JP2014094723A - 操舵装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】操舵伝達系の特性変化を判定する操舵装置において、判定を行える期間を拡大して判定頻度を高める。
【解決手段】ゼロ点履歴保持部104は、操舵角ゼロ点の最大値および最小値を記録するとともに、ゼロ点最大値またはゼロ点最小値のそれぞれが更新されてから所定の期間が経過する毎に、記録しているゼロ点最大値またはゼロ点最小値を破棄する。特性変化判定部116は、上記所定の期間内に、ゼロ点最大値とゼロ点最小値の差分が第1のしきい値を超えたとき、操舵伝達系の特性変化が生じたと判定する。前兆判定部120は、上記所定の期間内に、ゼロ点最大値とゼロ点最小値の差分が、第1のしきい値よりも小さい第2のしきい値を超えたとき、特性変化の前兆状態にあると判定する。前兆状態にあると判定されたとき、特性変化判定部116は、その判定時からのゼロ点最大値または前記ゼロ点最小値の増加分に基づき、操舵伝達系の特性変化の有無を判定する。
【選択図】図2
【解決手段】ゼロ点履歴保持部104は、操舵角ゼロ点の最大値および最小値を記録するとともに、ゼロ点最大値またはゼロ点最小値のそれぞれが更新されてから所定の期間が経過する毎に、記録しているゼロ点最大値またはゼロ点最小値を破棄する。特性変化判定部116は、上記所定の期間内に、ゼロ点最大値とゼロ点最小値の差分が第1のしきい値を超えたとき、操舵伝達系の特性変化が生じたと判定する。前兆判定部120は、上記所定の期間内に、ゼロ点最大値とゼロ点最小値の差分が、第1のしきい値よりも小さい第2のしきい値を超えたとき、特性変化の前兆状態にあると判定する。前兆状態にあると判定されたとき、特性変化判定部116は、その判定時からのゼロ点最大値または前記ゼロ点最小値の増加分に基づき、操舵伝達系の特性変化の有無を判定する。
【選択図】図2
Description
本発明は、車両の操舵伝達系における特性変化を検出する技術に関する。
車両横滑り防止制御(VSC:VeihicleStabilityControl)などの車両挙動制御技術では、ステアリングホイールに取り付けられた操舵角センサの検出値を使用して種々の制御を実行する。相対角を出力するタイプの操舵角センサを使用する場合、まず操舵角センサのゼロ点を検出し、検出したゼロ点に基づき操舵絶対角を算出する。そのため、操舵角ゼロ点を精度良く検出することが重要である。例えば、特許文献1には、操舵角センサの検出値から推定された推定ヨーレートと、ヨーレートセンサで検出された実ヨーレートとの差に基づいて、操舵角ゼロ点を検出する技術が開示されている。
ステアリングホイールから車輪に至る操舵伝達系にガタが生じるなどの特性変化が発生すると、操舵角とタイヤ角との間の線形性が維持されなくなり、操舵フィーリングが変化したり、操舵角情報に基づく車両状態量の推定精度が低下したりするという問題がある。そこで、本願発明者は、目標ヨーレートと実ヨーレートの差分の操舵角換算値である舵角偏差を計算し、この値が所定の特性変化判定しきい値を超えた場合に、操舵伝達系に特性変化が発生していると判定する技術を開発した(国際出願番号PCT/JP2012/003331)。
上記技術では、操舵角センサのゼロ点の履歴を保持し、そのゼロ点の最大値と最小値の差分から上記の舵角偏差を計算している。また、操舵角センサの温度変化による影響を排除するために、ゼロ点最大値とゼロ点最小値がそれぞれ最後に更新されてから所定期間が経過する毎に、それらの値を破棄するようにしている。しかしながら、この方法では、ゼロ点最大値とゼロ点最小値の破棄のタイミングがずれているため、操舵伝達系の特性変化判定を適切に行えない期間が生じてしまうという問題がある。
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、操舵伝達系の特性変化を判定する操舵装置において、判定を行える期間を拡大して判定頻度を高める技術を提供することにある。
