JP2013177841A - 動弁装置におけるラッシュアジャスタ - Google Patents

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Abstract

【課題】収縮させた初期セット状態に保持することができ、エンジンへの組付けによってその初期セット状態を自動的に解除することができるようにしたラッシュアジャスタを提供する。
【解決手段】捩りコイルばね40によって雄ねじ部材に回転トルクを付与する。捩りコイルばねによって回転トルクが負荷されるトルク伝達軸38に筒状の初期セット部材48を嵌合してスライド自在とし、かつ、相対的に回転不能とする。ボディ21の後端開口部内に嵌合されたキャップ部材43の底板44に初期セット部材48の後端部が挿入される中心孔46を設け、その中心孔46の内周と初期セット部材48の外周の相互間に案内手段50を設け、初期セット部材48の先端部が中心孔46に配置される状態で、その初期セット部材を相対回転不能な状態でスライド自在とし、初期セット部材の後端部が中心孔46内に配置される状態で、その初期セット部材を相対回転可能とする。
【選択図】図2

Description

この発明は、内燃機関における動弁装置のバルブクリアランスを自動調整するラッシュアジャスタに関する。
カムの回転によって吸気バルブあるいは排気バルブ(以下、単にバルブという)を開閉させる動弁装置には、アームによってバルブステムを押し下げるアーム型と、カムによってバルブステムを押し下げるダイレクト型とがあり、上記アーム型動弁装置にはスイングアーム式(エンドピボット式)とロッカアーム式とが存在する。
ここで、スイングアーム式動弁装置においては、カムの下方に配置されたアームの端部をピボットで支持し、そのアームをカムの回転によりピボットを中心に揺動させ、その揺動側の端部でバルブステムを押し下げてバルブを開放させるようにしている。
一方、ロッカアーム式動弁装置においては、カムの上方に設けられたロッカシャフトを中心にしてアームを揺動自在に支持し、上記カムの回転によりアームの一端部を押し上げ、アームの他端部でバルブステムを押し下げてバルブを開放させるようにしている。
上記いずれの動弁装置においても、ラッシュアジャスタの組込みによってバルブクリアランスを自動調整している。
上記ラッシュアジャスタとして、油圧式のものが知られている。しかし、油圧式ラッシュアジャスタにおいては、エンジンオイルを作動油としているため、エンジンの回転数による油圧の変化や、エンジンオイルに混入するコンタミや気泡の影響を受け易く、また、構造が複雑で組立に手間がかかり、コスト的にも不利である。
特許文献1乃至3に記載されたラッシュアジャスタは機械式であるため、上記のような問題の発生がなく、動弁装置への組込みに有利である。ここで、特許文献1乃至3に記載された機械式ラッシュアジャスタにおいては、捩りコイルばねからなるばね部材によって互いにねじ係合する雌ねじ部材と雄ねじ部材の相互間に捩りモーメントを与え、その雌ねじ部材と雄ねじ部材が伸長する方向への相対移動によりバルブクリアランスを吸収するようにしている。
一般に、エンジンにおいては、エンジンブロックがアルミ製とされ、バルブが鋼製とされて、エンジンブロックの線膨張係数がバルブの線膨張係数より大きくなっている。このようなエンジンの動弁系に上記特許文献1乃至3に記載の機械式ラッシュアジャスタが組み込まれた場合、エンジンの運転停止後における温度低下時、エンジンブロックがバルブより大きく収縮するため、バルブが完全に閉じられなくなって、エンジンの再始動時に圧縮漏れが生じ、エンジンを再始動することができなくなるおそれが生じる。
そのような不都合を解消するため、特許文献4に記載された機械式ラッシュアジャスタにおいては、ボディ内に組込まれたプランジャを先端プランジャ部材と雄ねじ部材とに分割し、その先端プランジャ部材と雄ねじ部材間にスペーサばねを組込んで、先端プランジャ部材と雄ねじ部材の対向面間に軸方向すきまを形成し、その軸方向すきまの範囲内でスペーサばねを弾性変形させ、そのスペーサばねの弾性変形により、エンジンブロックとバルブの線膨張係数の相違による収縮差を吸収してバルブが不完全に閉鎖するのを防止するようにしている。
しかし、特許文献4に記載された機械式ラッシュアジャスタにおいては、長期の使用によってスペーサばねがへたり、自由長さが変化すると、先端プランジャ部材と雄ねじ部材の対向面間に形成された軸方向すきまが変化して、エンジン性能に影響を与えるおそれがある。
