JP2012512954A - ワイヤーソー切断のための切断用流体組成物 - Google Patents

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Abstract

本発明は、ワイヤーソー切断プロセスの間に生成する水素の量を低減する、水性のワイヤーソー切断用流体組成物を提供する。この組成物は、水性担体、粒子状研磨材、増粘剤および水素抑制剤を含んでいる。

Description

本発明は、ワイヤーソー切断プロセスの間に用いられるスラリー組成物に関する。より具体的には、本発明は、ワイヤーソー切断プロセスの間の水素ガス発生を最小化する水性のワイヤーソー切断用流体組成物に関する。
ワイヤーソー切断は、集積回路および光起電性装置(PV)工業における使用のための薄いウエハを作るための主要な方法である。また、この方法は、他の材料、例えばサファイア、炭化ケイ素またはセラミック基材、の基材をウエハにするためにも一般的に用いられている。ワイヤーソーは、典型的には細い金属ワイヤーのウエブまたは、ワイヤーウエブ(wireweb)を有しており、個々のワイヤーは約0.15mmの直径を有しており、そして一連のスプルー、プーリおよびワイヤーガイドを通して、0.1〜1.0mmの距離で、互いに平行に配置されている。スライスまたは切断は、加工品(例えば、基材)を動いているワイヤーと接触させ、このワイヤーに研磨性スラリーが適用されることによって成し遂げられる。
慣用のワイヤーソー切断用流体組成物またはスラリーは、典型的には、1:1の質量比で混合されて一体とされている担体および研磨材粒子を含んでいる。この研磨材は、典型的には硬質材料、例えば炭化ケイ素粒子からなっている。この担体は、潤滑と冷却を提供し、そしてまたこの研磨材をワイヤーに保持させて、それによって研磨材が切断されている加工品に接触することができるようにする液体である。
この担体は、非水性物質、例えば鉱油、灯油、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたは他のポリアルキレングリコールであることができる。しかしながら、非水性担体は、幾つかの欠点を有する可能性がある。例えば、非水性担体は、コロイド性の不安定さのために限られた貯蔵寿命を有する可能性があり、そしてまた不十分な伝熱特性を示す可能性がある。そのため、水性担体もまた、ワイヤーソー切断プロセスに用いることができる。
また、水性担体も、特定の既知の欠点を有している。例えば、ワイヤーソー切断プロセスの間に、切断しようとしている材料の一部が取り去られる。この材料は、カーフ(kerf)と称され、徐々に切断用流体スラリー中に蓄積される。シリコンおよび、他の水で被酸化性の基材のワイヤーソー切断プロセスにおいては、このカーフ(kerf)が酸素または水によって酸化される可能性がある。水性スラリー中では、水で被酸化性の加工品の水による酸化は、水素を生成する。切断用流体組成物中の水素の存在は、このスラリーのワイヤーウエブ上への分配を妨害して、そしてワイヤーソーの切断性能を低下させる(例えば、泡の形成によって)可能性がある。また、水素の生成は、製造環境においては危険である可能性がある(例えば、爆発危険)。
従って、ワイヤーソー切断プロセスの間に発生する水素の量を制限する、水性のワイヤーソー切断用流体組成物を処方することが有益である。本発明の組成物は、この要求を満足する。
本発明は、水と反応性の加工品、例えばシリコンを切断する場合に、ワイヤーソー切断プロセスの間に生成される水素の量を低減する、水性のワイヤーソー切断用流体組成物を提供する。この組成物は、水性担体、粒子状研磨材、増粘剤および水素抑制剤を含んでいる。この研磨材、増粘剤および水素抑制剤は、この水性担体がそうであるように、それぞれが本発明の切断用流体組成物の、別個の、そして異なる成分であるが、しかしながらこれらの成分のそれぞれは、2つ以上の機能を有することができ、またはこの組成物のワイヤーソー切断性能に2つ以上の利益を提供してもよい。
