以下、図面を参照して、本件発明に係る車両用空気調和装置の実施の形態に関して説明する。図1は本件発明を適用した車両用空気調和装置1の後方斜視図、図2は図1の車両用空気調和装置1を構成する空調ユニット3の分解斜視図、図3は図1の空調ユニット3の側断面図をそれぞれ示している。
本実施の形態における車両用空気調和装置1は、自動車の車室内に配置されて、自動車の車内の冷房や暖房を行って所定の車内環境を形成するものである。図1の車両用空気調和装置1は、車室外の空気及び又は車室内の空気を吸入可能な送風ユニット2と、当該送風ユニット2から送られた空気を冷却又は加熱して車室内に吐出する空調ユニット3とを備えている。
送風ユニット2は、ケーシング10内に送風手段としてのシロッコファン11を配設して構成される。ケーシング10は、車室内の空気を吸入するための内気吸込口12と、車室外の空気を吸入するための外気吸込口13とが設けられている。ケーシング10には、内部に吸入した空気を空調ユニット3に送風する図示しない吐出ダクトが接続されている。
空調ユニット3は、中空のケーシング20内に、冷却手段としての冷却用熱交換器21と、加熱手段としての加熱用熱交換器22とを収納して構成されている。冷却用熱交換器21は、例えば、冷凍サイクルを構成する蒸発器を用いることができる。蒸発器を通過する空気は、蒸発器における冷媒の吸熱作用によって冷却される。加熱用熱交換器22は、例えば、車両のエンジンを冷却するための冷却水回路に接続された放熱器を用いることができる。放熱器を通過する空気は、放熱器において冷却水を放熱させることで加熱される。
空調ユニット3のケーシング20は、自動車の車室内の各所に温度調整された空気を供給するためのフェース吐出口23、デフロスタ吐出口24、フット吐出口25が形成されている。フェース吐出口23は、ケーシング20の上面中央に形成されている。当該フェース吐出口23は、図示しないダクトを介して車室内に形成されたフェース吹出口と連通している。デフロスタ吐出口24は、フェース吐出口23の一側(図1の空気調和装置1では、車両の前後方向に対する前側)に仕切壁32にて区画されて形成されている。当該デフロスタ吐出口24は、図示しないダクトを介して車室内に形成されたデフロスタ吹出口と連通している。フット吐出口25は、フェース吐出口23の他側(図1の空気調和装置1では、車両の前後方向に対する後側)に仕切壁33にて区画されて形成されている。当該フット吐出口25は、図示しないダクトを介して車室内に形成されたフット吹出口と連通している。
図3に示すように、当該空調ユニット3のケーシング20内には、送風ユニット2の吐出空気通路から吐出された空気が流入する流入開口側(すなわち、空気上流側)に、前記冷却用熱交換器21が配設された冷気通風路26が区画形成されている。当該冷気通風路26の冷却用熱交換器21の空気下流側には、前記加熱用熱交換器22が配設された暖気通風路27が区画形成されている。当該冷気通風路26と暖気通風路27とは、第1開口28と第2開口29とを介して連通されている。第1開口28は、ケーシング20に配設された支持軸41を中心に回動可能に設けられた第1エアミックスダンパ40によって開閉自在に閉塞される。第2開口29は、詳細は後述する第2エアミックスダンパ50によって通風量を調整可能に閉塞される。なお、当該第2開口29と第2エアミックスダンパ50との間は、図示しないシール材にて隙間が封止されている。図1の空気調和装置1では、当該第2エアミックスダンパ50は、車両の幅方向に2つ並べて配置されており、それぞれ図2に示すように、ケーシング20の幅方向の両側面からそれぞれ着脱自在とされている。
上述した暖気通風路27の加熱用熱交換器22の空気下流側には、調整空気通風路30が区画形成されており、これら暖気通風路27の加熱用熱交換器22の空気下流側と、調整空気通風路30の空気上流側とは連通している。さらに、当該調整空気通風路30は、上述した冷気通風路26の冷却用熱交換器21の空気下流側と、冷気バイパス開口31により直接連通している。上述した第1開口28を開閉する第1エアミックスダンパ40は、当該冷気バイパス開口31の開閉手段も兼ねており、当該第1エアミックスダンパ40を支持軸41を中心に回動させることによって、当該冷気バイパス開口31は開閉自在に閉塞される。
そして、当該調整空気通風路30内には、通風モード切替ダンパ60及び65が設けられている。通風モード切替ダンパ60は、フェース吐出口23の一部と、デフロスタ吐出口24に対応して配設される。当該通風モード切替ダンパ60は、フェース吐出口23の一部と調整空気通風路30との連通量、及び、デフロスタ吐出口24と調整空気通風路30との連通量を制御する。通風モード切替ダンパ65は、通風モード切替ダンパ65に隣接して、フェース吐出口23の残部と、フット吐出口25に対応して配置される。当該通風モード切替ダンパ65は、フェース吐出口23の残部と調整空気通風路30との連通量、及び、フット吐出口25と調整空気通風路30との連通量を制御する。なお、図1の空気調和装置1では、当該通風モード切替ダンパ60及び65は、上述した第2エアミックスダンパ50と同様に、車両の幅方向にそれぞれ2つ並べて配置されており、図2に示すように、ケーシング20の両側面からそれぞれ着脱自在に取り付けられている。
ここで、図面を参照して、上述した第2エアミックスダンパ50と通風モード切替ダンパ60及び65の構成について説明する。まずはじめに、図4及び図5を参照して第2エアミックスダンパ50について述べる。図4は第2エアミックスダンパ50の斜視図、図5は当該第2エアミックスダンパ50の断面図を示している。
