以下、走査装置の一例であるプリンター(印刷装置)の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に示すように、プリンター11は、一例としてモバイル型のインクジェット式カラープリンターであって、薄型の略直方体形状を有する装置本体12を備える。この装置本体12の前面(図1では右面)には、ユーザーの入力操作等に用いられる操作パネル13が設けられている。操作パネル13には、例えば液晶パネルよりなる表示部14及び複数の操作スイッチからなる操作部15が設けられている。操作部15には、電源スイッチ15a、表示部14のメニュー画面上で所望の選択項目を選択する際に操作される選択スイッチ15b及びキャンセルスイッチ15c等が含まれる。なお、操作パネル13のうち少なくとも一部は、装置本体12の薄型化のためにその上面に設けてもよいし、不使用時に装置本体12に収納できる収納式又は折畳み式としてもよい。また、表示部14は、装置本体12にコネクターを介して接続する外付け方式でもよい。
図1に示すように、装置本体12の背面部には、用紙Pを幅方向に位置決め可能な一対のエッジガイド16aを有する給送トレイ16を備えた自動給送装置17が設けられている。なお、自動給送装置17は、この種の給送トレイ16を備えた給送方式に限らず、装置本体12の外側又は内側にセットされたロール紙を繰り出して給送するロール紙給送方式や、装置本体12に着脱可能に装着された給送カセットにセットされた用紙群から一枚ずつ用紙が給送されるカセット給送方式でもよい。
図1に示すように、装置本体12内には、キャリッジ21が、ガイド軸22に案内されて走査方向Xに往復移動可能な状態で設けられている。キャリッジ21の下部には、自動給送装置17から給送された用紙Pにインク滴を噴射可能な記録ヘッド23が取り付けられている。印刷中の用紙Pは走査方向Xと交差する搬送方向Yに間欠的に搬送され、各搬送の合間にキャリッジ21が走査方向Xに移動する過程で記録ヘッド23からインクが噴射されて1走査分の印刷が施されることで、用紙Pに文書や画像が印刷される。装置本体12の前面の排出口12aから排出された印刷済みの用紙Pは、延出状態とされたスライド式の排出スタッカー24(排紙トレイ)上に積載される。
また、装置本体12の前面側端部(図1では一例として右端部)には、USBポート25とカードスロット26と不図示の無線LANインターフェイス(例えば「Wi−Fi」(登録商標))とが設けられている。USBポート25に接続された外部記憶装置(例えばUSBメモリー)やカードスロット26に接続されたメモリーカードから画像データ等を読み込んだり、無線LANインターフェイスを介して携帯型のホスト装置(例えばスマートフォンや携帯電話)から画像データ等を無線で受信したりして、プリンター11に画像等を印刷させることが可能である。
また、装置本体12には、商用電源30(図3参照)のコンセント(アウトレット)に差込み可能な電源プラグ27aを有するACアダプター27の出力側の給電プラグを接続可能な電源ジャック(いずれも図示せず)が設けられている。ACアダプター27によって商用電源30からの交流が直流に変換された所定電圧の電力がプリンター11に供給される。また、装置本体12内には、プリンター11の携帯時等に使用可能な電源としてバッテリー28が収容されている。本実施形態のバッテリー28は、プリンターの小型化を図るために比較的容量の小さい小型なものである。このため、バッテリー28が供給できる電力Wb(バッテリー供給電力)は、ACアダプター27を介して供給できる電力Wac(AC電源電力)よりも小さくなっている(Wb<Wac)。もちろん、バッテリー28を少し大型にはなるものの、ACアダプター27によるAC電源供給電力Wacと同じ値のバッテリー供給電力Wbを出力可能なものとしてもよい。
次に、図2を参照してプリンター11の内部構成について説明する。図2に示すように、プリンター11において上側と前側が開口する略四角箱状の本体フレーム31において図2における左右の側壁間に架設されたガイド軸22には、前述のキャリッジ21が走査方向Xに往復移動可能な状態で設けられている。本体フレーム31の背板内面に取着された一対のプーリー33には無端状のタイミングベルト34が巻き掛けられており、キャリッジ21はタイミングベルト34の一部に固定されている。図2における右側のプーリー33はキャリッジモーター35の駆動軸(出力軸)に連結されており、キャリッジモーター35が正逆転駆動されることにより正転又は逆転するタイミングベルト34を介してキャリッジ21は走査方向Xに往復移動する。
キャリッジ21の上部には、例えば黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色のインクがそれぞれ収容された複数個(例えば4個)のインクカートリッジ37が装填されている。各インクカートリッジ37から供給されたインクは、記録ヘッド23の下面に開口するインク色別のノズル群からそれぞれ噴射される。また、キャリッジ21の移動経路の下方には、記録ヘッド23と用紙Pとの間隔(ギャップ)を規定する支持台38が走査方向Xに沿って延びるように設けられている。なお、記録ヘッド23が噴射可能なインク色は4色に限らず、3色、5〜8色でもよく、さらに黒1色でもよい。
また、本体フレーム31には、キャリッジ21の移動量に比例する数のパルスを出力するリニアエンコーダー39が、キャリッジ21の移動経路に沿って延びるように設けられている。プリンター11では、リニアエンコーダー39から出力されるパルス信号に基づいて、キャリッジ21の位置制御及び速度制御と、記録ヘッド23のインク噴射タイミングの制御とが行われる。
また、本体フレーム31の図2における右端下部に設けられた給送モーター41は、給送トレイ16(図1参照)にセットされた複数枚の用紙Pを1枚ずつ給送する給送ローラー20(図3参照)を駆動する。搬送モーター42は、搬送方向Yに支持台38を挟んだその上流側と下流側にそれぞれ設けられた搬送ローラー対43と排出ローラー対44とを駆動する。各ローラー対43,44は、搬送モーター42の動力で回転する駆動ローラー43a,44aと、駆動ローラー43a,44aに当接して連れ回りする従動ローラー43b,44bとから構成される。用紙Pは、搬送モーター42の動力によって回転する両ローラー対43,44に二箇所で挟持(ニップ)された状態で搬送方向Yに搬送される。なお、本実施形態では、用紙Pを印刷開始位置まで給送する給送ローラー20等を備える給送機構と、印刷中の用紙Pを次の印刷位置まで送る搬送ローラー対43及び排出ローラー対44等を備える送り機構とにより、搬送機構の一例が構成される。
シリアル式のプリンター11では、キャリッジ21を走査方向Xに往復動させながら記録ヘッド23のノズルから用紙Pにインクを噴射する印字動作と、用紙Pを搬送方向Yに次の印刷位置までの搬送量だけ搬送する送り動作とを交互に繰り返すことで、用紙Pに文書や画像等が印刷される。なお、本実施形態では、給送系の給送モーター41と送り系の搬送モーター42とにより第1モーターの一例が構成される。このように本実施形態は、第1モーターが二つ設けられた例である。また、キャリッジモーター35により第2モーターの一例が構成される。
図2においてキャリッジ21の移動経路上の一端位置(図2では右端位置)が、キャリッジ21が非印刷時に待機するホーム位置(ホームポジション)となっている。ホーム位置に配置されたキャリッジ21の直下には、記録ヘッド23のメンテナンスを行うメンテナンス装置45が配設されている。なお、本実施形態の搬送モーター42は、メンテナンス装置45の動力源ともなっている。
図3に示すように、本体背面部に斜状に配置された給送トレイ16の上面側にはホッパー18が上端部の軸18aを中心として所定角度の範囲を傾動可能な状態に支持されている。ホッパー18は、ホッパー18と給送トレイ16との間に介装された圧縮バネ19によって、給送トレイ16から離間する方向(図3における左上方向)に付勢されている。ホッパー18の下端付近には、給送ローラー20が回転軸20aを中心に回転可能に支持されている。ホッパー18は、セットされた用紙Pが給送ローラー20から離間する図3(a)に示す退避位置と、セットされた用紙Pが給送ローラー20に接触可能な図3(b),(c)に示す給送位置との間を往復動する。
給送トレイ16の用紙給送方向下流側(図3における左側)の端部上面における給送ローラー20と対向する箇所には、給送ローラー20が送り出す際の用紙をガイドする案内部16bが設けられている。また、案内部16bの近傍位置には、給送ローラー20と対向する位置にリタードローラー46が配置されている。リタードローラー46は、トルクリミッター等のトルク制限機構によって一定の回転負荷が付与された状態で従動回転可能かつ給送ローラー20に対し接近・離間可能に設けられている。ホッパー18及びリタードローラー46は連動して動作し、ホッパー18が図3(b)に示す給送位置に配置されているとき、給送される用紙Pは給送ローラー20とリタードローラー46との間に挟持される。また、自動給送装置17には、ホッパー18上の用紙Pの有無を検知する紙有無センサー47が設けられている。
