以下に、本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[第1実施形態]
図1から図13を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、電動パワーステアリング装置に関する。図1は、本発明の第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置の動作を示すフローチャート、図2は、第1実施形態に係る車両の概略構成図、図3は、第1実施形態に係るECUのブロック図、図4は、第一補正制御部の詳細を示すブロック図である。
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1−1は、ステアリングシステムの経年的な摩擦変化(プレロード変化)を補正する機能を有している。電動パワーステアリング装置1−1は、ピニオン位置回転トルクとピニオン角度に基づき、システム摩擦特性を検出する方法、ピニオン位置回転トルクと車両応答に基づきシステムと車両を合わせた摩擦特性を検出する方法、システムを除く車両分の摩擦特性を検出する方法、およびステアリングシステムの回転角に依存したシステムまたは車両の摩擦特性を検出する方法を有している。
本実施形態において、車両100に必要な構成としては、電動パワーステアリングシステム(EPS)、およびステアリングシステムの回転角センサである。電動パワーステアリングシステムは、車速センサ、操舵トルクセンサ、電流センサ等のEPSに必要なセンサを含むものである。また、回転角センサは、操舵角センサまたはモータ回転角センサまたはラックストロークセンサまたはピニオン角センサまたはタイヤ切れ角センサ等である。上記回転角センサは、絶対角センサであるか、あるいは相対角センサである場合にはステアリングの絶対角を取得可能なものであることが好ましい。
図2に示すように、車両100は、操舵輪として左前輪FLおよび右前輪FRを有する。車両100は、前輪FL,FRが転舵することにより旋回することができる。本実施形態の電動パワーステアリング装置1−1は、操舵トルクセンサ16、操舵角センサ17、車速センサ19、ヨーレートセンサ20、横Gセンサ21、EPSアクチュエータ300およびECU50を含んで構成されている。
ハンドル11は、ステアリングシャフト12、ラックアンドピニオン機構22、タイロッド23およびサスペンションを介して左前輪FLおよび右前輪FRとそれぞれ接続されている。ステアリングシャフト12は、ハンドル11と連結された回転軸であり、ハンドル11と一体回転する。
ラックアンドピニオン機構22は、ピニオンギア14とラックバー15を有する。ピニオンギア14は、ステアリングシャフト12の端部に接続されており、ステアリングシャフト12の回転と連動して回転する。ラックバー15は、ピニオンギア14のギア歯と噛み合うギア歯を有している。ピニオンギア14の回転運動は、ラックバー15の車幅方向(図2の左右方向)の運動に変換される。ラックバー15の車幅方向の運動は、タイロッド23やナックル等を介して左前輪FLおよび右前輪FRに伝達されて前輪FL,FRを転舵する。
操舵トルクセンサ16は、操舵トルクThを検出する。本実施形態の操舵トルクセンサ16は、運転者からハンドル11に入力される操舵トルクThによって捩れを生じるトーションバーを有しており、トーションバーにおいて生じる回転位相差に応じた電気信号を出力する。操舵角センサ17は、操舵角θhを検出する。本実施形態の操舵角センサ17は、中立位置からのステアリングシャフト12の回転量に応じた電気信号を出力する。車速センサ19は、車両100の走行速度に応じた電気信号を出力する。
ヨーレートセンサ20は、車両100のヨーレートを検出し、ヨーレートに応じた電気信号を出力する。横Gセンサ21は、車両100の横Gを検出し、横Gに応じた電気信号を出力する。
ECU50は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU50は、操舵トルクセンサ16、操舵角センサ17、車速センサ19、ヨーレートセンサ20、横Gセンサ21、およびEPSアクチュエータ300と電気的に接続されている。ECU50は、操舵トルクセンサ16から入力される電気信号に基づいて操舵トルクThを取得する。また、ECU50は、操舵角センサ17から入力される電気信号に基づいて操舵角θhを取得する。また、ECU50は、車速センサ19から入力される電気信号に基づいて車速Vを取得する。
ECU50は、ヨーレートセンサ20から入力される電気信号に基づいてヨーレートを取得する。また、ECU50は、横Gセンサ21から入力される電気信号に基づいて車両100の横Gを取得する。電動パワーステアリング装置1−1は、ラックバー15の車幅方向の移動量(ラックストローク)を検出するストロークセンサを有している。ストロークセンサの検出結果を示す信号は、ECU50に入力される。ECU50は、ストロークセンサから入力される電気信号に基づいてラックストロークを取得する。
EPSアクチュエータ300は、アシストトルクやダンピングトルク等の出力トルクを発生させ、発生させた出力トルクをステアリングシャフト12に作用させる転舵トルク出力装置である。本実施形態のEPSアクチュエータ300は、ステアリングシャフト12に接続された電動モータ(以下、「EPSモータ」と称する。)301を有しており、EPSモータ301により出力トルクを発生させる。EPSモータ301は、図示しないバッテリと接続されており、バッテリから供給される電力を消費して出力トルクを発生する。EPSモータ301の回転は、図示しないウォームギアによって減速されてステアリングシャフト12に伝達される。EPSアクチュエータ300は、EPSモータ301の回転位置(回転角)を検出するセンサを有している。検出されたEPSモータ301の回転位置は、ECU50に出力される。
ECU50は、EPSアクチュエータ300に対して制御指令を出力し、EPSアクチュエータ300を制御する。ECU50は、例えば、操舵トルクThおよび車速Vに基づいてEPSアクチュエータ300に対する制御指令値を決定する。
ここで、操舵系や車両100には、それぞれ操舵に関する摩擦特性がある。操舵系や車両100の操舵に関する摩擦特性は、経時的に変化することがある。摩擦特性を精度よく推定することができれば、摩擦特性の経時変化を精度よく検出することができる。また、摩擦特性の経時変化に対して補償制御を行うことにより、操舵特性の変化を精度よく抑制することが可能となる。