また、大きな荷重を受ける先端プランジャと雄ねじ部材の接触面が摩耗した際には、その摩耗により軸方向すきまが変化して、エンジン性能に影響を与えるおそれがある。
さらに、スペーサばねは、無負荷時に自由長さとなる組込みであるため、軸方向すきまを高精度に管理するために、ばね公差を非常に小さく設定する必要があり、量産時のコストアップの要因となるばかりでなく、スペーサばねと先端プランジャ部材、若しくは、先端プランジャ部材と雄ねじ部材の接触部で摩耗が生じると、上記軸方向すきまが変化し、エンジン性能に影響を与えるおそれがある。
ここで、エンジン性能への影響とは、軸方向すきまの減少による圧縮漏れ、軸方向すきまの拡大によるメカニカルノイズの増大および出力低下をいう。
上記の不都合の発生を未然に防止するため、特許文献5に記載されたラッシュアジャスタにおいては、ボディ内に組み込まれたプランジャをねじ部材とスライド部材とに分割し、そのスライド部材のねじ部材に対する対向面に凹部を形成し、その凹部内に押圧子と、その押圧子の先端がねじ部材に当接する方向に向けて押圧子を付勢する弾性部材とを組込み、上記弾性部材が押圧子を付勢する弾性変形状態において押圧子の先端部がスライド部材のねじ部材に対する対向面より突出する状態で押圧子を抜止めするストッパを設けて、ねじ部材とスライド部材の対向面間に押圧子の突出長さに相当する大きさの軸方向すきまを確保するようにしている。
ここで、機械式ラッシュアジャスタにおいては、軸方向に変動荷重が作用すると収縮するが、一定荷重の場合、収縮しない。そのため、エンジンの動弁装置への組付けに際しては、軸方向に充分に収縮させた状態で組付ける必要がある。その収縮が不充分であると、組付け後のエンジンのクランキングで吸排気バルブを完全に閉鎖させることができなくなり、圧縮漏れを生じさせる可能性がある。
クランキング時に圧縮漏れが生じると、完爆までの時間が長くなり、エミッションの悪化を招くばかりでなく、最悪の場合、エンジンが掛からない恐れがある。
そこで、特許文献5に記載されたラッシュアジャスタにおいては、スライド部材をボディ内に押し込んだラッシュアジャスタの収縮状態において、スライド部材の外周に形成された平坦面とボディの開口端部内にセットピンの先端部を噛み込ませて収縮状態に保持し、その保持状態においてラッシュアジャスタの組付けを行ない、さらに、アームやカムシャフトの組付け後、セットピンを取り除くことでスライド部材の過度の突出を防止し、吸排気バルブの完全な閉鎖を保障している。
特開平5−10109号公報 特開平5−18214号公報 特開平7−139315号公報 実開昭64−034407号公報 特開2011−190772号公報
ところで、特許文献5に記載されたラッシュアジャスタのように、セットピンを採用して、ラッシュアジャスタを収縮状態に保持し、そのラッシュアジャスタの組付け後、セットピンの取り外しによりラッシュアジャスタを伸長させて使用状態とする場合、セットピンの抜き忘れによって初期セットの解除をし忘れる可能性がある。
また、セットピンを引抜くと、廃棄処理されることが多々ある。このとき、エンジンのオーバホールによって取り除かれたラッシュアジャスタを再度組付ける場合において、そのラッシュアジャスタを収縮させて初期セット状態に保持することができず、再組付けがきわめて困難になる。
この発明の課題は、セットピンを用いることなく収縮させた初期セット状態に保持することができると共に、その初期セット状態をエンジンへの組付けによって自動的に確実に解除することができるようにしたラッシュアジャスタを提供することである。
上記の課題を解決するために、この発明においては、内周に雌ねじが形成された筒状のボディ内にプランジャを組込み、そのプランジャを前記雌ねじにねじ係合される雄ねじ部材と、先端部が前記ボディの先端開口から外部に臨むスライド部材とに分割し、前記ボディ内に組込まれたばね部材により雄ねじ部材にスライド部材に向けて移動する方向の回転トルクを付与した動弁装置におけるラッシュアジャスタにおいて、前記雄ねじ部材の後端部に前記ばね部材によって回転トルクが負荷されるトルク伝達軸を設け、そのトルク伝達軸に筒状の初期セット部材を嵌合して、スライド自在に、かつ、相対回転不能に支持し、前記ボディの後端開口部内に嵌合されて前記ばね部材を抜止め支持するキャップ部材の底板に前記初期セット部材が挿入される中心孔を設け、その中心孔の内周と初期セット部材の外周の相互間に、前記初期セット部材の先端部が中心孔に配置される状態で、その初期セット部材を相対回転不能な状態でスライド自在に支持し、初期セット部材の後端部が前記中心孔内に配置される状態で、その初期セット部材を相対回転可能に支持する案内手段を設けた構成を採用したのである。