ホッパー18が給送位置へ上動して用紙Pが接触した状態にある給送ローラー20が図3における時計方向に回転すると、そのうち最上位の1枚の用紙Pのみが給送ローラー20とリタードローラー46とに挟持された状態で給送される。この給送過程において最上位の用紙Pは、リタードローラー46により他の用紙から分離される。
図3に示すように、給送ローラー20と搬送ローラー対43との間の位置には、用紙搬送経路に沿って給送される用紙Pを検出可能な紙検出センサー48が設けられている。紙検出センサー48は、その下端が用紙搬送経路に達する長さで延出するレバー48aと、レバー48aの上端部を検知対象とする光学式のセンサー部48bとを備えている。紙検出センサー48は、その検知域に検知対象となる用紙Pが無い状態ではレバー48aが不図示のバネの付勢力で図3(a),(b)に示す原位置に復帰してオフしており、給送された用紙Pの先端がレバー48aの下端を押してこれを図3(c)に示すように傾動させるとオンする。プリンター11においては紙検出センサー48が用紙Pの先端を検知してオンした際の用紙位置を基準(例えば原点)として搬送方向Yにおける用紙Pの位置が管理される。そして、位置が管理された用紙Pはその先端が記録ヘッド23による印刷が開始される印刷開始位置に到達するまで給送される。この給送過程の途中で用紙Pが搬送経路を対して斜めに傾くスキュー(斜行)を取り除ためのスキュー取り動作が行われる。
また、キャリッジ21における記録ヘッド23よりも搬送方向Y上流側の位置には、紙幅センサー49が設けられている。この紙幅センサー49は、キャリッジ21と共に移動可能な光学式センサーであり、キャリッジ21の走査方向Xへの移動時に、給送された用紙Pの走査方向X(幅方向)の側端を検知可能であるとともに、キャリッジ21が用紙Pの搬送経路幅内に位置する状態で、用紙Pが給送されてくるのを待つことで用紙Pの先端を検知可能である。なお、リタードローラー46及びホッパー18は、用紙Pを印刷開始位置まで給送する頭出しが終わった時に、次に給送すべき次ページの用紙があるうちは、図3(b),(c)に示す給送位置に配置され、給紙すべき次ページがない場合に退避位置へ復帰する。
次に図4を参照してプリンター11の電気的構成について説明する。図4に示すように、プリンター11に備えられたコントローラー50は、電源装置51、コンピューター52(マイクロコンピューター)、表示駆動回路53、ヘッド駆動回路54及びモーター駆動回路55〜57を備える。コンピューター52には、入力系として、操作部15、紙有無センサー47、紙検出センサー48、紙幅センサー49、リニアエンコーダー39及びエンコーダー58,59等が接続されている。また、コンピューター52には、出力系として、表示駆動回路53、ヘッド駆動回路54及びモーター駆動回路55〜57が接続されている。各駆動回路53〜57には、それぞれ表示部14、記録ヘッド23、キャリッジモーター35、給送モーター41及び搬送モーター42が接続されている。
図4に示す電源装置51は、商用電源30からの交流電圧がACアダプター27を介して変圧・整流等された所定電圧(一次電圧)の直流を入力し、入力した直流をモーター35,41,42の駆動に必要な所定電圧に昇圧する。そして、電源装置51は、その昇圧した所定電圧を、一の系統でモーター駆動回路55〜57を介してモーター35,41,42に供給するとともに、他の系統で複数種の所定電圧に降圧し、記録ヘッド23、表示部14、コンピューター52及び入力系等にそれぞれ必要とされる所定電圧を供給する。
また、電源装置51には、装置本体12内に収容されたバッテリー28が電気的に接続される。コンピューター52は、電源装置51内の所定箇所の電圧を検出し、その検出電圧を基にACアダプター27の接続及びバッテリー28の接続を検出する機能を有する。このため、コンピューター52は、その時々の電力供給元の電源が、ACアダプター27(つまり商用電源30)であるか、バッテリー28であるかを認識可能となっている。コンピューター52は、ACアダプター27の接続を検出しているときは電源モードを「AC電源モード」とし、ACアダプター27の接続が非検出でかつバッテリー28の接続を検出しているときは電源モードを「バッテリーモード」とする。
バッテリー28の供給電力は、ACアダプター27を介する供給電力よりも小さい。このため、バッテリーモード時にバッテリー28から電源装置51を介して供給される供給電力は、AC電源モード時にACアダプター27から電源装置51を介して供給される供給電力よりも小さくなっている。このため、バッテリーモード時は、例えばモーター35,41,42の各消費電力が大きくなってプリンター11の総消費電力がバッテリー28の供給電力を超えてしまうと、電源装置51の供給電圧が降下してシステムダウン等を招く虞がある。そのため、本実施形態のコンピューター52は、プリンター11の総消費電力がバッテリー28の供給電力を超えて、電源装置51の供給電圧の降下(以下「電圧降下」ともいう。)を検出した際に、モーター35,41,42の総消費電力を低減する制御を行う。本実施形態では、商用電源30から入力した交流を直流に変換するACアダプター27がAC電源部の一例に相当する。そして、AC電源部とバッテリー28とがそれぞれ電源部の一例を構成している。
また、コンピューター52は、電源装置51の電圧降下を検出する機能を有している。コンピューター52は、プリンター11の消費電力が電源部の供給電力を上回り、電源装置51の電圧降下を検出したときには、モーター35,41,42のうちそのとき駆動中の給搬送系のモーター41,42のいずれか一方の駆動を停止させることで、システムダウンを防止する。
コンピューター52が各モーター駆動回路55〜57に各々の指令値を出力することにより、モーター35,41,42に指令値に応じた駆動電圧が印加される。本例では、指令値として例えばPWM(pulse width modulation)信号が出力され、各モーター35,41,42にはPWM信号のデューティ比(PWM信号の周期に対するパルス幅の比)に応じた電流が流れる。コンピューター52は、モーター駆動回路55〜57に指令値を個別に出力することによりモーター35、41,42をそれぞれ駆動制御する。コンピューター52は、指令値によりモーター35、41,42を速度制御し、例えば指令値を「0」(零)にすることで、モーター35、41,42のうち対応するモーターへの電流を遮断することが可能である。また、コンピューター52がモーター駆動回路55に出力する方向指示信号に応じてキャリッジモーター35は正転又は逆転する。
また、図4に示す紙有無センサー47は、給送トレイ16(図3参照)上の用紙Pの有無を検知可能な光学式又は接触式のセンサーである。また、紙検出センサー48は、給送経路上の所定位置で用紙Pの先端を検知し、その先端が検知されたときの位置が用紙Pの搬送方向Yの位置(搬送位置)を計測する際の基準位置に用いられる。さらに紙幅センサー49は、支持台38上の用紙Pに向かって検知光を照射しながらキャリッジ21と共に走査方向Xに移動して用紙Pの側端を検出可能な反射型の光学式センサーである。紙幅センサー49の検出信号に基づき用紙Pの幅又は記録ヘッド23の走査方向Xにおける印刷開始位置(インク噴射開始位置)が求められる。
リニアエンコーダー39は、キャリッジモーター35の回転量に比例する数のパルスを有するパルス信号を出力する。また、エンコーダー58は、給送モーター41の回転量に比例する数のパルスを有するパルス信号を出力する。さらにエンコーダー59は、搬送モーター42の回転量に比例する数のパルスを有するパルス信号を出力する。各エンコーダー58,59は、それぞれ対応するモーター41,42の駆動軸又はこの駆動軸の回転を伝達する動力伝達系の回転軸の端部に回転入力可能な状態で連結されたロータリーエンコーダーにより構成される。
図4に示すように、コンピューター52は、CPU61、ASIC62(Application Specific IC(特定用途向けIC))、RAM63及び不揮発性メモリー64を備えている。CPU61は、不揮発性メモリー64に記憶された制御プログラム(例えばファームウェア用プログラム)を実行することにより、印刷系・操作系・表示系等の各種制御を司る。特に本実施形態では、CPU61が不揮発性メモリー64に記憶された図12にフローチャートで示す印刷制御用プログラムを実行することにより、電源装置51への電力供給元の電源部の違いに応じたAC電源モードかバッテリーモードかに応じたモーター制御を行う。また、RAM63には、印刷データ及びCPU61の演算結果などが一時的に記憶される。
