JP2018100425A - 扁平被覆粉末 - Google Patents

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Abstract

【課題】絶縁抵抗が高く、かつ透磁率の低下が抑制された扁平被覆粉末の提供。【解決手段】多数の扁平被覆粒子10からなる扁平被覆粉末8。それぞれの扁平被覆粒子8は、磁性金属からなる扁平金属粒子10と、扁平金属粒子10を被覆する第一被膜12と、第一被膜12に積層された第二被膜14とを有している。第一被膜12の材質が、Al、P及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物であり、第二被膜14の材質は、チタンアルコキシド類、ケイ素アルコキシド類又はその混合物から得られる重合物であり、好ましくは、第一被膜12の厚みtfは5〜50nmである、扁平被覆粉末8。【選択図】図1

Description

本発明は、多数の扁平被覆粒子からなる粉末に関する。詳細には、本発明は、磁性部材用扁平被覆粉末に関する。
携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ及びタブレット型パーソナルコンピュータのような携帯用電子機器が、普及している。近年は、この電子機器の小型化及び高性能化が進んでいる。これに伴い、この電子機器の回路に用いられる磁性部材にも、小型化及び高性能化の要求が高まっている。
回路基板内の磁性部材には、フェライトからなるシートに配線が印刷された基盤が用いられている。フェライトは、酸化物であり、磁性材料である。フェライトの使用例として、積層インダクタ及び積層コンデンサが挙げられる。フェライトは、絶縁抵抗が高いため、周波数が10MHzから10GHzである高周波領域において、電流を受けて磁力に変換するときの磁気損失が少ない。しかしフェライトには、透磁率が小さいという欠点がある。
透磁率が小さいというフェライトの欠点を補う目的で、樹脂及びゴムのような絶縁物中に、透磁率の高い軟磁性金属粒子が分散した成形体が、磁性部材に用いられている。これらの成形体は、磁性シートとして利用されうる。透磁率の高い軟磁性金属粒子により、飽和磁束密度が高く、磁気特性に優れた磁性シートが得られる。しかしながら、透磁率の高い軟磁性金属粒子では、絶縁抵抗が低いという欠点がある。この絶縁抵抗の低さによって、周波数が10MHzから10GHzである高周波領域において、大幅な磁気損失が生じる。
絶縁抵抗が低いという欠点を補う目的で、軟磁性金属粒子を絶縁物で被覆する検討がなされている。特開2005−272714公報では、絶縁性皮膜で被覆された磁性金属粒子を含む絶縁性磁気塗料が提案されている。特開2015−050361公報には、磁性材料である金属粉末を、絶縁性皮膜で被覆した絶縁被覆扁平粉末が開示されている。
特開2005−272714公報 特開2015−050361公報
特開2005−272714公報に開示された磁気塗料では、高い絶縁抵抗を得るために、磁性金属粒子を、より厚い絶縁性皮膜で被覆する場合がある。本発明者らの知見によれば、この絶縁性皮膜の厚みが100nmを超えると、磁気塗料中において磁性金属粒子の占める比率が減少して、透磁率が低下する可能性がある。また、余剰の絶縁性皮膜形成成分や、剥離した絶縁性皮膜が磁気塗料中に混在して、著しい透磁率低下を生じる場合もあるが、この透磁率低下を抑制する検討はなされていない。
特開2015−050361公報に開示された被覆粉末においても、高い絶縁抵抗を得るために、絶縁性皮膜を厚くする場合がある。この被覆粉末では、絶縁性皮膜の厚みが50nmを超えると、磁性部材中における磁性金属粉末の占める比率が減少して、透磁率が著しく低下する傾向が認められるが、この透磁率低下を抑制する検討はなされていない。
本発明の目的は、周波数が10MHzから10GHzである高周波領域での磁気損失を低減しうる高い絶縁抵抗を備え、かつ透磁率の低下が抑制された扁平被覆粉末の提供にある。
本発明に係る扁平被覆粉末は、多数の扁平被覆粒子からなる。それぞれの扁平被覆粒子は、磁性金属からなる扁平金属粒子と、この扁平金属粒子の表面を被覆する第一被膜と、この第一被膜に積層された第二被膜とを有している。この第一被膜の材質は、Al、P及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物である。この第二被膜の材質は、チタンアルコキシド類、ケイ素アルコキシド類又はその混合物から得られる重合物である。