上記の構成からなるラッシュアジャスタにおいて、ボディの先端開口部内にスライド部材が挿入され、かつ、ボディの雌ねじに雄ねじ部材がねじ係合されて、その後端に設けられたトルク伝達軸の後端部がボディの後端開口部内に配置される雄ねじ部材のねじ込み状態で、トルク伝達軸の後端部に初期セット部材を嵌合することにより、雄ねじ部材と初期セット部材を相対的に回転不能な状態とすることができる。
そして、ボディの後端開口部内にばね部材を組み込み、かつ、キャップ部材を嵌合し、上記ばね部材が雄ねじ部材のトルク伝達軸に回転トルクを伝達する接続状態でキャップ部材の中心孔に初期セット部材の先端部を嵌合させることにより、雄ねじ部材をねじ込み状態で回り止めすることができると共に、ラッシュアジャスタを収縮させた初期セット状態に保持することができる。
上記のように、初期セット部材を雄ねじ部材のトルク伝達軸に嵌合する回り止め状態で、その初期セット部材の先端部をキャップ部材の中心孔に嵌合することによってラッシュアジャスタを収縮させた初期セット状態に保持することができる。
そして、初期セット状態とされたラッシュアジャスタをシリンダブロックに形成された嵌合孔に嵌合し、初期セット部材の後端がその嵌合孔の底面で支持される組付け状態で、アームおよびカムシャフトの組付けを行ない、カムホルダをシリンダブロックにボルト止めすると、ラッシュアジャスタの初期セットが解除される。
すなわち、カムホルダをシリンダブロックにボルト止めすることによって、そのカムホルダからカムシャフトおよびアームを介してスライド部材に押し込み力が負荷され、ボディが下降する。そのボディの後端面が嵌合孔の底面で支持される位置まで下降すると、上記底面で支持されていた初期セット部材がボディ内に押し込められ、その初期セット部材の後端部がキャップ部材の中心孔内に配置されてキャップ部材に対して回転可能となり、ばね部材からトルク伝達軸に負荷される回転トルクにより雄ねじ部材がスライド部材に向けて回転移動して、ラッシュアジャスタの初期セットが解除される。
この発明に係るラッシュアジャスタにおいて、雄ねじ部材のトルク伝達軸に対して筒状の初期セット部材をスライド自在に、かつ、相対回転不能に支持する手段として、トルク伝達軸を角軸とし、筒状の初期セット部材の内周をその角軸からなるトルク伝達軸が嵌合可能な角形とする構成を採用することができる。
また、案内手段としては、下記の構成1乃至4からなるものを採用することができる。
構成1;キャップ部材に形成された中心孔の内周対向位置に一対の平坦面を設け、初期セット部材には、その先端部に、上記中心孔と同一形状で、その中心孔に嵌合可能な角筒部を設け、後端部に、外径が一対の平坦面の間隔にほぼ等しくされた円筒部を形成する。
構成2;キャップ部材に形成された中心孔を角孔とし、初期セット部材には、その先端部に上記中心孔に適合する角筒部を設け、後端部に外径が上記中心孔の内接円径と同径または小径とされた円筒部を形成する。
構成3;キャップ部材に形成された中心孔を円形とし、その円形中心孔の内周に突部を設け、初期セット部材には、先端側に上記円形中心孔に適合する大径円筒部と、後端側に上記中心孔に対して余裕をもって挿入可能な小径円筒部とを設け、上記大径円筒部の外周に上記突部がスライド自在に嵌合される軸方向の回り止め溝を形成した構成とする。
構成4;キャップ部材に形成された中心孔を円形とし、その円形中心孔の内周に切欠部を設け、初期セット部材を上記円形中心孔に対してスライド自在に嵌合可能な円筒状とし、その円筒状外周面に上記切欠部に対してスライド可能に嵌合される突条を、初期セット部材の先端から軸方向の略中央位置に至って設ける。
この発明に係るラッシュアジャスタにおいて、初期セット部材の内径面に周方向の係合溝を形成すると、雄ねじ部材をボディに対するねじ込み状態で、上記係合溝に工具を係合して初期セット部材をキャップ部材の後端側に引き出すことによってラッシュアジャスタを簡単に初期セット状態に戻すことができる。
また、初期セット部材を金属パイプの圧造品とすることによってコストの低減を図ることができる。
さらに、雄ねじ部材の後端面にレンチ係合部を形成しておくことによって、雄ねじ部材のねじ込み作業を容易とすることができる。
この発明においては、上記のように、セットピンを用いることなく収縮させた初期セット状態に保持することができると共に、その初期セット状態をエンジンへの組付けによって自動的に確実に解除することができる。
