JP2015185514A - セパレーターを作製するための組成物およびセパレーター、ならびに蓄電デバイス - Google Patents

セパレーターを作製するための組成物およびセパレーター、ならびに蓄電デバイス Download PDF

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Abstract

【課題】電解液の浸透性および保液性に優れると共に、蓄電デバイスの内部抵抗の上昇を抑制できるセパレーター、該セパレーターを作製するための組成物および該セパレーターを備えた蓄電デバイスを提供する。【解決手段】本発明に係る組成物は、蓄電デバイスの正極および負極の間に配置されるセパレーターを作製するための組成物であって、重合体(A)と、重合体(B)と、を含有し、前記重合体(A)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が15質量部以下であり、前記重合体(B)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が20質量部以上100質量部以下であることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、蓄電デバイスに使用可能なセパレーターを作製するための組成物およびセパレーター、ならびに該セパレーターを備えた蓄電デバイスに関する。
近年、電子機器の駆動用電源として高電圧、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。特にリチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタは、高電圧、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスとして期待されている。
このような高電圧・高エネルギー密度を有する蓄電デバイスは、さらに小型化も要求されている。蓄電デバイスの小型化を達成するためには、正極や負極等の発電要素の薄膜化だけではなく、正極と負極を隔離するセパレーター等の薄膜化も必須となる。しかしながら、蓄電デバイスの小型化によって正極と負極の間隔が狭まると短絡が発生しやすくなるという問題が生じ得る。
短絡や過充電などの異常時には、蓄電デバイスの高電圧・高エネルギー密度化に伴い従来以上に過剰な発熱に至る危険性が大きい。そのため蓄電デバイスには異常時でも安全を確保するための手段が数種施されており、その中の一つにセパレータのシャットダウン機能がある。シャットダウン機能とは、なんらかの要因で電池の温度が上昇した際に、セパレータの孔が閉塞し、イオンの移動を阻止することにより電池反応を停止させ、過剰な発熱を抑制する機能である。特にリチウムイオンのような金属イオンを利用する蓄電デバイス用セパレータとしてポリエチレン多孔膜が多用されている理由の一つにこのシャットダウン機能に優れている点が挙げられる。しかしながら、蓄電デバイスの高電圧・高エネルギー密度化に伴い、異常発熱時の発熱量が大きくなり、急激に高温に至る場合やシャットダウン後の放熱に時間を要し長時間高温状態が維持される場合がある。そのような場合には、セパレータは収縮又は破膜して正負極間が短絡し、さらなる発熱を引き起こす危険性がある。
このような現象を避けるため、例えば特許文献1や特許文献2では、重合体と無機粒子を溶融混練して多孔質セパレーターを形成することで、電池特性を改良する技術が検討されている。一方、特許文献3では多孔性保護膜を正極および負極の少なくとも一方の表面に形成することで、電池特性を改良する技術が検討されている。また、特許文献4では、重合体と無機粒子を用いて多孔質層をセパレーター基材上に形成することで、電池特性を改良する技術が検討されている。
国際公開第2006/025323号 特開2008−2114425号公報 特開2009−54455号公報 国際公開第2010/074202号
しかしながら、上述の特許文献1、2に記載されているような無機粒子を用いた従来技術によれば、セパレーターや電極表面にセパレーターを形成することにより充放電に伴って発生するデンドライトに起因する短絡を抑制できるものの、樹脂中に無機粒子を均質に分散させることが困難であるため無機粒子の凝集が発生しやすく、広い面積にわたり均質なセパレーターを作成することが困難である。その結果、充放電に伴う劣化がセパレータ間や、同一セパレーター面内で不均一に進行してしまい、充放電特性が劣化してしまうという問題があった。また、上述の特許文献3、4によれば、セパレーターや電極の表面に多孔膜を積層するため、充放電に伴う劣化が原因で剥落する危険性があり、長期間にわたる安全性確保が困難であった。
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、前記課題を解決することで、電解液の浸透性および保液性に優れると共に、セパレーターの不均質に起因する局所的なセパレーターの劣化を抑制することのできるセパレーター用組成物を提供し、充放電に伴う蓄電デバイスの充放電特性の劣化を抑制できるセパレーターおよび該セパレーターを備えた蓄電デバイスを提供するものである。
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
[適用例1]
本発明に係る蓄電デバイスの正極と負極との間に配置されるセパレーターを作製するための組成物の一態様は、
重合体(A)と、重合体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が15質量部以下であり、
前記重合体(B)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が20質量部以上100質量部以下であることを特徴とする。
[適用例2]
適用例1の組成物において、
前記重合性不飽和基を二つ以上有する化合物が、多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族多官能ビニル化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることができる。
[適用例3]
適用例1または適用例2の組成物において、
前記重合体(B)が、不飽和カルボン酸エステル(重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)に由来する繰り返し単位と、芳香族ビニル化合物(重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)に由来する繰り返し単位と、をさらに含有することができる。
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例の組成物において、
前記重合体(B)が空孔を有する粒子であることができる。
[適用例5]
本発明に係る蓄電デバイスの正極と負極との間に配置されるセパレーターを作製するための組成物の一態様は、
重合体(A)と、重合体(B)と、を含有し、
前記重合体(B)が空孔を有する粒子であることを特徴とする。
[適用例6]
適用例5の組成物において、
前記重合体(B)が、重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位と、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)と、芳香族ビニル化合物(重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)に由来する繰り返し単位と、を含有することができる。
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか一例の組成物において、
前記重合体(A)と前記重合体(B)の合計100質量部に対して、前記重合体(B)を20質量部以上60質量部以下含有することができる。
[適用例8]
適用例4ないし適用例7のいずれか一例の組成物において、
前記重合体(B)の平均粒子径(Db)が100nm以上3000nm以下であることができる。
[適用例9]
適用例1ないし適用例8のいずれか一例の組成物において、
前記重合体(B)のトルエンに対する不溶分が90%以上であり、かつ空気雰囲気下での熱重量分析において20℃/分で加熱したときの10%減量温度が320℃以上であることができる。
[適用例10]
本発明に係るセパレーターの一態様は、
適用例1ないし適用例9のいずれか一例の組成物を用いて作製されることを特徴とする。
[適用例11]
本発明に係る蓄電デバイスの正極と負極との間に配置されるセパレーターの一態様は、
重合体(A)と、重合体(B)と、を含有し、
JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、80〜+160℃の温度範囲における吸熱ピークが1つ観測され、かつ300℃以上の温度範囲における吸熱ピークが1つ観測されることを特徴とする。
[適用例12]
本発明に係る蓄電デバイスの一態様は、
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置された適用例10または適用例112のセパレーターと、電解液と、を備えることを特徴とする。
本発明に係る蓄電デバイスの正極と負極との間に配置されるセパレーターを作製するための組成物(以下、「セパレーター形成用組成物」ともいう。)を用いて作製されたセパレーターを備える蓄電デバイスによれば、電解液の浸透性および保液性に優れると共に、内部抵抗の上昇を抑制することができる。すなわち、本発明に係る蓄電デバイスは、充放電の繰り返しまたは過充電によっても蓄電デバイスの内部抵抗が上昇する程度が少ないため、充放電特性に優れる。なお、前記セパレーターは、正極と負極との間に配置されるので、充放電に伴って発生するデンドライドに起因する短絡を抑制することもできる。
本発明に係るセパレーター形成用組成物は、さらに耐酸化性にも優れるから、蓄電デバイスの正極に相対するセパレーターを形成するために特に好適に用いることができる。
合成例15で得られた重合体(B)のTGAチャートである。 本発明の実施例と比較例における評価セルの断面構造を示す説明図である。
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
1.セパレーターを作製するための組成物
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物の第一の態様は、重合体(A)と、重合体(B)と、液状媒体と、を含有し、前記重合体(A)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が15質量部以下であり、前記重合体(B)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物の含有量が20質量部以上100質量部以下であることを特徴とする。
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物の第二の態様は、重合体(A)と、重合体(B)と、液状媒体と、を含有し、前記重合体(B)が空孔を有する粒子であることを特徴とする。
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、重合体(A)と、重合体(B)と、を含有し、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、80〜160℃の温度範囲における吸熱ピークが少なくとも1つ、300℃以上の温度範囲における吸熱ピークが少なくとも一つ観測されることを特徴とする。
また、上記事情に鑑みて検討を重ねた結果、上述の吸熱特性を示すセパレーター形成用組成物から作製されたセパレーターが蓄電デバイスの内部抵抗を上昇させず、抵抗上昇率を小さくできることを見出したため、本願発明に到ったのである。
