WO2009119398A1 - ラッシュアジャスタ - Google Patents

Abstract

　アジャストスクリュを繰り返し初期セットすることが可能なラッシュアジャスタを提供する。 　内周に雌ねじ１５を有するナット部材１４と、雌ねじ１５にねじ係合する雄ねじ１６を外周に有するアジャストスクリュ１７と、そのアジャストスクリュ１７をナット部材１４から突出する方向に付勢するリターンスプリング１９とを有するラッシュアジャスタ１において、アジャストスクリュ１７とナット部材１４の間に挟まれる初期セット部材２５を着脱可能に設け、その初期セット部材２５とアジャストスクリュ１７の間の摩擦力と、初期セット部材２５とナット部材１４の間の摩擦力とによって、アジャストスクリュ１７がナット部材１４に固定されるようにする。

Description

ラッシュアジャスタ

　この発明は、エンジンの動弁装置に組み込まれるラッシュアジャスタに関する。

　エンジンの吸気ポートまたは排気ポートに設けたバルブを動作させる動弁装置として、一端部を支点として揺動可能に支持されたアームの中央部をカムで押し下げ、そのアームの他端部でバルブステムを押し下げるようにしたもの（スイングアーム式動弁装置）や、中央部を支点として揺動可能に支持されたアームの一端部をカムで押し上げ、そのアームの他端部でバルブステムを押し下げるようにしたもの（ロッカアーム式動弁装置）などが知られている。

　これらの動弁装置は、エンジン作動中、動弁装置の構成部材間に生じる熱膨張差によって、動弁装置の構成部材間の隙間が変化し、その隙間の変化によって異音や圧縮漏れを生じる恐れがある。また、動弁装置の摺動部が摩耗しても、動弁装置の構成部材間の隙間が変化し、その隙間の変化によって異音を生じる恐れがある。

　この異音や圧縮漏れを防止するため、一般に、動弁装置にはラッシュアジャスタが組み込まれ、そのラッシュアジャスタで動弁装置の構成部材間の隙間の変化を吸収する。

　このようなラッシュアジャスタとして、上記スイングアーム式動弁装置においては、シリンダヘッドの上面に開口した収容穴に挿入されるナット部材と、そのナット部材の内周に形成された雌ねじにねじ係合する雄ねじを外周に有するアジャストスクリュと、そのアジャストスクリュを前記ナット部材から上方に突出する方向に付勢するリターンスプリングとを有し、前記アジャストスクリュで動弁装置のアームを揺動可能に支持するものが知られている（特許文献１）。

　また、上記ロッカアーム式動弁装置においては、カムの回転に応じて揺動するアームの下面に開口した収容穴に挿入されるナット部材と、そのナット部材の内周に形成された雌ねじにねじ係合する雄ねじを外周に有するアジャストスクリュと、そのアジャストスクリュを前記ナット部材から下方に突出する方向に付勢するリターンスプリングとを有し、前記アジャストスクリュで動弁装置のバルブステムを押圧するものが知られている（特許文献２）。

　これらのラッシュアジャスタは、エンジン作動中、カムの回転により、アジャストスクリュに押し込み方向の荷重が負荷されたときに、アジャストスクリュの雄ねじがナット部材の雌ねじで受け止められ、アジャストスクリュの軸方向位置が固定される。

　また、これらのラッシュアジャスタは、動弁装置の熱膨張などによってアームとバルブステムの相対位置が変化すると、その位置変化に応じて、アジャストスクリュがナット部材内を回転しながら軸方向に移動し、動弁装置の構成部材間の隙間を調整する。

　ところで、これらのラッシュアジャスタは、動弁装置から取り外した状態では、リターンスプリングの付勢力によってアジャストスクリュがナット部材から突出するが、その状態で動弁装置に組み込むと、バルブがバルブシートに着座せず、エンジンが完爆しない。そのため、このラッシュアジャスタは、動弁装置に組み込む際に、アジャストスクリュをナット部材にねじ込み、そのアジャストスクリュをナット部材から突出しないように押さえておく必要があるが、アジャストスクリュを押さえておくのは煩雑である。

　そこで、動弁装置から取り外した状態のときに、アジャストスクリュをナット部材から突出しないように固定（以下、「初期セット」という）することが可能なラッシュアジャスタとして、ナット部材内に蝋を充填し、その蝋でアジャストスクリュを固定したものが提案されている（特許文献３）。

　このラッシュアジャスタは、アジャストスクリュが蝋で固定されているので、動弁装置に組み込むときにアジャストスクリュを押さえておく必要がない。また、ラッシュアジャスタを動弁装置に組み込んだ後は、エンジン作動中の温度上昇によって蝋が融解し、アジャストスクリュの初期セットが解除される。

　しかし、アジャストスクリュを固定する蝋は、いったん融解するとナット部材から流出するので、アジャストスクリュを再び初期セットすることができない。そのため、エンジンをオーバーホールするときに不便であった。

　また、アジャストスクリュを初期セットする方法として、アジャストスクリュとナット部材に小径の貫通孔を形成し、その貫通孔にセットピンを挿し通してアジャストスクリュを回り止めする方法が考えられるが、この場合、アジャストスクリュの貫通孔をナット部材の貫通孔に一致させるために、アジャストスクリュのねじ込みを微調整する必要があり、初期セット作業が煩雑である。また、アジャストスクリュを予め決まった高さにねじ込んだ状態でしか初期セットすることができず、初期セットの自由度が低い。

特開２００５－２４８９１２号公報 特開２００７－９２６６８号公報 特開２０００－１１０５２３号公報

　この発明が解決しようとする課題は、アジャストスクリュを繰り返し初期セットすることが可能なラッシュアジャスタを提供することである。

　上記の課題を解決するため、前記アジャストスクリュとナット部材の間に挟まれる初期セット部材を着脱可能に設け、その初期セット部材とアジャストスクリュの間の摩擦力と、初期セット部材とナット部材の間の摩擦力とによって、アジャストスクリュがナット部材に固定される構成をラッシュアジャスタに採用した。このようにすると、初期セット部材の着脱によってアジャストスクリュを繰り返し初期セットすることができる。

