JP2014136821A - 銅合金箔、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及び銅合金箔の製造方法 - Google Patents

銅合金箔、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及び銅合金箔の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高温、長時間での充放電サイクル特性に優れる。
【解決手段】母相となる無酸素銅に0.01質量%以上0.15質量%以下のZrが含有され、引張試験から測定されるヤング率Eと0.2%耐力σ0.2とを用いて「ε0.2=(σ0.2/E)×100+0.2」・式(1)から求められる0.2%耐力に達するときのひずみ量ε0.2が、圧延方向となす角度が0°,15°,30°,45°,60°,75°、及び90°となる7方向において、全て0.5%以上1.0%未満の範囲内にあり、7方向におけるひずみ量ε0.2のうち、最大値をε0.2MAXとし、最小値をε0.2MINとしたときに、ε0.2MAX/ε0.2MINが1.25以下である。
【選択図】図1

Description

本発明は、銅合金箔、係る銅合金箔を用いたリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及び銅合金箔の製造方法に関する。
電子機器の小型化、軽量化が進み、その電源としてエネルギー密度の高い二次電池が望まれている。二次電池とは、電解質を介した化学反応により正極活物質と負極活物質とが持つ化学エネルギーを電気エネルギーとして外部に取り出すものである。実用化されている中で、高いエネルギー密度を持つ二次電池としてはリチウムイオン二次電池が挙げられる。
リチウムイオン二次電池は、正極、負極、正極と負極とを絶縁するセパレータ、及び正極と負極との間でリチウムイオンの移動を可能にする電解液で構成される。リチウムイオンが正極活物質と負極活物質との間を出入り(インターカレーション、デインターカレーション)することで、充放電を繰り返す。
リチウムイオン二次電池に使用される負極活物質としては、主に炭素材料が用いられている。炭素材料が多層結晶構造を有することで、リチウムイオンの炭素材料の結晶間への吸蔵および結晶間からの放出が可能となる。また、近年、リチウムイオン二次電池には、更なる大容量化が求められており、炭素材料の理論容量を大きく超える充放電容量を持つ次世代の負極活物質、すなわち、大容量負極活物質の開発がすすめられている。具体的には、シリコン(Si)やスズ(Sn)等のリチウム(Li)との合金化が可能な金属を含む材料に期待が寄せられている。
これらの負極活物質をバインダ樹脂成分と導電材と共に水や有機溶剤に混練、分散させたスラリーを、負極集電体となる銅箔上に塗布する。その後、水または有機溶剤を乾燥、除去した後に、必要に応じてロールプレス機で加圧成型してリチウムイオン二次電池用負極を製造するのが一般的である。
これまで、例えばタフピッチ銅又は無酸素銅を素材とする圧延銅箔等が、リチウムイオン二次電池用負極に用いられてきた。このような圧延銅箔は、水や有機溶剤の乾燥工程において再結晶を起こして軟化し、引張強さが200N/mm近くまで低下してしまうことがある。このように軟化した銅箔では、充放電に伴う負極活物質の膨張や収縮で生じる応力によって変形や破断が生じ易くなってしまう。このような課題に対応して、タフピッチ銅等に替わり銅合金を素材とする銅合金箔が提案されている。
例えば、特許文献1では、無酸素銅に、Ag,Bi,Cd,Cr,Sb,Sn,Zrの中の1種以上を50ppm以上添加した銅合金箔が提案されている。また、例えば特許文献2では、0.002質量%〜0.045質量%のPを含有し、更に、0.006質量%〜0.25質量%のFeおよび0.005質量%〜0.25質量%のAgの少なくともいずれかを含有する銅合金箔が提案されている。また、例えば特許文献3では、0.05質量%〜0.22質量%のSnと0.1質量%以下のAgとを含有する銅合金箔が提案されている。
特開2000−303128号公報 特開2000−328159号公報 特開2011−216463号公報
一方で、負極活物質層を銅合金箔上に形成する際、負極活物質が混練されるバインダ樹脂等についても、高結着性が得られるような樹脂材が種々検討されている。このため、リチウムイオン二次電池用負極の製造工程における熱処理の条件も、例えば350℃で3時間の熱処理のような過酷なものとなってきている。
しかしながら、上述の特許文献1〜3のいずれも、このような高温、長時間での熱処理を想定に入れていない。つまり、特許文献1の銅合金は、熱処理前の状態で460N/mm〜480N/mmの引張強さを有している。係る銅合金の耐熱性としては200℃で30分の熱処理後の引張強さで400N/mm〜430N/mmを目標としている。よって、更に高温でも引張強さを維持することは目的とされていない。
また、特許文献2の銅合金箔では300℃で5分の熱処理後の、特許文献3の銅合金箔では300℃で30分の熱処理後の引張強さをそれぞれ目標としている。よって、いずれにおいても上述のような高温、長時間での熱処理については考慮されていない。
本発明の目的は、高温、長時間での充放電サイクル特性に優れる銅合金箔、係る銅合金箔を用いたリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及び銅合金箔の製造方法を提供することである。
