以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の実施の形態に係る圧電体は、下記式で表される。
(式)DTX3
上記式中、DはEuまたはYbを表し、TはCrまたはCuを表し、XはGaまたはSnを表す。なお、本明細書において「圧電体」とは、圧力を加えると電気エネルギーを発生し、逆に電気エネルギーを加えると伸縮する性質を有する物質を意味する。
上記圧電体は、C2/mの空間点群を有する単斜晶で有意に構成されている。上記圧電体の結晶相における単斜晶率は、60質量%以上である。当該圧電体の組成および結晶構造は、例えばX線回折やリートベルト解析などの結晶構造の公知の解析法によって確認される。
上記圧電体の例には、YbCuGa3、EuCrSn3、EuCuGa3、YbCrGa3、EuCrGa3、YbCuSn3、YbCrSn3およびEuCuSn3が含まれる。
上記圧電体の化学組成は、単一であり、その化学組成により当該圧電体の圧電性が決定される。このため、上記圧電体は、PZTのような、モルフォトロピック境界相組成に依存した圧電性の変化を示さず、製造条件によらない一定した優れた圧電特性を発現する。この点で上記圧電体は、実用上優位である。
たとえば、YbCuGe3の圧電定数d33は4600pC/Nである。これは、PZTのそれに比して十分に高い値である。この高い圧電性は、[CuGa](2+δ)−(δは化学組成に依存した偏分)のネットワーク上に包埋されたYbイオンの分極による偏位に起因していると考えられる。
さらに、YbCuGe3のキュリー温度Tcは350℃であり、YbCuGe3の電界強度Ecは60MV/mである。このように、YbCuGe3は、PZTに相当するTcを有し、PVDF系有機ポリマー圧電体に相当するEcを有しており、実用上好適な特性を兼ね備えている。
上記圧電体において、上記式中の元素Dは、以下のように作用すると考えられる。すなわち、上記Dは、4f軌道が電子欠乏状態のホールとして振る舞い、2つの陽イオン準位(価数)2+、3+をとる。さらに両準位間のエネルギー差は2電子ボルト以下である。上記Dの3+準位は、分極によってより安定化、すなわち偏位量が増加し、その結果、上記圧電体の圧電性が増大する。
上記Tは、そのs軌道が開殻の3d遷移元素である。また、上記Xは、第4、第5軌道を最外殻にもつ第14族の元素である。上記圧電体において、上記TおよびXは、以下のように作用すると考えられる。すなわち、上記Tは、上記Xともに上記Dと組み合わせたときに、上記非特許文献1に明らかにされている巨大な圧電性の根源となる単斜晶を与える。上記Tの最外殻は、高価数(3+)の上記Dの安定化に寄与し、さらに上記Xのsp3混成軌道による共有結合性が、上記単斜晶の安定化に寄与する。
上記圧電体は、公知の圧電体を製造するための公知の技術にしたがって製造することが可能である。たとえば、上記圧電体は、上記式の構成元素の単体を溶融状態で反応させる溶融法によって製造される。また、例えば、上記圧電体は、上記式の構成元素の単体および化合物の一方または両方を原料として化学気相堆積法または物理気相堆積法によって成膜することによって製造される。上記化合物の例には、上記D、TまたはXの塩素塩、臭素塩および酸化物が含まれる。温度などの反応条件は、使用する原料や採用する方法などに応じて適宜に設定することが可能である。
上記化学気相堆積法の例には、有機金属化学堆積法が含まれる。上記物理気相堆積法の例には、蒸着、スパッタ、分子線エピタキシー、アーク放電法およびレーザーディソープション法が含まれる。
上記製造方法において、原料の上記単体または上記化合物の量比は、適宜に設定可能であり、例えば、上記式における元素換算のDの量に対して、化学量論比から適宜に、例えば製法に応じて増減させた元素換算のTおよびXとなるように、上記原料の量を決めることが好ましい。たとえば、上記Tの原料の量は、上記Dの原料の量に対して、元素換算で0.7〜2.0倍とすることができ、上記Xの原料の量は、上記Dの原料の量に対して、元素換算で0.6〜4.0倍とすることができる。
たとえば、YbCuGe3は、Ge融液を大過剰の溶媒として、化学量論量かそれ以上のCuの単体とYbの単体を1250℃で10時間反応させ、その後反応融液の遠心分離による単離によって製造される。
また、上記製造方法は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、アニール工程や精製工程などの他の工程をさらに含んでいてもよい。例えば、上記のYbCuGe3は、ヨウ素−N,N−ジメチルホルムアミド(I2−DMF)溶液での洗浄を含む精製工程によって精製することが可能である。
本実施の形態に係る圧電組成物は、その用途に応じた所期の性能が発現されるように、上記圧電体を含有する。たとえば、上記圧電組成物は、前述した公知の用途に適用したときに所期の性能を発現させる観点から、上記圧電体を20質量%以上含有することが好ましく、さらに高い圧電特性を得る観点から60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。上記圧電組成物は、上記圧電体のみから構成されていてもよい。
