本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、負極形成に用いる負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含むことを特徴とするものである。好ましくは、電解液及び正極形成に用いる正極スラリーが、いずれもSEI形成用添加剤を含まないのが望ましい。詳しくは、本発明の製造方法は、正極スラリーを用いた正極形成工程と、負極スラリーを用いた負極形成工程と、前記正極形成工程と前記負極形成工程で得られた正極と負極と、セパレータとを積層して積層体を形成する工程と、外装体内部に入れた前記積層体に電解液を注液する工程とを含むものである。そして、前記負極スラリーにSEI形成用添加剤を含むことを特徴とする。好ましくは、前記電解液及び前記正極スラリーが、いずれもSEI形成用添加剤を含まないのが望ましい。また本発明の非水電解質二次電池は、上記製造方法により得られてなることを特徴とするものである。かかる構成を有する本発明の製造方法及びこれにより得られた電池では、上記した発明の作用効果を奏することができるものである。
まず、本発明の非水電解質二次電池の好ましい実施形態として、非水電解質リチウムイオン二次電池について説明するが、以下の実施形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
リチウムイオン二次電池の構造・形態で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など特に制限されず、従来公知のいずれの構造にも適用されうる。
同様に、電解質の形態で区別した場合にも、特に制限はない。例えば、非水電解液をセパレータに含浸させた液体電解質型電池、ポリマー電池とも称される高分子ゲル電解質型電池および固体高分子電解質(全固体電解質)型電池のいずれにも適用されうる。本実施形態では、高分子ゲル電解質および固体高分子電解質に関しても、これら高分子ゲル電解質や固体高分子電解質をセパレータに含浸させたものを使用することができる。
以下の説明では、双極型でない(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池につき図面を用いて説明するが、決してこれらに制限されるべきものではなく、双極型(内部直列接続タイプ)リチウムイオン二次電池にも適用し得るものである。
図1は、双極型でない扁平型(積層型)の非水電解質リチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の一実施形態の基本構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体である電池外装材29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された構造を有する。負極は、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、本実施形態の積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、双極型(内部直列接続タイプ)の積層型(積層構造)のリチウムイオン二次電池では、単電池層(単セル)が複数積層されることで、電気的に直列接続されてなる構成を有するともいえる。
なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層負極集電体が位置するようにし、該最外層負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
また、本実施形態では、電極(正極ないし負極)には、自立電極を含むものである。自立電極とは金属箔(集電体)がなくても形状を担保するものである。即ち、自立電極(自立構造)は、構造的(ないし強度的)には、金属箔(集電体)がなくても活物質層だけで形状を担保できるものである。但し、自立電極(自立構造)といえども、電極要素としては、集電体(但し、金属箔以外にも金属箔より機械的強度が低く、形状を担保し得ない金属の蒸着膜やメッキ薄膜、更には金属配線などでもよい)と活物質層とが必要である。上記に定義した自立電極は、活物質層(正極活物質層、負極活物質層)と、前記活物質層の片面に直接形成されてなる集電体(正極集電体、負極集電体)とを有する。そして、前記活物質層が、多孔質骨格体と、前記多孔質骨格体の空孔内に保持される活物質(正極活物質,負極活物質)とを含むものである。
本明細書中、「集電体」と記載する場合、正極集電体、負極集電体の両方を指す場合もあるし、片方のみを指す場合もあるし、双極型電池の双極型電極用集電体を指す場合もある。同様に、「活物質層」と記載する場合、正極活物質層、負極活物質層の両方を指す場合もあるし、片方のみを指す場合もある。同様に、「活物質」と記載する場合、正極活物質,負極活物質の両方を指す場合もあるし、片方のみを指す場合もある。同様に「電極」と記載する場合、正極、負極の両方を指す場合もあるし、片方のみを指す場合もある。
正極集電体11および負極集電体12には、各電極(正極および負極)と導通される正極集電タブ(正極集電板)25および負極集電タブ(負極集電板)27の一方の先端部がそれぞれ取り付けられている。また正極集電タブ25および負極集電タブ27のもう一方の先端部は、電池外装材29の端部に挟まれるようにして電池外装材29の外部に導出される構造を有している。正極集電タブ25および負極集電タブ27はそれぞれ、必要に応じて電極端子リード(正極端子リードおよび負極端子リード)(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
以下、本実施形態の積層型電池について、上記した構成要件ごとに詳細に説明する。なお、積層構造電池10の各構成要件(構成部材)については、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態も同様に採用されうる。
(1)集電体
集電体は、導電性材料から構成され、その一方の面または両面に活物質層が配置される。集電体を構成する材料に特に制限はなく、例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された導電性を有する樹脂が採用されうる。
金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも導電性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼、および銅が好ましい。
金属を用いた集電体の形態としては金属箔の他に、金属蒸着層、金属メッキ層、導電性プライマ層、金属配線を用いてもよい。金属蒸着層及び金属メッキ層は、活物質層の片面に、真空蒸着法や各種メッキ法により、極めて薄い金属蒸着層や金属メッキ層を形成(配置)することができる。金属配線も活物質層の片面に、真空蒸着法や各種メッキ法により、極めて薄い金属配線を形成(配置)することができる。また、金属配線にプライマ層を含浸させて、熱圧着により貼り付けることができる。さらに、金属配線としてパンチングメタルシートやエキスパンドメタルシートを用いる場合には、パンチングメタルシートやエキスパンドメタルシートの両面に電極スラリーを塗布、乾燥することで活物質層に挟まれた金属配線(集電体)を配置することができる。金属箔を用いる場合にも、金属箔上(片面又は両面)に電極スラリーを塗布、乾燥することで、活物質層の片面に金属箔(集電体)を配置することができる。また、導電性プライマ層は、基本的にはカーボン(鎖状、繊維状)や金属フィラー(集電体材料に用いられるアルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル粉など)に樹脂を混合して作製することができる。配合は様々である。これを活物質層の片面に塗布、乾燥することで形成(配置)することができる。
上記導電性プライマ層は、導電性を有する集電接着層を含む。好適には、導電性プライマ層は、導電性を有する集電接着層からなる。導電性プライマ層が導電性を有するには、具体的な形態として、1)樹脂を構成する高分子材料が導電性高分子である形態、2)集電接着層が樹脂および導電性フィラー(導電材)を含む形態が挙げられる。
上記1)の形態に用いられる導電性高分子は、導電性を有し、電荷移動媒体として用いられるイオンに関して伝導性を有さない材料から選択される。これらの導電性高分子は、共役したポリエン系がエネルギー帯を形成し伝導性を示すと考えられている。代表的な例としては電解コンデンサなどで実用化が進んでいるポリエン系導電性高分子を用いることができる。具体的には、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、ポリオキサジアゾール、またはこれらの混合物などが好ましい。電子伝導性および電池内で安定に使用できるという観点から、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレンがより好ましい。
上記2)の形態に用いられる導電性フィラー(導電材)は、導電性を有する材料から選択される。好ましくは、導電性を有する集電接着層内のイオン透過を抑制する観点から、電荷移動媒体として用いられるイオンに関して伝導性を有さない材料を用いるのが望ましい。
具体的には、アルミニウム材、ステンレス(SUS)材、カーボン材、銀材、金材、銅材、チタン材などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの導電性フィラーは1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金材が用いられてもよい。好ましくは銀材、金材、アルミニウム材、ステンレス材、カーボン材、さらに好ましくはカーボン材である。また、これらの導電性フィラー(導電材)は、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記導電材)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
前記カーボン材としては、例えば、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、ハードカーボン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。これらのカーボン材は電位窓が非常に広く、正極電位および負極電位の双方に対して幅広い範囲で安定であり、さらに導電性に優れている。また、カーボン材は非常に軽量なため、質量の増加が最小限になる。さらに、カーボン材は、電極の導電助剤として用いられることが多いため、これらの導電助剤と接触しても、同材料であるがゆえに接触抵抗が非常に低くなる。なお、カーボン材を導電性粒子として用いる場合には、カーボンの表面に疎水性処理を施すことにより電解質のなじみ性を下げ、集電体の空孔に電解質が染み込みにくい状況を作ることも可能である。
導電性フィラー(導電材)の形状は、特に制限はなく、粒子状、粉末状、繊維状、板状、塊状、布状、またはメッシュ状などの公知の形状を適宜選択することができる。例えば、樹脂に対して広範囲に亘って導電性を付与したい場合は、粒子状の導電材料を使用することが好ましい。一方、樹脂において特定方向への導電性をより向上させたい場合は、繊維状等の形状に一定の方向性を有するような導電材料を使用することが好ましい。
導電性フィラーの平均粒子径は、特に限定されるものではないが、0.01〜10μm程度であることが望ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電性フィラーの輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。後述する活物質粒子などの粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
また、集電接着層が導電性フィラーを含む形態の場合、集電接着層を形成する樹脂は、上記導電性フィラーに加えて、当該導電性フィラーを結着させる導電性のない高分子材料を含んでいてもよい。集電接着層の構成材料として導電性のない高分子材料を用いることで、導電性フィラーの結着性を高め、電池の信頼性を高めることができる。高分子材料は、印加される正極電位および負極電位に耐えうる材料から選択される。
導電性のない高分子材料の例としては、好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)またはこれらの混合物が挙げられる。これらの材料は電位窓が非常に広く正極電位、負極電位のいずれに対しても安定である。また軽量であるため、電池の高出力密度化が可能となる。
導電性フィラーの含有量も特に制限はない。特に、樹脂が導電性高分子材料を含み、十分な導電性が確保できる場合は、導電性フィラーを必ずしも添加する必要はない。しかしながら、樹脂が非導電性高分子材料のみからなる場合は、導電性を付与するために導電性フィラーの添加が必須となる。この際の導電性フィラーの含有量は、非導電性高分子材料の全質量に対して、好ましくは5〜90質量%であり、より好ましくは30〜85質量%であり、さらに好ましくは50〜80質量%である。かような量の導電性フィラーを樹脂に添加することにより、樹脂の質量増加を抑制しつつ、非導電性高分子材料にも十分な導電性を付与することができる。
上記導電性プライマ層には、導電性フィラーおよび樹脂の他、他の添加剤を含んでいてもよいが、好ましくは、導電性フィラーおよび樹脂からなる。
また、上記集電体を構成する材料のうち、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、およびポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限されないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限されないが、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。
集電体の厚さは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは3〜80μm、さらに好ましくは5〜40μmである。自立電極では、薄膜化が可能であることから、好ましくは1〜18μm、より好ましくは2〜15μm、さらに好ましくは3〜13μmである。これは、自立電極を作製する際には、従来の塗工・乾燥工程を経ることなく作製可能である。そのため、従来の塗工・乾燥工程を経る必要のない金属蒸着層、金属メッキ層、導電性プライマ層若しくは金属配線を集電体を用いる場合には、塗工・乾燥工程で必要とされる引張り強度を有している必要がない。その分、必要に応じ、集電体の厚みを薄くすることができ、集電体の設計の自由度が向上し、電極、ひいては電池の軽量化にも寄与する。
集電体として複数の貫通孔を有するパンチングメタルシートやエキスパンドメタルシート等を用いる場合、当該貫通孔の形状としては、四角形、菱形、亀甲形状、六角形、丸形、角型、星形、十文字形などが挙げられる。かような所定形状の多数の孔をプレス加工により、例えば、千鳥配置や、並列配置となるように形成したものが、いわゆるパンチングメタルシートなどである。また、千鳥状の切れ目を入れたシートを引き伸ばして略ひし形の貫通孔を多数形成したものが、いわゆるエキスパンドメタルシートなどである。
集電体に、上記した複数の貫通孔を有する集電体を用いる場合、集電体の貫通孔の開口率は、特に限定されない。ただし、集電体の開口率の下限の目安は、好ましくは10面積%以上、より好ましくは30面積%以上、さらに好ましくは50面積%以上、さらに好ましくは70面積%以上、さらに好ましくは90面積%以上である。このように、本実施形態の電極においては、90面積%以上の開口率を有する集電体も使用することができる。また、上限としては、例えば、99面積%以下、あるいは、97面積%以下などである。このように、有意に大きな開口率を有する集電体を有して形成される電極を備える積層構造電池10は、その重量を有意に減少させることができ、ひいては、容量を増加させることができ、高密度化をすることができる。
集電体に、上記した複数の貫通孔を有する集電体を用いる場合、集電体の貫通孔の孔径(開口径)も同様に、特に制限されない。ただし、集電体の開口径の下限の目安は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは50μm以上、特に好ましくは150μm以上である。上限としては、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下程度である。なお、ここでいう開口径とは、貫通孔=開口部の外接円の直径である。外接円の直径は、レーザー顕微鏡や工具顕微鏡などにより集電体の表面観察を行い、開口部に外接円をフィッティングさせ、それを平均化したものである。
(2)電極(正極および負極)及び電極活物質層
正極および負極は、リチウムイオンの授受により電気エネルギーを生み出す機能を有する。正極は、正極活物質を必須に含み、負極は負極活物質を必須に含む。
特に本発明では、負極活物質層の厚さ方向にかかわらず、負極活物質粒子表面にSEI形成用添加剤由来の高品質な(均一な厚さの)SEIを有するものである。これは、本発明の製造方法により得られた負極活物質層では、電極内側の負極集電体近傍の負極活物質表面と、電極(負極活物質層)外側近傍の負極活物質表面とで、初回充電時に形成されるSEIの厚さ等が異なるという課題を生じさせないためである(図7〜図10と図11〜図14を対比参照のこと)。また、初回充電工程の目的の1つとして負極活物質粒子表面へのSEIの形成がある。SEI形成用添加剤を含む負極スラリーを用いることで、初回充電時に正極側の液体電解質やゲル電解質中の該添加剤を含まない為、正極側から負極側に該添加剤を移動させてSEIを形成させる必要がなく、複雑なプロセスをたどる必要もないため、初回充電時間が短くでき、生産効率よく安価な負極、ひいては電池を提供できる。更に図4に示すように初回充電後に14日以上もかけて高温エージング、更には14日以上の常温エージングを行う必要がなく、図10に示すように品質バラツキが発生するという問題も生じない為、高品質でより一層安価な負極、ひいては電池を提供できる。
更に本発明では、正極活物質層にSEI形成用添加剤を含まないのが望ましい。これにより、電極内側の負極集電体近傍の負極活物質表面と、電極(負極活物質層)外側近傍の負極活物質表面とで、形成されるSEIの厚さ等が異なるという課題を生じさせないためである(図7〜図10と図11〜図14を対比参照のこと)。また、初回充電工程の目的の1つとしてSEIの形成がある。正極活物質層内にSEI形成用添加剤を含むと、初回充電時に正極活物質層内の該加剤側を電解液に溶解させ負極側に移動させた上で、SEIを形成させる必要があるなど、複雑なプロセスをたどるため、初回充電時間が長くなる。更にその後、図4に示すように14日以上もかけて高温エージング、更には14日以上の常温エージングを行う必要があるにもかかわらず、図10に示すように品質バラツキが発生するという課題があった。本発明では、SEI形成用添加剤を負極スラリーに添加し、電解液及び正極スラリーに添加しない製法により得られた電池構成であるため、上記した課題を解消することができる点で優れている。