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1−1は、ピニオン回転角θとピニオン位置トルクTとに基づいて操舵系の摩擦特性を推定する。これにより、操舵系の摩擦特性を精度よく推定することができる。ピニオン回転角θは、ピニオンギア14の回転角度、言い換えるとピニオンギア14の回転位置である。ピニオン位置トルクTは、ピニオンギア14の位置における回転トルク、言い換えるとピニオンギア14に入力されるトルクである。
なお、本実施形態では、操舵系には、ハンドル11、ステアリングシャフト12、操舵トルクセンサ16、操舵角センサ17、EPSモータ301、ラックアンドピニオン機構22およびタイロッド23が含まれる。これらの構成要素のギア部や摺動部、接続部等における摩擦特性が操舵系の摩擦特性となる。また、本実施形態では、操舵系を含む車両100全体の操舵に関する摩擦特性は、操舵系の摩擦特性と、サスペンションの摩擦特性と、前輪FL,FRの捩れ分等の摩擦特性を含むものである。すなわち、車両100全体の操舵に関する摩擦特性は、ハンドル11から前輪FL,FRにおける路面との接地面までのトルク伝達系統の摩擦特性である。従って、本実施形態における操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性は、サスペンションの摩擦特性と前輪FL,FRの摩擦特性とを合わせたものである。
図3に示すように、ECU50は、アシスト制御部51、ダンピング制御部52、第一補正制御部53および第二補正制御部54を含んで構成されている。アシスト制御部51には、ピニオン位置トルクT、車速Vおよび操舵トルクThが入力される。ダンピング制御部52には、操舵速度SWVおよび車速Vが入力される。第一補正制御部53には、ピニオン位置トルクT、ピニオン回転角θ、車速V、温度および経年情報が入力される。ここで、入力される温度情報は、ステアリングシステムに関する温度であり、EPSモータ301の温度や操舵系の周辺温度とすることができる。第二補正制御部54には、ピニオン位置トルクT、ピニオン回転角θ、換算後ピニオン回転角θ2、車速V、操舵速度SWV、温度および経年情報が入力される。
なお、ピニオン回転角θおよびピニオン位置トルクTにおいて、正方向は、ハンドル11を左きりする方向、すなわち運転者からみてハンドル11を反時計回りに回転させる方向である。従って、ピニオン回転角θおよびピニオン位置トルクTにおいて、負方向は、ハンドル11を右きりする方向、すなわち運転者から見てハンドル11を時計回りに回転させる方向である。
アシスト制御部51は、運転者が入力する操舵トルクThと同方向のトルクであるアシストトルクの目標値を出力する。アシスト制御部51は、操舵トルクThと車速Vとに基づいて目標とするアシストトルクの方向と大きさを出力する。
ダンピング制御部52は、運転者が入力する操舵トルクThと反対方向のトルクであるダンピングトルクの目標値を出力する。ダンピング制御部52は、操舵速度SWVと車速Vとに基づいて目標とするダンピングトルクの方向と大きさを出力する。
図4に示すように、第一補正制御部53は、摩擦特性検出部61と、指標化部62と、経年劣化判定部63と、必要摩擦量演算部64と、摩擦付与制御部65とを含んで構成されている。
摩擦特性検出部61は、ピニオン位置トルクTとピニオン回転角θとに基づいてステアリングシステムの摩擦特性、言い換えると操舵系の摩擦特性を検出する。指標化部62は、摩擦特性検出部61が検出した摩擦特性を平均化し、指標化を行う。経年劣化判定部63は、指標化された摩擦特性と、入力される経年情報とに基づいて特性の変化を検知する機能や、劣化判定を行う機能を有する。経年劣化判定部63には、経年情報として、日時や走行時間、走行距離、操舵回数等が入力される。
必要摩擦量演算部64は、指標化された摩擦特性と、特性変化や経年劣化に関する情報に基づいて、必要摩擦量を演算する。摩擦付与制御部65は、演算された必要摩擦量を付与する制御出力を行う。
第二補正制御部54は、第一補正制御部53と同様の構成要素を有する。第二補正制御部54は、ステアリングシステム(操舵系)を除く車両100の操舵に関する摩擦特性(以下、単に「車両摩擦特性」と称する。)を検出し、車両摩擦特性を指標化する。第二補正制御部54は、車両摩擦特性の指標に基づいて特性変化を検知することや、経年劣化判定を行う機能を有している。また、第二補正制御部54は、車両摩擦特性の指標や特性変化の情報に基づいて必要摩擦量を演算し、必要摩擦量を実現するように制御出力を行う。
図1を参照して、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1−1の動作について説明する。図1に示す制御フローは、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。図1は、第一補正制御部53の動作を示している。
(第一補正制御部53の動作)
まず、ステップS1では、第一補正制御部53により、初期値の設定がなされる。第一補正制御部53は、各計測信号用変数の初期化(0セット)を行う。また、第一補正制御部53は、保存された摩擦補償量を読み出す。また、第一補正制御部53は、保存された指標の経時情報を読み出す。ステップS1が実行されると、ステップS2に進む。
ステップS2では、第一補正制御部53により、信号計測が実行される。第一補正制御部53は、操舵トルク信号、モータ回転角信号、車速信号およびEPSモータ301の電流信号(以下、単に「モータ電流値」とも記載する。)を取得する。本実施形態では、各信号に対してLPF(Low-pass filter)が設定されて高周波のノイズが除去される。数Hzまでの信号があればよいためである。ステップS2で信号計測がなされると、ステップS3に進む。
ステップS3では、第一補正制御部53により、信号演算がなされる。第一補正制御部53は、ピニオン位置トルクT、ピニオン回転角θおよび操舵角速度(操舵速度)SWVを算出する。ピニオン位置トルクTは、例えば、下記式(1)により算出される。なお、トルク換算係数は、モータ電流値をEPSモータ301の出力トルクに換算する係数である。ウォームギア比は、EPSモータ301の回転をステアリングシャフト12に伝達するウォームギアのギア比である。ギア効率は、ウォームギアの伝達効率である。
T=操舵トルクTh
+モータ電流値×(トルク換算係数)×ウォームギア比×ギア効率…(1)
ピニオン回転角θは、例えば、下記式(2)により算出される。なお、ピニオン回転角中点は、ステアリングシステムの中立状態、すなわち車両100が直進している状態におけるピニオン回転角θである。ピニオン回転角中点は、直進判定がなされているときに学習された学習値である。なお、ピニオン回転角中点は、既存の中点学習値が用いられてもよい。
