具体的には、本発明は全体として微生物醗酵によるグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンの製造法に関するものである。その方法にはアミノ糖代謝経路に遺伝子修飾を有する微生物を醗酵培地中で培養する第一工程を含み、その代謝経路にはグルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を他の化合物に変換する経路;グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を合成する経路;グルコサミン、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を微生物の外へ輸送する経路;グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンを微生物内へ輸送する経路;およびグルコサミン−6−燐酸の生産に関与する基質と競合し、細胞内グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミン、および/または細胞外グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンを含む生成物を微生物から生産する経路が含まれる。その方法には細胞内グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミンを微生物から回収、および/または細胞グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンを醗酵培地から回収して生成物を採集する第二工程が含まれ、その工程には回収と精製工程が含まれる(以下に詳細に定義され議論される)。本発明の醗酵プロセスから回収されるN−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミン−1−燐酸は、本明細書記載の方法を用いて脱アセチルグルコサミン化され、グルコサミン、グルコサミン−6−燐酸およびグルコサミン−1−燐酸が製造される。
本発明の醗酵によるグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンの新規製造法は安価であり、現在の方法で製造されるグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンの収率を越える収率でグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンを製造し得る。さらに、本明細書に記載の遺伝子修飾された微生物を使用することにより、本発明の方法を特定の問題に適応し、グルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンの生産比率を変える必要性に容易に変更することができる。さらに、本発明に記載の方法と材料を当業者が使用および/または変更し、ポリ−N−アセチルグルコサミン、ポリグルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルマンノサミンおよびその誘導体等の他のアミノ糖を製造することができる。
アミノ糖であるN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびグルコサミン(GlcN)は、主要な高分子、特に糖結合体(すなわち共有結合で結合したオリゴ糖鎖を含む高分子)の生合成の前駆体であるため、微生物で基本的に重要な分子である。例えば、EscherichiacoliではN−アセチルグルコサミンとグルコサミンは細胞外被の二つの高分子、ペプチドグリカンとリポ多糖の前駆体である。ペプチドグリカンまたはリポ多糖の生合成を妨害する突然変異は致命的であり、細胞外被の一体性を喪失し、最終的には溶菌を生じる。
本明細書で用いられるグルコサミン、D−ガラクトサミンおよびN−グルコサミンという用語は相互に交換して用いることができる。同様に、グルコサミン−6−燐酸とN−グルコサミン−6−燐酸という用語は互換的に用いられ、グルコサミン−1−燐酸とN−グルコサミン−1−燐酸という用語も互換的に用いられる。グルコサミン、グルコサミン−6−燐酸およびグルコサミン−1−燐酸はそれぞれClcN、GlcN−6−PおよびGlcN−1−Pと略記することができる。N−アセチルグルコサミンは2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコースとも呼ばれる。N−アセチルグルコサミンはN−アセチルグルコサミドと書くこともできる。グルコサミンとその誘導体と同様に、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミン−1−燐酸という用語は、それぞれGlcNAc(またはD−GlcNAc)、GlicN−6−PおよびGlicN−1−Pと略記することができる。N−アセチルグルコサミンはNAGとも略記できる。
本明細書で上記で同定したグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミン製品の製造に関連するアミノ糖の代謝経路における酵素を参照する。アミノ糖はサッカライドのアミノ誘導体(例えばヒドロキシル基の代わりにアミノ基を有するサッカライド)である。本発明によれば、アミノ糖代謝経路とは、アミノ糖の生合成、同化作用または異化作用に関与する、または含まれる任意の生化学経路である。本明細書で用いる場合、アミノ糖代謝経路には、アミノ糖とその前駆体の細胞内へ、および細胞外からの輸送に関与する経路が含まれ、またアミノ糖の生合成または異化作用に関与する物質と競合する生化学経路も含まれ得る。例えば、最初に形成されたアミノ糖の一つに対する直接前駆体は、フルクトース−6−燐酸(F−6−P)であり、生化学反応(グルコサミンシンターゼで触媒される)またはアンモニウムとの生化学反応(グルコサミンデアミナーゼで触媒される)でグルコサミン−6−燐酸を生成する。フルクトース−6−燐酸も解糖経路の中間体である。従って、解糖経路は、基質であるフルクトース−6−燐酸について競合することにより、グルコサミン−6−燐酸生合成経路と競合する。さらに、グルコサミン−6−燐酸を他のアミノ糖に変換し、一連の生化学反応により様々な高分子中の構成要素を形成することができる。この様にして、解糖経路であるフルクトース−6−燐酸/グルコサミン−6−燐酸経路はグルコサミン−6−燐酸の生合成が影響を与える程度まで、グルコサミン−6−燐酸/高分子生合成経路はすべて、本発明ではアミノ糖代謝経路であると考えられる。
グルタミン合成の経路および代謝がグルタミンの利用可能性(グルコサミン−6−燐酸合成のアミノ供与体)を決定し、従ってグルコサミン−6−燐酸の生合成に影響する。従って、これら全ての経路は本発明ではアミノ糖代謝経路と考えられる。グルコサミン−6−燐酸からのN−アセチルグルコサミン−6−燐酸の合成、およびグルコサミン−1−燐酸からのN−アセチルグルコサミン−1−燐酸の合成には、クレブスサイクルの基質でもあるアセチルCoAの供給が必要である。従って、クレブスサイクルはN−アセチルグルコサミン合成経路と、基質であるアセチルCoAについて競合する。この様にして、アセチルCoAの合成および代謝の経路はN−アセチルグルコサミン生合成に影響し、本発明ではアミノ糖代謝経路であると考えられる。
様々な微生物では、アミノ糖代謝経路の多くが明らかになっている。特に、グルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンの生合成および異化作用、ならびにその燐酸化誘導体に対する経路がEscherichia coliで明らかになっている。これらの経路にはこれらのアミノ糖を炭素源として利用するための複数の輸送系が含まれる。Escherichia coliにおけるアミノ糖の輸送、異化作用および生合成に直接関連する酵素およびタンパク質をコードする遺伝子がクローン化され配列決定されている。さらに、アミノ糖代謝の実質的に全ての工程が妨害されたEscherichia coliの変異株が単離されている。
Escherichia coliのアミノ糖代謝の既知の経路が図1に示される。米国特許第6,372,457号は、あらゆる既知の野生型および変異体の微生物のグルコサミン生産能をはるかに越えるグルコサミン生産能を有する、グルコサミン生産微生物を初めて記載した。米国特許第6,372,457号に開示される様に、異化作用経路のいくつかの工程は遺伝子不活性化により妨害され(十字により示す)、GlcN−6−Pの合成を触媒する酵素GlcN−6−Pシンターゼが組み替え宿主細胞中で過剰発現された(太線で示す)。本発明は米国特許第6,372,457号に記載されないグルコサミンの生産に対する新規醗酵プロセスを提供するが、それには生産微生物の遺伝子修飾、ならびにグルコサミン生産に対し米国特許第6,372,457号に記載されない遺伝子修飾の組み合わせも記載される。本発明はまた、N−アセチルグルコサミンの生産に対する微生物の遺伝子修飾および醗酵プロセスの最初の記載であると確信する。
以下に詳細に議論する様に、アミノ糖代謝経路に関与する経路および遺伝子の多くが解明されているが、多くの可能な遺伝子修飾のどれが、商業的に有意な量のN−アセチルグルコサミンを生産し得る微生物を作製するのに必要であるかは本発明の前には知られていなかった。その上、本明細書に記載される様なグルコサミンの生産に対する新規の遺伝子修飾およびその組み合わせは以前には分かっていなかった。実際、本明細書に記載するグルコサミンの生産に対する遺伝子修飾のあるものは、グルコサミン生産の醗酵法の以前の開示である、前出の米国特許第6,372,457号に記載された内容と相反している。
微生物Escherichia coliのアミノ糖代謝経路を、本発明の特定の実施態様とする。グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの過剰生産に対して、本発明で開示されたアミノ糖代謝経路の遺伝子修飾の主な態様が図2に示される。図2では、本発明で検討される遺伝子工学による代謝フラックスの発生および/または増加が太線で示される。GNAlおよび/またはNagBへの修飾を含むがそれに限定されず、GlmSとGNAl、GlmSとGlmU、NagBとGNA1、NagBとGlmUの組み合わせそれ自体、さらに他の遺伝子修飾との組み合わせをさらに含むN−アセチルグルコサミンの合成に対するいくつかの異なったアプローチが開示されている。一例として、本発明はグルコサミン/N−アセチルグルコサミン生産を最適にするための別な遺伝子の過剰発現または欠失を検討する。図3および以下の表を説明すると、この図にはグルコースの代謝およびN−グルコサミンの生成における様々な他の酵素の関与が示され、この表にはグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産を最適化するために本発明の微生物宿主に対し付加的に行われ得る様々な修飾が示される。これらの実施態様の全ては以下に詳細に述べられる。他の微生物も同様なアミノ糖代謝経路を有すると共に、この様な経路内に類似の構造および機能を有する遺伝子およびタンパク質を有することが理解される。この様にして、Escherichia coliに関して以下に議論する原理は他の微生物にも適用可能で、本発明に含まれているのは明らかである。
同じ生物活性を有する酵素が、どの生物にその酵素が由来するかによって異なった名前を有し得ることは当該分野で公知である。以下は、本明細書に参照される酵素の多くの別名、およびいくつかの生物由来のこの様な酵素をコードする遺伝子の特定の名前の一般的なリストである。本発明は任意の生物由来の所定の機能の酵素を包含することを意図するが、酵素名が互換的に用いられ得るか、ある配列または生物で適切に用いられ得る。
例えば、本明細書で一般的に「グルコサミン−6−燐酸シンターゼ」と呼ばれる酵素はフルクトース−6−燐酸およびグルタミンからグルコサミン−6−燐酸およびグルタメートの形成を触媒する。その酵素はグルコサミン−フルクトース−6−燐酸アミノトランスフェラーゼ(異性化)、ヘキソセホスフェートアミノトランスフェラーゼ、D−フルクトース−6−燐酸アミドトランスフェラーゼ、グルコサミン−6−燐酸イソメラーゼ(グルタミン生成)、L−グルタミン−フルクトース−6−燐酸アミドトランスフェラーゼ、およびGlcN6Pシンターゼとしても知られている。E.coliおよび他の細菌由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼは一般にGlmSと呼ばれる。酵母および他の供給源由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼは一般的にGFAまたはGFATと呼ばれる。
様々な生物由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼは当該分野で公知であり、本発明の遺伝子工学戦略で使用することが意図される。例えば、Escherichia coli由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼが本明細書に記載されている。E.coli由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼは、本明細書で配列番号1で表される核酸配列でコードされる本明細書で配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する。また、Bacillus subtilis由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼも本明細書に記載されているが、この酵素は本明細書で配列番号15で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号16で表されるアミノ酸配列を有する。また、Saccharomyces cerevisiae由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼが本明細書に記載されているが、この酵素はその微生物ではグルコサミン−フルクトース−6−燐酸アミノトランスフェラーゼ(GFA1)として知られ、本明細書に配列番号17で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号18で表されるアミノ酸配列を有する。また本明細書にCandida albicans由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼが記載されるが、この酵素はその微生物でグルコサミン−フルクトース−6−燐酸アミノトランスフェラーゼ(GFA1)としても知られ、本明細書で配列番号19で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号20で表されるアミノ酸配列を有する。また本発明にグルコサミン−6−燐酸シンターゼが含まれるが、この酵素はグルコサミン−6−燐酸シンターゼの酵素活性の増加、グルコサミン−6−燐酸シンターゼの生成物阻害の減少、およびグルコサミン−6−燐酸シンテターゼのその基質に対する親和性の増加から選ばれる結果をもたらす、一以上の遺伝子修飾を有する。一般的に、本発明によれば、変異酵素または修飾酵素の所定の特性の増加または減少は、同じかまたは同等な条件で測定または確立された、同じ生物由来の野生型(即ち正常な、修飾されていない)酵素の同じ特性を参照して行われる(以下により詳細に議論する)。
酵素活性の生成物阻害が減少する結果となる遺伝子修飾を有するグルコサミン−6−燐酸シンターゼのいくつかも本明細書に記載される。グルコサミン−6−燐酸シンターゼに対するこの様な修飾は、米国特許第6,372,457号にも詳細に記載されたが、生成物阻害が減少した別な明白なGlmS突然変異体の少なくとも一つが本明細書に記載されている(配列番号14)。生成物阻害が減少したE.coli由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼ酵素は、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12および配列番号14(それぞれ配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11および配列番号13でコードされる)で表されるアミノ酸配列を含むがそれに限定されないアミノ酸配列を有する。さらに、生成物阻害が減少した酵素を生じる、野生型配列(配列番号2)と比較した配列番号14中のアミノ酸位置を記載する表が、表7として提供される。配列番号4は配列番号2と比較して以下の変異を有する:位置4におけるIle→Thr、位置272におけるIle→Thr、および位置450におけるSer→Pro。配列番号6は配列番号2と比較して以下の変異を有する:位置39におけるAla→Thr、位置250におけるArg→Cys、および位置472におけるGly→Ser。配列番号8は配列番号2と比較して以下の変異を有する:位置469におけるLeu→Pro。配列番号10および12はそれぞれ、配列番号2と比較して少なくとも以下の変異を有する:位置472におけるGly→Ser。表7に列記した、その中に示す変異の任意の組み合わせを含む任意の少なくとも一以上の位置において変異を有するグルコサミン−6−燐酸シンターゼ、または任意の組み合わせを含む配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12または配列番号14の何れかで表される別の変異のいずれかを有するグルコサミン−6−燐酸シンターゼが本発明により意図される。さらに、他の微生物由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼで相同修飾を行うことができる。最後に、天然に存在するいくつかのグルコサミン−6−燐酸シンターゼでは、他の微生物由来のグルコサミン−6−燐酸シンターゼより生成物阻害が少ない。例えば、Bacillus subtilis由来の野生型グルコサミン−6−燐酸シンターゼはE.coli変異GlmS酵素にほとんど匹敵する生成物耐性を示すことが本発明者らにより示されている(実施例のセクションを参照)。
本明細書で一般的にグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素は、グルコサミン−6−燐酸およびアセチルCoAをN−アセチルグルコサミン−6−燐酸に変換し、CoAを放出する。この酵素はグルコサミン−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ、ホスホグルコサミントランスアセチラーゼおよびホスホグルコサミンアセチラーゼとしても知られている。その酵母酵素は一般的にGNA1と呼ばれる。様々な生物由来のグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼが当該分野で公知であり、本発明の遺伝子工学戦略での使用が意図される。例えば、Saccharomyces cerevisiae由来のグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼが本明細書に記載される。Saccharomyces cerevisiae由来のグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼは、本明細書で配列番号29で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号30で表されるアミノ酸配列を有する。また、本明細書で配列番号31で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号32で表されるアミノ酸配列を有するCandida albicans由来のグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼも本明細書に記載される。また本明細書で配列番号33で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号34で表されるアミノ酸配列を有するArabidopsis thaliana由来のグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼも本明細書に記載される。グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ酵素活性の増加、微生物によるグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼの過剰発現、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼのN−アセチルグルコサミン−6−燐酸生成物阻害の減少、およびグルコサミン−6−燐酸に対するグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼの親和性の増加から選ばれる結果をもたらす遺伝子修飾を有するグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼも本発明に含まれる。
本明細書で一般的にグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼと呼ばれる酵素は、グルコサミン−6−燐酸および水の可逆反応を触媒し、フルクトース−6−燐酸およびアンモニアを形成する。この酵素はグルコサミン−6−燐酸イソメラーゼ、GlcN6Pデアミナーゼ、ホスホグルコサミンイソメラーゼ、ホスホグルコサミン−イソメラーゼ、グルコサミン燐酸デアミナーゼ、2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース−6−リン酸ケトールイソメラーゼ(脱アミノ化)としても知られている。E.coliおよび他の細菌では、この酵素は一般にNagBとして知られている。様々な生物由来のグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼが当該分野で公知であり、本発明の遺伝子工学戦略で使用することが意図される。例えば、Escherichia coli由来のグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼが本明細書に記載される。E.coli由来のグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼは、本明細書で配列番号41で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号42で表されるアミノ酸配列を有する。また、グルコサミン−6−燐酸酵素活性の増加、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの逆反応の増加により増加した(より多くの)グルコサミン−6−燐酸の形成、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの正反応の減少により増加した(より少量の)フルクトース−6−燐酸の生成、フルクトース−6−燐酸に対するグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの親和性の増加、グルコサミン−6−燐酸に対するグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの親和性の減少、およびグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼのグルコサミン−6−燐酸生成物阻害の減少から選ばれる結果をもたらす遺伝子修飾を有するグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼも本発明に含まれる。
本明細書で一般的にグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素は、グルコサミン−1−燐酸およびアセチルCoAをN−アセチルグルコサミン−1−燐酸に変換し、CoAを放出する。この酵素はE.coliおよび他の細菌中ではGlmUとして知られている。細菌GlmU酵素は2機能性酵素である(すなわち、この酵素は二つの酵素機能を有する;この酵素は、UDP−N−アセチルグルコサミンピロホスホリラーゼ、UDP−N−アセチルグルコサミンジホスホリラーゼとしても知られるN−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼの機能も有する)。様々な生物由来のグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼは当該分野で公知であり、本発明の遺伝子工学戦略で使用することが意図される。例えば、実際には二機能性グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼであるEscherichia coli由来のグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼが本明細書に記載される。E.coli由来のグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼは、本明細書で配列番号55で表される核酸配列でコードされる、本明細書に配列番号56で表されるアミノ酸配列を有する。また本明細書にはE.coliグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼの切断型変異体も記載され、ここでは、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸N−ウリジルトランスフェラーゼをコードする部分が欠失し、グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ活性のみを有する酵素のみが有効に残される。この切断型グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼは、本発明で配列番号57で表される核酸配列でコードされる、本発明で配列番号58で表されるアミノ酸配列を有する。また、グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ酵素活性の増加、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ酵素活性の減少(酵素が二機能性酵素である場合)、グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼのグルコサミン−1−燐酸に対する親和性の増加、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸に対するグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼの親和性の減少(酵素が二機能性酵素である場合)、およびグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼのN−アセチルグルコサミン−1−燐酸生成物阻害の減少から選ばれる結果をもたらす遺伝子修飾グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼも本発明に含まれる。
本明細書で一般的にN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼと呼ばれる酵素は、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸をグルコサミン−6−燐酸およびアセテートに加水分解する。その酵素はE.coliおよび他の細菌中でNagAとして知られている。様々な生物由来のN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼが当該分野で公知であり、本発明の遺伝子工学戦略での使用が意図される。例えば、Escherichia coli由来のN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼが本明細書に記載される。E.coli由来のN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼは本明細書で配列番号85で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号84で表されるアミノ酸配列を有する。グルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ活性の増加、グルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの逆反応のN−アセチルグルコサミン−6−燐酸の形成の増加、グルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの正反応の減少によるグルコサミン−6−燐酸形成の減少、グルコサミン−6−燐酸に対するグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの親和性の増加、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸に対するグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの親和性の減少、グルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼのN−アセチルグルコサミン−6−燐酸生成物阻害の減少から選ばれる結果をもたらす遺伝子修飾を有するN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼも本発明に含まれる。
本明細書で一般的にホスホグルコサミンムターゼと呼ばれる酵素は、グルコサミン−6−燐酸とグルコサミン−1−燐酸との間の変換を触媒する。この酵素は一般にE.coliおよび他の細菌中でGlmMとして知られている。様々な生物由来のホスホグルタミンムターゼが当該分野で公知であり、本発明の遺伝子工学戦略で使用することが意図される。例えば、Escherichia coli由来のホスホグルコサミンムターゼが本明細書に記載される。E.coli由来のホスホグルコサミンムターゼは、本明細書で配列番号53で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号54で表されるアミノ酸配列を有する。ホスホグルコサミンムターゼ活性の増加、ホスホグルコサミンムターゼの正反応の増加によるグルコサミン−1−燐酸生成の増加、ホスホグルコサミンムターゼの逆反応減少によるグルコサミン−6−燐酸生成の減少、グルコサミン−6−燐酸に対するホスホグルコサミンムターゼの親和性の増加、グルコサミン−1−燐酸に対するホスホグルコサミンムターゼの親和性の減少、およびホスホグルコサミンムターゼのグルコサミン−1−燐酸生成物阻害の減少から選ばれた結果をもたらす遺伝子修飾を有するホスホグルコサミンムターゼも本発明に含まれる。
本明細書でホスホグルコイソメラーゼと一般的に呼ばれる酵素は、グルコース−6−燐酸のフルクトース−6−燐酸への相互変換を触媒する。この酵素はE.coliおよび他の細菌でホスホグルコイソメラーゼまたはPgiとして知られている。様々な生物由来のホスホグルコイソメラーゼが当該分野で公知であり、本発明の遺伝子工学戦略で使用することが意図される。例えば、Escherichia coli由来のホスホグルコイソメラーゼが本明細書に記載される。E.coli由来のホスホグルコイソメラーゼは、本明細書で配列番号104で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号105で表されるアミノ酸配列を有する。
本明細書で一般的にホスホフルクトキナーゼと呼ばれる酵素は、フルクトース−6−燐酸(F−6−P)からフルクトース1,6−二燐酸の生成を触媒する。pfkAでコードされるE.coliの主要ホスホフルクトキナーゼはホスホフルクトキナーゼ活性の90%を提供する。残りの10%の活性はpfkBでコードされる小数のホスホフルクトキナーゼで供給される。ホスホフルクトキナーゼ酵素はE.coliおよび他の細菌でホスホフルクトキナーゼまたはPfkとして一般的に知られている。様々な生物由来のホスホフルクトキナーゼが当該分野で公知であり、本発明の遺伝子工学戦略で使用することが意図される。例えば、Escherichia coli由来のPfkAが本明細書に記載される。
本明細書で一般的にグルコース−6−燐酸デヒドロロゲナーゼと呼ばれる酵素は、ペントース燐酸経路の第一段階を触媒し、グルコース−6−燐酸をグルコノ−1,5−ラクトンへ変換する。この酵素はE.coliおよび他の細菌中でzwfでコードされるグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼとして一般的に知られている。様々な生物由来のグルコース−6−燐酸デヒドロロゲナーゼが当該分野で公知であり、本発明の遺伝子工学戦略で使用することが意図される。例えば、Escherichia coli由来のグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼは、本明細書で記載される。例えば、Escherichia coli由来のグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼは本明細書中で配列番号94で表される核酸配列でコードされる、本明細書で配列番号95で表されるアミノ酸配列を有する。
多数の酵素が微生物中のグリコーゲン合成に関与している。この様な酵素にはADP−グルコースピロホスホリラーゼ、グリコーゲンシンターゼおよび分枝酵素が含まれるが、それらに限定されない。
本発明のある実施態様はグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの醗酵生産法に関する。この様な方法には一般的に(a)微生物中でグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産を増加するに有用であると本明細書中に開示される、少なくとも一つの特異的遺伝子修飾を有する微生物を醗酵培地中で培養する工程、ならびに(b)グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミンでなる群から選ばれる生成物を培養工程から採集する工程が含まれる。より具体的には、生成物には微生物から採集される細胞内グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミン、ならびに/または醗酵培地から採集される細胞外グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンが含まれ得る。ある態様では、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミン−1−燐酸は加水分解生成物(グルコサミン、グルコサミン−6−燐酸およびグルコサミン−1燐酸)が安定である酸/加熱条件下で加水分解される。他の態様では、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミン−1−燐酸が脱アセチル化酵素を用いて脱アセチル化される。回収および精製法は以下に詳細に述べられる。
一般的に、本発明の方法に有用な遺伝子修飾された微生物は、代表的には少なくとも一つのアミノ糖代謝経路に関与する少なくとも1個の修飾された遺伝子を有し、その結果(a)グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を他の化合物へ変換する能力の減少(すなわちグルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸の同化作用または異化作用経路の阻害)、(b)グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を生産(即ち合成)する能力の増大、(c)グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを細胞内へ輸送する能力の減少、(d)グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを細胞外へ輸送する能力の増大、および/または(e)生化学反応と競合する、グルコサミン−6−P生産に関与する基質を使用する能力の減少、および/または(f)生化学反応と競合する、アセチルCoA(N−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミン−1−燐酸の生産に関与)を使用する能力の減少をもたらす。
一般的に、遺伝子修飾されたアミノ糖代謝経路を有する微生物は、以下に詳細に議論される様に少なくとも一つの遺伝子修飾を有し、その結果、同じ条件下で培養された野生型微生物と比較して上記の様な一つ以上のアミノ糖代謝経路の変化をもたらす。アミノ糖代謝経路におけるこの様な修飾は、微生物のアミノ糖生産能を変化させる。以下に詳細に議論する様に、本発明によれば遺伝子修飾された微生物では、同じまたは同等の条件下で培養された同じ種(および好ましくは同じ株)の野生型微生物と比較して、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産能が増大していることが好ましい。同等の条件とは、類似しているが必ずしも同じでなく(例えば培地組成、温度、pHおよび他の条件の若干の変化は許容され得る)、および微生物の増殖、または微生物によるグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンの生産に対する効果が実質的に変化しない培養条件である。
グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産に影響するするアミノ糖代謝経路は、以下の種類の経路のうちの少なくとも1つに分類することができる:(a)グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を他の化合物に変換する経路、(b)グルコサミン−6−燐酸合成経路、(c)グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの細胞内への輸送経路、(d)グルコサミン、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、および/またはN−アセチルグルコサミンの細胞外への輸送経路、ならびに(e)グルコサミン−6−燐酸生産における基質競合経路。
グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生産能の増大した微生物の遺伝子修飾による開発は、古典的株開発および分子遺伝学的技術の両方を用いて達成され得る。一般的に、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生産の増大した微生物を作製する戦略は(1)グルコサミン−6−燐酸生産の影響が負(例えば阻害する)である、少なくとも一つ、好ましくは一つより多くのアミノ糖代謝経路の不活性化または欠失、および(2)グルコサミン−6−燐酸生産が増大する、少なくとも一つの、好ましくは一つより多くのアミノ糖代謝経路の増幅である。
本発明のある実施態様では、微生物がグルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を合成する能力の増大を、グルコサミン−6−燐酸シンターゼ遺伝子(glmS)の発現の増幅(例えば過剰発現)、および/またはEscherichia coliではnagB遺伝子であり、その生成物がグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼであるグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ遺伝子の発現の増幅で達成することができる。グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼはグルコサミン−6−燐酸が脱アミノ化されてフルクトース−6−燐酸およびアンモニウムを形成する正反応を触媒する。グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼはまた、フルクトース−6−燐酸およびアンモニウムがグルコサミン−6−燐酸を形成する逆反応を触媒する。シンターゼ反応ではフルクトース−6−燐酸およびグルタミンがグルコサミン−6−燐酸およびグルタミン酸を生成するので、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの逆反応はグルコサミン−6−燐酸シンテターゼの作用とは異なっている。グルタミンの適切な細胞内供給がグルコサミン−6−燐酸シンターゼ反応に重要である。グルコサミン−6−燐酸の合成経路および分解経路を調べると、潜在的に無駄なサイクルの存在が明らかとなり、それによりフルクトース−6−燐酸およびグルコサミン−6−燐酸の連続的な相互変換がグルタミンの無駄な枯渇を引き起こしている。従って、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの逆作用の使用は、デアミナーゼがアミノ酸(グルタミン)よりもアンモニウムをアミノ供与体として使用するため、グルコサミン−6−燐酸シンターゼより有利である。グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼは、グルコサミン−6−燐酸のフルクトース−6−燐酸およびアンモニウムへの分解を利用する速度論的平衡で逆反応を触媒する。従って、本発明の他の実施態様にある様に、逆反応の活性が増加し正反応の活性が減少した、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの変異誘発形態、または過剰発現グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼが、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産に使用される。本発明の他の実施態様は、Vmaxが増加し、比活性が増加し、安定性が増加し、基質であるフルクトース−6−燐酸およびアンモニウムに対する親和性が増加し、グルコサミン−6−燐酸による生成物阻害が減少したグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼを有する微生物を提供することである。この様に改良されたグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼを天然から単離してもよく、または遺伝子修飾もしくはタンパク質工学の任意の適切な方法で生産してもよい。例えば、コンピューターベースタンパク質操作工学をこの目的に使用することができる。例えばその全体が本明細書で参照され援用されるMaulikら、1997、Molecular Biotechnology:Therapeutic Applications and Strategies、Wiley−Liss,Inc.を参照。グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの発現の増幅を、例えばnagB遺伝子をコードする組み替え核酸分子を導入することにより、Escherichia coliで達成することができる。宿主株中でのグルコサミン−6−燐酸シンターゼがグルコサミン−6−燐酸の合成を触媒することができるので、不活性化glmS遺伝子を有する変異Escherichia coli株中でグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの発現の増幅を分析しなければならない。この生物中のグルコサミン−6−燐酸シンターゼ活性の除去は必要ないが、それも本発明の実施態様の一つである。
本明細書に記載した他の酵素および他のタンパク質の例では、修飾したグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼは例えば変異(すなわち、遺伝子修飾)グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ遺伝子であり、遺伝子修飾の任意の適切な方法で製造することができる。例えば、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼをコードする組み替え核酸分子を、エラープローンPCRによりヌクレオチドを挿入、欠失および/または置換する任意の方法で修飾することができる。この方法では、遺伝子が増幅に用いたDNAポリメラーゼによる高頻度の誤取り込み誤差を生じる条件下で増幅される。その結果、PCR生成物に高頻度の変異を生じる。得られたグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ遺伝子変異体は、変異体遺伝子を、非変異組み替えグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ核酸分子を有する微生物と比較して、試験微生物にグルコサミン生産増加を与える能力について試験することによりスクリーニングされ得る。従って、変異体またはホモロググルコサミン−6−燐酸デアミナーゼタンパク質をコードする核酸配列を有する、遺伝子修飾された組み替え核酸分子で形質転換された微生物を提供することが本発明の実施態様の一つである。この様なグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼタンパク質を、本明細書ではグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼホモログと言われ得る(以下に詳細に記載される)。
細胞中のグルコサミン−6−燐酸シンターゼまたはグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼのレベルが、解糖からグルコサミン−6−燐酸合成への炭素の流れの逆流を制御するので、本発明のある態様では、glmSまたはnagBのいずれかの過剰発現はグルコサミン−6−燐酸の細胞間蓄積、最終的にはグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産に重要である。
N−アセチルグルコサミンの生産では、グルコサミン−6−燐酸をN−アセチルグルコサミン−6−燐酸またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸に変換し、それを次に脱燐酸化および/または培養ブロス中へ分泌しなければならない。本発明のある実施態様では、微生物がN−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミンを合成する能力の増大はグルコース−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現の増幅で行われ、一例を挙げれば、Saccharomyces cerevisiae中ではその遺伝子はGNA1遺伝子であり、その生成物はグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼである。本発明の他の実施態様では、微生物がN−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミンを合成する能力の増大は、N−アセチルグルコース−6−燐酸デアセチラーゼ遺伝子の増幅で達成され、その遺伝子はEscherichia coli中ではnagA遺伝子であり、その生成物はN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼである。デアセチラーゼは正反応におけるN−アセチルグルコサミン−6−燐酸のグルコサミン−6−燐酸への変換を触媒する。このデアセチラーゼはまた、逆反応を触媒して、グルコサミン−6−燐酸からN−アセチルグルコサミンへと変換する。N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼは、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸のグルコサミン−6−燐酸への脱アセチル化に好都合な動力学的平衡で可逆反応を触媒する。従って、本発明の他の実施態様として、逆反応の活性が増加し正反応の活性が減少したN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの変異誘発形態はグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産に用いられる。
グルコサミン−6−燐酸シンターゼ(GlmS)は生成物であるグルコサミン−6−燐酸に強く阻害されるので、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ遺伝子(GNA1)および/またはN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ遺伝子(nagA)の発現増幅は、グルコサミン−6−燐酸の細胞内レベルを減少させ得、GlmS酵素の生成物阻害を減少させ得、従ってグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産を増加し得る。
本発明の他の実施態様では、微生物がグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンを合成する能力を増大することは、Escherichia coliではglmM遺伝子であり、その生成物がホスホグルコサミンムターゼであるホスホグルコサミンムターゼ遺伝子の発現の増幅で達成される。ホスホグルコサミンムターゼはグルコサミン−6−燐酸のグルコサミン−1−燐酸への転換を触媒する。グルコサミン−6−燐酸シンテターゼ(GlmS)は生成物であるグルコサミン−6−燐酸で強く阻害されるので、ホスホグルコサミンムターゼ遺伝子の発現増幅によりグルコサミン−6−燐酸の細胞内レベルが減少し得、GlmS酵素の生成物阻害が減少し得、従ってグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産を増加させ得る。
本発明の他の実施態様では、微生物によるグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン合成能の増大は、Escherichia coliではglmU遺伝子であり、その生成物がグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼである二機能性グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ遺伝子の発現の増幅で達成される。本発明にはグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質の発現の増幅または活性の増加も含まれる。二機能性酵素は(グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼとして)グルコサミン−1−燐酸のN−アセチルグルコサミン−1−燐酸への変換を触媒し、(N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼとして)生成物をさらにUDP−N−アセチルグルコサミンへ変換する。従って、本発明の他の実施態様としては、アセチルトランスフェラーゼ作用の活性が増加し、ウリジルトランスフェラーゼ作用の活性が減少したグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼの変異誘発形態が、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産に用いられる。グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼが一連の生化学反応によりグルコサミン−6−燐酸が高分子に取り込まれるアミノ糖代謝経路内で機能するので、glmU遺伝子はEscherichia coliの増殖に必須の遺伝子である。アセチルトランスフェラーゼ作用の活性が増加し、ウリジルトランスフェラーゼ作用の活性が減少したGlmU酵素の変異誘発形態を、グルコサミン由来の高分子を合成して細胞増殖を支える様に、野生型glmU遺伝子を有する宿主株中で使用する必要がある。
グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン合成は、図3に概観する様にグルコース代謝の多くの異なった経路と密接に関連している。グルコースが細胞に取り込まれ、同時にグルコース−6−Pに変換される。グルコースは図に示される経路を含む多くの経路で代謝される。グルコサミン合成経路では、グルコース−6−Pがフルクトース−6−Pに異性化され、次いでGlmSが媒介してフルクトース−6−Pがグルコサミン−6−Pに変換される。最後に、グルコサミン−6−Pが脱燐酸化され、分泌される。グルコース−6−Pの主要な競合別ルートは、ホスホフルクトキナーゼにより解糖に入ることである。グルコース−6−燐酸の別な重要なルートはグルコノラクトン−6−燐酸への酸化である(ペントース燐酸経路へ入る)。さらに、グルコース−6−燐酸がグルコース−1−燐酸に変換され得、その後グリコーゲンが生成し細胞に蓄えられる。以下に詳細に述べる様に、他の競合経路を調節してグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産を最大にすることも、本発明の範囲内である。
細菌細胞は貯蔵炭素保存の主な形としてグリコーゲンを蓄積する。グリコーゲン合成には3種の酵素が関係する:ADP−グルコースピロホスホリラーゼ(グルコース−1−燐酸アデニルトランスフェラーゼとしても知られる)、グリコーゲンシンターゼ、および分枝酵素。これらの酵素はそれぞれ、グルコース−1−燐酸から単糖供与体(ADP−グルコース)の合成、これらの単糖ユニットの重合によるグルコース(1,4)ポリマーの形成、およびこのポリマーの再配列による鎖内に(1−6)分枝の形成を触媒する。ADP−グルコースピロホスホリラーゼはグリコーゲン合成の中枢酵素であり、アロステリックエフェクターにより強く調節される。例えば、3−ホスホグリセレートが酵素活性を刺激し、オルト燐酸はその活性を阻害する。これらのエフェクターはグリコーゲン合成の制御においてインビボで重要な役割を果たし得る。増殖条件によっては、細胞内のグリコーゲンの量はその乾燥重量の10〜60%を占める。一般に、炭素およびエネルギーの供給が豊富で、窒素が制限栄養素である条件下でグリコーゲンが蓄積する。増殖培地中で燐酸が欠乏するとまた、細胞内のグリコーゲン量がより高くなる。細菌におけるADP−グルコースの唯一の機能は、グリコーゲン合成の前駆体として作用することである。グリコーゲン合成が妨害されたE.coli変異体では、細胞の増殖は、悪影響を受けない。グリコーゲン合成の妨害により、グルコサミン/N−アセチルグルコサミン生産により多くの炭素源が利用できる様になる。
グルコサミン/N−アセチルグルコサミンの生産を最大にするため、ホスホグルコイソメラーゼ(pgi遺伝子でコードされる)を操作することができる。pgi遺伝子の過剰発現により、グルコサミン−6−P合成の直接の基質であるフルクトース−6−Pへのグルコース−6−Pの変換を増加することができる。
グルコースは細胞増殖およびグルコサミン合成を支えるために必要である。ホスホフルクトキナーゼ(PfkAおよびPfkB、前者が主なイソ酵素)はフルクトース−6−Pからフルクトース−1,6−二燐酸への変換を触媒する。その反応はグルコサミン−6−P合成と競合して作動する。炭素フラックスの制御では、PfkAおよび/またはPfkBの発現を調節してより多くのグルコース−6−Pをグルコサミン経路へ向かわせることが望ましい。グルコサミン合成を最大にするためには、グルコースの供給を制限すべきであるが、過剰のグルコースは通常酢酸が合成される結果となる。酢酸の蓄積は細胞増殖を阻害し、全般的な細胞の代謝を低下する信号となるので、避けるべきである。炭素の供給を管理する一つのアプローチは、グルコサミン合成への炭素フラックスと細胞増殖および酢酸生成への炭素フラックスの結合を断つことである。これは、pfkA遺伝子を欠失させ、増殖のために細胞にフルクトースを供給することで達成され得る。pfkAノックアウト変異体では、フルクトース−6−燐酸の解糖へのフラックスが大きく制限される。従って、実質的に全てのグルコースがグルコサミン合成に使用され得、一方、細胞増殖およびエネルギー生産はフルクトースを供給して行われ、これは細胞内に輸送され、燐酸化されてフルクトース−1−燐酸になる。後者はさらに燐酸化されてフルクトース−1,6−二燐酸になる。
文献には燐酸化アミノ糖がペントース燐酸経路を阻害したことが示唆されている。実際、N−アセチルグルコサミン生産により細胞増殖が阻害されたが、グルコネートおよびリボースというこの経路の中間体を供給すると阻害がなくなり得る。グルコネートおよびペントース化合物の補充がN−アセチルグルコサミンの生産を増加することも見出された。アミノ糖による阻害を克服するため、グルコース−6−Pデヒドロゲナーゼ(zwf遺伝子でコードされる)等のペントース燐酸経路の酵素を過剰発現することもできる。
グルコサミン/N−アセチルグルコサミン合成はアミノ供与体であるグルタミンを消費する。グルタミン合成にはglnA遺伝子でコードされるグルタミンシンターゼが関与する。glnA遺伝子の過剰発現により、グルタミンプールが増加し得、従ってグルコサミン/N−アセチルグルコサミンが増加し得る。
従って、本発明による好ましい改変のいくつかを一般的に説明してきたが、ある実施態様では、微生物は微生物中でグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ活性を増加させる少なくとも一つの遺伝子修飾を有する。グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ活性を増加する遺伝子修飾により、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ酵素活性の増加;微生物によるグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼの過剰発現:グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼのN−アセチルグルコサミン−6−燐酸生成物阻害の減少;および/またはグルコサミン−6−燐酸に対するグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼの親和性の増加から選ばれる結果が提供されることが好ましい。ある実施態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼをコードする少なくとも1個の組み替え核酸分子で形質転換される。この様な核酸分子には、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼの酵素活性を増加する、または任意の上記結果をもたらす、少なくとも一つの遺伝子修飾を有するグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼをコードする核酸配列が含まれ得る。グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼの機能および代表的な配列は、上記に記載されている。
他の実施態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸シンターゼの活性を増加する少なくとも一つの遺伝子修飾を有する。グルコサミン−6−燐酸シンターゼの活性を増加するためのその遺伝子修飾は、グルコサミン−6−燐酸シンターゼの酵素活性の増加;グルコサミン−6−燐酸シンターゼの過剰発現;グルコサミン−6−燐酸シンターゼの生成物阻害の減少;およびその基質に対するグルコサミン−6−燐酸シンターゼの親和性の増加;から選ばれる結果をもたらすことが好ましい。ある態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸シンターゼをコードする核酸配列を含む少なくとも1個の組み替え核酸分子で形質転換される。この様な核酸分子には、グルコサミン−6−燐酸シンターゼの酵素活性を増加するか、グルコサミン−6−燐酸シンターゼの生成物阻害を減少するか、または上記結果の任意の一つをもたらす、少なくとも一つの遺伝子修飾を有する、グルコサミン−6−燐酸シンターゼをコードする核酸配列が含まれ得る。グルコサミン−6−燐酸シンターゼの機能とそれぞれの配列は、上記に記載されている。
他の実施態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸シンターゼの活性を減少する遺伝子修飾を有する。ある態様では、グルコサミン−6−燐酸シンターゼの活性を減少する遺伝子修飾は、微生物中でグルコサミン−6−燐酸シンターゼをコードする内在性遺伝子の部分的または完全な欠失または不活性化である。
また別な実施態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの活性を増加する少なくとも一つの遺伝子修飾を有する。グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの活性を増加するための遺伝子修飾は、微生物によるグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの過剰発現、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ酵素活性の増加、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの逆反応の増加により増加した(より多くの)グルコサミン−6−燐酸の形成、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの正反応の減少により減少した(より少ない)フルクトース−6−燐酸の形成、フルクトース−6−燐酸に対するグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの親和性の増加、グルコサミン−6−燐酸に対するグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの親和瀬の減少、およびグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼのグルコサミン−6−燐酸生成物阻害の減少から選ばれる結果をもたらすことが好ましい。ある態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼをコードする核酸配列を含む少なくとも1個の組み替え核酸分子で形質転換される。この様な核酸分子には、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの酵素活性を増加する、または上記結果の任意の一つをもたらす、少なくとも一つの遺伝子修飾を有するグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼをコードする核酸配列が含まれ得る。グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの機能および代表的な配列は、上記に記載されている。
別の実施態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの活性を減少する少なくとも一つの遺伝子修飾を有する。ある態様では、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの活性を減少する遺伝子修飾は微生物中でグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼをコードする内在性遺伝子の部分的または完全な欠失または不活性化である。
また別な実施態様では、微生物はグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ活性を増加する少なくとも1つの遺伝子修飾を有する。好ましくは、その遺伝子修飾はグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ酵素活性の増加;N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ酵素活性の減少;グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ活性を有する酵素の微生物による過剰発現;グルコサミン−1−燐酸に対するグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼの親和性の増加;N−アセチルグルコサミン−1−燐酸に対するグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼの親和性の減少;および/またはグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼのN−アセチルグルコサミン−1−燐酸生成物阻害の減少から選ばれた結果を提供する。ある態様では、微生物はグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼまたはグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする核酸配列を含む、少なくとも1個の組換え核酸分子で形質転換される。この様な核酸分子は、グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼの酵素活性を増加する、または任意の上記結果をもたらす少なくとも1つの遺伝子修飾を有するグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼをコードする核酸配列を含み得る。グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼの機能と代表的な配列は、上記に記載されている。
他の実施態様では、遺伝子修飾された微生物は、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ活性を増加する少なくとも一つの遺伝子修飾を含む。好ましくは、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ活性を増加する遺伝子修飾は、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ活性の増加;N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの過剰発現;N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの逆反応の増加によるN−アセチルグルコサミン−6−燐酸の生成;N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの正反応の減少されて、またはより好ましくは消失されてグルコサミン−6−燐酸の生成から選ばれた結果をもたらす。ある態様では、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼをコードする核酸配列を有する、少なくとも1個の組換え核酸分子で微生物が形質転換される。この様な核酸分子には、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの酵素活性を増加する、または任意の上記結果をもたらす、少なくとも一つの遺伝子修飾を有するN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼをコードする核酸配列が含まれ得る。N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼの機能と代表的な配列は上記に記載されている。
他の実施態様では、遺伝子修飾された微生物はホスフォグルコサミンムターゼ活性を増加する少なくとも一つの遺伝子修飾を有する。好ましくは、ホスフォグルコサミンムターゼ活性を増加する遺伝子修飾は、ホスフォグルコサミンムターゼ活性の増加;ホスフォグルコサミンムターゼの過剰発現;ホスフォグルコサミンムターゼ活性の増加によるグルコサミン−1−燐酸の生成;および/またはホスフォグルコサミンムターゼ活性の減少、または好ましくは消失によるグルコサミン−6−燐酸の生成から選ばれる結果をもたらす。ある態様では、微生物はホスフォグルコサミンムターゼをコードする核酸配列を有する、少なくとも1個の組換え核酸分子で形質転換される。この様な核酸分子にはホスフォグルコサミンムターゼの酵素活性を増加する少なくとも一つの遺伝子修飾を有するホスフォグルコサミンムターゼをコードする、または上記結果をもたらす核酸配列が含まれ得る。ホスフォグルコサミンムターゼの機能と代表的な配列は上記に記載されている。
本明細書中に記載した任意の実施態様で、遺伝子修飾された微生物は、ホスフォグルコイソメラーゼ活性を微生物内で増加する、少なくとも一つの別な遺伝子修飾を有し得る。好ましくは、ホスフォグルコイソメラーゼを増加する、少なくとも一つの別な遺伝子修飾を有し得る遺伝子修飾された微生物はホスフォグルコイソメラーゼ活性の増加;ホスフォグルコイソメラーゼの過剰発現;基質に対するホスフォグルコイソメラーゼの親和性の増加から選ばれた結果をもたらす。ある実施態様では、微生物はホスフォグルコイソメラーゼをコードする核酸配列を有する組換え核酸分子の少なくとも1個で形質転換される。この様な核酸分子は、ホスフォグルコイソメラーゼの酵素活性を増加する少なくとも一つの遺伝子修飾を有するホスフォグルコイソメラーゼをコードする、または任意の上記結果をもたらす核酸配列を含み得る。ホスフォグルコイソメラーゼの機能と代表的な配列は上記に記載されている。