これらの電極構造は、積層構造電池の場合、図1の形態のように上記集電体の表面に活物質を含む活物質層が形成されてなる構造である。一方、双極型二次電池の場合の電極(双極型電極)は、集電体の一方の面に正極活物質を含む正極活物質層が形成され、他方の面に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる構造を有する。すなわち、集電体を介して正極(正極活物質層)および負極(負極活物質層)が一体化した形態を有する。なお、活物質層には、活物質以外にも必要に応じて導電助剤、バインダ、更には電解質として電解質塩(リチウム塩)やイオン伝導性ポリマーなどの添加剤が含まれうる。また、負極では、水系溶媒を用いた負極スラリーを使用して作製する場合には、上記の他に、水系バインダ、増粘剤(CMCなど)などの添加剤が含まれうる。
(2a)正極活物質
正極活物質としては、従来公知のものを使用することができる。
正極活物質としては、例えば、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni,Co,Mn)O2、Li2MnO3、Li2MnO3−LiMO2系(M=Co、Niなど)固溶体およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。またLiNiO2、Li(Ni,Co,Mn)O2、Li2MnO3等のエネルギー密度が高い正極活物質は、電池を高容量化しやすく、車載用電池に用いた場合、1回の充電での走行距離を延ばすことができるなどの点でも有利である。
正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜25μmである。
正極活物質の量は、特に制限されないが、好ましくは正極活物質層(形成用原料)の総量に対して、50〜99質量%、より好ましくは70〜97質量%、さらに好ましくは80〜96質量%の範囲である。
(2b)負極活物質
負極活物質は、放電時にリチウムイオンを放出し、充電時にリチウムイオンを吸蔵できる組成を有する。負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、負極活物質の例としては、SiやSnなどの金属、あるいはTiO、Ti2O3、TiO2、もしくはSiO2、SiO、SnO2などの金属酸化物、Li4/3Ti5/3O4もしくはLi7MnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Li、または天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどの炭素材料などが好ましく挙げられる。このうち、リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量および優れた出力特性の電池を得ることが可能となる。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。
上記活物質のうち、炭素材料、ならびに/またはSi、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を含むことが好ましく、炭素材料、Si、またはSnの元素を含むことがより好ましい。炭素材料のうち、リチウム対比放電電位が低い黒鉛を用いることがさらに好ましい。
上記負極活物質を負極として使用する際には、負極活物質を含む負極活物質層を板状に成形しそのまま負極としてもよいし、集電体の表面に上記負極活物質粒子を含む負極活物質層を形成して負極としてもよい。後者の形態における負極活物質粒子の平均粒子径は、特に制限されないが、負極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μmであり、さらに高出力化の観点から、より好ましくは1〜25μmである。このような範囲であれば、二次電池は、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。なお、負極活物質が二次粒子である場合には該二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が10nm〜1μmの範囲であるのが望ましいといえるが、本実施形態では、必ずしも上記範囲に制限されるものではない。ただし、製造方法にもよるが、負極活物質が凝集、塊状などにより二次粒子化したものでなくても良いことはいうまでもない。かかる負極活物質の粒径および一次粒子の粒径は、レーザー回折法を用いて得られたメディアン径を使用できる。なお、負極活物質粒子の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、充放電特性などの電池特性を向上し得る最適の形状を適宜選択するのが望ましい。
負極活物質の量は、特に制限されないが、好ましくは負極活物質層(形成用原料)の総量に対して、50〜99質量%、より好ましくは70〜97質量%、さらに好ましくは80〜96質量%の範囲である。
(2b)導電助剤
導電助剤とは、活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト等のカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF;登録商標)等の種々の炭素繊維、膨張黒鉛などが挙げられる。しかし、導電助剤がこれらに限定されないことはいうまでもない。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。但し、活物質に導電性材料である炭素材料を用いる場合において、活物質だけでも電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与する場合には、導電助剤を添加しなくともよい。
正極活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、正極活物質層(形成用原料)の総量に対して、1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上の範囲である。また、正極活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、正極活物質層(形成用原料)の総量に対して、15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下の範囲である。活物質自体の電子導電性は低く導電助剤の量によって電極抵抗を低減できる正極活物質層での導電助剤の配合比(含有量)を上記範囲内に規定することで以下の効果が発現される。即ち、電極反応を阻害することなく、電子導電性を十分に担保することができ、電極密度の低下によるエネルギー密度の低下を抑制でき、ひいては電極密度の向上によるエネルギー密度の向上を図ることができる。
負極活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量としては、負極活物質により異なることから一義的には規定することができない。即ち、負極活物質自体が優れた電子導電性を有する、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、金属材料を用いる場合には、負極活物質層への導電助剤の含有は特に必要がない。導電助剤を含有するとしても、負極側の電極構成材料の総量に対して、せいぜい0.1〜1質量%の範囲で十分である。一方、正極活物質と同様に電子導電性は低く導電助剤の量によって電極抵抗を低減できる。リチウム合金系負極材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti5O12)などの負極活物質を用いる場合には、正極活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量と同程度の含有量とするのが望ましい。即ち、負極活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量も、負極側の電極構成材料の総量に対して、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%、特に好ましくは3〜7質量%の範囲とするのが望ましい。
(2c)バインダ(結着剤)
バインダは、活物質層中の構成部材同士または活物質層と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。バインダとしては、上記目的を達成できる絶縁性材料であって、充放電時に副反応(酸化還元反応)を起こさない材料であればよく、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。しかし、バインダがこれらに限定されないことはいうまでもない。
バインダの量は、電極(正極、負極)活物質等を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは電極(正極、負極)活物質層(またはその形成用原料)の総量に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
(2d)電解質塩(リチウム塩)
電解質塩(リチウム塩)としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiTaF6、LiAlCl4、Li2B10Cl10、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、ビスペンタフルオロエチルスルホニルイミドリチウム(LiBETI)等が挙げられる。更には、後述する電解質層に用いられる電解質塩(リチウム塩)を適宜利用することができる。電極活物質層中に含まれる電解質塩(リチウム塩)の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水溶媒系二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
(2e)イオン伝導性ポリマー
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系ポリマー、ポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマー、それらの共重合体のリチウム塩を含み得るイオン伝導性ポリマー(固体高分子電解質材料)などが挙げられる。更には、後述する電解質層に用いられる電解質塩(リチウム塩)を適宜利用することができる。電極活物質層中に含まれるイオン伝導性ポリマーの配合比は、特に限定されない。配合比は、非水溶媒系二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
(2f)増粘剤またはカルボキシメチルセルロース(CMC)誘導体
負極の作製に、水系溶媒を含む水系スラリーを用いてなる場合には、負極活物質中に負極活物質、増粘剤またはCMC誘導体、水系バインダを含む。好ましくは、更にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属、炭酸アルカリを含む。必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。このうち、負極活物質については、すでに説明している通りである。
増粘剤のCMCないしCMC塩は、その分子中に、カルボキシルメチル基(−CH2COOH)の他に、その塩として、−CH2COONa、−CH2COOLi、−CH2COOK、−CH2COONH4等が存在する。こうした多数の種類(化合物)を包含するCMCないしCMC塩としては、既に多くの種類(化合物)が市販されており、これらの中から適宜選択して使用することができる。これら市販品の多くは、分子中の−CH2COOH基の水素原子の一部または全部がカチオン種であるNa、Li、K、NH4などであるものが用いられており、カチオン種であるNa、Li、K、NH4量は任意に調整可能である。本実施形態では、−CH2COONaなどカチオン種であるNa等の部分でミセルを形成する為、CMCないしCMC塩の分子鎖の末端はNa等のカチオン種のものを用いるのが望ましいといえる。
CMC誘導体としては、増粘剤のCMCないしCMC塩の分子中に存在する−CH2COOR基の全部または一部が、−CH2CHO基、−CH2CH2OH基、−CH3基のいずれかになっているものなどが挙げられる。ここで、CMCないしCMC塩の分子中に存在する−CH2COOR基としては、1種だけでもよいし、2種以上であってもよい。1種の場合には、分子中に存在する−CH2COOR基のRには、Na、Li、K、NH4などのカチオン種のいずれかが挙げられる。また2種以上の場合には、分子中に存在する−CH2COOR基のRには、少なくともNa、Li、K、NH4などのカチオン種が含まれていればよく、その他に、H(水素原子)を有するものであってもよい。初期充電前の負極活物質層の構成材料としてCMCないしCMC塩ではなく、CMC誘導体を含有することで、CMC誘導体では分子中に存在する−CH2COOR基が、初期充電で還元分解されにくい安定な−CH2CHO基、−CH2CH2OH基、−CH3基のいずれかになっている。そのため、初期充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による容量の優れた負極を提供できる。
CMC誘導体では、CMCないしCMC塩の分子中に存在する−CH2COOR基(水系スラリー中では電離してCH2COO−(イオン基)の状態で存在)の全部または一部が還元反応により、安定な−CH2CHO基、−CH2CH2OH基、−CH3基のいずれかになっている。かかるCMCないしCMC塩の分子中に存在する−CH2COOR基(水系スラリー中で電離した状態のCH2COO−)の還元割合は、10〜100%、好ましくは50〜100%、より好ましくは80〜100%、特に好ましくは100%である。還元割合が10%未満であれば、得られるCMC誘導体を初回充電した際のガス発生を十分に抑えるのが困難となる場合がある。10%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上とすることで、得られるCMC誘導体を初回充電した際のガス発生を十分に抑えることができる。よって、−CH2COOR基(CH2COO−基)の還元割合は必ずしも全部(=100%)でなくともよいといえるが、還元割合100%とすることで、得られるCMC誘導体を初回充電した際のガス発生を格段に抑制することができる。また、容量向上にも大いに寄与し得る点でも好ましいといえるものである。還元割合は、CMC誘導体につき表面ESCA(X線光電子分光法(装置))などを用いて測定することができる。この他にも、1H NMR(核磁気共鳴分光法)、14C NMR、二次元NMRを用いたCOSY(COrrelation SpectroscopY, COrrelated SpectroscopY)測定法等を用いて測定(補足)することもできる。なお、上記還元割合に代えて、後述するアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量を満足するものであれば、本発明の所期の目的及び効果を達成できているものである。そのため、上記した高価な装置を購入して上記還元割合を求めなくても、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量を測定することで、本発明の所期の目的及び効果の達成が確認可能であることから、上記還元割合は、いわば任意要件といえるものである。
水系溶媒を用いた負極スラリーを用いて形成された負極活物質層に含まれる増粘剤またはCMC誘導体の含有量は、負極活物質層の総量に対して、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜2質量%の範囲である。CMC誘導体の含有量が0.1質量%以上であれば、負極製造過程での増粘効果を十分に発現し、平坦で滑らかな表面の負極活物質層とすることができる。また、得られた負極の初期充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による容量の優れた負極を提供できる。またCMC誘導体の含有量が10質量%以下であれば、優れた増粘効果により水系の負極スラリーの粘度を適当に調整することができ、所望の負極活物質層とすることができる。また、得られた負極の初期充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による容量の優れた負極を提供できる。
増粘剤またはCMC誘導体の重量平均分子量は、5000〜1200000、好ましくは6000〜1100000、より好ましくは7000〜1000000の範囲である。CMC誘導体の重量平均分子量が5000以上であれば、負極水系スラリーの粘度を適度に保つことができるなど、CMC誘導体が還元される前の増粘剤のCMCないしCMC塩を水に溶解した際に、負極の水系スラリーの粘度を適度に保つことができる。その結果、負極の製造段階で増粘剤として有効に利用することができる点で有利である。CMC誘導体の重量平均分子量が1200000以下であれば、CMC誘導体が還元される前の増粘剤のCMCないしCMC塩を水等の水系溶媒に溶解した際にゲル状態となることなく、負極の水系スラリーの粘度を適度に保つことができる。その結果、負極の製造段階で増粘剤として有効に利用することができる点で有利である。CMC誘導体の重量平均分子量の測定方法としては、例えば、金属−アミン錯体および/または金属−アルカリ錯体を含有する溶媒を移動相溶媒としたゲルパーミュエーションクロマトグラフィーを用いてCMC誘導体の分子量分布の測定を行うことができる。かかる分子量分布から、CMC誘導体の重量平均分子量の分子量を算出することができる。なお、CMC誘導体の重量平均分子量の測定方法としては、上記方法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法により測定、算出することができる。
(2g)水系バインダ
水系バインダとは、水系溶媒に均一に分散可能なバインダのことを意味する。なお正極の作製に用いるバインダを単にバインダと称し、区別する。正極の作製に用いるバインダとは、有機溶媒に均一に混合(溶解)あるいは分散可能なバインダのことを意味する。
水系溶媒を用いた負極スラリーを用いて形成された負極活物質層に含まれる水系バインダとしては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム(またはニトリルブタジエンゴム;NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリレート系ゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などゴム系バインダを用いることもできる。更に、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート、ポリビニールアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコールなどの水系バインダ等を挙げることができる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適な水系バインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり負極活物質層に使用が可能となる。これらの水系バインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。但し、本実施形態では上記に例示したものに何ら制限されるものではなく、従来公知の各種の水系バインダを用いることができる。これらは、電極製造時には、上記水系バインダを安価な水等の水系溶媒中に粒子状に分散させた状態で用いられる。これらの水系バインダを用いることで、従来のポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の有機溶剤系バインダのように、高価なNMP等の有機溶媒に溶解(混合或いは分散)させて用いる場合に比べて、低コスト化を図ることができる。さらに、充電時の加熱分解発熱量が低く、高容量が得やすく、サイクル特性に優れるなどの点から望ましい。なお、これら水系バインダは強い結着性(結着効果)はあるものの、増粘性が十分でない。そのため、電極作成時に水系スラリーに水系バインダを加えただけでは十分な増粘効果が得られない。そこで、増粘性に優れるCMCないしCMC塩を増粘剤として用いることで、水系バインダに増粘性を付与するものである。