第2エアミックスダンパ50は、冷気通風路26と暖気通風路27とを連通させる開口51Aが形成された支持枠51と、当該開口51Aを閉塞する方向に伸張する帯状に形成されて、冷気通風路26と暖気通風路27を連通する通風路(開口51A)の風量を変更するため一部の領域に開口部53を備えた膜状部材52と、当該膜状部材52の開口部53の位置を移動させて、開口部53と開口51Aとの重複量を調整し、当該開口(通風路)51Aの通風面積を変更する調整機構54とを備えている。
調整機構54は、膜状部材52の長手方向の一端が固定され当該一端側を巻取可能とする第1駆動軸55と、膜状部材52の長手方向の他端が固定され当該他端側を巻取可能とする第2駆動軸56と、これら第1駆動軸55と第2駆動軸56を回転駆動させる駆動手段としての電動モータ57(図1のみ図示する)とを有している。
図4の第2エアミックスダンパ50は、第1駆動軸55が、車両の幅方向と平行となるように開口51Aの縁部に沿って配置され、支持枠51に回動自在に保持される。当該第1駆動軸55が配置される側と対向する側の開口51Aの縁部には、第1駆動軸55から繰り出された膜状部材52が掛け渡されて、第2駆動軸56に膜状部材52を指向する案内軸58が配置されている。当該案内軸58は支持枠51に回動自在に保持される。そして、当該案内軸58によって案内された膜状部材52の他端側が固定され、当該他端側を巻取可能とする第2駆動軸56は、第1駆動軸55と隣接して当該第1駆動軸55と平行に配置され、支持枠51に回動自在に保持される。
当該構成により、支持枠51の開口51Aの縁部一側に配設された第1駆動軸55から繰り出された膜状部材52は、開口51Aの縁部他側に配設された案内軸58に渡って延びるように張られた状態となる。そして、案内軸58に掛け渡された膜状部材52は、当該案内軸58を中心として、開口51Aとは反対側に折り返された後、第1駆動軸55の近傍に配設された第2駆動軸56に渡って延びるように張られた状態となる。なお、案内軸58は、例えば、断面形状を楕円形として、第1駆動軸55と第2駆動軸56間に渡って張り渡される膜状部材52の張力を調整する機能を有するものとしても良い。
上述した第1駆動軸55と第2駆動軸56とは、それぞれ軸の端部に、一方の駆動軸に加えられた回転力を他方の駆動軸に伝達する動力伝達手段が設けられている。具体的には、第1駆動軸55の端部と、第2駆動軸56の端部には、同じ歯数を有する歯車55A、56Aがそれぞれ設けられており、これら歯車は、互いに噛合した状態とされている。当該構成により、電動モータ57を駆動させて一方の駆動軸、例えば、第1駆動軸55に回転力が加えられると、当該第1駆動軸55に加えられた回転力が歯車55Aと56Aとを介して第2駆動軸56に伝達される。このとき、第1駆動軸55と第2駆動軸56とは、同期して回転するため、一方の駆動軸から繰り出された膜状部材52は、所定の張力を維持したまま、他方の駆動軸により巻き取られる。
上述した膜状部材52に形成される開口部53は、長手方向の第2駆動軸56側に偏った位置において長手方向に延びて形成されている。第1駆動軸55と第2駆動軸56の回転駆動による各駆動軸55、56の巻取量の調整により、膜状部材52に形成された開口部53と支持枠51の開口51Aとを重複させない位置とした場合には、冷気通風路26側からの空気流は、案内軸58から第2駆動軸56間に渡って張られた膜状部材52の開口部53を介して、第1駆動軸55から案内軸58間に渡って張られた膜状部材52に吹き付けられる。ゆえに、第1駆動軸55から案内軸58間に渡って張られた膜状部材52は、冷気通風路26側からの空気流の圧力によって、支持枠51の開口51A縁部と密接して当該開口51Aが閉鎖され、冷気通風路26側から暖気通風路27側への風の流通が確実に封止される。
また、第1駆動軸55と第2駆動軸56の回転駆動による各駆動軸55、56の巻取量の調整により、膜状部材52に形成された開口部53と支持枠51の開口51Aとを重複させた位置とした場合であっても、冷気通風路26側からの空気流は、案内軸58から第2駆動軸56間に渡って張られた膜状部材52の開口部53を介して、第1駆動軸55から案内軸58間に渡って張られた膜状部材52に支障なく供給される。よって、第1駆動軸55から案内軸58間に渡って張られた膜状部材52の開口部53と、支持枠51の開口51Aと重複する部分から、冷気通風路26側からの空気流の流通が許容される。この膜状部材52の開口部53と、支持枠51の開口51Aとが重複する部分となる通風面積を変更することで、冷気通風路26側から暖気通風路27側へ通風される風量を変更可能とすることができる。
上述した膜状部材52に形成される開口部53は、膜状部材52の幅方向における張力を確保するため、複数条、形成されていることが好ましい。図4に示す第2エアミックスダンパ50の膜状部材52には、開口部53が2条、形成されている。
次に、図6及び図7を参照して通風モード切替ダンパ60について述べる。なお、通風モード切替ダンパ65の構成は、通風モード切替ダンパ60と略同様であるため、ここでは、通風モード切替ダンパ60の構成について述べる。図6は通風モード切替ダンパ60の斜視図、図7は当該通風モード切替ダンパ60の断面図を示している。