好ましくは、この第一被膜の厚みtfは、5nm以上50nm以下である。
好ましくは、この扁平被覆粉末の密度がρ(kg/m)とされ、この扁平被覆粉末の原料である多数の扁平金属粒子からなる扁平金属粉末の密度がρp(kg/m)とされ、この第二被膜の密度がρ(kg/m)とされ、この扁平被覆粉末の比表面積がS(m/kg)とされ、この第二被膜の厚みがts(nm)とされるとき、下記数式(I)で導出される値Yは、0.8以上1.2以下である。
Y = [ρt・( 1 + ρp・S・ts・10-9 )] / [ρp・( 1 +ρc・S・ts・10-9 )] (I)
本発明に係る扁平被覆粉末は、磁性シート等の磁性部材に用いられる。この磁性部材の性能を表す指標として、透磁率μ、実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ”がある。実部透磁率μ’は、電磁波遮蔽特性の優劣を表す。虚部透磁率μ”は、電磁波吸収特性の優劣を表す。透磁率μは、下記数式によって導出される。
μ = μ’ + jμ”
この数式において、jは虚数を表す。jの二乗は、−1である。透磁率μ、実部透磁率μ’及び虚部透磁率μ”のそれぞれは、真空透磁率との比である比透磁率を表す。高周波数域での磁気損失tanδは、下記数式によって導出される。
tanδ = μ” / μ’
この数式から明らかな通り、μ’が小さい場合及びμ”が大きい場合に、磁気損失tanδが大きい。渦電流損失及び磁気共鳴により、μ’の低下及びμ”の上昇が生じて、磁気損失tanδが増大しうる。
本発明に係る扁平被覆粉末をなす多数の扁平被覆粒子は、第一被膜及び第二被膜を備えている。この扁平被覆粉末を用いて得られる磁性部材では、被覆粒子の扁平形状に起因して、渦電流損失が抑制される。第一被膜及び第二被膜は絶縁性である。この磁性部材では、第一被膜及び第二被膜によって、高い絶縁抵抗が得られる。この磁性部材では、10MHzから10GHzの高周波領域における磁気損失が低減される。さらに、この扁平被覆粉末では、第一被膜が、扁平金属粒子と第二被膜との密着性に寄与する。この扁平被覆粉末によれば、絶縁性被膜の剥離等に起因する透磁率の大幅な低下が抑制される。この扁平被覆粉末を用いた磁性部材では、磁性金属粒子による優れた磁気特性が充分に発揮されうる。
図1は、本発明の一実施形態に係る扁平被覆粉末をなす扁平被覆粒子が示された断面図である。
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
本発明に係る扁平被覆粉末は、多数の扁平被覆粒子の集合である。本発明において、扁平被覆粒子とは、扁平金属粒子の表面の全部又は一部に絶縁性の被膜が形成された粒子のことを意味する。扁平金属粒子とは、扁平形状を有し、かつ単一金属又は合金からなる粒子のことを意味する。
図1に、本発明の一実施形態に係る扁平被覆粉末をなす1つの扁平被覆粒子8が示されている。この扁平被覆粒子8は、扁平金属粒子10と、この扁平金属粒子10に積層された第一被膜12と、この第一被膜12に積層された第二被膜14とを有している。以下、「扁平被覆粉末」、「扁平被覆粒子」及び「扁平金属粒子」を、それぞれ、「被覆粉末」、「被覆粒子」及び「金属粒子」と称する場合がある。
図1の扁平被覆粒子8において、第一被膜12は、扁平金属粒子10に接合されている。この第一被膜12は、金属粒子10の全体を被覆している。第一被膜12が、金属粒子10を部分的に被覆してもよい。被覆粒子8が、金属粒子10と第一被膜12との間に他の被膜を有してもよい。
図1の扁平被覆粒子8において、第二被膜14は、第一被膜12に接合されている。この第二被膜14は、第一被膜12に被覆された金属粒子10の全体を被覆している。第二被膜14が第一被膜12に被覆された金属粒子10を部分的に被覆してもよい。第二被膜14が、第一被膜12に被覆されていない金属粒子10に接合されてもよい。被覆粒子8が、第二被膜14に積層された他の被膜をさらに有してもよい。
