以下、本発明の実施の形態を説明する。
[超音波振動子]
本実施の形態に係る超音波振動子は、圧電材料層、音響整合層および音響レンズがこの順で接着されている。上記音響整合層は、その表面が一体的であり、上記音響レンズは、上記音響整合層の表面に拡がっている接着剤層を介して上記音響整合層に、直接または後述の保護層のような他の層を介して接着している。ここで、「一体的な表面」とは、複数に区画されていない平滑な面である。たとえば、上記一体的な表面は、溝や窪みなどの凹部を含まない面である。すなわち、上記超音波振動子は、後述する接着剤層を用いる以外は、上記圧電材料層が一体で構成され、または素子化のために溝によって分割されており、当該圧電材料層が一体の音響整合層によって覆われており、かつ、当該音響整合層に一体の音響レンズが接着剤によって接着されている公知の構成を有する超音波振動子と同様に構成され得る。
図1は、本実施の形態に係る超音波振動子の構成を模式的に示すための図である。超音波振動子100は、バッキング層110、フレキシブルプリント基板(FPC)120、圧電材料層130、溝140、141、充填材150、音響整合層160、音響レンズ170および接着剤層180を有する。
バッキング層110は、圧電材料層130を支持し、不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。すなわち、バッキング層110は、圧電材料層130の被検体、例えば生体、に超音波を送受信する方向と反対の面(裏面)に装着され、被検体の方向の反対側に発生する超音波を吸収する。
バッキング層110の材料の例には、天然ゴム、エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、および、これらの材料の少なくともいずれかと酸化タングステンや酸化チタン、フェライトなどの粉末との混合物をプレス成形した樹脂系複合材、が含まれる。上記熱可塑性樹脂の例には、塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ABS樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂、ポリエチレングリコール、および、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体、が含まれる。中でも樹脂系複合材、その中でも特にゴム系複合材料またはエポキシ樹脂系複合材が好ましい。バッキング層110の形状は、圧電材料層130の平面形状や超音波振動子100、これを含む超音波探触子などの形状に応じて、適宜に決めることができる。
FPC120は、例えば、圧電材料層130のための一対の電極と接続される、後述の圧電素子に対応したパターンの配線を有する。たとえば、FPC120は、一方の電極となる信号引き出し配線と、図示しない他方の電極に接続されるグランド引き出し配線とを有する。FPC120は、上記の適当なパターンを有していれば、市販品であってもよい。
上記電極の材料の例には、金、白金、銀、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、スズ、および、これらの金属元素を含む合金、が含まれる。たとえば、上記電極は、まず、チタンやクロムなどの下地金属をスパッタ法により0.002〜1.0μmの厚さに形成し、次いで、上記材料を、さらには必要に応じて絶縁材料を部分的に、スパッタ法、蒸着法その他の適当な方法で0.02〜10μmの厚さに形成することによって作製される。上記電極は、微粉末の金属粉末と低融点ガラスを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法によって当該導電ペーストの層を形成することによって作製することも可能である。
なお、バッキング層110とFPC120は、例えば、当該技術分野で通常使用される接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)で接着され得る。
圧電材料層130は、圧電材料で構成される層である。当該圧電材料の例には、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、圧電セラミック、チタン酸亜鉛酸ニオブ酸鉛(PZNT)、および、マグネシウム酸ニオブ酸チタン酸(PMNT)、が含まれ、これらの単結晶が好適である。圧電セラミックの例には、リラクサ系セラミック、ニオブ酸鉛系セラミック、およびチタン酸鉛系セラミックが含まれる。圧電材料層130の厚さは、例えば0.05〜0.4mmである。
なお、圧電材料層130は、FPC120と、例えば導電性接着剤によって接着されている。当該導電性接着剤は、例えば、銀粉や銅粉、カーボンファイバーなどの導電性材料を含有する接着剤である。
溝140は、圧電材料層130の表面からバッキング層110に至る深さを有し、溝141は、圧電材料層130の表面から圧電材料層130内に至る深さを有している。溝140は、圧電素子の主素子を区画しており、溝141は、1主素子中に並列する三つの副素子を区画している。溝140、141は、いずれも、例えばダイシングソーによる溝切り加工によって形成されており、その幅は、例えば15〜30μmmmである。