また、図4に示すように、不揮発性メモリー64には、モーター35,41,42を速度制御する指令値を取得する際に参照される制御テーブルTD1、及び電圧降下の検出時にモーター35,41,42のうちそのとき駆動中の複数のモーターが存在する場合に各モーターを制御する内容を取得する際に参照される参照テーブルTD2が記憶されている。制御テーブルTD1は、モーター35,41,42ごとに用意され、速度制御対象のモーターに対応する一つの制御テーブルTD1が使用される。
また、コンピューター52は、表示駆動回路53を介して表示部14に接続されている。コンピューター52は、プリンター11の状態や操作部15の操作の有無を監視し、発生した表示イベントに応じたメニューや印刷条件の選択項目、警告メッセージを含む各種のメッセージ等を、表示駆動回路53を介して表示部14に表示させる。
コンピューター52はヘッド駆動回路54を介して記録ヘッド23に接続されている。コンピューター52は、ホスト装置(図示せず)から受信した印刷データ、あるいはUSBメモリー又はメモリーカードから読み込んだ画像データを基に生成した印刷データ(ドットデータ)を、ヘッド駆動回路54に出力して記録ヘッド23における印刷データ中のドットに対応するノズルからインク滴を噴射させる。なお、ホスト装置としては、例えばスマートフォンや携帯電話、タブレットPC、携帯情報端末(PDA(Personal Digital Assistants))等の携帯端末、あるいはパーソナルコンピューター等が挙げられる。
コンピューター52は、リニアエンコーダー39からのパルス信号を基にキャリッジ21の走査方向Xの位置、移動開始位置から距離及び速度を取得し、キャリッジ21の移動開始位置からの距離を基にキャリッジ用の制御テーブルTD1を参照して指令値を逐次取得する。また、コンピューター52は、エンコーダー58からのパルス信号を基に用紙Pの給送開始位置からの距離を取得し、この距離を基に給送用の制御テーブルTD1を参照して指令値を逐次取得する。さらにコンピューター52は、エンコーダー59からのパルス信号を基に用紙Pの給送開始位置又は送り開始位置からの距離を取得し、この距離を基に給送用又は送り用の制御テーブルTD1を参照して指令値を取得する。そして、コンピューター52は、各指令値をモーター駆動回路55〜57に出力すること各モーター35,41,42を速度制御する。
なお、制御テーブルTD1には、給送モーター41と搬送モーター42のそれぞれに、その時々のモードに応じて使い分けされる低速用及び高速用の加減速テーブルが含まれている。ここでいうモードには、印刷速度と印刷品質とを規定する複数の印刷モードと、使用される電源別に用意された複数の電源モードとが含まれる。詳しくは、印刷モードには「ドラフトモード」(高速低品質モード)と「きれいモード」(低速高品質モード)とがあり、これらの印刷モードごとにAC電源モード用の高速対応の加減速テーブルと、バッテリーモード用の低速対応の加減速テーブルとが用意されている。また、コンピューター52は、定速度の異なる複数の加減速テーブルのうちからそのとき要求される用紙Pの移動量(給送量又は送り量)に応じた一つを選択する。このため、同じモードであれば、用紙Pの搬送距離が長いほど、用紙Pはより高速な搬送速度で搬送される。また、キャリッジ21の移動距離が長いほど、キャリッジ21はより高速な移動速度で移動する。
図5に示すように、電源装置51は、装置本体12の電源ジャックに接続されたACアダプター27の電源プラグ27aと電気的に接続される入力端子51aを備える。電源装置51には、ACアダプター27が商用電源30からの交流電圧(例えば100V〜240Vの範囲内の値)を変圧・整流等した所定電圧Vac(一次電圧(例えば15〜30Vの範囲内の値))の直流がACアダプター27から入力端子51aを介して入力される。
また、電源装置51は、装置本体12内に収容されたバッテリー28の出力端子(プラス端子)との電気的な接続が可能な入力端子51bを備える。電源装置51には、バッテリー28からの所定電圧Vb(例えば3〜6Vの範囲内の値)が入力端子51bを介して入力される。
電源装置51は、入力端子51bを介してバッテリー28の出力端子と電気的に接続される第1昇圧回路71を備えている。第1昇圧回路71はバッテリー28からの所定電圧Vbの直流を所定電圧V1(例えば8〜15Vの範囲内の値)に昇圧して出力する。電源装置51は、入力した所定電圧Vac又はV1の直流を所定電圧V2(二次電圧(例えば30〜60Vの範囲内の値))に昇圧する第2昇圧回路72を備えている。この所定電圧V2は、モーター35,41,42の駆動に必要な駆動電圧である。第2昇圧回路72が昇圧した所定電圧V2の直流は、ヘッド駆動回路54及びモーター駆動回路55〜57に供給される。なお、所定電圧V2は、不図示の降圧回路により複数種の所定電圧に降圧された後、表示駆動回路53、コンピューター52、センサー47〜49及びエンコーダー39,58,59等(図4参照)に、それぞれの駆動に必要な各直流電圧として供給される。なお、ヘッド駆動回路54には所定電圧V2を降圧した所定電圧が供給される構成でもよい。
また、図5に示すように、電源装置51は、バッテリー28から入力される所定電圧Vbを検出するバッテリー監視用マイクロコンピューター(以下「バッテリーマイコン73」という。)を備えている。バッテリーマイコン73はバッテリー28の接続・取外しを監視するとともに、接続状態にあるバッテリー28の残量等を管理する。バッテリーマイコン73はCPU61と双方向通信可能であり、バッテリー28の接続・取外しに関する情報及び残量情報等を定期的に又はCPU61からの要求に応じてCPU61に送信する。
また、CPU61は、ACアダプター27と電気的に接続可能な入力端子51aの電圧を検出可能に構成されている。CPU61は、入力端子51aの電圧と、バッテリーマイコン73を通じて取得した入力端子51bの電圧とに基づいて、ACアダプター27の接続及びバッテリー28の接続を検出する。このため、CPU61は、その時々の電力供給元の電源が、ACアダプター27であるかバッテリー28であるかを認識する。さらにCPU61は、入力端子51aの電圧に基づいてACアダプター27を介した商用電源30との接続の遮断を検出する。例えば電源プラグ27aのコンセントからの引き抜き及び給電プラグの電源ジャックからの引き抜きによって、プリンター11と商用電源30との接続が遮断される。なお、以下の説明では、電源プラグ27aのコンセントからの引き抜きと給電プラグの電源ジャックからの引き抜きとを総称して、プラグの引き抜きと称す場合がある。
また、CPU61は、第2昇圧回路72とモーター駆動回路55〜57との間における電源線上の所定箇所に設けられたセンサー74により電圧を検出する。CPU61は、センサー74により検出される電圧Vdを監視することで、プリンター11の総消費電力が電源の供給電力を上回った際に発生する電圧降下を検出する。なお、センサー74が電圧降下を検出する箇所は、ACアダプター27からの直流とバッテリー28からの直流とが合流する合流点51cと、各モーター駆動回路55〜57への直流の入力点とを含む合流点51cと入力点との間における電源線上の位置であればどこでもよい。センサー74が電圧Vdを検出する検出箇所を上記の範囲内の位置に設定した理由は、電源モードがAC電源モードとバッテリーモードとのいずれであっても、センサー74による一箇所の電圧の検出により、共通に電圧降下の検出が可能だからである。
図6は、図12に示す印刷制御用プログラムを実行するコンピューター52内に構築される機能ブロックを示す。図6に示すように、コンピューター52は、主制御部80、モーター制御部81、設定部82、表示制御部83及びヘッド制御部84を備えている。なお、本実施形態では、主制御部80、モーター制御部81及び設定部82等により、制御部の一例が構成される。
図6に示す主制御部80は、プリンター11の印刷系、操作系、表示系などの各種制御を統括的に司る。主制御部80は、電源装置51内の入力端子51a,51b(図5参照)の電圧を検出し、その検出電圧に基づいて電力供給元の電源がAC電源部であるかバッテリー28であるかを判別する。
また、図6に示す主制御部80は、印刷モード及び電源モードを管理するモード管理部91を備えている。モード管理部91は、電源がAC電源部である場合に電源モードをAC電源モードとし、バッテリー28である場合に電源モードをバッテリーモードとして管理する。本実施形態では、プリンター11の小型化の要請から小型で比較的容量が小さく、AC電源部の供給電力よりも供給電力の小さなバッテリー28を使用している。このため、電源モードに応じてモーター35,41,42の駆動速度を変えている。詳しくは、AC電源モードがモーター35,41,42を相対的に高速に駆動させる高速駆動モード、バッテリーモードがモーター35,41,42を相対的に低速に駆動させる低速駆動モードとなっている。例えば電源がAC電源部からバッテリー28に切り換わり、電源モードがAC電源モードからバッテリーモードに切り換わった場合、そのとき駆動中のモーターは高速駆動されているため、特にそのとき駆動中のモーターが複数であった場合、電源の供給電力よりもプリンター11の総消費電力が相対的に大きくなり易い。例えばプリンター11の駆動中に電源モードがAC電源モードからバッテリーモードに切り換わる例としては、ユーザーによるプラグの引き抜きが挙げられる。
