しかしながら、上記特許文献1に開示されたユニット建物では、床梁に作用する荷重により発生した当該床梁の撓みを抑制することはできるが、環境温度の変化による膨張又は収縮により発生した当該床梁の撓みを抑制することができない。このため、床梁に環境温度の変化が生じた場合には、当該床梁が撓むことがある。
本発明は上記事実を考慮し、天井梁及び床梁に荷重による撓み及び環境温度の変化による撓みが発生した場合に、当該撓みを抑制又は防止することができる梁撓み調整システムを備えた建物を得ることが目的である。
請求項1に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、矩形枠状に配置された天井大梁を含んで構成された天井フレームと、矩形枠状に配置された床大梁を含んで構成された床フレームと、前記天井フレーム及び前記床フレームの対向する隅部同士を繋ぐ柱と、を備えると共に、略箱状に構成された躯体フレームと、前記天井大梁に設けられ、当該天井大梁に発生した撓みを測定する撓み測定手段と、前記撓み測定手段が設けられた前記天井大梁と前記躯体フレーム上下方向に対向する前記床大梁の前記躯体フレーム下方側に設けられ、当該床大梁を当該床大梁の撓み方向と逆方向に押し上げ可能な変位装置と、前記撓み測定手段の測定結果に基づき、前記撓み測定手段が設けられた前記天井大梁が閾値を超えて撓んでいると判断した場合には、前記変位装置を前記床大梁の撓み方向と逆方向に作動させる制御装置と、を有している。
請求項2に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、請求項1に記載の発明において、前記撓み測定手段は、前記天井大梁及び前記床大梁に設けられており、当該床大梁の前記躯体フレーム下方側に前記変位装置が設けられている。
請求項3に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記躯体フレームが、建物高さ方向に積み上げられることにより複数階建ての建物躯体が構築されており、上階側躯体フレームの前記床大梁と下階側躯体フレームの前記天井大梁とが接合部材により接合されていると共に、前記撓み測定手段は、前記建物躯体の最上階に配置された前記躯体フレームを構成する前記天井大梁に設けられている。
請求項4に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、矩形枠状に配置された天井大梁を含んで構成された天井フレームと、矩形枠状に配置された床大梁を含んで構成された床フレームと、前記天井フレーム及び前記床フレームの対向する隅部同士を繋ぐ柱と、を備えると共に、略箱状に構成された躯体フレームと、前記床大梁に設けられ、当該床大梁に発生した撓みを測定する撓み測定手段と、前記撓み測定手段が設けられた前記床大梁の前記躯体フレーム下方側に設けられ、当該床大梁を当該床大梁の撓み方向と逆方向に押し上げ可能な変位装置と、前記撓み測定手段の測定結果に基づき、前記撓み測定手段が設けられた前記床大梁が閾値を超えて撓んでいると判断した場合には、前記変位装置を当該床大梁の撓み方向と逆方向に作動させる制御装置と、を有している。
請求項5に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記撓み測定手段としての歪ゲージは、当該歪ゲージが設けられた測定対象梁における上面及び下面の複数箇所に所定の間隔で配置されている。
請求項6に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、請求項1〜請求項5記載のいずれか1項に記載の発明において、前記床大梁に接合されると共に前記変位装置に締結部材によって固定され、当該変位装置が作動された場合には、当該床大梁の上面及び下面を一体的に変位させる補強部材を備えている。
請求項7に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、請求項6記載の発明において、前記床大梁と前記補強部材とで矩形枠状の閉断面が形成されている。
請求項8に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、請求項1〜請求項7記載のいずれか1項に記載の発明において、前記躯体フレームを支持すると共に、凹部が設けられ、当該凹部に前記変位装置が設置された基礎を備えている。
請求項9に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、請求項1〜請求項7記載のいずれか1項に記載の発明において、前記床大梁の前記躯体フレーム下方側には、前記変位装置が設置された土台を備えている。
請求項10に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、請求項1〜請求項9記載のいずれか1項に記載の発明において、前記変位装置は、上下方向に伸縮し、前記床大梁を上下方向に変位させている。
請求項11に記載の発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物は、請求項1〜請求項10記載のいずれか1項に記載の発明において、前記変位装置は、前記床大梁における長手方向の複数箇所に配置されている。
請求項1に記載の本発明によれば、矩形枠状に配置された天井大梁を含んで構成された天井フレームと、矩形枠状に配置された床大梁を含んで構成された床フレームと、天井フレーム及び床フレームの対向する隅部同士を繋ぐ柱と、によって略箱状の躯体フレームが構成されている。このため、躯体フレームは、当該躯体フレーム上下方向に対向する天井大梁及び床大梁において、何れか一方に撓みが発生した場合には、何れか他方にも当該撓みと躯体フレーム上下方向に対して対称な撓みが発生する性質を有している。換言すれば、躯体フレーム上下方向に対向する天井大梁及び床大梁は躯体フレーム上下方向に対して互いに対称に変形する。
ここで、本発明では、天井大梁及び床大梁に作用する荷重や環境温度の変化により、当該天井大梁及び当該床大梁に撓みが発生することがある。特に天井大梁の周辺は、直射日光の影響を受けて高温になりやすいため、天井大梁は床大梁に比べ環境温度の上昇による撓みが発生しやすい環境にある。