上記圧電組成物は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、上記圧電体以外の他の構成をさらに含有していてもよい。たとえば、上記圧電組成物は、上記圧電体と圧電性を有していてもよい有機ポリマーとからなるコンポジットであってもよい。上記他の構成の例には、ポリフッ化ビニリデン、それとポリ三フッ化クロルエチレンとの共重合体、ポリL乳酸、ポリウレタン、ポリ尿素およびセルロースが含まれる。たとえば、上記圧電組成物における上記ポリフッ化ビニリデン−ポリ三フッ化クロルエチレン共重合の含有量が1〜6質量%であると、比帯域(感度対周波数の関係において、最高感度から6dB下がった帯域とその中心周波数の比の逆数)の増加の観点から好ましい。
本実施の形態に係る超音波トランスデューサーは、上記圧電体組成物を有する。当該超音波トランスデューサーは、その圧電素子が上記圧電組成物によって構成される以外は、公知の超音波トランスデューサーと同様に構成され得る。
たとえば、上記圧電組成物は、放射する超音波に対して所望のビームフォームを得るべく、公知のMicromachined Ultrasound Transducer(MUT)とすることで複数の圧電素子からなるアレイに加工することができる。当該アレイへの加工は、例えば、上記圧電組成物の厚さが10μm以上(圧電組成物が厚膜)の場合では、ダイアモンドカッターなど公知の加工機にて行うことができ、10μm未満(圧電組成物が薄膜)の場合では、Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)加工によって行うことができる。
各圧電素子には、フレキシブルプリント基板(FPC)にて電極が取り付けられ、コンピューターでプログラムした超音波の送受信駆動により、任意のビームフォーミングが可能となる。
上記超音波トランスデューサーは、音響性能を適宜改良する観点から、上記圧電組成物以外に、上記FPCおよび電極や、超音波を吸収するバッキング材、超音波の反射を防ぐ音響整合層、さらには超音波ビームを焦点に集めるための音響レンズなどの他の構成をさらに有していてもよい。上記超音波トランスデューサーは、これらの他の構成および上記圧電組成物を適宜に積層し、層状構成物として構成され得る。
さらに、当該超音波トランスデューサーは、水中もしくは含水環境にて用いることができるように、パリレンコーティングなどの防水加工を、例えば音響レンズを接着する前の超音波トランスデューサーの前面に、施してもよい。なお、「パリレン」は、日本パリレン合同会社の登録商標である。
本実施の形態に係る超音波撮像装置は、上記超音波トランスデューサーを有する。当該超音波撮像装置は、その超音波トランスデューサーにとして、上記超音波トランスデューサーを有する以外は、公知の超音波撮像装置と同様に構成し得る。当該超音波撮像装置は、例えば、医療用超音波診断装置や非破壊超音波検査装置などに好適である。
図1Aは、本実施の形態に係る超音波撮像装置の構成を模式的に示す図であり、図1Bは、当該超音波撮像装置の電気的な構成を示すブロック図である。
超音波撮像装置200は、図1Aに示されるように、装置本体201と、装置本体201にケーブル203を介して接続されている超音波探触子202と、装置本体201上に配置されている入力部204および表示部209と、を有する。
装置本体201は、図1Bに示されるように、入力部204に接続されている制御部205と、制御部205およびケーブル203に接続されている送信部206および受信部207と、受信部207および制御部205のそれぞれと接続されている画像処理部208と、を有する。なお、制御部205および画像処理部208は、それぞれ表示部209と接続されている。
入力部204は、例えば、診断開始などを指示するコマンドや被検体の個人情報などのデータを入力するための装置であり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボードなどである。
制御部205は、例えば、マイクロプロセッサや記憶素子、その周辺回路などを備えて構成され、超音波探触子202、入力部204、送信部206、受信部207、画像処理部208および表示部209を、それぞれの機能に応じて制御することによって超音波診断装置200の全体の制御を行う回路である。
送信部206は、例えば、制御部205からの信号を超音波探触子202に送信する。受信部207は、例えば、超音波探触子202からの信号を受信して制御部205または画像処理部208へ出力する。
画像処理部208は、例えば、制御部205の制御に従い、受信部207で受信した信号に基づいて被検体内の内部状態を表す画像(超音波画像)を形成する回路である。たとえば、画像処理部208は、被検体の超音波画像を生成するDigital Signal Processor(DSP)、および、当該DSPで処理された信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換するディジタル−アナログ変換回路(DAC回路)などを有している。