本明細書に記載された任意の実施態様で、遺伝子修飾された微生物はホスフォフルクトキナーゼ活性を減少する、少なくとも一つの別な遺伝子修飾を微生物中に有し得る。ある局面では、ホスフォフルクトキナーゼ活性を減少する遺伝子修飾は、微生物中でホスフォフルクトキナーゼをコードする内在性遺伝子の部分的または完全な欠失もしくは不活性化である。ホスフォフルクトキナーゼの機能と代表的な配列は、上記に記載されている。
本明細書に記載された任意の実施態様で、遺伝子修飾された微生物はグルタミンシンテターゼ活性を増加する、少なくとも一つの別な遺伝子修飾を微生物中に有し得る。好ましくは、グルタミンシンテターゼを増加する、少なくとも一つの別な遺伝子修飾を有し得る遺伝子修飾された微生物はグルタミンシンテターゼ活性の増加;グルタミンシンテターゼの過剰発現;基質に対するグルタミンシンテターゼの親和性の増加から選ばれた結果をもたらす。ある実施態様では、グルタミンシンテターゼをコードする核酸配列を有する少なくとも1個の組換え核酸分子で微生物が形質転換される。この様な核酸分子には、グルタミンシンテターゼの酵素活性を増加する、または上記の任意の結果をもたらす、少なくとも一つの遺伝子修飾を有するグルタミンシンテターゼをコードする核酸配列が含まれ得る。グルタミンシンテターゼの機能と代表的な配列は上記に記載されている。
本明細書に記載の任意の実施態様では、遺伝子修飾した微生物は、グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ活性を微生物中で増加する、少なくとも一つの別な遺伝子修飾を有し得る。好ましくは、グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼを増加する、少なくとも一つの別な遺伝子修飾を有し得る遺伝子修飾した微生物はグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ活性の増加、グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼの過剰発現、基質に対するグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼの親和性の増加から選ばれた結果をもたらすことが好ましい。ある態様では、微生物はグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼをコードする核酸配列を有する、少なくとも1個の組換え核酸分子で形質転換される。この様な核酸分子には、グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼの酵素活性を増加する少なくとも一つの遺伝子修飾を有するグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼをコードする、または任意の上記結果をもたらす核酸配列が含まれ得る。グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼの機能と代表的な配列は上記に記載されている。
本明細書に記載の任意の実施態様では、遺伝子修飾した微生物は、グリコーゲン合成に関与する一つ以上の酵素の活性を減少する、少なくとも一つの別な遺伝子修飾を微生物中に有し得る。この様な酵素にはADPグルコースピロホスフォリラーゼ、グリコーゲン合成および分枝酵素を有するグリコーゲン合成が含まれるがそれに限定されない。ある局面では、グリコーゲン合成に関与する酵素の活性を減少する遺伝子修飾は、微生物中でグリコーゲン合成に関与する酵素をコードする、1個以上の内在性遺伝子の部分的または完全な欠失または不活性化である。
本明細書に記載の任意の実施態様において、遺伝子修飾された微生物はホスファターゼ活性を増加する少なくとも一つのさらなる遺伝子修飾を有し得る。本明細書に記載された、遺伝子修飾された微生物の最初の細胞内生成物はグルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミンである。Escherichia.coliを含む多くの微生物で、アンモニウムの適切な細胞内への供給が、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼの反応に重要である。グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸およびN−アセチルグルコサミン−1−燐酸は、代表的に細胞外へ輸送する前にグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンに脱燐酸化される。それにも拘わらず、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸の脱燐酸化のための適当なホスファターゼ活性を有する様に遺伝子修飾された微生物を提供することが本発明のなお他の実施態様である。この様なホスファターゼには例えばアルカリホスファターゼ、酸ホスファターゼ、ホスフォ糖ホスファターゼおよびホスフォアミノ糖ホスファターゼが含まれ得るが、それに限定されない。好ましい実施態様では、例えばEscherichiacoliはホスファターゼ活性(すなわちホスファターゼ作用)のレベルが増大(すなわち、増加)している。
上記の任意の一つの実施態様で、微生物はN−アセチルグルコサミンデアセチラーゼ、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ、N−アセチルグルコサミントランスポーター(IINag)、グルコサミンシンターゼ、ホスフォグルコサミンムターゼ、グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ、マンノーストランスポーター(EIIM/IIIman)、ホスフォフルクトキナーゼ、グルコーストランスポーター(IIGlc)、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼおよび/またはホスファターゼでなる群から選択される酵素の活性を増加または減少する、少なくとも一つのさらなる遺伝子修飾を有し得る。E.coli中の遺伝子はNagA、nagB、nagC、nagD、nagE、glmS、glmM、glmU、manXYZ、pfkA、pfkB、ptsG、GNAIまたはホスファターゼ遺伝子にそれぞれ対応する。
上記に定義した様々な遺伝子修飾を組み合わせて、一つ以上の修飾を有する所望の微生物を形成し、微生物によるグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産を増大することができる。例えば、ある実施態様では、微生物は以下の遺伝子修飾を有する:(1)グルコサミン燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ活性を増加する遺伝子修飾;および(2)グルコサミン−6−燐酸シンターゼ活性を増加する遺伝子修飾。より好ましい実施態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ活性を減少する遺伝子修飾も有する。
他の実施態様では、微生物は以下の遺伝子修飾を有する:(1)グルコサミン燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ活性を増加する遺伝子修飾;および(2)グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ活性を増加する遺伝子修飾。より好ましい実施態様では、微生物はまた、グルコサミン−6−燐酸シンターゼ活性を減少する遺伝子修飾も有する。
他の実施態様では、微生物は以下の遺伝子修飾を有する:(1)グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ活性を増加する遺伝子修飾;および(2)グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ活性を増加する遺伝子修飾、および好ましくはグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ活性を増加する、および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ活性を減少する遺伝子修飾。より好ましい実施態様では、微生物はまた、グルコサミン−6−燐酸シンターゼ活性を減少する遺伝子修飾も有する。
他の実施態様では、微生物は以下の遺伝子修飾を有する:(1)グルコサミン−6−燐酸シンターゼ活性を増加する遺伝子修飾;および(2)グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ活性を増加する遺伝子修飾、および好ましくはグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ活性を増加し、そして/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ活性を減少する遺伝子修飾。より好ましい実施態様では、微生物はまた、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ活性を減少する遺伝子修飾も有する。
他の実施態様では、本発明の醗酵法で有用な遺伝子修飾した微生物は、内因性グルコース−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ(例えば酵母は内因性グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼを有する)および、グルコサミン−6−燐酸シンターゼ活性を増加する少なくとも一つの遺伝子修飾を有する。より好ましい実施態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ活性を減少する遺伝子修飾を有し得る。
他の実施態様では、本発明の醗酵法で有用な遺伝子修飾した微生物は、転写制御配列と結合して作動するグルコサミン−6−燐酸シンターゼ、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ、ホスフォグルコサミンムターゼまたはグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼをコードする組換え核酸分子で形質転換される。組換え核酸分子は、酵素作用に影響する遺伝子修飾を有することができる。組換え核酸分子の発現により、グルタミン−6−燐酸シンターゼ、グルタミン−6−燐酸デアミナーゼ、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ、ホスフォグルコサミンムターゼまたはグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼの微生物による発現および/または生物活性が、組換え核酸分子がない場合の発現レベルまたはタンパク質の生物活性と比較して増加する。好ましい実施態様では、組換え核酸分子が微生物のゲノムに組み込まれる。さらなる実施態様では、微生物はグルコサミン−6−燐酸シンテターゼ、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ、N−アセチルグルコサミン特異的酵素IINag、ホスフォグルコサミンムターゼ、グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ、ホスフォフルクトキナーゼ、PEP、グルコースPTS、EIIMの酵素IIGlc、PEP、マンノースPTSのPIIIMan、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ、および/またはホスファターゼの群から選ばれたタンパク質をコードする遺伝子中に少なくとも一つのさらなる遺伝子修飾を有する。遺伝子修飾は、ホスファターゼの作用が増加することが好ましいホスファターゼの場合を除いて、タンパク質の作用を増加または減少する。別な好ましい実施態様では、微生物はN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼおよびN−アセチルグルコサミン特異的酵素IINagをコードする遺伝子が修飾され、その遺伝子修飾はタンパク質の作用を減少または増加する。ある実施態様では、遺伝子修飾は遺伝子の少なくとも一部の欠失である。
他の実施態様では、本発明の遺伝子修飾された微生物は転写制御配列と作動可能に連結して作動するグルコサミン−6−燐酸シンターゼ、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ、ホスフォグルコサミンムターゼまたはグルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ/N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼをコードする組換え核酸分子;およびN−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ、グルコサミン−6−燐酸デアミナーゼ、N−アセチルグルコサミン特異的酵素IINag,ホスフォグルコサミンムターゼ、グルコサミン−1−燐酸N−アセチルトランスフェラーゼ−N−アセチルグルコサミン−1−燐酸ウリジルトランスフェラーゼ、ホスフォフルクトキナーゼ、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ、PEP:グルコースPTSおよび/またはEIIMの酵素IIGlc,および/またはPEP:マンノースPTSのIIIManの群から選ばれたタンパク質をコードする遺伝子中の少なくとも一つの遺伝子修飾的修飾を有する。遺伝子修飾により、タンパク質の作用が増加または減少し、組換え核酸分子の発現が、微生物による酵素の発現を増加する。他の実施態様では、微生物はホスファターゼ遺伝子中に少なくとも一つの遺伝子修飾を有し、そのためにこの様な遺伝子でコードされたホスファターゼの作用が増加する。好ましい実施態様では、組換え核酸分子が微生物のゲノム中に組み込まれる。
さらに、本発明に開示されたプロセスおよび材料を当業者が使用し得そして/または変更し得、ポリ−N−アセチルグルコサミン、ポリグルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルマンノサミンおよびそれらの誘導体等の他のアミノ糖を製造することができる。
上記の様に、本発明の醗酵法でグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンをかなりの高い収率で製造するためには、微生物を遺伝子修飾してグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産を増大する。本明細書で用いられるように、遺伝子修飾された微生物は、その正常な形(すなわち野生型または天然起原)から修飾された(すなわち変異または変化した)ゲノムを有する。ある態様では、この様な生物は目的のタンパク質をコードする遺伝子を内在的に含有し発現することが可能で、遺伝子修飾は遺伝子の遺伝子修飾であり得、それにより、修飾は遺伝子の発現および/または活性にある影響(例えば、増加、減少、欠失)を及ぼす。他の態様では、この様な生物は目的のタンパク質を内在的に含有し発現することが可能で、遺伝子修飾は少なくとも1個の外来核酸配列(例えば組換え核酸分子)の導入であり得、外来核酸配列は目的のタンパク質および/またはタンパク質の活性またはそのタンパク質をコードする遺伝子の活性に影響するタンパク質をコードする。微生物に導入される外来核酸分子は野生型タンパク質をコードすることが可能であるか、または野生型タンパク質または正常なタンパク質と比較してコードされたタンパク質の発現および/または活性に影響する、一つ以上の修飾を受けることができる。また別な態様では、その生物が目的のタンパク質をコードする遺伝子を必ずしも内在的に(自然に)含有する必要はなく、遺伝子修飾されて目的のタンパク質の生物活性を有するタンパク質をコードする少なくとも1個の組換え核酸分子を誘導する。再び、組換え核酸分子は野生型タンパク質をコードすることができるか、または組換え核酸配列を修飾して、野生型タンパク質と比較してコードされたタンパク質の発現および/または活性に影響することができる。他の実施態様では、様々な発現制御配列(例えばプロモーター)を微生物に導入して、微生物中で内在性遺伝子を発現させることができる。これらの態様のそれぞれに関連する様々な実施態様を、以下により詳細に議論する。
本明細書で使用されるように、遺伝子修飾された微生物には、バクテリア、原生生物、微細藻類、菌類その他の微生物を含む任意の遺伝子修飾された微生物が含まれ得る。この様な遺伝子修飾された微生物は、所定の結果(例えば酵素の発現および/または活性が増加、減少その他の修飾、および/または修飾によるグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミン生産の修飾)が得られる様に、その正常な形(すなわち野生型または天然起原)が修飾された(すなわち変異または変化した)、および/または染色体外遺伝物質(例えば組換え核酸分子)を発現するように修飾されたゲノムを有する。より具体的には、微生物に対する修飾は、微生物のゲノム(例えば内在性ゲノム)の修飾で行われ得るか、および/または遺伝物質(例えば組換え核酸分子)を微生物中に導入して行われ、その遺伝子は染色体外に存在するか、または宿主微生物遺伝子中に組み込まれ得る。この結果、遺伝子修飾には微生物中の内在性核酸配列、または組換えで導入された核酸配列の発現を調節する調節配列の導入または修飾、野生型または修飾された組換え核酸分子(例えば野生型または修飾タンパク質をコードする)の導入、微生物中の内在性遺伝子の修飾、または酵素の発現および/または生物活性に関して特定の特徴を有する微生物が得られる任意の他の修飾が含まれ得る。微生物の遺伝子修飾は古典的な株の開発、および/または分子遺伝子技術を用いて行われ得る。この様な技術は公知であり、微生物でも一般的に開示されている(例えばSambroookら、1989、MolecularCloning:ALaboratoryManual、ColdSpring Harbor Lbs Press)。Sambrookらの参考文献はその全体が参考として本明細書に援用される。遺伝子修飾された微生物には、核酸分子が挿入、欠失および/または修飾された(すなわち、例えばヌクレオチドの挿入、欠失、置換および/または反転により変異された)微生物が含まれ、この様な修飾により微生物内に所望の効果を生じる。本発明によれば、遺伝子修飾された微生物には、組換え技術を用いて修飾された微生物が含まれる。
本発明のある実施態様では、微生物の遺伝子修飾により本発明によるアミノ糖代謝経路に含まれるタンパク質の活性が増加または減少する。この様な遺伝子修飾には任意の型の修飾が含まれ、特に組換え技術および/または古典的突然変異誘発で行われた修飾が含まれる。本発明で使用されるように、遺伝子発現、遺伝子の機能または遺伝子生成物(すなわち遺伝子でコードされるタンパク質)の機能の減少をもたらす遺伝子修飾とは、遺伝子の不活性化(完全または部分的)、欠失、妨害、遮断、抑制または下方調節を言い得る。例えば、この様な遺伝子でコードされるタンパク質の機能が減少する結果となる遺伝子の遺伝子修飾により、遺伝子の完全な欠失(すなわち遺伝子が存在せず、従ってタンパク質も存在しない)、タンパク質が不完全に翻訳または翻訳されない遺伝子の変異(例えばタンパク質が発現しない)、またはタンパク質の本来の機能が減少または失われた遺伝子の変異(例えば酵素活性または作用が減少または失われたタンパク質が発現する)がもたらされる。具体的には、本明細書で議論される酵素の作用または活性の減少とは、一般的に問題とする微生物の任意の遺伝子修飾のことであり、酵素の発現および/または機能(生物活性)が減少する結果となり、それには酵素活性(例えば比活性)の減少、酵素の阻害または分解の増加ならびに、酵素の発現の減少または喪失が含まれる。例えば、本発明の酵素の作用または活性が、酵素の生産を妨害または減少、酵素活性の減少、または酵素活性の阻害により減少し得る。この様な修飾のいくつかの組み合わせもまた可能である。酵素生産の妨害または減少には、生育培地中に誘導化合物の存在が必要であるプロモーターの制御下にある酵素をコードする遺伝子を導入することが含まれる。培地に誘導因子が欠乏する様な条件を与えることにより、その酵素をコードする遺伝子の発現(従って酵素合成)を切り離すことができる。酵素活性の妨害または減少には、本明細書に参考として組み込まれる米国特許第4、743、546号に記載の技術と類似の切除技術アプローチの使用も含まれる。このアプローチを使用するためには、目的の酵素をコードする遺伝子が、ゲノムから遺伝子の特異的かつ制御された切除が可能である特定の遺伝子配列間にクローニングされる。例えば米国特許第4、743、546号に記される様に培養における培養温度の変更を、または他の物理的または栄養信号を変えることにより、切除が促され得る。
遺伝子の発現または機能を増加させる遺伝子修飾とは、遺伝子の増幅、過剰生産、過剰発現、活性化、増大、付加または上方制御のことであり得る。具体的には、本明細書で議論する酵素または他のタンパク質の作用(または活性)の増加とは、一般的に問題とする微生物で酵素またはタンパク質の発現および/または機能(生物活性)の増加をもたらす任意の遺伝子修飾のことであり、酵素活性(例えば比活性またはインビボでの酵素活性)の増加、酵素阻害または分解の減少、および酵素の過剰発現を含む。例えば、遺伝子コピー数が増加するか、天然型プロモーターの発現レベルより高い発現レベルを与えるプロモーターの使用により発現レベルが増加され得、または遺伝子工学もしくは古典的突然変異誘発により遺伝子を変化させ、酵素の生物活性を増加することができる。この様な修飾のいくつかの組み合わせも可能である。
一般に、本発明によれば、変異体または修飾酵素のある特性(例えば酵素活性)の増加または減少は、同じまたは同等の条件で測定または確立された、同じ生物由来(同じ起原または親配列)の野生型(すなわち正常で修飾されていない)酵素の同じ特性を参照して行われる。同様に、遺伝子修飾された微生物の特性(例えばタンパク質の発現および/もしくは生物活性、または生成物の生産)の増加または減少は、同じ種の野生型微生物、好ましくは同じ株の同じ特性を同じまたは等価の条件で参照して行われる。この様な条件には、タンパク質の活性(例えば発現または生物活性)または微生物の他の特性が測定されるアッセイまたは培養条件(例えば培地成分、温度、pH等)と共に、使用したアッセイのタイプ、評価される宿主微生物等が含まれる。上記に議論した様に、等価な条件とは、類似しているが必ずしも同じ(例えば条件の保存性変化は許容され得る)でない条件(例えば培養条件)、および同じ条件で行われた対照と比較して微生物生育、酵素発現または生物活性に対する効果を実質的に変えない条件である。
好ましくは、あるタンパク質(例えば酵素)の活性を増加または減少する遺伝子修飾を有する遺伝子修飾された微生物は、タンパク質の活性(例えば発現、生産および/または生物活性)が、野生型微生物中の野生型タンパク質の活性と比較して好ましくは少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約15%、より好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約35%、より好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約45%、より好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約55%、より好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約65%、より好ましくは約70%、より好ましくは約75%、より好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、または任意の割合、すなわち5%〜100%の間の任意の整数(たとえば6%、7%、8%等)の間でそれぞれ増加または減少している。単離された修飾核酸分子またはタンパク質を単離された野生型核酸分子またはタンパク質と直接比較する場合(例えばインビボと対照して比較をインビトロで行う場合)、同じ差であることが好ましい。
本発明の他の態様では、あるタンパク質(例えば酵素)の活性を増加または減少する遺伝子修飾を有する遺伝子修飾された微生物は、野生型微生物中の野生型タンパク質の活性と比較して、少なくとも約2倍、より好ましくは少なくとも約5倍、より好ましくは少なくとも約10倍、より好ましくは少なくとも約20倍、より好ましくは少なくとも約30倍、より好ましくは少なくとも約40倍、より好ましくは少なくとも約50倍、より好ましくは少なくとも約75倍、より好ましくは少なくとも約100倍、より好ましくは少なくとも約125倍、より好ましくは少なくとも約150倍、または少なくとも約2倍から出発する任意の全整数倍増加(例えば3倍、4倍、5倍、6倍等)で、それぞれタンパク質の活性(例えば発現、生産および/または生物活性)が増加または減少している。
活性(発現、比活性、インビボ活性などを含む)を増加または減少する微生物の遺伝子修飾は、微生物中のグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生合成経路またはアミノ糖代謝経路の活性に影響することが好ましく、その経路は内在性で遺伝子修飾された経路、生物内に一つ以上の組換え核酸分子を導入した内在性の経路、または完全に組換え技術で作製された経路である。本発明によれば、「グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生合成経路の活性への影響」には、遺伝子修飾がない場合と比較して微生物により発現する、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生合成経路に任意の検出可能なまたは測定可能な変化または修飾を生じる任意の遺伝子修飾が含まれる。グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生合成経路中の任意の検出可能な変化または修飾には、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生合成経路中の少なくとも一つの生成物生産の検出可能な変化、または微生物による細胞内および/または細胞外グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミン生産の検出可能な変化が含まれるが、それに限定されない。
本発明のある実施態様では、遺伝子修飾には本明細書に記載の特定の酵素または他のタンパク質をコードする核酸配列の修飾が含まれる。この様な修飾を内在性酵素またはタンパク質に行うことができ、その結果この様なタンパク質を自然に含む微生物が例えば古典的突然変異誘発、および遺伝子工学技術を含む選択技術および/または分子遺伝学技術により遺伝子修飾される。遺伝子工学技術には例えば、内在性遺伝子のある部分を欠失するため、または改良された酵素または他のタンパク質をコードする配列、または内在性酵素または他のタンパク質の発現を増加する種々のプロモーターをコードする配列のような相同配列で、内在性遺伝子の一部を交換するための標的組換えベクターの使用が含まれ得る。遺伝子工学技術にはまた、組換え技術を用いる遺伝子の過剰発現も含まれ得る。
例えば、非天然型プロモーターを、本明細書に記載されるアミノ糖代謝経路中の目的の酵素または他のタンパク質をコードする少なくとも1個の遺伝子の上流に導入できる。好ましくは、内在性遺伝子の5’側の上流配列が誘導プロモーターである構成プロモーター、または使用する生育条件下で最適発現されるプロモーターで置換される。この方法は、内在性遺伝子が使用する生育条件下で活性でない、または十分に活性でない場合にとくに有用である。
本発明の本実施態様の別のある態様では、遺伝子修飾には目的の酵素またはタンパク質をコードする組換え核酸分子を、宿主中へ導入することが含まれ得る。宿主には(1)特定の酵素またはタンパク質を発現しない宿主細胞、または(2)特定の酵素またはタンパク質を発現せず、導入された組換え核酸分子が微生物中の酵素または他のタンパク質の活性を変化または増大する宿主細胞が含まれ得る。本発明は任意の遺伝子修飾された微生物を包含するよう意図され、その微生物は本発明によるグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンを生産するための醗酵プロセスに適した少なくとも一つの修飾を有する。
遺伝子修飾された微生物を、単離された核酸分子の微生物中への導入等により、組換え技術で修飾することができる。例えば、遺伝子修飾された微生物を、発現の増加が望まれるタンパク質等の目的のタンパク質をコードする組換え核酸分子に感染させることができる。感染した核酸分子は、染色体外に存在し得るか、またはこの様式で1個以上の部位が感染(すなわち組換え)宿主細胞の染色体内に組み込まれ得、発現される能力が維持される。好ましくは、本発明の宿主細胞が核酸分子に一度感染すると、核酸分子が宿主細胞ゲノム中に組み込まれる。組み込みの重要な利点は、核酸分子が細胞内に安定に維持されることである。好ましい実施態様では、組み込まれた核酸分子は、転写制御配列(下記)に作動可能に結合し、核酸分子の発現を制御する様に誘導され得る。
核酸分子を無秩序または標的組み込みによって宿主細胞のゲノム中に組み込むことができる。この様な組み込み法は当該分野で公知である。例えば、E.coli株ATCC47002はその上に複製のColE1開始点を含むプラスミドの維持を不可能にする変異を含む。この様なプラスミドがこの株中に導入される場合、プラスミド上に含まれる遺伝子マーカーの選択により、プラスミドが染色体中へ組み込まれる。例えばこの株を目的の遺伝子と、E.colilacZ遺伝子の5’−末端および3’−末端で挟まれた選択可能なマーカーを含むプラスミドで形質転換することができる。lacZ配列は導入されるDNAを染色体に含まれるlacZ遺伝子に向かわせる。lacZ座に組み込むことにより、酵素β−ガラクトシダーゼをコードする本来のlacZ遺伝子が、目的の遺伝子を間に挟む部分lacZ遺伝子で置換される。成功した組み込み体を、β−ガラクトシダーゼが無いことで選択することができる。導入バクテリオファージ等を用いるような方法により、受容体細胞ゲノム中へ核酸配列を導入して、遺伝子修飾された微生物を作製することもできる。組換え技術および導入バクテリオファージ技術を使用して本発明のいくつかの種々の遺伝子修飾された微生物を作製することは公知であり、実施例の項に詳細に述べられる。
温度シフトによりE.coli染色体中に標的遺伝子を欠失させ、そして組み込むベクターおよび方法が、Hamiltonら(1989、J.Bacteriol.171:4617−4622)により記載された。その方法は異なったグルコサミン生産E.coli株を開発するために採用された。遺伝子組み込みのプロトコールには以下の主な工程が含まれる。第一の工程では、標的部位の配列をクローニングし、内部欠失を作製し、そして/または欠失部位に組み込まれる外来遺伝子を挿入することでる。第二工程は、これらの配列を含むフラグメントを、温度感受性複製開始点および抗生物質選択マーカーを含む温度感受性組み込みベクター中へサブクローニングすることである。第三工程は、組み込みベクターをE.coli宿主株中に形質転換し、染色体中に組み込まれた全プラスミドを有するクローンを、非許容温度(42℃)で単一交差組換え法により選択することである。第四工程は、選択したクローンの細胞を液体培養物中で許容温度(30℃)で培養することである。組み込みプラスミドを有する細胞は、プラスミドを失い易い。複製開始点および抗生物質耐性遺伝子の部分または全プラスミドを喪失した細胞は、培養物中で発芽後成長する。具体的には、この工程は50mlLB培地に10個の内の2個のクローンのプールからの細胞を接種し、培養細胞を24時間生育させて行われた。培養細胞を1000倍希釈の新鮮な培地に移し、さらに24時間生育した。第五工程では、細胞をプレートに接種し、抗生物質耐性を失ったクローンを選択した。組み込み遺伝子または欠失遺伝子の性質に応じて、特定の遺伝子選択法を用いることができる。クローン選択の具体的方法では、染色体内に意図された変化を有するクローンを、その本来の形からPCR生成物の大きさで区別できるプライマーセットを用いてPCRを行った。クローンを組み込まれた、または欠失したDNA配列に特異的なプローブを用いるサザンブロット分析を用いて確認した。
本発明は醗酵プロセスで商業的に有用な量のグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを生産する能力(すなわち、好ましくは同じ条件で培養された野生型微生物と比較して、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生産能が増大した)のある、微生物の使用を含む方法を開示することを理解される。本明細書中で用いるように、醗酵プロセスとは、微生物等の細胞を、容器、バイオリアクター、培養器またはその他の適当な培養チャンバー中で、生成物を細胞から生産するために培養する(すなわち、培養プロセスの間に細胞が生成物を生産する)プロセスである。生成物は代表的には、実験または商業目的で有用な生成物である。本発明の醗酵法は、アミノ糖代謝経路に含まれるタンパク質をコードし、対応する野生型タンパク質と比較して異なった機能(例えば増加または減少)を有するタンパク質の生産(発現)をもたらす一つ以上の遺伝子の遺伝子修飾で行われる。この様な異なった機能により、遺伝子修飾された微生物がグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを生産する能力が増大する。実施例に記載される特異的選択技術等、本明細書の何れかに記載された様な、特定の異なった機能(例えばグルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を生産する増大された能力)を有する遺伝子修飾された微生物の生産により、与えられた機能的必要性に合致する多くの生物を作製し得ることは、様々な異なった遺伝子修飾によっても当業者が理解する。例えば、ある核酸配列中の異なった無秩序ヌクレオチド欠失および/または置換は、同じ遺伝子型の結果を生じ得る(例えばその配列でコードされるタンパク質の作用の減少)。本発明は、本明細書に示す特性を有する微生物の作製をもたらす、この様な多くの遺伝子修飾を企図する。
本発明のある実施態様によれば、遺伝子修飾された微生物にはグルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸の合成能が増大した微生物が含まれる。本発明によれば、生成物の「合成能の増大」とは、同じ条件下で培養された野生型微生物と比較して、微生物がより多くの生成物を生産する様な、生成物の合成に関係するアミノ糖代謝経路における任意の増大または上方制御のことである。
本発明のある態様では、醗酵法で有用な遺伝子修飾された微生物は、任意の適当な培養条件、特に本明細書に記載の任意の培養条件で、少なくとも約1g/l、好ましくは少なくとも約5g/l、より好ましくは少なくとも約10g/l、さらに好ましくは少なくとも約20g/l、さらに好ましくは少なくとも約30g/l、さらに好ましくは少なくとも約40g/l、さらに好ましくは少なくとも約50g/l、さらに好ましくは少なくとも約60g/l、さらに好ましくは少なくとも約70g/l、さらに好ましくは少なくとも約80g/l、さらに好ましくは少なくとも約90g/l、さらに好ましくは少なくとも約100g/l、さらに好ましくは少なくとも約110g/l、さらに好ましくは少なくとも約120g/l、さらに好ましくは少なくとも約150g/l、さらに好ましくは少なくとも約180g/l、またはさらに多い任意の量、または全整数で少なくとも約1g/l〜少なくとも約500g/lの範囲の任意の量(例えば2g/l、3g/l等)のグルコサミン、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を生産する。他の局面では、本発明の醗酵法で有用な遺伝子修飾された微生物は少なくとも約2倍以上のグルコサミン、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を、好ましくは少なくとも約5倍、より好ましくは少なくとも約10倍、より好ましくは少なくとも約25倍、より好ましくは少なくとも約50倍、さらに好ましくは少なくとも約100倍、さらに好ましくは少なくとも約200倍(全整数倍の、少なくとも約2倍〜少なくとも約200倍の間の任意の倍数(すなわち少なくとも3倍、少なくとも4倍等)を含む)を生産し、遺伝子修飾された微生物と同じまたは等価の条件下で培養された同じ種(好ましくは同じ株)の野生型(すなわち、非修飾、天然起原)微生物より多くのグルコサミン、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を生産する。この様な特性を有する多くの微生物が実施例の項で同定されている。
本発明の醗酵法で使用される微生物(例えば宿主細胞または生産生物)は任意の微生物(例えばバクテリア、原生生物、藻類、菌類、または他の微生物)であり、最も好ましくはバクテリア、酵母または菌類である。適当なバクテリア属にはEscherichia、Bacillus、Lactobacillus、PseudomonasおよびStreptomycesが含まれるが、それに限定されない。適当なバクテリア種には、Escherichiacoli、Bacillussubtilis、Bacillus licheniformis、Lactobacillusbrevis、Pseudomonas aeruginosa、およびStreptomyceslividansが含まれるが、それに限定されない。酵母の適当な属にはSaccharomyces、Schizosaccharomyces、Candida、Hansenula、Pichia、KluyveromycesおよびPhaffiaが含まれるが、それに限定されない。酵母の適当な種にはSaccharomycescerevisiae、Schizosaccharomycespombe、Candidaalbicans、Hansenula polymorpha、Pichiapastoris、P.canadensis、KluyveromycesmarxianusおよびPhaffia rhodozymaが含まれるが、それらに限定されない。適当な菌類属にはAspergillus、Absidia、Rhizopus、Chrysosporium、NeurosporaおよびTrichodermaが含まれるが、それに限定されない。適当な菌類の種にはAspergillusniger、A.nidulans、Absidacoerulea、Rhizopus oryzae、Chrysosporium lucknowense、Neurosporacrassa、N.intermedia、およびTrichodermreeseiが含まれるが、それに限定されない。Escherichia coliの特に有用な株はK−12、BおよびW、最も好ましくはK−12が挙げられる。Escherichiacoliが好ましいバクテリアの一つであり、本発明の様々な実施態様の例に使用されているが、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを生産し、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産を増加を増大する様に遺伝子修飾し得る任意の微生物も本発明の方法で使用し得ることを理解する必要がある。本発明の醗酵法に使用される微生物はまた、生産生物と呼ばれ得る。
好ましい実施態様では、遺伝子修飾された微生物はバクテリアまたは酵母であり、好ましくはEscherichia属のバクテリアであり、さらに好ましくはEscherichiacoliである。遺伝子修飾されたEscherichiacoliはnagA、nagB、nagC、nagD、nagE、manXYZ、glmM、pfkB、pfkA、glmU、glmS、GNA1、ptsGまたはホスファターゼ遺伝子を含むが、それに限定されない遺伝子が修飾されている。他の実施態様では、この様な遺伝子修飾されたEscherichiacoliはnagレギュロン遺伝子が欠失し、また別な実施態様ではnagレギュロン遺伝子の欠失およびmanXYZ遺伝子の遺伝子修飾によりmanXYZ遺伝子でコードされるタンパク質の作用が減少した。
本発明によれば、本明細書の特定の酵素または他のタンパク質の対照とは、野生型参照タンパク質の少なくとも一つの生物活性を有する任意のタンパク質をいい、全長タンパク質、融合タンパク質、または天然起原のタンパク質の任意のホモログ(天然型対立遺伝子変異体、フラグメント、異なった生物由来の関連タンパク質、および合成または人工由来の変異体(ホモログ)を含む)である。対照タンパク質のホモログ(突然変異体、変異体、修飾型)には天然起原の対照タンパク質と少なくとも1個または数個−必ずしも1個または数個に限られない−のアミノ酸の欠失した(例えば、ペプチドまたはフラグメントのようなタンパク質の切断型)、挿入された、反転した、置換されたそして/または誘導体化された(例えばグリコシル化、燐酸化、アセチル化、ミリストイル化、プレニル化、パルミチン化、アミド化、および/またはグリコシルホスファチジルイノシトールの付加による)点で異なるタンパク質が含まれる。好ましいホモログの一つは天然起原のタンパク質の生物活性フラグメントである。本発明で有用な天然起原タンパク質の他の好ましいホモログが以下に詳細に記載される。従って、本発明の単離された核酸分子は、任意の特定のタンパク質のオープンリーディングフレーム、ドメイン、その生物活性フラグメント、または生物活性を有する天然起原タンパク質またはドメインの任意のホモログの翻訳産物をコードすることができる。
本発明による単離されたタンパク質は、天然型環境から除去されたタンパク質(すなわち人間による加工が行われた)であり、例えば精製タンパク質、部分精製タンパク質、組換えで製造したタンパク質、および合成で製造したタンパク質を含み得る。組換えで製造したタンパク質のいくつかが実施例の項に記載されている。ここで「単離された」とはタンパク質が精製された程度を反映していない。さらに、「タンパク質X」と呼ばれる仮定タンパク質の参照例(すなわち本発明で使用された任意の酵素またはタンパク質をこの用語で置き換えることができる)では、「E.coliタンパク質X」とは、E.coli由来のタンパク質X(天然起原のタンパク質Xのホモログも含む)または構造(例えば配列)の知識から別法で製造されたタンパク質Xのことであり、時々E.coli由来の天然起原タンパク質Xの機能のことである。言い換えれば、E.coliタンパク質XにはE.coli由来の天然起原タンパク質Xと類似の構造と機能を実質的に有するか、本明細書に詳細に記載されたE.coli由来の天然起原タンパク質Xの生物活性(すなわち生物活性を有する)ホモログである任意のタンパク質Xが含まれる。従って、E.coliタンパク質Xには精製された、部分的に精製された、組換え、突然変異/修飾および合成タンパク質が含まれ得る。この議論は本明細書に開示される他の微生物由来のタンパク質Xにも同様に当てはめられる。
ホモログは、天然型対立遺伝子変異または天然型突然変異の結果であり得る。タンパク質をコードする核酸の天然起原の対立遺伝子変異体は、この様なタンパク質をコードする遺伝子のようなゲノムと基本的に同じ遺伝子座(単数または複数)に生じる遺伝子であるが、例えば突然変異または組換えで生じた天然型変異のため、類似ではあるが同一ではない配列である。対立遺伝子変異体は代表的には、それと比較される遺伝子でコードされるタンパク質の活性と類似の活性を有するタンパク質をコードする。あるクラスの対立遺伝子変異体は同じタンパク質をコードし得るが、遺伝子コードの縮重のために異なった核酸配列を有し得る。対立遺伝子変異体は遺伝子の5’非翻訳領域または3’非翻訳領域での変化を含み得る(例えば調節制御領域中に)。対立遺伝子変異体は、当業者に周知である。
ホモログは、単離された、天然起原のタンパク質の直接修飾、直接タンパク質合成、または例えば無秩序または標的を定めた突然変異誘発を行うための古典的または組換えDNA技術を用いる、そのタンパク質をコードする核酸配列の修飾を含むがそれに制限されないタンパク質産生のための公知の技術を用いて製造し得る。
野生型タンパク質と比較して、ホモログの修飾は、天然起原のタンパク質と比較してのホモログの基本的な生物活性に作用するか、拮抗するか、またはこれを実質的に変化させる。一般的に、タンパク質の生物活性または生物作用は、インビボ(すなわちタンパク質の天然型生理的環境中の)またはインビトロ(すなわち実験室条件下)で測定または観察される、タンパク質の天然起原型に帰せられる、タンパク質により示されまたは実施される任意の機能(単数または複数)のことである。本明細書で用いられる酵素およびタンパク質の生物活性は、上記に詳細に記されている。例えば、本明細書で一般的に「グルコサミン−6−燐酸シンターゼ」と呼ばれる酵素は、フルクトース−6−燐酸およびグルタミンからグルコサミン−6−燐酸とグルタミン酸の生成を触媒する。ホモログ中等のタンパク質の修飾は、天然起原タンパク質と同じレベルの生物活性を有するタンパク質を与え得るか、または天然起原のタンパク質と比較して減少または増加した生物活性を有するタンパク質を与え得る。タンパク質の発現の減少、または活性の減少をもたらす修飾は、タンパク質の不活性化(完全もしくは部分的)、下方調節、または作用低下と呼ばれ得る。同様に、タンパク質の発現の増加またはタンパク質の活性の増加をもたらす修飾は、増幅、過剰生産、活性化、増大、上方調節、またはタンパク質作用の増加と呼ばれ得る。機能性サブユニット、ホモログまたは与えられたタンパク質のフラグメントは、天然型タンパク質(即ち生物活性を有する)と実質的に同じ(例えば少なくとも定性的に同じ)生物機能を果たし得ることが好ましい。あるタンパク質の機能性サブユニット、フラグメントまたは他のホモログは、参照または野生型タンパク質の生物活性を有すると見なされるために参照または野生型タンパク質と必ずしも同じレベルの生物活性を有することが要求されない(即ち定性的類似性で充分である)ことが注目される。ある実施態様では、野生型タンパク質と比較したホモログ中の修飾が、天然起原タンパク質と比較してタンパク質の基本的な生物活性を実質的に減少しないことが好ましい。ホモログ中で生物活性が増加する(例えば酵素活性を増加させる)ことが望ましくあり得る。ホモログはまた、天然起原タンパク質と比較してある化合物による阻害に対する感受性の減少等、タンパク質の機能的、または酵素活性以外の特性で、天然起原型と比較して異なり得る。
本発明によれば、生物活性ホモログおよびそのフラグメントを含む単離タンパク質は野生型、または天然起原タンパク質の生物活性の少なくとも一つの特性を有する。タンパク質の発現と生物活性を検出および測定する方法にはタンパク質転写の測定、タンパク質翻訳の測定、タンパク質の細胞局在の測定、タンパク質と他のタンパク質との結合または会合の測定、タンパク質調節配列をコードする遺伝子とタンパク質または他の核酸との結合または会合の測定、タンパク質を発現する細胞内のタンパク質の生物活性の増加、減少または誘導の測定が含まれるが、それに限定されない。
本発明によるタンパク質の発現レベルの測定法にはウエスターンブロット、免疫細胞化学、フローサイトメトリーまたは他の免疫系分析;リガンド結合、酵素活性または他のタンパク質パートナーとの相互作用を含むがそれに限定されないタンパク質の性質に基づく分析が含まれるがそれに限定されない。結合分析も周知である。2つのタンパク質間の複合体の結合乗数を測定するため、例えば、BIAコア装置を使用することができる。複合体の解離定数は、緩衝液がチップ上を通り過ぎる時間の屈折率の変化をモニターして求めることができる(O’Shannesyら、Anal.Biochem.212:457−468(1993);Schusterら、Nature、365:343−347(1993))。あるタンパク質と他のタンパク質との結合を測定する他の適当な分析法は、例えば免疫分析(酵素結合免疫吸収体分析(ELISA)および放射線免疫分析(RIA)、またはタンパク質の分光学または光学的特性の変化を、蛍光、UV吸収、円二色性または核磁気共鳴(NMR))でモニターする結合測定である。本発明で用いられるタンパク質の酵素活性を測定する分析法は当該分野で周知であり、多くが実施例の項に記載される。
アミノ糖代謝経路に関与し、修飾のための望ましい標的を示し、本明細書に記載の醗酵プロセスに用いられる酵素およびタンパク質の多くは、代表的な野生型または突然変異タンパク質の機能とアミノ酸配列(およびそれをコードする核酸配列)に関して上記に記載されている。本発明のある実施態様では、与えられたタンパク質のホモログ(他の生物由来の関連タンパク質または与えられたタンパク質の修飾型も含み得る)が、本発明の遺伝子修飾された生物で使用するために含まれる。本発明に含まれるタンパク質のホモログは、本発明により修飾または過剰発現し得る酵素またはタンパク質のアミノ酸配列を表す、本明細書に開示のアミノ酸配列に対し、少なくとも約35%の同一、より好ましくは少なくと約も40%同一、より好ましくは少なくとも約45%同一、より好ましくは少なくと約も50%同一、より好ましくは少なくとも約55%同一、より好ましくは少なくとも約60%同一、より好ましくは少なくとも約65%同一、より好ましくは少なくとも約70%同一、より好ましくは少なくとも約75%同一、より好ましくは少なくとも約80%同一、より好ましくは少なくとも約85%同一、より好ましくは少なくとも約90%同一、より好ましくは少なくとも約95%同一、より好ましくは少なくとも約96%同一、より好ましくは少なくとも約97%同一、より好ましくは少なくとも約98%同一、より好ましくは少なくとも約99%同一、または全整数(すなわち36%、37%等)で35%〜99%の間の任意%同一であるアミノ酸を含み得る。ホモログのアミノ酸配列が野生型または参照タンパク質の生物活性を有することが好ましい。
本明細書で用いられる同一性(%)とは、特に指定しない限りホモロジーの評価を意味し、以下を用いて行われる:(1)標準デフォルトパラメーターを有するアミノ酸配列の対しblastpを、核酸配列に対しblastnを用いるBLAST2.0Basic BLASTホモロジー検索;低複雑度領域に対して質問配列がデフォルトにより篩い分けられる(Altshul、S.F.、Madden、T.L.、Schaffer、A.A.、Zhang、J.、Zhang、Z.,Miller,W.およびLipman、D.J.(1997)、“Gapped BLAST and PSI−BLAST:a new generation of protein database search programs”、Nucleic Acids Res.25:3389−3402、その全文を本明細書に参考として援用する);(2)BLAST2整列(以下に記載のパラメーターを使用);および/または(3)標準デフォルトパラメーターを有するPSI−BLAST(位置特異性繰り返しBLAST)。BLAST2.0 Basic BLASTとBLAST2の間の標準的なパラメーターにおける若干の差により、BLAST2プログラムを用いると2個の特定の配列が有意のホモロジーを有すると認識されるのに対し、配列の一つを質問配列として用いるBLAST2.0 Basic BLASTで行われる検索では、最高一致で第二の配列を同定しない場合があることに注意されたい。さらに、PSI−BLASTでは“プロフィル”検索の自動化された使い易いバージョンが提供され、配列のホモロジーを求める感度の高い方法となる。そのプログラムはギャップ付きBLASTデータベース検索を最初に行う。PSI−BLASTプログラムは、データーベース検索の次のラウンドのために質問配列を置き換える位置特異性スコアマトリックスを構築するために戻される、任意の有意な整列由来の情報を使用する。従って、%同一性はこれらのプログラムの何れを使用しても決定可能であることを理解する必要がある。
TatusovaおよびMadden、(1999)、“Blast2 sequences−a new tool for comparing protein and nucleotide sequences”、FEMS Microbiol.Lett.、174:247−250(その全文は本明細書に参考として援用される)に記載される。BLAST2配列を用いて、2個の特定配列を相互に整列させることができる。BLAST2配列の整列は、二つの配列間でギャップ付きBLAST検索(BLAST2.0)を行い、得られた整列中にギャップ(欠失および挿入)を導入し得る、BLAST2.0アルゴリズムを用いて、blastpまたはblastnにおいて行われる。本明細書では分かりやすくするため、以下の標準デフォルトパラメーターを用いてBLAST2配列の整列が行われる:
以下の0 BLOSUM62マトリックスを用いるblastnでは:
マッチングの報酬=1
ミスマッチの罰則=−2
開放ギャップ(5)および延長ギャップ(2)罰則
ギャップ× ドロップオフ(50)期待値(10)ワードサイズ(11)フィルター(オン)
以下の0 BLOSUM62マトリックスを用いるblastpでは:
開放ギャップ(11)および延長ギャップ(1)罰則
ギャップ× ドロップオフ(50)期待値(10)ワードサイズ(3)フィルター(オン)
本発明で参照および/または使用されたタンパク質には、参照タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも30個の隣接アミノ酸残基を含むアミノ酸配列を有するタンパク質もまた含まれ得る(すなわち、上で同定した配列の30個の隣接アミノ酸と100%同一を有する30個の隣接アミノ酸残基)。好ましい実施態様では、本発明で参照または使用されたタンパク質には、少なくとも50個、より好ましくは少なくとも75個、より好ましくは少なくとも100個、より好ましくは少なくとも115個、より好ましくは少なくとも130個、より好ましくは少なくとも150個、より好ましくは少なくとも200個、より好ましくは少なくとも250個、より好ましくは少なくとも300個、より好ましくは少なくとも350個の参照タンパク質のアミノ酸配列の隣接アミノ酸残基を有するアミノ酸配列を有するタンパク質が含まれる。ある実施態様では、この様なタンパク質は参照タンパク質の生物活性を有する。
本発明によれば、本発明に記載の核酸またはアミノ酸配列に関する“隣接”または“連続”と言う用語は、破壊されていない配列中で連結されていることを意味する。例えば、第二の配列の30個の隣接(または連続)アミノ酸を有する第一配列では、第一配列に第二配列中の30個のアミノ酸残基の破壊されていない配列に対し同一性が100%である30個のアミノ酸残基の破壊されない配列が含まれることを意味する。同様に、第二配列と同一性100%を有する第一配列では、ヌクレオチドまたはアミノ酸間にギャップがなく、第一配列が第二配列と正確に一致することを意味する。
他の実施態様では、ホモログを含む本発明で参照された、または使用されたタンパク質には、ホモログをコードする核酸配列が中程度の、高度のまたは極めて高度のストリンジェント条件(以下に記載)下で、天然起原のタンパク質をコードする核酸分子に(即ち核酸分子と)ハイブリダイゼーション可能な(即ち天然起原のタンパク質をコードする核酸分子鎖の相補体とハイブリダイゼーション可能な)、天然起原のタンパク質のアミノ酸配列と十分に類似したアミノ酸配列を有するタンパク質が含まれる。与えられたホモログは、中程度の、高度のまたは極めて高度のストリンジェント条件下で、野生型または参照タンパク質をコードする核酸分子配列の相補体とハイブリダイゼーションする核酸配列でコードされることが好ましい。
参照核酸配列の核酸配列相補体とは、タンパク質をコードする鎖と相補的である核酸の核酸配列を意味する。あるアミノ酸配列をコードする二重鎖DNAは一本鎖DNAおよび、その一本鎖DNAと相補性である配列を有する相補鎖を有することが理解される。従って、本発明の核酸分子は二重鎖または一本鎖の何れかであり、ストリンジェント条件下でタンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸配列、および/またはこの様なタンパク質をコードする核酸配列の相補体と安定なハイブリッドを形成する核酸分子を含む。相補的配列を推論する方法は当業者に公知である。アミノ酸配列決定と核酸配列決定の技術は全く誤りがないことはないので、本明細書に提示される配列は、たかだか本発明の参照タンパク質の見掛けの配列を表すことに注意しなければならない。
本明細書で用いるハイブリダイゼーション条件とは、核酸分子が類似の核酸分子を同定するために用いられる標準ハイブリダイゼーション条件を言う。この様な標準条件は、例えばSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Labs Press、1989に開示されている。Sambrookらの文献(同書)はその全文を本明細書に参考として援用する(特にp9.31−9.62参照)。さらに、ヌクレオチドのミスマッチ度を様々に変え得るためのハイブリダイゼーションを達成する適当なハイブリダイゼーション条件および洗浄条件を計算する式は、例えばMeinkothら、1984、Anal.Biochem.138、267−284;Meinkothら(同書)に開示され、その全文を本明細書に参考として援用される。
具体的には、本明細書で言う中程度のストリンジェントハイブリダイゼーションおよび洗浄条件とは、ハイブリダイゼーション反応を検出するために用いられる核酸分子で、少なくとも約70%の核酸配列同一性を有する核酸分子の単離を行うことができる条件のことである(すなわちヌクレオチドの約30%以下のミスマッチを許容する条件)。本明細書で言う高いストリンジェントハイブリダイゼーションおよび洗浄条件とは、ハイブリダイゼーション反応を検出するために用いられる核酸分子で、少なくとも約80%の核酸配列同一性を有する核酸分子の単離を行うことができる条件のことである(すなわちヌクレオチドの約20%以下のミスマッチを許容する条件)。本明細書で言うきわめて高いストリンジェントハイブリダイゼーションおよび洗浄条件とは、ハイブリダイゼーション反応を検出するために用いられる核酸分子で、少なくとも約90%の核酸配列同一性を有する核酸分子の単離を行うことができる条件のことである(すなわちヌクレオチドの約10%以下のミスマッチを許容する条件)。上記で議論した様に、この様な特定のレベルのヌクレオチドのミスマッチを行うための適当なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を計算するために、当業者はMeinkothらの式(上記)を使用することができる。この様な条件は、DNA:RNAまたはDNA:DNAハイブリッドが形成されるか否かにより変化する。DNA:RNAハイブリッドの融点の計算温度は、DBA:RNAハイブリッドのそれより10℃低い。ある特定の実施態様では、DNA:DNAのストリンジェントハイブリダイゼーション条件には、約20℃〜約35℃(より低いストリンジェント)、より好ましくは約28℃〜約40℃(よりストリンジェント)、さらに好ましくは、約35℃〜約45℃(さらによりストリンジェント)の間の温度で、適当な洗浄条件でイオン強度6×SSC(0.9M Na+)におけるハイブリダイゼーションが含まれる。特定の実施態様では、DNA:RNAハイブリッドのストリンジェントハイブリダイゼーション条件には、約30℃〜約45℃、より好ましくは約38℃〜約50℃、さらにより好ましくは、約45℃〜約55℃の間の温度で、同様なストリンジェント洗浄条件でイオン強度6×SSC(0.9M Na+)におけるハイブリダイゼーションが含まれる。これらの値は、約100個のヌクレオチドより大きい分子に対する、0%ホルムアミドおよびG+C含有量約40%における融点の計算に基づいている。また、Sambrookらの上記文献p9.31〜9.62に記載された様にTmを経験的に計算することができる。一般に、洗浄条件はできるだけストリンジェントであり、選択したハイブリダイゼーション条件に適している必要がある。例えば、ハイブリダイゼーション条件には塩条件および特定のハイブリッドのTmの計算値より約20〜25℃低い温度条件の組み合わせが含まれ、洗浄条件には代表的には塩条件および特定のハイブリッドのTmの計算値より約12〜20℃低い温度条件の組み合わせが含まれる。DNA:DNAハイブリッドに使用するに適したハイブリダイゼーション条件の一例には、約42℃における6×SSC(50%ホルムアミド)中の2〜24時間のハイブリダイゼーション、次いで約2×SSC中の室温での1回以上の洗浄を含む洗浄工程、次いでさらに高温で低イオン強度(例えば約0.1〜0.5×SSC中で約37℃での少なくとも1回の洗浄、次いで約68℃、約0.1〜0.5×SSCでの洗浄)の洗浄が含まれる。
ある実施態様では、ホモログは自然対立遺伝子変異または自然突然変異の結果であり得る。あるタンパク質のホモログはまた、本明細書記載の核酸またはアミノ酸レベルで相互に少なくともある構造的類似性を有する(例えば少なくとも約35%同一)、異なる生物由来の実質的に同じ機能を有する天然起原のタンパク質であり得る。本発明のホモログはまた、例えば古典的または組換えDNA技術を用いて無秩序または標的を定めた突然変異誘発を行う、タンパク質の直接修飾またはそのタンパク質をコードする遺伝子の直接修飾を含むがそれに限定されない公知の技術を用いて作成され得る。あるタンパク質をコードする核酸の天然起原対立遺伝子変異体は、その所定のタンパク質をコードするが、例えば突然変異または組換えにより生じた自然変異体のために、類似ではあるが同一でない配列を有する遺伝子と、基本的に同じゲノム内の遺伝子座(単数または複数)で生じる遺伝子である。自然対立遺伝子突然変異体は代表的に、比較される遺伝子でコードされるタンパク質の活性と類似の活性を有するタンパク質をコードする。あるクラスの対立遺伝子変異体は同じタンパク質をコードし得るが、遺伝子コードの縮重のため異なった核酸配列を有する。対立遺伝子変異体は、遺伝子の5’または3’未翻訳領域(例えば調節制御領域)の変化を含み得る。対立遺伝子変異体は当業者に周知である。
ある態様では、本発明のタンパク質および/またはホモログの最少サイズはタンパク質の所望の生物活性を有するために十分なサイズである。他の実施態様では、本発明のあるタンパク質は少なくともアミノ酸長30、より好ましくは少なくともアミノ酸長約50、より好ましくは少なくともアミノ酸長75、より好ましくは少なくともアミノ酸長100、より好ましくは少なくともアミノ酸長115、より好ましくは少なくともアミノ酸長130、より好ましくは少なくともアミノ酸長150、より好ましくは少なくともアミノ酸長200、より好ましくは少なくともアミノ酸長250、より好ましくは少なくともアミノ酸長300、より好ましくは少なくともアミノ酸長350である。タンパク質があるタンパク質の一部または全長タンパク質プラス必要あれば追加配列(例えば融合タンパク質配列)を含み得る点で、実用的な制限以外にこの様なタンパク質の最大サイズに制限はない。本発明で用いられる適当な融合セグメントにはタンパク質の安定性を増進し得る、他の所望の生物活性を提供する(例えば第二酵素の融合)、および/またはタンパク質精製を補助する(例えば親和性クロマトグラフィーによる)セグメントが含まれるがそれに制限されない。
本発明のある実施態様では、本明細書に記載の任意のアミノ酸配列を、少なくとも1個、約20個までの、特定のアミノ酸配列のC−および/またはN−末端にそれぞれ隣接する別な異種アミノ酸を用いて製造できる。得られたタンパク質またはポリペプチドは特定のアミノ酸が「から本質的なる」と言うことができる。本発明によれば、相同アミノ酸は特定のアミノ酸配列ではさまれた、天然に見出されない(即ちインビボで自然に見出されない)か、特定のアミノ酸配列の機能と関連しないか、またはあるアミノ酸配列を誘導する生物が利用する標準コドンを用いて天然起源配列におけるこのようなヌクレオチドが翻訳される場合、遺伝子内で生じる様な特定のアミノ酸配列をコードする天然起原核酸配列に隣接するヌクレオチドによってコードされないアミノ酸の配列である。同様に、本明細書の核酸配列に参照して用いられる場合「から本質的なる」という句は、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列の5’および/または3’末端それぞれで少なくとも1個、多くても約60個までの別な異種核酸配列に隣接し得る特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列をいう。天然型遺伝子内で生じる様に、特定アミノ酸配列をコードする核酸配列に隣接する異種ヌクレオチドは天然に見出されない(すなわち生体内で自然に見出されない)か、任意の別な機能を与えるタンパク質をコードせず、特定のアミノ酸配列を有するタンパク質の機能も変化させないタンパク質をコードしない。
本発明の実施態様には、本明細書に記載のアミノ糖代謝経路中の酵素または他のタンパク質をコードする核酸分子の使用および/または操作が含まれる。本発明の核酸分子には、本明細書に記載の任意の酵素または他のタンパク質をコードする核酸配列を含む、その核酸配列から本質的になる、またはその核酸配列からなる核酸分子が含まれる。
本発明によれば、単離された核酸分子はその天然の環境から除去された(すなわち人に操作された)核酸分子であり、その天然の環境はその核酸分子が天然に見出されるゲノムまたは染色体である。従って、“単離された”とはその核酸分子が精製された程度を必ずしも反映せず、その核酸分子が天然に見出される全ゲノムまたは全染色体をその分子が含まないことを示すものである。単離された核酸分子には、本明細書に記載のグルコサミン−6−燐酸シンテターゼ遺伝子等の遺伝子が含まれ得る。ある遺伝子を含む単離された核酸分子はこの遺伝子を含む染色体のフラグメントではなく、むしろこの様な遺伝子に関連するコード領域および調節領域を含むが、同じ染色体上に天然で見出される別な遺伝子を含まないフラグメントである。単離された核酸分子は、通常は天然で特定の核酸配列に側面しない別な核酸(すなわち配列の5’および/または3’末端)、隣接する特定の核酸配列(すなわち異種配列)も含む。単離された核酸分子はDNA、RNA(例えばmRNA)またはDNAまたはRNA(例えばcRNA)の誘導体を含み得る。“核酸分子”と言う用語は一次的には体の核酸分子のことであり、「核酸配列」という用語は一次的には核酸分子上のヌクレオチドの配列を言うが、二つの用語は交換可能に使用され得、特にタンパク質をコードし得る核酸分子または核酸配列に関して交換可能に使用される。
本発明の単離された核酸分子は組換えDNA技術(例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、クローニング)または化学合成を使用して製造されることが好ましい。単離された核酸分子には、ヌクレオチドが挿入、欠失、置換および/または反転され、その様な修飾がタンパク質の生物活性に所定の影響を与える様式において、天然型対立遺伝子変異体および修飾された核酸分子が含まれるが、それに限定されない天然型核酸分子およびそのホモログが含まれる。対立遺伝子変異体およびタンパク質ホモログ(例えば核酸ホモログでコードされたタンパク質)は上記に詳細に議論されている。
核酸分子ホモログを当業者に公知のいくつかの方法を使用して製造できる(例えばSambrookら(上記)参照)。例えば、部位指向突然変異誘発、突然変異を誘発するための核酸分子の薬品処理、核酸フラグメントの制限酵素切除、核酸フラグメントのライゲーション、PCR増幅および/または核酸配列の選択領域の突然変異誘発、オリゴヌクレオチド混合物の合成ならびに、核酸分子の混合物およびその組み合わせを“構築”するための混合物群のライゲーション等、古典的突然変異誘発技術および組換えDNA技術を含むがそれに限定されない、様々な技術を用いて核酸分子を修飾することができる。核酸および/または野生型遺伝子とのハイブリダイゼーションによりコードされるタンパク質の機能をスクリーニングして、核酸分子ホモログを修飾核酸の混合物から選択することができる。
本発明の核酸分子の最少サイズは、所望の生物活性を有するタンパク質をコードするに十分な、または天然型タンパク質をコードする核酸分子の相補配列と(例えば中程度、高度または極めて高度なストリンジェント条件下、および好ましくは極めて高度のストリンジェント条件下で)安定なハイブリッドを生成し得るプローブまたはオリゴヌクレオチドプライマーを形成するに十分なサイズである。従って、本発明の核酸分子のサイズは、核酸の組成、および核酸分子と相補配列間の相同性または同一性の割合ならびに、ハイブリダイゼーション条件そのもの(例えば温度、塩濃度、およびホルムアミド濃度)に依存し得る。オリゴヌクレオチドプライマーまたはプローブとして使用される核酸分子の最少サイズは、代表的には核酸分子がGGに富んでいる場合は少なくとも約12〜約15ヌクレオチド長、ATに富んでいる場合は少なくとも約15〜約18塩基長である。本発明の核酸分子の最大サイズには、核酸分子がタンパク質コード配列の一部、全長タンパク質をコードする核酸配列(完全な遺伝子を含み)を含み得る点で、実用的な限度以外は制限がない。
本発明のある核酸分子の核酸配列、特に本明細書に詳細に記載された任意の核酸配列の知見により、当業者は例えば(a)これらの核酸分子のコピーを作成する、および/または(b)この様な核酸分子の少なくとも一部を含む核酸分子(例えば全長遺伝子、全長コード領域、調節制御配列、切断コード領域を含む核酸分子)を得ることができる。この様な核酸分子は、適当なライブラリーまたはDNAをスクリーニングするためのオリゴヌクレオチドプローブを用いる伝統的なクローニング技術、およびオリゴヌクレオチドプライマーを用いる適当なライブラリーまたはDNAのPCR増幅を含む様々な方法で得ることができる。スクリーニングまたは核酸分子の増幅からの好ましいライブラリーには、バクテリアまたは酵母ゲノムDNAライブラリー、特にEscherichia coliゲノムDNAライブラリーが含まれる。遺伝子をクローニングし増幅する技術は、例えばSambrookらの文献(上記)に開示されている。