本発明の第1の態様によれば、
母相となる無酸素銅に0.01質量%以上0.15質量%以下のZrが含有され、
引張試験から測定されるヤング率Eと0.2%耐力σ0.2とを用いて以下の式(1)から求められる0.2%耐力に達するときのひずみ量ε0.2が、圧延方向となす角度が0°,15°,30°,45°,60°,75°、及び90°となる7方向において、全て0.5%以上1.0%未満の範囲内にあり、
前記7方向における前記ひずみ量ε0.2のうち、最大値をε0.2MAXとし、最小値をε0.2MINとしたときに、ε0.2MAX/ε0.2MINが1.25以下である
銅合金箔が提供される。
ε0.2=(σ0.2/E)×100+0.2 ・・・(1)
本発明の第2の態様によれば、
前記圧延方向において450N/mm以上の引張強さを有し、
350℃で3時間加熱した後に、前記圧延方向において400N/mm以上の引張強さが維持される
第1の態様に記載の銅合金箔が提供される。
本発明の第3の態様によれば、
75%IACS以上の導電率を有する
第1又は第2の態様に記載の銅合金箔が提供される。
本発明の第4の態様によれば、
厚さが20μm以下である
第1〜第3の態様のいずれかに記載の銅合金箔が提供される。
本発明の第5の態様によれば、
第1〜第4の態様のいずれかに記載の銅合金箔が熱処理されてなるリチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔と、
前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔の少なくとも片面に形成された負極活物質層と、
前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔に接続されたタブリードと、を備える
リチウムイオン二次電池用負極が提供される。
本発明の第6の態様によれば、
第5の態様に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、
リチウムイオン二次電池用正極と、
前記リチウムイオン二次電池用負極及び前記リチウムイオン二次電池用正極の間に挿入されたセパレータと、
前記セパレータが間に挿入された前記リチウムイオン二次電池用負極及び前記リチウムイオン二次電池用正極が収容され、電解液が封入された容器と、を備える
リチウムイオン二次電池が提供される。
本発明の第7の態様によれば、
母相となる無酸素銅に0.01質量%以上0.15質量%以下のZrが含有された銅合金素材に熱間圧延を施して板材を形成する熱間圧延工程と、
前記板材に冷間圧延を施して生地を形成する冷間圧延工程と、
前記生地を所定温度で所定時間保持して前記生地に再結晶焼鈍を施す再結晶焼鈍工程と、
前記再結晶焼鈍を施された前記生地に複数回の冷間圧延を施す最終冷間圧延工程と、を有し、
前記最終冷間圧延工程では、
前記複数回の冷間圧延による総加工度が97%以下となり、かつ、前記複数回の冷間圧延におけるそれぞれの加工度が全て40%以下となるよう冷間圧延を行う
銅合金箔の製造方法が提供される。
本発明によれば、高温、長時間での充放電サイクル特性に優れる銅合金箔、係る銅合金箔を用いたリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、及び銅合金箔の製造方法が提供される。
本発明の一実施形態に係る銅合金箔の製造工程を示すフロー図である。 本発明の一実施形態に係る銅合金箔及びリチウムイオン二次電池用負極の平面図である。 本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の斜視断面図である。 引張試験によって得られる所定の銅合金箔の応力ひずみ線図を模式的に表わした図である。
<本発明の一実施形態>
(1)リチウムイオン二次電池の概略構成
まずは、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の概略構成について、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、本実施形態に係る銅合金箔10及びリチウムイオン二次電池用負極1の平面図である。図3は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池50の斜視断面図である。
図3に示されているように、リチウムイオン二次電池50は、図示しない電解液が封入された容器としての電池外挿缶5を備えている。電池外挿缶5には、タブリード13を備えたリチウムイオン二次電池用負極1(以下、単に「負極1」ともいう)と、タブリード23を備えたリチウムイオン二次電池用正極2(以下、単に「正極2」ともいう)とが、間にセパレータ3が挿入された状態で収容されている。
また、図2に示されているように、負極1は、例えば銅合金箔10が熱処理されてなるリチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔11(以下、単に「負極集電銅合金箔11」ともいう)と、例えばその片面または両面に形成された負極活物質層12とを備える。上述のタブリード13は、負極集電銅合金箔11の露出領域11sに直接接続されている。リチウムイオン二次電池50及びリチウムイオン二次電池用負極1の詳細の構成については後述する。
