しかしながら、従来の浮上搬送装置では、ワークの角部が搬送路に引っかかったり、ワークと搬送路の間に異物が噛み込んだりして、ワークが搬送路上で停止してしまうことがあった。特許文献1には、搬送路の終端壁に突起やスリットを設けることで物品に異物が付着することもなくなるとの記載がある。しかし、特許文献1のように突起等に接触させる構成では、ワークの種類によっては、ワークが破損するおそれがあった。しかも、かかる構成では、終端部以外の箇所におけるワークの停止を防止することができなかった。
また、特許文献2の浮上搬送装置では、非接触のワーク停止手段を用いているためワーク破損のおそれはないが、搬送路への引っかかり等を原因とするワークの停止を積極的に解消する方法は開示されていない。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、搬送中のワークの停止を抑制し、滞りなくワークを搬送する浮上搬送装置を提供することを目的とする。
本発明に係る浮上搬送装置は、上記目的を達成するために、次の構成を有するものである。
すなわち、請求項1記載の発明は、搬送路と、ワークを前記搬送路から浮上させる浮上手段と、浮上した前記ワークを、前記搬送路に沿って移動させる搬送手段と、搬送される前記ワークを揺動させる揺動手段とを備える。
かかる構成によれば、揺動手段によって、ワークが揺動し、ワークと搬送路との距離が変動する。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、前記搬送路は、前記ワークと対向する第1面と、前記第1面と逆側の第2面と、前記第1面に設けられた第1開口、及び前記第2面に設けられた第2開口を有する孔と、を有する搬送部材を備えるものである。
かかる構成によれば、搬送路に設けられた前記孔を通じて、ワークに対して、エア等により力を作用させることができる。
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の構成において、前記浮上手段は、前記孔を介して前記第1面からエアを噴出させるエア噴出手段を備えるものである。
かかる構成によれば、ワークに対して、前記孔から噴出したエアがワークに作用する。
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明の構成において、前記エア噴出手段は、エア供給を間欠的に制御するエア供給制御手段を備えるものである。
かかる構成によれば、エアが間欠的に供給されるため、ワークに対して、エアが間欠的に作用する。
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、前記エア噴出手段は、前記エア噴出手段から噴出されるエアの供給量をワーク浮上に必要な下限流量以上で、周期的に増減するよう制御するものである。
かかる構成によれば、ワークが浮上した状態において、ワークに対して作用する力が増減する。
請求項6記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、前記エア噴出手段は、前記エア噴出手段から噴出されるエアの供給量をワーク浮上に必要な下限流量を下回る流量と上回る流量とを周期的に繰り返すよう制御するものである。
かかる構成によれば、ワークが接地と浮上を周期的に繰り返す。
請求項7記載の発明は、請求項4から6のいずれか記載の発明の構成において、前記エア供給制御手段は、電磁弁を備えるものである。
かかる構成によれば、電磁弁開放状態においてエアが供給され、電磁弁閉鎖状態においてエア供給が遮断される。
本発明に係る浮上搬送方法は、上記目的を達成するために、次の構成を有するものである。
請求項8記載の発明は、ワークを揺動させながら、搬送するワークの浮上搬送方法である。
かかる構成によれば、搬送対象のワークが搬送方向に位置移動するほかに、搬送装置に対する相対的な位置も適宜変動する。
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明の構成において、前記ワークの揺動を、ワークに対するエア供給量を間欠制御することによって生じさせる。
かかる構成によれば、搬送対象ワークに対して、接触のないエアという手段によって、浮力を与えるとともに、搬送装置に対する相対的な位置の変動をも生じさせることができる。
