JP2012153798A - エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いたエンジン冷却水系部品 - Google Patents

エンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いたエンジン冷却水系部品 Download PDF

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Abstract

【課題】低吸水性で寸法安定性、耐薬品性に優れるのみならず、長期耐熱水性などの耐久性にも優れたエンジン冷却水系部品に好適な強化ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ヘキサメチレンテレフタルアミド単位55〜75モル%とウンデカンアミド単位45〜25モル%とからなる共重合ポリアミド樹脂100質量部に対して、繊維状強化剤を20〜150質量部含有する組成物であり、かつ該組成物が80℃熱水中の飽和吸水率が3.0%以下、沸騰水2000時間浸漬後の引張強度低下率(%)が30%以下、を満足するポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車のエンジン冷却水系部品の成形に好適な強化ポリアミド樹脂組成物に関する。更に詳しくはラジエタータンク部品、ウォーターポンプ部品など、特にエンジンルーム内で冷却水との接触下で使用される用途に好適に使用される耐塩化カルシウム性、耐不凍液性、低吸水性などに優れたエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物に関する。
自動車部品、特にエンジンルーム内で使用される樹脂製部品においては、エンジン性能の高性能化、高出力化に伴うエンジン冷却水の温度上昇やエンジンルーム内の温度上昇などに伴い、使用環境が過酷なものなっている。また、寒冷地域では、融雪剤として塩化カルシウム、塩化亜鉛などの大量の耐道路凍結防止剤が散布され、エンジン部品はこれら薬剤にも晒される。従来のナイロン6やナイロン66では、このような過酷な使用環境下では樹脂の劣化が進行するため、種々の改善策がなされている。
例えば、ナイロン66に強化材として特定の表面処理剤で処理した特定の細い繊度のガラス繊維を用いる方法(特許文献1)、ナイロン6T系などの融点300℃以上の高融点ポリアミドを配合する方法(例えば特許文献2、3)などが提案され、また、ナイロン6T系などの高融点ポリアミドを用いる試みなどもある。しかしながら、これらの方法では、それぞれ、成形性、流動性、低吸水性、耐久性などをすべて満足できるものではなく、改善の余地がある。
特許第3271328号公報 特許第3985316号公報 特開2002−114905公報
本発明は、より低吸水性で寸法安定性、耐薬品性に優れるのみならず、長期耐熱水性などの耐久性にも優れたエンジン冷却水系部品に好適な強化ポリアミド樹脂組成物を提供しようとするものである。
本発明者は、上記目的を達成するために、ポリアミドの組成を鋭意検討した結果、本発明の完成に至った。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)の構成を有するものである。
(1) (a)ヘキサメチレンテレフタルアミド単位55〜75モル%と(b)ウンデカンアミド単位45〜25モル%とからなる共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、繊維状強化剤(B)を20〜150質量部含有する組成物であり、かつ該組成物が下記(イ)、(ロ)を満足することを特徴とするエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
(イ)80℃熱水中の飽和吸水率(%)が3.0%以下
(ロ)沸騰水2000時間浸漬後の引張強度低下率(%)が30%以下
(2) 共重合ポリアミド樹脂(A)が、(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、または前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大20モル%まで含有する前記(1)に記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
(3) 共重合ポリアミド樹脂(A)の末端カルボキシル基濃度が80〜120当量/トンである前記(1)又は(2)に記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
(4) ポリアミド樹脂組成物の融点が300〜330℃であり、昇温結晶化温度(Tc1)が90〜120℃である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を用いて得られたエンジン冷却水系部品。
(6) エンジン冷却水系部品が、ラジエタータンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターパイプ、ウォーターインレットパイプ、ウォーターアウトレットパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、ウォーターバルブのいずれかである前記(5)に記載のエンジン冷却水系部品。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、高い耐熱性、低い吸水性に加えて、射出成形時の成形性や加工性に優れる特定の共重合ポリアミド樹脂を使用した強化ポリアミド樹脂組成物であり、長期耐沸騰水性などの耐久性に優れるので、エンジン冷却水系部品用に好適である。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、エンジン冷却水系部品に使用することを意図するものである。エンジン冷却水系部品としては、ラジエタータンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターパイプ、ウォーターインレットパイプ、ウォーターアウトレットパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、ウォーターバルブなどのウォーターポンプ部品などが挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(a)ヘキサメチレンテレフタルアミド単位55〜75モル%と(b)ウンデカンアミド単位45〜25モル%とからなる共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、繊維状強化剤(B)を20〜150質量部含有する組成物であり、かつ該組成物が下記(イ)、(ロ)を満足するエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物であることを特徴とする。