　このようなラッシュアジャスタとして、例えば、次の構成のラッシュアジャスタを採用することができる。
１）前記アジャストスクリュは、前記ナット部材からの突出部分にナット部材の内径よりも大きい外径の頭部を有し、前記初期セット部材は、前記アジャストスクリュの頭部とナット部材の間に挟まれる一対のアーム部と、そのアーム部の一端同士を連結する操作つまみ部とからなり、前記アーム部は、アジャストスクリュの頭部とナット部材との間で弾性的に圧縮可能に形成されている。
２）前記アジャストスクリュの外周と前記ナット部材の内周の少なくとも一方に、前記アジャストスクリュとナット部材の間に差し込み口を開口させる切り欠きが設けられ、前記初期セット部材は、前記差し込み口に弾性的に圧縮した状態で差し込まれる。

　上記１）の構成のラッシュアジャスタは、アジャストスクリュをナット部材にねじ込んで、アジャストスクリュの頭部とナット部材との間で初期セット部材のアーム部を圧縮すると、そのアーム部の弾性復元力によってアーム部とアジャストスクリュの頭部との間に摩擦力が生じるとともに、アーム部とナット部材との間にも摩擦力が生じ、その摩擦力によってアジャストスクリュを初期セットすることができる。また、初期セット部材をアジャストスクリュの頭部とナット部材の間から引き抜くことにより、アジャストスクリュの初期セットを解除することができる。

　上記１）のラッシュアジャスタを採用する場合、初期セット部材として、例えば、次の構成の初期セット部材を採用することができる。
１ａ）金属製の線材を曲げて形成され、前記アーム部は、前記線材を波形に曲げて弾性を付与された初期セット部材。
１ｂ）金属製の板材をプレス成形して形成され、前記アーム部は、前記板材を波形に曲げて弾性を付与された初期セット部材。
１ｃ）弾性を有する樹脂を射出成形して形成された初期セット部材。

　１ｂ），１ｃ）の初期セット部材は、前記操作つまみ部に治具挿入穴を設けることができる。このようにすると、治具挿入穴に治具を差し込んで初期セット部材を引き抜くことができ、初期セットの解除作業が容易となる。

　上記２）のラッシュアジャスタは、アジャストスクリュとナット部材の間に開口する差し込み口に、初期セット部材を弾性的に圧縮した状態で差し込むと、その初期セット部材の弾性復元力によって初期セット部材とアジャストスクリュの間に摩擦力が生じるとともに、初期セット部材とナット部材の間に摩擦力が生じ、その摩擦力によってアジャストスクリュを初期セットすることができる。また、初期セット部材を差し込み口から引き抜くことにより、アジャストスクリュの初期セットを解除することができる。

　上記２）のラッシュアジャスタを採用する場合、前記アジャストスクリュとして、前記ナット部材内に軸方向にスライド可能に挿入されたピボット部材と、そのピボット部材のナット部材内への挿入端を支持し、前記雄ねじを外周に有する雄ねじ部材と、前記ピボット部材と雄ねじ部材の間に挟まれた弾性部材とからなるアジャストスクリュを採用することができ、この場合、前記切り欠きは、前記ピボット部材の外周に形成することができる。

　また、上記２）のラッシュアジャスタを採用する場合、前記切り欠きとしては、例えば、アジャストスクリュの外周に形成されたＤカット部や２面取り部を挙げることができる。

　前記切り欠きは、アジャストスクリュの外周の雄ねじを分断するように形成する場合、周方向に等間隔となるように複数形成すると好ましい。このようにすると、雄ねじと雌ねじが軸心に関して対称に接触するので、エンジン作動中、アジャストスクリュが傾きにくい。また、鍛造加工によりアジャストスクリュを成形する場合、その鍛造加工を精度よく行なうことができる。

　上記２）のラッシュアジャスタを採用する場合、前記初期セット部材には、指をかけることが可能な引き抜き操作部を設けると、その引き抜き操作部に指をかけて初期セット部材を引き抜くことができ、初期セットの解除作業が容易となる。また、前記初期セット部材は、ゴムまたは樹脂で形成すると、鉄などの金属で形成するよりも軽量化することができる。

　この発明は、例えば、次のラッシュアジャスタに適用することができる。
１）前記ナット部材は、シリンダヘッドの上面に開口した収容穴に挿入され、前記アジャストスクリュは、動弁装置のアームを揺動可能に支持するスイングアーム式動弁装置のラッシュアジャスタ。
２）前記ナット部材は、カムの回転に応じて揺動するアームの下面に開口した収容穴に挿入され、前記アジャストスクリュは、動弁装置のバルブステムを押圧するロッカアーム式動弁装置のラッシュアジャスタ。

　この発明のラッシュアジャスタは、着脱可能に設けた初期セット部材でアジャストスクリュを固定するので、アジャストスクリュを繰り返し初期セットすることが可能である。

　また、前記アジャストスクリュの頭部とナット部材との間で初期セット部材のアーム部を圧縮するようにしたものは、アジャストスクリュを最後までねじ込んで初期セットするので、アジャストスクリュのねじ込みを微調整する必要がなく、初期セット作業が簡単である。

　また、アジャストスクリュとナット部材の間に開口する差し込み口に、初期セット部材を弾性的に圧縮した状態で差し込むようにしたものは、アジャストスクリュを任意の高さに移動させ、その状態で初期セット部材を差し込むことにより、任意の高さでアジャストスクリュを初期セットすることが可能である。