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明において、前記ワークに対するエア供給量を間欠制御するにあたり、エアの供給量をワーク浮上に必要な下限流量以上で、周期的に増減するよう制御する。
かかる構成によれば、ワークが浮上した状態で、ワークに作用するエア量が間欠的に変動するため、浮上状態のワークが揺動する。
請求項11記載の発明は、請求項9記載の発明の構成において、前記ワークに対するエア供給量を間欠制御するにあたり、ワーク浮上に必要な下限流量を下回る流量と上回る流量とを周期的に繰り返すよう制御する。
かかる構成によれば、ワークが定期的に着地するため、搬送路面との摩擦力がワークに作用する。
請求項12記載の発明は、請求項9から11いずれか記載の発明の構成において、前記ワークに対するエア供給量の間欠制御は、周期的な電磁弁の開閉による。
かかる構成によれば、電磁弁の開閉に応じて、ワークに対してエアが間欠的に吹き付けられるため、ワークに作用するエアの力が間欠的に変動する。
請求項1記載の本発明の浮上搬送装置によれば、揺動手段によって、浮上したワークが揺動し、搬送中のワークと搬送路との距離が変更される。よって、搬送路でワークが引っかかる等した場合にも、引っかかりが速やかに解消されるので、滞りなくワークが搬送される。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、ワークに対して、搬送路に設けられた前記孔を通じて、力を作用させることができるため、ワークの浮上と共通した機構により、ワークを揺動させることができる。
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の効果に加えて、ワークに対して、前記孔から噴出したエアがワークに作用するため、エアという衝撃の少ない方法によって、ワークを浮上させ、かつ、揺動させることができる。
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明の効果に加えて、ワークに対してエアが間欠的に作用するため、浮上による搬送を実行しながら、間欠的にワークと搬送路との距離を変動させ、ワークの滞留をより効果的に抑制することができる。
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加えて、ワークが浮上した状態において、ワークに対して作用する力が変動するため、搬送速度を保ちながら、間欠的にワークと搬送路との距離を変動させ、ワークの滞留をより効果的に抑制することができる。
請求項6記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加えて、ワークが接地と浮上を周期的に繰り返すため、接地による摩擦力によってワークの搬送速度を制御することが可能である。
請求項7記載の発明は、請求項4から6いずれか記載の発明の効果に加えて、電磁弁開放状態においてエアが供給され、電磁弁閉鎖状態においてエア供給が遮断されるため、エアの供給非供給のタイミングをより正確に制御することができる。その結果、エアの間欠頻度ひいてはワークに作用する力をより精密に制御することができ、ワーク搬送速度のコントロールに好適である。
請求項8記載の本発明の浮上搬送方法によれば、ワークが揺動し、搬送中のワークと搬送路との距離が変更される。よって、搬送路でワークが引っかかる等した場合にも、速やかに引っかかりが解消されるので、滞りなくワークが搬送される。
請求項9記載の発明は、請求項8記載の発明の効果に加えて、エア供給量の間欠制御という簡便な方法によって、ワークに間欠的に作用する力を与えるため、比較的安価にワークの浮上搬送とワークの揺動を両立することができる。
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明の効果に加えて、ワークを浮上させた状態で、搬送対象ワークへの作用する力が間欠的に変動するため、ワーク下面と搬送路との摩擦を抑え、速やかな搬送と詰まり防止効果との両立を実現することができる。
請求項11記載の発明は、請求項9記載の発明の効果に加えて、ワークが定期的に着地するため、搬送路面との摩擦力がワークに作用し、速度制御することができる。
請求項12記載の発明は、請求項9から11いずれか記載の発明の効果に加えて、電磁弁の開閉に応じてワークにエアを噴出させるため、エアの間欠頻度ひいてはワークに作用する浮力をより精密に制御することができ、ワーク搬送速度のコントロールに好適である。
1.搬送装置
1−1.搬送装置の構成
図1及び図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る搬送装置1は、筐体2、圧縮機6、を備える浮上搬送装置である。搬送装置1は、筐体2の上面に設けられた搬送路3に沿って、始端3aから終端3bに向けてワークWを搬送する。ワークWの移動方向(搬送方向)を、図中に矢印で示す。
筐体2の内部は空洞であり、上面には搬送路3が設けられている。搬送路3については、後述する。筐体2の底部23には、エア供給孔21が設けられている。筐体2は、その材質及び形状等において特に限定されないが、エア噴出によるワークの搬送が行えるように、不要なエア漏れが起きないように構成される。第1実施形態に係る搬送装置1では、エア供給孔21が1つ設けられている例を示したが、搬送路の長さや用途に応じてエア供給孔を複数設けてもよい。
また、第1実施形態に係る搬送装置1では、搬送部材31が筐体2と一体であって、筐体2の底部23が別体である例を示したが、これに限られず、例えば、搬送部材31が筐体2と別体であって、底部23が筐体2と一体的に成形されていてもよい。
圧縮機6は、圧縮された空気又はその他の気体(以下、これらを総称して「エア」と称する。)を、エア供給孔21を介して筐体2内に送る。送られたエアは、搬送部材31の孔32から筐体2外に噴出する。噴出されたエアによって、ワークWは搬送路3の第1面311から浮上する。つまり、圧縮機6は、浮上手段の一例である。エア供給量は、ワークWが浮上するのに必要な量に設定される。ワークの形状にもよるが、ワークサイズが0.01〜0.1mm3程度の場合には、搬送路の長さ100mmあたり50〜500ml/minが好ましい。流量が適切に設定されることで、ワークWの浮上時の姿勢が安定し、エアの無駄な消費も回避される。
ワークWの浮上量は、ワークのサイズ及び重量等に応じて設定されるが、例えば、搬送路3の第1面311からの距離が好ましくは1μm〜30μmの範囲であってもよく、より好ましくは、5μm〜20μmの範囲であってもよく、更に好ましくは5μm〜15μmの範囲であってもよい。
電磁弁52は、エア供給制御手段5の一例である。エア供給制御手段5は、制御部51と電磁弁52とを備える。電磁弁52が開放している状態では、圧縮機6が送り出したエアが筐体2へ供給され、搬送部材31の孔32から筐体2外に噴出する。電磁弁52が閉鎖している状態では、圧縮機6が送り出したエアが電磁弁52により遮られるため、筐体2へのエアの供給が停止し、搬送部材31の孔32から筐体2外へ噴出されるエアの量が減少する。
なお、本発明の第1実施形態では、電磁弁52を圧縮機6の川下直下に設けた例を挙げたが、これに限られない。電磁弁52を図1よりもエア供給孔21により近づけて設けてもよい。電磁弁52と筐体2とをつなぐ管22が長いと、単位時間当たりのエア流量の変化(以下「間欠パルス」という。)が、制御部51から送られる電気信号のON/OFFに追従し難くなるので、電磁弁52と筐体2とをつなぐ管22の長さが30cm以内であるように配管されることが好ましく、15cm以内であることがより好ましく、エア供給孔21に直結していることが更に好ましい。また、電磁弁52がエア供給孔21の蓋をするように、筐体2の内部に電磁弁52を設けてもよい。
制御部51は、電磁弁52の開閉のための制御信号を送る。電磁弁の種類は、通電時開放タイプであっても、通電時閉鎖タイプであっても構わないが、精密機械などを搬送することの多い装置においては、内部への埃等の混入を防止する観点から、通電時開放タイプの電磁弁が好ましい。電磁弁の操作方式としては、単動操作式、複動操作式のいずれを用いてもよい。
また、本発明の第1の実施形態では、電磁弁52の開閉を制御部51からの信号で制御し、エア供給量及びエア供給頻度を制御する例を示したが、これに限られず、エア供給量を制御する制御手段と、エア供給頻度を制御する制御手段とを別々に設けてもよい。
1−2.搬送路
図1及び図2に示すように、第1実施形態に係る搬送装置1では、筐体2の上面には、搬送部材31及びガイド部材33が設けられる。
搬送部材31は、多数の孔32が形成された板状の部材である。搬送部材31の材質は特に限定されるものではないが、例えば金属が用いられ、好ましくはSUSが用いられる。SUSは、洗浄が容易であり、メンテナンス性に優れる。
