JP6048716B2 - ウレアーゼ遺伝子を欠失又は不活性化させたロドコッカス属細菌 - Google Patents
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Description
(2)ロドコッカス属細菌が、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)である、(1)記載のロドコッカス属細菌。
(3)欠失または不活性化させるウレアーゼ遺伝子が、配列番号1に示される塩基配列を有するウレアーゼアルファサブユニットもしくはそのオーソログである、(1)又は(2)記載のロドコッカス属細菌。
(4)欠失または不活性化させるウレアーゼ遺伝子が、以下の(a)又は(b)に示されるいずれかの塩基配列を有するDNAからなる、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のロドコッカス属細菌。
(a)配列番号1記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列と相同性が65%以上の塩基配列からなり、かつウレアーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(5)ロドコッカス属細菌が、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株又はその変異株である、請求項1〜4記載のいずれか1項に記載のロドコッカス属細菌。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のロドコッカス属細菌を培養し、得られる培養物からニトリルヒドラターゼを採取することを特徴とする、ニトリルヒドラターゼの製造方法。
(7)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のロドコッカス属細菌を培養して得られる培養物又は当該培養物の処理物をニトリル化合物に接触させ、当該接触により生成されるアミド化合物を採取することを特徴とする、アミド化合物の製造方法。
本発明に係るウレアーゼ遺伝子が改変(欠失又は不活性化(以下、「欠失等」と称する))されたロドコッカス属細菌(以下、「本発明のロドコッカス属細菌」と称する)は、前述した通り、ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス属細菌におけるウレアーゼ遺伝子が欠失又は不活性化されたロドコッカス属細菌である。
(NH2)2CO + H2O → CO2 + 2 NH3
ここで、「ウレアーゼ活性」とは、尿素をアンモニアと二酸化炭素に変換させる活性を意味する。本発明のロドコッカス属細菌のウレアーゼ活性の測定方法としては、本発明のロドコッカス属細菌を尿素に接触させ、生成するアンモニアの量の増加を定量することで、ウレアーゼ活性を測定することができる。あるいは、尿素の消費量を定量することによってもウレアーゼ活性を測定することができる。
R−CN + H2O → R−CONH2
(式中、Rは、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、置換又は無置換のシクロアルキル基、置換又は無置換のアリール基、あるいは置換若しくは無置換の飽和又は不飽和複素環基を表す。)
ロドコッカス属細菌のウレアーゼは3つのサブユニット(アルファ及びベータ及びガンマ)が組み合わさって構成されており、それぞれのサブユニットは隣り合う3つの遺伝子(ureC及びureB及びureA)にコードされている。加えて、ウレアーゼの活性部位への金属取り込みに寄与する数種類のウレアーゼアクセサリータンパク質が知られている。ウレアーゼ活性は、これらのいずれかを欠失することで失活させることが可能である。すなわち、ウレアーゼ活性失活株を取得するには、ureA又はureB又はureC又はウレアーゼアクセサリータンパク質遺伝子のいずれかを欠失又は不活性化させればよく、その組合せや欠損の順序は問わない。特にウレアーゼアルファサブユニットは活性部位をもつことが知られており、該当酵素サブユニットをコードするureCを欠失させることが好ましい。
J1菌以外のロドコッカス属細菌については、上記J1菌のウレアーゼアルファサブユニットに対応するオーソログを欠失または不活性化させることができる。
ここで、「オーソログ」とは、異なる生物に存在する相同な機能を有するタンパクをコードする類縁遺伝子であって、ウレアーゼ遺伝子の場合であれば、そのオーソログとはJ1菌以外の生物においてウレアーゼ活性を有するタンパクをコードする類縁遺伝子である。