なお、上記主素子におけるピッチ(溝140の中心間距離)は、例えば0.15〜0.30mmであり、上記副素子におけるピッチ(隣り合う溝(溝141または溝140)の中心間距離)は、例えば0.05〜0.15mmである。
充填材150は、溝140および141に充填されている。また、充填材150は、圧電材料層130と音響整合層160との間にも介在しているが、図1ではその存在を強調しており、圧電材料層130と音響整合層160との間では、実際は両者を接着するための接着剤として機能する程度の厚さで存在している。
充填材150の材料の例には、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリウレタン、天然ゴムおよびこれらの混合物が含まれる。上記エポキシ樹脂は、例えば、エポキシ樹脂のプレポリマーと、当該プレポリマー間に架橋ネットワークを形成するための硬化剤とを含有するプレポリマー組成物の硬化物として構成される。
上記プレポリマーの例には、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル(フェニレン、ビフェニレン骨格を含む)樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂などのフェノール樹脂が含まれる。
上記硬化剤の例には、アミン系硬化剤が含まれ、当該アミン系硬化剤の例には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジンなどのトリアジン化合物、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、および、トリエタノールアミンが含まれる。
充填材150は、弾性樹脂粒子をさらに含有していてもよい。当該弾性樹脂粒子は、充填材150の耐久性を高める観点から、その表面に反応性官能基を有することが好ましい。当該反応性官能基は、反応性官能基同士の反応性を有する基であってもよいし、エポキシ樹脂中の特定の分子構造に対する反応性を有する基であってもよい。当該弾性樹脂粒子の例には、変性シリコーンゴム粒子が含まれる。当該変性シリコーンゴム粒子の例には、シリコーンエラストマーの粒子と、当該粒子を覆う(例えばポリシロキサンなどの)シェルと、当該シェルの表面に配置されている反応性官能基とを有する粒子が含まれる。
上記プレポリマー組成物における当該弾性樹脂粒子の含有量は、プレポリマーおよび硬化剤の種類や、エポキシ樹脂の所期の体積弾性率などに応じて適宜に決められ、例えば変性シリコーンゴム粒子であれば、プレポリマーおよび硬化剤の総量に対して8〜35質量%である。
充填材150は、例えば、上記プレポリマー、硬化剤および弾性樹脂粒子を含有する市販品の樹脂組成物から作製することが可能である。当該市販品の例には、ALBIDUR EP2240AおよびALBIDUR EP5340(いずれもエボニク社製)が含まれる。
音響整合層160は、圧電材料層130と後述の音響レンズ170との音響特性を整合させるための層である。音響整合層160は、圧電材料層130と音響レンズ170との概ね中間のZaを有し、圧電材料層130の上記被検体側(表面側)に、例えば、前述の他方の電極を介して配置される。
音響整合層160は、単層でも積層でもよいが、音響特性の調整の観点から、音響インピーダンスが異なる複数の層の積層体であることが好ましく、例えば2層以上、より好ましくは4層以上である。音響整合層160の厚さは、λ/4であることが好ましい。λは、超音波の波長である。音響整合層160は、例えば、種々の材料で構成することが可能である。音響整合層160のZaは、音響レンズに向けて音響レンズのZaに、段階的または連続的により近づくように設定されていることが好ましく、例えば、当該材料に添加する添加剤の種類および含有量によって調整することが可能である。
上記材料の例には、アルミニウム、アルミニウム合金(例えばAl−Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイトおよび樹脂が含まれる。当該樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン6やナイロン66などのナイロン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。上記添加剤の例には、亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン、ガラス繊維およびシリコーン粒子が含まれる。
音響整合層160のZaを調整する観点から、例えば、音響整合層160の表面部は、エポキシ樹脂で構成されているとともにシリコーン粒子を含有していることが好ましい。後述するように、音響レンズ170の材料であるシリコーンを音響整合層160の基材中に分散して存在させると、音響整合層160のZaを音響レンズ170のそれに近づけることが可能である。
なお、音響整合層160の各層は、例えば、当該技術分野で通常使用される接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)で接着されている。
