JP2013120610A - 磁気記録ヘッドおよびこれを備えた磁気記録装置 - Google Patents

磁気記録ヘッドおよびこれを備えた磁気記録装置 Download PDF

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Abstract

【課題】高い周波数を維持しながら、大きな高周波磁界を発生することが可能な磁気記録ヘッドおよびこれを備えた磁気記録装置をを提供する。
【解決手段】実施形態によれば、磁気記録装置の磁気記録ヘッドは、記録磁界を印加する主磁極66と、主磁極にライトギャップWGを置いて対向するトレーリングシールド68と、主磁極とトレーリングシールドとの間に設けられ高周波磁界を発生するスピントルク発振子74と、スピントルク発振子に電流を流す電源と、を備えている。スピントルク発振子は、スピン注入層74b、中間層74c、発振層74dを有し、発振層は、体心立法結晶金属磁性層と、Coを含む金属磁性層との積層体を、2回以上繰り返し積層して形成され、体心立法結晶金属磁性層の膜厚と、Coを含む金属磁性層の膜厚とが、それぞれ0.2nmより大きくかつ3nm以下である。発振層の膜面に垂直方向の異方性磁界は、発振層の膜面に垂直な反磁界からギャップ磁界を引いた値よりも大きく、かつ反磁界よりも小さい。
【選択図】図4

Description

この発明の実施形態は、磁気記録ヘッドおよびこれを備えた磁気記録装置に関する。
磁気記録装置として、例えば、磁気ディスク装置は、ケース内に配設された磁気ディスクと、磁気ディスクを支持および回転するスピンドルモータと、磁気ディスクに対して情報のリード/ライトを行う磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動自在に支持したキャリッジアッセンブリと、を備えている。磁気ヘッドのヘッド部は、ライト用の記録ヘッドとリード用の再生ヘッドとを含んでいる。
近年、磁気ディスク装置の高記録密度化、大容量化あるいは小型化を図るため、垂直磁気記録用の磁気ヘッドが提案されている。このような磁気ヘッドにおいて、記録ヘッドは、垂直方向磁界を発生させる主磁極と、その主磁極のトレーリング側にライトギャップを挟んで配置されたトレーリングシールドと、主磁極に磁束を流すためのコイルとを有している。
記録密度の向上を図る目的で、主磁極とトレーリングシールドとの間に高周波発振子としてスピントルク発振子を設け、このスピントルク発振子から磁気記録層に高周波磁界を印加する高周波磁界アシスト記録方式の磁気記録ヘッドが提案されている。
特開08−056071号公報 特開2011−198399号公報 特開2011−141934号公報
高周波磁界アシスト記録方式の磁気記録ヘッドでは、ライトギャップに形成したスピントルク発振子の膜面垂直方向にギャップ磁界を印加して発振周波数を高める仕組みになっている。通常、ギャップ磁界は8から12kOe程度であるが、スピントルク発振子の発振層がスピントルクにより大きく回転している状態では、発振層中の反磁界は小さくなる。そのため、実効的に発振層にかかる磁界は、概ねギャップ磁界に近づく。そのときの発振周波数は、強磁性共鳴の原理に基づき、概ね20から30GHzに達する。この周波数帯域は、異方性磁界が20kOe程度までの磁気記録媒体に記録するために最適な周波数帯である。
一方、アシスト効果を増大させるには高周波磁界強度を大きくしていく必要があるが、そのためには、発振層の磁気体積を大きくする必要がある。発振層の磁気体積を大きくする方法には、発振層に高磁束密度(Bs)材料を用いるか、膜厚を厚くする方法がある。しかしながら、膜厚を厚くする方法は、ライトギャップが広くなることによる線記録分解能の悪化を招くため、高Bs化により磁気体積を上げることが望ましい。
ところが、従来開示されている発振層材料では、例えば、Fe−Co合金のように2Tを超えるような高Bsの材料を選択した場合、発振層の反磁界が大きいため、ギャップ磁界下においても磁化の方向は面内に傾いた状態となる。このような磁化の向きでは、スピントルク発振子電流を印加しても、周波数が非常に低く、安定した高周波の発振が得られない。すなわち、高周波磁界を高めるにあたって、安定して高周波数で得ることが困難となる。
そこで、本発明の課題は、高い周波数を維持しながら、大きな高周波磁界を発生することが可能な磁気記録ヘッドおよびこれを備えた磁気記録装置をを提供することにある。
実施形態によれば、磁気記録ヘッドは、記録磁界を印加する主磁極と、前記主磁極にライトギャップを置いて対向するトレーリングシールドと、前記主磁極とトレーリングシールドとの間に設けられ高周波磁界を発生するスピントルク発振子と、前記スピントルク発振子に電流を流す電源と、を備え、
