JP2015154785A - ニトリルヒドラターゼ遺伝子を置換した微生物 - Google Patents
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Abstract
Description
ニトリルヒドラターゼを生産する微生物としては、例えば、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、リゾビウム(Rhizobium)属、クレビシエラ(Klebsiella)属、シュードノカルディア(Pseudonocardia)属、ノカルディア(Nocardia)属等に属する細菌(微生物)を挙げることができる。中でも、ロドコッカス属細菌の一種であるロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株(以下、J1株と称する)は、アクリルアミドの工業的生産に使用されており、有用性が実証されている。また、その菌株が産生するニトリルヒドラターゼをコードする遺伝子も明らかとなっている(特許文献1参照)。
酵素を使用した化成品の工業生産においては、単離した酵素を使用するよりも、酵素が生産された微生物を触媒として使用する方がコストの面から好ましい。ロドコッカス属細菌は、一般的に、細胞壁が強固で反応液中へタンパク質などの菌体内容物が漏洩しにくいため、触媒として使用することに適しており、ロドコッカス属細菌の中でも、特にJ1株は、アクリルアミドの工業生産での実績からアミド化合物を始めとする種々の化合物の生産のための宿主として有用である。
酵素機能が改変された微生物を作製する方法としては、目的の酵素活性を有する微生物にNTG(N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン)やEMS(エチルメタンスルホン酸)等の変異誘起化合物を用いて変異処理を行い、目的の性能を有する変異株を取得する方法、または、酵素遺伝子を単離してPCRなどの手法で改変酵素遺伝子を作製し、遺伝子組み換え法を用いて組換え菌を作製する方法がある。
ロドコッカス属細菌をより有効に活用するためには、目的に応じてロドコッカス属細菌のゲノム上の遺伝子を特異的に置換等することにより、改変することが効果的である。
ロドコッカス属細菌において相同組換えにより遺伝子欠失又は不活性化を行う場合、エレクトロポレーション法等が知られている。しかしながら、ロドコッカス属細菌及びその類縁属細菌は非相同組換えが起こり易いという特徴を有しているため、目的の相同組換え株が極めて低確率でしか得られないという問題がある。
このような状況下において、より効率的かつ汎用的にニトリルヒドラターゼ遺伝子を置換させた、遺伝的に改変された微生物の取得及び開発が望まれていた。具体的には、本発明はロドコッカス属細菌等の微生物における相同組換え技術を開発及び確立し、当該微生物(宿主)由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換させた改変微生物をより効率的かつ汎用的に得ることが望まれていた。さらには、当該改変微生物を用いて異種ニトリルヒドラターゼを効率的に産生し、これを用いて低コストかつ高効率でアミド化合物を製造することが望まれていた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
本発明の微生物において、ニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物は、例えば、ロドコッカス属細菌又はノカルディア属細菌が挙げられる。ここで、ロドコッカス属細菌は、例えば、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株又はその変異株が挙げられる。
本発明の微生物において、置換されるニトリルヒドラターゼ遺伝子は、例えば、高分子量型ニトリルヒドラターゼ遺伝子及び/又は低分子量ニトリルヒドラターゼ遺伝子が挙げられる。
(a)レシピエント微生物として、前記接合伝達に供するドナー微生物が感受性を示す薬剤への耐性が強化された微生物を作製する工程;
(b)ドナー微生物として、(i)レシピエント微生物中のニトリルヒドラターゼ遺伝子とその周辺の塩基配列とを含む塩基配列において当該ニトリルヒドラターゼ遺伝子を異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換させた配列、(ii)当該ドナー微生物において機能する接合伝達開始領域、(iii)当該ドナー微生物において機能する複製開始領域、(iv)レシピエント微生物が感受性を示す薬剤に対する耐性遺伝子、及び(v)レシピエント微生物に対する条件致死遺伝子を含む、遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を作製する工程;