本発明のある態様の操舵装置は、ステアリングホイールの操舵角のゼロ点を検出する操舵角ゼロ点検出手段と、前記操舵角ゼロ点の最大値および最小値を記録するとともに、ゼロ点最大値またはゼロ点最小値のそれぞれが更新されてから所定の期間が経過する毎に、記録しているゼロ点最大値またはゼロ点最小値を破棄するように構成された履歴保持手段と、前記所定の期間内に、前記ゼロ点最大値と前記ゼロ点最小値の差分が第1のしきい値を超えたとき、操舵伝達系の特性変化が生じたと判定する特性変化判定手段と、前記所定の期間内に、前記ゼロ点最大値と前記ゼロ点最小値の差分が、第1のしきい値よりも小さい第2のしきい値を超えたとき、特性変化の前兆状態にあると判定する前兆判定手段と、を備える。前記前兆判定手段によって前兆状態にあると判定されたとき、前記特性変化判定手段は、その判定時からの前記ゼロ点最大値または前記ゼロ点最小値の増加分に基づき、操舵伝達系の特性変化の有無を判定する。
この態様によると、特性変化の前兆状態にあると判定された場合、その判定時からのゼロ点最大値またはゼロ点最小値の増加分に基づき、操舵伝達系の特性変化の有無が判定されるので、前兆判定された後にゼロ点最大値またはゼロ点最小値が破棄されても、特性変化の判定には影響がない。したがって、操舵伝達系の特性変化判定が可能である期間が拡大され、判定頻度が向上する。
本発明によれば、操舵伝達系の特性変化を判定する操舵装置において、判定を行える期間を拡大して判定頻度を高めることができる
図1は、本発明の一実施形態に係る操舵装置10を備えた車両の概略構成を示す。図1は、四輪の車両のうち前輪部分の模式図である。転舵輪である右前輪FRおよび左前輪FLを操舵することによって車両の進行方向が変更される。
操舵装置10は電動パワーステアリング装置(以下「EPS」と呼ぶ)を備える。EPSは、ドライバーにより操舵されるステアリングホイール12と、ステアリングホイールに連結されたステアリングシャフト14と、ステアリングシャフトの下端に設けられた減速機構44と、出力軸が減速機構44に接続された操舵アシスト用モータ24とを備える。操舵アシスト用モータ24は、ステアリングシャフト14を回転駆動することで、ステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する。
ステアリングシャフト14には、図示しないトーションバーと、トーションバーに生じるトルクを検出する操舵トルクセンサ16と、ステアリングホイール12の操舵角を検出する操舵角センサ18とが設置される。これらセンサの出力は、ステアリング電子制御ユニット(ECU)70およびブレーキECU100に送信される。
ステアリングシャフト14は、自在継手30、32を介して、インターミディエイトシャフト17、ピニオンシャフト19に連結される。ピニオンシャフト19は、車両の左右方向(車幅方向)に延設され軸長方向に摺動するラックバー22を含むステアリングギアボックス20と連結されている。インターミディエイトシャフト17は、ゴムカップリングをその一部として含む。
ステアリングギアボックス20は、ピニオンシャフト19の一端に形成されたピニオン歯とラック軸とを噛合させることにより構成される。また、ステアリングギアボックス20は、ゴムグロメット23を介して車両のボデーに支持される。
ドライバーがステアリングホイール12を操作すると、ステアリングシャフト14の回転がシャフト17、19を通してステアリングギアボックス20に伝達され、ステアリングギアボックス20によってラックバー22の左右方向への直線運動に変換される。ラックバー22の両端には、それぞれタイロッド(図示せず)の一端が接続される。タイロッドの他端は、右前輪FR、左前輪FLを支持するナックルアーム(図示せず)に連結されている。ラックバー22が直線運動をすると、右前輪FRおよび左前輪FLが転舵される。
車輪の近傍には、車輪の回転数を検出して車速を出力する車速センサ36が取り付けられる。車速センサ36の代わりに、図示しないGPS(Global Positioning System)のデータから車速を求めるようにしてもよい。車体の左右方向の加速度を検出する横加速度センサ42も車体に設けられる。これらのセンサによる検出値はブレーキECU100に送信される。