音響レンズ170は、例えば、被検体と音響整合層160との中間のZaを有する軟質の高分子材料により構成される。当該高分子材料の例には、シリコーン系ゴム、ブタジエン系ゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、および、エチレンとプロピレンとを共重合させてなるエチレン−プロピレン共重合体ゴム、が含まれる。中でも、上記高分子材料は、シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムからなることが好ましい。
上記シリコーン系ゴムの例には、シリコーンゴムおよびフッ素シリコーンゴムが含まれる。特に、音響レンズの特性の観点からは、シリコーンゴムが好ましい。当該シリコーンゴムとは、Si−O結合からなる分子骨格を有し、そのSi原子に複数の有機基が主結合したオルガノポリシロキサンをいい、通常は、その主成分はメチルポリシロキサンで、その全体の有機基のうち90%以上がメチル基である。上記シリコーンゴムは、上記メチルポリシロキサンのメチル基の少なくとも一部が、水素原子、フェニル基、ビニル基またはアリル基も置き換わっていてもよい。
上記シリコーンゴムは、例えば、高重合度のオルガノポリシロキサンに過酸化ベンゾイルなどの硬化剤(加硫剤)を混練し、加熱加硫し硬化させることにより得ることができる。音響レンズ170における音速の調整や密度の調整などの目的に応じ、シリカやナイロン粉末などの有機または無機の充填剤や、硫黄や酸化亜鉛などの加硫助剤などがさらに添加されてもよい。
上記ブタジエン系ゴムの例には、ブタジエンのホモポリマーであるブタジエンゴム、および、ブタジエンを主体としこれに少量のスチロールまたはアクリロニトリルが共重合した共重合ゴム、が含まれる。特に、音響レンズの特性の観点から、ブタジエンゴムであることが好ましい。ブタジエンゴムとは、共役二重結合を有するブタジエンの重合により得られる合成ゴムをいう。ブタジエンゴムは、共役二重結合を有するブタジエンが1,4位で、または1,2位で、単独で重合することにより得ることができる。ブタジエンゴムは、さらに、硫黄などにより加硫させてもよい。
シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムからなる音響レンズ170は、例えば、シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとを混合し、加硫硬化させることにより生成することが可能である。たとえば、音響レンズ170は、シリコーンゴムとブタジエンゴムとを適宜割合で混練ロールにより混合し、過酸化ベンゾイルなどの加硫剤を添加して加熱加硫して架橋(硬化)させることにより、得ることができる。
上記の場合、加硫助剤として、酸化亜鉛をさらに添加することが好ましい。酸化亜鉛は、音響レンズ170のレンズ特性を実質的に損なわずに加硫を促進し、加硫時間を短縮することできる。他に、着色剤や音響レンズの特性を損なわない範囲内で他の添加剤を添加してもよい。シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、適宜設定することができる。たとえば、音響レンズ170のZaは、被検体のそれに近似するとともに、音響レンズ170内における音速が被検体のそれよりも小さく、音響レンズ170のZaの減衰がより少なくなるように設定されていることが好ましい。このような観点から、シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、1:1が好ましい。
接着剤層180は、シリコーン系接着剤の層である。前述したように、音響レンズ170は、シリコーン系ゴムを含むことが多い。このため、当該シリコーン系接着剤によって接着剤層180を構成することは、音響整合層160と音響レンズ170との接着性を高める観点から好適である。
上記シリコーン系接着剤とは、シリコーンを基材に含む硬化性の化合物または組成物である。当該シリコーン系接着剤は、音響整合層160および音響レンズ170の両方に対する親和性を高めるための添加剤や、音響整合層160と音響レンズ170との両者の音響特性を整合させるための添加剤などの種々の添加剤をさらに含有していてもよい。
上記シリコーン系接着剤は、室温で硬化する液状ゴム(RTVゴム)でもよいし、加熱によって硬化させる液状ゴムであってもよい。また、上記シリコーン系接着剤は、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。上記シリコーン系接着剤の例には、KE−441、KE−445、KE−471W、KE−1600、KE−1604、KE−1884、KE−1885、KE−1886、KE−4895、KE−4896、KE−4897およびKE−4898(いずれも信越化学工業株式会社製)や、TN3005、TN3305、TN3705、TSE3976−B、ECS0600およびECS0601(いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)などが含まれる。
接着剤層180の厚さは、10μm以下である。接着剤層180の厚さとは、例えば、超音波振動子100の接着剤層180を含む断面の顕微鏡観察によって求められる数値である。接着剤層180の厚さが少なくとも10μm以下であれば、より広帯域の超音波による画像形成における、上記リップルによる検出感度の低下を防止することができる。接着剤層180の厚さは、10μm以下であれば、接着剤層180が所期の接着力を発現する範囲において、上記の観点から薄いほど好ましい。音響整合層160に対する音響レンズ170の接着力は、超音波振動子100の用途に応じて決められ、例えば、超音波診断装置用の超音波振動子100であれば、当該接着力は0.5N/cm2以上であることが好ましい。そして、当該接着力を発現させる観点から、接着剤層180の厚さは、例えば、0.5μm以上であることが好ましい。
