JP5511447B2 - 圧電材料、その製造方法及び圧電素子 - Google Patents

圧電材料、その製造方法及び圧電素子 Download PDF

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Description

本発明は、圧電材料、その製造方法及び圧電素子に関し、特にペロブスカイト型配向圧電材料及びその製造方法に関し、特に鉛を含有しない圧電材料に関する。
圧電素子は、電気エネルギを機械エネルギに変換、即ち機械的な変位または応力または振動に変換する素子の他、その逆の変換を行う素子であり、超音波モータやインクジェットヘッド等に応用されている。
圧電素子に使用される圧電材料の多くは、いわゆるPZTと呼称されている材料で、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)を含む酸化物である。そのため、環境上の問題から、鉛を含有しない圧電材料(非鉛圧電材料)の開発が進められている。
有望な非鉛圧電材料として、BaTiOの配向制御を行った後、ドメインエンジニアリングを行うことによって、圧電性の改善を行っているものが知られている(非特許文献1)。前記ドメインエンジニアリングは、多結晶体で、(110)配向し、グレインが微小であることが必要である。
一方、PZTと同様のMPB組成を有する有望な非鉛圧電材料として、xBi(Mg1/3Ti2/3)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)があるが、薄膜の単結晶でしか合成できていなかった(特許文献1)。薄膜の単結晶では一般に、グレインがないため、ドメインエンジニアリングを適用することが出来ない。チャージバランスの観点からは同じ元素構成からなる非鉛圧電材料としては、むしろBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)(BMT−BTと以下呼称することがある。また数字を付してBMTとBTの組成比を記することもある。)が安定であり、BMT−BTバルク体を得ることが望ましい。
しかしながら、Bi(Mg1/2Ti1/2)OとBaTiOの固溶体は、原料粉を混合して焼結する際に、十分に原料紛同士が分散しにくいため、ペロブスカイト以外の異相が形成されやすいという欠点を有するので、バルク体を得ることは困難であった。したがって、BMT−BTのバルク体に関する報告例は無かった。
特開2008−98627号公報
S.Wada"Japanese Journal of Applied Physics"、Vol.46,No.10B,2007,p.7039から7043
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、圧電特性が良好で、150℃以上のキュリー温度(Tc)を有する多結晶体の圧電材料およびその製造方法を提供するものである。
また、本発明は、上記の圧電材料を用いた圧電素子、前記圧電素子を用いた液体吐出ヘッド及び超音波モータを提供するものである。
上記の課題を解決する圧電材料は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる焼結体から構成される圧電材料であって、前記焼結体は多結晶体であり、前記焼結体に含まれているグレインの平均粒径が0.5μm以上10μm以下であることを特徴とする。
Figure 0005511447
(式中、xは0.17≦x≦0.8を表す。)
上記の課題を解決する圧電素子は、圧電材料と、前記圧電材料に接して設けられた一対の電極を有する圧電素子であって、該圧電材料が上記の圧電材料であることを特徴とする。
上記の課題を解決する液体吐出ヘッドは、上記の圧電素子を用いたことを特徴とする。
上記の課題を解決する超音波モータは、上記の圧電素子を用いたことを特徴とする。
上記の課題を解決する圧電材料の製造方法は、前記圧電材料を構成する原料の金属化合物の粉末を焼結する焼結工程を有し、前記原料は平均粒径が5nm以上50nm以下である前記金属化合物の粉末であることを特徴とする。
また、上記の課題を解決する圧電材料の製造方法は、前記圧電材料を構成する原料の金属化合物の粉末を焼結する焼結工程を有し、前記原料は、Bi、Ti、Mgを含む平均粒径が5nm以上50nm以下である前記金属化合物の粉末と、平均粒径が10nm以上150nm以下のチタン酸バリウムの粉末とを含むことを特徴とする。
本発明は、圧電特性が良好で、150℃以上のキュリー温度(Tc)を有する多結晶体の圧電材料およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明は、上記の圧電材料を用いた圧電素子、前記圧電素子を用いた液体吐出ヘッド及び超音波モータを提供することができる。