(イ)80℃熱水中の飽和吸水率(%)が3.0%以下
(ロ)沸騰水2000時間浸漬後の引張強度低下率(%)が30%以下
共重合ポリアミド樹脂(A)は、高い耐熱性、流動性、低い吸水性に加えて優れた成形性を実現するために配合されるものであり、ポリアミド6Tに相当する(a)成分とポリアミド11に相当する(b)成分を特定の割合で含有するものであり、従来の6Tナイロン(例えば、テレフタル酸/イソフタル酸/ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド6T6I、テレフタル酸/アジピン酸/テレフタル酸からなるポリアミド6T66、テレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド6T6I66、テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/2−メチル―1、5−ペンタメチレンジアミンからなるポリアミド6T/M−5T、テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/ε―カプロラクタムからなるポリアミド6T6)の欠点である高吸水性が大幅に改良されているのみならず、繊維状強化剤による強化効果の耐久性に優れるという特徴を有する。さらには、ポリアミド11成分に由来するフレキシブルな長鎖脂肪族骨格を有することから、流動性を確保しやすいという特徴も有する。
(a)成分は、ヘキサメチレンジアミン(6)とテレフタル酸(T)を等量モルで共縮重合させることにより得られる6Tナイロンに相当するものであり、具体的には、下記式(I)で表されるものである。
(a)成分は、共重合ポリアミド樹脂(A)の主成分であり、共重合ポリアミド樹脂(A)に優れた耐熱性、機械的特性、摺動性などを付与する役割を有する。共重合ポリアミド(A)中の(a)成分の配合割合は、55〜75モル%であり、好ましくは60〜70モル%、さらに好ましくは62〜68モル%である。(a)成分の配合割合が上記下限未満の場合、結晶成分である6Tナイロンが共重合成分により結晶阻害を受け、成形性や高温特性の低下を招くおそれがあり、一方上記上限を超える場合、融点が高くなりすぎ加工時に分解するおそれがあり、好ましくない。
(b)成分は、11−アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムを重縮合させることにより得られる11ナイロンに相当するものであり、具体的には、下記式(II)で表されるものである。
(b)成分は、(a)成分の欠点である、吸水性、流動性を改良するためのものであり、共重合ポリアミド樹脂(A)の融点及び昇温結晶化温度を調整し成形性を向上させる役割、吸水率を低減させて吸水時の物性変化や寸法変化によるトラブルを改善させる役割、およびフレキシブルな骨格を導入することにより溶融時の流動性を改善する役割を有する。共重合ポリアミド樹脂(A)中の(b)成分の配合割合は、45〜25モル%であり、好ましくは40〜30モル%、更に好ましくは38〜32モル%である。(b)成分の配合割合が上記下限未満の場合、共重合ポリアミド樹脂(A)の融点が十分に低下せず、成形性が不足するおそれがあると共に、得られた樹脂の吸水率を低減させる効果が不十分であり、吸水時に機械的特性が低下するなど物性の不安定さを招くおそれがある。上記上限を超える場合、共重合ポリアミド樹脂(A)の融点が低下しすぎて結晶化速度が遅くなり、成形性が逆に悪くなるおそれがあると共に、6Tナイロンに相当する(a)成分の量が少なくなり、機械的特性や耐熱性が不足するおそれがあり、好ましくない。
共重合ポリアミド樹脂(A)は、上記(a)成分及び(b)成分以外に、(c)上記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、または上記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大20モル%共重合しても良い。(c)成分は、共重合ポリアミド樹脂(A)に6Tナイロンや11ナイロンによっては得られない他の特性を付与したり、6Tナイロンや11ナイロンによって得られる特性をさらに改良する役割を有するものであり、具体的には以下のような共重合成分が挙げられる。ジアミン成分としては、1,2−エチレンジアミン、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、5−ベンタメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、1,18−オクタデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、ピペラジン、シクロヘキサンジアミン、ビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタン、ビス−(4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンのような脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンおよびこれらの水添物等が挙げられる。ジカルボン酸成分としては、以下に示すジカルボン酸、もしくは酸無水物を使用できる。ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボンル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、2,2′−ジフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11−ウンデカン二酸、1,12−ドデカン二酸、1,14−テトラデカン二酸、1,18−オクタデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。また、ε−カプロラクタム、12−ラウリルラクタムなどのラクタムおよびこれらが開環した構造であるアミノカルボン酸などが挙げられる。