本発明の他の実施態様には、組換えベクターを有する組換え核酸分子、および本明細書に記載のアミノ糖代謝経路中の任意の酵素または他のタンパク質の生物活性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列を有する核酸分子が含まれる。本発明によれば、組換えベクターは、このような核酸配列を宿主細胞中に導入するため、および最適な核酸配列を操作するための道具として用いられる、遺伝子工学による(即ち人工的に製造された)核酸分子である。従って、組換えベクターは、最適な核酸配列を発現および/または宿主細胞中に配送し組換え細胞を作成するための、最適な核酸配列をクローニング、配列決定および/または他の操作をするために用いるのに適している。代表的にはこの様なベクターは異種核酸配列を含む。すなわち、その核酸配列はクローニングまたは配送される核酸配列に隣接して天然では見出されない核酸配列であるが、そのベクターは本発明の核酸分子に隣接して天然で見出されるか、あるいは本発明の核酸分子の発現に有用である(以下に詳細に議論される)調節核酸配列(例えばプロモーター、未翻訳領域等)も含み得る。ベクターは原核または真核細胞のRNAまたはDNA、代表的にはプラスミドであり得る。ベクターは染色体外要素(例えばプラスミド)として維持され得るか、または組換え生物(例えば微生物または植物)の染色体中に組み込まれる。ベクター全体が宿主細胞内の正規の位置に残留し得るか、またはある条件下ではプラスミドDNAが欠失し、本発明の核酸分子が残され得る。組み込まれた核酸分子は染色体プロモーター制御下、天然またはプラスミドプロモーターの制御下に置かれるか、あるいはいくつかのプロモーターの組み合わせの制御下に置かれ得る。核酸分子の1個または複数個のコピーを染色体に組み込むこともできる。本発明の組換えベクターは少なくとも1個の選択マーカーを含み得る。
ある実施態様では、本発明の組換え核酸分子に用いられる組換えベクターは発現ベクターである。本明細書で用いられる“発現ベクター”と言う用語は、コードされた生成物(例えば関心のあるタンパク質)の製造に適したベクターを言う。本実施態様では、製造される生成物をコードする核酸配列が組換えベクター中に挿入され、組換え核酸分子を生成する。製造されるタンパク質をコードする核酸配列が核酸配列がベクター中の制御配列に作動可能に結合する様式でベクター中に挿入され、組換え宿主細胞中で核酸配列の転写および翻訳を可能にする。
他の実施態様では、本発明の組換え核酸分子に用いられた組換えベクターは標的化ベクターである。本明細書で用いられる“標的化ベクター”と言う用語は、特定の核酸分子を組換え宿主細胞中に配送するために用いられるベクターのことであり、その核酸分子は宿主細胞または微生物内の内因性遺伝子を欠失または不活性化するために用いられる(すなわち、標的遺伝子の破壊またはノックアウト技術に用いられる)。この様なベクターは当該分野で“ノックアウト”ベクターとしても知られている。本実施態様のある態様では、ベクターの一部であるが、より代表的にはベクター中に挿入された核酸分子(すなわちインサート)は宿主細胞中で標的遺伝子(すなわち欠失または不活性化の標的となる遺伝子)の核酸配列と相同である核酸配列を有する。ベクターインサートの核酸配列は、標的遺伝子に結合する様に設計され、標的遺伝子とインサートが相同組換えを行い、その結果(即ち突然変異または欠失した内因性標的遺伝子の少なくとも一部により)内因性標的遺伝子が欠失、不活性化または減衰する。
代表的には、組換え核酸分子には、転写制御配列および翻訳制御配列を含む、1個以上の発現制御配列と作動可能に結合する本発明の少なくとも一つの核酸分子が含まれる。本明細書で用いる“組換え分子”または“組換え核酸分子”と言う用語は、主に発現制御配列と作動可能に結合する核酸分子または核酸配列を言うが、この様な核酸分子が本明細書で議論するような組換え分子である場合、“核酸分子”と言う用語と互換的に用いられ得る。本発明によれば、“作動可能に結合”と言う用語は、核酸分子を、宿主細胞中にトランスフェクションさせた(すなわち、形質転換、導入、トランスフェクション、複合化または誘導された)場合、その分子が発現可能な様式で発現制御配列(例えば転写制御配列および/または翻訳制御配列)に結合させることを言う。転写制御配列は転写の開始、伸長または停止を制御する配列である。特に重要な転写制御配列は、プロモーター、エンハンサー、オペレーターおよびレプレッサー配列等の転写開始を制御する配列である。適当な転写制御配列には、組換え核酸分子が導入される宿主細胞または生物中で機能し得る任意の転写制御配列が含まれる。
本発明の組換え核酸分子は翻訳調節配列、複製起点、および組換え細胞に適応し得る他の調節配列等の別な調節配列も含むことができる。ある実施態様では、宿主染色体中へ組み込まれる分子を含む本発明の組換え分子は、分泌シグナル(すなわちシグナルセグメント核酸配列)も含み、発現タンパク質をそのタンパク質を生産する細胞から分泌することができる。適当なシグナルセグメントには発現されるタンパク質と天然で結合するシグナルセグメント、または本発明によるタンパク質の分泌を目的とし得る任意の異種シグナルセグメントが含まれる。他の実施態様では、本発明の組換え分子は、発現タンパク質を宿主細胞の膜に配送し挿入し得るリーダー配列を有する。適当なリーダー配列には天然でタンパク質と結合するリーダー配列、またはタンパク質の細胞膜への配送および挿入を目的とし得る任意の異種リーダー配列が含まれる。
本発明によると、“トランスフェクション”と言う用語は異種核酸分子(即ち組換え核酸分子)を細胞へ挿入する任意の方法を言う。“形質転換”と言う用語は、この様な用語が核酸分子を藻類、バクテリアおよび酵母等の微生物細胞中、または植物細胞中へ導入する意味で使用されている場合、“トランスフェクション”と言う用語と互換的に用いることができる。微生物および植物系では、用語“形質転換”は微生物または植物が異種核酸を取得したことによる遺伝的変化を説明するために用いられ、“トランスフェクション”と言う用語と本質的に同義語である。従って、トランスフェクション技術には形質転換、細胞の薬品処理、粒子爆撃、エレクトロポーレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、吸着、感染およびプロトプラスト融合が含まれるがそれに限定されない。
組換え細胞をバクテリアまたは酵母(すなわち宿主細胞)を1個以上の組換え分子で形質転換して生成することが好ましく、その組換え分子は1個以上の転写制御配列を含む発現ベクターと作動可能に連結する、それぞれ1個以上の核酸分子を有する。“作動可能に連結”と言う用語は、その分子が宿主細胞中に形質転換された場合、発現可能である様式において、核酸分子を発現ベクター中に挿入することを意味する。本明細書で用いる発現ベクターは、宿主細胞を形質転換し、特定の核酸分子を発現し得るDNAまたはRNAベクターである。発現ベクターが宿主細胞内で複製可能であることも好ましい。本発明では、発現ベクターは代表的にはプラスミドである。本発明の発現ベクターには、酵母宿主細胞またはバクテリア宿主細胞、好ましくはEscherichia coli宿主細胞中で機能(すなわち直接遺伝子発現)する任意のベクターが含まれる。本発明の好ましい組換え細胞は実施態様例の項に記載される。
本発明の核酸分子は、転写制御配列、翻訳制御配列、複製起点、および組換え細胞と適合し、本発明の核酸分子の発現を制御する他の調節配列等の調節配列を含む発現ベクターと作動可能に連結することができる。特に、本発明の組換え分子は転写制御配列を含む。転写制御配列は、転写の開始、伸長および停止を制御する配列である。特に重要な転写制御配列はプロモーター、エンハンサー、オペレーターおよびレプレッサー配列等、転写開始を制御する配列である。適当な転写制御配列には酵母またはバクテリア細胞、好ましくはEscherichia coli中で機能し得る任意の転写制御配列が含まれる。様々なこの様な転写制御配列が当業者に公知である。
本明細書に記載の様々な酵素およびタンパク質をコードする核酸配列を有する組換え核酸分子(それらのホモログを含む)を人工プロモーターの制御下にクローニングすることが好ましい。そのプロモーターは生産生物中に十分なレベルのコードされたタンパク質を維持するに必要なレベルの遺伝子発現を行う任意の適当なプロモーターであり得る。適当なプロモーターは、様々な薬品(例えば、ラクトース、ガラクトース、マルトースまたは塩)、または生育条件の変化(温度等)で誘導可能なプロモーターであり得る。誘導可能なプロモーターを使用することにより、遺伝子発現と醗酵プロセスの最適性能を得ることができる。高価な誘導因子を添加する必要がないので、好ましいプロモーターは構成プロモーターであっても良い。この様なプロモーターにはより弱い突然変異体レプレッサー遺伝子等による遺伝子修飾により機能的に構造性または“漏出”性となった、通常誘導し得るプロモーター系が含まれる。使用される特に好ましいプロモーターはlac、PLおよにT7である。遺伝子投与量(コピー数)は必要とする最大生成生産量により変化し得る。ある実施態様では、組換え遺伝子が宿主染色体中に組み込まれる。
組換えDNA技術を使用することで、例えば宿主細胞中の核酸分子のコピー数、これらの核酸分子の転写効率、得られた転写体の翻訳効率、および翻訳後修飾効率を操作することにより形質転換核酸分子の発現を改善し得ることは、当業者が理解し得る。本発明の核酸分子の発現を増加させるために有用な組換え技術には核酸分子の高コピー数プラスミドへの動作可能な連結、宿主細胞染色体への核酸分子の統合、プラスミドへのベクター安定化配列の付加、転写制御シグナル(例えばプロモーター、オペレーター、エンハンサー)の置換または修飾、宿主細胞のコドン利用に対応する本発明の核酸分子の修飾、転写制御シグナルの置換または修飾、転写体を不安定化する配列の欠失、および醗酵中に組換え細胞の生育を組換え酵素の生産から一時的に切り離す制御シグナルの使用が含まれるがそれに限定されない。本発明の発現組換えタンパク質の活性を、この様なタンパク質をコードする核酸分子を断片化、修飾または誘導体化することにより改善し得る。この様な修飾は実施態様例の項に詳細に記されている。
本発明の一つ以上の組換え分子を使用して本発明のコードされた生成物を製造することができる。ある実施態様では、コードされた生成物は本明細書に記載の核酸分子の発現で、タンパク質を生産するに有効な条件下で製造される。コードされたタンパク質を製造するための好ましい方法は、宿主細胞を一つ以上の組換え分子でトランスフェクトし、組換え細胞を作成することである。適当な細胞(例えば宿主細胞または生産細胞)は任意の微生物(例えばバクテリア、原生生物、藻類、菌類、その他の微生物)であり最も好ましくは、バクテリア、酵母または菌類である。適当なバクテリア属にはEscherichia、Bacillus、Lactobacillus、Pseudomonas、およびStreptomycesが含まれるがそれに限定されない。適当なバクテリア種にはEscherichia coli、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Lactobacillus brevis、Pseudomonas aeruginosaおよびStreptomyces lividansが含まれるがそれに限定されない。酵母の適当な属にはSaccharomyces、Schizosaccharomyces、Candida、Hansenula、Pichia、Kluyveromyces、およびPhaffiaが含まれるがそれに限定されない。適当な酵母の種にはSaccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Candida albicans、Hansenula polymorpha、Pichia pastoris、P.canadensis、Kluyveromyces marxianusおよびPhaffia rhodozymaが含まれるがそれに限定されない。適当な菌類の属にはAspergillus、Absidia、Rhizopus、Chrysosporium、NeurosporaおよびTrichodermaが含まれるがそれに限定されない。適当な菌類の種にはAspergillus niger、A.nidulans、Absidia coerulea、Rhizopus oryzae、Chrysosporium lucknowense、Neurospora crassa、N.intermediaおよびTrichoderm reeseiが含まれるがそれに限定されない。宿主細胞は未トランスフェクト細胞または少なくとも一つの他の組換え核酸分子で既にトランスフェクトされた細胞であり得る。
本発明の別な実施態様には本明細書に記載の任意の遺伝子修飾微生物、および実施例で具体的に同定された微生物の同定特性を有する微生物が含まれる。この様な同定特性には、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生産能を含む実施例の微生物の任意の、または全ての遺伝子型および/または表現型特性が含まれる。
上記の様に、本発明のグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの製造法では、遺伝子修飾されたアミノ糖代謝経路を有する微生物をグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生産用の醗酵培地中で培養する。適当な、または有効な醗酵培地とは、培養により本発明の遺伝子修飾された微生物がグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを生産し得る任意の培地をいう。この様な培地は代表的に同化可能な炭素、窒素およびホスフェート原料を含む水性培地である。この様な培地には適当な塩、無機物およびその他の栄養素も含まれ得る。本明細書に記載の微生物に対する遺伝子修飾の一つの利点は、この様な遺伝子修飾がアミノ糖の代謝をかなり変化させるが、生産生物に何らの栄養要求を生じないことである。従って、グルコース、フラクトース、ラクトース、グリセロールまたは二種以上の異なった化合物の混合物を唯一の炭素源として含む最小塩培地が、醗酵培地として使用されることが好ましい。最小塩グルコース培地がグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン醗酵用の最も好ましい培地であり、これはまた、生成物の回収と精製が促進される。ある態様では、酵母抽出液が培地の成分である。
本発明の微生物を通常の醗酵バイオリアクター中で培養することができる。微生物をバッチ、栄養補給バッチ、細胞循環および連続醗酵を含むがそれに限定されない任意の醗酵プロセスで培養することができる。本発明の微生物をバッチまたは栄養補給醗酵プロセスで生育することが好ましい。
本発明のある実施態様では、インキュベーション前に醗酵培地を所望の温度、代表的には約20〜約45℃、好ましくは約25〜約45℃、または約25〜約40℃に、約25〜約37℃の温度に加温するが、ある実施態様では約30〜約37℃がより好ましい。醗酵条件には本発明の微生物を、約20〜40℃の間の全ての温度上昇(すなわち21℃、22℃等)の任意の温度で培養することが含まれ得る。生育と本発明の微生物によるグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生産のための最適温度は、様々な因子で変化し得ることに注意する必要がある。例えば、微生物中の組換え核酸分子の発現のための特定のプロモーターの選択は、最適培養温度に影響し得る。当業者は標準技術を用いる本発明の任意の微生物に対する最適生育およびグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生産温度を、本発明のある微生物に対して実施例の項に記載した様に、容易に決定し得る。
活発に生育している遺伝子修飾微生物の培養物を、妥当な生育時間後に高い細胞密度で生成するに十分な量で培地に播種する。少なくとも約10g/l、好ましくは約10〜約40g/l、より好ましくは約40g/lの細胞密度で細胞が生育する。このプロセスは代表的には約10〜60時間を要する。
初期の細胞生育中、および代謝の維持、およびグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン生産中の細胞の増殖を維持するために、醗酵工程中に十分な酸素を培地に加えなければならない。培地の攪拌と曝気が酸素供給に便利である。攪拌と振盪等の通常の方法も培地の攪拌と曝気に使用し得る。培地中の酸素濃度は飽和値(すなわち大気圧で約30〜40℃における酸素の培地中への溶解度)の約15%以上であることが好ましく、飽和値の約20%以上であることがより好ましいが、醗酵に悪影響を与えない場合はより低い濃度へずれること(excurision)も起こり得る。さらに、生産プロセス中にグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの安定性および生成が助長される場合、醗酵中に任意の適当な時間、酸素レベルを極めて低いレベルにすることが可能であることも理解される。培地の酸素濃度を酸素電極等の通常の方法でモニターすることができる。未希釈酸素ガスおよび窒素以外の不活性ガスで希釈された酸素ガス等の他の酸素源も用いることができる。
醗酵によるグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産は唯一の炭素源としてグルコースの使用に基づくことが好ましいので、好ましい実施態様ではEscherichia coli中にPEP:グルコースPTSが誘導される。従って、機能性EIIM、PEP:マンノースPTSのP/IIIMan(例えばmanXYZ突然変異を有するEscherichia coli中に)がない場合でも、生成物であるグルコサミンが誘導されたグルコース輸送系を通して細胞に取り込まれると考えられる。しかしながら、過剰発現のグルコースが存在すると、グルコサミンの取り込みは厳しく抑制される。従って、醗酵バイオリアクター中の過剰のグルコースを維持することにより生成グルコサミンの取り込みを阻止することが、本発明の実施態様の一つである。本明細書で用いる“過剰”のグルコースとは、上記の培養条件等の正常な条件下で微生物の生育を維持するに必要な量以上のグルコース量を言う。
グルコース濃度が重量/体積比で醗酵容積の約0.05〜15%の濃度に保たれることが好ましい。他の実施態様では、グルコース濃度が醗酵培地の約0.5g/l〜約150g/lに、より好ましくは醗酵培地の約0.5g/l〜約100g/lに、さらに好ましくは約5g/l〜約20g/lの濃度に保たれる。ある実施態様では、醗酵培地のグルコース濃度は任意の的様な方法で(例えばグルコース試験ストリップで)モニターされ、グルコース濃度が欠乏またはほとんど欠乏している場合、さらなるグルコースを培地に追加することができる。他の実施態様では、醗酵培地の半連続または連続補充でグルコース濃度が維持される。グルコースについて本発明で開示されたパラメーターは、本発明の醗酵培地において使用される任意の炭素源にも適用することができる。グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの製造プロセスを助長するならば、醗酵時間中に任意の適切な時間で炭素源を検出不能のレベルに到達させ得ることがさらに理解される。本発明の醗酵法で使用できる他の炭素源にはフラクトース、五糖、ラクトースおよびグルコン酸が含まれるがそれに限定されない。五糖にはリボース、キシロースおよびアラビノースが含まれるがそれに限定されない。ある態様では、培養工程はグルコースとリボースを含む醗酵培地中で行われる。
グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産と安定性を維持および/または増大するために必要な、醗酵培地の他の成分およびパラメーターを補充および/または制御することが、本発明のまた別な実施態様である。例えば、ある実施態様では、醗酵培地には硫酸アンモニウムが含まれ、醗酵培地中の硫酸アンモニウム濃度は過剰の硫酸アンモニウムの添加で補充される。好ましくは、醗酵培地中の硫酸アンモニウムの量は約0.1%〜約1%(重量/体積)、好ましくは約0.5%のレベルに保たれる。また別な実施態様では、醗酵培地のpHの変動がモニターされる。本発明の醗酵法では、好ましくは、pHは約pH4.0〜約pH8.0に保たれ、ある態様では約pH4〜約pH7.5、他の態様では約pH6.7〜約pH7.5、他の実施態様では約pH4.5〜約pH5に保たれる。好ましい実施態様が先に記載されているが、醗酵プロセスは0.1の増加(すなわちpH4.1、pH4.2、pH4.3等)でpH4〜pH8の間の任意のpHで行うことができる。本発明の方法では、例えば醗酵培地の出発pHがpH7.0である場合、醗酵培地のpHをpH7.0からの有意の変化がモニターされ、それにより例えば水酸化ナトリウムを添加して調整される。グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの安定と生成のための最適pHは細胞生育のための最適pHと異なる場合もあるので、二相(または二相以上)のプロトコールを用いることができる。この様なプロトコールでは、細胞は最初はバイオマスの迅速な生産に最適のpHで生育し、次いでグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの合成を最大にするが、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの分解を最小にする異なるpHが使用される。
本発明のまた別な実施態様は、炭素フラックスを酢酸生産からより毒性の少ない副製品へ反転することである。この様な方法により、醗酵培地中の過剰グルコースに関連する毒性問題を回避することができる。炭素フラックスを酢酸製造から反転する方法は公知である。
本発明のバッチ、補充バッチ、および/または連続醗酵プロセスでは、細胞外グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの蓄積で明らかになる様に、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生成が基本的に停止するまで醗酵を継続する。全醗酵時間は代表的には約40〜約60時間であり、より好ましくは約48時間である。連続醗酵プロセスでは、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを、それが培地に蓄積した場合、バイオリアクターから除去することができる。本発明の方法により、細胞内グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミン、または細胞外グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンを含み得る生成物が生産される。
グルコースおよびN−アセチルグルコサミンの合成では、E.coli pET発現系を用いて異なった遺伝子が過剰発現した。遺伝子発現はIPTGおよびラクトースで誘導される。IPTGのコストにより、グルコサミン生産が法外に高価になる。従って、IPTGの使用を醗酵プロセスから除外することが理想的である。ラクトースは相対的に安価であり、大量生産プロセスに使用し得る。ラクトース誘導では、ラクトースを、細胞内のβ−ガラクトシダーゼで真の誘導因子であるアラビノースに最初に変換する必要がある。2123−54等のグルコサミン生産株では、この株がβ−ガラクトシダーゼ陰性であるためにラクトースを誘導因子として使用することができない。これはその遺伝子座へのT7−glmS*54発現カセットの挿入によるlacZの欠失および分解のためである。
原理的には、IPTG依存性を除外するためにいくつかの異なった方法を使用し得る。本発明で説明するあるアプローチは、lacZ遺伝子を修復することである。これはT7−glmS*54発現カセットを染色体内のlacZ以外の異なった部位へ組み込むことで行われた。
ラクトース誘導はグルコース抑制で生じる。培養系に高レベルのグルコースが存在する場合、グルコサミンの生産は行われなかった。しかしながら、一度グルコースが消費されると、ラクトースが利用され、グルコサミン生産が誘導された。グルコースとラクトースの比率が酵素の発現とグルコサミン/N−アセチルグルコサミン生産に影響することが示された。天然型lacオペロンを抑制することにより、グルコース抑制が行われる。グルコースが存在する場合、ラクトーストランスポーター(LacY)およびβ−ガラクトシダーゼ(LacZ)の合成が抑制され、従ってT7RNAポリメラーゼ誘導のための少量の誘導因子分子(アロラクトースおよびガラクトース)しか生産されなかった。グルコース抑制の詳細な機構は現在研究中である。グルコース抑制は二つのレベルで作用すると思われる。一つの抑制レベルはlacプロモーター配列に対するcAMP媒介作用で行われる。他の抑制レベルはラクトース取り込みの阻害で行われ、グルコーストランスポータータンパク質、すなわち酵素IIAGlc(crr遺伝子でコードされる)およびIICBGlc(ptsG遺伝子でコードされる)により生じる。lacUV5プロモーターはグルコース抑制に敏感ではないが、ラクトースが細胞に入ることを排除すると誘導を阻止し得る(誘導因子)。
グルコース抑制を最適生育および誘導プロトコールを用いて最小にすることができた。また、異なった遺伝子修飾を導入してグルコース抑制を最小にすることができた。一つのアプローチは、lacオペロン中の天然型lacプロモーターを、グルコースで抑制されないと考えれているlacUV5プロモーターで置換することであった。グルコース抑制はまた、crr遺伝子の遺伝子修飾で最小にすることができた。他のアプローチは、lacIレプレッサー遺伝子の1つを欠失することであった。あるE.coliのグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミン生産株では、lacIレプレッサー遺伝子の二つのコピーがあるが、その一つは天然型lacオペロン中にあり、もう一つはDE3要素中にある。何れかのlacI遺伝子を欠失すると、グルコース抑制とグルコサミン/N−アセチルグルコサミン生産に対する抵抗性が増加した。ラクトースはlacYでコードされるラクトースパーミアーゼで細胞内に輸送されるので、ラクトース誘導はlacYの過剰発現に影響された。
グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンレベルは合成速度で決められるばかりでなく、培養条件下で生成物が安定でない場合、細胞の代謝と分解によって決められる。本発明で開示する様に、グルコサミンはE.coliの生育に用いられた典型的なpH範囲で極めて不安定であることが見出された。また、グルコサミンおよび/またはその分解生成物は7107−18株に毒性を与えた。細胞接種前に培地(pH7.0)中でグルコサミンを20g/lの低い濃度で3.5時間、プレインキュベーションした場合でも毒性が観察された。毒性は少なくとも部分的には出発pH7.0の培地中のGlcN分解生成物に帰せられた。GlcNはより低いpHでより安定であり、グルコサミンはpH4.7以下では分解されない。
経済的なプロセスを開発するためには、グルコサミン生産を最大にする一方、生成物の分解を最小にしなければならない。さらに、比較的低いpHの醗酵槽中で行われるGlcN生産プロトコールは合成されたGlcNを保存するばかりでなく、毒性の分解生成物を減少させることにより、このプロセスは細胞も保護する。これらの恩恵は、成長速度およびこの方法で生育した細胞の代謝活性の減少と釣り合わなければならない。GlcNを連続的に合成するためには細胞内でエネルギーが定常的に発生することが必要であり、この様な低いpHで生育する細胞は、必要なエネルギーを発生できないと思われる。
一般的に、E.coliは6〜7より低いpHで極めて遅く成長する。低いpHで成長特性が改良されたE.coli突然変異体を単離することは有用であると思われる。また、低いpH条件下で正常に生育する他のバクテリアおよび酵母種中で、グルコサミン合成増強経路を遺伝子操作することも可能である。例えば、Saccharomycescerevisiaeも生育はpH4〜5の間で最適である。
生成物の分解の問題を解決するための新規の戦略が開発された。E.coliにおけるグルコサミン合成経路は、N−アセチルグルコサミン−6−Pの合成に導くグルコサミン−6−PN−アセチルトランスフェラーゼ(GNA1)の過剰発現で拡張された。この株では、N−アセチルグルコサミン−6−Pが合成され、N−アセチルグルコサミンとして効率的に培地に分泌されることが示された。N−アセチルグルコサミンは広い範囲のpHと温度範囲で極めて安定である。温和な条件を用いて生成物をグルコサミンに変換して戻すことができる。この戦略を用いることにより、N−アセチルグルコサミンの力価がグルコサミン生産株中で7倍高く上昇した。N−アセチルグルコサミンも最終生成物として回収された。
いくつかの因子が単純無機塩培地中でのN−アセチルグルコサミン生産の高い力価に寄与していると思われる。第一の因子はN−アセチルグルコサミンの安定性である。これにより生成物が保存されるばかりでなく、グルコサミン分解生成物の毒性効果も避けられる。第二に、N−アセチル化工程が合成経路フラックスをこの目的へ引き寄せる強い力となる。NagB酵素がGlmSおよびGNA1酵素の不在で過剰発現された場合、それは細胞の生存と生育にアミノ糖を提供するに十分な程度機能することは興味のあることである。GNA1酵素がNagBと共発現した場合、N−アセチルグルコサミンがグラムレベルで生産される結果となり、合成経路におけるアセチル化反応の牽引力であることを示している。第三に、N−アセチルグルコサミンの合成はアセチル基の供与体としてアセチルCoAを利用する。これは細胞に一種の代謝負荷を与えると見なされるが、実際には酢酸の生成を回避し、細胞培養物に酢酸が蓄積することで生じる負の効果を阻止する。酢酸の生成は、酢酸合成に関与する酵素の遺伝子修飾により最小にすることができた。
NagBとGNA1の組み合わせは、フラクトース−6−PからN−アセチルグルコサミン−6−Pへの興味ある経路を提供する。グルタミンとフラクトース−6−Pを使用するGlmSと異なり、NagB酵素はアンモニウムのN−アセチルグルコサミン−6−P中への直接の同化を触媒する。その上、NagBタンパク質は約30kDaであり、GlmSタンパク質(約70kDa)よりはるかに小さい。GlmSタンパク質と比較して、E.coli中で過剰発現した場合、NagBのより大きい部分が可溶性タンパク質部分にあることが見出された。
GlmSタンパク質は一般に強い生成物阻害を受ける。生成物耐性GlmS酵素の使用は、グルコサミン力価の上昇、および多分N−アセチルグルコサミン力価の上昇にも重要な役割を果たした。生成物耐性GlmS突然変異体はインビトロ突然変異誘発で作成された。この様な突然変異体も天然から単離することができた。この方法は、天然型B.subtilisGlmSの生成物耐性を示すことで説明された。
以下はグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンの差異的生産に対するプロトコールの例である。これらは本発明の作動可能で好ましい実施態様の例にすぎず、本発明の唯一の実施態様であると解釈してはならない。共にフラスコ培養および培養装置培養用である好ましいいくつかの醗酵プロトコールと醗酵プロセスのパラメーターが実施例の項に詳細に述べられている。
本発明の方法には、細胞内グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミン、および/または細胞外グルコサミンおよび/または細胞外N−アセチルグルコサミンであり得る生成物を採集する工程がさらに含まれる。採集の一般的な工程には、生成物(以下に定義)を回収し、必要があれば生成物を精製する工程が含まれる。回収と精製法の詳細な議論は以下に提供される。グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミン等に生成物を「採集」することは、単に醗酵バイオリアクターから生成物を採集することを言い、分離、回収または精製を意味する必要はない。例えば、採集工程はバイオリアクターから培養物全体(すなわち微生物および醗酵培地)を取り出し、細胞外グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを含む醗酵培地をバイオリアクターから取り出し、および/または細胞内グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミンをバイオリアクターから取り出すことを言う。本明細書で用いる「回収する」または「回収」と言う用語は、グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンがそれぞれ不溶性になり、溶液から沈殿するか結晶化する点へグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミン溶液の溶解度条件を減少させることを言う。これらの工程の後に精製工程が続く。グルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンが実質的に純粋な形で回収されることが好ましい。本明細書で用いる「実質的に純粋」であるとは、市販するための栄養補助化合物としてグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを有効に使用し得る純度を言う。ある実施態様では、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミン製品は生産生物および/または他の醗酵培地成分から分離されることが好ましい。この様な分離を行う方法は以下に記載される。
本発明の方法により、少なくとも約1g/lの生成物(即ち、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸)が微生物および/または醗酵培地採集されるか回収されることが好ましい。本発明の方法により、少なくとも約5g/l、さらにより好ましくは少なくとも約10g/l、さらにより好ましくは少なくとも20g/l、さらにより好ましくは少なくとも50g/l、さらにより好ましくは少なくとも75g/l、さらにより好ましくは少なくとも100g/l、さらにより好ましくは少なくとも120g/lの生成物が回収され、少なくとも約1g/l〜約120g/lの間の全増分(即ち2g/l、3g/l等)で回収されることがより好ましい。ある実施態様では、生成物は約1g/l〜少なくとも120g/lの量で回収される。
代表的には、本発明のプロセスで生産されるグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンのほとんどは細胞外である。微生物を醗酵培地から濾過または遠心分離等の通常の方法で除去できる。ある実施態様では、生成物を採集または回収する工程には、醗酵培地からグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの精製が含まれる。グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを細胞を除去した醗酵培地から、クロマトグラフィー、抽出、結晶化(例えば蒸発結晶化)、膜分離、逆浸透圧および蒸留等の通常の方法で回収できる。好ましい実施態様では、グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを細胞を除去した醗酵培地から結晶化で回収する。他の実施態様では、生成物回収工程には細胞外グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを濃縮する工程が含まれる。
ある実施態様では、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミンは細胞内に蓄積し、生成物の回収工程には微生物からグルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミンを単離する工程が含まれる。例えば、生成物(グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸)を分解しない方法で微生物細胞を溶菌し、溶菌物を遠心分離して不溶性の細胞断片を除去し、次いで生成物であるグルコサミン、N−アセチルグルコサミン、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸を上記の様な通常の方法で回収することにより、生成物を採集することができる。
本明細書に記載の遺伝子修飾微生物中の最初の細胞内生成物はグルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、N−アセチルグルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミンである。燐酸化中間生成物が多分、微生物の細胞周辺空間内のアルカリ性ホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、糖ホスファターゼ、またはアミノ糖ホスファターゼのために微生物から排出する間に脱燐酸化されることは一般的に受け入れられている。本発明のある実施態様では、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸、および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸は天然起原ホスファターゼにより細胞から排出前、または排出中に脱燐酸化され、所望の生成物であるグルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産が促進される。この実施態様では、細胞内での組み換えで提供されるホスファターゼ活性の増幅、または醗酵培地のホスファターゼ処理の必要性がなくなる。他の実施態様では、生産生物中のホスファターゼレベルが内在性ホスファターゼ遺伝子の遺伝子修飾、または微生物の組み換え修飾によるホスファターゼ遺伝子の発現を含むがそれに限定されない方法によって増加する。また別な実施態様では、上記の様に細胞を溶解した場合、グルコサミン−6−燐酸、グルコサミン−1−燐酸、N−アセチルグルコサミン−6−燐酸および/またはN−アセチルグルコサミン−1−燐酸が、溶解培地中に放出された後、採集した醗酵培地をホスファターゼで処理する。
上記の様に、本発明のプロセスは相当量の細胞外グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを生産する。特に、このプロセスは約50%以上の全グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンが細胞外であり、より好ましくは約75%以上の全グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンが細胞外であり、最も好ましくは約90%以上の全グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンが細胞外である様に細胞外グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンを生産する。本発明の方法により、約1g/l以上、より好ましくは約5g/l以上、さらにより好ましくは約10g/l以上、さらにより好ましくは約20g/l以上、さらにより好ましくは約50g/l以上、さらにより好ましくは約75g/l以上、さらにより好ましくは約100g/l以上、さらにより好ましくは約120g/l以上の細胞外グルコサミンおよび/またはN−アセチルグルコサミンの生産が達成される。
本発明の他の実施態様はN−アセチルグルコサミン製造の新規方法に関する。その方法には上記の様な醗酵プロセスで生産した可溶化N−アセチルグルコサミンを含む醗酵ブロスを得る工程と、N−アセチルグルコサミンを含む固体を醗酵ブロスから回収する工程が含まれる。本発明によれば、醗酵プロセスで生産されるN−アセチルグルコサミンは、醗酵プロセスの生成物であるN−アセチルグルコサミンである。言い換えれば、細胞を培養する醗酵プロセスが、細胞によるN−アセチルグルコサミンの生産をもたらす。回収するまたは回収という用語は、N−アセチルグルコサミンがそれぞれ不溶性になり、溶液から沈殿するか結晶化する点へN−アセチルグルコサミン溶液の溶解度条件を減少させることを言う。N−アセチルグルコサミンを含む醗酵ブロス、残存培地および細胞性物質を、まず最初に細胞性物質およびバクテリア内毒素を除去して処理する。細胞性物質の除去前に、醗酵ブロス中の細胞を超音波処理、浸透圧破壊、摩砕/ビーズ処理、フレンチプレス、爆発性脱圧縮、溶媒処理、臨界点抽出および凍結/溶融を含むがそれに限定されない異なった方法を用いて溶菌することができる。細胞性物質と内毒素の除去は、ミクロまたは超濾過またはその組み合わせで行うことができる。公知の他の技術には遠心分離およびダイアフォルトレーションが含まれる。細胞性物質の除去後、溶液を内毒素の除去が適切であったかどうか試験できる。
醗酵ブロスからN−アセチルグルコサミン含有固体を回収する工程の前に、醗酵ブロスを脱色および/または脱塩することができる。これらのプロセスのブロスの双方を行う場合、何れかの一つを最初に行うことができる。しかしながら、イオン交換樹脂を用いる脱塩プロセスによる脱色のため、脱塩工程を最初に行うことにより脱色の必要性が減少する。脱色工程は繰り返し結晶化、活性炭処理、およびクロマトグラフィーによる脱色で行うこともできる。クロマトグラフィーによる脱色にはイオン交換樹脂(イオン交換のためでなく、色の吸着のためだけで)、DowOptiporeSD2および古典的なシリカ
系クロマトグラフィー媒体が含まれる。
醗酵ブロスをイオン交換樹脂と接触させて脱塩工程を行うことができるが、その工程には醗酵ブロスを陰イオン交換樹脂および/または陽イオン交換樹脂と接触させる工程が含まれる。ある実施態様では、陰イオンおよび陽イオン交換樹脂の混合ベッドが使用される。陽イオンの除去は強酸または弱酸イオン交換樹脂上で行われ、一方、弱塩基樹脂は醗酵で生成した有機酸の除去能があるので好ましい。陽イオン交換体からの流出液のpHは減少し、一方、陰イオン交換体空の流出液のpHは上昇するので、具体的には陽イオン除去が陰イオン除去に先行する様に選ばれる。N−アセチルグルコサミンは高いpHでエピマー化する傾向を示し、測定可能なレベルのN−アセチルマンノサミンを生成する。陰イオン除去は強塩基または弱塩基樹脂の何れを用いても行うことができる。得られた精製溶液にはわずかなイオン性物質しか含まれず、水、N−アセチルグルコサミンおよび醗酵中に消費されなかった醗酵槽のフィード由来の炭水化物が主成分である。この中間性品のN−アセチルグルコサミン純度は、典型的にはには工程の全乾燥固体含有量の約90%以上である。脱塩を完結するためにさらに精製が必要な場合、混合ベッドイオン交換工程が適用される。この場合、陽イオンおよび陰イオン樹脂が同じイオン交換体を占有し、高度に脱塩されたこのベッドを通過する。混合ベッドイオン交換はそれぞれ別個の陽イオンおよび陰イオン交換体を置き換えるものであり、ブロスpHの変化が最小になる利点があるが、樹脂の損失の高い危険性を同時に伴う再生前のイオン交換樹脂の分離のために、別個のベッドを使用する方がより便利である。
醗酵ブロスからN−アセチルグルコサミン含有固体を回収する工程には、醗酵ブロスからN−アセチルグルコサミン含有固体を沈殿および/または結晶化する工程が含まれる。具体的には、回収工程前に醗酵ブロスを濃縮して、沈殿または結晶化を可能にするためにより高い濃度の可溶化N−アセチルグルコサミンとする。濃縮工程を真空下(即ち少なくとも大気圧以下)または膜分離で行うことができる。好ましい実施態様では、濃縮工程は約40〜70℃、より好ましくは約45〜55℃の温度で行われる。濃縮工程は具体的には醗酵ブロス中の固体含有量が少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約45%で行われる。
濃縮後に、醗酵ブロスを冷却する。この様な冷却は受動的、すなわち単にブロスを放置して室温にするか、または凍結乾燥器、スプレー冷却器、噴射造粒器、フレーカー、および冷却ジャケットを備えたブレンダーまたはエクストルーダーの使用等、積極的であっても良い。濃縮ブロスの冷却工程のみで、N−アセチルグルコサミン含有固体の回収には充分である。例えば、醗酵ブロスを約−5〜45℃、約−5℃〜室温、または室温に冷却することができる。
醗酵ブロスからN−アセチルグルコサミン含有固体の回収には、醗酵ブロスにN−アセチルグルコサミンの結晶を接種し、添加した結晶の清澄で回収を促進することができる。結晶は醗酵ブロス中の核形成、または外部からN−アセチルグルコサミン結晶を添加することで提供される。最初に過飽和溶液を活性状態にさせて核が形成するまで醗酵ブロスを濃縮および/または冷却するが、その後はそれ以上の核形成を避け既存の結晶の成長を促進するため徐々に冷却する。または、任意の方法で生成したN−アセチルグルコサミン結晶を種結晶として醗酵ブロス中に導入する。
醗酵ブロスからN−アセチルグルコサミンの回収は、ブロス中のN−アセチルグルコサミンを水混和性溶剤と接触させることで促進される。N−アセチルグルコサミンはイソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジオキサンおよびアセトニトリル等の水混和性溶剤に極めて溶けにくいことが見出されている。従って、この様な水混和性溶剤をブロス中に導入することにより、N−アセチルグルコサミンがより溶け難くなり、さらに回収される。
本発明の回収プロセスを醗酵ブロスのバッチまたは連続結晶化として行うことができる。濃縮プロセス中に生成した結晶をフィルターまたは遠心機で連続的に収穫し、母液をさらに濃縮するため再循環するか、または固体レベルが結晶の除去を要求するまで結晶を母液中に蓄積することができる。
N−アセチルグルコサミン固体の回収後、固体を遠心分離または濾過等により醗酵ブロスから分離する。得られた固体ケーキを、真空乾燥等の公知の任意の様々な技術で乾燥するが、分解と着色を防止するためこの様な工程を低温で行うことが好ましい。最終乾燥製品は典型的には乾燥固体の少なくとも50%、より好ましくは乾燥固体の少なくとも70%、より好ましくは乾燥固体の少なくとも85%である。乾燥前に、回収した固体を上記の様な水混和性溶剤で洗浄することもできる。この様な洗浄工程により、製品が安定化する、例えば着色を防止する。
別な実施態様では、固体を溶解し、第二回収工程で回収することにより、回収されたN−アセチルグルコサミン含有固体がさらに精製される。第二回収工程には任意の上記回収工程が含まれる。回収の第二サイクルの必要性は、最終製品の所定の純度と出発純度で決められる。
上記の様々な回収プロセスを用いて、高純度のN−アセチルグルコサミンが得られる。特に、本発明のプロセスは少なくとも約70%純度、より好ましくは少なくとも約90%純度、より好ましくは少なくとも約99%純度のN−アセチルグルコサミンを生産し得る。
様々な回収プロセスの実施態様が好ましい。例えば、細胞を含まないブロスをそれ以上イオン除去せずに、活性炭による脱色、エネルギー効率のために多段である真空蒸留器中で乾燥固体約45%以上へ濃縮(例えば好ましい条件は約600mmHgで液体温度45〜55℃)、暖めた濃縮液にN−アセチルグルコサミンの接種および攪拌しながら冷却により、固体N−アセチルグルコサミンを製造するために用いることができる。冷却したブロスを濾過または遠心分離し、固体ケーキを取り出す。回収された固体を真空乾燥し、純N−アセチルグルコサミンまたはグルコサミン塩製造の中間体として使用する。N−アセチルグルコサミン純度が87%以上である場合、一回の結晶化のみで純粋なN−アセチルグルコサミンを製造することができる。母液から接種、冷却および固体回収の代わりに、過飽和ストリームを冷却で強制的に固化することもできる。適当な冷却装置には凍結乾燥器、スプレー冷却器、噴射造粒器、フレーカー、および冷却ジャケットを備えたブレンダーまたはエクストルーダーが含まれる。得られた固体はさらに乾燥される。
他の好ましい回収の実施態様では、回収されたN−アセチルグルコサミンを前もって乾燥することなく水に溶解し、第二サイクル、すなわち濃縮、接種、冷却および固体採集が行われる。採集した固体を水混和性溶剤で洗浄し、真空で乾燥する。2回の結晶化の必要性は、N−アセチルグルコサミンの最初の純度で決められる。乾燥固体の割合としての純度が87%以上である場合、1回の結晶化が必要である。純度が70%である場合、2回の結晶化が必要である。
他の好ましい回収の実施態様は、脱色および70℃に達する温度で濃縮された材料を用いる、または部分的に精製された材料を70℃で溶解し室温に冷却することによる一回の結晶化で純N−アセチルグルコサミンの生成である。回収された固体を水混和性溶剤で洗浄し乾燥する。
他の好ましい回収の実施態様では、脱塩した細胞除去ブロスを、陽イオン交換樹脂を含むクロマトグラフィー媒体を用いる擬似移動床クロマトグラフィーシステム上の分離でさらに精製する。98%純度ストリームが一度得られると、真空濃縮により以下に記載の安定化処理のための材料が調製される。
他の好ましい回収の実施態様では、105℃での乾燥による分解による重量減少が1%以下である、高純度と色安定性を有するN−アセチルグルコサミンの高度回収を行うため、水混和性溶剤が使用される。例えば脱色と脱塩で達成した比較的高純度のN−アセチルグルコサミンから出発して、水を真空濃縮で除去し、次いで水可溶性溶剤を添加してさらに純粋な製品を沈殿させることが可能である。沈殿製品を含水水混和性溶剤で処理するプロセスにより次の乾燥工程を促進し、残存する水による分解反応促進を防止する。
本発明の他の実施態様はN−アセチルグルコサミンからグルコサミンの製造法に関する。N−アセチルグルコサミンを加水分解して、最終製品としてのグルコサミンを製造することができる。醗酵槽から最初に単離せず、醗酵ブロス中に生成したN−アセチルグルコサミンを用いて加水分解を行うことができる。または、上記の任意の方法を用いて回収されたN−アセチルグルコサミン等、醗酵ブロスから単離された後のN−アセチルグルコサミンで加水分解を行うこともできる。さらに、本発明の方法において任意に入手できるN−アセチルグルコサミン原料を使用することもできる。本発明の前は、有機アセチル化剤を用いるか、またはグルコサミンをキチンから製造するために伝統的に用いられた酸加水分解と平行し、キチンから直接N−アセチルグルコサミンを酵素により加水分解してN−アセチルグルコサミンはグルコサミンのアセチル化で製造されていた。従って、N−アセチルグルコサミンから最終製品としてのグルコサミンを製造するための逆反応の必要はなかった。
従って、本明細書に記載のN−アセチルグルコサミン原料とは純粋なN−アセチルグルコサミン原料である必要はなく、グルコサミンへ変換するための一定量のN−アセチルグルコサミンを含む任意の原料(固体または溶液)である。上記の醗酵プロセスで製造され、上記に詳細に述べた様に醗酵ブロスから回収されたN−アセチルグルコサミンからグルコサミン塩酸塩を製造するか、細胞物質が除去されているが、残留する色またはイオン性成分は除去されていない醗酵槽濃縮物として、醗酵で直接製造されたN−アセチルグルコサミンをプロセスに使用することができる。また、キチンの酵素化水分解等他の方法で製造したN−アセチルグルコサミンを含む他の任意の適当N−アセチルグルコサミン原料も本発明の方法に使用できる。好ましい実施態様では、グルコサミン塩酸塩が、原料内の全固体の割合として少なくとも30%のN−アセチルグルコサミンを含むN−アセチルグルコサミン原料から製造され、原料内の全固体の割合としてその原料はより好ましくは少なくとも35%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも45%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のN−アセチルグルコサミンを含む。一般に、約1%〜100%の全整数の範囲(即ち1%、2%、3%、...98%、99%、100%)の任意の割合のN−アセチルグルコサミンを含む原料からグルコサミン塩酸塩が生産される。N−アセチルグルコサミンは固体または水溶液として、またはエタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールまたはsec−ブタノールを含むがそれに限定されない水性低沸点第一または第二アルコール溶液として反応に使用される。好ましい実施態様では、N−アセチルグルコサミン原料は原料内の全乾燥固体の割合として少なくとも約40%のN−アセチルグルコサミンを含む。
ある実施態様では、グルコサミン塩酸塩を酸と加熱条件下の加水分解を用いてN−アセチルグルコサミンから製造できる。酸加水分解は、当該分野で公知である。本発明では、この化学反応がN−アセチルグルコサミンからグルコサミン塩酸塩への変換に特に適用される。加水分解反応により1モルの酢酸が放出され、グルコサミン塩酸塩に変換されるN−アセチルグルコサミン1モル毎に1モルの塩酸と水が消費される。水、塩酸およびN−アセチルグルコサミンの多くの組み合わせで反応が良好に行われ、従って無水塩酸、乾燥N−アセチルグルコサミンおよび水を反応試薬として用いるか、N−アセチルグルコサミンおよび塩酸の一方または双方で水を持ち込むことも可能である。反応は過剰の水と塩酸で行われる。重要なパラメーターは反応時間と温度、および残留塩酸濃度である。変換が完了後に反応液が冷却され、過剰塩酸の残留濃度と終了温度によりグルコサミン塩酸塩生成物の溶解度が決められる。溶解度が大きすぎるとグルコサミン塩酸塩の1サイクル当たりの回収と収率が減少する。グルコサミンが分解し、分解に伴う反応が生じる。反応速度は温度、溶液中のN−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミンの濃度、および溶液中の塩酸濃度と関連する。有利な条件には60〜100℃の温度が含まれ、70〜90℃の温度がより好ましい。塩酸溶液とN−アセチルグルコサミン固体の許容範囲は重量比で1:1〜5:1であり、3:1が好ましく2.5:1がより好ましい。塩酸溶液の許容濃度範囲は10〜40%w/wであり、より好ましくは約10〜37%w/wである。希釈熱を制御し、N−アセチルグルコサミンを完全に溶解する適切な溶液となるならば、塩酸水溶液を無水塩酸で置換することが可能である。添加の順番と添加の温度は、組み合わせが適切ならばあまり重要でない。反応を行う時間は反応温度と酸濃度で変わり、高温の濃い酸で10分、低温で希釈濃度で3時間以上(例えば24時間まで)の範囲である。グルコサミン塩酸塩を沈殿させるため、溶液を4℃に冷却する。より高い温度またはより低い温度(例えば約−5〜40℃の間の任意の温度)も可能であるが、商業的に便利な条件での加水分解で残存グルコサミンを最小にするために、4℃が便利な温度として選ばれた。より不純な、すなわちグルコサミン塩酸塩の相対的乾燥固体組成がより低い加水分解溶液では、加水分解溶液を飽和に戻すためにはより低い冷却温度と、最終温度により長時間保持することが必要である。溶液の攪拌を和らげても、結晶化プロセスに加えられた障害は克服できない。
加水分解反応は過剰の塩酸で行われるので、冷却とグルコサミン塩酸塩除去プロセス後の加水分解溶液は加水分解に再度使用し得る。各加水分解サイクルで酢酸副生物の濃度が増加し反応物である塩酸が消費されるので、加水分解溶液の活性が低下し、反応が完結するのにより長い時間が必要になる。この反応物を再構成するためには塩化水素を供給して補給することが可能であるが、各反応サイクルからの生成物である酢酸の増加のため、単純な加水分解物リサイクルの障害が増加する。これは加水分解工程の前、工程中または工程後に第一または第二アルコールを添加して酢酸をエステル化することにより克服できる。酢酸はアルコールとエステルを形成し、N−アセチルグルコサミンの加水分解前、加水分解中または加水分解後に蒸留、フラッシングまたは真空蒸発で除去できる。
N−アセチルグルコサミンを、それが溶解する、または溶解されたままであることを保証するため、再循環加水分解母液と連続的に混合することができる。次いで、交換用無水塩酸を添加し、それにより溶液温度を上昇させて加水分解反応を開始し、グルコサミン塩酸塩の溶解度を最小にする妥当な残硫酸濃度を維持する。圧力を大気圧以上に維持し、反応器滞在時間が最小となる高温が選ばれる。N−アセチルグルコサミンをグルコサミン塩酸塩に完全に転換後、反応溶液を冷却し、グルコサミン塩酸塩が濾過または遠心分離で回収される。目的の温度である約4℃に達するまで濾液または濃縮液を冷却器を通して再循環し、グルコサミン塩酸塩の大部分を回収する。遠心分離液または濾液を再使用のため再循環する。反応ロスとなる適量の水がN−アセチルグルコサミンで生じる。母液の連続パージ、残留塩酸をパージストリームから分離し次に再使用のために戻すこと、および酢酸を第一または第二アルコールでエステル化しエステルとして蒸発させることにより、酢酸等の反応副生物の蓄積が除去される。
本明細書に記載の加水分解プロセスからのグルコサミン回収の詳細は、N−アセチルグルコサミンに対する上記内容と類似しており、グルコサミンの回収に対しても本明細書で採用される。グルコサミン回収の好ましい態様は以下の実施例の項で議論される。
次いで濾過または遠心分離によりグルコサミン塩の固体が回収できる。回収されたモル収率はN−アセチルグルコサミンに対して50〜90%である。アルコール洗浄および乾燥後のグルコサミン純度は96〜100%の範囲である。遠心機またはフィルターから回収された湿潤ケーキをアルコールで洗浄して、生成物が乾燥中に塊を形成する傾向を最小にする。次いで乾燥原料が製品使用に合致するまで、生成物を真空乾燥機またはWyssmont型乾燥機中で真空で乾燥する。
洗浄または未洗浄の回収N−アセチルグルコサミン加水分解濾過または遠心分離ケーキで解することも可能である。攪拌しながら室温で約25%(w)濃度にケーキを水に溶解する。水酸化ナトリウムまたはカリウム等の塩基を加えてpH2.5〜4の間にする。pH調整後、完全に溶解した溶液を活性炭で処理する。例えばバッチ法では、グルコサミン1g当たり0.02gのDarcoG−60またはその等価活性炭を加え、最低30分間混合する。混合物を濾過して活性炭を除く。活性炭を再結晶するグルコサミン塩酸塩と等量の水で濯ぎ粗いし、活性炭と濾過装置に吸収されたグルコサミン塩酸塩を溶出する。または、溶液を活性炭顆粒の充填ベッドに通し、次いで使用済み活性炭の再生または廃棄の前に吸収されたグルコサミン塩酸塩を回収する溶離工程を行う。
透明な溶液を真空下で攪拌して50℃に加熱する。50〜60cmHgの真空が使用される。蒸発で約半分の容積を除去し、濾過、遠心分離または他の適当な手段で固体を取り出し、結晶化したグルコサミン塩酸塩を回収する。残りの溶液がさらに回収するため戻される。固体を集め、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジオキサンを含むがそれに限定されない水混和性溶剤で洗浄し、乾燥する。
一回使用した加水分解液から結晶化する場合、固体が目に見え、体積が出発体積の20〜30%程度と見積もられる点へ液体をさらに蒸発させる。液体沈殿剤として等容積の水混和性溶剤を加え、残った溶液から固体を濾過、遠心分離または他の適当な手段で除去し結晶化したグルコサミン塩酸塩を回収する。次いで残りの溶液を例えば4℃に冷却し、濾過して残りのグルコサミン塩酸塩を回収する。
複数回使用した加水分解液から結晶化する場合、次のサイクルの活性炭処理加水分解液を現在のサイクルの回収溶液に加え、蒸発と固体回収で除かれた体積を再現する。次いで約半分の体積を蒸留で除去し、このサイクルを繰り返す。
再結晶グルコサミン塩酸塩の純度は過剰の酸の中和による塩の量と、第一の加水分解、結晶化工程から送られた他の不純物の量に依存する。回収されたグルコサミン塩酸塩が純度仕様に合致しなくなった場合、不純物の量は一回使用した加水分解液再結晶化工程を複数回使用した加水分解液の再結晶化に置き換えることで制御される。混和性溶剤沈殿中に回収された、得られたグルコサミン塩酸塩沈殿を再溶解し、その後の一連の再結晶化の一部に加えられる。
回収されたグルコサミン塩酸塩湿潤ケーキは、生成物が塊を形成し乾燥中に黒ずむ傾向を最小にするため、アルコールを含んでいる必要がある。湿潤ケーキは次に真空乾燥機またはWyssmont乾燥機中で乾燥減量が製品仕様に合致するまで乾燥される。
ある実施態様では、加水分解工程は(a)N−アセチルグルコサミン原料を塩酸溶液または再循環加水分解母液と加熱条件下に組み合わせて、グルコサミン塩酸塩を含む溶液を製造する工程;(b)溶液(a)を冷却してグルコサミン塩酸塩を沈殿する工程;および(c)溶液(b)から沈殿したグルコサミン塩酸塩含有固体を回収する工程を含む。ある態様では、加水分解工程を、N−アセチルグルコサミン原料を塩酸溶液または再循環加水分解母液と連続的に混合し、N−アセチルグルコサミン原料を溶解液に保ち、次いで加熱条件下に無水塩酸を溶液(a)に添加し加水分解を開始し、N−アセチルグルコサミンをグルコサミン塩酸塩に転換することにより加水分解工程が行われる。他の態様では、再循環加水分解母液は、工程(c)の沈殿したグルコサミン塩酸塩を回収後に残る加水分解溶液であり、第一または第二アルコールが加水分解工程が行われる前、工程中または工程後に添加される。この態様では、冷却工程を約−5℃〜40℃になるまで行うことができる。
回収工程は(i)沈殿したグルコサミン塩酸塩含有固体を採集する工程;(ii)グルコサミン塩酸塩含有固体を水混和性溶剤で洗浄する工程(メタノール、イソプロパノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジオキサンを含むがそれに限定されない);および(iii)グルコサミン塩酸塩含有固体を乾燥する工程を有する。
他の態様では、回収工程は(i)沈殿したグルコサミン塩酸塩含有固体を採集する工程;(ii)工程(i)由来の固体を水に溶解し、溶液とする工程;(iii)工程(ii)の溶液のpHを(例えば「塩基を加える、洗浄して酸を除く、イオン交換媒体を通過させる、またはその他の適当な方法により)2.5〜4の間に調節する工程;(iv)工程(iii)の溶液を活性炭と接触させてグルコサミン塩酸塩含有固体を脱色する工程;(v)活性炭を工程(iv)の溶液から除去する工程;および(vi)工程(v)由来の溶液よりグルコサミン塩酸塩を結晶化する工程を含み得る。この態様では、結晶化工程にはグルコサミン塩酸塩を約70℃以下の温度、より好ましくは約50℃以下の温度で濃縮する工程が含まれる。ある態様では、結晶化工程には大気圧以下でグルコサミン塩酸塩を濃縮する工程が含まれる。他の態様では、そのプロセスはさらに結晶化工程(vi)後に残る溶液を次の回収プロセスの工程(i)、または結晶化の次の工程(すなわち再結晶)へ再循環する工程を含む。
他の態様では、N−アセチルグルコサミン原料を水性低沸点第一または第二アルコール中に懸濁した場合、加水分解法には溶液を冷却する前に、加水分解後に、または加水分解溶液を再使用のため再循環する前に、アルコールで生成した酢酸エステルを除去する別な工程が含まれる。酢酸エステルは蒸留、フラッシング、および大気圧以下で濃縮を含むがそれに限定されないプロセスで除去される。この実施態様では、加水分解工程は約60〜100℃の温度、好ましくは1気圧での溶液の沸点で行われる。
他の態様では、加水分解が比較的高い酸対N−アセチルグルコサミン比(例えば約3:1〜5:1)および比較的低温(例えば約80℃以下)で行われる場合、製造されたグルコサミンの結晶の品質は十分に高く、グルコサミンの再結晶の必要はない。この実施態様では、一回の結晶化工程の後に先に述べた様な水混和性溶剤中での洗浄、および上記の様な乾燥工程が行われる。
実際、本明細書に記載の任意の加水分解および回収法には、先に述べた様に工程(vi)由来の再結晶グルコサミン塩酸塩を水混和性溶剤で洗浄し、その後乾燥する工程がさらに含まれる。ある態様では、結晶化グルコサミン塩酸塩が70℃以下の温度で6時間以下乾燥され、他の実施態様では、50℃以下の温度で3時間以下乾燥される。乾燥工程を真空の有無、および空気または不活性ガス吹き付けの有無で行われる。
N−アセチルグルコサミンをグルコサミンへ転換する他の方法は、酵素加水分解法を用いることである。醗酵ブロス中のN−アセチルグルコサミン、またはその回収後の酵素プロセスが実施例の項に記載される。3つのタイプの酵素が候補である:N−アセチルグルコサミン−6−Pデアセチラーゼ(EC3.5.1.25、NagA)、N−アセチルグルコサミンデアシラーゼ(EC3.5.1.33)およびキチンデアシラーゼ。
Fujishimaらが報告したデアセチラーゼはN−アセチルグルコサミン−6−Pデアセチラーゼであると同定された(EC3.5.1.25、NagA)。それらの酵素のN−アセチルグルコサミン−6−Pとの親和性と効力はN−アセチルグルコサミンよりはるかに高かった。しかしながら、E.coliから精製されたN−アセチルグルコサミン−6−PデアセチラーゼはN−アセチルグルコサミンには作用しなかった。
酵素N−アセチルグルコサミン−6−Pデアセチラーゼ(EC3.5.1.25、NagA)の、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミンマンノサミンおよびノイラミン酸の細胞代謝における必要な過程である、酵素N−アセチルグルコサミン−6−Pデアセチラーゼ(EC3.5.1.25、NagA)の、N−アセチルグルコサミン−6−Pをグルコサミン−6−Pへ変換する役割は公知である。組み換えE.coliNagAタンパク質等のこの酵素は通常、非燐酸化N−アセチルグルコサミンでは活性でない。N−アセチルグルコサミン−6−PデアセチラーゼをコードするDNA配列(NagA遺伝子)が多くの異なった生物で決定された。N−アセチルグルコサミンにのみ活性である(従ってNagAとは異なる)デアセチラーゼが存在するかどうかは知られていない。
キチンデアシラーゼ(EC3.5.1.41)はキチン内のN−アセチルグルコサミンユニットの脱アセチル化を触媒し、キトサンとする。キチンデアセチラーゼ活性は、基質としてN−アセチルグルコサミン基に放射線標識したグリコールキチン(部分O−ヒドロキシエチル化キチン)を用いて測定される。この酵素は微結晶キチンおよびカルボキシメチルキチン(可溶性誘導体)にも作用する。しかしながら、Mucorrouxii由来のキチンデアセチラーゼはN−アセチルグルコサミンモノマーまたは2〜3個のオリゴマーを脱アセチル化しないことが報告された(ArakiおよびIto、1975、Eur.J.Biochem.55:71−78、その全文を本明細書に参考として援用する)。通常のキチンデアセチラーゼがグルコサミンモノマーを脱アセチル化するという事実はないが、この様な活性を有するキチンデアセチラーゼの変異体が自然から単離されるか、インビトロで創出し得ると思われる。
いくつかのアセチルトランスフェラーゼはアセチル基を基質から除去し、別な基質へ転移させる(Konecnyら)。この様な酵素がN−アセチルグルコサミンを脱アセチルグルコサミン化し得ることは示されていないが、この様な活性を有するキチンデアセチラーゼの変異体が自然から単離されるか、インビトロで創出し得ると思われる。
N−アセチルグルコサミンの脱アセチル化を、天然型アシルトランスフェラーゼを有する生物、または組み換えアシルトランスフェラーゼを有する生物中に含まれるか、そこから単離されたからアシルトランスフェラーゼで行うことができた。組み換えアシルトランスフェラーゼを無秩序または指向性突然変異誘発および/またはタンパク質遺伝子工学で改良することができた。
アシルトランスフェラーゼまたはデアセチラーゼ技術をN−アセチルグルコサミンのグルコサミンへの変換に応用する場合、特に外部が窒素原子をプロトン化する低いpH環境である場合、グルコサミンの溶液中における周知の不安定性のため、様々な機構により生成物が分解する可能性がある。
単にpHを下げることは酸加水分解には適当であるが、酵素触媒には問題である。無緩衝または非中性pHに晒された場合、酵素はより変性し易くなる。その上、高い塩負荷が酵素変性と関連することが多い。
従って、酵素の立体配座を固定し、高いイオン濃度に晒される機会を減少し、高価な酵素の消耗を減らす公知の酵素固定化技術(下記)を採用することが提案される。さらに、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、塩化ナトリウムおよび塩化カルシウム等の他の塩に比べて、グルコサミン塩酸塩の比較的低い溶解度を利用することが提案されている。
適当な酵素を塩化ナトリウムまたはカルシウム水溶液とN−アセチルグルコサミンに接触させることにより、平衡反応が進行し、酵素に対してpH緩衝剤となる溶解度の高い酢酸ナトリウムまたはカルシウムが生成する。その反応はまた、比較的不溶性であるが安定なグルコサミン塩酸塩を生成し、蒸発濃縮または液体沈殿剤の使用により溶液から結晶化または沈殿する。グルコサミンが溶液から分離すると平衡反応が進み、さらにN−アセチルグルコサミンが消費される。残りの母液は残留するグルコサミン塩酸塩、酢酸ナトリウムまたはカルシウム、塩化ナトリウムまたはカルシウム、および少量の未反応N−アセチルグルコサミンを含む。この母液を液体沈殿剤としてのアルコールで処理すると、可溶性の酢酸ナトリウムまたはカルシウムとより不溶性のグルコサミン塩酸塩、塩化ナトリウムまたはカルシウム、およびN−アセチルグルコサミンが分離され、N−アセチルグルコサミンは酵素変換プロセスの最初に再循環される。
N−アセチルグルコサミンをグルコサミン塩酸塩へ変換するまた別なアプローチは、アセチル基をN−アセチルグルコサミンから添加したアルコールへ転移してアルコールをエステル化するために酵素触媒を使用することである。加水分解中に生成したエステルを除去すると、反応が先に進んでN−アセチルグルコサミンを消費し、グルコサミン遊離塩基を生成する。
酵素加水分解で生成したグルコサミン遊離塩基を、塩化物溶液、例えば塩化ナトリウムとの混合物として水素型の陽イオン交換樹脂を通過させることにより安定化することができる。塩の陽イオンが水素イオンと交換され、安定なグルコサミン塩酸塩が形成され、イオン交換樹脂は塩の陽イオンを保持する。この方法では、燐酸塩、硫酸塩、沃素塩および亜硫酸塩を含むがそれに制限されない様々な選択された塩がグルコサミン遊離塩基と混合され、陽イオン交換樹脂カラムを通過させると、(グルコサミン)2硫酸塩−(NaCl)2、(グルコサミン)2硫酸塩−(KCl)2、(グルコサミン)2硫酸塩、グルコサミン塩酸塩、グルコサミンヨウ素酸塩、グルコサミン燐酸塩、(グルコサミン)2亜硫酸カリウム−(HCl)2、および(グルコサミン)2亜硫酸ナトリウム−(HCl)2を含む公知の安定な酸の塩に変換される。
