JP2014190230A - 動弁装置のラッシュアジャスタ - Google Patents

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洋生 森本
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Abstract

【課題】初期セット状態を自動的に解除できる取り扱いの容易なラッシュアジャスタの提供。
【解決手段】ボディ21内に筒状の雌ねじ部材23を摺動自在に挿入し、雌ねじ部材の内径面下部に形成された雌ねじ28に雄ねじ部材29の外周に形成された雄ねじを係合する。雌ねじ部材と雄ねじ部材の相互間に捩りコイルばね33を組み込んで、相互に伸長する方向の捩り弾性力を付与する。雌ねじ部材とボディの相互間に雌ねじ部材を一定ストローク摺動可能とする状態で抜止めする抜止め手段50を設ける。雄ねじ部材の下端部外周に第1環状溝61を設け、径方向に弾性変形可能なリング部材62を組込み、ボディの内径面下部に第2環状溝63を設け、第2環状溝と第1環状溝の双方にリング部材を係合させて雌ねじ部材と雄ねじ部材を収縮させた初期セット状態に保持し、クランキング時のアームの揺動により雌ねじ部材に押込み力を負荷して初期セット状態を解除する。
【選択図】図4

Description

この発明は、内燃機関における動弁装置のバルブクリアランスを自動調整するラッシュアジャスタに関する。
カムの回転によって吸気バルブあるいは排気バルブ(以下、単にバルブという)を開閉させる動弁装置には、アームによってバルブステムを押し下げるアーム型と、カムによってバルブステムを押し下げるダイレクト型とがあり、上記アーム型動弁装置にはスイングアーム式(エンドピボット式)とロッカアーム式とが存在する。
ここで、スイングアーム式動弁装置においては、カムの下方に配置されたアームの端部をピボットで支持し、そのアームをカムの回転によりピボットを中心に揺動させ、その揺動側の端部でバルブステムを押し下げてバルブを開放させるようにしている。
一方、ロッカアーム式動弁装置においては、カムの上方に設けられたロッカシャフトを中心にしてアームを揺動自在に支持し、上記カムの回転によりアームの一端部を押し上げ、アームの他端部でバルブステムを押し下げてバルブを開放させるようにしている。
上記いずれの動弁装置においても、ラッシュアジャスタの組込みによってバルブクリアランスを自動調整している。
上記ラッシュアジャスタとして、油圧式のものが知られている。しかし、油圧式ラッシュアジャスタにおいては、エンジンオイルを作動油としているため、エンジンの回転数による油圧の変化、エンジンオイルに混入するコンタミや気泡の影響を受け易く、また、構造が複雑で組立に手間がかかり、コスト的にも不利である。
特許文献1乃至3に記載された機械式ラッシュアジャスタにおいては、上記のような問題点の発生がなく、動弁装置への組込みに有利である。ここで、特許文献1乃至3に記載された機械式ラッシュアジャスタにおいては、ねじりコイルばねからなるばね部材によって互いにねじ係合する雌ねじ部材と雄ねじ部材の相互間にねじりモーメントを与え、その雌ねじ部材と雄ねじ部材が伸長する方向への相対移動によりバルブクリアランスを吸収するようにしている。
一般に、エンジンにおいては、エンジンブロックがアルミ製とされ、バルブが鋼製とされて、エンジンブロックの線膨張係数がバルブの線膨張係数より大きくなっている。このようなエンジンの動弁系に上記機械式ラッシュアジャスタが組込まれると、エンジンの運転停止後にエンジンの温度が低下すると、エンジンブロックがバルブより大きく収縮するため、バルブが完全に閉じられなくなって、エンジンの再始動時に圧縮漏れが生じ、エンジンを再始動することができなくなるおそれが生じる。
そのような不都合を解消するため、特許文献4に記載された機械式ラッシュアジャスタにおいては、ボディ内に組込まれたプランジャを先端プランジャ部材と雄ねじ部材とに分割し、その先端プランジャ部材と雄ねじ部材間にスペーサばねを組込んで、先端プランジャ部材と雄ねじ部材の対向面間に軸方向スキマを形成し、その軸方向スキマの範囲内でスペーサばねを弾性変形させ、そのスペーサばねの弾性変形により、エンジンブロックとバルブの線膨張係数の相違による収縮差を吸収してバルブが不完全に閉鎖するのを防止している。