この発明の第１実施形態のラッシュアジャスタを組み込んだ動弁装置を示す正面図 図１に示すアジャストスクリュを初期セットする前の状態を示すラッシュアジャスタの拡大断面図 図２のIII－III線に沿った拡大断面図 図２のIV－IV線に沿った拡大断面図 図２に示すアジャストスクリュを初期セットした状態を示す拡大断面図 図１に示すアジャストスクリュの初期セットを解除した状態を示す正面図 図２～図４に示す初期セット部材の変形例を示す拡大斜視図 図７に示す初期セット部材でアジャストスクリュを初期セットした状態を示す図 図２～図４に示す初期セット部材の他の変形例を示す拡大斜視図 図９に示す初期セット部材でアジャストスクリュを初期セットした状態を示す図 この発明の第２実施形態のラッシュアジャスタを組み込んだ動弁装置を示す正面図 図１１のラッシュアジャスタ近傍の拡大断面図 この発明の第３実施形態のラッシュアジャスタを組み込んだ動弁装置を示す正面図 図１３に示すラッシュアジャスタの拡大断面図 図１４のXV－XV線に沿った断面図 図１４に示す初期セット部材の弾性部を差し込み口に挿入した状態を示す拡大断面図 図１４に示す初期セット部材の弾性部を差し込み口から抜き出した状態を示す拡大断面図 図１４に示す初期セット部材の斜視図 図１４に示すラッシュアジャスタの変形例を示す断面図 図１９のXX－XX線に沿った断面図 図１９に示す初期セット部材の弾性部を差し込み口から抜き出した状態を示す拡大断面図 この発明の第４実施形態のラッシュアジャスタを組み込んだ動弁装置を示す正面図 図２２に示すラッシュアジャスタの拡大断面図 図２３のXXIV－XXIV線に沿った断面図 この発明の第５実施形態のラッシュアジャスタを示す拡大断面図 図２５のXXVI－XXVI線に沿った断面図

符号の説明

１、４１，７１，９１，１０１　ラッシュアジャスタ
２　シリンダヘッド
７、４７　アーム
１３、５３　収容穴
１４、５４　ナット部材
１５　雌ねじ
１６　雄ねじ
１７、５７　アジャストスクリュ
１７Ａ　ピボット部材
１７Ｂ　雄ねじ部材
１７Ｃ　ばね座金
１９、５９　リターンスプリング
２３、６３　頭部
２５、２８、３２、７５　初期セット部材
２６，２９，３３　アーム部
２７、３０、３４　操作つまみ部
３１、３５　治具挿入穴
４５　バルブステム
４６　カム
７３、９５，９６　軸方向溝
７４、９７　差し込み口
７７　引き抜き操作部
１０２　　Ｄカット部

　図１に、この発明の第１実施形態のラッシュアジャスタ１を組み込んだ動弁装置を示す。この動弁装置は、エンジンのシリンダヘッド２の吸気ポート３に設けられたバルブ４と、そのバルブ４に接続されたバルブステム５と、カム６の回転に応じて揺動するアーム７とを有する。

　バルブステム５は、バルブ４から上方に延び、シリンダヘッド２を摺動可能に貫通している。バルブステム５の上部外周には、環状のスプリングリテーナ８が固定され、スプリングリテーナ８の下面とシリンダヘッド２の上面の間にバルブスプリング９が組み込まれている。バルブスプリング９は、スプリングリテーナ８を介してバルブステム５を上方に付勢し、その付勢力によってバルブ４をバルブシート１０に着座させている。

　アーム７は、一方の端部をラッシュアジャスタ１で揺動可能に支持され、他方の端部がバルブステム５の上端に接触している。また、アーム７の中央部には、アーム７の上方に設けられたカム６で押圧されるローラ１１が取り付けられている。カム６は、エンジンのクランクシャフト（図示せず）に同調して回転するカムシャフト１２に一体に形成されている。

　図１、図２に示すように、ラッシュアジャスタ１は、シリンダヘッド２の上面に開口した収容穴１３に挿入される筒状のナット部材１４と、ナット部材１４の内周に形成された雌ねじ１５にねじ係合する雄ねじ１６を下部外周に有するアジャストスクリュ１７と、アジャストスクリュ１７とナット部材１４の底部１８との間に組み込まれたリターンスプリング１９とを有する。

　図２に示すように、雄ねじ１６と雌ねじ１５は、アジャストスクリュ１７をナット部材１４に押し込む方向の荷重が負荷されたときに圧力を受ける圧力側フランク２０のフランク角が、遊び側フランク２１のフランク角よりも大きい鋸歯状に形成されており、押し込み方向の軸方向荷重がアジャストスクリュ１７に静的に負荷されたときは、雄ねじ１６と雌ねじ１５の圧力側フランク２０，２０間の摩擦抵抗によってアジャストスクリュ１７の回転が阻止され、突出方向の軸方向荷重がアジャストスクリュ１７に静的に負荷されたときは、雄ねじ１６と雌ねじ１５の遊び側フランク２１，２１間の滑りによってアジャストスクリュ１７の回転が許容されるようになっている。このような雄ねじ１６と雌ねじ１５として、例えば、圧力側フランク２０のフランク角が７５°、遊び側フランク２１のフランク角が１５°のものを採用することができる。

　リターンスプリング１９は圧縮コイルばねであり、軸方向に圧縮された状態でナット部材１４内に組み込まれている。リターンスプリング１９は、下端がナット部材１４の底部１８で支持され、上端がスプリングシート２２を介してナット部材１４から突出する方向の軸方向力をアジャストスクリュ１７に付与している。その軸方向力によって、アジャストスクリュ１７は、ナット部材１４から上方に突出する方向に付勢されている。

　アジャストスクリュ１７は、ナット部材１４の上端面からの突出部分に、ナット部材１４の内径よりも大きい外径の頭部２３を有する。頭部２３は、図１に示すように、アーム７の端部下面に形成された凹部２４に嵌合してアーム７を支持する。頭部２３は、凹部２４との接触面が半球状に形成されており、この頭部２３と凹部２４の間の摺動により、アーム７が揺動可能となっている。

　図２に示すように、頭部２３の下端面とナット部材１４の上端面との間には、金属製の線材を曲げて形成した初期セット部材２５が差し込まれている。初期セット部材２５は、図３、図４に示すように、アジャストスクリュ１７を間にして径方向に対向する一対のアーム部２６，２６と、そのアーム部２６，２６の一端同士を連結する操作つまみ部２７とからなる。また、図５に示すように、各アーム部２６は、頭部２３の下端面とナット部材１４の上端面との間で挟まれる部分の線材を波形に曲げることによって、軸方向の弾性を付与されている。