水系バインダの含有量は、負極活物質等を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは負極活物質層の総量に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果を有効に発現し得る範囲であれば、十分に適用可能である。水系バインダの含有量が0.5質量%以上であれば、水系スラリーを用いて塗工、乾燥することで十分な結着効果を発現し、得られる負極活物質層において負極活物質同士または負極活物質と集電体とを結着し、導電性の3次元ネットワークを形成し得るものである。また、初回充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による容量の優れた負極を提供できる。また、水系バインダの含有量が15質量%以下であれば、負極活物質層に占める水系バインダ量を十分に抑えることができ、初回充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による高容量の負極を提供できる。また、水系スラリーを用いて塗工、乾燥することで十分な結着(バインダ)効果を発現し、得られる負極活物質層において、負極活物質同士を結着し、高い導電性の3次元ネットワークを形成し得るものである。
(2h)アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属
水系スラリーを用いた負極活物質層に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、充放電容量を改善することができる。該アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属としては、特に制限されるものではなく、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。これらは1種単独でも、2種以上を含有していてもよい。
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量は、負極活物質層の総量に対して、50〜30000ppm、好ましくは100ppm〜20000ppmの範囲である。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果を有効に発現し得る範囲であれば、十分に適用可能である。アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量が50ppm以上であれば、充放電容量の改善に有効な含有効果が認められる。また30000ppm以下であれば、充放電容量の改善に寄与することができる点で有利である。
水系溶媒を用いた負極スラリーを用いて形成された負極活物質層中のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、負極製造過程でアルカリ又はアルカリ水を添加することにより、負極活物質層に持ち込まれる成分である。具体的には、負極製造段階でアルカリ水を用いることで、CMCないしCMC塩を還元することで、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの元素を含有した負極活物質層が得られる。これらは、後述するように酸化物(酸化リチウム、酸化カリウム)や炭酸塩(例えば、炭酸リチウム、炭酸カリウム)等の形態で存在していてもよい。
(2i)炭酸アルカリ
水系溶媒を用いた負極スラリーを用いて形成された負極活物質層には、炭酸アルカリ(Li2CO3)を含むのが好ましい。具体的には、水系スラリーを用いた負極活物質層に炭酸アルカリを含むことで、初回充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を大幅に抑制することができ、ガス発生の抑制のみならず、充放電効率が大幅に改善された優れた負極を提供できる。更に初回充放電の効率がよくなる点でも優れている(実施例参照)。該炭酸アルカリも、負極製造過程でアルカリ又はアルカリ水を添加することにより、大気中(ないし水系スラリー)の二酸化炭素との反応により、負極活物質層に持ち込まれる成分である。
炭酸アルカリとしては、特に制限されるものではなく、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独でも、2種以上が併用して含まれていてもよい。なかでも炭酸リチウムが好ましい。この場合には、CMC誘導体の被膜の表面に炭酸リチウムを点在させる、若しくは炭酸リチウムの被膜を形成することができる。この炭酸リチウムは負極活物質のSEI(表面皮膜)の成分でもあるため、ガス発生抑制効果・容量アップの効果に加え、寿命性能の向上を図ることもできる点で優れている。CMC誘導体の被膜の表面への炭酸リチウムの点在化若しくは炭酸リチウムの被膜化は負極製造時になされる以外にも、更に初回充放電によりなされることもある。
炭酸アルカリの含有量としては、負極活物質層の総量に対して、0.01〜5質量%の範囲とするのが好ましい。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果を有効に発現し得る範囲であれば、十分に適用可能である。炭酸アルカリの含有量が0.01質量%以上であれば、CMC誘導体の負膜36の表面に炭酸リチウムの被膜37を形成可能である。そのため、ガス発生抑制効果・容量アップの効果に加え、寿命性能の向上を図ることができる点で優れている。一方、炭酸アルカリの含有量が5質量%以下であれば、負極活物質の含有量を低減させることなく、高容量を保持しつつ、CMC誘導体の負膜36の表面に炭酸リチウムの被膜37を形成可能である。そのため、ガス発生抑制効果・容量アップの効果に加え、寿命性能の向上を図ることができる。
(2j)その他の添加剤
水系溶媒を用いた負極スラリーを用いて形成された負極活物質層には、負極活物質、CMC誘導体、水系バインダ、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の他に、その他の添加剤(例えば、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等)が保持されることが好ましい。これら導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマーについても、すでに説明している通りである。
(2k)自立電極に用いられる多孔質骨格体
自立電極に用いられる多孔質骨格体としては、不織布、織布、金属発泡体(ないし金属多孔体)、カーボンペーパーなどが望ましい。このうち、多孔質骨格体に用いられる不織布は、繊維が異方向に重なって形成されている。不織布には、樹脂製の材料が使用されており、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、ナイロン、EVA樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂)等の繊維が適用されうる。なお、多孔質骨格体として、不織布以外の形態としては、樹脂製の織布(規則性のある樹脂多孔体)、金属発泡体ないし金属多孔体、カーボンペーパーなどが挙げられる。ここで、樹脂製の織布に用いられる樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、EVA樹脂などが例示できるが、これらに何ら制限されるものではない。金属発泡体ないし金属多孔体としては、好ましくは、Cu、Ni、Al、Tiの少なくとも1種の金属発泡体ないし金属多孔体などが例示できるが、これらに何ら制限されるものではない。好ましくは、Cu、Alの少なくとも1種の金属多孔体、カーボンペーパー、ポリプロピレン、ポリエチレン、EVA樹脂製の不織布である。
活物質層に占める骨格部の多孔質骨格体の割合は、2体積%以上、好ましくは7体積%以上の範囲である。一方、活物質層に占める骨格部の多孔質骨格体の割合は、28体積%以下、好ましくは12体積%以下の範囲である。活物質層に占める多孔質骨格体の割合が上記範囲内であれば、電極反応を阻害することない点で優れている。
多孔質骨格体の空孔率(空隙率)としては、好ましくは70%〜98%、より好ましくは90〜95%である。上記範囲内であれば、発明の効果が有効に得られる点で優れている。
多孔質骨格体の空孔径としては、世の中で使用されている活物質が十分に充填できる50〜100μm程度が望ましい。上記範囲内であれば、発明の効果が有効に得られる点で優れている。即ち、多孔質骨格体の空孔径が100μm以下であれば、本実施形態の効果が有効に得られ、当該空孔径が50μm以上であれば、使用する活物質の粒径の制約なく使用用途に応じて適切な活物質を適宜選択することができる点で優れている。
多孔質骨格体の厚さは、活物質層の厚さより小さければよく、通常1〜120μm程度、好ましくは1〜20μm程度であることが好ましい。
各活物質層の厚さについても特に制限はないが、電子抵抗を抑えるという観点から、各活物質層の厚さ(片面)は、1〜120μm程度であることが好ましい。
各活物質層の空孔率については、電解液の含浸、保持によるLiイオンの導電性(拡散性)を高めたり、電子抵抗を抑えるという観点から、各活物質層の空孔率は、10〜40%程度であることが好ましい。
(3)電解質層
本実施形態の電解質層は、電解質と、該電解質を空孔に含浸または保持してなるセパレータとからなる。セパレータを有する電解質層は、正極と負極との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能する。また、これと併せて、充放電時における正負極間でのリチウムイオンの移動媒体である電解質を保持する機能をも有する。さらに、本実施形態では、上記したように接着層18(18a、18b)を用いてセパレータと電極の間を接着することで、セパレータの熱収縮による短絡を防止することができる。さらに、電極活物質層とセパレータの接着界面において、セパレータ側の接着部分(接着層)が必要以上に塑性変形することを防止ることができる。加えて充放電に伴う電極の膨張収縮にあっても単電池層(単セル)中でセパレータ−電極間の密着性を保つことができる。その結果、セパレータ−電極間の接着部分である接着層への目詰まりを効果的に抑制・防止することができ、電池のサイクル耐久性(容量維持率)を向上させることができ、サイクル急劣化も効果的に防止することができる。
電解質層を構成する電解質に特に制限はなく、液体電解質、ならびに高分子ゲル電解質および高分子固体電解質などのポリマー電解質が適宜用いられうる。
(3a)液体電解質
液体電解質は、溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解したものである。溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4−メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびγ−ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせた混合物として使用してもよい。また、支持塩(リチウム塩)としては、特に制限はないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiTaF6、LiSbF6、LiAlCl4、Li2B10Cl10、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN等の無機酸陰イオン塩、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiBOB(リチウムビスオキサイドボレート)、LiBETI(リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニルイミド);Li(C2F5SO2)2Nとも記載)等の有機酸陰イオン塩などが挙げられる。これらの電解質塩は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない高分子固体電解質に分類される。
(3b)ゲル電解質
ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PEO)、ポリプロピレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVdF−HFP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メチルアクリレート)(PMA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)などが挙げられる。また、上記のポリマー等の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。これらのうち、PEO、PPOおよびそれらの共重合体、PVdF、PVdF−HFPを用いることが望ましい。かようなマトリックスポリマーには、リチウム塩等の電解質塩がよく溶解しうる。
(3c)高分子固体電解質
高分子固体電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が高分子固体電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
高分子ゲル電解質や高分子固体電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合などの重合処理を施せばよい。なお、上記電解質は、電極の活物質層中に含まれていてもよい。
更に本発明では、液体電解質やゲル電解質等にSEI形成用添加剤を含まないのが望ましい。これにより、電極内側の負極集電体近傍の負極活物質表面と、電極(負極活物質層)外側近傍の負極活物質表面とで、形成されるSEIの厚さ等が異なるという課題を生じさせないためである(図7〜図10と図11〜図14を対比参照のこと)。また、初回充電工程の目的の1つとしてSEIの形成がある。液体電解質やゲル電解質等にSEI形成用添加剤を含むと、初回充電時に正極側の液体電解質やゲル電解質中の該添加剤を負極側に移動させてSEIを形成させる必要があるなど、複雑なプロセスをたどるため、初回充電時間が長くなる。更にその後、図4に示すように14日以上もかけて高温エージング、更には14日以上の常温エージングを行う必要があるにもかかわらず、図10に示すように品質バラツキが発生するという課題があった。本発明では、SEI形成用添加剤を負極スラリーに添加し、電解液及び正極スラリーに添加しない製法により得られた電池構成であるため、上記した課題を解消することができる点で優れている。
(3d)セパレータ
セパレータとしては、特に制限されるものではなく、従来公知のものを適宜利用することができる。例えば、上記電解質を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
前記ポリマーないし繊維からなる多孔性シートのセパレータとしては、例えば、微多孔質(微多孔膜)を用いることができる。該ポリマーないし繊維からなる多孔性シートの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;これらを複数積層した積層体(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体など)、ポリイミド、アラミド、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素系樹脂、ガラス繊維などからなる微多孔質(微多孔膜)セパレータが挙げられる。
前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。1例を示せば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)、その気孔率(空孔率)は20〜80%であることが望ましい。
前記不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた高分子ゲル電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。
前記不織布セパレータの気孔率(空孔率)は45〜90%であることが好ましい。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満では電解質の保持性が悪化し、200μmを超える場合には抵抗が増大することになる。
(4)接着層
接着層18(18a、18b)は、電極(正極ないし負極)と、セパレータのいずれにも接着して、セパレータの熱収縮による短絡を防止する目的で設けられてなるものである。本実施形態では、上記した適切な接着強度と透気度比を兼ね備えることができるように接着層を形成する必要がある。これにより、電極活物質層とセパレータの接着界面において、セパレータ側の接着部分(接着層)が必要以上に塑性変形することを防止することができる。加えて充放電に伴う電極の膨張収縮にあっても単電池層(単セル)中でセパレータ−電極間の密着性を保つことができる。その結果、セパレータ−電極間の接着部分である接着層への目詰まりを効果的に抑制・防止することができ、電池のサイクル耐久性(容量維持率)を向上させることができ、サイクル急劣化も効果的に防止することができる。
接着層に用いられる材料としては、上記目的を達成できる絶縁性材料であって、充放電時に副反応(酸化還元反応)を起こさない材料であればよく、リチウムイオン二次電池用バインダに使用されている材料などを使用することができるが、特に制限されない。例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アラミド等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適な接着層に用いられる材料は、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり接着層に使用が可能となる。これらの接着層に用いられる材料は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。しかし、接着層に用いられる材料がこれらに限定されないことはいうまでもない。これらのうち、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)ないしPVDFを含む材料、(メタ)アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂などは、正極側、負極側のいすれの電位にも強いことから、いずれにも適用可能である。また、SBRなどは、負極電位に強いことから負極側に用いるのが好ましい。更に、PTFEなどは、正極電位に強いことから正極側に用いるのが好ましい。ここで、PVDFないしPVDFを含む材料は、接着温度(接着層の表面が軟化し始め、接着性を有する温度;軟化開始温度)をセパレータ変形温度域よりも低い温度で設定できる。それ故、電池反応を極力阻害しないので、出力特性に更なる効果がある。更に、PVDFやPVDFを含む材料は、軟化開始温度からの変性量が大きいので、すぐに接着させることができるので、熱プレス時間を短くする、或いは熱プレス温度を低く設定することもできる。
