JP2013083001A - Cu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末とその製造方法 - Google Patents

Cu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末とその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】永久磁石用として使用されるCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末とそれを還元拡散法により低コストで効率的に製造する方法を提供。
【解決手段】希土類酸化物粉末もしくは希土類酸化物粉末および希土類金属粉末と、含鉄粉末、含硼素粉末からなる原料粉末に前記酸化物粉末を還元するのに十分な量の還元剤を混合し、還元拡散法によりCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末を製造する方法であって、原料粉末として、さらに含銅粉末を組成範囲がCu換算で0.003〜1.5重量%となるように混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気下で900℃〜1200℃の温度で0.5時間以上保持して熱処理し、得られた反応生成混合物を湿式処理した後、乾燥することを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法;この製造方法により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末によって提供。
【選択図】図1

Description

本発明は、Cu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末とその製造方法に関し、より詳しくは、永久磁石用として使用されるCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末とそれを還元拡散法により低コストで効率的に製造する方法に関するものである。
希土類元素の少なくとも一種を構成成分とする永久磁石に、希土類元素−鉄−硼素(「R−Fe−B」)系永久磁石がある。このR−Fe−B系永久磁石の組織は、RFe14B相、Rリッチ相、Bリッチ相から構成され、各相の構成比率により磁石特性が異なる。このため、種々の特性の永久磁石に対応した組成のR−Fe−B系永久磁石が提案されている。
R−Fe−B系永久磁石の原料にはR−Fe−B系合金粉末が使用されるが、この合金粉末の製造法には溶解法と還元拡散法とがある。
溶解法は、構成成分となる金属や母合金を目的組成に調合し、溶解し、これにより得た合金塊を粉砕するものである。例えば、特許文献1には、R(Rは、Yを含む希土類元素の少なくとも1種である)、T(Tは、Fe、またはFeおよびCoである)およびBを主成分とする合金溶湯を、単ロ−ル法、双ロ−ル法または回転ディスク法により一方向または対向する二方向から冷却して製造する方法が記載されている。
また、特許文献2には、希土類金属−鉄2元系合金溶融物を、タンディッシュを介した単ロ−ルによるストリップキャスティング法により冷却速度100〜1000℃/秒、過冷度200〜500℃の冷却条件下で均一に凝固させることを特徴とする永久磁石用希土類金属−鉄2元系合金鋳塊の製造法が記載されている。
さらに、特許文献3の実施例には、Ndと電解鉄とフェロボロンとBiとフェロタングステンとを出発原料とし、所望の組成となるように配合してア−ク溶解法によって合金化し、次に均質化熱処理、粗粉砕、微粉砕する永久磁石の製造例が記載されている。
しかし、これらの方法では粉砕工程が必要であり、しかも希土類金属は酸化に対して高活性であるため粉砕過程で酸化が進行し、合金品質が低下するという欠点がある。
一方、還元拡散法は、希土類酸化物粉末、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属粉末、鉄−ホウ素合金粉末あるいは酸化ホウ素粉末と、還元剤としてのアルカリ土類金属とを混合し、加熱して原料酸化物を還元し、拡散反応で希土類金属と遷移金属などを合金化し、次いで湿式処理して合金粉末を得るものであり、溶解法と比較して低コストで均一な組成の合金粉末を得ることができる。
還元拡散法は、溶解法に比べて原料が安価であり、熱処理温度が低く、得られた合金の組織が緻密で、かつ組成の調整がしやすく、その上合金塊の表面処理、粉砕工程などが不要であるなど、多くの利点を有する。この還元拡散法による合金の製造方法には、例えば、特許文献4があり、希土類の酸化物またはハロゲン化物をFe及びBの存在下でCa還元して、3wt%〜20wt%Fe、0.5wt%〜10wt%B、残部実質的に希土類金属よりなるFe−B−R中間原料合金を得ることが記載されている。
そして、本出願人も、28〜35重量%の希土類元素と、1.0〜1.5重量%のホウ素と、残部の鉄または鉄合金からなり、該鉄合金がニッケルとコバルトの少なくとも一種を含有する磁石用合金粉末を還元拡散法で製造するに際し、前記合金粉末を混合した後、100〜1000kg/cmの圧力で成型し、次いで1000〜1200℃で還元拡散反応を起こさせてから粉末にすることを提案している(例えば、特許文献5)。
また、特許文献6には、R(RはNd、Pr、Dy、Ho、Tbのうち少なくとも1種あるいはさらに、La、Ce、Sm、Gd、Er、Eu、Tm、Yb、Lu、Yのうち少なくとも1種からなる)12原子%〜20原子%、B4原子%〜20原子%、Fe65原子%〜81原子%を主成分とし、主相が正方晶からなる希土類磁石用合金粉末の製造において、該希土類酸化物のうち少なくとも1種と、鉄粉と純ボロン粉、フェロボロン粉および硼素酸化物のうち少なくとも1種、あるいは上記構成元素の合金粉または混合酸化物を上記組成に配合した混合粉に、上記希土類酸化物などの原料粉末に含まれる酸素量に対して、化学量論的必要量の1.5〜3.5倍の金属Caと希土類酸化物の1wt%〜15wt%のCaClを混合し、不活性ガス雰囲気中で900℃〜1200℃に加熱して還元拡散を行い、得られた反応生成物を、15℃以下に冷却したイオン交換水中に投入してスラリ−化し、さらに該スラリ−を15℃以下に冷却したイオン交換水により処理することを特徴とする希土類磁石用合金粉末の製造方法が記載されている。