しかし、特許文献4に記載された機械式ラッシュアジャスタにおいては、長期の使用によってスペーサばねがへたり、自由長さが変化すると、先端プランジャ部材と雄ねじ部材の対向面間に形成された軸方向すきまが変化して、エンジン性能に影響を与えるおそれがある。
また、大きな荷重を受ける先端プランジャ部材と雄ねじ部材の接触面が摩耗した際には、その摩耗により軸方向すきまが変化して、エンジン性能に影響を与えるおそれがある。
さらに、スペーサばねは、無負荷時に自由長さとなる組込みであるため、軸方向すきまを高精度に管理するために、ばね公差を非常に小さく設定する必要があり、量産時のコストアップの要因となるばかりでなく、スペーサばねと先端プランジャ部材、若しくは、先端プランジャ部材と雄ねじ部材の接触部で摩耗が生じると、上記軸方向すきまが変化し、エンジン性能に影響を与えるおそれがある。
ここで、エンジン性能への影響とは、軸方向すきまの減少による圧縮漏れ、軸方向すきまの拡大によるメカニカルノイズの増大および出力低下をいう。
上記の不都合の発生を未然に防止するため、特許文献5に記載されたラッシュアジャスタにおいては、ボディ内に組み込まれたプランジャをねじ部材とスライド部材とに分割し、そのスライド部材のねじ部材に対する対向面に凹部を形成し、その凹部内に押圧子と、その押圧子の後端がねじ部材に当接する方向に向けて押圧子を付勢する弾性部材とを組込み、上記弾性部材が押圧子を付勢する弾性変形状態において押圧子の後端部がスライド部材のねじ部材に対する対向面より突出する状態で押圧子を抜止めするストッパを設けて、ねじ部材上のスペーサとスライド部材の対向面間に押圧子の突出長さに相当する大きさの軸方向すきまを確保するようにしている。
上記特許文献5に記載されたラッシュアジャスタにおいては、押圧子をねじ部材に向けて付勢する弾性部材が弾性変形する状態での組込みであるため、弾性部材にへたりが生じても軸方向すきまが変化することがなく、安定したバルブリフト高さを得ることができる。
特開平5−10109号公報 特開平5−18214号公報 特開平7−139315号公報 実開昭64−034407号公報 特開2011−190772号公報
ここで、ばね部材の弾性力により雄ねじ部材を雌ねじ部材から突出させるタイプの機械式ラッシュアジャスタにおいては、カムの回転によって揺動されるアームからの繰り返し変動荷重によってのみ収縮し、静的な一定荷重では収縮しない。そのため、エンジン始動時のバルブの閉じ渋りによる圧縮漏れを回避するため、エンジンへの組付けに際しては、十分に収縮させた状態で組付ける必要がある。
そこで、特許文献5に記載された機械式ラッシュアジャスタにおいては、プランジャを形成するスライド部材の先端部外周に平坦部を形成し、その平坦部とボディの開口端部の内周間にセット部材の先端部を圧入することによってスライド部材とねじ部材とで形成されるプランジャをボディ内に押込んだ初期セット状態に保持し、その初期セット状態でエンジンへの組込みを行なうようにしている。
しかし、セット部材の圧入によって初期セット状態に保持する上記ラッシュアジャスタにおいては、エンジンへの組込み後、セット部材を引抜いてラッシュアジャスタの初期セット状態を解除する必要があり、不注意によってそのセット部材を抜き忘れる可能性がある。
また、セット部材を抜き取ったとしても、誤ってエンジン内に落下させてしまう可能性がある。このとき、エンジンヘッドには複雑な構造の動弁系部品が組み込まれており、落下した部品の回収は容易ではない。また、エンジンヘッドからオイルパンへと繋がる排油口に部品が落下した場合、落下部品の回収はさらに困難となる。
さらに、エンジン周りのメンテナンスの際にラッシュアジャスタを取り外した際、スライド部材等の部品が抜け出して落下する可能性があり、その落下部品の回収も困難である。
この発明の課題は、カムの回転によって初期セット状態を自動的に解除できるようにして解除忘れを確実に防止することができるようにした取り扱いの容易な動弁装置のラッシュアジャスタを提供することである。