以下、本発明のセパレーター形成用組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。以下の説明における「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する概念である。「(メタ)アクリロニトリル」等の類似用語も、これと同様に理解されるべきである。
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は重合体(A)と重合体(B)とを混合して作製された混合物であってもよい。
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、80〜+160℃の温度範囲における吸熱ピークが1つ観測され、かつ300℃以上の温度範囲における吸熱ピークが1つ観測されることができる。
1.1.重合体(A)
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、前記重合体(A)を含有し、重合体(A)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が15質量部以下であればよいが、5質量部以下であることが好ましく、0質量部、すなわち実質的に含有しないことがより好ましい。重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位が前記範囲であると、重合体(A)の柔軟性が高くなり、重合体粒子同士の密着性や、セパレーターおよび電極との接着性が良好になるため好ましい。上記重合体(A)は、後述する重合体(B)同士を密着させるバインダーとして機能し、さらに、セパレーターと電極を密着させるバインダーとして機能することもできる。
本発明において使用することのできる重合体(A)とは、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用する重合体(A)を使用すること、ポリオレフィンを好ましく使用することができ、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のホモ重合体、共重合体、多段重合体等を使用することができる。また、これらのホモ重合体、共重合体、及び多段重合体の群から選んだポリオレフィンを単独、又は混合して使用することもできる。前記重合体の代表例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。本発明のセパレーターを電池セパレータとして使用する場合、低融点樹脂であり、かつ高強度であることへの要求性能から、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましい。
本発明において使用することのできる重合体(A)の粘度平均分子量は、好ましくは5万以上1200万未満、さらに好ましくは5万以上200万未満、よりさらに好ましくは5万以上100万未満、最も好ましくは10万以上50万未満である。粘度平均分子量が5万以上であれば、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が向上しやすい上に、膜に高分子鎖の十分な絡み合いを付与しやすく高強度となりやすい。粘度平均分子量が1200万以下であれば、均一な溶融混練を得やすい傾向があり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向がある。さらに粘度平均分子量が100万未満であれば、電池用セパレータとして使用した場合に、重合体(B)を20〜60質量%と大量に含有しているにも関わらず溶融粘度が低いために、温度上昇時に孔を閉塞しやすく良好なシャットダウン機能が得られやすい。使用するポリオレフィンは、例えば、単独で粘度平均分子量100万未満のポリオレフィンを使用する代わりに、粘度平均分子量が200万のポリエチレンと27万のポリエチレンの混合物とし、混合物の粘度平均分子量を100万未満としてもよい。
なお、本発明で使用される重合体(A)には、本発明の利点を損なわない範囲で必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の添加剤を混合することができる。
さらに粘度平均分子量が100万未満のポリオレフィンと併用すれば、重合体(B)の含有量が60質量%以下であれば、より良好なシャットダウン性能も得られる。良好なシャットダウンとは、例えばシャットダウン温度が150℃以下である。
以下、重合体(A)に含有される繰り返し単位を構成する単量体、重合体(A)の態様および製造方法等に関して詳述する。
1.1.1.重合性不飽和基を二つ以上有する化合物
重合性不飽和基を二つ以上有する化合物としては、特に制限されないが、例えば多官能(メタ)アクリル酸エステル、芳香族多官能ビニル化合物等が挙げられる。
多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば下記一般式(2)で表される化合物、多価アルコールの(ポリ)(メタ)アクリル酸エステルおよびその他の多官能性単量体が挙げられる。
(上記一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは重合性の炭素−炭素不飽和結合、エポキシ基および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、炭素数1〜18の有機基である。)
上記一般式(2)中のRの好ましい具体例としては、例えばビニル基、イソプロペニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、グリシジル基、ヒドロキシアルキル基等を挙げることができる。
なお、本願発明において「多官能(メタ)アクリル酸エステル」とは、(メタ)アクリロイル基を二以上有する(メタ)アクリル酸エステルの他、(メタ)アクリロイル基を一つ有し、さらに重合性の炭素−炭素不飽和結合、エポキシ基、および水酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルも含まれる。
多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、等を挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。これらのうち、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパンおよび(メタ)アクリル酸アリルよりなる群から選択される少なくとも1種以上であることが好ましく、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコールであることが特に好ましい。上記例示した多官能(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
芳香族多官能ビニル化合物としては、例えば下記一般式(2)で表される化合物を好ましく使用することができる。
(上記一般式(3)中、複数存在するRはそれぞれ独立に、重合性の炭素―炭素不飽和結合を有する有機基であり、複数存在するRはそれぞれ独立に、炭素数1〜18の炭化水素基である。nは2〜6の整数であり、mは0〜4の整数である。)
上記一般式(3)中のRとしては、例えば炭素数2〜12のビニレン基、アリル基、ビニル基、イソプロペニル基等を挙げることができ、これらの中でも炭素数2〜12のビニレン基であることが好ましい。上記一般式(3)中のRとしては、例えばメチル基、エチル基等を挙げることができる。
芳香族多官能ビニル化合物としては、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン等の芳香族ジビニル化合物が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらのうち、ジビニルベンゼンであることが好ましい。上記例示した芳香族多官能ビニル化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
1.1.2.フッ素原子を有する単量体
上記重合体(A)は、フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。フッ素原子を有する単量体としては、例えばフッ素原子を有するオレフィン化合物、フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。フッ素原子を有するオレフィン化合物としては、例えばフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。フッ素原子を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸3[4[1−トリフルオロメチル−2,2−ビス[ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル]エチニルオキシ]ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
上記一般式(4)中のRとしては、例えば炭素数1〜12のフッ化アルキル基、炭素数6〜16のフッ化アリール基、炭素数7〜18のフッ化アラルキル基等を挙げることができ、これらの中でも炭素数1〜12のフッ化アルキル基であることが好ましい。上記一般式(4)中のRの好ましい具体例としては、例えば2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン−2−イル基、β−(パーフルオロオクチル)エチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル基、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル基、1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル基、1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル基、パーフルオロオクチル基等を挙げることができる。フッ素原子を有する単量体としては、これらのうち、フッ素原子を有するオレフィン化合物が好ましく、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。上記フッ素原子を有する単量体は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
1.1.3.不飽和カルボン酸
上記重合体(A)には、前記フッ素原子を有する単量体に由来する繰り返し単位の他に、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位を含有することが好ましい。不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の、モノカルボン酸またはジカルボン酸を挙げることができ、これらから選択される1種以上を使用することができる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸およびメタクリル酸から選択される1種以上を使用することが好ましく、アクリル酸がより好ましい。
1.1.4.共役ジエン化合物
上記重合体(A)は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位をさらに含有してもよい。共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。これらの中でも、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
1.1.5.その他の不飽和単量体
重合体(A)には、上述の繰り返し単位の他に、これらと共重合可能な他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位がさらに含まれていてもよい。
このような不飽和単量体としては、例えば不飽和カルボン酸エステル(但し、上記重合性不飽和基を二つ以上有する化合物および上記フッ素原子を有する単量体に該当するものを除く。)、α,β−不飽和ニトリル化合物、芳香族ビニル化合物(但し、上記重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に該当するものを除く。)およびその他の単量体が挙げられる。