理論に拘束されることは望まないが、水素抑制剤は、分子水素と反応して、このガスを捕捉するか、または水素ガスと化学的に反応して、それによってこの組成物中に存在する遊離の水素ガスの量を低減させることが信じられる。好適な水素抑制剤としては、親水性ポリマー、界面活性剤、シリコーン、および水素スカベンジャーが挙げられる。
本発明の1つの態様は、水性のワイヤーソー切断用流体組成物である。この組成物に含まれるのは、増粘剤、粒子状研磨材、および水素抑制剤を含んだ水性担体である。この水素抑制剤は、親水性ポリマー、鎖中に少なくとも6個の炭素原子を含む疎水性部分を有する界面活性剤、シリコーン、および水素スカベンジャーからなる群から選ばれる。
本発明の他の態様は、粒子状研磨材、水性担体、増粘剤および、界面活性剤、水素反応性金属化合物、ケイ素反応性金属化合物、ヒドロシリル化触媒、および有機電子移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の水素抑制剤、を含む水性のワイヤーソー切断用流体組成物である。この界面活性剤は、疎水性部分と親水性部分とを含んでいる。界面活性剤のこの疎水性部分は、置換された炭化水素基、非置換炭化水素基、およびシリコーン基の1種もしくは2種以上を含んでいる。界面活性剤のこの親水性部分は、ポリアルキレン基、エーテル基、アルコール基、アミノ基、アミノ基の塩、酸性基、および酸性基の塩の1種もしくは2種以上を含んでいる。
本発明の他の態様は、増粘剤、粒子状研磨剤、および18以下のHLBを有するノニオン性界面活性剤、および18以下のHLBを有する親水性ポリマーから選ばれる水素抑制剤、を含む水性担体を含む、水性のワイヤーソー切断用流体組成物である。
本発明の更なる教示によれば、ワイヤーソー切断プロセス中の水素の発生は、加工品をワイヤーソーで切断している間に、ここで教示した種類の水性のワイヤーソー切断用流体を用いることによって改善される。
本発明の好ましい態様によっては、この組成物は酸性のpHを有している。理論に拘束されることは望まないが、この組成物のpHを低下させると、ワイヤーソー切断プロセスの間に、水と、切断されている材料との間で起こるであろういずれかの酸化反応の速度を低下させることが信じられる。この酸化反応の速度の低下は、そのような反応によって生成される水素の量を低減させる。他の特に好ましい態様によれば、この切断用流体組成物は、水素抑制剤として、界面活性剤と親水性ポリマーとの組み合わせ、界面活性剤とシリコーンとの組み合わせ、または界面活性剤、親水性ポリマーおよびシリコーンの組み合わせを含んでいる。
本発明の組成物は、それぞれ水性担体、例えば水、水性グリコールおよび/または水性アルコールを含んでいる。好ましくは、この水性担体は、主に水を含んでいる。この水性担体は、この組成物の好ましくは1〜99質量%、より好ましくは50〜99質量%を構成する。水は、この担体の好ましくは65〜99質量%、より好ましく80〜98質量%を構成する。
また、本発明の組成物は、それぞれ粒子状研磨材、例えば炭化ケイ素、ダイアモンド、または炭化ホウ素を含んでいる。この粒子状研磨材は、典型的にはこの組成物の1〜60質量%を構成する。態様によっては、この粒子状研磨材は、1〜10質量%の濃度で存在する粒子状ダイアモンドを含んでいる。他の態様では、この研磨材がダイアモンドでない場合には、この粒子状研磨材が、この組成物の30〜60質量%を構成していることが好ましい。ワイヤーソー切断流体中での使用に好適な研磨材は、当技術分野でよく知られている。
ワイヤーソー切断プロセス中で、水のみを含む組成物を用いて、水で酸化される材料(例えばシリコン)を切断する場合には、比較的に大量の水素が形成される。例えば、例1中に記載されたプロセスを用いる場合には、切断用流体として水を単独で用いたシリコンウエハの模擬的ワイヤーソー切断は、このワイヤーソー切断プロセスの間に1.79ミリリットル/分(mL/分)の速度での水素の発生をもたらした。例2は、水性担体の水含量が増加すると、水素の発生速度もまた増加し、水100%で最大になることを示している。ワイヤーソー切断プロセスの間の水素発生速度を低下させるために、本発明の組成物は、それぞれこの組成物の水素発生能力を低減させる更なる成分を含んでいる。