上記の課題を解決するために、この発明においては、底壁を有する筒状のボディと、そのボディ内に摺動自在に挿入され、ボディの上側開口端から外部に位置する上部に半球状のピボット部が設けられ、内径面の下部に雌ねじが形成された筒状の雌ねじ部材と、その雌ねじ部材の雌ねじにねじ係合される雄ねじを外周に有し、その雄ねじと雌ねじのねじ係合によって雌ねじ部材に接続された雄ねじ部材と、その雄ねじ部材と雌ねじ部材を伸長する方向に付勢する弾性部材とからなり、前記雌ねじ部材とボディの相互間に、雌ねじ部材を一定ストローク摺動可能とする状態で抜止めする抜止め手段を設け、前記雄ねじ部材の下端部外周に第1環状溝を設け、その第1環状溝内に径方向に弾性変形可能なリング部材を縮径状態で組込み、前記ボディの内径面下部には、抜止め状態とされた雌ねじ部材内に雄ねじ部材をねじ込んで雌ねじ部材と雄ねじ部材とを収縮させた初期セット状態で前記第1環状溝と対向する位置に環状の第2環状溝を設け、その第2環状溝に第1環状溝が対向した際、リング部材を第2環状溝と第1環状溝の双方に跨る嵌合状態に形状復元させて雌ねじ部材と雄ねじ部材を初期セット状態とする構成を採用したのである。
上記の構成からなるラッシュアジャスタにおいて、抜止め手段によって雌ねじ部材がボディから抜止めされる状態で雄ねじ部材を雌ねじ部材内に向けてねじ込むことにより、雌ねじ部材と雄ねじ部材とが収縮し、ラッシュアジャスタは初期セット状態とされる。その初期セット状態でリング部材を第2環状溝に係合させることにより、弾性部材の弾性力により雄ねじ部材と雌ねじ部材が相対回転して伸長する方向に移動するのが阻止され、ラッシュアジャスタは初期セット状態に保持される。
上記ラッシュアジャスタを用いて、例えば、スイングアーム式動弁装置のバルブクリアランスを自動調整する場合は、そのラッシュアジャスタを初期セット状態に保持する状態でエンジンへの組付けを行ない、雌ねじ部材の上端部に設けられたピボット部でアームの一端部を支持する組付けとする。
上記のようなラッシュアジャスタの組込み後、エンジンをクランキングすると、カムの回転により揺動するアームによって雌ねじ部材のピボット部に押込み荷重が負荷され、雌ねじ部材と共に雄ねじ部材がボディに対して下向きに相対移動する。
このとき、第1環状溝の上壁がリング部材を押圧するため、リング部材は雄ねじ部材の第1環状溝に嵌合する状態で下方に移動して第2環状溝から抜け出し、第2環状溝に対するリング部材の係合解除によってラッシュアジャスタの初期セット状態が解除される。
上記のようなラッシュアジャスタの初期セット状態の解除後においても雌ねじ部材と雄ねじ部材は下降を続け、その下降時に、弾性部材の弾性力により雌ねじ部材と雄ねじ部材とが相対的に回転しつつ伸長し、ボディの底壁に対する当接によって雄ねじ部材は下降位置に保持される。また、雌ねじ部材はカムによって所定位置まで押し下げられ、下限位置に達すると、次に、弾性部材の弾性力により回転しつつ上昇してアームを押し上げる。その押し上げにより、動弁系に形成されるガタが吸収され、ラッシュアジャスタはバルブクリアランスが調整可能な使用状態とされる。
エンジン周りのメンテナンスによってラッシュアジャスタを取り外すと、弾性部材の弾性力により雌ねじ部材が回転しつつボディの上部開口から突出する方向に移動するが、ボディと雌ねじ部材の相互間に抜止め手段が設けられているため、その抜止め手段により雌ねじ部材が抜止めされる。
このため、ボディ内から雌ねじ部材が脱落するという不都合の発生はなく、ラッシュアジャスタは組立て状態に保持されるため、取り扱いが容易である。
ここで、抜止め手段として、雌ねじ部材のボディ内径面で摺動案内される摺動部の外径面に形成された環状の第1の周溝と、ボディの内径面上部に形成された環状の第2の周溝と、その第2の周溝と第1の周溝に跨る組込みとされた抜止め用の環状体とからなり、上記第1の周溝の上下両端間の溝幅を上記第2の周溝より幅広とし、上記第2の周溝により抜止めされた環状体に第1の周溝の上下両端が当接する範囲内において雌ねじ部材を摺動自在とした構成のものを採用することができる。
この発明に係るラッシュアジャスタにおいて、雄ねじ部材の下端面に凹部を設け、その凹部内に押圧子と、その押圧子を凹部の下端開口から突出する方向に向けて付勢するばね部材とを組込み、上記雄ねじ部材に押圧子の下端部が上記凹部の下端開口から所定長さ突出する状態で抜止めするストッパを設けて、雄ねじ部材の下端面とボディの底壁上面間に押圧子の突出長さに相当する大きさの軸方向スキマを設けると、エンジンブロックとバルブの線膨張係数の相違による熱収縮差をその軸方向スキマで吸収することができるので、バルブが不完全に閉鎖するのを防止することができる。