R−Fe−B系永久磁石は、希土類磁石の中でも飽和磁化が高いことから民生用小型電子機器やコンピュータ周辺機、MRI、さらには産業用モータや自動車へと用途を広げている。近年、ハイブリッド車や電気自動車が普及し始めたが、これらの用途では耐熱性を高め、磁気特性を向上させるためにR−Fe−B系合金にDyの添加が必須である(特許文献4、6)。しかし、当該元素は、地球上の存在比がNdの10%程度であり、価格もNdの約3倍と高く、かつ供給不安を伴うといった問題がある。
この問題を解決する方法として、Nd−Fe−B系合金粉末の粒度をより微細にするために、水素化−不均化−脱水素−再結合処理(HDDR)法による合金粉末の製造が開発され、0.3〜0.5μmの結晶粒径を有するHDDR磁粉を短時間ホットプレスすることで、Dyを含まない組成においても高い保磁力を発揮する可能性があると報告されている(非特許文献1参照)。しかし、このHDDR処理用の合金は、原料を溶解、鋳造した後、均熱化処理を行い、水素吸蔵崩壊の処理工程を必要とし、生産性が悪い。
一方、特許文献7には、希土類元素を含む磁性合金の表面に該磁性合金の共晶点よりも低温で液相を生じ得る浸透材(CuNd合金)をスパッタリングで付着させる付着工程と、該付着工程後に350〜625℃で加熱して該磁性合金の結晶粒の粒界へ該浸透材を浸透拡散させる浸透工程とを備え、該結晶粒が少なくとも該浸透材の構成元素で被包された希土類磁石が得られることを特徴とする希土類磁石の製造方法が記載されている。この方法によれば、高保磁力発現の理想的な組織構造を有する磁石が得られる。しかしながら、それを製造する工程は、希土類元素を含む磁性合金の製造工程、浸透材の付着工程および浸透工程から構成され、工程数が多く生産性に問題がある。
特許第3932143号公報 特許第3455552号公報 特開2004−6767号公報 特公平4−35548号公報 特開平10−280002号公報 特公平6−922号公報 特開2011−61038号公報
日立金属技報、Vol.27、(2011)、34−41
本発明は、上記従来のDyフリ−の希土類磁石の製造における問題点、すなわち、生産性が低いことに着目してなされたもので、その課題とするところは、永久磁石用として使用されるCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末とそれを還元拡散法により低コストで効率的に製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべくDyを含まないNd−Fe−B系磁石について鋭意研究を重ねた結果、希土類酸化物粉末もしくは希土類酸化物粉末および希土類金属粉末、含鉄粉末、含硼素粉末からなる原料粉末に少なくとも特定量の含銅粉末を加え、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選ばれる還元剤と混合し、特定の条件で還元拡散反応させることにより、CuをNdと共に主相のNdFe14B粒子間の粒界に存在させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、希土類酸化物粉末もしくは希土類酸化物粉末および希土類金属粉末と、含鉄粉末、含硼素粉末からなる原料粉末に前記酸化物粉末を還元するのに十分な量の還元剤を混合し、還元拡散法によりCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末を製造する方法であって、原料粉末として、さらに含銅粉末を混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気下で900℃〜1200℃の温度で0.5時間以上保持して熱処理し、得られた反応生成混合物を湿式処理した後、乾燥することを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法により提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記の含銅粉末は、組成範囲がCu換算で0.003〜1.5重量%となるように混合することを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法により提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1または2の発明において、さらに含アルミニウム粉末を添加することを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法により提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記含アルミニウム粉末の組成範囲がAl換算で0.003〜1.5重量%であることを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法により提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記熱処理の保持時間が1〜5時間であることを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法により提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記還元剤と共に、