JP2007228934A - ロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法 - Google Patents

ロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ロドコッカス属に属する細菌から、効率良く形質転換体を得るためのベクター、およびその形質転換方法を提供する。
【解決手段】ロドコッカス属細菌から得た特定のアミノ酸配列を有する修飾酵素を用いて、制限酵素の切断部位GCCGGC配列を保護するよう修飾されたベクター。また、当該ベクターを含有する形質転換体を取得して、修飾ベクターを用いたロドコッカス属細菌の効率的な形質転換することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、修飾酵素を用いて修飾されたベクター、当該ベクターを含有する形質転換体、および当該ベクターを用いたロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法に関する。
ロドコッカス属に属する細菌は、その物理的強度が強く、また、酵素等を細胞内に多量に蓄積する能力を有すること等から、産業的に有用な微生物触媒として知られており、ニトリル類の酵素的水和または加水分解によるアミドまたは酸の生産等に利用されている(特許文献1および2参照)。
例えば、ロドコッカス・ロドクロウスJ-1菌は、アクリルアミドの工業的生産に使用されている。これまでに、これらの微生物触媒の有する酵素活性を、遺伝子組換えの方法により改良する試みがなされている(特許文献3〜5参照)。さらに、ロドコッカス属に属する細菌の遺伝子操作を効率的に進めるために、宿主−ベクター系の開発が進められており、新規なプラスミドの探索(特許文献6〜8および17参照)やベクターの開発(特許文献9〜11および非特許文献1参照)なども行われている。
ロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法としては電気パルス法(特許文献12〜15参照)やプロトプラスト法(非特許文献2および3参照)が用いられ、これまでに、ロドコッカス・ロドクロウス ATCC12674をはじめとして、多くの形質転換体が得られている。
本発明者らは、形質転換対象となるロドコッカス属に属する細菌とは異なるロドコッカス属に属する細菌またはその類縁菌から調製したプラスミドを用いることにより、形質転換対象へのプラスミドの形質転換効率が向上することを見出している(特許文献16参照)。
しかしながら、上記手法によりロドコッカス属に属する細菌を形質転換する場合、用いる菌株により形質転換効率は大きく影響される場合が多かった。そのため、宿主としては有用であるにもかかわらず、形質転換効率が極めて低い宿主の場合は、遺伝子組換え技術の適用が困難であった。
以上のように、ロドコッカス属に属する細菌の形質転換効率を向上させるため、より簡便にかつ高い効率で形質転換を達成できる形質転換方法が望まれている。
特開平2−470号明細書 特開平3−251192号明細書 特開平4−211379号明細書 特開平6−25296号明細書 特開平6−303971号明細書 特開平4−148685号明細書 特開平4−330287号明細書 特開平7−255484号明細書 特開平5−64589号明細書 特開平8−56669号明細書 米国特許4,920,054号明細書 特開平10−248578号明細書 特開平09−28380号明細書 特開平08−56669号明細書 特開平05−68566号明細書 特開2005−095041号明細書 特開2006-050967号明細書 Journal of Bacteriology 170, 638-645 (1988) J Basic Microbiol. 1998;38(2):101-6. J Bacteriol. 1988 Feb;170(2):638-45
そこで本発明は、上述した実状に鑑み、形質転換効率が優れた、ロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、修飾酵素を用いて修飾されたベクターを用いることによって、高効率にロドコッカス属に属する細菌を形質転換できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本願は以下の発明を提供するものである。
(1)修飾酵素を用いて修飾されたベクターであって、
前記修飾酵素が、以下の(a)または(b)のポリペプチドである前記ベクター。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチド
(2)修飾酵素を発現させた形質転換体から得られるベクターであって、
前記修飾酵素が、以下の(a)または(b)のポリペプチドである前記ベクター。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチド
(3)修飾酵素を用いて修飾されたベクターであって、
前記修飾酵素が、以下の(a)または(b)のDNAによりコードされるポリペプチドである前記ベクター。
(a)配列番号1で示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1で示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(4)修飾酵素を発現させた形質転換体から得られるベクターであって、
前記修飾酵素が、以下の(a)または(b)のDNAによりコードされるポリペプチドである前記ベクター。
(a)配列番号1で示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1で示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(5)修飾酵素がGCCGGC配列を認識する酵素であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のベクター。
(6)形質転換体の宿主がdamメチラーゼおよび/またはdcmメチラーゼを欠損した大腸菌であることを特徴とする(2)または(4)に記載のベクター。
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載のベクターを含有する形質転換体。
(8)以下の工程を含むロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法。
(i)修飾酵素を用いてベクターを修飾する工程、および