しかし、本発明では、天井大梁に発生した撓みが当該天井大梁に設けられた撓み測定手段によって測定され、制御装置が当該撓み測定手段の測定結果に基づき、当該天井大梁が閾値を超えて撓んでいるか否かを判断する。そして、制御装置によって天井大梁が閾値を超えて撓んでいると判断された場合には、当該制御装置によって変位装置が作動され、当該天井大梁と躯体フレーム上下方向に対向する床大梁が、当該床大梁の撓み方向と逆方向に変位される。ここで、変位装置によって直接的に変位されるのは床大梁のみであるが、上述したように、躯体フレーム上下方向に対向する天井大梁及び床大梁は、躯体フレーム上下方向に対して互いに対称に変形するので、天井大梁も当該天井大梁の撓み方向と逆方向に変位される。このため、本発明では、天井大梁及び床大梁に荷重による撓みや環境温度の変化による撓みが発生した場合に、当該撓みを調整することができる。
請求項2に記載の本発明によれば、撓み測定手段は、天井大梁及び床大梁に設けられており、当該床大梁の躯体フレーム下方側に変位装置が設けられている。これにより、天井大梁及び床大梁のそれぞれに発生した撓みを測定することができる。
請求項3に記載の本発明によれば、躯体フレームが、建物高さ方向に積み上げられることにより複数階建ての建物躯体が構築されている。ここで、本発明では、上階側躯体フレームの床大梁と下階側躯体フレームの天井大梁とが接合部材により接合されているが、仮に当該床大梁と当該天井大梁とが接合されていない場合には、当該床大梁と当該天井大梁とは互いに独立に撓み変形する。
しかし、本発明では、上階側躯体フレームの床大梁と下階側躯体フレームの天井大梁とが接合部材により接合されており、さらには上述したように、躯体フレーム上下方向に対向する天井大梁及び床大梁は上下方向に対して互いに対称に変形する。このため、本発明では、接合部材によって接合された上階側の床大梁及び下階側の天井大梁を同じ方向に撓み変形させることができ、ひいては、当該床大梁及び当該天井大梁と建物躯体上下方向に連なって配置された全ての天井大梁及び床大梁を相互的に撓み変形させることができる。つまり、本発明では、変位装置によって、上記相互的に撓み変形する全ての天井大梁及び床大梁のうち、建物躯体の最下階を構成する躯体フレームの床大梁を変位させることで、当該全ての天井大梁及び床大梁を変位させることができる。従って、複数階建ての建物躯体において、天井大梁及び床大梁に荷重による撓みや環境温度の変化による撓みが発生した場合に、当該撓みを調整することができる。さらに、本発明では、建物躯体の最上階を構成する躯体フレームの天井大梁に撓み測定手段が設けられている。これにより、直射日光による影響を受けて最も高温になりやすい最上階を構成する躯体フレームにおける天井大梁の撓みを測定することができる。
請求項4に記載の本発明によれば、請求項1に記載の発明と基本的に同様の構成とされ、同様の作用を奏するものの、本発明では、撓み測定手段が床大梁に設けられており、当該床大梁の躯体フレーム下方側に変位装置が設けられている。これにより、床大梁に発生した撓みを測定することができると共に、当該撓み測定手段及び変位装置を当該床大梁に併せて設けることができる。
請求項5に記載の本発明によれば、撓み測定手段としての歪ゲージは、当該歪ゲージが設けられた測定対象梁における上面及び下面に配置されている。これにより、測定対象梁が撓んだ場合には、当該測定対象梁の上面及び下面に配置された歪ゲージのうち一方が引張歪を検出し他方が圧縮歪を検出することができると共に、当該測定対象梁が伸縮した場合には、双方共に引張歪及び圧縮歪のうち一方のみを検出することができる。さらに、本発明では、歪ゲージが複数箇所に所定の間隔で配置されている。これにより、歪ゲージの測定結果の精度を高めることができる。
請求項6に記載の本発明によれば、床大梁に接合されると共に変位装置に締結部材によって固定され、当該変位装置が作動された場合には、当該床大梁の上面及び下面を一体的に変位させる補強部材を備えている。これにより、変位装置の変位力が確実に床大梁に付与されると共に、当該床大梁が補強されることにより、当該変位装置の作動時において当該床大梁の上面及び下面を一体的に変位させることができる。
請求項7に記載の本発明によれば、床大梁と補強部材とで矩形枠状の閉断面が形成される。これにより、床大梁と補強部材とで形成される閉断面における図心と剪断中心とを略一致させることができる。
請求項8に記載の本発明によれば、躯体フレームを支持すると共に、凹部が設けられ、当該凹部に変位装置が設置された基礎を備えている。これにより、基礎に設けられた凹部に変位装置を設置することができる。
請求項9に記載の本発明によれば、床大梁の躯体フレーム下方側には、変位装置が設置された土台を備えている。これにより、床大梁の躯体フレーム下方側に変位装置を安定した状態で設置することができる。
請求項10に記載の本発明によれば、変位装置は、上下方向に伸縮する。これにより、床大梁を上下方向に変位させることができる。
請求項11に記載の本発明によれば、変位装置は、床大梁における長手方向の複数箇所に配置されている。これにより、床大梁の複数箇所を変位させることができる。
以上説明したように、請求項1に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、天井大梁及び床大梁に荷重による撓み及び環境温度の変化による撓みが発生した場合に、当該撓みを抑制又は防止することができるという優れた効果を有する。
請求項2に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、天井大梁及び床大梁のそれぞれの撓みを測定することができ、その結果、変位装置の変位量を適切に調整することができるという優れた効果を有する。
請求項3に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、複数階建てにされた建物躯体において、天井大梁及び床大梁に荷重による撓み及び環境温度の変化による撓みが発生した場合に、当該撓みを抑制又は防止することができると共に、直射日光の影響による温度上昇によって発生した最上階の天井大梁の撓みが、その他の天井大梁及び床大梁に伝播することを効率よく抑制又は防止することができるという優れた効果を有する。