　上述したラッシュアジャスタ１の動弁装置への組み込みは、例えば、次のようにして行なう。

　図２に示すように、アジャストスクリュ１７の頭部２３とナット部材１４の間に初期セット部材２５のアーム部２６を差し込んだ状態で、アジャストスクリュ１７を回転操作してナット部材１４にねじ込むと、図５に示すように、頭部２３の下端面とナット部材１４の上端面との間でアーム部２６が挟まれて圧縮される。このとき、アーム部２６の弾性復元力によってアーム部２６とアジャストスクリュ１７の頭部２３との間に摩擦力が生じるとともに、アーム部２６とナット部材１４との間にも摩擦力が生じ、その摩擦力によってアジャストスクリュ１７が回り止めされ、その結果、アジャストスクリュ１７は、ナット部材１４から突出しないように固定（すなわち、初期セット）される。

　次に、図１に示すように、ラッシュアジャスタ１をシリンダヘッド２の収容穴１３に挿入し、動弁装置にアーム７とカムシャフト１２を取り付ける。その後、図６に示すように、アジャストスクリュ１７の頭部２３とナット部材１４の間から初期セット部材２５を引き抜く。これにより、アジャストスクリュ１７の初期セットが解除され、アジャストスクリュ１７は、リターンスプリング１９の付勢力によって回転しながら突出方向に移動し、ローラ１１がカム６に接触する位置までアーム７の端部を押し上げる。

　その後、エンジンの作動によりカム６が回転して、カム６のカム山部６ａがアーム７を押し下げると、バルブ４がバルブシート１０から離れて、吸気ポート３を開く。このとき、アジャストスクリュ１７に押し込み方向の荷重が負荷されるが、雄ねじ１６の圧力側フランク２０が雌ねじ１５の圧力側フランク２０で受け止められて、アジャストスクリュ１７の軸方向位置が固定される。

　更にカム６が回転して、カム山部６ａがローラ１１の位置を過ぎると、バルブスプリング９の付勢力によってバルブステム５が上昇し、バルブ４がバルブシート１０に着座して、吸気ポート３を閉じる。

　厳密には、カム６のカム山部６ａがアーム７を押し下げるときに、雄ねじ１６と雌ねじ１５の圧力側フランク２０，２０間に僅かな滑りが生じ、その滑りによってアジャストスクリュ１７は押し込み方向に移動するが、カム山部６ａがローラ１１の位置を過ぎて、押し込み方向の荷重が解除されたときに、アジャストスクリュ１７は、リターンスプリング１９から負荷される突出方向の荷重によって突出方向に移動し、元の位置に戻る。

　エンジン作動中に、シリンダヘッド２、バルブステム５、アーム７など、動弁装置の構成部材間に熱膨張差が生じ、カム６とアーム７の間の距離が大きくなったときは、カム６のカム山部６ａがアーム７を押し下げるときのアジャストスクリュ１７の押し込み量よりも、更にカム６が回転して押し込み方向の荷重が解除されたときのアジャストスクリュ１７の突出量が大きくなる。その結果、カム６が回転するごとに、アジャストスクリュ１７が突出方向に徐々に移動するので、カム６のベースサークル６ｂとローラ１１の間に隙間が生じない。

　反対に、バルブ４とバルブシート１０の接触面が摩耗したときは、カム６のベースサークル６ｂがローラ１１の位置にあるときにも、バルブスプリング９の付勢力がアジャストスクリュ１７に作用するため、カム６のカム山部６ａがアーム７を押し下げるときのアジャストスクリュ１７の押し込み量よりも、更にカム６が回転して押し込み方向の荷重が解除されたときのアジャストスクリュ１７の突出量が小さくなる。その結果、カム６が回転するごとに、アジャストスクリュ１７が押し込み方向に徐々に移動し、バルブステム５が上昇するので、バルブ４とバルブシート１０の接触面間に隙間が生じない。

　エンジンをオーバーホールする際、動弁装置からカムシャフト１２を取り外すと、アジャストスクリュ１７がリターンスプリング１９の付勢力によってナット部材１４から突出するが、この場合、アジャストスクリュ１７の頭部２３とナット部材１４の間に初期セット部材２５を差し込んだ後、アジャストスクリュ１７を回転操作してナット部材１４にねじ込むことにより、再びアジャストスクリュ１７を初期セットすることができる。

　このように、ラッシュアジャスタ１は、着脱可能に設けた初期セット部材２５でアジャストスクリュ１７を固定するので、アジャストスクリュ１７を繰り返し初期セットすることが可能である。

　ところで、アジャストスクリュ１７を初期セットする方法として、アジャストスクリュ１７とナット部材１４に小径の貫通孔を形成し、その貫通孔にセットピンを挿し通してアジャストスクリュ１７を回り止めする方法が考えられるが、このようにすると、アジャストスクリュのねじ込みを微調整して、アジャストスクリュ１７の貫通孔をナット部材１４の貫通孔に一致させるのが難しく、初期セット作業が煩雑である。これに対し、ラッシュアジャスタ１は、アジャストスクリュ１７を最後までねじ込んで初期セットするので、アジャストスクリュ１７のねじ込みを微調整する必要がなく、初期セット作業が簡単である。

　また、このラッシュアジャスタ１は、セットピンを挿し通す貫通孔をアジャストスクリュ１７やナット部材１４に設ける必要がないので、製造コストが低い。

　この実施形態では、アジャストスクリュ１７の頭部２３とナット部材１４の間に挟む初期セット部材として、金属製の線材を曲げて形成した初期セット部材２５を例に挙げて説明したが、この初期セット部材２５にかえて、図７、図８に示すように、金属製の板材をプレス成形して形成した初期セット部材２８を採用することもできる。

　図７、図８において、初期セット部材２８は、アジャストスクリュ１７を間にして径方向に対向する一対のアーム部２９，２９と、そのアーム部２９，２９の一端同士を連結する操作つまみ部３０とからなる。各アーム部２９は、頭部２３の下端面とナット部材１４の上端面との間で挟まれる部分の板材を波形に曲げることによって、軸方向の弾性を付与されている。また、操作つまみ部３０には、上下に貫通する治具挿入穴３１が形成されており、その治具挿入穴３１に治具（図示せず）を差し込んで、初期セット部材２８の引き抜き操作を行なうことができるようになっている。