本発明の組成物は、それぞれ増粘剤、例えばクレー、ガム(gum)、セルロース化合物(ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)、ポリカルボキシレート、ポリ(アルキレンオキシド)などを含んでいる。この増粘剤は、水溶性、水膨潤性、または水分散性で、そして25℃の温度において、担体に少なくとも40センチポワズ(cP)の範囲のブルックフィールド粘度を与える、いずれかの材料を含むことができる。この増粘剤は、担体に40〜120cPのブルックフィールド粘度を与えることが最も好ましい。この増粘剤は、この組成物中に、約0.2質量%〜10質量%の範囲の濃度で存在している。この増粘剤は、この組成物の別個の、そして異なる成分である。ここで用いられる用語「増粘剤」は、単一の材料、または2種もしくは3種以上の材料の組み合わせを包含しており、そして研磨材によって与えられるいずれかの粘度を除いて、この組成物の粘度の大部分を与える成分(単数または複数)を表している。
好ましい増粘剤としては、ノニオン性ポリマー増粘剤、例えばセルロース化合物(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)、またはポリ(アルキレンオキシド)材料(例えば、ポリ(エチレングリコール)、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体など)がある。好ましくは、この増粘剤は、20000ドルトン(Da)超、より好ましくは少なくとも50000Da(例えば、50000〜150000Da)の重量平均分子量を有しているが、それはより低い分子量の材料は、増粘剤としてはより有効ではないためである。
理論に拘束されることは望まないが、ここの記載した種類の増粘剤は、加工品およびカーフの表面と結合して、それによってこれらの表面と接触することができる水の量を低減させることが信じられる。水によって接触される加工品表面の量のこの低減が、水による加工品の酸化を低減させ、それが次には水素の発生速度を低下させる。
本発明の組成物は、それぞれ1種もしくは2種以上の水素抑制剤を含んでいる。好適な水素抑制剤としては、親水性ポリマー、界面活性剤、シリコーン、および種々の水素スカベンジャー、例えば水素反応性金属化合物、ケイ素反応性金属化合物、ヒドロシリル化触媒、および有機電子移動材が挙げられる。本発明の組成物は、列挙した1種もしくは2種以上の水素抑制剤、または1種もしくは2種以上のこれらの種類の水素抑制剤の組み合わせ、を含むことができる。この組成物の増粘剤成分は、それ自体がいずれかの水素抑制作用を与えることができる一方で、この組成物はまた、この増粘剤とは異なる別個の水素抑制剤を含んでいる。
本発明で用いられる界面活性剤は、少なくとも疎水性部分と親水性部分とを有している。本発明の組成物に加えることができる好適な界面活性剤の種類としては、アリールアルコキシレート、アルキルアルコキシレート、アルコキシル化シリコーン、アセチレンアルコール、エトキシ化アセチレンジオール、C〜C22アルキル硫酸エステル、C〜C22アルキルリン酸エステル、C〜C22アルコール、アルキルエステル、アルキルアリールエトキシレート、エトキシ化シリコーン(例えば、ジメチコーンコポリオール)、アセチレン化合物(例えば、アセチレンアルコール、エトキシ化アセチレンジオール)、脂肪族アルコールアルコキシレート、C以上のフッ素化化合物、C〜C22アルキル硫酸エステル塩、C〜C22アルキルリン酸エステル塩、およびC〜C22アルコール、が挙げられる。これらの界面活性剤の種類の1種もしくは2種以上を、水素の発生を低減するために本発明の組成物に加えることができる。