請求項4に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、請求項1に記載の発明と同様の効果を有するが、当該効果に加え、変位装置及び撓み測定手段の設置作業の効率を向上させることができるという優れた効果を有する。
請求項5に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、制御装置が、測定対象梁に設けられた撓み測定手段としての歪ゲージの測定結果をもとに、当該測定対象梁における撓みの発生の有無及び当該測定対象梁に発生した撓みの方向を精度よく判断することができるという優れた効果を有する。
請求項6に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、変位装置の作業効率を向上させることができると共に、当該変位装置の変位力によって床大梁の下面のみが変形することを抑制又は防止することができるという優れた効果を有する。
請求項7に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、床大梁が変位装置によって変位されるときに、捩じり変形されることを抑制又は防止することができるという優れた効果を有する。
請求項8に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、建物外側から変位装置を見えないようにすることができ、ひいては建物の外観品質を向上させることができるという優れた効果を有する。
請求項9に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、変位装置の設置箇所の自由度を向上させることができるという優れた効果を有する。
請求項10に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、床大梁が上下方向のどちらの方向に撓んでも撓みを調整することができるという優れた効果を有する。
請求項11に記載の本発明に係る梁撓み調整システムを備えた建物では、床大梁が長い場合でも当該床大梁を変位させることができるという優れた効果を有する。
<第1実施形態>
以下、図1〜図10を用いて、本発明の第1実施形態に係る梁撓み調整システムを備えた建物の一例について説明する。
まず、図9及び図10を用いて本実施形態に係る建物の全体構造について説明する。図10に示されるように、本実施形態に係る建物10は、基礎張り出し部12A及び基礎本体部12Bから成る基礎12を備えている。そして、基礎張り出し部12A上に建物ユニット14を、基礎本体部12B上に複数個の下階側の建物ユニット16をそれぞれ据え付けた後に、当該下階側の建物ユニット16上に複数個の上階側の建物ユニット18を据え付けることにより建物10が構成されている。
建物ユニット14を例にとって躯体フレーム20の構成について説明すると、躯体フレーム20は、四隅に立設された柱22と、柱22の上端部同士を連結する天井フレーム24と、柱22の下端部同士を連結する床フレーム30と、によって略箱状に構成されている。天井フレーム24は、各々溝形鋼によって構成された長短二種類の天井大梁26、28を矩形枠状に配置すると共に、長い方の天井大梁26の間に図示しない複数の天井小梁が所定の間隔で架け渡されることにより構成されている。また、床フレーム30も天井フレーム24と同様の構成とされており、各々溝形鋼によって構成された長短二種類の床大梁32、34が矩形枠状に配置され、長い方の床大梁32の間に図示しない複数の床小梁が所定の間隔で架け渡されることにより構成されている。一方、図9に示されるように、建物外側に配置された床大梁32の建物下方側には、基礎12が配置されており、当該床大梁32の下側フランジ部32Bが、矩形平板状のスペーサ36、38を介して当該基礎12と当接状態とされている。また、基礎12には、上方に突出されたアンカーボルト40が設けられており、フランジ部32Bには、当該アンカーボルト40に対応する貫通孔42が設けられている。そして、貫通孔42にアンカーボルト40が挿通されると共に、当該アンカーボルト40に上方からナット44が螺合されることにより、床大梁32は基礎12に固定されている。
次に、建物10の天井部46及び床部48の構成について説明する。まず、床部48の構成について説明すると、開口側を建物内側とされて配置された床大梁32の上側フランジ部32Aには、矩形断面の角材で形成された床下地材50が、当該フランジ部32Aと当接状態で配設されている。そして、床下地材50の上面部50Aに、矩形平板状の床材52が、当該床材52の建物外側端部を、当該上面部50Aの建物外側端部から建物内側に所定距離離間された状態で、建物ユニット14の長手方向に沿って所定枚数敷設されることにより床部48が構成されている。床材52の仕上げ面52Aには、床仕上げ材54が敷設され、当該床仕上げ材54の建物外側端部は、建物10の内壁を構成する内壁パネル56に当接されている。なお、床仕上げ材54及び当該内壁パネル56によって形成される角部には、当該角部に沿って廻り縁60が配設されている。
次に、天井部46の構成について説明すると、開口側を建物内側とされて配置された天井大梁26の下側フランジ部26Bには、矩形平板状の天井下地材62が当該下側フランジ部26Bに当接状態で配設されている。このとき、天井下地材62の建物外側端部は建物10の外壁を構成する外壁パネル58に当接されている。そして、天井下地材62の下面部62Aに、矩形平板状の天井材64が、当該天井材64の建物外側端部を当該下面部62Aの略中央に位置された状態で、建物ユニット14の長手方向に沿って所定枚数敷設されることにより天井部46が構成されている。天井材64の仕上げ面64Aには、天井仕上げ用の天井クロス66が張られており、当該天井クロス66の建物外側端部は、天井材64及び内壁パネル56によって形成される角部に沿って配設された廻り縁60に当接されている。