具体的な(c)成分としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミドM−5T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド6T(H))、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)などが挙げられる。これらは、1成分単独もしくは多成分を組み合わせて共重合しても良い。また、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等いずれの共重合手法を用いても良い。
前記構成単位の中でも、好ましい(c)成分の例としては、共重合ポリアミド樹脂(A)に高結晶性を付与するためのポリヘキサメチレンアジパミドや、さらなる低吸水性を付与するためのポリデカメチレンテレフタルアミド、ポリドデカンアミドなどが挙げられる。共重合ポリアミド樹脂(A)中の(c)成分の配合割合は、最大20モル%までであることが好ましく、さらに好ましくは10〜20モル%である。(c)成分の割合が上記下限未満の場合、(c)成分による効果が十分発揮されないおそれがあり、上記上限を超える場合、必須成分である(a)成分や(b)成分の量が少なくなり、共重合ポリアミド樹脂(A)の本来意図される効果が十分発揮されないおそれがあり、好ましくない。
共重合ポリアミド樹脂(A)を製造するに際に使用する触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸もしくはその金属塩やアンモニウム塩、エステルが挙げられる。金属塩の金属種としては、具体的には、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどが挙げられる。エステルとしては、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどを添加することができる。また、溶融滞留安定性向上の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ化合物を添加することが好ましい。
共重合ポリアミド樹脂(A)の96%濃硫酸中20℃で測定した相対粘度(RV)は0.4〜4.0であり、好ましくは1.0〜3.0、より好ましくは1.5〜2.5である。ポリアミドの相対粘度を一定範囲とする方法としては、分子量を調整する手段が挙げられる。
共重合ポリアミド樹脂(A)は、アミノ基量とカルボキシル基とのモル比を調整して重縮合する方法や末端封止剤を添加する方法によって、ポリアミドの末端基量および分子量を調整することができる。
末端封止剤を利用する場合、原料仕込み時、重合開始時、重合後期、または重合終了時が挙げられる。末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、モノカルボン酸またはモノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などを使用することができる。末端封止剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン等が挙げられる。
共重合ポリアミド樹脂(A)は、末端カルボキシル基濃度が80〜120当量/トンであることが好ましい。この範囲であると、配合したガラス繊維の強化効果が特異的に発現され、本発明の長期耐沸騰水性に優れた強化ポリアミド樹脂組成物とすることができる。末端カルボキシル基濃度が120当量/トンを超えると、溶融滞留時にゲル化や劣化が促進されるだけでなく、使用環境下においても、着色や加水分解等の問題を引き起こすことがあり、80当量/トン未満では、本発明の効果が低下する。
一方、マレイン酸変性ポリオレフィンなどの反応性化合物をコンパウンドする際は、さらに反応性および反応基に合わせ、末端カルボキシル基濃度および/又は末端アミノ基濃度を適宜調整することが好ましい。
共重合ポリアミド樹脂(A)は、従来公知の方法で製造することができるが、例えば、(a)成分の原料モノマーであるヘキサメチレンジアミン、テレフタル酸、及び(b)成分の原料モノマーである11−アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタム、並びに必要により(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムを共縮合反応させることによって容易に合成することができる。共縮重合反応の順序は特に限定されず、全ての原料モノマーを一度に反応させてもよいし、一部の原料モノマーを先に反応させ、続いて残りの原料モノマーを反応させてもよい。また、重合方法は特に限定されないが、原料仕込みからポリマー作製までを連続的な工程で進めても良いし、一度オリゴマーを作製した後、別工程で押出し機などにより重合を進める、もしくはオリゴマーを固相重合により高分子量化するなどの方法を用いても良い。原料モノマーの仕込み比率を調整することにより、合成される共重合ポリアミド中の各構成単位の割合を制御することができる。
共重合ポリアミド樹脂(A)は、本発明のポリアミド樹脂組成物において25〜85質量%が好ましく、より好ましくは40〜75質量%の割合で存在する。共重合ポリアミド樹脂(A)の割合が上記下限未満であると、機械的強度が低くなり、上記上限を超えると、や繊維状強化剤(B)の配合量が不足し、所望の効果が得られにくくなる。