従って、ある実施態様では、上記の組み替え脱アセチルグルコサミン化酵素が固体支持体に結合し、固定化酵素となる。本明細書で用いる固体支持体に結合した酵素(すなわちデアシラーゼ)には固定化単離酵素、組み替え酵素等の酵素を含む固定化細胞(固定化バクテリア、菌類(例えば酵母)、藻類、昆虫、植物または哺乳動物細胞を含む)、安定化完全細胞および安定化細胞/細胞ホモジェネートが含まれる。安定化非損傷細胞および安定化細胞/細胞ホモジェネートには、その酵素を発現する天然起原微生物、または遺伝子修飾微生物由来の細胞とホモジェネート、遺伝子修飾によりその酵素を発現する、本明細書で開示された昆虫または哺乳動物細胞が含まれる。従って、酵素を固定化する方法は下記に議論されるが、この様な方法はバクテリアおよびその他の細胞、および細胞を溶菌する実施態様でも応用できる。
酵素を固定化する様々な方法は、Industrial Enzymology第二版、Godfrey、T.およびWest、S.編、Stockton Press、New York、H.Y.、1966、p267−272;Immobilized Enzyme、Chibata、I.編、halsted Press、New York、N.Y.、1978;Enzymes and Immobilized Cells in Biotechnology、Laskin、A.編、Benjamin/Cimmings Publishing Co.、Inc.、Menlo Park、California、1985;およびApplied Biochemistry and Bioengineering、Vo.4、Chibata、I.およびWingard、Jr.L.編、Academic Press、New York、N.Y.、1983に開示され、その全文を本明細書に引用して援用する。
簡単に言えば、固体支持体とは、単離された酵素の活性に影響せず、酵素と結合を形成し得る任意の有機支持体、人工膜、バイオポリマー支持体または無機支持体を言う。有機固体支持体の例にはポリエステル、ナイロン、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、アクリル共重合体(例えばポリアクリルアミド)、安定化完全全細胞および安定化粗全細胞/膜ホモジェネートが含まれる。バイオポリマーの例にはセルロース、ポリデキストラン(例えばセファデックス(登録商標))、アガロース、コラーゲンおよびキチンが含まれる。無機支持体の例にはガラスビーズ(多孔性および非多孔性)、ステンレススチール、金属酸化物(例えばZrO2、TiO2、Al2O3およびNiO等の多孔性セラミック)、および砂が含まれる。固体支持体は安定化完全細胞および/または粗細胞ホモジェネートから選ばれることが好ましい。この様な支持体の調製には最小の手間と費用しか必要でない。さらに、この様な支持体は酵素の安定化に優れる。
吸着、架橋(共有結合を含む)および包含を含む様々な方法で酵素を固体支持体に結合できる。吸着はファンデルワールス力、水素結合、イオン結合または疎水性結合で行われる。吸着固定化のための固体支持体の例にはポリマー吸着体およびイオン交換樹脂が含まれる。ベッド型の固体支持体が特に適している。吸着固体支持体の粒径を、固定化酵素がメッシュフィルター中に保持され、基質(例えばオイル)が所望の速度でリアクターを通って流れる様に選ぶことができる。多孔性粒子支持体では、酵素またはバクテリア細胞が粒子の空洞中に包含され、活性を失うことなく保護できる様に吸着プロセスを制御することができる。
以下は本明細書で参照および/または記載した様々な遺伝子修飾微生物のリストである。これらの株のいくつかは米国特許第6,372,457号(前出)に記載され、本明細書に具体的に記載した遺伝子修飾のための親株として用いられた。
(E.coli株)
注:
1)表に列記した全ての株は同じ親株W3110由来である。
2)表に列記した株の大部分は7107―18株から開発され(TetR::nag manXYZ DE3 T7−glmS*54::galk)、簡単にするため、これらの株の遺伝子型が7107−18+新規変化として列記される。
3)E.coli以外の種由来の遺伝子は2個の文字で同定される。Sc:Saccharomyces cerevisae、Ca:Candida albicans、At:Arabidopsis thaliana、Bs:Bacillussubtilis。
4)遺伝子組み込みのため、他に指示されていなければ挿入された発現カセットは標的部位の遺伝子またはオペロンと同じ配向である。
(実施例1)
以下の実施例はより良いグルコサミン生産菌のための突然変異体スクリーニングを説明する。
その全文を本明細書に引用して援用される米国特許第6,372,457号は、グルコサミンを生産する組み替えE.coli株を記載している。これらの株は代謝遺伝子工学アプローチを用いて構成された。このアプローチは3つの工程で構成される。第一工程はグルコサミンとその6−燐酸誘導体の代謝と取り込みを制限する突然変異を導入することであった。第二工程は、生合成酵素の鍵である、グルコサミンシンターゼ(GlmS)をコードするE.coli glmS遺伝子を過剰発現することであった。第三工程は、GlmSの生成物阻害を、酵素の試験管内突然変異誘発により最小にすることであった。組み替え株2123−54は、T7プロモーターの制御下にある生成物耐性組み替えE.coli glmS突然変異遺伝子を含み、グルコースを補充した単純塩培地中の振盪フラスコ培養で高い生成物力価を示した。この株は、さらに改良するための新規株を評価する参照として用いられた。その株は、細胞生育とIPTG誘起グルコサミン生産を改善するために設計された実験でも用いられた。
(IPTG誘導性グルコサミン生産株2123−54の遺伝子型)
2123―54はW3110で指定される実験室E.coli K−12株から誘導された。関係する遺伝子型を表1に記す。
(表1.グルコサミン生産株2123−54の遺伝子型)
nagおよびmanXYZ突然変異はグルコサミン生産に正の効果を有し、新規生産株中に維持されることが示された。T7発現系を用いて、E.coli野生型glmS遺伝子が過剰発現され、IPTG誘導を用いて数倍高いレベルのグルコサミン生産が得られた。E.coli野生型GlmSはその生成物であるグルコサミン−6−Pで強く阻害されるので、E.coliglmS突然変異体のプールが易誤謬性PCRで作成され、プレートフィード分析でグルコサミン生産の増加がスクリーニングされた。改良されたグルコサミン生産株中のglmS*突然変異体を発現する発現コンストラクトが、染色体中でlacZ部位に組み込まれ、安定な生産株を生成した。多くの突然変異株が、生成物耐性であるグルコサミンシンターゼを合成した。振盪フラスコ実験では、E.coli野生型glmS発現コンストラクトを有する株に比べて、これらの突然変異株は飛躍的に増加したレベルのグルコサミンを生産した。2123−54株(T7−glmS*54発現コンストラクトを有する)は11g/l以上のグルコサミンを生産した。
(簡略化振盪フラスコスクリーニング法の開発)
米国特許第6,372,457号に記載される様に、異なったグルコサミン生産株を、振盪フラスコ培養によるグルコサミン生産のためにグルコース補充無機塩培地中で生育した。以前の実験では、グルコースと硫酸アンモニウムが欠乏するとそれらを培地に供給し、連続グルコサミン生産を行っていた。しかしながら、これは3日間の頻繁なモニタリングと供給(6〜8時間毎)が必要である。従って、より簡単であるが、異なったグルコサミン生産株の評価に信頼できる振盪フラスコ培養プロトコールを開発することが望まれた。
グルコサミン生産に使用された単純無機塩培地はM9Aであった(表2)。株の評価のために3工程プロトコールが開発された。第一に、LBプレート上に生育した新鮮な細胞を使用して3mlのLB中で培養を開始し、細胞を37℃で約8時間生育させた。第二に、1.5mlの培養液を用いて、250mlの振盪フラスコ中の50mlのM9A培地に接種し、培養液を37℃でインキュベーションし、約16時間(終夜)、225rpmで振盪した。培養液中の細胞濃度を600nmで測定した。この工程には細胞を最小培地に適応させることと、グルコサミン生産の再現性のある結果を得ることが含まれる。第三に、細胞の一部をIPTG(0.2mM)を含む振盪フラスコ中の50mlのM9A培地に加えた。初期の細胞ODは0.3であった。細胞を37℃でインキュベーションし、225rpmで72時間振盪した。試料(1ml)を24、48および/または72時間に取り出し、培養ブロス中のグルコサミンレベルを測定した。24時間および48時間の時点で、少量のNaOHを加えてpHを7.0に調節し、グルコースを20g/lで加えた。これらの条件下で、対照株2123−54は約6g/lのグルコサミンを72時間の時点で生産した。
(表2.グルコサミン製造で使用したM9AおよびM9B*)
*醗酵のために培地に消泡剤(Mazu204、0.25ml/L)を添加する。
(振盪フラスコ実験における突然変異体スクリーニング:)
組み込みglmS突然変異コンストラクトを有する約150の組み替えE.coli株を最適化プロトコールを用いて再評価した。Ehrlich試薬を用いる比色法によりグルコサミンを分析した。2123−72および2123−103株はグルコサミンを2123−54株より若干高いレベルでグルコサミンを生産した(表3)。
(表3.振盪フラスコ培養におけるIPTG誘導グルコサミン生産)
*括弧内に示した割合は、異なった時点における2123−54株に対する相対値である。
(1リッター醗酵槽中の高グルコサミン生産2123−72および2123−103株の評価)
潜在的に優れたグルコサミン生産株2123−72および2123−103を1リッター醗酵槽中で2123−54株と比較した。消泡剤(0.25ml/LのMazu204)と微量元素(表4)を添加した初期容積475mlのM9A培地を醗酵槽に入れた。pHを6.9に制御するため、75%NH4OHを用いて醗酵槽を運転した。醗酵中、温度を30℃に保った。晒気と攪拌を調節した溶存酸素濃度を20%飽和とした。コンピュータープログラムで制御して65%グルコースを培地へ供給し、接種時に生育速度0.40/時間、6時間で最高速度5ml/時間とした。醗酵はpH、酸素およびグルコース濃度を正確に制御して行った。フラスコ中より醗酵槽でより高いグルコサミン濃度が得られた。
各株の2セットを二つの異なった条件下で培養した。1セットの醗酵槽を低濃度グルコ
ース濃度で(10g/l、グルコース制限)、他のセットをより高いグルコース濃度(40g/l、過剰発現グルコース)で開始した。過剰グルコース条件は振盪フラスコ生育条件により似ている。通常はグルコース制限条件を醗酵実験に使用し、2123−54株では一般により高いグルコサミンの生産が得られた。醗酵の開始から、培養は全てIPTGで誘導された。グルコース制限および過剰条件の何れでも、2123−72および2123−103株の双方とも2123−54株より成績が良く、2123−54株での10g/lまでのグルコサミン生産(データは示されない)と比較して50時間で14g/lまでのグルコサミンを生産した。
(表4.いくつかの実験で使用された、生育培地に添加された微量元素)
(実施例2)
以下の実施例は、グルコサミン生産のための過剰発現された異なったglmS遺伝子を説明する。
バクテリアグルコサミンシンターゼ遺伝子(glmS)および酵母ホモログ(GFA遺伝子)をクローニングし、E.coli中で発現させてグルコサミン代謝経路の遺伝子工学におけるその有用性を示した。異なった遺伝子をPCRでBacillus sbtilis、Saccharomyces cerevisiaeおよびCandida albicansから増幅し、発現ベクターpET24d(+)中のT7プロモーターの制御下に置いた。コンストラクトをE.coli株7101−17(DE3)中に形質転換し、自由に複製するプラスミドとして維持した。さらに、T7プロモーターで駆動するC.albicans GFA1遺伝子を7101−17(DE3)株中の染色体中のlacZ部位に組み込んだ。異なったglmSおよびGFA遺伝子の宿主である株の遺伝子発現と、IPTG誘導を用いるグルコサミン生産を評価した。
(B.subtilis glmS遺伝子のクローニング)
B.subtilis glmS遺伝子は1803bpのオペロン読み取り枠を含み、約65kDaのタンパク質(599残基、細胞内で通常除去されるイニシエーターメチオニンを除く)をコードする。B.subtilis開放読み取り枠のヌクレオチド配列は配列番号15に列記されている。B.subtilisGlmSタンパク質の推定アミノ酸配列は配列番号16に列記されている。glmS遺伝子はATCC23856およびATCC23857株よりPCRで増幅された。前方プライマーはATG開始コドンとBsaI部位(配列番号21):5’−GAT CGG TCT CGC ATG TGT GGA ATC GTA GGT TAT ATC GGT C−3’を含んでいた。逆方向プライマーは停止コドンとXhoI部位(配列番号22):5’−GAT CCT CGA GTT ACT CCA CAG TAA CAC TCT TCG CAA GGT TAC G−3を含んでいた。
期待するサイズのPCR生成物をpET24d(+)(Novagen Inc.、Wisconsin)中にライゲートした。そのベクターを酵素NcoIおよびXhoIで消化した。組み換えプラスミドpSW07−15#83を制限酵素分析で確認し、7107−17(DE3)中に形質転換し、E.coli株7107−24(B.subtilisATCC23856由来のglmS遺伝子)と7107−25(B.subtilisATCC23857由来のglmS遺伝子)を作成した。対照として、空のベクターpET24d(+)も7107−17(DE3)中に形質転換し、7102−22株を作成した。
(S.cerevisiae GFA1遺伝子のクローニング:)
S.cerevisiae GFA1読み取り開放枠は2154bpを有し、716残基のペプチドをコードする(イニシエーターであるメチオニンを除く)。S.cerevisiae GFA1読み取り開放枠は配列番号17に列記されている。S.cerevisiae GFA1タンパク質の推定アミノ酸配列は配列番号18に列記されている。配列から予想されるタンパク質のサイズは約80kDaである。GFA1遺伝子配列にはイントロンが存在しないので、遺伝子をS.cerevisiae S288C(ATCC204508)から調製したゲノムDNAから増幅した。
ATG開始コドンおよびBsaI部位を含む前方プライマーは以下の配列(配列番号23)を有した:5’−GAT CGG TCT CGC ATG TGT GGT ATC TTT GGT TAC−3’。停止コドンとEcoRI部位を含む逆方向プライマーは以下の配列(配列番号24)を有した:5’−GAT CGA ATT CTT ATT CGA CGG TAA CAG ATT TAG−3’。
約2.2kbのPCR生成物をpPCR−Script Amp SK(+)中へクローニングした。組み替えプラスミドを制限酵素消化で確認した。EcoR1およびBsaIで消化してS.cerevisiae FGA1フラグメントを単離し、pET24d(+)のEcoRおよびNcoI部位へライゲートした。この組み替えプラスミドを制限酵素解析で確認し、7101−17(DE3)中へ形質転換してE.coli株7107−101を作成した。
(Candida albicans GFA1のクローニング)
Candida albicans GFA1遺伝子にはイントロンがなく、その2142bpの読み取り開放枠は約80kDa(712残基、イニシエーターであるメチオニンを除く)のペプチドをコードする。C.albicans GFA1読み取り開放枠のヌクレオチド配列は配列番号19中に列記される。C.albicans GFA1タンパク質の推定アミノ酸配列は配列番号20に列記される。GFA1コード配列をATCC10261株から、前方プライマーおよび逆方向プライマーを用いてPCRで増幅した。前方プライマーはATG開始コドンとBsaI部位:5’−GAT CGG TCT CGC ATG TGT GGT ATT TTT GGT TAC GTC−3’(配列番号25)を含んでいた。逆方向プライマーは停止コドンとXhoI部位:5’−GAT CCT CGA GTT ACT CAA CAG TAA CTG ATT TAG CC−3’(配列番号26)を含んでいた。
PCR生成物をベクターpMOSBlue(Amersham Pharmacia Biotech、New Jersey)中にクローニングし、組み替えプラスミドを制限酵素消化で確認した。BsaI−Xhoフラグメントを単離し、NcoIおよびXhoIで消化して調製したpET24d(+)中にライゲートした。得られたプラスミドを宿主7101−17(DE3)中に形質転換し、E.coli株7107−23を作成した。
C.albicans GFA1遺伝子も発現ベクターpET23(+)(Novagen Inc.)中へクローニングした。pET24(+)と異なり、このベクターはlacオペレーター配列をT7プロモーターの下流に含んでいなかった。lacオペレーターがないため、組み替え遺伝子レベルが高くなった。C.albicans GFA1コード配列を酵母ゲノムDNAからPCRで増幅した。前方プライマーはATG開始コドンとNdeI部位:5’−GCG GGT ACC CAT ATG TGT GGT ATT TTT GGT TAC GT−3’(配列番号27)を含んでいた。逆方向プライマーはBamHI部位:5’−GCG GGA TCC TTA CTC AAC AGT AAC TGA TTT AGC CA−3’(配列番号28)を含んでいた。正しいサイズのPCR生成物をNdeIおよびBamHI部位のpET23b中にライゲートした。組み替えプラスミドを制限酵素分析で確認し、発現宿主7101−17(DE3)中に形質転換してE.coli株7107−58と7107−59を作成した。対照として空のベクターpET23bを7101−17(DE3)中に形質転換して株7107−57を作成した。
E.coli pET発現系を用いるCandida albicansタンパク質の過剰発現は、先の文献に記載されている(P.Sachadynら、Protein Expression and Purification、19、343−349、2000)。しかしながら、グルコサミンの生産は全く示されず、議論されてもいない。さらに、報告されたFGA1遺伝子はC.albicans株(ATCC13153)からクローニングされた。2つのFGA1タンパク質は同じアミノ酸配列を有するが、ATCC13153由来のFGA1遺伝子はATCC10261株中の様なTAAおよびGTCの代わりにCTAおよびGCCでそれぞれコードされるLeu29およびAla655残基を有する。残基Leu29およびAla655の異なったコドンを用いることが、E.coli中のGFA1遺伝子発現に影響するかどうかの試験が試みられた。Stratagene QuikChange(登録商標)突然変異誘発キット(Stratagene、CA)に基づく戦略を用いる部位指向突然変異誘発を行ってプラスミドpET23b(+)/C.alabicansFGA1中のLeu29コドンをCTAに、Ala655コドンをGCCに変換し、プラスミドpET23b(+)/C.alabicansFGA1−Mを作成した。新規プラスミド中の双方の突然変異の存在を配列決定で確認し、そのプラスミドを7101−17(DE3)中に形質転換してE.coli株7107−60および7107−61を作成した。
(GlmSおよびGFAタンパク質の過剰発現)
異なったglmSおよびCFA1遺伝子を含むpETベクターで形質転換した株をLB培地中で生育させ、GlmSおよびFGA1タンパク質の発現を示した。最初に、細胞を試験管中、LB培地中37℃で終夜生育させた。培地にはカナマイシン(25mg/l)を添加しプラスミドを維持した。次に50μlの終夜培養接種液を用いて250mlバッフル付きフラスコ中で50ml培養を開始した。培養液を37℃でインキュベーションし、225rpmで3時間振盪した。その時点でIPTGを最終濃度1mMで添加した。3時間のインキュベーション時間後、培養液をSDS−PAGE分析のために収穫した。負対照として空のpET24d(+)ベクターも生育させ、分析した。比較のため、T7プロモーターで駆動し、lacZ部位で染色体中に組み込んだ野生型E.coli glmS遺伝子と突然変異glmS*54遺伝子を有するE.coli細胞も、抗生物質選択なしで上記のように生育させた。
標準法に従いSDS−PAGEを行った。T7−E.coli glmS発現カセットがpETプラスミドにあるか、染色体中に組み込まれた場合、GlmSタンパク質が極めて高いレベルで発現した(データは示さず)。プラスミドpET24d(+)/T7−Bsubtilis glmSの宿主である細胞は、GlmSタンパク質の予想サイズである約65kDaのタンパク質を過剰発現した(データを示さず)。組み込みカセット由来の発現レベルは、pETプラスミドに含まれるE.coli glmS遺伝子を発現する細胞と同程度であった。
S.cerevisiae GFA1遺伝子の宿主である細胞は、酵母タンパク質の予想サイズ(80kDa、データは示されない)の過剰発現タンパク質バンドを明らかに示した。T7−C.albicans GFA1発現カセットを含む(データは示されない)7107−23株では、80kDaバンドタンパク質の合成は空のベクターを有する株と比較して明らかでなかった(データは示されない)。しかしながら、GFA1バンドは、pET23b(+)系ベクター上のC.albicans FGA1遺伝子を含む7107−58株および7107−59株中で過剰発現された(データは示されない)。発現レベルはpET23b(+)系ベクターを有する7107−23株より明らかに高かった。Leu29およびAla655に対する別なコドンを使用しても、E.coli中のC.albicans GFA1タンパク質発現に影響しなかった。
まとめると、E.coli中の酵母GFA1遺伝子の発現レベルはバクテリアglmS遺伝子と比較して低かった。このことは真核遺伝子をE.coli宿主中で発現することを試みた場合、共通に観察された。
(グルコサミン−6−燐酸シンターゼ活性分析)
酵素活性とグルコサミン生産を測定するため、M9A培地中で異なった株を生育させた。培養液を調製するため、3工程プロトコールを使用した。最初にLBプレート上で生育した新鮮な細胞を3mlのLB中で培養を開始するために使用し、37℃で約6時間生育させた。次に1.5mlの培養液を使用して250mlのバッフル付きフラスコ中の50mlのM9Aに接種し、培養液を37℃でインキュベーションし225rpmで約16時間(終夜)振盪した。この工程は細胞を最小培地に適応させること、およびグルコサミン生産の再現性のある結果を得るために行われた。三番目に、一定量の細胞を250mlのバッフル付きフラスコ中のIPTG(1mM)を含む50mlのM9A培地に添加した。最初の細胞密度を0.3OD600に調節した。細胞を37℃でインキュベーションし、225rpmで24時間振盪した。遠心分離後、培養ブロスをグルコサミン分析に使用し、細胞ペレットをグルコサミンシンターゼ活性の測定に使用した。それぞれの実験からのデータを表5に示す。
B.subtilis glmS遺伝子(配列番号16をコード)を発現するE.coli細胞中では酵素活性が容易に検出できた。活性レベルはE.coli glmS(配列番号2をコード)を有する細胞、およびE.coli glmS*54突然変異遺伝子(配列番号6をコード)を有する細胞と同程度であった。しかしながら、酵母FGA1遺伝子(配列番号18および配列番号20をコード)の宿主である細胞中では微量量の酵素活性しか検出できなかった。M9A培地中の培養由来の活性データは、一般にLB培地中で生育した細胞のSDS−ゲル分析の結果と一致した。低いタンパク質発現レベルは、酵母FGA1遺伝子の宿主である細胞中の僅かな酵素活性を説明する主な理由の一つであると思われる。
(異なったglmSおよびGFA1遺伝子の発現によるグルコサミンの生産)
空のベクターpET24d(+)で形質転換した7101−17(DE3)株の培養培地中では、きわめて低いレベルのグルコサミンしか生産されず、分泌されなかった(表5)。バクテリアglmS遺伝子(E.coli glmSおよびB.subtilis glmS)の発現により、グルコサミン生産は50倍以上増加した。グルコサミンレベルの数倍の増加も、酵母GFA1遺伝子を発現する培養物中で観察された。pET24d(+)と比較して、pEt23b(+)を使用するとC.albicansタンパク質のレベルおよびグルコサミン生産レベルが高くなった。C.albicans GFA1遺伝子中のLeu29およびAla655コドンの変化はグルコサミン生産レベルに影響しなかった。これらの観察は、一般的にSDS−PAGE分析の結果と一致した。酵素活性分析で観察された様に、2123−12株で7107―214株より高いレベルでグルコサミンが生産されたので、染色体中のT7−E.coli glmS発現カセットの組み込みは有益である様に思われる。染色体中に組み込まれたE.coli glmS*54を有するE.coli株は、他の試験された株と比較して明らかにグルコサミン生産に優れていた。
(表5.異なったglmSおよびGFA1ホモログを発現するE.coli中におけるグルコサミンシンターゼ活性およびグルコサミン生産)
注:1)宿主細胞:E.coli7101−17(DE3)、遺伝子型:nagΔ、manXYZ DE3
2)細胞培養:リッター当たり7.5g(MH4)2SO4および40gグルコースを添加したM9A培地を含む振盪フラスコ中30℃、26時間
3)C.albicans GFA1(M):TAAおよびGCTからそれぞれCTAおよびGCCに換えたLue29およびAla655コドン
(実施例3)
以下の実施例は異なった生成物耐性GlmS酵素:E.coli突然変異体および野生型B.subtilis HlmSの特徴付けを示す。
B.subtilis GlmS、天然型E.coli GlmS、および突然変異体E.coliGlmSを含む、異なるグルコサミンシンターゼ酵素を、試験管内で研究した。様々なE.coli株の細胞をM9A培地中で生育させ、収穫し凍結した。細胞抽出物を調製し、グルコサミンシンターゼを特徴付けし比較した。強い生成物耐性を示し、組み替えE.coli内で高いグルコサミン生産が得られた二つの別なE.coli glmS突然変異体に付き、DNA配列を決定した。
(グルコサミン−6−Pによる阻害に対する感受性)
反応生成物であるグルコサミン−6−Pに対する酵素の感受性を調べた。0〜30mMのグルコサミン−6−Pの範囲で、グルタミンおよびフルクトース−6−Pの飽和レベルにおける初期速度を測定した。結果の例を図4および5に示す。2123−12株由来のE.coli GlmS酵素は1mMレベルのグルコサミン−6−Pで約50%の活性を失った。グルコサミン−6−Pのレベルを増加すると、活性は減少し続けた。2123−54株では、1mMのグルコサミン−6−Pは酵素活性に本質的に効果がなかった。このレベル以上では阻害はほぼ直線的であり、10mMのグルコサミン−6−Pでは約50%の活性が残った。2123−4、2123−59、2123−64、2123−72、2123−103および2123―14等の他の株由来の突然変異GlmS酵素も、GlcN−6−P阻害に対し感受性が減少することが示された。図5は比較的「低い」[グルコサミン−6−P]で活性を示す。この図は野生型GlmSとこれらの突然変異GlmS株の間の顕著な差を浮き彫りにするものである。かなり低いレベルのグルコサミン−6−Pでも天然型GlmS酵素を有意に阻害する。
野生型Bacillus glmS遺伝子がE.coliで過剰発現された場合、E.coli glmS遺伝子の過剰発現より高いレベルのグルコサミンが生産される。興味のあることに、天然型Bacillus酵素はE.coli突然変異GlmS酵素に極めて匹敵する生成物耐性を示した(図4)。B.subtilis酵素の活性を0.2および4mMグルコサミン−6−Pで測定した。その酵素は0.62mMのKm(フルクトース−6−燐酸)と、1.25mMのKi(グルコサミン−6−P)を有する(データは示さず)。
Vmax対[阻害剤]に対する非線形回帰値の2次プロットから、2123−12株に対し0.56mMの阻害定数(Ki)が得られた。突然変異2123−54株とB.subtilis酵素はより高いKi値を有する(表6)。これらの突然変異体のいくつかに対する測定Ki値は、2123−12株の値の4〜8倍である。振盪フラスコ実験から、グルコサミン−6−Pに対する感受性の減少により、高いグルコサミンレベルの蓄積が可能であることが明らかである。これは、細胞内[グルコサミン−6−P]が組み替えE.coli株中でかなり高く(複数ミリモル)、グルコサミンシンターゼ活性が減少する結果となることを示唆する。グルコサミン−6−Pに対する感受性の急激な変化は、突然変異E.coli GlmS、および野生型Bacillus GlmS酵素を過剰発現するこれらの株中のグルコサミン合成の増加に対する最も単純な説明を与える。
(基質であるフルクトース−6−Pおよびグルタミンに対する親和性)
グルタミンおよびフルクトース−6−Pに対するMichaelis−Menten定数を粗抽出物を用いて測定した(表6)。野生型E.coli GlmS酵素(2123−12株)では、非線型回帰により0.20mM(フルクトース−6−P)および0.17mM(グルタミン)の値が得られた。突然変異GlmS*54(2123−54)での同様な実験から、0.64mM(フルクトース−6−燐酸)および0.73mM(グルタミン)の値が得られた。これらの値は天然型酵素で得られた値より若干高かった。E.coli(7107−24株)中で発現したBacillus subtilis GlmS酵素は、突然変異E.coli酵素GlmS*54に極めて類似したKm(フルクトース−6−P)を示した。
(表6.異なったGlmS酵素の特性)
*ND:検出されず
(熱安定性)
50℃における変性を、異なったGlmS酵素の熱安定性の有り得る差を測定するために用いた。粗抽出物を50℃でインキュベーションし、90分間にわたってサンプリングした。サンプルのグルコサミンシンターゼ活性を、全ての基質の飽和レベルで25℃で分析した。
50℃における熱安定性とグルコサミン生産の間には何らの有為の関連がないように思われる(データを示さず)。2123−124株の熱安定性は最低であるが、最良のグルコサミン生産株の一つであることが示されている。株12、54および59の間の熱安定性に有為の差はほとんどないが、本発明の発明者らは株54がより優れたグルコサミン生産株であることを知っている。
(実施例4)
以下の実施例はGlmS配列解析を説明する。
プラスミドpKIN23−72およびpK1N23−103による形質転換および組み込み実験で、宿主株7101−17(DE3)から2123−72および2123−103株がそれぞれ誘導された。これらのプラスミド中のglmS領域(glmS*72およびglmS*103)の配列決定を行った。E.coli glmS*72突然変異体コード配列のヌクレオチド配列は配列番号13として列記される。E.coli glmS*72タンパク質の推定アミノ酸配列は配列番号14として列記される。
興味のあることに、両方の突然変異体は15、387、450および525位でアミノ酸置換される同じ突然変異を有することが分かった(表7)。E.coli野生型GlmS(配列番号2)、突然変異GlmS*49(配列番号4)、GlmS*54(配列番号6)およびGlmS*124(配列番号8)中の関連する位置における残基が比較のため列記される。GlmS*49およびGlmS*72でも見出される、450位におけるセリンからプロリンへの変化以外は、GlmS*72は他の生成物耐性GlmS突然変異体と共通の突然変異を持たない。興味のあることに、3種のGlmS突然変異酵素(GlmS*49、72および124)は、450〜469領域内で1個の残基がプロリンへ変化する突然変異を有する。GlmS*54も472位で残基が変化する、すなわちグリシンがセリンで置換される。これらのデータは、タンパク質のこの領域のおける変化が酵素の生成物耐性に重要な役割を果たし得ることを示唆する。
(表7.生成物耐性グルコサミンシンターゼをコードするE.coli突然変異体glmS遺伝子における塩基の変化)
* 簡単にするため、位置は推定アミノ酸配列の番号付けに従って与えられる。
異なったバクテリアglmSコード配列のヌクレオチド配列を、標準設定のMegalignプログラム、J.Hein法、Lasergeneソフトウエア(DNA Star、Inc.、Madison、WI)を用いて解析した。標準設定のMegalignプログラム、Lipman−Pearson配列、Lasergeneソフトウエア(DNA Star)を用いて、核酸配列から推定したアミノ酸配列も比較された。結果を表8に示す。
(表8.異なった微生物由来のグルコサミンシンターゼ酵素のペプチドサイズとホモロジー)
*アミノ酸残基数には翻訳後に酵素除去されるイニシエーターであるメチオニンは含まれない。
**ヌクレオチドレベルのホモロジーは括弧で示される。
Bacillus subtilis glmS遺伝子はE.coliホモログより9残基短いグルコサミンシンターゼの599個のアミノ酸残基(通常、翻訳後に酵素除去されるイニシエーターであるメチオニンを除く)をコードする(配列番号16)。異なった生成物耐性E.coli GlmS突然変異体中に突然変異が見出される位置に対応する、Bacillus GlmSタンパク質のアミノ酸残基が表9に列記される。興味のあることに、10個の位置のうち6個で、Bacillus酵素はE.coli野生型GlmSとは異なった残基を有するが、どの変化もE.coli突然変異酵素中と同じでない。
(表9.生成物耐性突然変異E.coli GlmSと野生型B.subtilis GlmS*におけるアミノ酸残基の変化)
* E.coli野生型GlmSタンパク質の残基と異なる残基のみを示す。
**配列中の小さいギャップのため、Bacillus GlmS配列の位置は、E.coli野生型GlmS配列との整列に基づく。
(実施例5)
以下の実施例は、振盪フラスコ培養内のグルコサミン生産中の酵素活性を示す。
グルコサミン生産に関連する様々な酵素活性を振盪フラスコおよび醗酵槽中で調べた。これらの酵素のグルコース代謝およびN−グルコサミン生成への関与の概要を図3に示す。グルコースが細胞に取り込まれ、同時にグルコース−6−Pに変換される。グルコースは図に示される経路を含むいくつかの経路で代謝される。グルコサミン合成経路で、グルコース−6−Pはフラクトース−6−Pに異性化され、次いでGlmSが媒介してフラクトース−6−リン酸がグルコサミン−6−リン酸へ変換される。最後に、グルコサミン−6−リン酸が脱リン酸化され、分泌される。グルコース−6−リン酸に対する主要な別ルートは、ホスフォフラクトキナーゼによりグリコリシスへ入ることである。グルコース−6−リン酸に対する重要な別ルートは、グルクノラクトン−6−リン酸への酸化である(ペントースリン酸経路へ入る)。また、グルコース−6−リン酸はグルコース−1−リン酸へ変換され、それからグリコーゲンが生成し細胞内に貯蔵される。
2123−54株を用いる振盪フラスコ実験における酵素分析の結果が図6に示される。細胞をM9A培地中で生育し、培養の開始から0.2mMIPTGで誘導された。全実験を通してグルコサミンシンテターゼ(GlmS)活性は高かった。12時間で高いレベルのGlmS活性があり、24時間で活性はさらに増加した。その後、GlmS活性は減少する様に思われた。しかしながら、この減少は急激ではなかった。72時間における活性はまだ高く、12時間で観測された活性と基本的に同じであった。従って、GlmS活性は実験期間中に有意に減少するとは思われなかった。
ホスフォグルコイソメラーゼ(Pgi)活性は12時間で高く、24時間で有意に増加した。その後、活性は12時間におけるレベルに戻り、残りの実験中そのレベルのままであった。明らかに、この実験条件のセットではグルコースからフラクトース−6−リン酸の生成はこれらの細胞中の低いPgi活性で制約されない。
フラクトース−6−リン酸についての他の主要なルートはグリコリシスである。これに関連する最初の工程はホスフォフラクトキナーゼ(Pfk)で媒介される。最大Pfk活性が12時間で観測され、次の48時間にわたって減少したが、この活性は検出可能のままであった。この活性パターンはPfkに典型的である。対数増殖中は活性は最高であり、次いで細胞が定常期に入ると減少する。
抽出物中でグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(Glu6P DH)が検出された。この酵素はNADPHを再生するためにグルコースからペントースリン酸経路へ炭素を供給する。この酵素の活性は測定された他の酵素と比べて非常に低いが、十分に安定であり、実験の最初の24時間後は若干減少した。ホスフォグルコムターゼ(Pgm)の活性は実験条件下で極めて低いことが見出された。
(実施例6)
以下の実施例は、ラクトース誘導グルコサミン生産のための組み換えE.coli開発を記載する。
グルコサミン生産の商業的に利用できるプロセスを開発するためには、二つの因子が必要であった。第一はグルコサミン力価を増加させることである。第二は醗酵プロセスでIPTGを使用しないことである。なぜならIPTGのコストがグルコサミン生産を阻害するほど高価になるからである。研究計画の初期に開発されたグルコサミン生産用の株は、グルコサミンシンテターゼの発現を誘導するために培養培地中にIPTGを必要とした。
(醗酵プロセスからIPTGを除外するための戦略)
生産株(例えば、2123−54株)において、醗酵プロセス中におけるIPTG要求は、GlcN6PシンセターゼをコードするglmS遺伝子の過剰発現モードから生じる。glmS遺伝子は、E.coli染色体DNAから単離され、そしてバクテリオファージT7由来のプロモーターの後、発現ベクター中にクローニングされた。このプロモーターは極めて強力で特異的である。E.coliポリメラーゼはこれを認識せず、むしろT7RNAポリメラーゼがこれを認識する。T7 RNAポリメラーゼはE.coli lacプロモーターとlacオペレーターで作動するT7RNAポリメラーゼを含む、DE3と指定される遺伝子要素中に提供される。IPTGによる誘導を必要とするのはこれらのプロモーターおよびオペレーターである。lacプロモーターはlacI遺伝子でコードされるlacレプレッサーにより負の制御を受ける。誘導因子がない場合は、lacレプレッサーがlacオペレーターに結合し、オペレーターの下流の遺伝子、この場合はT7RNAポリメラーゼ遺伝子の発現を妨害する。T7RNAポリメラーゼがない場合は、組み換えglmS遺伝子は発現されない。IPTGが存在すると、lacレプレッサーがオペレーターに結合せず、T7RNAポリメラーゼ遺伝子が発現しglmSが過剰発現する結果となる。
lacプロモーターの他の誘導因子はアロラクトンである。これはb−ガラクトシダーゼのラクトースにたいする作用の副生物である。lacZ遺伝子の欠失および破壊のために、2123−54株等のグルコサミン生産株はb−ガラクトシダーゼに対し陰性である。しかしながら、機能性lacZ遺伝子が存在すると、ラクトースはアロラクトンに変換され、glmSを発現させる上記の連続反応を開始する。
上記を参照すると、IPTG依存性を解消する方法がいくつかある。本実施例で記載する一つのアプローチはlacZ遺伝子を除去することである。これはT7−glmS*54発現カセットを染色体中の異なった部位へ組み込むことで行われる。galK部位に組み込むとlacZ遺伝子は無傷のままである。Lac+株はIPTGより安価であるラクトースで潜在的に誘導可能である。組み込み株はGal−であるので、galK部位が選ばれた。この様な株ではガラクトースをlacプロモーターに対する誘導因子として使用し得ると報告された。さらに、ラクトースの加水分解で生じたガラクトースがラクトース誘導を促進し得る。準最適量のラクトースをグルコサミン生産プロセスで使用した場合、ラクトースは誘導を促進する。理論的には、T7−glmS*発現カセットを7107−17(DE3)株中のgalK部位に挿入した場合、得られた株は2123−54株と類似しているが、グルコサミン生産は、ラクトース、ガラクトースまたはIPTGの何れかで誘導可能である。
(温度選択による染色体上の標的部位へ遺伝子組み込みまたは欠失のための一般的プロトコール)
温度変化でE.coli染色体中に標的遺伝子の欠失と遺伝子組み込みを行うためのベクターと方法がHamiltonら(1989、J.Bacteriol.171:4617−4622)によって報告された。この方法を異なったグルコサミン生産E.coli株を開発するために採用した。遺伝子組み込みのためのプロトコールには以下の主な工程が含まれる。第一工程では標的部位の配列をクローニングし、内部欠失を行い、および/またはこの欠失部位に組み込まれるべき外来遺伝子を挿入する。第二工程では、これらの配列を含むフラグメントを、温度感受性複製開始点および抗生物質選択マーカーを含む温度感受性組み込みベクター中にサブクローニングする。第三工程では、組み込みベクターをE.coli宿主株中に形質転換し、非許容温度(42℃)で単一交差組み換えにより染色体中に組み込まれた全プラスミドにつき、クローンを選択する。第四工程では、選択したクローンの細胞を液体培地中に許容温度(30℃)で生育させる。選択したプラスミドを有する細胞はプラスミドを失い易い。複製開始点および抗生物質耐性遺伝子、または全プラスミドを失った細胞は培養液中で速く生育する。具体的には、この工程は50mlのLB培地に2個〜10個のクローン由来の細胞を接種し、培養細胞を24時間生育させることで行われた。培養細胞を1000倍希釈で新鮮な培地に移し、さらに24時間生育させた。第五工程では、細胞をプレート上に蒔き、抗生物質耐性を失ったクローンを選択した。組み込まれた遺伝子または欠失した遺伝子の性質によって、遺伝子特異性手順が使用された。具体的には、クローンを選択するために、染色体中の意図する変化を有するクローンを、その天然型からPCR生成物のサイズによって区別し得るプライマーセットを用いてPCRを行った。組み込まれた、または欠失したDNA配列に特異的なプローブを用い、クローンをサザンブロットで確認した。
(T7glmS*54のgalK部位への組み込み用ベクターの温度選択による開発)
E.coli galオペロン配列の一部を含むベクター、pUC4Kプラスミド由来のカナマイシン耐性選択マーカー(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)、およびpMAK705由来の温度感受性pSC101複製開始点(Hamiltonら、1989、J.Bacteriol.171:4617−4622)を含むベクターを、温度選択プロトコールを用いるgalK部位への遺伝子組み込みのために開発した。E.coli galオペロン配列の一部(3.3kb)をE.coliW3110株からPCRで増幅した。PCR生成物はgalTKM配列(galTコード配列のATG開始コドンの14bp上流から開始し、galMコード配列の停止コドンに続く68bpで終了)を含み、ベクターpCRScript Amp SK(+)中にクローニングして組み換えプラスミドpKLN23−157を作成した。0.7kbの欠失をgalK配列に作成し(制限部位SfoIとMluIの間)、ユニーク制限部位(SalI、BglIIおよびMcsI)を欠失部位に加え、プラスミドpKLN07−1を作成した。PstI消化と平滑末端を生成するためのT4DNAポリメラーゼ処理により、カナマイシン耐性カセットをPstIフラグメントとしてpUC4Kから単離した。このフラグメントをプラスミドpKLN07−1(配位は未決定)のNotI部位(T4DNAポリメラーゼで平滑末端化)にライゲートした。kan::galTKMフラグメントからプラスミドのBamHI/SacII(T4DNAポリメラーゼで平滑末端化)フラグメントとして除去し、pMAK705の温度感受性レプリコン(Hamiltonら、1989、J.Bacteriol.171:4617−4622)を含むPvuII/SmaIフラグメントとライゲートしプラスミドpSW07−4を作成した。発現カセットT7−glmS*54をプラスミドpKLN23−54(米国特許第6.372.457号に開示)からNotIフラグメントとして消化し、T4DNAポリメラーゼで平滑末端した。このフラグメントをMscI部位のpSW07−4中にクローニングし、プラスミドpSW07−9を作成した。
(ラクトース誘導株の選択)
E.coli7101―17(DE3)株をpSW07−9で形質転換後、Hamiltonら(1989)から採用したプロトコールを組み込み突然変異体の温度感受性選択のために使用した。pMAK705由来の温度感受性レプリコンを有するプラスミドではプラスミドの複製が30℃で行われるが、抗生物質選択条件下でプラスミドの組み込みが非許容温度で強制的に行われる。この結果、形質転換細胞を42℃でインキュベーションして組み込みプラスミドを有する株が選択された。これは細胞をカナマイシンを含むプレート上に播種し、プレートを42℃でインキュベーションしコロニーを選択することで行われた。通常、全プラスミドが相同組み換えにより染色体中に組み込まれた。galTまたはgalM領域では単一交差が行われた。
複製開始点のため、組み込まれたプラスミドを有する細胞は染色体からプラスミドがループとなってはみ出す傾向がある。全プラスミドが組み込まれた細胞は30℃での生育が極めて悪いが、プラスミドまたは複製開始点部分を失った細胞は正常な生育を示す。従って、42℃で選択した細胞を32℃で生育させた場合、プラスミドを失った細胞はプラスミドが残る細胞より速く成長する。原理的に、相同組み換えにより細胞がプラスミドを失うには、二つの異なった方法がある。細胞が全プラスミドを失って天然型galオペロンを有する復帰株となるか、または複製開始点と選択マーカーを含むプラスミド部分のみを失ってgalK部位に組み込まれたT7−glmS*54配列を有する株となるかである。42℃選択から単離された細胞を液体培地中に30℃でインキュベーションし、抗生物質を含まないプレート上に播種した。組み込みによりgalK遺伝子が不活性化したので、組み込み株は単独の炭素源としてガラクトースを利用することができなかった。ガラクトースプレートをこの様な組み込み株のスクリーニングに使用し、その株をgalK配列をプローブとして用いるサザンブロットハイブリダイゼーションで確認した。これらのラクトース誘導グルコサミン生産株は7107−16および7107−18を表わす。
(実施例7)
本実施例はラクトース誘導グルコサミン生産を記載する。
galK部位に組み込まれたT7−glmS*54発現カセットを有する株(7107−16および7107−18株)は、IPTGまたはラクトースのいずれかによる誘導後に高レベルのグルコサミンを生産する。IPTG誘導下のコントロール株(2123−54)は4.2g/lを生産した。ラクトース誘導株におけるグルコサミン収量はIPTG誘導2123−54株と同等であった。2123−54株およびラクトース誘導株におけるグルコサミンレベルを図7に示す。
グルコサミンシンテターゼ活性をラクトース誘導培養サンプルで分析した。細胞を異なった量のグルコースおよび/またはラクトース(数字はリッター当たりのグラム数を示す)を含むM9A培地中で生育させた。24時間の生育後、酵素活性とグルコサミンを分析した。表10に示すように、ラクトースはGlmS活性とグルコサミン合成を誘導する。ラクトース誘導は培地中のグルコース量に影響された。高レベルのグルコースはラクトース誘導の強い抑制を示した。7107−18株をラクトース誘導プロトコールのさらなる開発のために選択した。この株を、振盪フラスコおよび1リッター醗酵槽中での様々なラクトース誘導スキームで評価した。
表10.ラクトース誘導株7107−16におけるグルコサミンシンテターゼ活性およびグルコサミン生産レベル
注:
1)細胞を異なった量のグルコースおよび/またはラクトースを含むM9A培地中で生育させた(数字はリッター当たりのグラム数を示す)。
2)酵素活性とグルコサミンを24時間の生育後に分析した。
(ラクトース誘導およびグルコース抑制)
醗酵実験では、ラクトース誘導後にラクトースまたはグルコースの供給と共に異なったラクトースレベルが試された。を試みた。グルコサミンレベルを72時間にわたりモニターした。ラクトース誘導の最初のプロトコールは、接種前にラクトースを添加し(グルコースはlacオペロンを抑制するのでグルコースなしで)、その後生育、GlcN生成およびバイオマス維持のために炭素を供給した点でIPTG誘導と類似していた。細胞を40g/lのラクトースで生育させ、ラクトースを連続的に供給した場合、細胞はラクトースを消費し続けた。これにより40g/lまでの有意レベルのガラクトースが蓄積された。グルコサミン生産レベルは、IPTG誘導下の2123−54レベルと同等であった(約10g/l)。
細胞を40g/lのラクトースで24時間生育し、次いでグルコース供給へ切り替えた。この様な条件下で、残りの試行中、細胞はラクトースの消費を停止し、ガラクトースは10g/lで一定であった。グルコサミン生産は良好な速度で続き、2123−54株に匹敵する速度レベルに達した。この結果は、ラクトースの利用が停止した後もガラクトース生産を厳密にグルコースで維持し得ることを示す。このことはまた、誘導には低いレベルのガラクトースのみが蓄積する少量のラクトースのみが、必要であることを意味する。ラクトース要求が少なく、ガラクトース蓄積が少ないことは、双方ともコスト削減および生成物回収に望ましいことである。
50g/lおよび60g/lに増加させたラクトースを使用した後、グルコースを供給する誘導スキームは、グルコース添加後しばらくの間ラクトースの利用が継続したことを示す。このことは、より高レベルのラクトースでグルコースによる抑制が不完全であるか、または誘導された酵素が適当なレベルで機能し続け、グルコース添加後のグルコサミン生産を維持することを示している。
低いレベルのラクトースを使用することが望ましく、この実験は、より少ないレベルのラクトースを試験したが、試験される最低レベルのラクトースでグルコース抑制が最小になり得ることを示した。以後の開発作業は誘導に必要な最小レベルのラクトース、最適タイミングおよび誘導期間、およびラクトース誘導前のグルコースを含む初期生育期の利点を確立することに集中された。制御醗酵で取り他界細胞密度が望ましい場合、後者は特に重要であり得る。
細胞がグルコース欠乏になるまで細胞をグルコースで生育させ、その後ラクトースで誘導することが試みられた。グルコースによる生育で約17g/lの細胞密度に到達させ、次いでラクトース供給をゆっくり開始した。この様な条件下でGlcN生産は10g/lに達した。この戦略をGlcN生産のその後の実験に使用した。
(酢酸の効果)
酢酸はE.coli醗酵の共通の副生物である。グルコースが過剰である場合、生育速度が臨界レベルを超える場合、またはグリコリシス速度と生成した代謝物の酸化が呼吸容量の飽和のために不均衡である場合、酢酸は好気条件でも生成する。培養液に酢酸を加えると、生育およびグルコサミン蓄積の両方に有意の負の効果を示す。酢酸はグルコサミン生産中も蓄積することが示された。微量元素レベルも酢酸生成レベルに影響した。
プロセス開発による酢酸の蓄積を減らす戦略には、グルコースが飽和しない様にグルコース供給を遅くすることによる生育制限が含まれる。この戦略は全実験計画中に採用された。微量元素またはカリウム制限等のある条件で、酢酸レベルは有意なレベルとなった。低いpHは酢酸の粗が憩うかを増加させた。
(温度の効果)
米国特許第6,372,457号に開示される様に、生育とグルコサミン生産に好ましい温度は30℃たった。高い生育温度(37℃)は生育速度を高くして、グルコース取り込みを増加し、最終的に酢酸阻害レベルをもたらした。高い温度はまた、不溶性/不活性組み換えGlmSタンパク質を含む封入体を生成し得る。誘導後に温度を30℃から25℃に変化した場合、フラスコ内実験で酢酸レベルの有意の減少と相対的なGlcNレベルを示した。従って、酢酸の蓄積を減少させるための低い温度(25℃)を醗酵槽で評価した。その結果、グルコース蓄積の条件下でも低温で酢酸の蓄積が減少することが示された。
(微量元素の効果)
バイオマスをより高い密度に生育するためにある種の微量元素、特に鉄、亜鉛およびマンガンが必要である。全微量元素パッケージの最初の滴定で、微量元素のレベルが低すぎる場合はバイオマス生産が限定されることが示された。鉄が主要な制限成長因子であることが分かったが、過剰にあると鉄はGlcN力価を減少し酢酸レベルを高くする。フラスコ培養ではマンガンは細胞密度とGlcNレベルに同様ではあるがより弱い効果を与える。マンガンの効果は鉄の効果に加算的であるように思われる。マンガンの負の効果は、醗酵槽で確認された(図8)。細胞がラクトースで適切に誘導される様になるためには、適切な鉄の供給が必要であることが見出された。従って、生育要求、誘導要求と、酢酸およびGlcN生産への効果とがり合うために、臨界濃度範囲を確立しなければならなかった。グリコリシスからの炭素フローを制限するための鉄、マンガンおよび亜鉛の制限は、クエン酸醗酵の開発に先例がある。
数回の実験後、最終スキームが確立された:培地中の3mg/lの硫酸鉄、および5μg/gの比率でグルコース供給に添加される硫酸鉄。培地中3mgの硫酸鉄の最初のレベルで、グルコース供給溶液に鉄を添加することが、定レベルのバイオマス生育およびGlcN生産の増加を維持するために必要であった。
(リン酸濃度の効果)
細胞にとって、核酸合成、燐脂質およびコエンザイムに主に用いられる燐は必要な主要栄養要素である。リン酸化代謝中間体も細胞代謝に必要である。M9A培地中の高いリン酸濃度は、振盪フラスコ条件下では容易に制御できない培養中のpHを緩衝する一つの方法となる。しかしながら、この培地を醗酵スケールへスケールアップすることは、リン酸が正常なバイオマスの要求を超えた大過剰となることを意味する。高い塩レベルは、生成物回収に問題を提示する。従って、リン酸レベルを下げることが望まれた。リン酸レベルを下げるいくつかの試みはより良い生育を示したが、GlcN生産ははるかに悪くなった。例えば、リン酸カリウムレベルを30g/lから6g/lへ下げた場合、恣意行くは改善されたがGlcNの生産は大きく減少した(図9)。
(実施例8)
この実施例は、ラクトース誘導グルコサミン生産株7107−18の生育に対するpHの効果を記載する。
実施例11に示すように、グルコサミンはE.coli生育に用いられる正規のpH範囲では不安定である。グルコサミンはまた、7107−18に毒性効果をもたらした。細胞を接種する前にグルコサミンを20g/lの低い濃度で培地(pH7)中にプレインキュベーションした場合でも、毒性が観察された。出発pHが7.0である培地中で、毒性は少なくとも部分的にGlcN分解生成物に帰せられた。GlcNは低いpHでより安定であり、pH4.7以下でグルコサミンは分解しない。しかしながら、低いpHレベルが細胞生育を制限することが公知である。従って、7107−18株がpH7.0、6.0、5.5、5.0および4.7で生育する実験が行われた。主な目的はこれらの低いpH(GlcN含有)での細胞生育の実験、および以前に観察されたGlcN分解で生じた細胞死が低いpHで減少し得るかどうかを調べることである。
40g/lのグルコースおよび20g/lのGlcNを有するM9Aのバッチを5種の異なったpHに調節した。フラスコの一つのセットは即時に7107−18細胞を接種した。同じ培地の複製フラスコは、接種前に細胞なしで10時間インキュベーションした。48時間で7回、フラスコをサンプリングしてpH、OD600およびGlcN濃度を測定した。各サンプリングポイントで、培地のpHを再調整して最初の設定に戻した。
グルコサミンをプレインキュベーションしない場合は、pH7.0出の細胞培養は、培地中のグルコサミンが20g/lの場合でも生育は良好であった(図10)。pH7.0と4.7の間では、pHが減少すると生育速度が減少した。しかしながら、pH4.7で細胞は有意の生育を続けた。
先の観察と同様に、pH7.0で培地をグルコサミンと共にプレインキュベーションした後は細胞の生育は良くなかった。プレインキュベーションされた培地中に接種した後の細胞生育を観察した。試験したpHレベルを通じて生育は極めて悪かった。これは低いpHとグルコサミン分解の細胞培養に対する影響の組み合わせの結果であると思われる。
これらの実験に基づき、生成物の損失とグルコサミンの分解で生じる毒性効果を最小にするためには、7107−18細胞を7.0より低いpHレベルで生育することが実行可能である様に思われた。しかしながら、最適pHと培養条件を注意深く調整しなければならない:低いpHはグルコサミンを安定化し得るが、細胞代謝と細胞生育に負の効果がある。比較的低いpHレベルで実行する醗酵槽中のGlcN生産プロトコールは、生成する任意のGlcNを保存するのに確かに有利であり、分解生成物の濃度を下げてプロセス中の細胞を保護する。これらの利点は、この方法で生育した細胞の代謝活性の減少と釣り合わなければならない。連続GlcN合成には細胞内で定常的なエネルギー発生が必要であり、これらの低いpHレベルでゆっくり生育する細胞は要求される十分なエネルギーを発生し得るとは思われない。
(実施例9)
本実施例では、グルコサミンを安定化するためのより低いpHにおける醗酵を記載する。
E.coliに対する地位上の最適pHは中性(pH7.0)付近であり、最初は6.7〜6.9のpHがGLcN醗酵に用いられる。しかしながら、GLcNは特に中性〜アルカリ性pHで溶液中に分解される。微生物はpHに敏感であり、pHが減少すると生育が悪くなる。従って、グルコサミン合成と生育期後の蓄積に対するpHの効果を調べる試験を行った。グルコサミン分解は酸化的であるとされているので、溶存酸素レベルの効果も試験した。細胞をpH6.7で生育させ、高い細胞密度に到達させた。培養を誘導後、pHを6.7から5.5に下げ、溶存酸素のレベルも20%から5%飽和に下げた。この実施例において、最高のグルコサミンの蓄積は低いpHであり、低い酸素レベルも有益であったと思われる(図11)。pHと酸素負荷を変えていくと、低いが一定のグルコース供給でグルコサミン蓄積の停止後、培養液中の低いpHにおける分解はより少なくなったので、少なくとも改良の幾分かは低い分解のためであった。
(実施例10)
本実施例はラクトース誘導グルコサミン醗酵プロセスで用いられた条件を集約する。
グルコサミンのラクトース誘導生産のため、組み換えE.coliを用いて醗酵プロセスを開発した。72時間で生成物力価は約20g/lであった。当業者にとっては、本発明に開示された観察に基づいてプロセスをさらに最適にし得る。また他の醗酵プロセスのために開発された方法をグルコサミン醗酵プロセスに応用し、効率を向上させ得る。本発明に開示された主要な因子と要素が以下にまとめられる。
株: 組み換えE.coli
誘導: 細胞密度が30g/lに達した後、ラクトースを添加した(10時間に
わたり徐々に35%フィードとして)。グルコース抑制を阻止するため、
この手順中はグルコースフィードを停止。
フィード: 5μgFeSO4・7H2O/gグルコースおよび0.33μgMnSO4・
H2O/gグルコースを含む50%グルコース;グルコースフィードは制
限濃度。
醗酵時間: 72時間
醗酵モード: フィードバッチ、必要あれば50%グルコースを添加し、グルコースの
制限濃度を維持。
接種: 5容積%
pH: 生育中は6.9、誘導後は6.7、10NNH4OHで制御
温度: 30℃、誘導後は25℃に切り替え
酸素: 溶存酸素20%以上、攪拌で制御
曝気: 0.5〜1vvm
培地
グルコース(徐々に増加して添加)、およびFe、Zn、Mn、Cu、B、Co微量元素(滅菌後添加)以外の全成分を滅菌前に添加した。
(実施例11)
本実施例はグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンの安定性と、そのE.coliに対する効果を記載する。
(グルコサミンの安定性)
グルコサミンの安定性を、40g/lグルコースを添加した無細胞M9A培地(K2HPO4 14g/l、KH2PO4 16g/l、クエン酸Na3・2H2O 1g/l、(NH4)SO4 5g/l、MgSO4 10mM、CaCl2 1mM、pH7.0)中で試験した。グルコサミンを30%グルコサミンHCl濃縮液として調製し、最終濃度0、4、13、26および42g/l(250mlフラスコ中全量50ml)で添加した。培地のpHを6.9に調節した。フラスコをシェーカー上に置き、約225rpmに調節した。グルコサミンレベルを30℃で約24時間モニターした。グルコサミンは不安定であり、グルコサミン濃度が高いほど分解速度が速く、その分解は濃度に依存した。グルコサミン42g/lの培地中では、グルコサミンの半分以上が1日以内に分解した。出発グルコサミン濃度が4g/lの場合、分解はわずか約25%であった。培地のpHの減少に伴ってグルコサミンが分解した。42g/lグルコサミンサンプルでは、培地のpHは24時間後に0.7単位(6.9から6.2に)減少したが、グルコサミンのない培地ではpH変化は僅か約0.15単位であった。
4種の開始pHレベルにおけるグルコサミン(60g/l)の分解を無細胞M9A−グルコース(40g/l)培地中、30℃でモニターした。各サンプリング時間で溶液のpHを再調整した。各条件を三重で行った。図12に示すように、分解は強くpHに依存し、高いpHでより速かった。グルコサミンの損失はpH7.0で68%であったが、pH5.5では18%であった。分解速度に対するpHの外插により、pH約4.7以下では分解を生じないと示唆される。
グルコサミンが分解すると溶液は黄琥珀色になった。発色の程度は360−400nmの吸収で見積もることができる。分解速度がより速い初期のサンプリング期間を除いて、分解したグルコサミンの量と培地中の琥珀色濃度の間には強い相関があった。2種の最低pHレベルで、グルコサミンの消失と発色の間にかなりの遅れがあり、着色成分がグルコサミンの直接分解生成物でないことを示している。試験した全てのpHレベルで分解速度が遅くなった後、分解したグルコサミンと黄色い色の比率は一定であった。
グルコサミンの分解と発色の分子機構はほとんど知られていない。水中および乾燥条件下でのグルコサミンの熱分解について報告されている(Shu、1988、Journal of Agricultural and Food Chemistry、vol.46、p1129−1131);ChenおよびHo、Journal of Agricultural and Food Chemistry、vol.46、p1971−1974;双方ともその全文は本明細書中に援用される)。しかしながら、本実験で用いられた温和な条件下で、同じタイプの化学反応が生じるかどうかは公知でない。研究者らはグルコサミンから褐色生成物の生成を観測し、褐色生成物の抗酸化活性を研究したが(OyaizuおよびMankoto、1988、NipponShokuhinKogyoGakkaishi、vol.35、p771−775、その全文は本明細書中に援用される)、その研究では褐色生成物が化学的に同定されなかった。グルコサミンの分子構造を考えると、アルデヒドとアミノ基の双方が分解および/または重合に関与していると思われる。発色は共役二重結合と複合構造の形成を示唆する。
アルデヒド基の関与を試験するため、30g/lのグルコサミンを含み、40g/lのグルコースを含む、または含まないM9A培地中で分解をモニターした。アルデヒド基が関与している場合、グルコースの存在はグルコサミンの分解/重合速度に影響すると考えられる。グルコサミン分解に有意な差は見られなかった。この観察はアミノ基のグルコサミン分解への役割を示唆する。
(E.coli7107−18に対するグルコサミンの効果)
グルコサミンは重要な細胞壁成分の合成の前駆体であるので、E.coli生育に極めて重要である。E.coliはグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンを唯一の炭素源として使用することも可能である。ミノ糖の異化作用には、7107−18株では欠失しているnagB遺伝子でコードされる機能性グルコサミンデアミナーゼを必要とする。予想通り、7107−18株はグルコサミンを唯一の炭素源として含むプレート上で生育できなかった。40g/lのグルコースを含む培地中でグルコサミンがE.coli7107−18細胞の生育と生存に影響するかどうかを研究する実験を行った。新規に接種した培養物の生育はリッター当たり10および20gのグルコサミンでわずかに阻害された。細胞プレート培養で示される様に、リッター当たり40gのグルコサミンは細胞生育を阻止し、約16時間のインキュベーションで細胞を死滅させはじめた。52時間後、生存菌数は最初の数の約1/5に低下した。
E.coli 7107−18についてのグルコサミンの毒性効果を調べるためにさらに実験を行った。35g/lのグルコサミンを含むM9A−グルコース(40g/l)中に直ちに接種した細胞はかなり良く生育したが、3.5時間の短い時間プレインキュベーションした同じ培地中に接種した場合、細胞は急速に死滅した。このことは、殺菌は接種前に培地中で生成したグルコサミン分解生成物(複数)によることが多いことを示している。培地調製後直ちに接種した場合、何故細胞が生存し生育し得るかは分かっていない。一つの記載は、グルコサミンが生成物A、B、CおよびDに順番に分解され得る。細胞は比較的低濃度の初期生成物を許容または同化する能力を有するが、その後の生成物および/または高レベルの初期生成物はより毒性が高くなり得る。この仮説は、より高いグルコサミン濃度とより長いプレインキュベーション時間が生存菌数のより低いレベルをもたらすという観察と一致している。35g/lのグルコサミンでは、生存菌数は接種レベルより105倍低下した。
(N−アセチルグルコサミンの安定性)
pHの効果で示唆される様に、アミノ基が分解に重要な役割を果たす様に思われる。これが真実である場合、N−アセチルグルコサミンははるかに安定でなければならない。さらに、pH効果もグルコサミンほど顕著になり得ない。N−アセチルグルコサミンの安定性をグルコサミン分解の実験と類似の実験で試験した。pH5.5および7における80および40g/lのN−アセチルグルコサミンの安定性を無グルコースM9A培地中で2日間にわたってモニターしたが、有意な分解を生じなかった(図13)。これはグルコサミンで見られた分解と明瞭に対照的である。グルコサミンが分解すると、培地は琥珀色に発色した。N−アセチルグルコサミンを含むM9A培地で48時間に渡ってこの様な発色は見られなかった。さらに、インキュベーション中に有意なpH低下がなかった。この結果より、遊離アミノ基がグルコサミンの分解および/または重合に関与する鍵となる官能基であることが確認される。
(E.coli7107−18に対するN−アセチルグルコサミンの効果)
62g/lのN−アセチルグルコサミンを含むM9A−グルコース(40g/l)中に細胞を接種した。培地を8時間以上プレインキュベーションした場合でも、有意の生育阻害は観察されなかった。
まとめると、N−アセチルグルコサミンはE.coli7107−18株に対し負の効果を持たず、グルコサミンよりはるかに安定であった。従って、グルコサミンの代わりにN−アセチルグルコサミンを生産することは潜在的に有利である。グルコサミンは細胞内に輸送され、サブユニットがmanXYZ遺伝子でコードされるマンノーストランスポーター、およびptsG遺伝子でコードされるグルコーストランスポーターでリン酸化されることが知られている。manXYZ遺伝子は7107−18株で欠失しているが、グルコーストランスポーターでグルコサミン取り込みが行われる。培地中の濃度が高い場合、相当量のグルコサミンが細胞内に入り得る。7107−18株中のマンノーストランスポーター(manXYZ)およびN−アセチルグルコサミントランスポーター(nagE)の欠失のため、細胞内輸送で戻ることなく、N−アセチルグルコサミンを培地内に高いレベルで蓄積し得る。これはN−アセチルグルコサミンのグルコサミンに対するまた別な利点である。
(実施例12)
本実施例はグルコサミン測定のHPLC法を記載する。
グルコサミンをクロマトグラフィーで定量する簡単な方法を開発することが望ましい。所望の方法の特性には、最小のサンプル調製と十分に正確なグルコサミン測定が必要である。本明細書に示す方法は、Wayらの報告に基づいている(J.Liq.Chromatogtaphy&Related Tecnol.23:2861、2000)。Wayらの方法の移動相を変更することにより、グルコサミンのピークと振盪フラスコ細胞培養サンプル中に観測される他のピークとの分離が可能になった。
(方法の記載)
カラム: Phenomenex Prodigy ODS(3)C18−5μ、15 0×4.6mm( Phenomenex、Torrance、CA)
移動相: MeOH:水性緩衝液(1:4v/v)10mM酢酸ナトリウムと10mM
オクタンスルホン酸ナトリウム(pH5.1)。全移動相を以下のように
調製した。1リッターの脱イオン水に0.8gの酢酸ナトリウムと2.1
6gのオクタンスルホン酸ナトリウム(Sigma特級)を加えた。塩を
溶解後、氷酢酸を用いてpHを5.1±0.1に調節した。この1リッタ
ー溶液に250mlのメタノールを加え、溶液を脱気した。容器とカラム
を室温に保った。
流速: 0.7ml/分
検出器: 屈折率検出器、30℃
サンプル: M9A培地中10μl
滅菌M9A生育培地を注入すると、クロマトグラム上に2本の主なピークが得られた。さらに、そのクロマトグラムはM9Aにグルコース、カルシウムおよびマグネシウム塩がない場合でも基本的に変化しなかった。グルコサミンをM9Aに注入すると、さらに別な1本のピークが得られた。この様な条件下でグルコサミンは約13分に溶出し、その直後に極めて大きい負ピークを伴った。さらに、pH、イオン強度、メタノール(MeOH)濃度またはオクタンスルホン酸濃度を変えてピーク分離を増加することは成功しなかった。この負のピークはグルコサミンピークに常に続いている。この様な負のピークを除去する通常の方法は、移動相でサンプルを希釈することである。しかしながら、サンプルを20倍希釈しても負のピークを完全に除去せず、この様な高度希釈は振盪フラスコまたは醗酵槽由来のサンプルでは実用的でない。