　また、初期セット部材２５にかえて、図９、図１０に示すように、弾性を有する樹脂を射出成形することにより形成した初期セット部材３２を採用することもできる。図９、図１０において、初期セット部材３２は、アジャストスクリュ１７を間にして径方向に対向する一対のアーム部３３，３３と、そのアーム部３３，３３の一端同士を連結する操作つまみ部３４とからなる。また、操作つまみ部３４には、上下に貫通する治具挿入穴３５が形成されており、その治具挿入穴３５に治具を差し込んで、初期セット部材３２の引き抜き操作を行なうことができるようになっている。

　図１１に、この発明の第２実施形態のラッシュアジャスタ４１を組み込んだ動弁装置を示す。この動弁装置は、エンジンのシリンダヘッド４２の吸気ポート４３に設けられたバルブ４４と、そのバルブ４４に接続されたバルブステム４５と、カム４６の回転に応じて揺動するアーム４７とを有する。

　バルブステム４５は、バルブ４４から上方に延びており、バルブステム４５の上部にはスプリングリテーナ４８が固定されている。スプリングリテーナ４８は、バルブスプリング４９によって上方に付勢され、その付勢力によってバルブ４４をバルブシート５０に着座させている。

　アーム４７は、中央部を支点軸５１で揺動可能に支持されている。アーム４７の一方の端部には、カム４６に接触するローラ５２が取り付けられ、アーム４７の他方の端部には、ラッシュアジャスタ４１が組み込まれている。アーム４７の下方に設けられたカム４６は、エンジンのクランクシャフト（図示せず）に同調して回転し、ベースサークル４６ａに対して隆起したカム山部４６ｂが、ローラ５２を押圧してアーム４７を揺動させるようになっている。

　図１２に示すように、ラッシュアジャスタ４１は、アーム４７の下面に開口した収容穴５３に挿入される筒状のナット部材５４と、ナット部材５４の内周に形成された雌ねじ５５にねじ係合する雄ねじ５６を上部外周に有するアジャストスクリュ５７と、アジャストスクリュ５７と収容穴５３の内底面５８との間に組み込まれたリターンスプリング５９とを有する。

　雄ねじ５６と雌ねじ５５は、アジャストスクリュ５７をナット部材５４に押し込む方向の荷重が負荷されたときに圧力を受ける圧力側フランク６０のフランク角が、遊び側フランク６１のフランク角よりも大きい鋸歯状に形成されており、押し込み方向の軸方向荷重がアジャストスクリュ５７に静的に負荷されたときは、雄ねじ５６と雌ねじ５５の圧力側フランク６０，６０間の摩擦抵抗によってアジャストスクリュ５７の回転が阻止され、一方、突出方向の軸方向荷重がアジャストスクリュ５７に静的に負荷されたときは、雄ねじ５６と雌ねじ５５の遊び側フランク６１，６１間の滑りによってアジャストスクリュ５７の回転が許容されるようになっている。

　リターンスプリング５９は圧縮コイルばねである。リターンスプリング５９は、上端が収容穴５３の内底面５８で支持され、下端がスプリングシート６２を介してナット部材５４から突出する方向の軸方向力をアジャストスクリュ５７に付与している。その軸方向力によって、アジャストスクリュ５７は、ナット部材５４から下方に突出する方向に付勢されている。

　アジャストスクリュ５７は、ナット部材５４の下端面からの突出部分に、ナット部材５４の内径よりも大きい外径の頭部６３を有し、その頭部６３で、バルブステム４５の上端を押圧する。

　頭部６３の上端面とナット部材５４の下端面との間には、第１実施形態で説明した初期セット部材２５が差し込まれている。初期セット部材２５は、アジャストスクリュ５７を間にして径方向に対向する一対のアーム部２６，２６と、そのアーム部２６，２６の一端同士を連結する操作つまみ部２７とからなる。

　このラッシュアジャスタ４１は、第１実施形態と同様、アジャストスクリュ５７の頭部６３とナット部材５４の間に初期セット部材２５のアーム部２６を差し込んだ状態で、アジャストスクリュ５７をねじ込み、頭部６３とナット部材５４の間でアーム部２６を挟んで圧縮すると、そのアーム部２６の弾性復元力によってアーム部２６と頭部６３の間に摩擦力が生じるとともに、アーム部２６とナット部材５４の間にも摩擦力が生じ、その摩擦力によってアジャストスクリュ５７を初期セットすることができる。

　頭部６３とナット部材５４の間から初期セット部材２５を引き抜くと、アジャストスクリュ５７の初期セットを解除することができる。これにより、アジャストスクリュ５７は、リターンスプリング５９の付勢力によって回転しながら突出方向に移動し、ローラ５２がカム４６のベースサークル４６ａに接触する位置までアーム４７を揺動させる。

　このように、ラッシュアジャスタ４１は、着脱可能に設けた初期セット部材２５でアジャストスクリュ５７を固定するので、アジャストスクリュ５７を繰り返し初期セットすることが可能である。アジャストスクリュ５７をナット部材５４にねじ込むだけで初期セットすることができるので、初期セット作業が簡単である。また、セットピンを挿し通す貫通孔をアジャストスクリュ５７やナット部材５４に設ける必要がないので、低コストである。

　このラッシュアジャスタ４１も、第１実施形態と同様、初期セット部材２５にかえて、金属製の板材を打ち抜いて形成した初期セット部材２８（図７、図８参照）や、弾性を有する樹脂を射出成形することにより形成した初期セット部材３２（図９、図１０参照）を採用することができる。

　図１３に、この発明の第３実施形態のラッシュアジャスタ７１を示す。第１実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。

　アジャストスクリュ１７は、ナット部材１４からの突出端７２が半球状に形成されており、その突出端７２が、アーム７の下面の凹部２４に嵌合してアーム７を支持している。アーム７は、凹部２４と突出端７２の間の摺動により揺動可能となっている。