ここで、図1に示されるように、上述した天井大梁26の上側フランジ部26A及び下側フランジ部26Bの複数箇所には、後述する撓み測定手段としての歪ゲージ72が張り付けられている。また、上述した床大梁32の下側フランジ部32Bにおける建物下方側には、後述する変位装置としての電動ジャッキ76が設けられている。そして、本実施形態では、一例として、歪ゲージ72、電動ジャッキ76及び後述する制御装置130を含んで本発明の要部である梁撓み調整システム70が構成されている。以下、本発明の要部である梁撓み調整システム70の構成について詳細に説明する。
図2には、本実施形態に係る梁撓み調整システムの概略構成を示すブロック図が示されている。図2を用いて梁撓み調整システム70の全体構成について説明すると、梁撓み調整システム70では、歪ゲージ72が制御装置130の一部を構成するデータロガー134に接続されており、当該データロガー134は制御装置130の一部を構成する制御部132に接続されている。そして、制御部132は、制御装置130の一部を構成するモータドライバ136に接続されており、当該モータドライバ136には、電動ジャッキ76が接続されている。なお、電動ジャッキ76には、建物10の中に設けられた図示しない電源から、モータドライバ136を介し電力が供給されている。
図3(A)に示されるように、本実施形態では、一例として、歪ゲージ72が、天井大梁26の上側フランジ部26A及び下側フランジ部26Bにおける建物上側の面にそれぞれ4枚ずつ、測定軸方向を当該天井大梁26の長手方向とされて、図示しない接着剤等によって張り付けられている。歪ゲージ72の張り付け位置は、フランジ部26A及びフランジ部26B部において共通なので、ここでは代表してフランジ部26Aにおける歪ゲージ72の張り付け位置について説明する。歪ゲージ72のフランジ部26Aにおける短手方向の張り付け位置は、当該フランジ部26Aの建物外側端部から距離T1の位置に設定されており、当該距離T1と当該フランジ部26Aの幅寸法T2との間には、T2=2T1の関係が成立している。また、フランジ部26Aの長手方向については、天井大梁26と柱22との仕口68からの距離T3が500mmに設定されており、歪ゲージ72同士の距離T4は、天井大梁26の長さによって異なるものの概ね500〜1000mmに設定されている。さらに、各歪ゲージ72の張り付け位置は、フランジ部26Aの長手方向の中心について対称な位置となるように設定されている。そして、それぞれの歪ゲージ72には、リード線74が接続されており、躯体フレーム20を構成する柱及び梁に図示しない固定具等によって固定され、当該リード線74のもう一方の端部がデータロガー134に接続されている。なお、図3に示されるフランジ部26A及びフランジ部26Bは、撓みによる影響が分かりやすいように、板厚が厚くされて表示されている。
データロガー134は、建物10の内部に設けられ、リード線74を介して歪ゲージ72に接続されると共に当該歪ゲージ72の測定結果を記録可能な構成とされており、所定時間毎に当該測定結果が記録されるように設定されている。また、データロガー134には、図示しないインジケータが設けられており、当該インジケータには全ての歪ゲージ72の所定時間毎の測定データが表示されるようになっている。なお、断線等によって、歪ゲージ72が測定結果を送信できなくなった場合には、インジケータにおける当該歪ゲージ72の測定データの表示部分には、「ERROR」等の文字及び記号が表示されるように設定されている。そして、データロガー134に蓄積されたデータは、制御部132に送信されるようになっている。
制御部132は、主に二つの機能を有しており、第一の機能は、制御部132に記録されている歪の基準値Sとデータロガー134の測定データをもとに電動ジャッキ76を作動させるか否かを決定すると共にモータドライバ136に作動命令を送信する機能、第二の機能は、歪の基準値Sを決定する機能である。なお、制御部132では、データロガー134のインジケータに「ERROR」と表示された歪ゲージ72の測定結果は用いられない。
まず、第一の機能について説明すると、本実施形態では、制御部132が、第一の演算として、歪の基準値Sとデータロガー134の測定データとの差を所定時間毎に計算する。歪の基準値Sとデータロガー134の測定データとの差が30μとなった場合には、第二の演算として、フランジ部26A及びフランジ部26Bに発生した歪の値の正負が異なるかをどうか判定する。そして、フランジ部26A及びフランジ部26Bに発生した歪の値の正負が異なっていた場合には、制御部132が、モータドライバ136に電動ジャッキ76の作動命令を送信する構成とされている。換言すれば、制御部132は、歪の基準値Sと測定データとの差が30μとなると共に、フランジ部26A及びフランジ部26Bのどちらか一方に発生した歪が引張歪で他方に発生した歪が圧縮歪だった場合に電動ジャッキ76を作動させるようになっている。
次に、第二の機能について説明する。ここで、歪の基準値Sは、予め測定された天井大梁26における歪のデータであり、当該歪の基準値Sは、気温の影響を少なくするために毎日リセットされることが好ましい。詳しく説明すると、夏季等気温が高い時期では、冬季等気温が低い時期に比べ、天井大梁26は膨張しており、歪の基準値Sを気温が低いときに測定した値に継続的に設定すると、測定された歪の値は歪の基準値Sよりも大きくなることが多くなり、制御部132が第二の演算を行う回数が増加する。しかしながら、気温が高い状況下では、躯体フレーム20全体が膨張し、天井大梁26に大きな歪が発生していても、撓みは発生していないことがあり得るので、この場合の制御部132における第二の演算は無駄な作業となることがある。これは、冬季等気温が低い時期において、気温が高いときに測定したデータが歪の基準値Sとして設定されていた場合も同様である。そこで、本実施形態では、季節ごとの気温の較差ひいては毎日の気温の較差による影響を少なくするために、一日の平均気温となりやすい午前9時に制御部132に記録されている歪の基準値Sを毎日リセットし、当該時刻の測定データが新規に歪の基準値Sとされるように設定されている。なお、この歪の基準値Sは、状況に応じ適宜変更することができる。