本発明の圧電材料を構成する焼結体を説明する部分模式図である。 0.6BMT−0.4BTのXRDパターンを示す図である。 0.6BMT−0.4BTの電界歪カーブを示す図である。 0.6BMT−0.4BTの誘電率の温度特性を示す図である。 xBMT−(1−x)BTのxとキュリー温度の関係を示す図である。 本発明の液体吐出ヘッドの実施態様の一例を示す模式的断面図である。 本発明の超音波モータの実施形態の一例を示す概略構成図である。
以下、本発明の実施形態について、具体的に説明する。なお、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
本発明に係る圧電材料は、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる焼結体から構成される圧電材料であって、前記焼結体は多結晶体であり、前記焼結体に含まれているグレインの平均粒径が0.5μm以上10μm以下であることを特徴とする。
Figure 0005511447
(式中、xは0.17≦x≦0.8を表す。)
前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物において、一般式(1)中のxは0.17≦x≦0.8であり、好ましくは0.2≦x≦0.7である。xが0.17よりも小さい場合、Tcが150℃よりも小さくなり、使用可能な温度域が狭いので望ましくなく、一方、xが0.8を越える場合、異相が存在し、ペロブスカイトの単相にならないので望ましくない。
本発明の圧電材料は一般式(1)で表示したが、セラミクスとして、Aサイト及びBサイトの元素比が若干ずれた場合でも、ペロブスカイト単相であれば、本発明の範囲に含まれる。例えば、Pb系圧電材料では、AサイトのPbを過剰に使用する場合や、複合ペロブスカイトでBサイト元素比がずれる場合は良く知られている。そして、本発明の圧電材料はBiを一般式(1)に対して、5%低減すると圧電定数が上昇するという効果がある。
図1は、本発明の圧電材料を構成する焼結体を説明する部分模式図である。図1は、焼結体の一部を切り出して、その断面を観察した様子を模式的に示す。焼結体の断面を電子顕微鏡で観察すると、同じ結晶方位を有する大小さまざまな結晶の塊が見える。この結晶の塊をグレインと呼び、グレインが数多く集結して焼結体1を構成している。グレイン2の一つ一つは特定の結晶方位を有する単結晶であるが、焼結体は様々な結晶方位を有するグレインを多数有している。このように様々な結晶方位をもつ単結晶が集合した焼結体1は多結晶を形成している。
本発明の圧電材料の焼結体に含まれているグレインの平均粒径は、0.5μm以上10μm以下、好ましくは1.0μm以上5.0μm以下である。平均粒径が0.5μmより小さい場合、焼結が十分に完了しないため、結晶性が悪く、圧電性が不十分であり、10μmよりも大きい場合、グレイン内のドメインの密度が低下するため、同様に圧電性が不十分になる。グレインの平均粒径の測定は焼結体の断面SEM観察することによって求めることができる。平均粒径は体積平均粒径でも個数平均粒径でも良いが、好ましくは個数平均粒径である。
また、本発明において、前記焼結体は多結晶体であることを特徴とする。多結晶体は、SEMにより観察することができる。
なお、以後、結晶系を擬立方晶と見なした場合のミラー指数にcubicを追加する。擬立方晶とは、立方晶よりもわずかに歪んだ結晶格子を示している。例えば、擬立方晶の表示で{hkl}面に優先配向していることを(hkl)cubic配向と表記する。
本発明の圧電材料は、擬立方晶の表示で{110}面に優先配向を有する、つまり、(110)cubic配向していることを特徴とする。
ここで(110)cubic配向しているとは以下に示すロットゲーリングファクタFが10%以上であることである。より望ましくは15%以上であり、さらに望ましくは、50%以上である。というのは、ロットゲーリングファクタFが10%より低いと特性が無配向と変わらないためである。ロットゲーリングファクタFの算出法は、対象とする結晶面から回折されるX線のピーク強度を用いて、式1により計算する。
F=(ρ−ρ)/(1−ρ) (式1)
ここで、ρは無配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、(110)cubic配向の場合、全回折強度の和に対する、{110}cubic面の回折強度の合計の割合として、式2により求める。
ρ=ΣI{110}cubic/ΣI{hkl}cubic (式2)
ρは配向サンプルのX線の回折強度(I)を用いて計算され、(110)cubic配向の場合、全回折強度の和に対する、{110}cubic面の回折強度の合計の割合として、上式2と同様に式3により求める。
ρ=ΣI{110}cubic/ΣI{hkl}cubic (式3)