(c)前記(b)で作製されたドナー微生物から前記(a)で作製されたレシピエント微生物への接合伝達を行うことにより、当該レシピエント微生物の形質転換体を作製する工程;並びに
(d)前記(c)で作製された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。
(3)上記(1)に記載の微生物を培養して得られる培養物又は当該培養物の処理物をニトリル化合物に接触させ、当該接触により生成されるアミド化合物を採取することを特徴とする、アミド化合物の製造方法。
具体的には、本発明によれば、ロドコッカス属細菌等の微生物における相同組換え技術を確立し、上記のような遺伝的に改変した微生物を効率的かつ汎用的に得ることができる。さらには、当該改変微生物を用いて異種ニトリルヒドラターゼ(例えば、改良型のニトリルヒトラターゼ)を効率的に産生すること、及び当該微生物を微生物触媒として用いて様々なニトリル化合物から低コストかつ高効率でアミド化合物を製造することができる。
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
本発明に係るニトリルヒドラターゼ遺伝子が置換された微生物(以下、「本発明の微生物」ということがある)は、前述した通り、ニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物におけるニトリルヒドラターゼ遺伝子が、異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換された微生物である。
本発明の微生物が得られる前の、ニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物(対象微生物)としては、ニトリルヒドラターゼを産生し、その活性を示すものであればよく、特に限定はされないが、例えば、ロドコッカス属細菌、バチルス属細菌、シュードノカルディア属細菌、ジオバチルス属細菌、シュードモナス属細菌、ノカルディア属細菌、コリネバクテリウム属細菌等が好ましく挙げられる。中でもロドコッカス属細菌は、細胞壁が強固で反応液中へタンパク質などの菌体内容物が漏れないため、産業的に微生物触媒としての使用等に適している点でより好ましい。
また、バチルス属細菌としては、例えば、バチルス・スミシ(Bacillus smithii)(特開平09-248188号)等が好ましく挙げられる。シュードノカルディア属細菌としては、例えば、シュードノカルディア・サーモフィラ JCM3095(特開平09-275978号)、等が好ましく挙げられる。ジオバチルス属細菌としては、例えば、ジオバチルス・サーモグルコシダシアス(国際公開第04/108942号)、ジオバチルス・カルドキシロシチリカス M16(特開2006-158323号)等が好ましく挙げられる。シュードモナス属細菌としては、例えば、シュードモナス・クロロラフィス B23(特開昭58- 86093)シュードモナス・プチダ DSM16276(国際公開第05/2689号)、シュードモナス・マルギナリス DSM16275(国際公開第05/2689号)、ノカルディア属細菌としては、例えばノカルディア YS-2002株(CN1584024)、ノカルディア sp.JBRs(GenBankアクセッション番号:AY141130)が好ましく挙げられる。
R-CN + H2O → R-CONH2
(式中、Rは、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のシクロアルキル基、置換又は無置換のアリール基、あるいは置換又は無置換の飽和又は不飽和複素環基を表す。)
なお、本発明においては、例えば、上記対象微生物がロドコッカス・ロドクロウス J1株の場合は、本来有するニトリルヒドラターゼ遺伝子として、高分子量型ニトリルヒドラターゼの遺伝子(配列番号1)と低分子量型ニトリルヒドラターゼの遺伝子(配列番号5)との2種のニトリルヒドラターゼ遺伝子を有しているため、標的遺伝子としては、これらのいずれか一方でもよいし、両方でもよく、限定はされない。なお、上記高分子量型ニトリルヒドラターゼのαサブユニット、βサブユニット及びβホモログ(nhhG)をコードする遺伝子を、それぞれ順に、配列番号2〜4に示した。同様に、上記低分子量型ニトリルヒドラターゼの遺伝子のαサブユニット、βサブユニット及びβホモログ(nhlE)をコードする遺伝子を、それぞれ順に、配列番号6〜8に示した。