モータドライバ136は、上述したように制御部132及び図示しない電源に接続されており、当該制御部132から電動ジャッキ76の作動命令を受信した場合には、当該電動ジャッキ76の後述する駆動部114を構成するモータ116に電力を供給し、当該電動ジャッキ76を作動させるようになっている。なお、モータドライバ136は、制御部132から電動ジャッキ76の作動命令が送信されなくなった場合には、モータ116への電力供給を速やかに停止し、電動ジャッキ76が停止されるように設定されている。
図4〜図6を用いて電動ジャッキ76の配置箇所及び構成について説明する。まず、図4を用いて電動ジャッキ76の配置箇所の一例について説明すると、当該電動ジャッキ76は、全ての床大梁32の建物下方側に設けられていると共に、当該床大梁32の長手方向中央を支持している。このうち、建物下方側に基礎12が設けられている床大梁32に設けられた電動ジャッキ76は、当該基礎12上に配置されている。一方、建物下方側に基礎12が設けられていない床大梁32に設けられた電動ジャッキ76は、当該床大梁32の建物下方側に設けられると共にコンクリート等で形成された土台142上に配置されている。なお、図5及び図6に示されるように、基礎12には、平面視で上辺が長く設定されかつ下辺が短く設定された台形状に形成されると共に、奥行き寸法をL1、深さ寸法をL2に設定された凹部140が設けられており、電動ジャッキ76は、当該凹部140の底面部140Aにボルト138で固定されている。また、電動ジャッキ76の幅寸法Wと凹部140の奥行き寸法L1との間には、W<L1の関係が成立している。さらに、電動ジャッキ76の高さ寸法H、凹部140の深さ寸法L2及び床大梁32と基礎12の上面13との間隙寸法dの間には、H=L2+dの関係が成立していると共に、間隙寸法dは床大梁32と基礎12が干渉しない程度に小さな値に設定されている。
また、床大梁32の電動ジャッキ76に支持されている箇所には、フランジ部32Aとフランジ部32Bとの間に、溝形鋼によって構成されると共に長手方向の両端部に上下方向に貫通されたネジ穴128Aが設けられた補強部材128が挟持されかつ接合されている。そして、フランジ部32A、32Bには当該ネジ穴128Aと対応する貫通孔33が設けられており、後述する電動ジャッキ76のアッパーベース88側から締結部材としての長ボルト110を螺入し、フランジ部32A側から締結部材としてのナット108が締め付けられることにより、アッパーベース88、床大梁32及び補強部材128が一体的に締結されている。このとき、床大梁32と補強部材128とで形成される断面は、長ボルト110に対して対称な矩形枠状の閉断面とされている。なお、補強部材128の代わりに、フランジ部32A及びフランジ部32Bにそれぞれタップドプレートを接合する構成としてもよい。
次に、図5を用いて電動ジャッキ76の構成を説明すると、電動ジャッキ76は、大きくはジャッキ部78及び駆動部114によって構成されている。まず、ジャッキ部78について説明すると、ジャッキ部78は、2本のアッパーアーム80、82、2本のロアアーム84、86、アッパーベース88及びロアベース100によって、基本的にはパンタグラフ機構として構成されている。
ロアベース100は、矩形厚板材で形成されると共に四隅に図示しない貫通孔が設けられた板材90と、平面視で台形状の平板によって形成されると共に長手方向の両端部に図示しない貫通孔が設けられ、当該板材90の上面に所定の間隔をあけて立設された2枚の平板92と、によって構成されている。なお、上述したように、ボルト138が、板材90の貫通孔に挿通されると共に当該基礎12に螺入されることにより、電動ジャッキ76の下部が基礎12に固定されている。また、アッパーベース88は、矩形厚板材で形成され、四隅に図示しない貫通孔が設けられた板材102と、矩形平板によって形成されると共に長手方向の両端部に図示しない貫通孔が設けられ、当該板材102の上面に所定の間隔をあけて立設された2枚の平板104と、によって構成されている。なお、上述したように、板材102が床大梁32に当接された状態で、長ボルト110が、板材102の貫通孔に挿通されると共に床大梁32に螺入されることにより、電動ジャッキ76の上部が床大梁32に固定されている。
アッパーアーム80、82はそれぞれ溝形鋼によって構成されており、フランジ部の両端には図示しない貫通孔が設けられると共にウェブ部の両端が切り欠かれている。ロアアーム84、86は、幅以外はアッパーアーム80、82と同様の設定とされている。すなわち、ロアアーム84、86を構成する溝形鋼は、フランジ部の両端に図示しない貫通孔が設けられ、ウェブ部の両端が切り欠かれていると共にアッパーアーム80、82と同じ長さに設定されているが、当該溝形鋼の内幅は、アッパーアーム80、82を構成する溝形鋼の外幅と等しい長さに設定されている。そして、ピン(締結部材)112が、アッパーアーム80、82の一端に設けられた貫通孔及びアッパーベース88に設けられた貫通孔に挿通されて当該2本のアッパーアームがアッパーベース88に連結されている。また、これと同様に、ロアアーム84、86の一端がロアベース100に連結されている。さらに、アッパーアーム80の他端とロアアーム84の他端とが連結されると共に、アッパーアーム82の他端とロアアーム86の他端とが連結されることによりジャッキ部78が構成されている。このとき、アッパーアーム80とロアアーム84との連結部には後述するナットブロック120が介在されており、アッパーアーム82とロアアーム86との連結部には後述するガイドブロックが介在されている。