表示部209は、例えば、制御部205の制御に従って、画像処理部208で生成された被検体の超音波画像を表示するための装置である。表示部209は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示装置や、プリンタなどの印刷装置などである。
図2は、超音波探触子202の構成を模式的に示す図である。超音波探触子202は、図2に示されるように、超音波トランスデューサー100と、超音波トランスデューサー100を収容するホルダ210とを有する。ホルダ210は、超音波探触子202の表面に音響レンズ170が露出するように、超音波トランスデューサー100を保持している。超音波トランスデューサー100のFPC120は、ケーブル203の先端に配置されたコネクタ211に接続されている。なお、図2中、超音波トランスデューサー100の構成の一部は、省略されている。
図3は、超音波トランスデューサー100の構成を模式的に示すための図である。超音波トランスデューサー100は、バッキング層110、フレキシブルプリント基板(FPC)120、圧電組成物130、溝140、141、充填材150、音響整合層160、音響レンズ170および接着剤層180を有する。
バッキング層110は、圧電組成物130を支持し、不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。すなわち、バッキング層110は、圧電組成物130における被検体、例えば生体、に超音波を送受信する方向と反対の面(裏面)に装着され、被検体の方向の反対側に発生する超音波を吸収する。
バッキング層110の材料の例には、天然ゴム、エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、および、これらの材料の少なくともいずれかと酸化タングステンや酸化チタン、フェライトなどの粉末との混合物をプレス成形した樹脂系複合材、が含まれる。上記熱可塑性樹脂の例には、塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ABS樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂、ポリエチレングリコール、および、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体、が含まれる。中でも樹脂系複合材、その中でも特にゴム系複合材料またはエポキシ樹脂系複合材が好ましい。バッキング層110の形状は、圧電組成物130の平面形状や超音波トランスデューサー100、これを含む超音波探触子200などの形状に応じて、適宜に決めることができる。
FPC120は、例えば、圧電組成物130のための一対の電極と接続される、後述の圧電素子に対応したパターンの配線を有する。たとえば、FPC120は、一方の電極となる信号引き出し配線と、図示しない他方の電極に接続されるグランド引き出し配線とを有する。FPC120は、上記の適当なパターンを有していれば、市販品であってもよい。
上記電極の材料の例には、金、白金、銀、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、スズ、および、これらの金属元素を含む合金、が含まれる。たとえば、上記電極は、まず、チタンやクロムなどの下地金属をスパッタ法により0.002〜1.0μmの厚さに形成し、次いで、上記材料を、さらには必要に応じて絶縁材料を部分的に、スパッタ法、蒸着法その他の適当な方法で0.02〜10μmの厚さに形成することによって作製される。上記電極は、微粉末の金属粉末と低融点ガラスを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法によって当該導電ペーストの層を形成することによって作製することも可能である。
なお、バッキング層110とFPC120は、例えば、当該技術分野で通常使用される接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)で接着され得る。
圧電組成物130は、前述した本実施の形態に係る圧電組成物であり、例えば実質的に上記圧電体(DTX3)のみから構成されている。圧電組成物130は、例えば前述した積層構造からなり、圧電組成物130の厚さは、例えば0.05〜0.4mmである。圧電組成物130は、FPC120に、例えば導電性接着剤によって接着されている。当該導電性接着剤は、例えば、銀粉や銅粉、カーボンファイバーなどの導電性材料を含有する接着剤である。
溝140は、圧電組成物130の表面からバッキング層110に至る深さを有し、溝141は、圧電組成物130の表面から圧電組成物130内に至る深さを有している。溝140は、圧電素子の主素子を区画しており、溝141は、1主素子中に並列する三つの副素子を区画している。溝140、141は、いずれも、例えばダイシングソーによる溝切り加工によって形成されており、その幅は、例えば15〜30μmmmである。