θ=モータ回転角/ウォームギア比+ピニオン回転角中点…(2)
操舵角速度SWVは、例えば、下記式(3)により算出される。なお、記号’は、時間微分(d/dt)を示す。
SWV=(ピニオン回転角θ)’…(3)
ピニオン位置トルクT、ピニオン回転角θおよび操舵角速度SWVが算出されると、ステップS4に進む。
ステップS4では、第一補正制御部53により、操舵・走行・環境条件が成立しているか否かが判定される。本実施形態では、以下の条件1乃至条件8が成立する場合に操舵・走行・環境条件が成立していると判定される。
(条件1):車速Vが下限車速V1以上であって、かつ上限車速V2以下であること。
ここで、下限車速V1は、車両100が直進する車速以上に設定されるものであり、例えば、30km/hである。上限車速V2は、高速となって路面振動が大きくなる速度よりも小さい値に設定されるものであり、例えば120km/hである。
(条件2):操舵角速度SWVの絶対値が所定操舵角速度以下であること。
ここで、所定操舵角速度は、安定したプレロードを測定できる操舵角速度の範囲で設定される。
(条件3):操舵トルクThの絶対値が所定操舵トルク以下であること。
ここで、所定操舵トルクは、中立付近の操舵である範囲に設定されるものであり、例えば2Nmである。所定操舵トルクは、路面スラント角が大きい路面でトルクが出ている状況を除外できるように定められる。
(条件4):ヨーレートの絶対値が所定ヨーレート以下であること。
ここで、所定ヨーレートは、車両100が直進している範囲の値に設定されるものであり、例えば1deg/sである。
(条件5):横Gの絶対値が所定横G以下であること。
ここで、所定横Gは、車両が直進している範囲の値に設定されるものであり、例えば2m/s2である。
(条件6):ステアリング付近の温度が下限温度以上であって、かつ上限温度以下であること。
ここで、下限温度は、プレロードが増加する低温の範囲を除外するように設定されるものであり、例えば0℃である。上限温度は、EPSモータ301のモータ特性が変化する高温の範囲を除外するように設定されるものであり、例えば120℃である。
(条件7):ステアリングシステムが正常であること。
ステアリングシステムの異常が検出されておらず、通常のステアリング制御を行っている場合、ステアリングシステムが正常である。例えば、EPSモータ301の過熱保護などの電流制限がなされている場合は、ステアリングシステムは正常でない。
(条件8):操舵周波数が所定操舵周波数以下であること。
所定操舵周波数は、安定的に摩擦測定することができるように、ステアリングシステムの共振周波数域や車両100の共振周波数域よりも十分に小さい値に設定されるものであり、例えば、5Hzである。
第一補正制御部53は、上記条件1乃至条件8の全てが成立する場合、ステップS4で肯定判定を行う。ステップS4で操舵・走行・環境条件が成立すると判定された場合(ステップS4−Y)にはステップS5に進み、そうでない場合(ステップS4−N)にはステップS15に進む。なお、上記条件1乃至条件8のうちの一部が成立する場合にステップS4で肯定判定がなされてもよい。
ステップS5では、第一補正制御部53により、操舵タスク条件が成立したか否かが判定される。第一補正制御部53は、中立位置からのハンドル11の切り出しである場合に操舵タスク条件が成立したと判定する。図5は、操舵タスク条件の判定方法の説明図である。
図5において、横軸はピニオン位置トルクT、縦軸はピニオン回転角θを示す。θ−T平面には、中立領域Rn、左操舵後領域Rpおよび右操舵後領域Rmが定められている。中立領域Rnは、操舵系の中立状態の領域である。中立領域Rnは、左きり方向の上限トルクTn1と右きり方向の上限トルクTn2との間のピニオン位置トルクTの範囲に定められている。上限トルクTn1,Tn2の大きさは、ステアリングが動く(例えば、ピニオンギア14が回転する)トルクの大きさ以下であり、例えば1Nmである。
また、中立領域Rnは、左きり方向の上限角θn1と右きり方向の上限角θn2との間のピニオン回転角θの範囲に定められている。上限角θn1,θn2の大きさは、ステアリングが動くピニオン回転角θの大きさ以下であり、例えば1degである。
左操舵後領域Rpは、左きり方向の上限トルクTpuと下限トルクTpdとの間のピニオン位置トルクTの範囲に定められている。左きり方向の下限トルクTpdは、ステアリングが動くトルク以上のトルクであって、かつ中立領域Rnの左きり方向の上限トルクTn1よりも大きなトルクであり、例えば2Nmである。左きり方向の上限トルクTpuは、下限トルクTpdからピニオン位置トルクTの正方向に所定の幅(例えば、3Nm)を持たせて定められる。
左操舵後領域Rpは、左きり方向の上限角θpuと下限角θpdとの間のピニオン回転角θの範囲に定められている。左きり方向の下限角θpdは、ステアリングが動くピニオン回転角θ以上の角度であって、かつ中立領域Rnの左きり方向の上限角θn1よりも大きな角度であり、例えば2degである。左きり方向の上限角θpuは、下限角θpdからピニオン回転角θの正方向に所定の幅(例えば、5deg)を持たせて定められる。
右操舵後領域Rmは、右きり方向の上限トルクTmuと下限トルクTmdとの間のピニオン位置トルクTの範囲に定められている。右きり方向の下限トルクTmdの大きさは、ステアリングが動くピニオン位置トルクTの大きさ以上であり、かつ中立領域Rnの右きり方向の上限トルクTn2の大きさよりも大きく、例えば2Nmである。右きり方向の上限トルクTmuは、下限トルクTmdからピニオン位置トルクTの負方向に所定の幅(例えば、3Nm)を持たせて定められる。
右操舵後領域Rmは、右きり方向の上限角θmuと下限角θmdとの間のピニオン回転角θの範囲に定められている。右きり方向の下限角θmdの大きさは、ステアリングが動くピニオン回転角θの大きさ以上であって、かつ中立領域Rnの右きり方向の上限角θn2の大きさよりも大きく、例えば2degである。右きり方向の上限角θmuは、下限角θmdからピニオン回転角θの負方向に所定の幅(例えば、5deg)を持たせて定められる。
各領域Rn,Rp,Rmの上限トルクTpu,Tn1,Tn2,Tmu、下限トルクTpd,Tmd、上限角θpu,θn1,θn2,θmu、および下限角θpd,θmdは、例えば、ステアリングシステム毎に事前の計測結果に基づいて定められる。
操舵タスク条件は、以下の操舵条件1乃至操舵条件3が全て成立する場合に成立すると判定される。
(操舵条件1):中立領域Rnから左操舵後領域Rpあるいは右操舵後領域Rmに移行したこと。