　図１４、図１５に示すように、アジャストスクリュ１７の外周には、雄ねじ１６を上端から下端まで横切る軸方向溝７３が形成されており、この軸方向溝７３によって雄ねじ１６が分断されている。軸方向溝７３は、断面コ字状に形成され、アジャストスクリュ１７とナット部材１４の間に差し込み口７４を開口させている。

　差し込み口７４には、初期セット部材７５が抜き差し可能に差し込まれている。初期セット部材７５は、差し込み口７４に挿入される弾性部７６と、リング状に形成された引き抜き操作部７７と、引き抜き操作部７７と弾性部７６を連結する連結部７８とからなる。この初期セット部材７５は、樹脂またはゴムで一体成形されている。

　図１６～図１８に示すように、弾性部７６は、挿入方向に対して反対側に延びる二股状に形成されており、軸方向溝７３の内面と雌ねじの圧力側フランク２０との間で挟まれて弾性的に圧縮され、径方向の弾性復元力を生じている。この弾性復元力によって、弾性部７６とアジャストスクリュ１７の間に摩擦力が生じるとともに、弾性部７６とナット部材１４の間にも摩擦力が生じ、その摩擦力によってアジャストスクリュ１７が回り止めされ、ナット部材１４から突出しないように固定されている。

　ところで、初期セット部材７５を差し込み口７４に差し込んだときに、弾性部７６の二股の先が差し込み口７４内に入り込むと、初期セット部材７５を差し込み口７４から引き抜くときに、二股の先が雌ねじ１５のねじ山に引っ掛かるおそれがある。そこで、弾性部７６の二股の先が差し込み口７４に入り込むのを防止するため、弾性部７６には、差し込み口７４に挿入したときに、ナット部材１４の上端に当接するストッパ７９が形成されている。

　図１４に示すように、ナット部材１４の底部１８には、上下に貫通する貫通孔８０が形成されている。また、図１３に示すように、収容穴１３の内底面には、貫通孔８０と連通する排油孔８１が形成されている。そのため、ナット部材１４の上端面から雄ねじ１６と雌ねじ１５の隙間に流れ込んだエンジン油は、貫通孔８０と排油孔８１とを順に通ってナット部材１４から排出される。

　このラッシュアジャスタ７１の動弁装置への組み込みは、例えば、次のようにして行なう。

　図１４に示すように、初期セット部材７５を差し込み口７４に差し込んでアジャストスクリュ１７を初期セットする。次に、図１３に示すように、ラッシュアジャスタ７１を収容穴１３に挿入し、アーム７とカムシャフト１２を取り付ける。その後、引き抜き操作部７７に指や工具をかけて差し込み口７４から初期セット部材７５を引き抜く。これにより、アジャストスクリュ１７の初期セットが解除され、アジャストスクリュ１７は、リターンスプリング１９の付勢力によって回転しながら突出方向に移動し、ローラ１１がカム６に接触する位置までアーム７の端部を押し上げる。

　このラッシュアジャスタ７１は、アジャストスクリュ１７を任意の高さまでねじ込み、その状態で、初期セット部材７５を差し込み口７４に差し込むことにより、任意の高さでアジャストスクリュ１７を初期セットすることが可能である。そのため、このラッシュアジャスタ７１は、複数種類の動弁装置に使用する場合、その各動弁装置に応じた高さにアジャストスクリュ１７を初期セットすることができ、便利である。

　また、このラッシュアジャスタ７１は、ナット部材１４の上端面から軸方向溝７３内に流れ込んだエンジン油が、雄ねじ１６と雌ねじ１５の隙間に入り込む。そのため、雄ねじ１６と雌ねじ１５の間の潤滑性に優れ、雄ねじ１６と雌ねじ１５が摩耗しにくい。

　また、このラッシュアジャスタ７１は、樹脂またはゴムで初期セット部材７５を形成しているので、鉄などの金属で初期セット部材７５を形成する場合よりも、軽量である。また、初期セット部材７５は、樹脂で成形するとリサイクルしやすい。

　また、このラッシュアジャスタ７１は、第１実施形態と同様、着脱可能に設けた初期セット部材７５でアジャストスクリュ１７を固定するので、アジャストスクリュ１７を繰り返し初期セットすることが可能である。また、アジャストスクリュ１７のねじ込み位置にかかわらず初期セット部材７５を差し込むことができるので、アジャストスクリュ１７のねじ込みを微調整する必要がなく、初期セット作業が簡単である。

　上記実施形態では、初期セット部材７５の弾性部７６を二股状に形成しているが、弾性部７６は、図１９～図２１に示すように、球状に形成してもよい。図１９～図２１において、弾性部７６は、差し込み口７４に挿入したときに弾性的に圧縮する大きさの球状に形成されている。

　また、図１５では、軸方向溝７３を１つのみ形成しているが、図２０に示すように、軸方向溝７３は周方向に等間隔となるように複数形成してもよい。このようにすると、雄ねじ１６と雌ねじ１５が軸心に関して対称に接触するので、エンジン作動中、アジャストスクリュ１７が傾きにくい。また、鍛造加工によりアジャストスクリュ１７を成形する場合、その鍛造加工を精度よく行なうことができる。

　また、上記実施形態では、アジャストスクリュ１７とナット部材１４の間に差し込み口７４を開口させるため、アジャストスクリュ１７の外周に軸方向溝７３を設けたが、アジャストスクリュ１７の外周にかえて、ナット部材１４の内周に軸方向溝を形成してもよい。また、アジャストスクリュ１７の外周とナット部材１４の内周の両方に軸方向溝を形成してもよい。

　上記実施形態では、差し込み口７４を開口させる切り欠きとして、軸方向溝７３を例に挙げて説明したが、軸方向溝７３にかえて、アジャストスクリュ１７の外周に形成したＤカット部や２面取り部を採用してもよい。ここで、Ｄカット部は、アジャストスクリュ１７の軸心を含む平面に平行な平面に沿ってアジャストスクリュ１７の外周を切り欠いた形状の部分であり、２面取り部は、アジャストスクリュ１７の軸心を含む平面に平行な２平面でアジャストスクリュ１７の外周を切り欠いた形状の部分である。