上記したウレアーゼ遺伝子のオーソログは、ウレアーゼ遺伝子と高い配列相同性を有する。それゆえ、上記配列番号1に塩基配列を有する遺伝子に加えて、これらの配列と約65%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、さらに特に好ましくは約95%以上の相同性(同一性)を有する塩基配列を有するDNAも本発明に用いられるウレアーゼ遺伝子に含まれる。
すなわち、ドナー微生物からニトリルヒドラターゼ活性を有するレシピエント微生物への接合伝達を利用した形質転換方法を用いることを含む、ウレアーゼ遺伝子の欠失又は不活性化方法であって、以下の工程(イ)〜(ニ)を含むことを特徴とする方法である。
(イ)レシピエント微生物として、前記接合伝達に供するドナー微生物が感受性を示す薬剤への耐性が強化された微生物を作製する工程;
(ロ)ドナー微生物として、下記(i)〜(v):
(i) レシピエント微生物中のウレアーゼ遺伝子(標的遺伝子)とその周辺の塩基配列とを含む塩基配列において当該ウレアーゼ遺伝子を欠失又は不活性化させた塩基配列領域、
(ii) 当該ドナー微生物において機能する接合伝達開始領域、
(iii) 当該ドナー微生物において機能する複製開始領域、
(iv) レシピエント微生物が感受性を示す薬剤に対する耐性遺伝子、及び
(v) レシピエント微生物に対する条件致死遺伝子
を含む、遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を作製する工程;
(ハ)工程(ロ)で作製されたドナー微生物から工程(イ)で作製されたレシピエント微生物への接合伝達を行うことにより、当該レシピエント微生物の形質転換体を作製する工程;並びに
(ニ)工程(ハ)で作製された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。
一方、ドナー微生物としては、上記レシピエント微生物と接合伝達可能な微生物であれば限定はされない。例えば、大腸菌が好ましい。
工程(イ)では、接合伝達に供するレシピエント微生物として、接合伝達に供するドナー微生物が感受性を示す薬剤への耐性を強化した微生物を作製する。「薬剤への耐性を強化する」とは、レシピエント微生物が薬剤耐性を有していない場合には、薬剤耐性を付与することをいい、レシピエント微生物が薬剤耐性の乏しい場合には、当該耐性をより強くすることをいう。
自然変異誘発法は、所望の薬剤を含有する培地中で対象とする微生物を継代培養等することにより、もともとは当該培地中で生育不可又は困難な微生物に自然変異を誘発させて、より高濃度の薬剤を含有する当該培地中でも生育し得る株を取得する方法である。どの程度まで薬剤耐性を強化するかは、使用するレシピエント微生物、ドナー微生物、選択する薬剤により異なるが、レシピエント微生物の生育が抑制されない、且つ、ドナー微生物の生育が阻害される薬剤濃度を選ぶことが好ましい。例えば、レシピエント微生物としてロドコッカス属細菌を、ドナー微生物として大腸菌を、選択用薬剤としてクロラムフェニコールを用いる場合、自然突然変異によりクロラムフェニコール1〜200mg/L、好ましくは10〜100mg/Lを含有する培地において生育可能なレシピエント微生物(クロラムフェニコール耐性強化株)を得ることが望ましい。
工程(ロ)では、接合伝達に供するドナー微生物として、所定の遺伝子改変用プラスミドを用いて形質転換された微生物を作製する。遺伝子改変用プラスミド、すなわちレシピエント微生物中のウレアーゼ遺伝子を改変するためのプラスミドDNAとしては、前述の(i)〜(v)の構成(遺伝子・塩基配列)を含むものを用いる。
ここで、前記(i)の塩基配列領域は、改変の対象とするレシピエント微生物中のウレアーゼ遺伝子と当該遺伝子の周辺の塩基配列とを含む塩基配列において、当該ウレアーゼ遺伝子を欠失又はさせた塩基配列領域である。当該塩基配列領域の作製は、レシピエント微生物のゲノムから、ウレアーゼ遺伝子と当該遺伝子の周辺の塩基配列とを含む塩基配列の単離(クローニング)及び遺伝子ライブラリー作製やPCR等の公知技術を用いて行うことができる。
なお、ウレアーゼ遺伝子の周辺の塩基配列としては、限定はされない。例えば、当該遺伝子に加え、発現調節に関連する遺伝子の上流及び下流の相同領域が両端からそれぞれ100〜3000bpの塩基配列を含む配列であることが好ましい。より好ましくは500〜2000bpの塩基配列を含む配列である。単離した塩基配列を用いて、前述(i)を作製する方法は特に限定されず、PCR法や制限酵素を用いた標的遺伝子部分の切除もしくは置換等の公知技術を用いて行うことができる。