前記スピントルク発振子は、スピン注入層、中間層、発振層を有し、
前記発振層は、体心立法結晶金属磁性層と、Coを含む金属磁性層との積層体を、2回以上繰り返し積層して形成され、体心立法結晶金属磁性層の膜厚と、Coを含む金属磁性層の膜厚とが、それぞれ0.2nmより大きくかつ3nm以下であり、
前記発振層の膜面に垂直な方向の異方性磁界が、前記発振層の膜面に垂直な反磁界からギャップ磁界を引いた値よりも大きく、かつ前記反磁界よりも小さい。
図1は、第1の実施形態に係る磁気ディスク装置(HDD)を示す斜視図。 図2は、前記HDDの磁気ヘッドおよびサスペンションを示す側面図。 図3は、前記磁気ヘッドのヘッド部を拡大して示す断面図。 図4は、前記記録ヘッドの磁気ディスク側の端部を拡大して示す断面図。 図5は、前記記録ヘッドをスライダのディスク対向面側から見た平面図。 図6は、前記記録ヘッドにおけるスピントルク発振子を模式的に示す断面図。 図7は、前記記録ヘッドのスピントルク発振子部分を拡大して示す断面図。 図8は、本実施形態に係る記録ヘッドと比較例に係る記録ヘッドとの磁界―発振周波数特性を比較して示す図。 図9は、本実施形態における実施例1ないし7および比較例1ないし5の発振層構成を示す図。 図10は、実施例1ないし7および比較例1ないし5について、印加する記録電流と発振周波数との関係を比較して示す図。 図11は、実施例1ないし7および比較例1ないし5について、記録電流を印加した際に生じる発振層磁化方向をそれぞれ示す図。
以下図面を参照しながら、種々の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、磁気記録ヘッドを備える磁気記録装置として、HDDのトップカバーを取り外して内部構造を示し、図2は、浮上状態の磁気ヘッドを示している。図1に示すように、HDDは筐体10を備えている。この筐体10は、上面の開口した矩形箱状のベース11と、図示しない矩形板状のトップカバーとを備えている。トップカバーは、複数のねじによりベースにねじ止めされ、ベースの上端開口を閉塞している。これにより、筐体10内部は気密に保持され、呼吸フィルター26を通してのみ、外部と通気可能となっている。
ベース11上には、記録媒体としての磁気ディスク12および駆動部が設けられている。駆動部は、磁気ディスク12を支持および回転させるスピンドルモータ13、磁気ディスクに対して情報の記録、再生を行なう複数、例えば、2つの磁気ヘッド33、これらの磁気ヘッド33を磁気ディスク12の表面に対して移動自在に支持したヘッドアクチュエータ14、ヘッドアクチュエータを回動および位置決めするボイスコイルモータ(以下VCMと称する)16を備えている。また、ベース11上には、磁気ヘッド33が磁気ディスク12の最外周に移動した際、磁気ヘッド33を磁気ディスク12から離間した位置に保持するランプロード機構18、HDDに衝撃等が作用した際、ヘッドアクチュエータ14を退避位置に保持するイナーシャラッチ20、およびプリアンプ、ヘッドIC等の電子部品が実装された基板ユニット17が設けられている。
ベース11の外面には、制御回路基板25がねじ止めされ、ベース11の底壁と対向して位置している。制御回路基板25は、基板ユニット17を介してスピンドルモータ13、VCM16、および磁気ヘッド33の動作を制御する。
図1および図2に示すように、磁気ディスク12は、垂直磁気記録膜媒体として構成されている。磁気ディスク12は、例えば、直径約2.5インチの円板状に形成され非磁性体からなる基板19を有している。基板19の各表面には、下地層としての軟磁性層23と、その上層部に、ディスク面に対して垂直方向に磁気異方性を有する垂直磁気記録層22とが順次積層され、さらにその上に保護膜24が形成されている。
図1に示すように、磁気ディスク12は、スピンドルモータ13のハブに同軸的に嵌合されているとともにハブの上端にねじ止めされたクランプばね21によりクランプされ、ハブに固定されている。磁気ディスク12は、駆動モータとしてのスピンドルモータ13により所定の速度で矢印B方向に回転される。
ヘッドアクチュエータ14は、ベース11の底壁上に固定された軸受部15と、軸受部から延出した複数のアーム27と、を備えている。これらのアーム27は、磁気ディスク12の表面と平行に、かつ、互いに所定の間隔を置いて位置しているとともに、軸受部15から同一の方向へ延出している。ヘッドアクチュエータ14は、弾性変形可能な細長い板状のサスペンション30を備えている。サスペンション30は、板ばねにより構成され、その基端がスポット溶接あるいは接着によりアーム27の先端に固定され、アームから延出している。各サスペンション30の延出端にジンバルばね41を介して磁気ヘッド33が支持されている。