さらに、本発明の微生物(ニトリルヒドラターゼ遺伝子が異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換された微生物)は宿主微生物としても用いることができ、この場合、本発明の微生物にさらに他の異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子(前記置換により導入された異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子と同種であっても異種であってもよい)を発現ベクター等により導入した形質転換体(形質転換微生物)を作製し使用することができる。
R-CONH2
(式中、Rは、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のシクロアルキル基、置換又は無置換のアリール基、あるいは、置換又は無置換の飽和又は不飽和複素環基を表す)
上記式で表されるアミド化合物としては、例えば、式中のRがCH2=CHであるアクリルアミドが好ましい。
本発明において、ニトリルヒドラターゼ遺伝子を異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換する方法としては、限定はされず、如何なる方法を適用してもよいが、例えば、以下の方法が好ましく挙げられる。
すなわち、以下の工程(a)〜(d)を含む、ドナー微生物からニトリルヒドラターゼ活性を有するレシピエント微生物への接合伝達を利用した形質転換方法(詳しくは、当該形質転換方法を用いることを含むニトリルヒドラターゼ遺伝子の置換方法)方法により、本発明の微生物が得られることが好ましい。なお、図3に当該置換方法の概略を示す。
(b)ドナー微生物として、下記(i)〜(v):
(i)レシピエント微生物中のニトリルヒドラターゼ遺伝子(標的遺伝子)とその周辺の塩基配列とを含む塩基配列において当該ニトリルヒドラターゼ遺伝子を異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換させた塩基配列領域、
(ii)当該ドナー微生物において機能する接合伝達開始領域、
(iii)当該ドナー微生物において機能する複製開始領域、
(iv)レシピエント微生物が感受性を示す薬剤に対する耐性遺伝子、及び
(v)レシピエント微生物に対する条件致死遺伝子
を含む、遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を作製する工程;
(c)工程(b)で作製されたドナー微生物から工程(a)で作製されたレシピエント微生物への接合伝達を行うことにより、当該レシピエント微生物の形質転換体を作製する工程;並びに
(d)工程(c)で作製された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。
一方、ドナー微生物としては、上記レシピエント微生物と接合伝達可能な微生物であればよく、限定はされないが、例えば、大腸菌が好ましい。
工程(a)では、接合伝達に供するレシピエント微生物として、接合伝達に供するドナー微生物が感受性を示す薬剤への耐性を強化した微生物を作製する。「薬剤への耐性を強化する」とは、レシピエント微生物が薬剤耐性を有していない場合には、薬剤耐性を付与することをいい、レシピエント微生物が薬剤耐性の乏しい場合には、当該耐性をより強化することをいう。
接合伝達法を使用する場合、レシピエントとなる微生物には薬剤耐性マーカーが必要である。よって、薬剤耐性を有していない微生物、又は薬剤耐性の乏しい微生物を使用する場合、薬剤選択可能な程度の十分な薬剤耐性を有する株(レシピエント)の作製が必要となる。ここで、薬剤としては、接合伝達法を使用することを考慮し、接合伝達に供するドナー微生物(接合伝達時のドナー微生物)が感受性を示す薬剤が好ましい。当該薬剤としては、具体的には、クロラムフェニコール、アンピシリン、カナマイシン、トリメトプリム、ゲンタマイシン、ナルジクス酸、カルベニシン、チオストレプトン、テトラサイクリン、ストレプトマイシン等が好ましく、クロラムフェニコール及びアンピシリン等がより好ましい。
工程(b)では、接合伝達に供するドナー微生物として、所定の遺伝子改変用プラスミド(接合用プラスミド)を用いて形質転換された微生物を作製する。遺伝子改変用プラスミド、すなわちレシピエント微生物中のニトリルヒドラターゼ遺伝子を改変するためのプラスミドDNAとしては、前述の(i)〜(v)の構成(遺伝子・塩基配列)を含むものを用いる。
