JP2013203859A - 繭状セルロース凝集体、繭状セルロース凝集体含有セルロースナノフィラー、該セルロースナノフィラー含有樹脂組成物及び樹脂成形体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 セルロースナノファイバーを繭状に凝集して得られる繭状セルロース凝集体、及び該繭状セルロース凝集体を含有することを特徴とするセルロースナノフィラー及びその製造方法を提供することで、上記課題を解決する。また、繭状セルロース凝集体と、さらにセルロースナノファイバーを含有するセルロースナノファイバー組成物、及び該セルロースナノファイバー組成物含有セルロースナノフィラーを提供する。さらに、上記セルロースナノフィラーと、成形用樹脂を含有することを特徴とする、セルロースナノフィラー含有樹脂組成物、及びその成形体を提供する。
【選択図】 図2
Description
水酸基を多く持つセルロースをナノレベルまで微細化した、セルロースナノファイバーを得るには、水中で解繊を行うか、樹脂に大量の水を混合して解繊するか(特許文献1参照)、有機溶剤中でセルロースを微細化する(特許文献2参照)ことで、得ることができる。しかし、この解繊セルロースナノファイバーは、そのナノサイズの大きさから非常に嵩高く、また親水性が高いことから、各種樹脂へと配合する際に、少量を配合しただけでも樹脂組成物の粘度が上昇してしまうため、配合可能量が非常に少量であり、樹脂の機械物性を改善するにはまだ十分であるとは言えなかった。
そこで、セルロースナノファイバーより樹脂に配合しやすく、なおかつ配合した樹脂組成物の機械物性値が優れるような、新規ナノフィラーの確立が求められている。
本発明におけるセルロースナノフィラーとは、セルロースナノファイバーを繭状に凝集して得られる、繭状セルロース凝集体を含有することを特徴とするセルロースナノフィラーである。繭状セルロース凝集体とは、セルロースナノファイバーに摩擦力を与えることでピリング化した、繭状に凝集した不定形の粒子状セルロースである。
セルロースナノファイバーとは、セルロースの径が短軸方向にナノサイズ、具体的には5nm〜1000nmであるセルロースの微細繊維である。一般的には、セルロース繊維含有材料をリファイナー、高圧ホモジナイザー、媒体攪拌ミル、石臼、グラインダー等により磨砕及び/又は叩解することによって解繊又は微細化して製造されるが、特開2005−42283号公報に記載の方法等の公知の方法で製造することもできる。また、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))を利用して製造することもできる。さらに、市販品を利用することも可能である。セルロース繊維含有材料は、植物(例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知れているが、本発明ではそのいずれも使用できる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
本発明において、セルロースナノファイバーの製造方法は、上に記したように公知慣用の方法で製造すればよいが、セルロースを解繊樹脂中で解繊してセルロースナノファイバーを得る方法が、その後製造する繭状セルロース凝集体を含有するセルロースナノフィラーと、樹脂との親和性に優れるため好ましい。具体的には、ポリエステル系樹脂、ビニル樹脂、変性エポキシ樹脂である。
本発明におけるポリエステル系樹脂とは、下記一般式(1)で表される1種若しくは2種以上のポリオールと、下記一般式(2)で表される1種若しくは2種以上のポリカルボン酸とを反応させて得られる、ポリエステル樹脂である。
A−(OH)m・・・(1)
[式中、Aは酸素原子を含んでいても良い炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族基またはヘテロ環芳香族基を表す。mは2〜4の整数を表す。]
B−(COOH)n・・・(2)
[式中、Bは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族基またはヘテロ環芳香族基を表す。nは2〜4の整数を表す。]
1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール、n−アミルアルコール、n−ヘキサノール、イソヘキサノール、n−ヘプタノール、イソヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、イソオクタノール、n−ノナノール、イソノナノール、n−デカノール、イソデカノール、イソウンデカノール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、トリデシルアルコール、ベンジルアルコールステアリルアルコール等が挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。