上記不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルを好ましく使用することができ、例えば(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のシクロアルキルエステル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとしては、炭素数1〜10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが好ましく、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸のシクロアルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。上記例示した不飽和カルボン酸エステルは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのうち、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルであることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルから選択される1種以上を使用することがより好ましい。
上記α,β−不飽和ニトリル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられ、これらから選択される1種以上を使用することができる。これらのうち、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルよりなる群から選択される1種以上が好ましく、特にアクリロニトリルが好ましい。
上記芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。芳香族ビニル化合物としては、上記のうち特にスチレンであることが好ましい。
上記その他の単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の不飽和カルボン酸のアルキルアミド;アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミドなどの不飽和カルボン酸のアミノアルキルアミド等を挙げることができ、これらから選択される1種以上を使用することができる。
1.1.6.重合体(A)の態様
上記重合体(A)は、JIS K7121に準拠する示差走査熱量測定(DSC)によって測定した場合、80〜+160℃の温度範囲において吸熱ピークを1つ有するものであることが好ましい。この吸熱ピークの温度は、90〜+130℃の範囲にあることがより好ましい。重合体(A)の有する吸熱ピークの温度が前記範囲にある場合、セパレーターに良好な柔軟性と粘着性とを付与することができるため好ましい。
1.2.重合体(B)
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、重合体(B)を含有し、重合体(B)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が20〜100質量部であり、20質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましく、90質量部以上であることが特に好ましい。
重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が前記範囲であると、セパレーター形成用組成物から作製されるセパレーターの耐熱性、耐溶剤性、デンドライトによる短絡を防止する機能が向上するため好ましい。さらに、重合体(B)は重合体粒子として組成物中に含有されることが好ましく、また、セパレーター中においても粒子状を維持していることが好ましい。本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、重合体(B)を粒子として含有することにより、形成されるセパレーターのタフネスを向上させることができる。
以下、重合体(B)に含有される繰り返し単位を構成する単量体と、重合体(B)の態様および製造方法等に関して詳述する。
1.2.1.重合性不飽和基を二つ以上有する化合物
重合性不飽和基を二つ以上有する化合物としては、重合体(A)で例示した化合物を使用することができ、上記で説明した多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族多官能ビニル化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を好ましく使用することができる。これらの中でも芳香族ジビニル化合物であることがより好ましく、ジビニルベンゼンが特に好ましい。また、重合体(A)が重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位を有する場合、重合体(B)は重合体(A)と同じ重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位を有することが好ましい。
重合体(B)がジビニルベンゼンに由来する繰り返し単位を含有する場合、ジビニルベンゼンの含有割合は、全モノマーに対して、好ましくは20〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%である。ジビニルベンゼンの含有割合が20質量%未満の場合には、得られる重合体(B)は、耐熱性、耐電解液性などの点で劣ったものとなることがある。
1.2.2.その他の不飽和単量体
重合体(B)には、上記重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の他に、これらと共重合可能な他の不飽和単量体に由来する繰り返し単位がさらに含まれていてもよい。
このような不飽和単量体としては、上述の重合体(A)で説明した不飽和カルボン酸エステル(但し、重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)、芳香族ビニル化合物(但し、重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)、不飽和カルボン酸、α,β−不飽和ニトリル化合物、その他の不飽和単量体等が挙げられる。なお、重合体(B)は、重合性不飽和基を二以上有する化合物に由来する繰り返し単位の他、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を有することが好ましい。
重合体(B)100質量部における不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位の含有割合は、5〜80質量部であることが好ましく、10〜75質量部であることがより好ましい。
重合体(B)100質量部における芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合は、5〜85質量部であることが好ましく、10〜80質量部であることがより好ましい。
1.2.3.重合体(B)の平均粒子径(Db)
上記重合体(B)が粒子として組成物中やセパレーター中に存在する場合、の平均粒子径(Db)は、100〜3000nmの範囲内であることが好ましく、100〜1500nmの範囲内であることがより好ましい。なお、重合体(B)の平均粒子径(Db)は、多孔質膜であるセパレーターの膜厚よりも小さいことが好ましい。これにより、セパレータの強度を向上させることができる。
上記重合体(B)の平均粒子径(Db)は、光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、小さい粒子から粒子を累積したときの粒子数の累積度数が50%となる粒子径(D50)の値である。このような粒度分布測定装置としては、例えばコールターLS230、LS100、LS13 320(以上、Beckman Coulter.Inc製)や、FPAR−1000(大塚電子株式会社製)などを挙げることができる。これらの粒度分布測定装置は、重合体(B)の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とすることができる。
1.2.4.トルエン不溶分
上記重合体(B)の50℃におけるトルエン不溶分は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、100%、すなわち溶解しないことが最も好ましい。トルエン不溶分は、蓄電デバイスで使用する電解液への不溶分量とほぼ比例すると推測される。このため、トルエン不溶分が前記範囲であれば、蓄電デバイスを作製して、長期間にわたり充放電を繰り返した場合でも電解液への重合体の溶出を抑制できるため、セパレーターの機械的な特性変化を抑制することができると推測される。
トルエン不溶分は、以下のようにして算出することができる。重合体粒子(A)を含む水分散体10gを直径8cmのテフロン(登録商標)シャーレへ秤り取り、120℃で1時間乾燥して成膜した。得られた膜(重合体)のうちの1gをトルエン400mL中に浸漬して50℃で3時間振とうした。次いで、トルエン相を300メッシュの金網で濾過して不溶分を分離した後、溶解分のトルエンを蒸発除去して得た残存物の重量(Y(g))を測定した値から、下記数式(1)によってトルエン不溶分を求めた。
トルエン不溶分(%)=((1−Y)/1)×100 ・・・・・(1)
1.2.5.空気雰囲気下で10重量%減量する温度(T10
上記重合体(B)が空気雰囲気下で10重量%減量する温度(T10)は、320℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。重合体(B)が空気雰囲気下で10重量%減量する温度(T10)は、電池内部での高温・高電圧時の酸化に対する化学的安定性に相関すると推測される。このため、重合体(B)が空気雰囲気下で10重量%減量する温度(T10)が前記温度範囲であれば、電池内部での高温・高電圧時の酸化に対する安定性が向上して、重合体粒子の分解反応が起こりにくくなるため残存容量率が良好となる。
重合体(B)の重量が空気雰囲気下で10重量%減量する温度(T10)は、以下のようにして測定することができる。重合体(B)を含む水分散体10gを直径8cmのテフロン(登録商標)シャーレへ秤り取り、120℃で1時間乾燥して成膜した。得られた膜(重合体)を粉砕して粉末化し、この粉体を熱分析装置(例えば、株式会社島津製作所製、型式「DTG−60A」)にて熱重量分析を行う。その結果、空気雰囲気下、昇温速度20℃/分で加熱したときに、重合体(B)の重量が空気雰囲気下で10重量%減量する温度を(T10)とする。
1.2.6.重合体(B)の態様
重合体(B)をJIS K7121に準拠する示差走査熱量測定(DSC)によって測定した場合、60℃〜+160℃の範囲内では吸熱ピークが観測されない。これは重合体(B)が前記重合性不飽和基を二つ以上有する化合物により架橋されていることを示している。これにより、セパレーター形成用組成物から得られるセパレーターに耐熱性と強度を付与することができる。
また、重合体(B)が粒子として組成物中やセパレーター中に存在する場合、重合体(B)の粒子は、その内部に1つ以上の空孔を有する粒子であることが好ましい。重合体(B)の粒子がその内部に1つ以上の空孔を有する場合、得られるセパレーターの電解液の浸透性や保液性が向上し、良好な充放電特性を発現させることができる。このような粒子の構造としては、例えば、粒子の内部に空孔を有する中空構造であってもよく、また粒子の表面から内部(コア)にかけて複数の空孔を有するコアシェル型の構造であってもよい。