なお、本明細書においては、リチウムイオン二次電池用負極1の製造工程における熱処理を施される前の状態のものを、原則、銅合金箔10と呼ぶ。また、負極1の製造工程における熱処理を施された後の状態のものを、原則、リチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔11、或いは単に、負極集電銅合金箔11と呼ぶ。
(2)銅合金箔の構成
本発明の一実施形態に係る銅合金箔10は、例えば後述するように、少なくとも片面に負極活物質層12が形成される際に所定の熱処理が施され、リチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔11となるよう構成されている。以下に、本発明の一実施形態に係る銅合金箔10について説明する。
(銅合金箔の概要)
銅合金箔10は、母相となる無酸素銅(OFC:Oxygen-Free Copper)に0.01質量%以上0.15質量%以下、好ましくは0.03質量%以上0.10質量%以下のジルコニウム(Zr)が含有された例えば厚さが20μm以下、好ましくは10μm以下の圧延による銅合金箔である。このように、銅合金箔10を薄くすることで、リチウムイオン二次電池50の小型化に追従できる。また、銅合金箔10への活物質の塗布量を増加させることができ、電池50の大容量化を図ることができる。
また、このように、Zr濃度が所定値以上であると、引張強さと耐熱性とに優れた銅合金箔10となる。銅合金箔10が有する引張強さは、例えば圧延方向において450N/mm以上、好ましくは480N/mm以上である。但し、所定値を超えてZr濃度を高めても、加工性の低下を招くばかりで、引張強さはそれ以上、向上しない。
また、Zr濃度を所定値以下に抑えることで、未固溶のZrによる粗粒第二相析出物が形成され難くなる。また、導電率を高く維持することができ、例えば75%IACS以上、好ましくは80%IACS以上の導電率が安定して得られる。なお、導電率(%IACS)は、電気抵抗率が17.24nΩ・mの標準焼なまし銅線の導電率を100%としたときの所定物質の導電率である。
一般的な銅箔の導電率は、90%IACS〜95%IACS程度である。銅合金箔10の導電率が75%IACS以上であれば、一般的な銅箔の導電率に対して充分な値といえる。銅合金箔10の導電率が更に80%IACS以上であれば、一般的な銅箔の導電率に対して遜色ない値といえる。上述のように、Zr濃度を好ましくは0.10質量%以下とすることで、一層、80%IACS以上の導電率が得られ易い。
また、銅合金箔10が有する導電率の数値は、リチウムイオン二次電池50において使用されるその他の部材の中でも最も高い値の1つであり、リチウムイオン二次電池50の電池としての特性を阻害することがないよう考慮された値である。具体的には、例えばリチウムイオン二次電池用正極2の正極集電体として用いられるアルミニウム箔は、導電率が60%IACS程度である。これ以上の導電性を有する銅合金箔10を負極集電体(負極集電銅箔)として用いることで、電池50全体としての電気的特性上の均衡を維持し易いと考えられる。
また、母相となる無酸素銅は、例えば酸素(O)含有量を数ppm程度に抑えた純度3N(99.9%)以上の銅(Cu)素材である。銅合金箔10においては、ZrがCu中に固溶することで耐熱性の向上効果が得られる。したがって、含有酸素量が低くZr酸化物等が生成され難い無酸素銅を用いることで、例えば酸素含有量が100ppm〜600ppm程度のタフピッチ銅等を用いた場合より、Zrによる耐熱性の向上効果が得られ易い。
(ひずみ量ε0.2
図4は、引張試験によって得られる所定の銅合金箔の応力ひずみ線図を模式的に表わした図である。係る線図の縦軸は引張応力(N/mm)であり、横軸はひずみ量(%)である。ここで、ひずみ量(%)は、測定に係る銅合金箔の変形量であり、銅合金箔の当初の長さをL、変形した(延びた)分の長さをΔLとすると、ひずみ量(%)=ΔL/Lで表わされる。
図4に示されているように、ひずみ量に対して引張応力が直線的に上昇する弾性域を経て、引張応力は上昇せずひずみだけが進行する塑性域に移り、引張応力が最大値となった後には破断が生じる。ここで、弾性域での直線の傾きは、ヤング率Eと定義される。また、負荷を取り除いた(除荷した)後に残る永久ひずみ量が0.2%になるときの引張応力は、0.2%耐力σ0.2と定義される。0.2%耐力σ0.2は、弾性域から塑性域への変曲点である降伏点と同様の意味で用いられる。また、引張応力の最大値が、引張試験に係る銅合金箔の引張強さに相当する。
ここで、引張試験から測定されるヤング率Eと0.2%耐力σ0.2とを用い、以下の式(1)から0.2%耐力に達するときのひずみ量ε0.2を求めることができる。
ε0.2=(σ0.2/E)×100+0.2 ・・・(1)
当初、引張応力と比例関係にあったひずみ量は、次第に比例関係を示す直線上から外れていく。0.2%耐力に達するときのひずみ量ε0.2においては、永久ひずみ量の0.2%分だけ直線上から外れた値となる。式(1)は、この0.2%分のズレを考慮に入れた関係式となっている。すなわち、図4のグラフ上でみれば、引張応力とひずみ量との比例関係を示す直線を、0.2%分だけずらしたこととなる。なお、銅合金箔の引張強さ、つまり、引張応力の最大値に近づくにつれ、引張応力の上昇は鈍り、飽和状態に近づいていく。よって、銅合金箔10においては、ひずみ量ε0.2を例えば1.0%未満とした。なお、ひずみ量ε0.2は、例えば2.0%以上にはなり難い。
