以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施の形態に係る圧電体は、その準結晶を含む。
「圧電体」とは、結晶の表面に応力を加えると結晶の表面に正負の電荷を生じる現象(圧電性)を呈する物質であり、例えば、圧電性を呈することが公知の物質、混合物、化合物、複合化合物、固溶体および組成物である。圧電体は、無機物でも有機物でもよい。
無機圧電体の例には、水晶、ニオブ酸リチウム、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、メタニオブ酸鉛、酸化亜鉛、PbZrO3/PbTiO3固溶体(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3/PbTiO3固溶体(PMN−PT)およびPb(Zn1/3Nb2/3)O3/PbTiO3固溶体(PZN−PT)が含まれる。
有機圧電体の例には、ポリフッ化ビニリデン−三フッ化エチレン共重合体(P(VDF−3FE))、P(VDF−3FE)とポリウレタンとの混練物、P(VDF−3FE)とシリコーンとの混練物、ポリフッ化ビニリデンとナイロンとの混練物、フッ化ビニリデンとクロロトリフロロエチレンとの共重合によるPVDF系共重合体、ポリブタジエン−N,N−メチレンビスアクリルアミド−スチレン共重合体、ポリ(γ−ベンジル−L−グルタメート)、メタンジイソシアネートとジアミノフルオレンとの蒸着重付加によるポリ尿素、キシリレンジイソシアネートとp−ジアミノベンゼンとの蒸着重付加によるポリ尿素、および、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体のエレクトレット、が含まれる。
さらに無機および有機複合の圧電体の例には、PZT−シロキサン−ポリ(メタ)アクリレートコンポジット、および、ポリ乳酸とリン酸カルシウムもしくはモンモリロナイトとのコンポジット、が含まれる。
「準結晶」とは、並進対称性(周期性)を持たないが、原子配列に高い秩序性が存在する結晶構造であり、例えば、並進対称性をもたず、面内規則性を維持しながらもc軸遠距離秩序性に乏しい結晶構造である。当該準結晶は、一種でもそれ以上でもよい。
上記準結晶は、走査型トンネル顕微鏡(以下、「STN」とも言う)による、結晶構造や低エネルギー電子線回折像などの観察によって確認される。準結晶の結晶構造の例には、格子点のパターンとして、正5角形の平面不飽和充填、ペンローズパターン、4〜6角形が最密充填されてなるパターン、および、5角形と6角形とが最密充填されてなるパターン、が含まれる。
上記電子線回折像は、一般に並進対称性を有する結晶のそれとは異なる回転対称性を有する。上記電子線回折像が当該回転対称性を有することは、圧電体の圧電性を高める観点から好ましい。上記電子線回折像は、5、8、10または12回の回転対称性を有することが、圧電体の圧電性および比帯域の両方を高める観点から好ましい。
上記圧電体における上記準結晶の存在は、上記圧電体の圧電性と比帯域との両方を高める。上記圧電体における上記準結晶の含有量は、圧電性および比帯域の両方を高める観点から、30質量%以上であることが好ましい。圧電体における準結晶の含有量の上限は、特に限定されないが、例えば、生産性、経済性、および、圧電性および比帯域の向上効果を度合い、の観点から、96質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
上記含有量は、例えば、STNで観測される25nm四方の視野内の、準結晶が呈する規則性パターン(上記ペンローズパターンなど)に帰属される格子の数を当該視野内の全格子の数で除して得られた値の、三視野の算術平均値で表される。
上記圧電体は、当該圧電体以外の他の構成をさらに含んでいてもよい。当該他の構成の例には、当該圧電体に接する、当該圧電体の結晶構造を制御するための層(「基層」とも言う)、が含まれる。当該基層は、例えば、上記圧電体の結晶構造の一部または全部を準結晶にするための層である。
上記基層の例には、単結晶の層、および、秩序配列した分子集合体の層、が含まれる。当該基層は、圧電体の結晶構造を所望の構造に制御するのに十分な厚さを有していればよく、例えば、当該単結晶の層であれば、当該単結晶が少なくとも第五の格子層まであればよい。
上記単結晶の層の例には、通常の単結晶の層の他に、当該単結晶の配向面のミスカット面を表面に有する層が含まれる。たとえば、チタン酸バリウム、ジルコン酸鉛、チタン酸鉛またはマグネシウムニオブ酸鉛に代表されるペロブスカイトの圧電体のための上記基層の例には、Pt(111)をミスカットした表面を有する層が含まれる。ミスカットの角度は、ペロブスカイトの化学組成(例えば、「チタン酸バリウム」など)に依存し、例えば、4〜6°である。なお、ミスカットの角度は、上記配向面の法線と基層の表面の法線とがなす角度である。
上記秩序配列した分子集合体は、例えば、光学的に平坦な表面に形成され、例えば、両親媒性分子の配列によって構成される。当該分子集合体の層の例には、ラングミュア−ブロジェット(Langmuir Blodgett)膜(LB膜)、液晶の電場配向膜、および、超分子配向膜、が含まれる。たとえば、PVDF−3FEやポリ尿素、ポリ乳酸などの有機高分子の圧電体の準結晶であれば、上記基層の例には、ガラス基板の光学平滑面に調製したp−CnH2n+1フェニルスルフォン酸ナトリウム(n=8〜18)のLB膜、が含まれる。
当該基層の表面にある(準結晶に接すべき)原子もしくは分子の空間配列秩序性は、当該基層に接して生成する圧電体(無機または有機物質)の面内格子の配列に一定のパターンを与える。このため、当該基層の構造やその調製条件などは、形成すべき準結晶の化学組成に特異的である。よって、上記基層は、準結晶の化学組成に応じて決めることができ、例えば、所期の準結晶とそれをもたらす基層との公知の組み合わせから適宜に選択され得る。
上記圧電体は、上記基層の表面で圧電体を700℃以下で成膜させて、その準結晶を含む圧電体の層を形成する工程を含む方法によって製造することができる。このように、上記圧電体は、化学的もしくは物理的蒸気堆積法により上記基層上で所望の化学組成物の層を作製することにより形成される。
上記圧電体を製造する方法は、上記基層の表面状態を反映する、いわゆるエピタキシャル成長によって圧電体の層を作製する方法であればよく、既知の成膜方法が適応できる。当該成膜方法の例には、蒸着、スパッタ、分子線エピタキシー、有機金属化学堆積法および化学溶液堆積法が含まれる。