好適な界面活性剤の、限定するためではない例としては、アルキル硫酸塩、例えばドデシル硫酸ナトリウム;エトキシ化アルキルフェノール、例えばノニルフェノールエトキシレート;エトキシ化アセチレンジオール、例えばAir Products and Chemicals, Inc.から入手可能なSURFYNOL(登録商標)420;エトキシ化シリコーン、例えばMomentive Performance Materialsから入手可能なSILWET(登録商標)商標の界面活性剤;アルキルリン酸塩界面活性剤、例えばDeFOREST Enterprisesから入手可能なDEPHOS(登録商標)商標の界面活性剤;C〜C22アルコール、例えばオクタノールおよび2−ヘキシル−1−デカノールなど、が挙げられる。界面活性剤は、本発明の組成物に、液体担体の質量を基準として0.01質量%以上(例えば、少なくとも約0.1質量%、少なくとも約0.5質量%、少なくとも1質量%、または少なくとも2質量%の界面活性剤)の範囲の濃度で、加えることができる。あるいは、または更には、この液体担体は、20質量%以下の界面活性剤(例えば、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下の界面活性剤)を含むことができる。従って、この液体担体は、上記の端点のいずれかの2つで定められた量の界面活性剤を含むことができる。例えば、この液体担体は、約0.01質量%の界面活性剤〜20質量%の界面活性剤(例えば、約0.1質量%〜10質量%、約0.5質量%〜3質量%の界面活性剤)を含むことができる。
好ましくは、この界面活性剤の疎水性の部分は、置換された炭化水素基、非置換炭化水素基、およびケイ素含有基の1種もしくは2種以上を含んでいる。好ましくは、この界面活性剤の疎水性部分は、鎖中に少なくとも6個の炭素原子を含む少なくとも1つの炭化水素基を含んでおり、そしてこの界面活性剤の最も好ましい疎水性部分は、鎖中に少なくとも8個の非芳香族系炭素原子を含む少なくとも1つの炭化水素基を含んでいる。この界面活性剤の親水性部分は、好ましくは1種もしくは2種以上のポリオキシアルキレン基、エーテル基、アルコール基、アミノ基、アミノ基の塩、酸性基、および酸性基の塩、を含んでいる。
20以下、そして好ましくは18以下の親水性親油性バランス(HLB)を有するノニオン性界面活性剤は、本発明の組成物中の水素発生速度を低減させるために、特に好適である。好ましい態様によっては、ノニオン性界面活性剤は、15以下の、好ましくは10以下のHLBを有している。ノニオン性界面活性剤は、本発明の組成物に、この組成物の約0.01質量%〜4質量%の範囲の濃度で加えることができる。
本発明の組成物中に用いるための好適な親水性ポリマーとしては、ポリエーテル、例えばポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体など、が挙げられる。好ましい親水性ポリマーは、ポリプロピレングリコール、またはポリエーテルを含む共重合体である。好ましくは、この親水性ポリマーは、18以下のHLB、そして最も好ましくは12以下のHLBを有している。
親水性ポリマーは、本発明の組成物に、液体担体の質量を基準として、約0.01質量%(例えば、少なくとも約0.1質量%、少なくとも約0.5質量%、少なくとも1質量%、または少なくとも2質量%の界面活性剤)の範囲の濃度で加えることができる。あるいは、または更には、この液体担体は、20質量%以下の親水性ポリマー(例えば、10質量%以下、5質量%以下、または3質量%以下の親水性ポリマー)を含むことができる。従って、この液体担体は、上記の端点のいずれか2つで定められた量の親水性ポリマーを含むことができる。例えば、この液体担体は、約0.01質量%の親水性ポリマー〜20質量%の親水性ポリマー(例えば、約0.1質量%〜10質量%、約0.5質量%〜3質量%の親水性ポリマー)を含むことができる。
理論に拘束されることは望まないが、界面活性剤は、加工品および/またはカーフの表面に結合し、そしてそれによってこれらの表面と接触することができる水の量を低減させることが信じられる。
