本発明は、BFO系の非鉛圧電組成物において、再現性よく大きな圧電定数を得ることのできる圧電組成物、圧電素子およびその製造方法を提供する。以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施の形態に係る圧電組成物は、第1の正方晶であるペロブスカイト化合物:チタン酸ビスマスカリウム(BKT)と、第2の正方晶であるペロブスカイト化合物:チタン酸バリウム(BT)と、第1の菱面体晶であるペロブスカイト化合物:チタン酸ビスマスナトリウム(BNT)と、第2の菱面体晶であるペロブスカイト化合物:鉄酸ビスマス(BFO)と、を含む。そして、上記圧電組成物は、三角柱相図中の領域αまたは領域βで表される成分を主成分として含有する。上記成分は、wW−yBNT−zBFOで表される組成を有する。ただし、WはhBKT−(1−h)BTを表し、w+y+z=1であり、かつ0≦h≦1である。
ここで、「主成分」とは、上記圧電組成物が実質的に上記領域αまたは領域βで表される成分による圧電特性を示すのに十分な量で、当該領域αまたは領域βで表される成分が上記圧電組成物において含有されていることを意味する。上記領域αまたは領域βで表される成分の含有量は、上記の観点から、90〜100質量%であることが好ましく、95〜100質量%であることがより好ましい。
上記三角柱相図は、図1に示されるように、第1の三角相図を上面、第2の三角相図を下面、上記hを高さとして表される。上記第1の三角相図は、上記hを1とする、BKT、BNTおよびBFOを各頂点とする三角相図である。上記第2の三角相図は、上記hを0とする、BT、BNTおよびBFOを各頂点とする三角相図である。上記三角柱相図中の座標は、各三角相図中のW、BNTおよびBFOのモル比を表す上記w、y、zと、BKTとBTの総量に対するBKTのモル比を表す上記hとを用いて、(w,y,z,h)で表される。
上記領域αは、図1、図2A、図3Aおよび図3Bに示されるように、上記第1の三角相図中の下記点A1から点A7の七点で囲まれる第1多角形α1の一端面と、上記第2の三角相図中の下記点A71から点A77の七点で囲まれる第2多角形α2の他端面と、上記点A1から点A7のそれぞれおよび上記点A71点から点A77のそれぞれを結ぶ七本の線分と、によって囲まれる領域のうちの、線分A1A3、線分A1A7および上記第2多角形α2を含まない領域である。
点A1(1.00,0,0,1.00)
点A2(0.80,0.20,0,1.00)
点A3(0.26,0.74,0,1.00)
点A4(0.26,0.64,0.10,1.00)
点A5(0.35,0.50,0.15,1.00)
点A6(0.58,0.20,0.22,1.00)
点A7(0.88,0,0.12,1.00)
点A71(1.00,0,0,0)
点A72(0.80,0.20,0,0)
点A73(0.26,0.74,0,0)
点A74(0.26,0.64,0.10,0)
点A75(0.37,0.50,0.13,0)
点A76(0.72,0.20,0.08,0)
点A77(0.92,0,0.08,0)
BKT−BNTの2元系およびBT−BNTの2元系の圧電組成物は、よく知られている。そして、これらの2元系の圧電組成物に関して、0.82BNT−0.18BKTおよび0.94BNT−0.06BTの部分にMPB(モルフォトロピック相境界)が存在することも知られている。
上記領域αには、正方晶と擬立方晶との間の相境界(MPB)が存在する。本発明者らは、圧電定数d33が200pC/N以上の圧電素子が実現可能となることを初めて見出した。さらに、新たに発見したこのMPBは、0.18BKT−0.82BNT系や0.06BT−0.94BNT系の圧電組成物で問題になる脱分極温度(Td)の著しい低下をある程度回避することが可能となる。
上記領域αは、図4、図5A、図6Aおよび図6Bに示されるように、上記第1の三角相図の上記点A2から点A6の五点で囲まれる第1小多角形α3の一端面と、上記第2の三角相図の上記点A72から点A76の五点で囲まれる第2小多角形α4の他端面と、上記点A2から点A6のそれぞれおよび上記点A72点から点A76のそれぞれを結ぶ5本の線分と、によって囲まれる領域のうちの、線分A2A3および上記第2小多角形α4を含まない領域であることがより好ましい。BKT−BNT−BFO系の圧電組成物の製造に際してこれらの原料粉体を焼結する場合、BKTおよびBTがより多いモル比では、最適焼結温度が高くなることがある。上記のより好ましい領域αでは、上記焼結温度を適当に低く抑えることが可能となる。また、上記のより好ましい領域αは、上記MPBにより近いと考えられ、圧電特性を高める観点からもより好ましい。
上記領域βは、図1、図2B、図3Aおよび図3Bに示されるように、上記第1の三角相図中の下記点B1から点B8の八点で囲まれる第1多角形β1の一端面と、上記第2の三角相図中の下記点B71から点B78の八点で囲まれる第2多角形β2の他端面と、上記点B1から点B8のそれぞれおよび上記点B71から点B78のそれぞれを結ぶ八本の線分と、によって囲まれる領域のうちの、上記第2多角形β2および四角形B1B8B78B71を含まない領域である。
点B1(0.45,0,0.55,1.00)
点B2(0.27,0.30,0.43,1.00)
点B3(0.24,0.48,0.28,1.00)
点B4(0.22,0.66,0.12,1.00)
点B5(0.02,0.86,0.12,1.00)
点B6(0.02,0.59,0.39,1.00)
点B7(0.06,0.30,0.64,1.00)
点B8(0.20,0,0.80,1.00)
点B71(0.36,0,0.64,0)
点B72(0.16,0.30,0.54,0)
点B73(0.10,0.55,0.35,0)
点B74(0.08,0.80,0.12,0)
点B75(0.02,0.86,0.12,0)
点B76(0.02,0.59,0.39,0)
点B77(0.06,0.30,0.64,0)
点B78(0.20,0,0.80,0)
上記領域βも、上記領域αと同様に、圧電定数d33が200pC/N以上の優れた圧電特性を有する圧電組成物および圧電素子を実現することができる。
前述したように、BKT−BFやBT−BFOの2元系の圧電組成物は、よく知られており、その圧電定数d33は、最大で130pC/N程度である。また、BT−BFOにBKTを置換した3元系の圧電組成物においても、前述したように、その圧電定数d33は130pC/Nかそれ以下である。これらの組成では、もともとリークの発生しやすいBFOが全組成物中の6割以上を占めること、カリウムの蒸発が多いこと、および、焼結が困難なこと、などの理由によりリークが多くなり、分極処理後のd33が大きくならない。
本発明者らは、BKT−BT−BFO系の圧電組成物においてBFOの一部をBNTに置換することにより、菱面体晶と擬立法晶のMPBを保有したままBFOの量を減らすことが可能となることを見出した。その結果、領域βで表される圧電組成物では、高温でのリークが低減され、分極処理後の圧電定数d33が顕著に大きく圧電組成物の組成として、領域βを特定するに至った。
上記領域βは、図4、図5B、図6Aおよび図6Bに示されるように、上記第1の三角相図中の上記点B1から点B4および下記点B15から点B18の八点で囲まれる第1小多角形β3の一端面と、上記第2多角形β2の他端面と、上記点B1から点B4および上記点B15から点B18のそれぞれおよび上記点B71から点B78のそれぞれを結ぶ8本の線分と、によって囲まれる領域のうちの、上記第2多角形β2および四角形B1B18B78B71を含まない領域であることが、上記MPBにより近いと考えられ、圧電特性を高める観点からより好ましい。
点B15(0.14,0.74,0.12,1.00)
点B16(0.14,0.53,0.33,1.00)
点B17(0.16,0.30,0.54,1.00)
点B18(0.30,0,0.70,1.00)
上記圧電組成物は、本実施形態の効果が得られる範囲において、さらなる添加物を含有していてもよい。たとえば、上記圧電組成物は、チタン酸マグネシウム酸ビスマス(以下、「BMT」とも言う)またはチタン酸ビスマスリチウム(以下、「BLT」とも言う)を5mol%以下さらに含有することが好ましい。BMTおよびBLTは、いずれも、BFOまたはBNTと置換することが可能であり、かつ上記MPBの位置をほとんど移動させずに置換させることができる。よって、上記Tdや上記d33を向上させる観点からより好ましい。
また、上記圧電組成物は、マンガンをさらに含有していてもよい。上記圧電組成物がマンガンを含有することは、圧電組成物の絶縁性を高める観点から好ましい。このような理由から、上記圧電組成物におけるマンガンの含有量は、0.01〜0.5質量%であることが好ましく、0.05〜0.3質量%であることがより好ましい。
また、上記圧電組成物は、銅、ニッケルおよびコバルトからなる群から選ばれる一以上の元素をさらに含有していてもよい。これらの元素は、上記圧電組成物の製造における材料の焼結時に焼結助剤として機能し、焼結時の温度をより低くすることができる。また、銅は、BKT、BT、BFOまたはBMTの結晶構造におけるAサイトに固溶している場合には、ドナーとして機能する効果も期待できる。このような理由から、上記圧電組成物における上記の元素の含有量は、総量で0.01〜5質量%であることが好ましく、0.05〜3.0質量%であることがより好ましい。