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物から選ばれる少なくとも1種のフラックスを使用することを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法により提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明の製造方法により得られた、Cu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末により提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、前記Cuが、主相Nd2Fe14B粒子内に存在せず、Ndと共に主相間の粒界に存在することを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末により提供される。
また、本発明の第9の発明によれば、第7の発明において、前記Alが、主相Nd2Fe14B粒子内に散在していることを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末により提供される。
本発明によれば、Cu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末が、特定の還元拡散法で製造されるため生産性が極めて高い。また、原料にDyを用いないために、低コストである。しかも、Cu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末は、CuがNdと共に主相のNdFe14B粒子間の粒界に存在するため、高い磁気特性が期待できる。
本発明により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(合金粉末a)の断面SEMの反射電子像を示す写真である。 本発明により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(合金粉末a)の断面SEMのNd分布を示す写真である。 本発明により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(合金粉末a)の断面SEMのFe分布を示す写真である。 本発明により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(合金粉末a)の断面SEMのCu分布を示す写真である。 本発明により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(合金粉末l)の断面SEMの反射電子像を示す写真である。 本発明により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(合金粉末l)の断面SEMのNd分布を示す写真である。 本発明により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(合金粉末l)の断面SEMのFe分布を示す写真である。 本発明により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(合金粉末l)の断面SEMのCu分布を示す写真である。 本発明により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(合金粉末l)の断面SEMのAl分布を示す写真である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて具体的に説明する。
本発明は、希土類酸化物粉末もしくは希土類酸化物粉末および希土類金属粉末と、含鉄粉末、含硼素粉末からなる原料粉末に前記酸化物粉末を還元するのに十分な量の還元剤を混合し、還元拡散法によりCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末を製造する方法であって、原料粉末として、さらに含銅粉末もしくは含銅粉末および含アルミニウム粉末を特定量混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気下で900℃〜1200℃の温度で熱処理し、得られた反応生成混合物を湿式処理した後、乾燥することを特徴とする。
1.原料粉末
本発明において用いられる希土類元素としては、例えばGd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Lu、Pm、Y、Scなどの希土類金属酸化物粉末や希土類金属粉末が、1種もしくは2種以上を組み合わせて使用される。なかでもNdを必須とする。純度は、99.9%以上のものが好ましい。使用量は、希土類元素の組成範囲が20〜30重量%となるようにする。
含鉄原料は酸化鉄粉末や鉄粉が好ましく、含硼素原料は酸化硼素粉末やフェロボロン粉末などの合金粉末が好ましい。純度は、99%以上のものが好ましい。使用量は、組成範囲がFe65〜77重量%、B0.5〜2重量%となるようにする。
また、含銅原料は酸化銅粉末や銅粉が好ましい。純度は、99%以上のものが好ましい。銅は、Ndと合金化し、Nd−Fe−Bの主相同士で形成される粒子の粒界に存在するに十分な使用量とする。Cuの使用量は、組成範囲が0.003〜1.5重量%となるようにする。0.003重量%未満では主相NdFe14B粒子の磁気的孤立化が不十分であり、1.5重量%を超えると過剰の銅はCuとして存在し、いずれにおいても磁気特性が低下する。Cuの使用量は、組成範囲が0.005〜1.0重量%となることが好ましく、0.007〜1.0重量%となることがより好ましい。
また、本発明において原料粉末には、さらに含アルミニウム原料は酸化アルミニウム粉末やアルミニウム粉を含むことができる。純度は、99%以上のものが好ましい。Alの使用量は、組成範囲が0.003〜1.5重量%となるようにする。0.003重量%以上使用すると主相NdFe14B粒子の磁気的孤立化をより高めることができる。ただ、1.5重量%を超えると過剰のアルミニウムが阻害元素となって、磁気特性が低下することがある。