(ii)工程(i)で修飾されたベクターをロドコッカス属に属する細菌に導入する工程
(9)以下の工程を含むロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法。
(i)修飾酵素を発現させた形質転換体から修飾されたベクターを得る工程、および
(ii)工程(i)で得られたベクターをロドコッカス属に属する細菌に導入する工程
(10)修飾酵素がGCCGGC配列を認識する酵素であることを特徴とする(8)または(9)に記載の方法。
(11)修飾酵素が、以下の(a)または(b)のポリペプチドであることを特徴とする(8)または(9)に記載の方法。
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチド
(12)修飾酵素が、以下の(a)または(b)のDNAによりコードされるポリペプチドであることを特徴とする(8)または(9)に記載の方法。
(a)配列番号1で示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1で示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
(13)工程(i)の形質転換体の宿主がdamメチラーゼおよび/またはdcmメチラーゼを欠損した大腸菌であることを特徴とする(9)に記載の方法。
本発明により、修飾酵素を用いて修飾されたベクターおよび当該ベクターを含有する形質転換体が提供される。
また、本発明により、ロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法が提供される。
本発明の形質転換方法は、従来の方法よりも簡便であり、また、高い形質転換効率を有する方法である。
本発明のベクターにより、ロドコッカス属に属する細菌を高い効率で形質転換することが可能になったことから、本発明のベクターは、ロドコッカス属に属する細菌の形質転換に利用することができる。
本発明に係る形質転換方法により得られたロドコッカス属に属する細菌の形質転換体は、導入したDNAの効果により新たな性質を有することが可能である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定させるものではない。
本発明は、修飾酵素を用いて修飾されたベクター、当該修飾されたベクターを含有する形質転換体および当該修飾されたベクターを用いたロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法に関する。
1.本発明の形質転換方法の対象となる細菌
本発明の方法において、形質転換の対象となる細菌は、ロドコッカス属に属する細菌であれば、特に制限はされない。本発明の方法は、形質転換体が得られていない、または形質転換効率が低いロドコッカス属に属する細菌の形質転換において、より効果的である。
本発明において、ロドコッカス属に属する細菌としては、例えば、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodocrous)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)、ロドコッカス・ロドニ(Rhodococcus rhodnii)、ロドコッカス・コラリヌス(Rhodococcus corallinus)、ロドコッカス・ルブロペルチンクタス(Rhodococcus rubropertinctus)、ロドコッカス・コプロフィラス(Rhodococcus coprophilus)、ロドコッカス・グロベルルス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス・クロロフェノリカス(Rhodococcus chlorophenolicus)、ロドコッカス・ルテウス(Rhodococcus luteus)、ロドコッカス・アイシェンシス(Rhodococcus aichiensis)、ロドコッカス・チュブエンシス(Rhodococcus chubuensis)、ロドコッカス・マリス(Rhodococcus maris)、ロドコッカス・ファシエンス(Rhodococcus fascines)、ロドコッカスsp.、ロドコッカス・ピリジノボランス(Rhodococcus pyridinovorans)等が挙げられ、好ましくはロドコッカス・ロドクロウスである。
本発明において、ロドコッカス・ロドクロウスに含まれる菌としては、例えば、ロドコッカス・ロドクロウスJ-1株、ロドコッカス・ロドクロウスATCC999株、ATCC12674株、ATCC17895株、ATCC15998株、ATCC33275株、ATCC184、ATCC4001株、ATCC4273株、ATCC4276株、ATCC9356株、ATCC12483株、ATCC14341株、ATCC14347株、ATCC14350株、ATCC15905株、ATCC15998株、ATCC17041株、ATCC19149株、ATCC19150株、ATCC21197株ATCC21243株、 ATCC29670株、ATCC29672株、ATCC29675株、ATCC33258株、ATCC13808株、ATCC17043株、ATCC19067株、ATCC21999株、ATCC21291株、ATCC21785株、ATCC21924株、 IFO14894株、IFO3338株、NCIMB11215株、NCIMB11216株、JCM3202株が挙げられ、好ましくはロドコッカス・ロドクロウスJ-1株、ロドコッカス・ロドクロウスATCC4273株、ATCC15905株、ATCC21197株、ATCC14894株が挙げられる。ロドコッカス・ロドクロウスJ-1菌は「Rhodococcus rhodocrouse J-1」(FERM BP-1478)として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託されている。本発明において、ロドコッカス・ロドクロウスには、ロドコッカス・ロドクロウスJ-1株に変異剤処理や紫外線照射等によって変異を導入した変異株も含まれる。前記ATCC4273株、ATCC15905株、ATCC21197株、ATCC14894株等は、アメリカンタイプカルチャーコレクションから容易に入手可能である。
2.修飾酵素
本発明において、修飾酵素は、同一の塩基配列を認識する制限酵素による切断からDNAを保護するようにDNAに修飾することのできる酵素を意味する。本発明において、修飾酵素は、好ましくはDNAの塩基をメチル化する酵素(メチラーゼ)である。