また、PVDFを含む材料としては、PVDFの単独重合体、PVDFの一部(例えば、繰り返し単位の側鎖など)に置換基(例えば、カルボキシル基)を導入したもの、PVDFと他の1以上のポリマーとのランダム、ブロック、交互、グラフト共重合体(2元共重合体、3元共重合体、4元共重合体・・・等)、PVDFと1以上の他の(共)重合体を含むポリマーアロイなどが挙げられる。なかでも、PVDFにカルボキシル基を混入してなるもの(例えば、カルボキシル基を一部側鎖に持つ構造;−(CH(COOH)−CF2)n−、あるいは−(CH2−CF(COOH))n−、あるいは−(CH2−CF2−)n−(CH(COOH)−CF2)m−、あるいは−(CH2−CF2−)n−(CH2−CF(COOH))m−など)が望ましい。PVDFへカルボキシル基を混入することで融点を、1〜10℃程度下げる(調節する)ことができる。このようにカルボキシル基の混入量を調節することで、電池積層体の端側(上下端)と中央側の接着層が同時に軟化開始するように、電池積層体の各接着層の接着温度(接着層の表面が軟化し始め、接着性を有する温度;軟化開始温度)を簡単に調節できる。同様に、SBRの場合は、スチレンとブタジエンの共重合体であるため、スチレンの割合を増やすと融点を1〜10℃程度上げることができる。このようにスチレンの割合を調節することで、電池積層体の端側(上下端)と中央側の接着層が同時に軟化開始するように、電池積層体の各接着層の接着温度(接着層の表面が軟化し始め、接着性を有する温度;軟化開始温度)を簡単に調節することもできる。
接着層の厚さは、本実施形態の上記目的・効果が達成できる範囲内でできるだけ薄くするのが、Liイオンの拡散距離が長くなるのを抑制でき、電池の軽量化にも寄与する点で望ましい。かかる観点から接着層の厚さは、接着層の形態にもよるが、セパレータ及び電極表面全体(全面)に接着層が存在している場合には、0.1〜10μmが好ましく、より好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは1〜2μmの範囲である。接着層の厚さが0.1μm以上であれば、セパレータと電極との間の接着を十分に維持することができ、製造が容易にできるため好ましい。接着層の厚さが10μm以下であれば、電池の負荷特性に悪影響を及ぼす虞が小さく、エネルギー密度が著しく低下するのを防止することができるため好ましい。
また、セパレータ及び電極表面全体にストライプ状またはドット状に接着部(接着層)が存在している場合(図3参照)には、接着層の厚さは、0.1〜5μm、好ましくは1〜2μmの範囲である。接着層の厚さが0.1μm以上であれば、製造が容易にできるため好ましく、接着層の厚さが5μm以下であれば、電池の負荷特性に悪影響を及ぼす虞が小さいため好ましい。
接着層の厚さは、接着層が脆くうまく剥がせない場合もあり得ることから、電池を解体し、断面出しして、SEM(走査型電子顕微鏡)の断面画像から計測することができる。
接着層の空孔率(気孔率ともいう)は、セパレータ空孔率や接着層の形態にもよるが、セパレータ及び電極表面全体(全面)に接着層が存在している場合やストライプ状やドット状に接着部が存在している場合、30〜90%、好ましくは60〜90%の範囲である。接着層の空孔率が30%以上であれば、目詰まりの一因となることもなく、Liイオンの拡散を妨げず抵抗増大を防止することができる点で優れている。接着層の空孔率が90%以下であれば、接着力が著しく低下するのを効果的に抑制することができる。なお、上記に挙げた接着層の空孔率は、セパレータ空孔率が45〜55%程度の場合に好適な組み合わせの例であり、当該セパレータの空孔率が増減した場合には、接着層の空孔率もこれに比例して増減させればよい。このように、セパレータ空孔率よりも接着層の空孔率を若干高くしているのは、電極表面に形成される接着層の存在により、Liイオンの拡散を阻害しないようにするためである。
一方、ドット状に接着部を設ける場合であって、接着部の割合が非常に小さい場合に、接着部(接着層)の空孔率は、むしろ小さい方がよく、10%以下、好ましくは0%である。これは、割合の大きい非接着部が、新たな電解液保持部として有効に機能するためである。接着部の割合が非常に小さい場合の接着部の割合は、接着性と電池性能とを考慮して適宜決定すればよい。ただし、上記したように当該接着部(接着層)の空孔率は60%以上、好ましくは60〜90%であっても特に問題はない。
接着層内に存在する空孔率は、ます、電池を解体して、各接着層を取り出し、電解質を洗浄除去し、乾燥した後に水銀圧入法などを用いて測定することができる。但し、接着層が脆くうまく剥がせない場合などには、電池を解体し、断面だしして、SEM(走査型電子顕微鏡)の断面画像から接着層の空間部分をマッピングによりカウント(計測)することもできる。
また、セパレータ及び電極表面に存在する接着部(または非接着部)の割合は、電池を解体し、断面だしして、SEMの断面画像から接着部(ドット)をマッピングによりカウント(計測)することで算出できる。
接着層の形態としては、本実施形態の上記目的・効果を達成できるものであればよく、特に制限されるものではない。例えば、(i)セパレータ及び電極の表面全体(全面)に接着層が存在していてもよい。この場合には、当該接着部が、保液空間を有するべく、多孔質層となっている必要がある(上記空孔率参照)。あるいは、(ii)セパレータ及び電極表面に、接着層の存在する接着部と接着層の存在しない非接着部が形成されるように接着層が間隔をあけて存在していてもよい。接着部は、セパレータ及び電極表面に均等性が保たれるように配置されているのが望ましい。上記(ii)の場合には、非接着部が保液空間として有効に機能することから、当該接着部(接着層)は、保液空間を有する多孔質層であってもよい。或いは、保液空間が存在しない無孔質(=気孔率(空孔率)0%)であってもよい。特にドット状に接着部を設ける場合(=接着部の割合が非常に小さい場合)に、当該接着部を保液空間が存在しない無孔質(=気孔率(空孔率)0%)とするのがよい。
図2Aは、電極表面にストライプ状の接着部を設けた様子を表す平面図である。図2B、2Cは、電極表面にドット状の接着部を設けた様子を表す平面図である。
具体的には、(iia)図2Aに示すように、セパレータ及び電極表面31に、ストライプ状の接着部33aとストライプ(33a)ストライプ(33a)の間に非接着部35が形成されるように接着層(33a)が間隔をあけて存在していてもよい。(iib)図2B、2Cに示すように、セパレータ及び電極表面31に、ドット状の接着部33bとドット(33b)とドット(33b)の間に非接着部35が形成されるように接着層(33b)が間隔をあけて点在して存在していてもよい。(iib)の例としては、(b1)セパレータ及び電極表面31の四隅だけにドット状の接着部33bが存在し、四隅のドット(接着部33b)以外のセパレータ及び電極表面31に非接着部35が形成されるように接着層が間隔をあけて存在していてもよい(図2B)。或いは(b2)セパレータ及び電極表面31にドット状の接着部33bが均等性を保つように点在し、ドット(33b)とドット(33b)の間のセパレータ及び電極表面31に非接着部35が形成されるように接着層が間隔をあけて存在していてもよい。例えば、セパレータ及び電極表面31に、横3点×縦4点で合計12点のドット状の接着部33bが等間隔に点在し、12点のドット(接着部33b)以外のセパレータ及び電極表面31に非接着部35が形成されるように接着層が間隔をあけて存在していてもよい(図2C)。但し、これらの形態に何ら制限されるものではなく、格子状、菱形格子状、短冊状、連続又は不連続な円や楕円などのリング状や多角形状、波形状、半円状、不定形状など、本実施形態の上記目的・効果を達成できるものであれば他のいかなる形態でもよい。
また、本実施形態では、接着層の軟化点は、セパレータの軟化点よりも低いのが好ましい。これは、セパレータの形状を保ちながら、接着層の表面を軟化させて接着性を出させることで電極−セパレータ間を接着させることができる点で優れているためである。かかる観点から、接着層の軟化点を、セパレータの軟化点より5〜10℃低くするのが好ましい。
ここで、接着層の軟化点温度およびセパレータの軟化点温度は、いずれもビカット軟化温度(ビカット軟化点、Vicat Softening Temperature、VST)とし、JIS K 7206(1999年)により測定することができる。JIS K 7206(1999年)の概要を説明すれば、加熱浴槽の中に規定された寸法の試験片を据え、中央部に一定の断面積(JIS K 7206では1mm2)の端面を押し当てた状態で浴槽の温度を上昇させる。試験片に端面が一定の深さまで食い込んだ時の温度をビカット軟化温度(単位:℃)とするものである。
接着層の形成は、実施例に示すように、予めセパレータ表面に、接着層を形成するための樹脂材料を適当な溶剤に溶解した接着スラリー(濃度変化により接着層の空孔率を調整可能)を所望の厚さ、形状(全面、ストライプ状、ドット状等)に塗布、乾燥する。これによりセパレータと接着層を一体化できる。なお、正負極のいずれか一方に接着層を設ける場合、いずれでも本実施形態の効果は同じである。ただ、電極サイズが異なる場合には、サイズの大きい電極側(通常、負極側)に設けた方が、サイズの大きい電極と同じサイズのセパレータが熱収縮して、サイズの小さい電極よりも小さくなるまでは、対向する電極同士が接触しないため有利ともいえる。この接着層と一体化したセパレータを通常のセパレータと同様にして、正極、負極の間に挟み込んで、発電要素(電池積層体)21を形成する。その後、発電要素21の上下方向からホットプレス装置(図2、5参照)20でホットプレスすることで、接着層と一体化したセパレータの接着層18(接着部)の表面部分を軟化させて接着性をださせて電極とも接着させる。これにより、電極−セパレータ間を接着してなる接着層18を形成することができる。さらにホットプレスすることなく、接着層と一体化したセパレータを用いて形成した発電要素21を真空シールすることにより、セパレータと電極とを接着層を介して接してもよい。これにより、電極−セパレータ間を接着してなる接着層18を形成することもできる。或いは、予め電極(正極ないし負極)側に接着スラリーを塗布して接着層と一体化した電極を作製してもよい。その後は、同様にして発電要素21を形成し、ホットプレスすることで、電極−セパレータ間を接着してなる接着層18を形成することもできる。さらにホットプレスすることなく、接着層と一体化した電極を用いて形成した発電要素21を真空シールすることにより、セパレータと電極とを接着層を介して接してもよい。これにより、電極−セパレータ間を接着してなる接着層18を形成することもできる。
(5)集電板(集電タブ;外部リード)
リチウムイオン二次電池(積層構造電池)10においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電板(集電タブ)25、27を用いてもよい。集電板(集電タブ)25、26は、集電体11、12に電気的に接続され、外装材であるラミネートフィルム等の外部に取り出されている。
集電板25、27を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板(正極集電タブ)25と負極集電板(負極集電タブ)27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
(5a)電極(正極および負極)端子リード(内部リード)
図1に示す積層構造電池10においては、負極端子リードおよび正極端子リード(図示せず)をそれぞれ介して、集電体11、12は集電板(集電タブ)25、27と電気的に接続されていてもよい。但し。集電体11、12の一部を電極端子リード(内部リード)のように伸ばして、直接集電板(集電タブ)25、27と電気的に接続することもできる。したがって、電極端子リード(図示せず)は、必要に応じて適宜用いればよい、任意構成部材といえるものである。
負極および正極端子リードの材料は、公知の積層型二次電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
(6)電池外装材
電池外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができる。そのほか、図1に示すようなラミネートフィルム29を外装材として用いて、発電要素21をパックしてもよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。このようなラミネートフィルムを用いることにより、外装材の開封、容量回復材の添加、外装材の再封止を容易に行うことができる。また、高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点からもラミネートフィルム外装材が望ましい。
[リチウムイオン二次電池の外観構成]
図3は、積層構造電池の代表的な実施形態である扁平な積層型(積層構造)のリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図3に示すように、扁平な積層型のリチウムイオン二次電池30では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極集電タブ38、負極集電タブ39が引き出されている。発電要素37は、リチウムイオン二次電池30の電池外装材32によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素37は、正極集電タブ38および負極集電タブ39を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素37は、先に説明した図1に示す積層型のリチウムイオン二次電池(積層構造電池)10の発電要素21に相当するものである。発電要素37は、正極、電解質層および負極で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図3に示す集電タブ38、39の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極集電タブ38と負極集電タブ39とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極集電タブ38と負極集電タブ39をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図3に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
上記リチウムイオン二次電池(積層構造電池)10は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
なお、上記実施形態は、積層構造電池として、積層型のリチウムイオン二次電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには、一次電池やキャパシタにも適用できる。
以上説明した本実施形態の非水電解質二次電池(積層構造電池)は、以下の効果を有する。
本実施形態の非水電解質二次電池(積層構造電池)10は、SEI形成用添加剤を含む負極スラリーを用いて形成された負極を有するため、当該負極ではSEIが均一に形成されている。SEIは抵抗成分となるため、均一に形成されている本発明の非水電解質二次電池(積層構造電池)では、容量低下が抑制され、長寿命化が図れる点で優れている(図11〜14と図7〜図10とを対比参照のこと)。
[非水電解質二次電池の製造方法]
本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、負極形成に用いる負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含むことを特徴とするものである。好ましくは、電解液及び正極形成に用いる正極スラリーが、いずれもSEI形成用添加剤を含まないのが望ましい。
図4は、本発明の製造方法の工程フローを表す図面である。図4に示すように、本発明の製造方法は、正極スラリーを用いた正極形成工程[I]と、負極スラリーを用いた負極形成工程[II]と、前記形成工程で得られた正極、負極と、セパレータとを積層して積層体を形成する工程[III]と、前記積層体に電解液を注液する工程[IV]とを含むものである。そして、前記負極スラリーにSEI形成用添加剤を含むことを特徴とする。好ましくは、前記電解液及び前記正極スラリーが、いずれもSEI形成用添加剤を含まないのが望ましい。かかる構成を有する本発明の製造方法及びこれにより得られた電池では、上記した発明の作用効果を奏することができるものである。以下、図4に示す各工程ごとに説明する。
[I]正極形成工程
正極スラリーを用いた正極形成工程[I]は、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。以下、正極形成工程[I]につき説明する。
正極形成工程[I]としては、としては、特に制限されるものではなく、量産化(生産効率)の観点からは下記の工程手順(1)〜(3)で行うのがよいが、必ずしも、かかる工程手順に何ら制限されるものではない。まず、(1)正極スラリーを調製する(正極スラリー調製工程)。(2)次に、得られた正極スラリーを、集電体の表面に正極スラリーを塗布、乾燥、ロールプレスを行い、正極原反を作製する(正極原反作製工程)を行う。(3)上記で得られた正極原反を、裁断手段を用いて所望の形状、大きさにカットし、乾燥を経て正極を得る(正極作製工程)。
(1)正極スラリー調製工程(図4の「スラリー作製」工程1a)
(正極スラリーの調製方法)
本工程は、正極スラリーを調製することできればよく、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。詳しくは、正極活物質、導電助剤にバインダを溶かしたスラリー粘度調整溶媒(NMP等)を加えながら混合し、更に該溶媒を加え混合し粘度調整して作製される。即ち、正極スラリーはホモジナイザーまたは混練装置などを用いてスラリー粘度調整溶媒および固形分よりスラリー化(インク化)される。
(正極スラリーの組成)
こうして得られた正極スラリーは、正極活物質を含む溶液である。他成分として、導電助剤、バインダ、重合開始剤、電解質の原料(固体電解質用高分子ないしホストポリマー、電解液など)、支持塩(リチウム塩)およびスラリー粘度調整溶媒などが任意で含まれる。すなわち、正極スラリーは、溶液系のリチウムイオン電池と同様に、正極活物質のほか、導電助剤、電解質の原料、支持塩(リチウム塩)、スラリー粘度調整溶媒、重合開始剤等を任意で含む材料を所定の比率で混合して作製することができる。