また、シリコーンを、水素の発生を低減するために、本発明の組成物に加えることができる。好適なシリコーンとしては、ポリジメチコーン(すなわち、ジメチルシロキサンポリマー)、例えば、Omnova Solutions, Inc.から商業的に入手可能な、SEDGEKIL(登録商標)MF-3、およびSEDGEKIL(登録商標)GGD、が挙げられる。このシリコーンは、本発明の組成物に、この組成物の約0.01質量%〜4質量%の範囲の濃度で、加えることができる。
更に、この組成物のpHを低下させるのに好適な酸性物質を、水素の発生を低減するために加えることができる。当技術分野において一般的に知られているように(例えば、「水によるシリコンの酸化」("Oxidation of Silicon by Water,")、J. European Ceramic Soc.、第1989巻、第5号、p.219-222(1989年)を参照)、この組成物のpHを低下させると、切断されている材料の酸化の速度を遅くさせる。酸化反応の速度を遅くすることは、次にはワイヤーソー切断プロセスの間に発生する水素の量を低減させる。好ましい酸性物質としては、無機酸(例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸など)および有機酸(例えば、カルボン酸、例えば酢酸、クエン酸およびコハク酸;有機ホスホン酸;有機スルホン酸など)、が挙げられる。
本発明の態様によっては、水素の発生を低減させるために、この組成物に酸化剤が加えられる。酸化剤は、この組成物に、約0.01質量%〜4質量%の量で、加えることができる。この酸化剤は、切断されている材料(例えばシリコン)の酸化を、水と競い合う可能性がある。更には、またはあるいは、この酸化剤は、加工品の切断の間に発生したいずれかの水素を酸化して、水を形成させることができる。
同様に、水素スカベンジャー、例えば水素反応性金属化合物またはケイ素反応性金属化合物(例えば、Pt、Pd、Rh、RuまたはCu金属、例えば、炭素もしくは珪藻土担持金属、それらの金属の無機塩、またはそれらの金属の有機金属塩)、ヒドロシリル化触媒(例えば、無機または有機金属Pt、Pd、Rh、RuもしくはCu塩)、有機電子移動剤(例えば、キノン、TEMPO、または他のラジカル形成化合物)を、本発明の組成物に加えることができる。本発明の組成物は、列挙した水素スカベンジャーの種類の1種、または水素スカベンジャーのこれらの種類の1種もしくは2種以上の組み合わせを含むことができる。水素スカベンジャーは、本発明の組成物に、この組成物の約0.01質量%〜4質量%の範囲の濃度で加えることができる。理論に拘束されることは望まないが、この水素スカベンジャーは、水素と結合、またはさもなければ反応して、ワイヤーソー切断プロセスの間に放出された遊離の水素の量を低減させる。
この水素抑制剤は、使用中に過剰な泡立ちを引き起こさないことが好ましい。泡立ちの能力は、担体を通して空気を泡立たせ、そして定められた時間の後の泡の高さを測定することによって評価することができる。水素抑制剤の存在の下で観察された泡立ちは、増粘剤単独での泡立ちとほぼ同じか、またはそれより少ないことが好ましい。この水素抑制剤での泡立ちは、増粘剤単独で観察された泡立ちよりも少ない(例えば、少なくとも10%少ない、少なくとも50%少ない、少なくとも80%少ない、少なくとも95%少ない)ことがより好ましい。この水素抑制剤は、増粘剤単独の場合より以上の泡を発生させず、そしてこの水素抑制剤はケイ素を含まないことが、最も好ましい。
他の一般的に用いられる添加剤としては、殺生物剤(例えば、イソチアゾリン殺生物剤)、消泡剤、分散剤などが挙げられ、この組成物に特別な性質または特徴を与えることが望まれる場合には、本発明の組成物に加えることができる。そのような添加剤は、当技術分野においてよく知られている。