扁平金属粒子10は、磁性金属からなる。本明細書において、磁性金属とは、磁性を帯びることが可能な金属を意味し、狭義には、軟磁性金属を意味する。この扁平金属粒子10の材質としては、例えば、他の成分を含まない純金属の粉末、予め合金成分を添加した合金鋼からなる合金粉末、純金属の粉末又は合金粉末の表面に合金成分を部分的に拡散付着させた粉末等を用いることができる。純金属としては、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びガドリニウム(Gd)が例示される。合金鋼としては、上記純金属同士を合金化したものが挙げられる。上記純金属又は純金属同士からなる合金鋼に、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)からなる群から選択された少なくとも1種を添加したものを、金属粒子10の材質として用いてもよい。
扁平金属粒子10の材質の具体例としては、他の成分を含まない純鉄、Fe−3mass%Si、Fe−5.5mass%Si−8.5mass%Cr、Fe−6.5mass%Si、Fe−8mass%Si−2mass%Cr、Fe−5mass%Al、Fe−9.5mass%Si−5.5mass%Al、Fe−30mass%Ni、Fe−50mass%Co等が挙げられる。この実施形態において、好ましくは、この金属粒子10は、軟磁性材料である。なお、「mass%」は質量%と同義である。
扁平金属粒子10は、扁平加工されている。多数の扁平金属粒子10の集合である扁平金属粉末のアスペクト比は、10以上300以下が好ましい。高周波領域において大きな実部透磁率μ’が得られるとの観点から、扁平金属粉末のアスペクト比は、30以上がより好ましく、50以上が特に好ましい。渦電流による磁気損失が生じにくいとの観点から、扁平金属粉末のアスペクト比は、100以上がより好ましく、150以上が特に好ましい。
扁平金属粉末のアスペクト比の算出には、走査型電子顕微鏡(SEM)が使用される。初めに、扁平金属粒子10がSEMで観察され、平面視においてその輪郭内に画かれうる最長線分の長さLが求められる。無作為に抽出された50個の金属粒子10について長さLが求められ、これらの相加平均値Lavが算出される。次に、金属粒子10が樹脂に埋め込まれて研磨され、この研磨面が光学顕微鏡で観察される。この金属粒子10の厚さ方向が特定され、最大厚みtm及び最小厚みtnが計測される。最大厚みtm及び最小厚みtnの平均値((tm+tn)/2)が、算出される。無作為に抽出された50個の金属粒子10の平均値((tm+tn)/2)に基づき、これらの相加平均値tavが算出される。平均値Lavが平均値tavで除されることにより、扁平金属粒子10のアスペクト比(Lav/tav)が得られる。
扁平金属粉末の製造では、まず母粉末が準備される。母粉末は、ガスアトマイズ、水アトマイズ、機械的粉砕、化学的プロセス等によって得られうる。ガスアトマイズ及び水アトマイズが好ましい。この母粉末が、メディア撹拌型ミル(アトライタ)に投入され、粉砕される。この粉砕のときに粒子が扁平化し、扁平金属粉末が得られる。扁平化後の粒子に、歪取り焼鈍が施されてもよい。
渦電流抑制の観点から、扁平金属粉末の平均粒径は、300μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下が特に好ましい。樹脂等との混練性の観点から好ましい平均粒径は、20μm以上である。従って、好ましい平均粒径の範囲は20μm以上300μm以下である。平均粒径は、扁平金属粉末の全体積を100%として累積カーブが求められたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径である。粒子径は、日機装社のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3000」により測定される。この装置のセル内に、扁平金属粉末が純水と共に流し込まれ、金属粒子の光散乱情報に基づいて、平均粒径が検出される。
渦電流抑制の観点から、扁平金属粉末の、タップ密度に対するかさ密度の比R1は、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましい。理想的な比R1は、1.0である。比R1がこの数値範囲を満たすことにより、得られる磁性部材の磁気損失が低減される。扁平金属粉末のタップ密度は、「JIS Z 2512」の規定に準拠して測定される。かさ密度は、「JIS Z 2504」の規定に準拠して測定される。