更に本発明では、正極スラリーが、SEI形成用添加剤を含まないのが望ましい。これにより、従来の電解液にSEI形成用添加剤を添加した時と同様に、電極内側の集電体近傍の負極活物質表面と電極(活物質層)外側近傍の負極活物質表面に形成されるSEIの厚さ等が異なるという課題を解消することに大いに寄与し得るものである。また、初回充電工程の目的の1つとしてSEIの形成がある。正極側にSEI形成用添加剤があると、従来の電解液にSEI形成用添加剤を添加した時と同様に、複雑なプロセスをたどるため、初回充電時間が長くなり品質バラツキが発生するという課題を解消することにも大いに寄与し得るものである。
電解質層に高分子ゲル電解質を用いる場合には、上記正極スラリーには、正極活物質の他に、正極活物質微粒子同士を結びつける従来公知のバインダ、電子伝導性を高めるための導電助剤、溶媒などが含まれていればよい。よって、高分子ゲル電解質の原料のホストポリマー、電解液やリチウム塩などは含まれていなくても良い。電解質層に電解液を含浸させたセパレータを用いる場合も同様である。
(正極スラリーに含まれる固形分(正極活物質層の構成成分))
ここで、正極活物質、導電助剤及びバインダ等の正極スラリー中の固形分(正極活物質層の構成成分)については既に説明した通りである。これらの固形分の各成分の量も、正極活物質層の構成比率(各成分の含有量)となるようにそれぞれ配合すればよい。
正極スラリーに含まれる電解質の高分子原料(高分子ゲル電解質の原料のホストポリマーないし高分子固体電解質の高分子原料)は、PEO、PPO、これらの共重合体などが挙げられ、分子内に架橋性の官能基(炭素−炭素二重結合など)を有することが好ましい。この架橋性の官能基を用いて高分子電解質を架橋することによって、機械的強度が向上する。
重合開始剤は、重合させる化合物に応じて選択する必要がある。例えば、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルが挙げられる。重合開始剤の添加量は、電解質の高分子原料に含まれる架橋性官能基の数に応じて決定される。通常は高分子原料に対して0.01〜1質量%程度である。
(正極スラリーに含まれるスラリー粘度調整溶媒)
スラリー粘度調整溶媒としては、特に制限されることはないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどが挙げられる。
(正極スラリーの粘度)
正極スラリーの粘度を特に気にする必要なく、広い粘度範囲において適用可能である。ここで、正極スラリーの粘度としては、好ましくは500〜10000mPa・s、より好ましくは800〜9000mPa・s、さらに好ましくは1000〜8000mPa・sである。正極スラリーの粘度が500mPa・s以上であれば、塗工機(コータなど)を用いて、搬送される集電箔上に正極スラリーを所定の厚さに均一に塗布することができる。その結果得られる正極では、均一で平坦な表面を有する正極活物質層を形成することができる。正極スラリーの粘度が100000mPa・s以下であれば、塗工機(コータなど)を用いて、搬送される集電箔上に正極スラリーを所定の厚さに均一に塗工することができ、その後の乾燥を短時間で行うことができる。その結果得られる正極では、均一で平坦な表面を有する正極活物質層を形成することができる。
(2)正極原反作製工程(図4の「塗布・乾燥」工程1b+「プレス」工程1c)
本工程は、得られた正極スラリーを、集電体の表面に塗布、乾燥、プレスを行い、正極原反を作製することできればよく、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。
(集電体;正極集電箔)
集電体については既に説明した通りである。なお、正極原反の作製に用いる場合には、従来公知の製造方法と同様に、金属薄膜(集電体に使用する材料及び厚さからなる金属箔、例えば、厚さ20μmのアルミニウム箔)をロールで購入し正極集電箔として使用するのが望ましい。
(スラリー塗布)
巻出しローラーに取り付けられた上記正極集電箔から巻き出しながら連続搬送される集電体の表面への正極スラリーの塗布方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。例えば、連続搬送される集電体上に正極スラリーを連続塗工可能な方法として、例えば、コータを用いた塗布方法、インクジェット工法やスクリーン印刷塗布工法などのパターニング塗布工法などを用いることができる。なお、スラリー塗布では、概ね目付けないし塗布質量の精度が部分ごとで(どの部分をとっても)±5質量%程度の範囲内になるように均一に塗布されているのが望ましい。
(搬送手段)
上記集電箔の搬送手段としては、従来公知の搬送手段を用いることができるものである。例えば、巻出しロールから巻取りロールの間を走行する集電箔の安定に搬送できるように、一定間隔をあけて設けられるガイドロール等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。ガイドロールに関しては、集電箔、更には該集電箔上に正極スラリーを塗布した状態で、塗工機(コータ)、乾燥装置(乾燥炉)、更にはロールプレス装置を通過させ、搬送するために設けられている。そのため、上記した各種装置周辺又は内部を通過、搬送させるために必要な個所に適当数を適宜配置されてなるものである。即ち、ガイドロール以外にも、図示していないだけで、従来公知の各種搬送手段が適宜利用されてなるものである。こうした搬送手段を用いることで、設備コストを抑えつつ製造速度を高速にすることができ、コスト低減を図りながら正極活物質層を製造できる。
(乾燥;スラリー粘度調整溶媒の除去)
次に、正極スラリー塗膜が形成された集電体を乾燥して、スラリー塗膜中に含まれるスラリー粘度調整溶媒を除去する。乾燥の条件としては特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、乾燥の条件は、塗布された正極スラリーに応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は40〜150℃、好ましくは80〜130℃で、5分〜20時間である。乾燥雰囲気も特に制限されるものではなく、生産コストの観点から、大気雰囲気で行うのが望ましいが、これに制限されるものではない。乾燥手段(装置)は、通常の連続乾燥が可能な、熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥を用いた乾燥手段を使用することができるほか、真空乾燥を用いた乾燥手段を使用することもできる。また熱風乾燥とIR乾燥を併用した乾燥手段を使用してもよい。
上記塗布、乾燥は、集電体の表面(A面)で行った後、集電体のもう一方の表面(B面)につき、同様の塗布、乾燥を行うことで、集電体の両面に乾燥塗膜を形成することができる。なお、上記塗布、乾燥をA面とB面の両面同時に行ってもよい。上記塗布、乾燥をA面とB面の両面同時に行う場合には、下面側のスラリーが垂れるのを防止する観点から、集電体の搬送方向を水平方向から垂直方向(上から下に向かう方式、あるいは下から上に向かう方式)にして行ってもよい。この場合には、搬送装置、塗布(塗工)装置、乾燥装置等を横置きから縦置き(或いは縦置きから横置き)に設置して行えばよい。また、双極型電極の場合には、A面(またはB面)に上記正極スラリーを用いて乾燥塗膜(正極活物質層)を形成し、B面(またはA面)に後述する負極スラリーを用いて乾燥塗膜(負極活物質層)を形成してもよい。この場合にも、上記塗布、乾燥をA面、B面の順に行ってもよいし、上記塗布、乾燥をA面とB面の両面同時に行ってもよい。
(乾燥塗膜のプレス)
次に、スラリー塗膜を乾燥した後の乾燥塗膜を有する集電体をプレスして、スラリー乾燥塗膜(正極活物質層)が目標密度になるように調整することで、正極原反を得る。
プレスの条件としては、特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、両面に乾燥塗膜を有する集電体を連続搬送しながらロールプレスにより、スラリー乾燥塗膜(正極活物質層)が目標密度0.90〜1.10g/cm3の範囲になるように調整するのが望ましい。但し、本発明では上記目標密度の範囲に何ら制限されるものではなく、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性等を考慮して適宜決定すればよい。また、プレス方式は、冷間プレス、熱間プレスのどちらでもよい。
尚、乾燥塗膜を有する集電体は、通常、連続搬送しながらロールプレスされた後、巻き取りローラーに巻きとることで、ロール状の正極原反として得ることができる。好ましくは、巻き取りローラーで巻き取ることなく、上記プレス後、搬送される正極原反(乾燥塗膜を有する集電体)を以下の裁断手段によりカットするようにしてもよい。
(3)正極作製工程(図4の「スリット」工程1d)
本工程では、上記で得られた正極原反を、裁断手段を用いて所望の形状、大きさにカット(裁断)し、乾燥を経て正極を得る。
(正極原反のカット(裁断))
上記で得られた正極原反を、適当な裁断手段を用いて所望の形状、大きさにカットする方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、上記で得られた、巻き取りローラーによりロール状に巻き取られた正極原反を、再度、巻出しローラーに取り付けて、正極原反を巻出しなからスリッター等の裁断手段を用いて、所望の形状、大きさ、詳しくは目的の電極サイズに合わせて矩形形状にカットすればよい。なお、裁断手段は上記スリッター等に何ら制限されるものではなく、従来公知の裁断手段を適宜利用することができる。好ましくは、巻き取りローラーで巻き取ることなく、上記プレス工程後、搬送される正極原反(乾燥塗膜を有する集電体)に対して、スリッター等の裁断手段を用いて目的の電極サイズに合わせて矩形形状等にカットするのが工数を削減できる点で望ましい。
(乾燥;付着水分の除去)
次に、カットされた正極を乾燥して、上記(2)の正極原反作製工程の乾燥で付着した水分を除去する。乾燥の条件としては特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、乾燥の条件は、正極サイズなどに応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は真空乾燥機を用いて、70℃以上で、7時間以上で乾燥を行う。乾燥雰囲気も特に制限されるものではないが、不活性ガス(窒素ガス)で置換した後、減圧して真空乾燥を行うのが望ましいが、これに制限されるものではない。乾燥手段(装置)は、真空乾燥装置を用いた乾燥手段を使用することもできる。また真空乾燥とIR乾燥を併用した乾燥手段を使用してもよい。上記乾燥を経て、所望の目標密度、サイズ、形状を有する正極を得ることができる。
[II]負極形成工程
本発明では、負極形成に用いる負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含むことを特徴とするものである。当該負極スラリーを用いた負極形成工程[II]は、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。以下、負極形成工程[II]につき説明する。
負極形成工程[II]としては、特に制限されるものではなく、量産化(生産効率)の観点からは下記の工程手順(1)〜(3)で行うのがよいが、必ずしも、かかる工程手順に何ら制限されるものではない。まず、(1)負極スラリーを調製する(負極スラリー調製工程)。(2)次に、得られた負極スラリーを、集電体の表面に負極スラリーを塗布、乾燥、プレスを行い、負極原反を作製する(負極原反作製工程)を行う。(3)上記で得られた負極原反を、裁断手段を用いて所望の形状、大きさにカットし、乾燥を経て負極を得る(負極作製工程)。
(1)負極スラリー調製工程(図4の「スラリー作製」工程2a)
(負極スラリーの調製方法)
本工程は、上記したように本発明の特徴であるSEI形成用添加剤を含む負極スラリーを調製することできればよく従来公知の調製方法を適宜適用することができる。詳しくは、負極活物質、導電助剤、SEI形成用添加剤にバインダを溶かしたスラリー粘度調整溶媒(NMP等)を加えながら混合し、更に該溶媒を加え混合し粘度調整して作製される。図5Aは、スラリー作製装置の概要を模式的に表した図面である。図5Bは、図5のスラリー作製装置を用いた負極スラリーの調製方法を模式的に表した図面であり、図5Cは図5Bにより得られたスラリー中の負極活物質の様子を模式的に表した図面である。図5A、Bに示すように、スラリー作製装置51の容器52内部に、正極活物質(粉末)、導電助剤(粉末)、SEI形成用添加剤(粉末)を入れ、バインダを溶かしたスラリー粘度調整溶媒(NMP等)を加えながら、容器蓋53に備えられた撹拌手段54を用いて混合(分散・撹拌)し、更に該溶媒を加え混合し粘度調整して作製される。なお、正極スラリーは、図5に示すスラリー作製装置51の他にもホモジナイザーまたは混練装置などを用いてスラリー粘度調整溶媒および固形分より負極スラリーを調製してもよい。得られた負極スラリーでは、図5Cに示すように、負極活物質(粒子)55表面にスラリー粘度調整溶媒(NMP等)に溶解ないし分散したSEI形成用添加剤56が被覆ないし付着している。なお、SEI形成用添加剤は、その後の乾燥により負極活物質(粒子)55表面に溶解ないし分散分散した状態で被覆ないし付着される(図11A、図12参照)。
(負極スラリーの組成)
こうして得られた負極スラリーは、少なくとも正極活物質とSEI形成用添加剤とを含む溶液である。他成分として、導電助剤、バインダ、重合開始剤、電解質の原料(固体電解質用高分子ないしホストポリマー、電解液など)、支持塩(リチウム塩)およびスラリー粘度調整溶媒などが任意で含まれる。すなわち、負極スラリーは、本発明の特徴であるSEI形成用添加剤を含む以外は、溶液系のリチウムイオン電池と同様に、負極活物質のほか、導電助剤、電解質の原料、支持塩(リチウム塩)、スラリー粘度調整溶媒、重合開始剤等を任意で含む材料を所定の比率で混合して作製することができる。
電解質層に高分子ゲル電解質を用いる場合には、上記負極スラリーには、負極活物質及びSEI形成用添加剤の他に、負極活物質微粒子同士を結びつける従来公知のバインダ、電子伝導性を高めるための導電助剤、溶媒などが含まれていればよい。よって、高分子ゲル電解質の原料のホストポリマー、電解液やリチウム塩などは含まれていなくても良い。電解質層に電解液を含浸させたセパレータを用いる場合も同様である。
(負極スラリーに含まれる固形分(正極活物質層の構成成分))
ここで、負極活物質、導電助剤及びバインダ等の負極スラリー中の固形分(負極活物質層の構成成分)については既に説明した通りである。これらの固形分の各成分の量も、負極活物質層の構成比率(各成分の含有量)となるようにそれぞれ配合すればよい。
負極スラリーに含まれる電解質の高分子原料(高分子ゲル電解質の原料のホストポリマーないし高分子固体電解質の高分子原料)は、PEO、PPO、これらの共重合体などが挙げられ、分子内に架橋性の官能基(炭素−炭素二重結合など)を有することが好ましい。この架橋性の官能基を用いて高分子電解質を架橋することによって、機械的強度が向上する。
重合開始剤は、重合させる化合物に応じて選択する必要がある。例えば、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルが挙げられる。重合開始剤の添加量は、電解質の高分子原料に含まれる架橋性官能基の数に応じて決定される。通常は高分子原料に対して0.01〜1質量%程度である。
(負極スラリーに含まれるSEI形成用添加剤)
本発明の製造方法は、負極形成に用いる負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含むことを特徴とするものである。これにより、電極内側の負極集電体近傍の負極活物質表面と、電極(負極活物質層)外側近傍の負極活物質表面とで、形成されるSEIの厚さ等が異なるという課題を生じさせないためである(図7〜図10と図11〜図14を対比参照のこと)。また、初回充電工程の目的の1つとしてSEIの形成がある。電解液にSEI形成用添加剤があると、初回充電時に正極側の電解液中の該添加剤を負極側に移動させてSEIを形成させる必要があるなど、複雑なプロセスをたどるため、初回充電時間が長くなる。更にその後、図4に示すように14日以上もかけて高温エージング、更には14日以上の常温エージングを行う必要があるにもかかわらず、図10に示すように品質バラツキが発生するという課題があった。本発明の製造方法では、SEI形成用添加剤を負極スラリーに添加し、電解液及び正極スラリーに添加しない構成とすることで、上記した課題を解消することができる点で優れている。
上記SEI形成用添加剤は、リチウム金属に対して0.2Vより高い貴なる電位で還元分解される化合物を含むのが望ましい。具体的には、SEI形成用添加剤として、ビニレンカーボネート、スルホン酸エステルおよびこれらの誘導体よりなる群から選ばれてなる少なくとも一種を含むのが望ましい。SEI形成用添加剤は、電解液が分解されるよりも前に還元分解されて活物質表面に緻密で安定な皮膜(SEI)を形成することにより、電解液との反応を抑制する働きをする。リチウム金属に対して0.2V以下となり黒鉛等の負極活物質(粒子)にリチウムイオンがインタカレートされ始めると負極の反応性も急激に増してくる。また、電解液中で溶媒分子と溶媒和しているリチウムイオンが黒鉛等の負極活物質(粒子)にインタカレートされる際には脱溶媒和するが、皮膜(SEI)の質が悪い場合には脱溶媒和反応がスムーズに行われず電池特性の低下を招いたり、黒鉛等の負極活物質(粒子)表層の剥離などの劣化が引き起こされたりする場合がある。したがって、SEI形成用添加剤としては少なくとも還元分解電位として等の負極活物質(粒子)に対するリチウムイオンのインタカレーションが開始される0.2Vより貴な電位を有し、且つ緻密で電気化学的な安定性の高い皮膜(SEI)を形成することが望ましい。
ここで、前記スルホン酸エステル及びその誘導体としては、特に制限されるものではなく、鎖状モノエステル、鎖状ジエステル、環状ジエステル、及びスルトン等の分子内環状エステルおよびその誘導体を挙げることができる。前記スルホン酸エステルとしては、鎖状スルホン酸エステル、環状モノスルホン酸エステル、環状ジスルホン酸エステルを挙げることができるが、これらに制限されるものではない。
前記鎖状スルホン酸エステルとしては、例えば、メタンスルホン酸メチルエステル、メタンスルホン酸エチルエステル、ブスルファン(テトラメチレン−ビス(メタンスルホネート)等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
前記環状モノスルホン酸エステルとしては、例えば、環状分子内エステルである1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、α−トリフルオロメチル−γ−スルトン、β−トリフルオロメチル−γ−スルトン、γ−トリフルオロメチル−γ−スルトン、α−メチル−γ−スルトン、α,β−ジ(トリフルオロメチル)−γ−スルトン、α,α−ジ(トリフルオロメチル)−γ−スルトン、α−ウンデカフルオロペンチル−γ−スルトン、α−ヘプタフルオロプロピル−γ−スルトン等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