本発明の組成物は、水で酸化される材料、例えばシリコンのワイヤーソー切断の間に発生される水素の量を低減させる。本発明の好ましい態様によっては、水素発生速度は、一般的な水性のワイヤーソー切断用流体組成物での1.8mL/分から、約0.75mL/分未満へと低下する。以下の幾つかの具体的な好ましい態様では、水素発生速度は約0.01〜0.3mL/分の範囲にまで低下している。好ましくは、本発明の組成物は、水素発生速度を、水素抑制剤が用いられない場合に発生した水素の量に対して、少なくとも40%(例えば、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも95%)低下させる。以下の例は、本発明を更に説明するが、しかしながら、勿論のこと、本発明の範囲を限定するものとは決して解釈してはならない。
例1
ワイヤーソー切断プロセスの化学的環境を模擬実験し、そして本発明の組成物の水素発生速度を測定するために、一般的な手順を用いた。この一般的な手順において用いられた組成物は、水および種々の添加剤を含んでおり、研磨材は、別個の成分(すなわち、ジルコニア研磨ビーズ)として供給した。
この例では、粉末化されたSiを、ガス捕集装置に繋いだフラスコ中で、種々の組成物を反応させた。このプロセスの間に発生した水素は、捕集し、そして体積を測定した。
具体的には、管取り付け具、電磁式攪拌棒およびセプタム(septum)注入口を装着された丸底フラスコを、電磁攪拌式のホットプレート上のウォーターバス中に配置した。ウォーターバスの温度は、55℃に制御した。Toray Industries, Inc.から得た直径が0.65mmのジルコニア研磨ビーズ25グラムと、試験する組成物25グラムとを、このフラスコに加え、そしてこのフラスコを窒素でパージした。別に、直径が0.65mmのジルコニア研磨ビーズ100グラムと、1〜5μmの粒子直径を有する純粋なケイ素粉末6.2グラムとを、窒素雰囲気下で、1600rpmで5分間、高速混合機(Flacktek Inc.から得た、SPEEDMIXER(登録商標)Model No. DAC 150 FVZ-K)を用いて混合して、このケイ素を更に粉砕した。新たに粉砕したケイ素を、試験される組成物を容れたフラスコに迅速に移し、そしてこのフラスコを、300rpmで攪拌しながら、窒素でパージした。このケイ素とこの組成物中の水との反応によって形成された水素を捕集し、そして体積を測定した。発生した水素の体積を、粉砕されたケイ素が攪拌されていた時間で割り算して、水素発生速度を計算した。粉砕されたケイ素は、水素発し速度を計算する前に、60分間〜180分間攪拌した。
例2
例1の一般的な手順を用いて、種々の水濃度を有する7つの組成物の水素発生速度を測定した。これらの組成物は、種々の比率の脱イオン水とポリ(エチレングリコール)を有していた。それぞれの組成物の水素発生速度を下記の表1中に示した。この例は、組成物中の水の濃度が増加すると、水素発生速度もまた増加することを示しており、慣用の比較的に高水含量の切断用流体は、水素発生の問題を有する傾向にあるとの観察結果を裏付けた。
Figure 2012512954
例3
例1の一般的な手順を用いて、4質量%のヒドロキシエチルセルロース増粘剤および500ppmのイソチアゾリノン殺生物剤を含む水性組成物の水素発生速度を測定した。この組成物の水素発生速度は、0.71mL/分であった。
例4
例1の一般的手順を用いて、例3中に記載したのと同様の、4質量%のヒドロキシエチルセルロース、500ppmのイソチアゾリノン殺生物剤ならびに種々の量のエトキシ化アセチレンジオール界面活性剤(すなわち、水素抑制剤として)(SURFYNOL(登録商標)420として商業的に販売されており、部分的にエトキシ化され、そしてアセチレンジオールのモル当たりに平均1.3モルのエチレンオキシドである4,7−ジヒドリキシ−2,4,7,9−テトラメチルデカ−5−インである)を含む水性組成物の水素発生速度を測定した。それぞれの組成物中のSURFYNOL(登録商標)420の量およびそれによって得られた観察された水素発生速度を表2中に示した。これらの組成物は、特に断りのない限り、比較的にpHは中性であった。表2中のデータが明確に示しているように、界面活性剤の存在および酸性のpHの両方が、水素発生速度を、効果的に、そして驚くべきことに、低下させる傾向にある。