本発明に使用する修飾酵素としては、修飾酵素の由来は特に限定されないが、形質転換の対象となるロドコッカス属に属する細菌が有する修飾酵素、またはその修飾酵素の認識するDNA配列と同じDNA配列を認識する修飾酵素を用いるのが好ましい。
本発明者は、ロドコッカス・ロドクロウスJ-1株において、GCCGGCを認識配列とする修飾酵素(以下、「RrhJ1I修飾酵素」と称す)を見出した。よって、本発明に使用される修飾酵素は、RrhJ1I修飾酵素を挙げることができ、その他にGCCGGCを認識する修飾酵素(例えば、NaeIメチラーゼ、NgoMIVメチラーゼ等)を用いることもできる。本発明において、修飾酵素はGCCGGCのシトシン塩基の少なくとも1箇所をメチル化し、制限酵素の切断を阻止することができるものである。
本発明において、RrhJ1I修飾酵素は、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むものである。配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドは、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
また、本発明のRrhJ1I修飾酵素は、前記のものに限定されず、配列番号2で示されるアミノ酸配列の全部または一部を含むポリペプチドであって、かつ修飾酵素活性を有するタンパク質を含むものである。
ここで、「修飾酵素活性」は、制限酵素による切断からDNAを保護するようにDNAに修飾することのできる酵素の活性を意味する。
本明細書において、RrhJ1I修飾酵素の修飾酵素活性は、RrhJ1I修飾酵素を接触させたDNAにRrhJ1I制限酵素を接触させ、制限酵素接触後のDNAの分子量またはDNAの断片数を測定することにより評価することができる。当業者であれば、修飾酵素または制限酵素による接触時の酵素量、温度、溶液組成または接触時間などの条件を設定することができる。修飾酵素を接触させたDNAの分子量と、制限酵素で接触後のDNAの分子量またはDNA断片数とを比較することで、RrhJ1I修飾酵素活性を評価することができる。
また、本発明におけるRrhJ1I修飾酵素には、配列番号2で示されるアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性(同一性)を有するアミノ酸配列を含み、かつRrhJ1I修飾酵素活性を有するポリペプチドも含まれる。
さらに、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含み、かつRrhJ1I修飾酵素活性を有するポリペプチドもRrhJ1I修飾酵素に含まれる。
前記の配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸に欠失、置換または付加等の変異が生じたアミノ酸配列としては、例えば(i)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1〜20個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列の1〜20個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、(iii)配列番号2で示されるアミノ酸配列に1〜20個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iv)配列番号2で示されるアミノ酸配列に1〜20個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(v)上記(i)〜(iv)を組み合わせたアミノ酸配列が挙げられる。
本発明において、RrhJ1I修飾酵素には、配列番号1で示される塩基配列からなるDNAと同一のDNAまたは当該DNAの一部の塩基が変異したDNA(以下「変異体DNA」ともいう)によってコードされるポリペプチドが含まれる。
本発明において、変異体DNAとしては、配列番号1で示される塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAであって、コードするポリペプチドが修飾酵素活性を有するDNAが挙げられる。
また、変異体DNAとしては、上記のDNAのほか、配列番号1で示される塩基配列において、1個または数個の塩基に欠失、置換または付加等の変異が生じた塩基配列からなるDNAであり、コードするポリペプチドが修飾酵素活性を有するDNAが挙げられる。
前記の配列番号1で示される塩基配列において1個または数個の塩基に欠失、置換、または付加の変異が生じた塩基配列としては、例えば(i) 配列番号1で示される塩基配列において、1〜20個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が欠失した塩基配列、(ii)配列番号1で示される塩基配列の1〜20個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が他の塩基で置換された塩基配列、(iii) 配列番号1で示される塩基配列に1〜20個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が付加した塩基配列、(iv) 配列番号1で示される塩基配列に1〜20個(例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)の塩基が挿入された塩基配列、(v) 上記(i)〜(iv)を組み合わせた塩基配列などが挙げられる。
また、変異体DNAとしては、配列番号1で示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。
前記のストリンジェントな条件としては、例えば、DNAを固定したナイロン膜を、6×SSC(1×SSCは塩化ナトリウム8.76g 、クエン酸ナトリウム4.41g を1リットルの水に溶かしたもの)、1% SDS、100μg/mlサケ精子DNA、0.1% ウシ血清アルブミン、0.1% ポリビニルピロリドン、0.1% フィコールを含む溶液中で65℃にて20時間プローブとともに保温してハイブリダイゼーションを行う条件を挙げることができるが、これに限定されるわけではない。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、ハイブリダイゼーションの条件を設定することができる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))等を参照することができる。