前記環状ジスルホン酸エステルとしては、例えば、メチレンメタンジスルホネート、エチレンメタンジスルホネート、プロピレンメタンジスルホネート等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
更に、前記スルホン酸エステルとしては、下記の化学式1、2の少なくともいずれか一種を有するものが望ましい。
上記式中、Xは、側鎖を有していても良いアルキレン基、または酸素原子を示す。Yは、側鎖を有していても良いアルキレン基、無置換のアルキレン基を示す。Zは、メチレン基または単結合を示す。
上記式中、nは、0、1、2のいずれかであり、R1〜R6は、水素原子または炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数3以上6以下のシクロアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基からそれぞれ独立に選択される。
前記スルホン酸エステルとしては、具体的には、1,3−プロパンスルトン又は1,4−ブタンスルトンの少なくとも一種が挙げられる。更にメチレンメタンジスルホネート、エチレンメタンジスルホネート及びプロピレンメタンジスルホネートから選ばれる少なくとも一種の環状ジスルホン酸エステルが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
これら化合物のなかでも、下記の化合物1で示されるメチレンメタンジスルホネート、化合物2で示されるエチレンメタンジスルホネート、化合物3ないし化合物9等の環状化合物、および化合物10の1,3−プロパンを挙げることができる。
また、EI形成用添加剤は、複数種類を添加してもよい。例えば、化合物1ないし化合物9に化合物10のスルトン化合物を加えても良い。また、ビニレンカーボネート化合物を加えても良い。これによって、負極(活物質粒子)表面に形成される皮膜(SEI)の安定性の向上、電解液やポリマーゲル電解質中に含まれている非プロトン性有機溶媒の分解の抑制、あるいは電池内部の水分による特性の劣化を防止する効果が顕著となり(大きくなり)、サイクル特性向上、セルの膨れ抑制、内部抵抗上昇の抑制が図れる点で優れている。
本発明の環状ジスルホン酸エステル等のSEI形成用添加剤は非水電解液二次電池の電極上で皮膜(SEI)を形成する。すなわち、スルホン酸エステル化合物等のSEI形成用添加剤が、電解液やポリマーゲル電解質中に含まれている非プロトン性有機溶媒等が分解するよりも先に被膜(SEI)を形成することができ、非プロトン性有機溶媒の分解が抑制されるので、分解による気体の発生による電池の膨れの抑制やレート特性改善がきる。また、正極(活物質層)にマンガン酸リチウム等のリチウムマンガン複合酸化物(正極活物質)を含む場合には、電解液やゲル電解質中に溶出したマンガンが負極(活物質粒子)表面に吸着することを防止することができる。その結果、抵抗上昇によるレート特性の低下の抑制やサイクル特性向上に有効である。
上記SEI形成用添加剤は、負極スラリーの固形分(負極活物質層の構成成分)の総量に対して、0.5〜2.0質量%の範囲であることが望ましい。かかる範囲内であれば、厚さ方向にかかわらず、電極内側の負極集電体近傍の負極活物質表面と、電極(負極活物質層)外側近傍の負極活物質表面とで、形成されるSEIの厚さ等が異なるという課題を生じさせることなく、高品質な(均一な厚さの)SEIを形成することができる(図7〜図10と図11〜図14を対比参照のこと)。また、初回充電工程の目的の1つとしてSEIの形成がある。電解液にSEI形成用添加剤があると、初回充電時に正極側の電解液中の該添加剤を負極側に移動させてSEIを形成させる必要があるなど、複雑なプロセスをたどるため、初回充電時間が長くなる。更にその後、図4に示すように14日以上もかけて高温エージング、更には14日以上の常温エージングを行う必要があるにもかかわらず、図10に示すように品質バラツキが発生するという課題があった。上記範囲内のSEI形成用添加剤を負極スラリーに添加することで、電解液及び正極スラリーに添加しない構成とすることができ、上記した課題を解消することができる点で優れている。
更に本発明では、上記したSEI形成用添加剤を含有する負極スラリーにおいて、スラリー粘度調整溶媒(NMPなど)に代えて、水系溶媒(水など)を用いることもできる。水系溶媒(水など)を用いた負極スラリーの調製方法としては、特に制限され得るものではない。例えば、負極活物質、SEI形成用添加剤のほか、水系バインダ、増粘剤であるCMCないしCMC塩、さらに必要があれば導電助剤等を混合した後、水等の水系溶媒を用いて負極スラリー(水系スラリー)を調製することができる。
更に、上記水系溶媒を用いた負極スラリー(水系スラリー)では、集電体への塗布前または、後述する塗布後にアルカリ水を添加するのが望ましい。ここで、アルカリ水としては、特に制限されるものではなく、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ルビジウム水溶液、水酸化セシウム水溶液、水酸化ベリリウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化ストロンチウム水溶液、水酸化バリウム水溶液、水酸化アンモニウム水溶液などが挙げられるが、これらに何ら制限され理ものではない。これらは1種単独でも、2種以上が併用して含まれていてもよい。なかでも水酸化リチウム水溶液が好ましい。この場合には、増粘剤として含有されているCMCないしCMC塩を還元(脱炭酸)反応してCMC誘導体にすることができる。加えてアルカリ水として水酸化リチウム水溶液を選択することで負極活物質(粒子)表面或いは負極活物質(粒子)表面に点在或いは被膜化されたCMC誘導体表面に炭酸リチウムを形成することができる。詳しくは、炭酸リチウム(Li2CO3)を粒状に点在させる、若しくは炭酸リチウムの被膜を形成することができる。これにより、初回充放電効率を上げることができる。さらにガスの発生をより一層抑制するができる。また、この炭酸リチウムは負極活物質のSEI(保護皮膜)の成分でもあるため、ガス発生抑制効果・容量アップの効果に加え、寿命性能の向上を図ることもできる点で優れている。CMC誘導体の被膜の表面への炭酸リチウムの点在化若しくは炭酸リチウムの被膜化は負極製造時になされる以外にも、更に初回充放電によりなされることもある。詳しくは、初回充放電で負極活物質(粒子)の表面に副反応によりSEI(保護皮膜)ができるため、当該表面皮膜に活物質(電池容量の一部)が使われるため、その分量だけ電池の容量が減少してしまっていた。しかしながら、水酸化リチウム(LiOH)水溶液を選択することで予め電極製造段階でこうしたSEI(保護皮膜)を形成することができるため、初回充放電効率がアップさせることができる。言い換えれば、初回充放電でのロスを抑えることができる。
水系溶媒を用いた負極スラリーに添加されるアルカリ濃度は、アルカリ成分のアルカリ金属/アルカリ土類金属の含有量が、負極活物質層(に相当する負極活物質層用原料)の総量に対して50〜30000ppm、好ましくは100〜20000ppmの範囲である。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果を有効に発現し得る範囲であれば、十分に適用可能である。アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量が50ppm以上であれば、充放電容量の改善に有効な含有効果が認められる。また30000ppm以下であれば、充放電容量の改善に寄与することができる点で有利である。
アルカリ水中のアルカリ濃度は、特に制限されるものではないが、pH9〜14、好ましくはpH12〜14の範囲であればよい。アルカリ濃度が上記範囲内であれば、増粘剤として含有されているCMCないしCMC塩を還元(脱炭酸)反応してCMC誘導体にすることができる。これにより、初回充放電効率を上げることができる。さらにガス発生をより一層抑制するができる。なお、上記pHは、水系スラリーの配合にもよるが、これらの配合の等電点を狙うのがよい。即ち、水系スラリー中のCMCないしCMC塩を完全に還元できる量のアルカリ又はアルカリ水を添加すればよいといえる。
アルカリ水の添加量は、特に制限されるものではないが、水系スラルーに対して0.1〜10質量%の範囲であればよい。上記範囲内であれば、増粘剤として含有されているCMCないしCMC塩を還元(脱炭酸)反応してCMC誘導体にすることができる。
次に、本発明のSEI形成用添加剤を含有する負極スラリーを用いて形成した電池(発電要素)と、従来のSEI形成用添加剤を含有する電解液を注液した電池(発電要素)におけるSEI形成プロセスに違いによる電池性能への影響につき図面を用いて説明する。
まず、図6Aは、電解液またはゲル電解質中の溶媒由来の被膜による影響を表す断面概略図であり、図6Bは、SEI形成用添加剤由来の被膜による影響を表す断面概略図である。図7は、従来(特許文献1)の電解液またはゲル電解質中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスのうち電解液の注液直後の様子を模式的に表した電極断面概略図である。図8は、従来(特許文献1)の電解液またはゲル電解質中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスのうち初回充電直後の様子を模式的に表した電極断面概略図である。図9は、従来(特許文献1)の電解液またはゲル電解質中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスのうち初回充電により負極外側にSEIを形成し始めた様子を模式的に表した電極断面概略図である。図10は、従来(特許文献1)の電解液またはゲル電解質中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスのうち初回充電により、正極の電解液中の添加剤が負極側に移動し負極内側にもSEIを形成されてなる様子を模式的に表した電極断面概略図である。図11は、本発明の負極スラリー中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスのうち、負極スラリーを乾燥する際の様子を模式的に表した負極電極断面概略図である。図12は、本発明の負極スラリー中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスのうち電解液の注液前の様子を模式的に表した電極断面概略図である。図13は、本発明の負極スラリー中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスのうち電解液の注液後の様子を模式的に表した電極断面概略図である。図14は、本発明の負極スラリー中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスのうち初回充電後の様子を模式的に表した電極断面概略図である。
まず、図6Aに示すように、SEI形成用添加剤がない場合には、初回充電時に負極電極57表面で、電解液またはゲル電解質中の溶媒分子(例えば、EC、PC、DEC、DMC等)が分解し、該溶媒由来の高抵抗な被膜58が形成される。即ち、SEI形成用添加剤がない場合には、初回充電時に負極電極57表面での電解液の分解が進行し、電解液の枯渇により電池寿命が低下すると共に、高抵抗な皮膜58の形成により、電池の内部抵抗が上昇し、取り出し電流の一部が抵抗発熱によりロスし、電池容量の低下につながっていた。本発明では、図6Bに示すように、SEI形成用添加剤を加えることで、負極電極57表面に初回充電時、生成されるSEI59として、上記SEI形成用添加剤由来のものを生成させることができる。SEI形成用添加剤由来のSEI59により、電池の内部抵抗の上昇を抑え、さらに負極電極57表面での電解液またはゲル電解質中の溶媒分子の分解を抑制し、電池寿命を向上させることができるものである。
次に図7に示す従来の電解液(またはゲル電解質)中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスでは、電解液の注液直後、SEI形成用添加剤18は、電解液またはゲル電解質中に分散ないし溶解されて正極及び負極活物質層13、15の外側から含浸される。電解液またはゲル電解質の含浸に伴い、正極及び負極活物質層13、15の中の正極及び負極活物質粒子14、16表面に付着される。その為、正極活物質層13、負極活物質層15にかかわらず、電解液(またはゲル電解質)中に均一に含まれる。SEI形成用添加剤18を含む電解液の含浸性は、図7に示すように活物質層13、15の外側が良く、内側(集電体11、12側)が悪い。図7では、SEI形成用添加剤18を含む電解液の浸透性が良く含浸している活物質層13、15の外側は、電解液及びSEI形成用添加剤18の濃度も濃いことから、濃い色で表示し、SEI形成用添加剤18も多く付着している様子を表している。一方、SEI形成用添加剤18を含む電解液の浸透性が悪くあまり含浸していない活物質層13、15の内側は、電解液及びSEI形成用添加剤18の濃度も薄いことから、薄い色で表示し、SEI形成用添加剤18も少ししか付着していない様子を表している。
次に、図8に示す従来の電解液(またはゲル電解質)中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスでは初回充電直後、充電器22による電子(e−)移動に伴い、Liイオン20が正極側13から負極側15に電解質層17を介して移動する様子を表している。
更に図9に示す従来の電解液またはゲル電解質中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスでは初回充電により負極15外側にSEI18aを形成し始めた様子を表している。即ち、初回充電により、電解液(またはゲル電解質)中のSEI形成用添加剤18が負極活物質層15表面(外側)で電気分解を起こしSEI18aを形成し始めるが、電解液の浸透性が良い負極活物質層15の外側から形成する様子を表している。このとき、正極活物質層13側では、電解液(またはゲル電解質)中のSEI形成用添加剤18は電気分解されないため、そのままの状態で存在している。
最後に、図10に示す従来の電解液またはゲル電解質中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスでは、初回充電が進みにつれ、正極側13の電解液中の添加剤18が負極側15に移動し、活物質層15の内側(集電体12側)にもSEI18aを形成する。SEI18aは、抵抗成分となるため、均一組成、均一分布(即ち、活物質層15の厚さ方向にかかわらず均一な厚さ)が電池性能では重要となる。図10に示す従来の電解液またはゲル電解質中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスでは、初回充電後、高温エージング、更には常温エージングを共に14日間以上経ることで、正極側13の電解液(またはゲル電解質)中のSEI形成用添加剤18が負極側15に移動する。こうして長時間をかけて、正極側13のSEI形成用添加剤18を負極側15まで移動させることで、負極活物質層15内側の負極活物質粒子16表面にもSEI18aが形成される。しかし、同時に負極活物質層15外側の負極活物質粒子16表面のSEI18aも成長し、より厚膜となる。そのため、電池性能に重要とされる負極活物質層15の厚さ方向にかかわらず均一な厚さのSEI18aを形成することはできていなかった。また、負極活物質層15内側の負極活物質粒子16表面にもSEI18aを形成するには、初回充電後、極めて長い期間、しかも高温でエージングを行う必要があり、極めて生産効率が悪く、コスト高の原因の1つともなっていた。なお、高温エージングは、エージング後の電池の電圧が所望のレベルとなるように、通常、40〜80℃で14日〜30日程度行われている。常温エージングも、通常、常温下で、14日〜30日程度行われている。
一方、図11に示す本発明の負極スラリー中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスでは、負極スラリーの乾燥の際の様子を表している。SEI形成用添加剤18を含む負極スラリーを集電箔12上に塗布後、乾燥することで、乾燥塗膜を形成している。塗布直後の負極スラリー塗膜(ウェット状態)15’には粘度調整溶媒9に溶解した添加剤18が溶液の形態で存在している。そのため、この負極スラリー塗膜15’中を乾燥することで、負極スラリー塗膜15’から粘度調整溶媒9が蒸発していくことで、溶解されていた添加剤18は、乾いて固形化する際に結晶性の為、塗膜15’内の活物質粒子16表面に析出する。これにより、粘度調整溶媒9が蒸発した部分の乾燥塗膜においては、厚さ方向にかかわらず均一に添加剤18が活物質粒子16表面全体に析出した状態となっている。即ち、乾燥後の乾燥塗膜(負極活物質層15;図12参照)の外側と内側でSEI形成用添加剤18の分布にバラつきがなく均一に存在させることができる。このとき、正極側13には、添加剤18は存在していない。
次に、図12に示す本発明の負極スラリー中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスでは、電解液の注液前の様子を表している。負極スラリー中にSEI形成用添加剤18を加えて負極電極を形成している。その為、負極活物質層15内に負極活物質16表面にのみSEI形成用添加剤18が付着されている。また、負極活物質層15の厚さ方向にかかわらず均一にSEI形成用添加剤18が負極活物質粒子16表面に付着した状態となっている。即ち負極活物質層15の外側と内側でSEI形成用添加剤18の分布にバラつきがなく均一に存在させることができていることがわかる。このとき、正極側13には、添加剤18は存在していない。
そのため、図13に示す本発明の負極スラリー中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスでは、電解液の注液後に、結晶化して負極活物質粒子16表面に付着していた添加剤18が電解液中の溶媒に溶解して、活物質16粒子表面をコーティングする。この際、活物質層15の外側と内側で負極活物質粒子16表面をコーティングした添加剤18の分布にバラつきがなく、活物質層15内の全て(内側から外側までの全域)の負極活物質粒子16表面に均一に存在(コーティング)させることができていることがわかる。一方、正極側13には、注液後にも、添加剤18は存在していない。
最後に、図14に示す本発明の負極スラリー中のSEI形成用添加剤由来のSEI形成プロセスでは、初回充電後の様子を表している。本発明では、初回充電により、活物質層15内の全て負極活物質16粒子表面に均一にコーティングされていた添加剤18由来のSEI18aを形成することができる。そのため、負極電極の活物質層15の膜厚に関係なく活物質層15の全域で(外側から内側まで)均一なSEI18aを短時間に形成することができる。これは、添加剤18が負極活物質粒子16表面に既に均一にコーティングされているため、移動する必要がなく、素早くSEI18aを生成することができるものである。
