JP2015050360A - 磁性部材用絶縁被覆粉末 - Google Patents

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Abstract

【課題】1MHz〜50GHzまでの周波数領域における電磁波の遮蔽又は吸収に有効な電磁波吸収体のような磁性部材のための絶縁被覆扁平粉末2の提供。
【解決手段】本発明の絶縁被覆扁平粉末2は、扁平加工された金属粉末4と、この金属粉末4の表面に付着した絶縁性の皮膜6とを備える。金属粉末4のアスペクト比は、10以上300以下である。皮膜6は、チタンアルコキシド類を含むものの重合物からなる。好ましくは、この粉末2では、皮膜6の厚さの、金属粉末4の厚さに対する比は0.002以上0.2以下である。好ましくは、この粉末2では、チタンアルコキシド類はチタンアルコキシドのオリゴマーである。好ましくは、この粉末2では、皮膜6による金属粉末4の被覆率は20%以上である。好ましくは、この粉末2では、皮膜6の厚さは1nm以上200nm以下であり、この皮膜6はチタンの酸化物からなる。
【選択図】図1

Description

本発明は、磁性部材用絶縁被覆粉末に関する。詳細には、本発明は、1MHz〜50GHzまでの周波数領域における電磁波を遮蔽又は吸収するために用いられる磁性部材の製造のための絶縁被覆扁平粉末に関するものである。
携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ及びタブレット型パーソナルコンピュータに代表される携帯用電子機器が普及している。最近では、小型化、高性能化に伴い、回路内の部品は半導体素子等のノイズを発生させる部品の影響を受けやすくなっている。また、携帯用電子機器が発する電磁波が体内に悪影響を及ぼすことが報告されている。
回路基板内の半導体素子や携帯用電子機器が発する電磁波を遮断し、この電磁波による影響を防止するために、電磁波を遮蔽又は吸収しうる磁性部材で電磁波の発生源を包み込むことが行われている。この磁性部材として、樹脂やゴムなどの絶縁物に軟磁性金属粉末を配合し、これをシート状又はリング状に成形したものを利用することがある。この磁性部材に、絶縁被覆処理がなされた軟磁性金属粉末が用いられることもある。このような磁性部材には、電磁波吸収体、電磁波吸収シート及び磁性シートが含まれる。
携帯用電子機器が発する電磁波の周波数は、高周波化の傾向にある。従来型の磁性部材では、高周波域の電磁波を十分に遮蔽又は吸収することができないのが実状である。このため、電磁波の遮蔽、吸収に有効な磁性部材について様々な検討がなされている。この検討例が、特開2002−305395公報及び特開2006−203233公報に開示されている。
特開2002−305395公報には、シート状に加工した電磁波吸収体が開示されている。この電磁波吸収体は、フレーク状の軟磁性金属粉末の表面をリン酸塩処理して得た粉末を含んでいる。
特開2006−203233公報には、電波吸収体が開示されている。この電波吸収体は、有機基を有する分子からなる電気的絶縁層を有する金属軟磁性体粒子が充填された軟磁性複合体から構成されている。
特開2002−305395公報 特開2006−203233公報
上記特開2002−305395公報に記載の電磁波吸収体では、軟磁性金属のフレーク状粉末を、A)リン酸、B)MgO、CaO及びZnOから選んだ1種又は2種以上、並びに、C)ホウ酸を含む水溶液又は水分散液と混合し、この粉末を水切りして乾燥することにより、この粉末の表面にリン酸塩皮膜が形成される。リン酸を含んだ水溶液(又は水分散液)に粉末を浸漬して皮膜を形成するため、薄い厚みのフレーク状粉末を用いた場合、条件によっては、リン酸塩処理において、この粉末が溶ける恐れがある。
上記特開2006−203233公報に記載の電波吸収体では、シラン系カップリング剤からなる電気的絶縁層を有する金属軟磁性体粒子を用いて、470MHzから770MHzのUHF帯域での適用が検討されている。この電波吸収体では、770MHzから50GHzまでの周波数領域において絶縁抵抗が不十分となり、透磁率が低下し吸収特性が悪化する恐れがある。
本発明の目的は、1MHz〜50GHzまでの周波数領域における電磁波の遮蔽又は吸収に有効な電磁波吸収体のような磁性部材のための絶縁被覆扁平粉末の提供にある。
本発明に係る磁性部材用絶縁被覆扁平粉末は、扁平加工された金属粉末と、この金属粉末の表面に付着した絶縁性の皮膜とを備えている。上記金属粉末のアスペクト比は、10以上300以下である。上記皮膜は、チタンアルコキシド類を含むものの重合物からなる。