本発明において、修飾酵素をコードするDNAは、当該酵素を発現する細菌から単離することができる。例えば、ロドコッカス・ロドクロウスJ-1株由来のゲノムDNAを鋳型として、既知のアミノ酸配列情報から遺伝子の縮重を考慮して設計したプライマーまたは既知の塩基配列情報に基づいて設計したプライマーを用いたPCRにより、遺伝子を単離することができる。単離した遺伝子から、公知の方法により修飾酵素を製造することができる。
また、DNAに変異を導入することによって、1個または数個のアミノ酸に欠失、置換または付加等の変異を導入することもできる。DNAまたはポリペプチドに変異を導入するには、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社)等を用いることができる。
本発明において、DNAの塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463) 等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
3.修飾酵素によるベクターの修飾
修飾酵素でベクターを修飾する方法としては、例えば、(1)修飾酵素を用いてin vitroでベクターを修飾する方法と、(2)修飾酵素を発現する形質転換体を作製し、その形質転換体に目的とするDNAを含むベクターを導入して修飾する方法を採用することができる。
本発明において、修飾酵素によって修飾されるベクターは、その由来に限定されるものではなく、天然から単離されるDNAであってもよいし、あるいは、合成DNA、または遺伝子工学的手法も用いて産生されたDNAであってもよい。
修飾酵素によって修飾されたベクターを用いてロドコッカス属に属する細菌を形質転換する場合は、当該ベクターは、形質転換しようとするDNA(発現カセットを含んでいてもよい)を含むものであればよく、好ましくは、例えばpK1、pK2、pK3およびpK4(特許文献9参照)、ならびにpSJ023およびpSJ002(特許文献12参照)等のプラスミドDNAが挙げられる。これらのベクターは、ロドコッカス属に属する細菌において自律複製が可能な領域と、薬剤耐性遺伝子としてカナマイシン遺伝子を含んでいるため、形質転換に好ましく使用することができる。
(1)修飾酵素を用いたベクターの修飾
修飾酵素を当該酵素を有する菌の培養物から得る場合、当該酵素を有する細菌は、当該酵素をもともと発現している細菌でもよいし、修飾酵素をコードするDNAを含む組換えベクターにより形質転換された形質転換体でもよい。
形質転換体に導入される上記の組換えベクターは、発現ベクターに修飾酵素をコードするDNAを挿入することにより作製することができる。
ベクターにDNAを挿入するには、制限酵素を用いる方法、トポイソメラーゼを用いる方法等を利用することができる。また、挿入の際に必要であれば、適当なリンカーを付加してもよい。また、アミノ酸への翻訳にとって重要な塩基配列として、SD配列やKozak配列などのリボソーム結合配列が知られており、これらの配列を遺伝子の上流に挿入することもできる。挿入にともない、DNAがコードするアミノ酸配列の一部を置換してもよい。
DNAを挿入するベクターは、修飾酵素をコードするDNAを保持するものであれば特に限定されず、それぞれの宿主に適したベクターを用いることができる。
上記の組換えベクターを宿主に導入することで、形質転換体を得ることができる。
本発明において使用する宿主は、上記組換えベクターが導入された後、目的の修飾酵素を発現することができる限り、特に限定されるものではない。宿主としては、例えば、大腸菌(エシェリヒア・コリ)、枯草菌(バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis))、放線菌などの細菌、酵母、カビ、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。本発明において、宿主は好ましくは大腸菌である。
修飾酵素を発現させる宿主は、メチル化シトシンに関わる制限系遺伝子(mcrA,B,C)、またはメチル化アデニンに関わる制限系遺伝子(mrr)のどちらか、またはその両方を欠損する宿主を使用するのが好ましい。大腸菌の一例としては、XL1-Blue MRF’、K802などを用いることができる。また、その他にロドコッカスに属する細菌も用いることができる。さらに、後述するように、宿主は、damメチラーゼおよびdcmメチラーゼの両方またはいずれか一方を欠損している宿主を使用するのが好ましい。
宿主への組換えベクターの導入方法としては、宿主に適した方法であれば特に限定されるものではなく、当業者であれば公知技術から適宜選択することができる。このような方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、カルシウムイオンを用いる方法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
修飾酵素を当該酵素を有する細菌の培養物から得る方法としては、たとえば培養物より菌体を集菌後、超音波破砕、超遠心分離等により酵素を抽出し、ついで除核酸法、塩析法、アフィニティクロマトグラフィー法、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー法等を組み合わせて精製すればよい。この方法により、修飾酵素を大量に得ることができる。用いる発現系によっては、形質転換体中で発現された酵素タンパク質が不溶物[封入体(inclusionbody)]として蓄積される場合がある。この場合にはこの不溶物を回収し、穏和な変性条件、たとえば尿素等の変性剤存在下で可溶化した後に変性剤を除くことによって活性型のタンパク質を得ることができる。さらに上記のようなクロマトグラフィー操作を行って目的とする酵素タンパク質を精製することができる。
本発明において「培養物」とは、菌体、培養液、無細胞抽出液、細胞膜などの培養により得られるものを意味する。無細胞抽出液は、培養後の菌体を、例えばリン酸ナトリウム緩衝液を加えてホモジナイザーなどで物理的に破砕した後、遠心(15,000rpm, 10min, 4℃)し、破砕できない菌体(細胞)が存在しないように上清を回収して得ることができる。細胞膜は、上記遠心で得られたペレットを溶解バッファーで懸濁することにより得ることができる。