次に、駆動部114について説明すると、駆動部114は、モータ116、ギアボックス118、ナットブロック120、スクリューシャフト122及び図示しないガイドブロックによって構成されている。モータ116は、外形形状を円筒形とされた電動モータであり、図示しない出力軸を備えている。当該出力軸には、図示しない小径ギアが取り付けられており、当該小径ギアは、ギアボックス118に収納されている。また、アッパーアーム80のフランジ部の間には、矩形状のブロック材で構成されたナットブロック120が配設されており、当該ナットブロック120は、その両側面に、図示しない嵌合孔が設けられると共に前面から背面まで貫通するネジ穴が設けられている。そして、ジョイントピン(締結部材)126が、アッパーアーム80の貫通孔及びロアアーム84の貫通孔に挿通された後に当該嵌合孔に嵌合されることにより、アッパーアーム80、ロアアーム84及びナットブロック120が、回転可能に連結されている。一方、ガイドブロックは、矩形状のブロック材で構成され、両側面に嵌合孔が設けられると共に前面から背面まで貫通する貫通孔が設けられたブロック部と、当該ブロック部からモータ116側に延出された延出部とを備え、上面視でL字状に構成されている。なお、当該ブロック部は、アッパーアーム82のフランジ部の間に配設されている。そして、当該ブロック部には、ナットブロック120と同様に、アッパーアーム82及びロアアーム86が回転可能に連結されている。加えて、ガイドブロックの延出部には、図示しないベアリングが設けられており、前述したモータ116の出力軸が当該ベアリングに挿通されると共にモータ116が当該延出部に図示しない固定部材によって固定され、当該延出部は、モータ116と小径ギアに挟まれた状態とされている。また、ナットブロック120に設けられたネジ穴及びガイドブロックのブロック部に設けられた貫通孔には、モータ116側の先端部を除いて雄ネジが切られているスクリューシャフト122が挿通されている。スクリューシャフト122の図示しないモータ116側の先端部には、図示しない大径ギアが取り付けられており、モータ116の出力軸に取り付けられた小径ギアと係合されると共に当該小径ギアと同様にギアボックス118に収納されている。
上述のように構成された電動ジャッキ76は、モータ116にモータドライバ136から電力が供給されると、当該モータ116の出力軸が回動され、当該出力軸に取り付けられた小径ギア及び当該小径ギアに係合された大径ギアを有するスクリューシャフト122が回動されるようになっている。スクリューシャフト122には、ナットブロック120が係合されているので、アッパーアーム80及びロアアーム84と当該ナットブロック120との連結部は、スクリューシャフト122の回動により、モータ116側に対し近接又は離間されるようになっている。このため、電動ジャッキ76は、建物上下方向に図5に示される位置を基準の位置として、建物上方向にD1、建物下方向にD2伸縮される構成とされている。
次に、本実施形態の作用・効果について説明する。
本実施形態では、図10に示されるように、建物ユニット14の躯体を構成する躯体フレーム20は、四隅に立設された柱22と、柱22の上端部同士を連結する天井フレーム24と、柱22の下端部同士を連結する床フレーム30と、によって略箱状に構成されている。このため、躯体フレーム20は、図7に示されるように、建物上下方向に対向する天井大梁26及び床大梁32において、何れか一方に撓みが発生した場合には、何れか他方にも当該撓みと建物上下方向に対して対称な撓みが発生する性質を有している。つまり、図7(A)に示されるように、天井大梁26に下側に凸となる撓みが発生した場合には、床大梁32に上側に凸となる撓みが発生し、図7(B)に示されるように、天井大梁26に上側に凸となる撓みが発生した場合には、床大梁32に下側に凸となる撓みが発生する。
ところで、天井大梁26及び床大梁32に作用する荷重や環境温度の変化により、当該天井大梁26及び当該床大梁32に撓みが発生することがある。このとき、図9に示されるように、天井大梁26と天井材64とは、天井下地材62を介して接触されているので、天井大梁26の撓みが天井材64に伝播し、当該天井材64が撓むと共に当該天井材64の仕上げ面64Aに張られた天井クロス66に切れ等の損傷が生じることがある。また、床大梁32及び床材52も床下地材50を介して接触されており、床大梁32の撓みが床材52に伝播し、当該床材52の仕上げ面52Aに敷設された床仕上げ材54と内壁パネル56とがこすれて床鳴りが生じることがある。なお、これらの現象は、天井大梁26及び床大梁32に、発生した撓みによる歪の大きさが30μ以上となる当該撓みが発生したときに起こりやすい。
しかしながら、本実施形態では、上述したように梁撓み調整システム70を備えている。これにより、天井大梁26及び床大梁32に荷重による撓みや環境温度の変化による撓みが発生した場合でも当該撓みを調整することができる。以下、図8に示されるフローチャートを用いて、梁撓み調整システム70の動作手順の一例を示す。なお、梁撓み調整システム70は、図8に示されるフローチャートに限らず他の手順により行われてもよい。
例えば、荷重の影響や環境温度の変化による影響を受けて、天井大梁26が図3(B)に示されるように撓んだとする。このとき、ステップ150にて天井大梁26に張り付けられた歪ゲージ72の測定データと制御部132に記録された歪の基準値Sとが比較され、当該測定データと歪の基準値Sとの差が求められる(S150)。そして、測定データと歪の基準値Sとの差が30μ以上であるかを判定し(S152)、測定データと歪の基準値Sとの差が30μ未満であった場合には、再びステップ150に戻る。
一方、測定データと歪の基準値Sとの差が30μ以上であった場合には、次に、ステップ154にて天井大梁26における上側フランジ部26Aに発生した歪の値と、下側フランジ部26部に発生した歪の値とで、正負が異なるかが判定される(S154)。そして、フランジ部26A及びフランジ部26Bに発生した歪の値の正負が同じであった場合には、ステップ150に戻る。
一方、フランジ部26A及びフランジ部26Bに発生した歪の値の正負が異なる場合には、ステップ156にてモータドライバ136からモータ116に電力が供給されると共に電動ジャッキ76が作動され(S156)、床大梁32が変位される。このとき、フランジ部32Aとフランジ部32Bとの間には、補強部材128が挟持されているので、フランジ部32A及びフランジ32Bは一体的に変位される。