当該通風モード切替ダンパ60の基本的な構成は、上述した第2エアミックスダンパ50と同様であるため、ここでは、構成が異なる部分について述べる。当該通風モード切替ダンパ60では、上述の支持枠51に相当する支持枠61に形成される開口が、第1駆動軸55及び第2駆動軸56が設けられる側と、案内軸58が設けられる側とで、仕切壁62によって、2つに区画されている。一方が、フェース吐出口23の一部に対応して配置される開口61Aであり、他方が、デフロスタ吐出口24に対応して配置される開口61Bである。なお、通風モード切替ダンパ65の場合には、一方の開口61Aが、フェース吐出口23の段部に対応して配置され、他方の開口61Bは、フット吐出口25に対応して配置される。
以上のように構成された車両用空気調和装置1は、第1エアミックスダンパ40による第1開口28及び冷気バイパス開口31の開閉制御と、第2エアミックスダンパ50の膜状部材52の開口部53の位置を移動させることによる第2開口29の通風量制御(調整)と、通風モード切替ダンパ60及び65の膜状部材52の開口部53の位置を移動させることによる各吐出口23、24、25と調整空気通路30との連通面積の制御(調整)を行うことにより、各設定モードに応じて、所定の温度及び湿度に調整された空気を各吐出口23、24、25から車室内に吹き出す。
ここで、上述した如き車両用空気調和装置1の通風路を通風量調整自在に閉塞する第2エアミックスダンパ50や通風モード切替ダンパ60、65を構成する膜状部材52は、設定モードや、通風量を調整する度に、第1駆動軸55及び第2駆動軸56において繰出及び巻取が行われる。当該巻取量の調整を行う際において、当該膜状部材52は、空気流の風圧によって、その表面が支持枠51又は61に押しつけられた状態のまま、巻取方向に摺動される。また、一方の駆動軸から繰り出された膜状部材52は、案内軸58に掛け渡されることで張力が調整されて、他方の駆動軸に巻き取られる。従って、当該膜状部材52は、引張強さ、引裂強さなどの機械的特性に優れ、小径な駆動軸への巻取による収納・展開が静かで円滑である風遮断特性を備えることが要求される。以下に、当該特性を満足することができる本件発明の車両用空気調和装置1における膜状部材の具体的な構成について述べる。
すなわち、本件発明における膜状部材は、ポリエステル不織布と、ポリオレフィンからなる第1樹脂層と、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂のいずれかからなる第2樹脂層と、をそれぞれ少なくとも1層以上含む4層以上から層構成される積層体からなることを特徴とする。
当該膜状部材の基材を構成するポリエステル不織布は、積層体に、端裂強さ、引裂伝播強さを付与するために用いられる。本件発明では、当該不織布は、ポリエステルにより構成されているため、80℃などの高温下で用いられた場合であっても、当該不織布の縮みが少ない。よって、本実施の形態の当該ポリエステル不織布を用いた膜状部材は、一面のみが収縮し、カールが発生する不都合を回避することが可能となる。
当該ポリエステル不織布は、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース(水流絡合)法、スチームジェット法など、従前から行われている不織布の製造方法により得られたものを使用することができる。しかし、当該積層体により構成される膜状部材は、引張強さ、引裂強さがより大きい方が好ましいため、当該ポリエステル不織布は、例えば、スパンボンド法やフラッシュ紡糸法により製造されることが好ましい。
当該膜状部材を層構成するポリオレフィンからなる第1樹脂層は、ポリエチレン又はポリプロピレンを用いることが好ましい。具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、又は、ポリプロピレンを採用することができる。
当該膜状部材を層構成する第2樹脂層は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂のいずれかにより構成される。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を採用することができる。
上述したように、本件発明において、当該膜状部材は、ポリエステル不織布と、第1樹脂層と、第2樹脂層と、をそれぞれ少なくとも1層以上含む4層以上から層構成される積層体からなるものを採用することができる。例えば、ポリエステル不織布/第1樹脂層/第2樹脂層/第1樹脂層の4層構成の積層体、第1樹脂層/ポリエステル不織布/第1樹脂層/第2樹脂層/第1樹脂層の5層構成の積層体、第1樹脂層/ポリエステル不織布/第2樹脂層/第1樹脂層の4層構成の積層体などが挙げられる。ここでは、例として4層構成及び5層構成の積層体について挙げているが、本件発明は、これに限定されるものではなく、ポリエステル不織布と、第1樹脂層と、第2樹脂層と、をそれぞれ少なくとも1層以上含む4層以上から層構成される積層体であればよい。
本件発明において、不織布と第1樹脂層又は第2樹脂層、若しくは、第1樹脂層と第2樹脂層との積層方法については、各層間における界面の接着力を適切に確保することができる方法であれば、いずれの方法も採用することができる。例えば、2液硬化型の接着剤を用いたドライラミネート法や、押出ラミネート法によって積層することができる。
以下に、図8と図9を参照して、本件発明に係る車両用空気調和装置1を構成する膜状部材の実施形態について述べる。ここでは、図8に示す第1の実施形態としての膜状部材52と、図9に示す第2の実施形態としての膜状部材59とを例示している。まずはじめに、図8の第1の実施形態としての膜状部材52の構成説明図を参照して、第1の実施形態としての膜状部材52の構成について説明し、その後、図9を参照して第2の実施形態としての膜状部材59について説明する。