上記圧電組成物は、その各微結晶が特定の面方位を有するセラミックス(いわゆる配向セラミックス)であってもよいし、特定の面方位で切り出されている単結晶であってもよい。上記特定の面方位はいかなる方向でもよいが、上記領域αでは擬立方晶表示で(110)または(111)であり、上記領域βでは擬立方晶表示で(110)または(100)であることが、圧電性をより高める観点から好ましい。
セラミックスの配向方法としては、公知の方法を用いることが可能であり、例えば、板状シードとマトリクス粒子とをドクターブレード法を用いてシート成型した後に焼結する方法、テンプレート粒子とマトリクス粒子を用いるTGG法、途中に反応を伴うRTGG法、磁場配向法など用いることができる。
上記成分中におけるBKT、BT、BNT、BFO、BMTおよび各種元素の含有量は、例えばセラミックスの場合は、原料の仕込み量より算出可能であり、より精密には誘導結合プラズマ(ICP)発光分析などを用いることできる。同じく単結晶の場合は、仕込み組成とできる結晶との間に差が生じる場合があるので、電子線マイクロアナライザ(EPMA)やICP発光分析などの方法によって求めることが可能である。また、上記成分中における化合物の結晶系は、例えばX線回折法によって確認することが可能である。また、上記成分中の上記面方位は、例えばX線回折法によって、また配向度はロットゲーリング法やロッキングカーブ法によって確認することが可能である。
次に、上記圧電組成物の製造方法を説明する。上記圧電組成物を製造する方法は、少なくともチタン、ビスマス、カリウム、ナトリウム、バリウムおよび鉄を含む粉体を上記の生成すべき圧電組成物の組成に応じた割合で含有する原料組成物を得る原料準備工程と、当該組成物を800〜1300℃に加熱して圧電組成物を得る第1熱処理工程と、上記圧電組成物を所望の温度好ましくは−20〜40℃に冷却する第1冷却工程と、を含む。
また、上記製造方法は、第1冷却工程で冷却された上記圧電組成物を300〜1000℃に再び加熱する第2熱処理工程と、第2熱処理工程で加熱された上記圧電組成物を所望の温度、より好ましくは−20〜40℃に再び冷却する第2冷却工程とをさらに含むことが、圧電組成物の圧電定数を高める観点から好ましい。
さらに、上記製造方法は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、上記以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。
たとえば、上記製造方法は、図7Aに示されるように、熱処理工程および冷却工程が第1熱処理工程と第1冷却工程のみからなる方法であってもよいし、図7Bに示されるように、第2熱処理工程および第2冷却工程をさらに含む方法であってもよい。さらに、上記製造方法では、図8に示されるように、第2熱処理工程および第2冷却工程は、二回以上行われてもよい。上記製造方法は、以下に説明する材料の種類や温度に関する条件などの特定の条件を満たす範囲で、通常の圧電組成物の製造と同様に行うことが可能である。以下、各工程について説明する。
[原料準備工程]
原料準備工程は、上記原料組成物、例えば原料粉体またはその成形物、を準備する工程である。以下に具体例を示しつつ原料準備工程を説明する。まず、所望の酸化物や炭酸塩、炭酸水素塩、各種酸塩などの、圧電組成物中の各無機元素の供給源となる粉体を準備する。上記酸化物の例には、Bi2O3、Fe2O3およびTiO2が含まれる。また、炭酸塩の例には、K2CO3、Na2CO3が、炭酸水素塩の例には、KHCO3、NaHCO3が含まれる。
上記圧電組成物におけるBFOまたはBNTの一部と置換されるべきBMTまたはBLTや、前述したマンガン、銅、ニッケル、コバルトなどの添加物を添加する場合には、これらに対応する無機元素を含む粉体がさらに添加される。たとえば、マンガンの原料の例には、MnCO3、Mn2O3、MnO2およびMn3O4が含まれる。当該添加物の上記粉体は、原料準備工程における適当な時期に添加することが可能である。たとえば、圧電組成物の絶縁性を高める目的でマンガンを添加する場合、原料準備段階で添加してもよいし、仮焼結後に添加してもよい。またマンガンは、全体に固溶していてもよいし、特定の部分に偏析していてもよい。セラミックスの粒境界部により偏析させたい場合には、後述の仮焼結の後の混合物にマンガン含有粉体を添加することも可能である。
次に、必要量を秤量した、各無機元素を含有する粉体を混合して、原料粉体を作製する。原料粉体を作製する方法としては、乾式および湿式のうちのいかなる方法でもよい。当該方法の例には、ボールミルやジェットミルなどの湿式粉砕が含まれる。湿式粉砕をボールミルによって行う場合には、上記原料粉体を分散剤と混合し、粉砕装置に投入する。分散剤の例には、メタノールやエタノールなど各種アルコールおよび純水が含まれる。上記原料粉体がK2CO3やKHCO3などの水溶性の粉体を含む場合には、上記分散剤は、アルコールであることが好ましい。粉砕装置には、ジルコニアボールなどの粉砕メディアがさらに加えられ、例えば、原料粉体の粒度が微細で実質的に均一となるまで、混合、粉砕が行われる。
次に、得られた混合物から上記粉砕メディアを取り除き、吸引ろ過や乾燥器などの通常の装置を利用して上記混合物から分散剤を除去して原料粉体を得る。
次に、得られた原料粉体を坩堝などの容器に入れて仮焼成を行う。仮焼成は、例えば、600℃〜1000℃で行うことができる。これによって、上記原料粉体の組成の均一化や、焼結密度の向上を図ることができる。ただし、上記の仮焼成は、必ずしも必須ではなく、分散剤を乾燥除去した上記原料粉体を、仮焼成を行わずに以下の成形工程を行ってもよいし、逆に、組成の均一性や焼結密度の向上などのために仮焼成を2回以上行ってもよい。
仮焼成後には、仮焼成後の上記原料粉体を再度粉砕してもよい。また、この再粉砕工程において、上記原料粉体にバインダーをさらに添加してもよい。当該バインダーは、再粉砕工程の最初、途中または最終段階のいずれで添加することができる。上記バインダーを添加した場合には、得られた混合物は、例えば再度乾燥される。上記バインダーの例には、ポリビニルアルコール(PVA)およびポリビニルブチラール(PVB)が含まれる。
次に、上記混合物を成形して成形物を得る。当該成形は、例えば通常使用される機械を用いて行われ、上記混合物は、例えば円柱状のペレットに成形される。当該ペレットの大きさは、例えば、直径は10〜50mm程度であり、厚みは1〜5mm程度である。
最後に、得られた成形物を電気炉に入れて、500〜750℃に数時間から20時間程度加熱する。この加熱により、上記成形物からバインダーが除去される。こうして、上記原料組成物の一例である、上記原料粉体を所定の形状に成形してなる成形物が得られる。以上により、原料準備工程が完了する。
なお、当該成形物は、前述したように、仮焼されていなくてもよい。上記の説明では、通常の固相法の場合の原料準備工程を示したが、例えば、水熱合成法を利用する方法や、アルコキシドを出発原料として用いる方法などにより行うことも可能であり、この場合、仮焼されていない上記成形物が得られうる。
[第1熱処理工程]
第1熱処理工程は、上記原料組成物を坩堝などの加熱炉に入れ、処理温度である800〜1300℃、より好ましくは950〜1250℃まで加熱する。加熱速度は、上記原料組成物のサイズにもよるが、通常50〜300℃/hrである。第1熱処理工程により、圧電組成物の焼結体が得られる。当該加熱速度は、第1熱処理工程中において一定であってもよいし、変動してもよい。上記加熱速度は、それを代表する値(例えば平均値)で表示することができる。
第1熱処理工程における処理時間は、従来では、通常、5分間から4時間程度であるが、本実施の形態では、6〜3000時間であることが好ましい。これは、上記圧電組成物が特に単結晶の場合には、第1熱処理工程が結晶成長工程となるためである。上記圧電組成物がセラミックス(多結晶)の場合では、上記処理時間は、6〜300時間であることが好ましく、6〜200時間であることがより好ましい。
特にBKTを含むセラミックスの製造では、上記処理時間により当該セラミックスの粒子サイズを制御することが可能であり、上記処理時間が長いほど当該粒子サイズの大きさは大きくなる。たとえば、上記処理時間が6〜300時間であると、組成にも依存するが0.5〜200μmの粒子サイズが実現される。
なお、上記処理温度は、一定でもよいし、一定でなくてもよい。たとえば、図8に示されるように、第1熱処理工程では、上記処理温度を徐々に降下させてもよい。このような処理温度の降下は、得られる圧電組成物が単結晶の場合に特に有効である。また、例えば2段階焼結の場合には、初期のごく短時間のみを高温で、その後を初期温度よりも50〜250℃程度下げた温度で、焼結を行う。この場合も、上記処理温度は一定とはならない。
[第1冷却工程]