ピーク面積の代わりにピーク高さを用いて積分することで、約500〜10、000ppmの範囲で非常に正確なグルコサミンの定量が可能であることが見出された。その範囲を決めるためには、標準サンプルを水または移動相でなくM9A中で調製することが必要であった。従って、サンプルをM9A生育培地中で調製し、希釈もM9Aを用いて行った。各サンプルで分析時間は20分であった。
(方法の有効性検証)
まず、M9A中のグルコサミンのいくつかの標準サンプルを調製した。繰り返し注入により、極めて正確な結果が得られた(±5%)。
次に、振盪フラスコサンプルを比色分析およびHPLCで分析した。得られた値は比色分析で一般に10%以内であった。比色法に固有の標準偏差のために、HPLCと比色法の間の密接な一致は必ずしも期待すべきでない。例えば、比色法で分析した二つのサンプル(双方とも10、000ppm)は8.9および9.3g/lの値であった。
第三に、振盪フラスコサンプルに既知の量のグルコサミンを添加し分析した。未希釈振盪フラスコサンプルでは1497ppmの値が得られた。等容積の5000ppmグルコサミン標準サンプルで希釈後、希釈振盪フラスコサンプルは3440(期待値3240)の値を示した。期待値との不一致の一部はM9Aの寄与である可能性が高い。事実、M9A単独でも見掛けのグルコサミン「値」約100ppmを与える。
振盪フラスコ培養サンプルをHPLC法と比色法の両方で分析した。この結果を表11に示す。培養上澄液を遠心分離と粒子を除去する濾過で得て、分析まで−20℃で保存した。M9A培地中で調製した2500ppmの1点標準溶液を用いてHPLCを補正した。解凍後、サンプルを即座にHPLCで分析した。オートサンプラー中に終夜置いた後、サンプルを再度分析した。二つの方法間で一致は極めて良好であった。数週間−20℃で保存したサンプルでもグルコサミン濃度の減少は見られなかった。濾過サンプルを室温で終夜放置しても、グルコサミン濃度は減少しなかった。
表11.グルコサミン定量のためのHPLC法と比色法の比較*
*培養サンプルを遠心分離し、濾過して粒子を除き、分析まで−20℃で保存した。HPLC分析を解凍サンプル(0時間)で行い、サンプルをオートサンプラー中に室温で終夜置いた後に分析を繰り返した(24時間)。グルコサミン濃度はppmで示される。
(実施例13)
本実施例はN−アセチルグルコサミン生産のためのグルコサミン−6−リン酸N−アセチルトランスフェラーゼ1遺伝子(GNA1)の過剰発現を記載する。
以下の実施例はN−アセチルグルコサミン生産を増加するための、異なったグルコサミン−6−リン酸N−アセチルトランスフェラーゼ1遺伝子(GNA1)の組み換えE.coli中の過剰発現を記載する。この戦略の実用可能性を、酵母Saccharomycescerevisiae(ScGNA1)、酵母Candidaalbicans(CaGNA1)および高騰植物Arabidopsisthaliana(AtGNA1)由来のGNA1遺伝子を含むpET系発現ベクターで示した。
GNA1のクローニングと発現を、GNA1遺伝子コード配列をpETベクター中のT7lacプロモーターの後ろにクローニングし、pETプラスミドをラクトース誘導グルコサミン生産株E.coli7107―18株中に形質転換して行った。遺伝子の機能性発現をSDS−PAGEおよび酵素活性分析で測定した。N−アセチルグルコサミンの合成を振盪フラスコ実験でモニターした。
(E.coli中の過剰発現のためのS.cerevisiaeGNA1遺伝子のクローニング)
S.cerevisiae GNA1遺伝子(ScGNA1)をクローニングするため、GNA1遺伝子の公開された配列(Murakamiら、1995、Nat.Genet.10、p261−168、その全文は本明細書中に援用される)に基づいてプライマーを合成した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてS.cerevisiae株S288Cから単離されたゲノムDNA由来のGNA1コード配列を増幅するため、プライマーを使用した。増幅に用いたプライマーは前方プライマー07−83および反転プライーマー07−84であり、以下の配列を有した:07−83;5’−GATCGGTCTCGCATGAGCTTACCCGATGGATTTTATATAAGGC−3’(配列番号35);07−84:5’−GATCCTCGAGCTATTTTCTAATTTGCATTTCCACGCCTGC−3’(配列番号36)。プライマー07−83はBsaI制限エンドヌクレアーゼ部位(GGTCTC、配列番号35のヌクレオチド5〜10に示される)と、その後のATG開始コドンから始まるGNA1コード配列の31個のヌクレオチド(配列番号36のヌクレオチド13〜43に示される)を含む。プライマー07−84はXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位(CTCGAG、配列番号36のヌクレオチド5〜10に示される)と、その後の翻訳停止コドンで始まるGNA1コード領域の30個のヌクレオチド(配列番号36のヌクレオチド11〜40に示される)を含む。標準プロトコールを用いてPCR増幅を行い、BsaIおよびXhoI部位に側面する全ScGNA1コード配列を含むDNAフラグメントを生成した。
GNA1配列を含むPCR生成物をベクターpCR−Script Amp SK(+)(Stratagene、LaJolla、CA)中にクローニングし、プラスミドpSW07−60を生成した。ScGNA1フラグメントをBsaIおよびXhoI消化でプラスミドPSW07−60から単離し、発現ベクターpET24d(+)(Novagen、Inc.、Madison、WI)のNcoIおよびXhoI部位にクローニングし、プラスミドSW07−60を生成した。この方法のクローニングはScGNA1並列をpET24d(+)のT7−lacプロモーターの後ろに置き、発現カセットT7−lac−ScGNA1を作成する。
(E.coli中の過剰発現のためのC.alabicans GNA1遺伝子のクローニング)
C.albicans GNA1(CaGNA1)のクローニングと発現のために、GNA1の公開された配列(Mioら、1999、J.Biol.Chem.274、p424−429、その全文は本明細書中に援用される)に基づいてプライマーを合成した。PCRを用いてCandida albicansゲノムDNA由来のGNA1コード配列を増幅するため、プライマー07−92および07−93を使用した。前方プライマー07−92および逆方向プライマー07−93は以下の配列を有した:07−92:5’−GATCGGTCTCGCATGATGTTACCACAAGGTTATAC−3’(配列番号37)および07−93:5’−GATCCTCGAGCTAGAATCTACATACCATTTCAAC−3’(配列番号38)。プライマー07−92はBsaI制限エンドヌクレアーゼ部位(GTTCTC、配列番号37のヌクレオチド5〜10に示される)と、その後のATG開始コドンから開始するGNA1コード配列の23個のヌクレオチド(配列番号37のヌクレオチド13〜35で表される)を含む。プライマー07−93はXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位(CTCGAG、配列番号38のヌクレオチド5〜10で表される)と、その後の翻訳停止コドンで開始するGNA1コード配列の24ヌクレオチド(配列番号38のヌクレオチド11〜34で表される)を含む。PCR増幅を標準条件下で行い、BsaIとXhoI部位に側面する全CaGNA1コード領域を含むDNAフラグメントを生成した。
CaGNA1配列を含むPCR生成物をベクターpCR−ScriptAmpSK(+)(Stratagene、LaJolla、CA)のSrfI部位中へライゲートし、プラスミドpKLN07−33を生成した。CaGNA1フラグメントを制限酵素BsaIおよびXhoIでプラスミドpKLN07−33から単離し、発現ベクターpET24d(+)(Novagen、Inc.、Madison、WI)のNcoIおよびXhoI部位へクローニングしてプラスミドpKLN07−34およびpKLN07−35を生成した。この方法のクローニングはCaGNA1配列をpET24d(+)のT7lacプロモーターの後ろに置き、T7lac−CaGNA1の発現カセットを作製する。
(E.coli中の過剰発現のためのArabidopsisGNA1遺伝子のクローニング)
Arabidopsis thaliana GNA1(AtGNA1)のクローニングと発現のため、プライマー07−94および07−95をGNA1の公開された配列(GenebankAL391144)に基づいて合成した。プライマーをPCRを用いるBACクローンF14F8(Arabidopsis Bilogical Resource Center DNA Stock Center、Columbus、OH)由来のGNA1コード配列を増幅するために使用した。前方プライマー07−94および逆方向プライマー07−95は以下の配列を有した:07−94:5’−GATGGTCTCGCATGGCTGAGACATTCAAGATC−3’(配列番号39);および07−95:5’−GATCCTCGAGTTAATCGAAGTACTTAGACATTTGAATC−3’(配列番号40)。プライマー07−94はBsaI制限エンドヌクレアーゼ部位(GGTCTC、配列番号39のヌクレオチド4〜9で示される)と、その後のATG開始コドンから開始するGNA1コード配列の21個のヌクレオチド(配列番号39のヌクレオチド12〜32で示される)を含む。プライマー07−95はXhoI部位(CTCGAG、配列番号40のヌクレオチド5〜10で表される)と、その後の翻訳停止コドンで始まるGNAコード配列の24ヌクレオチド(配列番号40のヌクレオチド11〜38で表される)を含む。標準プロトコールを用いてPCR増幅を行い、BsaIおよびXhoI部位に側面する全GNA1コード配列を含むDNAフラグメントを作成した。PCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼBsaIおよびXhoIで消化し、発現ベクターpET24d(+)(Novagen、Inc.、Madison、WI)のNcoIおよびXhoI部位にクローニングしてプラスミドpSW07−70を作成した。この方法のクローニングはAtGNA1配列をpET24d(+)のT7lacプロモーターの後ろに置き、T7lac−AtGNA1の発現カセットを作成する。
(別な組換えGNA1遺伝子の発現とE.coli中のN−アセチルグルコサミン生産)
組換えプラスミドpSW07−62(S,cervisiaeGNA1遺伝子を含む)、pKLN07−34(C.albicans遺伝子を含む)およびpSW07−70(A.thaliana遺伝子を含む)をE.coli株7107−18中に形質転換し、7107−87株、7107−117株および7107−93株をそれぞれ作成した。空のベクターを同じ宿主に形質転換して対照株7107−88を調製した。標準プロトコールに従い、形質転換体の細胞培養物をLB培地中で生育させ、1mMIPTGで誘導した。SDS−PAGE分析のため誘導培養物から試料を取り、GNA1タンパク質の過剰発現を確認した。AtGNA1、CaGNA1およびScGNA1の予想タンパク質サイズはそれぞれ17kDa、16.9kDaおよび18.1kDaであった。予想されたサイズの過剰発現タンパク質が様々なGNA1遺伝子を発現する誘導培養物由来の試料で見られた。全ての場合で、過剰発現タンパク質は極めて可溶性である様に思われた。予想通り、対照株7107−88中にはGNA1遺伝子の予想されたサイズの過剰発現タンパク質は見られなかった。
異なったE.coli株のスクリーニングを行って組換えGNA1遺伝子の機能性発現を確認した。S.cerevisiae、C.albicansおよびa.thaliana発現ベクターの宿主である株をM9B生産培地中で生育させた[6g/l KH2PO4、24g/l K2HPO4、1g/lクエン酸Na3、10g/l (NH4)2SO4(リン酸塩でpH7.4に調整)+微量金属(0.2mg/l FeSO4・7H2O、0.015mg/l ZnSO4・7H2O、0.015mg/l MnSO4・H2O、0.001mg/l CuSO4・5H2O、0.001mg/l NaMoO4・2H2O、0.001mg/l H3BO3および0.001mg/lCoCl2・6H2O)、40g/l グルコース、10g/l リボース、5g/l 酵母抽出液、0.6g/l MgSO4・7H2O、0.05g/l CaCl2・2H2O、25mg/lカナマイシンおよび0.2mM IPTGを補充]。24時間目にHPLCの結果に基づいてグルコースを1日当たり30g/l添加し、レベルが1g/l以下に下降している場合は5g/lの(NH4)2SO4をフラスコに添加した。一つのフラスコは24時間に収穫し、もう一方のフラスコは48時間で酵素分析とN−アセチルグルコサミンおよび酢酸レベルを行える様に、二重のフラスコを作成した。
グルコサミンシンテターゼ(GlmS)活性を分析したところ、全ての株は良好な活性レベルであった。Mioら(Journal of Biological Chemistry、1999、274、p424−429)が報告した方法に従い、試料のグルコサミン−6−P N−アセチルトランスフェラーゼ(GNA1)酵素活性も測定した(表12)。予想通り、対照株は有意なレベルのGNA1活性を示さなかった。酵母および高等植物GNA1遺伝子の発現により、高いアセチルトランスフェラーゼ活性が得られた。これらのGNA1形質転換体も非常に高いレベルでN−アセチルグルコサミンを合成した(表12および13)。S.cervisiae(7170−87)およびC.albicans(7170−117)由来のGNA1遺伝子発現株におけるアセチルトランスフェラーゼ活性は同程度であった。しかしながら、S.cerevisiae遺伝子を発現する株中でN−アセチルグルコサミン生産は4倍高かった。A.thaliana遺伝子を有する株中のGNA1酵素活性はC.albicans遺伝子を有する株より低いが、N−アセチルグルコサミン生産は前者中の方が後者中より高かった。明らかに、GNA1活性とN−アセチルグルコサミン生産の間に単純な相関はない。様々な起原由来のGNA1酵素は酵素特性が異なっていると思われる。データは、N−アセチルグルコサミンを生産するための代謝遺伝子工学に異なったGNA1遺伝子の有用性を示している。試験した3種のGNA1遺伝子間で、S.cerevisiae GNA1がN−アセチルグルコサミン生産に関して優れていた。従って、S.cerevisiae GNA1遺伝子を本発明に開示した以後の研究用に選択した。
(表12.3種の異なったGNA1遺伝子を発現する株におけるグルコサミンシンテターゼおよびアセチルトランスフェラーゼ活性)
1)酵素活性はμmol min−1mg−1で表される。
2)N−アセチルグルコサミンレベルは23時間の時点で採集した試料で測定された。
3)括弧内の数は異なった同胞種を示す。
7107−18株はHPLCで検出し得る高レベルのグルコサミンを生産する。しかしながら、アセチルトランスフェラーゼを過剰発現する株では僅かな(0.5g/l以下)遊離グルコサミンしか検出されないか、全く検出されなかった。これは中間体であるグルコサミン−6−PがGNA1形質転換体で有意に精製されなかったことを示し、酵素GNA1が高レベルのN−アセチルグルコサミンに対する主な駆動力であることを確認した。
酢酸の蓄積が、高レベルの組換えタンパク質およびその他の発酵生成物をE.coli中で達成する障害であることが認められている。培地中に過剰のグルコースがあると、E.coli細胞は高レベルの酢酸およびその他の有機酸を合成する傾向があり、通常、生育阻害を生じる。酢酸の生成はグルコサミン生産E.coli株でも問題である。しかしながら、N−アセチルグルコサミン生産株は、対照株が数グラムレベルの酢酸を蓄積する条件下でも、23時間の時点でも僅かな酢酸を蓄積するか、全く蓄積しなかった。N−アセチルグルコサミンの合成は酢酸生成の前駆体であるアセチルCoAを消費する。アセチルCoAの使用は細胞に課せられる代謝負担であるが、アセチルCoAをN−アセチルグルコサミン生産へ向けることは、酢酸の蓄積を避ける点で明らかに有利である。N−アセチルグルコサミン生産株が対照株より高い細胞密度を示したことに注目することが重要である(表13)。
(表13.異なったGNA1発現コンストラクトで形質転換されたE.coli株における細胞生育とN−アセチルグルコサミン生産)
(異なったGNA1酵素の配列解析)
様々なGNA1遺伝子を過剰発現するE.coli株における比活性とNAG生産に関してかなりの差が観察された。しかしながら、全ての酵素は同じ反応を触媒するので、核酸およびタンパク質レベルで様々なGNA1間に相同性が予想される。配列番号29はS.cervisiae GNA1遺伝子のコード配列を含む。配列番号29は本明細書において配列番号30で表されるS.cerevisiae GNA1アミノ酸配列をコードする。配列番号33はA.thalianaGNA1遺伝子のコード配列を含む。配列番号33は本明細書において配列番号34で表されるA.thaliana GNA1アミノ酸配列をコードする。配列番号31はC.albicans GNA1遺伝子のコード配列を含む。配列番号31は本明細書において配列番号32で表されるC.albicansアミノ酸配列をコードする。J.Hein DNA整列法(DNA Star参照)で整列した場合、核酸配列は有為の相同性を示した。ScGNA1とAtGNA1コード配列は49.7%同一を共有し、ScGNA1とCaGNA1コード配列は53.1%同一を共有する。CaGNA1とAtGNA1コード配列は47.2%同一を共有する。
コード配列をアミノ酸配列に翻訳すると、Lipman−Pearsonタンパク質整列法(DNA Star、Inc.、Madison、WI)で整列した場合、様々なGNA1タンパク質間に有為の相同性があることが分かった。表14で分かる様に、ScGNA1配列(配列番号30)はGaGNA1配列(配列番号32)と44%同一を共有し、AtGNA1(配列番号34)と38.9%同一を共有する。ある領域はより高度に保存されていると思われる;例えばアミノ酸CHIEDは全ての配列で保存されていた(ScGBA1配列(配列番号30)の96〜100アミノ酸と整列)。また、配列番号30のScGNA1残基129〜148に対応する20残基領域は高度に保存された。この領域はCaGNA1配列中の対応する領域と75%同一を、AtGNA1配列中の対応する領域と70%同一を有していた。
(表14.ScGNA1、AtGNA1およびCaGNA1のペプチドサイズと相同性)
*ヌクレオチドレベルの相同性が括弧内に示される。
(実施例14)
本実施例はE.coli nagBおよびS.cerevisiae GNA1の過剰発現によりN−アセチルグルコサミンを生産する株の構築を説明する。
グルコサミン−6−リン酸デアミナーゼ(NagB)をコードするganレギュロンの一部であるngB遺伝子は、nagレギュロンの一部としてN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)の異化作用経路に含まれる。nagレギュロンはオペロンnagBACDおよび別に転写され他nagEで構成される(Plumbridge、JA.、1991、Mol.Microbiol.8:2053−2062)。外来性GlcNACは細胞内に輸送されてリン酸化され、GlcNAc−6−Pを生成する。N−アセチルグルコサミン−6−リン酸デアセチラーゼをコードするnagA遺伝子生成物はGlcNAc−6−PをGlcN−6−Pへ変換する。次いでNagBがGlcN−6−Pのフラクトース−6−リン酸(F−6−P)への変換を触媒する。
E.coli中のglmS遺伝子生成物は、リポ多糖とペプチドグリカン生成経路中の必須中間体であるのGlcN−6−Pの合成を触媒する。従って、glmS欠損変異体は外来性GlcNまたはGlcNAc依存性である。しかしながら、NagBが通常はGlmSで行われる反応を触媒し、F−6−PをGlcN−6−Pに変換することが知られている。事実、グルコサミン−6−リン酸デアミナーゼ(nagB)を発現する高コピープラスミドでglmS変異体を形質転換すると、glmS変異を抑制することが示されている(J.Bac.、1989年12月;171(12):6589−6592)。NagBはF−6−PからGlcN−6−Pへの変換を触媒し得るので、我々の生産株でglmS*54の代わりにnagBを過剰発現することでグルコサミンを蓄積することが可能である。T7lac−ScGNA1カセットもその株中に存在する場合、GlcN−6−PをGlcNAc−6−Pに変換しNAGとして培地中に蓄積することが可能であると思われる。
nagB遺伝子の過剰発現によるグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミン生産効率を試験するため、NGA1のクローニングと組み込みのために報告された方法とプロトコールを、E.coli7101−17(DE3)の染色体中のpfkB部位にT7lac−nagB発現カセットをクローニング死組み込むために採用した。外来性glmS遺伝子もこの株で不活性化する必要がある。glmS配列はglmSの上流に明白なプロモーター配列を持たず、glmU配列から下流に位置している。glmUおよびglmSはオペロンglmSを形成していると思われる。glmS配列と側面配列のいくつかがE.coliゲノムDNAからPCRで増幅され、プラスミドベクター中へクローニングされた。glmS配列由来の内部フラグメントを除去するため、適当な制限消化を用いた。内部欠失を有するglmS配列を温度感受性複製開始点とカナマイシン選択マーカーにライゲートし、組み込みベクターを作成した。glmS欠失を有する変異体を選択するため、温度選択プロトコールを使用した。グルコサミンは細胞壁合成に必要であるので、変異体の生育のためにグルコサミンを培養培地に補給する必要がある。
(E.coli中の過剰発現のためのnagBのクローニング)
E.coli nagB遺伝子の公開された配列に基づく情報(Periら、1990、Biochem.Cell.Biol.68、p123−137)を用いて、nagBコード配列を増幅するためにプライマーを設計した。異化の配列を有する前方プライマー07−141および逆方向プライマー07−142を使用し、ngBコード配列をE.coliゲノムDNAからPCRで増幅した:07−141;5’−GAT GGT CTC GCA TGA GAT TGA TCC CCC TGA c−3’(配列番号43)、および07−142;5’−GAT CCT CGA GTT ACA GAC CTT TGA TAT TTT CTG CTT CTA ATT c−3’(配列番号44)。
プライマー07−141はBsaI制限エンドヌクレアーゼ部位(GGtCTC、配列番号43中のヌクレオチド4〜9で表される)と、その後のATG開始コドンから始まるnagBコード配列の20個のヌクレオチド(配列番号43中のヌクレオチド12〜31で表される)を含む。プライマー07−142はXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位(CTCGAG、配列番号44のヌクレオチド5〜10で表される)と、その後の翻訳停止コドンからのnagBコード配列の33ヌクレオチド(配列番号44のヌクレオチド11〜44で表される)を含む。E.coli nagBコード配列とNagBアミノ酸配列はそれぞれ配列番号41と配列番号42で表される。
nagBコード配列を含むPCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼBsaIおよびXhoIで消化し、プラスミドpET24d(+)(Novagen、Inc.、Madison,WI)のNcoIおよびXhoI部位にライゲートし、プラスミドpSW07−93を作成した。この方法によるクローニングにより、nagB配列をpET24d(+)のT7−lacプロモーターの後ろに置き、T7−lac−nagBの発現カセットを作成した。
(nagB遺伝子の過剰発現)
プラスミドpSW07−93#3、#8および#16を7101−17株(DE3)中に形質転換し、株7107−636、7107−637および7107−638をそれぞれ作成した。pET24d(+)プラスミドも7101−17株中に形質転換し、陰性対照株7107−639を作成した。形質転換体の培養細胞をLB培地中で生育させ、1mMのIPTGで誘導する標準誘導実験を行った。SDS−PAGEのために様々な時点で誘導培養物から試料を採取し、NagBタンパク質過剰発現を確認した。過剰発現NagBタンパク質の予想サイズは29.8kDaである。予想されたサイズのNagBタンパク質に相当するタンパク質が7107−636および7107−637株で過剰生産された。対照株7101−639ではこのサイズの過剰生産タンパク質は明瞭でなかった。誘導2時間後のタンパク質試料は、過剰生産NaBタンパク質のほとんどが可溶性分画中にあることを示した。しかしながら、誘導後4時間では、可溶性分画中に約25%のタンパク質しか現れなかった。
(T7lac−nagBカセットの染色体中のpfbK部位への組み込み)
NagBの過剰発現に成功したことを確認後、次の工程はT7lac−nagB発現ベクターをE.coli7101−17(DE3)の染色体中に組み込むことであった。E.coli染色体のpfkB遺伝子へ組み込みを目標にすることが決定された。pfkB遺伝子は、E.coli中に存在する全ホスフォフラクトキナーゼの10%を供給する主要ホスフォフラクトキナーゼをコードする。従って、この部位に組み込むことを標的とすることは、生育またはN−アセチルグルコサミン生産を損なわないと考えられる。
T7lac−nagBカセットを7101−17(DE3)株中の染色体のpfkBに組み込むことを指向するベクターの開発には、数回のクローニング工程が必要であった。第一工程は、pfkコード配列+側面領域を含むE.coliゲノム由来の領域をクローニングすることである。プライマーを公開された配列(Blattnerら、1997、Science 227(5331):1453−1474)に基づいて設計し、E.coliW3110ゲノムDNAからpfkB+側面ゲノム領域を増幅した。PCRでpfkB領域を増幅するために用いられたプライマー07−16および07−17は異化の配列を有した:07−16;5’−GAT CGC CGG CTT ACA TGC TGT AGC CCAGC―3’(配列番号45)および5’−CAT CCT GCA GTC ATG CTG CTA ATA ATC TATCC−3’(配列番号46)。
プライマー07−16はNaeI部位(GCCGGC、配列番号45のヌクレオチド5〜10で表される)を含み、pfkBコード配列開始コドンの上流の1045ヌクレオチド(配列番号45のヌクレオチド11〜29で表される)から増幅する。プライマー07−17はPstI部位(CTGCAG、配列番号46のヌクレオチド5〜10で表される)を加え、pfkB停止コドンの下流の1357塩基対(配列番号46のヌクレオチド11〜32で表される)から増幅する。pfkB+側面領域を含む3332塩基対PCR生成物のpPCR−Script Amp SK(+)(Stratagene、LaJolla、CA)中へのライゲーションにより、プラスミドpKLN07−16を作成した。
T7−lac−nagBカセットを標準PCR条件で、前方プライマー07−145および逆方向プライマー07−146を用いてプラスミドpSW07−93#3(上記参照)から増幅した。プライマーは以下の配列を有する:07―145;5’−GAT CTA CGT AAG CAA CCG CAC CTG TGGC―3’(配列番号47)および07−146;5’−GAT CCA ATT GAT CCG GAT ATA GTT CCT CCT TTC AGC−3’(配列番号48)。
プライマー07−145はSnaBI部位(TACGTA、配列番号47のヌクレオチド5−10で表される)を有し、T7プロモーターの上流の76ヌクレオチド(配列番号47のヌクレオチド11〜28で表される)から増幅する。プライマー07−146はMfeI部位(CAATTG、配列番号48のヌクレオチド5〜10で表される)を有し、T7ターミネーターの下流の25塩基対(配列番号48のヌクレオチド11〜36で表される)から増幅する。
次のクローニング工程は、T7lac−nagBカセットをプラスミドpKLN07−14中へライゲートすることである。プラスミドpKLN07−14を制限エンドヌクレアーゼSnaBIおよびMfeIで消化し、pfkBコード配列の523bp部分を除去した。T7lac−nagBカセットを含むPCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼSnaBおよびMfeIで消化し、pKLN07−14のSnaBおよびMfeI部位へライゲートしてプラスミドpSW07−97を作成した。従って、プラスミドpSW07−97はT7lac−nagBカセットで置換されたpfkBコード配列の523ヌクレオチド領域を有するpfkB+側面ゲノム領域を含む。
ORFb1722−DpfkB::T7−lac−nagB−ORFb1725プラスpPCR−Script MCSを含むフラグメントを、プラスミドpSW07−97から制限エンドヌクレアーゼNotIおよびSalIで消化した。温度感受性レプリコン+カナマイシン耐性カセットを含むフラグメントをプラスミドpKLN07−21から、制限酵素NotIおよびSalIで切り出した。この二つのフラグメントを共にライゲートし、プラスミドpSW07−98を作成した。
プラスミドpSW07−98を用いて染色体のDpkfBにT7lad−nagBを有するE.coli株を作成した。E.coli7101−17(DE3)株をpSW07−98で形質転換後、温度選択プロトコールを用いてpfkB部位に組み込まれたT5−lac−nagBを有する株を選択した。得られた株は7107−645と呼ばれ、その株を、nagBコード領域をプローブとして用いて標準高ストリンジェントサザンハイブリダイゼーションで確認した。
(組み込みT7lac−nagBカセットを有するE.coli株中のglmS遺伝子の欠失)
E.coli株7107−645のglmS遺伝子を欠失するため、glmS配列置換ベクターを開発した。このベクターを構築するためには数工程を要した。第一工程はhlmS遺伝子+側面配列を含むゲノム領域の増幅である。このフラグメントは次に、温度感受性レプリコンとカナマイシン耐性カセットを含むpKLN07−21由来のフラグメント(上記)とライゲートされる。最後に、glmSコード配列の一部を得られたプラスミドから切除し、E.coliゲノムのglmS欠失を標的とする組み込み可能ベクターを作成する。
最初の工程では、glmS遺伝子プラス側面領域の公開された配列(参考文献)に基づいてプライマーが合成された。このプライマーはE.coliW3110ゲノムDNA由来のglmU、glmSおよびpstS遺伝子を含むフラグメントを増幅するために使用された。増幅に使用されたプライマーは07−139および07−140と呼ばれ、以下の配列を有する:07−139;5’−GAT GCG GCC GCA TGT TGA ATA ATG CTA TGA GCG TAG TGA TC−3’(配列番号49)および07−140;5’−GAT CGT CGA CTT AGT ACA GCG GCT TAC CGC TAC TGTC―3’(配列番号50)。
前方プライマー07−139はNotI制限エンドヌクレアーゼ部位(GCGGCCGC、配列番号49のヌクレオチド4〜11で表される)が先行する、そのATG開始コドン由来のglmUコード配列の最初の30ヌクレオチド(配列番号49のヌクレオチド12〜41で表される)を含む。逆方向プライマー07−140はSalI制限エンドヌクレアーゼ部位(GCTGAC、配列番号50の5〜11ヌクレオチドで表される)が先行する、その翻訳停止コドンから開始するpstSコード配列の27ヌクレオチド(配列番号50のヌクレオチド11〜37で表される)を含む。標準条件下でPCRを行って、BotIおよびSalI制限エンドヌクレアーゼ部位に側面するglmU−glmS−pstSコード配列を作成した。
PCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼNotIおよびSalIで消化した。温度感受性レプリコン+カナマイシン耐性カセットフラグメントを制限エンドヌクレアーゼNotIおよびSalIで、プラスミドpKLN07−21から切り出した。二つのフラグメントを互いにライゲートし、プラスミドpSW07−94#43を作成した。
プラスミドpSW07−94#43を制限エンドヌクレアーゼSacIIで消化し、glmSコード配列の980ヌクレオチドを除去した。プラスミドの残りをそれ自体にライゲートし、組み込みベクターpS07−95を作成した。
E.coli染色体上にglmS変異を生じるための組換え頻度を改善するため、glmUの上流の領域の772ヌクレオチドをプラスミドpSW07−95に加えてプラスミドpSW07−99も構築した。glmU+側面領域の公開された配列(参考文献)に基づいてプライマーを合成した。glmU開始コドンの上流の722ヌクレオチドを含むフラグメント、およびE.coliW3110ゲノムDNA由来のglmUコード領域の最初の246ヌクレオチドを含むフラグメントを増幅するためにこのプライマーを使用した。増幅に使用したプライマーは07−147および07−148と呼ばれ、以下の配列を有した:07−147;5’−GAT GCG GCC GCA TGG CAA TGA CTT ACC ACC TGG AC−3’(配列番号51)および07−148;5’−CGT ACC CAG CTG CTC TGC CTG AAG CAC CC−3’(配列番号52)。
前方プライマー04−147は、NotI制限エンドヌクレアーゼ部位(GCGGCCGC、配列番号51のヌクレオチド12〜11で表される)が先行する、atpCコード配列の最初の24ヌクレオチド(配列番号51のヌクレオチド12〜35で表される)を含む。逆方向プライマー07−148は、ATG開始コドンの下流の246塩基対から始まるglmUコード領域の29ヌクレオチド(配列番号52のヌクレオチド1〜29で表される)を含む。標準条件下でPCRを行い、aptC開始コドンからglmUコード配列のヌクレオチド246までのゲノムDNAを含むフラグメントを作成した。PCR生成物を制限エンドヌクレアーゼNotIおよびSexAIで消化し、プラスミドpSW07−95#6のNotIおよびSexAI部位中にライゲートし、プラスミドpSW07−99を作成した。
プラスミドpSW07−95およびプラスミドpSW07−99を用いて、染色体上にglmS欠失を有するE.coli株を作成した。E.coli株7107―645(20)、7107−645(30)および7107―645(43)のプラスミドpSW07−95またはpSW07−99による形質転換後、温度選択プロトコールを用いてglmS欠失を有する株を選択した。グルコサミン(2g/l)を継代培養用の全てのフラスコおよび継代培養後の全てのプレートに加えた。標準PCRプロトコールを用いて、カナマイシン感受性株をglmS欠失の存在で選択/スクリーニングした。PCRで同定した潜在的glmS欠失株を、グルコサミンを添加せずにLBプレートに播種し、生育減少を探した。株の一部はLBプレート上で生育が制限されたが、その他の株では生育しなかった。これらの株はglmSコード領域を有する2.0kbフラグメントを用い、高ストリンジェント条件下のサザンハイブリダイゼーションでglmS欠失を有すると確認された。得られた株は7107−646と呼ばれた。
(nagBの機能的発現およびグルコサミン生産に対する効果)
グルコサミン生産および酵素活性につき試験株7107−646を試験するため、振盪フラスコスクリーン61を行った。M9B培地を含むフラスコ中で株を試験した[KH2PO4 6g/l、KH2PO4 24g/l、クエンサン3Na・H2O 1g/l、(NH4)2SO4 10g/l+微量金属(FeSO4・7H2O 0.2mg/l、ZnSO4・7H2O 0.015mg/l、MnSO4・H20 0.015mg/l、CuSO4・5H20 0.001mg/l、NaMO4・2H2O 0.001mg/l、H3BO3 0.001mg/lおよびCoCl2・6H2O 0.001mg/l)]、グルコース 10g/l 、MgSO4・7H20 0.6g/l、CaCl2・2H2O 0.05g/l、およびIPTG 0.2mM補充。培養細胞を30℃で24時間生育させ、25℃に置いた。画培養液のpHを24時間および48時間に7.2に調節した。24および48時間目にグルコースを一日当たり30g/lでフラスコに加え、レベルが1g/l以下に低下した場合、5g/lの(NH4)2SO4をフラスコに加えた。試料を24および48時間に採取し、米国特許第6、372、457号に記載の修正Elson−Morgan分析を用いて培養液上澄中のグルコサミン濃度を測定した。どの試料にもグルコサミンは検出されなかった。7107−646#7および7107−646#20株由来の48時間試料をNagB活性について分析した。検出可能な活性がなかった対照株7107―17(D3)と比較して、これらの株は58および53mmol・min−1・mg−1の活性を有し、nagBの過剰発現が成功したことを示した。この実験で7107−646株が対照株7101−17(DE3)と同様またはそれ以上に良い生育を示した事実は、過剰発現nagBがglmS変異を抑制し得ることを示した。しかしながら、nagBの過剰発現がグルコサミン蓄積を増加させる結果とはならなかった。
(T7lac−ScGNA1カセットの組み込み)
glmS欠失株中のnagBの過剰発現によりグルコサミンが蓄積しなかったが、これは多分、NagBが通常はGlcN−6−Pの脱アミノ化を触媒すると言う事実のためと思われる。NagB酵素で製造される少量のGlcN−6−Pは速やかにフラクトース−6−Pに変換して戻り、GlcN−6−Pの蓄積を阻止している。しかしながら、GNA1酵素が誘導された場合、GNA1はGlcM−6−PをGlcAc−6−Pに変換し、フラクトース−6−Pからグルコサミン−6−Pの生成を連続的に駆動する。この可能性を試験するため、T7lac−ScGNA1カセットを7107−646(3)および7107−646(7)株のmanXYZに組み込んだ。GNA1の組み込みはプラスミドpSW07−6#25により実施例16で行われた。manXYZ欠失部位におけるT7lac−ScGNA1の存在について、カナマイシン感受性株を標準PCRプロトコールでスクリーニングした。PCR陽性の株を、ScGNA1コード配列をプローブとして含むフラグメントを用いる標準高ストリンジェントサザンハイブリダイゼーションで確認した。7107−646(3)および7107−646(7)株由来の得られた7107−660および7107−661株それぞれにつき、NAG蓄積を試験した。
(nagBの機能性発現およびE.coli中のN−アセチルグルコサミン生産)
glmS欠失、pfkBにおけるTlac−nagBカセット、およびN−アセチルグルコサミン生産のためのmanXYZにおけるT7lac−ScBNA1カセットを有する株を試験するため、振盪フラスコスクリーニング試験を行った。7107−660(1)、7107−660(4)、7107−661(1)、7107−660(4)、7107−661(2)および7107−661(3)株、および対照7101−17および7101−607(2)株を、グルコース 10g/l、ラクトース 10g/l、MgSO4・7H20 0.6g/l、およびCaCl2・2H2O 0.05g/lを補充したM9B培地(上記)を含む振盪フラスコ中で生育させた。培養細胞を37℃で8時間生育させ、その後30℃に置いた。接種後8時間でグルコースを25g/lで加え、pHを7.2に調節した。24、31、48および56時間で、HPLCの結果に基づいてグルコースを1日当たり30〜40g/lで加え、5g/lの(NH4)2SO4をフラスコ中に1g/l以下のレベルで加え、pHを7.2に再調節した。27時間でラクトースを5g/lで加えた。NAGレベルのHPLC分析のため試料を8、24、48および72時間で取り出した。培養細胞を72時間で収穫し、グルコサミン−6−リン酸アセチルトランスフェラーゼ(GNA1)、グルコサミンシンテターゼ(GlmS)およびグルコサミン−6−リン酸デアミナーゼ(NagB)活性を分析した。
酵素分析により、7107−660および7107−661株は機能性GlmSタンパク質が欠けていることが確認された。予想通り、NagB活性はこれらの株中で上昇した。グルコサミン−6−リン酸アセチルトランスフェラーゼ活性は対照株7107−607(2)中で見出された活性と同様であり、これらの株中でGNA1タンパク質の機能的発現を示していた。
nagBおよびGNA1を過剰発現するglmS株はN−アセチルグルコサミンの生産が可能であった(表15)。7107−661株は最良であり、生産株7107−607#2株で達成したNAGレベルの75%を生産した。興味のあることに、7107−660(1)株は他の同胞株より20倍低いNagB活性を示し、その結果はるかに低いレベルのGlcNAcを生産した。グルコサミン−6−PアセチルトランスフェラーゼがNagBで触媒される反応をグルコサミン−6−リン酸生成の方向への駆動を助長する様に思われる。データはN−アセチルグルコサミン合成に対する新規生物学的経路の機能性を示している。さらに、GNA1と組み合わせたnagBの過剰発現は、E.coli中でN−アセチルグルコサミンを生産するための効率的な方法である。
(表15.nagBを過剰発現するglmS変異株中の酵素活性およびGlcNAc生産)
1)酵素活性とN−アセチルグルコサミンレベルは72時間の時点で採取した試料で測定した。
2)酵素活性はμmol min−1 mg−1タンパク質で表される。
3)括弧内の数字は異なった同胞株を示す。
(実施例15)
本実施例は7107−18株中のN−アセチルグルコサミン生産に対するglmMおよびglmUのクローニングと過剰発現を説明する。
E.coliでは、glmMおよびglmU遺伝子はGlcN−6−PをUDP−GlacNAcに変換する最初の3工程を触媒する。UDP−GlacNAcは必須細胞外被化合物の豪勢に必要である。GlmMはGlcN−1,6−二リン酸が第一および第二基質の双方として働くGlcN−6−PとGlcN−1−Pの相互変換を、2工程ピンポン反応機構で触媒する。生体内の酵素活性化は知られていないが、GlmMはリン酸化型としてのみ活性であることが知られている。GlmMを高いレベルで過剰生産する株では、リン酸化酵素の全量は増加せず、GlmMのリン酸化が厳しく制限されていることを示している(Mengnin−Lecreulxおよびvan Heifenoort、J.Biol.Chem.、1966、271:32−39)。GlmUはウリジルトランスフェラーゼとアセチルトランスフェラーゼ(C−末端)ドメインが分離している2機能酵素である。アセチルトランスフェラーゼドメインはGlcN−1−PのGlcNAc−1−Pへの転換を触媒する役割があり、ウリジルトランスフェラーゼドメインはGlcNAc−1−PをUDP−GlcNAcに変換する。最近の報告では、GlmUの切断型バージョンがN−末端His6タグで発現し、アセチルトランスフェラーゼおよびウリジルトランスフェラーゼ活性が分析された(Pompeoら、J.Biol.Chem.、2001、276:3833−3839)。全長GlmUに対し1320分の1に減少したウリジルトランスフェラーゼ活性を有するGlmUの切断型が、タンパク質から最初の78個のN−末端残基を欠失することで得られた。この切断GlmUタンパク質は全長GlmUに見られるアセチルトランスフェラーゼ活性の66%を維持していた。
図14はGlmMとGlmUの作用により、GlcN−6−PがUDP−GlcNAcに変換されるバクテリア経路を示す。glmMおよびglmUの過剰発現、またはglmMとglmUの組み合わせの結果、培地中にN−アセチルグルコサミンが蓄積すると考えられる。従って、これらの遺伝子の過剰発現のために株が構築された。
(E.coli中の過剰発現のためのglmM遺伝子のクローニング)
E.coli glmM遺伝子のクローニングと発現のため、glmM遺伝子の公開された配列(Mengin−Lecreulxおよびvan Heijenoort、J.Biol.Chem.、1996、271:32−39)に基づいてプライマーを合成した。前方プライマー07−163および逆方向プライマー07−164を用い、E.coli W3110ゲノムDNAから、glmMコード配列を標準条件下で、PCRで増幅した。プライマーは以下の配列を有する:07−163;5’−GAT CGG TCT CGA ATG AGT AAT CGT AAA TATTTC−3’(配列番号59)、および07−164:5’−GAT CCT CGA GTT AAA CGG CTT TTA CTG CATC−3’(配列番号60)。
プライマー07−163はBsaI制限エンドヌクレアーゼ部位(CGTCTC、配列番号59のヌクレオチド5〜10で表される)と、その後のATG開始コドンから始まるglmMコード配列の21ヌクレオチド(配列番号59のヌクレオチド13〜33で表される)を含む。プライマー07−164はXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位(CTCGAG、配列番号60のヌクレオチド5〜10で表される)と、その後の翻訳停止コドンで開始するglmMコード配列の21ヌクレオチド(配列番号60のヌクレオチド11〜31で表される)を含む。E.coli glmMコード配列とGlmMアミノ酸配列はそれぞれ配列番号53および配列番号54で表される。標準条件でPCR増幅を行い、BsaIおよびXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位に側面する全glmMコード配列を含むDNAフラグメントを作成した。PCR生成物を制限酵素BsaIおよびXhoIで消化し、プラスミドpET24d(+)(Novagen、Inc.、Madison、WI)のNcoIおよびXhoI部位にライゲートしプラスミドpSW07−109を作成した。この方法のクローニングはglmM配列をpET24d(+)のT7lacプロモーターの後ろに置き、T7lac−glmM発現ベクターを生成する。
(E.coli中の過剰発現のためのglmU遺伝子のクローニング)
E.coli glmU遺伝子のクローニングと発現のため、glmU遺伝子の公開された配列(Mengin−Lecreulxおよびvan Heijenoort、J.Ba.、1993、175:6150−6157)に基づいてプライマーを合成した。前方プライマー07−161および逆方向プライマー07−162を用い、E.coli W3110ゲノムDNAから、glmUコード配列を標準条件下で、PCRで増幅した。プライマーは以下の配列を有する:07−161;5’−GAT CGG CTC CGC ATG TTG AAT AAT GCT ATG AGC−3’(配列番号61)、および07−162:5’−GAT CCT CGA GTC ACT TTT TCT TTA CCG GAC GAC−3’(配列番号62)。
プライマー07−161はBsaI制限エンドヌクレアーゼ部位(CGTCTC、配列番号61のヌクレオチド5〜10で表される)と、その後のATG開始コドンで始まるglmUコード配列の21ヌクレオチド(配列番号61のヌクレオチド13〜33で表される)を含む。プライマー07−162はXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位(CTCGAG、配列番号62のヌクレオチド5〜10で表される)と、その後の翻訳停止コドンで開始するglmUコード配列の23ヌクレオチド(配列番号62のヌクレオチド11〜31で表される)を含む。E.coli glmUコード配列とGlmUアミノ酸配列はそれぞれ配列番号55および配列番号56で表される。標準条件でPCR増幅を行い、BsaIおよびXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位に側面する全glmUコード配列を含むDNAフラグメントを作成した。PCR生成物を制限酵素BsaIおよびXhoIで消化し、プラスミドpET24d(+)(Novagen、Inc.、Madison、WI)のNcoIおよびXhoI部位にライゲートしプラスミドpSW07−108を作成した。この方法のクローニングはglmU配列をpET24d(+)のT7lacプロモーターの後ろに置き、T7lac−glmU発現ベクターを生成する。
(N−末端切断GlmU酵素(GlmUt)のクローニングと発現)
前方プライマー07−165および反転プラーマー07−162を用い、標準条件下でE.coli W3110ゲノムDNAから切断glmUコード配列をPCRで増幅した。プライマー07−165は以下の配列を有した:07−165:5’−GAT GTT CTC GCA TGG AGC AGC TGG GTA CGG GTC−3’(配列番号63)。
プライマー07−165はBsaI制限エンドヌクレアーゼ部位(CGTCTC、配列番号63のヌクレオチド4〜9で表される)と、ATG開始コドンの下流の232bpで始まるglmU CDS配列(配列番号63のヌクレオチド15〜33で表される)を含む。この結果、GlmUタンパク質の最初の77個のアミノ酸が欠失する。開始コドンもプライマー07−165中に含まれる。プライマー07−165および07−162で生成したPCR生成物は、最初の77個のアミノ酸が欠失したglmUコード配列を含む。E.coliのN−末端切断glmUコード配列とN−末端切断GlmUアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号57および配列番号58で表される。PCR生成物をBsaIおよびXhoIで消化し、プラスミドpET24d(+)(Novagen、Inc.、Madison、WI)のNcoIおよびXhoI部位にライゲートしプラスミドpSW07−110を作成した。この方法のクローニングにより、切断glmU(glmUt)配列をpET24d(+)のT7lacプロモーターの後ろに置き、発現カセットT7lac−glmUtを生成する。
(E.coli中のGlmM、GlmUおよびGlmUtタンパク質の過剰発現)
glmU、glmMまたはglmUtを含むプラスミドpSW07−108、pSW07−109およびpSW07−110を7101−17(DE3)株中に形質転換し、表6に挙げる株を作成した。空のベクターpET24d(+)を7101−17(DE3)株中に形質転換し、標準株7107−22を作成した。標準誘導実験を行い、形質転換体の培養細胞をLB培地中で生育させ1mM IPTGで誘導した。SDS−PAGEのために誘導培養細胞から試料を様々な時点で採取し、タンパク質の過剰発現を確認した。GlmU、GlmMおよびGlmUtタンパク質の予想サイズはそれぞれ51kDa、50kDaおよび42kDaであった。SDS−PAGE上の予想されたサイズのバンドはglmU、glmMおよびglmUtを過剰発現する株由来の試料で見られた。対照株ではGlmU、GlmMおよびGlmUtの予想サイズ付近に過剰発現タンパク質は見られなかった。誘導培養液からの試料の全体および可溶性分画をSDS−PAGEで測定した。目視評価で判断すると、約20%のGlmUタンパク質は可溶性分画にあった。しかしながら、GlmUタンパク質の切断型バージョンでは可溶性タンパク質はほとんど見られなかった。同様に、ほとんどのGlmMタンパク質は可溶型でなかった。
(表16.GlmU、N−末端切断GlmUおよびGlmMタンパク質用の異なったプラスミドを含む株)
(nag欠失部位におけるT7lac−glmUおよびT7lac−glmUtの組み込み)
SDS−PAGEゲルにより、E.coli中でGlmUおよびGlmUtタンパク質の過剰発現に成功したことが示された。従って、発現カセットを生産株7107−18中の染色体中に組み込む戦略が開発された。組み込みのために選ばれた標的は、7107−18株の染色体上のnag欠失部位であった。グルコサミン生産株を構築する初期で、オペロンを欠失させ、IBPC590株(Plumbridge、1989、Mol.Microbiol.、3:506−515;Plumbridge、1991、Mol.Microbiol.、5:2053−2062;Plumbridge、1992、J.Gen.Microbiol.、138:1011−1017)から調整したファージで形質導入の後にP1テトラサイクリン耐性カセットを染色体の欠失部位に挿入した。従って、染色体のこの領域を標的とする組み込みは生育または株中のグルコサミン生産に影響するものではない。
T7lac−glmUカセットを染色体のnag欠失部位への組み込みを標的とするベクター開発戦略の一部として、T7lac−glmUフラグメントをプラスミドpSW07―108#1からPCRで増幅した。PCRをGNT7nagA1−5および07−120プライマーを用いて標準条件下で行った。プライマーは以下の配列を有する:GNT7nagA1−5;5’−GCG ACG CTC TCC CGG GTG CGA CTC CTG CAT TA−3’(配列番号64)、および07−107;5’−GAT CTG TAC AAT CCG GAT ATA GTT CCT CCT TTC AGC AAA AAA CCC C−3’(配列番号65)。
前方プライマーGNT7nagA1−5はXmaI制限エンドヌクレアーゼ部位(CCCGGG、配列番号64のヌクレオチド11〜16で表される)を含み、T7プロモーターの上流の296塩基対から増幅する。プライマー07−120はBsrI制限エンドヌクレアーゼ部位(TGTACA、配列番号65のヌクレオチド5〜10で表される)を含み、T7ターミネーターの下流の25塩基対から増幅する。
プラスミドpCALG43(実施例29に記載)はpMAK705由来の温度感受性レプリコン(Hamiltonら、1989、J.Bac.、171(9):4617−4622、その全文を本明細書に引用して援用する)である生産株のnag欠失と、プラスミドpUV4Kのカナマイシン耐性カセット(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)に側面する配列を有する。T7lac−glmUカセットを含むPCR生成物を制限酵素XmaIおよびBsrGIで消化し、pCALG43のAgeIおよびBsrHI部位へライゲートした。得られたプラスミドpSW07−112をT7lac−glmUカセットを、我々の生産株の染色体上のnag欠失部位へ直接組み込むために使用することができる。
T7lac−glmU(切断)カセットをDnagへ組み込むためのプラスミドを作成するため、プラスミドpSW07−110#53がPCRの鋳型となることを除いて、同じ戦略とPCRプライマーを使用した。得られたプラスミドをpSW07−113と呼ぶ。
プラスミドpSW07−112およびpSW07−113を、染色体上のnag欠失部位へ組み込まれたT7lac−glmUまたはT7lac−glmUtを有するE.coli株を作成するために使用した。E.coli7107−18をプラスミドで形質転換後、実施例13に記載の温度選択プロトコールを用いて挿入部を含む株を選択した。nag欠失部位のglmU発現の存在につき、カナマイシン感受性コロニーをPCRでスクリーニングした。切断glmU PCR生成物をプローブとして用い、高ストリンジェント条件下で行ったサザンハイブリダイゼーションでPCR陽性株を確認した。7107−678および7107−679株がnag欠失部位に組み込まれたT7lac−glmUを有することが確認された。7107−680および7107−681株がnag欠失部位に組み込まれたT7lac−glmUtを有することが確認された。
(T7lac−glmMのglg欠失部位への組み込み)
SDS−PAGEゲルにより、GlmMタンパク質のE.coli中での過剰発現に成功したことが示された。従って、T7lac−glmMカセットを生産株7107−18の染色体中へ組み込む戦略が開発された。組み込みのための選ばれた標的はglgオペロンである。グリコーゲン合成経路を妨害してグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミン生産経路を通る炭素フローを増加させる試みの中で、glg領域は以前に欠失の標的とされていた。この変異は生育またはNAG生産に重大な影響を及ぼさなかった。従って、この染色体部位へのT7lac−glmMカセットの組み込みは、生産株に負の影響を与えないと考えられる。
T7lac−glmMカセットの組み込みの標的をglg部位とするベクターを開発する戦略の一部として、T7lac−glmMフラグメントをプラスミドpSW07―109#29からPCRで増幅した。プライマーGNT7nagA1−5およびGNT7nagA2−3を用いてPCRを標準条件下で行った。プライマーは以下の配列を有した:GTN7nagA1−5:5’−GCG ACG CTC TCC CGG GTG GGA CTC CTG CAT TA−3’(配列番号66)およびGNT7nagA2−3:5’−GCG CTA ATC AAG TTT TCC CGG GTC GAG GTG CCG TAA−3’(配列番号67)。
プライマーGNT7nagA1−5はXmaI部位(CCCGGG、配列番号66のヌクレオチド11〜16で表される)を含み、T7プロモーターの上流の296塩基対から増幅する。プライマーGNT7nag2−3もXmaI部位(CCCGGG、配列番号67のヌクレオチド11〜16で表される)を含み、T7プロモーターの下流の254塩基対から増幅する。得られたPCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼXmaで消化し、プラスミドpCALG28−2のAgeI部位(実施例29に記載)へライゲートされた。この生成したプラスミドpSW07−111#3はglgオペロンと同じ配位でライゲートされたT7lac−glmMカセットと、glgオペロンの反対配位でライゲートされたpSW07−111#4とを有する。これらのプラスミドを使用して、T7lac−glmMの生産株へglgオペロンを直接組み込むことができる。
E.coli7107−18をプラスミドpSW07−111#3またはpSW07−111#4で形質転換後、glg部位にT7−lac−glmMを含む株を選択するために温度選択プロトコールを用いた。glmMコード配列をプローブとして用い、高ストリンジェント条件下でサザンハイブリダイゼーションを行った。7107−682株が染色体中のglg部位に組み込まれたT7−lac−glmMを有することが確認された(介在glg遺伝子と同じ配位のglm MCDS)。7107−683株が染色体中のglg部位に組み込まれたT7−lac−glmMを有することが確認された(介在glg遺伝子と反対配位のglmMCDS)。
(GlmM/GlmUの分析)
過剰発現GlmM(変異体)、GlmU(アセチルトランスフェラーゼ/ウリジルトランスフェラーゼ)およびN−末端切断GlmUを含む様々な株を試験した。これらの酵素の活性を本スクリーニングから選択した株で分析した。ホスフォグルコサミンムターゼ(GlmM)をグルコサミン−1−リン酸からグルコサミン−6−リン酸への連結反応を用いて分析した。生成したグルコサミン−6−Pをグルコサミン−6−Pデアミナーゼ(NagB)、ホスフォグルコイソメラーゼおよびグルコース−6−Pデヒドロゲナーゼを用いて定量的に6−リン酸に変換した。NADHの生成により、反応を340nmでモニターした。グルコサミン−1−リン酸アセチルトランスフェラーゼ(GlmU)をグルコサミン−1−rinsanおよびアセチルCoAを用いて分析した。遊離CoAの生成を、試薬ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DNTB)を用いる終了点分析で測定した。遊離CoAの生成を410nmでモニターした。
酵素活性のレベルと、グルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンのレベルを表17にまとめる。天然型またはN−末端切断バージョンの何れでも、過剰発現GlmUを有する株でかなりの量のN−アセチルグルコサミンが生産された。この酵素の活性は、極めて低いレベルの活性しか示さない対照株7017−18より30〜50倍高かった。有為の量の遊離グルコサミンもこれらの株で生成した。GlmMタンパク質が過剰発現してもより高い活性は得られなかった。実験条件下では、GlmMの過剰発現により有意な量のN−アセチルグルコサミンが生成しなかった。さらに、GlmM+GlmUの過剰発現でも、GlmU株に比べてN−アセチルグルコサミンレベルが増加しなかった。文献に報告される様に、GlmM酵素はリン酸化で制御されるが、これは本明細書では言及されない。リン酸化制御を迂回する、または他の改善された動力学的特徴を有するGlmM変異酵素を作成し使用することは、GlmS−GlmM−GlmUまたはNagB−GlmM−GlmU経路によるN−アセチルグルコサミン合成の効率を増加させえることが予想される。
(表17.GlmM、GlmUおよびGlmUt(N−末端切断型GlmU)を過剰発現する株の分析)
*列記した組換え遺伝子はすべてT7プロモーターの制御下で過剰発現された。
glmS=グルコサミンシンテターゼ
glmM=ホスフォグルコサミンムターゼ
glmU=グルコサミン−1−リン酸アセチルトランスフェラーゼ
glmUt=GlmUのN−末端切断型バージョン。
(実施例16)
本実施例は、T7lac−ScGNA1カセットの少なくとも1個のコピーの、グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミン生産株の染色体への組み込みを説明する。
ベクターpET24d(+)を用いるScGNA1の過剰発現により、72時間の培養後にN−アセチルグルコサミンの生産が24g/lとなった(表1)。倍溶液中の抗生物質の使用を避け、N−アセチルグルコサミン生産を最大にするために、T7lac−ScGNA1発現カセットを染色体中に組み込むことが決定された。NAG生産にT7lac―ScGNA1発現カセットのどれだけのコピー数が最適であるかが未知であるので、カセットの複数のコピーを染色体中に組み込むことが決定された。標的遺伝子が細胞生育またはN−アセチルグルコサミン生産に必須でないという仮定に基づいて、組み込みのための挿入部位が選択された。4個の標的部位が選ばれた;manXYZ、fucIK、treBおよびmelAB。
実施例13に記載した温度選択の一般的なストラテジーとプロトコールを、染色体中へのGNA1の組み込みに採用した。異なった温度感受性組み込みベクターを開発したが、それぞれ温度感受性複製起点、抗菌性マーカーおよびT7lac−ScGNA1発現カセットを含んでいた。各ベクターで、T7lac−ScGNA1発現カセットを組換えプラスミドpSW07−62#25から単離し、所定の組み込み部位からクローニングされたE.coli DNA配列のフラグメント中に挿入した。組み込みベクターをE.coli宿主株中に形質転換し、組み込みScGNA1を有するクローンを温度変化法を用いて選択した。
異なった起原由来の他のGNA1を組み込むために、同じ方法とプロトコールを使用することができる。当業者は、これらの方法とプロトコールを特定遺伝子それぞれに採用するためには若干の修正と変更が必要であることを予想できる。この様な修正と変更にはクローニングのための異なった制限部位と、染色体への組み込みのための異なった位置の使用が含まれるが、それに限定されない。
(manXYZ部位(GNA1の一つのコピー)へのGNA1の組み込み)
T7lac−ScGNA1発現カセットを7107−18中のその染色体のmanXYZ部位にサブクローニングした。E.coli manXYDはマンノースの取り込みおよび燐酸化に関与する3個のタンパク質の複合体をコードするオペロンである。グルコースを炭素源として含む培地中でE.coliの生育に影響せず、このオペロンを欠失することができる。manXYZ部位でのGNA1遺伝子の組み込みのために、E.coli manXYZ配列を含むプラスミドを開発した。E.coli manXYZの公開された配列(Blattnerら、1997、Science、277(5331)、p1453−1474、その全体を本明細書中で参考として援用する)に基づき、プラーマーを合成し、標準PCR法を用いてE.coli W3110ゲノムDNAからmanXYZ+隣接領域を増幅した。増幅に使用したプライマーは順方向プライマー07−87および逆方向プライマー07−88であり、以下の配列を有した:07−87;5’−GAT GCG GCC GCA CTG CAG TAA TTA CCG CAT CCA AC−3’(配列番号68)および07−88;5’−GAT GTC GAC ACC GAT TGA TGC AGC AAA TGC ATCC−3’(配列番号69)。
プライマー07−87はNotI制限エンドヌクレアーゼ部位(配列番号68のヌクレオチド4〜11として表される、GCGGCCGC)を含み、manX ATG開始コドンの下流の905塩基対で開始する。プライマー07−88はSalI部位(GTCGAC、配列番号69の塩基対4〜9で表される)を含み、manZ翻訳停止コドンの下流の1010塩基対から始まる。標準プロトコールを用いてPCRを行い、(manXYZ)+(NotIおよびSalI制限部位が隣接する隣接領域)を含むフラグメントを生成する。このフラグメントをベクターpCRσ2.1−TOPOσ(Invitrogen、Carlsbad、CA)中にクローニングし、プラスミドpsW07−65#7を作製した。
manXYZに欠失を作製するため、プラスミドpsW07−65#7を制限酵素HpaIで消化した。これにより、manXYZのコード配列のほとんどを含むプラスミドの2647bp部分が放出された。さらに、制限エンドヌクレアーゼNaeIを用いてT7lac−ScGNA1フラグメントをプラスミドpSW07−62#25(先に実施例13に記載)から切除した。プラスミドpSW07−62#25はT7プロモーターの上流の46塩基対、およびT7ターミネーターの下流に146塩基対にNaeI部位を含む。T7lac−ScGNA1配列を含むNaoIフラグメントをpSW07−65#7のHpaI部位中にライゲートした。このライゲーションは平滑末端ライゲーションであるので、T7lac−ScGNA1フラグメントを何れの方向でもプラスミド中にライゲートし得る。従って、制限酵素消化をmanXYZと同じ配位で挿入されたT7lac−ScGNA1カセットを有するプラスミドをスクリーニングするために用いた。得られたプラスミドはpSW07−66#25と呼ばれる。
温度感受性組み込みベクターを作製するために、pMAK705の温度感受性レプリコン(Hamiltonら、1989、J.Bac.、171(9):4617−4622、その全体を本明細書中で参考として援用する)を含むフラグメントとプラスミドpUC4K(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway,NJ)を制限酵素NotIおよびSalIを用いてPKLN07−21から切除した。プラスミドpKLN07−21をプラスミドpSW07―4(実施例6に記載)から温度感受性レプリコンのPCR増幅、PCR生成物のベクターpPCR−ScriptAMPSK(+)(Stratagene Cloning Systems、La Jolla、CA)へのライゲーション、およびプラスミドpUC4K(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway,NJ)由来のカナマイシン耐性カセットの付加で構築した。
T7lac−ScGNA1+manXYZ隣接領域をプラスミドpSW07−66#25から切除するため、制限酵素NotIおよびSalIを使用した。次にこのフラグメントをpKLN07−21由来の温度感受性レプリコン領域起点とカナマイシン耐性マーカーを含むNotI/SalIフラグメントとライゲートし、プラスミドpSW07−68#5を作製した。このプラスミドは温度感受性複製起点、カナマイシン選択マーカー、およびmanXYZ遺伝子座由来の5’上流および3’下流配列に隣接するT7lac−ScGNA1発現カセットを有していた。
プラスミドpSW07−68#5を使用してmanXYZ部位に組み込まれたT7lac−ScGNA1を有するE.coli株を作製した。米国特許第6、372、457号に記載のように、7107−18株中のmanXYZオペロンはP1ファージ導入で突然変異していた。pSW07−68#5でE.coli 7107−18株を形質転換した後、実施例6記載の温度選択プロトコールを用いてmanXYZ部位に組み込まれたT7lac−ScGNA1配列を有する株を選択した。カナマイシン感受性株をfucレギュロンでのT7lac−ScGNA1カセットの存在についてPCRでスクリーニングした。標準的な高ストリンジェントな条件を使用し、ScGNA1コード配列をプローブとして用い、株をサザンハイブリダイゼーションで確認した。1つのT7lac−ScGNA1を伴って得られた株を、7107−92と示す。
(fucIK部位におけるGNA1の第二コピーの組み込み)
T7lac−ScGNA1カセットの第二コピーの組み込みの標的は、別な炭素源としてL−フコースの利用に関連する酵素をコードする染色体領域であった。fucP(L−フコースパーミアーゼをコードする)、fucI(L−フコースイソメラーゼをコードする)、fucK(L−フコースキナーゼをコードする)およびfucU(未知のタンパク質)遺伝子は、L−フコース異化作用に関連するオペロンを形成する。このfucR遺伝子は、L−フコース異化レギュロンを活性化する調節タンパク質をコードする。フコースオペロンでのT7lac−ScGNA1カセットの組み込みは、グルコースを炭素源として含む培地中でのE.coliの生育能、およびそのN−アセチルグルコサミン合成能の何れにも影響しないことが必要である。
fuc領域を標的とする組み込みベクターを開発するストラテジーの一部として、フラクトースレギュロンの公開された配列(Chenら、Mol.Gen,Genet.、1987、210:331−337)に基づいてプライマーを合成した。標準PCR条件下にプライマー07−113および07−114を用いて、fucIKUおよびfucR遺伝子をE.coli W3110ゲノムDNAから増幅した。これらのプライマーは以下の配列を有する:07―113;5’−GAT GCG GCC GCG CAA GGC AAC AGC AAA CTG GC−3’(配列番号70)および07−114:5’−GAT CGG ATC CTC AGG CTG TTA CCA AAG AAG TTG CAA CCT GGC−3’(配列番号71)。