搬送部材31の厚みとしては、機械的強度を確保するためにある程度の大きさが必要であるが、孔32の加工性を考慮すると、0.1mm〜0.5mm程度が好ましく、0.2mm〜0.4mmがより好ましく、0.3mm近傍が更に好ましい。厚みがある程度薄いことで、圧力損失が抑えられ、緊急停止等でワークを直ちに停止させる必要がある場合に、エア噴出停止までのタイムラグを小さく抑えることができ、復旧が容易になる。
搬送部材31は、第1面311を筐体2の外側(ワークW側)に、第2面312を筐体2の内側に向けるように配置される。
搬送部材31は、その第1面311の高さが、始端3aよりも終端3bにおいて低くなるように、傾けて設けられる。このように傾けて設けられることで、浮上したワークWは、終端3bに向かって移動する。このような傾きは、筐体2の構造、筐体2を設置場所の面に対して傾いた状態で保持する基台、筐体2に対して搬送部材31を傾けて固定する部材等によって、実現される。傾斜角度は、効率的な搬送速度と搬送安定性の両立の観点から、1°〜5°が好ましく、1°〜3°がより好ましく、2°程度が更に好ましい。
孔32が有する開口のうち、第1面311に設けられた開口を第1開口と呼び、符号34を付す。また、第2面312に設けられた開口を第2開口と呼び、符号35を付す。
孔32の横断面(第1面311に垂直な断面)の形状、及び縦断面における形状、さらに孔32の第1開口34及び第2開口35の形状は、特に限定されるものではない。ただし、搬送部材31は、多孔質セラミック等の多孔質材ではなく、孔32は、SUS等の基材に設けられた貫通孔であることが好ましい。つまり、孔32の縦断面は、一般的には、台形、楕円弧、矩形等の形状を呈する。
孔32の構成の一例を図3に示す。図3において、第2開口35の面積は、第1開口34よりも大きい。つまり、エアは、広い第2開口35から入って、狭い第1開口34から噴出される。これによって、エアの噴出の指向性が高まる。特に微細なワークを搬送する場合には、この構成が好ましい。図3において、孔32の縦断面の形状は略台形である。このような略台形状の孔は、レーザ加工によって形成可能である。
孔32の第1面311側の口径は、10〜34μmが好ましい。口径の分布は、均一なエア噴射のために、平均口径の±10%以内であることが好ましい。
孔32の開口の形状は、円、楕円、矩形等、特に限定されるものではない。
ワークWを安定して浮上させるために、第1開口34(「孔32は」と言い換えてもよい)は、開口密度(第1面311における単位面積当たりの開口の数)が搬送路3全体に渡って一定であるように配置されることが好ましい。第1開口34の配置の例を図4及び図5に示す。図4及び図5に示すように、第1開口34は、格子状に整列していることが好ましい。図4では、第1開口34は枡格子状に配置される。すなわち、図4において、矢印で示される搬送方向と、直近の第1開口34同士を結ぶ仮想線とは、直行するかまたは平行である。また、図5では、第1開口34は千鳥格子状に配置される。図5において、搬送方向と、直近の第1開口34同士を結ぶ仮想線とは、45°又は135°の角度で交差する。
開口密度は、ワークWの大きさ及び重量に応じて、適宜設定される。ワークWの浮上姿勢の安定確保のために、第1開口34の密度は、ワークWの底面積又は投影面積当たり、4個以上が好ましく、6個以上が更に好ましい。なお、ワークWがある程度大きければ、開口密度が小さくてもワーク底面積当たりの開口数を確保することが可能である。ワークWが微細である場合は、ワークの底面に対応する開口数を確保するために、口径及びピッチを小さくすればよい。
具体例として、ワークWが、0.6mm×0.3mm×0.3mmの積層セラミックコンデンサである場合、第1開口34の口径は20μm、枡格子配列でピッチ間隔50μm程度に設定すればよい。
図1A−Aラインにおける断面図を図6に示す。ガイド部材33は、搬送方向に平行に延びる形状であり、搬送部材31の第1面311から突出するように配置された部材である。2つのガイド部材33は、一定の間隔をあけて、向かい合うように平行に配置される。ワークWは、ガイド部材33同士の間で、搬送部材31上を移動し、ガイド部材33は、ワークWの移動範囲を制限する。つまり、ガイド部材33によって、搬送路3の幅が規定される。ガイド部材33同士の間の距離は、ワークWの幅の1.1〜1.2倍程度に設定されることが好ましい。ガイド部材33間の距離が適切に保たれることで、ワークWが搬送方向に沿って直進しやすく、ワークWの搬送路3における詰まりも抑制され、搬送の安定性が保たれる。