図8に示す第1の実施形態としての膜状部材52は、基材を構成するポリエステル不織布71の一方の面(空気流が吹き付けられる側の面)に、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンからなる第1樹脂層72を備え、当該第1樹脂層72の表面にポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂のいずれかからなる第2樹脂層73を備え、当該第2樹脂層73の表面にポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンからなる第1樹脂層74を備えた積層体からなる。すなわち、当該第1の実施形態としての膜状部材52は、ポリエステル不織布71/第1樹脂層72/第2樹脂層73/第1樹脂層74の4層構成の積層体により構成される。第1の実施形態としての膜状部材52は、ポリエステル不織布71が支持枠51(61)の開口51A(61A、61B)側に配置され、第3樹脂層74が冷気通風路26又は調整空気通路30側に配置される。
また、当該ポリエステル不織布71の目付量は、製造方法によっても異なるが、例えばスパンボンド法で製造された不織布の場合には、10g/m2〜200g/m2であることが好ましい。当該不織布の目付量が、200g/m2を超える場合には、当該不織布を用いて得られる膜状部材52が硬くなりすぎ、比較的小径な駆動軸で巻き取ると、膜状部材52に腰折れが生じ、円滑な巻き取りを行うことが困難となるからである。当該不織布の目付量が、10g/m2に満たない場合には、当該不織布を用いて得られる膜状部材52が柔らかくなりすぎ、当該膜状部材52を放置したときにカールが発生しやすくなるからである。
ポリエステル不織布71は、支持枠51(61)の開口51A(61A、61B)側に配置されることとなり、当該支持枠51(61)及び開口51A(61A、61B)縁部と密接して、巻取動作により摺接する。上述したように、当該ポリエステル不織布71を用いることで、滑り性が良好となり、円滑なスライド移動が可能となる。よって、摺接音などの作動音が大幅に低減される。
そして、上述したポリエステル不織布71からなる基材の表面に形成される第1樹脂層72は、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、超高分子量ポリエチレンフィルム、又は、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルムを採用することができる。
また、当該第1樹脂層72を構成するポリオレフィンフィルムは、厚さが5μm〜50μmであることが好ましい。第1樹脂層72の厚さが50μmを超える場合には、積層体により構成される膜状部材52自体の厚さが厚くなりすぎ、曲げ剛性が大きくなってしまうことで、駆動軸55及び56における巻き取りが困難となるからである。第1樹脂層72の厚さが5μmに満たない場合には、積層体により構成される膜状部材52が、所定の引張強さや引裂強さを確保することができなくなり、第2エアミックスダンパ50や通風モード切替ダンパ60、65に採用した場合に、所定の耐久性を確保できなくなるからである。
当該ポリエステル不織布71と第1樹脂層72を構成するポリオレフィンフィルムとの接着は、これら不織布とフィルムとの界面における接着力を確保することができる方法であれば、いずれの方法も採用することができる。例えば、当該ポリエステル不織布71と第1樹脂層72を構成するフィルムとを2液硬化型の接着剤を用いてドライラミネート法により接着する方法や、ポリオレフィンをポリエステル不織布71と第1樹脂層72との間に溶融製膜を行いながら積層する押出ラミネート法によって製造することができる。接着剤は、−40℃〜80℃の温度範囲で適正な剥離強度を保持することができるエポキシ系接着剤や、ポリウレタン系接着剤などを用いることができる。本実施の形態では、従来のように樹脂層と織布とを接着する場合と異なり、接着剤が織布中にしみこまれてしまう不都合が生じない。ゆえに、不織布71と第1樹脂層72との接着に、接着剤を用いたとしても、膜状部材自体の重量が接着剤により嵩張る不都合が生じない。
第1樹脂層72の表面に形成される第2樹脂層73は、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステル系フィルムや、ポリアミド系フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリアミドイミド系フィルム、ポリウレタン系フィルムなどを採用することができる。これら第2樹脂層73を構成するフィルムは、二軸延伸フィルムであることが好ましい。二軸延伸フィルムは、縦方向及び横方向共に高い引張強さを備えているからである。
そして、当該第2樹脂層73を構成するフィルムは、厚さが15μm〜100μmであることが好ましい。上述した第1樹脂層と同様に、当該第2樹脂層73の厚さが100μmを超える場合には、積層体により構成される膜状部材52自体の厚さが厚くなりすぎ、曲げ剛性が大きくなってしまうことで、駆動軸55及び56における巻き取りが困難となるからである。第2樹脂層73の厚さが15μmに満たない場合には、積層体により構成される膜状部材52が、所定の耐熱性を確保することが困難となり、膜状部材52自体が高温に曝されることにより収縮して、カールが発生しやすくなるからである。