図2に示すように、各磁気ヘッド33は、ほぼ直方体形状のスライダ42とこのスライダの流出端(トレーリング端)に設けられた記録再生用のヘッド部44とを有している。各磁気ヘッド33は、サスペンション30の弾性により、磁気ディスク12の表面に向かうヘッド荷重Lが印加されている。2本のアーム27は所定の間隔を置いて互いに平行に位置し、これらのアームに取り付けられたサスペンション30および磁気ヘッド33は、磁気ディスク12を間に挟んで互いに向かい合っている。
各磁気ヘッド33は、サスペンション30およびアーム27上に固定された中継フレキシブルプリント回路基板(以下、中継FPCと称する)35を介して後述するメインFPC38に電気的に接続されている。
図1に示すように、基板ユニット17は、フレキシブルプリント回路基板により形成されたFPC本体36と、このFPC本体から延出したメインFPC38とを有している。FPC本体36は、ベース11の底面上に固定されている。FPC本体36上には、プリアンプ37、ヘッドICを含む電子部品が実装されている。メインFPC38の延出端は、ヘッドアクチュエータ14に接続され、各中継FPC35を介して磁気ヘッド33に接続されている。
VCM16は、軸受部15からアーム27と反対方向に延出した図示しない支持フレーム、および支持フレームに支持されたボイスコイルを有している。ヘッドアクチュエータ14をベース11に組み込んだ状態において、ボイスコイルは、ベース11上に固定された一対のヨーク34間に位置し、これらのヨークおよびヨークに固定された磁石とともにVCM16を構成している。
磁気ディスク12が回転した状態でVCM16のボイスコイルに通電することにより、ヘッドアクチュエータ14が回動し、磁気ヘッド33は磁気ディスク12の所望のトラック上に移動および位置決めされる。この際、磁気ヘッド33は、磁気ディスク12の径方向に沿って、磁気ディスクの内周縁部と外周縁部との間を移動される。
次に、磁気ヘッド33の構成について詳細に説明する。図3は、磁気ヘッド33のヘッド部44を拡大して示す断面図、図4は、磁気記録ヘッドの磁気ディスク側の端部を拡大して示す断面図、図5は、記録ヘッド部分をスライダのABS側から見た平面図である。
図2および図3に示すように、磁気ヘッド33は浮上型のヘッドとして構成され、ほぼ直方体状に形成されたスライダ42と、スライダの流出(トレーリング)側の端部に形成されたヘッド部44とを有している。スライダ42は、例えば、アルミナとチタンカーバイドの焼結体(アルチック)で形成され、ヘッド部44は薄膜を積層して形成されている。
スライダ42は、磁気ディスク12の表面に対向する矩形状のディスク対向面(空気支持面(ABS))43を有している。スライダ42は、磁気ディスク12の回転によってディスク表面とディスク対向面43との間に生じる空気流Cにより、磁気ディスク表面から所定量浮上した状態に維持される。空気流Cの方向は、磁気ディスク12の回転方向Bと一致している。スライダ42は、磁気ディスク12表面に対し、ディスク対向面43の長手方向が空気流Cの方向とほぼ一致するように配置されている。
スライダ42は、空気流Cの流入側に位置するリーディング端42aおよび空気流Cの流出側に位置するトレーリング端42bを有している。スライダ42のディスク対向面43には、図示しないリーディングステップ、トレーリングステップ、サイドステップ、負圧キャビティ等が形成されている。
図3および図4に示すように、ヘッド部44は、スライダ42のトレーリング端42bに薄膜プロセスで形成された再生ヘッド54および磁気記録ヘッド56を有し、分離型磁気ヘッドとして形成されている。
再生ヘッド54は、磁気抵抗効果を示す磁性膜50と、この磁性膜のトレーリング側およびリーディング側に磁性膜50を挟むように配置されたシールド膜52a、52bと、で構成されている。これら磁性膜50、シールド膜52a、52bの下端は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。