ステアリングECU70は、各センサから受け取った検出値に基づき操舵トルクのアシスト値を算出し、これに応じた制御信号を操舵アシスト用モータ24に出力する。なお、上記のようなEPSを含む操舵機構自体は周知であるため、本明細書ではこれ以上の詳細な説明を省略する。
ステアリングホイールから車輪に至る操舵伝達系の様々な部品は、ステアリングの振動低減、操舵フィーリングの調整、コンプライアンスステアの確保などの目的のため、部品と車体との間がゴムグロメット、ゴムカップリング、ゴムブシュなどの弾性部材を介して支持されているものが多い。これらの弾性部材の経年劣化により操舵伝達系にガタが生じるなどの伝達特性が変化すると、操舵角とタイヤ角との間の線形性が維持されなくなり、操舵フィーリングが変化したり、操舵角情報に基づく車両状態量の推定精度が低下したりするという問題がある。
そのため、詳細は後述するが、本実施形態では、車両の走行中の操舵角ゼロ点の検出に基づき、操舵伝達系の弾性部材の特性変化が生じていると判定された場合には、車両のドライバーにその事実を報知したり、または操舵角を利用した各種車両制御の実行の停止を指示したりするように構成されている。
図2は、ステアリングECU70のうち、本実施形態に係る操舵伝達系の特性変化判定に関与する部分の構成を示す機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や電気回路で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
操舵角ゼロ点検出部102は、任意の既知の方法により操舵角センサ18のゼロ点(中立点)を検出する。検出したゼロ点に基づきステアリングホイール絶対操舵角が演算され、種々の車両制御に使用される。
ゼロ点履歴保持部104は、操舵角ゼロ点検出部102によって検出されたゼロ点の、前回更新時からの最大値および最小値を記録する。ゼロ点履歴保持部104の動作については、図5〜7のフローチャートを参照して詳述する。
ゼロ点履歴保持部104には、最大値保持タイマ106と最小値保持タイマ108が接続される。これらのタイマは、ゼロ点履歴保持部104にゼロ点最大値、ゼロ点最小値がそれぞれ記憶されてからの時間をカウントするためのカウントダウンタイマである。最大値保持タイマ106または最小値保持タイマ108におけるカウント値が所定値に達すると、ゼロ点履歴保持部104は、その時点で記憶しているゼロ点最大値またはゼロ点最小値を破棄する。この動作については、図3を参照して詳述する。
測定値保持部110は、車速センサ36、ヨーレートセンサ40および横加速度センサ42からそれぞれの検出値を受け取り、ゼロ点履歴保持部104におけるゼロ点最大値またはゼロ点最小値が更新されたときの車速、ヨーレートおよび横加速度を記録する。
判定しきい値設定部112は、測定値保持部110に記録された車速、ヨーレートおよび横加速度を使用して、操舵伝達系における特性変化、具体的にはゴムブシュなどの弾性部材の劣化によるガタの発生の有無を判定するための特性変化判定しきい値T1を演算する。
この特性変化判定しきい値T1は、車速センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサおよび操舵角センサそれぞれの誤差、部品の加工ばらつき、車両の組み付けばらつきを考慮して設定されるが、詳細は後述する。代替的に、正常車両におけるゼロ点検出の履歴を取得し、この結果を大きく上回る値(例えば二倍など)を特性変化判定しきい値として選択するようにしてもよい。
差分計算部114は、ゼロ点履歴保持部104に記録されているゼロ点最大値Hとゼロ点最小値Lの差分Dを計算する。
特性変化判定部116は、差分計算部114によって計算された差分Dが特性変化判定しきい値T1を上回るか否かを判定する。差分Dが特性変化判定しきい値T1を上回る場合、操舵伝達系における特性変化が生じていると判定する。