第1冷却工程は、第1熱処理工程で得られた上記圧電組成物を所望の温度、例えば−20〜40℃、さらに具体的には室温、まで冷却する。第1冷却工程における冷却速度は、0.01〜200℃/秒であることが、生産性とドメインのピン止め防止の観点から好ましい。さらに、第1の熱処理工程のみで熱処理を行う場合は、上記冷却速度は、5〜100℃/秒であることが好ましい。第1冷却工程における冷却速度は、一定であってもよいし、当該工程中において変動してもよい。当該冷却速度は、それを代表する値(例えば平均値)で表示することができる。
[第2熱処理工程]
上記第2熱処理工程は、上記圧電組成物を坩堝などの加熱炉に入れ、アニール温度である300〜1000℃まで加熱する。第2熱処理工程により、上記圧電組成物中の欠陥を低減させることができる。加熱速度は、第1熱処理工程と同様に、例えば50〜300℃/hrである。当該加熱速度は、第2熱処理工程中において一定であってもよいし、変動してもよい。上記加熱速度は、それを代表する値(例えば平均値)で表示することができる。
第2熱処理工程におけるアニール時間は、5分間から100時間であることが好ましい。これは、酸素欠損や各種欠陥、欠陥ペアには、比較的短時間でのアニールで消える欠陥がある一方で、消えるまでに長時間を要する欠陥も存在し得るためである。
[第2冷却工程]
第2冷却工程は、第2熱処理工程で処理された上記圧電組成物を所望の温度、例えば−20〜40℃、さらに具体的には室温、まで再び冷却する。当該工程は、酸素欠損などの各種欠陥がドメイン壁に集合してくることを避ける観点から好ましい。
第2冷却工程における冷却速度は、0.01〜200℃/秒であることが好ましく、5〜100℃/秒であることが、上記の観点からより好ましい。第2冷却工程における冷却速度は、一定であってもよいし、当該工程中において変動してもよい。また、当該冷却速度は、それを代表する値(例えば平均値)で表示することができる。また、上記冷却速度は、非特許文献1、7で公知のような、例えばアニール温度800℃でアニール処理されている圧電組成物を70℃のお湯に浸漬する超高速クエンチの1/10〜1/100程度以下となるので、急激な温度変化による圧電組成物の破壊を防止する観点からも好ましい。
また、図8に示されるように、上記第2熱処理工程および第2冷却工程を二回以上行うことも可能である。上記の工程を2段階の温度で行うことは、異なる欠陥や欠陥ペアなどを低減させる観点から好ましい。なお、第1冷却工程および第2冷却工程における冷却速度は、一部または全てで同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
さらに、一回目の第1冷却工程と一回目の第2冷却工程との間、または、一回目の第2冷却工程と二回目の第2熱処理工程との間に、上記圧電組成物を所望の大きさに加工する工程をさらに含むことが好ましい。このようなタイミングによる上記加工工程を行うことにより、より小さい形状の圧電組成物をアニール処理することが可能となり、当該圧電組成物の熱衝撃による破壊を防止する観点からより好ましい。また、上記の加工工程において、圧電素子を作製するための切断、研磨などの加工を行うことにより、その後の第2熱処理工程により加工歪を低減させることが可能となるので、好ましい。
上記圧電組成物は、圧電素子に好適に用いられる。当該圧電素子は、上記圧電組成物と、当該圧電組成物に電圧を印加するための電極とを有し、上記の圧電組成物を用いる以外は、公知の圧電組成物と同様の方法によって所期の形態に形成される。
たとえば、上記圧電素子は、図9Aに示されるように、直方体に成形されている圧電組成物3と、圧電組成物3の上面および下面に配置されている電極1、2とを有する。あるいは、上記圧電素子は、図9Bに示されるように、円板に成形されている圧電組成物13と、圧電組成物13の上面および下面に配置されている電極11、12とを有する。
圧電組成物3、13の成形は、通常、上記熱処理工程の後に行うが、圧電組成物の成形を適切に行える範囲において、任意のタイミングで行うことができる。たとえば、当該成形は、第1熱処理工程と第2熱処理工程の間に行ってもよいし、第2熱処理工程における一回目の冷却と二回目の熱処理との間に行ってもよい。圧電組成物の成形は、切削や研磨などの公知の加工法により行うことが可能であり、たとえば、このような加工により、上記圧電組成物の厚みが調整される。上記研磨は、通常、ダイアモンドやSiC、アルミナなどの砥粒を用いた機械研磨で行われる。
さらに、上記圧電素子は、上記圧電組成物に電極を配置する工程と、上記圧電組成物に電界を印加する工程と、を含む方法によって製造することができる。
上記電極は、通常、圧電組成物に対して少なくとも二つ、配置される。当該電極の配置は、圧電組成物に電極の配置する通常の方法と同様に行うことができる。電極の材料の例には、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルおよび銅が含まれる。たとえば、電極を配置する工程は、銀や銀−パラジウムペーストを焼き付ける方法でもよいし、上記電極材料のスパッタや蒸着でもよい。銀ペーストの場合は、例えば400〜700℃程度で、短時間で焼き付け処理を行うことが好ましい。また、電極の配置に先立って、圧電組成物と電極との密着性を高めるために、電極と圧電組成物との間に、チタンなどのバッファ電極を配置してもよい。
上記の電界を印加する工程は、上記圧電組成物の分極処理のための工程(以下、この工程を「分極工程」とも言う)である。当該分極工程は、高温のオイルバス中で行うことが可能であるが、他の方法としては、高真空中や絶縁性の高い紛体中でも行うことも可能である。当該分極工程は、圧電組成物に電極を配置する前に行ってもよいし、圧電組成物に電極を配置した後に行ってもよい。印加電界は必ずしも直流である必要はなく、矩形波、のこぎり波、バースト波などの高周波でもよいし、直流成分に上記の電界を重畳させてもよい。
上記分極工程は、通常、上記圧電組成物に電極を配置した後に、絶縁性のオイルの中で行われる。処理温度は、通常、数十〜150℃程度である。また、印加する電界の強度は、10〜100kV/cm程度である。BFO系の成分が多い場合では、例えば、処理温度は100〜200℃であり、電界強度は20〜100kV/cmである、高温、強電界の条件で行うことが好ましい。処理時間は、通常、5〜60分程度である。
分極工程時は、電界の印加を停止し、絶縁オイル中から圧電組成物または圧電素子を取り出して冷却してもよい。より完全な分極処理を行う場合には、絶縁オイル中で電界を印加しながらのフォールドクーリングを行ってもよい。上記のような分極処理を行い、d33などの所望の圧電特性を測定して、圧電素子の製造を完了させることができる。
上記圧電素子の製造方法は、圧電素子の所期の態様に応じて、さらなる他の工程を含んでいてもよい。たとえば、上記製造方法は、上記圧電組成物を所望の形状に加工する工程をさらに含んでいてもよい。上記圧電組成物の加工は、研磨や切削などの公知の加工法により行うことができる。圧電組成物の上記加工は、通常、上記電極が作製される前に行われるが、上記電極が作製された後に行われてもよい。たとえば、電極の形成後に、所望の大きさおよび形状に切断、切削加工することで、図9Aまたは図9Bに示されるような圧電素子を作製することができる。
また、上記圧電素子は、上記圧電組成物の層と上記電極とが交互に重ねられて構成されていてもよい。たとえば、このような多層構造の圧電素子は、図10に示されるように、複数の圧電組成物23と、圧電組成物23間に配置される複数の電極24、25と、電極24同士または電極25同士を接続する取り出し電極34、35と、電極24および電極25の間を絶縁するための絶縁体30とを有する。
圧電組成物23は、積層方向に隣り合う圧電組成物23の間で、それぞれの分極方向が逆方向となるように、それぞれ配置されている。なお、図10中の矢印は、それぞれの圧電組成物23の分極方向を示している。電極24は、圧電組成物23の平面方向における一端側に突出しており、電極25は、当該平面方向における他端側に突出している。そして、電極24、25は、それぞれの突端で取り出し電極34、35と接続されている。電極24の他端と取り出し電極35との間、および電極25と取り出し電極34との間には絶縁体30が充填されており、それにより、取り出し電極に接続されていない電極と当該取り出し電極との接続が防止されている。
超音波プローブ(超音波探触子)では、通常、50オーム程度のインピーダンスで圧電素子を動作させる。一般に、非鉛圧電組成物の誘電率は、鉛系圧電組成物の誘電率より小さいため、このような多層構造の圧電素子は、上記の用途に特に有効である。上記多層構造の圧電素子は、例えば、圧電組成物と電極とのグリーンシートを積層して圧着し、脱バイ、焼結、切断、電極付け、リード線による取り出し、などの各工程を含む公知の製造方法によって製造することが可能である。
上記圧電組成物の圧電定数d33が200pC/N以上であることが、圧電素子の性能向上の観点から好ましく、250pC/N以上であることがより好ましい。当該圧電定数d33は、例えば、等方的なセラミックスから所望の面方位に配向した配向セラミックスや単結晶とすることによってより高められる。
上記圧電素子は、分極処理を再現性よく行うことが可能となるので、所期の圧電定数を呈する圧電素子を生産性よく得ることが可能である。上記圧電素子は、各種アクチュエータ、インクジェットヘッド、センサーに用いることが可能であるが、特に、超音波探触子に好適に利用することができる。