上記圧電体の成膜温度は、高すぎると、有機圧電体であれば変性を来たすことがあり、無機圧電体であれば圧電性の低下がもたらされることがある。圧電性および比帯域の両方を高める観点から、上記成膜温度は、無機圧電体であれば250〜700℃であることが好ましく、250〜600℃であることがより好ましく、300〜450℃であることがさらに好ましい。また、有機圧電体であれば、上記の観点から上記成膜温度は、−50〜300℃であることが好ましく、−30〜200℃であることがより好ましく、−20〜120℃であることがさらに好ましい。
上記基層は、さらに基材に支持されていてもよい。基材は、基層が形成されるべき表面を有している物体である。当該基材の例には、ガラス基板、シリコン基板、および酸化マグネシウムなどの非金属の基板、金、白金、およびステンレス鋼などの金属の基板、ニッケル酸ランタンやルテニウム酸ストロンチウムなどのペロブスカイト、当該非金属の基板の表面に上記金属を成膜してなる基板、および、ドープされたチタン酸ストロンチウムなどの単結晶の層、が含まれる。上記基材は、上記圧電体の製造条件や上記基層との接着性、基層の所期の構造などの諸条件に応じて適宜に決めることが可能である。
上記の方法で得られる上記圧電体は、通常、単一組成の膜(単層)として作製され、当該単層の厚さは当該層が成長する過程においても面内秩序性を維持する観点から、500nm以下であることが好ましい。当該単層の厚さは、例えば、上記成膜温度および成膜時間により任意に制御することが可能である。
上記圧電体の形態は、層に限定されない。より厚い圧電体、あるいはより複雑な形状の圧電体を作製する観点から、上記の製造方法は、上記第一の基層上に作製された第一の圧電体の層の表面に第二の基層をさらに配置する工程と、配置された第二の基層の表面で第二の圧電体を700℃以下で成膜させて、その準結晶を含む第二の圧電体の層を上記第二の基層上にさらに形成する工程と、をさらに含むことが好ましい。
ここで、「第一の」とは、上記の単層を作製する際の基層または圧電体を言い、「第二の」とは、既に作製された圧電体の上に新たに作製される基層または圧電体を言う。第二の基層および圧電体は、いずれも、第一の基層および圧電体と同様に作製することが可能である。
このように、基層と圧電体とを繰り返し作製していくことにより、より厚い、あるいはより複雑な形状の圧電体の層を形成することが可能である。たとえば、第一の圧電体の表面の一部または全部に再度、第二の基層として、最低でも第五格子層までの単結晶を調製するか、もしくはLB膜のような規則正しく配列した分子集合体を調製し、その上で第一の圧電体生成と同様の成膜工程による第二の圧電体の調製(積層)し、さらにはこのような積層の繰り返しによって、上記圧電体が積層膜として得られる。
基層および圧電体の両方に、無機物または有機物を用いると、通常、基層および圧電体の積層構造を繰り返し単位として有する積層体として、上記圧電体が得られる。基層に無機物を用い、圧電体に有機物を用いると、同様に、基層および圧電体の積層構造を繰り返し単位として有する積層体として、上記圧電体が得られる。基層に有機化合物を用い、圧電体に無機物を用いると、圧電体の成膜工程時またはその後の焼き付け工程(アニール工程)によって基層が燃焼、蒸発などにより除去され、圧電体の積層体として、上記圧電体が得られる。
上記圧電体の製造方法は、圧電体に含まれる準結晶の欠陥除去や均質性向上などの観点から、アニール工程を含むことが好ましいことがある。当該アニール工程におけるアニール温度は、700℃以下であることが好ましい。アニール温度が700℃を超えると、上記の均質性とともに圧電体の圧電性および比帯域が低下することがある。
上記アニール工程は、有機の基層を燃焼除去する目的でも用いられる。この場合、基層の燃焼を効果的に進めるため、酸化雰囲気にてアニール工程を行ってもよい。
本実施の形態に係る超音波トランスデューサーは、圧電体として、上記の本実施の形態に係る圧電体を有し、その他の部分は、公知の超音波トランスデューサーと同様に構成し得る。
たとえば、上記圧電体は、放射する超音波に対して所望のビームフォームを得るべく、公知のMicromachined Ultrasound Transducer(MUT)とすることで複数の圧電素子からなるアレイに加工することができる。当該アレイへの加工は、例えば、上記圧電体の厚さが10μm以上(圧電体が厚膜)の場合では、ダイアモンドカッターなど公知の加工機にて行うことができ、10μm未満(圧電体が薄膜)の場合では、Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)加工によって行うことができる。
各圧電素子には、フレキシブルプリント基板(FPC)にて電極が取り付けられ、コンピューターでプログラムした超音波の送受信駆動により、任意のビームフォーミングが可能となる。
上記超音波トランスデューサーは、音響性能を適宜改良する観点から、上記圧電体以外に、上記FPCおよび電極や、超音波を吸収するバッキング材、超音波の反射を防ぐ音響整合層、さらには超音波ビームを焦点に集めるための音響レンズなどの他の構成をさらに有していてもよい。上記超音波トランスデューサーは、これらの他の構成および上記圧電体を適宜に積層し、層状構成物として構成され得る。
さらに、当該超音波トランスデューサーは、水中もしくは含水環境にて用いることができるように、パリレンコーティングなどの防水加工を、例えば音響レンズを接着する前の超音波トランスデューサーの前面に、施してもよい。なお、「パリレン」は、日本パリレン合同会社の登録商標である。
本実施の形態に係る超音波撮像装置は、超音波トランスデューサーとして、上記の本実施の形態に係る超音波トランスデューサーを有し、その他の部分は、公知の超音波撮像装置と同様に構成し得る。当該超音波撮像装置は、例えば、医療用超音波診断装置や非破壊超音波検査装置などに好適である。
図1Aは、本実施の形態に係る超音波撮像装置の構成を模式的に示す図であり、図1Bは、当該超音波撮像装置の電気的な構成を示すブロック図である。
超音波撮像装置200は、図1Aに示されるように、装置本体201と、装置本体201にケーブル203を介して接続されている超音波探触子202と、装置本体201上に配置されている入力部204および表示部209と、を有する。