ここで、ワークWの進行方向をX軸とすると、ワークWは、搬送方向(X軸方向)への直進だけでなく、搬送路幅方向(Y軸方向)への運動が生ずる。すなわち、本発明の第1の実施形態のように、浮上手段としてエア噴出手段を用いた場合、噴出されたエアは主としてワークを浮上させる力として作用するが、ワークWとガイド部材33との隙間のエア流量が変化することで、ワークWを搬送路幅方向へ移動させる力が働く。
ワークWのY軸方向への移動が生じた場合にも、ガイド部材33が存在することで、ワークWの幅方向への移動が制限される。
また、噴出孔32から噴出したエアがワークWの下面に与える圧力分布は、必ずしも均一ではないため、図11に示すとおり、ワークWには、X軸周りの回転(ローリング)、Y軸周りの回転(ピッチング)、Z軸周りの回転(ヨーイング)が生じる。
図12は、X軸周りの回転(ローリング)を、図13は、Y軸周りの回転(ピッチング)を、図14は、Z軸周りの回転(ヨーイング)をそれぞれ模式的に表したものである。これら各種の回転運動が生じた場合にも、ガイド部材33が存在することで回転運動が制限される。
ワークWのヨーイングを防止して、搬送されるワークWの向きを揃えるという観点からすれば、ガイド部材33同士の間の距離が、搬送路と平行な面におけるワーク断面(ワークWの底面又は投影面)の最長径よりも、短く設定されることが好ましい。例えば、ワークが直方体の場合には、搬送路と平行な面における断面、すなわち長方形の対角線の長さよりも、ガイド部材33同士の間の距離が短いことが好ましい。ワークがカプセル形状の場合であって、搬送方向がワークの長手方向とする場合には、搬送路と平行な面における断面、すなわち楕円形の長径の長さよりも、ガイド部材33同士の間の距離が短いことが好ましい。
ここで、より積極的にワークWを幅方向(Y軸方向)に移動させ、又は上記各種回転運動させれば、ワークWがガイド部材33や搬送部材31の第1面311と接触する頻度が高まり、摩擦力によって、搬送速度が低下する。
逆に、ワークWの幅方向への移動や上記各種回転運動を抑制すれば、ワークWがガイド部材33や搬送部材31の第1面311と接触する頻度が低くなるため、搬送速度を高めることができる。このように、ワークWと搬送路3(ガイド部材33や搬送部材31の第1面311)との接触作用を利用して、ワークWの搬送速度を制御することが可能である。
すなわち、エア供給量、エア供給頻度(オン・オフの切替頻度)を制御し、ワークWの並進運動及び回転運動を高めたり、抑えたりすることで、ワークWの搬送速度(進行方向への移動速度)を制御することができる。もちろん、上記したワークWの幅方向への移動や上記各種回転運動による搬送路3との接触作用の他、ワークWの浮上状態の変更による搬送部材31の第1面311との接触作用を利用して、ワークWの搬送速度を制御することも可能である。
なお、本発明の第1実施形態では、ガイド部材33同士の間の距離(搬送路の幅)L1からワークWの幅LWを引いた距離L2が、孔32のうち最もガイド部材33寄りに位置する孔323と当該孔323に近い方のガイド部材332との距離L3よりも短い。このようにL2がL3よりも短く設定されること、すなわち、ワークWが幅方向のどちらのガイドに偏っても孔から噴出するエアがワークW下面に当たるように配置されることが好ましい。
これに対して、図7に示す第2実施形態に係る搬送装置1’は、ガイド部材33’同士の間の距離(搬送路の幅)L1からワークWの幅LWを引いた距離L2が、孔32’のうち最もガイド部材33’寄りに位置する孔323’と当該孔323’に近い方のガイド部材332’との距離L3よりも長い。このようにL2がL3よりも長く設定されると、ワークWがガイド寄りに偏った際に、噴出するエアがワーク下面に直接当たらずに、上方に抜けてしまう。エアが抜ける状態にあると、浮上効率が低下するだけでなく、このエアがワークWの揺動を阻害するため、第1の実施形態と比較すると、ガイド部材33との接触頻度を制御する精度が劣る傾向にある。