また、モード管理部91は、主制御部80が印刷データ中の印刷条件情報又は操作部15の操作で入力設定された印刷条件情報に基づき特定した印刷モードを管理し、印刷モードが例えば「ドラフトモード」(高速低品質モード)であるか「きれいモード」(低速高品質モード)であるかを管理する。そして、主制御部80は、モード管理部91が管理するその時の電源モード及び印刷モードに応じたモーター35,41,42の速度制御をモーター制御部81に指示する。
また、図6に示す主制御部80は、電源装置51内のセンサー74(図5参照)が検出した電圧Vd(以下「検出電圧Vd」ともいう。)を取得し、この検出電圧Vdが閾値を下回る電圧降下を検出することで、プリンター11の総消費電力が電源の供給電力を超えたときに発生する電圧降下を検出する検出部92を備えている。主制御部80は、検出部92が電圧降下を検出すると、モーター制御部81に対して駆動中のモーターを少なくとも一つ停止させる指示を行う。さらに主制御部80は、モーター制御部81に対してモーターの停止を指示した際は、その後、再び同様の電圧降下の発生を回避するべくモーターの制御条件を変更し、その変更後の制御条件(設定値)を設定部82に設定する。
また、主制御部80は、操作部15が操作されたときなど表示イベント発生時に表示制御部83に対して表示部14へのメニュー画面や各種メッセージ等の表示を指示する。また、主制御部80は、ヘッド制御部84に対して記録ヘッド23のノズルからインクを噴射する噴射制御に必要な印刷画像データを、例えばキャリッジ21の1回の走査に相当する1パス(ラスターライン)単位ごとに送信する。ヘッド制御部84は、印刷画像データを展開してヘッド駆動回路54に出力することで記録ヘッド23に印刷画像データ中のドットに対応するノズルからインク滴を噴射させることで用紙Pへの印刷が行われる。
モーター制御部81は、キャリッジ21の位置及び移動距離を管理するCRカウンター94、給送モーター41による用紙Pの給送位置(給送距離)を管理するASFカウンター95、及び搬送モーター42による用紙Pの搬送位置(搬送距離)を管理するPFカウンター96を備えている。
CRカウンター94は、キャリッジ21が原点位置にあるときにリセットされ、リニアエンコーダー39からのパルス信号を基にキャリッジ21の往動時にパルスエッジ数を加算し、その復動時にパルスエッジ数を減算することにより、キャリッジ21の走査方向Xにおける位置を示す計数値を計数する。また、CRカウンター94は、リセットされた状態からキャリッジモーター35の駆動開始後のパルスエッジ数を計数することで、キャリッジ21の移動距離に相当する計数値も計数する。
また、ASFカウンター95は、給送モーター41の駆動開始時点のリセット状態からエンコーダー58のパルスエッジ数を計数することで、用紙Pの給送距離に相当する計数値を計数する。また、PFカウンター96は、搬送モーター42の駆動開始時点のリセット状態からエンコーダー59のパルスエッジ数を計数することで、用紙Pの搬送距離に相当する計数値を計数する。また、PFカウンター96は、給送中に紙検出センサー48が用紙Pの先端を検知した際にリセットされ、それ以後のエンコーダー59のパルスエッジ数を計数することで、用紙Pの搬送位置に相当する計数値も計数する。この計数値によりモーター制御部81は、印刷中における用紙Pの搬送位置を認識する。
モーター制御部81は、各カウンター94〜96の計数値で示される距離を基に制御テーブルTD1を参照して目標速度を取得し、検出速度を目標速度に近づけるフィードバック制御演算を行って指令値(例えばPWM指令値)を取得する。そして、モーター制御部81は、各指令値をモーター駆動回路55〜57に出力し、モーター35,41,42をそのときの印刷モード及び電源モードに応じた速度プロファイルで速度制御する。なお、フィードバック制御に替え、フィードフォワード制御を行ってもよい。
図7は、検出部92がセンサー74から取得した検出電圧Vdに基づいて電圧降下を検出する際のグラフを示す。このグラフにおいて横軸は時間T、縦軸は検出電圧Vdである。例えばAC電源モードでプリンター11の印刷駆動中に電源プラグ27aがコンセントから引き抜かれ、電源部がAC電源部からバッテリー28に切り換わって、プリンター11の総消費電力がバッテリー28の供給電力を上回ることになると、図7のグラフに示す電圧降下が発生する。すなわち、検出電圧Vdが、時刻Tdから、それまでの電圧Vs(例えば所定電圧V2)から降下し時刻Tshで閾値Vshを下回ると、検出部92は電圧降下が発生したと判定する。こうして検出部92が電圧降下を検出すると、そのとき駆動中のモーターが複数ある場合、本実施形態では、駆動中のそれら複数のモーターのうち少なくとも1つを停止させる。少なくとも一つのモーターが停止されることでプリンター11の総消費電力がバッテリー28の供給電力を下回るように低下する。このため、図7のグラフに示すように、時刻Trで電圧Vrまで降下した電圧は上昇し元の正常な電圧Vsに復帰する。例えば電圧降下の発生時に電圧が復帰することなくそのまま降下し続けると(同図のグラフ中の二点鎖線)、電圧がCPU61の駆動電圧Vcをも下回り、コンピューター52の一切の制御が不能となってシステムダウンに陥る。本実施形態では、閾値VshがCPU61の駆動電圧Vcよりも大きな値に設定されている(Vsh>Vc)。検出電圧Vdが閾値Vshを下回ると、駆動中のモーターのうち少なくとも1つを停止させることによりプリンター11のシステムダウンを回避する。
ここで、電圧降下時に電圧は比較的瞬時(例えば3〜20ms)に降下するため、モーターを停止する場合に減速を伴って停止させる余裕はなく、モーター電流を即座に遮断する必要がある。この場合、即座に停止するモーターをキャリッジモーター35にすると、キャリッジ21の比較的大きな慣性による停止時の大きな停止衝撃によって、キャリッジ駆動系の構造物(部品)の破損や衝撃音による比較的大きな騒音が問題になる。これに対して、給送モーター41及び搬送モーター42は、駆動対象の給送ローラー20及びローラー対43,44の慣性が比較的小さいことから、停止時の停止衝撃は比較的小さい。このため、本実施形態では、電圧降下の検出時に複数のモーター35,41,42のうち二つ以上のモーターが駆動中である場合は、給搬送系のモーター41,42のうち駆動中のものを停止させ、キャリッジモーター35の駆動は停止させない制御を採用する。
図8は、参照テーブルTD2を示す。参照テーブルTD2は、電圧降下検出時に複数のモーターが駆動中である場合に、降下した電圧をプリンター11の消費電力の低下により回復させるためにコンピューター52が指令すべきモーター35,41,42の制御内容を取得するためにコンピューター52によって参照されるデータである。前述の通り、本実施形態では、電圧降下検出時に複数のモーターが駆動中である場合に、キャリッジモーター35は停止させずその駆動を継続し、給搬送系のモーター41,42のうち駆動中のモーターを停止させる。なお、図8では、キャリッジモーター35を「CRモーター35」と記し、給送モーター41を「ASFモーター41」と記し、搬送モーター42を「PFモーター42」と記している。そして、図8において駆動中のモーターの組合せを、上記モーター名の接頭語のアルファベット「CR」、「ASF」、「PF」を用いて示している。
図8に示すように、電圧降下検出時に駆動中のモーターの組合せには、「ASF+PF」、「CR+ASF+PF」、「CR+PF」、「CR+ASF」の4通りがある。4通りの組合せごとに、各モーター35,41,42について駆動を継続するか停止するかの指示内容が設定されている。ASFモーター41とPFモーター42が駆動中である「ASF+PF」の場合は、ASFモーター41及びPFモーター42を共に停止させる。また、CRモーター35とASFモーター41とPFモーター42の三つが駆動中である「CR+ASF+PF」の場合は、CRモーター35の駆動は継続し、ASFモーター41及びPFモーター42は共に駆動を停止させる。さらにCRモーター35とPFモーター42が駆動中である「CR+PF」の場合は、CRモーター35の駆動は継続し、PFモーター42の駆動を停止させる。また、CRモーター35とASFモーター41が駆動中である「CR+ASF」の場合は、CRモーター35の駆動は継続し、ASFモーター41は停止させる。なお、「CR+ASF」の組合せは、通常のプリンター11の駆動においては現れない組合せであるが、異常時等にこの組合せによるモーター35,42の駆動が発生した場合にも対応できるように設定されたものである。
次に、図9を参照して電源モードごとに印刷動作を説明する。図9は、AC電源モード時の印刷制御(図9(a))と、バッテリーモード時の印刷制御(図9(b))とを説明するグラフである。グラフの横軸が時間T、縦軸が速度Uとなっている。また、各グラフの中の各モーターの速度プロファイルの上側に対応するモーターの種類を示すアルファベット「ASF」「PF」「CR」を記している。また、「CR」の速度プロファイルの上側に記録ヘッド23による印刷が行われる印刷実施区間をハッチングで示している。