本発明の圧電材料の焼結体には、さらにMnOを圧電材料に対して0.07質量%以上2質量%以下含有されていても良い。MnOを含有することにより、リーク電流が低減される。前記MnOが0.07質量%よりも少ない場合、リーク電流の低減の効果がなく、一方、2質量%よりも多い場合、異相が生じるので望ましくない。
次に、本発明の圧電材料の製造方法について説明する。
本発明に係る圧電材料の製造方法は、前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる焼結体から構成される圧電材料の製造方法であって、前記圧電材料を構成する原料の金属化合物の粉末を焼結する焼結工程を有し、前記原料は平均粒径が5nm以上50nm以下である前記金属化合物の粉末であることを特徴とする。
また、本発明に係る圧電材料の製造方法は、前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる焼結体から構成される圧電材料の製造方法であって、前記圧電材料を構成する原料の金属化合物の粉末を焼結する焼結工程を有し、前記原料は、Bi、Ti、Mgを含む平均粒径が5nm以上50nm以下である前記金属化合物の粉末と、平均粒径が10nm以上150nm以下のチタン酸バリウムの粉末とを含むことを特徴とする。
前記焼結工程前に、原料粉を仮焼きして仮焼粉を得る仮焼工程を有し、前記仮焼粉と前記圧電材料を構成する金属を含有する形状異方性粒子とを混合し、配向した成形体を形成する配向工程を有し、前記形状異方性粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下であることが好ましい。
原料の前記金属化合物は、Ba化合物、Ti化合物、Mg化合物およびBi化合物から構成される。
Ba化合物としては、BaCO、BaO、BaO、BaBr、BaCl、BaF、BaI、BaF、BaSO、Ba(NO、BaS、BaBから選ばれる少なくとも1種類が挙げられる。より望ましくはBaCOである。
Ti化合物としては、TiO、Ti、TiO、TiBr、TiCl、TiB、TiH、TiN、TiSから選ばれる少なくとも1種類が挙げられる。より望ましくはTiOである。
Mg化合物としては、MgO、MgBr、MgCO、MgCl、MgF、MgI、Mg(NO、MgC、Mg(PO・8HO、MgSOから選ばれる少なくとも1種類が挙げられる。より望ましくはMgOである。
Bi化合物としては、Bi、BiBr、BiCl、(BiO)(CO)、BiF、BiI、BiOCl、BiPO、Bi(OH)、Biから選ばれる少なくとも1種類が挙げられる。よりの望ましくはBiである。
前記金属化合物の粉末の平均粒径は5nm以上50nm以下、好ましくは7nm以上49nm以下である。平均粒径が5nmより小さいと、混合時の分散が困難になり、一方、平均粒径が50nmを超えると反応性が悪化し、異相が発生するので好ましくない。本発明では、平均粒径が極めて微細な金属化合物を原料粉として用いる点に特徴がある。
本発明の圧電材料の製造方法においては、前記焼結工程の焼結温度が950℃以上1220℃以下、好ましくは975℃以上1200℃以下であることを特徴とする。焼結温度が950℃より低いと結晶性が向上しなくなり、1220℃を超えると粒成長が著しくなり好ましくない。また、粒成長が進むと、セラミクスとしての機械的強度不足が起こり好ましくない。
前記焼結工程において、加熱は大気中、酸素中、減圧下、又は、真空下のいずれの雰囲気で行っても良い。
加熱方法は、常圧焼結法、ホットプレス、ホットフォージング、HIP等の加圧焼結法のいずれを用いても良い。特に高圧酸素HIPを用いるとペロブスカイト以外の異相を低減し、Biの蒸発を防止することでtanδを低減することが出来るので好ましい。
焼結体の相対密度は90%以上であることが望ましく、95%以上であることが更に望ましい。相対密度が90%よりも小さいと、焼結体の比誘電率が著しく低下し、機械的強度も低下するためである。相対密度は、一般式(1)中のxと関係があり、実施例に示す様に、相対密度が95%以上であるx=0.2から0.7が好ましい。より好ましくはx=0.2から0.6である。
次に、本発明の圧電材料の製造方法の配向工程について説明する。
本発明の圧電材料の製造方法においては、前記焼結工程前に、前記仮焼粉と前記圧電材料を構成する金属を含有する形状異方性粒子とを混合し、配向した成形体を形成する配向工程を有し、前記形状異方性粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下であることを特徴とする。
また、前記形状異方性粒子は擬立方晶の表示で{110}面に発達面を有し、該発達面の最大長さWgと厚みtgのアスペクト比(Wg/tg)が2以上であることを特徴とする。
上記の形状異方性粒子について説明する。