この実施形態において、扁平金属粒子10の表面は、第一被膜12に被覆されている。本発明において、第一被膜12の材質は、Al、P及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物である。この第一被膜12は、金属粒子10と比べて、絶縁性である。本発明に係る扁平金属粉末を含む磁性部材において、第一被膜12は、金属粒子10同士の接触を阻止することにより、渦電流発生の防止に寄与する。
本発明において、第一被膜12が、Al、P及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物から形成されている限り、その種類及び組成は特に限定されない。本発明の効果が充分に発揮されるとの観点から、第一被膜12中のAl、P及びSiの合計として、その含有量は10質量%以上90質量%以下が好ましく、30質量%以上80質量%以下がより好ましい。本発明の効果が阻害されない範囲内で、第一被膜12の材質の一部に、Fe、Ca、Ti、Mg、Zr、Zn等の元素を含む化合物が用いられてもよい。なお、第一被膜12中の含有元素の種類及び量は、JIS K0119「蛍光X線分析通則」に準拠して、蛍光X線分析装置(日立ハイテクサイエンス社製)によって測定される。
本発明において、扁平金属粒子10の表面に、第一被膜12を形成する方法は特に限定されない。例えば、高温大気中で酸化する方法、湿式化学法、ゾル−ゲル法、共沈法、スプレーコーティング法、スパッタリング法、MO−CVD法、蒸着法等既知の手法が適宜選択されて用いられる。製造容易との観点から、高温大気中での酸化や湿式化学法が好ましい。
図1において、両矢印tfで示されているのは、第一被膜12の厚みである。発明者らは鋭意開発の結果、第一被膜12が存在することにより、第二被膜14の成長が促進され、また、第二被膜14の密着性も向上することを見出した。絶縁性を付与する第二被膜14の成長効率及び密着性向上の観点から、第一被膜12の厚みtfは、5nm以上が好ましい。透磁率低下抑制の観点から、厚みtfは、50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。
厚みtfは、扁平被覆粒子8の断面が透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影された画像において測定される。撮影のとき、被覆粒子8に、収束イオンビーム(FIB)加工による処理がなされる。無作為に抽出された10の被覆粒子8について、第一被膜12の厚みtfが測定され、平均される。
第二被膜14の成長効率及び密着性向上の観点から、第一被膜12による金属粒子10の被覆率は、50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、理想的には100%である。
第一被膜12による被覆率の算出には、透過型電子顕微鏡(TEM)による撮影画像が用いられる。詳細には、金属粒子10及び第一被膜12からなる複合粒子の断面がTEMにて観察される。多数の複合粒子の中から、金属粒子10と第一被膜12との境界の確認が可能な状態の断面画像が撮影される。この画像において、金属粒子10が第一被膜12で被覆されている長さ(以下、被覆長さとも称される)及び複合粒子の表面の長さが計測される。被覆長さが複合粒子の表面の長さで除されて、被覆率が算出される。無作為に抽出された10の画像において、第一被膜12の被覆率が算出され平均値が求められる。
この実施形態において、第一被膜12に被覆された扁平金属粒子10は、さらに第二被膜に被覆されている。本発明において、第二被膜14の材質は、チタンアルコキシド類、ケイ素アルコキシド類又はその混合物から得られる重合物である。この第二被膜14は、金属粒子10と比べて絶縁性である。本発明に係る扁平金属粉末を含む磁性部材において、第二被膜14は、金属粒子10同士の接触を阻止することにより、渦電流発生の防止に寄与する。この磁性部材では、実部透磁率μ”の上昇が抑制され、磁気損失が低減される。
この実施形態において、第二被膜14は、第一被膜12を介して扁平金属粒子10を被覆している。第一被膜12と金属粒子10との密着性は高い。この第一被膜12は、金属粒子10と第二被膜14との間に介在して、金属粒子10と第二被膜14との間に存在しうる空隙を埋める。第一被膜12によって、第二被膜14の密着性が向上する。この扁平被覆粉末では、第二被膜14の膜厚が厚くなった場合にも、余剰の被膜形成成分又は剥離した被膜片の混在に起因する透磁率の低下が抑制される。