通知部118は、特性変化判定部116によって特性変化が生じていると判定された場合、車両のドライバーにその事実を報知したり、または操舵角を利用した各種車両制御の実行の停止を図示しない車両制御ECUに指示したりする。
続いて、図3を使用して、ステアリングECU70による操舵伝達系の特性変化判定方法を説明する。図3は、ゼロ点最大値Hおよびゼロ点最小値Lの履歴の一例を示すグラフである。
図3の横軸は経過時間を、縦軸は検出された操舵角ゼロ点θを表す。時間0においてゼロ点最大値およびゼロ点最小値がリセットされているものとして説明する。
図中に示す期間aでは、操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最小値を下回るため、ゼロ点履歴保持部104はゼロ点最小値Lを更新する。また、期間bでは、操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最大値を上回るため、ゼロ点履歴保持部104はゼロ点最大値Hを更新する。以降、操舵角ゼロ点検出値が保持されているゼロ点最大値を上回るかゼロ点最小値を下回ると、それぞれの値が更新されていく。
差分計算部114は、ゼロ点最大値Hとゼロ点最小値Lとの差分Dを計算する。特性変化判定部116は、判定しきい値設定部112で設定された特性変化判定しきい値T1と差分Dとを比較し、差分Dがしきい値T1を上回ると、操舵伝達系の特性が変化(すなわち弾性部材の劣化)が発生したと判定する。これは、操舵伝達系の弾性部材の劣化によりガタが発生した場合に、ステアリングホイールの操作時に操舵角ゼロ点検出値が大きく変動すると考えられることを利用したものである。
最大値保持タイマ106および最小値保持タイマ108は、ゼロ点最大値Hおよびゼロ点最小値Lがそれぞれ最後に更新されてからの経過時間をカウントする。所定の時間が経過すると、ゼロ点履歴保持部104は、ゼロ点最大値Hまたはゼロ点最小値Lをその時点での操舵角ゼロ点検出値でリセットする。図3では、c点におけるゼロ点最大値の変化がこの処理に対応する。
この処理を行う理由は、以下の通りである。ヨーレートセンサ40、横加速度センサ42などのアナログセンサのゼロ点は、温度変化により変動(ドリフト)する場合がある。車室内の温度変化により各センサのゼロ点が変動すると、操舵角ゼロ点の検出値も変動するため、操舵角ゼロ点の差分Dが操舵伝達系の特性変化により生じたものか温度変化により生じたものかを区別することは困難である。そこで、車室内の大きな温度変化は短時間では起こり得ないという仮定の下、ゼロ点最大値とゼロ点最小値とを前回の更新から所定時間が経過する毎に破棄することで、各種センサの温度変化による特性変化判定への影響を排除しているのである。
しかしながら、上記のように、最大値保持タイマと最小値保持タイマはそれぞれ独立して動作しているので、ゼロ点最大値とゼロ点最小値の破棄のタイミングは異なる。操舵伝達系の特性判定は、ゼロ点最大値とゼロ点最小値の差に基づき行われるため、ゼロ点最大値とゼロ点最小値のいずれか一方が破棄された時点で、その差が小さな値になってしまい、正確な特性変化判定が行えなくなる。言い換えると、ゼロ点最大値とゼロ点最小値の差が徐々に拡大していき、もう少しで特性変化と判定されそうなときであっても、ゼロ点最大値とゼロ点最小値のいずれか一方が破棄されると、判定が初めからやり直しになる。このため、操舵伝達系の特性変化の頻度が低下してしまうという問題があった。
そこで、本実施形態では、ゼロ点最大値とゼロ点最小値の差が拡大し、もう少しで操舵伝達系の特性変化と判定されそうな前兆状態にあると考えられるときには、前兆判定された時点からのゼロ点最大値とゼロ点最小値の変化幅に基づき特性変化判定を行うようにした。
図4は、本実施形態に係る特性変化の前兆判定を説明するグラフである。
図4(a)は、特性変化前兆フラグのON/OFF状態を示す。図4(b)は、図3と同様に、操舵角ゼロ点検出部102で検出される操舵角ゼロ点の値と、ゼロ点履歴保持部104に記録されるゼロ点最大値Hおよびゼロ点最小値Lとを示す。図4(c)は、ゼロ点最大値Hとゼロ点最小値Lの差分D=H−Lを示す。図4(d)は、後述するゼロ点最大値変化幅Hvとゼロ点最小値の変化幅Lvの和(Hv+Lv)を示す。図4(e)は、最大値保持タイマのカウント値を示す。図4(f)は、最小値保持タイマのカウント値を示す。
