JPWO2020059859A1 - セルロースファイバーボールおよびこれを含有する紙 - Google Patents

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Abstract

下記(1)〜(3)を満たす、微細セルロース繊維が絡まりあって形成されるセルロースファイバーボール。
(1)レーザー回折式粒度計を用いた湿式測定による平均粒子径(D50)が50μm〜2mm。
(2)平均アスペクト比(L/D)が10以下。
(3)含水率50重量%における安息角が58°未満。

Description

本発明はセルロースファイバーボールおよびこれを含有する紙に関する。
セルロース繊維は主に木材を原料とする繊維であり製紙用途等で使用されているが、高機能化すること等により製紙以外の種々の分野での応用が期待されている。一般的に、製紙用途で使用されるパルプはセルロース繊維からなり、叩解などの機械的な処理により繊維表面の微細繊維化(フィブリル化)を促進させてから使用される。フィブリルは紙をはじめとする基材中での水素結合点を増やすことにより基材に強度を付与する。水酸基を多く有するセルロース繊維は水との親和性が高いため水中で繊維が広がりやすく保水性が高いが、一方で水持ちが良すぎることで搬送や反応に供する際の仕込み等において取扱性が必ずしも良いとはいえなかった。
また、近年新素材としてセルロースナノファイバーが注目されている。セルロースナノファイバーはその製造方法によって機械的に微細化したものと、微細化の効率向上や機能性付与のために化学的な変性を行った上で機械的に微細化したものに大別される。微細化効率や機能性の観点から、アニオンやカチオン性の置換基をパルプに導入した化学変性パルプを原料とするセルロースナノファイバーに期待が集まっており、様々な検討がなされている。しかし化学変性パルプは通常のパルプと比較して親水性が非常に高く、さらに微細化が進むほど繊維表面の親水性基量が増加するため、含水状態での取扱性が困難であるとの課題があった。
ところでセルロースを原料とする素材として、セルロースを粉砕したセルロースパウダーやセルロースをビーズ状にして酵素等の固定化剤として使用することが知られている。例えば特許文献1にはセルロースビーズの表面を酸化して機能性を付与したセルロースビーズが提案されている。また、特許文献2にはセルロースナノファイバーが複数結合し、平均円形度が0.7以上1.0未満の形状で、少なくとも一つの機能性材料を含有した粒子状セルロース複合体が開示されている。
特開2009−209218号公報 特開2018−87256号公報
発明者らは、複数の微細セルロース繊維を毛玉のように絡み合せて粒子とすることができれば、取扱性に優れたセルロース系材料を得ることができるとの着想を得た。特許文献1に記載されたセルロースビーズはビーズ状のセルロースであり、セルロース繊維が集合してなる粒子ではない。また、特許文献2に記載の粒子状セルロース複合体は、含水率が高くなるとスラリーまたはゲル状となり、パウダー(粉体)ではない。かかる事情を鑑み、本発明は比較的高い含水率においてもパウダー(粉体)として存在するセルロースファイバーボールを提供することを課題とする。
前記課題は以下の本発明によって解決される。
[1]下記(1)〜(3)を満たす、微細セルロース繊維が絡まりあって形成されるセルロースファイバーボール。
(1)レーザー回折式粒度計を用いた湿式測定による平均粒子径(D50)が50μm〜2mm。
(2)平均アスペクト比(L/D)が10以下。
(3)含水率50重量%における安息角が58°未満。
[2]前記微細セルロース繊維が、化学変性セルロース繊維である、[1]に記載のセルロースファイバーボール。
[3]前記化学変性セルロース繊維がアニオン変性セルロース繊維である、[2]に記載のセルロースファイバーボール。
[4]前記平均粒子径(D50)が50μm〜1mmである、[1]〜[3]のいずれかに記載のセルロースファイバーボール。
[5]前記セルロースファイバーボールは、2重量%の酸性水懸濁液とした後に当該懸濁液のpHを中性〜アルカリ性とすると水中で崩壊し、前記微細セルロース繊維が水中に分散した分散液を生成するという崩壊性を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載のセルロースファイバーボール。
[6]前記分散液中の前記繊維が、0.6mm以下の繊維の割合が15%以上であるという繊維長分布を有する、[5]に記載のセルロースファイバーボール。
[7]前記懸濁液のpHが酸性であるときの電荷密度の大きさをa(meq./g)、中性〜アルカリ性であるときの電荷密度の大きさをb(meq./g)とするとき、b−aが0.1(meq./g)以上である[5]または[6]に記載のセルロースファイバーボール。
[8]前記化学変性セルロース繊維が、0.3〜2.5mmol/gのカルボキシル基を有する、[2]〜[7]のいずれかに記載のセルロースファイバーボール。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載のセルロースファイバーボールを含むパウダー。
[10]前記[1]〜[8]のいずれかに記載のセルロースファイバーボールを含む紙。
[11]前記[2]〜[8]のいずれかに記載のセルロースファイバーボールの製造方法であって、
(A1)原料パルプを化学変性する工程、
(A2)前記工程で得た化学変性パルプと水を含み、固形分濃度が15重量%以上である混合物を機械的処理して、セルロースファイバーボールを形成する工程、
を含む製造方法。
[12]前記(A1)と(A2)の工程の間に前記化学変性パルプを酸処理する工程を含む、[11]に記載の製造方法。
本発明によって比較的高い含水率においてもパウダーとして存在するセルロースファイバーボールを提供できる。
セルロースファイバーボールの光学顕微鏡像 セルロースファイバーボールのレーザー顕微鏡像 実施例および比較例での製造物のCCDカメラ像 セルロースナノファイバーのAFM観察像
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X〜Y」はその端値であるXとYを含む。
1.セルロースファイバーボール
セルロースファイバーボールとは、微細セルロース繊維が毛玉のように絡み合って形成された略球状(球体または楕円体)の材料(集合体)である(図1)。1つのセルロースファイバーボールは1本の微細セルロース繊維から形成されうるが、好ましくは複数の微細セルロース繊維から形成される。以下、セルロースファイバーボールを「CFB」ともいう。
(1)平均粒子径