好ましくは、この磁性部材用絶縁被覆扁平粉末では、上記皮膜の厚さの、上記金属粉末の厚さに対する比は0.002以上0.2以下である。
好ましくは、この磁性部材用絶縁被覆扁平粉末では、上記チタンアルコキシド類はチタンアルコキシドのオリゴマーである。
好ましくは、この磁性部材用絶縁被覆扁平粉末では、上記皮膜による上記金属粉末の被覆率は20%以上である。
好ましくは、この磁性部材用絶縁被覆扁平粉末では、上記皮膜の厚さは1nm以上200nm以下である。この皮膜は、チタンの酸化物からなる。
本発明に係る磁性部材は、上記絶縁被覆扁平粉末を用いて形成される。
本発明に係る磁性部材用絶縁被覆扁平粉末では、扁平加工された金属粉末が絶縁性の皮膜で覆われている。この皮膜は、チタンアルコキシド類を含むものの重合物からなる。チタンアルコキシド類は適切な反応速度で重合するので、クラックが少ない上に厚さが薄い絶縁性の皮膜が形成される。
磁性部材の性能を表す指標として、透磁率μ、実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ”がある。実部透磁率μ’は、電磁波遮蔽特性の優劣を表す。虚部透磁率μ”は、電磁波吸収特性の優劣を表す。なお、透磁率μは、実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ”を用いて下記数式のように表される。数式中、「j」は虚数((j)=−1)である。
μ=μ’+jμ”
なお、本願においては、透磁率μ、実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ”のそれぞれは真空透磁率との比である比透磁率で表されている。
金属系の磁性材は、表皮深さ(発生した渦電流が流れることが可能な深さの尺度)が浅く、スネーク(Snoek)の限界を超えた高周波領域において透磁率が低下しない特徴もあり、より高周波領域での特性を発揮できる。扁平加工されることでさらにその特徴が発揮される。また、金属粉末はフェライトと比較し飽和磁束密度が高く特性をより発揮しやすい。しかし、金属粉末は導電性を有しているため扁平加工された金属粉末同士が接触すると扁平粉末の見かけの厚さが増加する(接触した扁平粉末厚さの合計に相当する部分に渦電流が流れる)。扁平粉末の見かけの厚さが増加すると渦電流損失が大きくなり実部透磁率μ’が低下する。さらに実部透磁率μ’よりも高周波領域で見られる虚部透磁率μ”も低下する。本発明の粉末では、金属粉末の表面に絶縁性の皮膜が形成されているので、この粉末を樹脂、ゴム等の絶縁物に混合したものから磁性部材を得ても、この皮膜が金属粉末同士の接触を防止する。これにより、渦電流の発生による実部透磁率μ’の低下が抑制される。本発明の粉末によれば、従来の粉末に比べて、磁性部材の実部透磁率μ’の向上が達成される。さらに、高周波域で見られる虚部透磁率μ”の低下も抑制される。このため、本発明の粉末を含む磁性部材は、高周波域における電磁波吸収特性にも優れる。本発明の粉末によれば、電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性に優れた磁性部材が得られる。
図1は、本発明の一実施形態に係る磁性部材用絶縁被覆扁平粉末の断面図である。
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1に示されているのは、本発明の絶縁被覆扁平粉末2の断面図である。電磁波吸収体、電磁波吸収シート及び磁性シートのような磁性部材は、この粉末2を用いて形成される。磁性部材の製造では、無数の粉末2からなる基材粉体が準備される。この基材粉体を樹脂又はゴムに混合し、組成物が得られる。この組成物を用いて、磁性部材が形成される。形成された磁性部材の形状に、特に制限はない。この形状としては、シート状、リング状、立方体状、直方体状及び円筒状が例示される。なお、基材粉体を樹脂又はゴムに混合するための方法に、制限はない。この混合方法には、従来から公知の方法が採用される。組成物を磁性部材に成形するための方法にも、制限はない。この成形方法にも、従来から公知の方法が採用される。加工が容易との観点から、組成物に、潤滑材やバインダー等の加工助剤が配合されてもよい。
粉末2は、金属粉末4と、皮膜6とを備えている。この粉末2は、金属粉末4と皮膜6とからなる。皮膜6は、金属粉末4の表面に付着している。この粉末2では、皮膜6の表面にこの皮膜6とは別の皮膜が設けられてもよい。金属粉末4と皮膜6との間に、この皮膜6とは別の皮膜が設けられてもよい。