記録ヘッド56は、再生ヘッド54に対して、スライダ42のトレーリング端42b側に設けられている。記録ヘッド56は、磁気ディスク12の表面に対して垂直方向の記録磁界を発生させる高飽和磁化材料からなる主磁極66と、主磁極66のトレーリング側に配置され、主磁極直下の軟磁性層23を介して効率的に磁路を閉じるために設けられたトレーリングシールド(リターン磁極)68と、磁気ディスク12に信号を書き込む際、主磁極66に磁束を流すために主磁極66およびトレーリングシールド68を含む磁気回路に巻きつくように配置された記録コイル71と、主磁極66の先端部66aとトレーリングシールド68との間の磁気キャップGWに設けられた高周波発振子、例えば、スピントルク発振子74と、を有している。
主磁極66とトレーリングシールド68とに電源70が接続され、この電源から主磁極66、トレーリングシールド68を通して電流を直列に通電できるように電流回路が構成されている。
主磁極66は、磁気ディスク12の表面に対してほぼ垂直に延びている。主磁極66の磁気ディスク12側の下端部は、磁気ディスク12に向かって幅が狭くなるように先細に絞り込まれ、その先端部66aは、他の部分に対して幅の狭い柱状に形成されている。図5に示すように、主磁極66の先端部66aは、例えば、断面が台形状に形成され、トレーリング端側に位置した所定幅のトレーリング側端面67a、トレーリング端面と対向しているとともにトレーリング側端面よりも幅の狭いリーディング側端面67b、および両側面を有している。主磁極66の下端面は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。トレーリング側端面67aの幅WT1は、磁気ディスク12におけるトラックの幅にほぼ対応している。
図3に示すように、トレーリングシールド68は、ほぼU字形状に形成され、その先端部68aは、細長い矩形状に形成されている。トレーリングシールド68の先端面は、スライダ42のディスク対向面43に露出している。先端部68aのリーディング側端面68bは、磁気ディスク12のトラックの幅方向に沿って延びている。このリーディング側端面68bは、主磁極66のトレーリング側端面67aとライトギャップWG(例えば、40nm)を置いてほぼ平行に対向している。
トレーリングシールド68は、スライダ42のディスク対向面43から離れた位置で、主磁極66の上部に接近した連結部65を有している。この連結部65は、例えばSiO2等の絶縁体で形成されたバックギャップ部67を介して主磁極66に連結されている。この絶縁体により、主磁極66とトレーリングシールド68とが電気的に絶縁している。このように、バックギャップ部67を絶縁体で構成することにより、スピントルク発振子74の電極と兼用している主磁極66およびトレーリングシールド68を通じて、電源70からスピントルク発振子74に効率的に電流を印加することが可能となる。バックギャップ部67の絶縁体はSiO2の他にも、Al23を用いてもよい。
図3ないし図5に示すように、スピントルク発振子74は、主磁極66の先端部66aのトレーリング側端面67aとトレーリングシールド68のリーディング側端面68bとの間に挟まれ、これらの端面と平行に配置されている。すなわち、スピントルク発振子74は、ライトギャップWG内で主磁極先端部のトラック幅方向幅WT1の範囲内に整位して位置し、スピントルク発振子74のトラック幅方向長さWT2は、主磁極66のトレーリング側端面67aのトラック幅方向長さWT1と等しく形成されている。
図4、図5、図6に示すように、スピントルク発振子74は、例えば、Ta/Ru/Cuの積層膜からなる下地層74a、0.2nm厚のCo/0.6nm厚のNiの積層体を10回積層した人工格子膜からなるスピン注入層(第2磁性体層)74b、Cuからなる中間層74c、Fe/Co磁性膜からなる発振層(第1磁性体層)74d、Cu/Ruの積層膜からなるキャップ層(保護層)74eを、主磁極66側からトレーリングシールド68側に順に積層して構成されている。すなわち、下地層74a、スピン注入層74b、中間層74c、発振層(第1磁性体層)74d、キャップ層74eは、スライダ42のABS43あるいは磁気ディスク表面と平行な方向に順に積層され、各層は、ABSと直交する方向に延びている。素子サイズは、例えば、40nm角になるようにパターニングされている。また、スピントルク発振子74全体の層厚方向の厚さは、ライトギャップWGに対応している。そして、下地層74aとキャップ層74eが、電極を兼用する主磁極66とトレーリングシールド68にそれぞれ接続している。下地層74aとキャップ層74eの両方、あるいは、一方は、省略可能であり、その場合は、スピントルク発振子74のスピン注入層74bおよび発振層74dが直接、主磁極66とトレーリングシールド68に接続される。