この発明に係るラッシュアジャスタをスイングアーム式動弁装置に組込んだ状態を示す縦断正面図 図1に示すラッシュアジャスタの縦断面図 図2のIII−III線に沿った断面図 図2のIV−IV線に沿った断面図 図2に示す雄ねじ部材、ばね部材、初期セット部材およびキャップ部材を示す分解斜視図 (a)乃至(d)は、ラッシュアジャスタの組立て状態を段階的に示す断面図 ラッシュアジャスタの初期セット状態を示す縦断面図 案内手段の他の例を示す分解斜視図 案内手段のさらに他の例を示す分解斜視図 案内手段のさらに他の例を示す分解斜視図
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係るラッシュアジャスタを組込んだスイングアーム式動弁装置を示す。スイングアーム式動弁装置においては、シリンダブロック1に形成された嵌合孔2にラッシュアジャスタAを組込み、そのラッシュアジャスタAによって一端部が支持された揺動可能なアーム3の中途にローラ4を回転自在に支持し、そのローラ4をカムシャフト5に設けられたカム6の回転により押し下げてアーム3を揺動させ、そのアーム3の他端部でバルブステム7を押し下げて、バルブステム7の下端に設けられたバルブ8を開放させるようにしている。
ここで、バルブステム7は、上端にスプリングリテナ9を有し、そのスプリングリテナ9に負荷されるバルブスプリング10の押圧力によってバルブステム7は下端のバルブ8がバルブシート11に密着する方向に付勢されている。また、アーム3の一端部の下面には半球状の球面座12が形成されている。
図2乃至図5に示すように、ラッシュアジャスタAは、図1に示す嵌合孔2に嵌合される筒状のボディ21を有し、そのボディ21の内周に雌ねじ22が形成されている。雌ねじ22は、圧力側フランク23のフランク角が遊び側フランク24のフランク角より大きい鋸歯状ねじとされ、その鋸歯状雌ねじ22の後端側に雌ねじ22の谷の径より大径のばね収容孔25が形成されている。
なお、鋸歯状雌ねじに代えて三角ねじを採用してもよい。その三角ねじの採用においては、リード角が小さく、ねじ係合面での相対滑りが生じることのないようなねじ諸元としておく。
ボディ21の内部にはプランジャ26が組込まれている。プランジャ26は、スライド部材27と雄ねじ部材28とに分割され、上記スライド部材27はボディ21内において軸方向にスライド自在とされ、ボディ21の先端面から外部に臨む先端にアーム3の球面座12を支持する球面部29が形成されている。
また、スライド部材27には、その軸心上に軸方向孔30が形成されている。軸方向孔30は段付き孔からなり、スライド部材27の後端面から軸方向に延びる大径孔部30aの内部には押圧子31とコイルばね32が組み込まれ、そのコイルばね32は押圧子31を雄ねじ部材28に向けて付勢している。
軸方向孔30の後端開口部には、押圧子31を抜止めするストッパ33が設けられている。ストッパ33は、押圧子31の後端面に設けられた小径の突軸部31aの後端部がスライド部材27の後端面から突出する状態で押圧子31を抜止めしている。
突軸部31aは、その後端面が雄ねじ部材28の先端面に当接し、その当接によってスライド部材27の後端面と雄ねじ部材28の先端面間に軸方向すきまGが形成されている。図2に示すδは、その軸方向すきまGの大きさを示している。
ボディ21の先端部には抜止めリング34が嵌合されている。抜止めリング34は後端部の内方への加締めによって固定され、先端部には内向きフランジ35が設けられ、その内向きフランジ35の内周部はスライド部材27の後端部外周に形成された段部36と軸方向で対向し、上記内向きフランジ35の内周部に対する段部36の当接によってスライド部材27は抜止めされる。
雄ねじ部材28は、ボディ21の内周に設けられた鋸歯状雌ねじ22にねじ係合する鋸歯状雄ねじ37を外周に有している。また、雄ねじ部材28の後端面にはトルク伝達軸38が設けられている。トルク伝達軸38は角軸からなり、その後端面にはレンチ係合孔39が設けられている。
ボディ21のばね収容孔25内にはばね部材としての捩りコイルばね40が組み込まれている。捩りコイルばね40は、一端に角形コイル部41を有し、その角形コイル部41がトルク伝達軸38にスライド自在に嵌合されて相対回転するのが防止されている。また、捩りコイルばね40の他端には角形の折曲げ連結片42が設けられている。
ボディ21の内周下部に形成されたばね収容孔25の下部開口内には、捩りコイルばね40を抜止めするキャップ部材43が組み込まれている。キャップ部材43は底板44の外周に円筒部45を設けた構成とされ、上記円筒部45がばね収容孔25の下部開口の内周に圧入されている。