ここで、前記(i)の配列は、改変の対象とするレシピエント微生物中のニトリルヒドラターゼ遺伝子と当該遺伝子の周辺の塩基配列とを含む塩基配列において当該ニトリルヒドラターゼ遺伝子を異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換させた塩基配列領域である。当該塩基配列領域の作製は、レシピエント微生物のゲノムから、ニトリルヒドラターゼ遺伝子と当該遺伝子の周辺の塩基配列とを含む塩基配列の単離(クローニング)、遺伝子ライブラリー作製やPCR等の公知技術を用いて行うことができる。なお、ニトリルヒドラターゼ遺伝子の周辺の塩基配列としては、限定はされないが、例えば、当該遺伝子に加え、発現調節に関連する遺伝子の上流及び下流の相同領域が両端からそれぞれ100〜3000 bpの塩基配列を含む配列であることが好ましく、より好ましくは500〜2000 bpの塩基配列を含む配列である。単離した塩基配列を用いて、前記(i)の塩基配列を作製する方法は特に限定されず、PCR法や制限酵素を用いた標的遺伝子部分の切除又は置換等の公知技術を用いて行うことができる。
前記(ii)の接合伝達開始領域は、使用するドナー微生物中において接合伝達の開始点となる塩基配列を含む領域であればよく、特に限定はされず、例えば、Fプラスミド由来の接合伝達開始領域を含む配列、プラスミドR6K由来のoriT、プラスミドRP4由来のoriTが好ましい。
前記(iii)の複製開始領域は、使用するドナー微生物中において前記遺伝子改変用プラスミドの自己複製起点として機能し得る塩基配列を含む領域であればよく、特に限定はされず、例えば、oriVや、プラスミドpMB1及び広宿主域プラスミドRK2由来の複製開始点並びにその派生物等を含む領域の使用が好ましい。
前記(v)の条件致死遺伝子は、レシピエント微生物のゲノム上に導入された場合に、当該微生物を死に至らしめる作用を有し得る遺伝子であれば、特に限定はされず、例えば、sacB遺伝子が好ましい。sacB遺伝子は、当該遺伝子を保有し発現する微生物(例えばロドコッカス属細菌等)をスクロース含有培地で培養した場合に、スクロースを基質とし当該微生物に対して致死作用を有する有害物質を産生する酵素をコードする遺伝子である。
前記遺伝子改変用プラスミドにおける(i)〜(v)の構成は、例えば、上流から順に、前記(i)の配列、前記(iv)の耐性遺伝子、前記(v)の条件致死遺伝子、前記(ii)の接合伝達開始領域、前記(iii)の複製開始領域の順で配されていることが好ましい。前記(i)〜(v)の構成を含む遺伝子改変用プラスミドの構築は、公知の遺伝子組換え技術を用いて実施することができる。
工程(b)では、上述したような各構成を有する遺伝子改変用プラスミドをドナー微生物内に導入して形質転換された微生物、すなわち接合伝達に供するドナー微生物を作製する。その際、形質転換の方法としては、エレクトロポレーション法や塩化カルシウム法等の、微生物の形質転換方法として公知の方法を用いることができる。
工程(c)では、工程(b)で作製されたドナー微生物から工程(a)で作製されたレシピエント微生物への接合伝達を行う。通常は、ドナー微生物及びレシピエント微生物のそれぞれの菌体懸濁液を混合し、適当なプレート培地(LB培地等)上に均一に広げて、両微生物の接合を行わせる。
当該接合においては、ドナー微生物中の遺伝子改変用プラスミドがレシピエント微生物内に移動し、レシピエント微生物のゲノムと上記プラスミドとの相同配列で相同組換が起こり、遺伝子改変用プラスミドの一部又は大部分が当該レシピエント微生物のゲノム上に導入される。この接合により、レシピエント微生物の形質転換体が、すなわち相同組換え株が作製される。
本工程(c)における所望の相同組換え株は、1重交差により標的遺伝子の上流又は下流に当該遺伝子改変用プラスミドが導入されたものである。
所望の形質転換体であるかどうかの確認は、レシピエント微生物自体の薬剤耐性、及び前記遺伝子改変用プラスミド由来の薬剤耐性を利用して行うことができる。具体的には、両薬剤を含む培地(例えば、カナマイシン及びクロラムフェニコール含有培地等)において上記接合後の微生物を培養することにより、所望の形質転換体を選択することができる。
工程(d)では、工程(c)で作製されたレシピエント微生物の形質転換体(形質転換微生物)を、前記遺伝子改変用プラスミド由来の条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養(継代培養)する。条件致死遺伝子が機能し得る培養条件としては、限定はされないが、例えば条件致死遺伝子がsacB遺伝子の場合は、スクロース含有培地を用いた培養が好ましく挙げられる。