上記欠失又は不活性化されたウレアーゼ遺伝子としては、レシピエント微生物のゲノムDNAにコードされる当該ウレアーゼ遺伝子の一部又は全部が欠失等されたもの、プロモーター配列の一部又は全部が欠失等されたもの、発現調節に関連する遺伝子の一部又は全部が欠失等されたものなどが挙げられる。これらの欠失等された領域は単独でもよいし複数を組み合わせたものでもよい。
工程(ロ)では、上述したような各構成を有する遺伝子改変用プラスミドをドナー微生物内に導入して形質転換された微生物、すなわち接合伝達に供するドナー微生物を作製する。その際、形質転換の方法としては、エレクトロポレーション法やカルシウム法(アルカリSDS法)等の、微生物の形質転換方法として公知の方法を用いることができる。
工程(ハ)では、工程(ロ)で作製されたドナー微生物から工程(イ)で作製されたレシピエント微生物への接合伝達を行う。通常は、ドナー微生物及びレシピエント微生物のそれぞれの細胞懸濁液を混合し、適当なプレート培地(LB培地等)上に均一に広げて、両微生物の接合を行わせる。
当該接合においては、ドナー微生物中の遺伝子改変用プラスミドがレシピエント微生物内に移動し、レシピエント微生物のゲノムと上記プラスミドとの相同配列で2重交叉が起こり当該ゲノム中のウレアーゼ遺伝子が欠失される。この接合により、レシピエント微生物の形質転換体が作製される。すなわち、当該形質転換体は、ドナー微生物中の遺伝子改変用プラスミドの一部が相同組換えによりレシピエント微生物のゲノム上に導入されたものである。
所望の形質転換体であるかどうかの確認は、レシピエント微生物自体の薬剤耐性、及び前記遺伝子改変用プラスミド由来の薬剤耐性を利用して行うことができる。具体的には、両薬剤を含む培地(例えば、カナマイシン及びクロラムフェニコール含有培地等)において上記接合後の微生物を培養することにより、所望の形質転換体を選択することができる。
工程(ニ)では、工程(ハ)で作製されたレシピエント微生物の形質転換体(形質転換微生物)を、前記遺伝子改変用プラスミド由来の条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養(継代培養)する。条件致死遺伝子が機能し得る培養条件としては、限定はされないが、例えば条件致死遺伝子がsacB遺伝子の場合は、スクロース含有培地を用いた培養が好ましく挙げられる。
当該培養においては、上記条件致死遺伝子を有する形質転換微生物は生育困難であるため、継代培養により、自然誘発的に、当該微生物のゲノム上から相同組換えにより上記致死遺伝子を含む塩基配列領域が除かれた(脱落した)形質転換微生物を得ることができる。
ただし、当該得られた微生物の中には、レシピエント微生物中のウレアーゼ遺伝子が、当初の目的通り欠失又は不活性化しているものと、そうでないもの(上記脱落の際の相同組換えにより元のウレアーゼ遺伝子の機能が復活したもの)が含まれている。
よって、通常は、さらに別の培養条件でも培養したり、培養物を用いてウレアーゼ活性測定や各種タンパク質分析法を適用して分析することにより、所望の形質転換微生物を選択することがより好ましい。
本発明のニトリルヒドラターゼの製造方法は、前述した本発明の微生物を培養し、得られる培養物から当該ニトリルヒドラターゼを採取することを特徴とする方法である。
ここで、当該製造方法に用いる本発明の微生物としては、上記ウレアーゼ遺伝子が改変された微生物に、ニトリルヒドラターゼ遺伝子を当該微生物の遺伝子に挿入(付加)させたものであってもよいし、ニトリルヒドラターゼ遺伝子を含む組換えベクターを導入することによりなされたものであってもよいし、その両方を兼ね備えてあるものであってもよい。
組換えベクターを用いる場合は、ニトリルヒドラターゼ遺伝子が、形質転換される本発明の微生物において発現可能なように、ベクターに組み込まれることが必要である。例えば、ニトリルヒドラターゼを産生し得る微生物のゲノム等からニトリルヒドラターゼ遺伝子を含むPCR断片を得て、得られた断片を発現ベクターに連結することで、ニトリルヒド
ラターゼ遺伝子を含む発現ベクターを得ることができる。
当該発現ベクターには、ニトリルヒドラターゼ遺伝子のほか、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)等を連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