繊維状強化剤(B)としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、セラミック繊維、金属繊維などが挙げられ、針状強化剤としては、例えばチタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、ワラストナイトなどが挙げられる。ガラス繊維としては、0.1mm〜100mmの長さを有するチョップドストランドまたは連続フィラメント繊維を使用することが可能である。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を用いることができる。円形断面ガラス繊維の直径は20μm以下、好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。また、物性面や流動性より非円形断面のガラス繊維が好ましい。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円形、略長円形、略繭形であるものをも含み、偏平度が1.5〜8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは特に限定されるものではないが、短径が1〜20μm、長径2〜100μm程度である。また、ガラス繊維は繊維束となって、繊維長1〜20mm程度に切断されたチョップドストランド状のものが好ましく使用できる。さらには、ポリアミド樹脂組成物の表面反射率を高めるためには、共重合ポリアミド樹脂との屈折率差が大きいことが好ましいため、ガラス組成の変更や表面処理により、屈折率を高めたものを使用することが好ましい。
繊維状強化剤(B)の割合は、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して20〜150質量部、好ましくは40〜130質量部である。繊維状強化剤(B)の割合が上記下限未満であると、成形品の機械的強度が低下し、上記上限を超えると、成形加工性が低下する傾向がある。
必要により用いる事ができる非繊維状又は非針状充填剤(C)としては、目的別には強化用フィラーや導電性フィラー、磁性フィラー、難燃フィラー、熱伝導フィラー、熱黄変抑制用フィラーなどが挙げられ、具体的にはガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、シリカ、タルク、カオリン、マイカ、アルミナ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉄、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、赤燐、炭酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫酸バリウム、および針状ではないワラストナイト、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム等が挙げられる。これら充填剤は、1種のみの単独使用だけではなく、数種を組み合わせて用いても良い。これらの中では、タルクがTc1を低下させ成形性が向上することから好ましい。充填材の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大50質量部を添加することが可能であるが、樹脂組成物の機械的強度の観点から、0.1〜20質量部が好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。また、繊維状強化剤、充填剤はポリアミド樹脂との親和性を向上させるため、有機処理やカップリング剤処理したもの、または溶融コンパウンド時にカップリング剤と併用することが好ましく、カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤のいずれを使用しても良いが、その中でも、特にアミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤が好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、共重合ポリアミド樹脂(A)が特定組成で、末端カルボキシル基濃度が80〜120当量/トンの高い酸価で、かつ80℃熱水中の飽和吸水率(%)が3.0%以下の吸水性が低い組成物であると、繊維状強化剤(B)との相互作用で、(ロ)沸騰水2000時間浸漬後の引張強度低下率(%)が30%以下、の長期耐沸騰水性を容易に発現することができる。
末端カルボキシル基濃度が85〜110当量/トンで、かつ80℃熱水中の飽和吸水率(%)が2.5%以下の組成物であると、(ロ)沸騰水2000時間浸漬後の引張強度低下率(T)%が25%以下、の長期耐沸騰水性をも発現することができる。
本発明における共重合ポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド9Tに比べると、飽和吸水率が高いにもかかわらず、本発明の強化ポリアミド樹脂組成物においては、より長期間にわたって高い強度を維持することができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物には、従来のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物の各種添加剤を使用することができる。添加剤としては、安定剤、衝撃改良材、難燃剤、離型剤、摺動性改良材、着色剤、可塑剤、結晶核剤、共重合ポリアミド樹脂(A)とは異なるポリアミド、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの有機系酸化防止剤や熱安定剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、イミダゾール系等の光安定剤や紫外線吸収剤、金属不活性化剤、銅化合物などが挙げられる。銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、燐酸第二銅、ピロリン酸第二銅、硫化銅、硝酸銅、酢酸銅などの有機カルボン酸の銅塩などを用いることができる。