本発明において、修飾酵素は、培養物をそのまま用いてもよいし、透析や硫安沈殿などの公知の方法、あるいはゲルろ過、イオン交換、アフィニティー等の各種クロマトグラフィーなどの公知の方法を単独または適宜組み合わせることによって、濃縮、精製したものを用いてもよい。
また、本発明においては、修飾酵素をコードするDNAを利用して修飾酵素を製造することも可能である。すなわち、本発明においては、いわゆる無細胞タンパク質合成系を採用して、修飾酵素を産生することが可能である。
無細胞タンパク質合成系とは、細胞抽出液を用いて試験管などの人工容器内でタンパク質を合成する系である。なお、本発明において使用される無細胞タンパク質合成系には、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系も含まれる。
ここで、上記細胞抽出液は、真核細胞由来または原核細胞由来の抽出液、例えば、小麦胚芽、大腸菌などの抽出液を使用することができる。なお、これらの細胞抽出液は濃縮されたものであっても濃縮されないものであってもよい。
細胞抽出液は、例えば限外濾過、透析、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿等によって得ることができる。さらに本発明において、無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。そのようなキットとしては、例えば試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTM System(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)、RTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)などが挙げられる。
上記のように無細胞タンパク質合成によって得られる修飾酵素は、前述のように適宜クロマトグラフィーを選択して、濃縮、精製することができる。
上記のようにして得られた修飾酵素を用いてベクターを修飾するには、ベクターを修飾酵素と接触させればよい。接触方法は、一般的な方法で行えばよく、当業者であれば、公知の方法から適宜選択することができる。例えば、塩濃度は0〜100mM NaClまたはKCl、1mM DTT、10mM EDTA、10mM S-アデノシルメチオンを含む10〜100mM のTris-HCl緩衝液中(pH7.5〜8.5)で、修飾酵素とベクターとを混合し、37℃で数時間反応すればよい。修飾酵素活性は、形質転換体の有するDNAの認識配列が、対応する制限酵素あるいはそのアイソシゾマーによって切断されないことによって、確認することができる。例えば、RrhJ1I修飾酵素活性は、RrhJ1I修飾酵素による修飾配列がRrhJ1I 制限酵素、あるいはそのアイソシゾマーであるNaeI制限酵素によって切断されないことにより確認することができる。
(2)修飾酵素を発現させた形質転換体からのベクターの取得
この方法では、修飾酵素を発現させた形質転換体から、修飾酵素により修飾されたベクターを取得することができる。すなわち、修飾酵素をコードするDNAおよび修飾対象のベクターを宿主に導入し、得られる形質転換体の培養物から修飾されたベクターを取得することができる。
形質転換体を用いて修飾酵素を発現させる方法としては、例えば、組換えベクターを使用して形質転換体で修飾酵素を発現させる方法、または宿主の染色体に修飾酵素をコードするDNAを挿入して修飾酵素を発現させる方法がある。
組換えベクターを使用して形質転換体で修飾酵素を発現させるには、上記の通り、修飾酵素をコードするDNAを発現ベクターに結合し、得られる組換えベクターを宿主となる細菌に導入すればよい。
この場合、修飾酵素遺伝子は、形質転換の対象となるロドコッカス属に属する細菌が有する修飾酵素の遺伝子が好ましいが、同じDNA配列を修飾する別の修飾酵素の遺伝子も用いることができる。例としては、ロドコッカス・ロドクロウスJ-1株を形質転換するには、ロドコッカス・ロドクロウスJ-1株の有するRrhJ1I修飾酵素の遺伝子を用いることが好ましいが、同じ配列を修飾するNaeIメチラーゼ、NgoMIVメチラーゼの遺伝子も使用することができる。
修飾酵素をコードするDNAは、ロドコッカス属に属する細菌への形質転換に使用するベクターに結合してもよいし、別のベクターに結合してもよい。2つもしくはそれ以上のベクターを宿主に導入する場合は、複製起源の不和合性をさけるために複製起源の異なる複数のベクターを用いるのが好ましい。
修飾酵素を発現させる宿主は、メチル化シトシンに関わる制限系遺伝子(mcrA,B,C)、またはメチル化アデニンに関わる制限系遺伝子(mrr)のどちらか、またはその両方を欠損する宿主を使用するのが好ましい。大腸菌の一例としては、XL1-Blue MRF’、K802などを用いることができる。また、その他にロドコッカスに属する細菌も用いることができる。
さらに、形質転換の対象となるロドコッカス属に属する細菌がメチル化DNAを切断する制限酵素を有している場合、ベクターを調製する形質転換体の宿主にはメチラーゼ欠損宿主を用いることがさらに好ましい。
例えば、修飾酵素により修飾されたベクターを形質転換体から採取する際、形質転換体の宿主にアデニンなどをメチル化するメチラーゼ(例えばdamメチラーゼ)を有する宿主を用いると、得られるベクターは、修飾酵素による修飾と共にこれらのメチラーゼによる修飾も受けたものになる。これらの修飾を受けたベクターを、例えば、メチル化アデニン等を切断するDNA切断酵素を有するロドコッカス属に属する細菌に導入する場合、damメチラーゼ等による修飾部位が、当該細菌の有するDNA切断酵素により切断される。その結果、修飾されたベクターが導入された目的の形質転換体を十分に得ることができなくなってしまう。
したがって、修飾酵素を用いて修飾されたベクターを形質転換体から得る場合、当該形質転換体の宿主は、damメチラーゼ、dcmメチラーゼ、およびCGメチラーゼから選択される少なくとも1つのメチラーゼを欠損した宿主を用いることが好ましく、damメチラーゼおよびdcmメチラーゼの両方またはいずれかを欠損した宿主であることがさらに好ましい。このような宿主としては、例えば大腸菌の場合、ER2925、INV110、JM110、SCS110などを用いるのが好ましい。