1価カルボン酸としては、安息香酸、ヘプタン酸、ノナン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリル酸等が挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、p―ヒドロキシ安息香酸挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。
また、エステル基濃度が6.0mmol/g以上かつ酸価が10KOHmg/g以上であると、好ましい。
より好ましくは酸価10〜100KOHmg/g、更に好ましくは10〜200KOHmg/g、特に好ましくは10〜300KOHmg/gである。
また、エステル基濃度が6.0mmol/g以上かつ水酸基価が10以上であると、好ましい。
より好ましくは水酸基価10〜500KOHmg/g、更に好ましくは10〜800KOHmg/g、特に好ましくは10〜1000KOHmg/gである。
また、本発明におけるポリエステル系樹脂は、エステル基濃度が6.0mmol/g以上で、酸価が10KOHmg/g以上かつ水酸基価が10KOHmg/g以上であると、特に好ましい。
本発明におけるビニル樹脂とは、ビニルモノマーの重合体もしくは共重合体であり、ビニルモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体、ビニルエステル誘導体、マレイン酸ジエステル誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、スチレン誘導体、ビニルエーテル誘導体、ビニルケトン誘導体、オレフィン誘導体、マレイミド誘導体、(メタ)アクリロニトリルが好適に挙げられる。ビニル樹脂としては、その中でも特に(メタ)アクリル酸エステル誘導体を重合して得られる(メタ)アクリル樹脂が特に好ましい。
フマル酸ジエステル誘導体の例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、およびフマル酸ジブチルなどが挙げられる。
イタコン酸ジエステル誘導体の例としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、およびイタコン酸ジブチルなどが挙げられる。
本発明におけるビニル樹脂は、官能基を有することがこのましい。これは、希釈樹脂との相互作用により機械特性など成形体の物性を向上させることが可能となるからである。官能基としては、具体的にはハロゲン基(フッ素、塩素)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、シラノール基、シアノ基等が挙げられ、これらを複数種有していてもかまわない。
また、本発明のビニル樹脂は、直鎖型ポリマーであっても分岐型ポリマーであってもよく、分岐型ポリマーの場合くし型でも星型でもかまわない。
本発明で使用するビニル樹脂の分子量は、数平均分子量が3000以下であることが好ましい。詳細な理由は不明であるが、数平均分子量が3000以下であれば、セルロース繊維への親和性が高まるためではないかと予想される。
本発明におけるビニル樹脂の数平均分子量が3000以下のとき、酸価が30KOHmg/g以上60KOHmg/g未満であるとより好ましい。
本発明におけるビニル樹脂の数平均分子量が3000以下のとき、水酸価が30KOHmg/g以上であると好ましく、50KOHmg/g以上であるとより好ましい。
本発明における変性エポキシ樹脂とは、エポキシ基を有し、水酸基価が100mgKOH/g以上である変性エポキシ樹脂である。
該変性エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂(B)とカルボキシル基又はアミノ基を有する化合物(C)とを反応させることで得ることができる。
本発明で用いるエポキシ樹脂(B)は、分子内にエポキシ基を有する化合物であって、後述するカルボキシル基又はアミノ基を有する化合物(C)と反応して、水酸基価が100mgKOH/g以上である変性エポキシ樹脂(A)を生成するものであればよく、その構造等に特に制限はない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、p−tert−ブチルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ノニルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、t−ブチルカテコール型エポキシ樹脂等の多価エポキシ樹脂等が挙げられ、更に1価のエポキシ樹脂としては、ブタノール等の脂肪族アルコール、炭素数11〜12の脂肪族アルコール、フェノール、p−エチルフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−ターシャリブチルフェノール、s−ブチルフェノール、ノニルフェノール、キシレノール等の1価フェノール類とエピハロヒドリンとの縮合物、ネオデカン酸等の1価カルボキシル基とエピハロヒドリンとの縮合物等が挙げられ、グリシジルアミンとしては、ジアミノジフェニルメタンとエピハロヒドリンとの縮合物等、多価脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、大豆油、ヒマシ油等の植物油のポリグリシジルエーテルが挙げられ、多価アルキレングリコール型エポキシ樹脂としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、エリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、トリメチロールプロパンとエピハロヒドリンとの縮合物等、更には特開2005−239928号公報記載の水性エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは1種類で用いても、2種類以上を併用しても良い。
本発明におけるカルボキシル基又はアミノ基を有する化合物(C)は、上記エポキシ樹脂(A)と反応して水酸基価が100mgKOH/g以上である変性エポキシ樹脂(A)を生成するものであればよく、カルボキシル基を有する化合物(C1)と、アミノ基を有する化合物(C2)と、カルボキシル基及びアミノ基を有する化合物(C3)のいずれか1種以上を用いることができる。
また、カルボキシル基又はアミノ基を有する化合物(C)においてさらに水酸基を有するカルボキシル基又はアミノ基を有する化合物(C4)は、エポキシ化合物(B)と反応した際に変性エポキシ樹脂(A)に高い水酸基価を付与できるため、特に好ましい。
本発明におけるカルボキシル基を有する化合物(C1)とは、カルボキシル基を一つ以上有する化合物である。カルボキシル基を一つ有する化合物として、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、クロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、イソプロピル酸、イソステアリン酸、ネオデカン酸、などの脂肪酸、安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、フェニル酢酸、4−イソプロピル安息香酸、2−フェニルプロパン酸、2−フェニルアクリル酸、3−フェニルプロパン酸、ケイ被酸などの芳香族カルボン酸等が挙げられる。カルボキシル基を二つ以上有する化合物として、具体的には、コハク酸、アジピン酸、テレフタレート酸、イソフタル酸、ピロメリット酸などのカルボン酸類、及びこれらの無水物を挙げることができる。さらに、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロルマレイン酸及びこれらのエステル等があり、ハロゲン化無水マレイン酸等、アコニット酸などのα,β−不飽和二塩基酸やジヒドロムコン酸等のβ,γ−不飽和二塩基酸が挙げられる。また、飽和二塩基酸およびその無水物として、フタル酸、無水フタル酸、ハロゲン化無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ニトロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ハロゲン化無水フタル酸及びこれらのエステル等があり、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、ヘット酸、1,1−シクロブタンジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、コハク酸無水物、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,12−ドデカン2酸,2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。
本発明におけるアミノ基を有する化合物(C2)とは、アミノ基を一つ以上有する化合物である。具体的には、アミノ基を一つ有する化合物として、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、N,N−ジメチル−2−プロパンアミン、アニリン、トルイジン、2−アミノアントラセンなどをあげることができる。2つ以上のアミノ基を有する化合物としては、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−シクロヘキシルメタンジアミン、ノルボルナンジアミン、ヒドラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミンなどをあげることができる。