キャップ部材43の底板44には中心孔46が形成され、その中心孔46の内周対向位置に一対の切り起こし片47が設けられ、その一対の切り起こし片47の外側に捩りコイルばね40の他端に形成され上述の折曲げ連結片42が係合している。
ここで、捩りコイルばね40は、捩り力が付与された状態での組込みとされ、その捩りコイルばね40の復元弾性力によってトルク伝達軸38に、雄ねじ部材28がスライド部材27に向けて移動する方向の回転トルクが負荷されている。
雄ねじ部材28のトルク伝達軸38には筒状の初期セット部材48の先端部が嵌合されている。初期セット部材48の内周は、トルク伝達軸38の外周に適合する角形とされ、そのトルク伝達軸38に対する嵌合によって初期セット部材48はスライド自在とされ、かつ、トルク伝達軸38に対して相対的に回転不能とされている。
初期セット部材48の後端部はキャップ部材43の中心孔46内に挿入され、その中心孔46の内周と初期セット部材48の外周の相互間に、初期セット部材48の先端部が中心孔46に配置される状態で、その初期セット部材48を相対回転不能な状態でスライド自在に支持し、また、初期セット部材48の後端部が中心孔46内に配置される状態で、その初期セット部材48を相対回転可能に支持する案内手段50が設けられている。
案内手段50は、中心孔46の内周対向位置に形成された一対の切り起こし片47の対向面を互いに平行する平坦面51とし、初期セット部材48には、その先端部に角筒部52を設け、かつ、後端部に円筒部53を形成し、上記角筒部52を上記中心孔46と同一形状としてその中心孔46内に嵌合可能とし、一方、円筒部53の外径を一対の平坦面51の対向間隔と同径または小径としている。
初期セット部材48は、金属パイプの圧造品からなり、その後端部における内径面には周方向の係合溝49が設けられている。
実施の形態で示すラッシュアジャスタAは上記の構造からなり、そのラッシュアジャスタAのエンジンにおける動弁装置への組み付けに際しては、図7に示すように、スライド部材27がボディ21内に押し込まれた収縮状態とされ、かつ、初期セット部材48の後端部がキャップ部材43の後端面から外部に突出して、先端部がキャップ部材43の中心孔46内に配置される初期セット状態を形成して組み付けるようにする。
ここで、ラッシュアジャスタAの初期セット状態の形成に際しては、まず、図6(a)に示すように、ボディ21の内部に押圧子31およびコイルばね32が組み込まれたスライド部材27を挿入し、そのスライド部材27を抜け止めリング34で抜け止めして、ボディ21およびスライド部材27の組立品を形成する。そして、組立品のスライド部材27が下向きとされる状態において、冶具60に形成された支持孔61内にスライド部材27を挿入する。
図6(a)に示すように、冶具60の上面によってボディ21が支持されると、そのボディ21の上側開口から内部に雄ねじ部材28を挿入し、その雄ねじ部材28を雌ねじ22にねじ係合してねじ込む。
図6(b)に示すように、雄ねじ部材28の下面がスライド部材27の上面で支持される位置まで雄ねじ部材28をねじ込むと、ボディ21の上側からばね収容孔25内に捩りコイルばね40を組み込む。
この場合、捩りコイルばね40は角形コイル部41を下向きとしてばね収容孔25内に組み込み、その角形コイル部41が、図6(c)に示すように、雄ねじ部材28のトルク伝達軸38に嵌合されると、キャップ部材43の対向一対の切り起こし片47を折り曲げ連結片42に係合し、上記キャップ部材43の回転により捩りコイルばね40に捩り力を付与する。このとき、ボディ21が回転しないように保持しておく。
捩りコイルばね40に対して捩り力を付与すると、キャップ部材43の中心孔46内に初期セット部材48を挿入する。この時、角筒部52を下向きとして初期セット部材48を中心孔46内に挿入し、その角筒部52が中心孔46に挿入され、かつ、トルク伝達軸38に嵌合される位置まで初期セット部材48を挿入することによって、ラッシュアジャスタAを初期セット状態とすることができる。
図7は、ラッシュアジャスタAの初期セット状態を示し、その初期セット状態で、初期セット部材48の角筒部52は切り起こし片47に係合して回り止めされ、その回り止めされた初期セット部材48の角孔に角軸からなる雄ねじ部材28のトルク伝達軸38が嵌合されているため、雄ねじ部材28はボディ21に対して相対的に回転不能とされ、捩りコイルばね40は捩り力が付与された状態に保持される。