重合体(B)がその内部に1つ以上の空孔を有する場合、容積空孔率は1%〜80%であることが好ましく、2%〜70%であることがより好ましく、5%〜60%であることが特に好ましい。容積空孔率がこの範囲にあることで、得られるセパレーターの電解液の浸透性や保液性と、タフネスの向上とを両立することができる。なお、特許文献1の段落0077には、無機粒子について「一次粒子内部に内部表面積を実質的に有さない、すなわち、一次粒子自身に微細な細孔を実質的に有さないことが好ましい」と説明されており、本願技術とは全く異なる特性である。
重合体(B)が粒子として組成物中やセパレーター中に存在する場合、重合体(B)の粒子の容積空孔率は、重合体(B)の粒子について電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、日立透過型電子顕微鏡 H−7650)により観察し、無作為に抽出した100個の粒子の平均粒子径および粒子内径を測定し、下記式(2)により算出した。
容積空孔率(%)=((粒子内径)/(平均粒子径))×100 ・・・・(2)
1.2.7.重合体(B)の製造方法
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物に含まれる重合体(B)は、上記のような構成をとるものである限り、その合成方法は特に限定されないが、重合体(B)が粒子である場合には乳化重合、播種乳化重合、懸濁重合、播種懸濁重合、溶液析出重合等の方法を用いることが好ましい。このうち、乳化重合、播種乳化重合が好ましい。このうち粒子径分布を均一に制御しやすいことから播種乳化重合が特に好ましい。
また、重合体粒子が中空構造である場合には、特開2002−30113号公報や特開2009−120784号公報、特開昭62−127336号公報に記載されている方法に準じて作製することができ、コアシェル型である場合には特開平4−98201号公報に記載されている方法に準じて作製することができる。
1.3.液状媒体
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、さらに液状媒体を含有してもよい。上記液状媒体は、水を含有する水性媒体であることがより好ましい。この水性媒体は、水以外に少量の非水媒体を含有することができる。このような非水媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。このような非水媒体の含有割合は、水性媒体の全部に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。水性媒体は、非水媒体を含有せずに水のみからなるものであることが最も好ましい。
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、液状媒体として水性媒体を使用し、好ましくは水以外の非水媒体を含有しないことにより、環境に対する悪影響を与える程度が低く、取扱作業者に対する安全性も高い。
1.4.その他の成分
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、必要に応じて、可塑剤、増粘剤、界面活性剤等のその他の成分を含有することができる。
本発明において使用することのできる可塑剤としては、重合体(A)と混合した際に重合体(A)の融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒であればよい。例えば、重合体(A)とは異なる共重合体、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類、フタル酸ジオクチルやフタル酸ジブチル等のエステル類、オレイルアルコールやステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。特に重合体(A)がポリエチレンの場合、硬質部となる結晶性ポリオレフィンブロックと軟質部となる非晶部分(ゴム部分)のエチレン−ブチレン共重合体ブロックとからなる、結晶性ポリオレフィン・エチレン−ブチレン共重合体・結晶性ポリオレフィンのトリブロックを有するブロック共重合体(CEBC)は、ポリエチレンと相溶性が高く延伸時に樹脂と可塑剤の界面剥離が起こりにくいために均一な延伸を実施しやすく好ましい。
重合体(A)と重合体(B)と可塑剤の比率は、均一な溶融混練が可能な比率であり、シート状のセパレーター前駆体を成形しうるのに充分な比率であり、かつ生産性を損なわない程度であればよい。具体的には、重合体(A)と重合体(B)と可塑剤からなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30〜80質量%、更に好ましくは40〜70質量%である。可塑剤の質量分率が80質量%以下の場合、溶融成形時のメルトテンションが不足しにくく成形性が向上する傾向がある。一方、質量分率が30質量%以上の場合は、延伸倍率の増大に伴い厚み方向に薄くなり、薄膜を得ることが可能である。また可塑化効果が十分なために結晶状の折り畳まれたラメラ晶を効率よく引き伸ばすことができ、高倍率の延伸ではポリオレフィン鎖の切断が起こらず均一かつ微細な孔構造となり強度も増加しやすい。さらに押出し負荷が低減され、生産性が向上する。
本発明において使用することのできる増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース化合物;上記セルロース化合物のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸;上記ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸等の不飽和カルボン酸と、ビニルエステルとの共重合体の鹸化物等の水溶性ポリマーを挙げることができる。これらの中でも特に好ましい増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等である。
これら増粘剤の市販品としては、例えばCMC1120、CMC1150、CMC2200、CMC2280、CMC2450(以上、株式会社ダイセル製)、メトローズSHタイプ、メトローズSEタイプ(以上、信越化学工業株式会社製)等のカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩を挙げることができる。
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、その分散性および分散安定性を改善する観点から界面活性剤を含有することができる。
1.6.セパレーター形成用組成物の製造方法
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、重合体(A)と重合体(B)の合計100質量部に対して、重合体(B)が、20質量部以上60質量部以下の割合で含有されていることが好ましく、30〜50質量部の割合で含有されていることがより好ましく、40〜50質量部の割合で含有されていることが特に好ましい。
セパレーター形成用組成物に含まれる重合体(B)と重合体(A)との含有割合が上記範囲内であることにより、形成されるセパレーターのタフネスとリチウムイオンの透過性とのバランスが良好となり、その結果、得られる蓄電デバイスの抵抗上昇率をより低くすることができる。
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物は、上記の重合体(A)と、上記の重合体(B)と、必要に応じて用いられる他の成分と、を混合することにより調製される。これらを混合するための手段としては、例えばボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等の公知の混合装置を利用することができる。
本実施の形態に係るセパレーター形成用組成物を製造するための混合撹拌は、セパレーター形成用組成物中に重合体(B)の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度としては、少なくとも20μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。分散の程度は粒ゲージにより測定可能である。
上記のような蓄電デバイスのセパレーター形成用組成物は、重合体(B)相互間、重合体(B)−電極間、および重合体(B)−セパレーター間の密着性に優れたセパレーターを形成することができ、また、このような電極を備える蓄電デバイスは抵抗上昇率が十分に低いものである。
2.セパレーター
本実施の形態に係るセパレーターは、「1.セパレーターを作製するための組成物」の項で説明した組成物を用いて製造することができる。
また、本実施の形態に係るセパレーターは、前記重合体(A)と、前記重合体(B)と、を含有し、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、80〜160℃の温度範囲における吸熱ピークが少なくとも1つ、かつ300℃以上の温度範囲における吸熱ピークが少なくとも一つ観測されることを特徴とする。
本発明のセパレーターにおける重合体(B)の含有量は、前記重合体(A)と前記重合体(B)の合計100質量部に対して、20質量部以上60質量部以下が好ましく、さらに好ましくは30質量部以上50質量部以下である。重合体(B)の含有量が前記範囲であると、セパレーターと電解液との親和性が高く、電解液の含浸性や保持性に優れる。さらに、電解液の含浸性や保持性に優れる上、得られるシートが高強度で、高延伸倍率が可能であり高突刺強度が得られる。
本発明のセパレーターは重合体(B)を含有しているために、重合体(A)の融点以上の高温においても低収縮性、耐破膜性が優れ、正負極間の絶縁性を保つことができ、高温での耐短絡性を有している。
加えて、セパレーターは重合体(B)を含有しているために面方向の圧縮性に対して耐性が優れており、例えばスズ系負極、シリコン系負極等の膨張収縮が大きい電極を用いたリチウムイオン電池用セパレータとして使用した場合などでも、長期信頼性の面で優れている。
本発明のセパレーターの膜厚は2μm以上40μm以下の範囲が好ましく、5μm以上40μm以下の範囲がより好ましく、5μm以上35μm以下の範囲がさらに好ましい。膜厚が2μm以上であれば機械強度が十分であり、また、40μmであればセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向がある。
本発明のセパレーターの孔径は、0.01μm以上5μm以下が好ましく、0.01μm以上1μm以下がより好ましい。孔径が0.01μm以上であれば透過性は良好であり、目詰まり等の影響も少ない。5μm以下であれば、電池セパレータとして使用した場合に自己放電の可能性が少なく信頼性がある。
また表面孔径/断面孔径で表される孔径比は、0.2以上2.0以下が好ましい。0.2以上2.0以下では透過性と自己放電のバランスが優れ、電池用セパレータとして好適である。表層及び断面の孔径は走査型電子顕微鏡で確認できる。
本発明のセパレーターの気孔率は、好ましくは25%以上70%以下、より好ましくは30%以上60%以下の範囲である。気孔率が25%以上では、透過性が低下しにくく、一方70%以下では電池セパレータとして使用した場合に自己放電の可能性が少なく信頼性がある。
本発明のセパレーターの透気度は、10秒以上1000秒以下、より好ましくは50秒以上500秒以下の範囲である。透気度が10秒以上では電池用セパレータとして使用した際に自己放電が少なく、1000秒以下では良好な充放電特性が得られる。
本発明のセパレーターの突き刺し強度は、3.0N/20μm以上である。3.0N/20μm以上では、電池捲回時における脱落した活物質等による破膜を抑制できる。また充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する懸念が少ない。好ましくは4.0N/20μm以上20.0N/20μm以下、より好ましくは5.0N/20μm以上10.0N/20μmである。20.0N/20μm以下ではセパレーターの加熱時の幅収縮を低減できる。
本発明のセパレーターのシャットダウン温度は、120℃以上160℃以下、より好ましくは120℃以上150℃以下の範囲である。160℃以下であれば、電池が発熱した場合などにおいても、電流遮断を速やかに促進し、良好な安全性能が得られる傾向にある。一方、120℃以上であれば、例えば100℃前後での高温化の使用、熱処理等を実施できる。
