の粒子径には50μm以下が好ましく、更に好ましくは20μm以下のものを用いる。これらの活物質は、3V(vs. Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
正極活物質の具体例としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)、スピネル型マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどが挙げられる。
負極材料は、例えば電極材料基板としての金属電極基板と、金属電極基板上に負極活物質、および電解質層と良好なイオンの授受を行い、かつ、導電助剤と負極活物質を金属基板に固定するためのバインダーより構成されている。この場合の金属電極基板には、例えば銅が用いられるが、これに限るものではなく、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等であってもよい。
本発明で使用される負極活物質としてはリチウムイオンを吸蔵・放出可能な構造(多孔質構造)を有する炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等)か、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、シリコン系化合物、チタン系化合物等の金属からなる粉末である。粒子径は10nm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは20nm以上20μm以下である。また、金属と炭素材料との混合活物質として用いてもよい。なお負極活物質にはその気孔率が、70%程度のものを用いるのが望ましい。
導電助剤の具体的としては、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラック、または金属粉末等が挙げられる。これら導電助剤は1種または2種以上用いてもよい。
増粘剤の具体的としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロースおよびこれらのナトリウム塩、アンモニウム塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩等が挙げられる。これら増粘剤は1種または2種以上用いてもよい。
以下の電池の製造法は、主として、リチウムイオン二次電池の製造方法である。
電池の製造方法
電池、特に二次電池の製造方法は特に限定されず、正極、負極、セパレータ、電解液、集電体で構成され、公知の方法にて製造される。例えば、コイン型の電池の場合、正極、セパレータ、負極を外装缶に挿入する。これに電解液を入れ含浸する。その後、封口体とタブ溶接などで接合して、封口体を封入し、カシメることで蓄電池が得られる。電池の形状は限定されないが、例としてはコイン型、円筒型、シート型などがあげられ、2個以上の電池を積層した構造でもよい。
セパレータとしては正極と負極が直接接触して蓄電池内でショートすることを防止するものであり、公知の材料を用いることができる。具体的には、ポリオレフィンなどの多孔質高分子フィルムあるいは紙などからなっている。この多孔質高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムが電解液によって影響を受けないため好ましい。
電解液は電解質リチウム塩化合物および溶媒として非プロトン性有機溶剤等からなる溶液である。電解質リチウム塩化合物としては、リチウムイオン電池に一般的に利用されているような、広い電位窓を有するリチウム塩化合物が用いられる。たとえば、LiBF、LiPF、LiClO、LiCFSO、LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN[CFSC(CSO]などを挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
非プロトン性有機溶剤としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、アニソール、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ジエチルエーテルなどの直鎖エーテルを使用することができ、2種類以上混合して使用してもよい。
また、溶媒として、常温溶融塩を用いることができる。常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電源が通常作動すると想定される温度範囲をいう。電源が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては60℃程度であり、下限は−40℃程度、場合によっては−20℃程度である。
常温溶融塩はイオン液体とも呼ばれており、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される「塩」であり、特に液体化合物をイオン液体という。
カチオン種としてはピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムカチオンが好ましい。
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、アルキルピリジウムイオンとしては、N−メチルピリジウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−エチル−2メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
イミダゾリウムカチオンとしては、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
アニオン種としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6−、PF6−などの無機酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8−テトラシアノ−p−キノジメタンイオンなどの有機酸イオンなどが例示される。
なお、常温溶融塩は、単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いても良い。
電解液には必要に応じて種々の添加剤を使用することができる。例えば、難燃剤や不燃剤として、臭素化エポキシ化合物、ホスファゼン化合物、テトラブロムビスフェノールA 、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛等が例示できる。負極表面処理剤としてはビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示できる。正極表面処理剤として炭素や金属酸化物(MgОやZrO2等)の無機化合物やオルト−ターフェニル等の有機化合物等が例示できる。過充電防止剤としてはビフェニルや1−(p−トリル)アダマンタン等が例示できる。