発振層74dの材料は軟磁性材料であることが望ましく、FeCoAl、FeCo/Ni、Fe/Ni、Fe/Coなど、Coを含む金属を積層した人工格子磁性層、あるいは、Coを積層した人工格子磁性層が用いられる。本実施形態では、図6に示すように、発振層74dは、体心立法結晶(bcc)金属磁性層80aと、Coを含む金属磁性層80bとの積層体を、2回以上繰り返し積層して形成され、bcc金属磁性層80aの膜厚と、Coを含む金属磁性層80bとの膜厚が、それぞれ0.2nmより大きくかつ3nm以下となっている。これらの積層体は、スライダ42のABS43あるいは磁気ディスク表面と平行な方向に順に積層され、各層は、ABSと直交する方向に延びている。bcc金属磁性層80aとしては、例えば、Fe磁性層、Fe/Co磁性層を用いることができる。
スピン注入層74bの材料は、垂直磁気異方性を有する材料であることが望ましい。なぜなら、発振層74dが発振する際に発生する高周波磁界や、スピントルクの反作用の下でも、常にギャップ磁界の方向に磁化の向きが一定している必要があるためである。具体的には、CoCr系磁性層、例えば、CoCrPt、CoCrTa、CoCrTaPt、CoCrTaNb、RE(Rare Earth)−TM(Transition Metal)系合金磁性層、例えば、TbFeCo、Co合金とPd、Pt、Ni等白金族元素を用いた合金の人工格子磁性層、例えば、Co/Pd、Co/Pt、CoCrTa/Pd、Co/Ni、Co/NiPt、FeCo/Ni、FeCo/Pt等、CoPt系やFePt系の合金磁性層、SmCo系合金磁性層など、垂直磁気異方性に優れた材料も適宜用いることができる。
また、スピン注入層74bは、必ずしも垂直磁気異方性膜のみで構成する必要はなく、垂直磁気異方性膜と中間層との間に、軟磁性層を形成した構成であっても、トータルで十分な垂直磁気異方性を有すれば良い。具体的には、2nm程度の、FeCo合金、あるいはFeCo合金にAl、Si、Ga、Ge、Cuなどの添加物を加えた、比較的スピン分極率の大きい材料を形成することで、トータルの垂直磁気異方性を維持しつつ、良好なスピン注入能力を得ることが出来る。これらの垂直磁気異方性は、大きければ大きいほどスピン注入能力が安定するが、大きすぎるとギャップ磁界の反転に対して追随せず、発振が不安定になる。そのため、垂直磁気異方性の大きさは、ギャップ磁界で反転する程度の大きさであることが望ましい。
一方で、スピン注入層74bの垂直磁気異方性は、発振層74dからの反作用に耐えることが目的で付与されるため、逆にいえば、他の方法により1の反作用に耐えれば、必ずしも垂直磁気異方性を付与する必要はない。具体的には、主磁極66、あるいはトレーリングシールド68は、記録電流が印加された際に、ギャップ磁界の向きに磁化の向きが強く拘束され、かつ、体積が大きいため反作用の影響を受けにくく、スピン注入層74bとして機能する。
中間層74cの材料は、スピントルクを増大するために、電流を流しやすい材料が好ましい。具体的には、貴金属、例えば、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Ru、Os、Ir、あるいは、非磁性遷移金属、例えば、Cr、Rh、Mo、W、Al、Mg、Ni−Al、Al−Cu、Au−Cu等からなる非磁性金属層などを用いることができる。また、中間層74cは、アルミナなどの絶縁体母材とCu、あるいは絶縁体母材とAg、あるいは絶縁体母材とAu、または、絶縁体母材とNi、Fe、Coのいずれかからなる合金からなる電流狭窄構造としてもよい。
発振層74d、スピン注入層74bおよび中間層74cに用いられる材料及びこれらの大きさは任意に選択可能である。
なお、スピン注入層74b、中間層74c、発振層74dの順に積層したが、発振層、中間層、スピン注入層の順に積層してもよい。この場合、主磁極66と発振層74dとの距離が近くなり、主磁極66が発生する記録磁界と、発振層が発生する高周波磁界とが効率的に重畳する範囲が、媒体上で広くなり、良好な記録が可能となる。
スピントルク発振子74は、その先端がABS43に露出し、磁気ディスク12の表面に対して、主磁極66の先端面と同一の高さ位置に設けられている。図3に示すように、上記のように形成された再生ヘッド54および記録ヘッド56は、スライダ42のディスク対向面43に露出する部分を除いて、保護絶縁膜72により覆われている。保護絶縁膜72は、ヘッド部44の外形を構成している。
スピントルク発振子74は、前述した制御回路基板25の制御の下、電源70から主磁極66、トレーリングシールド68に電圧を印加することにより、スピントルク発振子74の膜厚方向に直流電流が印加される。通電することにより、スピントルク発振子74の発振層74dの磁化が回転し、高周波磁界を発生させることが可能となる。これにより、磁気ディスク12の記録層に高周波磁界を印加する。このように、トレーリングシールド68と主磁極66はスピントルク発振子74に垂直通電する電極として働くことになる。