本発明におけるカルボキシル基及びアミノ基を有する化合物(C3)とは、カルボキシル基とアミノ基を一つずつ以上有する化合物である。代表的にはアミノ酸が挙げられ、さらに水酸基を有しても構わない。具体的には、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスオアラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アミノラク酸、テアニン、トリコロミン酸、カイニン酸等が挙げられる。
さらに水酸基を有する、カルボキシル基又はアミノ基を有する化合物(C4)とは、カルボキシル基またはアミノ基を有し、さらに水酸基を一つ以上有する化合物である。具体的には、グリコール酸、グリセリン酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシラク酸、リンゴ酸、2,3−ジヒドロキシブタン二酸、クエン酸、イソクエン酸、メバロン酸、バントイン酸、リシノール酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ヒドロキシフェニルプロパン酸、マンデル酸、ベンジル酸、ヒドロキシメチルアミン、ヒドロキシエチルアミン、ヒドロキシプロピルアミンなどが挙げられる。
本発明における水酸基価が100mgKOH/g以上である変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(B)のエポキシ基とカルボキシル基又はアミノ基を有する化合物(C)のカルボキシル基又はアミノ基を反応させることで得ることができる。水酸基価が100mgKOH/gより少ない場合、セルロースとの親和性が低くなることから、セルロースナノファイバーへの解繊は進みにくいため、好ましくない。エポキシ基とカルボキシル基又はアミノ基の反応比は、水酸基価が100mgKOH/g以上生じ、かつ所望のエポキシ基量が残るように任意に設定すればよい。
使用する重合溶媒は特に制限はない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1 − ブタノール、第3 級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ブチルセロソルブ、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸イソブチル等が挙げられる。また、これらの溶媒は単独で使用しても良いし、混合して使用しても良い。
具体的には、三フッ化ホウ素、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアミノピリジン、ピリジン、8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、トリフェニルホスフィンなどが挙げられる。
本発明において、セルロースナノファイバーは解繊樹脂中で微細化することができる。セルロースの微細化は、解繊樹脂中にセルロースを添加し、機械的に箭断力を与えることにより行うことができる。箭断力を与える手段としては、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、一軸押出機、二軸押出機等の押出機、バンバリーミキサー、グラインダー、加圧ニーダー、2本ロール等の公知の混練機等を用い剪断力を与えることができる。これらの中でも高粘度の樹脂中でも安定した剪断力を得られる観点から加圧ニーダーを用いることが好ましい。
本発明における繭状セルロース凝集体は、セルロースナノファイバーに摩擦を与えることで、セルロースナノファイバーを凝集させ、繭状のピリングとすることで得ることができる、粒子状物である。本繭状セルロース凝集体は、セルロースナノファイバーを脱水したときや疎水性の溶剤や樹脂に配合したときに生じる、繊維が単純に圧着してなる粗大な凝集物とは根本的に異なる。繊維が単純に圧着してなる粗大なセルロースナノファイバーの凝集物は、セルロースナノファイバーの全体がランダムなフェルト状に集まった状態であり、樹脂に混練することはもちろん、水や親水溶媒中であっても分散することはできない。
繭状セルロース凝集体の形状は不定形ではあるが、円錐・紡錘・球形であることが多い。繭状セルロース凝集体の直径は、平均で0.1〜10μm程度であり、好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは0.2〜3μmある。本発明の繭状セルロース凝集体は、セルロースナノファイバーを繭状のピリングとしたことから、水や親水性溶媒だけでなく、樹脂へも好適に分散が可能である。
また、繭状セルロース凝集体とセルロースナノファイバーの両方を含有するものをセルロースナノファイバー組成物とする。セルロースナノファイバーを凝集して得られることから、繭状セルロース凝集体の一部は髭状に伸びたセルロースナノファイバーを有していてもよい。また、髭状に伸びたセルロースナノファイバーを介して、他の繭状セルロース凝集体と連結していてもよい。