図9(a)に示すAC電源モードでは、AC電源の供給電力がバッテリー28の供給電力よりも相対的に大きいので、低電力よりも高速印刷を優先した高速度印刷を実現する印刷制御が行われる。一方、図9(b)に示すバッテリーモードでは、バッテリー28の供給電力がAC電源の供給電力よりも相対的に小さいので、高速印刷よりも低電力を優先した低速度印刷を実現する印刷制御が行われる。
図9(a),(b)に示すように、まず給送トレイ16等の用紙供給源にセットされた用紙Pを搬送方向Yに記録ヘッド23による印刷が開始される印刷開始位置まで給送する「給紙」が行われる。この給紙では、ASFモーター41とPFモーター42とが同時に駆動される。図9(a),(b)においては両モーター41,42の駆動速度が異なっているのは、動力伝達系のギヤ比等の違いによるもので、給送ローラー20と搬送ローラー対43とがそれぞれ用紙Pを同速度で搬送可能な回転速度で回転することが可能な駆動速度で給搬送系の各モーター41,42は駆動される。
図9(a),(b)に示すように、次にCRモーター35が駆動されてキャリッジ21が走査方向Xに移動し、例えばその定速域で記録ヘッド23が駆動されてインク滴が噴射されることで用紙Pに1パス分の印刷が施される。次にPFモーター42が駆動されて用紙Pが次の印刷位置まで搬送(紙送り)される。こうして以後、CRモーター35とPFモーター42とが略交互に駆動され、印刷と搬送とが略交互に行われることで用紙Pへの印刷が1走査分ずつ進められる。
図9(a)に示すAC電源モードでは、まず給紙過程でASFモーター41とPFモーター42とが給紙動作期間の全域で同時に駆動される。つまり、ASFモーター41とPFモーター42とを駆動時期を重ね合わせて同時に駆動させる「ASF・PF重ね合わせ制御」が行われる。
また、給紙が終了する少し前のタイミングでCRモーター35の駆動が開始され、給送された用紙Pが印刷開始位置に停止すると同時に、キャリッジ21と共に移動する記録ヘッド23が走査方向Xの印刷開始位置(インク噴射開始位置)に到達することで用紙Pへの印刷が開始される。このとき、給紙期間の終期とCRモーター35の印刷開始位置までの加速期間とが重なり、この重なり区間で、CRモーター35とASFモーター41とPFモーター42とが同時に駆動される。つまり、CRモーター35とASFモーター41とPFモーター42とを駆動時期の一部を重ね合わせて駆動させる「ASF・CR重ね合わせ制御」が行われる。
また、1回の走査分の印刷と1回の搬送(紙送り)とが略交互に進められる印刷動作の過程では、CRモーター35の駆動終期とPFモーター42の駆動初期とが重なり合うとともに、PFモーター42の駆動終期とCRモーター35の駆動初期とが重なり合うように、CRモーター35とPFモーター42とが駆動制御される。これにより記録ヘッド23が印刷を終了すると同時に用紙Pの搬送が開始され、用紙Pが次の印刷位置に到達して停止すると同時に記録ヘッド23による印刷開始位置からの印刷が開始される。つまり、印刷動作の過程では、CRモーター35とPFモーター42とを駆動時期の一部を重ね合わせて駆動させる「CR・PF重ね合わせ制御」が行われる。しかも、AC電源モードでは、給紙、印刷及び搬送の各動作は、各モーター35,41,42を比較的高速に駆動させることにより行われる。重ね合わせ制御が行われる区間では、モーター35,41,42のうち二つ以上が同時に駆動されるため、モーター35,41,42の総消費電力が比較的高くなる。
一方、図9(b)に示すバッテリーモードでは、給紙、印刷及び搬送の各過程で各モーター35,41,42の駆動速度は、AC電源モード時の駆動速度に比べ、相対的に低速に設定される。つまり、キャリッジ21が同じ距離を移動する際のキャリッジモーター35の駆動速度と、用紙Pが同じ距離を給送される際の給送モーター41の駆動速度と、用紙Pが同じ距離を搬送(紙送り)される際の搬送モーター42の駆動速度とが、バッテリーモード時の方がAC電源モード時よりも低速に設定される。
また、図9(b)に示すように、給紙過程で避けられないASFモーター41とPFモーター42とを同時に駆動させるASF・PF重ね合わせ制御以外のキャリッジモーター35を含む複数のモーターが同時に駆動される重ね合わせ制御は実施されない。つまり、ASF・CR重ね合わせ制御とCR・PF重ね合わせ制御は実施されない。また、図9(b)に示すように、給紙期間においても、ASFモーター41とPFモーター42の駆動開始時期をずらし、比較的大きなモーター電流が必要になる両モーター41,42の加速期間の時期をずらすことで、給紙期間におけるモーター41,42の最大総消費電力を低く抑えるようにしている。なお、モーター電流の詳細については後述する。
図10及び図11は、AC電源モードでの印刷制御において、各モーターの速度プロファイルと電流I(モーター電流)との関係、及び検出電圧Vdをグラフで示したものである。図10は、CR・ASF重ね合わせ制御(CR+ASF+PF)中に電圧降下が検出された場合の例を示し、図11は、CR・PF重ね合わせ制御(CR+PF)中に電圧降下が検出された場合の例を示す。図10及び図11に示すように、各モーター35,41,42の電流Iは、加速領域で、モーターの速度U(回転速度)を所定の加速度で加速させるために電流Iを急激に立ち上げ、定速度に達する時刻付近までに電流Iを定速度に保持できる値まで低下させる。このため、定速度に達する少し前の加速の終期に電流Iのピークが出現する。例えば給紙過程では、給送モーター41の加速電流発生期間と搬送モーター42の加速電流発生時期とが重なる。このため、ASF・PF重ね合わせ制御の実施期間のうち特に加速領域で、モーター41,42の総消費電力が相対的に大きくなる。
また、図10及び図11に示すように、各モーター35,41,42の電流Iは、減速領域で、モーターの速度Uを所定の減速度で減速させるために電流Iを低下させるとともに途中で一旦逆向きの電流(逆電流)を流して制動を加えてから停止させる。図11に示すように、給紙と1パス目のキャリッジ21の加速領域との重なる時期に行われるASF・CR重ね合わせ制御(CR+ASF+PF)の実行中は、キャリッジモーター35の加速電流発生時期と、給送モーター41及び搬送モーター42の各々の減速電流発生時期とが重なる。このため、ASF・CR重ね合わせ制御の実施期間で、モーター35,41,42総消費電力が相対的に大きくなる。なお、減速過程で逆電流を流した後に電流の向きを再び元の向きに戻してから電流を0(零)まで低下させてもよい。
また、図9(a)及び図11に示すように、CR・PF重ね合わせ制御は、キャリッジモーター35の加速領域と減速領域との両方で実施される。図11に示すように、キャリッジモーター35の加速領域では、ASF・CR重ね合わせ制御で給送モーター41の電流Iが無くなった場合に相当し、キャリッジモーター35の加速電流発生時期と搬送モーター42の減速電流発生時期とが重なる。一方、キャリッジモーター35の減速過程では、キャリッジモーター35の減速電流発生時期と搬送モーター42の加速電流発生時期とが重なる。このため、CR・PF重ね合わせ制御の実施期間で、モーター35,42の総消費電力が相対的に大きくなる。
このようにモーターの総消費電力が相対的に大きくなる重ね合わせ制御の実施期間では、電圧降下が相対的に発生し易い。例えば図10に示すように、ASF・CR重ね合わせ制御の実施期間で、検出電圧Vdが閾値Vshを下回る電圧降下が検出されると、給送モーター41及び搬送モーター42の駆動を停止させるとともに、記録ヘッド23に印刷を禁止させたうえでキャリッジモーター35の駆動は継続する。キャリッジ21が記録ヘッド23による印刷はせずに目標位置まで空走すると、キャリッジモーター35の駆動が停止されることでキャリッジ21は目標位置に停止する。キャリッジモーター35の停止後、搬送モーター42が駆動され、給紙の途中で停止した用紙Pを白紙のまま排出する。白紙排出が終わると、キャリッジモーター35が空走時と逆方向に駆動され、キャリッジ21の空走で中止した回の走査で行うはずであった印刷をやり直すため、その中止した回の走査の開始位置である加速開始位置までキャリッジ21を戻す。なお、加速開始位置は、印刷をやり直す際の助走距離(加速距離)が確保された位置であり、その位置から加速して印刷を行うことができる位置である。助走距離は最短距離である必要はなく、最短距離よりも長い距離であってもよい。また、白紙排出が行われる場合は、印刷は用紙の給送からやり直しされる。例えば、紙有無センサー47が用紙Pを検知せず給送トレイ16上に用紙Pが無い場合は、ユーザーが用紙を給送トレイ16にセットするまでの待ち時間が発生するため加速開始位置をホーム位置に設定し、記録ヘッド23をホーム位置で不図示のメンテナンス装置のキャップで保護してもよい。
