JP2008306928A - コバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ニトリルヒドラターゼを利用してアミド化合物を効率的に製造するにあたって、より該酵素活性の高い微生物菌体を得るための培養方法を提供する。
【解決手段】 ニトリルヒドラターゼ産生微生物の多段階培養において、培養のすべての段階でコバルトを適量供給することにより、得られる微生物菌体の該酵素活性を向上する。
【選択図】 なし
【解決手段】 ニトリルヒドラターゼ産生微生物の多段階培養において、培養のすべての段階でコバルトを適量供給することにより、得られる微生物菌体の該酵素活性を向上する。
【選択図】 なし
Description
本発明は、コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物をより高いニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物菌体として得るための培養方法に関する。
近年ニトリル基を水和してアミド基に変換するニトリル水和活性を有するニトリルヒドラターゼが発見され、該酵素または該酵素を有する微生物菌体等を用いてニトリル化合物より対応するアミド化合物を製造する方法が既に開示されている。この製造方法は従来の科学的な方法と比べて、ニトリル化合物から対応するアミド化合物への転化率及び選択率が高いなどのメリットが知られており、工業的に利用されている。
ニトリルヒドラターゼは、活性中心に補欠分子として非ヘム鉄原子、または、非コリン核コバルト原子を有していることが既に知られており、それぞれ鉄型ニトリルヒドラターゼ、及び、コバルト型ニトリルヒドラターゼという呼称で区別されている。
鉄型のニトリルヒドラターゼとしてはロドコッカス(Rhodococcus)sp.N−771、シュードモナスクロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)B23を、コバルト型ニトリルヒドラターゼとしてはロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1、シュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardiathermophila)JCM3095をそれぞれ由来とするニトリルヒドラターゼを代表的な例として挙げることができる。
鉄型のニトリルヒドラターゼとしてはロドコッカス(Rhodococcus)sp.N−771、シュードモナスクロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)B23を、コバルト型ニトリルヒドラターゼとしてはロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1、シュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardiathermophila)JCM3095をそれぞれ由来とするニトリルヒドラターゼを代表的な例として挙げることができる。
ここで、ニトリルヒドラターゼを用いてニトリル化合物よりアミド化合物を工業的に製造するためには、アミド化合物の製造コストに占める該酵素の製造コストを下げることが重要であり、より具体的には単位微生物重量あたりの二トリル化合物の水和活性を高くすることが好ましい。同時に、その様な二トリル化合物の水和活性を高めた微生物菌体を効率よく製造することも有効である。
たとえば、シュードノカルディア・サーモフィラ由来のコバルト型ニトリルヒドラターゼについては、該酵素遺伝子を大腸菌で発現させた遺伝子組換え菌の作出(特開平9−275978号公報)や、該酵素を活性化するタンパク質を大腸菌内でニトリルヒドラターゼと共に発現させる方法(特開平11−253168号公報)等が知られている。
一方、二トリル化合物の水和活性を高めた微生物菌体を効率よく製造するためには、一般的には、単位培養液あたりの微生物菌体濃度を高めることが有効である。より具体的には、攪拌型の培養槽等を使用して、最終的な乾燥菌体濃度が20g/L以上となる高密度培養方法が適用される。尚、コバルト型ニトリルヒドラターゼの生産においては、微生物菌体の製造時に適量のコバルトイオンを共存させることが二トリル化合物の水和活性の発現に必要であることも知られている。
特開平9−275978号公報
特開平11−253168号公報
上述のように、工業的には、(1)単位微生物重量あたりの二トリル化合物の水和活性を高くする、(2)高密度培養方法により二トリル化合物の水和活性が高い微生物菌体を効率よく製造するという2つの課題を同時に達成することが重要であり、本発明は、そのための方策を提供するものである。
一般的に、微生物菌体の高密度培養方法とは、凍結乾燥アンプルや10%程度のグリセロール溶液中で保存されている種菌を元にして、第1段階である数リットルスケールのフラスコ培養と、それに続く1〜3段階程度のシードステップ培養を経ることで、微生物菌体量を段階的に増やした後に、最終段階の培養で該微生物菌体の密度を高めるという方法である。この最終段階の培養で微生物菌体の密度を高めるためには、微生物菌体中のタンパク質や核酸、脂質、ビタミン等の構成成分の原料であり、かつ、微生物の生育に必要なエネルギー源となる炭素源を培養槽に断続的に添加することが有効である。
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、最終段階の培養のみならず、多段階からなるシードステップ培養においても、適量のコバルトを添加することにより、より高い活性を有する微生物菌体を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]に記載のとおりである。
[1]コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の培養において、シードステップの培養液中にコバルトを添加することを特徴とするコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法。
[2]コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の培養において、コバルトを含む炭素源溶液を培養液中に連続的または断続的に供給することを特徴とするコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法。
[3]コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の培養において、[1]に記載の培養方法と、[2]に記載の培養方法とを組み合わせることを特徴とするコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法。