第1実施形態に係る搬送装置1では、2つのガイド部材33により、1筋の搬送路3が形成される例を示したが、第3の実施形態として、図8に示す搬送装置1’’のように、ガイド部材33’’を3つ設けて、2筋の搬送路3’’を形成してもよい。ガイド部材の本数はこれらに限られるものではなく、搬送対象のサイズや搬送装置のサイズに合わせて適宜設けることができる。また、ガイド部材が取り外し可能に構成されていてもよい。ガイド部材を取り外し可能に構成することで、1台の搬送装置で、大きさの異なるワークの搬送にも利用できる。
なお、搬送路3の途中や終端3bに、必要に応じて、ワークを停止させるための機構や、ワークを取り出す機構を設けてもよい。また、終端3bには、停止しなかったワークWが落下することを防ぐために、搬送方向において搬送路3を横切るような突起が設けられてもよい。
1−3.動作
搬送装置1によるワークWの搬送について説明する。
上述したように、圧縮機6によってエアが供給されることで、第1開口34からエアが噴出される。図1に示す始端3a付近にワークWが置かれると、第1開口34からのエアによって、ワークWは浮上し、搬送路3の傾斜によって、終端3bに向かって移動する。つまり、本実施形態では、ワークを搬送する搬送手段は、傾斜した搬送路、又は搬送路を傾斜させる上述の構造によって実現されている。
移動するワークWにおいて、終端3bに近い側の端を「前端」、始端3aに近い側の端を「後端」と呼ぶ。
制御部51は、Ton(秒)間、制御信号を送り(通電状態となり)、Toff(秒)間、制御信号を停止する(非通電状態とする)ように設定することができる。このように、制御部51が制御信号のON、OFFをT(秒)=Ton(秒)+Toff(秒)の周期で、周期的に繰り返すように設定することで、Ton(秒)の間、電磁弁52が開放され、Toff(秒)の間、電磁弁52が閉鎖されるため、圧縮機6によって供給されたエアが弁により周期的に遮断され、間欠的に第1開口34から噴出する。ワークに向けて、エアを間欠的に噴出することで、ワークを浮上させているエア流量を周期的に変化させ、ワークを揺動させる。
このように、本発明の第1実施形態に係る搬送装置1は、ワークを浮上させるエアを間欠的に供給することで、ワークを揺動する。例えばワークの端部が搬送路に引っかかった場合であれば、揺動によるワークの姿勢変化により引っかかりが解除され、また、埃等を噛み込んだ場合であれば、埃等がワークから離脱する。その結果、引っかかりや噛み込みが容易に解消され、ワークが滞りなく搬送される。
ここで、制御部51による制御信号のON、OFFと、供給エア流量Q(L/min)との関係の一例として、タイムチャートを図9に示す。制御部51により制御信号をOFFにすることで、供給エア流量が減少し、Toff(秒)経過後、制御部51により制御信号をONにすることで、供給エア流量Qが再び上昇する。一定時間Ton(秒)の間、好ましい浮上量を維持するのに必要な供給エア流量(L/min)が噴出される。
図9の例では、好ましい例として、供給エア流量が浮上下限流量Qlb(L/min)を下回らない程度に、Toff(秒)が設定される。これにより、十分な搬送速度を維持しながら、滞りのないワークの搬送を実現することができる。
周期T(秒)は、ワークの重量、表面積、材質等に応じて適宜設定されるが、一例を挙げれば、好ましくは、Tが0.1〜0.3(秒)、Toffが0.002〜0.01(秒)であり、より好ましくは、Tが0.1〜0.2(秒)、Toffが0.002〜0.005(秒)であり、更に好ましくは、Tが0.1〜0.15(秒)、Toffが0.002〜0.003(秒)である。Tが0.1(秒)未満の場合、ワーク走行速度が低下する場合があり、0.3(秒)を超えるとワークが揺動する頻度が低くなり、ワークの滞りを抑制する機能が低下する場合がある。また、Toffが0.01(秒)を超えるとワークが浮上を継続することができず、減速してしまう場合があり、0.002(秒)未満の場合、ワークを揺動する時間が短く、ワークの滞りを抑制する機能が低下する場合がある。
揺動手段を、ワークの滞りを抑制するだけでなく、ワーク搬送速度の制御に応用してもよい。
すなわち、ワークに与えられる浮力(噴出エアや磁力等)がワーク下面において偏りをもつ場合、ワークが搬送路幅方向にぶれることを利用し、搬送速度を制御するものである。より具体的には、揺動手段によって、揺動させられたワークが揺動に伴って搬送路幅方向にぶれて、ガイド部材に接触し、ガイド部材との摩擦力によって、搬送速度が低下することを利用するものである。