上記のようにして初期セット状態とされたラッシュアジャスタAを、図1に示すシリンダブロック1に形成された嵌合孔2に嵌合し、図7に示すように、初期セット部材48の後端がその嵌合孔2の底面で支持される組付け状態で、図1に示すアーム3およびカムシャフト5の組付けを行ない、図示省略したカムホルダをシリンダブロックにボルト止めすると、ラッシュアジャスタAの初期セットが自動的に解除される。
すなわち、カムホルダをシリンダブロック1にボルト止めすることによって、そのカムホルダからカムシャフト5のカム6およびアーム3を介してスライド部材27に押し込み力が負荷され、ボディ21が下降する。そのボディ21の後端面が嵌合孔2の底面で支持される位置まで下降すると、上記底面で支持されていた初期セット部材48がボディ21内に押し込められ、その初期セット部材48の後端の円筒部53がキャップ部材43の中心孔46内に配置されてキャップ部材43に対して回転可能となり、捩りコイルばね40からトルク伝達軸38に負荷される回転トルクにより雄ねじ部材28がスライド部材27に向けて回転移動して、ラッシュアジャスタAの初期セットが解除され、図2に示す使用状態とされる。
このように、ラッシュアジャスタAを収縮させた初期セット状態において、そのラッシュアジャスタAを嵌合孔2に嵌合し、アーム3やカムシャフト5の組み付けを行うことによってラッシュアジャスタAの初期セットを自動的に解除されるため、初期セット解除をし忘れるという不都合の発生はない。
図1および図2に示すラッシュアジャスタAの動弁装置への組込み状態において、エンジンの定常運転状態では、カム6のカム片6aがローラ4に接触して、そのローラ4が押し下げられることにより、アーム3がスライド部材27の球面部29を中心にして他端が下方に移動する方向に向けて揺動し、そのアーム3の他端でバルブステム7が押し下げられ、バルブ8が開放する。
このとき、バルブスプリング10が圧縮変形し、そのバルブスプリング10の反力がアーム3を介してスライド部材27に入力される。その入力荷重によりスライド部材27が下降し、そのスライド部材27と雄ねじ部材28の対向部間に形成された軸方向すきまGに相当する量だけ下降すると、そのスライド部材27の後端面が雄ねじ部材28の先端面に当接し、上記入力荷重は雌ねじ22と雄ねじ37のねじ係合部に作用する。
この場合、雌ねじ22と雄ねじ37は、ねじ係合部において滑りが生じることのないねじ諸元に設定されているため、スライド部材27は雄ねじ部材28に当接すると停止する。また、スライド部材27の下降により、押圧子31は、コイルばね32の弾性に抗して大径孔部30a内に押し込められる状態となる。
カム6が回転してカム片6aがローラ4から離れ、カム6のベース円6bがローラ4と接触すると、バルブスプリング10の押圧により、バルブステム7が上方に移動し、バルブ8がバルブシート11に密着してバルブ8は閉鎖する。
このとき、スライド部材27に負荷されていたバルブスプリング10の反力が抜ける状態となるため、コイルばね32の弾性力によりスライド部材27が上昇し、その移動に伴って押圧子31がストッパ33に当接する位置までスライド部材27に対して相対移動し、スライド部材27と雄ねじ部材28の対向部間に軸方向すきまGが形成される。
このように、カム6の一回転毎にスライド部材27は軸方向すきまGに相当する分だけ上下動し、ラッシュアジャスタAはそれ以上に伸縮するようなことはない。実際には、雌ねじ22と雄ねじ37のねじ係合部に入力荷重が作用する瞬間に、ねじ係合部に僅かな相対滑りが生じるが、上記入力荷重が抜ける瞬間に、捩りコイルばね40の弾性により雄ねじ部材28が回転してスライド部材27に向けて移動して元の位置に戻ることになる。
バルブシート11の摩耗など、バルブクリアランスが収縮しつつある時は、ボディ21と雄ねじ部材28のねじ係合部におけるねじ係合面に滑りが生じて、雄ねじ部材28がスライド部材27から離反する方向に移動し、ラッシュアジャスタAが収縮して、バルブクリアランスの変化を吸収する。
一方、バルブステム7のエンドの摩耗などにより、バルブクリアランスが拡大しつつある場合は、捩りコイルばね40の弾性力により雄ねじ部材28が回転しつつスライド部材27に向けて移動すると共にスライド部材27も雄ねじ部材28と同方向に移動し、ラッシュアジャスタAが伸長して、バルブクリアランスの変化を吸収する。
ここで、ラッシュアジャスタAには、スライド部材27と雄ねじ部材28の対向面間に軸方向すきまGが形成されているため、シリンダブロック1とバルブ8の線膨張係数の相違による収縮差はその軸方向すきまGで吸収されることになり、バルブ8が不完全に閉鎖するのが防止される。