上記超音波探触子は、上記圧電素子を有する以外は、公知の超音波探触子と同様に構成することが可能である。たとえば、各圧電素子には、フレキシブルプリント基板(FPC)にて電極が取り付けられ、当該超音波探触子が接続された超音波撮像装置で制御される超音波の送受信駆動により、任意のビームフォーミングが可能となる。そして、上記超音波トランスデューサーは、音響性能を適宜改良する観点から、上記圧電組成物以外に、上記FPCおよび電極や、上記圧電素子を担持する担体であって超音波を吸収するバッキング材、超音波の反射を防ぐ音響整合層、さらには超音波ビームを焦点に集めるための音響レンズなどの他の構成をさらに有していてもよい。上記超音波探触子は、これらの他の構成および上記圧電組成物の層を適宜に積層し、層状構成物として構成され得る。
さらに、当該超音波探触子は、水中もしくは含水環境にて用いることができるように、パリレンコーティングなどの防水加工を、例えば音響レンズを接着する前の超音波探触子の前面に、施してもよい。なお、「パリレン」は、日本パリレン合同会社の登録商標である。
上記超音波探触子は、例えば、いわゆるアレイ型の超音波探触子であってよい。当該超音波探触子は、一般に、超音波を照射する部分が小さくなりやすく、そのため圧電素子が配列する部分の面積が小さくなりやすい。このため、超音波を送受信する際のインピーダンスをより容易に整合させる観点から、上記圧電素子は、複数の上記圧電組成物の層と複数の上記電極とが交互に重ねられて構成されている、多層構造の圧電素子であることが好ましい。当該多層構造の圧電素子は、圧電素子におけるインピーダンスを低減させ、従来型のPZTの圧電素子と同様の機構を用いて効率よく超音波の送受信を行う観点から好ましい。
上記超音波探触子は、超音波撮像装置に好適に用いられる。当該超音波撮像装置は、上記超音波探触子以外の部分は、公知の超音波撮像装置と同様に構成し得る。当該超音波撮像装置は、例えば、医療用超音波診断装置や非破壊超音波検査装置などに好適である。
図11Aは、本実施の形態に係る超音波撮像装置の構成を模式的に示す図であり、図11Bは、当該超音波撮像装置の電気的な構成を示すブロック図である。
超音波撮像装置200は、図11Aに示されるように、装置本体201と、装置本体201にケーブル203を介して接続されている超音波探触子202と、装置本体201上に配置されている入力部204および表示部209と、を有する。
装置本体201は、図11Bに示されるように、入力部204に接続されている制御部205と、制御部205およびケーブル203に接続されている送信部206および受信部207と、受信部207および制御部205のそれぞれと接続されている画像処理部208と、を有する。なお、制御部205および画像処理部208は、それぞれ表示部209と接続されている。
入力部204は、例えば、診断開始などを指示するコマンドや被検体の個人情報などのデータを入力するための装置であり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボードなどである。
制御部205は、例えば、マイクロプロセッサや記憶素子、その周辺回路などを備えて構成され、超音波探触子202、入力部204、送信部206、受信部207、画像処理部208および表示部209を、それぞれの機能に応じて制御することによって超音波診断装置200の全体の制御を行う回路である。
送信部206は、例えば、制御部205からの信号を超音波探触子202に送信する。受信部207は、例えば、超音波探触子202からの信号を受信して制御部205または画像処理部208へ出力する。
画像処理部208は、例えば、制御部205の制御に従い、受信部207で受信した信号に基づいて被検体内の内部状態を表す画像(超音波画像)を形成する回路である。たとえば、画像処理部208は、被検体の超音波画像を生成するDigital Signal Processor(DSP)、および、当該DSPで処理された信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換するディジタル−アナログ変換回路(DAC回路)などを有している。
表示部209は、例えば、制御部205の制御に従って、画像処理部208で生成された被検体の超音波画像を表示するための装置である。表示部209は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示装置や、プリンタなどの印刷装置などである。
図12は、超音波探触子202の構成を模式的に示す図である。超音波探触子202は、図12に示されるように、超音波トランスデューサー100と、超音波トランスデューサー100を収容するホルダ210とを有する。ホルダ210は、超音波探触子202の表面に音響レンズ170が露出するように、超音波トランスデューサー100を保持している。超音波トランスデューサー100のFPC120は、ケーブル203の先端に配置されたコネクタ211に接続されている。なお、図12中、超音波トランスデューサー100の構成の一部は、省略されている。
図13は、超音波トランスデューサー100の構成を模式的に示すための図である。超音波トランスデューサー100は、バッキング層110、フレキシブルプリント基板(FPC)120、圧電組成物130、溝140、141、充填材150、音響整合層160、音響レンズ170および接着剤層180を有する。
バッキング層110は、圧電組成物130を支持し、不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。すなわち、バッキング層110は、圧電組成物130における被検体、例えば生体、に超音波を送受信する方向と反対の面(裏面)に装着され、被検体の方向の反対側に発生する超音波を吸収する。
バッキング層110の材料の例には、天然ゴム、エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、および、これらの材料の少なくともいずれかと酸化タングステンや酸化チタン、フェライトなどの粉末との混合物をプレス成形した樹脂系複合材、が含まれる。上記熱可塑性樹脂の例には、塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ABS樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂、ポリエチレングリコール、および、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体、が含まれる。中でも樹脂系複合材、その中でも特にゴム系複合材料またはエポキシ樹脂系複合材が好ましい。バッキング層110の形状は、圧電組成物130の平面形状や超音波トランスデューサー100、これを含む超音波探触子200などの形状に応じて、適宜に決めることができる。
FPC120は、例えば、圧電組成物130のための一対の電極と接続される、後述の圧電素子に対応したパターンの配線を有する。たとえば、FPC120は、一方の電極となる信号引き出し配線と、図示しない他方の電極に接続されるグランド引き出し配線とを有する。FPC120は、上記の適当なパターンを有していれば、市販品であってもよい。
上記電極の材料の例には、金、白金、銀、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、スズ、および、これらの金属元素を含む合金、が含まれる。たとえば、上記電極は、まず、チタンやクロムなどの下地金属をスパッタ法により0.002〜1.0μmの厚さに形成し、次いで、上記材料を、さらには必要に応じて絶縁材料を部分的に、スパッタ法、蒸着法その他の適当な方法で0.02〜10μmの厚さに形成することによって作製される。上記電極は、微粉末の金属粉末と低融点ガラスを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法によって当該導電ペーストの層を形成することによって作製することも可能である。
なお、バッキング層110とFPC120は、例えば、当該技術分野で通常使用される接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)で接着され得る。
圧電組成物130は、前述した本実施の形態に係る圧電組成物である。たとえば、圧電組成物130は、圧電組成物の層と電極との積層構造からなり、圧電組成物130の厚さは、例えば0.05〜0.4mmである。圧電組成物130は、FPC120に、例えば導電性接着剤によって接着されている。当該導電性接着剤は、例えば、銀粉や銅粉、カーボンファイバーなどの導電性材料を含有する接着剤である。
溝140は、圧電組成物130の表面からバッキング層110に至る深さを有し、溝141は、圧電組成物130の表面から圧電組成物130内に至る深さを有している。溝140は、圧電素子の主素子を区画しており、溝141は、1主素子中に並列する三つの副素子を区画している。溝140、141は、いずれも、例えばダイシングソーによる溝切り加工によって形成されており、その幅は、例えば15〜30μmである。
なお、上記主素子におけるピッチ(溝140の中心間距離)は、例えば0.15〜0.30mmであり、上記副素子におけるピッチ(隣り合う溝(溝141または溝140)の中心間距離)は、例えば0.05〜0.15mmである。