CFBのレーザー回折式粒度計を用いた湿式測定による平均粒子径(D50)は50μm〜2mmである。後述するとおりCFBからミクロフィブレイテッドセルロースファイバーを製造できる。しかしながら前記平均粒子径が上限値を超えるとミクロフィブレイテッドセルロースファイバーの製造が困難になりうる。また平均粒子径が下限値未満であると、製造工程においてCFBを単離する際に取扱性が困難となる場合がある。この観点からCFBの湿式測定による平均粒子径(D50)は50μm〜1.5mmであることが好ましく、50μm〜1mmであることがより好ましい。また、CFBが水等の分散媒に分散している場合、その平均粒子径はpH等によって変動する。よって、本発明における平均粒子径や後述するアスペクト比は、pH6以下の酸性の分散液を用いて測定される。
(2)アスペクト比(L/D)
CFBのアスペクト比(L/D)は10以下であり、好ましくは8以下である。L/Dは任意の顕微鏡、例えばバルメット株式会社製フラクショネータやデジタルマイクロスコープ(ニコン社製)、レーザー顕微鏡(オリンパス社製)で、CFBが水に分散した分散液(pH6以下)中のCFBを観察することにより測定できる。L(粒子の長軸の長さ)およびD(粒子の短軸の長さ)を目視によって判断し、画像解析ソフトを用いてそれぞれの長さを測定することで算出する。長軸は、粒子の長手方向において最大長さを示す軸として決定され、短軸は長軸に直交し、かつ当該方向において最大長さ(幅)示す軸として決定される。
(3)含水率50重量%における安息角
従来知られているセルロースのパウダーは、含水率が30重量%程度を超える高い領域ではダマになりパウダーテスターでは測定できないが、本発明のCFBは含水率が30%重量を超える高い領域においてもパウダーテスターで測定可能なパウダーとして取扱いができる。CFBは含水率50重量%において58°未満の安息角を呈する。この理由は限定されないが、含水率が高い場合でも、水の大部分が個々のCFBの内部に存在するのでパウダーとしての性能が失われないためであると推察される。
CFBの含水率は公知の乾燥方法で調整できる。含水率が35重量%を超える高い領域では、個々のCFBが帯電しにくいので、粉立ちしにくいという特徴を備える。よって、一態様において、前記含水率の上限は、好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは75重量%以下であり、下限は好ましくは40重量%以上、より好ましくは45重量%以上である。一方、前記含水率が低いと、風送および袋詰等による搬送時の搬送効率が向上する。よって、別態様において、前記含水率の上限は、好ましくは35重量%以下であり、より好ましくは30重量%以下であり、その下限は0重量%でもよく、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは2重量%以上である。含水率はJIS P 8203に従い、例えば熱風循環式定温乾燥機(東京硝子器械株式会社製)を用いて測定される。
本発明のCFBの安息角は、パウダーテスター(PT−X型、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて、以下の方法によって測定される。1)金属製漏斗の孔(直径φ5mm)からサンプルを一定面積の水平板の上に一定形状となるまで落下堆積させ、円錐状の検体を形成する。2)Peak Operationモードによって、当該円錐状の検体の頂点と底辺との角度の値を測定し、安息角を求める。本発明のCFBは含水率50重量%において58°未満の安息角を呈する。安息角が58.0°以上である場合、パウダーとしての取扱が困難となり固体としての取扱性が悪化する。CFBはパウダーとしての取扱容易性を有するため、前記安息角の下限値は特に限定されないが、好ましくは25.0°以上であり、より好ましくは30.0°以上であり、さらに好ましくは35.0°以上である。
(4)他の特性
CFBは特定の条件下において、自己を形成している微細セルロース繊維(好ましくは後述するMFC)にほぐれるという崩壊性を有する。具体的に、CFBは、2重量%の酸性水懸濁液とした後に当該懸濁液のpHを中性〜アルカリ性とすると水中で崩壊し、微細セルロース繊維が水中に分散した分散液を生成する。酸性水懸濁液のpHは2以上6.5未満程度であることが好ましい。また当該懸濁液を中性〜アルカリ性にする場合、pHは6.5以上であることが好ましい。
微細セルロース繊維とは、平均繊維径が500nm未満のセルロースナノファイバー(以下「CNF」ともいう)および500nm以上のミクロフィブリレイテッドセルロース(以下「MFC」ともいう)を総称した繊維をいう。CFBが崩壊して得られた微細セルロース繊維は、好ましくは化学変性微細セルロース繊維であり、より好ましくはアニオン変性微細セルロース繊維である。また、CFBが崩壊して得られた微細セルロース繊維は好ましくはMFCである。化学変性、MFC、CNFについては後述する。
このようにして得られた分散液における微細セルロース繊維の繊維長分布は、0.6mm以下の繊維の割合が15%以上であることが好ましい。当該割合が15%未満であると叩解による繊維の微細化が不十分であり、微細セルロースとしての機能を十分に発揮しないからである。前記割合の上限は限定されず100%以下であることが好ましい。CFBを直接分析して繊維長分布を測定することはできないので、このようにして測定された繊維長分布を、CFBを構成している微細セルロース繊維の繊維長分布とみなしてよい。
前記懸濁液のpHが酸性(好ましくはpH=4.5)であるときの電荷密度の大きさをa(meq./g)、中性〜アルカリ性(好ましくはpH=7.5)であるときの電荷密度の大きさをb(meq./g)としたとき、b−aは0.1(meq./g)以上であることが好ましい。微細セルロースが化学変性セルロースである場合に、当該差がこの範囲であると、化学変性セルロースのアニオン性基のうち乖離型の割合が十分に高くアニオン性基の末端が乖離してセルロース同士が電気的に反発するため、CFBが崩壊しやすい。b−aの上限は限定されないが1(meq./g)以下であることが好ましい。電荷密度とは所定量のセルロース繊維当たりの電荷の密度であり、例えば粒子表面電荷量測定装置(MUTEK製、Particle Chargedetector, PCD03)を用いてカチオン要求量を測定し、アニオン電荷密度を算出することで測定される。
(5)他の成分
CFBは微細セルロース繊維以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、化学繊維などの各種有機繊維、各種無機顔料、澱粉やラテックス等の各種接着剤成分、カチオン系、ノニオン系、アニオン系などの各種凝集剤、染料、顔料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が挙げられる。本発明のCFBは形成過程においては接着剤などを要しないという特徴を有するため、上記各種添加成分はCFBの用途に合わせて必要な性能を付与するために添加される。これらの成分は、一態様においてCFBの内部に取り込まれており、別態様においてCFB表面に付着する等して存在する。