また、図11に示すように、CR・PF重ね合わせ制御の実施期間で、検出電圧Vdが閾値Vshを下回る電圧降下が検出されると、搬送モーター42の駆動を停止させるとともに、記録ヘッド23に印刷を禁止させたうえでキャリッジモーター35の駆動は継続する。搬送モーター42の停止により検出電圧Vsは正常な電圧Vsに復帰する。キャリッジ21が空走して目標位置まで移動すると、キャリッジモーター35の駆動が停止されることで、キャリッジ21は目標位置に停止する。キャリッジモーター35の停止後、搬送モーター42が駆動され、搬送途中で停止した用紙Pが目標位置までの残りの距離だけ搬送される。次にキャリッジモーター35が空走時と逆方向に駆動され、キャリッジ21の空走により中止した回の走査で行うはずであった印刷をやり直す加速開始位置までキャリッジ21を戻す。キャリッジ21が加速開始位置に戻って停止すると、次にキャリッジモーター35が印刷をやり直す方向に駆動され、キャリッジ21が加速開始位置から加速しその移動途中で記録ヘッド23がインク滴を噴射することで印刷がやり直しされる。
また、主制御部80は、給紙以外で重ね合わせ制御が行われるモード(本例ではAC電源モード)では、電圧降下検出後、設定部82に重ね合わせ制御の禁止の旨の例えばフラグを設定する。このため、図10及び図11に示すように、電圧降下から復帰した後は、重ね合わせ制御が禁止される。また、給紙以外で重ね合わせ制御が行われないモードでは、電圧降下検出後、設定部82にモーター低速度設定の旨の例えばフラグを設定する。このモードには、本例では、バッテリーモードと、重ね合わせ制御禁止後のAC電源モードとが該当する。
図9の例では、バッテリーモード時は給紙以外で重ね合わせ制御を行わないが、重ね合わせ制御を行う構成とすることもできる。この場合、電圧降下がバッテリーモードで発生して設定部82に重ね合わせ制御禁止の旨やモーター低速設定の旨等の設定内容を設定した場合、その設定内容はAC電源モードに切り換わるまでは維持するようにする。その後、AC電源モードに切り換わると、主制御部80は設定部82の設定内容のうち電圧降下検出時に設定した設定内容をリセットする。このため、重ね合わせ制御が復帰するとともにモーター低速設定が解除される。なお、バッテリーモードでバッテリー28の残量が閾値よりも低いときに電圧降下が検出されてモーター低速設定がなされた場合、バッテリーが例えば満充電まで充電されて残量が設定値以上になればモーター低速設定を解除する構成としてもよい。
例えばAC電源モードでプリンター11の駆動中に電源プラグ27aがコンセントから引き抜かれると、ACアダプター27の接続が検出されなくなるため、バッテリーモードに移行する。そのとき給紙中であれば、その給紙はバッテリーモードに切り換わっても最後までAC電源モード時の条件(図9(a))で高速に行われる。また、そのときキャリッジモーター35の駆動を伴う重ね合わせ制御が行われていると、その重ね合わせ制御はバッテリーモードに切り換わってもそのときの回のキャリッジ21の走査を終えるまでは維持される。これらの場合、モーター35,41,42の総消費電力がバッテリー28の供給電力を超えて電圧降下が検出されたとき、バッテリーモードではあるが、制御上は電圧降下が検出された際の印刷条件でその後のモーターの制御内容を判断する。前述の例のようにバッテリーモード時でもキャリッジモーター35の駆動を伴う重ね合わせ制御を行う構成とした場合は、バッテリーモードで電圧降下が検出されても、そのときの印刷条件は重ね合わせ制御を伴う高速印刷モードなので、この場合、電圧降下検出後に重ね合わせ制御が禁止される。もっとも本実施形態の例では、図9(b)に示すようにバッテリーモードは元々重ね合わせ制御が禁止されているうえモーター35,41,42の駆動速度が低速に設定されているので、AC電源モード中の電源プラグ27aの引き抜き時は、電圧降下検出された後はバッテリーモード時の制御内容が採用される。
次にプリンター11の作用を説明する。以下、図12を参照して、コンピューター52が制御プログラムを実行することで行われる印刷制御について説明する。コンピューター52は、印刷データの受信又は操作部15の操作により印刷実行命令を受け付けると、指定された印刷条件から印刷モードを取得するとともに、コンピューター52の主制御部80は、モード管理部91によりAC電源モードかバッテリーモードかを判定する。主制御部80は、印刷モードと電源モードとの組合せに応じた印刷条件を設定部82に設定し、モーター制御部81に設定内容に応じた印刷制御を指令する。コンピューター52は、図12で示される印刷制御プログラムを実行し、記録ヘッド23及びモーター35,41,42を駆動制御する。なお、以下の説明では、AC電源モード時の印刷制御を例にする。
印刷が開始されると、図9〜図11に示すように、まず給送過程で給送モーター41及び搬送モーター42が駆動され、給送トレイ16上の用紙Pが給送ローラー20の回転及び搬送ローラー対43の回転により搬送方向Yに印刷開始位置まで給送される。また、印刷中は、キャリッジモーター35の駆動によりキャリッジ21が走査方向Xに移動しその移動途中で記録ヘッド23からインク滴が噴射される走査動作と、用紙Pを次の印刷位置(走査位置)まで搬送(紙送り)する搬送動作とが動作時期を一部重ね合わせた状態で略交互に行われ、用紙Pへの印刷が進められる。給紙中のASF・PF重ね合わせ制御と、用紙Pの給送終期とキャリッジ21の走査初期とが同時期に重なるASF・CR重ね合わせ制御と、印刷動作中のCR・PF重ね合わせ制御とにおいては、モーター35,41,42のうち二つ以上のモーターが同時期に駆動されるため、そのとき駆動中のモーターの総消費電力が相対的に高くなる。このように給紙から排紙までの印刷中において、コンピューター52は、図12に示す印刷制御プログラムを所定サイクルタイム毎に実行する。
まずステップS11では、電圧降下が検出されたか否かを判断する。AC電源部とバッテリー28との合流点51cとモーター駆動回路55〜57との間における電源線上の所定位置で電圧を検出するセンサー74からの検出電圧Vdに基づいて電圧降下が検出されたか否かを判断する。この判断は検出部92が行う。検出部92は、検出電圧Vdが閾値Vshを下回ると、電圧降下が検出されたと判断する。電圧降下が検出されればステップS12に進み、電圧降下が検出されなければ当該ルーチンを終了する。
ステップS12では、複数のモーターが駆動中であるか否かを判定する。この判定処理は判定部93が行う。モーター制御部81は、現在駆動中のモーター数を把握しているので、判定部93はモーター制御部81からのこの情報に基づいてこの判定を行う。複数のモーターが駆動中であればステップS13に進み、複数のモーターが駆動中でなければ、つまり駆動中のモーターが一つであればステップS25に進む。なお、駆動中のモーターが無い場合は、当該ルーチンを終了する。
ステップS25ではモーターを停止し、次のステップS26においてエラー報知を行う。エラー報知では、例えば表示部14にエラーメッセージを表示させるが、音声や音等でエラー発生の旨を報知してもよい。一つのモーターが駆動されているだけで、電圧降下が検出された場合は何らかの異常の可能性が高いので、印刷は中止し、その旨をユーザーに報知する。
一方、複数のモーターが駆動中の場合は、ステップS13において、給搬送系のモーターを停止させる。駆動中のモーターが複数の場合、図8に示す参照テーブルTD2で示されるように4通りの組合せがある。モーター制御部81は、現在指令中のシーケンスから駆動中のモーターの組合せを把握できるので、給搬送系のモーター41,42のうち駆動中と把握した少なくとも一方のモーターを停止させる。例えば電圧降下が給紙中に発生した場合は、給搬送系のモーター41,42の二つが駆動中にあって、キャリッジモーター35は駆動されていない。この場合、モーター制御部81は、図8に示す参照テーブルTD2を参照して給搬送系のモーター41,42を停止させる。また、給送動作の終期とキャリッジ21の1パス目の走査動作の印刷開始の前の期間とが一部重ね合せて実施されるASF・CR重ね合せ制御の実行中であった場合、キャリッジモーター35と給送モーター41と搬送モーター42との三つが駆動中である。この場合、モーター制御部81は、図8に示す参照テーブルTD2を参照して給送モーター41と搬送モーター42を停止させる。さらに給紙終了後の印刷中で、用紙Pを次の印刷位置まで送る搬送動作とキャリッジ21の走査動作とを各々の終期と初期とを一部重ね合せるCR・PF重ね合せ制御の実行中であった場合、キャリッジモーター35と搬送モーター42とが駆動中である。この場合、モーター制御部81は、図8に示す参照テーブルTD2を参照して搬送モーター42を停止させる。
次のステップS14では、キャリッジモーター35が駆動中であるか否かを判定する。キャリッジモーター35が駆動中であればステップS15に進み、キャリッジモーター35が駆動中でなければステップS19に進む。