装置本体201は、図1Bに示されるように、入力部204に接続されている制御部205と、制御部205およびケーブル203に接続されている送信部206および受信部207と、受信部207および制御部205のそれぞれと接続されている画像処理部208と、を有する。なお、制御部205および画像処理部208は、それぞれ表示部209と接続されている。
入力部204は、例えば、診断開始などを指示するコマンドや被検体の個人情報などのデータを入力するための装置であり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボードなどである。
制御部205は、例えば、マイクロプロセッサや記憶素子、その周辺回路などを備えて構成され、超音波探触子202、入力部204、送信部206、受信部207、画像処理部208および表示部209を、それぞれの機能に応じて制御することによって超音波診断装置200の全体の制御を行う回路である。
送信部206は、例えば、制御部205からの信号を超音波探触子202に送信する。受信部207は、例えば、超音波探触子202からの信号を受信して制御部205または画像処理部208へ出力する。
画像処理部208は、例えば、制御部205の制御に従い、受信部207で受信した信号に基づいて被検体内の内部状態を表す画像(超音波画像)を形成する回路である。たとえば、画像処理部208は、被検体の超音波画像を生成するDigital Signal Processor(DSP)、および、当該DSPで処理された信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換するディジタル−アナログ変換回路(DAC回路)などを有している。
表示部209は、例えば、制御部205の制御に従って、画像処理部208で生成された被検体の超音波画像を表示するための装置である。表示部209は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示装置や、プリンタなどの印刷装置などである。
図2は、超音波探触子202の構成を模式的に示す図である。超音波探触子202は、図2に示されるように、超音波トランスデューサー100と、超音波トランスデューサー100を収容するホルダ210とを有する。ホルダ210は、超音波探触子202の表面に音響レンズ170が露出するように、超音波トランスデューサー100を保持している。超音波トランスデューサー100のFPC120は、ケーブル203の先端に配置されたコネクタ211に接続されている。なお、図2中、超音波トランスデューサー100の構成の一部は、省略されている。
図3は、超音波トランスデューサー100の構成を模式的に示すための図である。超音波トランスデューサー100は、バッキング層110、フレキシブルプリント基板(FPC)120、圧電体130、溝140、141、充填材150、音響整合層160、音響レンズ170および接着剤層180を有する。
バッキング層110は、圧電体130を支持し、不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。すなわち、バッキング層110は、圧電体130における被検体、例えば生体、に超音波を送受信する方向と反対の面(裏面)に装着され、被検体の方向の反対側に発生する超音波を吸収する。
バッキング層110の材料の例には、天然ゴム、エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、および、これらの材料の少なくともいずれかと酸化タングステンや酸化チタン、フェライトなどの粉末との混合物をプレス成形した樹脂系複合材、が含まれる。上記熱可塑性樹脂の例には、塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ABS樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂、ポリエチレングリコール、および、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体、が含まれる。中でも樹脂系複合材、その中でも特にゴム系複合材料またはエポキシ樹脂系複合材が好ましい。バッキング層110の形状は、圧電体130の平面形状や超音波トランスデューサー100、これを含む超音波探触子200などの形状に応じて、適宜に決めることができる。
FPC120は、例えば、圧電体130のための一対の電極と接続される、後述の圧電素子に対応したパターンの配線を有する。たとえば、FPC120は、一方の電極となる信号引き出し配線と、図示しない他方の電極に接続されるグランド引き出し配線とを有する。FPC120は、上記の適当なパターンを有していれば、市販品であってもよい。
上記電極の材料の例には、金、白金、銀、パラジウム、銅、アルミニウム、ニッケル、スズ、および、これらの金属元素を含む合金、が含まれる。たとえば、上記電極は、まず、チタンやクロムなどの下地金属をスパッタ法により0.002〜1.0μmの厚さに形成し、次いで、上記材料を、さらには必要に応じて絶縁材料を部分的に、スパッタ法、蒸着法その他の適当な方法で0.02〜10μmの厚さに形成することによって作製される。上記電極は、微粉末の金属粉末と低融点ガラスを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法によって当該導電ペーストの層を形成することによって作製することも可能である。
なお、バッキング層110とFPC120は、例えば、当該技術分野で通常使用される接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)で接着され得る。
圧電体130は、前述した本実施の形態に係る圧電体であり、準結晶を含む。たとえば、圧電体130は、前述した積層構造からなり、圧電体130の厚さは、例えば0.05〜0.4mmである。圧電体130は、FPC120に、例えば導電性接着剤によって接着されている。当該導電性接着剤は、例えば、銀粉や銅粉、カーボンファイバーなどの導電性材料を含有する接着剤である。
溝140は、圧電体130の表面からバッキング層110に至る深さを有し、溝141は、圧電体130の表面から圧電体130内に至る深さを有している。溝140は、圧電素子の主素子を区画しており、溝141は、1主素子中に並列する三つの副素子を区画している。溝140、141は、いずれも、例えばダイシングソーによる溝切り加工によって形成されており、その幅は、例えば15〜30μmmmである。