図7に示すように、発振層74dに、bcc金属磁性層80aと、Coを含む金属磁性層80bとを繰り返し積層した積層構造(人工格子)を用いることで、発振層74dの膜面に垂直な垂直異方性磁界Hkを付与し、高磁束密度(Bs)(2T以上)を得ると同時に、ギャップ磁界Hgapによる膜面垂直方向への磁化の整列を得ることができる。これにより、発振層74dの膜面垂直方向の異方性磁界Hkは、発振層74dの膜面に垂直でかつギャップ磁界Hgapに対して逆向きな方向に生じる反磁界Hdiaから、主磁極66に記録磁界を発生させたときに生じるギャップ磁界Hgapを引いた値よりも大きく、かつ、反磁界Hdiaよりも小さい(Hdia > Hk)とすることができる。発振層74dにおいてギャップ磁界Hgapによる膜面垂直方向の磁化が達成された場合、スピン注入層74bと発振層74dの磁化が平行な関係になると、スピン注入層74bから発振層74dに電流を印加したときに、スピン注入層からのトルクが最も効率よく機能し、それにより、発振層74dの磁化回転が非常に強くなり、結果として周波数が増大する。すなわち、発振層74dが膜面内方向において正方形である場合には、垂直異方性磁界Hkとギャップ磁界Hgapとの合計が反磁界Hdiaの1.5倍から磁束密度Bの半分を減じた値よりも大きくした場合に(1.5Hdia−0.5B<Hk + Hgap)、発振層74dにおいてギャップ磁界Hgapによる膜面垂直方向の磁化が達成される。発振層74dが膜面内方向において長方形である場合には、発振層74dにおいてギャップ磁界Hgapによる膜面垂直方向の磁化が達成するにあたって、正方形の場合と比較して、より大きなHkあるいはHgapが必要となるが、少なくとも垂直異方性磁界Hkとギャップ磁界Hgapとの合計が反磁界Hdiaよりも大きく(Hdia < Hk + Hgap)なる場合には膜面垂直方向の磁化が達成できる。
一方で、発振層74dの反磁界Hdiaが大きく、ギャップ磁界Hgapによる平行磁化配列が得られない場合、スピン注入層74bからのトルクの効率が低下する。そのため、発振層74dの磁化回転が弱くなり、結果として適切な発振周波数が達成できない。このような理由で、スピントルク発振子74に電流を印加して発振させることにより、図8に示すように、本実施形態に係るスピントルク発振子74は、発振層が膜面垂直方向の磁化異方性を持たない比較例に比較して、高い周波数を維持しながら、大きな高周波磁界を達成すことができる。結果として、高周波アシスト効果を増強することができる。
また、発振層74dの垂直異方性磁界Hkが大きすぎると、発振層の磁化の向きが安定になってしまい、発振させるための電流値が増大してしまう。一方で、ギャップ磁界Hgapが存在しない状態でも膜面垂直方向に磁化が整列するような、垂直異方性磁界Hkが非常に大きい場合、スピン注入層74bと発振層74dの磁化安定性が等価に近づいていくため、スピントルク発振子74に電流を印加した際に、注入側と発振側とで明確に磁化安定性を区別することができず、双方の磁化が微小に発振するモードが発現する。これを避けるためには、前述のとおり、発振層74dの垂直異方性磁界Hkが強くなりすぎないように調整することで、磁化安定性の差を明確化し、発振層側をスピン注入層側より明確に磁化不安定にする必要がある。具体的には、少なくともギャップ磁界Hgapが作用していない状態では、発振層74dにおける磁化の向きが膜面と平行(面内)であるように垂直異方性磁界Hkと反磁界Hdiaのバランスを保つようにしている。
図9に示すように、実施例1ないし7、および比較例1ないし5に係る発振層74dを有するスピントルク発振子を用意し、その磁気特性を比較検討した。
実施例1では、発振層74dは、1nm厚のFe50Co50層と1nm厚のCo層との積層体を6回積層して構成されている。
実施例2では、発振層74dは、1.5nm厚のFe50Co50層と1.5nm厚のCo層との積層体を6回積層して構成されている。
実施例3では、発振層74dは、2nm厚のFe50Co50層と2nm厚のCo層との積層体を3回積層して構成されている。
実施例4では、発振層74dは、1nm厚のFe層と1nm厚のCo層との積層体を6回積層して構成されている。
実施例5では、発振層74dは、2nm厚のFe層と2nm厚のCo層との積層体を3回積層して構成されている。