(6)CFBの用途
CFBは分散媒を含む分散液として取扱うことができ、あるいは分散媒を除去してパウダーとして取り扱うこともできるので、取扱性に優れ、かつ輸送に便利であるという利点を有する。また、前述のとおり、各種機能性を付与するための成分を添加して製造することで、機能性を有するCFBを得ることができる。さらに、後述するとおり、CFBはMFCまたはCNF等の微細セルロース繊維の原料となる。さらにまた、CFBの分散液およびパウダーは一般的に添加剤が用いられる様々な分野において、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水材、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤、混和剤等として使用することができる。当該分野としては、食品、飲料、化粧品、医薬、製紙、各種化学用品、塗料、スプレー、農薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物等が挙げられる。
また、本発明のCFBは他の粒子(例えば、非セルロース繊維集合体等)と混合してCFBを含むパウダーとしても使用できる。当該パウダー中、他の粒子の含有量は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは8重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下である。またその下限値は限定されないが、好ましくは0重量%超、より好ましくは0.5重量%以上である。
(7)MFC、CNF
微細セルロース繊維とは、平均繊維径が500nm未満のセルロースナノファイバー(CNF)および500nm以上のミクロフィブリレイテッドセルロース(MFC)を総称した繊維をいう。当該平均繊維径は長さ加重平均繊維径であり、例えばバルメット株式会社製フラクショネータや光学顕微鏡、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて微細セルロース繊維を観察することにより測定できる。MFCとCNFでは平均繊維径の測定方法が異なる。そこで、まず、得られた微細セルロース繊維の平均繊維径を、ABB株式会社製ファイバーテスターやバルメット株式会社製フラクショネータ等の画像解析に供して、MFCとCNFのいずれであるかを決定する。そして、得られた微細セルロース繊維がMFCである場合、前記フラクショネータで測定して平均繊維径を求める。また、微細セルロース繊維がCNFである場合はAFMを用いて平均繊維径を測定できる。
MFCの平均繊維径の下限は好ましくは1μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、上限は、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは20μm以下である。当該MFCの平均繊維長は1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。その上限は2.0mm以下が好ましく、1.5mm以下程度がより好ましい。本発明において平均繊維長は長さ加重平均繊維長である。
CNFの平均繊維径は好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。その下限は好ましくは1nm以上であり、より好ましくは2nm以上である。CNFの平均繊維長は好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。CNFの平均繊維長は好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。平均繊維長の下限は0.1μm以上程度である。平均繊維長および繊維径は、前述のとおり得られた微細セルロース繊維がCNFであることを確認した上で、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は、電解法出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について、解析し、平均を算出することにより測定することができる。また、このようにして得られた値を用いて、下記の式によりアスペクトを算出すことができる。本発明のCNFのアスペクト比は好ましくは50以上である。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
MFCと原料であるセルロース繊維とは機械的処理の度合いが異なる。機械的処理の度合いは繊維を直接観察することによって確認できる。また、機械的処理の度合いを定量化することは一般に容易ではないが、機械処理後の濾水度や保水度の変化量や表面積(例えばBET)の変化量で定量化することも可能である。一例として、以下にN−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で、酸化剤を用いて酸化して得た酸化セルロースの場合を説明する。この場合、MFCの解繊前のパルプの濾水度(F)が10ml以上変化する程度に機械的処理、特に叩解して得たものであることが好ましい。すなわち、処理後の濾水度をFとすると、濾水度の差ΔF=|F−F|は10ml以上であることが好ましく、20ml以上であることがより好ましく、30ml以上であることがさらに好ましい。パルプの濾水度は変性の度合いによって異なるが、機械的処理前のパルプの濾水度を基準とするため、前記定義によって化学変性の度合いに因らず機械的処理の度合いを特定できる。Fは化学変性の度合いによって異なるため、ΔFの上限を一義に定めることは困難であるが、処理後の濾水度FはFよりも小さくなるか、もしくはパルプが機械的処理によって非常に微細になることで、Fよりも大きくなる(叩解後パルプが水と一緒にメッシュを抜ける)。このようにして得た化学変性MFCのバルメット株式会社製フラクショネータによって求めたフィブリル化率は1.0%以上であることが好ましく、2.5%以上であることがより好ましく、3.5%以上であることがさらに好ましい。パルプの種類によってフィブリル化率が異なるが、上記範囲であれば、十分に機械的処理が行われていると考えられる。