本発明において、「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。形質転換微生物を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。目的のニトリルヒドラターゼは、上記培養物中に蓄積される。
発現ベクターで形質転換した形質転換微生物を培養するときには、IPTG等を培地に添加することができる。また、インドール酢酸(IAA)で誘導可能なtrpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換微生物を培養するときには、IAA等を培地に添加することができる。
上記培養条件で培養すると、高収率でニトリルヒドラターゼを上記培養物中、すなわち培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物の少なくともいずれかに蓄積することができる。これらニトリルヒドラターゼを含有する「培養物」は、後述するアミド化合物の製造方法に使用することができる。
ニトリルヒドラターゼが菌体外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離やろ過等により菌体を除去する。その後、必要に応じて硫安沈澱による抽出等により前記培養物中から異種ニトリルヒドラターゼを採取し、さらに必要に応じて透析、各種クロマトグラフィー(ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等)を用いて単離精製することもできる。
形質転換微生物を培養して得られたニトリルヒドラターゼの生産収率は、例えば、培養液あたり、菌体湿重量又は乾燥重量あたり、粗酵素液タンパク質あたりなどの単位で、SDS−PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)やニトリルヒドラターゼ活性測定などにより確認することができるが、特段限定されるものではない。SDS−PAGEは当業者であれば公知の方法を用いて行うことができる。また、ニトリルヒドラターゼ活性は、上述した活性の値を適用することができる。
上述のように製造されたニトリルヒドラターゼ(前述した培養物を含む)は、酵素触媒(菌体のまま利用する微生物触媒等を含む)として物質生産に利用することができる。例えば、ニトリル化合物に、ニトリルヒドラターゼを接触させることにより、当該接触によりニトリル化合物が変換されてアミド化合物を製造することができる。
反応方法、及び反応終了後のアミド化合物の採取方法は限定されず、基質及び酵素触媒の特性により適宜選択することができる。例えば、当該反応において、基質となるニトリル化合物の濃度は、0.1〜10%(W/V)が好ましく、5%(W/V)程度が特に好ましい。また、当該反応は、pH5〜10の緩衝液又は水中で行うことが好ましく、例えば、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)中で行うことができる。反応後の酵素触媒は、その活性が失活しない限り、リサイクル使用することが好ましい。失活の防止やリサイクルを容易にすることに鑑み、酵素触媒は処理物の形態で使用されることが好ましい。
上記反応により生成したアクリルアミドは、ガスクロマトグラフィーなどの公知の方法を用いて定量することができる。また、アクリルアミドの産生量から前記酵素触媒のニトリルヒドラターゼ活性を換算することができる。
ウレアーゼ欠失用プラスミドの作製
(1)接合伝達プラスミド(pK19mobsacB1)の作製
pDNR−1r(clontech社製)中のsacB遺伝子を、NspV切断サイトを付加したプライマーSAC−01(配列番号2)及びSAC−02(配列番号3)を使用したPCRにより増幅し、約1.9kbのsacB遺伝子断片を得た。PCRは以下の反応条件で行った。
SAC−01:5’−GGTTCGAATACCTGCCGTTCACTATTATTTAGTG−3’(配列番号2)
SAC−02:5’−GGTTCGAATCGGCATTTTCTTTTGCGTTTTTATTTG−3’(配列番号3)
滅菌水 22μl
PrimeSTAR(登録商標) Max Premix(2×) (タカラバイオ社製) 25μl
SAC−01(10μM)(配列番号2) 1μl
SAC−02(10μM)(配列番号3) 1μl
pDNR−1r(100ng)(clontech社製) 1μl
総量 50μl
温度サイクル:
98℃ 10秒、55℃ 15秒及び72℃ 20秒の反応を30サイクル
ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株を100mlのMYK培地(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%バクトモルトエキス、1% グルコース、0.2% K2HPO4、0.2% KH2PO4、pH 7.0)中、30℃にて72時間振盪培養した。
培養後、集菌し、集菌された菌体をSaline−EDTA溶液(0.1M EDTA、0.15M NaCl(pH8.0))4 mlに懸濁した。懸濁液にリゾチーム40 mgを加えて、37℃で1〜2時間振盪した後、−20℃で凍結した。
次に、10mlのTris−SDS液(1%SDS、0.1M NaCl、0.1M Tris−HCl(pH9.0))を穏やかに振盪しながら加え、さらにプロテイナーゼK(メルク社)を10μl(終濃度10mg/ml)加えて37℃で1時間振盪した。
次に、等量のTE(10mM Tris−HCl、1mM EDTA(pH8.0)) 飽和フェノールを加え、撹拌した後遠心した。遠心後、上層をとり2倍量のエタノールを加えた後、ガラス棒でDNAを巻きとり、90%、80%、70%のエタノールで順次フェノールを取り除いた。
次に、DNAを3mlのTE緩衝液に溶解させ、リボヌクレアーゼA溶液(100℃、15分間の加熱処理済)を10μg/mlになるよう加え、37℃で30分間振盪した。さらに、プロテイナーゼKを加え37℃で30分間振盪した後、等量のTE飽和フェノールを加えて遠心し、上層と下層に分離させた。
上層についてこの操作を2回繰り返した後、同量のクロロホルム(4%イソアミルアルコール含有)を加え、同様の抽出操作を繰り返した。その後、上層に2倍量のエタノールを加え、ガラス棒でDNAを巻きとり回収し、J1株ゲノムゲノムDNAを得た。
J1菌のウレアーゼ遺伝子ureCを含む配列を特定するために、GenBankに登録されているロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株の塩基配列(登録番号AP008957)を基に、以下示すプライマーおよび反応液組成を用いてPCRを行った。
プライマー:
ureC−01:5’−tgtacggcccgaccgctggcgaccag−3’(配列番号4)
ureC−02:5’−caccggctgcggggtcgggatagcagc−3’(配列番号5)
滅菌水 22μl
PrimeSTAR(登録商標) Max Premix(2×) (タカラバイオ社製) 25μl
ureC−01(10μM)(配列番号4) 1μl
ureC−02(10μM)(配列番号5) 1μl
J1株ゲノムDNA(100ng) 1μl
総量 50μl
温度サイクル:
98℃:10秒、55℃:15秒及び72℃:20秒の反応を30サイクル
BamHI、BsaI、BglII、NcoI、PvuI,SacI、SmaI、XhoIそれぞれで消化したJ1菌ゲノムDNAに対し、後述の方法で調製したUreCのプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、BglIIで消化した断片から、約3.5kbの単一シグナルが得られた。
プライマーureC-01およびureC-02で調製したPCR産物(配列番号6)をGFX PCR DNA band and Gel Band Purification kit(GEヘルスケア バイオサイエンス社)を用いて精製した。精製したPCR産物に対してAlkPhos Direct Labeling kit(GEヘルスケア バイオサイエンス社)を用い、添付のマニュアルにしたがってラベリングを行い、ureCのプローブとした。
ligation mighty mix(タカラバイオ社製) 5μl
J1菌ゲノムDNA/BglII切断断片 4μl
pBluescriptII SK(+)/BglII切断断片 1μl
総量 10μl
反応:
16℃,1時間
プライマー:
ureC−03: 5’− ggCCTGCAGGGACAGTCGGCGACCAGGTACGCC −3’(配列番号8)
ureC−04: 5’− ACGGCGACAGCAGGTGCACGTGCGAGTCGAAG−3’(配列番号9)
滅菌水 22μl
PrimeSTAR(登録商標) Max Premix(2×) (タカラバイオ社製) 25μl
ureC−03(10μM)(配列番号8) 1μl
ureC−04(10μM)(配列番号9) 1μl