プライマー07−113はNotI制限エンドヌクレアーゼ部位(配列番号70のヌクレオチド4〜11として表される、CGCGCCGC)を含み、fucI ATG開始コドンの下流の824bp(配列番号70のヌクレオチド12〜32で表される)から増幅する。プライマー07−114はBamII部位(GGATCC、配列番号71のヌクレオチド5〜10で表される)と、その後の翻訳停止コドンで開始するfucRコード配列の32ヌクレオチド(配列番号71のヌクレオチド11〜42)を含む。標準条件下でPCRを行い、BabHおよびNotI制限エンドヌクレアーゼ部位が隣接するfucIKU配列およびfucR配列を含むフラグメントを作製した。このフラグメントをpPCR−Script Amp SK(+)(Stratagene Cloning System、La Jolla、CA)中にライゲートし、プラスミドpSW07−75を作製した。プラスミドpSW07−75を制限エンドヌクレアーゼHpaおよびBrsGIで消化し、fucI遺伝子およびfucK遺伝子を含む1239塩基対フラグメントを除去した。
標準条件を用い、T7lac−ScGNA1カセットをプラスミドpSW07−62#25からPCRで増幅した。以下の配列を有する順方向プライマー07−115および逆方向プライマー07−122を用いてPCRを行った:07−115:5’−GAT CTG TAC AAG CAA CCG CAC CTG TGG C−3’(配列番号72)および07−112:5’−GAT CAG CGC TAT CCG GAT ATA GTT CCT CCT TTC AGC AAA AAA CCC C−3’(配列番号73)。
プライマー07−115はBsrGI部位(配列番号72のヌクレオチド5〜10で表される、TGTACA)を含み、pSW07−62#25のT7プロモーター配列の上流の76塩基対から増幅する。プライマー07−112はAfeI部位(AGCGCT、配列番号73のヌクレオチド5〜10で表される)を含み、pSW07−62#25のT7ターミネーターの下流から25塩基対から増幅する。PCRフラグメントをBsrGIおよびAfeIで増幅し、プラスミドpSW07−75のBsrGIおよびHpaI部位にライゲートし、プラスミドpSW07−76を作製した。組換えプラスミドはfucIK欠失部位中にライゲートされたT7lac−ScGNA1カセットを含んでいた。
温度感受性組み込みベクターを作製するため、pMAK705の温度感受性レプリコン(Hamiltonら、1989、J.Bac.、171(9):4617−4622、その全体を本明細書中で参考として援用する)、およびプラスミドpUC4Kのカナマイシン耐性カセット(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)を含むフラグメントを制限酵素NotIおよびPpnIを用いてプラスミドpKLN07−21から切除した。プラスミドpKLN07−21をプラスミドpSW07−4(実施例6に記載)から温度感受性レプリコンのPCR増幅、PCR生成物のベクターpPCR−ScriptTMSK(+)(Stratagene Cloning System、La Jollla、CA)中へのライゲーション、およびプラスミドpUC4K(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)由来のカナマイシン耐性カセットの付加で構築した。
プラスミドpSW07−76からT7lacScGNA1+fuc隣接領域を含むフラグメントを切除するため、制限酵素NotIおよびKpnIを使用した。次いでこのフラグメントをpKLN07−21由来の温度感受性複製起点とカナマイシン耐性マーカーを含むNotI/KpnIフラグメントとライゲートし、プラスミドpSW07−77を生成した。このプラスミドは温度感受性複製起点、カナマイシン選択マーカー、およびfucレギュロン由来の5’上流および3’下流配列に隣接するT7lac−ScGNA1発現カセットを含んでいた。プラスミドpSW07−77をT7−lac−ScGNA1カセットの組み込みをE.coliのfucレギュロンへ組み込むために使用できる。
プラスミドpSW07−77を7107−92#1中へ形質転換した。ΔfucIK部位に組み込まれたT7−lacGNA1を有する株を選択するため、温度選択プロトコールを用いた。得られた株を、7107−607(2)、7107−607(3)および7107−607(4)と称する。
(GNA1の第三コピーのtreB部位への組み込み)
T7−lac−ScGNA1カセットの第三コピーを、別な炭素源としてトレハロースの利用に関与する酵素をコードする染色体領域に組み込んだ。トレハローストランスポーターおよびトレハロース6−PハイドロレースをコードするtreB遺伝子およびtreC遺伝子それぞれはオペロンを形成する。treR遺伝子はトレハロース−6−Pで誘導し得るオペロンを制御するレプレッサータンパク質をコードする(Horlacher、R.およびBoos、W.、1997、J.Biol.Chem.、272(20):13026−13032)。先の標的と同じ様に、T7lac−ScGNA1のトレハロースレギュロンへの組み込みは、グルコースを炭素源として含む培地中のE.coli生育能、およびそのN−アセチルグルコサミン生産能の何れにも影響してはならない。
treBを標的とする組み込みベクターを開発するストラテジーとして、公開された配列(Blattnerら、1997、Science、222(5331):1453−1474)に基づきプライマーを合成し、E.coliW3110ゲノムDNAからtreR遺伝子、treB遺伝子およびtreC遺伝子を増幅した。以下の配列を有するプライマー07−117および07−118を使用してPCR増幅を行った:07―117:5’−GAG CGG CCG CAT GCA AAA TCG GCT GAC CAT C−3’(配列番号74)および07−118:5’−GAT CGG GCC CTT ACT TCT GTA ACC ACC AGA CAG CCT C−3’(配列番号75)。
プライマー07−117はNotI制限エンドヌクレアーゼ部位(配列番号74のヌクレオチド3〜10として表される、GCGGCCGC)と、その後のATG開始コドンからtreRコード領域の21ヌクレオチド(配列番号74のヌクレオチド11〜31で表される)を含む。プライマー07−118はApaI制限エンドヌクレアーゼ部位(GGGCCC、配列番号75のヌクレオチド5〜10で表される)と、その後の翻訳停止コドンで開始するtreCコード配列の27ヌクレオチド(配列番号75のヌクレオチド11〜37で表される)を含む。標準プロトコールを用いてPCR増幅を行い、NotIおよびApaI制限部位が隣接するtreR、treBおよびtrCを含むDNAフラグメントを作製した。4.2kbのPCR生成物をプラスミドpPCR−ScriptTMSK(+)(Stratagene Cloning Systems、La Jolla、CA)中にライゲートし、プラスミドpSW07−78#20を作製した。
プラスミドpSW07−78#20を制限エンドヌクレアーゼBglIIで消化し、標準条件下でT4 DNAポリメラーゼで処理してフラグメントの末端を鈍化した。平滑末端化フラグメントを次に制限エンドヌクレアーゼBsrGIで消化した。このBglIおよびBsrGIによる二重消化によりtreBコード配列の130塩基対領域をプラスミドpSW07−78#20から除去し、プラスミドフラグメントに1個の粘着末端(BsrGI)と1個の平滑末端を残した。
次の工程はT7lac−ScGNA1カセットをプラスミドpSW07−78#20のBsrGIおよびGglI(充填)部位へライゲートすることである。これを行うため、順方向プライマー07−115(配列番号72)および逆方向プライマー07−112(配列番号73)を用い、標準条件下でT7lac−ScGNA1カセットをプラスミドpSW07−62#25からPCRで増幅した。プライマー07−115はBsrGI部位(TGTACA、配列番号72のヌクレオチド5〜10で表される)を含み、pSW07−62#25のT7プロモーター配列の上流の76塩基対から増幅する。プライマー07−112はAfeI部位(AGCGCT、配列番号73のヌクレオチド5〜10で表される)を含み、pSW07−62#25のT7ターミネーター配列の下流の25塩基対から増幅する。PCRフラグメントをBsrGIおよびAfeIで消化し、プラスミドPSW07−78#20のBsrGIおよびNglII(充填)部位中にライゲートされ、プラスミドpSW07−83を生成する。
温度感受性組み込みベクターを作製するため、pMAK705の温度感受性レプリコンを含むフラグメント(Hamiltonら、1989、J.Bac.、171(9):4617−4622、その全体を本明細書中で参考として援用する)およびプラスミドpUKC4Kのカナマイシン耐性カセット(Amersham Pharamcia Biotech、Piscataway、NJ)を含むフラグメントを、制限酵素NotIおよびApaIを用いてプラスミドpKLN07−21から切除した。
T7lac−ScGNA1+tre隣接領域をプラスミドpSW07−83から切除するため、制限酵素NotIおよびApaIを使用した。このフラグメントを、温度感受性複製起点とカナマイシン耐性マーカーを含むプラスミドpKLN07−21由来のNotI−ApaIフラグメントとライゲートし、プラスミドpSW07−84とした。プラスミドpSW07−84を使用して、T7−lac−ScGNA1カセットをE.coliのtreBに直接組み込んだ。
プラスミドpSW07−84#1を7107−607(2)、7107−607(3)および7107−607(4)株中へ形質転換した。温度選択プロトコールを使用して、treB部位に組み込まれたT7−lac GNA1配列を選択した。染色体のtreBにおけるT7lac−ScGNA1カセットについて、カナマイシン感受性コロニーをPCRでスクリーニングした。標準高ストリンジェント条件で、ScGNA1コード配列を染色体中に組み込まれたT7lac−ScGNA1カセットの3個のコピーを有するプローブとして用いて、株をサザンハイブリダイゼーションで確認した。これらの株を7107−608(1)および7107−608(2)と呼ぶ。
(GNA1の第四コピーのmelRAB部位への組み込み)
T7lac−ScGNA1カセットの4個のコピーのNAG生産株中への組み込みの標的を、染色体のmelRおよびmelAB領域とした。E.coli中で、この領域はメリビオースの取り込みおよび加水分解に関与するタンパク質をコードする。α−ガラクトシダーゼおよびメリビオースパーミエースIIをそれぞれコードするmelA遺伝子およびmelB遺伝子はオペロンを形成する。様々に転写されたmelR遺伝子はメリビオースオペロンのレギュレーターをコードする。以前の組み込み標的と同じ様に、ゲノムのmelABへのT7lac−ScGNA1カセットの組み込みは、グルコースを炭素源とする培地中のE.coliの生育能、およびN−アセチルグルコサミン合成能の何れにも影響してはならない。
melABを標的とする組み込みベクターを開発するストラテジーとして、E.coliのmelR、melAおよびmelBプライマーの公開された配列(Blattnerら、1997、Science、277(5331):p1453−1474)に基づいて07−122および07−123を合成した。標準条件でPCRを行い、E.coli W3110ゲノムDNAからmelR、melAおよびmelBを含むフラグメントを増幅した。順方向プライマー07−122および逆方向プライマー07−123は以下の配列を有する:07−122:5’−GAT GCG GCC GCT TAG CCG GGA AAC GTC TGG CGG C−3’(配列番号76)、および07−123:5’−GAT CGT CGA CTC AGG CTT TCA CAT CAC TCA CTG CAC C−3’(配列番号77)。
プライマー07−122はNotI制限エンドヌクレアーゼ部位(GCGGCCGC、配列番号76のヌクレオチド4〜11で表される)と、その後の翻訳停止コドンから始まるmelRコード配列の23ヌクレオチド(並列番号76のヌクレオチド12〜34で表される)を含む。プライマー07−123はSalI制限エンドヌクレアーゼ部位(GTCGAC、配列番号77のヌクレオチド12〜34で表される)と、その後の翻訳停止コドンから始まるmelBコード配列の27ヌクレオチド(並列番号77のヌクレオチド11〜37で表される)を含む。NotIおよびSalI制限エンドヌクレアーゼ部位が隣接するmelRおよびmelABコード配列を含むPCRフラグメントをベクターpPCR−Script Amp SK(+)(Stratagene)中にライゲートし、プラスミドpSW07−81#5を作製した。
ベクター構築の次の工程は、T7lac−ScGNA1カセットをプラスミドpSW07−81#5のmalAB領域へライゲートすることである。プラスミドpSW07−81#5を制限エンドヌクレアーゼBlgIIおよびAsiSIで消化し、全malAコード配列を含む1676塩基対とmelBコード領域の最初の199ヌクレオチドを除去した。
標準条件下、順方向プライマー07−124および逆方向プライマー07−125でT7lac−ScGNA1カセットをプラスミドpSW07−62#25からPCRで増幅した。それぞれのプライマーは以下の配列を有する: 07−124:5’−GAT GGA TCC AGC AAC CGC ACC TGT GGC−3’(配列番号78)、および07−125:5’−GAT GCG ATC GCT ATA GTT CCT CCT TTC AGC AAA AAA CCC−3’(配列番号79)。
プライマー07−124はBamHI部位(GGATCC、配列番号78のヌクレオチド4〜9で表される)を含み、プラスミドpSW07−62#25のT7プロモーターの上流の76ヌクレオチドから増幅する。プライマー07−125はAsiSI部位(GCGATCGC、配列番号79のヌクレオチド4〜11で表される)を含み、プラスミドpSW07−62#25のT7プロモーターの下流の18ヌクレオチドから増幅する。T7kac−ScGNA1を含むPCR生成物を制限エンドヌクレアーゼBamHIおよびAsiSIで消化し、BglIIおよびAsiSフラグメントとライゲートしてプラスミドpSW07−82を作製した。従って、プラスミドpSW07−82は、1676塩基対melAB領域がT7lac−ScGNA1カセットで置換されたmel遺伝子をベクターpPCR−Script Amp SK(+)中に含む。
温度感受性組み込みベクターを作製するため、pMAK705の温度感受性レプリコン( Hamiltonら、1989、J.Bac.、171(9):4617−4622、その全体を本明細書中で参考として援用する)、およびプラスミドpUC4Kのカナマイシン耐性カセット(Amersham Pharamcia Biotech、Piscataway、NJ)を含むフラグメントを制限酵素NotIおよびSalIを用いてプラスミドpKLN07−21から切除した。
プラスミドpSW07−82を制限エンドヌクレアーゼNotIおよびSalIで消化し、T7lac−ScGNA1カセットで隔てられたmel遺伝子を含むフラグメントを単離した。このフラグメントをプラスミドpKLN07−21由来の温度感受性複製起点とカナマイシン耐性マーカーを含むNotIおよびSalIフラグメントとライゲートした。得られたプラスミドpSW07−84をT7lac−ScGNA1カセットをE.coliのmelAB部位への直接組み込むために使用することができる。
プラスミドpSW07−84を7107−608(1)および7107−608(2)株中に形質転換した。実施例6に記載の温度感受性プロトコールを用いて、melAB部位へ組み込まれたT7−lacGNA1配列を有する株を選択した。染色体のmelABにおけるT7lac−ScGNA1カセットの存在につき、カナマイシン感受性コロニーをPCRでスクリーニングした。染色体中に組み込まれたT7lac−ScGNA1カセットの4個のコピーを有するScGNAコード配列をプローブとして、高ストリンジェント条件を用いてサザンハイブリダイゼーションで株を確認した。7107−608(1)および7107−608(2)由来の得られた株をそれぞれ7107−612および7107−603と呼ぶ。
プラスミドpSW07−84も7107−607(2)、7107−607(3)および7107−607(4)株中に形質転換し、染色体にT7lac−ScGNA1の第三のコピーを加えた。株を上記の様にスクリーニングし、染色体中に組み込まれたT7lac−ScGNA1カセットの3個のコピーを有するプローブとしてのScGNA1コード配列で、標準高ストリンジェント条件を用いてサザンハイブリダイゼーションで確認した。7107−607(2)、7107−607(3)および7107−607(4)株由来の株を7107−609、7107−610および7107−611と呼ぶ。
(GNA1遺伝子コピー数のGNA1抑制レベルおよびN−アセチルグルコサミン生産に対する効果)
GNA1遺伝子コピー数のGNA1抑制レベルおよびN−アセチルグルコサミン生産に対する効果を評価するため、組み込まれたT7lac−ScGNA1カセットの様々なコピー数を有する株を振盪フラスコ中で試験した。酵素活性によるGNA1タンパク質の発現の分析と、NAG力価の測定のため試料を採取した。
グルコサミンシンテターゼ(GlmS)活性、グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ(GNA1)活性およびN−アセチルグルコサミン生産に対する組み込まれたT7lac−ScGNA1カセットのコピー数の効果を評価するため、振盪フラスコスクリーニング53を行った。0.6g/lのMgSO4・7H2O、0.05g/lのCaCl2・2H2O、10g/lのグルコース、40g/lのラクトース、5g/lのリボースおよび5g/lの酵母抽出物を補充したM9B培地(上記)中で株を生育させた。培養細胞を最初の24時間30℃で生育させ、25℃に置いた。24〜48時間の時点で、培養液のpHを7.2に調整し、HPLCの結果に基づきグルコースを各フラスコに一日当たり30g/lで添加し、アンモニアレベル1/L以下で5g/lの硫酸アンモニウムを添加した。試料を24、48および72時間に取り出し、NAG生産の評価と酵素分析を行った。試験した全ての株は同程度のOD600に生育し、同程度のグルコサミンシンテターゼ活性を有した(表18)。グルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ活性とT7lac−ScGNA1コピー数の間にかなりの相関があり、3個のコピーを有する株が最高の比活性を有した。しかしながら、振盪フラスコ実験では、この比活性の増加によりNAG生産が増加する結果とはならなかった。
(組み込みT7lac−ScGNA1カセットの異なったコピー数を有する株の1リッター醗酵槽中における評価)
コピー数1〜4の範囲で組み込みT7lac−ScGNA1をそれぞれ含む7107−92(1)、7107−607(2)、7107−608(2)および7107−612(1)株を1L醗酵槽中で評価した。醗酵槽237〜240を初期容積475mlで設定した。醗酵培地の成分を表19に挙げる。pHを6.9に制御するため、75%NH4OHを用いて醗酵を行った。醗酵中、温度を37℃に保った。曝気および攪拌を調節して溶存酸素濃度を空気飽和濃度の20%に保った。コンピュータープログラムで供給速度を制御して65%グルコースを培地に供給し、接種時で生育速度0.40/時間、最高速度5ml/時間を60秒間に達成した。培養を10時間で5g/lで添加した食品グレードラクトースで誘導し、グルコースを連続的に供給した。
醗酵の結果は以下の様にまとめられる。GNA1カセットのコピー数はNGAレベルに若干効果がある。醗酵の終点で、T7lac−ScGNA1カセットのコピーを3個有する7107−608(2)株は、カセットコピー数1個を有する株より16%多く、カセットコピー数2個を有する株より5%多くNAGを生産した。この実験で、T7lac−ScNA1を4コピー添加しても7107−608(2)の改善は行われなかった。言うまでもなく、生産株におけるT7lac−ScGNA1株のコピー数を増加させることの有用性が実証された。
(実施例17)
以下の例で、グルコサミン合成に対する燐酸化糖の効果を説明する。
様々な燐酸化糖の存在でグルコサミンシンテターゼ活性を検討した。振盪フラスコ中で24時間、ラクトース誘導で生育させた7107−18細胞から粗酵素抽出物を調整した。結果を以下の表20にまとめる。先に観察した様に、データはグルコサミン−6−Pが比較的高い濃度でグルコサミンシンテターゼを強く阻害することを示した。グルコサミン−1−Pも10mMで酵素を阻害した。N−アセチルグルコサミン燐酸では阻害は観測されなかった。
(実施例18)
本実施例はN−アセチルグルコサミン合成に関与する他の酵素に対する燐酸化糖の生化学的効果を説明する。
先に議論した燐酸化糖(グルコサミン−6−P糖の化合物)の潜在的毒性効果は、アミノ糖の代謝に直接関与する酵素に限られていた。しかしながら、糖の毒性の一般的現象は、糖代謝が損なわれた様々な突然変異体で以前から観測されていた。これは、一般的に少なくとも一つの酵素標的を阻害し、細胞の代謝を損なう異常に高いレベルの燐酸化糖中間体に帰せられる。GlmSの生成物阻害はこの一例である。
図3は他の標的に対するいくつかの可能性を示唆する。アミノ酸代謝が阻害された突然変異体を扱う論文(J.Bacteriol.101:384、1970)にこの現象が記載され、ペントース糖が阻害を回復させ得ることが示される。従って、いくつかの酵素に対するグルコサミン−6−pおよびN−アセチルグルコサミン−6−Pの効果を検討した。
グルコサミン−6−PはPgiの阻害剤であることが文献(Arch.Biochem.Biophys.Acta、64:489、1956)に報告されている。図15はPgiを示す(2種のアミノ糖によるホスフォグルコイソメラーゼ阻害)。阻害は双方の化合物で観察されるが、N−アセチルグルコサミン−6−Pではかなり少ない。
グルコサミン−6−Pはホスフォグルコイソメラーゼの阻害剤であることが報告されている(J.Biol.Chem.、216:67、1955)。図16はグルコース−6−Pのペントース燐酸経路への入口であるグルコース−6−Pデヒドロゲナーゼ(zwf)に対する燐酸化アミノ糖の効果を示す。再言すると、グルコサミン−6−PはN−アセチルグルコサミンより強力な酵素の阻害剤である様に思われる。ホスフォグルコムターゼ(Pmg)でも同様な傾向が見られた。
炭水化物代謝に関連する上記およびその他の可能な酵素に対するグルコサミン−6−Pの阻害効果は、7107−18株で観察されたグルコサミン生産性に対する見掛けの限界に対する説明になると思われる。多分、高濃度のグルコサミン−6−Pがいくつかの酵素の活性を妨害する。アセチルトランスフェラーゼ(GNA1)を経路へ添加することは、グルコサミン−6−pの細胞内レベルの減少をもたらすものと思われる。これが多分、生産性を減少すると同時にN−アセチルグルコサミンの安定性を増大させる主な理由であると考えられる。
実際、N−アセチルグルコサミンは試験管内分析でZwfまたはPgiをそれほど阻害しない。細胞の生育およびN−アセチルグルコサミン合成に対するリボースとグルコン酸の正の効果は、ペントース燐酸経路の少なくとも一つの工程が燐酸化アミノ糖で影響されることを示唆している。一方、グルコサミンN−アセチルトランスフェラーゼはN−アセチルグルコサミン−6−Pによる有為の生成物阻害を示さなかった。
(実施例19)
本実施例は醗酵槽中内のN−アセチルグルコサミン生産中の酵素活性を説明する。
N−アセチルグルコサミン生産に関与する様々な酵素活性を醗酵槽中で調べた。分さ期した酵素はグルコサミンシンテターゼ(GlmS)、グルコサミンN−アセチルトランスフェラーゼ(GNA1)、およびペントース燐酸経路で鍵となる酵素であるグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼである(図3参照)。
(GNA1プラスミドを有する株(醗酵槽#102))
関連する酵素活性を醗酵槽102からの7017−87(25)株の試料で検討した。この株はプラスミド上にアセチルトランスフェラーゼ遺伝子コンストラクトを含む。この実験で80g/lのN−アセチルグルコサミンが生産された。酵素活性とN−アセチルグルコサミン濃度の結果を図17に示す。誘導直後に高いアセチルトランスフェラーゼ活性が見られ、実験中、高いままであった。興味のあることに、その後の90時間でもアセチルトランスフェラーゼ活性が存在したが、この時点でグルコサミンシンテターゼ活性は消滅していた。約70時間でN−アセチルグルコサミンの生産は基本的に停止していた。グルコース−6−Pデヒドロゲナーゼ活性は実験中一定であった。
(組み込みGNA1コンストラクトを有する株(醗酵槽#121〜128))
これらの実験には組み込みアセチルトランスフェラーゼコンストラクトを含むE.coli 7017−92(1)株を使用した。検討した醗酵変数は培地に添加した鉄の量、外部からの発現の鉄の供給、および燐酸緩衝液レベル(1X=40g/l)であった。酵素活性を表21にまとめる。醗酵121に用いた最低の鉄レベルを除いて、他の7個の醗酵槽ではグルコサミンシンテターゼおよびアセチルトランスフェラーゼ活性は実験を通じて非常に高かった。先に観察した様に、アセチルトランスフェラーゼ活性は高レベルを保つ傾向がある。さらに鉄を供給し、または供給せずに検討した場合でも、グルコサミンシンテターゼ活性は他の鉄レベル(5〜20ppm)では適切であった。鉄が少ないとN−アセチルグルトランスフェラーゼ活性は高いが、グルコサミンシンテターゼ活性は低かった。この活性の減少は、高いN−アセチルグルコサミン生産にさらに適当であった。
(実施例20)
本実施例はグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミン生産のためのSaccharomyces cerevisiaeの代謝遺伝子工学を説明する。具体的には、生産物耐性グルコサミンシンターゼであるE.coli glmS*54およびBacillus Subtilis glmSをコードする遺伝子、およびグルコサミン−6−燐酸 N−アセチルトランスフェラーゼをコードするS. cervisiae GNA1をコードする遺伝子を酵母発現ベクター中へクローニングし、過剰発現のために酵母中へ導入した。
グルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンの生産の上記実施例に記載した主な要素は、生成物耐性GlmSとGNA1の過剰発現である。S.cerevisiaeおよびCandida alnicans等の天然型GNA1遺伝子を有する宿主では、生成物耐性GlmSを過剰発現することにより、N−アセチルグルコサミン生産レベルを増加させることができた。しかしながら、アミノ糖の主生成物はグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンである必要がある。主生成物としてN−アセチルグルコサミンを生産するためには、GNA1遺伝子が過剰発現しなければならない。
中性の醗酵pHでグルコサミンを生産するためには、グルコサミンの分解が隘路である。酵母とバクテリアのあるものは比較的低いpHに適応し、通常はグルコサミンが安定である4〜5のpH範囲で生育するので、この型のホスト中で生成物耐性GlmS酵素を過剰発現することで、グルコサミンの直接生産のための商業的に有用なプロセスを開発することができる。さらに、S.cerevisiaeはGRAS菌であり、外毒素を生産しないので、製品の応用を目的とするグルコサミン/N−アセチルグルコサミンを生産するための好ましい宿主となり得る。
(酵母中で発現するためのE.coli突然変異体glmS*54のクローニング)
E.coli突然変異体glmS*54遺伝子を発現ベクターyEp352−ADH1中へクローニングした。このベクターを、標準的な技術を利用してyEp352(Hillら、1986、Yeast 2:163〜167)から誘導した。その遺伝子は酵母細胞当たり複数のコピーで複製され、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)プロモーターおよびターミネーターを含む。このベクターはE.coli選択のためのアンピシリン耐性マーカーと、酵母中での選択のためのURA3マーカーを有する。
順方向プライマーnMD7107−021および逆方向プライマーnMD7107−022をE.coli突然変異体glmS*54遺伝子のコード配列のPCR増幅のために設計した。クローニングを助長するため、制限部位を末端に取り込んだ。以下の配列を有する順方向プライマーnMD7107−021(SacI)および逆方向プライマーnMD7107−022(HindIII)を用いて、glmS*54コード配列を標準条件下で増幅した:nMD7107−021(SacI):5’−AGCTGAGCTCATGTGTGGAATTGTTGGCGCGA−3’(配列番号80)およびnMD7107−022(HindIII):5’−TACGAAGCTTACTCAACCGTAACCGATTTT GC−3’(配列番号81)。プライマーnMD7107−021は配列番号80のヌクレオチド11〜32で表されるglmS*54コード配列の22ヌクレオチドを含み、プライマーnMD7107−022は配列番号81のヌクレオチド9〜32で表されるglmS*54コード配列の24ヌクレオチドを含む。
E.coli glmS*54遺伝子(米国特許第6、372、457号に記載)を含むプラスミドpKLN23−54をPCR反応におけるDNAの鋳型として使用した。使用されるサイズのPCR生成物の単一バンドが、Taqポリメラーゼを用いる標準PCR条件下で生成した。PCR生成物を制限酵素SacIおよびHindIIIで消化し、アガロースゲルで精製し、同じ酵素で予め消化したyEP−352−ADH−1中へクローニングした。DNAライゲーション生成物をアンピシリン選択でE.coli Top10細胞(Invitron Life Technologies、Carlsbad、CAより入手)中へ形質転換した。まず、コロニーの10個のプール(プール当たり10コロニー)を順方向プライマーおよび逆方向プライマーを用いるPCRでスクリーニングした。次いで陽性プール中の個々のコロニーをPCRで同定し、制限酵素消化で確認した。組換えプラスミドMD7107−238およびMD7107−239は、ADHプロモーターおよびターミネーターを有する酵母発現カセット中にE.coli glmS*54遺伝子を含んでいた。
Geitzら(1995)によるLiOAc法の後に、組換えプラスミドをS.cerevisiae SWY5細胞中へ形質転換した。酵母株はuraおよびhis栄養要求選択マーカーを有する。酵母形質転換体を20mg/lのL−ヒスチジンを補充したSCE(−)培地のプレーと上で選択した(表22)。形質転換酵母細胞株を分析してGlmSおよびGNA1活性、およびグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンレベルを分析する。
(酵母中の発現のためのB.subtilis glmS遺伝子のクローニング)
B.subtilis野生型glmSを発現ベクターyEp352−ADH1中にクローニングした。順方向プライマーnDM7107−023および逆転プラーマーnDM7107−024を合成し、B.subtilis野生型glmS遺伝子のコード配列を増幅した。クローニングを助長するため、制限部位を末端に取り込んだ。以下の配列を有する順方向プライマーnDM7107−023および逆転プラーマーnDM7107−024を用いて、glmSコード配列を標準条件下にてPCRで増幅した:nMD7107−023(KpnI):5’−AGCTGGTACCATGTGTGGAATCGTAGGTTATATC−3’(配列番号82)およびnMD7107−024(SphI):5’−TACGCATGCTTACTCCACAGTAACACTCTTCGCA−3’(配列番号83)。プライマーDM7107−023は配列番号82のヌクレオチド11〜34で表されるglmSコード配列の24ヌクレオチドを含み、プライマーnMDM7107−024は配列番号83のヌクレオチド10〜34で表されるglmSコード配列の25ヌクレオチドを含む。
Bacillus glmS遺伝子を含むプラスミドpSW07−15#83(実施例2に記載のプラスミド)をPCR反応のDNA鋳型として使用した。予想されるサイズのPCR生成物の単一バンドがTaqポリメラーゼを用いる標準PCR条件下で生成した。PCR生成物を適当な制限酵素で消化し、アガロースゲルで精製し、同じ酵素で予め消化したyEP352−ADH−1中へクローニングした。DNAライゲーション生成物をアンピシリン選択でE.coli Top10細胞(Invitrogen Life Technologies、Carlsbad、CA)中へ形質転換した。まず、コロニーの10個のプール(プール当たり10コロニー)を順方向および逆方向プライマーを用いるPCRでスクリーニングした。次いで陽性プール中の個々のコロニーをPCRで同定し、制限酵素消化で確認した。組換えプラスミドMD7107−240およびMD7107−241は、ADHプロモーターおよびターミネーターを有する酵母発現カセット中にBacillus glmS遺伝子を含んでいた。
組換えプラスミドをS.cerevisiae SWY5細胞中へ形質転換した。形質転換した酵母を20mg/lのL−ヒスチジンを補充したSCE(−)培地のプレート上で選択した。形質転換細胞株を分析してGlmSおよびGNA1活性、およびグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンレベルを測定した。
(酵母中の過剰発現のためのS.cerevisiae GNA1のクローニング
ScGNA1コード配列を含むフラグメントを制限エンドヌクレアーゼEcoRIおよびSacIを使用し、プラスミドpSW07―60#3(上記実施例13に記載)から消化した。得られたフラグメントをシャトルベクターpADH313−956のEcoRIおよびSacI部位中にライゲートした。この方法のクローニングはScGNA1コード配列をADH1プロモーターとターミネーターの間に置く。このベクターはヒスチジン選択マーカーを含む。得られたプラスミドpSW07−114(#1および#18)をS.cerevisiae SWY5細胞中へ形質転換した。酵母形質転換体を20mg/lのウラシルを補充したSCE(−)培地のプレーと上で選択した。形質転換酵母細胞株を分析して、GlmSおよびGNA1活性、およびグルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンレベルを測定する。
ScGNA1発現カセットを有するプラスミドも、E.coli glmS*54コンストラクトまたはBacillus glmSコンストラクトで既に形質転換された酵母細胞株中に形質転換される。
(実施例21)
本実施例はN−アセチルグルコサミン生産を改選するためのE.coli株7107−92の無秩序突然変異誘発を説明する。
7107−92株(染色体中に組み込まれたT7−glmS*54およびT7−ScGNA1を有する;実施例16に記載)をUV光線で突然変異させ、米国特許第6、372、457B1号に記載の通り882個の単離コロニーをGlcN栄養要求バイオアッセイで分析した。グルコサミン栄養要求株E.coli 2123−15を指示株として使用した。ハローサイズに基づき、19個の突然変異体を選択し、単離のためにストリークし、各5個のコロニーを再評価した。2種の突然変異体7107−512および7107−513が最大のハロー直径を示した。それらをフラスコ培養での評価のために保存した。突然変異体E.coli株7107−512(ATCC番号 )および7107−513(ATCC番号 )を、ブダペスト条約(特許手続きのための微生物寄託の国際承認に関するブタペスト条約)の条項により、2003年7月1日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)(P.O.Box1549、Manassas、Vurginia、USA)に寄託した。
突然変異体を親株と比較した。全ての株は5g/lのリボースと5g/lの酵母抽出物を湯含むM9B培地中、二つの異なった条件下で生育した。一つのセットの培養細胞は30g/lのグルコースと0.2mMのIPTGを含む培地中で生育した(IPTG誘導)。もう一方のセットの培養細胞は10g/lのグルコースと40g/lのラクトースを含む培地中で生育した。一度グルコースが欠乏すると培養細胞はラクトースで誘導された(ラクトース誘導)。IPTG誘導下では、突然変異体7107−512によるN−アセチルグルコサミンの生産は親株と同程度であった。突然変異体7107−513は親株より多くのグルコサミン、すなわち71時間の時点で36%多く生産した。先に観察された様に、親株はラクトース誘導下でIPTG誘導下より高いレベルのN−アセチルグルコサミンを生産した。2種の突然変異体は同じレベルのグルコサミンを生産したが、それは71時間の時点で親株より約28%高かった。突然変異の遺伝子座は未定であり、突然変異体中でN−アセチルグルコサミン生産の向上の機構は知られていない。僅か900個の突然変異体クローンがスクリーニングされただけなので、データは無秩序突然変異誘導で生産宿主がさらに改善される可能性を明らかに示している。
(実施例22)
以下の実施例は、NAG生産が生育と組み合わされない様なpfkA欠失を有する突然変異NAG生産株の作製を説明する。
ホスフォフラクトキナーゼはフラクトース−6−燐酸(F−6−P)からフラクトース−1、6−二燐酸の精製を触媒する、グリコリシスにおける主な調節酵素である。pfkAでコードされるE.coli中の主要ホスフォフラクトキナーゼは、ホスフォフラクトキナーゼ活性の90%を提供する。活性の残りの10%はpfkBでコードされる少数のホスフォフラクトキナーゼで供給される。NAG生産株では、過剰発現されたGlmS*54がF−6−Pのグルコサミン−6−燐酸(GlcN−6−P)への変換を触媒し、過剰発現したSaccharomyces cerevisiae由来のグルコサミン−6−燐酸アセチルトランスフェラーゼ(GNA1)の作用によりGlcN−6−PはGlcNAc−6−Pへ変換される。
実施例22に記載された実験の根拠は以下の通りである。炭素源の組み合わせ(すなわちグルコースおよびフラクトース)によるpfkA突然変異株の生育により、生育がNAG生産と結合しなくなる。pfkA突然変異株はグルコースを炭素源として良好に生育しないので、細胞生育にフラクトースが使用される。取り込まれたフラクトースはfruAおよびfruK遺伝子生成物の作用によりフラクトース−1、6−二燐酸に変換され、それがグリコリシス経路に入ることができる。取り込みによりグルコースが燐酸化され、生成したグルコース−6−燐酸がpgi遺伝子生産物、すなわちホスフォグルコースイソメラーゼによりF−6−Pに変換される。pfkA遺伝子が欠失すると、少数のPfkBアイソザイムのみがF−6−PのF−1、6−二燐酸への変換に関与する。この変換は制限され得る。その結果、過剰発現GlmS*54によりグルコサミン−6−燐酸への変換に使用し得るF−6−Pの量が増加すると考えられる。従って、pfkAの欠失はF−6−Pのグリコリシス経路中への流れを減少させ、より多くの炭素をグルコサミン生産へ向ける潜在力となる。ScGNA1を過剰発現する生産株では、これにより究極的にNAG力価が増加することになる。
(pfkA欠失株の作製)
温度感受性選択法を用いて生産株のゲノムにpfkA欠失が加えられた。これには欠失のためにpfkAを標的とする組み込みベクターの構築が必要であった。ベクター構築の第一工程はpfkAコード配列+E.coli W3110ゲノムDNA由来の隣接領域を含む配列を増幅することである。pfkAの公開された配列(Blattnerら、1997、Science、277(5331):1453−1474)に基づき、E.coli遺伝子からプライマーを合成した。PCR増幅に使用したプライマーは順方向プライマー07−89および逆方向プライマー07−90であり、以下の配列を有した:07−89:5’−GAGCGGCCGCATGAATCAATCTTATGGACGGC−3’(配列番号86)および07−90:5’−GAG TCGACTCAGCGTTTGCTGATCTGATCGAACGTAC−3’(配列番号87)。
プライマー07−89はNotI部位(GCGGCCGC、配列番号86のヌクレオチド3〜10で表される)を含み、pfkA ATG開始コドン(配列86のヌクレオチド11〜32で表される)の上流の1083塩基対に位置するyiiPコード配列のATG開始コドンを増幅する。プライマー07−90はSalI部位(GTCGAC、配列番号87のヌクレオチド3〜8で表される)を含み、pfか停止コドン(配列番号87のヌクレオチド9〜37で表される)の下流の310塩基対に位置するsbpコード配列の翻訳停止コドンから増幅する。標準プロトコールを使用してPCRを行い、NotIおよびSalI制限エンドヌクレアーゼ部位が側面するyiiP、pfkAおよびsbpコード領域を含むフラグメントを生成する。製造業者が供給する材料と指示書を用いて、このフラグメントをベクターpPCR−ScriptAMPSK(+)(StratageneCloningSystem、La Jolla、CA)中にクローニングした。得られたプラスミドをpSW07−61と呼ぶ。
温度感受性組み込みベクターを作成するため、pMAK705の温度感受性レプリコン(Hamiltonら、1989、J.Bac.、171(9):4617―462)、およびプラスミドpUC4Kのカナマイシン耐性カセット(AmerhamPharamaciaBiotech、Piscataway、NJ)を含むフラグメントを制限エンドヌクレアーゼNotIおよびSalIでプラスミドpKLN07−21から切除した。pfkA+側面領域をプラスミドpSW07−61〜制限酵素NotIおよびSalIで消化した。二つのフラグメントを互いににライゲートし、プラスミドpSW07−63を作成した。
pfkAのコード配列に欠失を作成するため、プラスミドpSW07−63をPvuIIで完全に消化し、次いでAhdIで部分消化した。これによりpfkAコード配列の781塩基対を除去した。pfkA欠失を含むフラグメントをT4DNAポリメラーゼで処理し、末端に充填し、得られた鈍端フラグメント自体をライゲートし、プラスミドpSW07−64を得た。
pfkA欠失を含む株を作るため、プラスミドpSW07−64をE.coli7107−18中に形質転換した。温度感受性選択と継代培養プロトコールの後、グルコースを炭素源として含む制限培地プレート上の遅延生育でカナマイシン感受性コロニーをスクリーニングした。tiiP部分およびpfkA配列を含む1153塩基対フラグメントを用い、標準ストリンジェントサザンハイブリダイゼーションで株を確認した。これらの株を7107−901)および7107−90(2)と呼ぶ。
0.054および0.035mmol min−1mg−1タンパク質のpfkの比活
性が7107−90(1)および7107−90(2)株でそれぞれ観測された。野生型pfkA遺伝子を有する対照株では、0.78のmmolmin−1mg−1タンパク
質の比活性が検出された。従って、pkfA突然変異体は対照株で観測された活性の約5〜6%のPfk活性を有していた。この残存Pfk活性はPfkBアイソザイムの寄与であることは疑いない。
(T7−lac−ScGNA1カセットの7107−90(1)および7107−90(2)株中への組み込み)
7107−90株がグルコサミン生産株7107−18株から誘導され、従ってそれらの株は測定し得るNAGを生産しない。pfkA欠失を有するNAG生産株を作成するためには、T7−lac−ScGNA1発現カセットを株中に導入する必要がある。先に記載した戦略後、T7−lac−ScNGA1の発現カセットを7107−90(1)および7107−90(2)株中の染色体のmanXTZ部位へ組み込み、7107―602および7107−603株をそれぞれ作成した。ScGNA1コード配列を含むフラグメントをプローブとして用いる標準高ストリンジェントサザンハイブリダイゼーションで、これらの株がmanXYZ欠失部位に組み込みT7lac−ScGNA1を有することを確認した。
(7107−602および7107−603株の振盪フラスコスクリーニング)
グルコース/フラクトースの様々な混合物を用い、7107−602(1)および7107−603(1)株を振盪フラスコスクリーニング48で試験した。培養細胞を0.2mMIPTGで24時間後に誘導した。これらの株は対照株7107−9281)より多くのNAGを生産しなかったが、興味のあることに、これらの株は試験したどの条件下でもほとんど酢酸を生成しなかった。振盪フラスコスクリーニング53により、7107−602(1)および7107―603(1)株をラクトース誘導条件下で再度試験したが、これらの株で酢酸は生成されず、NAGレベルは対照株7107−92(1)で見られたレベルと同程度であった。
7107−602(1)株中の酢酸生成をさらに評価するため、酵母抽出物(YE)、リボースまたはごく微量元素(TE)の添加を含む、通常は酢酸生成を増加させる条件下で振盪フラスコスクリーニング56を行った。培養細胞を修飾M9B培地中で生育させた[6g/lKH2PO4、24g/lK2HPO4、1g/lクエン酸Na3・2H2O、10g/l(NH4)2SO4(燐酸塩でpH7.4に調整)]。低レベルの微量金属(0.3mg/lFeSO4・7H2O、0.375mg/lZnSO4・7H2O、0.02mg/lMnSO4・H2O、0.001mg/lCuSO4・5H2O、0.001mg/lNaMoO4・2H2O、0.001mgLH3BO3、および0.001mg/lCoCl2・6H2O)または高レベルの微量金属(12mg/lFeSO4・7H2O、0.375mg/lZnSO4・7H2O、0.8mg/lMnSO4・H2O、0.001mg/lCuSO4・5H2O、0.001mg/lNaMoO4・2H2O、0.001mgLH3BO3、および0.001mg/lCoCl2・6H2O)を表24に示す様に加えた。培養液に0.6g/lのMgSO4・7H2O、0.05g/lのCaCl2・2H2O、10g/lのグルコースおよび20g/lのラクトースを補充した。さらに5g/lのリボースおよび/または5g/lの酵母抽出物を表24に示す様に加えた。培養細胞を36℃で24時間培養し、ついで25℃に切り替えた。12時間でグルコース欠乏培地に20g/lのグルコースを加え、pHを7.2に調節した。24、30、48および54時間で培養液のpHを7.2に調節し、HPLCの結果に基づいてグルコースを一日当たり30g/l加えた。5g/lの(NH4)2SO4を24、30、48および52時間でアンモニアレベルが1g/l以下に低下したフラスコに加えた。
(表24.7107−602(1)および7107−92(1)株における酢酸生成に対する微量金属、リボースおよび酵母抽出物レベル変化の効果)
対照株7107−92(1)が高レベルの酢酸を生産する様に誘導するために設計された条件下でも、7107−602(1)株中の酢酸生成はないか比較的低い(表23)。さらに、OD測定値は7107−607(2)株で低い傾向にあったが、これらの培養で全体的により高い力価が見られた。従って、pfkA突然変異体はNAG生産宿主として使用するに適している様に思われる。
(実施例23)
本実施例はグルタミンシンテターゼ(glnA)遺伝子のクローニングと過剰発現、T7lac−glnAカセットのE.coli染色体中への組み込み、およびGlcN/GlcNAcに対するglnA遺伝子の過剰発現の効果を説明する。
グルタミンは窒素をアミノ糖その他の化合物に提供するアンモニア同化作用の1次生成物である。glnAでコードされるグルタミンシンテターゼはNH3とATPを要求する反応でL−グルタミンのL−グルタミン酸への変換を触媒する。L−グルタミンはグルコサミン−6−燐酸の生合成に必要であり、GlmSはL−グルタミンとF−6−PがD−グルコサミン−6−PおよびL−グルタミンに変換される反応を触媒する。GlcN/GlcNAC生産が最高レベルになるためには、細胞内に適切なレベルのグルタミンが存在することが必須である。glnA遺伝子の過剰発現はグルタミンレベルを増加させ、最終的にGlcNおよび/またはNAG力価を増加させると思われる。
(E.coli glnA遺伝子のクローニングと過剰発現)
E.coli glnAのクローニングと過剰発現のために、glnAの公表された配列(Blattnerら、1997、Science、277(5331):1453−1474)に基づいて合成した。E.coliglnA遺伝子コード配列のヌクレオチド配列が配列番号88と呼ばれる配列ファイル中に列記されている。E.coliGlnAタンパク質の推定アミノ酸配列が配列番号89と呼ばれる配列ファイルに列記されている。プライマーを使用してE.coli7101−17(DE3)ゲノムDNAからglnAコード配列をPCRで増幅した。増幅に使用したプライマーは前方プライマー07−glnおよび逆方向プライマー07−15であり、以下の配列を有する:07−gln:5’−GATCGGTCTCGCATGTCCGCTGAACACGTACTGAC−2’(配列番号90)、および07−15:5’−GATCCTCGAGTTAGACGTTGTAGTACAGCTC−3’(配列番号91)。
プライマー07−glnはBsaI部位(GGTCTC、配列番号90のヌクレオチド5〜10で表される)、およびATG開始コドンからのhlnAコード領域の23ヌクレオチド(配列番号90のヌクレオチド13〜35で表される)を含む。プライマー07−15はXho部位(CTCGAG、配列番号91のヌクレオチド5〜10で表される)、および翻訳停止コドンからのglnAコード配列の21ヌクレオチドを含む。標準条件下でPCRを行い、BsaIおよびXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位が側面するglnAコード配列を含むフラグメントを作成した。
glnAを含むPCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼBsaIおよびXhoIで消化し、ベクターpET24d(+)(Novagen、Inc.、Madison、WI)のNcoIおよびXhoI部位へライゲートしてプラスミドpKLN07−28を作成した。この方法によるクローニングは、glnA配列をT7lacプロモーターの後ろに置き、T7lac−glnAの発現カセットを生成する。
(E.coliにおける組み換えglnAの機能発現)
glnAの機能発現を試験するため、組み換えプラスミドpKLN07−28を7107−18株中に形質転換し、7107−163株を作成した。7107−18株をpET24d(+)空ベクターで形質転換して対照株7107−88を調製した。培養細胞をLB中で生育させ、1mMのIPTGで誘導する標準誘導プロトコールに従った。SDS−PAGEのために試料を採取し、GlnAタンパク質の過剰発現を確認した。GlnAタンパク質の予想されるタンパク質サイズは約52kDaである。約52kDaの過剰発現タンパク質が見出された。ほとんどの過剰発現タンパク質は不溶性である様に思われ、可溶性分画には僅かしか見出されなかった。対照株にはこの様な過剰発現タンパク質は見られず、過剰発現タンパク質がGlnA酵素であることを示している。
(E.coli染色体中へT7lac−glnAを直接組み込むためのベクターの構築)
glnA遺伝子の過剰発現が成功したことを確認したので、次の工程はT7lac−glnAカセットを生産株のゲノムに組み込むことである。この目的のために組み込みベクターを構築した。E.colipfkB遺伝子を組み込みの標的部位として選んだ。pfkBは全ホスフォフラクトキナーゼ活性のわずか10%を占めるE.coli中のホスフォフラクトキナーゼの少数アイソザイムをコードする。従って、この遺伝子座へのこのカセットの組み込みは株の性能に重大な影響を及ぼしてはならない。
組み込みベクターを作成する戦略の一部として、pfkB+側面領域をPCRでE.coliW3110から増幅した。pfkB+その側面領域の公開された配列(Blattnerら、1997、Science、277(5331):1453−1474)に基づいてプライマーを合成した。pfkB領域を増幅するために用いたプライマーは前方プライマー07−16および逆方向プライマー07−17であり、以下の配列を有した:07−16:5’−GATCGCCGGCTTACATGCTGTAGCCCAGC−3’(配列番号92)、および07−17:5’−GATCCTGCAGTCATGCTGCTAATAATCTATCC−3’(配列番号93)。
プライマー07−16はNaeI制限エンドヌクレアーゼ部位(GCGGGC、配列番号92のヌクレオチド5〜10で表される)と、pfkB開始コドンの上流の1042塩基対に位置する推定翻訳停止コドンで始まるORFb1772の19塩基対(配列番号92のヌクレオチド11〜29で表される)を含む。プライマー07−17はPstI制限エンドヌクレアーゼ部位(CTGCAG、配列番号93のヌクレオチド5〜10で表される)、およびpfkB停止コドンの下流の1357塩基対に位置する推定翻訳停止コドンで始まるORFb1725の22塩基対(配列番号93のヌクレオチド11〜32で表される)を含む。標準条件下でPCRを行い、NaeIおよびPstI制限エンドヌクレアーゼ部位が側面するORFb1722、pfkB、PRFb1724およびPRFb1725を含むフラグメントを作成した。得られたフラグメントをベクターPCR−Script(商標)SK(+)(StratageneCloningSystems、LaJolla、CA)中にライゲートし、プラスミドpKLN07−14を作成した。
次の工程はプラスミドpUC4K(Amersham PharamaciaBiotech、Piscataway、NJ)のカナマイシン耐性カセットをプラスミドpKLN07−14に加えることである。カナマイシン耐性カセットをpU4Kから制限エンドヌクレアーゼPstIで切除した。プラスミドpKLN07−14を同様に制限エンドヌクレアーゼPstIで消化し、それによりORFb1725推定コード配列の385塩基対を含むプラスミドの412塩基対を除去した。カナマイシン耐性カセットをプラスミドpKLN07−14の骨格のPstI部位中へライゲートし、プラスミドpKLN07−17を作成した。次にプラスミドpKLN07−17を制限エンドヌクレアーゼSnaBIおよびBtrIで消化し、プラスミドからpfkBコード配列の870塩基対を除去した。
T7lac−glnAカセットを含むフラグメントをプラスミドpKLN07−28から制限エンドヌクレアーゼNaeIで切除し、T7プロモーターの上流の50塩基対と164T7ターミネーターの下流の164塩基対が側面するT7lac−glnAカセットを含むフラグメントをベクターpET24d(+)から作成した。NaeIフラグメントをプラスミドpKLN07−17のSnaBおよびBtrI部位中にライゲートし、プラスミドpKLN07−29を作成した。
最終工程はpMAK705由来の温度感受性レプリコンを、pfkB欠失部位中のT7lac−glnAカセットを含むプラスミドpKLN07−29由来のフラグメントと、カナマイシン耐性カセットへ加えることである。プラスミドpKLN07−29を制限エンドヌクレアーゼNotIおよびKpnIで消化し、T7lac−glnAとカナマイシン耐性カセットを含むフラグメントをpCR−Script骨格から放出した。プラスミドpKLN07−20(上記)をNotIおよびKpnIで消化し、温度感受性レプリコンを含むフラグメントを切除した。二つのフラグメントを共にライゲートし、温度感受性レプリコン、カナマイシン耐性カセット、およびpfkB欠失部位中へライゲートされたT7lac−glnAを含むE.coliゲノム配列を含むプラスミドpKLN07−30を作成した。温度感受性選択および継代培養プロトコール後に、プラスミドpKLN07−30を使用してT7lac−glnAカセットを染色体のpfkBへ直接組み込むことができる。
プラスミドpKLN07−30をグルコサミン生産株7107−18中へ形質転換した。温度感受性選択と継代培養プロトコールに従い、pfkB欠失部位におけるT7lac−glnAカセットの存在につき、カナマイシン感受性コロニーを標準PCRプロトコールを用いてスクリーニングした。glnAコード配列を含むフラグメントをプローブとして用い、PCRで同定されたいくつかの株を高ストリンジェントサザンハイブリダイゼーションで確認した。これらの株を7107−118および7107−123と呼ぶ。
(7107−118、7107−119070および7107−120株中へのT7lac−ScGNA1カセットの組み込み)
7107−118、7107−119070および7107−120株をグルコサミン生産株7107−18から誘導した;従ってそれらの株は測定可能なNAGを生産しない。glnA発現カセットを有するNAG生産株を作成するためには、T7lac−ScGNA1発現カセットを株中に導入する必要がある。上記の様に、T7−lac−ScGNA1の発現カセットを7107−118、7107−119および7107−120株の染色体のmanXYZへ組み込み、7107−125株(7107−119由来)、7107−126株(7107−120由来)、7107−132株(7107−118由来)、7107−133株(7107−118由来)および7107−134株(7107−119由来)を作成した。ScGNA1コード配列を含むフラグメントをmanXYZ欠失部位に組み込みT7lac−SvGNA1を有するプローブとして用い、これらの株を高ストリンジェントサザンハイブリダイゼーションで確認した。
(振盪フラスコスクリーニング51:NAG生産の背景における組み込みT7lac−glnAの過剰発現試験)
組み込みT7lac−glnAカセットを含む7107−125、7107−126および7107−133株を評価するため、振盪フラスコスクリーニング51を行った。培養細胞を微量金属と以下の物質を補充したM9B培地中で生育させた:0.6g/lMgSO4・7H2O、0.05g/lCaCl2・2H2O、10g/lグルコース、40g/lラクトース、5g/l リボースおよび5g/l酵母抽出物。培養細胞を30℃で25時間生育させ、次いで25℃に切り替えた。24時間および48時間で培養液のpHを7.2に調節し、グルコースを30g/lに加え、アンモニアレベルが1g/l以下に下がったフラスコ中に(NH4)2SO4を24時間および48時間に加えた。NAGレベルのOD測定のため24時間、48時間および72時間で試料を採取した。酵素活性分析のため培養細胞を72時間で収穫した。
表25に示す様に、glnAを過剰発現する株は対照株7107−92(1)より若干良好で、約8%多いNAGを生産した。窒素制限で無いので、アンモニアが不足する株はなかった。glnA過剰発現株中のGlmSおよびGNA1酵素活性は対照株7107−92(1)と同程度であった。まとめると、glnAの過剰発現により、最適条件下で顕著であるGNA力価が若干改善する様に思われる。
(表25.glnAを過剰発現する株における細胞生育、酵素活性およびGlcNAc生産)
1)OD、酵素活性およびGlcNAcレベルを72時間の時点で測定した。
2)酵素活性はμmol min−1mg−1タンパク質で記載されている。
(組み込みT7lac−glnAを有するNGA生産株を試験するための醗酵実験)
次に組み込みT7lac−glnAカセットを含む7107−133株を1リッター醗酵槽中で評価した。醗酵槽を初期容積475mlに設定した。醗酵培地の成分を表26に列記する。75%NH4OHをpH制御に用いて醗酵を行った。醗酵中、温度を37℃に保った。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に保つため、曝気と攪拌を調節した。65%グルコースをコンピュータープログラムで制御された供給速度で供給し、接種時の生育速度0.40/時間、6時間で最大速度5ml/時間とした。グルコースを連続的に供給し、10時間で5g/lの食品グレードラクトースを添加して培養細胞を、誘導した。
7107−133株からの醗酵結果を、同じ条件で行った醗酵237で先に行った7107−92(1)株の結果と比較した。これらの株は双方とも、組み込みT7lac−ScGNA1の1個のコピーを含む。その結果は7107−133株中のT7lac−glnAカセットの存在が、7107−92(1)株より若干有利であることを示している。7107−92(1)株において59.8時間で96.6g/lのNAGと比較して、7107−133株は59.6時間で107.1g/lのNAGを達成した。
(表26.醗酵培地の成分)
*微量金属組成はFeSO4・7H2O5mg/l、ZnSO4・7H2O3.75mg/l、MnSO4・H2O0.6mg/l、CuSO4・5H2O0.1002mg/l、CoCl2・6H2O0.1002mg/l
(実施例24)
本実施例はクローニング、グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ(zwf)遺伝子の過剰発現、T7lac−zwfカセットのE.coli染色体中への組み込み、およびT7プロモーターの制御下におけるzfw過剰発現のNAG生産に対する効果を説明する。
ペントース燐酸経路でアミノ酸、ヌクレオチドおよび細胞壁生合成のための中間体が提供される。さらに、ペントース燐酸経路の酸化部分は細胞中のNADPHも重要な材料である。E.coliのzwf遺伝子はペントース燐酸回路で第一工程を触媒するグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ(G6PFH)をコードし、グルコース−6−燐酸をグルクノ−1、5−ラクトンに変換する。zwf遺伝子の発現は細胞生育速度と同調する(Rowley、D.およびWolf、R.、J.Bac.、1991、173(3):968−977)。
NAGまたはGlcNで生育可能なE.coli単離株が文献に報告されている(J.Bac.、1970、101:384−391)。著者らは、アミノ糖燐酸の蓄積がホスホヘキソースイソメラーゼおよびフルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼで触媒される反応を阻害し、ペントース欠乏になり得ると推定している。ペントースまたはグルコン酸の添加により、これらの株の阻害が解除された。
GlcN/GlcNAcを生産する組換えE.coli株はアミノ糖燐酸をあるレベルで蓄積し得る。この場合、グルコン酸またはリボース等のペントースの添加により、NAG生産が増加する結果となる。NAG生産株7107−87#25で行われた振盪フラスコ実験は、リボースまたはグルコン酸の添加により、生育とNAG力価の両方が増加したことを示した。従って、ペントースまたはグルコン酸の添加により軽減されるペントース欠乏をNGA生産株が経験した様に思われる。
外因性ペントースを添加せずにペントース欠乏を軽減する戦略として、NAG生産株中でzwf遺伝子を過剰発現することが決定された。zwfの過剰発現が燐酸化アミノ糖のペントース燐酸経路に対する阻害を減少し得ると推察された。その場合、これにより我々の株中のNAG力価を増加させるためにペントースまたはグルコン酸を供給する必要がなくなると思われる。
(E.coli zwfのクローニングと発現)
E.coli zwfの発現をクローニングするため、公開されたzwfの配列に基づいてプライマーを合成した(Blattenerら、1997、Science、277(5331):1453−1474)。E.colizwf遺伝子コード配列のヌクレオチド配列が配列番号94と呼ばれる配列ファイルに列挙される。E.coliZWFタンパク質の推定アミノ酸配列が配列番号95と呼ばれる並列ファイルに列挙される。プライマーを使用して、E.coliW3110ゲノムDBA由来のzwfコード配列をPCRで増幅した。増幅に使用したプライマーは以下の配列を有する:07−101:5’GATCGGTCTCGCATGGCGGTAACGCAAACAGC−3’(配列番号96)、および07−102:5’−GATCCTCGAGTTACTCAAACTCATTCCAGGAACGACC−3’(配列番号97)。
プライマー07−101はBsaI制限エンドヌクレアーゼ部位(GGTCTC、配列番号96のヌクレオチド5〜10で表される)と、ATG開始コドンからのzwfコード配列の20ヌクレオチド(配列番号96のヌクレオチド13〜32で表される)を含む。プライマー07−102はXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位(CTCGAG、配列番号97のヌクレオチド5〜10で表される)と、翻訳停止コドンから開始するzwfコード配列の27ヌクレオチド(配列番号97のヌクレオチド11〜37で表される)を含む。PCRを標準条件下で行い、BsaIおよびXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位が側面するzwfコード配列を含むフラグメントを作成した。
PCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼBsaIおよびXhoIで消化し、ベクターpET24d(+)(NovagenInc.、Madison、WI)のNcoIおよびXhoI部位にライゲートし、プラスミドpSW07−71を作成した。この方法のクローニングはzwf配列をpET24d(+)のT7lacプロモーターの後ろに置き、T7lac―zwfの発現カセットを生成する。
(E.coli中の組み換えZWFタンパク質の機能的発現)
それぞれpET24d(+)中にT7lac−zwf発現カセットを含むプラスミドpSW07−71#17、#20および/または#33をNAG生産株7107−9281)中に形質転換し、7107−96(1)株(pSW07−71#17で形質転換)、7107−96(2)株および7107−96(3)株(pSW07−71#20で形質転換)および7107−96(2)株および7107−96(3)株(pSW07−71#20で形質転換)、および7107−96(4)株(pSW07−71#33で形質転換)を作成した。pET24d(+)により7107−92(1)株を形質転換して対照株7107−95を調製した。培養細胞LB中で生育し、1mMのIPTGで誘導する標準誘導プロトコールに従った。SDS−PAGE用に試料を誘導培養細胞から採取した。その結果から、G6PDHの予想されるサイズに相当する約56kDaのタンパク質の過剰発現が確認された。しかしながら、過剰発現されたタンパク質のほとんどは不溶性型であるように思われた。
4時間のIPTG誘導後、培養細胞を収穫しグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ活性を分析した。対照株7107−95の活性0.04mmol−1min−1mg−1タンパク質と比較して、7107−96(2)、7107−96(3)および7107−96(4)株はそれぞれ69.7、78.1および90.1mmol−1min−1mg−1タンパク質のG6PDH活性を有した。これにより、NAG生産株中のzwfの過剰発現に成功したことが確認された。
(T7lac−zwfカセットのE.coli染色体中への組み込み)
E.coli7107−92#1中の組み換えZWFタンパク質の機能性発現を確認したので、次の工程はT7lac−zwfカセットをNAG生産株の染色体中へ安定に組み込むことであった。カセットを染色体のrha領域へ組み込むことを標的とするため、組み込みベクターを設計した。E.coliのrhaBAD遺伝子はラムノキナーゼ、L−ラムノースイソメラーゼおよびラムヌロース−1−燐酸アルドラーゼをそれぞれコードするオペロンを形成する。これらの遺伝子はラムノースの別な炭素源としての利用に関与し、非必須遺伝子と考えられている。従って、この領域の妨害が生育またはNAG生産に影響してはならない。
組み込みベクターを作成する最初の工程はE.coliW3110ゲノムDNAからrhaBAD領域をクローニングすることであった。rhaBADオペロン+側面領域の公開された配列に基づきプライマーを合成した(Blattnerら、1997、Science、277(5331):1453−1474)。rha領域を増幅するために用いたプライマーは前方プライマー07−107および逆方向プライマー07−108であり、以下の配列を有した:07−107:5’−CGAATATCACGCGGTGACCAGTTAAAC−3’(配列番号98)、および5’−CACATGGTGCCGATGATTTTGACC−3’(配列番号99)。
プライマー07−107はrha開始コドンの上流の1096塩基対から増幅する。プライマー07−108はrha停止コドンの下流の966塩基対から増幅する。PCRを標準条件で行い、rhaBADオペロン+側面領域を含むフラグメントを生成した。PCRフラグメントをベクターpPCR−Script(商標)SK(+)(StratageneCloningSystems、La Jolla、CA)中にクローニングし、プラスミドpSW07−72を作成した。
組み込みベクターを作成する次の工程は、T7lac−zwfカセットをプラスミドpSW07−72中へ加えることであった。標準条件を用いて、T7−lac−zwfカセットをプラスミドpSW07−71から増幅した。PCRの増幅は前方プライマー07−11および逆方向プライマー07−122を用いて行ったが、それらのプライマーは以下の配列を有した:07−111:5‘−GACCAATGGCCTAATGGAGCAACCGCACCTGTGGC−3’(配列番号100)、および07−112:5’−GATCAGCGCTATCCGGATATAGTTCCTCCTTTCAGCAAAAAACCCC−3’(配列番号101)。
プライマー07−111はXcm制限エンドヌクレアーゼ部位(CCANNNNNN NNN TGG、配列番号100のヌクレオチド3〜17で表される)を含み、pET24d(+)のT7プロモーター配列の上流の80bp(配列番号100のヌクレオチド18〜35)から増幅する。プライマー07−112はAfeI制限エンドヌクレアーゼ部位(AGCGCT、配列番号101のヌクレオチド5〜10で表される)を含み、T7ターミネーターの下流の25bp(配列番号101のヌクレオチド11〜40で表される)から増幅する。得られた1.8kbのPCR生成物を制限エンドヌクレアーゼXcmIおよびAfeIで消化した。
