JP5804201B2 - 操舵伝達系の特性変化検出装置 - Google Patents
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Description
本発明は、操舵伝達系における特性変化を検出する技術に関する。
車両横滑り防止制御(VSC:VeihicleStabilityControl)などの車両挙動制御技術では、ステアリングホイールに取り付けられた操舵角センサの検出値を使用して種々の制御を実行する。相対角を出力するタイプの操舵角センサを使用する場合、まず操舵角センサのゼロ点(中立位置)を検出し、検出したゼロ点に基づき操舵絶対角を算出する(例えば特許文献1を参照)。そのため、操舵角ゼロ点を精度良く検出することが重要である。
ステアリングホイールから車輪に至る操舵伝達系の様々な部品は、ステアリングの振動低減、操舵フィーリングの調整、コンプライアンスステアの確保などの目的のため、部品と車体との間がゴムブシュなどの弾性部材を介して支持されているものが多い。これらの弾性部材の経年劣化により操舵伝達系にガタが生じるなどの伝達特性が変化すると、操舵角と操舵輪切れ角との間の線形性が維持されなくなり、操舵フィーリングが変化したり、操舵角情報に基づく車両状態量の推定精度が低下するという問題がある。
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の走行中に操舵伝達系における弾性部材の特性変化を検出する技術を提供することにある。
本発明のある態様は、操舵伝達系の特性変化検出装置である。この装置は、ステアリングホイールの操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、操舵トルクが所定値以下であるときに、操舵角から算出される車両の目標挙動と実際の車両挙動との差分が基準値以上となった回数が所定期間中に所定回数以上であるとき、操舵伝達系の特性変化と判定する異常判定部と、を備える。前記所定期間は、車両が直進走行している状態からステアリングホイールの操舵を行って再び直進走行に戻す運転操作の間である。
この態様によると、電動パワーステアリング装置に装備されている操舵トルクセンサおよび操舵角センサの検出値を利用して、ゴムブシュなどの弾性部品の経年劣化などによる操舵伝達系の特性変化(例えばガタの発生)を検出することが可能になる。
本発明によれば、車両の走行中に操舵伝達系における弾性部材の特性変化を検出することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係る操舵伝達系の特性変化検出装置を備えた車両10の概略構成を示す。図1は、四輪の車両のうち前輪部分の模式図である。転舵輪である右前輪FRおよび左前輪FLを操舵することによって車両の進行方向が変更される。
車両10は電動パワーステアリング装置(以下「EPS」と呼ぶ)を備える。EPSは、ドライバーにより操舵されるステアリングホイール12と、ステアリングホイールに連結されたステアリングシャフト14と、ステアリングシャフトの下端に設けられた減速機構44と、出力軸が減速機構44に接続された操舵アシスト用モータ24とを備える。操舵アシスト用モータ24は、ステアリングシャフト14を回転駆動することで、ステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する。
ステアリングシャフト14には、図示しないトーションバーと、トーションバーに生じるトルクを検出する操舵トルクセンサ16と、ステアリングホイール12の操舵角を検出する操舵角センサ18とが設置される。これらセンサの出力は、ステアリング電子制御ユニット(ECU)70およびブレーキECU100に送信される。
ステアリングシャフト14は、自在継手30、32を介して、インターミディエイトシャフト17、ピニオンシャフト19に連結される。ピニオンシャフト19は、車両の左右方向(車幅方向)に延設され軸長方向に摺動するラックバー22を含むラックアンドピニオン機構20と連結されている。インターミディエイトシャフト17は、ゴムカップリングをその一部として含む。
ラックアンドピニオン機構20は、ピニオンシャフト19の一端に形成されたピニオン歯とラック軸とを噛合させることにより構成される。また、ラックアンドピニオン機構20は、ステアリングギアマウントブシュ23を介して車両のボデーに支持される。
ドライバーがステアリングホイール12を操作すると、ステアリングシャフト14の回転がシャフト17、19を通してラックアンドピニオン機構20に伝達され、ラックアンドピニオン機構20によってラックバー22の左右方向への直線運動に変換される。ラックバー22の両端には、それぞれタイロッド(図示せず)の一端が接続される。タイロッドの他端は、右前輪FR、左前輪FLを支持するナックルアーム(図示せず)に連結されている。ラックバー22が直線運動をすると、右前輪FRおよび左前輪FLが転舵される。
車輪の近傍には、車輪の回転数を検出して車速を出力する車速センサ36が取り付けられる。車速センサ36の代わりに、図示しないGPS(Global Positioning System)のデータから車速を求めるようにしてもよい。車体の左右方向の加速度を検出する横加速度センサ42も車体に設けられる。これらのセンサによる検出値はブレーキECU100に送信される。