なお、上記主素子におけるピッチ(溝140の中心間距離)は、例えば0.15〜0.30mmであり、上記副素子におけるピッチ(隣り合う溝(溝141または溝140)の中心間距離)は、例えば0.05〜0.15mmである。
充填材150は、溝140、141に充填されている。また、充填材150は、圧電組成物130と音響整合層160との間にも介在しているが、図3ではその存在を強調しており、圧電組成物130と音響整合層160との間では、実際は両者を接着するための接着剤として機能する程度の厚さで存在している。
充填材150の材料の例には、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリウレタン、天然ゴムおよびこれらの混合物が含まれる。上記エポキシ樹脂は、例えば、エポキシ樹脂のプレポリマーと、当該プレポリマー間に架橋ネットワークを形成するための硬化剤とを含有するプレポリマー組成物の硬化物として構成される。
上記プレポリマーの例には、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル(フェニレン、ビフェニレン骨格を含む)樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂などのフェノール樹脂が含まれる。
上記硬化剤の例には、アミン系硬化剤が含まれ、当該アミン系硬化剤の例には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジンなどのトリアジン化合物、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、および、トリエタノールアミンが含まれる。
充填材150は、弾性樹脂粒子をさらに含有していてもよい。当該弾性樹脂粒子は、充填材150の耐久性を高める観点から、その表面に反応性官能基を有することが好ましい。当該反応性官能基は、反応性官能基同士の反応性を有する基であってもよいし、エポキシ樹脂中の特定の分子構造に対する反応性を有する基であってもよい。当該弾性樹脂粒子の例には、変性シリコーンゴム粒子が含まれる。当該変性シリコーンゴム粒子の例には、シリコーンエラストマーの粒子と、当該粒子を覆う(例えばポリシロキサンなどの)シェルと、当該シェルの表面に配置されている反応性官能基とを有する粒子が含まれる。
上記プレポリマー組成物における当該弾性樹脂粒子の含有量は、プレポリマーおよび硬化剤の種類や、エポキシ樹脂の所期の体積弾性率などに応じて適宜に決められ、例えば変性シリコーンゴム粒子であれば、プレポリマーおよび硬化剤の総量に対して8〜35質量%である。
充填材150は、例えば、上記プレポリマー、硬化剤および弾性樹脂粒子を含有する市販品の樹脂組成物から作製することが可能である。当該市販品の例には、ALBIDUR EP2240AおよびALBIDUR EP5340(いずれもエボニク社製)が含まれる。
音響整合層160は、圧電組成物130と後述の音響レンズ170との音響特性を整合させるための層である。音響整合層160は、圧電組成物130と音響レンズ170との概ね中間の音響インピーダンスZa(×106kg/(m2秒))を有し、圧電組成物130の上記被検体側(表面側)に、例えば、前述の他方の電極を介して配置される。
音響整合層160は、単層でも積層でもよいが、音響特性の調整の観点から、音響インピーダンスが異なる複数の層の積層体であることが好ましく、例えば2層以上、より好ましくは4層以上である。音響整合層160の厚さは、λ/4であることが好ましい。λは、超音波の波長である。音響整合層160は、例えば、種々の材料で構成することが可能である。音響整合層160のZaは、音響レンズに向けて音響レンズのZaに、段階的または連続的により近づくように設定されていることが好ましく、例えば、当該材料に添加する添加剤の種類および含有量によって調整することが可能である。
上記材料の例には、アルミニウム、アルミニウム合金(例えばAl−Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイトおよび樹脂が含まれる。当該樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン6やナイロン66などのナイロン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。上記添加剤の例には、亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン、ガラス繊維およびシリコーン粒子が含まれる。
音響整合層160のZaを調整する観点から、例えば、音響整合層160の表面部は、エポキシ樹脂で構成されているとともにシリコーン粒子を含有していることが好ましい。後述するように、音響レンズ170の材料であるシリコーンを音響整合層160の基材中に分散して存在させると、音響整合層160のZaを音響レンズ170のそれに近づけることが可能である。