　また、上記実施形態では、アジャストスクリュ１７を付勢するリターンスプリング１９として、圧縮コイルばねを用いたが、圧縮コイルばねにかえてねじりコイルばねを採用してもよい。この場合、雄ねじ１６と雌ねじ１５は、台形ねじや三角ねじを採用することができる。

　図２２～図２４に、この発明の第４実施形態のラッシュアジャスタ９１を示す。第２実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。

　リターンスプリング５９は、ねじりコイルばねである。リターンスプリング５９は、その上端が、収容穴５３の内底面に形成された貫通孔９２に差し込んで回り止めされ、下端が、アジャストスクリュ５７に形成された係止孔９３に係止しており、そのねじり変形によって、ナット部材５４から下方に突出する方向の回転力をアジャストスクリュ５７に付与している。その回転力によって、アジャストスクリュ５７は、ナット部材５４から下方に突出する方向に付勢されている。アジャストスクリュ５７は、ナット部材５４からの突出部分９４がバルブステム４５の上端に当接し、バルブステム４５を押圧する。

　雄ねじ５６と雌ねじ５５は、上下対称の三角ねじである。アジャストスクリュ５７の外周には、図２３に示すように、雄ねじ５６を上端から下端まで横切る軸方向溝９５が形成されており、この軸方向溝９５によって雄ねじ５６が分断されている。ナット部材５４の内周にも、雌ねじ５５を上端から下端まで横切る軸方向溝９６が形成されており、この軸方向溝９６によって雌ねじ５５が分断されている。軸方向溝９５，９６は、図２４に示すように、断面コ字状に形成されており、互いに一致した状態で、アジャストスクリュ５７とナット部材５４との間に差し込み口９７を開口させている。差し込み口９７には、第３実施形態で説明した初期セット部材７５が抜き差し可能に差し込まれている。

　図２２、図２３に示すように、初期セット部材７５の弾性部７６は、軸方向溝９５の内面と軸方向溝９６の内面との間に挟まれて弾性的に圧縮され、径方向の弾性復元力を生じている。その結果、弾性部７６とアジャストスクリュ５７の間に摩擦力が生じるとともに、弾性部７６とナット部材５４の間にも摩擦力が生じており、その摩擦力によってアジャストスクリュ５７が初期セットされている。

　図２３に示すように、ナット部材５４は両端が開口している。そのため、貫通孔９２から収容穴５３に流れ込んだエンジン油は、雄ねじ５６と雌ねじ５５の隙間に流れ込んで、ナット部材５４の下端面から排出される。

　このラッシュアジャスタ９１の動弁装置への組み込みは、例えば、次のようにして行なう。

　まず、初期セット部材７５を差し込み口９７に差し込んでアジャストスクリュ５７を初期セットする。次に、図２２に示すように、アーム４７とカム４６を動弁装置に取り付け、その後、初期セット部材７５を差し込み口９７から引き抜く。これにより、アジャストスクリュ５７の初期セットが解除され、アジャストスクリュ５７は、リターンスプリング５９の回転力によって回転しながら突出方向に移動して、バルブステム４５の上端を押圧する。

　このラッシュアジャスタ９１は、アジャストスクリュ５７を任意の高さまでねじ込んで軸方向溝９５，９６を一致させ、その状態で、初期セット部材７５を差し込み口９７に差し込むことにより、雄ねじ５６の１ピッチ毎の任意の高さで初期セットすることが可能である。そのため、このラッシュアジャスタ９１を複数種類の動弁装置に組み込む場合、その各動弁装置に応じた高さに、アジャストスクリュ５７を初期セットすることができ、便利である。

　また、このラッシュアジャスタ９１は、軸方向溝９５，９６内に流れ込んだエンジン油が、雄ねじ５６と雌ねじ５５の隙間に入り込む。そのため、雄ねじ５６と雌ねじ５５の間の潤滑性に優れ、雄ねじ５６と雌ねじ５５が摩耗しにくい。

　また、このラッシュアジャスタ９１は、着脱可能に設けた初期セット部材７５でアジャストスクリュ５７を固定するので、アジャストスクリュ５７を繰り返し初期セットすることが可能である。

　この実施形態では、アジャストスクリュ５７の外周とナット部材５４の内周の両方に軸方向溝９５，９６を設けたが、軸方向溝９５，９６は、少なくとも一方を設ければ足りる。また、軸方向溝９５，９６は、周方向に等間隔となるように複数形成すると、エンジン作動中、雄ねじ５６と雌ねじ５５が軸心に関して対称に接触するので、アジャストスクリュ５７が傾きにくい。

　この実施形態では、差し込み口９７を開口させる切り欠きとして、断面コ字状の軸方向溝９５，９６をアジャストスクリュ５７の外周とナット部材５４の内周に設けたが、差し込み口９７を開口させる切り欠きとして、アジャストスクリュ５７の外周にＤカット部や２面取り部を形成してもよい。また、雄ねじ５６と雌ねじ５５は、鋸歯ねじや台形ねじとしてもよい。

　図２５、図２６に、この発明の第５実施形態のラッシュアジャスタ１０１を示す。第３実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。

　アジャストスクリュ１７は、ナット部材１４内に軸方向にスライド可能に挿入されたピボット部材１７Ａと、そのピボット部材１７Ａのナット部材１４への挿入端を支持し、雄ねじ１６を外周に有する雄ねじ部材１７Ｂと、ピボット部材１７Ａと雄ねじ部材１７Ｂの間に挟まれたばね座金１７Ｃとからなる。ばね座金１７Ｃとしては、例えば、皿ばね座金や波形座金などを用いることができる。

　ピボット部材１７Ａの外周には、ナット部材１４からの突出部分からナット部材１４への挿入端にわたるＤカット部１０２が形成されている。Ｄカット部１０２は、図２６に示すように、ピボット部材１７Ａとナット部材１４の間に差し込み口７４を開口させている。リターンスプリング１９は、スプリングシート２２を介してピボット部材１７Ａがナット部材１４から突出する方向の軸方向力を雄ねじ部材１７Ｂに付与している。