なお、上記主素子におけるピッチ(溝140の中心間距離)は、例えば0.15〜0.30mmであり、上記副素子におけるピッチ(隣り合う溝(溝141または溝140)の中心間距離)は、例えば0.05〜0.15mmである。
充填材150は、溝140および141に充填されている。また、充填材150は、圧電体130と音響整合層160との間にも介在しているが、図3ではその存在を強調しており、圧電体130と音響整合層160との間では、実際は両者を接着するための接着剤として機能する程度の厚さで存在している。
充填材150の材料の例には、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリウレタン、天然ゴムおよびこれらの混合物が含まれる。上記エポキシ樹脂は、例えば、エポキシ樹脂のプレポリマーと、当該プレポリマー間に架橋ネットワークを形成するための硬化剤とを含有するプレポリマー組成物の硬化物として構成される。
上記プレポリマーの例には、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル(フェニレン、ビフェニレン骨格を含む)樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂などのフェノール樹脂が含まれる。
上記硬化剤の例には、アミン系硬化剤が含まれ、当該アミン系硬化剤の例には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕エチル−s−トリアジンなどのトリアジン化合物、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、および、トリエタノールアミンが含まれる。
充填材150は、弾性樹脂粒子をさらに含有していてもよい。当該弾性樹脂粒子は、充填材150の耐久性を高める観点から、その表面に反応性官能基を有することが好ましい。当該反応性官能基は、反応性官能基同士の反応性を有する基であってもよいし、エポキシ樹脂中の特定の分子構造に対する反応性を有する基であってもよい。当該弾性樹脂粒子の例には、変性シリコーンゴム粒子が含まれる。当該変性シリコーンゴム粒子の例には、シリコーンエラストマーの粒子と、当該粒子を覆う(例えばポリシロキサンなどの)シェルと、当該シェルの表面に配置されている反応性官能基とを有する粒子が含まれる。
上記プレポリマー組成物における当該弾性樹脂粒子の含有量は、プレポリマーおよび硬化剤の種類や、エポキシ樹脂の所期の体積弾性率などに応じて適宜に決められ、例えば変性シリコーンゴム粒子であれば、プレポリマーおよび硬化剤の総量に対して8〜35質量%である。
充填材150は、例えば、上記プレポリマー、硬化剤および弾性樹脂粒子を含有する市販品の樹脂組成物から作製することが可能である。当該市販品の例には、ALBIDUR EP2240AおよびALBIDUR EP5340(いずれもエボニク社製)が含まれる。
音響整合層160は、圧電体130と後述の音響レンズ170との音響特性を整合させるための層である。音響整合層160は、圧電体130と音響レンズ170との概ね中間の音響インピーダンスZa(×106kg/(m2秒))を有し、圧電体130の上記被検体側(表面側)に、例えば、前述の他方の電極を介して配置される。
音響整合層160は、単層でも積層でもよいが、音響特性の調整の観点から、音響インピーダンスが異なる複数の層の積層体であることが好ましく、例えば2層以上、より好ましくは4層以上である。音響整合層160の厚さは、λ/4であることが好ましい。λは、超音波の波長である。音響整合層160は、例えば、種々の材料で構成することが可能である。音響整合層160のZaは、音響レンズに向けて音響レンズのZaに、段階的または連続的により近づくように設定されていることが好ましく、例えば、当該材料に添加する添加剤の種類および含有量によって調整することが可能である。
上記材料の例には、アルミニウム、アルミニウム合金(例えばAl−Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイトおよび樹脂が含まれる。当該樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン6やナイロン66などのナイロン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。上記添加剤の例には、亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン、ガラス繊維およびシリコーン粒子が含まれる。
音響整合層160のZaを調整する観点から、例えば、音響整合層160の表面部は、エポキシ樹脂で構成されているとともにシリコーン粒子を含有していることが好ましい。後述するように、音響レンズ170の材料であるシリコーンを音響整合層160の基材中に分散して存在させると、音響整合層160のZaを音響レンズ170のそれに近づけることが可能である。
なお、音響整合層160の各層は、例えば、当該技術分野で通常使用される接着剤(例えば、エポキシ系接着剤)で接着されている。
音響レンズ170は、例えば、被検体と音響整合層160との中間のZaを有する軟質の高分子材料により構成される。当該高分子材料の例には、シリコーン系ゴム、ブタジエン系ゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、および、エチレンとプロピレンとを共重合させてなるエチレン−プロピレン共重合体ゴム、が含まれる。中でも、上記高分子材料は、シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムからなることが好ましい。
上記シリコーン系ゴムの例には、シリコーンゴムおよびフッ素シリコーンゴムが含まれる。特に、音響レンズの特性の観点からは、シリコーンゴムが好ましい。当該シリコーンゴムとは、Si−O結合からなる分子骨格を有し、そのSi原子に複数の有機基が主結合したオルガノポリシロキサンをいい、通常は、その主成分はメチルポリシロキサンで、その全体の有機基のうち90%以上がメチル基である。上記シリコーンゴムは、上記メチルポリシロキサンのメチル基の少なくとも一部が、水素原子、フェニル基、ビニル基またはアリル基も置き換わっていてもよい。