形状異方性粒子の形状異方性とは、幅方向、または、厚さ方向に対して、長手方向の長さが異なることを意味する。例えば、板状、柱状、針状、花弁状、鱗片状等が好適な一例としてあげられる。
形状異方性粒子は発達面を有している。発達面とは形状異方性粒子を構成する面の中で、最も広い面のことを意味する。この発達面は擬立方晶の表示で{110}面と平行である。この発達面の最大長さWgと厚みtgのアスペクト比(Wg/tg)が2以上が好ましく、2よりも小さいと、後述する配向工程において配向させるのが困難になるので望ましくない。より望ましくは5以上であり、さらに望ましくは10以上である。しかし、100以上になると配向工程において、混合する際に形状異方性粒子が破壊され、配向度に悪影響を与えるので100よりも小さいことが望ましい。
形状異方性粒子の平均粒子径は1μm以上10μm以下、好ましくは2.0μm以上8.0μm以下である。平均粒子径が1μmよりも小さいと後述する配向工程において、成形する際のせん断応力が低下するため、配向させることが困難になり、10μmよりも大きいと焼結性が低下し、良好な焼結体密度を得ることが出来ないので、望ましくない。
本発明で用いる形状異方性粒子としては、具体的には、擬立方晶の表示で{110}面を発達面とする板状BaTiO粒子や、同様の板状Bi(Mg1/2Ti1/2)O粒子等が挙げられる。単相の組成が得やすいので、特に擬立方晶の表示で{110}面を発達面とする板状BaTiO粒子が望ましい。
上記形状異方粒子を安定して分散し、配向セラミクスを得るために好ましいスラリを作製する必要がある。好ましいスラリを作製するためにバインダを用いる事が好ましく、特に、ポリビニルピロリドン(PVP)が好ましい。PVPの重量平均分子量(Mw)は20万以上50万以下のものを用いることが好ましい。該バインダを用いる事により、高い配向性の圧電材料を得ることが出来る。
配向工程とは、前記形状異方性粒子の発達面が配向するように成形する工程である。発達面が配向するとは、各形状異方性粒子の発達面同士の法線方向が揃うことを表す。成形方法は形状異方性粒子が配向するような方法であれば良く好適な一例として、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、押し出し成形法、遠心成形法を挙げることが出来る。
次に、本発明の圧電材料を用いた圧電素子について説明する。
本発明に係る圧電素子は、圧電材料と、前記圧電材料に接して設けられた一対の電極を有する圧電素子であって、該圧電材料が上記の圧電材料であることを特徴とする。
本発明の圧電素子の製造方法について説明する。
前記圧電材料の焼結体を研磨し、前記電極を形成する。研磨後、前記電極は、スパッタ法または銀ペーストの焼き付けによって形成すればよい。前記電極の材料としては、銀、金、白金等が好ましく、前記電極と前記圧電材料の間にTi、TiO、Cr等の密着層があっても良い。
前記(110)cubic配向した圧電材料を用いた圧電素子の製造方法について説明する。前記(110)cubic配向した圧電材料の焼結体は、研磨前には焼結過程に発生する撓みのため、ロットゲーリングファクタが低くなっている。そこで、前記(110)cubic配向した圧電材料を、例えば背面ラウエ法を用いて{110}cubic面を出して、研磨することが望ましい。このように研磨すれば、ロットゲーリングファクターを高めることが出来る。その結果、ロットゲーリングファクターが高くなるので、配向の効果がより発揮されるため、良好な圧電特性を得ることができる。そして、研磨した前記(110)cubic配向した圧電材料の研磨面に電極を形成すると、印加される電界ベクトルの前記圧電材料の(110)cubic配向方向の成分が増加するため、より良好な圧電特性を得ることが出来る。
次に、本発明の液体吐出ヘッドについて説明する。
本発明の液体吐出ヘッドは、上記の圧電素子を有する液体吐出ヘッドである。例えば、インクジェットヘッド、プリンター、ミスト発生装置、それ以外に電子デバイスの製造用にも用いる液体吐出ヘッドが挙げられる。
本発明の液体吐出ヘッドの一例を図6を用いて説明する。
図6は、本発明の圧電素子を有する液体吐出ヘッドの一部分を示す説明図である。図6に示した実施形態の圧電素子10の圧電体7の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。本発明の圧電素子10を構成する第一の電極6及び第二の電極8は、それぞれ液体吐出ヘッドの下部電極、上部電極のどちらになってもよい。同様に、振動板15は本発明の圧電素子10を構成する基板の一部からなるものであってもよい。これらの違いはデバイス化の際の製造方法によるものであり、どちらでも本発明の効果を得ることができる。