金属粉末4は、例えば、ガスアトマイズ法又は水アトマイズ法により得られる金属の粒子をメディア攪拌型ミル(アトライタ)で粉砕、扁平加工したものである。粉砕等の機械的プロセスにより得られた金属の粒子を扁平加工し、金属粉末4として用いてもよい。酸化物の還元等の化学的プロセスにより得られた金属の粒子を扁平加工し、金属粉末4として用いてもよい。また、粉砕、扁平加工後歪取り焼鈍を施した粉末を、金属粉末4として用いてもよい。
前述の通り金属粉末4は、扁平加工される。金属粉末4の扁平度は、アスペクト比で表現される。本願においては、アスペクト比は金属粉末4の長軸の長さとこの金属粉末4の厚さとの比で表される。アスペクト比が大きくなると、反磁界係数の影響が抑制される。大きなアスペクト比は、実部透磁率μ’に影響する。
この粉末2では、金属粉末4のアスペクト比は10以上300以下である。これにより、高周波領域で実部透磁率μ’を大きく向上させることができる。アスペクト比が10未満であると、高周波領域で実部透磁率μ’が低下し、電磁波遮蔽特性が悪化してしまう。この観点から、アスペクト比は50以上が好ましい。アスペクト比が300を超えると、樹脂やゴム等に粉末2を混合する際にこの粉末2が割れてしまう恐れがある。粉末2が割れるとアスペクト比が低下することとなり、特性を維持した状態での加工が困難となる。この観点から、アスペクト比は200以下が好ましい。
本願では、金属粉末4のアスペクト比は次のようにして得られる。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、金属粉末4を観察し、平面視においてその長さが最大となる位置が特定される。この位置が長軸とされ、この長軸の長さLが計測される。50個の金属粉末4について、長さLを計測し、これらの相加平均値Lavが算出される。この平均値Lavが、アスペクト比算出のための金属粉末4の長軸の長さとして用いられる。この金属粉末4を樹脂に埋め込んで研磨し、この研磨面が光学顕微鏡で観察される。この金属粉末4の厚さ方向を特定し、最大厚みtm及び最小厚みtnが計測され、最大厚みtm及び最小厚みtnの平均値((tm+tn)/2)が算出される。50個の金属粉末4について、平均値((tm+tn)/2)を得て、これらの相加平均値tavが算出される。この平均値tavが、アスペクト比算出のための金属粉末4の厚さとして用いられる。長軸の長さLavを厚さtavで除することにより、金属粉末4のアスペクト比(Lav/tav)が得られる。
この粉末2では、金属粉末4は軟磁性材料である。この金属粉末4としては、他の成分を含まない純金属、あらかじめ合金成分を添加した合金綱からなる合金粉末、純金属又は合金粉末の表面に合金成分を部分的に拡散付着させたもの等を用いることができる。純金属としては鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びガドリニウム(Gd)が例示される。合金粉末としては、上記純金属同士を合金化したもの、又は、上記純金属や純金属同士を合金化したものに、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)からなる群から選択された少なくとも1種を添加したものが例示される。
金属粉末4としては、具体的には、他の成分を含まない純鉄粉末、Fe−3mass%Si粉末、Fe−6.5mass%Si粉末、Fe−3mass%Si―2mass%Cr粉末、Fe−5mass%Al粉末、Fe−9.5mass%Si−5.5mass%Al(センダスト)粉末、Fe−50mass%Co(パーメンジュール)及びFe−50mass%Ni(パーマロイ)が挙げられる。なお、「mass%」は質量%と同義である。
皮膜6は、絶縁性である。この粉末2では、金属粉末4の表面に絶縁性の皮膜6が形成されている。この粉末2を樹脂、ゴム等の絶縁物に混合したものから得た磁性部材では、この皮膜6が金属粉末4同士の接触を防止する。これにより、渦電流の発生による実部透磁率μ’の低下が抑制される。この粉末2によれば、従来の粉末に比べて、磁性部材の実部透磁率μ’の向上が達成される。この粉末2は磁性部材の磁束収束効果に貢献するので、この粉末2を用いた磁性部材は電磁波遮蔽特性に優れる。さらに虚部透磁率μ”の低下も抑制できる。このため、本発明の粉末2を含む磁性部材は、高周波域における電磁波吸収特性にも優れる。本発明の粉末2によれば、電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性に優れた磁性部材が得られうる。
図示されているように、皮膜6は金属粉末4を覆う。この粉末2では、皮膜6は金属粉末4に積層している。皮膜6は、金属粉末4に接合している。皮膜6は、金属粉末4の全体又はこの金属粉末4の一部を覆っている。電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性の観点から、金属粉末4の全体がこの皮膜6で覆われているのが好ましい。この皮膜6が2以上の層で構成されてもよい。