また、本発明で得られるMFCは、機械的処理を行う前のパルプのフィブリル化率(f)が1ポイント以上向上する程度に機械的処理を行って得られたものであることが好ましい。すなわち、処理後のフィブリル化率をfとすると、フィブリル化率の差Δf=f−fは0を超えていればよく、好ましくは0.2%以上であり、より好ましくは1ポイント以上、さらに好ましくは2.5ポイント以上である。
前記機械的処理の度合いは、前述の指標以外にスラリーとしたときの吸光度、粘度特性(たとえば回転数−粘度の関係)等によっても評価できる。
2.CFBの製造方法
CFBは、以下の工程を備える方法によって製造されることが好ましい。
(A1)原料パルプを化学変性する工程。
(A2)前記工程で得た化学変性パルプと水を含み、固形分濃度が15重量%以上である混合物を機械的処理して、CFBを形成する工程。
(1)工程(A1)
[原料パルプ]
本工程では原料パルプを化学変性して化学変性パルプを得る。原料パルプとしては、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹未漂白サルファイトパルプ(LUSP)、広葉樹漂白サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、加圧砕木パルプ(PGW)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、アルカリ過酸化水素メカニカルパルプ(APMP)、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)、リンター、ジュート、麻、コウゾ、ミツマタ、ケナフ等の草本由来のパルプ、竹由来のパルプ、再生パルプ、古紙パルプ、再生セルロース繊維、合成繊維等が挙げられるが、これらに限定されない。
[化学変性]
化学変性とはパルプに官能基を導入することである。化学変性はカチオン変性でもアニオン変性でもよいが、アニオン変性であることが好ましい。すなわち化学変性パルプはアニオン性基を有することが好ましい。アニオン性基としてはカルボキシル基、カルボキシル基含有基、リン酸基、リン酸基含有基、硫酸エステル基等の酸基が挙げられる。カルボキシル基含有基としては、−COOH基、−R−COOH(Rは炭素数が1以上3以下のアルキレン基)、−O−R−COOH(Rは炭素数が1以上3以下のアルキレン基)が挙げられる。リン酸基含有基としては、ポリリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリホスホン酸基等が挙げられる。これらの酸基は反応条件によっては、塩の形態(例えばカルボキシレート基(−COOM、Mは金属原子))で導入されることもある。本発明において化学変性は酸化またはエーテル化が特に好ましい。
酸化は公知のとおりに実施できる。例えばN−オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で、酸化剤を用いて水中で原料パルプを酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。あるいは、オゾン酸化方法が挙げられる。この酸化反応によればセルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕
このようにして測定した酸化セルロース中のカルボキシル基の量は、絶乾重量に対して、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.3mmol/g以上、さらに好ましくは0.5mmol/g以上、よりさらに好ましくは0.8mmol/g以上である。当該量の上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、さらに好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、当該量は0.1〜3.0mmol/gが好ましく、0.3〜2.5mmol/gがより好ましく、0.5〜2.5mmol/gがさらに好ましく、0.8〜2.0mmol/gがよりさらに好ましい。
(2)工程(A1’)
本発明のCFBの製造方法は、前記工程で得た化学変性パルプを酸処理する工程(A1’)を備えてもよい。化学変性パルプのアニオン性基の末端が乖離している、すなわち乖離型である場合は、パルプの親水性が高くなり、工程(A2)に供する際にパルプの濃度を高くすることが難しくなることがある。このため工程(A1)と工程(A2)工程の間に酸処理する工程(A1’)を設けることが好ましい。本工程で使用する酸は限定されないが、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸が好ましい。処理方法も限定されないが、水等の分散媒に化学変性パルプを分散し、当該分散液に酸を添加することで実施できる。この際、分散液のpHは好ましくは2〜6、より好ましくは4〜5に調整される。また、分散液の固形分濃度は0.5〜10重量%が好ましい。酸処理された化学変性パルプは乖離型ではなく酸型のアニオン性基を有する。例えば官能基がカルボキシル基である場合、酸処理化学変性パルプのカルボキシル基は、−COOM(Mは金属イオン)ではなく−COOHである。
(3)工程(A2)
本工程では化学変性パルプに機械的処理を施す。本発明において機械的処理とは、繊維に機械的剪断力を与え、フィブリル化または繊維の微細化を行う処理をいい、叩解、解繊、分散、混錬等を含む。微細化は繊維長、繊維幅等が小さくなることいい、フィブリル化は繊維の毛羽立ちが多くなることをいう。
本工程では高濃度化が可能な化学変性パルプを用いることが好ましく、一態様として工程(A1’)の酸処理工程を経てアニオン性基を酸型(例えば−COOH)とした化学変性パルプを使用することが好ましい。酸型とした化学変性パルプを本工程に供する場合、酸型を保つために、機械的処理は酸性条件下(好ましくはpH5以下)で行うことが好ましい。機械的処理は化学変性パルプと分散媒の混合物を用いて実施されるが、その際の混合物の固形分濃度は15重量%以上である。固形分濃度とは、機械的処理に供される前記混合物における固形分の濃度であり、通常は化学変性パルプの濃度である。分散媒は本発明のCFBを形成することができれば限定されず、有機溶媒や水を用いることができるが、好ましくは水である。当該濃度が15重量%未満である場合、パルプにかかる剪断力が不足するためCFBが形成されない可能性がある。本工程での機械的処理は叩解であることが好ましい。当該処理に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機、トップファイナーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。機械的処理は1回以上実施されるが、所望のCFB粒子径を達成するためにその回数は適宜調整される。また後述するようにCFBを原料としてMFCやCNFを製造できるが、その際に所望のフィブリル化率を達成するためにも処理回数は調整される。