より具体的には、ロドコッカス・ロドクロウス J-1株は、メチル化アデニンとメチル化シトシンを切断するDNA切断酵素を有する。したがって、形質転換体の宿主にdamおよび/またはdcmメチラーゼを有する大腸菌を用いると、修飾酵素による修飾と共に、damメチラーゼおよび/またはdcmメチラーゼによる修飾も同時に行われることになる。このように修飾されたベクターを、J-1株に形質転換した場合、damメチラーゼおよび/またはdcmメチラーゼによる修飾場所が、J-1株の有するメチル化アデニンとメチル化シトシンを切断するDNA切断酵素により切断され、目的の形質転換体を得ることが困難である。したがって、J-1株を本発明の方法により形質転換する場合は、ベクターを採取する形質転換体の宿主は、damメチラーゼおよびdcmメチラーゼの両方またはいずれか一方が欠損した大腸菌を用いることが好ましい。
宿主の染色体に修飾酵素をコードするDNAを挿入する方法としては、相同組換えを用いることができる。相同組換えは標的遺伝子の一部に修飾酵素を挿入したベクター、またはPCR産物などのDNA断片を宿主に取り込ませ、標的遺伝子の一部領域に於ける相同組換えによって宿主の物染色体上の標的遺伝子に修飾酵素遺伝子を挿入する方法である。
修飾酵素を発現する形質転換体には、修飾酵素をコードするDNAと同時または別々に修飾対象のベクターを導入しておくことができる。修飾酵素を発現する形質転換体の培養物から取得される当該ベクターは、修飾酵素によって修飾されたベクターである。
修飾されたベクターは、上記形質転換体を培養した培養物から、公知の方法によって取得することができる。例えば、市販のプラスミド抽出キットを用いて行うことができる。
4.ロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法
ロドコッカス属に属する細菌に導入するためのベクターは、「3.修飾酵素によるベクターの修飾」で得られたベクターを用いることができる。当該ベクターは、アルカリ−SDS法で調製したものが使用でき、好ましくは不純物の少ない高純度なDNAを使用する。ベクターを高純度に精製する方法としては、密度勾配遠心法、市販精製キットを使用することができる。密度勾配遠心法は、例えばCsClやCF3COOCsを使用して、100,000Gで2〜48時間で遠心した後、目的とするDNAのバンドを抽出することにより、ベクターを精製することができる。
形質転換に使用する宿主細菌は、細胞壁の構造を変化させることにより、ベクターの形質転換効率を高めることが可能である。細胞壁の構造を変化させる方法としては、培養時にグリシン、ペニシリンGまたはイソニコチン酸ヒドラジドで処理する方法が好ましい。このようにして調製した宿主細菌はコンピテントセルと呼ばれる。本発明において、ロドコッカス属に属する細菌も、上記処理を施したコンピテントセルを用いることが好ましい。
以上のように調製したベクターと宿主細菌とを使用して形質転換を行う。形質転換手法は、ベクターを宿主に導入するための当業者に公知の手法であれば特に限定されるものではない。例えば、電気パルス法を使用し、適量のベクターとコンピテントセルとを混合してキュベットに入れ、電気パルスを印加する。電気パルスの印加条件は、電圧として10〜25KV/cm、好ましくは20KV/cm、抵抗値として50〜400Ω、好ましくは100−200Ωを使用する。電気パルスを印加した後、37℃で数分ヒートショックを行い、その後、適当な培地を適量加え、約30℃にて数時間培養を行う。この培養を行うことにより、上述のように薬剤添加によって変化した細胞壁が正常な構造に回復すると共に、ベクター由来の薬剤耐性遺伝子の発現が起こる。この培養時間は、1時間以上〜48時間以下が好ましく、12時間以上〜24時間以下がより好ましい。
形質転換を確認するためのマーカー薬剤または選択培地の薬剤としては、形質転換体の取得が可能であり、かつ、宿主細菌と形質転換体を区別することができるものであれば特に制限されないが、例えばカナマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、トリメトプリム、テトラサイクリン、ストレプトマイシン等が挙げられる。
薬剤の濃度は、形質転換体を効率よく取得するためには、選択培地に対して必要最少量とすることが好ましい。この濃度は、各種濃度の薬剤を含む寒天培地に宿主細菌をプレートし、コロニーの生育の有無を調べることによって設定することができる。例えば、ベクターとしてpK1、pK2、pK3、pK4、pSJ023、pSJ002などを使用する場合には、カナマイシン濃度は1〜100μg/ml、好ましくは10〜50μg/mlである。
なお、形質転換効率は、例えば、形質転換に用いたベクター量(例えば、μg)あたりの形質転換体コロニー数(cfu)(=cfu/μg)あるいは形質転換に用いた宿主の量あたりの形質転換体量などにより算出することができる。
以上のように修飾酵素により修飾されたベクターを用いて形質転換を行うことによって、ロドコッカス属に属する細菌の形質転換効率を高め、さらには従来は形質転換体が得られていなかったロドコッカス属に属する細菌の形質転換体を得ることが可能となる。また、このようにして得られたロドコッカス属に属する細菌の形質転換体は、導入したDNAの効果により新たな性質を有するため、産業上有用である。
以下に記載する実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの
実施例に限定されるものではない。
修飾酵素発現ベクターの作製
(1)J1菌ゲノムDNAの調製
ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J-1株を100mlのMYKG培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、1% グルコース、0.2% K2HPO4、0.2% KH2PO4、pH7.0)中、30℃にて72時間振盪培養した。
培養後、集菌し、集菌された菌体をSaline-EDTA溶液(0.1M EDTA、0.15M NaCl(pH8.0))4mlに懸濁した。懸濁液にリゾチーム40 mgを加えて、37℃で1〜2時間振盪した後、-20℃で凍結した。
次に、10mlのTris-SDS液(1%SDS、0.1M NaCl、0.1M Tris-HCl(pH9.0))を穏やかに振盪しながら加え、さらにプロテイナーゼK(メルク社)(10 mg/ml)を10μl加えて37℃で1時間振盪した。
次に、等量のTE (10mM Tris-HCl、1mM EDTA(pH8.0)) 飽和フェノールを加え、撹拌した後遠心した。遠心後、上層を採取し、2倍量のエタノールを加えた後、ガラス棒でDNAを巻きとり、90%、80%、70%のエタノールで順次フェノールを取り除いた。