充填材150は、溝140および141に充填されている。また、充填材150は、圧電組成物130と音響整合層160との間にも介在しているが、図13ではその存在を強調しており、圧電組成物130と音響整合層160との間では、実際は両者を接着するための接着剤として機能する程度の厚さで存在している。
充填材150の材料の例には、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリウレタン、天然ゴムおよびこれらの混合物が含まれる。上記エポキシ樹脂は、例えば、エポキシ樹脂のプレポリマーと、当該プレポリマー間に架橋ネットワークを形成するための硬化剤とを含有するプレポリマー組成物の硬化物として構成される。
上記プレポリマーの例には、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル(フェニレン、ビフェニレン骨格を含む)樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂などのフェノール樹脂が含まれる。
上記硬化剤の例には、アミン系硬化剤が含まれ、当該アミン系硬化剤の例には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジンなどのトリアジン化合物、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、および、トリエタノールアミンが含まれる。
充填材150は、弾性樹脂粒子をさらに含有していてもよい。当該弾性樹脂粒子は、充填材150の耐久性を高める観点から、その表面に反応性官能基を有することが好ましい。当該反応性官能基は、反応性官能基同士の反応性を有する基であってもよいし、エポキシ樹脂中の特定の分子構造に対する反応性を有する基であってもよい。当該弾性樹脂粒子の例には、変性シリコーンゴム粒子が含まれる。当該変性シリコーンゴム粒子の例には、シリコーンエラストマーの粒子と、当該粒子を覆う(例えばポリシロキサンなどの)シェルと、当該シェルの表面に配置されている反応性官能基とを有する粒子が含まれる。
上記プレポリマー組成物における当該弾性樹脂粒子の含有量は、プレポリマーおよび硬化剤の種類や、エポキシ樹脂の所期の体積弾性率などに応じて適宜に決められ、例えば変性シリコーンゴム粒子であれば、プレポリマーおよび硬化剤の総量に対して8〜35質量%である。
充填材150は、例えば、上記プレポリマー、硬化剤および弾性樹脂粒子を含有する市販品の樹脂組成物から作製することが可能である。当該市販品の例には、ALBIDUR EP2240AおよびALBIDUR EP5340(いずれもエボニク社製)が含まれる。
音響整合層160は、圧電組成物130と後述の音響レンズ170との音響特性を整合させるための層である。音響整合層160は、圧電組成物130と音響レンズ170との概ね中間の音響インピーダンスZa(×106kg/(m2秒))を有し、圧電組成物130の上記被検体側(表面側)に、例えば、前述の他方の電極を介して配置される。
音響整合層160は、単層でも積層でもよいが、音響特性の調整の観点から、音響インピーダンスが異なる複数の層の積層体であることが好ましく、例えば2層以上、より好ましくは4層以上である。音響整合層160の厚さは、λ/4であることが好ましい。λは、超音波の波長である。音響整合層160は、例えば、種々の材料で構成することが可能である。音響整合層160のZaは、音響レンズに向けて音響レンズのZaに、段階的または連続的により近づくように設定されていることが好ましく、例えば、当該材料に添加する添加剤の種類および含有量によって調整することが可能である。
上記材料の例には、アルミニウム、アルミニウム合金(例えばAl−Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイトおよび樹脂が含まれる。当該樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン6やナイロン66などのナイロン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。上記添加剤の例には、亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン、ガラス繊維およびシリコーン粒子が含まれる。
音響整合層160のZaを調整する観点から、例えば、音響整合層160の表面部は、エポキシ樹脂で構成されているとともにシリコーン粒子を含有していることが好ましい。後述するように、音響レンズ170の材料であるシリコーンを音響整合層160の基材中に分散して存在させると、音響整合層160のZaを音響レンズ170のそれに近づけることが可能である。
なお、音響整合層160の各層は、例えば、当該技術分野で通常使用される接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)で接着されている。
音響レンズ170は、例えば、被検体と音響整合層160との中間のZaを有する軟質の高分子材料により構成される。当該高分子材料の例には、シリコーン系ゴム、ブタジエン系ゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、および、エチレンとプロピレンとを共重合させてなるエチレン−プロピレン共重合体ゴム、が含まれる。中でも、上記高分子材料は、シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムからなることが好ましい。
上記シリコーン系ゴムの例には、シリコーンゴムおよびフッ素シリコーンゴムが含まれる。特に、音響レンズの特性の観点からは、シリコーンゴムが好ましい。当該シリコーンゴムとは、Si−O結合からなる分子骨格を有し、そのSi原子に複数の有機基が主結合したオルガノポリシロキサンをいい、通常は、その主成分はメチルポリシロキサンで、その全体の有機基のうち90%以上がメチル基である。上記シリコーンゴムは、上記メチルポリシロキサンのメチル基の少なくとも一部が、水素原子、フェニル基、ビニル基またはアリル基も置き換わっていてもよい。
上記シリコーンゴムは、例えば、高重合度のオルガノポリシロキサンに過酸化ベンゾイルなどの硬化剤(加硫剤)を混練し、加熱加硫し硬化させることにより得ることができる。音響レンズ170における音速の調整や密度の調整などの目的に応じ、シリカやナイロン粉末などの有機または無機の充填剤や、硫黄や酸化亜鉛などの加硫助剤などがさらに添加されてもよい。
上記ブタジエン系ゴムの例には、ブタジエンのホモポリマーであるブタジエンゴム、および、ブタジエンを主体としこれに少量のスチロールまたはアクリロニトリルが共重合した共重合ゴム、が含まれる。特に、音響レンズの特性の観点から、ブタジエンゴムであることが好ましい。ブタジエンゴムとは、共役二重結合を有するブタジエンの重合により得られる合成ゴムをいう。ブタジエンゴムは、共役二重結合を有するブタジエンが1,4位で、または1,2位で、単独で重合することにより得ることができる。ブタジエンゴムは、さらに、硫黄などにより加硫させてもよい。
シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムからなる音響レンズ170は、例えば、シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとを混合し、加硫硬化させることにより生成することが可能である。たとえば、音響レンズ170は、シリコーンゴムとブタジエンゴムとを適宜割合で混練ロールにより混合し、過酸化ベンゾイルなどの加硫剤を添加して加熱加硫して架橋(硬化)させることにより、得ることができる。
上記の場合、加硫助剤として、酸化亜鉛をさらに添加することが好ましい。酸化亜鉛は、音響レンズ170のレンズ特性を実質的に損なわずに加硫を促進し、加硫時間を短縮することできる。他に、着色剤や音響レンズの特性を損なわない範囲内で他の添加剤を添加してもよい。シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、適宜設定することができる。たとえば、音響レンズ170のZaは、被検体のそれに近似するとともに、音響レンズ170内における音速が被検体のそれよりも小さく、音響レンズ170のZaの減衰がより少なくなるように設定されていることが好ましい。このような観点から、シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、1:1が好ましい。
接着剤層180は、シリコーン系接着剤の層である。前述したように、音響レンズ170は、シリコーン系ゴムを含むことが多い。このため、当該シリコーン系接着剤によって接着剤層180を構成することは、音響整合層160と音響レンズ170との接着性を高める観点から好適である。
上記シリコーン系接着剤とは、シリコーンを基材に含む硬化性の化合物または組成物である。当該シリコーン系接着剤は、音響整合層160および音響レンズ170の両方に対する親和性を高めるための添加剤や、音響整合層160と音響レンズ170との両者の音響特性を整合させるための添加剤などの種々の添加剤をさらに含有していてもよい。