J1株ゲノムDNA(100ng) 1μl
総量 50μl
温度サイクル:
98℃:10秒、55℃:15秒及び72℃:20秒の反応を30サイクル
プライマー:
ureC−05: 5’− GTCGCATCGGTGAGGTCGTCACCCGCAC−3’(配列番号10)
ureC−06: 5’− ccTCTAGAGATCGACGCGTTCGGGTCGCCGAG−3’(配列番号11)
滅菌水 21μl
PrimeSTAR(登録商標) Max Premix(2×) (タカラバイオ社製) 25μl
ureC−03(10μM)(配列番号8) 1μl
ureC−06(10μM)(配列番号11) 1μl
ureC−03とureC−04の増幅産物(50ng) 1μl
ureC−05とureC−06の増幅産物(50ng) 1μl
総量 50μl
温度サイクル:
98℃:10秒、55℃:15秒及び72℃:40秒の反応を30サイクル
続いて、上記でクローニングした断片を制限酵素XbaI及びSse8387Iで切断し、約1kbの断片を回収し、接合伝達用のプラスミド(pK19mobsacB1)のXbaI−Sse8387I部位に連結し、プラスミドを作製した。得られたプラスミドはウレアーゼ遺伝子欠失プラスミド:pBKAMD01と名付けた。図1に、プラスミドpK19mobsacB1の構造を示す模式図を、図2に、プラスミドpBKURE01の構造を示す模式図を示した。
薬剤耐性を有するJ1株の作製
接合伝達に使用するドナーは、遺伝子欠失株のセレクションに薬剤耐性が必要である。そこで、種々の薬剤耐性株の取得を試み、アンピシリン耐性を有するJ1株の変異株を下記の方法で取得した。
2μg/mlのアンピシリンを含んだMYKプレート(0.5%ポリペプトン、0.3%バクトイーストエキス、0.3%マルツエキス、0.2% KH2PO4、0.2% K2HPO4、1.5%寒天)にJ1株をストリークし、コロニーが生育するまで30℃で保温した。約2週間後、アンピシリン耐性株が生育してきたので、再度2μg/mlのアンピシリンプレートにストリークして、30℃で保温した。
次に、2μg/mlのアンピシリンプレートから生育したコロニーを、5μg/mlのアンピシリンプレートにストリークし、耐性株が出現するまで30℃で保温した。以下、同様の操作を、アンピシリン濃度を10μg/ml→15μg/ml→50μg/ml→100μg/mlに高めながら繰り返し、100μg/mlのアンピシリン濃度で生育するアンピシリン耐性株(J1−Amp株)を得た。
接合伝達によるウレアーゼ遺伝子の欠失
(1)ドナーの調製
乾熱滅菌した試験管に大腸菌S17−1λpirのコンピテントセル20μlにプラスミドpBKURE01 1μlを加え、氷上で30分静置した。42℃で30秒ヒートショック後、SOC培地を180μl添加し、37℃で1時間振とう培養を行った。その後、50μg/mlカナマイシンを含んだLBプレートに塗布し、37℃で一晩静置した。
翌日、プレートに生育したコロニーをLB培地1mlで回収し、遠心分離により菌体を回収し、遠心上清を除去した。同様の操作をもう一度繰り返し、最後に0.5 mlのLB培地を添加し、菌体懸濁液を調製した。この菌体懸濁液をドナー溶液とした。
J1−Amp株をMYKプレートにストリークし、30℃で2日生育させた。生育したコロニーは実施例1(1)と同様の方法で回収、洗浄し、レシピエントとなる菌体懸濁液を調製した。
実施例1(1)で調製したドナー溶液と、実施例1(2)で調製したレシピエント溶液を100μlずつ混合し、抗生物質を含まないMYKプレートに塗布し、30℃で一晩静置した。
翌日、生育したコロニーは1mlのLB培地で回収し、100μlずつカナマイシン濃度を10、30、50μg/mlとした選抜プレート(すべて100μg/mlアンピシリンを含む)に塗布した。
塗布したプレートは組み換え菌コロニーが出現するまで30℃で1週間保温した。
その結果、100μg/mlアンピシリン、10μg/mlカナマイシンを含んだプレートにのみ3個のコロニーが出現した。得られたコロニーの一つを#U1と命名し、以後の実験に使用した。
接合伝達により得られた組み換え菌#U1は、ゲノムのウレアーゼ遺伝子の領域に相同組換えによりプラスミドが挿入されているが、ウレアーゼ遺伝子を欠失するには2段階の相同組換えが必要である。そこで、次に、sacB遺伝子を利用した選抜を実施した。