さらに銅化合物以外の構成成分としては、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含有することが好ましく、ハロゲン化アルカリ金属化合物としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。これら添加剤は、1種のみの単独使用だけではなく、数種を組み合わせて用いても良い。安定剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大5質量部を添加することが可能である。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、共重合ポリアミド樹脂(A)とは異なる組成のポリアミドをポリマーブレンドしても良い。本発明の共重合ポリアミドと異なる組成のポリアミドとしては、特に制限は無いが、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミドM−5T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド6T(H))、ポリ2−メチル−オクタメチレンテレフタルアミド、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)、ポリアルキルエーテル共重合ポリアミドなどの単体、もしくはこれらの共重合ポリアミドを単独または二種以上を使用しても良い。これらの中でも、結晶速度を向上させ成形性を向上させるために、ポリアミド66やポリアミド6T66などを、さらなる低吸水性を付与するためのポリアミド10T誘導体などをブレンドしても良い。共重合ポリアミド樹脂(A)とは異なる組成のポリアミドの添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大50質量部を添加することが可能である。もちろん、本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂は、前記共重合ポリアミド(A)のみであっても良い。
本発明のポリアミド樹脂組成物には、共重合ポリアミド樹脂(A)とは異なる組成のポリアミド以外の熱可塑性樹脂を添加しても良い。ポリアミド以外のポリマーとしては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリサルホン(PSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)が挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、溶融混練により、溶融状態でブレンドすることも可能であるが、熱可塑性樹脂を繊維状、粒子状にし、本発明のポリアミド樹脂組成物に分散しても良い。熱可塑性樹脂の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大50質量部を添加することが可能である。もちろん、本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、前記共重合ポリアミド(A)のみであっても良い。
衝撃改良剤としては、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、アクリル酸エステル共重合体等のビニルポリマー系樹脂、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンナフタレートをハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールまたはポリカプロラクトンまたはポリカーボネートジオールをソフトセグメントとしたポリエステルブロック共重合体、ナイロンエラストマー、ウレタンエラストマー、アクリルエラストマー、シリコンゴム、フッ素系ゴム、異なる2種のポリマーより構成されたコアシェル構造を有するポリマー粒子などが挙げられる。衝撃改良剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大30質量部を添加することが可能である。
本発明のポリアミド樹脂組成物に対して、共重合ポリアミド樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂および耐衝撃改良材を添加する場合にはポリアミドと反応可能な反応性基が共重合されていることが好ましく、反応性基としてはポリアミド樹脂の末端基であるアミノ基、カルボキシル基及び主鎖アミド基と反応しうる基である。具体的にはカルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基、イソシアネート基等が例示されるが、それらの中でも酸無水物基が最も反応性に優れている。このようにポリアミド樹脂と反応する反応性基を有する熱可塑性樹脂はポリアミド中に微分散し、微分散するがゆえに粒子間の距離が短くなり耐衝撃性が大幅に改良されるという報告もある〔S,Wu:Polymer 26,1855(1985)〕。
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤と難燃助剤の組み合わせが良く、ハロゲン系難燃剤としては、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノール型エポキシ系重合体、臭素化スチレン無水マレイン酸重合体、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモビフェニル、臭素化ポリカーボネート、パークロロシクロペンタデカン及び臭素化架橋芳香族重合体等が好ましく、難燃助剤としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、錫酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、モンモリロナイトなどの層状ケイ酸塩、フッ素系ポリマー、シリコーンなどが挙げられる。中でも、熱安定性の面より、ハロゲン系難燃剤としては、ジブロムポリスチレン、難燃助剤としては、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、錫酸亜鉛のいずれかとの組み合わせが好ましい。また、非ハロゲン系難燃剤としては、メラミンシアヌレート、赤リン、ホスフィン酸の金属塩、含窒素リン酸系の化合物が挙げられる。特に、ホスフィン酸金属塩と含窒素リン酸系化合物との組み合わせが好ましく、含窒素リン酸系化合物としては、メラミンまたは、メラム、メロンのようなメラミンの縮合物とポリリン酸の反応性生物またはそれらの混合物を含む。その他難燃剤、難燃助剤としては、これら難燃剤の使用の際、金型等の金属腐食防止として、ハイドロタルサイト系化合物やアルカリ化合物の添加が好ましい。難燃剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大50質量部を添加することが可能である。