本発明の液体吐出ヘッドにおいては、圧電体7の伸縮により振動板15が上下に変動し、これにより個別液室の液体に圧力が加えられ、吐出口より液体が吐出される。液体吐出ヘッドは、吐出口および吐出口(不図示)と個別液室13とを連結する連通孔、個別液室13に液を供給する共通液室を備えている。この連通した経路に沿って液体が、吐出口に供給される。個別液室13の一部は振動板15で構成されている。振動板15に振動を付与するための圧電素子10は、個別液室の外部に設けられている。圧電素子10が不図示の電源より電圧を印加されて駆動されると振動板15は圧電素子10によって振動を付与され個別液室13内の液体が吐出口から吐出される。
次に、本発明の超音波モータについて説明する。
本発明の超音波モータは、上記圧電素子を用いたものである。
本発明の超音波モータの一例を図7に示す。図7に示す超音波モータは単板からなる圧電体を備えた上記圧電素子22を有する。更に、圧電素子22がエポキシ系等の接着剤23により金属の弾性体リング21に接合された振動体24と、振動体24の摺動面に不図示の加圧バネにより加圧力を受けて接触するロータ25と、ロータ25に一体的に設けられる出力軸26により構成される。19はバッファ層である。
圧電素子22の圧電体に2相(位相がπ/2異なる)の電源から交流電圧を印加すると振動体24に屈曲進行波が発生し、振動体24の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動体24の摺動面にロータ25を圧接すると、ロータ25は、振動体24から摩擦力を受け、振動体摺動面上の楕円運動の方向へ回転する。ロータ25の回転が出力軸26を介して、この出力軸にカップリング等で接合される被駆動体に伝達され、被駆動体が駆動される。この種のモータは、圧電体に電圧を印加すると圧電横効果によって圧電体が伸縮するため、金属等の弾性体に圧電素子を接合しておくと、弾性体が曲げられるという原理を利用したものである。
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。
実施例1
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.6の圧電材料を製造した。
原料粉として、BiO(レアメタリック社製、平均粒径45nm)、TiO(石原産業、平均粒径7nm)、MgO(宇部マテリアルズ社製、平均粒径49nm)、BaCO(宇部マテリアルズ社製、平均粒径40nm)を用いた。本実施例以下の圧電材料は平均粒径が極めて微細な金属化合物の粉末を原料粉として使用する点に特徴がある。平均粒径が極めて微細な金属化合物を用いることで焼結時の原料粉が十分に分散し、良好な圧電材料を得ることができる。
各原料の金属元素が0.6Bi(Mg1/2Ti1/2)O−0.4BaTiOのモル比になるように秤量し、ボールミルにて混合した。Biは蒸気圧が高く、Biが不足する可能性があるので、BiOは前述のモル比よりも過剰に加えることが望ましい。各原料をボールミルにて混合した。混合後、950℃、6hで仮焼を行い、再度ボールミルを用いて粉砕し、乾燥後、バインダとしてPVBを加え、直径10mmのディスク状に成形した。この試料を700℃、10hでバインダを除去し、1000℃、2hで焼結して焼結体を得た。
焼結体の結晶構造解析はX線回折(XRD)装置を用いて行った。XRDの結果を図2に示す。密度はアルキメデス法で評価を行った。相対密度はXRDの結晶構造解析からの理論密度に対して、密度の実測値の割合として求めた。
試料は研磨、切断し、銀電極を塗布後、圧電特性を評価した。圧電特性としては、電界歪測定による歪の傾きから圧電定数(d33定数)を求めた。電界歪測定の結果を図3に示す。バタフライ型の歪を得ることができたため、強誘電体であることが確認できた。
キュリー温度(Tc)は誘電率の温度特性のピーク位置から求めた。誘電率の温度特性は昇温速度3℃/分で10℃ごとに1MHzの誘電率を計測して求めた。その結果を図4に示す。
焼結体の平均粒径はSEMによって観察し、個数平均粒径として求めた。以上の結果を表1に示す。
参考例1
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.17の圧電材料の製造を実施例1と同様に行った。ただし、焼結温度は1220℃であった。
参考例2
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.8の圧電材料の製造を実施例1と同様に行った。ただし、仮焼温度は900℃で、焼結温度は950℃であった。
実施例4
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.2の圧電材料の製造を実施例1と同様に行った。ただし、焼結温度は1200℃であった。
実施例5
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.3の圧電材料の製造を実施例1と同様に行った。ただし、焼結温度は1150度であった。