接着剤層180の密度は、接着剤層180での超音波の反射を抑制する観点から、1g/cm3以上であることが好ましい。接着剤層180の密度は、例えば、アルキメデス法によって求めることが可能であり、例えば、上記シリコーン系接着剤の種類や、当該シリコーン系接着剤へのフィラーの混合、当該フィラーの含有量などによって調整することが可能である。
接着剤層180は、音響整合層160のZaと音響レンズ170のZaとの間のZaを有することが、超音波振動子100の音響特性の観点から好ましい。
接着剤層180の材料の一部または全部に、音響整合層160のZaまたは音響レンズ170のZaと同じ音響インピーダンスを有する材料を用いることによって、音響整合層160のZaまたは音響レンズ170のZaと接着剤層180のZaとのギャップを小さくすることが可能である。
接着剤層180のZaは、音響整合層160のZaと音響レンズ170のZaとの間になくてもよい。たとえば、音響整合層160のZaは、2.0MRayls以下であってよく、音響レンズ170のZaは、1.3〜1.5MRaylsであってよく、接着剤層180のZaは、1.28MRayls以下であってもよい。なお、音響整合層160のZaは、音響整合層160の上記表面部(音響整合層160における接着剤層180との界面を形成する表面またはそれを含む部分)のZaである。
また、音響整合層160のZaと、接着剤層180のZaとの差の絶対値は、0.6MRayls以上であってよく、音響レンズ170のZaと、接着剤層180のZaとの差の絶対値は、0.1MRayls以上であってよい。
さらに、接着剤層180における音速は、1000m/秒以下であってもよい。接着剤層180における音速は、例えば、別途作製したテストピース中を伝わる音の、当該テストピースを通過した時間を測定し、当該時間から算出することが可能であり、例えば、上記シリコーン系接着剤の種類や、当該シリコーン系接着剤へのフィラーの混合、当該フィラーの含有量などによって調整することが可能である。
音響整合層160、音響レンズ170および接着剤層180のそれぞれのZaは、25℃における、音響整合層160、音響レンズ170または接着剤層180での超音波の音速と、音響整合層160、音響レンズ170または接着剤層180の密度とから、下記の式から求められる。下記式中、Zaは、音響インピーダンス(MRayls(×106kg/(m2秒)))を表し、ρは、当該部材、層の密度(×103kg/m3)を表し、Cは、音速(×103m/秒)を表す。上記超音波の音速は、例えば、超音波工業株式会社製のシングアラウンド式音速測定装置を用いて、JISZ2353:2003に従い測定される。
Za=ρC
超音波振動子100は、その中心周波数が比較的高い、高周波帯域用の超音波振動子に好適である。これは、上記リップルによる悪影響がより顕著に現れやすいためである。このような観点から、超音波振動子100の中心周波数は、例えば、9MHz以上であることが好ましく、超音波振動子100の周波数帯域は、例えば9〜15MHzであることが好ましい。
超音波振動子100は、音響レンズ170に治具を押し当てて音響レンズ170を音響整合層160へ接着することによって製造することができる。
たとえば、超音波振動子100は、図2Aに示されるように、音響整合層160の一体的な表面に塗布された接着剤181(例えば、前述のシリコーン系接着剤)を介して、音響整合層160の一体的な表面に音響レンズ170の一体的な裏面を接触させる。接着剤181は、例えば、ロールコートなどの公知の方法によって、音響整合層160の表面および音響レンズ170の裏面の一方または両方に、塗布することが可能である。音響整合層160は、圧電材料層130の表面に接着して圧電材料層130を覆っている。
ここで、「一体的な表面(または裏面)」とは、治具190による押圧時に、当該表面が一体となって全面で当該裏面に向けて相対的に接近し、また、当該裏面が一体となって全面で当該表面に向けて相対的に接近する、平滑な面である。たとえば、上記一体的な表面または裏面は、上記押圧時に、音響整合層160と音響レンズ170との間から接着剤181を流出させる溝や窪みなどの凹部を含まない面である。
次いで、図2Bに示されるように、音響レンズ170の表面の形状が転写された押圧面191(図2A参照)を有する治具190を音響レンズ170に密着させる。治具190は、音響レンズ170の表面の形状が転写された押圧面191を有しており、押圧面191で音響レンズ170の表面に密着している。
そして、治具190を音響整合層160に向けて9〜28N/cm2の力(押圧力)で押して、音響整合層160に音響レンズ170を接着剤181の層を介して接着させる。上記押圧力が9N/cm2未満であれば、接着剤層180の厚さが所期の厚さよりも厚くなり、リップルによる上記の不都合が生じることがある。上記押圧力が28N/cm2よりも大きいと、接着剤層180の厚さが所期の厚さよりも薄くなり、音響整合層160および音響レンズ170間の接着力が不十分となることがある。治具190の押圧は、例えば、治具190を音響レンズ170に向けて付勢するばねなどの弾性部材を有する押圧用治具によって行うことが可能である。当該押圧用治具は、音響レンズ170の表面に長時間均等に力を加え続ける観点から好ましい。