ここで、フランジ部26Aに発生した歪の値及びフランジ部26Bに発生した歪の値において、どちらが正の値(負の値)であるかによって電動ジャッキ76の作動方向が異なる。この点について詳しく説明すると、例えば、天井大梁26が図7(A)に示されるように下側に凸となって撓んだとすると、フランジ部26Aに発生する歪は圧縮歪となり、当該歪を歪ゲージ72で測定すると負の値を示す。一方、フランジ部26Bに発生する歪は引張歪となり、当該歪を歪ゲージ72で測定すると正の値を示す。そして、このとき、床大梁32は上側に凸となって撓んでいるので、電動ジャッキ76が下方向に作動されることにより、床大梁32に発生した撓みが矯正され、ひいては、天井大梁26に発生した撓みが矯正される。つまり、フランジ部26Aに張り付けられた歪ゲージ72の測定データが負の値である場合には、電動ジャッキ76が下方向に作動されることで、天井大梁26及び床大梁32に発生した撓みが矯正される。同様に、図7(B)に示されるように、天井大梁26が上側に凸となって撓んでいる場合すなわちフランジ部26Aに張り付けられた歪ゲージ72の測定データが正の値である場合には、電動ジャッキ76が上方向に作動されることで天井大梁26及び床大梁32に発生した撓みが矯正される。なお、いずれの場合であっても、全ての歪ゲージ72の測定データと歪の基準値Sとの差が30μ未満となるか、当該測定データが全て正の値又は負の値となるまで、電動ジャッキ76は作動され続ける。
このように、本実施形態では、建物10の一部を構成する躯体フレーム20が、略箱状に構成されていると共に、梁撓み調整システム70を備えている。これにより、天井大梁26及び床大梁32に荷重による撓みや環境温度の変化による撓みが発生した場合に、当該撓みを調整することができる。その結果、天井大梁26及び床大梁32に荷重による撓み及び環境温度の変化による撓みが発生した場合に、当該撓みを抑制又は防止することができると共に、当該撓みによって発生する天井クロス66の損傷及び床鳴りを抑制又は防止することができる。
また、本実施形態では、歪ゲージ72が、天井大梁26の上側フランジ部26A及び下側フランジ部26Bの複数箇所に所定の間隔で配置されている。これにより、天井大梁26が撓んだ場合には、フランジ部26A及びフランジ部26Bに配置された歪ゲージ72のうち一方が引張歪を検出し他方が圧縮歪を検出することができると共に、天井大梁26が伸縮した場合には、双方共に引張歪及び圧縮歪のうち一方のみを検出することができる。その上、本実施形態では、歪ゲージ72がフランジ部26A及びフランジ部26Bの複数箇所に所定の間隔で配置されているので、歪ゲージ72の測定結果の精度を高めることができる。その結果、制御部132が、天井大梁26に設けられた歪ゲージ72の測定結果をもとに、天井大梁26における撓みの発生の有無及び当該天井大梁26に発生した撓みの方向を精度よく判断することができる。
また、本実施形態では、床大梁32の上フランジ部32A及び下フランジ部32Bに挟持されかつ接合されると共に、電動ジャッキ76に長ボルト110によって固定されている補強部材128を備えている。これにより、電動ジャッキ76の変位力が確実に床大梁32に付与されると共に、床大梁32が補強されることにより、電動ジャッキ76の作動時においてフランジ部32A及びフランジ部32Bを一体的に変位させることができる。その結果、電動ジャッキ76の作業効率を向上させることができると共に、電動ジャッキ76の変位力によってフランジ部32Bのみが変形することを抑制又は防止することができる。
また、本実施形態では、床大梁32と補強部材128とで矩形枠状の閉断面が形成される。これにより、床大梁32と補強部材128とで形成される閉断面における図心と剪断中心とを略一致させることができ、その結果、床大梁32が電動ジャッキ76によって変位されるときに、捩じり変形されることを抑制又は防止することができる。
また、本実施形態では、基礎12に凹部140が設けられ、当該凹部140に電動ジャッキ76が設置されている。これにより、建物外側から電動ジャッキ76を見えないようにすることができ、ひいては建物10の外観品質を向上させることができる。
また、本実施形態では、床大梁32の建物下方側には、土台142が設けられており、当該土台142には、電動ジャッキ76が設置されている。これにより、床大梁32の建物下方側に電動ジャッキ76を安定した状態で設置することができ、その結果、電動ジャッキ76の設置箇所の自由度を向上させることができる。
加えて、本実施形態では、電動ジャッキ76は、上下方向に伸縮する。これにより、床大梁32を上下方向に変位させることができ、その結果、床大梁32が上下方向のどちらの方向に撓んでも撓みを調整することができる。
<第2実施形態>
次に、図10〜図12を用いて、本発明に係る建物の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一の番号を付してその説明を省略する。
これらの図に示されるように、この第2実施形態では、梁撓み調整システム70が多階層の建物躯体において全ての躯体フレーム20に適用されている点に第1の特徴がある。また、下階側の躯体フレーム20の天井大梁26と上階側の躯体フレーム20の床大梁32との間に接合部材200が設けられている点に第2の特徴がある。
まず、図10を用いて、躯体フレーム20の配置の一例を示すと、図10に示されるように、建物ユニット16及び建物ユニット18の躯体フレーム20は、建物上下方向に連なって配置され、2階建ての建物の躯体を構成している。
図11には、建物10の1階側建物ユニット16と2階側建物ユニット18との結合部が示されている。図11に示されるように、1階側の躯体フレーム20における天井大梁26の上側フランジ部26Aと2階側の躯体フレーム20における床大梁32の下側フランジ部32Bとの間には、接合部材200が接合されている。接合部材200は、フランジ部26Aの幅と等しい幅に設定されると共に長さをフランジ部26Aの長手方向の長さと等しい長さに設定された矩形平板によって構成されており、幅方向の中心に沿って複数箇所に図示しない貫通孔が設けられている。また、当該貫通孔に対応する図示しない貫通孔が、フランジ部32B及びフランジ部26Aに設けられており、これらの貫通孔にフランジ部26A側からボルト202を挿通させ、ナット204を締め付けることにより、フランジ部32Bとフランジ部26Aとが接続されている。なお、天井大梁26のフランジ部26Aとフランジ部26Bとの間や床大梁32のフランジ部32Aとフランジ32Bとの間に溝形鋼等を接合して補強してもよい。