　このラッシュアジャスタ１０１は、第３実施形態と同様、アジャストスクリュ１７を任意の高さまでねじ込み、その状態で、初期セット部材７５を差し込み口７４に差し込むことにより、任意の高さでアジャストスクリュ１７を初期セットすることが可能である。また、着脱可能に設けた初期セット部材７５でアジャストスクリュ１７を固定するので、アジャストスクリュ１７を繰り返し初期セットすることが可能である。

　また、このラッシュアジャスタ１０１は、ナット部材１４の上端面からＤカット部１０２を通ってナット部材１４内にエンジン油が流れ込むので、雄ねじ１６と雌ねじ１５の間の潤滑性に優れ、雄ねじ１６と雌ねじ１５が摩耗しにくい。

　この実施形態では、差し込み口７４を開口させる切り欠きとしてＤカット部１０２を例に挙げて説明したが、Ｄカット部１０２にかえて、２面取り部や軸方向溝を採用してもよい。また、ナット部材１４の内周に、その上端から下方に延びる切り欠きを形成してもよい。

　また、この実施形態では、ピボット部材１７Ａと雄ねじ部材１７Ｂの間に挟む弾性部材としてばね座金１７Ｃを使用したが、ばね座金１７Ｃにかえて他の弾性部材（例えば、圧縮コイルばね）を使用してもよい。

Claims (15)

1. 　内周に雌ねじ（１５）を有するナット部材（１４）と、前記雌ねじ（１５）にねじ係合する雄ねじ（１６）を外周に有するアジャストスクリュ（１７）と、そのアジャストスクリュ（１７）をナット部材（１４）から突出する方向に付勢するリターンスプリング（１９）とを有するラッシュアジャスタにおいて、
   　前記アジャストスクリュ（１７）とナット部材（１４）の間に挟まれる初期セット部材（２５，７５）を着脱可能に設け、その初期セット部材（２５，７５）とアジャストスクリュ（１７）の間の摩擦力と、初期セット部材（２５，７５）とナット部材（１４）の間の摩擦力とによって、アジャストスクリュ（１７）がナット部材（１４）に固定されるようにしたことを特徴とするラッシュアジャスタ。
2. 　前記アジャストスクリュ（１７）は、前記ナット部材（１４）からの突出部分にナット部材（１４）の内径よりも大きい外径の頭部（２３）を有し、前記初期セット部材（２５）は、前記アジャストスクリュ（１７）の頭部（２３）とナット部材（１４）の間に挟まれる一対のアーム部（２６，２６）と、そのアーム部（２６，２６）の一端同士を連結する操作つまみ部（２７）とからなり、前記アーム部（２６）は、アジャストスクリュ（１７）の頭部（２３）とナット部材（１４）との間で弾性的に圧縮可能に形成されている請求項１に記載のラッシュアジャスタ。
3. 　前記初期セット部材（２５）は、金属製の線材を曲げて形成され、前記アーム部（２６）は、前記線材を波形に曲げて弾性を付与された請求項２に記載のラッシュアジャスタ。
4. 　前記初期セット部材（２８）は、金属製の板材をプレス成形して形成され、前記アーム部（２９）は、前記板材を波形に曲げて弾性を付与された請求項２に記載のラッシュアジャスタ。
5. 　前記初期セット部材（３２）が、弾性を有する樹脂を射出成形して形成された請求項２に記載のラッシュアジャスタ。
6. 　前記操作つまみ部（３０）に治具挿入穴（３１）を設けた請求項４または５に記載のラッシュアジャスタ。
7. 　前記アジャストスクリュ（１７）の外周と前記ナット部材（１４）の内周の少なくとも一方に、前記アジャストスクリュ（１７）とナット部材（１４）の間に差し込み口（７４）を開口させる切り欠き（７３）が設けられ、前記初期セット部材（７５）は、前記差し込み口（７４）に弾性的に圧縮した状態で差し込まれる請求項１に記載のラッシュアジャスタ。
8. 　前記アジャストスクリュ（１７）が、前記ナット部材（１４）内に軸方向にスライド可能に挿入されたピボット部材（１７Ａ）と、そのピボット部材（１７Ａ）のナット部材（１４）内への挿入端を支持し、前記雄ねじ（１６）を外周に有する雄ねじ部材（１７Ｂ）と、前記ピボット部材（１７Ａ）と雄ねじ部材（１７Ｂ）の間に挟まれた弾性部材（１７Ｃ）とからなり、前記切り欠き（１０２）が、前記ピボット部材（１７Ａ）の外周に形成された請求項７に記載のラッシュアジャスタ。
9. 　前記切り欠きが、前記アジャストスクリュ（５７）の外周に形成されたＤカット部（１０２）である請求項７または８に記載のラッシュアジャスタ。
10. 　前記切り欠きが、前記アジャストスクリュ（１７）の外周に形成された２面取り部である請求項７または８に記載のラッシュアジャスタ。
11. 　前記アジャストスクリュ（１７）の外周の雄ねじ（１６）を分断するように前記切り欠き（７３）が形成され、その切り欠き（７３）が周方向に等間隔となるように複数形成された請求項７または８に記載のラッシュアジャスタ。
12. 　前記初期セット部材（７５）に、前記差し込み口（７４）から引き抜く際に指をかけることが可能な引き抜き操作部（７７）を設けた請求項７から１１のいずれかに記載のラッシュアジャスタ。
13. 　前記初期セット部材（７５）が、ゴムまたは樹脂からなる請求項７から１２のいずれかに記載のラッシュアジャスタ。
14. 　前記ナット部材（１４）は、シリンダヘッド（２）の上面に開口した収容穴（１３）に挿入され、前記アジャストスクリュ（１７）は、動弁装置のアーム（７）を揺動可能に支持する請求項１から１３のいずれかに記載のラッシュアジャスタ。
15. 　前記ナット部材（５４）は、カム（４６）の回転に応じて揺動するアーム（４７）の下面に開口した収容穴（５３）に挿入され、前記アジャストスクリュ（５７）は、動弁装置のバルブステム（４５）を押圧する請求項１から１３のいずれかに記載のラッシュアジャスタ。

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