特性変化前兆フラグがOFFである間(0〜t4)は、図3の例と同様に、特性変化判定部116が、ゼロ点最大値Hとゼロ点最小値Lの差分D=H−Lと特性変化判定しきい値T1とを比較して、操舵伝達系の特性変化を判定する。この間、前兆判定部120は、差分D=H−Lが前兆判定しきい値Sを上回るか否かを判定している。この前兆判定しきい値Sは、いずれ差分Dが拡大していき最終的には特性変化判定しきい値T1を上回る可能性が高いと考えられる特性変化の前兆状態を検出するためのものであり、例えばしきい値T1の80%程度に設定される(S=0.8・T1)。ゼロ点履歴保持部104は、前兆判定された時点のゼロ点最大値Hおよびゼロ点最小値Lを、前兆判定時ゼロ点最大値H0、前兆判定時ゼロ点最小値L0としてそれぞれ記憶する。
図4の例では、時刻t3でゼロ点最大値が更新された結果、時刻t4で差分D=H−Lが前兆判定しきい値Sを上回り、特性変化前兆フラグがONになっている。
特性変化前兆フラグがONである間は、差分D=H−Lと特性変化判定しきい値T1との比較による特性変化判定は行われない。代わりに、特性変化判定部116は、その時点のゼロ点最大値Hと前兆判定時ゼロ点最大値H0との差分であるゼロ点最大値変化幅Hvと、前兆判定時ゼロ点最小値L0と現時点のゼロ点最小値Lとの差分であるゼロ点最小値変化幅Lvとを使用して、特性変化判定を実行する。具体的には、ゼロ点最大値変化幅Hvとゼロ点最小値変化幅Lvの和が、第2特性変化判定しきい値T2を上回るか否かを判定する(Hv+Lv>T2)。第2特性変化判定しきい値T2は、例えばT2=T1−Sに設定される。
この処理は、前兆判定された時点からのゼロ点最大値またはゼロ点最小値の増加分と前兆判定しきい値との和が第1特性変化判定しきい値T1を上回れば、操舵伝達系に特性変化が生じていると判定することに相当する。前兆判定された時点までの操舵角ゼロ点の変動分の有効期間を延長していると言うこともできる。
このように、特性変化前兆フラグがONである間は、最大値保持タイマまたは最小値保持タイマのカウント0により最大値または最小値が破棄されても、操舵伝達系の特性変化判定を引き続き行うことができる。例えば、図4の例では、時刻t5において最小値保持タイマがカウント0になりゼロ点最小値Lが破棄されているが、図4(d)に示すように(Hv+Lv)の値は変わらず、特性変化判定には影響がない。
以上説明したように、本実施形態によれば、操舵伝達系の特性変化判定が可能である期間が拡大されるため、特性変化判定頻度が向上する。
図5ないし7は、本実施形態に係る操舵伝達系の特性変化検出を説明するフローチャートである。このフローは、車両の走行中に所定の間隔(例えば1秒)で繰り返し実行される。
まず図5を参照して、操舵角ゼロ点検出部102は、操舵角センサ18の検出値に基づきステアリングホイールの操舵角ゼロ点θを検出する(S10)。判定しきい値設定部112は、車両の始動直後であるか否かを判定する(S12)。車両の始動直後の場合(S12のY)、ヨーレートセンサ40の温度が安定していないと考えられるので、温度安定前のヨーレートゼロ点誤差を選択する(S14)。始動直後ではない場合(S12のN)、ヨーレートセンサ40の温度が安定していると考えられるので、温度安定後のヨーレートゼロ点誤差を選択する(S16)。
続いて、ゼロ点履歴保持部104は、最大値保持タイマ106および最小値保持タイマ108をデクリメントする(S18、S20)。なお、これらのタイマは、後述するステップS30、S38にて初期値がセットされるが、動作直後では初期値がセットされていないため、下限ガード値をゼロに設定しておく。
判定しきい値設定部112は、操舵角ゼロ点の収束が完了し、かつ車速が所定値以上であるか否かを判定する(S22)。車両が低速である場合は、高速である場合よりも部品のばらつきやセンサ公差などに起因する誤差が拡大する傾向にあるため、特性変化と誤判定される可能性が高い。そのため、低速時(例えば30km/h未満)には、操舵伝達系の特性変化を実行しない。