固形分濃度が15重量%以上と高い前記混合物に機械的処理を施すことで、繊維が絡み合い、CFBが形成される。このメカニズムは限定されないが、繊維同士がこすりあわされることにより剪断力を受けるので、繊維が叩解されるとともに繊維同士が絡み合って集合し、CFBを形成するためと考えられる。この場合、酸処理された化学変性パルプを用いると、より効率よくCFBを形成できる。このメカニズムは限定されないが次のように推察される。化学変性パルプの叩解は、通常、当該パルプと水の混合物を用いて実施される。しかしカルボキシル基等の酸基が塩型(Na塩)などの乖離型になっていると水により膨潤しやすくゲルを形成しやすいので、機械的に脱水してパルプ濃度を高くすること(高濃度化)が困難となる。そのため、パルプの濃度が低い条件で叩解処理を行う必要がある。この場合、繊維同士の絡み合いが少ないため叩解処理によってフィブリル化は進むが複数の繊維が絡み合ったCFBは形成されにくい。一方、酸基が乖離型でなく酸型になっていると分散液がゲル化しにくいので固形分濃度を高くすることができる。この状態で叩解処理を施すと、前述のとおり繊維同士がこすりあわされることにより剪断力を受けるので、繊維が叩解されるとともに繊維同士が絡み合って集合し、CFBを形成すると考えられる。この際に、分散液に後述する他の成分を存在させておくと、CFB中に当該成分を取り込むことができる。
CFB形成のし易さの観点から、前記混合物の固形分濃度は15重量%以上であるが、17%重量以上が好ましく、19重量%以上がより好ましく、21重量%以上がさらに好ましい。固形分濃度が過度に高いと処理効率が低下するので、固形分濃度の上限は70重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。使用する化学変性パルプは1種でも2種以上でもよく、例えば、カルボキシル基を有する化学変性パルプとカルボキシメチル基を有する化学変性パルプを併用してもよい。また、混合物の固形分に占める化学変性パルプの割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは45重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上である。固形分中の化学変性パルプ以外の成分については後述する。本発明においては、機械的処理開始時の固形分濃度を当該処理における固形分濃度という。
3.MFCの製造方法
CFBからMFCを製造することができる。具体的に当該方法は以下の工程を備えることが好ましい。
(B1)CFBを準備する工程。
(B2)CFBをアルカリ処理する工程。
(1)工程(B1)
当該工程は前述のとおりに実施できる。
(2)工程(B2)
本工程ではCFBをアルカリ処理する。当該処理によって、化学変性セルロース繊維が絡み合って形成されていた集合体がほぐれてMFCが得られる。当該処理の方法は限定されないが、水等の分散媒に化学変性パルプを分散させ、当該分散液にアルカリを添加することで実施できる。この際、アルカリ添加後の分散液のpHは好ましくは6.5〜14、より好ましくは7〜9に調整される。また、分散液の固形分濃度は0.5〜10重量%が好ましい。
当該方法においては、MFCを製造できる範囲において、工程B1およびB2に加えて、追加的な処理を行ってもよい。例えば、B2の工程の後に、追加的に機械的処理を施すことができる。当該追加的な機械的処理として、具体的には前述の機械的処理を行うことができる。
本工程によってMFCが得られるメカニズムは限定されないが次のように推察される。CFBを構成している化学変性セルロース繊維の酸基がアルカリによってNa塩等の乖離型に変換される。すると化学変性セルロース繊維の酸基が電離し、負電荷同士の反発が起きるため、繊維がほぐれてMFCが形成されると考えられる。2価のイオンは架橋により繊維の分散を抑制する可能性があるため、この観点から、本工程で使用するアルカリは1価の金属イオンを含むことが好ましい。当該アルカリとしては、KOH、NaOH等が挙げられる。
4.セルロースナノファイバーの製造方法
前記のとおりにして得たMFCに機械的処理を施すことでCNFを製造できる。具体的に当該方法は以下の工程を備えることが好ましい。
(C1)CFBを準備する工程。
(C2)CFBをアルカリ処理してMFCを得る工程。
(C3)MFCに機械的処理を施す工程。
(1)工程(C1)、(C2)
これらの工程は前述のとおりに実施できる。
(2)工程(C3)
ここでの機械的処理はMFCに強いせん断力を印加しナノ化してCNFとする処理をいい、具体的には解繊処理であることが好ましい。当該処理に用いる装置は限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式、あるいはキャビテーションや水流または水圧によってパルプ繊維を解繊する方式などの装置が挙げられる。中でも、キャビテーションを用いる装置もしくは高圧または超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の、高圧または超高圧ホモジナイザーがより好ましい。これらの装置は、変性セルロースに強力なせん断力を印加することができるからである。せん断速度は1000sec−1以上が好ましい。これにより、凝集構造が少なく、均一にナノファイバー化することができる。化学変性セルロースに印加する圧力は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。
ここでの機械的処理は、通常、MFCが分散媒中に分散した分散体を用いて実施される。分散媒は、通常、水等の水系分散媒が好ましい。分散に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理としては、例えば、混合、撹拌、乳化が挙げられ、公知の装置(例えば、高速せん断ミキサー)を用いて行えばよい。分散体中のMFCの固形分濃度の下限は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。この濃度であると原料に対する液量が適量となり効率的な解繊を行うことができる。当該濃度の上限は、通常10重量%以下であり、好ましくは6重量%以下である。この濃度であると分散体の流動性を保持することができる。