エンジン回りメンテナンスによってラッシュアジャスタAが取り外しされると、捩りコイルばね40のばね力により雄ねじ部材28が回転しつつボディ21の先端開口に向けて移動し、スライド部材27は雄ねじ部材28で押されて、ボディ21の先端開口から外部に大きく突出する。
取り外しされたラッシュアジャスタAを再度組み付ける場合は、ラッシュアジャスタAを収縮させた初期セット状態に復元する。その初期セット状態の復元に際しては、レンチ係合孔39にレンチを係合し、そのレンチの回転操作により、雄ねじ部材28をボディ21の後端部内まで後退動させ、スライド部材27をボディ21内に押し下げて、その後端面が雄ねじ部材28の先端面で支持される状態において、初期セット部材48の角筒部52が中心孔46内に引き込めるよう角筒部52の位相合わせを行い、初期セット部材48をキャップ部材43の後端面から後方に引き出して、初期セット部材48の先端部に形成された角筒部52を中心孔46内に位置させるようにする。
このとき、角筒部52がトルク伝達軸38から抜け出ることのない位置まで初期セット部材48を引き抜くようにする。その初期セット部材48の所定位置までの引き抜きにより、ラッシュアジャスタAは、図7に示されるよう、初期セット状態とされ、エンジンの動弁装置への再組み付けを可能とすることができる。
なお、初期セット部材48の引き抜きに際し、係合溝49に工具を係合して、その工具を引くことによって、初期セット部材48を簡単に所定位置まで引き抜くことができる。
図2乃至図5では、案内手段50として、キャップ部材43に形成された中心孔46の内周対向位置に一対の平坦面51を設け、初期セット部材48には、その先端部に、中心孔46と同一形状で、その中心孔46に嵌合可能な角筒部52を設け、後端部に、外径が一対の平坦面の間隔にほぼ等しくされた円筒部53を形成したものを示したが、案内手段50は、これに限定されるものではない。
図8乃至図10は、案内手段50の他の例を示す。図8に示す案内手段50においては、キャップ部材43に形成された中心孔46を角孔とし、初期セット部材48には、その先端部に上記中心孔46に適合する角筒部52を設け、後端部に外径が上記中心孔46の内接円径と同径または小径とされた円筒部53を形成して、中心孔46に角筒部52を位置させることで、初期セット部材48を回り止めする状態でスライド自在とし、円筒部53を中心孔46に位置させることで初期セット部材48を回転自在としている。
図9に示す案内手段50においては、キャップ部材43に形成された中心孔46を円形とし、その円形中心孔46の内周に突部54を設け、初期セット部材48には、先端側に上記円形中心孔46に適合する大径円筒部55と、後端側に上記中心孔46に対して余裕をもって挿入可能な小径円筒部56とを設け、上記大径円筒部55の外周に上記突部54がスライド自在に嵌合される軸方向の回り止め溝57を形成し、中心孔46に大径円筒部55を位置させ、回り止め溝57を突部54に係合させることによって、初期セット部材48をスライド自在とし、かつ、相対的に回転するのを防止するようにしている。
図10に示す案内手段50においては、キャップ部材43に形成された中心孔46を円形とし、その円形中心孔46の内周に切欠部58を設け、初期セット部材48を上記円形中心孔46に対してスライド自在に嵌合可能な円筒状とし、その円筒状外周面に上記切欠部58に対してスライド可能に嵌合される突条59を、初期セット部材48の先端から軸方向の略中央位置に至って設けている。
図8乃至図10に示すいずれの案内手段50においても、初期セット部材48の先端部が中心孔46に配置される状態で、その初期セット部材48を相対回転不能な状態でスライド自在とし、初期セット部材48の後端部が中心孔46内に配置される状態で、その初期セット部材48を相対的に回転可能とすることができる。
図1では、スイングアーム式動弁装置にラッシュアジャスタAを適用した場合を例にとって説明したが、ラッシュアジャスタAが適用される動弁装置はこれに限定されるものではない。
例えば、カムの上方に設けられたロッカシャフトを中心にしてアームを揺動自在に支持し、上記カムの回転によりアームの一端部を押し上げ、アームの他端部でバルブステムを押し下げてバルブを開放させるようにしたロッカアーム式動弁装置や、カムによってバルブステムを押し下げるダイレクト型動弁装置にも適用することができる。さらに、カムシャフトを下方に設置し、プッシュロッドでシリンダ上部に配置したロッカアームを揺動させるようにしたOHVエンジンのロッカアームの先端部に組込むことも可能である。
21 ボディ
22 雌ねじ
26 プランジャ