尚、初回充放電後の充放電サイクルにより負極活物質粒子16の体積が膨張・収縮する。そうすることで、活物質16粒子自身に加わる内部応力及び/又は電極15内の周囲の活物質粒子16によって加えられる圧縮応力などによって活物質粒子16表層部に亀裂が入るなどして、電気化学的に活性な新生表面が新たに生じることになる。従来のように電解液中に添加剤18を含む場合には、図10に示すように、活物質層15の外側と内側とでSEI18aの厚さにバラツキがあり、特に活物質層15の内側(集電体12側)では、殆どSEI18aが形成できていないか、形成できていても外側の活物質粒子16表面に形成されたSEI18aの厚膜に比べて膜厚が極めて薄い状態となっている。そのため、新生表面に対して、活物質層15の内側においてSEI18aの形成がより一層困難となって、電池劣化を助長する要因となっていた。一方、本発明では、負極スラリーに、SEI形成用添加剤18を含むことで、図14に示すように、活物質層15の外側と内側とで均一な厚さのSEI18aが形成されている。そのため、充放電により活物質16粒子の膨張・収縮により生じた生表面に対しても、活物質層15の全域(外側、内側)で良質なSEI18aを素早く形成することができ、電池劣化を効果的に防止することができる点で優れている。
(負極スラリーに含まれる溶媒)
スラリー粘度調整溶媒としては、特に制限されることはないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどが挙げられる。
また、粘度調整溶媒としての水系溶媒としては、特に制限されるものではなく、従来公知の水系溶媒を用いることができるものである。例えば、水(具体的には、純水、超純水、蒸留水、イオン交換水、地下水、井戸水、上水(水道水)等)、水とアルコール(例えば、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなど)との混合液等を用いることができる。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、従来公知の水系溶媒を適宜選択して利用することができる。
(負極スラリーの粘度)
負極スラリーの粘度を特に気にする必要なく、広い粘度範囲において適用可能である。ここで、本実施形態における負極スラリーの粘度としては、好ましくは500〜10000mPa・s、より好ましくは800〜9000mPa・s、さらに好ましくは1000〜8000mPa・sである。負極スラリーの粘度が500mPa・s以上であれば、塗工機(コータなど)を用いて、搬送される集電箔上に負極スラリーを所定の厚さに均一に塗布することができる。その結果得られる負極では、均一で平坦な表面を有する負極活物質層を形成することができる。負極スラリーの粘度が100000mPa・s以下であれば、塗工機(コータなど)を用いて、搬送される集電箔上に負極スラリーを所定の厚さに均一に塗工することができ、その後の乾燥を短時間で行うことができる。その結果得られる負極では、均一で平坦な表面を有する負極活物質層を形成することができる。
(2)負極原反作製工程(図4の「塗布・乾燥」工程2b+「プレス」工程2c)
本工程は、得られた負極スラリーを、集電体の表面に塗布、乾燥、プレスを行い、負極原反を作製することできればよく、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。
(集電体;負極集電箔)
集電体については既に説明した通りである。なお、負極原反の作製に用いる場合には、従来公知の製造方法と同様に、金属薄膜(集電体に使用する材料及び厚さからなる金属箔、例えば、厚さ10μmの銅箔など)をロールで購入し負極集電箔として使用するのが望ましい。
(スラリー塗布)
巻出しローラーに取り付けられた上記負極集電箔から巻き出しながら連続搬送される集電体の表面への負極スラリーの塗布方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。例えば、連続搬送される集電体上に負極スラリーを連続塗工可能な方法として、例えば、ダイなどの各種コータを用いた塗布方法、インクジェット工法やスクリーン印刷塗布工法などのパターニング塗布工法などを用いることができる。なお、スラリー塗布では、概ね目付けないし塗布質量の精度が部分ごとで(どの部分をとっても)±5質量%程度の範囲内になるように均一に塗布されているのが望ましい。
(搬送手段)
上記集電箔の搬送手段としては、従来公知の搬送手段を用いることができるものである。例えば、巻出しロールから巻取りロールの間を走行する集電箔の安定に搬送できるように、一定間隔をあけて設けられるガイドロール等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。ガイドロールに関しては、集電箔、更には該集電箔上に負極スラリーを塗布した状態で、塗工機(コータ)、乾燥装置(乾燥炉)、更にはロールプレス装置を通過させ、搬送するために設けられている。そのため、上記した各種装置周辺又は内部を通過、搬送させるために必要な個所に適当数を適宜配置されてなるものである。即ち、ガイドロール以外にも、図示していないだけで、従来公知の各種搬送手段が適宜利用されてなるものである。こうした搬送手段を用いることで、設備コストを抑えつつ製造速度を高速にすることができ、コスト低減を図りながら負極活物質層を製造できる。
(乾燥;スラリー粘度調整溶媒の除去)
次に、負極スラリー塗膜が形成された集電体を乾燥して、スラリー塗膜中に含まれるスラリー粘度調整溶媒ないし水系溶媒を除去する。乾燥の条件としては特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、乾燥の条件は、塗布された負極スラリーに応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は40〜150℃、好ましくは80〜130℃で、5分〜20時間である。乾燥雰囲気も特に制限されるものではなく、生産コストの観点から、大気雰囲気で行うのが望ましいが、これに制限されるものではない。乾燥手段(装置)は、通常の連続乾燥が可能な、熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥を用いた乾燥手段を使用することができるほか、真空乾燥を用いた乾燥手段を使用することもできる。また熱風乾燥とIR乾燥を併用した乾燥手段を使用してもよい。
上記塗布、乾燥は、集電体の表面(A面)で行った後、集電体のもう一方の表面(B面)につき、同様の塗布、乾燥を行うことで、集電体の両面に乾燥塗膜を形成することができる。なお、上記塗布、乾燥をA面とB面の両面同時に行ってもよい。上記塗布、乾燥をA面とB面の両面同時に行う場合には、下面側のスラリーが垂れるのを防止する観点から、集電体の搬送方向を水平方向から垂直方向(上から下に向かう方式、あるいは下から上に向かう方式)にして行ってもよい。この場合には、搬送装置、塗布(塗工)装置、乾燥装置等を横置きから縦置き(或いは縦置きから横置き)に設置して行えばよい。また、双極型電極の場合には、A面(またはB面)に上記正極スラリーを用いて乾燥塗膜(正極活物質層)を形成し、B面(またはA面)に上記負極スラリーを用いて乾燥塗膜(負極活物質層)を形成してもよい。この場合にも、上記塗布、乾燥をA面、B面の順に行ってもよいし、上記塗布、乾燥をA面とB面の両面同時に行ってもよい。
(乾燥塗膜のプレス)
次に、スタリー塗膜を乾燥した後の乾燥塗膜を有する集電体をプレスして、スラリー乾燥塗膜(正極活物質層)が目標密度になるように調整することで、負極原反を得る。
プレスの条件としては、特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、両面に乾燥塗膜を有する集電体を連続搬送しながらロールプレスにより、スラリー乾燥塗膜(負極活物質層)が目標密度0.90〜1.10g/cm3の範囲になるように調整するのが望ましい。但し、本発明では上記目標密度の範囲に何ら制限されるものではなく、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性等を考慮して適宜決定すればよい。また、プレス方式は、冷間プレス、熱間プレスのどちらでもよい。
尚、乾燥塗膜を有する集電体は、通常、連続搬送しながらロールプレスされた後、巻き取りローラーに巻きとることで、ロール状の負極原反として得ることができる。好ましくは、巻き取りローラーで巻き取ることなく、上記プレス後、搬送される負極原反(乾燥塗膜を有する集電体)を以下の裁断手段によりカットするようにしてもよい。
(3)負極作製工程(図4の「スリット」工程2d)
本工程では、上記で得られた負極原反を、裁断手段を用いて所望の形状、大きさにカット(裁断)し、乾燥を経て負極を得る。
(負極原反のカット(裁断))
上記で得られた負極原反を、適当な裁断手段を用いて所望の形状、大きさにカットする方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、上記で得られた、巻き取りローラーによりロール状に巻き取られた負極原反を、再度、巻出しローラーに取り付けて、負極原反を巻出しなからスリッター等の裁断手段を用いて、所望の形状、大きさ、詳しくは目的の負極電極サイズに合わせて矩形形状にカットすればよい。なお、裁断手段は上記スリッター等に何ら制限されるものではなく、従来公知の裁断手段を適宜利用することができる。好ましくは、巻き取りローラーで巻き取ることなく、上記プレス工程後、搬送される負極原反(乾燥塗膜を有する集電体)に対して、スリッター等の裁断手段を用いて目的の負極電極サイズに合わせて矩形形状等にカットするのが工数を削減できる点で望ましい。
(乾燥;付着水分の除去)
次に、カットされた負極を乾燥して、上記(2)の負極原反作製工程の乾燥で付着した水分を除去する。乾燥の条件としては特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、乾燥の条件は、負極サイズなどに応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は真空乾燥機を用いて、70℃以上で、7時間以上で乾燥を行う。乾燥雰囲気も特に制限されるものではないが、不活性ガス(窒素ガス)で置換した後、減圧して真空乾燥を行うのが望ましいが、これに制限されるものではない。乾燥手段(装置)は、真空乾燥装置を用いた乾燥手段を使用することもできる。また真空乾燥とIR乾燥を併用した乾燥手段を使用してもよい。上記乾燥を経て、所望の目標密度、サイズ、形状を有する負極を得ることができる。
[III]積層体を形成する工程(図4の「積層・タブ溶接」工程3a)
本工程[III]では、前記正極形成工程[I]と前記負極形成工程[II]で得られた正極と負極と、セパレータとを積層して積層体を形成するものである。
(積層体の形成方法)
これら前記正極形成工程[I]と前記負極形成工程[II]で得られた正極と負極と、セパレータを、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極・・の順に交互に積層する。そうすることで所望の積層数(セル数)からなる積層体とすることができる(図1の発電要素21や図4参照)。
ここで、セパレータは、正極、負極と同様にして、例えば、ポリエチレン(PE)製の微多孔膜(厚さ25μm程度)等をロールで購入するなどして、セパレータ原反を得る。このセパレータ原反を、裁断手段を用いて所望の形状、大きさにカット(裁断)し、乾燥を経てセパレータを得るのが望ましい。
(セパレータ原反のカット(裁断))
セパレータ原反を、適当な裁断手段を用いて所望の形状、大きさにカットする方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、ロール状に巻き取られたセパレータ原反を、巻出しローラーに取り付けて、セパレータ原反を巻出しなからスリッター等の裁断手段を用いて、所望の形状、大きさ、詳しくは目的のセパレータサイズに合わせて矩形形状にカットすればよい。なお、裁断手段は上記スリッター等に何ら制限されるものではなく、従来公知の裁断手段を適宜利用することができる。
(乾燥;付着水分の除去)
次に、カットされたセパレータを乾燥して、付着した水分を除去する。乾燥の条件としては特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、乾燥の条件は、セパレータサイズなどに応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は真空乾燥機を用いて、70℃以上で、7時間以上で乾燥を行う。乾燥雰囲気も特に制限されるものではないが、不活性ガス(窒素ガス)で置換した後、減圧して真空乾燥を行うのが望ましいが、これに制限されるものではない。乾燥手段(装置)は、真空乾燥装置を用いた乾燥手段を使用することもできる。また真空乾燥とIR乾燥を併用した乾燥手段を使用してもよい。上記乾燥を経て、所望の目標密度、サイズ、形状を有するセパレータを得ることができる。
(積層方法)
正極、セパレータ、負極の積層は、特に制限されるものではなく、手動で行ってもよいほか、自動化(機械化)してもよい。自動化(機械化)には、既に市販品の積層機を用いてもよいし、内製した積層機を用いることもできる。
(積層体の概要)
図15は、積層体の基本構成を模式的に表した分解斜視図である。図15に示す積層体61は、正極62を16枚、負極63を17枚、セパレータ64を32枚用いて、上から順に、負極63、セパレータ64、正極62、セパレータ64、・・の順に交互に積層したものである。
(タブの溶接)
次に、図15に示すように、上記積層体61(の各集電体;図示せず)に正極タブ62a、負極タブ63aを溶接により接合する。必要に応じて、溶接後に余分なタブ等をトリミングにより除去するのが望ましい。かかる接合方法としては特に制限されるものではないが、超音波溶接機にて行うのが、接合時に発熱(加熱)せず、極めて短時間で接合できる為、熱による電極活物質層の劣化を防止できる点で優れている。この際、図15に示すように正極タブ62aと、負極タブ63aとは、同じ辺(同じ取出し側)で対向(対峙)するように配置することができる。これにより、各正極62(16枚)の正極タブ62aを1つに束ねて1つの正極集電板(正極集電タブ:図18の符号62A;図1の符号25、図3の符号48参照)として外装体から取り出すことができる。同様に各負極63(17枚)の負極タブ63aを1つに束ねて1つの負極集電板(負極集電タブ:図18の符号63A;図1の符号27、図3の符号49参照)として外装体から取り出すことができる。但し、図1、3に示すように、正極集電板(正極集電タブ)と、負極集電板(負極集電タブ)とが、反対の辺(異なる取出し辺)となるように、正極タブ62aと、負極タブ63aを配置してもよいなど、特に制限されるものではない。
なお、図2で説明したように、セパレータに接着層を形成して積層してもよい。これにより、電極(正極ないし負極)とセパレータとが積層してもズレることなく安定に積層できるため、端部でセパレータから電極がはみ出して微小短絡を生ずることがないように、検査項目を設けて、ズレがないか検査する手間が省ける点で優れている。
[IV]積層体に電解液を注液する工程(図4の「注液」工程3b)
本工程では、積層体に電解液を注液する。図16は、積層体を電池外装体に用いるラミネートフィルムで上下から挟む(収納する)様子を模式的に表した図面である。図17は、積層体を外装体に収納し、外装体の3辺を封止した3辺封止体の様子を模式的に表した図面である。図18は、3辺封止体の残る1辺の開口部から電解液を注液する装置構成を模式的に表した図面である。
(積層体の外装材への収納;注液前の準備段階その1)
まず、図16に示すように、積層体61を電池外装体に用いるラミネートフィルム65で上下から、正極集電板(正極集電タブ)62Aと、負極集電板(負極集電タブ)63Aが電池外装体の外部に取り出せるようにして、挟み込む。次に、図17に示すように、上下のラミネートフィルム65の外周部(封止部)66のうち3辺を熱圧着して封止する。なお、上下のラミネートフィルム65のうち、正極集電板(正極集電タブ)62Aと、負極集電板(負極集電タブ)63Aを外部に取り出す辺の内側には、絶縁補強シート67を設けてもよい。これにより、想定外の強い振動や衝撃、更には使用中にユーザーが誤って刃物等で引っ掻くなど想定外の事故が起きても、上下のラミネートフィルム65の一部が損傷し、ラミネートフィルム65内部のAl箔がむき出しになるのを防止することができる。その結果、正極集電板(正極集電タブ)62Aや負極集電板(負極集電タブ)63Aが、上下のラミネートフィルム65内部のAl箔と接触することもなく、電池の安全性を格段に高めることができる点で優れている。
(3辺封止体の作製;注液前の準備段階その2)
上下のラミネートフィルム65の外周部(熱封止部)66のうち3辺を熱圧着して封止することで、図17に示すように、積層体(図示せず)を外装体65aに収納し、外装体65aの外周部(封止部66)のうち3辺を封止(熱封止部66a)した3辺封止体71を得ることができる。図16の封止部66は、熱圧着して封止する前の状態(上下のラミネートフィルム65が熱融着して貼り合わされていない状態)をいう。図17の熱圧着部66aは、熱圧着して封止した後の状態(上下のラミネートフィルム65が熱融着して貼り合わされた状態)をいう。この際、正極集電板(正極集電タブ)62A、負極集電板(負極集電タブ)63Aを取り出す辺の熱封止部66は、封止しておくのが好ましい。これは、その後の注液時に、これらの正極集電板(正極集電タブ)62A、負極集電板(負極集電タブ)63Aが開口部にあると、注液時に電解液が飛び散るなどする恐れがあるためである。
(注液)
図18に示す注液装置81にて上記注液前の3辺封止体71の残る1辺の開口部68より、上記3辺封止体71内部に、電解液貯蔵タンク(図示せず)に接続された電解液輸送ライン83の先端に設けられた注液ノズル85から電解液を注液する。これによりセパレータに電解液を含浸した電解質層が形成される。この際、電解液が上記3辺封止体71内部の積層体、特にセパレータおよび電極活物質層にできるだけ早く含浸できるように、3辺封止体71は、真空ポンプ(図示せず)に連結された真空ボックス87に収納し、減圧して内部を高真空状態にした状態で注液を行うのが望ましい。注液後、3辺封止体71を真空ボックス87から取出し、3辺封止体71の残る1辺を封止(熱封止)して、ラミネートタイプ(積層構造)のリチウムイオン二次電池を完成したとしてもよい。本工程で用いられる電解液に関しては、既に説明した通りである。
更に本発明では、電解液が、SEI形成用添加剤を含まないのが望ましい。これにより、電極内側の負極集電体近傍の負極活物質表面と、電極(負極活物質層)外側近傍の負極活物質表面とで、形成されるSEIの厚さ等が異なるという課題を生じさせないためである(図7〜図10と図11〜図14を対比参照のこと)。また、初回充電工程の目的の1つとしてSEIの形成がある。電解液にSEI形成用添加剤があると、初回充電時に正極側の電解液中の該添加剤を負極側に移動させてSEIを形成させる必要があるなど、複雑なプロセスをたどるため、初回充電時間が長くなる。更にその後、図4に示すように14日以上もかけて高温エージングを行う必要があるにもかかわらず、図10に示すように品質バラツキが発生するという課題があった。本発明の製造方法では、SEI形成用添加剤を負極スラリーに添加し、電解液及び正極スラリーに添加しない構成とすることで、上記した課題を解消することができる点で優れている。
但し、本発明では、工程[IV]後、図4に示すように、以下の工程を行ってよい。この場合、3辺封止体71の残る1辺を封止(熱封止)せずに、クリップなどにより開閉自在な状態としておき、プレ充電や初充電で発生したガスを外装体から排出できるようにしておくのが望ましい。