上記シリコーンゴムは、例えば、高重合度のオルガノポリシロキサンに過酸化ベンゾイルなどの硬化剤(加硫剤)を混練し、加熱加硫し硬化させることにより得ることができる。音響レンズ170における音速の調整や密度の調整などの目的に応じ、シリカやナイロン粉末などの有機または無機の充填剤や、硫黄や酸化亜鉛などの加硫助剤などがさらに添加されてもよい。
上記ブタジエン系ゴムの例には、ブタジエンのホモポリマーであるブタジエンゴム、および、ブタジエンを主体としこれに少量のスチロールまたはアクリロニトリルが共重合した共重合ゴム、が含まれる。特に、音響レンズの特性の観点から、ブタジエンゴムであることが好ましい。ブタジエンゴムとは、共役二重結合を有するブタジエンの重合により得られる合成ゴムをいう。ブタジエンゴムは、共役二重結合を有するブタジエンが1,4位で、または1,2位で、単独で重合することにより得ることができる。ブタジエンゴムは、さらに、硫黄などにより加硫させてもよい。
シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムからなる音響レンズ170は、例えば、シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとを混合し、加硫硬化させることにより生成することが可能である。たとえば、音響レンズ170は、シリコーンゴムとブタジエンゴムとを適宜割合で混練ロールにより混合し、過酸化ベンゾイルなどの加硫剤を添加して加熱加硫して架橋(硬化)させることにより、得ることができる。
上記の場合、加硫助剤として、酸化亜鉛をさらに添加することが好ましい。酸化亜鉛は、音響レンズ170のレンズ特性を実質的に損なわずに加硫を促進し、加硫時間を短縮することできる。他に、着色剤や音響レンズの特性を損なわない範囲内で他の添加剤を添加してもよい。シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、適宜設定することができる。たとえば、音響レンズ170のZaは、被検体のそれに近似するとともに、音響レンズ170内における音速が被検体のそれよりも小さく、音響レンズ170のZaの減衰がより少なくなるように設定されていることが好ましい。このような観点から、シリコーン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、1:1が好ましい。
接着剤層180は、シリコーン系接着剤の層である。前述したように、音響レンズ170は、シリコーン系ゴムを含むことが多い。このため、当該シリコーン系接着剤によって接着剤層180を構成することは、音響整合層160と音響レンズ170との接着性を高める観点から好適である。
上記シリコーン系接着剤とは、シリコーンを基材に含む硬化性の化合物または組成物である。当該シリコーン系接着剤は、音響整合層160および音響レンズ170の両方に対する親和性を高めるための添加剤や、音響整合層160と音響レンズ170との両者の音響特性を整合させるための添加剤などの種々の添加剤をさらに含有していてもよい。
上記シリコーン系接着剤は、室温で硬化する液状ゴム(RTVゴム)でもよいし、加熱によって硬化させる液状ゴムであってもよい。また、上記シリコーン系接着剤は、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。上記シリコーン系接着剤の例には、KE−441、KE−445、KE−471W、KE−1600、KE−1604、KE−1884、KE−1885、KE−1886、KE−4895、KE−4896、KE−4897、およびKE−4898(いずれも信越化学工業株式会社製)や、TN3005、TN3305、TN3705、TSE3976−B、ECS0600、およびECS0601(いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)などが含まれる。
音響整合層160に対する音響レンズ170の接着力は、超音波トランスデューサー100の用途に応じて決められ、例えば、超音波診断装置用の超音波トランスデューサー100であれば、当該接着力は0.5N/cm2以上であることが好ましい。そして、当該接着力を発現させる観点から、接着剤層180の厚さは、例えば、0.5μm以上であることが好ましく、超音波トランスデューサー100が所期の音響特性を発現する観点から、接着剤層180が所期の接着力を発現する範囲において、薄いほど好ましい。
接着剤層180の密度は、接着剤層180での超音波の反射を抑制する観点から、1g/cm3以上であることが好ましい。接着剤層180の密度は、例えば、アルキメデス法によって求めることが可能であり、例えば、上記シリコーン系接着剤の種類や、当該シリコーン系接着剤へのフィラーの混合、当該フィラーの含有量などによって調整することが可能である。
接着剤層180は、音響整合層160のZaと音響レンズ170のZaとの間のZaを有することが、超音波トランスデューサー100の音響特性の観点から好ましい。接着剤層180の材料の一部または全部に、音響整合層160のZaまたは音響レンズ170のZaと同じ音響インピーダンスを有する材料を用いることによって、音響整合層160のZaまたは音響レンズ170のZaと接着剤層180のZaとのギャップを小さくすることが可能である。
接着剤層180のZaは、音響整合層160のZaと音響レンズ170のZaとの間になくてもよい。たとえば、音響整合層160のZaは、2.0MRayls以下であってよく、音響レンズ170のZaは、1.3〜1.5MRaylsであってよく、接着剤層180のZaは、1.28MRayls以下であってもよい。なお、音響整合層160のZaは、音響整合層160の上記表面部(音響整合層160における接着剤層180との界面を形成する表面またはそれを含む部分)のZaである。
また、音響整合層160のZaと、接着剤層180のZaとの差の絶対値は、0.6MRayls以上であってよく、音響レンズ170のZaと、接着剤層180のZaとの差の絶対値は、0.1MRayls以上であってよい。
さらに、接着剤層180における音速は、1000m/秒以下であってもよい。接着剤層180における音速は、例えば、別途作製したテストピース中を伝わる音の、当該テストピースを通過した時間を測定し、当該時間から算出することが可能であり、例えば、上記シリコーン系接着剤の種類や、当該シリコーン系接着剤へのフィラーの混合、当該フィラーの含有量などによって調整することが可能である。