ところで、圧延による銅合金箔の引張強さや0.2%耐力σ0.2やヤング率E、またこれらにより求められるひずみ量ε0.2等の機械的特性は、圧延方向やこれとは異なる方向で様々に異なる値を示す、所謂、異方性を有している。係る異方性は、銅の単結晶自体に起因する異方性と、鋳造や圧延や熱処理等の製造工程を経て形成される銅合金箔内の結晶粒の配向性とによって現れる性質である。
本実施形態に係る銅合金箔10においては、上述の式(1)から求められるひずみ量ε0.2が、圧延方向となす角度が0°,15°,30°,45°,60°,75°、及び90°となる7方向において、全て0.5%以上1.0%未満の範囲内にある。また、銅合金箔10においては、これら7方向におけるひずみ量ε0.2のうち、最大値をε0.2MAX、最小値をε0.2MINとしたときに、ε0.2MAX/ε0.2MINが1.25以下、好ましくは1.2以下である。
本実施形態に係る銅合金箔10が、このような特性を備えることの意義について以下に述べる。
リチウムイオン二次電池用負極に用いられる銅合金箔においては、例えば長尺状の銅合金箔に対し、コイル・ツー・コイル方式の製造ラインを適用して負極が製造される。このとき、係る製造ラインの高張力によって起きる破断(箔切れ)抑制のため、これまでは、張力が印加される圧延方向の機械的特性が注目されてきた。
しかしながら、近年では、結着性の高いポリイミド等の熱可塑性のバインダ樹脂を負極活物質層に用いることが提案されており、係る樹脂材料のイミド化促進のため、例えば負極の製造工程における熱処理条件も過酷なものとなってきている。
また、上述のように、リチウムイオン二次電池の小型化に伴い、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる圧延銅箔の薄肉化が進んでいる。このような負極活物質の大容量化や銅合金箔の薄肉化に伴い、負極の製造工程における箔切れや、軟化による充放電時の変形や破断等が起こり易くなっている。このため、銅合金箔の機械的特性に対する要求がいっそう高まってきている。
一方で、更なる大容量化を図るべく、例えば充放電時のリチウムイオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化が大きいSiやSn等が負極活物質に用いられるようになってきた。よって、充放電サイクルにより膨張と収縮とを繰り返すことで、活物質粒子が微粉化したり、負極集電体となった銅箔から剥離又は脱落してしまったりと、サイクル劣化がいっそう起こり易くなってしまう。
本発明者等は、このような要求に応えるには、充放電時に加わる銅合金箔に引張応力をも考慮に入れる必要があると考えた。そこで、本発明者等は、上述の式(1)で求められる0.2%耐力に達するときのひずみ量ε0.2を、評価値として用いることとした。
このひずみ量ε0.2は、銅合金箔の弾性変形が可能な弾性域内のひずみ量とみることができる。本発明者等は、係るひずみ量ε0.2を、例えばリチウムイオン二次電池用負極に用いられる銅合金箔等において、充放電による負極活物質の膨張や収縮に追従して繰り返し変形が可能なひずみ量の評価値として用いることができると考えた。
ここで、銅合金箔に繰り返しの変形を許容するひずみ量ε0.2が小さすぎると、負極活物質の膨張が抑制され、充放電時の容量低下が懸念される。また、ひずみ量ε0.2が大きすぎると、充放電時の膨張が大きくなりすぎ、リチウムイオン二次電池が搭載されている電子機器等の設計上、係る膨張を考慮に入れなければならない等の弊害が生じてしまう。
さらに、本発明者等は、係るひずみ量ε0.2の異方性を小さく抑えることが必要と考えた。銅合金箔に繰り返しの変形を許容するひずみ量ε0.2の異方性が大きいと、係る膨張や収縮で生じる引張応力によって、弾性域での変形に留まる方向と、塑性域での変形に達してしまう方向とが混在すると考えられる。よって、特定方向で塑性域での変形に達して永久ひずみ量が大きくなり、銅合金箔の延性が低下してしまい、負極の変形や破断が生じ易くなってしまう。
本実施形態に係る銅合金箔10においては、以上のことを考慮のうえ、圧延方向に対する7つの方向について、ひずみ量ε0.2の値自体の範囲と、最大値および最大値の比率が上述のように定められている。
(銅合金箔の特性)
以上のような構成とすることで、銅合金箔10は、リチウムイオン二次電池用負極1の製造工程での熱処理を経て負極集電銅合金箔11となった後であっても、充分な機械的強度を有する。具体的には、銅合金箔10、又は負極集電銅合金箔11が有する機械的強度は、以下のように規定される。
ここで、負極1の製造工程における熱処理条件として最も過酷と考えられる条件の1つは、例えば350℃で3時間の加熱に相当する条件である。これは、例えば上述の200℃で30分の熱処理(特許文献1)や、300℃で5分の熱処理(特許文献2)や、300℃で30分の熱処理(特許文献3)等の条件よりも遥かに厳しい条件である。
本実施形態に係る銅合金箔10は、このような350℃で3時間の熱処理後に、圧延方向において400N/mm以上、好ましくは430N/mm以上の引張強さを備える。銅合金箔10においては、銅合金箔10の製造を終えたなりの最終冷間圧延後かつ熱処理前の状態、つまり、JIS規格で規定される所謂H材の状態で、上述のように、例えば圧延方向において450N/mm以上、好ましくは480N/mm以上の引張強さを備える。これにより、熱処理後の引張強さが所定値以上に保たれる。