治具190は、押圧面191で音響レンズ170の表面に密着していることから、上記の押圧によって、音響レンズ170の裏面と音響整合層160の表面とが全面で均一に相対的に接近する。接着剤181の一部は、上記押圧力に応じて音響整合層160および音響レンズ170の側部を経て、音響整合層160および音響レンズ170間から押し出され、音響整合層160および音響レンズ170間の接着剤181は、上記押圧力に応じた所定の厚さの層を形成する。
そして、音響レンズ170を上記の押圧力で押圧した状態で、必要に応じて接着剤181を加熱し、硬化させる。こうして、音響レンズ170が、10μm以下の所望の厚さの接着剤層180によって音響整合層160に接着し、よって、超音波振動子100が製造される。
圧電材料層130から超音波が送信されると、当該超音波は、音響整合層160、接着剤層180および音響レンズ170を伝わり、人体などの被検体に送られる。そして、当該被検体内で反射し、音響レンズ170、接着剤層180および音響整合層160を伝わり、圧電材料層130に受信される。たとえば、受信された超音波は、その振幅および周波数帯域に応じた電気信号に、圧電材料層130によって変換される。
接着剤層180は、前述したように、接着力などの要因から、例えば、音響整合層160のZaよりも小さいが音響レンズ170のZaよりも大きな音響インピーダンスを有するなど、音響特性上適切でない場合がある。この場合、圧電材料層130から音響整合層160に伝わった超音波の一部は、音響整合層160と接着剤層180との界面で反射して圧電材料層130で検出される。あるいは、当該超音波のさらに一部は、バッキング層110で、次いで再び音響整合層160と接着剤層180との界面で反射して圧電材料層130で検出される。このように上記界面で反射し、あるいはさらに圧電材料層130を挟んで反射した超音波の成分は、時間のずれを伴う、徐々に減衰する複数の振幅のピーク(リップル)として検出される。
しかしながら、接着剤層180は、その厚さが適度に薄いため、十分な接着力を発現するとともに、接着剤層180と音響整合層160との音響特性の不整合による音響特性上の上記悪影響が抑制される。したがって、音響整合層160と接着剤層180との界面における超音波の反射が抑制され、その結果、検出されるリップルのピーク強度がより小さくなる。このため、超音波振動子100では、検出すべき超音波の強度(振幅)の設定値を、前述した主ピークを十分に反映し、かつ上記リップルを含まない値に適切に設定することが可能となる。よって、超音波振動子100では、高周波数帯域を含む広帯域の超音波測定においても、上記リップルを含まない、上記主ピークのみの超音波成分の検出が可能となる。
なお、超音波振動子100は、本実施の形態の効果を奏する範囲において、前述した層以外の他の層をさらに有していてもよい。当該他の層の例には、超音波振動子100における音響レンズ170以外の部分を封止する保護層が含まれる。
上記保護層は、例えば、超音波振動子100における音響整合層170およびそれよりも圧電材料層130側の構成を一体的に覆う層であり、これらの構成への物理的または化学的な刺激から上記の構成を保護するための層である。上記保護層は、物理的および化学的な安定性を有する材料で構成されていることが好ましく、例えば、エポキシ樹脂やポリパラキシリレンなどの、物理的および化学的に比較的安定な樹脂で構成され得る。
上記保護層の厚さは、その所期の機能を発現するとともに、超音波振動子100における所期の音響特性を発現可能な範囲で、適宜に決めることができる。当該保護層の厚さは、例えば、2〜4μmである。当該厚さであれば、保護層の音響インピーダンスが、音響整合層160および音響レンズ170のそれよりも高かったとしても、超音波振動子100の所期の音響特性を十分に発現させることが可能である。
上記保護層は、例えば、音響レンズ170を音響整合層160に接着剤181によって接着する前に、音響整合層160の表面を含む、超音波振動子100の前面(音響レンズ170が配置されるべき側の面)に、保護層用塗料を塗布および硬化させることによって、または、モノマーを化学気相蒸着によって重合体の膜を生成させることによって、作製することが可能である。
超音波振動子100が上記保護層を有する場合では、音響レンズ170は、上記保護層に接着剤層180を介して接着される。接着剤層180の厚さは、前述したように10μm以下であればよいが、超音波振動子100の音響特性の低下抑制の観点から、十分な接着強度が得られる範囲でより薄いことが好ましく、例えば、このような観点から、上記保護層と接着剤層180の厚さの総和が10μm以下であることが好ましい。
以上の説明から明らかなように、超音波振動子100では、圧電材料層130、音響整合層160および音響レンズ170がこの順で接着されており、音響整合層160は、その表面が一体的であり、音響レンズ170は、音響整合層160の表面に拡がっている接着剤層180を介して音響整合層160に接着しており、接着剤層180は、シリコーン系接着剤の層であり、接着剤層180の厚さは、10μm以下である。よって、より広帯域の超音波を出力した場合でもリップルの発生が抑制される超音波振動子を提供することができる。