また、ボディにおける内径面の第2環状溝の形成位置より下方の位置にリング部材を保持するリング保持溝を設けると、第2環状溝から係合解除したリング部材はリング保持溝と対向する位置で拡径してリング保持溝に係合する。このため、係合解除したリング部材を安定よく保持することができ、上記リング部材が雄ねじ部材の移動を阻害するのを防止することができる。
さらに、雌ねじ部材の上端部に工具挿入孔を設け、雄ねじ部材の上端面に上記工具挿入孔から挿入される回し工具が係合可能な係合部を設けると、工具挿入孔に差し込まれた回し工具を係合部に係合して、その回し工具に回転力を付与することにより雄ねじ部材を回転させることができるため、ラッシュアジャスタの初期セット状態を簡単に再現することができる。
この発明においては、上記のように、第2環状溝に対するリング部材の係合によってラッシュアジャスタを雌ねじ部材内に雄ねじ部材がねじ込まれた初期セット状態に保持することができ、その初期セット状態でラッシュアジャスタを動弁装置に組付けてエンジンをクランキングすると、カムの回転により揺動するアームにより雌ねじ部材に押込み荷重が負荷され、雌ねじ部材と共に雄ねじ部材が下向きに移動して第2環状溝に対するリング部材の係合が解除するため、ラッシュアジャスタの初期セット状態を自動的に簡単に解除することができる。
また、ボディと雌ねじ部材の相互間に、その雌ねじ部材を所定ストローク摺動可能とする状態で抜止めする抜止め手段を設けたことにより、メンテナンスによってラッシュアジャスタの取り外しが行われた際にボディ内から雌ねじ部材が脱落するという不都合の発生はなく、ラッシュアジャスタは常に組立て状態に保持されるため、取り扱いが容易である。
この発明に係るラッシュアジャスタが組み込まれたスイングアーム式動弁装置の縦断面図 図1に示すラッシュアジャスタの組込み部を拡大して示す断面図 図2の一部分を拡大して示す断面図 ラッシュアジャスタの初期セット状態を示す断面図 図4の一部分を拡大して示す断面図 ラッシュアジャスタの初期セット状態を解除した状態の断面図 (a)乃至(c)は雄ねじ部材の上端面に形成される係合部の各例を示す断面図
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係るラッシュアジャスタを組込んだスイングアーム式動弁装置を示す。スイングアーム式動弁装置においては、シリンダヘッド1に形成された嵌合孔2にラッシュアジャスタAを組込み、そのラッシュアジャスタAによって一端部が支持された揺動可能なアーム3の中途にローラ4を回転自在に支持し、そのローラ4をカムシャフト5に設けられたカム6の回転により押し下げてアーム3を揺動させ、そのアーム3の他端部でバルブステム7を押し下げて、バルブステム7の下端に設けられたバルブ8を開放させるようにしている。
ここで、バルブステム7は、上端にスプリングリテナ9を有し、そのスプリングリテナ9に負荷されるバルブスプリング10の押圧力によってバルブステム7は下端のバルブ8がバルブシート11に密着する方向に付勢されている。また、アーム3の一端部の下面には半球状の球面座12が形成されている。
図2に示すように、ラッシュアジャスタAは、図1に示す嵌合孔2に嵌合される筒状のボディ21を有し、そのボディ21の下端には底壁22が設けられ、内部には雌ねじ部材23が組み込まれている。
雌ねじ部材23は、下端が開口する円筒状摺動部24の上端にテーパ筒部25を介して小径筒部26を連設した筒状とされ、上記摺動部24がボディ21内に摺動自在に嵌合されている。
小径筒部26はボディ21の上端開口から外部に位置し、その上端部には半球状のピボット部27が設けられ、そのピボット部27によってアーム3の球面座12が支持され、上記ピボット部27を中心にしてアーム3は揺動自在とされている。
雌ねじ部材23の摺動部24における内周には雌ねじ28が形成され、その雌ねじ28に雄ねじ部材29の外周上部に形成された雄ねじ30がねじ係合されている。
雌ねじ部材23に形成された雌ねじ28および雄ねじ部材29に形成された雄ねじ30は、押込み力を受ける圧力側フランク31のフランク角が遊び側フランク32のフランク角より大きい鋸歯状とされている。なお、鋸歯状ねじに代えて三角ねじとしてもよい。