また、原料粉末の粒度は特に限定されないが、50μm以下とすることが望ましい。50μmを越えると混合性が悪化し、均一な組成の合金粉末を得ることが困難となる可能性がある。好ましいのは、10〜30μmである。なお、各原料粉末の粉砕、混合手段は特に限定されない。混合には、例えば、Vブレンダ−、Sブレンダ−など、公知の混合機を用いることができる。
2.還元剤、フラックス
本発明において、還元剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの水素化物から選ばれる少なくとも1種、例えば、Li、Na、K、Ca、Mg等、およびこれらの水素化物を、それぞれ単独または2種以上の組み合わせで使用する。これら還元剤の形状は、例えば粒状または粉末状で使用する。また、これらの還元剤は、反応等量(Ndを還元するのに必要な化学量論量)の1.1〜2.0倍量となる割合で使用する。多すぎると、湿式処理後に残留量が増えるので1.1〜1.5倍量が好ましい。
本発明の方法においては、上述した還元剤と共に、フラックスとして例えばアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物を必要に応じて使用することができる。これらは、還元拡散反応によって得られる反応生成物中の合金粉末の融着・粗粒化を抑制し、湿式工程における崩壊性を向上させることができる。具体的には、Li、Na、K、Mgなどの塩化物が好適であり、特に水和物を含んでいない無水のものが好ましい。最も好適なのは、加熱した際に揮発性を殆んど示さず、かつコストの面でも有利な無水塩化カルシウムである。これらアルカリ金属塩化物あるいはアルカリ土類金属塩化物の使用量は、Nd源が酸化物である場合、Ndに対して1重量%以上とすることが好ましく、特に微細な合金粉末を製造する場合には、3〜20重量%の範囲とすることが望ましい。
3.還元拡散反応
以下、本発明における還元拡散反応を、Nd粉末、Fe粉、FeB合金粉末、CuO粉末および金属カルシウムを使用して合金粉末を製造する場合を例にとって具体的に説明する。
本発明の方法によれば、上記原料成分の混合物を、Arガスなどの不活性ガス雰囲気中において、還元剤が溶融する温度以上、かつ合金が溶融しない温度まで昇温、保持して加熱処理する。
上記加熱処理は、公知の加熱炉を用いて行うことができる。不活性ガス雰囲気としては、特に限定されないが、例えば、Arガス雰囲気が好適である。また、加熱処理温度は、還元剤、例えば、金属カルシウムの場合には完全に溶解する900℃以上、かつNdFeB合金が溶解しない1200℃以下とする。900℃未満では還元剤が完全に溶解しない場合があり、1200℃を超えるとNdFeB合金が溶解するので好ましくない。好ましいのは、1000〜1200℃である。加熱処理時間は、混合物組成や処理量などで変化するため一概には規定できないが、0.5時間以上保持する必要がある。1〜12時間程度保持することが好ましく、1〜8時間がより好ましく、1〜5時間が特に好ましい。
この加熱処理で、NdはNdに還元されるとともに、このNdがFeおよびFeB中に拡散してNdFeB系合金となる。また、含銅粉として酸化銅粉末を用いたときは、Cuに還元され、含アルミニウム粉として酸化アルミニウム粉末を用いたときは、Alに還元される。
前記特許文献6には、工業的生産上不可避的不純物としてCuの存在が許容できると記載されている。ここには、Cuの具体的存在位置については記載がないが、CuがNdFeB系合金の主相に取り込まれたのでは磁気特性が低下する。本発明では、CuはNdFeB系合金の主相に取り込まれず、粒界に存在することを確認している。
4.湿式処理
還元拡散反応終了後、得られた反応生成物は湿式処理を行う。この湿式処理は、反応生成物を水中に投入することによって反応生成物を崩壊させる。
還元剤として金属カルシウムを、フラックスとして無水塩化カルシウムを使用した場合を例にとって説明する。反応生成物中には生成した合金粒子と、未反応の金属カルシウム、塩化カルシウムおよび副生した酸化カルシウムとが含まれている。従って、反応生成物を水中に投入することにより、カルシウムと水との反応による水素の発生、および易溶性の塩化カルシウムの作用により、反応生成物は一挙に崩壊してスラリ−となる。このスラリ−上部は、水酸化カルシウムを主体とした懸濁液であるので、デカンテ−ションを繰り返すことにより、その大部分を除去することができる。
この湿式処理の後は、必要に応じて希酸による洗浄(酸洗浄)を行い、微量に残存した水酸化物の除去および合金粉末の表面に形成された酸化物を除去し、次いで必要に応じてアルコ−ルなどの有機溶媒で置換した後、真空乾燥して合金粉末を得る。希酸としては、酢酸などが挙げられるが、濃度が高かったり使用時間が長いと酸化カルシウムだけでなくNdも溶解するので注意が必要である。最終的な洗浄は、純水で上澄み液の伝導度が0.1mS/cmを下回るまでデカンテ−ションを繰り返し行うことが望ましい。
最後に、乾燥させ合金粉末から水を除去する。乾燥手段は自然乾燥でも真空乾燥でもよい。室温でもよいが、必要により30〜100℃に加熱することができる。また、必要により媒体攪拌ミルなどの粉砕装置で処理することができる。
5.Cu含有NdFe14B合金粉末
本発明の製造方法によって得られたCu含有NdFe14B合金粉末は、Cuが主相NdFe14B粒子内に存在せず、Ndと共に主相間の粒界に存在し、高保磁力発現の組織となっている。
ここで、図1〜4を参照すると、図2、図4の写真から、CuがNdとともに主相NdFe14B粒子の粒界に入り込んでいることが分かる。このようにCuが粒界に存在し、主相NdFe14B粒子には固溶しないことは、還元拡散法によるCu含有NdFe14B合金粉末では、これまで確認されていなかった。粒界の厚さ(幅)は、Ndの量により決まるが、Ndリッチ相の割合が多すぎると磁気特性が低下するため好ましくない。