[1]コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の培養において、シードステップの培養液中にコバルトを添加することを特徴とするコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法。
[2]コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の培養において、コバルトを含む炭素源溶液を培養液中に連続的または断続的に供給することを特徴とするコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法。
[3]コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の培養において、[1]に記載の培養方法と、[2]に記載の培養方法とを組み合わせることを特徴とするコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法。
ニトリルヒドラターゼを産生する微生物のシードステップ培養のすべての段階において適量のコバルトを供給することにより、より高い活性を有する微生物菌体の提供が可能となる。また、コバルトを含む炭素源溶液を培養液中に連続的または断続的に供給することにより、より高い活性を有する微生物菌体の提供が可能となる。
本発明におけるコバルト型ニトリルヒドラターゼとは、分子内にコバルトが配位することによりニトリル水和活性を有するものである。より具体的には、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1、シュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardiathermophila)JCM3095由来のニトリルヒドラターゼを例として挙げることができる。
本発明におけるコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物とは、シュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)JCM3095、または、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcusrhodochrous)J1自体の他、該微生物よりクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で発現させた形質転換体も含まれる。尚、ここでいう任意の宿主には、大腸菌(Escherichiacoli)が代表例として挙げられるが、とくに大腸菌に限定されるのものではなく枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属菌、酵母や放線菌等の他の微生物菌株も含まれる。その様なものの例として、MT−10822(本菌株は、1996年2月7日に茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−5785として、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されている。)が挙げられる。また、組換えDNA技術を用いて該酵素の構成アミノ酸の1個または2個以上を他のアミノ酸で置換、欠失、削除もしくは挿入した変異型のニトリルヒドラターゼを発現させた形質転換体も本発明でいうコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物に含まれる。
本発明のニトリルヒドラターゼ産生微生物は常法に従って個々の微生物に適した方法で培養すること可能であり、炭素源、有機窒素源、無機窒素源、無機塩類、および緩衝液成分等が含まれる。必要に応じ、該酵素産生誘導剤を添加してもかまわない。培養の進行に伴い、菌体濃度が上がり、炭素源が不足する高密度の培養においては微生物の増殖状態に合わせて炭素源を連続的に、もしくは断続的に添加する方法も好適である。培養時は攪拌または振とうに加え、空気を供給し、増殖に十分な溶存酸素濃度を保つことが望ましい。
微生物を培養する際、微生物菌体の密度を上げる等の目的により、多段階からなるシードステップ培養を行うことが、特に工業的には一般的である。本発明でいうシードステップ培養とは多段階培養における最終段階の培養を除くすべての培養を指す。
コバルトはCo++またはCo+++の形態をイオンとして取るが、本発明ではすべてのシードステップ培養液中で2価のコバルトイオンの塩として供給される。具体的には塩化コバルト、硫酸コバルト、酢酸コバルトを例示することができる。シードステップ培養におけるコバルトの添加により、最終的に回収される微生物菌体の酵素活性は、シードステップ培養でコバルトを添加しない場合に比べ、優位に高くなる。コバルトイオンは過剰に培養液に添加された場合、微生物の生育阻害を引き起こすことがある。従って、培養中のコバルト濃度は該酵素が活性を有するに十分であり、かつ微生物に生育阻害を及ぼさない範囲がよい。好ましくは塩化コバルト6水和物換算で30〜200mg/L、より好ましくは50〜150mg/Lの範囲内に維持することが好ましい。
また、高密度培養を適用した場合、培養液中の菌体濃度の上昇に伴い、微生物菌体中のタンパク質や核酸、脂質、ビタミン等の構成成分の原料であり、かつ、微生物の生育に必要なエネルギー源となるグルコース等の炭素源が不足する。こういった場合、炭素源を連続的に、あるいは断続的に培養液に供給する。本発明では、この補給炭素源溶液中にコバルトを添加し、該酵素の活性発現に必要なコバルトを連続的に、あるいは断続的に適量供給する。供給するコバルトとしては塩化コバルト6水和物換算で補給炭素源溶液中の濃度として50〜400mg/L、より好ましくは100〜200mg/Lとするのがよい。
上述したシードステップ培養液へのコバルトの添加、および補給炭素源供給へのコバルトの添加は個々に最終的に回収される微生物菌体の酵素活性向上に効果を示すが、両者を組み合わせることにより更に効果的なものとなる。
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって何等限定されるものではない。
本実施例ではシュードノカルディア・サーモフィラ(Pseudonocardia thermophila)JCM3095由来のニトリルヒドラターゼ遺伝子を大腸菌K−12株由来HB101株に形質導入した寄託微生物MT−10822(寄託番号FERM BP−5785)をニトリルヒドラターゼ活性を有する微生物として用いた。
[実施例1]
シードステップ培養培地にコバルトを添加した培養