(操舵条件2):中立領域Rnから左操舵後領域Rpに移行する場合(矢印Y1参照)にあっては、ピニオン回転角θおよびピニオン位置トルクTが単調増加であること。中立領域Rnから右操舵後領域Rmに移行する場合(矢印Y2参照)にあっては、ピニオン回転角θおよびピニオン位置トルクTが単調減少であること。
(操舵条件3):中立領域Rnから左操舵後領域Rpあるいは右操舵後領域Rmへの移行に際し、ピニオン回転角θおよびピニオン位置トルクTが連続であること、言い換えると一部データが途切れていないこと。
ステップS5の判定の結果、操舵タスク条件が成立すると判定された場合(ステップS5−Y)にはステップS6に進み、そうでない場合(ステップS5−N)にはステップS15に進む。
ステップS6では、第一補正制御部53により、θ−T特性が抽出される。図6は、摩擦特性の抽出の説明図である。図6において、横軸はピニオン位置トルクT、縦軸はピニオン回転角θを示す。図6には、左きりの操舵推移Cp1および右きりの操舵推移Cm1が示されている。第一補正制御部53は、左きりの操舵においてピニオン回転角θが左きりの閾値θthpを超えるときのピニオン位置トルクTを左操舵の摩擦特性Tchpとして抽出する。また、第一補正制御部53は、右きりの操舵においてピニオン回転角θの大きさが右きりの閾値θthmの大きさを超えるときのピニオン位置トルクTを右操舵の摩擦特性Tchmとして抽出する。ステップS6において摩擦特性Tchp,Tchmが抽出されると、ステップS7に進む。
ステップS7では、第一補正制御部53により、指標抽出と平均化がなされる。図7は、期間毎の指標化の説明図である。図7において、横軸は経時(経年)情報、本実施形態では走行時間を示し、縦軸は摩擦特性を示す。抽出された左操舵の摩擦特性Tchpおよび右操舵の摩擦特性Tchmは、抽出されたときの経時情報と関連付けられて蓄積される。第一補正制御部53は、蓄積された摩擦特性Tchp,Tchmを所定の期間P1,P2,P3毎に平均化し、指標化する。
第一補正制御部53は、第一の期間P1の経過後に、第一の期間P1において蓄積された複数の左操舵の摩擦特性Tchpの平均値および複数の右操舵の摩擦特性Tchmの平均値をそれぞれ算出する。第一補正制御部53は、左操舵の摩擦特性Tchpの平均値と右操舵の摩擦特性Tchmの平均値との差である摩擦特性の差分Tch_dif1を指標として抽出する。同様にして、第一補正制御部53は、第二の期間P2の経過後に第二の期間P2の指標として摩擦特性の差分Tch_dif2を、第三の期間P3の経過後に第三の期間P3の指標として摩擦特性の差分Tch_dif3をそれぞれ抽出する。ステップS7が実行されると、ステップS8に進む。なお、摩擦特性の差分Tch_dif1,Tch_dif2,Tch_dif3は、それぞれの期間P1,P2,P3の開始後に随時算出されてもよい。
ステップS8では、第一補正制御部53により、経時情報の蓄積がなされる。第一補正制御部53は、所定の期間P1,P2,P3について抽出された指標から平均摩擦特性を算出し、経時情報の蓄積を行う。図8は、経時情報の蓄積の説明図である。図8において、横軸は経時情報を示し、縦軸は摩擦特性を示す。第一補正制御部53は、第一の期間P1の摩擦特性の差分Tch_dif1の半分の大きさを平均摩擦特性Tch1として、第一の期間P1を代表する経時情報と関連付けて蓄積する。
同様にして、第一補正制御部53は、第二の期間P2の摩擦特性の差分Tch_dif2の半分の大きさを平均摩擦特性Tch2として第二の期間P2を代表する経時情報と関連付けて蓄積する。第一補正制御部53は、第三の期間P3の摩擦特性の差分Tch_dif3の半分の大きさを平均摩擦特性Tch3として第三の期間P3を代表する経時情報と関連付けて蓄積する。経時情報の蓄積がなされると、ステップS9に進む。
ステップS9では、第一補正制御部53により、摩擦特性変化が検知されたか否かが判定される。図9は、摩擦特性変化の検知の説明図である。図9において、横軸は経時情報、縦軸は摩擦特性である。時間の経過に従い、平均摩擦特性は初期の特性(または目標特性)Tch0から低下する。走行時間t1の時点で平均摩擦特性が閾値Tch_thを下回る。第一補正制御部53は、平均摩擦特性が閾値Tch_thを下回ると、摩擦特性が変化したとして検知する。ステップS9の判定の結果、摩擦特性変化が検知された場合(ステップS9−Y)にはステップS10に進み、そうでない場合(ステップS9−N)にはステップS15に進む。
ステップS10では、第一補正制御部53により、摩擦補償量が演算される。図10は、摩擦補償量の説明図である。図10には、摩擦補償が行われない場合の平均摩擦特性の推移Tch_c1、および摩擦補償が行われる場合の平均摩擦特性の推移Tch_c2が示されている。破線Tch_xは、初期特性Tch0と摩擦補償が行われない場合の平均摩擦特性の推移Tch_c1との差分を初期特性Tch0に加えた値を示している。
第一補正制御部53は、走行時間t1において平均摩擦特性変化が検知されると、摩擦補償量Tcomを演算する。摩擦補償量Tcomは、平均摩擦特性の変化を抑制し、平均摩擦特性の初期特性Tch0からの乖離を低減する補償トルクである。例えば、走行時間t1において演算される摩擦補償量Tcomの大きさは、走行時間t1における初期特性Tch0と平均摩擦特性の推移Tch_c1との差分の大きさである。摩擦補償量Tcomの補償トルクが出力されることにより、ステアリングが動き出すピニオン位置トルクTの変動が抑制される。なお、走行中に摩擦補償量Tcomを変化させると、ドライバビリティが低下する可能性がある。このため、摩擦補償量Tcomは、イグニッションがOFFからONとされるタイミングで更新されてもよい。
走行時間t1よりも大きな走行時間t2となると、補償後の平均摩擦特性の推移Tch_c2が閾値Tch_thを下回り、摩擦特性変化が検知される。これに対して、第一補正制御部53は、摩擦補償量Tcomを増加させ、補償後の平均摩擦特性の推移Tch_c2の初期特性Tch0からの乖離を低減させる。走行時間t2における摩擦補償量Tcomは、補償後の平均摩擦特性の推移Tch_c2を初期特性Tch0に一致させるものである。ステップS10が実行されると、ステップS11に進む。
ステップS11では、第一補正制御部53により、摩擦補償量Tcomが上限以上に必要であるか否かが判定される。図11は、摩擦補償量Tcomの上限ガードの説明図である。本実施形態では、摩擦補償量Tcomの上限値Tcom_maxが定められている。第一補正制御部53は、ステップS10で演算された摩擦補償量Tcomが上限値Tcom_max以上であるか否かを判定する。その判定の結果、摩擦補償量Tcomが上限値Tcom_max以上である場合(ステップS11−Y)にはステップS12に進み、そうでない場合(ステップS11−N)にはステップS15に進む。