当該培養においては、上記条件致死遺伝子を有する形質転換微生物は生育困難であるため、継代培養により、自然誘発的に、当該微生物のゲノム上から相同組換えにより上記条件致死遺伝子を含む塩基配列領域が除かれた(脱落した)形質転換微生物を得る(選抜する)ことができる。ただし、当該得られた微生物の中には、レシピエント微生物中のニトリルヒドラターゼ遺伝子が、当初の目的の通り置換されているものと、そうでないもの(上記脱落の際の相同組換えにより元の(異種でない)ニトリルヒドラターゼ遺伝子に復活したもの)とが含まれ得る。よって、通常は、ゲノム上のニトリルヒドラターゼ遺伝子のDNA配列確認や、さらに別の培養条件で培養したり、培養物を用いてニトリルヒドラターゼ活性測定や各種タンパク質分析法を適用して分析することにより、所望の形質転換微生物を選択することがより好ましい。
本発明のニトリルヒドラターゼの製造方法、詳しくは、異種ニトリルヒドラターゼの製造方法は、前述した本発明の微生物を培養し、得られる培養物から前記異種ニトリルヒドラターゼを採取することを特徴とする方法である。
ここで、当該製造方法に用いる本発明の微生物としては、具体的には、ニトリルヒドラターゼ遺伝子が異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換された微生物、すなわちゲノム上の異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子の発現により異種ニトリルヒドラターゼを産生し得る微生物が挙げられる。
また、当該微生物は、後述する形質転換微生物の宿主としても用いることができる。
当該形質転換微生物としては、従来公知の遺伝子組換え技術等により、異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子(前記置換により導入されている異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子と同種であっても異種であってもよい)が発現し得るように導入されたものであればよく、限定はされないが、例えば、異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子を含む組換えベクター(発現ベクター)等を導入することによりなされたものが好ましい。
本発明において、「培養物」とは、培養上清、培養菌体又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。形質転換微生物を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。目的の異種ニトリルヒドラターゼは、上記培養物中に蓄積される。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、イソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)で誘導可能なプロモーターを有する発現ベクターで形質転換した形質転換微生物を培養するときには、IPTG等を培地に添加することができる。また、インドール酢酸(IAA)で誘導可能なtrpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換微生物を培養するときには、IAA等を培地に添加することができる。
上記培養条件で培養すると、高収率で異種ニトリルヒドラターゼを上記培養物中、すなわち培養上清、培養菌体又は菌体の破砕物の少なくともいずれかに蓄積することができる。これら異種ニトリルヒドラターゼを含有する「培養物」は、後述するアミド化合物の製造方法に使用することができる。
また、異種ニトリルヒドラターゼが菌体内に生産される場合、菌体そのものを遠心分離、膜分離等で回収して、未破砕のまま使用することも可能である。
形質転換微生物を培養して得られた異種ニトリルヒドラターゼの生産収率は、例えば、培養液あたり、菌体湿重量又は乾燥重量あたり、粗酵素液タンパク質あたりなどの単位で、SDS-PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)やニトリルヒドラターゼ活性測定などにより確認することができるが、特段限定されるものではない。SDS-PAGEは当業者であれば公知の方法を用いて行うことができる。また、異種ニトリルヒドラターゼ活性は、上述した活性の値を適用することができる。