当該第1樹脂層72を構成するポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルムと、第2樹脂層73を構成するフィルムの接着は、これら両フィルムの界面における接着力を確保することができる方法であれば、いずれの方法も採用することができる。例えば、当該第1樹脂層72を構成するフィルムと当該第2樹脂層73を構成するフィルムとを2液硬化型の接着剤を用いてドライラミネート法により接着する方法や、ポリオレフィンを第1樹脂層72と第2樹脂層73との間に溶融製膜を行いながら積層する押出ラミネート法によって製造することができる。接着剤は、−40℃〜80℃の温度範囲で適正な剥離強度を保持することができるエポキシ系接着剤や、ポリウレタン系接着剤などを用いることができる。
第2樹脂層73の表面に形成される第1樹脂層74は、第1樹脂層72と同様に、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、超高分子量ポリエチレンフィルム、又は、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルムを採用することができる。
当該第1樹脂層74を構成するポリオレフィンフィルムは、厚さが5μm〜50μmであることが好ましい。第1樹脂層74の厚さが50μmを超える場合には、積層体により構成される膜状部材52自体の厚さが厚くなりすぎ、曲げ剛性が大きくなってしまうことで、駆動軸55及び56における巻き取りが困難となるからである。第1樹脂層74の厚さが5μmに満たない場合には、積層体により構成される膜状部材52が、所定の引張強さや引裂強さを確保することができなくなり、第2エアミックスダンパ50や通風モード切替ダンパ60、65に採用した場合に、所定の耐久性を確保できなくなるからである。
また、第1樹脂層74は、案内軸28と当接する側に配置され、巻取動作により当該案内軸28と摺接する。上述したように、当該第1樹脂層74は、所定の厚さを備えたポリオレフィンフィルムにより構成されているため、滑り性が良好となり、円滑なスライド移動が可能となる。よって、摺接音などの作動音が大幅に低減される。
当該第2樹脂層73を構成するフィルムと、第1樹脂層74を構成するポリオレフィンフィルムの接着は、これら両フィルムの界面における接着力を確保することができる方法であれば、いずれの方法も採用することができる。例えば、第2樹脂層73を構成するフィルムと第1樹脂層74を構成するフィルムとを2液硬化型の接着剤を用いてドライラミネート法により接着する方法や、ポリオレフィンを第2樹脂層73と第1樹脂層74との間に溶融製膜を行いながら積層する押出ラミネート法によって製造することができる。接着剤は、−40℃〜80℃の温度範囲で適正な剥離強度を保持することができるエポキシ系接着剤や、ポリウレタン系接着剤などを用いることができる。
図9に示す第2の実施形態としての膜状部材59は、上述した図8に示す第1の実施形態としての膜状部材52のポリエステル不織布71の第1樹脂層72が形成される側とは反対側の面にポリオレフィンからなる当該第1樹脂層72と同様に構成される第1樹脂層75を備えた積層体からなることを特徴とする。すなわち、当該第2の実施形態としての膜状部材59は、第1樹脂層75/ポリエステル不織布71/第1樹脂層72/第2樹脂層73/第1樹脂層74の5層構成の積層体により構成される。第1樹脂層75とポリエステル不織布71との接着は、上述した第1樹脂層72とポリエステル不織布71との接着方法と同様である。第2の実施形態としての膜状部材59の構成は、ポリエステル不織布71の両面に第1樹脂層が積層されている以外の構成は、第1の実施形態としての膜状部材52の構成と同様であるため、ここでは、詳細な説明については省略する。第2の実施形態としての膜状部材59は、第1樹脂層75が支持枠51(61)の開口51A(61A、61B)側に配置され、第1樹脂層74が冷気通風路26又は調整空気通路30側に配置される。
上述した如き本件発明における膜状部材は、全体の厚さが、25μm〜200μm、さらに望ましくは、100μm〜170μmであることが好ましい。膜状部材の厚さが、200μmを超える場合には、膜状部材が重くなり、曲げ剛性が大きくなってしまう。曲げ剛性が大きくなると、膜状部材に吹き付けられる空気流によって、当該膜状部材を支持枠51(61)の開口51A(61A、61B)の縁部に押しつけ難くなる。よって、当該膜状部材と開口51A(61A、61B)縁部とを適切に密着させることができなくなり、当該膜状部材を備えたダンパ50、60又は65における風遮断特性を担保することができなくなるからである。また、曲げ剛性が大きくなると、当該膜状部材の駆動軸55及び56における巻き取りが困難となるからである。さらに、膜状部材が必要以上に厚くなると、駆動軸55又は56に巻き取られた状態での収納スペースを広く確保しなければならないからである。そして、膜状部材の厚さが25μmに満たない場合には、所定の引張強さや引裂強さを確保することができなくなり、第2エアミックスダンパ50や通風モード切替ダンパ60、65に採用した場合に、所定の耐久性を確保できなくなるからである。