プラスミドpSW07−72を制限酵素XcmおよびAfeIで消化し、pSW07−72骨格から3.6bpフラグメントを切除した。XcmIおよびAfeI末端を有するT7lac−zwfを含むPCRフラグメントをプラスミドpSW07−72中の切除部位中にライゲートし、プラスミドpSW07−73を作成した。従って、プラスミドpSW07−73はほとんど全てのrhaBADオペロンの3.6kb欠失を有し、T7−lac−zwfが欠失部位に挿入される。
組み込みプラスミド構築の最終工程は、プラスミドpKLN07−21由来の温度感受性レプリコンとカナマイシン耐性カセットを加えることである。プラスミドpKLN07−21をNotIおよびKpnIで消化し、温度感受性レプリコンとカナマイシン耐性カセットを含むフラグメントを切除した。プラスミドpSW07−73を制限酵素NotIおよびKpnIで消化し、pPCR−Script骨格由来のrhaBAD側面を有するT7−lac−zwfを含むフラグメントを放出した。この二つのフラグメントを共にライゲートし、プラスミドpSW07−74を作成した。プラスミドpSW07−74を用いて、T7lac−zwfをE.coli染色体のrha領域に直接組み込むことができる。
プラスミドpSW07−74をNAG生産株7107−92(1)中に形質転換した。温度感受性選択と継代培養プロトコールに従い、rhaBAD欠失部位のT7lac−zwfカセットの存在につき、標準PCRプロトコールを用いてカナマイシン感受性コロニーをスクリーニングした。zwfコード配列の1.0kbフラグメントをプローブとして用い、PCRで同手されたいくつかの株が高ストリンジェントサザンハイブリダイゼーションで確認した。これらの株を7107−606(2)、7107−606(3)および7107−606(4)と呼ぶ。
(組み込みT7lac−zwfカセットを有する株中におけるNAG生産)
7107−606(1)および7107−606(3)株中のNGA生産に対するT7プロモーター制御下のzwf過剰発現の効果を評価するため、振盪フラスコスクリーニング46を行った。先に議論した様に、zwfの過剰発現がペントース欠乏を解除し、燐酸化アミノ糖で生じた生育阻害をなくすことができると推定されている。0.6g/lのMgSO4・7H2O、0.05g/lのCaCl2・2H2O、40g/lのグルコースおよび0.2mMのIPTG(遅延誘導フラスコではIPTGは24時間に添加した)を補充したM9B培地(上記)中で培養細胞を生育させた。表27に示す様に10g/lのリボースと5g/lの酵母抽出物を培養液に加えた。培養細胞を30℃で24時間インキュベーションし、その後25℃に切り替えた。24時間および48時間で、培養液のpHを7.2に調製し、グルコースを1日当たり30g/lに添加した。アンモニアレベルが1g/l以下に低下したフラスコに5g/lの(NH4)2SO4を加えた。ODおよびNADレベルの測定のため、試料を24、48および72時間に採取した。培養細胞を72時間で収穫して酵素分析を行った。
(表27.zwf過剰発現株における生育、酵素活性およびGlcNAc生産に対する誘導時間の変化、リボースおよび酵母抽出物の添加の効果)
1遅延誘導のためIPTGを24時間に添加
2酵素活性はμmol/min/mgタンパク質で表す
3ND:測定されず
結果は、T7プロモーターで駆動されるzwf過剰発現株が対照株より50〜100倍大きいG6PDH活性を有することを示す。対照株の生育と比較すると、zwf過剰発現によりリボースを添加しない培地中で生育が若干改善された。しかしながら、zwfを過剰発現する株ではGlmS活性が減少する傾向にあり、NAG生産レベルは対照株7107−92(1)で見られたレベルに達しなかった。これはグルコース経路から離れてペントース経路へ入り込む炭素の量が多すぎることを示している。
(実施例25)
本実施例はグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼ(zwf)遺伝子のクローニング、天然型プロモーターを有するzwf遺伝子のE.coli染色体中への組み込み、および天然型プロモーターの制御下におけるzwf過剰発現発現の細胞生育およびNAG生産に対する効果を説明する。
(天然型プロモーターおよび調節領域を有するE.coliのクローニング)
実施例24に記載した通り、生育とNAG生産を改善するための戦略の一部として、組み込みT7lac−zwfカセットを有する株を構築した。zwfの過剰発現により燐酸化アミノ糖のペントース燐酸経路に対する阻害が減少すると推定された。その場合、我々の株中のNAG力価を増大するためにさらに、ペントースまたはグルコースを供給する必要がなくなると考えられる。
組み込みT7lac−zwfカセットを含む7107−606株は対照株より若干生育が良く、ペントース欠乏が部分的に軽減されていることを示している。しかしながら、NAG生産に関しては対照株ほど良くなかった。これは、高すぎるZWFタンパク質の発現レベルを与える強いT7プロモーターを使用しているためと思われる。グルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼの活性が高すぎると、ペントース燐酸経路へ流れる炭素の量が多すぎて望ましくない。従って、zwfの発現が細胞で調節される様に、zwfをその天然型プロモーターで過剰発現させることを決定した。E.coliでは、zwfは生育速度に依存して調節されている。さらに、zwfはzoxRSレギュロンと複数の抗生物質耐性(mar)の一員である。従って、天然型zwfのクローニングには天然型プロモターばかりでなく、“Soxbox”等の調節領域も含まれる(Fawcett、W.およびWolf.R.、J.Bac.、177(7):1742−1750)。染色体上にzwfのコピーが二つ存在することは、NAG生産経路等、他の経路を通る炭素フローに大きく影響せず、ペントース燐酸経路を通るフローを増加し得ると考えられる。
E.coli zwfの発現をクローニングするため、zwf遺伝子の公開された配列に基づいてプライマーを合成した(Blattnerら、1997、Science、277(5331):1453−1474)。E.coliW3110下のゲノムDNAからzwfコード配列+調節領域をPCRをで増幅するためにプライマーを使用した。増幅に用いたプライマーは反転プラーマー07−192および前方プライマー07−130であり、以下の配列を有する:07−192:5’−GATGCTAGCTAACCGGAGCTCATAGGGC−3’(配列番号103)、および5’−GATTTCGAATGATCAGTGTCAGATTTTTACCC−3’(配列番号103)。
前方プライマー07−130はBstB部位(TTCGAA、配列番号102のヌクレオチド4〜9で表される)を含み、zwf開始コドンの上流の203塩基対から増幅する。反転プラーマー07−129はNheI部位(GCTAGC、配列番号103のヌクレオチド4〜9で表される)を含み、zwf停止コドンの下流の154塩基対から増幅する。標準条件でPCRを行い、NheIおよびNstBI制限エンドヌクレアーゼ部位が側面する1.8kbフラグメントを生成した。
(組み換えzwfのE.coli染色体中への組み込み)
ゲノムrha領域を標的としてzwfカセットを組み込むため、組み込みベクターを設計した。E.coliのrhaBAD遺伝子はラムロキナーゼ、L−ラムノースイソメラーゼおよびラムノース−1−燐酸アルドラーゼそれぞれをコードするオペロンを形成する。これらの遺伝子はラムノースを別な炭素源として利用することに関与し、非必須遺伝子であると考えられている。従って、この領域を妨害することが我々の株における生育とNAG生産に影響してはならい。
プラスミドpSW07−72#45(実施例54に記載)を組み込みベクター作成の第一工程に利用した。rhaBADオペロン+側面配列を含むこのプラスミドを制限エンドヌクレアーゼBstBおよびNheIで消化した。これによりrhaBおよびrhaAコード配列部分を含む702塩基対をプラスミドから除去した。zwfコード配列+調節レギュロンを含むPCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼBstBおよびNheIで消化し、pSW07−72#45のBstBおよびNheI部位へライゲートしてプラスミドpSW07−86を作成した。
プラスミドpSW07−86を制限酵素KpnIおよびNotIで消化し、rha遺伝子が側面するzwfを含む6.9kbフラグメントを放出した。pMAK705由来の温度感受性レプリコン(Hamiltonら、1989、J.Bac.、172(9):4617−4622)とpUC4K由来のカナマイシン耐性カセット(AmershamPharmaciaBiotech、Piscataway、NJ)を含むpKLN07−21由来の4.2kbKpnI/NotIフラグメントと、このフラグメントをライゲートした。得られたプラスミドpSW07−87を用いて、zwfをE.coli染色体のrhaBA領域へ組み込むことができる。
ScGNA1カセットの1個または少なくとも2個のコピーをそれぞれ含む7107−92(1)および7107−607(2)株中へ、プラスミドpSW07−87を形質転換した。温度感受性選択と継代培養プロトコールに従い、rhaBA欠失部位におけるT7lac−zwfの存在につき、カナマイシン感受性コロニーを標準PCRプロトコールを用いてスクリーニングした。PCRで同定されたいくつかの株を、zwfコード配列を含むフラグメントをプローブとして用いて、高ストリンジェントサザンハイブリダイゼーションで確認した。7107−607(2)由来の株を7017−633、7107−92(1)由来の株を7007−634と呼ぶ。
(天然型プロモーター制御下のNAG生産株におけるzwfの過剰発現)
NAG生産に対する天然型プロモーターの制御下でzwfの過剰発現の効果を評価するため、7107−633および7107−634株をスクリーニングした。0.6g/lのMgSO4・7H2O、0.05g/lのCaCl2・2H2O、5g/lの酵母抽出物、10G/Lのフルコースおよび40g/lのラクトースを補充したM9B培地中培養細胞をで生育させた。株を30℃で24時間生育させ、次いで実験の残りを25℃に切り替えた。24および48時間で各培養液のpHを7.2に調節し。HPLCの結果に基づき一日当たりグルコースを30g/lで加えた。アンモニアレベルが1g/l以下に低下下フラスコに5g/lの(NH4)2SO4を24および48時間で添加した。ODおよびNAGレベルを測定するため、試料を24、48および72時間に採取した。結果を表28に示す。
(表28.天然型プロモーターでzwfを過剰発現する株の生育とGlcNAc生産)
結果は、過剰発現zwfを有する細胞の生育が、天然型またはT7プロモーターで増加すること、すなわちペントース欠乏が少なくとも部分的に軽減することを示す。これらの株のいくつかでNAGの生産も増加した。例えば、7107−634(2)株は対照株7107−9281)より約25%多いNAGを生産した。この実験で、過剰発現zwfを有するT7lac−ScGNA1カセットの2個のコピーを有する株は、2個のカセットのコピーと過剰発現zwfを有する株以上に改善されなかった。
(zwf遺伝子を過剰発現する株の1リッター醗酵槽中の評価)
次にzwfを過剰発現する株を1L醗酵槽中で評価した。これらの結果を、別な醗酵槽中で予め行われた7107−92(1)株からの結果とも比較した。醗酵槽を初期容積475mlに設定した。醗酵培地の成分は表26に列挙されている。75%NH4OHでpHを制御して醗酵を行った。醗酵中、温度を37℃に保った。溶存酸素濃度を飽和の20%に保つため、曝気と攪拌を調節した。コンピュータープログラムで供給速度を制御して65%グルコースを醗酵培地に供給し、接種時の生育速度を0.40/時間、6時間での最大速度を5ml/時間とした。10時間で食品グレードのラクトースを供給し、グルコースを連続的に供給して培養細胞を誘導した。
醗酵の結果は、7107−606(1)株が対照株より高いOD600を、特に初期の時点で達成することを示した。これはこの株中のペントースの供給が増加したことによると思われる。一方、天然型プロモーターでzwfを過剰発現する株は、対照株とほぼ同じOD600で生育した。この実験で、zwfを過剰発現する株は何れも、GlcNAcの生産で対象株7107−607(2)または7107−92(1)を上回らなかった。しかしながら、醗酵条件は生産株7107−92(1)および7107−92(2)に対し最適であった。生育とNAG生産を改善する潜在能力を示すためには、zwf過剰発現株が若干異なった醗酵条件を要求することは有り得る。
(実施例26)
本実施例はホスフォグルコースイソメラーゼ(pgi)遺伝子のクローニング、T7lac−pgiカセットのE.coli染色体中への組み込み、およびNAG生産に対するpgi遺伝子過剰発現の効果を説明する。
E.coli pgi遺伝子は、グルコース−6−燐酸とフラクトース−6−燐酸の相互変換を触媒するホスフォグルコースイソメラーゼをコードする。pgiの過剰発現は、F−6−Pのプールを増加し、従ってGlcN/GlcNAcの生産が増加する。この可能性を試験するため、pgi遺伝子をクローニングし、E.coliNAG生産背景中に過剰発現させた。
(E.coli pgiのクローニングと過剰発現)
E.coli pgiのクローニングと過剰発現のため、pgi遺伝子の公開された配列に基づいてプライマーを合成した(Blattnerら、1997、Science、277(5331):1453−1474)。E.colipgi遺伝子コード配列のヌクレオチド配列は配列番号104と呼ばれる配列中に列記されている。E.coliPGI酵素の推定アミノ酸配列は配列番号105と呼ばれる配列中に列記されている。プライマーを使用して、E.coliW3110ゲノムDNAからpgiコード配列をPCRで増幅した。使用した前方プライマー07−103および逆方向プライマー07−104は以下の配列を有する:07−103:5’−GATCGGTCTCGCATGAAAAACATCAATCCAACGCAGAC−3’(配列番号106)、および5’−GATCCTCGAGTTAACCGCGCCACGCTTTATAGC−3’(配列番号107)。
プライマー07−103はBsaI部位(GGTTCT、配列番号106のヌクレオチド5〜10で表される)と、ATG開始コドンからのpgi配列の26ヌクレオチド(配列番号106のヌクレオチド13〜38で表される)を含む。プライマー07−104はXho部位(CTCGAG、配列番号107のヌクレオチド5〜10で表される)と、翻訳停止コドンからpgiコード配列の23ヌクレオチド(配列番号107の11〜33ヌクレオチドで現れる)を含む。標準条件下でPCRを行い、BsaIおよびXhoI制限エンドヌクレアーゼ部位が側面するpgiコード配列を含むフラグメントを生成した。
PCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼBsaIおよびXhoIで消化し、ベクターpET24d(+)(Novagen、Inc.、Madison、WI)のBsaIおよびXhoI部位へライゲートしてプラスミドPKLN07−36とPKLN07−37を作成した。この方法によるクローニングはpgi配列をpET24d(+)のT7lacプロモーターの下流に置き、発現カセットT7lac−pgiを生成する。
(E.coli中の組み換えpgiの機能性発現)
プラスミドpKLN07−36をNAG生産株7107−92(1)中へ形質転換し、710−124株を作成した。pET24d(+)空ベクターを有する7107−92(1)を形質転換して対照株7107−95を作成した。標準プロトコールに従い、培養細胞をLB中で生育させ1mMIPTGで誘導した。SDS−PAGEのために誘導および非誘導培養細胞から採取した。結果から、PGIタンパク質の予想サイズに対応する約62kDaのタンパク質の過剰生産が確認された。全および可溶性タンパク質の量をIPTG誘導の4時間後にSDS−PAGEで測定した。7107−124(1)および7107−12482)由来の試料は62kDaタンパク質の過剰生産を示し、組み換えPGIタンパク質の過剰発現の成功を示した。誘導および非誘導培養細胞中の過剰生産タンパク質の存在は、誘導剤がない場合のpgi遺伝子の漏出発現を示す。対照株7107−95由来の試料にはこの様なタンパク質バンドは見られなかった。全PGIタンパク質の少なくとも半分は可溶性型である様に思われる。
4時間の誘導後、ホスフォグルコースイソメラーゼ活性を測定するため培養細胞を収穫した。対照株に比活性0.94mmolmin−1mg−1と比較して、7107−1
24(1)、7107−124(2)および7107−124(3)株が比活性242、158および215mmolmin−1mg−1タンパク質をそれぞれ有することが見
出された。これにより対照株に比べて比活性が100〜200倍のレベルに達し、Pgiタンパク質の過剰発現に成功したことが確認された。
(E.coli染色体中へのT7lac−pgiA組み込みを指向するベクターの構築)
pgiの機能性発現が確認されたので、次のステップはE.coli染色体を標的とするT7lac−pgiカセットの組み込みである。組み込みのために選ばれた標的はE.coli染色体のaraBAD領域であった。L−リブロキナーゼ、L−アラビノースイソメラーゼおよびL−リボース−5−P4−エピメラーゼタンパク質をコードするaraBADオペロンは、炭素源としてL−アラビノースの利用に関与している。これらのタンパク質は、ペントース燐酸分岐における中間体であるL−アラビノースのD−キシルロース−5−燐酸への変換を触媒する。L−アラビノースはNAG醗酵プロセスの炭素源として使用されないので、この部位への遺伝子組み込みは細胞生育とNAG生産に影響してはならない。
組み込みベクターを生成する最初の工程は、araBADオペロンを含むゲノム領域をクローニングすることである。araBADオペロンの公開された配列に基づきプライマーを合成した(Blattnerら、1997、Science 277(5331):1453−1474)。araBAD領域を増幅するために使用したプライマーは、順方向プライマー07−105および逆方向プライマー07−106であり、以下の配列を有した:07−105:5’−GGATCCACCTGACGCTTTTTATCGCAACTC−3’(配列番号108)、そして07−106:5’−CGGACGCACATCGGCCTCGTAGAC−3’(配列番号109)。
プライマー07−105はaraBのATG開始コドンの74塩基対下流から増幅し、プライマー07−106はaraD翻訳終止コドンの404塩基対下流から増幅する。得られたaraBADオペロンを含む4.7kbのPCRフラグメントをベクターpPCR−Script(商標)SK(+)(Stratagene Cloning Systems、La Jolla、CA)中に連結し、プラスミドpKLN07−38を生成した。
次の工程は、プラスミドpKLN07−37由来のT7lac−pgiカセットを、プラスミドpKLN07−38に加えることである。以下の配列を有する順方向プライマー07−109および逆方向プライマー07−110を用いて、T7lac−pgiカセットを、プラスミドKLN07−37からPCRによって増幅した:07−109:5’−GATTCCGGAAGCAACCGCACCTGTGGC−3’(配列番号110)、そして07−110:5’−GATCACCTGGTTATAGTTCCTCCTTTCAGCAAAAAACCC−3’(配列番号111)。
プライマー07−109は、BspEI制限エンドヌクレアーゼ部位(TCCGGA、配列番号110のヌクレオチド4〜9で表される)を含み、pET24d(+)のT7プロモーターの80塩基対上流から増幅する。プライマー07−110は、SexAI制限エンドヌクレアーゼ部位(ACCTGGT、配列番号111のヌクレオチド5〜11で表される)を含み、pET24d(+)のT7プロモーターの18塩基対下流から増幅する。PCRを標準条件下で行って、BspEIおよびSexAI制限エンドヌクレアーゼ部位によって隣接されるT7lac−pgiカセットを含むフラグメントを生成した。このPCRフラグメントを次いで制限エンドヌクレアーゼBspEIおよびSexAIで消化した。
プラスミドpKLN07−38を制限エンドヌクレアーゼBspEIおよびSexAIで消化し、araBコード配列の最後の612塩基対を含む2477塩基対フラグメント、全araAコード配列、およびaraDコード配列の最初の59塩基対を切除した。消化したT7lac−pgiPCRフラグメント(上記)を、pKLN07−38のBspEI部位およびSexAI部位に連結し、プラスミドpKLN07−41を生成した。従って、プラスミドpKLN07−41は、araBADオペロンの一部のうち2.4kbの欠失を有し、T7−lac−pgiがその欠失部位に挿入されている。
最後のクローニング工程について、T7lac−pgiの挿入を有するaraBAD配列を含むフラグメントを、制限エンドヌクレアーゼNotIおよびSalIを用いてプラスミドpKLN07−41から消化した。このフラグメントを、pMAK705由来の温度感受性レプリコン(Hamiltonら、1989、J.Bac.171(9):4617−4622)、およびpUC4K由来のカナマイシン耐性カセット(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)を含むpKLN07−21由来の4.2kb SalI/NotIフラグメントと連結した。得られたプラスミドpKLN07−47は、E.coli染色体のaraBAD領域へのpgiの直接組み込みのために使用し得る。
7107−92(1)株を、プラスミドpKLN07−47で形質転換した。温度選択プロトコールを実施した。カナマイシン感受性コロニーを、染色体上のaraBAD欠失部位でのT7lac−pgiの存在について、標準条件下でPCRによってスクリーニングした。PCRによって同定されたいくつかの株を、プローブとしてpgiコード配列を含むフラグメント使用して、高ストリンジェントなサザンハイブリダイゼーションによって確認した。これらの株を7107−136から7107−141と名付けた。
(7107−136株および7107−141株の振盪フラスコ評価)
7107−136株および7107−141株を含む株をスクリーニングして、NAG生成におけるpgiの過剰発現の効果を評価した。培養物を0.6g/lのMgSO4−7H2O、0.05g/lのCaCl2−2H2O、5g/lの酵母抽出物、5g/lのリボース、10g/lのグルコース、および40g/lのラクトースを補充したM9B培地(上記)中で増殖させた。株を30℃で24時間増殖させ、次いで残りの実験のために25℃に切り替えた。24時間および48時間で、各々の培養物のpHを7.2に調整し、HPLCの結果に基づいてグルコースを1日当たり30g/lまで加えた。レベルが1g/l以下に減少したフラスコに、5g/lの(NH4)2SO4を24時間および48時間にて加えた。ODおよびNAGレベルの測定のために、24時間、48時間および72時間でサンプルを取り出した。酵素分析のために、培養物を72時間で収集した。結果を表29に示す。
(表29.pgi過剰発現株における増殖とGlcNAc生成)
この実験において、pgiを過剰発現した株における有意な改善は見られなかった。しかし、最適化した振盪フラスコまたは発酵条件下では、過剰発現したpgiは、増殖および/またはNAG生成にポジティブな影響を及ぼし得る。
(1リットル発酵における7107−141株の評価)
次にpgiを過剰発現する7107−141株を1L発酵槽中で評価した。結果を、同一条件下での別の発酵で予め行った7107−92(1)株からの結果と比較した。発酵を、475mlの初期容積に設定した。発酵培地の成分を表3に列挙する。6.9にpHを制御するために75%NH4OHを使用して、発酵を行った。発酵の全体にわたって、温度を37℃で維持した。曝気と攪拌を調整して、溶存酸素濃度を空気飽和度の20%に維持した。コンピュータープログラムで制御した供給速度で培養物に65%グルコースを供給して、播種時で0.40/時間の増殖速度および6時間までに5ml/時間の最大速度を達成した。グルコース供給を続けながら、食品用ラクトースを10時間で5g/lの量で加えて、培養物を誘導した。
振盪フラスコ実験と同様に、pgi遺伝子を過剰発現する株におけるグルコサミン生成において有意な改善は見られなかった。しかし、先に議論したように、これらの株に対して最適化した条件下では、pgi過剰発現は、増殖および/またはNAG生成にポジティブな影響を及ぼし得る。
(実施例27)
以下の実施例は、グリコーゲン合成がglgXCA遺伝子の欠失によってブロックされるグルコサミン/N−アセチルグルコサミン生成株の開発を記載する。グルコサミン/N−アセチルグルコサミン生成におけるグリコーゲン合成をブロックすることの効果もまた、実証する。
細菌細胞は貯蔵炭素の主要な形態としてグリコーゲンを蓄積する。グリコーゲン合成には、ADP−グルコースピロホスフォリラーゼ、グリコーゲンシンターゼおよび分枝酵素の3種の酵素が関与する。これらの酵素はそれぞれ、グルコース−1−リン酸から単糖ドナー(ADP−グルコース)の合成、これらの単糖単位の重合によるグルコースの(1−4)ポリマーの形成、およびこのポリマーの再構成による糖鎖内の(1−6)分枝の生成を触媒する。ADP−グルコースピロホスフォリラーゼは、グリコーゲン合成の中心的な酵素であり、アロステリックエフェクターにより強く調節される。グリコーゲン合成および分解に関与する遺伝子は、glgオペロン(glgBXCAP)として組織化され、glgB(1,4−α−グルカン分枝酵素)、glgX(グリコシルヒドロラーゼ、脱分枝酵素)、glgC(ADP−グルコースピロホスフォリラーゼ)、glgA(グリコーゲンシンターゼ)、およびglgP(グリコーゲンマルトテトラオースホスフォリラーゼ)が挙げられる。グルコサミンおよびN−アセチルグルコサミン生成経路への炭素の流れを増加させる努力において、グリコーゲン合成経路は、グルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンを生成する株において遺伝子欠失によってブロックされた。
以下の配列のPCRプライマーを合成し、glgオペロン由来の配列をクローニングした。GNglgBXCAP1−5:5’−GAGTCATCCGGATACAGTACGCGA−3’(配列番号112)、およびGNglgBXCAP2−3:5’−ATAAACCAGCCGGGCAAATGG−3’(配列番号113)。
標準条件を使用してプライマーを用いるPCR増幅により、E.coli株W3110由来のglgオペロンの5737bpフラグメントを生成した。増幅した配列は、glgBからglgPに及ぶ。PCR生成物を、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)(Invitrogen TOPO TA クローニングキット、カタログ番号K4500−01)に連結し、組換えプラスミドpCALG18−1を生成した。
pCALG18−1をAgeIで消化して、プラスミドからglgXの3’部分、全glgC、およびglgPの5’部分を欠失させた。プラスミドの残りの部分を再環化して、pCALG21−1を生成した。この組換えプラスミドは切断型glgオペロン(glgXCAD)を含む。
glgXCADをグルコサミン生成株および/またはN−アセチルグルコサミン生成株のゲノム中に組み込むのに必要なプラスミドを生成するために、さらに2つの工程を要した。第一に、pUC4K由来のKanr遺伝子(Amersham Pharmacia Biotech、カタログ番号27−4958−01、GenBank寄託番号X06404)を、pCALG21−1に加えて、pCALG23−1を生成した。第二に、pMAK705由来の温度感受性複製開始点(Hamilton、C.ら、1989、Journal of Bacteriology、171:9、pp4617−4622)をpCALG23−1に加えて、pCALG28−1を生成した。第一の手順を行うために、pCALG21−1およびpUC4Kを、いずれもBamHIで消化した。BamHI消化はglgXCA欠失部位の上流のpCALG21−1を直線化し、pUC4KからKanrフラグメントを放出する。直線化pCALG21−1およびKanrフラグメントを連結して、pCALG23−1を生成した。pCALG28−1を生成するために、pCALG23−1由来のKanr−glgXCADフラグメントをオリゴヌクレオチドGNTOPO2−5(配列番号114)およびGNTOPO3−4(配列番号115)を使用して、PCR増幅した。GNTOPO2−5の配列:5’−CGCCAAGCTTGGTACCG−3’(配列番号114)。プライマー配列はpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)のヌクレオチド230〜246と同一である。GNTOPO3−4の配列:5’−CCCTCTAGATGCATGCTCGAG−3’(配列番号115)。この配列はpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)のヌクレオチド334〜354と逆相補性である。
PCR生成物を、pMAK705から単離された温度感受性複製開始点を含むSmaIフラグメントに連結した。得られた組換えプラスミドpCALG28−1は、Kanr、glgXCDA配列および温度感受性複製開始点を含む。
グリコーゲン合成欠乏性株の生成を、内因性glgBXCAP配列を組換えglgXCAD配列で置換することによって行った。pCALG28−1を、E.coli株7107−18中に形質転換し、内因性glgBXCAPがpCALG28−1由来の組換えglgXCAD配列で置換されたクローンを、温度選択手順を使用して生成した。所望のクローンをさらにPCRスクリーニングで同定し、ヨウ素蒸気試験で確認した。PCRスクリーニングを、オリゴヌクレオチドGNglgBXCAP3−5(配列番号136)およびGNglgBXCAP4−3(配列番号137)を使用して行った。GNglgBXCAP3−5の配列は以下の通りである:5’−GGCGGCTTAAAATGTCCTGAATG−3’(配列番号136)。プライマーは、オリゴヌクレオチドヌクレオチドGNglgBXCAP1−5(配列番号112)およびGNglgBXCAP2−3(配列番号113)から生成したglgBXCAP PCRフラグメントの5’末端のさらに上流に位置する。GNglgBXCAP4−3の配列は、5’−CGAAATCATCGTTGCCAGTAACTTTACG−3’(配列番号137)である。このプライマーは、オリゴヌクレオチドGNglgBXCAP1−5(配列番号112)およびGNglgBXCAP2−3(配列番号113)から生成したglgBXCAP PCRフラグメントの3’末端のさらに下流に位置する。
PCRスクリーニングにおいて、2つの株がglgXCAD配列に対して予想されるサイズ(2295bp)のPCR生成物を生成した。これらの2つの株を、7107−308および7107−309と名付けた。次いで、これらの株をヨウ素蒸気試験に供して、これらの株の何れもグリコーゲンを蓄積しないことを実証した。この試験を実施するために、7107−18細胞、7107−308細胞および7107−309細胞を有するプレートをヨウ素結晶からの蒸気に曝した。7107−18株のみが暗褐色に変化し、グリコーゲンの存在を示した。
(グリコーゲン欠乏性株におけるNAG生成を試験するための振盪フラスコ実験)
振盪フラスコスクリーニングにより、glg欠失によってグリコーゲン合成がブロックされた株を評価した。株を、40g/lのグルコース、10g/lのリボースおよび5g/lの酵母抽出物を補充したM9B培地で増殖させた。glg欠失を有する株間でいくつかの興味を引く差異があるようである。いくつかのglg欠失株(例えば、7107―604)は、コントロールよりも良好に増殖したが、NAGの生成レベルは低かった。7107−605−1株はコントロールと同程度の増殖を示したが、NAG力価は12%改善した。
(表30.振盪フラスコ実験におけるglg欠失株の増殖とNAG生成)
(実施例28)
以下の実施例は、2つのlacI遺伝子のうち1つの欠失と、lacプロモーターのlacUV5プロモーターによる置換の、グルコース抑制の軽減およびグルコサミン/N−アセチルグルコサミン生成における効果を実証する。
培地中のグルコースの存在が、E.coli中のlacプロモーターからの発現を抑制することは公知である。lacオペロンはlacZ、lacYおよびlacAの3種のタンパク質をコードする。lacZ遺伝子は、ラクトースをグルコースおよびガラクトースに切断し、ラクトースをオペロンの真の誘発因子であるアロラクトースに変換する酵素(β−ガラクトシダーゼ)をコードする。アロラクトースはレプレッサ(lacI遺伝子によりコードされる)と相互作用することによってlacオペロンを誘導し、lacオペレータでの結合を予防する。lacY遺伝子は、ラクトースの細胞中への流入を制御するラクトース透過酵素をコードする。lacA遺伝子は、非代謝性ピラノシドの細胞解毒を補助する酵素であるチオガラクトシドトランスアセチラーゼ(ガラクトシドアセチルトランスフェラーゼ)をコードする。
lacオペロンの転写は、cAMPとそのレセプタータンパク質(CRP)との間で形成される複合体である、複合体CRP:cAMPによるlacプロモーター配列の結合を要する。グルコースが細胞内のcAMPレベルを減少させることによって、lacオペロンを抑制すると考えられている。lacUV5プロモーターは、特定のヌクレオチドの変化を含むlacプロモーターの変異形である。この様な変化に起因して、lacプロモーターはもはや、転写を活性化するためにCRP:cAMPによる結合を必要としない。このことは、lacUV5の制御下にあるlacオペロンがグルコース抑制に対して感受性でなくなることを示唆する。従って、lacプロモーターは、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミンを生成するE.coli株において、lacUV5プロモーター(本明細書中で配列番号135で表される)で置換されて、グルコース抑制を最小にする。
いくつかのN−アセチルグルコサミン生成株および/またはグルコサミン生成株は、lacI抑制遺伝子の2つのコピーを含む。一方は、天然のlacオペロンの成分であり、他方は、DE3要素中に見出される。細胞性lacIレプレッサタンパク質の量は、抑制の強度に影響し得る。従って、一方のlacI遺伝子の欠失は、グルコサミン/N−アセチルグルコサミン生成のラクトース誘導に影響し得る。
(lacプロモーターのlacUV5プロモーターによる置換)
いくつかの前駆体プラスミドを、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミン生成株中にlacUV5プロモーターを組み込むために使用されるプラスミドの構築の前に、生成した。
E.coli W3110株由来のmphRlacIlacZフラグメントのPCR増幅物に含まれる第一前駆体の生成を、オリゴヌクレオチドプライマーGNmphRlacIlacZ1−5(配列番号116)およびGNmphRlacIlacZ2−3(配列番号117)を使用して実施した。GNmphRlacIlacZ1−5の配列は以下の通りである:5’−ATTGTGCGCTCAGTATAGGAAGG−3’(配列番号116)。そして、GNmphRlacIlacZ2−3の配列は以下の通りである:5’−CGATACTGACGGGCTCCAG−3’(配列番号117)。mphRlacIlacZ配列を含む正確なサイズのPCR生成物を、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)中にクローニングして、pCALG3−1を生成した。
次の前駆体プラスミドは、オリゴヌクレオチドGNlacdel2−5(配列番号118)およびGNlacdel3−5(配列番号119)を使用して、pCALG3−1の部位特異的変異誘発(Stratagene(登録商標)QuikChange(登録商標)XL部位特異的変異誘発キット、カタログ番号200517)から得た。GNlacdel2−5の配列は、5’−(リン酸化)GCAAAACCTTTCGCGGTCACCCATGATAGCGCCCG−3’(配列番号118)であった。このプライマー配列は、lacI開始コドンのBstEII部位5’を付加させるためになされるATGGからCACCへの変化(配列番号118のヌクレオチド15〜21で表される)を除いて、W3110 lacI配列と同一である。GNlacdel3−5の配列:5’−(リン酸化)CGGGCGCTATCATGGGTGACCGCGAAA−GGTTTTGC−3’(配列番号119)。このオリゴヌクレオチド配列は、lacI開始コドンのBstEII部位5’を付加させるためになされるCCATからGGTGへの変化(配列番号119のヌクレオチド15〜21で表される)を除いて、W3110 lacI配列と逆相補的である。
pCALG3−1の部位特異的変異誘発を、オリゴヌクレオチドGNlacdel2−5(配列番号118)およびGNlacdel3−5(配列番号119)を使用して、lacI開始コドンのBstEII部位5’に加えて、pCALG5−1を生成した。この組換えプラスミドは、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)の骨格中にlacI開始コドンのBstEII部位5’を有するmphRlacIlacZ配列からなる。
次に、pCALG5−1をBstEIIで消化し、lacIの3’配列を含むフラグメント、lacプロモーターを有するlacZ遺伝子の一部、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)、およびmphR由来の配列を単離した。pCALG5―1由来の単離したフラグメントを、それ自体に連結して、pCALG10−1を生成した。組換えpCALG10−1プラスミドは、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)の骨格中に、mphR配列、lacID、lacプロモーター、lacZ配列を含む。
次に、pCALG10−1をBstEIIおよびNdeIで消化し、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)およびmphR配列を含むフラグメントを単離した。次いで、単離したpCALG10−1フラグメントを、2つのPCR生成物に連結した。pCAL610−1から生成した第一のPCR生成物は、lacZ開始コドンの5’に隣接するNdeI部位を有するlacZ配列を含んだ。標準条件下のPCR、およびオリゴヌクレオチドプライマーGNLacZ1−5(配列番号120)およびGNLacZ2−3(配列番号121)を使用して、lacZ配列を含むpCALG10−1の一部を増幅した。GNLacZ1−5の配列は以下の通りである:5’−CACAGGAAACACATATGACCATGATTACGG−3’(配列番号120)。このプライマー配列は、NdeI部位を付加するためのG1932CおよびC1933Aのヌクレオチド変化(配列番号120のヌクレオチド12〜17で表される)を除いて、pCALG10−1(lacプロモーター/lacZ接合部)のヌクレオチド1921〜1950と同一である。GNLacZ2−3の配列は:5’−CCACCATGATATTCGGCAAGCAG−3’(配列番号121)である。この配列は、pCALG10−1のヌクレオチド6523〜6545に対して逆相補的である。
標準条件下のPCR、ならびにオリゴヌクレオチドプライマーGNLacuv53−5(配列番号122)およびGNLacuv54−3(配列番号123)を使用して、7101−17(DE3)株由来のlacUV5プロモーターである第二のPCR生成物を増幅した。GNLacuv53−5の配列は:5’−CCTTTCGCGGTCACCAGCAAA−3’(配列番号122)である。この配列は、pCALG10−1のヌクレオチド1253〜1273と同一であり、lacI内の内因性BstEII部位(配列番号122のヌクレオチド9〜15で表される)を含む。GNLacuv54−3の配列は:5’−CCGTAATCATGGTCATATGTGTTTCCTGTG−3’(配列番号123)である。この配列は、NdeI部位を付加するためのC1932GおよびG1933Tヌクレオチド変化(配列番号123のヌクレオチド14〜19で表される)を除いて、pCALG10−1(lacプロモーター/lacZ接合部)のヌクレオチド1921〜1950と逆相補的である。
PCRで生成したlacUV5プロモーターフラグメントをBstEIIおよびNdeIで消化し、そして精製した。同様に、lacZ配列を含むPCR生成物をNdeIで消化し、精製した。次の前駆体プラスミドを生成するために、pCALG10−1由来のmphRフラグメント(NdeI−BstEII)、lacUV5プロモーターフラグメント(BstEII−NdeI)、およびlacZフラグメント(NdeI−NdeI)を一緒に連結した。得られた組換えプラスミドpCALG16−3は、ベクターpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)中にmphR配列、lacID、lacUV5プロモーター、lacZ配列(天然型の配列と逆の順序)を含む。pCALG16−3の正確なlacUV5プロモーター配列を、配列決定によって確認した。
次に、pCALG10−1中のlacZフラグメントを標準条件、ならびにオリゴヌクレオチドプライマーGNlacZ1−5(配列番号120)およびGNlacZ3−3(配列番号124)を使用してPCR増幅した。
GNlacZ3−3のヌクレオチド配列は:5’−GACGAAGCGGCCGCGTAAACG―3’(配列番号124)である。この配列は、NotI部位を付加するためのT3625C、C3626G、およびC3630Gヌクレオチドの変化(配列番号124のヌクレオチド7〜14で表される)を除いては、pCALG10−1ヌクレオチド3618〜3638と逆相補的である。
lacZ PCRフラグメントを、NdeIおよびNotIで消化し、そして単離した。さらに、pCALG16−3を、NdeIおよびNotIで消化し、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)、mphR由来の配列、lacID、およびlacUV5プロモーターを含むフラグメントを単離した。lacZ PCRフラグメントおよびpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)を含むpCALG16−3フラグメント、mphR由来の配列、lacID、およびlacUV5プロモーターを一緒に連結して、pCALG20−1を生成した。この組換えpCALG20−1プラスミドは、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)、mphR由来の配列、lacID、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接するNdeI部位を有する)、および5’から3’方向のlacZコード領域を含む。
先に構築したpCALG3−1を、pCALG20−1と共に使用して、次の前駆体プラスミドを生成した。pCALG3−1とpCALG20−1との両方を、ApaIで消化した。lacUV5プロモーターおよびlacZ配列を含むpCALG20−1フラグメント、ならびにpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)、mphR配列、および完全長lacIを含むpCALG3−1フラグメントを単離し、そして一緒に連結してpCALG22−1を生成した。この組換えpCALG22−1は、mphR配列、完全長lacI、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接したNdeI部位を有する)、lacZ配列、およびpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)を含む。
pCALG22−1およびpUC4K(Amersham Pharmacia Biotech、カタログ番号27−4958−01、GenBank寄託番号X06404)を使用して、次の前駆体プラスミドを生成した。pCALG22−1およびpUC4Kを、いずれもBamHIで消化した。mphR配列を含むpCALG22−1フラグメント、完全長lacI、lacUV5プロモーター、lacZ配列、ならびにKanrを含むpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)およびpUC4Kフラグメントを単離し、一緒に連結してpCALG25−1を生成した。この組換えpCALG25−1は、Kanr、mphR配列、完全長lacI、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接するNdeI部位を有する)、lacZ配列、およびpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)からなる。
次の前駆体プラスミドを生成するために、pCALG25−1およびPKLN07−20(他に記載)を、KpnIおよびNotIで消化した。Kanr、mphR配列、完全長lacI、lacUV5プロモーター、ならびにpMAK705由来の温度感受性複製開始点を含むlacZ配列およびpKLN07−20フラグメント(先に記載)を含むpCALG25−1フラグメントを単離し、一緒に連結してpCALG29−1を生成した。この組換えpCALG29−1プラスミドは、Kanr、mphR配列、完全長lacI、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接したNdeI部位を有する)、lacZ配列、およびpMAK705由来の温度感受性領域を含む。
pCALG29−1を構築した後、これが最後の組み込みベクターであると考えられた。しかし、lacZ開始コドンの5’に隣接するNdeI部位の付加が、lacZの適切な発現を阻害することがその後に確認された。従って、pCALG29−1を、部位特異的変異誘発(Stratagene(登録商標)QuikChange(登録商標)XL部位特異的変異誘発キット、カタログ番号200517)に供して、NdeI部位を破壊し、NdeIヌクレオチド変化を内因性lacUV5ヌクレオチドに置換した。pCALG29−1に必要な変化を行うために、pCALG29−1を、オリゴヌクレオチドGNlacZ−Nde1(配列番号125)およびGNlacZ−Nde2(配列番号126)を使用して、部位特異的変異誘発に供して、pCALG31−1を生成した。
GNlacZ−Nde1のヌクレオチド配列は以下の通りである:5’−CACACAGGAAACAGCTATGACCATGATTACGGATTC−ACTGG−3’(配列番号125)。この配列は、pCALG10−1のヌクレオチド1919〜1959と同一である。GNlacZ−Nde2のヌクレオチド配列は以下の通りである:5’−CCAGTGAATCCGTAATCATGGTCATAGCTGTTTCCTG−TGTG−3’(配列番号126)。この配列は、pCALG10−1のヌクレオチド1919〜1959と逆相補的である。
得られた組換えpCALG31−1プラスミドは、Kanr、mphR配列、完全長lacI、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接する内因性ヌクレオチドを有する)、lacZ配列、およびpMAK705由来の温度感受性複製開始点を含む。
組換えpCAL31−1を7107−18に転換し、lacUV5プロモーターの置換を有するクローンを、温度選択手順を用いて生成した。正確なクローンを同定するため、ゲノムDNAを調製し、lacUV5プロモーター領域をPCR増幅した。次いで、PCR生成物を配列決定して、lacUV5プロモーターの存在を確認した。1つの株が、予想されるサイズのPCR生成物を生成し、正確なDNA配列を有していた。この株を7107−310と名付けた。
(LacI欠失およびlacプロモーターのlacUV5プロモーターによる置換)
N−アセチルグルコサミン生成株および/またはグルコサミン生成株においてlacオペロンからlacIを除去し、lacプロモーターをlacUV5プロモーターで置換するのに必要なプラスミドを生成するために、2つの前駆体プラスミドを発生させた。第一の前駆体プラスミドを生成するために、pCALG20−1(上記を参照のこと)およびpUC4K(Amersham Pharmacia Biotech、カタログ番号27−4958−01、GenBank寄託番号X06404)を、BamHIで消化した。mphR配列を含むpCALG20−1フラグメント、lacID、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接するNdeI部位を有する)、lacZ配列、ならびにKanrを含むpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)およびpUC4Kフラグメントを単離し、一緒に連結してpCALG26−1を生成した。この組換えpCALG26−1は、Kanr、mphR配列、lacID、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接するNdeI部位を有する)、lacZ配列、およびpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)からなる。
次の前駆体プラスミドを生成するために、pCALG26−1およびpKLN07−20(他に記載)を、KpnIおよびNotIで消化した。Kanr、mphR配列、lacID、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接するNdeIを有する)、ならびにpMAK705由来の温度感受性複製開始点を含むlacZ配列およびpKLN07−20フラグメントを含むpCALG26−1フラグメントを単離し、一緒に連結してpCALG30−1を生成した。この組換えpCALG30−1プラスミドは、Kanr、mphR配列、lacID、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接するNdeI部位を有する)、lacZ配列、およびpMAK705由来の温度感受性複製開始点を含む。
pCALG30−1を構築した後、これが最後の組み込みベクターであると考えられた。しかし、lacZ開始コドンの5’に隣接するNdeI部位の付加がlacZの適切な発現を阻害することがその後に確認された。従って、pCALG30−1を、部位特異的変異誘発(Stratagene(登録商標)QuikChange(登録商標)XL部位特異的変異誘発キット、カタログ番号200517)に供して、NdeI部位を破壊して、NdeIヌクレオチド変化を内因性lacUV5ヌクレオチドで置換した。pCALG30−1に必要な変化を行うために、pCALG30−1を、オリゴヌクレオチドGNlacZ−Nde1(配列番号125)およびGNlacZ−Nde2(配列番号126)を使用して、部位特異的変異誘発に供して、pCALG32−2を生成した。得られた組換えpCALG32−2プラスミドは、Kanr、mph配列、lacID、lacUV5プロモーター(lacZ開始コドンの5’に隣接した内因性ヌクレオチドを有する)、lacZ配列、およびpMAK705由来の温度感受性領域を含む。
この組換えpCALG32−2を7107−18へ転換し、lacUV5プロモーター置換を有するクローンを、温度選択手順を使用して生成した。正確なクローンを同定するため、ゲノムDNAを調製し、lacUV5プロモーター領域をPCR増幅した。次いで、PCR生成物を配列決定して、lacUV5プロモーターの存在を確認した。3つの株は予想したサイズのPCR生成物を生成し、正確なDNA配列を有した。これらの株を、7107−313、7107−314、および7107−315と名付けた。
(DE3要素からのLacI欠失)
生成株のゲノム中のDE3要素からlacI遺伝子を欠失させるため、実施例13に記載の温度感受性選択法を使用した。この戦略には、lacI欠失のためにDE3要素を標的とする組み込みベクターの構築が含まれる。構築の第一の工程として、DE3要素のlacIを含む領域を、E.coli7107―73ゲノムDNAからPCRで増幅した。E.coliゲノムのT7RNAPおよびattB領域の公開された配列に基づいてプライマーを合成した(Blattnerら、1997、Science 277(5331):1453−1474)。以下の配列を有する順方向プライマー07−74および/または逆方向プライマー07−48を増幅のために使用した:07―74:5’−GATCCCGGGAACGGACGATTAGAGATCACC−3’(配列番号127):および07−48:5’−GTCAGAGAAGTCGTTCTTAGCGATG−3’(配列番号128)。
順方向プライマー07−74は、SmaI部位(CCCGGG、配列番号127のヌクレオチド4〜9に表される)を付加し、E.coliゲノムのattB部位の1194塩基対上流から増幅する。逆方向プライマー07−48は、T7遺伝子1ATG開始コドンの36塩基対上流から増幅する。得られた約3.2kbのPCRフラグメントを、ベクターpPCR−Script(商標)SK(+)(Stratagene Cloning Systems、La Jolla、CA)に連結して、プラスミドpSW07−53#7および#17を生成した。DNA配列決定から、このPCR生成物がDE3要素由来のattB部位およびlacI lacZ’フラグメントの上流のゲノム領域を含んでいたことが明らかになった。
lacI欠失を生成するために、プラスミドpSW07−53#17を、制限エンドヌクレアーゼMluIおよびSfoIで消化して、lacIコード配列の640塩基対フラグメントを除去した。pSW07−53プラスミドの残りを、T4DNAPで処理して平滑末端を生成し、次いで、それ自体に連結してプラスミドpSW07−55#13を生成した。
lacI欠失を有するDE3配列を含むフラグメントを、プラスミドpSW07−55#13から制限エンドヌクレアーゼNotIおよびSalIで消化した。このフラグメントを、pMAK705由来の温度感受性レプリコン(Hamiltonら、1989、J.Bac.171(9):4617−4622)、およびpUC4K由来のカナマイシン耐性カセット(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)を含むpKLN07−21由来の4.2kbのSalIおよびNotIフラグメントと連結した。得られたプラスミドpKLN07−56#13を使用して、E.coli染色体上にDE3要素のlacI欠失を生成した。
DE3要素のlacI欠失を有する株を生成するために、E.coli 7107−18をプラスミドpSW07−56#13で形質転換した。温度感受性選択および継代培養プロトコールに従って、欠失の存在について標準PCRプロトコールを使用して株をスクリーニングした。PCRによって同定されたいくつかの株を、プローブとしてDE3要素のlacIおよびlacZフラグメントの部分を含むフラグメントを使用して、高ストリンジェントなサザンハイブリダイゼーションによって確認した。これらの株を、7107−84(1)から7107−84(4)と名付けた。
(振盪フラスコにおけるlacIDおよび/またはlacUV5プロモーター置換を有する株におけるグルコサミン生成)
2つの機能性lacI遺伝子を有する7107−18株と対照的に、7107−84(1)株はただ1つの機能性lacI遺伝子を含む。振盪フラスコスクリーニング42を行って、ラクトース誘導における7107−84(1)株のlacI欠失の効果を測定した。過剰のグルコースおよびラクトースの存在下では、lacオペレーターに結合するLacIレプレッサタンパク質に起因して、ラクトースによる誘導は7107−18株中では阻害され、転写が阻止されるはずである。lacオペレーターに結合するために存在すべきLacIレプレッサタンパク質はより少ないので、グルコースによるこの阻害は7107−84(1)株中で減少されるべきであり、このことが、lacプロモーターからの増加した転写を可能にする。このことは、細胞中のT7RNAPのプールを増加させ、その結果、T7lac−glmS*54カセットからの増加した転写を生じる。最終的に、より高いレベルのグルコサミンが7107−84(1)株中で生じる。同様に、lacI欠失がlacオペロンである株(例えば、7107−313、7107−314および7107−315)は、ラクトース誘導の際により高いレベルのGlcN生成を有するべきである。
lacオペロンからlacI遺伝子が欠失したE.coli株(7107−310)、DE3要素からlacI遺伝子が欠失したE.coli株(7107−84#1)、およびlacオペロンからのlacI欠失を有しlacプロモーターがlacUV5プロモーターで置換されたE.coli株(7107−313、7107−314および7107−315)を、振盪フラスコ実験で7107−18株と比較した。すべての株は、MgSO4−7H2O 0.6g/lおよびCaCl2−2H2O 0.05g/lを補充したM9B培地(KH2PO4 6g/l、K2HPO4 24g/l、クエン酸Na3−2H2O 1g/l、(NH4)2SO4 10g/l(pHをリン酸塩で7.4に調整した)、および微量金属(FeSO4−7H2O 0.2mg/l、ZnSO4−7H2O
0.015mg/l、MnSO4−H2O 0.015mg/l、CuSO4−5H2O 0.001mg/l、NaMoO4−2H2O 0.001mg/l、H3BO3 0.001mg/l、およびCoCl2−6H2O 0.001mg/l))を含むフラスコ中で増殖させた。グルコース抑制を試験するために、フラスコに様々な量のグルコースおよびラクトースを加えた。このフラスコに使用したグルコースとラクトースの量を、表4および表5に示す。培養物を、225rpmで振盪しながら、30℃で24時間増殖させ、次いで、225rpmで振盪しながら残りの実験の間、25℃で静置した。24時間および48時間で、各々の培養物のpHを7.0に調整し、グルコースをフラスコに約30g/l加え、そしてアンモニアレベルが1g/l以下に低下した培地に5g/lの(NH4)2SO4を加えた。サンプルを24時間および48時間で収集した。米国特許第6、372、457号B1に記載の改変したElson−Morganアッセイを使用して、各時点での培養上澄中のグルコサミン濃度を測定した。グルコサミンレベルを表31に示す。
予想した通り、7107−18株、7107−84(1)株、7107−310株および7107−313株は、グルコース単独またはラクトース単独の存在下で、同様に機能を果たした。誘発因子が存在しないため、グルコース中で増殖させた場合、何れの株でもGlcNの生成はほとんど見られなかった。ラクトースを誘発因子として用いて株を増殖させた場合、両方の株でグルコサミンの有意な蓄積を生じた。しかし、株をグルコースおよびラクトース両方の存在下で増殖させた場合、染色体からlacI遺伝子の1つのコピーを除去すると、ラクトース誘導、すなわちグルコサミン力価が顕著に影響を受けた。48時間の時点で、7107−313株および7107−84(1)株は、7107−18株で見られたグルコサミンレベルの約6〜8倍を達成した。このことは、減少したLacIレプレッサタンパク質がlacプロモーターからの増加した転写を可能にし、グルコサミン生成の増加したレベルが生じるという考えが確認する。
(表31.振盪フラスコスクリーニング42による様々なサンプル中のグルコサミン濃度)
(lacIDおよび/またはlacUV5プロモーターの置換を有する株におけるT7lac−ScGNA1カセットの組み込み)
NAG生成株におけるグルコース脱抑制に対するlacI欠失の効果を評価するために、7107−84(1)株および7107−84(2)株の染色体にT7lac−ScGNA1カセットを加えることが必要であった。プラスミドpSW07−68#5による温度感受性選択によるGNA1クローニングおよび組み込みについて記載された方法およびプロトコールを、他に詳述されるように使用した。得られた7107−97株および7107−98株は、プローブとしてScGNA1コード配列を使用して標準的な高ストリンジェントなサザンハイブリダイゼーションによって、染色体のmanXYZ欠失部位に組み込まれたT7lac−ScGNA1を有すると確認された。
同様に、潜在的にグルコース脱抑制性の株について他のバージョンを構築した。3107−310株を、lacオペロンのプロモーターをプロモーターのlacUV5バージョンに変えることによって構築した。7107−313株、7107−314株および7107−315株は、lacオペロンのプロモーターをプロモーターのlacUV5バージョンに変えるのに加えて、lacI遺伝子の染色体コピーを欠失することによって構築した。NAG生成の背景におけるグルコース脱抑制に対するこれらの変異の効果を評価するために、T7lac−ScGNA1カセットを株の染色体に加えた。プラスミドpSW07−68#25を用いる温度感受性選択によるGNA1のクローニングおよび組み込みついて記載される方法およびプロトコールを、7107−310株および7107−313株について使用した。得られた7107−129株および7107−130株(7107−310株由来)、ならびに7107−131株(7107−313株由来)は、プローブとしてScGNA1コード配列を用いる高ストリンジェントなサザンハイブリダイゼーションを使用して、染色体のmanXYZ欠失部位によって組み込まれたT7lac−ScGNA1を有すると確認された。
(振盪フラスコにおけるlacIDおよび/またはlacUV5プロモーターの置換を有する株におけるN−アセチルグルコサミン生成)
NAG生成株におけるグルコース脱抑制に対するDE3要素のlacI欠失の効果を評価するために、スクリーニングを行った。グルコースおよびラクトースのレベルを変化させながら、リボースを添加してかまたは添加せずに7107−97株および7107−98(2)株を試験した。lacIの2つのコピーを有するNAG生成7107−92(1)株をコントロールとして含めた。培養物を、0.6g/lのMgSO4−7H2O、0.05g/lのCaCl2−2H2O、様々な濃度のグルコースおよびラクトース、および5g/lの酵母抽出物を補充したM9B培地(上記)中で増殖させた。株を最初に10g/lのグルコースで増殖させ、一旦グルコースが欠乏するとラクトースの利用に切り替えた。グルコース抑制に対する感度を測定するために、過剰グルコース条件(ラクトースの存在下で)もまた使用した。各々の可変をリボース添加とともにかリボース添加をせずに実施した。培養物を30℃で24時間増殖させ、次いで、残りの実験の間は25℃に切り替えた。24時間および48時間の時点で、pHを7.2に調整し、グルコースを合計で30g/lまで加えた。レベルが1g/l以下に低下したフラスコ中には、5g/lの(NH4)2SO4を24時間および48時間で加えた。サンプルを、24時間、48時間および72時間で、NAG生成について分析した。
コントロール株は、非抑制条件下で良好に機能を果たし、20g/lより多くのNAGを生じたが、グルコース過剰ではわずか約5g/lであった(表32)。一方の変異株(7107−98)は、コントロールに対して同様に機能を果たしたが、他方(7107−97)は、過剰のグルコースが存在する場合でさえ、20g/lより多くのNAGを生成し、グルコース耐性を示した。実際に、この株はまた、NAG生成と酢酸塩蓄積の観点から、非抑制条件下でコントロールより優れているように思われた。培養物へのリボースの添加は、この実験における増殖またはNAG力価を有意に増加させなかった。全体的な結果は、DE3要素のlacI欠失が、少なくとも部分的にグルコース抑制を軽減し、生成株におけるNAG力価を改善することを示す。
(表32.様々な量のグルコースおよびラクトースの存在下でのグルコース脱抑制に対するDE3要素のlacI欠失の効果)
1)株:コントロール7107−92(1):2つのlacl遺伝子
7107−97および7107−98(2):1つのlacl遺伝子 のみ(DE3中の1つは欠失)
2)OD600、酢酸塩レベル、およびNAGレベルは72時間の時点より。
グルコース脱抑制について7107−129株、7107−130株および7107−131株を評価するために、別のスクリーニングを行った。2つのlacIコピーを有するNAG生成株7107−92(1)をコントロールとして含めた。培養物を、0.6g/lのMgSO4−7H2O、および0.05g/lのCaCl2−2H2O、様々な濃度のグルコースおよびラクトース、5g/lのリボースおよび5g/lの酵母抽出物を補充したM9B培地(上記)中で増殖させた。株を、最初に10g/lのグルコースで増殖し、ラクトースによる誘導を確認するため、一旦グルコースが欠乏するとラクトースの利用に切り替えた。グルコースが常に存在する過剰グルコース条件(ラクトースの存在下で)もまた使用して、7107−131株を試験し、誘導に関連するグルコースに対する感度を測定した。培養物を、30℃で24時間増殖させ、残りの実験の間は25℃に切り替えた。pHを7.2に調整し、24時間および48時間の時点でグルコースを1日あたり合計30g/lまで加えた。レベルが1g/l以下に低下したフラスコに、5g/lの(NH4)2SO4を24時間および48時間で加えた。24時間、48時間、および72時間でサンプルのNAG生成を分析した。
表33に見られるように、lacUV5変異株(7107−130)の1つおよびlacI欠失を有するlacUV5変異株(7107−131)の1つは、最初にグルコースで増殖させ、グルコース欠乏後にラクトースに切り替えた場合に、コントロール株より良好に機能した。グルコース過剰の条件では、7107−131株は、コントロール株7107−92(1)より優れ、約30%より多いNAGを生成した。このことは、lacIの何れかのコピーの欠失が、グルコース抑制軽減を補助し、過剰のグルコースの存在下で誘導が生じることを可能にし、NAG力価を改善することを確認する。
(表33.グルコース制限または過剰条件下におけるlacI欠失および/またはlacUV5プロモーターのNAG生成に対する影響)
1)株:コントロール株7107−92(1):lacI(lac)、lac(DE3)、7107−129、7107−130:lacUV5、lacI(lac)、lacI(DE3)、7107−131:lacUV5、lacIΔ(lac)、lacI(DE3)
2)OD600、酢酸塩レベル、およびNAGレベルは72時間の時点より。
(実施例29)
以下の実施例は、N−アセチルグルコサミンおよび/またはグルコサミン蓄積におけるガラクトース利用の回復の効果を実証する。
galKΔ::T7−lac−glmS*54コンストラクトを含むラクトース誘導性N−アセチルグルコサミン生成株および/またはグルコサミン生成株は、galKΔに起因して炭素源としてガラクトースを使用することはできない。これらの株は、β−ガラクトシダーゼによってラクトースをグルコースとガラクトースとに切断することに起因して、ガラクトースを蓄積する。これらの株でガラクトース蓄積を減少させる努力において、T7−lac−glmS*54発現カセットを異なる染色体位置中に組み込む必要がある。先に構築されたN−アセチルグルコサミン生成株および/またはグルコサミン生成株は、nagΔ::Tetrを含む。ゲノムのnagΔ::Tetr部分を、米国特許第6、372、457B1号に記載される様に、親株IBPC590(Plumbridge(1991)Mol.Microbiol.5,2053−2062))からP1ファージ感染によって移した。生成株においてTetrの存在は望ましくない。従って、T7−lac−glmS*54でのTetrの置換は、単にT7−lac−glmS*54のための組み込み部位を提供するだけでなく、同じプロセスでTetrを除去する。
7107−18株(先に実施例7に記載した)を生成するためのΔgalkT7−lac−glmS*54コンストラクトの7107−17(DE3)への組み込みは、グルコサミン生成における有意な増加をもたらしている。さらに、manXYZΔ::T7−lac−ScGNA1コンストラクトの7107―18への組み込みは、実施例16に記載したN−アセチルグルコサミンの生成をもたらす。ガラクトースを代謝し得るN−アセチルグルコサミン生成株を発生させるために、T7−lac−glmS*54発現カセットをnagD::Tetr部位に組み込み、次いで、T7−lac−Sc GNA1発現カセットをmanXYZ部位に挿入した。
nagΔ::T7―lac―glmS*54およびmanXYZΔ::T7−lac−Sc GNA1を含む株の構築に関する工程は、3つの前駆体プラスミドの生成を含む。第一の前駆体プラスミドを生成するために、pKLN23−54由来のT7−lac−glmS*54フラグメント(米国特許第6、372、457B1号に記載される)を、標準条件を使用して、オリゴヌクレオチドプライマーGNglmSnagE3−5(配列番号129)およびGNglmSnagE4−3(配列番号130)を用いてPCR増幅した。
GNglmSnagE3−5:5’−GGATCTAAACCTCAGTAGCGACCGGTCTAGAACTA−GTG−3’(配列番号129)。このプライマーは、以下を除いてpKLN23−54のヌクレオチド1109〜1146と同一である:C1115A、C1116A、G1120T、G1122A、G1125A、G1129AおよびC1133G。pKLN23−54のヌクレオチド1115〜1125(配列番号129のヌクレオチド8、12、14、17、21および25に対応する)での変化は、PCRにおけるプライマーの安定性を増加させるために行い、そしてpKLN23−54の1129および1133での変化は、AgeI部位を配列番号129(配列番号129の位置21〜26で表される)に加えるために行った。
GNglmSnagE4−3:5’−CCCTCGCCCCTCTAGAGCATTTAAATTCAGTCAATT−AC−3’(配列番号130)。このプライマーは、以下を除いてpKLN23−54のヌクレオチド3237〜3274と逆相補的である:T3251A、G3253T、G3256A、A3270C、およびT3273C(配列番号130の位置24、22、19、5および2で表される)。3251から3256での変化は、SwaI部位(配列番号130の位置19〜26で表される)を加えるために行い、3270および3273での変化はPCRにおけるプライマーの安定性を増加させるために行った。