本明細書において、チタンアルコキシド類とは、1分子中にあるチタン原子に少なくとも1つのアルコキシド基が結合している化合物を意味する。ケイ素アルコキシド類とは、1分子中にあるケイ素原子に少なくとも1つのアルコキシド基が結合している化合物を意味する。アルコキシド基とは、有機基が負の電荷を持つ酸素と結合した化合物を意味する。有機基とは、有機化合物からなる基を意味する。
チタンアルコキシド類という概念には、チタンアルコキシドのモノマー、このモノマーが複数重合されて形成されたオリゴマー、及びチタンアルコキシドが生成する前の段階の化合物(以下、前駆体とも称される。)が含まれる。チタンアルコキシド類の具体例として、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラターシャリーブトキシド、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド、チタンテトラステアリルアルコキシド、イソプロピルトリドデシルベンゼンスフォニルチタネート、ブチルチタネートダイマー等が挙げられる。
チタンアルコキシド類においてより好ましい化合物は、チタンアルコキシドのオリゴマーである。このオリゴマーは、チタンアルコキシドのモノマーに比べ、適切な速度で重合反応を起こす。チタンアルコキシドのオリゴマーから得られる第二被膜14は、薄く、かつクラックの発生が少ない。この第二被膜14は、扁平被覆粉末を含んでなる磁性部材において、電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性の向上に寄与しうる。
チタンアルコキシドのオリゴマーは、チタンアルコキシドのモノマーから形成されうる。このオリゴマーは、複数のモノマーの重合によって得られる。オリゴマーをなすモノマーの数は、第二被膜14の形成時における混合物の反応速度に影響する。適切な反応速度の観点から、このモノマーの数は4以上が好ましく、50以下が好ましい。
ケイ素アルコキシド類という概念には、ケイ素アルコキシドのモノマー、このモノマーが複数重合されて形成されたオリゴマー、及びケイ素アルコキシドが生成する前の段階の化合物(以下、前駆体とも称される。)が含まれる。ケイ素アルコキシド類の具体例として、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
より好ましい第二被膜14の材質は、チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類の混合物である。チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類の混合物は、チタンアルコキシド類、ケイ素アルコキシド類、アルミニウムアルコキシド類、ジルコニウムアルコキシド類等のアルコキシド類単体と比較して、適切な反応速度で扁平金属粒子10の表面で重合する。この混合物から形成された第二被膜14では、クラックの発生がさらに少ない。しかも、この混合物からはより薄い第二被膜14が得られうる。この第二被膜14は、扁平被覆粉末を含んでなる磁性部材において、電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性の向上に寄与しうる。この観点から、特に好ましい第二被膜14の材質は、チタンアルコキシドのオリゴマーとケイ素アルコキシド類との混合物である。
本発明の効果が阻害されない範囲で、第二被膜14が、チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類に加えてさらに他の成分を含む混合物の重合物から形成されてもよい。チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類とともに用いられる他の成分として、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛等の、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等が例示される。
第二被膜14は、種々のコーティング方法で作製されうる。コーティング方法として、混合法、ゾル・ゲル法、スプレードライヤー法及び転動流動層法が挙げられる。