上述のように、Zr濃度を上述の範囲内であって、かつ、比較的高濃度、例えば0.03質量%以上などとすることで、熱処理後に上述の好ましい範囲である430N/mm以上の引張強さが得られ易くなる。或いは、熱処理前の引張強さを480N/mm以上と一層高く設定しておくことで、Zr濃度を上述の範囲内であって、かつ、比較的低濃度とした場合であっても、熱処理後において安定的に430N/mm以上の引張強さを確保することができる。
銅合金箔10において耐熱性を高める方法としては、例えば、これまで述べてきたZr濃度による調整のほか、後述する最終冷間圧延工程における条件の適正化がある。上述のように、Zr濃度が比較的低濃度であっても安定的な耐熱性が得られるよう、熱処理前の引張強さを充分に高めておくには、例えば最終冷間圧延工程の条件を調整すればよい。
(3)銅合金箔の製造方法
次に、銅合金箔10の製造方法について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る銅合金箔10の製造工程を示すフロー図である。
(銅合金素材準備工程S10)
図1に示されているように、まずは、原材料となる銅合金素材としてのインゴット(鋳塊)を用意する。係るインゴットは、母相となる無酸素銅(OFC)に0.01質量%以上0.15質量%以下、好ましくは0.03質量%以上0.10質量%以下のZrが含有されるよう、ZrとOFCとを溶解して鋳造されたものである。
(熱間圧延工程S20)
次に、係るインゴットに対し、熱間圧延を施して板材を形成する。なお、熱間圧延工程S20に先んじて、鋳造組織中に生じている偏析を均質化する加熱処理を行っておくことが望ましい。具体的には、平衡状態で均質な固溶状態となる温度以上の温度域に30分以上、インゴットを保持する。加熱温度は、例えば800℃以上950℃以下が好ましい。
(繰り返し工程S30)
続いて、熱間圧延を施された板材に対し、冷間圧延工程S31と再結晶焼鈍工程S32とを複数回繰り返す繰返し工程S30を行う。
冷間圧延工程S31では、上述の板材に冷間圧延を施して生地を形成する。
再結晶焼鈍工程S32では、処理炉の温度を600℃以上900℃以下の範囲とし、焼鈍時間を数秒間以上数時間以下の範囲で行う。これにより、再結晶焼鈍後の結晶粒径の大きさが数十μmとなった生地が得られる。
(最終冷間圧延工程S40)
次に、繰返し工程S30を経て再結晶焼鈍を施された生地に、最終冷間圧延工程S40を施して、所定の厚さ、例えば20μm以下、好ましくは10μm以下の圧延銅合金箔とする。
最終冷間圧延工程S40では、熱処理を挟まずに所定の厚さになるまで、複数回の圧延を繰り返す。このとき、最終冷間圧延工程S40における総加工度と1回(1パス)あたりの圧延パスの加工度とが共に、機械的特性の異方性に影響を及ぼす。ここで、総加工度Rは、最終冷間圧延前の加工対象物の厚さをTとし、最終冷間圧延後の加工対象物の厚さをTとすると、R(%)=[(T−T)/T]×100で表わされる。また、1回あたりの圧延パスの加工度rは、nパス目の圧延前の加工対象物の厚さをtとし、nパス目の圧延後の加工対象物の厚さをtとすると、r(%)=[(t−t)/t]×100で表わされる。
最終冷間圧延工程S40においては、総加工度Rを97%以下、好ましくは95%以下とし、かつ、1回あたりの圧延パスの加工度rを40%以下、好ましくは35%以下とする。
総加工度Rを大きくすると、得られる銅合金箔の引張強さは増すが、機械的特性の異方性も大きくなって銅合金箔の延性が低下しまう。総加工度Rが98%以上ともなると延性の低下が著しく、例えば引張試験において0.2%耐力に達する以前に破断が生じてしまうこともある。そこで、総加工度を上述の範囲内とすることで、上述のひずみ量ε0.2の最大値ε0.2MAXおよび最大値ε0.2MINの比率、つまり、ε0.2MAX/ε0.2MINが1.25以下、好ましくは1.2以下となるよう調整することができる。
また、1回あたりの圧延パスの加工度rが40%を超えると、厚さ方向に対し斜めに横断する結晶組織のような、通常の圧延組織とは異なるせん断帯が生じてしまう。せん断帯が生じると機械的特性の異方性が大きくなって、たとえ総加工度Rが所定の範囲内であっても、ε0.2MAX/ε0.2MINが1.25を超えてしまうことがある。そこで、最終冷間圧延工程S40での全ての圧延パスのそれぞれの加工度rを上述の範囲内とすることで、ε0.2MAX/ε0.2MINが1.25以下、好ましくは1.2以下となるよう調整することができる。
また、銅合金箔10の耐熱性は、例えばZr濃度や総加工度Rや加工度r等により制御できる。よって、Zr濃度が上述の所定範囲内において低めであるときは、総加工度Rや加工度rをより小さくすることで、所望の耐熱性、つまり、熱処理後の引張強さを維持することができる。つまり、Zr濃度を上述の範囲内で変化させ、例えば0.03質量%未満などとしても、総加工度Rを例えば95%以下とすることで、熱処理後において安定的に400N/mm以上の引張強さを確保することができる。
以上の工程を経た後、例えば粗化処理および防錆処理等の所定の表面処理を行ってもよい。以上により、銅合金箔10が製造される。
(4)リチウムイオン二次電池用負極の製造方法
次に、図2に示される構成を備えるリチウムイオン二次電池用負極1の製造方法について説明する。
負極1に用いる負極活物質としては、リチウム(Li)の吸蔵放出が可能なものであればよい。例えば、黒鉛、炭素繊維、コークス、球状炭素などの炭素(C)質物が挙げられる。また例えば、リチウム(Li)、スズ(Sn)、シリコン(Si)等の金属や、リチウムチタン酸化物、スズ酸化物、シリコン酸化物、タングステン酸化物等の金属化合物が挙げられる。また例えば、リチウムスズ(Li−Sn)合金、リチウムシリコン(Li−Si)合金等のリチウム合金が挙げられる。