Figure 2012512954
例5
例1の一般的な手順を用いて、例3中に記載したのと同様の、4質量%のヒドロキシエチルセルロース、500ppmのイソチアゾリノン殺生物剤、ならびに種々の水素抑制添加剤を含んだ水性組成物の水素発生速度を測定した。これらの組成物中のこれらの添加剤の素性および量、ならびに対応する観察された水素発生速度を、表3中に示した。これらの例に用いた界面活性剤SILWET(登録商標)1-7210は、Momentive Performance Materialsから商業的に入手可能なエトキシ化ポリジメチルシロキサン(すなわち、ジメチコーンコポリオール)である。SAGTEX(登録商標)商標のシリコーンは、Momentive Performance Materialsから入手可能なポリジメチルシロキサン(すなわち、ポリジメチコーン)エマルジョンである。SEDGEKIL(登録商標)商標のシリコーンは、Omnova Solutions, Inc.から商業的に入手可能な消泡剤である。DEPHOS(登録商標)8028は、DeFOREST Enterprisesから商業的に入手可能なアルキルリン酸エステルの活性なカリウム塩である。表3中のデータから明らかなように、界面活性剤、例えばノニオン性アルキルアリールエトキシレート、エトキシ化シリコーン、C〜C22アルコール、アルキル硫酸エステルまたはアルキルリン酸エステルの存在は、水素発生速度の低減に、驚くべきことに効果があった。シリコーンと界面活性剤の組み合わせは、更により効果的であった
Figure 2012512954
例6
大規模な切断実験を、上記の例1〜例5中に記載した実験の間に得られた結果を更に検証するために実施した。特に、125mm×125mm×300mmの寸法を有するシリコンインゴットを、Myer-Burger 261ワイヤーソーを用いて切断した。このワイヤーソーは、直径120μmおよび315kmの長さを有するワイヤーを備えていた。切断プロセスは、ワイヤー速度8m/秒(m/s)、ワイヤー張力23N、ワイヤーガイドピッチ400μm、供給速度約0.2mm/分(mm/nin)、スラリー流量5000kg/時(kg/hr)、およびスラリー温度25℃、を用いて実施した。
このワイヤーソー切断プロセスの間に用いられる1つの水性組成物は、2%のヒドロキシエチルセルロース増粘剤(Dow Chemical Co.からの製品#WP09H)、6%の、300の分子量を有するポリ(エチレングリコール)(親水性ポリマー)、0.2%のSURFYNOL(登録商標)420界面活性剤、約0.01%の殺生物剤(Rohm & Haasから商業的に入手可能なKATHON(登録商標)LX)、および50%の炭化ケイ素研磨材(JIS 1200)を含んでいた。水素発生の量を、ワイヤーソー切断プロセスの間および後にスラリータンクの表面上に形成された水素の泡の量を観察することによって、目視で測定した。この組成物を用いると、ワイヤーソー切断プロセスの間に、スラリータンクの表面上に、水素の泡の単層が1層未満しか形成されなかった。
このワイヤーソー切断プロセスの間に用いた他の組成物は、2%のヒドロキシエチルセルロース増粘剤(Dow Chemical Co.からの製品#WP09H)、4%の、300の分子量を有するポリエチレンングリコール、および50%の炭化ケイ素研磨材(JIS 1200)を含んでいた(界面活性剤は存在しない)。この組成物を用いたワイヤーソー切断プロセスの間に、著しい量の水素の泡が、スラリータンクの表面上に形成された。この組成物を用いて形成された大容積の水素の泡は、スラリータンクの側面を越えて流れ出した。この水素の泡の体積は、上記で議論した組成物を用いて形成された水素の体積よりも著しく大きかった。従って、これらのデータは、親水性ポリマーと界面活性剤の組み合わせを含む水素抑制剤は、驚くべき優れた性能を与えることを明確に示している。