ステップS12では、第一補正制御部53により、摩擦補償量上限ガードがなされる。第一補正制御部53は、摩擦補償量TcomをステップS10で演算された値(Tcom1)に代えて上限値Tcom_maxとする。ステップS12が実行されると、ステップS13に進む。
ステップS13では、第一補正制御部53により、摩擦特性が所定値以下であるか否かが判定される。図12は、摩擦特性の下限の説明図である。走行時間t1において摩擦特性変化が検知されて以降は、補償後の平均摩擦特性の推移Tch_c2が見かけ上の平均摩擦特性となる。第一補正制御部53は、摩擦補償量Tcomが出力された補償後のピニオン位置トルクTに基づいてステップS6からステップS8を実行し、補償後の平均摩擦特性の推移Tch_c2を抽出・蓄積する。ステップS9では、補償後の平均摩擦特性の推移Tch_c2が閾値Tch_thを下回ると摩擦特性変化を検知する。
一方、第一補正制御部53は、補償後の平均摩擦特性の推移Tch_c2と、摩擦補償量Tcomとに基づいて、摩擦補償が行われない場合の平均摩擦特性の推移Tch_c1を算出する。ステップS13では、摩擦補償が行われない場合の平均摩擦特性の推移Tch_c1が、所定の摩擦特性下限値Tch_min以下であると、摩擦特性が所定値以下であると判定される。ステップS13の判定の結果、摩擦特性が所定値以下であると判定された場合(ステップS13−Y)にはステップS14に進み、そうでない場合(ステップS13−N)にはステップS15に進む。
ステップS14では、第一補正制御部53により、摩擦低下がドライバに告知される。第一補正制御部53は、例えば、ウォーニングランプや音声等の伝達手段により、操舵系の摩擦低下をドライバに告知する。ステップS14が実行されると、ステップS15に進む。
ステップS15では、第一補正制御部53により、摩擦補償量Tcomが保存される。なお、摩擦補償量Tcomは、イグニッションがONからOFFとされるタイミングで保存されてもよい。これにより、次回電動パワーステアリングシステムの起動時から補正を継続することができる。ステップS15が実行されると、ステップS16に進む。
ステップS16では、第一補正制御部53により、摩擦補償制御が実行される。第一補正制御部53は、摩擦補償量Tcomに相当する補償トルクを制御出力する。摩擦補償制御は、操舵方向のアシストトルクを低減し、あるいは操舵方向と反対方向のトルクを出力することで、摩擦特性の変化を補償する。図3に示すように、第一補正制御部53の制御出力は、アシスト制御部51の制御出力、ダンピング制御部52の制御出力、および第二補正制御部54の制御出力と加算されてEPSアクチュエータ300に対する出力トルクの指令値とされる。従って、本実施形態の電動パワーステアリング装置1−1による出力トルクは、第一補正制御部53が推定した摩擦特性や第二補正制御部54が推定した摩擦特性に応じて変化することとなる。ステップS16が実行されると、本制御フローは終了する。
(第二補正制御部54の動作)
次に、第二補正制御部54の動作について説明する。第二補正制御部54は、操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性を推定し、車両100の操舵に関する摩擦特性変化を検知すると、摩擦補償制御を行う。本実施形態の第二補正制御部54は、ピニオン位置トルクTと車両応答に基づき車両100全体の操舵に関する摩擦特性を推定する。第二補正制御部54は、操舵系を含む車両100全体の操舵に関する摩擦特性と、操舵系の摩擦特性とに基づいて、操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性を推定する。
まず、第二補正制御部54が操舵系を含む車両100全体の操舵に関する摩擦特性を推定する方法について説明する。車両100全体の操舵に関する摩擦特性推定方法は、第一補正制御部53による摩擦特性の推定方法(図1のステップS1からステップS6)と基本的に同様とすることができる。
すなわち、ステップS1において初期値の設定がなされると、ステップS2では、信号計測がなされる。第二補正制御部54は、車両100の応答を示すパラメータを計測する。車両100の応答を示すパラメータは、例えば、タイヤ切れ角、ヨーレートあるいは横G(加速度)のいずれかとすることができる。車両100の応答を示すパラメータの信号に対してLPFが設定されて高周波のノイズが除去されてもよい。
ステップS3では、第二補正制御部54により、信号演算がなされる。第二補正制御部54は、ステップS2で計測された車両100の応答を示すパラメータをピニオン回転角θに換算した換算後ピニオン回転角θ2を算出する。タイヤ切れ角がパラメータとして計測される場合、換算後ピニオン回転角θ2は、例えば下記式(4)により算出される。ここで、回転角換算係数K1は、タイヤ切れ角をピニオン回転角θに換算する係数である。
θ2=タイヤ切れ角×回転角換算係数K1+ピニオン回転角中点…(4)
ヨーレートがパラメータとして計測される場合、換算後ピニオン回転角θ2は、例えば下記式(5)により算出される。ここで、回転角換算係数K2は、ヨーレートをピニオン回転角θに換算する係数である。回転角換算係数K2は、車両モデルによる計算によって求めることや、事前の実測によって求めることができる。例えば、車速Vとヨーレートとピニオン回転角θとの関係を車両モデルによる計算や実測により求めておき、回転角換算係数K2を求めるようにしてもよい。
θ2=ヨーレート×回転角換算係数K2+ピニオン回転角中点…(5)
横Gがパラメータとして計測される場合、換算後ピニオン回転角θ2は、例えば下記式(6)により算出される。ここで、回転角換算係数K3は、横Gをピニオン回転角θに換算する係数である。回転角換算係数K3は、車両モデルによる計算によって求めることや、事前の実測によって求めることができる。例えば、車速Vとヨーレートとピニオン回転角θとの関係を車両モデルによる計算や実測により求めておき、回転角換算係数K3を求めるようにしてもよい。
θ2=横G×回転角換算係数K3+ピニオン回転角中点…(6)
ステップS4において操舵・走行・環境条件が成立すると判定され(S4−Y)ると、ステップS5で操舵タスク条件が成立するか否かが判定される。この場合、図5の縦軸を換算後ピニオン回転角θ2として操舵タスク条件が成立するか否かが判定される。操舵タスク条件が成立すると判定される(S5−Y)と、ステップS6では第二補正制御部54により、θ−T特性が抽出される。