また、本実施形態では、歪ゲージ72が、2階建ての建物躯体を構成する躯体フレーム20における全ての天井大梁26及び床大梁32に張り付けられている。
次に、本実施形態の作用・効果について説明する。
本実施形態では、2階建ての建物躯体を構成する全ての躯体フレーム20において梁撓み調整システム70が適用されている。このため、本実施形態でも、前述した第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
加えて、本実施形態では、1階側の天井大梁26と2階側の床大梁32が接合部材200によって接続されているので、1階側の天井大梁26と2階側の床大梁32を同じ方向に撓み変形させることができ、ひいては、当該天井大梁26及び当該床大梁32と建物上下方向に連なって配置された全ての天井大梁26及び床大梁32を相互的に撓み変形させることができる。ここで、図12を用いて、多階層における天井大梁及び床大梁の撓み変形の一例を説明する。図12(A)に示されるように、2階側の躯体フレーム20の天井大梁26に下側に凸となる撓みが発生した場合には、2階側の躯体フレーム20の床大梁32に上側に凸となる撓みが発生する。そして、2階側の躯体フレーム20の床大梁32と1階側の躯体フレーム20の天井大梁26とは、接合部材200によって接合されているため、当該天井大梁26にも上側に凸となる撓みが発生すると共に、当該撓みの発生により1階側の床大梁32にも下側が凸となる撓みが発生する。つまり、1階側の天井大梁26、1階側の床大梁32、2階側の天井大梁26及び2階側の床大梁32のそれぞれに発生する撓みは互いに関連している。なお、図12(B)は、別の変形パターンを例示したものである。
従って、本実施形態では、1階側の天井大梁26と2階側の床大梁32が同じ方向に撓み変形されることにより、当該天井大梁26及び当該床大梁32と建物上下方向に連なって配置された全ての天井大梁26及び床大梁32が相互的に撓み変形される。つまり、本実施形態では、1階側の床大梁32の撓みが電動ジャッキ76によって矯正されることにより、当該床大梁32と建物上下方向に連なって配置された全ての天井大梁26及び床大梁32が矯正される。
このように、本実施形態では、躯体フレーム20が、建物高さ方向に積み上げられることにより複数階建ての建物躯体が構築されており、上階側躯体フレーム20の床大梁32と下階側躯体フレーム20の天井大梁26とが接合部材200により接合されている。これにより、複数階建ての建物躯体において、天井大梁26及び床大梁32に荷重による撓みや環境温度の変化による撓みが発生した場合に、当該撓みを調整することができる。その結果、複数階建てにされた建物躯体において、天井大梁及び床大梁に荷重による撓み及び環境温度の変化による撓みが発生した場合に、当該撓みを抑制又は防止することができると共に、当該撓みによって発生する天井クロス66の損傷及び床鳴りを抑制又は防止することができる。
また、本実施形態では、歪ゲージ72が、全ての天井大梁26及び床大梁32に張り付けられている。これにより、天井大梁26及び床大梁32のそれぞれの撓みを測定することができ、その結果、電動ジャッキ76の変位量を適切に調整することができる。
さらに、本実施形態では、歪ゲージ72が建物躯体の最上階に配置された躯体フレーム20を構成する天井大梁26に設けられている。これにより、直射日光による影響を受けて最も高温になりやすい最上階を構成する躯体フレーム20における天井大梁26の撓みを測定することができ、その結果、直射日光の影響による温度上昇によって発生した最上階の天井大梁26の撓みが、その他の天井大梁26及び床大梁32に伝播することを効率よく抑制又は防止することができる。
<上記実施形態の補足説明>
(1) 上述した第1実施形態では、歪ゲージ72が、天井大梁26のみに張り付けられる構成としたが、床大梁32のみに歪ゲージ72を張り付ける構成としてもよい。これにより、歪ゲージ72及び電動ジャッキ76を当該床大梁32に併せて設けることができ、その結果、電動ジャッキ76及び歪ゲージ72の設置作業の効率を向上させることができる。
(2) 上述した第2実施形態では、2階建ての建物躯体に梁撓み調整システム70が適用される構成としたが、2階建て以上の多階層の建物躯体に適用してもよい。
(3) 上述した実施形態では、床大梁32の建物下方側に電動ジャッキ76を一つ設ける構成としたが、当該床大梁32における長手方向の複数箇所に電動ジャッキ76を設ける構成としてもよい。これにより、床大梁32の複数箇所を変位させることができ、その結果、床大梁32が長い場合でも当該床大梁32を変位させることができる。
(4) また、上述した実施形態では、床大梁34の建物下方側に電動ジャッキ76が設けられていないが、躯体フレーム20が大きい場合には、床大梁34の建物下方側に電動ジャッキ76を設ける構成としてもよい。
(5) さらに、上述した実施形態では、歪ゲージ72によって測定された歪そのものの値によって、電動ジャッキ76の作動条件が設定されているが、制御装置130によって、天井大梁26及び床大梁32に発生した撓みの撓み量を計算し、当該撓み量に基づき電動ジャッキ76を作動させてもよい。一例として、制御装置130は、天井大梁26及び床大梁32の形状及び歪ゲージ72の取付位置等のデータが予め入力され、当該データと歪ゲージ72の測定データとによって、撓み量を計算し、当該撓み量の分だけ電動ジャッキ76を変位させる構成としてもよい。
(6) さらにまた、上述した実施形態では、撓み測定手段を歪ゲージ72としたが、これに限らず、レーザー距離計及び反射シール等を撓み測定手段として用いてもよい。一例として、天井大梁26や床大梁32のウェブ部における長手方向の中心線に沿って反射シールを複数枚張り付け、当該反射シールの変位量をレーザー距離計によって測定することで、天井大梁26や床大梁32の撓み量を求める構成としてもよい。
(7) 加えて、上述した実施形態では、電動ジャッキ76に使用するモータの種類には言及されていないが、サーボモータやステッピングモータ等種々のモータを使用することができる。また、電動ジャッキ76の代わりにシリンダや空気ばね等を用いてもよい。
(8) さらに加えて、上述した実施形態では、電動ジャッキ76の周りに適宜吸音材等を設ける構成としてもよい。