なお、音響整合層160の各層は、例えば、当該技術分野で通常使用される接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)で接着されている。
音響レンズ170は、例えば、被検体と音響整合層160との中間のZaを有する軟質の高分子材料により構成される。当該高分子材料の例には、シリコーン系ゴム、ブタジエン系ゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、および、エチレンとプロピレンとを共重合させてなるエチレン−プロピレン共重合体ゴム、が含まれる。中でも、上記高分子材料は、シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムからなることが好ましい。
上記シリコーン系ゴムの例には、シリコーンゴムおよびフッ素シリコーンゴムが含まれる。特に、音響レンズの特性の観点からは、シリコーンゴムが好ましい。当該シリコーンゴムとは、Si−O結合からなる分子骨格を有し、そのSi原子に複数の有機基が主結合したオルガノポリシロキサンをいい、通常は、その主成分はメチルポリシロキサンで、その全体の有機基のうち90%以上がメチル基である。上記シリコーンゴムは、上記メチルポリシロキサンのメチル基の少なくとも一部が、水素原子、フェニル基、ビニル基またはアリル基も置き換わっていてもよい。
上記シリコーンゴムは、例えば、高重合度のオルガノポリシロキサンに過酸化ベンゾイルなどの硬化剤(加硫剤)を混練し、加熱加硫し硬化させることにより得ることができる。音響レンズ170における音速の調整や密度の調整などの目的に応じ、シリカやナイロン粉末などの有機または無機の充填剤や、硫黄や酸化亜鉛などの加硫助剤などがさらに添加されてもよい。
上記ブタジエン系ゴムの例には、ブタジエンのホモポリマーであるブタジエンゴム、および、ブタジエンを主体としこれに少量のスチロールまたはアクリロニトリルが共重合した共重合ゴム、が含まれる。特に、音響レンズの特性の観点から、ブタジエンゴムであることが好ましい。ブタジエンゴムとは、共役二重結合を有するブタジエンの重合により得られる合成ゴムをいう。ブタジエンゴムは、共役二重結合を有するブタジエンが1,4位で、または1,2位で、単独で重合することにより得ることができる。ブタジエンゴムは、さらに、硫黄などにより加硫させてもよい。
シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムからなる音響レンズ170は、例えば、シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとを混合し、加硫硬化させることにより生成することが可能である。たとえば、音響レンズ170は、シリコーンゴムとブタジエンゴムとを適宜割合で混練ロールにより混合し、過酸化ベンゾイルなどの加硫剤を添加して加熱加硫して架橋(硬化)させることにより、得ることができる。
上記の場合、加硫助剤として、酸化亜鉛をさらに添加することが好ましい。酸化亜鉛は、音響レンズ170のレンズ特性を実質的に損なわずに加硫を促進し、加硫時間を短縮することできる。他に、着色剤や音響レンズの特性を損なわない範囲内で他の添加剤を添加してもよい。シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、適宜設定することができる。たとえば、音響レンズ170のZaは、被検体のそれに近似するとともに、音響レンズ170内における音速が被検体のそれよりも小さく、音響レンズ170のZaの減衰がより少なくなるように設定されていることが好ましい。このような観点から、シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、1:1が好ましい。
接着剤層180は、シリコーン系接着剤の層である。前述したように、音響レンズ170は、シリコーン系ゴムを含むことが多い。このため、当該シリコーン系接着剤によって接着剤層180を構成することは、音響整合層160と音響レンズ170との接着性を高める観点から好適である。なお、接着剤層180も、図3ではその存在を強調しており、実際は音響整合層160と音響レンズ170とを接着するための接着剤として機能する程度の厚さで存在している。
上記シリコーン系接着剤とは、シリコーンを基材に含む硬化性の化合物または組成物である。当該シリコーン系接着剤は、音響整合層160および音響レンズ170の両方に対する親和性を高めるための添加剤や、音響整合層160と音響レンズ170との両者の音響特性を整合させるための添加剤などの種々の添加剤をさらに含有していてもよい。