実施例6では、発振層74dは、1nm厚のFe層と1nm厚のCo90Fe10層との積層体を6回積層して構成されている。
実施例7では、発振層74dは、2nm厚のFe層と2nm厚のCo90Fe10層との積層体を3回積層して構成されている。
また、比較例1では、発振層74dは、0.2nm厚のFe層と0.2厚のCo層との積層体を30回積層して構成されている。
比較例2では、発振層74dは、5nm厚のFe層と5nm厚のCo層との積層体を2回積層して構成されている。
比較例3では、発振層74dは、4nm厚のFe層と4nm厚のCo層との積層体を2回積層して構成されている。
比較例4では、発振層74dは、1.5厚のCo90Fe10層と1.5nm厚のCo層との積層体を6回積層して構成されている。
比較例5では、発振層74dは、1.5nm厚のFe層と1.5nm厚のCo50Fe50層との積層体を6回積層して構成されている。
図9に示すように、実施例1から7においては、発振層は、比較的良好な垂直磁気異方性が得られている。一方、比較例1から5では、発振層の垂直磁気異方性は非常に弱くなっている。実施例1から7について、各々の人工格子の、1周期において、左側に記載した磁性層は、電子線解説の結果から、bcc構造であることが確認できた。
一方、比較例4の人工格子の、1周期において、左側に記載した磁性層は、電子線解説の結果から、面心立法結晶(fcc)構造であることが確認できた。このように、実施例1ないし7の良好な垂直磁気異方性は、bcc構造を持つ金属磁性層の積層によって達成されることが分かる。
比較例1では、人工格子周期を非常に細かくした結果、垂直磁気異方性が失われている。これは実質的に磁性層毎の特性が失われ、合金化した特性が発現したためである。また、比較例2、3は、人工格子周期を非常に大きくしたため、垂直磁気異方性が失われている。これは各磁性層の特性の平均特性が出現し、人工格子特有の特性が失われたためである。また、比較例5は、実施例1ないし7と比較して、小さな異方性磁界Hkとなる。この人工格子の、1周期において、左側に記載した磁性層は、電子線解説の結果から、bcc構造であることが確認できたが、一方で、この人工格子の、1周期において、右側に記載した磁性層も電子線解説の結果から、bcc構造であることが確認できた。このように、bccどうしの場合、良好な異方性磁界Hkが得られにくい事が分かる。
実施例1ないし7、比較例1ないし5のスピントルク発振子を備える記録ヘッドについて、発振特性の評価を行った。スピントルク発振子74に駆動電流をスピン注入層74bから発振層74dの方向に5mA印加した。同時に、記録電流を記録コイル71に印加し、ギャップ磁界を発生して、スピントルク発振子74の発振状態を観察した。発振周波数の測定は、スピントルク発振子74の巨大磁気抵抗効果(GMR)による電気信号をスペクトルアナライザーに取り込んで評価した。
図10は、実施例1ないし7、比較例1ないし5について、発振周波数の記録電流依存性を示している。比較的大きな垂直異方性磁界Hkを持つ実施例1ないし7では、高周波アシスト記録に必要な20GHz以上の周波数を得ることができた。一方で、比較的小さな垂直異方性磁界Hkをもつ比較例1ないし5では、発振周波数は20GHzに到達することができなかった。
これらの実施例1ないし7、および比較例1ないし5について、記録電流36mA、スピントルク発振子の駆動電流ゼロの場合の発振層74dの磁化の向きを計算により求めた。発振層74dにおける磁化の向きは、ギャップ磁界と、発振層の反磁界と、スピン注入層74bからの静磁気結合を考慮して見積もった。その結果を図11に示す。実施例1から7では、良好な高い周波数の発振が得られた発振層の磁化が、膜面垂直の向きになっていることが分かり、比較例1ないし5では、発振層の磁化が膜面内方向、ずなわち、発振層を構成する各層の面と平行な方向となることが分かる。
発振動作シミュレーションを行い、上記の結果を理論的に説明できるように確認した。その結果、比較例1ないし5のように、スピントルク発振子74の駆動電流がゼロのときの発振層74dの磁化の向きが面内である場合には、外部から磁場を印加した状態でも発振周波数は上昇しないことがしめされた。
以上のことから、実施例1ないし7のように、発振層74dは、bcc金属磁性層80aと、Coを含む金属磁性層80bとを繰り返し積層し、bcc金属磁性層の膜厚と、Coを含む強磁性層との膜厚が、それぞれ0.2nmより大きくかつ3nm以下である積層構造(人工格子)とし、発振層74dの膜面垂直方向の異方性磁界Hkが、その反磁界Hdiaから、主磁極に記録磁界を発生させたときに生じるギャップ磁界Hgapを引いた値よりも大きく(Hdia < Hk + Hgap)、かつ、反磁界よりも小さく(Hdia > Hk)することにより、スピントルク発振子74は、高い周波数を維持しながら、大きな高周波磁界を達成できることが分かる。