27 スライド部材
28 雄ねじ部材
38 トルク伝達軸
40 捩りコイルばね(ばね部材)
43 キャップ部材
44 底板
46 中心孔
48 初期セット部材
50 案内手段
51 平坦面
52 角筒部
53 円筒部
54 突部
55 大径円筒部
56 小径円筒部
57 回り止め溝
58 切欠部
59 突条

Claims (9)

  1. 内周に雌ねじが形成された筒状のボディ内にプランジャを組込み、そのプランジャを前記雌ねじにねじ係合される雄ねじ部材と、先端部が前記ボディの先端開口から外部に臨むスライド部材とに分割し、前記ボディ内に組込まれたばね部材により雄ねじ部材にスライド部材に向けて移動する方向の回転トルクを付与した動弁装置におけるラッシュアジャスタにおいて、
    前記雄ねじ部材の後端部に前記ばね部材によって回転トルクが負荷されるトルク伝達軸を設け、そのトルク伝達軸に筒状の初期セット部材を嵌合して、スライド自在に、かつ、相対回転不能に支持し、前記ボディの後端開口部内に嵌合されて前記ばね部材を抜止め支持するキャップ部材の底板に前記初期セット部材が挿入される中心孔を設け、その中心孔の内周と初期セット部材の外周の相互間に、前記初期セット部材の先端部が中心孔に配置される状態で、その初期セット部材を相対回転不能な状態でスライド自在に支持し、初期セット部材の後端部が前記中心孔内に配置される状態で、その初期セット部材を相対回転可能に支持する案内手段を設けたことを特徴とする動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
  2. 前記トルク伝達軸を角軸とし、前記初期セット部材の内周を角形として、前記トルク伝達軸に対して初期セット部材をスライド自在に、かつ、相対回転不能とした請求項1に記載の動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
  3. 前記案内手段が、前記キャップ部材に形成された中心孔の内周対向位置に一対の平坦面を設け、前記初期セット部材には、その先端部に、前記中心孔と同一形状で、その中心孔に嵌合可能な角筒部を設け、後端部に、外径が一対の平坦面の間隔にほぼ等しくされた円筒部を形成した構成からなる請求項1又は2に記載の動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
  4. 前記案内手段が、前記キャップ部材に形成された中心孔を角孔とし、前記初期セット部材には、その先端部に上記角孔に適合する角筒部を設け、後端部に外径が上記角孔の内接円径と同径または小径とされた円筒部を形成した構成からなる請求項1又は2に記載の動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
  5. 前記案内手段が、前記キャップ部材に形成された中心孔を円形とし、その円形中心孔の内周に突部を設け、前記初期セット部材には、先端側に前記円形中心孔に適合する大径円筒部と、後端側に前記中心孔に対して余裕をもって挿入可能な小径円筒部とを設け、前記大径円筒部の外周に前記突部がスライド自在に嵌合される軸方向の回り止め溝を形成した構成からなる請求項1又は2に記載の動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
  6. 前記案内手段が、前記キャップ部材に形成された中心孔を円形とし、その円形中心孔の内周に切欠部を設け、前記初期セット部材を前記円形中心孔に対してスライド自在に嵌合可能な円筒状とし、その円筒状外周面に前記切欠部に対してスライド可能に嵌合される突条を、初期セット部材の先端から軸方向の略中央位置に至って設けた構成からなる請求項1又は2に記載の動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
  7. 前記初期セット部材の内径面に周方向の係合溝を形成した請求項1乃至6のいずれかの項に記載の動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
  8. 前記初期セット部材が、金属パイプの圧造品からなる請求項1乃至7のいずれかの項に記載の動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
  9. 前記雄ねじ部材の後端面にレンチ係合部を形成した請求項1乃至8のいずれかの項に記載の動弁装置におけるラッシュアジャスタ。
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