車速が所定値未満の場合(S22のN)、操舵角ゼロ点の収束が未完了であるか否かを判定する(S40)。初回の判定では操舵角ゼロ点の収束が完了していないので(S40のY)、S42に進み、ゼロ点履歴保持部104は、記憶しているゼロ点最大値とゼロ点最小値を、現時点の操舵角ゼロ点検出値でリセットする(S42)。これに応じて、測定値保持部110は、リセット時の車速、ヨーレートおよび横加速度を初期値として記憶する。ゼロ点履歴保持部104は、最大値保持タイマ106と最小値保持タイマ108とをリセットする(S46)。S40において、操舵角ゼロ点の収束が完了している場合(S40のN)、S42〜S46はスキップする。
S22において、操舵角ゼロ点の収束が完了し、かつ車速が所定値以上である場合(S22のY)、ゼロ点履歴保持部104は、今回の操舵角ゼロ点検出値が、記憶されているゼロ点最大値Hよりも大きいか否か、すなわちゼロ点最大値を更新する必要があるか否かを判定する(S24)。操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最大値H以下の場合(S24のN)、S26〜S30をスキップする。操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最大値Hより大きい場合(S24のY)、ゼロ点履歴保持部104はその値を新たなゼロ点最大値Hとして記憶し(S26)、測定値保持部110は最大値更新時の車速、ヨーレートおよび横加速度を記憶する(S28)。最大値保持タイマ106には所定の初期値(例えば180秒)がセットされる(S30)。
続いて、ゼロ点履歴保持部104は、今回の操舵角ゼロ点検出値が、記憶されているゼロ点最小値Lよりも小さいか否か、すなわちゼロ点最小値を更新する必要があるか否かを判定する(S32)。操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最小値L以上の場合(S32のN)、S34〜S38をスキップする。操舵角ゼロ点検出値がゼロ点最小値Lより小さい場合(S32のY)、ゼロ点履歴保持部104はその値を新たなゼロ点最小値Lとして記憶し(S34)、測定値保持部110は最小値更新時の車速、ヨーレートおよび横加速度を記憶する(S36)。最小値保持タイマ108には所定の初期値がセットされる(S38)。
続いて図6を参照して、ゼロ点履歴保持部104は、最大値保持タイマのカウントがゼロであるか否かを判定する(S50)。カウントがゼロの場合(S50のY)、ゼロ点履歴保持部104は、ゼロ点最大値Hおよび前兆判定時ゼロ点最大値H0(後述のS68で記憶される)を、現時点の操舵角ゼロ点検出値でリセットし(S52)、測定値保持部110は、保持している最大値更新時の車速、ヨーレートおよび横加速度を初期値でリセットする(S54)。
また、ゼロ点履歴保持部104は、最小値保持タイマのカウントがゼロであるか否かを判定する(S56)。カウントがゼロの場合(S56のY)、ゼロ点履歴保持部104は、ゼロ点最小値Lおよび前兆判定時ゼロ点最小値L0(後述のS68で記憶される)を、現時点の操舵角ゼロ点検出値でリセットし(S58)、測定値保持部110は、保持している最小値更新時の車速、ヨーレートおよび横加速度を初期値でリセットする(S60)。
S50〜S60の処理は、温度変化による操舵角センサのゼロ点の変動の影響を極力排除するために行われるゼロ点最大値および最小値のリセットに対応する。
続いて、判定しきい値設定部112は、以下の式に基づき特性変化判定しきい値T1を演算する(S62)。
T1={(θ・V)/(n・L)−Kh・Gy・V−YR}・n・L・(1/V)
=θ−Kh・Gy/n・L−YR・n・L・(1/V)・・・(1)
ここで、θは操舵角検出値、Vは車速、Gyは横加速度、YRはヨーレート、Khはスタビリティファクタ、nはステアリングオーバーオールギヤ比、Lはホイールベースを表す。