上記シリコーン系接着剤は、室温で硬化する液状ゴム(RTVゴム)でもよいし、加熱によって硬化させる液状ゴムであってもよい。また、上記シリコーン系接着剤は、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。上記シリコーン系接着剤の例には、KE−441、KE−445、KE−471W、KE−1600、KE−1604、KE−1884、KE−1885、KE−1886、KE−4895、KE−4896、KE−4897、およびKE−4898(いずれも信越化学工業株式会社製)や、TN3005、TN3305、TN3705、TSE3976−B、ECS0600、およびECS0601(いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)などが含まれる。
接着剤層180は、音響整合層160のZaと音響レンズ170のZaとの間のZaを有することが、超音波トランスデューサー100の音響特性の観点から好ましい。接着剤層180の材料の一部または全部に、音響整合層160のZaまたは音響レンズ170のZaと同じ音響インピーダンスを有する材料を用いることによって、音響整合層160のZaまたは音響レンズ170のZaと接着剤層180のZaとのギャップを小さくすることが可能である。なお、音響整合層160のZaは、音響整合層160の上記表面部(音響整合層160における接着剤層180との界面を形成する表面またはそれを含む部分)のZaである。
なお、超音波トランスデューサー100は、超音波トランスデューサー100における音響レンズ170以外の部分を封止する保護層を含んでいてもよい。当該保護層は、例えば、超音波トランスデューサー100における音響整合層160およびそれよりも圧電組成物130側の構成を一体的に覆う層であり、これらの構成への物理的または化学的な刺激から上記の構成を保護するための層である。上記保護層は、物理的および化学的な安定性を有する材料で構成されていることが好ましく、例えば、エポキシ樹脂やポリパラキシリレンなどの、物理的および化学的に比較的安定な樹脂で構成され得る。当該保護層は、例えば、前述したパリレンコーティングにより作製される。
上記保護層の厚さは、その所期の機能を発現するとともに、超音波トランスデューサー100における所期の音響特性を発現可能な範囲で、適宜に決めることができる。当該保護層の厚さは、例えば、2〜4μmである。当該厚さであれば、保護層の音響インピーダンスが、音響整合層160および音響レンズ170のそれよりも高かったとしても、超音波トランスデューサー100の所期の音響特性を十分に発現させることが可能である。
超音波トランスデューサー100が上記保護層を有する場合では、音響レンズ170は、上記保護層に接着剤層180を介して接着される。この場合、接着剤層180の厚さと上記保護層の厚さとの総和が、超音波トランスデューサー100の所期の音響特性を実現する観点から、可能な限りで十分に薄いことが好ましい。
超音波撮像装置200では、制御部205が入力部204からの信号を受信し、生体などの被検体に対して超音波(第1超音波信号)を送信させる信号を送信部206に出力するとともに、当該第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波(第2超音波信号)に応じた電気信号を受信部207に受信させる。
超音波探触子202の超音波トランスデューサーには、超音波トランスデューサー100が使用されている。圧電組成物130から超音波が送信されると、当該超音波は、音響整合層160、接着剤層180および音響レンズ170を伝わり、人体などの被検体に送られる。そして、当該被検体内で反射し、音響レンズ170、接着剤層180および音響整合層160を伝わり、圧電組成物130に受信される。たとえば、受信された超音波は、その振幅および周波数帯域に応じた電気信号に、圧電組成物130によって変換される。圧電組成物130は、鋭い主ピークとして超音波成分を検出する。
受信部207で受信した電気信号は、画像処理部208に送られて当該電気信号に応じた画像信号に処理される。当該画像信号は、表示部209に送られて、当該画像信号に応じた画像が表示部209に表示される。表示部209は、また、入力部204から入力された、制御部205を介して送られる情報に基づき、当該情報に応じた画像および操作(文字の表示、表示された画像の移動や拡大など)も表示する。
超音波撮像装置200では、超音波成分の電気信号が検出される。このため、超音波撮像装置200は、高い空間分解能による精密かつ信頼性がより高い測定結果を得ることができる。当該測定は、非鉛系の圧電組成物130を用いて行われるので、非鉛系かつ高性能な超音波撮像装置200が提供され得る。
超音波撮像装置200は、医療用の超音波診断装置に適用される。超音波撮像装置200は、この他にも、魚群探知機(ソナー)や非破壊検査用の探傷機などの、超音波による探査結果を画像や数値などで表示する装置に適用され得る。前述したように、圧電組成物130が鉛を含有しない組成を有することから、圧電組成物130、超音波探触子202および超音波撮像装置200を鉛フリーで構成することができ、これらの使用および製造における環境負荷を、PZT圧電組成物を用いる従来の技術に比べてより一層低減することができる。
以上の説明から明らかなように、上記圧電組成物は、第1の正方晶であるぺロブスカイト化合物:チタン酸ビスマスカリウム(BKT)と、第2の正方晶であるペロブスカイト化合物:チタン酸バリウム(BT)と、第1の菱面体晶であるペロブスカイト化合物:チタン酸ビスマスナトリウム(BNT)と、第2の菱面体晶であるペロブスカイト化合物:鉄酸ビスマス(BFO)と、を含み、第1の三角相図を上面、第2の三角相図を下面、hを高さとして表される三角柱相図中の領域αまたは領域βで表される成分を主成分として含有する。そして、上記成分は、wW−yBNT−zBFO(ただし、WはhBKT−(1−h)BTを表し、w+y+z=1であり、かつ0≦h≦1である)で表される組成を有し、上記第1の三角相図は、上記hを1とする、BKT、BNTおよびBFOを各頂点とする三角相図であり、上記第2の三角相図は、上記hを0とする、BT、BNTおよびBFOを各頂点とする三角相図である。そして、上記三角柱相図中の座標を(w,y,z,h)で表したとき、上記領域αは、上記第1多角形α1の一端面と、上記第2多角形α2の他端面と、上記点A1から点A7のそれぞれおよび上記点A71から点A77のそれぞれを結ぶ七本の線分と、によって囲まれる領域のうちの、線分A1A3、線分A1A7および上記第2多角形α2を含まない領域であり、上記領域βは、上記第1多角形β1の一端面と、上記第2多角形β2の他端面と、上記点B1から点B8のそれぞれおよび上記点B71から点B78のそれぞれを結ぶ八本の線分と、によって囲まれる領域のうちの、上記第2多角形β2および四角形B1B8B78B71を含まない領域である。よって、上記の実施の形態によれば、分極可能であり、かつ分極後に大きな圧電定数d33を有する非鉛圧電組成物を提供することができる。
上記領域αが、上記第1小多角形α3の一端面と、上記第2小多角形α4の他端面と、上記点A2から点A6のそれぞれおよび上記点A72から点A76のそれぞれを結ぶ5本の線分と、によって囲まれる領域のうちの、線分A2A3および上記第2小多角形α4を含まない領域であり、上記領域βが、上記第1小多角形β3の一端面と、上記第2多角形β2の他端面と、上記点B1から点B4および上記点B15から点B18のそれぞれおよび上記点B71から点B78のそれぞれを結ぶ8本の線分と、によって囲まれる領域のうちの、上記第2多角形β2および四角形B1B18B78B71を含まない領域であることは、圧電組成物の圧電特性を高める観点からより効果的である。
また、上記領域αで表される成分が、正方晶と擬立方晶との相境界を含む組成を有し、上記領域βで表される成分が、菱面体晶と擬立方晶との相境界を含む組成を有することは、圧電組成物の圧電特性を高める観点からより一層効果的である。
より詳しくは、上記領域αにおいて正方晶と擬立方晶の相境界の圧電組成物は、その抗電界Ecを20〜25kV/cm以下にすることができる。一般に、BKT系またはBNT系の圧電組成物では、抗電界Ecは、40〜50KV/cmかそれ以上であり、さらに、BFO系の圧電組成物の抗電界は、数十〜100kV/cmかそれ以上である。上記圧電組成物が正方晶と擬立方晶との相境界にある場合にEcが低減することは、全く知られていない。
また、菱面体晶と擬立方晶の相境界の圧電組成物は、当該相境界にありながらBFOの量を適宜減らすことが可能となる。その結果、BFO系でありながら分極可能な圧電組成物を構成するのにより効果的であり、分極処理の困難なBFO系圧電組成物を用いた圧電素子の分極処理を容易に行う観点からより一層効果的である。
また、上記圧電組成物が、5mol%以下のチタン酸マグネシウム酸ビスマスまたはチタン酸ビスマスリチウムをさらに含有することは、脱分極温度の低下を抑制する観点および圧電特性を高める観点から、より一層効果的である。
また、上記圧電組成物がマンガンをさらに含有し、上記マンガンの含有量が0.01〜0.5質量%であることは、分極処理時のリーク電流を低減させて処理温度を低減させられるので、生産性を高める観点からより一層効果的である。