図13は、第二補正制御部54による摩擦特性の抽出の説明図である。図13には、左きりの操舵系の操舵推移Cp、左きりの車両全体の操舵推移Cp_w、右きりの操舵系の操舵推移Cm、および右きりの車両全体の操舵推移Cm_wが示されている。左きりの操舵系の操舵推移Cpは、例えば、図6に示す左きりの操舵推移Cp1と同様のものであり、左きりの操舵が行われたときのピニオン回転角θとピニオン位置トルクTとの関係の推移を示す。右きりの操舵系の操舵推移Cmは、右きりの操舵が行われたときのピニオン回転角θとピニオン位置トルクTとの関係の推移を示す。
左きりの車両全体の操舵推移Cp_wは、左きりの操舵が行われたときの換算後ピニオン回転角θ2とピニオン位置トルクTとの関係の推移を示す。右きりの車両全体の操舵推移Cm_wは、右きりの操舵が行われたときの換算後ピニオン回転角θ2とピニオン位置トルクTとの関係の推移を示す。操舵系を含む車両100全体の操舵に関する摩擦特性として、左操舵の車両全体の摩擦特性Tchp_wおよび右操舵の車両全体の摩擦特性Tchm_wが抽出される。左操舵の車両全体の摩擦特性Tchp_wは、左きりの操舵において換算後ピニオン回転角θ2が左きりの閾値θthpを超えるときのピニオン位置トルクTである。右操舵の車両全体の摩擦特性Tchm_wは、右きりの操舵において換算後ピニオン回転角θ2の大きさが右きりの閾値θthmの大きさを超えるときのピニオン位置トルクTである。
第二補正制御部54は、左操舵の車両全体の摩擦特性Tchp_wと左操舵の(操舵系の)摩擦特性Tchpの差分を、左操舵の操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性とする。また、第二補正制御部54は、右操舵の車両全体の摩擦特性Tchm_wと右操舵の(操舵系の)摩擦特性Tchmとの差分を、右操舵の操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性とする。ステップS6において、左操舵および右操舵のそれぞれについて操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性が抽出されると、ステップS7に進む。ステップS7以降では、第一補正制御部53での操舵系の摩擦特性を、操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性に置き換えた動作が実行される。
第二補正制御部54は、操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性が変化すると、当該変化を抑制する摩擦補償量Tcomを演算し、摩擦補償制御を実行する。
このように、本実施形態では、第一補正制御部53によって、操舵系の摩擦特性の変化を抑制する摩擦補償制御が実行される。本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1−1によれば、EPSモータ301の電流値が小さい小トルク領域であっても、精度よく操舵系の摩擦特性を推定することができる。また、第二補正制御部54によって、操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性の変化を抑制する摩擦補償制御が実行される。第二補正制御部54は、操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性を精度よく推定することができる。
なお、第二補正制御部54は、操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性を扱うことに代えて、操舵系を含む車両100全体の操舵に関する摩擦特性を扱い、摩擦特性変化の検知や摩擦補償制御を実行するようにしてもよい。この場合、摩擦補償制御における第二補正制御部54の摩擦補償量は、車両100全体の操舵に関する摩擦特性に基づく摩擦補償量から、第一補正制御部53の摩擦補償量分を除いた値とすればよい。
上記のステップS2の信号計測において、モータ回転角信号に代えて、操舵角信号が取得されてもよい。また、車速信号(車輪速)に代えて、GPSシステムの位置情報から車速が取得されてもよい。また、EPSモータ301の電流信号に代えて、モータアシスト電流の指令値が取得されてもよい。
ステップS3において、演算されるピニオン回転角θは絶対値でなく相対値であってもよい。
本実施形態では、左右の摩擦特性が平均化されて平均摩擦特性Tch1,Tch2,Tch3が算出されたがこれには限定されない。左操舵および右操舵のそれぞれについて平均摩擦特性が算出され、摩擦補償制御等がなされてもよい。
[第1実施形態の変形例]
上記第1実施形態では、操舵系の摩擦特性および操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性のそれぞれに基づいて摩擦特性変化の検出や摩擦補償制御等が実行されたが、これに代えて、操舵系を含む車両100全体の操舵に関する摩擦特性に基づいて摩擦特性変化の検知や摩擦補償制御が実行されてもよい。この場合、第一補正制御部53が省略されてもよい。
[第2実施形態]
図14および図15を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図14は、第2実施形態における指標抽出の説明図、図15は、回転角に依存した摩擦特性を示す図である。
本実施形態では、ピニオン位置トルクTとピニオン回転角θに基づき回転角度に依存する摩擦特性が検出・推定され、当該摩擦特性に基づいて摩擦補償制御が実行される。図14において、横軸はピニオン位置トルクTを示し、縦軸はステアリングシステムに関する回転角、本実施形態ではピニオン回転角θを示す。図14には、転舵量が増加するときの左操舵の操舵推移Cp11、転舵量が減少するときの左操舵の操舵推移Cp12、転舵量が増加するときの右操舵の操舵推移Cm11、転舵量が減少するときの右操舵の操舵推移Cm12が示されている。
摩擦特性が回転角に依存して変化する場合、摩擦特性は、同じ回転角について転舵角が増加するときのピニオン位置トルクT(左操舵の場合、操舵推移Cp11上のトルク)と転舵角が減少するときのピニオン位置トルクT(左操舵の場合、操舵推移Cp12上のトルク)との差分(ヒステリシス幅)にあらわれる。第一補正制御部53は、ピニオンギア14の可動範囲を複数の範囲に分割し、各範囲についてピニオン位置トルクTのヒステリシス幅を抽出する。例えば、図14に示す範囲Rθについてヒステリシス幅の指標Thysを抽出する。ヒステリシス幅の指標Thysは、例えば、範囲Rθにおけるヒステリシス幅の平均値である。