また、接着剤層180のZaが1.28MRayls以下であることは、リップルの発生を抑制する効果がより顕著に得られる観点からより一層効果的である。
また、音響整合層160の表面部が、エポキシ樹脂で構成されているとともにシリコーン粒子を含有し、当該表面部のZaが2.0MRayls以下であることは、音響整合層160に対する接着剤層180の接着性を高めるとともに、リップルの発生を抑制する観点から、より一層効果的である。
また、音響レンズ170のZaが1.3〜1.5MRaylsであることは、リップルの発生を抑制する効果がより顕著に得られる観点からより一層効果的である。
また、接着剤層180における音速が1000m/秒以下であることは、リップルの発生を抑制する効果がより顕著に得られる観点からより一層効果的であり、接着剤層180の密度が1g/cm3以上であることは、リップルの発生を抑制する観点からより一層効果的である。
また、超音波振動子100の製造方法は、圧電材料層130の表面に接着して圧電材料層130を覆っている音響整合層160の一体的な表面に塗布された接着剤181を介して、音響整合層160の一体的な表面に音響レンズ170の一体的な裏面を接触させる工程と、音響レンズ170の表面の形状が転写された押圧面191を有する治具190を、押圧面191に音響レンズ170の表面を密着させて、音響整合層160に向けて9〜28N/cm2の力で押して、音響整合層160に音響レンズ170を接着剤181の層である接着剤層180を介して接着させる工程と、を含む。よって、より広帯域の超音波を出力した場合でもリップルの発生が抑制される超音波振動子を提供することができる。
[超音波撮像装置および超音波探触子]
本実施の形態に係る超音波探触子は、前述した本実施の形態に係る超音波振動子を有する以外は、通常の超音波探触子と同様に構成することが可能である。また、本実施の形態に係る超音波撮像装置は、当該超音波探触子を有する以外は、通常の超音波撮像装置と同様に構成することが可能である。
図3Aは、本実施の形態に係る超音波撮像装置の構成を模式的に示す図であり、図3Bは、当該超音波撮像装置の電気的な構成を示すブロック図である。
超音波撮像装置200は、図3Aに示されるように、装置本体201と、装置本体201にケーブル203を介して接続されている超音波探触子202と、装置本体201上に配置されている入力部204および表示部209と、を有する。
装置本体201は、図3Bに示されるように、入力部204に接続されている制御部205と、制御部205およびケーブル203に接続されている送信部206および受信部207と、受信部207および制御部205のそれぞれと接続されている画像処理部208と、を有する。なお、制御部205および画像処理部208は、それぞれ表示部209と接続されている。
入力部204は、例えば、診断開始などを指示するコマンドや被検体の個人情報などのデータを入力するための装置であり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボードなどである。
制御部205は、例えば、マイクロプロセッサや記憶素子、その周辺回路などを備えて構成され、超音波探触子202、入力部204、送信部206、受信部207、画像処理部208および表示部209を、それぞれの機能に応じて制御することによって超音波診断装置200の全体の制御を行う回路である。
送信部206は、例えば、制御部205からの信号を超音波探触子202に送信する。受信部207は、例えば、超音波探触子202からの信号を受信して制御部205または画像処理部208へ出力する。
画像処理部208は、例えば、制御部205の制御に従い、受信部207で受信した信号に基づいて被検体内の内部状態を表す画像(超音波画像)を形成する回路である。たとえば、画像処理部208は、被検体の超音波画像を生成するDSP(Digital Signal Processor)、および、当該DSPで処理された信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換するディジタル−アナログ変換回路(DAC回路)などを有している。
表示部209は、例えば、制御部205の制御に従って、画像処理部208で生成された被検体の超音波画像を表示するための装置である。表示部209は、例えば、CRTディスプレイやLCD(液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示装置や、プリンタなどの印刷装置などである。
図4は、超音波撮像装置200における超音波探触子202の構成を模式的に示す図である。超音波探触子202は、図4に示されるように、超音波振動子100と、超音波振動子100を収容するホルダ210とを有する。ホルダ210は、超音波探触子202の表面に音響レンズ170が露出するように、超音波振動子100を保持している。超音波振動子100のFPC120は、ケーブル203の先端に配置されたコネクタ211に接続されている。なお、図4中、超音波振動子100の構成の一部は、省略されている。