雄ねじ部材29の下端部は雌ねじ部材23の下端開口から下方に位置し、その下端部の外側に弾性部材33が設けられている。弾性部材33は捩りコイルばねからなり、その一端部に設けられた上部係合片33aは雌ねじ部材23の摺動部24の下端面に形成された切欠部34に係合し、また、捩りコイルばね33の他端に設けられた下部係合片33bは雄ねじ部材29の下部に設けられた外向きフランジ35の切欠部36に係合している。
捩りコイルばね33は捩り弾性力が付与された状態での組込みとされ、その復元弾性力により雌ねじ部材23と雄ねじ部材29は伸長する方向の回転力が付与されている。
雄ねじ部材29の下端面には凹部37が設けられ、その凹部37内に押圧子38が組み込まれている。押圧子38は円柱状をなし、その下端部にはフランジ38aが設けられている。フランジ38aと凹部37の上側閉塞端間にはばね部材としての圧縮コイルばね39が組み込まれ、その圧縮コイルばね39の弾性力は前述の捩りコイルばね33より強く、その圧縮コイルばね39によって押圧子38は凹部37の下端開口から下方に突出する方向に向けて付勢されている。
凹部37の下端開口部にはストッパ40が組み込まれている。ストッパ40は、円板部40aの外周に円筒部40bを設けたキャップ状をなし、上記円筒部40bが凹部37の内径面に圧入されている。
円板部40aには孔41が形成されている。押圧子38は、その下端部が円板部40aの孔41から下方に突出する状態で抜止めされて下端面がボディ21の底壁22の上面に当接し、雄ねじ部材29の下端面とボディ21の底壁22上面間には押圧子38の突出長さに相当する軸方向スキマ42が形成されている。δはその軸方向スキマの大きさを示している。
ボディ21と雌ねじ部材23の相互間には、雌ねじ部材23を一定ストローク摺動可能とする状態でボディ21の上側開口端から外部に抜け出るのを防止する抜止め手段50が設けられている。
抜止め手段50は、雌ねじ部材23のボディ内径面で摺動案内される摺動部24の外径面に環状の第1の周溝としてのガイド溝51を設け、そのガイド溝51内に周方向の一部に切り離し部を有し、自然状態での外径がボディ21の内径面より大径とされた径方向に弾性変形可能な環状体としての抜止めリング52を縮径させた状態で収容し、一方、ボディ21の内径面上部に環状の第2の周溝としての抜止め溝53を形成し、上記抜止めリング52を抜止め溝53とガイド溝51の双方に跨る嵌合としている。
上記抜止め手段50においては、抜止め溝53の上端に対する抜止めリング52の係合およびその抜止めリング52に対するガイド溝51の下端の係合によって雌ねじ部材23を抜止めする。
また、ガイド溝51を幅広とし、そのガイド溝51の上下両端が抜止め溝53によって抜止めされる抜止めリング52に当接する範囲内において雌ねじ部材23を摺動自在としている。
なお、ガイド溝51内に抜止めリング52を収容可能とするため、そのガイド溝51の溝深さは抜止めリング52の線材径より少し大きくされており、一方、抜止め溝53の溝深さは抜止めリング52の線材径のほぼ1/2とされている。
図4および図5に示すように、雄ねじ部材29とボディ21の相互間には、その雄ねじ部材29を雌ねじ部材23内に向けてねじ込んで雄ねじ部材29と雌ねじ部材23を相対的に収縮させた初期セット状態に保持する初期セット手段60が設けられている。
初期セット手段60は、雄ねじ部材29の下端部に設けられたフランジ35の外周に第1環状溝としてのリング収容溝61を設け、そのリング収容溝61内に径方向に弾性変形可能なリング部材としてのセットリング62を縮径状態で組込み、ボディ21の内径面下部には、抜止め状態とされた雌ねじ部材23内に雄ねじ部材29をねじ込んで雌ねじ部材23と雄ねじ部材29とを収縮させた初期セット状態でリング収容溝61と対向する位置に環状の第2環状溝としての初期セット溝63を設け、その初期セット溝63にリング収容溝61が対向した際、セットリング62を初期セット溝63とリング収容溝61の双方に跨る嵌合状態に形状復元させて雌ねじ部材23と雄ねじ部材29を収縮させた初期セット状態に保持している。
なお、リング収容溝61の溝深さはセットリング62の線材径より少し大きくされており、一方、初期セット溝63の溝深さはセットリング62の線材径の1/2以下の深さとされ、しかも、雄ねじ部材29が下向きに移動してリング収容溝61の上壁がセットリング62を下向きに押圧した際、セットリング62が初期セット溝63から抜け出すような溝深さに規制されている。