音響整合層160、音響レンズ170および接着剤層180のそれぞれのZaは、25℃における、音響整合層160、音響レンズ170または接着剤層180での超音波の音速と、音響整合層160、音響レンズ170または接着剤層180の密度とから、下記の式から求められる。下記式中、Zaは、音響インピーダンス(MRayls)を表し、ρは、当該部材、層の密度(×103kg/m3)を表し、Cは、音速(×103m/秒)を表す。上記超音波の音速は、例えば、超音波工業株式会社製のシングアラウンド式音速測定装置を用いて、JISZ2353:2003に従い測定される。
Za=ρC
なお、超音波トランスデューサー100は、超音波トランスデューサー100における音響レンズ170以外の部分を封止する保護層を含んでいてもよい。当該保護層は、例えば、超音波トランスデューサー100における音響整合層160およびそれよりも圧電体130側の構成を一体的に覆う層であり、これらの構成への物理的または化学的な刺激から上記の構成を保護するための層である。上記保護層は、物理的および化学的な安定性を有する材料で構成されていることが好ましく、例えば、エポキシ樹脂やポリパラキシリレンなどの、物理的および化学的に比較的安定な樹脂で構成され得る。当該保護層は、例えば、前述したパリレンコーティングにより作製される。
上記保護層の厚さは、その所期の機能を発現するとともに、超音波トランスデューサー100における所期の音響特性を発現可能な範囲で、適宜に決めることができる。当該保護層の厚さは、例えば、2〜4μmである。当該厚さであれば、保護層の音響インピーダンスが、音響整合層160および音響レンズ170のそれよりも高かったとしても、超音波トランスデューサー100の所期の音響特性を十分に発現させることが可能である。
超音波トランスデューサー100が上記保護層を有する場合では、音響レンズ170は、上記保護層に接着剤層180を介して接着される。この場合、接着剤層180の厚さと上記保護層の厚さとの総和が、超音波トランスデューサー100の所期の音響特性を実現する観点から、可能な限りで十分に薄いことが好ましい。
超音波撮像装置200では、制御部205が入力部204からの信号を受信し、生体などの被検体に対して超音波(第1超音波信号)を送信させる信号を送信部206に出力するとともに、当該第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波(第2超音波信号)に応じた電気信号を受信部207に受信させる。
超音波探触子202の超音波トランスデューサーには、超音波トランスデューサー100が使用されている。圧電体130から超音波が送信されると、当該超音波は、音響整合層160、接着剤層180および音響レンズ170を伝わり、人体などの被検体に送られる。そして、当該被検体内で反射し、音響レンズ170、接着剤層180および音響整合層160を伝わり、圧電体130に受信される。たとえば、受信された超音波は、その振幅および周波数帯域に応じた電気信号に、圧電体130によって変換される。圧電体130は、準結晶を含むことから、圧電定数および比帯域の両方が高く、広帯域の超音波測定においても、鋭い主ピークとして超音波成分の検出が可能となる。
受信部207で受信した電気信号は、画像処理部208に送られて当該電気信号に応じた画像信号に処理される。当該画像信号は、表示部209に送られて、当該画像信号に応じた画像が表示部209に表示される。表示部209は、また、入力部204から入力された、制御部205を介して送られる情報に基づき、当該情報に応じた画像および操作(文字の表示、表示された画像の移動や拡大など)も表示する。
超音波撮像装置200では、前述したように、広帯域の超音波測定においても、鋭い主ピークとして超音波成分の電気信号が検出される。このため、超音波撮像装置200は、圧電体に準結晶を含まない従来の超音波撮像装置に比べて、より高い空間分解能を得ることができ、よって、より精密かつ信頼性がより高い測定結果を得ることができる。
超音波撮像装置200は、医療用の超音波診断装置に適用される。超音波撮像装置200は、この他にも、魚群探知機(ソナー)や非破壊検査用の探傷機などの、超音波による探査結果を画像や数値などで表示する装置に適用され得る。
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に係る圧電体は、その準結晶を含有する。このように、本実施の形態に係る、準結晶構造を備える圧電体によれば、圧電定数および比帯域の両方が高く、かつ安定して生産可能な圧電体を提供することができる。
上記準結晶が電子線回折における5、8、10および12回の回転対称性の一以上を有することは、圧電体の圧電性および比帯域の両方を高める観点からより一層効果的である。
また、上記圧電体において、上記準結晶の含有量が30質量%以上であることは、製造条件における制御を可能とする観点や、圧電性および比帯域の両方を高める観点などからより一層効果的である。
また、上記圧電体が無機圧電体を含むことは、超音波探触子の感度を高めることの、つまりより深部の診断画像を得る観点からより一層効果的であり、上記圧電体が有機圧電体を含むことは、超音波探触子の比帯域を高めることの、つまりより高い空間分解能を有する画像を得る観点からより一層効果的である。
また、上記圧電体が、上記圧電体に接する、上記圧電体の結晶構造を制御するための基層をさらに含むことは、準結晶の構造や含有量などを適宜に調整する観点からより一層効果的である。
また、上記圧電体の製造方法は、圧電体の結晶構造を制御するための基層の表面で圧電体を700℃以下で成膜させて、その準結晶を含む圧電体の層を形成する成膜工程を含む。よって、当該製造方法によれば、圧電定数および比帯域が高く、かつ安定して生産可能な圧電体を提供することができる。
また、上記圧電体が無機の圧電体を含み、上記成膜工程において、250〜700℃で上記圧電体を成膜させることは、圧電定数と比帯域との両方が高められた無機の圧電体を得る観点からより一層効果的である。
また、上記圧電体が有機の圧電体を含み、上記成膜工程において、−50〜300℃で上記圧電体を成膜させることは、圧電定数と比帯域との両方が高められた有機の圧電体を得る観点からより一層効果的である。