本発明のセパレーターのショート温度は、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。180℃以上であれば電池異常発熱においても放熱するまで正負極間の接触を抑制し得る傾向がある。
本発明のセパレーターの電解液の含浸性は容易に確認できる。電解液をセパレーター表面に滴下し、電解液がセパレーターに浸透することにより液滴とセパレーターが接している面の大部分が透明化する時間で比較できる。面の大部分とは、電解液液滴とセパレーターが接している面積のおよそ80%以上のことをいう。例えばテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートの1mol/L溶液(溶媒:プロピレンカーボネート)を用いた場合、透明化するまでの時間は短いほど好ましく、具体的には30秒以下が好ましく、より好ましくは20秒以下、更に好ましくは10秒以下である。
2.セパレーターの製造方法
本発明のセパレーターは重合体(A)と重合体(B)を溶融混練し、シート状に成形して作成することができる。また、紡糸することにより不織布として使用することもできる。
重合体(A)と重合体(B)と可塑剤を溶融混練する方法は、重合体(A)と重合体(B)を押出機、ニーダー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融させながら、必要に応じて任意の比率で可塑剤などの添加剤を導入し、更に樹脂と重合体(B)と可塑剤からなる組成物を混練することにより、均一溶液を得る方法が好ましい。さらに好ましい方法としては予め重合体(A)と重合体(B)と必要に応じて可塑剤などの添加剤をヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練する工程を経て、該混練物を押出機に投入し、加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入し更に混練することが挙げられる。
特に可塑剤を添加する場合には、重合体(A)と重合体(B)と以下の範囲で指定される可塑剤とをヘンシェルミキサー等で事前混練したものを二軸押出機に投入し、所定の可塑剤添加量の残り分をサイドフィードすることで、より重合体(B)の分散性が良好なシートを得ることができ、高倍率の延伸を破膜することなく実施することができる。
具体的には、重合体(A)と重合体(B)と可塑剤を、混練組成値が式(1)の範囲となるように事前に混錬する。
0.6≦可塑剤重量/(可塑剤吸油量×重合体(B)重量×可塑剤密度)×100≦1.2 (2)
混練組成値が0.6以上の場合、重合体(B)が適度に可塑剤を保持し重合体(A)との嵩密度の差が小さくなるために各成分が均一に分散する。混練組成値が1.2以下の場合、大量の可塑剤中に重合体(B)を混練することによる重合体(B)の凝集を防ぐことができる。さらに好ましくは0.7以上1.0以下である。最終的に添加する混練物の割合が上記の範囲内であれば、分散性の良好なシートが得られるため、一度に押出機等を用いて重合体(A)、重合体(B)、及び可塑剤を混練しても構わない。
次いで上記溶融混練物をシート状に成形する。溶融物を押し出して冷却固化させシート状のセパレーター前駆体を製造する方法は、重合体(A)と重合体(B)と可塑剤の均一溶液をTダイ等を介してシート状に押し出し、熱伝導体に接触させて樹脂の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却することにより行うことが好ましい。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、又は可塑剤自身体が使用できるが、特に金属製のロールに接触させて冷却する方法が最も熱伝導の効率が高く好ましい。また、金属製のロールに接触させる際に、シートをロール間に挟み込むと、更に熱伝導の効率が高まり、またシートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するため、より好ましい。Tダイからシート状に押出す際のダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下が好ましく、500μm以上2500μmがさらに好ましい。ダイリップ間隔が400μm以上の場合には、メヤニ等が低減され、スジや欠点など膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程に於いて膜破断などを防げる。3000μm以下の場合は、冷却速度が速く冷却ムラを防げるほか、厚みの安定性を維持できる。
延伸方法は二軸延伸である。二軸方向に高倍率延伸した場合、分子が面方向に配向するため裂けにくく安定な構造となり、高い突刺強度が得られる。延伸方法としては、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等のいずれの方法を単独で用いても、併用しても構わないが、延伸方法が同時二軸延伸であることが突刺強度の増加や均一延伸、シャットダウン性の観点から最も好ましい。ここでいう同時二軸延伸とはMD方向の延伸とTD方向の延伸が同時に施される手法であり、各方向の変形率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD方向、又はTD方向の延伸が独立して施される手法であり、MD方向、又はTD方向に延伸がなされている際は、他方向が非拘束状態、又は定長に固定されている状態にある。延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍未満の範囲が好ましく、25倍以上50倍以下の範囲がさらに好ましい。各軸方向の延伸倍率はMD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲が好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲がさらに好ましい。総面積倍率が20倍以上の場合は、膜に十分な強度を付与でき、100倍以下では膜破断を防ぐことができ、高い生産性が得られる。シャットダウン性が低下しない範囲であれば、圧延工程を二軸延伸工程と併用しても構わない。圧延はダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施できる。圧延は特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1.01倍以上3倍以下が好ましく、1.01倍以上2倍以下がさらに好ましい。1.01倍以上では、面配向が増加し膜強度が増加する。3倍以下では、表層部分と中心内部の配向差が小さく、延伸工程で表層部と内部で均一な多孔構造を発現するために好ましい。また工業生産上からも上記圧延面倍率が好ましい。
可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれでもよいが、抽出溶剤にセパレーターを浸漬することにより可塑剤を抽出し、充分に乾燥させ、可塑剤をセパレーターから実質的に除去することが好ましい。セパレーターの収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にセパレーターの端部を拘束することは好ましい。また、抽出後のセパレーター中の可塑剤残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
抽出溶剤は、重合体(A)及び重合体(B)に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィンセパレーターの融点より低いことが望ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ヒドロフロロエーテルやヒドロフロロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。
不織布を作成する場合には、公知の方法により前述のセパレーター作成用組成物を不織布化すればよいが、たとえばスパンボンド不織布製造装置(新和工業株式会社製)などを用いて、溶融紡糸、冷却、延伸、開繊、堆積、熱処理して不織布を作成することができる。
本発明のセパレーターにおいて、本発明の利点を損なわない範囲で各延伸過程に引き続いて、又は、抽出工程の後に、熱固定及び熱緩和等の熱処理工程を加えることは、セパレーターの収縮をさらに抑制する効果があり好ましい。
また、本発明の利点を損なわない範囲で後処理を行ってもよい。後処理としては、例えば、界面活性剤等による親水化処理、及び電離性放射線等による架橋処理等が挙げられる。
3.蓄電デバイス
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、前述したセパレーターを備えるものであり、さらに電解液を含有し、電極などの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、負極と正極とを本願発明のセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、適宜の形状であることができる。
電解液は、液状でもゲル状でもよく、電極活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。
上記電解質としては、リチウムイオン二次電池では、従来から公知のリチウム塩のいずれをも使用することができ、その具体例としては、例えばLiClO、LiBF、LiPF、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCFSO、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどを例示することができる。
上記電解質を溶解するための溶媒は、特に制限されるものではないが、その具体例として、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート化合物;γ−ブチルラクトンなどのラクトン化合物;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
3.5.用途
上述したような蓄電デバイスは、電気自動車、ハイブリッドカー、トラック等の自動車に搭載される二次電池またはキャパシタとして好適であるほか、AV機器、OA機器、通信機器などに用いられる二次電池、キャパシタとしても好適である。
4.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
4.1.重合体(A)の合成
4.1.1.合成例1
<重合体Xの合成>
電磁式撹拌機を備えた内容積6Lのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、脱酸素した純水2.5Lおよび乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム25gを仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、単量体であるフッ化ビニリデン(VDF)70%および六フッ化プロピレン(HFP)30%からなる混合ガスを、内圧が20kg/cmに達するまで仕込んだ。重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを20%含有するフロン113溶液25gを窒素ガスを使用して圧入し、重合を開始した。重合中は内圧が20kg/cmに維持されるようVDF60.2%およびHFP39.8%からなる混合ガスを逐次圧入して、圧力を20kg/cmに維持した。また、重合が進行するに従って重合速度が低下するため、3時間経過後に、先と同じ重合開始剤溶液の同量を窒素ガスを使用して圧入し、さらに3時間反応を継続した。その後、反応液を冷却すると同時に撹拌を停止し、未反応の単量体を放出した後に反応を停止することにより、重合体Xの粒子を40%含有する水分散体を得た。得られた重合体Xにつき、19F−NMRにより分析した結果、各単量体の質量組成比はVDF/HFP=21/4であった。