また、上述した如き膜状部材は、23℃における5%伸張時の引張強さ(F−5値)が20N/5mm〜60N/5mm、80℃における5%伸張時の引張強さ(F−5値)が15N/5mm〜40N/5mmであることが好ましい。当該引張強さの測定は、JIS K7127若しくはJIS C2151に準拠した。23℃における5%伸張時の引張強さが20N/5mmに満たない場合には、80℃における5%伸張時の引張強さが15N/5mmを確保することができなくなるからである。80℃などの高温に曝されて使用した際に、5%伸張時の引張強さが15N/5mmを確保できなくなると、当該膜状部材52が案内軸58や支持枠51(61)の開口51A(61A、61B)縁部などの周辺の部材との摺動することで、破れや変形が生じてしまい、継続的に安定した巻取を行うことができなくなるからである。なお、本実施の形態では、23℃における5%伸張時の引張強さの上限値として60N/5mm、80℃における5%伸張時の引張強さの上限値として40N/5mmであることが好ましいとしている。しかし、引張強さは、高いほど耐久性の面で有利であるが、当該上限値よりも高い引張強さは、車両用空気調和装置のダンパに用いる上で、必要としないからである。
さらに、上述した如き膜状部材は、23℃における引裂強さが1N〜13N、より望ましくは、3N以上であることが好ましい。当該引裂強さの測定は、JIS K7128−1のトラウザー引裂法に準拠した。23℃における引裂強さが1Nに満たない場合には、当該膜状部材が案内軸58や支持枠51(61)の開口51A(61A、61B)縁部などの周辺の部材との摺動することで、破れや変形が生じてしまい、継続的に安定した巻取を行うことができなくなるからである。なお、本実施の形態では、23℃における引裂強さの上限値として13Nであることが好ましいとしている。しかし、当該引裂強さは、引張強さと同様に高いほど耐久性の面で有利であるが、当該上限値よりも高い引裂強さは、車両用空気調和装置のダンパに用いる上で、必要としないからである。
また、上述した如き膜状部材は、23℃におけるループ硬さが10mN〜1200mN、さらに望ましくは、500mN以下であることが好ましい。当該ループ硬さの測定は、JIS L10968.22.3 C法 ループ圧縮法に準拠した。23℃におけるループ硬さが1200mNを超える場合には、当該膜状部材を駆動軸55又は56に巻き取る際に、局所的に応力が集中して膜状部材の破れや変形が生じてしまい、円滑な巻取収納を行うことができなくなるからである。また、異常音の発生を招くからである。また、23℃におけるループ硬さが1200mNを超える場合には、膜状部材52に吹き付けられる空気流によって、当該膜状部材52を支持枠51(61)の開口51A(61A、61B)の縁部に押しつけ難くなる。よって、当該膜状部材52と開口51A(61A、61B)縁部とを適切に密着させることができなくなり、当該膜状部材52を備えたダンパ50、60又は65における風遮断特性を担保することができなくなるからである。なお、本実施の形態では、23℃におけるループ硬さの下限値として10mNであることが好ましいとしている。しかし、当該ループ硬さは、小さいほど巻取性や、周辺部材との密着性の面で有利であるが、当該下限値よりも小さいループ硬さは、車両用空気調和装置のダンパに用いる上で、必要としないからである。
さらに、上述した如き膜状部材は、2.5mm幅の試験片に荷重0.46kgを負荷し、80℃雰囲気中で500時間の条件での耐熱クリープ試験で測定した伸び率が2%以下であることが好ましい。当該試験による伸び率が2%を超える場合には、経年使用することにより、膜状部材が伸張変形し、開口部53位置の制御を適切に行うことが困難となるからである。
上述した如き膜状部材は、一端が第1駆動軸に巻き取られ、他端が第2駆動軸に巻き取られ、各駆動軸への巻取量を調整することで、膜状部材に形成された開口部の位置を変更するものである。この際、図5や図7に示すように、これら第1及び第2駆動軸との間に案内軸を設けることにより、当該膜状部材と他の周辺部材との摺接面が、表面と裏面の2面(両面)となる場合には、当該膜状部材の両面に最外層として第1樹脂層が設けられる5層構成を採用することがより好ましい。
以下に、本件発明に係る車両用空気調和装置を構成する膜状部材の実施例1〜実施例3と、比較例1〜比較例6について述べる。以下に説明する実施例及び比較例では、各積層体を作製し、当該積層体の試験片を用いて物性を測定し、評価を行った。
実施例1の膜状部材を構成する積層体は、上述した第1実施形態としての膜状部材52を構成する積層体である。具体的には、実施例1の積層体は、ポリエステル不織布71/第1樹脂層72/第2樹脂層73/第1樹脂層74の層構成である。ポリエステル不織布として、スパンボンド法により製造された目付量30g/m2の旭化成せんい株式会社製のエルタスE5030を用いた。第1樹脂層72は、溶融押出法により製造された20μmの低密度ポリエチレンフィルムである東ソー株式会社製のペトロセン203を用い、ポリエステル不織布71の(空気流吹き付け側)の表面に積層した。これらポリエステル不織布71と第1樹脂層72とは、熱溶着により接着した。第2樹脂層73は、二軸延伸法により製造された25μmのポリエチレンテレフタレートを主原料としたフィルムである東洋紡績株式会社製のエステルフィルムE5202を用い、第1樹脂層72の表面に積層した。第1樹脂層72と第2樹脂層73との接着は、アンカーコート剤として三井化学株式会社製のタケラックA3210とタケネートA3072とを3:1の比率で混合し、酢酸エチルで7%まで希釈したものを用いた。そして当該第2樹脂層73の表面に、さらに、溶融押出法により製造された15μmの低密度ポリエチレンフィルムである東ソー株式会社製のペトロセン203を用い、第1樹脂層74を積層した。当該第1樹脂層74を接着する際にも、上述した第1樹脂層72と第2樹脂層73との接着に用いた接着剤を用いた。実施例1の積層体は、厚さ150μmとなるように作製した。
実施例2の膜状部材を構成する積層体は、上述した第2実施形態としての膜状部材59を構成する積層体である。具体的には、実施例2の積層体は、第1樹脂層75/ポリエステル不織布71/第1樹脂層72/第2樹脂層73/第1樹脂層74の層構成である。実施例2は、上述した実施例1の積層体を構成するポリエステル不織布71の表面に、第1樹脂層72として溶融押出法により製造された20μmの低密度ポリエチレンフィルムである東ソー株式会社製のペトロセン203を積層したものである。なお、当該実施例2の積層体は、ポリエステル不織布71の厚さを調整し、実施例1の積層体と同様に厚さ150μmとなるように作製した。
実施例3の膜状部材を構成する積層体は、上述した実施例1と同様に第1実施形態としての膜状部材52を構成する積層体である。当該実施例3の積層体と上述した実施例1の積層体とは、第2樹脂層73の構成のみが異なりそれ以外の構成及び接着方法は同様である。すなわち、実施例3における第2樹脂層73は、二軸延伸法により製造された25μmのナイロンポリアミドを主原料としたフィルムである東洋紡績株式会社製のハーデンフィルムN1202を用い、第1樹脂層72の表面に積層した。なお、当該実施例3の積層体は、ポリエステル不織布71の厚さを調整し、実施例1及び実施例2の積層体と同様に厚さ150μmとなるように作製した。
比較例
<比較例1>
比較例1の膜状部材を構成する積層体は、上述した実施例1の不織布71の材料をポリエステルからポリプロピレンに変更し、第1樹脂層74の表面にさらに第3樹脂層として直鎖状低密度ポリエチレンフィルムを積層して構成される。すなわち、比較例1の積層体は、ポリプロピレン不織布/第1樹脂層72/第2樹脂層73/第1樹脂層74/第3樹脂層の5層構成である。
具体的には、比較例1の積層体は、ポリプロピレン不織布として、目付量15g/m2の三井化学株式会社製のシンテックスPS−106を用いた。そして、第1樹脂層72として、溶融押出法により製造された20μmの低密度ポリエチレンフィルムである東ソー株式会社製のペトロセン203を用いた。これらポリプロピレン不織布と第1樹脂層72とは、熱溶着により接着した。そして、第2樹脂層73は、二軸延伸法により製造された25μmのポリエチレンテレフタレートを主原料としたフィルムである東洋紡績株式会社製のエステルフィルムE5202を用いた。第1樹脂層72と第2樹脂層73との接着は、アンカーコート剤として三井化学株式会社製のタケラックA3210とタケネートA3072とを3:1の比率で混合し、酢酸エチルで7%まで希釈したものを用いた。そして、第1樹脂層74は、溶融押出法により製造された15μmの低密度ポリエチレンフィルムである東ソー株式会社製のペトロセン203を用いた。当該第2樹脂層73と第1樹脂層74の接着は、第1樹脂層72と第2樹脂層73との接着に用いた接着剤と同様のものを用いた。第3樹脂層は、50μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムとして三井化学東セロ株式会社製のTUX−HCを用いた。第1樹脂層74と第3樹脂層との接着は、熱溶着により行った。比較例1の積層体は、厚さが100μmとなるように作製した。
<比較例2>
比較例2の膜状部材構成する積層体は、ポリプロピレン不織布の目付量を15g/m2を用いた。上述した比較例1と同一の層構成を採用している。具体的には、比較例2の第2樹脂層73は、二軸延伸法により製造された25μmのポリエチレンテレフタレートを主原料としたフィルムである東洋紡績株式会社製のエステルフィルムE5202を用いた。ただし、比較例2の積層体の厚さは、100μmとなるように作製した。
<比較例3>
比較例3の膜状部材を構成する積層体は、上述した比較例2の第2樹脂層73の厚さのみが異なり、比較例1と同一の層構成を採用している。具体的には、比較例2の第2樹脂層は、二軸延伸法により製造された12μmのポリエチレンテレフタレートを主原料としたフィルムである東洋紡績株式会社製のエステルフィルムE5202を用いた。ただし、比較例2の積層体の厚さは、比較例1と同様に100μmとなるように作製した。
<比較例4>
比較例4の膜状部材を構成する積層体は、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム/ポリプロピレン/直鎖状低密度ポリエチレンフィルムの3層構成を採用した厚さ100μmのフィルムである。具体的には、積水フィルム株式会社製の厚さ100μmの共押出フィルムを用いた。
<比較例5>
比較例5の膜状部材を構成する積層体は、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム/20%のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂フィルム/5%のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂フィルムの3層構成を採用した厚さ50μmのフィルムである。具体的には、積水フィルム株式会社製の厚さ50μmのマスキングフィルムを用いた。
<比較例6>