図15には、各範囲についてヒステリシス幅の指標Thysに基づいて算出された摩擦特性Tch_hysが示されている。摩擦特性Tch_hysは、例えば、ヒステリシス幅の指標Thysの半分の値である。ピニオン回転角θの中立位置近傍の摩擦特性Tch_hys0は、基本特性である。操舵系の摩擦特性では、例えば、ラックバー15のギアのブーツによる影響で回転角に依存する摩擦特性が発生する。例えば、図15に示すように、ピニオン回転角θが中立位置から離れるに従い摩擦特性Tch_hysが増加する(基本特性Tch_hys0から乖離する)ような特性を示す。
第一補正制御部53は、上記第1実施形態の平均摩擦特性に基づく摩擦特性変化の検知や摩擦補償制御と同様にして、回転角に依存する摩擦特性Tch_hysに基づく摩擦特性変化の検知や摩擦補償制御を実行する。回転角に依存する摩擦特性Tch_hysに基づく摩擦特性変化の検知は、ピニオン回転角θの各範囲について特性変化を検知するようにしてもよい。回転角に依存する摩擦特性Tch_hysに基づく摩擦補償制御では、ピニオン回転角θの各範囲について摩擦補償量を定めるようにしてもよい。
また、第二補正制御部54は、ピニオン位置トルクTと車両応答に基づき回転角に依存する操舵系を含む車両100全体についての操舵に関する摩擦特性を検出・推定する。この場合、図14において縦軸は換算後ピニオン回転角θ2となる。第二補正制御部54は、車両100全体の操舵に関する摩擦特性に基づいて、特性変化の検知や特性変化を抑制する摩擦補償制御を行うようにしてもよい。
また、第二補正制御部54は、操舵系を含む車両100全体の操舵に関する摩擦特性から操舵系の摩擦特性Tch_hysを除くことにより、操舵系を除く車両100の操舵に関する回転角度に依存する摩擦特性を算出することができる。操舵系を除く車両100の操舵に関する摩擦特性では、例えば、サスペンションの摩擦の非線形性により回転角に依存する摩擦特性が発生する。第二補正制御部54は、操舵系を除く車両100における操舵に関する回転角に依存する摩擦特性に基づいて摩擦特性変化の検知や摩擦補償制御を行う。
以上説明したように、上記各実施形態および変形例には、ステアリングシステムの回転角θとトルクTを計測し、回転角θ変化時のトルクTの大きさによりシステムの摩擦特性(プレロード特性)を抽出して指標化し、指標に基づいて特性変化を検知し、特性変化を補償する電動パワーステアリング装置が開示されている。この電動パワーステアリング装置によれば、システムの摩擦特性を精度よく検知し、補償することができる。
上記回転角θは、ピニオン回転角とすることができる。トーションバーなどの捩れ要素の影響が少ないシステムの角度変化を用いることにより、システムの動き出し特性を精度よく検出することができる。ピニオン回転角の信号取得に際し、適当なLPFをいれてもよい。
上記回転角θは、モータ回転角、ハンドル角、ラックストロークなどシステムの回転を示す信号のいずれか、または当該回転を示す信号をピニオン回転角に換算したものとすることができる。これにより、ピニオンギア以外の部位の回転情報を活用してシステムの動き出し特性を精度よく検出することができる。なお、ハンドル角の場合は、トーションバー剛性による角度変化分を差し引いて用いることが望ましい。
回転角θ変化時のトルクTの大きさによるシステムの摩擦特性の抽出は、θ−Tリサージュ波形において、回転角θの大きさが所定範囲より大きくなった時点のトルクTとすることができる。中立付近の立ち上がりはSAT(セルフアライニングトルク)の影響が小さいため、システムの摩擦特性を精度よく抽出することができる。なお、摩擦特性は、θ−Tリサージュ波形の勾配変化が所定以上となる時点のトルクTや、回転角θが変化しないトルクTと回転角θが変化したトルクTとの間のトルクTとされてもよい。
上記摩擦特性の抽出は、所定車速範囲や所定車速変化以下で行うようにしてもよい。直進性のある第一所定車速以上、かつ外乱が増加する第二所定車速以下で精度よく摩擦特性を抽出することができる。
電動パワーステアリング装置は、車両の応答を示すパラメータをピニオン回転角に換算した換算後ピニオン回転角θ2とステアリングシステムのトルクTを計測し、換算後ピニオン回転角θ2変化時のトルクTの大きさにより、ステアリングシステムと車両とを合わせた操舵に関する摩擦特性を抽出し、指標化し、指標に基づいて特性変化を検知し、特性変化を補償するものであってもよい。これにより、ステアリングシステムと車両を合わせた摩擦特性を精度よく検知し、補償することができる。
上記車両応答を示すパラメータは、タイヤ切れ角またはヨーレートまたは横加速度とすることができる。これにより、車両の回転および横方向の車両の動きだし特性を精度よく検出することができる。タイヤ切れ角は、車輪速などから算出されてもよい。車両応答を示すパラメータを取得する際に、適当なLPFを入れるようにしてもよい。
上記トルクTは、ピニオン位置トルクとすることができる。ピニオン回転角に対応する部位のシステムのトルク特性を用いることにより、システムの動き出し特性を精度よく検出することができる。
上記トルクTは、操舵トルクと、EPSモータによるアシストトルクまたはアシスト電流をピニオン位置回転トルクに換算したものと、を合算したものとすることができる。この場合、既存のEPSシステムによって容易にピニオン位置トルク信号を生成することができる。
上記トルクTは、操舵トルクとすることができる。ステアリングの中立位置近傍であれば、既存のEPSシステムの情報によりピニオン位置トルク信号として取扱うことができる。
換算後ピニオン回転角θ2変化時のトルクTの大きさによるステアリングシステムと車両を合わせた摩擦特性の抽出は、θ2−Tリサージュ波形において、換算後ピニオン回転角θ2の大きさが所定範囲より大きくなった時点のトルクTとすることができる。中立付近の立ち上がりはSAT(セルフアライニングトルク)の影響が小さいため、ステアリングシステムおよび車両を合わせた摩擦特性を精度よく抽出することができる。
上記摩擦特性の抽出は、所定車速範囲において行うようにしてもよい。直進性のある第一所定車速以上、かつ外乱が増加する第二所定車速以下で精度よく摩擦特性を抽出することができる。時速50km/h付近が車両の減衰成分が最も小さくなる。このため、時速50km/hの近傍の速度で摩擦特性を検出することにより、減衰の影響を受けずに精度よく車両の摩擦特性を含む摩擦特性を抽出することができる。
上記摩擦特性の抽出は、所定操舵速度以下の場合に行うようにしてもよい。操舵速度が小さい領域に限定することで、システム減衰の影響を低減し、精度よく摩擦特性を抽出することができる。
上記摩擦特性の抽出は、所定操舵トルク以下の場合に行うようにしてもよい。中立付近に限定することにより、精度よく摩擦特性を抽出することができる。
上記摩擦特性の抽出は、車両挙動(ヨーレート、横G)の大きさが所定範囲以下である場合に行うようにしてもよい。これにより、車両の走行状態が安定した状態に限定することができ、精度よく摩擦特性を抽出することができる。