また、上記圧電組成物が、銅、ニッケルおよびコバルトからなる群から選ばれる一以上の元素をさらに含有し、上記元素の含有量が総量で0.01〜5質量%であることは、圧電組成物の焼結温度を低減させられので、生産性を高める観点からより一層効果的である。
また、上記領域αで表される成分または上記領域βで表される成分が特定の面方位に配向しているセラミックスであることは、等方的なセラミックスの圧電組成物に比べて高い圧電特性を発現させる観点から、より効果的であり、上記領域αで表される成分または上記領域βで表される成分が特定の面方位で切り出されている単結晶であることも、上記の観点からより効果的であり、上記特定の面方位が上記領域αにおいて擬立方晶表示で(110)または(111)であり、あるいは上記領域βにおいて擬立方晶表示で(110)または(100)であることは、上記の観点からより一層効果的である。
また、上記圧電素子は、上記の圧電組成物と、当該圧電組成物に電圧を印加するための電極とを有する。よって、上記の実施の形態によれば、分極可能であり、かつ分極後に大きな圧電定数d33を有する非鉛圧電素子を提供することができる。
上記圧電素子は、上記圧電組成物の圧電定数d33が200pC/N以上である圧電素子に好適であり、上記圧電定数d33が250pC/N以上である圧電素子により好適である。
また、上記圧電組成物の製造方法は、少なくともチタン、ビスマス、カリウム、バリウム、ナトリウムおよび鉄を含む粉体を生成すべき圧電組成物の組成に応じた割合で含有する原料組成物を得る原料準備工程と、当該原料組成物を800〜1300℃に加熱して上記の圧電組成物を得る第1熱処理工程と、上記圧電組成物を−20〜40℃に冷却する第1冷却工程と、冷却された上記圧電組成物に電極を配置する工程と、を含む。よって、上記の実施の形態によれば、分極可能であり、かつ分極後に大きな圧電定数d33を有する非鉛圧電組成物を提供することができる。また、このような高い圧電特性を有する当該非鉛圧電組成物を再現性よく製造することが可能である。
また、上記第1冷却工程の冷却速度が0.01〜200℃/秒、であることは、圧電組成物の高い圧電定数d33を再現性よく発現させる観点からより一層効果的である。
上記製造方法が、冷却された上記圧電組成物を300〜1000℃に再び加熱する第2熱処理工程と、当該第2熱処理工程によって加熱された上記圧電組成物を−20〜40℃に再び冷却する第2冷却工程と、をさらに含むことは、ドメインのピン止め防止や各種欠陥、欠陥ペア低減の観点からより効果的であり、冷却された上記圧電組成物を500〜900℃に再び加熱する第2熱処理工程と、当該第2熱処理工程によって加熱された上記圧電組成物を−20〜40℃に再び冷却する工程と、をさらに含むことは、上記の観点からより一層効果的である。
また、上記第2冷却工程における冷却速度が独立して0.01〜200℃/秒であることは、圧電組成物の急激な温度変化による破壊を防止する観点からより効果的であり、上記圧電組成物を冷却する工程における冷却速度が5〜100℃/秒であることは、上記の観点からより一層効果的である。
また、上記圧電組成物の製造方法が、上記圧電組成物を所望の形状に加工する工程をさらに含むことは、圧電素子の性能および汎用性の向上の観点からより一層効果的である。
また、上記製造方法が、上記圧電組成物に20〜250℃で10〜100kV/cmの電圧を印加して上記圧電組成物を得る工程をさらに含むことは、十分な圧電定数を有する圧電組成物を生産性よく得る観点からより効果的であり、当該工程が20〜250℃で10〜100kV/cmの電圧を印加して圧電組成物を得る工程であることは、上記の観点からより一層効果的であり、上記の工程が、80〜180℃で20〜70kV/cmの電圧を印加して圧電組成物を得る工程であることは、上記の観点からさらに効果的である。
上記超音波探触子は、上記圧電素子を有する。よって、所期の性能を有する非鉛圧電素子を有する超音波探触子が提供される。
上記超音波探触子が、上記圧電素子を担持するバッキング材と、上記圧電素子上に配置される音響整合層とをさらに有することは、パルス幅の短い超音波パルスを発生または受信する観点からより一層効果的である。
また、上記超音波探触子において、上記圧電素子が複数の上記圧電組成物と複数の上記電極とが交互に重ねられて構成されていることは、圧電素子の超音波の送受信におけるインピーダンスを低減させる観点からより一層効果的である。
以下、本発明に関してさらに詳細に実施例を用いて説明する。なお、以下の実施例では、本発明におけるBKT−BT−BFOの組成を有する圧電組成物およびそれを有する圧電素子の標準的な製造方法を説明する。以下では、バルクセラミックに関して説明するが、本発明における圧電組成物は、特にセラミックス(多結晶)に限るわけではなく、配向セラミック、厚膜、単結晶の場合にも適用され得る。また、当該圧電組成物がセラミックスや単結晶の場合には、セラミックスや単結晶の熱処理は、所望の大きさに切断してから行ってもよい。
[比較例1−1]
(原料準備工程)
チタン酸ビスマスカリウム(BKT)およびチタン酸バリウム(BT)の合計のモル比をw、チタン酸ビスマスナトリウム(BTN)のモル比をy、鉄酸ビスマスのモル比をz、BTに対するBKTのモル比をh、としたときに、w:y:zが0.81:0.10:0.09となり、hが1となる割合で、Bi2O3、KHCO3、BaCO3、TiO2、Na2CO3およびFe2O3の各粉体を、全体で30gとなるように秤量した。
上記粉体と、0.1質量%となる量のMnCO3の粉体と、150mLのエタノールと、適量のZrO2ボールとをポットに入れ、上記粉体をボールミルで16時間粉砕した。次いで、得られた混合粉体を、炉内温度800℃で4時間加熱することで仮焼した。得られた粉体をさらに上記と同様の条件でボールミルによってさらに粉砕して仮焼粉体1を得た。
100質量部の仮焼粉体1に対して3質量部のPVBを仮焼粉体1に添加し、混合し、プレス成形によって円板状に成形して成形体1を得た。成形体1の直径は10mmであり、高さ(厚み)は1.5mmである。
(第1熱処理工程)
成形体1からの原料成分の揮発を抑えるために成形体1を坩堝に入れて、坩堝炉内温度を室温から1040℃まで、昇温速度200℃/hrで昇温した。次いで、成形体1を炉内温度1040℃で20時間加熱した。
(第1冷却工程)
当該熱処理後の成形体1を冷却速度0.05〜0.3℃/秒で室温まで冷却し、第1熱処理を施した成形体1を得た。
(第2熱処理工程)
次いで、第1熱処理後の成形体1を第1熱処理工程と同様に坩堝に入れ、炉内温度を200℃/hrで昇温した。次いで、成形体1を炉内温度900℃で10時間加熱した。
(第2冷却工程)
次いで、20℃/秒の冷却速度で室温まで冷却し、成形体1に第2熱処理を施すことにより円板状の圧電組成物1を得た。
(電極形成工程)
そして、圧電組成物1を研磨し、スパッタによって電極を配置し、ダイアモンドカッターにて所望の大きさ(4mm×1.5mm×0.4mm)に切断した。
(分極工程)
次に、分極処理を、オイルバス中の120℃のオイル中で40kV/cmの電圧を30分間印加することで行い、こうして圧電素子1を得た。
[評価]
(1)圧電定数d33の測定
圧電素子1を用いて、上記圧電組成物の圧電定数d33を、ベルリンコート式のd33メータを用いて測定した。その結果、圧電素子1のd33は101pC/Nであった。
(2)分極処理の再現性
上記の方法での分極処理において、分極処理中にリークなど発生して圧電素子を分極処理できない場合がしばしばあるので、その場合を「△」として表し、その他の場合を「○」として表す。圧電素子1の分極処理の再現性は、「○」であった。
[実施例2、3、5〜9および比較例1〜4、4−1]
w:y:zおよびhが下記表に示す割合となるようにBi2O3、KHCO3、BaCO3、TiO2、Na2CO3、Fe2O3およびMnCO3の各粉体を秤量し、また成形体を炉内温度1000℃〜1170℃の範囲内で20時間加熱した以外は比較例1−1と同様にして、圧電素子2〜9およびC1〜C4を作製し、比較例1−1と同様にして評価した。なお、この場合の上記炉内温度の最適値は、BNT成分が多いほど高かった。
なお、圧電素子2〜9およびC1〜C4の作製において、第2冷却工程における冷却速度は、いずれも40〜100℃/秒の範囲内であり、分極処理において、温度はいずれも40〜120℃の範囲内であり、印加電圧は20〜70kV/cmの範囲内であり、電圧印加時間は10〜30分間の範囲内であった。
圧電素子1〜9におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表1および図14Aに示す。圧電素子C1〜C4におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表2および図14Aに示す。圧電素子1〜9は、上記三角柱相図の領域αにおける一端面(第1の三角相図)中に位置する圧電組成物を有している。圧電素子C1〜C4は、上記第1の三角相図における領域αの部分の周辺に位置する圧電組成物を有している。
[実施例10〜25および比較例5〜11]