本発明における繭状セルロース凝集体は、セルロースナノファイバーに摩擦を与えることで、セルロースナノファイバーを凝集させ、繭状のピリングとすることで得ることができる。セルロースナノファイバーに摩擦を与える方法としては、繊維に摩擦を与えることができれば、公知慣用の方法でよく、ドライの状態または水系溶媒中で摩擦を与えればよい。具体的には、各種ニーダー、各種ミキサー、各種ミル、各種ホモジナイザー、ディゾルバー、グラインダー、各種押出機等、分散・攪拌・混練に用いられる機器などが挙げられる。好ましくは、樹脂(A)中でセルロースナノファイバーに対し高いシェアをかけて磨砕する方法であり、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、一軸押出機、二軸押出機等の押出機、バンバリーミキサー、グラインダー、加圧ニーダー、2本ロール等の公知の混練機等を用いることができる。これらの中でも高粘度の樹脂中でも安定したシェアを得られる観点から、加圧ニーダーを用いることが好ましい。
セルロースナノファイバーへ摩擦を与えるときに使用する樹脂(A)としては、上述の解繊樹脂と同じ樹脂を使用することができる。具体的には、ポリエステル系樹脂、ビニル樹脂、変性エポキシ樹脂である。上記解繊樹脂と樹脂(A)は同一であってもよく、異なっていてもよい。解繊樹脂中でセルロースナノファイバーを製造したのちに、異なる樹脂(A)を添加し、摩擦を与えて繭状セルロース凝集体としてもよい。
本発明におけるセルロースナノフィラーは、成形用樹脂に配合して樹脂強化用フィラーとして用いることができる。
本発明の成形用樹脂としては、セルロースナノフィラーと複合化できるものであれば特に制限が無く、モノマーであってもオリゴマーであってもポリマーであってもかまわず、ポリマーはホモポリマーであってもコポリマーであってもかまわない。また、これらは一種類でも複数種類を組み合わせて使用してもかまわない。ポリマーの場合、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれも使用することができる。
エポキシ系樹脂の場合、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジシアンジアミド、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸ヒドラジド、酸無水物、ポリメルカプタン、ポリフェノールなど、量論的反応を行う化合物と、イミダゾール、ルイス酸錯体、オニウム塩のように触媒的に作用する化合物がある。量論的反応を行う化合物を用いる場合には、硬化促進剤、例えば各種アミン類、イミダゾール、ルイス酸錯体、オニウム塩、ホスフィンなどを配合する場合がある。
ビニルエステル樹脂とポリエステル樹脂の場合、硬化剤として各種の有機過酸化物を配合してもよい。常温で硬化させる場合の有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、等が挙げられ、ナフテン酸コバルト等の金属石鹸類等の硬化促進剤と共に用いられる。加熱して硬化させる場合の有機過酸化物としてはt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ビス−4−t−ブチルシクロヘキサンジカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を併用してもよい。
本発明における樹脂組成物とは、上述の繭状セルロース凝集体を含有するセルロースナノフィラーと樹脂とを含有する組成物である。この時、樹脂としては上記成形用樹脂を用いることが好ましい。また、セルロースを解繊する際に使用した解繊樹脂をそのまま成形用樹脂として用いて樹脂組成物としてもよいし、セルロースナノファイバーに摩擦を与える際に使用した樹脂(A)をそのまま成形用樹脂として用いて樹脂組成物としてもよい。解繊樹脂または樹脂(A)に、さらに成形用樹脂を添加してもよく、成形用樹脂を2種類以上使用してもかまわない。
セルロースをセルロースナノファイバーへと解繊する際に使用する解繊用樹脂を含有した状態でさらに摩擦力を与え、繭状セルロース凝集体を製造し、そこにさらに成形用樹脂を配合した、繭状セルロース凝集体、セルロースナノファイバー、解繊用樹脂及び成形用樹脂を含有する樹脂組成物が、脱水や洗浄、乾燥や溶媒置換といった工程を使用することなく高濃度にセルロースナノフィラーを含有した樹脂組成物が得られることから、特に好ましい。
本発明の樹脂組成物に係る成形体を成形する方法については、特に限定されない。板状の製品を製造するのであれば、押し出し成形法が一般的であるが、平面プレスによっても可能である。この他、異形押し出し成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法等を用いることが可能である。またフィルム状の製品を製造するのであれば、溶融押出法の他、溶液キャスト法を用いることができ、溶融成形方法を用いる場合、インフレーションフィルム成形、キャスト成形、押出ラミネーション成形、カレンダー成形、シート成形、繊維成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、被覆成形等が挙げられる。また、活性エネルギー線で硬化する樹脂の場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて成形体を製造する事ができる。