図6に示すように、ボディ21の内周には、初期セット溝63より下方の位置に断面V字形のリング保持溝64が設けられている。リング保持溝64は、雄ねじ部材29がボディ21の底壁22との間で軸方向スキマ42を形成する状態でリング収容溝61と対向する位置に設けられており、上記リング収容溝61がリング保持溝64と対向する位置まで雄ねじ部材29が下降すると、セットリング62が拡径してリング保持溝64に係合する。その係合によってセットリング62は停止状態に仮止めされる。
図4に示すように、雌ねじ部材23の上端部には六角レンチ等の回し工具Tが挿入可能な工具挿入孔70が設けられ、一方、雄ねじ部材29の上端には回し工具Tが係合可能な係合部71が設けられている。
係合部71は、回し工具Tに応じて適切な形状をとるようにし、上記回し工具Tが六角レンチの場合は、図7(a)に示すように六角孔とし、回し工具Tがドライバの場合は、図7(b)に示すように、マイナス溝とし、あるいは、図7(c)に示すように、プラス溝とする。
実施の形態で示すアーム式動弁装置は上記の構造からなり、ラッシュアジャスタAは、雌ねじ部材23内に雄ねじ部材29をねじ込み、雌ねじ部材23と雄ねじ部材29とを収縮させた初期セット状態に保持して動弁装置への組込みを行なう。
初期セット状態の形成に際しては、抜止めリング52が抜止め溝53の上端に係合し、その抜止めリング52にガイド溝51の下端が係合する雌ねじ部材23の抜止め状態において、図4に示すように、工具挿入孔70に回し工具Tを挿入し、その回し工具Tの先端部を雄ねじ部材29の上端に形成された係合部71に係合させた状態で回し工具Tを回転して、雄ねじ部材29を雌ねじ部材23内にねじ込むようにする。
雄ねじ部材29のねじ込みにより雌ねじ部材23と雄ねじ部材29が収縮し、雄ねじ部材29の外向きフランジ35に形成されたリング収容溝61が初期セット溝63と対向する位置まで雄ねじ部材29がねじ込まれると、セットリング62が自己の復元弾性により拡径して、図4に示すように、初期セット溝63とリング収容溝61の双方に跨る係合状態となる。その係合により弾性部材33の弾性力により雄ねじ部材29と雌ねじ部材23が相対回転して伸長する方向に移動するのが阻止され、ラッシュアジャスタAは初期セット状態に保持される。
上記のようなラッシュアジャスタAの初期セット状態でボディ21をシリンダヘッド1に形成された嵌合孔2内に嵌合する。そのラッシュアジャスタAの組込み後、アーム3の一端部をピボット部27で支持し、そのアーム3上にカムシャフト5を組付けることによって動弁装置の組立てとすることができる。
ラッシュアジャスタAの上記のような組込み後、エンジンをクランキングすると、カム6の回転により揺動するアーム3によって雌ねじ部材23のピボット部27に押込み荷重が負荷され、雌ねじ部材23と共に雄ねじ部材29がボディ21に対して下向きに相対移動する。
このとき、リング収容溝61の上壁がセットリング62を押圧するため、セットリング62は雄ねじ部材29のリング収容溝61に嵌合する状態で下方に移動して初期セット溝63から抜け出し、初期セット溝63に対するセットリング62の係合解除によってラッシュアジャスタAの初期セット状態が解除する。
このように、エンジンをクランキングすることによってラッシュアジャスタAの初期セット状態が自動的に解除されるため、初期セット状態の解除忘れが生じるという不都合の発生はない。
上記のようなラッシュアジャスタAの初期セット状態の解除後、雌ねじ部材23と雄ねじ部材29は下降を続け、その下降時、捩りコイルばね33の捩り弾性力により雌ねじ部材23と雄ねじ部材29とが相対的に回転しつつ伸長し、図6に示すように、ボディ21の底壁22に対する押圧子38の下端面の当接によって雄ねじ部材29は下降位置に保持される。また、雌ねじ部材23はカム6により所定位置まで押し下げられて、下限位置に至る。雌ねじ部材23が下限位置に達すると、次に、上記捩りコイルばね33の捩り弾性力により回転しつつ上昇してアームを押し上げる。その押し上げにより、動弁系に形成されるガタが吸収され、図2に示すように、ラッシュアジャスタAはバルブクリアランスを吸収可能な使用状態とされる。