上記摩擦特性の抽出は、ステアリングシステム付近の温度が所定範囲の場合に行うようにしてもよい。これにより、低温時のプレロード増加状態等の環境変動要因を除外し、精度よく摩擦特性を抽出することができる。
上記摩擦特性の抽出は、ステアリングシステムが正常である場合に行うようにしてもよい。これにより、異常時や暫定制御中の不安定な状態を除外し、精度よく摩擦特性を抽出することができる。
上記摩擦特性の抽出は、操舵周波数が所定より小さい場合に行うようにしてもよい。これにより、周波数特性の影響を低減し、精度よく摩擦特性を抽出することができる。
上記摩擦特性の抽出は、中立からの切り出し時の情報に基づいて行うようにしてもよい。中立付近に限定することにより、精度よく摩擦特性を抽出することができる。
左右操舵におけるトルクTの差に基づき摩擦特性を抽出するようにしてもよい。回転角θや車両応答を示すパラメータの中立角精度によらず、精度よく摩擦特性を抽出することができる。
左操舵と右操舵で独立に摩擦特性を抽出するようにしてもよい。これにより、摩擦特性の左右差を精度よく検出することができる。
上記指標に基づいた特性変化の検知は、所定期間における平均摩擦が所定値以下となった場合に特性変化として検知するようにしてもよい。
上記指標に基づいた特性変化の検知は、所定期間における平均摩擦特性の変化量が所定値以上となった場合に特性変化として検知するようにしてもよい。これにより、経時的な摩擦特性の変化を検知することができる。
上記指標に基づいた特性変化の検知は、所定期間における平均摩擦特性の変化率が所定値以上となった場合に特性変化として検知するようにしてもよい。これにより、経時的な摩擦特性の変化を事前に検知(推定・予測)することができる。
上記の補償は、目標とする摩擦特性に対する現状の摩擦特性の差分に相当する摩擦制御量(摩擦補償量)を付与するようにしてもよい。これにより、目標特性に対するステアリングシステムの摩擦特性の変化やステアリングシステムと車両を合わせた摩擦特性の変化を低減することができる。
上記の補償は、上記特性変化を検知した場合に、特性変化に相当する摩擦制御量を付与するようにしてもよい。これにより、初期の摩擦特性に対するステアリングシステムの摩擦特性の変化やステアリングシステムと車両を合わせた摩擦特性の変化を低減することができる。
上記補償は、所定期間における平均摩擦特性の変化率が所定値以上となって特性変化を検知した場合に、予め摩擦制御量を増加させるようにしてもよい。これにより、初期の摩擦特性に対するステアリングシステムの摩擦特性の変化やステアリングシステムと車両を合わせた摩擦特性の変化をより早く低減することができる。
上記補償では、補償量や補償率に上限を設けるようにしてもよい。これにより、過剰な補償を抑制することができる。
現状の摩擦特性が所定以下となった場合にドライバへ告知するようにしてもよい。摩擦特性の変化に対して補償では対応できない場合に、ドライバに対して修理を促すことができる。
電動パワーステアリング装置は、上記ステアリングシステムの摩擦特性と、上記ステアリングシステムと車両とを合わせた摩擦特性との差を求めることにより、車両分の摩擦特性を抽出し、指標化し、指標に基づいて特性変化を検知し、特性変化を補償するものであってもよい。これにより、車両分のみの摩擦特性を精度よく検知し、補償することができる。
上記ステアリングシステムの回転角θ−トルクT特性と、上記ステアリングシステムと車両とを合わせた換算後ピニオン回転角θ2−トルクT特性との差分に基づいて、車両分の回転角θ−トルクT特性を作成し、作成した特性から車両分の摩擦特性を抽出し、指標化し、指標に基づいて特性変化を検知し、特性変化を補償するようにしてもよい。これにより、車両分のみの操舵に関する摩擦特性を精度よく検知し、補償することができる。
電動パワーステアリング装置は、上記ステアリングシステムの回転角θ−トルクT特性、または上記ステアリングシステムと車両とを合わせた換算後ピニオン回転角θ2−トルクT特性を用い、リサージュ波形から回転角に依存した摩擦特性を抽出し、指標化し、指標に基づいて特性変化を検知し、特性変化を補償するものであってもよい。これにより、回転角に依存したステアリングシステムの摩擦特性やステアリングシステムと車両とを合わせた摩擦特性を精度よく検知し、補償することができる。
上記のリサージュ波形による摩擦特性の抽出は、リサージュ波形上の回転角に対するトルクT、または回転角に対するリサージュ波形上のトルクTの差(波形の幅)に基づくものとすることができる。これにより、回転角に応じた摩擦特性を精度よく抽出することができる。
上記指標に基づいた特性変化の検知は、所定期間における回転角毎の平均摩擦特性の変化が所定値以上となった場合に特性変化として検知するようにしてもよい。これにより、経時的な摩擦特性の変化を検知することができる。
上記指標に基づいた特性変化の検知は、所定期間における回転角毎の平均摩擦特性の変化率が所定値以上となった場合に特性変化として検知するようにしてもよい。これにより、経時的な摩擦特性の変化をより早く検知・推定・予測することができる。
上記補償は、目標とする摩擦特性に対する現状の摩擦特性の差分に相当する回転角毎の摩擦制御量を付与するようにしてもよい。目標特性に対するステアリングシステムの摩擦特性の変化やステアリングシステムと車両を合わせた摩擦特性の変化を低減することができる。
上記補償は、特性変化を検知した場合に、特性変化に相当する回転角毎の摩擦制御量を付与するようにしてもよい。これにより、初期の摩擦特性に対するステアリングシステムの摩擦特性の変化やステアリングシステムと車両を合わせた摩擦特性の変化を低減することができる。
上記補償は、平均摩擦特性の変化率に基づいて特性変化を検知した場合に、予め回転角毎の摩擦制御量を増加させるようにしてもよい。これにより、初期の摩擦特性に対するステアリングシステムの摩擦特性の変化やステアリングシステムと車両を合わせた摩擦特性の変化をより早く低減することができる。
上記の補正方法において、EPSシステムによって自動的に操舵して摩擦特性を取得するようにしてもよい。例えば、ディーラー等での整備時に自動操舵により摩擦特性を取得するようにすればよい。自動操舵により摩擦特性を取得する場合、人が操舵する場合に比べて、短時間でより正確な情報を取得することができる。
上記自動操舵による場合、一回の測定結果に基づき補償量が設定されるようにしてもよい。これによれば、整備時に短時間で補償量の設定を行うことが可能となる。
上記の各実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。