本発明における樹脂組成物は、各種用途に好適に利用できる。例えば、自動車部品、航空機部品、電子・電気部品、建築材料、容器・包装部材、生活用品、スポーツ・レジャー用品等が挙げられるが、これらに限定される物ではない。
(合成例1) ポリエステル系樹脂1の製造
窒素ガス導入管、還流コンデンサ、攪拌機を備えた2Lのガラス製フラスコにジエチレングリコール758.2部(7.14mol、仕込みモル比0.53)、アジピン酸652.6部(4.47mol、仕込みモル比0.33)、無水マレイン酸183.9部(1.88mol、仕込みモル比0.14)を仕込み、窒素気流下に、加熱を開始した。内温200℃にて、常法にて脱水縮合反応を行った。酸価が13KOHmg/gになったところで、直ちに150℃まで冷却し、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを仕込み原料重量に対し100ppm添加した。さらに室温まで冷却し樹脂1を得た。
エステル基濃度は下記計算式(1)により求めた。
生成エステル基量=アジピン酸 4.47mol×2 + 無水マレイン酸 1.88mol×2 = 12.70mol
次に、生成水量もエステル基と同様に仕込みモノマーの全量がエステル化反応するものとして計算した。
生成水量=(アジピン酸 4.47mol×2 + 無水マレイン酸 1.88mol) × 18.02 = 194.98
上記によりポリエステル系樹脂1のエステル基濃度は下記計算式(2)により求められる。
エステル基濃度(mmol/g)=12.70 mol / [1594.70−194.98] × 1000 = 9.1 ・・・(2)
末端水酸基価、酸価は、13C−NMRスペクトルにおける、末端構造およびエステル結合に由来する各ピークの面積比から求めた。測定装置は、日本電子製JNM−LA300を用い、試料の10wt%重クロロホルム溶液に緩和試薬としてCr(acac)3 10mgを加え、ゲートデカップリング法による13C−NMRの定量測定を行なった。積算は4000回行なった。ポリエステル系樹脂1の酸価は12(KOHmg/g)、水酸基価は89(KOHmg/g)であった。
(製造例 1)
ポリエステル系樹脂1を600重量部、日本製紙ケミカル社製のセルロースパウダー製品「KCフロック W−50GK」400重量部を、株式会社モリヤマ製加圧ニーダー(DS1−5GHH−H)を用いて60rpmで600分間加圧混練を行ってセルロースナノファイバーの製造を行った。得られたポリエステル系樹脂1とセルロースナノファイバーの組成物を、セルロースが0.1質量%の濃度となるようにアセトンに懸濁し、特殊機械工業(株)製TKホモミキサーA型を用いて15000rpm20分間分散処理を行い、ガラス上に広げてアセトンを乾燥し、走査型電子顕微鏡にて、セルロース繊維の短軸方向の長さが1000nmより細く解れているものが存在することを確認した。
(実施例 1)
上記製造例1において、ポリエステル系樹脂1を600重量部、日本製紙ケミカル社製のセルロースパウダー製品「KCフロック W−50GK」400重量部を、株式会社モリヤマ製加圧ニーダー(DS1−5GHH−H)を用いて60rpmで600分間加圧混練を行って得られたポリエステル系樹脂1とセルロースナノフィラーの混練物に対し、さらに60rpm、600分間加圧混練を行い、繭状セルロース凝集体含有セルロースナノフィラーの製造を行った。得られたセルロースナノフィラーとポリエステル樹脂1との組成物に対し、セルロースが0.1質量%の濃度となるようにアセトンに懸濁し、特殊機械工業(株)製TKホモミキサーA型を用いて15000rpm20分間分散処理を行い、ガラス上に広げてアセトンを乾燥し、走査型電子顕微鏡にてセルロース状態を確認した。セルロースの状態の判定は、微細化されたセルロース繊維の短軸方向の長さが1000nmより細く解れているものが存在し、かつその微細化されたセルロース繊維が寄り集まって作られた直径0.1μm〜4μm程度の範囲にある、平均直径約1μmの繭状のセルロース凝集体が形成されている事を走査型電子顕微鏡の観察において行った。
〔成形体の製造〕
実施例1で得られたセルロースナノフィラーとポリエステル樹脂1との組成物を以下に示す成形方法を用いて試験片を作製し、破壊靭性値を測定した。
〔成形方法〕
以下、試験板の成形方法について説明する。DIC(株)製エポキシ樹脂 EPICLON850を79.4重量部に対し、実施例1で得られたセルロースナノフィラーとポリエステル樹脂1との組成物1.5重量部を加えホモミキサー(プライミックス社製)にて分散撹拌した。次にIPDA(イソホロンジアミン)を18.1重量部加え、撹拌機で均一になるまで撹拌した。更に真空チャンバーにて脱気を行い、型に注いで110℃で30分加熱し硬化させ、厚み6mmの注型成形板を得た。