次に、DNAを3mlのTE緩衝液に溶解させ、リボヌクレアーゼA溶液(100℃、15分間の加熱処理済)を10μg/mlになるよう加え、37℃で30分間振盪した。さらに、プロテイナーゼKを加え37℃で30分間振盪した後、等量のTE飽和フェノールを加えて遠心し、上層と下層に分離させた。
上層についてこの操作を2回繰り返した後、同量のクロロホルム(4%イソアミルアルコール含有)を加え、同様の抽出操作を繰り返した。その後、上層に2倍量のエタノールを加え、ガラス棒でDNAを巻きとり回収し、J1菌染色体ゲノムDNAを得た。
(2)RrhJ1I修飾酵素遺伝子の取得
(1)で得られたJ1菌ゲノムDNAを鋳型として使用して、以下に示す反応液組成およびプライマーを用いてPCRを行った。この際、修飾酵素をtrcプロモーター下流のNcoIサイトに結合させるため、修飾酵素の2番目のアミノ酸をセリン(TCG)からスレオニン(ACG)に置換するようなプライマーを用いた。
反応液組成
鋳型DNA(J1菌ゲノムDNA) 1μl
10×Ex Buffer(タカラバイオ) 10μl
プライマーJM-18(配列番号3) 1μl
プライマーJM-11(配列番号4) 1μl
2.5mM dNTP 8μl
滅菌水 78μl
ExTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ) 1μl
総量 100μl

温度サイクル:94℃:30秒、65℃:30秒および72℃:1分の反応を30サイクル
プライマー
JM-18: GGGTCATGACGCGGTCCAGCTACGAG(配列番号3)
JM-11: CTCCctgCAGGCGGCGTGGAAGCCTGG(配列番号4)
PCR終了後、反応液5μlを0.7%アガロースゲルにおける電気泳動に供し、1.3kbのPCR産物の検出を行った。PCR産物を確認した後、反応液からPCR産物をGFX PCR DNA band and GelBand Purification kit(GEヘルスケアサイエンス)で精製し、得られたPCR産物を制限酵素PagIとSse8387Iで切断した。制限酵素処理を行ったPCR産物を、0.7%アガロースゲルの電気泳動に供し、1.3Kb付近のバンドを回収した。回収したPCR産物を、DNA Ligation Kit(タカラバイオ)を用いてベクターpTrc99AのNcoI-PstI部位に連結し、ベクターを作製した。得られたベクターを、pTJM01と名付けた。図1は、ベクターpTJM01の構造を示す模式図である。
(3)修飾酵素発現ベクターの作製
以下の実施例3において、ロドコッカス菌に形質転換するベクターとしてpK4を用いた。このpK4は、ロドコッカス菌−大腸菌のシャトルベクターであり、pUC系の複製オリジンを有している。そこで、(2)で作製した修飾酵素発現ベクターの発現系を、pK4と複製オリジンの異なるpMW118(ニッポンジーン)に挿入した。
先ず、pTJM01を制限酵素SspIで切断し、0.7%アガロースゲルにおける電気泳動に供し、1.8Kbの断片を回収した。次に、pMW118をSmaIで切断し、Shrinp Alkalin Phosphatase(プロメガ)を使用し、脱リン酸化処理を行った。この二つの断片をLigation Kit(タカラバイオ)を用いて結合し、大腸菌ER2925(NEW ENGLAND BioLabs)に形質転換した。得られたコロニーを培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン)を用いてベクターを回収した。得られたベクターはpMWJM01と命名した。
図2は、ベクターpMWJM01の構築スキームおよびpMWJM01の構造を示す模式図である。組換えコロニーから得られたpMWJM01はNaeIで切断できないことから、修飾酵素によって修飾されていることを確認した。
RrhJ1I修飾酵素で修飾されたベクターの調製
本実施例に使用するベクター pK4は、ロドコッカス・ロドクロウスATCC12674/pK4株に導入されて、受託番号FERM BP−3731号として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に寄託されている。
ロドコッカス・ロドクロウスATCC12674/pK4株を、100mlのMY培地(ポリペプトン0.5%、バクトイーストエキス0.3%、マルツエキス0.3%、グルコース1%、カナマイシン50μg/ml)に植菌した。24時間培養した後に終濃度2%となるように滅菌した20%グリシン溶液を添加し、さらに24時間培養した。その後、遠心分離により菌体を回収し、菌体を40mlのTES緩衝液(10mM Tris-HCl(pH8)−10mM NaCl−1mM EDTA)で洗浄後、50mM Tris-HCl(pH8)、12.5%シュークロース、100mM NaClおよび1mg/mlリゾチームを含む溶液11mlに懸濁し、37℃にて3時間振盪した。これに1mlの10%SDSを加え、室温で穏やかに1時間振盪し、さらに1mlの5M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)を添加し、氷中で1時間静置した。その後、4℃にて10,000Gで1時間遠心し上清を得た。これに5倍量のエタノールを加え、-20℃で30分静置した後、10,000Gで20分間遠心した。沈澱物を30mlの70%エタノールで洗浄した後、100μlのTE緩衝液に溶解し、DNA溶液を得た。
次に、RrhJ1I修飾酵素で修飾されたpK4を得るため、上記で得られたpK4と実施例1で得られたpMWJM01の混合液を大腸菌ER2925に形質転換した。得られたコロニーを培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン)を用いてベクターを回収した。ここで回収されたベクターはpK4とpMWJM01の混合液(以下、「pK4+ pMWJM01」と略す)となる。よって、この混合液を実施例3で使用する際は、混合液としてのDNA濃度が他のベクター(pK4)と同一になるように調製した。
得られたベクターはNaeIで切断できないことから、修飾酵素によって修飾されていることを確認した。
(1)J-1株コンピテントセルの調製
10mlのMYK培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%マルツエキス、0.2% KH2PO4、0.2% K2HPO4)にロドコッカス・ロドクロウスJ-1株を植菌し、30℃で培養した。15〜17時間後、終濃度2%となるように滅菌した20%グリシン溶液を添加し、さらに24時間培養した。この培養液を1%グリシンを含んだ10mlのMYK培地に2%植菌し、さらに30℃で48時間培養を行った。この培養液を滅菌水で3回洗浄し、最後に滅菌水500μlに再懸濁した。これをコンピテントセルとして用いた。