上述のように製造された異種ニトリルヒドラターゼ(前述した培養物を含む)は、酵素触媒(菌体のまま利用する微生物触媒等を含む)として物質生産に利用することができる。例えば、ニトリル化合物に、異種ニトリルヒドラターゼを接触させ、当該接触によりニトリル化合物が変換されて生成されるアミド化合物を採取することにより、アミド化合物を製造することができる。
酵素触媒としては、前述のように適当な宿主内で異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子が発現するように遺伝子導入を行い、宿主を培養した後の培養物、又は当該培養物の処理物を利用することができる。処理物としては、例えば、培養後の菌体をアクリルアミド等のゲルで包含したもの、グルタルアルデヒドで処理したもの、アルミナ、シリカ、ゼオライト及び珪藻土等の無機担体に担持したもの等が挙げられる。
基質として使用されるニトリル化合物は、酵素の基質特異性、酵素の基質に対する安定性等を考慮して選択される。ニトリル化合物としては、アクリロニトリルが好ましい。
上記反応により生成したアクリルアミドは、ガスクロマトグラフィーなどの公知の方法を用いて定量することができる。また、アクリルアミドの産生量から前記酵素触媒のニトリルヒドラターゼ活性を換算することができる。
(1)接合伝達プラスミド(pK19mobsacB1)の作製
pDNR-1r(clontech社製)中のsacB遺伝子を、NspV切断サイトを付加したプライマーSAC-01(配列番号9)及びSAC-02(配列番号10)を使用したPCRにより増幅し、約1.9 kbのsacB遺伝子断片を得た。PCRは以下の反応条件で行った。
SAC-01: 5'-GGTTCGAATACCTGCCGTTCACTATTATTTAGTG-3'(配列番号9)
SAC-02: 5'-GGTTCGAATCGGCATTTTCTTTTGCGTTTTTATTTG-3'(配列番号10)
滅菌水 22 μl
2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μl
プライマーSAC-01(配列番号9) 1 μl
プライマーSAC-02(配列番号10) 1 μl
pDNR-1r(clontech社製)(100倍希釈) 1 μl
総量 50 μl
98℃ 10秒、55℃ 15秒及び72℃ 150秒の反応を30サイクル、72℃ 300秒の反応を1サイクル
ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株(以下、J1株と称する)を100mlのMYK培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、1% グルコース、0.2% K2HPO4、0.2% KH2PO4、pH7.0)中、30℃にて72時間振盪培養した。
培養後、集菌し、集菌された菌体をSaline-EDTA溶液(0.1M EDTA、0.15M NaCl(pH8.0))4mlに懸濁した。懸濁液にリゾチーム40 mgを加えて、37℃で1〜2時間振盪した後、-20℃で凍結した。
次に、10mlのTris-SDS液(1%SDS、0.1M NaCl、0.1M Tris-HCl(pH9.0))を穏やかに振盪しながら加え、さらにプロテイナーゼK(メルク社)を10μl(終濃度10mg/ml)加えて37℃で1時間振盪した。
次に、等量のTE (10mM Tris-HCl、1mM EDTA(pH8.0)) 飽和フェノールを加え、撹拌した後遠心した。遠心後、上層をとり2倍量のエタノールを加えた後、ガラス棒でDNAを巻きとり、90%、80%、70%のエタノールで順次フェノールを取り除いた。
上層についてこの操作を2回繰り返した後、同量のクロロホルム(4%イソアミルアルコール含有)を加え、同様の抽出操作を繰り返した。その後、上層に2倍量のエタノールを加え、ガラス棒でDNAを巻きとり回収し、J1株ゲノムのDNAを得た。このゲノムDNAは、配列番号1に示すニトリルヒドラターゼ遺伝子を有している。
ニトリルヒドラターゼ遺伝子の上流域と下流域を含んだ配列を取得するため、以下の反応条件でPCRを行った。
NH-Sub01: 5'-GGCCTGCAGGggtgagggctctgatgacagttgc-3'(配列番号11)
NH-Sub02: 5'-CCTCTAGAatgaccggcgtgtcgtaaccggacg-3'(配列番号12)
鋳型DNA(J1株ゲノムDNA) 1μl
プライマーNH-Sub01(配列番号11) 0.5μl
プライマーNH-Sub02(配列番号12) 0.5μl
滅菌水 8μl
PrimeSTAR(タカラバイオ) 10μl