高圧蒸気滅菌された0.08g/LのFeSO4・7H2O、および0.05g/LのCoCl2・6H2Oを含むLB培地(pH7.5)に0.1mg/Lとなるようにアンピシリンを添加した培地200mlをシードステップ培養の培地とし、上述の菌株を一白菌耳植菌して33℃にて培養した。菌体の濁度として660nmにおける吸光度が3.0〜6.0の範囲となった時点で、この培養液を高圧蒸気滅菌済みの表1に示す本培養培地5Lに植菌し、33℃にて培養した。本培養開始より培養液のpHを監視し、pHが7.45以上となったときに炭素源供給溶液として500g/Lのグルコースを15ml添加した。同時に、1.0vvmで空気を培養液内に通気しながら攪拌し、48時間の培養を行い、培養液(微生物懸濁液)を得た。
シードステップ培養培地にコバルトを添加した培養
高圧蒸気滅菌された0.08g/LのFeSO4・7H2O、および0.05g/LのCoCl2・6H2Oを含むLB培地(pH7.5)に0.1mg/Lとなるようにアンピシリンを添加した培地200mlをシードステップ培養の培地とし、上述の菌株を一白菌耳植菌して33℃にて培養した。菌体の濁度として660nmにおける吸光度が3.0〜6.0の範囲となった時点で、この培養液を高圧蒸気滅菌済みの表1に示す本培養培地5Lに植菌し、33℃にて培養した。本培養開始より培養液のpHを監視し、pHが7.45以上となったときに炭素源供給溶液として500g/Lのグルコースを15ml添加した。同時に、1.0vvmで空気を培養液内に通気しながら攪拌し、48時間の培養を行い、培養液(微生物懸濁液)を得た。
該懸濁液16mgを取り出し、純水で10gに希釈した。この希釈液1gをあらかじめ50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.1)で10gに希釈した。次いでアクリロニトリル3.2mlを添加して20℃に維持しながら15分間反応を行った。10mMリン酸水溶液を80g添加して反応を停止し、HPLC分析により反応液中のアクリルアミド濃度を測定した。HPLC分析におけるカラムとして、YMC−Pack ODS−A(150×6φmm)を使用し、3%アセトニトリルを含む10mMリン酸水溶液を移動層とした。アクリルアミドおよびアクリロニトリルは210nmの吸光度により検出し、濃度を測定した。次に該懸濁液の乾燥菌体重量濃度を求め、単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を算出した。比較例1で得られた単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を100%として、実施例1の結果を比較した。結果を表2に示す。
[比較例1]
シードステップ培地にコバルトを添加しない培養
シードステップ培養においてCoCl2・6H2Oを添加しない以外は実施例1と同様な方法によって培養を実施した。得られた培養液は実施例1と同様の方法で単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を算出した。結果を表2に示す。
シードステップ培地にコバルトを添加しない培養
シードステップ培養においてCoCl2・6H2Oを添加しない以外は実施例1と同様な方法によって培養を実施した。得られた培養液は実施例1と同様の方法で単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を算出した。結果を表2に示す。
[実施例2]
本培養時の炭素源供給溶液にコバルトを添加した培養
本培養時の炭素源供給溶液に0.1g/LのCoCl2・6H2Oを添加すること以外は比較例1と同様な方法によって培養を実施した。得られた培養液は実施例1と同様の方法で単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を算出した。比較例1で得られた単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を100%として、実施例2の結果を比較した。結果を表2に示す。
本培養時の炭素源供給溶液にコバルトを添加した培養
本培養時の炭素源供給溶液に0.1g/LのCoCl2・6H2Oを添加すること以外は比較例1と同様な方法によって培養を実施した。得られた培養液は実施例1と同様の方法で単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を算出した。比較例1で得られた単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を100%として、実施例2の結果を比較した。結果を表2に示す。
[実施例3]
本培養時の炭素源供給溶液に0.1g/LのCoCl2・6H2Oを添加すること以外は比較例1と同様な方法によって培養を実施した。得られた培養液は実施例1と同様の方法で単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を算出した。比較例1で得られた単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を100%として、実施例3の結果を比較した。結果を表2に示す。
本培養時の炭素源供給溶液に0.1g/LのCoCl2・6H2Oを添加すること以外は比較例1と同様な方法によって培養を実施した。得られた培養液は実施例1と同様の方法で単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を算出した。比較例1で得られた単位乾燥菌体重量当たりのアクリルアミド生成量を100%として、実施例3の結果を比較した。結果を表2に示す。
使用菌体:シュードノカルディア・サーモフィラJCM3095由来ニトリルヒドラターゼ含有微生物菌体
本発明によれば、コバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の多段階培養時のすべての培養中に適量のコバルトを供給することにより、該酵素活性がより高い微生物菌体を得ることができるので、工業的に実施するのに有用である。
Claims (3)
- コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の培養において、シードステップの培養液中にコバルトを添加することを特徴とするコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法。
- コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の培養において、コバルトを含む炭素源溶液を培養液中に連続的または断続的に供給することを特徴とするコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法。
- コバルト型ニトリルヒドラターゼを産生する微生物の培養において、請求項1に記載の培養方法と、請求項2に記載の培養方法とを組み合わせることを特徴とするコバルト型ニトリルヒドラターゼ産生微生物の培養方法。
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