ステップS15では、記録ヘッドを停止させる。この記録ヘッド23の停止処理は、これから実施する予定であった記録ヘッド23からインクを噴射する1走査分の印刷を中止する処理である。キャリッジモーター35の駆動中に電圧降下が検出される可能性が高い場合としては、ASF・CR重ね合せ制御とCR・PF重ね合せ制御とがある。ASF・CR重ね合せ制御の場合は、記録ヘッド23がインク滴を噴射する1走査分の印刷動作の開始前のタイミングなので、ヘッド制御部84が記録ヘッド23による1走査分の印刷動作を事前に中止する。一方、CR・PF重ね合せ制御の場合は、キャリッジ21の走査動作のうち1走査分の印刷動作開始前の初期に重ね合わされる場合と、1走査分の印刷動作終了後の終期に重ね合わされる場合とがある。前者の場合、記録ヘッド23がインク滴を噴射する1走査分の印刷動作開始前のタイミングになるので、ヘッド制御部84が記録ヘッド23による1走査分の印刷動作を事前に中止する。一方、後者の場合、その回(パス)の1走査分の印刷動作は既に終了しているが、ヘッド制御部84は記録ヘッド23を停止させる指令のみ行い、キャリッジ21の目標位置までの残りの距離の移動が継続される。このステップS15の処理によって、前述の後者の場合を除き、記録ヘッド23による1走査分の印刷動作は中止されるものの、キャリッジモーター35の駆動は継続される。この結果、キャリッジ21はインク滴の噴射が行われない状態で加速開始位置から目標位置まで空走する。
ステップS16では、キャリッジモーター35が停止したか否かを判断する。つまり、キャリッジ21が目標位置までの移動を終了したか否かを判断する。キャリッジモーター35が停止していなければ、キャリッジ21が目標位置まで移動して駆動が停止されるまでキャリッジモーター35の駆動状況の監視を継続し、一方、キャリッジモーター35が停止してキャリッジ21が目標位置に停止すればステップS17に進む。
ステップS17では、印刷中であるか否かを判定する。つまり、給紙中であるか印刷中であるかを判定する。ここで、印刷中とは、用紙Pに印刷が行われている印刷途中の状態を指す。また、給紙中とは、用紙Pを印刷開始位置まで給送する過程にあることを示す。この給送中には、ASF・CR重ね合わせ制御の実施時期も含まれる。印刷中でなければ(つまり給紙中であれば)ステップS18に進み、印刷中であればステップS19に進む。
ステップS18では、白紙排出を行う。すなわち、用紙Pを白紙のまま排出(排紙)する。この処理は、モーター制御部81が搬送モーター42を駆動して回転する搬送ローラー対43及び排出ローラー対44によって用紙Pを搬送方向Y下流側へ搬送することにより行われる。ユーザーは、給送トレイ16上に用紙Pが無い場合は、例えば白紙排出された用紙Pを給送トレイ16にセットする。
一方、ステップS19では、用紙を目標位置まで搬送する。すなわち、印刷中に行われるCR・PF重ね合わせ制御の途中で電圧降下が検出されたために搬送モーター42の駆動が停止された場合、用紙Pが次の印刷位置である目標位置まで搬送される途中で停止されてしまう。そのため、停止した用紙Pを当初の目標位置まで搬送する。この処理はモーター制御部81が搬送モーター42を駆動させ、用紙Pをその停止位置から目標位置までの残りの搬送量だけ搬送させることにより行われる。
次のステップS20では、キャリッジを加速開始位置に戻す。すなわち、キャリッジ21の空走により中止した1走査分の印刷動作をやり直すために、その中止した1走査分の印刷動作の加速開始位置までキャリッジ21を戻す。この処理は、モーター制御部81がキャリッジモーター35を駆動させて、キャリッジ21を目標位置から加速開始位置まで戻すことにより行われる。
ステップS21では、電源モードを判定する。この判定は判定部93が行う。電源モードがAC電源モードであればステップS22に進み、バッテリーモードであればステップS23に進む。
ステップS22では、重ね合わせを禁止する。すなわち、ASF・CR重ね合わせ制御とCR・PF重ね合わせ制御を禁止する。ここで、バッテリーモード時はこれらの重ね合わせ制御は元々設定されていないので、ACモード時を対象としている。この処理は、主制御部80が設定部82に重ね合わせ禁止の旨の設定値(例えばフラグ)を設定することにより行う。また、重ね合わせ制御が禁止された場合、給送モーター41と搬送モーター42との重ね合わせ制御は用紙Pを給送するうえで必須なので行うが、両モーター41,42の駆動開始時期をバッテリーモード時と同様にずらすことで双方の電流ピーク時期をずらすようにしている。なお、AC電源モードで電源プラグ27aがコンセントから引き抜かれたことによってそのとき実施中の動作(給紙動作、送り動作又は走査動作)を終了する前に電圧降下が検出された場合は、その動作がAC電源モード時の動作なので、AC電源モードと判定される。
ステップS23では、モーター低速設定を行う。すなわち、主制御部80が設定部82にモーター速度を通常のバッテリーモード時の低速設定よりもさらに低速な速度設定を行う。なお、バッテリーモードで複数のモーターが駆動されるのはASF・PF重ね合わせ制御だけなので、少なくともASF・PF重ね合わせ制御の際に駆動されるモーター41,42の駆動速度をさらなる低速に設定する。
そして、ステップS24では、印刷動作を再開する。例えば印刷中に電圧降下が検出されて印刷が中断された場合は、キャリッジ21が走査動作をやり直すところから印刷が再開される。これにより、用紙Pに中止された1走査分の印刷の続きから印刷が施される。また、例えば給紙中に電圧降下が検出されて給紙が中断された場合は、給送トレイ16上の用紙Pの給送から印刷がやり直される。
これらの再開された印刷動作中においても、図12に示すルーチンが実行される。再開されたAC電源モード時の印刷においては、ASF・PF重ね合わせ制御時の電流ピークがずれるようにモーター41,42がそれぞれの駆動開始時期をずらして駆動されるうえ、ASF・CRとCR・PFの各重ね合わせ制御が禁止される。このため、電圧降下は検出されない。また、バッテリーモード時は、ASF・PF重ね合わせ制御におけるモーター41,42が通常のバッテリーモード時の設定速度よりも低速に駆動されるため、同様に電圧降下は検出されない。
また、電圧降下が発生し易い状況として、AC電源モード時に電源プラグ27aが商用電源30のコンセントから引き抜かれたときが挙げられる。AC電源モードでは、給紙が高速の駆動速度でモーター41,42が駆動されてASF・PF重ね合わせ制御が行われる。また、AC電源モードでは、高速の駆動速度でモーター35,41,42が駆動されてASF・CR重ね合わせ制御が行われる。さらにAC電源モードでは、印刷動作においてモーター35,42が高速の駆動速度で駆動されてCR・PF重ね合わせ制御が行われる。このような複数のモーターが同時にしかも高速に駆動されるAC電源モードにおいて、電源プラグ27aが商用電源30のコンセントから引き抜かれ、電源がAC電源からバッテリー28に切り換わると、プリンター11の総消費電力がバッテリー28の供給電力を上回り、電圧降下が検出される。このとき給搬送系のモーター41,42の駆動が停止されるので、降下した電圧は元の正常な電圧値に復帰する。この結果、プリンター11のシステムダウンが回避される。
また、このときキャリッジモーター35が駆動されていても、記録ヘッド23による1走査分の印刷が中止されるだけでキャリッジモーター35の駆動は継続され、キャリッジ21は目標位置まで空走する。例えばキャリッジモーター35が即座に停止されると、搬送ローラー対43や排出ローラー対44に比べ慣性の大きなキャリッジ21の停止時に、比較的大きな停止衝撃が発生する。この停止衝撃によるキャリッジ21の駆動系の構造物(部品)の破損や、衝撃音による騒音などが問題となる。しかし、本実施形態のプリンター11によれば、電圧降下の検出時にキャリッジ21はそのまま空走し、目標位置に減速過程を伴って停止するため、この種の大きな停止衝撃に起因する問題が発生しない。また、搬送ローラー対43等は急停止されるが、前述のようにローラーの慣性が小さいので、停止衝撃は比較的小さく済む。
なお、給紙中の中断時は白紙排出を行ったが、給送経路の途中で停止した用紙Pが紙検出センサー48に検出される前の位置にあれば、白紙排出をせず、その給紙中断位置から給送動作を再開する構成としてもよい。この場合、後続の用紙Pが給送トレイ16にセットされていなくても、給紙を中断した用紙Pをそのまま給紙の続きから印刷を再開できる。そして、給送経路の途中で停止した用紙Pが紙検出センサー48に検出された後の位置にあれば、給送ローラー20及び搬送ローラー対43の回転の急停止によりコンピューター52が把握する用紙Pの位置精度が低い虞があるので、給紙を最初からやり直して用紙の検出位置精度を高めたうえで、用紙Pに印刷をする。
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)搬送機構を駆動させる動力源となる給送モーター41と搬送モーター42とのうち少なくとも一方の駆動時に、電圧降下が検出されると、給搬送系のモーター41,42を停止させる一方、そのときキャリッジ21が駆動している場合は、キャリッジモーター35の駆動を継続することでキャリッジ21のその回の走査は継続する。よって、キャリッジ21の停止衝撃を抑えつつシステムダウンを回避できる。