総量 20μl
98℃ 10秒、55℃ 15秒及び72℃ 60秒の反応を30サイクル
ここで、上記アミノ酸置換の態様(すなわち「Nα↑60D,Dβ←209G,Iα↓95T」)は、具体的には、J1菌由来の野生型ニトリルヒドラターゼのαサブユニット(配列番号2)の塩基配列のうち、CTLCSC領域(補欠分子結合領域を構成するアミノ酸配列領域)の最も上流側のC残基より60残基上流のアスパラギン(N)がアスパラギン酸(D)に置換され(この置換は「Nα↑60D」と表記される)、上記CTLCSC領域の最も下流側のC残基より95残基下流のイソロイシン(I)がスレオニン(T)に置換され(この置換は「Iα↓95T」と表記される)、さらに、J1菌由来の野生型ニトリルヒドラターゼのβサブユニット(配列番号1)の塩基配列のうちC末端のアミノ酸残基から(当該アミノ酸残基を含めて数えて)209番目のアスパラギン酸(D)がグリシン(G)に置換された(この置換は「Dβ←209G」と表記される)アミノ酸残基の置換態様を意味するものである。
Forward-プライマー(α↑60D-F):
gtcgtttcgtactacgaggacgagatcggcccgatgg(配列番号13)
Reverse-プライマー(α↑60D-R):
ccatcgggccgatctcgtcctcgtagtacgaaacgac(配列番号14)
pUC-JN01 1μl
10μM Forward-プライマー 1μl
10μM Reverse-プライマー 1μl
滅菌水 7μl
PrimeSTAR(タカラバイオ) 10μl
総量 20μl
98℃ 10秒、55℃ 15秒及び72℃ 60秒の反応を30サイクル
さらに下記のプライマーを使用し、上記と同様の方法で、「Dβ←209G」及び「Iα↓95T」の変異をそれぞれ順に追加導入した。得られたプラスミドをpUC-JN04と命名した。
Forward-プライマー(β←209G-F):
gtcccctatcagaaggGcgagcccttcttccac(配列番号15)
Reverse-プライマー(β←209G-R):
gtggaagaagggctcgCccttctgataggggac(配列番号16)
Forward-プライマー(α↓17G-F):
acaccgcaggaagtgaCcgtatgagtgaagac(配列番号17)
Reverse-プライマー(α↓17G-R):
gtcttcactcatacgGtcacttcctgcggtgt(配列番号18)
接合伝達に使用するドナーは、遺伝子置換株のセレクションに薬剤耐性が必要である。そこで、種々の薬剤耐性株の取得を試み、アンピシリン耐性を有するJ1株の変異株を下記の方法で取得した。
2μg/mlのアンピシリンを含んだMYKプレート(0.5% ポリペプトン、0.3% バクトイーストエキス、0.3% マルツエキス、0.2% KH2PO4、0.2% K2HPO4、1.5% 寒天)にJ1株をストリークし、コロニーが生育するまで30℃で保温した。約2週間後、アンピシリン耐性株が生育してきたので、再度2μg/mlのアンピシリンプレートにストリークして、30℃で保温した。
(1)ドナーの調製
乾熱滅菌した試験管に大腸菌S17-1λpirのコンピテントセル20μlにプラスミドpBKHN01 1μlを加え、氷上で30分静置した。42℃で30秒ヒートショック後、SOC培地を180μl添加し、37℃で1時間振とう培養を行った。その後、50μg/mlカナマイシンを含んだLBプレートに塗布し、37℃で一晩静置した。
翌日、プレートに生育したコロニーをLB培地1mlで回収し、遠心分離により菌体を回収し、遠心上清を除去した。同様の操作をもう一度繰り返し、最後に0.5mlのLB培地を添加し、菌体懸濁液を調製した。この菌体懸濁液をドナー溶液とした。
J1−Amp株をMYKプレートにストリークし、30℃で2日生育させた。生育したコロニーは実施例3(1)と同様の方法で回収及び洗浄し、レシピエントとなる菌体懸濁液を調製した。
実施例3(1)で調製したドナー溶液と、実施例3(2)で調製したレシピエント溶液を100μlずつ混合し、抗生物質を含まないMYKプレートに塗布し、30℃で一晩静置した。
翌日、生育したコロニーは1mlのLB培地で回収し、100μlずつカナマイシン濃度を10、30、50μg/mlとした選抜プレート(すべて100μg/mlアンピシリンを含む)に塗布した。塗布したプレートは組み換え菌コロニーが出現するまで30℃で1週間保温した。
その結果、100μg/mlアンピシリン、10μg/mlカナマイシンを含んだプレートに複数のコロニーが出現し、得られたコロニーを#77〜80と命名し、以後の実験に使用した。