例えば、揺動の周期T(秒)を短くすることで、ワークが揺動する頻度を高めれば、ワークとガイド部材との接触頻度も高まり、摩擦によって、搬送速度が低下する。すなわち、揺動周期Tを適宜設定することで、容易に搬送速度を制御することができる。
より、具体的な動作例として、ワークWとして、0.6mm×0.3mm×0.3mmの積層セラミックコンデンサを搬送する例を説明する。ここで、搬送路3の長さを300mm、搬送路3の傾斜角度3°、搬送路3の幅(ガイド部材33同士の距離)0.4mmとし、孔32を搬送路の中心線上とその両隣合計3列枡格子状に配置した。孔同士の間隔は、0.1mmとした。孔32から噴出するエア供給量を1.2L/minに、設定した。
ここで、電磁弁52を開閉することなく、エアを1.2L/minで噴出し続けた場合には、ワーク走行の平均速度は、165mm/sであった。
これに対して、電磁弁52につき、ON(電磁弁開放状態)を0.02秒、OFF(電磁弁閉鎖状態)を0.004秒、周期的に繰り返すように設定し、エア噴出量を周期的に変動させた。この場合のワーク走行の平均速度は、115mm/秒であった。このように、周期的にエア供給量を変動させることによって、搬送速度を制御できる。
なお、それぞれ、4時間連続でワーク搬送を続けたところ、電磁弁52を開放し続けた前者では、2回、ワークWのひっかかりが生じたのに対して、周期的にON/OFFを繰り返した後者では、ワークWのひっかかりが一度も生じなかった。しかも、前者では、ひっかかりが生じたためか、後者に比べて、速度にムラがある傾向が見られた。
別の制御の例を示すタイムチャートが図10である。この例では、供給エア流量が浮上下限流量Qlb(L/min)を下回る程度に、Toff(秒)が設定される。これにより、供給エア流量が浮上下限流量Qlb(L/min)を下回る際に、ワークWが搬送路に接地するため、ガイド部材だけでなく、搬送路との摩擦力によっても、ワークWの平均速度を下げることができる。このように、制御信号の周期を適宜設定することによって、搬送路の傾斜角度を変更せずとも、容易に搬送速度を制御することができる。
摩擦によるワークのダメージを極力抑制するという点に鑑みれば、供給エア流量が浮上下限流量Qlb(L/min)を下回らない程度に制御信号OFF時間Toff(秒)を設定し、かつT(秒)を短く設定することが好ましい。
ワークを断続的に搬送させるという点では、供給エア流量が浮上下限流量Qlb(L/min)を下回るように制御信号OFF時間Toff(秒)を長めに設定することが望ましい。
1−4.搬送装置の他の形態
浮上手段は、エア供給によるものに限定されず、ワークの性質に応じて、適宜選択される。磁石など、磁力によりワークを浮上させるものであってもよく、その場合には、電磁石を用いて、周期的に磁力をオン、オフすることによってワークを揺動させることもできる。
また、複数の揺動手段を設けてもよい。例えば、第1実施形態に係る搬送装置1の筐体2の内部を複数の空間に仕切り、各空間に供給孔21を設け、エアを供給してもよい。その場合に、エアを供給するための圧縮機6は、1つのものを共通して用いて、電磁弁52を個別に設置してもよいし、供給孔21の数に合わせて、独立した複数の圧縮機6を用いてもよい。複数の揺動手段を設けて、異なる揺動周期に設定することで、平均搬送速度を異にさせることも可能である。このように搬送路に異なる速度を設けることは、例えば、搬送ライン上の一部で検査を行うために、速度を落としたい場合などに便利である。
エア供給制御手段として、エア供給を制御できるものであれば、特に限定されず、例えば、電磁弁以外にも、各種の電気的駆動弁やダイヤフラムポンプなどを用いることができる。ダイヤフラムポンプは、圧縮機を省略できるので好ましい。弁の開閉を0.001〜0.002秒に1回といった頻度で、精度良く実現するためには、電磁弁が最適である。
以上に述べた各実施形態を組み合わせて得られる形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。また、公知のワーク停止手段や、公知のワーク取出手段を組み合わせてもよく、それらの公知の構成を組み合わせて得られる形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明の搬送装置は、滞りなくワークを搬送できるため、各種検査装置、各種テーピング装置、各種組立装置内に組み込み用いることも有用である。