Claims (20)

  1. 粒子状研磨材;
    増粘剤を含む水性担体;および
    親水性ポリマー、鎖中に少なくとも6個の炭素原子を含む疎水性部分を有する界面活性剤、シリコーン、および水素スカベンジャーからなる群から選ばれる少なくとも1種の水素抑制剤、
    を含んでなる水性のワイヤーソー切断用流体組成物であって、該研磨材、該増粘剤および該水素抑制剤が、該組成物の別個の、そして異なる成分である、組成物。
  2. 前記少なくとも1種の水素抑制剤が、鎖中に少なくとも6個の炭素原子を含む疎水性部分を有する前記界面活性剤であり、該界面活性剤が18以下のHLBを有している、請求項1記載の組成物。
  3. 前記少なくとも1種の水素抑制剤が、前記親水性ポリマーであり、該ポリマーが18以下のHLBを有している、請求項1記載の組成物。
  4. 前記増粘剤が、セルロース化合物を含む、請求項1記載の組成物。
  5. 前記増粘剤が、前記担体に少なくとも40cPの粘度を与える、請求項1記載の組成物。
  6. 前記増粘剤が、約0.2〜10質量%の範囲の濃度で存在している、請求項1記載の組成物。
  7. 前記研磨材が、炭化ケイ素、ダイアモンドまたは炭化ホウ素を含む、請求項1記載の組成物。
  8. 少なくとも2種の水素抑制剤を含む、請求項1記載の組成物。
  9. 前記研磨材が、30〜60質量%の範囲の濃度で存在している、請求項1記載の組成物。
  10. 前記界面活性剤が、アリールアルコキシレート、アルキルアルコキシレート、アルコキシル化シリコーン、アセチレンアルコール、エトキシ化アセチレンジオール、C〜C22アルキル硫酸エステル、C〜C22アルキルリン酸エステル、C〜C22アルコール、およびアルキルエステルからなる群から選ばれる、請求項1記載の組成物。
  11. 前記組成物が、約0.01〜4質量%のシリコーンを含む、請求項1記載の組成物。
  12. 更に、約0.01〜4質量%の酸化剤を含む、請求項1記載の組成物。
  13. 前記組成物が、約0.01〜4質量%の前記水素スカベンジャーを含む、請求項1記載の組成物。
  14. 前記水素スカベンジャーが、水素反応性金属化合物、ヒドロシリル化触媒、有機電子移動剤、およびケイ素反応性金属化合物からなる群から選ばれる、請求項13記載の組成物。
  15. 粒子状研磨材;
    水性担体;
    増粘剤;ならびに
    界面活性剤、水素反応性金属化合物、ケイ素反応性金属化合物、ヒドロシリル化触媒、および有機電子移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の水素抑制剤;
    を含んでなる水性のワイヤーソー切断用流体組成物であって、該界面活性剤が、疎水性部分および親水性部分を含み;該界面活性剤の該疎水性部分が、置換された炭化水素基、非置換炭化水素基、およびシリコーン基の1種もしくは2種以上を含み;そして該界面活性剤の該親水性部分が、ポリオキシアルキレン基、エーテル基、アルコール基、アミノ基、アミノ基の塩、酸性基、および酸性基の塩の1種もしくは2種以上を含み、そして該研磨材、該増粘剤および該水素抑制剤が、該組成物の別個の、そして異なる成分である、組成物。
  16. 前記研磨材が、炭化ケイ素、ダイアモンドまたは炭化ホウ素を含む、請求項15記載の組成物。
  17. 前記界面活性剤の前記親水性部分が、1つもしくは2つ以上のエーテル基を含む、請求項15記載の組成物。
  18. 前記研磨材が、30〜60質量%の範囲の濃度で存在する、請求項15記載の組成物。
  19. 水性のワイヤーソー切断用流体を用いてワイヤーソー切断プロセスにおける水素の発生を改善する方法であって、ワイヤーソーと請求項1記載の水性の切断用流体組成物とで加工品を切断することを含む方法。
  20. 前記加工品が、シリコンを含む、請求項19記載の方法。
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