接合伝達により得られた組み換え菌#77〜80は、ゲノム中に野生型ニトリルヒドラターゼ遺伝子と改良型としての異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子とが存在している。野生型ニトリルヒドラターゼ遺伝子を欠失するためには2段階の相同組換えが必要であるため、sacB遺伝子を利用した選抜を実施した。
10%ショ糖を含んだMYKプレートを作製し、#77〜80のコロニーを滅菌水に懸濁した液を適度に希釈して塗布し、30℃で静置した。生育したコロニーについて各2個のコロニーからゲノムDNAを調製し、ニトリルヒドラターゼ遺伝子のDNA配列を確認した。
その結果、ゲノム中のニトリルヒドラターゼ遺伝子は、上記改良型としての異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子であることを確認した。
Claims (10)
- ニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物におけるニトリルヒドラターゼ遺伝子が、異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換された微生物。
- 前記微生物が、ロドコッカス属細菌又はノカルディア属細菌である、請求項1記載の微生物。
- ロドコッカス属細菌が、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株又はその変異株である、請求項2記載の微生物。
- 置換されるニトリルヒドラターゼ遺伝子が、高分子量型ニトリルヒドラターゼ遺伝子及び/又は低分子量ニトリルヒドラターゼ遺伝子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物。
- 前記置換が、下記の工程(a)〜(d)を含む、ドナー微生物からニトリルヒドラターゼ活性を有するレシピエント微生物への接合伝達を利用した形質転換方法により行われるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の微生物。
(a)レシピエント微生物として、前記接合伝達に供するドナー微生物が感受性を示す薬剤への耐性が強化された微生物を作製する工程;
(b)ドナー微生物として、(i)レシピエント微生物中のニトリルヒドラターゼ遺伝子とその周辺の塩基配列とを含む塩基配列において当該ニトリルヒドラターゼ遺伝子を異種ニトリルヒドラターゼ遺伝子に置換させた配列、(ii)当該ドナー微生物において機能する接合伝達開始領域、(iii)当該ドナー微生物において機能する複製開始領域、(iv)レシピエント微生物が感受性を示す薬剤に対する耐性遺伝子、及び(v)レシピエント微生物に対する条件致死遺伝子を含む、遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を作製する工程;
(c)前記(b)で作製されたドナー微生物から前記(a)で作製されたレシピエント微生物への接合伝達を行うことにより、当該レシピエント微生物の形質転換体を作製する工程;並びに
(d)前記(c)で作製された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。 - ドナー微生物が大腸菌である、請求項5に記載の微生物。
- ドナー微生物が感受性を示す薬剤が、クロラムフェニコール、アンピシリン、ゲンタマイシン、テトラサイクリン、カルベニシン及びナルジクス酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5〜6のいずれか1項に記載の微生物。
- レシピエント微生物が感受性を示す薬剤が、カナマイシンである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の微生物。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の微生物及を培養し、得られる培養物から前記異種ニトリルヒドラターゼを採取することを特徴とする、ニトリルヒドラターゼの製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の微生物を培養して得られる培養物又は当該培養物の処理物をニトリル化合物に接触させ、当該接触により生成されるアミド化合物を採取することを特徴とする、アミド化合物の製造方法。
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