実施例6
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.4の圧電材料の製造を実施例1と同様に行った。ただし、焼結温度は1100度であった。
実施例7
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.5の圧電材料の製造を実施例1と同様に行った。ただし、焼結温度は1050℃であった。
実施例8
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.7の圧電材料の製造を実施例1と同様に行った。ただし、焼結温度は975℃であった。
上記の実施例2から8において、実施例1と同様に、相対密度、圧電定数、Tc、平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
比較例1
xBi(Mg1/2 Ti1/2)O3−(1−x)BaTiO3(0≦x≦1)において、x=0.1の圧電材料の製造を実施例1と同様に行った。ただし、焼結温度は1250℃であった。
実施例1と同様に、相対密度、圧電定数、Tc、平均粒径を求めた。その結果を表1に示す。
比較例2
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.9の圧電材料の製造を実施例1と同様に行った。ただし、仮焼温度を900℃で行ったが、ペロブスカイト単相にならなかった。
Figure 0005511447
表1より、xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)のxとTcの関係を図5に示す。図5よりxが0.17以上で0.8以下であれば、キュリー温度(Tc)が150℃を越えているので、望ましい範囲である。xが0.2以上で0.8以下はTcが190℃を超えているのでより好ましい範囲である。一方、第1の比較例が示すようにxが0.17よりも小さいとTcがBaTiO3(x=0)のキュリー温度である130℃以下になるので、望ましくない。また、比較例2が示すようにxが0.8より大きいとペロブスカイト以外の異相が生じるので望ましくない。
参考例2〜9及び実施例13
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、表2に示すような製造条件で、参考例3〜8及び実施例12〜14の圧電材料を製造した。参考例3〜5の焼結温度は1220℃であった。実施例12から14の焼結温度は1000℃であった。参考例6〜8の焼結温度は950℃であった。実施例1と同様に、相対密度、圧電定数、平均粒径を求めた結果を表3に示す。
比較例3から8
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、表2に示すような製造条件で、比較例3から8の圧電材料を製造した。比較例3と4の焼結温度は1220℃であった。比較例5と6の焼結温度は1000℃であった。比較例7と8の焼結温度は950℃であった。実施例1と同様に、相対密度、圧電定数、平均粒径を求めた結果を表3に示す。
Figure 0005511447
Figure 0005511447
表3によると、比較例3,5及び7から粒径が0.5μmよりも小さいと焼結が不十分で、相対密度が90%よりも低く、圧電定数も非常に低い。一方、比較例4、6及び8のように粒径が10μmを超えた場合では、圧電定数が参考例3〜10及び実施例13のように粒径が0.5μm以上10μm以下の場合の半分になるため、望ましくない。よって、粒径は0.5μm以上10μm以下が望ましい。より望ましくは、粒径が1μm以上で5μm以下では密度が95%以上になるので望ましい。
実施例18
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.6で原料としてチタン酸バリウムを用いたサンプルを次のように製作した。
原料粉として、BiO(レアメタリック社製、平均粒径45nm)、TiO(石原産業、平均粒径7nm)、MgO(宇部マテリアルズ社製、平均粒径49nm)、BaTiO(堺化学社製、平均粒径100nm)を用いた。その他の工程は実施例1と同様に行ったが、ただし、焼結温度は950℃であった。実施例1と同様に、相対密度、圧電定数、平均粒径を求めた。その結果、相対密度は95.6%で、圧電定数は70.6pm/Vで、平均粒径は1.4μmであった。実施例1と比較して、より低温でより高い圧電定数になるので望ましい。このように、Bi、Ti、Mgを含む平均粒径が5nm以上50nm以下である金属化合物の粉末に加えて、さらに平均粒径が10nm以上150nm以下のチタン酸バリウムを含むことでさらに原料粉の分散が促進され、良好な圧電材料を得ることができる。