ここで、ボディ21の底壁22に対する押圧子38の下端面の当接によって雄ねじ部材23は下降位置に保持されると、リング収容溝61がリング保持溝64と対向し、セットリング62は自己の復元弾性により拡径してリング保持溝64に係合する。このため、セットリング62は軸方向に移動することのない安定した状態に保持されて、雄ねじ部材29の軸方向への移動を阻害するようなことはない。
図1および図2に示すラッシュアジャスタAの組み込み状態において、エンジンの定常運転状態では、カム6のカム片6aがローラ4に接触して、そのローラ4が押し下げられることによりアーム3が雌ねじ部材23のピボット部27を支点にして他端が下方に移動する方向に揺動し、そのアーム3の他端でバルブステム7が押し下げられてバルブ8が開放する。
このとき、バルブスプリング10が圧縮変形し、そのバルブスプリング10の反力がアーム3を介して雌ねじ部材23に入力される。その入力荷重により雌ねじ部材23が下降し、その雌ねじ部材23の雌ねじ28と雄ねじ部材29の雄ねじ30の圧力側フランク31間に形成されるねじ隙間がなくなって、その圧力側フランク31が互いに接触し、その圧力側フランク31に入力荷重が負荷される。
ここで、雌ねじ28と雄ねじ30はねじ係合部において滑りが生じることのないねじ諸元に設定されているため、圧力側フランク31が互いに接触すると、雄ねじ部材29が雌ねじ部材23と共に下降する。
雌ねじ部材23および雄ねじ部材29が、雄ねじ部材29の下面とボディ21の底壁22間に形成された軸方向スキマ42に相当する分だけ下降し、図6に示すように、雄ねじ部材29の下端面がボディ21の底壁22に当接すると停止する。
また、雄ねじ部材29の下降により、押圧子38はばね部材としての圧縮コイルばね39の弾性に抗して凹部37内に押し込められる。
カム6がさらに回転してカム片6aがローラ4を通り過ぎると、バルブスプリング10の押圧により、バルブステム7が押し上げられて上方に移動し、また、アーム3は他端部が上方に移動する方向に揺動し、カム6のベース円6bがローラ4に接触すると、バルブ8が閉鎖する。
この時、アーム3の一端から雌ねじ部材23のピボット部27に作用していた荷重が抜けるため、ばね部材としての圧縮コイルばね39の復元弾性により雄ねじ部材29および雌ねじ部材23が上方に移動すると共に、押圧子38がストッパ40の孔41から押し出される。フランジ38aがストッパ40の円板部40aの上面に当接すると押圧子38は停止し、図2および図3に示すように、雄ねじ部材29の下端面とボディ21の底壁22の上面間に軸方向スキマ42が形成される。
このように、カム6の一回転毎に雌ねじ部材23および雄ねじ部材29は軸方向スキマ42に相当する分だけ上下動し、ラッシュアジャスタAはそれ以上に伸縮するようなことはない。実際には、雌ねじ28と雄ねじ30のねじ係合部に入力荷重が作用する際に、ねじ係合部に僅かな相対滑りが生じるが、上記入力荷重が抜けると、捩りコイルばね33の捩り弾性力により雌ねじ部材23と雄ねじ部材29が相対回転して元の位置に戻されることになる。
バルブシート11の摩耗など、バルブクリアランスが収縮しつつある時は、雌ねじ部材23の雌ねじ28と雄ねじ部材29の雄ねじ30のねじ係合部に滑りが生じて、雌ねじ部材23内に雄ねじ部材29がねじ込まれ、ラッシュアジャスタAが収縮して、バルブクリアランスを調整する。
一方、バルブステム7のエンドの摩耗などにより、バルブクリアランスが拡大しつつある場合は、捩りコイルばね33の弾性力により雌ねじ部材23と雄ねじ部材29が伸長する方向に相対回転してラッシュアジャスタAが伸長し、バルブクリアランスを吸収する。
ここで、ラッシュアジャスタAには、ボディ21の底壁22と雄ねじ部材29の下端面間に軸方向スキマ42が形成されているため、シリンダヘッド1とバルブ8の線膨張係数の相違による収縮差はその軸方向スキマ42で吸収されることになり、バルブ8の不完全な閉鎖が防止される。
エンジン周りのメンテナンスによってラッシュアジャスタAが取り外しされると、捩りコイルばね33の捩り弾性により雌ねじ部材23が回転しつつボディ21の上側開口端から突出する方向に移動する。その移動により、抜止め溝53の上端に抜止めリング52が係合し、その抜止めリング52にガイド溝51の下端が係合して雌ねじ部材23が抜止めされる。
このため、雌ねじ部材23等の内部部品が脱落するという不都合の発生はなく、ラッシュアジャスタAは常に組立て状態に保持されるため、取り扱いが容易である。