T1={(θ・V)/(n・L)−Kh・Gy・V−YR}・n・L・(1/V)
=θ−Kh・Gy/n・L−YR・n・L・(1/V)・・・(1)
ここで、θは操舵角検出値、Vは車速、Gyは横加速度、YRはヨーレート、Khはスタビリティファクタ、nはステアリングオーバーオールギヤ比、Lはホイールベースを表す。
式(1)の一行目において、((θ・V)/(n・L)−Kh・Gy・Vは目標ヨーレートに対応する。したがって、{(θ・V)/(n・L)−Kh・Gy・V−YR}・n・L・(1/V)は、(目標ヨーレート−実ヨーレート)の操舵角換算値を求めることに対応している。
式(1)は、
・操舵角センサのゼロ点/ゲイン誤差と、横加速度センサのゼロ点誤差に起因する操舵角誤差
・横加速度センサのゲイン誤差と車両のばらつきによる操舵角誤差
・ヨーレートセンサのゼロ点誤差による操舵角誤差
・ヨーレートセンサと車速センサのゲイン誤差による操舵角誤差
の合計値に対応する。
・操舵角センサのゼロ点/ゲイン誤差と、横加速度センサのゼロ点誤差に起因する操舵角誤差
・横加速度センサのゲイン誤差と車両のばらつきによる操舵角誤差
・ヨーレートセンサのゼロ点誤差による操舵角誤差
・ヨーレートセンサと車速センサのゲイン誤差による操舵角誤差
の合計値に対応する。
なお、上記の式(1)に代入する車速、ヨーレートおよび横加速度は、測定値保持部110に記憶された値(すなわち、ゼロ点最大値更新時に記憶された値と、ゼロ点最小値更新時に記憶された値)のうち、車速については小さい方を、ヨーレートおよび加速度については大きい方を選択することが好ましい。この理由は、低速時の方が高速時よりも操舵角誤差が大きくなる傾向があるので、低速走行中に大きく計算された操舵角誤差と、高速走行中に小さく計算された特性変化判定しきい値T1とが比較された場合、特性変化を誤判定してしまうおそれがあり、これを避けるためである。
続いて図7を参照して、ゼロ点履歴保持部104は、ゼロ点最大値Hとゼロ点最小値Lの差が、前兆判定しきい値Sを上回る(H−L>S)か否かを判定する(S64)。上回る場合(S64のY)、操舵伝達系の特性変化の前兆があるとみなして特性変化前兆フラグをONにし(S66)、この時点のゼロ点最大値およびゼロ点最小値を、前兆判定時ゼロ点最大値H0、前兆判定時ゼロ点最小値L0としてそれぞれ記憶する(S68)。S64でH−L≦Sであれば(S64のN)、S66、S68をスキップする。
前兆判定部120は、特性変化前兆フラグがONであるか否かを判定する(S70)。ONである場合(S70のY)、前兆判定部120は、特性変化の前兆ありと判定された時点からのゼロ点最大値の変化幅Hv、より具体的には、現時点のゼロ点最大値Hと前兆判定時ゼロ点最大値H0との差分Hv=MAX(H−H0,0)を計算する(S72)。また、特性変化の前兆ありと判定された時点からのゼロ点最小値の変化幅Lv、より具体的には、前兆判定時ゼロ点最大値L0と現時点のゼロ点最大値Lとの差分Lv=MAX(L−L0,0)を計算する(S74)。S72とS74で「0」との大小を比較するのは、Hv、Lvが0未満にならないようにするためである。
前兆判定部120は、ゼロ点最大値変化幅Hv>0かつ最大値保持タイマのカウントが0であるか否かを判定する(S80)。成立しない場合(S80のN)、ゼロ点最小値の変化幅Lv>0かつ最大値保持タイマのカウントが0であるか否かを判定する(S80)。S80、S82のいずれかが成立する場合、すなわち、特性変化の前兆ありと判定されてから所定の期間が経過した場合は(S80のY、S82のY)、特性変化前兆フラグをOFFにする(S84)。S80、S82のいずれも成立しない場合(S80のNかつS82のN)、特性変化判定部116は、ゼロ点最大値変化幅Hvとゼロ点最小値の変化幅Lvの和が、第2特性変化判定しきい値T2を上回るか否か(Hv+Lv>T2)を判定する(S86)。Hv+Lv>T2であれば(S86のY)、特性変化判定部116は操舵伝達系の特性変化が生じていると判定し(S88)、通知部118が所定のランプの点灯、ブザーなどによってドライバーにその旨を通知したり、車両制御ECUに対して操舵角ゼロ点の検出に基づく車両制御を一時的に停止するように指示する。