<重合体(A)の合成>
容量7Lのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、上記の工程で得られた重合体Xの粒子を含有する水分散体を重合体X換算で25質量部、乳化剤「アデカリアソープSR1025」(商品名、株式会社ADEKA製)0.5質量部、メタクリル酸メチル(MMA)30質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)40質量部およびメタクリル酸(MAA)5質量部ならびに水130質量部を順次仕込み、70℃で3時間攪拌し、重合体Xに単量体を吸収させた。次いで油溶性重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を含有するテトラヒドロフラン溶液20mLを添加し、75℃に昇温して3時間反応を行い、さらに85℃で2時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、重合体Xおよび重合体Yを含有する重合体(A)を40%含有する水分散体S1を得た。
得られた水分散体S1について、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、型式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から平均粒子径(Da1)を求めたところ330nmであった。
得られた水分散体S1の10gを直径8cmのテフロン(登録商標)シャーレへ秤り取り、120℃で1時間乾燥して成膜した。得られた膜(重合体)のうちの1gをトルエン400mL中に浸漬して50℃で3時間振とうした。次いで、トルエン相を300メッシュの金網で濾過して不溶分を分離した後、溶解分のトルエンを蒸発除去して得た残存物の重量(Y(g))を測定した値から、下記式(3)によってトルエン不溶分を求めたところ、上記重合体(A)のトルエン不溶分は85%であった。
トルエン不溶分(%)=((1−Y)/1)×100 ・・・・・(3)
さらに、得られた膜(重合体(A)から構成された膜)を示差走査熱量計(NETZSCH社製、DSC204F1 Phoenix)によって測定したところ、融解温度Tmは観察されず、単一のガラス転移温度Tgが−5℃に観測されたことから、得られた重合体(A)はポリマーアロイ粒子であると推定される。
また、得られた膜(重合体)を熱分析装置(株式会社島津製作所製、型式「DTG−60A」)にて熱重量分析を行った。空気雰囲気下、昇温速度20℃/分で加熱したときに、重合体粒子A1が10重量%減量する温度(以下、この減量開始温度を「T10」と表す。)は338℃であった。
4.1.2.合成例2〜12、31
上記合成例1において、単量体ガスの組成と乳化剤量を適宜に変更した以外は、表1に示す組成で重合体(A)を含有する水分散体を調製し、該水分散体の固形分濃度に応じて水を減圧除去または追加することにより、固形分濃度40%の水分散体S2〜S12およびS15を作製した。得られた重合体(A)について合成例1と同様に行ったトルエン不溶分測定の結果、DSC測定の結果(ガラス転移温度Tg、融解温度Tm)およびTG測定の結果(減量開始温度T10)を、表1に併せて示した。
4.1.3.合成例13
上記合成例1において、重合体Xを使用せずに表1に示す組成の重合体(A)を含有する水分散体を調製し、該水分散体の固形分濃度に応じて水を減圧除去または追加することにより、固形分濃度40%の水分散体S13を作製した。得られた重合体(A)について合成例1と同様に行ったトルエン不溶分測定の結果、DSC測定の結果(ガラス転移温度Tg、融解温度Tm)およびTG測定の結果(減量開始温度T10)を、表1に併せて示した。
4.1.4.合成例14
攪拌機を備えた温度調節可能なオートクレーブ中に、水200質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6質量部、過硫酸カリウム1.0質量部、重亜硫酸ナトリウム0.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.5質量部、ドデシルメルカプタン0.3質量部および表1の重合体(A1)の欄に示した単量体を一括して仕込み、70℃に昇温し8時間重合反応を行った。その後、温度を80℃に昇温し、さらに3時間反応を行なってラテックスを得た。このラテックスのpHを7.5に調節し、トリポリリン酸ナトリウム5質量部(固形分換算値、濃度10質量%の水溶液として添加)を加えた。その後、残留モノマーを水蒸気蒸留によって除去し、減圧下で濃縮することにより、重合体(A)を50質量%含有する水分散体S14を得た。得られた重合体(A)について合成例1と同様に行ったトルエン不溶分測定の結果、DSC測定の結果(ガラス転移温度Tg、融解温度Tm)およびTG測定の結果(減量開始温度T10)を、表1に併せて示した。
4.2.重合体(B)の合成
4.2.1.合成例15(中実粒子の合成法)
スチレン100質量部、t−ドデシルメルカプタン10質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.8質量部、過硫酸カリウム0.4質量部、および水200質量部を、容量2Lのフラスコ中に入れ、撹拌しながら窒素ガス雰囲気下にて80℃に昇温して6時間重合を行った。これにより、重合収率98%で平均粒子径170nm、粒子径の標準偏差値が0.02μmの重合体粒子を含有する水分散体を得た。この重合体粒子は、トルエン溶解分98%、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した分子量が、重量平均分子量(Mw)=5,000、数平均分子量(Mn)=3,100であった。
反応容器の内部を十分に窒素置換した後、上記の工程で得られた重合体粒子を含有する水分散体を、重合体粒子(固形分換算)5質量部、ラウリル硫酸ナトリウム1.0質量部、過硫酸カリウム0.5質量部、水400質量部、およびスチレン45質量部、ジビニルベンゼン50質量部を混合し、30℃で10分間撹拌して重合体粒子にモノマーを吸収させた。その後、70℃に昇温して3時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節し、重合体(B)の粒子を20%含有する水分散体L1を得た。
動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、型式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から重合体(B)の粒子の平均粒子径(Db)を求めたところ380nmであった。
この重合体(B)の水分散体の100gをシャーレ秤り取り、120℃で1時間乾燥した。得られた固形物をめのう乳鉢で粉砕し粉体(重合体(B))を得た。
得られた粉体(重合体(B)から構成された粉体)のトルエン不溶分測定、DSC測定ならびにTG測定を合成例1と同様に行った結果、トルエン不溶分は99%であり、ガラス転移温度Tgおよび融解温度Tmは観測できず、減量開始温度T10は379℃であった。なお、図1は、合成例15で得られた重合体(B)のTGAチャートである。図1によれば、合成例15で得られた重合体(B)の重量が空気雰囲気下で10重量%減量する温度(T10)は、379℃であることが読み取れる。
4.2.2.合成例16〜25
上記合成例15において、組成と乳化剤量を適宜に変更したほかは表2に示す組成の重合体(B)の粒子を含有する水分散体を調製し、該水分散体の固形分濃度に応じて水を減圧除去または追加することにより、固形分濃度20%の水分散体L2〜L11を得た。得られた重合体(B)について合成例1と同様に行ったトルエン不溶分測定の結果、DSC測定の結果(ガラス転移温度Tg、融解温度Tm)およびTG測定の結果(減量開始温度T10)を、表2に併せて示した。
4.2.3.合成例26(中空粒子の合成)
撹拌装置および温度調節器を備えた容量2リットルの耐圧反応容器に水109.5質量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1質量部、分子量調節剤としてオクチルグリコール9質量部および重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.3質量部を投入した。次にアクリル酸6質量部とスチレン94質量部とを混合したモノマー混合物の20%を耐圧反応容器に投入した。その後、撹拌しながら温度75℃まで昇温し、75℃到達後1時間、重合反応を行い、その後、温度を75℃に保ちながら残りのモノマー混合物を連続的に2時間かけて耐圧反応容器に添加した。その後、さらに2時間熟成を行い、固形分40%、平均粒子径が100nmの重合体(A2a)の粒子の水分散体を得た。
撹拌装置および温度調節器を備えた容量2リットルの耐圧反応容器に、水350質量部を投入し、これに前述の粒子径100nmの重合体粒子(A2a)を固形分で5質量部、重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.4質量部を投入し、撹拌しながら温度80℃まで昇温した。次に、スチレン45質量部およびジビニルベンゼン25質量部、エチルビニルベンゼン25質量部を混合したモノマー混合物を、撹拌しながら耐圧反応容器に連続的に4時間かけて投入した。モノマー混合物を投入する間、耐圧反応容器の温度は80℃に保持した。モノマー混合物の連続投入終了後、80℃に保持した耐圧反応容器内に25%アンモニウム水でpH7に調整し、3時間熟成を行い、重合体(B)の粒子を20%含有する水分散体L12を得た。
得られた重合体(B)について合成例1と同様に行ったトルエン不溶分測定の結果、DSC測定の結果(ガラス転移温度Tg、融解温度Tm)およびTG測定の結果(減量開始温度T10)を、表2に併せて示した。
動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、型式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から重合体(B)の粒子の平均粒子径(Db)を求めたところ300nmであった。
さらに詳細に粒子の構造を分析するために得られた重合体(B)の粒子を20%含有の重合体粒子の水分散体を乾燥固化し、固形分に対して20倍量のpH10に調整したアンモニア水で3回洗浄し、さらにイオン交換水で4回洗浄することで水溶性成分を完全に除去し、再度乾燥固化させることで重合体(B)の粉末を得た。この粉末を日立透過型電子顕微鏡 H−7650(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して観察したところ、観察された粒子100個の平均粒子径が300nm、粒子内径が200nmの中空重合体粒子であり、容積空孔率は30%であった。
4.2.4.合成例27
上記合成例26において、重合体粒子(A2b)を固形分で15質量部、スチレン50質量部およびジビニルベンゼン25質量部、エチルビニルベンゼン25質量部に代えて、重合体粒子(A2b)を固形分で50質量部、スチレン77質量部およびジビニルベンゼン22質量部、アクリル酸1質量部を用いたこと以外は、合成例26と同様に重合体(B)の粒子を20%含有する水分散体L13を得た。
得られた重合体(B)について合成例1と同様に行ったトルエン不溶分測定の結果、DSC測定の結果(ガラス転移温度Tg、融解温度Tm)およびTG測定の結果(減量開始温度T10)を、表2に併せて示した。
動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、型式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から重合体(B)の粒子の平均粒子径(Db)を求めたところ810nmであった。