このようにして得られたMFCおよびCNFは、化学変性により置換基が導入されているため、機械的解繊によってのみ微細化された化学変性されていない微細セルロース繊維と比較して、機能性や保水性等の各種特性に優れる。このため、当該MFCおよびCNFは保水性を求められる用途に幅広く使用することができる。当該MFCおよびCNFは、CFBと同様に一般的に添加剤が用いられる様々な分野において、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水材、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤、混和剤等として使用することができる。当該分野としては、食品、飲料、化粧品、医薬、製紙、各種化学用品、塗料、スプレー、農薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物等が挙げられる。
5.紙
本発明の紙は前記CFBを含む。CFBによって、紙に紙力強度向上等の機能を付与することができる。CFBは紙に内添されてもよいし、外添されてもよい。内添による場合は原紙層にCFBを含む紙となり、外添による場合は原紙層上にCFBを含む層(好ましくは塗工層)を有する紙となる。これらの紙は、印刷用紙や情報用紙、産業用紙、家庭紙、包装材料等として好適である。原紙層中、CFBの含有量は0.01〜20重量%であることが好ましい。また、前記塗工層中、CFBの含有量は0.01〜20重量%であることが好ましい。
6.紙の製造方法
CFBが内添された紙は、以下の工程を経て製造されることが好ましい。
(D1)CFBとパルプを含むスラリーを調製する工程。
(D2)前記スラリーを抄紙する工程。
[工程D1]
CFBは前述のとおりに調製される。パルプとしては、前述の「原料パルプ」と同じものを使用できる。例えば、本工程は、予め調製されたパルプスラリーとCFBと水の混合物を混合することによって実施できる。混合は、公知のとおりに行うことができる。例えば、公知のミキサー等を用いて両者を混合してスラリーを調製できる。
前記スラリーにおけるCFBの濃度は、パルプとCFBを合わせた固形分に対して、0.01〜20重量%であることが好ましい。上限がこの値を超えると、CFBの分散が不十分になり、分散体中に未分散物が発生したり、分散体の粘度が高くなりすぎたりして取扱い性が低下する可能性がある。この観点から、前記濃度の上限はより好ましくは10重量%以下であり、下限は好ましくは0.1重量%以上である。スラリーのB型粘度(25℃、60rpm)は、通常の製紙工程で使用される配管やポンプで移送できる範囲であればよく、600mPa・s以下が好ましく、200mPa・s以下がより好ましい。当該スラリーには、通常、製紙に使用される填料や添加剤を添加することができる。
[工程D2]
本工程では前記スラリーを抄紙して紙を得る。抄紙は公知のとおりに実施でき、例えば、長網型湿式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機等、公知の抄紙機を用いて実施できる。また手抄きによって抄紙してもよい。CFBは、通常、略球状の状態で原紙層に存在する。
[他の工程]
前記製造方法は、原紙の上に公知のクリア塗工層または顔料塗工層を設ける塗工工程を備えていてもよいし、紙を表面処理する工程を備えていてもよい。これらの方法は、公知のとおりに実施できる。また、前記原紙の上に、後述するように、CFBを含む塗工液を塗工することもできる。
CFBが外添された紙は、以下の工程を経て製造されることが好ましい。
(E1)原紙を準備する工程。
(E2)CFBを含む塗工液を調製して、前記原紙上に塗工する工程。
[工程E1]
本工程は、公知のとおりに実施できる。
[工程E2]
CFBを含む塗工液は、CFBを水等の分散媒に分散させて調製できる。塗工液は、バインダー成分、顔料等を含んでいてもよい。塗工液中のCFBの濃度は、塗工可能な範囲であれば限定されないが、例えば固形分中、0.01〜20重量%であることが好ましい。塗工機としては、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、カーテンコーター等を使用できる。あるいは、原紙に前記塗工液を含浸させてもよい。
[実施例A1]
<化学変性パルプの調製>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%:日本製紙株式会社製)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社製)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応混合物に塩酸を添加した後ガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗して化学変性パルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。パルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、pHは4.5、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。
<酸性下での叩解>
得られた化学変性パルプと水の混合物を、固形分濃度が25重量%となるまで脱水し、14インチラボリファイナー(相川鉄工株式会社製)にて叩解処理を行った。リファイナー処理条件は、固形分濃度(パルプ濃度)25重量%、処理回数7回(7パス)であった。14インチラボリファイナーによる高濃度機械処理は、原料を装置に投入して機械的処理を行ったものを回収し、その後複数回機械的処理に供するバッチ処理であるため、処理回数で処理の程度を調整した。叩解処理物をフラクショネーター(バルメット株式会社製)のCCDカメラを用いて観察したところ、図2に示すようにCFBが形成されていることが明らかとなった。図3には叩解を行っていない繊維の写真も併せて示してある。当該CFBのレーザー回折式粒度計(Malvern Panalytical社製)を用いた湿式測定による平均粒子径(D50)は、588μmであった。また、後述する方法で測定した電荷密度の大きさは0.098meq/gであった。
<中性〜アルカリへのpH調整>
CFBを水に懸濁し、イオン交換水を用いて2重量%の水懸濁液(pH4.5)とし、次いで当該懸濁液のpHを7.5にしたところ、崩壊して化学変性微細セルロース繊維が水中に分散した分散液が得られた。当該分散液を固形分濃度0.25重量%に希釈した後、フラクショネーター(バルメット社製)のCCDカメラを用いて観察したところ、図3に示すとおりMFCが観察された。図3に示す写真の高さ(縦寸法)が実寸の5.8mmに、幅(横寸法)が実寸の7.8mmに相当する。次いで、フラクショネータを用いてこのMFCの平均繊維長および平均繊維径を測定したところ、0.33mmおよび16.1μmであった。後述する方法で測定した電荷密度の大きさは0.522meq/gであった。結果を表1に示す。