ステアリングECU70は、各センサから受け取った検出値に基づき操舵トルクのアシスト値を算出し、これに応じた制御信号を操舵アシスト用モータ24に出力する。なお、上記のようなEPSを含む操舵機構自体は周知であるため、本明細書ではこれ以上の詳細な説明を省略する。
上述したように、ゴムブシュなどの弾性部材の経年劣化により操舵伝達系にガタが生じるなどの特性変化が発生すると、操舵角と操舵輪切れ角との間の線形性が維持されなくなり、操舵フィーリングが変化したり、操舵角情報に基づく車両状態量の推定精度が低下したりするという問題がある。より具体的には、ブレーキECU100は、操舵角に基づきVSCを作動させるか否かを判定している。このため、操舵角が検出でないと、VSCの作動タイミングが不適切になったり、VSCによるブレーキ制御量が不適切になってしまう。
そこで、本実施形態では、EPSに装備されている操舵角センサおよび操舵トルクセンサで検出される情報に基づき、操舵伝達系における弾性部材の特性変化を検出するようにした。
図2は、ブレーキECU100のうち、本実施形態に係る操舵伝達系の特性変化検出に関与する部分の構成を示す機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や電気回路で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
操舵トルク判定部102は、操舵トルクセンサ16の検出値MTを受け取り、操舵トルクが所定値より小さいか否かを判定する。この判定は、VSCが作動しないような操舵力が小さい運転状態、例えば、ステアリングホイールに軽く手を添える程度で操舵できる運転状態であるか否かを判定するものであり、所定値は例えば1.2Nmである。
操舵トルクが小さい領域で以下に述べる操舵伝達系の異常判定を行うのは、次の理由による。すなわち、操舵トルクが小さければ、タイロッドにかかる軸力が非常に小さいため、ラックアンドピニオン機構20等の操舵伝達系の各部にかかる力も小さい。この状況であれば、車両挙動の変化が小さく、車両挙動による異常判定への影響が小さいため、正確な異常判定に適していると考えられるからである。
目標値算出部104は、車速センサ36の検出値Vと操舵角センサ18の検出値MAを受け取り、この値から目標横加速度(以下「目標Gy」と呼ぶ)または目標ヨーレート(以下「目標YR」と呼ぶ)のいずれかを算出する。目標Gyまたは目標YRは、次式によって算出される。
目標Gy=V2・MA/N/WB
目標YR=V・MA/N/WB
ここで、Nはオーバーオールステアリング比(操舵角/操舵輪切れ角)を表し、WRはホイールベースである。これらの値は、予め目標値算出部104に記録されている。
目標Gy=V2・MA/N/WB
目標YR=V・MA/N/WB
ここで、Nはオーバーオールステアリング比(操舵角/操舵輪切れ角)を表し、WRはホイールベースである。これらの値は、予め目標値算出部104に記録されている。
異常判定部106は、目標値算出部104で算出された目標Gyまたは目標YRと、横加速度センサ42による検出値(以下「実測Gy」と呼ぶ)またはヨーレートセンサ48による検出値(以下「実測YR」と呼ぶ)とを比較して、ステアリングホイールの操舵角から推定される車両状態と実際の車両状態とが一致しているか否かを判定する。この判定手法については、図3を参照して後述する。両者が不一致である場合、異常判定部106は、操舵伝達系の特性変化が生じていると判定する。
ブレーキ制御量指示部108は、異常判定部106によって操舵伝達系の特性変化が生じていると判定された場合に、VSCにおけるブレーキの制御量を徐々に減少させていき、最終的にはVSC制御を停止する。より具体的には、VSCブレーキ制御量に応じて各車輪に設置されているホイールシリンダの油圧を制御する。
なお、VSCにおけるブレーキ制御量の変更を行わず、操舵伝達系の特性変化が検出された旨をスピーカまたはランプ等を用いてドライバーに報知する構成としてもよいし、単にVSCの実施を禁止する構成としてもよい。
図3は、異常判定部106による、ステアリングホイールの操舵角から推定される車両状態と実際の車両状態とが一致しているか否かを判定する方法を説明する概念図である。図中の横軸がステアリングホイールの操舵角から算出された目標Gy(または目標YR)を表し、縦軸が横加速度センサ42またはヨーレートセンサ48で検出された実測Gy(または実測YR)を表す。
図3では、車両が直進走行している状態からステアリングホイールの操舵および戻しを行い、再び直進走行に戻るまでの運転操作(以下「一操舵」と呼ぶ)の間の目標Gy(または目標YR)と実測Gy(または実測YR)との関係を表している。なお、この一操舵は、横加速度センサまたはヨーレートセンサの温度ドリフトの影響が無視できる比較的短時間(例えば30秒)以内に行われることが望ましい。
なお、上述したように、操舵トルクMTが小さい場合のみ操舵伝達系の異常判定が行われるので、上記の「直進→操舵→戻し→直進」という過程は、例えば車線変更などの操舵角が比較的小さい運転操作のときに生じるものに限られる。