チタンアルコキシド類及びケイ素アルコキシド類は、溶剤で希釈されて用いられ得る。チタンアルコキシド類又はケイ素アルコキシド類を溶解又は分散させうる種々の溶剤が、用いられ得る。溶剤の具体例として、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、酢酸エチル、プロピオン酸エチル及びテトラヒドロフランが挙げられる。
第二被膜14は、チタン酸化物、ケイ素酸化物又はその混合物を含む。ケイ素酸化物を含む第二被膜14がより好ましい。ケイ素は、第二被膜14の密着性の向上に寄与する。この扁平被覆粉末では、第二被膜14がケイ素を含むことにより、磁性部材を成形するときにおける第二被膜14の剥離が防止される。この扁平被覆粉末では、第二被膜14の剥離に起因する絶縁抵抗及び透磁率の低下が生じにくい。この扁平被覆粉末を用いてなる磁性部材は、電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性に優れる。
密着性向上の観点から、第二被膜14に含まれる、ケイ素の質量に対するチタンの質量の比は、2.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。クラック低減の観点から、この比は、6.0以下が好ましく、5.5以下がより好ましい。
図1において、両矢印tsで示されているのは、第二被膜14の厚みである。磁性部材の絶縁性能の向上及び透磁率の低下抑制の観点から、厚みtsは、1nm以上500nm以下が好ましく、1nm以上300nm以下がより好ましい。特に好ましい実施形態においては、厚みtsが、後述する数式(I)で算出される値Yが所定の数値範囲となるように調整される。
厚みtsは、扁平被覆粒子8の断面が透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影された画像において測定される。撮影のとき、被覆粒子8に、収束イオンビーム(FIB)加工による処理がなされる。無作為に抽出された10の被覆粒子8について、第二被膜14の厚みが測定され、平均される。
得られる磁性部材の電磁波遮蔽特性及び電磁波吸収特性向上の観点から、第二被膜14による被覆率は、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましく、理想的には、100%である。図1に示された被覆粒子8では、第二被膜14による被覆率は100%である。
第二被膜14による被覆率の算出には、透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影された扁平被覆粒子8の断面画像が用いられる。具体的には、TEMにて観察される多数の被覆粒子8の中から、金属粒子10及び第一被膜12からなる複合粒子と、第二被膜14との境界の確認が可能な状態の画像が撮影される。この画像において、複合粒子が第二被膜14に被覆されている長さ(以下、被覆長さとも称される。)及び複合粒子の表面の長さが計測される。被覆長さが複合粒子の表面の長さで除されて、第二被膜14の被覆率が算出される。無作為に抽出された10の画像において被覆率が算出され、平均値が求められる。
好ましくは、この扁平被覆粉末では、下記数式(I)により得られる値Yが0.8以上1.2以下となるように調整される。
Y = [ρt・( 1 + ρp・S・ts・10-9 )] / [ρp・( 1 +ρc・S・ts・10-9 )] (I)
この数式(I)において、ρは扁平被覆粉末の密度(kg/m)であり、ρpはこの扁平被覆粉末の原料である多数の扁平金属粒子からなる扁平金属粉末の密度(kg/m)であり、ρは第二被膜14の密度(kg/m)であり、Sは扁平被覆粉末の比表面積(m/kg)であり、tsは第二被膜14の厚み(nm)である。
数式(I)で導出される値Yは、第二被膜14の第一被膜12上での成長効率及び密着性を示す指標である。値Yが1に近い程、第一被膜12上での第二被膜14の成長が理想的な状態であり、密着性も高い。値Yが1に近づくほど、磁性部材の絶縁性向上と透磁率低下抑制の両立が可能となる。値Yが0.8以上1.2以下の範囲であれば、この扁平被覆粉末を用いて得られる磁性部材において、高い絶縁抵抗を得るために第二被膜14を厚くした場合にも、透磁率の大幅な低下が抑制され、磁性金属粒子による磁気特性が充分に発揮される。この観点から、より好ましい値Yは、0.9以上1.1以下であり、理想的な値Yは1である。