離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコーン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上が好ましく、例えばステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などが挙げられ、部分的もしくは全カルボン酸が、モノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していても良い。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミドなどが挙げられる。これら離型剤は、単独であるいは混合物として用いても良い。離型材の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大5質量部を添加することが可能である。
ポリアミド樹脂組成物は、300〜330℃の融点(Tm)、及び90〜120℃の昇温結晶化温度(Tc1)を有することが好ましい。融点が上記上限を超える場合、本発明のポリアミド樹脂組成物を射出成形する際に必要となる加工温度が極めて高くなるため、加工時に分解し、目的の物性や外観が得られない場合がある。逆に、Tmが上記下限未満の場合、結晶化速度が遅くなり、いずれも成形が困難になる場合がある。昇温結晶化温度Tc1とは、室温より昇温させた際に結晶化し始める温度であり、成形時の樹脂組成物の雰囲気温度がTc1より低いと、結晶化は進行しづらい。一方、樹脂組成物の温度がTc1より大きくなると、容易に結晶化が進行し、寸法安定性や物性などを十分に発揮することができる。したがって、樹脂組成物のTc1が高いとそれに合わせて金型温度を上げる必要があり、加工性の低下を招く。Tc1が上記上限を超える場合、本発明のポリアミド樹脂組成物を射出成形する際に必要とされる金型温度が高くなり成形が困難になるだけでなく、射出成形の短いサイクルの中では十分に結晶化が進まない場合があり、離型不足等の成形難を引き起こしたり、十分に結晶化が終了していないため、後工程の加熱時に変形や結晶収縮が発生し、封止剤やリードフレームから剥離する問題が発生し、信頼性に欠ける。逆に、Tc1が上記下限未満の場合、樹脂組成として必然的にガラス転移温度を低下させる必要が出てくる。Tc1は一般的にガラス転移温度以上の温度となるため、Tc1を90℃未満にする場合、ガラス転移温度としてはさらに低い値が求められるが、その場合、物性の大きな低下や、吸水後の物性が維持できないなどの問題が発生する。Tgを比較的高く保つ必要があることから、Tc1としては少なくとも90℃以上にすることが好ましい。
共重合ポリアミド樹脂(A)では、ポリアミド6Tに特定量のポリアミド11成分を共重合しているので、高融点や成形性に加え、低吸水性や流動性のバランスに優れた樹脂が得られる。エンジン冷却水系部品の成形においては、300℃以上の高融点、低吸水であることに加え、薄肉、ハイサイクルな成型が求められている。ヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンアジパミド共重合体(ポリアミド6T/66)においては、成形性は良好であるものの、吸水率が極めて高い。したがって、吸水による物性低下が問題になりやすい。一方、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)においては、低吸水であるが、Tgが125℃であるためTc1は必然的に125℃以上となり、成型時の金型温度が140℃以上必要となるため、成型加工性に難がある。たとえ低温金型で成形しようとした場合、流動性の不足や、後工程や使用時の結晶化進行による二次収縮や変形が問題となる。上記のような背景より、300℃以上の高融点および低吸水、易成形性、高流動性を有する樹脂が求められており、共重合ポリアミド樹脂(A)においては、ポリアミド6Tに特定量のポリアミド11を共重合することにより、高融点、低吸水や流動性の付与に加え、Tc1が低く抑えられ、射出成形やの加工性を大幅に改善できる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上述の各構成成分を従来公知の方法で配合することにより製造されることができる。例えば、共重合ポリアミド樹脂(A)の重縮合反応時に各成分を添加したり、共重合ポリアミド樹脂(A)とその他の成分をドライブレンドしたり、または、2軸スクリュー型の押出機を用いて各構成成分を溶融混練する方法を挙げることができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
(1)相対粘度
ポリアミド樹脂0.25gを96%硫酸25mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて20℃で測定した。
(2)末端カルボキシル基濃度
ポリアミド樹脂20mgを、HFIP+CDCl(1+1)に溶解し、重蟻酸を8mg添加後、H−NMR測定を実施した。樹脂1トン中の当量(当量/トン)で表した。
(3)融点(Tm)及び昇温結晶化温度(Tc1)