得られたPCR生成物をpCR(登録商標)−BluntII−TOPO(登録商標)(Invitrogen Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCRクローニングキット、カタログ番号K2800−20)に連結した。組換えプラスミドpCALG38−2は、5’がAgeI部位によって隣接されかつ3’がSwaI部位によって隣接されるT7−lac−glmS*54発現カセットを含む。
第二の前駆体カセットを生成するために、nagΔ::Tetr::asnフラグメントを、GNnagEtetR1−5(配列番号131)およびGNnagEtetR2−3(配列番号132)を使用して、PCRによってE.coli 7107−18株から増幅した。GNnagEtetR1−5のヌクレオチド配列は以下の通りである:5’−CACGCAGGCAGGCTTTACCTTCTTC−3’(配列番号131)。GNnagEtetR2−3のヌクレオチド配列は以下の通りである:5’−CGGAAGAACAAGCGACGGAAGGAC−3’(配列番号132)。
PCR生成物をpCR(登録商標)−BluntII−TOPO(登録商標)に連結して、組換えプラスミドpCALG35−1を生成した。
第三の前駆体プラスミドを生成するために、pCALG38−2を、AgeIおよびSwaIで消化し、T7−lac−glmS*54フラグメントを精製した。さらに、pCALG35−1をAgeIおよびNruIで消化し、NruIおよびasn−pCR(登録商標)−BluntII−TOPO(登録商標)−nagDフラグメントを精製した。pCALG38−2およびpCALG35−1由来の精製したフラグメントを連結して、pCALG40を生成した。組換えpCALG40プラスミドは、pCR(登録商標)−BluntII−TOPO(登録商標)中にnagD::T7−lac−glmS*54::asnフラグメントを含む。
組み換えnagD::T7−lac−glmS*54::asnフラグメントをゲノムに組み込むために必要な最後のプラスミドを作成するため、以下の作業を行った。pCALG40をKpnIおよびNoIで消化し、nagD::T7−lac−glmS*54::asnを含むフラグメントを単離した。さらに、pKLN07−21(上記)をKpnIおよびNotIで消化し、Kanr(pUC4K由来、上記)および温度感受性複製開始端(pMAK705由来)を含むフラグメントを単離した。CALG40由来の、nagD::T7−lac−glmS*54::asnフラグメント、Kanrフラグメントおよび温度感受性複製開始点pKLN07−21をライゲートしpCALG43−2を作成した。
プラスミドpCALG43−2を7101−17(DE3)中に形質転換し、nagD::T7−lac−glmS*54::asnをゲノム中に有するクローンを作成した。正しいクローンをPCRで同定し、サザンブロット分析で確認した。クローンをテトラサイクリン耐性の喪失でも確認した。
nagD::T7−lac−glmS*54::asnを含む株をPCRでスクリーニングするため、1対のオリゴヌクレオチドプライマーを合成した。前方プラーマーGNnagET7glmS1−5は配列5’−CACGACAAACGGTGAAGCCATCTCG−3’(配列番号133)を有する。逆方向プライマーGNnagET7glmS2−2は配列5’−CGTCCATTTTCTTGAACGCTTCATCCC−3’(配列番号134)を有する。前方プライマーおよび逆方向プライマーは、オリゴヌクレオチドCNnagEteR1−5(配列番号133)およびGNnagEteR2−3(配列番号134)から精製したnagD::Tef::asnPCRフラグメントの5’および3’にそれぞれ位置する。PCRで4種の株が同定され、7107―321#1、#2、#3および#4と名付けられた。
7107−321株中へのnagΔ::T7−lac−glmS*54の7107−321株中への組み込みを確認するため、ゲノムDNAを単離し、標準条件下でnagE特異性プローブを用いてサザンブロットで分析した。7107−321株はサザン分析で正しいことが見出された。さらに、7107−321株がテトラサイクリンを含む培地上で生育できないので、nagΔ::Tef::asnが存在しないことも確認された。
manXYZΔ::T7−lac−ScGNA1コンストラクトを加えるため、組み換えpSW07−68プラスミド(上記)を各7107−321株中に形質転換した。ゲノム中に組み込まれたmanXYZΔ::T7−lac−ScGNA1を有するクローンを温度選択法を用いて作成した。クローンをPCRで同定し、サザンブロット分析で確認した。12種の株が予期したサイズのPCR生成物を生成した。これらの株を7107−325#1、#2および#3(7107−321#1由来);7107326#1、#2および#3(7107−3213#2由来);7107−327#1、#2および#3(7107−321#3由来);および7107−328#1、#2および#3(7107−321#4由来)と名付けた。これらの株はすべて、GNA1特異性プローブを用いるサザンブロット分析で正しいことが確認された。
(振盪フラスコ実験におけるガラクトースを代謝し得るN−アセチルグルコサミン生産株の評価)
ガラクトースを代謝し得るN−アセチルグルコサミン生産株(7107−325#1、7107−326#1、7107−327#1および7107−328#1)を振盪フラスコ実験で試験した(表34)。0.6g/lのMgSO4・7H2Oおよび0.05g/lのCaCl2・2H2Oを補充したM9B培地を含むフラスコ中で株を試験した。スクリーニング54および55には0.2mg/lのFeSO4・7H2O、0.015mg/lのNaMoO4・2H2O、0.001mg/lのH3BO3および0.001mg/lのCoCl2・6H2Oの微量金属を補給し、スクリーニング59および66には0.5mg/lのFeSO4・7H2O、0.38mg/lのZnSO4・7H2O、0.033mg/lのMnSO4・H2O、0.01mg/lのCuSO4・5H2Oおよび0.01mg/lのCoCl2・6H2Oの微量金属を補給した。表34に示す様に、様々な量のグルコース(Glu)、ラクトース(Lac)、酵母抽出物(YE)およびホエーパーミエート(FormostWhey、Wisconsin)をフラスコ中に使用した。スクリーニング54および55では、培養細胞を225rpmで浸透して30℃で24時間生育させ、次いで実験の残りの期間、225rpmで浸透して25℃に置いた。スクリーニング59および66では、培養細胞を225rpmで浸透して30℃で8〜10時間生育させ、次いで実験の残りの期間、225rpmで浸透して25℃に置いた。スクリーニング59および66では、10時間でpHを7.2に調節し、培養液がグルコース欠乏である場合は20〜25g/lのグルコースを加えた。四つのスクリーニングの全てで、24および48時間に各培養液のpHを7.2に調節し、グルコースを約30g/lで加え、アンモニアレベルが1g/l以下に低下した培養液では5g/lの(NH4)2SO4を加えた。スクリーニング66および30では、必要あれば30および54時間でグルコースを加え、pHを7.2に調節し、アンモニアレベルが1g/l以下に低下した培養液では5g/lの(NH4)2SO4を加えた。四つのスクリーニングの全てで、試料を24および/または48時間で採取し、培養上澄中のN−アセチルグルコサミンおよびグルコサミン濃度をHPLC炭水化物カラムを用いて測定した。
異なった試料中のN−アセチルグルコサミン濃度が表34に示される。実験から、ある条件かでは、galK部位の変わりにnagΔ部位にT7lac−glmS*54を組み込むことで、N−アセチルグルコサミンの生産を改善されることが結論できる。予想通り、galK部位の変わりにnagΔ部位にT7lac−glmS*54を組み込むことでガラクトースの蓄積がなくなった。
(表34.異なった生育条件下でのN−アセチルグルコサミンおよびグルコサミンレベル)
*対照:非グルコースユーザー株7107−92
他の全ての株はグルコースユーザー同胞株
Glu=グルコース、Lac=ラクトース、YE=酵母抽出物、WP=ホエーパーミエート
(1リッター醗酵槽におけるガラクトース代謝可能なN−アセチルグルコサミン生産株の評価)
ガラクトースを使用可能な株(7107―325#1および7107−328#1)をガラクトース非ユーザー株(7107−92#1)と1リッター醗酵槽中で比較した。醗酵槽を以下の培地を含む初期容積475mlに設定した:H3PO44.79g/l、KOH3.15g/l、クエン酸・H2O 3.65g/l、(NH4)2SO45g/l、MgSO4・7H2O2.5g/l、CaCl2/2H2O0.05g/l、微量金属(FeSO4・7H2O5mg/l、ZnSO4・7H2O3.75mg/l、MnSO4・H2O0.6mg/l、CuSO4・5H2O0.1002mg/mL、およびCoCl2・6H2O0.1002mg/l)、およびMazu204消泡剤。45%KOHを使用してpHを7.0に調節した。75%NH4OHを使用したpH(6.9)を保ち、温度を37℃に保ち、曝気と攪拌速度を利用して溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に保った。コンピュータープログラムで制御して65%グルコースを培養液に供給し、接種時の生育速度を0.4/時間、6時間で最高速度5ml/時間を達成した。グルコースを連続的に供給し、食品グレードラクトースを加えて培養を誘導した。
醗酵実験中の約10、21、28、35、45、52および60時間で7種の試料を採取した。各試料につき、培養の健全性をモニターするためのいくつかの他の成分の濃度に加えて、N−アセチルグルコサミンおよびガラクトース濃度をHPLC炭化水素カラムを用いて測定した。予想通り、対照株7107−92#1からの培地にはガラクトースが検出されたが(試料7で0.6g/l)、7107−325#1および7107−328#1株が存在する培地ではガラクトースが蓄積しなかった。ガラクトースを消費し得る株では、この様な条件下でGlmS*54を発現することがN−アセチルグルコサミンの生産を改善しなかった。しかしながら、この醗酵に用いた培地は7107−92#1株に対して最適化されている。最適性能のためにはグルコースユーザー株は若干異なった醗酵条件を要求すると考えられる。7107−325#1および7107−328#1株が、7107−92#1株より多い量のN−アセチルグルコサミンを生産し得る培地を作成可能であると考えられる。従って、galK部位の代わりにnagD部位へT7−lac−glmS*54発現カセットを組み込むことで、N−アセチルグルコサミンおよびグルコサミン生産が有利になることが予想される。
N−アセチルグルコサミン生産用醗酵プロセス開発
(実施例30)
本実施例はScGNA1プラスミドを含む株によるNGA凄惨の最適化のための振盪フラスコ実験を説明する。
ScGNA1の過剰発現によりE.coliグルコサミン生産株中で高レベルのNAGが得られることが確定したので、次に工程はHAG生産条件を最適化することである。用いられたアプローチは振盪フラスコ中で過剰発現の酢酸を製造せず、細胞密度、従ってNGA力価を増すことである。プラスミドpET24d(+)のT7プロモーター由来のScGNA1の発現を、最初の最適化実験で用いた。
(酵母抽出物の添加と遅延誘導)
7107−87#25中における酵母抽出物添加の生育に対する効果、酢酸の蓄積およびNAG生産を振盪フラスコで試験した。0.2mMIPTGによる早期および遅延誘導の効果も試験した。株をM9B培地(上記)中で生育させたが、(NH4)2SO4を7.5g/lに減少させた。M9B培地に30g/lのグルコース、0.6g/lのMgSO4・7H2O、0.05g/lのCaCl2・2H2Oおよび25mg/mlのカナマイシンを補充した。遅延誘導の場合を除いて0.2mMのIPTGをフラスコに添加したが、遅延誘導では接種の24時間後に加えた。対照フラスコには酵母抽出物を添加しなかった。試験フラスコでは、酵母抽出物(0.5〜4.0g/lの範囲)を実験開始時、または接種後24時間で添加した。培養細胞を24時間まで30℃で生育し、その後25℃に置いた。24および48時間で、5g/lの(NH4)2SO4および20g/lのグルコースを各フラスコに添加し、pHを7.2に調製した。
表35に見られる様に、酵母抽出物の添加により生育とNAG生産が増加した。事実、実験開始時に4g/lの酵母抽出物得を添加したフラスコで成績が最も良く、対照フラスコ中で2.9g/lのNAGを生産したのに比較して8.9g/lのNAGを達成した。しかしながら、フラスコ中に3.0g/lの酢酸も蓄積した。酵母抽出物を24時間の生育後に添加したフラスコでは、実験開始時に酵母抽出物を添加したフラスコと同程度の生育を示したが、酢酸の蓄積は少なかった。しかしながら、これらの条件下で4g/lの酵母抽出物を含むフラスコ中ではNAG生産は48時間で4.9g/lに過ぎなかった。さらに、遅延誘導のフラスコでは、NAG生産が遅れたが、0.2mMのIPTGで初期に誘導したフラスコより生育は良かった。このことは、N−アセチルグルコサミン合成の誘導が細胞生育に何らかの負の効果を有することを示唆している。
(表35.7107−87#25株における酵母抽出物添加および遅延誘導の生育、酢酸蓄積およびNAG生産に対する効果)
1)結果は48時間の時点
(様々な糖と酵母抽出物の添加)
7107−87#25株における生育、酢酸蓄積およびNAG生産に対する酵母抽出物を含む様々な糖の効果を評価するため、振盪フラスコ実験を行った。株をM9B培地(上記)で生育させたが、(NH4)2SO4を7.5g/lに減少させた。M9B培地に0.6g/lのMgSO4・7H2O、0.05g/lのCaCl2・2H2Oおよび25mg/mlのカナマイシンを補充した。以前の実験で酵母抽出物の正の効果が見られたので、フラスコ中に5g/lの酵母抽出物を加えた。0.2mMのIPTG、および様々な濃度の糖、すなわちラクトース、グルコース、フラクトースおよびリボースを表36に示す様に加えた。注意すべき重要なことは、ラクトースの存在で生育させた7107−87#25株はラクトース誘導性であり、IPTGを要求しないことである。培養細胞を30℃で24時間生育させ、25℃に変えた。
約24時間で、各培養液のpHを7.2に調節し、各フラスコに2.5g/lの(NH4)2SO4を加え、HPLCの結果に基づいてグルコースを1日当たり30g/lで加えた。32.5時間で15g/lのグルコース、2.5g/lのリボース、および2.5g/lの(NH4)2SO4をフラスコ7に加えた。48時間で10g/lのグルコースを各フラスコに加えた。さらに2.5g/lのリボースと5.0g/lの(NH4)2SO4を49.5時間で各フラスコに加えた。24、48および72時間に試料をフラスコから取り出し、OD600、N−アセチルグルコサミンレベルおよびグルコサミンレベルをモニターした。
(表36.7107−87#25株における様々な糖混合物の生育、酢酸蓄積およびNAG生産に対する効果)
1)72時間の時点の結果
2)全てのフラスコは酵母抽出物を含む
表36に示す結果は、3種の糖(ラクトース、グルコースおよびリボース)は生育を良く幇助し、NAGがかなり蓄積する結果となった。フラクトースを含むフラスコではNAGの力価が9.1g/lに達したが、OD600は高くならなかった。フラクトースまたはラクトースを含むフラスコ中にグルコースを初期に加えると、生育とNAG力価が共に改善した。しかしながら、初期にグルコースとフラクトースの両方を含むフラスコで最良の結果が得られた。
NAGまたはGlcNで生育できないE.coli単離体が文献に報告されている(J.Bac.、1970、101:384−391)。著者は、アミノ糖燐酸の蓄積がホスフォヘキソースイソメラーゼとグルコース−6−燐酸デヒドロゲナーゼで触媒される反応を阻害し、ペントース欠乏になると推論した。ペントースまたはグルコースの添加が突然変異株の生育阻害を反転した。NAG生産株7107−87#25もアミノ糖燐酸(GlcN−6−Pおよび/またはGlcNAc−6−P)を蓄積し、ペントース欠乏になる。この場合、リボースまたはグルコースの添加により生育とNAG生産が改善されると考えられる。事実、リボースの添加で生育とN−アセチルグルコサミン生産が改善された。この実験で、20g/lのグルコース+10g/lのリボースを含むフラスコは最高レベルのNAGを生産し、27g/lに達した。これは30g/lのグルコースを含むフラスコ中で生産された量の2倍である。リボースとグルコースの両方を含むフラスコでも生育は改善された。
(グルコースおよびリボースレベル)
以前の実験は、グルコースを含むフラスコにリボースを添加することは、7107−87#25株のNAG生産に相当な正の効果を有する。異なったグルコース/リボース混合物の生育およびNAG生産に対する効果を試験するため、振盪フラスコスクリーニング#35が行われた。0.6g/lもMgSO4・7H2O、0.05g/lのCaCl2・2H2O、25ml/mlのカナマイシン、0.2mMのIPTG、および5.0g/lの酵母抽出物を補充したM9B培地(上記)中で7107−87#25株を生育させた。様々なグルコースとリボースの混合物を、表37に列記する様に各フラスコに添加した。培養細胞を30℃で24時間生育させ、次いで25℃に移した。約24および48時間で、フラスコのpHを7.2に調節した。24時間で5g/lの(NH4)2SO4を全てにフラスコに添加した。さらに2.5g/lの(NH4)2SO4をフラスコ4〜9に添加し、29時間でさらに5.0g/lの(NH4)2SO4をフラスコ10〜15に加えた。約48時間で、5g/lの(NH4)2SO4をフラスコ7〜9に加え、2.5g/lの(NH4)2SO4をフラスコ10〜15に加えた。24および48時間に、グルコースレベル約30g/lに調節するためにグルコースを添加した。24、29、48および72時間に試料をフラスコから取り出し、OD600,N−アセチルグルコサミンレベルおよび酢酸レベルをモニターした。酵素分析のため、選択したフラスコを72時間で収穫した。
表37に見られる様に、グルコースが残っている限りグルコース濃度はNAG生産に重大な影響を及ぼさなかった。一方、僅か5g/lのリボースでNAGレベルが大きく増加し、リボースがない場合の約14g/lに比べてフラスコ4、5および6で72時間で約30g/lに達した。10G/Lのリボースで最良の結果が見られた。これらのフラスコでNAGレベルは72時間で約36g/lに達した。リボースを含む培養液中で生育も正の影響を受けた。選ばれたフラスコからの酵素分析は、GlmSまたはGNA1双方の活性レベルが培地中にリボースが有っても無くても同じであり、リボースの添加がこれらの酵素の活性レベルに直接影響しないことを明らかにした。このことは、リボース添加の効果が、ペントース燐酸経路中間体の不足が解除される結果である可能性が高いことを示唆している。
(表37.7107−87#25株における生育、酢酸蓄積およびNAG生産に対するグルコースおよびリボースの効果)
1)72時間の時点で得られた結果
2)全てのフラスコは酵母抽出物を含む
(ペントース燐酸経路のリボースおよび他の中間体)
グルコースおよびリボース中で生育した培養細胞で見られた正の結果に基づき、振盪フラスコスクリーニング#36を行って、いくつかの他の五炭素糖とグルコン酸の、生育とNAG生産に対する効果を測定した。7107−87#25株を、0.6g/lのMgSO4・7H2O、0.05g/lのCaCl2・2H2O、5.0g/lの酵母抽出物、25mg/lのカナマイシンおよび0.2mMのIPTGを補充したM9B培地(上記)中で生育させた。グルコース、リボース、キシロース、アラビノースおよびグルコン酸(カリウム塩)を表38に示す様にフラスコに加えた。培養細胞を30℃で24時間生育させ、次いで25℃に移した。24および48時間でpHを7.2に調節した。約24時間で、24時間の試料からのHPLCの結果に基づいてグルコースを1日当たり30g/lで添加した。全てのフラスコに5g/lの(NH4)2SO4を加えた。24および48時間に10g/lのリボースをフラスコ11および12に加え、48時間で5g/lのリボースをフラスコ3および4に加えた。28.5時間にさらに10g/lのグルコン酸をフラスコ10に加えた。グルコースレベルを約30g/lに調節するため、48時間にグルコースを添加した。さらに、5g/lの(NH4)2SO4をフラスコ11および12に加えた。試料を24、30、48、54および72時間に各フラスコから取り出し、OD600、N−アセチルグルコサミンレベルおよび酢酸レベルををモニターした。選択したフラスコを72時間で収穫し、酵素分析を行った。
(表38.五炭素化合物とグルコン酸の生育とN−アセチルグルコサミン生産に対する効果)
1)72時間の時点からの結果
2)さらにリボース(10g/l)を24および48時間でフラスコ11および12に添加
3)全てのフラスコは酵母抽出物(5.0g/l)を含む
さらにペントースとグルコン酸を添加すると、対照と比較してNAG力価と生育が改善した(図18)。これらの培養液も対照より酢酸レベルが低かった。リボースを添加するとNAG生産がより高くなった。グルコン酸は他の糖より高価でないので、工業スケールで生産するのに魅力的である。グルコン酸の添加により対照株と比較してNAGの生産が増加したので、工業的醗酵でペントース欠乏を解除するのにグルコン酸が潜在的な価値を有することが、この実験で確認される。選ばれたフラスコからの酵素活性レベルは、N−アセチルグルコサミン生産に対するリボースとグルコン酸の劇的な効果が、GlmSまたはGNA1の活性の影響に帰せられないことを示している。異なったグルコース/リボースレベルの生育と生産に対する効果を比較する振盪フラスコスクリーニングで見られる様に、醗酵培地中にリボースが有っても無くても活性レベルは同程度である。
(実施例31)
本実施例はScGNA1プラスミドを含む7107−87#25株を用いる、NAG生産を最適化するために1リッターフラスコ中で行われた実験を説明する。
(IPTG誘導のタイミング)
実験を行って生育の開始および24時間後からのIPTGによる誘導を評価した(細胞密度13g/l)。生育は初期誘導で大きく阻害され、図19に見られる様に遅延誘導(70時間で50g/l)と比較してNAG力価も極めて低かった(<5g/l)。細胞中に蓄積したアミノ糖燐酸がペントース燐酸経路の特定の酵素を阻害するので、生育が阻害されると信じられている。この仮説は、ペントース燐酸中間体の細胞生育とNAG生産に対する正の効果の発見で支持される。
(ペントース燐酸経路(PPP)中間体の効果)
醗酵槽に細胞を低(OD=20)、中間(OD=30)および高(OD=40)の3種の異なった密度で接種した。遅延誘導スキームを用いた(接種後約24時間での誘導)。より高い細胞密度接種により、より高いNAG生産が得られた。接種細胞密度に拘わらず、リボースの添加で遅延誘導スキームでもNAG生産の改善が見られた。
(実施例32)
本実施例は、組み込みScGNA1コンストラクトを含む株を用いる、NAG生産を最適化するための異なった醗酵実験を説明する。ScGNA1プラスミドを含む株による先の実験では、ラクトースが極めて効率的でなかったので、NAG生産を誘導するためにIPTGを使用する必要があった。組み込みScGNA1コンストラクトでは、NAG生産をラクトース添加で効果的に誘導することができた。
(ラクトース誘導)
染色体に組み込まれたScGNA1コンストラクトのコピーを1個含む7107−92#1株の開発により、NAG生産のためのラクトース誘導プロセスの開発が可能になった。初期IPTG誘導による生育阻害を示す振盪フラスコの結果を考慮して、遅延誘導スキームを醗酵槽中で試験した。細胞を最初に接種し、細胞密度約15〜20g/lに生育させた。次いでグルコースの供給を停止し、ラクトースを10、20または30g/時間で供給した。その後、細胞の連続生育とNAG生産のためにグルコースの供給を再開した。10g/lの低いラクトースレベルが有効であり、78時間で時間当たり50g/lに達することが分かった。
ラクトース供給法が異なるとプロセスが複雑になるので、異なったオプションを評価するために一つの実験を行った:不連続グルコース供給によるラクトース供給10g/l、グルコース連続供給によるIPTG誘導、およびグルコースを供給、または供給せずに10g/lラクトースの一点供給。条件を変えた別な試験では、ラクトース供給を40g/lに増やし、その後グルコースを供給した。1点ラクトース供給は他の誘導戦略と同様に有効であった。全ての試験で45〜55g/lのNAG生産レベルを達成した。グルコース供給は連続的であるが、その濃度はやはり細胞を制約する(添加すると即座に消費される)。通常はlacオペロンがグルコースの存在で抑制されるので、グルコース供給の制限は明らかにラクトース誘導に対して非抑制条件となる。1点ラクトース添加を用いることで、プロセスが簡略化された。
初期生育期間後の1点ラクトース誘導のレベル(1.25〜10g/l)を実験で評価した。2点誘導(各5g/l)も試みた。1.25g/lの低いラクトースレベルが極めて有効で、約100g/lの力価に達した。しかしながら、5g/lのラクトース誘導では100g/l以上のNAGレベルに達した。従って、5g/lでのラクトース誘導を以後の試験で安全レベルとして用いた。2点誘導も有効で、より速い初期NAG生産速度が得られたが、5〜10g/lのラクトースで最終力価は1点誘導の力価を越えなかった。
(より高い操作pHおよび温度の効果)
主として高いpHと温度で活性であるGLcNの性質のため、低い温度とpHを使用することがGLcN醗酵を安定化する鍵になる因子であった。しかしながら、NAGが中性pHで安定であることが示された。実験プログラムを通じてNAG生産のための醗酵をpH7.7〜7.0の範囲で行った。実験データから、37℃およびpH7.0でグルコース供給を停止後もNAGは少なくとも50時間安定であることが示された。
GlcNプロセスで使用された比較的低い温度(30℃および25℃)はコストが高く、工業スケールでは維持することが困難である。さらに、細胞生育速度は37℃より30度ではるかに低い。30℃の温度を用いることは、高レベルNAG生産のためのバイオマスを達成するために比較的長い時間が必要になる。従って、誘導前の4つの異なった生育速度を評価するために、37℃で試験を行った。この方法では、必要なバイオマスをより速く達成することが可能で、総体的により生産性の高いプロセスが得られた。30℃で必要であった22〜24時間に対し、全ての醗酵槽は10時間で誘導され、生産性が高く、50時間以内で100g/l以上のNAGを達成した。ある場合は70時間で約120g/lを達成した。この時点以降、生育および生産温度として37℃を使用した。
(グルコース供給速度の効果)
見掛け速度6g/l・時間(接種後の容積に基づく)をほとんどの試験で用いた。グルコース制限でNAG生産速度が制約されるかどうかを調べるため、より高いグルコース供給速度を試験した。供給速度を7.5g/lに増加することで初期NAG生産速度がより速くなったが、最終力価は高くないか、速く到達しなかった。さらに供給速度を9.5g/l・時間に増加すると、さらに速い初期NAG生産速度を示した。しかしながら、これらの培養はより早く生産を停止する様に思われ、実際に最終力価が減少した(NAG85から65g/lへ)。同じ実験で、遅い供給速度(6g/l・時間)でNAGレベル100g/lが得られた。この時点以降、NAG発酵におけるグルコース供給速度を6.5g/l・時間に保った。
(燐酸レベルの効果)
発酵培地は30g/lの高濃度の全燐酸カリウム塩を含む。ほとんどの塩が細胞で使用されず、生成物生成中に除去しなければならないので、高濃度の燐酸塩は回収に重大な問題を提示した。NAGプロセスでは、高燐酸レベルが必須であることは示されていない。全燐酸を四分の一の7.5g/lに減少したが、NAG生産にはほとんど影響がなかった。この燐酸レベルを以後の実験に用いた。
(マグネシウムおよび鉄の重要性)
マグネシウムと鉄は高いバイオマスを達成するために必要な二つの栄養素であり、培養を安定させる。GlcNAcの生産では、鉄レベルが制限因子の一つであることが分かった。高いバイオマスとラクトース誘導を達成するためにあるレベルが必要であるが、鉄が多すぎると酢酸レベルが高くGlcNレベルが低くなる。GlcNプロセスで決定された鉄レベルは培地中に3mg/lのFeSO4・7H20、グルコース供給中にFeSO4・7H2Oを含む鉄の補給(5μg/gグルコース)であった。初期のNAG生産実験でも同じ鉄レベルが選ばれた。グルコース供給に鉄を加えることはプロセスを複雑にする。従って、初期鉄濃度と鉄の供給を評価する努力がなされた。マグネシウム供給の効果も検討された。
最初の実験結果は、5〜10mg/lのFeSO4・7H20レベルで同程度のNAG生産レベルが得られ、鉄レベルはGlcN生産でさほど重要ではないことを示した。鉄、マグネシウムについての追加実験で、鉄の補給が全く必要でないことが示された。マグネシウムの補給は安定化効果を有する様に思われる。この試験は7.5g/l・時間の高い供給速度で行われ、6.5g/l・時間の別な追加実験は生産性が有意に低下せず両者を供給液から除去し得ることを示した。
鉄とマグネシウム両者の重要性は認められるが、供給液からそれらを除去することは生産プロセスを簡略化する観点から望ましい。従って、グルコース供給から鉄とマグネシウムを除外し、鉄をMgSO4・7H2O0.6g/lの初期濃度に保った。マグネシウムをMgSO4・7H2O0.6g/lの初期速度で添加し、使用された場合はグルコー
ス供給中に5〜10mg/g・グルコースで補給した。
マグネシウムも培養に重要であると認識され、制限してはならない。マグネシウムはある滅菌条件下(過剰発現の熱、暴露時間およびpH)で燐酸により隠蔽され、不溶性燐酸塩沈殿として微生物が利用できなくなる。過剰のマグネシウムまたは制限マグネシウムを用いるフラスコ実験では、マグネシウムレベルが実際にNAG生産に重要であり、マグネシウムレベルが高い場合は、滅菌後にマグネシウムを添加することは沈殿効果を低減するために望ましいことが示された。滅菌の前後でマグネシウムの添加を比較するための実験が行われた。その結果、滅菌前にマグネシウムを添加した培養の効率は悪いことが示された。
初期マグネシウムレベルを1g/lのMgSO4・7H2Oへほぼ倍増し、滅菌後に増加する場合、または添加クエン酸レベルを増加し滅菌前にマグネシウムを酸性にする場合、実験からこのレベルを使用し得ることが示された。このことは、プロトコールの単純化に極めて前向きの意味を持っている。酸性にすることにより、全ての微量元素を滅菌前に添加することを可能にする。従って、グルコースを除く全ての成分を滅菌前に添加し得る培地調製プロトコールが開発された。初期の培地の酸性化は、燐供給のために燐酸カリウム塩を供給する代わりに燐酸を用いて行われた。培地にカリウムを供給する水酸化カリウムで、滅菌後にpHを必要な操作pH(7.0)に調節した。しかしながら、この方法は不必要に多量のカリウムを導入した。培地を酸性にするために1塩基燐酸カリウムを使用し、滅菌後に水酸化アンモニウムでpHを調節することでプロトコールをさらに変更した。これにより、培地から硫酸アンモニウム除去を可能にしてさらにプロトコールを簡略化した。
(微量元素の除去および亜鉛の重要性)
最初は微量金属パッケージは、μg〜mg/l量で添加される以下の元素の塩で構成された:鉄、亜鉛、マンガン、銅、コバルト、モリブデンおよび硼素。最終製品中に存在する場合、モリブデンと硼素は毒性を示すが、その他の元素の効果は未知である。従って、どの元素を除去し得るかを決めるための1種除去の実験が行われた。最初の試験ではモリブデンと硼素両方の除去はNAG生産に重大な負の効果を与えず、以後の実験ではこれらを除去した。コバルトの除去も正の効果を有する様に思われるが、ビタミンB11の全機能に必要であると認められるので、コバルトを除去せず、その後の実験は除去する効果を示さなかった。
亜鉛の除去の結果はNAG生産に正の効果を示した。さらに検討した結果、完全に亜鉛を制限するとバイオマスレベルが低下し、60時間で118g/lまでNAGレベルが実質的に増加することが示された。10mg/lまでのFeSO4・7H2Oの高い初期鉄レベルでも使用し得るので、このことは特に興味がある。
(実施例33)
本実施例はNAG生産のための好ましい発酵プロトコールを説明する。発酵プロトコールは以下に示される。
株:組み換えE.coli
誘導:細胞密度15〜20g/lに達した後、5〜10g/lのラクトースを1点添加で加えた。この手順中、グルコースの供給を停止しなかったが、6.5g/lで一定(初期容積に対し)にした。
供給:修正せず65%グルコースを制限濃度で供給
発酵時間:60〜72時間
発酵法:バッチ供給、必要に応じ65%グルコース供給。グルコース制限濃度維持
接種:2.5〜5容積%
pH:終始6.9、12N NH4OHで制御
温度:終始37℃
酸素:溶存O220%以上m攪拌で制御
曝気:0.5〜1vvm
培地:
グルコース(後に添加)以外の全ての成分を滅菌前に添加した。滅菌後の初期pHは約3.0であり、接種前にMH4OHで6.9に調製した。
(実施例34)
本実施例は二回の結晶化によるN−アセチルグルコサミンの精製を説明する。
濾過またはミクロ濾過により発酵ブロスから細胞を除去した。発酵条件条件により、溶解固形分中のN−アセチルグルコサミンの割合は70〜87%の範囲であった(乾燥固体に対する重量%)。従って、粗N−アセチルグルコサミン生成物を精製しなければならない。これは粗ブロス中のN−アセチルグルコサミンの純度を増すための陽イオンおよび陰イオン脱塩工程の組み合わせで行われる。異なった結晶化プロトコールを使用し得る。以下の実施例は、N−アセチルグルコサミン精製のプロトコールと条件を確立するための異なった実験を説明する。例示した様に、98%以上の純度のN−アセチルグルコサミンが実施例34、35、36、40および41で説明した方法を用いて得られた。実施例37に記載の方法で純度をさらに増進させた。
Supelcosil LC−18−DB(250×4.6mm、5μm;Superco、Bellefonte、PAから入手)と、1ml/分の10%(v)アセトニトリルを用いてN−アセチルグルコサミンを液体クロマトグラフィーで測定した。市販N−アセチルグルコサミン(Sigma、≧99%)を外部標準として用いて、N−アセチルグルコサミンを210nmで測定した。注入容積が4μlである場合、5g/lのN−アセチルグルコサミンまで検出器は直線の応答を示した。試料と標準試料を約3g/lで日常的に調製し、少なくとも2回注入した。ピーク面積の偏差は平均値から2%以下であった。
溶解固形分中に70%(w)のN−アセチルグルコサミンを含む発酵試料(39g/l)に活性炭(100メッシュG−60、NoritAmericans、Atlanta、GAから入手)を加え、混合物を室温で1時間攪拌、濾紙を用いて濾過した。濾液の色は減少し、淡黄褐色であった。固形分の量を測定し、固形分中のN−アセチルグルコサミンの割合は75%(w)であった。
77.5%の溶解固形分を含む上記の活性炭処理試料(そのうち58.1%はN−アセチルグルコサミン)を真空中、45〜50℃で固形分51%(w)に濃縮した(濃縮中に固形分の損失がないとして試料重量から計算)。時々攪拌しながら濃縮液を室温に放置した。沈殿物を中程度の濾紙上に濾過で集め、100mlの水に溶解した。固形分含有量は19.7%(w)であった(全固形分量16.2g)。
次に溶解した試料を溶解固形分44%(w)に再度濃縮した。約2mgの純N−アセチルグルコサミン粉末を加え、試料をシェーカー上で室温で2時間混合した。沈殿を濾過で集め、エタノールで洗浄した(固体を懸濁せずに2回、懸濁して2回)。重量が一定になるまで白色固体を真空下に室温で乾燥し、5.32gの製品を得た(98%のN−アセチルグルコサミン、全発酵液からの回収率9%)。
(実施例35)
本実施例は50℃から1回の結晶化によるN−アセチルグルコサミンの精製を説明する。
溶解固形分中に87%(w)のN−アセチルグルコサミンを含む別バッチの発酵試料を実施例34と同様に活性炭で処理した。溶解固形分の量を測定し、固形分中のN−アセチルグルコサミンの割合は88%(w)であった。80.5gの固形分(その71gはN−アセチルグルコサミン)を含む活性炭処理試料を固形分45%(w)に真空下で45〜50℃で濃縮し(濃縮中に固形分の損失がなかったとして重量から計算)、室温で16時間振盪した。中程度の濾紙上に沈殿を濾過で集め、エタノールで洗浄した(固体を懸濁せず2回、固体を懸濁して2回)。真空下で乾燥後、33.2gの白色固体を得た(純度100%のN−アセチルグルコサミン、回収率47%)。
(実施例36)
本実施例は70℃から1回の結晶化によるN−アセチルグルコサミンの精製を説明する。
活性炭処理発酵試料から1回の結晶化で部分精製N−アセチルグルコサミンが得られる(実施例34)。結晶化前の濃縮度と溶解固形分中のN−アセチルグルコサミンの初期割合により、N−アセチルグルコサミンの純度は86〜90%の範囲であった。
86%または90%のN−アセチルグルコサミンを含む固体試料を水と混合して固形分44%(w)とした。混合物を時々混合して70℃に加熱し、固体を溶解した。次いで約16時間、室温に放置した。結晶を濾過で集め、エタノールで洗浄した(固体を懸濁せず2回、懸濁して2回)。真空下に室温で乾燥後、生成物は99%のN−アセチルグルコサミンを含んでいた(回収率24〜20%)。
(実施例37)
本実施例は陽イオン交換処理によるN−アセチルグルコサミンの精製を説明する。
陽イオン交換カラムへ通す供給液として脱色発酵ブロスを使用した。カラムは1.6×15cmで、20gの水素型DOWEX(商標)Monosphere88樹脂(DowCorp.、Midland、MIより購入)を含んでいた。PharmaciaFPLC(商標)セット(AmershamBiosciences、Pitscataw
ay、NJより購入)を用いて4℃で実験を行った。供給液は固形分換算でN−アセチルグルコサミン約76%、電導度10.5mS/cm、pH約6.5であった。材料を1ml/分の速度でポンプ送液した。初期流出pHは約2.3であった。カラム許容量に達するとpHは上昇し、流入液と実質的に同じになった。約125mlで電導度は10.5mS/cm付近から2.5mS/cm付近に低下した。pHが上昇すると電導度も増加した。固形分換算で測定したN−アセチルグルコサミンの純度もpHが約2.5である間に急激に上昇した。純度はN−アセチルグルコサミン約85%に上昇した。カラム容量が飽和すると純度も低下し、200mlで本質的に流入液と同じであった。N−アセチルグルコサミン純度は陽イオン処理で増加した。
(実施例38)
本実施例は陰イオン交換処理によるN−アセチルグルコサミンの精製を説明する。脱色し陽イオン交換樹脂で処理したN−アセチルグルコサミンブロスを陰イオン交換樹脂DowMonosphere77の流入液として使用した。実験条件は上記の陽イオン交換樹脂の実験と同じであった。固形分換算で流入液のN−アセチルグルコサミン純度は約81%であり、電導度は3.8mS/cm、pHは約3.0であった。流出液のpHは急激に8.0付近に上がり、その後250mlで約3.8に下降した。電導度は急激に1mS/cm以下に下降し、実験中そのレベルに止まった。N−アセチルグルコサミン純度も上昇し、実質的に高いままであった。N−アセチルグルコサミン純度は流入液の純度約81%から約87%に増加した。
陽イオンと陰イオンの組み合わせ処理は、残乾固形分換算でN−アセチルグルコサミン純度を実質的に上昇させる簡単な方法を提供する。
(実施例39)
本実施例は活性炭と混合ベッドイオン交換による発酵ブロス処理を説明する。
発酵ブロスを最初に実施例34に記載の通り活性炭で処理し、次に製造業者の推薦に基づき混合ベッドイオン交換樹脂AG501−X8(D)カラム(Bio−Rad、Hercules、CA)で処理した。試料を徐々に負荷し、重力で流出させた。試料負荷量は青色指示薬が金色に代わることで示される、2/3飽和であった。溶解固形分中に最初に70%(w)および87%(w)のN−アセチルグルコサミンを含む試料が、最終的に溶解固形分中でそれぞれN−アセチルグルコサミン純度89%(w)および93%(w)を示した。
(実施例40)
本実施例は精製N−アセチルグルコサミンの安定化を説明する。
上記結晶化で生成したN−アセチルグルコサミン試料(純度98)は、105℃、2時間で淡褐色に変わり、重量減4.7%であった。加熱によるこの色変化と重量減はイソプロピルアルコール(IPA)を含む以下の処理(以下に記載)でなくなった。IPA(イソプロピルアルコール)はN−アセチルグルコサミンの沈殿と105℃での試料の着色の除去に有用な試薬である。しかしながら、IPAの代替として同じ効果を得るために、当業者はアセトニトリルまたはエタノール等の水混和性有機溶剤を選ぶことが可能である。
(予備加熱後の水/IPA沈殿)
試料(0.30g)を105℃で2.5時間加熱した。室温に冷却後、0.7mlの水を加えて黄色の懸濁液を作成した。IPA(2.8ml)を加え、混合物を2時間攪拌した。沈殿を濾過で集め、固体を懸濁してIPAで2回洗浄した。母液は淡黄色であった。重量が一定になるまで固体を真空下で乾燥した(0.18g、回収率60%)。
(80:20または85:15のIPA/水(v/v)中の浸漬処理)
固体1g当たり5または12mlの混合溶媒で、試料を80:20または85:15のIPA/水中で3時間または終夜攪拌した。回収率(上記と同じ手順)は56〜67%であった。
(溶解およびIPAでの沈殿)
試料(0.50g)を2.27mlの水に溶解した。IPA(12.86ml、IPA/水=85:15v/v)を加え、混合物を室温で終夜攪拌した。回収手法(56%)は上記と同じであった。
(水に溶解後、濃縮およびIPAでの沈殿)
試料(89.6g)を固形分20%(w/w)で水に溶解した。溶液を真空下に45〜50℃で濃縮した。固形分濃度が約42%(w/w)に達した時、沈殿を生成し始めた。溶液を55%固形分にさらに濃縮した(濃縮中に固形分の損失がないとして、全試料重量換算で計算)。IPAを加え(IPA/水=85:15v/v)、終夜攪拌した。固体を濾過で集め、固体を懸濁してIPAで2回洗浄した。母液を濃縮乾固して13gの湿った固体を得、これを次いで20mlの85:15IPA/水(v/v)中に懸濁した。固体を濾過し、IPAで2回洗浄した。この固体を最初の濾過の後に得られた固体と合わせ、一定の重量になるまで真空下で乾燥した(82.1g、N−アセチルグルコサミン98%、回収率92%)。
(実施例41)
本実施例はIPAによるN−アセチルグルコサミンの精製を説明する。
より高い回収率を得るため、N−アセチルグルコサミンの精製にIPAを使用した。N−アセチルグルコサミンを沈殿し、全ての不純物を溶液中に残すためIPAと水の混合物(おそらくv/v比で70:30〜85:15)を使用した。この様にして得られた精製N−アセチルグルコサミンは105℃で暗色化を示さなかった。この混合溶媒の必要量は、最初の試料中の不純物量と、その溶解度に依存する。
(実施例42)
本実施例はエタノールによるN−アセチルグルコサミンの精製を説明する。95%純度のNAG試料(40g)を160mlの水に溶解した。混合物を攪拌しながらエタノール(640ml)を徐々に加えた。懸濁液を室温で終夜攪拌した。固体を濾過で集め、エタノール中に懸濁して2回洗浄した。真空下で乾燥して16.12gの白色固体を得た(98%NAG、NAG回収率42%)。この物質は105℃、2時間で暗色化を示さなかった。当業者は、同じ結果を得るためにエタノールの代替としてIPA、アセトニトリルまたはメタノールなどの他の水混和性溶剤を使用し得る。
(実施例43)
本実施例はN−アセチルグルコサミンのグルコサミンへの化学的加水分解のためのプロセスを示す。
発酵で製造したN−アセチルグルコサミンを最終製品としてN−アセチルグルコサミンの形で回収し精製し得ることが予期される。発酵で製造したN−アセチルグルコサミンを単離および精製の前後に化学的にグルコサミンに変換することもできる。N−アセチルグルコサミンのグルコサミンへの化学的変換を示すためのパイロット試料実験が行われた。最初の実験で、N−アセチルグルコサミン(グルコースなしのM9A培地中10g/l)を様々なレベルの塩酸で100℃で加水分解した。平行した実験で、加水分解条件下での安定性を測定するため、グルコサミンに同じ処理をした。結果を図21および22に示す。
N−アセチルグルコサミンからグルコサミンへの変換を、加水分解反応で生じたグルコサミンの量をモニターして測定した。Wayらの報告(Journal of Liquid Chromatography and Related Technologies、23:2861、2000)に基づき、グルコサミンをHPLC法で測定した。HPLC法の特定の詳細を以下に記す:カラム:Phenomenex Prodigy ODS(3)C18、5μm(Phenomenex、Torrance、CAから市販)、150×4.6mm;移動相:10mM 酢酸ナトリウム、10mM オクタンスルホン酸ナトリウムを含むメタノール:水性緩衝液(4:1、v:v)(pH5.1);流速:0.7ml/分;検出器:30℃の屈折率検出器。
図21は十分に低いpH(<1)で加熱した場合のN−アセチルグルコサミンのグルコサミンへの定量的な変換を示す。より高いpHでは加水分解を生じないか、または生成したグルコサミンが分解した。図22は、pH1.0以下でグルコサミンが加熱で安定であったことを示す。より高いpHではかなりの量のグルコサミンが失われた。
1.0N塩酸(pH<1)を用いるN−アセチルグルコサミンの酸加水分解を異なった温度で調べた。残存N−アセチルグルコサミン量と生成したグルコサミン量の両方をモニターした。標準炭水化物システムを用いてN−アセチルグルコサミンをHPLCで測定した。特定の詳細を以下に記す:カラム:Bio−Rad HPX−87H、7.8×300mm;移動相:0.1%HNO3水溶液:流速:0.8ml/分;検出器:30℃の屈折率検出器。グルコサミンは上記のイオン対HPLCカラムを用いて測定した。1N塩酸でpH<1.0の酸性にしたM9A培地(本明細書に上記)中のN−アセチルグルコサミン(20g/l)を35℃、60℃および100℃でインキュベーションした。結果を図23に示す。100℃で変換は2.5時間で完結した。生成したグルコサミンの有意な分解は観察されなかった。より低い温度では、ある程度の加水分解が観察されたが、はるかに遅かった。
平行した実験で、グルコサミン(20g/l)を上記の異なった温度で1N塩酸とともにインキュベーションした。HPLCで測定して24時間のインキュベーション後に分解は観察されなかった(データを示さず)。
まとめると、N−アセチルグルコサミンはグルコサミンへ容易に化学的に変換され得、その加水分解生成物であるグルコサミンはこれらの実験で使用された加水分解条件下で極めて安定であることが明らかである。
N−アセチルグルコサミンのグルコサミンへの酸加水分解はグルコサミン製造工程全体の鍵となる工程である。従って、発酵由来の結晶化N−アセチルグルコサミン材料または精製N−アセチルグルコサミンを用いて加水分解実験を行った。
(実施例44)
本実施例は高塩酸濃度および短時間でのN−アセチルグルコサミンの脱アセチル化を説明する。
90℃でのN−アセチルグルコサミンの酸加水分解を行った。塩酸溶液(12%および16%、37%から容積希釈)中のN−アセチルグルコサミン(10%および20%、w/v)を使用した。テフロン(登録商標)ライニングキャップを有する一連の12mlガラススクリューキャップチューブを用いた。各チューブは別々な時点(0分、15分、30分、45分、60分、90分)を表し、2mlのN−アセチルグルコサミン/塩酸溶液を含んでいた。チューブを90℃に平衡した加熱ブロック中で加熱した。チューブを適当な時間に取り出し、氷水中で素早く冷却した。適当な希釈を行い、グルコサミンおよびN−アセチルグルコサミンについて試料をHPLCで分析した。図24はN−アセチルグルコサミンの消失と、グルコサミンの生成を示す。N−アセチルグルコサミン消失の速度論は4種全ての溶液で基本的に同じであった。90℃で加水分解は極めて早い。4つの場合全てで約95%のN−アセチルグルコサミンが30分で加水分解された。45分後、初期濃度のN−アセチルグルコサミンの1%未満が残った。60分または90分でN−アセチルグルコサミンは検出されなかった。90℃で1時間後、20%のN−アセチルグルコサミンでもN−アセチルグルコサミンはもはや検出されなかった。図24はまた、10%グルコサミンを含むチューブ内でのグルコサミンの生成を示す。90分後に、グルコサミンの大きな損失は観察されなかった。
(実施例45)
本実施例は高濃度の塩酸で長期間(24時間)のN−アセチルグルコサミンの脱アセチル化を説明する。
90℃および100℃におけるグルコサミンの分解を、5%および10%(w/w)のグルコサミン塩酸塩を用い、12重量%および20重量%の塩酸で検討した。試料を1〜24時間インキュベーションし、アンモニアをグルタミン酸デヒドロゲナーゼを用いて酵素的に分析した。グルコサミンとはグルコサミン塩酸塩のことである。パーセントは全てw/wである。グルコサミンの分解はアンモニアの生成に基づいている。分解率は5%と10%溶液で基本的に同じであった。酸濃度が高いほど、分解は有意に高かった。100℃の実験でも同様な傾向が見られた。10℃の温度上昇はグルコサミン分解を大きく増加させることは明らかである。
(実施例46)
本実施例は高い塩酸濃度(30%)におけるN−アセチルグルコサミンの化学的脱アセチル化を説明する。
N−アセチルグルコサミンを90℃でハイブリダイゼーション炉を用いてグルコサミンに加水分解した。反応をスクリューキャップガラスチューブの内部で行った。30%塩酸(30g)を90℃で1時間、予備インキュベーションした。この10gの固体N−アセチルグルコサミンを添加後、素早く溶解し、T0試料を採取した。その後の3時間にわたり、試料を30分間の間隔で採取した。30分以内に溶液は速やかに暗橙/褐色に変わった。この暗色化は、より低い酸濃度で以前に観察されたものより明瞭に速かった。45〜60分でかなりの量の固形グルコサミンが観察され、混合物を塩酸中のグルコサミン塩酸塩のスラリーに変えた。試料をアンモニウムで酵素的に分析した。結果が図25に示される。図25はまた、より低い塩酸濃度を用いて90℃で行われたグルコサミン分解実験のデータも示す。かなりのN−アセチルグルコサミンが分解し、アンモニアレベルに基づいた分解は3時間で約3.5%である。これは12%または20%塩酸中でグルコサミンを用いた場合に観察された値より明らかに高かい。
(実施例47)
本実施例はN−アセチルグルコサミンの酵素的脱アセチル化を説明する。
N−アセチルグルコサミンを発酵ブロス中、またはそれを回収後に加水分解する酵素プロセスを以下に述べる。三つのタイプの酵素、すなわちN−アセチルグルコサミン−6−Pデアセチラーゼ(EC3.5.1.25、NagA)、N−アセチルグルコサミンデアセチラーゼ(EC3.5.1.33)、キチンデアシラーゼおよびアシルトランスフェラーゼが候補である。
(N−アセチルグルコサミン−6−PデアセチラーゼおよびN−アセチルグルコサミンデアセチラーゼ)
N−アセチルグルコサミンを脱アセチル化することが示されている酵素が存在する。RosemanはN−アセチルグルコサミンの脱アセチル化を触媒する酵素活性(EC3.5.1.33)を、E.coli、Bacillus cadaverisおよびStreptococcus中に報告した(Roseman S.、1957、J.Biol.Chem.、226:115−124)。日本人のグループ(Yamano、Fujishimaら、Osaka National Research Institute、Agency of Industtrial Science and Technology)は、キチナーゼ生産バクテリアVibrio cholerae non−O1および海洋バクテリアAlteromonas由来のN−アセチルグルコサミンデアセチラーゼを研究した。特定の天然生物由来のN−アセチルグルコサミン−6−PデアセチラーゼおよびN−アセチルグルコサミンデアセチラーゼ双方の調製、性質および用途が以下の特許および文献に開示されている:Fujishima S.ら、1966年、タイトル“N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ(N−acetylglucosamine−6−phosphate Deacetylase)”、JP9234064A2;Fujishima S.ら、1997年、タイトル“N−アセチルグルコサミン−6−燐酸デアセチラーゼ製造プロセス(Process for Producing N−acetylglucosamine−6−phosphate Deacetylase)”、米国特許第5,744,325号;およびFujishimaら、1996年、タイトル“N−アセチルグル−D−コサミン−6−燐酸デアセチラーゼ製造プロセス(Process for Producing N−acetyl−D−glucosamine Deacetylae”、欧州特許第0 732 400 B1号。これらは全文を本明細書に援用する)。
Fujishimaらが報告したデアセチラーゼはN−アセチルグルコサミン−6−Pデアセチラーゼ(EC3.5.1.25、NagA)であると同定された。そのN−アセチルグルコサミン−6−Pとの親和性と効力は、N−アセチルグルコサミンとの親和性と効力よりはるかに高かった。しかしながら、E.coliから精製されたN−アセチルグルコサミン−6−PデアセチラーゼはN−アセチルグルコサミンには作用しない。
酵素N−アセチルグルコサミン−6−Pデアシラーゼ(EC3.5.1.25、NagA)が、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルマンノサミンおよびノイラミン酸の細胞代謝に重要な工程であるN−アセチルグルコサミン−6−Pをグルコサミン−6−Pへ変換する役割を有することは周知である。通常、組み換えE.coli NagAタンパク質などのこの酵素は非燐酸化N−アセチルグルコサミンには活性がない。N−アセチルグルコサミン−6−PデアセチラーゼをコードするDNA配列(nagA遺伝子)が多くの生物で見出されている。N−アセチルグルコサミンのみに活性を有する(従って、NagAとは異なる)デアセチラーゼが存在するかどうかは知られていない。
(キチンデアセチラーゼ)
キチンデアセチラーゼ(EC3.5.1.41)はキチン中のN−アセチルグルコサミンユニットの脱アセチル化を触媒し、キトサンとする。キチンでアセチラーゼ活性は、通常、N−アセチル基において放射標識されたグリコールキチン(部分的にO−ヒドロキシエチル化されたキチン)を基質として使用することによって、決定される。この酵素はミクロ結晶キチンおよびカルボキシキチン(可溶性誘導体)にも作用する。しかしながら、Mucor rouxii由来のキチンデヒドロゲナーゼはN−アセチルグルコサミン単量体または2〜3オリゴマーを脱アセチル化しないことが報告されている(ArakiおよびIto、1975、Eur.J.Biochem.、55:71−78、その全文を本明細書に引用して援用する)。通常のキチンデアシラーゼがグルコサミン単量体を脱アセチル化することは示されていないが、このような活性を有するキチンデアシラーゼ突然変異体を天然から単離または試験管内で創造することは可能である。
N−アセチルグルコサミンの脱アセチル化を、天然型デアセチラーゼを有する生物、または組み換えデアセチラーゼを有する生物に含まれる、またはそれらから単離されるデアセチラーゼを用いて行うことができる。組み換えデアセチラーゼを無秩序または指向性突然変異誘発で改良し得る。
以下にN−アセチルグルコサミンデアセチラーゼおよび/またはN−アセチルグルコサミン−6−Pデアセチラーゼを用いるN−アセチルグルコサミンの加水分解実験を説明する。
(アシルトランスフェラーゼ)
いくつかのアシルトランスフェラーゼが基質からアセチル基を除去し、他の基質に転移し得る(Konecnyら)。この様な酵素がN−アセチルグルコサミンを脱アセチル化し得ることは示されていないが、この様な活性を有するアシルトランスフェラーゼ改変体を天然から単離し得るか、または試験管内で作成し得ると考えられる。
天然型アシルトランスフェラーゼを有する生物、または組み換えアシルトランスフェラーゼを有する生物に含まれる、またはそれらから単離されるアシルトランスフェラーゼにより、N−アセチルグルコサミンの脱アセチル化を行うことができる。組み換えアシルトランスフェラーゼを無秩序突然変異誘発または指向性突然変異誘発および/あるいはタンパク質遺伝子工学によって改良できる。
(酵素加水分解条件の決定)
デアセチラーゼを発現する天然型または組み換え細胞を標準条件または最適条件で生育させる。N−アセチルグルコサミンの加水分解を、触媒として全細胞、粗酵素抽出物または精製酵素を用いて行う。まず、0.1mlの200mM燐酸緩衝液(pH4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5および8.0)に基質として0.3mlのN−アセチルグルコサミンの10%溶液を加える。次に、0.1mlの酵素溶液を加える。反応混合物を25℃、30℃、35℃、40℃、45℃および50℃で30分間、60分間および120分間インキュベーションする。加水分解生成物であるグルコサミンの生成をHPLC法で測定する。残存基質N−アセチルグルコサミンを別のHPLC法でモニターする。この二つのHPLC法は先の実施例に記載されている。
(発酵で製造されたN−アセチルグルコサミンの加水分解)
発酵ブロス中または回収後のN−アセチルグルコサミンを、粗酵素抽出物または精製デアシラーゼを触媒として用い、上記の条件下で加水分解する。グルコサミンを塩酸溶液中で結晶化して回収し、エタノール、メタノールまたはイソプロピルアルコールで洗浄する。
(実施例48)
本実施例は高純度N−アセチルグルコサミンの加水分解を説明する。
この試験のための装置は、加熱マントルで加熱される1リッター丸底容器からなる。内容物である150gの水、21gの98%N−アセチルグルコサミンおよび238gの36.7%塩酸を混合し、反応容器に加えた。攪拌した反応混合物を70℃に加熱し3時間混合し、この時点で、混合物をビーカーに移し20℃に冷却した。若干の結晶が見られた。混合物を反応容器に戻し、10gのN−アセチルグルコサミンを加えた。反応容器を70℃に再加熱し、3時間反応させ、4℃で終夜冷却した。存在する結晶を濾過し、エタノールで洗浄し、真空乾燥し分析した(グルコサミン塩酸塩20g、99.9%)。濾液を反応容器に戻し、10gのN−アセチルグルコサミンを加えた。反応容器を70℃に再度加熱し、3時間反応させ、4℃で終夜冷却し、濾過し、エタノール洗浄し、真空乾燥し、そして分析した(グルコサミン塩酸塩16.1g、99.6%)。濾液を再度反応容器に戻し、41.5gを加え、反応サイクルを繰り返した。4回目のサイクルから33gのグルコサミン塩酸塩が得られ、分析で99.5%であった。全収率は86%であり、製造されたグルコサミン塩酸塩は分析で99+であり、白色であった。この物質は再結晶の必要がなかった。
(実施例49)
本実施例は低純度N−アセチルグルコサミンの加水分解を説明する。
本試験は、発酵ブロスから濃縮し乾燥したN−アセチルグルコサミンを用いる実施例47の条件を繰り返した。固体は52%のN−アセチルグルコサミンを含んでいた。3サイクルを行った。製造されたグルコサミン塩酸塩は、各サイクルごとにより暗色になった。最初の2種の試料は99.7%および99.4%であると分析され、再結晶は必要なかった。三番目の試料は97.7%と分析され、より暗色であり、再結晶が必要と思われた。全体の収率は71%であった。実施例48の最終濾液が透明な淡褐色であったのに対し、この最終濾液は暗褐色であった。
(実施例50)
本実施例はN−アセチルグルコサミンが21.8%に濃縮された発酵ブロスの加水分解を説明する。
本試験用の装置は4リッタージャケット付きガラス容器からなった。反応容器を指定の温度に加熱するために水を用いた。218g/lのN−アセチルグルコサミンを含む2000mlの濃発酵ブロスを反応容器に加えた。500mlの36.7%塩酸を加えた。反応容器を真空下に攪拌し、70℃に加熱した。反応を90分間行い、310mlの濃縮液を採集した。反応混合物を濾過し、4℃に冷却して濾過した。固体を265mlのエタノールで洗浄し、乾燥した。ブロスおよび濾液中のN−アセチルグルコサミン分析に基づく転換率は89.5%であった。洗浄したグルコサミン塩酸塩を水に溶かし、1550mlの溶液とした。15gのDarco G−60活性炭を溶液に加えた。30分間攪拌後、溶液を濾過し無色の濾液を得た。濾液を50℃、55cmHgの真空で蒸発させた。固体をエタノールで洗浄し乾燥した。全収率は82%であった。
(実施例51)
本実施例は別途濯ぎ洗いを行う低純度N−アセチルグルコサミンの加水分解を説明する。
この試験の目的は、加水分解後の別途行う濯ぎ洗いの工程で、再結晶の必要のない高純度製品が得られるかどうかを試験することであった。実施例49で使用した装置を、濃縮液回収を行わないで使用した。54%のN−アセチルグルコサミンを含む乾燥発酵ブロスを20%塩酸に加えた。酸とN−アセチルグルコサミン比は2.5:1であった。このシリーズの反応条件は80℃、103分であった。濾過後の湿潤ケーキを500gの水、529gの37%酸および407gのエタノールで洗浄した。その目的は別途設けた洗浄で、再結晶の必要のない製品が得られ得るかどうかを確認することであった。グルコサミン塩酸塩結晶はまだ若干黄褐色であり、再結晶が必要であった。全収率は70%であり、最初の水洗で7%の収率が減少した。酸洗浄で1%、エタノール洗浄で1.6%の収率減少であった。
(実施例52)
本実施例はN−アセチルグルコサミンの加水分解中の炭素処理を説明する。
不純物を除去するため、活性炭を加水分解後で再結晶前に使用した。本試験は反応前に加水分解溶液に活性炭を添加する工程を含んだ。全体で34gのDarco G−60活性炭をN−アセチルグルコサミンおよび塩酸の反応混合液に加え、30分間混合し、次いで濾過し反応容器に加えた。活性炭を濯ぎ洗いした1000gの水も反応容器に加えた。得られたグルコサミン塩酸塩はほとんど無色であったが、なお再結晶が必要であった。反応条件は80℃で60分であった。反応溶媒をさらに水で希釈し、初期塩酸濃度が14%に減少したため、全収率は29%であった。
(実施例53)
本実施例は低純度N−アセチルグルコサミンの加水分解を説明する。
本実施例に用いられた反応条件は温度90℃、30分間であった。使用した30%塩酸とN−アセチルグルコサミン比は3:1であった。実施例49で使用した装置を本実施例でも使用した。加水分解収率は86%であった。原料グルコサミン塩酸塩を水に再度溶解し、活性炭で処理し、濾過し、50℃、60cmHgで真空再結晶した。最終分析値は99.7%であり、全収率は58%であった。
(実施例54)
本実施例はN−アセチルグルコサミンの加水分解中の炭素処理を説明する。
活性炭処理を用いる加水分解溶液の第二の試験を試みた。50gの活性炭を加水分解混合物に加え、濾過し、活性炭を1,000gの水で濯ぎ洗いした以外は反応条件は実施例52で用いられた条件であった。20%塩酸とN−アセチルグルコサミンの比率を3:1とし、反応を90℃で30分間行った。実施例52に説明した結果以上の色の改善は見られなかった。加水分解前の活性炭による上記の試験と同様、濾過中に酸を加え、溶解度を減少させるために冷却して収率を改善した。最終収率は36%であり、98.4%であった。
(実施例55)
本実施例は高純度N−アセチルグルコサミンの加水分解を説明する。
本実施例の目的は90℃で高品質N−アセチルグルコサミンから高純度グルコサミンを再結晶を必要とせず製造し得るかどうかを確認することであった。実施例49の装置を用い、320gのN−アセチルグルコサミンを941gの30%w/w塩酸と混合した。混合液をジャケット付き容器に加え、90℃に加熱した。反応を加熱時間中、およびさらに90℃に保って47分間行った。20℃に冷却後、湿潤ケーキを濾過し、エタノールで洗浄し50℃で真空乾燥した。全収率は71%であり、加水分解液を一回使用した場合と符合した。製造したグルコサミン塩酸塩は白色であったが若干黒色であり、再結晶が必要であった。
(実施例56)
本実施例は不純なN−アセチルグルコサミンの加水分解を説明する。
発酵ブロスから単離した固体N−アセチルグルコサミンを使用して実施例54に記載と同じ手順を行った。N−アセチルグルコサミン固体の純度は48%であった。1,411gのN−アセチルグルコサミンを含む混合物を4,236gの30w/w%塩酸と70℃で3時間反応させ、20℃に冷却した。濾過後の湿潤ケーキをエタノールで洗浄し、50℃で真空乾燥した。全収率は90%であった。
(実施例57)
本実施例は高純度N−アセチルグルコサミンの加水分解を説明する。
36.7%の塩酸と純N−アセチルグルコサミンを2:1の比率で用いて加水分解を行った。実施例49の装置を用い、2,004gのN−アセチルグルコサミンを4,009gの36.7w/w%塩酸と80℃で58分間反応させ、次いで20℃に冷却した。濾過後の湿潤ケーキを洗浄せず、室温で一晩放置して乾燥させた。最終ケーキは6%の塩酸と75.2%のグルコサミン塩酸塩を含んでいた。反応混合物はかなり粘性で、反応容器の側面に黒い固体が付着していた。全収率は70%であった。
(実施例58)
本実施例はリサイクル塩酸を使用する高純度N−アセチルグルコサミンの加水分解を説明する。
回収グルコサミン塩酸塩の全体的な収率を増加させる方法の一つは、加水分解母液をリサイクルすることである。加水分解反応後、混合液を冷却し濾過する。濾液を秤量し、反応容器にリサイクルして戻す。最初の重量と戻した濾液の間の重量差を埋めるため、新しい36.7%塩酸を加える。このシリーズには2.5:1の比率の36.7%塩酸とN−アセチルグルコサミンを80℃で60分間反応させる工程が含まれた。純粋な固体N−アセチルグルコサミンを含む74℃の反応容器に塩酸を加えた。反応混合液を温度に加熱し、60分間反応させ、次いで20℃に冷却し濾過する。塩酸を最初に使用した後、固体グルコサミン塩酸塩を濾過して回収し、収率は88%であった。濾液を秤量し、反応容器に戻した。第二の等量のN−アセチルグルコサミンを加えると同時に、酸重量を最初の反応サイクルレベルに戻すために十分な36.7%塩酸を加える。この酸の二回目の使用でも、同じ時間と温度で反応を繰り返した。冷却と濾過後に回収率は105%であり、最初の酸から溶液中に残されたグルコサミン塩酸塩の一部が第二サイクルの濾過中に回収されたことを示している。第三サイクルを第二サイクルと同じ方法で行い、回収率は60%であった。3サイクルの全回収率は87%であった。第三サイクルからの濾液を以後のサイクルのために保存した。
(実施例59)
本実施例はN−アセチルグルコサミンのクロマトグラフィーによる精製を説明する。
N−アセチルグルコサミンを精製するために、DOWEXTM Monosphere99/K樹脂を使用するクロマトグラフィーを行った。樹脂を使用して、2.6×23cmのカラムに充填した。カラムベッド容積は120mlであり、ボイド容積は35mlと見積もられた(シリンジを用いて液体をカラムから抜き取って測定)。これらの実験では、陽イオン樹脂および陰イオン樹脂での処理によって脱イオンされたブロスが用いられた。流入原料は約75.7g/lのN−アセチルグルコサミン濃度と全固形分83.4g/lを含み、純度は約91%であった。電導度は0.1mS/cmであった。
最初の実験では、30mlの試料溶液を2ml/分でカラムにポンプ送液した。N−アセチルグルコサミンが何らかの方法で樹脂と相互作用することは明らかであった。N−アセチルグルコサミンは、約60mlまでは検出されず、ボイド容積をはるかに過ぎて90mlに中心のある非常に広いピークで溶出された。N−アセチルグルコサミンの純度も大きく変わり、90mlでN−アセチルグルコサミンの最高値は約94.5%であった。この狭い領域で測定した純度は流入材料の純度より高かった。得られた純度値の変動は約2〜3%であった。低い濃度のN−アセチルグルコサミンを含む画分では、125ml以上および75ml以下で、純度が急激に低下した。
同じカラムを使用する第二の実験を行った。今回はより少ない5mlの試料をより遅い流速1ml/分で注入した。結果はより多量の試料とより速い流速で見られた結果と同程度であった。唯一の差は、N−アセチルグルコサミンのピークの中心が90mlでなく80mlであったことである。
全固形分の百分率で測定したN−アセチルグルコサミンの純度は実験中にかなり変化した。これは、いくらかのクロマトグラフィー分離、またはN−アセチルグルコサミンと樹脂の相互作用とは異なった樹脂と他の物質、多分非イオン性化合物との相互作用が存在することを示唆した。他の化合物がN−アセチルグルコサミンと同様な方法で樹脂と相互作用しているならば、N−アセチルグルコサミンはN−アセチルグルコサミンを含む全ての画分中でおなじレベルの純度で存在するはずであるが、実際はそうでなかった。
この実験に使用した樹脂を、上記と同じ手順で公知の方法を用いてカルシウム形態に変え、使用した。
(実施例60)
本実施例は高純度N−アセチルグルコサミンの加水分解と酢酸除去を同時に行う方法を説明する。
N−アセチルグルコサミンの塩酸水溶液加水分解からの主な副生物は酢酸であり、これは比較的高沸点を有し加水分解工程で容易には除去できなかった。加水分解工程でエタノールまたはメタノールなどのアルコールを供給すると、酢酸がエステル化され、副生物である酢酸エチルまたは酢酸メチルをそれぞれ生成し、沸点が下がるので、より容易に除去された。使用済み加水分解液に存在する主な不純物である副生物を除去すると、加水分解溶液中の塩酸をより多い回数で再使用することができる。
173gのメタノール、189.4gの36.7w%塩酸水溶液、および201gのN−アセチルグルコサミンの混合物を攪拌加熱したガラス容器に加え、65℃で還流しながら混合した。1時間で試料を採取した。分析の結果、グルコサミン塩酸塩は8.3%、塩酸は11.6%であり、滴定で酢酸はほとんど検出されなかった。反応を2時間後に停止し、20℃に冷却した。固体をメタノールで濯ぎ洗いし乾燥した。グルコサミン塩酸塩の最初の収率は25.6%であった。加水分解液を4℃で終夜冷却し、そして濾過した。さらに10%のグルコサミン塩酸塩の収率が得られた。最初の固体の純度は85%であった。濾液に酢酸は存在しなかった。
本発明の様々な実施態様を詳細に説明したが、当業者はこれらの実施態様の変更と応用が可能であることが明らかである。しかしながら、この様な変更と応用は以下のクレームに記載される本発明の範囲内であることを明確に理解する必要がある。