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例では、本発明の電池正極用バインダー組成物を用いて電極及びコイン電池を作製し、電極の評価として屈曲試験、結着試験、コイン電池の評価として充放電サイクル特性性能を以下の実験にて行った。
[作製した電極の評価]
作製した電極の評価としては屈曲試験と結着試験を行った。評価結果を表1にまとめて示した。
屈曲試験
屈曲試験はマンドレル屈曲試験にて行った。具体的には電極を幅3cm×長さ8cmに切り、長さ方向の中央(4cm部分)の基材側(電極表面が外側を向くように)に直径2mmのステンレス棒を支えにして180°折り曲げたときの折り曲げ部分の塗膜の状態を観察した。この方法で5回測定を行い、5回とも電極表面のひび割れまたは剥離や集電体からの剥がれが全く生じていない場合を○、1回でも1箇所以上のひび割れまたは剥がれが生じた場合を×と評価した。
結着試験
結着試験はクロスカット試験にて行った。具体的には電極を幅3cm×長さ4cmに切り、1マスの1辺が1mmとなるように直角の格子パターン状にカッターナイフで切れ込みを入れ、縦5マス×横5マスの25マスからなる碁盤目にテープ(セロテープ:ニチバン製)を貼り付け、電極を固定した状態でテープを一気に引き剥がしたとき、電極から剥がれずに残ったマスの数を計測した。試験は5回実施し、その平均値を求めた。
[作製した電池の評価]
作製した電池の評価としては充放電装置を用いて充放電サイクル特性試験を行い、容量維持率を求めた。評価結果を表1にまとめて示した。
容量維持率
電気化学特性は(株)ナガノ製の充放電装置を用い、4.2V上限、2.5Vを下限とし、1時間で所定の充電および放電が行える試験条件(1C)にて一定電流通電することにより電池の充放電サイクル特性を評価した。試験温度は60℃の環境とした。可逆容量は初回の放電容量の値を採用し、容量維持率は充放電を100サイクル行った後の放電容量と初回の放電容量の比で評価した。
バインダー組成物用重合体の合成例
[アクリル系共重合体の合成例1(分散液:水)]
攪拌機付き反応容器に、メタクリル酸メチル45重量部、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製:ブレンマーAP−400)45重量部、アクリル酸1.3重量部、メタクリル酸3.7重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)5重量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1重量部、イオン交換水500重量部および重合開始剤として過硫酸カリウム1重量部を入れ、超音波ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合した。重合終了後、冷却してアクリル系共重合体Aを含む水分散液(重合転化率99%以上、pH3.0、固形分濃度17wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.097μmであった。
[アクリル系共重合体の合成例2(分散液: NMP)]
上記アクリル系共重合体Aの100重量部を含む水分散液に、N−メチルピロリドン(NMP)300重量部を入れ、エバポレーターにて85℃、15Torrで減圧蒸留した。その結果、NMP分散液(水分:220ppm, 固形分:12.0%)を作製できた。NMP分散液の重合体Aの平均粒子径は0.105μmであり、NMP分散液中でも水分散液での粒子径がほぼ保持されていた。
[アクリル系共重合体の合成例3(分散液:水)]
攪拌機付き反応容器に、メタクリル酸メチル45重量部、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製:ブレンマーAP−400)47重量部、アクリル酸5重量部、メタクリル酸3重量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1重量部、イオン交換水500重量部および重合開始剤として過硫酸カリウム1重量部を入れ、超音波ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合した。重合終了後、冷却してアクリル系共重合体Bを含む水分散液(重合転化率99%以上、pH3.0、固形分濃度17wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.120μmであった。
[アクリル系共重合体の合成例4(分散液: NMP)]
上記重合体Bの100重量部を含む水分散液に、N−メチルピロリドン(NMP)300重量部を入れ、エバポレーターにて85℃、15Torrで減圧蒸留した。その結果、アクリル系共重合体Bを含むNMP溶液(水分:200ppm, 固形分:12.5%)を作製できた。得られた重合体の平均粒子径は0.210μmであり、NMP分散液中では水分散液中での粒子径よりも大きくなっていた。
電極の作製例
[電極の実施作製例1]
正極活物質としてニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)88.0重量部に、導電助剤としてアセチレンブラック6.0重量部、アクリル系共重合体の合成例2で得られたアクリル系共重合体Aの0.5重量部およびポリフッ化ビニリデン系樹脂(ALDRICH製: 427179 ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン))5.0重量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が35重量%となるように溶媒なるNMPを加えて遊星型ミルを用いて十分に混合して正極用スラリーを得た。
得られた正極スラリーを厚さ20μmのアルミ集電体上に200μmギャップのブレードコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ45μmの正極を作製した。屈曲性および結着性の評価結果を表1の実施例1に示す。
[電極の比較作製例1]