皮膜6は、チタンアルコキシド類を含むものの重合物からなる。詳細には、この皮膜6はチタンアルコキシド類の重合物からなる。本発明では、チタンアルコキシド類とは1分子中にあるチタン原子に少なくとも1つのアルコキシド基が結合している化合物のことである。また本発明では、アルコキシド基とは有機基が負の電荷を持つ酸素と結合した化合物のことである。有機基とは、有機化合物からなる基のことである。チタンアルコキシド類という概念には、チタンアルコキシドのモノマー、このモノマーが複数重合されて形成されたオリゴマー、及び、チタンアルコキシドが生成する前の段階の化合物(以下、前駆体とも称される。)が含まれる。なお、この皮膜6が、チタンアルコキシド類以外の成分をさらに含むものの重合物から構成されてもよい。
電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性に優れる磁性部材が得られるとの観点から、チタンアルコキシドで作製された皮膜6の厚さの、扁平加工された金属粉末4の厚さに対する比は、0.002以上0.2以下が好ましい。この比が0.002より小さいと、絶縁抵抗が低下し透磁率が低下する、又は金属粉末4同士が見かけ上接触したように振る舞い、金属粉末4の見かけの厚さが増加するため、反磁界係数の影響により透磁率が低下する。この比が0.2より大きいと皮膜6が厚くなり、粉末2の充填量が減少し透磁率が低下する。なお、皮膜6の厚さは後述する厚さTであり、金属粉末4の厚さは前述された厚さtavである。
チタンアルコキシドの具体例として、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド及びイソプロピルトリドデシルベンゼンスフォニルチタネートが挙げられる。
以上説明された粉末2については、種々のコーティング方法で作製が可能である。コーティング方法としては、混合法、ゾル・ゲル法、スプレードライヤー法及び転動流動層法が挙げられる。
本発明で用いるチタンアルコキシド類は溶剤で希釈して用いることができる。この溶剤としては、チタンアルコキシド類を溶解又は分散させうるものであればよく、この溶剤に特に制限はない。溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、酢酸エチル、プロピオン酸エチル及びテトラヒドロフランが挙げられる。
この粉末2では、皮膜6の形成にはチタンアルコキシド類が用いられる。チタンアルコキシド類はアルミニウムアルコキシド類、ジルコニウムアルコキシド類等のアルコキシド類単体と比較して、適切な反応速度で金属粉末4の表面で重合していく。この皮膜6がチタンアルコキシド類の重合物からなる場合は、この皮膜6はチタンの酸化物からなる。チタンアルコキシド類からから形成された皮膜6では、クラックが少ない。しかもこの皮膜6は薄い。この皮膜6は、この粉末2から形成された磁性部材の電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性の向上に寄与しうる。本発明によれば、電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性に優れた磁性部材が得られる。
チタンアルコキシド類としてチタンアルコキシドのオリゴマーを皮膜6の形成に用いた場合、このチタンアルコキシド類としてチタンアルコキシドのモノマーをこの皮膜6の形成に用いた場合に比して、このチタンアルコキシド類がより適切な反応速度で重合する。このため、この皮膜6ではクラックの発生がより効果的に抑えられる上に、より薄い皮膜6が得られる。この皮膜6は、磁性部材の電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性の向上に寄与しうる。したがって、本発明では、適切な反応速度及び特性の向上の観点から、チタンアルコキシド類としてはチタンアルコキシドのオリゴマーが好ましい。
チタンアルコキシドのオリゴマーは、チタンアルコキシドのモノマーを複数重合することにより得られる。換言すれば、チタンアルコキシドのオリゴマーはチタンアルコキシドのモノマーから形成されたものである。オリゴマーをなすモノマーの数は、皮膜6の形成時におけるチタンアルコキシド類の反応速度に影響する。適切な反応速度の観点から、チタンアルコキシドのオリゴマーをなすモノマーの数は、4以上が好ましく、50以下が好ましい。