負極1に用いる結着剤(バインダ成分)としては、例えば有機溶剤系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)などが挙げられる。また例えば、水分散系のスチレンブタジエンゴム(SBR)などが挙げられる。
負極1に用いる導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素系微粒子や、黒鉛系微粒子等が挙げられる。
以下、ポリイミド(PI)などの高結着性の熱可塑性バインダを結着剤として用いる場合について説明する。
(スラリー塗布工程)
まずは、銅合金箔10にスラリーを塗布する方法について説明する。係る工程は、例えばコイル・ツー・コイル方式の連続ラインにより、銅合金箔10にスラリーを塗布するアプリケータ等の装置を用いて行う。
具体的には、例えば負極活物質、バインダ溶液、及び必要に応じて導電助剤を混練したスラリーを、銅合金箔10の片面または両面に塗布し、例えば70℃〜130℃で数分間〜数十分間、乾燥する。ここで、バインダ溶液としては、例えば先に挙げたポリイミド等のイミド系樹脂の前駆体等の溶液を用いる。
(熱処理工程)
次に、例えばバッチ形式、あるいはライン形式の赤外線加熱炉等を用い、スラリーが塗布された銅合金箔10に対し、バインダ成分の熱可塑性領域の温度以上となる高温かつ長時間の熱処理を施す。具体的には、300℃以上350℃以下での熱処理を1時間以上3時間以下施す。これにより、例えばイミド系樹脂等の前駆体からなるバインダ成分は、負極活物質粒子の凹凸内へと入り込みつつイミド化反応が進行して固化する。これにより、負極集電銅合金箔11の片面または両面に、負極活物質及びイミド化されたバインダ樹脂を含む負極活物質層12が、高い結着性を有して形成される。
また、銅合金箔10は、上述の熱処理を経て負極集電銅合金箔11となる。このとき、銅合金箔10は、その製造工程において、総加工度Rおよび1回あたりの圧延パスの加工度rを所定値内とした最終冷間圧延工程S40を経ている。よって、上述の熱処理を経た後の負極集電銅合金箔11においても、所定の引張強さが維持される。
(加圧成型工程)
続いて、銅合金箔10が熱処理されてなる負極集電銅合金箔11の片面または両面に形成された負極活物質層12を圧縮成型する。係る工程では、例えばコイル・ツー・コイル方式のロールプレス機等を用い、負極活物質層12を略均一の厚みに均して成型する。
(タブリード接続工程)
次に、図2を参照しながら、負極集電銅合金箔11にタブリード13を接続する方法について説明する。
図2に示されているように、片面または両面に負極活物質層12が形成され、例えば圧延方向に沿って短冊状に切り離された負極集電銅合金箔11は、少なくとも片面或いは両面の一端に、負極活物質層12が形成されていない露出領域11sを有する。リチウムイオン二次電池50が備える電池外挿缶5と電気的接続を取るため、この負極集電銅合金箔11の露出領域11sに例えば溶接によりタブリード13を接続する。
すなわち、負極集電銅合金箔11の露出領域11sと、例えばNi又はNiめっき銅等からなるタブリード13とを重ね合わせ、例えば超音波溶接機にて、所定の加圧力、負荷エネルギーを加えつつ、所定の負荷時間で溶接処理を行う。これにより、負極集電銅合金箔11とタブリード13とが接続される。
以上により、銅合金箔10が熱処理されてなるリチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔11と、負極集電銅合金箔11の片面または両面に形成された負極活物質層12と、負極集電銅合金箔11に接続されたタブリード13と、を備えるリチウムイオン二次電池用負極1が製造される。
(5)リチウムイオン二次電池の製造方法
次に、図3を参照しながら、リチウムイオン二次電池50の製造方法について説明する。ここでは、図3に示す円筒型のリチウムイオン二次電池50を例にとって説明するが、リチウムイオン二次電池は、角型、ラミネート型等、他の形態を有していてもよい。
まず、リチウムイオン二次電池用負極1とリチウムイオン二次電池用正極2とをセパレータ3を介して重ね合わせ、図示しない巻芯に巻き取った捲回体4を製作する。正極2は、リチウムイオン二次電池用正極集電金属箔と、正極集電金属箔の例えば片面または両面に形成された正極活物質層と(いずれも図示せず)、正極集電金属箔に接続されたタブリード23と、を備える。正極集電金属箔を構成する金属は、例えばアルミニウム(Al)やその他の金属等である。正極活物質層は、例えばLiを含む金属複合酸化物等からなる。セパレータ3は、例えば多孔質の樹脂等からなる。
次に、容器としての電池外挿缶5に、図示しない下部絶縁板と、捲回体4とをこの順に収容する。続いて、図示しないマンドレル(芯金)を捲回体4の中心に挿入し、上部絶縁板を電池外挿缶5に収容した後に、電池外挿缶5に溝6を形成(溝入れ)する。この後、乾燥を行って電池外挿缶5内の水分を飛ばす。電池外挿缶5内が充分に乾燥したら、図示しない電解液を注入する。次に、電池外挿缶5の溝6近傍にガスケット7を装着し、負極1のタブリード13を電池外挿缶5に、正極2のタブリード23をキャップ8の備える端子8tにそれぞれ溶接し、キャップ8を電池外挿缶5にクリンプ(圧着)して電解液を封入する。