ラッシュアジャスタAの再度の組付けに際しては、工具挿入孔70から回し工具Tを挿入し、その回し工具Tの先端部を雄ねじ部材29の係合部71に係合させた状態で回し工具Tを回転して、雄ねじ部材29を雌ねじ部材23内にねじ込み、セットリング62を初期セット溝63とリング収容溝61の双方に跨る係合状態としてラッシュアジャスタAを初期セット状態とし、その初期セット状態でラッシュアジャスタAの組付けを行ない、エンジンのクランキングによって初期セット状態を解除する。
図1では、スイングアーム式動弁装置にラッシュアジャスタAを適用した場合を例にとって説明したが、ラッシュアジャスタAが適用される動弁装置はこれに限定されるものではない。
例えば、カムの上方に設けられたロッカシャフトを中心にしてアームを揺動自在に支持し、上記カムの回転によりアームの一端部を押し上げ、アームの他端部でバルブステムを押し下げてバルブを開放させるようにしたロッカアーム式動弁装置や、カムによってバルブステムを押し下げるダイレクト型動弁装置にも適用することができる。さらに、カムシャフトを下方に設置し、プッシュロッドでシリンダ上部に配置したロッカアームを揺動させるようにしたOHVエンジンのロッカアームの先端部に組込むことも可能である。
21 ボディ
22 底壁
23 雌ねじ部材
24 摺動部
27 ピボット部
28 雌ねじ
29 雄ねじ部材
30 雄ねじ
37 凹部
38 押圧子
39 圧縮コイルばね(ばね部材)
40 ストッパ
42 軸方向スキマ
50 抜止め手段
51 ガイド溝(第1の周溝)
52 抜止めリング(環状体)
53 抜止め溝(第2の周溝)
61 リング収容溝(第1環状溝)
62 セットリング(リング部材)
63 初期セット溝(第2環状溝)
64 リング保持溝

Claims (5)

  1. 底壁を有する筒状のボディと、そのボディ内に摺動自在に挿入され、内径面の下部に雌ねじが形成された筒状の雌ねじ部材と、その雌ねじ部材の雌ねじにねじ係合される雄ねじを外周に有し、その雄ねじと雌ねじのねじ係合によって雌ねじ部材に接続された雄ねじ部材と、その雄ねじ部材と雌ねじ部材を伸長する方向に付勢する弾性部材とからなり、
    前記雌ねじ部材とボディの相互間に、雌ねじ部材を一定ストローク摺動可能とする状態で抜止めする抜止め手段を設け、前記雄ねじ部材の下端部外周に第1環状溝を設け、その第1環状溝内に径方向に弾性変形可能な初期セット用のリング部材を縮径状態で組込み、前記ボディの内径面下部には、抜止め状態とされた雌ねじ部材内に雄ねじ部材をねじ込んで雌ねじ部材と雄ねじ部材とを収縮させた初期セット状態で前記第1環状溝と対向する位置に第2環状溝を設け、その第2環状溝に第1環状溝が対向した際、リング部材を第2環状溝と第1環状溝の双方に跨る嵌合状態に形状復元させて雌ねじ部材と雄ねじ部材を初期セット状態とする動弁装置のラッシュアジャスタ。
  2. 前記抜止め手段が、前記雌ねじ部材の前記ボディ内径面で摺動案内される摺動部の外径面に形成された第1の周溝と、前記ボディの内径面上部に形成された環状の第2の周溝と、その第2の周溝と第1の周溝に跨る組込みとされた径方向に弾性変形可能な抜止め用の環状体とからなり、前記第1の周溝の上下両端間の溝幅を前記第2の周溝より幅広とし、前記第2の周溝により抜止めされた環状体に第1の周溝の上下両端が当接する範囲内において雌ねじ部材が摺動自在とされた請求項1に記載の動弁装置のラッシュアジャスタ。
  3. 前記雄ねじ部材の下端面に凹部を設け、その凹部内に押圧子と、その押圧子を凹部の下端開口から突出する方向に向けて付勢するばね部材とを組込み、前記雄ねじ部材に前記押圧子の下端部が前記凹部の下端開口から所定長さ突出する状態で抜止めするストッパを設けて、雄ねじ部材の下端面とボディの底壁上面間に押圧子の突出長さに相当する大きさの軸方向スキマを設けた請求項1又は2に記載の動弁装置のラッシュアジャスタ。
  4. 前記ボディの内径面の前記第2環状溝より下方にリング部材を保持するリング保持溝を設けた請求項1乃至3のいずれか1項に記載の動弁装置のラッシュアジャスタ。
  5. 前記雌ねじ部材の上端部に工具挿入孔を設け、前記雄ねじ部材の上端面に前記工具挿入孔から挿入される回し工具が係合可能な係合部を設けた請求項1乃至4のいずれか1項に記載の動弁装置のラッシュアジャスタ。
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