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は35℃に設定し、長さ127mm、幅12.6mm、厚み0.8mmtのUL燃焼試験用テストピースを射出成形し、試験片を作製した。得られた試験片の融点(Tm)及び昇温結晶化温度(Tc1)を測定するために、試験片の一部をアルミニウム製パンに5mg計量し、アルミニウム製蓋で密封状態にして、測定試料を調製した後、示差走査熱量計(SEIKO INSTRUMENTS製 SSC/5200)を用いて、窒素雰囲気で室温から20℃/分で昇温し、350℃まで測定を実施した。その際、得られる発熱ピークの内、最も高温のピークのピークトップ温度を昇温結晶化温度(Tc1)とした。さらに昇温し、融解による吸熱のピークトップ温度を融点(Tm)とした。
(4)成形性および寸法変化量
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は120℃に設定し、フィルムゲートを有する縦100mm、横100mm、厚み1mmtの平板作成用金型を使用し、射出成形を実施した。射出速度50mm/秒、保圧30MPa、射出時間10秒、冷却時間10秒で成型を行い、成形性の良悪は以下のような評価を行った。
○:問題なく成型品が得られる。
△:時々スプルーが金型に残る。
×:離型性が不十分であり、成型品が金型に貼り付いたり変形する。
さらに、得られた成型品の寸法安定性の評価を行うために、上記成型品を180℃で1時間加熱した。加熱前後における、流動方向に垂直な方向の寸法を測定し、寸法変化量は以下のように求めた。
寸法変化量(%)=(加熱前の寸法(mm)−加熱後の寸法(mm))/加熱前の寸法(mm)×100
寸法安定性の良悪は以下のような評価を行った。
〇:寸法変化量が0.2%未満
×:寸法変化量が0.2%以上
(5)飽和吸水率(80℃熱水中)
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み1mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。この試験片を80℃熱水中に50時間浸漬させ、飽和吸水時及び乾燥時の質量から以下の式より飽和吸水率(%)を求めた。
飽和吸水率(%)={(飽和吸水時の質量−乾燥時の質量)/乾燥時の質量}×100
(6)引張強度
ISO527−2規格に準じて測定した。
(7)沸騰水2000時間強度低下率
沸騰水中に2000時間浸漬後のISO引張試験片(A型ダンベル)について引張強度を測定し、以下の強度低下率(%)を求めた。
強度低下率(%)={(初期引張強度−2000時間浸漬後の引張強度)/初期引張強度}×100
(8)耐塩化カルシウム性
ISO引張試験片(A型ダンベル)を「80℃、95%RH環境下に4時間放置」、「成形片表面に5%塩化カルシウム溶液を塗布」、「100℃のオーブンで2時間処理」、「室温で18時間放置する」の処理を1サイクルとし、10サイクル後の引張強度を測定して強度保持率(%)を求めた。
強度低下率(%)={(初期引張強度−10サイクル後の引張強度)/初期引張強度}×100
<合成例1>
1,6−ヘキサメチレンジアミン6.96kg、テレフタル酸9.96kg、11−アミノウンデカン酸8.04kg、触媒としてジ亜リン酸ナトリウム9g、末端調整剤として酢酸40gおよびイオン交換水17.52kgを50リットルのオートクレーブに仕込み、常圧から0.05MPaまでNで加圧し、放圧させ、常圧に戻した。この操作を3回行い、N置換を行った後、攪拌下135℃、0.3MPaにて均一溶解させた。その後、溶解液を送液ポンプにより、連続的に供給し、加熱配管で240℃まで昇温させ、1時間、熱を加えた。その後、加圧反応缶に反応混合物が供給され、290℃に加熱され、缶内圧を3MPaで維持するように、水の一部を留出させ、低次縮合物を得た。その後、この低次縮合物を、溶融状態を維持したまま直接二軸押出し機(スクリュー径37mm、L/D=60)に供給し、樹脂温度を320℃、3箇所のベントから水を抜きながら溶融下で重縮合を進め、共重合ポリアミド樹脂(A1)を得た。得られた共重合ポリアミド樹脂(A1)は、融点302℃、相対粘度2.1、末端カルボキシル基量94当量/トンであった。合成例1の共重合ポリアミド樹脂(A1)の原料モノマーの仕込み比率を表1に示す。
<合成例2>
1,6−ヘキサメチレンジアミンの量を7.54kgに変更し、テレフタル酸の量を10.79kgに変更し、11−アミノウンデカン酸の量を7.04kgに変更し、二軸押出し機の樹脂温度を335℃に変更した。これら以外は合成例1と同様にして、共重合ポリアミド樹脂(A2)を合成した。得られた共重合ポリアミド樹脂(A2)は、融点314℃、相対粘度2.1、末端カルボキシル基量89当量/トンであった。合成例2の共重合ポリアミド樹脂(A2)の原料モノマーの仕込み比率を表1に示す。
<合成例3>
1,6−ヘキサメチレンジアミンの量を8.12kgに変更し、テレフタル酸の量を11.62に変更し、11−アミノウンデカン酸の量を6.03kgに変更し、二軸押出し機の樹脂温度を345℃に変更した。これら以外は合成例1と同様にして、共重合ポリアミド樹脂(A3)を合成した。得られた共重合ポリアミド樹脂(A3)は、融点328℃、相対粘度2.1、末端カルボキシル基量103当量/トンであった。合成例3の共重合ポリアミド樹脂(A3)の原料モノマーの仕込み比率を表1に示す。
<合成例4>
1,6−ヘキサメチレンジアミンの量を8.12kgに変更し、テレフタル酸の量を9.96kgに変更し、11−アミノウンデカン酸の量を6.03kgに変更し、アジピン酸(テレフタル酸以外のジカルボン酸)1.46kgを仕込み、二軸押出し機の樹脂温度を330℃に変更した。これら以外は合成例1と同様にして、共重合ポリアミド樹脂(A4)を合成した。得られた共重合ポリアミド樹脂(A4)は、融点310℃、相対粘度2.1、末端カルボキシル基量88当量/トンであった。合成例4の共重合ポリアミド樹脂(A4)の原料モノマーの仕込み比率を表1に示す。
<合成例5>
11−アミノウンデカン酸7.04kgをウンデカンラクタム6.41kgに変更し、二軸押出し機の樹脂温度を335℃に変更した。これら以外は合成例1と同様にして、共重合ポリアミド樹脂(A5)を合成した。得られた共重合ポリアミド樹脂(A5)は、融点315℃、相対粘度2.1、末端カルボキシル基量95当量/トンであった。合成例5の共重合ポリアミド樹脂(A5)の原料モノマーの仕込み比率を表1に示す。