また、上記基層の表面が単結晶で構成されていることは、超音波探触子の感度を高めることの、つまりより深部の診断画像を得る観点からより一層効果的であり、上記基層の表面が配列した両親媒性分子によって構成されていることは、超音波探触子の比帯域を高めることの、つまりより高い空間分解能を有する画像を得る観点からより一層効果的である。
また、上記製造方法が、上記圧電体の層の表面に上記基層をさらに配置する工程と、配置された基層の表面で上記圧電体を700℃以下で成膜させて、その準結晶を含む圧電体の層を上記基層上にさらに形成する工程と、をさらに含むことは、より厚い圧電体または所期の形状を有する圧電体を作製する観点からより一層効果的である。
また、上記基層が有機化合物で構成されていることは、厚手または所期の形状の無機の圧電体を作製する観点からより一層効果的である。
また、本実施の形態に係る超音波トランスデューサーは、上記の圧電体を有し、本実施の形態に係る超音波撮像装置は、上記の超音波トランスデューサーを有する。よって、超音波の送受信による撮像において高い空間分解能が得られ、超音波診断装置のような撮影した画像を測定に供する場合では、より精密かつ信頼性がより高い測定結果を得ることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[実施例1]
シリコン単結晶基板(厚み0.635mm)上に白金をラジオ周波数(RF)スパッタし、結晶方位が(111)、厚みが260nmの白金薄膜を得た。この白金薄膜を超高真空中にてArイオン反応性エッチングし、4°にミスカットされている清浄な4°ミスカット白金層(以下、「4°ミスカットPt(111)」と記載)を有する基板を得た。
この基板上に、RFスパッタ装置を用い、チタン酸鉛とマグネシウムニオブ酸鉛との混合ペレットをターゲットとして、基板温度260℃、気相圧力10Pa、RF出力90W、酸素流量10mL/分、Ar流量30mL/分の条件下で960秒間成膜し、400nmのマグネシウムニオブ酸鉛とチタン酸鉛との固溶体(PMN−PT)の薄膜を得た。
この薄膜をSTNで分析したところ、視野内にペンローズパターンと、そうでない格子点と、が観測され、前者に相当するPMN−PTは、全体の56質量%を占めていた。低エネルギー電子線回折像で同薄膜を分析したところ、12回の回転対称像が観測された。
この薄膜に白金電極を成膜し、得られた白金/PMN−PT/4°ミスカットPt(111)/シリコンの積層体を短冊状に切り出して、当該積層体の短冊(幅4mm×長さ20mm)を作製した。そして、レーザー変位測定装置を用いて当該短冊のd31圧電定数と比帯域とを測定したところ、それぞれ、d31圧電定数は−5600pm/Vであり、比帯域は116%であった。
また、上記積層体を公知のマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)にて加工し、直径42μmの円形ダイアフラムの192セルから成る超音波トランスデューサーを作製し、当該超音波トランスデューサーをプローブに有する超音波撮像装置を構成した。当該超音波撮像装置を用いて25MHzの送信周波数にてファントムを観測したところ、45mmの深度において60μmの空間分解能が得られた。
[実施例2]
Nbをドープした結晶方位が(100)のチタン酸ストロンチウム単結晶の層(縦4mm×横4mm×厚み0.3mm、以下、「STO」と記載)の清浄表面に、酸化鉛、チタンテトライソプロポキサイド、ジルコニウムテトラノルマルプロポキサイドおよび2−メトキシエタノールの混合物から得られたジルコン酸鉛−チタン酸鉛固溶体(PZT)の前駆溶液をスピンコートし、180℃で30分間、410℃で14分間、さらに680℃にて3分間加熱して、上記単結晶の清浄表面にPZT層を作製した。
得られたPZT層をSTNで分析したところ、視野内に、5角形と6角形を最密充填したパターンと、そうでない不規則な格子点とが観測され、前者に相当するPZTは、全体の34質量%を占めていた。低エネルギー電子線回折像で同PZT層を分析したところ、5回の回転対称像が観測された。
このPZT/STO積層体のPZT面に金電極を成膜し、得られた金/PZT/STOの積層体を短冊状に切り出して、当該積層体の短冊(4mm×20mm)を作製した。そして、レーザー変位測定装置を用いてこの短冊のd31圧電定数と比帯域とを測定したところ、それぞれ、d31圧電定数は−1032pm/Vであり、比帯域は137%であった。
また、上記積層体を公知のMEMSにて加工し、直径60μmの円形ダイアフラムの192セルから成る超音波トランスデューサーを作製し、当該超音波トランスデューサーをプローブに有する超音波撮像装置を構成した。当該超音波撮像装置を用いて30MHzの送信周波数にてファントムを観測したところ、60mmの深度において45μmの空間分解能が得られた。
[実施例3]
光学平滑面を有する石英ガラス表面に、オクタデシルスルフォン酸ナトリウムのLB膜を調製した。その表面上で、キシリレンジイソシアネートとp−ジアミノベンゼンとを120℃にて蒸着重付加させ、320nmのポリ尿素膜を成膜した。この膜上に、上記LB膜およびポリ尿素膜の積層を30回繰り返し、全体で厚み10.2μmの積層膜を得た。
この積層膜をSTNで分析したところ、視野内にペンローズパターンとそうでない不規則な格子点とが観測され、前者に相当するポリ尿素は、全体の94質量%を占めていた。低エネルギー電子線回折像で同積層膜を分析したところ、10回の回転対称像が観測された。
この積層膜を石英ガラスから剥離し、両面に金電極を成膜し、得られた金/当該積層膜/金の積層体を短冊状に切り出して、当該積層体の短冊(4mm×20mm)を作製した。そして、レーザー変位測定装置を用いてこの短冊のd33圧電定数と比帯域とを測定したところ、それぞれ、d33圧電定数は752pm/Vであり、比帯域は520%であった。
また、上記積層体に公知の機械加工をし、200μm×4mmの短冊状切片が一方向に96セル整列した超音波トランスデューサーを作製し、当該超音波トランスデューサーをプローブに有する超音波撮像装置を構成した。当該超音波撮像装置を用いて35MHzの送信周波数にてファントムを観測したところ、50mmの深度において35μmの空間分解能が得られた。
[実施例4]