また、Cu含有NdFe14B合金粉末はさらにAlを含むことが好ましく、図5〜9を参照すると、図9の写真から、Alが主相NdFe14B粒子の全体に散在していることが分かる。
このCu含有NdFe14B合金粉末は、平均粒径が1〜150μmであり、HDDR法による合金粉末の原料として使用することができる。
以下に、本発明の実施例を比較例とともに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
平均粒径5.1μmの純度99.9重量%の酸化ネオジム粉末4.34g、酸化銅粉末0.068g、粒径が10〜70μmの粉末が全体の94%を占める純度99重量%の鉄粉7.07g、および−330メッシュが全体の99.8%を占めるB含有量19.1重量%のフェロボロン粉末0.78gを自動擂潰機で10分混合し、この混合物にさらに粒度4メッシュ(タイラ−メッシュ)以下の純度99重量%の粒状金属カルシウム1.81gを添加して混合した。酸化銅粉末の量は、目的とする合金粉末に対してCu換算で0.5重量%となるようにした。
得られた混合物を鉄坩堝に入れ、ロータリ−ポンプで5分間減圧した後、Arガスを供給して大気圧まで復圧し、Arガス気流中で約3時間かけて1050℃まで昇温し、その温度で5時間保持し、その後室温まで冷却した。
反応生成物を反応容器から取り出し、純水中に投入して30分間攪拌して水中崩壊した。反応生成物中に含まれる残留金属カルシウム、CaOおよびCa(OH)を除去するため、pH7〜8になるまでデカンテ−ションによる洗浄を繰り返し行った。次に、2Nの酢酸を用いて15分間洗浄した後、再度純水で上澄み液の伝導度が0.1mS/cmになるまでデカンテ−ションによる洗浄を繰り返し行った。その後、上澄み液を除去し、AP−2(変性アルコール)で置換してから真空乾燥を行い、合金粉末aを得た。
得られた合金粉末aは、平均粒径が11.7μmであり、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、図1〜図4に示すようにCuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例2)
実施例1において、還元拡散時の反応温度を1025℃、保持時間を4時間とした以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る合金粉末bを得た。
得られた合金粉末bは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例3)
実施例1において、還元拡散時の保持時間を3時間とした以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る合金粉末cを得た。
得られた合金粉末cは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例4)
実施例1において、酸化銅の替わりに銅0.054g用い、粒状金属カルシウム1.78gとした以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る合金粉末dを得た。この銅粉末の量は、目的とする合金粉末に対してCu換算で0.5重量%となる。
得られた合金粉末dは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例5)
実施例1において、酸化銅粉末0.077gとした以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る合金粉末eを得た。この酸化銅粉末の量は、目的とする合金粉末に対してCu換算で0.6重量%となる。
得られた合金粉末eは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例6)
実施例1において、酸化ネオジウム粉末4.21g、粒状金属カルシウム1.76gとした以外は、実施例1と同様にして実施例6に係る合金粉末fを得た。
得られた合金粉末fは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例7)
実施例1において、さらに塩化カルシウム0.13gを添加した以外は、実施例1と同様にして実施例7に係る合金粉末gを得た。
得られた合金粉末gは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例8)
実施例1において、さらに塩化カルシウム0.20gを添加した以外は、実施例1と同様にして実施例8に係る合金粉末hを得た。
得られた合金粉末hは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例9)
実施例1において、酸化銅粉末の量をCu換算で0.007重量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして実施例9に係る合金粉末iを得た。
得られた合金粉末iは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例10)
実施例1において、酸化銅粉末の量をCu換算で0.05重量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして実施例10に係る合金粉末jを得た。
得られた合金粉末jは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例11)
実施例1において、酸化銅粉末の量をCu換算で1.0重量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして実施例11に係る合金粉末kを得た。