〔試験片制作方法〕
この注型成形板より、ASTM D−5045(3点曲げ試験片(SENB))に規定される試験片(今回の試験片高さW=12.7mm、奥行きB=6mm ノッチと予亀裂の大きさa=0.45〜0.55W)をN=8で作製した。
〔破壊靱性試験〕
ASTM D−5045に準拠し、スパン50.8mm、ヘッドスピード10mm/minの条件で3点曲げ試験を実施し、所定の方法から荷重−変位曲線が線形内であることを確認の上、破壊靭性値を算出し、結果を表1に示した。
製造例1で得られたポリエステル系樹脂1とセルロースナノファイバーの組成物を用いて、実施例2と同様の条件の成形方法を用いて試験片を作製し、破壊靭性値の測定を行い、結果を表1に示した。
DIC(株)製エポキシ樹脂 EPICLON850を80.2重量部に対し、ポリエステル系樹脂1を1.5重量部加え、ホモミキサー(プライミックス社製)にて分散撹拌した。次にIPDA(イソホロンジアミン)を18.3重量部加え、ホモミキサーで均一になるまで撹拌した。更に真空チャンバーにて脱気を行い、型に注いで110℃で30分加熱し硬化させ、厚み6mmの注型成形板を得た。
得られた注型成形版に対し、実施例2での破壊靱性試験を同様に行い、結果を表1に示した。
DIC(株)製エポキシ樹脂 EPICLON850を80.2重量部に対し、IPDA(イソホロンジアミン)を18.3重量部加え、ホモミキサー(プライミックス社製)で均一になるまでホモミキサーした。更に真空チャンバーにて脱気を行い、型に注いで110℃で30分加熱し硬化させ、厚み6mmの注型成形板を得た。
得られた注型成形版に対し、実施例2での破壊靱性試験を同様に行い、結果を表1に示した。
DIC(株)製エポキシ樹脂 EPICLON850を79.4重量部に対し、実施例1で得られたセルロースナノフィラーとポリエステル樹脂1との組成物1.5重量部を加え、ホモミキサー(プライミックス社製)にて分散撹拌して粘度を測定した。
粘度はBROOKFIELD社製、R/S−CPS型回転粘度計を用いて、測定温度25℃、コーンスピンドルRC3−50−2を用いて測定し、結果を表2に示した。
(比較例4) セルロースナノファイバー含有樹脂組成物粘度の測定
DIC(株)製エポキシ樹脂 EPICLON850を79.4重量部に対し、製造例1で得られたポリエステル系樹脂1とセルロースナノファイバーの組成物1.5重量部を加え、ホモミキサー(プライミックス社製)にて分散撹拌して粘度を実施例3と同様の条件で測定し、結果を表2に示した。
(参考例1) セルロースナノフィラー非含有樹脂粘度の測定
DIC(株)製エポキシ樹脂 EPICLON850を80.2重量部に対し、ポリエステル系樹脂1を1.5重量部加え、ホモミキサー(プライミックス社製)にて分散撹拌して粘度を実施例3と同様の条件で粘度測定し、結果を表2に示した。
Claims (12)
- セルロースナノファイバーを繭状に凝集して得られる繭状セルロース凝集体。
- 繭状セルロース凝集体の直径が、平均0.1〜10μmである、請求項1に記載の繭状セルロース凝集体。
- 請求項1または2に記載の繭状セルロース凝集体と、セルロースナノファイバーとを含有するセルロースナノファイバー組成物。
- 請求項1または2に記載の繭状セルロース凝集体を含有することを特徴とするセルロースナノフィラー。
- さらにセルロースナノファイバーを含有する、請求項4に記載のセルロースナノフィラー。
- 請求項4または5に記載のセルロースナノフィラーと、樹脂を含有することを特徴とする、セルロースナノフィラー含有樹脂組成物。
- 請求項6に記載のセルロースナノフィラー含有樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする、セルロースナノフィラー含有樹脂成形体。
- セルロースナノファイバーに摩擦を与えることで凝集させ、繭状セルロース凝集体を得る工程を有することを特徴とする、繭状セルロース凝集体の製造方法。
- セルロースを解繊してセルロースナノファイバーを得る工程と、セルロースナノファイバーに摩擦を与えることで凝集させ、繭状セルロース凝集体を得る工程とを有する、請求項8に記載の繭状セルロース凝集体の製造方法。
- 樹脂(A)中でセルロースナノファイバーに摩擦を与えて凝集させ、繭状セルロース凝集体を得る工程を有する、請求項8または9に記載の繭状セルロース凝集体の製造方法。
- セルロースを解繊樹脂中で解繊してセルロースナノファイバーを得る工程を有する、請求項9または10に記載の繭状セルロース凝集体の製造方法。
- 上記解繊樹脂が、ポリエステル系樹脂である、請求項11に記載の繭状セルロース凝集体の製造方法。
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