(2)AC電源とバッテリー28とを電源として切り換え可能な電源装置51を備える。給送モーター41及び搬送モーター42の駆動時に電源プラグ27aがコンセントから引き抜かれると、AC電源からバッテリー28に電源が切り換わる。しかし、電源がバッテリー28に切り換わっても、少なくとも1回の走査はそれまでのAC電源モード時の高速モードで重ね合わせ制御が行われる。しかし、電圧降下が検出されれば、そのときキャリッジ21が駆動されている場合は、キャリッジモーター35の駆動を継続してキャリッジ21のその回の走査を継続し、給送モーター41及び搬送モーター42は停止させる。よって、電圧降下が検出されても、キャリッジ21の停止衝撃を抑えつつシステムダウンを回避できる。
(3)キャリッジモーター35の記録ヘッド23による印刷が開始される前の期間での駆動と、給搬送系のモーター41,42の駆動との駆動時期の一部が重ね合わされるASF・CR重ね合わせ制御を行う。このASF・CR重ね合わせ制御時に、キャリッジモーター35の駆動を継続してキャリッジ21を記録ヘッド23の印刷をせずに空送させ、給搬送系のモーター41,42は駆動を停止させる。よって、ASF・CR重ね合わせ制御時に電圧降下が検出されても、キャリッジ21の停止衝撃を抑えつつシステムダウンを回避できる。
(4)キャリッジモーター35の記録ヘッド23の印刷が開始される前の期間での駆動と、搬送モーター42の駆動との駆動時期が一部重ね合わされるCR・PF重ね合わされる制御時に、記録ヘッド23による印刷は行わずにキャリッジモーター35の駆動を継続してキャリッジ21をそのときの回は空走させ、搬送モーター42の駆動は停止させる。よって、CR・PF重ね合わされる制御時に電圧降下が検出されても、キャリッジ21の停止衝撃を抑えつつシステムダウンを回避できる。
(5)キャリッジ21を空走させた後、キャリッジ21は空走した走査経路を引き返し、前回の走査で行うはずであった印刷のための走査をやり直しできる加速開始位置まで移動する。そして、キャリッジ21の加速開始位置からの走査をやり直して前回は空走のため中止した記録ヘッド23による印刷を実施する。このため、キャリッジ21の空走により印刷を中止しても、その中止した印刷を速やかに再開できる。
(6)給搬送系のモーター41,42とキャリッジモーター35との駆動時期が一部重ね合わされる重ね合せ制御が実施されるモードでプリンター11が駆動される。この重ね合せ制御が実施されるモードでのプリンター11が駆動中に電圧降下が検出されると、その電圧降下検出時における電源がバッテリー28であった場合は、この電圧降下検出後は、電源がAC電源に切り換わるまでは、キャリッジ21の次回の走査からは重ね合わせ制御は実施しない。よって、電圧降下検出時のエラーが繰り返し発生することを抑制できる。
(7)コンピューター52は、重ね合わせ制御が実施されるモードでのプリンター11の駆動中に電圧降下が検出されたときの電源がバッテリー28であった場合は、電源がAC電源に切り換わるまでは、キャリッジ21の次回の走査からは各モーター35,41,42の駆動時期を一部重ね合わせる重ね合わせ制御を実施しない。よって、電圧降下検出時のエラーが繰り返し発生することを抑制できる。
(8)コンピューター52は、電圧降下の検出後、各モーター35,41,42を駆動させる速度モードを、電圧降下の検出前よりも低速な低速モードに設定するため、電圧降下検出時のエラーが繰り返し発生することを抑制できる。
(9)コンピューター52は、電圧降下検出時に用紙Pへの記録ヘッド23による印刷がなされていなければ、用紙Pを排出する。用紙Pの給送からやり直しされるので、用紙Pが給送途中に停止するエラーに起因する位置ずれの虞があるまま印刷がなされることに起因する印刷精度の低下を回避できる。
(10)コンピューター52は、電圧降下検出時に用紙Pへの記録ヘッド23による印刷が既になされている場合は、用紙Pを排出することなくキャリッジ21の空走により中止した印刷動作から再開する。用紙Pにそれまでに印刷された印刷の続きから印刷が再開されるため、用紙及びインクが無駄にならない。
(11)コンピューター52は、AC電源を電源とするAC電源モードであるかバッテリーを電源とするバッテリーモードであるかを判断し、AC電源モードであれば重ね合わせ制御を行うモードでプリンター11を駆動させる。よって、AC電源モードでは印刷のスループットが向上する。一方、バッテリーモードであれば重ね合わせ制御を行わないモードでプリンター11を駆動させる。よって、AC電源モード時に比べ印刷のスループットの向上は望めないものの、電圧降下検出時のエラーの発生頻度を低減できる。
(12)コンピューター52は、AC電源とバッテリー28との各出力の合流点51cと、モーター駆動回路55〜57への電流の入力点との間における電源線上の電圧を監視することにより電圧降下の検出を行う。このため、各モーター35,41,42の電圧を個々に監視する必要がなく、一箇所の電圧を監視するだけで済む。
なお、上記実施形態は以下のような形態に変更することもできる。
・電圧降下検出時にキャリッジモーター35の駆動を継続させた場合、キャリッジ21を目標位置まで移動させることに限定されない。例えばキャリッジ21を目標位置よりも手前で停止させてもよい。この場合、例えばキャリッジモーター35の駆動は継続させるものの電圧降下検出とほぼ同時に減速過程に移行し、キャリッジ21を目標位置に停止させるときと同様の減速を伴って目標位置よりも手前の位置に停止させてもよい。また、キャリッジ21が目標位置に向かう進行方向において目標位置よりも遠くの位置までキャリッジ21を移動させてもよい。例えば、キャリッジ21を記録ヘッド23が用紙Pと干渉しない位置まで移動させてもよい。こうすれば、例えば白紙排出される際の用紙Pが記録ヘッド23に擦れる事態を回避できる。
・AC電源とバッテリーとを切り換え可能な電源装置を備えた走査装置において、商用電源のコンセントからの電源プラグ27aの引き抜きを検出して電圧降下を間接的に検出してもよい。制御部は、プラグがコンセントから引き抜かれたことによるAC電源の遮断を検出したときに、給搬送系のモーター41,42とキャリッジモーター35とのうち複数のモーターが駆動されている場合は、給搬送系のモーターの駆動は停止させ、キャリッジモーター35の駆動は継続してキャリッジ21の移動を継続させる。このようにプラグのコンセントからの引き抜きをもって電圧降下を間接的に検出する構成でも、走査装置のシステムダウンを防止できるうえ、キャリッジ21の停止衝撃を抑制できる。
・キャリッジモーター35が駆動される重ね合わせ制御として、ASF・CR重ね合わせ制御「CR+ASF+PF」とCR・PF重ね合わせ制御「CR+PF」とのうち一方のみを採用してもよい。
・第1モーターを、給送モーター41と搬送モーター42との二つ備える構成に替え、給送系と搬送系で共通の一つのモーター(例えば搬送モーター)としてもよい。
・AC電源とバッテリー28のうち一方のみを電源として使用可能な走査装置でもよい。例えばAC電源のみを電源として使用可能な印刷装置、又はバッテリーのみを電源として使用可能な印刷装置でもよい。なお、AC電源で駆動可能な走査装置の場合、ACアダプター27に替え、商用電源からの交流を直流に変換する変換部が装置本体12に内蔵された構成でもよい。
・制御部を構成する各機能部は、プログラムを実行するCPUによりソフトウェアで実現したり、ASIC等の電子回路によりハードウェアで実現したり、ソフトウェアとハードウェアとの協働により実現したりしてもよい。
・印刷装置は、用紙P等の媒体に印刷できるものであれば、インクジェット式プリンター、ドットインパクトプリンターやレーザープリンターであってもよい。また、印刷装置は、印刷機能だけを備えたプリンターに限定されず、複合機であってもよい。さらに、印刷装置は、キャリッジを備えた構成であればよい。
・媒体は用紙に限定されず、樹脂製のフィルム、金属箔、金属フィルム、樹脂と金属の複合体フィルム(ラミネートフィルム)、織物、不織布、セラミックシートなどであってもよい。
・走査装置は、走査部の一例である記録ヘッドをキャリッジで走査させて媒体に印刷する印刷装置に限定されない。例えばスキャナー装置でもよい。例えば媒体の一例である原稿を給送する給送機構(例えば原稿給送装置(オートドキュメントフィーダー))を備え、給送された原稿に対して走査部(例えばラインセンサー)を走査させて原稿を読み取るスキャナー装置であってもよい。この種のスキャナー装置であっても、媒体(原稿)を給送のための給送モーターの駆動と、走査部を有するキャリッジの走査のためのキャリッジモーターの駆動とを駆動時期の一部を重ね合わせる重ね合わせ制御が行われる構成の場合、同様の作用効果を得ることができる。なお、スキャナー装置の場合、給送機構が搬送機構の一例に相当する。