10%ショ糖を含んだMYKプレートを作製し、#U1のコロニーを滅菌水に懸濁した液を適度に希釈して塗布し、30℃で静置した。生育したコロニーについて10個のコロニーからゲノムDNAを調製し、以下に示す反応液組成及びプライマーを用いてPCRを行って、得られた断片(PCR産物)のサイズを電気泳動で調べた。なお、プライマーureC−03及びureC−06は、調製例1で用いたものと同様である。
滅菌水 22μl
PrimeSTAR(登録商標) Max Premix(2×) (タカラバイオ社製) 25μl
ureC−03(10μM)(配列番号8) 1μl
ureC−06(10μM)(配列番号11) 1μl
ゲノムDNA(100ng) 1μl
総量 50μl
温度サイクル:
98℃:10秒、55℃:15秒及び72℃:20秒の反応を30サイクル
その結果、10個の内、5個のコロニーはウレアーゼ遺伝子が欠失していることが確認された。得られたウレアーゼ遺伝子欠失株を、それぞれUD1〜UD5株とした。
UD1〜UD5株の培養
UD1〜UD5株とJ1株5株(J1−1〜J1−5)を下記の培地で培養し、ウレアーゼ活性およびニトリルヒドラターゼ活性を確認した。本培養の培地は、ニトリルヒドラターゼの誘導剤である尿素とコバルト、を含むものを用いた。前培養は30℃で3日間、本培養は30℃で2日間、振とう培養した。
グルコース 20g/L
味液 20g/L
ポリペプトン 5g/L
酵母エキス 3g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
KH2PO4 1g/L
K2HPO4 1g/L
グルコース 15g/L
ポリペプトン 3g/L
酵母エキス 3g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
KH2PO4 1g/L
K2HPO4 1g/L
エタノール 2g/L
CoCl2・6H2O 0.025g/L
チアミン 0.002g/L
ビタミンK 0.002g/L
尿素 15g/L
まず、本培養後に得られた培養液を遠心分離して菌体を取り除き、上清を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で100倍希釈する。市販の尿素測定キット(F−キット 尿素/アンモニア;ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を用いて希釈液に含まれる尿素濃度を測定し、ウレアーゼ活性を評価した。
培養液中の尿素濃度を測定した結果、培養開始時の尿素濃度15g/Lに対して、J1株の場合は平均で約3.5g/L残っていたが、ウレアーゼ遺伝子を欠失させたUD1〜UD5株ではほとんど減少しておらず平均14.5g/L残っていた。以上の結果よりウレアーゼ活性が欠失していることを確認した。
配列番号3:プライマーSAC−02
配列番号4:プライマーureC−01
配列番号5:プライマーureC−02
配列番号8:プライマーureC−03
配列番号9:プライマーureC−04
配列番号10:プライマーureC−05
配列番号11:プライマーureC−06
Claims (5)
- ニトリルヒドラターゼ活性を有するロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)において、ウレアーゼ遺伝子ureCが欠失又は不活性化されたロドコッカス属細菌。
- 欠失または不活性化させるウレアーゼ遺伝子が、以下の(a)又は(b)に示されるいずれかの塩基配列を有するDNAからなる、請求項1記載のロドコッカス属細菌。
(a)配列番号1記載の塩基配列を含むDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列と相同性が90%以上の塩基配列からなり、かつウレアーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA - ロドコッカス・ロドクロウスが、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株又はその変異株である、請求項1又は2に記載のロドコッカス・ロドクロウス。
- 請求項1又は2に記載のロドコッカス・ロドクロウスを培養し、得られる培養物からニトリルヒドラターゼを採取することを特徴とする、ニトリルヒドラターゼの製造方法。
- 請求項1又は2に記載のロドコッカス・ロドクロウスを培養して得られる培養物又は当該培養物の処理物をニトリル化合物に接触させ、当該接触により生成されるアミド化合物を採取することを特徴とする、アミド化合物の製造方法。
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