この粉末2では、皮膜6による金属粉末4の被覆率Cは20%以上が好ましい。前述したように、皮膜6は粉末2を用いて形成された磁性部材の電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性に寄与しうる。特性向上の観点から、皮膜6による金属粉末4の被覆率Cは30%以上がより好ましい。さらに好ましくは、この被覆率Cは50%以上である。金属粉末4の全体が皮膜6で覆われるの最も好ましいので、特に好ましい被覆率Cは100%である。図1に示された粉末2において、皮膜6による金属粉末4の被覆率Cは100%である。この皮膜6は、金属粉末4の全体を覆っている。
本願では、皮膜6による金属粉末4の被覆率Cの算出には、透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影された粉末2の断面画像が用いられる。詳細には、TEMにて観察される無数の粉末2の中から、金属粉末4と皮膜6との境界の確認が可能な状態で10視野撮影される。撮影により得た写真において、金属粉末4が皮膜6で被覆されている長さ(以下、被覆長さとも称される。)及び金属粉末4の表面の長さが計測される。本願では、被覆長さを金属粉末4の表面の長さで除したものを百分率で表した数値が、被覆率Cとして表されている。
図1において、両矢印Tは皮膜6の厚さを表している。本願では、厚さTは粉末2の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて10視野撮影し、この撮影された断面の画像から得た計測値の平均値で表される。なお、撮影に際し、試料としての粉末2には、収束イオンビーム(FIB)加工により粉末2の断面が観察可能となるような調整がなされている。
皮膜6の厚さTは、粉末2を用いて形成された磁性部材の電磁場吸収特性及び電磁波遮蔽特性に影響する。この厚さTが1nmよりも小さくなると、成形された磁性部材の絶縁抵抗が低下してしまう。この場合、実部透磁率μ’が低下するとともに、実部透磁率μ’よりも高周波側で見られる虚部透磁率μ”も低下してしまう。この観点から、この厚さTは1nm以上が好ましい。この厚さTが200nmよりも大きくなると、磁性部材に含まれる粉末2の充填率(無数の粉末2からなる基材粉体の体積の、これらの粉末2が分散する樹脂又はゴムの体積に対する比)が低下してしまう。この場合においても、実部透磁率μ’が低下するとともに、虚部透磁率μ”が低下する恐れがある。この観点から、この厚さTは200nm以下が好ましい。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[磁性シート(磁性部材)の製作]
磁性シートの製作に先だって、下記の表1及び2に示された各例の粉末を製作した。この粉末の製作では、無数の金属粉末からなる粉体(10kg)が準備された。この粉体についてアトライタで処理を行い、各金属粉末に扁平加工が施された。なお、この金属粉末として、Fe−3mass%Si粉末及びFe−9.5mass%Si−5.5mass%Al粉末が用いられた。
チタンアルコキシド類を含む処理液を用いて、扁平加工の施された金属粉末に皮膜を形成させ、図1に示された絶縁被覆扁平粉末を作製した。この作製に使用したチタンアルコキシド類のタイプが、下記の表1及び2に示されている。皮膜の形成に用いられたチタンアルコキシドのオリゴマーは、このチタンアルコキシドのモノマーに溶剤を適量添加して作製された。なお、表1が金属粉末にFe−3mass%Si粉末を用いた場合を、表2が金属粉末にFe−9.5mass%Si−5.5mass%Al粉末を用いた場合をそれぞれ示している。
以上のようにして得た、無数の絶縁被覆扁平粉末からなる基材粉体を、小型ミキサーを用いて100℃の温度下でエポキシ樹脂と混練し、粉末が均一に分散した樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂と基材粉体との体積比は、5対2とされた。この樹脂組成物を、4MPa、200℃の条件で5分間熱プレス処理し、厚み0.1mmの磁性シートを得た。
[磁性シートの評価]
作製した磁性シートについて、温度25℃、周波数20MHzでの実部透磁率μ’及び比抵抗を測定した。この結果が、下記の表1及び2に示されている。なお、この実部透磁率μ’の測定には、アジレント・テクノロジー(Agilent Technologies)社製の商品名「ベクトル・ネットワーク・アナライザーN5245A」を用いた。比抵抗の測定には、日置電機社製の商品名「DSM−8104」を用いた。
Figure 2015050360
Figure 2015050360
以下に、各例における粉末について詳細に説明する。
[実施例1−6、11−12、15−16、19−24、29−30及び33−34]