得られた合金粉末kは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(実施例12)
実施例1において、さらに酸化アルミニウム粉末0.103g(目的とする合金粉末に対してAl換算で0.6重量%)添加した以外は、実施例1と同様にして実施例12に係る合金粉末lを得た。
得られた合金粉末lは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、図8に示すようにCuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。一方、図9に示すようにAlは粒子全体に散在していることが確認された。
(実施例13)
実施例12において、さらに無水塩化カルシウム0.22g添加した以外は、実施例1と同様にして実施例13に係る合金粉末mを得た。
得られた合金粉末mは、粉末X線解析の結果、主相がNdFe14Bであった。また、その断面組織を反射電子像による解析を行った結果、CuはNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、NdFe14Bの粒子内には固溶していないことが確認された。
(比較例1)
実施例1において、還元拡散時の反応温度を850℃とした以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る合金粉末nを得た。
得られた合金粉末nは、粉末X線解析の結果、NdFe14Bの他に、Fe、Ndに由来するピ−クが認められたことから、断面SEM像による組織観察を行わなかった。
(比較例2)
実施例1において、還元拡散時の保持時間を10分とした以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る合金粉末oを得た。
得られた合金粉末oは、粉末X線解析の結果、NdFe14Bの他に、Fe、Ndに由来するピ−クが認められたことから、断面SEM像による組織観察を行わなかった。
以上、実施例1〜実施例13および比較例1、2の結果をまとめて表1に示す。
表1から明らかなように、本発明によるCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法で製造されたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末(実施例1〜実施例13)では、CuがNdと共に主相NdFe14B粒子間の粒界に存在し、Alは粒子全体に散在していることが確認された。
一方、製造条件が本発明から外れた比較例1、2は、粉末X線解析の結果、原料のFe、Ndに由来するピ−クが認められ、還元拡散不足が明らかである。
本発明により得られるCu含有R−Fe−B系永久磁石は、希土類磁石の中でも飽和磁化が高いことから民生用小型電子機器やコンピュータ周辺機、MRI、さらには産業用モータや自動車モータなどに使用できる。特に、合金粒子の粒界にCuを含有するために磁気特性を向上しうるので、近年、普及し始めたハイブリッド車や電気自動車の用途で有望である。

Claims (9)

  1. 希土類酸化物粉末もしくは希土類酸化物粉末および希土類金属粉末と、含鉄粉末、含硼素粉末からなる原料粉末に前記酸化物粉末を還元するのに十分な量の還元剤を混合し、還元拡散法によりCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末を製造する方法であって、
    原料粉末として、さらに含銅粉末を混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気下で900℃〜1200℃の温度で0.5時間以上保持して熱処理し、得られた反応生成混合物を湿式処理した後、乾燥することを特徴とするCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法。
  2. 前記の含銅粉末は、組成範囲がCu換算で0.003〜1.5重量%となるように混合されることを特徴とする請求項1に記載のCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法。
  3. 前記原料粉末として、さらに含アルミニウム粉末が添加されることを特徴とする請求項1または2に記載のCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法。
  4. 前記含アルミニウム粉末は、組成範囲がAl換算で0.003〜1.5重量%となるように混合されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法。
  5. 前記熱処理の保持時間が、1〜5時間であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法。
  6. 前記還元剤と共に、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物から選ばれる少なくとも1種のフラックスを使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られたCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末。
  8. 前記Cuが、主相NdFe14B粒子内に存在せず、Ndと共に主相間の粒界に存在することを特徴とする請求項7に記載のCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末。
  9. 前記Alが、主相NdFe14B粒子全体に散在することを特徴とする請求項7に記載のCu含有希土類−鉄−硼素系合金粉末。
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