以上により、セパレータ3が間に挿入されたリチウムイオン二次電池用負極1及びリチウムイオン二次電池用正極2が収容され、電解液が封入された電池外挿缶5を備えるリチウムイオン二次電池50が製造される。
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
本発明の実施例に係る銅合金箔の機械的強度及び導電性の評価結果について以下に説明する。
(1)評価サンプルの製作
以下に述べる手順に従い、実施例1〜17及び比較例1〜6に係る評価サンプルを製作し、各評価サンプルに対して順次、種々の測定を行った。
(銅合金箔の製作)
無酸素銅を母材として、所定濃度のZrを添加した銅合金材を溶製し、インゴットを得た。インゴットに熱間圧延を施し板材にして、これらの板材に対し、冷間圧延と再結晶焼鈍とを繰り返した。その後、最終冷間圧延により、所定の厚さを備える実施例1〜17及び比較例1〜6に係る銅合金箔(H材)を製作した。
得られた銅合金箔について、四端子測定法により20℃での電気抵抗を測定し、導電率を算出した。
また、得られた銅合金箔に対し、熱処理前後での引張試験を行った。熱処理条件は、負極集電銅合金箔の製造工程を模して、350℃で3時間とした。引張試験は、ASTMインターナショナル(旧・米国材料試験協会:American Society for Testing and Materials) E−345に準拠し、圧延方向と平行に引張応力を加えたときの引張強さを評価した。試験片のサイズは、幅12.5mm、長さ230mmとし、試験片を保持するつかみ具間の距離を125mmとし、引張速度を5mm/min.とした。
また、試験片の長手方向が、圧延方向とのなす角度0°,15°,30°,45°,60°,75°、及び90°と一致するよう、熱処理前の銅合金箔の7方向から試験片をそれぞれ取得し、上述と同様の引張試験を行った。係る引張試験から測定されるヤング率Eと0.2%耐力σ0.2とを用い、0.2%耐力に達するときのひずみ量ε0.2の最大値ε0.2MAX、最小値ε0.2MINを上述の式(1)から求めた。また、ひずみ量ε0.2の異方性を示す値として、ε0.2MAX/ε0.2MINを算出した。これらの数値は、上述の通り、弾性変形が可能なひずみ量とみることができる。
(コインセル型電池の製作)
以下の負極用ペーストを調剤し、熱処理前の銅合金箔を用いて負極活物質層を形成した。すなわち、45重量部の鱗片状黒鉛粉末、5重量部のシリコン酸化物(SiO)、結着剤として2重量部のSBR、増粘剤として1重量部のカルボキシメチルセルロース(CMC)を、99重量部の水に溶解した増粘剤水溶液20重量部を、混練分散して負極用ペーストとした。この負極用ペーストを、粉末等の材料を均質で厚さ一定に塗布するドクターブレード方式で、上述の各銅合金箔に100μmの厚さで片面塗布した。その後、350℃で3時間の熱処理を施し、加圧して厚さを50μmに調整後、打ち抜き加工により成形して負極集電銅合金箔(負極板)を得た。
以下の正極用ペーストを調剤し、熱処理前の銅合金箔を用いて正極活物質層を形成した。すなわち、50重量部のリチウムコバルト酸化物(LiCoO)の粉末、導電助剤として1重量部のアセチレンブラック、結着剤として5重量部のPVDFを、混練分散して正極用ペーストとした。この正極用ペーストを、ドクターブレード方式でアルミニウム(Al)箔に100μmの厚さで片面塗布した。その後、120℃で1時間の熱処理を施し、加圧して厚さを50μmに調整後、打ち抜き加工により成形して正極集電アルミニウム箔(正極板)を得た。
負極板と正極板との間に、厚さ20μmのポリプロピレン樹脂製多孔膜からなるセパレータを挟み、これらをコイン形のセルに収容し、負極板と正極板とをそれぞれセル内部の端子に電気的に接続した。その後、非水電解液を注入した。電解液としては、30体積%のエチレンカーボネート、50体積%のメチルエチルカーボネート、20体積%のプロピオン酸メチルの混合溶媒中に、電解質として1.0モルの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶かしたものを使用した。係る電解液を負極活物質層および正極活物質層中に含浸させた。
その後、かしめ封口を行って、コインセル型のリチウムイオン二次電池を得た。
得られたコインセル型電池を用い、10回の充放電サイクルを行った後、負極板の面積膨張率と破断個所の有無について調査した。負極板の面積膨張率が15%以下、好ましくは10%以下であり、かつ、破断が生じていないものを良好な変形抑制効果が得られたものとした。
(2)評価サンプルの測定結果
以下の表1には、実施例1〜17及び比較例1〜6に係る各評価サンプルの製作時の条件および各測定結果が示されている。また、表2には、各評価サンプルの最終冷間圧延工程における詳細条件が示されている。なお、表1に示されているZr濃度は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−AES)での分析結果である。また、表1,2において、条件や特性を外れるものは、下線付きの太字で示されている。
表1,2に示されているようで、実施例1〜17に係る評価サンプルは、Zr濃度および最終冷間圧延条件が全て所定値内となっている。よって、銅合金箔の導電率、弾性変形が可能なひずみ量としてのひずみ量ε0.2の最大値ε0.2MAX、最小値ε0.2MIN、及び異方性、つまり、ε0.2MAX/ε0.2MIN、熱処理前後の引張強さが全て所定値内となっている。また、コインセル型電池としての特性も良好である。以下の表3、表4に、実施例1に係る評価サンプルのひずみ量ε0.2に関わる測定値の詳細を示す。