上記シリコーン系接着剤は、室温で硬化する液状ゴム(RTVゴム)でもよいし、加熱によって硬化させる液状ゴムであってもよい。また、上記シリコーン系接着剤は、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。上記シリコーン系接着剤の例には、KE−441、KE−445、KE−471W、KE−1600、KE−1604、KE−1884、KE−1885、KE−1886、KE−4895、KE−4896、KE−4897、およびKE−4898(いずれも信越化学工業株式会社製)や、TN3005、TN3305、TN3705、TSE3976−B、ECS0600、およびECS0601(いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)などが含まれる。
音響整合層160に対する音響レンズ170の接着力は、超音波トランスデューサー100の用途に応じて決められ、例えば、超音波診断装置用の超音波トランスデューサー100であれば、当該接着力は0.5N/cm2以上であることが好ましい。そして、当該接着力を発現させる観点から、接着剤層180の厚さは、例えば、0.5μm以上であることが好ましく、超音波トランスデューサー100が所期の音響特性を発現する観点から、接着剤層180が所期の接着力を発現する範囲において、薄いほど好ましい。
接着剤層180の密度は、接着剤層180での超音波の反射を抑制する観点から、1g/cm3以上であることが好ましい。接着剤層180の密度は、例えば、アルキメデス法によって求めることが可能であり、例えば、上記シリコーン系接着剤の種類や、当該シリコーン系接着剤へのフィラーの混合、当該フィラーの含有量などによって調整することが可能である。
接着剤層180は、音響整合層160のZaと音響レンズ170のZaとの間のZaを有することが、超音波トランスデューサー100の音響特性の観点から好ましい。接着剤層180の材料の一部または全部に、音響整合層160のZaまたは音響レンズ170のZaと同じ音響インピーダンスを有する材料を用いることによって、音響整合層160のZaまたは音響レンズ170のZaと接着剤層180のZaとのギャップを小さくすることが可能である。
接着剤層180のZaは、音響整合層160のZaと音響レンズ170のZaとの間になくてもよい。たとえば、音響整合層160のZaは、2.0MRayl以下であってよく、音響レンズ170のZaは、1.3〜1.5MRaylであってよく、接着剤層180のZaは、1.28MRayl以下であってもよい。なお、音響整合層160のZaは、音響整合層160の上記表面部(音響整合層160における接着剤層180との界面を形成する表面またはそれを含む部分)のZaである。
また、音響整合層160のZaと、接着剤層180のZaとの差の絶対値は、0.6MRayl以上であってよく、音響レンズ170のZaと、接着剤層180のZaとの差の絶対値は、0.1MRayl以上であってよい。
さらに、接着剤層180における音速は、1000m/秒以下であってもよい。接着剤層180における音速は、例えば、別途作製したテストピース中を伝わる音の、当該テストピースを通過した時間を測定し、当該時間から算出することが可能であり、例えば、上記シリコーン系接着剤の種類や、当該シリコーン系接着剤へのフィラーの混合、当該フィラーの含有量などによって調整することが可能である。
音響整合層160、音響レンズ170および接着剤層180のそれぞれのZaは、25℃における、音響整合層160、音響レンズ170または接着剤層180での超音波の音速と、音響整合層160、音響レンズ170または接着剤層180の密度とから、下記の式から求められる。下記式中、Zaは、音響インピーダンス(MRayl)を表し、ρは、当該部材、層の密度(×103kg/m3)を表し、Cは、音速(×103m/秒)を表す。上記超音波の音速は、例えば、超音波工業株式会社製のシングアラウンド式音速測定装置を用いて、JISZ2353:2003に従い測定される。
Za=ρC
なお、超音波トランスデューサー100は、超音波トランスデューサー100における音響レンズ170以外の部分を封止する保護層を含んでいてもよい。当該保護層は、例えば、超音波トランスデューサー100における音響整合層160およびそれよりも圧電組成物130側の構成を一体的に覆う層であり、これらの構成への物理的または化学的な刺激から上記の構成を保護するための層である。上記保護層は、物理的および化学的な安定性を有する材料で構成されていることが好ましく、例えば、エポキシ樹脂やポリパラキシリレンなどの、物理的および化学的に比較的安定な樹脂で構成され得る。当該保護層は、例えば、前述したパリレンコーティングにより作製される。
上記保護層の厚さは、その所期の機能を発現するとともに、超音波トランスデューサー100における所期の音響特性を発現可能な範囲で、適宜に決めることができる。当該保護層の厚さは、例えば、2〜4μmである。当該厚さであれば、保護層の音響インピーダンスが、音響整合層160および音響レンズ170のそれよりも高かったとしても、超音波トランスデューサー100の所期の音響特性を十分に発現させることが可能である。