<合成例6>
合成例1に記載された方法に従い、末端カルボキシル基量15当量/トン、融点302℃、相対粘度2.0の共重合ポリアミド樹脂(A6)を得た。その原料モノマーの仕込み比率を表1に示す。
<比較合成例1>
WO06/112300号公報の実施例1に記載された方法に従い、テレフタル酸単位とアジピン酸単位、および1,6−ヘキサメチレンジアミン単位(テレフタル酸単位:アジピン酸単位のモル比が63:37)からなる共重合ポリアミド(A7)の合成を行った。得られた共重合ポリアミド(A7)は、相対粘度2.1、末端カルボキシル基量は44当量/トンであった。比較合成例1の共重合ポリアミド樹脂の原料モノマーの仕込み比率を表1に示す。
<比較合成例2>
特開平7−228689号公報の実施例1に記載された方法に従い、テレフタル酸単位と、1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位(1,9−ノナンジアミン単位:2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位のモル比が85:15)からなる、融点306℃、相対粘度2.1、末端カルボキシル基量15当量/トン(ただし末端封止剤は安息香酸を使用)である共重合ポリアミド樹脂(A8)の合成を行った。比較合成例2の共重合ポリアミド樹脂(A8)の原料モノマーの仕込み比率を表1に示す。
<比較ポリアミド>
ポリアミド66(PA66):
東洋紡ナイロンT−662 相対粘度2.8 末端カルボキシル基量40当量/トン
実施例1〜6、比較例1〜3
表2に記載の成分と重量割合で、コペリオン(株)製二軸押出機STS−35を用いて各共重合ポリアミドの融点+30℃で溶融混練し、実施例1〜6、比較例1〜3のポリアミド樹脂組成物を得た。
繊維状強化剤(B)としては、ガラス繊維(日東紡績(株)製、CS−3J−324)を用いた。なお、ポリアミド樹脂100質量部当り、離型剤としてステアリン酸マグネシウムを0.5質量部、安定剤としてペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3、5-ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャリティーケミカルズ製、イルガノックス1010)を0.3質量部配合した。
実施例1〜6、比較例1〜3で得られたポリアミド樹脂組成物を各種特性の評価に供した。その結果を表2に示す。
表2から明らかなように、実施例1〜6では、低温金型温度での成形性と寸法安定性、低吸水性を満足するのみならず、沸騰水2000時間においても、従来品では得られない低い強度低下率を示しており、エンジン冷却水系部品用途に好適なことが理解できる。一方、比較例1では、成形性は良好であるものの、吸水性が高く、沸騰水2000時間後の強度低下が大きい。また、比較例2では、低吸水性に優れるものの、成形性が劣り、沸騰水2000時間後の強度低下率も劣る。参考のために示したポリアミド66では、吸水性が極めて高く、沸騰水2000時間後の強度低下が著しい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、エンジン冷却水系部品用に好適であり、ラジエタータンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターパイプ、ウォーターインレットパイプ、ウォーターアウトレットパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、ウォーターバルブなどのウォーターポンプ部品などに利用することができる。

Claims (6)

  1. (a)ヘキサメチレンテレフタルアミド単位55〜75モル%と(b)ウンデカンアミド単位45〜25モル%とからなる共重合ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、繊維状強化剤(B)を20〜150質量部含有する組成物であり、かつ該組成物が下記(イ)、(ロ)を満足することを特徴とするエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
    (イ)80℃熱水中の飽和吸水率(%)が3.0%以下
    (ロ)沸騰水2000時間浸漬後の引張強度低下率(%)が30%以下
  2. 共重合ポリアミド樹脂(A)が、(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、または前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大20モル%まで含有する請求項1に記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
  3. 共重合ポリアミド樹脂(A)の末端カルボキシル基濃度が80〜120当量/トンである請求項1又は2に記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
  4. ポリアミド樹脂組成物の融点が300〜330℃であり、昇温結晶化温度(Tc1)が90〜120℃である請求項1〜3のいずれかに記載のエンジン冷却水系部品用ポリアミド樹脂組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を用いて得られたエンジン冷却水系部品。
  6. エンジン冷却水系部品が、ラジエタータンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターパイプ、ウォーターインレットパイプ、ウォーターアウトレットパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、ウォーターバルブのいずれかである請求項5に記載のエンジン冷却水系部品。
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