w:y:zおよびhが下記表に示す割合となるようにBi2O3、KHCO3、BaCO3、TiO2、Na2CO3、Fe2O3およびMnCO3の各粉体を秤量し、また成形体を炉内温度970〜1150℃の範囲内で20時間加熱した以外は比較例1−1と同様にして、圧電素子10〜25およびC5〜C11を作製し、比較例1−1と同様にして評価した。なお、この場合の上記炉内温度の最適値は、BNT成分が多いほど高かった。
なお、圧電素子10〜25およびC5〜C11の作製において、第2冷却工程における冷却速度は、いずれも10〜100℃/秒の範囲内であり、分極処理において、温度はいずれも100〜200℃の範囲内であり、印加電圧は20〜70kV/cmの範囲内であり、電圧印加時間は10〜30分間の範囲内であった。
圧電素子10〜25におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表3および図14Aに示す。圧電素子C5〜C11におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表4および図14Aに示す。圧電素子10〜25は、上記三角柱相図の領域βにおける一端面(第1の三角相図)中に位置する圧電組成物を有している。圧電素子C5〜C11は、上記第1の三角相図における領域βの部分の周辺に位置する圧電組成物を有している。
[実施例29〜32および比較例12〜15、26〜28]
w:y:zおよびhが下記表に示す割合となるようにBi2O3、KHCO3、BaCO3、TiO2、Na2CO3、Fe2O3およびMnCO3の各粉体を秤量し、また成形体を炉内温度1150〜1250℃の範囲内で20時間加熱した以外は比較例1−1と同様にして、圧電素子26〜32およびC12〜C15を作製し、比較例1−1と同様にして評価した。なお、この場合の上記炉内温度の最適値は、BT成分が多いほど高かった。
なお、圧電素子26〜32およびC12〜C15の作製において、第2冷却工程における冷却速度は、いずれも10〜100℃/秒の範囲内であり、分極処理において、温度はいずれも40〜120℃の範囲内であり、印加電圧は20〜70kV/cmの範囲内であり、電圧印加時間は10〜30分間の範囲内であった。
圧電素子26〜32におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表5および図14Bに示す。圧電素子C12〜C15におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表6および図14Bに示す。圧電素子26〜32は、上記三角柱相図の領域αにおける他端面(第2の三角相図)の近傍(上記他端面からわずかに離れた位置)に位置する圧電組成物を有している。圧電素子C12〜C15は、上記他端面からわずかに離れた位置であって、上記第2の三角相図の近傍における領域βの部分の周辺に位置する圧電組成物を有している。
[実施例33〜41および比較例16〜19]
w:y:zおよびhが下記表に示す割合となるようにBi2O3、KHCO3、BaCO3、TiO2、Na2CO3、Fe2O3およびMnCO3の各粉体を秤量し、また成形体を炉内温度970〜1170℃の範囲内で20時間加熱した以外は比較例1−1と同様にして、圧電素子33〜41およびC16〜C19を作製し、比較例1−1と同様にして評価した。なお、この場合の上記炉内温度の最適値は、BNT成分が多いほど高かった。
なお、圧電素子33〜41およびC16〜C19の作製において、第2冷却工程における冷却速度は、いずれも10〜100℃/秒の範囲内であり、分極処理において、温度はいずれも100〜200℃の範囲内であり、印加電圧は20〜70kV/cmの範囲内であり、電圧印加時間は10〜30分間の範囲内であった。
圧電素子33〜41におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表7および図14Bに示す。圧電素子C16〜C19におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表8および図14Bに示す。圧電素子33〜41は、上記三角柱相図の領域βにおける他端面(第2の三角相図)の近傍(上記他端面からわずかに離れた位置)に位置する圧電組成物を有している。圧電素子C16〜C19は、上記他端面からわずかに離れた位置であって、上記第2の三角相図の近傍における領域βの部分の周辺に位置する圧電組成物を有している。
[実施例42〜47および比較例20〜22]
w:y:zおよびhが下記表に示す割合となるようにBi2O3、KHCO3、BaCO3、TiO2、Na2CO3、Fe2O3およびMnCO3の各粉体を秤量し、また成形体を炉内温度1050〜1200℃の範囲内で20時間加熱した以外は比較例1−1と同様にして、圧電素子42〜47およびC20〜C22を作製し、比較例1−1と同様にして評価した。なお、この場合の上記炉内温度の最適値は、BNT成分またはBT成分が多いほど高かった。
なお、圧電素子42〜47およびC20〜C22の作製において、第2冷却工程における冷却速度は、いずれも10〜100℃/秒の範囲内であり、分極処理において、温度はいずれも40〜120℃の範囲内であり、印加電圧は20〜70kV/cmの範囲内であり、電圧印加時間は10〜30分間の範囲内であった。
圧電素子42〜47におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表9および図15に示す。圧電素子C20〜C22におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表10および図15に示す。圧電素子42〜47は、上記三角柱相図の領域αにおける一端面(第1の三角相図)と他端面(第2の三角相図)との間に位置する圧電組成物を有している。圧電素子C20〜C22は、上記第1の三角相図と上記第2の三角相図との間における領域αの部分の周辺に位置する圧電組成物を有している。
[実施例48〜52および比較例23〜25]
w:y:zおよびhが下記表に示す割合となるようにBi2O3、KHCO3、BaCO3、TiO2、Na2CO3、Fe2O3およびMnCO3の各粉体を秤量し、また成形体を炉内温度970〜1170℃の範囲内で20時間加熱した以外は比較例1−1と同様にして、圧電素子48〜52およびC23〜C25を作製し、比較例1−1と同様にして評価した。なお、この場合の上記炉内温度の最適値は、BNT成分が多いほど高かった。
なお、圧電素子48〜52およびC23〜C25の作製において、第2冷却工程における冷却速度は、いずれも10〜100℃/秒の範囲内であり、分極処理において、温度はいずれも100〜200℃の範囲内であり、印加電圧は20〜70kV/cmの範囲内であり、電圧印加時間は10〜30分間の範囲内であった。
圧電素子48〜52におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表11および図15に示す。圧電素子C23〜C25におけるモル比w、y、z、h、圧電定数d33および分極処理の再現性を表12および図15に示す。圧電素子48〜52は、上記三角柱相図の領域βにおける一端面(第1の三角相図)と他端面(第2の三角相図)との間に位置する圧電組成物を有している。圧電素子C23〜C25は、上記第1の三角相図と上記第2の三角相図との間における領域βの部分の周辺に位置する圧電組成物を有している。
表1、3、5、7、9および11から明らかなように、圧電素子1〜52は、いずれも、分極処理後においても十分に高い圧電定数d33を示している。よって、上記三角中相図における領域αまたは領域βで表される圧電組成物から構成される圧電素子は、十分な圧電特性を有することがわかる。また、当該圧電特性は再現性よく得られることもわかる。
特に、例えば、圧電素子3、6、8、9、30、31、43、47から明らかなように、領域αにおける第1の三角相図の中央寄りの部分で表される圧電組成物から構成される圧電素子は より高い圧電定数d33を有し、また、当該部分において第1の三角相図に近いほどより高い圧電定数d33を有する傾向が見られる。
また、例えば、圧電素子10、11、13、14、16、17、19、20、22および24と圧電素子12、15、18、21、23および25との対比から明らかなように、B領域におけるBKTまたはBTのモル比がより高い部分で表される圧電組成物から構成される圧電素子は、より高い圧電定数d33を有し、また、例えば、加えて圧電素子33、48、52から明らかなように、当該部分において、BNTのモル比が低いほど高い圧電定数d33を有する傾向が見られる。
一方で、表2、4、6、8、10および12から明らかなように、領域αおよび領域βから外れた位置の点で表される圧電組成物から構成される圧電素子C1〜C25は、いずれも、領域αまたは領域βで表される圧電組成物から構成される圧電素子に比べて、分極処理後の圧電定数d33が低く、圧電特性が不十分であることがわかる。また、例えば、圧電素子C9、C10、C18およびC19から明らかなように、上記の圧電特性も再現性よく得られない場合がある。
以上の説明から明らかなように、本発明によるBKT−BT−BNT−BFOの圧電素子は、BFO系の非鉛圧電組成物では、分極処理後の従来にはない優れた圧電特性と分極再現性を実現できる。