正極活物質としてニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)88.0重量部に、導電助剤としてアセチレンブラック6.0重量部、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(ALDRICH製: 427179 ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン))6.0重量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が35重量%となるように溶媒なるNMPを加えて遊星型ミルを用いて十分に混合して正極用スラリーを得た。
得られた正極スラリーを厚さ20μmのアルミ集電体上に200μmギャップのブレードコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ43μmの正極を作製した。屈曲性および結着性の評価結果を表1の比較例1に示す。
[電極の比較作製例2]
正極活物質としてニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)88.0重量部に、導電助剤としてアセチレンブラック6.0重量部、アクリル系共重合体の合成例1で得られたアクリル重合体Aの3重量部、増粘剤のカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩1.5重量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が35重量%となるように溶媒なる水を加えて遊星型ミルを用いて十分に混合して正極用スラリーを得た。
得られた正極スラリーを厚さ20μmのアルミ集電体上に200μmギャップのブレードコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ47μmの正極を作製した。屈曲性および結着性の評価結果を表1の比較例2に示す。
[電極の比較作製例3]
正極活物質としてニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)88.0重量部に、導電助剤としてアセチレンブラック6.0重量部、アクリル系共重合体の合成例4で得られた重合体Bの1.5重量部およびポリフッ化ビニリデン系樹脂(ALDRICH製: 427179 ポリ(ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン))3.0重量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が35重量%となるように溶媒なるNMPを加えて遊星型ミルを用いて十分に混合して正極用スラリーを得た。
得られた正極スラリーを厚さ20μmのアルミ集電体上に200μmギャップのブレードコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ45μmの正極を作製した。屈曲性および結着性の評価結果を表1の実施例1に示す。
コイン電池の製造
[実施例1]
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、電極の実施作製例1で得た正極、セパレーターとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物に、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてカシめ、試験用2032型コイン電池を製造した。100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の実施例1に示す。
[比較例1]
電極の比較作製例1で得た正極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン電池を作製した。100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の比較例1に示す。
[比較例2]
電極の比較作製例2で得た正極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン電池を作製した。100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の比較例2に示す。
[比較例3]
電極の比較作製例3で得た正極を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン電池を作製した。100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の比較例3に示す。
表1に実施例および比較例における評価結果を示す。
Figure 2016046231

Claims (7)

  1. (I)水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)から誘導される構成単位と、
    多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)から誘導される構成単位を含むアクリル系共重合体と、
    (II)ポリフッ化ビニリデン系樹脂と
    を含むことを特徴する電池正極用バインダー組成物。
  2. 水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)の分子量が100〜1200である請求項1に記載の電池正極用バインダー組成物。
  3. 多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)が3〜5官能の(メタ)アクリレートである請求項1または請求項2に記載の電池正極用バインダー組成物。
  4. ポリフッ化ビニリデン系樹脂がフッ化ビニリデンの単独重合体または共重合体である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電池正極用バインダー組成物。
  5. アクリル系共重合体が水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー(A)から誘導される構成単位、多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)から誘導される構成単位に、更に(メタ)アクリル酸エステルモノマー(C)および/または(メタ)アクリル酸モノマー(D)から誘導される構成単位が含まれることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電池正極用バインダー組成物。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電池正極用バインダー組成物を用いることを特徴とする電池用正極。
  7. 請求項6記載の正極を有することを特徴とする電池。
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