扁平被覆粉末の密度ρ、扁平金属粉末の密度ρ及び第二被膜14の密度ρは、特に限定されず、数式(I)で導出される値Yが0.8以上1.0以下となるように、それぞれの密度が調整される。渦電流の発生防止及び透磁率の低下抑制の観点から、扁平被覆粉末の密度ρは、3000(kg/m)以上9000(kg/m)以下が好ましい。扁平金属粉末の密度ρは、6000(kg/m)以上8500(kg/m)以下が好ましい。第二被膜14の密度ρは、2500(kg/m)以上5500(kg/m)以下が好ましい。
なお、扁平被覆粉末の密度ρ及び扁平金属粉末の密度ρは、島津製作所製の密度測定装置アキュピックII1340により測定される真密度である。第二被膜14の密度ρは、この第二被膜14の組成から算出される理論密度である。
本発明において、扁平被覆粉末の比表面積Sも特に限定されず、数式(I)で導出される値Yが0.8以上1.0以下となるように調整される。磁性シート成形性の観点から、扁平被覆粉末の比表面積Sは、500(m/kg)以上3000(m/kg)以下が好ましい。なお、扁平被覆粉末の比表面積Sは、島津製作所製の流動式比表面積自動測定装置「フローソーブIII2305」を用いて、気体吸着法により測定される。
本発明に係る扁平被覆粉末を用いて磁性部材を作成する方法は特に限定されず、既知の手法が利用されうる。例えば、この扁平被覆粉末が、混合機によって、樹脂又はゴムと混合されることにより、組成物が得られる。この組成物に、潤滑剤、バインダー等の加工助剤が配合されてもよい。この組成物から、押出等の既知の成形方法により、磁性シートが成形される。この磁性シートでは、多数の扁平被覆粒子8が、樹脂又はゴムのマトリックス中に分散されている。これらの扁平被覆粒子8は、シートの長手方向(押出方向)に配向している。本発明に係る扁平被覆粉末を含む磁性部材は、シート形状には限られない。リング、立方体、直方体、円筒等の種々の形状を、磁性部材は有しうる。
また、本発明に係る扁平被覆粉末は、扁平形状の金属粒子10が第一被膜12及び第二被膜14で被覆されてなる扁平被覆粒子8の集合体である。例えば球形状の金属粒子が第一被膜12及び第二被膜14で被覆された場合、その透磁率は、扁平被覆粒子8よりも低いが、他の絶縁被膜で被覆された球状粒子よりは高く、絶縁抵抗も維持される。本発明に係る扁平被覆粉末における第一被膜12及び第二被膜14で被覆された球形状の被覆粒子によれば、例えば、透磁率低下と絶縁性向上とを両立させた圧粉磁心の製造が可能である。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[実施例1−30及び比較例1−10]
表1に示された成分を有する母粉末1を準備した。この母粉末1(10kg)をアトライタに投入し、粉砕及び扁平化をおこなって、扁平金属粉末を得た。この扁平金属粉末をなすそれぞれの粒子の表面に、表2に1−13として示された元素を含む酸化物を材質とする第一被膜を形成した。続いて、第一被膜に被覆された扁平金属粒子のそれぞれに、表3にa−qとして示された原料成分からなる重合物を材質とする第二被膜を形成して、実施例1−30及び比較例1−10の扁平被覆粉末を得た。これらの扁平被覆粉末について、第一被膜の厚みtf(nm)、第二被膜の厚みts(nm)、扁平金属粉末の密度ρ(kg/m)、第二被膜の密度ρ(kg/m)、扁平被覆粉末の密度ρ(kg/m)、扁平被覆粉末の比表面積S(m/kg)及び数式(I)によって導出される値Yが、下記表4及び5に示されている。
[実施例31−60及び比較例11−20]
表1に示された成分を有する母粉末2を準備した。この母粉末2(10kg)をアトライタに投入し、粉砕及び扁平化をおこなって、扁平金属粉末を得た。この扁平金属粉末をなすそれぞれの粒子の表面に、表2に1−13として示された元素を含む酸化物を材質とする第一被膜を形成した。続いて、第一被膜に被覆された扁平金属粒子のそれぞれに、表3にa−qとして示された原料成分からなる重合物を材質とする第二被膜を形成して、実施例31−60及び比較例11−20の扁平被覆粉末を得た。これらの扁平被覆粉末について、第一被膜の厚みtf(nm)、第二被膜の厚みts(nm)、扁平金属粉末の密度ρ(kg/m)、第二被膜の密度ρ(kg/m)、扁平被覆粉末の密度ρ(kg/m)、扁平被覆粉末の比表面積S(m/kg)及び数式(I)によって導出される値Yが、下記表6及び7に示されている。