光学平滑面を有する石英ガラス表面に、150Aの厚みの金を(001)の配向面にて (以下、「Au(001)」と記載)成膜した。その表面に、n−オクチルチオジカルボン酸、2,6−ジアミノピリジン重縮合物および4−nーオクチル−4’−カルボキシビフェニルから成るポリマー超分子液晶を作製した。このポリマー超分子液晶を−20℃に冷却し、真空チャンバー中にてフッ化ビニリデン(70体積%)、およびクロロトリフロロエチレン(30体積%)の混合ガスが4Paになるよう差動排気しながら、電子線を当該ポリマー超分子液晶に照射し、PVDFの共重合体膜を成膜した。
この共重合体膜をSTNで分析したところ、視野内に主に4〜6角形が最密充填されたパターンとそうでない不規則な格子点とが観測され、前者に相当するPVDFは、全体の32質量%を占めていた。低エネルギー電子線回折像で同共重合体膜を分析したところ、8回の回転対称像が観測された。
この共重合体膜の上記石英ガラスとは反対側の面に金電極を成膜し、得られた金/当該共重合体膜/金の積層体を短冊状に切り出して、当該積層体の短冊(4mm×20mm)を作製した。そして、レーザー変位測定装置を用いてこの短冊のd31圧電定数と比帯域とを測定したところ、それぞれ、d31圧電定数は−480pm/Vであり、比帯域は614%であった。
また、得られた石英ガラス基板上の上記共重合体膜を公知のMEMSにて加工し、直径84μmの円形ダイアフラムの192セルから成る超音波トランスデューサーを作製し、当該超音波トランスデューサーを有するプローブに有する超音波撮像装置を構成した。当該超音波撮像装置を用いて25MHzの送信周波数にてファントムを観測したところ、120mmの深度において60μmの空間分解能が得られた。
[実施例5]
結晶配向面が(111)である白金を基板として、その表面に超高真空下、マグネトロンスパッタによりチタン酸バリウムを室温にて120nmの厚みで成膜した。得られたチタン酸バリウム膜を977℃にて10秒間、100秒間、1000秒間、および10000秒間でそれぞれアニールした。
いずれの時間によるアニールで得られたチタン酸バリウム膜は、低エネルギー電子線回折で12回回転対称像を与えた。このように、準結晶の生成が認められた。当該準結晶の割合は、アニール時間に関わらずほぼ一定であり平均的に3.6質量%であった。
上記準結晶の調製において1000秒間のアニールにより得られたチタン酸バリウム膜のd31圧電定数と比帯域は、レーザー変位測定装置で測定したところ、d31圧電定数は−61pm/Vであり、比帯域は56%であった。
また、当該チタン酸バリウム膜を公知のMEMSにて加工し、直径42μmの円形ダイアフラムの192セルから成る超音波トランスデューサーを作製し、当該超音波トランスデューサーを有するプローブに有する超音波撮像装置を構成した。当該超音波撮像装置を用いて25MHzの送信周波数にてファントムを観測したところ、60mmの深度において260μmの空間分解能が得られた。
上記準結晶の調製において、マグネトロンスパッタ温度を850℃に昇温する条件、チタン酸バリウムの他の成膜手段として酸化バリウムとチタンの酸素雰囲気下における分子線エピタキシー、ならびにその後のアニール温度を797℃とする条件などの他の条件を適用したが、その結果、準結晶の生成割合、圧電定数、比帯域、さらには超音波撮像装置としての深度、空間分解能性能は、本実施例における上述の数値とほぼ同じであった。
[比較例1]
アニール工程を省いた以外は実施例5と同様の方法で、チタン酸バリウム薄膜を得た。
この薄膜の低エネルギー電子線回折は、ペロブスカイト特有の立方晶と正方晶の混在を示し回転対称像を示さなかった。このように、準結晶の生成は認められなかった。
当該チタン酸バリウム膜のd31圧電定数と比帯域は、レーザー変位測定装置で測定したところ、d31圧電定数は−39pm/Vであり、比帯域は49%であった。
当該チタン酸バリウム膜を用いて実施例5と同様の方法で超音波撮像装置を構成し、25MHzの送信周波数にてファントムを観測したところ、60mmの深度では当該ファントムのターゲット画像を取得できず、40mmの深度において630μmの空間分解能が得られた。
さらに上記アニール工程を省いた以外は実施例5と同様にマグネトロンスパッタ温度の変更や分子線エピタキーによる成膜を適用するなどの他の条件によりチタン酸バリウム薄膜を製造したが、いずれの薄膜においても準結晶の生成は認められず、当該薄膜の圧電定数、比帯域、さらには超音波撮像装置としての深度、空間分解能性能は、本比較例における上述の数値とほぼ同じであった。
[比較例2]
実施例1において、ミスカット白金層に代えて、白金の配向面に、当該ミスカットを有さない白金(111)層を用い、RFスパッタによる成膜温度を760℃とした以外は同様の操作にて、PMN−PTを成膜した。得られたPMN−PT膜をSTNでの分析および低エネルギー電子線回折像では、規則性パターンおよび回転対称像は観測されなかった。
実施例1と同様にして、上記PMN−PT膜のd31圧電定数と比帯域とをレーザー変位測定装置で測定したところ、それぞれ、d31圧電定数は80pm/Vであり、比帯域は34%であった。また、実施例1と同様にして、上記PMN−PT膜を公知のMEMSにて加工し、直径42μmの円形ダイアフラムの192セルから成る超音波トランスデューサーを作製し、当該超音波トランスデューサーをプローブに有する超音波撮像装置を構成した。当該超音波撮像装置を用いて25 MHzの送信周波数にてファントムを観測したところ、8mmの深度において450μmの空間分解能が得られた。
[比較例3]
光学平滑面を有する石英ガラス表面に、150Åの厚みのAu(001)膜を成膜した。当該Au(001)膜の表面に、実施例4と同様の操作にて、PVDFの共重合体膜を成膜した。この共重合体膜のSTNでの分析および低エネルギー電子線回折像では、規則性パターンおよび回転対称像は観測されなかった。
実施例4と同様にして上記共重合体膜のd31圧電定数と比帯域とをレーザー変位測定装置で測定したところ、それぞれ、d31圧電定数は4pm/Vであり、比帯域は46%であった。また、実施例4と同様にして、上記共重合体膜を公知のMEMSにて加工し、直径42μmの円形ダイアフラムの192セルから成る超音波トランスデューサーを作製し、アレイ、当該超音波トランスデューサーをプローブに有する超音波撮像装置を構成した。当該超音波撮像装置を用いて25MHzの送信周波数にてファントムを観測したところ、6mmの深度において360μmの空間分解能が得られた。