実施例19
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.6の(110)cubic配向したサンプルを次のように製作した。
まず、0.67Bi((Mg1/2Ti1/2)O−0.33BaTiOの仮焼粉を実施例1の仮焼粉と同様に製作した。
次に本実施例では形状異方性粒子として板状BaTiO(神島化学工業)を用いた。板状BaTiOは発達面が{110}cubicであった。また、アスペクト比(Wg/Tg)の平均は12.3であった。
以上の仮焼粉と板状BaTiOを用いて、以下のように配向工程を行った。仮焼粉と板状BaTiOを、仮焼粉:BaTiO=9:1のモル比で秤量した。秤量した粉末に対し、55vol%トルエン+45vol%エタノールの混合溶液を、粉末に対する重量比で90wt%となるように加えた。これに対してバインダとして40万MwのPVP及び可塑剤(フタル酸ブチル)を、それぞれ、粉末量に対し、6wt%となるよう配合した。この混合物をボールミルで、5時間の湿式混合を行い、スラリを作製した。
次に、ドクターブレード装置で、スラリを厚さ100μmのテープ状に成形し、乾燥させた。さらに、このテープを25枚積層し、80℃×100kg/cm(9.8MPa)×10分の条件で厚着し、厚さ2.3mmの成形体を得た。
得られた成形体を700℃、10hでバインダを除去し、1000℃、2hで焼結した。焼結体を背面ラウエ法を用いて{110}cubic面を出して、研磨した。研磨後、XRDパターンを計測した。無配向のリファレンスとして実施例1のサンプルのXRDパターンを用いてロットゲーリングファクタFを算出した。その結果、Fは、63.4%であった。また、実施例1と同様にd33定数を求めた。その結果、d33定数は71.3[pm/V]であった。
また、アスペクト比(Wg/Tg)を平均5.0の物に代えて同様に製作して評価した。その結果、Fは14%であり、d33定数は63.4[pm/V]であった。また、密度は93.5%であった。
比較例9
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.6の(110)配向したサンプルを実施例19と同様に製作した。ただし、仮焼粉と混合前に、板状BaTiOをΦ30μmの微小ジルコニアビーズで10時間解砕した。その結果、アスペクト比(Wg/Tg)の平均が1.41であった。
実施例19と同様にロットゲーリングファクタFを求めたところ、Fは8.2%であった。この時のd33定数は57.9[pm/V]であった。
実施例19のように(110)cubic配向しているとd33定数が21%増加するので、望ましい。特に、ロットゲーリングファクタFが50%以上であることが望ましい。
実施例19と比較例9を比較すると、板状BaTiO3のアスペクト比(Wg/Tg)の平均が2よりも小さいと、ロットゲーリングファクタFが10%以下になり、d33定数が増加しないので、望ましくない。
実施例20
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.6の製作を実施例1と同様に行った。ただし、仮焼粉に対して、MnOが0.5wt%になるように混合後、バインダを加えた。
実施例1と同様に電極を付けた後、2mm×2mmの矩形で厚み0.5mmに加工し、リーク電流を計測した。その結果を表4に示す。
実施例21
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.6の製作を実施例1と同様に行った。ただし、仮焼粉に対して、MnOが0.07質量%になるように混合後、バインダを加えた。
実施例1と同様に電極を付けた後、2mm×2mmの矩形で厚み0.5mmに加工し、リーク電流を計測した。その結果を表4に示す。
実施例22
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.6の製作を実施例1と同様に行った。ただし、仮焼粉に対して、MnOが2質量%になるように混合後、バインダを加えた。
実施例1と同様に電極を付けた後、2mm×2mmの矩形で厚み0.5mmに加工し、リーク電流を計測した。その結果を表4に示す。
Figure 0005511447
実施例1の圧電体のリーク電流を実施例20と同様にリーク電流を計測したところ、10.9[pA]であった。表4よりMnOが0.07質量%以上2質量%以下添加するとリーク電流が実施例1と比較して低減されるので望ましい。
比較例10
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.6の製作を実施例1と同様に行った。ただし、各原料粉の平均粒子径は3nmであった。これらの原料粉を混合したところ、十分分散させることができず、均一な仮焼粉を得ることが出来なかった。