さらに詳細に粒子の構造を分析するために得られた重合体(B)を20%含有の重合体粒子の水分散体を乾燥固化し、固形分に対して20倍量のpH10に調整したアンモニア水で3回洗浄し、さらにイオン交換水で4回洗浄することで水溶性成分を完全に除去し、再度乾燥固化させることで重合体(B)の粉末を得た。この粉末を日立透過型電子顕微鏡 H−7650(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して観察したところ、観察された粒子100個の平均粒子径が810nm、粒子内径が700nmの中空重合体粒子であり、容積空孔率は65%であった。
4.2.5.合成例28
撹拌装置および温度調節器を備えた容量2リットルの耐圧反応容器に、スチレン99質量部、メタクリル酸1質量部およびt−ドデシルメルカプタン8質量部を、水200質量部にラウリル硫酸ナトリウム0.4質量部および過硫酸カリウム1.0質量部を溶かした水溶液に入れ、攪拌しながら70℃で8時間重合して、平均粒子径が250nmの重合体粒子の水分散体を得た。
次に、この重合体粒子を固形分で10質量部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル0.1質量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.3質量部および過硫酸カリウム0.5質量部を水900質量部に分散した。これにメタクリル酸メチル60質量部、ジビニルベンゼン30質量部、スチレン10質量部およびトルエン20質量部の混合物を加えて30℃で1時間攪拌し、続いて70℃で5時間撹拌した後に冷却し、スチームストリップ処理を行なったところ、中空の重合体(B)の粒子を含む水分散体L14が得られた。
得られた重合体(B)について合成例1と同様に行ったトルエン不溶分測定の結果、DSC測定の結果(ガラス転移温度Tg、融解温度Tm)およびTG測定の結果(減量開始温度T10)を、表2に併せて示した。
動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、型式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から重合体(B)の粒子の平均粒子径(Db)を求めたところ490nmであった。この重合体粒子を乾燥させた後に日立透過型電子顕微鏡 H−7650(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して観察したところ、観察された粒子100個の平均粒子径が490nm、粒子内径が350nmの中空の重合体粒子であり、容積空孔率は36%であった。
4.2.6.合成例29
上記合成例28において、メタクリル酸メチル60質量部、ジビニルベンゼン30質量部、スチレン10質量部およびトルエン20質量部に代えて、メタクリル酸メチル60質量部、メタクリル酸アリル40質量部およびトルエン15質量部を用いたこと以外は合成例28と同様にして重合体(B)の粒子を含む水分散体L15を得た。
得られた重合体(B)について合成例1と同様に行ったトルエン不溶分測定の結果、DSC測定の結果(ガラス転移温度Tg、融解温度Tm)およびTG測定の結果(減量開始温度T10)を、表2に併せて示した。
動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、型式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から重合体(B)の粒子の平均粒子径(Db)を求めたところ420nmであった。この重合体粒子を乾燥させた後に日立透過型電子顕微鏡 H−7650(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して観察したところ、観察された粒子100個の平均粒子径が420nm、粒子内径が220nmの中空重合体粒子であり、容積空孔率は14%であった。
4.2.7.合成例30
撹拌装置および温度調節器を備えた容量2リットルの耐圧反応容器に水109.5質量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2質量部、分子量調節剤としてオクチルグリコール0.5質量部および重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.5質量部を投入した。次にメタクリル酸15質量部とメタクリル酸メチル85質量部とを混合したモノマー混合物の20%を耐圧反応容器に投入した。その後、撹拌しながら温度75℃まで昇温し、75℃到達後1時間、重合反応を行い、その後、温度を75℃に保ちながら残りのモノマー混合物を連続的に2時間かけて耐圧反応容器に添加した。その後、さらに2時間熟成を行い、固形分40%、平均粒子径が200nmの重合体粒子の水分散体を得た。
撹拌装置および温度調節器を備えた容量2リットルの耐圧反応容器に、水186質量部を投入し、これに前述の粒子径200nmの重合体粒子を固形分で10質量部、重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.5質量部を投入し撹拌しながら温度80℃まで昇温した。次に、メタクリル酸30質量部、メタクリル酸メチル69.5質量部およびジビニルベンゼン0.5質量部を混合したモノマー混合物を耐圧反応容器に、温度80℃を保持し、撹拌しながら連続的に3時間かけて投入した。その後、さらに2時間熟成を行い、固形分31%、平均粒子径400nmの重合体粒子の水分散体を得た。
撹拌装置および温度調節器を備えた容量2リットルの耐圧反応容器に、水350質量部を投入し、これに前述の粒子径400nmの重合体粒子を固形分で20質量部、重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.4質量部を投入し、撹拌しながら温度80℃まで昇温した。次に、スチレン90質量部およびジビニルベンゼン9質量部、アクリル酸1質量部を混合したモノマー混合物を、撹拌しながら耐圧反応容器に連続的に4時間かけて投入した。モノマー混合物を投入する間、耐圧反応容器の温度は80℃に保持した。モノマー混合物の連続投入終了後、80℃に保持した耐圧反応容器内に25%アンモニウム水を5質量部投入して3時間熟成を行い、重合体(B)の粒子を20%含有する水分散体L16を得た。
得られた重合体(B)について合成例1と同様に行ったトルエン不溶分測定の結果、DSC測定の結果(ガラス転移温度Tg、融解温度Tm)およびTG測定の結果(減量開始温度T10)を、表2に併せて示した。
動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、形式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から重合体(B)の粒子の平均粒子径(Db)を求めたところ1000nmであった。
さらに詳細に粒子の構造を分析するために得られた重合体(B)を20%含有の重合体粒子の水分散体を乾燥固化し、固形分に対して20倍量のpH10に調整したアンモニア水で3回洗浄し、さらにイオン交換水で4回洗浄することで水溶性成分を完全に除去し、再度乾燥固化させることで重合体(B)の粉末を得た。この粉末を日立透過型電子顕微鏡 H−7650(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して観察したところ、観察された粒子100個の平均粒子径が1,000nm、粒子内径が800nmの中空重合体粒子であり、容積空孔率は51%であった。
表1および表2における各成分の略称または名称は、それぞれ以下の化合物を意味する。
<重合性不飽和基を二つ以上有する化合物>
・AMA:メタクリル酸アリル
・EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
・DVB:ジビニルベンゼン
<フッ素原子を有する単量体>
・VDF:フッ化ビニリデン
・HFP:六フッ化プロピレン
・TFE:四フッ化エチレン
<不飽和カルボン酸>
・MAA:メタクリル酸
・TA:イタコン酸
・AA:アクリル酸
<不飽和カルボン酸エステル>
・MMA:メタクリル酸メチル
・EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
・BMA:メタクリル酸n−ブチル
・CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
<芳香族ビニル化合物>
・ST:スチレン
・EVB:エチルビニルベンゼン
<共役ジエン化合物>
・BD:1,3−ブタジエン
<ニトリル化合物>
・AN:アクリロニトリル
なお、表1および表2における「−」の表記は、該当する成分を使用しなかったことを示す。
4.3.実施例1
4.3.1.セパレーターの作製
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン(PE)を80質量部、上記重合体粒子L1を20質量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を20質量部、及び酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部の割合で添加したものを東洋精機製作所社製プラストミルを用いて加熱混合した。加熱混合は、プラストミルの温度を200℃、回転数を50rpmに設定して5分間行った。溶融した混合物に流動パラフィンを20重量部添加し、同条件でさらに5分間加熱混合を行った。溶融した混合物をプラストミルから取り出して冷却し、得られた固化物をポリイミドフィルムを介して金属板の間に挟み、200℃に設定した熱プレス機を用い10MPaで圧縮し、厚さ1000μmのシートを作成した。得られたシートを岩本製作所社製二軸延伸機を用いて123℃で縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸した。次にステンレスの枠で四方を固定した状態で塩化メチレン中で可塑剤を除去した後、室温で乾燥し微多孔膜であるセパレーターを得た。得られたセパレーターは、膜厚20μm、JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製)にて測定した透気度は200秒であった。透気度が400秒より小さい場合、良好と判断できる。
4.3.2.正極の製造
<正極活物質の調製>
市販のリン酸鉄リチウム(LiFePO)をめのう乳鉢で粉砕し、ふるいを用いて分級することにより、粒子径(D50値)が0.5μmである活物質粒子を調製した。
<正極用スラリーの調製>
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)にポリフッ化ビニリデン(PVDF)4質量部(固形分換算)、上記活物質粒子100質量部、アセチレンブラック5質量部およびN−メチルピロリドン(NMP)68質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。さらに、NMP32質量部を投入し、1時間攪拌してペーストを得た。得られたペーストを、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1,800rpmで5分間、さらに真空下(5.0×10Pa)において1,800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、正極用スラリーを調製した。
<正極用電極の作製>
アルミニウム箔からなる集電体の表面に、上記正極用スラリーを、乾燥後の膜厚が100μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜(活物質層)の密度が2.0g/cmとなるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、集電体の表面に正極活物質層が形成された正極を得た。
4.3.3.負極の製造
<負極用スラリーの調製>
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)4質量部(固形分換算)、負極活物質としてグラファイト100質量部(固形分換算)、N−メチルピロリドン(NMP)80質量部を投入し、60rpmで1時間撹拌を行った。その後、さらにNMP20質量部を投入した後、撹拌脱泡機(株式会社シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、次いで1,800rpmで5分間、さらに真空下において1,800rpmで1.5分間撹拌・混合することにより、負極用スラリーを調製した。