[比較例A1]
リファイナー処理における固形分濃度(パルプ濃度)を4重量%にし、処理時間を7分とした以外は実施例A1と同様にしてCFBの製造を試みたがCFBは生成しなかった。生成物のCCDカメラ写真および平均繊維長等を図3および表1に示す。14インチラボリファイナーでの低濃度機械的処理は、タンクとリファイナーをパイプで接続して循環処理としたため、処理時間で処理の程度を調整した。
[比較例A2]
実施例A1で得た化学変性パルプと水の混合物を調製し、そのpHを7.5とし、脱水およびリファイナー処理を試みたが、固形分濃度を高濃度にするまで脱水することができず、叩解処理はできなかった。
[比較例A3]
リファイナー処理における固形分濃度(パルプ濃度)を4重量%、処理時間を5分にした以外は比較例A2と同様にしてCFBの製造を試みたが、CFBは生成しなかった。生成物のCCDカメラ写真および平均繊維長等を図3および表1に示す。
[比較例A4]
化学変性パルプの代わりにLBKP(日本製紙株式会社製)を用い、条件を表1に示すように変更して、実施例A1と同様にしてCFBの製造を試みたが、CFBは生成しなかった。生成物のCCDカメラ写真および平均繊維長等を図3および表1に示す。
[電荷密度の測定]
粒子表面電荷量測定装置(MUTEK製、Particle Charge Detector PCD03)および自動滴定装置([Model Titrino702]Mutek社製)を用い、以下のようにして電荷密度を測定した。
1)試料とイオン交換水を混合し、試料濃度0.01重量%の液を調製した。
2)10mLの当該液をカチオン性高分子電解質(Polydimethyl diallyl ammonium chloride、1/1000N)溶液で滴定し、電荷ゼロ点までの消費量を測定した。
3)下式に従って電荷密度の大きさ(カチオン要求量)を求めた。
電荷密度の大きさ(μeq/g)=(V×c×1000)/m
V:滴定液消費量(mL)、c:滴定液濃度(mol/L=eq/L)、m:サンプル量(g)
Figure 2020059859
[実施例A5]CFBを用いたCNFの製造
実施例1で得たCFBを水に懸濁し、CFB濃度が1重量%の懸濁液を調製した。当該懸濁液に水酸化ナトリウム水溶液を加え、懸濁液のpHを4.5から7.5に調整し、CFBのカルボキル基を乖離型へ変換した。その後、当該懸濁液に対して超高圧ホモジナイザーで1パスの処理を施し、CNFを製造した。CNFの物性を表2に、AFM観察像を図4に示す。
Figure 2020059859
図4に示すとおり、CNFが製造できたことが確認された。また表2に示すとおり、実施例2で得たCNF分散液は透明度の高いゲルとなった。透明度は以下のようにして測定した。
[透明度の測定]
CNF水分散液(固形分1.0重量%)をUV分光光度計U−3000(日立ハイテク社製)を用いて、CNF水分散液(固形分1.0重量%)の660nm光の透過率を測定し、透明度とした。
[実施例A6]L/Dの測定
ナノサーチ顕微鏡 LEXT OLS4500(オリンパス社製、倍率:107倍)を用いて、実施例1で得た叩解後のスラリーを観察した。画像からランダムに11個のCFBを選択し、L(CFBの長軸の長さ)およびD(CFBの短軸の長さ)を目視によって判断し、画像解析ソフトを用いてそれぞれの長さを測定した。表中、当該CFBをFB1〜11と表記した。また、CFBを形成していない繊維をランダムに4つ選択し、L(繊維長)、D(繊維径)を測定した。結果を表3に示す。
Figure 2020059859
[実施例B1]
<化学変性パルプの調整>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%:日本製紙株式会社製)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社製)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応混合物に塩酸を添加した後ガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗して化学変性パルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。パルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、pHは5.0、カルボキシル基量は1.39mmol/gであった。
<酸性下での叩解>
得られた化学変性パルプと水の混合物をパルプ固形分濃度が30重量%となるまで脱水し、14インチラボリファイナー(相川鉄工株式会社製))にて叩解処理を行い、CFBを得た。リファイナー処理条件は、パルプ濃度30重量%、処理回数7回(7パス)であった。叩解処理物をフラクショネーター(バルメット株式会社製)のCCDカメラを用いて観察し、CFBが形成されていることを確認した。
当該CFBの平均粒子径(D50)をレーザー回折式粒度計(Malvern Panalytical社製)を用いた湿式測定によって求めたところ、200μmであった。当該CFBのアスペクト比は1〜4であった。
CFBの含水率をJIS P 8203に従い、熱風循環式定温乾燥機(東京硝子器械株式会社製)を用いて測定した。含水率は51.9重量%であった。
当該CFBについて以下のように帯電性試験を行い、帯電しにくく取扱い性が良好であることを確認した。
[帯電試験]
CFB1gを量り取り、縦120mm×横85mm、厚さ0.04mmのポリエチレン製チャック付き袋に入れた。袋を上下に20回振った後、袋を手でもんで10回こすり合わせた。その後もう一度上下に10回降った。その後、袋へのパウダーの付着の程度を目視にて確認した。
以下のようにして前記CFBの安息角を測定した。
パウダーテスター(PT−X型、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて、金属製漏斗の孔(直径φ5mm)からサンプルを一定面積の水平板の上に一定形状となるまで落下堆積させ、円錐状の検体を形成した。Peak Operationモードによって、当該円錐状の検体の頂点と底辺との角度の値を測定し、安息角を求めた。
[実施例B2]
実施例A1と同じ化学変性パルプを用い、リファイナーでの処理パルプ濃度を25重量%とした以外、実施例B1と同じ方法でCFBを得て、評価した。
[実施例B3]
実施例B1で得たCFBを、風乾により乾燥し、評価した。
[実施例B4]
実施例B2で得たCFBを、風乾により乾燥し、評価した。これらの結果を表5に示す。
[比較例B1、B2]