以上のように構成された磁気記録ヘッドおよびHDDによれば、高周波発振子により高い周波数を維持しながら、強い高周波磁界を発生することができ、結果として、高周波アシスト効果を増強することができる。これにより、より高密度、高精細な磁気記録を達成することができる。
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、発振層を構成するbcc金属磁性層とCoを含む磁性層との積層体の積層数は、実施形態および実施例に限定されることなく、必要に応じて増減可能である。スピントルク発振子を構成する磁性層の材料は、上述した実施形態に限定されることなく、適宜選択可能である。
10…筺体、11…ベース、12…磁気ディスク、13…スピンドルモータ、
30…サスペンション、42…スライダ、43…ディスク対向面、
44…ヘッド部、54…再生ヘッド、56…記録ヘッド、66…主磁極、
66a…先端部、68…トレーリングシールド、68a…先端部、
70…電源、71…記録コイル、74…スピントルク発振子、74b…スピン注入層、
74c…中間層、74d…発振層、74e…キャップ層(保護層)、
80a…bcc金属磁性層、80b…Coを含む金属磁性層、WG…ライトギャップ
Hk…異方性磁界、Hdia…反磁界、Hgap…ギャップ磁界
実施形態によれば、磁気記録ヘッドは、記録磁界を印加する主磁極と、前記主磁極にライトギャップを置いて対向するトレーリングシールドと、前記主磁極とトレーリングシールドとの間に設けられ高周波磁界を発生するスピントルク発振子と、前記スピントルク発振子に電流を流す電源と、を備え、
前記スピントルク発振子は、スピン注入層、中間層、発振層を有し、
前記発振層は、体心立法結晶金属磁性層と、Coを含む金属を積層した人工格子磁性層との積層体を、2回以上繰り返し積層して形成され、体心立法結晶金属磁性層の膜厚と、Coを含む金属を積層した人工格子磁性層の膜厚とが、それぞれ0.2nmより大きくかつ3nm以下であり、
前記発振層の膜面に垂直な方向の異方性磁界が、前記発振層の膜面に垂直な反磁界からギャップ磁界を引いた値よりも大きく、かつ前記反磁界よりも小さい。

Claims (6)

  1. 記録磁界を印加する主磁極と、前記主磁極にライトギャップを置いて対向するトレーリングシールドと、前記主磁極とトレーリングシールドとの間に設けられ高周波磁界を発生するスピントルク発振子と、前記スピントルク発振子に電流を流す電源と、を備え、
    前記スピントルク発振子は、スピン注入層、中間層、発振層を有し、
    前記発振層は、体心立法結晶金属磁性層と、Coを含む金属磁性層との積層体を、2回以上繰り返し積層して形成され、体心立法結晶金属磁性層の膜厚と、Coを含む金属磁性層の膜厚とが、それぞれ0.2nmより大きくかつ3nm以下であり、
    前記発振層の膜面垂直方向の異方性磁界が、前記発振層の膜面に垂直な方向の反磁界からギャップ磁界を引いた値よりも大きく、かつ前記反磁界よりも小さい磁気記録ヘッド。
  2. 前記体心立方結晶金属磁性層はFe、前記Coを含む金属磁性層はCoで形成されている請求項1に記載の磁気記録ヘッド。
  3. 前記発振層は、その磁化の向きが、記録電流を流さず、かつ、前記スピントルク発振子に電流を流さないときに、前記発振層の膜面と平行な方向にあり、
    前記記録ヘッドに記録電流を流し、かつ、前記スピントルク発振子に電流を流さないときは、前記発振層の磁化の向きが前記発振層の膜面に垂直方向にある請求項1又は2に記載の磁気記録ヘッド。
  4. ディスク状の記録媒体と、
    前記記録媒体を回転する駆動部と、
    前記記録媒体に対し情報処理を行う請求項1に記載の磁気記録ヘッドと、
    を備える磁気記録装置。
  5. 前記体心立方結晶金属磁性層はFe、前記Coを含む金属磁性層はCoで形成されている請求項4に記載の磁気記録装置。
  6. 前記発振層は、その磁化の向きが、記録電流を流さず、かつ、前記スピントルク発振子に電流を流さないときに、発振層の膜面と平行な方向にあり、
    前記記録ヘッドに記録電流を流し、かつ、前記スピントルク発振子に電流を流さないときは、前記発振層の磁化の向きが発振層の膜面に垂直方向にある請求項4又は5に記載の磁気記録装置。
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