図中の細実線は、正常な車両、すなわち操舵伝達系の特性変化が生じていない車両における目標Gy(または目標YR)と実測Gy(または実測YR)との関係を示す。正常な車両であれば、ステアリングホイールの遊びや摩擦などに起因するヒステリシス成分が存在するために完全な比例関係にはならないものの、両者の間には比例に近い関係が存在する。そのため、図中のグラフは左下から右上方向に延びる細長い円環形状になる。原点から右上に向かう区間、および原点から左下に向かう区間がステアリングホイールの切り込みに対応し、右上から原点に向かう区間、および左下から原点に向かう区間がステアリングホイールの戻しに対応する。操舵トルクおよび操舵角の正負は、中立位置からの時計回りまたは反時計回りの回転のいずれかにそれぞれ対応する。
図中の太実線は、操舵伝達系に特性変化が生じている車両における目標Gy(または目標YR)と実測Gy(または実測YR)との関係を示す。目標Gy(または目標YR)と実測Gy(または実測YR)の間の比例関係が崩れ、グラフが大きな円環状となっていることが分かる。このように、操舵伝達系に特性変化が生じている車両で比例関係が崩れるのは、操舵角の変化に操舵輪の切れ角が追従するのに時間がかかるため、すなわち、操舵伝達系のガタが生じていたり部品の剛性が低下しているためであると考えられる。
異常判定部106は、上述の一操舵の間に、目標Gy(または目標YR)と実測Gy(または実測YR)との差分の絶対値が基準値以上となった回数が所定回数以上となったとき、操舵伝達系の特性変化が生じていると判定する。
代替的に、異常判定部106は、目標Gy(または目標YR)と実測Gy(または実測YR)の関係を表す線が、図3中に点線で示す所定のしきい線を越える事象(図3中に白丸で表す)が所定回数(例えば4回)以上となったとき、操舵伝達系の特性変化が生じていると判定してもよい。これらのしきい線は、例えば、操舵角と操舵輪切れ角とにずれがある(例えば±15°)と仮定したときの、目標Gy(または目標YR)と実測Gy(または実測YR)との間の関係を示す曲線として、実験またはシミュレーションによって予め設定される。
上記のように、異常判定部106がしきい線を越えた回数のカウントに基づく判定を行う理由は、例えば突然の路面状態の変化などが原因で、実測Gy(または実測YR)が目標Gy(または実測YR)から乖離する場合も起こり得るので、単発の事象の検出に基づく誤判定を避けるためである。
図4は、本実施形態に係る操舵伝達系の異常判定を表すフローチャートである。 まず、VSC、EPSが正常に動作しているか否かを判定する(S10)。両者とも正常である場合(S10のY)、操舵トルク判定部102は、操舵トルクセンサ16の検出値MTがしきい値以下であるかを判定する(S12)。操舵トルク検出値MTがしきい値以下であれば(S12のY)、目標値算出部104は、操舵角センサ18の検出値MAから目標Gyまたは目標YRを算出する(S14)。
続いて、異常判定部106は、S14で算出された目標Gyまたは目標YRと、横加速度センサ42またはヨーレートセンサ48による実測Gyまたは実測YRとが不一致であるか否かを、図3を用いて上述した方法により判定する(S16)。両者が不一致である場合(S16のY)、操舵伝達系の特性変化が生じていると判定する(S18)。このとき、ブレーキ制御量指示部108は、VSCにおけるブレーキ制御量を、実測Gyまたは実測YRの値に応じた時間をかけて減少させる(S20)。両者の関係は、例えば図5に示すように、時間に上下限のガードがかけられていてもよい。
以上説明したように、本実施形態によると、EPSに設けられている操舵トルクセンサおよび操舵角センサの検出値を利用して、ゴムブシュなどの弾性部品の経年劣化などによる操舵伝達系の特性変化(例えばガタの発生)を検出することが可能になる。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組み合わせ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組み合わせなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
実施の形態では、一操舵の間に、目標Gy(または目標YR)と実測Gy(または実測YR)との差分の絶対値が基準値以上となった回数が所定回数以上となったとき、操舵伝達系の特性変化が生じていると判定することを述べた。しかし、この判定は、一操舵の間に限られない。例えば、車両の直進走行時に判定を行ってもよいし、一操舵を複数回実施したときに判定を行ってもよい。
10 車両、 12 ステアリングホイール、 16 操舵トルクセンサ、 18 操舵角センサ、 36 車速センサ、 42 横加速度センサ、 48 ヨーレートセンサ、 70 ステアリングECU、 100 ブレーキECU、 102 操舵トルク判定部、 104 目標値算出部、 106 異常判定部、 108 ブレーキ制御量指示部。
Claims (2)
- ステアリングホイールの操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、
操舵トルクが所定値以下であるときに、操舵角から算出される車両の目標挙動と実際の車両挙動との差分が基準値以上となった回数が所定期間中に所定回数以上であるとき、操舵伝達系の特性変化と判定する異常判定部と、を備え、
前記所定期間は、車両が直進走行している状態からステアリングホイールの操舵を行って再び直進走行に戻す運転操作の間であることを特徴とする操舵伝達系の特性変化検出装置。 - 車両挙動を測定するセンサとして横加速度センサまたはヨーレートセンサを備えることを特徴とする請求項1に記載の特性変化検出装置。
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