実施例1−6、11−12、15−16、19−24、29−30及び33−34は、アスペクト比が10から300の範囲にある金属粉末を用いている。皮膜はチタンアルコキシドのモノマーから形成された。各例の皮膜厚さT、厚さTの、金属粉末の厚さtavに対する比(T/tav)及び皮膜による金属粉末の被覆率Cは、表1−2に示されている通りである。
[実施例7−10、13−14、17−18、25−28、31−32及び35−36]
実施例7−10、13−14、17−18、25−28、31−32及び35−36は、アスペクト比が10から300の範囲にある金属粉末を用いている。皮膜はチタンアルコキシドのオリゴマーから形成された。各例の皮膜厚さT、厚さTの、金属粉末の厚さtavに対する比(T/tav)及び皮膜による金属粉末の被覆率Cは、表1−2に示されている通りである。
[比較例1−2及び6−7]
比較例1−2及び6−7は、アスペクト比が10より小又は300より大の金属粉末を用いている。各例の皮膜厚さT及び皮膜による金属粉末の被覆率Cは、表1−2に示されている通りである。
[比較例3−5及び8−10]
比較例3−5及び8−10の皮膜は、チタンアルコキシド以外の金属アルコキシドから形成された。各例の皮膜厚さT及び皮膜による金属粉末の被覆率Cは、表1−2に示されている通りである。
[総合評価1(Fe−3mass%Si粉末を用いた磁性シート)]
実部透磁率μ’及び比抵抗の値に基づき、下記の格付けを行った。
A:実部透磁率μ’が12以上であり、かつ、比抵抗が1.0×10Ω・m以上であること
B:実部透磁率μ’が10以上12未満であり、かつ、比抵抗が1.0×10Ω・m以上であること
C:実部透磁率μ’が9以上10未満である、又は、比抵抗が1.0×10Ω・m未満であること
D:実部透磁率μ’が9未満であること
この結果が、下記の表1に示されている。A、B、C、Dの順に良好である。
[総合評価2(Fe−9.5mass%Si−5.5mass%Al粉末を用いた磁性シート)]
実部透磁率μ’及び比抵抗の値に基づき、下記の格付けを行った。
A:実部透磁率μ’が8以上であり、かつ、比抵抗が1.0×10Ω・m以上であること
B:実部透磁率μ’が7以上8未満であり、かつ、比抵抗が1.0×10Ω・m以上であること
C:実部透磁率μ’が6以上7未満である、又は、比抵抗が1.0×10Ω・m未満であること
D:実部透磁率μ’が6未満であること
この結果が、下記の表2に示されている。A、B、C、Dの順に良好である。
表1に示されているように、Fe−3mass%Si粉末を金属粉末として用いた場合、実施例の粉末を使用した磁性シートでは、周波数20MHzの条件において、9以上の実部透磁率μ’が実現された。さらに皮膜の形成にチタンアルコキシドのオリゴマーを使用することで、12以上の実部透磁率μ’及び1.0×10Ω・m以上の比抵抗が実現された。表2に示されているように、Fe−9.5mass%Si−5.5mass%Al粉末を金属粉末として用いた場合、実施例の粉末を使用した磁性シートでは、周波数20MHzの条件において、6以上の実部透磁率μ’が実現された。さらに皮膜の形成にチタンアルコキシドのオリゴマーを使用することで、8以上の実部透磁率μ’及び1.0×10Ω・m以上の比抵抗が実現された。
以上説明された絶縁被覆扁平粉末は、種々の磁性シートにも適用されうる。
2・・・粉末
4・・・金属粉末
6・・・皮膜

Claims (6)

  1. 扁平加工された金属粉末と、この金属粉末の表面に付着した絶縁性の皮膜とを備えており、
    上記金属粉末のアスペクト比が10以上300以下であり、
    上記皮膜がチタンアルコキシド類を含むものの重合物からなる磁性部材用絶縁被覆扁平粉末。
  2. 上記皮膜の厚さの、上記金属粉末の厚さに対する比が0.002以上0.2以下である請求項1に記載の磁性部材用絶縁被覆扁平粉末。
  3. 上記チタンアルコキシド類がチタンアルコキシドのオリゴマーである請求項1又は2に記載の磁性部材用絶縁被覆扁平粉末。
  4. 上記皮膜による上記金属粉末の被覆率が20%以上である請求項1から3のいずれかに記載の磁性部材用絶縁被覆扁平粉末。
  5. 上記皮膜の厚さが1nm以上200nm以下であり、
    この皮膜がチタンの酸化物からなる請求項1から4のいずれかに記載の磁性部材用絶縁被覆扁平粉末。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載の絶縁被覆扁平粉末を用いて形成された磁性部材。
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