[実施例61−90及び比較例21−30]
表1に示された成分を有する母粉末3を準備した。この母粉末3(10kg)をアトライタに投入し、粉砕及び扁平化をおこなって、扁平金属粉末を得た。この扁平金属粉末をなすそれぞれの粒子の表面に、表2に1−13として示された元素を含む酸化物を材質とする第一被膜を形成した。続いて、第一被膜に被覆された扁平金属粒子のそれぞれに、表3にa−qとして示された原料成分からなる重合物を材質とする第二被膜を形成して、実施例61−90及び比較例21−30の扁平被覆粉末を得た。これらの扁平被覆粉末について、第一被膜の厚みtf(nm)、第二被膜の厚みts(nm)、扁平金属粉末の密度ρ(kg/m)、第二被膜の密度ρ(kg/m)、扁平被覆粉末の密度ρ(kg/m)、扁平被覆粉末の比表面積S(m/kg)及び数式(I)によって導出される値Yが、下記表8及び9に示されている。
[磁性シート(磁性部材)の作成]
表4−6に示された実施例1−90及び比較例1−30の扁平被覆粉末を用いて、以下の方法で、磁性部材である磁性シートを作成した。はじめに、この扁平複合粉末を、小型ミキサーを用いて100℃の温度下でエポキシ樹脂と混練し、粉末が均一に分散した樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂と扁平金属粉末との体積比は、5対2とされた。この樹脂組成物を、圧力が4MPaであり温度が200℃である条件で5分間熱プレス処理し、厚みが0.1mmである磁性シートを得た。
[磁性シートの評価]
作製した磁性シートについて、飽和磁束密度Bs(T)及びシート抵抗Rs(Ω/□)を測定した結果が表4−9に示されている。なお、この飽和磁束密度Bsは、BHカーブトレーサー(日本電磁測器社製)を用いて測定した。シート抵抗Rsは、ハイレスタ−UX MPC−HT800(三菱化学アナリテック社製)を用いて、JIS K 6911に準拠して測定した。
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磁性シートについて得られた飽和磁束密度及びシート抵抗に基づいて、各粉末を総合評価し、S、A、B及びFのいずれかにランキングした。表4−9において、評価が高い方から順にS、A、B、Fとして示されている。
表4−9に示されるように、実施例の扁平被覆粉末を用いて得られる磁性シートでは、飽和磁性密度が大幅に低下することなく、シート抵抗が向上した。この結果は、実施例の扁平被覆粉末によって、透磁率低下を抑制しつつ、優れた絶縁性能が得られることを意味している。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
以上説明された扁平被覆粉末は、種々の磁性部材に適用されうる。さらに、この扁平被覆粉末に用いる第一被膜及び第二被覆は、種々の形状の被覆粒子に適用される。
8・・・扁平被覆粒子
10・・・扁平金属粒子
12・・・第一被膜
14・・・第二被膜

Claims (3)

  1. 多数の扁平被覆粒子からなり、
    それぞれの扁平被覆粒子が、磁性金属からなる扁平金属粒子と、この扁平金属粒子を被覆する第一被膜と、この第一被膜に積層された第二被膜とを有しており、
    上記第一被膜の材質が、Al、P及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物であり、
    上記第二被膜の材質が、チタンアルコキシド類、ケイ素アルコキシド類又はその混合物から得られる重合物である扁平被覆粉末。
  2. 上記第一被膜の厚みtfが、5nm以上50nm以下である請求項1に記載の扁平被覆粉末。
  3. 上記扁平被覆粉末の密度がρ(kg/m)とされ、この扁平金属粉末の原料である多数の扁平金属粒子からなる扁平金属粉末の密度がρp(kg/m)とされ、上記第二被膜の密度がρ(kg/m)とされ、上記扁平被覆粉末の比表面積がS(m/kg)とされ、上記第二被膜の厚みがts(nm)とされたとき、下記数式(I)で導出される値Yが、0.8以上1.2以下である請求項1又は2に記載の扁平被覆粉末。
    Y = [ρt・( 1 + ρp・S・ts・10-9 )] / [ρp・( 1 +ρc・S・ts・10-9 )] (I)
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