比較例11
xBi(Mg1/2Ti1/2)O−(1−x)BaTiO(0≦x≦1)において、x=0.6の製作を実施例1と同様に行った。ただし、各原料粉の平均粒子径は100nmであった。
焼結体のXRDパターンからペロブスカイト以外の異相が多く含まれていることが分かった。
以上のことから、実施例1から原料粉の平均粒径が5nm以上50nm以下であれば、ペロブスカイト以外の異相がほぼない良好な圧電材料を得いることができるので望ましい。また、実施例18から、Bi、Ti、Mgを含む平均粒径が5nm以上50nm以下である金属化合物の粉末に加えて、さらに平均粒径が10nm以上150nm以下のチタン酸バリウムを含むことでさらに原料粉の分散が促進されるため望ましい。
しかし、比較例10から各原料粉の平均粒径が5nmより小さいと、分散が困難になり、均一な仮焼粉を得ることが出来ないので、望ましくない。また、比較例11から各原料粉の平均粒径が50nmより大きいと、ペロブスカイト以外の異相が多く含まれるので望ましくない。
実施例1の焼結体をリング状に加工し、圧電素子を形成した。これを用いて超音波モータを作製したところ、十分な駆動力を有し、超音波モータとして使用できることを確認した。
本発明によれば、圧電特性が良好で、150℃以上のキュりー温度(Tc)を有する圧電材料を提供することができる。本発明の圧電材料は、強誘電体メモリ、薄膜ピエゾ式インクジェットヘッドなどの液体吐出ヘッド、超音波モータ、等の圧電材料を用いる機器に利用することができる。
1 焼結体
2 グレイン

Claims (11)

  1. 下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物から構成される圧電材料であって、前記ペロブスカイト型酸化物は多結晶体であり、前記ペロブスカイト型酸化物に含まれているグレインの平均粒径が1.3μm以上4.6μm以下であることを特徴とする、圧電材料。
    Figure 0005511447
    (式中、xは0.2≦x≦0.7を表す。)
  2. 前記圧電材料は擬立方晶の表示で{110}面に優先配向を有することを特徴とする、請求項1に記載の圧電材料。
  3. 前記圧電材料は、さらにMnOを0.07質量%以上2質量%以下含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の圧電材料。
  4. 圧電材料と、前記圧電材料に接して設けられた一対の電極とを有する圧電素子であって、該圧電材料が請求項1乃至3のいずれか一項に記載の圧電材料であることを特徴とする、圧電素子。
  5. 請求項4に記載の圧電素子を用いた液体吐出ヘッド。
  6. 請求項4に記載の圧電素子を用いた超音波モータ。
  7. 下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物から構成される圧電材料の製造方法であって、前記圧電材料を構成する原料の金属化合物の粉末を焼結する焼結工程を有し、前記原料は平均粒径が5nm以上50nm以下である前記金属化合物の粉末であることを特徴とする、圧電材料の製造方法。
    Figure 0005511447
    (式中、xは0.2≦x≦0.7を表す。)
  8. 下記一般式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物から構成される圧電材料の製造方法であって、前記圧電材料を構成する原料の金属化合物の粉末を焼結する焼結工程を有し、前記原料は、Bi、Ti、Mgを含む平均粒径が5nm以上50nm以下である前記金属化合物の粉末と、平均粒径が10nm以上150nm以下のチタン酸バリウムの粉末とを含むことを特徴とする、圧電材料の製造方法。
    Figure 0005511447
    (式中、xは0.2≦x≦0.7を表す。)
  9. 前記焼結工程において、焼結温度が950℃以上1220℃以下であることを特徴とする、請求項7または8のいずれか一項に記載の圧電材料の製造方法。
  10. 前記焼結工程前に、原料粉を仮焼きして仮焼粉を得る仮焼工程を有し、前記仮焼粉と前記圧電材料を構成する金属を含有する形状異方性粒子とを混合し、配向した成形体を形成する配向工程を有し、前記形状異方性粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下であることを特徴とする、請求項7または8に記載の圧電材料の製造方法。
  11. 前記形状異方性粒子は擬立方晶の表示で{110}面に発達面を有し、前記発達面の最大長さWgと厚みtgのアスペクト比(Wg/tg)の平均が2以上であることを特徴とする、請求項10に記載の圧電材料の製造方法。
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