超音波トランスデューサー100が上記保護層を有する場合では、音響レンズ170は、上記保護層に接着剤層180を介して接着される。この場合、接着剤層180の厚さと上記保護層の厚さとの総和が、超音波トランスデューサー100の所期の音響特性を実現する観点から、可能な限りで十分に薄いことが好ましい。
超音波撮像装置200では、制御部205が入力部204からの信号を受信し、生体などの被検体に対して超音波(第1超音波信号)を送信させる信号を送信部206に出力するとともに、当該第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波(第2超音波信号)に応じた電気信号を受信部207に受信させる。
超音波探触子202の超音波トランスデューサーには、超音波トランスデューサー100が使用されている。圧電組成物130から超音波が送信されると、当該超音波は、音響整合層160、接着剤層180および音響レンズ170を伝わり、人体などの被検体に送られる。そして、当該被検体内で反射し、音響レンズ170、接着剤層180および音響整合層160を伝わり、圧電組成物130に受信される。たとえば、受信された超音波は、その振幅および周波数帯域に応じた電気信号に、圧電組成物130によって変換される。圧電組成物130は、上記圧電体で構成されていることから、高い圧電定数を有し、圧電特性に優れているので、広帯域の超音波測定においても、鋭い主ピークとして超音波成分の検出が可能となる。
受信部207で受信した電気信号は、画像処理部208に送られて当該電気信号に応じた画像信号に処理される。当該画像信号は、表示部209に送られて、当該画像信号に応じた画像が表示部209に表示される。表示部209は、また、入力部204から入力された、制御部205を介して送られる情報に基づき、当該情報に応じた画像および操作(文字の表示、表示された画像の移動や拡大など)も表示する。
超音波撮像装置200では、前述したように、広帯域の超音波測定においても、鋭い主ピークとして超音波成分の電気信号が検出される。このため、超音波撮像装置200は、PTZなどの公知の圧電組成物を含む従来の超音波撮像装置に比べて、より高い空間分解能を得ることができ、よって、より精密かつ信頼性がより高い測定結果を得ることができる。
超音波撮像装置200は、医療用の超音波診断装置に適用される。超音波撮像装置200は、この他にも、魚群探知機(ソナー)や非破壊検査用の探傷機などの、超音波による探査結果を画像や数値などで表示する装置に適用され得る。
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に係る圧電体は、下記式で表される。下記式中、DはEuまたはYbを表し、TはCrまたはCuを表し、XはGaまたはSnを表す。よって、上記圧電体は、その結晶構造が単斜晶であることによってもたらされる公知のPTZの圧電特性および有機ポリマー圧電体の圧電特性のいずれと比べても十分に優れた圧電特性を有する。
(式)DTX3
また、本実施の形態に係る圧電組成物は、上記圧電体を20質量%以上含む。よって、上記圧電組成物は、公知の上記圧電体と同等かそれ以上の圧電特性を有する。
また、本実施の形態に係る上記圧電体の製造方法は、上記式の構成元素の単体を溶融状態で反応させる工程を含む。あるいは、本実施の形態に係る上記圧電体の製造方法は、上記式の構成元素の単体および化合物の一方または両方を原料として化学気相堆積法または物理気相堆積法で成膜する工程を含む。よって、上記製造方法は、いずれも、上記の公知の圧電体に比べて十分に優れた圧電特性を有する圧電体を提供することができる。
また、本実施の形態に係る超音波トランスデューサーは、上記圧電体組成物を有し、本実施の形態に係る超音波撮像装置は、上記超音波トランスデューサーを有する。よって、上記圧電体の優れた圧電特性によってもたらされる、優れた感度を有する超音波トランスデューサーおよび超音波撮像装置が提供される。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[実施例1]
Yb(1mグラム原子)、Cu(1.3mグラム原子)、およびGa(12mグラム原子)の混合物をアルミナるつぼに入れ、溶融シリカ管の中で10−3torr(0.133Pa)の減圧下、24時間静置した。当該真空度を維持したまま当該溶融シリカ管を封管し、以下の温度スケジュールに従い、反応させた。
まず、10時間かけて室温から1279Kまで上記溶融シリカ管を加熱し、次いで当該溶融シリカ管の温度を1279Kに10時間保持し、次いで2時間かけて1279Kから1176Kに冷却し、次いで1176Kに120時間保持し、次いで98時間かけて1176Kから298Kに冷却した。
その後、アルミナるつぼ中の反応生成物を回収し、640Kにて遠心分離し、4mol/Lのヨウ素DMF溶液中で24時間超音波洗浄し、熱DMF洗浄、熱水洗浄、アセトン・ジエチルエーテル洗浄をし、こうして溶融法(M)によって純度99%のYbCuGa3の粉体を60%の収率で得た。CCD−X線回折装置で上記YbCuGa3の結晶学的パラメータを分析した結果、当該YbCuGa3の結晶構造は、C2/mの空間群から成る単斜晶の単結晶であった。