S70において特性変化前兆フラグがOFFである場合(S70のN)、ゼロ点最大値変化幅Hvおよびゼロ点最小値の変化幅Lvを破棄する(S76)。続いて、差分計算部114は、ゼロ点最大値Hとゼロ点最小値Lの差分Dを計算し、特性変化判定部116は、この差分Dが特性変化判定しきい値T1よりも大きいか否か(D=H−L>T1)を判定する(S78)。差分Dが特性変化判定しきい値T1よりも大きければ(S78のY)、特性変化判定部116は操舵伝達系の特性変化が生じていると判定し(S88)、通知部118が所定のランプの点灯、ブザーなどによってドライバーにその旨を通知したり、車両制御ECUに対して操舵角ゼロ点の検出に基づく車両制御を一時的に停止するように指示する。
S78の処理は、操舵角ゼロ点の変動幅、すなわちゼロ点最大値Hとゼロ点最小値Lの差分Dが、操舵角センサ、車速センサ、横加速度センサおよびヨーレートセンサのゼロ点誤差、ゲイン誤差および車両ばらつきの積み上げである特性変化判定しきい値T1を越えているか否かを判定している。言い換えると、操舵角ゼロ点の変動幅が、各センサの想定しうる誤差の積み上げ分よりも大きいならば、操舵伝達系のガタに起因する操舵角ゼロ点のずれが生じていると判断するのである。
以上説明したように、本実施形態によると、操舵伝達系の各部品とボデーとを接続する弾性部材の経年劣化などによる操舵伝達系の特性変化を検出することができる。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組み合わせ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組み合わせなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
実施の形態では、ステアリングECU70が操舵伝達系の特性変化判定を実施することを述べたが、この特性変化判定をブレーキECU100が実施するように構成してもよい。
電動パワーステアリング装置を備える車両を参照して、いくつかの実施形態について説明した。しかしながら、油圧パワーステアリング装置を備える車両に対しても本発明を適用することができる。この場合、車両はステアリングECUを備えていないので、制動制御装置(例えばVSC等)のECUが、本発明に係る操舵伝達系の特性変化の検出を実施するように構成される。
10 操舵装置、 12 ステアリングホイール、 18 操舵角センサ、 20 ステアリングギアボックス、 23 ゴムグロメット、 42 横加速度センサ、 70 ステアリングECU、 102 操舵角ゼロ点検出部、 104 ゼロ点履歴保持部、 106 最大値保持タイマ、 108 最小値保持タイマ、 110 測定値保持部、 112 判定しきい値設定部、 114 差分計算部、 116 特性変化判定部、 120 前兆判定部。
Claims (1)
- ステアリングホイールの操舵角のゼロ点を検出する操舵角ゼロ点検出手段と、
前記操舵角ゼロ点の最大値および最小値を記録するとともに、ゼロ点最大値またはゼロ点最小値のそれぞれが更新されてから所定の期間が経過する毎に、記録しているゼロ点最大値またはゼロ点最小値を破棄するように構成された履歴保持手段と、
前記所定の期間内に、前記ゼロ点最大値と前記ゼロ点最小値の差分が第1のしきい値を超えたとき、操舵伝達系の特性変化が生じたと判定する特性変化判定手段と、
前記所定の期間内に、前記ゼロ点最大値と前記ゼロ点最小値の差分が、第1のしきい値よりも小さい第2のしきい値を超えたとき、特性変化の前兆状態にあると判定する前兆判定手段と、を備え、
前記前兆判定手段によって前兆状態にあると判定されたとき、前記特性変化判定手段は、その判定時からの前記ゼロ点最大値または前記ゼロ点最小値の増加分に基づき、操舵伝達系の特性変化の有無を判定する
ことを特徴とする操舵装置。
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