市販のセルロース粉末(日本製紙株式会社製 KCフロック W−50、含水率7重量%時の湿式粒径D50=42.8μm、平均アスペクト比6.1)に水を加えて、含水量を調製した。含水率を表2に示した。これらのセルロース粉末について、実施例B1と同様に物性を評価した。含水率を35重量%および50重量%としたセルロース粉末は、ダマ状にセルロース粉末同士が結着しパウダーテスターを通過しなかったため、安息角を測定することができなかった。
Figure 2020059859
Figure 2020059859
表5に示すとおり、本発明のCFBは、高い含水率を有しながらもパウダーとして取り扱うことができる。一般に安息角は粒径が小さいほど、また含水率が小さいほど小さくなる。したがって、実施例B1およびB2で得たCFBは、含水率50重量%において58°未満の安息角を呈することが明らかである。比較例のセルロース粉末は、本発明で得られたCFBと比較して粒径が小さいので安息角を測定しやすいはずであるが、含水率が35%以上の領域ではパウダーテスターを通過することができず、安息角を測定できなかった。つまり、本発明で得られたCFBは粒径が大きく、かつ含水率が高い状態でも安息角の測定が可能である。一方、従来の粉末は高含水率であると安息角の測定ができない。よって、本発明のCFBは、従来の粉末とは異なる物性を有することが明らかである。
また、実施例B1〜B4で得たCFBについて、表6に示すとおりに各種特性を測定した。
Figure 2020059859
[評価方法]
崩壊角:安息角を求めた検体を載置した水平板に衝撃を3回加えて円錐状の検体を崩潰させ、安息角と同様にして角度を求め、崩壊角とした。
差角:安息角と崩壊角の差を差角とした。
ゆるめ嵩密度:パウダーテスターを用いて、一定容量の容器へ検体を自然落下により充填し、秤量して密度を求めた。
固め嵩密度:パウダーテスターを用いて、一定容量の容器へタッピングを行いながら検体を最密充填し後、秤量して密度を求めた。
圧縮度:[1−(ゆるめ嵩密度)/(固め嵩密度)]×100(%)の値を圧縮度とした。
分散度:10gの試料を、パウダーテスター(PT−X型、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて自然落下させ、落下地点に設置したウォッチグラス上に残存した粉体の量から評価した。具体的には、下記の式により粉体の分散度を計算した。
分散度(%)=((10−ウォッチグラス残存量)/サンプル投入量)×100
[実施例C1]CFBを用いた紙の製造
脱墨古紙パルプ(日本製紙株式会社製)に、硫酸バンド、カチオン化澱粉、実施例B1で得たCFB、PAM、歩留剤をこの順で添加し、さらに水を加えてパルプスラリーを調製した。配合量は以下のとおりとした。
脱墨古紙パルプ:96重量部
CFB:4重量部
硫酸バンド:脱墨古紙パルプとCFBの合計(パルプ系原料)に対して0.9重量%
カチオン化澱粉:パルプ系原料に対して0.3重量%
PAM:パルプ系原料に対して0.06重量%
歩留剤:パルプ系原料に対して200ppm
得られた抄紙用スラリーを用いて手抄きシートを製造して評価した。
[実施例C2]
実施例B2で得られたCFBを用いた以外は実施例C1と同様にして手すきシートを製造して評価した。
[比較例C1]
CFBを用いなかった以外は実施例C1と同じ方法で手すきシートを製造して評価した。これらの結果を表7に示す。
Figure 2020059859
[評価方法]
坪量:JIS P 8124:2011に従った。
紙厚および密度:JIS P 8118:2014に従った。
灰分:JIS P 8251:2003に従った。
透気抵抗度:JIS P8117:2009に従い、王研式平滑度透気試験機により測定した。
引張強度:JIS P8113:1998に準じて測定した。
引張こわさ:ISO/DIS 1924−3に規定された方法で測定した。
裂断長:JIS P 8113:1998に従った。
本発明の製造方法で得た紙は、優れた透気抵抗度と引張強度、引張こわさ、裂断長を有する。

Claims (12)

  1. 下記(1)〜(3)を満たす、微細セルロース繊維が絡まりあって形成されるセルロースファイバーボール。
    (1)レーザー回折式粒度計を用いた湿式測定による平均粒子径(D50)が50μm〜2mm。
    (2)平均アスペクト比(L/D)が10以下。
    (3)含水率50重量%における安息角が58°未満。
  2. 前記微細セルロース繊維が、化学変性セルロース繊維である、請求項1に記載のセルロースファイバーボール。
  3. 前記化学変性セルロース繊維がアニオン変性セルロース繊維である、請求項2に記載のセルロースファイバーボール。
  4. 前記平均粒子径(D50)が50μm〜1mmである、請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースファイバーボール。
  5. 前記セルロースファイバーボールは、2重量%の酸性水懸濁液とした後に当該懸濁液のpHを中性〜アルカリ性とすると水中で崩壊し、前記微細セルロース繊維が水中に分散した分散液を生成するという崩壊性を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のセルロースファイバーボール。
  6. 前記分散液中の前記繊維が、0.6mm以下の繊維の割合が15%以上であるという繊維長分布を有する、請求項5に記載のセルロースファイバーボール。
  7. 前記懸濁液のpHが酸性であるときの電荷密度の大きさをa(meq./g)、中性〜アルカリ性であるときの電荷密度の大きさをb(meq./g)とするとき、b−aが0.1(meq./g)以上である請求項5または6に記載のセルロースファイバーボール。
  8. 前記化学変性セルロース繊維が、0.3〜2.5mmol/gのカルボキシル基を有する、請求項2〜7のいずれかに記載のセルロースファイバーボール。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載のセルロースファイバーボールを含むパウダー。
  10. 請求項1〜8のいずれかに記載のセルロースファイバーボールを含む紙。
  11. 請求項2〜8のいずれかに記載のセルロースファイバーボールの製造方法であって、
    (A1)原料パルプを化学変性する工程、
    (A2)前記工程で得た化学変性パルプと水を含み、固形分濃度が15重量%以上である混合物を機械的処理して、セルロースファイバーボールを形成する工程、
    を含む製造方法。
  12. 前記(A1)と(A2)の工程の間に前記化学変性パルプを酸処理する工程を含む、請求項11に記載の製造方法。
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