(2)形質転換
実施例2で調製したベクター(pK4+ pMWJM01)1μlまたはpK4で形質転換した大腸菌ER2925から調製したpK4 1μlと、(1)で調製したJ-1株コンピテントセル10μlとを混合し、30分間氷冷した。キュベットにDNAと菌体の懸濁液を入れ、遺伝子導入装置GenePulser(BIO RAD)により、20KV/cm、100Ωで電気パルス処理を行った。電気パルス処理液を氷冷下で10分静置し、37℃で10分間ヒートショックを行い、MYK培地500μlを加えた。30℃にて24時間静置した後、10μg/mlカナマイシン入りMYK寒天培地に塗布し、30℃にて3日間培養した。コロニー数はプレート上に生育したコロニー数を示す。
また、比較対照として、大腸菌JM109株由来のDNAを用いて形質転換を行った。JM109株由来のDNAは、大腸菌形質転換体JM109/pK4(特許文献9に記載の通りに調製した)をLB培地(1% NaCl、0.5% トリプトン、0.5% 酵母エキス、50μg/mlカナマイシン、100μg/mlアンピシリン)で12時間37℃で培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン)を用いてpK4を調製した。
同じ条件での形質転換を各4回行い、その結果を表1に示した。
これらのコロニーはベクターが導入された形質転換体であることを確認した。
以上の結果より、修飾酵素で修飾されたベクターを用いて形質転換することで、形質転換効率は飛躍的に向上することが示された。さらに、修飾酵素により修飾されたベクターを形質転換体から得る場合、damメチラーゼおよび/またはdcmメチラーゼを欠損した大腸菌を宿主に用いることで、形質転換効率が向上することが示された。
pTJM01の構造を示す模式図である。 pMWJM01の構築スキームおよびpMWJM01の構造を示す図である。
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー

Claims (13)

  1. 修飾酵素を用いて修飾されたベクターであって、
    前記修飾酵素が、以下の(a)または(b)のポリペプチドである前記ベクター。
    (a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
    (b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチド
  2. 修飾酵素を発現させた形質転換体から得られるベクターであって、
    前記修飾酵素が、以下の(a)または(b)のポリペプチドである前記ベクター。
    (a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
    (b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチド
  3. 修飾酵素を用いて修飾されたベクターであって、
    前記修飾酵素が、以下の(a)または(b)のDNAによりコードされるポリペプチドである前記ベクター。
    (a)配列番号1で示される塩基配列からなるDNA
    (b)配列番号1で示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
  4. 修飾酵素を発現させた形質転換体から得られるベクターであって、
    前記修飾酵素が、以下の(a)または(b)のDNAによりコードされるポリペプチドである前記ベクター。
    (a)配列番号1で示される塩基配列からなるDNA
    (b)配列番号1で示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
  5. 修飾酵素がGCCGGC配列を認識する酵素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のベクター。
  6. 形質転換体の宿主がdamメチラーゼおよび/またはdcmメチラーゼを欠損した大腸菌であることを特徴とする請求項2または4に記載のベクター。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のベクターを含有する形質転換体。
  8. 以下の工程を含むロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法。
    (i)修飾酵素を用いてベクターを修飾する工程、および
    (ii)工程(i)で修飾されたベクターをロドコッカス属に属する細菌に導入する工程
  9. 以下の工程を含むロドコッカス属に属する細菌の形質転換方法。
    (i)修飾酵素を発現させた形質転換体から修飾されたベクターを得る工程、および
    (ii)工程(i)で得られたベクターをロドコッカス属に属する細菌に導入する工程
  10. 修飾酵素がGCCGGC配列を認識する酵素であることを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
  11. 修飾酵素が、以下の(a)または(b)のポリペプチドであることを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
    (a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
    (b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチド
  12. 修飾酵素が、以下の(a)または(b)のDNAによりコードされるポリペプチドであることを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
    (a)配列番号1で示される塩基配列からなるDNA
    (b)配列番号1で示される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ修飾酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA
  13. 工程(i)の形質転換体の宿主がdamメチラーゼおよび/またはdcmメチラーゼを欠損した大腸菌であることを特徴とする請求項9に記載の方法。



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