当該粉体を遊星ボールミルで粉砕し、粒径100μm以下の粒子を鉄製の鋳型に充填し、560℃、2MPaにて焼結して、厚み40μmの板状体を得た。この板状体に460℃にて2kVの静電界を印加し、圧電体1を得た。圧電体1の圧電定数d33は、14nC/Nであった。
[実施例2]
Eu(1mグラム原子)、Cr(1.6mグラム原子)、およびSn(4.6mグラム原子)の各金属の粉体混合物を3MPa、400℃にて圧縮成型し、ペレットを得た。このペレットと炭素棒を電極とし、アルゴンガス気流中、1kVにてアーク放電させ、生成した蒸気を、予め白金下部電極を成膜したシリコン基板に堆積させ、こうしてアーク放電法(AD)によって厚み1μmのEuCrSn3の薄膜を得た。CCD−X線回折装置で上記EuCrSn3の結晶学的パラメータを分析した結果、当該EuCrSn3の結晶構造は、C2/mの空間群から成る単斜晶の単結晶であった。
当該薄膜に白金上部電極を施し、400℃にて100Vの静電界を印加し、圧電体2を得た。圧電体2の圧電定数d33は、9nC/Nであった。
[実施例3]
Eu(1mグラム原子)、Cu(1.8mグラム原子)、およびGa(3.4mグラム原子)の各金属の粉体混合物を2MPa、350℃にて圧縮成型し、ペレットを得た。このペレットをターゲットとし、10−6torr(1.33×10−4Pa)の減圧下、レーザーディソープション法(LD)により、予め白金下部電極を成膜したシリコン基板に厚み200nmのEuCuGa3の薄膜を得た。CCD−X線回折装置で上記EuCuGa3の結晶学的パラメータを分析した結果、当該EuCuGa3の結晶構造は、C2/mの空間群から成る単斜晶の単結晶であった。
当該薄膜に白金上部電極を施し、500℃にて10Vの静電界を印加し、圧電体3を得た。圧電体3の圧電定数d31は、960pm/Vであった。
[実施例4]
原料をYb、CrおよびGaに代えた以外は実施例1と同様にして、YbCrGa3の厚み45μmの板状の圧電体4を得た。上記YbCrGa3の結晶構造も、C2/mの空間群から成る単斜晶の単結晶であった。圧電体4の圧電定数d33は、16nC/Nであった。
[実施例5]
原料をEu、CrおよびGaに代えた以外は実施例3と同様にして、EuCrGa3の厚み100nmの薄膜状の圧電体5を得た。上記EuCrGa3の結晶構造も、C2/mの空間群から成る単斜晶の単結晶であった。圧電体5の圧電定数d31は、600pm/Vであった。
[実施例6]
原料をYb、CuおよびSnに代えた以外は実施例3と同様にして、YbCuSn3の厚み200nmの薄膜状の圧電体6を得た。上記YbCuSn3の結晶構造も、C2/mの空間群から成る単斜晶の単結晶であった。圧電体6の圧電定数d31は、890pm/Vであった。
[実施例7]
原料をYb、CrおよびSnに代えた以外は実施例3と同様にして、YbCrSn3の厚み0.8μmの薄膜状の圧電体7を得た。上記YbCrSn3の結晶構造も、C2/mの空間群から成る単斜晶の単結晶であった。圧電体7の圧電定数d31は、1.2nm/Vであった。
[実施例8]
原料をEu、CuおよびSnに代えた以外は実施例2と同様にして、EuCuSn3の厚み4μmの薄膜状の圧電体8を得た。上記EuCuSn3の結晶構造も、C2/mの空間群から成る単斜晶の単結晶であった。圧電体8の圧電定数d33は、21nC/Nであった。
[比較例1]
厚み140μmの板状のPZT圧電体C1として、株式会社富士セラミックスから入手したC−6材質を用意した。当該PZTの結晶構造は、正方晶と菱面体晶とその相境界における単斜晶とを含む単結晶であった。圧電体C1の圧電定数は、d31で−210pm/Vであり、d33で472pC/Nであった。
[自発分極量の計算]
圧電体1〜8およびC1のそれぞれについて、上記CCDX線回折装置により得られた結晶構造などの結晶学的データを初期状態としてモデリングし、第一原理計算(Vienna Ab initio simulation package(VASP))を用いて電圧印加による分極状態における双極子モーメントDM(C/m2)を、自発分極量の目安として求めた。
圧電体1〜8およびC1の組成、調製法、厚み、結晶系 圧電定数および双極子モーメントDMを表1に示す。DMの数値は、上記第一原理計算(VASP)による計算値である。
表1から明らかなように、圧電体1〜8の圧電定数d33またはd31およびVASPで求めた双極子モーメントは、いずれも、圧電体C1のそれらに比べて十分に高い。これは、圧電体1〜8の組成を一般式DTX3で表したときのD原子の分極時における偏位量が増大し、分極による双極子モーメントが著しく増大したため、と考えられる。当該双極子モーメントの増大は、一般に他の構造上の要因、例えば、格子の相転移、ひずみ、配向などによっても引き起こされ得る。しかしながら、当該要因は、圧電体1〜8のX線回折からでは観測されていない。よって、当該要因が圧電体1〜8の双極子モーメントの増大の原因から除外されるべきであることが明らかであり、その結果、上記D原子偏位がその主原因であることが裏付けられる。