<負極用電極の作製>
銅箔からなる集電体の表面に、上記負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が150μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜の密度が1.5g/cmとなるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、集電体の表面に負極活物質層が形成された負極を得た。
4.3.4.リチウムイオン電池セルの組立て
露点が−80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、アルミニウムからなるフィルム状の外装アルミシール上に、上記で製造した負極を50mm×25mmに切り出したものに負極端子を取り付けて載置した。次に、上記で製造したセパレーターを54×27mmに切り出したものを負極上に載置した。最後に、上記で製造した正極を48mm×23mmに切り出したものに正極端子を取り付けて、前記セパレーター上に載置した。そして、この正極上に、上記外装アルミシールと同様の外装アルミシールを載置した。このようにして、外装アルミシール、負極、微多孔膜、正極、及び外装アルミシールからなる積層体を得た。その後、この積層体の3辺の外装アルミシールを加温シーリング装置で2つの外装アルミシールの外周縁部を互いに接合させ封止した。そして、各層の間に空気が入らないように1M LiPFのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(3/7重量比)(キシダ化学社製)を注入して、さらに減圧脱気した後、減圧下で、負極端子と正極端子が外装アルミシールの外部に露出するようにして4辺目を封止して密閉し、2極式単層ラミネートセルからなるラミネート型電池を作製した。
4.3.6.特性評価
<残存容量率および抵抗上昇率の測定>
上記で製造したラミネート型電池を25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした(エージング充放電)。
上記エージング充放電後のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.2Cにおける放電容量(初期)の値であるC1を測定した。
上記放電容量(初期)測定後のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。
この充電状態のセルについてEIS測定(“Electrochemical Inpedance Spectroscopy”、「電気化学インピーダンス測定」)を行い、初期の抵抗値EISaを測定した。
次に、初期の抵抗値EISaを測定したセルを60℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.4Vになった時点で引き続き定電圧(4.4V)にて充電を168時間続行した(過充電の加速試験)。
その後、この充電状態のセルを25℃の恒温槽に入れてセル温度を25℃に低下してから、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、0.2Cにおける放電容量(試験後)の値であるC2を測定した。
上記放電容量(試験後)のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした。このセルのEIS測定を行い、熱ストレスおよび過充電ストレス印加後の抵抗値であるEISbを測定した。
上記の各測定値を下記式(4)に代入して求めた残存容量率は93%であり、上記の各測定値を下記式(5)に代入して求めた抵抗上昇率は150%であった。
残存容量率(%)=(C2/C1)×100 ・・・(4)
抵抗上昇率(%)=(EISb/EISa)×100 ・・・(5)
この残存容量率が75%以上である場合には良好と判断して○と表中に表記し、75%未満の場合には不良と判断して×と表中に表記した。また、抵抗上昇率300%以下であるとき、耐久性は良好であると判断して○と表中に表記し、300%を超える場合には不良と判断して×と表中に表記した。
なお、上記測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
<ガス膨れ>
上述のラミネート型電池を0.2C、4.2Vの定電圧・定電流充電で8時間充電した。それに1.8kg/cmの荷重を印加した状態でオーブンに入れ、85℃で3日間保存した後に外観観察したところ、電池の膨らみは無かった。
電池が明らかに膨らんでいたものについては×と判断し、電池の膨みが外観上分からなかったものについては良好であると判断して○と表中に表記した。なお、この場合の電池のふくれは、電池内でガスが発生したことによるものであると考えられる。
<シャットダウン特性、及び200℃抵抗維持率の評価>
1M LiPF エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(3/7重量比)(キシダ化学社製)と上記で作製した微多孔膜を2枚のアルミニウム(ニラコ社製)集電体の間に接触、介在させたユニット(図2)を準備し、フラットセル(タクミ技研製、フラットセル)に装填して評価セルを作製した。
上記評価セルを熱風炉中に静置し、温度30℃から200℃まで5℃/分の速度で昇温させ、200℃で20分保持した。この過程で、160℃、200℃到達時及び200℃20分保持後にLCRメータ〔日置電機社製、LCRHiTESTER〕で測定した1Hzでの抵抗は130Ω。200℃で20分保持内部抵抗を200℃到達時内部抵抗で除し、100を掛けた抵抗維持率(単位:%)は80%であった。
160℃内部抵抗が100Ω以上であればシャットダウン特性が良好であると判断して○と表中に表記し、200℃抵抗維持率は70%以上であれば良好であると判断して○と表中に表記した。
4.4.実施例2
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレン(PE)を80質量部、上記重合体粒子L1を20質量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を10質量部、及び酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部の割合で添加したものを東洋精機製作所社製プラストミルを用いて加熱混合した。この組成物をスパンボンド不織布製造装置(新和工業株式会社製)を用いて、溶融紡糸、冷却、延伸、開繊、堆積、熱処理して不織布形態の微多孔膜を作製した。得られた微多孔膜について、実施例1と同様の評価結果を、表3に示した。
4.5.実施例3〜5、比較例1〜2
表3に示す使用割合で配合し、微多孔膜の形態を表に記載の形態に変更した以外は、上記実施例1と同様にして表3に記載の微多孔膜を作製した。得られた微多孔膜形について、実施例1と同様の評価結果を、表2に示した。
なお、表中の「PE」はポリエチレン(製品名「フロービーズHE−3040」、住友精化社製、数平均粒子径6.0μm)を示し、「PP」はポリプロピレン(製品名「PPW−5」、セイシン企業社製、数平均粒子径5.0μm)を示し、「シリカ」はシリカ粒子(製品名「シーホスター(R)KE−S50」、株式会社日本触媒製、数平均粒子径0.54μm)を用いたことを示す。
上記表3から明らかなように、実施例1〜5に示した本願発明に係るセパレーターを作製するための組成物から作成されたセパレーターを具備する蓄電デバイス(リチウムイオン電池)は、良好な充放電特性とシャットダウン特性を示した。一方、比較例1、2では、良好な充放電特性とシャットダウン特性を併せ持つ蓄電デバイスを作製できなかった。
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。
1 セパレータ
2 アルミニウム板

Claims (12)

  1. 重合体(A)と、重合体(B)と、を含有し、
    前記重合体(A)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が15質量部以下であり、
    前記重合体(B)100質量部中の重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位の含有量が20質量部以上100質量部以下である、
    蓄電デバイスの正極と負極との間に配置されるセパレーターを作製するための組成物。
  2. 前記重合性不飽和基を二つ以上有する化合物が、多官能(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族多官能ビニル化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載の組成物。
  3. 前記重合体(B)が、不飽和カルボン酸エステル(重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)に由来する繰り返し単位と、芳香族ビニル化合物(重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)に由来する繰り返し単位と、をさらに含有する、請求項1または請求項2に記載の組成物。
  4. 前記重合体(B)が空孔を有する粒子である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の組成物。
  5. 重合体(A)と、重合体(B)と、を含有し、
    前記重合体(B)が空孔を有する粒子である、
    蓄電デバイスの正極と負極との間に配置されるセパレーターを作製するための組成物。
  6. 前記重合体(B)が、重合性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する繰り返し単位と、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)と、芳香族ビニル化合物(重合性不飽和基を二つ以上有する化合物を除く。)に由来する繰り返し単位と、を含有する、請求項5に記載の組成物。
  7. 前記重合体(A)と前記重合体(B)の合計100質量部に対して、前記重合体(B)を20質量部以上60質量部以下含有する、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の組成物。
  8. 前記重合体(B)の平均粒子径(Db)が100nm以上3000nm以下である、請求項4ないし請求項7のいずれか一項に記載の組成物。
  9. 前記重合体(B)のトルエンに対する不溶分が90%以上であり、かつ空気雰囲気下での熱重量分析において20℃/分で加熱したときの10%減量温度が320℃以上である、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の組成物。
  10. 請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の組成物を用いて作製されるセパレーター。
  11. 重合体(A)と、重合体(B)と、を含有し、
    JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、80〜+160℃の温度範囲における吸熱ピークが1つ観測され、かつ300℃以上の温度範囲における吸熱ピークが1つ観測される、
    蓄電デバイスの正極と負極との間に配置されるセパレーター。
  12. 正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置された請求項10または請求項11に記載のセパレーターと、電解液と、を備えた蓄電デバイス。
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