たとえば、超音波撮像装置200では、制御部205が入力部204からの信号を受信し、生体などの被検体に対して超音波(第1超音波信号)を送信させる信号を送信部206に出力するとともに、当該第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波(第2超音波信号)に応じた電気信号を受信部207に受信させる。受信部207で受信した電気信号は、画像処理部208に送られて当該電気信号に応じた画像信号に処理される。当該画像信号は、表示部209に送られて、当該画像信号に応じた画像が表示部209に表示される。表示部209は、また、入力部204から入力された、制御部205を介して送られる情報に基づき、当該情報に応じた画像および操作(文字の表示、表示された画像の移動や拡大など)も表示する。
超音波探触子202の超音波振動子には、超音波振動子100が使用されている。よって、例えば、広帯域および高感度の超音波測定に超音波振動子100を用いても、リップルによる測定結果への悪影響が防止される。よって、広帯域および高感度での超音波測定においても、超音波探触子202および超音波撮像装置200は、より精密かつ信頼性がより高い測定結果を得ることができる。
超音波撮像装置200は、医療用の超音波診断装置に適用される。超音波撮像装置200は、この他にも、魚群探知機(ソナー)や非破壊検査用の探傷機などの、超音波による探査結果を画像や数値などで表示する装置に適用され得る。
[超音波振動子1の作製]
パターニングされたフレキシブルプリント基板(FPC)、バッキング層および固定板を上からこの順に接着剤で接着して積層し、FPCの表面に、両面に電極が形成された4.6mm×42.5mmの、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で構成された圧電材料層を接着した。そして、圧電材料層からバッキング層に至る溝を形成し、圧電素子の主素子を作製した。また、当該主素子において、積層方向における一部を残して圧電材料層を切断する平行な二本の溝を形成し、一つの主素子に、三つの並列する副素子を作製した。
次いで、音響整合層を用意した。当該音響整合層は、まず、第1から第4の層状の音響整合材を上からこの順で積層し、2.94MPaの加圧条件下においてエポキシ接着剤で加熱硬化により接着し、4.6mm×42.5mmの大きさに成型することにより作製した。第1から第4の音響整合材は、いずれも、エポキシ樹脂とフェライトまたはシリコーン微粉末との混錬物の硬化物で構成されている。第1の音響整合材における音響インピーダンスは2.0MRaylsであり、厚みは40μmである。第2の音響整合材における音響インピーダンスは4.0MRaylsであり、厚みは40μmである。第3の音響整合材における音響インピーダンスは6.0MRaylsであり、厚みは50μmである。第4の音響整合材における音響インピーダンスは11.0MRaylsであり、厚みは60μmである。
次いで、上記圧電材料層の表面に、シリコーン含有エポキシ樹脂系接着剤を、圧電材料層の溝にも充填されるように塗布した。そして、上記圧電材料層と上記音響整合層における第4の音響整合材とを合わせ、この状態で上記シリコーン含有エポキシ樹脂系接着剤を硬化させ、圧電材料層および音響整合層を当該シリコーン含有エポキシ樹脂系接着剤によって接着した。
次いで、上記音響整合層における第1の音響整合材の一体的な表面に、信越化学工業株式会社製のシリコーン系接着剤KE−4896を塗布し、図2Aに示されるように、当該表面に音響レンズの裏面を合わせた。そして、図2Bに示されるように、音響レンズの表面の形状が転写された形状の押圧面を有する治具を音響レンズの表面に当接させ、音響整合層に向けて20N/cm2の力で押圧した。こうして、音響レンズと音響整合層とを接着する接着剤層を形成し、図1に示されるような層構造を有する超音波振動子1を得た。超音波振動子1の接着剤層の厚さは、当該接着剤層の断面を含む超音波振動子1の断面中の接着剤層を顕微鏡により観察して測定したところ、10μmであった。
[超音波振動子C1の作製]
音響レンズを、上記の治具に代えてバルーンで音響整合層に向けて押圧する以外は、超音波振動子1と同様にして、超音波振動子C1を得た。当該バルーンによる音響レンズの押圧力は、約20N/cm2である。また、超音波振動子C1の接着剤層の厚さは、40μmであった。超音波振動子C1の接着剤層の厚さが、押圧力が同じであるにも関わらず、超音波振動子1の接着剤層の厚さよりも明らかに厚くなったのは、上記治具による押圧異なり、上記バルーンによる押圧では、音響レンズの表面全体に押圧力が十分に伝わらないため、と考えられる。
[音響特性の測定]
図5Aは、超音波振動子1における超音波の周波数と感度(音圧レベル)との関係を示す図であり、図5Bは、超音波振動子1における超音波の周波数帯域の中心周波数(10MHz)における応答時間と振幅との関係を示す図である。また、図6Aは、超音波振動子C1における超音波の周波数と検出感度との関係を示す図であり、図6Bは、超音波振動子C1における超音波の周波数帯域の中心周波数(10MHz)における応答時間と振幅との関係を示す図である。図5A、図6Aは、受信した超音波の時間波形を、各周波数成分に分離して周波数軸上に表示(フーリエ変換)したものであり、図5B、図6Bは、当該時間波形をエンベロープ処理したものである。
図5Bに示されるように、当該中心周波数付近における主ピークが明確に存在し、その後に複数見られる副ピークは、いずれも、実質的には主ピークの線上に含まれ得る程度に小さかった。したがって、受信すべき超音波の振幅の設定値を20dBとしても、副ピークは検出されず、よって、超音波振動子1における振幅20dBでの応答時間は、主ピークの検出時間のみであり、0.25μ秒であった。