比較例6の膜状部材を構成する積層体は、比較例5と同一の3層構成を採用した厚さ100μmのフィルムである。具体的には、積水フィルム株式会社製の厚さ100μmの農業用フィルムを用いた。
<評価>
得られた実施例1〜実施例3及び比較例1〜比較例6の試験片について、以下の方法で、物性を測定し、評価を行った。
(1)引張強さ
JIS K7127に準拠して23℃及び80℃における引張強さを測定した。測定装置としては、インストロン社製の材料試験機5581を採用した。測定条件は、試験温度が23℃及び80℃のいずれの場合においても、試験片の5%伸張時における応力を測定した。試験速度は、50mm/minで行った。
(2)引裂強さ
JIS K7128−1のトラウザー引裂法に準拠して23℃における引裂強さを測定した。測定装置としては、島津社製の卓上形精密万能試験機AGS−1000Gを採用した。試験速度は、200mm/minで行った。
(3)ループ硬さ
JIS L10968.22.3 C法 ループ圧縮法に準拠して23℃におけるループ硬さを測定した。各試験片の縦方向と横方向のそれぞれについて測定した。測定装置としては、島津社製の卓上形精密万能試験機AGS−1000Gを採用した。
(4)耐熱クリープ
2.5mm幅の試験片に荷重0.46kgを負荷し、80℃雰囲気中で500時間の条件での耐熱クリープ試験で測定した。
(5)摺動試験
当該摺動試験は実施例2の試験片のみについて行った。摺動試験は、試験片を摺接対象となるポリプロピレン樹脂により構成された相手材に摺接させた状態で、5万回往復動させて行った。この際、試験片は、23℃の環境下で0.77kgの引張強度を加えて張り渡した状態で行った。
以下に、実施例1〜実施例3及び比較例1〜比較例6の評価結果について述べる。実施例1〜実施例3及び比較例1〜比較例6の評価結果は、表1に示す。
表1に記載されているように、実施例1〜実施例3の積層体により構成される膜状部材は、いずれも23℃(室温)における5%伸張時の引張強さが20N/5mm以上であって、80℃における5%伸張時の引張強さが15N/5mm以上であった。さらに、各実施例は、23℃(室温)における引裂強さが2.9N以上であった。また、各実施例は、80℃の温度環境下で測定された耐熱クリープ試験による伸び率が1.5%以下であった。いずれの実施例も膜状部材の厚さが150μmであるにもかかわらず、所定の引張強さ及び引裂強さなどの機械的特性を備えていることが分かる。従って、車両用空気調和装置で用いられる際に要求される80℃などの高温な条件下であっても、高い引張強さを備えており、経年使用による伸び率が低く抑えられていることが分かる。
これに対し、表2に記載されているように、3層構成が採用された比較例4〜比較例6の積層体により構成される膜状部材は、いずれも23℃(常温)における引張強さが7N/5mm以下であり、80℃に至っては、1N/5mmであった。一方、5層構成が採用された比較例1〜比較例3の積層体により構成される膜状部材は、23℃(常温)における引張強さが12N/5mm以上であった。しかしながら、比較例1及び比較例2の積層体は、ポリプロピレン不織布が採用されているため、実施例1の積層体におけるポリエステル不織布と異なり耐熱性が低く、80℃における引張強さが15N/5mmを確保することができなかった。当該評価試験から、不織布としてポリエステル不織布を採用することの有効性が確認できた。
また、表1に記載されているように、実施例1〜実施例3の膜状部材は、いずれも23℃(常温)におけるループ硬さが430mN以下である。よって、各実施例の膜状部材は、比較的小径な駆動軸に巻き取られても、腰折れ等を生じることなく円滑に巻取収納・展開することが可能となる。また、各実施例の膜状部材は、ループ硬さが500mN以下と小さいことから、当該膜状部材に吹き付けられる空気流によって、当該膜状部材を支持枠の開口縁部に容易に押しつけることができ、膜状部材と開口縁部とを適切に密着させることができる。よって、当該膜状部材を備えたダンパは、所定の風遮断特性を担保することが可能となる。
従って、本件発明により実現される膜状部材は、薄くて、車両用空気調和装置の使用環境下において、十分な引張強さや引裂強さなどの機械的特性を備えており、且つ、所定のしなやかさを備えたものであることが確認できる。ゆえに、本件発明に係る膜状部材は、車両用空気調和装置の一般的な使用環境下において、他の周辺部材と摺接して用いられた場合であっても、所定の耐久性を確保することができる。さらに、当該膜状部材は、端部が駆動軸に巻き取られて、開口部位置を変更可能とする構成を採用した場合であっても、当該駆動軸への膜状部材の巻取収納及び展開を円滑とすることができ、他の摺接部材や膜状部材同士の摺動時の静音化を図ることが可能となる。ゆえに、本件発明における膜状部材は、機械的特性、巻取収納性、可撓性のバランスのとれたものであり、−40℃〜80℃の広範囲な温度環境となる車両用空気調和装置での使用に好適であることが分かる。
さらに、本件発明における膜状部材は、上述したように、ポリエステル不織布と、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、ポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルムなどの汎用な樹脂フィルムや不織布を積層することにより実現することができる。ゆえに、安価な材料にて上述したような高い機械的特性を備えた膜状部材を実現することができ、コストの削減を図ることができる。