一定時間放置して注液された電解液を含浸させる第1含浸工程[V]と、プレ初回充電を行うプレ初回充電工程[VI]と、一定時間放置して電解液の含浸を促進させる第2含浸工程[VII]と、初回充電を行う初回充電工程[VIII]と、を含むのが望ましい。これらの工程を含むことで、電解液の含浸が隅々まで行き渡り、電池反応面積を損なうことなく、初回放電以降の充放電サイクルを行うことができる。また、図4に示すように、本発明の製造方法では、負極スラリーにSEI形成用添加剤が含まれるため、図11〜図14で説明したように、SEI形成が短時間に形成されるため、初回充電工程後に14日以上の高温エージング、更に必要に応じて14日以上の常温エージングを行わなくとも、SEIの形成を完了することができる。さらにプレ初回充電や初回充電時に大量に発生するガス(初回放電時やその後の充放電サイクルではほとんどガス発生しない)を、簡単に排出させることができる。以下、工程[V]以降につき、説明する。
[V]第1含浸工程(図4の「含浸」工程3c)
本工程では、注液後の3辺封止体を、一定時間放置して注液された電解液を含浸させることできればよく、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。通常、1時間〜24時間程度放置することで、開口部より注液した電解液が、セパレータ及び活物質層内部にまで含浸させるものである。場合によっては、注液工程で用いた真空ボックス87や真空ポンプを利用して、加減圧を繰り返すなどして電池内部に電解液が含浸しやすい環境下で行うようにしてもよい。また、雰囲気も、水分を含まないドライな環境下、例えば、ドライな不活性ガス雰囲気下で行うのがよい。また、場合によっては、電極が破壊されない程度の緩やかな超音波振動を加えることで、電解液が含浸されるのを促進するようにしてもよい。また、電解液を電極外側だけでなく、電極内側(集電体側)まで十分に含浸させておくことで、上記したように、初充電時に電極の厚さ方向にかかわりなく、電極外側から内側(集電体側)まで均一なSEIを形成することができる点でも優れている。
[VI]プレ初回充電工程(図4の「含浸」工程3d)
本工程では、第1含浸工程を終えた3辺封止体の残る1辺をクリップで閉じた後、所定の充電レートにてプレ初回充電を行うことできればよく、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。通常、充電レート0.1C〜1.0Cで0.5〜1.0時間程度行えばよい。これにより、不良品を簡単に見つけて取り除くことができる。また、図4に示すように、かかるプレ初回充電工程から、電極の厚さ方向にかかわりなく、電極外側から内側(集電体側)まで均一なSEIの形成を開始させることができる。さらにプレ初回充電時に発生するガスを、クリップなどで閉じた状態にしてプレ初回充電後に、該クリップを外して3辺封止体71の1辺を開放することで、プレ初回充電で発生したガスを外装体から簡単に排出させることができる。また、クリップなどで閉じた状態にしてプレ初回充電後に、例えば、外装体の未封止の辺の反対側の辺から、ローラ掛けして、電池内部に発生したガスを外装体の未封止の辺側(外装体と積層体との隙間の内部空間部分)に押し出してもよい。その後、クリップを外して3辺封止体71の1辺を開放することで、プレ初回充電で発生したガスを外装体から簡単かつ確実に排出させることができる。
[VII]第2含浸工程(図4の「含浸」工程3e)
本工程では、プレ初回充電後の3辺封止体を、一定時間放置して電解液の含浸を促進させることできればよく、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。通常、24時間以上(数日程度まで)放置することで、電解液が、特にセパレータ及び活物質層の隅々にまで含浸するのを促進させるものである。場合によっては、注液工程で用いた真空ボックス87や真空ポンプを利用して、加減圧を繰り返すなどして電池内部に電解液が含浸しやすい環境下で行うようにしてもよい。また、雰囲気も、水分を含まないドライな環境下、例えば、ドライな不活性ガス雰囲気下で行うのがよい。また、場合によっては、電極が破壊されない程度の緩やかな超音波振動を加えることで、電解液が含浸されるのを促進するようにしてもよい。また、電解液を電極外側だけでなく、電極内側(集電体側)まで十分に含浸させておくことで、上記したように、初充電時に電極の厚さ方向にかかわりなく、電極外側から内側(集電体側)まで均一なSEIを形成することができる点でも優れている。また、かかる第2含浸工程でも図4に示すように、SEIの形成が進行しており、電解液を電極外側だけでなく、電極内側(集電体側)まで十分にSEIの形成を進行させることができる。
[VIII]初回充電工程(図4の「含浸」工程3f)
本工程では、所定の充電レートにて初回充電を行うことできればよく、特に制限されるものではなく従来公知の方法を適用することができる。通常、充電レート0.1C〜2.0Cで、満充電になるまで(通常、単電池層当たりの電圧が4.2Vになるまで)行えばよい。これにより、図4に示すように、負極電極の厚さ方向にかかわりなく、電極外側から内側(集電体側)まで均一なSEIの形成を完成させることができる。本発明ではSEIの形成が短時間でできるため、初回充電も3時間程度で行うことができる。一方、図7〜図10に示す従来の製造方法では、初回充電時に正極側から負極側に電解液(特に添加剤)の移動が必要となるため、SEIの形成に長時間を要し、初回充電も5.5時間程度と本発明の2倍近くかかる。更に言えば、従来の製造方法では、図4に示すように、初回充電だけでは、SEIの形成が完了せず、その後、14日以上の高温エージング、更には14日以上の常温エージングを行う必要があり、これによりやっとSEIの形成が完了していた。
本工程では、さらにプレ初回充電時に発生する大量のガスを、クリップなどで閉じた状態にして初回充電後に、該クリップを外して3辺封止体71の1辺を開放することで、初回充電で発生した大量のガスを外装体から簡単に排出させることができる。また、クリップなどで閉じた状態にして初回充電後に、例えば、外装体の未封止の辺の反対側の辺から、ローラ掛けして、電池内部に発生した大量のガスを外装体の未封止の辺側(外装体と積層体との隙間の内部空間部分)に押し出してもよい。その後、クリップを外して3辺封止体71の1辺を開放することで、初回充電で発生したガスを外装体から簡単かつ確実に排出させることができる。最後に、3辺封止体71を真空ボックス87から取出し、3辺封止体71の残る1辺を封止(熱封止)して、ラミネートタイプ(積層構造)のリチウムイオン二次電池を完成させることができる。
本発明の製造方法では、本工程により所望の非水電解質二次電池を得ることができ、図4に示すように、14日以上を要する高温エージング工程、更に必要に応じて14日以上を要する常温エージング(図示せず)を行う必要がなく、極めて短時間で電池を完成させることができる(生産効率、量産化の)点で優れている。
以上説明した本実施形態の非水電解質二次電池(積層構造電池)は、以下の効果を有する。
本実施形態の非水電解質二次電池の製造方法は、負極形成に用いる負極スラリーに、SEI形成用添加剤を含むことを特徴とするものである。好ましくは、電解液及び正極形成に用いる正極スラリーが、いずれもSEI形成用添加剤を含まないものである。
上記構成を有することで、高品質な(特に負極活物質層の厚さ方向に皮膜が均一な)SEIの生成により電池性能の向上を図ることができる。
即ち、SEIは抵抗成分となるため、該SEIを負極電極の厚さ方向にかかわらず均一に形成することができる本実施形態の製造方法では、得られる電池の容量低下が抑制され、長寿命化が図れる(図11〜14と図7〜図10とを対比参照のこと)。
更に、図4に示すように、14日以上を要する高温エージング工程、更には14日以上の常温エージングを行う必要がなく、極めて短時間で電池を完成させることができる(生産効率、量産化の)点で優れている。
実施例1
図4に示す工程フローに従って電池を作製した。
[I]正極形成工程
(1)正極スラリー調製工程(図4の「スラリー作製」工程1a)
正極活物質としてLiMn2O4(平均粒子径:15μm)92質量%、導電助剤としてアセチレンブラック 4質量%、およびバインダとしてPVdF 4質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、スラリー粘度を20000〜300000cpsの範囲(概ね10000cps程度)となるように粘度調整して正極スラリーを作製した。
(2)正極原反作製工程(図4の「塗布・乾燥」工程1b+「プレス」工程1c)
厚さ20μmのアルミニウム箔をロールで購入し正極集電箔として使用した。巻出しローラーに取り付けられた上記正極集電箔から巻き出しながら連続搬送される集電体上に正極スラリーをコータを用いて連続塗布した。次に、正極スラリー塗膜が形成された集電体を熱風乾燥とIR乾燥を併用した乾燥手段を使用して連続乾燥して、スラリー塗膜中に含まれるスラリー粘度調整溶媒を除去した。乾燥の条件は80〜130℃の範囲内で行った。上記塗布、乾燥は、集電体の表面(A面)で行った後、集電体のもう一方の表面(B面)につき、同様の塗布、乾燥を行うことで、集電体の両面に乾燥塗膜を形成した。次に、乾燥塗膜を有する集電体をロールプレスして、スラリー乾燥塗膜(正極活物質層)が目標密度(1.0g/cm3程度)になるように調整することで、正極原反を得た。また、プレス方式は、冷間プレスを用いた。
(3)正極作製工程(図4の「スリット」工程1d)
上記で得られた、巻き取りローラーによりロール状に巻き取られた正極原反を、再度、巻出しローラーに取り付けて、正極原反を巻出しなからスリッター(裁断手段)を用いて、目的の電極サイズに合わせて矩形形状にカットした。次に、カットされた正極を真空乾燥機を用いて、70℃以上で、7時間以上乾燥して、上記(2)の正極原反作製工程の乾燥で付着した水分を除去して、所望の目標密度、サイズ、形状を有する正極(厚さ180±10μm)を得た。
[II]負極形成工程
(1)負極スラリー調製工程(図4の「スラリー作製」工程2a)
負極活物質として人造黒鉛(平均粒子径:20μm)93質量%、導電助剤としてアセチレンブラック0.5質量%、バインダとしてPVdF 5質量%、SEI形成用添加剤としてメチレンメタンジスルホネート1.5質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、スラリー粘度を20000〜300000cpsの範囲(概ね10000cps程度)となるように粘度調整して負極スラリーを作製した。
(2)負極原反作製工程(図4の「塗布・乾燥」工程2b+「プレス」工程2c)
厚さ10μmの銅箔をロールで購入し負極集電箔として使用した。巻出しローラーに取り付けられた上記負極集電箔から巻き出しながら連続搬送される集電体上に負極スラリーをコータを用いて連続塗布した。次に、負極スラリー塗膜が形成された集電体を熱風乾燥とIR乾燥を併用した乾燥手段を使用して連続乾燥して、スラリー塗膜中に含まれるスラリー粘度調整溶媒を除去した。乾燥の条件は80〜130℃の範囲内で行った。上記塗布、乾燥は、集電体の表面(A面)で行った後、集電体のもう一方の表面(B面)につき、同様の塗布、乾燥を行うことで、集電体の両面に乾燥塗膜を形成した。次に、乾燥塗膜を有する集電体をロールプレスして、スラリー乾燥塗膜(負極活物質層)が目標密度(1.0g/cm3程度)になるように調整することで、負極原反を得た。また、プレス方式は、冷間プレスを用いた。
(3)負極作製工程(図4の「スリット」工程2d)
上記で得られた、巻き取りローラーによりロール状に巻き取られた負極原反を、再度、巻出しローラーに取り付けて、負極原反を巻出しなからスリッターを用いて、目的の電極サイズに合わせて矩形形状にカットした。次に、カットされた負極を、真空乾燥機を用いて、70℃以上で、7時間以上乾燥して、上記(2)の負極原反作製工程の乾燥で付着した水分を除去して、所望の目標密度、サイズ、形状を有する負極(厚さ130±10μm)を得た。
[III]正極、負極、セパレータを積層して積層体を形成する工程(図4の「積層・タブ溶接」工程3a)
図15に示すように、上記工程[I]及び工程[II]で得られた正極28枚と負極29枚と、セパレータ56枚を、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極・・の順に交互に積層し所望の積層数(セル数16)からなる積層体を形成した。ここで、セパレータは、正極、負極と同様にして、ポリプロピレン(PP)製の微多孔膜(厚さ25μm)をロールで購入してセパレータ原反とし、このセパレータ原反を、スリッターを用いて目的のセパレータサイズに合わせて矩形形状にカットし、真空乾燥機を用いて、70℃以上で、7時間以上、乾燥を行ったものを使用した。次に、図15に示すように、上記積層体の各集電体に正極タブ、負極タブを超音波溶接機にて接合し、トリミングした。
[IV]積層体に電解液を注液する工程(図4の「注液」工程3b)
まず、図16に示すように、積層体を電池外装体に用いるラミネートフィルムで上下から、正極集電板(正極集電タブ)と、負極集電板(負極集電タブ)が電池外装体の外部に取り出せるようにして、挟み込み、上下のラミネートフィルムの外周部(封止部)のうち3辺を熱圧着して封止した。これにより、図17に示す3辺封止体を得た。次に、図18に示す注液装置にて3辺封止体の残る1辺の開口部より、電解液を注液する。これによりセパレータに電解液を含浸した電解質層が形成される。
ここで、電解液には、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(30:30:40(体積比))を溶媒とした。また1.0MのLiPF6を支持塩とした。さらに、上記溶媒と上記支持塩との合計100質量%となるように添加して、電解液を作製した。なお、「1.0MのLiPF6」とは、当該混合溶媒および支持塩の混合物における支持塩(LiPF6)濃度が1.0Mであるという意味である。
[V]第1含浸工程(図4の「含浸」工程3c)
次に、注液後の3辺封止体を一定時間(1間以上、ここでは2時間)放置して注液された電解液を含浸させた。
[VI]プレ初回充電工程(図4の「含浸」工程3d)
次に、第1含浸工程を終えた3辺封止体の残る1辺をクリップで閉じた後、所定の充電レート(充電レート0.1Cで1時間)にてプレ初回充電を行った。図4に示すように、プレ初回充電工程から、電極の厚さ方向にかかわりなく、電極外側から内側(集電体側)まで均一なSEIの形成を開始させることができる。さらにプレ初回充電時に発生したガスを、クリップを外して3辺封止体の残る1辺を開放することで外装体から排出させた。
[VII]第2含浸工程(図4の「含浸」工程3e)
プレ初回充電後の3辺封止体を、一定時間24時間以上(ここでは24時間)放置して電解液の含浸を促進させた。
[VIII]初回充電工程(図4の「含浸」工程3f)
本工程では、第2含浸工程3辺封止体の残る1辺をクリップで閉じた後、所定の充電レートにて(充電レート1.0Cで、満充電(単電池層の電位4.2Vになるまで)初回充電を行った。図4に示すように、負極電極の厚さ方向にかかわりなく、電極外側から内側(集電体側)まで均一なSEIの形成を完成させることができた。本実施例ではSEIの形成が短時間でできるため、初回充電は3時間で行うことができた。さらにプレ初回充電時に発生した大量のガスを、クリップを外して3辺封止体の1辺を開放することで、外装体から排出させた。最後に、3辺封止体の残る1辺を封止(熱封止)して、ラミネートタイプ(積層構造)のリチウムイオン二次電池を完成させた。
比較例1
SEI形成用添加剤を含まない負極スラリーを用い、電解液にSEI形成用添加剤を加え、初回充電工程後に、高温エージング工程を行った以外は、実施例と同様にして、リチウムイオン二次電池を完成させた。
ここで、負極スラリーは以下の通り調整したものを用いた。
い 負極活物質として人造黒鉛(平均粒子径:20μm)94.5質量%、導電助剤としてアセチレンブラック0.5質量%、バインダとしてPVdF 5質量%からなる固形分を用意した。この固形分に対し、スラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量添加して、スラリー粘度を20000〜300000cpsの範囲(概ね10000cps程度)となるように粘度調整して負極スラリーを作製した。
また、電解液は以下の組成のものを用いた。
電解液には、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(30:30:40(体積比))に、電解質として1.0MのLiPF6を支持塩を溶解し、さらに、SEI形成用添加剤としてメチレンメタンジスルホネート(MMD)1.6質量%となるように添加して、電解液を作製した。
比較例1では、図7〜図10に示すように、初回充電時に正極側から負極側に電解液(特に添加剤)の移動が必要となるため、SEIの形成に長時間を要し、初回充電も5.5時間と実施例1の2倍近くかかった。
更に、比較例1では、図4に示すように、初回充電だけでは、SEIの形成が完了せず、その後、55℃で20日間の高温エージング、更には20日の常温エージングを行う必要があった。これによりやっとSEIの形成を完了することができた。
本発明の製造方法では、本工程により所望の非水電解質二次電池を得ることができ、図4に示すように、長期間の高温エージング工程および常温エージング工程を行う必要がなく、極めて短時間で電池を完成させることができた。
6.電池特性評価
(1)SEI形成用添加剤の含有量(添加剤→SEIへの移行量)
実施例1及び比較例1の電池の各作製工程で、セパレータに含浸されている電解液を抜き出し(できるだけ負極側に含浸した電解液を抜き出し)、燃焼イオンクロマトグラフにより、SEI形成用添加剤の含有量(質量)を測定した。得られた結果を下記表1に示す。表1中の含有量は、サンプルリングした電解液の含有量全体(100質量%)に対する割合(質量%)を示す。
実施例1では、図11、13、14に示すように、負極活物質粒子表面上で添加剤から該添加剤由来のSEIが生成されるため、電解液中への溶解は起こらない為、どの段階の電解液にも添加剤は観察されなかった。一方、比較例1では、初回充電後にも電解液中に添加剤から該添加剤由来のSEIへの移行が完了しておらず、最終的に常温エージングによりSEIの形成が完了したことがわかった。
(2)SEM観察
実施例1及び比較例1の電池の作製工程のうち、初回充電後に、負極(活物質層)の厚さ方向の外側と内側(集電体側)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影し、画像解析して、活物質粒子表面のSEI(皮膜)ないし添加剤(析出粒子)の様子を観察した。その結果、実施例1では、負極(活物質層)の厚さ方向の外側と内側(集電体側)において、厚さ方向にかかわらず均一なSEI(皮膜)が形成されており、なおかつ添加剤と思われる析出粒子は観察されなかった。このことから、図11〜14で説明した通り、初回充電により短時間でSEIの形成が完了していることが確認された。また、負極(活物質層)の厚さ方向にかかわらず、(外側と内側で)高品質な(均一な厚さの)SEIが形成されていることが確認できた。一方、比較例1では、図7〜11に示すように、負極(活物質層)の外側では非常に厚膜なSEIが形成されているのに対し、内側では全くSEIが形成されていないか、形成されていても非常に薄膜なSEIであることが確認できた。また、活物質粒子の表面に被膜ではなく、添加剤が析出されたと思われる添加剤粒子が認められた。