一方、超音波振動子C1では、図6Bに示されるように、当該中心周波数付近では、主ピークの後に、少なくとも三つの副ピークが認められる。そして、主ピークの隣りの副ピークは、上記振幅の設定値20dBを明らかに超えている。よって、超音波振動子C1における振幅20dBでの応答時間は、主ピークから隣りの副ピークの頂部までの時間であり、0.41μ秒であった。
[接着剤層の厚さと音響特性との関係の検討]
図7は、接着剤層の厚さが異なる超音波振動子における、超音波の中心周波数における応答時間と振幅との関係を示す図である。図7中、直線は、接着剤層の厚さが10μmである場合を示し、破線は、接着剤層の厚さが20μmである場合を示し、一点鎖線は、接着剤層の厚さが40μmである場合を示す。また、図7中、矢印P1は、主ピークを示し、矢印P2は、主ピークの隣り(後)の第1副ピークを示し、矢印P3は、第1副ピークのさらに隣り(後)の第2副ピークを示す。
図8Aは、接着剤層の厚さと主ピークの感度(音圧レベル)との関係を示す図であり、図8Bは、接着剤層の厚さと第1副ピークの感度(音圧レベル)との関係を示す図であり、図8Cは、接着剤層の厚さと第2副ピークの感度(音圧レベル)との関係を示す図であり、図8Dは、接着剤層の厚さと振幅20dBにおける応答時間との関係を示す図である。
なお、図7および図8A〜図8Dは、いずれも、有限要素法を用いた、Weidlinger Associates社製圧電波動解析ソフトウェア「Pzflex」によるシミュレーションによって求めた結果を示している。
図8Aに示されるように、主ピークの感度は、接着剤層の厚さを増やしたときに、20〜30μmまで急激に減少し、その後40μmまでわずかに増加し、その後再び緩やかに減少する。15μmにおける主ピークの感度は、40μmにおける主ピークの振幅よりも大きい。よって、主ピークの検出感度を高める観点から、接着剤層の厚さは、10μm超の値以下、例えば約15μm以下、であることが好ましいことが分かる。
また、図8Bに示されるように、第1副ピークの感度は、接着剤層の厚さを増やしたときに、10μmで最低となり、約30μmまで急激に増加し、その後緩やかに減少する。15μmにおける第1副ピークの感度は、45μmにおける第1副ピークの感度よりも小さい。第1副ピークの感度は小さいほど好ましいことから、接着剤層の厚さは、10μm超の値以下、例えば15μm以下、であることが好ましいことが分かる。
また、図8Cに示されるように、第2副ピークの感度は、接着剤層の厚さを増やしたときに、10μmまでがほぼ最低値であり、約30μmまで増加し、その後減少する。10μmにおける第2副ピークの感度は、45μmにおける第2副ピークの感度よりも小さいが、15μmにおける第2副ピークの感度は、45μmにおけるそれよりも大きい。第2副ピークの感度も、小さいほど好ましいことから、接着剤層の厚さは、10〜15μmの値以下、例えば12μm以下、であることが好ましいことが分かる。
また、図8Dに示されるように、主ピークにおける20dBの応答時間は、接着剤層の厚さを増やしたときに、15ミクロンまでは一定であり、20μmで高くなり、その後緩やかに一定の範囲で増減している。上記応答時間は、主ピークの検出感度を高める観点から小さいほど好ましいことから、接着剤層の厚さは、20μm未満の値以下、例えば15μm以下、であることが好ましいことが分かる。
以上の説明から明らかなように、接着剤層の厚さが10μm以下であれば、主ピークの検出感度を高める観点、および、副ピーク(リップル)の発生を抑制する観点、を両立させることができることが分かる。
[接着時の押圧力と接着剤層の厚さとの関係の検討]
基板上に音響整合層を配置した試料の音響整合層に、音響レンズを、上記治具の押圧力を変更し、超音波振動子1と同様の方法で接着し、接着剤層の厚さを測定した。上記押圧力と接着剤層の厚さとの関係を図9に示す。
図9に示されるように、9N/cm2の押圧力では、接着剤層の厚さは、4.7μmまたは7.8μmとなり、18N/cm2の押圧力では、接着剤層の厚さは、2.8μm、4.6μm、8.8μmまたは8.9μmとなり、28N/cm2の押圧力では、接着剤層の厚さは、4.8μmまたは4.9μmとなった。そして、46N/cm2の押圧力では、接着剤層の厚さは、0.3μmとなった。
上記の検討結果より、上記押圧力が少なくとも9N/cm2以上であれば、10μm以下という極薄の接着剤層ゆえに多少のばらつきがあるものの、いずれの接着剤層の厚さも10μm以下となることが分かる。ただし、押圧力が46N/cm2では、接着剤層の厚さが0.3μmと薄く、接着剤の種類や超音波振動子の用途に基づく所期の接着強度などによっては、接着剤層の接着性が不十分となる可能性がある。
よって、押圧力が少なくとも9〜28N/cm2の範囲内であれば、多少のばらつきを考慮しても、実際の製造において、10μm以下の厚さであって、種々の用途に適用可能な適度な接着強度を発現するのに十分と思われる厚さの接着剤層が得られることが分かる。
以上の説明から、音響整合層と音響レンズとを接着する接着剤にシリコーン系接着剤を用いても、接着剤層の厚さが10μm以下であれば、所期の音響特性および接着強度がもたらされることが分かる。