一方、比較例1は、ひずみ量ε0.2の異方性が大きいため、充放電サイクルの後に負極板の破断が発生した。最終冷間圧延での1回あたりの圧延パスの加工度rの最大値が40%超であったことが、異方性が大きくなってしまった原因と考えられる。
比較例2は、ひずみ量ε0.2の異方性が大きいため、熱処理後の引張強さが不足してしまった。また、充放電サイクル後に負極板の面積膨張率が20%と大きくなり、破断が発生してしまった。最終冷間圧延での総加工度Rが98%と上限値を超えていることが、異方性が大きくなってしまった原因と考えられる。また、総加工度Rが上限値を超えているために耐熱性が劣ることとなり、熱処理前の引張強さは大きいが、熱処理後の引張強さが不足してしまった。
比較例3は、熱処理前後の引張強さが不足しており、充放電サイクル後に負極板の面積膨張率が16%と大きくなり、破断が発生してしまった。最終冷間圧延での総加工度Rが不足しているため、熱処理前の引張強さが不足し、熱処理後に充分な引張強さを維持できなかったと考えられる。
比較例4,5は、Zr濃度が高すぎるため、導電率が不足してしまった。
比較例6は、ひずみ量ε0.2の最小値ε0.2MINが小さすぎ、熱処理後の引張強さが不足してしまった。このため、充放電サイクル後に負極板の面積膨張率が32%と大きくなり、破断が発生してしまった。また、熱処理後に充分な引張強さを維持できていないのは、Zr濃度が低すぎることによる熱処理前の引張強さの不足にも起因している。
1 リチウムイオン二次電池用負極
2 リチウムイオン二次電池用正極
3 セパレータ
4 捲回体
5 電池外挿缶(容器)
6 溝
7 ガスケット
8 キャップ
8t 端子
10 銅合金箔
11 リチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔
12 負極活物質層
13,23 タブリード
50 リチウムイオン二次電池

Claims (7)

  1. 母相となる無酸素銅に0.01質量%以上0.15質量%以下のZrが含有され、
    引張試験から測定されるヤング率Eと0.2%耐力σ0.2とを用いて以下の式(1)から求められる0.2%耐力に達するときのひずみ量ε0.2が、圧延方向となす角度が0°,15°,30°,45°,60°,75°、及び90°となる7方向において、全て0.5%以上1.0%未満の範囲内にあり、
    前記7方向における前記ひずみ量ε0.2のうち、最大値をε0.2MAXとし、最小値をε0.2MINとしたときに、ε0.2MAX/ε0.2MINが1.25以下である
    ことを特徴とする銅合金箔。
    ε0.2=(σ0.2/E)×100+0.2 ・・・(1)
  2. 前記圧延方向において450N/mm以上の引張強さを有し、
    350℃で3時間加熱した後に、前記圧延方向において400N/mm以上の引張強さが維持される
    ことを特徴とする請求項1に記載の銅合金箔。
  3. 75%IACS以上の導電率を有する
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の銅合金箔。
  4. 厚さが20μm以下である
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金箔。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の銅合金箔が熱処理されてなるリチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔と、
    前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔の少なくとも片面に形成された負極活物質層と、
    前記リチウムイオン二次電池用負極集電銅合金箔に接続されたタブリードと、を備える
    ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
  6. 請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、
    リチウムイオン二次電池用正極と、
    前記リチウムイオン二次電池用負極及び前記リチウムイオン二次電池用正極の間に挿入されたセパレータと、
    前記セパレータが間に挿入された前記リチウムイオン二次電池用負極及び前記リチウムイオン二次電池用正極が収容され、電解液が封入された容器と、を備える
    ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  7. 母相となる無酸素銅に0.01質量%以上0.15質量%以下のZrが含有された銅合金素材に熱間圧延を施して板材を形成する熱間圧延工程と、
    前記板材に冷間圧延を施して生地を形成する冷間圧延工程と、
    前記生地を所定温度で所定時間保持して前記生地に再結晶焼鈍を施す再結晶焼鈍工程と、
    前記再結晶焼鈍を施された前記生地に複数回の冷間圧延を施す最終冷間圧延工程と、を有し、
    前記最終冷間圧延工程では、
    前記複数回の冷間圧延による総加工度が97%以下となり、かつ、前記複数回の冷間圧延におけるそれぞれの加工度が全て40%以下となるよう冷間圧延を行う
    ことを特徴とする銅合金箔の製造方法。
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